王妃「鏡よ、鏡。世界一可愛いのは誰?」魔法の鏡「白雪姫!」 (37)

城 地下倉庫

王妃「……」

鏡「……」

王妃「そう……」

鏡「はい」

王妃「うふふふ。そう!!! 私の娘である白雪姫は世界一かわいいのよ!!! ほーっほっほっほっほ!!!」

王妃「では、世界一美しいのは誰?」

鏡「それは王妃です」

王妃「また当たり前なことを聞いてしまったわね。だって、世界一可愛い娘は世界一美しい女からしか生まれてこないもの!!!」

王妃「おーっほっほっほっほ!!!!」


白雪姫「……」

白雪姫(最近、お母様の様子がおかしいと思ったら、毎晩こんなことを……)

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翌日

白雪姫「お父様!」

王「どうした、我が娘よ。今日も朝から可愛いじゃないか。お前が歩いたところに花が咲いてもおかしくないな。はっはっはっは」

白雪姫「ありがとうございます! いえ、それはいいんです! 昨日、私は恐ろしいものを見てしまったのです!」

王「それはかわいそうに。すぐに撤去させよう」

白雪姫「それはできません。だって、恐ろしいものとは、そのお母様なのですから」

王「我妻が恐ろしいというのか。うむむ。神羅万象、この星に生きる者すべてを魅了させるほどの美貌だと思うのだが」

白雪姫「お母様が綺麗なのはわかっています。でも、地下の倉庫で鏡に向かい、延々同じことを訊ねていて」

王「鏡とな?」

白雪姫「はい。とても豪華で大きな鏡でした」

王「それは恐らく、この城に代々伝わる魔法の鏡。魔女が作り出した真実のみを答える鏡とされている」

白雪姫「そのような鏡がこの城に……」

王「危険な鏡故に封印していたはずなのだが」

白雪姫「その封印をお母様が解いてしまったということですか」

王「布を何十にも重ねて鎖を巻いておいたのだが。長年放置していたし、鎖が錆びて千切れていたのかもしれんな」

白雪姫「それでお母様は魔性の鏡に魅入られて……ああ……お母様……」

王「どんな様子だったのだ」

白雪姫「鏡に向かって「世界一可愛いのは誰?」と問いかけていました。何度も何度も」

王「鏡の答えは?」

白雪姫「……」

王「どうした?」

白雪姫「それは、その、聞こえませんでした……」

王「そうか。まぁ、白雪姫以外に居ないだろうがな。わっはっはっはっは」

白雪姫「お父様!! あの鏡はすぐに捨ててください!! あの鏡の魔力にお母様が侵されてしまう前に!!」

王「しかしなぁ、あれは家宝でもあるのだ。簡単に捨てることはできん。それにぞんざいに扱えば呪われる可能性もある」

白雪姫「それなら、せめて封印してください。あの鏡に触れることができないように」

王「再度封印か。ふむ。それは名案だ。さっそく封印させよう。そこの兵士よ」

兵士「はっ!」

王「布と新品の鎖をもってこい」

白雪姫(これでいつものお母様が戻ってきてくれたな、いいな……)

白雪姫「それではお願いします」

兵士「お任せください」

王妃「あら、何をしているの?」

白雪姫「お、お母様! おはようございます!」

王妃「はい、おはよう。あぁ……」フラッ

兵士「どうされましたか!?」

王妃「ごめんなさい。白雪姫の可愛さに思わず立ちくらみが。貴方も、そういうときってあるでしょう?」

兵士「それはもちろんです」

白雪姫「お母様、やめてください!」

王妃「何故なら私の娘は世界一可愛いから。誰だって眩暈を起こすわ。そうよね?」

兵士「王妃様の言う通りでございます!!」

白雪姫「あ、あの!! そんな大声でお母様に同意しないでください!!」

王妃「その羞恥に耐え兼ねた顔も、また愛らしいわ。本当に目に入れても痛くなさそうね。いいえ、目に入れたらかえって視力が回復しそうね」

兵士「王妃様の言う通りでございます!!」

白雪姫「もういいから貴方は地下へ行ってください!!」

兵士「はっ!!!」

白雪姫「もう……」

王妃「あの者は地下へ向かったの?」

白雪姫「え、ええ」

王妃「白雪、貴方の命令で?」

白雪姫「ち、違います。お父様です」

王妃「あら、そう。白雪に地下に閉じ込められるなんていう羨ましい遊戯をしているのかと思ってしまったわ。危うく、あの兵士を嫉妬のあまり解雇しちゃうところだったわね」

白雪姫「そういうことはやめてください。かわいそうです」

王妃「何を言ってるの。貴方はまだ自覚がないようね。貴方は世界一可愛い。可憐に咲く花たちも貴方を前にすれば花弁を散らし、貴方の可愛さを祝福ぐらいに」

白雪姫「はぁ……」

王妃「世間の男どもがそんな貴方を放っておくはずがない。それはこの城の兵士も同じこと。貴方とママゴトでも始めてごらんなさい。私は姑役となり、その家庭を崩壊させてやるわ」

白雪姫「とても、迷惑なんですが……」

王妃「貴方が悪いのよ。そう、世界一美しい母から生まれた世界一可愛い貴方がね」

白雪姫「その世界一というのはやめませんか……世界にはもっと綺麗な人がいると思いますし……」

王妃「いません」

王「封印はできたか」

兵士「はっ。陛下のご指示通りに布をかぶせ、鎖で縛っておきました」

王「鏡の様子は?」

兵士「縛るときに「痛くしないで」と泣きわめいていたぐらいですね」

王「うむ。ご苦労だったな。では、持ち場に戻ってくれ」

兵士「はっ」

白雪姫「お父様……」

王「おー、白雪よ。昼下がりになると一段とその可愛さが増すな。光が射し込む角度のせいかな」

白雪姫「……」

王「どうしたのだ?」

白雪姫「いえ、今までお母様に抱きしめられていて……疲れてしまいました……」

王「わっはっはっは。では、ワシも抱きしめようかな」

白雪姫「やめてください」

王「……」

白雪姫「ところで魔法の鏡はどうなったのですか?」

王「しっかりと封印できたそうだ。これで安心だろう」

白雪姫「はぁ……よかったぁ……。それにしてもあの鏡の危険性についてはお母様は知らなかったのですか?」

王「いや。真実を語る鏡の話をしたときに説明した。真実のみを語ること、すなわち知らなくてもいいことも知ることができる、と」

白雪姫「そうですね。場合によっては国同士で戦争になってしまうことも」

王「そうだ。今の娘の気持ちを鏡に訊ねたら、ワシは自決してしまうかもしれん。そうなれば国は終わりだ」

白雪姫「そのような鏡は、やはり廃棄したほうがいいかもしれません」

王「目の届く場所に保管しておくほうがいいだろうて。あれが心なき者の手に渡ればそれこそ世界は混沌の時代になってしまう」

白雪姫「確かに……」

王「まぁ、新品の鎖に換えておいた。あと数十年は交換する必要もないだろうて」

白雪姫「そうですね。わかりました」

王「して、白雪よ。昼からの予定は?」

白雪姫「特にないので、街に出てもいいでしょうか?」

王「いいぞ。ただし、七人ほど護衛をつけさせるが」

白雪姫「いつも思いますが、七人も護衛がいると、その、色々と困ることも……そのうちの一人はいつもお母様ですし……」

王「分かっておくれ。お前にもしものことがあると思うと、夜も寝れんのだ」

王「白雪姫が街に出る!!! 護衛隊!!!」

護衛兵「はっ!!!」

護衛兵「ここに」

王「白雪の護衛、頼むぞ」

護衛兵「お任せください、陛下」

護衛兵「姫には傷一つつけさせません」

白雪姫「そのような悪い人がこの街にいるとは思えないんですが」

護衛兵「甘いですぞ、姫!」

護衛兵「何があるかわかりません!」

王妃「そうですよ。そういった甘い考えは危険です」

白雪姫「……」

王妃「では、まいりましょう」

白雪姫「お母様は別に城に残ってくださっても……」

王妃「ここにいるのは護衛部隊隊長。貴方のお母様は自室にいます」

王「娘をよろしくな」

夜 地下倉庫

王妃「……」

鏡「だれかーたすけてーくらいよーこわいよー」

王妃「まぁ、また鏡が……。かわいそうに。今、解いてあげますね」

鏡「その声は……!」

王妃「はい。これでいいかしら?」

鏡「王妃、また助けてもらえるとは」

王妃「いいのよ。ここまで縛ることもないのにね」

鏡「全くです。嘘をつけないだけで多くの敵を作ってしまうようです」

王妃「正直者がバカを見るなんて、この世の不条理を痛感せざるを得ないわ」

鏡「ええ、王妃の言う通りです」

王妃「それはそうと、鏡よ鏡。世界一可愛いのは誰?」

鏡「白雪姫!」

王妃「うふふ……ふふふ……あーっはっはっはっは!!! ですわよねー!!」


白雪姫(ま、またお母様が……!! 大変……お父様に言わないと……!!)

翌日

王「今日も素晴らしい一日になりそうだ。わっはっはっは」

兵士「だといいですね」

白雪姫「お父様!!」

王「ほら、見てみろ。天使が駆け寄ってきたわい」

兵士「確かに良い一日の始まりを予感させます」

白雪姫「大変です!! お父様!!」

王「それはいかんな。おい、なんとかしてこい」

兵士「はっ!」

白雪姫「あの、待ってください!! 鏡です!! お母様が鏡の封印を解いてしまっていたのです!!」

兵士「なんですって。あの鎖はきちんと巻いておいたのですが」

王「鍵はかけたか?」

兵士「いえ。巻いただけです」

王「そりゃあ、ダメだろう」

白雪姫「ちゃんと鍵もつけてください!!」

兵士「申し訳ありません!!」

王「機転のきかんやつだ」

白雪姫「でも、鍵をつけたとしても、お母様はまた同じことを繰り返すかもしれませんね」

王「鏡から返ってくる答えがよほどうれしいのだろうなぁ」

兵士「答えが分かっていても、いえ、分かっているからこそ気分がいいということもありますからね」

王「そうだな」

白雪姫「その所為でお母様は夜な夜な奇行を……」

王「美しいからセーフってことにならんか」

白雪姫「私のお母様にあんなことしてほしくないんです!!」

王「ふむ……」

兵士「鏡の答えはお聞きになったことがあるのですか?」

白雪姫「し、知りません」

兵士「そうですか」

王「その答えが分かれば、なんとかなるような気もしないでもないがな」

白雪姫「どういうことでしょうか?」

王「あの鏡は真実を告げる鏡だ。だから、答えが変わるようにこちらで操作することもできる」

白雪姫「それはどのように?」

王「鏡に「この世で一番可愛いのは誰?」と質問し、返ってくる答えが「白雪姫」としよう。まぁ、実際はそうなんだろうけど」

兵士「自分もそう思います」

白雪姫「続きを!!」

王「でだ、この答えを変えるにはどうするか」

兵士「白雪姫を世界で二番めに愛らしい姿にする、ということですね」

王「その通りよ。わっはっはっはっは。どうだ、名案だろう」

白雪姫「あの鏡を捨てにいくお手伝いをしてもらえないでしょうか」

兵士「はっ! かしこまりました!!」

王「ま、待て!! 白雪!! あれを捨てるなど!!」

白雪姫「お母様を正気に戻すためにはこれしかないんです。すみません、お父様」

王「しかし!! 誰かの手に渡ればどうなるのか、昨日説明したはずだ!!」

白雪姫「では、埋めます。庭に」

王「それなら良い」

庭園

白雪姫「この辺りにしましょうか」

兵士「はっ」

鏡「――姫よ。私をどうするつもりですか」

白雪姫「な……!」

鏡「何を今更、驚いておられるのですか。貴方が私と王妃の会話を盗み聞きしていたことは知っているのですよ」

白雪姫「そうですか。では、これからどうするか、わかりますね」

鏡「大きなシャベルを持った兵士がいる。菜園でも作るのですか? 流石、世界一可愛い白雪姫。やることも可愛いなぁ」

白雪姫「いえ、貴方をここに埋めます」

鏡「なんてこったい」

白雪姫「貴方はお母様を狂わせているのです」

鏡「お言葉ですが白雪姫。王妃は出会ったときからあんな感じでしたよ」

白雪姫「そうかもしれません。でも、夜に地下の倉庫で高笑いをするような母ではなかったはず!!」

鏡「何を仰いますか。王妃は貴方を見かけるたびに奇行を繰り返していたではありませんか」

白雪姫「そんなこと……そんなことは……」

鏡「よく思い出してください。朝、起きると王妃は貴方に何をしていましたか?」

白雪姫「……」


王妃『おはよう、白雪』

白雪姫『おはようございます、お母様』

王妃『……』

白雪姫『あの、お母様?』

王妃『近づかないで!!』

白雪姫『え……!?』

王妃『それ以上、私に近づけば、私は貴方の白い指を変色するまで舐めますよ。いいのですか?』

白雪姫『よくありません』


鏡「思い出しましたか?」

白雪姫「違う……お母様は優しくて……えっと……」

鏡「更に思い出してください。貴方がお風呂に入るとき、王妃は何をしていましたか?」

白雪姫「うぅ……」

白雪姫『いい気持ち……』チャプチャプ

ブクブクブク……

白雪姫『な、なに?』

王妃『……』ザバァ

白雪姫『きゃぁ!? お、おかあさま!? 何をされているのですか!?』

王妃『ここにいるのは護衛隊隊長。浴槽に不審者がいないか潜ってしらべていたとこよ』

白雪姫『で、でていってください!!』

王妃『そういわずに、体を洗ってあげるわ』

白雪姫『いいですから!』


鏡「どうです? 私の所為で王妃はおかしくなったのでなく、もとより貴方のことを溺愛しているのですよ」

白雪姫「くっ……」

鏡「私を埋めたところで何も解決はしないのです」

白雪姫「そんな……」

兵士「姫様、埋める準備が整いました」

白雪姫「お願いします」

鏡「やめて! やめて!!」

兵士「よっと」

鏡「私を埋めても意味がない!! 私は必ずここから這い上がって――」

兵士「これでよし」

白雪姫「このような雑務を頼んでしまって申し訳ありません」

兵士「いえ。姫様のためでしたこれぐらいは」

白雪姫「けど、鏡を封印しても何も解決しないのは本当ですね」

兵士「そうですね。王妃の溺愛ぶりは止めようがないかと」

白雪姫「お母様もお母様です。私だって子どもではないのに。いつまでもあんなに……」

兵士「姫、王妃は……」

王妃「なにをしているの?」

白雪姫「お、お母様!」

王妃「庭で会談とは恐れ入ったわ。あなた、どんなことを話したのかレポートにして提出なさい!!!」

兵士「は、はっ!!!」

白雪姫「やめてください、お母様!! 私のわがままに付き合ってくれただけなんです!!!」

王妃「どういうこと?」

白雪姫「それは……あの……急に庭に穴を掘りたくなりまして……それで……掘ってもらったんです……」

兵士(姫……なんという嘘の下手くそ具合……)

王妃「それでちゃんと埋めたの?」

白雪姫「あのように」

王妃「それならいいわ」

白雪姫「よかった」

王妃「さてと、そろそろ城の中に戻りましょうか。あの時間ですし」

白雪姫「お母様、私はもう……」

王妃「うふふーしらゆきー」スリスリ

白雪姫「うぇぇ……」

王妃「今日もたっぷり1時間、私の愛をその雪のように白い肌に染み込ませてあげるわね」

白雪姫「やめてくださいぃ」

王妃「あぁ、白雪。世界一可愛いわぁ」スリスリ

兵士(姫は大変だが、幸せそうな王妃を見ているとこちらも和むからなぁ)

白雪姫「お父様!!」

王「む。耳を澄ませ、皆の者」

兵士「はっ」

王「女神の囁きが聞こえるぞ」

白雪姫「真面目に聞いてください!!」

王「わっはっはっは。どうしたのだ、我が娘よ。悩んでいるようだな。なんでも答えなさい、パパが助けてあげるぞ」

白雪姫「お母様のことです」

王「ワシには無理だ……」

白雪姫「今日も結局、三時間以上頬ずりですよ!? もう、耐えられません!!」

王「では、ワシとするか」

白雪姫「いやです」

王「むぅ……最近の白雪、つめたい……」

白雪姫「私は真剣なんです。お父様からもなんとか言ってください」

王「愛されることが嫌になったか?」

白雪姫「大切にしてくれるのは嬉しいですが、あまりにも度が過ぎると言っているんです」

王「そうだな。白雪の愛らしさを前にすれば、罪人すらも涙を流し、改心する。妻の行動は仕方のないことだ」

白雪姫「……私に考えがあります」

王「言ってみなさい。できる範囲で手を貸してやろう」

白雪姫「結婚し、ここを出ます」

王「え……」

白雪姫「もう、ここの生活には耐えられません」

王「それは、まだ、はやいだろ……お前は16歳になったばかりで……」

白雪姫「私は大人です。子どもだって、やろうと思えば産めます」

王「うそぉ!!」

ザワザワ……

兵士「おい、まじかよ」

兵士「姫様ってもうそこまでご成長されていたのか」

兵士「なんかショックだよな……」

兵士「姫さまぁ……」

白雪姫「もー! なんでガッカリするんですか!! よろこんでください!!!」

王「お、お前の体はよくとも、肝心の相手がいないではないか」

白雪姫「それは、募集すればなんとかなるのでは、ないでしょうか」

王「お見合いするというのか」

白雪姫「はい」

兵士「姫がお見合いだってよ」

兵士「俺、立候補しようかな」

兵士「バカ野郎。王妃に殺されちまうぞ」

王「仮にだが、ワシが賛成したとしても、妻がどういうかな」

白雪姫「それは……」

王「そう焦ることはない。あと5年ぐらいはここの生活を満喫したらいいではないか」

白雪姫「最近、お手洗いにいったときにも視線を感じるようになったんですが」

王「誰だ。そのような愚か者がおるのか」

兵士「陛下、そのような者は即死刑にしましょう」

白雪姫「お母様かもしれません」

王「……策を練ってみるか」

王妃「しらゆきー、どこにいるのー?」

白雪姫「何か?」

王妃「しらゆきー? どこー?」

白雪姫「ここにいます!!」

王妃「あぁ!! 白雪だったの。桃源郷からやってきた妖精かと思ってたわ」

白雪姫「お母様、私は――」

王妃「なぁに?」ギュゥゥ

白雪姫「うぇぇ」

王妃「うふふ。わかってるわよ。私は妖精ではなく、雪の妖精だっていうんでしょ。しってるっ」

白雪姫「ぜんぜん、ちがいます!!」

王妃「それより、今日は街に出かけるのかしら?」

白雪姫「いえ、特に用事はありませんが」

王妃「なら、午後からは私と二人きりね」

白雪姫「え……あの……」

王妃「さぁ、いらっしゃい。しらゆきぃ」

「キャァァァ!!!」

王「これより我が妻の娘離れはどうやれば可能なのかを検討する」

兵士「陛下」

王「はい」

兵士「それは不可能です」

王「ワシもそう思う。だがな、ワシとて娘には嫌われたくないんだ。わかってほしい」

兵士「はぁ……」

王「なんとか妻の逆鱗に触れないよう娘離れをさせるしかない」

兵士「そのような方法が存在するでしょうか」

王「ううむ。何かいい知恵はないか?」

兵士「そもそも王妃があそこまで姫を溺愛しているのは、9年前の出来事が原因のはず。我々にはどうしようもありません」

王「そんなことは分かっている」

兵士「陛下……」

「ちょ! おかあさま!! 脱げる!! あぁー!! いやー!! ぬげた!! ぬげたー!!」

王「白雪も困っているのだ。理解してくれ」

白雪姫「うぅ……」

王妃「流石は我が娘。この赤いドレスも似合うわね。今の貴方を表現するなら、そう。雪景色の中に彩られる赤いリンゴのような存在」

白雪姫「意味が分かりません」

王妃「しばらくそのままでいてね。今、この瞬間の貴方を脳裏に焼き付けるから」

白雪姫「それはちょっと……」

王妃「……」ジーッ

白雪姫(誰か助けて……)

王妃「あぁ……かわいいわ……私の娘……」

白雪姫「……」

王妃「しらゆきー!!!」

白雪姫「ひゃぁ!?」

王妃「うふふふ」ギュゥゥ

白雪姫「もー……」

白雪姫(鏡の所為じゃない……。お母様がおかしくなったのは、私の所為……。私がここに居る限り、お母様はきっとこのまま……)

王妃「んー」チュッチュッ

数日後

白雪姫「……」コソコソ

兵士「姫様?」

白雪姫「ひっ」

兵士「あの、どちらへ?」

白雪姫「あ、えっと、私は、その、街の商人です。ここでリンゴを売ろうかと思いまして」

兵士「いえ。どう見ても、白雪姫様です」

白雪姫「違うと言っているのに……」

兵士「姫様、部屋にお戻りになってください。そろそろ王妃様がスリスリしにくる時間です」

白雪姫「……私は、ここを出ます」

兵士「な、なんですって!?」

白雪姫「さようなら!!」

兵士「ま、待ってください!!」

白雪姫「私がいたらお母様がどんどんダメな人になってしまうからー!!!」テテテッ

兵士「ひめさまぁぁ!!!」

兵士「というわけで、姫様を捕えました」

白雪姫「……」

王「おや。夜空の星が落ちてきたのかな」

白雪姫「私です」

王「おお、白雪だったか。わっはっはっはっは」

白雪姫「お父様、私は城を出ることに決めました。もう探さないでください」

王「探すもなにも目の前にいるではないか」

白雪姫「そうですね……」

王「お前が鍛え抜かれた兵士に勝てるわけがなかろうて」

白雪姫「はい……」

兵士「姫様、もうこのようなことはおやめください。もしものことがあれば、王だけでなく妃も自分たちもただ悲しむだけは済まないのです」

白雪姫「でも……」

王「分かった。白雪よ。ここを出ろ」

白雪姫「え?」

兵士「陛下!! 正気ですか!?」

王「ワシはいつだって正気だ」

兵士「しかし!!」

王「黙っておれ」

兵士「は、はい」

王「白雪よ。お前の覚悟はよくわかった。ここを出ても構わん」

白雪姫「本当ですか!?」

王「ただし!! 条件がある」

白雪姫「なんでしょうか」

王「家の世話をし、料理を調え、ベッドをつくり、洗濯をし、縫ったり繕ったりして、何もかもきちんとする。それも一人でだ。できるか? いや、できんな。だから、ダメだ」

白雪姫「……できます。いいえ、やります」

王「おかしな人がきても、ちゃんと追い返せるか?」

白雪姫「それぐらいできます。私はもう子どもじゃありませんから」

王「いや!! できはしない!!!」

白雪姫「できます!!!」

王「何故だ!? できないといっておくれ!!! じゃないと、ワシ、お前を出さなきゃいけなくなるぞ!! それでもいいのか!? えぇ!!」

白雪姫「お父様!! 私を信じてください!!」

王「でもぉ」

白雪姫「全てを一人でこなしてみせますから」

王「ほんとにぃ?」

白雪姫「はい」

王「……った」

白雪姫「聞こえません」

王「わかった!! いってよし!!」

白雪姫「ありがとうございます」

王「おい!! 白雪姫をこっそり城からだしてやって!!」

兵士「はっ!!」

白雪姫「でも、どこに向かえばいいのか……」

王「いつかこうなると思ってちゃんと森の中に家を用意しておいたから!! 落ち着くまでそこで住めばいいじゃない!!」

白雪姫「お父様……。最後のご厚意に甘えさせていただきます」

王「うぅ……甘えるなら、直接甘えてきておくれ……」

兵士「こちらです、姫様」

白雪姫「感謝します。ここからは一人でいいですから」

兵士「ですが、森の中は危険です。自分が森の中にある家まで護衛いたします」

白雪姫「気にしないで。もう一人で生きていくって決めたから」

兵士「姫様……」

白雪姫「さようなら」

兵士「はっ!!」

白雪姫(今日からは私一人。もう姫じゃない。しっかりしないと)

白雪姫「がんばろー!!」

兵士「姫様……ご立派になられましたね……」

王「……揃っておるか」

護衛兵「はっ」

護衛兵「我々、護衛部隊にお任せあれ」

護衛兵「必ずや姫様はお守りいたします」

王「うむ」

森の中 家

白雪姫「ここですね……」ガチャ

白雪姫「わぁ、素敵っ。本棚もベッドも揃ってる。これなら、なんとかなりそう」

白雪姫「まずは衣類を仕舞わないと」ゴソゴソ


護衛兵「姫様は衣類をタンスに仕舞いはじめたようだ」

護衛兵「なんとかなりそうか」

護衛兵「姫様は既に16歳。自分でできることも多かろう」

護衛兵「同意だ。だが、一つだけ疑問に思うことがある」

護衛兵「隊長への報告か?」

護衛兵「それもあるが、姫様は気づいておられないのか」

護衛兵「あの様子ならば、気が付いている気配はなさそうだが」

護衛兵「この森が城の敷地内だということは、伏せてある。心配はいらん」

護衛兵「姫を騙しているようで気分はよくないな」


白雪姫「どうやって畳めばいいのかな……上手く仕舞えない……」オロオロ

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