吹雪「口区間<ドア・トゥ・ドア>」 (476)

吹雪「夕立ちゃんって、改二になれる素質があるんだってね」

夕立「そうらしいけど……まだまだ練度が足りないっぽい」

吹雪「そうなんだ。じゃあもっと強くならなきゃね」

夕立「ぽい」

吹雪「そのためには、もっと訓練を積まなきゃいけないよね」

夕立「ぽい」

吹雪「だから……なので……故に……であるからして……ごにょごにょ」

夕立「……?」

吹雪「…………ッ……と!!と、と、というわけで夕立ちゃん!!」ガタッ

夕立「ぽ、ぽい!」


吹雪「キスするよっっ!!!」


夕立「どういうわけっぽい!?」


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吹雪「うう……駄目でした、司令官」

提督「うん知ってる。見てたから」

吹雪「!?み、見てたって……!?」

提督「いや断られるのがわかりきってたもんだからさ、こっそり後をつけて様子を。顔真っ赤な吹雪ちゃん可愛かったよ」

吹雪「や、ややややれって言ったのは司令官でしょう!!」

提督「言ったよ、冗談で。まさか本気でやりに行くとは思わなかった。君には貞操観念というものがないのかい」

吹雪「あるに決まってます!で、でも、私の『夢の世界』はいくらでも広くできるし、精神と時の部屋みたいに時間の流れも遅いから……」

提督「いいアイディアだと思ったわけね。真面目だねぇ……大体考えてもみなよ、仮に夕立ちゃん一人を送れたところで訓練はできないだろう」

提督「小規模なりに演習を再現しようと思ったら、少なくともあと4、5人くらいにキスしなきゃならなかったんだぜ。痴女かよ」

吹雪「うううぅぅぅ…………!!」カアアァ

提督「女の子はもっと自分の身体を大事にしなさい。わかったね」ポン

吹雪「は、はい……って、何かいい話みたいに纏めようとしてますけど!元はといえば司令官が紛らわしい冗談言うのが悪いんじゃないですか!」

提督「ちっ、気付いたか……おいおい悪かったって、そんな怖い顔するなよ。ほら、お詫びにこれで甘いものでも食べてきな」チャリン

吹雪「!!し、仕方ないですね!次は許しませんからね司令官!」



吹雪

艦種:吹雪型駆逐艦1番艦
血液型:AB型
スキル:『口区間<ドア・トゥ・ドア>』
夢の世界に送るスキル(相手との接吻が条件)


提督「しかし、夕立の練度を上げたいのは本当なんだよね。いっつも同じ娘にばかり戦いを任せてたら、風邪でもひかれたときに二進も三進もいかなくなるし」

提督「とはいっても、いきなりあの娘を海に出すのもちょっと頼りないしなぁ。どうすればいいと思う、不知火」

不知火「……………………」

提督「……何か面白い景色見える?」

不知火「……………………」

提督「……………………」

不知火「……………………」

提督「…………おっと、もうこんな時間か」スッ


ジリリリリリリリ……


提督『あー、テステス……。オリョクルの時間だよー。潜水艦のみんな、行ってらっしゃーい』

58「提督、わざわざ出撃の度に見送りに来てくれなくてもいいんでちよ」

提督「ははは、見送りじゃなくて見張りに来てるんだよ。君のさぼり癖に振り回されたくないからね」

58「最近はちゃんと仕事してるじゃないでちか。ゴーヤは改心したんでちよ」

提督「本当?イムヤ」

168「まあ、近頃は急に真面目に働くようになったわね」

8「ゴーヤ、本気出したら強いよね。いつも無傷で帰ってくる」

19「神回避なのね!」

58「ほら、どうでちか。証言者がこんなにいるんでちよ、信じるでち」

提督「ふーん……?ま、ちゃんと働いてくれているようで何よりだ。それじゃあ今日も行ってらっしゃい」

168「いやー、運が悪かったなぁ。思いっきり被弾しちゃった」中破

8「でもイムヤは潜水母艦じゃないから、入居時間が短くていいよね」小破

168「あー、それってイヤミのつもり?」

8「えっ……ごめん、そんなつもりは」

168「うふ、冗談」

19「それにしてもゴーヤはすごいのね!また無傷なのね!」小破

58「ふっふっふ、それほどでもありまち」

提督「お疲れさん。三人はドックに行ってきなさい……ゴーヤ、君本当は強かったんだな」

58「今頃気づいたんでちか?当然でち……だってゴーヤは!」

58「おかずではないのだから!!」バーン

提督「……………………」

58「……………………」

提督「…………ごめん、どういう意味?」

58「特に意味はないでち」

---翌日---


19「失敗したのねー」中破

168「イクは潜水母艦だから、ちょっと長風呂になっちゃうわね」小破

8「ま、まだ怒ってるの……?」小破

168「えっ?あ、ご、ごめん!そんなつもりじゃ……」

8「ふふっ、冗談」

58「むふーん!」ドヤァ

8「…………」


---翌々日---

168「今日はハチだったわね」小破

19「ドンマイなの!」小破

8「うん……」中破

58「むっふふーん!!」ドッヤアァ

8「……………………」

提督「ゴーヤがおかしい気がするって?」

8「いくらなんでも無傷が続き過ぎてる。もしかしたらゴーヤは……」

提督「スキルホルダー……か。もしそうだとしたら、僕に隠してるってことだね。いや申告しなきゃいけない決まりとかがあるわけじゃないんだけどさ」

提督「ゾッとしない話だね……もしゴーヤ以外にも、この鎮守府に自らのスキルのことを隠してる奴がいたらと思うと」

提督「いつか背中でも刺されそうだぜ」

8「そ、そんな……」

提督「はは、冗談」

8「最近冗談を言うのが流行りでもしてるんですか?」

提督「そうなの?だとしたら元凶は僕かもしれないね、ははは」

提督「まあそれは冗談として……だ。ゴーヤについて、ちょっと調べてみてもいいかもね……手伝ってくれるかい」

8「?」

---東部オリョール海---


重リ級『!!』ドドウッ

168「来るよッ!気をつけて!」

58(ふふ、毎度毎度馬鹿真面目に相手しちゃって。ご苦労様でち頭が下がるでちー(棒読み))

58(賢(かしこ)不真面目なゴーヤは……弾に当たる前にトンズラでち!)


トプン……


58「……………………」

58「…………ふふふ」

58「あーーーっはっはっは!!笑いが止まらないでちぃぃ!!」

58「この空間にはゴーヤのスキルを使わなければ入ることはできない!艦娘だろうと深海勢艦だろうとなぁぁ!!弾になんてぜーったい当たらないでち!」

58「さらに!!ここの『時の流れ』は完全にゴーヤが支配している!!普段はリアルタイムに進行させ、外の様子を見ながら敵の攻撃が終わったタイミングで海に戻り!」

58「ちょっと疲れたら極限まで時を遅延させ、いくらでも休憩することができるのでち!そのための布団も!お菓子も!!エアコンまでも完備ィィィ!!!」

58「さすがにエアコンを設置するのは高くついたでちが、この空間は外からの持ち込みにより日々進化している!ゴーヤのサンクチュアリに!!」

58「いやー、我ながらチートなスキルを授かったもんでち!ここにいればイムヤ達が勝手にオリョクルを遂行してくれて、ゴーヤは無傷の潜水艦の名を欲しいままにできる!」

58「休息専攻<ブレイクダウンタイム>!!君がいてくれてよかったああああ!!!あーーーっはっはっは!!!」



『あーーーっはっはっは!!!』

8「」

提督「まさか水着に直接盗聴器をつけても気付かないとは。力に溺れるとこうなってしまうんだね」

8「教訓を得てる場合ですかっ!!」

提督「『ゴーヤのスキルでしか入れない』って言ってるけど、これって自分以外も入ることはできるってことなのかな?だとしたら吹雪ちゃんの……」


吹雪「完ッッッ全上位互換じゃないですかあああああ!!!」


8「うわっ、いつの間に!?」

提督「ちょっと不知火、気付いてたなら教えてよ!びっくりしちゃったよ!」

不知火「……………………」

提督「……それも無茶な話か。しかしまあ、何だ……元気出しなよ、吹雪」

吹雪「余計なお世話ですくそったれ!!許さん!!絶対に許さん!!何でこんな不真面目な人にこんないいスキルがぁぁぁ!!!」

8「て、提督……吹雪は一体何を」

提督「実は吹雪もスキルホルダーでね。ゴーヤとほとんど同じ能力なんだけど……」

吹雪「こちとらまともに自分のスキル使えたこともないのに!!何で私ばっかり『キス魔の吹雪ちゃん』呼ばわりされなきゃならないんじゃあああ!!!」

8「大体わかりました」

提督(呼ばれてるんだ……流石に気の毒だな)

吹雪「提督!!これはお仕置きですよね!?どう考えてもお仕置きが必要ですよね!?」

提督「ま、まあ……ね」

吹雪「私がやります!!!やりますからね!!!」

提督「ほ、ほどほどにね?」

吹雪「凹ましたらあああぁぁぁ!!!」ダッ

8「あっ、ちょ、ちょっと……。行っちゃった」

提督「ゴーヤが心配?」

8「……あんなのでも、同じ潜水艦の仲間ですから」

提督「……不公平だねぇ、世の中は」

8「え?」

提督「あいつは本当にどうしようもない奴……に見えるのに、あんないいスキルに恵まれ」

提督「こんないい仲間にも恵まれている」

8「!」

提督「吹雪が怒る気持ちもちょっとわかるかな……。ま、あの娘を信じなよ。彼女だってゴーヤと、同じ鎮守府の仲間だ」

8「…………」

提督「な!」ポン

8「…………はい!」

不知火「……………………」



ドドドドド……


58「なんでちか、外がやけに騒がしい」


吹雪「ゴーヤあああぁぁぁぁぁ!!!」


58「!?ふ、吹雪!?なんでちかその鬼のような形相は!?」

168「ゴーヤ、あんた吹雪に何かしたの!?」

19「早く謝るのね!あの気迫、誤ったら命を落としかねないのね!!」

58「謝るって何を!?ゴーヤは何もしてないでちよ!?本当に!!」

吹雪「先手必勝!!喰らえ私の怒りをォォォ!!!」


吹雪「『口区間<ドア・トゥ・ドア>ーーーッ!!!」


ズキュウウウゥゥン!!


58「!!!??」


168「や、やったッ!さすが吹雪!私たちにできないことを平然とやってのける!!」

19「そこにシビれる!憧れるのね!!」

58「ぷはっ!なっ……なななな何をするんでちか!?ゴーヤの大事なファーストキスを……くそっ、女の子同士だからノーカンということにしまち」

吹雪「そんなことより、周りをよく見たほうがいいですよ」

58「!?こ、ここはどこでちか……ま、まさか!?」

吹雪「そのまさかです!私は貴方と同じ、同じにして遥かに劣るスキルの持ち主!!」

58「ゴーヤと同じ!?どうしてゴーヤのスキルのことを知ってるんでちか!」

吹雪「おんどれに質問する権利なんぞあるかあああ!!」

58「ひぃっ!?」

吹雪「質問するのは私だ!貴方のその『休息専攻<ブレイクダウンタイム>』、他人を空間に入れることは可能なのか!?」

58「で、できまちけど」

吹雪「殺す!!!」

58「何で!?」

58「よくわかんないけど、みすみす襲われてたまりまちか!いつものようにトンズラでち!『休息専攻<ブレイクダウンタイム>』……」


パキィィン……!


58「馬鹿な、空間への入り口が!?何をしたんでちか!!」

吹雪「私と同じ能力ならわかるでしょう?入る時に本人の手を借りなければならないなら、出る時もまた同じ!私の許可なく、ここから出ることはできません!!」

58「くっ……!調子に乗るなでち!ゴーヤの唇を奪ったばかりか、サンクチュアリまでも封鎖するなんて!」

58「ゴーヤの聖域は絶対でち!!何人も侵すことのできない絶対の空間!!ゴーヤはあそこで、ずっとずっと楽して暮らすんでち!!」

58「だが貴様はそれを侵した!!万死に値しまち……覚悟するでち!!」ジャキン!

吹雪「艦装で戦うつもりですか?いいですよ、好きにして。水のないところで魚雷が撃てればの話ですけど」

58「あっ」

吹雪「……………………」

58「……………………」

吹雪「……………………」

58「……………………」

58「…………ごめんなt」

吹雪「駄目。」


ズドドドオォォン!!


58「でっちいいいいいぃぃぃぃ!!!」大破



伊58
艦種:巡潜乙型改二潜水艦3番艦
血液型:AB型
スキル:『休息専攻<ブレイクダウンタイム>』
聖域に潜るスキル



シュウウゥン……


168「ご、ゴーヤ!?」

19「何でそんなにボロボロなのね!?」

58「う、うう……機能美に溢れる……ゴーヤの聖域がぁ……」

吹雪「…………さっき」

吹雪「女の子同士だからノーカン、とか言ってましたよね」

58「……?い、言いまちたが……」

吹雪「持って生まれた才能(スキル)に、ノーカンなんてないんですよ」

58「…………」

吹雪「才能を持ってこの世に生を受けたなら、それを持たない人に恥じないような使い方をして下さい。私が言いたかったのは、それだけです」

58「…………ふん。考えておきまち」



8「……ゴーヤ……」

提督「さすが吹雪ちゃん、主人公してるねぇ。ね、任せて正解だったでしょ」

8「はい……本当に……」

---その後---


夕立「さあ、素敵なパーティーしましょ!」ドウッ


提督「ありがとねゴーヤ。夕立の訓練場に、この空間を貸してくれて」

58「別に。ここはゴーヤのためだけに存在する空間でちが」

58「たまには他の誰かのために使ってやるのも、悪くないかなと思っただけでち」

提督「そりゃあ、よかった」

提督「……ところでさ。この空間、これ以上は広くできないの?」

58「無茶を言わないでくだち。訓練場に使うほどのスペースを確保してる今だって少し無理してるのに、もういっぱいでち」

提督「…………へぇ。よかったなぁ吹雪ちゃん、完全な下位互換じゃなかったみたいだ」

58「吹雪のほうは無限なんでちか、便利でちね。まあ入る条件が厳しすぎまちが」

提督(…………)

---翌日---


提督『オリョクルの時間だよー。いってらー』


重リ級『!!』ドウッ

8「来たよ、備えて!」

58(ふん!他人のために使うのも確かに悪くはないでちが、やっぱり自分が楽するために使うのが一番でち!)

58(『休息専攻<ブレイクダウンタイム>!)


トプン……


58「……!?な、なんでちかこれは!?」



58「提督!どういうことでちか!?ゴーヤの聖域に、艦娘の装備が山のように積まれているでち!!」

提督「ふーん」

58「何がふーんでちか!提督の仕業じゃ……」

提督「なぁゴーヤ。今それを言いにきたってことは、またオリョクル中にサボりに行ったってことだよね」

58「ぎくっ!」

提督「あーあ。性根を入れ替えて真面目に働いているようなら、あの空間もゴーヤの好きなように使わせてやるつもりだったのになぁ」

58「ぐぐ……で、でも、どうやって!?あそこへはゴーヤの能力でしか入れないはず!」

提督「夕立の訓練をしたとき、万が一に備えて練習相手に紛れ込ませていたのさ。我が鎮守府が誇る、究極の遠征特化型艦娘を!」


睦月「その通りっ!」


58「!!」

睦月「一度空間に入ってしまえば、そこがどんな場所に位置しているのか私には筒抜け!そして場所がわかれば、どーんな荷物でも送っちゃいますよー!」



睦月

艦種:睦月型駆逐艦1番艦
血液型:AB型
スキル:『窮鼠輸送<マウスポインター>』
荷物を送り届けるスキル

提督「他人のために聖域を使うのも悪くないって言ってたよね。ありがたく使わせてもらうよ……この鎮守府の倉庫としてね」

58「そ…………そんなぁ……」

提督「心配しなくても、君が本当に改心したと僕が判断すれば元に戻してあげるよ。これからも、前みたいに休息を専攻したかったら」

提督「急速に善行を積みな。」


58「あんまりでちいいいぃぃ!!!」

艦娘達のスキルは一京分の一のスキルだったり、そうじゃなかったりします。
前者はあの人がお遊びでばら撒いたのかも……

しかしタイトルだけ思いついて勢いで書き始めたもんだから、この先の話をなんにも考えてない(一部妄想はしてるが)
安価下3、なければ4で指定された艦娘の周りの話をまたしても勢いで書きたいと思います。
指定された艦娘がスキルホルダーとは限りません。
また前述の『一部妄想』の都合により、勝手ながら

「赤城」「島風」「雪風」

この三名については指定しないようにお願いいたします。
おやすみ

川内か……てっきり球磨ちゃんが大人気になると思ってたのですが
話考えなきゃ

そういえば、アナウンスとかを『』で表現してたら球磨川……球磨型ネームシップちゃんと被ってしまいますね
何か適当に変えときます

さしあたり起承転結だけは考えたので細部は勢いでいきます


---朝---


電「皆さん、おはようございます。全員揃いましたか?それでは……とうっ!」


スタッ……


電「!すでのる取を呼点の前んはご朝、てと日今も日今」

電「!んさ雪吹。らか艦逐駆はずま」

吹雪「はい!」


8「…………」

168「どうしたのハチ、変な顔して」

8「いや……電ちゃんって、どうしてあんな?」

168「ああ、そっか。ハチはまだここに来て日が浅いもんね」


暁「何かわからないことがおありのようね!」

8「あ、暁ちゃん!?何、聞こえてたの!?潜水艦と駆逐艦の席って食堂の隅と隅のはずなんだけど!?」

暁「ふふふ、暁の『レディ・イヤー』には何でも聞こえちゃうのよ!」

8(えっ……まさか、暁ちゃんもスキルホルダー……?)

暁「わからないことがあったら、鎮守府全域を網羅する『レディ・情報網』を持つこの暁先輩にどーんと頼りなさい!新人ちゃん!」

8(あ、ただの地獄耳か)

168「別にいいわよ、私が説明するから」

暁「Don't!どーんと!!頼りなさい!!」

168「……はあ。お任せするわ、レディお姉さんちゃん」

暁「お任せされたわ!」

8「じゃあ、質問するけど……あの電ちゃんについて」

暁「はいはい、あの子がどうして朝の点呼を任されているのかってことね!」

8「いや、そうじゃなくて」

暁「あの子はこの鎮守府で一番の古株なのよ!俗に言う初期艦ってやつね!司令官といっしょにここに配属されたの!」

8「……そうなんだ」

暁「だから司令官は、一番付き合いが長くて信頼の置ける電に、毎朝点呼を取ってもらっているのよ!わかった?」

8「うん。よくわかったけど、私の聞きたいのはそこじゃなくて」

暁「えっ、違うの?」

8「何で電ちゃん、点呼を取る時にいつもコウモリみたいに天井にぶら下がってるの?」

電「!んさ上北」

北上「ほーい」


暁「何でって……高いところから見下ろしたほうが、全体を見渡せるからじゃないかしら」

8「うーん……そう言われると、確かに理には適ってるんだけど……」

暁「だけど?」

8「私だけなのかなぁ……。あの状態の電ちゃん、何となく言葉が聞き取りづらいような気がして」

168「えっ、ハチもそう思う?よかった、私だけじゃなかったんだ!」

暁「実を言うと私もなのよね……。これについては全くもって原因不明なのよ」


電「!すでのな母空規正、てしまき続」





艦種:暁型駆逐艦4番艦
血液型:AB型
スキル:『逆転掌訴<ギブアップダウン>』
天井に張り付くスキル
備考:初期艦

電「とっよ!すでのいしら晴素でみ踏い揃員全らか朝も日今」スタッ

電「最後に諸連絡なのです。軽巡洋艦・川内型の三人は、食後に司令官がお呼びなのです。昼までに司令室に来てください」


神通「提督が……一体何なのでしょう」

那珂「まさかまさか!とうとう那珂ちゃんのメジャーデビューが大決定ぃー!?」

川内「それだったら私たちが三人とも呼ばれる意味が無いじゃん。仮にその話だとしても、メジャーデビューじゃなくて鎮守府ライブ禁止令とかでしょ」

那珂「うふふー、楽しみぃー!」

川内(聞いちゃいねー)

神通「そわそわ……」


---司令室---


提督「……で、大淀。本当にこの三人が」

大淀「はい、間違いありません。『三人とも』、改二改修のポテンシャルを秘めています」

提督「川内と神通はわかるとして、那珂まで素質ありってのは信じられないんだけどな、僕には」

那珂「ひどくないですか!?」

川内「私も信じられないなぁ」

神通「私も信じられません……」

那珂「それはどっちが!?自分に対してだよね!?妹を信じるよね!?」

大淀「再三言いますが、間違いありません。『三人とも』です」



大淀

艦種:大淀型軽巡洋艦1番艦
血液型:AB型
スキル:『見る芽がある<ヘルタースカウター>』
潜在能力を見抜くスキル

提督「しかしさぁ大淀。君のスキルって、相手がスキルホルダーか否かも判別できるんだろう?」

大淀「ええ、できますよ。この三人にスキルはないようですね」

提督「ゴーヤのスキルのことも知ってた?」

大淀「もちろん」

提督「何で教えてくれなかったんだよ」

大淀「教えるわけないでしょう。プライバシーの侵害ですよ」

提督「スキルを知ることが、かい?」

大淀「『隠している』スキルを知ることが、です。スキルとはその人物の『個性』。スキルを隠しているということは、個性の一端を隠しているということですから」

提督「なるほど……ひた隠しにしている性癖を暴露されてしまうようなものか。確かにそりゃあ命に関わるね」

川内「恐ろしくわかりやすいのが嫌だ」

提督「……さて、本題に移ろうか。聞いてもらった通り、君たちには改二になる素質がある」

提督「だから、なれ」

神通「そんな……急に言われても……」

川内「夜戦にさらに強くなれるのは願ったりだけどさ。鎮守府的にはそんなこと、無意味極まるんじゃないの?」

那珂「そうそう!うちには島風ちゃんがいるんだから、これ以上戦力増強する必要なんかないって!それより私はライブの……」

提督「神通と川内と那珂前半の言うことも最もだ。あいつが鎮守府にいる以上、戦力にこだわる意味は薄い」

那珂「那珂後半ちゃんの応援もよろしくね?おーい?」

提督「でもほら、この前夕立を改二にしたでしょう。僕がやる気になってる今のうちに、改修できるところはしておこうと思ってね」

川内「そんな部屋の掃除みたいな理由で」

神通「そもそもどうして提督は、夕立ちゃんを改修しようと思ったのですか……?」

提督「うーん、念のため……っつって、何のどういう念のためなのか、僕自身曖昧なんだけどね」

川内「何だよそれ。そんなんじゃあやれって言われても、モチベーションがだだ下がりだなぁ。オール夜戦マスの海域にでも訓練に行くなら別だけど!」

提督「そりゃあ海っていうか川だろうよ、三途の……。まあそう言うだろうと思って、僕もちゃんと考えている」

提督「こうしようじゃないか。君たち川内型三人のうち、改二になることができるのは『一人だけだ』」

那珂「一人だけ?」

提督「そう。君たちは常に三人同じ艦隊で出撃して訓練を行う。その上で、一番早く改二改修可能な練度に達した一人のみを改修することにする」

神通「つまり……同じ条件下で、誰が一番戦果を上げることができるか」

川内「競争……!」

提督「そういうことだ。島風のおかげでここの艦娘は緊張感というか、闘争心に欠ける娘が多いからね」

提督「どんな形であれ、誰かと何かを『競い』『争う』ことは、いい刺激になるんじゃないかと思ったのさ」

川内「…………」

神通「…………」

那珂「…………」

神通「……いいと、思います」

提督「おお、そうかい」

神通「はい。たとえ改二になれなくても、たまにはこういう形で、戦闘に慣れておかなくちゃ……」

川内「なーんだ、私は神通を一番心配してたのに。まさか自分からやるって言い出すなんてねー」

川内「私はもちろんやるよ提督!ただでさえ夜戦最強な私が改二になったら、みんなから『夜の女王』なんて呼ばれたりして!」

提督「君がひどく淫らな女性に見えるのは僕の心が汚れているからなんだろうね。しかし最初から勝利宣言とは、威勢がよくて何より」

那珂「えー、二人ともやる気なのー!?……仕方ないな、やるよ那珂ちゃんも」

提督「三人ともOKだね」

那珂「やるからには本気だからね!歌って踊れて腕も立つ、パーフェクトアイドル那珂ちゃんにメガシンカしちゃうからね!」

那珂「メジャーどころか世界デビューしちゃっても知らないんだから!」

提督「二人とも、那珂にだけは負けないようにしなさいね。あの娘が改二になったら絶対調子乗るから」

「「はい」」

那珂「聞こえてますけどおおおぉぉ!! いいもん!!後から言われてもサインとかしてあげないもん!!」

提督「とりあえず練度の低い最初のうちは、身の安全のために一航戦の二人を同伴させる。ある程度打たれ強くなったら外すから、そこでMVPを狙うといい」

川内「へぇ、一航戦の同伴とは心強いし、光栄だね」

神通「何だか申し訳ない気もしますね、私たちのために……」

提督「まあ彼女たちも運動したいだろうしね。何せ日に摂取するカロリーが段ち……」

大淀「提督」

提督「……っと失敬、プライバシーの侵害だっけ」


---キス島沖---


赤城「第一次攻撃隊、発艦してください!」ビシュッ

加賀「みんな優秀な子たちですから……」ビシュッ


ドゴオォン!!


軽チ級【グオオオ……】

川内「うっひょー、やっぱ違うなぁ一航戦は!」

神通「本当……かっこいいな……」

赤城「三人のうちの誰かが改二になるんでしたよね。その時が来て、本当に隣で戦えるのを楽しみにしているわ」

川内「……っ!!は、はいっ!!頑張ります!!」

加賀「あまりその気にさせてあげないほうがいいわ赤城さん。私たちはどこまで行っても、所詮は『第三艦隊』。一航戦といえど、第一線で戦うことはできないのだから……」


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第一艦隊:『非艦隊』
1…駆逐艦・不知火(秘書艦)
2〜6…なし

第二艦隊:『攻略非艦隊』
1…駆逐艦・島風
2〜6…必要なし

第三艦隊:『戦闘艦隊』
1〜6…自由枠

第四艦隊:『遠征艦隊』
1…駆逐艦・睦月
2〜6…自由枠

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赤城「加賀さん、それは……」

加賀「事実でしょう」

加賀「いくら練度を高めたところで、私たちはあの子の足元にすら及ばない。改修に浮かれるのは勝手だけど、あまり妙な期待を持つのは……」

川内「後ろで戦うことが、そんなにいけませんか」

加賀「……え?」

川内「もう整地されて、舗装されたような道を……先人の足跡を踏みしめて歩くのが、そんなにいけませんか」

加賀「…………」

川内「私はそうは思わない。前線でどんな化け物が戦ってたって、その後ろにはまだ敵がこうして残っている」

川内「その後始末をすることを、私は屈辱にも恥辱にも思わない。だってそれが提督に任された任務である限り、それは私たち艦娘の誇りだから」

神通(……姉さん……)

川内「目の前に敵がいて!それを倒せと命じられたなら!たとえそれが、他の奴なら1秒で終わるようなことだったとしても……」

川内「5分でも10分でも1時間でも!かけて倒せばいいだけだろう!それの何が悪い!!」

川内「かかった時間が違うだけだ!戦う場所が違うだけだ!任務の意味が違うだけだ!それの何が悪い!!」

川内「後陣の中で!後塵を拝しながらでも!!目の前の敵に!任務に!全力で向き合うのが艦娘でしょうがあああ!!!」

加賀「…………!!」

赤城「……川内さん……貴方……」

川内「……………………」

川内「…………う…………うう……」


川内「うわああああぁぁぁぁぁん!!!」


「「!?」」

川内「うわああぁん!!加賀さんのバカぁ!!赤城さんのおたんこなす!!」

赤城「はいぃ!?何で私まで!?」

川内「びえええぇぇん!!!」ダッ

赤城「あっ、ちょ、ちょっと……!か、帰っちゃいました……」

神通「ご、ごめんなさい……!姉がとんだご迷惑を……」

赤城「いやご迷惑以前に意味がわからないんですが……。どうして私までおたんこなす言われる必要が」

神通「すいません……姉のあれは、加賀さんに怒っていたわけじゃないんです……」

加賀「えっ」

赤城「ど、どういう……?」

神通「正規空母のお二人が同じ艦隊にいるせいで、昼戦の間にどうあっても敵が全滅してしまって……」

赤城「や、夜戦ができないから……!?じゃあ、艦娘の誇り云々っていうのは」

神通「即興で考えた出まかせでしょう」

赤城「それはそれですげぇな!」

加賀「はぁ……呆れたわ、あの子には。でもあの子の『言葉』は、出まかせにしては心に刺さるものがあったわね。少し反省します」

神通「姉にも、よく反省するように言っておきますので……」

赤城「うふふ、私は好きですけどね、あの子。ああいう直情的で、大事な決断をその場の感情に任せてしてしまうような子は」


赤城「食い甲斐がある……いえ、悔い甲斐があると言うべきなのでしょうか」ペロッ


神通「……赤城……さん……?」ゾクッ

後日、川内と加賀は違いに謝罪し合い、第三艦隊の空気はすんでのところで正常に戻った。
その内三人にも経験値が貯まり、ついに一航戦の二人はお役御免。
ここからたった一つのMVPをめぐる、川内型同士の血で血を洗う戦いが幕を開けたのだった。

正規空母2人が抜けたことにより夜戦に突入しやすくなり、活躍の場を大きく広げた川内。
しかし武勲艦の力を受け継ぐ神通も、負けじとそれに食らいついていく。
両者の実力は拮抗していた。



そして…………










那珂「那珂ちゃんだよー!もっと素敵になっちゃった!きゃは♪」


「「お前がなるんかいっ!!!」」

oh……
>>69
那珂→那珂改二
です、申し訳ない

提督「おいおいおいおい、おいおいだぜこれは……。君ら僕の言いつけを聞いてなかったのかよ」

川内「何故だ……わからん!どうして那珂がこんな……」

神通「私も姉さんも、本気で戦っていたのですけど……MVPを取るのはいつもこの子で……」

川内「イカサマか!?イカサマなのか那珂!?イカサマなのかななかのかの……」

那珂「人聞きの悪いこと言わないでよ!那珂ちゃんは正々堂々MVPを取ったよ!スキャンダル知らずのパーフェクトアイドル・那珂ちゃんでーすっ!」キラーン

提督「ほらこうやって調子に乗るから……」

川内「じゃあ一体どんなトリックを使って!」

那珂「ふふふ……その秘密は、ズバリ『キラ付け』!那珂ちゃんは常にキラ付けされた最高のコンディションで出撃していたから、戦果も一番だったのだ!」

提督「キラ付けか……確かにキラ付けされた艦娘は命中率の向上など、目に見える戦力の上昇が報告されている」

提督「だけどそれもおかしな話だぜ。君たち三人はこの訓練以外で出撃させてないんだから、戦闘でMVPを取ることでしかキラキラは付かないはず」

提督「既に付いている状態なら普段よりも強いわけだから、連続でMVPを取れるのは納得できる。でも『最初の一回はどうやったんだ?』」

提督「素の状態で那珂、君が姉二人を出し抜いて戦果を挙げられるとは思えない。君が弱いからではなく、二人がかなり強いからね」

那珂「那珂ちゃんがどうして、すっぴんのまま最初のMVPを取ることができたのか。それはね……那珂ちゃんが」


那珂「アイドルだからですよっ!!」

提督「那珂……僕は今真面目な話を」

那珂「大真面目です。覚えてますか?一航戦の二人が外れてから初出撃の前、私がゲリラライブを開催したのを」

神通「やってたわね……。ここからが本当の勝負っていう時に、この子は何をやっているのかと思ったわ……」

川内「私も、てっきり那珂は勝負を諦めたのかと……」

那珂「とんでもない、あれこそが那珂ちゃんの秘策!」

那珂「ステージの上で歌う快感!衆目の中で踊る快感!そして那珂ちゃんの一挙一動で、観客を沸かせる快感!!」

那珂「全ての快感が私に力を与えたの!そう、那珂ちゃんは一人で戦っていたわけじゃない……」

那珂「鎮守府内一千万人の!!那珂ちゃんファンのみんなの想いを背負って戦っていたのよーーーっ!!!」

川内「……………………」

神通「……………………」

提督「…………まあ、鎮守府にそんなに人がいるのかどうかはさて置いて」

提督「那珂にとってはそのアイドル活動が、何にも勝るキラ付け材料だったということか……。一応、辻褄は合うね」

川内「た、確かにそうだけど……何か納得いかない……!」

神通「……そう。そういうことなら、私は認めるわ……那珂はちゃんと自分で考えて動いて、結果それが功を奏した。それだけのことだもの」

神通「おめでとう、那珂……でも改二になったからには、アイドルにばかりうつつを抜かしてもいられないわよ」

那珂「まっかせといて!戦闘もアイドル活動も、進化した那珂ちゃんは両方パーフェクトにこなしちゃうんだから!」

那珂「それじゃあ提督、お先に失礼しまーす!」

神通「失礼します……」

川内「うう……な、納得が……」


バタン……


大淀「……あら?あれは川内型の……。へぇ、あの子が改二に。以外ね……」

大淀「…………え……!?」


神通「それじゃあ、那珂改修のお祝いに……何か間宮さんで、おごってあげるわ」

那珂「やったー!」


大淀(…………!)


---後日---


那珂「恋のとぅー・ふぉー・いれぶーん♪」


川内「やってるねぇ、今日も」

神通「まあ、出撃した任務も上々にこなしてるみたいだし……何だかんだ言っても、みんな楽しそうにしているし」

川内「……ねえ、神通」

神通「なあに?姉さん」

川内「何か最近、那珂の奴……変わったような気がしない?」

神通「……姉さんも、そう思うのね……」

川内「私はアイドルとかよくわからないから、上手く言えないんだけど……何ていうか、こう」

神通「お客さんの扱い方が、雑になったわ」

川内「!」

神通「前は、ライブをする前には必ず告知のビラを作って配っていた。でも今はそれがなくなった……」

川内「そうそう、そうなんだよ。何だかどんどん、那珂の独りよがりのステージになっていってるような……」

神通「でもお客さんは、前にも増して盛り上がっているわ……どうしてなのかしら……」

川内「本当、わかんないよなぁ……アイドルっていうのは」


大淀「そこのお二方」


「「!!」」


大淀「少し……よろしいでしょうか」


---夜---


那珂「…………」

那珂「……………………」

那珂「……ねーねー!なんか那珂ちゃん、喉乾いちゃったなー!」

朝潮「…………」スス…

那珂「えへへ、ありがと♪」


コポポポ……


那珂「んー、おいしー」


朝潮「…………」ボー…

大潮「…………」

満潮「…………」

荒潮「…………」

那珂(うふふ、順調順調♪我ながらいいスキルに巡り会えたなー、これもアイドルの求心力ってやつなのかな?)


霰「…………」

霞「…………」


那珂「……………………」

那珂「……くく……くくく…………うふふふふふふ!!」

那珂(そうだ、もっとだ!もっと貢げ!貢げ!!貢げ!!!傅(かしず)け!傅け!!傅け!!!この私に!!!)

那珂(いずれはこのスキルを使って鎮守府内の全員を支配する……その調子で徐々に範囲を広げていけば、世界進出どころか世界征服すらも可能!!)

那珂(そう。私はもはやアイドルに収まる器ではない……この世界の頂点に君臨する『女王』の玉座こそが、この那珂ちゃんにふさわしい席なのよ!!)



那珂

艦種:川内型軽巡洋艦3番艦
血液型:AB型
スキル:『偶像が踏んでも<アイドリングノンストップ>』
心を操るスキル(自らの歌を聴かせるのが条件)

那珂「……はー、小腹が空いちゃったかも。朝潮ちゃん、今度は間宮さんからお菓子でも……」


ガラッ!


川内「那珂!!」


那珂「…………あっれぇー、お姉ちゃん?どうしてここがわかったのぉ?」

川内「どうしてもこうしてもない……何やってんのよ、あんた!」

那珂「見ればわかるでしょ?ファンのみんなに貢がれてるのよ!傅かれてるのよ!!」

川内「ふざけんな!」

川内「こういうわけだったんだね……あんたのファンへの扱いが、どんどん雑になっていったのは」

川内「客に気遣いなんかしなくても!歌ってるだけで自動的に自分に従わることができるスキルを、手に入れてしまったから……!」

那珂「やーっぱり改二改修ともなると、ただの改修とは全然違うよねぇ。まさか後天的にスキルが覚醒するなんて、私も思わなかったなぁ」

那珂「で?何しに来たのよお姉ちゃん。その疑問を解消しに来ただけ?」

川内「冗談言うなよ。あんたをぶん殴って、目を覚まさせてやる」

那珂「あはははは!お姉ちゃんこそ冗談言わないでよ!今が夜だからって滾っちゃう気持ちもわかるけどねー!」

那珂「大体何がいけないっていうの?私はアイドルとしてステージに立って歌っただけ!」

那珂「それに心動かされて!感動して!それで私に尽くしてくれる熱心なファン達に、一体何の罪があるっていうの?」

川内「どの口が……!!あんたは人の心を何だと思ってるんだ!!」

那珂「『人の心を何だと思ってる』……?歌も踊りも知らん世間ズレしたぺーぺーが、アイドル様の前でのたまっていい台詞じゃないね」

那珂「いい?お姉ちゃん。人の心っていうのはね」


那珂「『動かした者勝ちさ』……『動かされた者負けなんだよ』」

那珂「人は何故宗教を信仰すると思う?そこの神様、あるいは教祖様に『心を動かされたからさ』」

川内「…………」

那珂「では何故、人は胡散臭い宗教なんかに『心を動かされるのだと思う』?思想に共感したから?演説に感動したから?デザインに惹かれたから?いいや違う」

那珂「『負けた』からだよ」

川内「……『負けた』?」

那珂「そう。宗教に騙され財を毟られる人々は全員、勝負に負けたからそうなっているんだ」

那珂「そしてその財を得る者……勝負に『勝った』者は、勝つべくして勝ったんだ。勝つためにどんな汚いことでもやったから、当然のように勝った」

那珂「手頃な値段で探偵でも雇って、ターゲットの身辺を調べさせる。ある日そいつが、恋人に振られて失意の底に落とされてしまう」

那珂「もう生きていけない、このまま死んでしまおうか……そう思って街を徘徊するそいつに先回りして、占い師の出店を装ってテントを張っておく」

那珂「テントに入ってきたそいつに対して、開口一番言うんだ。『貴方、死のうとしていましたね』……心を動かすっていうのは、こういうこと」

川内「…………」

那珂「私はそれと同じことをしただけ。私だけじゃない、テレビに出てるようなアイドルだって、みんな似たようなことをやっている!」

那珂「方法の清濁なんて二の次だ!!これは真剣勝負なんだよ、卑怯もへったくれもないんだよ!!」

那珂「だから私は使ったよ、とびっきり卑怯な手を!!そして勝った!!この子たちは負けた!!それだけだ!!それ以上でも!!以下でもないんだよ!!!」

川内「……………………」

川内「……それが……あんたの見ていた、世界なんだね」

那珂「そうだよお姉ちゃん……さて!まさか私を殴りに来ておいて、やっぱりやめて帰るわーなんていうのが通用するとは思ってないよね?」

川内「…………」

那珂「何せ那珂ちゃんはスキャンダル知らずのパーフェクトアイドルだからねぇ。最低限の口封じはさせてもらうよ……みんな、その女を取り押さえて」


朝潮「…………」

荒潮「…………」

霞「…………」


那珂「…………?」

那珂「どうしたの?早くしてよ」


大潮「…………」

満潮「…………」

霰「…………」


那珂「……おい!!早くやれったら!!逃げられちゃったらどうするの!?」

川内「あんたの言ってることは、正しいのかもしれない」

那珂「!」

川内「確かに私は、人の心がどういうものかなんてよく知らない。それについちゃ、あんたのほうが数段上手なんだろう。偉そうなこと言って悪かったね」

川内「でも、一つだけ……あんたがどうやらわかってなくて、私にはわかっている、人の心の本質がある。それはね」


川内「100%自分の心に従って動く人間なんて、この世には一人もいないってことさ」

那珂「……え……!?」

川内「一寸の虫にも五分の魂って言うように、心っていうのは何も人間だけにあるものじゃない」

川内「だったらどうして、同じ心を持つ者同士の中で人間だけが、こんなにも進化を遂げているのか……そんなもの、決まってる」

川内「『頭を使うからさ』。人間は心だけじゃなく、この脳みそ……『理性』によっても、その行動を決めることができるんだ」

那珂「な……!ま、まさか……!」

川内「心しか操れないあんたに、理性で動くその子たちをコントロールすることはできない。味方を攻撃しちゃいけないことくらい、誰にでもわかるからね」

那珂「…………!!」

川内「那珂……あんた、本当はわかってたんじゃないの?自分のスキルの弱点。だから側に置くのも、ちっちゃな駆逐艦ばかりで固めてる」

那珂「う……!」

川内「駆逐艦からしてみれば、軽巡の私たちは先輩みたいなものだからね。貢ぐことも傅くことも『先輩命令』と思わせれば、理性のブロックを緩めることができる」

川内「しかも念には念を押して、万が一反乱が起きても自分が勝てる程度の実力しかない朝潮型ばっかり。駆逐艦なら駆逐艦で、あの島風とかだっているのにさ」

那珂「ぐ……ぐう……!!」

川内「諦めな那珂。この場にあんたの味方は、もう一人もいない」

川内「そんで歯ァ食い縛れ。二度とこんな真似ができないように、お姉ちゃんがお仕置きしてあげるから」

那珂「や……やめて……!私が、私が悪かった!!もうしない、絶対しないから!!」

川内「『それで心が動くほど』、甘いお姉ちゃんじゃないことは知ってるよ……ねッ!!」


ブオッ……!


那珂「ひぃ……!」



……………………



那珂「…………、………………あ…………れ……?」


川内「…………どうして……!?」



朝潮「……………………」


川内「明らかに、悪いのは那珂の方だって……あんたでもそれくらいわかるでしょう!?どうして那珂を庇うの!」


神通「覚えているのよ、その子たちは」


川内「神通……!」

神通「那珂が改二になる前……お客さんのことを一番に考えて、アイドルと、観客と……みんなで最高のステージを作ろうと必死だった、あの頃を」

神通「那珂。貴方の笑顔が一番輝いていた、あの頃の姿を……この子たちは、今も覚えているのよ」

那珂「…………みん……な……?」


朝潮「…………」

大潮「…………」

満潮「…………」

荒潮「…………」

霰「…………」

霞「…………」

神通「那珂……確かに貴方の言うように、万人の心を動かすためには、なりふり構ってなんていられないのかもしれない」

神通「でも、見てごらんなさい。ありのままの、貴方の心をぶつけるだけで……それだけで動く心も、必ずあるのよ」

那珂「…………みんな……!!」


那珂「……う……ひぐっ…………うええぇぇぇん……!!」

川内「…………」ギュッ

那珂「うわああぁぁん…………ごめんなさい……ごめんなさいぃ…………みんなぁ……!!」

神通「……さ。もう夜も遅いし……帰りましょう」



大淀「……………………」

---
------
---------

川内「那珂がスキルを!?」

大淀「はい。しかも人の心を操るという、凶悪極まりない代物です。十分に警戒してください……万が一の場合は」

川内「……いや……大丈夫です」

大淀「え……?」

川内「大ごとになる前に、私たちがカタをつけます。できるよね、神通」

神通「はい。妹の暴走は、姉の私たちが……絶対に食い止めます」

大淀「しかし、彼女のスキルはあまりにも……」

川内「大丈夫ですって。何と言っても私たち」

神通「姉妹……ですから」

---------
------
---


大淀「流石は姉妹……ですね」


---川内型・相部屋---


那珂「……すぅ……すぅ……」



……………………



ギシッ……


赤城「……………………」

赤城「……読みは、外れてしまいましたが…………こっちはこっちで」


赤城「美味しそう…………♪」


那珂「うーん……すや……」

赤城「…………」


ガパアァァ……


赤城「それでは……お手手合わせて」


いた



だき




ます





…………


---翌朝---


那珂「何でーーーっ!?」


川内「……?ふあぁ……どうしたんだよ那珂、朝から素っ頓狂な声で……」

那珂「わっ、私の!!私の、私の体が……!」



那珂「改修前に戻ってる!!!」



---司令室---


提督「これ……レベルまで1に戻ってるじゃない。何やらかしたの」

那珂「知りませんよぅ!!」

那珂「きっと、罰が当たったんだね……ファンのみんなの心を、弄ぶようなことしたから」

神通「これから、どうするの……?」

那珂「レベルも1になっちゃったんだし……文字通り、1からやり直すよ!下積み時代からね!」

那珂「むしろいい機会だよ!ファンのみんなが求める那珂ちゃんスマイルを取り戻すには、これくらいやらないとね!」

川内「……那珂……」

那珂「よーし!そうと決まれば早速、ライブの告知ビラ作らなきゃ!」

川内「…………ねえ」

川内「私も……手伝ってみてもいい?」

那珂「え、いいの?やった!助かるぅー!」

神通「じゃあ、私も……」

那珂「じゃあみんなで作ろうか!まずはスケジュール決めなきゃね!それから場所を抑えて、あれやって、これやって……」

川内(……気付いてるかい、那珂)

川内(その姿のあんたのほうが……スキルなんかに頼るより、よっぽど人が付いてくるんだからね)

川内(…………取り戻せて、よかった)






那珂

艦種:川内型軽巡洋艦3番艦
血液型:AB型
スキル:『帰路消失(ロストパスワード)』
対象をレベル1に戻すスキル

次回、大井っちの巻!

おやすみ!


---W島近海---


如月「深海棲艦達が撤退していくわ……よかった、これでもう大丈夫そう」


ヒュオォ……


如月「やだ、髪が傷んじゃう……」





深海艦載機【………………ギ…………】



深海艦載機【ギ……ギ…………】


カシュンッ……


如月「……………………」



ゴオオオォォ……!




如月「…………ッ!?」




---
------
---------

睦月「待っててね、如月ちゃん!」

---------
------
---




ドゴオオオォォォン……!!!




---
------
---------


如月「……っていうことがあってねー。大変だったわぁ」

吹雪「…………」

睦月「そりゃあ災難だったね如月ちゃん。ここまでどうやって戻ってこれたの?」

夕立「…………」

如月「艦装が壊れちゃったからね……仕方なく泳いで戻ってきたのよ。途中でサメに食べられそうになったりもして、怖かったわ」

如月「まあ私みたいなマイナスを食べたところで、いたずらに自分のフカヒレの味を落とすだけでしょうけど。プラスにマイナスを掛けたらマイナスになるものね」

睦月「あはは!呑気だねー如月ちゃんは……あれ、どうしたの二人とも。そんな笑っていいものか判断に困るような難しい顔しちゃって」


「「何で生きてんの!!?」」

如月「やだわ吹雪ちゃん夕立ちゃん。食べられそうになったっていうだけで、実際に食べられてはいないのよ?生きて帰ってきて当然じゃない」

吹雪「そっちじゃなくて!!え、今の話だと如月ちゃん一度轟沈したんだよね!?」

夕立「そこから復活でもしない限り、サメに食べられそうになることすら不可能っぽい!!」

如月「ええ、だからしたのよ」

「「は?」」

如月「だから、復活したんだってば。沈んでから。なぁに睦月ちゃん、もしかしてこの二人には話してなかったの?」

睦月「うん。だって、如月ちゃん自身あんまり気に入ってないんでしょ?それ」

如月「優しいのね睦月ちゃん。気に入っていないだけで気にしてるわけじゃあないんだから、そんな人のコンプレックスみたいに扱わなくていいのに」

夕立「話の流れから察するに……如月ちゃんもスキルホルダーっぽい?」

如月「ええ、そうよ。私の最大の短所『復活のスキル』……でも私にこの欠点がなかったら、睦月ちゃんやみんなを悲しませていたかもしれないのだし」

如月「人には無い、自分だけの致命的な欠点……そういうのを持つことも、案外悪くはないことなのかもね」



如月

艦種:睦月型駆逐艦2番艦
血液型:AB型
スキル:『典聖<リバイブル>』
復活のスキル

吹雪「如月ちゃん……どうしてさっきから自分のスキルを、そんな悪いものみたいに言うの?」

如月「言うまでもないわね。マイナスだからよ」

吹雪「司令官とかもたまに言ってるけど、その『マイナス』って何?普通のスキルと何か違うの?」

如月「そうではなくて、スキルの分類よ。異常性(アブノーマル)と過負荷(マイナス)……全てのスキルは、この二種類に分けることができるの」

睦月「明確な線引きや定義があったりするわけじゃないんだけどね。その人物の『長所』の具現が異常性、『短所』の具現が過負荷だって、私たちは解釈してる」

如月「異常性は無害にして百利を齎(もたら)すけれど、過負荷は文字通り過剰なる負荷……百害あって一利なし」

如月「もっとも今回みたいな事例を鑑みるにそれは偏見で、どこかで一利くらいは齎してくれているのかもしれないけどね」

睦月「例えば、私の『窮鼠輸送<マウスポインター>』は異常性。吹雪ちゃんの『口区間<ドア・トゥ・ドア>』も異常性かな」

吹雪「絶っっっ対に過負荷だよ!!間違いなく百害あって一利ないよ!!」

夕立「吹雪ちゃんの性癖的に、アブノーマルで合ってるっぽい」

吹雪「うっさいわ!!てかあんたにはちゃんと説明したでしょうが夕立ィ!!」

吹雪「しかし、一利の代償に百害を被るスキル(私は別として)、過負荷かぁ。……じゃあ、ひょっとして『あそこ』には……?」

如月「……ああ、『あそこ』ね。確かにあそこにいるのは過負荷なのだけど、私のような半端者とは違うわ」

如月「過負荷の齎す百害に振り回されるような私とは違う。あそこにいるのは、その百害すら勝手気ままに振り回し、二百害にも千害にもしてしまうような異常者」

如月「前に一度だけ行ったことがあるんだけど……あんなものを囲っているこの鎮守府が、どうして今まで存続しているのか不思議になったわ。それくらい危険なのよ」


如月「あそこの……マイナス13舎の連中はね」

吹雪「…………」

睦月「…………」

如月「…………」

夕立「……そういえば如月ちゃん、私ちょっとわかんないっぽい」

如月「?」

夕立「如月ちゃんの『復活のスキル』……私にはとっても便利で、害なんてないように思えるっぽい」

夕立「どうして如月ちゃんは、自分のスキルが過負荷だって思うの?」

如月「…………そうね。確かにこれは、実際に自分で味わってみないと……患ってみないと、わからないのかもしれないわね」

如月「簡単なことなのよ、夕立ちゃん。復活のスキル……私は何度命を散らそうと、その都度この世に蘇る。そしてその都度」


如月「人の命の価値というものを、世界からマイナスしていっているのだから」


---球磨型・相部屋---


多摩「そういえば聞いたにゃ?今日、新しい艦娘が配属されてくるらしいにゃ。しかも二人」

木曽「へー。どんな奴らなんだ?」

多摩「それは知らないけど、二人とも軽巡洋艦だって話だにゃ」

北上「何さ多摩姉ちゃん。その二人の中に、私らの姉妹がいるんじゃないかって期待してるわけー?」

多摩「にゃ……期待していないといえば、嘘になるにゃ」

木曽「もう随分長いこと、この鎮守府に球磨型は俺たち三人だけだからな。俺も久しぶりに、姉さん二人の顔が見たいぜ」

北上「そうだねー。私もそろそろ阿武隈いじりも飽きてきたしね。大井っちのちょっと過剰なスキンシップが恋しいかもー」

北上「もし大井っちがここに配属されることになったら、多分提督に挨拶に行くより先に私のところに来るんだろうなぁ。ドアをぶち破る勢いで走ってきて」


ドドドドドド……


バゴオォン!!



大井「北上さああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」



北上「って大声で…………お、大井っ……ち?ほ、本物?」

大井「北上さん!嗚呼北上さん、北上さん!!北上さんさん、さん北上さん!!!」

北上「ちょ……大井っち、くすぐったいよー。短歌詠みながら撫で回さないでよー」

木曽「お、大井姉ぇ……!?」

多摩(にゃー……嬉しいけど、来たのが大井じゃあ今まで通り多摩が一番お姉さんのままだにゃ。多摩も甘える相手が欲しいにゃー)

大井「ああ……北上さぁん……会いたかったぁぁ……」スリスリスリスリスリスリ

北上「私も会いたかったよー。よしよし」


木曽「……のらくらした喋り方はいつも通りだが、北上姉……顔の緩みっぷりが尋常じゃないぜ」

多摩「微笑ましいのにゃ」


大井「!!!き、北上さんも……北上さんも私を求めてくれていたなんて……」

大井「うわああああぁぁん!!もう死んでもいい!!北上さんと一緒に!!」

北上「落ち着きなよ大井っちー、抱きついてる人物に面と向かって殺害予告してどうすんのさー」


木曽「大井姉ならマジでやりかねないところが怖いな」

多摩「微笑ましいのにゃ」

あれ、投稿できてない?

あ、見れた
何か総レス数にはカウントされてレス自体は表示されないという謎の事態が……
続けます

ドドドドドド……


バゴオォン!!


電「見つけたのです!!」

大井「!!」

電「こちら電、対象を補足したのです!古鷹さんGJなのです!」

古鷹【こちら古鷹、了解です。あとは何とかして司令室に連れてこないと……電ちゃん、できそうですか?】
(※トランシーバー)

電「わかりませんが、とにかくやってみるのです!」

北上「大井っち……まさか本当に、提督に挨拶に行く前に私のところに来たの?」

大井「当たり前じゃない!!そこの駆逐艦に聞いたら、ここに北上さんがいるって言うから!!」

木曽「悪いな電、あんな姉貴で」

多摩「ごめんにゃ電ちゃん、あんな妹で」

電「お二人が謝ることではないのです……とにかく!大井さん!大人しくお縄につくのです!」

大井「お縄につけ、ですって…………駆逐艦風情が!!北上さんと二人っきりの至福の時を!!無粋にも邪魔立てし腐ろうってのかァ!!!」

木曽「いや元々俺らもいたんだけど」

電「確かに、感動の再会に水を差すのも忍びないのですが……そこは艦娘社会のマナーなのです!まずは司令官に挨拶するのが先なのです!」

大井「黙らっしゃい!!私と北上さんとの愛の前には、マナーだろうがマネーだろうが平等に無価値!!そんなの艦娘社会どころか世界の真理でしょうが!!」

大井「そんなことも理解できない不良品は……不用品はァ……この私の手に掛かって」ユラァ

大井「無駄に死ね!!無意味に朽ちろ!!!無価値な海の藻屑と消えええぇぇぇぇぇい!!!!」ゴォッ

電「うわ……っと!?」ピョインッ


スタッ……


大井「!?天井に……!?」

多摩「『逆転掌訴<ギブアップダウン>』……!」

大井「ちィ、おんどれもスキルホルダーか!!」

電(うう……殴り合いに持っていかれると、軽巡洋艦相手に勝ち目はないのです)

電「!んせまれらり降らか井天!すでのいぽっ理無!んさ鷹古、ふ」

古鷹【えーっ!?な、何が起きてるんですか!?】

電「!!ぅぅぅすでのるてっぶかり振とうよげ投を子椅今!すでのな目駄もていに井天、っああ」

古鷹【椅子を!?リアルファイトに発展してるんですか!?】

多摩「やめるにゃ大井!電ちゃんの言うことを聞くにゃ!」ガシッ

木曽「着任初日から暴力沙汰とか洒落になんねぇぞ!!」ガシッ

大井「離せコラァァァァ!!!」

木曽「おい!北上姉も何とか言ってくれよ!!」

北上「お、大井っち……もうそのへんにしときなって。別に私は逃げやしないからさ、先に提督に挨拶済ませてきなよ」

大井「……………………」

大井「北上さんがそう言うのなら♪」

電「!!っ早身りわ変」

古鷹【何!?今度は何!?】

電「っほ……すでのな夫丈大、えい」

電「とりあえず、何とかなったのです。今から連れて行くのです」

古鷹【そ、そうですか……無事で何よりです】

大井「さ、司令室に参りましょうか電さん。案内してくださる?」

電「はぁ……。こちらなのです」

木曽「悪いな電、あんな姉貴で」

多摩「ごめんにゃ電ちゃん、あんな妹で」


---司令室---


大井「初めまして♪本日よりこの鎮守府でお世話になります、球磨型軽巡洋艦4番艦・大井です。よろしくお願いします、提督♪」

提督「ああ、よろしk」

大井「それでは私は用事がありますのでっ!!」バヒュンッ

提督「本当に挨拶だけして帰りよった!」

電「あの人の北上さんへの執着ぶりは異常なのです……それも私の見る限り、マイナス方向に」

提督「うーん……僕としても気が進まないけど、それがあまりにも目に余るようなら」

提督「久々に、出すしかないのかな……マイナス13舎行きを」

電「…………」

不知火「…………」

提督「自分の手に負えない艦娘がいたら、縛り上げて、収容所に隔離して、後は放置……か」

提督「はは、とんだ独裁国家だぜこの鎮守府は。あの子も運がないね、もっとマシな扱いしてくれるところに行けりゃあよかったのに」

提督「よりによって……こんな無能が提督やってるところに、配属されるなんてさ」

電「……司令官は、悪くないのです」

提督「……ありがとう、電。そんでもってお疲れさん。部屋に戻って休みな」

電「はい……では、失礼します司令官」

電「……不知火さんも」

不知火「…………」


ガチャ……

電「…………!」

響「や、電」

電「響ちゃん……」

響「大変だったらしいね、さっき司令室を飛び出してきた軽巡。あわや殴り合いになるところだったんだって?」

電「あはは、確かに危ないところだったのです。まあ、姉妹との再会を噛みしめたい気持ちも分からないではないのですけどね」

響「だからって殴りかかってくるのはねぇ……いや、本当にお疲れ様。飲み物でも奢るよ」

電「いいのですか?じゃあ、お言葉に甘えちゃうのです」

響「……ところでさ、電。前々から気になってたんだけど」

電「はい?」


響「不知火さんって、何者なの?」


電「……………………」

響「電はこの鎮守府の初期艦なんだろう?でも司令官が秘書官に付けているのはいつもあの人……不知火さんだ」

響「電を秘書官に選ばないのは別におかしくない。他の鎮守府でも、秘書官を交代制にしたりする話は珍しくもないからね」

響「でも司令官は、秘書官を不知火さんのままずっと固定している……その割に、あの二人が会話してるところを少なくとも私は見たことがない」

響「それどころか不知火さんはずっと司令官なの対して後ろを向いているから、顔すら見たことがないんだよね」

響「今回の件だって妙だ。本来こういう仕事は秘書官に任せるべきなのに、司令官はわざわざ電を駆り出してまで不知火さんを動かそうとしなかった」

響「あの人は……一体、何者なんだ?提督との間にどんな関係がある?創立当初からこの鎮守府を見てきた電なら、何か知って……」

電「響ちゃん」

響「!」

>>137訂正
「司令官に対して」ですね、失礼しました

電「ごめんなさい響ちゃん。そのことについて、私からお教えできることは……一つもないのです」

響「…………そう、か……」

電「でも、お教えできることがなくても、これだけは言えるのです。不知火さんは決してわ悪い人じゃない……司令官も当然同じ」


電「悪いのは全部……私一人だけなのです」


響「…………?」




吹雪(…………盗み聞きなんて、するつもりなかったのにぃ……)

吹雪(何だかよく分からないけど、まずいこと聞いちゃった?私……)

吹雪(電ちゃんの口振りからして、事情を知っているのは間違いなさそうだけど)

吹雪(不知火さんと司令官、そして電ちゃん。三人の間に、何が……?)


---翌日---


北上「いやー、大井っちと一緒のお布団で寝るのなんて随分久しぶりだったねー」

大井「え、ええ……」

大井(うう、私の意気地なし!甲斐性なしぃ!!昨日は緊張して一睡もできなかった上に、結局最後まで北上さんに手を出すことができなかった……!)

大井(嗚呼、北上さん……私を気遣って表面上は普通に接してくれているけれど、内心ではきっと私に失望しているに違いないわ)

大井(昨晩、北上さんが私を添い寝に誘ってくれるのに、彼女がどれだけ勇気を振り絞ったことか!北上さんがこれ程までに私を想ってくれているのに、私は……)

大井(ごめんなさい北上さん……不甲斐ない私を許して……)

北上「…………おっ、あそこにいるのは」


阿武隈「〜〜♪」


北上「うーん、いざこうして対面してみると、やっぱりそう簡単に飽きの来る逸材でもなかったかぁ。よし、突撃」

北上「どっかーん♪」

阿武隈「え……ひゃあぁっ!?」


ドッシーン!


阿武隈「き、北上さん!もう、また……」

北上「えーい、前髪くしゅくしゅー♪」ワシャワシャ

大井(不甲斐ない私を…………ん?『不甲斐ない』?よくよく考えるとおかしいわね、これって『甲斐性がある』の二重否定みたいじゃない?)

阿武隈「あんっ!もう、やめてったらぁ……いつも言ってるでしょ!この髪型セットするの大変なんだから!」

北上「私もいつも言ってるでしょー。だからこそ壊し甲斐があるのだー、ほらほら」ワシャワシャ

阿武隈「ううぅ、もうっ!言っても聞かないんだったらお返しだよ!そりゃーっ!!」ワシャワシャ

北上「むむっ、此奴め、抵抗するか!よかろう、この北上受けて立つぞー!」ワシャワシャ

阿武隈「このっ!このっ!このーっ!!」

大井(嫌だわ私ったら。つい昨日自分の甲斐性の無さを思い知ったというのに、それを否定するようなことを……自分を偽っては駄目よ大井、私のありのままの姿を……)

大井「……あれ、北上さん?どこに行……っ…………て……………………」



北上「それそれーっ」クンズ

阿武隈「にゃーーーっっ!!」ホグレツ



大井「」


---翌日---


提督「阿武隈が高熱で倒れたぁ?」

電「はい……あの、もしかして、これって」

提督「いやもしかしなくても大井の仕業だろうよ。北上と仲良いしなぁあの娘」

電「で……その、もう一つ、ですね……悪い知らせが」

提督「何よこれ以上悪い知らせって」

電「先程、念のため球磨型の部屋を覗きに行ったのですが、北上さんがご不在でして。それで多摩さんに聞いてみたら」

提督「…………おい、嘘だろ……まさか」

電「……あ、阿武隈さんの、看病に行ったって……」

提督「あの馬鹿!!」


---長良型・相部屋---


阿武隈「うーん……はぁ……はぁ……」

北上「ほれ、お茶持ってきたよ。水分摂りな水分」

阿武隈「うん……ありがとう北上しゃん……」

鬼怒「ごめんねー、わざわざ看病のために出張ってきてもらって」

北上「いいってことよ、私が自主的にやってることだしね」

北上(もしかすると、日頃から私にいじられることによって溜まりに溜まったストレスのせいでこうなったのかもしれないし……ほっとけないよね)





大井(殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺)

提督「しかしいくらなんでも手が出るのが早すぎだろう……下手したら北上と廊下ですれ違っただけで恨まれかねないぜ」

提督「今は発熱程度で済んではいるが、放置しておけば阿武隈の命も危ない。この件は今日中にカタをつける必要がありそうだ」

電「と、いいますと」

提督「どんなスキルを使っているのか全く見当が付かない以上、一昨日と同様……古鷹を使うしかないだろう」

電「でも古鷹さんは、他人の私生活を覗くのとを極端に嫌っているのです」

提督「事態は急を要する、彼女もわかってくれるはずだ。いざとなったら伝家の宝刀でも抜くさ……上官命令っつって」

電「……まあ、そのポリシーも彼女の真面目さ故ですし、そのくらいの融通は利くと私も思うのです」



古鷹

艦種:古鷹型重巡洋艦1番艦
血液型:AB型
異常性:『目の届く場所<エリアフリー>』
千里眼のスキル

電「手の内を調べるのは、古鷹さんでおそらく問題ないでしょうが……それより問題なのは、『誰を戦わせるか』なのです」

提督「ふむ……」

電「マイナス13舎行き候補ともなると、仮に最適な逸材を派遣してその場を収めたとしても、今度はその人がお礼参りで阿武隈さんの二の舞になりかねない」

電「それどころか逆恨みに逆恨みが重なって、被害が鎮守府全体に拡散してしまうことすら……考えればいくらでも悪く考えられるのです」

提督「……いや、それについては考える必要はないよ」

電「え……?」

提督「ああ、違う違う。被害についてはどんなに考えても考えすぎってことはないさ。あれほどの過負荷が相手なんだから」

提督「僕が言いたいのは、それについて考え抜いた上で、『誰を戦わせるか』を考える必要はないってこと」

電「……司令官はもう、決めているということなのですか?」

提督「そうさ。電、さっき言ってたよね。逆恨みに逆恨みにが重なれば、鎮守府全体が被害に遭いかねないって」

提督「だったらこう考えるのさ。逆恨みにで他の誰かが連鎖的に狙われるのだったら、『恨まれる方向をこちらでコントロールしてしまえばいいんだ』」

電「……?」

提督「大井本人からしてみれば、自分が攻撃されるのは目の前の相手のせいだと咄嗟に思いがちだけど、元はと言えばその采配を下すのは……大井への攻撃を命じるのは、他でもないこの僕なのさ」

提督「そこに気付かせることができれば、必然的に大井の恨みは僕一人に向く。他の艦娘達に広がる心配もない。嫌われ者も恨まれ者も、一人で十分だ」

提督「では、どうやって気付かせるのか?示してやればいい。突きつけてやればいいんだ。あの娘の目の前に、その答えを……恨むべき相手を、一番わかりやすい形で」

電「…………司令官……まさか……!?」

提督「うん」



提督「僕が行くよ」




---同日・深夜1時---


大井「…………」ユラァ

大井「あの阿武隈とかいう小娘……奴がこの世に存在する限り、私と北上さんに安寧は訪れない……」ユラァ

大井「私と北上さん……二人の未来に幸あれ」

大井「阿武隈と北上さん……二人の未来に呪いあれ」スッ…


「呪いねぇ」


大井「!!何者ッ!」

提督「こういう者だよー大井っち……なんてね。北上にしか興味のなさそうな君でもさすがに覚えてるだろう」

大井「……提督……!」

提督「今日一日古鷹に君を見張らせていたが、今の今まで目立った動きはなかった。君の性格を考えれば、一分一秒でも早く事に移りたいはずなのに」

提督「ということは君のスキルは、こんな真夜中になるまで使いたくても使えないということ」

提督「そして、その手に持っているのは……金槌と、そっちはぬいぐるみかい?ああ、明石の売店で売ってるやつだね。妖精さんマスコット」

提督「察するに、君の過負荷は……丑の刻参りのスキル、ってとこかな?」

大井「……ご名答ですわ、提督」

提督「藁人形とかじゃなくてもいいんだね」

大井「世間一般に認知されているような、オカルトレベルのお遊びとはわけが違いますから」

大井「私の丑の刻参りは成功率100%……一夜儀式に成功すれば相手は確実に体調を崩し、私の恨む力が強いほど、その呪いによって死に向かっていく」

大井「昨夜はちょっとした嫌がらせで、発熱程度に留めておいたけど……今夜はもう容赦しない。即死レベルの恨みを込めるわ」



大井

艦種:球磨型軽巡洋艦4番艦
血液型:AB型
過負荷:『草木も永眠る<バッドナイト>』
丑の刻参りのスキル

大井「……それで?提督はここに、何をしにいらしたのですか」

提督「当然、君を止めに来たのさ。確か丑の刻っていうのは、現代時間で言うところの午前1時から3時の間だったよね」

提督「今、1時20分ぐらいだから……あと1時間と40分、君を押さえつけておけば、それで君はスキルが使えなくなるってわけだ」

大井「うふふ!確かにその通りですね。でも提督……一つ、忘れていませんか?」

提督「忘れている?何をだい?」

大井「丑の刻参りに必要な道具は『3つ』……金槌と、人形と、あともう一つ」

大井「これが必要なんですよッ!!」ビシュッ!


ドスドスドスッ!


提督「うっ……ぐ……!?こ、これは……!」

提督「……『釘』、か……!」

大井「安心なさって下さい。私の過負荷は、相手を心の底から恨んでいなければ発動しません」

大井「私は提督、貴方を別に恨んではいませんわ。自分の部下が危険な目に遭おうとしているのなら、それを止めに来るのは上官として当然のこと」

大井「私にだってそれくらいの理解はあります。だから私は貴方のことは、特に何とも思わない……ただ」

大井「貴方が私の邪魔をすると仰るものだから、私としては抵抗しないわけにもいかないのですよ……!だから!こうして!!釘を打ち込まざるを得ないんですッ!!!」


ドスドスッ!!


提督「があぁ…………!!」

大井「恥ずかしながら私、人に直接釘を打ち込んだことはないんですよね。だからどの程度の本数打ち込めば動けなくなるのか、よくわからなくて……」

提督「……ぐ、う……」フラッ

大井「まだ動くのね。もう少し必要みたい」ビシュッ

提督「ぐあぁっ!!」ドスッ

大井「どうかしら?まだ動けますか、提督?」

提督「……はぁ……はぁ……」ズポッ


ブシュッ!


大井「あらあら、釘を抜いちゃ駄目ですよ。失血死しても知りませんよ私」

提督「……うぅ、ぐ……!」ズポッ

大井「……まだ、動くのね」

---
------
---------

提督「────」ガクッ


ドサッ……


大井「ふー、ようやくですか。もう何本打ち込んだのか忘れちゃいましたよ」

大井「しかしおかしな人ですね、貴方も。私が打ち込んだそばから全部釘を抜いていくなんて……そんなに早死にしたいのかしら」

大井「まあいいわ。邪魔者もいなくなったことだし、これでゆっくりと邪魔者にいなくなってもらうことができる……」クルッ



提督「誰がいなくなったって?」



大井「!?な……!」

大井(どういうこと!?さっきあれだけ釘を打ち込んだのに…………む、無傷ですって!?)

大井「あの穴だらけだった体を、一瞬で治したっていうの!?まさか、スキルホルダー……」

提督「違うよ。僕にスキルなんかない」

提督「僕はあくまでも、どこまでも普通(ノーマル)さ。常人にはない、自分だけの生まれ持った『何か』ってのには無縁な奴でね。見たまんまの無能提督さ」

大井「だったらどうやって……!……ッ、このっ!!」ビシュッ!

提督「ぐ……!」ドスッ

提督「……結局最後までこの釘打ちしかしてこなかったところを見ると、物理攻撃の手段は本当にそれしかないみたいだね」ズポッ

大井「は……?」

提督「確認が取れたって話。もう我慢して打たれまくる必要はないね」スッ…

大井「…………!!」

大井(釘を抜いた後の傷が……治った!)

提督「……ああ、そういえばこの釘、君のだろ?僕に打ち込むなんて無駄な使い方するなよ、釘だってタダじゃないんだからさ。もったいない」

提督「次からは節約して使いなよ。僕に打ち込まれた分は全部……」


提督「『返すから』」パチンッ


ヒュヒュヒュンッ!


大井「!!?」


ドスドスドスッ!!


大井「きゃッ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!痛い!!痛い!!痛い!!痛いぃぃぃぃぃいいい!!!」

提督「ほら、大人しくしてな。僕が全部抜いたげるから」ズポッ

大井「あううぅぅ!!や、やめて……お願い……!!」

提督「我慢しなよ、今やめたらずっと痛いままだぜ」ズポッ

大井「ぁぐうっ!!」


……………………


提督「……ほい、これで全部。もう痛くないでしょ」

大井「え………………あっ!?」

大井(私の傷も、治ってる……!)

大井「……スキルじゃないなら、一体どうやってこんな……」

提督「……まあ、よく言うところの軍事機密ってやつで、詳しいことは話せないけど」

提督「こんな異常性や過負荷が蔓延る鎮守府を統括する以上、普通なのはいいとしても、丸腰なのはさすがにまずいからさ」

提督「ある程度の事態には対応できるように、ちょっとした人工物で武装してるんだ、僕は」

提督「君たち艦娘が使う能力(スキル)に対抗できるように……僕は言葉(スタイル)という武器を持っている」ペロッ



『脱』



大井(!舌に文字が……刺青?)

提督「……さて。僕への攻撃がいかに不毛かっていうことは十分伝わったと思うけど……まだ続けるかい、大井?」

大井「……………………」

大井「……私の…………負け、です……」

提督「……うん、よろしい」

大井「でも……自分で言うのもなんですけど、私は自分で自分を制御できないことがよくあるんです。特に北上さんのことになると……」

大井「このままじゃ、これから北上さんと他の誰かが接触する度に、今日みたいなことの繰り返しになってしまいます。私は一体……どうすれば……」

提督「……………………」

提督「……僕は、本当に無能な男だから、さ……。君に、どうしてあげることもできない」

大井「…………」

提督「僕にできることは、ただ君を……他の艦娘たちから切り離して、隔離しておくことだけ……」

大井「……隔離……?」

提督「……軽巡洋艦、大井。君に……」


提督「マイナス13舎行きを…………命ずる」


大井「……マイナス……13舎?」

提督「そうだ。もう、はっきり言おう……マイナス13舎は、君のような制御の利かない過負荷を閉じ込めておくための隔離施設だ」

大井「閉じ込めておく…………って、ちょっと待って!北上さんは!?北上さんとはちゃんと毎日会えるんでしょうね!?」

提督「……………………」

大井「ちょっと……何とか言いなさいよ……!」

提督「……基本的に……マイナス13舎と、本舎の艦種娘が接触する機会は…………ほとんど、無い」

大井「………………そんな…………」

大井「……やっと…………やっと……やっと会えたのに…………北上さん……!」

提督「…………すまない……」

提督「……軽巡洋艦、大井。君に……」


提督「マイナス13舎行きを…………命ずる」


大井「……マイナス……13舎?」

提督「そうだ。もう、はっきり言おう……マイナス13舎は、君のような制御の利かない過負荷を閉じ込めておくための隔離施設だ」

大井「閉じ込めておく…………って、ちょっと待って!北上さんは!?北上さんとはちゃんと毎日会えるんでしょうね!?」

提督「……………………」

大井「ちょっと……何とか言いなさいよ……!」

提督「……基本的に……マイナス13舎と、本舎の艦娘が接触する機会は…………ほとんど、無い」

大井「………………そんな…………」

大井「……やっと…………やっと……やっと会えたのに…………北上さん……!」

提督「…………すまない……」







『おいおい』『人の妹に』『随分と無茶苦茶を言ってくれるじゃないか』





提督「!?」

大井「!?」

『何だっけ……マイナス13舎?』『制御の利かない過負荷を閉じ込めておく隔離施設だとか何とか』

『そんな面白そ……危なそうな場所に』『人の妹を勝手に連れていこうとするなんて』『しかも姉に無断で!』

『まったく』『こりゃあどっちが過負荷だかわかったもんじゃないぜ』『そう思わないかい』『提督?』

提督「…………君……は……!?」

大井(…………!!)

『おっと』『これは失敬』『自己紹介もしないで文句ばっかり言っちゃって』『これじゃただのクレーマーだ』『それこそどっちが過負荷だかわからない』

『じゃあ挨拶させてもらうね』『えー』『こほん』

『初めましての人は初めまして』

『久しぶりの人は久しぶり』




球磨『軽巡球磨』『着任しました。』





誤字をなかったことにした
間違えた、して

おやすみ!!!(投げやり)

球磨の強固(ぬる)すぎる姉妹愛
『やれやれ』『間違えてるものは無かったことには出来ないんだぜ?』
括弧つけるのやめたら語尾にクマがつくのか…

提督「軽巡球磨……球磨型のネームシップ……!」

提督(ってことは、大井たちの……)

大井「……姉さん……!」

球磨『そうだよー』『北上と関係なくてもちゃんと覚えててくれたんだね』『お姉ちゃん嬉しいよ』『元気そうだね大井』

大井「……姉さんまで、ここに配属されてくるなんて……」

球磨『本当』『すごい偶然だよね』『これも運命ってやつ?』

提督「…………」

球磨『……まあ』『大井たちとは後でゆっくり話そうか』『姉妹水入らずでね』

球磨『今はそれより提督だ』『さて提督』『着任早々挨拶もそこそこに』『差し出がましく進言させてもらうけどさ』

球磨『妹が何をやったのかは知らないから』『今大井が責められているのが本当に本人が悪いからなのか』『それともただの言いがかりなのか』『僕には判断できないけど』

球磨『いずれにしても理屈ではなく』『姉という立場の感情的に』『感傷的に』『妹をそんな監獄まがいの場所に送られるのは』『どうしても耐えられないんだ』

提督「……気持ちはよくわかる。僕だって、できればこんな手段は取りたくない……でも、他に方法が無いんだ」

提督「大井をこのまま放っておけば、また鎮守府のみんなに被害が出かねない……他に、どうしようも……」

大井「…………」

球磨『…………』

球磨『……ちなみに』『具体的には』『うちの妹は何をしでかしたの?』

提督「……北上さ。大井がここに来る前からあいつが仲良くしてた阿武隈って奴がいて、大井はそれが気に入らなかったみたいで」

球磨『みたいで?』

提督「スキルを使って、阿武隈を攻撃してたんだ。そのせいで彼女が高熱を出して寝込んだのが今朝の話」

提督「今夜はいよいよ殺す気でかかるってことだったから、今こうして僕が止めたんだ」

球磨『……スキル?』『スキルだって?』『大井お前……いつの間にスキルなんて身につけてたのさ』

大井「……姉さんと、離れてから……」

球磨『へぇー!』『びっくりだよ』『いやー感慨深いなぁ』『姉の見てないところで妹は成長するもんだね』

球磨『で』『事に及ぶところを提督に見つかって』『現行犯……か』『それがこの状況?』

球磨『人形に』『金槌に』『転がってるのは……釘だね』『うわ血ぃ付いてら』『これで何?』『丑の刻参りでもしてたってわけ?』

提督「その通りだよ。『丑の刻参りのスキル』……それがこの娘の過負荷さ」

球磨『え』『本当にそうなの?』『今適当に言ったのに』『マジで?』チラッ

大井「…………」コク

球磨『……へええぇ……』『そうかぁ』『丑の刻参り……ねぇ』

球磨『……やっぱり血は争えないのかな』『たった今血を見るような争いをしてた奴に言う台詞でもないけどさ』

提督(……?)

球磨『まあ』『とにかく』『事のあらましは大体わかったよ』『要は大井がスキルを使って悪さをしてたわけだね』『駄目じゃないか大井』『ごめんなさいしなさい』

大井「……ごめんなさい……」

提督「いや、そういう問題では……」

球磨『まーまー』『本人もこの通り反省してるんだしさ』『許してやってよ提督』『姉の僕からもお願いするよ』

提督「……悪いが……大井程の過負荷ともなると、そう簡単に信用するわけにも……」

大井「もういいのよ姉さん。私が悪いの。北上さんと会えなくなるのは辛いけど……わかっていても、私は自分を制御することができないのだから……」

球磨『……はぁ』『まったく二人とも心配しすぎだぜ』

球磨『大井がまた他の娘に悪さをするかもしれないってことを危惧してるんだろうけど』『大丈夫だって』『姉の僕が責任を持って』『しっかり釘を刺しておくからさ!』

提督「だから!それを迂闊に信よ……」



ドズッ……



大井「……………………え……?」




球磨『こんな風に。』



提督「…………!!?」

提督(何だ……何が起きた!?大井に何か突き刺した……)

大井「…………姉……さ…………」


ドサッ……


提督(……釘……!釘だ!大井が使っていたものとは違う、巨大な釘が刺さっている……ていうか思いっきり貫通してる!!)

提督「お前、殺……!?」

球磨『すわけないだろう』『妹に手をかける姉が』『この世のどこにいるもんか』『言ったろ』『しっかり釘を刺しておくって』パチンッ


シュウン……


提督「!」

提督(釘が消えた……!)

球磨『まあ』『おイタをした妹へのお仕置きってところだね』『時には心を鬼にして』『尻を叩いてやることも姉には必要ってことさ』

球磨『こんな風に痛い目を見れば』『この子だってもう悪さをしようとは思わなくなると思うよ』

提督「…………!!」

球磨『……けど』『提督の言いたいこともわかるよ』『犯した罪に対する落とし前っていうのは』『そう簡単に付けられるものじゃない』

球磨『だからもし』『これでも提督が』『納得できないと言うのなら……』


球磨『代わりに僕を連れていってよ』『マイナス13舎に!』


提督「……君を……!?」

球磨『そうさ』『妹のために仕方なく』『断腸の思いでこの提案をさせてもらうぜ』

球磨『ああ恐ろしいなぁ』『行きたくないなぁ』『夢も希望もない閉ざされた監獄』『一級品の過負荷達の巣窟』

『悪夢と』

『絶望の』

『ワンダーランド!』


---翌朝---


木曽「朝だぜー、起きろ北上姉」

北上「んー……むにゃ…………ぅん、あれ?大井っちは?」

木曽「俺にもわかんねーよ、朝起きたらいなかったんだ。散歩にでも行ってんのかな」

北上「こんな朝早くからー……?」

木曽「ほら、多摩姉も起きろー」

多摩「にゃーん……」ゴロゴロ


ガチャリ……


大井「…………」

北上「あ、大井っちー」

木曽「どこ行ってたんだよ大井姉!急にいなくなるもんだから心配したぜ」

多摩「にゃーん……」ゴロゴロ

大井「…………」

北上「……どうしたの大井っち、黙り込ん……」


球磨『…………』ヒョコッ


北上「……で…………」

北上「…………!!」

木曽「…………あ……!!」

球磨『…………』

多摩「にゃーん…………うにゃ?…………、…………にゃっ!!?」

北上「…………!!」

木曽「…………あ……!!」

球磨『…………』

多摩「にゃーん…………うにゃ?…………、…………にゃっ!!?」ガバッ

球磨『…………』

多摩「…………」

球磨『…………』

多摩「…………」



多摩「球磨にゃぁぁぁぁぁん!!!」

球磨「多摩ちゃぁぁぁぁぁん!!!」



多摩「にゃーん!本物の球磨にゃんだにゃー、会いたかったにゃー!!」スリスリ

球磨「クマー!球磨も会いたかったクマー、一人で寂しかったクマー!!」スリスリ

多摩「にゃーん!」ニャンニャン

球磨「クマー!」クマクマ


木曽「……………………」ウズウズ


球磨「木曽ちゃんも遠慮しないでこっち来るクマ!」

木曽「なっ!?お、おおお俺はいいよそんな小っ恥ずかしい!!」

球磨「うーん、素直じゃない木曽ちゃんも可愛いクマー」

北上「じゃー私が行っちゃおーかなー。えいっ」ピョインッ

球磨「うおー北上ちゃん!何だか背が伸びた気がするクマー!」

北上「えへへ、おねーちゃん久しぶり♪」

木曽「…………うぅ……」

球磨「木曽ちゃーん?」

木曽「いいってば!!」

大井「……………………」

球磨「…………」

球磨(……安心するクマ、大井ちゃん)

大井(!)

球磨(お仕置きはあれだけクマ。もう悪さしちゃ駄目クマよ)

大井(……はい……)

球磨(後のことは、全部お姉ちゃんに任せるクマ。折角こうして姉妹全員集まったのに、暗い顔しててもつまらないクマよ)

大井(…………)

大井「……では、お言葉に甘えて……」ギュッ

球磨「クマー」ナデナデ

大井「…………」

大井(……北上さんは、情熱が燃え上がるような感じだけど……)

大井(球磨姉さんに触れていると……とても、落ち着くわ)

木曽「うう…………ううぅ…………うううううう……!!」

木曽「うわあああん!!みんなずるいぞ!!俺だって球磨姉に抱っこされたい!!」ガバッ

球磨「うっ!!す、素直になった木曽ちゃんの破壊力……凄まじいクマ……!」

多摩「にゃーん!」

北上「えへへー」

大井「…………♪」

木曽「うわーん!!球磨姉ぇぇ!!」

球磨「……………………」

球磨(夢の妹ハーレムが完成してしまったクマー……幸せすぎるクマ……もういつ死んでも本望クマ……)

---
------
---------

球磨「しかしあの提督……『大井が本当に同じことをしないかどうか見極めるまで保留』とは。優柔不断クマねぇ、女に好かれないクマよ」

大井「……あの……球磨姉さん」

球磨「クマ?」

大井「私……本当に、大丈夫なのかしら?私自身のこともそうだけど、姉さんに刺された釘とかも……」

球磨「クマー、心配しなくても大丈夫クマ。確か大井ちゃんの丑の刻参りは、成功率100%だったクマね?」

大井「え?ええ、そうだけど」

球磨「なら、球磨のスキルだって成功率100%クマ。血の繋がりを信じるクマ……お姉ちゃんを信じるクマよ」

大井「……姉さん……」

多摩「……おーい、話聞いてるのかにゃ?」

球磨「あっ!……ごめんクマ多摩ちゃん、聞いてなかったクマ」

多摩「にゃー。もう一回言うにゃよ……あそこの暖簾が出てるところが間宮さんにゃ。アイスとか甘いものが買えるにゃ」

球磨「アイスかぁ。今度行ってみるクマ」

多摩「で、あっちが売店にゃ。コンビニみたいに色々売ってるにゃ。ちょっと寄ってみるにゃ?」

球磨「そうするクマー」


---売店---


テレレレレレーン,テレレレレーン♪


球磨(入店音がモロにコンビニクマ)

多摩「多摩は、また猫缶でも買うかにゃー」

大井(多摩姉さん、あれほど猫じゃないって言ってたのに……)

球磨「…………おっ?こ、これは……!」

球磨「ジャンプクマ!週刊少年ジャンプが売っているクマー!!しかも最新号!?今日は日曜日クマよ!?」

明石「入荷したらすぐに売り出すようにしてるんですよ。集英社的には規則に反するでしょうけど、まあ鎮守府の中で読まれるだけですからね」

球磨「す、素晴らしいクマ!!世間に先んじて!月曜日を待たずして!この友情・努力・勝利を…………」

球磨「…………はっ!?」

明石「……?」

球磨「……………………」ダラダラ

明石「えぇっ!?ど、どうしたんですかそんな汗かいて!あっ、私が急に声かけたからびっくりしちゃったんですか!?」

明石「ごめんなさい!驚かすつもりじゃなかったんですけど……。私、ここの店員をやってる明石っていいます。新しく着任された方、ですよね?」

球磨「……………………」

球磨「…………ゴホン!うおっほん……ぐぇっ、ゲホッ、ゲホッ」

明石「!?」

球磨「…………」

球磨『その通り』『昨日この鎮守府に配属された軽巡洋艦・球磨だ』『よろしくね明石さん』

明石「…………?あ、よ、よろしくお願いします……」

球磨『じゃあ早速だけど』『このジャンプを一冊貰えるかな』

明石「は、はい、どうも……」

球磨『はいこれ代金』『お釣りはいらないよ』『早出ししてくれてることへの感謝の気持ちさ』チャリン

明石「は、はぁ……」

球磨『さて』『用も済んだし帰ろうか』『多摩』『大井』

多摩「え、多摩は猫缶を」

大井「多摩姉さん、空気を読んで……!ええ、帰りましょう」

球磨『じゃあね明石さん』『また来るよ』『来週もジャンプ頼むぜ』


明石「…………」

明石「…………あ、あのっ!」

球磨『何だい?』


明石「お金、足りませんけど」









球磨「もうあのお店行けないクマ……」

大井「もう、姉さんたら……人前に出るととにかく、格好も括弧も付けたがるんだから」

多摩「何を付けようと球磨にゃんの勝手だけど、多摩の猫缶はどうしてくれるのにゃ」

球磨「面目無いクマ……」

今気付いた
俺この先の話なんも考えてないわ
何かもう球磨ちゃんの可愛さを伝えたくて必死だった……

というわけで安価取ります。
前回同様安価下2、なければ3で指定された艦娘が球磨ちゃんの最初の犠せ……お相手です
また前回の『一部妄想』がさらに進行してしまっており、指定して欲しくない子の名前を全部書くとネタバレになってしまうので、
誠に勝手ながら運悪く安価先と被ってしまった場合は最安価を取らせて頂きます。頑張って被らせないようにして下さい。

忘れてた
安価なんで一度ageますね
そして安価先を一段sageます

あかんこれじゃ阿武隈が死ぬぅ
でもまあ仕方ない、妄想連中と被ってもないし
さらば阿武隈、骨は拾ってやるぜ

球磨「……そうだ、丁度いいクマ」

多摩「にゃ?」

球磨「二人とも、ちょっと席を外してくれるクマ?一人で落ち込みたいクマ」

大井「な、何もそこまで気にしなくても」

球磨「いや…………ちょっと、別件クマ」

大井(別件……?よくわからないけど、姉さんもここに移動したてでナーバスになってるのかしら)

大井「わかったわ、少し散歩に行ってきます。20分もしたら戻ってくるから、それまでに落ち込み終わっておいてね」

球磨「助かるクマー」

大井「行きましょ、多摩姉さん」

多摩「にゃーん。球磨にゃん、猫缶のことならそこまで怒ってないにゃよー」



バタン……


球磨「……ふぅーーー…………」ペタン

球磨「……………………」

球磨「…………どうして」

球磨「どうして大井ちゃんに……過負荷が…………」

球磨「……決めた、はずなのに…………何があっても妹だけは、絶対に守り抜くって」

球磨「球磨は過負荷…………失敗と負けで形成されてるような艦娘だけど」

球磨「だけど、よりによって……こんな……こんなところで、失敗してしまうなんて…………」

球磨「ごめんクマ……大井ちゃん…………駄目なお姉ちゃんで……ごめんクマ…………!」ポロポロ

球磨「うっ…………ひっく……大井ちゃん…………ごめんクマ…………お姉ちゃんを……許して…………」


---翌日---


球磨『あれ、阿武隈ちゃん?』

阿武隈「はい?あっ、貴方は確か……北上さんのお姉さんの」

球磨『そう』『そんでもって新入りの球磨だよ』『よろしくね阿武隈ちやん』『いつも妹が世話になってるね』

阿武隈「いえいえそんな……でも、髪を弄るのだけは勘弁してって言っておいてくれます?」

球磨『ああ』『よく言っておくよ』『まあそんな綺麗な金髪で』『背丈もこの通り丁度いいとくれば』『弄りたくなる北上の気持ちもわかるけどね』

阿武隈「もうっ、球磨さんまで!」

球磨『あはは……冗談だよ』『ところで阿武隈ちゃん』『もう起き上がって大丈夫なのかい?』

阿武隈「はい!もうすっかり熱も下がったので、ばっちり動けます!」

球磨『それはよかった』『いや本当』『姉として申し訳ない限りだよ』『妹のせいでとんでもない迷惑を被ったみたいで』『本当にごめんね』

阿武隈「妹のせい……?」

球磨『え?』『…………あっ』

球磨(しまった、阿武隈ちゃんは大井ちゃんのこと知らないんだったクマ……!)

球磨『いや』『だから……その』『えっと』

阿武隈「……ああ、もしかして、私が北上さんに弄られたストレスで熱を出したと思ってるんですか?」

球磨『え』『ああ…………うん』『うんうん』『そうそう』『違うのかい?』

阿武隈「あはは、誤解ですって!私はただ髪を弄られるのが嫌なだけで、北上さんのことは別に……その……き、嫌いじゃない、ですし」

阿武隈「北上さん、私が寝込んでる時、わざわざ看病しに来てくれて……すごく、嬉しかったです」

球磨『そうかい?』『じゃあ僕の思い過ごしかな』『ただの体調不良だったわけだね』『しかし北上もいい奴だなぁ』『お姉ちゃん感動しちゃったぜ』

球磨『……それじゃあ僕は部屋に戻るから』『またね阿武隈ちゃん』『我儘かもしれないけど』『これからも北上が絡んできたら』『なるべくでいいから相手してあげてね』クルッ

阿武隈「は、はい!また!」


阿武隈(あの人が球磨型の、一番上のお姉さん……かっこいい人だなぁ……)

球磨『…………』

球磨(…………!そうだ、あの娘を使えば……!)

球磨『阿武隈ちゃん!』

阿武隈「えっ!?は、はい!」

球磨『ごめんごめん』『一つ言い忘れててさ』

阿武隈「何でしょう?」

球磨『阿武隈ちゃんにね』『さっきの北上の相手をしてあげてほしいってのとは別に』『お願いがあるんだ』



『聞いてくれるかい?』



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鬼怒「やっほー阿武隈ー!アイス買ってきたよー!」バターン

鬼怒「まあ、間宮さんのじゃなくて、売店で売ってたガリガリ君だけど……」


鬼怒「………………ね…………?」



阿武隈「────────────」



球磨『お』『ようやくご帰還かい』



鬼怒「…………は…………?」

鬼怒(何……?何が起きてるの……?どうして阿武隈の…………)


鬼怒(全身が……釘で貫かれてるの……!?)


球磨『阿武隈ちゃんから聞いてるよ』『お姉さんの鬼怒ちゃんだよね』『早速だけど鬼怒ちゃん』『パシリみたいで悪いんだけどさ』『これ』『提督に報告してくれる?』

鬼怒球磨は史実では戦友なんだっけ?

鬼怒「…………あ…………な……な……!?」

球磨『……おいおい』『何やら誤解しているようだから言っておくけど』『これやったの僕じゃないからね?』『僕が来た時にはもうこうなっていたんだよ』

球磨『大体考えてもみなって』『もし僕が真犯人だとしたら』『同室の君がやってくるまで事件現場で呑気してるわけないだろう』

球磨『いやーこの部屋に入った時は驚いたなぁ』『あまりの惨状を目の当たりにして』『恥かしながら腰が抜けちゃってさ』『ちょっと動けそうにないもんだから』『君に代理をね』

鬼怒「…………!!」

球磨『そんな責めるような目をしないでよ鬼怒ちゃん』『そりゃあ同じ鎮守府の仲間のこんな姿を尻目に』『座り込んでるだけの己の現状をして』

『僕は悪くない』

『なんて言うつもりは勿論毛頭』『あるはずもないけどさ。』

>>238
第16だか7だか8だか戦隊で一緒だった、球磨ちゃんが旗艦やる前に旗艦やってた、みたいな感じだったっけ?(うろ覚え)
史実関連は何分自分の知識の不足が顕著なので、話には絡めないようにしてます
ごめんなさい


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如月「…………はい、着きました」

球磨『え』『ここ?』『何もないじゃないか』『もしかして地下への隠し通路とかが……』

如月「いえ、そういうのではなく……この先を100mほど進んだところで左に折れると、使われていないコンテナ置き場に出ます」

如月「そこの手前から三番目と四番目のコンテナの間を通って、出たところをまた左に曲がって、しばらく歩くと建物が出てきますから、その裏を通って途中の看板の……」

球磨『いや遠すぎだろ』『カーナビだってもうちょい近くまで案内してくれるぜ』『目的地周辺まで頼むよ如月ちゃん』


球磨『マイナス13舎までさ』

如月「…………はぁ…………そうですよね……。案内します、させて頂きますとも……こちらです」ゲンナリ

如月(マイナス13舎……二度と近寄るまいと思っていたのに、まさかこんな形で、もう一度訪問することになるなんて……)

如月(そりゃあ私は曲がりなりにも過負荷だし、一度は現地に行ったこともあるから、案内役に一番適してるって言い分もわかるけど……)

如月「はぁぁぁ…………」

球磨『……何かごめん』

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如月「こちらです」


『−13舎』


球磨『へぇ』『もっと廃墟みたいな建物を想像してたけど』『存外ちゃんとした宿舎じゃないか』

如月「中まで付いていくことは、今度こそ絶対にできませんからね……」

球磨『十分だよ』『ありがとう如月ちゃん』

如月「……貴方が何を考えているのか、私にはわからない。でも、これだけは言えます」

如月「ここは絶対に……遊びで来るところでも、冷やかしで来るところでも、好奇心で来るところでもない!」

球磨『…………』

球磨『確かに』『僕は最初から』『遊び半分冷やかし目的好奇心の赴くまま』『このマイナス13舎に来ようとしていた』

球磨『だけど今は違う』

如月「え……?」

球磨『今の僕にはここを訪れるに足る』『明確な目的があるんだ』『そして心配しなくても大丈夫』『それはきっと達せられるから』

如月「…………」

球磨『重ねてありがとう如月ちゃん』『こんな狂人でも結局心配してくれる』『君は過負荷にしておくには勿体無いね』

球磨『さ』『もうお帰り』『ここから先は一から十まで』『僕一人の戦いだ』

如月「…………お気をつけて……」

球磨『……さて』『人付き合いは第一印象が大事って言うし』『最初はうんと明るくいこうか』『人前でちょっとはしたないけどねぇ』ガチャッ


ギィ……


球磨『おっ邪魔しまーーーっす!!』



「おうおう、何や何や」



龍驤「えらく威勢のええ新人さんが来よったな」


青葉「おっ、可愛い!!」

黒潮「あはは、かなわんなぁこれ以上賑やかになったら……ただでさえよう口の回るお人が既におるっちゅうに」

龍驤「何か言うたか黒潮」

黒潮「冗談や冗談。ここは人が少のうて寂しいからなぁ、賑やかなんは大歓迎やで」

まるゆ「……………………」ビクビク

球磨『…………』『えーと』

龍驤「まあまあそう緊張すなや、気持ちはわかるけどもな。肩の力抜き。どうせ外では碌でもない評判なんやろうちら」

青葉「では早速ですが、ここに送り込まれるに至った経緯を突撃インタビュー!……あれ、メモ帳どこやりましたっけ」

龍驤「やめーや青葉、経緯云々以前にここに来させられた時点で、精神グロッキーなの察したり」

青葉「……っと、これは失礼」

龍驤「まあ、何はともあれ」



「ようこそマイナス13舎へ!!」



龍驤

艦種:龍驤型軽空母1番艦
血液型:AB型
過負荷:『立て板に見ず知らず<キックボード>』


黒潮

艦種:陽炎型駆逐艦3番艦
血液型:AB型
過負荷:『勝鬨負け時<ルーズリリーフ>』


青葉

艦種:青葉型重巡洋艦1番艦
血液型:AB型
過負荷:『廃仏記者苦<スキャンスキャンダル>』


まるゆ

艦種:三式潜航輸送艇
血液型:AB型
過負荷:『骨肉の粗削い<カーニバル>』

勝鬨なら負けるな…(察し)

>>252
何?このスレに決闘者はいないのではないのか!?
念のため言っておくけど、誰かさんのスキル名についてはわかっても黙っておいてね
俺の怠慢がバレるから

球磨『…………』

龍驤「ふふ、困惑しとるね。外での噂と実際見たうちらの態度の乖離があんまり激しいもんで」

龍驤「安心し、うちら別に猫被っとるわけでも、第一印象気にして今だけ変に愛想よくしとるわけでもない。キミも過負荷なら何となくわかるやろ」

龍驤「うちら過負荷は基本的に、『身内に対してはぬるくて甘い』……ここにトバされた以上、キミはもううちらと仲間同士でダチ同士やで。仲良くやろうや」

黒潮「そーそー、仲良くな。何せうちらはあんたはんがやってくるのを一日千秋の思いで待ち焦がれたんや……存分にちやほやさせてもらうで」

球磨『…………』

龍驤「おっと、黒潮の今の言い方にはちーと語弊があるな。気を悪くせんといてほしいんやけど、うちらは別に『キミを』待っとったわけやない」

龍驤「正確には『このマイナス13舎の収容人数が増えるのを待っとったんや』……しかも、キミを入れてもまだ一人『足りひん』しな」

黒潮「ああ、そうやね、その通りや。言い方が悪かったわ、堪忍な。でも歓迎してるのは本当やで」

龍驤「せやせや。キミという一個人の加入が、このマイナス13舎にとっては未来へ繋がる大きな一歩に……って、そういやキミ、名前なんていうん?」

球磨『…………』『あー』『自己紹介の前に』『一つ聞いてもいい?』

龍驤「ええで、何でも答えたるわ」

球磨『ここ……マイナス13舎に収容されているのって』『今ここにいる四人だけなの?』

龍驤「……?せやで。さっき黒潮の言っとった通り、過疎を極めた寂しい宿舎や」

球磨『いやいや』『だったら君たち』『おかしいと思わないのかよ』

黒潮「おかしい……?何のことや?」

球磨『いや』『だってさ』



球磨『総人口四人のうち二人が関西弁って』『キャラ被りにも程があんだろ(笑)』





ド グ シ ャ ッ !!


球磨『…………!!』『がっ……は…………!』


龍驤「あーあーあーあー、駄目やそれは。その台詞だけは言うたらあかんわキミ」メキメキ…

黒潮「いくらダチや仲間や言うたって、親しき中にも礼儀ありやろうに。てか逆にすごいな、うちらの中でもほとんど唯一のタブーやでそれ」ミシッ…

龍驤「ほんまにな、最初の一歩目から地雷踏みぬくとか才能あるんちゃうか。来世で生かせるとええね」

黒潮「ちなみに今生で役に立つかどうかって話なら望み薄やで、ほらっ」ドガッ

龍驤「死ねやアホ毛頭、このっ、このっ」バキッ



青葉「あーあ、怒らせちゃった。まあこういう図抜けた不運も、過負荷にはありがちですけどねー。……おや」

まるゆ「………………〜〜〜!!」ガタガタ

青葉「よしよし、大丈夫ですよまるゆちゃん。まるゆちゃんはなーんにも悪くないですからね。ただちょっとモノが気持ち悪いから、後ろ向いてましょうか」


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球磨『────────』

黒潮「ふー……」

龍驤「ええ汗かいたわ」

青葉「あれっ、まだ生きてるじゃないですか」

龍驤「アホか、ホンマに殺すわけないやろ。『人数』を揃えるためには一人だって欠けたらあかんのやで」

黒潮「まあ結果オーライやけどね……一度頭に血が上ったら、自分だろうと制御が利かんのが過負荷やから」

青葉「これ、どうするんです?」

龍驤「どうもこうも、入渠ドックに運ぶしかないやろ。遠くて疲れるけどな……手伝えや黒潮」

青葉「それでしたら、お二人ともお疲れでしょうし、青葉が行ってきましょうか」

黒潮「おっ、ええの?ほなお言葉に甘えよか。すまんなぁ青葉さん」

青葉「いえいえ、こう見えても重巡ですから!馬力にはちょっと自信あるんですよー……よっこいせ」ヒョイッ

龍驤「ほしたら……ほれ、駄賃や。これでアイスでも買い」チャリン

青葉「やったー!……あれ、何かやけに多くないですか?」

龍驤「おう、ついでにうちらの分も頼むわ」

青葉「」

青葉「じゃあ、行ってきまーす」

龍驤「気を付けてなー」


ギィ……


青葉「えっほ、えっほ」

球磨『────────』 ボロッ




阿武隈「……………………!!!」

阿武隈(な、何で……!?何で球磨さんが、あんなボロ雑巾みたいに……!!)

阿武隈(……わ、私のせいだ……!私があの時、意地でも球磨さんを止めていれは……!)


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阿武隈「一芝居、付き合ってほしい……?」

球磨『うん』『阿武隈ちゃんには』『死体を演じてもらいたいんだ』

阿武隈「し、死体!?」

球磨『怖がらなくてもいいよ』『あくまで『演じてもらう』だけだ』『僕の過負荷を使ってね』スッ

阿武隈「それは……釘?」

球磨『そう』『僕の過負荷は『釘刺し確認<プロミスリード>』といってね』『読んで字のごとく『釘を刺すスキル』だ』

球磨『僕の釘に貫かれた者は』『その釘に込められた僕の命令に絶対に逆らうことができなくなる』

球磨『例えば早寝早起きを命じれば』『毎朝六時頃には嫌でも目が覚めるし』『体が勝手に布団から出てしまうという具合さ』『夜にはその逆ね』

阿武隈「は、はあ……」

球磨『そして』『この過負荷はあくまでも『命令を守らせる』スキルだから』『釘を刺すのもそのための手段であって』『肉体にダメージは全くないんだ』

球磨『ほら』『こうして釘で腕をつついても』『何も感じないだろう?』ツンツン

阿武隈「ほ、ほんとだ……まるで体をすり抜けてるみたい」

球磨『さすがに体を貫通するほど思いっきり突き刺せば』『異物感みたいなのを感じるらしいんだけどね』『肉体そのものの無事は保証するよ』

阿武隈「……ということは、もしかして……このダメージのない釘を私に刺して、死体のフリをしろってことですか?」

球磨『察しがいいね』『その通り』『大丈夫だよ』『打ち込む命令は君の生活に支障の出ない……そうだな』『髪のセットを忘れない、とかにしておくから』

阿武隈「や、やることはわかりましたけど……一体、何のために?」

球磨『それは勿論』『僕を世紀の極悪人に見せかけるためさ』『それこそ……そう』『マイナス13舎送りレベルのね』

阿武隈「な……!?ま、マイナス13舎に行きたいんですか貴方は!?」

球磨『信じられないだろうけどそうなんだ』『君には僕が正気を失っているように思えるだろうけど』『僕はいたって正常さ』『過負荷な時点で違うと言われたらそれまでだけど』

阿武隈「ど、どうして……?どうしてあんなところに行きたがるんですか?」

球磨『…………』『ごめん阿武隈ちゃん』『それを言うことはできない』『でもどうか』『僕を信じてほしい』

阿武隈「…………!」

球磨『…………』

阿武隈(……すごく真剣な目……。とても冗談で言っているとは思えないし、無目的にやろうとしているようにも見えない)

阿武隈(球磨さんのことは、北上さんから何度も聞いている。頼りになるお姉ちゃんだって……。きっと何か、考えがあるに違いないよね)

阿武隈「……わかりました。手伝います」

球磨『……ありがとう』『恩に着るよ』

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阿武隈(あの時私が……私が止めてさえいれば……!)

龍驤「おーい!青葉ー!」

青葉「はい?どうかしたんですか龍驤さん」

龍驤「いや、さっき渡したアイスの代金な、消費税考えるの忘れとってん。それじゃあ全員分に足りひんわ」

青葉「値段分ぴったり渡してたんですか?マメな人ですねー」

龍驤「誰が豆粒みたいな人や!!」

青葉「言ってませんて」


阿武隈(私のせいだ……私の……)


ガサッ……


阿武隈「!!」

阿武隈(しまっ……!?)


龍驤「…………あん?」

青葉「今度は何ですか」

龍驤「いや、今何か聞こえたような……?ネズミでもおるんかな」スタスタ

阿武隈(〜〜!!ど、どうしよう、気付かれちゃった……!!み、見つかったら私、殺……!!?)

龍驤「…………」スタスタ

阿武隈(こ、こっちに来る……!!どうしよう……どうしよう……!?)

スタスタ

阿武隈(た、助けて……誰が助けて……!!お願いぃぃ…………)

スタスタ

阿武隈(────────!!!)


龍驤「…………」



ガチンッ!



龍驤「おうっ!?」

阿武隈(────!?)

龍驤「な、何や何や!?今何か飛んできよった……あっ、コレか!」ヒョイッ

龍驤「これは……釘か?誰やこんなもん飛ばしよったの!危ないやないかい!おい青葉、そっちに誰がおらへんか!?」クルッ

青葉「えっ!?あ、青葉は気付きませんでしたけど……」


阿武隈(…………た、助かった……の……?)


ガバッ!


阿武隈(!!?口を、塞……)

阿武隈(むー!むーーー!!)

大井(しっ!静かになさい、もう一度怪しまれたらどうするの)

阿武隈(お、大井さん!?もしかして、大井さんが助けてくれたの……?)

大井(今はそんなことどうでもいいわ、とにかく息を殺してなさい)

龍驤「ちぃ……駄目や、おらん。逃げられたか」

青葉「まったく危ないですね、人に向かって釘を投げるなんて」

龍驤「まあうちらマイナス13舎は、買うた恨みの数なんて数えきれんからな……こういうことも起こり得るっちゅうわけや。尚更気を付けて行きーや青葉」

青葉「お気遣いどーもー」

龍驤「ほなな」


ガチャリ……


大井(…………よし。とりあえず凌いだようね)スッ

阿武隈「ぷはっ!お、大井さん、どうしてここが……?」

大井「別に貴方を助けに来たわけじゃないわ。姉さんがマイナス13舎に連れて行かれたって聞いたから、様子を見に来ただけよ」

大井「来てみたら偶然貴方のピンチを見かけたから、ついでに助けてあげただけ。北上さんと仲がいいからって、思い上がらないことね」

阿武隈「ご、ごめんなさい……」

大井「…………貴方には、迷惑をかけたしね」ボソッ

阿武隈「え?」

大井「何でもないわ」

大井(……詳しい仕組みはわからないけど、今この娘とこうして普通に話せているのも、きっと姉さんの釘のおかげね……)

大井(球磨姉さん……自分からマイナス13舎に行くような真似を、何故……?しかもその結果、あんなボロボロになって……)

大井(それに、あの龍驤とかいうのも不気味だわ。私があいつに向かって投げた釘が、届かずに地面に落ちてしまった……まるで『見えない何かにぶつかったみたいに』)

大井(マイナス13舎……ここで姉さんは、一体何を……)


---入渠ドック---


青葉「ふぃー!着きましたよー。まだ生きてますか?」ポンポン

球磨『…………』『……う……』

青葉「生きてますね。服、脱がしますよー」ゴソゴソ

青葉「……意外と胸ありますね。こりゃあ龍驤さんに怒られそうだなぁ……青葉も入ったばっかりの頃は散々言われましたよ」

球磨『…………』カァ…

青葉「顔赤くしないでも大丈夫ですよ、ぶっちゃけそんなズタボロの血まみれじゃあ色気の欠片もないです。私リョナとか趣味じゃないんで」

球磨『…………』

青葉「はいっ、脱衣完了!それじゃあ……せーの、どっぼーん!」


ドッボーン!


球磨『ううっ……ごぼごぼ……』

青葉「それでは、ごゆっくりどうぞ!……あっ、そうだ、一つ忘れてました」

球磨『…………?』

青葉「お名前……伺っても、よろしいですか?」

球磨『…………』

球磨『…………球……磨……』

青葉「球磨さんですね!皆さんにも伝えておきます。ではっ!」


ガラガラ……


球磨『…………』

球磨『……………………』

球磨「……いい湯だクマ」


---一時間後---


球磨「ふんふ〜ん♪クマクマ〜♪」


ガラガラ……


球磨「!!!」


明石「…………どうも」ペコリ

球磨「あ…………あ、あ、あ、あああ……」

球磨『あ』『明石……さん……!』『……どうも……』ペコリ

明石「…………」

球磨『…………』

明石「……………………」

球磨『……………………』

球磨『…………聞いてた?』

明石「…………すいません」

球磨『ぬわあああああぁぁぁ!!!』

球磨「はぁ……もういいクマ。他言無用にお願いするクマよ明石さん」

明石「はい……あの、球磨さんって、そちらのほうが何というか、素?なんですよね?」

球磨「そうクマ。本当は妹たちの前でしか、素でしゃべることはないんだけど」

明石「……ふふっ、そうやって見えを張りたがるところとか、本当に『過負荷』って感じの方ですね。何だか見ていて微笑ましいです」

球磨「それは褒めてるクマ?」

明石「勿論。会って幾ばくもないですが、私は貴方が好きですよ」

球磨「……残念だけど、球磨には妹がいるクマ」

明石「いやそういう意味では…………心に決めた人がいるとかじゃないんですね」

球磨「明石さんも入渠クマ?服を着てちゃ湯船には入れないクマよ」

明石「いえ、違いますよ。貴方に渡したいものがありまして」ガコン

球磨「!これ……高速修復剤?球磨のために?」

明石「はい」

球磨「……そもそも、どうして球磨がここにいることが」

明石「青葉さんから聞きました」

球磨「えっ……?……もしかして、明石さん……」

明石「はい。マイナス13舎の皆さんのような筋金入りではありませんが……私も、過負荷です。鎮守府のみんなには隠してますけどね」

球磨「……驚いたクマ、全然気が付かなかったクマ」

明石「まあ、このバケツも無限にあるわけではないので、今回だけの初回サービスとなってしまいますが……今日のところは、これで早く治してください」

球磨「ありがたいクマ」

明石「それから……今回のような瀕死の重体はさすがに無理ですが、中破以下の傷程度なら私にお申し付けください。入渠するよりよっぽど早いですよ」シャキン!

球磨「!爪が……」

明石「これが私の過負荷……『病気を操るスキル』です。引っ掻いた相手を病気にしたり、逆に治したりするスキルなんですが、応用で簡単な傷の治療もできるんですよ」



明石

艦種:工作艦
血液型:AB型
過負荷:『五本の病爪<ファイブフォーカス>』
病気を操るスキル

球磨「……妙な話クマね」

明石「はい?」

球磨「昨日、出撃から帰ってきた艦隊を見たクマけど……どう見ても中破か小破くらいの傷の娘でも、ドックに入っていたクマよ」

明石「そうでしょうね。私は自分のスキルを、同じ過負荷にしか使わないと決めていますから……本当にただスキルに振り回されているだけの、如月ちゃんとかは別ですけど」

球磨「……突出した弱点を持つ球磨たち過負荷と違って、恵まれたみんなが……明石さんは、嫌いクマ?」

明石「いえ?私は鎮守府のみんなが好きですよ。売店から見える、みんなの暮らしぶり、人間模様を見ているだけでも……下手したら一日、潰れちゃいますね」

球磨「なら、どうして……」

明石「私はね、球磨さん。恵まれた人を、強い人を目の敵にしたいんじゃなくて……弱い人を、贔屓したいんです。自分と同じ、弱い人をね」

球磨「…………なるほど。思ったよりも、我儘なお人クマ」

明石「それが過負荷、でしょ?」

球磨「違いないクマ。球磨も明石さんのこと、好きクマ」

明石「ふふ、ありがとうございます。……さ、もう上がりましょう」

球磨「クマー」

明石「……ありゃ、もうこんな時間ですか。いつの間にか日が暮れてますね」

明石「球磨さん、寝床どうします?まさかいきなりマイナス13舎に戻って寝床を作ってくれとは言えないでしょうし、かといって左遷された身では球磨型の部屋も……」

明石「……私の部屋、来ます?」

球磨「明石さん……何から何まで、申し訳ないクマ」

明石「いいんですよ。贔屓贔屓♪」


---翌日---


球磨「世話になったクマ。いつになるかわからないけど、こっちに戻ってこれたらお礼をさせてほしいクマ」

明石「え?何だ、球磨さんもうその話聞いてたんですか。青葉さんの口ぶりだと、てっきりほとんど開口一番に龍驤さん達を怒らせちゃったのかと」

球磨「……その話?どの話クマ?」

明石「だから、『こっちに戻ってこれたら』って話ですよ」

球磨「いや、別段アテがあって言ったわけでは……」

明石「あら、そうなんですか。じゃあ本人たちから聞いたほうがいいですね……少々事情が複雑なので」

球磨「よくわからないけど、聞いてみるクマ。それじゃあ行ってくるクマ」

明石「お元気で」


---売店---


明石「〜〜♪」


テレレレレレーン,テレレレレーン♪


青葉「ども、恐縮です!青葉ですぅ!また来ちゃいました!」

明石「あれ、青葉さん?珍しいですね、二日も続けていらしてくれるなんて。今日はどんな用事でこちらに?」

青葉「あー……それが、ですねぇ……」

明石「……………………え……!?」



---入渠ドック---


ガラッ!


明石「球磨さん!!」

球磨「…………どうもクマ……明石さん……」

明石「…………!!」

球磨「悪いクマね……戻ってこれたけど、お礼できるような物、持ってないクマ」

明石「い、一体何が……!?そんなボロボロになって、これじゃあまるで昨日の再現……!」

球磨「さあ?球磨にもよくわからないクマけど」

球磨「マイナス13舎に着いてから、『昨日と同じようなことを言ったら』、またあの二人にやられたクマ」

明石「はぁ!?当たり前でしょう馬鹿ですか貴方!!自分が昨日何であんな目にあったのかわかってないんですか!?」

球磨「クマー、それもそうクマね」ケラケラ

明石「…………〜〜〜!!」

しかし、球磨の狂行はその日だけに止まらなかった。
翌日も、その翌日も、そのまた翌日も……
球磨はマイナス13舎に赴いては例の二人に喧嘩を売り、五日連続で暴行を受けドックに担ぎ込まれた。

そして、球磨がマイナス13舎に通い始めてから六日目……



---マイナス13舎---


バンッ!!


龍驤「ええ加減にせーや毎日毎日ィ!!おんどれはここに何しに来とるんや!!」

球磨『何って』『喧嘩を売りに来てるんだけど?』

龍驤「何でやねん!!最初に言うたやろ、うちらとお前さんは仲間同士やって!!」

龍驤「うちかて黒潮かて、お前さん個人が嫌いなわけちゃうねん!!余計なこと言わんと普通に接してくれたら、普通に受け入れたろ思てんねん!!」

球磨『仲間かぁ』『関係ないね』『僕はここに友情ごっこをしに来てるわけじゃないんだし』

龍驤「せやったら何しに来とるんて聞いたやろがさっきィ!!喧嘩売りに来とるゆう返答ももう聞いたわ!!うちが聞きたいんはそこちゃうねん!!」

龍驤「おんどれが何に基づいて!!何を目指してそないなことしとるんか!!それが皆目理解でけへん言うとんねや!!」

黒潮「…………」

青葉「…………」

まるゆ「…………」プルプル

球磨『…………』

龍驤「…………だんまりかいな……」

龍驤「ええんか!?今その口開かんと、うちらはまたお前さんを殴る!!繰り返すだけや!!それに何の意味があるっちゅうんや!?」

龍驤「それとも何か!?うちらに殴られることそのものが!!お前さんの目的だとでも言うつもりなんか!!ああ!?どないやねん!!」


龍驤「おんどれはここに!!死にに来とるっちゅうんかい!!!」


黒潮「…………」

青葉「…………」

まるゆ「…………」カタカタ

球磨『……………………』



球磨『…………そうさ』

『僕はここに』

『死にに来てる。』



龍驤「な…………!?」

球磨『……………………』

龍驤「し、死にに……て……球磨お前、何でそないな……」

球磨『…………』『……何で?』『何でも糞も』「あったもんじゃないクマ……!」


球磨「球磨は死にたいんだクマ!!球磨はもう!!生きてる価値のない人間なんだクマ!!!」


龍驤「…………!!」

黒潮「…………!」

青葉「…………」

球磨「球磨はもう……生きてちゃ駄目なんだクマ……!お願いクマ……殺して……球磨を早く……殺してクマ……」ポロポロ

青葉「…………」

青葉「龍驤さん、黒潮さん」スクッ

黒潮「!」

龍驤「青葉……?」

青葉「球磨さんを取り押さえてください」

黒潮「ほー……青葉はん、『あれ』をやる気なんやね」

青葉「はい。放っておいてもこの様子じゃあ口を開きそうにないですし……『体に聞くしかないでしょう』」

龍驤「……せやな……。よっしゃ黒潮、そっち持てや」ガシッ

黒潮「はいな」ガシッ

球磨「クマ……?殺してくれる気になったクマ?」

龍驤「そんなんとちゃう。今から青葉のスキル使うて、お前さんの尋問を行うんや……絶対に黙秘の利かん尋問をな」

球磨「尋問……?」

黒潮「青葉はんの過負荷『廃仏記者苦<スキャンスキャンダル>』は、本人の言うところの『明るみに出すスキル』ゆーてな」

黒潮「その人が『隠そうとしている』事に限り、青葉はんは人の記憶を読むことができはるんや」

龍驤「観念し、青葉がやる気になったらそいつのこと丸裸に剥き倒すまで離さへんで」

球磨「……青葉ちゃんにはもう丸裸に剥かれたことあるクマ……」

青葉「では、球磨さん」スッ

球磨「…………」

青葉「……恐縮です」ピトッ

青葉「……………………」


ギュウウゥン……



青葉「……………………!!?」


青葉「ひいいいぃぃぃっ!!?」バッ


黒潮「!?」

龍驤「な、何や青葉!何が見えたんや!?」

青葉「……ば……ば、ばば……ば…………!」

青葉「……化け……物…………!!」

球磨「…………」

龍驤「……化け物……?」

黒潮「どういうことでっか、青葉はん」

青葉「はぁ……はぁ……っと、失礼…取り乱しました。球磨さん……こ、『これ』は、私の口から話しても……?」

球磨「…………好きにするクマ」

青葉「……では、お話しします……球磨さんの記臆、球磨さんの秘密を」

龍驤「…………」ゴクリ

黒潮「…………」

まるゆ「…………」

青葉「────────」

黒潮「…………!?」

青葉「────、──────」

龍驤「…………嘘……やろ……!?」

青葉「──────、────、────」

まるゆ「……………………!!」プルプル

龍驤「……こりゃ、たまげたで……球磨、お前さんほんまもんの化け物やないかい」

黒潮「ほんにな……よくもまあそれで今日まで生きてこれたもんやと感心しますわ」

球磨「……そいつは、どうもクマ」

龍驤「お前さんの死にたいいう気持ちも、まあ一応……理解はできた」

球磨「それはよかったクマ。なら、ひと思いに……」

龍驤「理解できたから、よう殺さへん」

球磨「……え?」

黒潮「うちも同感や。理解はできても納得はできとらんからね……球磨はん、あんたはんは今、ただ自暴自棄になってるだけや」

龍驤「その通りや。お前さんの死にたいいう気持ちは、その大井いう妹に死んで詫びたいっちゅーようなヒロイックなもんと自分では思っとんねやろけど、まるっきりちゃうで」

龍驤「今死んだら、それはただの自殺や。それ以上にも、以下にもなり得へん」

球磨「……そんなこと……自分でも、わかってるクマ」

球磨「でも!じゃあ球磨は一体どうすればいいんだクマ!?大井ちゃんの過負荷はもう消えることはない……取り返しのつかない失敗を、球磨はしてしまったのに……」

龍驤「その取り返しっちゅーもんを、己の死によって無理やり付けようとしとるのが、そもそも間違っとるんや」

球磨「…………」

龍驤「取り返しの付かんもんは付かん。第一取り返しの付く失敗なんてもんがどれだけあるかって話や……うちら過負荷は失敗からは逃れられんのやから、折り合い付けろや」

龍驤「……で、その大井いうお前さんの妹は、その取り返しの付かない失敗に対して…………何か一言でも、お前さんに文句を言うたんか?」

球磨「!」

龍驤「無論、そいつかて腹ん中ではお前さんのことを恨んどるかもわからん。だけどさしあたり口に出しとらんゆーことは、その程度ゆーことや」

球磨「……………………」

龍驤「まあ、何や……お前さんが罪悪感を感じてまうのはわかる。でも『だから死ぬ』ってのは行き過ぎや。仮にお前さんが死ななあかんかったとしても……」

龍驤「それを実行すんのは、その大井本人から『死ね』言われたときでも、遅くないんとちゃう?」

球磨「……………………」

球磨「……球磨は…………まだ、生きててもいいクマ……?」ポロポロ

龍驤「うお……し、知らんわそんなん。ま、まあ、あれやな……お前さんに死なれたら、マイナス13舎的にも大損害やからな」

青葉「ふふ、龍驤さんてば。仲間だの友達だのはさらっと言っちゃうくせに、こういう時は素直じゃないんですから」

黒潮「ほんに、可愛らしいなぁ」

龍驤「う、うっさいわ!黙っときやそこ二人ィ!」

球磨「…………龍驤ちゃん……ありがとうクマ」

龍驤「別に礼を言われるようなことなんてしとらんわ。お前さんがアホなことぬかしとったから……」

球磨「……死にたいって言ってた時……実は一つだけ、心残りがあったんだクマ」

球磨「死んじゃったら……もう、妹たちの顔が見られなくなるな……って」

龍驤「…………」

球磨「生きていれば、今はこうやって隔離されているけど……いつかまた、妹たちに会いにいけるクマ。本当に、感謝してるクマ」

龍驤「…………せやな。お前さんが早よ妹と再開するためにも……早いとこ『最後の一人』に、お目にかかりたいもんやわ」

球磨「そういえば、それ……球磨がここに来たときも、あと一人足りないとか何とか言ってたクマね。何の話クマ?」

龍驤「ん……そうか、そういやゴタゴタしとって話すの忘れてたな。こいつももう気持ちが整理できたみたいやし、正式にうちらの仲間ってことで……話してもええな、みんな」

黒潮「うん、構へんよ」

青葉「大丈夫でしょう!私が読んだ限りでは、妹思いのいいお姉ちゃんですしね!」

まるゆ「…………」コク

球磨「クマー……何やら、重要な話みたいクマね」

龍驤「そらもう、ごっつ重要な話やで。さーて、何から話したもんかな……」

龍驤「そもそも、うちら四人はな……いや、球磨、お前もか。お前さん、確かここに来るために芝居打って、自分を悪者だと思い込ませたんやったな」

球磨「そうクマ」

龍驤「だったら全員や。今ここにいる五人、その全員が……このマイナス13舎に」




「冤罪で収容されているんや。」




物凄い今更ですが一応言っておきますね

このssでは一部の艦娘がなんかすごい扱い悪かったり、なんかすごい悪者になってたりします。
運悪く、その娘が嫁艦だったりしてしまった提督は…………運が悪かったですね。

球磨「冤罪……?ということはここのみんなは、何も悪いことしてないのに鎮守府本館から隔離されているってことクマか?」

龍驤「あー、いや、何も悪いことしてへんかっちゅーと、ノーとは言えんのが過負荷(うちら)の悲しいとこやねんけど……」

黒潮「青葉はんなんかは完全にとばっちりやな。本当になんも悪いことしとらん」

青葉「いやあ、青葉だってこの記者魂が祟って、ストーキングとかやっちゃったことありますし」

龍驤「そんなことゆーたら、この世に悪事を働いたことのない人間なんて一人もおらんわ。ほんま、青葉には悪いことしたと思てる……すまんなぁ」

青葉「ぜーんぜん!気にしなくていいんですよ!みなさんと生活するの楽しいですし!」

龍驤「で、話を戻すけども。事の起こりは半年前、まだマイナス13舎が設立される前のこと……うちら四人、いや『三人』が、まだ本館におった頃まで遡る」

球磨「三人……一人はまだ、鎮守府にはいなかったってことクマ?」

龍驤「ああ。その三人いうんが、うちと、黒潮と、青葉の三人。そんでその時期に、この鎮守府に新しく着任して来よったのが……」チラッ

まるゆ「!」ビクッ

龍驤「そこの、まるゆや」

球磨「…………この子が……」

龍驤「そう……そのまるゆの着任が、全ての始まりやった」

龍驤「着任後の手続きやら説明やら、ゴチャゴチャしたんが片付いたのち、まるゆは大淀の検査を受けた。……そういや、大淀のことは知っとるか?」

球磨「いや、知らないクマ」

龍驤「まあ簡単に言えば、あいつは人の潜在能力を見抜くスキルを持っとる。それで艦娘のさらなる改修の可能性を探ったり、そいつのスキルを見極めたりするのが『検査』や」

龍驤「そして、検査の結果……まるゆには、恐るべき過負荷が宿っとることが明らかになった。幸運を授けるスキル、『骨肉の粗削い<カーニバル>』がな」

球磨「幸運を授ける……?そんな前向きで明るいスキルが、過負荷なのクマ?」

龍驤「最終的な結果だけ取って見れば、確かに前向きで明るいスキルやね。でもこのスキルの最大の問題は、その過程にこそ存在するんや」

龍驤「『骨肉の粗削い<カーニバル>』によって幸運を得るための条件……それは、『スキルの本体を摂取すること』。えげつない言い方すんのやったら」



龍驤「まるゆの肉を、喰らうことや」



球磨「…………な……!?」

まるゆ「…………!」プルプル

龍驤「大淀の説明によれば、血を一滴飲めば自販機のお釣りの取り忘れにありつける。指一本喰らえば宝くじの高額当選、腕一本喰らえば一生分の不運が消失」

龍驤「頭を喰らえば勝負事には負け知らず。そんで最後に、その心臓を喰らったなら……そいつの人生に、絶対の成功が約束されるっちゅう話や」

球磨「…………!!」

龍驤「自分でしゃべってても恐ろしいで……こいつはこのちっこい体に、なんちゅう業を背負って生まれてきたんやってな」

まるゆ「…………」プルプル

龍驤「当然大淀も提督も、この事実を隠そうとした。それでも、人の口に戸は立たんもんでな。まるゆのこのスキルの話は、あっちゅー間に鎮守府中に広まってもうた」

龍驤「そしてある時……本当に現れよったんや。本気でまるゆの体を喰らおうとする、頭のネジ全部吹き飛んだようなイカレポンチのクソッタレ共が」

球磨「…………しかし、球磨の見る限りではまるゆちゃんは、無事でいるように見えるクマ……」

龍驤「当たり前やろ。同じ過負荷として、まるゆに降りかかる災厄を……最悪を見過ごせんかったうちと黒潮が、来る日も来る日もそいつらから守っとったからな」

黒潮「…………」

龍驤「青葉はその戦いの一部始終を取材したいってことで、いつもうちらに付いてきよった。そんでもって、いつもうちらの味方をしてくれた」

青葉「…………」

龍驤「そして、その自体を見かねた提督が、そいつらをまるゆから遠ざけるために設立したんが……この、マイナス13舎なんや」

球磨「…………え?ちょ、ちょっと待つクマ!おかしいクマ!」

球磨「そいつらをまるゆちゃんから遠ざけたいなら、隔離すべきはそいつらのはずクマ!なのに何でまるゆちゃんの味方をしてた、この三人の方が隔離されなきゃならないクマ!?」

龍驤「そうや。『おかしいんや』」

球磨「は……?」

龍驤「うちらの隔離が決まった時、三人とも必死で提督に抗議した。こんなのは絶対に間違っとると。そんなうちらに、提督はこう言いよった」

龍驤「『そんな言い訳は聞き飽きた』……ってな。どや、おかしいやろ?この言い草じゃあまるで、『悪いのはうちらの方みたいやん』」

龍驤「ところが、や。『みたい』じゃなかったんや。ホンマの話やったんや」

球磨「クマ……?い、意味が……」

龍驤「悪いのはうちらの方だったんや。どういうわけか鎮守府内のうちら以外全員、その頭ん中では、『そういうことになっとったんや』」

球磨「そういうことに……なっていた?」

龍驤「そう。まるゆも含めたうちら四人は、それぞれが別々の問題を起こし、別々の理由で隔離されることに『なっとった』」

龍驤「うちらが起こしたことになっとる問題いうのも、まるゆの件とは全く無関係やった。それどころかまるゆのスキルの存在そのものを、鎮守府のほとんどが忘れとったんや」

龍驤「『ほとんど』いうんは、うちらみたいに事を覚えとる例外も存在するからや。それと皮肉な事に、当時まるゆを食おうとしとった連中もな……忌々しい」

球磨「…………それって、まさか……!」

龍驤「そうや。当時まるゆと直接関わりがあった者だけが、このことを覚えている……ということは、つまり」


龍驤「あいつらの中に、人の記憶を改竄することができるスキルホルダーがおるっちゅうことや」


球磨「…………!」

龍驤「奴らの中の誰かが、自分たちが投獄されることを恐れてうちらを身代わりにした。まるゆまで巻き込まざるを得なかったんは、多分スキルの制約やろうな」

球磨「……で、でも、もし鎮守府内の記憶の改竄がスキルによるものだとしたら、施術者を気絶させるなり何なりさせれば元どおりに……」

龍驤「それがそうもいかへんのや……相手があまりにも悪すぎる」

球磨「そいつらが強いってことクマか!?馬鹿言ってんじゃないクマ、球磨たち過負荷にとっては強さなんて弱点でしかないはずクマ!」

龍驤「そういう話とちゃう。そもそもそいつらは全員過負荷や、人の肉喰らおうなんちゅう狂人が真人間なわけないやろ」

球磨「相手が過負荷ならお互いに敗者と敗者、対等に戦えるはずクマ!やる前から何を弱気になってるクマ!」

龍驤「そういう話ともちゃう。そいつらは純粋な過負荷やないんやから、まともに殴り合っても勝ち目はあらへん」

球磨「意味がわからないクマ!!過負荷だけど過負荷じゃない!?一体何がどういうことクマ!?」

施術者を倒せば元に戻るのはスタイル
大嘘憑きがいい例だがスキルは元に戻らんて
ぶっ倒した後解除を強要しなあかんね

>>326
あっ、バレた
いえ、こればっかりは知ったかぶりでなく本当にわかってました。
わかってましたけど、話の都合上こういう流れにせざるを得なくて……
まあ球磨ちゃんの言ったことは>>326みたいなニュアンスで捉えてもらえれば、と。
しかしスタイルもスタイルで、倒すどころか[ピーーー]までしないと消えなかった気がするんですけど違いましたっけ?

龍驤「『純粋な』過負荷ではない、や。そいつらはうちらみたいな正規品とは性質を異にする、言わば突然変異体……強さと弱さを併せ持った過負荷なんや」

球磨「つ、強さと、弱さを……?」

龍驤「ああ。何せ、あいつらの面子ときたら……」

---
------
---------

---鎮守府本館---


「今回の不幸勝負も、私の一人勝ちですね。間宮さんのタダ券はいただきます」

「むぅ……さすがは運"2"、私の"3"すらも下回るだけのことはあるわ」

「得意の不幸でさえも、所詮私はこんな中途半端……不幸だわ……」

「ふふ、いいじゃない。その不幸だって、次の話の種になるわ」

「そうそう。お二人とも姉妹揃って仲良く不幸艦だなんて、私には羨ましいくらいよ」

「しかし、本当に誰がみんなの記憶を書き換えてくれたんでしょうね……。あれのおかげで当時の私たちは、罪を逃れることができた」

「この中の誰かなのは間違いないんですけどね。誰かはわかりませんが、本当に感謝しています。……しかし……」

「あのまるゆまで一緒に隔離してしまったのは失策だったわね……。多分本人もその責任を感じて、名乗り出ないんだと思うわ」

「まーまー、何かしら事情があったんでしょ。それに手元から遠のいただけで、失ったわけじゃないわ……また必ず、チャンスは訪れる」

「あら。他でもないこの私たちが、チャンスなんてものに期待するんですか?」

「確信を持って言ってるからねぇ。あいつらがあのまま、大人しく隔離されっぱなしでいるとは思えない……今はただ静かに、その機会を待っているだけなのよ」

「『幸運』は、いずれ必ず向こうからやってくる。『不運』な私たちを倒しにね……そこを返り討ちにして、今度こそ必ず手に入れる」

「みんな覚えてるわね?『幸運』が手に入った暁には……」



陸奥「きっちり、五等分よ☆」



陸奥

艦種:長門型戦艦2番艦
血液型:AB型
運:3


扶桑

艦種:扶桑型戦艦1番艦
血液型:AB型
運:5


山城

艦種:扶桑型戦艦2番艦
血液型:AB型
運:5


翔鶴

艦種:翔鶴型正規空母1番艦
血液型:AB型
運:10


大鳳

艦種:大鳳型装甲空母1番艦
血液型:AB型
運:2

---------
------
---

龍驤「戦艦・戦艦・戦艦・正規空母・装甲空母……錚々(そうそう)たるもんや。わかるか?奴らは同じ過負荷でありながら、素のスペックではうちらを圧倒しとるんや」

龍驤「通称『13日の金曜日<サーティーン・パーティー>』。ここのマイナス13舎いう名前も、元々あいつらを入れる予定やったからこういう名前になったんや」

球磨「……そんな……!じゃあ、球磨たちにはもう打つ手は無いクマ……!?」

龍驤「いや、ある」

球磨「!」

龍驤「奴らがうちらに勝っとるんは、身体的なスペック……つまりルール無用の殴り合いにおいては確かに、うちらに勝ち目は無い」

龍驤「せやけど、逆に言うならや。身体的スペックの関係無い、ルール『有用』のゲームやなんかって話になれば、その理屈は通用しないっちゅうことや」

球磨「なるほど……それなら球磨たちとそいつらは過負荷同士、敗者同士!互角の勝負ができるクマ!」

龍驤「そしてその舞台も、既に用意されとる。年に一度、鎮守府全体を適度に遊ばせ、士気を高めるためのお楽しみイベント……」

龍驤「『鎮守府総合大運動会』!!うちらマイナス13舎はこの舞台で、パーティーの奴らに戦いを挑む!」

龍驤「そして奴らをあるべきブタ箱にぶち込み!うちらは帰るんや!鎮守府の本館へ!!必ず帰るんや!!」

龍驤「奴らの人数は全部で五人。まるゆを抜いて同じ人数でチームを組まんと、運動会で戦うことはでけへん」

龍驤「今年の開催はもう、あと1ヶ月後に迫っとるから無理やとして……来年にはもう一人を迎えて、是非とも参加したいもんや」

球磨「……………………いや」

球磨「そんなに待つ必要はないクマ」

龍驤「あん?」

球磨「今年参加すればいいクマ。このマイナス13舎には『まるゆちゃんを入れれば』ぴったり五人!既に人数は揃っているクマ!」

まるゆ「っ!?」ビクッ

青葉「そ、それは無理ですよ球磨さん!まるゆちゃんに戦闘能力はないんです!それに敵の狙いは他でもない、まるゆちゃん自身なんですよ!?そんな危険なこと……」

球磨「わかってるクマ。まるゆちゃんはあくまでただの人数合わせ。実際の、マイナス13舎の五人目には……」

球磨「球磨がなるクマ」

青葉「!!」

球磨「さっき青葉ちゃん、説明してくれてたクマね。だったらみんなわかるはずクマ。『球磨の前では人数差なんて、たいした問題じゃないってことが』」

龍驤「そ、そりゃあ……そうやけど……」

黒潮「駄目や、それやと球磨はんにかかる負担が大きすぎる!相手はあのサーティーン・パーティーやで!?たった一人で二人も三人も相手できるわけない!」

球磨「大丈夫クマー、ボコボコにされるのなら慣れてるクマ。正確には、ここ数日で慣れたクマ」

龍驤「…………ほんまに、ええんか?」

青葉「龍驤さん!?」

龍驤「今のこの面子の中で、お前さんだけはこの件と直接関係はない。そこまで体を張ってくれる必要は、ないんや」

球磨「『過負荷は、身内に対してはぬるくて甘い』……龍驤ちゃん、言ってたクマよ」

球磨「球磨を仲間と呼んでくれた過負荷(ひと)が困ってるのに、ほっとけるわけないクマ。それに妹にも、早く会いたいクマー」

龍驤「いやそれに関しては、わざとここに送られてきたお前さんが悪いんじゃ……」

前向きな過負荷やなぁ

大会自体を引っ掻き回して勝敗関係なく目的を達成するとか
裏工作して不当に相手を敗北させるとか
他のグループを騙くらかして代わりに倒してもらうとか

相手を『負けさせる』方が得意だろうに

球磨「その通りクマ、これは球磨の失敗クマ。これも龍驤ちゃんが言ってたクマね、『取り返しの付く失敗なんてどれほどあるか』って」

球磨「話を聞いてると、どうやらこの失敗に限って言えば、取り返しが付きそうなんだクマ。だったら、それが過負荷の性分だと折り合いをつける前に」

球磨「取り返しを、付けに行きたいクマ」

青葉「…………!」

黒潮「…………!」

まるゆ「…………!」

龍驤「……………………わかった」

龍驤「頼めるか、球磨。このマイナス13舎の命運を、託してもええか」

球磨「どんと来いクマ!」

龍驤「……ありがとな。でもそういうことやったら、一つお前さんに、直してもらわなあかんことがあるなぁ」

球磨「へ?」

龍驤「喋り方や喋り方。人前に出るっちゅーのに、うちらの切り札がそんなクマクマ言っとったら格好付かんやろが」

龍驤「括弧付けてしゃべりーや。素の自分は、全てが終わってから…………妹さんにもう一度会えるまで、閉まっとき」

球磨「……………………」

球磨『……ああ』『そうだね』

龍驤「へっ!」

黒潮「ふふ……」

青葉「えへへっ!」

まるゆ「…………」


球磨『じゃあ行こうか』

『過負荷(ぼくら)の』

『鎮守府(あした)を』

『取り返しに。』

---
------
---------

電「司令官、本部の方から書類が届いているのです」

提督「本部……ああ、もうそんな時期か。勲章の話だろ?」

電「はい。いつものですね」

提督「こんな混沌を極めた鎮守府を統括する以上、定期的に目に見える戦果をあげることは確かに必要だからねぇ」

電「その手段が、その月に獲得した勲章の数……何だか威厳がないのです、せっかくの勲章なのに」

提督「まあ違いないね。この鎮守府に限って言えば、威厳なんてものは何の意味も持たないからね。皮肉がきいてる」

提督「よし……来月には運動会も控えてるし、今月はさくっと終わらせてしまおう」

電「今月も、の間違いではないですか?」

提督「気持ち的にだよ気持ち的に。そうと決まれば、早速呼び出しだ」ガチャリ



ジリリリリリリリ……



ガチャリ……





「おっおーっ!」






島風「お呼びですか?てーとく♪」







島風

艦種:島風型駆逐艦1番艦
血液型:AB型
異常性:『速<スピード>』

運動会開催まであと1ヶ月、一旦マイナス13舎からはフェードアウトします。あしからず。
あと>>338についてですが、戦挙の時と違って今回は相手も過負荷ですので、龍驤や球磨ちゃんの言う『戦い』っていうのはそういった一切合切を含めてのことになりますね。

お互いにイカサマし合えば、ひょっとしたら最後は実力勝負の殴り合いになる……のか?

確かに光化の方は比喩とは言われてなかったけど
CSVの登場で阿久根が「日之影先輩が生徒会戦挙で見せたという衝撃波キャンセル!ノーダメージの光速移動!!」とか言ってる時点で同じモノだと思うんだがね

提督「そうとも、お呼びだぜ島風。今月もやるぞ、戦果を水増しして勲章を荒稼ぎだ」

島風「何か凄く悪いことしてるように聞こえるんだけど……私はちゃんとやってるからね?で、今月はどの辺?」

提督「えーっと……××鎮守府近海、沖ノ鳥島付近、北方AL海域、カレー洋リランカ島沖、サーモン海域の北方、だとさ」

島風「いや、地名で言われても。地図見せてよ地図」


ガチャリ……


吹雪「失礼します。司令官、来月の運動会の……あれ?」

島風「あっ、やっほー!えっと、吹雪ちゃん?」

いきなり酉付け忘れた……だと……?

吹雪「あっ、ど、どうも……。えっと、はじめまして……ですよね?」

島風「まー、話したことはなかったね」

電「吹雪さん、こちら島風さんなのです」

吹雪「そうなんですか。はじめまして、島風さ…………えええええええええ!!?」

吹雪「し、しししし島風さん!?島風さんってあの、伝説の第二艦隊『攻略非艦隊』を率いる伝説の駆逐艦の!?」

島風「率いるって、第二艦隊私しかいないし。てか勝手に伝説扱いしないでよ!私まだ生きてるんだから!あとさん付けもやめて」

吹雪「ご、ごめんなさい島風さ……ちゃん!!」

島風「よろしい、吹雪ちゃん」

吹雪(この人、食堂で何度も見かけた顔だ……私今まで、伝説の駆逐艦と一緒にご飯食べてたの!?お、恐れ多い!)

提督「挨拶もいいが島風、場所の確認は済んだのかい」

島風「うん、だいたいわかった」

提督「よし、じゃあ出撃だ」

吹雪「し、出撃!?島風ちゃん今から出撃するんですか!?」

島風「するよー。吹雪ちゃん、悪いけどそこのドア開けてくれる?」

吹雪「は、はい」ガチャリ

吹雪(伝説の駆逐艦の出撃に立ち会えるなんて……!)



ジリリリリリリ……


提督【あー、第二艦隊出撃。繰り返す、第二艦隊出撃。出撃ハッチ及び軽巡・重巡部屋手前の廊下を速やかに空けて頂戴】

吹雪「えっ?えっ?な、何が始まるんです?」

電「第三次……いえ、普通に島風さんが出撃するのですよ」

吹雪「いや、だとしたら廊下まで空ける必要ないですよね?」

島風「よーし、頑張るぞー!」



島風「島風、出撃します!」



ヒュッ



吹雪「えっ!?消え」
島風「ただいまー!!」ヒュン

吹雪「えっ?えっ?…………えっ?」

提督「お疲れさん」

島風「ん〜〜!やっぱりこれだけ連戦すると疲れちゃうなー。提督、やっぱり私、もっと体力つけた方がいいかなぁ」

提督「そんな無理しなくてもいいんだよ島風。今のままで、君は十分にやってくれてる。毎月こんな重労働を頼んでしまってすまないね」

島風「重労働ってほどでもないよ!そんな無理してるわけじゃないから、提督も気にしないで」

提督「ありがとう。そうだ、ご褒美あげないとね。……はい、間宮さんタダ券ひと月分」

吹雪(何その夢のようなご褒美!?)

島風「えー、またぁ?間宮さんおいしいけど、たまには他のものが欲しいよ」

吹雪(しかも不満気!?いらないなら私によこせ島風ちゃんこの野郎!!)

提督「そうかい?いいよ、何でも言ってごらん。君にはいつも助けられているからね、僕にあげられるものなら何でもあげるよ」

島風「えっ、ほんと!?じゃあね、私が一番欲しいのは……!…………あっ」

提督「?」

島風「…………えへへ。やっぱり、間宮さんでいいや」

提督「あれ、いいのかい?」

島風「うん。じゃあ私、部屋に戻るね」

提督「ああ、本当にお疲れ様」

島風「……………………」

吹雪(…………?)

吹雪「し、司令官!島風ちゃんは今、一体何を!?」

提督「ああ、島風には深海棲艦の討伐に行ってもらったんだ。他の鎮守府が手を焼いてる、強めの奴らをね。これがそのリスト」

吹雪「どれどれ?…………!!?」

吹雪「北方棲姫、戦艦ル級エリートとフラグシップ、港湾棲姫に護衛の要塞、戦艦レ級エリートに空母ヲ級改フラグシップ……」

吹雪「し、死ぬ!死んじゃう!!こんなところに一人で行ったら死んじゃいます司令官!!」

提督「死ぬだろうね。深海棲艦の方が」

吹雪「嘘……!?島風ちゃんはたった今、こんな化け物たちと戦ってきたんですか!?それで『疲れた』で済んでるんですか!?」

吹雪「いや、そもそもそれ以前に!島風ちゃんが出撃するって言って姿を消してから、帰ってくるまで5秒も経ってなかったじゃないですか!」

提督「そうだ。それが島風の異常性……『速<スピード>』なんだ」

吹雪「スピード……何だかえらくシンプルな名前ですね」

提督「名は体を表すと言う。あいつのスキルのシンプルな名前は、そのシンプルな強さをよく表しているよ」

吹雪「そ、それは一体、どんなスキルなんですか……!?」ゴクリ

提督「『速く動けるスキル』」

吹雪「……………………」

吹雪「…………はい?す、すいません、もう一度」

提督「『速く動けるスキル』」

吹雪「…………それだけ?」

提督「それだけ」

吹雪「は、はあ……?」

提督「それだけ聞くと拍子抜けだろう。だがその実態は驚くべき、恐るべきものなんだ」

提督「ちょっと前まで、ジョジョの三部のアニメがやってたんだけど、吹雪は見たかい?」

吹雪「はい、見ました!面白かったです!」

提督「島風もそれを見て、とても気に入ったようでね。僕のところに、原作のコミックスを借りに来たんだ」

吹雪「えっ、司令官原作持ってるんですか?今度私も読みたいです!」

提督「ああ、構わないよ。で、その時に、島風と三部について話をしてね。どのスタンドがかっこよかったとか、アニメの最終決戦で二人とも物理的に飛んでたこととか」

吹雪「原作では飛んでないんですか?」

提督「あそこまで露骨にはね」

提督「その会話の中で、あいつがふと漏らした一言に……僕は正直、背筋が凍りついたよ」


島風【ねーねー提督!DIOってさ、何で戦ってる最中に一々時間を止めたがるの?】

提督【え?何でってそりゃあ、止まった時の中で動けば、一瞬で遠くまで行けるし、攻撃だってできるだろ?】

島風【それはそうなんだけどさ……別に相手を攻撃したり、移動したりするのが目的なら、わざわざスタンドを使わなくても】



島風【普通に動いたほうが速いじゃん。】



提督「普通に聞けば馬鹿馬鹿しい話さ。あいつはあれで負けず嫌いなところがあるから、ちょっとした対抗意識で大袈裟を言ったのかもしれない」

提督「でも、僕には……僕にはあの言葉が、大袈裟にも冗談にも聞こえなかった」

提督「もちろん、そんなことは絶対にあり得ない。仮に光の速さで動けようと、止まった時の中では全て等しく0だ」

提督「だけど少なくとも、『そんな当たり前のことを改めて真面目に考えなければならない程度には』、島風は速い」

吹雪「……は、話のスケールが大きすぎて、いまいちよくわからないのですが……」

提督「さしあたり、光よりは間違いなく速い」

吹雪「…………はい?」

提督「これは間違いない。島風という規格外の異常性を測るために以前、国家規模のプロジェクトが発足して正式に計測されたからね」

提督「簡単な実験さ。地球の赤道上に等間隔でバーを設置する。島風は同じく赤道上を全力で走って、一周につき一本ずつそのバーを倒して回るってルール」

提督「光は一秒間で地球を7周半できることが知られている。バーは念のため同じ場所に10本置かれたけど、もし島風が一秒間で8本以上倒せたなら、光速を超えたことになる」

提督「で、結果はといえば……『10本以上』。それしかわからなかった。バーの本数が足りなかったのさ」

吹雪「い、一周の間に二本以上倒して、嘘をついていたのでは……」

提督「それを確かめるために、当時島風は嘘発見器にかけられたり、自白剤まで飲まされたと聞いている。仮にも相手は年端もいかない少女なのに、酷い連中だ」

提督「話の上では、光速を超えると過去に戻る、なんて言われている……そんなことを考えるとさっきのDIOの話だって、少し真剣に考えざるを得ない」

提督「もちろん、本当に過去に戻るなら島風が今ここにいるのはおかしいし、光速に届いた時点で無限大の運動エネルギーを得るんだからこの宇宙が無事なのも変だし」

提督「光速を超えたら物が見えないはずだし、そもそも体を動かす電気信号が光なんだからどうやって動いてるんだって話だし、色々説明は全く付かないけど」

提督「おそらく、そういった一切合切を引っくるめて『速く動けるスキル』なんだろうね……それがあの娘の、異常性なんだろうね」

吹雪「……………………!!」

電「…………」

不知火「…………」

吹雪(『時を止めて動くよりも速い』…………当たり前だったんだ。深海棲艦の『化け物ごとき』が、どうにかできる相手じゃなかったんだ……!)

提督「…………吹雪ちゃん」

吹雪「……えっ?あ、はい!何でしょう」

提督「……一つ、頼んでもいいかな?」

吹雪「はい!何なりと!」

提督「……………………」

提督「……あいつの……」
島風「そうだ提督、言い忘れてたんだけど」ヒュン

提督「うおっ!?」

吹雪「うわああああああああ!!?」

提督「お、脅かすなよ島風……で、何を言い忘れたって?」

島風「さっき深海棲艦の討伐に行った時にね。提督に言われた場所で一箇所だけ、敵艦が一隻もいない場所があったんだ」

提督「……何だって?」

吹雪「し、司令官、私に頼みたいことというのは……」

提督「ごめん吹雪ちゃん、また今度。悪いけど席を外してもらえる?」

吹雪「は、はい……。では失礼します、司令官、電ちゃん、島風ちゃん……」

電「なのです」

島風「ばいばーい」

不知火「…………」

吹雪(……不知火さん……今日もずっと後ろ向いたままだったなぁ……)


ガチャリ……


提督「……で、島風。どこ?」

島風「ここ。××鎮守府の近海」

誤解を生みそうなので補足しますが、>>389の「ここ」というのは地図を指差しながら言っています。この提督の鎮守府の近海ではありません。


---翌日---


島風「提督、どうだった?昨日の話」

提督「ああ……ちょっと調べてみたけど、こいつはどうも怪しいね」

提督「報告書の上では上手く誤魔化しているみたいだけど、一つ一つ拾い上げてよく見てみると……どうやらあそこの鎮守府、うちと同じことをやっているらしい」

島風「同じこと?」

提督「そう。普段は資源集めや残党狩り程度の簡単な海域にしか出撃せず、月に一度だけ、他のところが手を焼いてる敵を討伐しに乗り出す……それも、単騎でだ」

島風「ほ、本当にうちとまるっきり同じ……!」

提督「こんなことなら特許でも出願しておくべきだったね」

提督「しかし一箇所だけ、決定的な相違点がある。うちは島風がいることも出撃の方針も、全部上層部にオープンにしてやってるけど」

提督「あっちの鎮守府はそれを『隠してる』……つまり上も把握してない、把握されたらまずいような一等ヤバいジョーカーを握ってる」

提督「そのジョーカーの戦力は、島風……おそらく君に匹敵する。いや、君という前例があって尚隠すということは、君を上回る可能性さえある」

島風「えーっ!わ、私より速いの!?」

提督「いや何でそうなる。君の中で強さの基準ってのは速いか遅いかしかないのかよ」

島風「あ、そっか。私の『速<スピード>』とは全然別方向の強さかもしれないんだね」

提督「そう、そういう強さかもしれない。あるいは……そういう『弱さかもしれない』」

島風「それで……このこと、どうするの?上層部にチクっちゃう?」

提督「本来ならそうするべきなんだろうけど……何せ、相手のカードは君に匹敵するジョーカーだからね。しかも君のように温厚で物分かりのいい人柄とも限らない」

提督「一手間違えば国が滅ぶまであるからね。報告した後に上が下手に刺激したりしたら……そうなることは避けたい」

島風「じゃあ、ほっとくの?」

提督「そういうわけにもいくまいさ……話が大きくなりすぎる前に、せめて大まかにでもいいから、そのジョーカーの正体くらいは掴んでおきたい」

提督「…………島風。頼めるかい」

島風「おっけー♪そう来ると思ったよ!」

提督「……本当に、すまない。対抗できそうな艦娘が、うちには君しかいないんだ……」

島風「何で謝るの?だってこれって、潜入捜査ってやつでしょ?かっこいー!私一度やってみたかったんだよね、スパイ大作戦!」

提督「頼んでおいて何だけど、敵は未知数だ。君でも手に負えないかもしれない。少しでも危機を感じたら、その場で絶対に引き返してくれ。君の異常性なら逃げ遅れはしないはずだ」

島風「わかったわかった」

提督「本当にわかった?絶対に、だよ」

島風「わかってるって。私がいなくなったら、この鎮守府で戦果を稼げる人がいなくなっちゃうもんね」


提督「そんなことじゃないッ!!!」バンッ!


島風「!?」ビクッ

提督「…………!ご、ごめん……」

島風「う、うん」

提督「…………島風。僕は君の強さが大事だから、君に死んでほしくないわけじゃないんだ」

提督「仮に今回の任務に行かせるのが、吹雪ちゃんであっても、スキルを持たない夕立であっても、たとえマイナス13舎の連中であっても……僕は、同じことを言うよ」

島風「…………」

提督「……もう、誰も……誰も死なせはしない。そう約束したんだ……」

島風(約束……?)

提督「……必ず、無事で帰ってきてくれ」

島風「…………うん、わかった。危なそうだったら、逃げてくるよ」


---××鎮守府近海---


島風「うーん……潜入のために、提督から整備兵の服を借りたのはいいけど……」

島風「どうもこれ、露出が少なくて落ち着かないなぁ。ズボンだけでも脱いじゃ駄目かな……って、そういえばこれツナギだった」

島風「いやいや!それ以前に駄目だよ島風!これは潜入捜査なんだ、敵にバレないようにするためには多少の機能不全は我慢しなきゃ!」

島風「よし……やるぞ!島風、××鎮守府に潜入します!」


ヒュッ


---
------
---------

島風(……って、華麗に潜入して、華麗に秘密を盗み出してくるつもりだったのにぃ……)


「「「お前みたいなブロンドの整備兵がいるか!!」」」


島風(一瞬でバレたああああぁぁ!!)

島風(ど、どうしよう……もう帰ったほうがいいのかなぁ……)

「くそっ、どこに行った侵入者め!」

「とにかく地下だ、地下への階段を見張るんだ!あそこにだけは絶対に近付けるな!」

島風(!今、地下って言った?ラッキー!ジョーカーは地下に隠されているのね!よし、やっぱり捜査は続行よ!)

島風「そうと決まれば、その地下への階段ってのを探さないと……」スクッ


「いましたお姉さま!侵入者です!」

島風「!!」

「観念しなさい!出撃のカラクリに気付いたとしても、その秘密は絶対に持ち帰らせはしないわ!この……」


「「「テイトク直属部隊がいる限り!!!」」」



レーベレヒト・マース

艦種:Z1型駆逐艦1番艦
血液型:AB型
性別:女性


マックス・シュルツ

艦種:Z1型駆逐艦3番艦
血液型:AB型
身長:ミニマム


プリンツ・オイゲン

艦種:Admiral Hipper級重巡洋艦3番艦
血液型:AB型
愛称:『ちびまるくちゃん』


ビスマルク

艦種:Bismarck級戦艦1番艦
血液型:AB型
愛称:『びすまる子ちゃん』


ユー511

艦種:Uボート潜水艦IXC型
血液型:AB型
野望:日焼け

間違えました、『テイトク直属迎撃部隊』です

島風「提督……直属?」

ビスマルク「単身で乗り込んでくるとはいい度胸だわ!そのまま蜂の巣に……」

島風「だったら丁度いいや」ヒュッ


ドドドドドドッ……


ビスマルク「ッ…………!?」


バタバタッ……


ユー「……え?…………え!?み、みんな!?」

島風「大丈夫だよ、気絶(ねむ)らせただけ。貴方たち、提督直属なんて言うくらい地位が高いんだったら、地下への階段の場所くらい知ってるよね?」

ユー「あ、あそこに入るには鍵が必要で……」

島風「じゃあ、それちょーだい」

ユー「か、鍵はテイトクしか……!」

島風「じゃあ司令室に案内してよ、ここで永眠(ねむ)りたくなかったらさ」


---司令室---


テイトク「くそっ、侵入者はまだ捕まらんのか?迎撃部隊は何をやっているんだ……!」


バゴオォン!!


島風「たのもーーーっ!!」

テイトク「!?」

ユー「て、テイトクぅ……」

テイトク「ユー!?」

島風「はーっはっは!見たか!こっちには人質がいるんだぞぅ!大人しく地下に案内しろーっ!」

テイトク「き、貴様が侵入者か!卑怯な真似を……!……わかった。案内するから、まずはユーを放してくれ」

島風「地下へ行くためには鍵が必要なんでしょ?それを出すのが先だ!人質がどうなってもいいのかーっ!」

テイトク「く……!わかった、今取り出すから、待ってろ…………」ゴソゴソ

テイトク「よッ!!」ジャキン!

島風「!」

ユー(拳銃……!)

テイトク「形勢逆転だな。言っておくが、私の射撃の腕前は同期の中でもトップクラスだ……ユーを放せ」

ユー「…………!」

島風「…………ん〜〜……」

テイトク「どうした!早くユーを
……」

島風「何か誤解してるみたいだけどさぁ」



島風「『人質は貴方のほうだよ』?提督さん」

テイトク「!!?」バッ

ユー「えっ!?」

テイトク「馬鹿な、いつの間に背後に……!?」

島風「振り向くと撃っちゃうよーん」

テイトク「…………!!」

テイトク(私の銃まで……いつの間に……!こいつ一体何をしたんだ!?時間でも止めたっていうのか!?)

島風「ほらほら。えーっと、ユーちゃんだっけ?地下の階段まで早く案内するのだ。この提督がどうなってもいいのかーっ!」

ユー「はっ、はいぃ……!」

テイトク「よせっ、馬鹿な真似はやめるんだ!『あれ』は表に出してはいけないものなんだ!君だって無事では済まないぞ!!」

島風「何だかよくわかんないけど、今日は私は様子を見に来ただけだから。この鎮守府の握ってるジョーカーの正体がわかれば、それで帰るよ」


---地下---


島風「…………何……これ……?これって、まるで……!」

テイトク「そうさ。ここは『牢屋』だ……『あれ』を閉じ込めておくためのな」

島風「……ってことは、あの娘が…………この鎮守府の、ジョーカー……?」



「……………………」ボー…



テイトク「ああ、まさしくジョーカーだ。ジョーカーの札に描かれているような……悪魔だ」

島風「ふざけないでッ!!」

島風「どうしてあの娘はこんな目に遭ってるの!?あの娘が何をしたっていうの!?あの娘は……他の鎮守府が手に負えない深海棲艦を一人で倒した、英雄なんじゃないの!?」

テイトク「英雄だと?違うな。あれは兵器だ。扱いを誤れば自陣で爆発しかねない、厄介極まりない『爆弾』という名のな」

島風「そんな艦娘ならうちにだっている!現に私がそうよ!」

島風「でも提督は、こんな化け物みたいな私でも普通に鎮守府に置いてくれたし!普通にお話ししてくれたし!ジョジョの原作だって貸してくれた!」

島風「私よりも性格の歪んだマイナス13舎のみんなにだって、こんな牢獄みたいな場所じゃなくって、ちゃんとした宿舎を与えてる!なのにこの娘は、どうしてこんな……!」

島風「どうして!?どうして貴方は提督みたいにできないの!!どうしてあの娘が!!あの娘だけが!!こんな奴隷みたいな生活を強いられなきゃならないのよ!!!」


「……………………」


テイトク「…………うるさい……うるさいうるさいうるさい!!貴様に何がわかる!!私は間違ってなんかいない!!」

テイトク「私は国のために!!正義のためにやっているんだ!!深海棲艦から国を守るために、あいつを手放すわけにはいかないんだ!!」

テイトク「だが奴は兵器だ!!爆弾なんだ!!貴様は爆弾を抱きながら眠ることができるのか!?貴様はできたとしても他の艦娘たちはどうだ!?」

テイトク「私は間違っていない!!断じて間違ってなどいない!!あの悪魔を!生かさず殺さず手元に置いておくためには!!これが最善の方法なんだ!!!」

島風「黙れええええええええええええ!!!!」


ジャキンッ!


テイトク「!!」

テイトク(私の銃……!)

島風「殺してやる……!殺してやる、殺してやる、殺してやる!!」カタカタ

島風「お前みたいな!!人の痛みがわからない外道なんて!!死んじゃえばいいんだあああああぁぁぁ!!!」

「駄目です」

島風「!!?」

テイトク「!!」


「テイトクを殺しては、駄目です」


島風「…………どうして……?どうして貴方までそんなことを言うの!!」


「テイトクは、正しい」


「私は、悪魔です」


島風「…………〜〜〜〜!!!」


バキバキバギンッ!!


テイトク「!しまった、鉄格子を……!!」



ヒュッ


ユー「て、テイトク!大丈夫ですか、今凄い音が…………っ!?」

ユー「ろ、牢屋が……破られてる……!」


テイトク「…………だ……」


ユー「……え?」


テイトク「…………終わりだ…………」

テイトク「解き放たれてしまった…………あの……悪魔が……!」

テイトク「……ふ、ふふ…………終わりだ……何もかも…………ふふ、ふふふははは、あははははははは…………!」


---
------
---------

提督「……で、連れて帰ってきちゃったわけ?」

「……………………」

島風「だって、見ていられなかったから……」

提督「まあ、確かに……実際にその場にいたら僕も、感情的になって同じ行動に出ていたかもね……」

提督「ともあれこうなった以上は、我が鎮守府が責任を持って面倒を見るよ。牢屋での生活は忘れて、実家のようにくつろいでくれたまえ。君、名前は?」


「……………………」





「雪風、です」







---
------
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提督「えーと、資料集はどこだったかな…………お、これだ」

提督「こういう飛び入りの着任だと事前に渡される情報が何もないから、その娘の生い立ちとかは自分で調べなきゃならないんだよね」

提督「えー、あ・か・さ・た・な・は・ま・や…………あった、『雪風』。どれどれ、姉妹とかこの鎮守府にいるかな……」



提督「……………………え?」


提督「…………何てこった……」

提督「駆逐艦・雪風……『陽炎型駆逐艦8番艦』…………つまりあの娘は、あの黒潮と同じ…………」




提督「不知火の…………妹…………!!」







不知火「……………………」






提督「しかし急な着任だから、部屋が空いてないな。じゃあしばらくは、島風の部屋で一緒に生活してくれるかい」

---------
------
---

島風「えへへへ〜〜……」ニヘラ-

雪風「…………」

島風「私、ルームメイトができるのって初めてなんだ!よろしくね雪風!」

雪風「はい、よろしくお願いしません」

島風「しないの!?」

雪風「…………」

島風「……えっと……?」

雪風「…………」

島風(雪風……牢屋生活のせいで、やっぱり心に何か……。……私が何とかしなきゃ!)

島風(だってこの娘は、初めての……)


---
------
---------

提督「…………」

不知火「…………」

提督(陽炎型駆逐艦8番艦・雪風……)

提督(不知火といい黒潮といい、『陽炎型』には謎が多い。不知火については言わずもがな、黒潮だってあの性能は……強い弱いというより、『異質』だ)

提督(さらにおかしいことに……不知火と黒潮は姉妹艦であるにもかかわらず、この鎮守府で一緒になるまで、『互いに全く面識が無かった』)

提督(資料には間違いなく姉妹艦と書かれている。通常はそんなことはありえない。全くもって謎だらけ……で、そこにあの雪風だ)

提督(不知火はこうして口を閉ざし、黒潮には隔離している手前迂闊に接触できない。『陽炎型』を紐解く糸口が途切れていたこの鎮守府に、再び降ろされた一筋の糸)

提督(経緯を鑑みても、彼女が陽炎型の名に恥じない化け物であることは疑いようがない。それを突き回すことは、地雷原に踏み入ることも同じだろう)

提督(それでも……この糸を放すわけにはいかない。僕は『陽炎型』を知らなくてはならないんだ。今の僕はあまりにも……不知火を、知らない)

不知火「…………」

提督(洒落じゃない。洒落にならない。一寸先の暗闇に間違いなく獣が潜んでいるのに、その場所も姿形も知らず、無視して眠りこけているなんていうことは)

提督(知らなくてはならない……陽炎型を、不知火を。もう、彼女のような犠牲者を出さないためにも)

不知火「…………」

提督「…………不知火」

不知火「…………」

提督「…………」

提督「ごめんな」


---マイナス13舎---


球磨『そういえば疑問なんだけどさ』

龍驤「あん?」

球磨『ここに来る前に提督が』『マイナス13舎と本館の艦娘が接触する機会はない』『みたいなことを言ってたんだけど』

球磨『僕ら普通に明石さんの売店に買い出しに行ってるよね』『何で?』

龍驤「そら、あの売店におるんが明石だからに決まっとるやろ」

青葉「あそこ以外じゃあ食堂に行っても間宮に行っても、シカトされちゃって何も買えませんからね」

球磨『当たりが強いねぇ』『当たり前だけどさ』『じゃあもし明石さんがあんな人じゃなかったら』『僕ら相当窮屈な生活だったんじゃない?』

黒潮「快適度は今の半分以下やろね。今度の運動会でのうちらの『計画』も一部手伝ってもらうことになっとるし、ほんま明石はんには感謝してもしきれんわ」

龍驤「成功してうちらが戻れた暁には、まず最初にやらなあかんのは明石んとこ駆け込んで、酒でも何でも奢らしてもらうことや。お前も覚えとけよ球磨」

龍驤「さて……休憩もここらで切り上げよか。再開や」


龍驤「ジャーンケーン……」

「「「「ポンッ!!」」」」

龍驤「あーいこーで……」

「「「「ポンッ!!」」」」

龍驤「あーいこーで……」

「「「「ポンッ!!」」」」

龍驤「あーいこーで……」

「「「「ポンッ!!」」」」

龍驤「あーいこーで……」


青葉「いつものことながら……あいこが続きますね、買い出しジャンケン」

黒潮「もう何回になるかわからんな」

球磨『そろそろ3桁の大台に乗りそうだよ』『君らいつもこんなことやってたの?』

球磨『やれやれ』『敗北に振り切れてる過負荷同士での勝負事の必然とはいえ』『たかがジャンケンですらこんなことになってたんじゃあ先が思いやられるぜ』

球磨『こんな調子で本当に』『運動会本番で『13日の金曜日<サーティーン・パーティー>』との決着は付くのかい?』

龍驤「厳しい戦いになることは元より承知や。どんな泥試合になろうと、それが負け戦でない以上、やる価値は大有りや……それしか道がないんやったら、尚更な」

球磨『……確かに』『そうだね』

龍驤「よっしゃ、気を取り直していくで!ジャーンケーン……」



龍驤「ハァ……ハァ……う、うちの負けか……」

青葉「ふぅ……今回は長かったですねー……」

黒潮「球磨はんが来はった影響かもしれんねー……」

球磨『面目無い……』

球磨(助かったクマ……ここで球磨が負けて本館に行く羽目になってたら、『妹と再会するために頑張る』って球磨の決意が台無しになるところだったクマ)

龍驤「ほな、行ってくるわ……」


---鎮守府本館---


龍驤「ふぃー、しんど。ちゃっちゃと買い物済まして帰ろ」


「ほら、こっちこっち!」


龍驤「ん?」


島風「早くはやくー!」

雪風「…………」


龍驤(はー、たまげたなぁ。あの格好、噂に聞く島風や……明石の話やと、空母だの戦艦だの何だのの存在意義を鼻で笑うほどの強さ故に、鎮守府でも孤立してたとか)

龍驤(ベクトルは真逆やけど、『強者を嘲笑う』ところとか、周りに味方がおらんところとか、胸の薄いところとか、ちょっと親近感感じててんけど……)

島風「ほらほら、提督が待ってるよ!」

雪風「…………」


龍驤(何や、友達おったんかいな。ムカつくわ……このまま行くとすれ違うし、ちょっかい出したろか)

龍驤(…………いや、やめとこ。そんな気分と違うわ……今疲れとるし。無視や無視)

龍驤「…………」スタスタ


島風「そういえば雪風はさー……」

雪風「…………」トコトコ


龍驤「…………」スタスタ


雪風「…………」トコトコ



スッ……



雪風「…………」ピタッ

龍驤「…………」ピタッ

島風「……ん?どうしたの?知り合い?」

雪風「……いえ……。行きましょう」

島風「うん!」


龍驤「…………」


龍驤「…………」ダラダラダラ


龍驤「…………はっ……はっ……ぜっ…………は、っか……!!」ガタガタガタ


ぺたん……


龍驤「はっ……はっ……!!」

龍驤(こ、腰が、抜け……た、立たれへん……!)

龍驤(な…………何や?何なんや!?何なんやあの化け物は!!?)

龍驤(島風……やない!隣のやつや……雪風とか呼ばれてた奴や!)

龍驤(あんだけ近くにおるのに、島風は何も気付いとらん……うちにだけわかるいうことは、これは過負荷……なんか?本当に?)

龍驤(マイナス13舎に球磨がやって来て、過負荷の中でも下には下がおるもんやと思い知らされたが……こいつはそんなんとまるっきり違う!)

龍驤(これが……もしこれがホンマもんの過負荷なんやとしたら!うちらの今までの苦労や苦悩は全部!ごっこ遊びもいいとこや!)

龍驤(何でや……何であんなもんがこの世に存在しとるんや!?そんでもって何でうちに来るんや!?しかもこの大事な時期に!わけわからん!!)

龍驤(……計画がどうのとか、言ってる場合やなくなってもうたかもしれんな……あんなのがおったんじゃあ、運動会の開催そのものが危うい)

龍驤(仮に開催まで漕ぎ着けたとしても……計画が成就して、うちらが本館に戻れたとしても)

龍驤(……そこはもう、廃墟になっとるかもしれん……)

なんかすごい中途半端になってしまうが、明日朝が早いのでもう寝ますゆるして
明日ちゃんと続きをキリのいいところまで書くのでゆるして
あと遅くなってごめんなさいゆるして

遅くなった理由は……この時期に土日に朝が早いってところで察していただければ……

続き


---司令室---


島風「提督ー!雪風連れてきたよ!」

雪風「…………」

提督「ん、ありがとう。もうすぐ大淀も来るはずだ。雪風には彼女から『検査』を受けてもらうけど、何、心配いらない。注射とかしないから、痛くもなんともないよ」

島風「大丈夫だよ雪風!本当に痛くも痒くも怖くもないから!読んで字のごとく『視て』もらうだけ!」

雪風「…………」

提督「……君の史実での活躍は、読ませてもらったよ」

島風「え?」

雪風「…………」

提督「『奇跡の駆逐艦』……だったそうだね。まるで悪魔にでも魅入られたような強運を持ち、数多の戦場を渡って尚、その全てで生還を果たした。そして」

提督「……多くの、あまりにも多くの仲間が、君の目の前で……沈んでいったと」

雪風「…………」

島風「…………!」

提督「昔の記憶を引き継いでいなくとも、もしもその『強運』の特性が君に、スキルとして宿っているのだとしたら……」

提督「そのスキルが君に、昔と同じ地獄を見せているのだとしたら……君がそうして塞ぎ込んでいる理由は、痛いほどわかる。……でもね、雪風。僕は……」


雪風「違います」


提督「…………え?」

雪風「確かに記憶は引き継いではいませんが、自分の史実くらいは知っています。しかし私は、その時の自分が地獄を見ていたとは思えませんでした。何故なら」

雪風「私は悪くない。……否、悪くなかった、と言うべきでしょうかね。在りし日の私は何一つ悪くなかった。何一つ落ち度はなかった」

雪風「私はただ暴力的なまでに運が良かっただけで、実際に味方に暴力を振るったりしたわけではありません」

雪風「資料には、『仲間が私の身代わりになって沈んだ』みたいに書かれていましたが……言いがかりも甚だしい」

雪風「私は運が良かった。私以外は運が良くなかった。それが何度も、ただ続いただけです。ただそれだけ、それ以外の何物でもありはしない」

雪風「だから私は悪くない。悪くなかった。だから私は何も思わない。何も感じない。だから私は、そんな昔のことは引き摺らない。塞ぎ込んだりはしない」

提督「…………」

島風「…………」

雪風「……でも、今は違うんです。今、この私は、違うんです」

提督「違う……?」

雪風「…………」


雪風「私は、悪い」



ガチャリ……


提督「!」

大淀「はぁ、はぁ……申し訳ありません、遅くなってしまって……!それで、検査対象はどちらに?」

提督「あ、ああ。そこの島風の隣の娘だ、頼むよ大淀」

大淀「はい。えー…………」

雪風「…………」

大淀「……っ…………と…………?」

提督「…………?」

島風「…………?」

大淀「……………………」

島風「……おーい?大淀さ……」



大淀「きゃあああァァァァァァァァァアアアアアアッッ!!!」ダッ



バタンッ!


島風「!?」

提督「島風ッ、追いかけろ!」

島風「う、うん!」ヒュッ

島風「おおよ……うわっ!?」



大淀「」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ



島風「て、提督!大淀さんが……大淀さんがおかしくなっちゃってる!」

提督「…………!!」

提督「……雪風……君は一体……!?」

雪風「……………………」

雪風「…………失礼します」クルッ

提督「あっ!お、おい……」

提督「……………………」


---
------
---------


大淀「…………」スー…スー…


提督「…………」

電「外傷は特に見当たらなかったようですが……精神の方を、ひどくやられてしまっているみたいなのです」

提督「ちょっと覗いただけでこれか……。本当に陽炎型は、どいつもこいつも規格外すぎる……くそっ!」

電「司令官……」

提督「……すまない。司令室に戻って、少し頭を冷やしてくる……。電はここでしばらく、大淀を看ていてあげてくれ」

電「わかったのです」

電「…………」

大淀「…………」スー…スー…

大淀「…………っ……!」

電「!気が付きましたか?」

大淀「電……ちゃん?私は……?」

電「え、えっと……その……」

大淀「…………!ああ、そうだわ……私はあの娘の内側を、覗いてしまって……」

電「あ、あまり思い出さない方が……」

大淀「……確かに、恐ろしかったわ。思い出したくもないほどに……でも、事故のようなものとはいえ、結果的に『これ』を知ることができた私が、動かなければ……!」

電「……一体貴方には、何が視えたのですか……?」

大淀「電ちゃん」

電「はい?」


大淀「わけは聞かずに……赤城さんを呼んできてくれる?」


---翌日---


島風「提督ッ!!」ヒュンッ

提督「どうした?」

島風「雪風が……雪風がどこにもいないの!鎮守府中を探し回っても、どこにも……!」

提督「何だって……!?」

提督(冗談じゃない……!元々は牢屋に繋がれていたような奴を!大淀をあんなにした奴を!野に放っていいはずがない!)

提督(それに……彼女からはまだ、何も聞けていないんだ!陽炎型のことも!不知火のことも!)

提督「待ってろ島風。必ず見つけ出す……!」


ジリリリリリリリ……


提督【古鷹型重巡・古鷹に伝達。大至急司令室まで来られたし。繰り返す……】


---
------
---------

古鷹「…………!いました!南西諸島海域、カムラン半島付近に目標を確認!」

提督(南西諸島……元いた鎮守府に帰ろうとしているわけではないのか?何が狙いだ……?)

島風「南西諸島だね!わかった!」

提督「!待て島風、迂闊に動くのは危険……」


ヒュッ


提督「……遅かったか……!」

古鷹「!!し、島風さん、対象と接触しました!は、速すぎる……!」

提督「古鷹はそのまま監視を続けて!状況を随時僕に報告!


---カムラン半島---


島風「雪風ッ!!」

雪風「…………」

島風「雪風……急にいなくなったりして、心配したんだよ!一体どうしちゃったの!?」

雪風「…………」

島風「……も、もしかして、私が何か気に触るようなこと言った?だとしたらごめん!謝る!」

島風「私、友達とか……いたことなくて……!人との付き合い方とかも、よくわからないの!だから無意識のうちに貴方を傷つけてしまったのかもしれない!」

島風「だから……嫌なことがあったら、遠慮せずに言ってくれればいい!そしたら私直すから!だからお願い!戻ってきて雪風!!」

雪風「…………」

島風「また一緒にご飯食べようよ!また一緒に寝ようよ!また一緒に……!」


雪風「貴方もしつこいですね」

島風「…………!?」

雪風「口で言わなければわかりませんか?私は貴方と……貴方がたと仲良くする気など、毛頭無いということが」

島風「…………!なん……で……!?」

雪風「これ以上私に関わらないでください。では」クルッ

島風「嫌だ!!」ヒュンッ

雪風「!」

島風「それでも私は……!私は貴方と!一緒にいたい!!」

雪風「……………………」

雪風「…………わかりました」

島風「!ほ、本当!?じゃあ……」

雪風「なら、知るといいです。私と一緒にいるということがどういうことなのか……貴方自身の身体で」

島風「…………え?」

雪風「付いてきてください」

雪風「……いましたね。あれでいいでしょう」

島風「あれって……」


イ級【ギ……】


雪風「一匹だけですね。隊からはぐれたのでしょうか」スッ

島風「戦うの?」

雪風「貴方がやれば簡単でしょうが、手は出さないようにお願いします。たとえ私がどんな窮地に陥っても……です」

雪風「いいですか、絶対ですよ。貴方は私と一緒にいたいのでしょう?ならまずは、私を信じてみせてください」

島風「う、うん、わかった。手は出さないよ」

雪風「…………」ザッ…

イ級【!】

島風(!気付いた……!)

イ級【ギギィ……!】ガシャンッ

雪風「…………」スィー…

イ級【ギ……?】

島風(!?な、何やってるの!?敵が砲を構えてるのに、あんなにゆっくり、しかも真っ直ぐ近づいていったら……!)

イ級【ギ……!】

雪風「…………」スィー

島風(このままじゃ確実に撃たれる……!でも私に手を出すなって言うってことは、何か手があるのよね……?)

イ級【…………!】


イ級【ギィッ!!】


ドゥッ!


島風(!!)

雪風「…………」


ドカアアァン……!


島風「…………」

島風「……………………」

島風「……………………え?……え??」

雪風「…………」

島風(無傷……雪風は、無傷?撃たれたのは……)


島風(……私…………??)

イ級【ギッ!?ギギ!?】

雪風「…………」スィー…

イ級【ギ……ギィッ!!】


ドゥッ!


ドカアアァン……!


島風「がっ……は……!?」

島風(な、何で!?敵の砲弾は間違いなく雪風に飛んでいってる!それでちゃんと雪風に当たって爆発してる!なのに雪風は無傷で、私にダメージが……ど、どういうこと!?)

雪風「…………」スィー…

イ級【ギイィ!?ギッ!ギッ!!】


ドゥッ!ドゥッ!


島風「ちょっ、やめ……」


ドドカアアァァン……!!


島風「ぐうぅ……ッは……!!」

雪風「…………」ガシッ

イ級【ギイィッ!!ギ、ギギ……!】

雪風「…………」ジャキン

イ級【ギ……!!】


ドグシャッ……


雪風「…………」

島風「……はぁ……はぁ……」ボロッ…

雪風「……この過負荷の名前は『志慮の事故<カウンター>』。私の受けるダメージを、別の人間に移し替えることができます」

雪風「今の砲撃は、着弾した私が受けるはずだったダメージを移し替えて、代わりに貴方に差し上げました」

島風「…………!」

雪風「しかしこのスキル、言うほど単純なものではないようでしてね。使っているうちに、いくつかの制約があることに気付いたんです」

雪風「まず第一に、ダメージを移し替える対象を自分で選ぶことができない。選択権はなく、ある法則に従って自動的に選ばれているようです」

雪風「私に『物理的に近い順』と『精神的に近い順』……この二つの法則。私との距離が近ければ近いほど、私と親しければ親しいほど、このスキルの標的になりやすくなる」

島風「雪風に……近いほど……?」

雪風「はい。ですから一言にまとめれば、私の過負荷はこう言い表せますね」



雪風「『ダメージを『仲間に』押し付けるスキル』と。どうです、醜いでしょう?」


雪風「そしてもう一つ。このスキル、自分でオフにできないんです」

島風「…………!?」

雪風「私の意思とは関係なく、私の志慮など全く介さず、私の過負荷は発動してしまう」

雪風「どんなに傷付きたくても、どんなに傷付けたくなくても、私は絶対に傷付くことはできないし、傷付けないことはできない」

雪風「『仲間を身代わりに生き永らえた』……史実での、私に対するこの認識は誤りです。ですが今の、私に対する認識はこれで正しい」

雪風「私は、ただここに存在するだけ……ただそれだけで仲間を犠牲にし続けなければならない、おぞましい怪物」

雪風「そんな怪物に、仲間などいてはいけないんです。初めからいなければ、犠牲になどなりようがありませんからね」

島風「…………!!」

島風(そうか……だから前の鎮守府では、あんな牢屋に……!あそこの人たちと、仲間に『なってしまわないように』……!)

雪風「これでわかりましたよね。私と一緒にいるということがどういうことなのか……。それはつまり『死』です。友情なんかよりも確実な、ね」

島風「…………」

雪風「……では、さようなら」

島風「……………………」



ヒュッ



雪風「!?」

雪風(ここは……島風の部屋!?)

島風「…………」

島風「ば〜〜〜か!!」

雪風「……は?」

島風「何が過負荷だ!何が怪物だ!何が犠牲だ!そんなのしーらない!!馬の耳に念仏!!私の耳にネガキャンだよ!!」

島風「何を言っても無駄!何を見せても無駄!無駄無駄無駄ァ!!私はぜーったいに諦めないもんね!!だから無駄な抵抗はやめて!おとなしく!!」



島風「私の友達になれ!!」


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月11日 (土) 18:53:42   ID: GcJwKYPU

見覚えあるスキルがちらほらあるなと思ったら、安心院さんのか

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