哲学世界への冒険がしたい オリジナル (6)

白い立方体の部屋がある。

壁全体がぼんやりと発光し

部屋中央には漆黒の球が浮かんでいる。

そして、私の意識はそこに棲んでいた。

手足の感覚は無く、自分が止まっているのか、動いているのかは定かではない。

それどころか自分には目、鼻、口を始めとして、人間である材料がなに一つとしてない。

だが、私は、自分自身を真にヒト科であると確信していた。

なんとも薄気味の悪い話である。



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一体、私は何者なのか。

その疑問はしばしば陰から這い出て、そのおぞましい姿をもって

私を疲弊させた。

例えば、こんなことあった。

何時ものように自分を探すのに悪戦苦闘していると

奇妙な奴が現れた。

そいつは影のように暗い人の姿をしていた。

始めは遠巻きに私を見ているだけだったのだが

徐々に近づいてきて、やがて目の前で口を大きく開いて、けたけたと笑うのだ。

そいつはひとしきり笑うと、満足げに去っていく。

それから、奴は頻繁に現れては私を嘲った。

気の長くない方である私は、声を荒げて、奴に問いかけることにした。

「おまえはなぜ私を笑う。自己存在を問いかけることのどこが悪い」

奴はそれを聞くと、今度は笑い転げ回った。

私は憮然として、奴が落ち着くのを待った。

やがて、奴は急に真面目な表情を作って答えた。

「ここにお前以外に誰もいない。

存在するとは誰かに認知されることなんだよ。存在しないものを問いかけてどうする」

奴はそれだけ言うと、再び笑い転げた。


詰まる所、私は狂わされ始めたのだろう。

いつしか、私はまどろむようになった。

これに気づいたとき、私は歓喜した。

この空想じみた現実から逃れるために

これほどのものは望めないだろう。

私は意気揚々とまどろみに体を委ねた。

それから、いくら経っただろうか。

終止符は突然打たれた。

私の意識の中に、言葉が勢いよく撃ち込まれたのだ。

「いい加減にしろ、どあほ」

私「…?」

「まったく、よくもこんなところで眠れるものだ」

私「…」

「ああ、今のお前には言葉がないから、話そうとしても無駄だ」

私「…!…!」

「また話せるようにしてやる。だが私の話を聞いてからだ」

私「…」

「そう膨れるな。これはお前が待ち望んでいた話でもある。

そう、お前は異世界に行きたいと思っているはずだ」

私「…」

「力なき否定なぞ、肯定するも同然だ。さぁ、お前を異世界へ送ろう。」

私「!?」

「まあ実のところ、そこで、少し困ったことが沢山起きているから、それを解決してほしいのだ。

詳しい話は、そこに着いてからする」

私「…………………………………………」

「おいおい、そんな悪の魔王を倒せ、なんて単純な話ではない。それよりも遥かに難しいぞ」

私「」

「とりあえずの相手は哲学的ゾンビだ。見分けるのは大変だろうな」

その言葉が合図として、私の姿である球が一斉にひび割れた。

ベキベキッバリッ

胡桃の硬い殻が砕けるような音がした。

視界には目も眩むような閃光が数条も走った。

私はぎょっとしたが、すぐに思い直した。

こんな狂った世界にいるよりは

異世界にいるほうが遥かに良い。

たとえ、曲がり違って死んだとしても、文句は言うまい。

覚悟を決めた刹那、光の奔流が自分の中になだれ込んできた。

用語解説

哲学的ゾンビ

物理的化学的電気的反応としては、普通の人間と全く同じであるが、意識を全く持っていない人間

ジョージ・バークリー 

感覚器官によって我々が知るのは、感覚や観念、つまり直接知覚できるものだけだと言った。
たとえば自分が机を叩いてその硬さを認識したつもりでも、実は「机の硬さ」ではなく「硬いという感覚」を認識している。
また視覚であってもその存在自体を認識しているわけではない。
すなわち、まず知覚されない物事に関しては存在を認めることができない。

サイトで聞きかじった程度の知識なので、穴抜け間違いが必ずあります
正しい情報を調べると吉。
教えて頂けると、嬉しいです

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