絢瀬亜里沙「お姉ちゃんが希さんとキスしてた……」 (54)

亜里沙「あれって、どういう……どういうこと……?」

亜里沙「き、きっとただのスキンシップだよね。そうに決まってるよ」

亜里沙「だって……だって、女の子同士なのに」

亜里沙「でも、日本ではそういうスキンシップは、あまり一般的じゃないって聞いた気がする……」

亜里沙「それに、あの時の二人の雰囲気……」

亜里沙「ああ、どうしよう。聞きたい。お姉ちゃんに本当のことを聞きたいよ」

亜里沙「でも、聞くのが怖い……」

亜里沙「お姉ちゃん……」

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ーさかのぼること数時間前。音ノ木坂学院生徒会室。


コンコンッ

希「はーい」

カチャ

亜里沙「……すみません」

希「はいはい……あれ?……えーと、あなたは確か……」

亜里沙「亜里沙です。絵里の妹の……」

希「そうそう、亜里沙ちゃんや。久しぶりやね」

亜里沙「お久しぶりです、希さん。あの……お姉ちゃんは……?」

希「絵里ちに用事?せやったら、もうちょっとしたら来る思うし、座って待ってて」

亜里沙「あ、いえ……えっと、これを届けに来ただけですから」

ゴソゴソ

亜里沙「今朝、間違えてお姉ちゃんの携帯を亜里沙が持って行っちゃって……」

希「ああ、そう言えば今日は携帯忘れたって言うてたわ、絵里ち。亜里沙ちゃんが犯人やったんやね」

亜里沙「はい……。きっと、困ってると思って」

希「そこに置いといてくれたら、うちの方から渡しとくよ」

亜里沙「じゃあ、お願いしちゃっていいですか?」

希「了解や」

亜里沙「……あの、それともう一つ」

希「ん?」

亜里沙「亜里沙が謝ってたって、お姉ちゃんに……」

希「あれ?絵里ちって、ひょっとして怖いお姉さんなん?」

亜里沙「……ときどき」

希「ふふっ。それも了解。絶対怒ったらあかんよ、って言うとくわ」

亜里沙「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」

パタン

希「……お姉さん思いの、いい子やね……」

ー10分後。


絵里「ごめんね、希。遅くなっちゃって」

希「うちもいま来たとこや」

絵里「あら……?これ、私の携帯じゃない」

希「さっき、亜里沙ちゃんが持って来てくれたんや」

絵里「亜里沙が……?別に一日くらい携帯がなくても大して困らないし、わざわざ届けてくれなくてもよかったのに」

希「怖い絵里ちお姉ちゃんに怒られると思ったみたいやで?」

絵里「あの子ったら、そんなこと言ったの……?まったく……」

希「それはそうと、他の生徒会の子たちはどうしたんやろ?誰も来ないんやけど……」

絵里「それが、学園祭が近いでしょう?みんなそっちの準備が忙しいみたいで……。行けたらいく、とは言ってくれてるんだけど……」

希「あ、ふぅん。そうなんや……」

絵里「私たちだって、学園祭に向けてμ'sの練習に顔を出したいところだけど、さすがにこの書類の山を放置って訳にはいかないしね」

希「……ほな、今日は二人で頑張るしかないね。うちと絵里ちの、二人で……」

絵里「あ、希もμ'sの練習に行って貰って構わないわよ?たぶん、私一人でも何とかなると思うから……」

希「!!そんな……絵里ち一人に押し付けるなんてでけへんよ。うちには気使わんでええから……」

絵里「そう……?そう言って貰えると助かるわ。じゃあ、一緒にお願いできるかしら」

希「う、うん……」

ーその頃。


亜里沙「そうだ。せっかく音ノ木坂に来たんだから、校内の見学でもして行こうかな」

亜里沙「でも、勝手に歩き回ったりしたら怒られるかも」

亜里沙「どうしよう……」

亜里沙「!そうだ、お姉ちゃんにお願いしてこよう。生徒会長さんなんだし、お姉ちゃんに許可を貰えば、きっと大丈夫だよね」

亜里沙「お姉ちゃん……。もう生徒会室に来てる頃かな……」

ー生徒会室。


絵里「……ふう。なかなか片付かないわね」

希「せやね……」

絵里「やっぱり希がいてくれてよかったわ。一人だったら、とても手に負えなかったかも」

希「……」

絵里「さあ、もうひと頑張りして……」

希「……あ、あのな、絵里ち」

絵里「どうしたの?」

希「……そ、その、と、隣に座って作業してもええかな」

絵里「え?」

希「あ、ほら、お互い近くで作業した方が、効率がええかな?と思って……」

絵里「あ、ああ、そうね。確かにそれぞれで作業するよりも、連携して処理した方が早いかも知れないわね……」

希「ほ、ほな、うちがそっちに行くわ……」

スッ

絵里「……」

希「……」

絵里「……な、何だかこの広い部屋に二人きりっていうのも、変な気分ね……」

希「せ、せやね」

絵里「最近は、生徒会のみんながいることが多かったから……」

希「でも、今日はうちと絵里ちの二人きり……」

絵里「む、昔はよく二人だけで生徒会の仕事をしていたものだけどね……?」

希「こんなん、いつ以来やろね……」

絵里「……」

希「……」

絵里「……なかなか、終わりそうもないわね……」

希「……やっぱり、今日はみんな来ないんかな……?」

絵里「どうかしら……」

希「……」

絵里「……」

希「そ、そう言えば、亜里沙ちゃんやけど」

絵里「え……?あ、ああ、亜里沙がどうしたの……?」

希「絵里ちに謝っといてって、言ってたわ。携帯持ってっちゃったこと、けっこう気にしてみたいや」

絵里「そんなの……。気にしなくていいのに」

希「かわいい妹さんやね。亜里沙ちゃん……」

絵里「でも、ああ見えてけっこう世話が焼けるのよ?ただでさえ日本の暮らしに慣れていないのに、今日みたいにそそっかしいところがあるから……。私も目が離せなくて」

希「そうなん?せやったら、絵里ちも似たようなもんやけどね」

絵里「わ、私はあの子ほどそそっかしくはないと思うけど」

希「どうやろ」

絵里「もう、希ったら……」

希「……」

絵里「……あ、希……?」

希「え……?」

絵里「ちょっとこっち向いて、じっとしてて……」

希「絵里ち……?」

スッ

絵里「……ほら、髪の毛がほつれて、唇に……」

希「あ、ああ……。おおきに……」

絵里「希は、ほんとうに綺麗な黒髪をしてるわね。羨ましいわ……」

希「……」

絵里「……どうしたの、希。私の顔をじっと見て……」

希「絵里ち……」

絵里「希……」

希「生徒会のみんな……来えへんね……」

絵里「今日は、もう……来ないんじゃない……」

希「……」
グイッ

絵里「!!」

ギュッ……

絵里「……!!」

バッ

絵里「……の、希……!?」
ハァ、ハァ

希「……」

絵里「いきなり、そ、その……キス……するなんて……」

希「……怒った……?」

絵里「そ、そう言うわけじゃ……。でも……」

希「……気づいてたんやろ?うちの気持ち……」

絵里「わ、私は……」

希「……」

絵里「その……」

希「……」

絵里「……」

希「……ごめん」

絵里「……」

希「ごめん、絵里ち。うち、どうかしてたわ」

絵里「希……?」

希「……冗談やってん。今のは、冗談やったんよ?絵里ちがあんまり真面目に仕事してるから、ついからかいたくなって……。あはは、び、びっくりしたやろ……?」

絵里「の、希」

希「せ、せやから、今のは忘れて。何考えてたんやろね、うち。忘れて。全部忘れて……」

絵里「希、私は……」

希「ごめん、絵里ち。悪いけど、ちょっと疲れたから先に帰らせて貰うわ……。また明日から、今までどおりにちゃんと仕事するから……。ほな……」

絵里「待って、希!」

ガシッ

希「絵里ち……?」

絵里「わ、私の方こそごめんなさい。さっきは突き飛ばしたりして……」

希「……」

絵里「ただ、気持ちの準備ができていなくて、ほんとうに驚いただけなの。だから……」

希「……」

絵里「もう一度……今度は、ちゃんと……」

希「!絵里ち……」

絵里「希……」

ギュッ

絵里「……」

希「ん……」

絵里「希……好きよ……」

希「絵里ち……うちも……うちも……」

絵里「希……」

希「絵里ち……」

―一方、生徒会室前の廊下。


亜里沙(お姉ちゃん、いるかな……?)

亜里沙(……でも、何だか部屋の中が静かみたい。ひょっとしたら、みんなもう帰っちゃったのも)

亜里沙(あ、ドアが少し開いてる……。ちょっと覗いてみよう)

ソーッ……

亜里沙「!!!」

亜里沙(お、お姉ちゃん……?)

ガタッ

希「……!?」

絵里「……どうしたの?」

希「いや、今、入り口の方に誰か……」

絵里「え?」

カチャッ

希「……誰もおらんみたいや」

絵里「もう、おどかさないでよ」

希「うちの気のせいみたいやね。生徒会のみんなだって、こんな時間からはもう来ないやろうし……」

絵里「他にこの部屋に用事がある生徒なんて、たぶんいないわよ」

希「せやね……」

希(ひょっとしたら)

希(いや、まさか、な。この部屋に戻ってくる理由なんか、ないやろうし……)

希(やっぱり、うちの気のせいやったんやろ……)

ハアッハアッ
亜里沙「……夢中で逃げて来ちゃった」

亜里沙「何だったんだろう、今の……」

亜里沙「あれ……キスだよね」

亜里沙「どういうことなの……?」

亜里沙「お姉ちゃん……」

―その夜。絢瀬邸。


絵里「亜里沙、もう食べ終わったの?」

亜里沙「う、うん……」

絵里「なら、食器はその辺に置いておいて。後は私が片付けておくから」

亜里沙「……」

絵里「……?どうしたの、亜里沙?」

亜里沙「あ、あのね、お姉ちゃん」

絵里「……?」

亜里沙「今日、生徒会室に行ったんだけど……」

絵里「ああ、そう言えばわざわざ携帯を届けてくれたそうね。ありがとう」

亜里沙「あ、え……と、うん」

絵里「で?それがどうかしたの?」

亜里沙「!う、ううん……なんでもない」
ピューッ

絵里「……?おかしな子ね……」

―亜里沙の部屋。


亜里沙「どうしよう。とてもじゃないけど、お姉ちゃんに面と向かってそんなこと聞けない」

亜里沙「だいたい、なんて聞けばいいの?「お姉ちゃん、希さんとキスしてたでしょ」って聞くの?」

亜里沙「そんなの無理だよ……」

亜里沙「そ、それに、亜里沙の見間違いかも知れないのに」

亜里沙「でも、あの時のお姉ちゃんの顔……」
カアアアッ

亜里沙「!!な、何これ……。思い出すだけで、何だか顔が熱く……」

亜里沙「どうすればいいの……」

続きは後ほど

続きです

―翌日。


雪穂「どうしたの?亜里沙。今日は何だか元気ないみたいだよ?」

亜里沙「別に、何でもないよ」

雪穂「だったらいいけど」

亜里沙「……ねえ、雪穂。一つ聞きたいことがあるんだけど」

雪穂「なに?」

亜里沙「雪穂は、その……誰かと、キスしたこと、ある?」

雪穂「え……?え、ええっ……!?」

亜里沙「こ、声が大きいよ、雪穂……」

雪穂「で、でもキスって……」

亜里沙「……そんなに驚くことなの?」

雪穂「そりゃ驚くよ!い、いきなりそんなこと聞かれたら……」

亜里沙「で、でも、ロシアだと挨拶がわりにキスしたりすることもあるから……」

雪穂「あ、ああ……なるほど。そういうこと」

亜里沙「日本だと、やっぱり違うの……?」

雪穂「日本じゃ、そういうことはほとんどないかなー。やっぱり、キスって、その……こ、恋人同士がするもんだと思うけど……」

亜里沙(やっぱり……)

雪穂「……なんでいきなりそんなこと聞くの?」

亜里沙「え?……そ、それは、日本のことをもっと色々知りたいなって」

雪穂「あやしい」

亜里沙「あ、あやしくないよ。亜里沙はただ……」

雪穂「……ふぅん」

亜里沙「あ、あのね雪穂。もう一つだけ、聞いてもいい?」

雪穂「……?」

亜里沙「そ、その……。た、例えば、お、女の子同士でキスすることって……あったりするのかな……?」

雪穂「えっ!?ええっっ!!?」

亜里沙「だから、声が大きいってば……!」

雪穂「ないよ!それはないよ!!」

亜里沙「そうなの……?」

雪穂「なんでそんなこと……ま、まさか亜里沙……?」

亜里沙「え……?」

雪穂「ひょっとして、わ、私のこと……」

亜里沙「!!ち、違うよ!そういうことじゃなくて……」

雪穂「じゃあどういうこと……?」

亜里沙「……本当に何でもないの。何でも……」

雪穂「亜里沙……?」

亜里沙「……」

―数日後。


絵里「はぁ……」

希「あれ?どうしたん、絵里ち。ため息なんかついて」

絵里「それが、最近亜里沙の様子がおかしくて……」

希「亜里沙ちゃんが……?」

絵里「そうなの。家でも口数が妙に少ないし、私ともあまり目を合わせてくれなくって……」

希「……!」

絵里「初めは風邪でもひいているのかと思ったけど、どうもそういう訳でもないらしいし……」

希「そ、それっていつからなん……?」

絵里「え?そうね、この5日ほどのことかしら……」

希「……」

絵里「あ、そうそう。希のところに私の携帯を持って来てくれたことがあったでしょ?ちょうど、あの日あたりからかしら……」

希(やっぱり……)

絵里「え?何か言った?」

希「い、いや。何でもあれへん」

絵里「……?」

希(きっと亜里沙ちゃんは、うちと絵里ちの、あの場面を……)

希(もしそれが原因なんやったとしたら……うちの責任やね……)

―その日の放課後。亜里沙の通学路。


希「亜里沙ちゃん……」

亜里沙「!!希さん……?」

希「今、学校の帰り……?」

亜里沙「そうです……けど」

希「もし、時間があるんやったら、ちょっとだけお話したいんやけど……」

亜里沙「……」

希「それとも、何か約束とかあるんかな……?せやったら、うちもまた出直して……」

亜里沙「……あの日、生徒会室で何してたんですか?お姉ちゃんと」

希「!!」

亜里沙「答えて……ください」

希「……やっぱり、見られてたんやね」

亜里沙「お、お姉ちゃんと、キ、キス……」

希「……」
コクリ

亜里沙「!!」

希「そのことで、ちゃんとお話ししとかなあかんと思って……もし、亜里沙ちゃんに嫌な思いさせたんやったとしたら……」

亜里沙「聞きたくない……」

希「え……?」

亜里沙「聞きたくない。聞きたくないです……!」
ダッ

希「あっ、亜里沙ちゃん!待って……」

亜里沙「……」
ハアッハアッ

希「亜里沙ちゃん……」

―その夜。亜里沙の部屋。


亜里沙「お姉ちゃん、やっぱり希さんと……」

亜里沙「いつから……なのかな」

亜里沙「そうなんだって考えるだけで、亜里沙の知ってたお姉ちゃんとは、全然違う人になっちゃったみたいに思えるよ……」

亜里沙「希さん……」

亜里沙「……お姉ちゃんのこと……好き、なんだよね……」

亜里沙「それに、亜里沙のことだって……」

亜里沙「今日も亜里沙のことを気遣って、わざわざ会いに来てくれた」

亜里沙「優しい人なんだ……」

亜里沙「なのに、亜里沙は……」

亜里沙「希さんに、悪いことしちゃったかな」

亜里沙「でも、でも……。亜里沙、どうしたら……」

亜里沙「お姉ちゃん……」

コンコン
絵里「亜里沙?起きてるの?」

亜里沙「!!」

絵里「……入るわよ」
カチャリ

亜里沙「……」

絵里「この頃、元気がないみたいだけど……。どこか体の具合でも悪いの?」

亜里沙「……ううん」

絵里「ならいいけど……」

亜里沙「ちょっと疲れてるだけだよ。やっぱり、ロシアとだいぶ気候も違うから……」

絵里「もし、悩み事とかがあるんだったら、いつでも私に言ってね?」

亜里沙「……」

絵里「……それじゃ、もう寝るわね。おやすみ」

亜里沙「お姉ちゃん」

絵里「え?」

亜里沙「お姉ちゃん、亜里沙のこと好き?」

絵里「もちろん、好きよ。当たり前じゃない」

亜里沙「誰よりも好き……?」

絵里「どうしたの?亜里沙……」

亜里沙「答えて、お姉ちゃん。誰よりも、亜里沙のことが好き?」

絵里「亜里沙」

亜里沙「……」

絵里「誰かへの愛情を、何か他のものと比べたりするのは好きじゃないわ」

亜里沙「……」

絵里「もちろん、あなたへの愛情も、他のなにものにも代え難いものよ。これじゃだめかしら?」

亜里沙「……」

絵里「……何かあったの?亜里沙」

亜里沙「……おやすみ」

絵里「亜里沙……?」

亜里沙「……」

絵里「……おやすみ」

―一週間後。学園祭翌日の、μ'sの部室。


希「穂乃果ちゃん、大丈夫やろか……」

絵里「そうね……。でも、やっぱり今まで無理しすぎたのかも」

希「せっかくの学園祭やし、張り切り過ぎたんやろね……。かわいそうに」

絵里「まあ、私たちまで落ち込んでいても仕方ないわ。また、お見舞いに行ってあげましょう」

希「せやね……」

絵里「何も、これでμ'sの活動が終わりってわけじゃないんだものね!?」

希「!う、うん……」

絵里「……」

希「……」

絵里「……そうは言っても、なかなか切り替えられるものじゃないけど……。気分転換に、窓でも開けましょうか」

ガラッ

フワッ……

のぞえり「……!」

絵里「風が冷たい……」

希「もうじき、秋も終わりやね……」

絵里「……そうね」

希「秋が終わったら、すぐに冬が来て……そしたらうちらは……」

絵里「……」

希「……ねえ、絵里ち」

絵里「え?」

希「絵里ちはもう……将来のこととか決めてるの?」

絵里「大学に行った後のことは、まだ何も……。希は?」

希「うちは全然や」

絵里「……」

希「自分がこの先どうなってしまうのか……全然分からへんのよ」

絵里「の、希お得意のカードで占ってみたら?希のことだから、きっとすごい幸運が待ってるんじゃないかしら」

希「占い師は、自分のことは占ったらあかんのよ。知らんかった……?」

絵里「……」

希「せやからうちは、何にも分からへん。うち自身のことも……」

絵里「希……」

希「……うちと絵里ちが、いつまで一緒にいられるのかも……」

ギュッ…

絵里「!!……希、だめよ……。まだμ'sの誰かが、ここに戻って来ちゃうかも……」

希「分かってる……。だから、今だけや……」

絵里「……そんなに強く抱きしめなくても、私はどこかへ行ってしまったりしないわよ……?」

希「うん。知ってる……」

絵里「私たちは、いつまでも、いつまでも一緒よ……?」

希「知ってる。知ってる……。だから……」
ウルッ

絵里「希……」

希「……だから、今だけは……今だけは……」
ボロボロボロ

絵里「!!ど、どうして泣いたりするのよ、希。それじゃ、それじゃまるで……」

希「……」

絵里「私が、嘘を……ついてるみたいじゃない……」
ボロボロ

希「絵里ち……声が、震えてるよ……」

絵里「希こそ……」

希「うち、いやや……。絵里ちと離れ離れになってしまうなんて、耐えられへん……」

絵里「私だって……私だって……」

希「未来のことなんて、別に知りたない。未来なんていらへん。だから神様、お願いやから、今だけは……」

希「……今という時間だけは、うちから取り上げんといて……」

絵里「希……」

希「絵里ち……」

―数時間後。通学路。


希「……」
トボトボ

亜里沙「希さん……」

希「!!亜里沙ちゃん……」

亜里沙「……」
ペコリ

希「ど、どうしたん?こんなところで……。今、学校の帰り……?」

亜里沙「……どうしても希さんとお話がしたくて、ここで待ってました」

希「うちと……?」

亜里沙「はい……」

希「ほ、ほな立ち話もなんやし、ちょっとその辺のお店にでも入ろうか?うち、ええとこ知ってるんやで」

亜里沙「……」

―希行きつけのカフェ。


希「……ここは甘いものも美味しいけど、風水にも凝ってるし、よく来るんよ。パワーがもらえるんや」

亜里沙「でも、希さん、元気がないみたい……」

希「あ、あはは。学園祭とか色々あったし、ちょっと疲れてるんかもね」

亜里沙「……この間は、ごめんなさい」

希「……!」

亜里沙「亜里沙、話も聞かずに逃げ出したりして……」

希「ううん。謝らないかんのは、うちの方や。そのつもりはなかったにせよ、亜里沙ちゃんを傷つけてしもて……」

亜里沙「希さんは……お姉ちゃんのこと、好きなんですか?」

希「……」
コクン

希「……好きや」

亜里沙「……どのくらい?」

希「こうして想いを言葉にするだけで、唇が震えちゃうくらい……」

亜里沙「……」

希「……亜里沙ちゃん、お姉ちゃんのことが……絵里ちのことが、ほんとうに好きなんやね」

亜里沙「え……?」

希「亜里沙ちゃんだってつらいやろうに、こうしてわざわざ、またうちに会いに来たりしてくれて……」

亜里沙「……正直、あの日は……ショックでした」

希「……」

亜里沙「お姉ちゃんが取られちゃったというか、どこか遠くへ行っちゃったというか……亜里沙の知らないお姉ちゃんになっちゃったというか」

希「亜里沙ちゃん……」

亜里沙「とにかく、急に一人ぼっちで取り残されたような、そんな気がして……。そしたらもう、自分でもどうしたらいいか分からなくなって」

希「ごめんな……ごめん」

亜里沙「!!別に、希さんを責めてるわけじゃないんです。ただ……」

希「……」

亜里沙「……その後も、ずっと一人で考えて……。やっぱりこれじゃいけない、このままじゃいけないって、そう思って……。それで、今日こうして……」

希「……ふふっ」

亜里沙「希さん……?」

希「うち、お姉さん失格やね……。亜里沙ちゃんの気持ちを、こんなにかき乱して……」

亜里沙「……」

希「これでも、μ'sの中じゃお姉さん的な存在なんよ?みんなの前では、精いっぱいおどけてみせたりしてるんやけど……」

希「自分のこととなると、全然あかんみたいやね……」

亜里沙「希さん……」

希「あはは、まったく、何を話してるんやろね、うち。亜里沙ちゃんを傷つけちゃったうえに、こんなことまで……」

亜里沙「!!希さん、亜里沙は……」

希「でも、安心して。絵里ちは……お姉ちゃんは、亜里沙ちゃんのそばを離れたりせえへんよ。ずっと亜里沙ちゃんと一緒やで」

亜里沙「それって……」

希「ほんとうは、心の奥底に……誰にも気づかれへんくらい、心のずっとずっと奥の方に、秘めておかなあかん想いやったってことは、分かってたん……。ましてや、亜里沙ちゃんを……好きな相手の大切な妹さんを傷つけてまで……」

希「ごめんな、亜里沙ちゃん……」

亜里沙「……」

希「けど、明日から元どおりや。絵里ちは生徒会長で、うちは副会長。μ'sの仲間で、そして、一番大事な、何よりも大事な……親友。そしてもちろん、亜里沙ちゃんの大事なお姉ちゃん……」

亜里沙「……希さん……」

希「何もかも……な、何もかも、元どおりやで……」

亜里沙「希さん。声が……震えていますよ」

希「……!」

亜里沙「……」

希「うち、ほんまに……ほんまにあかん子やね。なんで、なんでこんな……」

亜里沙「希さん、亜里沙は……亜里沙は、お姉ちゃんのことが大好きです」

希「!……うん」

亜里沙「亜里沙はまだ子供だけど……。それでもきっと、希さんに負けないくらい、お姉ちゃんのことが大好きです」

希「うん。せやね……」

亜里沙「……だから」

希「……?」

亜里沙「希さんも、お姉ちゃんのこと、本気で好きになってください」

希「……!!」

亜里沙「ほんとうに本気で、好きになってください。そうじゃなかったら……誰かのことを気遣ってみたり、自分の想いに蓋をしたり、そんな中途半端な"好き"だったら……」

希「……」

亜里沙「亜里沙は絶対に、お姉ちゃんを渡さないですよ」

希「亜里沙ちゃん……」

亜里沙「言いたいことは、それだけです」

希「それは……うちへのエール……?」

亜里沙「……」

希「それとも、宣戦布告……かな?」

亜里沙「……両方です」

希「ふふっ」

亜里沙「……」

希「……そっか。せやったら、うちらは……ライバル、といったところやね」

亜里沙「亜里沙は……手ごわいですよ」

希「……うちも、負けへんよ。なにせ、うちはμ'sいちのラッキーガールなんやからね」

亜里沙「ふふっ」

希「……うふふっ」

亜里沙「……じゃ、亜里沙は行きますね。あ、そうそう、この店すごく美味しかったです」

希「ほんまに?気に入って貰えてよかったわ」

亜里沙「……だから今度、お姉ちゃんを誘って二人で来てみますね」

希「おやおや。ちゃんとうちが教えた店やって言ってくれんと、フェアやないなあ」

亜里沙「どうしようかな?」

希「ふふっ。……じゃあね、亜里沙ちゃん」

亜里沙「はい、希さん。またそのうちに」

希「うん……!」

―そして、学園祭からしばらくが経ち……。


絵里「……色々あったけど、μ'sもようやく元どおりね」

希「一時はどうなることか思たけど……」

絵里「穂乃果も戻って来たことだし、またみんなで一つになってやって行けると思うわ」

希「……そう言えば、亜里沙ちゃんの様子は最近どうなん?」

絵里「ああ、亜里沙もまた元気になってきて、私ともよく話してくれるようになったわ。と言うか……」

希「……?」

絵里「何だか、前よりも甘えて来るようになったみたい。もう来年は高校生だって言うのに……」

希「ふふっ。そうなんや」

絵里「笑いごとじゃないわよ。まっく」

希「まあ、ええやん?絵里ちかて、うちに甘えてもええんやで……?」

絵里「もう、希ったら……。からかわないでよ」

希「……じゃあ、うちが絵里ちに甘えるわ」

ポスッ

絵里「ちょ、ちょっと希……!誰か来たらどうするの……」

希「そん時は……そん時や……」

希(うちも……ライバルには負けてられへんからね……!)

絵里「えっ?何か言った……?」

希「ううん。別に……」

絵里「……もうすぐ……冬ね」

希「うん。そうやね……」

希(亜里沙ちゃん。うち、負けへんで……。絵里ちと一緒に、いつまででも歩いていく)

希(ずっと、ずーっと先の、未来まで……)

ーーおしまいーー

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月08日 (月) 20:49:06   ID: AZH9XG4k

サイコー

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