625(りつこ)プロにアイドルを引き抜かれた (39)

P「残ったアイドルは……美希、貴音、響か」

P「フェアリーじゃねえか」

P「あれは961プロのユニットだから世間の目を考えるとトリオ運用は難しいな」

P「ソロ中心で活動していくしかないか」

P「目指せトップアイドル!打倒625プロ!借金返済!」

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P「オーディション、よかったぞ美希、あれならきっと合格だ」

美希「~♪もっとほめてよ、プロデューサー」

P「すごいぞ美希!さすがAランクアイドルだ」

美希「頭なでてほしいの」

P「よしよし」

美希「んっ……この後ふたりでレッスンだよね?」

P「いや、俺は貴音の営業につきあうからトレーナーとやってくれ」

美希「や!ミキはプロデューサーといっしょじゃないとまじめに練習できないの」

P「困ったな」

美希「プロデューサーが次の休日にデートしてくれるなら、大丈夫なの」

P「……いや、それは、できない」

美希「……わかった。わがまま言ってごめんね?トレーナーさんとちゃんと練習するから」

P「すまない、美希」

美希「ううん。小鳥のお見舞いでしょ?」

P「ああ……」

[病院]

P「音無さん、おひさしぶりです」

小鳥「……こんにちは、プロデューサーさん」

P「先週発売した響の新曲、すごい売れ行きですよ」

小鳥「『きゅんっ!ヴァンパイアガール』いい曲ですね」

P「もうしばらくは、何とかやっていけそうです」

小鳥「すみません、私はもう大丈夫なのに。仕事を押し付けちゃって」

P「入院するように言われたんですから、養生してください」

小鳥「うう……ごめんなさい」

P「今はゆっくり休んでくださいね。無理をされたら俺やアイドルたちは不安で仕事できなくなっちゃいますから」

小鳥「……はい」

P「……」

P「こないだのオールスターライブが最後にならないように」

P「だいぶ小規模になってしまったけど、今年も開催するつもりです」

P「まだまだ765プロはやれるってところを見せつければ、みんなも、ひょっとしたら」

P「今は立場も変わってしまったけれど、心はまだ離れてないって思うんです」

P「ライブのDVDは一番に音無さんへ渡しますよ」

P「いつも楽しみにしていましたよね、音無さん」

小鳥「ええ……今年も楽しみにしています」

P「今日のところはこれで失礼します」

小鳥「忙しいのに来てくれて、本当に嬉しいです。ありがとうございます」

P「はは、当然のことですよ」

小鳥「……」

小鳥「みんな、みんな優しくて、こんなに思いあっているのに」

小鳥「どうして離れ離れになってしまったんでしょう……」

千早「あっ」

P「千早」

P「千早も、お見舞いか?」

千早「はい、プロデューサー」

P「じゃあ、俺は行くから」

千早「待ってください、プロデューサー」

P「なんだ?よそのアイドルの活動に口出しはできないぞ」

千早「765プロのことです」

P「……もう、何度も話し合っただろ。765プロは倒産させない。これからも俺たちが守っていく」

千早「明らかに限界です!音無さんは倒れてしまったじゃないですか!」

P「きっともうすぐ回復する。今が一番苦しい時期なんだ。ここを乗り切れば、大丈夫だ」

千早「たった三人のアイドルであれほどの借金を返せるんですか。新しい事務員も雇っていませんね、そんな風で事務所の経理は大丈夫
なんですか」

P「音無さんが回復するまで、俺が代わりにやってるだけだ。人数も仕事も減ったし、貴音も手伝ってくれてる。問題ない」

千早「事務の仕事までやっているんですか!?道理で顔色も悪いと思いました、ろくに休んでないでしょう!それに、借金のことについ
て答えをもらっていません」

P「事務の仕事をしているのは今だけだ。借金については……きっと、社長が裏で頑張ってくれてる」

千早「社長は失踪したんですよ!多額の借金を残して!」

P「社長は765プロを捨てて逃げたりなんてしない!俺たちに話せない事情があるんだ!」

千早「現実を見てください、プロデューサー。このままではプロデューサーは倒れてしまいます。もしそうなったら、私は」

P「俺は社長を信じてる。それに、後戻りはできないんだ」

千早「625プロに来てください。みんなでいちからやりなおしましょう」

P「できない。じゃあな、千早。応援してるよ」

千早「……」

千早「……くっ…うぅ……ぐす、プロデューサー……」

P「つい、冷たくしてしまったな」

P「どうしよう……」

亜美「ドーン!!」

P「ぐはあっ」

亜美「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!亜美だよー!兄ちゃーん!」

P「呼んで……ない……」

亜美「あり、どしたの兄ちゃん。おなか痛いの?あっわかった!夏だからと言ってクーラーバリバリでおなか丸出しで昼寝したでしょ。
バカだなあ、兄ちゃんは」

P「お前の……いや、ちょうどいい、頼みがあるんだ」

亜美「なになに?亜美、兄ちゃんの頼みなら何でも聞いちゃうよ?あ、でも引き抜きはノープロブレムだかんね!」

P「ノーサンキューじゃないのか?まあ、いいや。……千早に冷たくして悪かったと伝言を頼みたい」

亜美「ふーん?兄ちゃん、千早お姉ちゃんになんかしたの」

P「まあ、とにかく頼むよ」

亜美「了解!んでんで兄ちゃん、せっかく偶然、バッタリ出会っちゃったんだからいっしょにあそぼーよ!」

P「え?千早と一緒にお見舞いに来たんじゃないのか?それで亜美だけ遅刻したのかと」

亜美「ぎくっ。な、なぜそれを知ってる」

P「病室で待ち合わせてるなら早く行った方がいいぞ。もう来てる」

亜美「い、いーんだよ!ピヨちゃんと千早お姉ちゃんにはいつでも会いに行けるけど、兄ちゃんは今やはぐれメタルなんだから!」

P「俺の方は休日だからかまわない。亜美に聞きたいこと、いろいろあるしな」

亜美「じゃ、決まり!えっと……話し合いならサテンでコーヒーでもどうかな?兄ちゃん君」

P「いや、まずは亜美の遊びにつきあうよ」

亜美「兄ちゃんは亜美の遊びにつきあうんじゃなくて、亜美と一緒に遊ぶんだよ?わかってないなー」

P「そうか……すまん、亜美」

亜美「謝る必要なんてないよ。じゃあ、ゲーセンに行こうよ!」

P「おう!」

亜美「兄ちゃんのおごりで!」

P「お?」

亜美「いやー楽しかったね、兄ちゃん!」

P「……そうだな」

亜美「次はカフェに行こう!兄ちゃんのおごりで!」

P「そうだな……」

[喫茶店]

亜美「うう…亜美は幸せだよ…夢にまで見たジャンボウルトラレインボーグランドマウンテンパフェ(一万円)が食べられるなんて」

P「スプーンひとつしか頼まなかったけど、一人で食べきれるのか?」

亜美「そんなわけないじゃん。はい、あーん」

P「ちょ、ちょっとまて」

亜美「なに?溶けちゃうから早く食べてよ」

P「こういうことをするのは問題がモガッ」

亜美「えいっとりゃっくらえっ」

P「モガッモガッモガッ……ごくん」

亜美「ん、甘くておいしーね、兄ちゃん!」

P「……よかったな」

亜美「そんで、話ってなーに?」

P「みんな元気にやってるか、聞きたくてな」

亜美「元気だよ……でも」

P「でも?」

亜美「兄ちゃんたちがいないのが、寂しい」

P「だったら、亜美、頼みがあるんだ」

亜美「だめだよ、兄ちゃん」

亜美「その頼みは、聞けない」

P「……わかった。残念だ」

亜美「兄ちゃんがこっちに来ればいいんだよ」

P「できない相談だ」

亜美「このままじゃ、どのみち倒産だって律っちゃんが言ってたよ」

P「俺たちが頑張れば、大丈夫だ」

亜美「無理だよ」

P「無理じゃない」

亜美「できないよ」

P「できる」

亜美「わかってないみたいだね……じゃあ勝負しようよ」

P「勝負?」

亜美「625プロと765プロで、フェス対決。負けた方が勝った方に吸収される」

P「……律子の作戦か」

亜美「うん。兄ちゃんの意思がどうしても動かないようならこの話を切り出すって言ってたんだ」

P「受けるよ、その勝負」

亜美「うん、兄ちゃんはそうするしかないもんね。ひと月後にはふさわしい舞台が用意されるってさ」

P「なあ、亜美」

亜美「なに、兄ちゃん」

P「亜美は、765プロがなくなってもいいと本当に思っているのか?」

亜美「亜美は……765プロの名前より、みんなと笑っていることの方が大事だと思う」

亜美「それに、もう765プロは致命傷を受けたんだよ。何をしたって無駄だって律っちゃんが言ってた」

P「そんなの、わからないだろ!」

亜美「もう、話は終わり!後は勝負で決着をつけるだけだよ」

P「……わかった。もういい」

亜美「久しぶりに兄ちゃんとデートができて、楽しかったよ」

亜美「今は敵同士だから、借りをつくるわけにはいかないよね。今日のお代、ここに置いとくから。じゃあね」

P「……くそっ」

P(俺はいったい、何をやってるんだ)

P(こんな風に仲間といがみ合う関係になりたかったわけじゃないのに)

雪歩「プロデューサー」

P「うわっ!?」

雪歩「うぅ…そんなにビックリしなくてもいいじゃないですかぁ」

P「す、すまん考え事をしながら歩いてたから」

雪歩「あの、その……プロデューサー」

P「例の勝負なら、受けたよ」

雪歩「違います。プロデューサーに、相談したいことがあるんです」

P「相談?雪歩のアイドルとしての活動は今律子が管理してるだろ。律子に頼むのが筋じゃないか?」

雪歩「どうしても、プロデューサーに相談したいんです。お願いします」

P「俺の方から断る理由はないよ。じゃあ、どこか喫茶店にでも」

雪歩「周りに人がいないところがいいです」

P「そんなおおげさな」

雪歩「たしか、ここからプロデューサーのお家が近かったはずですよね」

P「いやいくらなんでも」

雪歩「もうすぐ暗くなります。早く行きましょう」

P「」

[P宅]

雪歩「お茶です」

P「ありがとう、雪歩」

雪歩「私のプレゼント、大事に使ってくれてたんですね。嬉しいです」

P「ああ、雪歩の淹れてくれるお茶には及ばないけど、家でお茶を飲みたくなった時重宝してる」

雪歩「言ってくれればいつでもプロデューサーのためにお茶を淹れに来ますよ?」

P「ははは……」

雪歩「えへへ……」

P「さて、じゃあ雪歩の相談したいことってなんだ?」

雪歩「はい……」

P「……」

雪歩「ええと……お茶、冷めないうちにどうぞ」

P「……」

雪歩「その……や、やっぱり」

P「……」

雪歩「アイドルをやめようと思っているんです」

P「ブバアッ」

雪歩「きゃあっ」

P「ど、どういうつもりだ雪歩!トップアイドルになりたいんじゃなかったのか!」

雪歩「私……625プロに移ってから、ダメダメになっちゃって。みんなの足を引っ張るくらいなら、やめた方がいいと思うんです」

P「そんな……雪歩はやっと自信のなさを克服してAランクアイドルになったところだったじゃないか。今雪歩が625プロの足を引っ張って
るなんてことありえない」

雪歩「私は弱いままです。プロデューサーがいてくれたから、支えてくれたから、今の場所に立つことができました」

雪歩「私、プロデューサーがそばにいてくれないと何もできないんです。だから」

雪歩「だからプロデューサーのそばにいさせてください!お茶くみも、掃除も事務作業も、なんでもやります!」

P「つまり……765プロのアイドルになってくれるのか!?」

雪歩「い、いえアイドルは……その……け、ケッコンが、その」

P「け?なんだ?」

雪歩「なんでもないですぅ!」

P「なんでもないならいいが……というより雪歩は勝負のこと知らないのか?」

雪歩「勝負?」

P「ひと月後に開催されるフェスで、765プロと625プロが戦うんだ。勝った方が負けた方を吸収する」

雪歩「……知りませんでした」

P「どちらが勝つにせよ、俺がまた雪歩をプロデュースすることになるだろう」

P「雪歩がここでアイドルを引退するのはとてももったいないことだ。少しだけ、待ってくれないか」

雪歩「はい……プロデューサーがそう言うなら」

P「遅くなっちゃったな、タクシーを呼ぼう」

雪歩「ま、待ってください」

P「なんだ?」

雪歩「服が……汚れちゃいました」

P「あ、すまん。クリーニング代出すよ」

雪歩「すぐにしみ抜きをしないといけません」

P「早く帰らないといけないな」

雪歩「私は服をこれ以外もっていません」

P「そうなのか」

雪歩「泊めてください」

P「」

P「昨夜はいろいろなことがあったな……」

雪歩「お茶です。プロデューサー」

P「ありがとう。今日はお互い仕事だな」

雪歩「はい」

P「俺はそろそろでないといけないんだけど」

雪歩「はい」

P「雪歩は?」

雪歩「留守を守ります」

P「違うだろ!」

雪歩「えへへ……冗談です。お邪魔しました」

P「がんばれよ」

雪歩「……プロデューサーも、頑張ってください」

P「ああ、ありがとう雪歩」

[765プロ]

P「おはよう、響」

響「はいさーい!プロデューサー!今日も……ん?」

P「どうした?」

響「雪歩のにおいがするぞ……」

P「気のせいだ響」

響「朝からこの強さのにおいがつくということは昨日の夜から同じベッドで……」

P「誤解だ、響!」

響「ゆ、雪歩と……うぎゃー!!」ダッ

P「待て響!」

貴音「おはようございま……きゃあっ」ドシーン

P「ほら響、いきなり駆け出したら危ないだろ」

響「きゅう~」

貴音「何があったのですか?」

P「いや、今朝雪歩と通勤中に話をしたときににおいがついたようでな」

P「それで響に俺と雪歩が同衾したと勘違いされたらしい」

貴音「雪歩と話を?プロデューサー、それはいけません」

P「え?」

貴音「雪歩は625プロに所属する者、彼女と親しくすることは双方にとって禍の種となりえます」

P「おおげさだなあ」

貴音「その優しさはプロデューサーの長所と存じておりますが、線引きは必要です」

貴音「どうか、私たちだけのプロデューサーでいてください」

P「もちろん俺は765プロのプロデューサーとして、お前たちを一番大切に思ってる」

P「だから雪歩と話したことは大したことじゃない……ダメか?」

貴音「私はプロデューサーにただ導かれるだけです」

貴音「だからこそ、不安になるのです。もしあな、プロデューサーが私の前からいなくなったらと思うと」

P「俺はずっと貴音のそばにいるよ」

貴音「あなた様!」ダキッ

響「いつのまにか自分がいないみたいになってるぞ……」

美希「おはようなの!」

P「おはよう、全員そろったな。今日はミーティングだ」

P「ひと月後に625プロとフェスをすることが決まった」

三人「「「!!」」」

P「負けたら俺たちは625プロに移籍しなくてはいけない」

P「逆に勝てば625プロのメンバーが765プロに帰ってくる」

響「負けられない戦いだな!」

美希「手ごわい相手だけど、本気だせば負けないって思うな」

貴音「それではどちらが勝ったとしても」

P「765プロのメンバー全員で仕事をすることになるな」

響「やったあ!」

美希「……」

貴音「……」

P「さて、伝達事項は以上だ」

P「なにかいいたいことはあるか?」

P「よし、午後はレッスンだ。レッスン室に行って体をほぐしておくように」

響「行っくぞー!」

貴音「……では、行ってまいります」

美希「……」

P「どうした?俺は書類をまとめたらすぐに行くから待たなくてもいいぞ」

美希「ねえ、プロデューサー」

P「……なんだ?」

美希「本当に、625プロと戦わなくちゃいけないの?」

P「気持ちはわかる。だがここで625プロに勝たなければ、765プロに再起の可能性はないんだ」

美希「ミキ、疲れちゃったの」

P「美希……!」

美希「ねえ、プロデューサー。プロデューサーは、どうしても勝ちたいんだよね?」

P「……ああ、そうだ!だから頼む、美希!もう少しだけ頑張ってくれ!」

美希「ミキ、頑張るのはキライなの」

P「……」

美希「でも、プロデューサーのためならがんばれるの」

美希「だから……ミキにご褒美ちょーだい?」

P「ご褒美?それは……」

美希「もし、フェスでミキが勝ったら」

美希「ミキと婚約して」

P「こ、婚約!?」

美希「うん」

P「そんな、お前はまだ未成年だし、アイドルだし」

美希「16歳になったら、ミキはアイドルやめるの。そのあとプロデューサーと結婚すればいいでしょ?」

P「だ、だが」

美希「どうせプロデューサーはミキに逆らえないんだから大人しくはいはい言ってればいいって思うな」

P「逆らえない?」

美希「だってそうでしょ?プロデューサーはどうしても勝ちたい。ミキが協力しないと勝てない」

美希「プロデューサーはミキの要求を呑むしかないの」

P「むちゃくちゃだ」

美希「ミキだって本当はこんなふうに婚約をするつもりはなかったの」

美希「でもプロデューサーはとんでもない鈍感だし、ライバルも多いし、しかたないの」

美希「ミキは、外面を気にしてチャンスを逃すおバカさんじゃないの」

貴音「美希、プロデューサーから離れなさい」

美希「あは、いたんだ」

貴音「プロデューサーに迷惑をかけるのをやめなさい。貴女が本当にプロデューサーのことを愛しているなら」

美希「ちがうよ。本当に好きだから全部欲しくなるの。なにがあっても、ミキは必ずプロデューサーを手に入れるの」

貴音「だから、それは愛ではないと言いました。それではプロデューサーの心は決して貴女に近づかないでしょう」

美希「だからって、引き下がって、なんになるの!?プロデューサーだって、ミキと結婚すればミキのことを好きになってくれるもん!」

P「二人とも、ケンカはやめてくれ!」

貴音「プロデューサー、美希にそのようなやり方では人に愛されることはできないと言ってやってください」

美希「プロデューサー、わかってるよね?」

P(俺は……どうしたらいいんだ)

P(もちろん、貴音の言っていることが正しい。だが、万一美希がフェスにでなかったら、勝ち目はない)

P(美希にご褒美を約束したとしても、所詮口約束だし、美希が心変わりをすることだって十分ありうる)

P(負けるわけには……いかないんだ)

P「美希にご褒美をやる」

美希「うん!美希、きっと勝つからね!」

貴音「そん、な」

P「じゃあ、二人ともレッスンに行ってくれ」

貴音「私は、私こそが誰よりも、あなた様を……」

美希「はいなの!」

貴音「だったら、そういうことなら!!」

P「どうした、貴音!?」

貴音「私も、美希と同じご褒美を頂きたいのです」

P「なっ……なあっ!?」

美希「なにいってるの!」

貴音「美希と同様の理由で、私のお願いも断れないはずです」

貴音「プロデューサーが約束を破らないように、担保をとらせてもらいます」ガッ

P「な、なにをするんだ、貴音!」

貴音「ちゅう」

P「」チュー

美希「」

貴音「動画で、今の映像を撮りました」

貴音「契約が履行されなかった場合は、これが各週刊誌にばらまかれます」

P「」

美希「た、貴音ぇ!」

貴音「美希、二人の人間と同時に結婚することはできません」

美希「だからなんなの!」

貴音「だから、私が先に結婚したら、美希は結婚できませんね?」

美希「そんなのダメなの!」

貴音「プロデューサーをこのような手段で手に入れようとしても、私がその気になれば意味のないことです」

美希「そんなの……そんなの、プロデューサーが貴音を断れば」

貴音「そうできないように担保をとったのですよ」

美希「ミキもプロデューサーとキスすればいいの!」

貴音「やらせません」

美希「ミキが、ミキがフェスに出なかったら765プロに勝ち目はないの!」

貴音「竜宮小町は三人で当たらなくては倒せない。私が出なくとも、勝ち目はない」

貴音「つまり、プロデューサーから見れば私たちのどちらの機嫌も損ねるわけにはいかない」

貴音「この場合、美希だけが優遇されることはありえないのです」

美希「うぅ……う、プロデューサー……」

貴音「先ほどプロデューサーを脅したその舌の根も乾かぬうちにプロデューサーに助けを求めようとするのですか!恥を知りなさい!」

美希「うわぁぁぁん!」ダッ

P「あっ、み、美希」

貴音「これで問題ないでしょう」

P「貴音、どうしてあんなことを」

貴音「私が美希を言い負かしたことにより、彼女は動揺しています。今なら説得できるでしょう」

貴音「あなた様との接吻は、今の状況に持ち込むために必要なことでした。動画は、本当は撮影しておりません」

P「そうだったのか……ありがとう、貴音。助かったよ」

貴音「私は、あなた様を困らせるようなことは、決してしません」

P「本当にありがとう。俺は美希を追いかける。貴音はレッスンに行っててくれ」ダッ

貴音「……」

貴音「あなた様……貴音は本当は、嘘つきな女です」ピッ

貴音「ふ、ふふふ……」

[公園]

P「美希、ここにいたのか」

美希「……おそいの」

P「どうして、あんなことをしたんだ」

美希「だって……だって、好きなんだもん!」

P「それにしたって、あんな」

美希「手段なんて、選ばない!ミキはもう、汚い女だから」

P「なに?」

美希「春香を追い出したのは、ミキだよ」

美希「ミキのせいで、765プロは分裂しちゃったの。ミキのせいで!」

美希「今更みんなと仲直りなんて、できないの」

美希「もうミキにはプロデューサーしかいないの。だから」

P「それは違う!」

美希「ひぐっ……うぅ…何が違うの?」

P「春香が引退したのは、俺のせいだ。俺が春香の気持ちをしっかり受け止めてやれなかったから」

美希「ううん。ミキのせいだよ。自分の気持ちをプロデューサーに伝えた春香に嫉妬して、おびえて、自分のことを棚に上げてひどいこ
とを春香に言ったの」

春香「どちらも違いますよ」

P・美希「「!?」」

春香「私の決断の責任は、あくまで私のものです。もっとも、アイドルが一人引退したくらいでガタガタになる765プロの現状について
は、関係ないと思っていますけどね」

P「春香、どうしてここに」

春香「Pさんに会おうと思って、事務所に来たらPさんが突然走って出ていったんです。すれちがったのに、まるで私に気が付いていませ
んでしたね」

P「……すまん。俺に会いに来たのか?」

春香「はい。Pさんに頼みたいことがあって」

P「なんだ?」

春香「私、天海春香は、961プロのアイドルとして再出発するのですが」

P「は?」

春香「なんでも、女帝みたいなイメージで売り出すらしいですよ」

P「じょ、冗談だろ?」

春香「ただ、黒井社長に765プロのアイドルを直接倒さなければ信用しないと言われまして」

P「なんだって、961プロなんかに!」

春香「一度失敗したアイドルをもう一度売り出す力を持ったプロダクションは、あそこぐらいですよ」

春香「話を戻しますと、一週間後の特別オーディションに765プロのアイドルを一人出してほしいんですよ」

春香「それで765プロが負けたら、961プロに人員、設備をそっくり身売りしてもらいます」

P「なっ」

春香「勝ったら、多額の報酬金と、プロジェクトフェアリーに関する商標、そしてフェアリーのために作曲されたものの死蔵された新曲
を差し上げます」

春香「欲しいでしょう?」

P「……」

春香「勝ち目がないって、おびえているんですか?」

美希「プロデューサー、この勝負、受けて」

P「美希」

美希「ミキが出る。きっと勝つから」

春香「Pさん、今の765プロのイメージは、昔すごかったプロダクション、です」

春香「対して625プロは今一番波に乗ってるプロダクション」

春香「たとえアイドルの実力は同じだとしても、観客が勝敗を決めるフェスである以上、これは致命的な差となります」

春香「それを埋めるためにはフェアリー、そして新曲が必要。違いますか」

P「……知っていたのか、対決フェスのこと」

春香「あたりまえです。それの発案者は黒井社長で、律子さんに伝えたのは私ですから」

P「なんだって!?」

春香「本来625プロ側には急いで765プロを吸収しなければいけない理由はありませんから。765プロの自壊をまてばいいと律子さんは考え
ていたはずです」

春香「そこでまだ設立されたばかりの625プロに裏からプレッシャーをかけて律子さんを焦らせる。そして765プロが絶対に負けられない
勝負を受けたなら、フェアリーと新曲を餌に961プロが765プロをかっさらう」

春香「そういう作戦です」

春香「もっとも律子さんは薄々なにかあることを察していたようで、竜宮小町にだけフェスのことを伝えて裏をさぐっていたようですね」

春香「結果的には亜美の暴走で勝負せざるをえなくなったようですが」

春香「まあ、Pさんには関係ない話ですね」

P「……そうだな。俺たちには両方に勝つ道しかない」

春香「じゃあ、勝負を受けてもらえるということですね」

P「ああ、こちらが出すのは美希だ」

春香「そうですか」

美希「春香」

春香「なあに、美希」

美希「ミキは……ミキは、負けないの」

春香「そう。お互いがんばろうね」

春香「それでは、さようなら」

P「なあ、美希」

美希「なに、プロデューサー」

P「どうして春香は765プロをやめたんだと思う?」

美希「俺が悪いんだーって言ってなかった?」

P「ああ、だが、なんというか、春香の行動に腑に落ちない感じがするというか」

美希「きっと、戦えばわかるよ」

P「そうか……そうだな」

[一週間後]

P「合格枠は一つしかない。実質春香と美希の一騎打ちになるだろう」

美希「……」

P「春香は765プロでは最高のファン数をもっていたが、老若男女に幅広く受け入れられやすいキャラクターがその理由だ」

美希「……」

P「オーディションという形式では、美希に分がある」

美希「プロデューサーは今、ミキの応援をしてるんだよね?」

P「もちろんそうだ」

美希「だったら、いいの。ミキは、プロデューサーがそばにいてくれるなら、なんでもプロデューサーの言うとおりにするの」

P「それじゃ、だめだ」

美希「え?」

P「先週、お前のお願いに従おうとしたことは、俺が間違っていた」

美希「ち、ちがうの!ミキが脅したから、プロデューサーは仕方なかったの!」

美希「ミキ、反省したの!だから、ミキを見捨てないで……」

P「美希がアイドルを続けるかどうかは、美希が決めることだ」

P「そして俺は、プロデューサーである限りアイドルとはつきあえない」

P「だから美希の気持ちに応えることができない。それでアイドルをやめられたとしても、なにも言うことはできない」

P「だが、美希がアイドルとして活動してる限りは、美希を全力で応援する」

P「俺にできることはそれだけで、決めるのは、美希だ」

美希「そっか……プロデューサーは、厳しいね」

P「……」

美希「ねえ、プロデューサー」

P「なんだ?」

美希「ミキは……765プロでアイドル、続けたいの。もっとキラキラしたい。もっと、もっと凄くなりたい!」

P「わかった」

美希「だから、春香にも、誰にも負けたくないの。プロデューサー!ミキをもっと高くへ、連れてって!」

P「任せろ!」

P「現代では、アイドルのパフォーマンスの評価尺度が厳密に決められている」

P「それゆえ一度きりのパフォーマンスを数値で表し、比較することができるようになった」

P「オーディションでは対決といっても数値の集計結果が戦わされるだけで、顔をあわせることはない」

P「それが俺たちにとってはいい方に働いたのかもしれないな、春香」

春香「……残念です」

春香「これが、約束の景品です。番組のギャラは一般のオーディションの場合と変わりません」

P「春香は、この後どうするんだ?」

春香「もう、アイドルはできませんから。普通の高校生に戻ります」

P「春香が望むなら、765プロでいつでもアイドルとして復帰できる。625プロだって受け入れてくれるはずだ」

春香「あはは……プロデューサーさんは優しいですね」

春香「でも、鈍感で、残酷です。……さようなら」

P「……」

美希「気を落とさないで、プロデューサー」

美希「春香にはきっと、時間が必要なの。でも765プロのために無理して頑張ったんだって、思うな」

P「そうなのか?」

美希「うん。春香は、前に進んでるよ。いつか、また会える」

P「そうか……ところで、鈍感で残酷ってどういう意味だ?」

美希「そーゆーとこだと思うの」

P「???」

P「ただいまー」

響「おかえりー、プロデューサー」

P「いやー、今日も書類仕事大変だったよ。音無さん、あれで仕事してたんだなあ」

響「うぅ……やっぱり手伝いたかったぞ」

P「いやいや、貴音に手伝ってもらってたし、響がおいしいご飯を作ってくれてるから俺は毎日頑張れるんだよ」

響「プロデューサーに褒めてもらえてうれしいぞ……///」

P「ご飯たべようか」

響「うん!」

響「休日も家に泊まればいいのに」

P「たまに使わないとすぐに物は劣化しちゃうからな」

響「い、いっそ家に引っ越すとかどうかな?大事なものだけもってきて」

響「こっちの方が事務所に近いし、まだスペースもあるし、自分がご飯作ってあげるし、家族もいっぱいだから寂しくないぞ!」

P「はは、ありがたい申し出だけど」

響「自分はプロデューサーがそばにいてくれないと心配なんだ。また、時間がないって言ってカップラーメンばかり食べてろくに睡眠も
とらないで、し、死ぬまで働くみたいなことをしてほしくないんだ」

P「ちょっと前は本当にそんな感じだったよな。でももうすぐ625プロと合流するわけだし、そうしたら俺の負担も減るから大丈夫だよ」

響「……そうか、なら安心だな!」

P「本当にありがとうな、響。響が家に泊めてくれるって言わなきゃ俺は倒れてたかもしれない」

響「……プロデューサーは、自分に感謝してるんだよね?」

P「?そうだけど」

響「動物は、親愛の感情をスキンシップで伝えるんだぞ」

P「いや俺は人間」

響「人間だって動物だぞ!」

響「自分には、なでなでしてもらわないとプロデューサーの感謝の気持ちは伝わらないぞ」

P「……ええ」

P「……」ナデナデ

響「んっ……もっと」

P「……」ナデナデ

響「ちょっとまって……かみ、ほどくぞ……はい」

P「……」ワシワシ

響「……抱いて」

P「!?」

響「抱っこして、なでて」

P「わ、わかった」

響「えへへ」ギュー

P「」

P「ついに対決の日、当日となった」

P「今日のフェスは三本勝負。先に二度勝った方が勝者だ」

P「一度に出演できるのは一人から三人まで、一度使用した楽曲は再使用できない」

P「一般的にスコアは一人より二人、二人より三人の方が多く取れる。トリオで出演させるのが定石だ」

P「とはいえ、うちは625プロとは違って人数が少ない。連続出演による疲労が懸念されるところだが」

P「今日までスタミナの強化を主眼に置いてトレーニングしてきた」

P「律子は俺たちが二本先取の短期決戦を挑んでくると考えるはずだ」

P「その裏をかいて、俺たちは一本目、三本目を取りに行く!」

P「なにか質問はあるか?」

貴音「使用する楽曲の、順番は?」

P「一曲目に『The world is all one !!』二曲目に『きゅんっ!ヴァンパイアガール』三曲目に『KisS』だ」

貴音「ありがとうございます」

P「対戦相手には、まだ明かされている情報ではないから注意するように」

P「ほかに質問はあるか?」

響「二曲目は、手を抜けばいいのか?」

P「いや、ふつうに集中してやってくれ。ヘタに力を抜こうとすると後でリズムが崩れる可能性がある」

P「三曲目まで十分もたせられるスタミナと精神力が今のお前たちにはある」

響「わかったぞ」

P「ほか、なにかあるか?」

美希「……」

P「ないようだな、それじゃあ、会場に行こう!」

律子「おはようございます、プロデューサー殿」

P「おはよう、律子」

律子「久しぶりですね、こうして顔をあわせるのは」

P「そうだな、だけどこれからは前みたいにいつも会うようになるだろうな」

律子「そうですね……私は、社長としてはまだまだみたいです」

P「そうか?立派に625プロを経営してると思うが」

律子「いいえ……知ってのとおり、625プロが所有してるゴールドディスクは竜宮小町の『SMOKY THRILL』だけ」

律子「625プロができてから多数売り出した楽曲はほとんどブレークさえしません」

P「625プロはできたばっかりだ。コネもあまりない状態からただでさえ時間のかかるゴールド認定を受けることなんて、誰にもできやし
ないよ」

律子「でも、それでは961プロと戦うには不足です」

P「だから765プロが必要だった?」

律子「ええ、765プロが所有してる楽曲を使用できれば、大きな力となります」

律子「そして、プロデューサー殿が参加してくれれば、私は社長としての仕事に今より時間を割けます」

律子「今、調子が落ちてるアイドルも復活します」

P「いいことづくめだな」

律子「だからこそ、春香からこの話を聞いた時には怪しいと思いました」

P「……」

律子「結局は961プロの策略だったようですね」

P「律子、春香は」

律子「いえ、今となってはどうでもいい話ですね」

P「そうか」

律子「私たちは、勝ちます」

P「いや、勝つのは俺たちだ」

律子「正式な宣戦布告が終わりました。私がしたかったことはこれだけです」

P「そろそろ時間だ、じゃあな、律子」

律子「はい、また会いましょう」

P「よし、一戦目だ、絶対勝てるぞ!」

美希「ねえ、プロデューサー」

P「なんだ、美希」

美希「今日はプロデューサーに掛け声をやってほしいの」

P「え……いいのか?ほかの二人は」

貴音「私はとてもよい考えだと思います」

響「面白そうだぞ!」

P「そうか、じゃあ……いくぞ!」

P「765プロ!ファイト!」

「「「「オー!」」」」

P「俺たちの勝ちだ」

律子「……はい、完敗です」

P「いや、こっちもギリギリだった。まさか一戦目に竜宮小町をもってくるとは思ってなかったよ」

律子「あれは……実は苦肉の策だったんです」

P「どういうことだ?」

律子「雪歩が……プロデューサーと戦うプレッシャーに折れてしまったんです。それで短期決戦を挑むしかなくなったんです」

P「雪歩が?一見かよわそうだが、芯の強い子だぞ、雪歩は。信じられないな」

律子「625プロに来てから雪歩はいつも心細そうでした。常に真と組ませることで対処したつもりでしたけど、日に日に顔色も悪くなっ
ていって、今朝はもう死人みたいになっていました。それで外さざるをえなくなったんです」

P「そうか……そんなに思いつめていたのか、雪歩」

律子「プロデューサーがいれば、きっとすぐに回復しますよ」

春香「雪歩はプロデューサーのことが大好きですからね」

P「……で、なんで春香は625プロのアイドルとして参加していたんだ?」

春香「別に961プロと同時に在籍してたわけじゃないですよ」

律子「625プロができてすぐに春香を誘ったけど、断ったわよね」

春香「あの時はホントにアイドルをやめるつもりだったんですよ」

P「つまり……最初に961プロで復帰して、美希に負けてから625プロに行ったのか」

春香「そうです。でもまた美希に負けちゃいました」

律子「雪辱戦のためにこっちについたようには思えないけどね……」

春香「765プロでもよかったんですけど、邪魔になっちゃいそうな気がしたんですよね」

P「なあ、美希となにかあったのか?」

春香「秘密です」

律子「とにかく、これからはみんなと765プロで働くことになりますけど」

律子「今の状態から業績を盛り返すの難しいですよ。社長もいないのに」

P「え?律子がやってくれるんじゃ」

律子「できませんよ。いえ、単なる社長の仕事ならなんとかなるかもしれないですけど、高木社長みたいにはできないってことです」

P「あの人業界に謎のコネがいっぱいあったよな……」

律子「765プロをここからたてなおす方法は、私には考え付きません……」

P「うーん……」

高木「君が何を迷うことがあるのかね。プロデューサーは全力でアイドルを輝かせるのが仕事だ」

P「社長!?」

律子「生きてたんですか!?」

高木「……勝手に殺さないでくれたまえ、それより、大きな仕事を持ってきたんだ」

P「本当ですか!?」

高木「うむ。ハードルは高いが君たちならきっとやりとげられると信じているよ」

律子「すいません。私が765プロを裏切るようなことを……」

高木「いや、律子君を責めるつもりはないよ。君はアイドルの将来を真剣に考えたからこそ625プロを立ち上げたんだろう」

P「ああ、律子が負い目を感じる必要はないよ」

高木「しかし君は、765プロに残ってどうするつもりだったんだ!私が本当に死んでいたとしたらどうしようもなかったんだよ?」

P「ええ!?俺は責められるんですか!?」

春香「とにかく、すべて丸く収まりそうでよかったですね。プロデューサーさん♪」

ID変わっちゃったけど終わり
順一郎は死んだ設定です
どうでもいいか

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