モバP「不夜城は、眠らない」 (140)



お や く そ く
・シンデレラガールズの短篇SSです
・346? なにそれおいしいの?
・やや退廃的
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「――オジさん、ヒマなの?」


季節としては春だが、陽が落ちて夜更けともなってしまえば、通り抜ける風はやや冷たい。

そんな体温を奪われる渋谷の雑踏で独り、天を仰いでいると、不意に話し掛けてくる女性の声が僕の耳へ入った。

芯のしっかりした声だ。

大都会の人込みで呼び掛けられるなんて思いもしなかった僕は、驚いて音の主を探そうと目を動かす。

渋谷は、眠らない街。いついかなる刻も、多種多様な人々と明かりで溢れ返っている。

「そっちじゃないよ。こっち」

どうやら見当外れの方を向いていたらしい。再び女性の声がした。

今度こそ場所を掴んで、そちらを見ると。

まさにイマドキな女子高生――おそらく――が、ポケットに手を突っ込んで立っていた。

長身痩躯で、整った面立ちの少女。

しかしその目つきはやや棘があり、ぷくりとした下唇はへの字だ。

白いブラウスに黒いカーデガン、胸元には着崩した緑のネクタイ。

学生鞄を肩へ掛け、それを覆うように伸びる長い黒髪の下では、白銀のピアスが鈍く光っている。

「オジさん、ヒマなの?」

何故こんな夜遅くに女の子が一人で? という思考を遮って、再び、少女が同じ質問を僕に寄越した。

僕はと云えば、新年度早々に大ポカをやらかして、自らの不器用さに辟易としていたところで。

会社の残業帰りに、ハチ公前広場から僅かばかり顔を覘かせる空と星を眺めていただけだ。

「ふぅん、やっぱりヒマなんだね、オジさんは」

僕がどう答えたものか考えている間に、少女は勝手に納得した風で、二度、頷いた。

その勝手な合点っぷりにも色々云いたいことはあるのだが――

まず何より先に、僕は「オジさん」と呼ばれるほど歳は食っていない。

少なくとも、自分ではそう思っている。

「私からみればスーツを着ている男の人はみんなオジさんだよ。お、に、い、さん」

そんな僕のささやかな抗議を、彼女はさらりと受け流した。

「そんなことよりさ、ヒマなら、“コレ”で今夜私と遊ばない?」

妙に受け答えの手慣れた少女は、「コレ」と云いながら、小指と薬指だけを折った右掌を、僕に向けてきた。

相変わらずのへの字口、しかしその奥にはやや笑みを含んでいるとも受け取れる表情で。

中指の付け根には、学生という立場には不釣り合いなリングが坐っている。

すらりと伸びた指が印象的だったが、その行動の意味する処を考えると、思考は隅に追いやられてしまう。

つまり、三万円で、円光―か―ってということ。

「どう?」

彼女がひらひらと揺らす右手を視界に入れたまま、僕は固まった。

こんな可愛い子が円光だと?

美人局―つつもたせ―か?

仮に違うとしても、こんな年端も行かぬ少女と円光だなんて犯罪まがいなこと――否、明確に犯罪じゃないか。

円光と言葉を取り繕ったところで、実際はただの売春―ウリ―と何ら変わらないのだ。

一体全体、どうして円光なんか?

内心の狼狽を隠してそう問うと、

「だって、つまらないから」

少女は、不機嫌になるでもなく、笑うでもなく、ただゝゞ無感情に理由を述べた。

そう、本当に、あっさりと。

抑揚のない言葉……真意を量りかねるトーンだ。

「つまらない、って云うのは、充分な理由じゃない?」

まるで、それが然も当たり前であるかのように。

「おにいさんもつまらなそうにしてたからさ、似た者同士だと思って」

少女は、僕の目を真っ直ぐに見つめてきた。

カルト宗教を盲信した人間に似た、迷いのない眼だった。

円光を重ねた者は、人を見抜く力がつくと云われる。

それは、不特定多数の、世代も業種も様々な人間と触れ合うからこそ会得するもので、一種処世術であろうが――

なればこそ、侮れないものだと思う。

「もう、じれったいな。いいんでしょ? はい、じゃあ、行こ」

どう対応したものか考えあぐねているうち、彼女は半ば強制的に腕を絡ませて僕を引っ張った。

思いの外、華奢な腕が生み出す強い力で、少しよろめいた。

結局、彼女の云うままに、夜の渋谷を元来た方向へと歩いてしまう。

まるで散歩に連れ出される犬のようだと、思った。

「改札の方は見ないで。交番があるでしょ。サツに絡まれると面倒くさいから、堂々としてて」

万一の時は、さしあたり、私は妹ってことにしてね――と、前を向いたまま付け加える。

オジさん、と僕を呼んだわりには、兄という設定なのか。

「父と娘がいいならそうするけど。どうする、パパ?」

流石にそれはかなり無理があるし、なにより僕の心へのダメージが大きいのでやめて貰いたい。

僕の身を削る抗議に、彼女は然もありなむと、何の感情もない顔で応えた。


ひとまず短いですがここまで。
空いた時間にぼちぼち更新していきます。

おつ

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wktk

おひさしぶりです

こないだのはエタッたっけ?

援交じゃなくて円光なのには意味が……?


援交を円光としているのは、
婉曲に書いた方が「っぽさ」が出るかなと思っただけで特に深い意味はありません

>>15
すいませんでした _○/|_
あれは収拾つかなくなったので根元からリライトして夏に本が出せたらいいな(願望)と思っています



腕を引かれたまま、109―マルキュー―を右手に見つつ道玄坂を登る。

道玄坂は夜も全く人の絶えない歓楽エリアなのだが――

だからこそ円光は慣れた光景なのだろう、周りの人間は、僕らのことなどちらりとも気に掛けない様子だ。

橙色の街燈に照らされた、酔っ払いのサラリーマンやコンパ明けの大学生たちを尻目に、どんどん坂を上がる。

このまま登り切れば、交番があるはず……

そこにこの少女を預け、保護してもらうのがいいかも知れない。

そう考えた矢先、彼女は右手の小道へ折れ、路地に足を踏み入れた。

ぬかった。

この慣れた感じ、渋谷でいつも遊んでいるのだから、地理は頭に入っていて当然なのだ。

お巡りさんの目をかいくぐることなど、彼女にとっては朝飯前だろう。

僕らの入り込んだ裏道は、道玄坂上の北隣、円山町のホテル街へと続いている。

濃密な男女のエリアだ。

短針がまもなく上を向こうかという時分。

だのに、ホテルの外壁や宿泊料金を示す看板は煌々と照らされ、眩しさに目を細める。

歓楽街を指して不夜城とはよく云ったものだ。

少女は、ホテルの当たりをつけてあるらしく、迷いのない足取りで小道を進んでいく。

宿泊料金と空室の有無をチェックして入ろうとする彼女を、僕は慌てて制止した。

首から上だけをこちらに向けて、強烈な怪訝顔を向けてくる。

「アンタ、ここまできてやめるの? 意気地なし? それとも不能?」

いつの間にやら、オジさんでもおにいさんでもなく、アンタ呼ばわりになっている。

しかも色々と僕の尊厳を傷つける言葉が聞こえたが、今はそれはどうでもいい。

なにも、身体を重ねるだけが渇きを癒す手段ではないはずだ。

さっき少女は「つまらない」と云っていた。

ならば、円光以外の方法で夜遊びしてみるのが、次善の策――そして苦肉の策じゃないかと思う。



――

渋谷は有数のクラブ密集地帯だ。

ホテル街からほど近い狭小なエリアに、様々なクラブハウスが点在している。

あれから歩いて数分の場所、一見して風営法の対象だとは判らない建物。

下世話なネオンなどが掲げられておらず、目の前の通りを行き交う人々は、その箱の存在をあまり認識しない。

僕の行きつけているここは比較的大人しめで、今日はEDM、特にイギリスモノをメインに回す日のようだ。

UKガラージュやダブステップのトリッキーなリズムや分厚いシンセベースがフロアを駆け抜けている。

スモークが焚かれ、レーザー光が飛び交い、青白いスポットライトがDJブースを浮かび照らす。

そんな薄暗いクラブの、喧噪のフロアから少し離れた、常連客がゆったり入れる席。

相も変わらず無愛想な仏頂面の少女を対面に坐らせ、僕は度数低めのアルコールを傾けていた。

高校生は飲酒御法度だから、彼女の前には、ノンアルコールのカクテルだ。

そもそも論を云ってしまえば、未成年がこんな時間こんな場所には入れないはずなのだが――

常連のよしみで、頼み込んでお目こぼしをして貰った。

「……」

そんなこっちの気苦労を知ってか知らずか、少女はテーブルに頬杖を突いて気怠げにスマホをいじっている。

ただし腕や上半身は、フロアから流れてくるクールなトラックのリズムに乗って、微かに揺れていた。

席へ坐らせた際には、クラブは初めてだから勝手が分からない、と抗議するような視線を寄越してきたのに。

なんだ、案外イケるんじゃないか? 踊ってみたらどうだ?

ふと口をついたそんな提案に、彼女はにべもない。

「ダンス教わったことないし、普段こんな曲聴かないもん。どう踊ればいいのかなんて判らないよ」

ちらりとフロアの方を見遣ってから、スマホを学生鞄の中へ放り投げた。

そう難しく考えずとも、心の求めるままに身体を動かせばいいだけなのだけれど。

初めてなら、借りてきた猫のようになるのも仕方ない話かも知れない。

「ま、でもいい曲だね。知らない音楽ばっかりで新鮮だよ」

凡そそうは思っていないような口調と表情で、ショートグラスに口を付ける。

リップサービスなのか本心なのか、やはり掴みにくい子だ。

しばらくそのまま、何をするでもなく音楽を愉しむひとときが過ぎる。

ブリブリと激しいワブルベースがフェイドアウトしてゆき、火照ったフロアをクールダウンする曲選に変わった。

遅いビートに透き通った女性ボーカル、リバーブの深い電子音。トリップホップだ。

その歌声に惹かれるかのように、少女はグラスを置いて、フロアの方を見遣った。

じっと、スピーカの辺りから目を離さない。

その横顔はとてもクールで、長い下睫毛が非常に印象深かった。



毎度ちまちま更新で申し訳ないですが今日はここまで
だいたい五分の一くらいの位置かと思います

ほう

ええでええで
次いつくらいに更新できるか書いてくれたら助かります


>>30
いや、わかるわけないでしょw
焦らず、急かさず、ゆっくり待とうよ



あー次回投下予定をあらかじめ宣言しておくのいいかも知れないですね
未来の自分のケツを叩く意味でも……

ま、特に断りがない限り毎夜ちまちま更新する感じでいこうかと思います
気長にお付き合いください


……このまま顔を見詰めていてもあらぬ誤解を受けそうだ。僕もフロアの方を向く。

飛び交っていたレーザーはいつの間にか鳴りを潜め、その代わり、ミラーに反射される光の演出が柔らかい。

聴覚と視覚、両方をフルに動員して味わえるのがクラブの醍醐味だ。

それらの演出は、トリップホップの魅力をより一層引き出しているように感じた。

一番のサビが終わり、二番のAメロへと入ると、ふと、隣からメロディをなぞる音が聞こえてくる。

それは少女の唇から漏れていた。

無愛想で不躾なこれまでの言動からはほど遠い、しっとり落ち着いた声だった。

その声質もさることながら、初めて聴いた――であろう――曲を、早くも憶えてしまったことに驚く。

カラオケとかが好きで、歌うのは得意なのだろうか?

目線を向けて問うと、自らの無意識の口ずさみに気付いた彼女は、しまった、とバツの悪そうな顔をした。

「……まぁ、クラスメイトとかとなら、よく行くけど。友達以外だったら面白くないからパスかな」

クラスメイトと、ね。人並みに高校生らしい遊びもするんじゃないか。

ただ、その答えから察するに、さほど積極的に歌うわけでもなさそうだ。

世間ではヒトカラなど、人と遊ぶ為でなくただ歌うことだけを目的にカラオケへ行く者が増えていると聞く。

どうやら、そう云った人種には該当しないらしい。単純に、友人と遊ぶ手段のひとつなのだろう。

「ま、ホテルでオジさんに頼まれれば、備え付けのカラオケを歌ったりすることはあるけどね」

……結局そっちへ話が飛んでしまうとは。

円光を避けるべくここへ連れてきたのに、ちらちらとついて回るその存在には苦笑いを禁じ得ない。

彼女には特段そのような意図はないらしく、日常会話の一幕に過ぎぬと云う表情のままだ。

本日は御日柄も良く。左様ですね。――彼女にとって、円光もこんな挨拶のように些末な行為なのかも知れない。

何故か、胸の奥が少しだけ痛くなる感覚があった。

愁雲、とでも云おうか。憐憫……とはまた違う酸いだ。

そんな僕の、えも言はれぬ胸中とは関係ないと云った様子で、少女は小さな欠伸をした。

時刻は二時。残業続きの社会人ならいざ知らず、彼女のような高校生はとっくに就寝すべき時間だ。

この状態でタクシーに乗せれば、家まで素直に帰るはずだろう。

頃合いだから、と、僕は彼女を連れて店を出た。


ではまた明日に。

乙乙期待してます


今日は前半部を全て書ききっちゃいます



いくら渋谷が不夜城と云えども、深夜丑の刻ともなれば流石に人の密度はだいぶ薄くなる。

射す光は街燈のみ。行き来する人影は酔っているか、或いは水商売の関係者くらいのものだ。

そんな普段の街とはやや異なる趣を見せる井の頭通りを歩きながら、タクシーの様子を探る。

道玄坂を登った先程とは違って、腕を絡め組むこともなく、ただ横に並んで歩を進める。

こんな時間にメールやSNSは打っても響かないのか、彼女は両手をカーデガンに突っ込んだままだ。

そういえば、この子はどこに住んでいるのだろう。

「都内だよ。別に歩いて行けるほどではないけど、遠くもない」

なら、一万円ほど渡しておけば充分足りるか。

少し先の信号で停まっているタクシーを見つけ、手を振り合図を送ってから、財布を出す。

ハチ公前で云われた“遊び代”三万を足して、福澤諭吉を四人、彼女に握らせたタイミングで滑り込んできた。

後部扉を開けた車内へ頭だけを突っ込み、行き先は彼女から聞いてください、と告げて、少女に乗るよう促す。

彼女は、乗り込もうと一歩を踏み出し、そこで一瞬止まって、こちらへ顔を向け――

何を思ったか、僕に抱き着いてきた。

彼女の左手は僕の右手と絡み合い、指が交差する。

身体の方は、やや控えめな胸を押し付けるようにして密着する。

そのまま、美しい顔を僕の耳許へと近づけ、

「ありがと。今日は――まあ、楽しかった、かな。じゃあね」

と囁くと、さっと身を離した。仄かな甘い女の香りを残すように。

呆気に取られる僕を放ったらかして、バタンと扉の閉まる音が響き、タクシーが進み出す。

豆粒ほどの大きさになるまで、しばらく見詰め続けたのち、ハッと我に返って息を吐―つ―いた。

実に不思議な少女だったが……僕もさっさと帰って寝ることにしよう。

もう一回、溜息を吐いてから、別のタクシーを拾って、家路へと就く。

深夜のタクシーにありがちな、AMラジオを控えめの音量で流す車内で、ここ数時間の出来事を思い返す。

最初は戸惑いこそすれ、結果的には中々ない経験をさせて貰ったと思う。

何の面白味もない生活を日々繰り返している僕に、一種のアクセントを与えてくれたのは間違いない。

円光と云う行為の是非は兎も角として。

如何してまあ、あんな可愛い子が身体を売るんだか。

寄って集る男も多いだろうに。

つらつらと反芻していると、車が車線を変えた。

前方の路肩に、扉を開けたタクシーが停まっているのだ。

客待ちか、はたまた客を降ろしたところか。

ふと、その車には見覚えがある気がした。

否―いや―、見覚えがあった。

尤もなことだ。それは、さっき僕が少女を乗せるために呼び止めたものだったのだから。

そして、ガードレールを挟んだ歩道には、あの少女の姿が。

隣には、見るからに酔っぱらっている、頭頂がバーコード状になったデブオヤジ。

何かの誤りではないかと、刮目したが。

間違いなく彼女だった。

二人は、そのまま道に面したホテルへと消えてゆく。

クラブで飲んだ酒など一瞬で引き、移動する車中から茫然と眺めるしか僕には手立てがない。

あのオヤジと寝るのが積極的選択なのか、消極的なそれなのかは判らない。

しかし確実に言えること。

僕の右手にほんのりと感触を残した彼女の指が、今度はあのオヤジに絡み付くのだ。

僕の身体にほんのりと感触を残した彼女の胸が、今度はあのオヤジに貪られるのだ。

あの綺麗な少女が――

あの華奢な体躯が――

穢らわしい男にひん剥かれ、蹂躙されるのだ。

金で買う男女の交わりは、愛し合うカップルの営みとはまるで違う。

乱暴な捕食、或いは、道具での処理に似ている。

金を笠に着た、辱め。

きっと彼女は、無表情のまま、無感情のまま、ベッドで揺さぶられ続けるのだろう。

止せばいいのに、その光景が頭の中へ浮かんできてしまった。

胸焼けに似た強烈な吐き気を憶え、必死に抑え込む。

大の大人が車内で吐くわけにはいかない。沽券に関わる。

たまらず胃の辺りに手を添えると、ふと、上着の胸ポケットに微かな感触があった。

彼女に渡したはずの、四万円が、入っていた。



これで前半を終えました。
明日はアイチャレ最終Rでどうなるかわからないので、
次回は明後日ということにしておいてください。

ああ^~いいっすね^~




・・・・・・・・・・・・


今日も残業と云う名の、実質的な無償奉仕をした帰り道。

無償奉仕ならまだマシなのかも知れない。なぜなら、同僚事務員が殊更に得体の知れぬ飲料を薦めてくるからだ。

先日のクラブや連日の残業続きで疲労困憊、結局断り切れずに何本か購入する羽目になった。

未来の自分から体力の前借りをするという、完全にマイナス収支である。

身を削って厄介な書類と格闘していたせいで、いつの間にやらテッペンを越えてしまっていた。

毎日歩く退勤路。さっさと帰りたいと気が逸るが、普段以上の人込みと濡れた足許がそれを許さない。

先刻まで晴れていたものの、この時期の気まぐれな下り坂で、久しぶりに折り畳み傘の出番となったのだ。

いきなり降り出す強い雨と、気温の急激な低下。寒冷前線に特有の空模様だ。

折り畳み傘の薄い布を水粒―みつぼ―が叩き、大きなノイズを頭上で生み出す。鬱陶しいことこの上ない。

さらには、土曜日ならではの、羽を伸ばした人々の多さときたものだ。

こっちにしてみれば、週休二日なんて言葉が形骸化して久しいと云うのに。

まったく、何もかもが、人の気を滅入らせてくれる。

生きるために仕事をしているはずなのに、仕事をするため生かされているかのような錯覚を憶える。

……否、それは思い違いではないのだろう。

社会の歯車、ソーシャルギア。

もっと言ってしまえば、社畜。

そりゃ、結果が出るときは、やり甲斐を感じられることもあるが。

しかし、それはどんな業種だろうとどんな社畜だろうと、ほぼ差異はないはずだ。

一瞬のカタルシスと引換に、大半の時間を歯車と化して捧げる。

ああもう、こんな厭―いや―な気分になるのは、ぜんぶ雨のせいだ。

自分勝手な八つ当たりを、天気という自然現象に向け、傘を退けて暗い空を睨む。

次の瞬間、強い雨脚は、まるで嘲嗤うかのように僕の顔面を殴りつけた。

……。

一瞬でびしょびしょだ。

馬鹿か、僕は。

嘆息しながら、ハンカチで拭う。

「――何やってるの、アンタ?」

ふと、聞き覚えのある声が、僕を呼んだ。多少の呆れた感情も交じったような口調だ。

慌てて声のした方を向く。

果たして、そこには先日の女子高生が、ポケットに手を突っ込んで立っていた。

長身痩躯で、整った面立ちの少女。

白いブラウスに黒いカーデガン、胸元には着崩した緑のネクタイ。

また会った、否、会ってしまった。

なにゆえか、後ろめたい思考が渦巻くが、彼女の様子を見てそれは吹き飛んだ。

相変わらずの無愛想な眼と唇――

しかし今日の彼女は、先日とはまるで印象が違った。

傘も差さずに立ったまま、雨に濡れそぼつ身体をどこぞの軒下へ隠そうともしない。

こないだ肩へ掛けていた学生鞄は、雨から守るためか抱えるように持っているし、

前髪は額に、横髪は頬に貼り付いて、両耳に光る――はずの――ピアスは完全に隠れている。

何故こんな濡れ鼠になっているのか?

「さっきまで何ともなかったのに、いきなりこんな降り出すなんて思いも寄らないでしょ普通」

傘を彼女の上へ掲げながら問うと、『濡れ鼠』と云う語がやや気に食わなかったのか、目つきが若干鋭くなった。

それにしたって、降り出したら地下なり建物なり、どこか雨宿りをすればいいだろうに。

JRの東西連絡通路や東急百貨店は云わずもがな、京王マークシティや“しぶちか”への入口だってすぐそばだ。

「駅ビルに入っちゃうと、オジさんを引っ掛けるのが難しいんだよ」

なんでも、建物内だったり改札が目と鼻の先にあったりすると、誘いを断られる比率がぐんと上がるらしい。

僅かな理性を優先して、円光と云う非日常への甘い誘惑と人の目を振り切り、建物から出ずに邁進すればいい。

眼前の機械にPASMOをタッチしてしまえばいい。

そうすれば、冒険のリスクを負うことなく、普段通りの世界に繋ぎ止められるから。

なるほど、その意味では、成功率を天秤にかけたギリギリの場所がここハチ公前なのだろう。

改札からほどほどの距離にあって、それでいて駅を目指すくたびれた人種が集中する場所だからな。

「そう云うこと。……くしゅん!」

少女は小さく頷いてから、三度、小さいくしゃみをした。

びしょびしょに濡れている上、気温もだいぶ下がった。体温を奪われるのは必定だ。

このままでは風邪を引いてしまうだろう。

だが今の僕が持っているのは薄いハンカチのみだし、これでは彼女を拭うのには全く足りない。

せめて、ひとまず顔を伝う水気だけでも取った方がいい。

こんな布切れとはいえ、ないよりはマシのはずだ。

「……ありがと」

やや遠慮があるのだろうか、そそくさと四つ折りされたままの生地を顔に当てるだけで返してきた。

先日の強引な態度とは打って変わったその仕種に、僕は非常にミスマッチさを憶えた。

円光と云う行為――暇を潰す目的が絡まなければ、実は控えめでがっつかない子なのかも知れない。

身体を竦めて寒さから耐える彼女は、とても儚い、年相応の少女でしかなかった。

今夜は円光なんかやめて、大人しく帰った方がいい。

タクシープールの方へ行こう、と促すと、彼女は首を横に振った。

「こんな、水が滴るほど濡れた状態で乗ったら厭な顔される」

殊勝なことを言うが、寒さに震えていては言葉にあまり説得力がない。

「だからさっさと誰かオジさん引っ掛けてホテル行きたいんだよ」

いくら可愛くても、こんなびしょ濡れの子を円光―か―う人は果たしているのだろうか?

否、庇護欲をそそるとか、そういう心理が働くのかも?

「……煩いな」

僕の思考が独り言として漏れていたらしい。

まるで、私を円光わないなら邪魔だから退け、とでも云いた気の、鋭い目つきを僕に向けた。

だが、視線が棘状であろうとも、身体の小刻みな震えや青白くなった唇は誤摩化せない。

このまま退散したところで、帰りの電車の中で気になってしまい、後味が悪いのは明白だ。

身体は壊してないだろうか。寝込むことになってしまわないか。

いくら他人とはいえ、少しでも関わりを持った以上は、そう云った思考を振り払うのは難しい。

完全に関わることなくスルーするか、さもなくば徹底的に付き合うかのどちらかにすべきなのだ。

僕にとって、この数日をなかったことには出来まい。

……判断をミスったかもな。

仕方ない……と、会社で何度も吐いたものと似た類いの溜息をひとつ。

「えっ?」

彼女にとって僕の出した答えは意外なものだったのかも知れない。

移動を促す僕の仕種に、少女の切れ長の眼が、やや大きくなった。

誰に対するものでもない弁解をしておくが、もとより、この少女を円光うつもりはない。

身体を暖める手段を提供してあげるだけだ。

――ああ、これが庇護欲と云うものか。

「ふぅん……ま、好意には有難く甘えさせて貰おうかな」

先日のような腕組みではないが、今日は今日とて女の子と相合い傘である。

喜んで良いのやら悪いのやら。


それではまた

こういう退廃的な話好き



――

道玄坂を登り、同じルートでホテル街へと進んでゆくと、あっという間に空気が変わる。

後ろのメインストリートでは陽気な声が響いているのに、目の前の裏道は一転して濃密でむせ返りそう。

境目と云う、見えぬ存在を強く感じる。

道端には『STAY』『サービスタイム』等の言葉が煌々と輝き、それらを品定めした男女が消えてゆく。

その光景を目にした途端、先日の帰り際の記憶がどうしても甦ってきてしまった。

結局、僕の渡した四万円はどさくさにまぎれて受け取らず、別のオヤジとホテルへ入っていったこの少女。

なんでわざわざ僕に金を突き返して、あんなハゲデブと寝ることを選んだのだろうか。

「アンタとはシてないんだから、お金を貰うわけにはいかないでしょ」

円光少女なりの矜持。随分と変なこだわりを持っているものだ。

「それに、眠いしさっさと寝たかったんだよ。家に帰るのは億劫だし」

異性との交わりなんて、睡眠とは対極にあるはずではないのか。

「あんな泥酔したオジさんはね、手コキなんかでいいから、一発抜いちゃえば大抵大人しく寝ちゃうんだよ」

左手の人差し指を、軽く握り拳状にした右手で包み、上下に動かしながらつっけんどんに説明する。

僕はそんな仕種を極力意識しないよう、路地を右へ折れ、よさげなホテルに目星を付けた。

「私はそれからお風呂に入ってさっと寝て、朝早めに自分だけ抜け出したから、あの日はラクなもんだったな」

今夜はどうなるかわからないけどね? と、僕を試すような言葉をご丁寧にも添えてくれる。

僕のスルー力が問われている。

何はともあれ、あのハゲデブオヤジに蹂躙はされなかったのだと判って、何故だか、幾分か救われた気がした。

まあ、そうは云っても、あれから数日経つ。昨日や一昨日はきっと別の者に抱かれたことだろう。

「あれ以来やってない。今日は久しぶりにオジさんと遊ぼうと思ったタイミングでこんな天気、やれやれだよ」

到着し、傘を畳む僕より一足早くエントランスにとん、と入った彼女がこちらを向く。

「心配、してくれたんだ?」

心配とか、そういうものではないけれど。

弁解するのは面倒臭いので、僕は返事をする代わりに部屋の状況を示すパネルを見た。

それなりに人気のホテルなのだろうか、九割ほどが既に埋まっている。

つまり、凡そ二十組もの人間達が、既に今この瞬間も逢瀬を営んでいる。

この建物の中に、数多くの、濡れる並行世界があるのだ。

不夜城と云う言葉は歓楽街のみならず、このホテル自身にも当てはまるのだろう。

明かりや嬌声が途絶えることのない、眠らぬ城。

最安値でもなく最高値でもないグレードを選んで、橙色に灯っているボタンを押す。

ランプが消えた瞬間、僕たち二人は不夜城の一夜限りの住人となった。なってしまった。

受付で鍵を受け取ると、少女はすでにエレベータを呼んで待っていた。

実際のカップルなら、パネルの前で「どの部屋にする?」などと二人仲睦まじく選んだりするが――

しかし彼女は完全に割り切っている。

非日常へといざなう箱の自動扉が、二人の空間を邪魔しないように、そっと閉まった。


五階の部屋へ入ると、当然ながら目の前にキングサイズのベッドが鎮座していた。

室内は広めだというのに只中へ配置されたそれは、つまりここがメインセクションなのだと派手に主張する。

そのためのお部屋なのです、と。

さておき、ひとまず彼女の身体を拭くためにバスタオルだ。

そう思ってスーツのジャケットと鞄をドア横のソファへ投げ、斜向かいの洗面台にあるアメニティを漁る。

ほら、と取り出したバスタオルを少女へ渡そうと振り返ると、彼女は僕の上着を部屋隅の衣紋掛けに下げていた。

一種の気配り上手と云えば聞こえはいいだろうが……

先程のエレベータといい、その実、まさしく男とこのような場所へ来るのに手慣れている動きということだ。

「ん。ありがと」

彼女は、自らの所作をさほど何とも思ってない風で、無表情で受け取った。

一つ一つの挙動が、彼女が数知れぬまぐわいを重ねてきたことを示していて、胸をちくちくと刺した。

無意識下の行動とは、かくも恐ろしいものだと、つくづく思う。

次は風呂だ。

あれだけ濡れて冷えたのだから、シャワーではなくて浴槽に湯を湛えた方がいいだろう。

ガラス張りの、部屋から丸見えの風呂場へ入り、蛇口を最大まで開ける。

家庭用の水栓とは全く趣が異なる、きしめんのように平べったい吐水口から勢いよく湯が出た。

人ふたりが楽々横たわれる大きさのジャグジーが、大きな水音を奏でる。

「バスミルク入れて泡風呂にしないの?」

背後から抑揚を抑えたトーンで訊かれた。

まったく、ラブホじゃないんだからそんなことする必要ないだろう。

冗談半分の問いはさらりと流し、手を掲げて湯温をチェック。うん、いい塩梅だ。

「いやここラブホだし」

まあそれはそうだが……

ラブホ用途として使うわけじゃないだろ、と半ば呆れつつ返答して振り向くと。

そこには少女が生まれたままの姿で立っていて、僕は心臓が飛び出る思いをした。

上から下まで一糸纏わず曝け出された、赤味が少しだけ強い肌。

細身であるにも拘わらず、くびれのはっきりした腰。長くしなやかな脚。

やや控えめながら美しく整った柔らかそうな双丘。

そして濡れて細い束になった烏色の長髪から見え隠れする、桜色の突起。

「……なに驚いてるの?」

さすがに何の心構えもない状態で、女子高生の柔肌を見て、平静でいられるものか。

彼女は、胸も、秘部も、何も隠さず堂々としている。

それが逆に恥じらいを持った仕種よりは劣情を催さないので、まだ好都合ではあったが――

せめて僕が風呂場から出るまで待っていてほしいものだ。

「寒いんだからしょうがないでしょ」

こちらの都合はお構いなく、つかつかと湯船へ歩み寄る彼女。

僕と同じように蛇口に手をかざし、うん暖かい、と湯温を確認している。

僕は早々に風呂場から退散するとしよう。

「一緒に入る? 背中流してあげようか」

莫迦―ばか―を云うな。

兎に角、ゆっくり浸かって温まるといい。

分厚いガラスの重い扉をゆっくりと後ろ手に閉めて、ふぅ、と一息吐いた。


ではまた明日
感想ありがとうございます、励みになります

凛ちゃんが花を売るSSなんてかなり久々やね
期待


背後から、湯をすくって身体に掛ける、跳ねた水音が響き始める。

邪な感情が鎌首をもたげてしまうから、振り払わないといけない。

彼女が入浴している間、僕は未消化で持ち帰りとなった残務でもやっつけてしまおう。

……仕事を持ち出すのはコンプライアンス的にまずい? 五月蝿い。

そんなもの遵守していて業務が回るとでも思っているのか。

こちとら、週明けまでに、次のライブフェスティバルの企画書を先方へ提出しなければならないのだ。

誰宛ともない怒りを空中に投げ、風呂場へ背を向けるように座り、テーブルでノートパソコンを開く。

電源をつけようとして、黒いディスプレイに映り込む背後の入浴シーンが目に入る。

彼女は今、上半身をゆっくり撫でるように洗っているところで、どうしても意識がそちらへ引っ張られてしまう。

下世話な話だが、あの端麗な容姿とプロポーションは、まず間違いなく同級生の――

否、全校男子みなのオカズになっていると断言できる。

夏になって水泳の授業が始まろうものなら、隠し撮りを試みる無数のレンズが彼女を狙うことは想像に容易い。

つくづく、どうしてあんな子が円光なんぞをやっているのか皆目判らない。

校内の男子生徒なんぞ引く手数多、よりどりみどりだろうに。

よしんば女子校だったとしても、近隣の男どもが放っておくまい。

やれやれ、と首を振ったところで、起動した画面が明るくなって、映り込んでいた彼女は見えなくなった。

詮無い思考はそこまでにしとけ、と云われるかの如く。


気持ちを切り替え、ワードプロセッサで企画書を開いた。

ライブフェスティバル開催企画書――まだ必要事項をいくつも満たせていない、紙面の半分が真っ白の書類。

僕はとある中堅アイドル事務所のプロデューサーをしている。

プロデューサーという肩書こそ立派なれ、実態はマネージャーを兼任した庶務ばかりだ。

もう少し事務所が大きくなれば、人員を増やし業務を分担して、自分はプロデュースに専念できるのだろうが……

それはやや先のことになりそうだ。

企業活動がそこそこの規模になってくると、一旦、発展が鈍化する。

まあ、どの業種にも共通して訪れる成長の踊り場だ。これを打破するためには、何らかの起爆剤が欲しい。

それが今回企画中の、他事務所と共同で開催する予定のライブフェスティバルなのだが。

協同していた事務所のうちの一つが、所属アイドルの騒動でやや混乱していた。

その事務所で中核を為していたユニットが、大手プロダクションへ電撃移籍することになったのだ。

昨今露出の増えてきたグループとはいえ、現在の成績では不釣り合いなレベルの大資本へと。

元々所属していたところも、そして移籍先も、ともに黒い話の絶えない事務所。

アイドル自身によるトップセールス――

つまり枕の成果だとほぼ確実視されており、関係者や業界人の間では「然もありなむ」と驚いた様子はない。

素朴な清純派・潔癖第一の妹系として売っている子たちが裏ではこうなのだから、世も末である。

基本的に芸能界なんぞは、黒い欲望の渦巻く魔窟。

生き抜くために人脈―コネ―やおべっかを駆使するが、最後は結局カネ頼み。それが無理ならカラダだ。

談合、癒着、贈収賄、上納、薬物汚染。

枕営業も、広義の贈収賄と云えよう。

これで“夢を売る商売”なんぞと自称する業界なのだから、我ながら呆れた笑いがこみ上げる。

気の乗らない思考を巡らせながら、億劫にキーボードを叩いていると、少女が風呂場から出てくる気配がした。

存外に時間が経っていたらしい。時計を見ると三十分ほどかけてゆっくり暖まったようだ。

密閉された室内に、ドライヤーの音が大きく響く。

画面が彼女の目に入ることがないよう、正対するかたちでソファに坐り直して、作業再開。

いくら仕事を持ち出しているとはいえ、一応、その辺は気をつけているつもりだ。

カフェでノマドを気取ったり、電車の中で機密文書を開くような馬鹿な真似は流石にしない。

まもなく書類を作り終わる。最後につまらない定型文を入れればOK。

「こんなとこまで来て仕事してるの?」

髪を乾かし、バスローブを身に纏った少女が、テーブルを挟んだ向かいから問うた。

もうそろそろ済ませられるところなので、僕は短く首肯するだけ。

察しがいいのか、他人に興味がないのか、――おそらく後者だろうが、彼女はそれ以上訊いてくることはしない。

代わりに、少し席を外したと思ったら、学生鞄から書籍を持って戻ってきた。

彼女の動作で漂う石鹸の香りが、ほのかに辺りを染める。

テーブルに置かれたものは、高校一年の教科書と問題集、そしてルーズリーフの束。

それらには『RIN』と書かれており、僕はこのとき初めて、眼前の女子高生の名前を知ることとなった。

件―くだん―の少女リンは、本をぱらぱらと開き、やや面倒そうに問題を解き始めた。

書類を作り終えて上書き保存しパソコンを閉じた僕は、彼女の様子をまじまじと見ることを禁じ得なかった。

「……なに?」

僕の予想だにしない行動だ。まさか真面目に課題を進めるとは、全く以て意外としか云いようがない。

しかも驚くべきことに、手にしているのは、やや高度な設問だ。

「そんな顔するほどヘン?」

手許に鏡がないから自分がどんな顔をしているのかは判らないが、大きく驚いているのは事実で何も返せない。

てっきり不良少女という先入観から、学業は放棄しているものと思い込んでいた。

これじゃ、むしろ優等生の部類ではないか。

彼女は、半ば社会を小馬鹿にしたような眼と口調で、空気を押し出すように語る。

「いい成績を取ってれば何も言われないんだよ」

そして、少しだけ間を空けて、もう一度。

「そう。誰も、何も、ね」

表向き勤勉な者の非行ほど、手を焼くものはない。

腹立たしいはずの仕種なのに……その表情から憐憫を感じてしまうのは何故だろう?

「ちょうどいいや、仕事終わったんなら勉強教えて。高校の数学くらいわかるでしょ?」

そう言ってリンは僕の隣へとやってきた。

再び、彼女の石鹸の香りが、先程より更に強く、僕の鼻腔をくすぐった。


今日はここまでにします
明日と月曜は本業のフェスで飲み合いになりそうなので
更新できたらする、というスタンスにさせてください
それでは

みんなでボーダーとダンスしようぜ(前回爆死並の感想)


おいしいおいしいエナドリをガブ飲みして最終戦には勝ちましたが
気付いたら二枚爆死みたいな位置にいました
これには某同僚黄緑事務員もニッコリ

ムシャクシャしたので今回一気に最後までいきます


リンは僕の予想以上に飲み込みが早かった。

数年前の脳内遺産を必死に発掘して式の考え方を教えると、彼女は途端に応用問題をものにした。

「うん、アンタのおかげで楽勝だね。これなら明日は完全に遊べるかな」

ルーズリーフにシャーペンを走らせるのと並行して、リンは独り言ちた。

明日も遊ぶ、というのはつまり円光だろうか。

「そ。日曜なら、昼間から引っ掛けられるからね」

せっかくここまで出来が良いのに、どうして火遊びなんかするんだか。

「出来が良いとか悪いとか関係ない。つまらない生活なんか要らない」

彼女はやや強めの口調でそう言うが、実に勿体ない話だ。

僕は嘆息して、シャーペンがつむぐ計算経過の誤りを指摘した。

それが課題範囲の最終問だったのだろう、解き終わると、パタンと音を立てて本を閉じる。

「ん~~、終わり。ありがと、助かったよ」

リンが大きく伸びをして、礼を述べた。

こちらとしても、女子高生の臨時家庭教師はそれなりに面白かった。

僕の鬱屈した日々に一瞬の潤いを与える、よき息抜きとなってくれた。

課題が終わったなら、今夜は暖かくして、もう休ませた方がよいだろう。

彼女を立たせ、もう寝るように、とベッドの方へ促す。

明日、陽が昇れば、この子は再び街へ繰り出して円光をする。

それは複雑な気分だ。

しかし僕はあくまでも他者に過ぎない。彼女の遊び方に、必要以上の介入はできないし、するべきでもないのだ。

だからせめて、今日くらいは早めに眠らせてやった方がいい。

僕がベッドの縁に坐り、内心で自問自答を繰り広げていると――

いつの間にかリンは、僕と同じく縁に腰掛けて、感情の読めない、起伏に乏しい表情をこちらに向けていた。

「ねえ、どうしてアンタは私のためにここまでしてくれるの? 色々優しく言ってくれるの?」

なんでだろうな。

どうしてか、放っておけない……そんな気分になるのだ。

「なにそれ。まるでペットみたい」

リンがやや呆れたように肩を竦めた。

そのまま、もう少し、こちらへ身を寄せる。ギギッ、とベッドのスプリングが微かに鳴いた。

近づいたことで、バスローブの陰から、綺麗な鎖骨が見える。

「今日は不思議な気分。ラブホに入って、こんなにまったり過ごすのは初めてだよ」

そりゃ、円光でこんな場所に来れば、普通は部屋へ入ってシャワーを浴びるなり即座に合体だろう。

「勿論、勉強をみて貰うことだってこれまで一度もなかったしさ」

リンはそう言って僕の方を覗き込んだ。

そういえば、これまで彼女の顔を間近にまじまじと見る機会はなかったなと、気付いた。

シミもそばかすも全く在らず、肌は絹のようにきめ細かい。

やや吊り目がちで瞳は碧く、下睫毛がすっと長く伸びている。

部屋の灯りを反射し輝くその整った造形は、とても、綺麗だった。

「だから、そのお礼をしないとね」


彼女の発言が、一瞬、理解できなかった。見蕩れていたせいで反応が遅れたからだ。

気付いた刻には、僕の口は、彼女のふっくらとした滑らかな唇に塞がれていた。

隙間から漏れた吐息が、鼻頭や頬を撫でる。

少し離したかと思えば、角度を変えて再び唇同士が触れ合う。

彼女は僕の首や背中に腕を廻し、より強く引きつけてきた。

情けなくも、為すがままになっている僕の口内に、リンの舌が割って入る。

しなやかに弾力あるそれは、意思を持った別の生命体のように動き回った。

いつの間にか僕はベッドへ仰向けに倒れ込んでいて、リンが覆い被さるかたちとなっていた。

彼女の長い髪が、僕の頭部――眼や耳を包み込む。

感覚器が遮られると、触れ合っている部分、唇に意識が集中してしまうのは避けようがない。

水音が絡み合い、甘い味が拡がる。

勿論、本当に甘いわけじゃないというのは頭のどこかで理解している。

しかし、僕の味蕾は、彼女の蠢く舌や流し込まれた唾液が、甘い薬だと認識した。

ぷはっ、と唇を離したリンがこちらを見下ろすように上体を起こす。

視界が復活した僕の眼に飛び込んできたのは、既にバスローブを取り去った彼女。

「いいよ、ほら、触って」

リンが僕の両手首を取って、自らの二つの膨らみに誘導する。

振り払わなければ。


判っているのに、腕がいうことを聞かない。

まるで自分の身体ではないかのように、または接着されてしまったかのように指示が通じないのだ。

僕の掌が包み込んだ双丘はとても柔らかく、女であることを強く主張している。

中央の突起が、存在感を示すように指へ反発力を押し返してきた。

手を動かせば、僕の指は彼女の皮膚の上をさらさらと全く抵抗なく滑る。

ベビーパウダーでもつけたのかと錯覚するほどに、その柔肌は、ざらりとした感触など一切ない。

これが……高校一年生の身体か。

再び、リンが顔を近づけてきて、唇が触れ合う。

そして今度は、僕の下唇を甘噛みした。

痛みを感じるぎりぎり手前の強さ。緩急をつけて、ついばんでくる。

「アンタ、もう準備万端なんだね。溜まってたの?」

その言葉の意味を考えるよりも早く、僕の先端が、とても熱い何かに包まれた。

まるでわけが判らなかった。

押し倒され惚けているうちに、リンはいつしか僕のベルトを外していたのだ。

彼女が僕の上に腰を下ろして、初めてその事実に気付く。

つまり、年端のゆかぬ少女とついに身体の交わりを持ってしまったということ。

不意打ちとはいえこれはまずい、今すぐ止めさせなければ。

「今更遅いよ。既に私の中へ入っちゃったんだから」

甘噛みを止め、顔をやや離してつっけんどんにそう言うが。

入っちゃったのではなく、半ば無理矢理入れられたのだ。

「煩いな。もう私を抱いたっていう事実は覆らないでしょ。一線越えたんだからさ、開き直って楽しもうよ」

リンが覆い被さるようにもたれ掛かってきて、腰をくねらせながら僕の右の耳許で囁く。

その動きに、下半身が溶けてしまいそうになる。

僕と彼女、二人の胸部が互いに柔らかく触れ合う。

「私は気持ちいいよ? だから、アンタにも、気持ちよくなって、ほしいんだ」

こちらから彼女の表情を窺い知ることはできない。

しかし、その言葉の合間々々には、発情した甘い吐息の音が混じっていて――

頭の中で、理性が、何かを必死につなぎ止めていた糸が、勢いよく切れる音がした。

僕は、彼女を抱えたまま、世界を180度回転させた。



――

僕は枕に顔を埋めていた。

漫画の世界だったら、自分の頭上には「どよ~ん」などと云う効果音が描かれているだろう。

……やっちまった。

未成年――あろうことか高校一年生を抱いてしまった。

しかもなし崩しの流れとはいえ、スキンすら装着せずに致してしまった。

折れてしまいそうなほど華奢な身体をがっちりと組み敷き、腰を激しく叩き付ける……

その貪るような行為は、もはや『抱いた』ではなく“犯した”に等しい。

すんでのところで理性を持ち直して、内部で果てることだけは避けたが……

そんなものは枝葉末節の差異に過ぎない。

ヤバイよ、ヤバイってこれ。

遠い目をする僕の横で、仰向けのまま荒い息をしているリンが、顔だけこちらに向けて云う。

「ピル飲んでるから、別にナカへ出してもよかったのに」

そういう問題ではない。

「やっぱり、私の見立て通りだったね。私を犯してるときのアンタ、いいカオしてた。輝いてたよ?」

そして一度軽い咳をしてから、枕元のティッシュを一枚、二枚と取った。

曰く、初めて声を掛けたときの直感が、案の定当たっていたと。

先日はおろか、今日も先程まで僕が手を出さなかったから、第六感が外れたかと思ったそうだ。

でも、僕に今抱かれて、それが間違ってなかったと、僕が蔭の側の人間だと確信に変わった。

「アンタって、これまで遊んできたオジさんたちとは何か違うね」

やや呼吸が整ってきて、一転柔らかい調子でつぶやく。

「私も普段は円光で抱かれたって何も感じないんだけどさ、今日は気持ちよかったよ」

リンが、自らの腹部に放たれた残滓を拭いながら、男としては嬉しい言葉を発してくる。

ただし、凡そそう思ってるとは感じられない無愛想な顔だ。

それとも照れ隠しなのか。

あんな風に犯されて、この子は何とも思わないのだろうか?

「別に。まあ、どこか自分がスレてるっていうのは判ってるよ」

そうは云っても擦れ過ぎではないのか。

「こないだも言ったでしょ、つまらないんだよ。ほんと、つまらない。何もかもが」

リンはおもむろに起き上がり、ベッドの上で胡座をかいて、そう吐き捨てた。

つまらない、という言葉。

僕には、これが彼女の悲痛な叫びのように思えて仕方ない。

何かを渇望するような――どこか違う世界へ飛び立ちたいと願っているような。

心がそう訴えているように感じるのだ。

僕は、リンをじっと見詰めた。

彼女も、何を云うでもなくこちらへの視線を外さない。

愛想はないのに、何故か、可愛い。

顔だけに留まらず、身体全体が美しい造形をしているし……

先日のクラブで初めて聴いた曲をすぐに我が物とした才能も持っている。

ふと、ピンときた。

刺激を求めているのなら。

違う自分への願望があるのなら。

今のつまらなさを打破するきっかけを求めて彷徨っているのなら。

――アイドルに、なってみないか?

リンは目を丸くして、しばらく固まった。

まばたきすら忘れているように。

「……円光で、遊びでセックスする女子高生をアイドルに誘うって……アンタ本気で云ってる?」

ようやく絞り出した台詞は、驚きと呆れに満ちていた。

僕は黙って頷く。

彼女ほどの逸材なら、アイドルのトップに立てると――根拠はないが、そんな確信が芽生えていたから。

それに芸能界なんて、こんな円光が可愛く感じられるくらいに真っ黒な世界だ。

黒いことに慣れた、見た目が小綺麗な少女ほど、適した人材はいない。

業界の実態はともかく、このまま円光を重ねるより表向きの世間体もいい。

「……まあ、それも一理ある、かな」

リンはやや自嘲気味に嘆息しながら、伸びをした。

肩甲骨から背骨の窪みへのラインが、僕の目に飛び込む。

綺麗だ、と思った。

「アイドルか……悪くないね。いいよ、その誘いに乗ったげる。面白そうだし」

伸びを終えた彼女が、ふぅ、を息を吐いて、ゆっくりと覆い被さってくる。

「ね、もう一回、シてもいいよ。代金は出世払いってことで」

意地悪く、そして嬌艶に笑うリンの碧い瞳が、僕の目の前へ寄る。

つられて角を上げた僕の口は、彼女のふくよかな唇に塞がれた。

なんだ、こんな風に笑えるんじゃないか。

そんな思考は、しかしすぐに融け崩れてゆく。

僕の先端が、再び少女の中心にある熱で包まれて――



この不夜城は、眠らない。




~了~



N特訓前の凛しか見たことない&もしSR昇格以降の彼女を知らなければ……というイメージでこしらえました。
並行世界の、こんなスレた凛もいいかなと思うんです。
それではまた何れの機会に。


作業用BGMを紹介しておきます
Un homme et une femme(男と女)
https://www.youtube.com/watch?v=zXK8uguv_Ho

実に素晴らしい…


フォローという名の蛇足:


凛「……なにこれ」

P「なに、って……今度獲ってきた主演ドラマの脚本だけど」

凛「見ればわかるって。いくらなんでもこの役どころは酷くない? エンコーだよエンコー!?」

P「異色の芥川賞作家、東町賢郎の原作でさ。凛も知ってるだろ? 受賞会見で風俗云々って言った人」

凛「そりゃ知ってるけれど!」

P「だから注目度はバツグンなんだよ。凛のこれからの女優キャリアに箔をつけると思って、な?」

結局、渋々ながら承諾した彼女の、その迫真の演技によってドラマは大反響を呼び起こしたとか――

おつ
妄想と理想がいい感じに出てて面白かったです
あと関係ないですが酉がすげぇ

こんなSS読んだの初めてだわ
上手く言えないけど良いね

乙乙!こういう文章いいなぁ

男と女はクレモンティーヌのバージョンとか好きだった

今更読み終わったけど面白かった

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