弦が切れた。
久しぶりに触ったソレは、錆付いて酷く不恰好だ。
やりたかった事へ走ってた筈なのに。
何時から触ってなかったんだっけ。
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初めて行ったライヴは、ドキドキした。
入り口を潜って、客席へ。
無人の舞台は光でいっぱいだった。
喧騒が大きくなっていくにつれて、緊張とワクワクが心の中をかき回していった
すべてのライトが消えてメロディが聞こえてくる。
始まった。
アーティストと一緒に色とりどりのライトが煌めく。
同じ姿なんて存在しないような星と歌の万華鏡。
特にスポットライトの下、ギターと一緒に歌ってる姿は強烈だった。
バンドの名前はもう忘れちゃったし、歌詞の意味とかその時はわからなかったなぁ。
今聞いたら多分もう少しマトモな感想が言えると思う、多分。
ライヴの帰り、ギターの音、歌声が身体の奥にずっと残ってた。
音楽ってこんなに魂に響くんだなって。
それがあたしの原点。
TVをつけると何時も身近に音楽があった。
何が出来るか分からなかったけれど、あんな風になれたらって強く思うようになった。
あの時のドキドキが身体を突き動かしてくれたんだ。
まだまだ子供のあたしは、楽器を買うのはまぁ苦労した。
秘蔵のお年玉を出してみたが、それでも足りなかった。
親がこんな高価なモノを買ってくれる筈がない。
だから、バイトをさせてくれって頼みこんだ。
もちろん無理だった、まぁそうだよな。
でも、諦められなかった。
きっとそうしないと分かってくれないから
本気だって分かってもらえないから
何度も、何度も何度も何度だって
諦めなかった。
そのうち親に熱意が通じたのか、もしくは諦めたのかバイトをさせてもらえるようになった。
バイトは楽しかったな。
目的があったし、これからの未来を想像すると自然に笑顔になった。
暇さえあればバイトをして、ただ精一杯に日々を駆け抜けていた。
程なくお金は溜まった。
買ったギターはピカピカに輝いていた。
軽く弦を弾いてやると当たり前だが音が鳴った。
そんな小さな事が嬉しかった。
自然と顔がにやけて何度も弾いた。
それだけで楽しかった。
今まで頑張りつづけた達成感。
そして、これから始まるんだという期待。
この音楽が本物の最初の一歩。
冬の街並は白のステージのようだった。
ギターケースを開けてセッティング。
夢が詰まったこの箱は私の宝箱だ。
今日はあの時のようなライトはないけど、街灯と薄い月の光があたしのスポットライト。
目の前には未来の観客。
胸の心音は高鳴っていた。
だんだん月が隠れて雪が降ってきた。
それでも音楽を奏でる。
吐いた息はとても白くて心の熱が湯気となって出て行く。
その熱がきっとみんなの寒さを吹き飛ばすんだと
きっとすぐみんなが足を止めると思ってた。
けど、そんなに甘くはなかった。
雪が雨に変わっていた。
いつの間にか熱はどこかに行って、ただ冷えた指先とひとりぼっちの寂しさを残した容れ物になっていた。
悔しかった。
暗くなったステージから逃げるように離れた。
テレビには何時も音楽がながれていた。
どこかで聞いたようなメロディがながれて、真っ黒なケースを開ける事にした。
あの時に練習したメロディを奏でようとして・・・
弦が切れた。
触ったソレは、錆付いて酷く不恰好だった。
やりたかった事は何だったんだろう。
ただ同じ事をすれば、あの人みたいになれると思ってた。
それは結局あたしじゃなくて、あの人に似た何かだ。
あたしは、あの人になりたいんじゃなくて、誰かの心を掴むような音楽を奏でたかった。
今更な事に気が付いて、それでまた火がついた。
この音があの時感じた寂しさを吹き飛ばしてやる
この音楽がスポットライトみたいのに誰かの場所を照らしてやるんだ。
あたしの音色が目の前にいる人へ届けと、
ドクンドクンと胸の中に降る星々に祈った。
願い事は、形を変えて叶おうとしている。
す
やるからには中途半端な事はしない。
叶えてくれるんだろ?
いや、一緒に叶えに行こうぜ、バカP!
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