メイド「私のご主人様は“殺れ殺れ系”」 (24)

― 豪邸 ―

主人「やれやれ、やはりコーヒーを飲まないと目覚めがよろしくない」

主人「メイド君、コーヒーをいれてくれたまえ」

主人「とびっきり濃いヤツをね」

メイド「かしこまりました、ご主人様」

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私のご主人様のもとへは、しょっちゅうお客が訪れます。



紳士「それでは、よろしく頼むよ」

主人「分かりました。ただちに手配しましょう」



それも、ひと目で“大物”と分かる人ばかり……。

なぜなら、ご主人様のお仕事は――



主人「やれやれ……近頃はしょっちゅう任務が舞い込むな」

主人「…………」ピッピッピッ

主人「全メンバーに告ぐ。30分以内に集合せよ」



政府公認の“正義の殺し屋”だから。

といっても、ご主人様が手を下すことはなく、



主人「今回の任務について説明する」



狙撃手「はいっ!」

ナイフ使い「はいっ!」

ガンマン「はいっ!」

ガスマスク「はいっ!」シュコー…



実行するのは部下の方々で、ご主人様は指揮をとる立場にあります。

主人「――というわけだ」

主人「このグループを放っておけば、国家の機密情報を盗まれるおそれがある」

主人「24時間以内に――殺(や)れ」



狙撃手「了解!」

ナイフ使い「了解!」

ガンマン「了解!」

ガスマスク「了解!」シュコー…



四人はいずれも、世界トップクラスの殺人術の使い手なのです。

ですが、私に対しては四人とも、とても優しく――



狙撃手「キミのハートを狙撃したいねぇ、うんうん」

メイド「もう……からかわないで下さいっ!」



ナイフ使い「ほら、リンゴの皮むき、すげぇだろ?」スルスル…

メイド「わぁっ、私よりずっとお上手です!」

ガンマン「一発撃ってみるかね? なにごとも経験ってやつさ」チャッ

メイド「いえいえっ! 私は結構ですっ!」



ガスマスク「あ、これ、こないだの任務でフランス行った時のお土産」シュコー…

メイド「ありがとうございます!」



とても殺しのプロフェッショナルだなんて思えませんけど。

一度、興味本位で、ついこんな質問をしてしまったことがあります。



狙撃手「え? “使われる立場”なことに不満を感じたことはないのかって?」

メイド「ええ、あなたがたってみんな“凄腕”なんですよね? なのに……」

狙撃手「そりゃあね、大したことない奴に使われるのはゴメンだよ」

狙撃手「ただし、大したことある奴に使われるのなら、話は別さ」

狙撃手「おそらくオレたち四人がかりでも、キミのご主人様には勝てないだろうからね」



この答えにはびっくりしてしまいました。

ご主人様はとってもすごい人なのです。

そして、ご主人様は国の平和を守るため、忙しい毎日を送ってらっしゃるのです。



主人「ああ、ヤツはこの国の裁判にかけることは不可能だ」

主人「ならば、手は一つしかない」

主人「殺れ」

主人「うむ……あの新興宗教団体を放っておくのは危険すぎる」

主人「今のうちに、指導者を消し、芽を摘んでおくべきだろう」

主人「殺れ」



主人「この男は名士になりすましているが、実は某国のスパイだ」

主人「かといって表立って糾弾することは難しい。つまり、我々の出番ということだ」

主人「殺れ」



主人「この外国人に国外に逃亡されると、非常に厄介なことになる」

主人「なんとしても、我が国を出る前に――」

主人「殺れ」

ご主人様の指令『殺れ』が飛ぶたび――



狙撃手「標的確認」ズキューン…



ナイフ使い「標的確認」シュバッ



ガンマン「標的確認」パシュッ



ガスマスク「標的確認」ブシュゥゥゥゥゥ…



狙撃手さんたちは、世界各地に飛び、“仕事”をこなすのです。

ですが、ある日のこと――



主人「ふぅ、やれやれ……」

メイド「いかがなされましたか? ご主人様」

主人「いや……ふと、自分の仕事について考えていたんだ」

主人「政府公認の“正義の殺し屋”などと、うそぶいてはいるが」

主人「結局のところ、やってることは人殺しだ」

主人「昔は自らの手を血に染め……今は信頼のおける部下にそれをやらせている」

主人「もちろん、間違ってることをしてるなどとは、微塵も思っていないが――」

主人「それでも時折、自分はなんのためにこの仕事をしているのか、と」

主人「深く考え込んでしまうことがあるのだよ」

メイド「ご主人様……」

メイド「私は無知ですし……立場上、ご主人様のお仕事を、肯定も否定もできません」

メイド「ですが、一つだけいえることがあります」

主人「?」

メイド「私はご主人様のご命令があれば、いつだってコーヒーをいれます!」

メイド「とびっきり! 濃いヤツを!」

主人「…………」

主人「ぷっ……ハッハッハッハッハッハ!」

メイド「え、え、え……?」

主人「ふふふ、すまない。しかし、こんな笑い方をしたのは本当に久しぶりだよ」

主人「ありがとう……君を使用人にして本当によかった」

主人「私が“素の自分”でいられるのは、君といる時だけだ……」

メイド「ご、ご主人様……」ドキン…





カサ…

主人「――ん?」

メイド「あっ、あれは! 申し訳ありません! どこかから入り込んで――」





カサカサ…

主人「うわぁぁぁぁぁっ!!!」

メイド「!?」ビクッ

主人「殺れぇぇぇっ! 殺れぇぇぇぇぇっ! お願いぃぃぃぃぃっ!」

主人「あぁぁぁ……私は“G”がどうしてもダメなんだぁぁぁぁぁっ!」

主人「気を張ってない時に突然出てくると、怖くてたまらないんだぁぁぁっ!」

メイド「了解ですっ!」

メイド「てやっ!」バシッ

メイド「もう大丈夫ですよ、ご主人様!」

主人「あ、ありがとう……。やれやれ、私としたことが取り乱してしまった……」



私、とんだ大失敗をしてしまいました。害虫対策はもっと徹底しないといけませんね。

だけどおかげで、ご主人様の意外な一面を見ることができました。







~おわり~

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