八幡「いや、俺理系選択したんだけど」
雪ノ下「…………え?」
八幡「いや、だから文理選択、俺理系だっつの」
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雪ノ下「オレリ系? 新手の音楽ジャンルのことを言っているのかしら」
八幡「渋谷系とか、そういうのじゃねえよ……」
雪ノ下(おかしいわ……比企谷くんにはそもそも理系という選択は残されていないはずなのだけれど。これは何かの間違い……もしくは私をからかっている……? 私の反応を面白がっている? 目つきも底意地も悪ければ、やることなすことすべて卑劣、ということね。流石だわ比企谷くん)
雪ノ下「んんっ……、あなた数学が苦手だったはずだけれど? 理系を選択するということは、必然的にその壁が立ちはだかっているのよ? そんなことも分からないくらい頭のねじが外れているのかしら?」
八幡「いや、外れてないからね? むしろねじの大きさがあっていないことが問題だ。……だがお前の言う通り、俺は数学が苦手だ」
雪ノ下「だったら――」
八幡「今までの俺なら……な」
雪ノ下「……どういうことかしら」
八幡「俺はとりつかれちまったんだよ。……数学、ひいては理系科目という名の悪魔にな」
雪ノ下(なぜかしら、とても頭が痛い……。この男の言っている意味が理解できないと頭が叫んでいるのかしら)
八幡「ちなみに、何も理系というラビリンスに迷い込んだ子羊は俺だけじゃない」
(扉の開く音)
由比ヶ浜「サインコサインタンジェッはろー」
雪ノ下(ええ……ええ……。由比ヶ浜さん、それはちょっと無理があるのではないかしら……)
八幡「スイヘイリーベーボクヶ浜、よく来たな」
雪ノ下「ええ……。あ、あなたも何言ってるの……?」
由比ヶ浜「あ、シクロヘキサのんにヒッキー、やっはろー」
八幡「おいおい、由比ヶ浜。雪ノ下が有機化合物になっちまってるぞ」
雪ノ下「ええ……、ええ……」
雪ノ下(ちょっと、理解が追い付いていないのだけれど……)
八幡「まあ、こういうことだ」
由比ヶ浜「あたしも、理系でばりばり頑張るよ!」
雪ノ下(文系は、もしかして私一人ということになるのかしら……)
雪ノ下「あ、あの……」
八幡「どうした、文系ノ下。そうだな、俺たちとは別々の道になっちまうが、それでも奉仕部は変わんねえよ」
由比ヶ浜「ゆきのん、あたしたち離れててもずっと共有結合できるよね……?」
雪ノ下(……なぜ少し良い雰囲気で締めくくられようとしているのかしら。それにしても、文系ノ下という呼び名は無駄に頭に来るわね……。それに共有結合に関しては、何も言いたくないわ)
雪ノ下「ちょっと待ちなさい、あなたたち。特に、由比ヶ浜さん。あなたは他の友人も文系にするんじゃないのかしら?」
雪ノ下(由比ヶ浜さんの周りの友人はみな文系を目指すと言っていたわ。これは揺るがない。だとすれば、彼女は文系に変えてくれる可能性も……)
八幡「それは心配ないぞ、雪ノ下」
雪ノ下「え……?」
八幡「お前以外は、大体が理系だ」
雪ノ下「ええ……」
八幡「むしろお前くらいが文系なくらいだ」
由比ヶ浜「まるで孤立電子対だね」
雪ノ下「由比ヶ浜さん、あなたすごく楽しそうね……」
雪ノ下(なぜだろう、とても惨めな気分……)
八幡「そういうわけだ、雪ノ下。文系ではせいぜい頑張ってくれ」
由比ヶ浜「それじゃーねー」
雪ノ下「ま、待ちなさい。二人とも!」
(扉の開く音)
葉山「雪ノ下さん……俺は、俺だけは君の味方だ」
雪ノ下「葉山くん……」
八幡「ちなみに葉山は文系を選択しておきながら、理系の大学を受ける屑野郎だ。ちなみに周りには理系を選んだと吹聴している」
葉山「比企谷……、俺は君が嫌いだ」
由比ヶ浜「やっぱり、みんな理系だね!」
雪ノ下「…………」
雪ノ下(そう、みんな理系の道を行くというのね……。どうして私には一言も声をかけてくれなかったのかしら。……違う、私が一人で舞い上がっちゃっていただけのようね。また、誰かにすがろうとして……)
八幡「あー、雪ノ下。……まだもしかしたら文理選択間に合うかもしれんぞ」
雪ノ下「そうね、書き直してくるわ」
由比ヶ浜「決断はや!?」
国際教養科でありながら、雪ノ下雪乃は理系の道を進んだ。
しかし、その道は辛く険しいだろう。
負けるな、雪ノ下雪乃。フラスコを振るその日まで――。
――――
――
―
雪ノ下「……とても嫌な夢を見たわ」
その日、雪ノ下雪乃は文系の道を選んだ。
おわり。
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きれいな夢堕ち