夢物語 (262)
物語シリーズのファイヤーシスターズ物です。
前スレ達
暦「火憐ちゃん、ごめん」
暦「火憐ちゃん、ごめん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365139513/)
暦「月火ちゃん、ありがとう」
暦「月火ちゃん、ありがとう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367036973/)
月火「どういたしまして、お兄ちゃん」
月火「どういたしまして、お兄ちゃん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368608077/)
火憐ちゃんの話と月火ちゃんの話で二本予定。
一応、1スレで二本完結予定となっております。
時系列的には、十二月~一月のお話となります。
パラレルワールド的に捉えて頂けると、助かります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370409941
それでは、あらすじ投下します。
前は確か、兄ちゃんと月火ちゃんが頑張ってる話だったっけ。
いやまあ、あたしもあたしで頑張ったんだけどさ。 こうして語るのは初めてだから、結構緊張するよなー。 やっぱり。
つっても、始まったら始まったでなんとかなるだろうし、勢い良くやってれば大丈夫だろ、多分。
えーっと。 前の話は夏だったけど、今回の話は冬の話だな。
十二月の始め。 あたしが経験した話だ。
あたしも飽きっぽいからなぁ。 ってな訳で、兄ちゃんとは交代しながらやっていこうかな。
つっても、まあ。
……ああ良いや。 やめておこう。
あんま兄ちゃんみたいにぐだぐだと言葉を並べるのは好きじゃねえんだけどさ。 そうしろって事だから一応、形だけでもやっとくか。
うーんと。
今から話す物語は、あたしが望んだ物では無い。
絶対に、それだけは言える。
大抵の物なら、戦っても負けはしないけど。
あたしが絶対に勝てないと思う奴が、この世には一人だけいるんだよな。
そりゃ、あの詐欺師にはこっ酷くやられてしまったけど。
あたしは屈服しちゃいないから、あれは負けじゃないんだ。
で、あの詐欺師でも無いとすると誰かって話だけど。
えーっと、なんだっけ。 夏休みに神原さんを紹介してもらった時に会った人。
名前は確か、影縫なんちゃらって言ったかな?
あの人もまあ、強い。 今のあたしが戦っても負けると思う。 悔しいけど。
だけど、いつかは勝つつもりだし、そう考えれば絶対に勝てない相手って訳でも無い。
だとすると。
あたしが唯一勝てないと思う相手。
まあ、つまりは兄ちゃんだ。
兄ちゃんは喧嘩はよえーし、妹にはセクハラするし、あんま強いって感じじゃないんだけど。
どうやったって、あたしは兄ちゃんには逆らえないんだと思う。 喧嘩はしょっちゅうだけども。
最終的に、兄ちゃんは絶対に収めてしまうから。 それが多分、兄ちゃんの強さなのだとも思う。
あたしには絶対に、無い力だ。
だから今から語ろう。
あたしと、兄ちゃんの話になるのかな。
絶対的に強い兄ちゃんと。
絶対的に逆らえないあたしの話。
ああ、違うな。 あたしが勝てない奴はもう一人居るんだった。
あたしの大事な妹。 月火ちゃん。
まず、月火ちゃんには勝とうとも思わないんだけどな。
で、そうだ。
確か最初、こんな月火ちゃんの言葉から、この話は始まるんだ。
あれが多分、どうしようもなくなっているのを現していたんだと思う。
そうだ。 段々と思い出してきた。
月火ちゃんがひと言、あたしに言うまではいつも通りだったんだ。
「火憐ちゃんって、ホントウニジャマダヨネ」
って、月火ちゃんは兄ちゃんにそう言ったんだ。
ああ、言葉がうまく理解できていなかった。
正しくは「火憐ちゃんって、本当に邪魔だよね」と言ったんだ。
そんなひと言から、全てが始まった。
始まったっつうよりは、終わっていったって感じかなぁ。
ま良いや、そろそろ物語を始めよう。 結局兄ちゃんみたいにぐだぐだと長くなっちまったよ。
まずはその前日の話から、順を追って話していこう。
それじゃあ、はじまりはじまり。
かれんホース 開始
以上、あらすじとなります。
続いて第一話、投下します。
十二月十四日、夜。
暦「なあなあ、火憐ちゃん」
火憐「んー?」
兄ちゃんが風呂上りにリビングで柔軟体操をしているあたしに話し掛けて来る。
世間一般的には普通の光景だけど、少し前ならこんな事は殆ど無かった。
これまで、兄ちゃんは何だかあたしと月火ちゃんには壁を作っていた気がするから。
あー。 だけど、あたしも月火ちゃんも兄ちゃんに対して壁を作ってた感じはするよな。 踏み込んできたのは兄ちゃんで、変わったとするならばこの前の夏休み……いや、あれは仲良くなっただけだから、正確に言えば春休みだっけか?
夏休みはあたし自身、月火ちゃんと兄ちゃんの間で何かあったんじゃないかとは思っているんだけど、まあどうだかな。
それよりも、あるとしたなら春休み……かなぁ。
えーっと。 確か自分探しの旅に出ていたんだっけか。 あの頃から、何だか兄ちゃんは変わった気がする。
どう変わったのかとかは分からないけど……なんとなく纏っている雰囲気とか、出している気配が変わった様に感じているんだ。
それが少し、ぶっちゃけると怖くもあったんだけど、それでも夏休みにあたしがヘマをした詐欺師の一件。 あの時の事で、そんなのは杞憂だと分かった。
兄ちゃんは、兄ちゃんだ。
だけどそんな兄ちゃんも、不安定な時があった。
……夏休みが終わる、一週間ほど前の事だ。
あの時、兄ちゃんは酷く落ち込んでいた。
あたしにはどうする事も出来なくて、月火ちゃんが解決してくれたのだけど。
それが若干悔しくもあったけど、それ以上にあたしにとっては嬉しかった。
ちょくちょく自分探しの旅をする兄ちゃんだけども、それでもあたしの兄なんだから。
……自分探しねぇ。
なんつうか、そんなので本当に自分を見つけられるのかって思うんだけどな。 あたしは。
自分なんてその場に居る自分自身しかいねえんだし、旅に出たからといって、自分を見つけられる訳が無いんだ。
敢えて言うなら……そうだな、他人探しの旅だ!
火憐「兄ちゃん、他人探しの旅に行こうぜ!」
暦「いきなり何だよ。 まだ何の話もしていないのに、何で自信たっぷりに発言してんだ」
火憐「あん? 兄ちゃん旅に行くんじゃなかったのか?」
暦「……えっとごめん。 何を言っているのかさっぱり分からない」
火憐「ん? あー。 ああ、だな」
暦「何一人で納得してんだ。 つうか、他人探しの旅ってそれ人探しをしているだけじゃん」
火憐「……そう言われればそうだな。 さすがは兄ちゃんだ」
あたしの気付かない事に気付くなんて、やるじゃねえか。
その思ったことをそのまま伝えたら「いや、お前以外なら多分誰でも気付く」と返されてしまった。 んな事ねーだろ。
火憐「で、用事は?」
暦「ああ、そうだった。 僕ちょっと出掛けてくるんだけどさ、なんかついでに買ってくる物ある?」
火憐「え? こんな時間に?」
あたしの体内時計が狂っていたのかな? と思い、時計を確認。
時計の針は、九時を示している。
勿論、外は真っ暗なので夜ってことだ。
暦「さっき旅に行こうって言ったの完全に忘れているよな、お前」
暦「野暮用だよ、野暮用」
ふうん。
まあ、兄ちゃんが夜に出掛けるのは無い事でも無いし、詮索はやめとくか。 聞かないでくれっていう、雰囲気を感じるし。
火憐「んー」
火憐「じゃあ、湿布買って来てくれ」
暦「あ? 湿布?」
火憐「おう。 筋肉疲労に効く奴なー」
暦「別に良いけどさ……なんか、おじいさんみたいだな。 お前」
火憐「どこがだよ。 まだぴちぴちの中学生だぜ」
暦「ぴちぴちって。 具体的にいうとどこがだよ」
火憐「決まってんだろ。 このおっぱいの張りとか」
暦「気持ち悪い!」
酷い兄だな。 妹を気持ち悪いだなんて。
火憐「んな事言うなって。 ほれ、触ってみ」
暦「なんで月火ちゃんの真似してるんだよ! お前見てたのか!?」
火憐「見てたっつうか、月火ちゃんに聞いたんだよ」
暦「聞いたのかよ……」
火憐「おう」
火憐「「お兄ちゃんがさ、私のおっぱいを触りたくて触りたくて仕方が無いみたいで、強要してくるんだよ」」
火憐「って、相談された」
暦「事実無根だ! それがもし事実なら、今すぐにでも自首してくるわ!」
火憐「そうなのか? あたしはその相談に「良いな、羨ましい」って返したんだけどな」
暦「お前はとっとと捕まっちまえ!」
閑話休題。
火憐「んで、妹の胸を触りたくて仕方が無い兄ちゃんはいつ出掛けるんだよ」
暦「ん? ああ、そうだった。 すっかり忘れてた」
兄ちゃんはすぐに忘れるからなー。 まあ話に夢中になるのは良いんだけどな。
暦「んで、湿布だったっけか? 他は無いの?」
火憐「んー。 大丈夫」
暦「はいよ。 んじゃあ、出掛けてくるよ」
そう言い残し、兄ちゃんは玄関の扉を開けて外に出て行く。
にしても、こんな時間にどこに行くんだか。 まあ、今に始まった事でもねえけどさ。
火憐「さてと」
する事が無い。
いや、無くは無いんだけど。
勉強とか、体鍛えるとか、月火ちゃんと話すだとか。
さーて、どうした物か。
考えながら、リビングのソファーで寝そべる。
月火「お、火憐ちゃん発見ー」
どうやら、月火ちゃんと話す選択肢を無意識に内に取っていたのかもしれない。
あたしが何かに取り組んでいれば、月火ちゃんは気を回して話しかけてこないし。
ソファーでぐだぐだしているというのは、つまり暇を表していたって訳だ。
こう見えて、意外と気が回るんだよなぁ。 月火ちゃんって。 直接言ったら怒りそうだけど。
逆の立場だったら、月火ちゃんが何かをやっていても、あたしは構わず話しかけている。
で、それで月火ちゃんを怒らせてしまう事が多々あるのだけど、結局は月火ちゃんもその内容に付き合ってくれるんだよな。
火憐「よ。 お風呂上り?」
月火「うん。 火憐ちゃんも食べる?」
そう言い、月火ちゃんは片手に持っていたアイスをあたしに見せる。
火憐「お、貰おうかな」
月火「ほい、どーぞ」
あたしにアイスを渡すと、月火ちゃんは一度、冷蔵庫の方へと戻って行った。 恐らく、自分の分を取りに行ったんだろう。
予想通り月火ちゃんはすぐに戻ってくると、ソファーの空いている部分に座る。
月火「あれ? お兄ちゃんは部屋で勉強中?」
火憐「あー、なんか出掛けるとか言ってたよ」
月火「こんな時間に、かあ。 ふむ」
火憐「心当たりでもあるの?」
月火「いやいや、そうじゃなくって」
月火「今日、滅茶苦茶寒いじゃん。 外」
言いながら、月火ちゃんは窓の外を指差す。
そういやそうだったな。 家の中は暖房が効いているから、全く感じ無いけど。
まあ、そんなもんは走って体を温めれば全然問題ねえんだけどさ。
火憐「雪が降ってもおかしくはねえよなぁ」
月火「んー、どうだろ。 少なくとも雨の予報にはなっていたんだよねぇ」
火憐「ふうん。 まあ、もし雨が降ったらあたしが連絡取って迎えに行っても良いけどな」
月火「傘を持って?」
火憐「んや、雨を避けながら走っていく」
月火「すごい発想だね……それ」
結構冗談で言っているつもりなんだけど、本気で言っていると捉えられているみたいだ。 あたしも一応は人間だぞ?
火憐「……ま、見た限りじゃまだ降り出しそうに無いし、大丈夫だろ」
月火「んだね」
月火ちゃんは言いながら、窓の外をぼんやりと眺める。
そんな姿を見て、ふと気になったことを聞いてみた。
火憐「なあ、月火ちゃんって将来の夢とかあんの?」
あたしがそう聞くと、月火ちゃんは驚いたような顔をしてこっちを見た後、堪えきれないといった感じで笑い出す。
月火「あ、あははは! 火憐ちゃん、本当にそっくりになってきた」
火憐「……そっくり?」
月火「お兄ちゃんと。 だよ」
月火「私さ、同じ事をお兄ちゃんにも聞かれたんだよねぇ」
へえ、兄ちゃんも聞いていたのか。
火憐「で、月火ちゃんは何て答えたの?」
月火「あの時は……夏のことだったんだけどさ」
月火「そんなのあり得ないって、思ってたよ」
月火「違うかな。 あり得ないって、言い聞かせてたのかな。 自分に」
火憐「言い聞かせてた?」
月火「そう。 まあでも無いよ」
ん? 何だよ、言ってる事が無茶苦茶じゃね?
火憐「……夢があるんじゃねえの?」
月火「あるよ。 だけど無い」
月火「正確に言えば、見ようとした夢はあるけどね。 でも、それは駄目な夢なんだろうなって思うんだ」
月火「だから、私に夢は無いよ」
火憐「良く分からないけど……月火ちゃんらしくねえな」
月火「かもね。 だけどこの夢はよっぽどの事が無い限り、叶えようとは思わないかなぁ」
月火「私はそれで良いと思っているし、それが幸せなんだと思うし」
火憐「ふうん」
ま、それは自分で決める事か。 あたしが口を出す話じゃあ……ねえな。
火憐「頑張れよ、月火ちゃん」
何を頑張れと言っているのか自分でも分からない。
だけど、そう言っておきたかった。
あたしは食べ終えたアイスの容器を片付け、洗面所へ向かって歩く。
そんな感じで向かおうとした所で、月火ちゃんから声が掛かった。
月火「ねえ、火憐ちゃん」
火憐「ん?」
月火「火憐ちゃんには、夢ってあるの?」
火憐「えーっと。 それはどういう意味で? 将来の夢って事か?」
月火「全部。 明日は晴れればいいなあとか、そんなのでも」
夢、か。
あたしは……そうだなぁ。
火憐「兄ちゃんが居て、月火ちゃんが居てくれれば、それで良いよ」
火憐「それだけで充分、あたしにとっては夢なんだ」
そう言うと、月火ちゃんは小さく「そっか」とだけ言った。
もう先に続く言葉は無いんだと思い、あたしは再び洗面所へと向かう為、体の向きを変える。
そうして一歩踏み出したところで、月火ちゃんから最後の言葉を貰った。
「でもさ、それが夢だったとしたら、いつかは醒めるんだろうね」
その言葉は、何故かいつまで経っても、あたしの耳から離れなかった。
第二話へ 続く
以上で第一話、終わりです。
時間空きますが、一週間置きくらいで投下していく予定です。
夢っていう単語が今やってるもう一つの化物語ssを連想させるな。
すごい俺得だわ。
>>46
心が強くて~~の作品ですよね!
偽物語編が来ないのかと密かに期待してるんです。
おはようございます。
第二話、投下致します。
夜の九時を少し回った頃、僕はある用事の為に外出していた。
幸いにも、今日は雲なんて一つも無く、雨が降りそうな気配は皆無。 吹いて来る風は寒いけど。
暦「忍はどう思う?」
外灯に照らされて作り出された影に視線を落とし、僕はそこに居る吸血鬼へと質問を投げかけた。
正しい答えが帰って来るのを期待していた訳では無い。 半ば、この状況に対する投げやりな気持ちもあったから。
忍「儂に聞かれてものう。 あやつも、ただ暇だから呼んだ訳では無いじゃろうて」
僕の問いに、忍は影から姿を出しながらそう答えた。
暦「そりゃあ、まあそうなんだろうけどさ」
忍「カカッ。 不安なのか? 我があるじ様よ」
そりゃもう不安に決まってるだろうが。 なんと言ったって、僕をこんな時間に呼び出したのはあの暴力陰陽師、影縫余弦なのだから。
嫌でも今年の夏の事を思い出してしまう。 本当にぼっこぼこにされて、顔面をぐちゃぐちゃにされて、あろうことか心臓まで握り潰された今年の夏の事。
暦「……帰ろうかな」
忍「何をびびっとるんじゃ。 それにここで回れ右をして帰ったとしたら、その後どうなって知らんぞ?」
うわあ。 すげえ楽しそうだな、忍。
そんなに僕がぼこぼこにされるのが楽しいかよ、こいつ。
つうか、その後どうなるって……家まで殴り込みとか来るのかな、あの人。
そういや僕の家の場所とか全部知ってるんだよね。 でもさすがに家までは……来るだろうなぁ。
てかさ、知らんぞとか忍の奴は言ってるけど、僕とこいつは感覚を共有している訳だから、痛い目見るのはお前もじゃねえか。
けどまあ、やっぱり。
暦「……行くしかないか」
こればっかりは、確実に絶対に気が乗らない。
誰が好き好んであの暴力陰陽師に会いに行くと言うのだ。 そんな変人、恐らくは僕くらいだろう。
忍「聞いておいて損な話では無いと思うがのう。 儂らにとって、そっちの分野に精通している者からの接触は、つまりはそういう事じゃろう?」
そこなんだよな。
それがやはり、僕がこうして行きたくも無い場所に向かっている理由の一つでもある。
この一年近く、散々僕と関わってきた怪異。
影縫さんが今更僕と接触してくる理由としては、妥当だろう。
もしもこれが僕自身に対する事だと確定して分かっていたなら、もしかしたら僕は今日、こうして指定された場所に向かう事は無かったかもしれない。
が、だけど。 それは僕だけの問題では無いのだ。
僕の彼女である戦場ヶ原を始めとして、僕の周りはそういった事と関わってしまった人が多すぎる。
というか、それを無しにしたら僕って友達いなかったんじゃね? いや、元々はそういう考えだったけどさ、なんかそう考えると随分と可哀想な奴だな。 僕って。
暦「えーっと、あそこかな」
僕が指差す先は、小さな公園。
こんな所に公園なんて、あったっけか? いやまあ、目の前にあるんだからあったんだろうけど。
少しだけの疑問と、違和感を持ちながらもそのまま公園の中へと足を踏み入れ、中央に設置されている時計に目をやる。
暦「お、丁度時間ぴったしじゃん」
約束していた時間は九時三十分。
こんな所で運を使っていいのか分からないが、幸いにも時計の針は約束の時間と同じ時間を指し示していた。
阿修羅木さん、大丈夫ですか?
忍「それにしては、気配を感じないんじゃが」
ふむ。 忍なら近くにあの人が居れば分かりそうな物だけど……どっか遠くから見てるのかな。
おー、あいつらマジで来たぞ。 騙されてるとも知らずに。 うけるー。 みたいな。
……ねえな。 影縫さんがそんな事やったら、普通にドン引きだ。
で、待つ事数分。
暦「来ないじゃん」
忍「そんな不満を儂にぶつけられても困るが」
暦「いやいや、だってさ。 あの人って時間にルーズな人だったのかな」
忍「分からん。 しかしお前様はともかく、この儂を待たせるとは随分と良い身分じゃよ。 全く」
暦「僕はともかくってな……確かに僕は時間にルーズかもしれないけど、わざとじゃないんだぜ?」
忍「ほう。 つまり昨日、ミスタードーナッツに約束していた時間に一時間遅れで向かったのもわざとじゃないと?」
……恨み深いなぁ。
暦「当たり前だろ。 僕は一応、時間きっちりに向かうつもりだったんだよ」
忍「では何故遅れた?」
暦「そりゃ、あれだよ」
暦「火憐ちゃんが一緒に風呂入ろうって言うから、そっちを取るしか無いじゃん?」
忍「……ふむ。 儂との約束よりも、あの巨大な妹御との急に入った予定を優先すると?」
暦「まあ、そう言うと変な風に聞こえるけどさ。 断ったら僕がぼこぼこにされるんだぜ? それでも良いのかよ」
忍「お前様、兄としての威厳皆無じゃな」
と、忍は最後にそれだけ言うと影の中へと姿を消してしまった。
なんだこいつ。 不貞腐れてるのか? 可愛い奴め。
暦「……おーい。 忍さーん」
返答無し。 本格的に怒らせてしまったかもしれない。
どうやって機嫌を直そうか、ドーナッツでも買い与えようか。 なんて考えていた時、後ろから声が掛かる。
余接「何をしているのかな、鬼いちゃん」
暦「何って、影に話し掛けているだけだけど……ってうぉおおおお!」
暦「急に出てくるなよ!」
目の前に居たのは、童女。
影縫さんのパートナーでもある、斧乃木ちゃんだった。
マジびっくりした。 心臓止まるかと思った。
余接「ふうん。 まあ良いや。 あの吸血鬼がいないのは僕にとっては好都合だしね」
ああ、そういや余接ちゃんは忍の事、苦手なんだっけか。
忍も忍で避けている感じはあるしなぁ。
……ん? って事は忍が影の中へ逃げたのって、余接ちゃんが来たのが分かったからなのか?
人見知りかよ、全く。
暦「で、影縫さんは? それに、用事ってのは何だったんだ?」
さっそく本題へと切り込む。 時刻はもう十時になりそうだし、何より寒すぎるので早く家に帰って暖まりたい。
余接「お姉ちゃんは来ないよ。 さっきまでは居たんだけど」
暦「来ないって……って事は、斧乃木ちゃんが説明してくれるの?」
僕の問いに、斧乃木余接は無愛想に答える。 元々、愛想なんて無い奴だけど。
余接「それは必要無いね。 お姉ちゃんと僕の用事はもう終わったから」
余接「それじゃあ、またね。 鬼いちゃん」
と、それだけ言うと斧乃木ちゃんはそそくさと公園から出ようとする。
暦「ちょ、ちょっと待て!」
暦「僕は何の為に呼ばれたんだよ。 嫌がらせ?」
余接「……はあ」
うわー。 すげえ面倒臭そうな顔だ。
余接「言っただろう? お姉ちゃんと僕の用事は終わったんだよ。 君は憑かれていない様だし、他を当たるって事さ」
暦「いや、十分疲れているけど」
余接「違う。 憑依の方だよ」
憑依? って事は、斧乃木ちゃんは僕に「君は憑かれていない」と言ったのか?
暦「それって、どういう意味だ? まさか」
悪い予感ってのは悉く当たる物で、僕の場合はそれはもう予知と言ってもいいかもしれない。
と、あのアロハのおっさんは僕にそんな話をしていた気がする。
余接「そう。 怪異」
余接「まあ、もっとも今回のは専門外の事なんだけど」
専門……っていうと、不死身の怪異だったよな。 影縫さんと斧乃木ちゃんの専門は。
その専門外って事は、不死身の怪異って訳では無いのか。 でも、何故?
暦「なら、どうしてここに居るんだ? 思惑が全く分からない」
余接「その内分かるよ。 居るのは間違い無い訳だし」
斧乃木ちゃんが言う「居る」ってのは怪異を示しての事か。
余接「って、あんまり長話をしているとお姉ちゃんにぼこされるからね。 最後に一つ忠告だ。 お姉ちゃんからの」
余接「『馬には気をつけろ』だってさ」
そうして、斧乃木余接は僕の前から姿を消す。
全く以って意味が分からないけど……
暦「忍、いるか?」
忍「なんじゃ。 儂に状況を聞いても、お前様が望むような答えはできんぞ」
暦「意見で良いさ。 影縫さんと斧乃木ちゃん、あの二人の目的は何だと思う?」
忍「それは無論、怪異の事じゃろうな」
暦「けどさ、どうしてあの二人なんだろう。 だってあの人達の専門外らしいじゃんか」
忍「さあのう。 直接聞かねば分かるまいて」
忍「それよりも問題は、その怪異が影響を与え始めているという事じゃろう」
暦「……だな。 どうしたもんか」
僕がそう言うと、忍はいつもの様に笑い、答える。
忍「カカッ。 おいおい、我があるじ様よ。 何を勘違いしておるんじゃ」
忍「関わらないのが一番じゃろ。 あの小僧も言っていたように」
暦「そりゃ、そうだろうけどさ」
暦「でも、僕の友達や家族が巻き込まれたなら、そんな事は言えねえよ」
暦「戦場ヶ原達は勿論だし、月火ちゃんだって今は怪異を知っているんだしさ」
忍「……ふむ。 まあ、お前様はそうじゃったな」
忍「ならまずは状況を整理してみるかのう」
状況の整理ね。 確かに色々散らばりすぎていて、整理する必要はありそうだ。
ええっと、まずは影縫さんと斧乃木ちゃん。
あの人達が僕を今日呼び出したのは、僕が『憑かれているか憑かれていないか』を判断する為だった。
結果。 僕は憑かれていなくて、影縫さんと斧乃木ちゃんの用事は済んだ……って事だよな。
で、何故そんな事をしたのかって問題。
それは恐らく、今現れている怪異の所為だろう。
影縫さん程の人が来るって事は、多分相当な物だとは思う。 だったら尚更関わっては駄目な気がするけど。
でも、万が一僕の友達や家族が巻き込まれたら、関わらない訳にはいかないよな。
つまり、僕が今から取るべき行動は。
暦「怪異を知っている奴には連絡して、さっき斧乃木ちゃんが言っていた言葉をそのまま伝えるって事になるのかな」
斧乃木ちゃんは「馬には気をつけろ」と言っていた。 口ぶりからして、影縫さんの言葉だろう。
僕は結論を出し、メールを回す。
羽川、戦場ヶ原、神原……
千石は携帯持っていないんだっけ。 今から電話ってのもあれだし、明日辺り連絡しよう。
月火にも言った方が良さそうだし、家に帰ったら話すかな。
とりあえずは今、僕に出来る事はこのくらいだろうか。
忍「まあ、お前様自身も精々気をつける事じゃ。 ここ一年近く一緒におって、どうにもお前様は怪異に好かれているようじゃしな」
嫌な好かれ方だな、全く。
斧乃木ちゃんが言っていた『馬』というのがどんな物かは分からないけれど、それっぽいのを見かけたら僕自身も気を付ければ良いって事だよな。
何をどう気を付ければ良いのかは、分からないが。
暦「忍は、馬って聞いて思い当たる事とかは無いのか?」
忍「あり過ぎて、絞るのは無理じゃな。 せめて現象が起きた後なら分かるがのう」
結果を見てからしか、分からないって事か。
ふむ。 ならやっぱり対策もくそもねえな、こりゃ。
暦「仕方ないけど、今日は帰るか」
いつまでもこの公園にいたら、怪異の問題以前に風邪を引いてしまいそうだし。
引っ掛かる物は数え切れないほどあるが、考えて分かる事でも無い。 影縫さんからの接触もあるかもしれないし。
まずは体を暖める為、家に帰ろう。
時間経過。
暦「って訳なんだよ、月火ちゃん」
帰宅してすぐに月火を僕の部屋に呼び出し、今日あった事を話した。
部屋に呼び出した時に「まさかお兄ちゃん、私に変な事をする気なの!?」と言っていたが、頭を叩いて無理矢理連れてきた訳だけど。
月火「なるほどねー。 また大変なことになってきたね」
暦「まあ、そうだなぁ。 ファイヤーシスターズの参謀としては、どんな風に考える?」
月火「うーん。 その『馬』に注意するってだけしか、今の所は思いつかないかな」
月火「形も何も分からないんでしょ? ならその影縫さんって人に、任せるのが一番だとは思うよ」
月火「お兄ちゃんの事だから、どうせ変に首を突っ込んで事態をややこしくしそうだし」
うっさい、やかましいわ。
暦「……否定できないな。 余計な事をしそうなのは事実だし」
月火「別に悪いとは思わないけどさ。 無理をして欲しくないってのが本音だよ」
暦「肝に銘じておきます」
あの夏の一件から、どうにも月火は棘が無くなった気がする。 ずばずばと言いたい事を言うのは変わらないが、その発言が全体的に柔らかくなったというか、なんというか。
月火「撫子ちゃんには伝えてないんだっけ。 私から言っておこうか?」
暦「ああ、そうしてもらえると助かるかな。 どうにも、千石からは避けられてる気がするし」
月火「……いや、それは避けられてるんじゃないと思うけど」
月火「まあ、良いや。 撫子ちゃんには私から伝えておくよ」
月火「それじゃあ、おやすみなさい」
月火はそう言い、自室へと帰っていく。
さあて、どうしようかな。
その『馬』が現れたのには、何か理由があるのだろうか。
戦場ヶ原や、羽川や、神原や、火憐や、月火の様に。
もしくは理由が無く、ただの交通事故みたいな物の可能性もある。
千石や、蜂の時の火憐や、僕が吸血鬼に会った時の様に。
僕の場合は、僕自身に責任がある訳だけど……会った事自体については、交通事故みたいな物だろうし。
今回のそれは、果たしてどっちなのだろうか。
そんな事を延々と考えている内に、いつの間にか僕は眠りに就いた。
第三話へ 続く
以上で第二話、終わりです。
乙ありがとうございます。
>>59
その名前だと確かに僕の名前が仏教の神みたいで、弱いイメージが払拭されそうではあるから、むしろ崇拝されそうでもあるから、変えられる物なら変えたい。
だが、僕の名前は阿良々木だ!
そういえば、第二火曜日過ぎましたね。
来週なのかな?
乙
馬といえば、やはり
>>87
そう! 三角木馬!
夜遅くにひっそりと、こんばんは。
第三話、投下いたします。
火憐「ん……」
いつもの時間に、目が覚める。
朝の五時。 まだ、誰も起きていない時間。
阿良々木家では多分、あたしが一番起きるのは早いだろう。 パパとママが夜勤明けの時は、起きたら二人が居る事もあるけど。
が、基本的にはあたしが一番早い。 別にそれに対して優越感とかは感じねえけど。 ただ、なんだか新鮮な感じってだけだ。 毎朝、あたしはそれを感じている。
家の中は静まりかえっていて、外から聞こえて来る音も鳥の鳴き声くらいだ。 まるで、誰も居なくなったかと、センチメンタルな気分になる。
……いや、こりゃ兄ちゃんが考えそうなことか。
そんな事を考えながら、一階へと向かう。
火憐「てか、さみー……」
さすがは十二月。 ファイヤーシスターズにとっては辛い季節だなぁ。 なんとなくそんな感じってだけで、特に意味なんて無いけど。
ま、とにかくとっとと準備を済ませてしまおう。
あたしはそう思い、洗面所へ行き、顔を洗う。
月火ちゃんは確かお湯で顔を洗っていたと思うけど、あたしは冷水派。
冬でもそれだから「なんでわざわざ?」って昔月火ちゃんに聞かれたことがあったっけかな、懐かしい。
まあ、あたしは「そんなの決まってる。 気合いが入りそうだから」って言っておいたんだけど。
別にそれが嘘って訳じゃない。 だけど、冷水の方が目が覚めやすいからってだけだろう。
そんな事を考えている内に顔を洗い終わり、歯ブラシを取って歯磨き。
月火ちゃんは行儀良く洗面所で歯磨きしているけど、あたしはそんな風にじっとはしていられないんだ。
毎日がそうって訳でも無いが、今日はそんな気分。
あたしは歯ブラシを咥えながらリビングに向かう。
火憐「ふんふんふーん」
自分でもよく分からない鼻歌を唄いながら。
そして。 足を滑らせた。
普段ならそんな事は滅多に無いだけ、焦る。
火憐「うおっとお!」
間一髪で体制を立て直す。 あっぶねー。
そのまま倒れてたら、下手したら歯ブラシがぶっ刺さってたよな。 怖い怖い。
兄ちゃんや月火ちゃんが起きてきて、歯ブラシが刺さったあたしを見たら心臓でも止まっちまうだろうし。
火憐「……行儀が悪い事はする物じゃねえよな」
なんて言いつつも、また洗面所に戻って歯磨きをする気分でも無い。
まあ、する物じゃないといって、それできっぱりやめられるのなら最初から苦労なんてする訳が無いんだ。
火憐「そういや、昨日は兄ちゃん帰ってこなかったな。 死んでなきゃ良いけど」
一人呟き、ソファーに座る。
ソファーの上で胡坐を掻きながら、テレビを見ながら歯磨きだ。
あーそうそう。 歯磨きといえば嫌な思い出が一つあるんだった……
まあ、あんなのはさすがにその場の勢いってのもあったけど、一応はあたしだって反省しているんだぜ。
ただ、月火ちゃんはかなり怒っていたけどな。 月火ちゃんも一度やられてみれば良い物を。 結構良かったし。
なんて言ったら、また説教されそうだから言えないけど。
でもさー。 兄ちゃんもよくあれをやろうと思ったよなぁ。 そこら辺、やっぱりすげえよ兄ちゃんは。 下手したら家から追い出されるレベルだったんじゃねえの、あれ。
ま、良いか。
さて。 歯磨きも終わったところで、着替えるとしよう。
いくら家の中とは言っても、さすがに下着姿じゃ寒すぎるし。
こんな寒さくらい、気合いを入れればどうにでもなるけど、下着姿で外を走る訳にはいかないしなぁ。
って訳で、着替えだ。
いつものジャージを手に取り、手早く着替える。
よし、んじゃあ軽く走るとしますかー!
今となっては、あたしの日課になりつつあるジョギング。 冬場だと、体を温める感じで気持ちが良い。
で、帰った後の風呂ってのがまた気持ち良いんだよなぁ。
兄ちゃんも月火ちゃんも誘ったことはあるんだけど、二人とも結局一度も一緒に走ってはくれない。 まあ、どっちかっつうとインドア派の二人だから、仕方ねーんだけど。
それでも一回くらいは三人並んで走ってみたいってのが、本音だな。
ま、その内それも叶うだろう。 叶わなさそうだったら、兄ちゃんはおっぱい触らせれば付いて来るだろ。 月火ちゃんが言うにはおっぱい触りすぎらしいし。
月火ちゃんは……うーん。
自らの意思で走らせるのは、多分無理だろうなぁ。 ああ見えて、結構頑固なところあるし。
だとすると、それ以外に付いて来たくなる理由を作れば良いのか。
んー。
おお、あったあった。 あたしがおんぶすれば良いだけじゃねえか!
よっしゃ。 じゃあ早速帰ったら兄ちゃんと月火ちゃんに相談してみよう。
ま、とりあえず今日は一人で我慢するとしてー。
火憐「あん? なんだよ、兄ちゃん帰ってきてたのか」
玄関にある兄ちゃんの靴を見つけ、それが分かった。
あたしが寝ている間に帰ってきたのか? 月火ちゃんは昨日、早くに寝ちまったし、あたしは珍しく遅くまで起きていたんだけどな。
考えても仕方ねえか、帰ってきたら聞けばいいや。
んじゃ、出発しますかぁ。
火憐「いってきまーす」
未だに誰も起きていない家の中に、あたしの声が響く。
別に誰に言ってる訳では無い。 多分、言っているとしたら家自体に言っているのだろう。
いつも、見送ってくれるのはこの家だけだから。
しかし、今日はいつに無く静かだったなぁ。
まあ、そんな日もあるか。
と、この時のあたしは妙な静けさを気にすること無く、家を後にする。
その時から既に、それは始まっていたのに。
いつものルートを通り、空気を目一杯吸う。
火憐「っし! ちょっと休憩すっかな」
三十分ほど走り、いつも休憩する公園の辺りで足を止める。
火憐「飲み物はーっと」
自販機の前に行き、飲み物を買おうとしたのだけど。
火憐「おいおい、全部売り切れってどういう事だよ」
参ったなぁ、こりゃ。 珍しい事もある物だ。 運が悪かったを通り越して、逆に運が良いんじゃねえのか、これって。 つうかあり得るの? 自販機で売ってる飲み物が全滅って。
まあ、無い物は無いで仕方ないし、公園の水で我慢しよう。
火憐「っぷは!」
あー! 生き返る! 欲を言えば、キンキンに冷えている水が良かったんだけど。 良いか、別に。
火憐「ふう。 よっし、んじゃーもうひとっ走り行こうかな」
そうして、公園から出ようと歩いていたところで、知り合い発見。
こんな朝方で、外に出ている様な人なんてそりゃ、一人だけだ。
火憐「お、神原さーん!」
って、声を掛けたんだけど、何故か無視されてしまった。
うっわぁ。 落ち込むぜこれは。
聞こえて無かったのかなぁ? いや、でも一瞬あたしの方を向いていたよな……。
うーん。 多分、急いでたんだろうな。 そうじゃないとあたしがすげーへこんじまうし。
あー。 うー。
……よし! 気分切り替え!
ってな訳で、ジョギング再開。
いつものルートを通り、程よく体を温める。
家を出た頃は辺りはまだ暗かったけど、今は既に大分日が昇ってきている。
うん。 気持ち良いなぁ、やっぱり。
で、一時間程のジョギングを終え、帰宅。
火憐「たっだいまー」
……ん? 返事がねえな。
いつもなら、月火ちゃんが「おかえりーお疲れー」って言ってくれるんだけど。 まあたまーに寝てることはあるけどさ。
それにしても、そうだとしても、やけに静かだ。
火憐「……変だな」
あたしは一応、それなりに判断できる。 何を判断できるかっていうと、つまりは異常事態を。
なんとなく、気配というか、雰囲気というか、そういった物で判断が出来る。
今は、おかしい。
なんというか、重い。 家の中全体が、果てしなく重い。
さて、そうなったらどうする。
まずは、月火ちゃんと兄ちゃんを探さないと。
探すっていっても、部屋にはいると思うけど。
それで何事も無く見つかるのが一番良いんだ。 兄ちゃんと月火ちゃんはただ寝坊したってだけの話だから。
そうして、あたしは家の中へと入る。
この時間、兄ちゃんの方はまだ寝ている可能性の方が高い。 昨日帰りが遅かったっていうなら、尚更だ。
そして月火ちゃんは起きている可能性の方が高い。
だとすると、まずは月火ちゃんを探すべきだろうな。
そんで、月火ちゃんが一番居そうなところって言うと。
火憐「風呂場、か?」
そうだ。 月火ちゃんはこの家の中じゃ、一番風呂が好きだから。 だから、そこに居てもおかしくは無い。
それに、あたしがジョギングを終えて風呂に入ると、結構月火ちゃんと会う事は多いんだ。
なら、そこに行くべきだな。
結論から言うと、月火ちゃんは居た。
そして、もう一人。
兄ちゃんも、そこには居た。
かと言って、二人が仲良く風呂に入っていたという訳では無い。 そんなのは、良くある事だし。
何かがおかしいと思い、悪い気はしたけど、二人にばれない様にあたしは会話を聞いた。
「って事は、月火ちゃんも同じ事を思ってたって訳か」
「うん。 そうなんだよ、お兄ちゃん」
同じ事を思っていた? どういう意味だろう。 何か二人して行動していたのか? 月火ちゃんからそんな話、全く聞いてなかったけど。
「私さー。 やっぱりずっと前から思ってたんだけど」
「火憐ちゃんって、本当に邪魔だよね」
……あたしが、邪魔?
何だよそれ。 いや、まだそんな、そんな決まった訳じゃないんだ。 月火ちゃんがそんな事を言うなんて。
「僕も思ってたよ。 あいつはいらない」
はは、ははは。
いけねえな、空手のし過ぎで頭がおかしくなっちまったかもしれない。 頭というよりかは、この場合は耳か。
兄ちゃんと月火ちゃんが、そんな会話をする訳が無いのに。 絶対に、する訳が無いのに。
火憐「……」
足が、動かない。 とは言っても、ここに居たらまずい。 会話を聞いていたのがばれてしまう。
……あたし、何か二人にしたっけかなぁ。
いや、それを考えるのは後だ。 動かない足でも、無理矢理動かさないと。
そう思って、足を動かす。 無理矢理に。
それがいけなかった。 勢いがあまって、扉に足をぶつけてしまった。
火憐「っ!」
息を飲む。 ばれたか? 気付かれたか?
二人の会話は、止まった。
そして背中から、声が掛かる。
後ろ側から、声が聞こえる。
あたしに向けて。
月火「お、火憐ちゃんだ。 帰ってたんだね。 おかえりーお疲れー」
暦「ん? お前この寒い中走ってきたのかよ。 凍死しても知らねえぞ」
……何だ?
おかしい、いつも通りの、兄ちゃんと月火ちゃんだ。
火憐「う、うん。 ただいま」
あたしの勘違い……って事か? 何かと何かを聞き間違えたって事か?
月火「どしたのさ、火憐ちゃん。 お化けでも見たような顔だけど」
火憐「へへ……ん? そうか? いやぁ、さすがに寒かったからさ。 あたしの熱さも自然には勝てねーって事かもな」
とりあえず、いつも通りにしなければ。
あの会話がどんな物だったか分からないけど、二人がいつも通りならあたしもいつも通りだ。
これが崩れるのは、嫌だ。
暦「やけに弱気じゃねえか。 ま、寒かったならとっとと風呂入って体温めろよ。 汗も流した方が良いだろうし」
火憐「……だな。 そうさせてもらうよ」
時間経過。
湯船に浸かりながら、考える。
何か、色々とおかしい気がしてならない。
いや、おかしいのはあたしの方か?
兄ちゃんは普通、いつも通りだったし……。
月火ちゃんも、おかしくなんて無かった。
火憐「……やっぱ難しい事はわっかんねー」
とりあえず、あたしも普段通りにしよう。
普段通りで、いつも通りだ。
逆にあたしの態度がおかしかったら、それこそ迷惑掛けるだろうしなぁ。
……よし!
決めた。 考えるのはやっぱめんどくせー。
今日の事は無し。 そういう事にしておこう。 それで何も変化が無かったら、あたしの聞き間違えで杞憂だったって事だしな。
んじゃまあ、そういう事でちゃっちゃとあがるとするかぁ。
と思ったところで、風呂場の扉が開く。
月火「おじゃまー」
火憐「おう、月火ちゃん。 おつかれさん」
月火「おつかれさんおつかれさん。 やっぱ朝風呂は良いよねぇ」
……はは。 どうやら本当にあたしの聞き間違えって事か。
火憐「んだな。 丁度あたしはあがるところだったからさ、広々使ってくれよ」
月火「ほいほい、それじゃまた後で」
月火ちゃんの返事を聞いて、あたしは風呂場の扉へと手を掛ける。
んで、その扉を開けようとした時の事だった。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
体中に、痛みというか不快な感じがしたから。
火憐「いっ!?」
月火「か、火憐ちゃんごめん!」
火憐「あ、ああ良いよ良いよ。 大丈夫だ」
要するに、月火ちゃんのシャワーから出た冷水が、あたしに掛かったってだけの話なんだけど。
そんなの、あれだ。
よくある事だから。
一度も無かったけど、よくある事にしておく。 そうしよう。
そう思い、今度こそあたしは風呂場を後にした。
第四話へ 続く
以上で第四話、終わりです。
乙ありがとうございます。
ID違いますが1です。
こんばんは。
第四話、投下致します。
火憐「んじゃあ、行ってくるぜ兄ちゃん」
月火「行ってくるね、お兄ちゃん」
月火ちゃんと一緒に、兄ちゃんに挨拶。
何でか分からないけど、今年の夏くらいから兄ちゃんは、やたらあたしと月火ちゃんにべったりと言った感じで、今日も例に漏れずに玄関であたし達を見送っている。
最初の頃は若干うざくもあったけど今じゃなんだか慣れてしまった。
暦「おう、行ってらっしゃい」
そして、あたしと月火ちゃんはいつもの様に、学校へと向かった。
火憐「にしても、さみーな」
肌を刺すような寒さって感じか。 あたしはジャージだから良いんだけど。
月火「だねぇ。 昨日降ってた雨が水溜りで氷になってるし……雪が降ってもおかしくないくらいだよ」
月火ちゃんはスカートだからなぁ。 すげえ寒そうだ。 良くわからねーけど、そんな短いスカート履いて何が目的なんだろうな?
火憐「月火ちゃんは、スカートで寒くねえの?」
月火「私は平気だよー。 スカートこそ、女子力の源なんだから」
女子力ねぇ。 あたしには全然無縁な話だなぁ。 別に求めてもいねえし。
火憐「ふーん。 あたしには分からねえや」
月火「もう、火憐ちゃんもスカートとか履いた方が良いと思うんだけどなぁ」
ジト目で見てくる月火ちゃん。 こういう小さな動作が不自然じゃねえよな……自分で分かってやってるのかね?
まあ、そんな目で見られてもスカートを履いたことは一回だけあるんだよなぁ。 月火ちゃんもそれは知ってるはずだけど。
ああ、だからジト目で見てるのか! やべ、超すっきりした。
んで、なんだっけ。 スカートを履いた方が良い、だっけ? って言われても……なんかスースーして嫌だし、それとあれだ。
火憐「やだよ。 足が長く見えちまうじゃん」
月火「うう。 羨ましい悩みなんだけど、それ」
なんだったら、あたしの足の長さを月火ちゃんにあげたいくらいだぜ。
ああ、これ言ったら怒るだろうな、月火ちゃん。 やめておこう……。
火憐「ま、人それぞれだと思うよ。 そんなのはさ」
月火「……まあ、火憐ちゃんが言うならそういう事にしておこう!」
火憐「へへ、そりゃーどうも」
うん。
大丈夫、いつも通りだ。
けど、やっぱり念の為……って訳じゃないけど、聞いてみよう。
火憐「……なぁ、月火ちゃん」
月火「ほい? どしたの、火憐ちゃん」
脱衣所で、兄ちゃんと話していた内容を。
火憐「今日の朝さ、兄ちゃんと月火ちゃんで話してたじゃん? あれって、何の話してたんだ?」
月火「あ、あー。 あれね。 ええっと、あれは」
月火「きょ、今日の晩御飯の話だよー」
……うーん。
明らかに、何か隠してる時の態度だよなぁ。 これって。 すげー冷や汗掻いてるし。 こういうのに鋭いってのも嫌になっちまうな。
んで、誤魔化すってことは聞かれたくない事、なんだろうな。
それとも……知られたらマズイ事、とかな。
いや、やめよう。 そんなのある訳がねえんだから。
火憐「おう、そっか。 けどあんま食ってばっかだと太るぜ?」
月火「はい!? 見てよこの華奢な体を!」
月火「見るからに健康体って感じでしょ!」
おおう。 どうやら月火ちゃんの導火線に火が点いてしまったらしい。
火憐「あ、はは。 そうだよな。 わりわり」
月火「……もう」
でも、確かにそうなんだよなぁ。
月火ちゃんってかなりのインドア派なのに、太らないし健康だし。
病気なんて掛かったのを見たことねーし。
改めて考えると、ビックリするほどの健康体なんだよな、月火ちゃん。
火憐「悪かったって。 おんぶしてやるから、勘弁してくんない?」
手を合わせ、月火ちゃんの顔を覗き込む。
月火「今は駄目! スカートだし!」
火憐「そういやそうだったな。 んじゃあ今度って事で」
月火「……もう、分かったよ。 一時間おんぶで許してあげよう!」
火憐「へへ、一時間でも二時間でも、任せとけ」
なんとか、月火ちゃんは怒りを収めたって感じか。
こんな風にいつも通りの会話をしていると、やっぱり朝の事なんてただの杞憂だったんだろうなぁ。 と思えてくる。
ま、それならそれで良いか。 むしろ、それに越した事は無い訳だし。
月火「……あれ? ねえ、火憐ちゃん。 あれって何?」
そんな事を言いながら、月火ちゃんは空を指差す。
火憐「ん? あれって、どれだ?」
月火「ほら、あそこ……」
月火ちゃんが指差す先を見る。
……なんだ、ありゃ。
いや、それが何なのかっての分かるんだけど、それでも空に居る訳がねえよ。
だって、そこに居たのは。
火憐「……馬?」
月火「え? 火憐ちゃん、あれが馬に見える?」
横で月火ちゃんはそう言ってるが、あたしにはそう見えた。
小さくだけど、何故かそれが馬だと分かったのだ。 空を飛んでいる、馬。
火憐「なんかの見間違え、かもしんね。 空を飛ぶ馬なんて、どっかのおとぎ話じゃあるまいし」
月火「だと、良いんだけど」
月火「でも、これって……もしかして」
もしかして、なんだ?
と、それを聞こうとした瞬間。
その空を飛んでいる馬と、目が合った。
火憐「……う!」
なんだ、ぐらぐらと揺れている。
地震か? いや、横に居る月火ちゃんはしっかりと立っている。
って事は、揺れているのはあたし自信って訳か。
それに、なんだか吐き気もしてきた。
月火ちゃんの姿が揺れて、ぼやける。
これは、ちょっとやべえかも。
月火「----------れんちゃん!」
月火ちゃんの声で、消えかけていた意識が一気に引き戻される。
だけど、それにしては妙だった。
引き戻されるというよりは、余計に落ちていく感じだったから。
火憐「お、おお。 ごめんごめん、大丈夫」
月火「そ、なら良いね」
月火ちゃんはそう言い、歩き始める。
本当に、切り替えがはえーよなぁ。 もうちょっと心配してくれても良いのに。
まあ、そんな事は言えるはずも無く、あたしは月火ちゃんの後へと続く。
火憐「……んー」
付いていきながら、再度空を見上げたのだけど。
先程まで確実に居た『馬』は、既に跡形も無く消えていた。
火憐「気のせい、だったのか……?」
でも、月火ちゃんもあの馬は見ているんだよな。 だとすると、二人同時に見間違いって事になるのだろうか。
うーん。 よく分からねえ! ま良いだろ!
火憐「……うおっ」
と、空を見上げていた所為で足を何かに取られ、バランスを崩す。
普段なら、ここからバランスを立て直す事なんて余裕で出来るんだけど、今日は何だか運が悪い。
普段あまりしない考え事をしすぎていた所為で、自分がバランスを崩しているというのに気付く事が、遅れた。
で、結果は言うまでも無く転んだ訳だが。
なんつうか、やっぱり今日は運が悪い。
転んだ先が、水溜りになっていたのだから。
火憐「……ってえ」
くっそ。 こんな無様な姿、人様に見られてたらどうしようか。
ファイヤーシスターズの名折れだぜ。 全くよー。
しかし、あたしは一体何に足を引っ掛けたんだろう?
こんな何も無い道路に、足を引っ掛ける場所なんてあったっけか。
体を引き起こしつつ、後ろを見る。
あたしが、足を引っ掛けたであろう場所を。
そこには何故か、月火ちゃんが立っていた。
月火「か、火憐ちゃんごめん。 私の足が引っ掛かっちゃったみたいで」
火憐「あ、ああ。 そうだったのか。 良いよ別に、気にするなって」
月火「……でも、火憐ちゃんの服びしょびしょだし」
火憐「いーよ。 家からそんな離れてないし、帰って着替えてくる」
火憐「月火ちゃんは先に学校行っといてくれ。 あたしの所為で遅刻してもつまんねえし」
月火「そ、そう? なら、先に行くけど……ごめんね」
火憐「いーって。 んじゃ、また後で」
月火「うん。 またね、火憐ちゃん」
そう言って、月火ちゃんは学校へと向かって行った。
笑いながら。
ああ、誰だよ今のは。
口ではあたしの事を心配していた。
それは、間違い無い。
あたしもそれだけ聞いてれば、月火ちゃんがわざとそんな事をやったとは思っていなかった。
つまり、今あたしは月火ちゃんがわざと足を引っ掛けたと思っている。
何故か。
簡単な事だ。 そんなの、誰にでも分かる。
だってそりゃ、月火ちゃんの奴あんなにも楽しそうに笑ってるんだもん。 ざまあみろと言わんばかりに。
火憐「……くっそ、胸糞悪いな」
月火ちゃんに対してじゃない。
そういう風に思ってしまう自分自身に対して、だ。
だが、思ってしまう物は止められない。 どうしようもない。
……月火ちゃんだって意味も無くそんな事はしないはず。
何か多分、理由があったんだと思う。
……そう思いたい、かな。
まあ、とにかく後で月火ちゃんには話を聞いてみよう。
あたしはこんな関係は嫌だし、月火ちゃんも嫌だと思う……から。
まずは家に帰って、一度着替えないと。
時間経過。
玄関の扉を開ける。
鍵が掛かっていなかったって事を考えると、兄ちゃんがまだ居るのだろうか?
火憐「たーだいまー」
と挨拶をすると、階段を下りる音が聞こえてきた。
暦「火憐ちゃんか、どうしたんだよ? 学校は?」
火憐「いや、ちょっとミスったんだよ。 こけちゃってさ」
火憐「んで、見たとおりずぶ濡れって訳だ。 家には着替えに戻ってきたって事だな」
暦「ふうん。 お前でも転ぶ事とかあるんだな」
火憐「まあね。 数年に一回くらいはあるよ。 つまり今日は数年に一回の奇跡が起きたってわけだ! すげえだろ!?」
暦「確かにな、お前が言うと嘘っぽく聞こえないってのがすごいよな……」
嘘では無いんだけどな。 んまあ、良いや。
とりあえず着替えよう。 ずぶ濡れだし、泥も付いちゃってるし。
火憐「風呂にも入りたいけど……まあ、時間がねえし良いか」
独り言を呟き、家の中へと入る。
火憐「にしても、兄ちゃん。 学校はどうしたんだよ?」
暦「ん? ああ、学校か。 今日はサボったんだよ」
サボった? 何でまた……兄ちゃん、最近は勉強とか頑張ってたのに。
そりゃー、前まではそんなのしょっちゅうだったけど、家に居るってことは無かったはずなんだが。
火憐「良いのか? 今って、良く分からないけどさ。 大事な時期なんじゃねえの?」
暦「ま、なんとかなるだろ。 受かったら受かったで、落ちたら落ちたって事だ」
火憐「んな適当で良いのかよ? 今まで頑張ってたじゃねえか」
暦「元から大して頑張って無かったよ。 つうか、火憐ちゃんには関係無いだろ?」
火憐「関係無いなんて事は……」
暦「もう良いから、さっさと着替えて学校行って来いよ。 その為に帰ってきたんだろ?」
火憐「……まあ、そうだけど」
兄ちゃんはあたしの言葉を聞くと、さっさとリビングへと向かっていった。
何か今日は、色々とおかしくないか?
朝、ジョギングに出た時の神原さんの様子だったり、月火ちゃんと兄ちゃんの会話だったり、月火ちゃんの様子だったり、兄ちゃんの様子だったり。
……それに、兄ちゃんがあんな適当になるなんて、ちょっと考えられ無いよなぁ。
翼さんに散々面倒見てもらって、それを無碍にする兄ちゃんのはずがねえのに。
火憐「……あたしも、サボっちまうか」
少し、やる事が出来た。
月火ちゃんの事と、兄ちゃんの事。
まずはそっから調べちまおう。 まあ、月火ちゃんの事は本人に問い質しても良いんだけど、兄ちゃんの事となると、あれはちょっと聞き辛いからなぁ。
前に、月火ちゃんに教えてもらった調べ方でやってみるか。
ええっと、確か友達から洗っていくんだっけかな。
ってなると、そうだな……まずは翼さん、かな。
火憐「あ、やべ」
すっかり着替えるのを忘れていた。 危うくそのまま、また外に出るところだった。 これがあれだ、本末転倒って奴か。 やっぱあたし頭良いかもしれない!
……まあ良いや、ちゃっちゃと着替えて、ちゃっちゃと調べよう。
月火ちゃんがいないと寂しいけど、仕方ないか。
夕方には月火ちゃんは帰ってくるはずだし、そうしたら今日の事を聞くとしよう。
兄ちゃんの事も、話しておいた方が良いかもしれないな。
最悪、また翼さんに協力してもらうって感じか。
おっし。
着替えも終わった。 準備も終わった。
学校に連絡は……ま、大丈夫だろ。 これまでサボらなかった事が無い訳じゃないし。
んじゃ、行くか。
火憐「行ってきます」
あたしの声に、答える声は無かった。
第五話へ 続く
以上で第四話、終わりです。
乙ありがとうございます。
もうすぐセカンドシーズン始まるな
こんばんは。
>>161
ですね! 最速だと6日からでしたっけ?
今からすごく楽しみだったり。
猫白で火憐ちゃんも月火ちゃんも出るので、早く観たいと思いながら本日の投下致します。
結論から言うと、駄目だった。
翼さんから何かを聞くことは出来なくて、それだけでもう八方塞とまではいかないけど、大分手詰まりになってきた感はある。
一応、電話は繋がったんだけどなぁ。
電話には出た物の、何だか煮え切らない返事をしていたのが気になる。
具体的に言うと。 何だか、あたしを避けている様な、そんな感じがした。
……被害妄想、だといいけどなぁ。
生憎うまく、そう考えられないっつうのが現状ってことだ。
で、今は公園のブランコに揺られながら、途方に暮れているって訳。
火憐「……何してんだか、あたしは」
どーにも、目標が見えてこない。
いや、それははっきりしている……かな?
月火ちゃんや兄ちゃん、神原さんに翼さん。
あたしの周りの人の様子がおかしい。 その原因を探っている。 そして目標は……。
皆を元通りにする。 だな。
それは分かっているんだ。 だけど、その目標に辿り着くまでの道が見えない。
何だか、浮き足立っている感じがしてならない。
まあ、そりゃ無理も無い話なのかな。 兄ちゃんと、それに月火ちゃんの様子もおかしいのだから。
あたしがいつもの調子が出ないってのも、それが多分原因だろう。
火憐「あたしらしくねえのかなぁ。 くっそ」
元気が良く、正義感が強く、自分を鍛えて、目標に向けて真っ直ぐ向かって行く。
それは、良く言われる事だ。
それが周りから見た、あたしなんだろうけど。
でも、そんなのは所詮……。
ああ、止めだ止めだ。 後ろ向きはいけねえ、何事にも前向きでっと。
火憐「よっし、とりあえず当たってみるしかねえか」
当たって、砕けてもまた当たってやる。 勝てるまで、やってやろうじゃねえか。
それが、あたしの武道だ。
火憐「ごめんな、部活休ませちゃって」
月火「ううん、大丈夫だけど」
午後、学校が終わった時間を見計らって、あたしは月火ちゃんに電話を掛けた。
話したい事があると伝え、それを聞いた月火ちゃんは、二つ返事で承諾して、現在はあたしと月火ちゃんの部屋。
向かい合って、あたしと月火ちゃんは話す。
月火「それで、話があるってのは?」
火憐「ああ、回りくどいのは嫌いだしさ、聞くけど」
火憐「月火ちゃん。 朝、兄ちゃんと話していたのはどんな内容だったんだ? 夜ご飯がどうとかって、嘘だろ? それくらいはあたしにだって分かる」
予想だと、ここで月火ちゃんはどうにかして話をはぐらかすのだと思ったが、意外にもあっさりと月火ちゃんは認める。
月火「うん。 あれは嘘だね。 本当の所じゃない」
火憐「……そっか。 で、どんな内容を話していたんだよ?」
月火「それ、火憐ちゃんに関係あると思う?」
火憐「なっ……!」
……明らかに、態度がおかしいぞ? 月火ちゃん。
普段ならいきなりこんな喧嘩腰になるなんてことは、ねえのに。
火憐「あたしは……聞いてたんだよ。 何かの勘違いだと思いたかったけどさ」
火憐「兄ちゃんと月火ちゃんが話してて、月火ちゃんがあたしの事を「邪魔」って言ってたのを聞いてたんだぞ!」
あたしがそう言うと、月火ちゃんは笑う。 口角を吊り上げて、さぞ楽しそうに、笑う。
月火「なーんだ。 聞いてたんじゃん」
月火「分かってる事をわざわざ聞かないでよ。 折角、部活を休んで時間作ってあげたのにさー」
火憐「……じゃあ、認めるのかよ。 そう言ってたって」
月火「認めるも何も、そういう話しかして無いし」
兄ちゃんと月火ちゃんが、そんな話しをしてたって?
くだらない。 くだらないぜ、本当に。
火憐「なら、理由を教えてくれよ。 あたしが悪かったのなら、謝るし」
月火「理由ねぇ。 まあ、あるっちゃあるよ。 火憐ちゃんが原因でもあるね」
火憐「で、その理由って何だよ」
月火「そりゃー、あれだよ」
「火憐ちゃんが、生きているから」
月火ちゃんはそう言う。 笑いながら。
駄目だ。
我慢、できねえ。
火憐「てめえ……!」
あたしは、目の前にいるそいつの胸倉を掴み、壁に押し付ける。
火憐「好き勝手言いやがって、喧嘩売ってんのかよ! このチビが!」
月火「すぐ暴力って、火憐ちゃんらしいよね。 火憐ちゃんらしくて、気持ち悪い」
火憐「……一人じゃ何もできねえのに、良く言えるよな」
月火「自分に言ってる様に聞こえるけど?」
もう駄目だ。 こいつ、一発殴ってやろう。
そう思って、腕を振り上げた時だった。
暦「何してんの、お前ら」
あたしは振り向き、口を開く。
火憐「……兄ちゃん」
月火「お兄ちゃん、私とお兄ちゃんが朝話してた事、火憐ちゃんに聞かれてたみたいでさ」
月火「それで、火憐ちゃん怒ってるんだよ」
暦「そっか」
それだけ言うと、兄ちゃんはあたしと月火ちゃんの方に近づき、迷う素振りも見せず。
あたしの顔を、叩いた。
火憐「な、何すんだ!」
暦「分かるだろ? 朝の話を聞いていたならさ。 僕も月火ちゃんも、お前の事を邪魔だと思ってるんだよ。 それに、月火ちゃんに暴力振るってるんじゃねえよ」
暦「なあ、頼むから……消えてくれないか」
火憐「に……兄ちゃん」
何だよこれは。
気持ち悪い。 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
足場が、崩れていく。 あたしの場所、あたしの道が消えていく感覚がした。
兄ちゃんは無表情であたしの事を見ていて、月火ちゃんは気持ち悪い笑みであたしの事を見ている。
あたしが何をした? そこまで嫌われなきゃいけない事をいつした?
消えてくれだと? 上等だ。 別にあたしは一人でもやっていける。 いつか絶対に仕返ししてやる。 覚えとけよ馬鹿二人め。
それから。
それからあたしは、家を飛び出した。
泣きはしない。 悲しいというよりは、怒りの方が勝っていたからかもしれない。
行く当ても無く、途方に暮れて町中を歩く。
火憐「……どうすりゃいいんだか」
寒いなぁ。
ああ、やっぱり寂しいな。
どういう経緯で、こんな事になってしまったのだろうか。
……おかしくなったのは、朝からか。
朝、兄ちゃんと月火ちゃんが話していて、あたしはそれを聞いてしまった。
その前日は、特に変わった様子は無かったと思う。
思うだけであって、あたしが何かやらかしたのかもしれないけど。
兄ちゃんも、月火ちゃんも。
絶対に、変だ。
……変なのはあたしかもしれねえけど。
突然、鼻頭に水が当たる。
火憐「雨か」
そう思って見上げた空は、どんよりと曇っていた。
散々歩いて時間を潰した所為で、既に日は完全に落ちていて。
星は全く見えないが、それでも一つ、見える物があった。
火憐「あれは……」
今日の朝、月火ちゃんと一緒に空を見たときに居た『馬』が、そこには居たのだった。
朝見た時よりも、距離が近い?
明らかに、大きく見える。
朝見たときよりも、明らかに。
そして、その馬はゆっくりとこちらに顔を向ける。
まずい。 そう、直感的に思った。
急いでこの場から離れないと、まずいと。
幸いにも、朝に見たとき感じた体調不良等は無いようだ。
だが、足が地面に縫い付けられたかの様に、ぴくりとも動かない。
火憐「くっ……」
馬はあたしを見つけ、吠える。
空気を震わせ、その声は何百メートルも離れているであろうあたしの耳にも、しっかりと聞こえた。
そして向きを変えて、近づいてくる。
……訳分からねえ。 なんだよありゃ。
まず、馬がなんで空を飛んでるんだよ。 ペガサスかなんかか? 馬鹿らしい。
あんなはっきりと分かる化物なんて、生まれて始めてみた。
姿形は、まんま馬だけど……得体の知れない不気味さが、あいつにはある。
なんとかこの場から離れないとまずい。 それは分かる。 直感的に。
が、周囲に人の気配は無く、声を出そうと口を開けても、空気しか出てこない。
やっべえ。 こんなんになるんだったら家を飛び出すんじゃなかった。
なんて思っても仕方無い。 あの馬はあたしの傍に来て、何をするのだろうか?
どこかの王子様みたいに、連れて行ってくれるのだろうか。
はは、アホかよ。 んな訳ねえじゃん。
だったらまあ。 襲ってくるってのが一番有力だ。 というか、すげえ殺気感じるし。
ならあれだ。 足が動かなくて、声も出せないとなると。
戦うしか、ねえよな。
幸いにも腕は動く。 あたしはゆっくりとした動作で、構えを作る。
その時。
すぐ近くで、声が聞こえた。
『例外のほうが多い規則』
……あ?
そう思い、声の方に顔を向けた瞬間、後方に思いっきり体を引っ張られる。
引っ張られるというよりは、押し出された。
火憐「がっ……!」
同時に体内にある空気も押し出され、意識を失いかけた。
火憐「く……そ」
あたしを舐めるんじゃねえ! こんな程度で意識を失ってたまるか!
そう思い、体に纏わりついている何かに視線を移す。
「やあ、スズメバチの妹ちゃん」
やべえ、なんだこれ。 変なチビが抱き着いてきてる! さすがのあたしでもスルーできない!
しかし声を出すことは出来ず、必死にツッコミたいのを我慢して、その短い間の空の旅が終わるのをあたしは待ち続けるのだった。
第六話へ 続く
以上で第五話、終わりです。
乙ありがとうございます。
投下遅れていて申し訳ありません。
文にする時間が中々取れず……
完結はさせますので、もうしばらくお待ちください。
忘れ去られた頃に。
いや本当に申し訳無いです。 年内完結を目指して……。
第六話投下致します。
影縫「覚えとるかな? スズメバチの妹さん」
火憐「……ええっと」
いや知ってるぜ。 確かあんたは夏休みに会った気がするってのは知ってるさ。
すっげー強そうな人だなぁ。 って思ったしな。
けど、状況も説明されないでいきなりこの人はニコニコ笑いながら話しかけてきている! 正直、意味わかんねえ。
余接「お姉ちゃん。 この状態を説明しないと「訳分からない、なんだてめぇら」って顔をしているじゃないか」
そう! 良い事言ったな!
……んで、あんたはあんたで誰なんだよ。
影縫「あー。 せやな。 そりゃそうやな」
影縫さんは言い、頭をぽんと叩く。
影縫「と言ってもなぁ。 うちらがおどれを助けたってくらいやろ? べっつに一々説明しなくても」
火憐「いやいやいやいや! 一応、あんたのことは分かるけど……この子供とかあの馬とか全然訳分からないって!」
余接「僕かい? 僕は斧乃木余接。 可愛い女の子だよ」
ふむ。 なるほど。
余接「で、あの馬についてだけど……」
そう言うと、余接ちゃんは影縫さんの方へと顔を向ける。
どうやら、説明は任せたという合図だったらしい。
影縫「チッ……面倒臭い」
と、前置きをした後に影縫さんは話始めた。
影縫「ありゃ怪異言うてな。 要は化けもんや」
火憐「か、怪異? 化物ってのは……見れば分かるけど」
影縫「まぁ、怪異についての詳しい説明は任せとくわ」
影縫「おどれの兄やんに、な」
火憐「……兄ちゃん? なんで、兄ちゃんが出てくるんだ?」
影縫「そりゃ知ってるからや。 怪異……化けもんをな」
影縫「こんな感じでネタばらしー言うたら、怒りそうやけどなぁ。 まぁ、しゃあないわ」
影縫「ほんで、あの馬についてやけど」
そして、影縫さんは語りだす。
あの馬について。
暦「夢馬?」
忍「そう。 夢に馬と書いて、ムマ」
忍「お前様の極小の妹御が言う形、見た目、それと状況を合わせると……考えられるのはそやつじゃな」
忍「夢に魔と書いての夢魔というのが一般的じゃが、あれとは似て非なる物じゃよ」
暦「……一体、どういう怪異なんだ?」
僕の問いに、忍は淡々と答える。
忍「本来、夢と言う物は見る物じゃ」
忍「それは例えば……将来のことであったり、睡眠している時に見る物であったり、果てしない物であったり、叶わない物であったり」
忍「しかし、怪異としての夢馬は魅せる怪異。 夢を魅せるのじゃ」
魅せる、怪異? その夢という奴を強制的に見せ、魅せる……つまり、そういうことか?
でも、そうだとしたら今の火憐の状況は。
忍「そして……夢と現実を入れ替える。 そういう怪異じゃ」
入れ替える。 夢と、現実を。
暦「ちょ、ちょっと待てよ。 っていうと、火憐ちゃんはもう戻ってこないのか?」
忍「そうは言っておらん。 入れ替えると言っても徐々にだしのう」
忍「しかし、あまりにも時間が経ちすぎたら……言わずもがな」
忍は言い、顔を俯かせる。
暦「助ける方法は……あるのか?」
忍「ある。 今現在の夢より更に強烈な現実を見せればいい」
暦「……強烈な現実?」
忍「カカッ。 言っておらんかったかのう?」
忍「お前様の妹御が今捕まっている夢は、妹御の弱点を突くような物なのじゃよ」
火憐の弱点? そんなの、あのくっそ強い奴にあんのか?
忍「……一応、お前様の妹御であって、女じゃぞ?」
暦「ま、まあそうだけど」
忍「……全く、これだからデリカシーの無い男は嫌なんじゃ。 やれやれじゃよ」
暦「……悪かったな」
なんで僕は吸血鬼に怒られているんだ。 いや、つうかそれよりも。
暦「なことより、弱点を突くってのは……」
忍「簡単な話じゃ。 例えば……そうじゃなあ」
忍「お前様がツンデレ娘から振られ、大好きな妹御たちから「死ね」と言われるのを想像してみれば早い」
暦「……すっげえ嫌だな、それ」
忍「カカッ。 つまりはそういうこと。 お前様の巨大な妹御が今現在、見ている夢じゃよ」
忍「見ている、では無いのう。 魅せられている、が正解じゃ」
忍は言い、凄惨に笑う。
暦「方法は? その強烈な現実ってのを……要は見せれば良いんだろ? その方法は?」
忍「まぁまぁ、そう焦るでない。 そろそろ、じゃと思うのだが」
そろそろ? 一体、何のことを忍は言っているんだ?
と、そう思ったときだった。
耳をつんざく様な高音と共に、部屋の窓が割れる。 跡形も無く、窓ガラスが粉々に。 外から蹴破られた様に波紋が広がり、割られた。
影縫「久し振りやな! 兄やん!」
暦「いやいやいやちょっと待てぇ!! なんで僕の部屋の窓を割って入って来てるんですか!? 普通に入ってきてくださいお願いします!!」
頭おかしい! この人頭おかしいぞ絶対! 善良な市民である僕の部屋の窓をいきなりぶち破るなんて絶対この人おかしい!
影縫「なんか文句あるんかいな?」
影縫余弦は睨む。 怖い顔で睨む。 僕は当然びびる。
暦「あ、あー。 あはは、はは」
怖いって。 あんま睨まないで欲しい。 マジで怖いから。
余接「全く、お姉ちゃんは乱暴すぎるよ。 僕は天井を破る案を提案したというのに」
暦「それどっちもどっちだからな!? って、どうして斧乃木ちゃん?」
僕の言葉に、影縫さんは笑って返す。 忍の笑い方にも負けず劣らず、凄惨な笑い方だ。
影縫「どうして……か。 そんなの決まっとるやろ。 化け物退治や。 ええやろ? 時期はまあ……夏がぴったしって感じやけど。 やっぱそんなのどうでもええわ」
暦「で、ですけど……僕に出来ることは無いって、言ってたじゃないですか」
影縫「……せやな。 あの時はそうや。 それはそうや」
影縫さんは目を瞑りながら言い。
影縫「けどな、状況が変わったねん。 事態は思ったよりもややこしくてなぁ」
影縫「その辺、貴様なら分かるやろ? 旧ハートアンダーブレードちゃん」
瞑っていた目を開け、忍の方へと顔を向けた。
忍「ふん。 儂にそう言うと言う事は……つまり、当たっているということじゃな」
忍「ならば話は早い。 おい、お前様よ」
忍は言うと、僕の目の前まで来て、指をさす。
忍「お前様の大好きな人助けじゃ」
暦「……大好きって程じゃねえって。 で、それでそれはどういうことだよ?」
忍「ひとつ質問じゃ。 貴様、妹御の為に死ねるか?」
そんな質問……答えなんて、とうの昔に決まっているさ。
僕は答える。 あの時の火憐のように。 即答。
暦「当たり前だろ。 火憐ちゃんの為でも、月火ちゃんの為でも、僕は死ねるよ。 何回でも、何百回でも死んでやれるさ」
影縫「はっはっは。 分かり易くて助かるわ。 そんじゃ」
影縫「いっぺん、死んどけや」
暦「……へ?」
言い、影縫さんは一気に距離を詰めた。
気づいた時にはすぐ目の前で影縫さんが笑っていて、そして気づいた時には。
僕の体を影縫さんの拳が貫いていた。
暦「がっ……!?」
痛みはさほど感じない。 だが、確実に意識が失われていくのは感じる。
暗く、冷たく、熱く。 落ちる。
目の前がぼやけてきて、不敵に笑う影縫さんの顔も、その後ろで僕のことを見ている忍の顔も、次第に見えなくなっていく。
こうして僕は、意識を失った。
ここはどこだろうか。 辺りは真っ暗。
僕は生きているのか? ていうか、なんで影縫さんはいきなり僕の体をぶち抜いてくれたんだ。
全く持って状況が分からない。 だけど、何か行動しなければ。
一歩、一歩、歩く。
終わりは見えない。 何も辺りに頼りになる物は無い。
「お前様よ。 なんとか生きておるようじゃな」
そんな暗闇の中でも、忍の声ははっきりと聞こえた。
暦「忍!? 忍か!? 一体どういうことなんだよ!?」
「説明するのは面倒じゃのう……」
暦「んなこと言ってる場合じゃねえって! 僕は死んだのか?」
「死んではおらん。 あの陰陽師の力を使い、繋げただけじゃ。 その証拠に痛くは無かったじゃろ?」
いや確かに痛くは無かったけど……。
でも明らかに僕の血と思われる物は噴き出していたし、明らかに影縫さんの腕は僕の腹の辺りを貫いていたし。
「ま、そうは言っても普通の人間なら死んでおるがのう」
駄目じゃん! それ僕だから生きてた様な物で、明らかに人が死ぬダメージ入ってるじゃねえか!!
「そして加えて言えば、失敗すれば死ぬ。 無論、お前様が失敗したら。 じゃな」
待て待て、状況を整理させてくれ。
忍が最初に言った言葉は。
暦「てか……繋げた?」
「左様。 何を……とは聞かないでおくれよ? 我があるじ様」
この状況。 この状態。
なるほど。 理解したぜ。
忍が言っていることの意味は、つまり。
「さて、大切な妹御を助けに行くか。 お前様よ」
そしてやはり、僕の答えは決まり切っている。
そんなのはもう、とうの昔に、な。
暦「……行こう、忍。 迷惑掛けてばっかりの妹を連れ戻しに」
第七話へ 続く
以上で終わりです。
投下遅れていて申し訳ありません。
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