沙希「話があるんだけど」八幡「やだ」 (166)

沙希「ふんっ!」ドゴォッ!

八幡「…わ、ワイルドな壁ドンですね…」ブルブル

沙希「話聞く?」バキボキ
八幡「僭越ながら是非ともお聞きさせていただきます!」ガタガタ

沙希「あんた、バイトしない?」

八幡「バイト?」

沙希「そ、あんたと雪ノ下達が来たあのホテルのバーでね」

八幡「なんで?」

沙希「人手不足らしくてさ、時給が良いし学生でも10時までならできるでしょ」

八幡「部活あるし妹いるし働きたくないんだけど」

沙希「バイトしたくない理由に妹出すってなんなの?」

八幡「学校から帰ったら妹を愛でるのに忙しいし」

沙希「…」ジトー

八幡「他を当たってくれよ」スタスタ

沙希「ま、待って!」ガシッ

八幡「なんだよ」

沙希「あんた以外に頼めそうな奴知らない」

八幡「いやいや、いるだろ一人や二人くらい」

沙希「友達居ないあんたが誰か良さげな人紹介してくれるの?」

八幡「友達居ない俺が誰か紹介出来るわけないじゃん、バカだなー」ヘラヘラ

沙希「あ?誰がバカだって?」

八幡「何でもないです」
沙希「時間もないし履歴書書いて写真撮りに行くよ」グイッ!

八幡「あ、ちょ…」ズルズル

タスケテー!

部室

結衣「あれ?いまヒッキーの声が聞こえたような」

雪乃「気のせいじゃないかしら」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443452188

八幡「…」

沙希「グラス取って」

八幡「…」つグラス

沙希「あちらのお客様にこのデキャンタお出しして」

八幡「…お待たせいたしました」ススッ

沙希「はい生ビールですねかしこまりました」

八幡「こちら生ビールです」

八幡「おい川崎」

沙希「なに?」

八幡「履歴書読まずに採用された挙げ句にお前と二人で店番って何なんだ」

沙希「客席も2、3人しか居ないし大丈夫でしょ」フキフキ

八幡「他の従業員はどうなってんだよ」

沙希「だから人手不足だってば」カシュカシュ

八幡「いくらなんでも限度があるだろ…」

沙希「ふふふ、これからよろしくね」ニコッ

八幡「!」ドキッ

沙希「あちらのお客様呼んでる、注文とってきて」

八幡「あ、ああ」ササッ

沙希(なかなかどうして優秀な人材だったんだ比企谷…)

八幡「ちょうど戴きます、ありがとうございます」ペコッ

沙希「お疲れ様」

八幡「本当にお疲れだよったく…」

沙希「初日なのに中々の仕事ぶりだったよ」

八幡「働きたくないのに褒められたくねえよ」

沙希「あ、そうそう、あんた紹介したら給料に色付けてくれてね、なんか奢るよ」

八幡「遠慮しねえからな」

沙希「いいよ、引きずって連れてきた甲斐もあったし」

八幡「よし、なら有名イタリアンのあの店行くぞ」

沙希「有名イタリアン…」(手持ちで足りるかな…)

八幡「ミラノ風ドリアとハンバーグ、あとドリンクバーで」

沙希「あたしも同じので…って、サイゼなの?」

八幡「そりゃそうだろ、ガチのコースとか出てくるような店に行くわけないだろ」

沙希「ほっ…」

八幡「ドリアまだかなー」

沙希「ハンバーグも楽しみだね」

八幡「だな」

八幡「店長さんいい人そうだな」

沙希「いい人だよ、放任主義だけど」

八幡「店番俺らだけってのでよくわかったよ」

沙希「店長は店長でメニュー開発やらなんやら沢山仕事あるからね」

八幡「なるほどな」

沙希「あんたも慣れたら美味しい新メニュー食べられるよ」

八幡「楽しみだなそれ」
沙希「最近はバーも料理が凝ってるところが多いんだよ」

八幡「そうなのか」

沙希「お酒だけだとしんどいみたいだよ」

八幡「酔いが回りゃ帰るもんな普通」

沙希「それに、何か食べとかないと胃に悪いらしいしね」

八幡「飲んだことないけど確かに荒れそうだな」
沙希「需要があるから供給が成り立つって事だね」

八幡「なるほどな」

八幡「食った食った」

沙希「奢りが千円位でいいなんて助かる」


八幡「忘れてたけど奉仕部ってそういう部活でな、奢ってもらえるだけ御の字なんだよ」

沙希「あんたに助けられてばっかりだよね」

八幡「そういう部活なんでな」

沙希「部活してなかったら助けなかったの?」

八幡「分からん、部活してなかったらそもそも人様の家庭の事情に首突っ込むことはなかったろうしな」

沙希「もしもでいいから教えてよ」

八幡「部活のお陰でお前の事情を把握できたわけだしな、助ける助けない以前だろ」

沙希「なら、部活抜きにあたしの事情を把握したとして、助ける?」

八幡「…お前がスカラシップを取れたのはお前の成績がものを言ったんだから、適切な待遇になれる話ぐらいはするだろうな」

沙希「えっと…ああ、やっぱり助けてくれるんだ」クスクス

八幡「お前の成績が優秀でないならスカラシップも御破算だからな、お前の実力ありきの当前の結果だろ」

沙希「素直じゃないね」ニヤニヤ

八幡「働きたくないのに働いてるしな」ケッ

沙希「また奢るからしばらくお願いね」

八幡「このまま何年も働くならどっかでコース料理の出るようなガチのイタリアン要求するからな」プイッ

沙希(そこまで働いてくれるんだ、やっぱり素直じゃないね)クスクス

八幡「んじゃな川崎」

沙希「またね、比企谷」
八幡(あー疲れた)

沙希「そうだ比企谷、連絡先教えてよ」

八幡「なんで?」

沙希「なんでもなにもバイトするならいるでしょ連絡先」

八幡「ああ、それもそうか、ほい」つスマホ

沙希「普通に人に渡すんだ…」テキパキ

八幡「うし、間違いなく川崎を登録してるな」

沙希「確認早くない?」
八幡「家族と戸塚と由比ヶ浜と平塚先生しか登録してないし」

沙希「雪ノ下は?」

八幡「由比ヶ浜が中継してくれるからいらん」

沙希「何なのそのドライさ」

八幡「雪ノ下と連絡が必要な事なんかほとんどないしな」

沙希「ふーん…」

八幡「今度こそ帰るな」
沙希「あ、そうだね、またね」

八幡「ん」スタスタ

沙希(比企谷のアドレス…ふふふ)

八幡(あ、材木座のアドレスも登録してたな、迷惑メールとよく間違えるから忘れてた)

八幡「ほいほいただいま」

小町「お帰りいきなり小町に『お兄ちゃんバイト』ってだけ送ってきてたけどどうしたの?」

八幡「なんかバイトする事になってな」

小町「続くの?」

八幡「川崎に引きずられて無理やりだから選択の余地がない」

小町「沙希さんが?」

八幡「そうなんだよ、深刻な人手不足らしくてな」

小町「これはチャンス!…お兄ちゃんの」ボソ

八幡「なんて?」

小町「いやいや何でもないよ」

八幡「そうか?疲れたから風呂入って寝るわ」

小町「はいはい」

八幡「あービバノンノン」スタスタ

小町(バイトを通じて育まれる二人の愛…お兄ちゃんも隅に置けないなぁ)

翌朝 学校

静「君達な」

八幡「ふぁい」ホゲー

沙希「…」

静「また揃って遅刻かね」

八幡「そうだぞ川崎、いい加減にしろ」

静「君もだろうが比企谷」コツン

八幡「いてっ」

沙希「気をつけます」

八幡「同じく」

静「全くもって信用出来ないが、もうHRも始めたいし席に着け」

八幡「はい」

沙希「…」

昼休み

八幡(今日も風が気持ちいいな)

沙希「ごめんね比企谷」
八幡「なにが?」

沙希「バイトなんか無理やりさせるから遅刻したんでしょ?」

八幡「いや違うけど」

沙希「他になんかあるの?」

八幡「ついつい夜更かしとかしちゃうんだよ」

沙希「そうなの?」

八幡「そりゃ、いつでも忙しいバイト先なら遅刻の原因になるだろうけどな、割と落ち着いてるあの店で朝起きられない位疲れる訳ないだろ」

沙希「だけど」

八幡「引きずられて連れて行かれたのは嫌だったし、ワイルドな壁ドンにはビビったけど俺の遅刻は今回に限ってはバイトのせいじゃねえよ」

沙希「ならいいけど」

八幡「意外とそういうの気にするやつなんだな」
沙希「当たり前でしょ」
八幡「俺の性格上、バイトのせいだと思ったらすぐにお前にネチネチイヤミ言いまくるから」

沙希「ネチネチって」クス
八幡「まあ気にすんな、昨日はヒマだったからって今日もヒマとは限らんしな、そんなん気にしてたら仕事にならんだろ」
沙希「ありがとう」

八幡「俺もバイト代貯めといて欲しい物が出来たら買うつもりだしな、今の状況も案外悪くないと思うぞ」

沙希「あんたの仕事ぶりならレギュラーで入れるよ」

八幡「そりゃ有り難い」

キンコーンカーンコーン

沙希「戻ろうか」

八幡「ん」スクッ

沙希「そういえば、意外とあんたのバーテン姿似合ってたよ」

八幡「マジか、氷室涼みたいだったか?」

沙希「誰だそれ」

八幡「ケンガンアシュラって漫画があってだな…」

沙希「格闘技系なんだ」
八幡「中々面白いぞ」

沙希「読んでみたいね」
八幡「単行本あるから貸してやるよ」

沙希「え、いいの?」

八幡「読みたいんだろ?」

沙希「うん」

八幡「ならまた持ってくるわ」

沙希「ありがとう」

八幡「気にすんな」

ヒエイザンノヤキウチハオダノブナガニヨッテ

八幡(眠い…)ウトウト

沙希(眠そうだなあいつ)ジー

八幡(いかんいかん、眠気覚ましに羊を数えよう…一匹…)グー

沙希(あ、寝た)ジー

結衣「…」zzz

沙希(この位置だとあいつの寝顔が見られない、残念)

結衣「ヒッキー…えへへ…」zzz

沙希(…少なくとも由比ヶ浜よりはマシな寝顔だよね、多分)

八幡(よく寝た)ゴシゴシ
沙希(授業丸々寝てて大丈夫なのあいつ)ジー

結衣「ふぁあ…」ボケー

沙希(数学以外結構成績がいい理由が分からない…どうなってるのあいつ)ジー

八幡「…」チラッチラッ

沙希(戸塚をやたら目で追っかけてる…)

八幡「…」ニヤ

沙希(な、なにあのニヤケ面)ビクッ

戸塚「はちまーん!」

八幡「お、おお、どうした?」キリッ

沙希(今度は顔が引き締まった)

戸塚「たまには一緒にテニスしたいなって」

八幡「マジか!…いや、ちょっと無理だわ、すまん」

沙希(バイトあるからね、比企谷にも戸塚にも申し訳ない気持ちになるけど)

戸塚「そうなんだ、また今度ね!」

八幡「おう」

沙希(店長と掛け合って休みの調整をしておこう)

八幡「いらっしゃいませ」

沙希「あの人常連さんで同じやつしか頼まないから覚えててね」

八幡「ふむふむ」メモメモ

沙希「で、これがいつものね」つ赤ワインと生ハム

八幡「あいよ」

沙希「たまにチーズ頼むから聞いといて」

八幡「チーズもよろしくだってよ」

沙希「はいお願い」つチーズ

八幡「お待たせいたしました、チーズです」

沙希「あちらのお客様グラス空だから追加聞いて」

八幡「ブラッディーマリーよろしく」

沙希「了解」シャカシャカシャカシャカ

八幡「いらっしゃ…」

静「…」ドヨーン

沙希「いらっしゃいませ、ご注文は?」

静「ビール…」ドヨーン

八幡「お、おい川崎、先生だよなあれ…」ヒソヒソ

沙希「今はお客様でしょ、うろたえないの」つビール

静「ありがとう…」グビッグビッ…

八幡「…」

沙希「…」

静「ぷはーっ!」ダン!
八幡「おかわりはいかがですか?」

静「ああ、頼むよ比企谷」つジョッキ

八幡「かしこまりました」イソイソ

静「聞いてくれよ比企谷、さっき合コン行ったら平均年齢が20代前半でな…」

八幡「お察しします…」
静「私みたいになると大変だぞ川崎、早いうちに良い人見つけておけよー?」

沙希「肝に銘じておきます」

静「あーあ、教職員の福利厚生に旦那が付いて来るとかないかなー」ウジウジ

八幡「…」

沙希「…」

シェイクのつもりではなかとです、マドラーで混ぜ混ぜのつもりですたい

静「イケメンで背が高くて年収一千万以上の浮気しない男はいないのかなぁ…」ジメジメ

沙希「…」

八幡(いつまで幸せは誰かがきっと運んでくれると信じてんだこの人…)
沙希「あたし的には、もしそんな凄い人がいたとしても身を引くけどね」
静「!」ビクッ

八幡「おいおい…」

沙希「そんな人間ならもっと素敵な女と結婚するだろうし、あたしにはそれに釣り合う自信がないし」

静「ぐはっ!」グサッ

沙希「理想と現実って、多分理想を追うより現実に叩きのめされた方が理想に近づけると思うし」
静「うべばぁっ!」ドスッ!

沙希「だいたい…」

静「つ、釣りはとっとけえええええ!うわああああん!」ダン!ダダダダ…

沙希「ビール二杯で五千円のお釣りはチップにしては多すぎるんだけど」
八幡「鬼かお前!?」

沙希「最近は臨時収入が多くて助かる、比企谷も何か食べて帰る?」

八幡「血も涙もねえ…」

バイト後ラーメン屋


八幡「つうかマジで飯食ってくのかよ」

沙希「付いてきたあんたも本当は分かってるんでしょ?」

八幡「そりゃまあな」

沙希「バーの客にはさ、縁談の仕事してるような人も来るんだけど、そのお客さんから聞いた行かず後家まんまの事言ってたからさ」

八幡「お前な、もう少し順序を追ってやるとかあるだろ」

沙希「もう三十路なんでしょ?早く現実に叩きのめされた方が結果的にはあたしに感謝するんじゃない?」

八幡「あんな労しくなる先生中々見ないぞ」

沙希「だから、三十路で白馬に乗った王子様を夢見る女が良い男捕まえられると思う?」

八幡「考えにくいな」

沙希「でしょ?夢の覚めどころを作ったんだから、後は先生次第、五千円の授業料なんか安いもんでしょ」

八幡「…あんなに取り乱しても心の深いところじゃ気付いてたのかもな」

沙希「優しくしてやるのだけが親切じゃなくて、痛いところを突くのも場合によっては親切だと思う」

八幡「一理あるな」

沙希「だから胸を張ってあたしはこの味噌ラーメンとチャーハンと餃子を食べるよ」

八幡「腹減ってる方がメインだろ」

沙希「あはは、痛いところを突かれたね」

八幡「せっかくだし俺も豚骨セットを味わうよ」

沙希「…まあ、良い男を一から作り上げる手もあるんだけど」


八幡「ん?何言ってんだお前」ズズズルー


沙希「こっちの話」ニヤリ

八幡「?」キョトン


沙希「麺伸びるよ」ハフハフ

八幡「あ、やべ」ズズズルー

沙希(育て育て良い男候補)ハフハフ

八幡「ゴチになりました」
沙希「どういたしまして」

八幡「ちょうどいい感じに腹いっぱいだわ」

沙希「あたしも」

八幡「結構食うんだな」
沙希「まあね」

八幡「労働の後の飯ってのは良いもんだな」

沙希「普通は働かないと食べてけないからね」

八幡「ごもっともで、俺も早く養ってくれる嫁さん捕まえるかな」

沙希「なんでそうなる」
八幡「だって働くのやだし」

沙希「はあ…」

八幡「明日も学校あるし帰るか」

沙希「そうしようか」

八幡「またな」

沙希「お疲れ様」

八幡「ただいま」

小町「おかえりー、バイトはどう?」

八幡「これといった問題はないな」

小町「そういうこと聞きたいんじゃないんだけどなあ」

八幡「?」

小町「まあいいや、お風呂沸いてるよ」

八幡「お、助かるわ」トタトタ

小町「沙希さん苦労するだろうなぁ」

沙希「おはよう」

八幡「おーう」

結衣「?」ピクッ

八幡(あ、そういやあれどうしようかな)ゴソゴソ
結衣「ヒッキー、サキサキと仲良かったっけ?」
八幡「いや?特にどうって事はないけど」

沙希(由比ヶ浜に探りを入れられてるね、モテるなあいつ。いや、本来のあいつ知ってるなら不思議じゃないけど)


結衣「サキサキと挨拶してたから不思議だなって」モジモジ

八幡「知らん仲じゃないし何かしら言われりゃそれには応えるだろ普通。それとも無視するもんなのか?」


結衣「そうじゃなくて…もういいよヒッキーのバカ!」

八幡「どういうことなの…」

沙希(モテる事そのものに気付いてないのあいつ?捕まえるまでが苦労しそう…)

優美子(サキサキずっとヒキオ見てんな)

戸塚(八幡とテニスしたいなー)

昼休み

八幡(飯行くか)ガサゴソ
沙希「!」ピクッ

八幡(あれ見ながら飯食お)スタスタ

沙希「…」ガタッ

優美子(お、ヒキオ追っ掛ける感じ?)

ベストプレイス

八幡(初見泉チャラいなー。秋梨パン美味しいなっしー)ペラッムシャムシャ

沙希「あ、いた」

八幡「ん?」

沙希「よくここには来るの?」

八幡「雨だとか寒くなけりゃな」ムシャムシャ

沙希「そのマンガ…」

八幡「おーこれな、お前に貸すから読み納めだなと思って」

沙希「ちゃんと返すよ」
八幡「そこは疑ってねえよ、貸した後に読みたくなりそうでな」

沙希「ふうん」

八幡「ほい」つマンガ

沙希「もういいの?」

八幡「読んで続きが気になったら単行本買えよ」
沙希「…」

八幡「早く受け取ってくんない?13巻まであるから重い」プルプル

沙希「ごめん」パッ

八幡「今読むには時間ないな」

沙希「帰って読むよ」

八幡「そうか」

沙希「うん」

八幡「…」グビッ

沙希(なんかこういう無言好きかも)

八幡(き、気まずい沈黙だな…)ヒヤヒヤ

沙希(こうしてみると比企谷もなかなか…)ジー
八幡(え、なんでガンつけられてるの?怖っ!)

沙希(目も慣れてくると味わいがあるね)ジー

八幡(目を合わせると殺られる…)

沙希(アホ毛可愛い)ジー

八幡(今度は頭を見てる…薄くなってるのか?まさか、いやしかし…)

キンコンカンコン!

八幡「も、戻るか」

沙希「そうだね」

八幡(負けそうなボクサーがゴングに救われた気持ちが分かった気がする…)

沙希(もう昼休み終わった…あーあ)

放課後

八幡(バイト行くか)

沙希「…」ジー

八幡「ん?そんな見なくても逃げねえよ」

沙希「え、あ、いや…」ワタワタ

八幡「具合悪いのか?」
沙希「大丈夫」

八幡「あんま無理すんなよ」

沙希「分かってる」

八幡(過労で死ぬことほどアホな事もそうはないよな、労働はあくまでも生きる手段なわけだし本末転倒だろあれ)

沙希(とか思ってるんだろうなこいつ)

八幡「また後でな」

沙希「うん」

バイト中

静「男って難しいよなぁ」グビッグビッ

八幡「まあ…そっすね」

沙希(絡み酒なのか比企谷にだけ絡むのか…後者っぽいね)トクトク

沙希「飲み過ぎじゃないですか?」

静「そこは年の功で弁えているよ」ガブガブ

八幡(うわばみかよ、なにその飲みっぷり)

沙希「あんたが程々に止めてあげてよ、あたしは別のお客様の応対するからね」

八幡「分かった」


静「ふう…水をくれるか?」

八幡「はい」コト

静「なあ比企谷」

八幡「はい?」

静「君から見て私はどう見える?」

八幡「えっと、先生は仕事に追われてその中でも何とか幸せになろうと頑張ってると思います」

静「ある遊び人から聞いた話があってな」


八幡「はい」


静「その遊び人曰わく、強く求めた何かほど真っ先に逃げられるように世間は出来ているそうだ」

八幡「分かる気がします」

静「もちろん、強く求めるからこそ得られたものもあったそうだ。それは願っていた欲しかったものよりも遥かに価値があったとその遊び人は言っていたよ」

八幡「何かピンと来ませんね」

静「私の見解だが、幸せの姿の現し方はまるで君のようにひねくれているんじゃないかと思うんだ」

八幡「幸せと呼べるんですかそれ?」

静「願う事は罪じゃない、しかし幸せって奴にも意志があって、その人その人が願ったものよりも適した出来事を与えてくれるのかもな」

八幡「分かるような分からんような」

静「君の過去を聞くと、女子にモテたかったりいわゆるリア充になりたかった節があるが先に痛みを与えられただろう?」

八幡「…」

静「こんな感じで私や君、はたまた他の人間も総じて求めるものとは違う幸せがやってくるんじゃないかな」

八幡「願いとは違う幸せ…」

静「遊び人という人種は、意外と哲学者が多いようでな、酔狂が高じたのか単純に遊びが遊びで済まない修羅場を潜って来たのかは分からんがこういう話に関してはある境地にいるんだよ」

八幡「…」

静「君の憧れたリア充だって、案外君のような生き様に憧れているのかも知れないな」クククッ

八幡「結局は無い物ねだりか…」

静「少し違うな、無い物ねだりをするのはあくまでも人間だ。無いものと向き合っていくことこそが幸せに繋がる方法なんだろう」

八幡「欲しがる時点で無いと認めてますもんね」
静「分かってきたな、つまり私は素敵な旦那のとっ捕まえ方を知るためにもがくし、君は君の今求めるものの為にもがく」
八幡「道のりが厳しいっすね」

静「目的を果たすまでに沢山の出来事があるだろう、その出来事こそ大切なものだと気付く日が来るだろう。よく覚えておくようにな」

八幡「自分の認識に、結果が先に来るから苦しいんですかね」


静「私を引き合いにだすならば、旦那を捕まえる事に固執し過ぎて男に逃げられまくる、原因として目的の為に手段が重いと言うことが考えられる、その認識で問題ないと思うぞ」

八幡「なんか昨日の今日で強くなってないですか?」

静「なに、君に言い聞かせる気持ちより自分に言い聞かせる意味合いの方が大きかったんだよ」

八幡「こっちとしては耳よりな話でありがたいですよ」

静「私も話した甲斐があったよ、また今度ラーメンでも奢るよ。会計してくれ」

八幡「はいはい」

沙希「あれ?先生帰ったの?」

八幡「ついさっきな」

沙希「ふうん」

八幡「昨日のお前のあれで良い方向に強くなってたよ」

沙希「良い先生だし、幸せになって欲しいね」

八幡「な」

スイマセーン

八幡「はーい」スタスタ

沙希「イヤイヤ言いながらよく働く奴」クスッ

八幡「おつかれ」

沙希「お疲れ様」

八幡(欲しかったものよりも遥かに価値のあるものか…

無理矢理世間様に回り道をさせられる

その道のりにこそ俺に本当に必要なものがあるのかね?まあ、こうやって迷うのも回り道か、そのうち答えも分かるだろ)


沙希(比企谷と何か食べに行きたかった…残念)トボトボ

小町「お姉さんがねえ…うんうん…えー!そんな事あったんだー!」

八幡「たでーま」

小町「おかえりー、…え?お兄ちゃん帰ってきたんだよ」

八幡(ああ、電話か)

八幡「…」

小町「あ、もう寝る時間だから切るね、ありがとうおやすみー」ピッ

八幡「珍しいな電話なんて」

小町「いやあ、大志君とつい話し込んじゃって」
八幡「うし、お兄ちゃんドス買って来るからその間に大志呼んでくれ」

小町「何する気!?」

八幡「俺は何もしねえよ?だけど大志が小指要らないみたいだから」

小町「いつから二人はそんな物騒な人になったの!?」

八幡「知らないのか小町、千葉の兄は仁義や面子より妹を重んじるんだよ」

小町「重すぎて小町まで潰れるよ…」

八幡「それより、こんな時間に電話なんて何事だ?大志の姉貴がとうとう暴走族に入ったのか?」
小町「同じバイトしてるでしょ!」

八幡「あ、そうだった」
小町「単にお姉さんが最近楽しそうにしてるらしいから色々聞いてたんだよ」


八幡「楽しそうねえ」

小町「お兄ちゃんがバイト始めた頃からみたいだよ?」ニヤニヤ

八幡「人手不足解消の立役者だしな、俺」フフン

小町「そっちよりもさぁ…」ガク

八幡「他に何があるんだ?」

小町「まあ今はそれでいいよ」

八幡「?」

小町「お風呂沸いてるから入ったら?」

八幡「お、助かる」サササッ
小町(これは小町が色々手伝わないとダメかも)

八幡「いーい湯だーなーあはははん」カポーン

沙希「はあ…」

大志「姉ちゃん、お兄さんとどうなの?」

沙希「な、何で比企谷が関係あるの?」

大志「誰も比企谷さんのお兄さんとは言ってないよ」

沙希「…」ムッ

大志「さっきまで比企谷さんと電話してたけどさ、お兄さんは引っ張らないと難しいみたいだよ」

沙希「それ本当?」

大志「詳しくは知らないけど同じ部活の人の気持ちですら気付かないフリをしてるんだって」

沙希「フリ?」

大志「フリ」

沙希「誰かが自分を好きだって気付いても気付かないフリをするの?」

大志「うん」

沙希「…」ブチッ

大志「あ、ヤベ…」

沙希「誠意が無い奴は叩き直してやらないとね」バキボキ

大志(姉ちゃんが怒った…)

沙希(明日が楽しみ…)バキボキ

翌日 昼休み

沙希「ねえ比企谷」

八幡「ん?」

沙希「あんたモテるらしいね」

八幡「んなわけあるか」ケッ

沙希「由比ヶ浜」

八幡「!」ビクッ!

沙希「心当たりあるじゃん」

八幡「そそそんなわわわけ…」オドオド

沙希「あんたは由比ヶ浜をどう思ってるの?」

八幡「部活が同じ奴」

沙希「そうじゃなくて、可愛いとか好きとかないの?」

八幡「…」

沙希「あるんだ」

八幡「まあ、ちょくちょく可愛いとかは思うな」
沙希「ふうん、そんな可愛い由比ヶ浜があんたを好きなら応えてやれば?」

八幡「あいつが俺を好きなんか、ただの勘違いだろ」

沙希「知らないフリ」

八幡「!」

沙希「分からないフリ」
八幡「っ!」

沙希「気付かないフリ」

八幡「…」

沙希「あんたそれでいいの?」

八幡「お前、先生に言っただろ?『自分と釣り合いが取れないような素敵な人なら自分から身を引く』って」

沙希「言ったね」

八幡「あいつは俺と違って素直で明るくて人気者だろ?釣り合いは取らないといけないよな?」

沙希「…」

八幡「だから」

沙希「あたしは釣り合いどうのじゃなくてあんたの気持ちを聞いてるんだけど」

八幡「は?」

沙希「だから、先生のあれは例え話であって、本人達が納得したなら釣り合いがどうとかは関係ないでしょ?」

八幡「…」

沙希「買い物する時のお金と物のやり取りじゃないんだから、好きだの何だのはもっと別のやり取りでしょ?」


八幡「そりゃそうだけど」

沙希「あんたも由比ヶ浜も好き同士で何で逃げてるの?」

八幡「トラウマだろうな」

沙希「そのトラウマは由比ヶ浜が悪いの?」

八幡「いや、中学の頃の話だから」

沙希「あんたは先のことより昔だけを見て生きていくの?」

欲しかったものより遥かに価値があったそうだ

幸せの姿の現し方は、まるで君のようにひねくれているんじゃないかと思うんだ

先に痛みを与えられただろう?

八幡「あ…」

沙希「どんなトラウマに打ちのめされたのかは知らないけど、違う場所で違う人間相手に同じ事してたら近いうちに本当の意味で独りになるよ」


八幡「案外それもいいかもな」

ゴッ!

八幡「ぐっ!」ドサッ

沙希「もう一回言って見ろ」

八幡「つっ…なにすんだいきなり」

沙希「自分を守りたくて人の気持ちを踏みにじって逃げてる事が分からないの?」

八幡「…」

沙希「振られて痛かったんでしょ?その気持ちを別の人間に味合わせるの?」

八幡「それは」

沙希「あんたが真剣に考えて誰かを振るなら仕方ないけど、逃げて人を傷つけて未だに被害者ヅラしてるあんたが許せない」

八幡「!」

沙希「トラウマだの勘違いだの言い訳して逃げてるあんたはもう立派な加害者だ!古傷を痛がる資格なんか無い!」

八幡「俺は…」

沙希「いつかあたしは今日あんたにしたことのツケが回ってくるんだろうね、先に誓っておくけどそのことであたしは逃げないし言い訳もしないし気付かないフリもしないから」

八幡「少し考える時間をくれ…」

沙希「今日はバイト休んでいいから、頭冷えたらまた来なよ」

八幡「すまん…」

沙希「これでも長女でさ、面倒見には自信あるから、またね」スタスタ

八幡「はは…由比ヶ浜より優しい奴いたんだな」

バイト中

沙希(あたしのバカアアアア!勢いで由比ヶ浜の応援してカッとなって比企谷ブン殴って啖呵切ってバイト休ませて何してるんだああああああ!)

静「おーい熱燗まだかー?」

沙希「あ、すみませんどうぞ」

静「今日は比企谷のやつ休みか?」クイッ

沙希「…あいつ、もう辞めるかも」

静「ふむ、話してみなさい、どうやら酒の肴にうってつけそうだ」トクトク

沙希「実は…」カクカクシカジカ

静「はっはっは!君は良い先生になれそうだ!よくあのひねくれ者を考えさせるまでにしたな!大手柄だぞ川崎!」ゲラゲラ

沙希「教師としてどうなのその反応」

静「近頃は体罰だ何だとうるさくてな、中々その手の指導が難しいんだよ」シュボッ

沙希「指導ですか」

静「教師の私が保証してやる、君は道を踏み外しかねない生徒を一人救ったんだ。誇っていいんだぞ?一杯飲むか?ん?」

沙希「いりません、大体救うなんて大げさな」

静「殴るだけならただの暴力だ、私に話した以上君は停学を免れないが、あのひねくれ者がまっすぐに事と向き合えるチャンスを作ったんだ、口が裂けても君を怒る事は出来んよ」


沙希「チャンス?」

静「そうだ、正にチャンスだ」プカプカ

沙希「どういう意味?」

静「早い話が比企谷から逃げるという選択肢を潰したんだよ君は」

沙希「あ」

静「のらりくらり…と言うには少しみっともないがね、由比ヶ浜からの気持ちからは傷つきたくない一心で逃げ惑っていたあの比企谷がだ、君にブン殴られて正に目を覚ましたわけだよ」

沙希「だけど殴らなくてもよかったんじゃ」

静「そこは君ィ、若者同士間違い合ったり色々見聞きしたり経験を経てやっと大人になるものだよ。端から全部上手く納めるなんて10年早い」

沙希「…」

静「さすがに10年は言い過ぎだとしても、君にも抑えられない激情があった以上、己の未熟は認めているんだろう?」

沙希「そうだけど」

静「哲学やら信念と言われるものは、理想から始まり現実に揉まれて理想と現実の落としどころを見極めてから持っても遅くはないさ。自分の才能や能力の限界、努力がどこまで裏切らないかを知ることも忘れるなよ、人によるところが大きいテーマだしな」

沙希「学校よりも先生してますね」

静「生憎日中は国語を教えるので精一杯でな、こういう話はある程度の大人は分かっているものだよ。場所をまばらに上司だったり先輩だったり客だったり様々だがな」

沙希「お子様が背伸びしだすとしんどいですね」

静「ははは、次の背伸びをしたがるお子様は君が諭してやればいい。己を戒める事にも繋がるしな」


沙希「他の生徒には教えてあげないの?」


静「他の生徒は人付き合いを先んじているみたいでな、この手の教育は社会や進学先が叩き込むさ」


沙希「あたしもあいつも友達いないしね」


静「孤独はどこかで絶対必要だ、常に周りに人がいる環境だと意志の無い人間になってしまう。無いなら無いなりに楽しみもあるだろうし、協調性には長けるだろうが何をしていてもその他大勢を重んじすぎて決断力に欠ける事が多い」

沙希「難しいね」

静「何を大事にしているかで行動は変わるからな、私も孤独側なりに利害得失を吟味しているよ」
沙希「一生悩み続けるのかな…」

静「生涯未熟者、常に挑戦者たれ。というのが私の考えだよ、人は完成しない、何かにおいて正し
くても何かにおいて間違っている、何かが正しく
ても他人からすれば正しいだけで救われない、何かが間違っていても他人からすれば救われることもある。理屈の正誤はイコールで当てはまらないという事を心掛けている」

沙希「もはや何が何やら」

静「世の中が間違っていたりするからな、単なる正論は時折排除される。人は間違う生き物で、そんな間違う生き物が作った世の中が全て正しいわけがない。人が作り出した世の中という生き物の扱い方は知っておいた方がいい」

沙希「あたしには早いかもね」

静「さて、授業は終わりだ、お会計よろしく」

沙希「かしこまりました」

八幡「…」ポケー

小町「どしたのお兄ちゃん、抜け殻みたいだよ?」

八幡「一皮むける程の人間じゃねえよ」

小町「沙希さんとなんかあった?」

八幡「っ!」ギクッ

小町「あったんだ」

八幡「まあな」

小町「話して見てよ」

八幡「…」カクカクシカジカ

小町「結衣さんから逃げてる事を怒られたと」

八幡「もう逃げ場がない、学校行きたくない」

小町「情けないなあ」

八幡「だけどケリは着けないと殴られた意味無いしな」

小町「おお、お兄ちゃんがカッコいい」

八幡「あーあ、由比ヶ浜を傷つけずに断る方法ないかなー」

小町「え゛!?お兄ちゃん、結衣さんと付き合わないの!?」


八幡「付き合わない」

小町「なんで?」

八幡「…いつか俺はあいつを二度と立ち上がれないまで追い詰めるからだ」


小町「お兄ちゃん?何言ってるの?」

八幡「日陰に入ってそこの居心地の良さを知った俺が、日向を真っ直ぐに歩き続けられるあいつと上手くやれる自信がない」

小町「…」

八幡「俺は間違った人間だ、日向の温かみより日陰の冷たさを愛する人間だ、お互い無理してやっていくよりも同じ道を歩ける人間がいる」

小町「…お兄ちゃんの気持ちはどうなの?」

八幡「正直気になる女の子だ」

小町「だったらもう少し…」

八幡「半端は良くない、温かみと冷たさを足して二で割るとぬるま湯にしかならない、お互いに足を引っ張り合う事になる。そうなると取り返しがつかない」

小町「…」

八幡「あいつは優しい、ぬるま湯上等とか言いかねん、だが、加害者としてはその優しさが何より辛いんだよ…」

小町「日向を歩く気はないの?」

八幡「ない、日向の代表的存在の葉山を見てると歩く気になれない。この感情を抱いたならそれを貫き通して生きたい」

小町「意地っ張り」

八幡「男は意地っ張りなんだよ、意地の為に命懸けも厭わない位のな」

小町「はあ…好きにしなよ、小町もう知らない」

八幡「ありがとな、止めないでくれて」

小町「ふん!」プイッ

翌日

結衣「ヒッキー、話って何かな?」ドキドキ

八幡「…」スー…ハー…

結衣「…」ドキドキ

八幡「俺は、お前と…」

結衣「うん…」ドキドキ

八幡「何があっても付き合えない」

結衣「え…?」

八幡「俺の勘違いなら俺を痛い奴とでも言いふらしても構わない、だがもし勘違いじゃないなら言っておく、お前と付き合う気はない」

結衣「ど、どうして?」ブルブル

八幡「お前が優しくて、俺が間違ったからだ」

結衣「意味が分からないよ!説明してよ!」

八幡「俺といるとお前は辛い思いしかしないからだ」

結衣「分かんない!ヒッキーだけで勝手にそんなの決めないでよ!」

八幡「俺に人を落ちぶれさせないでくれよ…お前はもっと日向を歩いてくれよ…そうじゃないと嫌なんだよ…」

結衣「さっきからヒッキー意味分かんないよ…」グスッグスッ

八幡「俺の言葉の意味が分からん時点でこれが正解なんだ…じゃあな」

結衣「ヒッキーのバカ!ヒッキーのバカアアアアア!」

八幡「フる方も楽じゃねえんだな…」

八幡「…おぅ」

沙希「…何で由比ヶ浜をフった?」ギリッ


八幡「知ってるか川崎、幸せってのはひねくれ者らしいぞ」


沙希「あ゛?」


八幡「その人その人によって必要な別の出来事をぶつけてくるんだとさ」
沙希「…」

八幡「俺が日陰を歩かされてるのも、由比ヶ浜が日向を歩いているのも、幸せに通じる道のりと繋がってるそうだ」ジワッ


沙希「あんた…」

八幡「あいつに辛い思いさせたから、俺が報われるのは遠くなったけど、その分あいつが幸せに近付けてると嬉しいよ…」ポロポロ


沙希「ちっ…泣かれたら怒れないでしょ」ポン

八幡「すまん川崎…」ヒグッエグッ

沙希「ちゃんとこたえたね」ナデナデ

八幡「まだまだだろ」グスッグスッ

沙希「あたし達まだまだ若いから、仕方ないでしょ」

八幡「そうだな…」グシグシ

沙希「落ち着いた?」

八幡「ああ、ありがとう川崎」

沙希「面倒見には自信あるからいいよ」

八幡「由比ヶ浜にはもっと相応しい奴がいるだろうし、お断りしながら狂喜乱舞するつもりだったんだけどな」

沙希「想像しても絵面が気味悪い」


八幡「通報もんだよな」

沙希「由比ヶ浜の様子は見なくていいの?」


八幡「一人になる時間はいるだろ誰でも」

沙希「先生と同じこと言ってる」

八幡「先生の方がもっと高尚ではあるんだろうけどな」

沙希「あれは勉強になる」

八幡「年の功だな」

沙希「先生にまた殴られるよ」

八幡「それは嫌だな」

沙希 八幡「はははは!」

バイト

静「私の手にも負えないマネをしたな比企谷」グビグビ

八幡「最初から間違えて生きてたんでこうするしか知りませんから」

沙希「その理屈で言うとどこかで正攻法を身に付けたら後悔すると思うんだけど」

八幡「アホか、後悔だとか失敗ってのは成功より尊いんだぞ。最初から間違いだらけって状況で少し一念発起したくらいで上手くやれると思えるほど自惚れてねえよ」

静「それは一理あるだろうが、君の場合は最初が失敗していて…あれ?うーん?」


沙希「ややこしい…」


八幡「結果は何かしらの形で分かるだろうし、人を救えると信じたら手段は問わないのが俺の考えだよ、もっと良い考えがありゃ逐一変えるけどな」

沙希「ああ、あんたぼっちだったクセに他人の事しか考えて無いんだ」

静「それだ!私も何か引っかかっていたんだ!」

八幡「え?んなワケないだろ、我ながらロマンチックエゴイストだぞ」

沙希「あたしが知ってる限り、毎回ダメージだけかっさらってた感じだったけど」

静「言われてみれば…」

八幡「必要経費程度のダメージだろ」

沙希「かなりクレイジーなんだけど」

静「自己犠牲も程々にな」

八幡「分かってますってば」

静(そうか…人恋しさがひねくれてああいうことに)

沙希「…」

八幡「あ、ボトルですねかしこまりました」

翌日

いろは「先輩最近不良になったってホントですか?」

八幡「はあ?万引きもしたことねえよ」

いろは「万引きは立派な窃盗罪ですから結構重罪ですよ?」

八幡「あー、それならカツアゲならされる側にしか見えないだろ?」

いろは「カツアゲは恐喝です、場合によっては強盗にもなるんですよ」

八幡「おお、そうなのか」

いろは「夜な夜な出歩いてるって噂を聞くんですけど先輩ですか?」

八幡「出歩いてねえよ、バイトから帰るのは夜10時過ぎになるけどな」

いろは「ちょっと待って」

八幡「先輩にちょっと待ってお前な…」

いろは「いやいやいやいや!比企谷先輩が!?バイト!?」

八幡「そんなにおかしいか…?いや、おかしいよな…」

八幡「なし崩し的なバッチュウでな」

いろは「まさかその川崎って人にバイト代を上納金として…」


八幡「納めねえから、仁義無かったのはムリヤリバイトさせられた部分だけだから」

いろは「そこが大元でしょ!?」

八幡「金貯めとくのもいいかと思ったんだよ」

いろは「私の為に?」

八幡「ん?何が?」

いろは「ファ○ク!」

八幡「女の子がフ○ックとか言うんじゃありません」

いろは「ちくしょう!」
八幡「セルかお前は」

沙希「何してんのあんた」

八幡「おお川崎か、後輩から日本語では表せない英語の罵声を浴びたりグレてないか疑われたりしてる」

沙希「あんまり状況が掴めないんだけど」

いろは「へえ、あなたが川崎先輩ですか?」

沙希「そうだけど」

いろは「ちょっとキツめの美人さんですねー」マジマジ

沙希「なに?」

いろは「スタイル良いですねー、特に胸が…胸が…」チマー…

沙希「?」バインバイン!

いろは「ファァァァ○ック!」ダダダダダ!

沙希「え、なにあの子?」

八幡「ガラの悪い洋画でも見過ぎたんだろ」

沙希「なんだそりゃ」

八幡「俺もよく分かってない」

沙希「あの子と仲良いの?」

八幡「いや?なんやかんやで生徒会長押し付けたらそれをネタに仕事手伝えとか脅されるぐらいだな」

沙希「あんたそれ…」

八幡「あ、他に買い物付きあえとか言われるな」
沙希「はあ…」

八幡「ん?どうした?恋患いか?」

沙希「…そうじゃないよまったく」

八幡「バイト漬けなのに更にやることあると発狂するぞ?程々にな」

沙希「ああはいはい分かった分かった」プイッスタスタ

八幡(やっぱ具合悪いのか?今日のバイトはメインで働いてやるか)

沙希(あいつ、彼女いらないのかな…)

静「比企谷、ワイルドターキーストレートで」

八幡「喉やられますよ」コト

沙希「水も一応置いときます」

静「っかぁー!こりゃキツい!」

八幡「毎日飲みに来てますけど大丈夫なんすか?」

静「大丈夫大丈夫、独身の内にしか出来ん事だしな」

沙希「そのプラス思考はどうなの?」

静「おしとやかに繕うのも年を考えるとそろそろ必要だろうがな、落ち着く前の最後の無茶のつもりだよ」

八幡「ヤンキーの引退パレードかよ…」

沙希「沖縄の成人式…」
静「私は暴れないけどな」

八幡「現役のヤンキーから見て先生の無茶はどうなんだ?」

沙希「誰がヤンキーだって?」

八幡「え?違うの?」

沙希「あんた、あたしのことヤンキーと思ってたんだ…」

八幡「うん」シレッ

沙希「こいつ…」ピキピキ
静「夫婦漫才の前にテキーラショットで頼む」

沙希「っ!」ビクッ

八幡「はいはい」コト

沙希「夫婦…めおと…」ブツブツ

八幡(あ、普通に働いてたけどこいつ具合悪いんだった)

静「くう~っ!これも強烈だな!」

バイト後

静「うははは!ここは豚骨しょうゆが旨いんだぞわははは!」ゲラゲラ

沙希「すっかり出来上がってるね」

八幡「チャンポンで度数アベレージ40以上だしな、むしろ倒れない意味が分からん」

静「今日は私の奢りだー!飲め飲め食え食えぎゃははははは!」ケタケタ

八幡「ご馳走になります」

沙希「まあ、奢りなら良いけど」

八幡「大丈夫か?具合悪いのにこんな濃いめのラーメン食って」

沙希「具合悪い?あたしが?」

静「こらこら若いからって人前でイチャつくなー!もっとやれー!」ヒャッハー!

八幡「どっちだよ…」

沙希「イチャつく…」

静「さて、食べようか」ケロッ

八幡「あ、はいいただきます」

沙希「いただきます」

静「いやあ、締めは濃厚ラーメンに限るなまったく」

八幡「素面に戻るの早いですね」

沙希「変わり身かと思いました」

静「いや?単に生徒を二人連れてお気に入りのラーメン屋に行けるのが嬉しかっただけだぞ?」

八幡「あんだけ度数高いの飲んで平気って化け物かよ」

沙希「お客にも酒豪はいるけどね、先生はその中でも上から数えた方が早い」


静「今日も良い日だった、明日も良い日だといいな!またな!」


八幡「…なんて粋な別れ文句なんだ、兄貴って呼びそうになるじゃねえか」


沙希「良い先生だし良い人だけど、良い男なんだよね平塚先生」

八幡「それはそうと川崎、大丈夫か?」

沙希(んん?なんでこいつはあたしが具合悪いと思ってるの?)

八幡「お、おい川崎…?」

沙希(まあいいや、ヤンキー呼ばわりされたしちょっと意地悪してやろう)

八幡「おい、救急車呼んだ方がいいか?」

沙希「あ…」ヘタリ

八幡「おい川崎!しっかりしろ!」

沙希「少しめまいが…」
八幡「めまい!?とにかく救急車呼ぶからな!」
沙希「大丈夫すぐ治る、たまにあるから」プルプル

八幡「そうなのか?」

沙希「そこのベンチまでお願い」

八幡「分かった」ヒョイ

沙希(お姫様抱っこおおおおお!?)キャー!

八幡「何か飲み物とかいるか?」

沙希「いい、それより少しもたれさせて…」コテッ

八幡「おう、何かいるならすぐ言えよ」

沙希(キャー!比企谷優しいいいい!)

八幡(本人は大丈夫って言ってるけど、悪化するようならすぐ救急車呼ぼう)

沙希(比企谷の温もり…)ホワーン

八幡(過労によるものなのか?素人の判断じゃこの線しか思い付かん)

沙希(比企谷の匂い…)スンスン

八幡(家の事情でバイトを減らせないのか?)

沙希(閃いた!)「比企谷…少し頭撫でてて」

八幡「分かった」ナデナデ(頭撫でてるとマシになるのか、良くなるまでそうしてやるか)

沙希(なんて甘え甲斐のある奴なんだろう…)スンスン

八幡(落ち着いたら家まで送ってやろう)ナデナデ

沙希(このまま時間が止まらないかな)

八幡「どうだ?マシになってきてるか?」ナデナデ
沙希「ん…もう少し」

八幡「分かった」ナデナデ

沙希「ありがとうね」

八幡「気にすんな」ナデナデ

沙希「…」

八幡「…」ナデナデ

沙希「もう大丈夫」

八幡「そうか、よかった」

沙希「時間が時間だし、帰るね」

八幡「送ってくわ」

沙希「そんな、悪いよ」
八幡「病人が遠慮すんな、行くぞ」クイッ

沙希「あ…」

八幡「家までそんなに離れてないんだろ?」

沙希(手繋いでくれるんだ…仮病なのに必死になってくれて嬉しい)

沙希「今日はありがとう」

八幡「明日はバイトも学校も休めよ」

沙希「分かった、そうする」

八幡「んじゃな」

沙希「またね」

小町「ほうほう、お姉さんがお兄ちゃんにねえ。分かったありがとうね、じゃ」ニヤリ


八幡「ただいまー」

小町「おかえりなさい」ニヤニヤ

八幡「なんだそのニヤケ面」

小町「ちょっと大志君とね」ニヤニヤ

八幡「刃物買ってこい小町ぃぃ!あのガキ三枚におろしてやるあぁぁあぁぁ!」クワッ!

小町「嫌だよ!小町殺人事件の片棒なんか担ぎたくないよ!」ビクッ

八幡「それもそうだな、俺が刃物買ってくる」

小町「落ち着いてお兄ちゃん!大志君には沙希さんの話聞いてただけだよ!」

八幡「何で小町が川崎の事気にしてんだよ」

小町「いやいや、沙希さんの近況が気になってさ」


八幡「あー、お前も知らん仲ってわけじゃないもんな」


小町「そうそう、また困ってそうなら出番かなって」

八幡「少し働き詰めで疲れてたのか体調が悪いらしくてな、さっき送ってきた」

小町「あれ?大志君から沙希さんが体調悪いなんて聞いてないのに」

八幡「あいつ、家でも無理してるんじゃねえか?」

小町「あり得るね、ちょっと心配だよ」

八幡「明日はバイトも学校も休むはずだからまた学校来たら釘刺しとくわ」

小町「はいはい」

翌日 バイト

八幡(休めとは言ったが、一人で店回せるのか俺…)

静「川崎もたまには休まないとな。…赤ワインもいいな」グビグビ

八幡「先生も休肝日が必要じゃないんですか?」

静「そうか?」グビグビ

八幡「タバコは吸うわ大酒は飲むわ、ロックスターじゃないんだから…」

静「仮に何百万人を沸かせる才能があっても、私は一教師をしている自信があるよ」

八幡「え?」

静「何に向いていたとしても、私は教え子を抱えて働くのが好きなんだよ」

八幡「好きなもののなんとやらですか」

静「そういう事だ、ロックスターを馬鹿にするつもりは無いが、そういう人種が人々に何かを伝えられているのは、先に私達教師という人種が読み書きソロバンを伝えたからだ、そしてその読み書きソロバンというものは生きていく上で絶対に必要なものだからな」

八幡「それはたしかに」

静「何というか、伝えたいものが違うから私はロックスターになる気は無いんだろうな」

八幡「だけど、学祭の時の先生は間違いなくスターでしたよ」フッ

静「ふふふ、私もレジェンドになれたかね」


八幡「俺が保証しますよ」

静「先生を口説いてるのか?」ニヤリ

八幡「ち、違いますよ」
静「実に残念だ」ニヤニヤ

八幡「からかうつもりなら料金ボりますよ」

静「気をつけるよ」グビッ

八幡「まったく」

静「それにしても、君みたいな生徒はもう出くわす事は無いかも知らんな」

八幡「?」

静「相容れない筈の人間の為に身を粉にしたり、人を救うために己にすら嫌いな嘘を吐く、そうして狙い通りに自分を針のむしろへと誘導する。そんな生徒、いや、人間は二人といないだろうな」

八幡「意地だったんすよ」

静「ふむ」

八幡「ぼっちだから、更に孤立する奴が出るのが気に入らなくて、誰にも感心を持たれなかった奴のチンケな意地だったんすよ」

静「少ないが、君を見ていた者はいただろう?」
八幡「気付け無かったんです、今まで一人が当たり前だったんで」

静「孤独というのは残酷でな、得るものと失うものがあるんだよ」

八幡「何を得たんですかね俺は」

静「得たものも失ったものも、君が気付かないといけない、何故ならその答えは十人十色だからだ」

八幡「…」

静「なおかつ変わったり変えられたりする事があるからだ、私の答えは君には完全には合わないだろうし君の答えは私には完全には合わないだろうな」

八幡「答え…」

静「悩め悩め、色んな経験を積んで答えを出すといいさ」

八幡「今日もありがとうございます」

静「私も普段心掛けていることが言葉に出せて助かっているさ、またくるよ」

八幡「ありがとうございます」(答えか…)

静(あいつがどんな答えを出すのか見ものだな)

バイト後

八幡(あの先生、酒入った方が真面目なんじゃないのか?いや、授業も分かりやすい割に遊びはほとんど無いけども)スタスタ
結衣「あ…」

八幡「っ…」ピタッ

結衣「…バイト帰り?」

八幡「おう」

結衣「そっか、先生から聞いてた通りだね」

八幡「じゃあな」

結衣「待ってよ」

八幡「なんだよ」

結衣「こないだあたしを呼び出したんだから、ヒッキーも一回くらい付き合ってよ」

八幡「この一回だけならいいぞ」

結衣「ハニトーの分は?」

八幡「忘れろよ…」

結衣「忘れないよ、絶対」

八幡(日に日に帰りが遅くなるな)

サイゼリヤ

八幡「用があるなら手短にしてくれよ」

結衣「それはヒッキー次第かな」

八幡「…」

結衣「あたしはさ、ヒッキーにあんなこと言われて傷ついたよ」

八幡「だろうな」

結衣「あたしの誕生日のお祝いの時にやり直したのに、また壊れたんだよ」

八幡「ブチ壊すつもりで言ったからな」

結衣「でもそれって、またやり直せるってことじゃない?」

八幡「二回目は無いもんだろ、あの手の話は」

結衣「そんなの誰が決めたの?」

八幡「俺」

結衣「ゆきのんが言うにはさ、話って相手と自分が通じ合って初めて成立するんだって」

八幡「お前は俺の一方的な話を受け入れないってか?」

結衣「うん、あの事はヒッキーがあたしに言った時点で絶対許せないけど『はい』なんか言わない」

八幡「許さなくてもいいし『はい』の言葉もいらん、言った俺があの言葉の通りにしていれば成り立つからな」

結衣「あたしが普通にどこでもヒッキーに構っても?」

八幡「俺も痛い目を色々見てきてるけどな、シカトされるのってかなりキツいもんだぞ」

結衣「シカト?こうやって簡単にご飯に付き合わされてるヒッキーがシカトなんか出来るの?」


八幡「必要ならする、今回とハニトーの分を済ませたらな」

結衣「ふーん…」


八幡「お前との付き合いもこれを合わせて残り二回だ、ミラノ風ドリアの皿が空になれば後一回こっきりだ」


結衣「…」

八幡「食ったし帰る」

結衣「うん」

オカイケイ645エンデス

結衣「これで」つ千円札
355エンノオカエシデスアリガウゴザイマシタ

八幡「ん」つ五百円玉

結衣「いらない」

八幡「バイトもしてるし金無いわけじゃねえよ、いいから、ほれ」

結衣「また何か付き合ってね?そしたらチャラにしたげる」ニコッ

八幡「!」

結衣「あーあ、後二回かぁ、寂しくなるなー」ニヤニヤ

八幡「ちっ、そう来るかよ」

結衣「何のこと?」ニヤニヤ
八幡「何でもねえよ、じゃあな」プイッ

結衣「またねヒッキー」ニコニコ

八幡(どう由比ヶ浜から逃げるか考え直すか)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月06日 (火) 22:23:55   ID: eOEqIhgb

最近サキサキの話が多くて嬉しい。

2 :  SS好きの774さん   2015年10月08日 (木) 13:12:13   ID: PxHRIb7e

奉仕は?

3 :  SS好きの774さん   2015年10月14日 (水) 01:08:11   ID: W4en01kM

サキサキかわえぇ~

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