俺は人呼んで“ボールマスター”
ボールを扱うことにかけては、天下一品さ。
こと球技で、俺に敵う奴はいない。
さて、どのぐらいスゴイのかというと──
野球をやれば──
男「ほいっ」ブンッ
カキィンッ!
実況『またまたホームラン! これで全打席ホームランであります!』
男「ほれっ」シュッ
ズドンッ!
実況『時速180kmで変幻自在の変化球を放つ!』
実況『こんなの誰も打てるわけがなァ~い!』
キャッチャー(しかも、不思議とキャッチしやすいんだよな……どうなってんだコレ)
サッカーをやれば──
男「よっと」ポスッ
キーパー「うわぁっ!?」
パサッ……
実況『ゴォ~~~~~ル! これで10得点目!』
実況『フィールド上のどこから蹴っても、ゴールに入れてしまう! まるで魔法です!』
バスケをやれば──
ズバババババッ!
敵選手A「は、はやっ……!」
敵選手B「全然止められないッ!」
男「ほらよっと」ピョンッ
ズドォン!
実況『凄まじいダンク! 敵チームは、ボールに触れることすらできません!』
ゴルフをやれば──
男「あらよっと」パシュッ
ヒューン…… コトン……
オォォォォ…… パチパチパチ……
観客A「またホールインワンだ! 信じられねえ!」
観客B「しかも、このホールは世界でも有数のロングホールだってのに……!」
バレーボールをやれば──
男「えいっ」
スパァンッ!
味方選手A「すげえ……どんなボールにも対応してスパイク決めちまうぜ」
味方選手B「もう……あいつ一人でいいんじゃないかな」
卓球をやれば──
男「よっ、ほっ、ほいっ」コッ コツッ コッ
バババババッ!
審判(残像が出るほどのフットワークで……どんなボールも拾ってる……!)
審判(このセットも相手は1点も取れずに終わるだろうな……)
ボウリングをやれば──
インタビュアー「パーフェクトでの優勝おめでとうございます」
男「ありがとう」
インタビュアー「ちなみに興味本位で質問させていただきますが……」
インタビュアー「今までで一番低いスコアは何点なのでしょうか?」
男「300点以外取ったことないよ」
インタビュアー「え!?」
テニスをやれば──
ズガァンッ!
敵プレイヤー「ぐはぁぁぁぁぁっ……!」
実況『相手選手が会場の外まで吹っ飛んだ!』
実況『これはもはやテニスではない! テニス以外のなにかといえるでしょう!』
男(ちょっとやりすぎたかな……)
素人にもかかわらず、トップアマやトッププロ相手に次々と勝利し続け──
俺は一躍スターとなった。
キャーキャー…… ワーワー……
女性ファン「キャ~、ステキ~!」
男性ファン「いつも応援してます!」
俺のファンには女性だけでなく、男性も多いのさ。
しかし、こうなると面白くないのは、球技の専門家(プロフェッショナル)たちだ。
当然恨みも買うことになる。
選手A「……待てよ」ザッ
男「──ん?」
選手A「こないだはよくもコケにしてくれたな!」
選手B「キミみたいな素人に大敗して、ボクたちは大恥をかかされてしまった……」
選手C「タダじゃおかねェぞ!」パキポキ…
男(この人たちは……こないだボロ負けさせちゃったプロの人たちか)
男(なんのスポーツかは忘れちゃったけど……)
男「悪いけど、キミたちの相手をしてるヒマはないんだよ」
男「それに、俺の“ボールマスター”としての名声は今や世界中に轟いている」
男「今さら俺に負けたところで、キミらの商品価値は下がりゃしないだろう」
男「相手が俺(ボールマスター)なら仕方ない、と思ってくれてるよ」
選手A「うるさいっ! 顔に泥を塗られたことには変わりないんだよ!」
選手A「みんな、やっちまえっ!」ダッ
選手B&C「おうっ!」
男「ふぅ、仕方ないな……」ポイッ
選手A(サッカーボール!?)
男「そらっ」
ズドォッ!
ドゴッ! バゴッ! ガスッ!
選手A「バ、バカな……!」ドサッ
選手B「サッカーボールを蹴り飛ばして、一度にボクたち三人を……」ドサッ
選手C「倒す……なんて……」ドサッ
男「俺にボールがある限り、俺を倒すことはできないよ」ポーンポーン
こんな闇討ちにあったことも一度や二度じゃない。
もちろん、全て撃退してきたけどね。
~
選手A「なんてことだ……三人がかりでやられちまうなんて!」
選手B「さすがはボールマスターといったところだね」
選手C「あんなシュート撃たれたら、ひとたまりもねェよ……」
選手A「いや、だったら……ボールを持ってない時を狙えばいいんだ!」
選手A「ボールがなきゃ、ボールマスターはただの人になる!」
選手A「今度こそ、あいつから受けた屈辱を晴らしてやるんだ!」
~
男「──おや、またキミたちか。こりないな」
選手A「ふん! 今日お前がボールを持ってないことは調査済みだ!」
選手B「つまり、武器を持ってないってことさ」
選手C「覚悟しやがれッ!」
男「よく調べてあるね。たしかに俺は今日、ボールを持っていない」
男「サッカーボールも、野球ボールも、テニスボールも、卓球ボールすらもない」
男「──だけど」
ドスッ! ズブッ! ザクッ!
選手A「ぐああああっ……!?」ドサッ
選手B「なにか、鋭いもので、ツボを突かれて……」ドサッ
選手C「か、体が……いうことを……」ドサッ
男「ペン先で、ツボを刺激させてもらったよ」
男「体にダメージはないが、半日ぐらいはシビれて動けないだろう」
男(持っててよかった、ボールペン!)
~
選手A「くそっ、まさかボールペンを武器にするとは……!」
選手B「ボールなら、なんでも使いこなせてしまうようだね……」
選手C「これじゃ……手の出しようがねェぜ!」
選手C「ボールペンぐらい、いつだって持ち歩いてるはずだろうしな」
選手A「いや……まだ手は残ってる!」
選手A「こうなったら、本当に絶対に丸腰の時を狙うんだ!」
選手B「そんな時あるのかい?」
選手A「ヤツは銭湯好きで、月に何度かは銭湯通いをしてるらしい。そこを狙うんだ!」
~
銭湯にて──
男「ふんふ~ん」
男「──ん? またキミたちか」
選手A「よう! 三度目の正直ってやつだ!」
選手B「男同士……裸のド突き合いといこうじゃないか」ニヤ…
選手C「ここにボールらしきものはない……お前の負けだ!」
男「……」
選手A「覚悟しろっ!」ダッ
選手B「しばらく病院で過ごしてもらうよ」ダッ
選手C「どりゃああああっ!」ダッ
男「やれやれ……参ったな」フゥ…
男「こういう形でファンを増やすことは、あまりしたくないんだけど──」
男「他にボールもないし、やるしかないか」サッ
選手A「なにわけの分からないことをいってる! いくぞぉっ!」ブオンッ
コリッ コリッ コリッ
選手A「あふぅん……」
選手B「おふぅぅんっ!」
選手C「うあ……っ」
男「ちょっといじくらせてもらったよ」
男「キミたちの“ゴールデンボール”をね」
男「……って聞いてないか」
選手A「あふっ……あふっ……」ビク…ビク…
選手B「おふぅぅぅぅんっ!」ビクビクッ
選手C「ああっ……あっ……ああっ……」プルプル…
……
……
……
実況『奇跡のスーパースター、“ボールマスター”!』
実況『本日はハンドボールに挑戦します!』
ワーワー…… キャーキャー……
ファンA「ファイト~!」
ファンB「今日もミラクルを見せてくれ!」
ファンC「がんばれ~!」
選手A「キャー、ステキー!」
選手B「しっかり~! 絶対勝ってね~!」
選手C「こっち向いて~!」
男「みんな、応援ありがとう!」
こうして、俺の男性ファンがまた三人誕生してしまった。
おわり
ありがとうございました
指摘の通りただ走るだけの競技などは苦手と思われます
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