ハルヒ「東中しゅっしぇん!すじゅみやハルヒ!!」キョン(あ、噛んだな) (174)

キョン(振り返るとすげー美人が顔を真っ赤にして震えていた)

ハルヒ「……」

岡部「あー、えー、もう一度、言ってくれるか?」

クスクス……

ハルヒ「……」

キョン(笑われてるな。気の毒だが、仕方ない。かなりの声量で盛大に噛んだからな)

ハルヒ「東中出身、涼宮ハルヒ。宇宙人や……」

キョン(ん? 宇宙人?)

ハルヒ「以上」

岡部「あ、ああ。じゃあ、次」

キョン(何か言いかけたような気がするが、周囲の目に耐えられなくなったか)

ハルヒ「……なによ。笑いたきゃわらいなさいよ。ふんっ」

キョン(俺はこのとき不覚にも、すじゅみや、いや、涼宮ハルヒが可愛いと思ってしまった)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1442148073

キョン(翌朝。既に涼宮ハルヒは自分の席に座っていた。昨日の今日でどんな顔をしているのか興味が沸いた俺を誰が責めることができよう)

ハルヒ「……」

キョン(不機嫌そうな顔をしているが、どうしても昨日の出来事が蘇る。可愛い奴だ)

ハルヒ「なによ」

キョン「昨日のアレが気になってるんだ」

ハルヒ「昨日のアレってなに?」

キョン「ほら、自己紹介で噛んだあとに――」

ハルヒ「……」プルプル

キョン(いかん。怒るか泣きそうな表情に変わった。これはまずい)

キョン「あー、いや、なんだ、あれはあれで、まぁ、いいと思うぞ。掴みはオッケーって感じで」

ハルヒ「……」プルプル

キョン(しまった。火に油だったか。今度は完全に泣き顔に変化しやがった)

キョン「すまん。なんでもない」

ハルヒ「なら、はなしかけんなっ」

キョン(涙声の罵声を背中で受け止めながら、俺は罪悪感に苛まれた。可愛い子をいじめてしまった気分だぜ。くそ)

昼休み

谷口「お前、涼宮に気でもあるのか?」

キョン「いきなりだな」

キョン(ないと言えばうそになる)

谷口「悪いことは言わねえ。やめとけ」

キョン「何か問題でもあるのか?」

谷口「涼宮とは同じ中学だったから知ってるんだが、あいつは常軌を逸してる」

キョン「どのあたりが?」

谷口「みてわかんねえか?」

国木田「可愛いよね、涼宮さん」

谷口「そう!! あいつはもう、可愛いだけの生き物なんだ。AAランクプラスどころの騒ぎじゃねえぜ」

キョン「何か逸話でもあるのか」

谷口「色々な。一番の事件は校庭落書き事件だ」

国木田「それ、噂で聞いたよ。涼宮さんが犯人だったんだ」

キョン「俺は知らんな。どんな事件なんだ」

谷口「それがよ、夜の学校に忍び込んで、あの白線引くやつあるだろ、あれで校庭に絵を描こうとしたんだと」

キョン「描こうとしたということはしてないのか」

谷口「ああ。できなかったんだ」

キョン「またどうして。忍び込んでいるのならできそうだが」

谷口「夜の学校ってかなり暗いだろ?」

国木田「まぁ、街灯なんかもあまり意味ないよね。グラウンドなんて場所によっては真っ暗だし」

谷口「警備員に見つかる可能性を考えた涼宮は懐中電灯すら持って行っていなかった。その結果……」

谷口「何度も何度も石灰を運ぼうとして、そのたびに転んで、校庭に白い粉をぶちまけたんだ」

キョン「なんだと」

谷口「朝、校庭の隅で真っ白になった涼宮が膝を抱えて泣いていた。結構な問題にはなったが、男子生徒は「涼宮だから仕方ない」の一点張りで庇ったんだ」

国木田「へー。まぁ、分からなくもないかなぁ」

谷口「あの悲しみにくれる涼宮を見てしまったら、責めることなんざできねえ。むしろ、守ってやりてぇと思っちまうほどだ」

キョン(わかるぞ、その気持ち。俺がその場にいれば男子の群れの一人になっていたことだろう)

谷口「そういうわけだ。あいつを狙うのはやめとけ。ファンが多いから殺されかねないぜ」

キョン(確かに。しかし、そうなるとハルヒっていろんな男から言い寄られているんじゃないか?)

谷口「ああ、あいつはモテる。そりゃあもうメチャクチャモテる」

キョン「それも何か伝説があるのか」

谷口「一時はとっかえひっかえってやつだな」

国木田「えぇ? 意外だなぁ。そんなことしなさそうなのに」

谷口「あいつ断るってことをしねえんだよ」

キョン「断れないのか」

谷口「そう。俺が知ってる中で最速は月曜日に告白して、土曜日には破局してたやつだな。その理由も――」


ハルヒ『一般人と遊んでいる暇はないの! ごめんなさい!』


谷口「そう言って何度も謝ってたんだと。そんなウソ丸出しの理由で断るならオッケーするなっての」

国木田「優しいんだね。きっと」

谷口「噂では勇気を振り絞って告白してきた相手を無碍にはできないかららしいが。そこは本人に聞いたことがないからなぁ」

キョン(まぁ、あの可愛さならありえん話でもないな)

谷口「とにかく涼宮だけはやめとけ」

キョン(そう言われてもな)

キョン(俺は自然と涼宮ハルヒの行動を目で追うようになっていた)

ハルヒ「……」ダダダッ

キョン(休憩時間になれば誰よりも早く教室を出ていき……)

ハルヒ「はぁ……はぁ……」

キョン(授業開始ギリギリで戻ってくる。全速力で戻ってきたのか、いつも肩で息をしてやがる)

ハルヒ「ふぅー……ふぅー……」

キョン(そしてそれを誰にも悟られまいとしているのか、極限まで呼吸を小さくしている。まぁ、バレバレなのだが)

キョン(にしてもこいつは毎回休み時間になにをしているのだろうか)

ハルヒ「……なによ」

キョン「いつもどこに行ってるんだ?」

ハルヒ「なんであんたに言わなきゃいけないわけ?」

キョン「そうだな。忘れてくれ」

ハルヒ「ふんっ」

キョン(あとで知ったことだが、入学式のとき涼宮は学校で迷子になり教室にたどり着くのが誰よりも遅かったらしい)

キョン(それが原因で学校中を探検し、各教室の場所を把握しようとしていたのだろう。真面目で可愛いやつだ)

キョン(5月のゴールデンウィークが終わった。普通は憂鬱な連休明けとなるが、俺は登校するのが楽しみだった)

キョン(理由は考えるまでもない。涼宮ハルヒである)

ハルヒ「……」

キョン(今日はポニーテールか)

ハルヒ「……」

キョン(自己紹介が影響しているのか、ハルヒが誰かと喋っているところを見たことがない)

キョン(そんな彼女を見て、話しかけたいという衝動にかられてしまった)

キョン「髪型、いつも変えてるよな」

ハルヒ「え?」

キョン「ツインテールにしてるときもあるだろ。つか、曜日ごとに変えてるよな」

ハルヒ「いつ気が付いたの?」

キョン「結構前」

キョン(涼宮のことを目で追う時間が多かった所為で、そういう変化にはとっくに気が付いていた)

ハルヒ「ふぅん。よく見てるじゃない、褒めてあげるわ」

キョン(平坦な声ではあったが、明らかに涼宮は喜んでいる様子だった。髪型を変えても誰にも何も言われなかったのだろうか。というか、話しかけてもらおうときっかけ作りしていたのか?)

キョン「髪型は気分で変えてるのか?」

ハルヒ「まぁ、そうね」

キョン「月曜日が1で火曜日が2なんだろ? 髪の結びからして」

ハルヒ「よ、よく分かってるじゃない。そこまで気がつけた男はあんたが初めてよ」

キョン(なんか嬉しそうだな。可愛い)

ハルヒ「それで」

キョン「え?」

ハルヒ「……」

キョン「それだけだが?」

ハルヒ「あ、そう」

キョン(何かを期待していたのだろうか。とても残念そうに俯いたぞ)

ハルヒ「まぁ、いいけど……」

キョン「俺はポニーテールが好きだが」

ハルヒ「あんたの意見なんてきいてないっ!」

キョン(そういうことじゃなかったか。今のはなんだったんだ。わからん)

キョン(翌日、ハルヒは長かった髪をバッサリと切っていた。流石にクラスメイトもざわついている)

ハルヒ「……」

キョン「おはよう、ハルヒ」

ハルヒ「おはよう」

キョン「なにかあったのか?」

ハルヒ「なにが?」

キョン「あんなに長かった髪を短くたんだから、なんか理由があるんだろ?」

ハルヒ「別に」

キョン「本当に何もないのか?」

ハルヒ「なんであんたなんかに心配されなきゃいけないわけ」

キョン(これで月曜日にポニーテール姿のハルヒを見ることはできなくなったわけか。残念である)

ハルヒ「ふんっ」

キョン(どうしたもんか。乙女の懐にこれ以上入ることはできそうにない。ここは谷口たちと一緒に生暖かく見守ろう)

ハルヒ「こっちみんなっ」

キョン(ああ、可愛いなぁ)

谷口「これは事件だぜ。涼宮のやつ、失恋でもしたんじゃねえか」

国木田「ありがちな理由だけど、涼宮さんだしね」

キョン「ショックで断髪か。あいつらしいといえばらしいかもしれん」

谷口「キョンに涼宮のなにがわかるんだよ!」

キョン(お前に涼宮の何がわかるってんだ)

谷口「くそぉ。聞いてみてぇが、涼宮は俺のこと避けてるからなぁ」

国木田「そうなんだ」

谷口「ああ。あいつ、一度フッた男とは一線をひくんだ」

キョン(谷口、お前、涼宮に告白したのか。このやろう)

国木田「心配だよね」

朝倉「困ったわよね」

キョン「朝倉か」

朝倉「涼宮さん、貴方以外の人とは殆ど話していないのよ? 知ってた?」

キョン(勿論知っている)

朝倉「なんとか涼宮さんの悩みを聞き出してもらえないかしら?」

キョン「それは無理だ。俺と涼宮はそこまで仲がいいわけでもないからな」

朝倉「そんなこといってぇ。ホントは涼宮さんのこと、気になってるくせに」

キョン(正直、気になっている。あいつとじっくり話せる朝の時間が待ち遠しいぐらいにな)

朝倉「だから、お願いっ。涼宮さん、男子は勿論、女子とも壁を作っちゃってて」

国木田「朝倉さんが話かけてもダメなんだ」

朝倉「うん。委員長としては涼宮さんが孤立しちゃうのは嫌なんだけどね」

キョン(自己紹介で皆に笑いものにされていると思い込んでいる節はあるな)

朝倉「よろしくっ」

キョン「あのなぁ」

キョン(任せろ、朝倉。これで涼宮に堂々と近づけるぜ)

谷口「キョン!! その役を交代してくれぇ!!」

キョン「悪いな、谷口。これは俺にしかできないことらしい」

谷口「くそぉ!!」

キョン(とはいったものの、涼宮とは会話が弾んだこともないしな。このままでは平行線だ)

キョン(そういえばあいつ、自己紹介のとき……)

ハルヒ「はぁ……」

キョン(翌朝の涼宮はどこか憂鬱そうだった。まぁ、どんな表情でも可愛いが)

ハルヒ「なにぃ?」

キョン「宇宙人」

ハルヒ「は……?」

キョン「自己紹介のとき、宇宙人って言った気がしたんだが」

ハルヒ「まぁね」

キョン「宇宙人に興味あるのか?」

ハルヒ「ねえ、宇宙人っていると思う?」

キョン(む。これはどう答えるべきか)

キョン「いるんじゃないか?」

ハルヒ「未来人は?」

キョン「その辺にいそうだよな」

ハルヒ「超能力者は?」

キョン「掃いて捨てるほどいるだろ」

ハルヒ「……」

キョン「な、なんだ……?」

ハルヒ「……」

キョン(すげえ見つめられてる……。何を求めているんだ……)

ハルヒ「それ、ホンキで言ってる?」

キョン「いないと決めつけるよりは、いると考えたほうが面白いっていう程度だけどな」

ハルヒ「なるほどね」

キョン「そういうのに興味があるのか」

ハルヒ「会ってみたい」

キョン「なんだと」

ハルヒ「あたしは探してるの。ずっと。この世の不思議ってやつを」

ハルヒ「超能力者がいれば隕石が降ってきても安心だし、未来人がこっちにきてるなら未来でも地球は滅んでないわけだし、宇宙人が既にいるなら侵略目的じゃないってことになるし」

キョン(どうやら涼宮は終末論を信じているようである)

ハルヒ「はぁー、安心したい」

キョン(地球滅亡の予言を真に受けて、ビビッてやがるぞ、おい。なんだ、この生き物は)

ハルヒ「しにたくないなぁ……」

キョン(涼宮が憂鬱にしているのはそういう理由だったのか。これはまいったな。予想の遥か斜め上をいきやがった)

キョン「そうか。自己紹介のとき言いかけたのは、宇宙人や未来人や超能力者がいたら名乗り出ろみたいなことだったんだな」

ハルヒ「そう。でも、思い切り噛んじゃったし、もういいかなって」

キョン「名乗り出ろって言って、「はい、私がそうです」とは向こうも言ってはくれそうにないけどな」

ハルヒ「……!」

キョン(驚いてやがる)

ハルヒ「確かにそうだわ……超能力だって自分の力は隠し通すだろうし……未来人は過去の人間と接触を避けるだろうし……宇宙人だって地球人そっくりに化けてるだろうし……」

ハルヒ「これじゃあ、確かめようがないじゃない」

キョン「それにだ、例えば俺が超能力者だと言って、涼宮は信じるか?」

ハルヒ「え? そんなの……」ゴソゴソ

キョン(何をカバンから出す気だ? スプーンとかか?)

ハルヒ「このスプーンを曲げてって言うわ!!」

キョン(予想通り可愛いやつだな)

ハルヒ「なにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いわね」

キョン「スプーンを曲げるなんてわかりやすい能力ならいいがな。もっと別の力をもっていたら、どう確かめる」

ハルヒ「ん? どういう意味よ」

キョン「地球を滅ぼす巨人と戦う能力がある、とか」

ハルヒ「むぅ……。そんなウソをわざわざいうわけないし、信じるわ。で、あんたは超能力者なの?」

キョン「違うが」

ハルヒ「なによそれ!! ふざけんな!!」

キョン「期待させて悪かったな」

ハルヒ「ふんっ」

キョン「で、涼宮。お前は地球がいつ滅びると思ってるんだ?」

ハルヒ「別に。あたしはただ、死にたくないだけ」

キョン「ああ、そうかい」

キョン(とりあえずの悩みは理解した。涼宮の中では地球は近い将来滅んでしまうらしい)

キョン(故に一刻も早く宇宙人や未来人や超能力者を見つけたい。ということか)

キョン「そうかそうか」

ハルヒ「ニヤニヤすんなっ!」

朝倉「宇宙人……? 涼宮さんはそんなことを言ったの?」

キョン「どうしても会いたいんだと」

朝倉「そうなの……ふーん……」

キョン「宇宙人に心当たりでもあるのか?」

朝倉「え? まさか。そんなわけないじゃない」

キョン「だよな」

朝倉「けど、結局、涼宮さんは貴方にしかそうしたことを話さないのよね。少し落ち込んじゃうな」

キョン(それを誇らしく思ってしまう自分がいるが、別にいいよな)

朝倉「涼宮さん、宇宙人に会えれば少しは元気になって、クラスに溶け込めるかしら」

キョン「涼宮のあれは自己紹介のときにかんじまったことが原因だ。仮に宇宙人が目の前に現れたって、クラスメイトとの接し方に変化が及ぶかはわからん」

朝倉「それはどうかなぁ」

キョン「なんだ、その妖しい笑顔は」

朝倉「例えば、宇宙人の居場所を教えれば、涼宮さんだって私たちに心を開いてくれると思わない?」

キョン「お前、宇宙人の居場所を知ってるっていうのか?」

朝倉「例えばの話だって言ってるでしょ」

ハルヒ「……」

キョン(涼宮は朝倉と俺の会話に分かりやすく聞き耳を立てていらっしゃる)

朝倉「だからね」

キョン「まて、朝倉。後ろを見ろ」

朝倉「後ろ……?」チラッ

ハルヒ「うー……」

朝倉「(涼宮さん、もしかして私たちの会話を盗み聞きしてる?)」

キョン「(。こっちに耳のみならず、体ごと寄せてるところを見るに間違いない)」

朝倉「こほんっ。涼宮さんっ」

ハルヒ「……!」ビクッ

ハルヒ「ぐぅ……ぐぅ……」

キョン(バレた!みたいな表情と共に寝たふりかよ。こんな生き物が地球上にいていいのかよ)

朝倉「私たちの会話が気になるならいつでも割って入ってきてもいいんだけどなぁ」

ハルヒ「ぐぅ……ぐぅ……」

キョン(涼宮の親にいってやりたいね。こんなふうに育てて、誘拐されたらどうするんですかってな)

キョン(そんなこんなで5月も半ばを過ぎたころ、担任の岡部が席替えをしようと言い出しやがった)

キョン(涼宮と離れ離れになったら呪ってやるぞと内心では思っていたが……)

ハルヒ「なんでまたあんたの後ろなのよ」

キョン「そういうこともあるだろ」

ハルヒ「いい迷惑だわ。黒板があんたの所為で見にくいじゃない。あんた、授業中はずっと寝てなさいよね」

キョン「それだと俺が怒られるし、ノートだってとれねえだろ」

ハルヒ「私のノートをあとで見ればいいじゃない」

キョン「貸してくれるのか?」

ハルヒ「いいけど」

キョン(こいつ、無駄に優しいぞ)

ハルヒ「なによ」

キョン「一時、男をとっかえひっかえだったっていうのは、本当みたいだなって思ってよ」

ハルヒ「なによそれ。まぁ、本当のことだけどね。世の中にはつまらない男ばっかりだわ」

キョン(まともに付き合ったこともないくせに、なんでそんな強がりを言ってしまうんだろうね。可愛いが)

ハルヒ「全然つまらなかったわね!! ホント!!」

キョン「やっぱり宇宙人ならよかったのか?」

ハルヒ「宇宙人とは付き合えないわ。文化も思想も違うだろうし」

キョン「なら、未来人か?」

ハルヒ「はぁ? あんた、アホね。未来人と付き合ったら、未来が変わっちゃうじゃない」

キョン「超能力者がいいのか?」

ハルヒ「生まれてくる子供に能力が遺伝したら、きっと大変なことになるでしょ」

キョン(こ、こいつ……付き合う=結婚みたいな図式になってるぞ……どうなってんだ……)

キョン(いやまて、そうか。だから告白して1週間で破局したのか? この人とは結婚できないという答えを涼宮は出していたから)

キョン「結婚相手の条件とかってあるのか」

ハルヒ「あたしを大切にしてくれる人ね」

キョン(くっ……今すぐ、抱きしめたい……)

ハルヒ「なんか文句でもあるわけ?」

キョン「いや。涼宮って、あれだよな、その……」

ハルヒ「変っていいたいの? その通りだから、別に気にしないわ。なんとでも言えばいいでしょ」

キョン(可愛いって言おうとしたんだよ)

ハルヒ「まぁ、結婚相手の心配したって、地球がこのまま平和かどうかわからないし……」

ハルヒ「はぁ……」

キョン(メランコリー状態の涼宮はこれまた随分と可愛い。谷口の言っていた通り、こいつは、こいつだけは守ってやらねばならない。そんな気分になる)

ハルヒ「しにたくない……」

キョン(机に突っ伏しながら、消えてそうな声で涼宮はそういった)

キョン(俺は今、はっきりとわかった。俺は涼宮ハルヒに惚れている)

キョン(言動こそ子どもじみているが、とても愛らしい。俺はそんなハルヒに惹かれてしまった)

キョン「なんてこった……」

ハルヒ「なにがぁ?」

キョン「なんでもない。寝てろ」

ハルヒ「うん」

キョン(駄目だ。急に緊張してきた。こんなに近くに好きな相手がいるってのは、なんていうか困る)

キョン(俺はどうしたらいいんだ)

ハルヒ「宇宙人や未来人や超能力者がいたら私のところにきなさい……きてください……」

キョン(探してみるか。本気で)

キョン「朝倉、宇宙人がいそうな場所を知らないか?」

朝倉「は……?」

キョン「いや、未来人や超能力者でもいいんだが」

朝倉「どうしたの? 涼宮さんの洗脳?」

キョン「ハルヒは関係ない」

朝倉「急に名前で呼んでるし、どうしちゃったの?」

キョン「涼宮っていうより、ハルヒのほうが言いやすいからな」

キョン(なんていう理由づけをしているが、ただハルヒって言いたいだけだ)

朝倉「未来人や超能力者は知らないけど、宇宙人って言われてる人は一人だけ知ってる」

キョン「なに?」

朝倉「勿論、宇宙人なんかじゃないけどね」

キョン「それは誰なんだ?」

朝倉「……長門有希って人よ」

キョン「ながと、ゆき……?」

朝倉「会いたいなら放課後、文芸部室に行ってみるといいわ。長門さんはいつもそこにいるから」

キョン(てなわけで、放課後。朝倉の情報通り、文芸部室にやってきた。宇宙人と呼ばれている長門有希。一体、どんな奴なんだろうね)

キョン(まぁ、実際に宇宙人だとは思わんが、言動が宇宙人なのか。それとも……)

キョン(悪い意味でそう呼ばれているのなら、苛められていることになりそうだが……)

キョン(考えても仕方ない。行ってみるか)

キョン「すみませーん」コンコン

キョン(返事はない。入ってみるか)

キョン「……」ガチャ

キョン(部室には誰もいなかった。部室中央に机が置かれ、そして窓際にパイプ椅子が孤立するように置かれていた)

キョン(その椅子の上には読みかけの本が置いてある。誰かがいたのは間違いないようだ)

キョン「長門って人の本か?」

長門「……」ガチャ

キョン「お」

長門「……」

キョン(眼鏡をかけた女の子が入ってきた。そして、俺のことを凝視している。知らない男がいれば誰でも驚くか)

長門「……」

キョン「すまん。勝手に入って」

長門「……」ゴソゴソ

キョン(なんだ。おもむろにカバンの中を漁りだしたが……。まさか、光線銃的なものを出す気か?)

長門「はい」スッ

キョン「え?」

長門「名前、ここに書いて」

キョン(差し出されたのは入部届だった。どうやら、俺を新入部員と勘違いしているようだ)

長門「……」

キョン「俺は入部希望ってわけじゃないんだ」

長門「……」

キョン(表情が一切変わらないが、レンズの向こうにある瞳が戸惑いに満ちているのが分かる)

キョン「俺はただ、長門って人に会いたくて」

長門「……何故」

キョン「興味があってといったら失礼になっちまうけど」

長門「宇宙人だから?」

キョン「う、ちゅう、じん……?」

長門「そう」

キョン「えっと……」

長門「長門有希」

キョン「ああ、やっぱり。お前が長門だったのか」

長門「そう」

キョン(抑揚のない声で自分は宇宙人だという。何を当たり前のことを聞くんだといった感じだな)

キョン「何星から来たんだ?」

長門「……」スッ

キョン(なんだ? 窓の外を指差して……)

長門「あの空の向こう、だと思われる」

キョン「お、おう、そうなのか」

長門「そう」

キョン(なるほど。分かったぞ。こいつは電波さんだな)

長門「情報統合思念体に生み出された。あの空の彼方で」

キョン「宇宙人っていう設定なのか」

長門「そう。いや、私は宇宙人」

キョン(認めたぞ、おい)

長門「宇宙人の私に何か用?」

キョン(宇宙人であることを強調したいようだな。まぁいい、今はこうした子がいてくれたことに感謝しよう)

キョン「長門さんとやら、宇宙人である貴方に頼みたいことがある」

長門「……」

キョン(なんだ? また困惑したような目をしている気がする)

長門「私の言葉を信じる?」

キョン「宇宙人なんだろ?」

長門「そう」

キョン「俺も丁度、宇宙人を探していたところなんだ。だから会いにきた」

長門「……座って」

キョン「悪いな」

長門「お茶、淹れる」

キョン(ポットがあるのか。文芸部って何をしているのかよくわからんが、本を読むときはお茶ぐらい飲むのかね)

長門「おまたせ」

キョン「待ってないぞ」

長門「飲んで」

キョン「いただきます」

長門「おかわり、あるから」

キョン「そうか」

長門「……」

キョン(このお茶、うまい。ただのインスタントじゃないな)

長門「……これ、書いて」

キョン「悪い、入部をする気はないんだ」

長門「……そう」

キョン(あからさまにガッカリしてしまった。じっくり見ると感情豊かだな)

長門「……名前だけでも」スッ

キョン(それから幾度となく入部を勧めてくる長門をなんとか回避しつつ、本題に入った)

長門「つまり、その涼宮ハルヒに私が宇宙人であることを説明すればいい?」

キョン「そういうことだ。頼めるか?」

長門「……」

キョン(俺の心を覗きこむような眼差しだな。どことなく長門には神秘的な雰囲気がある)

長門「涼宮ハルヒを文芸部に入部させてもいい?」

キョン「え? それは……」

キョン(ハルヒの奴がどこの部にも属していないのは知っているが、あいつが文芸部に入部するか?)

長門「許可を」

キョン「まぁ、いいんじゃないか? あいつが入りたいっていえば」

長門「そう」

キョン「ああ、長門の好きにするといい」

長門「なら、これ」スッ

キョン「だから、俺は入部するつもりはないんだ」

長門「……名前を書くだけで構わない」

キョン「そんなに部員が欲しいのか? 長門以外に部員はいないのか」

長門「いない。年長組が卒業し、私だけがここに取り残された」

キョン「取り残されたって、長門は一年だよな。だったら入部するときは文芸部に人はいなかっただろ」

長門「そう」

キョン「取り残されたってのは違うと思うぞ」

長門「……私も、そう思う」

キョン「だよな」

長門「貴方とは気が合う」

キョン「お、おう」

キョン(気が合っているといえるのかは疑問だが、仲良くなれそうな気はする)

長門「……はい」スッ

キョン「……わかった。書く。長門も切実なんだよな」

長門「ありがとう」

キョン(中々強引ではあったが、別に入部したところで何かが変わるわけでもなさそうだしな。というわけで俺は入部届に学年とクラスと名前を書いた)

長門「……大切にする」

キョン(そういって長門は俺の名前が書かれた入部届をカバンに仕舞った。顧問に提出するものだから丁重に扱っているのか。長門は真面目だな。電波だが)

キョン「あとは未来人と超能力者が必要だな」

キョン(ハルヒの憂いを解消させるには、だが)

長門「超能力者は知らない」

キョン「その言い方だと未来人は知っているということにならないか」

長門「……知っている」

キョン「なに!?」

キョン(おいおい、まさか未来人と交流を持っているってことなのか?)

キョン「一応聞くが、どこにいるんだ?」

長門「……こっち」

キョン(そういうと長門は静かに立ち上がり、部室を出ていく。俺はそのあとを黙って追うことにした)

キョン(まさか未来人の友達がいるなんて、とは思わないが、それでも可能性はある)

キョン(長門の不思議な言動がもし、万が一、宇宙人だからだとしたら……)

キョン(まぁ、既に設定だと告白してしまっているが)

長門「……ここ」

キョン(長門が指差した場所は書道部の部室だった。ここに未来人がいるのか。にしても書道が趣味の未来人とは、雅というものを理解しているのか)

長門「あれ」プルプル

キョン(踵をあげて、つま先立ちする長門が愛らしい。そこまで一生懸命に何を俺に見せたいのか)

キョン「これは部員の作品か?」

キョン(そこには部員が書いたと思われるものが貼り出されていた。やはり書道部だけあって皆達筆である)

長門「あ……れ……」プルプル

キョン「これか」

キョン(長門の指の先には、書道部員が書いたとは思えない字があった。半紙には『未来』と書かれている。これはこれで悪くないが、達筆とは言えない)

キョン(全体的に丸っこく、どちらかと言うと女子が友達に宛てる手紙に使われていそうな字だ)

キョン「未来と書いてあるだけじゃねえか。どこが未来人なんだ」

長門「名前をよく観察したほうがいい」

キョン「名前?」

キョン(『未来』を大きく書きすぎたのか、名前は左端で小さくなっている)

キョン「朝比奈……みくる……。二年の朝比奈さんって人が書いたのか」

長門「未来人」

キョン(よくわからん)

長門「みくるは、未来と書くことができる」

キョン「おー、確かにな」

長門「だから」

キョン(なるほどな。長門は面白いことを言おうと必死になっているのかもしれない)

キョン「ありがとよ。今日は誰もいないみたいだし、この朝比奈さんに会ってみるよ」

長門「構わない」

キョン「それで、この後はどうする?」

長門「……帰宅する」

キョン「そうか。入部届、ちゃんと提出しておいてくれよ」

長門「わかった」

キョン(そう言って長門は去っていった。どうでもいいが、俺が新入部員でいいのか、長門。文芸部がどんな活動をするのかもよくわかってない男だぜ?)

キョン「ま、嬉しそうだったし、いいか」

キョン(それで納得しておこう。長門が文芸部を守りたかったのは伝わってきたしな)

キョン「宇宙人、ねぇ」

キョン(朝倉は言った。長門有希は宇宙人と呼ばれている、と。でもあいつは自分で宇宙人を名乗った。名乗るのと呼称されるのは、別物のような気がするけどな)

訂正

>>52
キョン「ありがとよ。今日は誰もいないみたいだし、この朝比奈さんに会ってみるよ」→キョン「ありがとよ。今日は誰もいないみたいだし、明日この朝比奈さんに会ってみるよ」

キョン(翌日。今日はいつもより10分ほど早く学校に着いた。意識していたわけではないが、どうにも俺はハルヒに早く会いたかったようだ)

キョン(そんな感じを出しては絶対に気持ち悪がられるので、なんとか気持ちを抑えつつ教室へ向かう。すると、教室の前に見知った少女がいた)

長門「……」

キョン(教室の窓ガラス越しに中の様子を伺っているようだ。宇宙人の思考は人間のそれとは違うのかね)

キョン「おはよう、長門」

長門「……」バッ

キョン(すごい勢いでこちらに視線を向けてきた。多分、びっくりしている)

長門「……」

キョン「誰かに用事か?」

長門「……」

キョン(なんで何も言わないんだ)

長門「入部届を涼宮ハルヒに渡そうと思って」

キョン「わざわざ長門から来てくれたのか。ありがとよ」

長門「……」

キョン(口を動かしたのは分かったが、なんと言ったかは聞こえなかった。オリジナルの宇宙語じゃないだろうな)

キョン「まぁ、遠慮せずに入れよ」

長門「ここで構わない」

キョン「なんでだ? 直接渡すんじゃないのか?」

長門「……朝倉涼子がいる」

キョン「ああ、あいつはいつも一番乗りだ」

長門「あの生命体は危険」

キョン「どういうことだ?」

長門「……貴方に説明しても、信じてもらえないかもしれない。それに上手く言語化できない」

キョン(とりあえず長門と朝倉には何らかの因縁があるようだな)

長門「これ」

キョン「入部届、ハルヒに渡せばいいか?」

長門「……」コクッ

キョン「分かった。渡しておく」

長門「また、放課後」

キョン(どうやら俺は無事に文芸部員になったようだ。今日から部活動か。割と楽しみである)

キョン(教室に入るとハルヒの後ろ姿が目に入った。今日も早いな)

キョン「おはよう、ハルヒ」

ハルヒ「はぁ!?」

キョン「ど、どうした」

ハルヒ「急に名前で呼ばれたから、驚いたじゃない」

キョン「それは悪かった。涼宮っていうより、ハルヒのほうが呼びやすいんだ」

キョン(というのは建前だ)

ハルヒ「ふぅん。まぁ、いいけど。おはよう、キョン」

キョン「お前、そのあだ名、誰から聞いたんだ?」

ハルヒ「いいじゃない。間抜けな響きがあんたに似合ってるわよ」

キョン「ああ、そうかい」

キョン(あだ名で呼んでくれるってことは、少なくともハルヒは俺のことを友人として見てくれてはいるようだ。素直にうれしいぜ)

ハルヒ「キョンっ」

キョン「ん?」

ハルヒ「おはよう」

キョン(何故、二回も挨拶をするんだ。別に何度でもしてくれて構わないが)

キョン「そうそう、これ」

ハルヒ「なにこれ?」

キョン「書いてるだろ。入部届だ」

ハルヒ「ふぅーん。あたしに部活やれってこと?」

キョン「そうなるな」

ハルヒ「嫌よ。部活動なんて」

キョン「どうしてだ? 結構、いいもんだぜ」

キョン(部活をしていれば確実に友人はできるからな。長門が所属している特異な部でない限りはだが)

ハルヒ「あたしは即戦力がいいの」

キョン(何を言い出すんだ)

ハルヒ「下手くそが入ってきたら、上手い人の足を引っ張ることになるでしょ。そういうのが嫌なのよ」

キョン(口調は「部活なんて面倒だぜ」みたいなトゲトゲしいものなのに、なぜか和んでしまう)

キョン「お前、ホント優しいな」

ハルヒ「はぁ!? な、なにいってんのよ!! そんなこと言われても、別になんとも思わないんだからねっ!!」

ハルヒ「まったくもう!!」

キョン(ハルヒが照れながら怒る。実に可愛い)

キョン「安心しろ、これは文芸部の入部届だ。足を引っ張るようなことはまずないだろうぜ」

ハルヒ「文芸部? あんた、文芸部だったの?」

キョン「昨日、文芸部員になった」

ハルヒ「ふぅん、そう。楽しいわけ?」

キョン「どうだろうな。昨日は活動らしいものは何一つしてなかったからな」

ハルヒ「ダメじゃないの。そういうのを時間の浪費っていうの」

キョン「で、どうする?」

ハルヒ「何よ、そんなに入ってほしいわけ?」

キョン「そうだな。ハルヒには是非とも入ってほしい」

ハルヒ「……どうしても?」

キョン「どうしてもだ」

ハルヒ「じゃあ、入る」

キョン(そういってハルヒはいそいそと名前を書き、そそくさと教室を出て行った。行先は考えるまでもない。職員室だろうな)

ハルヒ「ねえねえ、文芸部ってあれでしょ。本を読んだり、小説を書いたりする部のことでしょ?」

キョン「そういう活動をするイメージしかねえな」

ハルヒ「今からプロットとかを考えていたほうがいいかしら」

キョン(一限が終わると、珍しくハルヒのほうから話しかけてきた。文芸部の活動が気になって仕方がないと言ったところか)

ハルヒ「あんたも何か書きなさいよね。そうね、恋愛小説なんてどうかしら?」

キョン「なんで俺がそんなもんを書かなきゃならんのか、説明してくれ」

ハルヒ「あたしがよみたいからっ!」

キョン(ハルヒは満面の笑みでそんなことを言う。書かないわけにはいかないぞ、どうする、俺)

ハルヒ「でも、キョンは文才なさそうだし、高望みはできないわね」

キョン「俺はハルヒが書いた恋愛小説を読んでみたいがな」

ハルヒ「なんであたしが書かなきゃならないのよ。そんな面倒なことするわけないでしょ」

キョン「お前がどんな恋愛観を持っているのかは興味ある」

ハルヒ「なにそれ、バッカみたい。……三か月はかかるけど、いいの?」

キョン(書いてくれるのかよ。流石だな、ハルヒさん)

キョン(三か月後を想像していると予鈴が鳴った。ハルヒ作のラブストーリーももちろんだが、人生初の部活動も楽しみである。早く放課後にならないものか)

キョン(待ちに待った放課後がやってきた)

ハルヒ「いくわよ!! キョン!!!」

キョン「わかった、わかった」

ハルヒ「はやくしなさいよ!!」

キョン「そう急かすな」

谷口「キョンのやろう……涼宮と仲良くしやがってぇ……」

国木田「涼宮さんにかなり気に入られてるね」

谷口「ちくしょー!!!!」

キョン(あのハルヒと仲良くしていることで、ちょっとした優越感を覚えてしまう。男なら誰だってこうなるはずだ。俺だけが特別ってわけじゃないはず)

キョン(急かすハルヒを追いかけようとしたとき、寒気がした。誰かの視線が突き刺さるのがわかった)

キョン(視線の主を探そうと教室の中を見渡した。すると、黒板消しを定規のようなもので叩き、白堊の粉末をまき散らしている女生徒と目が合った)

朝倉「……」パンパンッ!!!

キョン(近くの女子が思い切り咳き込んでいるのにも関わらず、朝倉は俺を睨みながら同じ動作を繰り返している。苦しくないのか?)

朝倉「ごほっ!! えほっ!! ま、窓、あけなきゃ!!」テテテッ

キョン(よかった。苦しかったんだな。しかし、どうして俺を見つめていたんだ?)

ハルヒ「ここが部室なの?」

キョン「そうだ」

ハルヒ「ふぅーん。へー」

キョン(しげしげと文芸部室の扉を眺めるハルヒだが、ドアノブには手を近づけようとしない。理由はなんとなくわかる)

キョン「入るぞ」

ハルヒ「いいわよ」

キョン(俺が扉を開けるとその先には、窓際で椅子に座る長門有希の姿があった)

長門「……」

キョン「よう、長門」

長門「……」

キョン(長門は俺に一瞥したあと、俺の後ろにいる人物に視線を移したのがはっきりとわかった)

ハルヒ「あんた、ダレ?」

長門「長門有希」

ハルヒ「ふぅん。ねえ、キョン。もしかして、この眼鏡っ子がいるから、文芸部に入ったわけ?」

キョン「端的にいるなら、そういうことになるな」

ハルヒ「むぅ……。眼鏡、買おうかしら」

キョン(そんなハルヒも是非、見てみたいね)

キョン「ハルヒ、鍵を閉めてくれ」

ハルヒ「何でよ?」

キョン「外部の人間には聞かれたくないことなんだよ」

ハルヒ「そう。わかったわ」ガチャガチャ

キョン「ありがとよ。長門、頼むな」

長門「……」

キョン(長門は小さく頷き、本を置いて、ゆっくりと立ち上がった)

ハルヒ「な、なによ、あんた」

長門「……私は宇宙人」

ハルヒ「へ……?」

キョン(予想外の台詞に目を丸くしているハルヒも実に愛らしい)

長門「私は宇宙人」

ハルヒ「ホントに!? じゃあ、あれよ!! あれ!! ユーフォーを呼んでみなさいよ!! ほらはやく!!」

キョン(どういう教育を受ければ、こんなに無垢な女の子になるんだろうか。うちの妹も小5にしてまだサンタを信じているが、流石に『私は宇宙人』という人間は疑ってかかるはずだ)

ハルヒ「ゆーえふおー! ゆーえふおー!!」

キョン(鳴りやまぬハルヒのUFOコール。完全に舞い上がっていらっしゃる)

長門「残念ながら、それはできない」

ハルヒ「なんでよ。宇宙人なんでしょ」

長門「確かに私は宇宙人。対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。それが私」

ハルヒ「対有機生命体って、人間のこと?」

長門「人間だけではない。地球上の生物、全てに対して」

ハルヒ「宇宙人でも犬派とか猫派とかあるわけ?」

長門「私は猫派」

ハルヒ「そうなの? 私は従順な犬のほうが好きだけど。ま、宇宙人とは思想や文化が違うから仕方ないわね」

キョン(この二人の会話は脱線しているのかしていないのか、よくわからない。ただ、一つだけはっきりしているのは……)

ハルヒ「とりあえず、貴女が生命体を調査するために地球に派遣された宇宙人ということは分かったわ。それも末端でユーフォーを呼ぶ権限もないのね」

長門「そう。……座って。お茶、淹れる」

キョン(とても生き生きしているということだ。この二人は親友になれるな、絶対)

長門「どうぞ」

ハルヒ「ありがとう。ん? これ、高級なお茶じゃないの?」

キョン「そうなのか?」

ハルヒ「うん。お母さんがたまに買ってくるのと同じ香りがするから、間違いないわ。一杯で数百円するほどのお茶よ」

キョン「そんなものを昨日も出してくれたのか」

長門「そう」

キョン「なんでまた」

長門「私の話を、信じてくれたから」

キョン(長門は視線を逸らしながら、そう言う。そりゃ普通は信じないだろう。設定であることを認めちまってるわけだしな)

ハルヒ「信じるに決まってるじゃない!! そんなウソをつく理由が長門さんにはないもの!!」

長門「……有希」

ハルヒ「え?」

長門「……有希でいい」

ハルヒ「そう? じゃあ、有希! 宇宙人は地球を侵略する気とはあるわけ?」

長門「ない。むしろ、友達になりたい」

ハルヒ「いいの!? ホントにいいわけ!?」

長門「構わない。私という個体もそれを望んでいる」

ハルヒ「キョン!!!」

キョン「どうした?」

ハルヒ「ありがとう!! あんたが文芸部に誘った理由はこれだったのね!!!」

キョン「そうだ」

ハルヒ「最高よ!! キョン!!」

キョン(今にも抱きついてきそうな勢いだったが、現実はそこまで甘くなかった。ハルヒに抱きつかれたら、どうなるかわからん)

長門「これからも、よかったら」

ハルヒ「ええ。ここに来るわ。あたし、ちゃんと入部届を出しておいたからね」

長門「……ありがとう」

ハルヒ「やったわ。これで宇宙人が攻めてくる説は完全に論破してやったわよ!! みたか!! 世界の愚かな考古学者ども!!!」

ハルヒ「ここにいる有希があたしの友達になったことで、あんたたちの説は根本から崩壊したわ!!」

長門「おめでとう」

キョン(誰にも伝わらないがしたり顔でハルヒは力説する。ケータイでムービーでも撮っておきたかったぜ。ちくしょう)

ハルヒ「人類は生き残る可能性が上がったわね!!」

キョン(傍から見てると真正のアホ可愛い女の子が叫んでいるだけだが、ハルヒは至って真面目に地球存亡の危機を乗り切ろうとしている)

キョン(今の力説も自分を安心させるために他ならない。だからこそ、ハルヒのために俺はあと二人ほど連れてこなければならない)

長門「彼から聞いている。まだ未来人と超能力者が残っている」

ハルヒ「そうなのよね。宇宙人が攻めてくることはないっていうのは分かったけど、有希じゃ隕石を止めることはできないでしょ?」

長門「かなり困難」

ハルヒ「よね。せめて未来人がいれば、そのあたりのことが聞けるのに……」

長門「未来人」

キョン「そうだ。すっかり忘れてたぜ。会いに行こうと思ってたんだよな」

ハルヒ「誰によ」

キョン「宇宙人の長門が教えてくれたんだ。未来人っぽい奴がいるってな」

ハルヒ「なんですって!? どこにいるのよ!! 今すぐ会いにいくわよ!!」

キョン「未来人はどうやら書道部に所属しているみたいだ」

ハルヒ「書道部に? 未来人からしたら現代文字は象形文字みたいなものだろうし、古代語の勉強かしら」

長門「……こっち」

キョン(昨日と同様に俺とハルヒは長門の後を追い、書道部の部室前にやってきた。どうやら今日は部活動をしているようだ)

長門「あれ」プルプル

ハルヒ「朝比奈みくる。二年生なのね。先輩じゃないの」

長門「そう」

ハルヒ「みくる……。そうか、みくるは『未来』とも書ける。そういうことね、有希!!」

長門「そうっ」

キョン(長門が嬉しそうに首を縦に振った。ここまで見事に同調してくれる者がいたこと自体、長門にとっては感無量なのかもしれないな)

ハルヒ「よし、未来人に会いに行くわよ」

キョン「いいのか、ハルヒ? 未来のことを聞いちまうと未来が変わるかもしれないぞ」

ハルヒ「そこは、あれよ、濁すから大丈夫」

キョン(まぁ、ハルヒの中では未来が変わらない術でもあるのだろう)

ハルヒ「うーん、誰が朝比奈さんかしら」

長門「不明」

ハルヒ「むぅ……。みんな真剣に書道やってるし、声をかけにくいわね……」

キョン(尻込みするハルヒと長門を眺めることが許された俺は、きっと世界で三番目ぐらいに幸せ者だ)

鶴屋「やぁやぁ!! 少年少女たち!! 見学っかい!?」

ハルヒ「なぁ……!?」

長門「……」ササッ

キョン(突然の声にハルヒは体を強張らせ、長門は俺を盾にして隠れてしまった)

キョン「すみません。朝比奈さんって人に用があるんです」

鶴屋「みくるに? なんで?」

キョン「それは……」

キョン(正直に話してどうなるか。門前払いされるのがオチだろうな)

ハルヒ「ちょっと確かめたいことがあって」

鶴屋「なにさ?」

ハルヒ「朝比奈みくるのみくるは『未来』と書くんじゃないの?」

鶴屋「そこに気が付くとは、ただものじゃないね」

キョン(どういうことだ? まさか、本当に未来人……なわけないか)

ハルヒ「やっぱり、未来人なの……?」

長門「予想が的中した」

朝比奈「鶴屋さぁーん。どうしたんですかぁー?」

キョン(舌足らずなエンジェルボイスが聞こえてきた。声がしたほうへ目を向けると、そこには……)

朝比奈「もしかして入部希望の人ですか?」

キョン(すごい美少女がそこにいた。ハルヒと長門に負けず劣らず。しかし、一番目を引くのは……やはり……)

鶴屋「この子たちがさぁ、みくるのみくるは『未来』なのって言ってきたっさ」

朝比奈「わぁ、すごい。よくわかりましたね。実はそうなんです。みくるのみくるは『未来』のみくるなんですよ」

ハルヒ「つまり、未来と何か繋がりがあるわけ?」

朝比奈「えっと、わたしの名前はみくるなので、未来とは深いつながりがあることになっちゃいますね」

長門「未来の人?」

朝比奈「はいっ。みくるの人って言われたら、それはわたしのことです」

ハルヒ「決まりね」

長門「決定」

鶴屋「お! うれしいっさ」

朝比奈「いいの? じゃ、入部届を用意しますね。ちょっと待っててくださぁい」

キョン(この人は天然っぽいなとふと思った)

朝比奈「はい、これ」

キョン「すみません。俺たち、文芸部員でして、入部する意志はないんです」

朝比奈「へ?」

キョン「朝比奈さんに会いたかっただけで」

朝比奈「そ、そんな……いきなりいわれても……こまりますぅ……」

キョン(美少女がモジモジし始めた。ハルヒとはまた違った愛くるしさだな。北高にこんな人がいたとは)

鶴屋「ちょっとまつっさ。少年。みくるをナンパするなら、このあたしを倒してからにしてもらうよん」

キョン「ナ、ナンパだなんて!! 違います!!」

朝比奈「違うんですか……?」

キョン(なんでガッカリしてるんですか、あなたは!?)

ハルヒ「やっぱり、胸が大きいほうがいいのかしら」

長門「……」

キョン(後ろの二人もなんか落ち込んでるぞ!?)

鶴屋「ナンパ以外で今の台詞を吐く理由を教えてほしいもんさね」

キョン「ええと、言いにくいことなんですけど、とにかくナンパとかそういう不純な動機で会いにきたわけじゃないですから」

鶴屋「それで納得しろってほうが無理だって」

キョン(それもそうか。しかし、どう説明したものか)

朝比奈「まぁまぁ、鶴屋さん。そこまで言わなくてもいいじゃないですか」

鶴屋「そう? みくるがそういうならいっけどね」

朝比奈「ごめんなさい。わたしなんかに会いに来てくれてありがとう。きっと何か深い事情があったんでしょう?」

キョン「え、ええ。まぁ」

朝比奈「納得できました?」

キョン(それはどうなんだろうな。実際のところはハルヒに聞いてみないことにはなんとも言えないが……)

キョン「十分です。すみません、突然押しかけて」

朝比奈「いいんですよ。でも、今度来るときは事前に言ってくれると助かります」

キョン「事前にってケータイの番号でも教えてくれるんですか?」

朝比奈「それは、禁則事項ですっ」

キョン(口元に人差し指を当て、片目を閉じた。そのしぐさに、一瞬だけ魅入ってしまった)

鶴屋「いやいや、みくるはこの前ケータイを落として自分で踏んづけて壊しちゃっただけにょろ」

朝比奈「もー! いわないでー!!」

鶴屋「あっはっはっは」

朝比奈「初対面の人に恥ずかしい話をしないでー!!」

キョン(朝比奈さんは鶴屋さんの胸をポカポカと叩く。その光景に俺はにやけてしまった)

鶴屋「で、こっちはそろそろ部活動に戻りたいんだけど、まだなんかある?」

キョン「いえ、ないです。邪魔してすみません」

鶴屋「それじゃ、また会おう。少年少女諸君!!」

朝比奈「あの! わたしがケータイをふんじゃったのは誰にも言わないでくださいね!」

キョン「言いませんよ」

朝比奈「約束です!」

キョン「はい」

朝比奈「ふぅー。よかった。良い人で。それでは」

キョン(先輩なのに年下にしか見えない容姿と言動。北高はレベルが高いな)

キョン「さて、部室にもどる――」

ハルヒ「むー」

キョン(振り返るとそこには両頬を膨らませ不機嫌であることを猛烈にアピールする美人がいた。いまどき、そんなことをするのは宇宙を探してもハルヒぐらいだろう)

キョン(部室に戻ってくると、何を思ったのかハルヒが机の上に座り、胡坐をかいた)

ハルヒ「むぅー」

キョン(依然として左右の頬は膨らんでいる。とりあえずケータイで写真をとっておこう)

ハルヒ「事件だわ」

キョン「事件? 何かあったのか」

ハルヒ「みくるちゃんよ。みくるちゃん。あんなに胸が大きい先輩がいるなんて思わなかったわ。しかも顔だってすっごく可愛いし。なによ、反則じゃない」

キョン(こいつの家には鏡がないのだろうか。今度、プレゼントしてやろう。というか、先輩をちゃん付けで呼ぶか)

ハルヒ「キョンはずーっとみくるちゃんのおっぱいばっかり見てたし」

キョン「みてねーよ!!」

ハルヒ「見てたわよね、有希?」

長門「見ていた」

キョン(長門さん? 怒っているのか?)

ハルヒ「まぁ、男だし、仕方ないわよね。別にそこはいいのよ」

キョン(どうやらハルヒの中で俺に対する好感度が下がったようだな。どこで下がった好感度を上げることができるだろうか)

ハルヒ「問題はみくるちゃんが本当に未来人かどうかってところよ。ほぼ未来人だとは思うけど、まだ確証を得てないのよね」

キョン(そもそも未来人的な要素が何一つなかった気がするが)

長門「朝比奈、みくる。書き換えると、朝比奈、未来」

ハルヒ「そう!! そこよ!! 未来人なのは決定と言ってもいいわ!! でも、もしかしたら、違うかもしれない」

キョン(絶対に違うと思う)

ハルヒ「けど、これ以上探りを入れると感づかれる危険性もあるし、なにより未来が変わってしまうかもしれない」

長門「時間軸に影響が出てしまう行動は非常に危険」

ハルヒ「それぐらいは分かってるわ。タイムスリップやタイムリープ、時間跳躍にはそれ相応の覚悟と責任が付き纏うものなのよ!!」

長門「確かに」

キョン(この二人を眺めているだけで、俺はこの世界に生まれたことを神に感謝したい気分になる)

ハルヒ「どうしたらいいと思う?」

長門「朝比奈みくるを尾行し、決定的瞬間を目撃するのが最も最良の手」

ハルヒ「それよ!! それしかないわ!!」

長門「ない」

ハルヒ「よぉーし。みくるちゃんを尾行して未来人たる瞬間をこの目で見るわよ!!」

キョン(カメラなどで証拠を押さえようとしないところがハルヒらしいね。そんな奴だから、俺も好きになったんだろう)

キョン(と、まぁ、ハルヒと長門が綿密な尾行計画を練っている隙に俺はトイレに行くふりをして部室を離れた)

キョン(目的地は書道部の部室だ)

キョン「すみません」

鶴屋「いらっしゃい。って、たった20分前に会ったばかりっさ」

キョン「今度こそ、朝比奈さんに用事があるんです」

鶴屋「ナンパじゃなくて?」

キョン「はい」

鶴屋「いいよん。ちょろんと待ってて」

キョン(鶴屋さんは中々いい先輩っぽいな)

朝比奈「あ、どうしたんですか?」

キョン「朝比奈さん、少し時間をもらえませんか?」

朝比奈「いいですけど、まだ外は明るいし……家には親が……」

キョン「い、いえ、すぐそこで構いませんから!!」

朝比奈「そうなんですか」

キョン(こんな発言をよくするなら男は勘違いするな。鶴屋さんが過剰に守ろうとするのも頷ける)

朝比奈「なんでしょう?」

キョン「朝比奈さん。ハルヒのために未来人になってもらえませんか?」

朝比奈「へぇ?」

キョン(気の抜けきった驚愕の声。あっけにとられた朝比奈さんは瞬きを繰り返す)

キョン「実はですね――」

キョン(俺はハルヒのこと、長門のこと、そして朝比奈さんにしてほしいことを説明した。ハルヒと長門が尾行計画を立てた所為で前倒しになったが、俺は最初からこうするつもりだった)

朝比奈「えーと、つまり、わたしが未来と交信したら、いいんですか?」

キョン「そうです。やってもらえませんか?」

朝比奈「どうやれば、そんなことができるんですか? やったことがないので、わからないです」

キョン「実際にやるわけじゃありません。フリだけでいいんですよ」

朝比奈「フリ……?」

キョン「例えば、映画とかでよくあるシーンを再現するとかでもいいんです」

朝比奈「今日は帰りたくないなぁ……とか?」

キョン(どういう映画の話だろうか。気にはなるが、また別の機会にするか)

朝比奈「違いますか? それなら、わたしを暖めて……とかですか?」

キョン「そういうことではなくてですね」

鶴屋「おーい、みっくるー。そろそろかえろー」

朝比奈「はぁーい」

キョン「あ、待ってください。朝比奈さん。未来人のフリをするのは、今日でなきゃいけないんです」

朝比奈「そんなこと急に言われても……」

キョン(当然の反応ではある。俺が朝比奈さんの立場なら同じようなセリフを言っているに違いない)

鶴屋「なんの話してたのー?」

朝比奈「それが、わたしに未来人になってほしいらしくて」

鶴屋「未来人? どういうことにょろ?」

朝比奈「映画のワンシーンを再現してほしいみたいです」

鶴屋「先週見たやつかい?」

キョン「それはどういうシーンなんですか?」

鶴屋「……今日は帰さないぜ」ドンッ

朝比奈「抱いてっ」

キョン(鶴屋さんが朝比奈さんを壁に追い詰めるまでは分かるが、朝比奈さんの台詞はどういうことなのか。そもそも何故、そのような映画を二人で見たのか。疑問はつきない)

鶴屋「どうにも気になる年頃ってやつだね。んじゃ、耳よりの情報を教えちゃう。みくるってさぁ、まだ男子と二人きりで歩いたことすらないんだよねー」

朝比奈「いわないでー! つるやさぁーん!!」

キョン「甚だ意外ですね。朝比奈さんなら世の男どもが黙っていないでしょう」

鶴屋「そういう不逞の輩はあたしがギッタンギッタンにしてきたにょろ」

キョン(さらりと恐ろしいことをいうな。鶴屋先輩)

鶴屋「みくるは昔っから、ホイホイ誰にでもついていく子でさ。あたしが見てないとどこに行くかわかんないだ」

キョン「鶴屋さんと朝比奈さんは幼馴染かなにかですか」

鶴屋「そっだね。もう10年以上の付き合いかなぁ」

朝比奈「付き合いだなんて……恥ずかしい……」

鶴屋「ちょっと、耳かして」

キョン「なんです?」

鶴屋「(みくるはさ、あたしが過保護すぎた所為でちょろんと妄想が激しいところがあるんだよね。すぐにえっちなことを考えるし)」

キョン(興味深い話だが、表情には出さないようにしよう)

鶴屋「(男子に声をかけられるだけで、すぐに色んな妄想しちゃって、もうめがっさ大変)」

キョン(確かに大変だ。朝比奈さんは男子に声をかけられた時点で、終点まで妄想していることになる。そんな毎日では鶴屋さんだって気が気ではないだろう)

鶴屋「(あたしも早いところみくるの過保護はやめたいんだけど、みくるがこのままだと、不安で不安でたまんないっさ)」

キョン「(そんな大事な話を男子の俺にしていいんですか?)」

鶴屋「(君なら信頼できそうだからね)」

キョン「(どういうことです?)」

キョン(今日初めて会った人にそんなことを言われたのは生まれて初めてだ。鶴屋さんに何かしたか、俺)

鶴屋「(ふふん。まぁ、そこは気にしなくてもいいっさ)」

キョン(非常に気になる)

鶴屋「(でさ、物は相談なんだけど、みくること頼めるかい?)」

キョン「(頼むって?)」

鶴屋「(みくるの妄想を止められるのは、男の子しかいない。そうあたしは思ってる)」

キョン(嫌な予感がする)

鶴屋「(少年はみくるに協力してほしい、でも、みくるは少年の意図を理解していない。違うかい?)」

キョン「(その通りです)」

鶴屋「(だったら、あたしが手助けしてあげるって。だ、か、ら)」

キョン(とても艶っぽく「だから」と言われ、俺は固唾を飲んだ。何を要求するつもりなんだ、この八重歯がキュートな先輩は。ポニーテールにしてほしいぜ)

鶴屋「んじゃ、そういうわけで、よろしくぅー!」

キョン「は、はぁ」

朝比奈「鶴屋さん、もしかしてあの人とお付き合いするの?」

鶴屋「まさかぁ。あたし、男の子には興味ないからね」

朝比奈「そうなんだぁ」

キョン(他愛もない会話をし始めた二人の背中を眺めつつ、俺は今言われたことを反芻していた)

キョン(鶴屋さんは協力の条件として、こう言ってきた)

鶴屋『みくるとしばらくの間、一緒に遊んであげてほしいにょろ。勿論、みくるに手を出したら、鶴屋パンチが飛んでくるけどねっ』

キョン(一緒に遊ぶとはどういうことだろうか。あの鶴屋さんが俺と朝比奈さんをくっつけさせようと考えているわけがないから、ハルヒと長門込みでの話になる)

キョン「一緒に遊ぶ、か」

キョン(思いつくのは朝比奈さんを文芸部に引き込み、放課後にダラダラと時間を消費することぐらいだが、それでいいのか)

キョン(鶴屋さんが俺に何を求めているのか、よくわからない。しかし、協力してくれると言ってくれた以上は、鶴屋さんに応えなくてはいけない)

キョン(まぁ、遊んでほしいとしか言われていないし、適当に遊べばいいんだろう)

キョン(などと無理矢理に結論を出し、俺は文芸部室へと戻ることにした)

キョン(朝比奈さんのことはあとで考えよう。今、やるべきはハルヒを安心させることだしな)

訂正
>>93
キョン(鶴屋さんが俺に何を求めているのか、よくわからない。しかし、協力してくれると言ってくれた以上は、鶴屋さんに応えなくてはいけない)

キョン(鶴屋さんが俺に何を求めているのか、よくわからない。しかし、協力すると言ってくれた以上は、鶴屋さんに応えなくてはいけない)

キョン(部室の扉を開けると)

ハルヒ「遅い!! 罰金!!」

キョン(ハルヒが開口一番そんなことを言ってきたので、サイフを出した)

キョン「いくらだ?」

ハルヒ「ちょ、う、嘘よ。うそ。あんた真面目なの? バカじゃないの」

キョン(焦るハルヒ。可愛いな)

ハルヒ「今からみくるちゃんの尾行をするわよ!!」

長門「了解」

キョン「なら、急いだほうがいいぞ。もう書道部は終わってたみたいだしな」

ハルヒ「なんですって!! そういうことなら駆け足よ!!」

長門「駆け足」

ハルヒ「尾行開始!!」

長門「おー」

キョン(大声を出しながら尾行するなんてな。今回の尾行は確実に成功するからいいが)

キョン「俺も急ぐか」

ハルヒ「見つけたわ。校門のところにいるわよ」

長門「間違いない。あの個体は朝比奈みくる本人」

キョン(手筈通り、鶴屋さんと朝比奈さんは校門のところで談笑している)

鶴屋「でさぁ、それがもうちょーおもしろくって」

朝比奈「へぇー、そうなんだぁ」

ハルヒ「みくるちゃんは鶴屋さんと話中ね」

長門「その可能性は高い」

ハルヒ「観察よ、有希。じっと観察するのよ。それが尾行の基本だからね」

長門「了解」

キョン(仲良いなぁ、この二人。波長がぴったりあってるんだろうな)

鶴屋「……」チラッ

キョン(鶴屋さんが俺しか気づけないようにさりげない目くばせをした。あの人、何者だ。雰囲気からしてできる人って感じだが)

鶴屋「長話になっちゃったね。そろそろいこっか」

朝比奈「そうですね」

ハルヒ「ターゲットが動くわ! あたしたちも行きましょう!」

鶴屋「いやぁー、まいっちゃったよぉ。それがもう辛いのなんのって」

朝比奈「ひぇぇ……怖いぃ……」

ハルヒ「あたしたちの尾行は完璧ね。全然、バレてないわ」

長門「足跡の音量は0に等しい。人間の聴覚では私たちの足音を捉えることはまず不可能」

キョン(対象者と俺たちの距離は約10メートル。耳を澄ませば会話すら聞こえる距離ではないかと思うが、俺は黙っている)

鶴屋「そだ。みくる、そろそろあの時間じゃない?」

朝比奈「あの時間って?」

鶴屋「ほら、あれさ。未来通信の時間」

朝比奈「なんですか、それ?」

鶴屋「あたしに隠し事はなし。これで未来と通信しなきゃね。上司に怒られるにょろ」

朝比奈「上司……?」

鶴屋「上司は、未来のみくるだけどね」

朝比奈「そうなの?」

ハルヒ「聞いた!? ねえ、キョン!! 今の聞いたでしょ!?」

キョン(上司が未来の自分か。SFモノの設定としては割と面白いな)

朝比奈「え? もしかして――」

鶴屋「みくる、こっちを見る」グイッ

朝比奈「ふぎゅ」

キョン(ナイス、鶴屋さん。こちらを向こうとした朝比奈さんを無理矢理自分に向けさせるとは)

鶴屋「いいかい、みくる。みくるはねぇ、未来人なんだよ。記憶を失ってるけどね」

朝比奈「えぇぇ!?」

鶴屋「でね、みくるは明日から文芸部に顔を出さないといけない。そうしないと未来が変わってしまうっさ」

朝比奈「どうしてぇ?」

鶴屋「あの少年も言ってたはず。未来と交信してほしいってね」

朝比奈「それはそうですけど、わたし、そんなことできないし……」

鶴屋「彼はね、未来のみくるの部下。みくるを助けるために現代にやってきたわけさ」

朝比奈「あの人が!?」

鶴屋「あたしを見る」グイッ

朝比奈「ぐぇ」

キョン(設定がどんどん濃くなってきたな)

鶴屋「まずは、通信っさ。未来の自分と話してみればわかるから」

朝比奈「わ、わかりました。この携帯電話で通話できるんですね」

鶴屋「番号は既に入力してあるから、話してみて」

朝比奈「はい!! もしもし!! 未来のわたし!! 過去のわたしです!!」

鶴屋「……」チラッ

キョン(濃すぎる設定に感謝します、鶴屋さん)

キョン(さて、ハルヒはどういう反応を示しているのか)

ハルヒ「……確証は得たわ。帰りましょう」

長門「捕獲は?」

ハルヒ「いいのよ。みくるちゃんは未来の自分と会話した。未来でも人類は死滅せずに歴史は続いている証拠よ」

ハルヒ「地球は滅亡なんて、しないのよ」

長門「理に適っている」

ハルヒ「そして、キョン……」

キョン「なんだ?」

ハルヒ「ううん。あたしに話してくれないのはきっと未来に影響が出るからなんでしょ。わかってるわ。だから、あたしも何も聞かない。安心して」

キョン(なんでハルヒは切なげな表情を見せるんだ?)

ハルヒ「大丈夫よ。あたしは何も聞かなかったことにする。このことも墓までもっていくから」

キョン(そうか。鶴屋さんの設定では俺が未来人になってしまっているからか)

ハルヒ「……それじゃ」

長門「……」テテテッ

キョン(ハルヒはそのまま踵を返し、遠ざかっていく。長門は小走りでハルヒを追って行ってしまった)

キョン(どうすっかなぁ。俺が未来人ってことでハルヒが一線を引かないか不安だ)

鶴屋「どうだい。うまくいったかい?」

キョン「ええ。バッチリですよ。ありがとうございます」

鶴屋「んじゃ、明日からはみくるのことよろしくねー、キョンくんっ」

キョン(鶴屋さんまでそのあだ名で呼ぶのですか)

朝比奈「わかりました!!」

鶴屋「みくる、未来のことはわかったかい?」

朝比奈「うんっ。明日の降水確率は10%だっていってます!」

キョン(さて、明日にでもハルヒに聞いてみるから。安心はできたか、と)

訂正
>>104
キョン(さて、明日にでもハルヒに聞いてみるから。安心はできたか、と)→キョン(さて、明日にでもハルヒに聞いてみるか。安心はできたか、と)

キョン(翌朝は不安と期待が入り混じっていた。鶴屋さんの設定で、俺が未来人になり、あのハルヒはそれを真に受けてしまっている)

キョン(俺と朝比奈さんが未来人であることで未来の地球は約束されたも同然であるが、ハルヒが俺との接触を極力さけるようになるかもしれない)

キョン(あのハルヒのことだ。未来が変わる可能性を考え、そういう行動に出てもおかしくない)

キョン「おはよう、ハルヒ」

ハルヒ「おはよう」

キョン(普通に挨拶はしてくれるようだ)

キョン「で、もう不安はないだろ?」

ハルヒ「……」

キョン「ハルヒ?」

ハルヒ「ごめん。もうあたしに話しかけないで。それがお互いのためだと思うし」

キョン(やっぱり、こうなったか。恐れていた自体が起こってしまった)

ハルヒ「ノートとか宿題ぐらいは見せてあげるけど、それ以外ではもう関わらないようにしましょう」

キョン(ハルヒに嫌われたわけではないが、これはかなりショックだぞ)

谷口「……」

キョン(谷口の野郎が手招きしてやがる。何を言われるかは大体想像がつくが、ここは従っておくか)

谷口「まぁ、もったほうだ。よくがんばったな、キョン」

キョン(谷口の口元が綻んでいた。嫌な仲間意識を持たれている)

キョン「何の話だ」

谷口「涼宮のことにきまってんだろ。どうやら、フラれちまったみたいだな」

キョン「そういうわけでは断じてない」

谷口「諦めろ。ああなった涼宮をもう一度振り向かせるのは不可能だ」

キョン(事が事だけに、事態の修復にはかなりの時間が必要になってきそうだな)

谷口「女なんて星の数ほどいるんだ。涼宮のことは縁がなかったと思えばいい」

キョン(なんか腹が立つな)

朝倉「ちょっといい?」

キョン「朝倉?」

キョン(我らが委員長がなにやら神妙な面持ちで話しかけてきた)

谷口「キョンは今傷心中なんだ。そっとしておいてくれ」

キョン「お前な……」

朝倉「そういうわけにもいかないのよ。こっちにきてくれる?」

キョン(朝倉は屋上に階段の踊り場まで俺を誘った。人に聞かれたくない話でもするのか)

朝倉「……涼宮さんとは上手くいってないの?」

キョン「上手くいってないっていうのは、どういう意味だ」

朝倉「付き合ってるんでしょ?」

キョン「それはない」

キョン(そんな都合よく世界はできていない)

朝倉「そうなんだ。でも、それだと困るなぁ」

キョン「何故、朝倉が困るんだ」

朝倉「また涼宮さんが孤立しちゃうでしょ。すごく明るくなってきてたのに。前の状態に戻られたら困るわ。委員長として」

キョン(委員長として困るのは分かるが、それを言うために人気のない場所を選んだのか?)

キョン「俺だって同じだ。折角、仲良くなれたっていうのに、このままハルヒに無視されるのは面白くない」

朝倉「涼宮さんのこと、やっぱり好きなの?」

キョン「正直なことを言えば、好きだな」

キョン(とんでもない爆弾発言をしてしまったが、朝倉は面白がって他言したりはしないだろう)

朝倉「ふぅん。やっぱりね。でも、それを正直に言うなんて、男らしいじゃない。そういうの素敵だと思うわ」

キョン「ありがとよ」

朝倉「未来人は見つかったの?」

キョン「一応な。本人にその自覚はまだなさそうだが」

朝倉「超能力者は?」

キョン「そいつは見つかってないな」

朝倉「そう。なら、私が探しておいてあげる」

キョン「何か知ってるのか? 超能力者育成機関とかを」

朝倉「違うわ。まぁ、色々と探ってみるつもり。それじゃ」

キョン「教室に戻るなら一緒に――」

朝倉「私はお手洗いに用があるんだけど? 一緒にする?」

キョン「すまん!!」

朝倉「よかった。殺さずにすんで」

キョン(朝倉ってこんな奴だったのか。あまり怒らせたくないタイプだな)

キョン「ところで、何故そこまで助けてくれるんだ? ハルヒのことが心配だからか?」

朝倉「私には私の考えがあるだけ。貴方はただ、涼宮さんと仲良くしていればいいの。じゃあね」

キョン(朝倉の発言とハルヒの態度にもやもやしながら放課後を迎えた)

キョン(結局、ハルヒとは殆ど会話ができなかった。悲しい。何のために学校にきているのかわからなくなりそうだぜ)

キョン(そのまま素直に下校してもよかったのだが、俺は今や文芸部である。そして、もしかしたらハルヒも部室には顔を出すかもしれないと思い、足を向けた)

キョン「おす、長門」

長門「……」

キョン(扉を開けると既に長門が定位置で読書をしていた。が、すぐに本を閉じ、立ち上がった)

長門「……お茶、いれる」

キョン「安いのでいいぞ。俺の舌は贅沢なお茶をありがたみなんてわからないからな」

長門「わかった」

キョン(と言いつつも、なんとも高級そうな茶筒を棚から出してくる。気を遣われているのだろうか)

長門「……飲んで」

キョン「いただきます」

キョン(やっぱりうまい。スーパーなどで市販品では味わえないものだ)

キョン「美味しい。サンキュ、長門」

長門「……おかわり、あるから」

>>121
キョン「安いのでいいぞ。俺の舌は贅沢なお茶をありがたみなんてわからないからな」

キョン「安いのでいいぞ。俺の舌は贅沢なお茶のありがたみなんてわからないからな」

キョン「別にここまですることないんだぞ。俺たちは既に部活の仲間だろ? 気を遣わなくてもいい」

長門「……」

キョン(長門の双眸が戸惑いを表すように泳いだ)

キョン「俺もハルヒも文芸部員だ。そうだろ?」

長門「……ごめんなさい」

キョン(なんで謝る?)

長門「……貴方は、文芸部員ではない」

キョン「え? どういうことだ?」

長門「入部する気はないと、貴方は発言した。だから、入部届は提出していない」

キョン「ちょっと待て。なら、どうして俺に入部届を書かせたんだ?」

長門「……」

キョン(長門は俯いてしまった。確かに入部するつもりはなかった。だが、あれだけ勧誘されては気持ちも変わる)

キョン「俺は納得して入部を決めた。それにこのままじゃ文芸部は廃部になっちまうんじゃないのか?」

長門「そう」

キョン「部員、欲しかったんじゃないのか?」

長門「欲しい。最低でも5人は必要」

キョン「だったら……」

長門「……」

キョン(言いにくそうだな。これ以上の追及はやめておくか)

キョン「俺の入部届はお前に預けておく。好きなようにしてくれ」

長門「……いいの?」

キョン「いいぜ。長門が部長だろ? 俺は入部試験をパスできなかったと思うことにする」

長門「……あとで、提出する」

キョン「そうか?」

長門「貴方は、必要だから」

キョン「それは嬉しいね」

長門「……飲んで」スッ

キョン「まだ、残ってる」

朝比奈「あのぉ……ここが、文芸部でいいんですかぁ……」

キョン(この声は確認するまでもない。朝比奈さんである。しかし、振り返るとそこにはすごい美少女のメイドさんがいた)

朝比奈「わぁ、キョンくん。こんにちは」

キョン「あ、えと、朝比奈、さん?」

朝比奈「はい。朝比奈みくるです。気軽にみくるちゃんとお呼びください」

長門「……」

キョン(長門もUMAを見たかのような顔をしている。いきなりメイドさんが入ってきてらそりゃ驚く)

キョン「なんですか、その恰好は」

朝比奈「今日からここでお世話になるように鶴屋さんに言われたので、着てきました」

キョン(文脈がつながっているのかいないのか。主語と述語がどうにも噛み合っていない気がする)

朝比奈「お世話になるなら、これぐらいの恰好はしていったほうがいいと鶴屋さんがいうので着てきましたけど、変ですか?」

キョン「い、いえ。変ではないですよ。とてもよく似合っています」

朝比奈「よかったぁ。あの、それで、これからどうするんですか? この格好のまま、外に出かけたりとかするんでしょうか」

キョン「そんなことしませんよ。朝比奈さんだって恥ずかしいでしょう」

朝比奈「そうですか……」

キョン(何故、落ち込むのですか)

朝比奈「では、折角ですからメイドさんらしいことをしてみますね」

キョン(鶴屋さん曰く暴走する妄想機関車である朝比奈さんが考えるメイドさんらしいこととは、どんなことなのだろうか)

キョン(長門には見せられないようなことならば、力づくでも止めなければならないぞ)

朝比奈「あった。これ、お借りしますね」

長門「構わない」

キョン(朝比奈さんはお茶を入れている。あれはスーパーなどでよく見る安いティーパックだ)

朝比奈「できました。はい、どうぞ」

キョン「ありがとうございます」

朝比奈「はい、えーと……」

長門「長門有希」

朝比奈「はい、長門さん」

長門「感謝する」

キョン(給仕するだけか。よかった。歪んだ認識をしていなくて)

朝比奈「キョンくん、熱くない? フーフーしたほうがいい?」

キョン「え? そんなことしてくれるんですか?」

朝比奈「メイドさんですからっ」

朝比奈「ふー、ふー」

キョン(この状況は何なのか。メイド喫茶に行けばこういうことが味わえるのか)

朝比奈「はい、キョンくん」

キョン「どうも」

キョン(一口飲んでみる。なんとも言えない気分だ。気恥しい)

朝比奈「美味しいですか?」

キョン「ええ、美味しいです」

朝比奈「うれしい」

キョン(にっこりと笑う美少女。こんなにも可憐な人が、脳内では色々なことを考えているのか。世の中は不思議なことだらけだな)

長門「……飲んで」

キョン(長門が急に高級なお茶を横から差し出してきた)

長門「ふーふーする。だから、飲んで」

キョン「そ、そうか? なら、もらうか」

朝比奈「どうしたんですか、長門さん?」

キョン(その後、長門が淹れてくれたお茶を合計6杯飲むことになった。6杯目を飲み切ったときには既に5時を過ぎていた。……この日、ハルヒは姿を現さなかった)

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「……」プイッ

キョン(週が明けてもハルヒの態度は悪化していた)

キョン「どうして先週は部室にこなかったんだ?」

ハルヒ「……」

キョン(ハルヒはそっぽを向いたままだ。どうやら無視すると決め込んでいるようである)

キョン「長門も待ってたし、朝比奈さんだって来たんだぜ?」

ハルヒ「……」

キョン「おい、聞こえてるだろ」

ハルヒ「やめて」

キョン(強烈な拒絶が突き刺さる)

ハルヒ「……未来が変わっちゃうわ」

キョン(このままでは卒業までハルヒに避けられちまうぞ。どうする……)

ハルヒ「ごめん。キョン」

キョン「ハルヒ、一つだけ聞かせてくれ。もう未来の地球を考えて憂鬱になることはないのか?」

>>128
キョン(週が明けてもハルヒの態度は悪化していた)

キョン(週が明けるとハルヒの態度は悪化していた)

ハルヒ「……」

キョン「この質問に答えても、未来は変わらん」

ハルヒ「人類が死滅しないっていうのはわかったけど、それでもみくるちゃんたちが数少ない生き残りってこともあるでしょ?」

キョン(読めた。朝比奈さんや俺は死の星となった地球にいるのかもしれない、と思っているんだな)

キョン「超能力者がいれば、完璧だよな」

ハルヒ「……」

キョン「この質問に答えても、未来は変わらん」

ハルヒ「そうね。隕石をポイッてできる人がいれば心から安堵できるわね」

キョン「任せろ。絶対に見つけてきてやるよ。超能力者ってやつをな」

ハルヒ「宇宙人も未来人もいたのに、流石に超能力者なんていないわよ。常識で考えなさいよ」

キョン「常識だと? お前は既にいくつ非常識を目の当たりにしてるんだ?」

ハルヒ「都合よく、超能力者が現れると思ってるわけ?」

キョン「当然だ。都合よくあらわれるわけがないだろ。だから、探すんだよ」

ハルヒ「どうしてそこまでするわけ? 未来が変わっちゃうかもしれないのよ? あんた、未来が変わってもいいわけ? 自分のいた時間に戻れなくなるわよ」

キョン(もしかして俺の心配をしてくれているのか? ハルヒ……お前ってやつは……)

ハルヒ「別にあんたがどうなろうと、知ったことじゃないけどね」

キョン(などと、とってつけたように付け足すハルヒ。だが、時すでに遅し。お前の優しさが五臓六腑に染みわたっていくようだ)

ハルヒ「もういい。好きにしたらいいじゃない。どうせ、あたしには関係のない話だし」

キョン(そう言って、ハルヒは黙り込み、窓の外を眺めはじめた)

キョン(ハルヒの憂いはまだ取れていない。やはり、宇宙人、未来人、超能力者は1セットでなくてはならないようだ)

キョン(となれば、なんとしても探してやる。残る超能力者をな。そして、そいつも文芸部に引きずりこんでやる)

キョン(それで俺とハルヒ、長門、朝比奈さん、超能力者で5人になり、文芸部も存続ができるわけだ)

キョン(一体、どこにいるんだろうね、超能力者様は。今なら、ジュースぐらいはおごってやる。だから、出てこい)

ハルヒ「いいのよ……無理なんてしなくたって……自分の心配をしなさいよね……アホらしい……」

キョン(ハルヒの独り言が耳に届く。こいつの可愛さは天井知らずだな、おい)

キョン(ま、こういうのは惚れたほうの負けなんだよ、ハルヒ。俺はお前のために見つけ出してやる)

キョン(と、心の中で息まいてみせても、超能力者の知り合いがいるわけでもなし。朝倉が探すと言っていたが、探して見つかるような人種でもないわけで)

キョン「どうしたもんか」

キョン(朝倉が何かを掴んでいるかもしれないし、あとで聞いてみるか)

ハルヒ「なんでよりにもよって未来人なのよ……せめて宇宙人なら……よかったのに……」ブツブツ

>>131
キョン(などと、とってつけたように付け足すハルヒ。だが、時すでに遅し。お前の優しさが五臓六腑に染みわたっていくようだ)

キョン(などと、とってつけたように言い足すハルヒ。だが、時すでに遅し。お前の優しさが五臓六腑に染みわたっていくようだ)

キョン(放課後、ハルヒは何も言わずに教室を出て行ってしまった。あの様子だと、今日も文芸部室には来そうにないな)

キョン(そんなことを考えていると、クラス委員長が近づいてきた)

朝倉「まだ涼宮さんとは仲直りできてないのね」

キョン「別にケンカしたわけじゃないけどな」

朝倉「傍から見ていると、そうとしか思えないんだけどなぁ」

キョン(俺とハルヒはそこまで仲良く見えていたのだろうか。素直に嬉しくなる)

朝倉「それはさておき、涼宮さんの機嫌がよくないのは本当のことでしょう」

キョン「ま、そうだな」

朝倉「超能力者を紹介すれば、涼宮さんの機嫌も直るかしら?」

キョン「見つけたのか?」

朝倉「超能力者かどうかは不明だけど、スプーンを曲げることができる人はいるみたいね」

キョン「それは手品の類か?」

キョン(学校中を探せばそうした特技を持つ奴は一人ぐらいいそうだからなぁ)

朝倉「古泉一樹くん。9組にいるんだけど、知ってる?」

キョン「いや、全く。そもそも9組っていったら理数の特進クラスだろ。根っからの文系である俺とは関わりたくても関われん」

朝倉「一応、話をしに行ってみたらどうかしら? もしかしたら超能力者かもしれないわよ」

キョン(超能力者ね。世界的に有名な超能力者も後に「スプーン曲げは手品だった」とタネ明ししていたぐらいだ。本当に超能力とは思えないが)

キョン「行ってみる。助かったぜ、朝倉」

朝倉「いいのよ。涼宮さんと仲良くしてくれないと、困るもの」

キョン(何故だ? 朝倉は何故、ここまで俺とハルヒのことを気にするんだ?)

キョン「朝倉、お前がここまでしてくれるのはお前なりに目的があるからなんだよな?」

朝倉「ええ」

キョン「理由は話してくれないのか?」

朝倉「話せばきっとあなたが意識してしまうから。そうなるとダメなの」

キョン「意識?」

朝倉「気にしなくてもいいわ。貴方を困らせることはしないつもりだし」

キョン「そういわれてもな」

朝倉「じゃあね」

キョン(朝倉はいつもの笑顔で手を振り、去っていった。不思議な奴だが、悪いことを考えている様子はない。と都合よく思ってしまうのは朝倉が美人だからだろうか)

キョン「とりあえず、9組に行ってみるか。まだいればいいがな」

キョン(9組に近づくと女子の黄色い悲鳴が聞こえてきた。コイズミくん、すてきーなどと一人の女子が叫んでいる。どうやら、古泉ってやつはいるみたいだな)

キョン(教室を覗きこむと、5人の女子が一人の男子を取り囲んでいた)

古泉「今日はこれでおしまいにします。また明日」

キョン(微笑を浮かべながら古泉がそういうと、女子が過剰とも思える声量で「ざんねーん」と漏らしている)

キョン(クラスの女子にちやほやされる男子を見て腹を立てない奴はそうそういないだろう。が、今の俺はそこまでいらつかない。これもハルヒと仲良くなったからだろうかね)

キョン「お前が古泉か?」

キョン(教室を出た古泉を呼び止める。相手は驚いた様子もなく振り返り、微笑んだ)

古泉「はい。そうです。貴方は?」

キョン「俺のことはまたあとで説明する。ただ、確かめたいことがあるんだ。お前は、超能力者か?」

古泉「いいえ。違います」

キョン(あっさりと否定しやがった。まぁ、そうだろうが)

古泉「僕は手品師の見習いです。とあるマジシャンばかりを集める機関に所属しているものでして、手品には覚えがあるのですよ」

キョン「機関? 手品一つに大げさな言葉を使うんだな」

古泉「これでも派閥争いも多いのです。手品のタネは商品ですからね」

キョン「わかったようなわからんような。この際、手品でもなんでも構わない。ちょっと協力してほしいことがある」

>>144
キョン(9組に近づくと女子の黄色い悲鳴が聞こえてきた。コイズミくん、すてきーなどと一人の女子が叫んでいる。どうやら、古泉ってやつはいるみたいだな)

キョン(9組に近づくと女子の黄色い歓声が聞こえてきた。コイズミくん、すてきーなどと一人の女子が叫んでいる。どうやら、古泉ってやつはいるみたいだな)

古泉「協力、ですか?」

キョン「ああ。この学校ではお前以外に頼れるやつはいなさそうなんだ」

古泉「そうですね。内容がわかないと何とも言えませんが」

キョン(俺はこれまでのことをできるだけ短く伝えた。馬鹿馬鹿しい話をしていると自分でも思うのだが、古泉はいたって真面目に話を聞いていた。案外、いい奴なのか?)

古泉「なるほど。用件は理解しました。僕がその涼宮さんという人に超能力を見せればいいのですね?」

キョン「そういうことだ」

古泉「申し訳ありませんが、それはできません」

キョン(柔和な顔と声で断られてしまった)

キョン「何故だ?」

古泉「僕は手品師であり、超能力者ではないからです。涼宮さんにスプーン曲げを披露するのは構いませんが、それを超能力と解釈されるのは心外になります」

古泉「スプーン曲げにも先人が生み出した技術が詰まっています。それを超能力の一言で片づけて欲しくはありませんね」

キョン(古泉の言い分も分かる気がする)

古泉「それに終末論を信じているほど純粋な人を騙すなんて、できません」

キョン(何も言えない。俺は今、まさにハルヒを騙している側なのだからな)

古泉「ですので、お断りします。それでは」

キョン(古泉にきっぱりと断られたのはいい。俺はハルヒを騙してご機嫌をとっているだけだと正面から言われてしまったことにショックを受けていた)

キョン(いや。俺はハルヒを助けてやりたかっただけなんだ。騙すつもりなんてなかった。そう言い聞かせるも、古泉の言葉が脳内で反響する)

キョン(気持ちを静めたまま、何も考えずに部室の扉を開けた)

朝比奈「あ……」

キョン「あ……」

キョン(そこには、なんと下着姿の朝比奈さんが!!)

朝比奈「きゃっ。エッチ」

キョン「すみません!!」

キョン(慌てて扉を閉めた。危ない。痴漢にされるところだったぜ)

キョン(しかし、あれだな。エッチで済ませてくれた気がしないでもないが)

朝比奈『もういいですよー』

キョン「ノックもせずにすみませんでした」

朝比奈「いいんです。わたしが勝手に着替えていただけなので」

キョン(不可抗力とはいえ、あられもない姿を見てしまったというのに照れもしないのか?)

朝比奈「どうしたんですか? わたしの顔に何かついてますか?」

キョン「いえ。そうじゃないんですよ」

朝比奈「ふぇ?」

キョン(きょとんとする朝比奈さん。随分と小動物的なしぐさをしてくれる)

朝比奈「あ、お茶、淹れますね」

キョン「お願いします」

朝比奈「ふんふふーん」

キョン(朝比奈さんのメイド服姿を近くで見ることができて眼福なのだが、ハルヒがいないのでは高ぶるものも高ぶらない)

朝比奈「はい、どうぞ」

キョン「どうも」

キョン(熱いお茶を飲みながら朝比奈さんと談笑すること1時間半。ついにハルヒだけでなく、長門も姿を見せなかった)

キョン「来ませんね、あの二人」

朝比奈「そうですねぇ」

キョン「帰りましょうか?」

朝比奈「いいんですか?」

キョン「いいと思います。もうすぐ五時ですし」

キョン(二人で学校をあとにする。ハルヒはともかく長門はどうしたんだ? 理由もなく部活を休むことはないと思うが)

朝比奈「キョンくん」

キョン「はい、なんでしょう」

朝比奈「これから、どうしますか?」

キョン「どうするって何がですか?」

朝比奈「あの、わたしの家は、親がいますし……よければキョンくんの家で……」

キョン(この人、どこまで想像しているんだ!?)

キョン「待ってください、朝比奈さん!! これからは別になにもありませんから!!」

朝比奈「そうなんですか?」

キョン「途中まで帰るだけですよ」

朝比奈「でも、男の子は女の子と二人きりになりたがるものじゃないんですか」

キョン「それはそうですけど」

朝比奈「では、キョンくんの家に」

キョン「いや!! 俺の家にも親と妹がいますから!!」

朝比奈「そうなんですか……。それなら無理ですね……。妹さんに聞かれると、恥ずかしいです」

キョン(この人の羞恥心はどうなっているんだろうか。照れるポイントがずれている気がする)

朝比奈「そうそう。未来人の話なんですけど、あれはまだ続いているの?」

キョン「え、ええ。できれば、続けて欲しいですね」

朝比奈「分かりましたっ」

キョン(恐らく、何故未来人でなければいけないのかもよく理解していないのにガッツポーズをする朝比奈さん。健気、と言っていいものか)

キョン「愚直になる必要はありませんよ。嫌なら嫌でいいですし、面倒になれば放り投げても構いません」

朝比奈「どうして?」

キョン「俺とハルヒにとって都合がいいってだけですからね。俺たちの我儘に付き合う必要はないってことです」

朝比奈「んー。よくわかりませんけど、なるほどぉ」

キョン(何がなるほどなのか)

朝比奈「それでは、わたしはここで」

キョン「はい。また、明日」

朝比奈「バイバイ、キョンくんっ」

キョン「さようなら」

キョン(朝比奈さんか。ハルヒや長門とはまた違ったタイプの人だな。悪い男に捕まらなければいいが)

キョン(ハルヒとゆっくり話せなかったこともあり、真っ直ぐ家に帰る気にもなれず、北口駅前のショッピングモールへと足を運んだ)

キョン(現在の所持金では衣類は買えないので、殆どの店を無視しながら本屋を目指した。立ち読みでもして時間を潰す。学生らしい時間の無駄遣いである)

キョン(すると、そこで見知った顔がいた)

長門「……」オロオロ

キョン(長門だ。何やってんだ、あいつ)

長門「……」オロオロ

キョン(店員らしき人物に声をかけようとするも、店員が本の整理などの仕事をしているためか躊躇っているようだ。ああいう奴、いるなぁ)

長門「……」

キョン(長門は諦めてしまったらしい。肩を落とし、店を出ようとする。探している本があるんじゃないのか)

キョン「長門!」

長門「……!」

キョン(すごいびっくりしてるな。声をかけられることもあまりないのか?)

キョン「探している本があるなら、一緒に探すぞ?」

長門「……ホント?」

キョン(上目遣いに問うてくる長門に、俺は頷いた。一緒に探しても恥ずかしくない本なら、堂々と店員に聞けばいいだけなのだが。もしかしたら宇宙人では難しいのかもしれない)

キョン「で、なんの本を探していたんだ?」

長門「超能力読本」

キョン「……すまん、なんだって?」

長門「超能力読本。正式名称は『森式超能力読本~これさえ読めばあなたも超能力者になれます~』」

キョン(かなり恥ずかしいタイトルだな。俺ならネットで注文だ)

長門「どこにあるのかわからない。図書館には存在していなかった」

キョン「ちなみにだが、図書館の職員に聞いてみたか?」

長門「……」

キョン(無反応。おそらく聞いていないな)

キョン「超能力に興味あるのか? 宇宙人としては」

長門「宇宙人である私は既にコスモパワーが備わっている」

キョン(なるほどなるほど)

長門「しかし、地球の有機生命体にもそうした特別な能力があるのか確かめたかった」

キョン「何のためにだ?」

長門「貴方が超能力者を探している……から……」

キョン(長門に超能力者を探していることを言ったことがあっただろうか?)

キョン「本を読んだところで超能力者は見つからないと思うぞ」

長門「私がなれるかもしれない」

キョン「コスモパワーはどうした」

長門「コスモパワーは超能力に非ず」

キョン(よくわからんがどこで区別するのか)

長門「本を」

キョン「分かった。少し待っていてくれ」

キョン(店員にその本がどこにあるのかを訊ね、本棚の場所も聞き出した)

キョン「この辺りにあるって言ってたぞ」

長門「この辺り……」

キョン(本棚の上に書かれているジャンルは趣味となっている。超能力が趣味に分類されている時点で、手品の括りなんだろうな)

長門「……」

キョン(長門が真剣に探している。自称宇宙人だけあって超常的なモノに目がないってことか)

長門「……あった」

長門「これ、買う」

キョン「買って来い」

長門「了解」

キョン(小走りでレジまで行き、すぐに戻ってきた)

長門「……」

キョン(目が潤んでいる、気がする。何か言いたそうだが)

長門「……これは、諦める」

キョン「何故だ?」

長門「私の能力不足。気にしないでほしい」

キョン(本の値段がちらりと見えた。3000円もするのかよ。状況は察した)

キョン「いくら足りないんだ?」

長門「……」

キョン(長門は右手でピースサインを作る。二千円か)

キョン「ほらよ。これで買って来い」

長門「受け取れない。来月購入する。問題ない」

キョン「いいのか? そうか」

キョン(押し付けるのもアレだしな。二千円をサイフにしまった)

長門「……」

キョン(本当のところは金を借りてでも欲しかったに違いない。お小遣いをもらえる日を指折り数えているのがなによりの証拠だ)

長門「あと、15日」

キョン「そうか。がんばれよ」

長門「わかった」

キョン「で、この本を探していたから今日は部活にこなかったのか?」

長門「それだけではない。……涼宮ハルヒと話をしていた」

キョン「ハルヒと? 二人でか?」

長門「そう」

キョン「どんな話をしていたんだ?」

長門「宇宙人について」

キョン「だよな」

長門「3年前。涼宮ハルヒが校庭に文字を書こうとした話も聞いた」

キョン「石灰を校庭中にぶちまけた話か」

長門「彼女が何を宇宙人に伝えようとしたのか、知っている?」

キョン「それはハルヒ本人しか知らないはずだ。ハルヒから直接聞いたのか?」

長門「聞いた」

キョン(興味あるぞ、その話)

長門「彼女は校庭に大きく『SOS』と書きたかった」

キョン(なんで空に向かって助けを呼ぶのか。……そうか)

キョン「ハルヒは宇宙人に助けを求めたのか」

長門「そう」

キョン「隕石の落下を止めてほしかった、と」

長門「そう」

キョン(涼宮が泣いていたのは地球を救うことに失敗したからだったのか。それは泣いても仕方ない)

長門「彼女は今も地球を救おうとしている」

キョン(超能力者がいなければ隕石が落下し、人類の過半数は死滅するかもしれないからな。ハルヒの中では)

長門「涼宮ハルヒが言っていた。貴方が今、超能力者を探してくれていると。だから、私も探すことにした」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月20日 (火) 01:00:08   ID: 5I6ddI6j

続き読みたい

2 :  SS好きの774さん   2016年06月07日 (火) 01:07:46   ID: vnZy6SDX

続きをお願いします!マジでお願いします!

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom