アイドル系天使 (73)

P「スカウトですか?」

ちひろ「はい、卯月ちゃんや美穂ちゃんもレッスンやお仕事に慣れてきたので、そろそろ3人目のアイドルをと思いまして。」

P「スカウトなんかやったことないですけど…」

ちひろ「確かに二人とも自分で履歴書送ってきましたからね。でもスカウトもプロデューサーさんの大事なお仕事ですよ!」

P「はあ…まあ構いませんよ。あの二人もまだまだ仕事が少ないんでもう一人くらい増えてもいいと思いますし。」

ちひろ「ではさっそくスカウト行ってきてください!」

P「いや、やり方とか教えてくれないんですか?」

ちひろ「声かけて名刺渡して近くのカフェで話すれば大丈夫ですよ!」

P「そんなもんですか…?」

ちひろ「はい♪優秀なプロデューサーさんですからきっと上手くいきます!」

P「まあ、やるだけやってみますか。」

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P「とは言ったものの…」

P「さすがに20連敗は堪えるなあ…3回警察呼ばれたし。」

P「名刺見せても話聞いてくれないし…やっぱりこんな立ち上げたばっかりのプロダクションじゃ無理もないか…」

P「はあ…」

P「なんか疲れたしそこの公園でちょっと休むか…」

P「」ゴクゴク

P「ハァーッ…なんだか最近ちひろさん特製のドリンクじゃないと疲れが取れないんだよなあ…」

P「ん、あの子…?」

少女「はぁ…」

P「なんかコスプレしてるな…コスプレイヤーは目立ちたがりが多そうだし話は聞いてもらえそうだな。」

P「それに根拠はないけどアイドルになってくれそうな気がする。」

P「よし…!」

P「すいません。今、お時間よろしいですか?」

少女「………」

P「あのっ!」

少女「……?」キョロキョロ

P「いえ、あなたです。今お時間ありますか?」

少女「え?あ、あのっ…!」

P「はい、なんでしょう?」

少女「私のこと、見えるんですか…!」

P「…え?」

少女「周りを…」

P「え?」

ママー,アノヒトダレトオハナシシテルノー? ミチャダメヨ!

P「え、あ、えっ???」

少女「と、とりあえず場所変えませんか?」

P「う、うん…」

P(街中を歩いていても確かに誰もこの子には見向きもしない。これだけ本格的な天使のコスプレしてたら相当目立つと思うんだけどな…)

少女「あそこのカラオケボックスに入りますね?」

P「え、あ、うん。」

少女「店員さんには私が見えないので、一人で来たことにしていただければ…。」

P「うん。」

店員「いらっしゃいませ、お一人ですか?」

P「はい。1時間で。」

店員「かしこまりました。104号室になります。ごゆっくりどうぞ。」

ガチャ

P「じゃあ…いろいろ聞きたいけど…」

少女「はい。まずは…私が誰からも見えていないのは分かっていただけましたか?」

P「まあ、たぶんそうなんだろうな、とは。」

少女「えっと、じゃあ、携帯電話のカメラで私を撮ってみてください。」

P「ん?はあ。」

カシャ

P「えっ…」

少女「写ってません…よね?」

P「うん。」

少女「私、人間じゃないので見えないはずなんです。」

P「え、じゃあなんで俺は。」

少女「それは…分からないです。ただ、稀に見える人もいるみたいなので…」

P「その稀な人ってことか。」

少女「だと思います…」

P「ところで、人間じゃないって言ってたけど…君は幽霊?」

少女「幽霊ではないですね…」

少女「私、天使なんです。」

P「え?じゃあそのコスプレは…」

天使「コスプレじゃなくて本物です。」

P「マジかよ…」

P「そう言えば天使なのに輪っかないの?」

天使「まだ見習いなので輪はないんです…」

P「見習い?」

天使「はい。天使と言ってもまだ見習いなんです。一人前の天使になるためには地上でたくさんの人を幸せにしないといけないんです。」

P「はー、なんか天使も大変なんだねえ。」

天使「ですが、たくさんの人を幸せにする方法がなかなか思い付かなくて…何かいいアイデアとかありませんか?」

P「いきなり言われても…」

P「いや、あるな。」

天使「ほ、本当ですか?」

P「あー、でもだめか。他の人からも姿が見えないんじゃだめだ。」

天使「いえ、今ならできますっ。」

P「え?」

天使「姿が見える人が天使を抱き締めると、その天使の姿はどの人からも見えるようになるんですっ。」

P「なんじゃそりゃ。」

天使「な、なので…お、お願いできますか?」

P「え?俺?」

天使「は、はい、お願いします。」

P「じゃ、じゃあ…失礼しまーす…」

ぎゅっ

天使「えへへ…///」

P(これは可愛い…!絶対にアイドルにしないと…!)

天使「あ、あの…///」

P「ん?」

天使「も、もう大丈夫です…///」

P「え?あ、あああ!!ご、ごめんごめん!」パッ

P(いかん、余りに可愛くて時間を忘れてた。)

P「しかし本当にこんなんでいいのか…?傍目には分かんないけど…」

天使「あ、じゃあ撮ってみてください。」

P「あ、そうか。」

カシャ

P「おーー!写ってる写ってる。」

天使「翼は写ってませんか?」

P「写ってないよ、と言うか肉眼でも見えないよ。」

天使「これで普通の人に見えますよね?」

P「確かに。上手いことできてんだなあ。」

天使「あの…それで、たくさんの人を幸せにできる方法ってなんでしょうか?」

P「アイドルやってみない?」

天使「え?アイドルって…」

P「歌って踊ってのあのアイドルね。」

天使「そ、そんなの無理ですっ。」

P「そう?素質あると思うんだけど。」

天使「人前で歌ったり踊ったりなんて…したことないですし…」

P「そういうのはレッスンでなんとでもなるよ。」

天使「で、でも、私がアイドルになっても誰が幸せに…」

P「可愛い女の子が一生懸命歌ってるだけで見てる方は幸せになるものだよ。」

天使「そんな、可愛いなんて…!」

P「可愛いものを可愛いと言っただけだよ?どうかな、アイドル?」

天使「で、でも私、人前でおしゃべりするのとか、あんまり得意じゃないですし…」

P「そういうのが苦手なアイドルが好きっていう人もいるよ?」

天使「あ、あの、もしアイドルとして上手くいかなかったら

P「そんなことありえない。君は絶対に人気アイドルになる。してみせる。」

天使「うぅ…」

P「どう?僕は君をアイドルにしたい。君はアイドルになればたくさんの人を幸せにできる。」

天使「で、でも、私なんかがアイドルになっても、本当に皆さんを幸せにできるんでしょうか…?」

P「まあ、確かにやってみないと分からないけど…」

天使「じゃあ、やっぱり…」

P「僕は君がアイドルとして輝いている姿が見たい。君がアイドルになってくれたら、それだけ僕は幸せだ。」

P「どうかな?」

天使「……!」

天使「分かりました。よ、よろしくお願いしますっ!」

P「ところで名前とかあるの?」

天使「私ですか?緒方…緒方智絵里って言います。」

P「え、意外と人間みたいな名前なんだな。」

智絵里「あ、今のは人間として生活していくための名前で、天使名はチエリエルって言います。」

P「人間用の名前まで用意してあるのか。」

智絵里「だいたいみんな、見える人に可視化してもらって人間として行動するので…」

P「なるほどなあ。」

智絵里「あの、そう言えばお名前は…?」

P「あ、そうか、自己紹介まだだっけ。こういうものです。」つ名刺

智絵里「え?本当にアイドルのプロデューサーさんなんですか?」

P「うん、だから人気アイドルにするって…」

智絵里「すいません、ただのアイドル好きなお兄さんかと…」

P「まあ、分かってくれたらなんでもいいよ…ははは…」

事務所

P「お疲れさまですー。戻りましたー。」

ちひろ「お疲れさまです!あの、後ろの女の子は…」

P「はい。スカウトしてきました。」

智絵里「お、緒方、緒方智絵里ですっ。よ、よろしくお願いしますっ。」

ちひろ「事務員の千川ちひろです。困ったことがあったら何でも言ってくださいね♪」

智絵里「は、はいっ。よろしくお願いしますっ。」

P「卯月と美穂はまだレッスンですか?」

ちひろ「そろそろ帰ってくる頃ですが

ガチャ

卯月「お疲れさまです♪島村卯月、戻りました!」

美穂「お疲れさまですっ。」

P「おかえりー、ちょうどいいや。」

卯月「お疲れさまです。プロデューサーさん。あの…その子は…?」

P「うん。今日から一緒にアイドルとして頑張っていく子だ。じゃあ三人とも自己紹介だな。」

智絵里「は、はいっ。お、緒方智絵里ですっ、よ、よろしくお願いしますっ。」

卯月「はじめまして♪島村卯月ですっ。一緒に頑張りましょう!」

美穂「小日向美穂ですっ。こ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ。」

P「明日のレッスンから一緒に活動することになる。卯月と美穂は時々でいいからフォローしてやってほしい。」

美穂「はいっ。」

卯月「分かりました。」

一ヶ月後

ガチャ

P「戻りましたー。」

卯月「お疲れさまです♪」

美穂「お疲れさまですっ。」

智絵里「お、おつかれさまですっ。」

P「お、3人ともいるか。ちょうどいい。いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

智絵里「いい知らせと悪い知らせ…?」

美穂「うーん、どちらからにしましょうか…」

卯月「じゃあ、いい方からにしましょう!なんですか?」

P「小さい会場だが3人でユニットとしてライブに出ることになった。」

卯月「え?ほ、本当ですか?!」

P「ああ。」

美穂「な、なんだか今から緊張してきました…!」

智絵里「お、落ち着いて美穂ちゃん…!」

P「ライブバトルと言って、アイドル同士がライブをして出来の良さを競い合う形式だ。持ち時間は10分もないが、ハンパなライブだとすぐ分かるから気を抜くなよ?」

3人「「「はいっ!!」」」

P「で、悪い知らせだが…」

美穂「なんですか?」

P「ライブバトルに向けて、トレーナーさんにはこれまで以上に厳しい指導をお願いしてきた。」

3人「「「そんなー!?」」」

ライブバトル当日

美穂「き、きき緊張してきました…!!」

卯月「だ、だだだ大丈夫だよっ、きっと大丈夫だよっ、大丈夫…!」

智絵里「と、ととととととにかく頑張りましょうっ!」

P「3人ともそんなに緊張してどうする。」

智絵里「で、でも…!」

P「今までレッスンしてきただろ?」

卯月「それはそうですけど…」

P「じゃあ大丈夫さ。」

美穂「だと、いいんですけど…」

P「ま、それに大事なのは失敗しないことじゃないしな。」

智絵里「…え?」

P「失敗してもいいから、それぞれ自分の魅力を精一杯見せつけてくる。これを今日の目標にしよう。」

3人「「「…はい!」」」

智絵里「やっぱり負けちゃいました…」

卯月「2回も転んじゃいました…」

美穂「歌詞も飛んじゃいましたし…」

P「おつかれ。まあ最初からそうそう上手くはいかないさ。反省はいろいろあると思うけど…まあ、これ見てみるか。」

卯月「なんですか?」

P「観客に配られたアンケート。」

『応援したいと思えるユニットでした!』

『卯月ちゃんの素敵な笑顔が忘れられません!』

『美穂ちゃんの一生懸命さがすごく良かったです!』

『智絵里ちゃんは見てるだけで幸せな気持ちになれます!』

『またライブしてください!絶対来ます!』

『次のイベントはどこでやりますか?』

卯月「わあ…!」

美穂「こ、これ、本当に私たちの…?」

智絵里「すごい…!」

P「うん。3人の魅力はちゃんと伝わってたさ。」

P「だから、またライブに来て、成長したところを見せに来ような?」

3人「「「はいっ!」」」

一ヶ月後

P「う゛~ん…」

ちひろ「どうしたんですか?」

P「3人とも今一つカラを破れないと言いますか、壁を越えられないと言いますか…」

ちひろ「あー…」

P「卯月は悪い意味でまとまっちゃってますし、美穂はレッスンでは完璧なのにステージだとトチりますし、智絵里は客席の僕が見えないとすぐ不安そうな顔になりますし…」

ちひろ「3人もその辺りは自覚してるみたいですが…」

P「最近はライブバトルも負けが増えてますしねえ…モチベーションが下がってますます良くないんですよ…」

ちひろ「何かいい手は…」

P「いろいろ考えてるんですが…」

Pちひろ「「うーん…」」

女子寮

卯月「相談って、なんですか?」

美穂「アガリ症を治したくて…」

智絵里「なるほど…」

美穂「ステージに上がると緊張しちゃって…レッスンだとできることもできなくなって…」

智絵里「今日のレッスンでも、トレーナーさん、美穂ちゃんのこと褒めてましたね。」

美穂「でもステージに上がると頭が真っ白になって…何かいい方法とかありますか?」

卯月「私は振り付け通りに踊るのが精一杯で、緊張する余裕もないと言うか…あはは…」

智絵里「私はプロデューサーさんが頷いてるのを見て安心するようにしてますけど…」

美穂「プロデューサーさんの方を見ようとすると周りのお客さんからの視線が気になって…」

卯月「レッスンでは問題ないから…自信を持ってやればいいんじゃないでしょうか…?」

美穂「うぅ…そのつもりでいつもやってるんですけど…」

3人「「「うーん……」」」

智絵里「じゃ、じゃあ…逆に失敗してもいいやって、思ってみたらどうですか?」

美穂「えっ?」

智絵里「初めてのライブの時にプロデューサーさんが言ってましたよね?『失敗してもいいから自分の魅力を出せ』って…」

卯月「確かに…」

智絵里「失敗しても、美穂ちゃんの良さが出れば…きっとプロデューサーさんは成功って言ってくれると思いますっ。」

美穂「そうかもしれません……!」

美穂「今度のライブは失敗してもいいから一生懸命私の魅力をアピールしてみますっ。」

一ヶ月後

ちひろ「最近美穂ちゃんミスしなくなりましたね。」

P「ええ、何があったのかは知りませんけどいいことです。」

ちひろ「ミスしなくなったおかげで表情が明るくなってファンがぐんぐん増えてますよ?」

P「ええ。これに刺激されて二人も伸びるといいんですが。」

女子寮

美穂「智絵里ちゃんのアドバイスのおかげであんまり緊張しなくなりました!」

智絵里「そ、そんな、私は何も…」

ガチャ

卯月「うーん…」

美穂「卯月ちゃんおはよう。」

智絵里「おはよう。」

卯月「あ、おはようございます。」

美穂「何か…悩みごと?」

卯月「えっと…悩みごと、っていうほどのことでもないんですけど…」

智絵里「なんですか?」

卯月「キャラが薄いって…」

卯月「なかなか印象が残らないから仕事が入りにくいとかって…」

美穂「そ、そんなことないよ卯月ちゃん!」

智絵里「そ、そうですっ、こんなに可愛いのにっ。」

卯月「か、可愛いなんてそんな…」

卯月「私より可愛い人はいっぱいいますし…それに可愛いとしても、それだけじゃダメなのかなあって…。」

卯月「二人はキャラクターとか、考えたことありますか?」

美穂「えっ?うーん、あんまりないかなあ…」

智絵里「私も考えたことないです…」

卯月「プロデューサーさんに相談したら、『卯月の魅力を伝える何かがあれば…』って言われたんですが…私の魅力ってなんなんでしょう…?」

美穂「うーん…」

智絵里「魅力…」

美穂「やっぱり、笑顔じゃないかな?」

智絵里「そうですねっ、やっぱり卯月ちゃんには笑顔が一番似合うと思いますっ。」

卯月「お仕事の時だけじゃなくて、普段からなるべく笑顔でいようとは思ってるんですけど…これ以上何かできるんでしょうか…?」

美穂「うーん…」

智絵里「うーん…」

美穂「あ、じゃあ、何かポーズとか!」

卯月「ポーズ、ですか?」

美穂「うんっ。智絵里ちゃんが時々やってる、『いぇいっ』みたいに。」

卯月「確かに、いいかもしれませんねっ。」

智絵里「卯月ちゃんに似合うポーズ…」

美穂「智絵里ちゃんの『いぇいっ』は自分で考えたの?」

智絵里「天…じゃなくて、じ、地元で流行ってたので…」

卯月「うーん…」

美穂「と、とりあえずいろんなポーズで写真を撮ってみようよ!」

卯月「そうですね!」

カシャッ…カシャッ…

美穂「とりあえず携帯でたくさん撮ったけど…」

卯月「なんだかどれもパッとしないですね…」

智絵里「うーん…あっ。」

美穂「智絵里ちゃん?何かあった?」

智絵里「ページ送りすぎて違う写真になっちゃいました。」

卯月「あ、これ懐かしいですね♪」

美穂「ほんとだー、これ、初めて二人で遊びに行ったときの写真ですっ。」

卯月「美穂ちゃんが東京を案内してほしいって言ったから二人でオフの日に遊びに行ったんですよね。」

美穂「結局お買い物してクレープ食べてプリクラ撮って帰ってきただけだったんだけど…。」

美穂「あ、その時のプリクラ、手帳に貼ってるんですよっ、ほらっ。」

智絵里「あっ!」

美穂「どうしたの?」

智絵里「このポーズ、いいんじゃないですか?」

卯月「ポーズ?」

智絵里「顔の横で両手でピース…とっても可愛いですっ。」

美穂「そうだ、ポーズとるときの掛け声もあの時の使えば…!」

卯月「あっ、あれですね?」

智絵里「あの時?」

美穂「たまたま私たちの隣で撮ってた子がやってて…私たちもそれを真似してみたんだよねっ。」

卯月「じゃあ、さっそくやってみるので、撮ってもらってもいいですか?」

美穂「うんっ。いくよー、せーのっ!」

卯月「ぶいっ♪」ダブルピース

ちひろ「最近すっかり忙しくなりましたねえ。」

P「ええ、卯月のダブルピースがあんなに人気になるなんて思いませんでしたよ。」

ちひろ「美穂ちゃんと撮ったプリクラを智絵里ちゃんが見つけたのがきっかけなんですね?」

P「らしいですね。その話のおかげで仲良し3人組ってイメージがついてありがたいです。」

ちひろ「ユニットの知名度が上がってきたせいか、それぞれ一人でのお仕事も来てますしね。」

P「まあ、その分付き添いとかできなくなってきてるのでそれは残念ですが。」

ちひろ「忙しいからこその悩みですよ。さすが、売れっ子アイドルのプロデューサーさんは悩みも贅沢ですね♪」

P「そんな、茶化さないでくださいよ。」

P「ただ、贅沢な悩みなのは分かってるんですけど、ちょっと気にかかることがありまして。」

ちひろ「なんですか?」

P「どうも最近智絵里の仕事の出来が安定しないな、と。」

ちひろ「そうですか?」

P「僕が現場で見てる分には問題ないんですが、僕がいなかった時の仕事を後から確認すると、どうも凡ミスがあったり、表情がよくなかったりするんですよ。」

ちひろ「あー、言われてみればそんな気も…」

P「智絵里の性格的に、僕が見てない時は手を抜いてる、なんてことはないと思うんですが…」

ちひろ「そうですよね。今度聞いてみたらどうでしょう?」

P「ですね。」

P「なあ智絵里、なんか悩んでることとかあるのか?」

智絵里「い、いえ、特にないですけど…」

P「最近仕事中に表情が暗い時があるような気がしてな。」

智絵里「き、気のせいじゃないですか?」

P「そうか、ならいいんだが。」

智絵里「はいっ。」

P「まあ、なんか悩みがあればいつでも相談してくれよ。別にちひろさんとか卯月や美穂でもいいし。」

智絵里「…はい。」

美穂「相談?」

智絵里「は、はいっ。」

卯月「どうしたんですか?」

智絵里「プロデューサーさんが見に来れないと、お仕事の時も不安で…」

美穂「なるほど…でもそれってみんなそうじゃないのかなあ?」

智絵里「でも、不安なのが顔に出てるみたいで、プロデューサーさんに心配されてるみたいです…」

卯月「やっぱりプロデューサーさんはしっかり見てるんですね。」

美穂「プロデューサーさんが見に来ないってことは、それだけ信頼されてるってことじゃないのかな?」

智絵里「信頼、ですか…」

卯月「そうですよ♪本当に不安なら他の仕事を放り出してでも付き添う人じゃないですか?」

智絵里「そ、それもそうかもしれません…!」

スタジオ

智絵里「そ、そうでしゅねっ!」

司会「噛んだ?今噛んだ?」

智絵里「え、あ…か、噛んでないれすっ。」

司会「なんや智絵里ちゃん噛んでも可愛いとかずるいわー!」

ワハハハハハ!!!

………

智絵里「はあ…また噛んじゃいました…」

美穂「ま、まあ、司会の人がフォローしてくれたし…ね?」

智絵里「やっぱり私、向いてないのかなあ……」

卯月「そ、そんなことないですっ!それだと智絵里ちゃんより目立てなかった私は…」

智絵里「はあ…」

卯月「はあ…」

美穂「ちょ、ちょっと二人とも、元気出そう?ね?」

美穂「今日もそんな感じで…」

P「うーん、今日もか…」

美穂「なんだか空回りしてるみたいで…」

P「今度もう一回話してみるか。ありがとうな、美穂。」

美穂「い、いえっ。」

翌日

P「智絵里、時間あるか?」

智絵里「…!」ビクッ

P「そんなに驚かなくてもいいぞ?時間ないなら今日じゃなくても構わないし。」

智絵里「い、いえ、大丈夫です。」

P「よし、じゃあ、そこに座れ。」

智絵里「は、はいっ。」

P「別に怒ったりするつもりはないんだ。本当に何もないなら何もないでいいし。」

智絵里「は、はい。」

P「なんか悩んでないか?やっぱり元気がないような気がするんだ。」

P「何もないなら疲れがたまってるんだろうから、少し仕事を減らしてもいい。」

P「例えば俺がぐちぐちうるさいから、って言うならしばらく俺が現場に行かないように

智絵里「そ、そんなことありませんっ…!」

P「ん?そんなことないっていうのは…?」

智絵里「そ、その、プロデューサーさんがいないと、不安で…」

P「不安?」

智絵里「ちゃんと歌えてるかな、とか。ちゃんとお話しできてるかな、とか…」

智絵里「プロデューサーさんがいると、こうした方がいいとか、ああした方がいいとか、言ってもらえるので…」

P「ああー、そういうこと。」

P「大丈夫だよ。デビューした頃はいろいろ言ったりしたけど、最近は文句の付けようがないさ。」

智絵里「そ、そうですか?」

P「ああ。それに智絵里はどうしてアイドルになったんだ?」

智絵里「え?みんなを幸せにするために…ですけど…」

P「じゃあ今度の仕事の時によーく見ておくんだ。」

智絵里「??」

P「お客さんでもいいし、裏方のスタッフさんでもいい。智絵里を見てる人たちが笑顔だったら、智絵里がみんなを幸せにしたって証拠だろ?」

智絵里「…!」

智絵里「はい…!」

ちひろ「最近智絵里ちゃん、いいですね。」

P「ええ、たぶんもう心配しなくても大丈夫ですよ。」

ちひろ「なんだか自信ありげですね?」

P「まあ、ちょっと、ええ。」

ちひろ「さすが、できるプロデューサーさんは違いますねー?」

P「ちょっと、やめてくださいよ、ははは。」

ちひろ「満更でもなさそうなので、こっちの書類もお願いしますね♪」ドッサリ

P「いや、ちょっと?!ちひろさん?!」

ある日

智絵里「お、お疲れさまですっ。」

ちひろ「おつかれさま。」

P「あれ?今日は3人でレッスンの後直帰じゃないのか?」

智絵里「あ、ちょ、ちょっと忘れ物があったので…」

P「そうか、まあ暗くなる前に帰れよー。」

智絵里「あ、あと、ちょっとプロデューサーさんにお話が…」

P「ん?どうした?」

智絵里「え、えっと…」

ちひろ「席外した方がいいみたいですね?じゃあ私は今日の仕事も終わったので帰ります♪」

智絵里「ご、ごめんなさい…」

ちひろ「智絵里ちゃんは気にしなくていいのよ?私も知っておいた方がいいならプロデューサーさんから話してもらえるでしょうし。」

P「まあ、そうなるでしょうね。」

ちひろ「では、お先に失礼します♪戸締まりお願いしますね?」

P「はい。お疲れさまでした。」

智絵里「お、お疲れさまでした。」

P「どうした?ちひろさんにも話せないなんて?」

智絵里「要な幸せが貯まりました…。」

P「??」

智絵里「天使になるための…」

P「あー!それか!最近忙しくてすっかり忘れてたよ。そもそも智絵里は人間じゃないんだもんなあ。」

智絵里「この前のお仕事でたくさんの方に喜んでいただいたみたいで…それで、天使になるのに必要な分が集まったみたいですっ。」

P「そうか!よかったなあ。」

智絵里「なので…私、帰らないと…いけません。」

P「……そうか。」

智絵里「私は元々この世界にいない存在なので…すべきことが終われば、速やかに元の世界に帰らないと……」

P「まあ…そうなるよな。」

智絵里「明後日のライブが終わったら…天界に帰ります。」

P「この世界に帰ってくることは…」

智絵里「…100年は帰ってこないです。」

P「100年かー。頑張って長生きしないとなー。」ハハハ

sagaなには…言うのか?」

智絵里「言ったところで信じてもらえないでしょうし…」

P「それもそうか。」

智絵里「ライブの次の日から体調不良で仕事に来れなくなったことに…」

P「うん、その辺りはなんとかごまかすよ。」

智絵里「ご迷惑おかけしてすみません。」

P「気にするな。アイドルの引き際もプロデューサーの仕事だ。」

>>51

P「みんなには…言うのか?」

智絵里「言ったところで信じてもらえないでしょうし…」

P「それもそうか。」

智絵里「ライブの次の日から体調不良で仕事に来れなくなったことに…」

P「うん、その辺りはなんとかごまかすよ。」

智絵里「ご迷惑おかけしてすみません。」

P「気にするな。アイドルの引き際もプロデューサーの仕事だ。」

P「しかし明後日かー。随分急だよなー。」

智絵里「私も突然だったので…」

P「おかげで実感が湧かないよ。良いんだか悪いんだか。」

智絵里「そう、ですね。私もよく分かりません。」

P「じゃあ…明後日のライブはちゃんとみんなに笑ってライブしような?」

智絵里「はい…!」

ライブ当日

智絵里「み、みなさーん!いっしょに盛り上がってくださーい!」

ワアアアアッッ!!

智絵里「せーのっ」

智絵里「いぇいっ」

イェイッ!!!

P「………」

ライブ後

智絵里「わざわざ来てもらって…ありがとうございます。」

P「人気アイドルの旅立ちを誰も見送らないのも寂しい話だしな。」

智絵里「プロデューサーさんのおかげで、こんなに早く、天使になれます。本当に感謝しています。」

P「そんなことないよ。頑張ったのは智絵里…じゃないか、チエリエル、君が頑張っただけだ。俺はちょっと手助けしただけだよ。」

智絵里「そ、そんなこと…」

P「あるとも。君が笑えばみんなが笑う。君が幸せになればみんなが幸せになる。君のおかげでたくさんの人が幸せになった。自信を持って、天使として頑張ってな。」

智絵里「…はいっ。」

智絵里「短い間でしたけど、とっても、とっても楽しかったです。ライブも、テレビも、ラジオも。」

智絵里「レッスンとか事務所でのおしゃべりとか、全部全部、とっても、楽しかったです。」

智絵里「人前でお話すること、あんまり得意じゃなかったですけど…ちょっぴり好きになれました。」

智絵里「ドラマにも出たかったです、もっと大きな会場でライブもしたかったです、シンデレラガールにもなりたかったです。」

智絵里「もっともっと…アイドル、したかったです。」

P「…だな。」

智絵里「最後に…お願いを聞いてもらえますか?」

P「ああ。」

智絵里「抱き締めて…もらえますか?」

P「…うん。」

ぎゅっ

P「見えなくする時と逆なんだな。」

智絵里「はい。」パタパタ

智絵里「私…地上に来て、アイドルになれて、よかったです。」

智絵里「プロデューサーさんに出会えて…幸せでした。」

智絵里「ありがとう…ございました…!」

……………

P「行っちゃったなあ。」

P「…………………はあ…」

翌日

P「さっき連絡があったんだが、智絵里は都合で一週間ほど仕事に来れなくなった。」

卯月「え?」

P「表向きには体調不良ということにしてあるが、なんとか二人で仕事頑張ってくれるか?」

美穂「一週間ですか…」

卯月「寂しいですけど…頑張ります!」

P「すまんな。」

美穂「じゃあ、さっそく二人でレッスン行ってきます!」

P「うん。気を付けてな。」

二人「「はいっ!」」

P「ちひろさん、智絵里のことで話が…」

ちひろ「はい、なんでしょう?」

P「智絵里なんですが、どこかのタイミングで、このまま引退という形になると思います。」

ちひろ「どうしてですか?」

P「深い事情は話せませんが…もうこの世界に戻ってくることは…ないと思います。」

ちひろ「…プロデューサーさんは、それでいいんですか?」

P「よくないですが…本人の意思が固いので…」

ちひろ「智絵里ちゃん自身がアイドルを辞めたいと?」

P「アイドルは好きですが、それ以上にやりたいことができた、というところでしょうか?」

ちひろ「なるほど…」

ちひろ「もし、私が智絵里ちゃんを連れてくる方法を思い付いたとしたら、知りたいですか?」

P「……えっ?」

ちひろ「智絵里ちゃんは人を幸せにしないといけないんですよね?」

P「え?いや、そうですけど、なんで

ちひろ「じゃあ智絵里ちゃんのせいでみんな不幸になればいいんですよ!」

P「それはそうかもしれませんがなんで

ちひろ「ということでほとぼり冷めた頃に引退発表ではなく今すぐ発表します!」カチカチッ

一時間後

P「どうするんですか!マスコミから取材の電話で仕事にならないですよ!!」

ちひろ「仕方ないです我慢してください!」

P「あーもう!!」

翌日

P「さすがに落ち着きましたね。」

ちひろ「これからですよ?忙しくなるのは。」

P「え?」

ちひろ「ツイッターとか掲示板とか見てください。」

P「はあ…」

『智絵里ちゃん引退とかマジかよ…』

『ちえりんの引退で生きる希望が見出だせない。』

『緒方智絵里は人生と日頃から言っていた友人から生気が感じられない。』

『チエリスト息してるか?』

『こないだのライブ行けなかったのに…』

P「恐ろしいなチエリスト…」

ちひろ「いやー…智絵里ちゃんが与えた幸せがどんどんなくなっちゃってますね♪」

P「悪魔やこの人…」

ちひろ「心を鬼にしてやってるんです!!」

P「と言うかなんで智絵里が天使って知ってたんですか?」

ちひろ「このドリンク、五感の神経を過敏にする作用があるんですよ。それで天使とか妖精なんかも見えるようになるんですよ!」

P「なんすかその無茶苦茶な効果は…ヤバい副作用とかないですよね?」

ちひろ「ヒト型ロボットで安全性は確認済みです♪」

P「すいません、ヒトで確認してくれませんか?」

P「しかし、最初から智絵里のこと全部分かってたんですか。」

ちひろ「いえ、智絵里ちゃんが天使だと知ったのは天に帰るときですけど…」

P「え?」

ちひろ「ライブの打ち上げもそこそこに二人で帰っていったので、プロデューサーさんが手を出すんじゃないかと思ってつけてたんですよ。」

P「信用されてねーな、おい。」

バサッバサッ

P「ん?今なにか…」

ちひろ「外!外見てください!!!」

P「………!」

P「智絵里…!」

智絵里「天に帰ったら…『アイドル引退したせいで幸せじゃなくなってる人がたくさん出てる』と言われたので…」

智絵里「もう一回、アイドル、やらせてもらってもいいですか…?」

終わりです。
HTML化依頼出してきます。

タイトルでミスしてしまいましたので、万が一まとめる方がいらっしゃいましたら、

モバP「アイドル系天使」

にしていただけるとありがたいです。
お目汚し失礼いたしました。

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