男「この物語は夢オチです」(26)

男「……」

男(なんとなく、感覚で分かる)

男(今、俺がいるこの世界は――夢だ)

男(現実にいる俺は、眠っていて、夢を見ているんだ)

男(つまり、俺が何をどうしようと、全て夢オチで済まされるってことだ!)

男「よぉし、さっそくこの包丁を手に取って……」サッ





女「やっほーっ! 相変わらずシケた顔してるじゃん!」

男「やっほー、じゃねえよ! クソ女がァ!」グサッ

女「はうっ!?」

男「いつもいつも、俺をバカにしたようなことばっか言ってうぜぇんだよ!」グサッグサッ

女「あがっ! ぐええっ!」

男「ハァ、ハァ……」





友「おい、お前……何やってんだ!?」

男「うるせぇぇぇ!」グサッ

友「ぐほっ!」

男「イラつくんだよ! その友達になってやってる、みたいなツラが!」グサッグサッ

友「ぐあああっ! いでええっ!」

男「あ~、スッキリした」





父「どうしたんだ、その真っ赤な血は!?」

母「それに……包丁なんか持って! いったい何をしたの!?」

男「何をした? 決まってんだろ……刺したんだよォ!」

男「こうやって、こうやって、こうやって!」グサッグサッグサッ

父「ぐはぁぁぁ!」

男「こうやってぇぇぇ!」ザクッザクッザクッ

母「や、やめ……はぐぁぁぁ!」

男「くそっ、どいつもこいつもイラつかせやがる……!」





犬「ワン、ワン、ワン!」

男「吠えてんじゃねーぞ、バカ犬がぁ!」ザクッザクッ

犬「キャイン!」

飼い主「何するんだ!」

男「黙れ! 犬のしつけはちゃんとしとけ!」グサッ

飼い主「がはっ……!」

通行人「あ、あわわ……」





男「見ぃ~、たぁ~、なぁ~?」ギロッ

男「見られたからには、刺さなきゃなぁ!」タタタッ

通行人「うわぁっ!」タタタッ

男「逃がすかぁっ!」グサッ

通行人「ぐぎゃっ!」

男「もういっちょ! もいっちょ!」ザクッザクッ

警官「動くな! 動くと撃つ!」





男「ふん、そう言われて動かない奴がいるかよ!」

男「どりゃあ!」グサッ

警官「いぎゃあっ!」

男「撃つんじゃねーのかよ! おまわりさんよォ!」ザクッザクッ

警官「あ、がが……」

ウゥゥゥゥ… ウゥゥゥゥ…





男(おっと、パトカーか。とっとと逃げなきゃな)

男(ラジオをつけるか)



『○×市で連続通り魔事件が発生……』

『凶器は包丁……被害者はいずれも重傷……』

『犯人は未だ逃亡中……年齢と服装は……』



男「へへへ……やってるやってる」

男(だけど、ここでふと思う)

男(俺はずっとこの世界は夢という前提でいたが、これは本当に“夢”なのか?)

男(もし万が一、夢じゃなかったら――)ゾクッ

男「うわぁぁぁぁぁっ!!!」

男「夢! 夢! 夢であってくれぇぇぇっ!」

男「夢なら早く覚めてくれぇぇぇぇぇっ!」





男「こんなのが現実だなんてイヤだぁぁぁぁぁ!!!」

──────────

──────

──



男「!」ハッ

男「よかった……全部、夢、だったのか……」ハァ…ハァ…

男「だって――」

男「俺は、家族も知人も、目撃者共も、警官も、ちゃ~んとあの世に送ったってのに……」

男「あんなぬるい夢が、現実じゃなくてよかったぁ……」

男「夢オチでよかったぁ……」ニタァ…







おわり

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