はじめてロックのCDを手にとったのが15歳のとき。
きっかけは、えっと。
母さんの車のラジオから流れた曲にビビッときたからとか、そんな感じだったと思う、タブン。
その曲は英詩だったから、メロディしかわからなかった。あ、“LOVE”とか“NEED”とかだけはわかったけど。
だからCDショップの店員さんに鼻歌を披露して、どのアーティストか教えてもらったんだっけ。
いやぁ~、いま思えば、恥ずかしいことしたかなぁ。お客さん、みぃんな陰でクスクス笑ってたし。
でもね、そのときは洋楽のCDを買うってのが、カッコイイ!ってとにかく心の底から思ったんだ。なんかクラスの他の子よりちょっと背伸びしたみたいでさ。
次の日、学校での開口一番のことば。
ねぇねぇ、ロックっていいよねぇ~! いや~もうフワフワしたポップソングとか聴いてらんないよ~。
……あ、笑うな~! い、いいじゃん、いいじゃん! 私らしいじゃん!
それから、ロックミュージックの雑誌を参考に、ロックっぽい服に袖を通したのが3日後。
お小遣いを溜めてぴかぴかのヘッドホンを買ったのは3ヵ月後。
お年玉と誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントをいっしょくたにさせて、水道橋のお店で「とにかくイカすギターください!」って叫んでギターを買ったのが1年後。
コード抑えらんなくて投げ出したのが1年ぷらす1ヶ月後。ベースとギターは別モノってのに気付いたのがそれから更に3ヵ月後。
それからそれから……。
『346プロ新人アイドルオーディション』の広告をネットで見かけたのが2年後のこと。
17歳、つまり、今年のことっ!
……。
それじゃ、まずは自己紹介してもらえるかな。私と長机を挟んで、どまんなかに座る白髪のおじさんは言った。
私は勢いよく返事してから、パイプ椅子から立ち上がって叫んだ。
「スーパーロックアイドル目指してます、多田李衣菜です!」
ざわ、どよめき。書類に目を落としていたおじさんたちの視線が私に集中した。注目されてる。
おっ、なんかいい感じ♪ ノってきた!
「わたくし、多田李衣菜は、ロックな衣装を着て、身も心もロックなアイドルとしてやっていくと、ここに誓いますっ!」
カンペキにキマった……。目をつむって、感傷に浸る、フリ。顔の角度はばっちり斜め下45度。
いやぁ、ロックだねぇ! 君のような型破りなアイドルをウチは欲しかったんだよ、なんて言葉をまつ。
「……」
あれ、反応がない。かりかりとボールペンが、無機質に書類をひっかく音だけがする。
ひそひそと、小声が耳に届く。ルックスはいいね、キュートな路線だったら案外……、歌唱力次第かな。
れ、れれれ、冷静すぎない!?
わ、私もしかして、おもいっきり空振った?!
途端に恥ずかしさで、身体がかっかと火照ってきた。ど、どどどうしよ、目ぇ開けらんないよ~!
──ずっと黙っているが、君はどう思う? もしかしたら、君の担当になる可能性もあるんだ。
白髪のおじさんの声。その呼びかけに、野太い声が応えた。
「はい、その、多田李衣菜さん、でしたでしょうか」
不意に名前を呼ばれた。おっかなびっくり瞼をもちあげる。
よくよくみれば、おじさんと呼べるほどおじさんじゃない、男の人が私をじっと見つめて、こう言った。
「いい、笑顔です」
これはまだ、346プロが夢と希望に包まれていたころのはなしだ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444468531
・モバマスSS
・お待たせしてすいませんでした 宣言通りCu→Pa→Co
・1作目 卯月「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですか?」
卯月「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429159227/)
2作目 心「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですかぁ☆ってオイ…マジ?」
心「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですかぁ☆ってオイ…マジ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432629853/)
・タイトルと前作から察して、そういう要素があります 苦手な方、むーりぃーな方は気を付けてください
・超ゆっくり進行 長さはたぶん前作前々作と同じくらい あまり期待せず楽しんでいただければ…
・雑談ご自由に
オーディションから数日後、ポストに封筒が届いた。
しみひとつないまっさらな純白の封筒。
手にとると、さらさらした粉が指にぺったり貼りついた。光にあてられると、きれいな七色に輝く粉。
なんだかその封筒は、フクロウかなにかによって魔法の世界から届けられたような、そんな印象を含んでいた。
宙返りする心臓を、なだめながら、おそるおそる閉じられた便箋をひらく。
そこには……。
──あなたは、当社が本年度実施した表記のオーディションに合格したので通知します。なお、これからの手続きについては……。
……。
う……。
「うっひょー!!!」
受かった! 合格した!
居ても立ってもいられなくなって、跳びまわる。心臓の鼓動はさらに高まって、ばくんばくんとバク転を決めつづける。
あぁ、もう私自身がバク転したい気分! できないけど! 学校の友達に手当たり次第に電話をかける。
「これから私はアイドルになるんだよ、スーパーロックなアイドルに! 音楽番組にでて、ギターをかきならして、海外のなんかすっごい有名なミュージシャンと共演するんだよ!」
反応は様々だった。おめでとうって泣いて喜ぶ友達もいれば、まさかみんな冗談でけしかけたのに本当にオーディション受けるなんてって驚く友達もいる。
はやる気持ちを抑えきれずに、スマートホンに向けてまくしたてる。
「それから自分のロックのルーツについてのインタビューなんて受けちゃってさっ、ステージでリーナコールが湧き上がってさっ、あっ、そうだ、武道館でソロライブやりたい、武道館!」
ロックミュージシャンはみんな武道館が夢だっていってた! だから私も夢は武道館! きめた!
ちなみに、武道館は東京にふたつあるっていうのはずっとずっと後に知った。
友達の一人が心配そうに言った。
あ、あの、李衣菜ちゃん、アイドルってどんなものかわかってて受けたんだよね?
「えっ、わかんないけど! でもみんなロックなアイドルって斬新でカッコイイんじゃないのって言ったよね! 李衣菜ならなれるよーって笑ってたよね!」
前例がないことをする、んー、それって最高にロックな気がする!
「あ、歌うのは大丈夫、大丈夫、私けっこう音感良いねって音楽の先生に褒められるし! カラオケ好きだし! ギターだってこれからじゃんじゃんばりばり巧くなるよ!」
電話越しに深いふかい溜息がきこえたのは、きっと気のせいだ!
それから……。
「納得できませぇ~ん!」
コワモテのプロデューサーは、おっきな掌を首にあてて「はぁ」と困ったように呻いた。
そうはいっても、方針ですので。バインダーに留められた書類の文字を目で追って、業務的な口調で話すプロデューサー。
まるでレールの上をひたすら進むことが正しいとでもいうような態度をたまに見せる人だった。
「なんで、なんでですかぁ~!」
ホコリかぶったギターも部屋の奥から引っ張り出してきたのに!
雑誌に載ってるロックな衣装にぜぇ~んぶ赤マルつけてきたのに!
最近クルマのCMで流れてるブ、ブリティッシュソング?をカラオケでいっぱい練習してきたのに!
私にいの一番に与えられた衣装は、ひらひらの水色のワンピースだった。
なんでも部署に回す宣伝用の写真を試しに撮影する、らしい。
「こ、こんなの全然ロックじゃないですよぉ~」
駄々をこねる私に、ほとほと困り果てた様子でプロデューサーは首をかしげる。
そりゃカワイイ衣装だって嫌いじゃないけど……それとこれとは話がべーつー!
「プロデューサー、私オーディションで宣言した通りロックなアイドル目指してるんですっ」
「ロックなアイドル、でしょうか……」
「はい、まずはーイケイケなアッパーチューンを歌っちゃってーステージでイェーイとかノってるかーいとか言っちゃってー」
「いぇーい、でしょうか……」
「それからそれから……」
自分が想い描く、好きなことを指を折りながら、ありったけ吐き出す。
全部まるっと私の願望を聞き終えたプロデューサーは、表情を変えずに言った。
「……検討はしてみますが、まずはデビューを目指して着実に階段を昇っていきませんか、それからでも遅くないかと」
うぐ、ぐうの音もでない正論……。
アイドルになれば即ステージにあがって、好きな歌を好きなだけ歌えるんだと思ってた。
でも違った。ファンの目には届かない部分で、ひたすら下積みをしなきゃいけない。
レッスンに営業回り、オーディション、ときには他の娘のヘルプ。握手会なんて仕事もあることだって初めて知った。
私は、アイドルのことをほとんど何も知らずにアイドルになっちゃったんだなぁと、今更ながら呑気に思った。
ま、それもなんだかんだロックかもしれないけど……。
──ふっ、うぐ……やった……やったよぉ……。
ふと、廊下のほうからすすり泣きが聞こえた。ドアは閉まってるから、誰かはわからない。
ま、事務所に知り合いなんてまだ一人もいないんだけどさ。
扉越しの誰か、声からして女の子は、嗚咽を隠すこともなくえづきながら必死に言葉をつなげる。
──オーディション、合格だって……その場で言わ、れた……な、なんかあまりに突然で、ぶわっときちゃって……。
どうやら女の子は電話をしてるみたいだった。
──何度も何度も受けて、落ちて、たまに、ひどいことも言われて、それでも受け続けてやっと、やっとだよ……やっと夢見たアイドルになれる……。
ずず、と鼻水をすする音がきこえる。
元の声色を判別できないほどに涙でしわがれた声は、ひどく不格好だったけれど、私の感情をたしかに揺さぶった。
──346プロ受けて、本当によ、かった。
──大、阪から上京してきて、ほんまによかった……。
泣き声がだんだんと遠ざかっていって、やがて聞こえなくなった。
「……」
そっか、ああいう子もいるんだ。アイドルになりたくてなりたくてなった子。私とはまるで正反対。
……頑張ってほしいな。私とは目指す場所は違っても、いつかあの子がきらめくステージに立てるように、なぁんて。
うん、私だって頑張らなきゃ、いけないよね。
こころの奥で暴れるきかんぼうをなんとか鎮める。
ぐっと拳をにぎって、プロデューサーの顔をまっすぐ見据えて言った。
ロックなアイドルは諦めないけど……。
「……わかりました、まずは着実に、ですね」
はじめて挑戦した撮影は、案外たのしかった。
私が受けたオーディションの正式名称が『シンデレラプロジェクト』だということを知ったのは、城ヶ崎莉嘉ちゃんと三村かな子ちゃんに控室で会ったとき。
なんでも、「女の子の輝く夢を叶えるためのプロジェクト」だそうで、アイドルの卵たちを幅広いジャンルで活躍できるアイドルに育て上げる事を目標とする。
なんて名目がひっさげられていた。くわえて、14人の枠のメンバーがいるらしい。
莉嘉ちゃんに、なんでいままで知らなかったの~!信じられな~い!なんて散々ツッコまれたけど。
だってさ、ロックなアイドルっていいよねって思ったとき、もう身体がウズウズしちゃって止まんなかったんだ。
私はいつだってそうだった。
まずは自分がイケてると思ったものに向かって突っ走る! こころは数歩うしろから追いついてくる。
山積みになったヘッドホンのコレクションや、買ったのに一回も聴いてなかったりする音楽CDのタワーはその性格の表れともいえる。
……たはは。
ちなみに2人に「ねぇねぇ、それじゃ早速ユニット組んじゃう? ユニット名はそうだなぁ、ロッキングガールなんてどう?」
なんて提案してみたら、かな子ちゃんにクッキーみっつと引き換えにやんわりと否定された。
それから蘭子ちゃんが日傘をさしながら部屋に入ってきて、杏ちゃんがきらりちゃんに引きずられてきて……。
メンバーが着々と増えていくにつれて、私の心はどうしようもなくワクワクした。
未体験だったダンスのレッスンはとっても新鮮だったし、売り込みで色々な現場に連れていかれるのも嫌いじゃなかった。
あたらしいなにかに挑戦するのは、痛快だ。
しらないなにかに触れるのは、愉快だ。
ギターのあたらしいコードを覚えたとき。自分の世界がちょっと広がった感覚がする。
……まだCコードとGコードしか覚えてないけどさ、えへへ。
兎にも角にも、そんな感覚がまいにち、ばんばんと私におしよせてくる。
今まで学校という枠組みでしか生きてこなかった私にとって、アイドル業界はなによりも刺激的だったんだ!
うっひょー!
多田李衣菜、ロックなアイドル目指して日々前進中ですっ。
訂正
×莉嘉ちゃんに、なんでいままで知らなかったの~!信じられな~い!なんて散々ツッコまれたけど。
○莉嘉ちゃんに、なんでいままで知らなかったの~!信じらんな~い!なんて散々ツッコまれたけど。
2回目の中間発表。30位。私の順位は上がっていた。
みくは28位。順位を聞いたみくはその場で飛び跳ねそうな勢いで喜んでいた。
「やったぁ! ファンのみんなにちゃーんとみくの頑張りを認めてもらえたんだにゃあ」
アスタリクスクの単独ライブの日程も決定した、と伝えられた。
私たちの順位はとても安定していて50位以下になる可能性はもうないと踏んだプロモーターの判断、らしい。
総選挙の結果によってアイドルの価値が明確になるから、他にとられる前に有用な人材を確保しておくという企業の戦略。
人はそう簡単に人の価値を判断するということに確信をもてないものだから、そのために順位や数字が必要になる。
ましてや自分自身の立ち位置すらも自分でわからない人間もいるから、だからわかりやすく序列を与えてあげるの。
あの女社長の言葉。
この企画のおかげで346プロの業績にも効果が現れてきていて、仕事も私たちによく回ってくるようになった。
待ち望んでいたステージ上でのライブとかロックアルバムのPR活動なんかも舞い込んできた。
ゴキゲンに鼻歌を鳴らすみくにぽす、と肩を叩かれる。
「良かったねぇ、李衣菜ちゃん。ちゃんと単独ライブのためにギターを練習しておくにゃ」
「……」
適当に相槌をうってみくと別れた。
ギターはあの日から一度も触ってないし、ヘッドホンからはなんの音楽も流さなくなった。
あのとき叫んだときに感じた、ぽっかりと胸に穴が開いた感覚はそのまま残っていて。
その大きな穴にはなにも埋まることなくからっぽになっていた。
興味とか情熱とか意欲とか、そういう前向きな感情が穴から漏れだしてるのを止めることができないし、止める気力も沸きあがってこない。
それでもやってくる日常をなんとかこなそうとして。
日常に適応しようとすればするほど、やりきれない思いがどんどん溜まっていく。後悔はこれっぽっちも薄まることなんてない。ただ無気力な気分だけが積み重なっていく。
だってなにもかも無駄だったじゃないか。事務所や寮でみんなと過ごした、アルバムにたくさん残した思い出の日々だって。なつきちと二人で飽きることなくセッションを繰り返した日々だって。
ぜんぶ消えてなくなるものなんだから、いま私が過ごしてる日々にだってなんの意味もないじゃないか。
廊下をぼんやりと歩いていると、壁にぐったりともたれかかっている女の子がいた。
前髪をぴっしりと切りそろえたボブカットの女の子。
たしか、一度共演したことがある、芸歴がとても長い業界の先輩で見習っておけといわれた、名前はたしか。
「そん、などうして……」
岡崎泰葉ちゃん、だ。
顔を真っ青にして、瞳の端に涙を溜めている表情で、泰葉ちゃんはぶつぶつと呟く。
「経験は誰にも負けないはずなのに、芸能界への心持ちだって誰にも負けないはずなのに、厳しさは知っていて挑んだのに、それなのに」
体を支えることができずに、ずるずると背中で壁をこする音がして尻もちをつく。
「圏外、生き残りは絶望的だ、なんて、一体なにがいけないの……」
泰葉ちゃんの奥底から絞り出すような声が、私の体を通り抜けた。
「……」
また積み重なる。
私がたった50しかない枠に、居ても許される理由ってなんだろう。
この子やなつきちがいなくなって、私が残らなきゃならない意味ってあるの。
アイドルがどんなものかすらわからず入ってきた私が、ロックがどんなものかすらあやふやな私が
ロックなアイドルを目指してます、なんて今はもう胸を張って言えない私が、やりたいことって何?
答えを導けない問いかけばかりが私のなかで積み重なっていく。
並ぶ文字を眺めていると、ハートマークがちりばめられたページにさしかかった。
『李衣菜ちゃんがネコちゃんを拾ってきた! 真っ白なネコちゃん! 白ネコちゃんは幸運の象徴なのだ。家を守ってくれる、とってもありがたい子なのだ。
みくはネコがだいすき。子供のころ(今も子供だけど)から近所のネコちゃんといっぱい遊んできた。あの頃はネコちゃんたちの言葉がわかったんだよ。
誰も信じてくれないけど。でも、その時の無邪気な気持ちを忘れないように、みくはネコキャラをやってたりする。け、けっして売れるための苦肉の策じゃないにゃ(汗)
とにかくネコちゃんパワーのおかげでみくは今アイドルをやれてるんだよ。明日はこの子を病院に連れていってあげる。今日の日記はこれでおしまい』
……そう、だったんだ。みくがそこまでネコにこだわる理由がわかった。
そんなみくに、バカみたい、なんて私は言っちゃったんだ。ちくり。痛い。胸の奥が痛い。
もう勝手に人の日記を覗くのなんてやめよう、と思ったけれど、それでもめくる指を止められなかった。
ずっと引っ掛かっていた、みくがどんな気持ちで過ごしていたのかを知れるのは、きっとここにしかない。今を逃したら二度とわからなくなる。
ごめん、と心の中で謝ってから、次のページをめくって。
そのまるっこい、だけどかすかにゆがんだ文字を読んで。
まっさきに浮かんだのは、みくの笑顔だった。
『お医者さんに言われた。白ネコちゃんは元々は飼い猫だった。この子は、捨てられたんだ。飼い主に見捨てられて、野良猫の群れにも混じれないでふらふらと彷徨ってたんだ。
もう長くないだろう、って言われた。この子はなにも悪くないのに、どうしてそんなひどいことができるんだろう……──』
浮かんだのは、大事にしてあげようね、ってネコを抱きながらいった、溢れるようなみくの笑顔だった。
『──……寮で飼うことに、決めた。この子はみくとおんなじだ。捨て猫ちゃんで、ぼろぼろになっても、やっと安心できる場所を見つけたんだね。
幸運の白ネコちゃん、みんな(約一名除く)落ち込んでいるから、これから346プロを元気づけてあげてね、守ってあげてね』
『白ネコちゃんがにゃあにゃあしてくれてるおかげで、みんな少しだけ元気を取り戻した気がするんだ。それと、李衣菜ちゃんが寮にくるとちょっとだけみんなが和む。
ギターソロ覚えたから聴いてよー、なんて。当の本人は気づいてないだろうけど、まぁ、猫の手を借りたいくらいの大変な時期に、ノーテンキにただ過ごしてくれてるだけでも、ご利益ってのは案外あるものなのだ。』
『総選挙が始まった。不安だけど、怖いけど、みくはやる。トップアイドルになるために、みくはここまでやってきたんだから。それに346プロには一宿一飯どころじゃない恩があるにゃ
どれだけ変わっちゃっても、Pチャンと、アイドルのみんなと過ごした思い出は、ここにしかないから。白ネコちゃんに猫缶をあげにいく。なんだか最近、あんまり元気がない気がする』
私は、みくを思いだしていた。
総選挙が始まってから、適当に、ないがしろに扱ってしまっていた私のユニットのパートナーを、ゆっくり、ゆっくりと思いだしていた。
『ネコちゃんが』
ある日の日記が、突然そこで途切れていた。
ここで、この先を読まずに帰ることもできた。
ここじゃなくなって、いつだって、私は中断することができた。
『ネコちゃんがいなくなった。ネコが前触れもなく突然、ふっと姿を消す理由。みくは知ってた。
体調の悪さを周りに悟らせないようにする動物だから、中々気づけないことがある。でもすぐにわかった。
お仕事の帰りに、ネコちゃんの気持ちになってこっそりとあの子の姿を探した。路地裏とか、寮の裏のゴミ捨て場とか。明日はお休みだから、一日中探すことにする』
それでも、私はページをめくった。
『ネコちゃんの姿をみつけた。泣いた。いっぱいいっぱい泣いた。ツラいことは書かないって決めたはずなのに。だめみたい。
ひとりぼっちにならないようにしてあげた。すぐには気づかれない場所へ。みんなに話すのは、事務所が落ち着いてからにする。
その代りにこれからみくが毎日、お祈りをしてあげることにした。幸運の白ネコちゃん、これからもここを守ってあげてね』
……。
同じだったんだ、と思った。
失っていたのは、みくも同じだったんだ。
それなのに、私はなにも見てあげられてなくて。
『今日もお祈りしながら、ちょっとだけ泣いた。ちっちゃいころに、近所のネコちゃんに聞かれたことがある。人はどうして涙を流すのかにゃ、って。
人の世の中にはね、大変なことがいっぱいありすぎるから、だから哀しみに溺れちゃわないように、人は涙を流すんだよって、みくは答えたんだっけ。今思えば、ませた子供。
こうも答えた。だけどね、それは明日、笑うためなんだよ、って。
もう哀しむのは、これでおしまいにする。みくは、笑うのだ。ツラいことだって乗り越えて、笑ってみせるのだ。だってみくがテレビの前でみた憧れのアイドルは、いつも笑っていたから』
『ネコが突然、姿を消す理由。教えてくれたことがある。どうか私のために悲しまないで、強く生きて欲しいから、だって。大事にしてくれた人には、弱いところ見せたくないんだよ、だって』
今、気づいた。思いだすのは、笑顔ばかりで。
みくはいつも笑っていた。失っていても、私の前でいつも笑顔だったじゃないか。
それはきっと、ちゃんとしたみくの強さで。それなのに、私はひどいことを言っちゃって。
『李衣菜ちゃんの様子がちょっとおかしい。全く手の焼けるパートナーにゃ。ほんと、なに考えてるのかわかんない。
能天気で、お気楽で、無防備で、にわかで、変な背伸びしてて、カッコつけで。
おばかかと思ったらわりと意表つくとこがあって、ひねくれてるのかと思ったらやけに素直なとこあって、そこがまた無性に生意気に思うときがある。
でもまぁ、そんな李衣菜ちゃんでも、たまには居てくれて役立つとこがあるのだ。こんなこと、悔しいから絶対に本人の前では言ってあげないけど。
李衣菜ちゃんは、なんかほっとけないとこがあるのだ。それが李衣菜ちゃんの李衣菜ちゃんらしい才能だと、みくは思う。みくの相方は、自然に人を惹きつけるなにかがある。
李衣菜ちゃんの周りにはいつも色々なものが集まってくる。あの白ネコちゃんが李衣菜ちゃんを選んだのにも、理由があるんだと思う。動物に好かれる人に、悪い人はいないっていうし、もう少し世話を焼いてあげようかな』
日記がもうすぐ、終わろうとしていた。
『ムカつく。みくのメッセージ、無視されてる。お仕事の打ち合わせだけじゃないのに。仕方ないから、励ましのメッセージも送ってあげようとしてるのに。
あぁもうなんなの。久々にお手製のハンバーグが食べたい、なんて絶対に思ってあげない。直接会ったときにうまく話せるかな、アスタリスク解散!とだけは言わないように気を付けておく』
『みくちゃんなんかに私のきもちなんてわかるわけない、って言われた。なにそれ。もう知らない。みくは李衣菜ちゃんのお母さんじゃないんだけど。もういい。一人でエアギターでもやってにゃ』
『……反省。そんなんじゃないよね』
『お祈りしながら、反省。この子が最期に安らかに眠れたのは、李衣菜ちゃんのおかげなのだ。仕方ないからもうちょっとだけ愛想を尽かさないでおいてあげる』
『李衣菜ちゃんが仕事をサボった、どんな理由でもお仕事を休むのはプロ失格だと思う。思いっきり怒りたいけど、怒れない。
そもそも連絡が繋がらないし、理由を聞いてから怒ることにする。しょうもない理由だったら、許さないから』
『今日は風の強い日だったから、飛ばされないようにしてあげた。毎日かかさずにお祈りをしてあげる』
『一ノ瀬志希ちゃんが教えてくれた。李衣菜ちゃんが悩んでたことについて。木村夏樹チャンのことについて。ごめんね、みくも何も知らなかった。一度ちゃんと話し合おうって思った。
だけど携帯が繋がらない。事務所にも来ない』
『李衣菜ちゃんが、煙草を吸った。信じたくない。けれど写真まであった』
『李衣菜ちゃんのばか』
……。
「……」
日記を読み終えて、瞼をぎゅっと閉じた。歯をきりきりとくいしばって拳をきつく握った。こみあげてくる何かを感じた。久々の感覚だった。
気づくのは、いつだって台無しになってからだ、って思った。言葉はいつだって心の一歩手前だ、って思った。
どれだけ抵抗したって、手を伸ばしたって、届かないことがあって。ここに来るまでに取りこぼしちゃったものがたくさんあって。
闇雲に走っていたら、いつのまにか突き放していたものがあって。一人で後悔をたくさん重ねてきた。今だって後悔してる。
私は苦しみに目を向けてばかりで、こんなに近くで私を思ってくれてた友達がいることに気付かなくて。
とても、後悔してるんだ。こみあげてきた何かが喉までせり上がったときに、体が勝手に立ち上がった。
「……っ!」
私は探さなくちゃいけない。今すぐ、会いにいかなくちゃいけない。
ロックの掛かっていないドアを押し開けて、誰もいない廊下を駆け抜けて。
「……みくっ!」
真夜中にその名前を叫んだ。
……。
今、走っているのは、まぎれもなく私の意志だ。
みくに会わなくちゃいけないと思ってるのは、義務でも責任でもなく、私がそう望んでいるからだ。
だって、私はこんな終わり方じゃいやなんだ。
「みくっ!」
誰に言われたわけでもなく、胸の痛みを引きずったまま、私は無我夢中にみくを探した。
伝えたいことがあるんだ。どうしてもみくに伝えなくちゃいけないことがある。
たとえそれが自己満足だったとしても、自己完結で終わらせちゃいけないんだと思った。
結果的に、なにも伝わらなかったとしても、なにも届かなかったとしても。
それでも伝えることを諦めちゃだめなんだ。
「っ、みくっ!」
世の中からどれだけ理不尽を強いられても、どれだけ間違いだらけだったとしても、
それでも目を背けちゃだめなんだ、耳を塞いじゃだめなんだ、この口で叫び続けなくちゃだめなんだ。
「っ……み、くっ!」
おわりはいつだって突然くるものだから、大切なものはいつか失ってしまうかもしれないから、
だから、ありがとうも、ごめんねも、さよならも、伝えられるうちに全部伝えなくちゃだめなんだ。
「はぁ……ッ……みくっ!」
16ビートで鼓動が刻む。
やっとわかった。私なんだよ。答えは、私が選ばなくちゃならない。
なにが正しくて、なにが間違っているかなんて、何処の誰にもわからないから。
きっと誰も教えてくれないから。
だからこそ、自分自身で絶対に後悔しない道を選び続けなきゃだめなんだ。
私は、この気持ちを二度と忘れない。もう無くしたりなんか、しない。
何十回だって、何百回だって、何千回だって、私は本当の自分の気持ちを伝え続けるよ!
走り回って、探し回って、みくの姿を見つけたのは、24時をとっくに過ぎたころだった。
建物の隙間を抜けていって、人目につかないようなちいさなちいさな草むらにぽつんとお墓のような石が建てられていた。
石の前で、うずくまって手を合わせているみくの後姿があった。
息を吸い込んで、何回も叫び続けた名前を呼んだ。
「みく……」
ぴくりと、みくの背中が震える。
こんな時間までずっと、ここにいた意味に想いを寄せる。
私は自分の声で、ちゃんと伝えなくちゃいけない。
「何しに、来たの」 振り向かずにみくは応える。
「……みく、ごめんね」
「……」
「私、さ、気づいてあげられなかった。嬉しいことだって、悲しいことだって半分こするのが、ユニットなんだよね、そう言ったことあったよね」
「……」
「なのに、なにも見てあげられてなくてごめん、本当にごめん、無視してたメッセージもちゃんと全部読んだから」
「……今さら言ったって、なにもかも遅いよ。李衣菜ちゃん、取り返しのつかないことしちゃったでしょ」
「……」
「みくは、許さないから、もし噂が本当だったら、絶対に許さな──」
「吸ってないんだ」
「えっ、……」
「吸ってないんだ、私は一本も。未成年で煙草なんて、やっぱビビっちゃってさ」
「……っ、なに、それ」
「ごめんね、誰も信じてくれないだろうけど、それでもみくにだけは本当のこと、知ってほしかったから、ここまで探しにきたんだ」
「……」
「今思えば、多分さ、みくのおかげなんだよ」
「……みくの、おかげ?」
「あの時さ、メッセージ送ってきてくれたの、みくだよね。出なくてもわかった。あの時間に連絡してくるの、みくしかいないから」
「……」
「ストップがかかったんだよ、無意識で。みくがこういうの絶対許さないだろうなって」
「、そんなの、当たり前でしょ」
「うん、ありがとう、みく。私、当たり前のこと忘れてた、思いだせてくれたのは、みくだったんだよ」
みくの背中が、かすかに震えているのがわかった。
「こんなこと言っても、何も変わらないかもしれないけどさ、私のことだって、みくはもう嫌いかもしれないけど」
喧嘩ばかりしてきて、お互いに素直に気持ちを伝えられない相手。
でも、今だけは、わだかまりなく伝えられるかなって思った。
「みくも、私にとってかけがえのない、大切な人だから」
見上げると、三日月がまだあった。
キレイだなって思った。
たっぷりと時間を溶かしていく間に、少しずつ胸の痛みが引いていくような感覚がした。
「これから」
みくの震える声が聞こえて視線を戻す。
「これ、から、李衣菜ちゃん、どうするの?」
「……なにも考えてなかった、総選挙まだ、あるよね」
「みくは、絶対に、許さないから」
「……うん、そっか、ごめんね、みくにも迷惑かけるだろうし、やっぱりこんなことになったら続けられな──」
「違うよ。そんなの許さないから」
「えっ?」
「みくだけ本当のこと知っていればいい、とか、そんな独り善がり、認めない、から」
みくは立ち上がって、拳を握って言った。
「証明、してみせてよ。李衣菜ちゃんは正しいって。間違ってないって。いつもみたいに自分の信じたものが、ロックだなんて恥ずかしげもなく言い張ってみせるみたいに……っ!」
みくが振り向く。久々に私たちは顔を合わせた。
みくは、涙を流していた。とめどなく溢れる雫を拭おうともせずに、みくは叫んだ。
「……っ……みんなにちゃんと証明してみせてよっ! っ、このままでなんて、絶対に終わらせないから! それまでっ! ど、こっにも逃げさせないからぁ!」
感情が塞き止められないみくは、ずず、と鼻水をすすった。
みくらしくない、しわがれた声だった。どこか聞き覚えのあるよう、な。
「……ふっ、うぐっ……あー、もー泣かないって決めたのに、つかえが取れたら急に、ほんまに、なんなのっ……!
「……みく」
「っ、だって仕方ないにゃ! 乗り掛かった船にゃ! みくの相方なんだから、嬉しいことも、悲しいことも半分こしてきたんだから……!」
「……みくってさ、感極まるとちょっとだけ関西弁になるんだね」
「っこ、この状況でなに言ってんの!?」
「みく、だったんだね、いまさら気づいた、あの子はみくだったんだ」
そっか、目指す場所は違うと思ってたけど、いつのまにか同じステージに立ってたんだ。
アイドルをなにも知らなかった私の背中をそっと押してくれた子。
いつだって、みくは知らずに私の背中を押してくれていたんだ。
そんなみくに、ありがとうを伝えられた。ごめんねも伝えられた。
さよならは、言わないで済んだ。
……。
「李衣菜ちゃんの、ろくでなし」
「……ロックだけに?」
「……ばーか」
それから私たちは夜が明けるまで、話し合った。
お祈りをして、なつきちのことを打ち明けて、単独ライブが目前に控えてることを思いだして慌てて。
プロデューサーにネットの噂について釈明したいって連絡して、お仕事をサボったとこにちゃんと謝りにいこうと思った。
今からでも取り戻せるものがあるんだとしたら、足掻いてみようと思った。
家に帰ると、乱暴に剥がしたポスターをまた張りなおして、プレーヤーの電源を入れた。
そして、そのままにしていたなつきちに貸したCDの山に手をかけた。
1枚1枚、思い出すようにジャケットを眺めていると。
「あ、れ……?」
知らないジャケットが混じっていることに気付いた。印字のない真っ白なケース。タイトルもなにも書かれていない。
開くと1枚のCDが入っていて、ラベルには、直筆でこう書かれていた。
『新曲 親愛なるロッカーに捧ぐ歌』
「なつきち……?」
それは、私が私らしくいれば、すぐに気づけたものだった。
ヘッドホンを耳に当てて、流れてくるメロディを聴く。
自然と、ひとすじの涙が頬を伝った。
その瞬間、堰をきったように押しとどめていた感情があふれ出して、ぼろぼろ泣いて、あぁ私は結局また戻ってきちゃったんだな、って思った。
15歳の頃の私に。ロックが底抜けが好きだった私に。どれだけ鍵をかけて閉じこもろうとしても、否定しても、私は私だった。多田李衣菜は、多田李衣菜だった。
「なつ、きち、これ名盤だね。一曲しか入ってないけど」
色んなとこを遠回りして、巡りめぐって、結局は……。
私のからっぽを埋めたのは、ネコとロックだった。
…………。
……。
…。
…………。
……。
…。
「……んん」
空を見上げていたら、いつのまにか眠っていて、夢を見てたみたい。
見ていたのは、346プロが夢と希望に包まれていたころのはなし。
そして、私がひとつの歌を手に入れるまでのはなしだ。
ここから先はどうなるかだれにもわからない。
総選挙がもうすぐ終わる。30位からは順位を落とすことになるだろうけど、時期のおかげで私はぎりぎり生き残るだろうって。
みくとは差がつくかも。きっと私のこれからは誰よりも厳しいものになると思う。
やっぱさ、あんまり信じてくれなかったよ、街を歩いてると、喫煙アイドルって指さされちゃった。
でもプロデューサーはそれでも私にアイドルを続けさせようと頑張ってくれてるし、社長は順位がすべて、だってさ。ある意味フェアな人なのかなぁ。
あなたのこれからを思うと、辞めたほうがマシかも、ね、なんてイヤミっぽいこと言われたけど。
だけど私さ、アイドルをもうちょっと続けてみようと思うんだ。
やりたいことができたから。
なつきちのいないこのベンチへの道も、歩き慣れてきた。友達も増えたよ。やっぱり私はネコに好かれる性質みたい。
あ、でもなつきちを忘れたわけじゃないよ。私はやっぱりきみを忘れることも、諦めることもできそうにないから。
次の単独ライブでさ、初披露するよ。テレビ中継もされるんだって。オンエアされるかはわからないけど。
私は、この歌を笑顔で歌い続けるよ。たとえ海の向こうにいたって、どこにいたって、きっと届けてみせるから。
同じ空の下に、私たちはいる。私となつきちの間にはいつもロックがあったよね。だからこの歌が、きっと私たちをまた繋ぐものになるって信じる。
人に思いを伝える力。人を惹きつける力。私は私のそんな才能を、信じてみるよ。
そうそう、噂できいたんだけどさ、シンデレラガールになると、願い事をひとつ叶えてくれるんだって。
私の夢はさ、武道館。そこでアスタリスクとして、ロックザビートとして立つのが私の願い事。
こんなつまんない世の中でもロックなアイドルが通用するって証明してやるぜ、イェーイ。
なんてね。私は歌い続けるから、待ってるから。だからいつでも帰ってきていいよ。
世の中にはちっぽけな私にはどうしようもないことが溢れてて、だけどそれでも真実を歌い続けるのがロックだとしたら、負けずに笑顔を振りまくのがアイドルだとしたら。
私は、もう一度スーパーロックなアイドルを目指してみせるよ。教えてくれたのは、なつきちと、みくなんだ。二つの翼で羽ばたいてみせるっ、なんてうーん、カッコつけすぎかなぁ。
考え事してたら、チューニングが終わった。
息を深く吸い込む。
ねぇ、なつきち、私がこの歌に名前をつけていいかな。
新しくできた友達、一之瀬志希ちゃんに意味を聞いたんだけどさ。
──「誰そ彼」。君たちが会ってた時間帯は朝でもなくて夜でもない、人の顔がわからなくなる時間帯なんだってー。
だからお互いに「誰ですかあなたは」って尋ね合ってたんだって。街灯が発達してなかった頃の名残りだねー。
言い換えれば、相手の存在を確かめ合う時間ともゆー。英語では──。
「……」
私は勝手にこう思ってるんだ。
本当はなつきちは、壁を一人で乗り越えようとしてるんじゃないかって。
だれにもすがらずにたったひとりで。失ったロックを、自力で取り戻そうとしてるんじゃないかって。
だってさ、確かめてみたんだ。少し怖かったけど、確かめてみた。
そしたらさ、置き去りにしていった荷物のなかに。
ギターだけはどこにもなかったじゃないか。
……。
ささやかな祈りをこめて、
私はそっと歌の名前を呟いてから。
それによく似た色のピックを、勢いよく振り下ろした。
世界でたったひとりの
きみに
伝わりますように
case.多田李衣菜 end.
リアルでちょっとえらいことになりながらも、もだえ苦しみながらなんとか書き上げました
前作と同じくらいの分量にするつもりだったんですがあまりに長すぎた
次こそ短いです
最後まで読んでくれた方、本当に本当にありがとうございました
次回Paアイドル 上位のお話になると思います
おそらく一番ハードモード
リハビリのためしばらく短編投下マンになるのでいつになるかわかりませんが
まだお付き合いしてくださる方いましたらよろしくお願いします
>>192
×アスタリクスクの単独ライブの日程も決定した、と伝えられた。
↓
○アスタリスクの単独ライブの日程も決定した、と伝えられた。
今度こそhtml依頼だしてきます魂の解放
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