春紀「昔の話」 (324)

悪魔のリドル、ギャグ。
細かいところは気にしないでもらえると助かる。

のんびりやる。

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春紀「なんか最近変な夢見るんだよな」

伊介「変な体勢で寝てるからじゃないの」

春紀「違うと思うけど……」

乙哉「あたしもあたしも!最近変な夢見るの!」

春紀「武智も?どんな夢なんだ?」

乙哉「あたしが誰かを好きになって普通にその人と暮らすっていう夢」

春紀「そんな幸せな夢を”変な夢”って一刀両断できるアンタの異常さヤバいな」


千足「……」

柩「どうしたんですか?千足さん」

千足「いいや、なんでもないんだ」

柩「でも」

千足「気にするな」

柩「千足さんのことを気にするなっていう方が無理ですよ」


伊介「何?アンタまで夢のことで思い当たることでもあるの?」

千足「な、ない。なんでもないんだ、本当に」

春紀「ふぅん?」

乙哉「春紀さんの見た変な夢って何?」

春紀「うちの家が馬鹿みたいな金持ちになってるって夢だよ」

乙哉「それただの願望じゃないの?」

春紀「ただの願望で一週間連続で同じ夢見てたまるか」

伊介「一週間も見てたの?」

春紀「今朝言ったろー?」

伊介「伊介は寝ぼけて覚えてなかったから言ったことにはならねーよ♥」

春紀「横暴すぎる」


某個室漫画喫茶


春紀「………なんて会話をしたのは、2年くらい前だったか?」

千足「さぁ、ただ武智がいたということは黒組のかなり初期の段階だろう」

乙哉「まさか春紀さん達とまた会うことになるとはね。ビックリだよ」

千足「私は武智がここまで来れたことの方が驚きだが」

春紀「ホントだよな。脱獄してきたんだろ?」

乙哉「ひどいなー、これでも一応は仮釈放された身なんだよ?」

春紀「日本の司法制度も終わってるよな、こんな奴をまた世に送り出しちまうんだから」

千足「しかし連続殺人で仮釈放だなんて、余程真面目に生活していなければ難しいだろう。改心したんじゃないのか?」

乙哉「あははは、まっさかー♪あたし、猫かぶるのは得意なんだよねー♪」

春紀「今の発言、録音してしかるべきところに証拠として持ってきたいな」

乙哉「やめてよ!!」


千足「……まぁ、雑談はいい。本題に入ろう」

春紀「あぁ。まず確認したいんだが、二人が夢の中で『過去の過ちを正せ』と言われるようになったのは2週間前のことなんだな?」

千足「そうだ。間違いない」

乙哉「それから毎日だよ。嫌んなっちゃう」

春紀「……あたしと全く一緒だな」

千足「寒河江はどうしてそのことで私達に声を掛けたんだ?」

春紀「さっき話しただろ。あたし達が黒組に居た頃の、あの会話が引っかかってたからだ」

乙哉「よくあんな何気ない会話覚えてたよね」

春紀「まぁな。あの会話で武智がなんか面倒なもん抱えてる人間なんだって察せたから。
   首藤からお前が快楽殺人者だって聞いたときもその会話を思い出して、なるほどなって思ったよ」

乙哉「そうだったんだ。あたしはあんまり思い出せないや」

春紀「そのあとも定期的に似たような設定の夢を見続けてたんだけど、その頃にはあたしは退学してたから確かめようがなかったんだよなー」


千足「……なるほど」

春紀「その『過去の過ちを正せ』というお告げのようなものは、黒組の頃からたまに見る、妙な夢の最後に必ず入った」

乙哉「それで当時同じようにおかしな夢を見続けているって言ってたあたし達にも声をかけたってこと?」

春紀「あぁ。いきなりこんなところに呼び出してすまない」

千足「構わない。それに漫画喫茶に来るのは初めてだったから、わりと楽しい」

春紀「はは、そうか」

乙哉「でもさー、二人ともちょっと暑苦しいよ。もう少し縮めないの?身長的な意味で」

春紀「アンタもそんなに変わらんだろ!」


千足「というか、私はあのとき夢を見ただなんて一言も言ってないはずだが」

春紀「でもリアクションが怪しかったろ」

乙哉「あれはちょっと不自然だったよねー」

千足「うっ……」

春紀「それにアンタらを呼んだ根拠がもう一つだけあるんだ」

乙哉「なになに?」

春紀「その夢の中であたしは友達と過ごすことがあるんだ」

千足「友達って誰だ?」

春紀「わからない。だけど、その友達は二人。あんたらのような気がするんだよ」

千足「……」

乙哉「………」


千足「寒河江から連絡をもらったとき、私はすぐにこの件だろうなと思った。それは、最近私も同じような夢を見ていて、
   友人二人のうち一人が寒河江のような気がしていたからに他ならない」

乙哉「……実はあたしも」

春紀「やっぱり、夢の中であたし達は繋がっているんだな」

乙哉「っぽいね。それで何を正せばいいのかは全くわからないままだけど」

春紀「生田目、アンタはどういう夢を見てたんだ?」

千足「?さっき言っただろう。顔は思い出せないが友人二人と過ごす夢、その最後は『過去の過ちを正せ』と、どこからともなく聞こえる声で終わる」

乙哉「んー、春紀さんが聞きたいのはそういうことじゃないと思うよ?」

春紀「それはあたし達の夢とリンクしてる部分だろ?あたしは裕福な家庭、武智は幸せな生活、基盤になる設定があるハズだ。それがなんだったのか知りたいんだ」

千足「……いやだ」

乙哉「はぁー?ちょっと協力してよー、あたしもうあの夢見たくないんだよー」

春紀「あたしも武智と一緒だ。ウザ過ぎて仕事にまで支障が出そうなんだ」

千足「……笑わないって約束するか?」

春乙「………」

千足「今のはする流れだっただろ!」


乙哉「だって、ねぇ?」

春紀「あぁ。あんまり変なこと言われたらちょっと吹き出すかも」

千足「………私は、桐ヶ谷にそっくりな子と幸せに暮らす夢を見た」

春紀「……」

乙哉「……」

千足「笑わないでくれるのか。なんだかんだ言っても根は優しいんだな、二人とも」

春紀「笑うっていうか、その……」

乙哉「正直引いた」

春紀「な」

千足「前言撤回」


春紀「だって、夢の中でまで桐ヶ谷って……」

千足「仕方ないだろう……私が見ようと思って見てるわけではないんだ」

乙哉「まぁ、その、ほら、えーと……そうそう、それ言ったら春紀さんも夢の中でまで家族じゃん?」

春紀「あたしのとはワケが違うだろ」

乙哉「まぁね」

千足「武智は途中で諦めるなら中途半端にフォロー入れようとするのやめてくれ、余計つらい流れになる」


乙哉「でもま、春紀さんがあたしらに声をかけた理由はわかったよ」

春紀「あぁ」

千足「次は、何故漫画喫茶なのか、という問題だな」

春紀「いいことを聞いてくれた」

乙哉「しかも部屋ごと貸してくれるなんて、こんなのあるんだね」

春紀「探すの苦労したんだぞ」

千足「気兼ねなく会話をするためか?」

春紀「いいや、違う。また夢の話になるけど、夢の中であたしは友達と狭い小屋のような空間で、身を寄せて寝てたんだ」

乙哉「……?」

春紀「だから、あたしが見た夢と同じような環境で3人で寝れば、何かが変わるかと思って」

千足「なるほど」


乙哉「そのことで思い出した、っていうか言い忘れてたことがあったんだけど」

春紀「なんだ?」

乙哉「あたしの夢の舞台は現代日本じゃないんだよね。もっと昔、わかんないけど江戸時代とかなのかな?町並みが今と全然違うの。
   みんなが着物着てるような時代。もちろんあたしもそうだった。なんていうんだろ、甚平?みたいの着てたと思う」

春紀「!!そうだ、なんで今まで忘れてたんだ……あたしも着てたよ。生田目は?」

千足「二人と同じだ……とするとはやり辻褄が合うな」

乙哉「どういうこと?」

千足「”過去の”過ちを正せ、だろう?」

春紀「確かに、どう考えても夢は今よりも時代的に過去だよな」

乙哉「なるほどね。舞台設定のこと、思い出してよかったー」

春紀「今のはお手柄だったよ」

乙哉「ホント?じゃあご褒美の綺麗なおねーさんは?」

春紀「あんま調子乗ってっと通報すっけど?」


春紀「一応、睡眠導入剤持ってきたけど……いるか?」

乙哉「同じタイミングで寝た方がいいなら飲んだ方がいいよね」

千足「もらえるか?」

春紀「よっしゃ、そうこなくっちゃ。手出せ」サッ

千足「ありがとう」

乙哉「どもー♪……って、ちょっと!」

春紀「なんだよ、個室だからってあまりデカい声出すなよ?」

乙哉「なんだよじゃないよ!なんであたしの薬だけこんな大きいの!?」

千足「アメリカのサプリみたいだな」

春紀「ビタミンB群だぞ、それ」

乙哉「みたいって言うかサプリじゃん!睡眠導入剤ちょうだいよ!」


30分後


乙哉「……」クカー

春紀「武智の寝息がうるさくて寝れない」

千足「私は武智に抱きつかれて寝にくい」

春紀「げっ、抱き枕にされてるのか?」

千足「そうだ………」

春紀「助けたらあたしが抱きつかれそうだからスルーさせてもらうぞ」

千足「あぁわかってる……おい、武智。もう少しそっちに行ってくれ」グイッ

春紀「……そういえば、気になってたんだ」

千足「なんだ?」


春紀「卒業証書もらったときに晴ちゃんに聞いたんだよ、あんたらの近況っつーの?」

千足「寒河江も受け取ったのか。だいたいどれくらい前だ?」

春紀「半年くらい前だったかな」

千足「そうか」

春紀「桐ヶ谷と暮らしてるんだって?」

千足「あぁ、色々あったけど……私には桐ヶ谷が必要らしい」

春紀「ふぅん。ま、元鞘に収まって良かったよ」

千足「……」

春紀「茶化してるつもりはないんだ。ただ、あたしはその劇の頃にはもう居なかったしさ」

千足「そういえば、私達よりも退学が早かったんだったな」

春紀「そ、あたしが消えたのは準備期間のときだったからな。いつも仲良さそうにしてるアンタらの姿しか見たことなかったから、
   何があったか伊介様から聞いたときは驚いたよ。っつか信じられなかった」

千足「そうか。いや、そうだろうな」

春紀「ま、よかったじゃんか」

千足「あぁ。お前らもな」

春紀「な、なんであたしらの話になるんだよ」


千足「私も一ノ瀬に聞いたよ。寒河江と犬飼のこと」

春紀「あたしらは別に。ただ一緒にいるだけだし」

千足「ふふ、そうか。話しているとなんだか眠くなってきたな」

春紀「……あたしもだ」

千足「………」

春紀「生田目」

千足「ん?」

春紀「悪いな、こんなワケわからない事に巻き込んで」

千足「構わない。それに」

春紀「?」

千足「久々にワクワクしてる」

春紀「ははっ。おやすみ」

千足「あぁ、おやすみ」


???


千足『ん………ここ、は……?』

乙哉『わからない……けど、なんか頭いたーい……』

春紀『どこだ?ここ……山……?』

乙哉『なんか、嗅いだことのない臭いがする』

春紀『わかる。嫌な臭いじゃないんだけど、違う国、みたいな』

乙哉『そうそう、そんな感じ』

千足『もしかして、過去に飛んで来たんじゃないか?』

春紀『……まさか、本当に?』

乙哉『でもそれはそれで問題だよ』

春紀『なんでだよ、これで解決のために動けるじゃんか』

乙哉『それはそうだけどあたし達絶対怪しいよ?昔の人がこんな服装みたら外人だと思うよ、きっと』

千足『外人だと思われるならまだマシだ。下手したら妖怪や鬼だと言われる可能性もある』

春紀『……洒落になってねーな、それ』

千足『洒落で言ってないからな』

乙哉『確かに千足さんってなんとなく鬼っぽい』

春紀『な。しかも一番デカイし』

千足『………』

春乙『ごめんって』


ガサッ

春紀『誰だ!?』バッ

乙哉『……女の子だ』

千足『待て、二人とも』

女の子「………」スタスタ

春紀『無視かよ』

千足『あの子には私達が見えていないんだろう』

乙哉『触ったりもできないのかな?』

千足『どうだろう。しかしこうして木や葉っぱには触れることが出来るから、もしかしたら触るくらいは出来るのかもしれない』

春紀『え?あたし触ろうと思ってもスカるんだけど』

乙哉『えー、人によって違うってこと?』

千足『寒河江、触れようと思ってもう一度試してみるんだ』

春紀『?えーと……』ピトッ

春紀『お!触れた!』

千足『つまり触ろうという明確な意志があるときは触れるようだな』

乙哉『なるほど。じゃあ姿を見せたいって強く思ったら見てもらうこともできるかな?』

千足『それは、どうだろう……』

春紀『さっきの子、まだ遠くに行ってないだろ。可哀想だけど色々試させてもらおうぜ』

乙哉『さんせー☆』


春紀『おーい!』

少女「……」スタスタ

乙哉『ちゃんと話し掛けようと思ってる?』

春紀『当たり前だろ。おーい!なんて独り言イヤ過ぎるだろ』

乙哉『じゃあ気持ちが、誠意が足りないんだよ』

春紀『ぶっ飛ばしていいか?』


乙哉『あたしがお手本を見せてあげるよ。……っおーい!そこの女の子!』

少女「……」イソイソ

春紀『……お前のこと無視して薪拾ってっけど』

乙哉『…………』ズゥゥン…

千足『なるほど、声は届かないか。じゃあ、これならどうだろう』ヒュッ!

乙哉『いま何投げたの!?』

千足『?石だ』

少女「いたっ…!?」

春紀『石だ、じゃねーよ可哀想だろ』


少女「……?」キョロキョロ

千足『一応気付かせることには成功したな』

乙哉『そうだね。今度から石投げるようにしようね』

千足『あぁ、我ながらいい案だと思う』

春紀『お前らそれ暴力だからな』


乙哉『あとは、もし使ってる文字が読めるなら手紙で何かを伝えることはできるかも』

千足『しかしみんながみんな文字を読めるとは限らないだろ』

乙哉『あー……義務教育ってすごいね』

春紀『こんなところまで来といて出てくる感想がそれって……』

「やっほー♪こんなところでまたお家の手伝い?」

一同『!?』

春紀『おい、あれって……』

千足『あぁ……間違いない……』

乙哉『あたし……!?』


少女「はい。お父さんが薪を集めてこいって…」

乙哉「そんなの後ででいいよ」

少女「でも」

乙哉「あたしも手伝うから、ね?」

少女「……うん」

乙哉「あたしといいこと、しよ?」

春紀『うわぁー!!』

千足『武智!やめろ!』

乙哉『いやアレあたしじゃないし!!そっくりだけど!!』

春紀『顔も声も言動もそのままお前だろ!』

乙哉『違うよ!あたしそういうのキョーミ無いし!!ロリコンなんかと一緒にしないでよ!!』

千足『武智の趣味もロリコンも犯罪じみてるという観点から言えば大して変わらないな』

乙哉『??つまりあたしの趣味も千足さんの趣味も大して変わらないってこと?』

千足『私はロリコンじゃない!!!』


春紀『はぁー……もういい、とりあえずここから離れるぞ』

ザッザッザッ……

乙哉『そうだね。あんなの見たくないし……』

千足『あの道を下っていけば町に着きそうだな』

春紀『っていうかなんだったんだよ、アレ』

乙哉『なんだったって……アレじゃ夢に出てきたあたしそのものだよ』

千足『!』

春紀『じゃあ夢に出てきたあたし達もいるってことだよな……?』

乙哉『そうじゃない?』

千足『いや、待て。おかしい。武智は夢の中では謎の女の子と一緒に暮らしてるって……』

乙哉『うん、そうだよ。でも外でああいうことしてないとは言ってないじゃん』

春紀『お前ホント根っからのクズだな』

少し出かける

戻った





春紀『なんていうか、ホントこぢんまりとした町だな』

千足『いや、村やちょっとした集落じゃないだけ大きい方だろう』

春紀『そっか。とりあえず、こっちの世界のあたし達を探すか』

乙哉『そだね。……この世界ってなんなんだろう?』

千足『これは憶測だが、恐らく前世じゃないか?あのお告げのような声も言っていただろう。”過去の過ち”と』

春紀『……あぁ。そう考えるのが一番自然だろうな』

乙哉『でもさー、前世って普通、もっと突拍子の無いものだったりしない?』

千足『例えば?』

乙哉『あたしの知り合いは占い師に見てもらって、『あなたの前世は第二次世界大戦前のドイツのとある貧しい家庭の水瓶ね』って言われたことあるらしいよ』

春紀『突拍子無さ過ぎだろ』


千足『でも武智の言うこともわかる。普通、姿形がそのまま生まれ変わるなんて有り得ないだろ』

春紀『そうだな。ま、生まれ変わるっていう考え方自体ちょっと理解し難いけど』

乙哉『うんうん。なんかピンと来ないよね』

千足『私はわりと信じているけどな、そういうの』

春紀『あー……っぽい』

乙哉『ねぇあれ見て!すごい立派なお家!』

春紀『あぁ、あれあたしん家だ』

千足『寒河江……』

乙哉『いいんだよ……そんな悲しい嘘つかないで……』

春紀『違うっての!夢の中で見た家と一緒って意味だよ!っていうかそんな空しくなる嘘つかねーよ!!』


春紀「で?どっか行こうってどこ行くんだ?」

冬香「じゃあおだんご食べに行こ!」

春紀「りょーかい。はは、走るな走るな」アハハ

乙哉『どうしよう、あの春紀さんすごい殴りたい』

春紀『やめてやれよ』

千足『わかる』

春紀『アンタまで共感すんなよ』

乙哉『なんていうか、金持ちの余裕?みたいなものが滲み出てたよね』

千足『あぁ。あの寒河江はカルピスの原液をまるでバニラエッセンスのように数滴水に垂らして飲んだり、そういうことはしないんだろうな』

春紀『あたしはやってるみたいな言い方すんのやめろ』


乙哉『あたしらは透明人間みたいなものでしょ?』

春紀『?あぁ、そうだな』

乙哉『じゃあ春紀さんの家の中見てみようよ』

春紀『別にいいけど、なんか嫌だな……自分の家の中見られてるみたいで』

千足『これは寒河江の家であってお前の家ではない。気軽に考えるといい』

春紀『言ってる意味も理屈もわかるんだけど、覗く側立場の奴にだけは言われたくねぇわ』


乙哉『これってさ、もしかして扉すり抜けイケるんじゃない?』

春紀『はぁ……?』

乙哉『だって触ろうと思わないと物質には触れないワケじゃん?つまり?』

春紀『なるほど、試してみてくれ』

乙哉『………』ペタペタ

千足『どうだ?』

乙哉『ダメ。なんでだろ』

春紀『うーん、ホントだ……。仕方がない、こっそり扉を開けさせてもらうか』


春紀の家


春紀『マジで立派だな』

乙哉『お屋敷!って感じ』

千足『平仮名にしてみてくれ』

乙哉『おやしき!』

春紀『アニメのタイトルっぽくすんなよ』

千足『……あそこにいるの、弟達か?』

春紀『あぁ、そうだ。これだけデカい家なら兄弟がいくらいても問題ないだろうな』

乙哉『兄弟の数も今と変わらないの?』

春紀『それがわかんないんだよな……でもきっと変わらないと思う。あそこで遊んでるのは三男と四男だな』

千足『そういえば、寒河江が見た夢の中では、”友人と雑魚寝をしていた”と言っていたな?』

春紀『あぁ。それがどうした?』

千足『それって寒河江の家の中なのか?』

春紀『そういえば、どうだったんだろう……ついでに探してみるか』


20分後


乙哉『家の中を歩くだけでこんなに時間かかるっておかしいよ……』

千足『本当に立派な家だな……』

春紀『でも、見つからなかったな』

乙哉『そもそも狭い部屋っていうのがほとんどなかったじゃん』

春紀『まぁな……とりあえずここから出るか』

千足『扉の開け閉めには気を付けて、な』

乙哉『あたしずっと気になってたんだけど、歩く度に床が鳴るでしょ?それってみんなにも聞こえてるんだよね?』

春紀『さぁ?でもそうじゃないか?』

乙哉『深夜に忍び込んだら超怖いだろうね』

千足『それで置物なんかを持ち運んだりしたら……』

春紀『洒落にならんな』


街中


乙哉『ねぇ、あたし疲れたよー』

春紀『嘘つくな』

乙哉『あ、バレた?でも歩きたくないっていうのはホント。どっかで休もうよ』

春紀『お前なぁ……』

千足『まぁまぁ。少し休憩にしよう』

春紀『どっか適当なところに座るか』

千足『そうだな』

乙哉『ねー見てー!ここに座ってたらみんながあたしのことすり抜けてくよー!』アハハハ

春紀『元気そうだな。休憩やめるか』

千足『そうだな』

乙哉『待ってよ!!』


春紀『人はすり抜けるのに物は触れるんだもんな、意味がわからん』

千足『しかし最初にきた頃はそれすらも明確な意志がないと出来なかっただろう』

春紀『そうだよな。むしろ物体に触らないようにすることにコツがいるのか?』

千足『なるほど……そこの石で試してみよう』スッ

春紀『駄目だ、やっぱり触れちゃうな』

千足『寒河江も試してみてくれ』

春紀『……』スッ

千足『駄目だな』

乙哉『ねぇ』

春紀『なんだ?』

乙哉『思うんだけど、あたしらに”触らない”ってことはもう出来ないんじゃない?』

春紀『何言ってんだ、現にさっき』

乙哉『それはさっきの話でしょ。もしかしたらこの世界に馴染んできてるんじゃない?』

千足『……その発想はなかったな』

春紀『武智がちゃんと真面目に何かを考えるなんて……』

乙哉『どっかに鋏もしくはそれに準ずるものないかなー』キョロキョロ


千足『しかし武智のその説を前提に考えると、とんでもないことが起こる可能性がある』

春紀『とんでもないことってなんだ?』

千足『どんどんと馴染んでいって、私達の姿が人前に晒されることだ』

乙哉『可能性はゼロじゃないよね。どこでストップするか、もしくはもうストップしてるのかわからないけど』

春紀『でもそうすると相当厄介だな。こっちにはあたしと武智がいる。おそらく生田目もいるハズだ』

千足『本人や知り合いに鉢合わせたら……説明のしようがない』

春紀『だよな。そもそもあたし達が事態をよく理解してないし』

乙哉『ちょっと試してみようよ』

春紀&千足『?』

乙哉『っおーーーーーい!!』

春紀『!?』

千足『大きな声を出すなら先に言ってくれ……!』

乙哉『あはっ♪ねぇ見た?いまあの子供こっち見たよ?勘のいい子には微かに聞こえてるみたいだね』

春紀『……マジかよ』

千足『………これはいよいよマズいな』


乙哉『とにかく!あたしらの当面の目標は”過ち”とやらを見つけて正すこと!』

春紀『あぁ、それも出来るだけ早くな』

千足『具体的に言うと、私達の姿がこの世界の人間に認知されるようになる前に』

乙哉『どうしたらいいのかわからないけど、とりあえずはこの世界の千足さんに会った方がいいと思うんだよね』

春紀『あたしもそれは思った。とにかくあたしらは概ね夢の通りの生活を送っていた。友達としての接点はまだ見つからない』

乙哉『そこなんだよねー。あたしらが友達だったって勘違いなんじゃない?』

春紀『そうか?でもこうして3人まとめてこんな目にあってるんだぞ?』

乙哉『うーん、それはそうなんだけど……』

千足『…めて、……さい………』

春紀『ん?なんだ?』

千足『やめて、ください……この世界の私達に会うのは、本当に……』

乙哉『……会うしかないね』

春紀『おう』

千足『鬼かお前ら!!!』


乙哉『春紀さんは自分の家の外観覚えてたでしょ?』

春紀『?あぁ、見たらわかったよ』

乙哉『千足さんは?家までの道とか覚えてたりしないの?』

千足『そ、そんなの覚えてるワケないだろ。所詮は夢なんだし、その辺りはすごくおぼろ気だ』

乙哉『んー、そっかぁ。それもそうだよねぇ。じゃあこっち行こっかー?』チラッ

千足『………』ホッ

乙哉『違うね、リアクション的にあっちの道だね』スタスタ

春紀『だな』スタスタ

千足『ひ、卑怯だぞ!!』


乙哉『……結構歩いてきたけど、そろそろ民家も少なくなってきたね』

春紀『あぁ、この先には関所?があるんだろ?』

乙哉『だとしたらこれ以上は行き過ぎだよね』キョロキョロ

千足『なぁ、帰らないか?ほら、寒河江を尾行し続ければいいだろう?』

春紀『そこまで見られるのを嫌がってたら気になるのが人の性ってもんだよ』

千足『くそっ!』


乙哉『あ、ここじゃない?』

千足『ちょちょちょ、ちょっと、待ってくれ本当に!』

春紀『なんでこの建物だと思うんだ?』

乙哉『千足さんのリアクション的に。いま確信に変わったよ』

千足『なんで私はこう何度も同じ手に引っかかるんだ!!』

春紀『まぁさ、あたしもアンタも悪には染まりきれないっていうかさ。あんな極悪には敵わんってことだよ』

千足『なるほど……極悪……』チラッ

乙哉『二人ともあたしのこと極悪極悪言い過ぎだからね』

春紀『じゃあお前二ヶ月前までどこに居たか言ってみろよ』

乙哉『刑務所だけど』

千足『罪状は?』

乙哉『殺人』

春紀『人数は?』

乙哉『数えてない』

千足『逆にどこが極悪人じゃないのか教えて欲しい』

春紀『殺した人数は数えてないってやべぇな。幻影旅団かよ』


乙哉『あれ、千足さんじゃない?』

春紀『!?』

千足『頼む!帰ろう!!』グイッ

春紀『あれは……』

千足「柩、今日のご飯もすごく美味しいよ。いつもありがとう」

柩「そうですか?ふふ、おかわりもあるから、いっぱい食べてくださいね」

春紀『気色悪いけど普段のアンタらじゃんか』

千足『おいいま気色悪いって言ったな』

乙哉『気色悪いはさすがに失礼だよ。鳥肌が立つとか、ちょっとオブラートに包まないと』

千足『それ本気でオブラートに包んでるつもりか?』

春紀『鳥肌が立つ』

乙哉『なんで声振るわせてるの?』

千足『それビブラートだからな』


春紀『まぁまぁ、とりあえずもう少し観察しようぜ』チラッ

千足「柩があーんしてくれないと食べれない」

柩「もうっ、千足は甘えん坊なんだからっ」

春紀『うわぁー!!!!』

乙哉『ひょえーー!!!!』

千足『叫び過ぎだろ!!!///やめろ!!!///』

春紀『柩があーんしてくれないと食べれない』

乙哉『もうっ、千足は甘えん坊なんだからっ』

千足『やめろっ!!!!!真似するな!!!////』

春紀『食べれない、じゃねーーーよ』

乙哉『じゃあもう食べなくていいよ』

千足『だから二人には見られたくなかったんだ!!』


春紀『しっかし、あんたはこの家で桐ヶ谷と幸せに暮らしてるだけなのか?』

千足『どういうことだ?』

春紀『いんや。あたしらも随分と平凡な生活送ってたみたいだし。平和なもんだなーって思って』

千足『……ほとんどの人は、きっとこうやって穏やかに過ごしているんじゃないか?私達が特殊なだけで』

春紀『……そうかもな』

乙哉『ねぇねぇ、二人ともなんでさっきからあたしの顔見ようとしないの?』

千足『……………い、いや、シリアルキラーと比べたらただの浮気症くらい、どうってことは』

乙哉『浮気性でしょ!なんか病気みたいな漢字変換やめて!』

春紀『でも止めようと思ってるのにどうしても浮気しちゃうヤツって脳の病気らしいぞ』

乙哉『あたしはそんなんじゃないよ!!』

千足『つまり反省してないんだな』

乙哉『脳が悪いか性格が悪いかみたいな二択良くないと思う!』

春紀『そうだな、脳とか性格とかじゃなくてお前が悪いんだもんな』


千足「眠い……」

春紀『なんか室内の生田目が甘い声出してるんだけど』

千足『イヤな言い回しするな!!』

柩「ご飯を食べたら眠くなっちゃったんですか?じゃあ膝枕してあげますね」

乙哉『うわ』

千足「うん……」

春紀『乗り込んでって棒で殴っていいか、あの赤髪』

千足『気持ちはわかるけどやめろ!!』

乙哉『千足さん本人も春紀さんの気持ちわかっちゃうレベルでアレなんだ』

千足『当たり前だろう!ひつg、桐ヶ谷の膝枕だぞ!!羨ましくないワケないだろ!!』

乙哉『と思ったら春紀さんの気持ち全然分かってなかったこの人』


春紀『うーん、生田目は寝たか』

乙哉『っぽいね。特に変わったことはなかったね。キモかったけど』

春紀『そうだな。何もなかったな。キモかったけど』

千足『何回も言わなくてもいいだろ』

春紀『二人のやり取りを眺めてたらすっかり夜だよ。どうする?』

乙哉『こっちの世界で寝たらあたし達は元の世界に戻れるのかな?』

千足『確かにその可能性もあるな……どうする?』

春紀『うーん……まぁ、試すにしてもまだ早いだろ』

乙哉『でも他に何する?一応三人ともいるのは確認できたけど』

千足『まだやることが残ってるだろ』

春紀『……だな』

乙哉『へ?なになに?』

千足『武智の家探しだ』

乙哉『っあー……』


春紀『よし、武智。場所覚えてるか?』

乙哉『うーん、曖昧でいいなら』

千足『そうか、道案内を頼んだ』

乙哉『おっけー♪じゃ、こっちだよ』スタスタ

春紀『元の道に戻るのか』

千足『私の家が町のはずれにあったからだろう』

乙哉『えーと、どっちかなー。こっちかなー』ザッザッ

春紀『って言うわりには結構迷いなく歩くな』

乙哉『うん!ほとんど覚えてないんだけどね。知ってる道を探してるって感じ』

春紀『お前なぁー……』

千足『まぁいいさ。とりあえず暗くなる前に知っているところに出られれば』

春紀『もう十分暗いだろ?』

千足『これからしばらくすると、家の灯りも消える。暗さはこの比じゃないはずだ』

春紀『なるほどな』


乙哉『うーん、この道かなー?』ザッザッ

春紀『休憩するか?』

乙哉『いや、あとちょっとで思い出せる気がするんだって!』

千足『この看板の案内はどうだ?』

春紀『お、地図か?』

千足『いや、そんな代物じゃない。ただ近所の家の名前が書いてあるだけみたいだ』

春紀『一応見てみるか。武智でいいのか?』

千足『他に心当たりもないしな……あ、寒河江はあるな』

春紀『これはきっとあたしの家のことだな。もう随分戻ってきてるし』

千足『しかし、これに載っていないとすると、また少し歩かないといけないな』

乙哉『待ってよー。この辺りに住んでたような気がするんだって!』

千足『しかし名前がないだろ』

春紀『…………………おい』

乙哉『?』

春紀『まさかとは思うけど、この、剣持って……』

千足『まさか……念のため調べるか……』


乙哉『え、ちょっと待って、なんで剣持って名前を調べるの?それっておかしくない?』

千足『念のため、だ。私は桐ヶ谷と生活していたし、もしかしたら前世に剣持がいてもおかしくないだろう』

乙哉『いやいやおかしいでしょ!千足さん達とあたし達を一緒にしないでよー!』

春紀『なんだ、随分ムキになるんだな』

乙哉『なるよ!違うもん!もっと可愛い子だったもん!』

千足『剣持が聞いたら死ぬかもな』

春紀『そうだな』


千足『でも、そうか。名前は覚えてないけど、その相手の顔は覚えているのか』

乙哉『そうそう、なんとなーくだけど。でも全然違うよ、しえなちゃんより全然可愛いから』

春紀『剣持が可哀想になってきた』

乙哉「いーじゃん、遊ぼーよ」

千足『噂をすれば!』

春紀『ホント神出鬼没だな……っつか、こんな暗がりで何するつもりなんだよ』

乙哉『あたしに聞かれても困るんだけど』

伊介「やーよ。帰んなさいってーの♥」

春紀『伊介様!?』

千足『こ、これは……!』

春紀『………………』

千足『さ、寒河江!しゅんとするな!ほら、元気を出せ?な?………武智!!お前!!』

乙哉『可哀想だとは思うけどあたし悪くないじゃん!!?』


乙哉「ちぇー。ちょっとだけだよー?いーじゃん」

伊介「キョーミないから。おとといきやがれ♥」

乙哉「そんなに春紀さんがいいの?」

伊介「アンタに答える道理は無いわ。あんまりしつこいとアイツにチクるわよ?」

乙哉「何もしてないんだからチクることなんてないじゃん」

伊介「昼間、林道、年下」

乙哉「!?」

伊介「薪拾いに行ったらたまたま見ちゃったんだけど、あれ誰かしらね」

乙哉「っあー……いいよ、今日は大人しく帰る」

伊介「そうしやがれ♥じゃっ」ザッザッ


春紀『………』

千足『さ、寒河江?』

春紀『とりあえず伊介様と武智がそういうのじゃないってわかって、それ以外どうでもよくなった』ポケー

千足『気持ちはわかるけど、早く来い』グイッ

乙哉『せっかくあたしを見つけたのに、また見失っちゃうよー』

春紀『あー、はいはい』スタスタ

千足『寒河江、いま面白いくらいニヤけた顔してるぞ』

春紀『別に!いいだろ!』

乙哉『否定しないところがイイネ!』

春紀『なんでfacebook風なんだよ』


乙哉「……~♪」

春紀『なんか聞いたことない歌歌ってるな』

千足『随分と機嫌がいいようだな』

乙哉『さっき伊介さんと別れるとき、”今日は”大人しく帰るって言ってたよね』

千足『大人しく帰らない日もあるのかもな』

春紀『お前らあたしをしゅんとさせて楽しいか』

乙哉『わりと』


乙哉「たっだいまー♪」

春紀『ここが家か。どうする?』

千足『あっちの窓から見渡せるだろう、移動するぞ』ザッザッ

乙哉『早くどんな子だったか見てみたいなー』

千足『……』

春紀『どうした?』

千足『いや……その、いま、表札に剣持って書いてあった……』

乙哉『』


春紀『武智、お前……』

乙哉『いやいやいや無いでしょ。ちょっとあたし一番見やすい位置で見させてもらうね』ヒョイッ

春紀『好きにしろよ』

千足『念のため、大きな声は出すなよ』

乙哉『出さないよー』

千足『さっき私の家覗いてるときに出してた』

乙哉『あれは千足さんがいきなりあんな甘え方するからじゃん』

春紀『確かに、あれ程の衝撃があるとは思えないな』

千足『私はそこでうずくまって泣いてるから。しばらくほっといてくれないか』

乙哉『嘘だよ!ごめんって!』グイグイ


春紀『おい、姿見えたぞ』

乙哉『うそ!?』

乙哉「ただいまー」

?「おかえり。今日も遅かったんだな」

乙哉「まぁねー。ご飯できてる?」

?「あぁ、ちょっと待っててくれ。すぐに用意する」

乙哉「ありがとー♪」

乙哉『…………ほら!可愛いじゃん!』

春紀『そうだな。可愛いな』

千足『確かにあれは剣持とは明らかな別人だな』

乙哉「何か手伝おっか?」

?「別にいいよ。お前は座ってろ」

乙哉「えー、だってしえなちゃんと早くご飯食べたいんだもん♪」

しえな?「ば、ばか///」

乙哉『』

春紀『』

千足『』


乙哉『待って待ってちょっと待っておかしいじゃんこんなの』

春紀『武智、落ち着け』

千足『しかしあの女性はしえなと呼ばれていたな……何故……』

乙哉『知らないよ……確かに背格好と髪の色と声はそっくりだけど……』

春紀『喋り方もそっくりだろ』

千足『あと性格もそれっぽいと言える』

乙哉『何それ……それじゃしえなちゃんみたいじゃん……』

春紀『現実を見ろよ』

乙哉『あたしらが見てるのは夢だよ』

千足『ややこしくなる掛け合い禁止』


春紀『………いま気付いたんだけど』

乙哉『どうしたの?』

春紀『あれ剣持だ』

乙哉『それが発覚したからさっきからこんな混乱してるんじゃん!』

春紀『いやいや、よく見てみろ。剣持が眼鏡をかけずにいたら?みつあみじゃなかったら?』

千足『なるほど……確かにな……』

乙哉『…………………………あ』

春紀『な?』

乙哉『ホントだ、あれしえなちゃんだ……』

千足『武智の家についてからの流れを剣持が見たらどうなるんだろうな』

春紀『とりあえず泣くだろうな』

乙哉『あたし殺されそうだから逃げるね』


乙哉「しーえーなーちゃんっ」ギュッ

しえな「こ、こら。黙って座ってろ///」

乙哉「えー、あたしお腹減ってるのにー」

しえな「どういう意味だよ……///」

乙哉「んー?色んな意味だよ?早くご飯食べて遊ぼうよ。ね?」

しえな「………///」

春紀『おいあのジゴロつまみ出せ』

乙哉『あそこあたしの家なんだけど』


春紀『大体、明るい時間に年下の子食ってたろ。何がお腹減ってるのにーだ』

千足『ホントそれ』

乙哉『確かにそれはあのあたしが悪いと思うけど、お願いだから千足さんはそんな俗っぽい相づち打たないで』

春紀『で?ここにいたらアンタと剣持のソレを目撃することになるのか?』

乙哉『うーん、そうじゃない?なんか変な感じ、あたしがエッチするなんて』

千足『えっ……///こ、こら、そういう言い方は……///』

春紀『ウブだな、アンタ』

乙哉『どうせやることやってるのにー』アハハ

春紀『おい、言ってやるなって』

千足『私達でそういう想像するな!!こら!!///』

乙哉『でもしてるでしょ?千足さんの中指と』

千足『武智の艦これのデータバグって艦娘全員轟沈すればいいのに』

乙哉『ひどくない!!?』


春紀の家


乙哉『とりあえず戻ってきちゃったけど……』

千足『あぁ、今までの情報を整理して作戦を立て直そうか』

春紀『お前らなんであたしの部屋で落ち着いてんだよ……』

乙哉『春紀さん、それは違うよ。ここはこの夢の世界の春紀さんの部屋、間違えないで』

春紀『どっちにしてもお前にここでくつろぐ権利はねーよ』

千足『まぁまぁ。せめてこの世界の寒河江が帰ってくるまでの間は?な?』

春紀『ったく……』

乙哉『ねぇ、どうする……?部屋に戻ってきた春紀さんが伊介さん連れてて、そこの布団で……』

春紀『ぶっとばすぞ』

千足『……』ゴクリ……

春紀『アンタも”ゴクリ……”じゃないんだよ』

千足『いや……それならまだいい……一人で帰ってきて、一人で……』

乙哉『うわっ……それやばすぎ……』

春紀『お前らの喧嘩は拳で買うからな』


しばらく後


春紀『帰ってこねーな、あたし』

千足『あぁ……』

春紀『もう30分は経つんじゃないか?』

乙哉『うっそ……30分前にされたげんこつまだ痛んでるんだ、あたし……』

千足『私もだ…』

春紀『言っとくけどお前らの自業自得だからな』


乙哉『今日は伊介さんのところに行ってて帰ってこないんじゃない?』

千足『そうかもしれない』

春紀『……実際はどうであれ、帰ってきてないのは事実だ。今後どうする?』

乙哉『そうだね。……ねぇ、あたし達って、寝れると思う?』

春紀『は?』

乙哉『あたし達は寝て、夢を見て、ここにいるでしょ?二人はどう思う?』

千足『そうだが……?あぁ、なるほど』

春紀『確かにな。寝たら今度は現実に戻るのかも』

乙哉『可能性としては考えられるよね。多分ないと思うけど』

春紀『ないって、なんでそう思うんだよ』

乙哉『なんとなくかなー。千足さんは?』

千足『私もなんとなくだが、この世界から抜け出すことはない気がする』

春紀『……まぁ、そういう勘は大体当たるもんさ』


乙哉『あたし達3人の暮らしぶりは大体わかったよね』

春紀『あぁ、あと時代設定というか、町の雰囲気もな』

千足『あとは、過ちとやらを見つけるだけだ』

春紀『その為にはきっと、あたし達の共通点を探さなきゃいけない』

乙哉『だね。大体の事情はわかってきたけどさ、まだわからないことが一つあるんだよね』

千足『なんだ?』

乙哉『ほら、あたし達3人でどっかで雑魚寝してた気がするって、言ってたでしょ?それに合わせてわざわざ漫画喫茶借りたし』

春紀『……!確かに、あれがどこなのか、まだ判明してないな』

千足『二人とも!!』

春乙『!?』

千足『明日にしよう、眠い』

乙哉『この人こんな勝手な人だっけ』

春紀『げんこつ追加しような』ニッコリ


深夜


ゴゾゴゾ

乙哉『うん……?』

ゴゾゴゾ…

乙哉『……?泥棒……?』

乙哉「おっじゃまーっ♪」

乙哉『あたしじゃん!…ちょっと!二人共!起きて!』

春紀『なんだよー…』

乙哉『ねぇ!あれ!』

春紀『んー…?』

千足『やはり、起きても夢の中、か……』ムクッ

乙哉『それは今はいいから!あれ見て!』

春紀『まだ暗いな、寝直すか…』

乙哉『泣きそう』


乙哉「んー…いない、か。先に行ってるのかな」

千足『おい!寒河江!武智!あそこに武智が!』

春紀『何!?』

乙哉『二人共、あたしをいじめて楽しい?』


春紀『なぁ、先に行ってるって、どういう意味だ?』

乙哉『さぁ…?』

千足『これは後をつけるしかないな』

春紀『だよな。にしても、なんであたしの家に武智が?』

乙哉『きっとついてったらそれもわかるよ!』

千足『よし、行こう』


町のはずれ


春紀『こんなところまで来て、何をするつもりだ?』

乙哉『さぁ?でも、向こうに小屋みたいのが見えてきたよ』

千足『そういえば……!』

春紀『どうした!?』

千足『私達、この世界に来てからトイレに行ってないな』

春紀『どーでもいいわ』

乙哉『思わせぶりな態度取って内容がそれって』


乙哉「……」スタスタ

千足『どうやらあの小屋に用事があるようだな』

春紀『あぁ。さっきの、先に行ってるって…もしかして、あそこにあたし達もいるのか?』

乙哉『じゃない?多分。何のためにかは分からないけど』

千足『間違いないだろう。あの建物、見覚えがある。夢で見た気がするんだ』

春紀『さらっと重要なこと言ってんじゃねぇよ』

乙哉『トイレのことよりもそれを先に言ってよ』


ガラッ

乙哉「いるー?」

春紀「おせーーーーぞ」

千足「全く、何時間待ったと思ってるんだ」

春紀『数時間単位で待たせるってすごいな』ジトー

乙哉『あたしじゃないもん!』

春紀「いや、何時間も待ってないだろ」

千足「柩と離れてる時間は1秒が5分くらいに感じるんだ」

春紀『なんだあいつ』

乙哉『時の狭間的なところを永遠に彷徨えばいいのに』

千足『言いすぎだ!』

寝る。おやすみ

帰ってきた
頑張る


乙哉『で、やっぱり3人いたわけだけど』

春紀『だな。……それにこの場所』

千足『あぁ、私達が雑魚寝していた場所というのは、ここのことだろう』

乙哉『狭くて殺風景で……うん、間違いないよ。ここはきっとあたしらのたまり場』

春紀『昼間は全く関わってなかったくせに、なんで夜になって……』

千足『それは……こいつらを観察していればわかるだろう』

春紀『……だな』

乙哉「今日は何してたの?」

春紀「別に、適当にくっちゃべってただけだよ」

春紀『適当にくっちゃべる……?生田目と……?』

千足『違和感があるのはわかるが、そんな驚き方されると傷つく』


春紀「千足がさ、また例の彼女に一緒に住もうって言われたらしいぜ」

乙哉『え……』

春紀『おい……いま……』

千足『あ、あぁ……一緒に暮らしていると思っていたが、通い妻のような状態だったのか……?』

乙哉『いやそれはどうでもいいんだけど、春紀さん、千足さんのこと……千足って……』

春紀『あぁ……驚いたな……まさか下の名前で呼び捨てなんて……』

千足『そっちの方がどうでもいいことだろう!?』


乙哉「あ~、柩ちゃんだっけ?もうさ、千足も覚悟決めなよ~」

乙哉『千足……あたしまで呼び捨て……!?』

春紀『おいおい……マジかよ……』

千足『お前ら』

千足「……柩と暮らすと、もうここには来れなくなるだろう」

春紀「そうか?女と暮らしてても抜け出すくらいできるだろ。乙哉もそうだし」

乙哉「そうだよー余裕だよー」

春紀『なぁ……今の聞いたか……?』

乙哉『う、うん……』

千足『まさか寒河江が武智を下の名前で呼ぶなんてな!』

春紀『いやそれはどうでもいいんだけど。武智は一応剣持と暮らしてるんだな』

乙哉『ね。千足さんのところみたいに通ってるのかと思ってた』

千足『なぜだ!扱いが違う!』


千足「抜け出すのは無理だろう」

春紀「なんでだよ」

千足「私は乙哉みたいに要領がよくないし、柩も乙哉のところみたいに鈍感じゃない」

乙哉「あ~……まぁしえなちゃんはちょっとアレだからね~……」

春紀『あいつこの時代でもそんな扱いなのかよ』

乙哉『しかもあたし浮気しまくりだしね』

千足『私が剣持なら転生せずに魂の輪廻をそこで終わらせると思う』


乙哉「でもまぁ、そういうことね」

春紀「なにがだ?」

乙哉「入ってきたときに二人ともちょっと浮かない顔してたからさ」

春紀「そんな顔してたか?」

乙哉「してたしてた。で?どうするの?」

千足「……散々先延ばしにしてきたからな、これ以上は無理だ」

春紀「だろうな。いい加減にしないと、愛想尽かされてフラれるって」

千足「いや私達の愛はエターナルだからそれはない」

春紀「何言ってんだこいつ」

春紀『何言ってんだあいつ』

乙哉『あの千足さんも来世の春紀さんにまで同じこと言われてるとは思ってないだろうね』

千足『私もあそこにいるのが赤の他人のような気がしている』

春紀『来世の自分にここまで言われるってすごいな』

乙哉『っていうかこの時代に生きててエターナルなん言葉よく知ってたよね』


千足「残念だけど、お前達とも潮時だな」

乙哉「えーそんな寂しいこと言わないでよー」

春紀「……いや、千足の言う通りだ」

乙哉「春紀まで何言ってんのー?」

春紀「………乙哉」

乙哉「やー……わかってるけどさー……」

乙哉『この人達って友達同士だよね?』

春紀『あぁ。おそらくな』

千足『私もそこが引っかかっていた。ただの友達なら昼間に会えばいいのに、と』

乙哉「そりゃ彼女ちゃんには言えないよねー、あたしらとつるんでる、なんてさ」

春紀「トーゼンだろ。あたしが千足だったとしても黙ってるよ」

千足「……すまない」

千足『事情があるんだろうけど……なんだろうな』

春紀『武智が浮気性のキチガイだからじゃないか?』

乙哉『いやいや違うでしょ、春紀さんが札束ちらつかせるインキンタムシだからでしょ』

千足『お前ら仲悪いのか……?』

春紀『インキンタムシってなんだよ殺すぞ』


春紀「で?その返事はいつするんだ?」

千足「明日、しようと思う」

乙哉「そっか……じゃあこれからはあまり頻繁には会えなくなるね」

千足「たまに、こっそり会いにきてもいいか?」

春紀「あのなぁ。ダメなんて言うわけないだろ」

乙哉「そうそう、いいに決まってんじゃん」

春紀『3人とも、寂しそうだな……』

乙哉『付き合い長いっぽいし、しょうがないんじゃない?』

千足『こうしてみると、ただの友達、だな。最初に感じた違和感が嘘みたいだ』

春紀『あぁ、そうだな』

乙哉「懐かしいなー……思えば三人で色んなことしたよね……窃盗とか」

春紀『おいコイツら悪党だぞ』

千足「チンピラを半殺しにしたこともあったな……ふふ、懐かしい」

乙哉『美しい思い出のように振り返ってるけど思いっきり血が流れるからね』

千足『前世は平和に生きてると思っていた私が間違っていた』


春紀『もうだめだ、こいつらはあたしらの手に負えない』

乙哉『まぁまぁそう言わずに、ね?』

春紀『だって、考えてみろよ。過去の過ちを正させるためにあたしらはここにいるんだぞ?で?こいつらの話聞いてたら過ちだらけじゃんか』

乙哉『それね』

千足『武智はフォローの匙を投げるのが早すぎだって言ってるだろ』

乙哉『だって……チンピラ半殺しって……よくみたらこの三人もチンピラみたいじゃない……?』

千足『それは思ってた』

春紀『武智のこと言えねぇよアンタ』


乙哉「そうだ。最後になるならさ、あそこ行こうよ。ずっと引っかかったんだよね」

春紀「あそこって?どこだ?」

乙哉「結構前の話だけどさ、千足が腰抜かして引き返した神社あったじゃん」

春紀『……過去のお前が爆弾級のフラグを立てたワケだけど?』

乙哉『あたしに聞かれても知らないよ!?』

千足『私はあまり霊的なものは信じていないんだが……昔の私はこういうの怖がるのか』

千足「肝試しならいくらでも付き合うが、あそこはダメだ。見ただろう?いきなり体に衝撃が走って動けなくなったんだ」

春紀『霊的なものにビビらない奴が動けなくなるってガチでヤバいやつじゃんか!』


乙哉『ねぇ、もしかしなくてもだけど、これからあたし達そこに行って何かやらかすんじゃない…?』

千足『……そんな気しかしない』

春紀『くっ……!なんでもいい!あいつらをビビらせてそこには行かないように仕向けるぞ!』

乙哉『壁を叩くのとかどうかな!』

春紀『なるほど!あたしがやる!』バァン!!バキィッ!!

一同「!!?!?」

春紀「お、おい……なんだ、いまの……」

千足「壁に……穴……?」

乙哉『やり過ぎだよ!』

春紀『あたしだってまさか腕が貫通するとは思ってなかったっての!』


千足『扉を開けたり閉めたりするのはどうだ!?』

春紀『いいな!霊っぽい!』

千足『よし!』バタンバタンバタン!!

乙哉「今度は何!?」

春紀「風もないのに……扉が……!!」

千足「嘘だろ……?」

乙哉『いい感じ!みんなビビってるよ!』

春紀「あたしらがそこに行こうと話し始めたら急に……」

千足「これは……つまり………」

乙哉「歓迎されてるね!!!」

春千「あぁ!!」

春紀『バカかお前らはー!!!!!』


乙哉「そうと決まれば善は急げだよ!今すぐいこう!」

春紀「おう!」

千足「気が進まなかったけど、歓迎されているならしょうがないな!」

春紀『バカって………疲れるんだな………』

乙哉『そのうちの一人は前世の自分だからね……』

千足『せめて私はまともだと思っていた……』

春紀『残念だったな…あの三人組にバカじゃない奴はいない……』

乙哉『ついてくしかない、よね……?』

春紀『あぁ、それしかないだろ』

千足『はぁ………』


夜道


春紀『透明人間だと尾行するの楽だな』

乙哉『あたしもそれ思ってた』

千足『こんな真後ろ歩いてもバレないなんてな』

乙哉『この三人、どういう間柄だと思う?』

春紀『友達なのは間違いないけど、もうちょっと詳しく言うなら悪友って感じだな』

千足『阿久悠……?』

春紀『急に作詞家の話をすると思うか????』


千足『悪友、か……確かに、それが一番近い表現かもな』

春紀『あぁ。もしかしたら3人は悪評高くて、昼間からつるんでると目立つから夜しか会わないようにしてるのかもな』

乙哉『可能性はあるね。だとしたら柩ちゃんが千足さんをあたし達に会わせたくないってのもわかるし』

千足『前世の私は随分と尻に敷かれているな』

春紀『なんで前世の私は、って限定した?』

乙哉『今は尻に敷かれていないとでも?』

千足『武智はともかく寒河江には言われたくない!』

春紀『別に敷かれてねーーーーし!!』

乙哉『二人とも敷かれてるから静かにして』


乙哉「さってと。やっと山の入り口についたね…。準備はいい?」

春紀「あぁ。っつっても大して距離ないだろ?」

乙哉「多分ね。千足は?体は今のところ平気?」

千足「問題ない。ただ……」

春紀「どうした?」

千足「これで最後だと思うと、やはり寂しいな」

乙哉「……仕方がないよ。だからさ、ちゃんと終わらせようよ」

春紀「あぁ、そうだな…」

春紀『もしかして、何か事情があるのか?』

乙哉『きっとそうだよ。前にも来たって言ってたし。冷やかしじゃなくてちゃんとした目的があるんじゃないかな』

乙哉「いわくつき物件巡り!ここ行ったらこの辺のは全制覇だよ!」

春紀『よくわからんがあいつらが地雷原を素っ裸でダッシュしてきたのはよくわかった』

乙哉『この人達の過ちを正すのにここからスタートで本当にいいの?』

千足『いっそ生まれた頃に戻してもらって育て直した方がいい気がしてきた』


ザッザッ……

春紀「そういえば、この小さな山、一応名前あるんだろう?」

乙哉「うん、あるよー」

千足「へぇ、なんて言うんだ?」

乙哉「ムザンっていうらしいよ。漢字は分からないけど、夢に山でムザンかな?」

春紀『無惨が由来じゃないだろうな、まさか』

乙哉『それはちょっと考え過ぎだよ~。ほら、あたし達に夢に出てきて始まってるじゃん?だから、やっぱり夢山でいいんじゃないかなぁ」

乙哉「ちなみに神社は呪怨憎苦妬殺神社って名前だよ☆」

春紀『あいつ今アレどうやって発音した!?』

千足『完全にヤバいところじゃないか!!』

乙哉『これは無惨由来ですわ』

春紀『武智が驚きのあまり妙な口調に!』


春紀「なんかヤバそうな名前だな……」

乙哉「でしょ?でもあたしら歓迎されてるし大丈夫だよ」

千足「だな」

春紀『バカって幸せだな』

千足「あ、あれじゃないか?」

千足『なんだあの無数のお札は!!?!?』

乙哉『っわー………さすがのあたしでもちょっと引くかもー……』

春紀『ヤバい、ヤバ過ぎるぞ』

乙哉「なんか包帯でぐるぐる巻きにされてるみたいな建物だね」

春紀「おっ、上手いこと言うね」

千足「早く中を探索するぞ」

春紀『臆せず入って行くぞ、あいつら……』

千足『………』

乙哉『気味悪いからここで待ってようよ……』

春紀『気持ちはわかるけどなぁ……ダメだ、いくぞ』


乙哉「カギ掛かってるよー……」ガチャガチャ

春紀『よかった……あいつら、建物の中には入ってないみたいだな』

春紀「でもそれボロボロじゃん、適当にガチャガチャやってたら開きそうじゃないか?」

春紀『なんでそんな粘ろうとするんだよ諦めて帰れよ』

千足「鍵穴に差し込むものが必要なら針金を持ってきているぞ」

乙哉『千足さんだけは信じてたのに』


乙哉「一応試してみるから貸して」

千足「あぁ」スッ

春紀「どうだ?」

乙哉「さー?」カチャカチャ……

千足『これで開かない→帰る、という流れに』

ガシャンッ

千足『は……ならない、か……』


乙哉「やった!開いたよ!試してみるもんだね!」

春紀「やっぱ歓迎されてるんだよ、あたしら」

千足「そういうことになるな」

春紀『ならねぇよ帰れよ』

乙哉「おじゃましまーす♪」ギィィ……

春紀「はへー、真っ暗じゃんか」

乙哉『部屋の真ん中に何か置いてあるよね……?』

千足『あぁ……にしても、部屋の中にまでお札が貼り巡らされているようだな……』

春紀『もうヤバくない箇所がないだろ、これ』


千足「明かりをつけるから待ってろ」

春紀「さっすが、気が利くね」

ボッ…

千足「これでいいだろう」

乙哉「あ、ほら!なんかある!」

春紀「ホントだ……箱?」

乙哉「あー……これ、そっかー……なるほどねー……」

千足「どうした?」

乙哉「んー……」

春紀『……こいつ、絶対何か事情知ってるな』

乙哉『言い渋ってるみたいだけど……なんだろ?』


乙哉「なんでもないよ」アハハ

春紀『言えよ!』スパン!

乙哉『いったぁ!?なんであたしのこと叩くの!?』

春紀『あっちの武智には手を出せないから』

乙哉『澱みない澄んだ瞳で言わないでよ』

春紀「なんでもないはないだろ。言えよ」

春紀『ナイスあたし!』

乙哉『自画自賛してる春紀さんちょっと可愛い』

千足『あぁ、ちょっとな』

春紀『うるせぇよ、あとちょっとって言葉強調すんな』


乙哉「やー…実はこの箱を開けると呪われる?とかなんとか」

春紀「どういうことだ?」

乙哉「さぁ……?あまりにも禍々しい見た目とこの神社の名前にそういう噂が立ったんじゃないかな?」

春紀「なるほどな。ま、今までもそんな物件は色々あったよな」

春紀『こいつら百戦錬磨なオーラ出しやがってムカつく』

乙哉『いわくつき物件百戦錬磨とか迷惑過ぎるよね』


乙哉「ねぇ、中身見てみようよ!」

春紀『こういうこと言う人ってホラー映画とかだと最初に死ぬよな』

千足『思った』

乙哉『フォローできなくてつらい』

千足「そこまでしなくていいんじゃないか…?」

乙哉「えー!しようよ!中に何が入ってるか気になるし!」

春紀「はぁー……ったく、しょうがないな。とっとと済ませて帰ろうぜ」ベリッ

春紀『おいやめろあたし!コラ!』

乙哉『ね、ねぇ……あれ……』グイグイ

春紀『なんだよ!今それどころじゃ…』

乙哉「~~~♪」ビリビリビリ……

春紀『剥がすだけでも罰当たりだってのに……破ってる、だと………?』

千足『あいつの頭の中にはプリンでも詰まっているのか……?』

乙哉「剥がそうって言ったけど、蓋に沿って破った方が早いよね~♪」

乙哉『この人バカ過ぎてヤバい』

春紀『お前の前世だよ』

眠い。寝る

帰ってきた


千足『くっ……こうなったら……!』バァン!!

一同「!!?!?!?」

千足『さっきと同じように、物音を立てて気をそらすしかない……!』

春紀『武智!その隙に箱をどこか安全なところに移動させろ!』

乙哉『って言っても、びくともしないよ…!春紀さんも手伝って!』

乙哉「ねぇ今の音って?」

春紀「また歓迎された……とか……?」

乙哉「かな…?」

千足「なんか……違う気がしてきた……怒ってるんじゃないか……?」

春紀「怒ってる……?なぜだ……?」

春紀『勝手に鍵壊して侵入してお札ビリビリに破いて封印解かれたら誰だって怒るわ!!』

乙哉『それよりも力入れてる!?全然持ち上がらないんだけど!?』

春紀『お前こそさぼってんじゃないだろうな!?』

千足『ちっ……とにかく物音を立てて時間を稼ぐんだ…!』バンバン!!

「誰かいるのか!!!」

一同「!?!?!」


男1「うをっ!?誰だてめぇら!!」

男2「クソガキが……!!どうやって入った!!」

春紀「……!!」

乙哉「なにこれ、予想外の展開じゃん」

千足「まずいな、刀を持ってる」

男3「あっ……あっ…あぁ……!!てめぇら!!!よくもその箱を!!!!」

男1「なぁ~にぃ~!!!?」

乙哉「私は止めた方がいいって言ったんですけど二人が!!」

春紀「はぁ!!?」

千足「お前が開けたいって言ったんだろう!?」

春紀『………相変わらずなんだな、お前』

乙哉『前世から変わらないってある意味すごいよねー?磨きあげられた個性?みたいな?☆』

千足『私たちの巻き込まれ方もなんていうか……相変わらずなんだな……』

春紀『……悲しくなってきた』


春紀「とりあえずズラかろうっ!」ダッ

乙哉「だね」ダッ

千足「つけられると面倒だ、山を下りたら回り道して帰ろう」

男1「待て!!!!ぶっ殺すからな!!覚悟しろ!!!追え!!追えー!!」

男23「うぃっす!!!」ダッ

春紀『……で、どうする?』

乙哉『うーん……一応ついてく?』

千足『それがいいかな』

春紀『にしても……』クルッ

乙哉『?』

春紀『いんや。蓋、結局開いちまってる』

乙哉『ホントだ。よくみたら、少しだけズレてるね』

千足『そうだな。せめてあいつらに触れられる状態だったら、止めれたかもしれない』

春紀『……これが過ち、なのか?』

乙哉『さぁね。でも、これが相当ヤバいことだっていうのはわかるよ』

『その通りです』

一同『!?』


『前世のあなた方が封印を解かなければこんなことにはならなかったのです』

乙哉『この声……夢で聞いた声だ……』

千足『……あぁ、間違いない……』

春紀『箱の中から、聞こえる……?』

『覗いてはいけません』

春紀『……わかったよ、中身は見ない。ただ、蓋が少しずれているから直しておく』

『……』

ズズズ……

春紀『ほら、何もしなかったろ?』

『……あなた方をこの世界に招いたのは他でもない、私です』

乙哉『ここまで来て違うって言われたら超面白いけどね』アハハ

春紀『黙ってろ』


『あなた方はこの箱の封印を解いてしまった』

春紀『正確には前世のあたしらが、な。文句ならあいつらに言ってくれ』

『私の声はあなた方にしか届かないのです』

乙哉『じゃああたしらがなんとかしなきゃいけないってこと?』

『もちろんです、その為にあなた方を呼んだのですから』

千足『……どうすればいい?』

『……再びこの箱を清めた札で、正しい手順で封印してください。いいえ、させてください。過去の、あなた方の手で』

春紀『なるほど……解いた奴がやらないとダメなんだな』

『それでは……よろしく頼みます……』


春紀『……』

乙哉『……』

千足『……』

春紀『言いたいことがあるのはわかってる。とりあえず山を下りよう』

乙哉『りょーかい』

千足『私も賛成だ。それにあのヤクザ者のことも気になる』

春紀『……だな』


明け方 道端


春紀『あいつら、上手く逃げ切れたのかな』

乙哉『まぁ大丈夫なんじゃない?』

千足『なぜあんな奴らが神社なんかにいたんだろうな』

春紀『さぁね。わからんことだらけだ』

乙哉『ただ、一つ、わかってることがある』

千足『?』

乙哉『この世界からの帰り方だよ!あの箱をまた封印すればいいんでしょ?』

春紀『だな。正確には封印させれば、な』

千足『その為にはあの三人が無事に戻っていることが絶対条件になる』

乙哉『そうだね。まずはあの小屋に戻って三人の様子みよっか』


春紀「……」クカー

乙哉「……」スピー

千足「すやすや」

千足『なんで私だけすやすやって口にしながら寝てるんだ』

乙哉『でもま、上手く逃げ切れたみたいだね』

春紀『あぁ、とりあえず一安心ってとこか』

乙哉「んん……いま、なんじ?」

乙哉『あ、おきた』

春紀「……」

乙哉「ねぇってば!」バシンッ!

春紀「いった!!?」

春紀『あたし可哀想』

乙哉「ねぇ!そろそろ戻んないとまずくない!?」

春紀「はぁ……って、もう外明るいじゃんか!帰るぞ!」

乙哉「千足どうしよう!?起きないんだけど!放置でいっか!」

千足『よくないだろう!?』

春紀「そうだな!」

千足『おい!!』


町 広場


乙哉『色々あったけど、とりあえず情報を整理しよっか』

春紀『あぁ。まず、あの箱の存在だな』

千足『あの箱を封印させるようにすること、それが私達がここに呼ばれた理由だったな』

乙哉『うん。姿が見えないこの状態で。どうにかしてあの3人に封印させなきゃいけないんだよ』

春紀『そんであの3人は生田目が桐ヶ谷と暮らすようになるから、頻繁には会わなくなる』

乙哉『まずはどうにかして3人を会わせて、現地に向かわせないとね』

春紀『骨が折れそうだな』

千足『しばらく会えなくなるかもしれないのに、あんなバタバタした中で放置されることになるとはな』

乙哉『あたしもそれ思った』

春紀『抜け出してるのはバレると都合が悪いんだろ、三人共。それにしても、あの箱はなんなんだろうな』

乙哉『うーん……チンピラっぽい人達がいたのも気になるよね』

千足『そういえばその問題もあったな……三人が箱に近づく障害になりそうだ』


春紀『あいつら、あの箱を守っていたようにも思えないか?』

乙哉『あたしも思った。あの人達が箱の持ち主なのかな?』

千足『可能性はあるな。というか封印し直すって、具体的にどういう風にすればいいんだろうか』

春紀『はぁー……めんどくせぇ?……』ジロッ

乙哉『ホントだよ~困っちゃう』

春紀『騒動の言い出しっぺ誰だったか思い出せよ』

乙哉『あ、見て。蝶々』

春紀『話を聞け!!!』


千足『箱の封印方法についてはあのチンピラ、もしくはその仲間を探して、それを辿れればもしかしたら……。あの一味に何か共通点があればいいのだが…』

乙哉『もしかして腕の刺青のこと?』

春紀『そんなのあったか?』

千足『いや、わからない』

乙哉『あったよー!みんな左腕に刺青してたって!』

春紀『よく見てなかったな…というか見えなかった、というべきか…夜目が利くんだな、あんた』

乙哉『この目は血まみれになるお姉さん達の姿を最後まで見届けるためによぉく見えるようになってるからね!』

春紀『赤ずきんちゃんに出てくる狼かよ』

千足『”本当は怖い童話”よりも怖い』


千足『しかしその話が本当だったとしたら、随分とわかりやすい目印になるな』

乙哉『この町にいてくれると助かるんだけど……って、ちょっと!』

春紀『おいなんだよ』

乙哉『あれ見て!』

春紀『あぁ、蝶々だな』

乙哉『あー!さっきの根に持ってる!!』


千足『あれは…!』

春紀『おいどうした?本当に何かあるのか?』

千足『あの男達を見てみろ』

春紀『……?』チラッ

乙哉『ね!?あれだよ!あの刺青だった!』

春紀『でも、神社にいた連中とは人相が違う気がするんだけど……』

乙哉『構成員がたくさんいるんだよ、きっと。何かの組織なのかもね。本当にヤクザかも』

千足『とすると……この時代の私達は随分と面倒な連中に喧嘩を売ったことになるな』

春紀『だな……』

乙哉『あちゃー……』


男A「……なぁ、聞いたか?」

男B「何がだよ」

男A「深夜の話だよ」

男B「そのウワサで持ち切りだったな、事務所」

男A「なんだ、知ってんのか」

男B「馬鹿野郎、例えウワサ話だったとしても聞きたくねぇからこうやって見回り名乗り出たんだよ」

男A「……つまり、何かあったのは察しているけど、内容は知らないんだな?」

男B「あぁ。言うなよ?聞きたくねぇんだから」

千足『……とりあえずつけるか?』

春紀『しかないだろ』スタスタ


男A「なんでそんなビビってんだよ」

男B「お前もバカか。俺は面倒事には関わりたくねぇんだよ」

町娘「あっ、この間はどうも」

男A「おっ、嬢ちゃん!あれから変わりねぇかい?」

町娘「はい!その節はありがとうございました」

男A「おぉそうか!なんかまたなんかあったら言えよ!んじゃな!」

男B「……なんだ?あの女」

男A「そこの角の団子屋の娘だ。こないだ無銭飲食で揉めててな」

男B「なるほど、それで呼ばれたってことか」

男A「おうよ」


乙哉『……ねぇ、この人達、悪い人じゃないんじゃない?』

春紀『そうか…?』

乙哉『だってさー、話聞いてると町の保安に務めてるみたいじゃん』

春紀『単純にその団子屋がシノギなんじゃねーの』

千足『私も武智と同意見だ。シノギかどうかは置いておくとして、あいつらが心から感謝されているのは見てわかるだろう』

春紀『そりゃそうだけどさ』

男A「だけど俺が行ったときには決着ついてたんだよなー…」

男B「は?」

男A「長髪の女が無銭飲食した野郎をとっちめたらしい」

男B「マジかよ」

千足『さて、二人のうちどっちの話だろうな』チラッ

春紀『なんであたし達の話になるんだよ!?』

乙哉『そうだよ!!あたし達は関係ないじゃん!?むしろここであたし達が出てくる方が不自然っていうか』

男A「しかも、噂だとさっき会った看板娘もそいつに食われたとか……」ハァ…

男B「そりゃ……気の毒にな……」

春紀『あっ武智だな』

千足『そのようだな』

乙哉『これで違ったら二人に土下座してもらうからね!!?』


春紀『あたしらならまず、長髪よりも先に赤髪って言われるだろ』

千足『だろうな。あと、どちらかというと長髪よりかは長身が先にきそうだ』

乙哉『うっ…確かに……』

春紀『……なぁ、この世界で、あたし達以外に赤髪っていたか?』

千足『?いいや、見ていない』

乙哉『……それってさ、すごく目立つってことだよね?』

春紀『……もし、あの男達が、いや、あの刺青入れてる連中全員があたしらのことを探したとしたら?』

千足『秒速で発見されるだろうな』

乙哉『……』

春紀『……』

寝る
おやすみ

帰ってきた


乙哉『待って待って、よく考えよう?だってさ、暗かったじゃん!髪の色までわからないかもよ?』

千足『私達があの神社を出る頃には、空は少し明るかった。確かに見にくい状況ではあったが……どうだろうな』

春紀『胃が痛くなってきた』

千足『それに、髪の色がわからなかったとしても、性別と背丈は確実に向こうに知られてしまっているだろう』

乙哉『あっ……』

春紀『あたしがあの刺青の集団だったとしてもソッコーで見つけ出せる自信あるわ』


男A「ま、見回りはこんなもんかな。あとはあの神社か」

男B「あぁ……って、はぁ!?俺は行かねーぞ!」

男A「はぁ?見回り名乗り出ておいてあの場所に行かないなんて許されると思ってんのかよ」

男B「いつもはしていないだろ!それに遠過ぎる!わざわざ行ったところで」

男A「蓋、開けられちまったらしい」

男B「……!!?」

男A「親方様の命令だ。俺達が状態を確認しにいくんだ。……すまねぇ、何があったか聞きたくないって言ってたのに」

男B「…れ、だよ……」

男A「あ?」

男B「……誰だよ!!!封印を解いたのは!!!許せねぇ!!!」

乙哉『あはは、あの人ちょー怒ってる、ウケるー』キャッキャ

春紀『あたしらのせいだよ!!!!』


男B「いくぞ!」ダッ

男A「おいおい、そんなに走んなよ!」ダッ

千足『あいつらはこれからあの場所にいくのか』

春紀『だろうよ。にしても、何があったか知ったときの豹変っぷりヤバかったな』

乙哉『ね。あの中には何が入ってるんだろう』

春紀『さぁな』

乙哉『え、本当に見てないの?春紀さん、蓋閉めてたよね??』

春紀『見てないっつの、見るなって言われてただろ』

乙哉『ダメだよ!そんな馬鹿正直になっちゃ!普通見るでしょ!あの流れは!』

春紀『シリアルキラーに常識問われたくねぇー!』


春紀『まぁとにかく、中には相当ヤバいもんが入ってるってことはわかったな』

乙哉『うんうん。しかも超重かったしね』

千足『……?二人とも、気付いてないのか?』

春紀『は?』

乙哉『なにが?』

千足『あれ、動かないように固定されてたぞ』

春紀『アンタが『私が気を引いてるうちに!早く箱を動かすんだ!』とかやったんだろ!!』

乙哉『動かないの分かっててやらせるとか酷くない!?』

千足『いや、私も箱(?)の話を聞いてる時に、箱の設置面を見て気付いたのだが……』

春紀『あたしらが無駄なことしたってことには変わりないんだな……』

千足『私が音を立てなければチンピラに気付かれなかったのでは?とか、蓋がちょっと開いてるって運ぼうとした
   寒河江と武智が原因なんじゃ?とか、色々考えながら聞いてた、箱さん(?)の話は』

乙哉『無駄どころか余計なことしたよね、あたしら』

春紀『ごめん、どうしても”箱さん(?)”につっこみたいんだが』


「例のブツが開けられちまった件、聞いたかよ」

「あぁ。親方が犯人を探しに乗り出してるって話だぜ」

「マジかよ、行こうぜ」

春紀『……あいつらもその組の連中か』

乙哉『あの人達、結局何者なんだろうね』

千足『親方と呼ばれている辺り、何かしらの師匠の立場なのか?まさか大工とか?』

春紀『いんや、大工はわざわざ墨入れんだろ』

乙哉『ねぇあの人達、春紀さん家の方に走ってったけど』

春紀『!!?!?』


春紀の家の前


春紀『……まだ寝てるのか?あたしは』

千足『見に行ったらどうだ?』

春紀『あの男達がいなくなったら、な。扉をすり抜けることは出来ないんだ、ひとりでに扉が開いたらおかしいだろ?』

千足『確かに、寒河江の言う通りだ』

ガラッ

乙哉『ラッキー、カギかかってない!♪早く見に行こうよー』

春紀『そろそろあいつのこと殴り飛ばしそう』

千足『確かに、寒河江の言う通りだ』

乙哉『!?』


10分後


春紀『で、だ』

千足『よかったじゃないか、寒河江は寝てたんだ。のこのこ起き上がってきて自ら捕まる可能性は消えた』

春紀『あぁそうだ。そうだな』

乙哉『いやーまさか冬香ちゃんが聞き込みに対して『赤い髪の長身の女性?私のお姉ちゃんのことですか?』って言うとは思わなかったよね』

春紀『ホントにな』

千足『寝てるところ捕まるなんて最高にかっこわるいな』

乙哉『それね。ダッサ…って感じ。伊介さんとかドン引きしそう』

春紀『お前らも同じ捕まり方しろ』


春紀『どうする?このままあたしがどこに連れて行かれるか見とくか?』

千足『それ以外に何が?』

春紀『あんたらのとこだって来るかもしれないだろ。そっちに行った方が』

乙哉『理屈はわかるけど、こんな面白いシチュエーション逃したくないから却下』

春紀『死ね』

乙哉『罵りがストレートに!?』


千足『見るといい。あの寒河江の切なげな後ろ姿を』

乙哉『なんとも言えない哀愁を漂わせるよね』

春紀『やめてやれよ』

乙哉『起こされたときの顔見た?』

千足『あぁ見た。それも傑作だったが、やはり躓いたときのステップが』

乙哉『あれサイッコーだったよね』アハハハハハハ

春紀『お前ら覚えとけよ』


春紀「よくわからんが、なんでこんな大げさなことになってんだ?なぁ」

「黙って歩け!お前自分が何をしたのかわかってないのか!」

春紀「って言われてもなぁ……ただ寝てただけなんだけどなぁ」

「白々しい!うちの組のモンがお前含む3人組をあの神社で見たって言ってんだよ!」

春紀「なんの話だよ、全く……」

乙哉『春紀さんのあのシラの切り方は酷い』

千足『思っていたよりも演技派だな。もう寒河江のことは信用しない』

春紀『極端かよ!』


千足『それにしても、残りの二人は探さないんだな』

乙哉『いやな予感するんだよね』

千足『?』

乙哉『まさかとは思うけど、春紀さんを拷問にかけたり……』

春紀『お、おいおい、冗談やめてくれよ』

乙哉『だって、いくら特徴的な外見って言っても、残り2人探すなんて面倒じゃん?』

千足『ま、まぁ……』

乙哉『あたしだったら手間も時間も省く為に拷問にかけるけど。それが一番合理的だよ』

千足『しかし人違いという可能性だって向こうは考えるだろうし……』

乙哉『別に一人二人間違って殺してもいくない?』

春紀『問題はこいつらが倫理的にお前レベルまで落ちぶれてるかどうかってとこだな』

乙哉『あ!あたしがサイコパスみたいな言い方した!!ひどいよー!』

春紀『………?』

千足『………?』


春紀『建物についたな』

乙哉『これがこの人達の事務所なの?一見普通の建物に見えるけど』

「おら、入れ!」

春紀「いったいな、引っ張らなくても行くっつの」

千足『さ、私達も入るぞ』サッ

春紀『だな』サッ

乙哉『……春紀さんは、地下に連れて行かれるみたいだね』

千足『いよいよ拷問説が現実的に…』

春紀『あんたら自分じゃないから若干どうでもいいっていうか楽しんでるだろ』


「入ってろ!他の仲間もすぐにここにぶち込んでやる!」ガシャン!!

春紀「……あんたら、あたしを敵に回してただで済むと思うなよ?」

乙哉『うわ、すごい小物臭漂う台詞吐いてる……』

千足『中二……?』

春紀『ほ、ホントにすごい奴かもしれないだろ!?』

乙哉『まぁ確かに、妹に無意識に告発されて捕まるとかすご過ぎるよね』

千足『しかもその時には寝てたっていう』

春紀『おいやめろ』


千足『……』

春紀『どうしたんだ?』

千足『……今気付いたんだが、私と武智がこの組織に捕まれば、3人を会わせる手間がなくなるんじゃないか?』

乙哉『……確かに』

春紀『でもそこからどうやって脱走させるんだ?檻に入れられてるんだぞ?』

千足『それは……そうだが……』

乙哉『っていうかさ、ダメじゃん』

春紀『は?』

乙哉『千足さんが捕まっちゃったら、あたしらとの繋がりが柩ちゃんにバレるんじゃない?』

春紀『………いくぞ』

乙哉『へ?』

春紀『用事ができた。生田目のところに行く』

千足『私はここにいるが?』

春紀『アンタ、アスペってやつなのか?』


春紀『こんな風に捕まっているあたしを観察していてもしょうがないだろ』

乙哉『まぁ、そりゃそうだけど……でも』

春紀『生田目はあたしらとの関係を桐ヶ谷に隠してるんだろ?三人組の一人として捕まったら、生田目は全てを失うことになるかもしれない』

千足『……いくら町の外れに住んでいると言っても、捕まるのは免れないだろうな』

乙哉『言ってることはわかるけどさ、あたし達が行っても何もできないよ』

春紀『そうかな』

乙哉『へ?』

春紀『あんたらは感じないか?この世界に馴染んでいくのが』

乙哉『……本気で言ってる?』

千足『全く感じないが?』

春紀『ごめん、今の話無し』


乙哉『あーっ!待って待って!ごめんって!えーと、春紀さんはそれを感じるってことだよね?』

春紀『……』

千足『い、いじけるなよ、な?』

春紀『あたしは、そうだと思ったんだけど』

乙哉『何か、そう思う事があったんだよね?』

春紀『……そこの桶だ。水が溜まってるから見てみな』

ヒョイ

千足『……?!?』

乙哉『え!?なになに!?』

千足『寒河江だけ、水面に姿が映っている……』

乙哉『……ほ、ほんとだ……つまり、春紀さんだけが馴染んできてる、ってこと?』

春紀『あたしだけなのかよ、って思ったけどアンタら二人はどんな世界にも馴染みそうにないもんな』

乙哉『いま絶対バカにしたよね』


千足『じゃあ二手に分かれよう』

春紀『どうするんだ?』

千足『寒河江が私のところに行くんだ』

乙哉『それ分かれるっていうか春紀さんをパシってるよね』

春紀『ばっ、3人なんだからしょうがないだろ、生田目はそういう意味で言ったんじゃ』

千足『私もちょっと思った』

春紀『思うなよ』


千足「……柩、あの話なんだが」

柩「へ?」

千足「その、一緒に暮らすって話」

柩「考えて、くれたんですか?」

千足「あぁ。これからは一緒に暮らそう。待たせて悪かった」

柩「そんな……!ぼく、うれしいです……!!でも、どうしてこのタイミングで?」

千足「えと…仕事の都合がつかなくてだな……」

柩「そうだったんですか……ぼく、急かすようなこと言っちゃったかも……ごめんなさい」

千足「いや、いいんだ。私の家は完全に仕事場にして、柩の家で暮らすようにしたいと思っているのだが……どうだろう」

柩「はい!あ、でも、もう少しお金ができたら、家の中に仕事場を作りましょうね……?」

千足「あぁ、そのつもりだ」

春紀『……慌てて走ってきたけど、ここにはまだ追っ手は来てないんだな。なるべく早めに町を出るように伝えないとな』


柩「千足さんはまだお仕事がありますよね?食事持ってきますね!」タッタッタッ

千足「あぁ、すまない」

春紀『……よし、ちょうどよかったな』

千足「……」

春紀『そこの鏡使えそうだな』ヒョイッ

千足「……?………!?」ビクッ

春紀『すごい綺麗な二度見見ちまった』


千足「春紀……?」キョロキョロ

春紀『ははは、すぐ隣にいるっての』

千足「姿見の中で…笑って、いる……?」

春紀『そうなんだよなー。声は届かないし、どうしたらとっとと町から出ろって伝えられるかな』

千足「……私は、疲れているのか」

春紀『おっ、棚に本が……?こいつ、文字読めるのか。となると……』

千足「……?筆がひとりでに……?なんだ……?」

春紀『えーと……”刺青の集団から逃げろ。3人で箱の封印をしろ 春紀”、こんなもんかな』

千足「刺青の集団?昨日のか……?春紀、答えてくれ」

春紀『”そうだ”……っと。にしても、普通にひらがな読めてくれて助かったぜ』

千足「………ダメだ、許せない」

春紀『……は?』

千足「春紀の気持ちはありがたいが……私は春紀を殺した連中を許せない!」

春紀『殺されてねーし死んでねーよ!前世でもポンコツなのかアンタ!!』


千足「なんだ?何か言いたげな顔だな?しかし霊体の声は聞こえないんだ、筆談で頼む」

春紀『誰が霊体だ!!ったく、めんどくせーな!違ぇっつの!”ち”…”が”…』

千足「血が!?血がどうしたんだ!?」

春紀『まだ書き終わってねぇよ!!』

千足「どんな酷い目にあったんだ春紀!」

春紀『ちげぇー!!”殺すぞ!”』サッサッ

千足「すぞ?その前のはなんて読むんだ?」

春紀『こいつすっげぇムカつく』


5分後


千足「……じゃあ、春紀は本当に死んでないんだな?」

春紀『……』コクコク

千足「……すまなかった。まさか春紀にアストラル体の妹がいたなんて知らなかったんだ」

春紀『ローゼンメイデンかよ』

千足「?何か言ったか?」

春紀『アンタちょいちょいこの時代の人間が知らないような横文字使うよな』


千足「……しかし、急にこの町を出るのは無理だ」

春紀『そうしないと、あんたが隠したがっていたあたしらとの関係が可愛い彼女にバレちまうぜ。って、聞こえてないか』

千足「……私は、迷っていた」

春紀『?』

千足「柩と暮らすために、友人二人を切り捨てるような真似をしていいのか、と」

春紀『……』

千足「あいつらと過ごした時間は楽しかった」

春紀『そりゃあ心霊スポット巡りだの喧嘩だのに明け暮れてたらな』

千足「それでも覚悟を決めたつもりだった、あいつらも分かってくれると思っていた……
   しかし、その二人がピンチのいま、私は考え直すべきなんじゃないかと、そう思っている」

春紀『いいやつだな、アンタ。ポンコツなのがたまにキズだけど』

千足「どうしてだろう、今すごいバカにされた気がする」


春紀『ま、アンタがいたところで事態は何も解決しないさ』

「きゃあ!!なんですか、あなた達!!!」

春紀『!?』

千足「柩!?」ダッ

タッタッタッ

柩「……」

千足「大丈夫か!?どうしたんだ一体!」

柩「なんか、この人達が、長身の赤髪の女性を知らないか、って……」

千足「そ、そうか……しかしなんで男達は倒れているんだ…?」

柩「ポイズンしました」

春紀『武智よりもキャラにブレがねぇじゃねーか』


柩「どういうことですか?なんで千足さんがこんな人達に追われているんですか?」

千足「……説明はする、必ず。ただ、もう少し待ってくれないか」

柩「……?」

千足「急用ができたんだ。必ず戻る。しかしここは危険だ、私の友人の家で身を潜めていてくれ」

柩「…………わかりました」

千足「案内する、ついてきてくれ」

春紀『結局こうなるのか……』

春紀『………待てよ……?友人の家ってどこだ………?』


千足『武智、静かにしろ!』

乙哉『やーだよん』パシャッ

千足『やめろと言っている!寒河江が怖がっているだろう!?』

春紀「……なんなんだよ、なんで勝手に桶の水が……はぁ……?」ガタガタ

乙哉『そりゃまーこれが見たくて水遊びしてるんだし』

千足『漏らしたらどうする!寒河江はこの世界じゃもういい大人だ!可哀想だろ!』

乙哉『なにそれ!♥サイコーじゃん!♥千足さんは見たくない?おもらし春紀さん』

千足『見たくはないがそれをあとで寒河江に伝えたらだいぶ面白いことになると思う』

乙哉『だよね!☆』


千足『しかしだ、そんなことをしている場合ではないだろう。私達もどうにかして解決の為に動かないと」

乙哉『でもさっき建物の見回りはしたでしょ?何もそれらしき物はなかったし……結局その親方って人が帰ってこないとどうにもこうにもだよ』

千足『いきさつを知ってそうな奴らは数人いただろ』

乙哉『知ってるってもねぇ。問題はあたしらがどうやってその人達に聞き込みをするか、だよね』

千足『………』

ガシャン……

乙哉&千足『!?』

「アンタ、一体何やらかしたのよ」

春紀「伊介様!」

伊介「何をやらかしたんだって聞いてんだから答えろよボケナス♥」

乙哉『あたしらの知ってる伊介さんより少し辛口だね』

千足『思った』


春紀「何をしたって言われてもな……あたしはただ、ある山の中にある神社に行っただけだよ」

伊介「………本当にそれだけ?」

春紀「その、実は……神社の中の建物に忍び込んで、箱を開けちまった」

伊介「………………」

春紀「でも、それがなんだってんだ?こいつら大げさ過ぎじゃ」

伊介「ばぁーーーーーーっかじゃないの!」

春紀「……!」

伊介「冬香ちゃんが泣きながら伊介の家に来たから協力してやったのに……アンタがこんなに馬鹿だったとはね」

春紀「……ごめん」

伊介「この組の連中が血相変えてるとこ見て、何があったか大体の予想はしてたけど……」

乙哉『伊介さん、何か知ってそうだよね?』

千足『あぁ、この場で待つことによって情報が転がりこんでくるのを待つ作戦、完璧だったな』

乙哉『だね!』

千足『……』

乙哉『……ツッコミ役不在って結構寂しいね』

千足『そうだな』


伊介「ここで全部話す訳にはいかないわ。まず、一つ確認させて」

春紀「なんだ?」

伊介「あんたの入った山、ムザンって言うんじゃない?」

春紀「……!そうだ!乙哉がそう言ってた!」

伊介「……やっぱあいつも絡んでんのね」

春紀「あっ、いやー……それは、あはは……」

伊介「ま、アンタらがじゃれてんのはホモみたいなもんだからほっとくけど、それにしても遊び方は考えた方がいんじゃないの」

乙哉『あたしと春紀さんが!?ホモ!?ちょっと!あたし結構美少女だけど!!』パシャンパシャンパシャン!!

千足『気持ちは分かるが水面を叩くな』


伊介「ちょっと…あんた、そこの桶……」

春紀「?あぁ、さっきからなんだ……中から水が勝手にはねたりするんだぜ。誰かが水遊びしているように」

伊介「………春紀悪いことは言わないわ、今からでもここを抜け出して、箱を封印し直すの」

春紀「それはここの組の連中がやってるだろ」

伊介「あんたがやらないと、下手したらあんたはずっとこのまま謎の現象と過ごすことになるわよ」

乙哉『もしかしなくてもあたしら霊だと思われてるよね』

千足『自分でも自分がなんなのか分からなくなってきた』


春紀「伊介様、頼むよ。あたしは何をしちまったんだ?なんで伊介様はここまで来れたんだ?教えてくれ」

伊介「……ここだと誰に聞かれてるかわからないから手短に話すわ。ここの親方がうちの上客なのよ」

春紀「上客って、呉服屋のか……?」

伊介「そっ。儀式に使うだのなんだの、大量に布を買い占めたり、単純に着飾るのが趣味で
   上等な反物で着物を仕立てさせたり、まぁ何かとうちに注文が入るのよ」

春紀「儀式ってなんだ……?布なんてどうやって使うんだ?」

伊介「さぁ?伊介にもわかんなーい。ママとここの幹部の会話盗み聞きしただけだし」

春紀「そっか……」

伊介「伊介がママに口利いてもらってここまできたのよ。わかった?」

春紀「あぁ、わかった。迷惑かけてすまん……」

伊介「じゃ、ここから出してもらえるか掛け合わなきゃいけないから伊介はこれで」

春紀「待ってくれ!あたしは何をしちまったんだ?伊介様なら、わかるんだろ……?」

伊介「……」チッ

乙哉『上手く話をそらしたつもりだったのに思いのほか春紀さんが賢くて失敗しちゃって小さく舌打ちしちゃう伊介さん可愛い』

千足『舌打ちされたことに全く気付いていない寒河江もなかなか』


伊介「これ以上はここでは言えないわ」

春紀「そっか……」

伊介「一つだけ教えてあげる、こっち来なさい。伊介が特別に耳打ちしてあげる」

春紀「?」ヒョイッ

伊介「あの箱の中身は死体よ」

春紀「なっ……!」

伊介「じゃ。もうしばらく大人しくしてなさい」

千足『………なぁ、今の』

乙哉『うん……春紀さん、絶対耳打ちされて性的に興奮したよね……』

千足『もっと重大な発見があっただろ』

限界。寝る

戻った
途中で寝落ちするかもしれない


千足「乙哉、いるか」コンコン

乙哉「はいはーい?って、千足!?どうしたの!?」

千足「しばらくの間、柩を匿ってくれないか」

乙哉「えっ…?ごめん、全然状況がわかんないんだけど……?」

千足「昨日追い掛けてきた連中に春紀が捕まったらしい」

乙哉「……!」

千足「私は……友が窮地に立たされているのを、黙って見ていることはできない」

春紀『人ごとみたいな言い方してっけどお前共犯者だかんな』


乙哉「事情はわかったけど……なんで春紀が捕まるの?」

千足「さぁ、それはわからない。ただ、昨日追い掛けてきたときも連中の執念は凄まじかった。きっとあいつらにとっては大事なものなんだろう」

乙哉「……それ以上知りたい場合は本人達に聞くしかない、か」

千足「そういうことだ」

乙哉「柩ちゃんをここで匿うってことは、全部話したの?これまでのこと」

千足「いや、まだだ。これが終わったら全て話す。そう約束した」

乙哉「……へぇ、自分で考えたんだね」

千足「あぁ、そうだ。……柩」

柩「はい……」ヒョイッ

乙哉「はじめましてー。ちょっと待っててね……しえなちゃーん?ちょっときてー」

しえな「ん?なんだ?」スタスタ

乙哉「あたしもちょっと行かなきゃいけないからさ。この子と一緒にこの家に居てくんないかな」

しえな「なんでボクが、って……あ、あの、どうも、初めまして……!///」

千足「……あぁ。いきなり無理を言ってすまない」

しえな「い、いいや!ぜ、全然!!///」

乙哉「……わぁー、さすがにちょっとムカつくかもー……」

千足「?」

柩「思ったより子供っぽい人なんですね、乙哉さんって」クスクス


千足「大丈夫か?顔が赤いが……」

しえな「だ、大丈夫だから!///」

柩「……千足さん、行ってきてください。どういうことか、早く理由が知りたいんだから」

千足「……そうだったな。必ず帰る、それじゃ」

乙哉「んじゃ、あたしも行ってくるねー」

しえな「あぁ。…………なんでわざわざ走ってるんだよ。どこに向かったんだ?あいつら。ま、いいか。えーと、柩ちゃん?とりあえず入れy」

シュッ!!

しえな「あぶな!!?」バッ!

柩「あぶなくないですよ、これはただの毒です」ニコッ

しえな「毒!?危ない要素しかないだろ!!」

柩「大丈夫ですよ、死ぬだけですから」

しえな「!!?!?おまっ、なんで怒ってるんだ!?」

柩「ぼくの千足さんを……あんな目で見つめて……!」シュッ!!

しえな「っぶなぁ!?……乙哉のこと子供っぽいとか言ってバカにしてたくせに!」

柩「そうですよ、子供っぽい。敵意や殺意のコントロールもできないなんて」

しえな「アンタ何者なんだよぉ!!」


千足「乙哉」

乙哉「何?」

千足「私はもしかしたら疲れているのかもしれない」

乙哉「え?なになに?どゆこと?休みたいの?」

千足「いや、実は……」

・・・

・・・

乙哉「はぁ!?春紀の幻影が見える!?」

千足「それだけじゃない、声は聞こえないが、筆談までできるんだ」

乙哉「それ疲れてるっていうかハイになっちゃってるんじゃ……?」

千足「そう思うだろう?」スッ

乙哉「なに?この紙」ガサガサ

千足「見たらわかる」

乙哉「……!この字、春紀の……!!」

春紀『前世から字体が変わらんのかあたしは』


乙哉「わかった、あたしのことびっくりさせようとしてるんでしょ……?」

千足「私達が今どこに向かっているか、知っているか?」

乙哉「うん。春紀のとこだよね?」

千足「じゃあ春紀がどこにいるかわかるか?」

乙哉「いや、それは、わかんないけど……千足はどこを目指して走ってるの?」

千足「書いてあるだろ、”刺青の連中から逃げろ”と」

乙哉「……この辺りで刺青の連中なんて1つしか思い当たらないんだけど?」

千足「昨日私達を追い掛けたのはカンナギ会の連中らしい」

乙哉「……!なるほどね。そういえばこの辺りにカンナギ会の建物があったっけ……」

千足「あぁ。こっちだ、一旦隠れよう」


乙哉「で?これからどうするの?」

千足「それもその紙に書いてある」

乙哉「箱の封印、ねぇ……でもさ、具体的にどうやって?」

千足「春紀、いるか?いるなら壁を叩いてくれ」

春紀『へいへい』バンバン

乙哉「!?!?……ホントにそこにいるんだ?」

千足「あぁ。変な服を着た春紀がそこにいる」

乙哉「変な服……?」

千足「時間がなくて、私もまだこの春紀から事情を聞ききれていないんだ」

春紀『あんたらにとってこれが変な服なのはわかるけど結構傷付くからな』


千足「まずは春紀を助けようと思う」

乙哉「待ってよ。カンナギ会が絡んでるってことは、やっぱあの箱はすごい大事にされていた……
   それだけじゃない、この人達にとって必要なものである可能性が高いでしょ?」

千足「それはそうだと思うが……」

乙哉「そこにいる変な春紀の言うことが本当なら、カンナギ会だってあたし達に封印を手伝わせようとするはずだよ」

春紀『百歩譲って変な服を着た春紀さんだろうがコラ』

千足「可能性はあるな」

乙哉「わざと捕まるってのもアリじゃない?」

千足「しかし」

乙哉「選択肢として、だよ。柩ちゃんもしえなちゃんが匿ってくれてるしさ。悪い条件じゃないと思うけど」

春紀『その”柩ちゃん”が”しえなちゃん”を危険に晒しているとは思ってないんだろうな、こいつら』


千足「理屈はわかる、しかしだ。封印を解いた私達のことを閉じ込めたままにしたら?」

乙哉「確かにそういう扱いを受けるかもだけど……ま、大丈夫でしょ」バンバン

千足「?どうした?急に壁なんて叩いて」

乙哉「そこにいる春紀の真似。何かあったら手伝ってくれるよね?」

春紀『人使い荒いな……ったく』バンバン

乙哉「!オッケーってことだよね?やったー♪」

千足「!!おい、あれ!」

乙哉「なに!?……って、伊介さん!?」

千足「なんであいつがカンナギ会から出てくるんだ……?」

乙哉「霊とかそういうの全然信じてなさそうだけどなー……」

千足「まさか、春紀のために……?」

乙哉「あー、可能性あるかも。なんだかんだ春紀にベタ惚れだもん、あの人」

春紀『(あたし関係ないのにちょっと誇らしい)』


乙哉「おーい」

伊介「!?」

乙哉「こっちこっち」

伊介「アンタ……!こんなとこで何やって!」

乙哉「いいからこっちきて!」グイッ

伊介「ちょっ!なんなのよ!」

乙哉「いいところで会えたねー?」

伊介「忙しいんだけど!?ヤりたいなら他当たんなさいよ!」

乙哉「今日はそういうんじゃないんだよねー」

千足「今日はってどういうことだ……?春紀に殺されるぞ……?」

乙哉「へーきへーき、伊介さんとはシたことないし」

千足「そういう問題じゃない気が……」


乙哉「伊介さん、随分忙しそうだったけど、どうかした?」

伊介「アンタと、もう一人を探してるのよ。大至急でね」

乙哉「それってもしかして赤毛の短髪で長身の人ー?」

伊介「……そうよ。間違いない、アンタでしょ」ズイッ

千足「あぁ、きっとそうだ。初めまして、になるのか」

伊介「話は聞いてるわ、いろいろと」

千足「私もだ。前に春紀と歩いている時に見かけたことがあって、顔は知っていた」

伊介「ふぅん、声くらいかけなさいよ」

千足「色々事情があって……」

伊介「?」

乙哉「千足さんは一緒に暮らしてる子が、なんていうんだろ、ちょっと過保護な感じの人でね」

伊介「なるほどね。どっかから三人でつるんでることがバレるのを恐れたわけね」

千足「申し訳ない……」

伊介「ま、わからないでもないわ」


乙哉「ところで、なんであたしらを捜してたの?」

伊介「春紀を解放するにはアンタらを探してくることって言われたのよ」

乙哉「えー?」

伊介「伊介をパシるなんていい度胸してるわ」

乙哉「でもあたしらのこと突き出す気満々でしょ?」

伊介「ピンポーン☆」

乙哉「伊介さんのそういうところ好きー♥」


千足「……しかし、やめておいた方がいい」

伊介「はぁ?なんでよ」

千足「私達の身柄を拘束しても、春紀は返してもらえない」

伊介「……あんたら、あの神社に忍び込んで封印解いたんですってね」

千足「あぁ。封印の方法は知っているか?」

伊介「なんで伊介がそこまで知ってなきゃいけないのよ」

乙哉「それは、カンナギ会の提示した条件の矛盾を見つける為だよ」

伊介「どういうことよ」

乙哉「カンナギ会はアレを封印したがってる。封印には封印を解いた人間が全員が立ち会う必要がある、つまり?」

伊介「……せっかく3人揃ったのに春紀だけを解放するような真似はしない、ってことね」

千足「そういうことだ」


伊介「で?アンタらはどうしたいワケ?」

乙哉「あたしらは春紀さんと合流して事態を収めたいよ」

伊介「つまり封印には協力的ってこと?」

千足「そうだな。ただ、カンナギ会は信用できない。できれば春紀を脱走させて3人でそこに向かいたい」

伊介「……意外だわ」

乙哉「なんで?」

伊介「乙哉が自分の行動の責任を取ろうとしてるのが、よ」

乙哉「?」

伊介「なにそのきょとんとした顔、殴りたいんだけど?」


千足「事情があるんだ」

伊介「?こいつが改心するような?」

千足「乙哉は改心したワケじゃない」

伊介「……どういうこと?」

乙哉「ちょっと待って、さっきから改心改心言わないでよ、あたしが悪人みたいじゃん?」

春紀『そんな言い回ししてたらまるでお前が悪人じゃないみたいじゃねーかって言ってやりたくてたまらない』


千足「こっちに来てくれ。乙哉にはさっき説明したが、実際見せた方が早そうだ」グイッ

伊介「……?この先は川があるだけで行き止まりよ」スタスタ

乙哉「あー……なるほど。姿見だけじゃなくて、ってこと?」

千足「あぁ。おそらくはなにか映すものがあれば……」ピタッ

伊介「なんなのよ……で?この川がどうしたってのよ」

千足「……春紀、聞こえているか?私達に並んで立ってみてくれ」

春紀『へいへい。よっと』

伊介「!!?!?!?」

乙哉「っわー……ホントだ……」

千足「……どうやら二人とも、春紀の姿が見えているようだn」

乙哉「ふふふ………あはははは!嘘でしょ何その格好意味わかんない!」アハハハハ

春紀『大爆笑されるような服装じゃねーよ殺すぞ!!!』

伊介「声は聞こえないけど春紀めちゃくちゃ怒ってるわね」

乙哉「だぁーって!あははははは」

春紀『んのやろ!!』


数分後


伊介「で?笑い終わった?」

春紀『服装で何分も笑い続けられたの生まれて初めてだ』

乙哉「あー怒ってる?ごめんごめん、やっと見慣れてきたから、大丈夫大丈夫」

千足「……とにかくだ、この春紀が箱の封印をしろと私に言うんだ」

伊介「なるほどねぇ」

千足「春紀を逃して三人で箱の封印をするため、犬飼にも協力してほしい」

伊介「やーよ」

乙哉「すごっ……この流れで断るとか斬新すぎ……」


千足「それは、なぜだ?」

伊介「あんたらがあの箱の封印方法をきちんと調べることができて、さらにそれを実現できそうなら考えてやってもいいけど」

千足「それは……」

伊介「無理なら監禁覚悟でカンナギ会に捕まって指示に従いなさいよ」

春紀『なぁずっと気になってたんだけど、カンナギ会ってなんなんだ?』

乙哉「箱の封印が終わったあとにあたしらが殺されちゃったらどうするの?愛しの春紀とも会えなくなっちゃうよ?」

伊介「春紀一人くらいなら口利きしてもらって助けられるわよ。それに家のこともあるしね」

千足「……確かにな。カンナギ会にとって春紀は取り扱いに注意すべき人物だろうな」

乙哉「でもさー、あの人達からしたら、春紀って目の上のたんこぶなんじゃないの?ラッキー殺したかったんだよね~って殺されちゃうかもよ?」

伊介「ないない。春紀の家に喧嘩売るなんて、カンナギ程度の組織がしていいことじゃないわよ」

春紀『声が届かないから質問がスルーされるのは仕方ないと思うんだけど、なにも疑問を増やすような会話しなくてもいいだろ、鬼かよ』


乙哉『春紀さん、帰ってこないねー……』

千足『あぁ』

乙哉『そこの春紀さんは幽霊、っていうかあたしらにビビってふて寝しちゃってるしねー……』

千足『あのまま起きてたら気が狂いそうだったんだろ』

ガチャン……

乙哉『?誰かきたね』

千足『食事を運んできたのだろうか?』

バタン……

春紀『よっ』

乙哉『春紀さん!?わーい!』

春紀『なんで両手広げてんだ?気色悪い……』

乙哉『確かに剥ぐしようとしたのはあたしだけどそれは言い過ぎだと思うんだ!』

春紀『剥ぐってなんだよ怖ぇよ』


千足『寒河江、どうだった?』

春紀『どうもこうも……とりあえず、こっちの生田目に会って簡単に指示を出すことには成功したよ』

乙哉『あたしも千足さんもここに連れて来られないってことは……上手くいったんだよね?』

春紀『微妙なところだな。あたしらが筆談してる間にここの連中が来てさ』

千足『!それで?!柩は大丈夫だったのか!?』

春紀『大丈夫もなにもあいつ一人で全員毒殺したから』

乙哉『聞く前からそんな気がしてた』


春紀『逃げろってことと、箱の封印をしろって話はしてきた』

乙哉『で?随分遅かったけど、他に何かあったの?』

春紀『あぁ。生田目は迷ってたけど結局、桐ヶ谷に全てを話すつもりみたいだ』

千足『そうか。今後のことを考えてもそちらの方がいいだろうな』

春紀『武智の方に追っ手が行くといけないからって、急いで二人は武智の家に向かった』

乙哉『へー?でも隠してたってことは、しえなちゃんと千足さん達、初対面だったんじゃ?』

春紀『あぁ。でも挨拶も早々に、武智と生田目はここに向かって走り出したよ』

千足『では桐ヶ谷と剣持が同じ空間にいる、ということか?』

春紀『だな。早速”ぼくの千足さんに雌の視線を向けた罪”で殺されかけてたぞ』

乙哉『匿ってあげてる人にそこまでされるって才能だよね』


春紀『面白そうだったけど、あたしもすぐに武智達を追い掛けたよ』

乙哉『で?また問題があったんでしょ?』

千足『嫌なことを断言するな』

乙哉『だってさー、二人がそのままここに向かってたら絶対上の方がもっと騒がしくなると思うんだよねー』

千足『なるほどな……。一体何があったんだ?』

春紀『この建物から伊介様が出てきたんだよ。あたしに会いにきたみたいだけど、あんたら見たか?』

乙哉『あーうん。来てたよ。こっちの世界では伊介さんは呉服屋さんの娘なんだってね』

春紀『へぇ?そりゃ知らんかった。伊介様は武智と生田目を探してた、この組織の連中に連れてくるように言われたってな』

千足『……寒河江と引き換えに、ということか』

春紀『あぁ、らしい。一応伊介様に居場所をチクられるのは阻止できたけど、三人で封印できなさそうなら
   カンナギ会に協力して段取りしてもらうように、って言ってたな』

乙哉『ごめん、カンナギ会って?』

春紀『あぁ、ここの組織のことだよ。そう呼ばれているらしい』


千足『寒河江、私達もここで犬飼とお前の会話を聞いていたんだ』

春紀『あぁ、何か収穫があったか?』

千足『犬飼は何か事情を知っているようだった。それは明らかだ』

乙哉『ただ、やっぱりその内容を知ってるのはごく一部の人間みたいだったけどね。伊介さんは親の稼業のおかげでたまたま知ったみたい』

春紀『なるほどな』

乙哉『あと、春紀さんが伊介さんに耳打ちされてゾクゾクしてたよ』

春紀『そうか、仕方ないな。耳打ちなんてされちゃな』

千足『寒河江………?????疲れているのか………?????????』

乙哉『ツッコミがないのがこんな悲しいことだと思わなかったよ……』

春紀『あたしだってたまにはボケたいだろ!』

乙哉『え……?今のボケたつもりだったの……?3点』

千足『200点満点中な』

乙哉『ちなみに平均点は170点くらいね』

春紀『お前ら辛辣過ぎるだろ』


千足『その耳打ちの内容というのがまた、その……』

春紀『?なんだ?』

乙哉『あの箱の中身、死体らしいよ』

春紀『……!マジか……』

千足『カンナギ会という名前や、犬飼が言っていた儀式の話、総合するとこの組織は呪い事に特化しているようだな』

乙哉『のろい…!?こわ……!』

千足『まじない、だ(耳で聞いてるハズなのになんで読み方間違えるんだコイツは、馬鹿なのか)。
   今ほど医療や科学が進歩していないんだ、不可解な出来事は妖怪や呪いのせいとして片付けられることも多かったろうな』

春紀『確かに、昔は陰陽師ってのもいたくらいだしな。そういった類いのものは今と比べるとずっと重宝されてたんだろうな』

乙哉『ストップストップ。千足さん、その括弧の中も見えてるからね?』


千足『で?何故その三人は助けに来ないんだ?』

春紀『簡単に言うと揉めてんだよ』

乙哉『なんで?春紀さんを出したいのはみんな同じでしょ?』

春紀『でも、ここでのんきに寝てるあたしを連れ出しても、封印の仕方がわからなければ進まないだろ?』

千足『それは、まぁ、その通りだが……』

春紀『それに、あの箱はおそらくカンナギ会が封印したものだ。封印についてはここの連中に頼った方が手っ取り早いだろ』

乙哉『でもさ、ここの人達がそんなに大事にしてたものを開けちゃったんだから、全てが終わったあとに殺されちゃったり…?』

春紀『無くは無いだろ。その可能性があるから迷ってるみたいだな』


乙哉『なるほどねー。他には何か面白いことあった?』

春紀『さぁ。あと、あたしが捕まるときに言ってた台詞はどうやらハッタリじゃなさそうだ』

千足『あれだけ大きな実家だからな。何かあっても不自然じゃない』

春紀『あぁ。何かはまだわからないけど、あたしを監禁してる状態が長引くとカンナギ会も都合が悪いみたいだ』

千足『すると意地でも私と武智を見つけて封印しようとするだろうな』

乙哉『じゃあさ、あたし達がしたいことは決まったよね』

春紀&千足『え?』


乙哉『できないけど、さ。したいこと』

春紀『どういうことだ?』

乙哉『あたしらがここに普通に存在できるようになって、カンナギ会(?)の人達を脅して、安全に封印に協力させるの。いいと思わない?』

千足『すごい、その考えはなかった』

春紀『毎度のことだけどお前のその無秩序な発想には度肝を抜かれるよ』

乙哉『やだー♥褒めないでよー♥』

千足『本当に褒められてると思うか?』

乙哉『ううん』


千足『しかし武智の言うことも一理ある。犬飼がカンナギ会に対して強く出ないことには、何か理由がある気がする』

乙哉『ま、その理由はわかんないけど。箱の中の死体の正体と、もしかしたら関係あるのかもね』

春紀『……何を言っても今は憶測の域を出ないさ』

千足『そうだな』

乙哉『……!!ねぇ、千足さん、この桶見てよ!』

千足『どうした?……っ!これは!』

春紀『どうしたんだ?』

乙哉『あたし達も水に映ってるよ!』

春紀『!!あんたらも遂に、か』

千足『寒河江』

春紀『?なんだ?』


千足『入ってくるときは見張りが大勢いたようだが、何故さっきはすんなり入ってこれたんだ?』

春紀『あぁ、入り口の警備も建物の中も、さっきとは数がまるで違うぜ』

乙哉『どこかに行ったってこと?』

春紀『多分な。あの神社か、もしくは武智と生田目探しだろ』

千足『……あまりゆっくり考えている時間は無さそうだな、行こう』

乙哉『いくって?神社?』

千足『まさか。この建物の中をもう一度チェックするんだ。さっきは人がいて開けられない扉が多かっただろう。
   うまくいけば檻の鍵も見つけられるかもしれない』

春紀『なるほどな。よし、行こう!』

春紀「……………」


カンナギ会 事務所


春紀『昔の建物っつーのは縦に伸びてなくて広いな』

乙哉『春紀さんの家よりかちょっと小さいくらい、かな?』

千足『おそらくそんなところだろう』

春紀『そっち、人いるか?』

乙哉『ううん。開けて大丈夫だよ』

春紀『よっしゃ』ガラッ

千足『……何かあったか?』

春紀『いいや。まだだ!ガンガン調べてくぞ』

千足『あぁ、封印に必要になるものが判明するといいんだが』

乙哉『あたしはとりあえずハサミ探すね!』

春紀『オイ武智ちょっと待て』


カンナギ会 裏庭


乙哉「ここ?この穴でいいの?」

伊介「間取り的に独房はこの辺りだったはずよ」

春紀「……ん?なんだ?」

千足「!」

乙哉「ホントだ!ここの穴が独房の窓になってるんだ!春紀ー!聞こえるー!?」

千足「乙哉っ、しずかにしろ……!春紀、無事か?」

春紀「その声は……来てくれたのか」

伊介「伊介もいるわよ」

春紀「……そうか」

伊介「なによー。反応薄いじゃない」

春紀「今日は、驚き過ぎた」

伊介「……そういえばアンタ、霊に取り付かれてるんだっけ」

千足&乙哉「!!?」


伊介「伊介も信じられないんだけど、あいつの側に置いてある桶の水がね、ぴちゃぴちゃ勝手に跳ねまくるのよ」

乙哉「上から何か降ってきてるとかじゃなくて?」

伊介「それが、誰かが水遊びしているみたいな、不規則な動きなのよね」

千足「そんなことが……あの変な恰好の春紀のしわざか……?」

伊介「タイミング的に違うわよ。春紀と伊介が喋ってた時だもの。あの春紀はあんたの家からずっとついてきてたんでしょ?」

千足「そうか……春紀、平気か?」

春紀「いんや、ちょっとまずいかもしれない」

乙哉「えー?他にも何かあったの?」

春紀「桶に、あたしと、乙哉と、千足の姿が映ってた」

千足「……!」

春紀「見間違いなんかじゃない。変な格好をしたあたし達が、確かに映ってたんだ」

伊介「なんなの?伊介は?映ってなかったの?伊介だけ仲間外れ?」

乙哉「え、なんでそんなところにこだわってるの?可愛いんだけど」


千足「春紀、とりあえずここからお前を出そうと思う」

春紀「助けならいらんよ」

乙哉「どうしたの!?ほら、封印しに行かなきゃ!」

春紀「箱のことか?」

伊介「そうよ。あんたらにしかできないんだから、しっかりやんなさいよ」

春紀「……あたしの、家の方には知れたのか?このことは」

伊介「………まだだと思うわ。冬香は大事にしたくないからって伊介だけにしか相談してないし、他の兄弟も寝てたみたいだから」

春紀「……そうか」

伊介「でもそろそろ、隠し通すのが難しくなってくる頃かもしれないわね」

春紀「監禁されたとはいえ、元々はあたしらが撒いた種だ。あたしの監禁が理由でカンナギ会が潰されるのはさすがに申し訳ないな」

千足「じゃあ出なくていいなんて言わないで」

春紀「待て待て、そんなこと言ってない。出るよ、出たいさ。だけどあんたらの力は借りなくて済む気がするんだ。なんとなくだけど」

乙哉「えー?一人で出るの?」

春紀「いんや」


……

………

……カチャリ

乙哉「……ねぇ今の音、何?」

春紀「牢屋の鍵が、ひとりでにあたしの方に飛んできた」

千足「もしかして、あの妙な格好の春紀のおかげか……?」

乙哉「やったじゃん!」

ガシャン…!

春紀「よし、これであたしは自由の身だ。どうしたらいい?」

伊介「家族が心配してるでしょうから、まずは無事だということをアピールする為に家に帰って」

春紀「そうだな、わかった」

伊介「南西の町はずれでこの二人が待ってるから、適当に合流して神社に向かいなさい」

千足「犬飼は来ないのか?」

伊介「伊介はパース♥精々死なない程度に頑張ってきなさい♥」

春紀「ははっ、わかったよ。伊介様を危ない目に合わせるワケにはいかないしな、それでいい」


町はずれ


乙哉「でも、さっきまで封印方法がわからないとか言ってたのに……なんで?神社に向かっちゃっていいの?」

伊介「町と建物の雰囲気で察したわ。カンナギ会の連中のほとんどは、おそらく神社で封印の為の準備をしているのよ」

千足「そんな大掛かりなことをする必要があるものなのか?」

伊介「そうよ」

乙哉「来ないって言ってたくせにしれっと待ち合わせ場所にいる伊介さん超可愛い」

伊介「黙れ」


伊介「ここなら誰もいないだろうから説明しやすそうと思っただけよ」

乙哉「えー?じゃあ説明終わったら帰っちゃうの?」

伊介「帰るわよ。あったりまえでしょ」

千足「てっきりついてきてくれるものかと……」

伊介「一応実家の稼業がカンナギと繋がってんのよ?これ以上表立って面倒起こせないわよ」

乙哉「そっかぁ……」

千足「で、犬飼は何を知っているんだ?」

伊介「伊介が知っていること、それはね。カンナギ会とあの箱の中身についてよ」


乙哉「さっき言ってたよね?死体が入ってるとか」

伊介「そうよ。その中身とカンナギ会の成り立ちは切っても切り離せない関係にあるの」

千足「どういうことだ?」

伊介「あんたら、カンナギ会がこの町にいつからあるか知ってる?」

乙哉「んー……わかんないよ。あたしは元々よそ者だし。あの人達については何やってるかよくわかんない人達って印象しかないかな」

千足「私は生まれも育ちもここだが、知らないな。昔からあっただろう」

伊介「でしょうね。いい?あの組織は、地方の優柔不断な権力者のお陰で発展してきたのよ」

乙哉「あ~、あたしそういうのわかんないや」

伊介「いいから聞きなさい」グイッ

乙哉「いったぁ!?耳引っ張んないでよ!」

千足「今のやりとり、春紀が見たら怒ると思う」


乙哉「で?なんで偉い人のお陰で発展できたの?」

伊介「簡単よ、カンナギ会のトップ、親方と呼ばれる人物には未来を占う能力があるってことになってるから」

千足「呪いでか?」

伊介「らしいわよ。どこかの権力者に贔屓にされてるって評判がある方がハクがつくし、あの組織はそうして成長していったみたいね」

乙哉「でも、”未来を占う能力があるってことになってる”ってどういうこと?本当は無いの?」

伊介「表向きは呪いで不運を回避しているとか、幸運を呼び込んでいるとか言われてるけど……実際はその逆。
   依頼人の邪魔な存在を消したり潰したりしてるだけ」

千足「なるほど……あの刺青には、何か意味があると思うか?」

伊介「あれは識別用よ」

千足「刺青なんて無くても顔で」

伊介「ここのトップの親方ってのはそれができないのよ」

乙哉「どういうこと?トリ頭なの?」

伊介「ねぇ、こいつ伊介に真面目な話させてくれないんだけど」

千足「乙哉………めっ」

伊介「甘やかしかよ」


伊介「別にバカじゃないわよ、ここのトップは。ただ……驚くほど他人に興味がないのよ」

千足「……なるほど、そのためにせめて組員だとわかるように目印を?」

伊介「そういうこと。だいぶ前に任侠者の集まりをそのまま信者として迎えいれたことがあったみたいんだけどね」

乙哉「あー。なんかたまにすごい柄悪い人いるもんね。あの人達って元はやっぱりそうだったんだ……」

伊介「そのときに刺青があって分かりやすかったから、組員には入れさせているみたいね。親方と呼ばれてるのもその名残みたい」

千足「任侠の組をそのまま取り込むだなんて、かなりの資金力がないとできなさそうだな」

伊介「そうね。あそこの収入源はお抱えの権力者への呪いと、希望者への祈祷、町の保安警備ね」

千足「なるほど。しかし最後のはほとんど収入にならないだろう?春紀の家のシマを荒らすくらいなら手を引けばいいのに」

乙哉「いや~、最後のはお金目的じゃないんだと思うよ?市民の味方のカンナギ会!ってのを印象づけたいんでしょ、きっと」

伊介「でしょうね、伊介もそんなとこだと思うわ」

乙哉「でも、春紀の家はどう思ってるのかな?聞いたことないけど、邪魔だと思ってそうじゃない?」

伊介「あいつのお父さんは『うちは任侠、あっちは呪い。着物屋が薬屋の商売に口出すか?』って言って笑ってたらしいわ」

乙哉「相変わらず器の大きい人だね。でもそれ、春紀に何もなかったら、ってことだよね」アハハ

千足「春紀が監禁されたことが春紀の両親に知られたら……あまり想像したくないな」


伊介「カンナギにとって呪いというのがどれだけ重要かはわかったわね?」

乙哉「うん。怪しいげな人達だな~とは思ってたけど、想像以上に怪しかったね」

伊介「……やっと箱の話に移るわよ?」

乙哉「待ってましたー!」

千足「今の話と繋がる、んだよな?」

伊介「えぇ。あの箱の中身は、カンナギ会親方の妻よ」

乙哉「……!?」

千足「なっ……!まさか自分で」

伊介「いいえ。病死よ。医者も手を施すことができなかった謎の病気。彼女はとても苦しんで亡くなったらしいわ」

乙哉「うわー……病死はちょっとなー……」

千足「何死ならいいんだ?」

乙哉「女死とかある?」

伊介「ねぇよ、黙って餓死しろ」

乙哉「ひどくない!?!!?」


伊介「生き返らせる為に、色々やったらしいわ。蘇生術とか、そういうの」

千足「……痛々しいな」

伊介「そんなんで死者が生き返ったら苦労しないっての」

乙哉「それでそれで?」

伊介「その研究がこうじて、カンナギ会を作ったのよ、その男は」

千足「!妻が亡くなったというのはカンナギ会ができる前の話か」

伊介「えぇ。自分で組織を立ち上げれば情報も入ってきやすいと考えたみたいね。それにまともに働けるような状態じゃなかったみたいだから」

乙哉「他に道がなかったのかもね……」

伊介「呪いの仕事を請け負うようになってから、人間の強欲さに気付いたのよ。その男は」

千足「それは、権力者達の依頼内容がそうさせた、ということだろうか」

伊介「そうね。『自分は妻と二人で暮らしていければ、それだけで良かった。それすら叶わずに妻は死んだ。
   なのにこの豚共はなんだ?家族、領地、金、名誉、これだけで得てまだ足りぬと申すか』って絶叫してたわ」

乙哉「どこで!?」

伊介「うちよ。伊介はたまたま厠に行きたくなって目が覚めたの。いきなりこんな会話が聞こえて本当にびっくりしたんだから」

乙哉「で?どうだった?」

伊介「……?」

乙哉「だからー、厠行く途中だったんでしょ?びっくりして?それで?出ちゃった?」

伊介「千足、だっけ?こいつの股間に腕ほどの太さの木の幹ブッ刺して宙づりにしといてくんない?」

千足「……」ガシッ

乙哉「待って!待ってよ!!?おかしくない!?ちょっとふざけただけじゃん!!?」


伊介「ママが言ってたんだけど、色々な呪術を試したせいか、あの箱には不思議なチカラが宿ったらしいわ。
   そのチカラを使って親方は呪いごとをしているみたい」

乙哉「不思議なチカラっていうのは、つまり……?人を不幸に陥れるような……?」

伊介「そうよ。皮肉なものよね。妻を生き返らせる為に作ったカンナギのせいで、妻の遺体が入った箱は負のチカラを宿してしまったんだから」

千足「……犬飼が箱の封印をしろと強く言う意味がわかった気がする」

伊介「どういうことよ」

千足「同情しているんだろう?その親方に」

伊介「……どうかしらね」



乙哉「中に入っているのが奥さんの遺体だって、知ってる人、どれくらいいるのかな?」

伊介「それ自体は組の中では有名な話よ。親方も隠したりしてないもの」

乙哉「あ、そうなんだ」

伊介「ただ、呪いの媒介になってるっていうのを知っている人はかなり数が限られてくるわね」

千足「つまり、大半の組の人間には”妻の亡骸をいたずらに弄ばれた可哀想な親方”と映っているんだな」

伊介「でしょうね。それ自体も間違いではないんだけど、今後の呪いに影響があるからっていうのも少なからずあるでしょうね」

乙哉「奥さんの為にやってるんだか、自分の為にやってるんだか……」

伊介「さぁね、あの人はもう、あの箱を守ることしか考えてなさそうだけど。他人に興味がないっていうのもその辺りが関係してるんじゃないかしら」

千足「……」

伊介「ま、そんなワケだから。あんたらも協力してやんなさいよ」

千足「しかし、そんな背景があったとは……箱の封印が終わったあとでひどい目にあわされそうだな」

伊介「それは否定しない。呪いをかけられたりはするかもね」

乙哉「えー!それで女の子とイイコトできなくなっちゃったらどうしよう!?」

伊介「アンタの頭の中ってそればっかりね」

千足「一瞬尊敬しかけた」

伊介「ちょっとわかるわ」


春紀『……聞いてたか?』

千足『あぁ。こいつらは本当に余計なことをしたんだな、というのがよくわかった』

乙哉『引くよねー。やっていいことと悪いことがあるよ!』

春紀『言い出しっぺの来世は黙ってような』

乙哉『でもさー春紀さんのところが任侠?ってことは、ヤクザってことなのかな?』

春紀『今のヤクザほどタチの悪いものじゃないと思うけどな。まぁ、生田目が桐ヶ谷にあたしとつるんでることを言いたがらないのもわかった気がする』

乙哉『柩ちゃん過保護っぽいからねー。嫌がるかもしれないって懸念するのはなんとなくわかるよ』


春紀『こいつらがその後どうなろうと、あたし達は箱の封印をしないといけないんだ』

千足『そうだな、そうしないと元の世界に戻れない』

乙哉『でもさ、今の話だと、なんでわざわざ奥さんがあたし達をここに呼んだのか、結局わからないままだよね』

春紀『なんでって、安らかに眠ってたいんだろ?』

乙哉『そうかな?呪いの媒介として使われてるのに?無事に封印されたとしても別に安らかに眠ることはできないんじゃない?』

千足『……何か他に理由があると言いたいのか?』

乙哉『んー、わかんないけど……このままだと封印は上手くいかないってことだよね?』

千足『それはどうだろう……』

春紀『鍵を渡してこの世界のあたしを逃したんだぞ?それに生田目に危機を教えたし……状況は変わってるだろ?』

乙哉『そうなんだけどさ』

千足『……』

乙哉『どうしたの?』

千足『その、武智がこんな真面目な話を……長々と……』

乙哉『あたし事務所でハサミ見つけてきたけどどうする?』


春紀「よっ、待たせたな」

伊介「あら、遅かったじゃない。じゃ、伊介は帰るから」

春紀「そっか、終わったら会いに行くよ」

乙哉「春紀大丈夫?フラグ立ててない?」

春紀「縁起でもないこと言うなよ!!」


春紀「……伊介様は帰ったか。すまん、謝らなきゃいけないことがある」

千足「なんだ?」

春紀「……どうやら親父にはとっくにバレてたみたいだ」

乙哉「!!」

乙哉『あーあ。封印が上手くいかなかったの絶対これが原因だよーもー春紀さん何やってるの』

春紀『あたしは悪くないだろ!?』

春紀「帰ったら色々と問いただされてさ。組の奴らを連れてその神社に向かうって聞かないんだ」

千足「……それは、マズいな」

春紀「あぁ、封印どころじゃなくなることは間違いない」

乙哉「どうするの?」

春紀「あたしらが先回りして終わらせるしか無いだろ」

千足「そうなるよな、やはり」

乙哉『きっとこれが上手くいかなかったんだね……どうする?』


千足『どうするって、私達に何ができるのかわからないが……こいつらよりもさらに先回りして動くしかないだろう』

春紀『やっぱそうなるよなー……うっし、走るか』

乙哉『えー!あたしパース!』

春紀『うるせぇ』グイッ

乙哉『あ!耳はダメだって!ちょっ!痛いって!!?』

春紀『生田目、逆の耳を頼む』

千足『……』コクッ

乙哉『容赦なさ過ぎない!?っていうかなんで頷いたの!?ちょっと!』


神社


春紀『……で?誰が先回りするって?』

千足『思いっきり交戦中じゃないか』

「らぁ!!!」

「ぐはっ……!!」

「春紀嬢ちゃんに手ぇ出させて黙ってるワケにゃいかねーんだよ!」

「元はといえばそっちが封印を…!」

「るせぇ!大体なぁ!俺らぁてめぇらカンナギの連中が気に食わなかったんだ!こそこそと呪いなんかに頼りやがって!」

春紀『あたしが捕まったってのは大義名分って感じだな』

乙哉『思った。あと耳痛い』


「親方ぁ!寒河江組の連中が……!」

親方「見たらわかる。こんなことは、あそこの娘をかっさらってきたときから覚悟してた」

「じゃあ……」

親方「あぁ。容赦はしなくていい。神社を死守しろ。誰も室内に入れるな。私は準備にとりかかる。通していいのは例の3人だけだ」

「承知しました!」

春紀『あの男が親方って奴か』

乙哉『禍々しいオーラ放ってるね~』

千足『ついていくか』スタスタ

春紀『だな』スタスタ

乙哉『誰も通すなって言われてるのにソッコーで侵入されちゃってて可哀想』


親方「すまない、家内よ……お前の眠りを妨げることになろうとは……」

春紀『見方によっちゃこのオッサンも被害者なんだよな』

乙哉『でもやっぱ一番の被害者はあたし達だよ!前世にやらかしたことまで遡って責任取らされてるんだよ!?』

春紀『まぁなぁ……』

千足『そうだ。またこの箱さんと会話できないだろうか』

春紀『箱さんはやめろっつってんだろ』


乙哉『でも名案じゃない?あたしは賛成!』

春紀『それができるんならあたしだっていい案だと思うけど』

千足『箱さん!聞いてくれ!!』

春乙『!?!?』ブッ

千足『何故吹き出す!!』

春紀『便宜上あれを箱さんと呼ぶのはまだ理解できたけどな』

乙哉『本体に呼びかけてるの見たら笑うでしょ』


千足『じゃあなんと呼べばいい?』

乙哉『病死さんとか?』

春紀『悪意しかねぇじゃねーか』

乙哉『じゃあ春紀さんはどう思う?』

春紀『んー……奥さんでいいんじゃないか?』

乙哉『……』

千足『……』

春紀『なんで”その発想はなかった”って顔してんだよ』


乙哉『よーし、じゃあ………奥さん!聞こえてるでしょ!』

千足『もうすぐこの世界の私達がここに到着する。だがその前に聞かせて欲しい』

乙哉『奥さんはどうしてあたし達を呼んだの!?』

春紀『来世のあたし達を呼び寄せてまで封印をさせようとする理由があるんだろ!?』

『………で………さい……』

乙哉『!!いま何か聞こえた…!?』

千足『外が騒がしくて聞き取れないな…』チッ

春紀『頼む……!もう一度応えてくれ……!』

『箱さんって……呼んでください……』

春紀『気に入ってんじゃねーーよ!』

眠いので寝る

少し書きにきた


千足「やっと神社が見えてきたな……しかし……これは……」

乙哉「ちょっと、春紀……?」

春紀「まさかもう始まってたとはな……」ゼェハァ……

千足「走ったせいでしばらくはまともに動けそうにないな……」

乙哉「見つからないように身を潜めておけばいいんじゃない?あそことかどう?」

春紀「木の上、か……一応人目は避けれそうだな。状況が知りたい、もう少し近づけるか?」

乙哉「うーん……あと少しなら。わかってると思うけど、深追いしたらダメだよ?」

春紀「あぁ、あたしはしない」

千足「どういうことだ?」

春紀「乙哉、ちょっと見てきてくれ」

乙哉「さらっとすごい要求してきたね!!?」


神社近くの木の上


春紀「……やはりと言うべきか、あたしの家の連中が押してるな」

乙哉「そりゃそうでしょ……むしろ建物だけでもよく死守してるよ、すごいよ」

千足「戦いに巻き込まれても面倒だ。裏から回ってみないか」

春紀「でも中にも人がいるだろ?」

乙哉「勘だけど、少なくとも親方って人はいそうだよねー」

千足「だろうな。しかしこのまま無意味な争いを放置する訳にもいかないだろ」

春紀「だな……うし、いくか」

乙哉「なーんか大げさなことになっちゃったよねー」

春紀「……………」ギロッ

乙哉「あーうそうそ、そうそう、言い出しっぺあたしだもんね?ね?」アハハ…

春紀「反省してるならいいんだ、反省してるんなら」

乙哉「あっ!あの薙刀使いのお姉さん可愛くない!?」

千足「どうやら反省はしてないようだな」


春紀『さぁ、質問に答えてくれ』

『……』

乙哉『地蔵は聞いたよ』

千足『地蔵……?』

春紀『それを言うなら事情だろ』

乙哉『そうそう、それそれ。間違っちゃったの』

春紀『そのまま発言すんなよ、お地蔵さんぶつけんぞ』

『よく地蔵から事情ってわかりましたね』

千足『私も思った』

乙哉『以心伝心だね♥』

春紀『で、話を戻すが』

乙哉『無視!?』


『そうですね。この人、夫と私の事情を知っているなら説明しやすいかもしれません』

乙哉『?』

『この人は呪いや祈祷の儀式をするとき、必ず私の前、この箱の前でそれを行いました』

千足『……』

『祈りの力を少しでも私に分ける為、のようですが、私に分けられてしまったのはとんでもないものでした』

春紀『なんだ?とんでもないものって』

『それは彼の憎悪です。欲深い人間達への。彼は依頼人の依頼の遂行の為に儀式に及びましたが、それと同時に彼らを嫌悪していました』

乙哉『そりゃね。春紀さんと伊介さんが別れた直後にあたしが『ねーねー春紀さーん、伊介さんの紹介で知り合ったお姉さんいるじゃん?
   落とすのに手伝って欲しいんだよね~小銭あげるからさ~』なんて言ってきたらムカつくよね』

春紀『その例え話ツッコミどころ欲張り過ぎだろ』


千足『人を不幸に陥れる力が宿ってしまった、と聞いているが?』

『不幸に陥れる力……そうですね。その通りです。正確に言うと、未来を奪う力が備わってしまいました』

乙哉『そんな力を宿すくらいだもん、この親方は本当に奥さんが好きだったし、それと同じだけ周囲を恨んだんだろうね』

春紀『武智、お前……人の心を……』

乙哉『何その顔!あたしが変人でもこれくらいわかるし!』

千足『そうか……よく……よくわかったな……』ナデナデ

乙哉『噛み締めるように言わないで!』


春紀『でも未来を奪うってどういう力だ?』

『効果の現れ方は人それぞれです。例えば出世のチャンスがなくなったり、日照りが続いて農作物が育たなくなってしまったり……』

乙哉『それ普通に死ぬよね』

『そうです。死にます』

千足『箱さん、思っていた性格と少し違う……』

春紀『あたしに言われても』


『夫の呪いの媒介となってしまった私の亡骸とそれを収めたこの箱は、とても危険なものです』

乙哉『だからカンナギ会の人が見張ってたの?』

『そうです。そして誰も近寄らないように、人々が聞くと震え上がるような、恐ろしい名前をこの神社につけたりもしました』

春紀『バカ三人には効かなかったけどな』

『それに、この箱が開けられてしまうと呪いの力も弱まるようですから』

千足『……箱を守る理由が親方にはいくつもあった、ということか』

春紀『で、だ。本題はこっからだ。だろ?』

『……えぇ。私は、あなた方に、その、同情しました』

千足『どういうことだ?』

『私はあなた方とは違います。穢れてしまった魂は浄化が終わるまで次の生を与えられません。暗い闇の底から、私はあなた方の人生を見守っていました』

春紀『なるほどな。でもその理屈でいったら武智も生まれ変われないハズだけど……』

乙哉『なんかいきなり飛び火した!?』

『女狂いとは比較になりません。私は夫の愛と憎悪、全ての業を何年何十年と注がれ続けてきたのですから……
 さらに、この箱に閉じ込められている間は魂を浄化することすら叶いません……』

乙哉『ねぇ念のために聞くけど女狂いって誰のことかな』


千足『………』

春紀『生田目?どうした?』

千足『……箱さん。前世の私達はあなたの封印を解いてしまった』

『………』

千足『そうして、箱さんに同情されるようなことが私達に降り掛かった。ということだな?』

『……そうですね』

乙哉『つまり過去の過ちを正せって悪夢にうなされたってこと?』

千足『お前話聞いてたか??』

春紀『これもうわかんねぇな』


春紀『つまり、見ていられなくなって、あんたはあたしらの夢に出てきて語りかけてたんだろ?』

『……そうです』

乙哉『もー、もったいぶんないで教えてよー』

『……あの日、前世のあなた方がこの箱の封印を解いてしまったことにより(しかもビリビリに破いた)、
 あなた方が”当然のように手にする予定だったもの”が奪われてしまったのです』

春紀『おい、ビリビリに破いたことめちゃくちゃ根に持ってるぞあの人』

千足『いやあれはさすがに怒るだろう』

乙哉『あたしそろそろ前世での行いについて責められることに何の疑問も持たなくなってきた』


春紀『前世のあたしが当然のように持っていたもの……金か……』

千足『私は柩との幸せな日々、か……しかしそれを乗り越えて来世で巡り会えるなんて……やはりディスティニーだな……』

春紀『生田目はテイルズシリーズでもやってろ』

乙哉『千足さんってたまに恩師の娘さんが殺された設定ころっと忘れてる感あるよね』


乙哉『ねぇ、あたしは?』

春紀『え?剣持とか?』

乙哉『奪われても全然困らないよ、チョー面白い』

春紀『言ってやるなよ』

千足『……性欲、じゃないか?普通の』

春紀『!!それだ!』

乙哉『あー……なるほどねー……』

春紀『そう考えると、一番影響受けてんのは武智かもな……』

乙哉『あたし……かわいそう……』

春紀『ん?なんか言ったか?』

千足『さぁ、気のせいだろう』


『夜明けまでに、どうか私を封印してください』

千足『夜明けまでに?』

『えぇ。封印が解かれてから丸一日以上かかると、三人に降り掛かった災厄は振り払えなくなるかもしれません』

乙哉『……封印したら、なかったことになるの?』

『なかったことにできるかは分かりません。しかし、すぐに封印に立ち会うことができれば、来世のあなた方にまで影響が及ぶことはなくなります』

千足『……ということは、どうなるんだ?私達は』

『人生がガラリと変わると思います。”変わる”というよりは、”戻る”と言った方が正しいかもしれません。
 呪いによって奪われたものが戻ってくるのですから』

乙哉『……じゃああたしは、普通に誰かと、殺すことなく生活できるようになるっていう、そういうこと?』

『そうですね』

春紀『アンタが妙なことに拘らなければその生活は今でも可能なんだけどな』

乙哉『それは言わないでー☆』


千足『ちなみに、私達が手を出さないと、どうなってしまうんだ?』

『戦闘が激化しているため、なかなかここに近寄れない3人は、ちょうど夜明け前に到着します』

乙哉『あー……ギリギリ間に合わなかったパターン……?』

『そうです。私は封印され、さらにそれから数百年閉じ込められることになります』

乙哉『魂の浄化?がそのせいで遅れちゃうんだね……』

『その通りです。そして三人の未来に影響を及ぼす程の力を消費したせいか、箱の呪いも効力が弱まり、カンナギ会はゆっくりと衰退します』

春紀『誰も幸せになってないじゃねーか』

乙哉『あたし達のせいって考えると感慨深いね』

千足『本当にな』


『私はあなた達を救いたい。例えお札をビリビリに破かれて封印を解かれたとしても、無知ゆえの罰と切り捨てるにはあまりに大き過ぎます』

春紀『おい、やっぱ相当怒ってんぞ』ボソッ

乙哉『あたしかな?とりあえずあたしが謝ればいいかな?』

『この呪いを受けるのはこの世界の人間だけで十分です』

千足『……それは箱さんの意思でどうにかなったりはしないのか?』

『背負わされた業は私にもコントロールできないのです。お願いです、どうか……』

親方「よし。大方の準備は完了したな」

一同『!!?』


親方「あとはバカな三人がここに来るのを待つだけ、か。寒河江組が動いたんだ、きっと来るだろう」

春紀『よぉ』

親方「!!?儀式用の姿見に……!?」バッ

千足『ははっ、そこには誰もいない、というより振り返ってもお前には見えないぞ』

親方「こっちにも!!?」バッ

春紀『なぁ、頼みがある』

『?……私ですか?』

春紀『あぁ。できるなら、あたしらをここに、はっきりと存在させてくれないか』

乙哉『そうだよ。封印の為には春紀さんの組の人を黙らせなきゃでしょ?』

『確かに、そうですね。私には何もできません。しかし……』

千足『?』


『その封印用の祭壇に置かれている水に触れてみてください』

乙哉『ただの水じゃん……』

『ただの水ではなく聖水です。聖水にはあの世とこの世を繋ぐ力があるのです』

春紀『あの世と繋いで触れるようになるって、あたしらを幽霊扱いするんじゃねぇ』

『ふふふ、ものは試しです。三人ともかなりこの世界に馴染んできているようですから、恐らくは具現化することができると思います』

春紀『……なるほどな』

『ただし、具現化すると今まで通り、人に気付かれないようになる方法は私にもわかりません』

乙哉『別にいいよ、ちゃんとあたしらの世界に戻れれば』

千足『あぁ、そうだな。何も問題はない』

『わかりました。もうじき儀式用の結界のせいで私の声を届けることも難しくなるでしょう……それでは、よろしくお願いしますね』

春紀『………お前ら、わかってるな』

乙哉『あはっ♪わかってないワケないじゃん』

千足『武器になるものは……外に行けば刀が落ちているか』

春紀『せーの、で触るぞ?』

春乙千『……せーの!!』

寝る
明日も書きに来る
おやすみ

乙です。
会話劇が楽しい。
wordで数えたらここまで約6万字で文庫本なら120ページは行く分量。素直にすごいと思う

戻った

>>247
文庫で120ページワロタ


神社周辺 林の中


春紀「くっそ、なかなか進めないな」

乙哉「千足が目立つから……」

千足「仕方ないだろ!というか春紀もだいぶ目立つぞ」

春紀「まぁ、否定はしないけどな。見つかった時はどうする?戦うか?」

乙哉「自慢じゃないけど逃げ足は速い方だから」

千足「本当に自慢にならないな」

乙哉「もう、千足が捕まってても助けてあげないんだからね!」

春紀「こいつなら振りほどけるだろ」

千足「私はゴーレムか何かか」


祭壇前


乙哉『箱を守る為に具現化したい?よく言えたね、そんな嘘』

春紀『お前らだって乗ってきたろ』

千足『まぁな』

親方「………お前ら、何者だ。そこをどけ。神聖な祭壇だ」

春紀『こりゃまたご挨拶だな』

乙哉『封印するのにあたし達の立ち会いが欲しかったんでしょ?』

千足『それとも何か。私達はお前が期待していた人物とは違うか?』

親方「………」

春紀『声も出んか。ま、そりゃいきなりこうして現れちゃな』

親方「なんか変な服着てる……」

春紀『ホントそればっかだなアンタら!!!』


親方「いいや、俺にはわかる……例えばお前。お前は、寒河江組のところの娘ではない。そうだろ」

春紀『インチキ野郎なんじゃないかと疑ってたが、いらん心配だったみたいだな』

乙哉『これでその根拠が「着てる服が違うから」だったらどうする?』

千足『爆笑する』

春紀『あたしは激怒するけどな』

親方「……」

春紀『おい!なんか喋れよ!肯定の沈黙みたいだろ!?』

乙哉『あちゃー』

千足『……!!………!!!』

春紀『生田目はサイレントモードで爆笑するのやめような』


親方「ふん、冗談だ」

春紀『ノリよすぎかよ』

親方「あの三人の来世、と言ったところか。何をしにきた」

春紀『わかってんじゃんか。あたしらはある人に呼ばれたんだよ』

乙哉『あの箱を開けたあたし達三人は来世に影響があったの』

千足『それを見て、もしどうにかする力があったとして……お前の妻は黙って見てると思うか?』

親方「まさか……妻が……?しかし」

春紀『こんな馬鹿げたことは今すぐやめろ』

親方「……待て。その話が本当だったとして、お前らがここに呼ばれたのは、この箱を正しく封印するためだろう。何故邪魔をする」

乙哉『あはっ♪あたし達さー、今の暮らし結構気に入ってるんだよねー』

千足『紆余曲折はあったが……私と柩にとってはどれも大切な過去だ。今更ねじ曲げられるワケにはいかない』

親方「柩………?」

春紀『アスペって聞き手が知らない人物の名前平気で出すよな』

乙哉『わかる』

千足『今のは否定できなくて悲しい』


春紀『ま、そういうワケだ。あんたの奥さんの親切にゃ感謝するさ。だけど余計なお世話だったってワケ』

親方「させん……させんぞ!!」

乙哉『もちろん、あたしらだってこのまま帰れないよー』

千足『箱の封印の代わりにやることができたものでな』

親方「……お前ら!!であえであえー!!!」

春紀『!?』

乙哉『仲間呼ぶとかウケるー♪』

千足『ウケないだろ!』

「お呼びでしょうか!……って、貴様ら、何者だ!!」

「てめぇらどうやってここに入った!」

親方「やれ!」

「合点です!」


春紀『……まずはあたしが数人しとめるから、その間に生田目は刀を』

「がはっ!」ドサッ

春紀『!?』

千足『安心しろ。私は素手でも結構強い』

春紀『……みたいだな(なんか今の兎角サンみたいだったな)』

千足『括弧の中見えてるから!それだけはやめてくれ!』

春紀『嫌がり過ぎだろ』ガスッ

「うぉ……」バタッ…

春紀『じゃ生田目はいいとして、武智の奴は』

「………」ドサッ……

乙哉『野郎相手でも戦えるけど愛も快感もないからすごく嫌』

春紀『そして容赦もないな』

千足『いまの奴、死んでるんじゃ……?』


春紀「なぁ、カンナギの連中が中に入ってたぞ」

乙哉「見たらわかるよ」

千足「どうする?」

春紀「もう少し様子を見るべきだろ」

千足「しかし早くしないと」

春紀「よく見ろ。カンナギを追ってあたしんとこの連中まで建物に流れこんでる」

乙哉「……確かにあの中に入っていくのは良くないね」

千足「タイミングを見てもう少し近づいてみるか」

春紀「だな。中で何が起こってるか確認したい」

乙哉「あーあ、こんなのほっといて帰ってエッチしたいな……」

千足「気持ちはわからないでもないけど、脳直で発言しすぎだ」

春紀「わからないでもないのかよ」


「なんだお前rへぶっ!」

「女相手に何やってんdあうっ!!」

春紀『こいつら、弱ぇな』

千足『少なくとも私達の敵ではないな』シュッ!!

春紀『あんた、レイピア専門じゃなかったんだな』ドゴォ!!

「ぐぅっ!!?」ドサッ

千足『一応、剣術はひと通りマスターしている』ブオン!!

「ぎゃー!!」

「なんだこいつら…!超強ぇ……!!」

乙哉『…………………………………………………』

春紀『武智のあんな不機嫌そうな顔、見たことあるか?』

千足『いや、ない。男相手なのが相当不快なんだろうな』


千足『カンナギ会だけではなく寒河江組の連中も流れてきたか』

春紀『ま、こうなるだろうな。あいつが大声で仲間を呼んだときから想定はしてたよ』

「状況がよくわからねぇ……春紀お嬢にそっくりだが…攻撃していいのか?」

「いいに決まってんだろ!やらなきゃこっちがやられる!」

春紀『はは、お前らがやろうとしてもどの道勝てっこないっつの』

「らああぁぁあ!!」

春紀『っと』ヒュッ…!

ドゴォ!!

「かはっ……!?」

春紀『言わんこっちゃない』

千足『すごいドヤ顔……』

春紀『してねーーーよ』


千足『順調に数が減ってくな』

春紀『まぁあたしらで合わせて半分くらいってとこだな』

千足『半分もいくか……?』チラッ

乙哉『………………………………………………』シュッバキッベキッドゴォォォ!ドスッメキッグチャッ

千足『凄まじい……修羅だ……』

春紀『オイいまグチャっつったぞ』

千足『股間を膝で潰していたようだ』

春紀『うわ……』

千足『寒河江!!あれをみろ!』

春紀『なんだよ……って、はぁ!?』

薙刀使い「人の顔を見て大声をあげるなんて失礼な……!あなた方は私が確保しますから。そのつもりで」

春紀&千足『逃げてくれーー!!』

薙刀使い「!?」ビクッ


乙哉『あーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーー?????????』

春紀『ヤバい』

千足『どうする』

春紀『ほっといたら薙刀の女は死ぬ、確実に。いくら前世とはいえ殺すのはまずいだろ』

千足『しかしおそらく既に武智に数人殺られている気が……』

春紀『うっ……だとしても武智の性の対象として殺される人なんていない方がいいだろ!嬲り殺しにされるんだぞ!』

乙哉『春紀さん』

春紀『なんだよ』

乙哉『…………………………邪魔したらマジで殺すから』

春紀『………早く残りの雑魚を片付けて親方を説得するぞ!!』キリッ!!

千足『諦めた!?』


春紀「……」

乙哉「ほら、入ろうよ!昨日は自分で鍵壊して入ったくせに!」

春紀「状況が違うだろーが!」

乙哉「もういいよ!あたしが開ける!」ガラッ!!

春紀「あっ!ちょっ!!………って、え?」

千足「………これは、なんだ?ほとんどが倒れている……?」

乙哉「変な格好の春紀と……あたし達まで……」

春紀『なんであたしだけ”変な格好”って言葉で修飾されてんだよ』


春紀『まぁいい。アンタら、ここでのびてる連中を建物の外に避難させてくれ』

千足『半数以上が気絶している。大変だろうが、なるべく急いでくれ』

乙哉「……ねぇ、奥にいるのあたしだよね?薙刀のお姉さんと戦ってる」

春紀「薙刀のって?さっきお前が可愛いって言ってた人か?」

春紀『女の趣味って変わらんもんだな』

千足『この世界の自分の犬飼との付き合い方見たらわかるだろ』

春紀『うるせぇよディスティニーエターナルラブ』

千足『惜しい、ブではなくヴだ』

春紀『ヴっ殺すぞ』


千足『それじゃ、避難を頼んだぞ』

春紀『あと、できれば薙刀の女も逃がしてやってくれ』

春紀「あっ、おい!待てよ!」

ガシッ

千足「……あの春紀は、私に箱の封印をするように言った。きっとその為の策なんだと思う」

春紀「でも……」

乙哉「ま、他にできることもないし。とりあえず言われた通りしとこうよ。これやったのあの人達でしょ?だったら力づくで勝つなんて絶対無理だし」

春紀「それもそうだな。よし、やるか」

乙哉「頑張って☆」

春紀「うっし、千足は足持ってくれ」ガシッ

乙哉「なんであたしを建物から放り投げようとしてんの!?冗談じゃん!?」

千足「わかった。せーのでいくぞ」

乙哉「いかないでよ!」


春紀『あんたの手下も寒河江組の連中も、もう打ち止めみたいだぜ』

親方「ばかな……」

千足『抵抗し足りないならいくらでも増援を呼んでくれていいぞ。無駄だろうが』

春紀『……箱の封印をやめろ』

親方「断る……!貴様なぞにはわかるまい!俺がどんな気持ちで」

千足『わかるに決まってる』

親方「なっ……!」

春紀『あぁ、分からない奴なんていないだろ。あたしらはみんなアンタに同情してるよ』

親方「だったら」

千足『しかしお前の感情よりも私は自分の人生の方が大事だ』

春紀『言い方ぁ!!』


春紀『結界が邪魔、とか言ってたな。この鏡か?』ガシャン!!

親方「やめろ!!やめるんだ!!」

千足『この盛り塩なんか怪しいと思うが』ガコンッ!!

親方「百歩譲って結界を解こうとするのはいいけど蹴るなよ!」

春紀『そうだ、箱の蓋も開けるか』

親方「貴様ら……それだけは許さん!!妻を愚弄するつもりか!!!」

春紀『………』

千足『………』

親方「なんだ、その目は!!」

千足『……愚弄してるのは』

春紀『てめーの方だろ!』ガコッ

親方「……!!?」


乙哉『あーあー、なんか派手に始めたねー』

薙刀使い「はぁ、はぁ……私の攻撃が当たらないなんて……何故……」

乙哉『もう終わり?ねぇ、もう終わり?今度はあたしが攻めてもいい?』

薙刀使い「ま、まだ、です……!」

乙哉『負けず嫌いなんだね??絶対にあたしを捕まえたいんだね?あぁ~~ん♥♥早くイっちゃいたぁい♥♥』

薙刀使い「………?いきますよ!」バッ!

乙哉『あはっ♪そっちじゃないっての。ま、いいけどね』サッ

薙刀使い「まだまだ……!」

春紀「……あれ、助けろって言われたけどさ」

千足「あぁ、どちらかというと助けるべきは攻撃されている乙哉の方では……?」

乙哉「あたしも思った。どういうことなんだろう……?」


乙哉『ねー、飽きてきちゃったよー……もういいでしょ?』

薙刀使い「もういいって……?」

乙哉『今度はあたしの番ね』

薙刀使い「……丸腰のくせに」

乙哉『そんなことないよー。さっきカンナギ会の事務所?からいいもの持ってきたんだ~』

薙刀使い「まさか、暗器……!?」

乙哉『暗器かな?ハサミなんだけど』

薙刀使い「……………」

乙哉『わぁー♥その「警戒して損した」って顔♥♥』


乙哉「やっぱりあの薙刀のお姉さん、ほっといても大丈夫そうじゃない?」

春紀「だな。薙刀VSハサミなんて聞いたことない」クルッ

千足「回避はできるみたいだし、ここは放置で、やはり親方の方を」スタスタ……

薙刀使い「っきゃー!!!」

春紀「!?」バッ!

乙哉「うそ……でしょ……」

千足「目を離した一瞬の隙に、服がズタズタに……」

春紀「あたしといい千足といい、あの三人は一体何者なんだよ……」

乙哉「すごい……おっぱい綺麗……」

春紀「どこ見てんだよお前は!!!」


乙哉「……!」ダッ

乙哉『はぁ?』

乙哉「薙刀のお姉さんは殺させないから」

薙刀使い「同じ子が二人……?双子……?」

乙哉『まぁ説明が面倒だから双子ってことでいいけど……ねぇお姉ちゃん、どいてくんない?』

乙哉「お姉ちゃんってもしかしてあたしのこと?絶対イヤ」

乙哉『あったりまえじゃん、あたしよりも前の時代に生まれてるんだから。どけないなら怪我するよ』

乙哉「そっちこそ」

乙哉『……ふぅん。いい度胸してんねー?』ダッ

乙哉「!?」


乙哉『何?その素人みたいな動きは!もしかして本当はただあたしに切ってもらいたかっただけ!?』ザシュ!ザシュ!!

乙哉「ったぁ……!何コイツ……マジでやばいかも……」

春紀「なんだよあいつ……!化け物かよ……!千足!いくぞ!」

千足「あぁ!!」

乙哉『ちょっと邪魔だからさー、転がっててくれない?』ブオン!!

ダッ

乙哉「!」

薙刀使い「あああぁぁ……!!」

乙哉「なんで、あたしのことなんて庇ったの!」

薙刀使い「あなただって、私のこと、庇ってくれたじゃない……」ドサッ……

乙哉『~~~~~~~!!!♥♥♥』ガクッ!ビクンビクン!

春紀「なんだこいつ、急に……千足!この女も建物の外に運ぶぞ!今のうちだ!」ガシッ

千足「あぁ!」

乙哉『はぁ……はぁ~……♥いきなり、そんな、深く突いちゃ……♥♥思わずイっちゃったじゃん……♥♥立てないかも……♥♥あっ……♥♥♥』

乙哉「え、ヤバい……!ねぇ、このあたしなんかヤバいよ……!!」

春紀「発言と表情はエロいけど、いま目の前で起こった出来事と照らし合わせると身震いしかしない」


千足「この女を避難させたら私達も離れよう。動けるか?乙哉」

乙哉「う、うん……!それよりもそのお姉さんは!?」

千足「急所はそれているからすぐに止血すれば問題ないだろう」

乙哉『……………♥♥♥♥♥♥』

乙哉『はぁ~………久々に気持ちよくなっちゃったー………♥』ゴロン

乙哉『まさか殺す前、しかもあの程度の傷でイっちゃうなんてねー……やっぱりしばらくブランクがあるとねー……敏感になっちゃうよねー……♥♥』

乙哉「ただただこわい」

春紀「乙哉ってこれ以上頭おかしくなれないと思ってたけどそうじゃなかったんだな」

乙哉「ちょっと」

千足「あいつが惚けてる間にお暇するとしよう」

春紀「……だな」


親方「貴様ら……よくも蓋を……!」

春紀『ここまでやりゃいいだろ。おーい、聞こえるか』

千足『……まだか。あとは何を壊せばいい?』

親方「……貴様ぁ!」ダッ!

春紀『生田目っ!』

千足『心配には及ばない』ガシッ

ダァン!!!

親方「っく…………」ガクッ

春紀『短刀なんて隠し持ってたのか、このオッサン』

千足『まぁこれでしばらくは動けないだろう』

親方「お前らは……何をするつもりで結界を……!」

春紀『あんたに見せつけるためだよ。今まで自分のしてきたことをな』

親方「……?」


千足『反応がない……もしかして、もう……』

春紀『いや、まだ時間はあるハズだ』

『……れた…………がで………た………』

一同「!!!」

春紀『よっしゃ!……もう一度応えてくれ!』

『……結界が破られたおかげでこうして再び声を届けることができました』

春紀『やっぱり、あたしらの読みは当たってたな』

『……あなた方は……現状のまま人生を歩むつもりだったんですね……私ったら、勝手に……』

千足『いや、私達はそれぞれ、かなり後ろ暗い事情を抱えて生きていた。箱さんがそう感じるのは自然なことだった』

親方「お前らは……何か聞こえるのか……?誰と話をしている……?箱さん……?」

春紀『アンタの奥さんだよ』

親方「……!?妻を愚弄する気か!!」

千足『何故だ!?』

春紀『これは仕方ない』


『でも……そうならそうと言ってくれれば……現世に返したのに……』

春紀『それじゃ都合が悪いからわざわざアンタに黙ってたんだろ?』

『………?』

乙哉『あたしらの人生から何かが奪われてるって発覚したのもだいぶあとになってからだったしねー』

春紀『武智!?いきなりきたからびっくりしたぜ……さっきの薙刀のは……』

乙哉『あはは、ごめんごめん、ちょっとオーガズムに達してただけ。おねーさんは生きてるよ』

春紀『気分的に今のお前に近寄りたくない』

乙哉『なんで!?ひどくない!?箱さんのために三人で力を合わせて、手を重ね合わせてがんばろっ?♥』

春紀『……』

千足『箱さん。乗りかかった船だ、私達が成仏させてやる』

乙哉『二人して無視はいけないと思うんだ』

『成仏、ですか……?』

乙哉『気合い入れて成仏させるよ!レッツゴー陰陽師ばりにね!』

春紀『古いな』

『しかもそれだと私が悪霊ってことになりますよね』


親方「しかし……そんなことをしても、来世の存在であるお前たちは救われないぞ……一度呪われたら、例え妻が成仏しようと」

春紀『アンタのせいでこのまま封印されたままだと可哀想だろ』

乙哉『あたしらのことはいいんだってば。話し聞いてた?』

親方「本当に、妻がそこにいるのか……?」

乙哉『えー?その段階???』

千足『信じていないのか?』

春紀『……なぁ、生田目。さっきの水、まだひっくり返してないよな?』

千足『あぁ、そこにある』

春紀『その水で手を濡らして奥さんの亡骸に触れてみようぜ』

千足『え、やだこわい』

春紀『ビビってんじゃねーよ』


親方「貴様ら、何をするつもりだ……?」

春紀『あたしらは本来ここには存在しないハズの人間だ。さっき聞いたんだ、この聖水は現世と他の世界を繋ぐ力があるってな』

千足『……なるほど、私達が間に入ることで、この男にも箱さんの声くらい届けられるかもしれない、ということか』

親方「そんな、まさか……」

春紀『ほら、いつまで地べたに座ってんだよ、立てよ』

千足『うっ……ほとんどミイラになってるな……さ、触るぞ?』

乙哉『んじゃ、せーので!』

「…………聞こえますか」

親方「!!!」

春紀『……どうやら、成功みたいだな』

乙哉『だね』


親方「私は…………お前を…………」

「もういいの。……いいの」

親方「またこうして、話をすることができるなんて………」

「ふふ、あなたの呪いのおかげよ」

親方「しかしその呪いで………私は……間違っていたのだろうか………」

「わからないわ。でも、どんなに間違えようと……私はあなたを愛している」

親方「ふぇっ………!」

乙哉『すごい感動的なシーンのとこ悪いんだけど、あのおじさん、いま「ふぇっ……」って言いながら崩れ落ちたよね』ボソッ

春紀『あたしも気になったけどさすがに空気読んで黙ってた。ぶっちゃけすっきりした』

千足『ありがとう武智、実は私もだ』

春紀「あいつらあの状況でツッコミ入れるって、鬼畜かよ」

乙哉「戻ってきてみたら…ずいぶん面白いことになってるね」


春紀「まぁ、あそこにいるあたしらの事情はなんとなくわかったよ」

乙哉「あたしらのせいでとんでもないことになっちゃってたんだね」

ガラッ……

千足「ん?」

伊介「これは一体……どういうこと……?」

春紀「伊介様…!どうしてここに!?」

伊介「町に戻ってもあんたんとこもカンナギ会もいないし、戻ってくる気配もなくて心配になったのよ。で?これはどういうこと?」

乙哉「……変なカッコした春紀さん達が、カンナギ会も、寒河江組も、全部やっつけてあそこにいる」

伊介「………あんたらは何をしてたの?」

千足「怪我人を建物の外に運んだり、かな……」

春紀「すまん、箱の封印できなくて」

伊介「いいわよ」

春紀「え」

伊介「いいに決まってんでしょ。親方の顔見てみなさいよ」

乙哉「でもあの人さっき「ふぇっ…」って言ったんだよ」

伊介「なにそれキモ」

春紀「可哀想すぎる」


親方「……目が覚めた。お前達のおかげだ。礼を言う」

乙哉『べっつにー?』

春紀『あたしらは奥さんに成仏してもらいたいんだが、あんたはどう思うよ』

親方「私も全く同じ意見だ。私のわがままに付き合わせて、家内を見送ってやることもできず、ずっとここに縛り付けていた……」

千足『誰もあなたを責めることはできない。私だって柩が死んだら同じことをする』

乙哉『うわしそう』

千足『シャレだが』

春紀『シャレになってねーよ』

ちょっと外す

戻った


親方「はは……お前達は、不思議な連中だ」

乙哉『未来からわざわざ来てるんだから、平凡じゃない方がいいと思わない?』

親方「言えてる」

春紀『なんだよ、さっきと別人じゃねーか』

親方「……あぁ、踏ん切りがついたからな」

千足『どういうことだ?』

親方「お前達、このあとどうするつもりだ」

春紀『……許されるなら、この寺を焼こうと思う』

親方「寺じゃなくて神社だが?」

春紀『言い間違ったんだって、悪かったよ。怒り過ぎだろ』


親方「しかし何故神社を?」

春紀『火葬だよ。遺体だけじゃなくこの神社ごと焼いちまった方が良さそうだ』

乙哉『ここ残すのもね。これからの儀式は他の場所使った方がいいよ』

親方「……火は、そこの松明を使ってくれ」

春紀『あぁ。適当に使わせてもらうよ。おっさんはどうするんだ?』

親方「私は、妻の亡骸に寄り添うつもりだ」

乙哉『それ焼死するよね』

親方「そのつもりだ」

乙哉『!?』


親方「…実は、妻を生き返らせる為に様々な地方の、禁忌とされる呪いや儀式を試した」

春紀『だからって死ぬこと』

親方「勝手に書物を盗んだこともあった。儀式に必要なものを奪ったこともあった」

乙哉『結構悪人だよね』

千足『武智は人のこと言えないだろ』

親方「そろそろ手詰まりなのはわかっていた、色々な連中が私の命を狙っている」

春紀『……』

千足『しかし……』

親方「極めつけに、ある病気を煩っているようなんだ。異変に気付いたのは最近だが」

乙哉『ある病気って?』

親方「さぁ。知らん。ただ、妻が死んだ病気とだけ」

春紀『………』

乙哉『これほど”ほっとけば死ぬ”って状態の人も珍しいよね』

春紀&千足『黙ってたのに!』


親方「早く行け」

春紀『……』

親方「こんな幸せな最後を迎えられると思ってなかった……。本当にありがとう」

千足『……行こう』

乙哉『それじゃね。奥さんによろしく』

親方「……周りの木に燃え移ると面倒だ、良かったら最後まで見届けてくれ」

春紀『ははっ。それまであたしらの体がこの世界にあったら、な』


神社の外


春紀『やっぱ木造の建物って燃えやすいんだなー……』

乙哉『春紀さん家の紙製の家とどっちが燃えやすい?』

春紀『誰の家が段ボールだって?』

千足『アレって想像以上に暖かいって本当なのか?』

春紀『知らねぇよ!あたしに聞くな!』

乙哉「っていうかこれ、山火事になったりしないのかな?」

春紀「近くの樹はうちの組の動ける連中に切らせたし、川からの水も調達してある。問題ないだろ」

千足「そうだな。そういえば、春紀の親父さんは?」

春紀「周囲の安全確認が終わったら伊介様連れて帰るって言ってたな。あとは自分で落とし前つけろだってさ」

乙哉「なるほどねー」

乙哉『前世チームがあたしからすっごい距離を取ろうとしてる気がするんだけど気のせいかな』

春紀『自業自得だろ』

千足『何の免疫もない状態でキツかったろうな……』

春紀『あたしもそう思う……』


乙哉「でも、本当によかったのかな」

千足「何がだ?」

乙哉「カンナギの親方だよ。伊介さんはどう思う?」

伊介「自分の一族からも命を狙われていたみたいだしね。いい死に場所見つけたじゃない」

春紀「どういうことだ?」

伊介「さっき春紀のパパが言ってたわよ。最近この町で何かをかぎ回ってる連中がいて、気になって調べさせたら親方の一族の関係者だったって」

千足「でも命を狙われてると決まった訳じゃ」

伊介「十中八九そうでしょ。元々有名な呪い師の一族だったみたいだし。身内が業界の禁忌犯しまくってたら、まぁしょうがないわね」

乙哉「そうだったんだ……」


伊介「これもさっきアンタのパパが言ってたけど」

春紀「なんだ?」

伊介「刺青を入れさせるのも、元々は親方の家の決まりだったみたいよ」

乙哉「ってことは親方も入れてたのかな?服で見えなかったけど」

伊介「さぁ?そこまでは知らないわよ」

春紀『……なーんかどっかで聞いたような話だな』

千足『……まさか、な』

伊介「?何よ」

春紀『親方の名前、わかるか?』

伊介「下の名前は知らないけど、クズノハっていうらしいわよ」

乙哉『……やっぱり』

千足『こんなところでその名前を聞くとはな』

春紀『あいつの顔思い出したらこの周辺にガソリン撒きたくなってきたな』

乙哉『あっ、それいいかも』

千足『現世なら簡単に用意できたのにな……』

春紀「ツッコミ役不在かよ」

乙哉「よくわかんないけど、来世のクズノハって人はだいぶ嫌われてるみたいだね」

千足「ガソリンとは何だ?」

千足『簡単に言うとすごくよく燃える液体燃料だ。すぐ爆発する』

春紀「嫌われてるなんて生易しいものじゃないことはわかった」


乙哉「?春紀のお父さんだ。手振ってるよ」

伊介「きっと見回りが終わったのね。それじゃ、伊介は帰るから」

千足「あぁ、またな」

春紀「今回は色々迷惑かけて悪かったよ」

伊介「今更だっつの」

春紀『じゃあな、伊介様』

乙哉『こっちのあたしに手出させちゃだめだよ?』アハハ

乙哉「ちょっ!それ言わないでよ!!」

春紀「………………………乙哉?」

乙哉「違う違う!してないしてない!」

伊介「伊介は何度も断ってるんだけどすごい誘ってくるのよね。春紀には黙ってたけど」

春紀「…………………………………ちょっとこっち来いな」ニコッ

乙哉「やっ、ちょっ」

ズルズル

千足「春紀があんなに怒るところ初めて見た」

伊介「あほくさ。それじゃ、伊介帰るから」スタスタ

千足「あ、あぁ。気をつけて」

千足『……今、寒河江が怒るの分かっててわざと言っただろ』

乙哉『たまにはお灸据えられないとね!』アハハ

春紀『そうだよな、お前もこの間まで司法制度にお灸据えられてたもんな』

乙哉『やめてよ!!』


春紀「なぁ、あたしよ」

春紀『なんだ?』

春紀「変な感じだな」

春紀『まぁな』

春紀「伊介様見てどう思った?」

春紀『安心しろ、その辺の趣味は生まれ変わっても変わらないもんらしい』

春紀「ははっ、そうなのか」

春紀『ま。あたしは受け身の取れる伊介様のが、断然好きだけどな』

春紀「?伊介はろくに運動もしたことがないんだ。無理に決まってんだろ」ハハハ

春紀『……舐めてると尻に敷かれるぞ、アンタ』

春紀「何言ってんだよ」

春紀『あたしが言うんだ、間違いない』

春紀「あっ……(察し)」


千足「……」

乙哉「どしたの?」

千足「いや、乙哉にあずかってもらった柩が心配になって」

乙哉『なんかペットみたいな言い回しするね』

千足「ひぃぃ……ごめんなさい………!!!」

乙哉『話しかけただけなのに……そうだ!今度あたしのことお化けみたいに扱ったら………殺しちゃうかも……♥♥』

乙哉&千足「……!!」ガクガク

千足『いじめるなよ』


春紀『ところで、あんたらはどういう繋がりなんだ?』

乙哉『あー。それ気になってた。っていうか春紀さんは家業手伝ってるみたいだけど、二人は普段なにしてるの?』

千足『幼なじみとかか?』

春紀「まさか。あたしらがつるむようになったのはここ一年くらいの話さ」

乙哉『え!?思ったより短いんだけど!?』

春紀「ある日、とある博打屋の警備を頼まれてな、そこに来たのが乙哉だ」

千足『客としてってことか?』

乙哉「そうそう。あたし、博打で稼いでるんだよねー」アハハ

春紀『こんなに武智っぽい職業が、他にあるだろうか?』

千足『いいや、ない』

乙哉『反語やめて』


乙哉「その日もあたしが一人勝ちしちゃってさー」

春紀「お前イカサマしたんだろ」

乙哉「あたしのイカサマの手口に気付いて指摘できるなら認めるけどね。”ずっと勝ってるなんておかしい”なんて言うんだもん。そんなんじゃ話になんないでしょ」

春紀『やっぱ、なんつーの、武智って魂が穢れてるんだよ……』

乙哉『あたしイカサマなんてしないもん!』

千足『殺人の方が悪いだろ』

春紀&千足&乙哉「!?!!?!?」

乙哉『ま、三人には全く興奮しないから安心して♥』

春紀「……興奮したら殺すのか?」

乙哉「え…やば……」

千足「でもあまりビビると殺されるらしい……」

乙哉『怖がっちゃって♥かーわい♥』

春紀『どの辺りで魂が穢れないと思ってるのか教えてくれよ』

乙哉『でも過去のあたしに怖がられるのはちょっと不本意っていうか。お札ビリビリに破いて封印解ける方が怖くない?』

千足『安心しろ、二人とも怖いから』


春紀『で?イチャモンをつけられて武智はどうしたんだ?』

乙哉「めんどくさいからその日はあがることにしたんだよね。でも勝ち逃げは許さないとか言われちゃって」

春紀「元締めからの指示で、それを追い掛けたのがあたし」

春紀『またすごい縁だな……』

千足『しかし、私は?この話だと私は』

乙哉「春紀の足が思ったより早くてさー、時間稼ぎに仲間のフリして通行人に声かけたんだよね。それが千足」

千足『どれだけ可哀想な目にあえばいいんだ私は』

春紀「もう深夜だったから人通りもなくてな。あたしはまんまとハメめられたよ」

春紀『まさか、そのまま生田目に……?』

春紀「あぁ殴り掛かった。だけど当たったのは最初の一発だけだ。あとは躱されちまった。だから余計、雇われた用心棒か何かだと勘違いしちまってな……」

乙哉『千足さんはなんでそんな夜遅くに町を歩いてたの?』

千足「仕事の材料を探していて遅くなってしまったんだ」

千足『仕事、とは?』

千足「傘を作っている」

春紀『他の二人と職業のジャンルが全然違うじゃねーか』

乙哉『千足さん本当に可哀想』


春紀「そのあとあたしと千足は誤解が解けて、まぁめちゃくちゃ謝って、二人で乙哉を見つけてしめてやったんだ」

乙哉「あれ本当に辛かったからね」

乙哉『何されたの?』

乙哉「両手の中指ざっくり切られたんだよ」

春紀『うわ………』

千足『それは痛そうだな……』

乙哉『なんで中指なの?』

春紀『ばか、あたしに聞くな』

乙哉『え!?なんか照れてない!?教えてよ!』

春紀『うるせー!!///』


春紀『縁って不思議なもんだな』

千足『そうだな。それで来世まで呼び寄せてしまうんだから』

乙哉『あー……ねぇ見て、大きな柱が落ちそう』

春紀『そろそろ終わりかもな』

春紀「なぁ」

春紀『なんだ?』

春紀「あたしらは、来世でも仲良くやってるのか?」

春紀『ははっ……まさか、昔少しだけ関わったことがあるくらいだ』

乙哉『今回だってここに来る為に、2~3年ぶりに会ったもんね』

千足「そう、なのか……」

千足『あぁ、そんな寂しそうな顔をするな。私は今、柩と一緒に暮らしている』

千足「………!!!!そうか……!!それは嬉しいな!!」

乙哉「あたしらのことどうでもよくなってそう」

春紀「あいつはいつもああだろ」


乙哉「そうだ、それで思い出したけど、柩ちゃんに全部話すんでしょ?」

千足「あぁ。今回のことはもちろん、今まで夜中抜け出してたことも……それにお前らとの出会いもな」

春紀『出会いまで喋ったらあたしらあいつに毒殺されるだろ』

乙哉『お願いだからやめてあげて』

千足『まだ波乱はありそうだが……とりあえず、こっちの世界の私達もなんとかなりそうだな』

乙哉『そうかもね』

春紀『個人的には、この世界のあたし達には仲良くしててもらいたいな』

乙哉『あれー?どうしちゃったの?そんなこと言うなんて意外!』

千足『あぁ、私も少し驚いた』

春紀『別に、深い意味はないって。ただ、あいつら見てるとなんとなくそう思うだけだ』

千足『なるほどね。ちょっとわかるかも』

乙哉『なんで今あたしのセリフ取ったの』

春紀『言われるまで気付かなかった、何やってんだよ』


パチパチ……ガラガラ……

春紀『遂にデカい柱もいったか』

乙哉「ここに立ってると暑いよね」

千足『あぁ、熱気がすごいな。それに明るいし』

乙哉『奥さん、これで完全に解放されたんだよね?』

春紀『だろ。肉体も、魂も、それを封じ込める箱も、全部無くなったんだ』

千足『……そろそろかもな』

春紀『…だな。それじゃな、お前ら』

春紀「あぁ。その、めんどくさいもん背負わせちまって、悪かった」

春紀『気にするな。あたしはこれでも自分の人生に満足してる』

千足『私も一緒だ』

乙哉『あたしはむしろこれじゃなきゃダメ~!って感じー♥普通の性行為とかいう営み(暗黒メンソレータム嘲笑)で
   満足するような人間に生まれなくてよかったーって心から思ってるよー!やっぱりエクスタシーは好みの女性を殺して得ないとね♥♥♥』

春乙千「……!!!?!?」ガタガタガタ


漫画喫茶


春紀「ん………もどってきたのか」

千足「そのようだな」

乙哉「時計は、っと………朝の6時だってさ」

千足「あちらで起こったことは、完全に夢ということになっているようだな」

春紀「だな。それよりも武智!」

乙哉「何?」

春紀「何?じゃないだろ!去り際にあんなこと言いやがって!」

乙哉「あたしはこの生活に満足してるから気にしなくていいよって意味で言ったの!」プンプン!

春紀「言い過ぎだ!最後に見た前世のあたしらの顔、恐怖で引きつってたぞ!」

千足「プンプンって言われてもあの話を聞いたあとだと1mmも可愛くない」

乙哉「えー!?3cmくらい可愛いでしょ!?」

春紀「1km級の変態は黙ってろよ」

千足「あと暗黒メンソレータム嘲笑ってなんなんだ」


乙哉「で?ここ何時まで借りてるの?」

春紀「えーと、8時までだな」

千足「あと2時間か、どうする?」

春紀「帰って寝直したいかな」

乙哉「あたしもそうしよっかなー」

春紀「そーいや、お前いまどこに住んでるんだ?」

乙哉「いま?しえなちゃんのとこだよ。落ち着くまでいていいってさー」

千足「剣持……」

春紀「そういえば前世の剣持は無事だったのかな……桐ヶ谷に毒殺されそうだったけど……」

乙哉「あー、そんなこと言ってたね。すっかり忘れてたよ」

千足「せめて武智は覚えていてあげるべきだったと思う」


千足「では、まだ時間は早いが、出るとするか」

春紀「だな。鍵はフロントに返せばいいらしい。行こうぜ」

乙哉「なんかラブホみたいだね」

春紀「 置 い て く ぞ 」

乙哉「待ってよー!っていうか今度みんなでラブホ行かない?受付が有人のとこ!どんなリアクションされるか楽しみ!」

千足「私は行かないが」

春紀「かかし2体買ってやるからそれ抱えて行ってこい」

乙哉「やだ、ダッチワイフがいい」

千足「他の客に聞こえるから大きな声でダッチワイフとか言わないでくれ」


フロント


春紀「ありゃ、誰もいないな」

千足「どうする?」

春紀「っつってもなー……勝手にここに鍵置いてくのもまずいだろうしな……」

乙哉「あっ!あそこにいるの、店員さんじゃない?すいませーん」

千足「ここまでして一般の客だったら恥ずかしいな」

春紀「たまにあるよな。店員だと思って話しかけたら全然違ったってこと」

乙哉「やめてよ!なんか怖くなってきたじゃん!」

「呼びましたか?」

乙哉「え、えーと、店員さん……ですかー?」

「いいえ、違いますよ」ニコッ

乙哉「」

春紀「うっわ、はっず」ボソッ

千足「でもここの制服らしきものを着ているのに」

「箱さんって呼んでください」

一同「!!!?!?」


春紀「え……えっと……」

千足「………?」

乙哉「箱、さん……って、その……」

「ご、ごめんなさい。私ったら何を。あ、鍵のご返却ですね!確かに承りました」

春紀「あ、あぁ……」

千足「今のは……?」

「まだ退室予定時刻の2時間前ですが、よろしいですか?ご返金は出来かねますが…」

乙哉「う、うん」

「その、変なこと言ってしまってすみませんでした。自分でもなんであんなことを言ったのか……」

春紀「いや、いいんだ。それじゃ」

『ありがとうございましたー!』





千足「まぶしいっ…」

乙哉「ねぇ、今の」

春紀「……あの声、奥さんの声だったよな」

乙哉「うん、間違いないよ」

千足「さっきのは、彼女の意識とは無関係に、彼女の魂が私達に話しかけてくれたのかもしれないな」

春紀「漫画喫茶の店員が客にいきなり『箱さんって呼んで下さい』は有り得ないもんな」

乙哉「無事に生まれ変われたってことだよね」

春紀「……だな」

千足「現世では何も変わらないと思っていたが、こんなところが改変されるとは」

乙哉「いいことしたね」

春紀「武智にとって生まれて初めての善行だな」

乙哉「そんなことないもん!」


春紀「生まれ変わって、少しでも幸せになれてるといいんだがな」

乙哉「それは間違いないでしょ」

千足「なぜ言い切れる?」

乙哉「えー?二人とも嘘でしょ?」

春紀「いや、全くわからん」

千足「私もさっぱりだ」

乙哉「左手の薬指だよ、もう」

千足「………あぁっ!そういうことか!」

春紀「なるほど、指輪か?」

乙哉「うん。だからそれなりには幸せなんじゃない?」

春紀「よくそんなところチェックしてるよな」

千足「思った」

乙哉「あたしが無意識に女性を品定めしてるのは否定しないけど、二人も大概ニブすぎると思うよ」ニコッ


千足「二人とも」

春紀「なんだ?」

千足「私はそこの角の駐車場に車を止めてある」

春紀「なるほどな。んじゃ、あたしは電車だから」

乙哉「ふーん?ダルいからタクシー使っちゃおーっと♪」

春紀「で?そのタクシー代出すのは?」

乙哉「……何?しえなちゃんだけど?」

千足「当然のように言ってやるなよ」

春紀「しかも若干不機嫌そうにしてたからな、コイツ」


春紀「じゃ、さ。解散するか」

乙哉「だね。色々あった、っていうかありすぎてワケわかんないけど」

千足「そうだな。これでもう夢にうなされることもないのか」

春紀「あぁ、多分な。あんたは桐ヶ谷と幸せに暮らしてるんだろ?人生順調って感じだな」

千足「それはそうだが……あぁ、そうか。だからか」

乙哉「なにが?」

千足「少し、寂しい気がしていたんだ。もしかしたら柩に会いたいのかもしれない」ハハ

春紀「……」

乙哉「……」

千足「?」


千足「どうした?」

乙哉「千足さんが寂しかったのってさ……もしかしてだけど、柩ちゃんじゃなくて、あたし達と」

春紀「生田目」

千足「?」

乙哉「ちょっと!あたし喋ってたじゃん!」

春紀「家まで送ってくれ。やっぱり電車に揺られて帰るのが面倒になった」

乙哉「はぁ!?何それ!じゃあ、あたしも送っててもらわないと不公平だよね!?」

春紀「それは生田目に聞けよ」

千足「……ふふ、いいだろう。こっちだ」


駐車場


千足「私は駐車場のお金払ってくるから待っていてくれ」スタスタ

乙哉「はーい!……千足さんの車って?このセダンかな?」

春紀「どうだろうな。案外あの軽だったりして」

乙哉「あー、確かに。柩ちゃん好きそう」

春紀「だろ?」

乙哉「うっわ、見て」

春紀「なんだよ、うっわ……」

千足「待たせたな」テクテク

乙哉「あのボロボロの軽トラはどこを走ってきたの?」

春紀「せ、戦場とか……?」

千足「あまり私の車の悪口は言うなよ、機嫌を損ねてエンストしたらどうするんだ」

乙哉「えっ……」

春紀「マジかよ………」

千足「さあ、ふたりは後ろに乗ってくれ。雨が降ってきたら積んであるビニールを被ると少しマシになる」

春紀「あぁあぁそんな予感はしてたよ!」

乙哉「やっぱりタクシーで帰ろうかな!」


千足「まぁそう言うな。乗ってみるといいものだぞ」ガチャッ…

春紀「あたしも仕事でたまに運転するけど……プライベートで移動手段にする女は初めて見たよ……」

千足「確かに珍しいかもな、師匠が知り合いから譲り受けたものなんだ。二人とも早く乗るんだ、出発するぞ」

乙哉「はーい、よいしょっと……ねぇ、これって普通の免許で運転できるの?」

カチッ……カチッ……

春紀「できるできる、軽だからな」

カチッ……カチッ……

乙哉「へー。……ねぇ、千足さん?何してるの?」

千足「問題ない。エンジンがかからないだけだ」

乙哉「え!?」

春紀「問題だろ!?どうするんだよ!」

千足「大丈夫だ、今月に入って2回目だからな。JAFに来てもらおう」

春紀「ポンコツじゃねーーーか!」

乙哉「それって車の話?それとも千足さんの話?」

千足「な!!私はポンコツじゃない!!」

春紀「どっちもだっつの!」

乙哉「これはしばらく帰れそうにないねー」アハハ




おわり

というわけで終わり
お疲れ様でした

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