乾巧「木場……」 (43)


『俺はもう迷わないーー迷ってるうちにまた人が死ぬ。 戦う事が罪なら、俺が背負ってやる!』

『夢っていえば…俺もようやく夢が見つかった。
世界中の洗濯物が真っ白になるようにーーー皆が幸せになりますように』







『見つけようぜ…木場、三原。
ーー俺達の答えを……俺達の力でっ!』

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夢を、見た



「ん……」

最近…あの頃の夢をよく見るようになった。

苦しくて、辛くて、悲しくて……結局何か得たものがあったのかすら分からない過去。
だけど、未だ胸に煌めく思い出を。

「縁起でもねぇ……あれか、フラグが立ってるってやつか」

「ふざけんな。 俺はまだまだいけ……っ」

バイクのハンドルを握る手から、灰の様なモノが零れ落ちた。

「…くそっ」

「そろそろ…か」

気を抜けば…いや、気持ちなんて関係なく、気がつけば体の崩壊を告げる灰が降り落ちる。

自分の取り柄であり短所であった強がりも、もう、張る気は無くなった。

今はただ、行ける所まで、無意味に突っ走ってるだけだ。

そう、何の意味もない。 ただ、あいつらの前で死ぬのが、怖くなっただけだ。

「流石に、いきなり出てったのはマズかったか」

2日と経たない内に携帯の着信履歴は真里と啓太郎で埋め尽くされた。

余りにもしつこかったので携帯は川に投げ捨てた。

「……投げる前にもう少し考えればよかったな」

「っ…」

気づけば、独り言が多くなっている。

「ちっ…」

俺らしくない。


「……」

もう少し行けば町に出る。 そこでガソリンを入れて宿を取って今日はやす「ごらぁああああやる気あんのかテメェはぁあ!!!」


「ひぃいいいいいいすいませんすいません! 許してくださぁい!」

「オメェ仕事舐めてんだろ琢磨ゴラァ!!」

「ひぃいいいいっ!!!」


「……は?」



見たことある顔が、ヤクザみてぇな現場監督に胸を締め上げられていた。

「テメェはもうそこでじっとしてろ!! いるだけ無駄だ!」

「は…はい……」


「はぁ……なっ!?」

「っ」

マズい、目が合った。

もし奴が襲ってきたら、今の俺じゃーーー


「………お久しぶりです」

「……は?」

「鳩が豆鉄砲食らったような顔をしないで下さい。
お久しぶりです。 乾……さん」

「あ、あぁ」

琢磨、って名前だったか。

ラッキークローバーの一員で、何度も俺達と戦った男ーー

「お前っ…!」

「勘違いしないで下さい。 僕はもう戦う気なんてないんですよ」

そう口にしながら、自販機の前に立ち、飲み物を二本買い、

「少し、話しませんか」

俺に、一本渡してきやがった

「……」

「……」

近くに積んであった手頃な資材の上に腰を下ろす。
だが、こいつは黙ったままで何も喋らない。

何考えてんだこいつ。

「おい、言いたい事があんならさっさと言え。 時間の無駄だ」

「…いえ、いざ話そうと思っても、何を話せば良いのやら…」

「あぁ? 何だそりゃ。 だいたいオメェ、こんなとこで何してんだよ」


「見ての通り日雇い、通称土方ですが? なぜこんな仕事をしているのかですか? さぁ、何故でしょうね」

「お前なぁ……!」

人を馬鹿にしたような話し方は何にも変わってねぇなこいつ。


「乾さん……僕はね、怖くなったんですよ」


「怖く…なった」

いきなり……何、を

「あの時……王の力で不死身になった冴子さんを見て、怖くなったんですよ」

「人間の姿を捨てた冴子さんが……捨てても、平然としていた冴子さんが……」

「……」

「あの時悟ったんです。 僕はオルフェノクの力にずっと舞い上がってだけだったんだって……オルフェノクの力に踊らされて…ずっと、自分を見失っていたんです」

「そう思ったら、もう何もかもが嫌になって、どうでもよくなりました。
オルフェノクとして生きる事も……オルフェノクの、宿命も…」

「……お前」

「だから僕は残された時間を人間として生きています。 どんなに惨めな最期だろうと、人間として、もう一度生きてみたいんですよ」

「乾さん。 あなたは、どうなんですか?」

「俺は……俺、は…」

そんなの決まっている。 これまで、散々迷って、迷って、ようやく決めたんだから。

「俺は人間の味方として…乾巧として生きる……これまでも…これからもだ」

「……だけど」

だけど、

それも何時までーー

「おっと」

カラン、と手に持ってた缶コーヒーを落としてしまった。

拾い上げようと手を伸ばす。

「っ! 乾さん…あなた……!」

「……」

缶コーヒーには、散々見飽きた灰が、積もっていた

「……」

立ち上がり、置いてあるバイクへと歩く。

「乾さん!」

「…何だよ」

「あなたは……あなたはっ」

何で泣きそうになってるんだお前は。

「俺だって……まだ生きていたいさ」

「……」

「死ぬのは怖い。 今だけじゃない。 昔から、怖かった」


「だけど、本当に怖いのは…俺が死んで……傷つく奴がいるって事なんだ」

「……ぐっ…ひぐっ…」


「じゃあな、正直、お前とこんな風に話せて、……嬉しいぜ」

バイクを押す。
心なしか、さっきよりも、重く感じる。

「待って下さい乾さんっ!!」

「……」


「僕たちは…オルフェノクは、一体何だったんですかっ! オルフェノクに……僕たちに……っ、
ーーー生きる意味は、会ったんですか!?」


「……知らねぇよそんな事」

「オルフェノクが生きる意味なんて知らねぇし、お前が生きた意味なんてそれこそ俺に分かるわけがねぇ」

「ただ……俺は信じてる」

「……何をですか」








「ーーー意味なく死んだ奴はいない、ってな」

ーーーー

琢磨と別れてガソリンスタンドを目指す。

そろそろ、バイクを押すのも疲れてきた。

「へいへいちょっとそこのニーサン寄ってかない買ってかない? 俺様の傑作が今だとたったの5000円ポっ…き……りぃ!?」

「お前…っ!?」

「海堂!」「乾ぃ!!」

「なななな何でお前がここにいるんだ! ちゅーか何でお前がここにいるんだ!」

ーーー海堂直也


また、懐かしい顔と出会った。

「何してんだオメェ」

道端にゴザを敷いて、見るからに変な絵を売っている。

これで5000円って絶対ボッタクリだろ


「何してんだはこっちのセリフだっ! オメー真里ちゃんと啓太郎のトコにいたんじゃねぇのか!」

「……」

「…….そうか」

「怖く…なったのか?」

「……あぁ」

「はっ。 怖いってあっさり認めるなんてな…オメーさては…スマートブレインが作った乾のクローンだな!」

「……」

「冗談だ」

「お前こそ、何いきなりいなくなってやがんだよ。 真里も啓太郎も、それなりに心配したんだぞ」

「それなりとはどーゆーことだそれなりとは! まぁ、あれだ、うん、あれだな」

「小うるさいお節介な女も、口うるさいお人好しな男もいなくなり晴れて自由の身となった俺は! 画家として成功するべく旅にでたっちゅーわけだ!
はーハッハッハ!」

「……おい冗談は良い加減に「冗談じゃあない!!」

「……冗談なんかじゃねぇんだよ、乾」

「……」

「俺はもうウンザリなんだよ。 死ってやつが……。
死ぬ事に意味なんてねぇよ。 ただ、悲しいだけ…なんだよ」

「ちがうっ! 意味なく死んだ奴なんていない!!」

「意味なんてねぇよ! 怖くなって……尻尾巻いて逃げ出した臆病者ヤロウになんてなぁ!!」

「っ!」

「あいつらはもう死んだ! 死んだあいつらに出来る事なんて何もねぇ!!」

「……っ」

「なら、俺達がやっていくしかねぇだろ!? 死んだあいつらには出来ないことを!!
それとも乾、オメーは忘れたっていうのかぁ!!」


『ーーーーの答えを、君が俺に教えてくれ……っ』


「っ!!」

「……ちゅーっても、俺様に出来る事なんざ、
これぐらいなんだがな」

「!! 海堂……お前」

海堂から手渡された絵には、笑いあう人々と、蛇と、小鳥とーーー

「木場……」


狼と手を繋いで笑い合う、馬の絵が…描かれていた

「俺様に出来る事なんて、精々絵を描いて、アイツらを忘れないことだけよ」

「描いて…描いて描きまくって……お節介な小鳥と、お人好しなお馬さんと…優しい狼が居たことを、な……」

「……っ」

「だけどな乾、お前にはもっと別にあるだろ」


「託された物が、な」

「……おい、これ、いくらだ」

「10万ポッキリ、と言いたい所なんだがそいつにはまだ値段がついていなくてな。 気に入ったんなら勝手に持ってけドロボー」

「……」

「……これから、どこに行くんだ」


「どこにも行かねぇよ。
ーー 家に、帰るんだよ」

「へっ……」

「あぁ、それとな」

「?」

「俺も忘れねぇよ。 お節介な小鳥と、お人好しな馬と、
ーーー馬鹿な蛇がいたことをな」


「じゃあな」









「……けっ、勝手にしろい」

ーーーー


『まだ俺には分からない。 何が正しいのか……。
その答えを……君が俺に教えてくれっ』


「答え……か」


正直まださっぱり分からない。
この先、いつか答えにたどり着くのかさえも。

だが、


「諦めねぇさ、最後の最後まで、答えを見つけるまでな」


「だから……お前は安心してそこから見てろ」


「答えは俺が見つける……終わらせなんてしない」





「ーーー俺達が、続けていく」











澄みずみと晴れ渡る青空の下に、一条に続く灰の跡があった。



終わりです。

仮面ライダー555の木場勇治役の泉政行さんの訃報を聞き、とても悲しい気持ちになりました。

泉さんのホースオルフェノクを、仮面ライダーオーガを、仮面ライダー555のキャストが全員揃う姿をもう永遠に見れないことが残念でなりません。

だけど、仮面ライダー555を、木場勇治を見て思ったこと、感じた事は絶対に忘れません。


どうか、安らかに。

こんな深夜まで読んでくれた方、ありがとうございました

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