星空 凛「トモダチ→?」 (50)

凛「……」

凛「……ん?」

凛「……あれ」

凛「……ここ、どこ?」


「凛ちゃん」


凛「……?」
 「……かよちん?」


「凛ちゃん」


凛「……どこ? かよちん」
 「どこにいるの?」


「こっちだよ」

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花陽「……」

凛「あ……かよちん!」
 「そんなところにいたの?」

花陽「凛ちゃん」

凛「んー? なぁに、かよちん」

花陽「……凛ちゃん」

凛「……?」

花陽「……」

凛「……かよ、ちん?」

凛「ひゃ」

花陽「……凛ちゃん」ズイ

凛「か、かよちん!? か、顔が近くないかにゃ……」

花陽「……りんちゃん」

凛「えっ、ちょ、っちょっとまって! かよちん! か」


顔が、近づいてくる。
かよちんの顔が、凛の顔に。
ふわりとかおるあまいにおい。
ちょっとだけクセのかかったやわらかいかみが目の前にくる。
凛の目が、くちびるにうつる。かよちんのくちびる。
やわらかそうな、きれいなくちびる。


凛の心臓は、ばくばく。

凛「……か、かよ……ちん?」

花陽「……凛ちゃん」


かよちんのささやき。
小さくて、それでもはっきりと凛の名前を呼ぶ、きれいなおと。
からだの真ん中が、びりびりときもちよくしびれる。


からだが、石になっちゃったみたいに。
うごかなくて。


まだ、まだ、ちかづく、かよちんのかお。
くちびる。
あと、何センチ?


凛「……ぁ」

花陽「……りんちゃん」

凛「……かよ、ちん……」


あと、10センチ……
5センチ……
3センチ……


凛「……」


ばさり。

凛「……」

「……」

……


ピピピ、と鳴りひびく目覚まし時計。
カーテンの隙間からもれる光。
肌をつきさすような冷たい部屋の中の空気。

さっきまでいたはずのかよちんは、どこにもいなかった。
凛は、ぎゅうと自分におおいかぶさっていた、毛布をにぎりしめていた。


凛「……」

凛「夢かぁ~~~……!」

さっきまでみていたのは、夢だった。
へんな夢。
あんな夢、みたことない。

夢とはおもえないくらい、かよちんはほんものだったけど。
夢とはおもえないくらい、凛はどきどきしていたけど。


凛「……夢、かぁ」


なんで、あんな夢を見たんだろう。

かよちんと……


凛「……ちゅー」
 「しちゃい、そうだった……」


唇を触ってみたら、乾燥していた。

――――――――――

凛「いってきまーす!」

凛「……にゃっ!」


制服に着替えて、朝ご飯をたべて
準備を済ませて、玄関から飛び出したら。
外はものすごく寒かった。

手袋をあわててしてみても
冷たい空気は、網目の隙間からどんどん入ってくる。


凛「う~~~~……」


手をこすり合わせながら、凛は
かよちんが待っている場所まで、走り出した。

たん、たんとリズムよく、駆けていく。
ときどき、水たまりに張った氷がぱきんと音を立てて。
吠えてくるわんちゃんには、おはようと挨拶しながら。

かよちんのもとへ、走っていく。


凛「……あっ!」

花陽「……!」


いた。かよちんだ。
もこもこのマフラーと、てぶくろをしてる。
鼻がちょっぴり赤くなって、とってもかわいい。


凛「かよちーん!」

花陽「凛ちゃん!」


どきん。


凛「……!」

凛ちゃん。

凛ちゃん。

……りんちゃん。

あれ?


花陽「おはよう、凛ちゃん」

凛「あ、お、おはよ! かよちん」


なんでだろう?


花陽「……走ってきたの?」

凛「うん! そ……そだよ! 寒かった、から」


かよちんって


花陽「ふふ、凛ちゃんらしいね」

凛「……え、えへへ」


かよちんって


花陽「じゃあ、いこっか、凛ちゃん」


こんなに
きらきら、してたかな?

花陽「凛ちゃん、昨日のアルパカ特集、見た?」


かよちんは、いっつもきらきらしてる。
ごはんをたべるとき、練習してるとき。
笑ったとき、困ったとき。


花陽「すっごくかわいかったぁ……もふもふで」
   「あの、はっぱを食べてるときのもぐもぐしてるのとか」


いっぱい、きらきらしてるところを見てきた。
かよちんのきらきらは、たぶん誰よりも知ってる。
なのに、今日のきらきらは初めてで。


花陽「そういえば、そのあとにご飯の」


いつも通りのはずなのに。
まっすぐ目を見られないくらいに、かがやいてる。
それに、凛の胸がすごくどきどきしてる。


花陽「……凛ちゃん?」


からだがかたくなっちゃってる。
顔があつくなって、手がそわそわしちゃう。

花陽「……お、おーい」

凛「にゃっ! な、なぁにかよちん!」

花陽「凛ちゃん……だいじょぶ?」
   「ぼーっとしてる、けど……」


心配そうに凛の顔をのぞきこむかよちん。


凛「えっ、あ! だいじょぶ!だいじょぶ!」
 「なんでもないよ!」


どきどきが強まる、凛の心臓。


花陽「そ、そう?」

凛「う、うん!」

花陽「それなら、いいけど……」


凛(な、なんでー……!?)


花陽「……」



それから、凛とかよちんは、なんどかお話をしていたけど

途中から、頭の中にお話が入ってこなくなっちゃって

そのたびに、かよちんに心配させちゃった。

やっぱり調子が悪いのかも、とか

疲れてるんじゃないのかな、とか……

ごめんね、かよちん。凛はいつもどおり元気なんだよ。

でも、かよちんがいると、からだがぽやぽやしちゃって

ふわふわして、どきどきする。

いつもの凛じゃないみたいに、なっちゃうんだ。

どうしたのかな、凛……。

――――――――――


そのあと……がっこうについてからも、凛はおかしいままだった。

かよちんがいっしょだと、うまく頭がまわらなくて

手がすこしだけ震えたり

やっぱり、さっきみたいに、かよちんのことを見られなかったり

かよちんがわらったりすると、胸がきゅーっとなって

そのせいもあって、今日の凛はかよちんにぎこちなく接してしまった。

かよちんは最初、心配していたけど

だんだんと悲しそうにすることも増えてきて

しょんぼりしたかよちんを見ると、胸がちくちくして、苦しかった。

そんなかよちんでいてほしくないから、いつもみたいに接しようと思っても

やっぱり、うまくいかなくて……

凛のせいで、なんだかぎくしゃくしたまま、放課後になっちゃった。


――――――――――



今日の凛が、かよちんといっしょにいたら、かよちんをもっと悲しませちゃうと思って

飼育委員があるからといったかよちんに

先に部室に行ってるね、と言ってしまった。

やっぱり、かよちんは悲しそうにして……それをみるのは、辛かったけど

一緒にいたら、もっとそんな顔にしてしまうと思って、急いで部室に向かった。


……その途中で、希ちゃんに出会った。


希「……あら? 凛ちゃん」

凛「希ちゃん……」

希「どしたん、そんなにあわてて」

凛「……ぶ、部室に早く行こうかにゃーって! 思って……」

希「ふぅん?」
 「……かよちんは、一緒じゃないんやね?」

凛「……う、うん」

希「……」

凛「……の、希ちゃんも、一緒に部室、行こ!」

希「ん~、それもいいけど」
 「ちょ~っと、お話していかない?」

凛「……あ」


希ちゃんは、きっと凛がいつもと違うから、それに気づいて、そんなことを言ったのだと思う。
まだ、だれにも今日の凛のことを話していなかったけど
希ちゃんになら、なんだか、相談できるような気がしたから
うなずいて、二人で適当な空き教室に入った。

冬だから、太陽が沈むのが早くて
夕日が教室をオレンジ色にそめていた。


希「……なんか、かよちんとあったね?」

凛「にゃ! ……う、うん」

希「やっぱり、なんだか様子がおかしいもん」
 「……喧嘩?」

凛「ち、違うにゃ! 喧嘩じゃない」

希「ふぅん?」
 「……じゃあ、何?」

凛「凛が……凛が悪いの」
 「凛が、かよちんと一緒にいると、かよちんを、悲しませちゃうから」

希「……そうなん?」

凛「……うん」
 「なんだか、今日の凛、おかしいんだもん」

希「……どこが、おかしいん?」

凛「かよちんが、一緒にいると……うまく話せないし」
 「……体が、からだがね! かたくなっちゃうの」

希「……ふぅん」

凛「それに! かよちんのこと、まっすぐ見られなくて……!」
 「どきどきしちゃうんだもん……」

希「……ほうほう」

凛「……だから、ちゃんと、かよちんと話せなくて」
 「うまく、かよちんと遊べなくて……それで」

希「なんだが、ぎくしゃくしちゃった、と」

凛「……うん」

凛「凛、どうしたのかな……?」
 「昨日まで、かよちんと普通に過ごせてたのに」

凛「なんだか、辛いにゃ……」

希「……うーん」


希ちゃんは、あごに指をあてて、考えるようなしぐさをしながら
外を眺めていた。
じっと見ていると、ぱっとこっちを振り返って。


希「ビョーキやね」

凛「えっ!?」

凛「り、凛……病気なの?」

希「そう、ビョーキ」
 「風邪より厄介なビョーキや」

凛「え……!」
 「な、なんていう名前の……病気なの……!?」

希「……その名も」


希「恋」

凛「……」

希「なんじゃそりゃ! って顔しとるね」
 「ふふ、まぁそうなるよね」


くすくすと笑う希ちゃん。
深刻なことなのに、凛はものすごく不安なのに
なんで希ちゃんは!


希「まぁ、いいよ」
 「じゃあ質問……凛ちゃん、かよちんのことは好き?」

凛「えっ?」


病気と何の関係があるの? って思った。
でも、嫌いなわけないから、もちろん。


凛「好きに決まってるにゃ」

希「……まぁ、それは、うん……予想通りの答え」

凛「ねぇ、望ちゃん……それと病気と、何の関係があるの?」

希「んふふ、まぁ、そうあわてんといて?」
 「……じゃあ、もひとつ質問」


希「……かよちんとキス、してみたい?」

凛「――え?」

希「……え? やなくて」
 「キス、わかる? ちゅーやで、ちゅー」

凛「かよちんと……?」

希「そうそう、かよちんと、ちゅー」

凛「……えっ?」


かよちんと、ちゅー?
希ちゃんは、病気だといったり
スキかどうか聞いて来たり。
そして、さらには、かよちんとちゅーしてみたいか、なんて、変なことを聞いてくる。


凛「の、希ちゃん、凛、よくわかんないよ!」
 「なんで、そんなこと聞くの?」

希「まぁまぁ、そうパニックにならんで」
 「これはウチの診療やから」

希「落ち着いて、真剣に、考えてみて?」

凛「う~~~……」
 「……うん」

かよちんと、ちゅー……

ちゅーって、唇を合わせるってこと。

……そういえば

そういえば、今朝、かよちんとちゅーをしそうになる夢を見たんだった。

あと、もう少しで、ちゅーできそうだった。

ものすごくどきどきした。

目が覚めたとき……どんな気持ちだったかな。

目が覚めたとき……

……

あと、少し……だったのに


凛「……!」


凛の顔は、一気に熱くなった。
どきどきして、胸がきゅぅっとしめつけられて
なんでかよくわからないのに
涙が出てきてしまった。

希「……どう?」

凛「……うん」

希「ふふ、やっぱり」
 「凛ちゃんは、間違いなく恋の病にかかってます」

凛「……」
 「恋……」

希「そう。 ……今までの凛ちゃんの好きは、ライク」

希「でも、何かの拍子に、その好きが、ラブにかわったんやね」


恋って、わかる。凛にもわかる。
したことはないけど、聞いたことはあるから。
その人のことを、好きになること。
ぎゅってしたり、したくなること。


凛「で、でもっ、望ちゃん」

希「ん?」

凛「凛と、かよちんは、友達だよ!」
 「そ、それに、女の子だし……!」

希「うん、そやね」
 「友達同士やし、女の子同士や」

希「でも、それって、何か問題になるん?」

凛「……え?」

希「友達だったのが、恋人になるっていっても、なーんもおかしいことないよね」

希「女の子同士だって、なーんもおかしいことやない」

希「好きになったら、男女だって、女の子同士だって、男の子同士だって、なんも関係ないよ」
 「だって、好きになっちゃったもんは、仕方ないやん?」

凛「……」

凛「……そうなのかな」

希「そうだよ? ……凛ちゃんの気持ちは、なんもおかしくない」

凛「……」


凛「……でも」

希「でも?」

凛「きっと、凛が……この気持ち、かよちんにいったら」
 「かよちんは、困っちゃう」

凛「今まで、ずっと友達だったのに」
 「凛ばっかり、こんな気持ち、かよちんに持っちゃって」

凛「凛がこんな気持ちで、それが間違って無くても」
 「かよちんは……困らせたくないもん」

希「……」

凛「……わかんないよ、凛」

凛「凛は、どうすればいいの……?」

希「……」

希「あー、もう!」
 「凛ちゃんはいい子すぎるな~!」

凛「わ、希ちゃん!」

希「よしよしぃ~!」

凛「の、のぞみちゃ……くるし」

希「……」
 「ウチやったら、そんなこと考えずに、猛アタックしちゃうよ」

凛「……え」

希「相手がなんとも思っていなかったら、自分からどんどん行って」
 「相手に惚れさせる! これがのんたん流テクニック!」

希「……でも、凛ちゃんは優しいから、そんなことできひんよね」

凛「……」

希「……うん、それでええんよ」

希「人には人それぞれの、恋の仕方があるもん」
 「誰かに決められるものでも、無理に決めなきゃいけないもんでもない」

希「凛ちゃんの場合、相手は女の子」
 「しかも、大好きな大親友ときたもんだ」

希「一歩間違えたら、取り返しのつかないことになってしまうかも……!」

凛「の、希ちゃぁん……」

希「ふふ、ごめんごめん」
 「でも、それならさ。 ゆっくり恋したらええんよ」

希「慎重に、自分のペースで」
 「誰にせかされてるわけでもないんやし……あ、かよちんの場合かわいいからモテる可能性はあるか」

凛「……うぅぅ」

希「じょ、冗談やって! 冗談やないけど……」
 「……それでも、凛ちゃんは、今きっと、かよちんに一番近い存在」

希「十分にチャンスはあるんやから、自分なりのアプローチの仕方で」
 「かよちんにアピールしていけば、ええんよ」

凛「……そうなのかにゃ」

希「そうにゃの!」
 「だから、ほら、元気だしい?」

希「そんなしなびた凛ちゃんじゃ、振り向くもんも振り向かんよ!」

凛「……希ちゃん」

希「……だーかーら!」

希「しゃきーん」

凛「にゃっ!? の、希ちゃん……!? そ、その手はっ!」

希「特別に、のんたんが凛ちゃんにスピリチュアルな元気を注入したる!」

凛「や、やめ……希ちゃん! やめ


凛「あ」





にゃああああああああああああああああああああああああああああ……





――――――――――


絵里「……あ、いたいた、希」
  「こんなところにいたのね」

希「あ、えりち。 生徒会の仕事終わったん?」

絵里「えぇ、とりあえずね」

希「そっか、お疲れ様」

絵里「……」
   「それにしても、さっき、凛がものすごい勢いで廊下を走って行ったんだけど……」

希「えー、そうなん? 何かあったんやろかー?」
 「ウチはなんも知らんなー」

絵里「……」

絵里「ちゃんと、今日の練習はなしだって、言ってくれた?」

希「それはもう、ばっちり」

絵里「それなら、いいのだけど」

希「ふふ」

絵里「……楽しそうね」

希「そう?」

希「……あ、えりち、もしかして嫉妬?」

絵里「……そんなことない」

希「えー、ほんと?」

絵里「……ほんとよ」
   「ん……」

希「……わ」
 「……ふふっ、もう、えりちは」

絵里「何よ」

希「……甘えんぼやなーっておもて」

絵里「……知らない」

希「……はいはい」


絵里「……」
   「ちなみに、何してたの?」

希「……んー?」
 「ただの、先輩からのアドバイス、かな」

絵里「ふーん……」

希(……頑張ってな、凛ちゃん)

絵里「……ふぅん」

希「やっぱ嫉妬しとるやん」

絵里「しーてーなーいー」

きょうはここいらで。
りんぱなが少ないですが、今後りんぱなしかなくなりますとおもいます。

――――――――――


そういえば、凛はかよちんと一緒にいるとき、いっつもドキドキしてた気がする。
手をぎゅっと握った時も、からだがかぁっと熱くなっていたし。
今までは、全然意識していなかったけど。

だから、かよちんのことが好きになったのは……
かよちんに恋をしてしまったのは、今日じゃないと思う。
ずっとずっと前から、かよちんに恋してた。

今朝の夢で、それに気づかされただけなんだ。
きっとそう。

希ちゃんに不思議な元気をもらって、ちょっとだけ自信がもてた。
今なら、かよちんのこと、ちゃんと見られるかもしれない。
今日、ぎくしゃくしちゃったことも、ごめんねって言えると思う。

早く、かよちんに会いたい。
会って、話がしたい。
いろんなお店に行ったり、いっぱい練習したりして
もっともっと仲良くなりたい。
そう思って、凛はかよちんがいるかもしれない場所を走り回った。


でも、かよちんはもう学校には居なかった。
先に帰っちゃったのかもしれなかった。
真姫ちゃんやことりちゃんとすれ違ったから、かよちんのことを聞いたけれど
見ていないって言ってた。

ほんとは、今すぐにでも会いたかったけど
冬はすごく早く日が暮れちゃう。
あたりはもう、真っ暗だった。

明日も学校があるから、明日になれば、かよちんとお話しできる。
凛は、今日はあきらめて、おうちに帰ることにした。

おうちに帰っても、凛はかよちんのことばっかり考えてた。
今日は、悲しい気持ちにさせちゃったから、明日はいっぱい楽しい気持ちにしてあげよう。
楽しいお話いっぱいして、もっともっとかよちんを笑顔にするんだ……って。

……電話でだってお話しできるけど、ちゃんと謝りたかったから、電話するのはやめにした。


心の中で、かよちんにおやすみって言って、凛は目をつぶった。

次の日の朝、凛は目覚まし時計よりも早く、目を覚ました。
オレンジ色の太陽が、とってもまぶしい。
凛の中の、本当の気持ちが分かったら
朝のつめたーい空気も、とっても気持ちよく思えた。

制服に着替えて、朝ご飯を食べて
準備を済ませて、昨日よりも早くおうちを出た。
かよちんに、すぐ会いたかったから。

外はとっても寒かったけど、手袋をするのも忘れて、駆けだした。
昨日水たまりになっていたところは、すっかり乾燥して
氷もほとんど張っていなかった。
たんたん、と道路をける音だけがした。


しばらく走って、凛はいつもの待ち合わせ場所に到着した。
かよちんはまだ来ていなかった。
かよちん、凛が早く来ているのを見て、きっとびっくりするよ。

はやく来ないかな、かよちん。



でも、かよちんはどれだけ待っても来なかった。

凛がいつも家を出る時間になっても
凛がいつもここに到着する時間になっても。

やっぱり、昨日の凛の行動で、かよちんを怒らせちゃったのかもしれない。

凛のことが嫌いになって、かよちんはもう学校に行っちゃったのかもしれない。

もう、凛と学校にいきたくないって思ってるのかもしれない。

どうしよう。

どうしよう。

さっきまで、かよちんに会うのがすっごくたのしみで、うきうきしながらここに来たのに。
ちょっとネガティブなことを考え始めたら、どんどんとそれに飲み込まれていった。

どうしよう。

どうしよう。

さっきまで、冷たくて静かな朝の空気が、とっても気持ちよかったのに
途端にほほが痛くなって、指先が痛くなって
胸も、痛くなった。

結局、凛はひとりで学校に来た。

時々、委員会のおしごととかで、ばらばらに登校することがあったけど
そんな時とは違くて、とても寂しかった。

教室に着くと、真姫ちゃんの姿があった。


真姫「おはよ、凛」

凛「あ、お……おはようにゃー!」

真姫「……あれ? かよちんは?」

凛「え? 来てないの?」

真姫「まだ来てないと思うわよ」
   「少なくとも私は見てない……てっきり、凛と一緒に来るものだと思ってたけど」

凛「……そ、そうなんだ」


あれ?

この時間になっても来ていないなんて、思ってもいなかったから驚いた。
凛より先にかよちんが学校に行っているのなら、すでに到着してるはずだし
凛より後に学校に向かったとしても、今はもう、登校時間ぎりぎり。
かよちんは時々遅れるけれど、こんなに遅くになったりしない。

と、いろいろ考えていると、先生が教室に入ってきた。

「はい、出席とりますよ、席について」

真姫「だって。 ほら、凛」

凛「うん……」

「はい……じゃあ名前を呼ぶわね」
「逢沢さん」

凛(……どうしたんだろう、かよちん)

「……さん」

「えーと、小泉さん……は」
「体調不良でお休みね」

凛「えっ!」

「……へ? どうかしたの? 星空さん」

凛「あ、なっ、なんでもないです!」


かよちんが体調不良……
どうしたんだろう……昨日は、そんなに調子が悪いように見えなかったのに。
風邪……? それとも……

いつの間にか凛が呼ばれる番になっていたのだけれど、全然気が付かなくて
真姫ちゃんにこっそりつつかれて、やっと返事をした。

それでも、凛はかよちんのことばっかり気になって。
昨日からのことが、ぐるぐると頭の中で回って
居てもたってもいられなくなってしまった。

凛「先生!」

「はい、なにか連絡でも――」

凛「体調が悪いので、早退します!」

「えっ」

真姫「はぁ? 凛、何言って」

凛「ごめんね真姫ちゃん、今日練習お休みする!」

真姫「え」
   「ちょ、ちょっと、凛!」

「ほ、星空さん!? あれ!? 体調は大丈夫なの!?」

「星空さーん!?」


凛は、学校に来たばっかりなのに、バッグを持って
大急ぎで教室から飛び出した。
かよちんが、体調不良。
普段なら、メールとか電話で、調子を聞くのに。

謝りたくて、心配で、顔が見たくて、お話ししたくて
かよちんに会いたくて、凛は、走った。

赤信号も、ものすごく長く感じた。
いつもは短く感じるまっすぐな道も
果てしなく長い長い道に思えた。

凛「……はぁ、はぁ」

凛「……やっと、着いたぁ」


猛ダッシュで、しばらくして。
凛は、かよちんのおうちについた。
たぶん、かよちんのお父さんもお母さんも、お仕事でいない。
かよちんは、寝てるかもしれない。
……このドアが、あかないかもしれないって、おうちについてから気が付いた。


凛「……どうしようかにゃー……」


もし、ピンポンして、体調の悪いかよちんを起こすことになったらと考えると
なかなかしづらかった。

ためしに、メールをしてみようと思ったけれど、携帯は電池切れだった。
どうしようどうしようと、悩んでいると

突然、玄関のドアが開いた。


凛「にゃっ!?」

花陽「ピャッ!?」
   「……り……凛ちゃん」


ドアを開けたのは、かよちんだった。

凛「かよちん!」

花陽「あ、あっ……えと」
   「うぅっ!」


かよちんは、凛の顔を見たら、なんだかいきなり悲しそうな顔になって
今開けたばっかりのドアを、思い切り閉めた。


凛「えっ!? か、かよちん!?」

凛「ねぇ、かよちん! どうして閉めちゃうの!?」

花陽「ごめんなさいごめんなさい……!」

凛「かよちん!」


ドアを開けようと、思い切り引っ張っても、なかなか動かない。
かよちんも、同じくらい強く、ドアをつかんでるみたいだった。


凛「ね、ねぇ、かよちん! なんで!」
 「昨日のこと、怒ってるの!? かよちん!」

花陽「ごめんなさい、ごめんなさ……」

花陽「……え?」

凛「昨日、凛がかよちんの話、聞いてなかったの怒ってるの!?」
 「ぼーっとしてたこと、怒ってるの!?」

凛「体は!? 体はだいじょうぶなの!? かよちん!」
 「熱あるの!?」

花陽「えっ、えっ……?」

凛「凛、謝りに来たんだよ、昨日のこと!」
 「あと、体調不良だって聞いて、お見舞いに来たんだよ!」

凛「ごめんねかよちん! ごめんね……!」
 「昨日はごめんね!」


かよちんに許してもらおうと、無我夢中で、思いついたことをぐちゃぐちゃに言っていたら
ドアがゆっくり開いた。
かよちんは、凛のことを見て、おろおろとしていた。


花陽「ど、どういうこと……?」

凛「……昨日、かよちんと一緒にいるとき」
 「凛、なんだか変だったでしょ……?」

花陽「……う、うん、ちょっとだけ」

凛「……うん、凛、昨日、変だったの」
 「かよちんの話、ちゃんと聞けなくって……」

凛「それを謝りたかったの!」
 「それと、先生が……かよちん、体調不良で今日はお休みするって……言ってたから」

凛「心配になって……学校、早退しちゃった……」

花陽「……そ、そうなの……?」

凛「うん……」

花陽「そ……」

花陽「そう……だったんだ」


凛が、話し終わると、かよちんは
ふらふらと力が抜けたように、玄関にへたりこんだ。


凛「わっ、か、かよちん!? 大丈夫!?」

花陽「……う、うぇ……」
   「うぁぁん……よかったよぅ……」

凛「え、え!? か……えっ!? なんで泣いてるの!?」

ご近所さんに見られたら大変だって思って、
凛はあわててかよちんを支えながらおうちの中にお邪魔した。

そして、かよちんが泣き終わるまで、背中をさすっていた。
なんで泣いてるのか、よくわからなかったから……
何も言えなかったけど。

しばらくすると、かよちんはだんだん落ち着いてきたみたいで
ゆっくり話し始めた。


花陽「あのね……花陽」
   「凛ちゃんに、わるいこと……しちゃったのかなって思って」

凛「へ……?」

花陽「昨日、凛ちゃんが……ぼーっとしてたの」
   「何か、花陽が悪いことを……凛ちゃんを怒らせるようなことをしたからかな……って」

花陽「思って……」

凛「そ、そんなことないにゃ!」
 「かよちんは、凛が怒るようなこと……ぜったいしないもん」

花陽「で、でも……! あんな凛ちゃん初めてだったから……」
   「何か変なことしちゃったかなって思って」

花陽「必死に考えて、必死に思い出してみたけど……全然、思い当たらなくて……」

凛「あ、当り前だよ!」

花陽「それで……飼育委員のお仕事に行くとき……」
   「いっつもは凛ちゃん、花陽についてきてくれてたのに」

花陽「……昨日は、違かったから……」

花陽「もしかして、嫌われたんじゃないかなって……思って」
   「心配だったの……」

花陽「だから、凛ちゃんから今、本当のことが聞けて……安心して」
   「そしたら……涙がでてきちゃって……」

凛「嫌われたなんて……そ、そんなわけない!」
 「凛が、かよちんのこと嫌いになることなんて絶対ないよ!」

凛「だって大好きだもん! かよちんのこと、大好きだもん!」

花陽「……ほんとに……?」

凛「ほんとだよ!」

凛「凛がかよちんのこと、世界で一番好き!」

花陽「……凛ちゃん」

凛「り、凛はっ」

花陽「ん?」

凛「凛、かよちんとちゅーしたいもん!」
 「ちゅーしたいくらい、好きなんだもん――!」

花陽「……」

花陽「……エ!?」

凛「――」

凛「――……にゃ?」

凛「……あれ、今、凛、なんて言ったのかにゃ」

花陽「あ、あぅ……あぁ……」

凛「……あっ」


あっという間に、かよちんの顔は赤くなった。
凛も、自分の言ったことを理解した途端
顔が一気に熱くなった。

希ちゃんから、慎重でいいんじゃないって言われたくせに
凛は、超大胆に、かよちんに自分の気持ちを伝えてしまった。
きっと、これは希ちゃんからもらった、スピリチュアルパワーのせいだ……。


凛「か、かよちん! いっ、いまのは忘れてぇ~!!」

――――――――――


凛は、なんてことを言ってしまったんだろう。
折角、仲直りできたのに、凛が変なことを言ってしまったせいで
前よりもっと話しにくい状況になっちゃった気がした。

さすがの凛も、辛くなって、ちょっと涙目になってしまった。


凛(ど、どうしよう……)


しばらく、静かな時間が流れた。

すると、かよちんが、またまたゆっくりと話し始めた。


花陽「……ね、ねぇ、凛ちゃん」

凛「……ん?」

花陽「さっきの凛ちゃんの話って」

凛「にゃ、ああああ! わ……忘れて、欲しい、な……」

花陽「そ、そうじゃなくてっ、あの……聞いて?」

凛「……う、うん……」

花陽「……あの……えっと」

花陽「さっきの、凛ちゃんの気持ちは」

花陽「……ほんとの、きもちなの?」

凛「……」


一度、言ってしまったことは、もう取り返しがつかない。
好きになっちゃったらしょうがないって、望ちゃんは言ってた。
言っちゃったらしょうがないって、凛は思う。

半ば、やけになって、凛は。


凛「……ほ、ほんとだよ!」
 「……うそ、じゃない……にゃ」

花陽「……」

花陽「そ、そう……なんだ」

凛「……お、オカシイ……よね」

花陽「……」


花陽「そ、それじゃあ」

花陽「花陽も、オカシイ……のかな」

凛「……うん」
 「……」

凛「……え?」

凛「ど、どういうこと……? かよちん……」

花陽「……」


かよちんは、顔を真っ赤にして、もじもじしだした。


花陽「じ、実はね」

花陽「花陽も……凛ちゃんと」

花陽「おんなじ、きもちかもしれない」

凛「……」

凛「ちょ、ちょっと、よく、わかんないにゃ……?」


花陽「花陽もね、りんちゃんと」

花陽「……ちゅーしたい……好き、かも」

花陽「しれ、ない……なんて」

凛「……」

凛「そ、そうなんだ」

花陽「……うん」

……

……希ちゃん。

どうすればいいのかな。

凛、知らないよ。

この後……お互いに好きになったあと

どうすればいいのかなんて、聞いてないもん。



恋っていうのを、昨日初めて知って

でも、昨日よりずっと前から、凛は恋してて

今日、初めて思いを告げたら

今日、初めて両想いになりました。


凛の頭じゃ、処理が追いつかないよ。


どうしよう。

どうしよう。


幸せすぎちゃうよ。


<FIN>

<おまけ>


凛「そ、そういえば……かよちん、体調不良だったんだよにゃ?」
 「大丈夫なの?」

花陽「あっ……」
   「……えっと、それは」

花陽「……その」

凛「その」

花陽「……ごめんなさい」
   「ずる休み……です」

凛「……えええええ!? かよちん、ずる休みしちゃったの!?」
 「まぁ凛もズル早退しちゃったけど……」

花陽「だって、だって!」
   「凛ちゃんに嫌われちゃっていたら……一緒に……登校できないし」

花陽「……一緒に、練習だってできないし……」

花陽「凛ちゃんが一緒じゃない学校に行ったって……辛いだけだもん」

凛(……)

凛(……あー)

凛(かよちんって、ほんとかわいいにゃー)


ちなみに、次の日、凛は絵里ちゃんや海未ちゃんにひどく叱られました。


<おしまい>

書いてて意味わかんなくなったです。ごめんなさい。
久しぶりに書くと思い通りにならなくて駄目、ほんと。

見てくださった方はありがとうございました。
暇つぶしの暇つぶし程度になれば……幸いです。
さよなら。

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