研究者「はい」
研究者「既に騎士団長に説明はしている。君は研究の為のモルモットだ」
女騎士「まじかよファックス!」
研究者「君は騎士団の中でも特に健康体で頑丈という話だったな」
女騎士「ん、まぁな。騎士は体が資本だからな」
研究者「それは素晴らしい。研究中の薬を試すのが楽しみだよ」
ジャラジャラ
研究者「まずはこの錠剤を飲んでもらおうか」
女騎士「青と赤の錠剤…飲んでも大丈夫なのか?」
研究者「それを今から試すんじゃないか、君で」
女騎士「くっ、私が…」
研究者「どうなってもいいさ。モルモットのうち一匹が廃棄されるだけさ」
女騎士「くっ、とんだクズだな!」
モグモグ バリバリ
研究者「と言いながら食べてるじゃないか。優秀なモルモットだな、君は」
女騎士「で、これはどんな効果が期待できるんだ?」
研究者「まぁ慌てるな。効果や副作用を今からデータ取りするんだから」
カチャカチャ
女騎士「怪しい機材…」
ドキドキ ワクワク
研究者「なに期待しとんねん」
女騎士「はっ、早く調べろ!」
ハァハァ
研究者「えぇ…さすがの私もちょい引くわ」
女騎士「貴様はマッドな…いや、メァァァッドなサイエンティストなんだろ、早く、早く!ハリー!ハリー!ハリー!」
研究者「調子狂うなぁ…」
~30分後~
女騎士「…」
研究者「…」
女騎士「…ん」
ビクンッ
女騎士「うっ…何だ、体が…」
ビキッ ビキビキッ
研究者「おぉ、心拍数が跳ね上がった…ふむ、この数値は興味深い」
カチャカチャ
女騎士「うぐっ、何だ、筋肉が…筋肉が暴れているような感覚だ!」
研究者「アドレナリン量が増加している…ふむ、ドーパミンも…エナジーが倍々になっている」
女騎士「はぁぁぁん!」
ビキビキッ ビクンッ
研究者「今回の試薬はなかなかよさそうだな。後は副作用だ」
女騎士「はぁぁ…いく…いいんですか、本当に…いっちゃってもいいんですかァァァ!?」
ビクンッ ビクンッ
研究者「どうやら性的興奮も高まる模様」
女騎士「はぁ…」
ジュン いや、ジュンジュワ~
研究者「…私もいささか興奮してきた模様」
ヌギッ ヒョロチン
研究者「お、おろ~。研究に没頭してきたから、チンコひょろひょろでござるよ~」
女騎士「!」
ギランッ
女騎士「チ、ンコ…?」
ロックオン…
ブチッ ブチッ キザイ ハカイー
女騎士「チンコゥゥゥ!」
ズザザザッ
女騎士「フシュルルル!」
研究者「きゃあ!」
女騎士「フシュルルル!」
ガシッ ズボンヌ カクドピュ
この間、じつに0.8秒!
研究者「な、何が起こったんだ…気が付いたら、射精していた…快楽より先に射精による倦怠感が私を襲う…!」
ジワジワ…ビクンッ
研究者「はぬっ!やはり後から快楽が来た…ンナッハ!」
女騎士「…はっ!」
研究者「どうやら薬の効果が切れたか…持続時間は30~40分といったところだな」
女騎士「うっ、急に眠気が…」
バタリ グッスリ
研究者「効果が切れたら強烈な眠気が、と。ふむ、実用性を高めるなら、やはり赤の方か…」
・ ・ ・ ・ ・
女騎士「…ん」
ズキッ
女騎士「頭痛…ここ、は…」
研究者「起きたか。確かに頑丈だ」
女騎士「私は…あぁ、そうだったな、思い出した」
研究者「君のおかげで、どうやらこれが実用化できそうだ」
スッ
研究者「肉体活性化薬…そうだな、『ベルセルク』とでも名付けようか」
女騎士「狂戦士か…ふん、大それた名を」
研究者「だが効果は先程の通りだ。だが不可解な事がある」
女騎士「…何だ」
研究者「これは服用すれば命を縮める劇薬でもある…肉体を活性化するが、効果が切れれば著しく肉体は衰える筈。だが君は…」
カチャカチャ
研究者「ベルセルク服用前後の君の身体データを調べたが、ほぼ衰えが見られない」
女騎士「言っただろう、頑丈なのさ」
研究者「だがこれは…これはまるで…命がいくつもあるようだ…」
女騎士「…へぇ」
研究者「ん?」
女騎士「鋭いんだな…いや、たまたまか」
研究者「一体何を…」
女騎士「今あんたが言った通りさ。私には、命がいくつもあるのさ」
研究者「なっ…」
女騎士「騎士団では、不死身だの悪運が強いだの言われていたが…何の事はない、死んでも死んでも命の替え…ストックがあるだけだったのさ」
研究者「それはどういう…」
女騎士「さてね、それを説明した所で…」
研究者「き、君は一体…君は…人間、なのか…?」
女騎士「…」
研究者「…」
女騎士「結構、傷つくんだよね」
研究者「?」
女騎士「人間なのかって…その、言い方」
研究者「…君は」
女騎士「私は、半分魔物なのさ」
研究者「!」
女騎士「ソウルイーターっていう、生き物の魂を食べる魔物…父さんが、それだった」
女騎士「まぁ、本当の所はよく知らない。物心ついた時には、両親はいなかったから。育ててくれたエルフ族のじいさんから聞かされた話さ」
研究者「…」
女騎士「ソウルイーターってのは、魂を食らい、ため込むんだ。それを自身の命として…命のストックとして、ね」
ニヤッ
女騎士「私は、数え切れないくらい魂を食らい、数え切れないくらい消費してきた。騎士として戦場に身を置く事は、私にはお似合いだった訳だ」
女騎士「命を軽んじてきた私だ、その報いなのだろう」
研究者「報い…?」
女騎士「あぁ。だから実験でも被験でも何でも受けよう。モルモットとして…私が死ぬまで、殺し続けてくれ」
研究者「…」
女騎士「さぁ、錠剤だろうが生体実験だろうが、なんでもござれだ」
研究者「…!」
パンッ ヒラテウチー
女騎士「っ!?」
研究者「君は…自分が犠牲になる事が報いだと…いうのか」
女騎士「なっ…」
研究者「僅かな罪悪感を消したいが為…一番安易な手段を選ぶのか、君は!」
女騎士「っ、私、は…」
研究者「そんな事は許されない、そんな事は望まれない。それは、失われた命を侮辱する愚行だ!」
研究者「殺した以上に生かす…それだけだろ…死者に報いる唯一の方法は…」
ギリッ…
女騎士「研究者…」
研究者「…」
女騎士「…なんて顔をしているんだ」
女騎士(そんな顔で涙ひとつ流せないなんて…一体お前は…)
・ ・ ・ ・ ・
研究者「…」
コーヒー ズズッ
女騎士「…」
ミルク ズズッ
研究者「…」
女騎士「…」
研究者「何か喋ってくれ、気まずくてかなわん」
女騎士「何かと言われてもな…」
研究者「それより、さっきの話」
女騎士「ん」
研究者「半分、その…」
女騎士「ん、まぁな。半魔とか半妖、魔人とかいうやつさ」
研究者「しかし、ソウルイーターか…どちらかといえばあれは魔物というより妖怪、迷信のようなものだと思っていたが」
女騎士「実際そんな感じだ。生物というか、概念が具現化したようなものだと」
研究者「ほほう、興味深いな」
女騎士「なんだ、科学的な事しか興味がないと思ったが」
研究者「なに、好奇心旺盛なだけさ」
研究者「…」
女騎士「…」
研究者「君は、騎士団では厄介者だったのか?」
女騎士「ちょ、言い方ってもんが…ふん、まぁな。どんな危険な戦場からでも死なずに帰還する…化け物呼ばわりされていたよ」
研究者「まぁ、ほぼ不死のようなもだからな」
女騎士「身内からは気味悪がれるのは辛かったな。身内というほど仲良くもなかったが」
研究者「身内…そういえば君に家族は…さっき、エルフ族のじいさんとか何とか言っていたが」
女騎士「あぁ。育ててくれたのは、じいさんだ。偏屈でな、同族から嫌われ、山奥でひっそり暮らしていたそうだ」
研究者「偏屈…ふふっ」
女騎士「なぜ笑う…あっ、私もそうだと言いたいのか」
研究者「いやいや。それより話の続きを」
女騎士「むぅ…」
研究者「続き、続き」
女騎士「じいさんがある日、芝刈りに出かけたら、なんやかんやあって、赤子の私を拾ったそうだ」
研究者「なんやかんや」
女騎士「あぁ。そのあとなんやかんやあって赤子のエルフを拾った」
研究者「なんやかんや」
女騎士「あぁ、なんやかんやだ」
女騎士「だから家族は、じいさんと妹くらいだな」
研究者「その二人は…」
女騎士「遠慮せずにズケズケ訊いてくるな貴様は…」
研究者「なに、好奇心旺盛なだけさ」
女騎士「まぁいい」
女騎士「じいさんはもう死んでる。まぁ寿命だ。妹は…分からん。騎士団に入ってから、仕送りはしていたが、会ってはいない」
研究者「そうか」
女騎士「まぁこんなとこか。そんなこんなで今に至る訳だ」
研究者「ふむ。最高のモルモットとして私のもとに来たわけだな」
女騎士「さぁ、次は貴様が話す番だ。コーヒーもミルクもたっぷりある。ゆっくり話すがいい」
研究者「…私の生い立ちなど面白いものではないのだがな」
女騎士「私だけ話すのは不公平だ、貴様も話すのが道理だろう」
研究者「ふむ…一理あるな」
研究者「さて、どこから話すかな」
シュボッ タバコスパー
研究者「私は、元は医者だった。小さな村で唯一のな。設備も技術も不足していた…大変ではあったが、村人から頼られるのは素直に嬉しかった」
女騎士「医者か…今からでは想像できないな」
研究者「変わったのさ、世界も、私も」
ケムリ モクモク
研究者「何が何処で狂ったのか…気が付けば私は非人道的な研究者に成り果てていた」
女騎士「そうか」
研究者「研究の名のもとに人を殺して…殺して殺して殺した。医者の頃に救った命を遙かに超えたよ…それはもう、あっという間にな」
ククッ
研究者「酷い男だろう?私はそんな私を、これっぽっちも後悔していないんだ」
女騎士「何が貴様をそこまで…」
研究者「私はね、皆が…皆が笑って暮らせる世界を目指しているんだよ」
女騎士「…は?」
研究者「こんなに殺すのも、その為だ。沢山の犠牲者がいたなら、その犠牲者以上の幸福者を生む事が…私の目指す所さ」
研究者「死んでいった者は決して無駄死ではないと…その犠牲の先に幸福があると…そうでなければ、私という存在が嘘になる…降りる訳にはいかないのさ」
女騎士「狂った志だ。その歪さは…恐ろしいものだな」
研究者「はは…本当の所は、もう、よく分からんのかもしれん。目的と手段が入れ替わっているのかもな…ただ殺す事だけを…私は…」
女騎士「貴様は…そうやって…最終的に何を望む?」
研究者「そうだな…国…この国を…幸福者で満たしたい…皆笑い、何も疑問を持たず幸福に死んでいく…そんな国を…」
女騎士「やはり歪んでいるな。そんな気色の悪い国はまっぴら御免だ」
研究者「かもな。だが私はそれを望む…望まねば…いけないのさ」
女騎士「…よし」
研究者「うん?」
女騎士「貴様のその歪んだ望み…私が粉々に粉砕してやろう!」
研究者「…」
フーッ ヤレヤレ
研究者「一体何を言うかと思えば…馬鹿馬鹿しい」
女騎士「貴様は…止めて欲しいんだ。だからそんなにベラベラと喋った、心の内をさらけ出した…そうだろ」
研究者「…かも、な」
女騎士「後戻りができないと勝手に決めつけ、非道を重ねる自分を、本当は止めて欲しいんだ…だが死んでいった者達の為にも、止まるわけにはいかない…がんじがらめになっているんだ」
研究者「ほう…君には私がそんな風に見えるのか。興味深いな」
女騎士「別に興味なんざないさ。だがね、本音を隠して拗ねてるガキみたいな大人を見るのは、胸糞悪いのさ、これがな」
研究者「ほう…」
女騎士「貴様は自分の思うままにやればいい。いずれ私が、ちょうどいいタイミングで、全部、台無しだ…台無しにしてやる!」
ニヤッ
研究者「…やれるのか?」
女騎士「やってやるさ」
研究者「私は…私が望まない結果を望んでも…いいのか?」
女騎士「くどいぞ。やってやると言っている。それはもう、壮大に、壮絶に台無しにしてやる」
研究者「そうか」
女騎士「あぁ」
研究者「それは…楽しみだな」
女騎士「あぁ。私は手加減を知らんからな、期待しておけ」
研究者「…はは」
女騎士「では私は行くぞ。やる事ができたんだ、こんな所でモルモッてる場合じゃない」
研究者「あぁ」
女騎士「ではな、さらばだ。そして、またな」
研究者「あぁ。…そうだ、餞別と言うわけではないが…」
ヒュッ
女騎士「おぅ」
パシッ
研究者「例の肉体強化薬の完成品だ…何かの役に立つだろう」
研究者「君の協力で完成したものだからな、君が持っているのが道理だろう」
女騎士「…分かった、有り難く頂くとしよう」
女騎士「では…ドロン!」
シュタタタ ニンジャバシリー
研究者「行ったか…」
研究者「さて、私は私の成すべき事を…しようか」
とある小さな国の研究者は
それから二十年ほどのち
周辺国を侵略し大国と成り
その国の王と
残虐非道の王となる。
だがそれはまだ先の話。
これから始まるのは
ごく平凡な女騎士の
ごく平凡な日々の記録である…
・ ・ ・ ・ ・
~とある町の酒場~
女騎士「さて、これからだが」
ミルク ゴクー
女騎士「今更騎士団には戻りたくないしな。住む場所を探さなければ」
ミルク ゴクー
女騎士「仕事もだしな…やれやれ、面倒だ」
ミルク ゴクー
マスター(こいつ酒場で牛乳ばっか飲みやがって…酒を飲め酒を)
女騎士「マスター、牛乳おかわり」
マスター「…酒は飲まないんですか?」
女騎士「私は下戸なんだ。ゲコゲコ」
マスター「くっ、カエルみたいに鳴くのかよ、あんたは!!」
女騎士「だってしょうがないじゃないか」
マスター「くっ、えなりみたいに喋るのかよ…あんたって人は―――!」
女騎士「まぁまぁそうカッカしなさんな」
マスター「だっ、誰が閣下やねん!そんなに長生きしとらんわ!」
女騎士「めんどくせぇなこのマスター」
マスター「と、冗談はここまでにして」
キリッ
女騎士(急にそんな顔…ちょっとドキッとしちゃうじゃん…)
マスター「住む所と働く所を探しているようだが」
女騎士「あぁ。いろいろあってな、宿無し職無しなんだ」
マスター「へぇ…」
ジロジロ ジュルリ
女騎士(品定めするような目つき…なんていやらしいんだ)
マスター「うちは住み込みで働けるが、どうかね」
女騎士「まじっすか」
マスター「あぁ。ヒトデが足りなくてな」
女騎士「ヒトデが足りない…?」
マスター「あぁ、すまない間違えた。人手が足りないんだ」
女騎士「…人手がいる程繁盛しているようには見えないがな」
マスター「きょ、今日はたまたま客が少ないの!」
女騎士「まぁいい。で、雇ってくれるなら有り難い話なんだが」
マスター「あぁ。君さえよければね。も、もちろん下心なんか無い、100%の善意だからね、ね!」
女騎士「お、おぅ…」
マスター「どうかね」
女騎士「うむ、よろしく頼む」
マスター「了解だ。あとで部屋まで案内するから、しばらく飲んでいてくれて構わない。仕事は明日からお願いするよ」
女騎士「わかった。では牛乳おかわり」
マスター「あんたって人は―――!」
・ ・ ・ ・ ・
ユウガター
マスター「客足も落ち着いたし、一休みするかな」
女騎士「本っ当に繁盛してないんだな…大丈夫なのか」
マスター「今日はたまたまだって!マジ、マジだから!ちゃんと雇うし給料も払えるから!」
女騎士「お、おぅ」
マスター「では、部屋を案内しよう。一通りの家具は揃っている筈だ。必要な物があれば言ってくれ」
女騎士「わかった」
ガチャリ
女騎士「おぉ…いい部屋じゃないか」
マスター「それはどうも。あ、ちなみに隣には、君の同僚になる子…うちの従業員が住んでいるからね」
女騎士「そうなのか」
マスター「今日は休みで、たぶん寝てるだろう。できるだけ静かにしてあげてくれ。明日、改めて紹介するよ」
女騎士「うむ」
マスター「ではゆっくり休んでくれ。また夜に来る、食事を用意しておくから」
女騎士「あぁ、ありがとう」
マスター「じゃあの」
ガチャリ
女騎士「…ふぅ」
ドサッ
女騎士「なんやかんやで住む所も職も見つかったな…落ち着いたら眠くなってきた」
ウトウト
女騎士「少し寝るか…」
・ ・ ・ ・ ・
女騎士「zzz…」
『…』
『…き、貴様は!?』
『あの戦場からどうやって…』
『あいつ、また一人だけ生還したらしいぜ』
『気味が悪いぜ…まったく』
『まるで仲間の命を奪って生き延びてるみたいだ』
『死に神さ、あいつは』
『化け物さ、あいつは』
『…』
女騎士「zzz…」
ガバッ
女騎士「はうわぁっ!」
アセダラダラ
女騎士「…夢、か」
女騎士(いや、事実か…私は…そうさ、化け物さ)
コンコン
女騎士「ん、マスターか…」
コンコン
女騎士「どうぞ」
ガチャリ
?「…」
女騎士(マスターじゃない…)
?「あの、何かうなされていて…心配になったもので」
女騎士「ん、あぁ、すまない。うるさくしてしまったな」
?「い、いえ。そんなことは」
女騎士(女…耳が長いな、エルフ族…エルフ族の女、か)
エルフ「?」
女騎士「あ、いや何でもない。大丈夫だ」
エルフ「そうですか、よかったです」
エルフ「えぇっと、貴方は…」
女騎士「明日から働く事となった、女騎士だ」
エルフ「あら、そうだったんですか。私は、エルフと申します、よろしくお願いします」
ペコリ
女騎士「あぁ、よろしく」
・ ・ ・ ・ ・
こうしてなんやかんやあって
酒場で働く事となった女騎士。
同僚となるエルフと出会った彼女は
なぜか懐かしさを感じているのだった…
・ ・ ・ ・ ・
女騎士「…」
エルフ「…?」
マジマジ
エルフ「あの…女騎士さん?」
女騎士「ん、あぁ」
エルフ「私の顔に何か付いているのでしょうか…」
女騎士「す、すまない。ジロジロ見られるのは気分のいいものではないよな」
エルフ「あ、いえ、そういう訳では」
女騎士「いやなに、綺麗な顔だなと思ってな。つい見入ってしまった」
エルフ「き、綺麗だなんて、もうっ、からかわないでください!」
カァァッ
女騎士(可愛いな)
女騎士「綺麗なのは本当じゃないか。白い肌、尖った耳、艶やかな唇…あぁ、素晴らしい」
ヌギッ
エルフ「…」
女騎士「本当に素晴らしい」
ヌギヌギッ
エルフ「あの…どうして服を」
女騎士「それはね…お前を食べる為だよ!」
ガバァッ
エルフ「お、狼さん!?」
アーレー
ガチャリ
ズザザッ
マスター「待ていっ!」
マスター「肉欲に支配され、己の快楽のみを求める犬畜生…人、それを『レイパー』という!」
女騎士「何者だ!」
マスター「貴様に名乗る名前はない!」
エルフ「ま、マスター!」
マスター「夕食の用意ができたから呼びに来たんだが…まったく何をやっているんだね」
女騎士「まだナニもヤッていないぞ」
マスター「当たり前だ、やらせてたまるか」
エルフ「マスター…」
タッタッタ
ヒシッ
エルフ「あの人、怖いです…」
マスター「よしよし、大丈夫」
ナデナデ
エルフ「マスター…」
ウキューン
マスター「まったく、少し頭を冷やしたまえ…」
キュィィィ
マスター「スプラッシュ!」
バシュゥゥゥ!
女騎士「なっ…水が…これは、魔法…?」
バシュゥゥゥ!
女騎士「あばばばばば!」
ミズ ズバー
マスター「どうだい、程よく冷えたかい」
女騎士「…おかげさまで…イッキシ!」
・ ・ ・ ・ ・
ユウショクー
女騎士「…」
モグモグ
女騎士「…」
チラッ
エルフ「!」
ビクンッ
女騎士「…さっきはすまなかった。ごめん」
エルフ「…」
マスター「ごめんで済んだら警察はいらない」
女騎士「…本当にごめんなさい」
マスター「しかしだな、君は随分なケダモノだな」
女騎士「私は両刀でな。カッコいい男も可愛い女も大好きなんだ」
マスター「知るか!」
女騎士「…それに」
マスター「ん?」
女騎士「それに、なんだか…懐かしい気持ちがしてな」
マスター「懐かしい?」
女騎士「私には妹がいて…幼い頃じゃれあっていたのを思い出してな…」
エルフ「…!」
ズキッ
エルフ「あぅっ…」
マスター「エルフ!?」
エルフ「だ、大丈夫です…少し頭痛がして」
マスター「だが…」
エルフ「大丈夫、です…そ、それより女騎士さん…」
女騎士「ん?」
エルフ「その…妹さんというのは…」
女騎士「あぁ。君に似た、白い肌が綺麗なエルフ族の妹だ」
エルフ「私に…似た…」
ズキッ
エルフ「っ!」
女騎士「だ、大丈夫…ではないだろう!少し休んで…いや、何か薬…あわあわ」
アタフタ アタフタ
エルフ「大丈夫…たまにあるんです、頭痛」
女騎士「え…」
マスター「…この子はね、過去の記憶が曖昧なんだ」
エルフ「はい。幼い頃の記憶が…ぼんやりとして…はっきりと思い出せないんです」
女騎士「…」
エルフ「女騎士さんの話を聞いていたら……いえ、本当は会った時から…何か、不思議な感覚があったんです…」
女騎士「ま、まさか…」
フルフル
エルフ「分かりません。でも、もしかしたら…」
マスター「過去が思い出せないってのは、たまらなく不安な事だ」
エルフ「…はい」
マスター「こんな事は予想していなかったが、この子が君の妹だとしたら…」
エルフ「…聞かせて下さい、貴方が知っている事…何か思い出せるかも…もしかしたら…私は貴方の…」
女騎士「分かった、幼い頃の記憶で正確ではないが…聞いてくれるか?」
エルフ「…はい!」
・ ・ ・ ・ ・
女騎士はゆっくり語り始めた。
自分の事
育ての親である老エルフの事
妹のエルフの事
自身もはっきりとは覚えていなかったが
女騎士は、話した。
目の前にいるエルフの目を真っ直ぐに見つめて。
つたない言葉で
ぎこちない身振りで
ゆっくり、精一杯
語って、語った。
・ ・ ・ ・ ・
ガチャリ
マスター「…コーヒーをいれてきた」
女騎士「あぁ、ありがとう」
エルフ「ありがとうございます」
女騎士「でだな、それからが傑作でな…」
エルフ「ふふ、はい」
マスター「…」
マスター(いい笑顔をしているな。私には見せなかった顔だ)
マスター(運命なんて物は、もう信じないと思っていたが…この二人を見ると、なかなかどうして…)
女騎士「それから…」
エルフ「ええ…はい…」
ウトウト
女騎士「っと、夢中で喋りすぎたな…随分瞼が重そうだぞ」
エルフ「い、いえ…そんなこ、とは…」
ウトウト
エルフ「あり…ま…ふぇ…」
コックリ
エルフ「zzz…」
女騎士「ふふ、寝てしまったか」
コンコン ガチャリ
マスター「コーヒーをいれ…っと、寝てしまったか」
女騎士「あぁ」
モウフ ファサー
エルフ「zzz…」
マスター「色んな事がいっぺんに起きた日だったからな、疲れたのだろう」
女騎士「体が強い方ではなかったからな…と、まだ妹と決まった訳ではないか」
マスター「いや、君達は姉妹さ。もちろん、そうであって欲しいという願いもあるのだがね」
女騎士「…」
マスター「さて、君も寝たまえ。少し狭いだろうが、二人で寝るといい」
モウフ ファサー
女騎士「ありがとう」
マスター「では…」
テクテクテク ガチャリ…
テクテクテク
マスター「…」
マスター「ふぅ。なんというか、ようやく一日が終わったという感じだ」
テクテク イス スワリ
マスター「私も随分長く生きてきたが、こんなに嬉しい気持ちになったのはいつぶりかな…」
カチャカチャ コーヒー ツクリー
マスター「無限の時の中で…死ねない牢獄の中で…私にとってあの子は唯一の安らぎだった」
マスター「だからかな、少しあの女騎士に妬いているのかも…」
コーヒー グビー
マスター「はは、なんてな…さて、私も寝るかな」
テクテク ガチャリ
マスター「明日もあの子に幸あらんことを…」
【続く】
・ ・ ・ ・ ・
アサー
鶏「コケコッウボルア゛ア゛ア゛ア゛!」
マスター「ん…朝か」
マスター「さて二人を起こしてくるか。今日は忙しくなるからな」
テクテク
テクテク ガチャリ
マスター「君達、朝だよ」
女騎士「zzz…」
エルフ「zzz…」
マスター「気持ちよさそうに寝ている…気が引けるが、起こさない訳にはな」
ユサユサ
マスター「起きたまへー起きたまへー」
女騎士「うぅん…くぅ…ころしぇ…むにゃむにゃ…」
エルフ「…ふぁ…あ、マスター、おはようございまふ…」
マスター「おはよう。隣の寝坊助さんも起こしてやってくれないか。今日は忙しくなるからね」
エルフ「あ、はい」
ユサユサ
エルフ「女騎士さーん」
ユサユサ
女騎士「ふみゅ…んー」
ガバッ ダキッ
エルフ「ひゃあ!?お、女騎士さん?」
女騎士「んー」
スリスリ
エルフ「ふみゅぅぅぅ…」
マスター「じゃれあってないで、早く起こして」
・ ・ ・ ・ ・
マスター「で、今日から働いてもらうわけだけど」
女騎士「うむ」
マスター「基本的には接客と配膳をしてもらう事となる。エルフと一緒にな」
女騎士「ふむ」
マスター「あとは…君には荒くれ者の相手をしてもらいたい。いわゆる用心棒だな」
女騎士「ほう」
マスター「酒場だからね、どうしても酔って暴れる奴らがいる。そいつらに丁重にお帰り頂くんだ」
女騎士「丁重にだな…分かった」
マスター「まぁそんなとこか」
エルフ「一緒に頑張りましょうね!」
女騎士「あぁ…で、ひとつ質問がある」
マスター「なんだね」
女騎士「なんだこの格好は!」
ヒラヒラ スカート フリフリ フリル
女騎士「刺激的すぎんよ~」
エルフ「そうですか?私はとても可愛いと思っているんですが…」
マスター「私の趣味だ!」
バァーン
女騎士「そんな自信満々に言われても」
マスター「いや、よく似合っているよ。可愛い可愛い」
女騎士「んなっ…」
エルフ「可愛いですよー」
女騎士「エルフまで…もうっ!」
マスター「はいはい、無駄話はここまで。気を引き締めていかないと大変だぞ、今日は」
エルフ「はいっ」
女騎士「今日はなにか特別なのか?」
マスター「この町の兵団が、店を貸し切りで飲み会をするんだ」
エルフ「年に2、3回くらいあるんですよ。この日だけは店が活気に溢れて…」
マスター「この日だけ、ってのはよけいだよ…」
女騎士「ほう、兵団がね」
マスター「こんな田舎の兵団だが、やはりストレスは溜まるようでね。皆飲めや歌えやの大騒ぎさ」
エルフ「酔ってお尻を触る人もいて…うぅ…」
女騎士「なにぃ、エルフの柔らかくて素晴らしい尻を触る奴がいるだァ!?許さん!」
マスター「まぁそんな奴は次の瞬間には黒焦げになっているがね」
女騎士「え…」
エルフ「私、火属性の魔法が得意なんです」
マスター「君に用心棒を頼んだ理由はこれさ。この子は、やりすぎてしまうんだよ…」
マスター「だから、酔って何かしでかしそうな奴がいたら、黒焦げになる前に助けてやってくれ。いや、マジで」
女騎士「お、おぅ」
マスター「さ、準備を急ごう。酒や食事をたっぷりと用意しなければいけない」
エルフ「余興の手配も最終確認しておきますね」
女騎士「私は何をすればいい」
マスター「そうだな、酒樽を運んできてもらおうか。かなりの力仕事だぞ」
女騎士「任せろ」
こうして女騎士の初仕事が始まろうとしていた。
果たして兵団員は黒焦げにならずに済むだろうか…
【続く】
・ ・ ・ ・ ・
ガヤガヤ ワーワー
兵団の宴は始まった。
皆、普段の鬱憤を晴らすかのように
酒をあおり、肉を食らい
愚痴を吐き、ゲロを吐いた。
兵士A「すんませーん、酒追加ください」
兵士B「にく…にく…」
兵士C「でよーあいつがよー」
ガヤガヤ
エルフ「お酒お持ちしましたー」
女騎士「肉の追加だ、あとサラダもな」
マスター「7番テーブルにこれ持ってってー」
エルフ「はーい」
休む暇なく働く女騎士達。
休む暇なく飲み食いする兵士達。
宴は、まだまだ続く。
踊り子「ダンソンッ」
兵士D「ヒューヒュー」
兵士E「かわい娘ちゃ~ん」
兵士F「やんややんや」
女騎士「肉だ、そして肉だ、まだまだ肉だ!」
エルフ「お酒お持ちしましたー」
マスター「7番テーブルに持ってってって言ってるだろ!」
兵士A「酒追加まだー?」
バタバタ ガヤガヤ
兵士C「ゲロゲロゲロ…」
兵士D「あぁん、こいつ吐きやがった、ぶっころ!」
ガヤガヤ ザワザワ
兵士C「なんだぁ、やんのかコラ!」
兵士D「なんや!」
兵士C「なんやとはなんや!」
兵士D「…なんやぁ!?」
兵士C「なんやぁ!」
女騎士「っ、なにやら1番テーブルが騒がしいな」
テクテク
兵士C「なんや!」
兵士D「なんやねんマジで!」
女騎士「こらこら、喧嘩せず仲良く飲みな」
兵士C「なんやぁ!?」
兵士D「なんやねん?」
女騎士「冷静になって。ほら肉を食え」
兵士C「なんや…」
パクッ
兵士C「にくうまっ」
兵士D「なんや…」
パクッ
兵士D「にくうまっ」
女騎士「ほらな、肉を食えば万事解決だ」
兵士C「肉や!」
兵士D「肉や!」
ワーワー
女騎士「ここはこれでよし、と」
マスター「おい7番テーブルに早よ運べやコラ」
女騎士「あっすいません」
女騎士「これを7番テーブルにだな」
マスター「おう早よせぇや」
女騎士(怒ってらっしゃる)
テクテク
女騎士「ここが7番テーブルだな」
兵士G「おっ、肉だ」
兵士H「はよ」
女騎士「あせんなって!」
兵士H「はよ」
女騎士「あせんなって!」
兵士I「…」
サワッ
女騎士「っ!」
兵士I「ねーちゃんいいケツしてまんなぁ…ゲヘヘ」
兵士G「ちょ、兵士Iさん…やめ…」
兵士I「うるせぇ、ワシに指図するな!」
バキィ
兵士G「殴られた」
兵士I「ろくに剣も振れない腰抜けがワシにとやかく言うんじゃあない!」
バキィ バキィ
兵士G「めっちゃ殴られてます」
女騎士「ちょ、やめないか!」
ガシッ
兵士I「あぁ?」
女騎士「酔うのは勝手だがな、人様を傷つけるのは止めろ」
兵士I「うるせぁ!女ぁ黙ってろい!」
女騎士「女だから何だ?貴様のような昔人間の老害が世の中を駄目にする…」
兵士I「あぁん、このワシを…兵団一の年長者であるこのワシを愚弄するか!」
女騎士「やれやれ…酔いを覚ます必要があるな」
女騎士「来な、余興代わりにちょいと決闘といこうじゃないか」
兵士I「っ、上等じゃ!」
タッタッタ
エルフ「女騎士さん…」
女騎士「心配するな。言ったろ、余興代わりさ」
エルフ「でも…」
女騎士「大丈夫大丈夫。いいだろ、マスター?」
マスター「ん、あぁ。構わんよ。派手な見せ物の方が兵団の皆さんも楽しめるだろう」
エルフ「ま、マスターまで…」
女騎士「マスターの了解も得た。さぁ、来なよ」
クイッ
兵士I「女が…後悔するでないぞ!」
ダダッ
兵士I「ぬぉっ!」
ブォン スカッ
女騎士「なんだそのヘナチョコパンチは」
兵士I「ぬぬぬ…くぉぉ!」
ブォン スカッ コケッ
兵士I「あだーっ!」
ワハハハハ
女騎士「はは、面白いな貴様は。兵士より芸人の方が似合っているぞ」
兵士I「ば…馬鹿にしおって…くそっ…どいつもこいつも…」
ザワッ…
エルフ「!」
兵士I「どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも!」
女騎士「なっ…様子が…」
兵士I「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!どいつもコロス!こいつもコロス!」
バキバキィ メキョッ グルンッ
兵士I「ギャシィィィ!」
女騎士「ま、魔物…?」
兵士I「ギャシィィィ、コロスゥ!」
ザシュッ
兵士H「ぎいやあああ」
ガブリ
兵士F「うぁぁぁ!」
兵士E「ま、魔物だァ…逃げろ!」
ウワァァァー
女騎士「おいおい悪い冗談だな…」
エルフ「あれは…」
マスター「あぁ…」
女騎士「知っているのか雷電!?」
マスター「誰が雷電やねん」
エルフ「あれは…人造魔物」
女騎士「人造魔物?」
マスター「あぁ。人の手によって、感情を増幅させて生み出された魔物さ」
女騎士「そ、そんなものが…」
マスター「あるのさ、これがな」
クククッ…
マスター「ふふ…ははっ」
女騎士「ま、マスター…?」
ゾクッ
マスター「久しぶりに見たが、やはりおぞましくて忌々しいな。最近ようやく穏やかな日々が続いていたのに…思い出しちまったよ」
ニィッ
マスター「ありがとうよ、最低の気分だ」
―――グォッ―――
キィン
耳鳴りが、した。
次の瞬間
人造魔物と呼ばれる、それは
ただの肉塊になっていた。
女騎士「…え?」
マスター「…」
マスターは
手に武器らしき物を持っていた。
赤黒く、禍々しい
異様な形状の
かろうじて剣と呼べるような
武器らしき物を、持っていた。
マスター「はは、まったく…殺しても殺しても…はは…」
女騎士は寒気がした。
笑っているのに、笑っていない。
感情なんてものが微塵もない
マスターのその顔を見て
血が凍るような
そんな気がしていた。
【続く】
・ ・ ・ ・ ・
~とある国、王の間~
王「なんと…兵士が魔物にとな?」
大臣「はい、数人の兵が犠牲になりました」
王「そんな事があるのか…」
大臣「信じがたい事ですが、兵団長は嘘を言うような男ではありません」
王「なんという…」
大臣「既に調査隊を手配しました。何か分かればいいのですが」
王「ご苦労。これがなにかの予兆でなければいいが…」
・ ・ ・ ・ ・
~酒場~
マスター「やれやれ、ようやく片づいたな」
女騎士「うむ。被害請求も兵団に出したし、一段落だ」
エルフ「あんな事があったのに請求するのは少し気が引けましたね…」
マスター「いやいや、兵団長から言ってくれてね。まぁ彼とはつきあいが長いから」
女騎士「そうなのか。なかなか律儀な人間だな」
マスター「確かに今兵団は大変な状況だろうね、あんな事があったんだし」
女騎士「…」
マスター「気になるかね、魔物の事」
女騎士「!」
マスター「それとも、別の事かな」
女騎士「…どちらもさ」
マスター「そうか…さて、少し話をしようか。店もしばらく休業だしね」
カチャカチャ
マスター「コーヒーを淹れるから待っていてくれ」
女騎士「…」
エルフ「…」
女騎士「なぁ、エルフ」
エルフ「はい、なんでしょう?」
女騎士「言うタイミングを逃していたんだがな…」
エルフ「はい」
女騎士「えと…その」
エルフ「?」
女騎士「んー…その、私の事をだな…ね、ね…」
エルフ「ね?」
女騎士「姉さんと呼んで貰ってもいいか?」
エルフ「あ…」
女騎士「そうだと決まったわけではないが…私は…そうであって欲しい…だか、ら…」
エルフ「…」
ニコッ
エルフ「はい、分かりました、姉さん」
女騎士「!」
ニパァァ
女騎士「yahooooo!イエス、イエス、イエス!」
ダンソンッ
女騎士「セイセイセーイ、フゥー!」
女騎士「いいんですか、いいんです!」
カクカクカク
マスター「ちょっと落ち着きなさい」
チョップ ズビシ
マスター「ほれ、コーヒーだ。飲んで落ち着きなさい」
カタン
女騎士「あ、あぁ」
ズビー
女騎士「うーんマンダム」
マスター「で、まずはあの人造魔物の事から話そうか。と言ってもすべてを知っている訳ではないがね」
女騎士「いいさ、話してくれ」
マスター「あれは、国の研究機関が造りだした薬によるものだ。本来はある病気を治療する為に開発されたものだったんだが、その副作用に予想外の効果が見られた…服用者の魔物化さ」
女騎士「国営研究所が絡んでいたのか…」
マスター「君も知っての通り、評判の良くない機関さ。もしかしたら、人間の魔物化が本来の目的だったのかもしれないな」
エルフ「はい、なにせ国営研究所ですからね」
マスター「で、それをひっそりと色んな所にばらまき、効果をみているんだ。実用化するつもりなんだろう」
女騎士「なっ…そんな事が…許される筈が」
マスター「隠蔽は奴らの十八番だからね。国民は知らないさ」
女騎士「では…なぜマスターがそれを…」
マスター「それは…」
女騎士「それは?」
マスター「それは…」
エルフ「それは…」
マスター「メケメケメケメケ…」
女騎士「んー、マジでぇ!?」
エルフ「んー、マジでぇ!?」
マスター「ウソウソウソウソほんとはね、ほんとはね?」
女騎士「本当は?本当は?」
エルフ「ニョーッ!ニョーッ!」
マスター「コペポーンッ!」
女騎士「ニョーッ!ニョーッ!」
カメラップゥ…
マスター「はぁ…はぁ…」
女騎士「ぜい…ぜい…」
エルフ「っ…はふぅ…」
マスター「ま、まぁなんやかんやあって、色々知っているわけさ」
女騎士「なんやかんや、か…まぁ深く追求するのも無粋だしな」
マスター「そういう事。秘密の一つや二つあった方が、いい男ってもんだろ」
女騎士「へぇ」
マスター(そう、秘密ってのは密やかにしてこそ意味があるからね…)
女騎士「だが、その例の魔物化する薬…そんな物進んで使いたがる奴がいるとは思えないのが」
マスター「もちろん本当の事は伏せているだろう。栄養剤、ビタミン剤、風邪薬、麻薬…適当な薬を偽って渡しているのさ」
女騎士「ど外道が~!」
マスター「昨日の兵士も騙されて渡されたんだろう。まぁルートを調べようにも死んでしまっては、ね…」
女騎士「ど外道が~!」
マスター「私は、あの薬…『ビースト』を根絶させたい…いや、しなければならんのさ、これがな」
女騎士「ビースト…そんな生やさしいもんじゃなかったがな、あの効果をみる限りは」
女騎士「しっかし、どうしてどいつもこいつも薬にこっぱずかしい名前を付けたがるんだろうな」
ガサゴソ ヒョイ
女騎士「私もちょいと知り合いに貰った物があるんだが…これなんかベルセルクだと。大層な名前だよ、まったく」
マスター「!」
マスター(ベルセルク…赤い錠剤…なぜそれがある…あの時確かに…だからもうそれは存在しない筈…なぜだ!?)
マスター「…」
女騎士「どうした、顔色が悪いど」
エルフ「ど?」
女騎士「どうした、顔色が悪いぞ」
エルフ(言い直した)
マスター(井伊直弼)
マスター「君はその薬を…ベルセルクをどこで手に入れた」
女騎士「実はかくかくしかじかで」
エルフ「まるまるうまうまという訳ですね」
マスター「なるほど、わからん」
エルフ「分かってやれよぉ!」
マスター「!?」
エルフ「小雪の気持ち、分かってやれよぉ!」
女騎士「誰が小雪やねん」
女騎士「私は…決めたんだ。あの研究者の偉そうな横っ面を…ひっぱたいてやるってな」
エルフ「姉さん…」
マスター「よくもまぁ、自分を実験台にした奴の事を…まさか、惚れたのかい、そいつに」
女騎士「ふっ…そうかもな」
エルフ「ええっ!?」
女騎士「あるいは…いや、今更そんな事はどうでもいいのさ、これがな」
女騎士「私の決意は変わらない。いづれ暴走し、引っ込みが付かなった頃、あいつを止めに行くのさ」
マスター「ふぅ…それもまた、愛、かね。だがそのベルセルクが世にばらまかれるのを見過ごすわけにはいかない。私は私のやり方で、それを止めるぞ」
女騎士「…そちらも訳ありなのだろう。構わないさ、誰かのやる事にとやかく言える立場でもないし、言うつもりもない」
マスター「そうかい」
女騎士「…という訳だ。エルフ、短い間だったが、楽しかったぞ」
エルフ「え…?ね、姉さん、何を…言って…るの?」
女騎士「私のやり方とマスターのやり方は…相容れないみたいだからな。私がここに居る訳にはいかないのさ」
マスター「残念だね、せっかく人手が増えると思ったのに」
女騎士「ははっ、すまんな」
エルフ「そ、んな…姉さん…」
女騎士「ではな、急ではあるが行くよ…」
エルフ「ね、ねえさ…」
女騎士「そんな顔をするな。こうやって出会えただけで奇跡なのさ、これがな」
エルフ「で、でも…」
女騎士「お前はマスターの側にいろ。うまく説明はできないが…その必要がある、そんな気がするんだ」
エルフ「え…」
女騎士「誰かに依存されないと…駄目なんだよ、たぶん。なんとなく似ているのかもな…」
エルフ「似て、いる?」
女騎士「ああ。私に…いや、あるいは…ふっ、どうでもいいか」
女騎士「では、さらばだ」
タッタッタ
マスター「楽しかったわよ、シモn…じゃなかった、女騎士…」
エルフ(なぜ急にこの人はオネエ口調になったの)
・ ・ ・ ・ ・
こうして女騎士は去った。
来るべき日の為に
成すべき事の為に
女騎士「台無しさ…全て台無しにしてやるのさ、これがな」
【完】
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