【東方】霊夢「ゲンソウシティは全てを受け入れ、全てを見捨てる」【オリジナル】 (61)



東方プロジェクトの二次創作です。

近代化等のオリジナル設定です。

キャラ崩壊しています。

エログロ、百合系につき注意です。

飛べません。

いまだ決まっていませんが、キャラ死亡とかもあるかも。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433335576




ゲンソウシティ


???「ハァッ!……ハァッ!……」


この街に住む者は大きく2種類に分けられる。

ひとつは、あらゆるものを受け入れる楽園の場所だと言う者。


???「ハァッ!……ハァッ!……」


もうひとつは、あらゆるものを見捨てる残酷な場所だと言う者。


男「待てこのクソガキィ!!」

???「だ、誰が待つか!」


日の光が届かないスラム街のある一画で、紙袋を抱えた少女とそれを追いかける男がいた。

少女の名はチルノという。抱えた紙袋にあるのはパンや飲み物。これらは盗んだ物だ。

元の持ち主は誰かは、言うまでもなくチルノを追いける男の物だった。


チルノ(クソッ!上手くいくと思ってたのに!)


荷物を置いて、知人らしき人物との話に没頭している隙をみて掠め取ったのだが、音を立ててしまったせいで男にバレてしまったのだ。

そうして始まった男との追いかけっこは5分以上にも及んでいた。チルノの体力にも限界が訪れている。


チルノ(……このままじゃ追いつかれる)


逃げ切るために思いついたのは、街道に出て人ごみに紛れて振り切るという方法だ。


チルノ「良し!」





チルノは角を曲がり、一本道を全力で駆ける。この道を出れば街道に出る。通勤ラッシュのこの時間は人通りも多い。

逃げ切れる。そう確信したチルノは、


ガッ


チルノ「あっ!?」


ズシャアァ!


足を躓かせた。紙袋を手放し、中身を地面にばら撒いて、チルノは転倒してしまう。


チルノ「イッテェ~!」

男「やっと、追いついたぞクソガキィ……」

チルノ「!?」


背後から男の声が聞こえ、倒れているチルノが這って逃げようとしたが、襟を掴まれ壁に叩きつけられる。


チルノ「ウグッ!?」

男「人様の物を盗っちゃいけませんって親に教わらなかったのか?あぁッ!?」

チルノ「クッ……妖精に……親なんか、いるか!」

男「あぁそうか。お前、妖精かよ。……だったら」


男はチルノを壁から引き離し、地面に投げつける。


男「教育してやるよクソガキ。どうせ妖精だ。何したって殺せばどこにも傷なんて残らねぇよなぁ」チャキン

チルノ「ッ!?」ゾクッ


男は下卑た笑いを浮かべながらナイフを取り出し、それを見たチルノは背筋に悪寒が走る。


男「いっぺんガキとヤるのも面白そうだと思ってたんだよ」

チルノ「お、お前フザケンナ!このロリコンッ!変態ッ!」

男「うるせぇ!」


男はチルノの両手を掴んで押さえつける。





男「テメェら妖精に人権なんてねぇんだ。何したって誰も咎めねぇんだよ」

チルノ「クッ!」ギリッ


ナイフで頬を叩く男を睨む。しかし男に取っては、それも欲望をそそらせるものでしかない。


男「大人しくしてろよ。そのつもりが無くても肌にナイフが刺さっちまうぞ」

チルノ「~~~ッ!ウアアアアアアアアア!!」


日陰の路地裏。誰も通る事のないこの場所で、今、無力な自分は犯されようとしている。

チルノは悔しくて叫んだ。助けを呼んだわけじゃない。ただただ、悔しかったのだ。


???「ハーイ、そこまでー」

男「え?グッ!?」

チルノ「!?」


男のナイフがチルノの服を引き裂こうとした直前、男は髪をつかまれ後ろに投げ飛ばされた。


男「いってて……てめぇ何しやが」

???「こっちの台詞だボケ」

男「ブっ!?」


邪魔をされた男は自分を投げた人物に顔面を蹴り飛ばされた。


???「朝っぱらから随分下半身が元気じゃねぇかよ。なぁ、お兄さんよぉ?」

男「ウゲッ!」


倒れた男の喉に、箒の柄が突き刺さる。手にしたナイフは使えない。腕ごと踏まれているからだ。


男「て、テメェなにもんッ!」

魔理沙「自警団の”霧雨魔理沙”だ。強姦未遂でお前を逮捕する」





男「じ、自警団!?だったらまずあのガキを捕まえろよ!あのガキ俺のモンを盗んだんだ!」

魔理沙「はぁ?知るかよ。私が見たのは妖精を犯そうとしてるゲス野郎だけだ」

男「なんじゃそりゃ!?ふざけんじゃ!」

魔理沙「うるせぇ犯罪者」グイッ

男「ウグッ!」


魔理沙は喉に突きつけた箒に力を込め、反論する男を黙らせる。


チルノ「……」ソロ~

魔理沙「言っておくけどそれ拾ったら私の仕事が1つ増えるから止めてくれよー」

チルノ「」ビクッ

チルノ「……チッ」


地面にばら撒かれたものに手を伸ばしていたチルノは舌打ちしながら立ち上がる。


チルノ「…………」


立ち上がったチルノは何も言わず、そのまま走り去っていった。


男「お、オイてめぇ待ちやがれ!」

魔理沙「はいはい。てめぇは大人しくしような~」


男をうつ伏せにさせると、魔理沙は手錠をかける。


魔理沙「ほら立て。署に連行すっから」

男「クソ!横暴だ!自警団員のクセに酷すぎだろこんなの!」

魔理沙「自分で言うのもアレだけど、私は署内じゃアマちゃん呼ばわりされてるんだぜ?じぇじぇじぇ~なんてな」





自警団


治安悪化の一途を辿るゲンソウシティに10年前設立された組織。

ゲンソウシティで起こる事件の解決を主な活動とし、犯罪撲滅を信条としている。霧雨魔理沙はその自警団の一員である。


魔理沙「チィーッス!霧雨魔理沙、ただいまやってまいりましたー」

???「15分遅刻だぞ魔理沙。そんなに給料が欲しくないのか?」


ゲンソウシティ第三自警団署のデスクルーム。その奥にある一際大きな机に座ってこめかみを青くしているのは署長の上白沢慧音だ。


魔理沙「ちょっ!?待ってくれよ署長!今日は寝坊じゃねぇよ!コイツ捕まえててたんだって!妹紅!強姦未遂だ。こいつの取り調べよろしく!」

妹紅「へ~い。それじゃあ取調室で一緒にお話しようか。お兄ちゃん」

男「いってぇ!オイ!手錠キツイって!血管浮き出てんだよ!」


連行してきた男を藤原妹紅に渡し、魔理沙は慧音のデスクにしがみつく。。


魔理沙「お願いしますよ署長~。これ以上給料減ると生活出来ないんだって~!」

慧音「……ハァ、まぁいい。遅刻で一々減給してたらお前の給料とっくに0だしな」

魔理沙「さっすが署長!話が分かるね~♪」

慧音「そう思うなら二度と遅刻するなよ。霊夢!お前もこっちに来い!」


博麗霊夢

ゲンソウシティのはずれにある神社の巫女を勤めながら自警団に所属しており、魔理沙とは同期である。


霊夢「かぁ~……こぉ~……」ZZZ


机の上に足を乗せ、頭には新聞を乗せていびきをかいていた。


慧音「霊夢ッ!」

霊夢「コッ!?」ビクッ





怒鳴り声に目を覚ました霊夢は、目を擦りながら近づいてくる。


霊夢「ふぁ~ぁ、あふっ……署長~、私4時間前まで残業してて眠いんですけど~」

慧音「書類仕事をサボっているお前が悪い。……で、お前たち二人に頼みがある」

魔理沙「頼み?」

霊夢「魔理沙がとうとうクビになるからお別れ会開く店予約しろって?なら丁度良い店知って」

魔理沙「ならねぇよ!?」

慧音「そうだ。それはまだ先だ」

魔理沙「先!?」

慧音「お前達二人にやってもらいたいのは新人教育だ」

魔理沙「新人……」

霊夢「教育?って……どこよ新人?」


二人は周りを見渡すが、周りには見知った顔しかない。


慧音「あ~……ゴホン!すまないが鈴仙、気配を消すのを止めてくれ」

鈴仙「了解……分かりました……はい」

魔理沙「おうわぁ!?」

霊夢「なぁっ!?」


慧音の隣の空間がぼやけたかと思えば、そこにうさ耳を付けた少女が立っていた。





魔理沙「あ~ビックリした!いきなり現れたぞおい!?」

霊夢「気配がまったく無かったわ……」

鈴仙「謝罪……ごめんなさい……です」

慧音「鈴仙・優曇華院・イナバだ。見ての通り人付き合いが苦手な子だが、自警団員として実力は申し分ない」


そう慧音は評価していたが、二人の目には疑わしく映る。

視線は常に泳いで定まる事が無く、ビクビクと何かに怯えているように体が震えている。

自警団員というよりは容疑者に襲われた被害者と言ったほうがしっくりくるほどだ。


慧音「ま、そういうわけだから、頑張れよ魔理沙」

魔理沙「ハァ!?私に押し付ける気かよ!?」

慧音「イヤならほかに妹紅にでも任せるか?」

魔理沙「いやダメだろ!三歩歩けば銃撃戦起こす奴と組ませたら新入りの命幾つあっても足りねぇよ!」

慧音「なら霊夢しかいないなぁ……」チラッ

魔理沙「れ、霊夢は……」チラッ

霊夢「私は……」

鈴仙「?」ビクッ


霊夢は改めて、鈴仙を見る。

ストレートの長い髪。ニーソックスとミニスカートで足の露出は太股の一部分。
ブレザーを着用しながらも胸の大きさもそこそこあるようだ。
視線を合わせようとしないが、時々こちらをチラチラ伺うように見てくる。

うさ耳からも連想するように、まるで怯えたウサギのようで、どこか守ってあげたくなるような庇護欲を掻き立てる。


霊夢「なるほど……そそるじゃない」ペロッ

魔理沙「!?」


霊夢が人差し指を舐めるのを、魔理沙は見逃さなかった。





霊夢「いいわよ鈴仙。私が面倒みてあげる」

鈴仙「了解!……ありがとうございます!……はい!」

霊夢「でさぁ鈴仙、今日の夜は開いてるかしら?」


スッ ぐいっ


霊夢は鈴仙の横に立つと腰に手を回して引き寄せる。体の側面が密着した状態で、霊夢は耳に唇を近づけて囁く。


鈴仙「?……?」

霊夢「私、貴方と今夜自警団員としての志を熱く語り合いたいのよ」

鈴仙「会話……語らい……です?」

霊無「もっと言うなら、貴方のことが知りたいわ」

霊夢「そう、深く……奥の奥まで、ね……」


暖かな吐息に鈴仙は何も不思議そうには思っていないようだ。

だが霊夢の手は腰から撫でるようにゆっくりと、手を下の方へと下ろしていき……


魔理沙「やっぱり私に任せてくれ!新入りとは私が組む!」


魔理沙は鈴仙の手を引っ張って、霊夢から引き離した。


霊夢「エ~~~」

慧音「おぉそうか。頼んだぞ魔理沙」

魔理沙「えぇ任されましたとも。……新入り、ちょっとこっちこい」

鈴仙「?……?」





魔理沙は鈴仙を引っ張って霊夢から離れた場所で話す。


魔理沙「なぁ鈴仙。この自警団署で一番大事なことを教える前に一つ聞きたい。お前、好きな人はいるか?」

鈴仙「?……不在……彼氏いない暦=年の数……はい」

魔理沙「そうか。なら未来の彼氏のためにも今から言うことは絶対に守れ」

魔理沙「勤務時間外で霊夢と二人っきりになるな。飲みに行っても酔った霊夢を送るな。どうしても送るなら私を呼べ。いいな?」

鈴仙「んっ……んっ!」コクコクコクコク

魔理沙「良し」ポンポン


何度も頷く鈴仙の肩を叩き、二人は霊夢達の元に戻る。


霊夢「何話してたの?」

魔理沙「注意事項だ。気にするな」

鈴仙「んっ」コクコク

慧音「良し、それじゃあ早速だが、お前達二人にこの事件の捜査を」


バァン!


「「「「!?」」」」


慧音が机の引き出しから書類を取り出した瞬間、扉を乱暴に開け放つ音が響いた。





音がしたのは取調室の方だ。目を向けると、取調室から魔理沙が連行してきた男が出てきていた。


男「ドケェ!ブッ殺すぞ!」


手錠がはずされ、手には拳銃を持っていた。周りにいた自警団員に銃を向けて牽制している。


魔理沙「オイまじか!?」

霊夢「魔理沙、ちゃんと手錠掛けてたんでしょうね?」

魔理沙「掛けてたよ!?鍵だってちゃんと持って……アレ?」


手錠の鍵がどのポケットにも無かった。何度調べても、魔理沙は手錠の鍵を持っていなかった。つまり、


霊夢「スられてんじゃない馬~鹿」

魔理沙「ぐぅ……で、でもほら!銃はスられてないぜ!」

霊夢「なんのフォローにもなってないわよ」


ドンッ!


「「ッ!」」


男が発砲した。魔理沙の傍の窓が割れ、反射的に二人は机の陰に隠れる。


慧音「魔理沙ーー!責任持って拘束するか射殺するかしてあの男を何とかしろ!署内から絶対に出すなよ!私の首が飛ぶ!」


既に机の下に隠れていた慧音の声が聞こえる。


魔理沙「いや、射殺はやり過ぎじゃ……」

霊夢「やらないなら私がやるわよ?」ジャキン

魔理沙「お前ら怖ぇよ!」





男「おい!白黒アマ出て来い!一発くらわせてやるよ!」

霊夢「ご指名入りました~」

魔理沙「能天気に言いやがって……どーっすかなぁ……」


手錠の鍵を盗られてしまった手前、どうにかしようと迷っていると、


妹紅「おい、お兄ちゃん」

男「!?」


ガシッ!


男「グェッ!?」


男の背後に立った妹紅が、首を鷲掴みにする。


妹紅「人が優しく尋問しようって思ってたのによぉ、手錠外すわ首の骨へし折ってくれるわ、随分罪重ねたなぁ……」

男「なっ……お、お前!?」


妹紅はさらに首を絞める力を強くする。


妹紅「知ってるか?人に嫌がらせすると倍になって返ってくるんだよ。だか、らぁ!!」


力任せに目の前にあった机に男の頭をたたきつけ、それでも男が辛うじて手放さなかった銃を奪い、頭に押し付ける。


妹紅「テメェも一回死ねよ。不死身でも死ぬほどいてぇもんはいてぇって身に染みくらい分からせてやっからよぉ!!」

男「ちょっ!ま、待って!」

妹紅「私も止めろって言ったよなぁ、それをシカトして頚椎へし折ってくれたのは誰でしたっけなぁ!?」





魔理沙(マズイ!)

魔理沙「妹紅止めろ!取り押さえたんならそれでいいだろ!」


今にも引き金を引きかねない妹紅に近づいて引き離し、手錠を掛けて男から鍵を取り返す。


魔理沙「おい、こいつ牢屋にブチ込んどけ!私が良いって言うまで出すな!」


近くにいた自警団員に男を引き渡すと、魔理沙は妹紅を睨む。


魔理沙「今のはやり過ぎだろ!お前、今止めなかったらあの男殺す気だったな!」

妹紅「取調室に入った瞬間あいつが私の首絞めて殺しやがったんだ。しかも署内で暴れてたし、射殺が手っ取り早い解決方法だ」

魔理沙「むやみに殺すことなんてないだろ!」

妹紅「じゃあてめぇ一回殺されてみろ。どれだけ痛くてムカつく思いするか分かるだろうぜ」


カキン シュボッ チン


妹紅「フーーーッ……」

魔理沙「ッ!げっほげほっ!」


妹紅は煙草を咥えて火をつけて吹かす。その煙に魔理沙は咳き込み、それでも妹紅を睨む。


妹紅「それともあれか?不死身なんだからいちいち殺されたくらいでキレんなよってか?」

魔理沙「お前なぁ!」


眠いしここまで

やるよ。大丈夫

どうもお待ちどう。




慧音「止めろ二人共。妹紅、お前は他の奴らと片付けろ。あと煙草は喫煙所で吸え。魔理沙、鈴仙を探して来い」

妹紅「へ~い」


軽く返事をして、妹紅は携帯灰皿に煙草を押し込む。


魔理沙「……ハァ。で、新入りが何だって?」

慧音「消えた。あの男が騒いでから姿が見えない」

魔理沙「なんじゃそりゃ?まさかどっかに隠れてんのか?」

慧音「いや……まぁ、可能性があるとすればトイレだ。そこのトイレまで迎えに行ってくれ」

魔理沙「……はぁ?」


慧音の言うことに首を傾げ、どういうことか聞いても行けば分かるとだけ言われ、魔理沙は言うとおり近くのトイレを探す。


~~~~~~~~~~~


そして確かに、鈴仙はいた。


鈴仙「ッ!う”ぉえあろろろろろろろろろろろ!!」


ビチャビチャビチャビチャ


魔理沙「おい、マジか……」


便器を掴み、顔を真っ青にしながら、嘔吐して苦しんではいたが。


魔理沙「大丈夫か~新入り~?」

鈴仙「あ……せ、先輩……申し訳ありまッ!ウオロロロロロロロロロ!!」ビチャビチャビチャ

魔理沙「……まー、とりあえず全部出してから話そうぜ。うん」


ツンとした匂いに鼻をつまんで耐えながら、魔理沙は鈴仙の背中をさすりつつそう言った。





魔理沙「『拳銃恐怖症』だぁ?」

鈴仙「申し訳ありません……はい……そうです」


曰く、他人に銃を突きつけられたり、銃声を聞くだけで吐き気を催すほど極度の緊張状態になるらしい。


魔理沙「銃声もダメなのかよ。……いや、ちょっと待て、じゃあ射撃の試験はどうやってパスしたんだよ?」

鈴仙「耳栓……と……目隠し……着用……です」

魔理沙「……え?ゴメン、聞き間違いか?目隠しして試験受けたのか!?」

鈴仙「的は……不動……だから……」

魔理沙「よく試験官が受けさせてくれたもんだなぁおい」

鈴仙「署長……すごく……良い人……はい」

魔理沙「(あの署長が?)……へぇ」


接待と保身に走る姿しか知らない魔理沙にとって、鈴仙の言葉はいまいち信用できなかった。


魔理沙「まぁいいや。いや、良くないぜ。お前よくそんなんで自警団員になろうなんて思ったな……」

鈴仙「それは……その……私……も、守りたい……から……」

魔理沙「……にしたって拳銃見るだけでゲロはさぁ」

慧音「いつまでそこにいるんだ」


トイレの入り口から、慧音が話しかけてきた。


魔理沙「署長……」





慧音「……お前達にやってもらいたいのはこの強盗事件だ」


鼻をつまみながら、慧音は書類を渡す。


慧音「チンピラ2人が開店準備中のバーに車で突っ込んで金と酒を奪ったらしい。店員に話を聞いてこい」

魔理沙「へーい。行けるか新入り?」

鈴仙「了解……大丈夫です……はい」

魔理沙「よっしゃ。行くぜ!」

鈴仙「運転……します……」


~~~~~~~~~~~


慧音「霊夢!妹紅!」

妹紅「んあ?」

霊夢「何?」

慧音「お前達にも出てもらう。レストランで”人食い”だ」

霊夢「はぁ?」


書類を受け取りながら、霊夢は首を傾げる。


妹紅「人食いは法で禁じられてる……っつーか、妖怪も人を食わずに生きられるこのご時勢に随分ワイルドな事しやがるなぁ」


妹紅も書類を霊夢の肩から覗き込む。





霊夢「でもこういう事件って”二自”の管轄でしょ?」

慧音「まぁな」


二自とは、第二自警団の略称である。

霊夢や魔理沙達が所属する第三自警団は主に盗みや詐欺、殺しを扱う事が多いが、
第二自警団は連続殺人やテロやギャングの抗争などの重大犯罪や、ゲンソウシティの権力者が事件に関わる場合に活動する。
大事件を扱う事が多いためかテレビに良く名前が出る。ゆえにゲンソウシティの市民からの人気もある。

霊夢たちの間では”エリート組”と呼ばれ、殆どの自警団員は権力者の血筋や関係者である。

それゆえか、犯罪撲滅が信条の自警団でありながら、権力者達の都合の悪い事件を改竄、隠蔽していると噂され、霊夢達は毛嫌いしてる。
第二自警団もまた、非エリートであり、事件に関わるたびに問題を起こす第三自警団を見下している者が多い。

通常、人食いはゲンソウシティでは極刑、終身刑の裁きが下される重犯罪であり、二自の管轄でもある。


慧音「ほかに抱えている重大事件があるとかで、忙しい二自の皆さんの変わりに解決しろということだ」

妹紅「ケッ。ようはおこぼれを恵んでくれたってワケかよ。食われたのが権力者の血縁なら血眼になって探すんだろーによ」

霊夢「おまけに解決してもテレビに映るのは二自の美男美女ってね。いくわよ妹紅」

妹紅「へーい」


~~~~~~~~~~~~


明るい日が降り注ぐ大通り。その景色を自警団専用車の助手席から眺める魔理沙は、興味本位で鈴仙に聞いた。


魔理沙「なぁ新入り。拳銃恐怖症になった理由、聞いてもいいか?」

鈴仙「……」

魔理沙「言いたくなきゃそれでいいぜ。独り言だと思ってくれ」

鈴仙「……私の……耳」

魔理沙「あ?……あぁ、そのウサ耳か。それってたしか月人の証だろ?母親が月人なのか?」

鈴仙「はい……”戦争”の時に……ゲンソウシティに来た……です」

魔理沙「”戦争”……30年前の奴か」





30年前、ゲンソウシティは月の都に住む月人の襲撃を受けた。

元は月の都にて”姫”と呼ばれていた少女を連れて帰るためにやってきただけだった。

しかし地上の人間を見下す月人は、些細な事から人間と揉め事を起こした。その人物が、当時ゲンソウシティで勢力を伸ばしていた
ギャングの下っ端だったことが、悲劇の始まりだった。

月人はギャングの報復を受けた。月人もまたその報復に対して反撃する。

そのいざこざを利用し、出る杭は打つべきだと考えていた別のギャングは、ギャングを月人と挟み撃ちにするかのように奇襲した。

そこからさらに、名を上げようとした者、漁夫の利を得ようと煽る者、争いを止めようとした者、ただその日に暴れていた者、
磁石が磁石を引き付けるように、争いは次々に連鎖して広まり、ゲンソウシティはわずか1日で銃声と悲鳴が鳴り止まない街へと変貌した。

多くのギャングが潰れた。多くの市民が巻き込まれ犠牲になった。多くの建物から火の手が上がり、路地裏も大通りも、
血に汚れ、薬きょうがばら撒かれ、死体が溢れかえった。

結局、月人は当初の目的を果たすことなく月の都へ撤退した。

そうしてやっと”戦争”は終わった。たった3日の出来事であったが、その残した爪痕は、今も尚ゲンソウシティの住人達に
深く刻み込まれている。

しかし月人は、全員が月の都へと戻ったわけではなかった。月の都へと帰還するため、地上に降りていた月人は戦争の最中その術を失い、
月の都からの救援を待つしかなかった。

ようやっと来た救援によって月の都へ戻ったのは半数。残り半数は負傷していたために
救援に間に合わなかった者、そもそも救援が来る事自体知らなかった者達だった。


鈴仙「お母さん……酷く怪我をして……でも、優しい人……いました。助けてくれた……です」

鈴仙「お母さん……始めは警戒して……けど心を許しました……結ばれて、私が生まれました……はい」

鈴仙「お母さん……ゲンソウシティの事……第二の故郷って言いました。……好き、でした」

鈴仙「でも、10年前……」

魔理沙「……”月人狩り”か」




月人狩り

地上に取り残された月人は、ゲンソウシティで暮らすほかに生き延びる術がなかった。だが戦争によって
深い傷を負った人々は、月人達を迫害した。

戦争から20年後、月人達の怒りは限界を迎えた。

穢れた地上に住む者達と同じ空気を吸い、物を食べ、水を飲む事を受け入れた。

戦争の火種となったことで、生き残った地上の者達から憎まれる事も当然の事と思った。

生きるため、穢れ無き地に生まれ育った月人としての誇りを捨てた。

しかし、それは完全には無くす事は出来なかった。

故に、再び悲劇は起こった。

一部の月人達は武器を手に取り、妖怪、人を問わず襲った。

再びゲンソウシティは多くの者達の血によって汚れた。

当然、月人達も反撃を受け倒れた。だがその中には武器を持たぬ月人達もいた。

戦争で植えつけられた月人への憎しみが、人々や妖怪達を”月人達を根絶やしにするべき”だという思いに駆り立てた。

ゲンソウシティにいた月人は皆殺しにされ、その子供もまでもが殺された。

それを良しとしなかった八雲 紫の手により、月人狩りは治められた。

そして、月人の血が流れる子供達もまたゲンソウシティの住人として認めるという法が定められた。


鈴仙「私、お母さん、お父さんと一緒に……買い物に行きました。……晩御飯の事、話しました」

鈴仙「……でも男の人達が『見つけた』……って言いました。……お母さん、私を突き飛ばしました」

鈴仙「お父さん、お母さんを守ろうとしました。……でも、二人共……いっぱい……銃、で…………ッ」

魔理沙「もういい。聞きたくない。……だから言うな」


肩が振るえ、ハンドルを強く握る鈴仙を見て、魔理沙はシートを倒し、帽子を深く被った。


魔理沙「聞いて悪かったな」

鈴仙「大丈夫……です」





魔理沙「……けど、何でそんな目にあって自警団になったんだよ」

鈴仙「最初は……憎みました……でも、お母さん……街、好きだった……です。だからこの街……守りたい……です」

魔理沙「…………そうか」


キキッ


鈴仙「……あの……先輩」

魔理沙「あぁ?」

鈴仙「着き、ました」

魔理沙「ん」


~~~~~~~~~~~~


キキッ  ガチャ


霊夢「ここね」

妹紅「だな」


魔理沙達が事件現場に着いた頃、霊夢達もまた、人食い事件のあったレストランに着いた。

レストランの入り口には立ち入り禁止と書かれた黄色いテープで防がれ、霊夢達はそれをくぐって中に入る。


霊夢「すいませ~ん。第三自警団の者ですけど~。店長はどこー?」

ルーミア「私よ」


受付を通り過ぎ、テーブルが並ぶ場所に進むと、金の髪を長く伸ばした女性がいた。


妹紅「へ~。妖怪がレストランやってるのか」

ルーミア「珍しい事じゃないでしょう。知り合いに屋台をやってる夜雀がいるわ」





ルーミア「それにしても随分遅いじゃない。第二自警団の人が貴方達に任せるとか言って
     引き上げてから20分も待たされたんだけど。店の営業再開してもいいかしら?」

霊夢「ダメよ。とりあえず聞きたいんだけど、どんな状況だったの?詳しい事は聞かされてないのよ」

ルーミア「そう。ま、見ての通りよ。客が騒ぐから何事かと思って見てみたら」


クイっと顎で示したテーブルを見ると、五人掛けの丸いテーブルがあり、中心には肉料理と、それを
取り分けるための皿が5つあった。内4枚は肉料理が取り分けてあったが、1枚は料理がのっていなかった。


霊夢「ワオ」

妹紅「食べ残しか……」


料理の代わりに、噛み千切られた人間の指が、一本だけあった。


霊夢「目撃者は?」

ルーミア「いないわ」

妹紅「はぁ?自分のすぐ傍の人間が食われてんのに見てないって、相手は透明人間かよ」

ルーミア「違うわ。貴方達、このレストランの看板見てないの?」

妹紅「……看板?」

霊夢「『宵闇レストラン』……だったわね。それが何?」

ルーミア「その名の通り、普段この店は昼夜問わず、厨房と職員の休憩室、あとトイレ以外は一切”光”が無いわ」

霊夢 妹紅「「……はぁ?」」





ルーミア「食べるというのは味覚だけで楽しんでいるのではない。視覚、聴覚、触覚、嗅覚など、他の感覚も使って
     味わっている。けど、情報の殆どを得るための視覚を使わない事で、他の感覚を鋭敏にすることが出来るの」

ルーミア「暗闇の中、お客は自分の触覚を頼りに食器を探り、料理を嗅覚で予測し、味覚と聴覚で味と歯応えを
     感じ取る。それは普段の生活では感じる事の出来ない体験。だから案外、気に入ってくれるお客も多いの」

霊夢「へー。……じゃあ、従業員は?料理を運ぶのに従業員まで見えないなんて事は」

ルーミア「従業員には盲目の人を積極的に雇っているわ。訓練すれば音で料理を運んだり下げたりするくらいの仕事は出来るもの。
     料理は私と3人のコックが作っているわ。ちなみに問題が起きない限り、営業時間以外で厨房から出るのはあんまり無いわ。
     まぁ、問題が起きないよう見張りの意味で暗視スコープをつけて覗いたりする事はあるけど」

妹紅「ほー。じゃあ今まで何を見たんだ?」

ルーミア「そんな大げさな事は何も無かったわ。お金を落としたから拾ったり、トイレの場所が分からないって言ったから案内したり、
     ……面白かったのは、横に妻がいるのに反対の席にいる妻の友達とキスしてる夫とか、ドラッグをやってたジャンキーとか、
     ドラッグを売ってた売人の取引とか……あぁ、さすがにテーブルに乗ってフェラ○オしてるバカップルにはわざと水ぶっ掛けて
     止めさせたりもしたわね」

霊夢「……よく今まで通報しなかったわね」

ルーミア「暗闇の中で発情するくらい、他の客に迷惑じゃなきゃ気にしないわよ。生物の本能でしょ?」

妹紅「フェ○チオの方じゃねぇよドラッグの方だ。売買を目撃してたんだろ?」

ルーミア「あら、私にこの店潰せっていうの?ドラッグの売り上げがギャングの金になるくらい知ってるわ。報復は私だって怖いもの」

霊夢「懸命ね。魔理沙とは大違いだわ」

ルーミア「……魔理沙?」

霊夢「気にしないで」


そう言って霊夢は指の乗った皿を覗き込むように見る。


妹紅「じゃあ食われてる音とか、食われた奴の悲鳴を聞いたやつはいないのか?」

ルーミア「いないわねぇ。多分頭からパックリいかれたんじゃないかしら?あとは他の人が食べてる音と聞き間違えたとか……」





霊夢はカメラでテーブルと指を撮ると、指を袋に入れて密閉する。


霊夢「……なるほどね。妹紅、私はこの指、署に持って帰るわね。貴方は客と従業員に話を聞いておいて。あと鑑識の人達と一緒に
   現場の証拠写真撮っておいてね」

妹紅「はぁ!?めんどくせー事押し付けるのかよ!?」

霊夢「私はそのついでに紅魔の連中に会いに行くわ」

妹紅「……なんで?」


紅魔とは、ゲンソウシティで最も古くから存在するギャングである。30年前の”戦争”で殆どののギャングが消えた中、
月人と正面からぶつかり合い生き残ったという強力なギャングである。

戦争を生き残った紅魔は勢力を一挙に拡大し、ゲンソウシティの権力者達の力と対抗できるほどの巨大組織へと成長したのだ。


霊夢「そこの壁見なさい」

妹紅「あ?」


霊夢が指を指したほうの壁には、一枚の絵が掛けられていた。窓も無く、普段は照明が点けられることの無いこのレストランで
絵を飾る理由は一つだった。


霊夢「あの絵は『紅い館』の絵よ。つまりこのレストランは紅魔の息がかかった店。売り上げの一部は紅魔の金にもなる。
   そんな場所で人食いよ。ギャング絡みの可能性があるわ。連中に先走らないよう言って聞かせる事って、貴方出来るの?」

妹紅「……無理だな。銃撃戦が起こる未来が私でも見える」

霊夢「でしょ?貴方は時間を掛けて安全な仕事、私は危険な綱渡りを手早く済ませる。フィフティーフィフティーよ」

妹紅「……それを言うなら適材適所だ。済んだら戻って来いよ」

霊夢「紅魔の連中に解体されて胃の中に入らなかったら、戻ってきてあげるわよ~」


霊夢は手をヒラヒラと軽く振り、レストランを出た。


眠い。ここまで。

保守感謝です。本日更新します。

いざぁ……

~~~~~~~~~~~


魔理沙「で、あんたが掃除してる時に車がドーンと?」

店員「あぁ、あと少し振り向くのが遅かったら轢き殺されてるところだ」


夜になれば看板を光らせ、そのモダンな雰囲気とそれなりに高いお酒を楽しみに訪れる
客がいるのだろう。そんな酒場の入り口は大きな穴が開き、黄色いテープが貼られていた。


鈴仙「怖い……ですね」

店員「怖いで済むかよ!とっさに頭抱えて吹っ飛んでなきゃマジで殺されてるところだよ!」

鈴仙「ひっ!」ビクッ

店長「落ち着けよ。ケガねぇだけいいだろ」


鈴仙に詰め寄る店員を宥めるように、カウンター越しから店長の男が言う。

店長は額を手ぬぐいで押さえて、痛みに眉を曲げていた。


店員「店長……」

店長「お前はそのまま伏せてたからいいけどよぉ、俺なんか銃突きつけられて脅されたんだからなぁ。
   断ったら銃で殴られるしよぉ」

鈴仙「だ、だい……じょうぶ……です、か?」

店長「こんくらいでヘバるかよ」





魔理沙「で、チンピラ二人が金をレジごと奪った後は、突っ込んだ車に乗って南に突っ走ってった、と」

鈴仙「く、るま……車種……特徴は?」

店長「オウ。”臼産”のグレーの奴だよ。ナンバープレートは無かった。でも、後ろの窓は割れてて、右のバックミラーは取れてるぜ」

魔理沙「あ?なんでそんな事まで?」

店長「やられっぱなしはムカつくからよぉ」ゴソゴソ


カウンターの下に屈んで取り出すと、魔理沙と鈴仙に見せ付けるように取り出す。


店長「店から出て、コイツをからぶっ放してやったのさ」ジャキン!


取り出したのは、ショットガンだった。


魔理沙「あ……」

鈴仙「!? ウップッ!」サァーッ


魔理沙が鈴仙を見ると、顔を青くして口を押さえていた。



魔理沙「オイ、大丈夫か?」

鈴仙「っ」ブンブン


無理なようだ。顔を左右に振って否定している。



魔理沙「あ~……外に公衆トイレがあったから、そこ使え」

鈴仙「っ」ダッ!



頷く余裕もなく、鈴仙は外へ飛び出していった。

~~~~~~




キキッ  ガチャ


霊夢「……はぁ~」


自警団専用車両から降りた霊夢は溜息を吐く。

目も前には巨大な洋館の入り口。鋼鉄の門。


霊夢「嫌んなるわね……」


ここをくぐって出てくるまでは、自分の行動、言動が第三自警団署を火の海に変える事にも繋がるのだと思うと、肩が重くなる。


霊夢「だからって、私以外の誰がやるっ……てね」


ボリボリと頭を掻きながら、霊夢は門を開けた。

広い庭園の眺めには目も暮れず、まっすぐに洋館の扉へ進む。


霊夢「……」


コンコン


ガチャ


ノックをしてしばらくもしないうちに、扉が開かれた。


咲夜「これはこれは、お久しぶりです」


中から出てきたのはメイドだった。




十六夜 咲夜

ギャング『紅魔』のナンバー2。ボスに絶対の忠誠を誓うメイド長。

『銀のナイフ』と恐れられ、ボスの命令により敵対組織の組員、幹部の暗殺を実行しているとされているが、その証拠は”無い”。
また、ボスから『紅魔』の裏切り者と判断された者の”処理”を一任されているという噂もあるが、これも証拠は”無い”とされている。


咲夜「それで、本日はどんなご用件で?」

霊夢「いやぁー近頃物騒じゃない?お宅の主人にちょ~っと注意喚起をね?」

咲夜「まぁ、そうでしたか、ではこちらへ」


スッ、と、静かに咲夜は扉を大きく開け、中へ促す。


霊夢「どうも」


~~~~~~~~


ゴッ!  バキッ!


レミリア「♪~~♪ー♪♪~~♪ー」カチャカチャ


いくつものテーブルがある巨大な部屋。そのうちの1つのテーブルに座り肉を食べている見た目幼女の吸血鬼がいた。

レミリア・スカーレット

ギャング『紅魔』のボス。中小ギャングとは違いドラッグの販売には一切手を染めず、飲食店やカジノ経営によって利益を得ている。
レミリア自身がドラッグの存在そのものを軽蔑視し、美食家兼ギャンブラーであることからそういった商法を好んでいるためである。

無論、組員や傘下の組織にはドラッグの使用、販売を禁じており、これを破った事が発覚した場合、3日以上”存在していた”ためしは無い。


ドスッ! ゴキッ!


霊夢「あら、随分遅い朝食じゃない」

レミリア「やぁ、霊夢。今朝は少しバタバタしていてね。ごらんの通りやっと食事にありついているところさ」


咲夜に案内され、部屋に案内された霊夢はまっすぐレミリアの座るテーブルまで歩を進める。
霊夢に気づいたレミリアは、ナイフとフォークを置き、口を拭いて立ち上がって霊夢と握手する。





ガンッ!  ベキッ!


「ゆ……ゆるして……ください」

霊夢「バタバタって……『宵闇レストラン』の人食いの事?」

レミリア「いや、その話は聞いたがそうじゃない。アイツのせいさ」


そう言ってレミリアは指で示しながらテーブルに座る。霊夢は部屋に入ってからなるべく見ないようにしていたソレを
見ながら、自分もレミリアと向かい合うように座る。


霊夢「え~っと……1,2ヶ月前に入ってきてお気に入りって言ってた執事君?」

レイミリア「さて、そんな事言ったかな?」

「本当に……申し訳、ありません……」


霊夢の哀れみの視線の先にいたのは一人の男。脇にいる二人の妖精メイドに膝で無理やり立たされながら、謝罪の言葉を紡いでいた。

その顔は元々は整っており、所謂イケメンと言える部類にあった。だが今は潰れたトマトの如く酷くグチャグチャにされ
歯のほとんどが折れた口から流れ出た血によって、黒い執事服を赤く染めていた。


美鈴「……」


その男の前に立っているのは中華服を着た長身で赤髪の女、紅 美鈴。

ギャング『紅魔』のナンバー4。『血染めの機械拳士』と呼ばれ、寡黙で無表情。独自の拳法を持ち、銃を使う姿を見たものはいない。
いかなる敵もその拳で血祭りに上げる姿から『紅魔の殺戮機械(キリングマシーン)』とも呼ばれている。


美鈴「……」ヒュッ


バキッ!!


執事服の男に、美鈴は幾度と無く浴びせた拳をまた叩き込む。


レミリア「そいつはスパイだったんだ。今朝私の朝食に毒を盛ったのが分かった」

霊夢「うわぁ……アホの極みね」

レミリア「だろう?お陰でマズイ飯を食わされた。咲夜に朝食を作り直してもらったが、時間を無駄にした」


その様子に一瞥もくれることはなく、レミリアは再びナイフとフォークを手に取り朝食を再開する。



ゴキッ!  ドカッ!


レミリア「で、レストランの人食いが何だって?」

霊夢「あぁ、そうそう。いやね、まさかとは思うけど、犯人に心当たりあるかな~ってさ」

レミリア「ふむ……無いな」

霊夢「あ、そう」

レミリア「だが相手がギャングの可能性は低いと思っている」

霊夢「その心は?」

レミリア「相手がギャングで我々に喧嘩を売るなら、店に強盗か、爆破が手っ取り早い。利益が減るからな。
     なのに人食いなんて、そんな目立つだけの古風なやり方で喧嘩を売るギャングなどいないだろう。
     まして今は人食いが妖怪ですら忌避する時代。そんなおぞましい奴、自分の組織に入れたくないな」

霊夢「……ふ~ん。じゃ、それは”誰”?」


視線を下げ、皿に乗った焼けた”人肉”を指差し、霊夢は問う。


ドスッ!  ドスッ!


レミリア「そいつにたぶらからされた間抜けな男さ。今朝それが分かって”お仕置き”してやったら”死んで肉になって詫びる”
     と”頼まれて”な。裏切り者でも、仲間の最後の頼みを聞くのも組織の長って奴だろ?」


スッ、とナイフで切り分け、フォークを刺す。一口食べてどこか満足そうな笑みを浮かべているのは、やはり吸血鬼の本能によるものか。


レミリア「言っておくが、レストランの被害者ではないぞ?私は嘘が嫌いだ」

霊夢「分かってるわよ」ガタッ


霊夢は立ち上がり、扉に向かって歩き出す。


レミリア「なんだ、帰るのか?」

霊夢「相手がギャングだったら、抗争とかメンドイ事しないでってお願いするつもりだったけど、
   個人なら別に良いわ。かえってそっちで”処理”してもらっても、構わないし」

レミリア「税金泥棒だな」

霊夢「貧乏呼ばわりされてる私も税金はきっちり払ってるから、セーフ」


手をヒラヒラ振りながら、霊夢は扉を開ける。



ズドッ!  ベキッ!


霊夢「……あとさぁ」


開けて、霊夢は振り返る。


霊夢「いくらなんでもちょっとかわいそうよ。ご飯食べてる時にその顔思い出しそう」

レミリア「むっ……それは失敬。おいっ」パチン

美鈴「……」ピタッ


レミリアが指を弾くと、美鈴の拳が男の眼前で止まる。


レミリア「それくらいにしてやれ。美鈴も朝食がまだだろう?何食べたい?部屋に届けさせよう」

美鈴「…………しょうろんぽう」


ガチャ バタン


呟くようにそう言って、美鈴は部屋から出て行った。男は妖精メイドの手から離れ、床に倒れる。


レミリア「これでいいかな?」

霊夢「……まぁ、いんじゃない?」


ガチャ バタン


霊夢もまた、部屋から出て行った。


レミリア「さて、咲夜」

咲夜「はい」

レミリア「そいつは今日のディナーだ。よろしく」

咲夜「はい」


~~~~~~~~


鈴仙「うぅ……」ヨロ


公衆トイレから出てきた鈴仙の顔色は良くなかった。

吐き気を催したものの、既に空っぽの胃から吐き出すものが無かった。


男1「アレ?あれあれ~!」

鈴仙「?」


と、声がしたほうに目を向けると、複数の男達が寄ってきていた。鈴仙はその場を離れようとするが、
薄ら笑いを浮かべた男達は鈴仙を囲む。


男1「こんなところに月人がいるよ~」

男2「ここは俺たちの街なんですけどぉ。勝手に出歩くなよ余所者がよー」

鈴仙「っ……あ、の」

男3「おい見ろよこいつ!自警団のバッチ着けてるぜ!?」


腰に着けたバッチが、一人の男に奪われる。咄嗟に手を伸ばすが、ヒラリとかわされてしまう。


鈴仙「あっ!……か、えして!」

男3「やぁ~だ。月人が自警団とかシティ終わってるだろ」

男1「地上の人間は穢れてますー!全員死刑ですー!」

男2「こえ~!お前らの仲間が俺達の親兄弟殺したってのに、まぁ~だヤり足りないのかよ」

鈴仙「ちが……う!……私、はっ!」


月人狩り。10年前の悲劇は沈静こそしたものの、月人の差別が無くなった訳ではない。
シティで生まれた、月人の子孫に対しての差別は今尚行われ、シティが抱える問題の一つである。




鈴仙「……っ」ギュッ


鈴仙もこれまでに経験が無いわけではない。それに比べればこの男達は差別というよりは弱い者イジメの感覚なのだろう。


鈴仙「私……は」


自分が弱いから、奪われる。バッチだけじゃない。肉親でさえ、奪われる。


――――嫌だ。


鈴戦「ッ!」ギンッ!

男2「あ?何だその」

魔理沙「おおっと危なーーーーーい!」ブン!


バチィン!


男2「ブヘぇッ!」

「「「!?」」」


突然、鈴仙の前にいた男が飛来した箒に弾き飛ばされた。箒は地面に落ち、それを拾いに魔理沙がやってくる。


男3「何だお前?」

魔理沙「いや~悪い悪い。メジャーリーガー目指してた親父の血が騒いで素振りしてたらすっぽ抜けちまったぜ。ごめんね」

男1「てめぇふざけんなこのアマァ!」ビュッ!


キレた男が魔理沙に殴りかかるが、それを軽く後ろに下がってかわす。


魔理沙「はいカウンター!」ビッ!


突き出した箒の柄が、殴りかかってきた男の首に刺さる。


男1「オッ!エェッ!?」

男3「んのッ!」

魔理沙「メーン!」


バチィン!


更に向かってきた男には、素早く構えて頭頂部を叩いた。頭の揺れた男はバッチを手元から落とすが、地面に落ちる前に魔理沙が受け止める。



魔理沙「いやぁ~悪い。今度は剣道やってた母さんの血が騒いだ。許して」


悶絶する男達にそう言って、魔理沙はバッチを鈴仙に手渡す


鈴仙「あ……ありがとう……ございます……はい」

魔理沙「悪い新入り。この辺、月人嫌いの連中が多いの忘れてた」


申し訳なさそうに頭を掻きながら。魔理沙は鈴仙の手を引く。


鈴仙「だい……じょうぶ……です。はい」

魔理沙「そうか?無理すんなよ。鑑識連中呼んで、監視カメラのテープも貰ったし、一先ず署に帰るぞ。
    映像から前科者と特徴一致する奴探したり、鑑識の報告も聞かなきゃな」

鈴仙「……はい」


~~~~~~~~~~~~

『宵闇レストラン』にて、鑑識係りの河童達と共に現場を調べていた妹紅は溜息を吐く。


パシャ


妹紅(やってらんねー)


元々こういう細かい作業は苦手な部類だ。カメラを放した妹紅は、ポケットから煙草を取り出す。


鑑識河童「ちょっと妹紅さん。証拠汚染されるから煙草は現場で吸わないで下さい」

妹紅「あーわりっ。外……いや、私署に帰るわ。カメラここに置いてくし、後は任せた」

鑑識河童「はいはい」


どうせ飽きたんだろうと半ば予想していた鑑識河童は、半ば呆れ声で応じる。




キンッ  シュボッ


妹紅「フーーーー……」

妹紅「さて、どうすっかな~。とりあえず霊夢に連絡か……」


未だ戻ってこない霊夢が自警団専用車両を使って行ったため、妹紅は煙草を吹かしながら徒歩で自警団署へ戻って行く。

その道すがら、人食いの容疑者についても考えている。


妹紅(霊夢はあぁ言ったけど、ギャング絡みはねーと思うんだよな~)テクテク


『紅魔』はゲンソウシティの有名所。そこにわざわざ喧嘩を売るようなまねを、果たして他のギャングがするだろうか。

ギャングでなくとも、『紅魔』の名を知らないものはいない。レストランが『紅魔』傘下の物だと知っていれば、
そこで大きな騒ぎを好んで起こしたい者などいないはずだ。


妹紅(つまり、容疑者は『紅魔の傘下と知らずにヤっちまったバカ』か『名を上げようと目立とうとしたバカ』か『ドラッグやって理性
   吹っ飛んでたバカ』。それか、レストランの従業員で『店長に不満を抱いていていたから仕返しのつもりでやったバカ』)

妹紅(あとは店長……って、これじゃキリがねぇな)


可能性なんて無限だ。そもそもギャング絡みではないとも言い切れない。


妹紅(霊夢の勘は時にどんぴしゃで当たる時があるからな~)

妹紅(にしても『紅魔』に喧嘩吹っかけるバカなギャングってどんな連中よ……)

妹紅(…………)

妹紅(情報屋に聞きますか。こういうのは詳しい奴に聞くのが一番ってね)


煙草を携帯灰皿に押し込むと、携帯を取り出して電話帳を開き、コールを鳴らす。

二度のコールで、相手は出た。


妹紅「もしもし、私だけど。ちょっと聞きたい事あんだけど、今って店空いてる?」


眠し。ここまで

生存報告おば。

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