にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」 (37)

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



             < 凶 >


  ◆ 水難に注意されたし

  ◆ 体調不良の相あり



  ◇ 幸運のお守りは 傘 である



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1438533596





  …――ばしゃっ!




ことり「ご、ごめんっ!!!大丈夫!?」

にこ「」ポタポタ…




希「あちゃー、早速当たってもうたなぁ~
   のんちゃんお手製のスピリチュアルおみくじ」




◇その日、にこちゃん、絵里ちゃん…そして真姫ちゃんは
  あまりご機嫌じゃありませんでした




バンッ!




凛「やったにゃあああ!!!行きつけのラーメン屋さんで
  『祝!100組目のお客様』ってサービス券貰ったにゃーーー!」


穂乃果「一緒に行った甲斐が会ったね!!」



◇希ちゃんのおみくじで大吉を引き当てた穂乃果ちゃんと凛ちゃんが
 帰ってきました

 仲の良いお友達と二人で行けば良い事があると書かれていた凛ちゃんは
 偶然近くに居た穂乃果ちゃんを連れて行ったみたいです





にこ「ああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」ダンッ!!!

にこ「なんなのよアンタ達ぃ!!嫌味か!?嫌味かい!?」



◇あっ、さっきから良くない事続きのにこちゃんが怒りました…


ことり「にこちゃん…穂乃果ちゃん達に当たっても仕方ないよ?」


にこ「はぁ…分かってるわよぉ…でも、今日は朝からついてなさすぎで
   大声でも出さなきゃやってらんないわよ」



◇目覚まし時計が壊れてて早朝から遅刻しそうで…
 慌てて家を出ては打ち水をしてた近所のおばさんに水を掛けられたり

 今だって転びそうになったことりちゃんのアイスティーを頭から被って
 今日は碌な事が無いと嘆いています


凛「…にこちゃん、凛達はしゃぎ過ぎて…その、ごめんね?」

穂乃果「今度このサービス券で3人で食べに行こう?ね?」



にこ「うぅ…アンタ等の気遣いが余計に心にクるわよ…」




希「しっかし、アレやね~
   にこっち、エリチそれに真姫ちゃん、3人揃って同じ内容のくじ
   引くなんて…BiBiは仲良しさんやね!」




◇夏休みに入り、私達μ'sはラブライブ!に向けて日々練習をしていて
 昨日は息抜きで希ちゃんの持ってきたおみくじを引いたのですっ!


 …真姫ちゃんは終始納得がいかなかったみたいで
   イミワカンナイって言ってたけどね




ガチャ…





絵里「おはよう‥‥」ポタポタ

真姫「…」ポタポタ



ことり「おはよ――…って二人ともずぶ濡れだよ!一体何があったの?」



◇にこちゃんの髪をタオルで拭いてたことりちゃんが振り返ると
 入口にはずぶ濡れの真姫ちゃん絵里ちゃんが立っていました

 そして少し遅れてやってきた海未ちゃんが訳を説明します



海未「それが…なんというか二人とも不運に見舞われまして…
   階段を上っていた所、清掃用具を持った運動部の子が脚を滑らせ」




希「あ~、なんとなく読めた…
    つまり、こうやない?掃除用具を持った子が階段から
   たぶん、窓拭きだかモップだか知らないけど水入りのバケツを
   ひっくり返してもうて、それを二人が被ったとか?」


海未「…ご名答です」



◇【soldier game】…通称ソルゲ組、またの名は"クラッシーヴィ"ですが
 海未ちゃんだけは弓道部の子に呼び止められて、それで数歩後ろに居た
 だから難を逃れたそうです…



    にこ「へっくしょんっ!」ブルッ

    にこ「うぅ…風邪ひいたかも…」


穂乃果「にこちゃん達のくじ、体調不良に注意ってあったもんね」フキフキ
凛「大丈夫?」フキフキ

◇タオルでことりちゃんと一緒ににこちゃんを拭いてあげる2人
 そして、頬を膨らまして希ちゃんに

にこ「もうっ!希!!アンタ悪い気を追っ払うおまじない無いのっ!」


◇っと叫ぶにこちゃん、騒がしくて、時々笑いもあって涙もある
  そんな居心地の良いこの空間



◇ それが、私っ!小泉花陽の所属するアイドル研究部なのですっ!


~1day  厄除けはご利用的に ~



希「悪い気を追っ払うおまじない、ねぇ…」



東條希は人差し指を唇に当て、天井を眺めるように考え事をする
 彼女が知りうる限りのおまじない、ご利益のある神社のお守り

単なる気休めにしかならないだろうが、やたらとびしょ濡れになる
友人3人の為であった



病は気から、心の持ち方で人はどうとでも変わるとはよく言ったモノ


だからこそ"気休め"と言うモノも存外馬鹿にできるもんじゃないのだ




希「………‥ぁ」



長考の末、彼女は一つだけ思い当たる節があり声を出すが…



希「あるっちゃあるけど…これは、なぁ」



にこ「何々!?なんかあんの!?」ガバッ!


希「ちょっ、にこっち!近い近い!顔近いって!」




       ぎゃーぎゃー! わー! わー!




凛「今日も平和だにゃ~」

花陽「あはは…そうだね」


◇そんなやりとりを遠目に見つつ、私は凛ちゃんと一緒に
 あまーいアイスティーを頂いていました

ことり「美味しい?」


花陽「うんっ!美味しいよ!」パァ…!


ことり「ふふっ、良かったぁ!」




◇何気無い、そんないつも通りの日常風景
 私達9人は当たり前の日常を過ごしていました






◇そして、これから私がお話しするのはその"日常"からほんの少し


◇そう…


◇ほんの少しだけ"日常"からズレてしまうお話なのです…


――――
―――
――




海未「はいっ!今日は此処まで!」




穂乃果「ふぅー!今日も疲れちゃったねっ!」

凛「でも楽しかったねっ!」



花陽「はいっ!二人ともお疲れ様!」つ【タオル&お水】



穂乃果「花陽ちゃんっ!ありがとうっ!」ニコッ

凛「えへへっ!凛は優しいかよちんだーい好き!」ニコッ


花陽「わ、私も凛ちゃんと穂乃果ちゃんが好きだよっ」…カァ//


◇練習後の汗をかいた二人はお日様に負けないくらいの眩しい笑顔を
 花陽に向けて来ます…こう、爽やかっていうのかな?



◇…………なんていうか、うん…えへへっ!




真姫「なーに、嬉しそうに笑ってるのよ?」


花陽「あっ、真姫ちゃん!凛ちゃんと穂乃果ちゃんの笑顔
    素敵だな~って!」



真姫「…たしかに、あの二人の顔見てると元気が湧いてくるのよね」


◇くすっ、と柔らかく笑って真姫ちゃんも私の意見に頷いてくれます
 そのまま「本当、見ていて飽きないわよね」って二人を見つめてた…


花陽「あ、風邪とか大丈夫?にこちゃんはさっきくしゃみしてたけど…」


◇さっきお水を被っちゃったんだよね?大丈夫って私は訊いたんです




真姫「あ~……とんだ災難だったわね、日差しの下で練習してたから
    水気なんてもう飛んでったわよ…」


真姫「…ハァ、練習も終わりでしょ?
    この後、にこちゃんに付き合って絵里と希の"おまじない"を
     やらなきゃなんないのよ…」


花陽「今朝、部室で話してた奴?」


真姫「そうよ…にこちゃんがどうしてもって言うから
   絵里も私も付き合う事になったのよ…本当イミワカンナイ」ブツブツ


花陽「ふふっ、そう言っちゃうけど
   にこちゃん達だから付き合っちゃうんだよね」

真姫「は、はぁ!?…べ、別にそんなんじゃないし!」イミワカンナイ!


海未「それでは各自、解散!」


◇手を叩いて、形だけの解散を宣言する海未ちゃん
 μ'sとしての練習はこれでお終いだけど、この後は皆で
 冷房の効いた部室でお喋りしたり…アイドルグッズを買ったり
 ラーメンを食べに行ったりです!


◇お友達同士の楽しい時間はまだまだ終わりませんっ!



穂乃果「海未ちゃーん!」ダキッ!
凛「海未ちゃーん!」ダキッ!



海未「ひゃ、ひゃぃんっ!?」



ことり「あっ、今の可愛い声だね」

花陽「そうだね」


◇お片付け中の私とことりちゃんはラーメン屋さんに行こうと誘われる
 海未ちゃんの声を聴いて素直な感想を漏らしました




海未「い、いけませんっ!カロリーの取り過ぎで…」




凛「えぇ…ダメなの?」ウルウル…

穂乃果「ぐすっ…海ちゃぁん…」ウルウル…



海未「」





花陽「あれは反則だね」
ことり「うん…」




◇凛ちゃんもホノカチャンもたまに小悪魔だよね、と二人で話し合いながら
 花陽もことりちゃんとこの後アイドルグッズを買いに秋葉原に行こうと
 お誘いをするのです、それがその日、私達9人の行動でした…






◇……………





◇穂乃果ちゃんと凛ちゃんは海未ちゃんを連れてラーメン屋さん


◇私とことりちゃんは秋葉原のアイドルグッズ専門店に向かって
  グッズ(時々ミナリンスキーの写真とか)を買いに…



◇じゃあ…































◇・・・・・希ちゃん、絵里ちゃん、にこちゃん、真姫ちゃん








◇この4人はこの後、どうしたと思いますか?






◇今、私の話を聴いている皆さん







◇皆さんには分かりますか?










◇…先にも言いましたが、私はことちりゃんと秋葉原に行って
 そのままお買い物をして…そしてお喋りをしたりしてお家に帰りました




◇…だから、4人がその日、何をどうして過ごしたのか?



◇私は彼女達が何をしてたか知りません
 これからお話するのは他人から口頭で"こうだったよ"と聴いた話です…








     【1day】:【夜】【音ノ木坂学院】【屋上】





――日本の夏は暑い

地球上に居れば嫌でも四季というものは感じる、ただ国によっては
夏の暑さには違いと言うモノがある

喩えば南米の熱帯地域に属する密林の夏と大気が乾燥しきった砂漠の夏
同じ夏でも暑さが違うのだ


これは日本国内でも言える事だが、雨が全く降らない日が続いた日は
日差しが強くとも風通しが良ければ過ごしやすさを感じる
 逆に台風や強烈な通り雨の後は"蒸し暑さ"を感じるのではないか?




日差しも出ていない夜…昼間は見かけた入道雲は見当たらず
やけに星空が綺麗に見える、そんな暗がりの晩であった



にこ「…暑い」


希「なぁ、本当にやるん?」


にこ「当っ然!!!やるったらやるっ!!」ダンッ!

絵里「誰かさんの台詞みたいね…」

真姫「…早くやって帰りましょうよ…」



真夜中の学校の屋上、そこに色取り取りのチョークや蝋燭
他にも漆塗りのお皿…お彼岸に使われるようなお供え物…


そう…部室で今朝話していた"おまじない"とやらをやろうとしているのだ



絵里「真姫、震えてるけど、怖いの?」

真姫「なっ!そんな訳!…ないじゃないの」ゴニョゴニョ


夜の学校…と言うモノは如何せん気味の悪い所がある…


絵里「…まぁ、私もわかんなくないけどね…」ブルッ


お互いに早くやって早く帰りたい、そんな気持ちでいっぱいでした



希(…まぁ、噂で聞いた程度のデタラメなおまじないやけど…
       人間、気の持ち方一つで幸福にもなれる言うし…)

希「これもちょっとした人助けやな…」ボソ


にこ「?なんか言った?」

希「いや、何もいっとらんよ」




そう言って、東條希はその手にカラフルなチョークを持ち、先端を地面へ
滑らせる、本来であれば黒板の闇に文字を表すそれは
瞬く間に人間が3人すっぽり入る程度の大きな円を描いていく…


希「此処をこうして…次にこの線を引いて…」ツ―ッ


描いた円には幾多もの線、直線状に重なるように曲線が敷かれ
それが段々と一つの模様となり傍から見ている3人には解せない文字を
次々と構築していく


絵里「…っ」ゴクッ…


彼女等3人は神学やオカルトの類には詳しくない
だが屋上の無機質な石畳の上に表れる文字はなんとなく何処かで
見たことがあるモノだった…


にこ「…ドラマに出て来る奴に似てるわね」ヒソヒソ

真姫「きゃっ!…に、にこちゃん!急に話しかけてこないでよ…」ヒソヒソ

にこ「あっれれ~?真姫ちゃんちょっと涙目にこ~?
              もしかして怖いのかなぁ~?」クスクス


真姫「ば、ばっかじゃないの!そんな訳が…」ガタガタ

にこ「はいはい…、可愛いにこね~♪」

絵里「にこ…あんまりからかうんじゃないの…静かにしてて」ボソ

にこ「はいはい…って、アンタ大丈夫?顔真っ青よ?」ヒソヒソ


絵里「…だ、大丈夫よ…ただ、ちょっと寒気がして‥」


余興でも楽しむような雰囲気のにことは裏腹に心底怖がる同級生と後輩
流石に矢澤にこも…

「…あー、ちょっとふざけすぎたかな…」

「にこの我儘でつき合わせたようなモンだし……謝っとこう…」

っと…二人に対して申し訳なく思い始めたのか、言動を慎んだ



今はただ3人とも黙って希の準備を見ているだけだった…






希「…」そーっ



 輪の中に描かれた模様とドラマの陰陽師なんかで見かけるような文字
ただの大きな『円』から『陣』に変わったソレの中で東條希は
マッチ棒を一本擦って火を起こす、小さな棒の先端でゆらゆらと蠢く灯は
蝋燭へとその命を分け与える…

彼女は役目を果たしたマッチ棒を口元に運び、ふっ…と一息で鎮火する


  …ポタ


           …ポタ



 そこから先は丁重に、火が移り灯った蝋を地面の至る所に垂らしていく
溶けた白い蝋は一定の間隔をあけて落とされ…

やがてはこの熱帯夜の空気の中で固まっていく



     希「…できた…」ふぅ…


額の汗を裾で拭い…彼女はソレを完成させた、させてしまった





 何か意味のある模様のようにも、良く分からない文字の羅列のようとも
どちらとも捉えられる『陣』、所々に蝋が垂らされて…
 その中央には漆塗りの皿、上にはお彼岸でお馴染み子供のお小遣いで
容易く用意可能なお供え物セットがちょこんっと乗せられていて
『陣』の外枠には蝋燭が数本立てられていて、万一強風や地震でも
簡単には倒れないようにその蝋燭自体も底を溶かした蝋で固定されていた





希「えりち~、にこっち~、真姫ちゃ~ん!できたで~」チョイチョイ



にこ「あっ、できた?」


希「そー、そー…いやぁ、思ったよりも良い出来だと思うんよ」


なはは!と軽快な笑いで友人に完成を報告する
そしてそんな友に絢瀬絵里は訊ねた



絵里「ね、ねぇ…これからやるおまじないってどんな奴なの?」



希「あー、それな、ウチ等がやるのは『口寄せ』の類や!」


真姫「く、口寄せ?」


希「そ!口寄せ…ほら、3人とも"イタコさん"とか聞いたことあらへん?」

にこ「あー、昔のジャンプ漫画でそんなのちょっと読んだっけ…
                 シャーマンキングだったかしら?」


希「んー、まぁ大体そんなイメージでええかな
   それで簡単に説明すると、これはな神の霊や仏の霊…
   にこっち達を護ってくれる霊を呼び出して憑いててもらう奴や」


真姫「お、お化け…」ピクッ

絵里「…っ、そ、そう…良いお化けさんなのね」ブルブル


希「そうやね…口寄せにもいろんな種類があって…あっ!
   そうそう!『コックリさん』とかもその類に―――」



真姫「も、もう!良いでしょ!!さっさとやって帰りましょう!」



早く終わらせようと急かし、急かされ儀式は行われる
手招きして3人を『陣』の中へ入るように指示する希

一人はちょっとしたお遊び気分で『陣』へ
一人は真っ青な顔で…早く家に帰りたいと思いながら歩み
一人はお化けなんて非科学的なモノは居る訳ないと震えながらも入る




希「入った?なら中央のお供え物が入ったお皿を背にして?」


絵里「こ、こうかしら…」

真姫「……っ」キュッ





希「ふむふむ、ええよ、そんな感じ」


 
[対象が複数の場合…その人数が入る大きさの陣を描きます]


① 『中心にお供え物を入れたお皿を置いて
     呼び出したい種類の霊に応じたモノを捧げます』



② 『対象となる人物はお皿を取り囲むように並び背を向けます』



にこ「なんか子供の頃幼稚園でやったお遊戯を思い出すわね!」

希「あ~、言われて見るとそやね!」


この状況をすっかり楽しんでいるお気楽な3年生とは裏腹に絵里と真姫は
お互いの顔を不安そうに見つめます


絵里「うぅ…真姫ぃ…」

真姫「そ、そんな目で見つめないでよ…」




――か~ごめ、かごめ♪

小さい頃のお遊戯で一人を中心に他の皆は手を繋いで輪になる


次の手順はまさしく、それを思い起こさせます



③ 『お皿を囲んで背を向けたなら…陣の中の人は手を繋ぎます
   もしも、対象者が一人の場合は手を組んで胸の前で祈るように…』



④ 『手を繋ぎ(手を組んで胸の前に持ってくる)終えたら
              目を瞑り、3回深呼吸をします…』



希「――3回深呼吸をします、これで体内の気を一度外に出す為」


希「で、次が確か…」



⑤ 『陣の外の人は外枠に立てた蝋燭の火を一本ずつ灯します』



希「…」スタスタ




   シュッ!!


再びマッチを擦り、希は目を瞑る3人を眺めながら火を灯していった…








⑥ 『これでいよいよ最後です…最後は――――』












   希「お出でさい…お出でさい、此処にお出でください…」





  「「「お出でさい…お出でさい…此処にお出でください…」」」








   希「此処にいる私達を、どうかどうか、お守んなさい…」



  「「「此処にいる私達を、どうかどうか…お守んなさい…」」」








   希「陽が沈む方角から、お出でなさい…お出でなさい」


  「「「陽が沈む方角から、お出でなさい…お出でなさい」」」









   希「私達をみていてください…厄からお守りください」

  「「「私達をみていてください…厄からお守りください」」」


















  希「…………っ!私はお出でくださった!おいでくださった!」

 「「「………私はおいでくださった!私はおいでくださった!」」」







――― お い で く だ さ い ま し た よ 





ビュウウウウウウウウ――――――――…





儀式に必要な最後の言葉

それを言い終えた直後の事である


真夏の夜風がゆらめく灯を掻き消したのは…っ!




「「きゃああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」




希「お…落ち着いて!えりち!」

にこ「真姫ちゃん!ただの風よっ!」





絵里「うううう嘘よ!
   い、ぃま"おいでくださいましたよ"って聞こえた!!!」


希「あ、ごめん、それウチや」


真姫「希ぃぃぃ!!!」



希「いやぁ…ついからかいたくなって、うん…」


希「今度アイス奢るから、ね?」


真姫「ぅぅ‥馬鹿ぁ…怖かったんだからね」グスッ



にこ「しっかし、本当にすごい良いタイミングで強風が吹いたわね」



希の悪ふざけとほぼ同時に消えた蝋燭の火…
これは流石にビビります…

涙目でお互いにぎゅーっと抱き合う絵里と真姫
そんな二人には今度ちゃんと見合ったお返しをしてあげようと希とにこは
思うのでした…


――――
―――
――




絵里「…もう…おうち、かえるもん…」グスッ

にこ「はいはい、泣き止みなさい…」ナデナデ



希「ごめんね…」ナデナデ

真姫「アイス…ちゃんと奢ってよね…」グスッ




屋上の『陣』もセットも綺麗に片づけて
4人は学校から去っていきます…



水気を含んだ真夏の空気


蒸し暑さを感じる夜の空気



ある意味で
この不快感を感じる蒸し暑さも【水難】に含まれるのでしょうか?








ばしゃ…!



希「あ」

にこ「」



今日の蒸し暑さの一因の一つ…



昼間の通り雨ですね


 僅かな時間帯に降り注いだ、しかし猛烈な豪雨は
コンクリートとアスファルトに籠った熱で水蒸気と化し
天然物のサウナとなる







にこ「希ぃ…【水難】の厄除けじゃなかったのかしらぁ~?」




暗がりの道、生暖かい水溜りに見事片足突っ込んで新品の靴を見事
びしょ濡れにさせた矢澤にこが希を見つめる



希「あはは、まぁそんなモンやて、なっ!」






こうして少女達のおふざけは終わりを告げたのでした






【1day ~fin~】





































…ピチョ










――――ぱしゃ…っ!











だれもいない夜道に真新しい足跡ができます



アスファルトの上に足跡ができます



水溜りを踏んづけてから、乾いた地面に足跡をつけるように…



ぺたぺた…と…




靴を履いていない…素足の跡がくっきりと残りました









    ペタペタ……

            ペタペタ…  …ビチャビチャ

*********************************




  こんかい は ここまで  ふていき こうしん



*********************************

 
[対象が複数の場合…その人数が入る大きさの陣を描きます]

① 『中心にお供え物を入れたお皿を置いて
     呼び出したい種類の霊に応じたモノを捧げます』




【この時、お供え物は絶対に間違えないように注意しましょう】




② 『対象となる人物はお皿を取り囲むように並び背を向けます』




【一度背を向けたら儀式が終わるまで絶対に
         お皿の方を振り向いてはいけない】




③ 『お皿を囲んで背を向けたなら…陣の中の人は手を繋ぎます
   もしも、対象者が一人の場合は手を組んで胸の前で祈るように…』



④ 『手を繋ぎ(手を組んで胸の前に持ってくる)終えたら
              目を瞑り、3回深呼吸をします…』




【深呼吸後、手順⑥終了までは決して瞼を開かない事】






⑤ 『陣の外の人は外枠に立てた蝋燭の火を一本ずつ灯します』






⑥ 『これでいよいよ最後です…最後は呼び出しの言葉を言うだけです』





【呼び出しの言葉を全て言い終えるまでは
      絶対に蝋燭の火を消すことはしてはいけない】

【屋外で儀式をする場合…絶対に火が消えないように悪天候時
                  風の強い日等は絶対に避ける事】



【言い終えてから蝋燭の火は消す事、これは絶対に守る事】




【最後に…これらは全て  自 己 責 任  でやる事】




【もし、何かの間違いで手順を間違え…呼び出したくない物に】


 【 憑かれても  一 さい せきにん は とわ な ぃ 】





  【おまじない…とは漢字で書いて "お呪い" である】


~ 這い寄る"水音"と"水温" ~



~2day~

花陽「おはようっ!」ニコッ


穂乃果「花陽ちゃんおはようっ!」ニコッ



◇朝、顔を洗って食卓で今日も一日元気に過ごすための栄養を取り入れて
 私は照り付けるお日様の下、学校へと向かいました



花陽「今日も暑いね…」

穂乃果「そだね~」あはは…




凛「あ~、かよちん!穂乃果ちゃん!」パタパタ!



◇通学路を歩いていた私は風呂敷に包まれた箱を持った穂乃果ちゃん
 そして、パタパタと駆け寄って来る凛ちゃんに会います



凛「か~よちんっ!」ギュッ


花陽「ぴゃぁ…///」


凛「ん~、今日も柔らかくて抱き心地が良いにゃ~…」


穂乃果「おおっ!二人とも朝からお熱いねぇ~♪」クスクス


花陽「そ、そんなんじゃないよぉ//」


穂乃果「ふっふっふ!良いの良いの!照れる事ないって♪」あはは!



◇穂乃果ちゃんは手を口元に運び、お熱いねぇ~、っと
 悪戯を思いついた子供のような微笑みを魅せます……うぅ、ダレカタスケテー



凛「穂乃果ちゃんも抱き付いてみるにゃ!かよちん柔らかくてふわふわ~
  って感じなんだよ!」


穂乃果「ほうほう…それは良い事聞きましたなぁ?」ニヤニヤ


花陽「ゃ、その…///」



穂乃果「それ~♪」バッ ギュウゥ

凛「え~い♪」ギュゥ






真姫「朝っぱらから何やってんのよ…アンタ達は…」ハァ…

◇呆れ顔の真姫ちゃんとも合流です



真姫「それにしても…こうも蒸し暑い日が続くとやんなっちゃうわね」


◇いつものように髪を弄りながら秋風が吹くのが待ち遠しいわ、と
 言いながら私達のすぐ隣に並んで歩く真姫ちゃんに私は訊ねました



花陽「眠そうだけど、どうしたの?曲作り?」


真姫「…単に昨日はあまり眠れなかったのよ」

真姫(…夜の学校なんて行くから怖かったのよ…全くにこちゃんは…)



◇それだけ言うと少しだけ不機嫌そうに希ちゃんやにこちゃんの名前を
 小声で出していましたね、後に希ちゃんから昨晩何があったのかを
 私は聴くことになるのですが…








…ピチョ





真姫「きゃっ!?」




凛「にゃ?」

穂乃果「はれ?」


真姫「ッ~…」



凛「真姫ちゃん、変な声出たけど…どうしたの?」



真姫「今、首に水みたいなのが…ぅ~」



◇私達は上を見上げます…丁度真姫ちゃんの真上には
 雀さんの止まる電柱から延びる黒い電線が数本…多分ですけど
 電線から水滴が垂れて、それがピンポイントで歩いてた真姫ちゃんの
 背筋に落ちてきたんだと思います



真姫「…気持ち悪い…」



◇服の肩でも腕でもなく、ピンポイントに襟元…ううん首の後ろだもんね
 嫌そうな顔で真姫ちゃんは首の後ろに手を当ててます…



真姫「はぁ…朝からなんなのよ…」


穂乃果「真姫ちゃん、昨日のにこちゃんみたいな事言ってるよ…」


真姫「…今なら分かるわ…こういうのは分かりたくないけど」ハァ…


◇歩みを止めていた私達はそんな事を言い合っていました、そして…



           キィイイイイイイイイィィィィィィィ



穂乃果「わわっ!?」


◇私達が再び歩き始めて、通学路の十字路を通ろうとした所で
 大型トラックが勢いよく通り過ぎました…



穂乃果「危ないなぁ…アレ、絶対スピード違反だよ、もうっ!」プンプン


◇右も左もお家ばかりの住宅地です、確かに今のは一時停止も無しで
 危険な運転でした



凛「本当にゃ!全く、凛達が真姫ちゃんのさっきのドタバタで
  止まってなかったら危なかったにゃ!」



真姫「…」



穂乃果「おおっ!!じゃあ真姫ちゃんは命の恩人だねっ!」

凛「確かにっ!!」


真姫「えっ、ちょ、大袈裟よ…イミワカンナイ」



穂乃果「もうっ!照れないでよ~」

凛「そうそう!」


 あはは!  ちょっ、くっつかないで! 真姫ちゃ~ん  ヴェエエ!!


花陽「ふふっ、賑やかだね♪」










真姫(…首の後ろに雨水だか何だか知らないけど
     生暖かいのが垂れてきて…気持ち悪かったわ…)

真姫(でも、結果的にそのおかげで凛も花陽も穂乃果も…)

真姫(それに…私だって助かった)




真姫(…気持悪かったけど
       …まぁ、今のは良い事だったかしらね…!)フフッ



―災い転じて福となす…西木野真姫は今の難を"良い事"だったと
                そう思うようにしたのであった…

                           "この時は"…



  …ピチョッ

              …ピチョッ


にこ「はぁ~…クーラーの効いた部屋って良いわよね」

希「せやね、でもウチは暑い日にベランダで西瓜を食べる方がええかな」



◇私達4人が部室に荷物を置いて練習を午前の練習を終えた後の話です
 にこちゃんはいつもの特等席で希ちゃんとお喋り中でした



穂乃果「なら!これの出番だねっ!」スッ



花陽「そういえばその風呂敷包み今朝から持ってたね?」


穂乃果「お母さんが親戚の人に貰ったんだ、たくさんあっても
    食べれないから皆でどうぞって!」パカッ



海未「梨ですか…」


◇風呂敷に包まれた四角い箱は切り分けられた梨が入った容器でした
 遠目でも新鮮で瑞々しさがある事がよくわかります



しゃりっ!



◇早速、爪楊枝や銀のフォーク、竹串…皆それぞれにそれを頂いてみます
 


◇うんっ!噛んだ時に広がる果汁が甘味を広げます!
 午前の練習が終わるまで調理室の冷蔵庫を借りてたからひんやりしてて
 その涼がこの真夏日には最高の至福でしたね!


穂乃果「たっくさんあるからね~♪好きなだけ召し上がれ!」えへへっ!



希「にこっち~、食べ過ぎやない?」

にこ「良いのよ…こう暑いんだし、それにこんだけあんのよ」しゃりっ


希「食べ過ぎてお腹壊しても知らへんよ?
  今日、妹さん達連れてウチと焼肉屋さん行くんやからな?」

真姫「焼肉屋さん?」


希「そーそー、福引でサービス券当たったんよ!
   行きつけのお店で、折角だしにこっちと妹さん達誘うってな」


真姫「ふ~ん…」しゃりっ


希「あっ、真姫ちゃんも来たい?」


真姫「べ、別にそんなんじゃないし!」



凛「おかわりっ!」


穂乃果「はいは~い!」スッ


凛「あれ?そういえば絵里ちゃんとことりちゃんは?」しゃりしゃりっ!




穂乃果「あぁ、二人なら教室の方でアクセサリー作ってるよ」


◇衣装作りが好きなことりちゃんと
 アクセサリーを創るのが好きな絵里ちゃんっ!今度の衣装の案で
 可愛いくて綺麗なモノをたくさん作るんだって張り切ってたもんね



海未「二人とも練習が終わってすぐに作業に掛かりっきりですからね…」



穂乃果「ん~、…よしっ!決めた!」スッ


穂乃果「二人にも差し入れに行ってくる!」つ【梨】

花陽「あっ、それなら私もついてくよ」


◇丁度、ことりちゃんとお話したい事もあったもん



希「いってらっしゃーい」フリフリ


にこ(…本当に甘くておいしいわね
          こう…この瑞々しさも良いわ)しゃりしゃりっ


―――
――


ほのぱな「「歩こう♪歩こう♪今日も元気いっぱい!」」トテトテ


◇私と穂乃果ちゃんは梨を入れた容器を持って絵里ちゃん達の元へ
 歩いていきます



ガラッ



絵里「あら、花陽と穂乃果じゃない?」


穂乃果「二人とも頑張ってる?」

花陽「少し休憩にしませんか?」


ことり「その手に持ってるのは…梨?」



穂乃果「甘くてひんやりで美味しいよっ!」


絵里「ふふ、それじゃあ一旦手を休めましょうか?」

ことり「うんっ!」




◇机の上には針や紐…キラキラとした小物がたくさん置いてあって
 それがどんな飾りに変身するのか今の私達にはわかりません
 ただ、完成への大きな期待が胸の中で膨らんでいきます


ことり「それで海未ちゃんってばね―――」

穂乃果「あははっ!海未ちゃんらしいねっ!」

絵里「そんなことがあったのね…そうそうこの間―――」





ぴちゃ…





絵里「えっ」クルッ




花陽「どうかしたの?」



絵里「い、いえ…今」



◇私達が輪になってお喋りに花を咲かせていた時
 ふいに絵里ちゃんが後ろを向いたのです
 私はそれが気になって尋ねたのですが…



絵里「ううん、…何でもないわ」


穂乃果「えぇ~、なにそれ、気になるよ!」


絵里「…水を零したような音がしたと思ったけど…」チラッ



◇絵里ちゃんはもう一度後ろを見ます
 何でも、飲みかけのコップに入ったほんの僅かなお水をひっくり返して
 流し台に零したような音が聴こえた、そう言いました






◇…だけど



絵里「…気のせい、よね…」



◇私達4人の内、それが聴こえたのは絵里ちゃんだけで
 それに教室の床には水なんて一滴も落ちていませんでした




ことり「ん~、今日はもう作るの止めておく?午後からの練習もあるし
    もしかしたら絵里ちゃん疲れてるのかもしれないよ?」


絵里「…そう、ね」



絵里「無理は禁物よね、ことり!ありがとう」ニコッ


ことり「//…えへへっ」



◇程なくして正午を迎えた私達はお昼の練習へと励むのでした





…ぴちゃ


―――
――



◇私達の練習場所は屋上です、ただ…今日に至っては次のライブに向けて
 学校のグラウンドを使わせてもらっています


◇夏休み期間は運動部の子が多いのですが、今日は校外での特別練習で
 空いていたから使用許可を貰ったんです




海未「次は講堂や施設内ではなく屋外でのライブですからね
   今朝も説明した通り、午後からはそれを想定した練習を行います」


海未「ただし!他の運動部の方も居ます!迷惑を掛けないように!」




「おっ、気合入ってるじゃないか園田」


海未「山田先生…!」


◇穂乃果ちゃん達のクラスの担任、山田博子先生です
 気さくで面倒見の良い先生と皆からも慕われている先生ですねっ!



「こりゃあ…ウチの運動部も負けてらんないなぁ~」


「お前らも頑張れよ!」


穂乃果「はいっ!」

ことり「頑張りますっ!」

海未「ありがとうございますっ!」ペコリ



◇それにしても…こうしてみるとグラウンドには運動部顧問の先生や
 他にも誰かを見に来たのかたくさんの先生が居ますね…



◇遠目に見えるお話をしている3人の先生
 スーツの似合う笹原京子先生、その隣には深山聡子先生
 そんな二人と笑っている山内奈々子先生…



凛「かーよちん!何見てるの?」


花陽「あ、向こうでお話してる先生達をちょっとね…」


凛「あー、山内先生だにゃ~!
   かよちんと同じで眼鏡が似合うから凛あの先生好きっ!」ギューッ


花陽「はわわっ!?凛ちゃん///」


にこ「アンタ達!じゃれあってないで練習始めるわよっ!」



◇にこちゃんに言われて、凛ちゃんも一旦離れて
 練習を始められるようになりました
 あの3人も山田先生もこの学院の卒業生なんですって

◇学生時代からの友達同士で、それが大人になった今
 育った学び舎で一緒に先生をしてる…なんか良いよね、それって



◇珍しくグラウンドを使わせて貰えた事でか、はたまた熱中し過ぎたのか
 気が付けば私達9人は鴉が鳴いてしまう時間まで学校で
 踊り続けていたようです



ことり「あはは…張り切り過ぎちゃったね…」


海未「ええ…予定よりも長く学校に居ましたね…」


◇着替えてから私達9人は学校の門を抜けます
 この後は私は穂乃果ちゃんにアイドルグッズのおススメ店を
 紹介しようとしたんですけど





希「花陽ちゃん!」ポン

花陽「ふぇ!?希ちゃん…?」


希「これからにこっちと妹さん達連れて焼肉屋さん行くけど
   どう?無料サービス券はまだ一人分空きがあるんよ!」ピラッ





◇焼肉…



◇網の上で優しく寝かせて焼き上げたお肉に甘辛いタレ…それに合うご飯



◇夏の暑さを忘れるおいしさ、白いご飯


◇ご飯、白米…牛タンには麦ごはん


◇ご飯…飯に『ご』と書いてご飯、…白米っ!

◇麦ごはんよりは白米ですッ!!





穂乃果「お~い、花陽ちゃ~ん!」フリフリ


穂乃果「ねぇねぇ!約束通り、今日アイドルグッズの事詳しく教えて!」



花陽「」ボーッ



穂乃果「?…花陽ちゃん?」




――へんじがない

――背後から声を掛けても一向に反応の無い小泉花陽に首を傾げ

――高坂穂乃果は彼女の肩を掴み、顔を見てみると…



花陽「ご飯…ご飯…ブツブツ」ポケー


穂乃果「は、花陽ちゃん!?大丈夫ッ!?」


花陽「…ハッ!? ほ、穂乃果ちゃん!?どうしたの!?」


穂乃果「え、あ、うん…なんでもないよ…」


希「あ~、先約があったんやね」


穂乃果「?」キョトン


希「花陽ちゃんを焼肉屋さんに誘う思ったんやけど…」


穂乃果「…! あっ、そういう事なら大丈夫だよ!」


穂乃果「夏休みはまだ終わった訳じゃないんだし
     グッズのお店はいつでも行けるけど、その手に持ってる
    サービス券かな?それはどんな時でもって訳じゃないでしょ?」


穂乃果「部室で話してた通り今日、にこちゃんと行くんだもんね
     なら、今日しか行く機会は無いわけだし、ねっ!」クルッ



◇そういって振り向いて笑顔でウインクをしてくれる穂乃果ちゃんは
 ちょっぴりだけ花陽のお姉さんって感じがして…


花陽「あ、あの…でも、本当に良いの?」


◇希ちゃん、にこちゃんと食べてきて良いよ!、と言ってくれる
 優しさはすごく嬉しく思います、でも先に約束してたのにって思うと
 申し訳なくて…


◇おずおずと尋ねた私に何の迷いも無く
 『良いの!気にしない!気にしない!』って後押しもしてくれて
 希ちゃんも折角こう言ってるんやし此処は素直に甘えたら?って







◇二人がこうも言ってくれるのに、私はうまく切り出せなくて
 こういう時、優柔不断な私が少し恨めしく思うのです…




花陽「その…ごめんねっ!この埋め合わせは必ずするからっ!」


穂乃果「それじゃあ明日は今日の分までたーっぷり花陽ちゃんに
            教えてもらうからっ!覚悟しててよね~♪」


花陽「ぁ、ぁぅ…お手柔らかに///」





希「あははっ!花陽ちゃんってば顔真っ赤やん――ん?」


穂乃果「どうしたの?」


希「あぁ、ちょっとメールが…」pi


希「……」


希「…あちゃー…そか…」


希「ごめん、花陽ちゃん焼肉屋さん行けんようになったわ…」


花陽「えぇっ!?」
穂乃果「なんでっ!?」


希「あー、それがにこっちお腹すごく痛い言い出したらしくて
   家でおとなしくしてるって、ほら」スッ


◇希ちゃんが携帯メールの内容を私達に見せてくれます、そこには
  腹痛で蹲ったにこちゃんが希ちゃんにメールを出す前に
  こころちゃん達へ希ちゃんに連れって行ってもらうように電話した事


◇だけど、にこちゃんだけ置いていくのは嫌だから行くのは諦めると
 そんな通話内容になって、それで行けなくなった事までもが事細かく
 書かれていました



希「う~ん、流石にウチ一人って言うのも…また日を改めるかなぁ」




 東條希は自分の頬をかきながら、後輩達の顔を見る
此処で穂乃果と花陽を誘っても良いのだが、できるなら
矢澤家の育ち盛り達の為にも券はまだ持っておきたい


花陽「そういう事なら仕方ないよ」

希「そか…にこっち、あれだけ梨の食べ過ぎでお腹壊すな言うたのに…」


穂乃果「貰ったばっかりだから痛んで無かったと思うんだけど…う~ん」

希「あ~、気にせんでええよ、にこっちには悪いけど自業自得やし…」


希「それより、最初の予定通り花陽ちゃんと
         秋葉を回ってきたらええんやない?」



穂乃果「ハッ!それもそうだね!
         花陽ちゃんっ!」ガシッ


花陽「ひゃ、ひゃいっ!!」


穂乃果「希ちゃんっ!」ガシッ


希「えっ!?」



穂乃果「折角だもんっ!3人で一緒に行こうよっ!」


穂乃果「花陽ちゃんにアイドルの事教えてもらって
     それから希ちゃんと花陽ちゃんと3人でお喋りして遊んで!
    美味しい物食べてるんだよっ!」


穂乃果「そしてにこちゃんが喜ぶ物買ってお見舞いに行こうっ!」ニコッ


穂乃果「希ちゃんならにこちゃんが好きそうな物知ってそうだし
     花陽ちゃんとはアイドルグッズのお店にも行く」


穂乃果「にこちゃんのお見舞いの品もばっちりだよ!!」えへへ!


花陽「なるほど…」

希「…確かに付き合いは長いし、好きそうなモンは分かるかな…」



◇そんなこんなで私は穂乃果ちゃんに手を引かれて秋葉の街へと
 同じようにもう片方の手で掴まれた希ちゃんと一緒に駆けだしたのです









絵里「あら?希はもう先に帰ったの?」

海未「希でしたら花陽と共に穂乃果に連れられて行きましたよ?」

真姫「ええ、無駄に元気な叫び声だったわね」



いつだって元気よね、あの子
そうですね、そこが穂乃果の良い所です
なんでアンタが少し自慢気なのよ…イミワカンナイ


 なんて会話をしながらこの3人も
夕日に照らされるアスファルトの上を歩きだす
街路樹の幹やまだ活力に溢れ青々とした葉の影がまだ暑い日差しを遮る
 学校を出てすぐの信号機は青緑色で渡ろうと思えば渡れた横断歩道は
あえて渡らない、反対側の歩道は太陽の位置関係から斜陽が照り付けてる
少しでも避暑地ができる通りを通ろうという魂胆であった



海未「にこは凛と一足先に帰りましたからね…」

絵里「ええ、そうね…花陽も穂乃果も居ないし…」

真姫「この3人だけって言うのも珍しいかしら」



海未「心頭滅却すれば火もまた涼しとはいうものの…
     これは真面目に日傘を持ってくることを
         考えた方が良いかもしれませんね」



絵里「傘ね…」



ふと、親友のおみくじの内容を思い出す
確かラッキーアイテムは傘だったかしら?、と
そして家に帰る途中にあるホームセンターの看板が目に映る



絵里「二人とも私はちょっとだけ買い物に寄ってくから此処でお別れね」



真姫「そう?」

海未「ではまた明日」


絵里「ええ!」









絵里「さて、家にあった傘も古くなってたから買い換えなきゃって
    思ってたのよね…」


橙色のグラデーションの中、遠ざかっていく二人を背に絵里は
自動ドアの先へと進んでいく


―――
――


絵里「ただいま」ガチャ



亜里沙「お姉ちゃんっ!お帰り!」

雪穂「あっ、お邪魔してます!」


絵里「あら?遊びに来てたの?」

雪穂「はいっ!」

亜里沙「お姉ちゃん!お姉ちゃん!雪穂から
     羊羹を貰ったんだよ!後で食べよう!」

絵里「ふふっ!お茶を用意するわね」






「えー、次のニュースです」




絵里「~♪」つ【ロシアンティー】


雪穂「わぁ~いい香りですね!」

亜里沙「早く食べよう!」

絵里「慌てないの!」





「今日、東京都○○の焼肉店で火災があり…幸いにも
  すぐに消防も駆けつけた事で被害はそこまで大きくはなく――」



絵里「あら?このお店、希がよく行ってたお店じゃない…」


亜里沙「? そうなの」モグモグ


絵里「ええ、確か無料サービス券を貰ったから
       今度行こうとか言ってたかしらね」パクッ



「―ガス爆発など原因はまだ分かっておらず
        負傷者が居ない事が奇跡的だと――」



雪穂「怖いですよね…こういう事件って」モグモグ

絵里「そうね、テレビで流される報道とかを見る側は他人事でしょうけど
   実際に身近な人や自分が被害に遭うとね…」モグモグ


絵里「さて、と」

亜里沙「あれ?もう良いの?」


絵里「ええ、今日はことりと教室で創ってたアクセを完成させようと
   思ってるのよ、亜里沙と遊んであげてね?」フフッ

雪穂「はいっ」

―――
――






キュッ キュッ!  シャアアアアアアァァァァァ…





絵里「~♪」



蛇口をひねり、シャワーノズルから出て来る温水で頭についた泡を
洗い流す、その度に露わになる絵里の美しいブロンドの髪

人工的な温かい雨水は彼女の長い髪から首を…うなじを…そして肩や腕へ
まるで雨上がりや朝露に濡れた葉から雫が垂れていくように
絵里のしなやかな身体から浴室のタイルへと落ちていく


お湯が絵里の身体に当たっては湯船の湯気同様に鏡を曇らせ
浴室内を靄が掛かったようにしていく…

 通常よりも少しだけ熱めにしてるから尚更、それは濃くて…
少しだけ視界が悪いくらいだった





絵里「~♪」ゴシゴシ…



絵里「…?」ゴシゴシ…








絵里「…」







絵里「亜里沙?」



目元に掛かる濡れた髪を払い、声を掛ける…
蒸気でぼやけた視界の先に映る扉には誰も居ない、そして絵里の声に
反応してくれる人物もまた同じく…




絵里「…」キュッ キュッ


気のせいだったのかしら?そう思い、再び彼女は蛇口をひねり
身体についた泡を綺麗に流そうとお湯を出します…




絵里(…なんだか、気味が悪いわね…)ブルッ



真夏日の暑さからかいてしまった汗を流す為にわざと熱めにしたお湯
それに当たりながらも背筋に薄ら寒いモノを感じる…



 そんな事を考えたからか彼女の顔は心なしか不安げだった
曇った鏡には自身の顔は映らない為、絢瀬絵里は今どんな顔をしてるのか
自分ではわからないだろうが…

真姫がよく髪を弄るように…
普段の自分ならやらない肩に垂れさがる濡れた髪を指で梳くように
少しだけ弄って見る、気を紛らわす為だった…


櫛で髪を梳いた時と同じで指と指の間には綺麗な金の糸が数本…





絵里「…」



髪の長い人間なら抜け毛などというモノはさして珍しくもなんともなく
別格気に留めるような事は無かった






ただ…指と指の間に絡まった長い"黒髪"を見るまでは



絵里は震えた

背筋に感じた薄ら寒さは、それ以上の物となった

熱湯に当たっているはずなのに寒気が止まらなかった


――――
―――
――


~26day~


◇私達の夏休みも後、残す所一週間近くとなりました
 月日の流れは速いモノですよねっ!

◇…凛ちゃんは部室で穂乃果ちゃんと一緒に夏休みの課題に追われてます
 海未ちゃんが見張りについてるから終わりそうらしいですけど…あはは


◇それはさて置き、にこちゃん、真姫ちゃん…そして絵里ちゃんの様子が
 おかしいんです…


◇どうにも練習中に態勢を崩して転んだり、どこかフラフラしてて
 少しだけ窶れたようにも見えて…
 特に絵里ちゃん…この3週間近くで何あったんでしょうか…


海未「おはようございます、花陽」

花陽「あっ、海未ちゃん!おはようっ」ニコッ

海未「それにしても、あの暑い日々が嘘のようですね…」


◇日中は暑さに倒れてしまう人が多いと報道された気温も
 今では幾分か過ごしやすくなり天気予報では台風の事がよく言われて…

◇本当に、少し前までは酷暑が続く真夏日だと思ってたのに‥本当に…


◇本当に…





◇いつの間に秋風が吹いてたの…?、そう思ってしまう程でした

*********************************


           こ こ ま で

                              ピチャ…
*********************************

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom