いろは「記憶喪失?」八幡「…」 (40)
俺ガイルのいろはと八幡のSSです。
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ズキッ
頭が割れるような痛み。
その痛みをきっかけに意識が段々と覚醒していく。
「うっ…」
ゆっくりと体を起こす。
ここはどこだ。
「先輩!!」
ずっと隣にいたのだろうか。
ベッドの傍らに少女がいた。
見た目は15、6歳ほどの少女だ。
栗色のセミロングの愛くるしさを感じさせる。
「先輩!ごめんなさいっ…!ごめんなさいッ…!」
もしかして眠らずに隣に居てくれたのだろうか。
少女の目の下にくまが出来ている。
この少女は一体だれだ?
「すいません、あなた誰ですか?」
「えっ…」
いや、そもそも
「せん…ぱ…い?」
俺は、俺の名前は
……何だ?
何も思い出せない。
戸惑い顔を青ざめる少女を横目に、
気遣う余力さえ残っていなかった。
「今日もありがとうございましたー」
「はぁ、かったりぃ」
ふふふ、今日も先輩をりよ…。
じゃなかった、お手伝いしてくれたお蔭で生徒会の仕事が捗りました。
「俺をこき使い過ぎじゃないかね、一色さん…」
「しょうがいじゃないですかー、学校に文句いってくださいよー」
「大体、こんな所ばっか見られて噂されたらどうするんだ」
「ぇえーー、先輩噂されるような友達いるんですかぁ~?」
「…」
「冗談ですよぉ~」
「別に」
この顔はきっと心の中で言い訳を並べてますね。
「この後、美味しいスイーツご馳走してあげますから」
「スイーツねぇ…」
「むむ、本当に美味しいんですよ? あの変な缶コーヒーより」
「変っていうな、つうかコーヒーじゃねぇ」
やっぱり心地よい。
本音をぶつけて甘えられる先輩が。
口には出して絶対いえないけど。
さて、何か次の生徒会作業って何があったかなー。
また手伝ってもらわないと。
頭のなかで作戦を練る。
その所為か周囲への注意が疎かになっていた。
それは突然だった。
「一色!!」
「えっ?」
ドンッ。
急に体を突き飛ばされる衝撃。
「いたた…何するんですか~。せんぱ…」
目の前に広がっている光景に言葉を失う。
車が壁に衝突していて。
その傍らで先輩が血だらけで倒れていた。
「せん…ぱい…?」
「一色!」
少年は心の中でつぶやく。
前にも似たような事があったな---と。
「先輩っ!先輩っ!」
もっとも今度は犬じゃなくて人だったか
小生意気な後輩を安心させるため、頭に手を伸ばす。
「先…輩…」
対小町用のお兄ちゃんスキル頭撫で撫でだ。
最近、小町に使うとジト目で拒否られるけどな。
「先輩! しんじゃだめ…です!」
死ぬわけないだろ、あほ。
口に出したはずの言葉は音とならず。
俺の意識は遠のいていった。
■Side八幡 目覚めから
「一過性のものです。ご安心ください」
「はぁ…」
この状態は一時的なものらしい。
確かに最初こそは混乱したもの徐々に記憶が戻りつつある。
だが、戻らない記憶がある。
高校を入学してからの記憶が一切思い出せないのだ。
「こら、あんたの事でしょ。ちゃんと先生の言うこと聞きなさい」
「わかってるよ…お袋…」
「不安かと思いますが大丈夫です。少しずつ思い出していきましょう」
「はぁ」
「ちゃんと返事しなさいっ!」
「痛っ」
「ははっ、元気そうで何よりです。塞ぎこむよりずっと良い」
「あんたが元気って言われるの数年ぶりかしらね」
「…」
お袋よ。それはさすがに酷いぞ。
「先生、ありがとうございました」
「…ありがとうございました」
「はい、では」
「はぁ…、一時はどうなるかと思ったけど大丈夫そうね」
「ああ」
「まだいろはちゃん来てないのかい?」
「…そうだな」
俺が目覚めてから毎日きてくれている。
あの少女はいろは、という名前らしい。
「あんたは早く高校からの記憶も思い出しなさい!」
バンッ。
背中を叩かれた。
「痛っ…! 怪我人になんてことを…」
「男ならつべこべ言わない! いろはちゃんを安心させておやり!」
「本当、あんな良い子があんたの彼女だなんて勿体ないわ」
ん?
すごい単語が聞こえたぞ。
「っか、彼女?」
「違うの? ってあんたに聞いても知らないか。 よく一緒に帰ってたじゃない」
ままままままっまじで?
俺いつのまにリア充になったんだ…?
信じられん…。
ま、まて。
これはフェイクだ。
今まで何度勘違いをして痛い目にあってきた?
絶対騙されないもんね!
「はぁ、じゃあいろはちゃんに自分で聞けばよいじゃない」
た、たしかに…。
いや、でも心の準備が。
「八幡」
「んだよ」
まだ衝撃的真実でもあるの?
もう俺マイッチングだよ?
マイッチング八幡センセーになっちゃうよ?
「あんたが女の子を守れる男に育ったこと、私は誇りに思うよ」
「…」
何を、突然。
気恥ずかしい。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
「おう、さんきゅ」
「いろはちゃんがそろそろ来るだろうからね」
「…」
え?
心の準備ができてないんだけど。
いや、ほんと。まじで
■Side八幡 いろはとの関係
「せんぱーい」
俺は今たぬき寝入りをしている。
正直、お袋からあんな話を聞かされて
どんな顔をすれば良いのか、分からなくなってしまった。
こ、心の準備が出来るまで寝たふりをさせてもらう。
「眠ってるんですかー?」
段々声が近くなる。
「おきないとぉ~」
え? なに? どうなってるの?
「キス、しちゃいますよー」
ざわっ。
吐息が耳にかかる。
どうやら彼女の顔が耳元まで迫っているらしい。
それと滅茶苦茶良い匂いがする。
本当に俺と同じ人類なのか。
心臓がバクバク鳴る。
爆発しそうだ。
え?なに?
記憶なくす前の俺って本当にリア充だったの?
死ねよ、爆発しろ。
「じゃー、しちゃいます」
や、、やばい…。
も、もうだめ。
・
・
・
あれ?
何も起こらない。
ムニッ。
頬をつまれた。
「をい、なにゅすりゅんだ」
「起きてるのバレバレですよー」
「…」
「何度たぬき寝入りで仕事サボろうとしてる姿見てると思ってるんですかー」
「くっ」
こいつ、手強い。
ってか、よくバレたな。
そんだけ身近にいたってことか、記憶をなくす前の俺と。
ズキリ。
少し胸の奥が痛くなった気がした。
理由はよくわからない。
「顔もまーっかでしたし」
「…」
バレたのそこかよ。
うわ、はっず。
ネタにされるのを身構えたが、
それ以上、触れることなく彼女は箱を取り出した。
「さ、弁当作ってきましたよ! 食べましょう」
「え、良いのか。病院食じゃなくて」
「大丈夫! ちゃーんと食べてよいもの聞いてきましたから!」
「おまえが作ったの?」
「はい!」
失礼ながら家事が得意そうに見えないんですよね…あなた。
「先輩、もしかして味を疑ってませんか?」
「おまえ、あんまり料理得意そうに見えないんだが」
「酷いです! もー、絶対おいしいですからちゃんと食べてください!」
「わかったよ」
「ま、まじで美味い…」
「えっへん! 勿論ですよ」
「あ…ありがとう。いろは…さん」
「…ぁ」
突然背を向けられる。
な、なにかまずかったか。
ここからは彼女の表情が見えないが、
気のせいか肩が震えているように見えた。
「先輩」
「ん?」
「やっと呼んでくれましたね」
「そ、そうだったか?」
「ずっとお前とかでしか呼ばれてなかったです」
「す、すまん」
「でも」
「ん?」
「さんづけで呼ばれたことないですよ、昔から」
「え」
「ちゃんと呼び捨ててで呼んでください」
「え」
「ほら~、早く。もうお弁当作ってあげませんよ?」
「くっ…」
「もうお見舞いも、きてあげません」
そんなキラキラした目で見つめないでくれ。
「い…」
「はい」
「いろは…」
「…」
彼女からの反応がない。
なんだ? なんか悪かったのか?
少し不安になりながらも待っていると突然彼女が振り返った。
「…はい! ごーかくです」
とびっきりの笑顔を浮かべていた。
頑張った甲斐があった…かな。
「なぁ」
「なんですかー? おかわりはないですよ」
「いや、そうじゃない」
「俺といろはの関係ってどうだったんだ?」
「先輩との関係です…か」
「ああ」
「先輩はどう思います?」
質問を質問で返すなと教わらなかったのか、この子は。
「先輩後輩とか」
「それは私が先輩ーって言ってるのでまる分かりじゃないですかー」
それもそうだな。
だが、ただの先輩後輩でここまで親身になってくれているとは思えない。
『キス、しちゃいますよ』
ドクン。
いろはがつぶやいた言葉が蘇る。
耳元がまた熱くなったような気がした。
「他には何かあると思いますか?」
真正面から目を合わせてくる。
思わず目を逸らしてしまう。
くそっ。
恥かいてもいい言いきってやる。
男ならストレートに、余裕をもって。
「こ、こ、こここ恋人とか?」
一呼吸の間が作られる。
スゥー。
静かな空間に息を吸う音が響く。
俺ではない、いろはが深呼吸をしていた。
そして。
「はい」
笑顔で答えてくれた。
…。
は?
まじで?
し、信じられん。
「ま、まじで?」
「信じてないんですかぁ~?」
「実感がまったくない」
「しょうが、ない、ですよ」
いろはの表情が曇る。
明らかな失言だった。
「すまん、俺ちゃんと記憶取り戻すよ」
「…思い出さなくてもいい、と思います」
え? 耳を疑い思わず顔をあげると
ドクン。
とても穏やかな表情を浮かべている。
そんないろはの顔が目に入った。
「先輩は、先輩です」
「思い出なんて、また作っていけば良いじゃないですか」
目頭が熱くなる。
ドクン。
不安だった。本当にこのまま思い出せなかったら。
俺は俺なのか。
目覚めてから今まで本当に欲しかった言葉だ。
「いろは…」
「私がついてるじゃないですか」
堪えていたが。
もう我慢できそうに、ない。
だから、俺は----。
「あら、お熱いわねぇ」
俺でもいろはでもない第三者の声が響く。
「お、おふくろっ!?」
「わっ…!」
「ごめんなさい、お邪魔しちゃったわね」
「い、いえ! こちらこそお邪魔してました」
穏やかな表情からか一転、表情に赤みがさす。
そういえば。
こいつの狼狽える姿を見るのは新鮮な気がするな。
記憶を無くす前はどうだったか知らんが。
「いつからそこに?」
「あんたが一生俺の傍に居てくれって言う所からかしら」
「そもそもそんな事いってねぇよ」
「ふふ、ごめんなさい。伝えたい事があっただけだからすぐ帰るわ」
「今週末には仮退院して良いそうよ」
「仮? ってかまじで?」
「そうだよ」
「良かったですね! 先輩」
「お、おう!」
や、やっと退院ができる。
こんな窮屈な空間ともやっとおさらばだ。
この時、退院の事実に浮かれていた俺は。
「だからちゃんと荷物あとめとくんだよ」
「そんな事を病人にさせるのかよ」
「あんた、滅茶苦茶元気でしょうが!!」
「…おめでとう、ございます」
いろはの表情が一瞬曇った事も。
「そろそろ限界かな…」
小さな呟きも気付けなかった。
■Side八幡 夢か現実か
意識が微睡んでいる。
夢か現実か曖昧な境界線で。
『--輩を --- くせ--っ!!』
『-----ごめ--な--い』
『私--じゃなく---輩に---ださいっ!』
『--ね ---の言う通---わ』
2人の女性の声が聞こえる。
いろはの声だ。
もう1人は分からない。
物静かで懐かしさ感じる。
俺が記憶を失う前の知人だろうか。
どうやら口論をしているようだ。
とても穏やかな様子ではない。
『---会わせたく--あ--せん』
『--願い--少---だけ--で--』
『---決め---のは先---です』
耳に意識を集中させようとするが。
再度、襲い掛かる睡魔により。
意識が深い眠りに引きずり込まれていった。
どれくらいたっただろうか。
また意識がぼんやりと覚醒していく。
ふと、左手に何かが触れているのを感じた。
すこし冷たさを感じるが、柔らかく包み込むような優しい感触だった。
『比企谷君』
その声色は不思議と耳に馴染んだ。
先ほども聞いた気がする。
どうやらまだ、夢の中にいるようだ。
『ごめんなさい』
『私はもう大丈夫だから』
『あなたはちゃんと私を救ってくれたわ』
全身が金縛りにあったかのように身動きがとれない。
おかしいな、夢の中なのに。
ああ、夢の中だからか。
『だから、今度こそ』
少しだけ目を開ける事ができた。
『さようなら』
ぼんやりしていてハッキリと見えなかったけれど。
美しい黒髪が月灯りに照らされ。
目を疑うような美しい少女が。
悲しげな表情を浮かべた儚い女の子が。
居たような気がした。
何か大切なものがこぼれ落ちていくのを感じた。
ゆ…き……
このSSまとめへのコメント
どうなるの?せめてオチまで書いて!
書く気ないなら初めから書くなよ...