今でも、時折夢に見ることがある。
人気のない小さな公園で、俺と一人の少女が話をしている光景を。
話の内容は覚えていない。それほどしょうもない話だったからかもしれないし、ただあの頃――つまり十年前の記憶を思い出すことを無意識に拒否しているのかもしれない。
何故か、その時に少女が見せた笑顔だけは忘れていなかった。
少女と過ごした時のことをはっきりと覚えていないのに、何故忘れていないのかはわからない。
だが、これだけははっきりと言える。
俺はその笑顔を、たとえどのようなことになったとしても忘れることはないと―――
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「―――郎―――なさい――士――」
眠気で頭がはっきりしない中、体が軽く揺さぶられるような感覚がする。まあ、思いのほかこの感覚も悪くはない。
起きようとは思ったが、このまま押し寄せてくる眠気に負けても――
「――早く起きないとガンドぶつけるわよ?」
「……ッ!!??」
が、その前に殺気が押し寄せてきたので本能的に身を起こす。すると、見慣れた人物が怒り気味な様子でこちらを睨んでいた。
――そういえば今日は遠坂が担当の日だった。怒っているに加えて朝に弱い遠坂が完全に起きているということは、もう結構な時間になっているのだろう。
「サンキューな。起こしてくれて。別に放置しておいてもよかったのに」
しかも結構遅い時間まで寝かせてくれていたということもありがたい。下手に早起きすると授業で寝てしまう可能性があるし。
「別にお礼はいいわ。私も起こすの忘れていたし」
――訂正。起こしてくれたことだけ感謝しよう。
「忘れてたにせよ、起こしてないことを思い出したんだろ?ならいいじゃないか」
服についていた砂を払い立ちあがる。
だが、心なしかいつもより暖かい気がする。……まあ、たまたま気温が高い日なのだろう。
「えっと……?今の時間は――」
置いていた小型の時計を確認すると、どういうことか時計の針が十二の数字を指していた。
――目を擦ってもう一度確認する。時間は変わらない。
「なあ、遠坂」
「…………なにかしら」
「今何時か教えてくれるか?」
「十二時だけど?」
「午前か午後どっちだ?
「…………午後のほう」
「……なんでさ」
こんな時間まで寝てしまっていたのは、俺の場合は魔術の鍛練で三時ぐらいに記憶が消えたような感じで寝てしまったのでまだわかるが、遠坂まで遅い時間に起きたのは全く意味がわからない。
とりあえず、やることは一つだ。
「俺のことはいいから早く学校に行け遠坂!俺は後から行く―――!」
「それくらいわかってるわ……はあ、優等生のイメージが……」
遠坂は溜め息を吐きながら土蔵から出て行く。学校で演じている優等生のイメージが軽く崩れてしまうのは自業自得なのでしょうがない。
「あ、朝食はちゃんと作って置いてあるから。どうせ同じ遅刻なんだから全部食べてから学校に行きなさいよ?」
「わかってるって」
軽く伸びをしながら返すと、遠坂は走って学校に向かって行った。
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