侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」(630)

――よくあるファンタジー世界

侍「武者修行のために国を出て幾年月か」

侍「まさかエルフの国で捕われの身になってしまうとは」

侍「ちょっと道に迷ってエルフの国の領土に入ってしまっただけなのに、問答無用で牢屋いきとはな」

キィ

エルフ「何をブツブツ言っているのです?」

侍「や、軽い状況説明を。で、あんたは? 見たところ騎士のようだが」

エルフ「あなたの尋問を任された者ですわ。最初に言っておきますけど、あなたに黙秘権はございませんので」

侍「はぁ。や、まあいいけど」

エルフ「……何です? その余裕たっぷりな態度は」

侍「いや、別に余裕ってわけじゃないぞ」

エルフ「ま、よろしいですけど。尋問を始めますわ」

初めてスレ立ててみました。
需要あろうと無かろうととりあえず書いてみますの。

侍の顔は好みで想像していただければよろしいかと。



エルフ「まず、あなたの名前は」

侍「侍」

エルフ「……正直で結構。では侍さん、あなたがこの国に侵入した目的は何?」

侍「目的も何も、道に迷って気が付いたらここの領土内だっただけだ」

エルフ「そのような嘘が通用するとでも思って」

侍「言われると思ったよ」

エルフ「もう一度訊きますわ。この国へ侵入した目的は? 具体的に、事細かにお話しなさいな」

侍「道に迷って
気が付いたら
入ってた」

エルフ「三行!?」

エルフ「とりあえず、それはいいでしょう。では、あなたの隣国での立場は?」

侍「立場?」

エルフ「とぼけても無駄ですわ。あなたを捕縛した場所は、隣国との国境付近の森」

エルフ「現在の我が国と隣国との関係を考えれば、あなたが隣国のスパイであることは自明の理」

侍「流れからして予想はつくけど、もしかして一触即発か?」

エルフ「白々しいですわね。そもそもはあなたたち隣国の人間がこちらの――」

侍「いや確かに隣国の方から来たけど、あそこは通過しただけで別に仕官してるわけでも何でもないんだが」

エルフ「またそんな見えすいた嘘を」

侍「言われるとお(ry」

エルフ「ではあなたが隣国の人間ではないと言うのなら、その証拠を示してごらんなさい」

侍「示せっても、荷物全部取り上げられてるんだけど」

エルフ「あなたのお口は飾りですの?」

侍「口頭で説明すればいいのか?」

エルフ「結構ですわ。さて、一体どれだけのでまかせを聞かせて下さるのかしら」

侍「……じゃ、遠慮なく」

スゥー

侍「生まれは極東の島国でホニャララ藩の某という大名に仕えてたがその大名の奨めに従い数年前に船に乗って武者修行の旅に出たなお幕府からの許しも正式に降りているので問い合わせてみろ」

エルフ「……え?」

侍「大陸に着いてからは各国各地を巡り強者と出会っては手合わせ出会っては手合わせ打ち負かした相手は数知れず打ち負かされた相手も数知れずしかれど修行の旅はまだまだ終わらず巡るべき地は数多く」クドクド

エルフ「ちょっ……あの……」

侍「そもそも武の頂とは雲の上ではたして人の身でそれに到ることは叶うのかと常々思うんだでももののふとして生まれたからにはそこを目指すのがをのこというものでありまして然るに大陸で一般的な騎士との違いというのは」クドクドクド

エルフ「お、お待ちになって……」

侍「であるからしてやはり武士と騎士とは似て非なるものだから一緒くたに扱ってほしくはないのだが戦いに疎いやつほどこれをいくら熱く熱く語ってもなかなか理解されないわかるかこのもどかしさせっかく世界に出て見聞を広めても(ry

エルフ「わかりましたからお黙りや!」

一週間後

キィ

エルフ「来なさい。釈放ですわ」

侍「やっとか。まさか一週間も閉じ込められるとは」

エルフ「しかたないでしょ。ここからあなたの国まで、どれだけ離れてるとお思いなんですの? 一週間であなたの証言の確認が取れて、むしろ早いくらいですわ」

侍「そらそうか」

コツ コツ コツ

侍「出してもらえるのはいいんだけど、取り上げられてた俺の荷物は?」

エルフ「心配しなくてもすぐお返しいたします。ここですわ」

ガチャ

侍「資材置き場かよ」

エルフ「ですわね。あなたの荷物は……あら?」

侍「まさか、無いとか言わないよな」

エルフ「いえ、先程部下に、ここにまとめておくようにと命じておいたはず」

侍「部下……あいつ?」

エルフ「……ちょっと、あなた」

エルフ兵「何でしょう?」

エルフ「何でしょうじゃありません! さっき彼の荷物をまとめておくよう言っておきましたはずでしょう!?」

エルフ兵「ああ、そう言えばそうでしたっけ」

侍(ん?)


エルフ兵「まあでもちょうど本人がいるんだし、勝手に持っていってもらったらどうです?」

エルフ「あなたそれでも誇り高きエルフの一員ですの!? いくら相手が人間とはいえ、そのような無礼で恥知らずな発言をよくもぬけぬけと!」

エルフ兵「あなたがエルフを語りますか」ボソッ

エルフ「――っ!」

エルフ兵「あ、もう交代の時間だ。じゃ、そういうことですので」

エルフ「こ、こら待ちなさ――」

ガチャ バタンッ

エルフ「……」ギリッ

侍(……訳ありか)

侍「とりあえず、俺の荷物探していいかな」

エルフ「……手伝いますわ」

侍「あったあった! 俺の愛刀!」

エルフ(あ……)

侍「いやー一週間ぶりだぁ! やっぱこいつが無いと落ち着かないなぁ」

エルフ「その剣、大切になさっておりますの?」

侍「ああ。無銘だけど、こいつと一緒にずっとやってきたんだ。愛着だって沸くさ」

エルフ「その剣も、同じ気持ちだそうですわ」

侍「え?」

エルフ「わたくし達エルフは、万物に宿る精霊と対話ができますの。その剣に宿る精霊も、あなたと再会できたことをとても喜んでいますわ」

侍「そ、そうなのか。刀に喜ばれるっていうのは不思議だけど、悪い気はしないな」



エルフ「ここからは自由ですわ。わたくしとしましては、すぐに出ていくことをおすすめしますが」

侍「隣国と緊張状態だからか?」

エルフ「それもありますけど……ここがエルフの国で、あなたが人間であるということが一番の理由です」

侍「あー。中ですれちがう兵士からいちいち白い目で見られるのが気になってたけど。やっぱエルフって、人間のこと嫌いなのか」

エルフ「ええ」

エルフ(今の場合、それだけではありませんけれど……)

侍「でも、あんたはそんな感じではないな。普通に話してくれるし」

エルフ「え? え、ええ。母の影響もあって、わたくしは別段人間を嫌ってはおりませんの」

侍「そうか。ところで、あんたやっぱり騎士なのかい?」

エルフ「ええ、まあ。一応」

侍「じゃあ、一回手合わせしてくれないか? 一週間も動いてないから、体の調子と勘を確かめたい」

エルフ「……あなた、変わってますわね」

侍「ん?」

エルフ「あなたの国のこと、以前に少しだけ聞いたことがあります。民はみな質素倹約を良しとし、質実剛健な気質であると」

エルフ「けれどあなたを見ていると、その話と随分違う印象ですわ」

侍「あー。確かに俺の国はみんなそんな感じだよ。だから、俺昔から浮いてたんだよな」

エルフ「つまり、あなたの国ではあなたは変わり者、ということ?」

侍「そういうこと。で、手合わせはどうする? してくれるのか否か」

エルフ「……どうせ今日はこの後非番ですし、あなたがどのような剣術を見せてくれるのか興味もありますから構いませんわ。ただここだと目立ちますから、場所を変えましょう。ついていらして」


市場


ワイワイ ガヤガヤ

侍「市場の活気は、人間の国もエルフの国も変わらないな」

エルフ「…………」

スタスタスタスタ

侍「おい待てよ速いって。厠行きたいのか?」

エルフ「そんなんじゃありません! ただ……のんびりしていたら、そのぶん居心地が悪くなるだけですわ」

侍「ん?」

ザワザワ ザワザワ ジー

侍「……なるほど。隣国と無関係でも、所詮は人間ってことか」

エルフ「…………」

侍「どうした? 暗い顔して」

エルフ「なんでもありません。それより、急ぎますわよ」

エルフ「着きましたわ」

侍「でっかい屋敷だなー。あんたの実家か」

エルフ「ええ。あら」

メイドエルフ「あ、お嬢様! おかえりなさいませ!」

エルフ「ただいま。お母様は?」

メイドエルフ「お部屋にいらっしゃいます。あの、そちらの方は……」

エルフ「客人ですわ」

メイドエルフ「お泊まりになられますか?」

エルフ「あなた、手合わせの後はどうするつもりかしら?」

侍「俺としては、少しこの国を見てみたいな。人間だから長居は無理だろうけど」

エルフ「そう。というわけだから、空き部屋を一室用意しておいてちょうだい」

メイドエルフ「かしこまりました」

侍「いいのか?」

エルフ「無実の罪で投獄してしまいましたから。お詫びの印ですわ」

侍「そうか。なら、少しの間世話になろう」

エルフ「庭で待っていて下さるかしら。お母様にも話を通しておきますので」

侍「わかった」

コンコンコン ガチャ

エルフ「ただいま帰りました」

エルフ母「あら、おかえりなさい。早かったのね」

エルフ「少し用事があっただけですので。それで、お母様」

エルフ母「お客様でしょ? 精霊が教えてくれたわ」

エルフ「ええ……人間ですけど」

エルフ母「そうみたいね。お部屋の準備は?」

エルフ「今メイドエルフにやらせています」

エルフ母「そう。なら、晩の食事は久しぶりに私が作ろうかしら」

エルフ「お母様が?」

エルフ母「人間に会うなんて十年ぶりくらいだもの。懐かしくて」

エルフ「……彼を待たせていますので、わたくしはこれで」

エルフ母「ええ」

ガチャ バタン

エルフ母「……嫌ってはいなくても、やっぱりまだ複雑なのね」






エルフ「お待たせしまし……庭の真ん中にあぐらかいて何してますの?」

侍「黙想……よっと」

女エルフ「すぐに始めますの? 一応こちらの準備は済ませておきましたけど」

侍「ああ、頼む」

エルフ「では」

スラリ

侍(ロングソード……にしては少し大きいな)

シャー

エルフ(片刃の曲刀。押収したとき一度だけ検めたけれど、見た目以上に重さがある。斬れ味も尋常じゃなさそうですわね)

数分後

侍「……」

エルフ「……」

侍(なかなか……隙を見せてはくれないな)

エルフ(泰然とした構え……迂濶に間合いに踏み込めば負けますわ)

侍・エルフ(何かきっかけがないと)

ガチャ

メイドエルフ「お嬢様、お部屋の準備が整い――」

――ヒュンッ ギィン!

メイドエルフ「ひゃっ!?」

エルフ(防がれた!? わたくしの初撃を!)

侍「はっ!」

エルフ「く!」

ヒュン スタッ

侍(予想以上に速いな。返しの間は完璧だったのにかわされた。が――)

エルフ(わたくしと同等の速さ……回避のタイミングが一瞬でも遅かったらまともにもらっていましたわね)

エルフ(ならば)

エルフ「はあああっ!」

ダッ

侍(突きの構えからの突進か。単純ゆえに対処しづらい攻撃だが、狙いは――)

エルフ(あと数歩でわたくしの間合い。その手前で踏み込んで――そこ!)

エルフ「やあっ!」

ヒュッ キィン!

エルフ「!?」

エルフ(また、防がれた!? 突きがフェイントだと読まれましたの!?)

侍「ふっ!」

ヒュッ ビタッ

侍「……」

エルフ「……」

侍「勝負あり、だ」

エルフ「……ですわね。負けましたわ」

侍「潔いな」

エルフ「潔くない騎士など、惨めなだけでしょう?」

侍「違いない」

エルフ「はぁ。それにしても、あなた強かったのですね」

侍「ま、たくさんの猛者と闘ってきたからな。そっちも十分強かったけど、経験の差だろ」

侍「ともあれ、自分の調子は十分わかった。礼を言う」

書きため分がそろそろ切れそうなんで、今夜はここまでにしときます。

支援にご指摘ありがとうございました。
明日か明後日にまた投下します。

続きです。



エルフ「それには及びませんが。しかし、まさかことごとくこちらの手が読まれるとは」

侍「ん? ああ、突きと思わせてからの横薙ぎか。それはどっちかって言うと」

メイドエルフ「あ、あの……」

エルフ「あら? そんなところでどうしましたの?」

メイドエルフ「お部屋の準備が整いましたので、ご報告にと思いまして。そうしたらいきなりお二人が……」

エルフ「あら。ごめんなさい。驚かせてしまいましたわね」

メイドエルフ「ええ、それはもう……」

エルフ「じゃあ、彼を案内して差し上げて。わたくしも部屋に戻ります」

メイドエルフ「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」

侍「わかった。世話になる」



侍「馳走になりました」

エルフ母「お粗末様。お口に合ったかしら?」

侍「それはもう。久方ぶりの温かい食事とくればなおのこと」

エルフ「嫌味ですの?」

侍「あ、いやそういうつもりじゃ」

エルフ母「ふふ。侍さんはいつまでこの国に?」

侍「長居はしないつもりです。皆さん以外には、歓迎されていないようですし」

エルフ母「ごめんなさい。それに関しては、私たちでは力になれないから」

侍「そう言えば、一つよろしいでしょうか」

エルフ母「はい」

侍「隣国とは、何故緊張状態に?」

エルフ母「それは……」

エルフ「殺されたのですわ。エルフの子が、人間の賊に」

侍「子供が?」

エルフ「国境付近の森……あなたが迷いこんだ場所の近くですわ。親と共に薬草を摘みに行き、そこで襲われた」

エルフ「親は一命を取り留めましたが……子供は間もなく亡くなりました」

侍「……」

エルフ「当然こちらは厳重に抗議すると共に、逃げた賊の身柄引き渡しを要求しましたわ」

エルフ「けれど未だに隣国からの謝罪はなく、あろうことか、その事件をでっち上げだとして一蹴する始末」

侍「なるほど。エルフとしゃ、人間への不信と不満が溜っても仕方ないってことか」

エルフ「ええ。元々いい感情を持っていない上に今回の事件。騎士団からも当然、不満は噴出してますわ」

エルフ「隣国領に侵入してでも賊を捕えるべきと主張する者も少なからずいます」

エルフ「ここ最近は、通常はもっと内部でやる演習を国境付近で行う部隊も出始めてますし」

侍「上層部が許可してるのか? かなりのものだな。しかしそうなると」

エルフ「当然、隣国も国境沿いの砦に兵を増員させてきましたわ。確認した限りでは、通常時のおよそ五倍の兵力が集まっていましたわね」

侍「言われてみれば、隣国を通ったときなんだか国全体が物々しい雰囲気だったな……向こうも臨戦態勢ってことか」

エルフ「だから今、わたくしたち以外のエルフ族は人間への不信感が最高潮に達していますわ」

エルフ「あなたは出で立ちからして隣国の人間ではないから外を歩いても無事でしたが」

侍「そうだったのか……」

エルフ「そして同時にわたくしも――」ハッ!

侍「ん?」

エルフ「い、いえ。何でも」

エルフ母(……)

廊下

侍「遅くなったが、すまないな。あんな上等な部屋」

エルフ「客人をもてなすのに、物置部屋をあてがうわけなどないでしょう。気にする必要はありませんわ」

侍「そうか。なら、遠慮なく休ませてもらうか」

エルフ「そうなさって。ところで」

侍「ん?」

エルフ「ずっと聞きそびれていたのですけど。昼間の手合わせについて」

エルフ「あなた、何故わたくしの手をあっさり読めましたの? わたくし、こう見えても剣術の大会で優勝した経験もあるのですが」

侍「そうだな……これは率直な意見だが」

エルフ「はい」

侍「その剣、お前の体格で振るうには扱いづらくないか?」

エルフ「え?」

侍「標準的なロングソードより、一回り大きいだろ。体格で男に劣る女が振るうには、その剣は適さない」

エルフ「それは……」

侍「足や体捌きの速さは大したものだが、その剣の大きさが攻撃の瞬間の速度をわずかに殺している」

侍「その殺された速度分、相手に余裕を与えてしまっているんだ」

エルフ「そう、でしたの……」

侍「まあ、余裕と言っても刹那に過ぎないけどな」

エルフ「その刹那の瞬間に対応できる人が相手なら、わたくしの不利は否めませんわね。あなたとか」

侍「そうだな。その欠点を無くしたいのなら、もう少し小振りな得物に変えたほうがいい」

エルフ「……検討しますわ。もう遅い時間ですし、わたくしはこれで。アドバイスに感謝します」

侍「おう」

侍(検討するとは言ってたけど、微妙な表情だったな。あの剣に思い入れでもあるのか?)

翌日

コンコンコン

メイドエルフ「おはようございます。お客様、お食事の用意が整ってございます」

シーン

メイドエルフ「? まだ寝てるのかしら。お客様、失礼いたします」

ガチャ

メイドエルフ「……あら? いない?」



侍「…………」

エルフ「――あら。早起きですのね。また黙想?」

侍「……ああ。日課でな。朝の澄んだ空気の中でやると、心身が引き締まる」

エルフ「それも鍛練、というわけですわね」

侍「そういうこと。で、お前は何してるんだ?」

エルフ「わたくしはお仕事。昨日は非番だと言ったでしょ?」

侍「そうか。気を付けてな」

エルフ「どうも。あなたこそ、日中出かけるのでしたら気を付けなさい。いらぬトラブルに巻き込まれないように」

侍「肝に命じておこう」



エルフ兵a「ふわ~ぁ」

エルフ兵b「口くらい閉じろ。任務中だぞ」

エルフ兵a「任務ったって門番だろ。誰も気にしたりしないって」

エルフ兵b「通行人はそうだろうが、そろそろあいつが来る頃だ」

エルフ兵a「ああ、あいつか。いちいち口うるさいからなぁ」

エルフ兵a「言ってることは正論なんだが、あいつに言われるとどうもこう、素直に聞く気にならないというか」

エルフ兵b「気持ちはわからんでもないが」

エルフ兵a「お前はよくあいつの命令素直に聞けるな」

エルフ兵b「不満はあるけど、隊長だからな。いくらあんなのでも――」

エルフ「あんなのでも……何かしら?」

エルフ兵a・b「!」

エルフ兵b「……いえ、なんでもありません」

エルフ「……何か問題は」

エルフ兵b「特に何も」

エルフ「そう。交代まで気を抜きませんように」

エルフ兵b「はっ」

エルフ「……」

エルフ兵a「……行ったな」

エルフ兵b「ああ」

エルフ兵a「はぁ。なんで俺たちが従わなくちゃならないんだか。人間の血が混ざった奴なんかに」

エルフ実家

侍「ハーフ?」

エルフ母「ええ。私と人間の男性との間に生まれた娘。それがあの子なんです」

侍「じゃあ、彼女が街中などで時折見せた影のある表情は」

エルフ母「昔からです。あの子が白眼視されるのは」

メイドエルフ「……」

エルフ母「この屋敷をご覧いただければおわかりの通り、私の家は国内でも指折りの名家でした。そして、それがいけなかった」

侍「有名であるがゆえに、彼女の出生についても広く知られてしまったと?」

エルフ母「ええ。元々さほど大きくはない国。今となっては、そのことを知らぬ者はいないでしょう」

侍「そのことを隠したりは?」

エルフ母「初めから無理だったのです。私とあの子の父との出会いについては長くなるので省きますが」

エルフ母「外の地で彼と出会い、別れてこの国に帰ってきた時、既に出産間近でしたから」

侍「……それは隠しようがないですね」

エルフ母「はい。それでも、あの子が赤ちゃんの頃はまだよかった」

エルフ母「問題は、あの子が成長してから今まで……ずっと、途切れることなく続いているあの子への偏見」

侍「……」

エルフ母「あの子を産んだこと。それ自体は後悔していません」

エルフ母「ただその前後で、私がもっと慎重に行動できていたら。そう思えば思うほど、あの子に申し訳なくて」

エルフメイド「ご主人様……」

エルフ母「だというのに、あの子は今まで一言たりとも私を責めたことがないのです」

エルフ母「多感な子供の時分からこれまで、ただの一言も」

侍「ご立派な娘さんではありませんか」

エルフ母「ええ、本当に。ただ、だからこそ……いつかあの子の中の芯が折れてしまわないか、いつも不安なのです」

侍「……」

城 訓練場

エルフ教官「一番隊から三番隊、二人一組で組手準備!」

エルフ兵達「おー!」

女エルフ兵「隊長! ご指導お願いします!」

エルフ隊長「うむ。いいだろう」

女エルフ隊長「三番隊で余った者は申し出ろ! 私が直々にしごいてやろう!」

エルフ兵「は、はい! お願いします!」

エルフ「……」

女エルフ兵「あ、余っちゃった……どうしよう」

エルフ「あなた、相手がいませんの?」

女エルフ兵「え? あ、はい……」

エルフ「でしたらわたくしが――」

エルフ兵「あ、いたいた! 早くこいよ! 前一緒に組む約束してただろ!」

女エルフ兵「え、でもそっちはもう相手……あ、う、うん! ごめん今行く!」

女エルフ兵(ありがとう。助かっちゃった)

エルフ兵(いいって。三人だと変則的だけど、あれと組まされるよりはマシだろ)

エルフ「……」ハァッ

エルフ「……稽古でもしましょう」






侍(警備の穴を縫って侵入し、物陰から一部始終を見たわけだが)

侍「あれを毎日、か……」

メイドエルフ「はい。毎日あんな感じです」

侍「外で聞いた話だと、エルフは誇り高く高潔な種族だってことだったが。噂はしょせん噂だったのかな」

メイドエルフ「返す言葉もございません」

侍「あの面子の中じゃあ、見るからにあいつが一番の使い手なんだけどなぁ。俺が兵士だったら、真っ先に教えを請いに行ってるよ」

メイドエルフ「お嬢様に代わりまして御礼申し上げます」

侍「いいさ。本当のことなんだから。それより一つ聞きたいんだが」

メイドエルフ「何でしょう」

侍「何で君がここにいるんだ?」

メイドエルフ「それをお尋ねになるまで結構延ばしましたね」

侍「つまり、彼女が心配で毎日こっそり覗きに来ていると」

メイドエルフ「見守っていると言ってください。まあそういうわけです」

メイドエルフ「何が出来るわけでもありませんが、いざという時はお嬢様に嫌われてでもお助けしようかと」

侍「あー。へたな同情はかえって傷付けるだけだからな」

メイドエルフ「幸か不幸か、まだそういった事態に陥ったことはないのですけどね」

侍「……君は味方なんだな」

メイドエルフ「わたし、孤児なんです」

侍「唐突に何を」

メイドエルフ「それで身寄りのないわたしをご主人様が引き取ってくださいました」

メイドエルフ「まだ幼い時分でして、お嬢様が人間とのハーフであると言われてもピンとこなかったんですね」

メイドエルフ「だからそんなこと気にも留めず、連日お嬢様と遊んでいたんです。年齢も近かったですし」

侍「なるほど」

メイドエルフ「今は拾っていただいた恩返しのために、メイドとしてお仕えさせていただいてますけど」

侍「気持ちとしてはまだ友達だ、と」

メイドエルフ「そういうことです」

メイドエルフ「……その経緯がなかったら、もしかしたらわたしも周りの人たちと同じ目でお嬢様を、と思うと自己嫌悪ですけどね」

侍「もし出会いが違っても、君ならそうはならないだろ」

メイドエルフ「何故そう言い切れます?」

侍「そんな自分を想像して自己嫌悪できてるからな。周りの連中は、それを当然だと思っているようだが」

メイドエルフ「自分としては、そんな想像をしている時点でダメダメなんですけどね……。でも、ありがとうございます」

ちょっとまた書きためてきます。

エルフ「はあっ!」ビュンッ

侍「気合入ってるな」

エルフメイド「ええ。何せ剣術の腕前では騎士団の中でも群を抜いていますから」

エルフメイド「そこらの兵士とは気持ちが違うんです。気持ちが」

侍「みたいだな」

侍(四面楚歌の状況で、よくあそこまで集中できるもんだ)

侍(精神的に過酷な状況にあってもへこたれていない。それもあいつの実力を押し上げている要因か)

侍(しかし、ああもひた向きに稽古しているのに、周りの連中は見向きもしない……)

エルフメイド「――あら?」

侍「ん?」

エルフメイド「向こうが何だか騒がしくありません?」

侍「向こう?」

――テキシュウ! テキシュウー!

メイドエルフ「え?」

侍「敵襲……まさか」

城 軍議室

司令「隣国の軍が動いたと!?」

参謀「はい。国境の警備部隊は既に壊滅。付近の村が二つ占領されました。逃げ遅れた住民の安否は不明です」

司令「おのれ……人間風情が」

エルフ王「……」

エルフ隊長「各騎士団、既に緊急招集を終え待機しています!」

司令「陛下。如何なされますか?」

エルフ王「ふむ。敵の情報は?」

参謀「現在偵察を出して情報を集めておりますが、精霊によればかなりの数のようです」

司令「かねてより戦力を砦に集めていたようですからな。始めからこうするつもりだったのでしょう」

エルフ王「こちらも騎士団を展開させよ。ただし、私の命なくして攻撃することは許さぬ」

司令「何ですと?」

エルフ王「隣国の部隊に使者を送れ。会談を申し込む」

参謀「陛下御自ら、でございますか?」

エルフ王「無論だ」

司令「なりませぬ! 卑怯な人間共相手にそのようなことをすれば、御身がどのような仕打を受けるか!」

エルフ王「たわけ。最初からそう決めつけていては、避けられる戦も避けられぬ」

司令「しかし!」

エルフ王「戦となれば民を巻き込むのだ。今回襲われた村の数十倍という規模の民を」

エルフ王「前回の件や今回の侵攻についても無論抗議はするが、まずは和平の道を探ることが肝要なのだ」

参謀「もし、色良い返事が得られない場合は」

エルフ王「そのときこそ、騎士団の真価が問われるときだ」

司令「……はっ」

司令(甘い……甘すぎる)

エルフ実家

エルフ母「出陣命令……」

エルフメイド「はい。お嬢様の部隊も前線まで派遣されることになったそうです」

エルフ母「そう……。隣国が侵攻してきたことは聞いたけど、あの子も……」

メイドエルフ「だ、大丈夫ですよ! お嬢様はお強いんですから!」

エルフ母「確かに剣は達者だけど……」

侍「無礼を承知でお尋ねしますが、彼女は何故、隊長を任されているのでしょうか」

エルフ母「それは……本人は自分の実力が認められたからと言っていましたけど」

侍「本当のところはそうではない?」

エルフ母「ええ。おそらく、私の父が存命中に重ねた功績によるものです」

エルフ母「あの子自身も、たぶん気付いているでしょう。私を喜ばせようと、そんなことを言ったのだと思います」

侍「そうですか……」

侍(あいつには指揮官として最も重要なものが欠けている。しかも本人には何の落ち度も責任も無いところで)

侍(もし今のまま最前線で戦うことになったら、真っ先に瓦解するのはあいつの部隊だ)

侍(……)

侍「ここから前線の国境までどれくらいなんだ?」

メイドエルフ「距離ですか? 馬や馬車を使えば三日、徒歩でしたら早くて一週間ほどですね」

侍「そこまでの道を教えてくれ。できれば地図で。口頭で聞くだけだと迷う自信がある」

メイドエルフ「はい?」

五日後 国境付近
エルフ軍陣営

司令「敵からの返答は」

参謀「未だ何も。使者を送ってからはや三日。使者が無事に戻ったことは幸運でしたが」

参謀「しかし、何の返事もしてこないというのはさすがに予想外でしたね」

司令「陛下がご到着なされるまであと半日ほどか」

参謀「はい。陛下にも逐一伝令を遣わしていますが、お考えはまだ変わらないご様子」

司令「二つの村を占領して以降、隣国軍に目立った動きはない」

参謀「敵が何を考えているか読めませんね」

司令「ふん。大方陛下を誘き寄せて暗殺しようという魂胆だろう」

参謀「決めつけるのはよくありません。が、かといってこんな状態で陛下をお迎えするわけにもまいりませんね」

司令「……仕掛けるか」

参謀「ご命令には背くことになりますが、仕方ありませんね」

司令「うむ。あの女の部隊にやらせろ」

参謀「あの女……例の混血ですか」

司令「ああ。誇り高きエルフの騎士に、あのような輩はいらん。敵の手が読めん今、ちょうどいい捨て石だ」

参謀「かしこまりました」




エルフ兵「攻撃って、俺たちがですか!?」

エルフ「ええ。ついさっき、そう命じられました」

女エルフ兵「味方は……」
エルフ「……わたくしたちだけです」

女エルフ兵「そんな!」

エルフ兵「無茶ですよ! あの大軍相手に俺たちだけでなんて!」

エルフ「今回の攻撃は敵の出方を見るための陽動であって、敵に勝つことが目的ではないから多くを動かすことはできないと」

エルフ「異議を申し立てて、そう言われました」

女エルフ兵「つまり……私達、捨てゴマにされたんですか……?」

エルフ「……話は終わりです。出陣の支度をなさい」

エルフ兵「……ちっ! 了解しましたよ! くそっ!」

女エルフ兵「なんで……こんな」

エルフ「……」ギリッ




エルフ兵「攻撃って、俺たちがですか!?」

エルフ「ええ。ついさっき、そう命じられました」

女エルフ兵「味方は……」
エルフ「……わたくしたちだけです」

女エルフ兵「そんな!」

エルフ兵「無茶ですよ! あの大軍相手に俺たちだけでなんて!」

エルフ「今回の攻撃は敵の出方を見るための陽動であって、敵に勝つことが目的ではないから多くを動かすことはできないと」

エルフ「異議を申し立てて、そう言われました」

女エルフ兵「つまり……私達、捨てゴマにされたんですか……?」

エルフ「……話は終わりです。出陣の支度をなさい」

エルフ兵「……ちっ! 了解しましたよ! くそっ!」

女エルフ兵「なんで……こんな」

エルフ「……」ギリッ




隣国軍陣営

騎士「申し上げます! エルフ軍に動きあり! 小規模の部隊がこちらに進軍しています!」

将軍「ほう? 数は」

騎士「およそ二百です」

将軍「本当に小規模だな。伏兵の可能性は」

騎士「いえ。そのような気配は今のところ」

将軍「ふむ……。千人ほど回せ。俺が指揮を執る」

騎士「将軍自ら、ですか?」

将軍「ああ。ここ数日はろくに動いていないからな」

騎士「了解」

エルフ兵「前方に敵軍を確認!」

エルフ「来ましたわね」

エルフ(予想よりも少ない。向こうもこちらに合わせてきましたか)

エルフ(とはいえ、やはりこちらの不利は否めない……でも、やるしかありません!)

エルフ「進軍止め! 陣形を組め! 総員抜剣!」





将軍「ん? あの娘……」

騎士「将軍?」

将軍「……いや。進軍止め!」





エルフ(絶対、死なない)

エルフ「――攻撃開始!」

数十分後

エルフ「はあっ!」

ザシュッ ザシュッ

敵兵a「ぐあっ!」

敵兵b「ぎゃああああ!!」

ドサドサッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ……味方は」

敵兵c「おらぁっ!」ザンッ

エルフ兵「うわああああ!」

女エルフ兵「きゃあああああっ!!」

エルフ(くっ……やはり旗色が悪いですわね)

エルフ兵「くそ、やっぱり駄目だ! 数が違いすぎる!」

女エルフ兵「もう嫌! なんで、なんでこんな無茶な戦い!」

エルフ「うろたえてはなりません! 一度全員固まって態勢を――」

エルフ兵「うるせえ! 誰のせいでこんな目にあってると思ってるんだ!」

エルフ「――っ!?」

女エルフ兵「あんたが……あんたが隊長なんかやってるから、私達まで捨てゴマにされたのよ!」

エルフ「なっ……!」

エルフ兵「付き合ってられるか! 俺は退かせてもらう!」

女エルフ兵「私も! こんなののために死にたくない!」

エルフ「ま、待ちなさい!」

エルフ兵「総員撤退! 本陣まで撤退だ!」

女エルフ兵「殿はあの人に任せていいから!」

エルフ「…………」

数分後

エルフ「……」

将軍「どうした? そなたは撤退せんのか?」

エルフ「……どうやら、殿を押し付けられたみたいですので」

将軍「事情はわからんが、哀れよな」

エルフ「……」

将軍「どうする? 退くというのなら追撃はせんが」

エルフ「……」チャキッ

将軍「ふっ。それもよかろう」

騎士「お下がりを。ここは私が」

将軍「いや、わしがやる」

騎士「しかし」

将軍「この者、お前よりも強いぞ」

騎士「……はっ」

将軍「時に、エルフの娘よ」

エルフ「何か」

将軍「そなたの剣は……いや、聞いたところで栓ないことか」ガシャッ

エルフ(ハルバート。得物といい、この気迫といい、厄介な老将ですわね)

将軍「では――ゆくぞ!」ダッ

エルフ(っ! はやい――)

将軍「ぬぅんっ!」

ドガァッ!

エルフ(くっ!? 避けたのに衝撃が!)

将軍「遅いわ!」

ブゥンッ ガキンッ!

エルフ「がっ!?」ドサッ

エルフ「くっ……う……」

将軍「回避直後の不安定な姿勢で防御できたか」

将軍「だが、衝撃でしばらくは身動きできまい」

エルフ「……」キッ

将軍「ほう。いい眼をしよる。敵わぬとわかっていてなお抗がうか」

将軍「斬ってしまうにはちと惜しいな。どうだ、よければ――」

エルフ「仲間にも捕虜にもなる気はありませんわ」

将軍「……何故だ。味方からあのような仕打を受けてまで」

エルフ「わたくしの味方は彼らではありません」

エルフ「わたくしの味方は、ただ二人だけ……」

エルフ「その二人が待っていてくれる限り、わたくしは」グッ

将軍「むっ?」

エルフ「わたくしは……!」グググッ

エルフ「わたくしは――あなたたちに屈するわけにはまいりません!」チャキッ

将軍「……ふっ。その意気や良し」ジャキッ

将軍「ならばせめて、最後までその覚悟を見届けることが騎士の努め!」

将軍「もう手加減はせぬ。よいな」

エルフ「望むところですわ!」

将軍「いざぁっ!」ダッ

エルフ「はああああっ!」ダッ

――ギィィィンッ

エルフ「……」

将軍「……」

――ヒュンヒュンヒュン ザクッ

エルフ「――っ」ドサッ

将軍「勝負あったな」

エルフ「……みたい、ですわね……」

将軍「たむけだ。せめて一撃で葬ってやろう」

エルフ(ここまで、ですわね)

エルフ「お母様……メイドエルフ……」

将軍「ぬぅんっ!」ブンッ

エルフ「ごめんなさい……」

――ガキィィンッ!








侍「謝る相手が一人足りないんじゃないか」

エルフ「――え!?」

将軍「むっ? 何だ、お主は」グググッ

侍「侍だ。義によってそいつの助太刀にきた」グググッ

エルフ「あっ……」









きりがいいので今夜はここまでにします。
また明日か明後日に。

将軍「義、か。人間のお主が、エルフの娘にか?」グググッ

侍「出会いはお世辞にもいいもんじゃあなかったけどな」グググッ

侍「でも今は、一宿一飯――世話になってるんでねっ!」ギンッ

将軍「ぬぅ」ヨロッ

侍「はっ!」

将軍「ぐおっ!?」キィン

騎士「将軍! おのれ貴様!」

将軍「待て!」

騎士「し、しかし……」

将軍「待てと言ったぞ」

騎士「は、はっ……」

無双するのはもうちょい待ってほしいんですの。


将軍「小僧。侍とか言ったな」

侍「ああ」

将軍「その娘とは如何なる関係だ」

侍「別に。さっき言った通り、一日食事と寝床を提供してもらっただけだ」

将軍「それだけの義理で、人間を目の敵にするエルフの国に肩入れすると?」

侍「勘違いするな」

将軍「なに?」

侍「俺が肩入れするのはあの国じゃない。肩入れするのは一人だけ」

侍「真っ直ぐでひたむきで、理不尽な仕打ちにも決して負けない」

侍「絶対に腐らずへこたれない。真に誇り高いと思える、後ろの女一人だけだ」

エルフ「――!」ドキッ

将軍「…………」

将軍「ふっ。なるほど、惚れたのか」

侍「さあな。初めて会ったのは二週間近く前だが、一緒にいたのは実質一日もない」

侍「でもまあ、これまで会った女の中では、一番いい女だというのは認める」

エルフ「~~~~///」カァッ

将軍「ふ……ふははははははは! 随分と正直に物を言う男だ」

将軍「気にいった。お主のその気概に免じて、今度は軍を退こう」

騎士「えぇっ!? ちょっ、それはまずいのでは!」

将軍「構わん。今日のことを土産話とすれば、あの王のことだ。その程度の独断は許されよう」

騎士「はあ。まあ、そういう類の話はお好きな方ですが」

侍「勝手に盛り上がるな。結局どういうことだ」

将軍「エルフの国から引き上げるということだ。占領した村も開放しておく」

将軍「住民には手出ししていないから安心するがよい」

侍「……随分と拍子抜けな話だな」

将軍「そう言うな。戦など、終わる時は案外そういうものだ」

侍「そういうもんか。しかし、結局何故そっちはエルフの国に攻め込んだんだ?」

将軍「牽制だ。エルフが国境付近で大規模演習を繰り返すものだからな」

将軍「エルフの守備隊も、誰一人死者は出していない。無論今の戦いもな」

侍「……」

エルフ兵「……う……」

女エルフ兵「つ……うん……」

侍「確かに」

将軍「間違っても侵略が目的ではない。領土的野心など、我らが王には皆無だ」

将軍「拍子抜けなどと言っていたが、こちらは元々早々に引き上げる予定であった」

将軍「本来はもう少し長居するはずであったがな」

侍「ふむ……」

将軍「信じるか否かは自由だ」

侍「いや、そもそもそれを決めるのは俺じゃないんだが」

将軍「違いない」

将軍「他に聞きたいことはあるか」

侍「だ、そうだが」

エルフ「…………」

侍「どうした?」

エルフ「――へぁっ!?」

侍「へぁ?」

エルフ「な、何でもありませんわ!」ブンブンブンッ

将軍「くっくっくっ」

エルフ「(コホン)で、ではせっかくですので……」

エルフ「こちらは今まで、散々そちらに逃げた賊の身柄引き渡しを要求してきました」

エルフ「なのに、何故その要求を拒みますの?」

将軍「……む?」

騎士「ん? あれ、その件は確か」

侍(妙な雲行きだな……)

将軍「騎士。その件なら確か」

騎士「はい。最初に要求された時点で、既に引き渡しには応じていたはずです」

エルフ「なっ!?」

将軍「わしも覚えておる。エルフを無視しても面倒なだけだと、最優先で処理させた」

エルフ「そんなはず……騎士団にはそんな話は」

エルフ「で、では和平の使者は!? 数日前にこちらからそちらに向かったはず!」

将軍「…………」

エルフ「ど、どうなんですの?」

将軍「残念だが、使者がこちらの陣に来たことなど無い」

騎士「本国からもそのような報告はありませんね。そっちにも来ていないかと」

エルフ「ど、どういうこと……?」

将軍「どうやら、そなたらにとって真の敵は我らでは無さそうだな」

侍「そうみたいだな。あんた達の話を信じるのならば、だが」

将軍「それを判断するのはそなたらだ」フッ

侍「違いない」フッ

エルフ「男二人でシンパシってる場合じゃありませんわよ!」

侍「変な言葉創るなよ」

将軍「では、今度こそ我らは行くぞ」

侍「ん、ああ。機会があれば、本格的に手合わせ願いたい」

将軍「望むところよ。そなたほどの騎士、最近はとんと見ないでな」

侍「違う」

将軍「む?」

侍「俺は騎士じゃない。武士だ」

数分後

侍「行ったな」

エルフ「…………」

侍「で。お前はどうするんだ?」

エルフ「決まっていますわ。戻って、事の真相を確かめます」

侍「……そう言うと思ったよ」

エルフ「何か問題でも?」

侍「いや。俺が口出し出来る問題でもない。お前がそう決めたのなら従うさ」

エルフ「べ、別にあなたまで危険な橋を渡る必要は」

侍「危険だって自覚してるんじゃないか。なら、護衛は必要だろ」

エルフ「自分の身くらい自分で守れます」

侍「へたしたら騎士団全員を敵に回すことになるぞ」

エルフ「そんなの……慣れっこですわ」

侍「素直じゃないな」

エルフ「と、とにかく、わたくしはもう行きます――わ……」フラッ ドサッ

エルフ「っ……」

侍「無理するな。さっきのダメージがまだ残ってるだろ」

エルフ「こ、このくらい何でも――痛っ!」

侍「まったく。よっ――と」ヒョイ

エルフ「!? なっなっなっ……!?!」カァッ

侍「おー。思ったより軽い」

エルフ「ど、どういう意味ですの! ていうか降ろしなさい恥ずかしい!」ジタバタッ

侍「ばか、暴れるな」

エルフ「ば、ばかとは何ですばかとは――」ビキッ

エルフ「――――つぅ~~~~!」ナミダメ

侍「言わんこっちゃない。おとなしくしてろ」

ザッ ザッ

侍「どうだ。少しは楽になったか?」

エルフ「え、ええ……まあ……」

エルフ(どうしよう……まともに彼の顔が見られない……)

エルフ「……」チラッ

侍「ん?」

エルフ「い、いいいいえ何でも!」ブンブンブンッ

侍「?」

エルフ(うう……何でこんな……)

――一番いい女だというのは認める――

エルフ「」ボンッ!

侍「うおっ! 湯気!?」

エルフ(も、もとはと言えば、この人があんなこと言うから!)

エルフ(…………)

エルフ(でも……)

エルフ(嬉しかったな……)

エルフ(それに、この人の腕と胸)

エルフ(温かい……)

エルフ「……ん……」

侍「起きたか?」

エルフ「――って、え? あれ、ここは……夜?」

侍「覚えてないのか? 途中で寝ちまったんだよ」

エルフ「ど、どのくらい」

侍「星空見ればわかるだろ」

エルフ「う……」

エルフ(ね、寝顔見られた……///)

エルフ「こ、ここはどこですの? 見たところ森の中みたいですけど」

侍「エルフ軍本陣近くの森だ。さすがに眠ったお前抱えて行くのもどうかと思ってな」

エルフ「そう……」

侍「それに」

エルフ「え?」

侍「……いや、何でもない」

――あいつ死んだんだって?
――確認はしてないけど。あいつのせいで仲間がたくさん……。死んで当然よ!
  
侍(あんな場面、こいつに教えても仕方がない)

」侍「さて」

エルフ「ちょっと」

侍「何だ?」

エルフ「何で木の陰に隠れながらコソコソと近づいていくんですの?」

侍「どこに敵がいるのかわからないんだから仕方ないだろ」

エルフ「敵って……ここは」

侍「味方の陣か?」

エルフ「……」

侍「悪い。今のは意地悪だった」

エルフ「いえ……」

侍「で、お偉いさんがふんぞり返ってるテントはどれだ?」

エルフ「中央の一番大きなテントですわ」

侍「あれか。少し距離があるな」

エルフ「ええ。ただ、距離よりも問題なのは」

侍「あの二人の見張りか? 妙に重装備だな」

エルフ「王室親衛隊ですわ」

侍「親衛隊? じゃああの中には」

エルフ「おそらく、陛下がいらっしゃるはず」

エルフ「事の真相を確かめるには、これ以上ない方ですわ」

侍「しかし、いきなり押しかけても話なんか聞いてくれないだろ」

エルフ「それは、確かに……」

侍「どっちにしろ、あの見張りをどうにかしないとな」

エルフ「一人を遠くにおびき寄せて、その間にもう一人を黙らせれば」

侍「だが、親衛隊以外の歩哨もいるだろ」

エルフ「そいつらは見つかっても問題ありませんわ」

エルフ「別に敵軍というわけでなし、元々わたくしに好んで近寄る者はおりません」

侍(開き直ったな)

エルフ「問題があるとすれば、親衛隊を黙らせる瞬間を見られた場合だけです」

侍「ついでに言えば、気絶した親衛隊を見つけられた場合もだな」

侍「そういえば、誘き寄せるのを精霊に頼むことは出来ないのか?」

エルフ「無理ですわ。会話が出来るといっても、常時無制限に、というわけではありません」

エルフ「彼らの機嫌がいいときか、精霊の方から伝えたいことがあって語りかけてきたときだけですの」

侍「不便だな」

エルフ「精霊はシャイなんだから仕方ありませんわ」

侍「いや知らんよ。しかし、だとすればどうする」

エルフ「そうですわね……。ひとまず、もう少し時間を置きましょう」

侍「見張り以外が眠りにつくまで待つのか」

エルフ「ええ。その方が動きやすいでしょ?」

侍「そうだな。王も一人になって話しやすいだろう」

エルフ「では、ひとまずさっきの場所まで戻りますわよ。見つかっても面倒ですし」

森の中

パチッパチッパチッ

侍「体はもう大丈夫か?」

エルフ「ええ。もう痛みはほとんどありませんわ。ただ」

侍「どうした?」

エルフ「あ、いえ。そんな真剣になることでは。その……」

エルフ「ちょっと、汚れが気になるかなって……」

侍「汚れ? ああ、すっ転んでたもんな」

エルフ「もうちょっと言い方を考えてくださいませんこと!?」

侍「ははは。悪い」

エルフ「もう……」

侍「まだ時間はある。なんだったら、向こうで水浴びでもしてきたらどうだ」

エルフ「水浴びって、川でもあるんですの?」

侍「ああ。お前が寝てる間に身を休める場所を探してたら見つけた」

エルフ「そう」

侍「軍の陣とは離れてるし、見つかる心配もないだろ」

エルフ「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」スクッ

侍「ああ。ゆっくりしてこい」

エルフ「その……覗いたらヒドイですわよ?」カァッ

侍「お、おう。わかってる」

エルフ「では、少しの間失礼しますわ」スタスタスタ

侍「……」

侍「それは卑怯だろ……」

また書き溜め開始してきま

さっきとid違うけど1です(携帯からのため)

今書いてますが、昨日遅くまで投下してたためめっちゃ眠いです。
寝落ちしてしまう可能性があるので、続きはまた後日になるかもしれません。ご了承ください。

あと、戦闘は後半に詰め込む予定です。

短いけど投下



川原

エルフ「ここですわね」キョロキョロ

エルフ「人影は無し、と」

エルフ(あまり待たせても悪いですし、手早く済ませましょう)ヌギヌギ

エルフ(……)キョロキョロ

エルフ(外で裸になるのって、人目が無くても恥ずかしいですわね)

エルフ(さて……)チャプン

エルフ(冷たっ!)ブルッ

チャプン ジャブジャブジャブ

エルフ「ふぅ……」

エルフ(冷たいけど、気持いい)



パチッパチッパチッ

侍「ふむ。キノコはもう焼けたか」

侍「あとは何か吸い物でも欲しいところだが……」

侍(水を汲むには、川にいかなきゃならん)

侍「……近くまで行って、戻るときに汲んでくるよう頼むか」

川原

エルフ「……」ボーッ

エルフ(俺が肩入れするのは一人だけ……か)

――真に誇り高いと思える、後ろの女一人だけだ。

――これまで会った女の中では、一番いい女だというのは認める。

エルフ「///」カァッ

エルフ(あの状況であのセリフは反則ですわよ!)

エルフ(ち、ちょっとだけ、その……クラッといきかけましたわ)

エルフ(……)

エルフ(……格好よかったのは認めますけど)

エルフ(格好いい、か)

エルフ(よくよく考えたら、自分より強い男に出会ったのは彼が初めてでしたわね)

エルフ(隣国の将軍もわたくしより強かったですけど)

エルフ(騎士団に入ってからというもの、稽古に打ち込んでばかりで腕前だけは上がっていって)

エルフ(それで剣術大会で優勝しても、拍手なんか無かった……)

エルフ(だから、余計に)
――真っ直ぐでひたむきで、理不尽な仕打ちにも決して負けない。

――絶対に腐らずへこたれない。真に誇り高いと思える、後ろの女一人だけだ。

エルフ(あの一言が、嬉しかった……)

エルフ(今まで誰からも認められなかったことを、全部……全部認めてもらえた気がして)ポロッ

エルフ(こんなに……こんなに嬉しくて……)ポロッポロッ

エルフ「なのに、何で……涙が、出て……!」ポロッ ポロッ

エルフ「うっ……くぅ……!」ボロ ボロ ボロ

侍「おーい、エルフー。いるかー?」

エルフ「!」





侍「? 返事が無いな……気配はあるのに」

ザバァッ

侍「お、上がったのか? 済まん、服着てからで構わないから、戻ってくる前に水……を……」

エルフ「……」ゼンラ

侍「」

侍「――!?!?」ハッ

侍「お、おま、バカ! 何で裸のまま!?」クルリッ

エルフ「~~~~!」ダキッ

侍「ちょっ!?」

エルフ「少しだけ!」

侍「?」

エルフ「少しだけでいいから……うぅ……このまま……ひっく……このままでいさせて……うぅ……!」

侍「……風邪引いても知らないからな」

エルフ「う……うああああ! ぐすっ……うああああああ!!」



エルフ「――くしゅん!」

侍「ほれみろ。あんな格好でぐずってるから」

エルフ「だ、だってさっきは……その、堪えきれなくて……」

侍「……泣いてすっきりするんだったらいくらでも泣け」

侍「他の連中はともかく、俺やお前の母君、それにメイドエルフの前くらいではな」

侍「二人とも、お前のことえらく心配してたからな」

エルフ「……うん」

侍(何か妙にしおらしくなったな)

今日は以上ですもうダメ眠い。

なんか予想以上に長くなりそうな予感。


エルフ実家

エルフメイド「ご主人様、お食事の用意が整いました」

エルフ母「そう……」

エルフメイド「今日はお粥にしてみたんですが、食欲はありますか?」

エルフ母「……そうね。せっかく作ってくれたのに、最近残してばかりだものね」

エルフメイド「それは大丈夫なのですが……お嬢様がご心配なのはわたしもよくわかります」

エルフメイド「ですが、それでご主人様がお体を悪くされては、お嬢様も安心してお帰りになれません」

エルフ母「……ええ。そうね。あの子が無事に帰ってきたとき、私が倒れていたら心配させた挙句叱られてしまうわね」

エルフメイド「その通りですよ! ですからたくさん食べて、お元気な体でお嬢様のお帰りを待ちましょう!」

エルフメイド「お侍様もお嬢様を助けに行ってくださいましたし、絶対ご無事ですから!」

エルフ母「ふふ。その通りね」

エルフメイド「はい! あ、ところでご主人様」

エルフ母「なに?」

エルフメイド「お食事の前に、軽い運動をしたくなってしまったのですが、よろしいでしょうか?」

エルフ母「! ええ。許可します」

エルフメイド「ありがとうございます。それでは」チャキッ

エルフメイド「――はっ!」シュッ ドスッ

男声「がっ!?」ドサッ

メイドエルフの名前逆になってたorz



女声「投げナイフ!?」

男声「ちっ、バレたか。かくなる上は!」

ドタッドタッドタッ

エルフ母「何者です!」

覆面男「知る必要はない。我らと共に来てもらおう」

覆面女「おとなしくすれば手荒にはせん」

メイドエルフ(仕留めたのも含めて三人。他に気配はなし)

メイドエルフ(一人はあの程度の不意打ちで倒せたけど、この二人は――)

覆面女「さあ。武器を捨てろ」

覆面男「歯向かうのなら、二人とも少々痛い目を見ることになる」

メイドエルフ「……くす」

覆面男「何がおかしい!」

メイドエルフ「いえいえ。あまりにベタなセリフだったものでつい」

覆面女「なに?」

メイドエルフ「お下がりください、ご主人様。すぐに終わらせますので」

エルフ母「気を付けて」

覆面女「貴様……」

覆面男「さっきは不意を突かれたが、もうそうはいかん」

覆面女「二対一で勝てると思うな」

メイドエルフ「……うふふふ♪」

覆面女「貴様、また!」

メイドエルフ「いえだって、これが笑わずにいられます?」

覆面男「なんだと?」

メイドエルフ「ですからほら」

メイドエルフ「自他の力量差も見抜けないのに数だけで勝った気でいるお馬鹿さん前にして笑いを堪えるなんて」

メイドエルフ「ホント、わたしには一生かかってもできませんよ♪」ニヤッ

覆面男・女「っ!?」ゾクッ

数時間後

侍「もうそろそろ見張り以外は寝静まっているだろうと来てみたら」

ザワザワザワザワ

エルフ「むしろ余計に騒がしくなってますわね」

侍「調査に向かってた連中が戻ってきたのか? だとしたらまだ当分は騒がしいだろうな」

エルフ「時間を置いたのは失敗だったかしら」

侍「着眼点は正しかったが、タイミングを誤ったな」

エルフ「仕方ありません。こうなったら陛下と言わずとも、司令部あたりに……」

侍「……ん? どうした?」

エルフ「…………え?」

侍「おい?」

エルフ「……なん、ですって……?」

侍「だから、何がどうし――」ガシッ!

エルフ「逃げますわよ!」ダッ

侍「はぁ!? なんで――」ダッ

ヒュン カッ!

侍「!? 矢が!」

エルフ兵「あそこだー! 追えー!」

侍「ちぃっ! どういうこったこれは!」

エルフ「知りません! ただ、精霊がしきりに警告してくるのです!」

侍「さっき様子がおかしかったのはそれか! 精霊は何だって?」

エルフ「『イヤなヤツがキミたちをネラっているからハヤくニゲテ』、と! わたくしの家も!」

侍「何だと!? じゃあ二人が!」

エルフ「いえ。そちらはメイドエルフがいるからたぶん大丈夫ですわ。それよりも今は――」

ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス

エルフ兵「逃がすなー!」

エルフ兵「反逆者を捕まえろー!」

エルフ「この場を切り抜けることを考えませんと!」

侍「みたいだな!」

エルフ「――こっちへ!」

侍「根拠は!」

エルフ「精霊の手招きですわ!」

侍「俺には見えないが、信じるしか手はないか!」

エルフ「そういうことです!」





エルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

侍「追っ手の気配は無し……どうやら撒けたみたいだ」

エルフ「そう、ですわね……はぁ、はぁ」

侍「大丈夫か?」

エルフ「少し、待ってもら、えます?」

侍「ああ。まずは息整えろ」

エルフ(なんでこの人は息切れしておりませんの……あんなに走ったのに)

侍「落ち着いたか?」

エルフ「――ふぅ。なんとか」

侍「まずは状況を確認したいところだが……その前にどこだ、ここ」

エルフ「森の奥みたいですけれど――あ」

侍「敵か!」

エルフ「いえ。精霊が」

侍「今度は何だって」

エルフ「『コッチへおいで』」

侍「こっち……どっち?」

エルフ「着いていらして」

しばらく歩いて

侍「あれは」

エルフ「岸壁に……洞窟?」

侍「あそこの中は安全、てことか?」

エルフ「そのようですわ」


洞窟内部

侍「なぁ」タラッ

エルフ「はい?」タラッ

侍「確か、この中なら安全なんだよな」タラタラッ

エルフ「精霊はそう言ってましたわ。精霊は」タラタラッ

侍「じゃあ、何で」タラタラッ

侍「何でこんなに熊がいるんだ!?」ダラダラダラッ

熊a「…………」

熊b「…………」

エルフ「わ、わたくしに聞かれても……」タラタラッ

侍「どうするよ……。熊って確か、背を向けた相手を追い掛ける習性があったよな……?」

エルフ「そ、そうなんですの? なら、背を向けずにゆっくり後ろ歩きで」ドン

エルフ「……」チラッ

熊c「…………」

エルフ「」

侍「精霊のやつ、何を考えてこんなところに」

エルフ「し、知りませんわよそんなこと……」

侍「さしもの俺も、熊と闘ったことなんか無いぞ」

エルフ「わたくしだってありませんわ」

侍「くそ。せめて松明でもあれば火で威嚇できる……ん?」

エルフ「どうしましたの?」

侍「そういえば、今は夜だよな?」

エルフ「ええ。それが?」

侍「この洞窟、明るくないか?」

エルフ「え……あ」

侍「それに、この熊の群れ」

熊d「~~」アクビ

子熊「……スピー」

エルフ「襲って、きませんわね」

侍「どういうことだ? 精霊は何か言ってないか?」

エルフ「それが、この洞窟に入ったらどこかに飛んでいってしまって」

侍「せめてここがどういう場所なのか教えて――」グイッ

侍「ん? 袴の裾が――」

兎「……」

エルフ「う、兎?」ポトッ

エルフ「ひゃっ! 頭に何か!」

リス「……」

侍「リス、だな」ヒョイ

エルフ「え? あら、かわいい」

侍「熊に兎にリス……本当に何なんだここは」

エルフ「よくわかりませんが、どうやら逃げる必要はなさそうですわね」

侍「そうだな。それに、ここならエルフ兵に見付かる心配もないだろう」

侍「やっと落ち着いたところで状況整理といきたいが」

侍「その前に、お前の母君とメイドエルフは本当に大丈夫なのか?」

エルフ「ええ。メイドエルフは、ああ見えてお母様の護衛も兼ねてますの」

エルフ「わたくしやあなたのように正攻法で戦うタイプではありませんが」

エルフ「戦い様によっては、わたくしでも油断できませんわ」

侍「そんなにか」

侍(城にあっさり潜入していたから、ただ者じゃないとは思っていたが)

侍「ならそれはいいとして。まず確かめるべきは」

エルフ「兵が叫んでいた、『反逆者』ですわね」

侍「間違いなく俺たち……いや」

エルフ「わたくしのことでしょうね。あなたはそもそもエルフ族ではございませんし」

侍「俺たちの居場所がバレた理由はともかく、何故お前が反逆者扱いされたか……」

侍「心当たりがあるとすれば」

エルフ「やっぱり、隣国の将軍から聞いた事」

侍「十中八九それだろうな」

エルフ「それを聞いたわたくしを反逆者として追うということは、逆に言えば、彼の話が事実であるということ」

侍「屋敷を襲ったのは、母君とメイドエルフを人質とするためか」

エルフ「しかし、その者は何故わたくしがその話を聞いたことを知っているんですの?」

侍「……兵士たちだな」

エルフ「え?」

侍「昼間の戦、お前の隊にいた連中に死者は出ていない」

侍「そしてさっき、調査に出ていた部隊が戻ってきていた」

エルフ「……なるほど。回収された兵の誰かが、その時の様子を話したんですわね」

エルフ(だとすれば、それを話した兵はもう……。最悪、全員が……)

侍「だとすれば、次は」

エルフ「『誰が』、ということになりますわね」

侍「ああ。だが、これはある程度限られてくる」

エルフ「ええ。隣国との交渉など、一介の兵士がすることでも決めることでもありませんし」

侍「間違いなく、国の重鎮。それも軍部に身を置く者だろう」

侍「そうでなければ、昼間の今でお前を反逆者に仕立てあげることなどできん」

エルフ「でしょうね。ただ、それ以上絞りこもうには」

侍「情報が足りない、な」

エルフ「ええ」

侍「……なら、これ以上考えても時間の無駄だ」

エルフ「そうですわね。なら、次は明日からの行動をどうするか」

侍「俺としては、屋敷の二人と合流して身を隠すべきだと思うが」

侍「真相を暴くにせよ逃げるにせよ、たった四人……いや、母君は戦えないだろうから実質三人で軍を相手にするのは無茶だ」

侍「まずは合流して、どこかに拠点を儲けるべきだろう」

エルフ「わかっています。わたくしだって、それだけの人数で正面から挑もうなどとは思いませんわ」

侍(逃げるって選択肢は初めから無しか。さすがというからしいというか)

頑張りまする(`・ω・´)



エルフ「ですから、まずはお母様たちとの合流地点を目指しますわ」

侍「合流地点?」

エルフ「昔いろいろありまして。いざという時のために、ある場所に隠れ家を用意してありますの」

エルフ「もしもの時は離れていても合流できるよう、そこに集まることになっているのですわ」

エルフ「襲われたとなれば、お母様たちもそこに隠れることを選択するはずです」

侍「そうなのか」

侍(つまり、そんなものを用意しなければならない扱いを受けてきたってことか。エルフだけじゃなく母君や、あるいはメイドエルフも)

侍「ちなみに、それはここからどのくらいの距離なんだ?」

エルフ「ここの正確な場所がわからないのでなんとも……」

エルフ「ただ、先程まで焚き火していた場所から考えれば、徒歩でおおよそ四日ほどといったところでしょうか」

エルフ「ただ、軍に見付からないように移動しなければなりませんから、実際はもっとかかるはずですわ」

侍「確かに」

エルフ「とりあえず……こんなところかしら?」

侍「だな。あとは明日以降に備えて、今日はもう休もう」

頑張る言うた直後に書きため分オワタorz
このあと風呂ってペルソナ4始まる前にある程度進めば投下、間に合わなかったらまた後日にします。

隣国 王城

兵士a「陛下ー! 陛下ー!」ドタドタドタドタ

兵士b「陛下ー! いずこにおわしますのかー!」ドタドタドタドタ

将軍「……」

騎士「……」

騎士「……またですか」

将軍「またのようだな」

騎士「うちの王様の放浪癖には困ったものですね」

将軍「日頃の仕事ぶりは見惚れるほど見事なのだが、こればっかりは如何ともしがたい」

騎士「確か以前は、北の山の頂上で発見されたんでしたっけ」

将軍「そこに山があったから登ってみたとのたまっていたな」

騎士「そんな理由で標高八千の山に挑まされた捜索隊はたまったものじゃありません」

将軍「そういえばそなたも一員であったか」

騎士「さらにその前は湖底で発見された遺跡の中でした」

将軍「自分の限界に挑むために素潜りしてたらたどり着いたらしいな」

騎士「あの遺跡は不思議でした。湖底なのに浸水していませんで」

将軍「そこにも行ったのだな」

騎士「もう何回あの方を追って東奔西走したことか」

将軍「その歳で苦労してきたのだな」

騎士「わかってくださいますか……」ホロリッ

将軍「うむ。報償に少々色をつけてやろう」

騎士「あ、ありがとうございます!」

将軍「だから今回も頼むな」

騎士「」

翌朝

エルフ「……ん」

侍「起きたか?」

エルフ「うん……おはよう」

侍「おはよう。奥で顔洗ってこい」

エルフ「え?」

侍「さっき覗いてみたら泉があった。澄んでて綺麗だぞ」

侍「動物はまだ寝てるから起こすなよ」

エルフ「わかりましたわ」

エルフ「うわぁ……本当に綺麗な泉」

エルフ「ではさっそく」パシャン

エルフ「――ふぅ」

エルフ(気持いい)パシャ パシャ

パシャン

エルフ「――あら? 音が一回多かったような」

男「やぁ」キラッ

エルフ「…………」

エルフ「……は?」

男「おはよう麗しのレディ。こんな格好で済まないね」ジャブジャブジャブ

エルフ「……へ!?」

男「いやー、あまりにも綺麗な泉だからつい泳ぎたくなってしまってね」ゼンラ

エルフ「……き……」

侍「さて。保存食もそろそろ底をつきそうだし、そこらに食べられる野草か何か生えてな――」

キャーーーーーー!!

侍・動物たち「」ビクンッ!

侍「な、何だ!?」

エルフ「な、なななな何で須野あなた!!?」

男「こんな格好で言うのもなんだが、少し落ち着きたまえレディ」

エルフ「だったら早く服を着てくださいませんこと!? でないと!」ガシッ

男「わかったから、とりあえず剣を抜こうとしているその手を下ろしてもらえるかな」

侍「おい、どうした!」

男「やぁ」キラッ

侍「」

侍「で、でたな妖怪!」キンッ

熊「グゥゥゥ……」

男「待ちたまえ妖怪じゃないから鯉口切らないでもらいたい。熊くんもそんな唸らないでさすがに恐いよ」

侍「……とりあえず服を着ろ」

男「今着ようと思っていたところだよ」





侍「で。あんた何者だ。見たところ人間のようだが」

男「しがない放浪人さ」キラッ

侍「……」キンッ

男「無言で鯉口を切らないでもらいたい」

侍「そんな白髪に白髭だらけの風貌で歯を光らせても胡散臭いだけだ」

男「胡散臭いはひどいなぁ。お嬢さんもそう思わない?」

エルフ「話しかけないで露出狂」

男「もっとひどかった」

男「ま、身分を表す物を持ち合わせていないから、怪しいと思われても仕方ないけどね。よっこいしょ」

侍「どこへ行く」

男「特に決めてないよ。ただ、エルフの国には前々から興味があってね」

男「ちょっと見て回ろうと思って、昨日から来てみたんだよ」

エルフ「……あなた、今この国がどのような状態か知りませんの?」

男「なーんか隣国と険悪な雰囲気だよねー」

エルフ「なら、この国の住民が人間に対してどのような感情を抱いているかもわかるでしょう?」

男「あ、心配してくれるんだ? おじさん嬉しいなぁハグしていい?」

エルフ「死んでしまえばいいのに」

男「冗談はさておき、そろそろ僕は行くとしようか」

侍「……まあ、止めはしないが」

男「僕だって、相応の知識はあるさ。君たちも気を付けるといい」

男「……どうにもキナ臭いからね」

エルフ「え?」

男「ではご両人。さらばだ」キラッ

侍「……何だったんだ?」

エルフ「何でもいいですわ。あんな……ゲスいものを朝っから……!」ワナワナ

侍(ゲスい……)

エルフ「もしまた不埒な真似をしたら、全身斬り刻んで魚のエサにしてやりますわ……!」

侍「いや、さすがにもう会うことは無いと思うが」

男「あ、そうそう」ヒョイ

侍「うおっ!?」

男「お嬢さん。その剣、大切にしなさいよ」

エルフ「え?」

男「じゃ、今度こそ失礼」

侍「気配を感じなかった……本当に何者だ?」

エルフ(あの人、この剣のことを何か知って……?)

侍「まあ、敵ではなさそうだからいいか」

エルフ「……ですわね」

エルフ(今は考えても仕方ないですわ)

侍「出発の前に確認したいんだが、昨夜言ってた隠れ家まではどう行けばいいんだ?」

エルフ「街道を通れれば一番確実なんですけど、そちらは軍が検問を敷いているでしょうから」

エルフ「一度南へ大きく迂回してから森の中を西進し、河が見えたらそれに沿って北上します」

エルフ「ただ、これはエルフ軍の陣があった場所を基点にした道筋ですので、一度そこまで近付く必要がありますが」

侍「昨夜は逃げるのに必死で、ここがどこだかわからないもんな。そんなに遠くまで行ってないとは思うが」

エルフ「どちらから来たのか大雑把には覚えていますから、さほど迷わず元いた場所までは戻れると思いますわ」

侍「そうか。なら頼む。俺はどうも方向音痴みたいで、道を覚えるのは苦手なんだ」

エルフ「そうなんですの?」

侍「ああ。昨日お前と合流したけど、メイドエルフから聞いた話の通りなら、あと二日は早く着いてたはずだからな」

エルフ「つまり、二日間道に迷っていたと?」

侍「そうなる」

エルフ「意外ですわね。何でも卒なくこなせるような人ですのに」

侍「何でもは出来んよ。それに、お前に尋問されたとき、道に迷ったって説明しただろ?」

エルフ「そういえば、そんなこともありましたわね」

エルフ「……くす」

侍「ん?」

エルフ「いえ、何でも」

エルフ(この人にも、そんなかわいらしい弱点があるんですわね)

エルフ「たった二週間前なのに、ずいぶんと懐かしい感じですわ」

侍「そうだな」



侍「……いいぞ。出てこい」

エルフ「この辺りは、本当に安全なようですわね」

侍「ああ」

熊a「……」

熊b「……」

兎「……」

リス「……」

侍「な、なんだか改めて見ると、こいつらが一列に並んでる様は色々と凄い」

エルフ「かわいいですけど、シュールというか何というか」

侍「こいつらの寝床だったんだし、礼を言うべきか?」

エルフ「通じるのかしら……。えっと、皆一晩ありがとう、ね?」

熊a・b「」フリフリ

エルフ「手を振ってる!?」

侍「通じてる上になんて器用な真似を!?」

エルフ「えっと、その……じ、じゃーね?」フリフリ

兎・リス「」フリフリ

侍「耳と尻尾で!?」

エルフ(み、皆かわいいですわね……)



エルフ「えっと、確かこの辺りで焚き火をしていたはず」

侍「あれだ」

エルフ「ありましたわね。付近に兵士の姿も無しとなると」

侍「捜索範囲を別の場所に移したか」

エルフ「とはいえ、さすがに陣を引き払ったとは思えませんわ」

侍「昨日の今日じゃな。ここからは少し――」ピクッ

エルフ「? どうかしまし――」

侍(伏せろ!)ガバッ

エルフ(っ!?)

ザッ ザッ

エルフ兵a「まったく。あの混血女はどこに隠れやがった」

エルフ兵b「確か、前迷いこんだ人間の男も一緒にいるんだよな」

エルフ兵a「ああ。おおかた、あの女が下品な手で誘惑でもしたんだろ」

侍(ちっ……)

エルフ兵b「だろうな。男の方も、それにホイホイ乗ったんだろ。人間ほど欲望にまみれた生物はいないからな」

エルフ(勝手なことを……!)

エルフ兵a「あーあ。やっぱもうこの辺りにはいないんじゃないか?」

エルフ兵b「もう一晩経っているからな。あるいはだいぶ遠くまで逃げているかもしれん」

エルフ兵a「仕方ない。そろそろ時間だし、戻って合流するか」

ザッ ザッ ザッ ザッ

侍「……行ったか」

エルフ「みたいですわね」

侍「好き勝手に言ってくれやがったな」

エルフ「本当。いずれひっぱたいてやりますわ」

侍「ああ。ほっぺた腫れるまでやってやれ」

エルフ「当然です。ところで……そろそろ、その」カァッ

侍「ん……ああ、悪い」ヒョイ

エルフ「い、いえ。別に謝らずとも」

エルフ(いきなり押し倒されたときはびっくりしましたけれども……)

ちょっと早いけど今日はここまでにします。また後日。

侍「そろそろ時間、とか言ってたな。あいつら」

エルフ「ええ。さすがにもう、この辺り一帯の捜索は縮小するでしょうね」

侍「なら、このまま南まで一気に進むか?」

エルフ「そうですわね。時間をかけるとこの辺りは安全になっても、代わりに国全域に警戒範囲を広げられてしまいますし」

侍「そうなったら、ますます身動きがとりにくくなるか」

エルフ「隠れ家に着けば、こちらが尻尾を出さない限りバレることはありません」

侍「後のことは?」

エルフ「着いてから考えますわ」

侍「だな」

同時刻

ガラガラガラガラ

メイドエルフ「ご主人様、お疲れではございませんか?」

エルフ母「ええ、大丈夫よ。あなたこそ平気? 一睡もしていないけど」

メイドエルフ「わたしなら問題なしなしです。その気になれば五日間は不眠不休で動けます」

メイドエルフ「まあ、その後一週間くらいバタンキューしちゃいますけど」

メイド母「じゃあ、あなたがバタンキューしちゃう前に着かないとね」

メイドエルフ「ですねー。問題は」

ガラガラガラ

メイドエルフ「荷馬車の速度が如何せん遅いことなんですよねー」

メイド母「ごめんなさい。私がちゃんと歩ければ……」

メイドエルフ「とんでもございません! それはご主人様にはなんら責任の無いことなんですから!」

メイド母「でも」

メイドエルフ「そんなお顔をなさらないでください。今回はわたしがいるんです」

メイドエルフ「二度とあんなことにならないよう、しっかりとお守りさせていただきますから!」

メイド母「……ありがとう。お願いね」

メイドエルフ「お任せください!」

メイドエルフ(ええ。もうあんな事、わたしの前で二度と繰り広げさせたりしないんですから!)

エルフ「思ったよりあっけなく陣からは離れられましたわね」

侍「さすがにこの辺りにエルフ兵の気配は無いな」

エルフ「だいぶ南下してきましたから。当分は安全に進めますわ」

侍「とはいえ、あまりゆっくりもしていられないんだろ」

エルフ「ええ……そろそろですわね」

侍「そろそろ?」

エルフ「あれですわ」

侍「ん? おー。立派な大木だ」

エルフ「詳しい樹齢はわかりませんけれど。これを基点に、しばらく西へと進みます」

侍「そうか。しかし、ほれぼれするな」

エルフ「そうですわね」フリフリ

侍「誰に手を振って……あ、精霊か?」

エルフ「ええ。この樹には昔からたくさんの精霊が住んでいますの」

侍「なんとなくわかるな。俺の国でも神社のご神木は神秘的な雰囲気だが、この樹にもそれに通ずるものがある」

エルフ「あら。ちょっと見てみたいですわね」

侍「もしかしたら、精霊が見えるかもしれないな」

エルフ「異国の精霊か。一体どのような姿で――……」

エルフ「……」

侍「……何て言ってる?」

エルフ「『テキがキテるよ』」

ガサ シュッ

侍「――ふっ!」キンッ

エルフ「ナイフの投擲!? どこかで見たような攻撃ですわね」

侍「抜け。来るぞ!」

エルフ「!」シャー

ガサガサガサ ガサッ!

男声「死ね」

ギンッ

侍「ちっ」

エルフ「侍さん!」

女声「よそ見をしている場合かしら?」

エルフ「!」

キィンッ

エルフ「くっ!」ググッ

刺客♀「さあ。剣術大会優勝経験者の腕前、見せてもらおうかしら」ググッ

エルフ「……いいでしょう。ただし、お代は高くつきましてよ!」

刺客♂「……」ヒュン ヒュン

侍「……!」スッ スッ

侍(逆手の二刀短剣。尺は無いが)

侍「はあっ!」ブン

刺客♂「」ヒラリ

侍(かなりの身軽さだな。軽業師並だ)

侍(つけ加えて)

刺客♂「ふんっ」シュッ シュッ

侍「」スッ キン!

侍(間合いが離れたら短剣の投擲。二本連続でくるから、迂濶に懐に飛び込めず)

刺客♂「……」スラリ

侍「ちっ」

侍(いざ近付こうとすれば、別の短剣を既に抜いている)

侍「――おおおお!」

刺客♂「!」

ブンッガキン シュッキン!

刺客♂「はっ!」シュッ!

侍「っ!」キィンッ

刺客♂「もらう」ダッ

侍(こっちの懐に!?)

刺客♂「死ね」

侍「ちぃっ!」

エルフ「はあっ!」

刺客♀「ふっ!」

ガキンッ!

エルフ「やあっ!」ブンッ

刺客♀「っ」ギン ヨロッ

エルフ(いける!)

エルフ「はあああっ!」ダッ

刺客♀「――」

エルフ(……!)ビタッ

刺客♀「はっ!」

シュッ ザシュッ!

エルフ「つっ!」ツー

刺客♀「ちっ。頬にかすっただけか」ボソ

エルフ(剣じゃない。今のは、暗器?)

刺客♀「まあいいわ。威嚇効果は十分」

エルフ(精霊が警告してくれたおかげで助かった。けど)

刺客♀「剣での戦いはあなたが優勢。でも、今のも交えればどうなるかしらね?」

エルフ「……」

エルフ(どうかしらね。さっきのよろめき、わたくしを誘うためにわざと隙を作ったと思った方がいい)

エルフ(確かに負けてるわけじゃない。だけど)

刺客♀「それじゃあ、試してみようかしら!」ダッ

エルフ(だからって、余裕なんか少しもない!)

エルフ「……ええい!」ダッ

侍「おおおっ!」ガシィッ!

刺客♂「――なに!?」

刺客♂(こいつ、素手で短剣を掴みやがった!?)

侍「はあっ!」

刺客♂「くそ!」

ブンッ ザンッ!

刺客♂「ぐっ……」ブシュッ

侍「ちっ」ズキッ

侍(出血が少ない。浅かったか)

刺客♂「無茶苦茶なやつだ。これだから人間は……」

侍「やっとまともに口を開いたな」

刺客♂「……人間と話す口はない。次こそ殺す」

侍「あいにくだが、まだやることがあるんでな。簡単にはやられねーよ」

刺客♂「ふんっ!」ダッ

侍「はっ!」ダッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

刺客♀「うっふふ。だいぶお疲れのようね」

エルフ(迂濶でしたわね……暗器を警戒するあまり、集中を欠いて体力を無駄使いしてしまうとは)

刺客♀「さて。とどめはどっちにしようかしら。剣で斬るか、暗器で撃つか」

エルフ「……」

エルフ(仕方ないですわね。あんまりやりたくないけど……)

エルフ「はあっ!」ブンッ

刺客♀「おっと」キン

ブンッキン ブンッキン

刺客♀「遅い!」ヒュン ザシュッ!

エルフ「くぁっ!?」ヨロッ

エルフ「つ……」ボタッボタッ

刺客♀「あらあら。その足じゃ、もう動けないわね」

エルフ「……」

刺客♀「ふふ。じゃあ、最後は剣で決めましょう。剣達者なあなたなら、その方が本望でしょ?」

ザッ ザッ ザッ

エルフ「……」

刺客♀「じゃあね。これでおしま――」

エルフ「――はああああっ!」ブンッ

刺客♀「!?」

侍「はっ!」

刺客♂「ふんっ!」

ギンッ ガィン キンッ

刺客♂「おおおっ!」ブンッ

侍(我を捨てたか。さっきまでと気迫が段違いだ)

侍「ふっ!」ヒュッ

ギン ギン ヒュッ キン

侍(だが!)

刺客♂「はあっ!」クルン

侍「――そこ!」

ヒュッ キィン――

刺客♂「なに!?」

侍「おおおっ!」ブンッ ザンッ!

刺客♂「がっ……!」ヨロッ

刺客♂「ぐ……ぅ……」ブシュッ

侍「……勝負ありだ。その深手じゃ、もう動けまい」

刺客♂「貴様……」

侍「熱くなったのが敗因だ」

侍「冷静なままならよかったものを、途中で逆手持ちを順手に変えようとするから余計な隙が出来た」

侍「剣は逆手で持つようには出来ていない。自然威力の伝わりが悪くなり、一撃の威力にどうしても欠ける」

侍「熱くなったせいで、手数より威力を取ろうとした。それはいいが、せめて間合いを空けてからやるべきだったな」

刺客♂「……ちっ」チャキ

侍「無駄だ。その傷では、もう戦いなんて」

刺客♂「勘違いするな。これは――こうするためだ!」ドスッ!

侍「!」

刺客♂「ぐ……かは……」ドサッ

刺客♂「……人間の……手に……など……かかって……たまる……か」

刺客♂「…………」コトッ

侍「……後味悪いな」キンッ

刺客♀「っと!」スカッ

エルフ「っ……」

刺客♀「危ない危ない。そういえば、腕はまだ動かせるのよね」

刺客♀「予定変更。やっぱり遠くから、こっちで殺してあげる」スッ

エルフ(針? あれが暗器の正体……)

刺客♀「くす。それじゃ」

エルフ(この程度の距離なら……)スッ

刺客♀「あら。目を瞑ったりして、観念したのかしら」

刺客♀「まあいいわ。それじゃ――さよなら。混血さん」シュッ――

エルフ「――」








――ヨケテ!





エルフ「!」カッ!

サッ ヒュン――

刺客♀「なっ!? 避けられ――」

エルフ「っ!」ダッ ブシュッ

刺客♀(あの足で走って!?)

刺客♀「くっ!」チャキ

エルフ「やあっ!」

ブンッ ギィィィン!

刺客♀「くぁっ!?」

エルフ「はああああっ!」

ザンッ!

刺客♀「がは……!」ドサッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――つぅ!」ボタボタ

刺客♀「そん……な……。汚れた小娘……に……がはっ!」

刺客♀「…………」コトッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ」

エルフ「はぁ、はぁ……ありがとう」

――フリフリ

侍「エルフ。無事か」

エルフ「なんとか。侍さんこそ、平気ですの?」

侍「ああ。少しばかり油断したけどな」

エルフ「同じく。足を少々やられましたわ」

侍「……少し深そうだな」

エルフ「あなたの手もなかなかですわよ」

侍「ああ。ひとまず手当てするか」

エルフ「ええ。幸い、もう敵はいないようですし」

侍「精霊か」

エルフ「ええ。今の戦い、彼らに助けてもらわなければどうなっていたか……」

侍「よかったじゃないか」

エルフ「え?」

侍「また味方が増えて」

エルフ「あ……」

エルフ「ええ……そうですわね」

書いてると長いのに投下するとあっという間でしかも案外短いという……。
今日の分終了です。また後日、というか明日に。

ギュッ

侍「よし。もういいぞ」

エルフ「意外と手際がいいんですのね」

侍「旅をしていれば、怪我することなんかしょっちゅうだからな」

エルフ「慣れですわね」

侍「そういうこと。しかし、しっかり治すにはさすがに医者に診てもらうしかないが」

エルフ「無理ですわ」

侍「まあ、街ではもう手配されてる可能性もあるか」

エルフ「いえ。手配とか、そういうことは関係なく無理なんです」

エルフ「怪我だろうと病気だろうと、わたくしやお母様が診療を受けることは」

侍「……そこまで」

エルフ「そのせいでお母様は……いえ、やめましょう」

エルフ「まあそのおかげで大病はもちろん、軽い風邪すら患ったことはございませんけど」フッ

侍(軽い病気でも、へたをしたら命に関わるからか……)

エルフ「そんなわけですから、医者を探すのは無しということで」

侍「わかった。しかしだとすると、どうにかして足を確保する必要があるな」

エルフ「ごめんなさい。よりにもよって足をやられたのは迂濶でしたわ」

侍「本気の殺し合いだったんだ。気にする必要はない」

エルフ「……」

侍「しかし困ったな。来るときに乗ってきた馬、どこに繋いだか」

エルフ「馬で? ああ、街から国境までですわね」

侍「ああ。メイドエルフが貸し馬屋から借りてくれたやつなんだが」

エルフ「……二つの意味で、返す機会はなさそうですわね」

侍「そうだな」

侍(色々聞いてしまうと、返す義理も無いように感じるがな)

侍「無いものねだりをしても仕方ない。歩けそうか?」

エルフ「ん……」ズキッ

エルフ「っ」

侍「しばらくは無理だな」

侍「抱えていこうにも、俺の手もこれでは」

侍「かと言って、おぶっては両手が塞がるからいざというときにまずい」

エルフ「ごめんなさい……」

侍「だから気にするな。さて、どうするか」

男「どうしようかねー」

侍「……」

エルフ「……」

男「ん?」

侍・エルフ「何故ここにいる」

男「や、ただの通りすがり?」

侍「半疑問系で答えるな」

男「あ、よかったらこの馬使う? なーんか木に繋がれて放置されてたのが不憫だったから乗ってきたんだけど」

侍「つーかそれ俺が乗ってきた馬だ!」

男「そうなのかい? じゃあなおのこと僕ナイスタイミング。足怪我してるみたいだし、お嬢さんに乗ってもらおう」

エルフ(な、なんてご都合主義的な……わざとやってますのこの人?)

侍「……それについては否定しないでおく。ほら」

エルフ「え、ええ」

侍「よっ、と」ヒョイ

エルフ「きゃっ!? い、いきなり抱えないでくださいません!?」カァッ

侍「その足じゃ自力で跨がれないだろ。ほい」

エルフ「まったく……」ストン

男「うんうん。若いっていいねー。僕も二十年くらい前は熱ーい恋をしたもんさ」

エルフ「想像できません」

男「じゃあ聞く? 聞きたい? 若かりしおじさんの甘く切なく凄まじいピュアラブストーリーを!」

侍「行こう」

エルフ「ですわね」

男「せめてジト目くらいは向けたまえ」

侍「いちいち相手にしてたら日が沈むだろ。馬のことは礼を言うが」

男「ま、知らぬ顔ではないし、通り会わせたのも何かの縁だからね」

男「ところで、お嬢さんだけじゃなく君も怪我をしているようだけど」

侍「……少しな」

男「ん? 僕は関係ないから巻き込みたくない?」

侍「そういうことだ」

エルフ「興味本意でこの国に来たのなら、今すぐ帰るべきですわよ」

男「んー。そう言われると、天邪鬼な僕としてはますます帰りたくなくなっちゃうなぁ。てへっ☆」

エルフ「……」チャキッ

男「無表情で剣に手をかけないでもらいたい」

エルフ「……そういえば、あなた」

男「ん?」

エルフ「この剣のこと、何か知っていますの?」

男「おや。何でそう思うのかな?」

エルフ「あなた、さっき洞窟を出るときに言ってたじゃありませんか。その剣を大切にしろと」

男「んー。そんなこと言ったっけ?」

エルフ「……答える気はないようですわね」

男「だから僕には何のことやら」

エルフ「もういいです。森でも村でも、好きなだけ見ていらっしゃい。命の保証はいたしませんわよ」

男「くわばらくわばら」

侍「行くか?」

エルフ「ええ。行きましょう」

男「それじゃ、僕もこの辺で」

侍「一応、気を付けてな」

男「申し訳程度のご心配に感謝するよ」

エルフ「……」

男「それじゃあね。近いうちにわかると思うよ、お嬢さん」

エルフ「え!?」

男「さらばだー」キラッ

エルフ「ちょっ、どういう……行ってしまいましたわ」

侍「……」

エルフ軍本陣

エルフ王「その報告はまことか」

参謀「はっ」

司令「例の女隊長、混血の身でありながら騎士団へ登用させてもらった恩を忘れ、我らに……いえ、陛下に牙を向きました」

司令「辛うじて生き残った者が、戦場にて敵将と談合する混血の姿を目撃しております」

参謀「共にいたという極東出身の者も合わせて、目下行方を捜索中にございます」

エルフ王「……わかった。ときに司令」

司令「はっ」

エルフ王「そなたは司令に昇格してまだ日が浅かったな」

司令「はっ。まだ一年ほどにございます」

エルフ王「なるほど。確かに、その間実際に顔を会わせたのは僅かであるな」

司令「左様にございます」

エルフ王「では司令。いい機会だからそなたにも教えおこう」

司令「はっ?」

エルフ王「二度と私の前で、混血などという蔑称を使うな!!!」バンッ

司令「っ!」

エルフ王「……件の騎士とその人間。見つけ次第私の前に連れてこい。ただし、丁重にな」

司令「丁重に? 相手は御身に反旗を翻した――」

エルフ王「二度同じことを言わせるな」

司令「……御意」

司令(……!)ギリッ

参謀「……」

数時間後

侍「だいぶ暗くなってきたな」

エルフ「今日はこの辺りで野宿しましょう。敵もいないですし」

侍「敵、か。あいつら、やっぱり軍の回し者か?」

エルフ「状況からしてそうとしか思えませんが、あのような者たちを見かけた覚えはありませんわね」

侍「それに、どうやって俺たちの居場所を突き止めたかも気になる。精霊に聞いたか?」

エルフ「……いえ。精霊は否定していますわ」

侍「教えてない、か。どうやら、精霊は本格的にお前の味方をしてくれるようだな」

エルフ「それはもちろん嬉しいのですけど」

侍「なおさら、居場所を突き止められた原因がわからない」

エルフ「ええ。そこがわからないと、今後もまた襲われる危険があります」

侍「特にこれからの時間帯は危険だな……」

エルフ「ですわね。交代で見張りをするしか、今のところ手はないですが」

侍「そうしよう」

パチパチパチパチ

侍「なあ」

エルフ「はい?」

侍「答えたくなかったら答えなくていい」

エルフ「?」

侍「その剣のことなんだが」

エルフ「ああ……」

侍「いや、何だか妙にこだわってるようだし。かといって思い入れがあるというわけでもなさそうだから、少し気になってな」

エルフ「まあ、そうでしょうね」

侍「聞いても平気か?」

エルフ「ええ。別に内緒にしているわけでもなし」

エルフ「わたくしもお母様から聞いた話なのですが。これは、元々父が使っていた剣なのだそうです」

侍「父君、か。ということは」

エルフ「人間ですわ」

侍「……余計なこと聞いたかな」

エルフ「いえ。そこまで大層なことではありませんわよ」

侍「ならいいが……」

エルフ「そんなことより、わたくし、あなたの国のことを聞いてみたいです」

侍「俺の国?」

エルフ「ええ。わたくしはこの国から出たことがありませんから。外の国がどういった所なのかよく知りませんの」

侍「一口に外国と言っても、特色は国毎に異なるんだけどな」

エルフ「細かいことはいいんです。それで、どんなところなんですの?」

侍「そうだな。まず、国を統治する機関を幕府という」

エルフ「尋問のときにそんな名称を聞いたような……」

侍「民の大多数は農民で、一部の武士階級の人間が政を行っているんだ」

エルフ「確かあなたも」

侍「ああ。ま、俺はそんなに偉い武士じゃないがな」

エルフ「ぶし、というのは騎士とは違いますの?」

侍「似て非なるものだ。その辺り説明しだすと長いから省くぞ」

侍「二百年ほど前に戦乱の時代が終わってからは、大きな戦は起こっていない」

エルフ「平和なんですわね」

侍「ああ。で、その頃から幕府はずっと鎖国政策を続けていたんだが、最近になって現幕府将軍が開国したんだ」

侍「噂じゃ、その将軍は昔から家に閉じ籠るのが嫌いらしくてな」

侍「政を執り行うようになって、それを国にも当てはめたらしい」

エルフ「剛毅というか大胆というか……」

侍「ま、為政者としては優秀らしいからな。外国の優れた文化は積極的に取り入れつつ、自国の産業を保護することも忘れない」

侍「経済とか、そういう話は苦手だから聞いた話なんだけどな」

エルフ「じゃあ、あなたが今こうしてここにいるのは」

侍「間違いなく、その方のおかげだな。開国していなければ、今も井の中の蛙だったわけだ」

侍「おかげで広い世界に出て、見聞を広げることが出来た。会ったことはないが、感謝しているよ」

エルフ「そう……」

侍「どうかしたか?」

エルフ「いえ。なんでも」

エルフ(わたくしも感謝しなければなりませんわね)

エルフ(この人と出逢うきっかけをくれたその方に……)

二日後

キィッ――

メイドエルフ「……怪しい気配無し。ご主人様、大丈夫です!」

エルフ母「そう。すぐ行くわ」ヒョコヒョコ

メイドエルフ「無理なさらずに。肩に捕まってください」

エルフ母「いつも済まないわねぇ」

メイドエルフ「それは言わない約束ですよ」

エルフ母「ふふ。でも、本当にありがとう」

メイドエルフ「わたしがお役に立てることなんて、身の回りのお世話とボディーガードくらいのものですから」

エルフ母「あなたが言うと、本当に簡単そうに思えてしまうわね」

メイドエルフ「事実簡単です。お嬢様のご苦労に比べたら」

エルフ母「……そうね」

メイドエルフ「あ、ごめんなさい! そんなつもりでは!」

エルフ母「わかってるから大丈夫よ」

メイドエルフ「……お嬢様、ご無事でしょうか」

エルフ母「きっと無事よ。あの子なら。侍さんだって側にいてくださっているでしょうし」

メイドエルフ「そ、そうですよね! わたしたちはただ、お二人を信じて待つだけですね!」

エルフ母「ええ」

エルフ母(娘を……娘をお願いします。侍さん)

書きためぶん終了しました。こうなったら終わるまで毎日投下に挑戦しますの。

さらに一日後

エルフ「見えましたわ」

侍「あれが目印の河か」

エルフ「ええ。河下は南ですので、河上を目指します」

侍「ちょうどいい。水が底を尽きかけていたし、調達しておこう。ほれ」

エルフ「ありがと。んしょっと」トン

侍「痛みはどうだ?」

エルフ「だいぶマシになりましたわ」

エルフ「あれから一度も襲撃はありませんわね」

侍「油断はするなよ。間を開けて警戒が弛んだところを、なんてことも考えられる」

エルフ「そうですわね」

侍「警戒しすぎて疲れても仕方ないけどな」

エルフ「それと、あの刺客がこちらを発見した方法もわかっていませんし」

侍「それは何とか確かめたいところだ。安全に身を隠すためにも」

エルフ「とはいえ、どうしたら」

侍「何か心当たりはないか? 騎士団に特殊な諜報部が存在するとか」

エルフ「……知っていたらとっくに話していますわ。わたくし、隊長になってからも主要な会議や軍議に呼ばれたことがありませんの」

エルフ「従って、他の隊長が知っているレベルの情報も持ち合わせていませんわ」

侍「……すまん」

侍(いかんな。聞く度に傷に塩塗ってしまう)

エルフ「ただ」

侍「ん?」

エルフ「一度、国王陛下主催のパーティに招かれたことはあります」

侍「国王主催……てことは」

エルフ「当然、招いて下さったのは陛下ですね」

侍「意外だな。言っちゃなんだが、正直人間卑下の総元締のような印象なんだが」

エルフ「そう思うのも無理ありませんけれど。でも、事実は逆ですわね」

エルフ「陛下はわたくしのお祖父様とは竹馬の友だったそうで」

侍「なるほど。母君とも親交があるのか」

エルフ「ええ。ですから、そのパーティでも主賓並にもてなされましたわ」

エルフ「そういうこともあって、陛下はわたくしのことを非常に気にかけて下さっていました」

エルフ「ただ、それ以後は陛下へのお目通りが叶わなくなってしまったのですが」

侍「妨害か?」

エルフ「……騎士団の上の者が、わたくしと陛下が懇意にすることを快く思っていたかったのは確かですわ」

エルフ「今の司令自ら嫌がらせをしてきたこともありましたし」

エルフ「ま、それでも騎士団から追い出すことだけはしませんでしたけど」

侍「単に国王から大目玉食らいたくなかっただけだろ」

エルフ「でしょうね」

侍(腐ってやがる)

エルフ「話が逸れましたわね。要は、騎士団に特殊な部隊があったとしても、わたくしは知らないということです」

侍「そうか」

――バサバサバサッ

侍「ん?」

エルフ「あら。わたくしの肩に」

鳥「……」キョロキョロ

侍「珍しい鳥だな」

エルフ「本当。何という鳥なのかしら」

鳥「……」ジー

侍(……ん?)

バサバサバサッ

エルフ「行っちゃった」

侍「……」

エルフ「さ、わたくしたちもそろそろ行きましょう。遅くなると、お母様たちを心配させてしまいますわ」

侍「ああ」

侍(……まさかな)

数時間後

侍「そういえば、北上してからの進路は?」

エルフ「半日ほど歩くと小さな町があるのですが、その手前に架っている橋を渡って向こう岸に行き、再び西へ向かいます」

エルフ「注意すべきは、橋を渡るためには一度森を出て街道に出る必要があるということですわね」

侍「人目につく危険があるってことか」

エルフ「ええ」

侍「ちなみに、橋を渡ってから隠れ家までは」

エルフ「そこまで行けば、あとはまっすぐ森を突っ切れば二日ほどで着きますわ」

侍「馬で走れば」

エルフ「一日あれば十分ですわね」

侍「なら街道の様子を見て、安全そうなら一気に駆け抜ける手もありだな」

エルフ「ええ」

スー

エルフ「あら?」

侍「ん? 紙か、流れてきたのは」パシャ

エルフ「お触書ですわね。町から流れてきたのかしら」

侍「なになに……」

エルフ「……」

侍「……」

エルフ「……なん、ですって……?」

侍「……」

エルフ「陛下が……暗殺された……!?」

一日前 王城

エルフ王「ぐぅお!?」ガシャンッ

司令「……」

エルフ「がっ……か……おのれ……貴様ぁ……げほっ!」

司令「……あなたが悪いのですよ」

司令「下らない情にほだされて、人間誅討の軍を起こそうとしないあなたが」

エルフ王「愚か……もの……が……――」コト

司令「……参謀」

参謀「ここに」

司令「先の隣国との戦で『殺された』のは、『国境守備隊の全隊員』とあの混血の部隊員が『全員』だな?」

参謀「はい。『確認済み』にございます」

司令「では全ての民に触書を出せ。国王陛下以下全ての死者は、隣国の回し者である混血と人間の手によるもの」

司令「よって我ら騎士団はその二名を特別手配すると共に」

司令「仇討ちのため、隣国討伐の戦に向け準備を開始する、と」

参謀「承知いたしました」

エルフ「そんな……誰が!」

侍「俺たちだそうだ」

エルフ「え!?」

侍「ここ見てみろ」

エルフ「……」ギリッ

侍「しかも、俺たちの正体は隣国のスパイらしいな」

エルフ「なんということ……!」

侍(それに、エルフの国側の死傷者数……隣国の将軍の話とはずいぶん違うな)

侍「不幸中の幸いか、母君とメイドエルフについては触れられていないが」

侍「とにかく、今は先を急ぐしかない。隠れ家を見つけられたら、二人まで危険な目に会う」

エルフ「そ、そうですわね。なら、あなたも馬に乗ってください。一気に駆け抜けて……」

――ニゲテ!

エルフ「!?」

ヒュン ヒュン ヒュン グサッグサッ

馬「――――!」ヒヒーン!

エルフ「きゃあっ!?」

侍「エルフ!」ダキッ

侍(矢が馬に……これは!)

エルフ兵「あそこだ! かかれー!」

エルフ「騎士団!? 何でここが!」

侍「考えるのは後だ。走れるか?」

エルフ「……問題な――きゃっ!」ガバッ

侍「一瞬間が空く時点で無理だろ! 捕まってろよ!」ダッ

――マエカラモクルヨ!

エルフ「――前からも来ますわ!」

侍「!」

ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス

侍「くっ!」

エルフ兵「突撃ー! 挟み撃ちだ!」

エルフ「なんて数……!」

侍(くそ。あの数相手に今の状態じゃ……!)

侍「お前、泳げるか」

エルフ「……それしかありませんわね」

侍「ああ。行くぞ!」

ドボンッ

エルフ兵「河へ逃げたぞ! 弓兵、急げ!」

侍「――ぷはっ! エルフは!」

エルフ「――」

侍(泳げてはいるが、速度がない……やはり足の怪我が響いてる)

侍「はっ」ジャブジャブジャブ

侍「掴まれ!」グッ

エルフ「! ちょっと! そんなことしたら、あなたまで遅くなりますわよ!」

侍「気にするな! 捕まったらその時はその時だ!」

エルフ「そういうことを言っているわけではありません! このままだと――」

エルフ兵「放てー!」

ヒュンヒュンヒュンヒュン

エルフ「まず――」グイッ

エルフ(!?)

ボチャボチャボチャボチャ――ドスッ

侍「ぐっ!?」

エルフ「侍さん!!」

侍「だ、大丈夫だ。急所じゃない。それより急ぐぞ」

エルフ「は、はい!」

エルフ(わたくしを、かばって……!)

ザバァッ ザバァッ

侍「はぁ、はぁ、はぁ」

エルフ「はぁ、はぁ……さ、掴まってください」

侍「平気だよ。足をやられたわけじゃない……ふ!」ブシッ

侍「つ……。行くぞ」

エルフ「は、はい……」

侍「敵は?」

エルフ「……まだ追ってきているようですわ」

侍「森に入ったはいいが、このままだと追い付かれるのは時間の問題か」

エルフ「ええ。今のうちに距離を稼ぎませんと」

侍「それはいいが、どうする? このままじゃ、隠れ家に直行というわけには――」ドクンッ

侍「っ?!」クラッ

エルフ「どうしましたの!?」

侍「……何でもない。早く行こう」

エルフ「え、ええ。ひとまず河下の方に」

――ソッチハダメ。

エルフ「え?」

――サキマワリサレテルヨ。

エルフ「まさか、敵も渡河を……。なら、このまま森の中に身を隠して」

侍「駄目だ。焼きうちにでもあったら詰む」

エルフ「エルフ族は自然の民です。そんなことはしませんわ」

侍「だとしても、時間が経てば経つほど不利になる」

エルフ「じゃ、じゃあどうすれば!」

エルフ兵「いたぞー!」

エルフ「! 見つかった!?」

侍「街道に出る」

エルフ「え?」

侍「こうなったら賭けだ。敵の指揮官を見つけて倒す」

エルフ「……それしかなさそうですわね」

街道

エルフ兵a「追い詰めたぞ、混血女と卑劣な人間め」

侍「……」

エルフ「……」

エルフ兵b「多くの同胞、そして我らが国王を手にかけたその罪、万死に値する!」――チョンチョン

侍(どいつだ?)

エルフ(今喋った方。精霊が教えてくれましたわ)

侍(わかった)

エルフ兵b「だが簡単には殺してやらんぞ。この場で捕えて後、市中引き回しの上でその首を――」

侍「ご託はどうでもいいんだよ!」ダッ

エルフ兵b「なっ! 貴様!」ガシッ

侍「抜かせん!」

ザンッ

エルフ兵b「ぐああああ!」ドサッ

エルフ兵a「隊長ー!」

エルフ兵c「お、おのれ貴様!」

侍「本当なら、正々堂々といきたかったがな。今はそうも言っていられない」

侍「で、どうする。指揮官は倒したわけだが、まだやるのか?」

エルフ兵a「ぐ……!」

エルフ(どうにかうまく行きそうですわね)

エルフ兵b「……く」ヨロッ

エルフ「なっ!?」

侍(なに?)

エルフ兵c「隊長! ご無事で!」

エルフ兵b「当たり前だ。人間如きにやられてたまるか……と、言いたいところだが」

エルフ兵b「その人間が万全であったなら、今ので死んでいたであろうな」

エルフ「ど、どういう」

侍「……く」ガクッ

エルフ「!? 侍さん!!」

侍「……そういう、ことか……!」

エルフ兵b「そういうことだ。さっき矢を受けたからな」

エルフ「矢を……まさか!?」

エルフ(毒矢!)

エルフ兵b「ふ。捕えろ!」

エルフ兵たち「はっ!」

エルフ「くっ!」

侍「ちっ……」

エルフ兵a「さあ、おとなしくしてろ!」ガシッ

エルフ「その人に触らないで!」ドンッ

エルフ兵a「ぐあ! おのれ、混血!」チャキ

エルフ「!」チャキ

エルフ兵c「後ろががら空きだ」ガシッ

エルフ「なっ!? は、離しなさい!」

エルフ兵b「少し黙らせろ」

エルフ兵a「はっ」

エルフ兵c「そら、よ!」ブンッ バキ

エルフ「きゃあっ!」ドサッ

エルフ「く……」ヨロッ

エルフ兵c「まだ立てるのか」

エルフ兵a「そんじゃ、今度は俺」

――シュッ

エルフ兵a「ぐげっ!」ドサッ

エルフ兵たち「――!」ザワッ

エルフ兵b「何だ!?」

エルフ(あの……ナイフは)

シュッ シュッ ドスドス

エルフ兵c「がっ!」

エルフ兵「ぐふ……」

ドサドサ

エルフ兵b「誰だ!」

女声「いちいち聞かなきゃそんなこともわからないんですか?」

エルフ(……数日会ってないだけなのに、懐かしい)

メイドエルフ「そんなの――あなたたちの敵に決まってるじゃないですか」チャキ

補足ですが、魔法が存在しない設定だったりします。
今日の分は終了です。

メイドエルフ「さて。皆さん、お覚悟はよろしゅうございますか」

エルフ兵b「なに?」

メイドエルフ「わたし、久方ぶりにキレました。大切なお嬢様と大切なお客様を傷つけたその罪」

メイドエルフ「――死んで償いやがりませ♪」ニヤッ

エルフ兵たち「ひっ!」ゾクッ

エルフ兵b「う、うろたえるな! たかが一人、ただのメイドだ! 数で押し込め!」

メイドエルフ「たかが一人」ジャキン

エルフ兵d「な……」

メイドエルフ「されど一人」ジャキン

エルフ兵e「ナ、ナイフがあんなに!?」

エルフ兵b「ひ、怯むな! かかれ、かかれー!」

エルフ兵たち「お、おお!」ダッ

メイドエルフ「それでは……皆様!」シュババババババッ

ドスドスドスドスドスドスドス

エルフ兵d「がっ!」

エルフ兵e「ぐあ!」

エルフ兵たち「ぎゃーーーー!」

メイドエルフ「どうぞ、逝ってらっしゃいませ」ペコリ

ドサドサドサドサ――

エルフ兵b「……」パクパク

エルフ兵f「に、二十人以上を」

エルフ兵g「狙い違わず」

エルフ兵h「各ナイフ一本で倒しやがった……!」

メイドエルフ「さあ」

エルフ兵たち「」ビクンッ

メイドエルフ「次に楽土へおでかけなさりたい方はどうぞ前へ」ジャキ ジャキ

メイドエルフ「メイドとして、きちんとお見送りさせていただきますので」ニコッ

エルフ兵b「ぐぅ……ええい、あいつを取り押さえろ!」

メイドエルフ「うふふ♪」ニヤッ

――ギャー! ウワー! イヤダー!

エルフ「……」ポカーン

エルフ「……何で侍さんにあの子があたしと同等程度の強さ、みたいな説明しちゃったんだろ」

男「おや? なんだか口調変わってない?」

エルフ「うひゃっ!?」ビクッ

――ウギャー! グワー! ヒィー!

エルフ「ま、またあなたですの!? いつの間に後ろに、ていうかいつからここに!?」

男「メイドちゃんと一緒に来たんだけど。気付かなかったかな?」

エルフ「いつの間にあの子と知り合っているんですか。あと存在感無さすぎですわ」

――モウイヤダー! コラ、ニゲルナー!

???「ところで、彼はどうしたんですか? 何だか苦しげですが」

エルフ「っと、そうですわ! 侍さん!」

侍「はぁ……はぁ……」

エルフ「すごい熱……! 毒のせいですの?」

男「ふむ。肩に矢傷があるね。毒矢かい?」

エルフ「え、ええ。わたくしをかばって」

男「ちょっと見せてくれるかな」

侍「……っ」

???「おわかりになるんですか?」

男「専門じゃないけど……確かにひどい熱だ」

――タイチョウモウムリデス! クソ、テッタイダ! テッタイセヨ!

男「どれ」チョン

侍「」 ドサッ

エルフ「ちょっ! なにしてるんですの!」ダキアゲ

男「意識はもうほとんどない、か」

メイドエルフ「いやーたくさん殺りましたー。すっきりです♪」

???「いい笑顔で恐ろしいことを発言しながら隣に立たないでください狂気を感じるので」

メイドエルフ「お侍様は大丈夫なんですか?」

???「スルーされた」

男「うーん……。とにかく、一度安全な場所に運ぼう。服も濡れたままだとまずい」

エルフ「わ、わかりましたわ」

夜 隠れ家

エルフ母「毒を!?」

男「うん。あの子をかばってくれた結果ね」

エルフ母「そんな……解毒は」

男「さっき、国に薬草を取りに行かせた。エルフ軍の警戒網の穴は教えたから、明日中には戻ってこれる」

男「それまで持ち堪えてくれるか否かは……彼次第だよ」

エルフ母「そう……」

エルフ「……」

侍「はぁ……はぁ……はぁ……」

メイドエルフ「――失礼いたします。新しいお水とタオルをお持ちしました」

エルフ「ありがとう……」

メイドエルフ「湯あみの用意も整っています。お侍様はわたしが看病しますから、お嬢様は」

エルフ「いい」

メイドエルフ「ですが、お嬢様も河を泳がれたのですから」

エルフ「いい。わたくしのせいで彼は苦しんでいるのに、自分だけぬくぬくと湯あみなど」

ガチャ

エルフ母「だからこそ、あなたが休まなければ駄目よ」

エルフ「お母様……」

エルフ母「あなたが傷つかないようにと、彼が守って下さったのでしょう?」

エルフ母「だったら、まずはあなたが元気になって、彼の勇気に応えてみせなくちゃ」

メイドエルフ「そうですよ。ここはわたしに任せて、お嬢様は」

エルフ母「あなたもです」

メイドエルフ「え?」

エルフ母「あなたも、昼間戦って疲れているでしょ? 侍さんは私が看ているから、二人ともゆっくりしていらっしゃい」

メイドエルフ「いえ、わたしはあれくらい」

エルフ「わかりました。わたくしが出るまではお願いします」スクッ

エルフ母「ええ」

エルフ「行きましょう」

メイドエルフ「あ、は、はい!」

チャポン――

エルフ「……」ハァ

メイドエルフ「お嬢様、髪を束ねなくてよろしいので?」

エルフ「うん。面倒だから」

メイドエルフ「そうですか」

エルフ「二人っきりなんだから、敬語じゃなくてもよろしいですわ」

メイドエルフ「なら、あなたもお嬢様口調やめたら?」

エルフ「……そうね」

エルフ「あなた、強さを隠してたわね?」

メイドエルフ「別に隠してたわけじゃないわ。それに、さすがにあなたより強いなんてこともないし」

エルフ「うそ。あたし一人だけじゃ、あれだけの数を相手には出来ないわ」

メイドエルフ「強さの質が違うのよ。わたしは集団相手に強くて、あなたは一対一に強いの」

メイドエルフ「実際、わたしがあなたと手合わせして勝ったことないじゃない」

エルフ「まあ、そうだけど……」

エルフ「……」

メイドエルフ「……大丈夫よ、彼なら」

エルフ「え?」

メイドエルフ「というか、大丈夫じゃなきゃ嘘よ。やっと巡り逢えた人じゃない」

エルフ「め、巡り逢えたって、彼は別に……!」カァッ

メイドエルフ「あなたの味方になってくれる人って意味で言ったんだけど?」

エルフ「……」

メイドエルフ「……恋しちゃった?」

エルフ「……」カァッ

メイドエルフ「そっか。なら、なおさらあなたが元気にならなきゃ」

メイドエルフ「彼が元気になったとき、あなたが沈んだ表情だったら申し訳ないでしょ?」

エルフ「……うん」

エルフ「そういえば、あの男とはどういう経緯で?」

メイドエルフ「出会ったのはたまたまね。一度外に見回りに出たら騎士団の小隊を見かけて」

メイドエルフ「周辺をうろつかれても厄介だから始末しようとしたんだけど、そこに彼らが通りかかったの」

エルフ「ら? ……ああ、そういえばもう一人いたような」

メイドエルフ「見た通り人間だったから、問答無用で騎士に襲われててね」

メイドエルフ「だから助けたの。もしかしたら侍さんとも何か関係あるかもしれないと思って」

エルフ「で、そしたらあたしとも関係があったと」

メイドエルフ「そういうこと。彼から二人が怪我してるって聞いて、心配になってあそこまで出向いたのよ」

エルフ「そうだったの。ありがと。おかげで助かったわ」

メイドエルフ「どういたしまして」

エルフ「ところで、そのもう一人の彼はどこに行ったの? 見かけないみたいだけど」

メイドエルフ「ここに来る前、男さんが何か呟いた後、文句言いながらどっか行ったわ」

エルフ「……相変わらず謎だらけな人ね」

メイドエルフ「そーねー。ご主人様とも顔見知りみたいだったし」

エルフ「……え?」

メイドエルフ「二人とも、顔合わせた瞬間すごくびっくりしてたのよ。あなたは侍さんに気がいってたから気づいてなかったけど」

エルフ(お母様とあの男が、知り合い……?)

王城

司令「精霊が連中の味方をしている?」

参謀「はい。報告を聞く限りでは」

司令「具体的には」

参謀「こちらの兵がいくら問いかけても精霊が答えてくれないとのこと」

参謀「そもそも、姿すらも見せてはくれないそうです」

司令「確か、精霊は己の姿を見せる相手を任意で選べるのだったな」

参謀「はい。そして、例の彼女には見えている節があったとのこと」

司令「……解せん。何故自然そのものの命と言っても過言ではない精霊が、我らではなく混血などの味方をするのだ」

参謀「彼らの考えまではさすがに」

司令「まあいい。連中の捜索はひとまず後回しにさせろ」

参謀「では?」

司令「うむ。明日、隣国へ向けて出陣する」

司令「人間などこの大地には不要だと、民に証明してやるのだ」

参謀「かしこまりました。すぐ手配いたします」

司令「頼むぞ」

参謀「では」

ガチャッ バタン――

参謀「……」

参謀「……過ぎた選民思想は、己の破滅を招くだけなのですがね」

翌日

侍「はぁ、はぁ……ぐぅっ……」

エルフ(昨夜よりも呼吸が苦しそう……このままじゃ……)

ガチャ

男「どうだい。彼の様子は」

エルフ「……いけませんわね。徐々に悪化しているようです」

男「ふむ。今配下に薬草を取りに行かせてるんだが」

エルフ「配下に、薬草?」

男「あれ。僕の他にもう一人いたの覚えてない?」

エルフ「地味な方がいらしたのは覚えていますが」

男「結構言うね君。さておき、その地味な彼がそうさ。早ければもうそろそろ戻ってくるはずなんだが」

エルフ「その薬草があれば、侍さんは助かりますの?」

男「断言は出来ない。毒が回って結構な時間が経過してしまっている」

男「まだ無事だということは、即効性の割にたいした効き目のない種類か、侍くんの体力がタフなのかのどちらか、あるいは両方だけど」

男「……さすがに、そろそろキツイだろうね」

エルフ「っ……!」

男「まあ、専門的な知識はないが、変わりに経験則から彼の症状には覚えがある。薬草の種類は間違っていないはずさ」

エルフ「そう……」

男(経験則、にツッコミが入らないか。相当追い詰められてるなぁ)

メイドエルフ「――お嬢様!」ドタドタドタ

侍「ぐっ……!」

エルフ「静かにして! 侍さんのお体に響くでしょ!」

メイドエルフ「あ、す、済みません――って、そう! それです! 戻ってきました!」

エルフ「え!?」

???「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇぜぇ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

男「お、ご苦労さん。思ったよりも速かったね」

???「ぜ、全速りょく、で、とば、飛ばし、まし、たから」ゼェ ハァ ゼェ ハァ

エルフ「薬草は、薬草はどこに!」

???「」プルプルプル

男「うん、これだ。すぐに刷り潰して煎じよ――」

侍「――がっ!」ビクンッ

全員「!?」

侍「ぅ……ぐ、ぁ……はっ……!」

エルフ「侍さん! 侍さんしっかりなさって!」

男「いかん。メイドちゃん、早く準備を」

メイドエルフ「はい!」

十分後

エルフ「侍さん! 侍さん!!」

メイドエルフ「お薬の用意が出来ました!」

エルフ「早く!」

メイドエルフ「はい!」

ツー

侍「――ごふっ!」

メイドエルフ「きゃっ!?」

エルフ母「吐き出して!?」

男「まずいな。自力で飲む体力も残ってないんだ」

メイドエルフ「そんな! ならどうやって――」

エルフ「貸して!」バッ

メイドエルフ「お、お嬢様、何を」

エルフ「自分で飲み込めないのなら!」グビッ

エルフ「――ん」

メイドエルフ「ひゃ!?」


侍「――」ピクンッ

エルフ「……」チル チュル

???「く、口移しで……」

男「ま、それが一番手っ取り早いね」

男(問題は、間に合うかどうかか)

エルフ「――はぁっ……」

侍「はぁ……ぐっ、かは……はぁ、はぁ」

エルフ「侍さん……!」

男「薬は飲ませた。後は、信じて待つしかないよ」

エルフ「……!」ギュッ

今日の分終了です。

連絡ですが、明日(ていうか今日)急用入ったせいでたぶん書けません。
続きは明後日に投下します。
毎日投下出来んかったorz

風邪ひいてしんどいので今日は短いですごめんなさいorz


――バタン

エルフ母「様子はどう?」

メイドエルフ「まだ良くありません……」

エルフ母「そう……」

男「あの薬草も即効性のあるものだが、その分強力だ。苦しんでいるのはそのせいでもあるんだろう」

男「ともかく、今は彼を信じて、君達は休むことだよ」

男「彼が快復したら、次はあの子がダウンするよ。一睡もせずに付きっきりで看病しているんだから、疲労も溜っているだろう」

メイドエルフ「それもそうですね」

???「あの」

男「何だい?」

???「ちょっと……」

男「ふむ。済まない、少し外すよ」

エルフ母「どうぞ」

スタスタスタ バタン――

メイドエルフ「結局、ご主人様とあの人のご関係って……」

エルフ母「後で話すわ」

男「で、報告の内容は?」

???「もうわかっているんでしょう? エルフの軍勢が、我が国の砦に侵攻を開始したんです。ですから」

男「あー。そういえばお触書にもそんなこと書いてたねー」

???「そんな呑気に言うことですか! すぐ国に戻って下さい!」

男「だーいじょぶ。僕がいなくても、将軍がいれば楽勝だよ」

???「ま、まあ将軍は確かに戦上手ですが」

男「でしょ?」

???「しかし、だからといってあなたが戻らなくていいという話にはなりません!」

男「君、将来ハゲそうだね」

???「ハゲ……誰のせいですか誰の!」

男「とにかく、僕はもう少しここにいる。せめて、侍くんの無事を確認するまではね。君だって気になるだろ?」

???「……それは、まあ」

男「はい、決まり」

???「うう……いつもこうやって振り回されるんだ……」

男「僕の代で騎士団に入った自分の不運を呪うんだね」

???「自分で不運とか言わないでくださいよ」

男「はっはっはっ。じゃ、戻ろうか」

数時間後

侍「……」スー スー

エルフ「……はぁ」

メイドエルフ「失礼いたしま――あ、寝息が」

エルフ「ええ。ついさっき呼吸も安定しましたわ」

メイドエルフ「ということは、峠は越えたんですね! よかったです!」

エルフ「本当に」フキフキ

メイドエルフ「さすがに凄い汗ですね。新しいタオルお持ちします」

エルフ「ええ、お願い」

侍「……」スー スー

エルフ「本当に……よかっ……た……」




メイドエルフ「お嬢様、タオルをお持ちしま……あら」

侍「……」スー スー

エルフ「……」スー スー

メイドエルフ「ふふ。毛布も持ってこなくちゃ。それにしても」

エルフ「うーん……」ギュッ

メイドエルフ「しっかり手を握っちゃって。本当にベタ惚れなのね」

すみません今日これだけです……。早めに治してまたいつもの量投下できるようにしたいので今日は休みます。

ちょっと復活したからまた短め投下。


翌朝

エルフ「……ん」ピク

エルフ「うーん……」ムクリ

エルフ「やだ、寝ちゃって――あら?」キョロキョロ

エルフ「侍さんがいない……!?」

ガチャッ

メイドエルフ「あ、おはようございますお嬢さ――」

エルフ「侍さんはどこですの!」

メイドエルフ「ああ、お侍様でしたら外の空気を吸いたいと言って――」

エルフ「外ですわね!?」ダッ

メイドエルフ「あ」

バタン――

メイドエルフ「……やっぱゾッコンだわ」



ガチャッ

エルフ「侍さん!」

侍「……」

エルフ「あ……」

エルフ(岩の上で、黙想……)

侍「――ふぅ」

エルフ「っ」

侍「どうした。そんなに慌てて」スタッ

エルフ「……」ポロ

侍「は? え、ちょっ」

エルフ「……う」ポロ ポロ

侍「いやいやいや待て待て」

エルフ「――うえぇぇぇぇん!」ガクッ

侍「子供か! いやそうじゃなくてどうした? 何で泣く?」

エルフ「だ、だって、うぅっく、侍さんが」

侍「俺!? な、何かしたか?」

エルフ「あたし、あたしのせいで、ひっく、でもやっと無事で、うぅ、うわあああああん!」

侍「あー……悪かったよ。心配かけた」ナデナデ

エルフ「違うの! 悪いのあたし、なのに……うえぇぇぇ!」ダキッ

侍「よしよし」ナデナデ

侍(あたし?)

数分後

エルフ「ぐす……」

侍「落ち着いたか?」

エルフ「……うん。大丈夫」

侍「悪かったな。まさかそんなに心配かけてたとは思わなかった」

エルフ「あ、あなたは悪くないわよ。あたしが油断してたから」

侍「……さっきも思ったんだが、口調がいつもと違うぞ」

エルフ「へ? あっ!」ハッ

侍「ひょっとして、そっちが素なのか?」

エルフ「……うん」

侍「何でまた口調を変えて」

エルフ「その……笑わない?」

侍「? あ、ああ」

エルフ「子供の頃に読んだ読み物語に出てきた誇り高い姫君の影響、というか、あやかってというか……」カァッ

エルフ「その……物語の中で強い女性として描かれていたから……」

侍「自分もそうなりたかった、か」

エルフ「……」コクン

侍(そんな小さな願掛けでも、試さずにはいられなかったか。それとも、別に何かきっかけが?)

エルフ「その、理由はメイドエルフしか知らないことだから」

侍「わかってる。他言はしないさ」

エルフ「……ありがと」

ガチャッ

???「あ、二人ともこんなところ……に……」

侍「ん?」

エルフ「あら、あなたは」


???「あ、えーと、その……お邪魔してすみませんごゆっくり」バタン――

侍「なんだ?」

エルフ「あ」

エルフ(さ、さっきからずっと抱きついたまま!?)カァッ

侍「なあ」

エルフ「ひゃい!?」バッ

侍「あいつ、誰?」

エルフ「え? あ、ええ。彼は……」

エルフ「……気にしてなかったけど、そういえば誰なのかしら?」

騎士「騎士ですよ! 前に一回会ったことあるじゃないですか!」

エルフ「……?」

侍「……?」

騎士「ほら! 国境での戦のときに!」

エルフ「……ああ」

侍「そう言われればいた……ような気がしないこともないような気がしないでもない」

騎士「それつまり覚えてないってことだよねちくしょー!」

男「あっはっはっはっはっ!」

騎士「あんたが笑うな!」

メイドエルフ「あの、一つよろしいですか?」

男「何かな?」

メイドエルフ「今ふと気になったんですけど。その騎士?様は男様の配下の方と仰られていましたよね」

騎士「あれ、何で私の名前が疑問系になってるんだろう」

メイドエルフ「で、彼は地味ですが隣国の騎士団所属だと。地味ですが」

騎士「地味って二回言った」

メイドエルフ「騎士団所属の方を配下だというあなたは、一体何者ですか?」

エルフ「あ……」

侍「そう言われれば……」

エルフ母「……」

男「ふむ。まあ、そろそろいい頃かな」

エルフ「いい頃?」

男「騎士くん。帰国の準備をしよう」

騎士「あ、はい! よかった、やっと帰れる……」

エルフ「ち、ちょっと! まだ何も答えてないじゃありませんの!」

男「知りたいんなら、君たちも着いてくるといい。口で説明しても、信じてもらえるかわからないし」

侍「着いてこいって、隣国までか?」

メイドエルフ「でも、確か今は……」

男「うん。今は僕たちの国とエルフの国が国境で睨み合っているね」

男「けど大丈夫。ここからほど近くに、エルフ軍の警戒網の穴となっているルートがあるんだ」

エルフ「そこを通れば、安全に隣国まで行けると?」

男「そういうこと。どうする? このまま隠れ続けるのも限界があるでしょ」

エルフ「それは……」

男「強制はしないけどね。ただこのまま残っても、事態は好転しないことは確かだ」

エルフ「……」

男「そして、君もどうするんだい?」

侍「何がだ」

男「おや、淡白な態度。もう腹は決まってる?」

侍「決まってるけど決まってないな」

メイドエルフ「どういうことです?」

侍「こいつが行くのなら俺も行く。その逆もまた然りだ」

エルフ「え……」

侍「ここまで来たら一蓮托生。俺の命は貸してやるから、好きに使え」

エルフ母「侍さん……」

メイドエルフ「お侍様……」

男「ははは。自分の命運をそうもあっさり預けるなんてね。姫君に仕えるナイトのようだ」

侍「ナイトじゃなくてもののふだ。そこ間違えるな」

男「姫君に仕えるってところは否定しないのかい?」

侍「本当の主君は故郷にいるが、まあ、こんなときだからいいだろ」

エルフ(姫と、騎士……じゃなくて、武士?)

エルフ(あたしと、侍さんが……)ドキッ

メイドエルフ「お嬢様、お顔が赤いですよ」

エルフ「そ、そんなことありませんわよ!」

侍「?」

男「で、どうする?」

エルフ「……」

亀の歩みで申し訳ない。今日はこれでまた休みます。

二日後

エルフ「まさかとは思うのですが」

男「うん?」

エルフ「騎士団の警戒網の穴って、このルートのことですの?」

男「ああそうさ。意外だろ」

侍「意外というか、そういえばというか」

エルフ「まさか、あの動物たちの洞窟が隣国にまで繋がっていたなんて……」

男「僕たちあそこであったんだよ? 少し考えたら、僕の国とエルフの国とが繋がっていることは簡単にわかったはずさ」

侍「確かに」

エルフ「不覚ですわ」

侍「しかし、お前はよく隠れ家からここまでの道を一晩で往復できたな」

騎士「誰かのせいで、足腰を妙に鍛えられたおかげですかね」

男「はっはっはっ」

騎士「だからあなたが笑わないでください」

メイドエルフ「それはさておき」

騎士「さておかれた」

メイドエルフ「何故、男様がご主人様をおぶっておられるのです? それは本来わたしの役目なのですが」

エルフ「娘であるわたくしの役目でもあるのですが」

男「何を言う。レディをエスコートするのが紳士のたしなみだよ?」

メイドエルフ「うーん……ですが」

エルフ母「いいのよ。あなたたちはいざというときに両手が塞がっていたら困るでしょう?」

エルフ「それは、まあそうですけれど」

男「その点、僕は足さえ動けばいいんだからね。少数精鋭は適材適所が鉄則だよ」

侍「道理と言えば道理だな」

エルフ「あなたがそう言うのでしたら……」

メイドエルフ(すっかり従順になっちゃって。一理あるのは確かだけど)

男「じゃ、決まり。というわけで、あの洞窟までもう少しだから、厄介払いは任せたよ若人たち」

侍「やれやれ」キンッ

エルフ「え?」

メイドエルフ「お嬢様、囲まれています」ボソッ

エルフ「!」チャキッ

侍「……ざっと三十五人か」

メイドエルフ「でしたら、そちらが正しいと見るべきですね。わたしは三十人までしか読めませんでした」

エルフ「……何ですの、この敗北感」

騎士「ご安心を。読めなかったのは私も一緒です」

エルフ「嬉しくありません」

騎士「あれ、もしかして最後までこんな扱い?」

メイドエルフ「隠れていても無駄です。いるのはわかっていますよ」ジャキジャキッ

刺客たち「……」ザザザザザッ

エルフ「……三人足りない?」

侍「――エルフ!」バッ

エルフ「きゃっ!」ドサッ

ヒュン――

騎士「矢が!」

男「エルフ族の狙撃兵か。こいつは厄介な奴が出てきたもんだ」

侍「噂に聞いた。エルフ族は、本来剣より弓の腕に秀でると」

メイドエルフ「わたしやお嬢様のような例外も多いですけれどね」

エルフ「どこから射てきましたの?」

侍「今のは後ろからだったが、もう移動しただろうな。そいつ以外にもあと二人潜んでる」

騎士「そいつらは私に任せてください! 隠れている相手を見つけるのは得意なんです!」

男「へー、そーなんだー」

騎士「何で棒読みなんですかあなたは! まったく……」ダッ ガサガサガサ

侍「で、姿を現したるは三十二人」

刺客たち「……」

エルフ「前の二人と比べてずいぶんと無口ね」

メイドエルフ「顔を隠していないのは、確実に仕留める自信があるか、正式な命令で動いている――か!」シュッ

ヒュン――カンッ!

エルフ(木々の陰から飛んできた矢をナイフで……)

メイドエルフ「さもなくば、余裕と迂濶の区別も出来ないただの雑魚か、ですね」

刺客たち「……!」

侍(殺気立った)

メイドエルフ(こんな挑発にあっさり乗る程度)

エルフ(ということは)

エルフ「メイドエルフ、何人いける?」

メイドエルフ「ご所望とあらば、全員きれいにお方付けしておきますが」ジャキンッ

侍「なら半分頼む。俺はまださすがに本調子とはいかん」

メイドエルフ「かしこまりました。半分片付けておきます」

エルフ「残り十六人。十人はわたくしが引き受けますわ」

侍「平気か? お前だって足の傷はまだ」

エルフ「さすがにあなたよりは動けましてよ」

侍「そうか。なら任せる」

刺客「……相談は終わりか? ならばそろ――」

メイドエルフ「逝ってらっしゃいませ♪」シュバババババッ

刺客「いやちょっ早っ!?」ザスザスザスザスザスザスッ

ギャー! グワー! アベシ!

刺客「二秒……わずか二秒で十六人の精鋭が全滅だと!?」

エルフ「そんなどこかで聞いたような事言ってると!」ダッ

刺客「ぬおっ!?」

エルフ「はぁっ!」ズバ ザシュッ

ウオワー! ギエー!

刺客「ぬう。落ち着け、焦らずに取り囲んで――」

侍「予想済みなんだよ」

刺客「え?」

ザン ブシュ ザシュ ドサドサドサ

刺客「ば、ばかな! いつの間に仲間たちを!」

侍「戦ですらない小競り合いで、指示を逐一大声で出すリーダーがいるか阿呆」

エルフ「しかも弱すぎです。白眼視は結構ですけど、見くびられるのは心外ですわね」

メイドエルフ「わたしやお侍様はともかく、お嬢様の実力は有名なはずなんですけどねー(評価は不当だけど)」

刺客「え、ええい! 安心するのはまだ早い! こちらにはまだ弓兵が――」ガサッ

騎士「あ、もう倒してきました」

刺客「なんだと!? ていうか誰だ貴様!」

騎士「敵の雑魚からまでそんな扱いですか」

メイドエルフ「あら、意外と良い仕事をなさるのですね」

男「あれでうちの将軍の腹心だからね。実力はそれなりにあるんだよ」

刺客「く、くそ……」

侍「で、お前はどうする。まだ戦うというのなら相手になるが」

男「いや、いくつか聞きたいこともある。ここは生け捕りにしよう」

メイドエルフ「かしこまりました」

刺客「そうはいくか!」ダッ

メイドエルフ「無駄なあがきは見苦しいだけですよー」シュッ ドス

刺客「ぐあ!」ドサ

メイドエルフ「足に当てました。これでもう逃げられませんよ」

男「さすがメイドちゃん。いい腕してるねー」

エルフ母「……」

エルフ「お母様……」

エルフ母「大丈夫よ。心配しないで」

侍(母君は片足が悪いようだが、その原因を想起させる事だったのか?)

男「さて、メイドちゃん。尋問は僕がするから、君は一応手当てしてあげて」

メイドエルフ「よろしいのですか?」

刺客「く……絶対に何も喋らんぞ!」

男「あ、今みたいに反抗的になったらまた刺しちゃっていいから。同じ箇所をね」

刺客「っ!?」ゾワッ

メイドエルフ「は、はい……」

エルフ(え、エグイことを平然と……)

侍(はったり、にしては言葉が不自然に軽い……本気だ)

男「さって。何から聞くとしようか」

毎度短くて申し訳ありませんが、今回はここまでにします。明日も仕事だー\(^^)/

男「さしあたって聞きたいことは二つ。一つはどうやってこちらの居場所を突き止めたか」

男「もう一つは、誰が今のエルフの国を牛耳っているか。ま、こっちは確認の意味合いが強いけどね」

刺客「い、言ったはずだ。何も話したりはしないと」

男「おや、声が震えているよ? さっき言ったことがよっぽど恐いのかな」

刺客「だ、誰が貴様ら人間如きに……!」

男「そうかいそうかい。なかなかいい度胸をしているね。メイドちゃん、ナイフ貸して」

メイドエルフ「え?」

男「さっきはああ言ったけど、やっぱりこういうことを女の子にやらせるのは気が引けてね」

メイドエルフ「あ、あの、本気で……?」

男「もちろんさ。あ、もしかして自分のナイフが使われるのは嫌かな?」

メイドエルフ「嫌と言いますか……」

男「なら仕方ない。護身用だけど、自分のを使うかな」スラリ

侍「……おい、今抜いた時刃が紫色に光ってたぞ」

男「あ、やっぱり君は気がついたね。うん、毒を塗ってあるから」

エルフ「ど……!?」

侍「護身用どころか、相手殺る気満々じゃないか」

男「なーに。毒とはいえ、命を奪うほどのものじゃない。精々一ヶ月程度、眠ることすら出来ない高熱と頭痛、嘔吐感と下痢にさいなまれ続けるくらいさ」

エルフ「どんな毒ですの!?」

メイドエルフ「いっそ一思いに殺っちゃった方がまだ気楽ですね……」

刺客「ふ、ふん! そんなデタラメな毒があるか!」

男「じゃあ試してみようか」ドスッ

刺客「え――があああっ!!」ブシュッ

エルフ母「っ!」

エルフ「く……」

メイドエルフ「ほ、本当に刺した……」

侍(さすがにメイドエルフがやった傷は避けたか)

刺客「ぐっ……くそ! 何度刺されようと俺は何も――(グラリ)」

刺客「!?」

男「ほーら、もう効いてきた」

刺客「ぐっ……か……う、げぇっ……!」

男「嘔吐感が先にきたか。よかったねー、麗しき乙女たちの前でいきなり汚物を垂れ流さずに済んで」

刺客「きさ――うげっ……ぐおぇぇぇっ!!」

エルフ「!」

侍(紫……)

メイドエルフ「う……」

侍「お前たちは母君と離れてろ」

エルフ「……そうさせてもらうわ」

メイドエルフ「さすがにキツイです……」

刺客「ぐか……げぇ……」

男「さて、どうする? 正直に話すと約束すれば、すぐにでも解毒と手当てをしてあげるけど」

男「ちなみにこの毒、すぐに解毒薬を飲めば一時間くらいで症状は全快するけど、遅くなると飲んでも一週間は症状が持続するよ」

男「あ、その前に刺した傷が化膿してえらいことになるかもしれないねぇ」

刺客「ぐ……あぇ……」

侍(顔色一つ変えずにえげつないことを平然と。これが……いや、これもこいつの偽らざる顔か)

侍(しかし、これはもう尋問じゃなく拷問だな)

男「さ、どうする? 答えられなきゃ、首を縦に振るだけでもいいよ」

刺客「……ぐがっ」コクコク

侍(選択肢を一つしか提示していなかった。それ以外は許さないということか)

男「わかってくれたようだね。じゃ、これを飲むといい。すさまじくまずいけど、効き目は保障しよう」

刺客「っ」ガバッ グビッ

刺客「ぅごふっ!」

男「まっずいよねそれ。でも苦しみたくなかったら全部飲まなきゃ」

刺客「く……!」グビグビグビ

刺客「うげぇ……!」

男「今度はあまりの不味さに吐き気がするだろうけど我慢だね。戻したら意味ないから」

侍(どちらにしろエグい奴だな)

数時間後

刺客「はぁ……はぁ……」

男「うん。だいぶ落ち着いたようだ。刺した傷も手当てしてあげたし、もうそろそろ話せるかな?」

刺客「あ、ああ」

エルフ(すっかり素直に……)

メイドエルフ(この方の認識、改める必要がありそうだわ)

侍(必要とあらば、どこまでも非情に徹することもできる人間か)

エルフ母(相変わらず厳しい人。他人にも、何より自分にも)

男「さて、まずは最初の質問だ。君たちはどうやってこちらの動向を掴んでいたのかな?」

刺客「……鳥報だ」

エルフ「鳥報?」

刺客「貴様は教えられていなかったな。文字通り、調教した小型の鳥に対象の人相を記憶させ、空から偵察させるのだ」

メイドエルフ「そんなことが?」

侍(やはり、あの時エルフの肩に止まったあの鳥か)

男「鳥も種類によっては、その知能はバカにできないしね。嘘を言っている風でもないし、信用してあげよう」

侍「で、次がある意味本題か」

男「そうだね。今君たちエルフの国を事実上導いているのは誰かな?」

刺客「陛下が貴様らにより崩御なされて後、騎士団司令が総指揮を執られている。もう話すことはないぞ」

男「エルフ王を殺す動機はあの子らには無いんだけどなぁ。まあともかく、やっぱりあの司令が率いているんだね」

エルフ「あの?」

メイドエルフ「まるで知り合いであるかのような口ぶりですね」

男「ん? 何のことかな?」

侍「……」

男「今になって仕掛けてきたということは、あの隠れ家はその鳥にも見つかっていなかったか」

エルフ母「森林でも特に緑が濃い場所を選んだから」

侍「上からでは探しにくかったわけか」

男「よし。知りたかったことは聞けたからいいか」

エルフ「解放するんですの?」

男「どうせすぐにこの国を発つんだ。わざわざトドメを刺す必要もないよね」

エルフ「なら、一つだけ」スッ

刺客「ふん。混血の小娘が何の用――」

――パンッ!

刺客「――っ!」

メイドエルフ「お、お嬢様?」

男「おー、いいビンタだ」

エルフ「……本当ならたくさん、たくさん言いたいことがございますけど」

エルフ「今のは、二度もわたくしの大切な人を傷つけてくれたお礼です。今はそれで勘弁して差し上げます」

メイドエルフ(ご主人様とお侍様のことね……)

刺客「ふん。汚れた混血の一撃など、痛くも痒くもないわ」

メイドエルフ「あなた、このごに及んで――」

侍「そうか。なら」シャンッ――

刺客「……っえ?」ツー

侍「次は首が飛ぶと思え」チャキッ

刺客「ひっ!?」

メイドエルフ(太刀筋どころか抜く瞬間すら見えなかった!?)

男(ほー。あれが居合というやつか)

侍「貴様らの思想そのものにどうこう言うつもりはない」

侍「だが、不必要に他者を貶めんとする発言は、はっきり言って不愉快だ」

侍「特にあいつに関してはな」

エルフ(侍……さん)

侍「……行こう。もうこいつに構う必要は無い」

男「だね。じゃ、あの洞窟を目指そうか」

洞窟

エルフ「また戻ってきましたわね」

侍「そんなに経っていないはずだが、懐かしい気分だ」

エルフ「本当。それに」

熊「……」

兎「……」

リス「……」

メイドエルフ「な、なんかありそうでない組み合わせの動物たちが共生してますね」

エルフ「そうね。みんな元気だった?」

熊「ヴォウ」

騎士「返事した!」

侍「ていうかいたのかお前」

騎士「定期的に発言する必要がありました」

エルフ「あ」

エルフ母「まぁ。精霊が」

メイドエルフ「お嬢様に挨拶されてますね」

エルフ「ふふ。みんなありがとう」

侍「……」

男「ん? 初めて見る純粋な笑顔に見惚れた?」

侍「別に初めてじゃない。精霊にはいつもあんな感じだった」

男(見惚れたってところは否定しないんだ)

エルフ「ここからどう行きますの?」

男「泉があったのは覚えてるかな? あそこを東回りにぐるっと回ると、奥に続く道があるんだ」

侍「そこから隣国に繋がっているわけか」

男「そういうこと」

エルフ「せっかく再会できたばかりだけど、ごめんね。わたくしたち、もう行かなければなりませんの」

熊・兎・リス「」フリフリ

騎士「手と耳と尻尾で!?」

メイドエルフ「か、かわいい……」

エルフ(お持ち帰りできないかしら)

侍「もの欲しそうな顔してないで、さっさと行くぞ」

エルフ「べ、別にそんな顔してませんわよ!」カァッ

一時間後

エルフ母「あれは」

エルフ「外からの光……ということは」

男「そういうこと」

騎士「では、私は先行して将軍に報告してきます!」ダッ

男「あ、こら待ちたまえ……って、行ってしまったか」

エルフ「何か問題でもありまして?」

男「問題というほどでもないんだけどね。もう僕たちの行動バレてるわけだし」

エルフ「は?」

侍「……おい」

男「まぁ君は気づくよねー」

メイドエルフ「どういうことですか?」

男「ま、行ってしばらくすればわかるよ」



外 隣国領内

エルフ「ここが……」

男「そういうこと。ようこそ、僕たちの国へ」

メイドエルフ「エルフの国を出たのは初めてです」

エルフ「わたくしも……」

――ワー!!

エルフ「あら、遠くから何か声が」

侍「……はぁ」

エルフ「どうなさいましたの?」

侍「到着して早々、戦の気配が濃いからついな」

エルフ「戦?」

男「そりゃーそうでしょうよ」

メイドエルフ「それはそうって――あ」

男「言ったでしょ? 僕たちの行動はバレてるって。エルフの司令は、報告を受けてこれ幸いと、ついに戦を仕掛けてきたんだよ。君たちのことを口実にしてね」

今回は以上です。次も時間がかかると思いますが、何卒ご容赦を。

短いけど投下します。



ワ―!

エルフ「結構近いですわね」

侍「迂回路は無いのか?」

男「ふーむ。確かに、レディを背負ったまま戦場に出るのは紳士的とは言えないな」

メイドエルフ「それに、人間とエルフ族が一緒にノコノコと出ていったら、両軍から狙われかねません」

男「あ、それは大丈夫。僕がいれば、少なくとも隣国――いや、もうこの国か。ともかくこっちから狙われることはないよ」

エルフ「何故言い切れますの?」

エルフ母「それは――」

男「もうすぐ分かるよ。そのときまでのお楽しみさ」

侍(……まさかとは思うが)

男「さておき、ひとまず目前の森を西に迂回しようか」

男「そのまま進めば、国境の砦の裏手に回れるからね」

メイドエルフ「お味方の中に出られるというわけですね」

男「そういうこと」

エルフ「彼もそちらへ向かったのかしら」

男「どうだろうね。少し迂濶なところが彼の短所だからなぁ」

そのころ

兵士「はあああ!」

エルフ兵「やあああ!」

キン キン ギン――

騎士「……戦場の真っ只中に出てしまったどうしよう今軽装なのに」

エルフ兵「そこの人間、そんな軽装でこの場にいるとは愚かなり! 覚悟!」

騎士「やっぱ狙われるよねちくしょー」

砦 門

男「着いた着いた、と」

メイドエルフ「い、いきなり攻撃されたりしませんよね?」

男「だーいじょぶだーいじょぶ。おーい、見張りやーい」

エルフ「いきなりなんて軽さですの」

見張り「む、何奴か……って、あ、あなたは!」

男「おー、今帰ったよー。門を開けておくれー」

見張り「は、は……しかし、その者たちは」

男「だーいじょぶだーいじょぶ。僕の客人だからみんな」

見張り「はっ! 陛下のお帰りである! 開門! 開もーん!」

エルフ「……は?」

メイドエルフ「今なんて?」

男「ん? 僕が帰ったぞーって伝えただけだよ?」

エルフ「いえそれはわかってますわ。そうではなく」

メイドエルフ「あの見張りさん、今確か、陛下、と言いませんでした?」

男「言ってたね」

エルフ「……ええっと。つまりそれは、あなたが」

国王「うん。僕がこの国の現国王ってことになるね」

エルフ・メイドエルフ「」

国王「ところで、君はあんまり驚かないね」

侍「薄々は感づいていた。ついさっきのことだがな」

国王「さすがと言ったところかな」

エルフ「お、お母様はそのことを?」

エルフ母「ええ。黙っていてごめんなさい」

国王「君が謝ることじゃないさ。僕が言わさずにきたんだから」

エルフ母「でもあなた」

エルフ「……あなた?」

メイドエルフ「あの、またもやもしかして嫌な予感ですか?」

国王「嫌な予感はひどいなぁ」

エルフ「もしかして、初めて会ったときにわたくしの剣のことを大切にしろと言ったのは……」

国王「ああ、そうさ」

エルフ母「その剣はこの人が昔使っていたもの。つまりこの人が……あなたの父親よ」

エルフ「っ!?」

短いですが、今回は以上ですすみません。

三日後 砦後方陣地

エルフ母「あの子はまだ?」

メイドエルフ「はい。テントに篭られたままです」

エルフ母「そう……」

メイドエルフ「その……正直無理もないかと。いきなり父親が現れて、しかも隣国の王だなんて」

エルフ母「やっぱり、最初から全部話しておくべきだったのかしら……」

メイドエルフ「難しいですね。その場合、お嬢様の境遇に対する恨みの対象がはっきりしてしまうわけですから、性格に問題を生じた可能性が」

エルフ母「……」

メイドエルフ「やめましょう、こんな話」

エルフ母「そうね。侍さんは?」

メイドエルフ「前線に出て戦っています。ただ飯は食べないと」

エルフ母「わかってはいたけど、律儀な方なのね」

メイドエルフ「ご自分を武士だと仰っていましたけど、義即人生って感じです」

戦場

ズバッ バシュッ ザスッ

エルフ兵「ぐわあああ!」

バタバタバタ

侍「弱い」

エルフ兵「くっ、あいつを取り囲め!」

将軍「ふっ。無駄よ――ぬぅん!」ブオーン

エルフ兵「うわ!」

将軍「この程度で怯む者が奴に挑もうとはな」

エルフ兵「くそ、なんだこの二人!?」

将軍「まさかこうして肩を並べることになるとはな」

侍「あの時は想像すらしなかったが」

将軍「それはわしとて同じこと。さて」

将軍「当国髄一たるこの老将と、東国髄一たるこの若武者に挑まんとする者誰ぞある!」

侍「ふっ。覚悟決まりし者からかかってこい!」

エルフ兵「ええい、あの二人を討て! 奴らさえ倒せば我々の勝利だ!」

ワー!

将軍「ぬるいわ!」ブオン

エルフ兵たち「うわああ!」バタバタバタ

侍「遅い!」ザンッ

エルフ兵たち「ぐわああ!」バタバタバタ

侍「まだまだ!」

将軍「次の命知らずは誰か!」

後方テント

エルフ「……」

――出ていけ! 混血!

――うちの子に近付かないで。汚らわしい。

――混血とケガれた女なんかどれだけ金を積まれても診るつもりはないよ。

エルフ「……」

バサッ

国王「少しいいかい?」

エルフ「……」

国王「うーん、まだご機嫌ナナメかな」

エルフ「……別に」

国王「すぐに言わなかったことは、もう何度も謝ったでしょ? そろそろ顔ぐらい見てくれたって――」

エルフ「いつまでわたくしやお母様にそんな顔を見せるつもりですの?」

国王「……手厳しいね、こいつは」

エルフ「……」

国王「でもまあ、それはそうか。君たちをずっと放っておいたのは事実だし」

エルフ「……わたくしとて、あなたの立場というものは理解しています。でも、だからといって」

国王「簡単には割り切れない、か」

エルフ「……」

国王「その点については何も言えない、というか言えた立場じゃないから好きに恨んでくれていい」

国王「ただ僕にも彼女にも、当時ではどうにもできない事情があったことだけは理解してほしい。言い訳にしかならないのはわかっているけどね」

エルフ「……」

国王「ま、納得しろとまでは言わないさ。言いたかったことはそれだけ。邪魔したね」

エルフ「……戦況はどうなんですの」

国王「幸い優勢さ。将軍ももちろんだが、侍くんも負けずに活躍してくれてるおかげでね」

エルフ「そう」

国王「そういうわけだから、ゆっくり自分の気持ちと向き合うといい」

エルフ「……」

国王「じゃ、また後で」バサッ

国王(侍くんが活躍してるってことを当然のように受け止めたか)

国王(……ま、彼なら申し分ないか。あの子らがどういう道を選ぼうともね)

国王「さておき、せっかく優勢なんだし……ここいらで因縁とケリをつけるのも悪くないかな」

砦 軍議室

将軍「攻勢に転ずる、と?」

国王「うん。向こうの中を直に見て解ったけど、白黒はっきりさせないともうこの戦は終わらない」

国王「前は牽制で十分かと思ったけど、甘かった。故にこちらも態度をはっきりさせよう」

侍「つまら、こちらからエルフの国の領土へ攻めこむと」

国王「そういうことさ」

騎士「しかし、何故侍殿がさも当然のようにこの場にいるのでしょう。別に異論は無いのですが」

将軍「客将とはいえ、十分な戦果を上げておるからな」

国王「そういうこと。君たちのおかげで戦術的勝利が積み重なったから、戦略的勝利を得るための決断も容易だったよ」

騎士「将軍と肩を並べて一騎当千を体現してましたからね」

侍「というより、エルフ族ってのはどうも白兵戦があまり得意じゃないように感じたが」

将軍「あの娘のような例外もおるがな。基本的に、エルフ族の主力は弓兵だ」

侍(あの娘、ね。知らないだけか、知っていてわざとそう言っているか)

国王「攻めるに当たって注意すべきはそこだ。侍くんが受けた毒矢のこともある。自然の民だけあって、地の利だけじゃなくそこらの知識も向こうが上をいく」

国王「もっとも、僕自身あの国を少し調べたから、地の利に関してはさほど心配はない。伏兵にだけ気を付ければいい」

国王「弓矢の方は、重装部隊を中心に編制して被害を抑えよう」

将軍「白兵戦はわしと小僧がおれば問題はなかろう」

侍(そう簡単にいけばいいがな)

国王「ま、大雑把にはそれでいいでしょ。細かいことは後で詰めるとして。ときに侍くん」

侍「ん?」

国王「あの子のことで一つ頼みがあるんだけど、いいかな」

侍「あいつのこと?」

毎度短くてすみませんが、今回はここまでです。
ゴールデンウィークフル出勤\(^^)/

一週間後

国王「んじゃ、進軍開始といこうか」

将軍「全軍、前進!」

ザッ ザッ ザッ ザッ

メイドエルフ「間近で見ると中々壮観ですねー。軍団の進軍風景って」

エルフ「そうね」

侍「お前たち、本当についてきて良かったのか?」

メイドエルフ「お嬢様が行くと仰るのなら、メイドとしてお供するのがわたしの勤めですから」

エルフ「……」

侍「私怨で戦うなとは言わない。だが――」

エルフ「大丈夫よ」

侍「?」

エルフ「恨みが無いと言えば、確かに嘘。でも、その原因が誰なのかははっきりしてるから」

侍「……そうか」

メイドエルフ(いつの間にかお侍様にも素で話すようになってるし)

メイドエルフ「恨みと言えば、わたしもたっぷりありますからねぇ。同胞相手とはいえ、容赦無しでいきますよ」

侍「わかった。ならもう何も言うまい」

エルフ「ありがとう」

侍「……」

国境付近 エルフ領内

騎士「案外あっさりエルフの国の領土内に入れましたね」

将軍「ふむ」

国王「こういう場合、むやみに進軍せず慎重に行動するのが罠の被害を抑えるための定石だけど」

エルフ「正解ですわ」

メイドエルフ「精霊が教えてくれてます。前方の森の中に、多数の弓兵が配置されていると」

国王「なるほど。行軍停止しようか」

将軍「全軍、止まれ!」

騎士「全軍、止まれ!」

ザッ ザッ ピタ

国王「さて。このまま進めば弓矢の餌食」

侍「さりとてこのまま止まっていても、向こうから出てきて狙い撃ちということも考えられる」

将軍「以前陛下が通られたという抜け道は越えられないので?」

国王「いやー、さすがにもうばれちゃってるでしょ。ばれちゃってること前提で、昨日までにこちら側の出口を封鎖させたし」

侍「どっちみち使えんか」

騎士「どうしましょう。強攻突破しますか?」

将軍「いくら重装歩兵が主力とはいえ、それはさすがに無謀だな」

エルフ「……」

メイドエルフ「お嬢様?」

エルフ「……一つ、考えがあります」

侍「考え?」

森 エルフ軍

エルフ隊長「むっ。人間共め、こちらの存在を察したのか」

エルフ兵「さっきから森の手前で止まったままですね。如何しましょう」

エルフ隊長「しばらくこのまま待機。進んでくれば予定通り、あのまま動かなければこちらから仕掛け、森の中へと誘いこむ」

エルフ兵「はっ――て、ん?」

エルフ隊長「どうした?」

――チガウヨ

エルフ隊長「む、精霊か?」

――アッチハ、マワリコムツモリ

エルフ兵「回りこむ?」

エルフ隊長「つまり、森を迂回して進むつもりか」

――ヒガシニムカウミタイ

エルフ隊長「東か。感謝するぞ精霊よ。総員を東に向かわせよ。側面から奴らを射抜く」

エルフ兵「しかし」

エルフ隊長「どうした?」

エルフ兵「これまでこちらに協力的ではなかった精霊が、何故急に」

エルフ隊長「精霊は気分屋だ。これまでも今も、たんにそういう気分だっただけだろう」

エルフ兵「そうでしょうか」

エルフ隊長「とにかく、移動だ!」

しばらくして

エルフ隊長「……遅い」

エルフ兵「そろそろ敵の姿が見えてもいい頃ですが……」

エルフ隊長「どういうことだ精霊よ」

――クスクス

エルフ兵「な、なんか笑ってますよ?」

エルフ隊長「真面目に答えてくれ。人間共は今どこにいる」

――オシエテホシイ?

エルフ隊長「ああ。教えてほしい」

――キミタチノウシロニイルヨ

エルフ兵「は?」

エルフ隊長「なっ」

将軍「かかれー!」

――ワー!

エルフ兵「は、背後から敵襲ー!」

エルフ隊長「偽情報だと!? ばかな! 何故精霊が我々ではなく、人間共に味方するのだ!?」

――チガウヨ

エルフ隊長「なに!?」

――ニンゲンノミカタジャナクテ、トモダチノミカタダヨ

エルフ隊長「と、友達!?」



ワー!

侍「うまくいったようだな」

メイドエルフ「後退したと見せかけると同時に精霊に偽の情報を流してもらって敵を動かし、背後を取る。お見事ですお嬢様!」

エルフ「ありがと。みんなも、ありがとうね」

――フリフリ

侍「精霊がお前に味方してくれたからこその策だな。確かに見事だ」

エルフ「たまたまよ。それに、まだ完全じゃない」チャキ

メイドエルフ「ですね。わたしたちの役目は」ジャキン

侍「敵の伝令を」シャー

エルフ伝令「――な、待ち伏せだと!?」

侍「――殲滅する!」ダッ

エルフ「そういうこと!」ダッ

侍「おおおお!」ザンッ

エルフ「はあああ!」ザシュッ

エルフ伝令「くそ、数では上なんだ! 突破しろ!」
メイドエルフ「行かせません。逝かせますが」ビュンッ

ドスドスドス

エルフ伝令「く、くそー!」



国王「やー、みんなご苦労さん」

将軍「はっ。しかし、こうもあっさりと引っ掛かってくれるとは思いませんでしたな」

騎士「こちらの被害はほとんど無し。対して敵はほぼ壊滅状態」

侍「伝令も殲滅した。このことが後続の敵に知られることもないだろう」

国王「いい感じだ。とはいえ、次もそううまく行くとは限らない。変わらず慎重に行こうか」

将軍「はっ」

途中寝落ちしてましたすみませんorz
相変わらず短いですが、今回はここまでです。

戦場

侍「おおおお!」ザン ザシュ ブシュ

エルフ「はっ!」ギン ザン

将軍「ぬぅん!」ブォン ドガァッ



メイドエルフ「は~。あの三名だけ別格の強さですねー」

国王「弓兵隊を騎士くんの部隊がうまいこと引き付けてくれてるからね。白兵戦ならこちらの、とりわけあの三人の独壇場さ」

メイドエルフ「戦で一番恐いのは飛び道具ですしね。そこを抑えてしまえばあとは物量と質の差ですか」

国王「今のところ、両方ともこちらが上回っている。精霊も協力してくれているし、あとは飛び道具を使える君が加われば」

メイドエルフ「いえ、まあ、隠密作戦などには参加しますが、表立って戦場に出るとお嬢様の立場が」

国王「あー、君集団相手にはめっぽう強いからねー。将軍や侍くんならいざ知らず、二人には少々劣るあの子は存在感を君に食われるのか」

メイドエルフ「お嬢様のお顔を立てるのもメイドの勤めですので」

国王「うちのメイドたちよりよっぽど出来たメイドだ。よければ」

メイドエルフ「お断りします♪」

国王「……本当に出来たメイドだね」

メイドエルフ「そんなこと言ってるうちに、終わりそうですよ」

国王「敵が退却していくか。連戦連勝、いい流れだ……だからこそ、そろそろ恐くもあるけどね」


エルフの国 王宮

参謀「……そうですか。また敗北ですか」

エルフ兵「申し訳ございません! よもや、精霊が人間に協力するとは夢にも思わず――」

参謀「人間にというより、彼女に協力しているというのが正しい」

エルフ兵「は?」

参謀「なんでも。ここいらで流れを変える必要がありますね」

エルフ兵「いかがいたしましょう」

参謀「あなたは、禁忌を犯せますか?」

エルフ兵「……え?」

二日後

エルフ「このペースなら、首都まであと丸一日といったところですわ」

メイドエルフ「順調ですね。まさかこんな形であそこに戻ることになるとは思いませんでしたけど」

侍「……」

将軍「……」

騎士「あれ、お二人ともどうしました? 恐い顔して」

将軍「陛下」

国王「うん。この森……なーんか嫌な空気だね」

侍「動物の気配が無いのも気になる」

将軍「かといって敵の姿も見えん。あるいは何か仕掛けてくるやも」

騎士「そう言われれば、確かに変に静かなような……」

エルフ「……」

メイドエルフ「……え?」

侍「どうした?」

メイドエルフ「精霊たちが慌ただしい……?」

エルフ「……」

侍「何か言ってないか?」

メイドエルフ「――なっ!」

エルフ「なんてこと!?」

侍「おい、精霊はなんて――」

エルフ「すぐに森から撤退して! 早く!」

国王「理由は?」

メイドエルフ「敵が……火計の準備をしていると」

侍「!」

将軍「エルフ族が森で火計だと!?」

国王「……全軍反転!」

騎士「は、は! 全軍反て――」

エルフ兵「逃がさん! 放てー!」

侍「伏兵か!」

ヒュンヒュンヒュン ボッ

メイドエルフ「火矢!?」

エルフ「愚かなことを!」

パチパチパチパチ

騎士「いけません! 周囲を火で囲まれました!」

国王「重装歩兵は鎧を棄てろ! 蒸し焼きになるぞ!」

将軍「他の部隊はわしに続け! 退路を確保する!」

ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス

歩兵「ぐあっ!」

将軍「ぬっ!? 追い討ちをかける気か!」

侍「敵は俺が引き受ける! お前たちは早く退路を!」

エルフ「わたくしも行きますわ!」

メイドエルフ「お供します!」ジャキン

国王「すまないけど頼むよ! 全軍撤退急げ!」

ヒュンヒュン ドスドス

歩兵「ぐげっ!?」

将軍「周囲は火の海、頭上からは矢の雨か」

国王「重装歩兵を中心に編成したのがここにきて仇になったか」

エルフ兵「射て射てー! 人間共を残さず射ぬくのだ!」

侍「させん!」ザシュ

エルフ兵「ぎゃっ!」ドサッ

エルフ「エルフ族が森を焼くなど……恥を知りなさい!」ザンッ

エルフ兵「ぐあ!?」ドサッ

エルフ兵「くそ、まずあいつらを排除するんだ!」

メイドエルフ「それもさぜません!」ヒュヒュヒュヒュヒュンッ

ドスドスドスドスドス

エルフ兵「があああ!」

国王「今のうちだ! 順次離脱を!」


数時間後

国王「なんとか撤退は出来たが……いかんねこれは」

騎士「味方の被害、甚大です……」

将軍「よもや、エルフ族が火を放つとはな。完全に虚を衝かれたわ」

侍「どうする? まだ戦えるだけの戦力は残っているが、今の士気では戦闘継続は厳しいぞ」

将軍「森林ではなく平野部に進軍すれば、火計の心配は無くなるが」

メイドエルフ「そこで守りを固めて、増援を待った方がいいんじゃないですか?」

国王「戦力を整えるにはそれでいいけどね。ただ、首都に行くにはどうしても森を通らなければならないよ」

侍「そう言えば、確か周囲を森に囲まれていたな」

騎士「さすがにそんなところで火計を実行したら、首都にも被害が及ぶのでは?」

メイドエルフ「いえ、首都の端とは距離がありますので、敵にその心配は無いはずです」

将軍「森を通れば焼き討ち、軽装備にすれば遠くから弓矢で射抜かれる、か」

国王「ここに来て厄介なことになったもんだね、こりゃ」

エルフ「……」

侍「……どうした?」

エルフ「精霊が怒っていますの」

侍「精霊が?」

メイドエルフ「精霊は森に住んでますから。自分の家を焼かれたとあれば怒りもしますよね」

エルフ「待って。まだ何か教えてくれてる……そう」

将軍「何と言っておるのだ?」

エルフ「敵はこの機に乗じて、全戦力をこちらに向け出陣させたそうですわ」

メイドエルフ「すっごいたくさんいるそうです」

国王「一気に決着を着けにきたか」

騎士「まずいですよ。今の士気と戦力では、いくら重装部隊が主力とはいえ」

将軍「増援も到底間に合わんな」

国王「ふむ……」

侍「……」

国王「侍くん、何か考えでも?」

侍「そういうあんたにも、何か考えがあるんじゃないか?」

国王「そうだね。たぶん、君と同じことを考えていたよ」

メイドエルフ「同じこと、ですか?」

侍「全軍を出陣させたということは、今首都の守備は薄くなっているはずだ」

エルフ「確かに……まさか」

国王「そのまさかさ。本隊は平野部で敵軍を引き付けて、その隙に精鋭を秘密裏に首都に送り込む。狙うはもちろん、敵司令の首だ」

騎士「なるほど……。でも気付かれないようにするためには、少数じゃなければなりませんね」

国王「人選はもう済んでいるよ」

将軍「では、誰が乗り込みますかな」

国王「君と騎士くんは本隊に残って指揮を執ってもらう。君たちがいなくなったら、敵が怪しむだろうからね」

エルフ「と、いうことは」

国王「そ。乗り込むのは、侍くんと君、メイドちゃんと、それに僕の四人さ」

今回はここまでです。やっと終わりが見えてきた……。

翌日

騎士「来ました! 敵軍です!」

将軍「さすがに全軍となるとかなりの数よな。こちらの援軍は」

騎士「後詰めの部隊は合流していますが、本国からの援軍は到着までまだ時間がかかります」

将軍「だろうな。現状のまま戦うしかないか」

騎士「苦戦は必至ですね」

将軍「だが、やるしかない。それが我等の任務よ」

騎士「はっ!」

将軍「仮にも戦上手と讃えられるこの老将、これしきの差では怖じ気付かぬ」

将軍(とはいえ、末端の者たちにこの状況は厳しい。なるべく早めにお頼みしますぞ、陛下)

首都 王宮前

メイドエルフ「――こちらです」

侍「すごいな。まさかここまで誰にも見つからずに来られるとは」

メイドエルフ「まあ、元々兵士の巡回ルートは把握してましたしねー。加えて今は守備が手薄ですから」

国王「ここまで忍び込むくらいわけはない、か」

エルフ「ていうか、なんであなたが警備の巡回ルートなんか知っていますの?」

メイドエルフ「え? いやそれはまあ、メイドのたしなみと言いますか」

侍「今はそんなことはいいだろ。それよりも、ここからどうやって潜入するかだ」

エルフ「精霊からの情報では、司令は今もここにいるということですが」

国王「そいつは好都合。なら、本隊の被害が少ないうちにさっさと決めてしまおうか」

侍「さっさと、ね。何かいい手でもあるのか」

国王「ああ。正面から堂々と行けばいい」

エルフ「は?」

メイドエルフ「正面からって……」

国王「つまり、こういうことさ」スタスタスタスタ

メイドエルフ「ちょっ、ちょっと!?」

侍「本当に行きやがった……」

王宮 正門

門番a「ん? な、何故人間がここに!?」

国王「何故って、そりゃー決着を着けるために決まってるでしょ」

門番b「な……て、敵しゅ――」

国王「おーっと」ダッ ザシュッ

門番b「があ!!」ドサッ

門番a「な、はや――」

国王「よっ」ピョン ザンッ

門番a「ぎゃあっ!」ドサッ
国王「ふう」キンッ

タタタタタタッ

メイドエルフ「は、はや……もう倒して」

侍「爪を隠していやがったな」

国王「いやー、一撃で倒せたのはこの剣のおかげだよ。軽くて扱い易く、切味もいい」

侍「あんたが扱うには少し小さくないか」

国王「ま、元々僕用に造らせたものじゃないからね」

メイドエルフ「え? じゃあ本来は誰用の剣なんです?」

エルフ「そんな話は後でいいですわ。今は……」

国王「だね」

侍「仕方ない。それじゃあ正面から堂々と乗り込むとしよう」

メイドエルフ「けど、どうします? この巨大な正門を突破するのは」

エルフ「この鉄扉、力押しだけでは到底破れませんわよ」

国王「ん、そうかい?」

侍「この程度ならなんとかなるだろ」

エルフ「なんとかって……」

侍「――ふっ!」シャッ

国王「ほっ」ブンッ

――ギン ギン

メイドエルフ「……あの?」

エルフ「一体何を――」

――ズズズ

エルフ「え……」

メイドエルフ「な……」

ズズズズズ――ズゥゥゥンッ!

メイドエルフ「て、鉄扉を……」

エルフ「斬った!?」

国王「やっぱり君も出来たんだ。斬鉄」

侍「あんたもな。つくづくただ者じゃない」

国王「僕に言わせれば、君こそその若さでその腕前は末恐ろしく感じるよ」

メイドエルフ(あんな大技決めておいて、この会話の軽さですか)

エルフ(侍さんはともかく。悔しいけど、この人もあたしよりずっと強い)

エルフ兵「――な、正門が破られて!? て、敵襲! 敵襲ー!」

国王「おっと。のんびり話してる場合じゃなかったね」

侍「だな。先頭は俺が行く。道案内は頼むぞ、エルフ」

エルフ「わかりましたわ」

メイドエルフ「お嬢様の背中はわたしがお守りいたします」

国王「じゃ、殿は僕が引き受けようか」

エルフ兵「あそこだー! なんとしても討ち取れ! 王宮の中には絶対に入れるな!」

ワー!

エルフ「さすがに王宮にはそれなりに残ってましたわね」

侍「だがあの程度ならなんとかなる――行くぞ!」ダッ

エルフ「ひとまず三階を目指しますわ!」ダッ

メイドエルフ「三階ですね! 援護はおまかせください!」ジャキン ダッ

国王「で、討ち漏らしは僕の役目と。若人が率先してくれると楽できていいね、うん」ダッ

エルフ兵隊長「なんとしてもここで食い止めろ! 囲んで押し潰せ!」

侍「そうは!」

エルフ「させません!」

ザン ザシュ ズバ ブシュ

エルフ兵たち「ぐわあああ!」

エルフ兵隊長「く、なんたる強さ……。ならば弓兵隊で――」

メイドエルフ「お見通しです!」ヒュヒュヒュヒュヒュン

ドスドスドスドスドス

弓兵隊「ぐわっ!」

エルフ兵隊長「おのれたかが人間と混血とメイド如きに!」

国王「それが君の限界だよ」

エルフ兵隊長「!? いつの間に――」

国王「じゃーね」ザシュッ

エルフ兵隊長「がはぁ!」ドサッ

エルフ兵「な、隊長が!?」

侍「隙が出来た! 一気に突破する!」

エルフ「このまま駆け抜けますわ!」

メイドエルフ「はい!」

国王「りょーかいりょーかい」




王宮 三階通路

エルフ「はあっ!」ザン

エルフ兵「ぐえっ!」ドサッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ……ひとまず今ので最後みたいですわね」

侍「そのようだな。で、この後はどうするんだ?」

メイドエルフ「一階や二階と違って、真っ直ぐな一本道ですね」

エルフ「玉座の間に繋がる通路ですわ。そして玉座の間の奥に陛下の私室がありますの」

国王「ということは、今司令はそこにいる可能性が高いと」

エルフ「というよりいます。精霊が教えてくれてますので」

メイドエルフ「ならあともう一息ですね。このまま一気に――」

侍「いきたい所だが、さすがにそうはさせたくないようだ」

エルフ「え?」

声「その通りです」

カツ カツ カツ

エルフ「目深に被ったフードの女……参謀ですわね」

参謀「私のことをご存知でしたか」

エルフ「普段からそんな格好をしていれば当然です」

参謀「それもそうですね。さておき」スッ

侍「――!」シャッ キン

エルフ「きゃっ!?」

メイドエルフ「今のは……!」

国王「投げナイフか。ここに来てメイドちゃんと被るとはね」

メイドエルフ(確かに戦闘スタイルは被ってますが……ちょっとわたしより速いかも)

参謀「ふむ。やはりこの程度の不意打ちは通用しませんね。それとも、そんなに彼女が大切ですか?」

侍「……たとえ狙われたのがこいつじゃなくとも同じ反応をしたさ」

参謀「でしょうね。ならば」ジャキンッ

メイドエルフ「!」

エルフ「なっ!」

参謀「全員同時でも、同じ反応が出来ますか?」

侍「……俺には無理だな」

参謀「意外と素直に認めましたね。ですがだからといって――手加減はいたしません!」シュババババッ

メイドエルフ「――はっ!」シュババババッ

キンキンキンキンキン

参謀「ほう? 空中で全て……」

メイドエルフ「投げナイフが十八番なのはわたしも一緒です」ジャキン

参謀「ふふ」

メイドエルフ「……ここはわたしにお任せを。皆様は先にお行き下さい」

エルフ「先にって、あなた……」

メイドエルフ「時間がありません。早くしなければ、後方のお味方が危ないんですから」

侍「……行くぞ」

国王「こっちは大丈夫だから、君は後からゆっくり来るといいよ」

エルフ「……後でね」

メイドエルフ「ええ。後で」

タッ タッ タッ タッ……

メイドエルフ「……わざと行かせましたね?」

参謀「ええ。後から来たのがあなたではなく私だったら、三人の意気は十分にくじけるでしょう」

メイドエルフ「せこい考えです」

参謀「何とでも。せこかろうが何だろうが、私は負けるわけにはいきませんので」

メイドエルフ「それはこちらのセリフです」スッ

参謀(……目付きが変わった?)

メイドエルフ「お侍様が防いでくれたとはいえ、お嬢様が狙われたことは事実」

メイドエルフ「つまり、その時点でわたしの逆鱗に触れているんですよ、あなた」

参謀「だとしたらどうします?」

メイドエルフ「知れたこと。わたしの目の前でお嬢様を狙ったその罪――死んで償いやがりませ!」

今回はここまでです。

参謀「罪、ですか。それを言うなら、あなたや彼女の方が今まさに国家反逆の罪に問われているのですがね」

メイドエルフ「ではお嬢様やお侍様に濡衣を着せた挙句、森を焼くという暴挙に出たあなたたちは、一体何の罪に問われているのです?」

参謀「……」

メイドエルフ「答えられませんか。それも当然ですよね」

参謀「どう答えても、あなたは納得されないでしょう?」

メイドエルフ「当たり前です」

参謀「ならば、余計な問答は無用です」

メイドエルフ「そうですか。ならばすぐに――逝きなさい!」シュバババババッ

参謀「……」シュバババババッ

――キンキンキンキンキン

メイドエルフ「まだまだ!」ジャキジャキンッ

参謀「ふむ」ジャキジャキンッ

ヒュンヒュンヒュン キンキンキン

メイドエルフ「もっと!」ジャキジャキンッ

参謀「こちらも」ジャキジャキンッ

メイドエルフ(くっ! こっちは最初から全力で殺しにかかっているのに、向こうにはまだ余裕がある!)

メイドエルフ「はぁっ!」シュバババババッ

参謀「ふっ」シュバババババッ

ギンギンギンギンギン

参謀「……ふふ」

メイドエルフ(互いにに弾かれてはいるけれど今のは、わずかにこちらが圧された……)

メイドエルフ「――ええい!」ジャキジャキンッ

参謀「……」ジャキジャキンッ

数分後

メイドエルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

参謀「息が上がっていますね。降参しますか?」

メイドエルフ「誰が!」ジャキジャキンッ

参謀「やれやれ。一体どれだけナイフを隠しているのですか」

メイドエルフ「メイド服すなわち神秘の次元なんです!」

参謀「意味がわかりません」

メイドエルフ(こちらが構えたのに、向こうは新たなナイフを出さない……。弾切れ? でもあの余裕は……)

参謀「気になりますか?」

メイドエルフ「っ……何がです」

参謀「ふふ。私の余裕の理由ですよ」

メイドエルフ(読まれてる……さすがは参謀というところですか)

参謀「先程あなたは、投げナイフが十八番なのは自分も同じだと言いましたね」

メイドエルフ「……」チャキ

参謀「白状しますと、私の手持ちのナイフは全て投げ尽しました」

メイドエルフ(何ですって?)

参謀「ですので、今は投げられるナイフは手元にありません」

メイドエルフ「……」

参謀「でもね――」クイ

メイドエルフ「――っ!」バッ

――ヒュン ザシュッ

メイドエルフ「くっ!?」

メイドエルフ(なに!? 床のナイフが、勝手に飛んで!)

参謀「メイド服にかすっただけ……今のを避けましたか。いい勘をしていますね」

メイドエルフ「……何をしたんですか」

参謀「その答えは、これです」クイ クイ

メイドエルフ「くっ!」バッ

ヒュンヒュン ザン

メイドエルフ「くあっ!」ブシュッ

参謀「直撃、とまではいきませんでしたか」

メイドエルフ(腕をかすめた……!)

参謀「私の十八番は、実は投げナイフではありません」

メイドエルフ「なんですって?」

参謀「私の十八番は、実は投げナイフではなく繰りナイフ。すなわち」バッ

メイドエルフ「――っ!?」ゾクッ

参謀「今床に散らばっている私のナイフ全てが、あらゆる角度から敵を、あなたを襲うのです」バババババ

ザシュ ザシュ ザン ザシュ ブシュ

メイドエルフ「ぅあっ!」ヨロッ

参謀「まだまだいきますよ」バババババッ

メイドエルフ「く……!」バッ

ヒュンヒュンヒュン ザン

メイドエルフ「つぅ!」

メイドエルフ(足を……! けどこれくらいならなんとか)

参謀「またかすっただけですか。いい反射神経してますね」

メイドエルフ(なによあれ……一体どういう仕組みなの。指や腕の動きに反応しているようだけど……それに、同時に舞う様に動くのは何故?)

参謀「ですが、次で仕留めます」クイ

メイドエルフ(来る!)バッ

ヒュン――

参謀「む?」

メイドエルフ(回避できた? 今動いた指は右手。飛んできたナイフは左から……ということは)

参謀「……ふむ」クイ クイ

メイドエルフ「――そこ!」ババッ

――キンキン

メイドエルフ(右後方と左側面。やっぱり、参謀の右手が動けばわたしの左側から、左手が動けば右側から飛んでくるようね)

メイドエルフ(でも、まだ何故その動きでナイフを操れるのかがわからない。それがわからないと。考えられるとすれば……)

参謀(そろそろ気付かれる頃ですかね)

参謀「一気にいきます」バッ

シュババババババッ

メイドエルフ(……一か八か!)ダッ

参謀「!?」

ザシュザシュザシュザシュ

メイドエルフ「くぅっ!」バッ ガシッ

メイドエルフ(掴んだ! これはやっぱり――!)

参謀「……まさかナイフの雨の中に突っ込んでいくとは思いませんでしたよ」

メイドエルフ「自分でもバカだとは思いますよ。でも、あなたの繰りナイフのカラクリはわかりました」

メイドエルフ「ずばり、糸です」

参謀「……」

メイドエルフ「肉眼ではほとんど見えない程極細の糸で、ナイフを操っているんです」

メイドエルフ「一斉に仕掛けるときの舞う様な動きは、糸が絡まらないようにそれぞれのナイフを操作するため」

参謀「それを確かめるためだけの蛮勇に敬意を表しましょう。正解です」

参謀「しかし、その結果あなたが負った傷はこれまでのように軽くはない」

メイドエルフ「……」ヨロッ

参謀「その体で、次の攻撃に耐えることが出来ますか?」

メイドエルフ「仕掛けさえわかってしまえばこちらのものですよ」

参謀「果たしてそうでしょうか?」

メイドエルフ(……見破られてなお余裕がある。まだ何か隠している?)

参謀「では、試してみましょうか」クイ ヒュン

メイドエルフ「仕掛けが糸だとわかったのなら、それさえ切ってしまえば!」シュッ

――ビン

メイドエルフ「え!?」

参謀「ふふ」

メイドエルフ(ナイフの刃が糸に弾かれた!?)

参謀「仕掛けを見破られたときのために対策を施すことも、参謀たる者の努めですよ」

参謀「この糸は特殊な素材で出来ていましてね。非常に優れた対刃性を有していながら、糸が持つ柔軟性を損なっていない」

参謀「その証明は、たった今あなたが目にした通りです」

メイドエルフ「くっ……」

メイドエルフ(なんてこと……。ここまで隙が無いなんて)

参謀「さて。では」ユラリ

メイドエルフ(来る……。さすがに次は耐えられそうにないわね)

メイドエルフ(こんなことなら、わたしのメイド服にも何か防御的なものを縫い付けておけばよかったわ。もう遅いけど)

参謀「今度こそ――」

メイドエルフ(……ん? 縫い付ける……縫う?)

参謀「――終わりです!」シュババババッ

メイドエルフ「――いえ、まだです!」ダンッ

参謀「跳んでかわした!? あの傷でよく!」

メイドエルフ「はっ!」シュババババッ

ドスドスドスドス

参謀「?」キン

参謀(複数のナイフを投げたのに、私を狙ったのは一本だけ?)

トン

メイドエルフ「次!」シュババババババッ

ドスドスドスドスドス ギン

参謀(また一本だけ? これまでは全てのナイフを直撃コースで投げていたのに……何か企んでいる?)

メイドエルフ(急がないと気付かれる。その前に!)

メイドエルフ「やっ!」シュババババババババッ

参謀(私に向かってくるナイフは――やはり一本だけ。なら、他のナイフは何のために……)キン

メイドエルフ「これで最後!」シュババババババババババッ

ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス

参謀(ラスト? それに、今のは私を狙わなかった。となれば、先程まで私に一本だけ投げていたナイフはただの牽制?)

メイドエルフ「……」チャキ

参謀「……どうやら、さすがに弾切れのようですね。それが最後の一本ですか」

メイドエルフ「ええ」

参謀「何を企んでいたか知りませんが、悪あがきもそこまでです」

メイドエルフ「なら、一つお話してもいいですか?」

参謀「お話?」

メイドエルフ「わたし、仕事が見た通りメイドでして。家事全般が得意なんです」

参謀「……」

メイドエルフ「料理、洗濯、掃除はもちろん、特に裁縫は得意でして。このメイド服も自分で縫ったんです」

参謀「それはすごいですね。ところで、私はいつまでそのお話に付き合えばよろしいのでしょう?」

メイドエルフ「ご安心ください。ただそれが言いたかっただけですから」

参謀「そうですか。ならそろそろ終わりに――」クイ

――ビシッ

参謀「――っ!?」

参謀(なに? 今の固い感触は?)チラッ

メイドエルフ「……」ニッ

参謀「――なっ!?」

メイドエルフ「わたしが何故あんな話をしたか、理解出来ましたか?」

参謀「まさか、さっきまでバラバラに投げていたのは!」

メイドエルフ「そう。わたしは裁縫が大の得意。ですので縫い付けさせてただきました」

メイドエルフ「わたしのナイフで、あなたとあなたのナイフを繋いでいる糸を、床に」

メイドエルフ「対刃性に優れていて切ることは出来ない。でも柔軟性はあるから刃を食い込ませることは可能」

メイドエルフ「操る上では便利だったのでしょうけれども、今回はそれが仇となりましたね」

参謀「くっ……!」

メイドエルフ「しかも、あなたとナイフは糸で繋がっているから、あなた自身もそこから動くことが出来ない」

メイドエルフ「繋がっているのが一本や二本ならともかく、優に二桁を越えるナイフと繋がっていては、そうなるのも当然です」

参謀「……」

メイドエルフ「おかげであなたの言う通り、確かにこれが最後の一本ですが――これだけあれば十分です!」シュッ

――ドスッ

参謀「――がっ!」

メイドエルフ「……どうぞ、逝ってらっしゃいませ」ペコリ

参謀「……結局……こうなりました……か……」

メイドエルフ「え?」

参謀「……」ドサッ

メイドエルフ「最後の言葉は一体……まるで負けることが分かっていたみたい」

メイドエルフ「て、そんなことはいいわね。早くお嬢様たちを追わないと――」ズキッ

メイドエルフ「……その前に手当てが先ね」

メイドエルフ(手当てをしたらすぐに追い付きます。ですから皆さん、どうかご無事で!)

今回はここまでです。

タタタタタタッ

エルフ「あそこですわ!」

侍「正面の扉か」

国王「玉座の間か。そこか、あるいはその奥の部屋に敵の司令がいる、と」

エルフ「ええ」

侍「さっさと片付ける、と言いたいところだが」

親衛隊a「……」

国王「ま、さすがにそうはいかないよねやっぱり」

エルフ「気を付けて。親衛隊の練度は並ではありませんわよ」

国王「その並ではない兵士諸君がおよそ十人か。ちょっと時間がかかるかなこれは」

親衛隊a「舐めるなよ。時間などかけん。貴様らさえ討ち取れば我らの勝ちなのだ」

国王「あー、頭を潰せば勝ちってのは互いに同じだねそう言えば」

侍「今更そこに気付いたのかよ……」スッ

エルフ「侍さん? 何を――」

侍「お前たちは先に行け。この場は引き受ける」

エルフ「え!? でも!」

侍「メイドエルフも言っていただろ。こっちには時間が無いんだ」

エルフ「ですがだからと言って……」

侍「それに、お前たちには敵司令と因縁があるんだろ」

エルフ「え?」

国王「この子はともかく、僕にもかい」

侍「ここまで来て隠す必要はないだろ。以前そんなことをほのめかしていたしな」

国王「……そんなことまで覚えてるんだから、やっぱりたいしたもんだよ君は」

エルフ(そう言えば、あの尋問……というか拷問のときにそんなことを漏らしていたような)

侍「そういうわけだ。こっちはなんとかするから、そっちはそっちできちんとケリを着けてこい」

国王「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうことにしようか」

親衛隊b「何の相談か知らんが、ここは何人たりとも通さんぞ」

侍「そうか。ならば力付くで道を開けてもらう」ダッ

親衛隊a「させんぞ!」ダッ

侍「はっ!」ザンッ

親衛隊a「ぬわっ!?」ドサッ

親衛隊b「おのれ!」ブンッ

侍「遅い!」サッ ザシュッ

親衛隊b「ぐお!?」ヨロッ

侍「今だ! 行け!」

国王「はいよー」ダッ

エルフ「ちょっと!」ダッ

親衛隊c「くそ、行かせるな!」

侍「行かせないのはこっちだよ!」ギン

親衛隊c「く、貴様!」グググ

エルフ「……侍さん、気を付けて」

国王「彼なら平気でしょ。ヒーローは遅れてやってくるものだしね」

国王「それに、心配すべきはむしろ僕たち自身さ……」

エルフ「どういうことですの?」

国王「あえて言っておくよ。はっきり、僕は侍くんより強い」

エルフ「は?」

国王「『なに寝惚けたことほざいてんだこのオヤジ』みたいな顔してるけど、事実だよ。侍くんに聞いてもあっさり認めるんじゃないかな。彼潔いし」

エルフ「……」

国王「だから気を付けてね。これから闘う司令は、僕よりもたぶん強いから」

エルフ「え?」

国王「さ、到着だ」

エルフ「玉座の間……」

国王「……居るね」

エルフ「わたくしにもわかりましたわ。扉の中から漏れてくるこの殺気……」

国王「さて。それじゃ、互いの因縁に決着を着けにいきますか」ギギギギギィ

玉座の間

司令「来たか」

エルフ「司令……!」

国王「相変わらず短気な方だ。その無駄なネガティブエネルギー、もっと前向きなことに利用した方が有意義じゃないですかね」

司令「ふん。貴様こそ変わらんな、そのヘラヘラとした態度は」

エルフ(やっぱり、知り合い?)

司令「しかし、よもや貴様がその面を見せに来ようとはな。混血」

エルフ「……何故陛下を殺めましたの?」

司令「ふん、精霊から聞いたか。決まっている。人間を排除するためには、あの男が邪魔だったからだ」

エルフ「あなたは……!」

国王「あなたの人間嫌いは筋金入りですねー。何か恨みでも?」

司令「あるさ。少なくとも貴様にはな」

国王「それはあなたの単なる我が儘だと思うんですがね」

司令「何を抜かすか! 妹をたぶらかし、挙句貴様の汚れた血が混じった混血を孕ませた! これを恨まずして何を恨む!」

エルフ(……ああ、そういうことね)

国王「そこまで嫌われると、いっそ清々しいですねー。じゃあ僕も言わせてもらいますけど」

国王「僕もあなたが嫌いですよ」スラリ

エルフ「……」チャキ

国王「彼女はね、あなたの、いや、エルフ族のそんな偏った思想に辟易して家を、国を飛び出したんだ」

国王「わかってやれとは言わないまでも、この子らのことを聞く限り、ちょっと扱いが酷すぎやしないですかね」

エルフ「わたくしだけではありません。司令……いえ、あえてこう呼ばせていただきます。おじ様」

司令「……」

エルフ「わたくしを徹底的に目の敵にするのはまだ構いません。ですが十年前のあの日、あなたは……あなたは!」

司令「妹を……貴様の母を殺そうとした、か?」

エルフ「……っ」キッ

国王「……それは本当かい?」

エルフ「事実です。あの日、彼は意見が対立し続けるお母様についに激怒し、切り付けたのです」

国王「じゃあ、彼女の片足が悪くなっていたのは」

エルフ「そのときの傷が元ですわ」

国王「……」

エルフ「幸か不幸か、わたくしは居合わせませんでしたが、メイドエルフは目の前でお母様が斬られる瞬間を見ています」

国王「あの子が投げナイフを始めたきっかけがそれか」

エルフ「ええ。もう二度と目の前でお母様やわたくしを傷付けさせはしないと言って」

国王「そっか……」

司令「思い出話なら後にしろ」

エルフ「……」

国王「……」

司令「そんな話をするためにわざわざ来たわけではあるまい。こちらもそのために待っていたわけではない」

司令「貴様らが選べる道はない。ただ死、あるのみだ」スラ スラ

エルフ(二刀流……)

国王「そうだね。じゃああと一つだけ、自分のことは棚に上げて言わせてもらってから始めよう」

国王「……惚れた女と愛娘を散々傷付けてくれた恨み、ここで晴らさせてもらいますよ」

エルフ「こればかりは他人のためではない。ただわたくしとお母様があなたから受けた痛み、倍にしてお返しいたしますわ!」

司令「やれるものならやってみるがいい!」ダッ

エルフ(速い!)

司令「ぬあああっ!」ブンブン

国王「っ!」ギギンッ

司令「まだまだ――」バッ

エルフ「させません!」ダッ

国王「迂濶に踏み込むな!」

司令「遅いわ!」ブォンッ

――ギィンッ

エルフ「くぅっ!」

エルフ(切り返しが速い上に重い! この重さ、本当に侍さん以上……!)

司令「貴様は後で相手をしてやる。まずはこいつからだ!」

国王「せっかくのご指名だけど、数的有利は利用させてもらうよ。エルフ!」

エルフ「呼び捨てで呼ばないで下さい!」ダッ

国王「厳しいなぁ。けど!」ダッ

司令「……ちっ」

国王(やはりだ。実力で勝るにしても、二人同時は面倒らしい)

国王「はっ!」ブンッ

エルフ「やぁっ!」ブンッ

司令「ふん」ギン ギン

エルフ「っ」グググ

国王「……」グググ

司令「ぬるい!」ギィィィン

エルフ「きゃあっ!」

国王「くっ……!」

国王(とはいえ、両手持ち二人相手にそれぞれ片手で防ぐとは。腕の方はやはり衰えていないな)

司令「その程度で挑もうなど笑止!」ダッ

エルフ「!」チャキ

国王「行かせないさ!」ダッ

司令「どけい!」ブン

ギィィンッ

国王「うお!?」

司令「ああああ!」ブンブン

ギンギィンッ

エルフ「くぅっ!」ギギギギ

エルフ(まずい、鍔競り合いになったら……!)

司令「どうした、なんだその軟弱さは?」グググググ

エルフ(押し込まれる!)グググググ

国王「ちっ!」ダッ

司令「ふん」ドスッ

エルフ「かはっ!?」ガクッ

国王(蹴り!? しまった、誘われた!)

司令「はっ!」ブォン

国王「ぐっ!?」ギガンッ

国王(まずい、剣を!)

――ヒュンヒュンヒュン ザクッ

司令「もらった!」

エルフ「――はあああああっ!」ブンッ

司令「ええい、しつこいわ雑魚が!」ブンブン

――キィンッ

エルフ「――!」ヨロッ

司令「ふん!」ブン

ギガンッ カシャン

エルフ(くっ、あたしまで剣を……!)

司令「そんなに死にたいのなら良かろう。まずは貴様から殺してやる」バッ

国王「……そううまくはいかないと思うけどねぇ」

司令「減らず口を。混血を仕留めたら次は貴様だ」

エルフ「っ」ギュッ

司令「死ね!」ブオンッ

――ギィィィンッ

司令「ぬぅっ!?」グググ

エルフ「……あ」

声「なんか、前にもあったなこんな事」

国王「言った通りだね。ヒーローは遅れてやってくるものだって」

司令「貴様は……!」グググ

侍「侍だ。義によってその二人に助太刀しにきた」

今回はここまでです。終わりが見えてきたせいかちょっと勇み足だったかも……。

司令「いつぞや迷いこんできた人間か。貴様に用などない。さっさと死ね」グググ

侍「こっちにはあるんだよ。少なくとも二人が勝つか退くかするまではな」グググ

司令「その選択肢は間違いだ。貴様もそこの二人も――まとめて殺す!」ギン

侍「ぐっ!」ズザザザッ

エルフ「侍さん!」

侍(一息で押し返された? 相当鍛えてやがる)

司令「死ね」ダッ

侍「そう簡単に!」ダッ

――キン ギン ギン

国王「今のうちに、と」ダッ

エルフ「あ、ちょっと、どこに――」

国王「そら、受け取って!」ブンッ

ヒュンヒュンヒュン

エルフ「え、ちょっ、待っ!?」

ガキンッ

エルフ「きゃっ! あ、危ないじゃないですの! しかもこれあなたの剣じゃ――」

国王「いや。そいつは出陣前に、君用に打たせたものだよ」

エルフ「え?」

国王「そして今まで君が使っていた剣は、元々は僕のものだったというのは前に説明した通りさ」ガシッ

国王「それに、どっちの剣がどっちのだ、なんて言ってる余裕はもうない。侍くんも一人ではそろそろ限界だ」

――ギィンッ

侍「くっ!」

エルフ「侍さん!」

司令「やはり弱い」

侍「ちっ。これまでたくさんの猛者と闘ってきたが、こいつは飛びきりだな」

国王「時間稼ぎありがとう。ここからは僕も参加するよ」

侍「多勢に無勢は好ましくない、なんて言ってる余裕はないか。頼む」

エルフ「わ、わたくしも!」ガシッ

エルフ(! この剣、軽い。それに柄を握る感じもしっくりくる)

司令「良かろう。どうせ全員死ぬのだ。まとめてかかってきてくれた方が手間が省けるというもの」

国王(とか言ってるけど、さすがに三対一じゃ不利なのは承知しているはず)

侍(となれば、まず速攻で一人潰すために動く)

国王(その場合真っ先に狙われるのは――)

司令「さあ、行くぞ!」ダッ

エルフ「っ!」チャキ

国王「当然、この中では一番劣るあの子だよね」

侍「ああ。だが――」

司令「はあっ!」ブン

エルフ「くっ!」バッ

スカッ

司令「!?」

エルフ(かわせた?)

侍(己に合う得物に持ち変えたことで、わずかだが構えや体捌きが自然になった)

国王(結果、これまで回避しきれなかった攻撃を紙一重ではあるが回避できるようになったわけだ)

司令「ぬあああっ!」ブンブン

エルフ「――やあっ!」

キンギン

司令「ぬぅ……!」

侍(取扱いやすくなったことで、敵の攻撃も受け長しやすくなったか)

国王(とくれば、あとは)

侍・国王「挟撃あるのみ!」ダッ

司令「ちぃっ!」バッ

エルフ「……はっ!」ダッ

侍(すぐに追わず、俺たちに呼吸を合わせたか)

国王(侍くんが来たことに加えて本来の実力を発揮できるようになったことで、思考が冷静になっているね。これなら、勝てる)

国王「はっ!」ブン

侍「おおおお!」シャン

エルフ「やあああっ!」シュッ

ギンギン――ザシュッ

司令「ぬおっ!」

エルフ(当たった……けど)

侍「あの挟撃を受けてなお直撃を免れた……!」

国王「普通なら今ので終わってるところなんだけどなぁ。やっぱり一筋縄じゃいかないか」

司令「……自分の血を見たのは久しぶりだ」

国王「ま、あなたならそうでしょうね」

司令「いいだろう。人間相手に癪だが……本気で行く」ブン カシャン

エルフ(剣を片方捨てた?)

司令「ふん!」ダッ

エルフ「侍さん!」

侍「っ」バッ

――ガキンッ

侍「ぐっ!?」

侍(なんて重さだ……!)

司令「ぬああああっ!」グググググ

侍「ちぃっ!」グググ

侍(駄目だ、このままでは押し斬られる!)

エルフ「侍さん!」ダッ

司令「見え見えだ!」

シャー

侍「!」

エルフ「なっ!」

国王(侍くんの刀の刃で剣を滑らせた!? いかん!)ダッ

司令「ふん!」ブゥン

ザシュッ

エルフ「うあっ!」ブシュッ

侍「エルフ! 貴様!」バッ

国王「駄目だ! その距離で大振りは!」

司令「迂濶なんだよ!」

ザンッ

侍「っ!?」ブシュッ

国王「侍くん!」

司令「貴様もだ!」ブン

国王「くっ!」ブン

ギン キン ギン

司令「ふ、さすがに慎重だな。だが」チャキッ

国王(まずいな。二人とも急所は避けてるし、致命傷ではないけど、もう戦力としては半分以下か……)





侍「くっ……エルフ、動けるか……?」ヨロッ

エルフ「なんとか……けど」フラッ

――ボタ ボタ

侍(まずい。俺もエルフも一撃で深くまで決められた)

エルフ(これじゃあ動くことは出来ても、戦闘なんてとても……)

――ガキンッ

国王「うおっと!」ズザザザ

司令「どうした。それで終わりか」

侍「……エルフ!」ダッ

エルフ「はい!」ダッ

司令「遅いわ!」ブゥンッ

ギン ギン

侍「ぐっ」ドサッ

エルフ「きゃあっ!」ドサッ

国王「二人とも!」

司令「貴様も這いつくばれ!」ブォンッ

――ガィンッ!

国王「うおっ!?」ドサッ

司令「ふん」

侍(強い……!)

エルフ(まさか、三人がかりでも倒せないなんて……!)

国王(これは、ちょっと勝負を焦ったかな……)

司令「想像以上にはてこずらせてくれたが、それもここまで」

侍(三人とも撤退は……無理だな)

エルフ(ならせめて)

侍「あんたは退け。時間は稼ぐ」

国王「おいおい。よりにもよって君がなんてことを」

エルフ「すみませんが、わたくしも同じ意見ですわ」

侍「あんたならわかるだろ。この状況じゃ、どう転んでも勝ちは無い」

エルフ「けどわたくしたちが死んでも、あなたが生き残れば次がありますのよ」

司令「当然の判断だが、それをみすみす許すと思うか」

侍「許させるさ」

エルフ「だからといって、地に頭を付けたりなんか絶対いたしませんわよ」

侍「とにかくそういうわけだ。あんたは早く――」

国王「んー、断る」

侍「……あんたな」

エルフ「そんな軽く……!」

国王「だってさ。娘と将来義理の息子になるかもしれない男にそんなこと言われちゃ、父親としては意地でも残らなきゃ格好が悪いでしょ」

エルフ「ちょ、ちょっと! こんなときに何を!」カァッ

国王「こんなときだからだよ。それに、まだ手がないわけじゃない」

エルフ「え?」

侍「なに?」

司令「ふん。そのようなはったりが――」

国王「エルフ。部屋を見回してごらん」

エルフ「部屋を? あ……!」

司令(む?)チラッ

司令「なっ!?」

侍「なんだ?」

国王「ほらね」

侍「何が」

国王「わからない? 人間には見えないけど、彼女らには見える存在」

侍「精霊か? だが、なぜ今精霊が」

エルフ(なに? 精霊の一部があたしの回りに)

国王「前に聞いたことがある。精霊ってやつは普段は気分屋だけど温厚だ」

国王「だが、彼らに害を及ぼすもの、あるいは既に及ぼしたものには必ず報復する執念深い一面もある、と」

侍「……つまり、今ここに精霊が集っているのは」

国王「森を、彼らの住みかを焼いた者への報復のため」

――キイイイイイイイイ!!

司令「ぐおおおおっ!?」ガクッ

侍「なんだ!? 耳を押さえてうずくまったぞ」

エルフ「精霊のいななき」

侍「いななき?」

エルフ「精霊が集団で奇声を発し、相手を威嚇する行動ですわ。エルフ族や動物にしか効きませんが」

侍「お前は平気なのか?」

エルフ「ええ。一部の精霊が守ってくれていますから」

侍「なるほど。しかしてその効果の程が」

国王「あの有り様さ」

キイイイイイイイ!!

司令「ぐぅ、耳が! 耳がぁ!」

侍「しかし、エルフならともかく何故あんたが精霊のことに気付いたんだ?」

エルフ「そうですわ。しかもあんなタイミングで。わたくしだって言われるまで気付きませんでしたのに」

国王「ん? んー、実は僕見える人だから」

侍「は?」

国王「だから、精霊が見えるんだよね。僕」

エルフ「そんな精霊を幽霊みたいに……いえそれはいいとして、どういうことですの? 人間には見えないはずですわ」

侍「事実俺には見えていない」

国王「や、僕も始めっから見えてたわけじゃないよ? 見えるようになったのは、娘が出来るきっかけの後からかな」

エルフ「きっか……け……って、ちょっとあなた!」

侍「……ああ、そういう」

エルフ「マジマジと納得しないでいただけます!? 不潔極まりないですわ!」

国王「それはともかく……とどめ、刺すかい?」

エルフ「……!」

国王「今なら楽に決められる。僕が君のお母さんと離れざるを得なかったのは司令の徹底的な妨害があったからだから、斬りたい気持ちは強い」

国王「けど、それ以上に君にも思うところがあるだろう?」

エルフ「……」チラッ

侍「お前が決めろ。自分で斬るか、国王に任せるかな」

エルフ「……」

司令「ぐううううう……おのれえええええ!!」ダッ

侍「突っ込んできた!?」

国王「ある意味賢明な判断ではあるけど。さて」

エルフ「!」ダッ

侍(真っ向から行ったか)

国王(互いに消耗しての一撃。となれば、勝負を決するのは――)

司令「ぬあああああっ!」ブゥンッ

エルフ「――はぁっ!」ブン

――ザンッ

国王「一撃への集中力」

司令「がはっ……!?」ドサッ

エルフ「……つぅ」ガクッ

侍「エルフ!」ダッ

エルフ「だ、大丈夫ですわ。斬られたわけではありませんから」

侍「いや、一回食らってるだろ! 平気か?」

国王「それは君も同じでしょ。二人とも軽いケガじゃないんだから、あんまり無茶しない」

侍「なんだかんだ言って、あんたは無傷だな」

国王「あんまり役にも立てなかったけどね。ま、話は後にして、今は戻ろう。勝敗は決したんだし」

エルフ「そうですわね」ヨロッ

侍「ほら、掴まれ」

エルフ「あ、ありがとうございます……」ガシッ

司令(……) ピクッ

国王「平気かい? その体で人一人支えるのは」

侍「こいつは軽いから無理ではない」

エルフ「も、もう立ち上がれたから平気ですわ」

侍「無理するな。最後の一撃で、だいぶ神経刷り減らしただろ」

エルフ「それはそうですが――」

――ニゲテ!

エルフ「え?」

国王「二人とも後ろだ!」

侍・エルフ「!」

司令「ぬおおおおおお!!」バッ

侍「ちっ!」バッ

エルフ「侍さ――」

――シュッ ドスッ

司令「かっ……」

侍「!」

国王「ナイフ……てことは」

エルフ「おいしいところを持っていきましたわね。ありがとう、メイドエルフ」

メイドエルフ「あの日に誓ったことを実行しただけです、お嬢様。皆様、ご無事で何よりでした」ペコリ

今回はここまでです。次でたぶんラストになります。

エピローグ
一ヶ月後

将軍「ぬおおっ!」

侍「はぁっ!」

――ギィンッ

エルフ「またやってますのね。あの二人」

メイドエルフ「この一月で28戦28引き分けですから。双方とも、意地でも1勝を得ようと日に日に激しくなってますね」

エルフ「それもあるんでしょうけど、勝ち負けよりも、ただ互いに闘いたくて闘かっているように見えますわ」

騎士「それも正解でしょうね」

メイドエルフ「あら、いつの間に」

騎士「お二人とも、猛者との戦が好きな手合いですから。純粋に楽しんでいるんだと思いますよ」

エルフ「わざわざ解説するために現れましたの?」

騎士「……やっぱり扱い酷いですね」

メイドエルフ「宿命だと思って諦めてください。で、本題は?」

騎士「陛下に、侍殿を呼んでくるよう命じられまして」

エルフ「侍さんを?」

騎士「はい。なんでも、彼の国から侍殿宛てに文が届いたとか」

王城 執務室

侍「……ふむ」

国王「ま、そういうわけらしいよ」

侍「そろそろ来る頃かとは思っていたがな」

国王「僕としては、このままうちに君をスカウトしたいところなんだけどねぇ」

侍「無茶言うな。俺の主君は故郷にいるんだ」

国王「わかってるさ。言ってみただけだよ。で、いつ発つんだい?」

侍「ここから港まではどのくらいなんだ?」

国王「馬車を使えば半日かからないよ」

侍「ならもう少し余裕がある。あと二日は居られるだろう」

国王「それにしたって急な話だけどね」

侍「こればかりは仕方がないんだ。いつまでも国を離れているわけにもいかないからな」

国王「ごもっともで。ところで、あの話については考えてくれたかな?」

侍「……エルフのことか」

国王「そ。正式にあの子の母親を僕の妃として迎えた今、あとの心配はやっぱりあの子のことだからね」

侍「あいつも王女として迎えればいいだろ」

国王「それも考えてはいるよ。君が断った場合だけど」

侍「……」

国王「ただその場合、あの子が本当の意味で幸せになれるかは正直微妙だね。いろんなしがらみがついて回ることは間違いないし」

国王「何より、場合によっては政略の道具として扱わざるを得なくなることもある」

侍「王族故に、か……」

国王「あの子をそんな風に扱いたくないからね。これまで辛い目に合い続けてきたんだ。そろそろ人並の幸せを掴んでもいい頃でしょ」

侍「それは」

国王「もっとも、君には君の気持ちがあるからね。もちろん無理にとは言わないんだけど」

侍「……」

国王「ま、出発までに答えを出してくれればいいから。あの子にね」

侍「あいつの気持ちは――」

国王「今更確認するまでもないでしょうよ。君だってね」

侍「……」

国王「ま、さっきも言ったけど強制じゃあない。時間はあまりないけど、もう少し考えてみてよ」

夜 屋上

侍「……」

エルフ「あら。こんなところにいたの」

侍「ん? ああ、星を見ていた」

エルフ「星? あなたが?」

侍「似合わないか?」

エルフ「そういうわけじゃ。それより」

侍「ん?」

エルフ「あなたの国から文が届いたそうだけど」

侍「ああ」

エルフ「内容を聞いても?」

侍「……」

エルフ「あ、答えられないのなら別に――」

侍「帰国命令」

エルフ「……え?」

侍「そろそろ帰ってこいとさ。うちの殿様からな」

エルフ「い、いつまでに……」

侍「船旅が長くなるから、ここにいられるのはあと二日だ」

エルフ「二日……」

エルフ(そんな……たったそれだけなんて)

侍「殿からの命令だからな。無視することはできない」

エルフ「で、でも、いきなりあと二日だけなんて……」

侍「……ちょうどいい、か」ボソッ

エルフ「?」

侍「お前は、これからどう生きるつもりなんだ?」

エルフ「え?」

侍「この国の王と、正式に妃となった母君の娘なんだ。王女として生きる選択もあるだろう」

エルフ「それは考えられないわ。今まで騎士として生きてきたのに、そこからいきなり王女なんて言われても」

侍「ならどうする?」

エルフ「それは……人間の血が流れているとはいえ容姿はエルフ族だから、この国の騎士団に入っても浮くだろうし、まだ決めていないけど……」

侍「そうか」

エルフ「今はあたしのことよりあなたのことよ。二日なんかじゃゆっくり……お別れもできないし……せめてもう少し」

侍「それなんだがな」

エルフ「はい?」

侍「あれだ。その、良ければなんだが……お前も一緒に来ないか?」

エルフ「え?」

侍「エルフの国との戦の前に、国王から頼まれたことがあってな」

エルフ「頼まれたこと?」

侍「ああ。良ければお前のこと貰ってくれってな」

エルフ「………………は?」

侍「だけど、頼まれたとかそんなことは関係なく……ええと……ええいもう単刀直入に言うぞ! エルフ!」

エルフ「は、はい!?」

侍「嫁に来い!」

エルフ「よ、嫁!?」カァッ

王妃の部屋

エルフ母「あら、良かったじゃない。ちょっとムードは足りないけど、侍さんらしいと言えばらしいプロポーズだわ」

エルフ「それは、そうですけれど……」

エルフ母「あら、嬉しくないの? 彼のこと、好きなんでしょう?」

エルフ「……メイドエルフに聞きましたの?」カァッ

エルフ母「ばかね。そんなの、聞くまでもなくわかるわよ。普段のあなたを見ていればね」

エルフ(そんなに態度に出ているのかしら……)

エルフ母「でも、その割には本当にあんまり嬉しくなさそうね」

エルフ「いえ、嬉しいです。すごく。ただ」

エルフ母「急な話な上に、外の国で生きていくのが不安?」

エルフ「……はい」

エルフ母「なるほどね。それは無理もないかしら」

エルフ「わたくし――あたしだって、侍さんと一緒に生きたい。でも、そうするとお母様やメイドエルフとお別れすることになるし……」

エルフ母「確かに、会える機会はぐっと減るわね。でも、別に一生というわけでもないでしょ」

エルフ「そうなんですが……」

エルフ母「そうね……。私とあの人がどこで出会ったか教えてあげましょうか」

エルフ「え?」

エルフ母「私たちはね。この国でもエルフの国でもない。もっとずっと遠くの地で出会ったの」

エルフ「遠くの地で……」

エルフ母「そう。エルフ族の人間嫌いは昔から相当なものだったから。お転婆でよく国を抜け出しては人間の良い所も見ていた私には窮屈で仕方なかったの」

エルフ母「だからあなたと同じくらいの歳のときに、ついに家出してね。いろんな国を旅して回ったわ」

エルフ「そう言えば、あの人も放浪癖が酷いとか」

エルフ母「私には別に放浪癖はないけど。彼は当時から、というより、当時はもっとすごかったわね。何せ、私と出会ったのが極東の国だったのだから」

エルフ「極東……って、まさか!」

エルフ母「そう。侍さんの故郷よ。当時は鎖国していたけど、家のツテを勝手に利用して入国したの」

エルフ「侍さんの……」

エルフ母「あそこは本当に珍しい国でね。だから異国の者同士、すぐに意気投合したのよ。それが私とあの人の出会い」

エルフ母「その後一緒に旅をして、恋をして、そしてあなたを授かった」

エルフ母「その後は、あなたも知っての通りよ」

エルフ「そう、だったんだ」

エルフ母「今にして思えば、親子揃って極東の国とは縁があるのよね。私とあの人が出会い、そしてあなたがあの国の男性に恋をした」

エルフ「……」

エルフ母「まあ、色々話したけど、最終的に判断するのはあなたよ。だから参考までに、同じ女としてアドバイスしてあげる」

エルフ母「愛する人と離れ離れになるのは、辛いものよ」

エルフ「お母様……」



王妃の部屋前

メイドエルフ「……これは、忙しくなりそうだわ」

二日後 港

侍「長い間世話になった」

国王「礼を言うのはこっちの方さ。君がいなかったら、今こうして立っていることはできなかっただろうしね」

エルフ母「娘も、きっと最初の戦で命を落としていたでしょう。本当に、なんてお礼を言えばいいのか」

侍「いえ。自分がそうしたかっただけですので」

エルフ母「それでも言わせてください。本当にありがとうございます。そしてこれからも、娘をどうぞよろしくお願いします」

エルフ「お母様……」

侍「はい。若輩の身ではありすが、これからも必ず守り通してみせます」

国王「僕からもお願いするよ。で、孫ができたらぜひ見せに来てくれたまえ」

侍「はは。そのときはもちろん」

エルフ「……」カァッ

将軍「達者でな、侍よ。更に精進しろよ」

侍「ああ。30戦30分け。次に闘うときは、俺が勝ってそのまま勝ち逃げさせてもらう」

将軍「ふっ。むざむざ勝ちを譲る気は無いが、そうなったらそれもまた良し」

騎士「お二人とも、どうぞお元気で!」

侍「いたのか」

エルフ「いたんですのね」

騎士「はーいわかってましたー。最後までこうだってわかってましたー」

侍「ははは。冗談だよ。ありがとうな」

エルフ「ふふ。あなたもお元気で。お母様と……その、お父様のこと、よろしくお願いしますわ」

騎士「あ、はい! お任せを!」

国王「お。初めて父と呼んでくれたね」

エルフ「……最後くらいはちゃんとしますわよ。もうお母様を離したらいけませんわよ?」

国王「ああ、わかってる。元気でね、エルフ」

エルフ「ええ。お父様も」

エルフ母「エルフ。体に気を付けて。向こうでも侍さんと仲良くね」

エルフ「はい。お母様も、お父様と今度こそ幸せになってください」

エルフ母「ええ。ありがとう」

――ブオー

国王「お、そろそろ出港か」

エルフ「でも、まだメイドエルフが……あの子はまだ来ませんの?」

侍「少し遅れていくとは言っていたが」

エルフ母「大丈夫。船に乗ればわかるわ」

エルフ「え?」

国王「さ、船に乗りなよ」

侍「あ、ああ。それじゃあ、行こう。エルフ」

エルフ「え、ええ……」

侍「では、これにて御免。またいつか」

エルフ「お母様、お父様も。またね」

エルフ母「ええ。またね」

国王「達者でね。元気な赤ん坊を産むんだよ」

エルフ「もう、最後までそればっかり……でも、わかりました」

侍「それでは」

出港後 船上

エルフ「……船に乗ればわかるって……」

侍「なるほど。確かにわかった」

メイドエルフ「はい♪ わたしも一緒に着いていくことになりましたので、先に乗ってお待ちしておりました♪」

侍「母君に言われたのか?」

メイドエルフ「いいえ。わたし自ら申し出たんです。お城にメイドはたくさんいますけど、お嬢様の側には一人もいなくなりますから」

エルフ「ま、まあ、確かにあなたが一緒なら心強いけど」

メイドエルフ「二人きりになれなくてちょっと残念ですか?」

エルフ「べ、別にそんなことはありません!」カァッ

メイドエルフ「とにかくそういうことですので、お嬢様共々、よろしくお願いしますね。お侍様」ペコリ

侍「はは。ああ、よろしく頼む」

エルフ「そ、それではあたしも……」コホンッ

侍「ん?」

エルフ「今後とも、末永くよろしくお願いいたします。あなた」




―終―

以上です。
まさかこんなに長くなるとは思わなかった。
皆様、ご支援本当にありがとうございました。


他に何か書いてる?

サイドストーリーが欲しい所だが、とりあえずはお疲れ様。そしてありがとう。

>>614
他には何も書いてません。
>>616
一応後日談は考えてますが、まずは一休みします。


重ね重ね、皆様ご支援ありがとうございました。

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