霧切「エア苗木君を極めたわ」 (66)
十神「………………」
霧切「エア苗木君を極めたの」
十神「………チッ」
霧切「エア苗木君を」
十神「やかましい! さっきからなんなんだお前は!」
霧切「反応が無いから聞こえていないのかと思って」
十神「無視していたに決まっているだろう。聞きなれない単語で喋りかけてきて何が目的だ」
霧切「エア苗木君が気になるのね……。よくぞ聞いてくれたわ」
十神「………………」
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苗キチ、及びキャラ崩壊注意
霧切「昨日から苗木君が学校を休んでいるのは知っているわね」
十神「ああ。インフルエンザで自宅療養中だったな。確か一週間は休むんだったか」
霧切「意外に細かい所まで覚えてるのね。気にもしてないと思ってたのに」
十神「……いいから続きを話せ」
霧切「要するに苗木君に会えない状況が一週間続くという事よ」
霧切「……ここまで言えば分かるわね?」
十神「さっぱり分からん」
霧切「このまま苗木君に会えない日々が続くと禁断症状が出てしまう」
十神「禁断症状だと? 何を馬鹿な」
霧切「苗木君に会えないと思うと心細くて、授業中も奇声を上げたくなるのを何度かガマンしたわ」
十神「学園長が泣くぞ……」
霧切「しかし苗木君は自宅、どうやっても会えない。つまりエア苗木君をする必要がある」
霧切「分かったかしら」
十神「いや問題提起から結論にいたるまで全てにおいて理解できなかった」
十神「大体その……エ」
霧切「エア苗木君の事かしら」
十神「食いつきが早いんだよ! 大体、それを俺に言って何になるというんだ」
霧切「少しでもエア苗木君の素晴らしさを広めようと思ってね。貴方がすんだら他の人にも教えに行くわ」
十神「広めるだと……? そんな得体の知れない物をか?」
霧切「まあ貴方の反応を見る限り男子にはウケが悪いようね。女子は何人か受け入れてくれたのだけど」
霧切「でもせっかくだから貴方だけでもエア苗木君を伝授させてもらうわ」
十神「何をする気だ? おい、やめろ! やめろおおお! …………」
一週間後
苗木「うーん、久しぶりの学校だなぁ」
苗木「季節外れのインフルエンザにかかるなんて、やっぱり幸運とは思えないんだけど……」
苗木「でも皆に会えるのは楽しみだな。元気にしてるかな?」
教室
苗木「おはよう。あれ、人が少ない?」
不二咲「あっ、苗木君。丁度良かった、いま大変な事が起こってるんだよ!」
苗木「え?」
不二咲「クラスの女子の間でエア苗木君が流行してるんだ!」
苗木「なにそれ」
石丸「おはよう! 身体の具合は大丈夫なのかね?」
苗木「おかげ様で。それより他の人たちはどうしたの? 石丸クン達以外教室にいないみたいだけど」
石丸「ここ最近、クラスの女子が頻繁に休んでいる……どうやらエア苗木くんというものにふけっているようだ」
石丸「そして女子が来ない事でおそらく男子もやる気をなくし欠席している。まさに学級崩壊寸前なのだ!」
苗木「この場に三人しか来てない時点で、寸前どころかなかなか手遅れだと思うけど……」
不二咲「本当は十神君と腐川さんも出席してたんだけど、最近は来てなくて……」
石丸「ともかくこれは由々しき事態なのだよ!」
石丸「苗木くん! 病み上がりですまないが、この状況を打破する案は何か無いだろうか?」
苗木「そんな事言われてもなあ……」
ガララッ
十神「はあ、はあ……。苗木、お前が女子を説得しろ……」
苗木「おはよう、って十神クン?」
不二咲「十神君!? その傷は一体どうしたの!?」
石丸「それにやつれているぞ!」
十神「あいつにやられたんだ……ぐっ!」
十神「女子達は……お前に会えない不満からエア苗木をやり出した……」
苗木「えっ?」
十神「お前が説得すれば必ず……うっ」ガクッ
石丸「大丈夫かね! これは気絶している……!?」
不二咲「エア苗木君にはどんな恐ろしい秘密が……!?」
苗木「ええ……」
腐川「白夜様ああああぁぁぁっ!!」
不二咲「あっ、腐川さん!」
十神「」ボロッ
腐川「ああボロボロの白夜様もイイ……。じゃなくて、い、一体誰がこんな酷い事したのよ!」
石丸「彼は……十神くんはきっと皆に授業に出るよう呼びかけたのだろう」
腐川「白夜様がそんな勘違い熱血教師のようなアクティブな事を……?」
石丸「しかし誰も呼びかけに応じなかったショックが、精神だけではなく肉体をも傷つけたのだ……」
不二咲「ショックを受けるとそうなっちゃうんだ。怖いなぁ……」
苗木「………………」
石丸「こんな姿になってまで……君という奴は!」プルプル
苗木「」ソローッ
石丸「苗木くん! 十神くんの犠牲を無駄にしないためにも女子達を説得してきてくれたばえええっ!!」ブワッ
苗木「あ、うん……そうだよね。嫌な予感しかしないけど行くしかないよね、はは……」
苗木「成り行きで女子達を説得する事になってしまった」
苗木「とりあえず誰か探そう。学園内にはいると思うんだけど」
苗木「………………」
苗木(……エア苗木クンってなんなんだろう)
苗木「あ、あそこにいるのはセレスさんかな」
セレス「ふふ、次はどうしますか? 賭ける物はもうその身しか……」ブツブツ
苗木「セレスさん。一人でトランプを並べて一体何を?」
セレス「……あら、苗木君? 風邪は治りましたの?」
苗木「うん。セレスさんがエア苗木クンをやってて授業に来ないって聞いたんだけど」
セレス「そうですか。恥ずかしいところを見られてしまいましたわ」
苗木「恥ずかしいっていうか怖いよ。エア苗木クンって一体なんなの?」
セレス「それは……」
一週間前
霧切「では改めてエア苗木君について説明するわ」
十神「おい! なんで説明するのに俺を縛る必要がある!?」
霧切「エア苗木君とは苗木君を妄想し、その場にいるかのように振舞う事で心の充足感を得る行為よ」
十神「聞けよ!」
霧切「時にエア苗木君と話したり、時にエア苗木君と触れ合ったり、遊んだり……」
霧切「最初の内は空想に過ぎないけれど、その内本当に苗木君の声が聞こえてきたり、苗木君の匂いや触感を感じるようになるわ」
霧切「聞こえないはずの声が聞こえ、見えないはずの姿が見える……素敵だと思わない?」
十神「違法薬物の症状か何かか?」
霧切「エア苗木君の概要よ」
現在
セレス「とまあ、これがエア苗木君というものです。さっきまでエア苗木君とポーカーをやっておりましたの」
苗木「…………こんなイカレた事がクラスで流行ってるの?」
セレス「その様ですわね」
苗木(転校したい)
苗木「じゃあその……エア苗木クンの発信元って誰?」
セレス「何故わたくしが教えなければならないのですか?」
苗木「えっ?」
セレス「何故わたくしが苗木君に情報を与えなければならないのでしょう」
苗木「あの……セレスさんもしかして怒ってる?」
セレス「Cランクのナイトでありながらわたくしの傍を離れた罰です。自分で確かめなさい」
苗木「ご、ゴメン。でも出席はちゃんとして欲しいんだ。困ってる人も居るし」
セレス「……仕方ありませんわね。しかしこれからはわたくしを退屈させないよう肝に銘じる事です」
苗木「ははは、気をつけるよ……」
その頃教室
不二咲「苗木君大丈夫かなあ……」
石丸「うむ……」
朝日奈「おはよーっす! あれ、十神倒れてるけどどうしたの?」
大神「何があったのだ?」
不二咲「朝日奈さんに大神さん。なんでここに!?」
朝日奈「なんでってここ教室だし」
石丸「二人はエア苗木くんをやっていたのでは?」
朝日奈「ええ!? 霧切ちゃんが言ってたアレ? そ、そんなのやんないよ!」
朝日奈「霧切ちゃんは大真面目に説明してくれたけど、やっぱ恥ずかしいし……あとちょっと怖かったし」
大神「我も教わりイメージトレーニングに応用できるかと思ったが……相手が苗木ではな」
腐川「ふ、ふふ……。苗木とあんたじゃ赤ん坊とジャイアント馬場より力の差があるでしょうね……」
不二咲「じゃあ最近休んでたのはどうして……?」
朝日奈「あれ? 水泳の大会で休むって石丸に言ってなかったっけ?」
大神「我も決闘を申し込まれたため、しばらく欠席すると伝えたはずだが」
不二咲「えっ? そうなの?」
石丸「……思い出したぞ! そういえばそうだった!」
石丸「そしてついでに思い出したのだが、桑田くんは野球の遠征試合、兄弟は族同士の抗争、山田くんは同人誌の締め切りが近いので今日まで休むと言っていた!」
腐川「あんたの記憶力どうなってんのよ……」
不二咲「他の女の子達は苗木君が呼びに行ってるから、ひい、ふう……。じゃあ、上手くいけば明日には皆揃うんだね!」
石丸「そういう事だな。はっはっは! これで全員出席だ!」
朝日奈「そもそもなんで他の女子は休んでるの?」
大神「どうやら苗木は病気が治ったのか。ふっ、何よりだ」
どこかの廊下
苗木「江ノ島さん!」
江ノ島「ちーっす。インフルエンザ治ったんだ?」
苗木「うん。それより授業に出てないって聞いたんだけど。戦刃さんも」
江ノ島「あーそれね、残姉が変なのにハマってさあ。ついでにあたしもサボってたっつーワケよ、ギャハ!」
苗木「変なのっていうとやっぱり」
江ノ島「エア苗木とかいうヤツ。いい歳こいて空想ごっことか、我が姉ながら絶望的に残念です……」
苗木「ううん……。授業に来ないから石丸クンが困ってるんだ。戦刃さんにも出席するように言っておいてくれないかな」
江ノ島「おっけ…………いや」
江ノ島「……せっかくだし苗木行ってきなよ。すぐそこの空き教室にいるし」
苗木「え、いいけど」
戦刃「んー……」
苗木「ホントだ、いた。椅子に座って目を閉じたまま手を組んでる」
戦刃「……苗木君出ろ、苗木君出ろ、苗木君出ろ……」ブツブツ
苗木「なんかつぶやいてる……? とにかく話してくるよ」
江ノ島「…………」ニヤ
戦刃「……エア苗木君が上手くいかない。せっかく霧切さんに教えてもらったのに」
苗木「戦刃さん」
戦刃「……えっ?」
苗木「え?」
戦刃「ほ、ホントに出た……。な、苗木君だ!」
苗木「あの、戦刃さん?」
江ノ島「ウィッス残姉。なに、相変わらずシコシコ妄想してんの?」
戦刃「盾子ちゃん。この苗木君見える!?」
苗木「えっ、それどういう」
江ノ島「んー何がー? なんも見えないけど?」
戦刃「! 見えないって事はエア苗木君に成功した……やった!」
苗木「いや江ノ島さ……」
戦刃「な、苗木君っ!」
苗木「うん!?」
戦刃「て……て、手……繋いでくれ、ますか……?」
苗木「へ?」
戦刃「エア苗木君が成功したらやりたい事色々考えてて、えっと手を……。嫌なら、あの……」
江ノ島「空想なんだから聞かずにやっちゃえばいいじゃーん」
戦刃「……あ、握手して苗木君!」
苗木「あ、はい」ギュッ
戦刃「! すごい、本物みたいにあったかい!」
苗木「………………」
江ノ島「……うぷっ」
苗木「えーっとこれは……」
戦刃「つ、次はこれ! はい!」
苗木「これはレーション? をどうすればいいの?」
戦刃「あ、あーん、って……して」
苗木「あーん……って!?」
苗木「」チラッ
江ノ島「」サムズアップ
苗木「あ、あーん」
戦刃「んっ」パクッ
戦刃「えへへ、おいしい……」
苗木(満面の笑みだ……)
江ノ島「残姉、さっきから積極的ですなあ」
戦刃「盾子ちゃん。今ね、エア苗木君を」
江ノ島「どーよ残姉の残念アプローチは! ニクイねえ、この色男! このこの!」
苗木「え、いや、あの、その」
戦刃「……あれ? 盾子ちゃんもエア苗木君見えてるの?」
江ノ島「エアもクソもこいつはモノホンのガチ苗木クンだよ。うぷぷ、特徴なさすぎて顔忘れちまった?」
戦刃「…………え。てことはさっきまで私がいろいろしてたのは」
苗木「あ、あはは……。一週間ぶりだね、戦刃さん」
戦刃「………………」
苗木(そこから先は一瞬だった)
苗木(ボクが見たのは緩んだ戦刃さんの表情がだんだん真顔になっていき、そして真っ赤になっていく様……)
苗木(かと思ったら次の瞬間、戦刃さんが目の前から消えていた)
苗木(横を風が通り抜けて行ったような感覚のあと、教室のドアが勢いよく開いたんだ)
苗木(ドアの外からは、遠ざかる声にならない悲鳴)
苗木(教室に残ったのは、床で笑い転げている江ノ島さんの爆笑だけだった……)
苗木「……戦刃さんには授業に来るように江ノ島さんから伝えてもらうことになった」
苗木「これであの二人は大丈夫……だよね?」
苗木「次の人を呼びに行こうかな」
苗木「………………」
苗木(いいもん見れたな……うん)
苗木「あれ。あれは……廊下の先に舞園さん発見だ」
舞園「……ふふ。まこくん、あーん」
舞園「おいしいですか? よかった」
苗木「………………」
苗木(独りで弁当広げながら虚空に向かって微笑んでる……)
苗木(というかまだ朝だよ、早弁にしても早いよ)
苗木「行きたくないけど行くしかないな……」
舞園「まだいっぱいありますからね。たくさん食べて……」
苗木「や、やあ舞園さん。久しぶり」
舞園「………………」
舞園「えっ、まこくんが二人!?」
苗木「いや『えっ?』ってなるのはこっちだからね。なんだよ二人って」
数日前
霧切「舞園さんは唯一、私が布教する前からエア苗木君を考案していたわ」
十神「お前の他にもそんなモノを思いついた奴がいるだと……?」
霧切「彼女のエア苗木君も私が考案したものとほぼ同じ。不運にもね」
霧切「……いえ。これは苗木君という存在が起こしたミラクル、奇跡と呼べるのかもしれないわ」
十神「奇跡的な馬鹿が不運にも同じ時代に生まれてしまったのか……」
霧切「まあ結局のところ、彼女のエア苗木君は我流であり邪道よ」
十神(お前のも我流であり邪道だろうが)
現在
舞園「本当に苗木君なんですか? 幻なんじゃないですか?」
苗木「むしろ今まで見てた方が幻だよ」
舞園「この顔、姿、仕草、声、匂い……確かに間違いなく苗木君です!」
苗木「う、うん。最初からそう言ってるんだけど……」
舞園「病気治ったんですね。良かった。ううっ……!」
苗木「ちょ、ちょっと。なんで泣いてるの?」
舞園「ごめんなさい。苗木君に会えたのが嬉しくて……」
苗木「舞園さん……」
舞園「大変だったんですよ……。苗木君がいない間さみしくて、新曲のレコーディング中も何回かシャウトしそうになりました」
苗木「プロデューサーさんが泣くよ……」
舞園「しかしどうしてわざわざここに? 私に会いに来たんですか、いや会いに来たんですね分かりますよエスパーですから」
苗木(確かにそうとも言えるんだけど答えるのが怖い)
苗木「女子の皆が出席してないって聞いて今探して回ってるんだ。どうもその原因がエア苗木クンにあるらしくて」
苗木「もしかして舞園さんが流行させた張本人なの?」
舞園「え? 絶望の中を生き抜く為にエア苗木君を編み出しましたけど流行なんてさせてませんよ」
苗木「じゃあ黒幕は他の人……消去法で霧切さんだ。間違いない」
苗木(ていうか二人とも同時にそんなモノ思いついたのか……嫌なミラクルだな)
舞園「そうなんですか。霧切さんがエア苗木君を……」
舞園「……ぷっ。妄想もそこまでくるとお笑い草ですね苗木君!」
苗木「そっちは壁だよ舞園さん」
苗木「じゃあ霧切さんを探そう。こんな事した理由を問い詰めないと」
舞園「あっ、彼女なら私見かけましたよ」
苗木「本当? 一体どこに」
舞園「体育館から何かを持って寄宿舎の個室に戻っていったのを見ました」
苗木「なるほど個室だね。行ってくるよ。舞園さんは教室に……」
舞園「いえ私もお供します。てかさせてください離れたくないんですお願いします」
苗木「う、うん分かった」
苗木(必死過ぎて断れなかった……)
二、三日前
霧切「エア苗木君を会得するには修行が必要よ。特別にその方法を教えてあげる」
十神「………………」
十神(もう何か言う気にすらなれん……)
霧切「私はまずエア苗木君をしようと決めてからはイメージ修行をした。最初は実際にこれを一日中いじくっていたの」
つ苗木のパーカー
十神「………………」
霧切「とにかく四六時中よ。目をつぶって触感を確認したり、ずーっとただながめてみたりなめてみたり、音を立てたり嗅いでみたり」
霧切「しばらくしたら毎晩苗木君の夢を見るようになったの。……いえ、これは前からそうだったわ」
霧切「けどこのままじゃさすがにいけないと思って、泣く泣くパーカーを真空保存して我慢する事にしたの」
十神(返せよ……)
霧切「でもそうすると今度は幻覚で苗木君が見えてきたわ。さらに日が経つと幻覚の苗木君がリアルに感じられた」
霧切「重みも温もりも囁く声も聞こえてくる。いつのまにか幻覚じゃなく、自然と具現化した苗木君が出ていたの」
霧切「これがエア苗木君の極意……どうかしら。出来そう?」
十神「警察と精神病院に行け……。そして二度と出てくるな……」
現在
苗木「………………」
舞園「そしてその時の修行に使ったのがこれです」
つ苗木の体操服
舞園「これがエア苗木君の真髄です。分かりましたか?」
苗木「……警察と頭の病院に行こうか舞園さん。ていうかなんでボクの体操服を携帯してるの……」
舞園「どこにしまってたか不思議でしょ? ふふっ、私エスパーですから」
苗木「どっちかっていうとサイコだよ。体操服は後で返し……いや燃やしといてね」
舞園「あ、霧切さんの個室に着きましたよ」
苗木「えっ、うん。…………」
苗木(今、ごまかされたような……)
苗木「ともかく、中にいるのかな。なんでこんな事をしたのか聞き出さないと」
舞園「入ってみましょう」
霧切の個室
霧切「あら、誠さんお帰りなさい」
苗木「………………」
舞園「………………」
霧切「ふふっ、あなたが帰って来たからかしら。……お腹の中で蹴ったわ」ボテッ
舞園「やりますね……。エア苗木君を極めてエア妊娠までやってるとは!」
苗木「これは想像妊娠っていうんだよ舞園さん」
苗木「もうなんか、頭痛くなってきた……」
霧切「そんな事でどうするの。もうすぐパパになるのに」
苗木「泣きそうだよ……色んな意味で」
霧切「そういえば名前をまだ決めてなかったわね。今決めましょうか」
霧切「男の子だったら私の名前から取って響太、女の子だったら苗木君から取って苗子とかどうかしら」
苗木(なんでボクのは名字から取ったんだよ)
苗木「じゃなくてさ……。舞園さんからも何か言ってやってよ」
舞園「男の子だったらさや男とかどうでしょうか」
苗木「やっぱり黙ってて」
苗木「くそっ、霧切さんも舞園さんも手遅れだ。どうしようもない……」
苗木「ゴメン石丸クン。不二咲クン、十神クン、皆……。希望なんてなかった」
舞園「苗木君……分かってますって。冗談はここまでです」
苗木「え?」
舞園「霧切さん。こんな狂ったままごとはもう終わりです。苗木君は帰ってきたんですよ」
舞園「私達はもう現実を見るべきなんです」
霧切「……現実? 違うわ、私は現実を見てるし現実に生きてる」
霧切「私と苗木君はあんな事やそんな事、あんあんな事して新しい命を授かったの!」
苗木「本人を前にして言うのやめてくんない」
舞園「違いますよ。全ては夢だったんです。楽しかったけど現実じゃない……」
舞園「本当の苗木君はここにいるんですから!」
苗木「舞園さん……」
苗木「………………」
苗木(その指先が観葉植物じゃなかったら百点だったよ)
霧切「な、苗木君……? 違うわ、私は!」
霧切「この子を……苗蔵を育てないといけないのよ! 分かって苗木君!」
舞園「くっ、この意志の強さ……。これが子を持つ母親の覚悟……!?」
苗木「それは違うよ。あと苗木苗蔵は、絶っ対に却下」
苗木(でもこのままじゃダメだ、考えるんだ……)
苗木(いくら霧切さんが想像妊娠するようなド級のキチガイでもこんな短期間で妊娠する事はありえない)
苗木(あのお腹のふくらみには何か秘密があるはず)
苗木「……そういえば」
舞園『あっ、彼女なら私見かけましたよ』
苗木『本当? 一体どこに』
舞園『体育館から何かを持って寄宿舎の個室に戻っていったのを見ました』
苗木(……この部屋には体育館にあるような物は見つからない)
苗木(という事は、あのふくらみは!)
苗木「舞園さん! 霧切さんのお腹を調べて!」
舞園「お腹を? 了解です!」
霧切「……! ちょっと、やめなさい!」
舞園「中に誰もいませんよね!? オラァッ!!」ドガッ
霧切「うっ!!」
苗木「腹パンは言ってない! そこまでやれって言ってない!」
ポン、コロコロコロ……
舞園「えっ、これはバスケットボール……?」
霧切「! しまった……!」
苗木「やっぱりね。体育館から持ってきていたのはこれだったんだ!」
苗木「これが事件の全貌だよ」
『クライマックス推理 開始』
苗木「霧切さんはバスケットボールを服の下に入れる事で妊娠を偽装した……」
苗木「これがエア苗木君の正体だったんだよ」
苗木「そしてこの騒動の黒幕もキミなんだ! 霧切響子さん!」
『クライマックス推理 終了』
霧切「くっ!」
苗木「どうやら反論は無いみたいだね……」
霧切「っ……!」
苗木(……これで決まった)
霧切(……フルネームで呼ばれるの嬉しい……!)
霧切「苗木君の癖に生意気……いえ。流石苗木君ね」
苗木「霧切さん。どうしてこんな事を」
霧切「……寂しかったのよ。貴方が居なくなって、いつのまにか私の中で大きな存在になっている事に気づいたの」
苗木「えっ、う、うん。そっ、そうなんだ」
舞園「それでエア苗木君なんて事を……」
霧切「エア苗木君を流行らせた理由は空想の苗木君を皆にも認めてもらうため」
霧切「私だけがトチ狂ってるんじゃ……あまりにも情けないでしょう」
苗木「それは……結構メイワクな理由だね」
霧切「……私の処遇は好きにしなさい。覚悟は出来てるわ」
苗木「………………」
舞園「霧切さん……」
苗木「じゃあ……とりあえずちゃんと授業に出席してくれるかな。それさえ守ってくれればいいよ」
霧切「……えっ?」
舞園「苗木君?」
苗木「腑に落ちないけど事の発端はボクが休んだ事らしいし。それにボクも休んでる間は皆と会いたかったから」
苗木「まあ今日は人がいなかったし、今からの出席は無理みたいだけどね」
霧切「…………。ありがとう、苗木君」
舞園「……ふふっ。これにて一件落着ですね!」
霧切「本当にごめんなさい。皆にも謝らないといけないわね」
苗木「解決して良かったよ。じゃあ三人で教室に……」
ガシッ
苗木「え? なんで二人ともボクの腕を……」
舞園「それにしても苗木君も私達に会いたがっていたとは気づきませんでした」
霧切「ところで今日の出席はもう無理らしいわね」
苗木「……あの、離して。動けない……!」
霧切「今からエア苗木君じゃなくて……」
舞園「本物の苗木君を……」
霧切「会えなかった一週間分!」
舞園「堪能させてくださいね!」
苗木(…………た)
苗木「助けて! 助けてぇ! あああっ! …………」
翌朝
ワイワイ ガヤガヤ ダベダベ
石丸「おお、今日は皆来ているぞ!」
不二咲「きっと苗木君のおかげだよ!」
霧切「ふふ……やはり本物が一番ね」ツヤツヤ
舞園「うふふ、そうですね。エア苗木君とか今考えると馬鹿みたいでした」テカテカ
十神「……引き換えに哀れな犠牲があったようだがな」
不二咲「ところで苗木君は? まだ来てないのかな」
石丸「ああ、さっき連絡があったのだが……」
石丸「過労で倒れたらしい。病み上がりという事もあって大事をとって一か月ほど入院するそうだ!」
霧切「苗木君が……?」
舞園「休み……?」
十神「おい、ちょっと待てそれは……!」
霧切「あっ、んあああっ、苗木ぐうううぅぅぅんん!!」
舞園「会いだいのほおおおぉぉぉっ!!」
十神「奇声を上げるなシャウトするな! 頼むから早く戻ってこい苗木ぃ!!」
終里
苗キチを書きたかった、ただそれだけだったんだ
依頼は後で出します
このSSまとめへのコメント
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