律子「Hello,Worker」 (22)
「次の方、どうぞー」
律子「はい! 秋月律子です! よろしくお願いします!」
「はい、お疲れ様でした。合否は後ほど連絡しますので、今日はおかえりください」
律子「ありがとうございました!」ペコッ
バタンッ
律子「…………ハァ」
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律子「ただいま戻りました」
小鳥「あ、律子さん。お疲れさまです。どうでしたか? オーディション」
律子「……多分ダメですね、アレは」
小鳥「そうですか……。まぁ、気を落とさずに頑張ってください」
律子「はい……。しかし、難しいですね。オーディションって」
小鳥「ふふっ。理詰めで攻める律子さんには、ちょっと難しいですか?」
律子「えぇ、計算みたいに明確な答えが無いわけですし。私の苦手な分野なのかも……」
小鳥「最初はそんなものですよ。律子さんには律子さんの魅力があるんですから、きっと大丈夫ですよ」
律子「褒めても何もでませんよ。それにしても私がアイドルになるなんて、考えてもいませんでした」
小鳥「ごめんなさいね。最初は事務員希望だったのに、無理やりアイドルにさせてしまって」
律子「本当ですよ。そんな事務所聞いたこともありませんよ」
小鳥「なんなら、今からでも事務員に転向されても……」
ガチャッ
P「ただいまー」
小鳥「あ、お帰りなさい。お茶、入ります?」
P「はい、お願いします。お、帰ってきてたのか律子。それで、今日のオーディション。どうだった?」
律子「あ~。ダメですね、アレは」
P「う~ん、そうか。律子はレッスンもちゃんとしたし、実力なら十分あると思うんだけどな~」
律子「だから、買い被りすぎですって。じゃあ、行ってきます」
P「ん? 何処に行くんだ?」
律子「オーディションですよ、オ・ー・ディ・ショ・ン。スケジュールに入れたのプロデューサーですよ?」
P「そうだったか? すまんすまん」
律子「もう、しっかりしてくださいよ。じゃあ、行ってきます」
バタンッ
小鳥「はい、お茶ですよ……。あれ? 律子さんは?」
P「もう行きましたよ」
「今回のオーディションの合格者は……」
律子「…………」ゴクリ
「3番と5番のお二方です。あ、呼ばれなかった人はそのまま帰っていいよ」
律子「……お疲れ様でした」
バタンッ
律子(これで今月4回目……。やっぱり私ってアイドル向いてないのかな~)
律子(スタイルもいいわけじゃないし歌が特別上手なわけじゃないし……)
律子(社長って私のどこに目をつけたんだろ? やっぱアイドル足りてなかったから数を稼ぐために……)
「あ、あの! すみません!」
律子「はい?」クルッ
「律子さん! 秋月律子さんですよね!」
律子「はいそうですけど……。! あなた確か先月オーディションで一緒だった……」
「はい! その時は落ちちゃったんですけど、さっきのオーディションで初めて合格できたんです!」
律子「本当? 良かったじゃない」
「はい! それで、お礼を言いたいと思って」
律子「お礼?」
「前のオーディションが終わった後、律子さんすごく熱心に私にアドバイスしてくれたじゃないですか」
律子「……あぁ、そういえばそんなこともあったわね」
「そのアドバイスを元に1ヶ月間レッスンして、それでオーディションに挑んで。私、初めて合格できたんです」
「今日、私が合格できたのは紛れもなく律子さんのおかげです。ありがとうございました!」ペコッ
律子「や、やめてよ。別に私は何もしてないし、オーディションに合格できたのはあなたの実力よ?」
「いえ、私一人じゃ絶対できませんでした。律子さんのお陰です!」
「私、律子さんってきっと凄いアイドルになると思うんです。握手、いいですか?」スッ
律子「ちょ、ちょっと……」
ガシッ
「私、実はあのオーディションで落ちたらアイドル辞めようって思ってたんです」ブンブン
「でも、あの時律子さんがいてくれたから……。もうちょっとだけ、あとちょっとだけ、アイドル続けてもいいかなって気になったんです」
「だから……今、私がここにいられるのも、律子さんのおかげなんです。ありがとうございます!」
律子「そう……。頑張ったのね」
「……はい!」
律子「でも、まだまだこれからよ! アンタはトップアイドルへ続く階段を一段登っただけなんだからね。気を抜いちゃダメよ!」
「はい! 私、まだまだ頑張ります! では、お疲れさまでした!」
律子「お疲れ、ゆっくり休みなさいよ」
ガチャッ
律子「戻りました」
P「おかえり、律子。どうだった?」
律子「ダメでした」
P「そうか……。残念だったな」
律子「別に、もう慣れっこですよ。これくらい」
P「……なぁ、律子」
律子「なんですか?」
P「少し休むか?」
律子「? どうしてですか?」
P「律子はアイドル業とかけもちで事務所の事務もしてるだろ? ちょっと負担がかかりすぎてるのかなって思って」
律子「そんなに疲れて見えますか? 私」
P「いや、全然。でも律子は自分の弱いところを隠す性格だからな。もしかしたらと思って」
律子「心遣いありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですよ。他の子と比べてもランクも低いんですから」
P「しかしなぁ……」
律子「それに、今にも潰れそうなこの事務所の状態で今私が休んだらどうなる思ってるんですか?」
P「それは……」
律子「……話すにしてももうちょっと考えてから言ってください。じゃ、レッスン行ってきます」
P「レッスン? 今日はもう何も入れてないはずだけど……」
律子「自主練ですよ。私にはまだまだ実力が足りてないみたいですからね。お疲れさまでした」
バタンッ
P「…………」
数日後
律子「…………」フゥ~
小鳥「どうしたんですか? ため息なんて珍しいですね」
律子「あぁ、いえ大したことじゃないんですけど……」
小鳥「なんですか? 気になります」
律子「……これです。前に受けたオーディションの結果なんですけど」
小鳥「珍しいですね。結果が送られてくるなんて。普通その場で発表されるんじゃないんですか?」
律子「最近はじっくり選考するのがトレンドらしいですから、そんなに珍しいことでもないですよ」
小鳥「そうなんですか。それで、結果は……?」
律子「不合格です。まぁわかってたことですし、そんなにショックでもないですよ」
小鳥「そうですか……」
律子「最初から期待なんてしてません。こういうのは数です。50個受けて1個でも受かればいいんですよ」
小鳥「ふふっ、律子さんらしいですね。頑張ってくださいね!」
律子「はい、じゃあ行ってきます」
ギィ
バタンッ
律子「……ハァ」
パンッ! パンッ!
真「……せーっの」
亜美「あずさおねーちゃん! おめでとう!」
P「おめでとうございます! あずささん!」
律子「Cランクだなんてすごいじゃないですか! これで事務所もちょっとは楽になるかも……」
伊織「まさかアンタがウチのCランクアイドル一号になるなんてね」
あずさ「私も思ってもいなかったわ~。うふふ」
伊織「ま、私がすぐに追い抜いてあげるから安心しなさいよね。にひひっ」
亜美「えー、それではCランクアイドルになったあずさお姉ちゃんに、その秘訣をお聞きしたいと思います」
真「あ、それはボクも聞きたいかも。やっぱりその大人の魅力ですか?」
あずさ「う~ん。秘訣……というわけじゃないんだけど、やっぱりプロデューサーさんがいたからかしらね」
亜美「お~っと、なんとここで突然の愛の告白だ~! 兄ちゃんはどう答える~?」
P「おいおい……」
あずさ「ふふっ、でもねプロデューサーさんとは別にあと一人。私の助けになってくれた人がいたの」
真「あと一人、ですか?」
伊織「誰なの?」
あずさ「それはね……律子さん」
律子「……え? 私ですか?」
あずさ「はい。律子さんがいたから私、ここまでこれたんですよ」
律子「いえ、私なんて……」
亜美「ふむふむ、勝利の秘訣はりっちゃんであったか」
伊織「ま、確かに律子の鬼みたいな指導をされてれば嫌でも成長するわよね」
真「体力的なものじゃなくて精神的にもクルからね、あれは……」
P「そんなにキツイのか?」
亜美「兄ちゃんだったら5分持たないね」
律子「アンタ達……いい加減にしなさいよね」
律子「やめてくださいよ。あずささんが努力した結果ですよ。別に私のおかげなんかじゃ……」
小鳥「さぁ、社長。それでは乾杯の音頭を!」
社長「む? 私がかね?」
小鳥「……ここで何もしなかったら、いよいよ社長がいる意味がなくなっちゃいますよ」ボソッ
社長「そ、そうかね? では……おっほん!」
社長「三浦くん、アイドルランク昇格おめでとう! 他のみんなもこの調子で頑張ってくれたまえ。それでは、乾杯!」
「「「かんぱ~い!!」」」
**********************
亜美「そんじゃ、帰るねー」
律子「お疲れ、亜美。明日は仕事無いんだからしっかり休みなさいよね」
真「それは律子もだよ。最近事務作業も忙しそうだし、しっかり休んでよね。今日もまだあるんでしょ?」
律子「大丈夫よ。これくらいすぐに終わるわ」
あずさ「すみません。私も少しくらい手伝えたらいいんですけど~」
律子「その気持ちだけで十分です。真、下にタクシー来てるみたいよ」
真「あぁ、ありがと、律子。じゃあ、お疲れ」
亜美「おっつー!」
あずさ「今日は、ありがとうございました」
バタンッ
律子「……よし、じゃあさっさと仕上げちゃいますか!」
**********************
亜美「そんじゃ、帰るねー」
律子「お疲れ、亜美。明日は仕事無いんだからしっかり休みなさいよね」
真「それは律子もだよ。最近事務作業も忙しそうだし、しっかり休んでよね。今日もまだあるんでしょ?」
律子「大丈夫よ。これくらいすぐに終わるわ」
あずさ「すみません。私も少しくらい手伝えたらいいんですけど~」
律子「その気持ちだけで十分です。真、下にタクシー来てるみたいよ」
真「あぁ、ありがと、律子。じゃあ、お疲れ」
亜美「おっつー!」
あずさ「今日は、ありがとうございました」
バタンッ
律子「……よし、じゃあさっさと仕上げちゃいますか!」
律子「…………」カタカタ
律子(……ふぅ。あずささんのランクも上がったし、今月はちょっとは楽かも。他のみんなも頑張ってくれてるし)カタカタ
律子(それにしてもCランクなんて凄いなぁ……。私にはまだまだ先かな)カタカタ
律子(まずはオーディションに受からないとね。そのためにはレッスンをして、営業もして、それから……)カタカタ
律子(それから……)ピタッ
律子(…………何してんだろ。わたし)
律子(社長に上手いように言いくるめられてアイドルになって、でもその割には全然売れなくて……)
律子(両親なんとか説得してまで大学も行かなかったのになぁ……)
律子(……ほんと、何してんだろ。私)
小鳥「……律子さん? 律子さーん?」
律子「は、はい! こ、小鳥さん!? いつから?」
小鳥「さっきからですよ。もう、律子さん話しかけても全然返事してくれないんですもん」
律子「すいません……。少しボーっとしてました」
小鳥「大丈夫ですか?」
律子「これくらいなら、全然平気です」
小鳥「……そうですか」
律子「えぇ。今日の分もさっさと終わらせますよ」
小鳥「…………」
律子「…………」カタカタ
小鳥「……律子さん。ちょっといいですか?」
律子「? 追加の作業ですか?」
小鳥「いえ、ちょっとしたお礼です」
律子「お礼?」
小鳥「はい。律子さんいつも事務所のために頑張ってくれて、ありがとうございます」
律子「ど、どうしたんですか? いきなり」
小鳥「とりあえず聞いていてください。律子さんがいなかったら、今頃この事務所は潰れてたかもしれません。社長も経営には特に関心がないみたいなので……」
小鳥「そんなわけで、私は律子さんにとっても感謝してるんです」
律子「……それは、どうも」
小鳥「ここまでは同僚として、いつも頑張ってくれている律子さんへの感謝の言葉です。ここからは人生の先輩として言っておきたいの」
小鳥「私ね、いつも律子ちゃんを見てる時不安だったの。なんでかわかる?」
律子「……いえ」
小鳥「律子ちゃん、とっても苦しそうだった。私の偏見かもしれないけど、アイドルを続けていくのが苦痛そうだった」
小鳥「律子ちゃんって元々は事務員志望だったじゃない? その印象もあってそうみえたのかもしれないわ。だから今から言う言葉も余計なお世話かもしれない。でもね」
小鳥「……もっと自分がしたいことをしてみて」
律子「小鳥さん……」
小鳥「お話は以上です。戸締り、お願いしてもいいですか?」
律子「あ、はい……」
小鳥「じゃあ、お疲れ様でした。律子さん」
バタンッ
律子「……私がしたいこと」
律子「ほら亜美、次の仕事あるんだからゲーム止めなさい!」
亜美「えー、あと10分くらい大丈夫だよー」
律子「アンタこの前も同じこと言って遅刻しかけたじゃない。ほら、行くわよ」
亜美「ぶーっ、りっちゃんがプロデューサーになってから自由がないよー!」
律子「アンタは縛り付けられるくらいがちょうどいいの」
伊織「しかし律子がプロデューサーねー、未だに慣れないわ」
あずさ「いきなりでしたもんね。何か理由でもあるんですか~?」
律子「……いえ、これといって特には」
亜美「むむむ……。今の間、怪しいですな~」
律子「よけいな詮索はしなくていいの。伊織、あずささんと亜美を車まで乗せといて、はい鍵」
伊織「わかったわ。あずさ! 今日という今日はアンタをまっすぐ目的地まで連れて行くんだからね! 覚悟しなさい!」
あずさ「あらあら~」
亜美「いおりん。別にあずさお姉ちゃんも好きではぐれてるわけじゃないと思うYO……」
小鳥「律子さん。これ、今日の書類です」
律子「ありがとうございます」
小鳥「……どうですか? 最近の調子は」
律子「……正気、小鳥さんがいってた私の本当にやりたかったことはまだわかってません」
律子「プロデュース業がそうなのかもしれませんし、アイドルを続けていくことがやりたかったことだったのかもしれません。もしかすると一般企業のOLが私のやりたいことなのかもしれません」
律子「でも、今はプロデューサーとして頑張りたいと思ってます」
小鳥「そうですか……」
律子「あ、そういえばあの時小鳥さんと話した後、プロデューサーからメールが来たんですよ。けどその内容が……」スッ
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To :律子
From :P
件名 :質問
本文 :もし明日隕石が落ちて世界が終わるっていったら、お前どうする?
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小鳥「……なんですか? これ」
律子「さぁ? わかりません。でも、私このメールのおかげで気づけたんです。未来のことなんてそう簡単にわからないんだなって」
律子「私、これまでずっと先のことを考えて生きてきました。でも、そんなことしても意味なんてないんです。未来のことなんてわからないんですから」
律子「だから、今を大切にしようって思ったんです。今自分がやってて楽しい事をしようって」
小鳥「……今は楽しいですか?」
律子「……それもわかんないです。アイドルの方が楽しかったかもしれませんし、今の方が楽しいかもしれません。それもゆっくり見つけていきたいです」
小鳥「頑張ってくださいね」
律子「はい! それじゃあ、行ってきます」
小鳥「いってらっしゃい」
バタンッ
ガチャッ
P「おはようございまーす。……あれ? 律子は?」
小鳥「今出ましたよ。会いませんでした?」
P「エレベーター使ったからかな……。完全に入れ違いですね」
小鳥「何か急用ですか?」
P「そんなたいそうなものじゃないですよ。これですよ」スッ
小鳥「……心理テスト?」
P「はい、暇つぶしに買ったら中々面白くて。ま、こんなのオカルトだっていうのはわかってるんですけどねぇ。あ、小鳥さんもやります?」
小鳥「じゃあ、ちょっとだけなら」
P「そうこなくっちゃ。それにしても律子はなんでプロデューサーになったんですかね。アイドルとしての素質は充分だと思うんだけどなぁ……。小鳥さん何か聞いてませんか?」
小鳥「……いえ、何も」
P「そうですか……。お、これなんて良さそうだ。それじゃあ第一問です、小鳥さん。『もしも明日、隕石が落ちてきて世界が終わったらどうしますか?』」
小鳥「…………そうですね、私なら……」
おわり
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