冬馬。
お前の心は熱く義憤に燃えている。
その業火は火の粉を辺りに散らし、飛び火せんばかりだ。
お前のその火は、正しき世界を求める者達には必ず燃え広がってゆくだろう。
要は胸の内に“松明”を持っているかどうかだ。火を灯すためのな。
私も“松明”を持っているつもりだ。
お前などにこう思うのは癪だが……
……私も、お前にはいい影響を受けているよ。
……何だその顔は。
ええいっ! 何を嬉しそうな目をしている! 気持ち悪い!
頬を染めている暇があるならさっさと捜査なり鍛錬なりしろこの未熟者!
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前作
【アイマス】響「教えて、教えてよ。自分の中に誰がいるの?」【東京喰種】
お待たせしました。偶像喰種シリーズの第二弾となります。
今回は一部原作主要キャラの登場、
およびアイマスキャラ何名かの死亡シーンがありますので、それらの要素が苦手な方はご注意ください。
#01[喰種]
~早朝 765プロ:キッチン~
トポポ……
「ーーゆっくり焦らずに、平仮名の『の』の字を描くようにね」
「う、んっ」プルプル
(『の』の字……『の』の字……)シュンシュンシュン
(……こんな感じでいいのかな?)
「それじゃあ……」ゴク
「……!」
(ーー微妙……)
「……駄目だ」
「ピヨ子や社長と比べると何か違うぞ……」
「……」クスッ
小鳥「コーヒーは手間をかけることで、全く味が変わるの」
小鳥「人も同じ。焦ることはないわ、響ちゃん」
響「うん……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「ぷはあああ」ボスッ
響「こんなに緊張してコーヒーを淹れた事なんて初めてだぞ……」グデー
響(自分は我那覇響。ついこの間、765プロに入ることになったアイドル候補生だ)
響(どこにでもいるってわけじゃないけど、ただの動物好きなアイドル……)
響(……だった)
ガチャ
春香「さささ寒いいいいい! おおおおはようございまーすっ!」
雪歩「お、おはようございますううぅ…」
やよい「おはようございますー!」
亜美真美「「おっは→!」」
律子「おはようございまーす……あら響。今日は早いじゃない」
響「はいさーい。えっと……ちょっと事務所で練習しときたいことがあったんだぞ」
亜美「ほほう? 朝早くから秘密の特訓とな?」ズイ
真美「この真美に隠れて秘密の特訓とは、何をしていたか気になりますなあ」ズズイ
響「えっ」
亜美「ひびきんったら、身長のわりにおませさんなんだから!」
真美「これは是非、ひびきんが何をやっていたか突き止めて正さねばなるまい!」
亜美「早速捜査だ! 行くぞ真美捜査官!」
真美「行くぞ亜美捜査官!」
亜美真美「「わーーーー→!!」」
ドドドドドドドドド
やよい「こら亜美!真美! 室内で走り回っちゃダメ!」
春香「アハハ、朝っぱらから元気だよねあの二人は」
響「……だな」
響(…コーヒー淹れてただけなんだけどな。『正体』がバレるかもしれないって言われたから、一応隠したけど……)
< アミソウサカン!オユヲワカシタバッカノヤカンヲハッケンシマシタ!
< デカシタマミソウサカン!
春香「千早ちゃん達はまだ来てないんだね。何かTVでも見て待ってよ」ピッ
雪歩「あっ…それなら、新しく見つけたお茶があるから淹れてくるね」カチャ
響(げっ……!)
響「あっ、ゆ、雪歩!」
雪歩「? どうしたの響ちゃん?」
響「え、えっと……自分、さっきコーヒー飲んだばっかりだからさ、あんまり喉渇いてないんだぞ! だから自分の分までは淹れなくてもいいから!」
雪歩「えっ……? そ、そっか……」ショボン
響(うっ…やっぱり落ち込んだ……)
律子「何落ち込んでんのよ雪歩。響は喉が渇いてないってだけで雪歩のお茶が嫌いだなんて一言も言ってないわよ」
律子「それに見学の時に、あんなに美味しそうに飲んでたじゃない。ね、響?」
響「あっ……うん! 雪歩のお茶、すごく美味しかったんだからな! それは本当だぞ!」
雪歩「そ、そう……?」
雪歩「…えへへ、じゃあまた喉が渇いたときに淹れてあげるね」ニコッ
響「う、うん! 楽しみにしてるぞ!」
響(雪歩のお茶……美味し『かった』のは本当だ。春香のクッキーと同じで、いつまでも飲んでいたい味だって思ったんだっけ)
響(今じゃもう、その味を思い出すことは出来ないけど……)
『ーー5日、ーー市の民家にて女性への暴行事件が起こりました』
『被害者の軽部美薗さんは身体に大きな怪我を負い、現場には"喰種"の体液が残されていたことから、捜査局はこれを"喰種"による捕食とみなし捜査を進めています』
春香「あ、また喰種のニュースやってる。また近くで起こってない?」
やよい「なんだか怖いですー…」
雪歩「はやくCCGの人達がなんとかしてくれるといいんだけど……」
亜美「心配ご無用! この双海亜美特等がグールなんてズバズバ→っとやっちゃうYO!」
真美「グールは鬼畜だ→!」
律子「駆逐、ね。危ないからやめなさい」
響「そうだぞー。亜美と真美なんか、すぐに食べられちゃうんだからなー」
響「……」
響(『喰種』。人に紛れて人間を狩り、その肉を食べる怪物)
響(人間と同じ姿をしながら人肉とコーヒー以外のものを食べられない『喰種』は、この東京の街中で人間のフリをして生きている)
響(そして……)
ガチャ
真「おっはようございまーす!」
あずさ「おはようございます~♪」
伊織「おはよ……あら、私たちで最後? みんな早いじゃない」
雪歩「あ! 真ちゃん!」
やよい「これで皆あつまりましたー!」
亜美「もー、皆遅いんだから→!」
真美「待たせる子はこの真美が食べちゃうんだからね! ガオ→!!」
律子「はいはい、捕食は後にしてミーティング始めるわよ。皆さっさと集まりなさーい」
春香「はーい」トコトコ
春香「……」クルッ
春香「えへへ、おはよう千早ちゃん!」
千早「ええ。おはよう春香」
響(それは、この765プロでも同じだ)
響(……そして、自分も)
響(自分は元々人間だった)
響(でも、自分はその765プロの『喰種』の一人に襲われて死にかけて)
響(自分を襲った『喰種』の内臓を身体に移殖することで何とか生き延びて)
響(それから自分の身体はおかしくなった)
響(それまで美味しく食べられたご飯が、ゴミみたいに不味く感じるようになって)
響(その代わりに、人を見ると激しい食欲に襲われるようになった)
響(まるで自分も『喰種』になってしまったみたいだった)
響(いや……もう分かってる。自分はもう『人間』じゃない)
響(人を食べないと生きていけなくなった『元』人間。人間と喰種の両方の特徴を持つ、簡単に言えば『半喰種』)
響(それが今の自分……我那覇響だ)
今日はここまで。
さて問題です、765プロでは誰が喰種で、4種類のうちどんな赫子を持っているでしょうか?
#02[隠匿]
…あのさ、響。少し覚えておいて欲しいことがあるんだがーーーーー
『ん? なんだ?』
その前に……響はさ、今日765プロの皆に会って……皆のこと、どう思った?
『皆? 春香とか、千早のこと?』
そうだ。あとは……小鳥さんについても思ったことを教えてくれ。
『……』
『……んー、そうだな……』
『春香は、ドジなとこもあるけど正直で明るいやつだろ?』
『真もそうで、あと見た目は男っぽいけど結構女の子っぽくて可愛いって思うとこもあって』
『やよいなんかは頑張り屋ですごく人思いだなーって思って』
『雪歩は臆病なところもあるけど、とっても優しくて』
『優しいって言ったらあずささんもだな! おっとりしてて、すごく甘えたくな……いや、自分はそんな、完璧だし甘える必要なんて無いけど!?』
『あと伊織はキツいやつかと思ってたけど、やよいとか亜美真美とかに、面倒見のいい所もあるんだなって思ったなー』
『亜美真美は…イタズラにちょっとムカついたけど、悪い子じゃないんだなってのは分かるぞ』
『あれをいっつも叱ったり宥めたりしてる律子って、すごく…えっと……すごいやつだと思う!』
『千早は……今日一日じゃ固いやつだなーとしか思わなかった……でも、それでも歌についてすごく努力してる、真っすぐなやつってのは分かった』
『ダンスは自分の方が上だと思うけど……歌では千早にかなわないなあって思っちゃったぞ』
『それで、ピヨ子はなんか考えてニヤニヤしてる時があって、頼りになるのかなぁ…って最初は思ったけど』
『世話好きな所があって、そう言うところがあるから皆に好かれてるのかなってことも思った。…自分も、ピヨ子のそういう所は嫌いじゃないぞ』
『で、社長は……冗談好き?』
『……こんなとこ?』
そうか。…響は皆のこと、そんな風に思ってくれてるんだな。ありがとな。
『う……べ、別に、お礼を言われるようなことでもないだろ! 聞きたかったのはこれだけ!?』プイ
ああ。響が皆のことを良く思っているのが分かったから、俺の聞きたいことはもう終わりだ。
俺の覚えていて欲しいことって言うのは、いま響自身が言ったことなんだよ。
『?』
響から見た765プロの皆が『いい奴』だって事。『面白い奴』だって事。
真が可愛い奴だってこと、伊織が面倒見のいい奴だってこと、あずささんが甘えたくなるような人だってこと、
音無さんが世話好きな人だってこと、千早が努力家で真っ直ぐな奴だってこと。
この先何があっても、今日響が皆に抱いた思いを、絶対に忘れないで欲しいんだ。
『……』
『ーーーそんな事? それぐらいなら、別に頼むようなことでもないと思うんだけどな』
…まあ、頭の片隅にでも追いやってくれて構わないさ。ただ、一応伝えておこうって思ってな
『うーん…プロデューサーが何を言いたかったのか、いまいちピンと来ないけど……とりあえず、いいぞ!』
『自分、完璧だからな! プロデューサーの頼みだってパパッとやっちゃうぞ!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヘタレッ! ヘタレッ!(目覚まし音)
パチン
響「ふあ……」
響(……夢、か……)
響(……)
響(……あれ?)
響(……自分、何の夢見てたんだっけ……?)
すまん、>>19ちょっと変えます。
『春香は、ドジなとこもあるけど正直で明るいやつだろ?』
『真もそうで、あと見た目は男っぽいけど結構女の子っぽくて可愛いって思うとこもあって』
『やよいなんかは頑張り屋ですごく人思いだなーって思って』
『雪歩は臆病なところもあるけど、とっても優しくて』
『優しいって言ったらあずささんもだな! おっとりしてて、すごく甘えたくな……いや、自分はそんな、完璧だし甘える必要なんて無いけど!?』
『あと伊織はキツいやつかと思ってたけど、やよいとか亜美真美とかに、面倒見のいい所もあるんだなって思ったなー』
『亜美真美は…イタズラにちょっとムカついたけど、悪い子じゃないんだなってのは分かるぞ』
『あれをいっつも叱ったり宥めたりしてる律子って、すごく…えっと……すごいやつだと思う!』
『千早は……今日一日じゃ固いやつだなーとしか思わなかった……でも、それでも歌についてすごく努力してる、真っすぐなやつってのは分かった』
『ダンスは自分の方が上だと思うけど……歌では千早にかなわないなあって思っちゃったぞ』
『それで、ピヨ子はなんか考えてニヤニヤしてる時があって、頼りになるのかなぁ…って最初は思ったけど』
『世話好きな所があって、そう言うところがあるから皆に好かれてるのかなってことも思った。…自分も、ピヨ子のそういう所は嫌いじゃないぞ』
『で、社長は……冗談好き?』
『765プロのみんなは……みんながいいやつで、面白いやつだなって思った。あそこなら……まあ……悪くないかなって……』
『……こんなとこ?』
以下、>>22の続き。
~同日・早朝 765プロダクション社長室~
響「ーーー訓練?」
高木「そうだ。この765プロダクションでは喰種と人間がトップアイドルを目指すという夢を共有し」
高木「そして喰種の子達が自分の正体を隠していることは、もう話しているね?」
響「う、うん」
高木「本来、うちでは『自分自身に限り自己責任で』正体を明かすことを認めているのだが……君はまだ、それをする心の準備は出来ていないだろう?」
響「……うん」
高木「如月君たちも同じだ。よって、心の準備……あるいは覚悟を決める機会を伺う事になるんだがね……下手を打ってしまうと、その前に喰種であることがバレることになってしまう」
響「!」
高木「あとは、うちの人間の子達が喰種の子達を受け入れる、受け入れないに関係なく、CCGに正体がバレてしまえばそれは確実な死に繋がる。それだけは回避しなければならない」
高木「それらの不安要素を取り除くために、喰種は人間のフリをする必要が出てくる。キミにやってもらいたいのは、その人間のフリの訓練だ」
響「人間の、フリ……」
高木「詳しい話は、また今度にしよう。……さて」
響「? 今度は何だ?」
高木「いやね。今日もこれから、皆が集まり次第朝のミーティングを行うのだが……そこで少し、キミを吃驚させることになる」
高木「まあ、悪い話ではないさ。はっはっは」
響「?」
響(社長は何を言いたいんだ……?)
響「ねえ、それってどういう……」
ガチャ
??「お早うございます」
響「……」
響「……えっ?」
響(い、今の声ってまさか……)チラッ
高木「…お、来たようだね」
高木「久しぶりのご友人だ。会えなかった分、たくさん話をしてきたまえ」ハッハッハ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「」アングリ
響「あ……ああ……!?」
貴音「その表情……なにか、後ろめたいことでも?」ムッスー
響「た、た、た、貴音ぇ!? 何で貴音がこんなところにいるんだ!?」
貴音「こんな所……?」
クワッ
貴音「それはわたくしの台詞です!」ガシッ
響「おおっ!?」グワンッ
貴音「何なのですか貴女は! わたくしには『765プロには近づくな』と言っておきながら! 自分はのうのうと入社とは!」ユッサユッサユッサユッサ
貴音「わたくしが何か、貴女の気に障ることをしたのでしょうか!? それにしても悪趣味すぎます! わたくしを何処にも入社させず、わたくしを本格的に孤独死させるおつもりですか!?」グワングワングワングワン
響「あっ……ち、違うんだ! 違うんだぞ! 貴音のことを忘れてたわけじゃ、そんなつもりじゃ!」ブルンブルンブルンブルン
貴音「 わ す れ て い た ! ? 」
貴音「いま忘れていたとはっきり申しましたね!? 無視しているわけではないことは分かりましたがそれはそれで非道い所業ではありませんか!!」
響「ごっ……ごめん、本当にゴメン! 謝るから、謝るから許してえええええっ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「」ゼーハーヒーハー
貴音「まあ……正直に謝ったことですし、意図的でないと分かった以上この件は水に流しましょう。わたくしも鬼ではありません」ゼエゼエ
響「あ……ありが、とう……」ヒイヒイ
響「そ、それで……貴音、いったい何しに来たんだ? あんまり、ここに長居しても……」
貴音「む。まだわたくしを765ぷろから遠ざけるおつもりですか?」ムッ
響「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……」
貴音「……まあ、響にも響なりに、わたくしを気遣っているのでしょう。それは分かりますが、わたくしはもう従うつもりもありませんし、何より忠告するには時が遅すぎました」
響「? それって、どういう……」
貴音「決まっています」コホン
貴音「わたくしも既に、この『765ぷろだくしょん』に入社いたしましたので」
響「……へ?」
響「ーーーへえええええええええええええええええっ!!!?」
~同時刻 事務所外~
< ヘエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!?
「!?」
ドタドタドタバタン
「どうしたの我那覇さん!?」ガチャッ
響「へっ……あ、ち、千早!?」
貴音「おや、如月千早殿。お早うございます」
千早「し、四条さん!? お、おはよう、ございます……」
貴音「先日の事故の件、千早殿には大変お世話になりました。心より感謝いたします」ペコリ
千早「え、ええ……どういたしまして」
響「えっ? 貴音、事故にあったの!?」
貴音「おや、聞いていないのですか? わたくしと響と美希が車の事故に巻き込まれ、その際に千早殿や小鳥嬢に看病してもらったではありませんか」
響「あ……そっか」
響(そういえば、そう説明したって社長が言ってたっけ)
貴音「美希は怪我がひどくて入院することになったようですが……貴女方はわたくし達の命の恩人です。本当にありがとうございました」ペコリ
千早「あ……い、いえ……どういたしまして」
貴音「この恩はいずれ必ず返します。わたくしも今日からこの765ぷろに入りますので、これからも仲良くしていただければと」
千早「は、はい。よろしくお願いしま……」
千早「……は?」
千早「…我那覇さん。ちょっといいかしら」
響「え? う、うん。ごめんな貴音、また後で」
貴音「ええ、また後でお会いしましょう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
千早「……どういうつもりかしら、我那覇さん」ジロッ
響「貴音のこと……だよな?」
千早「当たり前よ。四条さんと同じ事務所で活動するなんて……私たちはともかく貴女にとっては、正体をすぐに見抜かれる事に繋がりかねないと思うのだけれど」
響「じ、自分だって、ついさっき知ったばかりなんだぞ!? 貴音を入れるつもりなんて、自分はさらさら無かったんだ!」
千早「……我那覇さんが引き入れたわけでは無かったのね。早とちりしていたわ、ごめんなさい」ペコリ
響「えっと……自分は別に気にしてないから……」
千早「……そう……」
千早「我那覇さん、一つだけ忠告しておくわね」
響「? 何だ?」
千早「自分の正体を明かす準備をしていないなら、死ぬ気で隠しなさい。勿論、四条さんにも」
響「わ、分かったぞ……」
千早「どれだけ親しくても、相手が喰種だと分かった瞬間、その相手を敵視する人間はごまんといるわ」
千早「…まあ、『元人間』の貴女には実感のわかないことでしょうけれど」ハァ
響「……ッ」カチン
響「…そんなこと言うけどさあ、だったら千早はどうなの?」
千早「……何?」
響「そんなに正体がバレるのが怖いなら、何であんなに春香と仲良くしてるわけ? そこまでする必要は、さすがに無いんじゃないの?」
千早「……!」
響「危機感がないのは千早も一緒だと思うぞ。少なくとも自分に実感がどうのこうの言う資格はーーー」
ギリッ
響「…ッ」ビクッ
千早「……」
千早「…………貴女には、理解できないでしょうね」
響「……え」
千早「……それじゃ」クルッ
スタスタスタスタスタ……
響「……」
響「……何だよ、あいつ……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コポポ……
高木「…おや? 如月君と喧嘩でもしたのかね?」
響「……誰のせいだと思ってるの?」ムスッ
高木「いやいやすまない。四条君を見た時に、つい『ティン』と来てしまったものだからね」
響「……あっそ」ズズ
高木「如月君が苦手なのかね? 確か、あの時の暴力については既に謝罪したと聞いていたんだがね」
響「……別に」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
千早『……あの時は殴ってしまってごめんなさい。私も冷静じゃなくなっていたわ』
千早『……それじゃ』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高木「複雑かい? 自分が人間を演じなければいけないことについて」
響「……うん」
響「……何で自分が……自分は元々……」
高木「元々?」
響「…………何でもない」
響「しばらく、一人にしてほしいぞ…………」
高木「ふむ……では退散する前に、二つほどキミに話しておこう」
響「……?」
高木「疑問に思ったことはないかね?『何でわざわざ喰種と人間を同じ事務所に集めるんだ』って」
響「……あ……」
響「……うん。何で……"喰種"は世間から身を隠すべきなのに……」
高木「人の世で生き忍ぶからこそ、彼女たちは我々人間の事を学ぶ必要がある」
高木「性格や行動傾向…何気ない仕草、そしてその意味…モノの食べ方に至るまで」
高木「人間というのは、彼女たち"喰種"にとっては生きた教本なんだ」
高木「それと……これはあくまで私個人の考えなんだがね」
高木「今となっては、この765プロにおいてだけは、もう人間を演じる必要なんてないと思うのだよ」
響「……え……」
高木「私からすれば、天海君や亜美君、真美君、やよい君が、『喰種』だからと言って如月君たちをいきなり差別するような子だとは思わない」
高木「律子君は尚更だ。彼女なんかは『自分がプロデュースするアイドルってことは変わらない』の一言で済ましそうだ」
高木「萩原君は怖がるかもしれないが、それでも共に積み重ねてきた月日は短くない。きっと彼女たちの話に耳を傾けるくらいは、すでに心を開いているはずだ」
高木「あとは、喰種の皆が一歩踏み出すだけなんだ。とても重い一歩かもしれないが、それはとても短い距離なんだよ」
高木「……私にはそう見えると、常々言っているんだがね。どうも、人間の私の言葉では彼女たちを動かせないらしい」
高木「その点、キミなら私の言っていることが理解できるかもしれないし、それを彼女たちに教えることも出来るかもしれない」
高木「もしかしたら、その逆も……」
高木「……最後の一言については、忘れてくれて構わないよ」
高木「では、今日も一日頑張りたまえ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
貴音「ーーー四条貴音と申します。本日より、皆様と一緒にアイドル活動を行うことを決めました」
貴音「トップアイドルを目指し誠心誠意努力していきますので、何卒よろしくお願いします」ペコリ
ワアアアアアアアアアアッ!!
春香「天海春香です! よろしくお願いします貴音さん!」
雪歩「よ、よろしくお願いしますぅ! と、とってもカッコいいです!」
亜美「なんかお姫様みたいだね→!」
真美「ねーねーお姫ちんって呼んでいいー?」
やよい「うっうー! 新しい仲間が出来て、とっても嬉しいですー!」
響(ーーー社長の話を聞いて、プレッシャーと言うか、どす黒い感情と言うか……)
響(とにかく、重苦しいものが少しだけ取れた気がした)
響(辛い道だってずっと思っていたけど……春香たちと一緒なら……秘密を隠す相手ではあるけど……)
響(それでも、春香達と一緒なら、乗り越えられる気がした。ずっと自分の味方でいてくれるような、そんな気がした)
響(それはきっと、貴音もーーーーー)
響(ーーーだから)
響「貴音」
貴音「…響。わたくしがここに居座ることを、まだ不満に思っているのですか?」
貴音「……貴女にとって、わたくしは……」シュン
響「ううん、もう大丈夫だぞ」
響「何があったかは聞かないで欲しいんだけど……自分は貴音を歓迎するぞ。一緒にアイドル、頑張ろっ!」ニコッ
貴音「!」
貴音「……ふふっ、それは何よりです。では、これからも共に高みを目指して参りましょう」
響「うん!」
響「765プロへようこそ!」
響「ーーーーーこれからよろしくな、貴音!」
今日はここまで。打ち切りっぽい終わり方だけどまだまだ続くんじゃよ。
ここから先は二巻前半の内容+αを結構丁寧に書いていくつもりです。
人によっては結構退屈な話になるかも。何とかお付き合いいただければ幸いです。
#03[食卓]
ゴソッ
ガサゴソ
響「……ッ」ゴクリ
響(……肉……)
響(……人の、肉……)
響(ーー765プロには地下に大きな保管庫があって、そこでは余った人肉を冷蔵して保存している)
響(ーー春香たち人間は、この保管庫の存在を知らない。鍵は社長とピヨ子……)
響(ーーそして、前はプロデューサーも持っていたみたいだ……)
響(ーー自分が今持っている肉は、そこで保管されていたものだ)
響(ーー今、その在庫はとんでもなく少ないって聞いてる……それをわざわざ、自分にくれたんだ……)
響(ーー無駄には出来ない……今日こそ食べないと……)グウウ
響(ーーそうしないと、また……!!)
ーーーーー自分が食べてあげないとーーーーー
響(ーーあれを繰り返すことになる……!!)
響「ぐっ……」ブルッ
ブルブルブル
ブルブルブルブルブルブルブルブル
響「ーーーーーーーーーーッッッ!」
バシッ
響「はっ……はあっ……」
響(……ダメだ……)
響(人の肉なんて……やっぱり食べられないぞ…………!!)
~翌日・レッスン終了後~
亜美「かれ・・・あいぬ・・・・・・」
真美「あいぬもしりのかみ、おいなかむい、おきくるみのすえ・・・」
亜美「ほろびゆく、いけるらいぐる、なつのひを、しろきひざしを、うなぶし・・・・・・」
真美「ただにいきのみにけりーー・・・・・・」
春香「ーー……綺麗だね」
雪歩「……白秋ですぅ……」
亜美「……もーーーーーっ!! 律っちゃんのレッスン厳しすぎだYO!」
やよい「でも、とっても上手くなれた気がしますー!」
真美「およよ、やよいっちは元気だねえ……」
雪歩「…そうだね。やよいちゃんの体力がちょっと羨ましいなぁ…」
春香「それにしても、響ちゃんダンス上手いね!」
雪歩「うんうん……体力も技術も、あそこまで真と競り合ったのって響ちゃんが初めてじゃないかなぁ」
響「ふっふーん! 自分、完璧だからな! 元々ダンスは得意だし、この身体なら尚更よく動けるし!」
春香「…『この身体なら』? 何か肉体改造でもしたの?」
響「……あっ」
亜美「何ィ!? ひびきん、何かドーピングでもしてるの!?」
真美「これは重大な爆弾発言ですぞ我那覇選手?」
響「いやっ、え、えっと……ドーピングってわけじゃなくて……」
響(やばっ……久々に身体動かして気分が良かったから、すっかり浮かれてた……)
響(『喰種になったから基礎体力上がった』なんて正直に言えるわけないし……)
亜美「ひびきん一人だけずるいんだー」ズイ
真美「真美たちにもその秘ケツを教えてYO!」ズズイ
雪歩「わ、私も気になりますぅ……!」ズズズイ
響「う、うう……!」ジリジリ
響(思わぬところで、大ピンチに陥っちゃったぞ……!?)サアア
響(どうやって誤魔化せば……!!)
「…あ! そう言えば響ちゃん、沖縄で生まれ育った子なのよね?」
「「「!!!」」」
響(……あ……)
響(……あずささん!?)
あずさ「南国で育った子って、きっと小さいころからいっぱい走り回ってるでしょう?」
あずさ「だから…南国生まれの響ちゃんは、いっぱい運動してとっても恵まれた体に育ったんじゃないかしら~?」
春香「…なるほどー!」
やよい「沖縄ってすごいですー!」
亜美「……なーんだ、育ちの差かー」
真美「育ちならしょーがないね、真美たちにはマネしようがないや」
あずさ「あら? 亜美ちゃんや真美ちゃん、やよいちゃんならまだ間に合うんじゃないかしら? 皆はまだまだこれからだもの」
亜美「マジで!?」
真美「なら真美も今から外で走り回ればひびきんやあずさお姉ちゃんみたいなバインバインに!?」
やよい「ほ、本当ですかー!?」
雪歩「わ、私はもう遅いんですかぁ……?」
春香「あれ? 何か話の内容が体力からスタイルの話に変わってない?」
あずさ「うふふ♪ 雪歩ちゃんだって、まだまだこれからよ? だからみんな、これからもレッスン頑張りましょう?」ニコッ
「「「はーい!!!」」」
響(た……助かったぞ…………)
~数十分後 765プロダクション事務所内~
響「ーーー助かったぞ。ありがとね、あずささん」
あずさ「あらあら、どういたしまして。久し振りに響ちゃんの笑う顔が見れたのは嬉しいけど、これからは気をつけてね?」ニコニコ
響「そうするぞ……」フゥ
響(ーー765プロには今、社長とピヨ子と自分を含めて14人の人間と喰種がいる)
響(ーー社長から予め教えられてもいるけど、今の自分はもう、匂いで誰が喰種で誰が人間か、嗅ぎ分けることが出来る)
響(ーー半喰種の自分を除けば、社長、春香、雪歩、やよい、亜美、真美、律子、貴音の8人が人間で)
響(ーー残りの5人……千早、ピヨ子、真、伊織……)
響(ーーそして、あずささんも純粋な喰種だ)
響(ーーあずささんは、他の喰種とは違って怖そうなイメージが無い)
響(ーーそして実際、穏やかでいつもニコニコしてて、自分の話をよく聞いてくれる)
響(ーー今の自分にとっては、ピヨ子と並んで一番よく話す人だと言ってもいい)
響(ーーこの人と話していると、いつも『それ』を忘れそうになる。……でも……)
響(ーーーーーあずささんも、人の肉を食べて生きてる"喰種"なんだよな…………)
あずさ「……あら? どうしたの、響ちゃん?」
響「ーーーーーはっ!?」
響「い、いや、ゴメン! ちょっと考え事してただけだぞ……」アセアセ
あずさ「あらあら……邪魔しちゃった? ごめんね響ちゃん」
響「だ、大丈夫だぞ……」
響「そ、そう言えばさ! 自分、ここで何かするって聞いて残ってたんだけど……あずささんは何か聞いてる?」
あずさ「…ごめんなさい、すっかり忘れてた!」ハッ
あずさ「いま暇な喰種が私だけだから、響ちゃんに教えておいてほしい物があるって社長さんから頼まれていたの」ガサガサ
あずさ「今から響ちゃんに教えるのは、"喰種"として生きるためのレッスン。ヒトの世界で生きる"喰種"は、まずこれを最初に学ぶの」ゴソッ
響「? ……えっと、これって……」
響「ーーーサンドイッチ?」
あずさ「そうそう。ちょっと見ててね」ヒョイ
あずさ「……あーん」アー
響「えっ」
ぱくっ
響(なっ……!?)
響(た、食べた……!?)
あずさ「うん、うん……」モグモグ
あずさ「……んっ」ゴクン
あずさ「どう? 美味しそうに食べてた?」
響「う、うん……すごく……美味しそうだぞ……」
あずさ「うふふ♪ それじゃあ、響ちゃんも召し上がれ♪」
響「わ、分かった……」スッ
響(サンドイッチに仕掛けが……?)
響(自分にも、食べられるものなのか……?)ゴクリ
響「……いただきます」パクッ
響「…………」
響(ーーーーーだっ)
響「うおっっぐっええええええええええええええええええええっ!!!?」
響(ダメだあああああああああああああ!!!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「うええっ……うおえええええっ……」ゲホゲホ
あずさ「ご、ごめんね響ちゃん……大丈夫?」サスサス
響「う、うん……何とか……こほっ」ゲホゲホ
響「あ、あずささんはコレ、どうやって食べてるの? ……慣れたら我慢できるものなの……?」
あずさ「えっと……確かにガマンはしてるんだけど、響ちゃんと私じゃ食べ方が違うの」
響「食べ方……?」
あずさ「そうそう」
あずさ「ーーコツは『食べる』じゃなくて『飲む』こと」
あずさ「噛んでしまうと口の中にマズ味が広がっちゃうから、余計に吐き気を催してしまうの」サッサトハイチャイタクテシカタナイノ
あずさ「だから、出来るだけ噛まないで……一口目で噛み切って、一気に飲み込む」ゼツミョウナモチモチグアイナノ、トデモイットクノ
あずさ「そして10回ほど噛むフリ。ちょっと行儀が悪いかもしれないけど、この時に咀嚼音を出すとそれらしくなるわ」クチャモチャ
あずさ「あとは、美味しそうにしている表情がつけば上出来♪ …これが一番難しいことなんだけどね」
あずさ「最後に……そのままだと体調を崩してしまうから、消化が始まる前に吐き出すのを忘れないでね」
響「なるほど……」
響(…美希がおにぎりを食べられたのは、こう言うことだったのか……)
響(…………)
響("喰種"は……ここまでして人間を装っていたのか……)
響(自分、本当にやっていけるのかな……)
あずさ「ーー上手くやれるか、少し不安になってるの? 響ちゃん」
響「!」
あずさ「確かに、食事の訓練はとっても辛かったわ。ちょっと長めの時間をかけて、それこそ何回も吐きながら練習を続けた」
あずさ「……でもね」
あずさ「そのおかげで今は、律子さんや亜美ちゃんとの食事がとっても楽しいの」
響「……楽しい……?」
あずさ「そうそう。…みんなと一緒のテーブルについて、初めて分かったわ」
あずさ「律子さんが笑ってて、亜美ちゃんがいっぱいお喋りしてて……美味しいご飯って、人を笑顔に出来るんだなって思った」
あずさ「そこに伊織ちゃんと私も加わることが出来て……」
あずさ「私たちの『美味しい』って言葉は偽物だけど、その言葉が生み出す気持ちを共有できることが、とっても嬉しくて楽しいことは変わらないの」
あずさ「響ちゃんも、それは分かるでしょう?」
響「……!」
ーー『ふわふわのとろとろ……響の故郷の食事は、なんと美味なのでしょう…! いつか、響の故郷に訪れてみたいものです……!!』
ーー『あはは、貴音に美味しいって言ってくれて何だか嬉しいぞ! ま、自分がトップアイドルになったら、いくらでも連れてってあげるからな!』
響「……うん」
あずさ「大丈夫。もう、響ちゃんの味覚は元には戻らないかもしれないけど……それでも、同じ食卓につくことは出来るわ」
あずさ「響ちゃんのこと、いっぱい応援するから……」
あずさ「ーーー頑張って、響ちゃん」
響「……分かった」
響「ーーー自分、頑張るぞ!」ニッ
あずさ「うふふ♪」ニコニコ
響(喰種に食事のことを言われるなんて、思ってもみなかったな……)
響(……喰種……)
響(……また忘れてた……あずささんって、喰種なんだよな……)
響「……んー……」ジイイ
あずさ「…あら? 今度はどうしたの、響ちゃん?」
響「え、いや、その……」ポリポリ
響「ーーーあずささんって、本当に喰種……なんだよね?」
あずさ「!」
響「……あっ!? じ、自分なに言ってんだろ!?」アセアセ
響「ゴメンあずささん、自分、そんな、バカにするつもりとか差別するつもりでこんなこと聞いたわけじゃなくって……」
あずさ「……あらあら♪」クスクス
響「へ?」
あずさ「そんな風に思ってくれて、ありがとう♪ 響ちゃんにそう思ってくれるなんて、とっても嬉しいわ♪」ルンッ
響「えっ? な、なんで……」
あずさ「教えませーん♪」
響「え……ええーーーーー……?」
響(ーー結局、あずささんが自分の発言の何処を嬉しいと思ったのか教えてくれることはなく)
響(ーー自分で考えても、その意味はさっぱり分からないままだった)
一旦ここまで。今日はもうちょっと進むんじゃよ。
亜美真美のマシンガントークは書いててすげー楽しい。あずささんの口調むずい。
ダメだ詰まった……
また明日、続きを投稿することにします。
~同日・晩 小鳥の車~
響「ーーーって事なんだけどさ……ピヨ子は何かわかる?」
小鳥「教えませーん♪」
響「……あずささんはともかく、ピヨ子がその口調は……その……年が……」
小鳥「ピヨっ!?」
響(ーーあの後、あずささんは何処かに出かけたみたいだ。でも自分は晩にもやることがあると聞いていたから、そのまま事務所に残っていた)
響(ーー用事はピヨ子の付き合い。何をしに行くかと聞くと、『食料調達』と言われた)
響(ーー『喰種の』食料調達って……嫌な予感しかしないんだけど……)
響「ね、ねえピヨ子。本当に人殺しはしないんだよね? さっきも言ったけど、自分、流石に人殺しは……」
小鳥「大丈夫よ響ちゃん。喰種の食事は、人を殺めることだけが手段じゃないの」
響「……ならいいけど……」
小鳥「…………」
小鳥「…そういえば、まだ謝ってなかったわね」
響「? 謝るって……何を?」
小鳥「プロデューサーさんのこと」
小鳥「……社長や私にも、管理不足の責任はあるから」
響「…別にいいよ、そんな事。それを言うなら……逃げろって言われたのに、大ケガしてるところに戻って来ちゃった自分も悪いんだし」
小鳥「えっ?」
響「そりゃ喰種になったばかりの自分は、プロデューサーのことすっごく恨んでたけどさ……」
響「自分が飢えて暴走して、初めて分かった。どんな喰種もケガをしたり、ギリギリまでお腹がすいちゃったりしたらああなっちゃうんだろ?」
響「今ならわかるぞ。プロデューサーはさ、お腹が空いてるのに保存している肉の残りが少なくて……」
響「それを千早たちに回すためにギリギリまで我慢したから、ああなっちゃったんだ……って」
響「…違う?」
小鳥「……!?」パチクリ
小鳥「…ごめん響ちゃん。あなたのこと、ちょっとナメてた。そこまで頭の回る子だったなんて……」
響「今すっっっごく失礼なこと言われたぞ!? 自分、これでも学校の成績はいいしバカじゃないからな!?」
小鳥「ほ、本当にごめんなさい……!」
響「まあ、謝ったんだし許してあげるけどさあ……!」ピクピク
小鳥「あ、アハハ……」ピヨピヨ
響「……自分ね。765プロに来る前は"喰種"のこと、血も涙もない化け物だって思ってた」
小鳥「!」
響「自分に襲い掛かって来たプロデューサーとか、平気で人を喰ってた千早とか、豹変して自分と貴音に襲い掛かって来た美希とか見て、さ……」
響「結局、"喰種"は食欲で動いてて、他は身を守ることぐらいしか考えてない獣なんじゃないか……って」
響「……でも、さっきあずささんと話をした後、それは違うんじゃないかって思うようになったんだ」
ーー『律子さんが笑ってて、亜美ちゃんがいっぱいお喋りしてて……美味しいご飯って、人を笑顔に出来るんだなって思った』
ーー『そこに伊織ちゃんと私も加わることが出来て……』
ーー『私たちの『美味しい』って言葉は偽物だけど、その言葉が生み出す気持ちを共有できることが、とっても嬉しくて楽しいことは変わらないの』
響「……何て言うか……」
響「あんなこと言う"喰種"もいるんだな……って」
小鳥「……へー。響ちゃんは私のこと、食欲しかない化け物だって思ってたんだ?」
響「うえっ? あ、ご、ごめん! 自分、そんなつもりじゃ!?」
小鳥「冗談冗談! ちょっと意地悪しちゃっただけで、別に気にしてるわけじゃないの。むしろ、ハッキリ言ってくれてちょっとスッキリした」
響「う、うう……」
小鳥「…ねえ、響ちゃん。この後の仕事で、ちょっとだけお願いがあるんだけど……いい?」
響「な、なに?」
小鳥「実は今からの仕事は、私達2人だけじゃなくて、765プロの喰種が皆で集まって行う仕事なの。本来は2、3人なんだけどね」
小鳥「それで、その仕事でのことなんだけど……」
小鳥「皆の事を『喰種だから』って偏見なんて持たないで、ちゃんとありのままを見てあげて」
小鳥「出来れば、それからも……ね」
響「わ、分かったぞ」
小鳥「ありがとう響ちゃん」
小鳥「さあ、もうすぐ着くわよ。降りる準備をしておいてね」
響(『喰種だから』って偏見なんて持たないで、か……)
響(……あれ?)
響(どこかで同じような事を言われたような気がするんだけど……何だったっけ…………?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響(ーーピヨ子の車を降りると、そこはカーブした山道だった)
響(ーーガードレールの外側は厳しい崖で、人間が落ちたらひとたまりもなさそうだ)
響(ーー喰種が落ちたら、どうなるんだろ?)
響(ーーピヨ子の言った通り、そこには765プロの喰種……千早、真、伊織、あずささんの姿があった)
響(ーーピヨ子の車以外にもう一台止まっていたけど……皆はこれに乗って来たのか?)
伊織「ーー全員揃ったわね。小鳥、袋出してちょうだい」
小鳥「ええ」
テキパキ
テキパキ
響「……えっと……」
響「な、なあ真。自分も何か手伝う事……」
真「無いよ。響はそっちでじっとしてて」
響「う……」
響(真……見学の時は明るいやつだって思ってたのに、喰種の前だとなんか冷たいぞ……)ムッ
響(あれは全部、演技だったのか……?)
響(……にしても、すっごく高い所に来たな……)
響(ここで一体、何をするつもりなんだろ……この崖の下には……)ギシッ
伊織「……!」
伊織「ちょっと響、そこ老朽化してーーー」
響「えっ?」
バキッ
響「へえっ?」
グラアッ
響「ーーーーーーうーーーーーー」
響「うぎゃああああああああああああああああああああッッ!!!?」ヒュウウウウウウウウ
ドシャンッ
千早「……は?」アゼン
真「な、まっ……響い!?」ガバッ
伊織「何やってんのよアイツ……あ、地面に激突はしたけどほとんどケガもしてないわね。確かあいつ鱗赫でしょ? あれならすぐに治るわよ」ヒョコ
あずさ「あ、あらあら……」アセッ
小鳥「…みんなゴメンなさい! 私、先に降りてるから準備の続きお願い!」タンッ
伊織「はいはい。あとで私たちも降りるわよ」
真「わ、分かった……」ゴソゴソ
タンッ
タ タ タ タ タッ
ジャッ
小鳥「ーーー響ちゃん! 大丈夫!?」
響「な、何とか……痛かったけど、すぐに引いてきたし……」フラッ
響「…そっか。自分、落ちてきちゃったのか……」
響「……」キョロキョロ
響(なんか……木がものっすごく茂ってるぞ……)
響(気持ち悪いところだな……)スッ
ぐに
響「……ぐに?」
響「今、何踏んで……」チラッ
響「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊織「…よし! 全員、回収用の袋は持ったわね! そろそろ降りーーーーー」
< ウギャアアアアアアアアアアアアッ!!!?
真「ひゃっ」ビクッ
千早「……今度は何?」
あずさ「も、もしかして……もう見つけちゃったのかしら?」
伊織「多分それね。さっさと降りるわよ」ヒュッ
タンッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シュタッ
伊織「……やっぱりね」ハァ
響「あ、ああ、あああ……!!」ガタガタ
伊織「響。あんたは初めてなの?」
伊織「死体を見るのは」
伊織「上にもう一台、車が停めてあったでしょ? あれは私たちが乗って来たものじゃないわよ。あんまり上に車が多いと怪しまれるから、私たちは徒歩で来たの」
伊織「車は多分、その人間が所有してたもの。ここはよく人が死ぬのよ」
伊織「…自分の意志でね」
小鳥「この場所やほかの自殺の名所があまり人間に知られてないのは、私たちが『処理』しているからなの」
響「……」
響「…765プロの皆は……自殺者を選んで食べてるんだな……」
響「そうすれば、誰かを傷つけないで済むから……」
伊織「ええ。…でも、これっぽっちで765プロ全員分の食事が賄えるわけじゃないわ」
伊織「人を殺して食べる事もある。ここにいる、アンタ以外の全員がね」
伊織「……無駄話しすぎたわね」ヒュッ
ドサッ
響「!」
伊織「詰めなさい。『あいつら』のマークが他所に行ってる間に、さっさと持てる分持ってくわよ」
響「……えっ?」
響(自分が……『これ』を詰めるのか? 自分が!?)
響(むっ……無理、無理無理無理無理無理! 絶対無理っ……!)ガタガタ
伊織「……」ハァ
伊織「もういい、アンタはどいてなさい。私たちで詰めるから」グイッ
響「う……」ヨロッ
響(……何だよ……自分に出来るわけないだろ……!)
響(こんな事を顔色変えずに出来るなんて、やっぱりこいつらおかしいぞ……!)
響(こいつら喰種を理解する事なんて……?)
響「…………!?」
響(ーー自分は……目の前で伊織たちのやった事を、それが何なのかしばらく理解できなかった)
響(ーーそれは、人間にとっては当たり前の行為だけど……"喰種"までもがそれをするとは、予想もしてなかったんだ)
響(ーー喰種たちは死体に向かい、揃って目をつぶり、両手を合わせていた)
響(ーーそれが終わると、何もなかったかのように死体を袋に詰めはじめて、あとは淡々と辺りの死体を詰めて回ってた)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~数十分後 小鳥の車~
小鳥「お疲れ様、響ちゃん」
響「……自分は何もやってないぞ」ムスッ
小鳥「あっ……そうだったっけ」
響「……」ムー
響「……ピヨ子。伊織たちはさ、何を考えて死体を拝んだの? 当たり前のように死体を運んでたけどさ、可哀想って気持ちはあるのかな?」
小鳥「ふふっ。喰種が皆、人間なんかただの餌としか思ってないとでも思ってた?」
響「質問の答えになってないぞ……」ムスー
小鳥「ごめんね。でも、こういうのは自分で考えて答えを出さないとダメだって思ったから」アハハ
響「……」ハァ
響「なあ、ピヨ子」
小鳥「? なあに、響ちゃん?」
響「765プロに入るとき……社長がさ、言ってたんだよね。
『キミには是非知って欲しいんだ。…彼女たちが、ただの飢えた獣なのかどうか』
…って」
響「それを思い出して、ちょっと考えたんだ……。あんな事が出来るなら……意外に、喰種も人間とそう変わらないのかなって」
響「あずささんが言いたかったのは、言葉通りのことなんじゃないか……って」
小鳥「…………」
響「……自分、あの前に『死体に平気で触れるなんて、こいつらおかしい』って思ったんだ」
響「その直後に、その考えを否定されちゃってさ。自分、ちょっと恥ずかしかったぞ」
響「だから……自分は決めたんだ」
響「自分はもっと"喰種"の事を知りたい」
響「ピヨ子やあずささんのことも、伊織や真、千早のことも、もっとよく見てもっと知りたい」
響「まだ何も知らないのに、そんなうちから"喰種"のことを『化け物』だって言い切っちゃうのは間違ってる気がするぞ」
小鳥「!!」
響「……ま、まあ……よく知るって言ったって、千早たちからは距離を置かれてる気がするし何から知ればいいのかも良くわかんないんだけどさ……」
小鳥「……ふふっ」
響「あー、また一人で笑ってる……あずささんもピヨ子も、何で笑ってるのか分かんないぞー……」
小鳥「ふふっ、ごめんねっ、ちょっと嬉しくて、あはっ、あははははっ!」
響「何なのもー……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響(ーー結局、ピヨ子は何も教えてくれなかった)
響(ーー自分を車から降ろす時に『頑張って』と一言言っただけで、それ以外は笑い続けるだけだった)
響(ーーただ、降り際に一つだけ気になることがあって)
響(ーー自分が車を降りてからドアが閉まるまでの数秒。ドアの隙間から、ピヨ子が片手で目をぬぐっているのが見えた)
響(ーー自分にはそれが、まるで泣いているように見えたんだ)
一旦ここまで。これで第三話終了です。
哲学的&抽象的&ボヤーッとしてる三大分かり辛い要素が勢ぞろい。これでもかなり推敲した方なんだよ。
#04[仮面]
「……ククク……」
「……この地区に来ると、私は必ず思い出す」
「お前に奪われたもの、お前が汚した世界、意地汚いお前の喰い散らかした夢や仲間ーーー」
「今は少しばかり大人しくしているようだが……このままお前に、のうのうと生を謳歌させてはやるものか」
「お前には、いつか相応の報いを受けさせてやる……」
「ーーー『リトルバード』ーーー」
「ーーーお前だけは、私がこの手で必ずーーーーー……!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「……プレゼント?」
高木「そうだ。ヒトを口にするのはまだ抵抗があると思ってね……君のために作ってみたのだよ」ゴソゴソ
コロン
響「…これって……角砂糖? 何か茶色いけど……」
高木「見た目は普通だけど、中身は『少し』違う。コーヒーに溶かして飲めば、ある程度空腹を抑えられる筈だ」
響「!! すごい……! 何で出来てるんだ!?」
高木「……知らない方がいいと思うよ」
響「えっ……」
響「……でも、これなら食べられそうだぞ。にふぇーでーびる、社長」
高木「それはそれは、作った甲斐があったね」
高木「……ただ、それはあくまで『空腹を抑える』だけ……食欲が全て満たされるわけではない」
響「……っ」
高木「"喰種"が満足いく生活を送るためには、やはり一定の"食事"が不可欠なんだ」
高木「いざとなったら肉を口にすることも頭に入れておきたまえ」
響「……うん」
響(……いざとなったら……か……)
高木「ああ、それともう二つ!」
響「?」
高木「キミにはもっと早く伝えておくべきだったのだがね。喰種として生きる以上、気を付けてほしいタイプの人間がいるんだ」
響「気を付けてほしいタイプ……? マスコミとかパパラッチとか、そういうこと?」
高木「それもある。だがもっと直接的な意味で、慎重に対応しなければならない人間がいてね……」
高木「…トランクやアタッシュケース……とにかく、大きな荷物を持った人間だ」
高木「もし、そんな荷物を持っている人間が事務所や仕事場の近くをうろついていたなら……その時は私にこっそりと知らせなさい」
響「……それって、どういう……」
高木「…今は少しばかり急がないといけないからね。キミがこれからの用事を終えて帰った時に改めて説明しよう」
高木「それで、もう一つの話なんだが……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「……マスクの制作?」
伊織「しっ! 亜美もいるんだから、今は『そっち』の質問は無しよ」
亜美「え、何々? ひびきん何かやんの?」
伊織「大人の話よ。亜美にはまだ早いわ」
亜美「えー! ひびきんはともかくいおりんだってまだチューガクセーじゃーん!」ブー
響「ま、まあ気にしない気にしない」のヮの
亜美「のヮので誤魔化される亜美じゃないからね?」
伊織「別にいいでしょ。久し振りに『アイツ』に会えるんだから」
亜美「そりゃそーだけど、それとこれとは別問題じゃない?」
いおひび「「のヮの」」
亜美「またそれ!?」
響(ーー社長からの三つ目の話は、『自分用のマスク』を作ってもらうために、伊織の言う『アイツ』に会いに行けという指令だった)
響(ーー伊織が言うところによると、行き先は喰種だけでなく765プロ全体で関わりのある場所らしい)
響(ーーだから、765プロで『アイツ』と特に仲のいい伊織を案内に、あと人間の亜美をカモフラージュとして同行させて)
響(ーーそして友好関係にある会社への挨拶という名目で、『アイツ』に会いに行くわけだ)
響(ーーちなみに『二人同時に連れてくと色々と面倒だから』って理由で、真美は連れてこなかったらしい)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊織「ーーついたわよ、響、亜美」
亜美「お、やっとついた? 歩きまくってすっかり疲れちったYO!」
響「……ここって……」
響「ーーーーー『876プロ』?」
伊織「その通りよ。律子のイトコがここのアイドルで、あと春香の紹介でもアイドルが入ってる」
伊織「だから、わりかし仲のいい事務所ってことで時々仕事でも協力してて……特に用が無くても、こうやってたまに遊びに行くのよ」
亜美「ねーねーいおりん、早くはいろーよ→!」
伊織「はいはい。……まあ876プロにいるのは『アイツ』だけだし、あんたなら会えば分かるでしょ」
響「……あのさ。何で『アイツ』『アイツ』って、やたら名前を隠すわけ? 別に名前だけなら隠す理由ないだろ?」
伊織「にひひっ♪ ちょっとしたサプライズ気分よ。まあ、どっちにしろここまで来たらすぐに分かることよ」
伊織「ね、亜ーーーーー」
さっきまで亜美のいた空間「」コツゼン
伊織「ーーーーーえっ?」
< ヒウウウッ!?
伊織「……あっ」
バタバタバタバタンッ
ガチャ
伊織「……やっぱり。亜美が勝手に突撃したみたいね……」
亜美「おねーちゃんおっひさ→! 相変わらずええモノもってまんなあゲヘヘ」モニュモニュスリスリ
「ひううっ……あ、亜美ちゃんくすぐったいっ……」
響「こら亜美! 仲のいいとこだって聞いてるけど、勝手に入っちゃダメだろ!」
響「その人もビックリするだろうしーーー」スンッ
ピクッ
響(……この匂い……!?)
響「(…ね、ねえ伊織。もしかして、この子が伊織の言ってた……)」コソッ
伊織「(そうよ。亜美がこっちの話聞いてない今だから言えるけど……)」ヒソヒソ
伊織「(こいつがあんたのマスクをデザインしてくれるやつで、個人的にもあんたに合わせたかった喰種ーーー)」
伊織「ーーーーー水谷絵理よ」
絵理「こ、こんにちは……ひうっ!?」ビクッ
いつもより短めだけど、今日はここまで。
呼称表を改めて確認したら、響→小鳥の呼び名が「ピヨ子」じゃなくて「ぴよ子」だった。
今からでも変更した方がいいんだろうか…?
響→小鳥の呼び方はこれから「ぴよ子」に変えることにしました。
では投下いたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊織「ーーーそれじゃ、絵理は響と外で仲良く会話でもしてきなさい。こっちはこっちで用事があるから」
絵理「……えっ? わたしが外……? それに、知らない人と二人きり……」
伊織「アンタ初対面で人見知りするの、いい加減に治しなさいよ。こっちはこっちでやることあんの」
亜美「えー!? 久しぶりにおねーちゃんに会ったんだから亜美もそっちがいいよー!」
伊織「(…バカね、それじゃ絵理を追い出す意味がないでしょ。何しに来たか忘れたの?)」コソッ
亜美「あ、そっか! おねーちゃんのたんjぶほほ」モガモガ
涼「わああああああっ!? え、絵理ちゃん!? とにかく早く行ってくれると助かるかな!?」アセアセ
愛「あとは私たちに任せて! はい、どうぞ!!」アセアセ
尾崎(……これは完全にバレるわね……)ハァ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
絵理「正直言って……バレバレ?」フフッ
響「気付いてたんだ。……あれってさ、絵理の誕生日パーティーの相談……ってことでいいのかな」
絵理「ひうっ!?」
響「あ、あれ?」
絵理「あ、えっと……多分、そう…… わたしの誕生日は3月7日で、もうすぐだから……」
絵理「あ、あと、さっきのは、ほんの独り言で……」オロオロ
響「……えっと」コホン
響「自分のマスクを作ってくれるんだよね? 採寸はどこでやるんだ?」
絵理「あ、あ、あの…今回は…すでに、そっちで…採寸をやってくれてるみたいだから……データも、もうメールでもらってる……」
絵理「今回は、製作自体はサイネリアがやってくれるから……私は……えっと、響さんを見てデザインを決めるだけ……?」
響「……あ、そ、そうだったぞ……」
響(サイネリア……?)
響(ーー水谷絵理)
響(ーー876プロに所属しているアイドルと事務員では、唯一の喰種。その正体は876プロじゃ誰も知らないみたいだ)
響(ーーそして伊織が言うところによると、3Dグラフィックなどアートに結構な造詣があって)
響(ーー製作担当の……サイネリア?と組んで、自分はデザイン担当として喰種のマスク作りに関わっているらしい)
響(ーー作る相手によってデザインがガラッと変わる絵理のマスクは喰種……特に女の喰種に好評みたいで)
響(ーー765プロも皆、絵理がデザインしたマスクを愛用しているらしい)
響(ーーーに、しても……)
響(何かこいつ……すっごく喋り辛いぞ……)
響(あずささんの時も同じこと思ったけど……こいつ本当に"喰種"なのか……?)
響(…いや、この間ぴよ子と約束したんだったな。"喰種"だからって偏見を持たないって……)
響(……絵理は、人を喰うことについてどう思ってるんだろ)
響「ねえ」
絵理「ひうっ!?」
響「……」ウーム
響「…あのさ。絵理って"喰種"なんだよね?」
絵理「う、うん……えっと、そういう響さんは、その……確か、伊織さんからは……"半喰種"って……」
響「そうだぞ。元々は人間なんだけど、移殖された臓器が喰種のもので、それでこうなったみたいだぞ」
絵理「……そうなんだ……」
響「…それで、ちょっと聞きにくいことなんだけどさ。絵理は食事とかどうしてるんだ?」
絵理「…食事?」
響「えーと…………絵理も同じように…………人を殺して喰ってるのかって事だぞ」
絵理「!」
絵理「…そっか……それで、伊織さんは…………」
絵理「……ねえ、響さん」
響「…うん」
絵理「……わたしはーーー」ギュ
絵理「ーーーーー今はもう、殺人はしない」
響「……!?」
響「えっ……えっ!?」
響「殺人はしないって……そんなこと出来るの!?」
絵理「…ハッキリ言って、すごく苦しい?」
絵理「765プロの人たちから自殺の名所を一つ譲ってもらっているけど……長い間死体が出ないことも珍しくなくて、そのたびに死にかけた……」
響(……あの飢えを、何度も……!?)
響「それって、自殺死体だけで飢えを凌いでるって事だよな? なんでそんなに苦しい思いまでして自殺死体に拘るんだ?」
響「生きるためなんだから……そのためなら、人を殺すのは……その……」モジ
絵理「うん、それでいいと思う。……765プロの皆や、他の喰種が、人を殺して食べるのは……生きるためなんだから、それは否定しない?」
絵理「……でも……」
絵理「尾崎さんが私を見つけてくれて……涼さんや愛ちゃんと出会って……それで、アイドルとして舞台に上がった時に思った」
絵理「今まで通り人を殺し続けて、それを隠してアイドルになって……尾崎さんや涼さん、愛ちゃんやまなみさん、それに社長にも……顔向け出来るのかなって」
絵理「平気で人を殺し続ける私が、皆に胸を張り続けられるのかなって……」
響「……」
絵理「"喰種"として、頭のおかしい事をしてるのは分かってる。馬鹿な事をしてるってことも。でも……」
絵理「私は……876プロのみんなに誇れる私でいたい」
響「……そういえばさ」
絵理「?」
響「876プロでは、喰種は絵理一人なんだよな。辛くないのか?」
絵理「……うん」
絵理「"喰種"としての悩みや苦しみは、誰にも相談できない」
絵理「涼さんや愛ちゃんや、尾崎さんと一緒にご飯を食べることは出来ないけど……」
絵理「皆優しくて、アイドルはとっても楽しくて…」
絵理「私はこれで…結構幸せ?」クスッ
響「……すごいな」
絵理「そんなことない。ただの意地っ張り?」
響「ーーー違うぞ。絵理はすごい!」クワッ
ガシッ
絵理「ひううっ!? な、なに……?」
響「あはは! 何だかすっごく、エリチンを撫でたくなったんだぞ! えらいえらい!」
ナデナデワシャワシャモフモフ
絵理「ぺ、ペット扱い……? それに、エリチンって何……?」
響「あれ、ダメだった? じゃあエリーゼで!」
絵理(何なのこの子)
響「あっははははは! すごいすごい! エリーゼはすごいぞー!」
絵理「ひうう……た、助けて……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
絵理「ーーそれで、最後にひとつ確認したいんだけど……その眼帯してる方の眼だけ赫眼になる、でFA?」モシャア
響「FAって?」
絵理「ファイナルアンサー……正しいって意味?」
響「あー、そうだぞ。お腹がすくと、勝手に赤くなっちゃうんだ。だから社長に眼帯をもらってて」
絵理「そうなんだ……じゃあ、左眼のみ赫眼……っと。これでアイデアが固まって来た?」カリカリ
響「お、楽しみにしてるぞ。カッコいいのにしてね!」
絵理「うん……任せて?」
絵理「ただいま……」ガチャ
亜美「げっ!? もう帰ってきちゃった!?」
伊織「ちょっと待ってなさい絵理! ほら亜美! ぼさっとしないでさっさと片付ける!」
亜美「やってるって! いおりんこそアイデア碌に出してないくせに! この貧弱ウノー!」
伊織「そっ……それは……それは、別にいいじゃない! 口動かす暇があったら片付けるわよ!」
まなみ「わっわっわっ…えっと、愛ちゃんこれもって!」
涼「それじゃあボ……私はこっちの書類片付けるから!」
愛「はい! わかりまし……わあああああああああ」ドサアアアアア
涼「ぎゃおおおおおおん!?」
愛「み、見ないでください絵理さん! これは絵理さんの誕生日パーティーの企画書なんかじゃないですから!」
尾崎「……ああああああ……」ズーン
黒川「もう、サプライズでも何でもなくなってるわ……」ハァ
絵理「わ、私は何も聞いてない……?」
響「……絵理」
絵理「? 響さん?」
響「……いい仲間だな!」ニッ
絵理「!」
絵理「……うん。尾崎さんも、愛さんも、涼さんも、まなみさんも、社長もーーー」
絵理「ーーーみんな大切で、大好きな仲間」ニコッ
~夕方 新堂の車~
亜美「おじさんありがと→! いおりんまたね→!」
伊織「はいはい、さっさと家入りなさい」
亜美「あいあーい、ひびきんもまた明日→!」
スタタタタタ
伊織「…出しなさい、新堂」
新堂「承知致しました」
伊織「……はあ」
伊織「ムカつくぐらいスッキリした顔してんじゃない、響」
響「えっ? そ、そう?」
伊織「ま、予想はしてたけどね。同じ意地っ張り同士、ウマが合うとは思ってたわ」
響「……」
響「なあ、伊織…」
伊織「『人を殺したことがあるか』って? 死体集めの時に言ったでしょ」
響「うっ」
伊織「水瀬家はね。喰種には珍しく、人間界に影響を与えるほど裕福な家なの」
伊織「その財力と人脈のおかげで、小さい頃から何不自由なく肉を食べまくって育ったわ」
伊織「……私がバクバク喰ってた肉の家族や友人が、どれだけ泣いているか知りもしないでね」
伊織「…………それでも、それで済めばまだマシな方よ。私は…………」
伊織「…………」
伊織「……響」
響「ん、なに?」
伊織「絵理のやり方はね、本当に大変なの。自殺死体だなんて何時得られるかも分からないようなものに食事の全てを頼るなんて、ハッキリ言って自殺行為よ」
響「……」
伊織「あいつは本当に死ぬ覚悟で不殺を貫いてる。もし飢えて飢えてさらに飢えて、理性が吹っ飛ぶ寸前まで行ったら……仲間を喰う前に自殺するって言ってた」
伊織「それを覚悟した上で、765プロから譲った喰場の他にも色んな所を駆けずり回って食料調達しながら生きてる」
伊織「…知ってる? 『そこまでしてアイドルやりたいなら765に来なさい』って言ったとき、アイツなんて言ったか」
響「…なんて言ったの?」
伊織「『尾崎さんと一緒に頑張りたいから、876プロに行きたい』」
伊織「日を空けてもっかい誘ったら、『涼さんと愛ちゃんと一緒に頑張りたい』なんて笑ってたのよ」
伊織「『それは765プロの人たちが困ったときのためだから』って、こっちの肉も受け取らない」
伊織「…あんな意地っ張りバカは、日本中探したっていないわよ」
伊織「響」
響「うん」
伊織「絵理から聞いたこと、一言だって忘れんじゃないわよ。一言一句でも忘れたら、あんたを殺して喰ってやるから」
響「喰っ……!?」
伊織「何ビビってんのよ。断食繰り返すより喰われる方がよっぽどマシよ」
伊織「言っとくけど、絵理と同じことをやれって言ってるんじゃないわ。あんなのただの独りよがりよ」
伊織「アイツのこと一生頭に叩き込んで、あんたはあんたなりの生き方見つけなさい」
伊織「一瞬でも忘れたら、絶対に許さないわ」
響「……忘れないぞ」
響「あんなに人を殺すのが嫌で、ずっとずっと頑張ってトップアイドルを目指してる奴だっていることがわかったんだ」
響「ついこの間アイドルになったばっかの自分が、こんなところで挫けていられないさー!」
伊織「あっそ。……あんたの家に着いたわよ。さっさと降りなさい」
響「うん! ありがと、伊織! えーと、新堂さん!」
新堂「お休みなさいませ。これから先、伊織お嬢様の事をよろしくお願いいたします」ペコリ
伊織「新堂! 早く出しなさい!」キー
バタン
ブロロロロロロ……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~響の家~
響「……ふーっ……」ボスッ
ハム蔵「ヂュヂュッ」ヒョコ
響「おー、ハム蔵。ただいまー……」
ハム蔵「……ヂュ?」ハテナ
響「え? 自分がかなり久しぶりに、スッキリした顔してるって? やっぱり分かっちゃうか」ナデナデ
ハム蔵「ヂュイ?」
響「……うん。今日、ちょっと嬉しい事があったんだ」
響「生きるためには必要なことなのに、それでも人肉を口にすることが出来ない自分はおかしいって、ずっと頭の片隅で思ってた」
響「でもね、喰種の中にも、食事のために人を殺すことを拒んで、人を殺さないように必死で生きてるやつもいるんだって知ったんだ」
響「この間の食料集めの時、皆が手を合わせてたのが同じ気持ちなら……」
響「喰種とか、喰種として生きることって、そう悪いことでもないのかなって、思ったんだ」
響「そう考えたら、明日から生きるのに、ちょっとだけ前向きになれたぞ」
響「伊織には、明日もう一回お礼言っとかなきゃ」
響「エリーゼ……また、会えるかな……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「……そう言えば。今日は876プロから家まで直に帰っちゃったから、社長には結局会ってないんだったな……」
響「大きな荷物を持った人間って、どういうことだったんだろ……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~同刻 新堂の車~
伊織「全くあの単純バカは……。すこし違う考え方見せるたびに一喜一憂するんだから」ハァ
新堂「心中お察し申し上げます」ハハハ
新堂「しかし『意地っ張りバカ』とは……失礼を承知で申し上げますが、私は少なくとも日本でもう一人そのバカを知っておりますよ」ニヤリ
伊織「たまたま上手くいってるだけよ。本気で死にそうになっても貫けるかなんて、まだ分からない」
伊織「それに、さっきも言ったけどあんなの独りよがりよ。やろうと思えば他に楽な方法なんていくらでもあるわ」
新堂「…そうですな。私も本当にお嬢様が餓死するような状況に陥った場合、無理矢理にでも肉を口に詰め込めと旦那様から仰せつかっておりますので」
伊織「……それに」
新堂「それ以上は、仰らなくても結構ですよ。水谷様の意思次第で、動く準備は既に出来ております」
伊織「…そ。ここから数日は常に注意を怠らないで」
新堂「かしこまりました」
伊織「……」
伊織「……絵理……」
伊織「ーーーーーーーーーーなんてヘマしてんのよ、あのバカ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~夜 某路地裏~
「ーーーチクショウッ!」
「あの集団への捜査のせいで、おちおちメシも喰えやしねえ……!」
「……!!」
年配の男「……」ノソノソ
(ーーー肉付きの悪そうなオッサンだな……)
(……いや、もうコイツでもいいか……)
「……つーか……」ギョロッ
「ーーーーーーーーーー誰でも良いィィィィィィィィィィッ!!!」
年配の男「!」
ガション
ズパンッ
「ーーーんあ!?」
(俺の腕……俺の足っ!! いつの間に切られて……っ!!)
「っが!!」ドシャッ
年配の男「んー? …飛んで火にいるなんとやら、か」
ーーー『"喰種"対策法』12条1項
『赫眼および赫子の発生が確認された対象者を、第Ⅰ種特別警戒対象、別称"喰種"と判別する』
「ま…まさか…そんなァ…ッ…」ガタガタガタガタ
ーーー同条2項
『"喰種"と判別された対象者に関して』
「お…おおお、お前ッ嘘だろ…!!??」
『あらゆる法はその個人を保護しない』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーすまねえ、待たせたオッサン。『CCG』から喰種の情報もらって来たぜ……」
「……って、どうしたコレ?」
「いや……ちょっと馬鹿な"喰種"に襲われただけだ」
「ああ、成程な」
「……しかし、よりにもよって俺達を狙うとはな」
ムシケラ
「羽虫が自ら蜘蛛の巣に引っかかったな」
「ーーー全くーーー」
ク ズ ク ズ
冬馬「ーーー極めて愚劣な喰種だったな、黒井のオッサン」
ーーーCCG所属 喰種捜査官 一等 天ヶ瀬冬馬ーーー
黒井「ーーー全くだ、冬馬」
ーーー上等捜査官 黒井崇男ーーー
黒井「ーーーそれで? この地区で真っ先に行うべき仕事は何かね?」
冬馬「それなんだけどよ。既に一匹、素性が完全に割れて後は赫子を確認するだけって喰種がいるみたいだぜ。まずはそいつの駆除だ」
黒井「ほう! 地方のボンクラ共と侮っていたが、意外にやるじゃないか」
黒井「……それで? その喰種の名前とは?」
冬馬「ああ。喰種としての通り名は『Ellie』。今こそ大人しいが、2・3年前はもう一匹の喰種と組んでコソコソと人間を狩っていたクズらしいな」
冬馬「それで、その『Ellie』だと推測されているやつの名前がーーーーー」
冬馬「ーーーーー『水谷絵理』。876プロってところでアイドルをやってやがる女だ」
~同刻 絵理の家~
絵理「……」ボス
絵理「……はあ」
絵理「……ついに来ちゃった……」
カチカチ
カチッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
mail
from:水瀬伊織
to:水谷絵理
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日はうちの新入りの喰種を会わせるから、そいつのマスクをデザインして頂戴。
正確には『半』喰種ね。元々は人間だから、匂いで分かんないかもしれないから気を付けて。
外見は黒髪のポニーテールをぶら下げたチビ女、名前は『我那覇響』ってことだけは伝えとくわ。
余裕がなけりゃって言うか、あるわけないから採寸結果は予め添付して送っとく。
もし相棒に仕事を頼めないなら、例の場所にでもデザイン案を放っておいて。その時は製作をうちでやるから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それともう一つ。とても悪い知らせだから読む前に覚悟して。
水瀬家の力を使って調査した結果、アンタの素性が白鳩のやつらにほとんどバレてることが分かった。
どれくらい不味いかと言うと、3日もしないうちに顔写真付きで指名手配されてるかもしれないレベル。
正直言って、24区に逃げ込みでもしなきゃ生きられないと言った方がいい。
力になれなくてごめんなさい。
あそこに行ってでも生きたいって言うんなら、24区まで運ぶのに協力は惜しまないわ。
本当はデザインする余裕すら無いのは十分わかってる。
でも、これだけはどうしてもアンタにやってほしい。
とても残酷なお願いをしてるって言うのもわかってる。
これが遠回しに『死ね』って言ってるようなものだってことも。
でも、せめて最後の時間をくれるなら。響にあって、アンタの生き方をあいつに聞かせてあげて。
お願い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日はここまで。
『アイドルが死ぬのなんて耐えられない』と言う方にとっては、ここから先は本当に閲覧注意の内容になります。
私が一番最初に手に取ったアイマスは、「アイドルマスターDS」のコミカライズ、イノセントブルー編。
なので、どうでもいいことだけど実は私にとって絵理が一番最初に知ったアイマスのアイドルです。
よって、これでも絵理に思い入れはあるんですよ。
投下します。
#05[絵理]
ーーー『あの…ELLIEさん?』
ーーー『こんにちは、尾崎です』
ーーー『ね、ELLIEさん』
ーーー『私と一緒に、外で本当のアイドル目指してみない?』
ーーー『どんなにダメでも練習すれば上手になるわ! 私が保証する!』
ーーー『ーー…それに一人じゃない。私も一緒よ』
ーーー『そう……"絵理"って言うのね』
ーーー『それじゃあー…』
ーーー『これからよろしく、絵理!』
ーーー『一緒に頑張りましょう!』
絵理(ーーーそれが、わたしにとっての始まり)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イーマーメーザーシテークーワーターシーダーケーノストーリー
カチッ
絵理「……」
絵理(……朝……)
絵理「…………」ガタッ
ガサッ
ガサリ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
mail
from:水瀬伊織
to:水谷絵理
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
絵理「……」
絵理(夢じゃ……なかった)
~前日夜~
絵理「ーーーポニーテールは……どうする? …正体を隠すなら解いた方が……」カチカチ
絵理「……一応、痛くないようにベルトの位置を調整して……注意書きも……」カチカチ
絵理「ーーーあとは、左眼をーーー」
絵理「……出来た」
絵理「…………うん。響さんのマスクのデザインは、これで完成」
絵理「サイネリアに送るデータだけUSBに移し、あとは全部破棄して、HDDも抜いておいて……」カチャカチャ
絵理「一応、伊織さんからのメールだけはプリントアウトして……明日、夢だなんて思わないように……」
絵理「…よし。これで、マスクの依頼主にまでは捜査も届かない……」
絵理「あとは明日……サイネリアが手出し出来ないタイミングでデータ保管の場所だけ連絡して」
絵理「明日は雨みたいだから、記録を全部破壊して、何処かで流して……」
絵理「…………」ボスッ
絵理「……ついにバレちゃった、か……」
絵理「ーーーこうやって、突然終わっていくんだ……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~現在 765プロ周辺~
響(朝から事務所に来てみたけど……結局、社長もぴよ子もいなかったな)
響(昨日のアレについて聞いてみようと思っていたのに、たまに事務所を空けるからちょっと困っちゃうぞ)
響(自分は春香達と違って入ったばっかりだから、仕事もそんなに無いし、レッスンも午後からだし……やることないんだよなあ)
響(だったら今は貴音を誘って……いやダメだ。食事の訓練がまだまだ上手く行ってないのに、貴音と行動するのは危険すぎるぞ)
響(…………)
響「……もう一回、エリーゼに会いに行ってみようかな?」
~同刻 876プロ~
まなみ「それじゃあ今日は、CDの収録をお願いしてるから……絵理ちゃん、涼ちゃん。お願いね」
涼「はい!」
絵理「…はい」
愛「はい!!……あれ? あたしは?」
涼(『愛ちゃんをお願いします』って言うのも掛けてるんだろうなあ……)
まなみ「ふふっ。帰りにCDデビューのお祝いを用意してるから、寄り道しないで帰って来て」
まなみ「あと、今日は降るらしいから……傘はちゃんと持って行ってね」
愛「やったー! まなみさん、あたし収録一生懸命頑張ってきますからね!」ビシッ
愛「C!D!デビュー!ですよ涼さん!絵理さん!」
涼「そうだね。アイドルを始めたばかりの時はどうなるかと思ってたけど……こうやって、CDを出せるところまで来たんだね」
絵理「『はなまる』『クロスワード』『ヒミツの珊瑚礁』……みんないい曲?」
石川「この程度で満足しちゃ駄目よ。CDデビューはあくまでアイドルとしての第一歩」
石川「トップアイドルに至るには、まだまだ長い道のりが残っているわ」
涼「あっ……はい!」
愛「はい!! これからも頑張ります!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ハナマルルンルンルルンゲンキノオマジナイ!!
<シ、シュウロクマエニオオゴエデウタウノハヒカエヨウネ・・・?
絵理「……」
「えーりっ」ポン
絵理「ひうっ!? あ、尾崎さん……」
尾崎「おはよう、絵理。例の収録の件、今回のついでに私名義でなんとか依頼出来たわよ」
絵理「個人的に……? あ、ありがとうございます……!」ペコリ
尾崎「いいっていいって、私のアイドルの頼みなんだから。少し大変だったけど、どんな曲が出来るんだろって期待で全部吹っ飛んだわよ!
尾崎「それにしても……絵理にしては珍しいお願いよね?
『自分で作って歌った曲を、一枚でいいからCDに焼いて欲しい』
…だなんて。クロスワードじゃ駄目だったの?」
絵理「えっと……この間、たまたま手に入れた歌詞があって……それが素敵だったから……」
絵理「だから、曲はアイドルを始める前から作ってたから、その歌詞を基に歌を作って、尾崎さんにあげたいなって……思った?」
尾崎「……え? 私のための曲なの?」
絵理「うん」
絵理「尾崎さんは……私をアイドルにしてくれた人だから」
尾崎「ーーーーーッ!!」ブワッ
尾崎「絵理いいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」ガシッ
絵理「ひううっ!?」ビックゥ
尾崎「もう、絵理ってば! 恩返しなら私と一緒にアイドルをやってくれるってだけで十分なのに! あーでも凄く嬉しい! ありがとう絵理!」ギュウウウ
絵理「ま、満足してくれるなら……私も嬉しい?」グエッ
尾崎「分かったわ! それなら、いっぱい楽しんで収録してきなさい! どんな曲なのか、楽しみにしてるから!」
尾崎「でも、だからってクロスワードの方で手を抜いちゃダメよ! そっちにはあんたのアイドル生命が掛かってるんだから、そっちを優先的に頑張りなさい!」
絵理「……うん。頑張ってくるね」
涼「絵理ちゃんと尾崎さん、何の話をしてるんだろ? CDが何とか聞こえたけど……」
愛「絵理さーん! 何やってるんですかー!? 行きますよー!」
尾崎「ほら、二人が呼んでるわよ。早く行ってあげなさい」
絵理「……うん」
タッ
タタッ
クルッ
絵理「……尾崎さん」
尾崎「? どうしたの、絵理」
絵理「ーーー私をアイドルにしてくれてありがとう」
絵理「ーーー行ってきます」
~二時間後~
まなみ「お仕事お疲れ様です。コーヒーでも飲みませんか?」
尾崎「……あら、ありがとう。そろそろ休憩しようかしら」パタン
まなみ「さっき聞こえましたよ。絵理ちゃん、尾崎さんのために曲を作ってくれたって」
尾崎「そうなのよ! もう絵理ったら、何時の間にあんな思い切った事出来るようになったのかしら!」デヘヘ
石川「作曲が出来ると言うのは意外な収穫ね。もし絵理の作った曲が良い物だったら、作曲の一部を彼女に任せてみるのもいいかもしれないわ」
尾崎「そうですねえ。まあ何にしろ、聞いてみなきゃ話が進まないんですが」
まなみ「楽しみですね!」
コンコン
尾崎「……あら? お客さん?」
石川「今日は誰かが訪問する予定なんて無い筈だけど……」
まなみ「はーい、ちょっと待って下さい」トコトコトコ
ガチャ
「ーーーお仕事中、突然ですが失礼します。少しだけお時間よろしいですか? 綺麗なレディー」
「お姉さんたちにちょっとだけ捜査協力してほしいんだよねー♪」
まなみ「え……はあ」
まなみ「えっと……どちら様ですか?」
「すみません、名乗り忘れてしまって。私は伊集院北斗、こっちの子は御手洗翔太と申します」
翔太「よろしくね、おねーさん!」
北斗「……そして私たちは……」スッ
北斗「ーーーーーーーーーー喰種捜査官です」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~同刻 収録スタジオ~
涼「ーーー胸に抱いた全て 今ここから生まれるなら」
涼「ーーー濡れた瞳 揺れる鼓動 眩しい今日のはじまりに」
涼「ーーーキミとさ ボクがいるのさーーー」
「はーい、オッケーでーす!」
愛「涼さんお疲れ様です!!」
涼「うん……! ボ、私すっごく緊張しちゃったよ。何とか歌い切れて良かった……!」
絵理「これでとりあえず、全員分の収録は終わり?」
涼「仕事はね。絵理ちゃんの作った曲も、入れてもらうんでしょ?」
絵理「……聞こえてた?」
愛「はい!! 尾崎さん、泣きながら大笑いしてましたね!!」
涼「ちょっと驚いたけど……とっても素敵な事だと思うよ」
愛「絵理さんが尾崎さんのために作った曲なんて、絶対いい曲に決まってます!! 早く聞かせてください!!」
涼「愛ちゃん……そんなに急かしたら焦っちゃってリテイクが増えちゃうよ。私たちの事は一旦忘れて、リラックスして収録に臨んで」
絵理「……ありがとう。これは録ってすぐCDに焼いてもらうから、ちょっとだけ時間がかかる?」
涼「大丈夫だよ。ここで待ってるから、頑張って歌ってきて」
愛「あたしも待ちます!! 絵理さんの作った曲、すっっっっっごく楽しみです!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ええと、この曲でいいんですね?」
絵理「は、はい……よろしくお願いします?」
「わかりました、それでは準備お願いしまーす」
絵理「…………」
絵理(ーー『クロスワード』は、きっと皆に聞いてもらえないかもしれない)
絵理(ーーCDになって876プロに届くまで……それが、間に合わないかもしれない)
絵理(ーーだから……尾崎さんに無理を言って、CDの録音をもう一つねじ込んでもらった)
絵理(ーー歌を入れた経験は少ないから……自分では出来ないかもしれないから……)
ーーー『私達のことは一旦忘れて』ーーー
絵理(ーーううん、違う。忘れちゃ駄目)
絵理(ーー私をアイドルにしてくれたのは尾崎さんだけど、そこから私を引っ張って来たのは愛ちゃんと涼さん)
絵理(ーー二人は人間で、私は喰種だけど、私にとっては一緒に歩いてきた仲間)
絵理(ーーだから、これは尾崎さんのための曲だけど……できたら尾崎さんだけじゃなくて、2人にも聞いてほしい)
「それでは曲流しまーす」
絵理(一緒に頑張って来た、大切な仲間だから)
~十数分後 876プロ~
タッ
響「……よし、ちゃんと来れたぞ!」
響「自分、完璧だからな! 一度来た道だって完璧に覚えられるぞ!」フフン
響「……あ、でもどうしよう。アポとか取ってないんだったな……いきなり入って大丈夫かな?」
響「特に用事があるわけでもないし……」
響「って言うか、向こうにとっては一回会っただけのほとんど他人だった……」
響「……ま、いいか。なんくるないさー」
響「昨日会ったばっかだし、もう一回会いたかったでもきっと大丈夫さー!」
響「と言うわけで、はいさー……」グッ
ダアンッ!!
「ーーーーーふざけた話してんじゃないわよッ!!!」
響「いっ!?」ビックゥ
響(えっ? 何、何だ!?)コソッ
響(あの声は多分、絵理のプロデューサー……だよな? ……何であんなに怒ってるんだ?)
響(見つからないようにして……盗み聞きになっちゃうけど……っと)ソォー・・・
北斗「落ち着いて下さいレディー。私達は、貴女を疑っているわけではありませんよ」
尾崎「そんなの分かってるわよ! むしろ、それならここまで怒らないわ!!」
まなみ「お、尾崎さん! 気持ちは分かりますけど落ち着いて下さい!!」
尾崎「まなみっ! 何、あなたこんな人の言う事なんかを信じるの!?」
響(……?)
尾崎「こんなっ……絵理が、絵理が……」
尾崎「ーーーーー絵理が"喰種"だなんて!!」
響「…………は?」
響(……え、何で)
翔太「怒る気持ちは分かるけどさ、実際かなりの確率で絵理ちゃんは"喰種"だよ」
尾崎「子供は黙ってなさいッ!! 貴方達は何を言ってるの!? 絵理が喰種だなんて、そんなのあるわけないわ!」
まなみ「尾崎さんっ!」ガシッ
尾崎「離しなさいまなみ! いい、絵理は、絵理はね!! 綺麗で他人思いで、ひたむきな子で……っ!!」
石川「……尾崎さん」
尾崎「そんな子が人喰いの化け物!? 冗談でも言って良い事と悪い事があるわ! あなた達はーーーーー」
石川「ーーーーー落ち着きなさい、尾崎さん」
尾崎「ーーーっ」ピタ
尾崎「……すみません、社長。つい取り乱してしまって……」
尾崎「で、でも……絵理が化け物なわけ……!」
石川「…少し頭を冷やしなさい。私が代わりに話を聞くわ」
尾崎「……はい……」
石川「……それで? 何故貴方達は、水谷絵理を"喰種"だと?」
北斗「冷静な対応、感謝します。……私達が派遣される前から、水谷絵理さんについては調査が行われていました。翔太」
翔太「はい、どーぞ」バサッ
北斗「その結果……こちらの資料に書いてある通りの事実が判明しました。お手数をお掛けしますが、まずは資料をご覧ください」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー『水谷絵理』。性別は雌
ーーー876プロに日高愛、秋月涼と共に、アイドルとして所属している
ーーー2,3年前はもう一匹の喰種と組んで人間を狩っていたが、とある時期から目立った捕食が目立たなくなる
ーーー現在は決まった山地を巡回し、死体を集めて餌としている模様
ーーー2,3年前に狩りを行っていた喰種との関連性は、一部を削りとられていた死体に残る『赫子痕』の照合により判明
ーーー何度も同じ土地を訪れ、その度に死体が損壊していたことから"喰種"被疑者に名が挙がり
ーーー張り込みの結果、食事回数が人間と比べ非常に少ないことから、ほぼ"喰種"であると確定できるものと判断する
ーーー尚『水谷絵理』の周辺人物に関しては、データ不足のため判断不可ーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まなみ「嘘……」
石川「……」
尾崎「そ……そんな……嘘よ……こんなの、信じないわ……!」ブルブルブルブル
北斗「御心境はお察しします。ですが、これらの調査結果は曲げようのない事実です」
石川「……それで? 貴方達は、ただ私達に真実を伝えに来てくれたのかしら」
北斗「いいえ。その資料にも記述してある通り、こちらの不手際で『水谷絵理』の周辺人物に関しては喰種か人間か判断がついていません」
北斗「ですから『水谷絵理』の調査と並行して、貴女方の調査も行わせていただきたいのです」
北斗「出来れば、『水谷絵理』の調査そのものも行いたかったのですが……来るのが遅かったようですね」
まなみ「……その、『調査』って、一体何を……?」
北斗「特に苦痛を与えるものではありませんよ。少しCCGの支部に来てもらい、判別用のゲートを通ってもらうだけです」
翔太「空港の金属探知機みたいなものだよ。喰種が通ったらサイレンが鳴るんだって」
石川「……『行きたくない』と言ったら?」
北斗「あくまで任意同行ですし、『水谷絵理』の関係者である事以外は具体的な被疑者としての要素もありませんから、強制ではありません。疑いが晴れるのが早いかどうかだけの話です」
翔太「…ただね。もしおねーさん達が本当は喰種で、この場で僕達を殺してやり過ごすって言うんなら……やめといた方がいいよ」ニヤ
ゴトンッ
翔太「三人相手なら、僕と北斗君で一分もかからないからね」
石川(2人分のトランク……?)
石川「……分かりました。私達が"喰種"でないのは事実ですし、貴方達に同行しましょう。まなみ、尾崎さん、準備して頂戴」
尾崎「……社長、あなたは……!」キッ
まなみ「えっ、えっと尾崎さん! 行きましょう!」グイッ
尾崎「……っ」ギイッ
北斗「ご協力、感謝します。すぐにお返ししますので、通信機器の類はこの鍵付きの箱に入れて下さい」ペコリ
翔太「すぐに終わるからね! それまでちょっとの間だけ、我慢してね!」ヒラヒラ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「…………!?」
響(……嘘だろ?)
響(エリーゼが喰種だって、完全にバレてるじゃないか)
響(エリーゼはこれからどうなるんだ? 尾崎さん達にまでバレて、まだ居場所なんてあるのか?)
響(あんなに頑張ってたのに、あんなに必死になってまでアイドルでいたかったのに……!!)
ギイッ
響「ーーーやばっ」ヒュッ
響(…………)ドキドキ
北斗「では、こちらの車に乗って……ん?」
翔太「どしたの北斗君? 何かあった?」
北斗「いや……気のせいだな。それより早く『調査』を終わらせよう。レディーを長い事振り回すのは趣味じゃない」
翔太「ま、そうだね。見た感じあの人達はシロだろーし、早く終わらせてあげよっか」
北斗「ああ。……黒井上等と冬馬も、ちゃんとやってるといいんだけど」
バタン
ブロロロロロロ……
響「……」
響(……知らせないと)
響(このままじゃ……エリーゼが危ない!)
響(エリーゼは今、何処にいるんだ……!?)
ダッ
響(あいつらより先に、エリーゼを探すんだ……!!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~30分後 スタジオ出口~
絵理「……もしもし、サイネリア?」
絵理「うん。えっと、一昨日の依頼の話なんだけど……」
絵理「…いつもの所。終わったら、書いておいた場所に送ってあげて?」
絵理「……ありがとう」
絵理「……?」
絵理「……っ」ブツッ
絵理「……」パキッ
絵理「……」ポイッ
ザアアアアアアアアアアアアアアアアア
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ザアアアアアアアアアアアアアアアアア
愛「……雨、降ってきましたね」
涼「まなみさんの言う通り、傘持ってきてて良かったね……」
絵理「……お待たせ?」
愛「絵理さん!! CD出来たんですか!?」
絵理「えっと、これ……」サッ
愛「おおーー!! 帰ったら早速聴きましょうね!!」
涼「お疲れ様、絵理ちゃん」ニコッ
絵理「涼さんも、待っててくれてありがとう」
絵理「これ……ちょっと持ってて欲しい?」サッ
涼「えっ? これって尾崎さんのためのCDだよね。何でボ……私が?」
絵理「今日はちょっと、寄るところがあるから……2人は先に帰っててほしい?」
愛「ええーーー!? 一緒に帰りましょうよー!!」
涼「そうだよ。折角帰ってから、皆で絵理ちゃんの曲を聴こうと思ってたのに……何か急な用事でもあるの?」
絵理「うん。ほんの少しだけなんだけど、今日やらなきゃダメ……?」
涼「……そうなんだ……」
涼「あの、ボクならもうちょっとぐらい待てるよ?」
絵理「ううん、先に帰っててほしい?」
涼「…………そっか」
愛「んー……じゃあ!!」シュタッ
りょうえり「「?」」
愛「途中までは一緒に帰りましょう!! 絵理さんが分かれるところまで!!」
絵理「……愛ちゃん?」
愛「それならいいです!! あたし、絵理さんと涼さんといっぱいお喋りして帰りたいですから!!」
愛「これなら、絵理さんも困りませんよね!!」
涼「!」
涼「…うん、ボクもそれがいいな。絵理ちゃん、何だか今日は元気が無いようにも見えるし……」
絵理「えっ……? そう見えた……?」
涼「何となく、なんだけどね。話したくないことだと思うから、無理には聞かn」
愛「えええええっ!!? 絵理さん、悩みあるんですか!!? 悩みって何でも人に打ち明けたら軽くなりますよ!!」
愛「あたしでも話せば少しは楽になります!! さあ!! あたしに全部ぶつけて下さい!! 受け止めます!! さあ!!!」
涼「……あ、愛ちゃん……」
絵理「……ぷふっ」フルフル
愛「? どうしたんですか絵理さん?」
絵理「ううん、何でもない。強いて言うなら、ちょっと嬉しい?」
愛「???」
涼「そっか。何を悩んでたのかは分からないけど、絵理ちゃんが笑ってくれてよかった」
涼「途中まででいいから……一緒に帰ろうよ」
愛「帰りましょう!! いっぱいお喋りして!!」
涼「さっきと同じこと言ってるよ、愛ちゃん」
絵理「…………うん…………」
絵理「……一緒に帰ろう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ザアアアアアアアアアアアアアアアアア
愛「ーーーそうやって、ごはん山盛り太郎の出来上がりなんです!!」
涼「おかずが足りるかな、それ……?」
絵理「盛るの自体、テクニックが要りそう……?」
絵理(ーーやる事は全部やった)
絵理(ーー響さんのマスクの仕事も終わって、データも全部、破壊して雨水に流した)
絵理(ーーもう、することは何もない。ここで死んでも、誰にも迷惑はかからない)
絵理(ーー迷惑は掛からないけど、泣いてくれる人はいる?)
絵理(ーーサイネリアは、絶対に泣いてくれる。だから勘付いても動けないように、ギリギリまで連絡を遅らせた)
絵理(ーー伊織さんも……プライドが高いから泣きはしないかもしれないけど、悲しんではくれる?)
絵理(ーーあとは……)チラ
絵理「愛ちゃん」
愛「何ですか絵理さん!!」
絵理「愛ちゃんのお母さんって、確か……喰種捜査官?」
愛「そうですよ!! 最後に強い喰種と相打ちになってケガしちゃって、あとあたしを生むために引退しましたけど……」
愛「その時には特等になってたほど、滅茶苦茶強いママです!! あたしは喰種捜査官じゃなくてアイドルやりますけど!!」
絵理(ーー愛ちゃんのお母さんは喰種捜査官。だから愛ちゃんは、どっちかと言うと捜査官側の人間……)
絵理(ーーもし愛ちゃんや涼さんや、尾崎さんが私を喰種だと知った時……)
絵理(ーーそれでも、私が死んだら泣いてくれるのかな)
絵理「…………」
絵理「愛ちゃん、涼さん」
涼「どうしたの?」
愛「どうしました!?」
絵理「……私のこと、好き?」
涼「……へっ!? な、何言っt」
愛「大! 好き!! です!!!!!!」ガッシイ
絵理「ひうっ!?」
愛「優しくて綺麗な絵理さんが大好きです!! パソコンに詳しくて、すごい映像を作れる絵理さんが大好きです!!」
愛「いつもあたしに大事なことを教えてくれて、落ち込んだ時は慰めてくれて、あたしや涼さんの色んな所を見てくれて!!」
愛「そんな所がみんなみんっな大好きです!!! 嫌いになんてなりません!!!」
愛「ねっ涼さん!!」
涼「あ、え、ええと……」カアア
涼「……うん。私も、絵理さんのことが好きだよ」
涼「……あ、あくまで友達としてだよ! 友達! 変な意味じゃないよ!?」
絵理「……うん」
絵理「ありがとう」
絵理「私も、涼さんと愛さんのことが好き」
愛「!!」パアア
涼「!!」カアアアッ
絵理(ーー大丈夫)
絵理(ーーこの言葉だけで、十分)
絵理(ーー24区に行ったまま、一生会えなくなったとしても)
絵理(ーーそれさえ間に合わないで、白鳩に殺されてしまったとしても)
絵理(ーー涼さんと愛さんと、尾崎さんとまなみさんと社長に……出会えてよかった)
絵理(みんなと一緒に、アイドルが出来て良かった)
絵理「それじゃあ……ここでお別れ?」
愛「えっ……もうですか!?」
絵理「うん。涼さん、CDはちゃんと持ってくれてる?」
涼「うん、ここにあるよ。……ちゃんと帰って来てね?」
絵理「……私は、大丈夫?」
絵理「あとは、事務所でーーーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーー喰種も、雨を不快だと思うのかい?」
愛「えっ?」
涼「……?」
絵理「ーーーーーーーーーー」
「ーー雨と言うものは……ジメジメと実に不快なものだ……」
「視界は鈍るし、仕事も捗らない……この時期だと、身体も冷えて健康にも良くない……」
「……しかし、雨が色々と流し消し去り、非常に助かる場合もある……」
「泥や汚れ……醜い豚の叫び声などな…………」
絵理(どうして)
絵理(どうして、今?)
絵理(どうして、あと少しだけ待っててくれなかった?)
「おいオッサン。ここに来た時とは真逆の事言ってるぜ」
「ん? そうだったか?」
「……まあ、いいか」
「……クク……」
冬馬「ーーー水谷絵理」
黒井「少々時間をいただけるかな?」
今日はここまで。
まだ死ななかったよ。
中二の頃に書いた劇の台本以外では、話で主要キャラを殺すのはこれが初めてなんだよね実は……
結構キツかった。
投下いたします。
#06[崩落]
ーーー『はいっ!! はじめまして!! あたし、日高愛っていいます!!』
ーーー『好きなことはバーゲンの一点買いです、あとあと金魚すくいが好きです!!』
ーーー『一生懸命やるので!! よろしくお願いします!!!』
絵理(ーー日高愛ちゃん)
絵理(ーー声が大きくて、最初は近付きにくい子だったけど……)
絵理(ーーとっても素直で、真っ直ぐぶつかって来てくれる愛ちゃんには、何度も救われた)
ーーー『えと……はじめまして、秋月涼です』
ーーー『いきなりの「デビュー」で驚いてるんですけど……がんばりますっ』
ーーー『よろしくね、愛ちゃん。それからーーー絵理ちゃん』
絵理(ーー秋月涼さん)
絵理(ーーわたしよりもアイドルとしての才能があって、私には味が分からないけど料理もすごく得意みたい)
絵理(ーー本当は男の人だってことは、匂いで気付いていたけど……優しくて頼もしくて、いつも私や愛ちゃんの支えになってくれた)
絵理(2人とも……私を信じてくれて、出会ってからこれまで一緒に頑張った大切な人)
絵理(もし叶うなら……)
絵理(ずっと、2人と一緒のステージに立っていたかった)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ザアアアアアアアアアアアアアアアアア
黒井「ーーー少々、時間をいただけるかな? 水谷絵理さん……」
黒井「うちの捜査官の調査によれば……君は結構な頻度で高台に向かい、何かを持って帰っているのを目撃されているんだ」
黒井「聞けば、君が遠出する場所は持ち主のいない車が止まっている事が多いとか? その持ち主は今どこにいるんでしょうなあ?」ニヤニヤ
黒井「あーあと、基本死体は無くなっていたらしいんだが……時間が無かったのかな?」
黒井「最近のものでたまに一部だけ削り取られていたり、食いちぎられていたりするような傷跡が残っている死体が見つかっていてね」
黒井「まさかと思い調査してみれば……そこには赫子の痕や喰種の体液が混じっている」
黒井「しかもそれは、2,3年ほど前に人間を狩っていた喰種と一致していると来た」
黒井「……そういうわけなんだ、水谷絵理さん……」
黒井「もし何か知っていれば、是非お話を伺いたいのだがねえ?」ニタァ
絵理「……っ」ギリ
愛「あのっ……涼さん、絵理さん? この人達、何の話をしてるんですか?」
涼「……!」ハッ
涼「あなた達は……まさか、疑ってるんですか……? 絵理ちゃんの事を……」
愛「り、涼さん? 疑ってるって何ですか? 絵理さんが、なんで疑われてるんですか?」
冬馬「……」ハァ
冬馬「おい、そこの……秋月涼と日高愛、だったか?」
愛「はっ……はい!」
涼「な……何ですか?」
冬馬「その女から離れとけ」
冬馬「ーーーーー『水谷絵理』は"喰種"だ」
愛「ーーーーーっ!?」バッ
絵理「…………」
愛「……絵理さん?」
愛「絵理さん? ねえ、絵理さん」
愛「違いますよね? 絵理さんが、そんな、喰種だなんて」
絵理「…………」
愛「ねえ、涼さん! 違うって言ってあげて下さい! あたしだって人間です! 涼さんも人間ですよね!?」
愛「ねえっ……だったら、あたしたちと仲良くアイドルやってた絵理さんだって、人間に決まってるじゃないですか!」
愛「……絵理さんっ! 涼さんっ! 2人とも何か言ってよ!!」
涼「……ボクだって、信じられないよ。絵理ちゃんが、そんな……"喰種"だなんて……」チラ
絵理「…………」
涼「ねえ、絵理ちゃん……」
涼「……何か、言ってくれないかな…………?」
「……どうしたんだアレ?」
「警察?」
冬馬「……」ゴソ
冬馬「ーーー"喰種捜査官"だ!」バッ
冬馬「今目の前にいる黒髪の女は"喰種"だ!」
冬馬「一般市民は危険だから速やかに立ち去れ!」
「……"喰種"? あの綺麗な女の子が?」
「え、じゃああの隣の2人も……」
「ウソだ~、普通の人だろ?」
冬馬「早く立ち去りやがれ! 死んでも責任はとらねえぞ!」
ザッ
中島「君たちは逃げなさい。ここにいると巻き込まれる」ガシ
草場「ほら……いい子だから」キュ
愛「あ……」グイ
涼「……」グイ
黒井「ウィ、そいつを逃がすなよ中島君、草場君」
黒井「涼ちゃんと愛ちゃんも早く離れるといい。いつ捕食されるか分からんぞ?」
愛「……絵理さん……?」
涼「絵理……ちゃん……」
絵理「…………」
絵理(ーーー愛ちゃん)
絵理(ーーー涼さん)
絵理(ーーーついさっきまでは、死んでもいいと思っていた)
絵理(ーーーたとえ後から正体を知られて、嫌われてしまったとしても)
絵理(ーーー今は、涼さんと愛ちゃんが私のことを好きだって言ってくれたから)
絵理(ーーーその思いと一緒なら、死ねると思っていた)
絵理(ーーーでも)
絵理(ーーーハッキリ気付いてしまった)
絵理(ーーー2人が私に向ける目に)
絵理(ーーーだんだん怯えの色が混じってきたことを)
絵理「…………嫌…………」
メキィ
「「「!!!!」」」
黒井「『赫子』だ、行くぞ」
冬馬「ああ」
愛「何ですか、あれ……羽、みたいな……」
涼「それに、絵理ちゃん……目が…………」
涼「…………!!」
ポタッ
ポタポタッ
絵理「ーーーーーーーーーー」
そ ん な 目 で み な い で
ヒュッ
ゴシャアッ
冬馬「……っ」
黒井「無事か、冬馬」
冬馬「…ああ、今のは壁に当たっただけだ。ちゃんと避けたぜ」
黒井「なら良い。さっさと『クインケ』を出せ」カチッ
冬馬「おう」カチッ
ズルリ
黒井「どうやら、奴は『甲赫』らしいな」
ーーークインケ…ナオ
冬馬「なら、オッサンの方が相性は良いって事か」
ーーークインケ…シマムラ
黒井「ああ、止めは私がやる。お前にも前線に立ってもらうが、踏み込み過ぎる必要は無い」
黒井「ーーーーー行くぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「……はあっ……はぁっ……!!」
響(エリーゼ……どこにいるんだ!?)
響(早くしないとっ……!)
「ーーしかし……すごかったな」
響「……?」ピタッ
「ーーいやー、俺"喰種"って初めて見たよ」
響「!!」
「見た目はまんま人間だったなー、バケモンになってからはヤバかったけど……」
「どうせならもっと見たかったよな」
響(……"喰種"を……見た……?)
響(……まさか……)
響「ーーーーーねえっ!!」
「……ん?」
「どうしたお嬢ちゃん。何か用か?」
響「そのっ……さっき言ってた"喰種"って、どこに……!?」
「ああ、それならあっちをまっすぐ行ったところに……」
「おいバカ! 何教えてんだよ危ないだろ!! あんたも無闇に近づかない方がーーー」
「ーーーっておい!!」
響「っ!!」ダッ
響(ーーーどうする!?)
響(これってもしかして、エリーゼの正体がもうバレてるんじゃ……!!)
響(自分が向かった所で、どうにか出来るのか……!?)
響「!!」
響(ーーーそうだ! 誰か助けを呼ばないと……!!)
響(誰が……)
響(……とりあえず、まずはぴよ子に……!!)ガサ
響「……ん?」
響(メールが来てる……『自宅待機のお知らせ』……?)
響(ーーーいや、そんな事は今はいい!)
響(早く連絡を入れないと……!)ピッ
プルルルル
プルルルルル
小鳥『もしもし……響ちゃん?』
響「ぴよ子! よかった、繋がったぞ!」
小鳥『……ちょっと待って響ちゃん、あなた今どこにいるの? 屋内じゃないわよね? メールは届いていないの?』
響「ごめん、メールはついさっき気付いたばっかりで……」
響「それより大変なんだ! 876プロに行ったら知らない人がいて! その人たちがエリーゼ……えっと、絵理のこと"喰種"だって知ってて!」
小鳥『……!!』
響「今"喰種"を見たって人がいて……っ、その人が言ってた場所に、今向かってるんだ!!」
小鳥『……』
響「だから、エリーゼを助けるために応援が欲しいんだぞ! 今から場所言うから、出来るだけみんなをーーー」
小鳥『響ちゃん。今すぐ家に帰って』
響「ーーーえっ?」
響「い、今何て……?」
小鳥『今すぐ家に帰って、って言ったの。メールにも書いていたけど、こっちから再び連絡を入れるまで家から動かないでちょうだい』
響「……な、何言ってるんだ……? それじゃあまるで、エリーゼを見捨てるみたいじゃないか……!!」
小鳥『……』
小鳥『そうよ。絵理ちゃんはもう駄目、助けなんて間に合わないわ』
小鳥『……だから早く家に帰って。このままじゃ、あなたも危ないかもしれない』
響「……は……?」
響「何言ってるか分かんないぞ……」
響「……この前、社長から聞いてるんだよ?『喰種同士助け合うのが、765プロの方針』だって……」
響「なのに、見捨てる……? そんなの……」
響「!!」
小鳥『……あのね、響ちゃん。よく聞いて。絵理ちゃんはーーー』
響「ーーー愛! 涼! そんな所でなにしてるんだ!?」
小鳥『っ!?』
愛「……あ……」
涼「……響、さん……」
響「2人とも無事だったんだ……!」
響「……」キョロキョロ
響「……あの! 絵理は、どこに……」
愛「……あの……」チラ
響「あっちか! ありがと愛!」ダッ
涼「ーーーーー待って!!」
響「……」ピタッ
涼「待って……待って、ください……」ボソボソ
涼「……ボク達、CCGの人にここまで送られて……草場さんって人が、『危ないからここで待ってて』って……」
涼「…………それに…………」
涼「絵理ちゃんが…………目の前で…………」
響「ーーーーーーーーーーッ!!」
ダッ
涼「!!」
涼「待って、待ってよ!!」
小鳥『響ちゃん!? それ以上行かないで、早く戻ってーーー』ブツッ
響(エリーゼ……!!)
響(ぴよ子が何を言ってるか、全然わかんない……)
響(早く……早く、行ってあげないと……)
響(……でも……)
響(もしも、自分の想像通りの事が起きているなら……)ピタ
響(こんな自分が……こんな自分に、何が出来るんだ……?)
響(自分一人が行って何になる……!)
『平気で人を殺し続ける私が、皆に胸を張り続けられるのかなって……』
響(……でも……)
『尾崎さんが私を見つけてくれて……涼さんや愛ちゃんと出会って……』
『それで、アイドルとして舞台に上がった時に思った』
『私は……876プロのみんなに誇れる私でいたい』
響「…………」
響(……駄目だ)
響(たとえ力不足でも、何もせずにいるなんて出来ない……!!)
ダッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「!」
響(ーーーいた!!)
響「絵ーーーーー」ピクッ
冬馬「…すまねえ、オッサン。オッサンからもらったクインケを、また壊しちまった……」
黒井「またか……と言いたいところだが、あとは止めと言う十分な所まで追い詰めた。まあ及第点と言ったところだな」
黒井「……さて」
黒井「ーーー数年前まで人を狩っていたとは思えんな。人を欺くのに必死で、腕が鈍ったのかい?」ニヤニヤ
絵理「……う……」ゴボッ
黒井「ーーまったく愚かだな……大人しく付いて来れば、こんな道の真ん中で死ぬことはなかった……」
黒井「ゆっくり『解体』してやったのに」
絵理「……」
黒井「そうそう、お前はきっと『何で別れる直前にやって来たんだ』などと疑問に思っているのではないのかい?」
黒井「…簡単な事だ、お前を絶望させられる絶好のタイミングを計っていただけの事」
黒井「周囲に被害が及ぶようなら直ぐにでも出ていたのだが、いやはや助かった。こうしてお前にとって最悪のシチュエーションで、お前を殺せるのだから」
黒井「だって可哀想だろう? お前みたいな化け物に騙され続けて大好きなどと言って、その幻想を抱いて生き続けるだなどと」
黒井「お前のような奴が人に愛してもらえるとでも思ったのか? まったく無様な姿だな」
響(絵理……そんな……)
響(もう、血塗れのボロボロじゃないか……!)
響(……どうすれば……)
響(……どうすればいいッ!!?)
黒井「ああ、あともう一つ。北斗から連絡があったんだが、先程お前のプロデューサーやマネージャーに正体を伝え終わったんだそうだ」
黒井「これで876プロに、お前を"人間"だと信じている者はいなくなった……」
黒井「どんな気分だい? 自分が必死になってしがみ付いていた場所が、完全に崩落してしまった気分は……」
絵理「っ…………」ジワ
ーーー『もう、絵理ってば! 恩返しなら私と一緒にアイドルをやってくれるってだけで十分なのに!』
ーーー『あーでも凄く嬉しい! ありがとう絵理!』
ーーー『大! 好き!! です!!!!!!』
ーーー『優しくて綺麗な絵理さんが大好きです!! パソコンに詳しくて、すごい映像を作れる絵理さんが大好きです!!』
ーーー『いつもあたしに大事なことを教えてくれて、落ち込んだ時は慰めてくれて、あたしや涼さんの色んな所を見てくれて!!』
ーーー『そんな所がみんなみんっな大好きです!!! 嫌いになんてなりません!!!』
ーーー『……うん。私も、絵理さんのことが好きだよ』
ーーー『……あ、あくまで友達としてだよ! 友達! 変な意味じゃないよ!?』
絵理「…………どうして…………」
黒井「んん? 何か言ったかな?」
絵理「どうして……? わたしは、それだけで良かったのに……」ポロッ
絵理「どうして、それも全部奪っていくの……」ポロポロ
絵理「どうして…………」
ーーー『……絵理さん……?』
ーーー『絵理……ちゃん……』
絵理「…………どうしてっ…………!?」
絵理「……ヒッグ…………」
絵理「…………うええええええええええん…………」
絵理「ぐすっ……………えええええええええん…………!」
黒井「……チッ」
黒井「…………泣くなよ、クズが」クンッ
黒井「ーーーーーーーーーーお前にーーーーーーーーーー」ヒュッ
パアアァアァンッ
黒井「ーーーーーーーーーー泣く権利など無い」
絵理「ーーーーー」ゴトンッ
響「……ッッッ……!!」
響(ーー思わず叫びそうになった)
響(ーーあんなに人を殺さないように頑張っていた女の子が)
響(ーーただ、大切な人達と一緒にいたかっただけなのに)
響(ーーたった一つの願いも、これまで積み上げてきた絵理の幸せの全ても)
響(ーーみんなみんな、崩れ落ちてしまう音が聞こえた)
今日はここまで。
絵理Pの皆さん、本当にごめんなさい
投下します。
今回はちょっと投下速度おそめ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドサリ
冬馬「……?」
黒井「どうした、冬馬?」
冬馬「いや、何かあっちの方で音がしてな……多分この辺りに……」ヒョコ
冬馬「!」
冬馬「おいオッサン! 女が倒れてる! おい、大丈夫か? おい!」ペチペチ
響「…………あ…………」
黒井「……」
冬馬「気は失ってねえみてえだが放心してる。多分、今のを見ちまったショックだろうな……」
冬馬「……オッサン? どうかしたか?」
黒井「いや、少々怪しいと思ってな。あくまで勘だが……」
冬馬「……この女も"喰種"ってことか?」
黒井「いや……こいつが"喰種"だとしたら、この程度の光景でここまでショックを受けるのは変だ」
黒井「念のため保護しろ。だが、ゲートチェックを済ませるまでは気を抜くな」
黒井「……そう言えば、お前はついさっきクインケを壊してしまっていたな。少し待て、今北斗と翔太を呼ぶ」ピッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響(ーーそれからの事は、放心していたのかあまり覚えていない)
響(ーーあの後、自分はその場にへたり込んでしまっていた所を捜査官2人に発見されて)
響(ーー後から来た2人や涼と愛と一緒に何処かの施設に送られた後、何で自分があそこにいたのかなど、いくつか質問をされた……と思う)
響(ーーエリーゼの死体は、自分が車に乗せられるまで放置されていた)
響(ーー立場が危うくなるような事は言わなかったと思う。あとは、身元がしっかり確認できたからだろうか)
響(ーー自分は『"喰種"だとは知らずに友人だと思っていた女の子が死んで、ショックを受けて倒れた人間』と判断されたみたいで、割とすぐに解放された)
響(ーー施設を出る直前、通りかかったドアの隙間から涼と愛の姿が見えた)
響(ーー愛はとにかく震えていて、涼にピッタリとしがみ付いて泣いていた)
響(ーー涼は少しだけ自分を取り戻したみたいで、愛の頭を撫でながら厳しい目で何処かを見つめていた)
響(ーー2人に声をかけないまま、自分は施設を出て行った)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~数十分後 765プロダクション事務所~
響「……」ガチャ
小鳥「……? どちらさまでーーーーー響ちゃん!?」ガタッ
ダッ
小鳥「響ちゃんっ!! 無事だったのね!?」ギュウッ
響「……ぴよ子……」
小鳥「良かった……響ちゃんが無事で本当に良かった……」
小鳥「……響ちゃんまでCCGに連れていかれたって聞いて……」
小鳥「もう、響ちゃんもダメなんじゃないかって思って…………!!」グスッ
響「ぴよ子…………」
響「…………」
響「…………ごめん、なさい……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
プルルルル
プルルルルル
小鳥「ーーーはい、響ちゃんは無事でした。どうやら"喰種"とは思われなかったみたいで……」
小鳥「ーーーええ、状況を確認次第、皆に連絡を回します。春香ちゃん達には家に残ってもらって……ええ、はい」
小鳥「ーーー社長自身も安全を確かめて……はい、よろしくお願いします。ではまた……」プツッ
小鳥「……」チラ
響「…………」モゾ
小鳥「……ねえ響ちゃん。ちょっといい?」
響「……何」
小鳥「出来たら、でいいんだけど……無理しない範囲でいいから、響ちゃんに何があったか教えてくれないかな?」
小鳥「本当に無理はしなくていいから……響ちゃんが落ち着いてからでいいから」
響「…………うん」
響(ーーぴよ子がエリーゼを見捨てたって事には、もう怒りや恨みは感じなくなっていた)
響(ーー自分自身、問い詰める余裕が無かったのと……)
響(ーーあと、言葉のひとつひとつから、ぴよ子の気遣いや、ぴよ子も辛そうだって事が伝わって来たから)
響(ーーだから……自分は言えるだけ、出来るだけ詳しく、自分の見たものをぴよ子に話した)
響(ーー自分が話している間、ぴよ子はずっと真剣に耳を傾けてくれて……)
響(ーーそれで、ひと通り話し終わると……)
小鳥「……そっか。ありがとうね響ちゃん、ちゃんと話してくれて。大変だったね」
小鳥「…………ごめんね。辛い思いをさせて、本当にごめんね」
響(ーーぴよ子はそのまま自分を抱きしめてくれて、他の喰種が集まるまでずっと、自分の頭を撫でてくれていた)
響(ーーあの事を責めるなんて、出来るわけがなかった)
響(ーーそして、ぴよ子が再び連絡を回して……)
響(千早と伊織、真とあずささん、あとは社長が事務所に集まった)
~天海家~
「ーーー『自宅待機のお知らせ』」
「『765プロの周辺に、不審者の姿を発見しました』」
「『解決の連絡が回るまで外には出ず、各々自宅にて待機していてください』」
「『尚、出来るだけ家族の方にも外出しないよう注意をお願いします』ーーー」
春香「ーーーか。久しぶりだなあ、このお知らせも」
春香母「春香ー? ちょっとお遣い行って来てくれない?」
春香「ゴメンお母さん! 今不審者が出てるらしくって、外に出ちゃいけないの!」
春香母「あら……久しぶりじゃないその連絡。アイドルって大変ね」
春香「そうだねー、お仕事もショッピングも出来ないから暇でしょーがないよー」ゴロン
春香母「そう? なら台所手伝ってちょうだい」
春香「はーい」
春香「……皆、大丈夫かなぁ……」
春香「雪歩や律子さんは通じるんだけど、千早ちゃんや真は電源切ってるみたいだし……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すまない、短いがここまで。
また明日続きを書きます。
乙です
それにしても冬馬は亜門的な…ん?天ヶ瀬冬馬…あまとう…亜門は甘党…ハッ
すまない、モチベが枯れてきたので今日は更新を休みます。
あと二、三回くらいの更新で新章突入(具体的に言えばミキミキ再登場)できるので、ちょっと書く気力が溜まってくるまで待っててください。
>>215 亜門→冬馬のキャスティングは多分、このクロスやろうと思ったときに一番最初に決まった役だったと思います。
主人公のカネキ役を響にするか春香にするか迷っていた時には既に決まってました。
ちょっと話数区切ります。天海家のところからやり直し。
#07[冷酷]
~天海家~
「ーーー『自宅待機のお知らせ』」
「『765プロの周辺に、不審者の姿を発見しました』」
「『解決の連絡が回るまで外には出ず、各々自宅にて待機していてください』」
「『尚、出来るだけ家族の方にも外出しないよう注意をお願いします』ーーー」
春香「ーーーか。久しぶりだなあ、このお知らせも」
春香母「春香ー? ちょっとお遣い行って来てくれない?」
春香「ゴメンお母さん! 今不審者が出てるらしくって、外に出ちゃいけないの!」
春香母「あら……久しぶりじゃないその連絡。アイドルって大変ね」
春香「そうだねー、お仕事もショッピングも出来ないから暇でしょーがないよー」ゴロン
春香母「そう? なら台所手伝ってちょうだい」
春香「はーい」
春香「……皆、大丈夫かなぁ……」
春香「雪歩や律子さんは通じるんだけど、千早ちゃんや真は電源切ってるみたいだし……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~765プロダクション事務所~
あずさ「今回は役に立てなくてごめんなさい……コーヒーを淹れましたから、良かったら飲んでください」カタン
小鳥「ありがとうございます、あずささん。いただきます……」ズズ
小鳥「……さて」
小鳥「千早ちゃん、真ちゃん。偵察お疲れさま」
真「うん。捜査官の顔写真を撮って来たから回しておいて」
千早「ありがとうございます。局員の方も撮ってきましたから、これも……」
小鳥「……あずささん、真ちゃんと千早ちゃんの撮って来てくれた画像をコピーしてもらえますか?」
あずさ「わかりました」タタッ
響「……」
響(ーー目の前を写真と資料が飛び交っていく)
響(ーー話している内容は多分、エリーゼが死んだ詳しい状況の説明とか、今後の対応とか、そんな感じだったと思う)
響(ーー自分がぴよ子に話した事も、ぴよ子の口から説明されていた)
響(ーーその間、伊織達の表情はほとんど変わらない)
響(ーー仲間が死んだって言うのに)
小鳥「伊織ちゃんや社長も、お疲れ様でした」
社長「うむ……765の皆だけでも無事でいられてホッとしているよ」
伊織「絵理の方でも連絡網を潰してくれていたみたいだから、今回は比較的に目くらましを上手くやれたわ」
伊織「……その為に、事前通達したわけじゃないのにね。証拠隠滅の時間を潰せば、まだ逃げる時間は出来たかも知れないのに」
小鳥「そう……絵理ちゃんにも、感謝しないといけないわね……」
響「……事前通達?」
響「伊織、事前通達って何のこと? それじゃあまるで、伊織は絵理の……」ハッ
響「……まさか」
伊織「…何?」
響「……気付いてたのか? エリーゼがCCGに狙われてるってこと」
伊織「……ああ、そのことね」
伊織「そうよ。水瀬家の力を使って白鳩の様子を調べて、そいつらが絵理を追ってる事は既に分かってたわ」
伊織「ま、気付いた時点で『手遅れ』だったけどね」
響「…………は?」
伊織「絵理は山に死体漁りに行ってたところを見られてたみたいね。決定打は急いでいた時に使った赫子の痕」
伊織「あれじゃあバレるのも時間のーーー」
バキッ
伊織「ーーーっ」フラッ
響「……ふーっ、フーッ、フーッ……!!」ビキビキ
響「伊織……お前ええっ!!」
真「伊織っ!?」
スッ
あずさ「……ダメよ、真ちゃん。ここは抑えて」ボソッ
真「でもっ……!」
あずさ「お願い、真ちゃん。これは伊織ちゃんのお願いでもあるの……」
真「……伊織の?」
伊織「……何のつもり? 響」
響「何のつもりだと!? それはこっちのセリフだぞ!!」
響「何で分かってたのにエリーゼを助けなかった!? エリーゼが狙われてることって伊織の力で既に分かってたんだろ!?」
響「伊織の家ならCCGぐらい戦えただろ!? 戦わなくても匿うなり逃がすなり出来たよな!?」
響「何で何もしなかったんだ!? 黙ってエリーゼが殺されるのを見てたんだ!?」
響「……伊織がそんな冷たいやつだなんて思わなかったぞ……なんで……」
響「ーーーなんでエリーゼを見捨てたああっ!?」
千早「……」
千早「……『冷たい』?」
千早「我那覇さん」
響「……何だよ、千早」ジロッ
千早「……やっぱり貴女は"喰種"じゃないわ。全然分かってない」
響「…………は?」
伊織「千早、余計な口を挟むんじゃないわよ。私が全部説明するから、誰も余計なこと言わないで」
伊織「響、今からあんたに"喰種"にとって大事なことを教えてあげる。ちゃんと聞きなさい」
響「……」
伊織「まず、あんたの言ってた『絵理を匿う』って話ね」
伊織「もし私や水瀬家が"人間"で、それで社長みたいに"喰種"を受け入れてたんなら……迷わず絵理を匿ってたでしょうね」
伊織「"喰種"を匿った人間は重い罪に問われるけれど、死ぬんじゃなきゃどうでもいいわ。いざとなれば適当な人材を選んで『こいつが勝手にやりました』って全部罪を押し付けることも出来るしね」
響「……"喰種"だからやらなかったって言うのか?」
伊織「良く考えなさい。水瀬家が"喰種"を匿っているのがバレたとしたら、水瀬家に白鳩の捜査が入る。他の"喰種"を匿ってないか確かめる為にね」
伊織「使用人として雇っている可能性も考えられるから、水瀬家の一人ひとりが検査にかけられる」
伊織「あとはどうなるか、言わなくても分かるでしょ」
響「……!」サアッ
伊織「そうよ。水瀬家は"喰種"を匿ってるどころじゃない、"喰種"そのものの家。みるみるうちに水瀬家は大虐殺の舞台に変貌するわ」
伊織「さらに言えば、この伊織ちゃんが所属している765プロにも検査の手は及ぶかもしれない。実際、876プロの全員が検査にかけられた」
伊織「本当の事を言えば、876プロと友好関係を築いてる時点で765プロはグレーゾーン。次はこっちに目が向くかもしれない、ギリギリの所に私たちは立ってる」
伊織「匿うことだってここまでの危険性を含んでる。戦いでもしようものなら更に白鳩が集められて……あとは地獄絵図になるわ」
伊織「……よく聞きなさい、響」
伊織「"喰種"はね、疑われたら終わりなのよ」
伊織「一度"喰種"だって白鳩に思われたなら、検査を拒む権利も命乞いをする権利も、奴らと法律は守ってくれなくなるわ」
響(ーー自分につらつらと説明している間、伊織の目はとても冷たかった)
響(ーー伊織の言っていることは、自分にもよく分かった)
響(ーーぐうの音も出ない正論だ。自分だって当たり前に殺される身分なのに、人を庇っている余裕なんてあるわけがない)
響(ーー自分の後ろに、同じ立場の人たちがいるなら尚更だ)
響(ーー頭を冷やされた今なら分かる。伊織の言ってることは、正しい)
響(ーーでも)
響(ーーそれでも、エリーゼはっ……!)
響「……なんで? 何でエリーゼが殺されなきゃいけなかったんだ?」
響「エリーゼは皆に怖がられる奴になりたくなくて、人を殺さないように必死に生きてたのに?」
響「そんな生き方をしてるやつが、なんで殺されなくちゃいけなかったんだよっ!!?」
伊織「それは絵理が"喰種"だったからよ」
伊織「人を殺してるか殺してないかなんて、あいつらは見ちゃいない」
伊織「ヒトしか食えない生き物ってだけで、"喰種"は問答無用で殺される。『市民を守る』って正義の下にね」
伊織「……それと」
伊織「前にも言ったでしょ、『絵理のやり方は独りよがりのバカがすること』だって」
伊織「絵理の正体がバレたのは、絵理が勝手にリスクの高い方法を選んで食事をしていたから」
伊織「あのバカはね、"喰種"生きる上で最も大事なことを蔑ろにしたのよ」
伊織「ーーー肝に銘じておきなさい」
伊織「"喰種"が生きるって、そういう事よ」
響「……そ……」
響「……それでも、エリーゼ、は……」
伊織「……ふん」
クルリ
伊織「分かったらさっさと会議してさっさと帰るわよ。次に狙われるのはあんたかもしれないんだから」
伊織「真。千早。私にも捜査官の画像ちょうだい」
真「うっ……うん」ゴソゴソ
千早「……」ゴソゴソ
響(ーーその後は……誰もその事について、何も言わなかった)
響(ーーひと通り情報交換が終わると、自宅待機について社長から簡単に説明だけされて)
響(ーーあとはもう、解散して家に帰るだけになってしまった)
今日はここまで。
もし同じ状況で伊織が人間だったら、本当に無理やりにでも絵理を庇ってたんじゃないかなーと思います。
「逮捕!? 上等よ! アンタ達の腐った目で善悪の判断がつくのならね!!」とか言ってメンチ切ったり。背伸びしてる故の勢いの良さは、伊織の魅力の一つかと。
喰種になった伊織の考え方にそんな勢いが無くなって来ているのは、元々の責任感の強さに加えて現実を理解せざるを得ない立場で育っちゃったから……と言った感じで考えておいてください。
…いや、さすがに国家機関に表立ってケンカ売るような真似は言い過ぎか……?
偶像喰種シリーズは全5編を投稿し終わった後で、説明不足だった部分や個人的に補足を入れておきたいシーンを編集してpixiv小説に上げる予定で書いています。
なので、分かり辛いシーンなどがありましたら、指摘していただけるととても嬉しいです。
では投稿します
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真「えっと……お疲れさまでした」ペコリ
千早「……」チラ
響「……えりー、ぜ……」ブツブツ
千早「……それでは、お疲れさまでした」フイ
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伊織「……それじゃ、私はまだやる事があるから。社長、少しだけ部屋を借ります」ギイッ
響(ーーそう言って、伊織は社長室に入っていってしまった)
響(ーー千早と真が既に出て行って、残ったのは自分とぴよ子と社長、あとはあずささんだけだ)
響(ーー会議の間、伊織の目はずっと冷たかった)
響(ーーエリーゼについて語っている時も)
響(ーー何でだよ)
響(ーーなんで、そんな風にいられるんだ)
響(ーー仲間が死んだのに、どうしてそんなに冷たい態度でいられるんだ)
響(ーー伊織の言ってることはわかる。それが正しい判断だってことも)
響(ーーでも……でも!)
響(ーーそんな簡単に見捨てられるものじゃないだろ!)
響(ーーそんな簡単に割り切れるものじゃないだろ!?)
響(ーー何でだよ!)
響(ーーなんでっ……)
響(ーー何で"喰種"は、こんなにあっさりと仲間を見捨てられるんだよ……!)
あずさ「響ちゃん。ちょっといい?」
響「!」ビクッ
響「あ、あずささん。何?」
あずさ「ごめんね、伊織ちゃんが辛いこと言っちゃって。伊織ちゃんも、響ちゃんが嫌いであんな事を言ったわけじゃくて……」
響「……」フイ
響「……別に、伊織に言われた事に怒ってるわけじゃないぞ。言ってることが正しいって事は、自分でもわかってるし……」
あずさ「……」
あずさ「そっか。やっぱり、ちょっと分かり辛かった?」
響「……何が?」
あずさ「たぶん、今の響ちゃんは『伊織ちゃんが"喰種"だから絵理ちゃんを見捨てられた』って考えてるのかな……って思ったの」
響「っ!」ギクッ
響「そ、その、それはっ……!」アセアセ
あずさ「ううん、間違ってるってわけじゃないの。"喰種"が"死"に慣れちゃってるのは、確かにそうだから……」
あずさ「だからこそ、響ちゃんには間違った考えを持ってほしくないの」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あずさ「……ちょっと隠れててくれないかな?」
あずさ「今から響ちゃんが帰った事にするから……少しだけ、静かにしていて欲しいの」ガチャ
響(ーーあずささんは、事務所のドアを一度「それっぽく」開け閉めした。多分、自分が帰ったと伊織に思わせるため……?)
響(ーーそして口の前に指を立てながら、伊織のいる社長室に入っていった)
響(ーーそんな事して、自分に何を見せるつもりなんだろう……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~社長室~
伊織「……」
ガチャ
伊織「!」バッ
あずさ「私よ、伊織ちゃん。安心して?」ニコニコ
伊織「……何だ、あずさだったのね。勝手に入ってこないでっていったでしょ」プイ
あずさ「あらあら、ごめんなさい」クスッ
伊織「ったく……今帰ったのは誰?」
あずさ「響ちゃんよ。だから、ここにはもう大人しかいないの。だから、もう無理しなくてもいいのよ」
伊織「……は? 無理してるって何よ。私は忙しいんだから、下らないこと言ってる暇があったらーーー」
ギュッ
伊織「…………何、してんのよ」
あずさ「うふふ♪ 伊織ちゃんが今回、皆に捜査官の目が向かないよう頑張ってくれて、とっても偉いなーって」ナデナデ
伊織「当たり前でしょ。私はアイドルやりたくて765プロに来たのよ」
伊織「……捜査なんて入ったら、アイドル続けられないから、それが嫌なだけで……」
あずさ「うん、分かってる。伊織ちゃんはそういう子だって、私はちゃーんと分かってるから」
あずさ「プライドが高くて、努力を惜しまない子で……」
あずさ「それでとっても友達思いで、だから友達の為にもいっぱい頑張っちゃう子」
伊織「……は? 友達思い?」
伊織「あはは、友達思い? 私が? 何でそんな事言えるわけ?」
あずさ「伊織ちゃんは友達思いのいい子よ。だって皆を守るためにーーー」
伊織「ーーーーーだったら絵理を死なせるわけないじゃないっ!!」
あずさ「……」
バシッ
伊織「本当に友達思いだったらね! 絵理を匿うなり逃がすなり! CCGと戦うことだって出来たわよ!」
伊織「それをしないで絵理は死んだの! 私は絵理を見捨てたのよ!!」
あずさ「でも伊織ちゃん。それが出来なかったのは伊織ちゃんがさっき言って……」
伊織「それでもっ! 何かできた筈よ! 仲間を守るために仕方なく? ふっざけんじゃないわよ!! 私は、私はッ……!!」
伊織「私は、絵理を死なせてしまったわ……!」
伊織「……響の言う通りよ……」
伊織「私は友達を見捨てたのよ……!!」
あずさ「……そんなことないわ」ギュッ
伊織「……何でよ」
あずさ「だって伊織ちゃんは今まで、伊織ちゃんが危険な目に合ってでも絵理ちゃんのために色んなことをしてくれた」
あずさ「もし伊織ちゃんが、本当に絵理ちゃんを見捨てたなら……絵理ちゃんはきっと、何もかも中途半端なまま殺されちゃったと思うの」
あずさ「死ぬ準備をさせてくれるのと、いきなり殺されちゃうのは、全然違うわ……」
あずさ「だから、伊織ちゃんは絵理ちゃんのためにだって、ちゃんと頑張ってた」
あずさ「伊織ちゃんは、友達思いのとってもいい子よ……」ナデナデ
伊織「……ッ!!」ギリッ
伊織「でも、絵理はっ……あんなに、必死に正しく生きようとしたのにっ……」
伊織「殺される理由なんて、もう無かったのにっ……!」
あずさ「うん……そうよね。とっても悔しくて、悲しい事……」
あずさ「だから、伊織ちゃんは悲しんでいいの。ここにはもう、私しかいないんだから……」
あずさ「思いっきり、泣いていいのよ……」
伊織「……」
ぽろっ
伊織「……え、り……」
伊織「……ごめんなさい……」
伊織「……死なせてしまって、ごめんなさいっ……」
伊織「……アンタの命っ、夢もっ……ヒッグ……何もっ、守って、やれなくてっ……!!」
伊織「……ごめんっ……なさい……!!」
伊織「ひぐっ……ああああああああああああああああっ!!」ボロボロ
伊織「ーーーうあああああああああああああああああっ!!!」ボロボロ
あずさ「……それでいい、それでいいの……」ナデナデ
あずさ「伊織ちゃんは、いっぱい泣いていいのよ……」ジワ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~十数分後~
あずさ「ーーーごめんね、ずっと狭い所に隠れさせちゃって。コーヒーでも飲む?」
響「……いいよ、別に……」
響(ーー伊織はあの後、大声を上げて泣き続けた)
響(ーーそれが落ち着くと、涙の痕だけ軽く洗って)
響(ーーあとは隠れていた自分に気付くこともなく、荷物をとってさっさと帰ってしまった)
響「……ごめん、あずささん。自分も、もう帰るね」
あずさ「お疲れさま、響ちゃん」
あずさ「……ごめんね、やっぱりちょっと待って」
響「……何さ」
あずさ「ねえ、響ちゃん。響ちゃんは絵理ちゃんが死んで、すごく悔しいと思うけど……」
響「分かってる。もう伊織を恨むことなんかしないぞ」
あずさ「……」
響「少し考えれば……伊織が絵理を守りたかった事なんて分かってた筈だぞ。なのに……」
響「……さっきの自分をブン殴ってやりたい気分だ」
響「……ごめん、あずささん。しばらく誰とも喋りたくないんだ……次に来た時は、ちゃんと話も聞くから……」
あずさ「……そっか。ごめんなさい、引き留めたりして」
響「ううん、気にしないで。あずささんは何も悪くないぞ」
響「……またね」
バタン
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響(ーーあずささんに引き留められてから事務所を出るまで、自分はあずささんに顔を向けられなかった)
響(ーー自分は何も分かっていなかった。"喰種"のことも、伊織のことも……そればっかり考えていたから)
響(ーー自分が喚いていた時、千早から浴びせかけられた言葉……『貴女は"喰種"じゃない』って言葉を思い出した)
響(ーー前にも言われたっけ……『あなたは"喰種"でもなければ、"人間"でもない』って)
響(ーー久しぶりに、一人ぼっちになった気分だった)
響(ーー自分なんて、"喰種"の立場にも、"人間"の立場にも……)
響(ーー何処にも立てていないような、そんな寂しい気分になった)
今日はここまで。
伊織があの場で泣くのを我慢する理由なんて無いはずなんですけどね。あの場じゃ一番年下ですし。
偶像喰種に出てくる喰種アイドルは皆、失うことに怯えているか弱い女の子です。
長らく放置してすみません。>>1です。
長期休暇で気が緩んでしまい、ここまで続きを書く気が湧かずだらだらと偶像喰種の執筆を放置してしまいました。待って下さっている皆様、本当に申し訳ありませんでした。
>>217で説明した通り、偶像喰種は次の更新で一区切りとなります。
今後の予定としては、キリをよくするため来週の金曜日である9月25日に更新(明日から数日ほど実家に帰省するので今すぐは書けません。すみません)の後、
10月より新章を開始(4・5巻の範囲。このスレで書きます)しようと考えています。
待って下さっていた皆様、作者の怠慢という下らない理由で待たせてしまい、本当にすみません。弁解のしようもありません。
来週からは気を入れなおして執筆に臨むので、またお付き合いいただけると嬉しいです。
#08[親愛]
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響(ーー夢を見た)
響(ーー自分の知った喰種が、一人ぼっちで死んでいく夢を)
響(ーーまずは、エリーゼ)
響(ーー次に、伊織)
響(ーーあずささん、ぴよ子)
響(ーー真に、千早も)
響(ーーみんなみんな、暗い何処かにうずくまって、顔を手で覆って泣いていた)
響(ーーそこに、エリーゼの首をはねた男が近づいてきて)
響(ーーエリーゼと同じように、首をはねるんだ)
響(ーー首をはねた男は立ち去って、残った死体はほったらかし)
響(ーー最後まで、誰も気付いてくれなかった)
響(ーーそんな、寂しい夢だった)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゴメンいま下書きで苦戦中(内容自体は決まってる)。
書いてはいるのでちょっと待っててください
すまない、木曜まで書けそうにないかも……
~翌日・765プロダクション事務所~
春香「……え……?」
やよい「……絵理さん、が……」
雪歩「……喰種……?」
律子「…………」
貴音「…………」
高木「そうだ。石川社長からの連絡によると……水谷君は、裏山にて自殺死体を回収していたことがCCGの捜査で判明したようだ」
高木「確保する際に、彼女は捜査官の目の前で赫子と赫眼を発現。その正体がハッキリと分かった……と、聞いているよ」
喰種一同「「「…………」」」
響(ーー絵理が死んだ次の日に、765プロの全員が集められて……春香達はその事を伝えられた)
響(ーー石川社長に聞くまでもなく知っていたことだけど……報告を受けていたのは事実だ。だから、春香達にもこう伝えることにしたみたいだ)
春香「ま、待って、ちょっと待って? 絵理ちゃんが……えっ?」
貴音「……落ち着くのです、春香」
律子「貴音の言う通りよ。私もいきなりで、ちょっと混乱してるけど……」
響(ーー春香達人間は、ほとんどが心から混乱してる)
響(ーー律子や貴音は、わりと落ち着いてはいるけど……それでも、頭を抱えてはいた)
雪歩「えっ……喰種って、絵理ちゃんが……まさか……」カタカタ
やよい「あっ、あの! 涼ちゃんと愛ちゃんは無事なんですか!?」
響(ーーただただ、怯えていたり。少しずれた心配をしたり)
高木「秋月君……はややこしいね。涼君は既に出社できる程度には立ち直っているらしい」
高木「ただ、日高君は……ショックで今でも塞ぎ込んでいるようだ。出来ればでいい、すまないがキミ達もお見舞いにいってあげて欲しい」
真「わ、分かりました」
響(ーー社長や、765プロの喰種達は、怪しまれないように上手く演技をして……)
響(ーーそして皆……)
響(ーー多分、一番大事な事から目をそらしていた)
「ね……ねえっ!」
高木「……どうしたんだい? 亜美君。それに真美君も」
亜美「え、えっと、お姉ちゃん、が、"喰種"で……それは、分かったよ? でも……」
真美「あ、あの、それって、お姉ちゃんは……」
亜美真美「「お姉ちゃんは今、何してるの……?」」
高木「……」フゥ
高木「……残酷なことだが……聞いてくれたまえ」
高木「彼女は駆逐された」
高木「……CCGの喰種捜査官によって、水谷絵理君はその命を終えたよ」
春香「……!」
やよい「そんな……!」
真美「……え……」
亜美「ーーーーーっ」
フラッ
真美「あっ、亜美!?」ガシッ
律子「っ……亜美は休ませた方がいいわね。……真美は大丈夫?」
真美「えっ……う、うん、とりあえず……なんか、もうすっごいワケわかんないけど……」
貴音「わたくしが『そふぁ』まで亜美を運びます。真美と律子嬢は、水とたおるを」
高木「……すまない。やはりキミ達がこの事を知るには、ショックが大きすぎたみたいだね」
高木「亜美君については、今日の仕事は全てキャンセルしておこう。他にも仕事を休みたい子がいたら、遠慮なく名乗って欲しい」
響(ーーその連絡を最後に、今日のミーティングは終わった)
響(ーーいや、それが最後じゃない。最後に、雪歩が声を上げたんだ)
雪歩「……あの……」
高木「ん? 今度は何だい、萩原君」
雪歩「その、絵理ちゃんが"喰種"だって……それは、分かったんです。やっと理解出来て……」
雪歩「それで、その……876プロの他の人は……もしかして、愛ちゃんや、涼ちゃんも……?」
ちょっと訂正。
高木「……すまない。やはりキミ達がこの事を知るには、ショックが大きすぎたみたいだね」
高木「亜美君については、今日の仕事は全てキャンセルしておこう。他にも仕事を休みたい子がいたら、遠慮なく名乗って欲しい」
響(ーーその連絡を最後に、今日のミーティングは終わった)
響(ーーいや、それが最後じゃない。最後に、雪歩が声を上げたんだ)
雪歩「……あの……」
高木「ん? どうしたんだい、萩原君」
雪歩「その、絵理ちゃんが"喰種"だって……それは、分かったんです。やっと理解出来て……」
雪歩「それで、その……876プロの他の人は……もしかして、愛ちゃんや、涼ちゃんも……?」
高木「ああ、そのことか。涼君と日高君、それに石川社長や尾崎君、岡本君については、正式な検査で……」
高木「ハッキリ"人間"だと証明できたみたいだよ」
雪歩「!」
響(ーー本当に全部が終わって……部屋から出ていく千早達"喰種"の表情は、とても重かった)
響(ーー特に、真は春香や律子に心配されるほど、泣きそうな顔になっていた)
響(ーー自分の顔も、多分そうなってる。だって、あの時の雪歩は……)
響(ーー愛や涼が"喰種"じゃないって知って、一瞬ホッとしたんだ)
響(ーー雪歩はそのあとすぐに不謹慎だって気付いたみたいで、俯いて部屋を出て行ったんだけど……)
響(ーーその顔は、ずっと頭から離れてくれなかった)
響(ーーだから、みんな正体を明かすのが怖いんだ)
今日はここまで。お待たせして本当にゴメンね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亜美「……ん……」ムクリ
真美「亜美!」
律子「良かった、気が付いたのね……!」
亜美「真美……りっちゃん……みんな」ゴシ
亜美「……真美、どうしたの? なんか汗ビッショリだよ……?」
真美「えっ!? え、えっと……」タジ
亜美「……そっか。亜美、ショックでキゼツしちゃってたんだ」
貴音「無理もありません。高木殿からあのような知らせを受けては……」
亜美「あんな知らせ……?」
亜美「……あ……!」サアア
真美「っ……お姫ちん!」キッ
貴音「……申し訳ありません。亜美への配慮が足りていませんでしたね」ペコリ
亜美「……ううん、だいじょーぶだよお姫ちん。亜美はだいじょーぶだから……」モゾ
亜美「……お姉ちゃん、"喰種"だったんだ」
律子「……っ」
律子「……ええ、そうね」
亜美「"喰種"だから、CCGの人たちに殺されたんだっけ」
貴音「ええ、間違いありません」
亜美「……お姉ちゃん、ずっと亜美たちをダマしてたのかな」
亜美「……お姉ちゃんは……」
亜美「本当は、悪いヒトだったのかな」
律子「っそれは……!」
貴音「……いえ、私が思うに……」
「そうよ」
貴音「……何と?」
律子「……あんた……」
真美「何で……」
亜美「いおりん……?」
伊織「おはよ、亜美。目が醒めたのね。良かったじゃない」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響(ーー雪歩の顔を見て、初めて分かった気がする)
響(ーー人間にとって"喰種"は、人を喰う怖い化け物でしかないんだ)
響(ーー伊織たちや絵理も、それに気付いてるから……)
響(ーーその恐怖が自分に向くことなんて、考えたくもないんだ)
響(ーーどれだけ人間と打ち解けたって、不安は心のどこかに残ってしまうんだ)
響(ーー自分だって)
響(ーー春香や貴音に"喰種"だってバレて)
響(ーーそれが原因で、怖がられたり、迫害、されたり、なんか……!)
響(……やめよ。こんな事考える前に、倒れた亜美の心配をしないと……)
響(確か、亜美はこっちに……)
『……お姉ちゃん』
『ずっと亜美たちをダマしてたのかな』
響「!!」ピタッ
『……お姉ちゃんは……本当は、悪いヒトだったのかな』
響(亜美……)
響(……そうだぞ。当たり前、なんだ)
『ーーーーーお前ら化け物とは違うんだあッ!!!』
響(自分だって千早が"喰種"だって知ったとき、あんなにひどい事考えてたんだ)
響("喰種"のことをよく知らない人間は、こう思うのが普通なんだ)
響(『人を殺さないように頑張ってる』喰種がいるなんて、想像もつかないよね)
響(知り合いが『人を喰う怪物』だったなんて、怖いに決まってる……!)
響(自分も思ったことだから、亜美の気持ちがすごくよく分かる)
響(よく分かるから、否定なんて出来ない……)
響(……悔しいなあ……!!)ジワ
響「……っ……く……!」ポロポロ
『っそれは……!』
『……いえ、私が思うに……』
『そうよ』
響「……」
響「……え?」
響(今の声……)
『おはよ、亜美。目が醒めたのね。良かったじゃない』
響(……伊織……?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亜美「……いおりん、今なんて……? 『そうよ』って、何が『そう』なの……?」
伊織「『絵理が亜美を騙してた悪い人』って事よ」
ク ズ
伊織「……いいえ、『人』ですらないんだっけ?『喰種』だったわね」
律子「ちょっと……!」
真美「ちょっといおりん!? お姉ちゃんのこと、何でそんな風に言うのさ!?」
伊織「……ハァ」
伊織「アンタ達こそ、いい加減目ぇ覚ましなさいよ。社長も言ってたでしょ? 絵理が"喰種"だってことは、ハッキリ分かったことだって」
真美「そりゃ、そうだけど……!」
伊織「なら簡単じゃない。アイツ、愛とか涼とか亜美とか真美とか、絶対獲物として狙ってたわよ」
伊織「あー、良かった! アイツに喰われる前に捜査官に殺されちゃって!」
伊織「アンタ達、これからはちゃんと気をつけなさいよ?」
伊織「次同じように"喰種"が近づいてきて、今度は食べられちゃうかも知れないんだから!」
亜美「……えん、ぎ?」
伊織「そ。…"喰種"じゃなくてもね。人間の犯罪者でも皆そうよ。最初から怪しまれるような真似なんてしないわ」
伊織「優しいツラ見せて、人の警戒心といちゃって。それでのこのこと近づいてきた瞬間……ガブリ、よ」
伊織「もし私が"喰種"でも、同じことするわよ?」
真美「……だからって……そんな、こと……」
律子「……っ……伊織……!」ギリ
貴音「……」
亜美「……」
亜美「……そうなのかな」
律子「!! 亜美……!」
伊織「……」フゥ
伊織「ようやく分かったみたいね。"喰種"なんて皆そうよ。それが仲間だったからなんて、何の意味もない」
アイツ
伊織「絵理も、その一匹にすぎないのよ」
伊織「……だから」
伊織「次からは騙されないように、ちゃんと気をつけなさいよ」
伊織「……食べられてからじゃ、遅いんだから」
律子「……~~っ!! ああもう! 伊織!」
伊織「なによ律子。アンタも何かウダウダ言う気?」
律子「違うわよ! そのっ……アンタの"喰種"への考え方については何も言う気はないわよ……!」
律子「そうじゃ……なくてっ!」
律子「……」スゥ
律子「伊織。あんた、疲れてるのよ」
律子「そんな状態で仕事なんてさせられないから、今日はあんたも休みなさい」
伊織「何言ってんの? この程度で休めるようなヌルい思いで、私はアイドルやってるわけじゃーーー」
律子「伊織っ!!」
伊織「……」ピタ
律子「……私は、あんたのプロデューサーなのよ?」
律子「担当アイドルの体のことなんて、それぐらい気付くわよ……!」
伊織「……」ジロ
律子「……」キッ
伊織「……あっそ」ハァ
伊織「どっちにしろ、今の律子じゃ無理矢理キャンセル入れそうだし……ここは大人しく引き下がってあげるわ」
伊織「……それじゃ」キィ
バタン
律子「……っ」ゴシ
真美「いおりん……?」
貴音「……大丈夫ですか、律子嬢」
亜美「……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キィ
響「!」バッ
伊織「何で泣いてんのよ、バーカ」
伊織「ぐずり声がうるさくて仕方なかったわ。耳はいい方なのよ、私」ボソッ
響「……伊織……」
伊織「……言っとくけど。さっき私の言ったことは『ほとんど』事実よ」
伊織「詳しくは社長に聞いときなさい。あんただって、"喰種"の危険性を分かってない奴って言えるんだから」
響「……うん」
伊織「……」
伊織「…………」ハァ
伊織「……なんで『また』泣いてんのよ、バーカ」
今日はここまで。
~レッスン場~
「わんっ、つー、すりーっ、ふぉー!」キュッ
「タン、タン、タタ……きゃっ」ドテ
「さんっ、はいっ、ターンっ!」クルッ
あずさ「あらあら、みんなお疲れ様。ジュースを買って来たから、みんなで飲みましょ?」
春香「あっ…えっと! ありがとうございます!」
やよい「う、うっうー! 嬉しいですー!」
雪歩「……ありがとう、ございますぅ」
春香「うん! 今日もドリンクがおいしい! 糖分補給にクッキーはどう!?」サッ
やよい「わ、わあ! とっても美味しそーです! みんなで食べましょー!」
あずさ「相変わらず、春香ちゃんのお菓子はとっても美味しそうね♪ 雪歩ちゃんも食べない?」
雪歩「……はい」
春香「えっ、ええと! 休憩終わったらレッスンの続きするぞー!」
やよい「お、おー!」
雪歩「……」
春香「三月のミニライブ、手は抜けないからねー! いえーい!」
やよい「い、いえーい!」
雪歩「……」
春香「仕事してる千早ちゃんと真の分も、今日で上手くなるぞー!」
やよい「やりますー!」
雪歩「……」
春香「……えっと」チラ
やよい「……あう……」チラ
あずさ「あらあら……」チラ
雪歩「…………」シュン
春香「ゆ、雪歩ー? テンション上げてこー?」オソルオソル
やよい「ゆ、雪歩さん、元気出してくださいー……」オロオロ
雪歩「……うん。そうだよね。ミニライブが入ってるんだから、切り替えないと……」
雪歩「春香ちゃん、やよいちゃん。あずささんも……本当にごめんなさい……」キュ
春香「……あー……」
やよい「雪歩さん……」
あずさ「……うーん……」
あずさ「ねえ、雪歩ちゃん」
雪歩「……はい」
あずさ「やっぱり、絵理ちゃんのことを気にしてるのかな」
春香「あ、あずささん!?」ビクッ
やよい「あうぅ……」オロオロ
雪歩「……はい。今朝、社長に話を聞いてから……」
雪歩「……色んなものが、私の中で混ざっちゃうんです」
~事務所~
響「……」グスッ
「やあ。亜美君と真美君、そして伊織君と同じく、キミも仕事をキャンセルしていたね? 我那覇君」
響「……社長。なに?」ズッ
高木「ここじゃ何だから、外で歩きながら話をしよう。美味い缶コーヒーをご馳走するよ」
~事務所付近の公園~
ピッ
ガタンッ
高木「ブロンディのブラックだ。インスタントの物も美味しいから、そっちも飲んでみるといい」ヒョイ
響「……ありがとう」カチッ
高木「……先ほどの、伊織君から亜美君への発言のことだね?」
響「……うん」ゴク
高木「伊織君も伊織君なりに、亜美君や真美君を大事にしているのだよ」
高木「悲しいことに……ほとんどの喰種は伊織君の言う通り、警戒されないよう笑顔で人間にすり寄り、信用を得ようとしてくる」
高木「そして心を許した瞬間、その命を絶って肉を喰らう。生きる為だけでなく、人間の絶望を食事のスパイスにしているような輩も多い」
高木「中途半端に"喰種"に心を許せば、それは奴らにとって格好の獲物。伊織君は亜美君たちを、そんな存在にしたくないのだよ」
響「……そんなこと、言われなくてもとっくに気付いてるぞ」
響「……でも」
響「……でもっ!」
高木「……」
響「自分の事なのに! 大事な友達の事なのに! なんでっ、あんな風に自分やエリーゼの事を悪く言わなきゃいけないんだよ!?」
響「伊織はあんなに優しい奴なのに! エリーゼだって、人らしく生きようと頑張ってる、すごく良いやつなのに!」
響「自分で自分の首を絞めてるだけじゃないか! 正体がバレた時にもっと怖がられるかも知れないのに! あんなの言ってて辛いだけだぞ!」
響「……かわいそうだ……!」ポロ
響「ああするしかない伊織が……」
響「"喰種"の皆がかわいそうだぞ……!!」ポロポロ
高木「……」
響「……っ」ズッ
高木「……悲しいことだよ」
高木「皆が皆、今の平穏の続くことを求めている。踏み込んで認められてしまえば楽になると分かっていて、それでもリスクのことを考えてしまう」
高木「今の765プロは、アイドル達の仲間を想う気持ちは……とても強いが、所詮は作り物の世界でしかない」
高木「しかし、心に残る僅かな不安にさえ目を向けなければ……その作り物は、崩れない限りとても心地いい世界なんだ」
高木「それこそ……自分の誇りや尊厳を傷つけてでも守りたい、と強く思うくらいにね」
高木「みんながみんな、必死にその『作り物』にしがみついている……」
高木「……それは人間側も同じなんだから、余計に手に負えない」
響「……人間も?」
高木「ああ。例えば、キミがまだ人間だった頃。キミは"喰種"という存在を知っていながら、四条君のことを"喰種"だと一度でも疑ったことがあるかい?」
響「……ない。そんなこと、考えもしなかったぞ」
高木「今の天海君たちの状況が、それと同じさ。よく分からない、人喰いの化け物が隣にいる。そしてそれが、今まで仲良くしていた友達……」
高木「そんな事は、その者が"喰種"であっても良い者か悪い者か。それを考える以前に、"喰種"である可能性すら考えたくないものなのだよ」
高木「だから、多少のボロが出ても、無意識に気付かないふりをする。捕食現場の目撃や、今朝の発表のような強いインパクトでなければ、可能性に目を向けてくれない」
高木「知らぬが仏……とは、よく言ったものだ」
高木「……それで今、私の立場や音無君の命を見逃されているのだから……皮肉なものだよ」
響「?」
高木「いや、忘れてくれたまえ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雪歩「……考えたこともなかったんです。仲間に"喰種"が混ざっているかもしれないなんて」
雪歩「ずっと、怖かったから。帰り道に"喰種"に襲われるかも知れないって考えることすら怖くて仕方なかったんです。それなのに、仲間が"喰種"だなんて……」
雪歩「絵理ちゃんが"喰種"だって知った時、一度考えちゃったんです。もしかしたら愛ちゃんや涼ちゃんも"喰種"で……」
雪歩「その二人は今でも生きているから、実は私も『真ちゃんも』騙されていて、いつか食べられちゃうのかな、なんて……」
春香「……雪歩」
やよい「雪歩さん……」
あずさ「……雪歩ちゃん」
雪歩「そう考えたら……震えが止まらなくて……」
雪歩「だから、社長の口から2人が人間だって聞いたとき、すごく安心しちゃって……」
雪歩「でも、すぐ次に『私は絵理ちゃんが死んで安心してるの?』『仲間なのに?』って自分が嫌になって……!」
雪歩「でも、あのまま絵理ちゃんが生きてたら、みんな食べられてたかも知れないって……」
雪歩「でも、『疑っていいの?』って」
雪歩「でも、『信じていいの?』って……!」
雪歩「……分からないです……」
雪歩「……もう……」
雪歩「何も考えたくないんです……」
雪歩「……こわいんですぅ……!!」
やよい「……雪歩さぁん……!」ギュウ
雪歩「やよいちゃん……私、どうすればいいのかな……何を考えればいいのかな……!?」カタカタ
やよい「……ごめんなさい……私も、わからないですっ……!」グス
あずさ「……っ」ナデナデ
やよい「……あずささぁん……!」ギュウ
春香「……」
春香(……どうすれば、いいんだろなあ……)
春香(……そう言えば私……たぶん、雪歩ややよいも、あずささんも……)
春香(絵理ちゃんとは、あんまり話したことなかったんだ)
春香(……ほとんど、伊織とか、律子さんとか、亜美真美ばっかで……)
春香(……だから、分からないのかなぁ。もっと仲良くなってれば、どうすればいいか分かったのかな)
雪歩「うっ……うえええ……!!」
春香(雪歩になんて声をかけてあげればいいのか……それもわかんないや)
春香(伊織や亜美真美、律子さん、貴音さん、社長)
春香(響ちゃんや小鳥さん。……プロデューサーさん)
春香(千早ちゃんや真なら、なんて声をかけるんだろう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高木「……気付いていたかい? 萩原君が『876プロについて』しか質問をしなかったことを」
響「……?」
高木「誰も『この765プロに"喰種"はいるのか』とは聞かなかっただろう?」
響「……!」
高木「おそらく、人間の子達は今でもそのことについて考えていない。理由はもう、言わなくても分かるね」
響「……うん」
高木「人間や喰種に関わらず、皆、自分の世界が壊れることを恐れている。自分が必死に維持している嘘の世界。虚構だと気付かずに暮らしている虚構の世界」
高木「あるいは……情けない事に、これは私にもあてはまる事だが……」
高木「虚構に気付きつつも、人間ゆえに"喰種"の立場を理解しきれず」
高木「だから踏み込んで秘密を暴いた結果、状況がどう変わるか予測できないことに不安を抱き」
高木「もしかしたら、765プロの仲は崩壊してしまうかもしれない」
高木「そのまま、誰かが死んで永遠に戻らなくなってしまうかもしれない」
高木「そのような不安に押し潰され……現状維持に努めるしかない不安定な世界」
高木「そんな物にしがみついている者だっているのだよ」
~事務所~
貴音「もう、休息はよいのですか?」
亜美「……うん。もうジューブン寝ちったしね」
真美「真美たち、もうお家に帰るね。カンビョーしてくれてありがと」
律子「……そっか。気をつけなさいよ?」
亜美「うん」
ガチャ
貴音「……ではわたくしも、少々外の空気を吸って参ります」ペコリ
律子「あれ? あんた仕事は……あ、ゴメン元々休みか」
貴音「新人ですゆえ。心配なさらずとも、後程れっすんに合流する予定です。では」ガチャ
律子「気をつけなさいよー」ヒラヒラ
バタン
律子「……ふぅ」ゴソゴソ
律子(……ブロンディ、か。伊織や真がよく飲んでるやつ)スッ
律子「……」カチッ
グビ
律子「……」
律子「……苦いなあ」
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高木「……おっと、もうこんな時間だね。年を取ると話が長くなっていけない」
響「……ホントだ。レッスン行かないと」チラ
高木「長話に付き合わせてしまって済まなかった。それもこんな、臆病な老人の話に」
響「……うん」クルッ
響「……じゃあね」スタスタ
高木「……水谷君の死は、その気になれば隠し通せたかもしれないね」
高木「天海君たちにそのことを話したは、私の独断によるものだ」
高木「……この年になるまで、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたつもりだったんだがね」
高木「ここまで恐ろしいとは思わなかったよ。このような、ほんの小さな判断が」
響「……」スタスタ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亜美「……」テクテク
真美「……」テクテク
亜美「……」ピタ
真美「……」ピタ
亜美「……真美」
真美「……どったの、亜美」
亜美「多分、いま亜美と真美が考えてることは同じだよね」
真美「うん」
亜美真美「「……」」スゥ
クルッ
亜美「今から!」グッ
真美「することは!」グッ
ダッ
亜美真美「「いおりん達にはナイショだかんね!!」」
一旦ここまで。
「何で765プロの喰種は正体バレてないの? 普通気付くだろ」と突っ込みが入ると思ったので、自分なりに理由を書いてみました。
ちゃんと理解できる内容に出来ていたでしょうか。出来てると思いたいです。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=49747769
↑を読んでいただければ、まだ分かりやすくなるかも……?
次の更新で前半戦を終了できる……と思います。
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響(ーー高木社長のことは……)
響(ーーずっと、どこか軽くて)
響(ーーでも、一本芯の通ってる、自信満々な人だと思ってた)
響(ーーでも、それは違った)
響(ーー社長も、怖いのは同じなんだ)
響(ーー今の765プロは、嘘の世界だけど)
響(ーーそれを壊したら、何か大事なものを無くしてしまうかもしれないから)
響(ーー……)ピタ
響(ーー自分に何が出来るっていうんだろう)
響(ーー自分の正体をバラすことも怖くて仕方ないのに)
「……おや?」
響(ーー自分は、このまま見てる事しか出来ないのかな)
「こんな所にいたのですね、響」
響(ーー伊織やあずささんみたいな良い"喰種"が、自分を追いつめて、自分一人で辛い思いをして)
「……あの、もし?」
響(ーーあの時の夢みたいに、一人ぼっちで死んでいくのを見てる事しか出来ないのかな)
「…………」ミブリテブリー
響(ーー……いやだ……)
「…………」スウッ
響(ーーでも、どうしたら……!!)
「ふうっ」
響「ぬひゃあああああああああっ!?」バッ
響「た、貴音!? いつの間に後ろに!?」
響「って言うか! 耳に息吹きかけるのやめてよ! ここ弱いって知ってるだろ!?」
貴音「何を言っているのです! 悪いのはずっと思案ばかりしてわたくしの存在を無視していた貴女の方でしょう!」
響「え、そうだったの? ゴメン」
貴音「ごめんで済むなら警察は不要です!」
響「え、そこまで酷いの?」
響「……まあ、貴音のこと無視してたのは謝るぞ。それで、何か用?」
貴音「っ!? 用が無ければ話しかけてはいけないのですか!? わたくしと響は『たかねー』『どういたしました?』『えへへ、呼んでみただけー』と言ったやり取りが出来る仲だと思っていましたのに、しばらく会わないうちに心の距離まで……!」オヨヨ
響(うわぁ面倒臭。しかも自分がそっち?)
貴音「……とまあ、掛け合いはここまでにしておくとして。先程、あちらで面白いものを見かけたのです」
響「? 面白いもの?」
貴音「ええ。……面白い物といいますか、ためになるものと言いますか……」
貴音「……」クスッ
貴音「見に行けば、自ずと分かりますよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響(……見に行けば、自然と分かるもの?)
響(……何のことだろ?)
響(貴音にいくら聞いても『書店の方』『急がないと間に合わないかも』くらいしか答えてくれなかったし……)
響(……ま、見に行けば分かるか)
響(っと。書店はこのあたり……)
ピンポーン
アリアトッシター
響「ん?」
真美「……あっ」
亜美「……げっ」
響「……亜美。人の顔見て『げっ』って何だ?」ズイ
亜美「うぇっ!? い、いや、ここで知り合いに会うなんて思ってなかったから、ちょっとビックリしちったー……みたいな?」
真美「うんうん! 決して帰り際にこの本買うところを知り合いに見られたくなかったってワケじゃないよ?」
亜美「真美ッ!!」
真美「あっ」
響「本? そういえば、2人とも何の本買ったんだ?」ズイ
真美「え、えっとー……それはー……」アセアセ
真美「」チラ
亜美「」コク
亜美真美「「……」」クルリ
亜美真美「「死体もってけモヤシ野郎!!」」ダッシュ
響「はぁ!? 亜美、真美!? 何で逃げるんだー!?」ダッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響「……で、なんで逃げたんだ?」ガッシリ
亜美「うあうあー! 何でひびきんそんな足速いのさ→!」
真美「ズルいぞ沖縄育ち→!」
響「あーはいはい」
響(……そんなに速くは走ってない、よね?)
響「それで、何の本買ったんだ? みんな亜美真美のこと心配してたのに、まさか帰るついでに変な本買ってるんじゃ……」ゴソゴソ
響「……あれ?」
響「……『喰種解体新書』?」
真美「……うん」
響「何でわざわざ隠してたんだ? 持ってて怒られるようなものでもないと思うけど……」
亜美「だって……」
亜美「……怒られる、って思ったんだもん。亜美たちが喰種のお勉強なんてしたら」
響「……? 怒られるって?」
亜美「いおりん、ひどいんだよ。絵理おねーちゃんの事イッポー的にクズクズって」
真美「そーだよ。いおりんだっておねーちゃんのこと"喰種"だって、今日知ったばっかなのにさ。"喰種"だからって、あんなにひどく言うなんて」
真美「……今までずっと、一緒に頑張ってきたのに」
響(……えっ?)
響「……なあ、亜美。真美。その……」
亜美真美「「?」」
響「……怖くないのか? エリーゼはずっと、皆を騙してたのかも知れないのに……」
亜美「……ッ」カチン
真美「……」カチン
亜美「」ジッ
真美「」コクン
響「?」
亜美真美「「……」」スウウウウ
「「ーーーひびきんのバカアアアアァァアアアアアっ!!」」
響「!?」キーン
亜美「何でいおりんもひびきんもそんな事言うのさ!?」
真美「おねーちゃんには一回しか会ったことないクセに! 何っにも知らないクセに!」
亜美「おねーちゃんが"喰種"だから何なのさ!?」
真美「良い"喰種"だっているかもしれないじゃんっ!!」
響「えっ……えっ!?」アタフタ
響「えっと……亜美、真美? お前達……」
「? あの子達、何を叫んでるのかしら?」
「"喰種"が何とか……」
響「……はっ!?」
響「ちょ、ちょっと静かにしてほしいぞ亜美、真美!! あっちで話そう! な!?」ガシ
~公園~
響「ここならいいか……?」
響(……危なかった……)
響(良い"喰種"がいる、だなんて……捜査官とかに聞かれてたら、どうなってたか分からないぞ……)ハァ
響(…………)
響(……良い"喰種"?)
響(……言ったのか?)
響(……亜美真美が?)
響(……人間なのに?)
響「……あのさ、亜美、真美」
亜美「……なに?」ムスッ
真美「言っとくけど、今真美たちチョー怒ってるかんね」プクー
響「いっ……いや! 自分だって、エリーゼが悪いやつだとは思ってなくて……」アタフタ
響「……その、亜美と真美もそう考えてるなんて、思いもしなかったから……」
真美「……」ハァ
真美「真美だって、そりゃちょっとは考えたよ。いおりんに言われてさ」
亜美「『本当はおねーちゃん、亜美たちや愛ぴょんたちのこと、エサとしか思ってなかったのかな』って」
真美「……でも、違うもん。おねーちゃんはそんなヒトじゃないもん」
亜美「"喰種"だって分かっても、おねーちゃんが悪いヒトって言えるわけないもん」
響「……何で?」
響(ーーこのあと、2人の答えを聞くと)
響(ーー自分の頭にあった、ごちゃごちゃとしたものが)
響(ーーいちどに全部、ふっ飛ばされたような気分になった)
響(ーー亜美と真美の出した答えは)
響(ーーそれくらい、単純なものだったんだ)
「関係ないもん」
「今までずっと、遊んでくれた優しいお姉ちゃんは」
「トップアイドルになろうって、ずっと頑張ってたお姉ちゃんは!!」
「"喰種"でも」
「"人間"でも」
「「 絵理お姉ちゃんは、絵理お姉ちゃんだもんっ!! 」」
響「ーーーーー!!」
響「ーーーーーあーーーーー」
響(ーー音が聞こえた気がした)
響(ーー"喰種"と"人間"の間に引かれた線)
『今となっては、この765プロにおいてだけは、もう人間を演じる必要なんてないと思うのだよ』
響(ーー"喰種"は踏み出す勇気が湧かなくて)
響(ーー"人間"は、必死で知らんぷりをしていて)
『共に積み重ねてきた月日は短くない。きっと彼女たちの話に耳を傾けるくらいは、すでに心を開いているはずだ』
響(ーー皆が、越えるのを怖がっていた一線)
響(ーーそこに向かって)
『とても重い一歩かもしれないが、それはとても短い距離なんだよ』
響(ーー確かに一歩踏み出した、力強い足音が聞こえた気がした)
響(ーーそして、少し前に約束したことを)
ーー俺の覚えていて欲しいことって言うのは、いま響自身が言ったことなんだよ。
響(ーー自分が人間だったころ約束した、絶対に忘れてはいけないことを)
ーー響から見た765プロの皆が『いい奴』だって事。『面白い奴』だって事。
ーー真が可愛い奴だってこと、伊織が面倒見のいい奴だってこと、あずささんが甘えたくなるような人だってこと、
ーー音無さんが世話好きな人だってこと、千早が努力家で真っ直ぐな奴だってこと。
ーーこの先何があっても、今日響が皆に抱いた思いを、絶対に忘れないで欲しいんだ。
響(ーーようやく、思い出せたんだ)
真美「……でも、真美……いおりんに何か言おうって思っても……」
亜美「そう言えば亜美たち、"喰種"のこと何にも知らないなって気付いちゃったから……」
真美「だからまず、オグちゃんの本読めば、何か分かるかなって思って……」
亜美「そんで、亜美たちにも分かるとこから"喰種"のこと知ってって、いつかいおりんをギャフンとーーー」グイ
ギュウッ
亜美「ぐえっ!?」ムギュ
真美「え、ええ!?」ムギュ
響「……っ」グズ
亜美「ちょ、ひびきん!? 苦しいって……!」バシバシ
真美「……ひびきん? な、なんで泣いてるの……?」オロオロ
亜美「えっ?」
響「あみ、まみぃ゛っ……!」グジュリ
響「……あり、がとう……」
響「……ほんっ……とに」
響「……あ゛りがどう……!!」
亜美真美「「……ひびきん?」」
響「……」パッ
亜美「うわっ」フラ
真美「……とと」コケッ
響「……ふぅ」グイ
響「……亜美、真美。急に泣いてゴメンな。ワケ分かんなかったよね」
響「自分……亜美と真美に、ちょっとだけ勇気づけられたんだ」
亜美「…??」
真美「…???」
響(ーープロデューサーが自分とした約束)
響(ーー亜美真美は、ちゃんと見ていたんだ。エリーゼのこと)
響(ーー社長が信じていた、765プロの『絆』)
響(ーー亜美真美とエリーゼの間には、確かにそれがあったんだ)
響(ーー今の765プロは、踏み出せば壊れてしまう虚偽の世界かもしれない)
響(ーーだから、何も出来ないって……皆が思っているんだけど)
響(ーーでも、それは違うって分かった)
響(ーーたとえ脆い世界でも、強いものは確かにそこにあったんだ)
響(ーー自分は、何も出来ないと思っていた)
響(ーーでも)
響(ーーもし、亜美真美とエリーゼの間にある強い絆が)
響(ーー765プロにも、同じくらい強いものとして、存在しているならーーー)
何か、出来ることがあるかもしれないんだ
……ようやく前半戦が終わりました。
8月以降本当に長い間お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
アイマスと東京喰種、二つの世界観とキャラクターを出来るだけ違和感なく混ぜ合わせられるようオリジナル要素を盛り込んでいったわけですが……正直、なんか原作と比べてすごく哲学的というか単に分かり辛くなったというか、あんまし上手く行かなかったような気がします。
響もなんか主人公というより語り部とか傍観役みたいな感じに……そしてトーカポジの筈の千早がヒロインじゃなくなってます。ほとんど伊織がヒロインみたいに……!
さて、これから偶像喰種第二章は後半戦へと突入していきます。色んな人が参戦したり復活したりします。
前半では書けなかったアイドル要素にも、ようやく手をつけられる……と思います。東京喰種だけでなくアイマスの魅力も損なわないよう、頑張っていきたいです。
ちゃんと投げ出さず最後まで書いていく予定なので……もしよければ、これからも偶像喰種にお付き合いいただければ……どうか最後まで読んでいただければ嬉しいです。
それともう一つ。
「進行できるのか」「今まで放置していたのにまだ書くのか」という点で書こうかどうか迷っていたのですが……
ここから先、偶像喰種第二章の後半と並行して、もう一つ外伝の執筆に取り組むことに決めました。
予告は今書いている所なので、少々お待ちください。
外伝予告
自分の生まれた運命を。
自分の身体を、呪いながら生きていた。
こんな身体に生まれた私は、何かに夢中になる事を諦めて。
ずっと、人の目を気にしながら。
ただひっそりと生きていられれば、それで幸せなのかなって思っていた。
……でも。
『何かに夢中になれないなら……自分の運命のせいで、何処にもいけないと思っているのなら』
『それでも尚、君が夢中になれる何かを探しているなら』
『一度、踏み込んでみませんか』
『そこにはきっと、今までとは別の世界が広がっています』
もし、何かを見つけられるのなら。
『……夢なんです』
『こんな身体の私でも、アイドルになりたいって夢があって』
『ずっと待ってました。アイドルになって、キラキラした何かになれるんだって』
『プロデューサーさんは、私を見つけてくれたから……』
『きっと私は、夢を叶えられるんだなって』
『それが嬉しくて!!』
たとえ私達でも。
踏み込んだ先で、こんな笑顔を見られるような世界があるのならーーー
ーーー踏み出してみようって思ったんだ
外伝
凛「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」
10月17日以降 公開予定
と、いう訳で。
アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」最終回放映後に、シンデレラガールズsideで偶像喰種の外伝を書くことに決めました。
これとは別にスレ立てして書いていくつもりです。今回は誘導も貼っておこうかと思います。
本当はここまでで既に第二章を完結させている予定だったのですが……
結果はご覧の有様なので、でもせめてアニメ効果でモチベーションが続くうちに書いてしまおうと思っていたので、
本編と並行して書いていくことにしました。
楽しんでいただければ幸いです。
まだあのクインケが卯月ちゃんって決まったわけじゃないから……
島村なんてよくある名前だし親かもしれないし多分卯月じゃないから……
>>349
(無言の真戸顔)
次から新章&外伝開始なので、番外編をひとつ投下します。
ようやくミキミキが書ける……!
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー食物連鎖の頂点…
…人間
その彼らを唯一の『食料』とする者達…
…"喰種"
見た目は人間。
主食も…人間。
群衆に紛れ、
人間を狩り、
その死肉を喰す怪人。
…しかし。
そんな"喰種"にも、人間と共存したがる者がいた。
自分の運命を呪い。
人間以外を喰せない自分の身体を呪いながら。
それでも、人間社会に受け入れられようと。
人間の目から真実を隠し続け、
精一杯人間と関わり続けた『変わり者』がいた。
ーーそして。
その『変わり者』の一人はーーーーーーーーーー
ーーーとあるアイドル事務所で、プロデューサーをやっていた。
#00[P ]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『なっ……何なんだお前!』
(ーー夢を見た)
(ーー昨晩おこった事の夢だ)
『こ、この匂い……捜査官じゃなくて、ぐ、喰種!?』
『なんで喰種のお前が人間を守ってるんだよ!?』
『同じ喰種の俺を殺そうとしてまで!?』
(ーー今回の奴の獲物は、春香だった)
(ーー特定した自宅で眠りについたところを、一気に食い散らすつもりだったらしい)
『いてえ、いてえっ……!!』
『おい、やめてくれよ! 俺が悪かった! もう春香ちゃんは狙わねえ!』
『すぐにここからいなくなるから、殺すのはやめてくれえっ!!』
(ーー見逃すわけにはいかない)
(ーー見逃せば、『見逃した』という情報が喰種どもに広がる)
(ーーそうしたら、うちのアイドルを狙う喰種が増える)
(ーー春香。雪歩。やよい。亜美。真美。律子)
(ーー大事なアイドルを喰おうとするクズが増える)
『っ……人間を守ってるつもりかよ』
『大体、そんなことして何になるって言うんだよ!!』
『人間と仲良くなろうってのか!? 喰種が!?』
『バカか! そんなことしても正体がバレたら通報されて終わりだろうが!!』
『人間ごっこなんて無駄な事してんじゃねえよ!!』
(ーー……)
(ーーお前には関係ない)
(ーーさっさと死ね)
『……ちょっと待て。悪かった。悪かったさっきは言い過ぎたもう言わねえから!!』
『やめろ!! トドメだけは殺すのだけはやめてくれうわあああああああああああああ!!!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ーー春香を襲おうとした喰種は死んだ)
(ーー俺が殺した)
(ーー"喰種"は、人間だけじゃなく同じ喰種も喰う事が出来る)
(ーー人間と違って不味くて仕方のない代物だが、それでも栄養には出来る)
(ーー喰種が喰種の肉を喰う"共喰い")
(ーー喰種を狂わせる危険性があるからと、社長や音無さんに止められている)
(ーーでも、今はそんな余裕は無いんだ)
(ーー少しでも、俺が我慢しないと)
(ーーだから)
(ーーいただきます)
(ーー……)
(ーー何だ?)
「ーローーーサーーの」
(ーーいま口にしたのは、間違いなく"喰種"の肉)
(ーー味もそうだ。すごく不味い)
「プローーーーー殿」
(ーーなのに)
(ーー何だ? この、何処かから漂ってくる……)
「ーーデューサー殿」
(ーーこの……!!)
(ーーこの美味そうな匂いは!?)
「ーーーーープロデューサー殿!!」
P「っ!?」ガバッ
P「あっ……あれ? ここは……どこだ?」キョロキョロ
「事務所ですよ。お馴染み765プロダクションの事務所!」
P「……そうか。あの後、仕事が残ってたから事務所に戻ったんだっけ……」
「……」ハァ
「あのですね……徹夜して机で寝ちゃうくらいなら、ちゃんと家で寝てきてください!」
P「あ、ああ。悪かった。心配かけてごめんな律子」
律子「まったく……」
律子「……」ズイ
P「ど、どうした律子? お前に何か渡すものがあったか…?」アセッ
律子「仕事ですよ。し、ご、と」
律子「寝落ちしてたってことは、終わってないんでしょう? 私が代わりにやっときますから」
P「へ? ……い、いやいやいや! これは俺の仕事だし、律子には任せられないって!」
律子「…私の二倍ちょいぐらいのアイドル担当しといて何言ってるんですか」ハァ
律子「もうすぐアイドル達も来ますから、さっさとヨダレ吹いて顔洗ってきてください」
P「よだ、れ……?」スッ
ヌトォ
P「っ!!?」
P「……っ律子!」
律子「何ですか? ……うわ、机にベッタリ。あとで雑巾持ってこよ」
P「俺っ……さっき! 目が変になってなかったか!? その……充血とか!」
P「いや、こっち見なくていい! さっき見た限りでいい! 覚えてないならそれでいい!」
律子「……」
律子「……別に普通でしたよ? よく覚えてるわけじゃないですけど、充血なんてしてませんでしたし」
P「そうか、ゴメン! 今の質問は忘れてくれ!!」バタン
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カラン
キュッキュ
ジャアアアアアアア
P「んっ……」ゴク
P「んぶっ、ぐっ、うぐっ……!!」ゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュ
P(もっと、もっとだ……もっと水を飲まないと……!)
P(あの夢に出てきた美味そうな匂い)
P(あれは間違いなく、律子の匂いだ)
ドロッ
P(止まらない……あの匂いを思い出すだけで、涎が止まらない!)
グウウゥゥゥ
P(腹の虫までっ……クソッ!)
ドゴッ
P(止めろ……止めろ止めろ止めろ! 音を出すな!! 止まれ!!)ギュッ
ドゴッ
ゴッ
ボグッ
P(涎も止まれよ!! 早く枯れろ!! あいつは食いモノじゃない!!)
ゴスッ
メキッ
バグッ
P(……違うだろ)
P(……そんな目で見るな……)
P(律子は……765プロの皆は……)
P(……食い物じゃない……)
P(……大切な、アイドルで……)
P(……仲間だろ……!!)
P「……ぐ、ウウッ、あああっ……」ギュウウ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガチャ
P「お待たせ、律子。元々俺の分だし、あとは任せてくれ」ニコッ
律子「……私より多いって言ったのに。ま、身だしなみは整えたみたいですし……いいですよ」ヨット
律子「机も拭いときましたから、後はよろしくお願いします。それと……」ゴソ
P「?」
律子「眠気覚ましにコーヒー買ってきました。微糖とブラック、どっち飲みます?」カラン
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
律子「…ブラックですね、分かりました。じゃあ私は微糖の方にします」
律子「あと、最初に来たのが私だからいいものの……」
律子「アイドル達の前で寝るなんて真似、しないでくださいね?」
律子「プロデューサーがこれじゃ、あの子達に示しが付きませんから」フフッ
律子「それじゃ、私は一旦帰りますね。無計画なプロデューサーを起こしに一度寄ってみただけですから」ギィ
バタン
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
律子「……ふぅ」トサッ
律子「……」
律子(……プロデューサーが起きた時。本当は瞳が真っ赤になってて、白目が真っ黒になってた)
律子(『赫眼』。人間よりRc細胞の量がはるかに多い"喰種"特有の、Rc細胞によって起きる眼球の変化)
律子(CCGの喰種捜査官に見られれば……赫子と同じように"喰種"と確信されて、問答無用で殺されてしまう)
律子(春香達は気付いてないみたいだけど……)
律子(この765プロのうち……プロデューサー、小鳥さん、千早、真、伊織、あずささんの5人が"喰種")
律子(あとは、876プロの水谷さんも"喰種"だって知ってる)
律子(……気付いてるのは、私と社長だけなんだろうな)
律子(私が正体に気付いてるって事に、プロデューサー達は気付いてない。多分、社長も)
律子(だから、皆は私に対しても人間のフリをして……演技をしてる)
律子(私はプロデューサー達を通報しようとか、駆逐しようとか……そんな事、全然考えてない)
律子(半年以上も付き合ってれば、皆が本当はどんな人か分かった。皆は私達をエサだなんて思ってないなんて、すぐに分かった)
律子(だから、いいの。打ち明けて。私は迫害なんてしない)
律子(私はあんた達のプロデューサーで、同僚だもん。同じ765プロの仲間だもん。そんな秘密、受け入れるわよ)
律子(皆のこと、ちゃんと受け入れる準備は出来てるから。春香達だって、そうしてくれるって分かってるから)
律子(だから……!!)
律子(……ごめん。本当は分かってる。あんた達"喰種"にとって、その決断は人生を左右する決断なんだってこと)
律子(本当は私の方から歩み寄った方がいいってことも分かってる。そっちの方があんた達にとってすごく楽だって事も分かってる)
律子(でも……ごめん。本当にごめん。私じゃ、それを打ち明けた後どうなるか分かんないの)
律子(春香達が、もしかしたらあんた達を拒絶するかもしれない)
律子(拒絶まではいかなくても、ショックが大きくてあんた達を誤解させてしまうかもしれない)
律子(あんた達に私の事を伝えた結果、いきなり秘密がバレていたことを知って、パニックを起こして大事になってしまうかも知れない)
律子(それだけならまだいい。っていうか、今のはアホらしい妄想と何も変わんない)
律子(……765プロが本当の意味で一つになった結果、誰かにその事実を知られてしまうかもしれない)
律子(気の緩んだ所にCCGがやって来て、皆が殺されちゃうかも知れない)
律子(人間と喰種のバランスを保つ"喰種"の組織があるって聞いたことがある。それに事務所ごと消されてしまうかも知れない)
律子(……打ち明けた結果)
律子(今まで正体を分かってたのに、ずっと隠してて)
律子(皆が辛い思いをしている時に見て見ぬフリをしてたのかって)
律子(逆上されて、殺されてしまうかもしれない)
律子(……それだけ、喰種にとって怒りのこみ上げる事を私はやっているのかもしれない)
律子(……分かってる。ごめん。本当は分かってる)
律子(辛いわよね。苦しいわよね。寂しいわよね)
律子(こんな事考えてる暇があったら、少しでも早く楽にしてほしいわよね)
律子(でも、ごめん……)
律子(出来ないの……)
律子(私じゃ、本当はどうするのが一番なのか、分からないの……)
律子(せめて、最悪の事態をこそこそ防ぐくらいしか、出来ないの……!!)
律子(……ごめんなさい……)
律子(……本当に、ごめんなさい……!!)
律子(人間の私には……)
律子(あんた達"喰種"にとって何が最良なのか、ぜんぜん分からないのよ……!!)
一旦ここまで。今日はまだ続き書くかも?
ここまで読んで「社長には言っても問題ないんじゃ?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
りっちゃんが社長に話さないのにはちゃんと理由があります。
それについては多分、本編の後の方で書くかと。
外伝です。
凛「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝】
凛「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445011860/)
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ガチャ
春香「おっはようございまーす!」
やよい「おはようございますー!」
千早「おはようございます、プロデューサー」
P「おはよう春香。今日は一番乗りだな!」ニッ
春香「はい! 今日もお仕事にレッスン、いっぱい頑張っちゃいますよ! いえい!」
P「無理して倒れないようになー?」アハハ
春香「だ、大丈夫ですよー!」ムー
P「やよいに千早も、おはよう。レッスンは順調か?」
やよい「はいっ! 昨日、トレーナーさんにすっごく褒められたんですー!『だんだん上手くなってる』って!」
P「おお、そうかそうか! やよいは凄いなあ!」ナデナデ
やよい「うっうー!」ニコニコ
P「千早はどうだ? ちゃんとダンスレッスンやビジュアルレッスンもやってるか?」
千早「あっ……は、はい。取り組んでいます」
千早「……でも、やっぱり難しいですね。歌ばかりしてきたから、新しくコツを掴むのが少し……」シュン
P「……」ポン
千早「!」
P「焦らなくても大丈夫だ。千早だって一歩一歩前に進めてるのは、俺が一番分かってるからな」
千早「プロデューサー……」
P「それに……」チラ
春香「そうですよ! 千早ちゃん、ダンスだって私よりすっごく上手なのに!」ムー
やよい「歌ってる時の千早さん、とってもキレイですー! 羨ましいかなーって!」
P「……あんまり自分を卑下すると、立場がなくなる奴だっているんだからな?」
春香「あっ! ヒドイ!? 事実ですけど! 本当の事なのは確かですけど!」
P「ハハハがんばれがんばれ」ナデナデ
春香「誤魔化さないでくださいよー……! うう……」ションボリ
やよい「春香さん、いっしょに頑張りましょー!」
春香「うう……やよいの優しさが身に染みる……やよいー! プロデューサーさんがいじめるよー!」ガバッ
やよい「プロデューサー、春香さんをいじめちゃダメですよ! めっ!」
P「ごめんごめん」ハハハ
春香「……もう! いいです、私にはお菓子作りがありますから!」ゴソゴソ
春香「これだけは誰にも負けませんからね! やよいと千早ちゃんもどうぞ!」ズイッ
千早「っ……」
やよい「わあ! とっても美味しそうですー!」ヒョイ
P「お、今日はタルトか。美味そうじゃないか」ヒョイ
パクッ
やよい「……うわあ! とっても甘くておいしいです!」モグモグ
春香「えへへ……今日のは自信作だよ! プロデューサーさんはどうですか!?」
P「……ああ」ゴクン
パチンッ
春香「きゃっ」
P「うまいうまい」モグモグ
春香「またデコピンするー……もう、プロデューサーさんなんか知りません!」プンプン
春香「ほら千早ちゃんも! はい、どうぞ!」スッ
千早「……え、ええ。ありがとう、春香……」
千早「……」ゴクリ
春香「……千早ちゃん?」
やよい「? 千早さん、どうしたんですかー?」
P「……」
P「……あー、すまん千早。昨日の晩飯、やっぱり千早には多かったか」ポリポリ
春香「へ?」
やよい「う?」
千早「!」
春香「……えっ? 昨日の晩御飯って、どういうことですか!?」
P「いやー……千早が普段ちゃんと食ってるか心配だったからな。昨日の晩、メシに誘ったんだよ」
P「そこでも小食だったからさ、つい調子に乗って食わせすぎたみたいだ。ごめんな千早、大丈夫か?」
千早「……いえ。もう大丈夫です……」
やよい「千早さん、ちゃんと食べなきゃめっ! ですよ! こんどもやし祭りに来てください!」
千早「え、ええ……分かったわ」アセッ
春香「えー……食事に誘ってくれるなら私も誘ってくださいよー」ムクー
P「また今度な。それより……」ヒョイ
P「千早の分、俺がもらってもいいか? 朝から仕事して、頭が糖分を欲してる」
千早「! は、はい……」
春香「えー? さっき適当なコメントした人が2つも食べるなんてー……」ブー
P「悪い悪い。すごく美味いのは本当だからさ、許してくれって」モグモグ
春香「……なら許します! でも、今度私もご飯に連れてってくださいね!」
P「分かったよ。……財布もつかな」
やよい「あっ! それなら皆で一緒にもやし祭りしましょう! 弟達も喜びますー!」
P「お! それはいいな、それでいこう!」
春香「あれ!? なんか思ってたのと違う!?」
P「アハハハハハ」
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今日はここまで。
http://imgur.com/KPd26wR
画像貼り付けテスト
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P「……さて、3人の予定の確認はこんなもんだな。終わったら迎えに行くぞ」
やよい「はいっ!」
春香「天海春香、今日もいっぱい頑張っちゃいますよー!」
P「ああ、その意気だ! 行って来い!」
「「いってきまーす!」」
バタン
P「さて、と」ギイ
千早「……プロデューサー」
P「ん? どうした千早」
千早「……先程は、すみませんでした」
P「……」
P「ああ、春香のお菓子のことか。心配してくれたのか?」
千早「……はい。私のせいで、プロデューサーに無理をさせてしまいましたから……」シュン
P「アッハハハハハ、春香も困ったやつだよなあ。本当に美味いんだろうけどさ」
P「……心配するな、千早。俺は千早よりずっと『慣れてる』から、俺が代わりに食べた方がいいんだよ」
千早「……でも……」
P「千早たちはアイドルとしても人間としても……いや、喰種か」
P「アイドルとしても喰種としても成長期なんだから。俺こそ千早達に、あんまり無茶をさせたくないんだよ」
千早「……はい」
P「…………」ポリポリ
P「……な、千早」
千早「……?」
P「そう言えば千早はさ、まだ『歌』にしか興味がないのか?」
千早「!」
千早「い、いえ! それは昔の話ですっ!」
P「ほう」
千早「た、確かにプロデューサーと会ったばかりの頃は……私には歌しかないって思っていました」
千早「歌を歌えなければ、もう私に価値なんてないって、思っていましたが……」
千早「……でも、765プロに来て、春香達と様々な仕事をして……」
千早「そして……歌だけじゃなくて、アイドルとしてお芝居やバラエティ……」
千早「色々な事をやってみたいと……ちゃんと思うようになりました」
千早「……私には、どこまで出来るか分かりませんけれど……」
千早「私には、歌だけじゃなくて……まだまだ色んなものを持てるんだって」
千早「……そう、皆のおかげで気付けたんですから」
千早「春香達や……その……」
千早「……プロデューサーが、教えてくれたことです」
P「……ほうほう」ニヤニヤ
千早「~~~~~っ!」カアアアア
P「みんなの前で言わせてやりたいなあ今のセリフー」ニヤニヤ
千早「も、もうっ! 笑わないでください! そもそも、どうして今私の話をしたんですか!?」プイッ
P「いやあ悪い悪い。千早が今アイドルを楽しめてるかどうか、再確認しておきたくてな」
千早「だからなぜ、今その話を……」
P「大事にしてほしいからさ。その、今『楽しい』って思えることをな」
千早「……?」
P「千早。お前も、伊織も真もあずささんも……みんな自分が"喰種"だからって」
P「そんな理由で縮こまって、窮屈な生き方をしてきた」
P「そんなお前たちが、今は……まだまだ小さいステージだけど……」
P「……それでも、ステージの上で輝いて、心の底から笑うことが出来る。笑わせることが出来た」
P「それが俺にとっては、すっごく嬉しいことなんだよ」
P「だからさ」
P「だから、それを曇らせること……どんな些細な事でも、千早たちに無理をさせること」
P「そんな事はさせたくないんだ」
千早「……」
P「……」フゥ
P「ま、どうしても申し訳ないって気持ちが消えないなら……今からの仕事で、たくさん活躍してくれ」
千早「……えっ?」
P「今日は久々に千早の付き添いだ。初めだけだが仕事も見れるから……」
P「千早が俺にもらいっぱなしだって思うなら、今から思いっきり楽しませてくれ」
P「俺も千早の活躍が楽しみで仕方ないからな。もし何かお返しが貰えるなら、目一杯アイドルを楽しんでる千早が見たい」
P「……出来るな?」
千早「!!」
千早「はっ、はいっ!」
P「よし、よく言った! 久々に可愛いアイドルの活躍を直に見れるからな! すごく楽しみだ!」
千早「か、可愛いって……!」
P「ハッハッハ、車出すから先に降りておいてくれ。あと俺はちょっと吐いてくる。流石につらくなってきた」
千早「!? ご、ごめんなさい! 下で待ってます!」タッ
バタン
P「……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日はここまで。
~夕方~
P「ああ。千早も無事に終わったんだな。良かった良かった」
P「うん、最初の方だけだったが、ちゃんと見てたぞ。しばらく見ないうちにすごく良くなったじゃないか」
P「本当に……見とれた。綺麗だった」
P「ははは照れるな照れるな。紛れもない本音だぞ?」
P「ああ……そうだ。30分もすれば迎えにいけるから、ちょっと待っててくれ」
P「じゃあ、また後でな。お疲れ様」
ガチャ
P「……ふー」
P(ーーそうか、そろそろ一年経つのか)
P(ーー変わったなあ、千早も)
ーー『歌以外の仕事は結構です。歌えない自分に、価値なんてありませんから』
P(ーーずっと、いなくなった家族の思い出に囚われていたやつだったのに)
P(ーーそれが今では、春香達や真達に心を開けるくらい余裕ができて)
P(ーー笑顔を見せてくれることも、増えてきた)
P(ーーいや、千早だけじゃないか)
ーー『……今度は何だよ。縄張りでも奪いに来たの? それとも共喰い?』
ーー『さっさと来いよ。ぶち殺してやる』
ーー『うわあ、見て下さいプロデューサー! この衣装すっごく可愛いです!』
ーー『これ、ボクが着る衣装なんですよね!? えっへへ、やっりぃ!!』
P(ーー真)
ーー『あんた誰? 私、食事の邪魔されるのキライなのよね』
ーー『"喰種"が人間で遊んで、何が悪いの? "喰種"は食物連鎖の頂点でしょ?』
ーー『私に任せてなさい! この伊織ちゃんが、バッチリ決めてきてあげるから!』
ーー『にひひっ♪ アンタはここで、安心して見てなさい!』
P(ーー伊織)
ーー『……いいんです。私は、たくさんの人を殺して、食べてしまいましたから』
ーー『"喰種"は、幸せになる権利なんて無いんです。だから、私も……』
ーー『お疲れ様です、プロデューサーさん。この間、美味しいコーヒーのお店を見つけたから、一緒に行きませんか?』
ーー『ふふっ、いつも支えてくれるお礼です。私をアイドルにしてくれたこと、本当に感謝してるんですよ?』
P(ーーあずささん)
P(ーー皆、この一年で大きく変わった)
P(ーーそして、変わったのは"喰種"だけじゃなくて……)
ピロリンッ
P「……おっ」
『from:春香』
『プロデューサーさん! お仕事、大成功ですよ! 大成功!』
ピロリンッ
ピロリンッ
ピロリンッ
『うっうー! レッスンで出来たことが、さっそくお仕事に役立ちました!』
『今日の演技、監督に褒められちゃいました。プロデューサーがレッスンに付き合ってくれたおかげです。本当にありがとうございます…!』
『兄(C)!! 今日のフェスティバル、すっごく楽しかったYO! 兄(C)も来ればよかったのに→』
P「……」フッ
P(ーー人間も喰種も関係なく、みんなでここまで進んでこれた)
P(ーープロダクションとしてはまだまだ駆け出しだが、皆と一緒に歩んでこれて)
P(ーーアイドルの皆が笑顔になれるくらい、あいつらの役に立てて、あいつらに慕われるようになって)
P(ーー俺、今すごく幸せだ……)
P(ーーようやく、俺は居場所を手に入れられたんだ……)
P(ーーだからこそ)
P(ーーだからこそ……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぐっ……」
「っ……」パッ
ゴクッ
ゴクッゴクッゴクッ
「通れ……」
ゴッ
ゴッドスッ
「通れ、通れっ、通れっ!!」
ドスッドスッドスッ
「……はあ、はあ……」
「……春香」
「……ご馳走様」
「……食べたぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
P(ーーだからこそ)
P(ーー粗末になんて、出来ないよな)
今日はここまで。
このシリーズにおける765Pは、アラタとカネキ母をイメージして書いています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ああ、もしもし。社長ですか?」
「アイドル達を自宅に送り終わりました。俺もこのまま事務所によらず直帰するつもりなので、連絡だけでもしておこうかと」
「大丈夫ですって。無理なんかしてませんよ」
「心配してくれてありがとうございます、でも本当に大丈夫ですから」
「ただでさえ去年のアレで捜査官の目が厳しくなってるんです。食料調達もままならない内は、アイドルに無理させるわけにはいきませんよ」
「こき使うって……俺はそんな事思ってませんって」
「新しいプロデューサー? 気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」
「ほら……それに、新しいプロデューサーなんて入れたら何が起こるか分からないじゃないですか」
「俺のために、そんな危険犯す必要なんてないですって」
「むしろ感謝してるくらいなんです。ここは俺が最後に手に入れられた、唯一の居場所なんですから」
「社長が俺をスカウトしてくれたから……俺も、あいつらに出会えた」
「この上ない宝物をくれたんです。それを守れるんだったら、俺は何でも出来ます」
「春香、雪歩、やよい、亜美、真美、律子」
「千早、真、伊織、あずささん、音無さん」
「勿論、社長もです」
「皆がいれば、何も辛くなんてないですよ」
「……ああ、そうだ」
「新しいプロデューサーはいらないって先程言ったばかりで、矛盾してるかもしれませんが……」
「1人、新しくスカウトしたいアイドルがいるんです」
「"喰種"です。ビジュアルが抜群で、物覚えもすごくいい」
「性格は少し荒んでますけど……根はいい子なんだって分かります」
「俺にも最初は牙を剥いてましたけど……この間、ようやくチケットを受け取ってもらえました。間に合って良かった」
「少し前に、色々あったみたいで。ええ、ちょっと放っておけなかったと言うか」
「……」
「……ええ。同情、も……ちょっとは入ってますよ」
「ただ、それだけじゃありません。これは本当です」
「今の765プロは、『新しい風』が必要だ」
「……そう思ったのも、ちゃんとした理由です」
「765プロの絆は強い」
「人間も"喰種"も互いを本当に大事に思っています。春香達人間は正体に気付いてこそいませんが、大事な友達だと思ってる。それは確かです」
「千早達"喰種"だって、人間の皆を本気で信頼しています。本気で友情を抱いて助け合うくらい、心を開きました」
「そうやって培われた絆があったからこそ、765プロはここまで進んでこれました」
「……でも、だからこそこのままじゃ駄目だと分かるんです」
「春香達は千早達に全幅の信頼を置いてます。でも、千早達はそうじゃない」
「隠さなければいけない正体があるから、多少なりとも壁を作らなければいけない」
「それじゃ駄目なんです。壁を残したままじゃ、この先に進めない」
「あいつらをトップアイドルにするために、壁を壊さなければいけない」
「……俺から言えば……」
「……いえ、独り言です」
「……だから。そのための『新しい風』です」
「新メンバーとして、新しい"喰種"と人間を少なくとも1人ずつ」
「出来るだけ、互いを無二の親友だと思えるくらい仲良くさせて、正体を明かしても親友でいられるくらい絆を深めて……」
「そうやって人間と"喰種"、双方に理解のあるコンビにするんです」
「これなら、いい橋渡しになってくれる。今の765プロの空気なんて読まずに、自分を信じてぶち壊してくれる筈です」
「本当は"隻眼"をスカウト出来ればそれに越した事はないんですが……流石に3人も4人も易々と見つかるような存在ではありませんでした」
「ええ、"喰種"はもう見つかりました。あいつなら、好んで人を騙して喰うやつじゃない。俺が保証します」
「あとは人間側です。美希が懐いてくれるような、素直で裏表のない人間。偏見に囚われず、正しく物事を見ることができるような……」ピクッ
「……おっと。人が近づいてくるので、もう切ります。お疲れ様でした」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
P「……」
「はぁ……」
P「?」
P(何だ? 今の黒髪の子、落ち込んでいるみたいだな)
「また、オーディションに落ちちゃったぞ……」
「せっかく家を飛び出して、上京までしたのに……」
「……自分、いつアイドルになれるんだろ」
P「!」
P(そうか、この子もアイドル志望なんだな)
P(上京までして……すごいなこの子)
P(しかし……)チラ
P(一目見ただけだが、この子……凄いアイドルになれるんじゃないか?)
P(社長がよく言う『ティンと来る』って、こういう感覚なんだろうか)
P「……」
P(……試してみる、か)
P「君!」
「……え? 自分のこと?」
P「そうだ。さっき、ちょっと君の話を聞いてしまって……アイドルになりたいって聞こえたんだけれど」
「確かに言ったけど……誰だ? 怪しい奴じゃないだろうな!」
P「違う、怪しい奴じゃない! この名刺を見てくれ!」スッ
「……765プロの、プロデューサー?」
P「そうだ。今、新しくアイドルをスカウトしようと考えていたんだ。そこでたまたま、君が呟いているのを聞いて……」
P「……もし良かったらーーーーーーーーーー」
P「765プロで、アイドルをやってみないか?」
これにてP編は終了です。本当は美希との絡みも書きたかったけど、結局うまい挟み方が思いつかず先送りになってしまいました。
この先の予定ですが……外伝と同時進行で書いていくと言いましたが、やっぱりキツいみたいなのでやり方を変えることにしました。
第二章がそろそろキリのいいところまで書けそうなので、そこを境に前後編に分けて、その間に外伝を挟む要領で一作ずつ集中して執筆していこうと考えています。
「第二章前編(このスレ)」→「外伝前編(同時進行中)」→「第二章後編」→「外伝後編」といった感じです。ややこしい説明ですみません。
この話はあと一話、後編へのつなぎだけ書いて、一旦終わらせようと思っています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ーーー天使みたいなのが空から落っこちて』
『この世界で生きるとしたら』
『悪い事もたくさんしてしまうと思うんだよ』
『純粋すぎて、どんな色にでも染まってしまうんじゃないかってな……』
『……? どーいうイミ?』
『いや、ふと……な』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『頼むよ美希。このチケットを受け取ってくれ』
『自分を愛してくれたお姉さんが亡くなって、自暴自棄になる気持ちは分かる』
『だからこそ、受け取って欲しいんだ』
『この世界は俺達"喰種"にとっても、悪いだけの世界じゃ無いって事』
『人喰いの化け物だって怖がられてる俺達にだって、輝ける場所があるんだって事』
『実際、とびきりの笑顔を輝かせてる"喰種"がいるんだって事』
『お前だって、そうなれるって事』
『美希にも知って欲しいんだよ』
『……』
『……ねえ』
『それ、ほんとにホント?』
『ミキも、キラキラできるの?』
『"喰種"のミキでも、アイドルになってキラキラできるの?』
『!』
『ああ、本当だとも!』
『俺が美希を輝かせる。美希をトップアイドルにして、キラキラさせる!』
『今からじゃ想像も出来ないような輝きを、俺がお前に見せてやる!』
『……』
『分かったの』
『あなたのこと、信じてみるね』
『ミキのこと、ちゃんと迎えに来てね?』
『約束だよ?』
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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーうん、分かったよ。キズを治してくれたお礼はするの」
「お姉ちゃんも『ひとに何かをしてもらったら、ちゃんとお礼を~』って言ってたしね」
「……でも、それだけなの。それ以上関わったら……」
「あなたのこと、殺して食べるから」
「……じゃあね」
ガチャ
「……」
「……765プロ、か」
(『765プロ』)
(『あの人』が、働いてたところ)
(いっぱいアイドルがいて、みんなが『あの人』のおかげでキラキラしてる)
(……って聞いてるところ)
(『あの人』が、ミキを連れてきてくれるはずだったところ)
(……なのに)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『それは出来ないわ。プロデューサーはもう亡くなってしまったから』
『貴女の言う一か月前の事よ。大型車に轢かれて、回復できずに亡くなったわ』
『だから、貴女を止める役目も出来ない』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(迎えに来てくれるって、約束したのに)
「…………」ギリ
美希「ーーーうそつき」
~後編に続く~
9月丸々、放置したままですみませんでした……
本当は原作2~5巻の範囲をこのスレで終わらせるつもりだったのですが、
予定より大分書くべき内容が増えてしまったこと、デレアニの熱が冷めないうちに外伝を書いてしまいたいこと、
あとは最近話の書き方がダレてきたように思ったので、見直しも兼ねて、一旦このスレをたたむことにしました。
上記でも触れましたが、この先の話は、第二章前編(コレ)→外伝前編(同時進行中)→第二章後編→外伝後編→第三章と進めていくつもりです。
自分なりにモチベーションを上げられ、なおかつそれぞれの話の内容がかみ合うように執筆する順番を考えた結果、
このようなややこしい進め方になってしまいました。混乱させてしまったらごめんなさい。その代わり、最後まで投げ出さずにちゃんと書きます。
この先の展開ですが、
外伝ではシンデレラガールズの凛ほか数名を中心とした話を、
第二章後編では今まで出番をあげられなかった真や美希、あとはCCGのメンバーなどを掘り下げた話をしようと考えています。
第一章とは違い、外伝が終わり次第、継いで後編のスレを立てて進めていく予定です。
……あと、絵理Pの皆様本当にごめんなさい。
絵理に限らず"偶像喰種"シリーズは、アイマス側のメインキャラがかなり死ぬことになります。
本編の描写に届くかは分かりませんが、惨い死に方(グロいではなく惨い)をするキャラも結構な数を予定しています。
ただしアイドルマスターのアイドルが全て1人の例外もなく、その子を愛してくれるプロデューサーがいる立派な一個人としてのアイドルである以上、
モブの大掃除のような雑な殺し方、ストーリーに影響しないようなただただグロいだけの死に方はどのアイドルにもさせません。
この話自体のテーマ、また"東京喰種"の魅力を伝えるための『意味のある死』、
そしてそこに至るまでの生き様を、退場するアイドル一人一人に対して、ちゃんと向き合った上で書いていこうと決めています。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。コメントをいただける皆様のおかげで、鈍いながらもここまでくじけずに書き進めることが出来ました。
きっちり完結させるので、長くなるとは思いますが、どうかお付き合い願いますm(__)m
追記。
絵理自体も、このまま退場させるわけではありません。
彼女が残したもの、彼女の生き方に影響されたものについても、第二章後編でしっかり書いていきます。
このSSまとめへのコメント
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