/* このスレを読む前に */
・艦隊これくしょんの二次創作SSです、ダメな人は回れ右
・更新が滞ったりエターナっても泣かない
・キャラ崩壊や気に入らない描写があったら「これは別の世界線の話だ」と自分に言い聞かせてください
・細かいことは気にしないと幸せになれる
提督が100レスの間で艦娘たちと青春(?)を過ごす、台本形式の物語です。
>>1はSSどころか小説めいたテキストを書くこと自体が中学校以来の経験になるので相当アレかもしれませんが、頑張ってナイスなお話を繰り広げていきたいです。
ちなみにあんまり安価イベントは少ないかもしれませんがよろしくお願いしますです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406430463
/* ルール説明 */
・>>1が1レスずつ物語を投稿していきます。(名前欄にレス数のカウントが表記されます 例:1/100)
レス数が100になったら物語はおしまいになります。また新たな設定とストーリーで100レス……ってのを>>1が飽きるまで続けていきます。
・物語が開始する前に、ヒロインとなる艦娘6人および提督のステータス、コメディ・シリアス判定を安価で決定します。
・レスが進行するにつれて艦娘との好感度がアップしていきます。
/* 能力値説明 */
コンマの数が大きければ大きいほどそのステータスが高くなります。(最小値00・最大値99)
ステータス値によって提督の性格が概ね決定される感じです。
勇気:提督の勇気を司る。このステータスが高いと、身体能力が向上・土壇場で退かない、などの効能が発揮されることがあります。
また、一部の艦娘の好感度が高まりやすくなります。(例:木曾・長門)
知性:提督の知性を司る。このステータスが高いと、エリート的地位になりやすい・窮地を知略で退ける、などの効能が発揮されることがあります。
また、一部の艦娘の好感度が高まりやすくなります。(例:鳥海・霧島)
魅力:提督の魅力を司る。このステータスが高いと、芸術的センスや技能が向上・どこか人を惹きつける、などの効能が発揮されることがあります。
また、一部の艦娘の好感度が高まりやすくなります。(例:鈴谷・北上)
仁徳:提督の仁徳を司る。このステータスが高いと、他人に嫌われにくい・自分や他人を悲しませない、などの効能が発揮されることがあります。
また、一部の艦娘の好感度が高まりやすくなります。(例:榛名・電)
幸運:提督の幸運を司る。ありとあらゆることに影響したりしなかったりします。
/* 好感度説明 */
(基本的に)1レスごとに艦娘との好感度が少しずつ向上していきます。
100レス到達時点で最も好感度の高かった艦娘とEDを迎えます。(ハーレムENDはありません)
また、好感度が高くなると態度が少しずつデレていきます。
好感度0 ~10:知り合い・顔見知り
好感度11~30:友人
好感度31~40:異性として意識し始める
好感度41~50:恋慕
50を超えたらその娘とのEDで確定的な扱いになっていきます。
また、色々と暴走し始めるかもしれません。
(R-18的描写は物語上必要であればやるかもしれませんが基本ナシの方向です)
/* コメディ・シリアス判定説明 */
00~99の範囲内で決定されます。(最小値00・最大値99)
数値が低いほどコメディ寄り(日常系・ギャグ系・ラブコメ系)に、
数値が高いほどシリアス寄り(戦闘系・悲恋系・ハードボイルド)になります。
大体20切るとヤマなしオチなし意味なし風になります。
大体80超えると人死にが出ます。
/* 初期設定安価 */
一人目 >>+1(コンマで提督のステータス「勇気」が決定)
二人目 >>+2(コンマで提督のステータス「知性」が決定)
三人目 >>+3(コンマで提督のステータス「魅力」が決定)
四人目 >>+4(コンマで提督のステータス「仁徳」が決定)
五人目 >>+5(コンマで提督のステータス「幸運」が決定)
六人目 >>+6(コンマで「コメディ・シリアス判定」を決定)
※無効レスや被りが起こった場合は>>+1シフト
アレコレ小難しいこと書いたけれど物語に登場させたい艦娘の名前書けばいいだけです。
あとはコンマの力を借りて>>1が物語を考えていきます。
/////チラ裏/////
ぶっちゃけ>>1がストーリーを創る能力や文章能力を向上させるための試みみたいなモンであって、
コンマの初期設定通りにちゃんと書いていく自信はあんまりないのです。
そもそも100レスで上手いこと6キャラとフラグを立てたりしつつ起承転結させるとかクッソ難しそうですし……。
とりあえず「男は度胸! 何でもためしてみるのさ」的精神で立てたスレなので、ある程度の粗や遅筆は許してくだされ~。
ア、ハイ。ドウモ、皆サンアリガトウゴザイマス。
ヒロイン
電・皐月・磯波・如月・満潮・朝潮
提督ステータス
勇気:41(人並み)
知性:31(下の上~中の下)
魅力:10(ないです)
仁徳:42(人並み)
幸運:62(やや高め)
コメディ・シリアス判定:89(サツバツ!)
こんな感じで行きます。
これからお出かけなのでお出かけ先で頑張ってあれやこれや考えます。
とりあえず頑張って構想は立てたから、なんとかなるはず……。
とはいえ初っ端からいきなりコンマ神の洗礼を受けたのはなかかなか衝撃でした。
/* 補足的なサムシング */
・大体10レスぐらい進むと安価かコンマイベントが発生します。
・各種能力値に、『このステータスが高いと、一部の艦娘の好感度が高まりやすくなります』
と書きましたが、逆にステータスが低いと好感度が高まりにくくなることもあります。
コンマによる能力値補正早見表
00~20:好感度が10超えるまでマイナス補正(好感度の上昇度合いが50%になります)
21~40:好感度補正なし(ただし、作中で平均以下の能力であるという描写がなされる)
41~60:好感度補正なし(人並みの能力値です)
61~80:好感度補正小(好感度が少し上がりやすいです)
81~90:好感度補正中(好感度が上がりやすいです)
91~99:好感度補正大(好感度が結構上がりやすいです)
※運は好感度には影響はありませんが、安価やコンマイベント等で効果を発揮することがあります。
それでは『艦これ100レス劇場 第一部』開幕します。
/////チラ裏/////
コンマ補正に関する補足書いたけど、運以外に取り柄のない今回の提督には何の好感度補正も発生しない。アワレ!
むしろ魅力のマイナス補正が足を引っ張って一部艦娘と好感度が上がりにくい事態に。
っていうかほのぼのラブコメ書くつもりでいたらこれだよ……やってくれるぜコンマ神。
シリアスムードが漂う感じなので、ステータス的にはポンコツ提督だけどあんまり無能に描くのも難しそう。
無能すぎて皆死んじゃったら困るし……なんてことを考えながらストーリーを練ってます。
史実ネタはあんまり詳しくないのでそれっぽい深刻なアトモスフィアを漂わせつつもわりとテキトーです。
ほら、>>1って理系だからさ……(言い訳)
俺設定全開だけど覚悟はいいよね、答えは聞いてない!
提督「ここがこれからの僕の職場か……」ゴクリ
ギィィ…… (ドアを開ける)
提督「ただ今より着任しました、提督と申します! よ、よろしくお願いします!」迸る緊張オーラ
電「初めまして司令官さん。電です。どうか、よろしくお願いいたします」
皐月「皐月だよっ。よろしくな!」
朝潮「駆逐艦、朝潮です。よろしくお願いします!」ビシッ
磯波「あ、あの…磯波と申します。よろしくお願いいたします」
提督(女の子が兵器として戦うとは聞いていたが……まさか本当にこんな感じだとは……)
提督「皆、よろしく頼むね。ところで、ここに居るのは全員で六名だと聞いているけれど、他の二人はどうしているのかな?」
磯波「あ、あのぅ……それが、二人とも用事があるそうで……。明日の作戦会議には出席するそうなのですが……」
提督「ん、そうか。分かった(よくわからないけど)」
皐月「ところでさ司令官。司令官ってボクたちと年齢があんまり変わらないよね? もっと年上の人が来ると思ってから、意外だったな」
提督「ちょっとしたコネでね……僕を拾ってくれた恩人が海軍に居るんだ。頑張ってその人の期待に答えなきゃと思ってね」
朝潮「それは……大佐殿でありますか?」
提督「おぉ、大佐さんが派遣してくれた有能な駆逐艦っていうのは君のことかな。よろしく頼むよ」
電「司令官さん。電や皐月、磯波は司令官さんと同じように、つい最近着任したばかりなのです。朝潮にこの鎮守府を案内してもらうといいのです」
提督「分かった。そうしよう」
朝潮「ここが工廠です、といっても……資材や資源が無いので、形骸化した施設となってしまっていますが……」
提督「なるほど。新たな艦娘を建造したり、艤装を使って近代化改修を行う施設だと聞いているよ」
朝潮「本部からの資源の支給が滞ってしまっていて、当面は我々駆逐艦のみで作戦をこなしていくしかないようです」
提督「ふーむ」
提督(本部っていうのはよく分からないけれど、僕や彼女たちのような子供を戦場に出すっていうことは、かなり逼迫している状況なんだろう)
提督(大佐さんに拾われて海軍の話を聞かされるまでは、この国がこんな状況になっていることなんて全然知らなかったな……)
朝潮「ここは食堂です。私たちはいつもここで食事を摂ります」
提督「なるほどね」
朝潮「入渠ドックです。戦闘で負傷した艦娘の艤装や装備を修復します」
提督「うん。作戦が完了する度に皆をここで入渠させれば良いってことかな?」
朝潮「被害規模によりますね。もちろん、大規模な作戦の直前や大破した艦がいる場合は入渠させる必要がありますが、
かすり傷や小破程度の場合は、敢えて出撃させるのも選択肢の一つなようです。入渠できる艦にも限りがあるので」
提督「むずかしいなぁ」
・・・・
朝潮「……案内は以上です。何か分からないことはありましたか?」
提督「ん、いや。大丈夫。大体分かったよ、多分」
朝潮「司令官、今後ともよろしくお願いします!」ペコリ
提督(すこし堅物そうだが……信頼してくれているみたいで何よりだ)
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朝潮の好感度+1
提督「朝潮から施設や執務の説明は受けたものの……いまいち要領を得ないなぁ~」ペンを鼻と口に挟みながら
コンコン
電「司令官……執務はどうですか?」
提督「順調だと言いたいところだけど、まだ慣れないや」
電「そうですか……電と一緒ですね」
提督「?」
電「電は士官学校を出たばかりですから。分からないことばかりなのです」
提督「さっき一緒に居た、ええと……皐月や磯波もそうなのかな?」
電「……なのです。電たちは、明日の出撃が初陣なのです。司令官さんと一緒なのです」
提督「そうか。あの場には居なかった如月や満潮もそうなのかな?」
電「二人は違うのです。満潮も如月も、壊滅した別の小隊から再編成されてこの隊に配属されたみたいです」
電「二人とも朝潮に匹敵するほどの戦績はあるけれど、あまり司令官を信用していないみたいなのです」
提督「あー……これは手厳しいなぁ。なるほど」
電「はわわわ、違うのです。司令官さんを信用していないんじゃなくて、
指揮を出す人そのものを信じていない……そんな風に電には見えるのです」
提督「そっか(結局同じ意味なような気はしなくもないけど)」
・・・・
電「司令官……私の夢を、聞いてくれますか?」
提督「あぁ」
電「この世界を、戦争のない平和な世界にしたいのです」
電「沈んだ敵も、出来れば助けたいのです……」
提督「……素敵な夢だね」
電「司令官さん。これから、よ、よろしくお願いします! なのです!」
提督(自分の夢の話をして気恥ずかしかったのか、僕が次の言葉を発する前に顔を真っ赤にして執務室を走り去っていってしまった)
提督(僕は今まで何の夢も持たないまま、ただ生きるために生きてきたけれど……彼女は立派だなぁ)
提督(彼女の想いを実現出来るように僕も頑張らなければ)
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電の好感度+1
提督「夜か……そろそろ寝よう」
提督「明日は早速出撃だ。まだ全然どうしていいか分かってないんだけど、大丈夫なのかなぁ」
提督「とにかく、明日の作戦会議に備えて早く寝なければ……」
コンコン
提督「ん? いいよ入って」
磯波「磯波です。こんな時間にすみません」
提督「どうした? 何か話でもあるのかな」
磯波「その……明日の出撃のことなんですが……」
磯波「私……不安で……」
提督「……(ここで口にすべきではないだろうから言わないけど、僕も不安だな。正直)」
磯波「提督の指示が不安ということではないんですけど……私、死ぬのが怖いです」
磯波「もちろん、この隊を編成して最初の作戦だし、大きな被害を受けることはないという想定だとは分かっていますが……」
磯波「私、臆病ですか……?」
提督「いや、そんなことはないよ。誰だって死ぬのは怖いよ。僕も怖いし」
提督(あっ、ついうっかり情けない言葉がポロッと出てしまった)
磯波「ふふふ」
提督「? どうしたの」
磯波「いえ、提督が、こんなことを相談できるような方で良かったと安心しています」
磯波「私たち艦娘はあくまで兵器ですから。戦って、結果を出すために居るのですから」
磯波「だから、本当は、こんな弱音を、よりにもよって提督に、その……ごめんなさい」
提督「いや、いいんだ。死を恐れるのは悪いことじゃない。
それに、不安を打ち明けてくれてよかった。僕でよければ、また相談に乗るよ」
・・・・
提督(磯波、か……)
提督(僕は彼女たちの命を背負っているんだなぁ……)
提督(明日の作戦は半ば上からのお達しで行われるようなものだから、僕の裁量なんてあまり関係ない気はするけれど)
提督(そこから先の作戦は僕が練らなきゃいけなくなってくるわけか)
提督(気が重いなぁ……正直言って、指揮官として指示を出すことを甘く見ていた)
提督(かつて戦争で両親を失った僕を救ってくれた大佐さんの恩義に報いるために、なんて考えていたけれど)
提督(そんな理由でなるべきじゃなかったのかもしれないなぁ……)
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磯波の好感度+1
皐月「司令官、おはよう!」
提督「ん、おはよう。ノックもせずに人の部屋に入るのはどうかなと思うよ」
皐月「ごめんごめん。ボク、今日の初陣のことを考えてたら興奮して寝れなくて! ずっと待ち遠しかったんだ」
提督「寝てないのに大丈夫なの?」
皐月「うん、平気平気♪ 士官学校の頃からずっと、戦場で活躍出来る日を楽しみにしてたんだ」
提督「皐月は……不安じゃないのか?」
皐月「うーん、確かに不安もあるけど……でも、ボクたちは兵器だから。戦いで活躍することが最高の栄光なんだ」
提督(ボクたちは兵器か……。昨日の磯波もそんなことを言っていたな)
提督(見た目は僕たち人間と変わらない、いや、中身も人間と変わらないはずなのにな……)
提督(僕には正直言って、命の危険を冒して勝ち取る栄光に、何の良さがあるのか分からない)
提督(でも、彼女たちを戦場に送り出す身の僕がそんなことを言うべきじゃないな)
皐月「提督、どうしたの? 考え事?」
提督「ん? あぁ、いや平気だよ。気にしないで」
皐月「そっか! じゃあもうすぐ作戦会議の時間だから、執務室で会おうね!」
皐月「今日の僕の活躍を期待してねー!」
バタン (ドアを乱暴に閉めて去っていく皐月)
・・・・
提督(皐月……元気な子だな。少し危なっかしいが、ああいう子がいると頼もしいな)
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皐月の好感度+1
提督「作戦会議を開始する。満潮、如月、始めまして。以後よろしく頼むよ」
提督(来た当初はテンパってしまったが、さすがにもう落ち着いたぞ)
如月「如月です。よろしくお願いしますね」
満潮「ちょっと、何アンタ!? 新しい司令官が来るとは聞いてたけど……
アンタみたいなちんちくりんに指示出されるなんて……。ハァ、意味分かんない」
提督(酷い言われ様だなぁ……実際コネの力で入ったようなものだからある意味事実なんだけれど)
如月「ちんちくりん……くすっ」
提督(うわぁ……わりと傷つくなあ)
・・・・
満潮「で、これがアンタの立てた作戦ってわけ?」
提督「あぁ」
満潮「いくら上官から出された指示をこなすだけとはいえ、適当すぎるわ! つまらない戦略立てないでよね!」バンバン
提督「ちょ……あんまり机バンバンしないでよ……ボロいんだから……」
満潮「アンタのこの作戦じゃ緊急時に対応出来ないわ! もし敵に後続部隊が居たら各個撃破されるわよ? 私たちを殺すつもり?」
提督「いや……敵に余剰兵力はない想定での作戦だし、基本的に上官からの指示通りだからこれで正しいと……」
満潮「だからそれがダメって言ってるのよ! その想定が間違ってたらどうするの? アンタの上官の見通しが間違ってたら?
私たちが死んでもアンタは上官のせいにするの?」バン!バンバンバンバン
提督「ぐ、うぅ。すまない。じゃあ、どうすればいいか教えてくれ……いや、教えてください」
満潮「はぁ、話にならないわね。いい、まずは……」
・・・・
満潮「これで少しはマシになったんじゃない。いい? この作戦でいくわよ」
提督「う、うん(もう満潮が提督やればいいんじゃないかな……)」
満潮「じゃあ、午後から出撃ね」
提督「ア、ハイ。じゃあ皆解散」
・・・・
提督(なんで皆部屋から出て行ったのにこの子だけ残ってるのマジでストレスで胃がマッハなんですけど辛いんですけど)
満潮「……」ジトーッ
提督(めっちゃガン飛ばされてるし……)
満潮「……」(無言で提督に歩み寄る)
提督「ちょ、何す、うわっ……みゅみゅみゅみゅみゅ」ホッペグニュー
満潮「何間抜けな顔してんのよ! ヌボーッとした顔して何考えてんだか知らないけど、覇気が無さ過ぎるわ」
満潮「アンタは置物じゃないんだから、もっとしっかりしなさい! いいわね」
バタン
提督「」(放心状態)
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満潮の好感度+1
満潮「いい、出撃するわよ!」
朝潮「朝潮、出ます!」
皐月「皐月、出るよ!」
如月「如月、出撃します」
電「出撃なのです!」
磯波「うぅ……が、頑張ります!」
・・・・
提督(僕の、そして僕たちの初めての作戦は……何ら問題なく完遂することが出来た)
提督(結果論で言えば満潮の危惧したような事態にはならなかった)
提督(それもそのはずだ。鎮守府近海の警備作戦なのだから、大規模な敵襲があれば、
僕らの隊じゃなくてもっと強力な戦力を持つ部隊にお鉢が回ることになるだろう)
提督(だが、満潮に指摘されたように、僕は緊急時の対応を考えることを怠っていた。
これは勝てる戦だという無意識下での慢心があった。恐らく彼女は僕の慢心と見通しの甘さを看破していた)
提督(だからああやって突っかかってきたんだろうな……ハァ)
提督(今後はこう容易く勝利出来るような状況ばかりではなくなるだろうし、もっと頭を使わなければ……)
提督(彼女たちは兵器であり兵士だ。最前線で敵に被害を出すことが存在意義だ)
提督(そして僕はその指揮官だ。敵を打ち倒す策を練り、彼女たちの被害を抑える最善の案を考えなければならない……)
如月「ふふふ、司令官。どうしたのかしら?」
提督「ん、あぁ如月。そういえば君とはまだあまり話をしていなかったね」
如月「そうねぇ……昨日はずっと海を眺めていたから。ごめんなさいね」
如月「私も見たかったわぁ……『ただ今より着任しました、提督と申します! よ、よろしくお願いします!』のシーン」
提督「うぐぐ、いや、アレは緊張していてだね……(うわぁ、噂になってるのか……)」
如月「ふふふ、可愛いのね。司令官は」
提督「か、可愛いって……あのなぁ」
如月「満潮ちゃんに苛められてて可哀想だったわねぇ、司令官」
如月「私が慰めてあげようか♥」
提督「い、いや。結構だ」シドロモドロ
提督「というか、さっきまでその事で悩んでいたんだよ」
如月「そうねぇ、はじめの内は誰だってしょうがないわよ」
如月「司令官は、今出来る範囲でやれることをすればいいのよ。出来ないことや分からないことは悩んだって仕方ないでしょ?」
提督「今やれること……か」
提督「(如月か、ミステリアスな子だな……。でも、思ったより嫌われてないみたいで良かったな)」
提督「(電が、満潮同様に信用してなさそうに見えると言っていたから不安に思っていたが……)」
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如月の好感度+0.5(低魅力によるマイナス補正発動)
如月「司令官は、何のために戦っているの?」
提督「何のために……考えたことも無かったな」
如月「でも、なんとなくで軍人になる人はあまり居ないはずよ。それも、私たちと同じぐらいの見た目に見えるぐらいの若さで司令官だなんて聞いたことないわ」
提督「じ、実は……見た目が同じぐらいというか、多分本当に同じぐらいの年齢なんだ」
如月「何歳なの?」
提督「じゅ、じゅうよん……です」アセアセ
如月「あはっ。あはははは。私より年下じゃない」ケラケラ
提督「その、なんていうか、イリーガルというか裏口な方法で入ったもんだから……(そんなお腹を抱えて笑えなくても……)」
如月「年齢詐称なんて度胸あるわねぇ。うふふふふ」
提督「いや、僕の両親が事故で亡くなってね。それで、親戚の大佐さんっていう方が僕の義理の親になってくれたんだ」
提督「僕はその人をとても尊敬してるし、感謝してる。ずっと、あの人の力になりたいと、そう思って過ごしてきたんだ」
提督「その事を大佐さんに伝えたら、『そうか。実を言うと、今の軍部は猫の手も借りたいほど人手不足なんだ。
士官学校上がりも勉強だけは得意だが、実戦になると途端に使い物にならなくなるような連中ばかりでね。
年齢も低いし、頭もそんなに良くない提督君だが、連中よりは役に立つと思うんだ。協力してくれるな? なぁに、経歴は上手くごまかしておくさ』って」
提督「で、気がついたらこうなっていたと」
如月「多分、その人結構ダメな人だと思うな……(っていうか、義理の息子に対してわりと辛辣ね……)」
提督「大佐さんからは、艦娘っていう人型の兵器で深海棲艦という海の化物と戦いを指揮する仕事だーぐらいしか言われてなくて、
具体的な話は何にも受けてないから今こうして苦労してるんだよね」
如月「そ、そう」
提督「君の言うとおり、結構ダメな人かもしれないけれど、僕は大佐さんの力になりたい。だから、こうしてここに来たんだ」
提督「そのために、もっと頑張らなきゃな……」
提督「おっと、もうこんな時間か。おやすみ如月!」
如月「ええ、おやすみなさい」
・・・・
如月(これから不安だわ……)
----------------------------------------------------------------------
如月の好感度+0.5(低魅力によるマイナス補正)
提督「さて、今日も執務執務っと」
提督「まず何からこなせばいいんだっけ」
・・・・
バァン! ゾロゾロ (執務室に押し寄せる艦娘たち)
満潮「全く指示がないと不安に思ってたら、何やってんの!?」
提督「いや、執務だけど」
満潮「見りゃ分かるわよ! なんで秘書艦がやるような仕事をアンタがやってんのって聞いてるの」
提督「秘書艦?」ワッツ?
朝潮「失礼しました司令官。秘書艦について説明するのを忘れていました。いえ、さすがにご存知かと思っていたもので……」
磯波「あ、あの……秘書艦は提督の業務を補佐する役職です。書類整理や資源の管理報告など、事務作業全般を行います」
電「司令官一人で全部の仕事を抱え込むのは大変なのです」
提督「ん、あぁそう。そうなのか……」
皐月「司令官は、今後の作戦のことに集中しなきゃね」
如月「で、誰を秘書艦にするんですか?」
提督「うーむむ」
【安価イベント発生】
安価>>+2で秘書艦を決定
(秘書艦になった艦は好感度が上昇しやすくなります)
提督(うーん、普通に考えれば経験豊富で戦略眼のある満潮になるかな……前回の作戦でもかなり的確な作戦を練っていたし……)
提督(ただ、秘書艦は報告等の雑務もこなす……となるとな。正直満潮と上手くやっていける自信は今のところない)
提督(じゃあ大佐さんが派遣してくれた朝潮はどうか……? 彼女も知識はありそうだ)
提督(しかし、どうも僕の指示や考えに従順すぎるというか、満潮ほどじゃないにせよもう少し批判的な目も持っている子の方が良いのかもしれないな)
提督(あとは経験で言うと如月だが……彼女もまだ見えていない部分が多すぎるんだよなー。本心はどこにあるんだろう)
提督(となると……磯波は秘書艦には向いてそうだな。だが、彼女は少し気弱すぎるきらいがあるよな)
提督(もう少し自分に自信を持ってもいいと思うんだが……。前回の作戦でもある程度戦果は上げられていたにも関わらず未だに不安が拭えないような態度が見受けられるんだよな)
提督(皐月……か。皐月はなぁ、秘書艦の仕事をさせるよりも前線に出してあげた方が喜びそうなんだよな。戦略や戦術の話には結構乗り気だしな)
提督(となると、電か。いや、しかし電もなぁ……僕が言うのもなんだけど精神的に脆そうな部分があるんだよなぁ。大丈夫かなぁ)
ふと提督の脳裏に電の言葉が浮かぶ。
『司令官……私の夢を、聞いてくれますか?』
『この世界を、戦争のない平和な世界にしたいのです』
『沈んだ敵も、出来れば助けたいのです……』
提督(……彼女の夢を信じてみるか。僕も彼女の想いに応えたい)
・・・・
提督「秘書艦は電に任命する」
電「はわわわ、よろしくなのです! 司令官」
----------------------------------------------------------------------
電の好感度+2(秘書艦の間、電の好感度上昇率が200%になります)
本日はここまで
(秘書艦の間、電の好感度上昇率が200%になります)とか日本語がややおかしなことになったので下の表を見てくだしあ
【好感度まとめ】
電:3(好感度上昇+2) 秘書艦
皐月:1(好感度上昇+1)
磯波:1(好感度上昇+1)
如月:1(好感度上昇+0.5) 低魅力によるマイナス補正
満潮:1(好感度上昇+1)
朝潮:1(好感度上昇+1)
あ、ちなみに提督の呼称は基本原作準拠です。
司令官と呼んでくる子は司令官と呼びますし提督と呼ぶ子は提督と呼びます。
今回の場合、磯波しか提督って呼んでくれないんですけどね。
あんまり気にすべき点ではないと思うので、あんまり気にしないでください。
/////スーパーチラ裏タイム/////
昼パスタ、夜パスタのスパゲッティマンです。
正直10レスでもう心が折れそう。情けない。なんと情けない。実際情けない。
アレですね、上手くキャラを立てたり、キャラ崩壊しないようにキャラの魅力を引き出すってゲロ吐きそうな気持ちになるほど難しいですね。
物書きナメてました。いざ自分でやってみると頭おかしくなりそうです。
とりあえず各艦の紹介+提督について+秘書艦の決定と、最初なのでスローな感じの流れですがこっから先はそれなりに物語の速度は上がっていくのかなぁと。
100レスで完結させるのであんまり風呂敷広げるわけにもいかねーのです。
今日は一気に10レス進みましたが明日以降はこんなにガツガツ進められないでしょうし、更新頻度もそんなに高くない感じになると思うんでそのつもりで。
あんまり育ててない艦ばっかりで自分の頭の中でのキャラを固定化させるのに少し苦戦しています。
もうちょっと駆逐艦の子の魅力を知らないとダメだなあ。
いっそロリコンになるか! 来いよ憲兵! 銃なんか捨ててかかって来い!
……真面目な話インプット増やしてもっと魅力的に描写出来るように精進します。ではでは
あ、一個書き忘れてました。補正の話。
【各ヒロインの能力値による好感度補正】
電:仁徳
皐月:勇気
磯波:仁徳
如月:魅力
満潮:知性
朝潮:知性
それぞれのキャラに対応する能力値が高いor低いと補正が発動します
(といっても今回の場合、如月のマイナス補正以外効果なし)
各能力値の高さによる補正度合いは>>15参照
今回の場合若干死に設定になっちゃってるというか出落ち感が強いのでなんかイベントでテコ入れするかもしれないです。
/////チラ裏/////
こんな提督で大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない。
実際ポンコツスペックではあるがそこそこ高い運とシリアス気味なストーリーによってそこまで酷くはない感じになってる。
ちなみにこれで運まで低かったら成長性も何もないダメなオッサンとかになってた可能性も微粒子レベルで存在していたかも。
低スペックを将来への可能性と見ればそんなに悲観的になるほどではないのかな。ちゃんと成長出来ればの話だけど。
シリアスなストーリーだとさ、あんま下手な事やらかしたらすぐキャラ死んじゃうじゃん。
特に提督だから指揮しくじると皆の死に直結するじゃん。それは悲しいじゃん……。
艦娘についてもそれぞれ語りたいところではあるけどこれ以上は蛇足すぎるというか後のストーリーに影響ありそうだから書かないでおく。
原作への愛はかなりあるつもりですが、>>1の提督暦が比較的短いため各艦娘への理解度が浅いのとあんまり史実に詳しくないせいで、
なんか、こう、「愛はあるんだけど! 愛はあるんだけど! 伝われ僕の想い!!」っていうもどかしさがあります。
もっと良い感じに描きたいんだー! こう、なんていうか、脳内で「萌えとは何か?」みたいな哲学的領域に入ってます(迷走ともいう)
いやホント艦これ楽しいよマジで。みんな娘のように可愛いよマジで。目に入れても痛くないよマジで。いやマジで。
日に1~2レスぐらいちびちび投下していくのと10レス分ぐらい溜まったら投下するのではどっちが良いんだろうか。
とりあえず明日の20時ぐらいに投下する予定です(たぶん5レス分ぐらいになるかな)。
/////チラ裏/////
今日分かったこと:職場で仕事をしながらこっそりSSを書くのは存外難易度が高い
あと榛名改二が遠いです先輩
もう残業はいやでち……定時で帰りたいでち……給料もっと欲しいでち……
というわけで(どういうわけで)ちょっとまだ本日分を書ききれてないです。
いや、既に数レス分あるのですが、ちょっともう一度目を通しておきたいのと書きかけのやつを片付けたいので……。
とりあえず出来たところまで投下していきますね。書きつつ進めるんで投下速度はスロウリイです。では始めまする
電が秘書艦になってから数日後、僕は執務室で願書を書いている。
重要度が低いわりに数が多い類の処作業を電がやってくれているおかげで少し時間が出来た。
おかげで、ある程度自分の都合のために時間を割くことが出来る。
この願書も自分都合のものだ。
大佐さんには拾ってもらった恩はあるが、ここの司令官として仕事をするようになってからというものの、聞いたことの無いよ
うな話ばかりだ。
『少女のような兵器、兵器のような少女たちの指揮を執って、襲い来る敵艦を倒す仕事だ』
まともな説明もしないまま、大佐さんはなぜ僕をここに放り込んだんだろうか。
いくら国家の危機とはいえ僕のように右も左も分からない者に指揮をさせるのには何か理由があるとしか考えられない。
しかし、だとすると、なおさら僕に対してこの仕事に関する詳細な説明を一度もしなかったことに対して納得できない。
とにかく、直接会って事情を尋ねなければ。そう思い立って、願書を書いている。
それにしても、上官とはいえ一人の人間に会うために、こんな大量の書類を書かなければならないとは……。
・・・・
電「司令官、作業が一通り終わったのです」
提督「あぁ、お疲れ。だいぶ秘書艦として板についてきたね」
電「提督もお疲れ様なのです」
提督「あぁ、お疲れ。電が居てくれて助かるよ」
電「えへへ……嬉しいのです」
電「それにしても、司令官が秘書艦が何かすら知らなかったのはビックリしたのです」
提督「むむぅ、またその話かー。勘弁してくれよ」
電「司令官はよっぽど士官学校で居眠りして過ごしていたんですね」
提督「あははは……手厳しいね(本当は士官学校すら行っていないということは黙っておこう)」
電「でも、ちゃんとこの鎮守府に来てからは頑張っていて、尊敬します」
提督「僕が頭抱えて必死にうんうん唸ってる姿に? 客観的に見て尊敬される要素がないと思うんだけど」
電「はわわ、そういう意味じゃなくて……」
電「確かに司令官は、本来司令官として知っていなきゃいけないことをあんまり知らないみたいだし、朝寝坊したり制服がよれ
ていたりずぼらな所もあるけど……」
電「司令官は、電たちの司令官になろうとして、一生懸命頑張っているのです。電にはそれが嬉しいのです」
電「今は厳しく司令官のことを叱っている満潮も、きっといつか認めてくれると思うのです」
提督「ありがとう、電。おかげでこれからも頑張れそうだよ」
・・・・
提督(電……天使か!)
『「確かに司令官は、本来司令官として知っていなきゃいけないことをあんまり知らないみたいだし、朝寝坊したり制服がよれ
ていたりずぼらな所もあるけど……」』
提督(生活態度って案外見られてるもんなのねー)
提督「おはよう。朝潮」
朝潮「司令官、おはようございます! 今日はお早いお目覚めですね」
提督「いや、ちょっとずつ生活習慣を改めようと思ってね。早起きは三文の徳って言うだろ?」
提督「それと、朝の時間を使って勉強したいのがある。未だに戦艦と駆逐艦以外の艦種についていまいち分かってないからね」
朝潮「はぁ(さすがにそれは致命的なのでは……)」
提督「そうだ、朝潮は大佐さんの艦隊に居たんでしょ? 大佐さんから何か話を聞いてない?」
朝潮「大佐さん……あぁ、三雲大佐のことですか」
提督「あ、ここでは三雲って苗字なのね」
朝潮「? どういうことですか」
提督「あの人は苗字や名前を使い分けてるから、親戚の僕でもどれが本物なのか分かんないんだよねー」
提督「僕が物心ついた頃には大佐だったから、大佐さんって呼んでるんだけど」
朝潮「なるほど(……三雲大佐といい司令官といい、私の指揮官になる方はどうしてこうも不可解な一面があるのでしょう)」
・・・・
提督「と、いうわけで。僕は何も知らないまま着任したんだよ。大佐さんに会えるように昨日本部に願書を出したんだ」
朝潮「だから秘書艦のことも知らなかったんですね」
朝潮「経歴を詐称して軍部に加入させておいて、ほとんど何も説明しないとは一体何を考えてるんでしょうか……」
提督「このことは他の子には話さないでね(こないだうっかり如月に話しちゃったけど)」
朝潮「勿論です。私は司令官のことを裏切るような真似はしません!」
朝潮「大佐殿のことですから、これも何か考えあってのことでしょう」
提督「やっぱりそうか。僕もそう思う。ところで朝潮、君は大佐さんからここに来る前に何か話を聞いていないのかい?」
朝潮「いえ、特には。いきなり異動の話が出て、次の司令官によろしく頼む、ぐらいしか伝えられていません」
提督「そっか。大佐さんの艦隊ではどんな感じだったのかな?」
朝潮「遠征の任務が主でしたね。前線での戦闘も幾度かありましたが」
提督「あー、そうじゃなくて。大佐さんは指揮官としてどうだったのかな?」
朝潮「めんどくさが……あっいえ、有能な方に仕事を任せて物事を効率的に動かすことに天才的な力を発揮する方ですね」
朝潮「あの方自身も有能なのだとは思いますが……。ただ、それ以上に人を活かす力に長けているのです」
朝潮「『軍人が忙しいのは良くないことだ』、なんて言ってあまり執務には精を出していない様子でしたが」
朝潮「もう少し勤勉さがあればもっと高い地位に就いていてもおかしくはない方だと思います」
提督「あの人らしいなぁ。ところで、あの人の素性について何か分かることはないかな?」
提督「親戚であり義理の息子でもある僕だけど、あの人のことについて全然知らないんだ」
朝潮「素性、というか、プライベートな面はあまり明かさない方でしたので、あまり考えていることが読めませんでした……」
提督「そっか。でも、大佐さんが君のことを褒めていたよ。君は有能だって。それと、個人的に気に入っているとも」
朝潮「そうですか、それは嬉しいです。この朝潮、大佐殿や司令官の期待に応えてみせます!」
・・・・
提督「朝潮もあまり大佐さんについては知らなかったみたいだな」
提督「それにしても、大佐さんの真意が読めないな……」
提督「いやー、最近執務室に籠もりっきりで健全とは言い難い生活をしてるなー」
提督「カップ麺もいい加減飽きたし、たまには食堂でも行くか」
・・・・
提督「それにしても、ガランとしてるなぁ。僕を含めても7人しか利用者が居ないんじゃそりゃそうか……」
間宮「あら提督、お疲れ様です。提督がここに来るのは珍しいですね」
提督「さすがに毎日カップ麺ばかり食べてると手料理が恋しくなってね」
間宮「そんな食生活じゃ体調崩しちゃいますよ! 今提督のために腕によりをかけて作りますから、待っていてくださいね」
磯波「お疲れ様です、司令官」
提督「おお、磯波か。今日もご苦労様」
提督「磯波もこれからご飯?」
磯波「はい。ふふっ」
磯波「あっいえ、すみません。さっきの司令官のやり取りが面白かったもので……」
提督「へ? どこが」
磯波「母親に世話を焼かれる子供みたいでした」
提督「改善しなければならないとは思っているんだが、任務をこなしたり指示を出したり勉強したりしていると、寝食にあてる時間が減ってしまうんでね」
提督(うーん、みんな僕を司令官と思ってないような気がするんだよな。なんか、こう、生暖かい目で見守られてる感が……)
磯波「さっきの間宮さんも言ってましたけど、カップ麺ばかりじゃダメですよ」
磯波「間宮さんほど手の凝ったものは作れませんが、朝ごはんぐらいなら作ってあげますよ。司令官、いつも朝ごはん食べてませんよね?」
提督「いや、もともと遅起きだから昼食で朝の分と昼の分をいっぺんに摂ってたんだよ。最近は朝早く起きるようになったから、ちょっとお腹が空くけどね」
磯波「倒れられても困りますから、忙しくない時は私が毎朝ご飯を作ってあげますよ」
提督「えっ!? 良いの?」
磯波「ええ、出撃のない日の私たちは結構暇なんですよ。この鎮守府だと人数の関係で遠征にも行けませんし……」
磯波「それに、めげずに頑張っている司令官の力になりたいんです」
提督「そ、そうか……ありがとう。すまないね」
磯波「~♪」
提督「なんで機嫌良さそうなの?」
磯波「いえ、自分に弟が出来たみたいで……」
提督「は、はぁ」
提督(相変わらず遠慮がちな性格は変わっていないけど、僕の前だとわりと打ち解けた態度を取るようになってきたな)
提督(それにしても、弟かぁ……部下に弟として接される上司ってどうなんだそれ)
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磯波の好感度+1(現在値2)
前2レスの二人の好感度を書き忘れたので併記
電の好感度+2(現在値5)
朝潮の好感度+1(現在値2)
ここで突然のコンマイベント
>>+1のコンマが40~99だった場合追加イベント発生
/* エクストライベントについて */
>>1の気まぐれでたまに起こす突発イベントをエクストライベントと勝手に命名しました。
発生条件は毎回指定しますが、コンマによって決定されます。
提督のステータスが高いと発生可能性が若干アップするようです。
(ちなみに今回の場合運が高かったため少し発生範囲が広まったっぽい)
エクストライベントはレス数にカウントされない扱いですが、好感度は変動します。
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磯波「おはようございます」
提督「おはよう……本当に朝ごはん作ってきたんだな……(まだ電も起きていない時間なのに、早起きだな)」
提督「なんていうか、その、すまんね」
磯波「良いんですよ。提督は頑張っていますから」
磯波「さ、召し上がれ」コト
つ 鯵の塩焼き/ご飯/豆腐とわかめの味噌汁/小松菜のおひたし
提督「いただきます」
提督「ううっ……ありがたい……」モグモグ
提督「正直感動してる、本当に嬉しい」パクパク
提督「作るの大変じゃなかった?」
磯波「いえ、いつも作ってるので、平気です」
磯波(ほんとはちょっぴりいつもより頑張りました……)
提督「すごく美味しいよ。インスタント食品とは比べ物にならないね」
磯波「お口に合ったみたいで嬉しいです」
・・・・
提督「ごちそうさま。いやホント磯波は素晴らしいね!」←感極まりすぎて若干テンションがおかしくなってる
磯波「~♪」
磯波「ふふっ、明日も作ってあげますね」
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磯波の好感度+1(現在値3)
ザザーン ザザーン
提督「どうした?」
如月「いえ、別に。ただ、海を眺めているだけよ」
提督「こうして夕焼けの海を眺めているなんて、何か悩みごとでもあるんじゃないかと思ってね」
如月「悩みなんてないわ。日課よ」
如月「日の沈んでいく海を眺めるのが好きなの。空も海も地平も、オレンジ色の景色に染まっていくのが、どこか心を惹かれるのよね」
提督「詩的だね。気持ちは分かるけど。風流でいいじゃないか」
如月「夕方まで寝癖の跳ねてる人に風流を語られるとは思わなかったわ」
提督「えっ、嘘!? おかしいな~、電に梳かしてもらったはずなんだけど」
如月「それくらい自分でやりなさいよ……」
如月「ほら、ちょうど櫛持ってるから、梳いてあげるわよ」
・・・・
ザァァァ
提督「……」
如月「……」
如月「司令官は私たちのことをどう思っているの?」
提督「どうって……まだ、分からないや」
提督「ここに来て日も浅いのもあるけど、それだけじゃない」
提督「僕とほとんど歳が変わらない君たちが、命懸けで国を護っていることということに対して、頭では理解しているんだけど……正直言って、まだそのことを実感出来ていない。僕には君たちのことが兵器には見えないよ」
如月「そう……例の、朝潮の大佐さんの役に立つために司令官になったと言っていたけれど」
如月「後悔してない?」
提督「後悔はしていない。僕はあの人に恩があるから。それに、大佐さんだって最初は冗談で言ってたんだ」
提督「ただ、僕はあの人が何か深刻な悩みを抱えているように見えたし、力になりたかったんだ」
提督「とはいえ、あの人が本気でこうして手配してくるとは思わなかったし、それで何の説明もしてこなかったことに対しても変だなぁと思う」
サァァァ
如月「……」
提督「……」
如月「……これからあなたはどうするの? どうしたいの?」
提督「僕は……どうするんだろう。自分でも分からないや」
提督「大佐さんと会えるのもまだ先みたいだし。何も無ければこのまま君たちの司令官としてやっていくんだろうな」
如月「自分のことなのに随分客観的な言い回しをするのね」
提督「自分がこれからどうするかも、この先どうしたいかも分からないんだ」
提督「ただなんとなく、その場の感情で流されて生きているだけなのかもな……」
如月「そう……それじゃあ、私と一緒ね」
如月「前の艦隊にいた頃にね、すごく仲の良かった子がいたの」
如月「その子が撃沈して、すごく落ち込んだわ。強くなろうって思った。でも、私が頑張ったところで、駆逐艦が努力したところで戦艦や空母にはなれないのよ」
如月「それでも必死に戦って、必死に戦っていたのに、私一人が生き延びて、司令官だった方も責任を取って自害されて……私も、自分がこれからどうしたらいいのか分からないのよ」
提督「如月……」
如月「な~んちゃって。湿っぽい話になっちゃったわよね。気にしないでいいのよ? それに、前に司令官の秘密を聞いちゃったから、司令官も私の秘密も知っていないとフェアじゃないでしょ?」
如月「司令官。もし時間があったら、またここで会いましょう? 私はいつもここにいるから」
また書き忘れたので好感度補足。今日はここまでです。(力尽きました)
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如月の好感度+0.5(現在値1.5)
次回は皐月と満潮のエピソードです。あと、ちょっと物語が動き出すかもしれません。
エクストライベントは今後も気まぐれで発生します。
今回は試験的に即興で書きましたが、エクストライベントも余裕があれば書き溜めておく……かも。
/////いつものチラ裏/////
如月のエピソードが長すぎて行数制限食らいました。でも行数が長けりゃ良い話ってわけでもないからね、うん。
それと、今日はアレでした。ついに一線を越えてしまいました。
ジョジョ……艦これってのは艦娘の保有数に限界があるよなぁ……
おれが短い人生で学んだことは…………
提督は最大保有数100で切り盛りしようとすればするほど予期せぬレア駆逐で策がくずされるってことだ!
無課金を超えるものにならねばな…………
おれは無課金をやめるぞ!ジョジョーーッ!
おれは無課金を超越するッ!
ジョジョ! おまえの金でだァーッ!!
予告はしてませんが投下開始なう。とりあえず土日は書け次第投下していくスタイルで行くっぽい?
今日明日でガンガン書き進めていきたいところ。
僕たちの艦隊は、全員駆逐艦で構成されている艦隊だが、その中でもある程度戦力に開きがある。
最も戦力として頼りになるのは満潮だ。相変わらず僕に対しての態度は最悪だが、その仕事ぶりに関しては一目置かざるをえない。
次点で朝潮・如月と続く。朝潮は大佐の艦隊に居た頃の強力な装備を活かして、敵に強力な一撃を与えることが出来る。
攻撃力が高ければ当然それだけ交戦時間が短くなり、自分の被害も抑えることが出来る。無傷で帰ってくることが多いのも彼女の優れている点だ。
如月は、唯一この艦隊の中で大幅な改装を経ている艦だ。幾度となく近代化回収もなされいてるようで、前の艦隊で大事にされていたことが伺える。
装備の差で単純火力では朝潮に劣るが、見事な戦闘センスを持っていて、攻め時と引き際をよく心得ているようだ。敵との駆け引きが得意なのかもしれない。
そして、最近めざましい成長を見せているのが皐月だ。装備はここに着任したとき支給された初期装備、実戦での経験もここに来てからのはずだが、それが信じられないほどの戦果を上げている。
その戦果は朝潮や如月に引けを取らず、時には満潮にさえ匹敵するほどの力を発揮することがある。ただ、皐月の欠点は、受けてくる被害も大きい点だ。
艦隊の中で一番ボロボロで帰ってくるのも彼女だ。最もダメージを受けているはずなのに、「今日も派手にやられちゃったー。でも、その分活躍したけどな!」だなんて笑っているのが常だ。
その姿は僕の気持ちを清々しいものにさせるが、いつかふっと消えていなくなってしまうかもしれないと思うと、やはり恐ろしさを感じる。
磯波は戦闘能力は4人と比べると大幅に劣るが、それでも毎回それなりに安定した戦果を上げている。艦隊で最も堅実な動きをするのが彼女の特徴だ。
大きな活躍は期待出来ないが、無茶をしない。もう少し積極的に動いてくれても問題はない気がするが……。
電は、最前線で戦えるような強さは無いが、後方から味方のサポートに徹している。自分の力量を弁えた上での、最も有効な立ち回りだろう。一対一での戦闘はめっぽう苦手なようなので、なるべく彼女が孤立しないような編隊を意識する必要がある。
これらの考察は、演習や任務での働きぶりから分析したものだが、あくまで指揮官として経験の浅い僕の観点によるものだ。僕自身が未熟であることを忘れてはならない。彼女たちの力を最大限に引き出すのが僕の仕事だ。
・・・・
提督「満潮、よく来てくれたな」
満潮「アンタの方から呼び出すなんて、珍しいじゃない。どうしたの? クビにでもなった?」
満潮「私としてはそういう方向性の話だと嬉しいんだけど」
提督(つらい)
提督「あー、残念ながらそういう話じゃなくてだね」
提督「実は、近々大規模な作戦がある。この鎮守府の近くにある製油所地帯沿岸部で敵襲があったみたいでね」
提督「急遽、近場にいる僕たちに白羽の矢が立ったらしい。明日、正式に会議を行おうと思っている」
満潮「それが私を呼び出す理由と何の関係があるのかしら」
提督「会議の前にある程度考えをまとめておいたから、少し添削して欲しい。……といっても、報せが届いたのが今日だから、そんなに練れてはいないけど」
満潮「いいわ、聞くだけ聞いてあげる」
提督「まず、今回の作戦の舞台となる場所は、製油所地帯という要地になる。ゆえに、これまでの作戦と違って失敗が許されず、また、敵を完全に殲滅することが勝利条件となる」
満潮「確か襲撃してきた敵艦隊は軽巡洋艦や重巡洋艦がメインの編成なんでしょ?」
提督「その通り。僕たちは先鋒部隊として敵に当たり、味方の増援部隊が来たら撤退する。これが今回の任務。増援部隊は到着までに一日かかるそうだ」
提督「昼戦では駆逐艦・軽巡洋艦にのみターゲットを絞って砲撃を行う。攻撃よりも回避行動に専念して欲しい」
提督「夜戦では敵艦隊に肉薄、雷撃戦を展開する。その場の状況にもよるが、基本的には敵の一部の艦戦のみを狙って全戦力で攻撃する」
提督「僕たちの艦隊じゃあ、敵艦を各個撃破出来るほどの戦力はないからね。君なら出来るだろうが、全員に君と同じような芸当をしろと言うわけにもいかんだろう。で、敵艦隊に対する分析及び現地の情報だが……」
・・・・
提督「とまぁ、こんなところかな。見当違いなことを言っていたなら指摘して欲しい」
満潮「……平凡ね。ただ、悪くないと思うわ。最初の頃のどうしようもなさと比べると、相当勉強してることが伺えるわね」
提督「まさか君からお褒めの言葉をいただけるとは思っていなかったよ、驚いた」
満潮「今日の今日でこれぐらい構想が浮かんでいれば十分じゃない? まだまだ詰めなきゃならない点も多いけどね」
満潮「ただ、大事なのは結果よ。どれだけ立派な作戦であっても、結果が伴わければ何の意味もないわ」
満潮「力を認められなければ、誰からも相手にされない。それを肝に銘じておくことね」
バタン
提督(ほ、褒められた……)ガッツポーズ
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満潮の好感度+1(現在値2)
いよいよ、僕たちにとって初の大規模作戦となる1-3作戦(今回の作戦の通称だ)の決行日となった。
皐月「司令官! いよいよ敵が見えたよ!」
提督「そ、そそ、そうか。敵はまだこちらに気づいていないか?」
満潮「なんでアンタが緊張してんのよ……声が上ずってるわよ。今のところは特に問題ないわ。ただ、敵の数が多いからこのまま戦うと不利そうね」
提督「分かった。敵艦隊とは距離を置け。チャンスが来ない限りは距離を詰めるな。敵に気取られないように気をつけて」
満潮(昼戦では極力攻めない姿勢なのね……セオリー通りではあるけれど、これだと夜戦でかなり多くの敵を相手にすることになるかもしれないわね)
皐月「司令官。それも悪くないけど、ボクにいい考えがある」
・・・・
皐月「へへっ、どうかな? 司令官」
提督「いや、それはかなり危険だろう」
満潮「そうは言うけど、この敵の数だと夜戦で仕留めようにも退路を封じられて逃げ場が無くなるかもしれないわよ」
電「司令官。電は皐月のアイデアに賛成なのです。皐月ならやれるのです」
朝潮「ここである程度敵に打撃を与えておく必要があるかと思います!」
皐月「この策は哨戒任務のとき一度成功したことがあるんだ。自信がある」
提督「しかし……本気で言ってるの? 死ぬのが怖くないのか、皐月」
皐月「ボクを信じて。司令官、必ず生きて帰ってくる。だから許可を……」
提督「……分かった。約束だ」
・・・・
僕は、震えていた。この鎮守府からでもその活躍ぶりが見えるほど敵が一網打尽に沈んでいくのである。
たった六隻の駆逐艦で、それも昼戦で、真っ向から戦えばあからさまに苦戦を強いられるような局面であるにも関わらず、彼女たちは戦場を支配していた。
皐月の考えた作戦とは、皐月が敵の駆逐艦に擬態して、敵艦隊に紛れ込み、至近距離から攻撃。敵艦隊を混乱に陥れ、敵が撤退するであろう位置に潜んでいた他のメンバーがこれを強襲する……というものだった。
皐月は、これまでの警備任務で、敵の艦隊の行動パターンを分析していたらしい。
まず、深海棲艦の特性の一つに、非常に索敵能力が低いというものがある。どうも深海棲艦というのは視力以外では敵を感知出来ないようで、
また、その視力もかなり退化している(といっても、これはあくまで相手が駆逐艦や軽巡洋艦のときの話である。人型に近い重巡洋艦や戦艦、空母・潜水艦となると話は別だ)
皐月は、敵のこの特性を利用出来ないかと考え、倒した敵駆逐艦を頭の上に置いて、自分は水中に身を潜めてみて、バレないかどうか実験したことがあるらしい。
結果としては失敗で、すぐに発見され痛い目を見たらしい。
だが、皐月は懲りずに実験を続けていった。呼吸の数や心拍を極力減らし死んだフリに近い状態でこの方法で接近してみたところ、敵に気付かれずに敵艦隊に同行することが出来たらしい。
ひょっとすると深海棲艦には精気を察知する能力があるのかもしれない。
また、皐月はこの後も敵艦隊にまつわる様々な実験を繰り返し、パニックに陥ったときの敵艦隊の行動も分析した。敵艦隊は、正面からの交戦だと、こちらが撤退(あるいは敵を振り切って進撃)するまで、全艦撃沈するまで戦い続ける。
しかし、奇襲を受けた際の動きはそれと異なり、激しく動揺し、蜘蛛の子を散らしたかのように隊列が乱れる。
各艦が散り散りになっても、動きにはある程度法則性があるようで、逃げ惑いながらも一定地点を目指して逃走、そこでまた隊列を再編しているようだ。
(ただ、重巡洋艦以上のレベルの艦となってくると、奇襲を受けても冷静に対処されてしまうらしい。人型の艦の方が知性が高いようだ)
今回、皐月たちの目の前にいた敵の数は多かったが、重巡洋艦の数はわずか数隻だった。そのため、皐月はまず重巡洋艦に密かに接近して察知される前に雷撃で全艦沈没させた。
案の定パニックに陥った敵艦隊は散り散りになり、予測ポイントで待機していた満潮たちに掃討された。
この作戦前に、敵が頻繁に観測される場所の情報を得ていたのが役立った。
皐月の奇策により、敵の先鋒隊は壊滅。パニックにつられてやってきた第二波となる部隊も、
先鋒隊があまりにも混乱しているためか状況を掴めずに味方に向かって砲撃をしてしまい、そこから敵艦隊が疑心暗鬼に陥り味方同士で勝手に砲撃戦を始めた。
撃ち合っていた敵艦隊が互いに疲弊して残存兵力が少なくなったところで皐月たちが猛追し、これを殲滅した。
・・・・
提督「見事だ皐月。君は天才だな」
皐月「へっへーん♪ ボクのこと、見なおしてくれた?」
皐月「でも、ボクがここまでやれたのは司令官がボクのことを信じてくれたからだよ」
皐月「ボク、これからももーっと頑張るからね! 期待しててよね」
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皐月の好感度+1(現在値2)
提督「昼戦で十分過ぎるほど戦果を上げている。あとはもう味方の援軍が来るまで待機で十分だろう」
提督「皆、お疲れ様。帰港したらご褒美をあげよう」
皐月「ご褒美って何でもいいの?」
提督「あぁ、なんでもいいよ。実現出来る範囲でだけどね~」
磯波「ふふふ……楽しみです」
朝潮「朝潮は、パフェというものを一度食べてみたいです!」
電「電もパフェが良いのです」
提督(皆子供だな……)
如月「如月は、提督が欲しいわぁ」
提督「!?」
満潮「冗談に決まってるじゃない。如月もあまりからかわないのよ」
如月「私はいつだって本気よ~」
・・・・
磯波「味方艦隊が来るのはいつ頃になるでしょうか」
満潮「朝には到着予定よ……ふわぁ~」
皐月「満潮が欠伸なんて珍しいね」
満潮「わ、悪かったわね。私だって眠ければ欠伸ぐらい出るわよ」
如月「私もう無理~。電ちゃん、朝が来たら起こしてね」
電「はわわ、如月、寝ちゃダメなのです」
朝潮「皆さん! 前方にこちらへ接近してくる艦影を見つけました! ……あれは、戦艦!?」
満潮「戦艦ですって!? さすがに予想外だったわ……数は?」
朝潮「数はさほど多くないようですが……、ここからだと雷巡・軽巡が一隻、駆逐艦が数隻見えます」
皐月「敵の殿軍といったところみたいだね。それにしてもまだこんな隠し球を残していたとは、腕が鳴るね!」
電「如月、起きるのです!」ムギュー
如月「ちょっと! ほっぺたつねらないでよ。起きてるってば」
磯波「司令官、大変です。敵戦艦がこちらに接近しているようです。まだ気づかれてはいないみたいですが……このまま戦わずに済むとも思えません。どうすればいいでしょうか」
提督「それは本当か!? まずいことになったな」
提督(事前の調査情報や本部報告によると戦艦は居ないはずだったんだがな。こういう事態も予測しておかなきゃダメってことか……)
朝潮「敵の艦隊の数自体は少ないようですが、戦艦が脅威ですね。戦艦以外の艦はほとんどが損傷しているようです。恐らく昼戦での生き残りを寄せ集めた編成でしょう」
提督(敵の残存兵力はもう無いみたいだな……。あくまで僕たちと決着をつけに来たというわけか)
満潮「戦艦を無視して短時間で雑魚を掃討、完了次第退却して味方援軍を待つのも一つの手ではあるわね。あの戦艦はどうやら低速艦のようだし、私たちなら振り切れない相手ではないわ」
提督(朝まで持ちこたえれば味方の増援部隊が来る予定だが……どうする?)
----------------------------------------------------------------------
安価>>+3
(選択肢によって提督のステータスに影響)
→戦艦を狙う →戦艦以外を狙う
戦艦以外
提督(夜戦といえど戦艦相手では厳しいな。轟沈の危険性が高い)
提督「よし、隊列を複縦陣にしろ! 戦艦は相手にせず、周りの雑魚を掃討」
提督「敵戦艦の動きに注意しつつ、敵雷巡・軽巡を集中して狙い撃て。砲雷撃戦、開始する!」
朝潮「一発必中! 肉薄するわ!」
如月「ふふっ、ゾクゾクしちゃうわ」
電「電の本気を見るのです!」バシュッバシュッ
皐月「沈んじゃえ!」シュッ ドゴオオオン
雷巡チ級「ガアアァ」ゴポゴポゴポ……
如月「ふふっ、まだよ! ありったけの魚雷を打ち込んであげる」シュッ バゴォォォォォ……
・・・・
皐月「戦艦以外は片付いたね。どうする?」
提督「……そうだな、空が白んできた。無傷の戦艦相手にこれ以上の交戦は危険だ。敵の砲撃に注意しつつ後退してくれ」
電「ちょうど援軍が来たみたいなのです」
提督「分かった。僕たちの役目は終了だな。帰港してくれ」
足柄「先鋒隊の皆、援軍に来たわ! ふふ……戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!」
足柄「って、あら……戦艦1隻しか残ってないってどういうことなのよ」
妙高「既にだいぶ掃討されているみたいね。少し拍子抜けだけど、任務を遂行しましょう」
足柄「えぇ~……せっかく気合入れてきたのにガッカリだわ」
・・・・
提督「みんなお疲れ様。よく頑張ってくれたね。今日はゆっくり休んでくれ」
電「提督もお疲れ様なのです」
提督「僕は何もしていないさ。実際に戦っていないわけだから疲れてもいないよ」
磯波「一昨日から一睡もしていないんでしょう? 提督こそお休みになってください」
提督「うーん、まぁ、そうだね。そうするよ。ただ……まだまだ君たちの指揮官としてちゃんとやれてる自信がないなぁ」
満潮「そう? でも、勝てば官軍なのよ。アンタの指揮で私たちは勝利できた。そういうことなんだから自信持ちなさい」
如月「それより、ご褒美の話なんだけど~」
提督「あぁ~そんなこと言ったね。分かった分かった、パフェな」
皐月「ボク、せっかくだから遊園地に行きたいな」
提督「!?」
如月「私は~、新しいお洋服が欲しいかしら」
提督「え、エート、……どうしよう」
満潮「面倒だから全員分にパフェを奢って洋服を買って遊園地に連れて行けばいいんじゃない?」
提督「何が面倒なんだよ! 何も面倒な要素ないよ!」
皐月「それ良いね。ナイスアイデアだ!」
提督「全然ナイスじゃないってばー」
このあと滅茶苦茶自腹を切った。
----------------------------------------------------------------------
選択:戦艦以外を狙う(>>60)
過酷な戦場を乗り越えて艦娘たちとの絆が深まった
全員の好感度+2(ステータスや秘書艦による±補正なし)
堅実な判断により艦娘の被害を抑えることができた
知性+5
仁徳+5
ここまでの数値もろもろまとめ
【好感度まとめ】
電:7(好感度上昇+2) 秘書艦
皐月:4(好感度上昇+1)
磯波:5(好感度上昇+1)
如月:3.5(好感度上昇+0.5)
満潮:4(好感度上昇+1)
朝潮:4(好感度上昇+1)
【提督ステータス】
勇気:41
知性:36(初期値から+5)
魅力:10
仁徳:47(初期値から+5)
幸運:62
今日はまだ投下あります。
ただ、書き溜めしてないので速度は遅いです。
/////チラ裏リズム/////
大まかな話の流れは出来てるんだけどテキスト化していく作業がつらみ。
スレ立てた時はイチャコラする話を書こうと思って立てたのに、もうこれ何のSSか分かんねぇな。
イチャコラは当分先になるかな……そもそもこの話でイチャコラ出来るのかな……?(遠い目)
さっきの安価の待ち時間で書き進めようと思ってたのに部屋が汚すぎてやる気起きないまま時間過ぎたという体たらく。
部屋の掃除が終わったら続きを書く作業に戻ります。(と言いつつ昼寝する可能性がある)
ちなみに、さっきの安価で戦艦狙いだったら
どうなってたんですかねぇ
提督「やれやれ……しばらくは何も買い物出来ないな……昨日の馬鹿騒ぎで財布がスッカラカンだ」
電「司令官さんは優し過ぎるのです。何も本当に遊園地に連れてってくれなくても良かったのです」
提督「ま、最前線で戦ってる君らと違って僕は座ってるだけだからね。それよりも君らに楽しんでもらえたなら何よりだ。あと、似合ってるぞ。その服」
電「はわわ、照れちゃいます」
提督「さて、報告書他もろもろの書類を片付けましょうかね」
磯波「司令官。朝ごはんが出来ましたよー。電の分も作ってきました」
提督「あぁ、ありがとう。いつもすまないね。まずはご飯を優先しよう」
磯波「あのぅ……演習の時間まで、私もここでご一緒しても良いでしょうか?」
提督「あぁ、もちろん構わないよ」
・・・・
提督「ふーむ。何やら、また大規模作戦があるっぽいねぇ。休む暇もないというわけか」ペラリ
電「『南西諸島の防衛ライン上に敵侵攻艦隊を補足』……ですか」
提督「近いからという理由だけで出撃させられる我々の身にもなって欲しいね」
磯波「でも、前回の作戦での結果を本部からかなり評価されてるみたいですね」
提督「とはいえ、これ駆逐艦六隻でどうにかしろっていうの無茶だろ……」
満潮「前回の作戦で無茶を可能にしちゃったもんだから今回も無茶な作戦が来たのよ」
提督「み、満潮。いつからそこに」
満潮「何よ。私が居ちゃ悪い? 演習まで暇だったから来たのよ」
提督「うーむ……困難な作戦を突破したら更に難題が来るというのは腑に落ちないなぁ」
提督「敵艦隊の掃討、それが出来なきゃ敵艦隊の規模を調査して報告しろ、ってさ」
磯波「前回のように戦艦が相手なのでしょうか?」
提督「戦艦はいない……が、敵艦隊の編成に空母が組み込まれている可能性が高い。周辺を飛行していた索敵機が打ち落とされたらしい」
提督「制空権が完全に相手に渡ってる状態で、敵艦隊がどのくらいの規模かも具体的なデータがないまま戦えって相当無茶苦茶な指示だぞ」
提督「表向きでは褒め称えておいて、本当は僕たちのことを殺そうとしてるんじゃないかと本部に対して疑念を持ちそうだよ」
電(司令官……珍しく怒ってるのです)
磯波「……………………」ガタッ
磯波「司令官。こっちに来てください」ポンポン
提督「きゅ、急にどうした磯波。ソファに何かあるのか?」
磯波「隣に座ってください」
提督「えっ、ちょっと、どうしたの?」
磯波「司令官、すごくストレスが溜まってるようでしたので、少し横になってお休みなってください。その……膝枕しますから」
満潮「してくれるって言ってるんだからしてもらいなさいよ。というか、隣に座っちゃったんだしもうしてもらうしかないんじゃない?」ニヤ
提督「えー……なんか……何かがおかしいよ……」(でも横になる)
満潮「磯波は大胆ねぇ~」ニヤニヤ
磯波「そ、そんなんじゃなくて、司令官に少しでも楽になってもらおうと……」
提督「ねぇ僕本当にこんなことしてていいの? そ、それどころじゃない気が」
磯波「ふふふ、良いんですよ。気持ちを楽にしないと頭も働きませんよ?」ナデナデ
電(……ちょっとジェラシーなのです)
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電の好感度+2(現在値9)
磯波の好感度+1(現在値6)
満潮の好感度+1(現在値5)
>>63
安価が出てから内容書いてたのでアレですけど、単縦陣で敵戦艦に突貫→敵戦艦を轟沈させるも残りの敵に囲まれる→陣形を維持したまま反転し脱出、みたいな展開を考えてました。(1レス増えてたかも)
結果論的には戦艦を狙った方が優れた戦果を上げることが出来てたっぽいです。
正直戦艦を狙う方で安価来るかなーと踏んでたんですけど、意外でしたね。
ただ、こっちを選んだことによってこの先の展開はちょっと変わりました。
いわゆるβ世界線というやつです。(ネタバレになるからまだ書けないけど)
安価のイベントでどういう選択を取るかによって、今後の展開はもちろん、主人公の思考や性格にも若干変化を生じさせてます。
これは>>1の持論だけど、人間は窮地に陥ったときの行動で本質が見えると思うのです。
(今回はさほどピンチではなかったけど)
/////チラ裏という名の懺悔とか/////
あああああああああああああああああああああやっぱり磯波デレさせすぎたんじゃあああああああああああああああ(後悔)
これじゃあ他のキャラももっと魅力的な描写しなきゃ不公平だよなぁぁぁぁ難しいよぉぉぉぉぉ。
いや、でもいきなり戦いの後にまた戦いって辛いじゃん? つかの間の安息が欲しかったんです。
その結果がこれなんです。相当悩んだ末GOサインを出してしまった自分がいる。
ついたレスは無視してるようでわりと見てます。
なんかキャラに対するレスがついたら「ほぉ~なるほど~じゃあもうちょっと良い感じのエピソード考えるか~」とか微妙に展開を足したり、
逆に特に触れられてないキャラがいたら「ちょっとテコ入れしなきゃな~」とかそんなことを考えながら書いてます。
口で言ったり頭で考えたりするのは簡単だけど、いざ形にするとなると難しいね……orz
今日は疲れたので投下は一旦打ちとめです(書き溜め作業は続けるつもりですが)
家から一歩も出てない自分がなぜ疲れているのかは謎である
本日の21:00頃に投下を予定しております。
現時点で全然書き溜めできてないんですけど、
こうして退路を断っておけば書かざるをえなくなるでしょう多分。多分ね
うろ覚えだからトリップミスってるかもしれんけど>>1です。
今日はちょっと都合が悪くなったので投下出来ないかもしれないのです。
わざわざ報告するほどのことでもない気がするけど事前予告したから一応書いとくのね。
今日がダメだった場合は明日投下するです。
///チラ裏///
どれだけ高く美味しい料理であっても信頼できない人間とする食事はまずい
提督「演習後で疲れているところ済まないが、これから作戦会議を行いたい」
提督「電、磯波、満潮は既に聞いていると思うが、南西諸島防衛線上に敵侵攻艦隊を補足した。僕たちはこの敵艦隊と交戦する。通称1-4作戦、だそうだ。この作戦には難点が二つある。第一に、敵の規模が分からないこと。第二に、敵艦隊に空母が存在する可能性が高いということだ」
提督「一応、『撃滅せよ』と言われてはいるが、それが困難なようであれば敵艦隊がどれぐらいの規模かを報告しろとのこと。制空権が完全に相手方にあって、かつ敵の規模も分からない。この状況下で勝利を収めるのは難しいだろう」
皐月「艦載機を全部撃ち落せば良いんでしょ? 簡単じゃん」ドヤァ
提督「確かに皐月ならそれが出来かねないのが恐ろしいところだが……劣勢を前提に敵と正面から対抗するのは危険だろう。それに、敵空母の規模によっては大空襲を受ける恐れもある。この作戦は危険性が高いので功を焦らず慎重に行きたい。僕たちはあくまで斥候として今回の作戦に臨もう」
朝潮「機銃を装備していく必要がありそうですね」
提督「ああ、対空装備は必須となるだろう。逆に言うと、それぐらいしか対策が浮かばないのが辛いところだな……。敵制空域内に入ったら、敵艦載機の動きに注意する。察知される前に迎撃する。なるべく目立った動きをしない、……ぐらいか。当たり前すぎる話しか出来なくて申し訳ないが」
提督「敵艦隊と遭遇した際は、敵空母の動きに注意しつつ、機動力の高い駆逐艦や軽巡のみを狙って攻撃する。追われると厄介だからね。可能性は低いが、もし敵艦隊に戦艦が居た場合は気づかれる前にそのままUターンすること。それから……」
・・・・
提督「作戦は以上。特に何も無ければこれで解散だ。ゆっくり休んでくれ。今日の分の仕事はもうないし、電も帰っていいよ」
ゾロゾロ
提督「? 朝潮、何か話でもあるのかな」
朝潮「いえ、話というほどではないのですが……司令官は、少し悲観的すぎませんか? 確かに、今回の作戦は厳しいものになるでしょうし、司令官の見通しは正しいとは思います。ただ、戦う前から弱気になっていては、艦隊の士気に支障が出るかと」
提督「弱気、というか、ハナから勝てると思っていないからね。とはいえ、朝潮の言う通り……指揮官の考え方としてはまずかったかな」
朝潮「あ、いえ……司令官のことを非難しているわけではありません。ただ、戦場では何が起こるか分かりません。司令官の考えているように厳しい状況になる可能性もありますが、逆に勝機が見える可能性もあります。
私たちの被害を抑えることを考えるのは戦略的に正しい判断ですが、被害を出さないことを考えているだけでは重要な局面で勝機を逃がすことに繋がりはしないでしょうか」
提督「君の言うとおりだな。ぐうの音も出ないよ。……つくづく凡将だな。僕は」
朝潮「私たちは、国家のため、任務のために戦っています。そして、司令官の為にも戦っているのです。司令官の期待に戦果で応えるのが私たちの使命です。
司令官が望んでいようがいまいが、私たちは司令官に尽くします。だから、私たちを信頼して欲しいのです」
朝潮「仮に、作戦が失敗して、私や他の誰かが沈むようなことがあっても。それは司令官の指揮のせいではありません。司令官の期待に応えられなかった私たちの咎です。
……だから、私たちが沈むことを恐れないでください。私たちを失ったとしても、その歩みを止めないでください」
朝潮「司令官は、私たち艦娘の希望なのです。司令官が諦めない限り、私たちも諦めずに戦い続けることができます」
提督「……ごめん、朝潮。少し、一人になって考えたい……席を外してもらえるか?」
朝潮「はい、少し感情的になってしまいました。出すぎた真似を致しまして申し訳ありません」ペコッ
・・・・
満潮「聞いてたわよ」壁に寄りかかって腕を組みながら
朝潮「盗み聞きとは関心しませんね」
満潮「ふふっ……」
朝潮「何を笑っているんですか」
満潮「いや、ご褒美にパフェが食べたいなんて言ってたアンタが言ったセリフかと思うと、ね」
朝潮「」カァァァァ
満潮「冗談よ。ただ、私の言いたかったことを代わりに言ってくれてスッとしたわ。アンタも言う時は言うのね」
満潮「…………」
満潮「……どうなるのかしらね、私たち」
朝潮「私は、司令官を信じています。司令官ならきっと、この先何があっても乗り越えていけると」
満潮「アンタが羨ましいわ。ハッキリ言って私はこの国の為にも人の為にも戦う気にはなれないわ」
朝潮「満潮は何のために戦っているんですか?」
満潮「……復讐よ」
朝潮「復讐?」
満潮「朝潮、アンタには分からないでしょうね。ま、機会があったらいつか教えてあげるわ。じゃあね」カツーン カツーン カツーン
朝潮「行ってしまった……」
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朝潮:5(好感度上昇+1)
/* 経過ボーナス */
いつまで経っても好感度+1だとフラグが立つ気配がなさそうなので経過ボーナスなるものを追加しました。
経過ボーナス概要
・20レス突破ごとに好感度の基本値が+1増加します
・20レス突破時に能力値変動イベントが発生します
能力値ボーナスは安価とコンマで決定します。
アップさせたい能力値 勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ選択し、
出たコンマでその選択した能力の上昇値が決定します。
00~20:上昇値+2
21~40:上昇値+4
41~60:上昇値+6
61~80:上昇値+8
81~90:上昇値+10
91~99:上昇値+12
ぞろ目だとさらに追加で能力値ボーナス発生。
【好感度まとめ】
電:9(好感度上昇+4) 秘書艦なので基本値2*2
皐月:4(好感度上昇+2)
磯波:6(好感度上昇+2)
如月:3.5(好感度上昇+1.5)
満潮:5(好感度上昇+2)
朝潮:5(好感度上昇+2)
というわけで
アップさせたい能力値を決定してください(勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ)
>>+2
勇気
>>77より勇気が8上昇
【提督ステータス】
勇気:49(初期値から+8)
知性:36(初期値から+5)
魅力:10
仁徳:47(初期値から+5)
幸運:62
ちょっと滞ってましたけど今日はまだ投下あります
提督(……僕は、彼女たちの希望か)
提督(希望、ね)
皐月「しれーかん! 聞こえてる?」
皐月「敵の空域内に入ったよ!」
提督「ん、分かった。敵艦載機は?」
皐月「数機、こっちに迫ってきてるけどまだ気づかれてないみたい。どうする?」
提督「出来れば短時間で仕留めたい。敵艦載機に集結されて総爆撃を食らうのは避けたいからね。出来るか?」
皐月「まっかせてよ!」 バン!バン!
磯波「あたって!」 ダダダダ
・・・・
如月「ざっとこんなものね」
朝潮「司令官、敵艦載機を殲滅しました。今のところこちらに被害はありません」
提督「よし、よくやった。敵艦載機の本隊に注意しつつ、進撃してくれ」
満潮(敵の攻勢が妙に緩いわね……そろそろ仕掛けてきてもいいはずだけど)
電「司令官、敵の偵察艦隊が見えたのです。交戦しますか?」
提督「編成は? 勝てそうならば打って出よう」
電「重巡1隻、軽巡1隻、駆逐艦3隻です。今の電たちなら、問題ないのです」
提督「分かった。交戦しよう。ただ、天気が悪く視界も良くない。敵の至近弾に気をつけてくれ」
・・・・
朝潮「敵艦隊を撃退しました! 追撃しますか?」
提督「いや、やめておこう。ある程度被害を与えておけば十分だ」
如月「ちょっと~、なんかイヤな音してない……?」 ブロロロロロ
磯波「敵艦載機を捕捉! 100機近い数がこちらに向かって接近しています」
電「撤退していた敵の艦隊が反転してきたのです! その背後からさらに敵増援が!」
満潮「囮だったというわけね……。空と海からの挟撃、逃げ場は無さそうね」
朝潮「司令官、ご指示を」
提督(どうする!? このままでは全滅だ!)
提督(……ハッ! この状況下なら……そうだ、その可能性はある。賭けに出るか)
提督「皆聞いてくれ! 策がある! 作戦としては下の下の、最悪なものだ! だが、僕にはこれしか思い浮かばなかった!」
提督「背後の艦載機を振り切り、正面の敵艦隊を中央突破してくれ!」
満潮「追い詰められて頭がどうかした!? この状況でどうやれっていうのよ! 第一、そんなことして何になるの?」
提督「満潮・如月・磯波・電は敵艦隊を蹴散らしながら前進! 皐月・朝潮は後衛で艦載機を片っ端から撃ち落せ!」
提督「僕は指示を出した! 説明は後でする!」
如月「期待していいのよね? ふふっ、突貫するわ!」
磯波「が、頑張ります! えいっ」シューン!ドドォン!
電「電の本気を見るのです!」ババババババ
皐月「さてと、今度もボクのカッコいい所見せちゃおうかな!」スチャッ バゴォォン
皐月「いやー、撃てば当たるってのは気持ちがいいね」バリバリバリバリバリ
朝潮「MVPは譲りませんよ?」バァン!バァン!バァン!
満潮「敵艦隊を中央突破するにしても、この数じゃ倒しても倒してもキリがないわ!」
如月「艦載機に進路を先回りされつつあるわね……」
提督「(厳しいか……)分かった。ならば……前衛部隊は砲撃を最低限に抑えてくれ。この作戦は極論敵を攻撃する必要がない。ただ敵の前に出ることだけに注力してくれ。全艦! 敵艦の間隙をすり抜けて前進! 突破後もとにかく前進だ!」
・・・・
朝潮「一応、全艦突破出来ました」
満潮「突破出来ただけで、状況は余計に酷いことになったけどね。前から先回りした艦載機から攻撃を受けて、後ろからは猛烈な数の追手が来てる。しかも、敵の本隊も近づいてるみたいよ、敵空母の影が見えるわ!」
提督「いや、これでいい。皐月・満潮は前衛に出て敵艦載機を撃ち落としながら全速力で前進。如月と朝潮は背後の艦隊を砲撃で迎え打て。といっても、あまり必死になって戦う必要はない。あくまで少し敵の数が減ったらいいなぐらいの気持ちで。それから、砲撃はなるべく海面近くから発射してくれ。電と磯波はとにかく皐月と満潮についていくことだけを考えてくれ。余裕があればサポートしてもいい」
如月「海面近く……?」
提督「おまじないにでも思ってくれればいい」
如月「ふふっ、りょーかい。今日の司令官はなかなか素敵よ。今この状況がすごく楽しいわ!」
皐月「同感だよ如月。まったく最高だね!」
満潮「アンタ達なかなか狂ってるわね」
皐月「そういう満潮だってさっきからニヤけっぱなしじゃないか」
満潮「そうね、指示の意味は全く分からないけど、……不思議と高翌揚するわ」
・・・・
皐月「……っつぅ!いったいじゃんかさぁ!」ドガァ
満潮「さすがに、そろそろ厳しくなってきたわね……」
提督(あの皐月や満潮ですら限界が近いみたいだな……無理もない。だが、もう少し耐えれば……)
提督「電、磯波。皐月と満潮に代わり前衛へ。敵を撃ち落とし、指定ポイントへ」
電「二人が頑張ってくれたから、だいぶ敵の艦載機が減ってきたのです」
磯波「それだけじゃない……これは……!」 シュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォォォ
提督(来たか……!)
提督「皆! 死んだらゴメン!」
ババババババババゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴァァァァアアアアアアァァアァア
・・・・
提督「電、磯波、皐月、如月、朝潮、満潮。生きてるか?」
電「全員無事、なのです。本当に良かったのです」
磯波「今、私たちはちょうど台風の目に入ったみたいで、あの、とりあえず……助かりました」
皐月「ふぁぁー、ボク、マジで死ぬかと思ったぁー……」
如月「司令官はこれを待っていたわけね」
提督「待っていたわけじゃない。どちらかといえば祈っていたに近いよ。もう賭けに出るしかないと思ってね」
朝潮「海面近くで砲撃させたのにも何か理由が?」
提督「砲火の熱で君たちの場所を中心に上昇気流が起きたら良いな、ってね。もっとも、そう上手くは行かなかったし、そもそもそれで台風が起こせるだなんて思ってもなかったけど。ただ、土地的にも時期的にも台風が起こる可能性が高いエリアでの戦闘だったから、ああいう指示を出したんだ」
提督「台風の発生場所が予測出来たのはほぼまぐれなんだけどね。とりあえず過去の周辺地域の記録を漁って、その中で最も発生する可能性の高いエリア数ヶ所まで絞り込んで、あとは勘。ここまで上手くいくとは思わなかったから、僕が一番驚いてる」
皐月「さっすがだね司令官。おつかれっ!」
満潮「そこまで考えてたなら、ちゃんと説明しなさいよ……。私達が戦ってる最中にでも説明くらい出来たでしょ」
提督「ごめんね満潮。正直これは本当に自信が無かった。無理だと言われるのが怖かったから、虚勢を張るために言えなかったんだよ」
満潮「何よそれ、いくら何でもそこまで聞き分け悪く無いわ。ちゃんと何をするか分かっていればもっと戦えたわよ」
満潮「ただ、そういう風に思わせていたのはすまなかったわね。確かに最初の頃の私はアンタのことを軽蔑していたけど、今はもう司令官だと認めているわ……これからよろしく頼むわよ、司令官」
提督「こちらこそ、よろしく。満潮」
提督「皆、本当によくやってくれた。生きて帰ってきてくれて良かった」
皐月「今日の司令官は冴えてたね。カッコ良かったよ」
提督「えへへへ……ただ、まぁ、なんていうかその、今回は幸運だった。天候も勿論のこと、誰一人大破することなく戦いの終盤まで迎えられたのが大きいよ。誰か一人でも航行速度が低下していたら多分こうはなっていなかった。
それから、台風が発生した時も、君たちだけあまり被害を受けずに敵艦に直撃したのも幸運だった」
提督「もうこれ以上無茶な戦いはゴメンだね……」グッタリ
提督「君たちにも、かなり無理をさせたね。ゆっくり休んでく、れ……」クー
如月「司令官もよっぽど疲れたのね。机に突っ伏したまま寝ちゃって」
電「電が司令官を部屋まで運びますから、皆も休んでください」
・・・・
提督「ん……」
電「司令官さん、お疲れ様です」
提督「あ、部屋まで運んでくれたのか。ありがとね」
提督「僕が起きるまで、ずっとこの部屋に居たの? 君だって疲れているだろう」
電「司令官さんとお話したいのです……」
提督「そっか。分かった」
電「司令官さんは、これからどうするのですか?」
提督「分からないな。何かやりたいことがあるわけじゃないし、偉くなろうっていう気もないな」
提督「とはいえ仕事がないと生きていけないし、……今は何より君らを失わないために戦いたいと思う」
提督「まだまだ未熟だし、今回の作戦だって本当に運によって助かったようなものだけど……それでも、僕は君らのために生きていきたいなと、そう思ってる。漠然とした考えだけどね」
電「司令官さんは……本当に電たちのことを大切に思ってくれているのですね」
提督「あぁ」
電「司令官さんは優しいのですね」
提督「優しいというか……うーん、そういうことじゃないんだよ。どうしても、君らの命を背負っているということを考えるとね……」
提督「君らの命が失われることが、それも僕のせいで失われることが何よりも怖い。臆病なだけなんだよ、僕は」
電「……司令官さん」ギュッと提督の手を握る
電「司令官さんは、臆病なんかじゃないです。今日だって、司令官さんの決断で私たちは生きていられたのです」
電「司令官は電の誇りなのです。だから、もっと自信を持って欲しいのです……」
提督「ありがとう。そうだな……もう少し強気にならなきゃダメ……か」
電「はわわ、ダメじゃないのです。司令官は今のままで良いのです」
電「でも、不安になったら……電が司令官の側に居るのです」
電「だから、どんな時でも、一人で抱え込まないで欲しいのです」
提督「助かるよ……ありがとう」
----------------------------------------------------------------------
過酷な戦場を乗り越えて艦娘たちとの絆が深まった
全員の好感度+2(>>79 ステータスや秘書艦による±補正なし)
満潮の好感度+2(>>80)
電の好感度+4(今回)
日付跨いでしまった……とりあえず投下はここまで。
【好感度まとめ】
電:15(好感度上昇+4) 秘書艦
皐月:6(好感度上昇+2)
磯波:8(好感度上昇+2)
如月:5.5(好感度上昇+1.5)
満潮:9(好感度上昇+2)
朝潮:7(好感度上昇+2)
///チラ裏///
軍記物を書きたいわけじゃないのに戦闘の描写細かく書きすぎたというかアレね。戦闘シーンも難しいね。
とりあえずしばらくバトルっぽい部分は無いのでこれでようやく書きたいものが書ける……のかな? 分からんけれども。
そろそろストーリー動かしていきたいので各パラメータを試験的に動かしやすくしてみたり。
でもあくまでストーリーありきだから数値に縛られすぎて面白さを削がないように……意識していても難しいや。
明日からイベント海域ですねー。資源ALL2万ちょいバケツ200個だけど超えられるかしら?
提督(1-4作戦の報告書の類も概ね片付いたし、たまには鎮守府内を出歩いてみるかな?、っと)
提督(あれは……如月か? 鋼材と燃料なんか持って、何してるんだ……?)
・・・・
提督(工廠に入っていったな……)
提督(装備の開発でもするのか? いや、ここの工廠の機材は古びていて使い物にならないし、妖精も居ないはず)
提督(気になるな。一体何のために……? あ、工廠の奥の部屋に進んでいったぞ)ガシャン
提督(あれは……水槽? 随分大きい水槽だな。サメでも飼っているのか?)
如月「司令官。見ているんでしょう? 出てきて下さい」
提督「如月……それは一体……? 鋼材と燃料なんか持ちだして、ここで何をしている?」
如月「隠してもしょうがないわね。この水槽に居るのは……私たち艦娘の成れの果てよ」
提督(あれは……深海棲艦……! かなり小型だし、体の一部が欠けているように見えるが……)
提督「如月! お前一体、何を……」ガラガラ……ボトン
如月「何って、補給よ。深海棲艦も、必要なものは艦娘と同じなのよ」
提督「……説明してくれないか」
如月「いいわ。教えてあげる。私たち艦娘は、轟沈すると深海棲艦になるのよ」
如月「戦いに敗れて暗い海の底に沈み深海棲艦に成り下がるか、解体されて艦娘だった頃の記憶を失った普通の人間に戻るか、それが私たちの辿る末路よ」
如月「この水槽にいる子は、かつて私とともに戦っていた子よ……」
・・・・
如月「私の前の司令官、清浦中将は、ここの鎮守府で指揮を執っていた」
如月「有能で聡明な方だったわ。おまけに人柄も良かった。私たち艦娘を、戦争の道具じゃなく、一人の人間として接してくれていた」
如月「ただ、ある大戦で、中将は主力艦隊の1割を失ったの。最終的に勝利を収めたんだけど、彼は精神が壊れてしまったのよ」
如月「彼は、戦いが終わった後、抜け殻のようになってしまった。私が声をかけても、ただうわ言のように沈んだ艦の名前を呟くだけだった」
如月「それからしばらくして、彼は異常なほど執務に集中するようになったわ。そして……海域攻略中に、深海棲艦となったかつて自分の艦隊にいた子を発見したという報告を聞いて、彼は狂喜した」
如月「彼は、私や他の生き残りたちに自分が沈めて深海棲艦にしてしまった艦娘を拿捕するように命じたわ」
如月「そうして出来たのがこの水槽よ。ここは、かつて私の指揮官だった人が治めていた鎮守府」
如月「この水槽には、本当はもっと多くの深海棲艦となった艦が居たのよ。最も賑わっていたときは、あの海域で沈んだ娘が全員居たんだけどね」
如月「この水槽では、沈んだ艦全員を収容するには狭すぎたみたいね。間もなくして、大型艦は皆死んでしまったわ」
如月「それから、重巡・軽巡と続いていった。最後の一人であるこの子以外皆居なくなるまで、清浦中将は深海棲艦を艦娘に戻す研究をしていたけど」
如月「研究の結果分かったことは、それは不可能だ、ということだけだった。また、深海棲艦は艦の怨念から生まれた、負の感情の塊なようなもの。だから、深海棲艦となった艦に対して、かつて艦娘だった頃と同じように愛情を持って接し続けていた中将の行動がかえって仇となって、深海棲艦の死を助長させていたようだわ」
如月「最期に彼は、艦娘を私を除いて全員解体して、命を絶った。最後に残ったこの子を私に託してね」
如月「この子が深海棲艦になる前の名前は、雷よ。私を庇って沈んでいった艦。そして、今の艦隊の……電の姉よ」
如月「本当に……運命とは皮肉なものね」
提督「…………」膝から崩れ落ちる
提督(言葉が出ない……なんだよそれ……。なんだよそれは……)ポロ……ポロ……
如月「私たち艦娘は艤装の力で自殺することが出来ないのよ。戦って沈むか、解体されるまで、恐らく数百年は生き続ける。残酷な話よね。もう涙も枯れたわ」
如月「ごめんね。本当に……ごめんなさい。こんな話聞きたくなかったでしょう?」
如月「私たちと出会わなければ、いや、私と出会わなければ。こうしてこの場面を見ていなければ、こんな風にはならなかったのにね……」
如月「私なんて最初からいなければ良かったのよ」
如月「……ごめんなさい。今日はもう休ませてくれるかしら。また、明日になれば元通りになるから」
提督「……」
突然の投下
そして突然のイベント発生
提督の勇気が試される
【コンマイベント発生】
(重要度の高い分岐点なのでエクストライベント扱いではないです)
00?49:イベント未発生
50?99:イベント発生
イベント未発生だと通常通り別の艦娘とのエピソードになります。
イベントが発生すると追加エピソードが発生します。
>> 1
スマヒョからの投稿でなんでなんかミスったっぽい
↓のコンマで決定ってことで
提督「……分かったよ」
提督「……」
提督「……僕は、覚悟を決めた」立ち上がって如月の肩を強く掴む
提督「……僕は」
提督「君を!」
提督「君たちを!」
提督「絶対に……絶対に救ってみせる!」
提督「こんな悲しい事があってはならない。僕は、君たちを、この先振りかかるであろう全ての悲しみから守ってみせる」
提督「如月。僕とともに生きてくれ」
提督「……これは、単なる僕のエゴだ。君たちを救いたいという気持ちも、君たちを守りたいという気持ちも」
提督「きっと君は死んで楽になりたいのだろう。僕が同じ立場ならそう思う。だが、僕は君に生きていて欲しい」
提督「僕が君の生きる希望になる! 僕を信じてくれ……僕の為に生きてくれ!」
如月「あ……ああっ……はい……!」提督の胸に顔を埋める
如月「わ、私……司令官……うぅっ……あぁっ……」グスッ
提督(僕は……もう、迷わない)
----------------------------------------------------------------------
如月の好感度+3(前レス+今回、現在値8.5)
艦娘たちのために生きていく決意を固めた
勇気+10(現在値59)
知性+10(現在値46)
仁徳+10(現在値57)
魅力+30(現在値40)
///////全部チラ裏///////
ああああああああああああもうだめだ、おしまいだああああ
助けてくれ、どうしてこうなった
なんでこんな展開に……(お前が用意した展開じゃろがい)
風呂敷広げ過ぎると後々爆死するということはわかっていただろうにのうワグナス
ここでコンマイベントが発生してしまったがために今後の展開は再構築し直します
というわけで今日の投下はスットプするでよ
発生していなければもうちょっと書き進め易かったし構想通りの展開で進めていくつもりだったんだけどしょうがない
EDもきっと今>>1が考えてるものとは変わったものになるでしょう
もうアレだ。うん、改二的なアレだ。
でも主人公をここまで強化するということはこの先にさらに過酷な運命を用意しなければならないのであってうんぬんかんぬん。
まぁ魅力 30でも納得出来るかなと思って大盤振る舞いしたけど今後は多分ない
あとアイヒョーンからだと半角プラスとか投稿出来ないっぽいね。ちい覚えた
取り敢えずsagaを入れよう、艦これだと度々引っかかるから
こんな風に
明日午前2:00頃投下します。時間が時間なので安価とかコンマとかそういうのはありません。
長い休みって昼夜逆転しますよね。ダメ人間だね、そうだね。
>>91
過去の投下見返したらsagaって入力したつもりがsageってなってるのが結構多くてアレでした。
そしてsagaとsage併記できるのは知りませんでした。
以後気をつけます~。
///チラ裏///
E-1突破しました。二軍だけじゃなく主力艦何隻か連れてきたのにボス到達率7割ぐらいなのが泣けた。
戦艦入れたからボスまで辿り着いたら確殺だったけどね。
ただ榛名改二入れたのは後々のことを考えると戦略的ミスかも。
E-5まで突破出来ればいいや勢なので平気だとは思うけれど……。三正面作戦? 何それおいしいの?
各資材はまだ20000切ってない(むしろ増えた)けどバケツが210→190になったのが辛い。
まさか初っ端からバケツ20も使うと思ってなかったから苦しみがある。
投下しますにょ。
といっても1レス分しか出来てないです。
でも現在進行形で書いてます。とりあえず今回はちょうど今書いてる分までの投下を予定しております。
皐月「司令官。お・は・よ!」ベッドで寝ている提督の上にのしかかる
提督「ん~……おはよう」
皐月「さ、ご褒美ご褒美♪ ほら早く服着替えてっ」
提督「あ~、そうだったね。分かった分かった。着替えるから退いて」
・・・・
提督「ご褒美ってこんなんで良かったの? せっかくの休日だし、外出許可取っても良かったんだよ?」
皐月「いや、これで良いんだ。司令官と話をする時間が欲しかったからね。こうやって晴れた穏やかな海を眺めながら話をするのも良いじゃないか」
提督「まぁ……皐月がそれでいいなら構わないけど。ただ演習でのあの活躍ぶりのご褒美としてはちょっと足りないんじゃないかなと思っただけで」
皐月「良いんだよ。最近の司令官は特に忙しそうだったからね。むしろこっちが申し訳ないぐらいだ」
提督「んー、実はそんなに忙しくないんだよ。こないだの大規模作戦みたいなのが来れば話は別だけど、日々の執務でやるべき事はそんなに多くないんだ。直接の仕事とはあまり関係ない事に時間を割いてる方が多いかな。
僕にはまだ知らないことが多すぎるんだよねぇ……もっと知らなければならないんだよ。君たちについて、深海棲艦について、この戦いについて……」
提督「前任の提督が残した手記や資料が見つかったんだよ。それらに目を通してるんだけど、一つの単語を理解するのにも時間がかかる始末でね~……。
どうにも僕が知らない闇が、誰も知らないような闇が隠されている気がするんだよ、この戦いそのものにね。それを知った所で僕に何が出来るかは分からないけれど」
皐月「……司令官。何か悩みがあるよね? 一人で抱え込むのは悪い癖だよ」
提督「そういうわけじゃないんだが……ただ、君たちにも話せないようなことがあることは事実だ。いずれ話す時が来るかもしれないが、僕自身、まだ分かっていないことが多いから、今はまだ」
皐月「電には相談していないのかい? 秘書艦でしょ」
提督「いや、電には……特に話せない。未だに僕は、動揺してる。でも、なんとかしなきゃっていう気持ちばかりが逸ってしまって……今すぐ何かが出来るわけじゃないんだけどね」
皐月「ボクに聞かせてよ。……ボクも、話を聞いたところで司令官の力になれるかどうかは分からないけど。でも、司令官の力になりたいんだ」
提督「…………」
・・・・
皐月に数日前の如月の話をした。艦娘は轟沈すると深海棲艦になるということ、前任の清浦中将と如月の関係、そしてこの工廠には深海棲艦となった電の姉……雷が居ることを。
提督「艦娘が深海棲艦に対抗しうる唯一の兵器だということは分かってる。ただ、僕は、君たちにこんな残酷な結末しか用意されていないことが……許せないんだ。
ただの義憤だ……ただの自己陶酔だ……君たちが沈んでも僕は悲しくなるだけで、僕が死ぬわけじゃない……そう、頭では理解している。僕のことを冷酷な奴だと見下すかもしれないけど、最近はずっとそんなことを考えている」
提督「でも、君たちがこんな残酷な仕組みの中で生かされていることが僕には納得出来ない。君たちは兵器かもしれないが、僕は君たちのことを完全に兵器だと割り切ることが出来ない。
君たちだって、自分のことを使い捨ての兵器だと思って戦っているわけじゃないだろ」
提督「僕は君たちを救いたい。それが僕の願いだ。たとえどんなことがあっても君たちを……」
皐月「司令官……ボクはね。司令官にそんなことを言って欲しくはない。そんな悲しい顔をしながら話す司令官を見たくない」
提督「皐月……どういうことかな?」
皐月「近頃の司令官は……どこか変わったよ。遠い目をしながら、何かを思い詰めたような真剣な顔をして。僕や磯波が話しかけても、うわの空で」
皐月「司令官は……ボクたちの為に命を捨てるつもりじゃないのかな……いや、今そのつもりはなくても、いずれそうなりそうで。少し怖いよ」
皐月「磯波とも、話をしてたんだ。最近、特にここ数日の司令官は様子が変だって。まさかここまで深刻な話だとは思わなかったけど、何か悩みを抱えていて、どうにかしようと必死なんだって」
皐月「ボクたちの為に自分を犠牲にしようとしているなら、もしその覚悟を決めているなら、それは……それはやめて欲しい」
皐月「ボクの辿る道が解体か、深海棲艦になるか、どうなるかは分からない。でもね、ボクは、そうした現実を知ってなお、前のように他愛もない話をしてた頃の、ちょっと抜けてるけど優しくて明るい司令官であって欲しいと思う。
令官がボクたちのことを大切に思っているように、ボクは司令官のことを大切に思ってる。ボクは司令官の笑顔を守りたいんだ」
皐月「その為にボクは戦果を上げ続ける。ボクは司令官の為に、どんな作戦でも成功させてみせる。誰よりも強くなってみせる。でも、それはボク自身を犠牲にして叶えたい願いじゃない。絶対にボクは沈まない。艦隊の誰も沈ませない」
提督「皐月、君は強いな……精神的にも……」
皐月「司令官はさ、少し深刻に捉えすぎだよ。確かに司令官の言うとおり、艦娘の末路は悲惨な道しか残されていないのかもしれない。でも、それはこの戦いが続けばの話だ。
ボクがこの海の全ての深海棲艦を倒せば、それで済む話だろ? ま、ボクじゃなくてもいいけどさ」
皐月「司令官が不安なら、ボクが司令官の希望になるよ。司令官が挫けそうなら、ボクが司令官に希望を見せてあげる。この先にどんな試練が待ち受けていても……ボクは司令官と共にあるから」
皐月「ボクで不満なら、他の子だっているからさ……。きっと、皆司令官のことを大事に思ってる。司令官がボクたちのことを想ってくれているようにね」
皐月「だーかーらー司令官はもっとラクにしてて良いんだよ? むぎゅー」提督のほっぺをつねる
提督「皐月……頼りになるな……君は。心配してくれてありがとう、話したら少し気分が落ち着いた」
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皐月の好感度+2(現在値8)
大佐さんへの面会のための願書を書いてから数ヶ月。何かの手違いで受理されていなかったのかと、再び願書を書こうとしていた矢先だった。
電「司令官さん。三雲大佐という方が、面会に来ているのです」
提督「大佐さん? おかしいな、事前に連絡が来るはずなんだけど……。とにかく会ってみよう」
・・・・
提督「大佐さん、お久し振りです」
朝潮「三雲大佐、ご無沙汰しております!」
大佐「やぁ、久しぶりだね。そっちの子は秘書艦かな?」
電「電なのです。よろしくお願いします」
提督「知りたいことは色々ありますが……まず、なぜ突然僕のもとへ訪れたんですか? 願書を出したから、事前に連絡ぐらい来ると思ってたんですけど」
大佐「あぁ……じゃあその辺の話からするかな。一通り説明をするから聞いていてくれ。少し長くなる」
提督(大佐さんがこういう口ぶりをするってことは、話し終わるまで口を挟まないでくれということだな……)
大佐「まず、今まで君に会えなかった理由はだね。私は大本営の連中から目をつけられている。恐らく私は……次の海域攻略作戦が終わった後、軍法会議にかけられ死刑になるだろう」
大佐「私はね、クーデターの嫌疑をかけられている。ま、クーデターを企んでいることは事実だがね。全ての証拠を抹消しているから証拠不十分で立証出来んはずなのだが……。
連中が遂に業を煮やしたのか、私とは全く関係ない別件の不祥事を私がやったということにして、始末するつもりらしい。もっとも、それをするのは海域攻略作戦終了後になるだろうが。
あの海域を私以外の無能が攻略することは出来んだろうしな」
大佐「とまあそんなわけで、君とも簡単には会えない状況だったんだよ。君まで目をつけられるようになってしまっては困る。
君が私に会うための願書を申請したという事や、君と私の関係性、その他君に関する過去の経歴の抹消・偽装……紆余曲折あって会えるのに時間がかかってしまったんだ」
大佐「……で、私が君なら、年齢や名前などを偽装してまで君を提督にした理由か、私がしようとしているクーデターの内容について聞くと思う。
なので、説明しよう。まずは前者について説明する。君にこの鎮守府の提督として着任してもらった理由について話す」
大佐「かつて君に提督として海軍で働くように提案した時があったと思うが、あの時の私は相当切羽詰った状況にあった。
うまく切り抜けられたからこうして首の皮が繋がっているものの、下手すれば養子である君にまで危険が及びかねない状況だった。
だから、君の経歴を隠し、かつ、私から距離を離す必要があった。提督にならないかという話は冗談に近かったがね」
大佐「君が他の道を望んでいれば、コネを使ってどうにか誰かに引き取ってもらう予定だった。だが、君は私の力になってくれたいと言ってくれた。
また、君の力ですら借りたいほどの状況が近づきつつあった。私としても苦渋の決断ではあったが、君にここで働いてもらうことにした」
大佐「……君の顔を見るに、相当苦労したようだね。何も聞かなくても目を見れば分かる。君にほとんど説明しておかなかったのは、私の失敗だったな。私の想定では、君はここまで成長する予定ではなかった。
息子に向かって言うようなことではないが、君のことだからいざ提督になったものの、よく分からないまま漫然と数ヶ月ぐらいは過ごしてくれるだろう、ここまで指揮官として力をつけることはないだろうというのが私の見通しだった。
この鎮守府は他所と比べて敵襲も穏やかだし、基本的に君には再び私と会えるようになるまで平穏な日常を送っていてもらう予定だった」
大佐「……1-3作戦、1-4作戦は完全に想定外だったな。人の動きは読めても深海棲艦の動きまでは読めん。1-3作戦の時は南条中佐……ええと、あの時は妙高型の重巡洋艦を指揮していたかな。
彼に増援として向かわせたが、1-4作戦では一切手助けが出来なかった。1-3作戦は事前に情報を得ていたが、1-4作戦は緊急の指令だったようで、情報が私の耳に入った頃に君はもう既に出撃していた。
よくあの無謀な作戦を遂行したな。私的な感情抜きにしても、軍人として敬意を払えるよ」
提督「運が良かっただけですよ。本当に……あれは運が良かった」
大佐「だが、艦娘の命を守ることを真剣に考えていなければあんな策は思い浮かばんよ。分の悪い賭けではあったが……誰も失わない方法ならあの作戦以外選択肢は無かっただろう。
結果として誰も失っていないわけだし、誇っていいだろう。その前の1-3作戦も見事だった。本来ならこうして私と再会してから君に提督としてのイロハを叩き込むつもりだったが、もはやその必要性はなさそうだな」
提督「いくら敵襲がほとんど無く支援に回ることが多いこの鎮守府といえど、士官学校に通ってすらいない僕が指揮を執るのはおかしい気がします。どうして僕を選んだんでしょうか? ……話の途中ですみません」
大佐「いや、良い質問だ。そのことについても触れようと思っていたのだが、どのタイミングで話そうか迷っていた。じゃあ、そのことについて少し話そうか」
ア・・・・ゴメンナサイ・・・・
力尽キマシタ・・・・
寝マス・・・・
起キタラ続キ書キマスンデ何卒・・・・
大佐「結論から話すと、士官学校の連中はほぼ全員使い物にならない。……小学生の頃に打った注射を覚えているかい? 国民予防接種という名前だったかな。あれには超小型のマイクロチップが埋め込まれている。
注射によって体内に入ったマイクロチップは循環する血液内に紛れ込み脳に留まる。マイクロチップによって注射された人間の脳波をコントロールし、危険思想等を未然に防ぐ……らしいな。
SFのような話だが事実だ。そして、海軍士官学校に入る連中は全員再びこの国民予防接種を受ける。子供の頃に受けたやつよりもより強力で、具体的に脳を支配出来るものを埋め込まれる」
大佐「少し脱線するが、子供の頃の国民予防接種によって埋め込まれるチップは、人によって全く効かないらしい。
というか、子供の頃は脳が成長過程であり、あまり強力なチップを埋め込むと発達障害を引き起こす恐れがあるため微弱なものしか使えず、
また、年齢の成長とともに脳の構造が変化していくためチップが機能し辛いらしい。ま、大人になると軍人だけでなく公務員や大企業の社員もこの国民予防接種を受けることになるんだがな。
大人になると脳の形成が完了しているため、このチップの効力が高まる。その気になれば記憶の改竄や具体的な行動の指示も出来るらしいな」
大佐「脱線ついでに、もう一つ話しておくか。このチップは艦娘にも埋め込まれている。これは脳にとって非常に強力な影響を与えるマイクロチップだ。
このチップを埋め込まれた女性は、従来の人格とは別に艦娘としての人格を持つようになる。この艦娘としての人格は、与えられた艤装によって決定される。
艤装は第二次世界大戦の時代に活躍した艦戦になぞらえて生成された武装だ。その艤装の情報をチップが読み取って艦娘としての人格が形成される。
艦娘となった女性は、この『艦娘としての人格』に人格を支配されるが、解体され自分の艤装を失った場合、『艦娘としての人格』情報の全てが抹消され、従来の人格に戻る」
大佐「艤装を失った元艦娘は再び一般社会に復帰することになるのだが、艦娘であった期間の記憶は残っていないし、人によっては後遺症が残ったり精神障害を患ったりすることがあるようで、表沙汰にはなっていないが問題になっている。
艦娘自体この海軍内でも少佐以上の人間しか知らない極秘兵器だから、世間では局所的記憶障害なんて言葉で片付けているらしいがね」
大佐「話がそれてしまったが、チップを埋め込まれていない人間を潜り込ませておく必要があった。
君に会うのにここまで時間がかかった理由の一つに、政府が管理するデータベースから君が子供の頃に埋め込まれたチップの発信していた情報を削除するのに手間取った。ここまでいいかな」
大佐「で、私のこれからに関する話をする前に……何かまだ質問がありそうだね、聞こうか」
提督「ここの鎮守府の前任である故清浦中将について、ご存知ありませんか? 中将の遺した手記に三雲大佐という記述があったもので……」
大佐「清浦か……。彼は私の幼馴染であり、海軍で唯一の友人だった。アイアンボトムサウンドでは共に戦ったよ……。彼はあの戦いで多くの犠牲を出しながらも戦果をあげて中将になった。それからは縁遠くなってしまったな……。
私なんかより比較にならないほど聡明な奴だったが、情に篤すぎたんだろうな……。自責に駆られて頭をやられてしまったんだろう」
提督「中将が大佐さんのために残したものがあるようです。後で見てもらえますか?」
大佐「(今じゃまずいのか?)……今更だが、大佐さんはやめよう。大佐は他にも居るしな」
提督「大佐さん本名教えてくれないじゃないですか。親戚で義理の親のはずなのに大佐さんは謎が多すぎるんですよ」
大佐「本名などとうに捨てたよ。とりあえず三雲で頼む。分かってると思うが私が義理の親だという話はするなよ? 今はそうじゃないということになってるんだからな。
君のことは今でも実の息子のように思っているが、立場上は赤の他人になるということを覚えておいてくれ」
・・・・
それから、昼食を摂ることになり話は一度中断された。昼食後、電と朝潮を解散させ、三雲大佐と工廠奥の部屋へと向かった。
大佐「これは……」
提督「清浦中将がかつて艦隊に加えていた艦娘だった……今は深海棲艦となった存在です」
大佐「詳しく聞かせてくれ」
僕は、三雲大佐に如月から聞いた事を話した。
大佐「そうか……確かに轟沈した艦娘は深海棲艦になる。だが、実際に深海棲艦となった艦娘を拿捕し、研究していたのは驚きだな……。しかし、彼が精神を病んだのも頷けるな、これは。
このおびただしい量の手記は、この水槽に居る深海棲艦となった彼女や死んでしまった他の元艦娘を救いたい一心で行った研究の記録なんだろう、常人にはここまで書けんよ。……惜しい男を亡くしたな」
大佐「せめて私が居てやれれば……いや、そんな程度で彼を救うことは出来なかったか。しかしこの水槽や手記を君以外の人間に発見されていたら大変なことになっていたな。
沈んだ艦娘が深海棲艦になるという事実は、私や清浦といった前線で戦っている者の中でも実際に深海棲艦となった元艦娘と邂逅したことのある、極めて少数の人間しか知らない情報だ。
上層部の人間はオカルトだと思い込んでいるが、な」
大佐「この手記が知れ渡れば、対深海棲艦への研究は進むことだろう。だがそれは、倫理に反する艦娘への実験が行われる危険性も孕んでいる。
いや、行われるだろう。清浦の手記では、深海棲艦の習性等の研究については書いてあっても、轟沈した艦娘がどのように深海棲艦になるのか、実際に意図的に沈めてみるなどといった非人道的な実験はついては行われていない。
だが、上の奴ら、いや、士官学校の連中も含め、海軍にいるほぼ全ての人間は艦娘を道具としか思っていない。そういう風に考えるように脳を支配されているからな」
大佐「清浦のような超例外も居なくはないがな。だが、上の連中がその気になれば人格だって書き換えてしまうことが出来る。恐ろしい話だな」
大佐「さて、私が行おうとしているクーデターとは、まず、政府のマイクロチップの情報を管理しているコンピュータを破壊することだ。
このコンピュータを破壊することによって、艦娘は自分の意志を持つようになり、上官の指示のままに動く道具でなくなる。
その後私は自由になった艦娘とともにこの国の各所にあるマイクロチップへデータを送受信している施設を破壊する。
これで全国民と艦娘の脳の支配を無効化し、私を中心とする新たな政府・新たな海軍を樹立する」
提督「これは僕の主観は除いた意見なのですが、艦娘が自由意志を持つようになったら、それはそれで問題が起きると思います……。
艦娘が自由意志を持ったら、大佐の思惑通り動いてくれるという確証はなくなるかと。それに、もし艦娘に武装蜂起されたら人類は対抗する術がなくなると思いますが」
大佐「その通りだ。だが、前者については問題ない。チップによる脳の支配を解消してやり、その事実を広く知らしめれば私は大衆の支持を得ることができる。
艦娘だって私のために自らの意志で動いてくれるだろう。後者については……その可能性はあるだろうな」
大佐「だが私は、もし艦娘が人類に反旗を翻すことが起こるとするならば、それは人類が淘汰されるべき時が来たということだと考えている。
母体となっていた人間の意志を強引に乗っ取り、兵器としての人格を植えつける。そして彼女たちを使い捨ての道具のように消費していく。
人類、とりわけ私たち提督は、国防のためという大義名分を隠れ蓑に自分たちの欲望のためだけに艦娘を利用していたようなろくでもない連中だ。報復されても文句は言えんだろう」
大佐「と、私の主観は置いておいて、艦娘が蜂起する可能性は低いとみていいだろう。彼女たちは強力な武力を持っているが、逆に言えばそれだけだ。
脳は人並みだし、彼女たちとて不死身ではない。メンテナンスを怠れば力も衰える。妖精の力を借りるにも、その妖精のエネルギーの供給源は人間から提供されている。
人類の母数が減れば当然妖精の絶対数も減る。妖精の数が減ってしまっては彼女たちは自分自身を維持できなくなる。……一種の食物連鎖みたいだな」
・・・・
大佐「……少し近現代史の話をするか。20世紀に第二次世界大戦で敗戦した日本は、紆余曲折あって復興するも21世紀初頭から中期にかけて、人口の減少や国力の低下に悩まされることになる。
そこで発明されたのが、妖精というものだ。私も詳しい原理は分からんが、この妖精は人間の多幸感、夢や希望といった、プラスの精神エネルギーを糧に行動したり増殖したりする。
この妖精が発明されてから世界情勢は一変した。妖精は人類に対し、無限に近い労働力を提供した。かつて人間が行っていた労働は全て妖精が担うようになったため、
人間に労働の義務を課さなくても社会が成立するようになった。食糧問題・エネルギー問題が破竹の勢いで解消していき、国民が物質的に豊かになったため領土問題や国家間のいざこざも激減。
労働に縛られることのなくなった人間たちは、みな己の幸福追求のために活動するようになった。……遥か昔から人類が渇望していたユートピアが実現したのだ」
大佐「ここまでが21世紀後期の話だ。ここまでは良かったんだ。しかし、21世紀の世紀末が近づくと、少しずつ状況は変わっていく。
妖精によって労働を奪われ、かつ自分にとって何が幸福か見出せない人間による自殺が起き始める。また、人の平穏や幸福を邪魔することだけに生き甲斐を感じるようになった哀れな者による、テロ行為も多発する。
どうも人類は世紀末が近づくと定期的に世界を滅ぼしたくなるらしいな。そして、2099年に、その破滅願望は満たされることになる」
大佐「突如地球の周回軌道上にある存在する人工衛星のほとんどが機能しなくなり、国家間での情報伝達が滞った。次に、旅客機や貨物機の墜落事故が多発するようになった。
それから間もなくして、各地に深海棲艦が出没するようになった。深海棲艦には従来のあらゆる兵器が通用せず、人類は成すすべもなく滅ぼされていくだけかに思われた。
絶望的な状況によって人類の希望は奪われ、その影響で妖精の数も大幅に減少。妖精に支えられていた社会制度は瓦解し、人類は再び餓えの苦しみを思い出す。生命を脅かされる恐怖を思い出す」
大佐「そこで生まれたのが君の脳にも埋め込まれているマイクロチップだ。このマイクロチップで、深海棲艦に関する記憶を抹消し、国民の多くから恐怖を強制的に拭い去った。
思想を統制し、国家のために尽力するように洗脳していった。洗脳した国民や、生き残りのごく僅かな妖精を使って誕生した深海棲艦に対抗する唯一の兵器が艦娘だ」
大佐「私が生まれたのはちょうどその時期だった。私は様々な幸運に助けられ国民予防接種を受けないままこの歳まで生き永らえているがな。
私の世代だとまだ国民予防接種制度……いや、マイクロチップ制度の導入にゴタゴタしていた時期でな。
もっとも、制度が固定化されてからは職に就けばこの注射を打たれるようになった。私と同じかそれより上の世代の人間でもこの注射から逃げられた人はそう多くはないだろうな」
大佐「と、私の話はさておき、艦娘が誕生してから数十年経過し、人口は減少しつつあるものの妖精の数は少しずつ回復傾向に。
艦娘を運用し深海棲艦を倒すための機関である海軍のシステムも安定化し、現在に至るというわけだ」
大佐「これはあくまで私の妄想であり、何か裏打ちされた情報があるわけではないが。
私はね。深海棲艦は、人間の持つ破滅願望が呼び寄せたものだと思う。
マイクロチップの発明も、人類にDNAレベルで埋め込まれた奴隷意識……自主的な行動を否定し、支配者への服従を第一とするような思考によって生まれたものだと思う。
いかなる発明もその需要がなければ生み出されない。需要がなければ生み出されたところでそのまま風化する。
マイクロチップがここまで流布したのは、人類にとって需要があったからだ」
大佐「これはチップの力で国民を支配したいごく少数の支配者のために生まれたものじゃないと私は考えている。
勿論、現実としてそのための道具として使われているが、マイクロチップが導入されてから自殺が激減した。
思想を統制されているとはいえ、自分を死へと追い込むような強い衝動までチップで制御することは出来ない。
にもかかわらず自殺が激減した理由は、人間の多くは奴隷のように生きることを望んでいるのではなかろうか」
大佐「だが、それでも私はそうした奴隷としての生き方は人類のあるべき姿ではないと思う。全ての人間は自由意志を持って生きるべきだ。
そうやって生きていけるように教育していくのが、生きる意義を見出せない人間に対しても自分なりの生き方を見つけることの出来るように支えていくのが、
それが正しい社会のあり方だと私は考えているし、私はそれを実現するつもりでいる。
私の使命はこの国の人々を支配から解き放ち、全ての深海棲艦を打ち倒すことだ。私はその為に生きている」
大佐「……私はもう、そう長くはない。勘の良い奴に狙われてしまって、私の一挙一動は監視されている。
こうして君に会うのにも相当苦労したぐらいだ。だから、君に私の意志を継いでもらいたい。私に代わって、艦娘を救い、人々を支配から解放し、深海棲艦を打ち倒すのだ」
提督(『ボクたちの為に自分を犠牲にしようとしているなら、もしその覚悟を決めているなら、それは……それはやめて欲しい 』)
提督「大佐さん……いえ、三雲大佐。大佐の仰っていることは理解できたし、その意図も分かりました。
ですが……今の僕には、大佐の考えを全面的に支持することは出来ません。
僕は貴方の理想のために命を賭けるわけにはいかないし、貴方がこうして自分の理想のために命を捨てるような道を歩んでいたことにも納得が行きません。
僕を引き取ってくれたご恩はありますが……すみません」
大佐「それはそうだろう。私がこれまで見てきたものを君は知らんだろうし、そういう反応をするだろうと思っていた。それでいい。
だがな、私はもはや後には引き返せない。それに、人は自分の理想や願いのためなら喜んで死ねるものだ。私とて例外ではない」
提督「僕は、人間に命よりも大事なものがあるようには思えません……」
大佐「君は何のために生きている? ただ生きているだけの人生に何の価値がある?
寿命が来るのを待つためだけに生きているのか? 人間は意志なくしては生きていけない。
私は自分の意志で、私なりの理想を実現するために生きている。その為なら、私はどんなことでもする」
大佐「……今君に理解してもらう必要はない。だが、布石は敷いておく。私は君がやがて私の意志を継ぐと賭けている。
もう準備は粗方出来ている。各地の監視の薄い鎮守府では、既に私の理想に賛同する人間や艦娘を配置してある」
大佐「時期的には1年後になるか。その頃に、各地で叛乱が起こることになっている。君がその指導者になれば、多くの者が君の側につくだろう。
もう既にそういう風に根回ししている。私の意志を継ぐならば君しかいない。私は君の為に打てる手を尽くしておく」
提督「なぜそこまで僕を動かそうとしているのか、分かりかねます」
大佐「いや、私は君を私の手足として動いてもらおうとは思っていないし、そんなことを望んではいない。私は君を私の奴隷にするつもりはない。
だが、いずれ君は自ずから私の意志を継ぐようになる。君の成長ぶりを見て、私はそう確信した。
君ほど艦娘を想っている人間はこの海軍には居ないよ。君ならば、きっとこの闇を振り払ってくれると信じている。
だからこそ、将来の君の為に私は布石を敷いておく。君がこの世界の希望になるのだ。私が成し得なかった望みを果たしてくれ」
提督「…………」
大佐「今はまだ、私に言っていることが分からなくてもいい。私の考えに同意できなければそれでもいい。君の信じる道を行け。君が正しいと思う生き方を選んでくれ。
君は君らしく生きてくれれば私はそれで構わない」
大佐「私は私の思うように生きるし、君は君の思うとおりに生きろ。君の歩む道の先に幸せがあることを祈っている。では、そろそろお別れだ。もう会うこともないだろう。朝潮にもよろしく言っておいてくれ」
・・・・
提督「今まで、お世話になりました。……未だに混乱してるけど、僕は大佐さんに会えて良かったです。恩義を抜きにそう思います。今日の話は僕の中でまだ納得出来ていませんが、それでも、貴方を尊敬しています」
大佐「ああ、私も君に出会えて良かった。最後に成長した君の姿が見れて良かった。さらばだ」
投下ここまで。
設定語りなっげーよ! もっと小出しにするとかうまい手は無かったんかと。
自分で書いててこれもう分かんねえなとなる始末……反省。
とりあえずこんな感じの土台からあれやこれや流れを作っていくよ。
(初期の構想から大幅に外れているので結構試行錯誤しながら進めてます)
ぶっちゃけ自分でもこれから話がどうなっていくか分からなくなってきた、ヤバイ。
とりあえずここから先はこういうめんどくさい話は減って艦娘が活躍したりするようになるんじゃないかな。
///チラ裏///
さぎょいぷは 効率悪い やめておけ(よみ人しらず)
次の投下は本日の21:00頃を予定しております。
とりあえず頭を使わなくても問題なく読める感じのパートに突入するはずですのでご安心を(ぉ
どうでもいいけどこの『(ぉ』に古代インターネッツのかほりを感じますね。
///以下チラ裏という名の盛大な言い訳なので見たくない人は見ない方がいい///
ちゅ、忠告はしたからな……。例によって本編にはほぼ関係ないです。
27-30レス目の話は皆さんの考えてるような感じで正しいです。
いやーちょっと詰め込みすぎたかなあと後悔しております。
ここでライトノベルとかゲームとかだったら固有名詞がたくさん出るような感じになってたんでしょうけど、そこ本題じゃないんで……本題じゃないから3レス以内で収めてえや……とか詰め込んだらぐちゃぐちゃになりました。
まぁあんまり重要な部分ではないので訳わかんなかったら読み飛ばしてOKですです。
そう、いわば27-30レス目のあれやこれやは料理にたとえるならオリーブオイル。
分かるか分からないかぐらいのギリギリのラインでちょっぴり使用すると「おっ」となるアレです。
それを今回は何の考えもなく大量にダバァとぶち撒けてしまったのであー勿体無いなーみたいな感じです。
オリーブオイルをdisってるわけではないのでオリーブオイル教信者の方は各自別の例えで脳内保管して下さい。
だったら話の内容を分割して小出しにすればいいのにね。っていうね。
だがな! 世の中の伏線には二つの「型」が二つある。
一つ! 綿密に先の展開を考えた上でちびちび未来への布石としてチラ見せしていくスタイル。
そして二つ目! 片っ端から伏線っぽいものをブン投げまくって後から回収していくスタイル。
普通に考えれば第一の型が賢い選択だろう。だがしかし、ここで>>1は二の型を選んだのだ!
そう、全知全能の大天才である未来の自分ならば、奇跡的なまでに超絶な閃きを発揮して後からブン投げた伏線めいた謎のフラグを全部なんとかしてくれるんじゃないか! そう信じたのであった!!
……んなわけあらへんがな。
しかし既に予め練っていた構想にこの設定を混ぜ込んでちょっとずつブレンドさせていくのは破綻しそうで無理っぽいっていうかそもそも予め練っていた構想が今滅びかけてるし、
新しく構想を考えてそれに沿って作っていく……っていうのもまためんどくせーとかなって安易な選択をしたことは事実。
それっぽい設定は書いたけど全部が全部ストーリーに深く関わってくるとは限らないよ。
っていうか、どうなの? 死に設定じゃないんですか? どうなんですか先生。そこんとこどうなんすか先生。
ちなみに我々の業界ではこの二の型を「伏線地引き網漁」と言います。
言いません。今勝手に私が考えました。いやでもね、伏線地引き網漁もね、作品にプログレッシブなアトモスフィアをエンハンスしてなんかきっと非常にエフェクティブな感じになることもあるんだよ。多分ね。いやそんなことねえや。
なんかシリアスというか妙ちくりんな流れだったけど次回から突然茶番パートに入ります。
茶番というか、これ以上劇薬を混ぜすぎると収集つかなくなりそうなので、中和剤的な。
まぁほんのちょっぴり黒いこと書くと、なんかこれ以上うわーな展開ならばある程度絆が深まってからうわーした方がいいかな的なうわ何す(ry
あと今までの流れがカオスすぎたからここでちょっと小休止入れると需要的にもナイスか……どうなんだそこんところ、みたいな。
チラシの裏とはいえそういう打算的なことを書くのはアレなのでは。
チラシの裏だから>>1以外の天地宇宙万物の諸々は読んでないに違いないはずだから問題ないか。問題ないな(自己完結)
今日から仕事だし、しかも全く眠れないみたいな、そんな状況によるつらみが爆発して深夜のテンスョンでわけのわからないことを書いているけどあまり気にしてはいけないよ。
深夜テンションの、それもチラシの裏に書いてあることなんだから全部アテにならないTAWAGOTOですぞよ。おやすみ!
投下します。あ、投下前に一個補足。
提督の魅力値が人並みにまで上昇している状態ですので、如月の好感度上昇のマイナス補正は消えました。
如月の好感度の現在値は8.5ですが、端数があるとなんか嫌なので+0.5上昇させときます。
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皐月の好感度+0.5(現在値9)
提督「んーーーーーーー」
電「司令官、ヘンな声をあげてどうしたのですか?」
如月「久しぶりに随分間抜けな顔してるわねぇ」
提督「如月、君は極めて失礼だな。いやね、例の大佐さん、三雲大佐に会ったんだけれども……」
電「国民の脳に小型マイクロチップが埋め込まれてる……みたいな話ですよね。途中から電と朝潮は演習で離れちゃったからその先の話は分かりませんけど……」
如月「何よそれ? そんな陰謀論めいた話してたの?」
提督「うん、その話なんだけど……なんかもう、頭の中で整理できないまま訳わかんなくなっちゃってさー」
提督「考えてもどうにかなるようなことじゃないんだけどね。軽く説明すると……」カクカクシカジカ
提督「と、こんな感じ。僕もいまいち理解出来てないんだけどね」
提督「大佐がそのチップによる支配制度を破壊するためにクーデターを企ててるんだけど」
提督「大佐は命を狙われてて実現が困難な状況にあるから、僕がその意志を継ぐように、いや正確には、僕がその意志を継ぐように志した時のためにお膳立てしてるみたい」
電「司令官さんはもし三雲大佐が仰っていたように……大佐が処刑されてしまったらどうするつもりですか?」
提督「今のところは、どうするつもりもないかな。僕に何かを出来るかどうかも分からないしね」
提督「心情的にすごく複雑な感じだ。恩のある三雲大佐が死んでしまったら悲しいし、でも、チップがどうのとか言われても実感沸かないし……」
提督「今回ばかりは僕がどうにかできる話じゃないよなぁ。考えてもしょうがないという結論しか出てこなくて困ってる」
如月「結論が出てるならそれでいいじゃない。今特に動けることもないわけだし、出来ることがないなら仕方ないんじゃない?」
提督「そうなんだけどさー……そうだよなぁ」机に突っ伏す
・・・・
提督「(まずいなぁ……全然執務に集中できないぞ。やっぱり精神的に動揺してるのか?)」ボーッ
電「司令官さん。司令官さん」
如月「ほれっ」提督の口にクッキーをねじ込む
提督「んみゅっ!?」
如月「ふふふ」
電「あっ、如月ずるいのです! ……司令官さん、電のも食べて欲しいのです」
提督「あ、ああ。ありがとう。しかし、突然どうしたの」モグモグ
電「休日に、磯波に教えてもらって私と如月でクッキーを焼いたのです。本当はもっと作ったんだけど、艦隊の他の子にもあげたら減っちゃったのです」
提督「そうか。それにしても、いつの間に君たちそんな仲良くなってたの?」
如月「司令官がしかめっ面して一人で考え事してる間にじゃないかしら」
提督「ちょっと疎外感を感じるからそういう言い方はやめてくれないか」
電「司令官さんはもっと私たちとコミュニケーションを取った方が良いと思うのです……皆もっと司令官さんとお話したいと思ってるのです」
提督「……そうだねぇ。最近は色々なことがあってちょっと僕に余裕が無かったんだ。しばらく顔を合わせてない子もいるぐらいだもんなぁ」
提督(1-4作戦、如月から話されたこの鎮守府の過去、大佐の話……。僕にとっては強烈な出来事が常に押し寄せてめまぐるしく変化していたように思えた日々だったけれど、彼女たちにとってはさほど起伏のない日常だったのかもしれないな……)
提督(彼女たちから見て僕が思い詰めてるように映るのも、大規模作戦があるわけでもないのに忙しそうにしている僕のことを気にしてのことかもしれないな)
提督(彼女たちを守りたいだなんて言いながら、実生活ではほとんど気にかけてやれていなかったのは反省だな……)
如月「また何か考え込んでるの? 急に黙り込まないでよ」
提督「いや、確かに君たちとの会話を怠っていたと思ってね。すまないなと反省している」
電「……司令官さんともっと一緒に過ごせるように、電は皆と色々考えてみたのです」
電「そこで、……そ、そのぅ、これ言わなきゃダメですか。内容だけ説明すればいいような気が……」モゾモゾ
如月「秘書艦だし、それを言うのも貴方の仕事の一つよ。行きなさい電、貴方の本気を見せるのよ!」
電(なんか損な役回りが多い気がするのです……)
電「し、し、『司令官とドウセイカッコカリ』プロジェクト! な、なのです!」どこからともなくテロップを出す
提督「……」腕を組んで数秒考え込み
提督「よく分からんがとりあえずていっ」如月に軽くチョップ
如月「女の子に手をあげるなんてひどいじゃない。いじわる」
提督「僕も女の子にチョップしたのは初めてだよ。このなんかすごい倫理的にアレそうなアレは君が考えたんだろう? うちの秘書艦にセクハラしないでもらえるか」
如月「(語彙力……)な、名前は私が考えたけど、内容はちゃんと皆で考えたのよ?」
電「……コホン。私は他の子よりも秘書艦として司令官と居る時間が長いはずなのに、司令官のことはまだ全然分からないのです」
電「電が秘書艦のお仕事が終わった後、いつも司令官は私のことを部屋に帰らせるのに、司令官さんは残って執務室で文献を読み漁ったり資料を集めて回ったり……」
電「電は、あんまり司令官さんの力になれていないような気がするのです」
提督「いや、まぁ、秘書艦の仕事をしたり演習したり哨戒任務をこなしたりじゃあ大変かなって。僕に無理につき合わせて翌日に響いたら困るなって」
如月「私たち艦娘は、司令官が思ってるより案外タフなのよ? 気を遣いすぎじゃないかしら」
提督「う、うーん。そうなのかなぁ……。でも、電はちゃんと役に立ってるよ。頼りにしている」
電「ありがとう、なのです。でも、このままじゃいつまで経っても司令官の本心が分からないままな気がするのです。もっと司令官に近づきたいのです」
電「そして、それは他の皆も思ってることなのです。だから……」
電「今日から毎日、司令官さんと一緒に生活するのです」
提督「え、えー……それはどういうことかな」
如月「司令官と一緒にご飯を食べて、一緒に執務をして、一緒の布団で寝るのよ」
提督「はぁ」
如月「何よその淡白な反応は? お望みとあらばお風呂も……」
提督「ええと、電、如月に代わって説明頼む」
如月「うぅー……扱い酷くなぁい?」
電「概ね如月の言っている通りなのです。お風呂はちょっと恥ずかしいですけど、その、司令官がお望みとあらば……」
提督「さすがに部下にそんなことを頼んだらパワハラだよ。……同衾や風呂は冗談にしても、君たちが僕の一日を観察するという認識でいいかな?」
如月「観察て……かなりドライな言い方するわね」
提督「君の言い方がウェットすぎるだけだ」
如月「もぅー、司令官も好きなんだから……♪」
提督「……しかし、僕の一日を観察するにしても、君たちも演習や任務があるわけだから、休日でもない限り難しいんじゃないか? 正直休日はもっと有意義なことに使って欲しいよ」
如月(スルーされた……)
電「日替わりで艦隊のうちの一人が司令官と一緒に過ごすのです。任務なら5人でも問題ないのです」
提督「そうか。まぁ僕はいつも通りに過ごすだけだし構わないんだが……君や如月以外の子はそれを是としているのか? 満潮なんかは嫌がりそうな気がするが」
電「それについては問題ないのです。皆司令官さんのことを知りたがっているのです」
提督「僕のことを知りたいって……特に何か隠し事をしているわけでは……」
如月「司令官は鈍感なのねぇ」
提督「え? そういう意味なの?」
如月「(おっ食いついた)ご想像にお任せします~♪」
提督「ふーむ、まぁいいや。冗談と解釈しておくよ」
電「じゃ、じゃあ『ドウセイカッコカリ』の許可を……」
提督「言わんでいいから! その、内容自体は許可するけれど、後で名前は変えておいてくれ。事情を知らない人からあらぬ誤解を受けそうだしね」
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電の好感度+8(前レス+今回 現在値23)
如月の好感度+4(前レス+今回 現在値13) ※>>106で皐月の好感度と書いてありますが、ミスです。如月の好感度です
ここでエクストライベントの判定いきます。
>>+2のコンマ値がゾロ目または13の倍数または23の倍数ならエクストライベント突入なのです。
(13,23,26,39,46,52,65,69,78,91,92またはぞろ目)
というわけで
>>+2
結果が出ましたね。というわけで通常ルートで行きます……と言いたいところだが、君らにはもう一度エクストライベントのフラグを立ててもらう。
ってなわけでもう一回エクストライベント行きます。
ちなみに前回のエクストライベントとは別のイベントなのです。今流行りの二正面作戦ってやつです。
>>+1のコンマ値がゾロ目または8の倍数・13の倍数・18の倍数・23の倍数のいずれかならエクストライベント突入なのです。
(8,13,16,18,23,24,26,32,36,39,40,46,48,52,54,56,64,65,69,72,78,80,90,91,92,96またはぞろ目)
前回より発生率は結構高いが果たして……?
>>+1
せいや
コンマ値が13だったのでエクストライベントが発生します。(>>113より)
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提督「ふむ、で、例のアレの初日は電か」
電「一日よろしくお願いします、なのです」
提督「とはいえ、電とは毎日顔を合わせているから別段どうということもなさそうな気がするな」
電「今日は秘書艦の仕事はお休みしたいのです」
提督「えっ?」
電「秘書艦の仕事は、代わりに朝潮にやってもらうのです。……ダメですか?」
提督「い、いや、ダメじゃないが……朝潮なら問題ないだろうし、僕は構わないよ」
電「じゃあ今日は司令官さんのお傍で過ごすのです」
提督「は、はぁ……(なんか妙に慣れないな)」
・・・・
磯波「提督、おはようございます。朝ご飯ですよー」
提督「いつもありがとう磯波。いただきます」
朝潮「司令官! この書類はどう処理すれば良いんでしょうか」
提督「あぁ、それはだね……」カクカクシカジカ
皐月「おはよーしれーかん! 朝のトレーニング行ってくるから演習場の鍵貸して!」バタン
提督「りょーかい。ほらっ」鍵を投げる
皐月「サンキュー! よーし今日も頑張るぞー」
磯波「提督、今日はちょっといつもと味付けを変えてみたんですけど……どうでしょうか?」
提督「うんっ、美味しいよ。個人的には前の味より好きかな」
磯波「えへへ……嬉しいです」
朝潮「司令官宛に本部から電文が届いていました。ご確認を」
提督「おっと。どうせ大したことない内容なんだろうけど……分かった。目を通しておこう」
電(むむぅ~……どうして今日に限ってこんなに賑やかなのです……?)
・・・・
提督「今日は珍しく朝からバタバタしてたな~……」
電「ふぅー……やっと二人っきりになれたのです」
提督「えっそれはどういう意味なのカナ」
電「はわわ、今のは言葉の綾なのです。その、司令官さんとゆっくりお話するような機会が今まで無かったので、ちょっぴり楽しみにしてたのです」
提督「そっか。じゃあ、お話するかい? ……と言っても、改まって話すようなことは無いかなぁ」
電「じゃあ、司令官さんに質問なのです! 司令官さんは、ここに来る前は何をしていたのですか?」
電「三雲大佐の話を聞いた後、如月から司令官さんの経歴を聞いて驚いたのです」
提督(そういや朝潮と如月にしか話してなかったな)
提督「普通に学生だったよ。戦争……というか、その影響で起こった事故で両親が死んじゃってからは、大佐さんの元に引き取られて、その間はずっと学校に通ってなかったからほとんどまともな教育を受けてないんだけどね」
電「はわわ、ごめんなさい! 無神経でした……」
提督「あーいや、いいんだよ。ただ、この話は雰囲気暗くなるからよそうか」
電(司令官さん……一瞬悲しそうな顔をしたのです)
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電の好感度+4(現在値27)
ついでに他の艦娘の好感度もわずかに上昇した
磯波の好感度+1(現在値9)
朝潮の好感度+1(現在値8)
皐月の好感度+1(現在値9)
夜の出来事
電「今日は司令官さんとたくさんお話できて良かったのです」
提督「そっか、それは良かった。……電気消すよ」パチッ
提督(まさか一緒に寝ることになるとは……さすがに布団は別々だが……ちょっと落ち着かないな)
提督「…………」
電「…………」
電「…………司令官さん」
電「司令官さんが、本当は士官学校を出ていなかったこととか、私とほとんど年齢が変わらなかったこととか、如月から詳しい話を聞いてすごく驚いたのです」
電「バレたら大変だからそんなこと言えないのは分かってます……でも。電には、打ち明けて欲しかったのです」
電「……司令官さんの秘書艦になれて、電は嬉しかったです。初めての艦隊で、経験のある他の子を差し置いていきなり秘書艦になれて舞い上がっていたのもあるけれど」
電「司令官さんのような優しい人のもとで働けて良かったって、心の底からそう思ったのです」
電「だからこそ…………って、わがまま、ですよね……」
電「今日はなんだか、司令官さんに、無茶なことばっかり言ってるような気がします。ごめんなさい……」
電「でも、もっと私に頼って欲しいのです……司令官さんのためになりたいのです……」
電「空回りしちゃってますよね……はは……」
提督「」電の側に近寄り、頭を撫でる
電「どうしたのですか……?」
提督「言うべき言葉が見つからなかったから……」
提督「『電はちゃんと僕の役に立っているよ』とか『そんなに想っていてくれてありがとう』とか『そんな思いをさせてすまない』とか『僕も頑張るから』とか……どれも言葉にするとなんか違うなって。これしか浮かばなかった」
提督「本当は抱き寄せようかなと思ったけど、嫌がるかなと思ってね」
電「ぁ……司令官さん……ぎゅって……ぎゅってして欲しいのです……」
提督「電……」ギュッ
電「司令官さん……ぁ……しあわせ……zzZ」
・・・・
提督(寝たか……)
提督(冷静に考えると、僕、部下にとんでもないことしちゃったんじゃないか……?)
提督(やましい気持ちがあったわけじゃないけれど、見る人が見たらアウトだよね……)
提督(あまり衝動的なことをするもんじゃないな……)
提督(とにかく、離れて自分の布団に戻ろう……)
電「しれー……かん……」ムギュッ
提督(…………もうちょっとこのままでいいか)
提督(あ……意識が……)zzz
翌朝電に会いに来た如月に発見され誤解を解くのに1時間かかった。
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電の好感度+4(現在値31)
本日はここまで。
エピソード的に美味しい方のイベントはきっちり発生させてるあたりコンマ取得の練度が高いですね。
【好感度まとめ】
電:31(好感度上昇+4) 秘書艦
皐月:9(好感度上昇+2)
磯波:9(好感度上昇+2)
如月:13(好感度上昇+2)
満潮:9(好感度上昇+2)
朝潮:8(好感度上昇+2)
誰がどう見てもヤバイぐらい数値が偏ってますが、ちゃんと後から他の子も平等になるようにゴリゴリ書いていきますのでご安心を。
秘書艦ボーナスが何気にえげつないですね。
///チラ裏///
こういうエピソードをニヤニヤしながら書くのが非常に楽しいです。傍から見ると大変キモいことでしょう。
それとは全く関係ないけどE-2超えました。おめでとう。ありがとう。なんかレンゴウカンタイとか言われてもわけわかめなのでwikiを見ながらどうにかしてゆきます。
次回の投下は明日21時頃を予定しております。
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約1/3超えたということで、これまで読んでなかった人や過去分を読むのが面倒だという人向けに、色々と酷いあらすじを下記に用意しておきました。
パラメータが色々あったり安価やコンマがちょくちょく発生したり中々慌しいように見えるスレではありますが、
実際はそんなことはなく結構適当に進行していくので、時間がある時の暇潰し用コンテンツとしてスナック菓子を食べるような感覚でお読みください。
一応、完走(100レス分到達して完結)まではやり切るつもりなのでもしよろしければお付き合い願います。
これまでのあらすじ(ver0.33)
提督:しっかりしなきゃなー
電:好感度が一人だけ飛びぬけて高い
皐月:そんなことより戦闘しようぜ!
如月:紆余曲折あってデレた
朝潮:実は33レスまで進んでても未だに真面目ってこととパフェが好きってことぐらいしかよく分かってない
満潮:べ、別にアンタのことなんか(ryってなるほどデレるに至らないほど出番が来ないツンデレ
磯波:お前は新妻か
その他もろもろの流れ
提督「なんか突然提督になった」
提督「大規模作戦で何とかしたり艦娘が轟沈すると深海棲艦になることを知ったりなんやかんやあった」
大佐「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!! 国民の脳内にマイクロチップが埋め込まれてたんだよ!!」※別に人類は滅亡しません
提督「な、なんだってー」
大佐「自分はもう死ぬのでお前なんとかしろ(丸投げ)」
提督「知らんがな」
提督「どうすっかなー俺もなー」
艦娘「構ってくだち(超意訳)」
提督「はぁ」
艦娘「ドウセイカッコカリ!」
提督「どういうことなの……」
※ 本編はこんなノリではありません
///チラ裏///
何が面白いのか分からないけど今日一日中頭の中から離れなかった謎のAAを貼って寝ます。
,.へ
___ ム i
「 ヒ_i〉 ゝ 〈
ト ノ iニ(()
i { ____ | ヽ
i i /__, , ‐-\ i }
| i /(●) ( ● )\ {、 λ
ト-┤. / (__人__) \ ,ノ  ̄ ,!
i ゝ、_ | ´ ̄` | ,. '´ハ ,!
. ヽ、 `` 、,__\ /" \ ヽ/
\ノ ノ ハ ̄r/:::r―--―/::7 ノ /
ヽ. ヽ::〈; . '::. :' |::/ / ,. "
`ー 、 \ヽ::. ;:::|/ r'"
/ ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ
\_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ
朝潮「提督! 今日はよろしくお願いします!」
提督「ということは……今日は朝潮か」
朝潮「しっかりと司令官の動きを目に焼き付けておく所存であります!」
提督(なんか勘違いしてないか……? いやむしろこれが正しいのか……?)
朝潮「」ジーッ
提督「ど、どうしたのカナ? 僕何か悪いことしたのかな?」
朝潮「いえ、普段の任務の代わりとしてこうして司令官のお近くに居られる機会を与えられているのですから、出来る限り注視して今後の糧としようかと」
提督「(この子真面目なのか天然なのか分からんな……)見ているだけでは退屈だろう。折角だから僕が普段どんなことをしているのか説明しようかい?」
朝潮「ありがとうございます! ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします!」
提督「いやいやそんなに畏まらなくていいから。というか、そこまで本格的にやらないから退屈しのぎぐらいの気持ちで聞いてくれて構わないよ」
・・・・
提督「これは資源に関する書類だね。資源の推移や今後の運用に関する取り決めを行う」
提督「それからこれは全体宛てに書かれた最前線部隊の戦況報告書。逆にこっちは現在の状況をお偉方に伝えるための報告書」
提督「……とまぁ、色々話していったけどこんな感じかな。実を言うと一日あたりの提督としての作業そのものは本気を出せば一時間で終わるぐらいの量しか無いんだよ」
提督「もっとも、それはここが僻地だからであって、もっと階級が高くて前線で戦ってる人ならそうはいかないんだろうけどね」
朝潮「では、司令官は執務が終わってからはどのように過ごされているのでしょうか?」
提督「こういう資料や書籍、論文に目を通している」ドスン
朝潮「膨大な量ですね……」
提督「ここの鎮守府はえらくボロいが、どういうわけか書斎だけはしっかりしていてね」
フライング投下
そしてエクストライベント判定
>>+1(コンマの数値が6のつく数または60以上で発生)
提督「対深海棲艦との戦術論や兵器に関する書物は勿論のこと、艦娘の生態に関する本なんかもあるんだよ」
提督「ちなみに、その本に書いてあったんだけど、艦娘というのは戦闘でMVPを取る以外にも、自分の好きなものを食べたり、自分の好きなことをしていると、戦意が高揚するらしい」
提督「戦意が高揚している状態で戦闘すると、普段よりも性能が上がる……トカナントカ」
提督「と、いうわけで、物は試しだ。今から間宮の所に行ってパフェでも食べるかい?」
朝潮「よ、よろしいのですか!?」パアァァ
・・・・
間宮「どうぞ」
提督「さ、召し上がれ」
朝潮「いただきます……んっ、美味しいです」パクリ
提督(すごい幸せそうな表情で食べてるな……)
朝潮「んぅ~~♪ ……はっ、すみません! 少し気が緩みました」
提督「いや、いいんだ。君が喜んでくれたなら何よりだ」
朝潮「こうして提督に奢ってもらうまで、今までこういうスイーツの類を今まで食べたことが無かったんですよ」
朝潮「ですから、少し舞い上がってしまって……申し訳ありません」
提督「いやいや、構わないんだ。ゆっくりお食べよ」
提督(前回1-3作戦が終わった頃に奢ってあげたアレが初めてだったのかな? しかし、それまで一度も食べたことが無いってのは意外だな……)
朝潮「て、提督」
・・・・
ザアアアアアアアアアア
提督「おっとこれは不幸だな。にわか雨に見舞われるとは」
朝潮「執務室に戻るにはどうしてもこの雨を抜けていかねばなりませんね……」
提督「あと一時間もすれば止むような気がするから、ここで雨宿りしてようか」
朝潮「いえ、私が傘を持って参りますので!」ダッダッダッ
提督「え、ちょっと待……行っちゃったか」
・・・・
朝潮「はぁ……はぁ……司令官。傘です」
提督「おお、ありがとう……。って朝潮、びしょ濡れじゃないか」
朝潮「走って行っても、結構濡れますね」ザアアアアアアアア
提督(服が透けてて目のやり場に困るな……ん?)
提督「……朝潮」ザアアアアアアアア
朝潮「どうされましたか? 司令官」
提督「背中に痣があるが……どうしたんだ?」
朝潮「あぁ、私にも分からないんですよ。艦娘になる前に出来た痣のようで、思い出せないんです」
提督「そうか……(気になるな……)」
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朝潮の好感度+4(現在値12)
すいません夕飯食べてました
エクストライベントのエクストライベント発動
>>+1(コンマの数値が6のつく数だと発生)
うりゃ
コンマ値が39だったのでエクストライベントは発生しません。(>>124より)
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提督(朝潮のあの痣は何が原因なんだろうか……本人も分からないみたいだし知る術もないか)
提督「ふぅー……」
朝潮「提督。こちらにいらしたんですね」
提督「風呂上がりの夕涼みに、ね」
朝潮「そうでしたか。では、私もちょうどお風呂から出たところですし、ご一緒させていただきます」
提督「ああ、構わないよ(昨日もそうだったけど、彼女たちの勤務時間が終わった後も一緒に居るのはなんか慣れないな……)」
朝潮「……三雲大佐についてどう思われますか? 昨日電からいくつか話を聞いたのですが」
提督「尊敬しているよ、ただ……。電から大佐の目的についての話は聞いてるかな?」
朝潮「ええ、昨日聞きました。……私も大佐殿には感謝と敬意の念がありますが、納得出来ませんでした」
朝潮「私には……クーデターは愚かな行動に思えます。なぜそこまで艦娘の側に立って物事を考えるのでしょうか。行動の必要性を感じられません」
提督「……僕も大佐の行動を全面的に賛同するわけじゃないけれど、ちょっと言い過ぎなんじゃないか」
提督「他の鎮守府では、艦娘に手をあげたり慰み者にする提督も少なくはないそうだ。艦娘は提督の命令に反抗することは出来ないからね」
朝潮「そうでしたか……」
提督「そうした現状を顧みれば大佐の行動は倫理的には正当な行動だと思うし、また、そうした現状を是とするこの仕組みそのものに僕も憤りを感じている」
朝潮「しかし、相手は大将や元帥級の面々です。それらを敵に回してまでやろうというのは……」
提督「そこなんだよなぁ。大佐ほどの人材なら順当に出世していけるだろうし、偉くなって力を得てからクーデターを企てる方が実現する可能性は高いと思うんだよ」
提督「そもそも僕が物心ついた頃からずっと大佐だったことも今になってみると奇妙だよな……」
朝潮「何か別の狙いがあるのでしょうか。それとも、今そのように動かざるをえない理由が……?」
提督「分からないな……」
・・・・
朝潮「司令官。私たち艦娘は、あくまで兵器です」
提督「改まって、どうしたんだ?」
朝潮「そんな私たちが意志を持ってしまうことが、果たして正しいのでしょうか?」
提督「まるで今の自分に意志がないみたいな言い方をするんだね」
朝潮「そういうわけではありませんが、私は司令官に尽くし、戦果を上げることが艦娘の本懐であり、存在意義だと考えています」
朝潮「しかし、チップによる制御を失うことで、自分の欲望のままに動き出す艦娘も現れることでしょう。戦争に勝ち深海棲艦を滅ぼすという使命さえも忘れて」
朝潮「にもかかわらず、どうして命の危険を冒してまで大佐は私たちに自由意志のままに行動できてしまうように画策しているんでしょうか」
提督(どうも艦娘が感情のない兵器として使われることが正しい、とでも言わんばかりの口ぶりなのが気になるんだよな……うーむ)
提督「仮に僕が理不尽かつ君の意にそぐわない命令……そうだな、例えば、次回から一切の武装を外した状態で出撃してもらう。なんて言った時に君は本心から従いたいと思うか?」
提督「そんな無意味で無謀なことはしたくないだろう。だが君たちは艦娘だ。司令官の命令には抗うことが出来ないようになっている。だから僕が本気でそう命じれば断れない」
提督「もちろん、僕は実際にそんな命令は出さないが、他の鎮守府ではそうじゃない……ってことなんだろう」
朝潮「そうですか……いえ。分かりました。失礼します」
提督(納得行っていない様子だな……何か彼女なりに思う事があるんだろうか)
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朝潮の好感度+2(現在値14)
本日はここまで。
エクストライベントのエクストライベントは発生しなかったけど一応エクストライベントが発生したので何かのフラグは立ちました。
突然ですが本日21時に投下予定です。よろしくお願いします。
///チラシの///
やっとこさE-4超えました。あきつ百裂拳が良い感じでした。
え? 遅いって? いいんだよウチは平和を愛するゆるふわ聯合艦隊なんだよ。
ゆるふわなのは軍規じゃなく練度だと専らの噂です。
ボーキが8000切っててかなりヤバい感じですね。E-5超えるのが先か資源が尽きるのが先かというチキンレース。
ん? 2014年夏イベントに「本土強襲」なんてありませんよ……。
ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。(磯風から目を逸らしつつ
>>129
明石「アルミ大増産只今大好評販売中!旬の八八資源セットもお買い得ですよ!」
如月「しれーかんっ」
提督「何ですか」
如月「ふふっ、呼んでみただけよ♪」
提督「もうそれ三回目だぞ。何か用があるなら口にしてもらわないとこっちも対応のしようがないんだけどなー」
如月「司令官、自分から話しかけてくれないじゃなーい。せっかく同棲してるんだからもっとコミュニケーションを……ね?」
提督「あの、何さりげなくカッコカリ取っ払ってるんですか。っていうかドウセイカッコカリって名前は変えてって言ったよね」
如月「だから同棲。これなら良いでしょ?」
提督「もっとダメだよ!!」
如月「ドウセイカッコカリのことをドウセイカッコカリって言っちゃいけないならドウセイカッコカリを何て言えばいいのよ?」
提督「いや定例視察会とかで良いんじゃないかな」
如月「司令官、私に対して冷たいわよね……電ちゃんとは互いに抱きしめあいながら寝てたのに……しくしく」
提督「いやアレはだなあ……前も説明した通り、かける言葉が見つからなかったら~(って弁解としては苦しいか)」
如月「分かってるわよ。司令官が下心からそんなことする人じゃないことは分かってるわ」
如月「で・も、もし他の子にこのことを話しちゃったらきっと大変よね~」
提督「うっ、うぐ、なんだね君は。この僕を脅しているのかね」
如月「ううん、そんなことないわよぉ? でも、これで私と積極的にお話する気になったでしょ?」
提督「やれやれ。ま、良いだろう」
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如月の好感度+2(現在値15)
エクストライベント判定>>+1(コンマの数値が偶数なら発生)
それっ
エクストライベント未発生(>>132より)
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提督「あ、そういえばさ」
如月「どうしたの?」
提督「イマイチ艦隊の子たちの人間関係が良くわかんないのよね」
提督「如月が電と仲良いのは見てて分かるんだけど、磯波とも比較的よく喋ってるの見て意外だなーって」
如月「電はからかい甲斐があるから……♪ 磯波とは趣味が合うのかもしれないわ。あの子案外ロマンチストなのよ」
提督「ほほう。それは知らなかったな」
如月「私はそれ以外の子とはあまり喋らないわねぇ。磯波と皐月、朝潮と満潮あたりは比較的仲良くやってるみたいね」
如月「それと、皐月は満潮を尊敬している節があるみたいよ。逆に満潮も皐月を評価しているようだし。電と朝潮も業務的な話ならよくしているみたいね」
如月「私が分かるのはこのくらいかしら」
提督「6人しかいない組織なのに、ほとんど交流がなされてないってまずいよね……うーん」
提督「とはいえ指揮官の僕ですら上手くやれてない感じの子が……なぁ、はぁ。いや、その子らに対する愚痴とかじゃなくてね」
如月「満潮と……朝潮あたりかしら? あいつら真面目すぎるからしょうがないわよ」
提督「名前を出すんじゃないよ名前を。あとあいつら呼ばわりもやめなさい」
如月「でも、司令官のことを評価はしているみたいよ。ちゃんと指示は聞いてくれるんだしビジネスライクで良いんじゃない?」
提督「君さぁ……興味のない相手に対してはとことん冷たいんだね。そういうのどうかと思うなー」ジトーッ
如月「別に私は興味がないだけで敵意があるわけじゃないのよ? 向こうから何か仕掛けてくるようなら話は別だけどね」
如月「って、私の話はどうでもいいのよ。司令官はあの二人に対して何が困ってるの?」
提督「困ってるわけじゃないよ。ただ、相手の考えてることが分からなくて、だから、僕の考えもどういう風に伝えたらいいのかな……って」
如月「困ってるじゃないの。とはいえ、そういう問題となるとすぐに解決するのは難しそうねぇ」
提督「そっか……そうだよなぁ」
如月「……私と司令官も、あの時工廠に向かっていく私を追っていなかったら、こんな風に話を出来る関係じゃなかったかもしれないわね」
如月「何かキッカケとなる出来事が起こるまでは距離を詰められなくても仕方ないんじゃないかしら。あの二人、何か秘密を抱えているわ」
如月「その秘密を知らない限り、あの子たちの真意は分からないと思うわね」
如月「心を閉ざしているわけではないと思うけど……事情を知らない人間に対して、自分の行動の真意は説明出来ないでしょう。目的だけ説明したところでその経緯も話さなければ理解されないだろうし」
如月「そういう事情を向こうから打ち明けてくれるような関係になれるまで、本来ならとても長い時間をかけて接していかなければならないわ」
如月「司令官が気に病むことじゃないわ。今噛み合わないのは仕方のないことよ」
提督「ありがとう、如月。少し気が楽になったよ」
如月「ふふふふ♪」ニコッ
・・・・
朝潮(昨日の司令官の私に対する態度が気になったので少し様子を伺おうとしたら……)執務室の扉の前で聞き耳を立てる朝潮
朝潮(『あの二人、何か秘密を抱えているわ』……)
朝潮(まずいことになりましたね……私はどうやら司令官や他の方たちに、何か隠していることがあると疑念を持たれているみたいです……)
朝潮(どうにかして誤解を解かなければ……)
朝潮(しかし、いきなり何も隠していることなど無いと言ってもかえって不審ですよね……)
朝潮(どうにも昨日の夜から嫌な胸騒ぎがします……)
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如月の好感度+2(現在値17)
皐月「ふーっ、つっかれたぁー」
提督「お疲れ様。朝からそんなにトレーニングしててよく平気でいられるね」タオルを渡す
提督(しかし……他の子らと比べると凄いトレーニング量じゃないか? なんで皐月はこんなにハードな内容を涼しい顔でこなせるんだ……)
皐月「慣れると意外と大したことないもんだよ。日課さ日課」フキフキ
提督「そういえば、こうして話すのも久しぶりだよね」
皐月「そうかな? 頻度は前と変わってないような気がするけど」
提督「皐月から話しかけてくれることが減ったような気がするんだよね。前までは忙しくてあまり相手出来なかったのが、僕に余裕が出来て時間を持て余すようになったからかもしれないけど」
提督「ドウセイカッコカ……じゃなくて、艦娘たちに一日中見られてるせいであまり調べ物とかが出来なくなって微妙に時間の使い方に困ってるんだよ」
提督「人と一緒に居た方が暇ってのも奇妙なもんだけど、そのおかげか普段気にならなかったことに目がいくようになってね」
皐月「よしよし、ボクと話が出来なくて寂しかったんだね~」ナデナデ
提督「うーん、どっちかっていうと、皐月は放っておくと何をするか分からないから定期的に目を光らせておきたいなぁっていうのがあるな」
皐月「司令官は失礼だなぁ、もう」
提督「ハハハ、でも元気そうで何よりだよ」
提督「気のせいかもしれないが、最近なんだか遠い目をしていることが多かったからね。ちょっと気にしてたんだよ」
皐月「……」ボーッ
提督「皐月? おーい」
皐月「ん? ああ、司令官。どうしたの?」
提督「いや、何でもない(上の空だな……皐月がボーッとしてるなんて珍しい)」
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皐月の好感度+2(現在値11)
エクストライベント判定>>+1(コンマの数値が奇数なら発生)
gp@「
エクストライベント未発生(>>137より)
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皐月「提督……その、大したことじゃないんだけど……」
皐月「最近、とても眠いんだよね。妙な夢を見ることが多いし……」
提督「夢?」
皐月「そう、夢。その夢で、ボクは別の鎮守府にいる戦艦で。なんて名前か、どんな姿かは思い出せないけど、とっても強い戦艦でさ。向かう所敵なしだったんだよ」
皐月「ただ、その夢の中のボクが属している艦隊司令部の方針で、弾薬や燃料の消費が著しい戦艦や空母を解体することになった」
皐月「夢の中のボクは戦果を出してたから、解体を免れることになった。でも、他の艦はそうじゃない。だから、他の艦を助けるために、ギリギリまで敵艦隊を削って他の艦に手柄を取らせるようにした」
皐月「そんなことをしていたからか、急遽ボクが解体されることになったとさ。ここで夢はおしまい」
提督「皐月……」
皐月「夢の中のボク、バカだよねぇ。余計なことをしなければ戦艦のままでいられたのに。でもね、なぜかその夢の中で、ボクはいつだって清々しい気分だった」
皐月「敵を圧倒的な力でなぎ払い、国の為に尽くし、多くの人から感謝され……艦娘としての幸せをたくさん享受出来ていた。解体されるのも、不思議と嫌じゃなかった。他の子を救えるなら、それもいいか。ってね」
提督「もしかして、皐月……。これは何の根拠もない当てずっぽうなんだが……その夢は、君のかつての記憶じゃないのか?」
提督(艤装を解体されれば、艦娘としての記憶は失われ、ただの人に戻る。だが……一度艦娘だった人間が再び艦娘になったら……?)
皐月「そう。ボクも、ひょっとしたらそうかもしれないって思い始めてたんだ。だから、一つ試したいことがある。今朝行ったばかりですまないけど、もう一回演習場について来てくれるかな?」
・・・・
提督「……20.3cm連装砲か。こんなものを持ってきてどうするんだ?」
皐月「ボクはね。自分自身の力が、明らかに駆逐艦のそれを凌駕していると思っているんだ。思い上がりかもしれないけどね」
皐月「駆逐艦として生まれた艦が、軽巡洋艦や重巡洋艦にしか装備出来ない武装をまともに扱えるはずがないはずだ」
皐月「だけど、もしボクと提督の仮説が正しい……つまり、ボクがかつて戦艦で、その頃の記憶や経験が今のボクに何らかの影響を与えているならば」
皐月「これを扱えるはずだ。さすがに35.6cm連装砲とかだと、体格的な問題で持てないだろうから、これでテストしてみる」
提督「なるほど…………しかし、もし何かあったらどうするんだ?」
皐月「その時のために司令官が居るんだろ? じゃ、撃つよ。見ててね」
バアアアアン!!!!
提督(なんて威力だ……それに凄まじい音……)
提督「皐月! 大丈夫か!? 怪我はないか?」
皐月「うん全然平気。これならちょっと練習すれば実戦でも使えるね」ケラケラ
皐月「よし! これではっきり分かった。ボクは、かつて、『皐月』になる前に艦娘だった事がある」
皐月「そして、その頃の経験が、今のボクに何かしら作用している」
皐月(かつてのボクとしての人格はどこへ行ってしまったんだろう……)
提督「皐月? おーい」
皐月「あ、ごめん。またボーッとしてた? でも、これで疑問は解消したからぐっすり眠れそうだよ」
提督「そうか、それは良かった(今後の大幅な戦力アップが期待できそうだな……)」
・・・・
提督「この後、夕食なんてどうかな? たまには二人で食べるのも悪くないかなって」
皐月(妙な気配を感じる……)
皐月「いや、今日は遠慮しておくよ。ちょっと気になることが出来たから」
提督「そっか。じゃあ、食堂行ってくるね」
皐月(司令官は行ったか……)
皐月「さっきからボクたちの後をつけていたのは誰かな? いつからそこにいた!」
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皐月の好感度+2(現在値13)
本日はここまで。
どうも今日はコンマが振るいませんネ。
エクストライベントが発生してたら如月のお話だけで本日分を終わりにする予定だったんですけど、
2レスだけの投稿じゃ寂しいってことで急遽書きかけのやつをキリの良いところまで仕上げました。
エクストライベントはどっかでリサイクルして使用する可能性が高いので、
今起こらなくてもわりと大丈夫なものが多いっぽい?
///チラシ///
>>130 わりと現実感ある選択肢だからやめてくだち
E-5攻略中。夜戦大破撤退のせいで第二艦隊旗艦の川内ばっかりキラキラしていく
明日21:00頃投下予定
///チラうら///
今日投下するつもりだったのに出来なかったのは艦これのせいです。仕方ないね。
いやでも無事E-5は超えましたよ。
最終的に燃料711弾薬7101鋼材14978ボーキ3344バケツ74になったけど超えましたよ。
早霜清霜もゲットしましたよ。欲を言えば大鯨が欲しかったけどボーキが85しか残ってないのでさすがにもうね……。
初風や矢矧も手に入ったことだし十分な収穫ですなンフフフ。
これからはまた溜めた資材を大型艦建造につぎ込む日々に戻るんや……(ダメ提督特有の発想)
朝潮「……」無言で物陰から顔を出す
皐月「……朝潮だったか。後ろからコソコソつけてきて何の用だい?」
朝潮「いえ、特には……」
皐月「説明してもらいたいな」
朝潮「……分かりました」
・・・・
皐月「なるほど。君は司令官に自分が誤解されていると思っているわけだ。で、司令官の様子が気になって後をつけていた、と」
朝潮「私は、私なりに艦娘としての任を全うしているつもりです。司令官に隠し事などもっての他です」
朝潮「ですが、司令官は……私のことを何かしら疑っているのだと思います。……私よりは如月の言葉の方が信用出来るでしょう」
皐月「君は何か勘違いしているな」
皐月「如月は君が何か秘密を抱えていると言ったようだが、会話のニュアンス的に、それは君が何か企みがあるという意味じゃないと思う」
朝潮「え……?」
皐月「告げ口でもされたと思っているのかもしれないが、確たる証拠もなく人を貶めるほど如月は酷い奴じゃないよ」
皐月「そうじゃなく、君が何かしら悩みを抱えている、って司令官に伝えたんじゃないかな。断片的にしか話を聞き取れなかった君が勘違いしただけで」
朝潮「そう……でしょうか」
皐月「むしろ、どうして君がそんな会話を聞いて、自分の立場が脅かされていると感じたかの方がボクは不思議に思うけどね」
朝潮「司令官は電や如月、磯波と話していることがほとんどです。それに、この間司令官と過ごした時も、妙に歯切れの悪そうな態度だったので……」
皐月「だからといって、司令官が贔屓するような真似をしたことは無いだろう。心配し過ぎじゃないかな」
朝潮「しかし……もし、司令官に快く思われていなかったら……」
朝潮「私たちは……この国を守り、深海棲艦を滅ぼすために存在しています」
朝潮「そして、そのための具体的な指示は司令官によって出されます。司令官から出される命を果たすことこそが私たち艦娘の本懐ではありませんか?」
朝潮「私が何か粗相をしてしまったのか、あるいは、私の戦果に不満なのではないか……もし、そうだったらどうしようかと……」
皐月「司令官は朝潮のことをそんな風には思っていないよ」
皐月「君は根詰めすぎなんだよ。司令官じゃないボクですら心配になるぐらいだ。司令官は君のことを気にかけているんじゃないかな」
朝潮(司令官が……私を?)
皐月「艦娘としての本懐がどーだとか、司令官はそんなことどうでもいいんだよ。ボクや君が無事ならね」
朝潮「そう、ですか……」
朝潮(しかし……やはり理解できません。私たちは兵器です。兵器としての使命を果たすべきです)
朝潮(司令官も、三雲大佐も……いったい何故艦娘を庇護しようとするのでしょうか……)
皐月「とにかく、司令官は君のことをそんな風に思ってないから大丈夫。少し気楽にいこう、なっ?」
朝潮「はい……」
/* 経過ボーナス */
投下途中ですが40レス突破したので経過ボーナスです
以後各艦娘の好感度の基本値が+1増加します
また、提督の能力値変動イベントが発生します
能力値ボーナスは安価とコンマで決定します。
アップさせたい能力値 勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ選択し、
出たコンマでその選択した能力の上昇値が決定します。
詳しくは>>75
【好感度まとめ】
電:31(好感度上昇+6) 秘書艦なので基本値3*2
皐月:13(好感度上昇+3)
磯波:9(好感度上昇+3)
如月:17(好感度上昇+3)
満潮:9(好感度上昇+3)
朝潮:14(好感度上昇+3)
というわけで
アップさせたい能力値を決定してください(勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ)
>>+2
魅力
>>145より魅力が6上昇
【提督ステータス】
勇気:59(初期値から+18)
知性:46(初期値から+10)
魅力:46(初期値から+36)
仁徳:57(初期値から+10)
幸運:62(初期値から+0)
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皐月「司令官。夜分遅くに失礼するよ」
提督「皐月か。わざわざ寝室まで来て、何か話でもあるのか?」
皐月「その事なんだ。実は朝潮が……」
・・・・
提督「ふむ。そうかー……そんな風に思われてたかー……」悩ましそうな顔で頭を掻きながら
提督「僕に対して畏まった態度を取るもんだから、距離を置きたいのかなと思ってあまりこっちから話しかけたりしなかったんだけど」
提督「かえって不安にさせちゃってたのかなぁ……」
提督「ただなぁ~、一度何気ない世間話をしたら、暗号と勘違いされたことがあってさ。あれだけ真面目な子が相手だと何を話したら良いんだろう……」
皐月「……司令官」
提督「ん? どうした」
皐月「確かに朝潮は真面目だよ。……ただ、あれは真面目の度を越してるんじゃないかな。どこか異常だと思う」
皐月「さっき朝潮と話した時に、少し恐怖を感じた。どうも、死ぬことをほとんど恐れていないような気がする」
皐月「朝潮の性格上、血気に逸って無茶をやらかすようなことはしないとは思う。けど裏を返せば、何かしら合理的な理由があれば少しも躊躇わずに自分の命を差し出しそうな……そんな恐怖を感じた」
皐月「それに……うまく言葉に出来ないけど、盲信のようなものを感じた」
皐月「自分が艦娘であることを盲信している……? いや、ボクだって艦娘なんだけどさ。何て言ったらいいんだろ」
皐月「まるで自分が使い捨ての道具であるかのような……それでいてその事を微塵も気に留めていないような……」
提督「それは僕が前に朝潮と話した時も感じたな。こうして皐月の話を聞いた後だと、彼女は自分が兵器であることに固執しているように受け取れるな」
提督「しかし……よその鎮守府ならまだしも、大佐の鎮守府でもここでも、艦娘に対してただの兵器のような扱いはしていないよな」
提督(脳内に埋め込まれたチップが何か影響してるとか……? いや、こうして皐月と話が出来ている時点でその可能性は低いよなぁ)
提督(何にせよ気になるな。今後は皐月に朝潮の様子を定期的に見てもらうことにしよう。僕からも彼女に対して意識的に接していかなければ)
皐月「……どうしてあそこまで艦娘としての存在意義にこだわるのかが疑問だよねぇ。いや、ボクも最近はそのことについてちょっと悩んでたけど」
提督「皐月は経緯が経緯だからしょうがないだろ。今とは艦だった頃の記憶が断片的にとはいえ残ってたら、そりゃあ自分とは何だろうって思うもんじゃないのかな」
皐月「まぁねぇ~~」あくびをしながら
皐月「でも、今日、なんとなく自分の中で区切りがついたような気がする。少し吹っ切れたよ」
皐月「今まで『そうなんじゃないか』って思ってたことが『そうだったんだ』に変わったからね」
提督「そういうもんなの?」
皐月「そういうもんなの! ……えへへっ」
提督「まぁ、君が良ければ良いんだけどさ」
皐月(ボクのこの力を使って、何か司令官の役に立てればいいんだけどな……)
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皐月の好感度+3(現在値16)
提督「うーん、酷い天気だな。嵐が来るな……」ヒュオオオオ
提督「今日は演習や訓練含め一切の出撃を禁止するよう通達してくれ。外に置いてある物はなるべく室内に運んでおくように」
電「なのです!」タッタッタッ
磯波「おはようございます」ガチャ
提督「磯波か。おはよう。今日は酷い天気だね」
磯波「こういう天気の日って、深海棲艦はどうしてるんですかねぇ?」さりげなくお茶を差し出す
提督「深海棲艦って言うぐらいだから、深海に居るんじゃないかな。お茶ありがとう」ズゾゾ……
磯波「あぁ……そうですよね。深海にずっと居てくれればお互い平和で済むんですけどね……」
提督「キジも鳴かずば撃たれまいに……。とはいえ、深海棲艦も案外同じことを考えているかもしれないけど」
提督「いっそ僕ら人類が制空権と制海権を放棄して、本土だけで生きていけばわりと平和になるのかもね。生活レベルは江戸時代ぐらいまで引き下がるだろうけど」
提督「……そういうわけにもいかないから、僕や君がこうしてここに居るってことだね」
磯波「ふふっ、提督はやっぱり面白いですね」
提督「どこが面白いの?」ッテイウカヤッパリッテナンダヨ
磯波「制海権を放棄しようだなんて、海軍で働いている人とは思えない発言でしたので……ふふふ」
提督「冗談だってば。朝潮とか満潮とかに言わないでね」
磯波「ふふふ、どうしようかな~」
提督「磯波、最近如月に似てきてないか……? 僕は非常に心配だぞ」
磯波「冗談ですよ」
・・・・
朝潮「」クシュン
満潮「」クシュン
如月「」クシュン
電(風邪が流行ってるのです……?)
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磯波の好感度+3(現在値12)
ここでエクストライベント。
エクストライベント判定>>+1(コンマの数値が00~30,79~99なら発生)
発生しなかったら今日はここで投下おしまいです。おやすみなのです。
とりあえず今日はここまで
土日のどっちかで投下したいです(努力目標)
っていうかもう土曜日か……
>土日のどっちかで投下したいです(努力目標)
あぁ……やっぱり、今回もダメだったよ。
次回の投下は明日21:00頃を予定しております。
///チラう///
友人と二人で水族館行ったりダラダラしてたら一日潰れました。
可愛い女の子とデートかと思った!? 残念! 同性でした!
……赤の他人クソどうでもいい話なんだし傍から見たら残念も何も無いわなとセルフツッコミを入れつつ寝る。
ドザアアアアアアアアアアアアア
提督「夜になったら余計に酷くなったな」ピカッ ゴロゴロ
磯波「でも、明日には晴れるみたいですよ」ザアアアアアアアアアアアア
提督「ふーむ……」ピカッ ゴロロロ
磯波「あっ……電気消えちゃいましたね」
提督「あーブレーカー落ちたようだなこりゃ……」
磯波「どうしましょう……」
提督「とりあえず懐中電灯で部屋に戻ろう。えっと、懐中電灯は……」ガサゴソ
提督「あったあった。寮まで送ってくよ」ペカッ
・・・・
磯波「夜の鎮守府って、明かりがないと結構不気味ですね……」カツーン カツーン
提督「結構ボロいしなぁ……」カツーン カツーン
カツーン カツーン
磯波「なんか、足音が多く聞こえないですか……?」
提督「後ろからこっちに向かっているようだな」
提督「誰だ?」サッ
満潮「私よ! 早くコイツを医務室に連れて行って!!」
ボロボロの格好の満潮と、そして、彼女に背負われていたのは……
磯波「え? ……私がもう一人?」
磯波?「ぁ……あ……」
提督「血塗れじゃないか! 一体どういうことだ……とにかく、早く医務室へ!」
・・・・
提督「……辛うじて一命を取り留めた」
提督「ただ、艤装の損傷が著しく、艦娘として復帰出来るかどうかは分からないらしい」
磯波「そうですか……」
提督「とりあえず、一安心だね。満潮、一体何があった?」
満潮「私にもよく分からないわ。最初に発見したのは電で、今頃はくたびれてドックで爆睡してるわ」
満潮「電の救難信号を発見して、何があったのかと確認しに行ったら、ボロボロの電と轟沈しかけのあの磯波が居たから、私が陸まで運んできたって感じね。後のことは分からないわ」
満潮「1-4作戦の時を思い出したわね。敵が居なかっただけマシだったけど」
提督「そうか、電には後で詳しい話を聞くとして、とにかく二人とも無事で何よりだ」
満潮「それじゃ、私もドックに行ってくるわ。無傷で済んだわけじゃないからね」
満潮(それに、動くならもう少し情報が出揃ってからになりそうだしね……)
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磯波の好感度+3(現在値15)
満潮の好感度+3(現在値12)
磯波?「……生きてる」
提督「意識を取り戻したようだね。あの嵐の中で何があった? どこの鎮守府の艦隊から来たんだ?」
磯波?「わたしは……、あの嵐の中で……そうか……ここは別の鎮守府で……」
磯波?「!? いけない……アレを探さないと……。アレが無いと……任務が果たせない……」ブツブツ……
提督「どうした、大丈夫か?」
磯波?「任務……任務を果たさなきゃ……うッ」
提督(体を動かそうにも損傷が激しくて動けないようだな)
提督「無理に動こうとするなって。まだ傷口が塞がってないんだろ?」
提督(黒い髪に白髪が多く混じってるな……目も虚ろだ……。相当ロクでもないことをされていたのは確かだな……)
磯波「何があったのか教えてくれませんか?(自分に対して敬語を使うのも変な気分だな……)」
磯波?「あ……その……うぅ……それは……言えません」
磯波?「アレが無いと……どうしよう……」
提督(何かを探しているようだ……)
・・・・
バン! とドアを乱暴に開ける音が部屋に響く。
電「はぁ……はぁ……探しているのは……これ、ですか?」
電の手に握られていたのは、緑色の液体が入った数本の注射器だった。
磯波?「それは……ッ! うッ……ううう」立ち上がろうとするも、動くことが出来ないようで、呻き声を上げている
電「あの嵐の中で何をしようとしていたのか説明するまで、これを返すわけにはいかないのです」
磯波?「……話したら……返して……」
提督(電がどうしたら良いか尋ねるようにこっちを見ているな……)
提督「分かった。約束しよう。ただし、君が今日何をしようとしていたのか、その目的はなんなのか、君の所属する艦隊やその司令官について。この3つについて聞かせてもらう」
磯波?「……分かりました」
・・・・
磯波?「私は、今日、あの海で轟沈する予定でした。それが私の任務です」
磯波?「轟沈する時に、絶対に注射器を無くさないように、と、そう言われていました。任務の目的が何か、その注射器がどういうものなのかは分かりません」
提督「一体何が狙いで……は君に聞いても仕方ないことか。君は轟沈しろだなんて命令をする司令官に疑念を抱かないのか? どうしてそんな酷いことを……」
磯波?「私の提督は、酷くなんかありませんよ。私にこうして生きる意味を与えて下さったんですから……」
磯波?「それに、提督に身体を触られると、とても幸せな気持ちになるんです……」
磯波?「だから……私は、あの人の為なら全てを捧げられるのです」
提督(完全に心酔しているような恍惚とした表情だな……)
提督「……まぁいい。じゃあ、君の艦隊や、君の提督について聞きたい」
磯波?「私は、他の艦……戦艦や空母の練度を上げるための随伴艦として登用されました」
提督「君はデコイというわけか」
磯波?「そうですね……役割的にはそれに近いかもしれません。ですが、提督は私のことを評価してくれていまし」
提督「もういい分かった。君の提督についての話を聞かせてくれ。名前と、地位と、配属先を具体的に聞きたい」
磯波?「私が、私の提督のことを話したら……貴方はどうするつもりですか?」
提督「質問しているのはこっちだ。先に君が僕の質問に答えてくれ」
磯波?「私の提督は……藤原大将……です」
提督(藤原大将……若くしてカリスマ的才能を発揮し、常に戦果を上げているらしい。その実力が認められ、最近では元帥への昇格の噂も囁かれているとか……)
提督「藤原大将……? ここからだとかなり遠い、対深海棲艦最前線の鎮守府の提督のはずだろう?」
磯波?「三雲大佐の不祥事の件で、他に関与している人間が居ないかどうか洗い出す為に、今はこの鎮守府の近くの泊地に滞在しています」
提督(なるほど……大佐を始末しようとしているのか……)
提督「分かった。だが、この注射器はまだ返すわけには行かない。こちらで中身が何なのか調べさせてもらう」
磯波?「そんな…………返すって言ったじゃないですか!」
提督「ああ、言った。だが、今すぐ返すとは言っていないだろう」
提督「それに、その動くこともままならない身体では、君が今日行う予定だった任務の遂行は出来ないと思うが? 今これを返しても意味が無いだろう」
磯波?「貴方は! 私の提督をどうするおつもりですか!」
提督「…………事と次第によっては糾弾する。艦娘をいたずらに轟沈させる命令を出すなど、指揮官にあるまじき行為だ」
磯波?「私の提督は何も間違ったことなどしていません!」
提督「君がそう思っていようとなんだろうと、僕は僕で正しいと思ったことをやらせてもらう」
提督(とはいえ、真っ向から挑んでも僕が返り討ちに合うだろうな……)
提督(知ってしまった以上見過ごすわけにも行かない、が……)
・・・・
あの磯波が持っていた注射器を妖精に調べさせたところ、緑色の液体の中にはマイクロチップが入っていることが判明した。
このマイクロチップの内部に書かれた情報までは分からなかったが、恐らくは艦娘の脳内に埋め込まれているものと同様の種類なのだろう。
自分の艦を意図的に轟沈させる……それも、マイクロチップを注入するための注射針を持たせて……? こんなことは考えたくはないが……これしか考えられない。
藤原大将は深海棲艦にマイクロチップを埋め込んで支配しようとしている。恐らくはその為の実験として……あの磯波が利用されたのだろう。
……マイクロチップを所持しているということは、当然それがどんなことに利用されているかを知らないはずがない。藤原大将は、マイクロチップが人間の思考を制御し洗脳する為に利用されていることを理解している。
そして恐らく、彼もまたそのチップを使って人間を操作している。これならあの磯波の異常なまでの忠誠心にも合点がいく。深海棲艦化してもチップの効力が効くかは分からないが、轟沈しろと命令したということは、あの大将は艦娘が轟沈すると深海棲艦になることも知っているんだろう。
しかし……一個人がチップの情報を制御出来るとしたら……これは大変なことだぞ……。
・・・・
磯波「提督!」
提督「あぁ。磯波か。……浮かない顔をしているな」
磯波「えぇ……私と同じ姿をした艦でしたので……少し、怖かったです」
磯波「……それに。あの子は私だったかもしれないので」
提督「一体どういうことだ?」
磯波「私、本来なら別の鎮守府に配属される予定だったんです。手違いでここに来ることになったんですけど」
磯波「もしかしたら……私も他の場所に行っていたらああなっていたのかと思うと……」
磯波「どうして、私はこんな風に提督と毎日幸せに過ごせたのに、あの子はそうじゃなかったのかなって」
磯波「いや、あの子も幸せそうでしたけど……あれは心が壊れてしまって、全てが麻痺してるんだと思います」
提督「そうだな……。そういえば話は変わるんだが、さっき調べてみたら例の大将が滞在している泊地が判明したよ」
磯波「会って話をするんですか……?」
提督「そんなに不安そうな顔しないでくれって。……今は何もしない。真っ向からあの大将に挑んだどころで犬死にしかならないと思う」
提督「チャンスを待つしかない、かな……。我ながら不甲斐ないけど、これが一番堅実な選択だろう」
磯波(良かった……他の苦しんでいる艦には悪いけど…………)
磯波(私は、今までのような、提督との平穏な日常がずっと続いて欲しいから……)
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磯波の好感度+3(現在値18)
今日の投下はここまでです。
もう初期の構想はほぼ完全に朽ちたので、新しい流れ的なのを考えて今んところそっちに移行しつつあります。
んーしかし……これはだな……つまらなくはならないとは思うが(むしろより面白くなると思いたいし、そうじゃなきゃ書かない)……うーむ何というかその。スレの主旨からだいぶ外れているよーな……。少年漫画的なノリのものを書く気は無いんだが……。
どうもイチャイチャする余地が無さそうでそこをどうしていくかが課題か。100レスって長いんだか短いんだか分かんないっすね。
いや現時点ではすっげえ遠く感じるけどラストから逆算していくとちょっと尺足りなくね? 感が……。
一貫して、「艦娘を魅力的に描写したい」ってのは変わらないんですけどね。あとは、「キャラ崩壊させない」。この二つに関しては強く律していきたいです。
ネタバレはしない程度にたまには真面目なことも書いてみました。個人的に作者の言葉なんて無価値というか、語りたいことは作品を通して語るべしと思っているので、あくまでおまけみたいなモンなんですけどね。
メイビー恐らく本日21時頃投下予定。
季節の変わり目なせいか体調ブロークン気味だけど関係ないぜ。
あ、遅れましたが投下行きます。
その、遅れた理由としては大変しょーもないんですけど、突き指して30分くらい直そうと躍起になってました。
突き指してもすぐ直るのが常だったのでなんか驚きでした。
提督「昨日は色々あってまともに寝れなかったな……。もう傷は癒えた?」
満潮「問題無いわ。大変だったそうね。で、あの注射器はどうするの? ……中に例のチップが入ってるんでしょ」
提督(満潮にはチップのことを話したことは無かったはずだが……他の子から聞いたのかな)
提督「注射器にチップが入っていることが良く分かったね。……もちろん約束はしたから、注射器はあの磯波に返すよ。チップは抜いておくし中の液体も似た色の偽物に変えておくけど」
満潮「なるほどね。……通信機器が壊れているとはいえ、体が動けるようになったらこの鎮守府から藤原大将へ連絡を取りかねない」
満潮「……だったら回復次第注射器を返して彼女の“任務”を本来の予定通りに遂行してもらえばいい。そういうことね?」
提督「あぁ。勿論、開放後に先に大将に連絡を取ってから任務を果たすかもしれないが……今の彼女を見るに、そこまで頭の回るような精神状態じゃないらしい。注射器を手に入れたら真っ先に深海へ向かうだろう」
提督「我ながら冷酷なことを思いつくとゾッとするよ。……せめて工廠がまともに使えれば解体という選択肢を取っていたんだけどね」
提督「妖精にも色々種類があるからな……。この鎮守府には艤装を修復するための妖精は居ても、艦を建造するための妖精や解体するための妖精は、なぁ」
満潮「そんなに解体って難しいものなの? もうアイツは艦娘として復帰できるかも怪しいぐらい艤装が壊れかけてるんだから、物理的に壊せないのかしら」
提督「それをやると最悪死ぬ。艤装によって艦娘としての思考や記憶、人格が設定されているんだから無理矢理壊したら少なくとも精神に異常はきたすだろうね」
提督「しかるべき技術を持った妖精でないと解体出来ないらしい」
提督「ただ、だからといってこんな風に自ら轟沈しに行くのを助長するようなことが正しいのかと思うよ」
提督「他に方法は無いのかなってね」
満潮「……今は綺麗事で済まされる状況じゃないわ。忠告しておくけど、司令官が思っている以上に深刻な事態よ。最悪の場合深海棲艦よりも恐ろしいものを敵に回すことになるわ」
満潮「それに、もうあの磯波は助からない。一度ああなってしまったら解体しない限りもう二度とは正気に戻らない」
提督「満潮……一体君は何を知っているんだ?」
満潮「司令官が私の知っている全てを話すに値するか否か……それを確認したい」
満潮「貴方を司令官としては認めている。ある程度力をつけている事も認める。ただ、それとこれとは別の話」
満潮「貴方は私の味方であるか。貴方は現時点でどこまで知っているのか。そして……私の為に死ぬ覚悟があるか」
満潮「それが分かるまでは話せないし、聞いたからには私の為に動いてもらう」
満潮「私は味方を必要としている。でも、それはただの味方じゃない。第一に、絶対的な信頼が置けること。第二に、有能であること」
満潮「悪いけど、貴方はその両方の条件とも満たしているように思えない。いずれ話す時が来るかもしれないけど、まだその時ではないわ」
満潮「……それでも知りたいというのであれば。この後、私の部屋で話すわ。それじゃ……」
提督(ふむ。どうすべきかな……)
満潮に話を聞きに行くか行かないか 安価で決定 >>+2
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磯波の好感度+3(現在値15)
あれ?磯波の好感度があがるの?
安価なら下
>>160
すみませんコピペミスです。
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満潮の好感度+3(現在値15)
なお安価はこのレスから>>+1
すみませんが寝落ちします。まぁ今週の土日はゆるゆる投下していくつもりなんでお許しを。
もう一度書いておきますが>>159の安価は>>+1で。
(土日の間にレスがつかなかったのは想定外だったわ……これはなかなか興味深い現象ですね……)
ってなわけで>>159の安価はコンマで決定に変えますね。
ま、どっちのルートも用意してあるんでこちら的にはどっちでも良かったり。今後の展開がちょい変わるかもなってぐらいです多分。
なお投下そのものは明日の21時頃を予定しています。
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満潮「悪いけど、貴方はその両方の条件とも満たしているように思えない。いずれ話す時が来るかもしれないけど、まだその時ではないわ」
満潮「……それでも知りたいというのであれば。この後、私の部屋で話すわ。それじゃ……」
提督(ふむ。どうすべきかな……)
満潮に話を聞きに行くか行かないか コンマで決定
コンマ値00~49で話を聞きに行く
コンマ値50~99で話を聞きに行かない
で決定 >>+1
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提督「妙に突き放すような口ぶりだったのが引っかかるんだよなぁ」
提督(満潮の話は気になるが、『私の為に死ぬ覚悟があるか』……か)
提督(そこまでの代償を背負う覚悟がなければ、彼女の深淵は覗き込めないということかもしれないな)
提督(今の僕には、彼女の求めているものに応えることは出来ないな)
提督「しかし……一体彼女は何をしようとしているんだ?」
提督(満潮と仲の良い朝潮なら何か知っているかもしれないな……)
・・・・
満潮(……多分来ないわね)
満潮(これでいい。アイツのようなお人好しは、向いてない)
満潮(ただ、この先を一人でやっていくのは厳しそうね……。誰かしら、協力者は必要かもしれないわ)
・・・・
提督「朝潮、ちょっと良いかな」
朝潮「は、はい! 御用であれば何なりとお申し付け下さい!」
提督「召使いじゃないんだからさ……いや、大した話じゃないんだ。ちょっと満潮について話を聞きたい」
朝潮「満潮……ですか。彼女がどうかしましたか?」
提督「彼女が何をしようとしているのか知りたい。ひょっとしたら君も知らないかもしれないけど」
朝潮「具体的なことは分かりませんが……復讐をするつもりだ、と言っていました」
朝潮「その対象となる相手を訊いてみたのですが、『誰だかは分からないけど、確実に居る。そして現時点で八割方絞り込めている』だそうで」
提督「並々ならぬ恨みがあるのはなんとなく察せるが……直接会ったことは無いみたいだね」
朝潮「ところが、『今、一番奴について知っているのは私だ』と言っていたこともあって……私には皆目見当がつきませんでした」
提督「そうか……。教えてくれてありがとう」
朝潮「朝潮は、お役に立ちましたでしょうか?」
提督「あぁ、役に立ってるよ」
朝潮「そうですか……それは良かったです」
朝潮(司令官のお役に立てている……少し安心しました)
提督「それから、一つ相談に乗ってもらっていいかな? これは結構真面目な話になる。今後の作戦について……になるのかな」
提督「まだ他の子には話していないし決定もしていないんだけど、とりあえず君の意見を聞きたい」
朝潮(司令官が私に作戦の話を!? それも、まだ電たちにも話していないような内容……?)
朝潮(私も司令官に信頼されている……と受け取っていいんでしょうか、これは)
朝潮「はっ! はい! 喜んでお聞きいたします!」ビシッ
提督「敬礼なんてしなくていいから」
提督「僕がこれから話すのは、例の磯波の件だ。えっと、うちの鎮守府じゃない方のね」
提督「言いづらいから以後磯波IIと呼ぶことにするよ。IIだなんて番号じみた言い方は自分でもどうかと思うけど、他に呼びようがないから便宜的にね……」
提督「恐らく彼女はあと数日で体力が回復する。回復次第、彼女は海へ向かうだろう。与えられた任務を果たすためにね」
朝潮「つまり、轟沈する……ということでしょうか」
提督「その通り。で、僕らは中の液体やチップをすり替えた注射器を磯波IIに渡して見送るだけ。これはプランA」
提督「これは僕が最初に思いついた最も安全な対処法だ。ただ、僕は絶対にこれをやりたくない」
提督「そこで僕はプランBを考えた。多分君はこの案に反対すると思う。だからこそ君の意見を聞きたいんだ」
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朝潮の好感度+3(現在値17)
提督「プランBでは、……磯波が鍵となる。磯波IIじゃない方のね」
提督「途中まではプランAと同じで、磯波IIが動けるようになり次第彼女を解放する。この辺の海域はあまり敵が出ないから、恐らくはモーレイ海のあたりに行くだろう」
提督「君たち……朝潮、皐月、如月、電の4名でこれを追跡してもらう。そして、磯波IIが疲弊して、自らの力で動けなくなった所を見計らって救助する」
提督「北方海域は危険な海域だ。正規空母や戦艦も存在する。だが、モーレイ海の方は比較的手薄であり、絶対数は少ないはずだ」
提督「戦果を出すことを完全に捨て置いて、磯波IIを救出次第逃走……という任務であれば君たち駆逐艦でも問題なく果たせるはずだろう」
朝潮「仮にあの磯波IIを救出したところで、何か意味があるのでしょうか? 救出したところで、また沈みに行こうとすると思うのですが……」
提督「そう、君の言う通りだ。だからこそ、これから話す内容がこのプランの肝となる」
提督「僕と磯波と満潮で、藤原大将の泊地まで向かう。そこで僕は大将に直接会い、磯波を差し出す。磯波IIではなく磯波をね」
提督「轟沈しかけていた所を保護した、と言ってね。また、直接顔を合わせることで大将の腹を探りたい」
提督「その間に、満潮が泊地の工廠に忍び込み、解体妖精を奪取する」
提督「満潮と合流し、磯波IIを保護に向かった部隊の帰りを待つ。救助した磯波IIの傷が治ったら解体を行う。これで彼女は死なずに済むわけだ」
提督「磯波には、大将からまた与えられるであろう“任務”を受けるふりをしてもらう。もちろん、彼女が向かう先は深海じゃなくこの鎮守府だけどね」
提督「海に出た後二度と戻って来なければ、轟沈したかどうかなんて分からないからね」
朝潮「藤原大将が、磯波に“任務”を出さなかった場合も考えられないでしょうか」
提督「仮にあの磯波IIの言っている通り提督として理想的な人物で、轟沈しろという命令も何か納得のいく理由があったなら、磯波と磯波IIをすり替えたと正直に告白するつもりだ」
提督「だが、僕の疑念通り、大将が深海棲艦を支配しようとしているのであれば磯波に対して“任務”を課すだろう。100%そうなると断言は出来ないが、これに関しては結構自信がある」
提督「単純にチップの埋め込まれた深海棲艦が支配出来るのであれば、これまで轟沈してきた深海棲艦化してきた艦娘を支配出来るはずだ」
提督「そうした事案が起きていないということは、深海棲艦になる前にチップが埋め込まれていたか否かは関係ない。……恐らく、深海棲艦を支配するには、深海棲艦に直接チップを埋め込まなければならないということだろう」
提督「轟沈寸前で、他の深海棲艦と合流しそうなタイミングで例の注射を打ち、我が物にしようという魂胆なんじゃないかと推測している」
提督「深海棲艦の鹵獲なんて危険すぎて現実的な選択肢じゃないからね。鹵獲したところでまともに飼育なんて出来るわけないし。最も合理的で被害の少ない方法だ」
提督「……たった一隻の犠牲で万事うまくいく。僕が大将のような人間だったなら、そしてチップを自在に操れることが出来たならば、この方法を取らない手はない」
朝潮「チップを持った注射器を持っている……ということはチップの構造や扱い方も理解している、と考えて間違いないでしょうね」
提督「どこまで操れるかが疑問なんだよね……。磯波IIの盲信ぶりを見るに、その気になれば奴隷のように人を変えることも出来るとは思うんだけど……」
提督「だとしたら海軍全体が彼の手中に落ちていないとおかしい。何か範囲の制限みたいなものがあるのかもしれないね」
・・・・
朝潮「二点、質問してもよろしいでしょうか。どうしてリスクを冒してまでこういう方法を選ぼうと考えているのかということと、なぜ満潮を連れて行こうとしているのか、それが気になります」
提督「前者に関しては、非常にシンプルな回答になるかな。僕がそれを望んでいるから。最も、リスクを望んでいるわけじゃない。僕は誰かを見殺しにするなんて絶対に嫌だ。それだけ」
提督「後者は、満潮の行動を制限しつつも泳がせるためだ。彼女の真意が分からない以上、僕は彼女と分かり合えないだろう。だから、ある程度彼女の好きにさせて何をどうするつもりなのか知っておきたい」
提督「だが、いきなり泊地の火薬庫を爆破されたりしても困るので、任務上必ず達成しなければならない役目を与えている」
提督「磯波を除けば彼女一人しか連れて行かないのもそういう理由がある。他の人に任務を任せて、何か彼女の“復讐”に関係のあることをされると怖いからね」
提督「どう思う? 君がこの案をダメと言うなら、引っ込めようかなと悩んでいたんだ」
朝潮「いえ。動機の背景に私的な感情があることまでは是とすることは出来ないと思いますが……司令官はこの作戦が成功するという確信がおありではありませんか?」
提督「まぁ、自信が無けりゃ相談してないね。確信までは持てないし、かなり不安だけど」
朝潮「司令官がそう仰るのであれば、決して無謀な作戦では無いと思います。満潮の動向も探れますし、やってみる価値はあるかと」
提督「そうか。分かった……恐らく、磯波IIの体力が回復する数日後には決行することになる。よろしく頼むね」
・・・・
朝潮(突然の重要な作戦の話で面食らってしまいましたが……)
朝潮(しかし、こうして相談してくれたということは、私をある程度評価していると思っていいでしょう)
朝潮(これからも、司令官にとって有用な存在でなければ……)
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朝潮の好感度+3(現在値20)
ここでエクストライベントを投げてみる
00~57またはゾロ目で発生 >>+1
提督「皐月、磯波、満潮。君たちに集まってもらったのは他でもない。先日この鎮守府にやってきた、藤原大将の艦隊に所属している磯波の件についてだ」
提督「これから作戦について説明する。……」
・・・・
提督「というわけだ。まず、磯波の意見を聞きたい」
磯波「……私にやれるか、すごく不安です。本音を言うと、やりたくないです」
磯波「やりたく、ないです」
提督「……そうか」
磯波「でも、提督の誰も不幸にしない選択をしようとしているところを……私は尊敬しています」
磯波「だから私は! 私は、提督に応えたい……」
磯波「兵器として、部下として、艦娘としてではなく。私の意志で、提督の理想の為に尽くしたいです」
提督「ありがとう磯波。……そう言ってくれて良かった」
磯波「それに……もし私が困ったら、絶対助けてくれますもんね。提督なら」
提督「ああ、約束する」
・・・・
満潮(な~にいい空気になってんのよ! 正気!?)
満潮「ちょっと待って!? 本気でこんなことするつもりなの!?」
満潮「バレたらただじゃ済まないわよ!?」
提督「だからこそバレないようにやるんだよ」
満潮「だって、アンタさっきは……」
提督「さっきはさっき。あれはプランAで、プランBのこっちを採用したというわけ」
満潮「アンタ、ホント死んでもしらないわよ!?」
提督「僕が死なないために、君を連れていく。君が余計なことをせず、つつがなく与えられた役目を遂行してくれれば特に問題なく済むはずだ」
満潮「私は大丈夫でも、アンタに何かあったらどうするのよ」
提督「君が僕と磯波を助け出す。君が何について知っているかは分からないが、何かあった時になんとか出来るのは恐らく君しか居ないんじゃないかな」
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磯波の好感度+3(現在値21)
満潮「……くくっ、あははは。アンタ、馬鹿なのか冴えてるのか分かんないわね」
満潮「でも……いいわ、ふふっ。司令官のこと、ちょっと気に入ったわ。アンタみたいな馬鹿は早死にすればいいのよ」
提督「だから僕が死なんようにいざとなったら頼むって言ってるじゃないの」
満潮「約束はしないわ。でも、アンタみたいに真剣な顔でアホなこと言い出すような奴に死なれたら、ちょっとつまらなくなりそうね」
提督「ふふふ、よろしく頼むよ」
皐月「……ところで、どうしてボクを呼んだのかな」
提督「磯波IIへの救助隊の旗艦を務めてもらう。君が一番戦力的に頼りになるからね」
皐月「……ふーむ。なるほどね」
提督「急に考え込んで、どうしたの? 乗り気で引き受けてくれると思ったんだけど」
皐月「いや、今回は朝潮に任せてみてはどうかなと思ってね」
提督「それはどうしてだい? 戦力的に一番優れている皐月が適任だと思ったんだけど」
皐月「ボクに考えがある。この戦いで朝潮に活躍させたい」
皐月「どうも彼女は何か精神的なトラウマがあるようだ。そのせいか分からないが、司令官から見放されることを異常に恐れているような節がある」
皐月「活躍の場を与えて、きちんと評価してあげれば、もう少し自信がつくんじゃないかと思うんだ」
提督「分かった。皐月の言う通りにしよう」
皐月「もちろん、ボクだって頑張るからね! 期待しててよね」
提督「今回は別に戦果は上げなくても良いんだよ?」
皐月「でも、戦果を上げちゃってもいいわけだよね?」
提督「……無茶しないように」
皐月「へへっ、分かってるって! 心配要らないよ」
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満潮の好感度+3(現在値18)
満潮の好感度+3(現在値16)
本日はこれまで
50切っちゃった……オワンノカコレ
いや終わらせますけれども
ってあああまたやらかしてる
>----------------------------------------------------------------------
>満潮の好感度+3(現在値18)
>満潮の好感度+3(現在値16)
正しくは
満潮の好感度+3(現在値18)
皐月の好感度+3(現在値16)
です。
ついでなので好感度まとめも置いときますねー
【好感度まとめ】
電:31(好感度上昇+6)
皐月:16(好感度上昇+3)
磯波:21(好感度上昇+3)
如月:17(好感度上昇+3)
満潮:18(好感度上昇+3)
朝潮:20(好感度上昇+3)
あ、ついでに次回用のエクストライベントも投げておく >>+1
(00~57またはゾロ目で発生)
次の投下は本日21:00を予定しています。
(書き溜めの進み具合のよっては明日21:00になるかもしれません。予定時刻に投下がなければ明日ということで)
//チラシ//
艦これに微塵も関係ないけどパッと浮かんだ小ネタ。
スレチ度MAXだけど他に晒すとこも無いですしおすし。
一発ネタみたいなものなので解説もしないし続きも書きません。
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シュレーディンガーの猫「パブロフの犬がやられたようだな…」
マクスウェルの悪魔「ククク…奴は四天王の中でも最弱…」
ラプラスの魔「人間ごときに負けるとは物理学の面汚しよ…」
一同「…………」
シュレーディンガーの猫「そもそも俺ら思考実験じゃん…」
マクスウェルの悪魔「それな」
ラプラスの魔「わかる」
マクスウェルの悪魔「四人居ないと四天王にならんな」
ラプラスの魔「欠員補充しよう。あっあんなところにカラスが」
ヘンペルのカラス「ウィッス」
ラプラスの魔「あいつで良くね?」
シュレーディンガーの猫(そもそも物理学関係ねぇ…)
ヘンペルのカラス「全てのカラスは黒い!!」
マクスウェルの悪魔「は???」
ヘンペルのカラス「そこのお前らは全員黒くない。そしてカラスではない」
マクスウェルの悪魔(いや自分黒いんすけど……)
ヘンペルのカラス「全ての黒くないものを用意しろ! そうすれば全てのカラスが黒いことが証明される!」
マクスウェルの悪魔「よしきた」
マクスウェルの悪魔「ここにこの世の全てのものを用意した。そして黒いものと黒くないものに分けておいた。黒くない方を一つ一つ調べていけば分かることだろう」
シュレーディンガーの猫「お前そんなことできんの?」
マクスウェルの悪魔「気合入れたら案外いけたわ」
シュレーディンガーの猫「お前の気合すげーな。やばすぎか」
ヘンペルのカラス「フフフ……これで全てのカラスは黒いことを証明し……ウッ」
ラプラスの魔「アルビノのカラスだね。黒くはないがカラスではある」
ヘンペルのカラス「ぐわあああ」
シュレーディンガーの猫「死んだぞこいつ」
ラプラスの魔「命題が反証されたせいで自分の存在を維持出来なくなったんだ」
シュレーディンガーの猫「何それこわい」
マクスウェルの悪魔「まぁ実際よく分からんとこを売りにしてるからねウチら」
シュレーディンガーの猫「なるほど」
ラプラスの魔「おっ、今度は向こうから亀が歩いて来ているよ」
絶対に続かない
皐月「いよいよ明日、だね」
皐月「今でも君があんな風に自分の意志で司令官に従いたいと言ったのが意外だなって思うよ」
磯波「自分でもそう思います……なんであんなこと言っちゃったんだろう……感情に流されたのかな……」
磯波「でも、後悔はありません。提督の理想を支えたいという気持ちは、本当です」
皐月「磯波。変わったね」
磯波「あっ、そうですよね。普段の私ならこんなこと言いませんよね……。緊張しちゃってるのかな」
皐月「いや、全然変なことは言ってないし、変わったというのも良い意味でだよ」
皐月「前の磯波なら、これから自分が危ない場所に放り込まれようとしている今みたいな状況に置かれたら、こうしてまともに話もできないほど恐怖で怯えていたと思う」
磯波「確かに……私はいつだって他の人よりは安全な場所から見ているだけだったし、それが幸せなことだって思ってました」
磯波「平穏な日常が壊されることが、私は最も恐ろしいことだと思います」
磯波「今だって震えそうなぐらいに怖いですよ……でも、提督が居ますから」
・・・・
磯波「……初めて会った頃の提督は、上の空でどこか危なっかしくて、でも優しくて。私に歳の近い弟が出来たらこんな風なのかもなって思ってたんです」
磯波「でも、こうして私たちと過ごしていくにつれて成長していって、今はとても逞しくて頼もしい存在になりました」
磯波「提督が成長していく姿を見て、私も、提督みたいに変わっていきたいなって。提督と一緒に成長していきたいなって。そう思ったんです」
皐月「磯波は立派だよ。ボクも司令官の理想に応えたいという気持ちがあるからこそ、ボク以上に司令官を想っているであろう君に対して敬意を払いたくなった」
磯波「敬意だなんて、そんな……」
皐月「いや、今の君は尊敬に値する。ボクも友人として誇らしいよ」
皐月「まだ、司令官自身で気づいていない部分もあるだろうけど、司令官は、絶対に何かを犠牲にしようという選択肢を取らないんだ」
皐月(かつてボクが自分を犠牲にするようなことをしないで欲しい、なんて言った影響もあるのかもしれないけど)
皐月「今までだって、犠牲を受け入れればもっと容易に事が進んだ場面は少なくはなかった。でも、結果的にどんな状況下でもそういう選択を避けてきた」
皐月「ボクは司令官のそういう面に一番惹かれているんだ」
皐月「そして、今の君の姿にもそうした意志が見て取れる」
皐月「きっとこの先更に辛く険しい状況になっていくと思う。だけど……」
皐月「磯波、生き残ろう。生きて、司令官の描いた理想と共に生きていこう」
磯波「はい。誰も悲しませない、皆が幸せになる、そんな結末に辿り着けるよう、私も頑張ります!」
磯波(提督……私、必ず貴方の元に還ってきますから……どんなことがあっても)
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磯波の提督に対する想いが高まった
磯波の好感度の基本値が3上昇した
磯波の好感度上昇が以後+6になります(ただし今回のレスで好感度は変動しません)
エクストライベントをポーンと投げてみて先制攻撃。
投下は21時以降になりますがその前にコンマ判定をしかけておきます。
>>+1 00~59:A 60~99:B
>>+2 00~46:A 47~93:B 94~99:C
なんの判定かって? さぁなんでしょう。羅針盤的なモンじゃないですかね。
両方Aが出るとルート1
両方BまたはCが出るとルート2
それ以外の中途半端なやつだとルート3です。
まだアレなアレは起こらないけどルートによってはヤヴァイかもです。
それではお付き合い願います。
皐磯波II「お世話になりました。無事動けるようになったので、私は私に与えられていた任務を遂行しようと思います」
提督「そうか……。これが預かっていた注射器だ」
磯波II「それでは」
・・・・
提督「行ったな。どこに向かっている? 今どんな感じかな?」
朝潮「司令官の予想通り、北方海域へ向かいました。大将への鎮守府には寄るつもりはないようです」
提督「了解。では、そのまま追跡を続けてくれ」
提督「磯波、満潮。僕たちも行こう。3-1作戦、開始する!」
・・・・
電「磯波IIがいよいよ敵艦隊を発見した様子なのです」
皐月「そのまままっすぐ向かっていくみたいだ」
如月「艤装がボロボロだからすぐに轟沈しかねないわね」
電「今すぐ助けに行った方が良いと思うのです」
如月「ただ、助けに行こうにも、また自分の意思で動けなくなるぐらいには負傷してもらわないと後々厄介になりそうだわ」
皐月「どうする? 朝潮」
朝潮「ここで無理に無傷の彼女を連れ戻した場合、気が変わって大将の泊地へ向かう可能性があります」
朝潮「少なくとも司令官が磯波を引き渡し鎮守府に戻ってくるまでは時間を稼ぐべきでしょう」
朝潮「ただ、轟沈は避けろというのが司令官の指示です。磯波IIの被害が深刻化したタイミングで救出に向かいます」
・・・・
朝潮(司令官と出会ってから……思えば運に恵まれない日々でした)
朝潮(大佐の艦隊のもとでは何不自由ない暮らしではあったけれど、兵器として生まれた私が安穏にかまけているなど本来あってはならないこと)
朝潮(この鎮守府に来てから、私はやっと艦娘としての本懐を果たせると喜んだものです)
朝潮(大佐から前情報のあった私が秘書艦になるのは必然のはずだった……でも、司令官は私を選ばなかった)
朝潮(電を責めるわけではないけれど、私なら彼女よりももっと司令官の視点に立って物事を考えることが出来たはず)
朝潮(私たち艦娘は、司令官の命令に従うことこそが全て。それこそが私たちの存在意義)
朝潮(今まで私は本当に苦しい立場に立たされていた)
朝潮(司令官と少しずつ話が噛み合わなくなっていったときの事、皐月に司令官の後をつけていた事を察知されたときの事……)
朝潮(思い返せば苦々しい出来事ばかり。だが、そんな状況もようやく今になって変わってきた)
朝潮(紆余曲折あれど、最近では司令官とも問題なく会話出来ているし、役に立てている)
朝潮(それだけじゃない。これまで艦隊編成時に明確に旗艦を決めていなかったにも関わらず、私は今こうして旗艦に任命されている)
朝潮(ようやく司令官から信頼され始めている……このチャンス。絶対に活かしてみせます!)
皐月「朝潮……どうしたの? 考え事?」
朝潮「い、いえ。問題ありません」
提督「藤原大将、お初にお目にかかります」敬礼
提督(眉目秀麗で凛々しい顔立ちだ……まだ20代半ばなんだっけか)
提督(だが、風格や威圧感が20代のそれとは思えないな……背も高いしまるで吸血鬼みたいに感じられるぞ)
大将「うちの磯波を保護してくれたそうだな。礼を言おう」
大将「ところで……彼女は“ある荷物”を持っていたはずなんだが……何か心当たりはあるかな?」
提督「いえ。彼女を救出した際に荷物の類は見つかりませんでした。海に沈んでしまったのではないでしょうか」
大将「そうか……海に沈んだか」
提督「ところで、“ある荷物”とは何ですか? どうしてそんな含みのある言い方をするんですか? あの嵐の中で、それも単艦で輸送任務だなんて妙じゃありませんか?」
磯波(ああっ、ちょ、ちょっと提督! まずいんじゃないですかそれは……)
大将「ほう。貴様、面白い質問をしてくるじゃあないか。私の地位や力を前にして、そうしたストレートに疑問を投げかけてくる奴はそういない」
大将「私は貴様のように地位や身分、力を前に膝を折らない人間を高く評価している」
大将「だが、だからこそ、聞いておかねばならない。……どこまで知っている?」
磯波(まずいことになりましたよ提督……!)
提督「いえ、僕が疑問を持ったのは、何も知らないからこそです。何かを知っていたら、こんな風に突っ込んだ質問はしないと思います」
大将「フッ……そうかもな。ならば私からの回答はこうだ。『その質問に答えることは出来ない』」
大将「それと、一つ忠告しておく。知りたがり屋は若死するぞ」
提督「……失礼しました」
大将「まぁいい。ところで、三雲大佐について何か知らないか? 奴に関係のある人物を調査している」
大将「奴は軍の機密情報に触れたのだ。処罰せねばなるまい。念のため、奴が訪れたことがある鎮守府やその近辺を当たっているのだ」
提督「いえ、特に提供できるような情報はありませんね……(我ながら白々しいな)」
提督(大将自らこの泊地を訪れているのはなぜだろう……。気になるが、さっき釘を刺されたばかりだ。聞かない方がいいか?)
大将「ふむ、そうか。ならば構わない」
大将「奴とはちょっとした因縁がある。『全ての出来事は、起こるべくして起こる』、だ」
大将「“今のところは”貴様に何かにするつもりはないから安心したまえ」
大将「それに、個人的には貴様を気に入っている。金と権力だけを喰って肥え太った役に立たずの畜生ばかりだと気が滅入ってしまう」
大将「貴様のような気骨のある人間も居なくてはな」
大将「何にせよ、大儀であったぞ」
バタン
磯波「なんとか乗り切りましたね……」
提督「すこし核心に迫ろうと焦りすぎたかもしれないな……」
提督「だが、限りなくクロに近いと判断していいだろう。僕の予想していた方向に近い企みをしていることは間違いない」
提督「(ただの悪人にも思えなかったけど……とはいえ、彼の行動については注視しなければならないな……)」
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磯波の好感度+6(現在値27)
エクストライベントのコンマ >>+1(ぞろ目or0がつく数で発生)
では本日はこれにて閉廷
それが世界の選択か
>>177はルート2だと大変なことになってました。
ルート1でも結構カオスなことになってたかもしれん。
そういう意味では一番正解とも言えなくはない。一番面白みが無いとも言えるけどネー。
でも人生ってそういうもんだよ!(何
今あれこれ書くと今後のネタバレになる可能性があるので詳しくは書かないけれども。
とりあえずこれで一安心……と思うじゃん?
思うじゃん? あーそうかも。どうなんだろ。どうでしょうね。
こういうわけわからんこと書くときの自分は疲れてるんだ。疲れてるときは文章なんて書くもんじゃねえ。もう寝よう。
あ、そうそうもっかいエクストライベントのチャンスなので頑張ってみてくだち
コンマ >>+1(ぞろ目あるいは0・1・6のいずれかがつく数で発生)
空腹と眠気とカフェインの過剰摂取で色々あれでレス待つのもめんどうなのでセルフ取得~
磯波「……提督。ここでお別れですね……」
提督「ああ。……すまないね、磯波」
磯波「私、必ず帰ってきますから、待っててくださいね。それじゃあ……」
提督「待って、磯波……これを。お守りに持っていってくれ」
磯波「これ……首飾りですか? ハートの形をしていますね……それに、小さな鍵穴のようなものが……」
提督「僕の父さんと母さんが持っていた形見でね。鍵の持ち主が錠を解かない限り、お互いがどんなに遠く離れていたとしても必ずまた会える……らしい」
提督「まぁ、首輪じゃなくて首飾りだから、いつでも取り外し可能なんだけどね」
磯波「……でも、なんだか私、提督の所有物になったみたいで、ちょっとドキドキします」
提督「おっ、おい! そんなインモラルな意味合いで渡したんじゃないってば! 人の親の形見を何だと思ってるんだ」
提督「僕の大事な物だからさ……必ず返しに戻ってきてよ?」
磯波「はいっ♪」
磯波(提督がこんなに私のことを想ってくれているなんて……嬉しい)
・・・・
提督「さて、満潮と合流しなければ」
提督(どうも今日の僕は冷静さに欠くなぁ……)
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磯波の好感度+6(現在値33)
//チラシ//
セルフ取得はもう二度とやらないので許してください、ごめんなさい
ぞろ目が出るとは思わんかった
もうそろそろ好感度とかの数値もガンガン動かしてそっち方面でも展開させてかなきゃダメだよねなんて思惑はあったりなかったりなかったりあったりします
そういや>>173の話だけどさ、
つい最近マクスウェルの悪魔も倒された
(現実に実現した)らしいのよ
次回の投下は明日……と言いたいところだけど無理そうなので明後日の21:00頃を予定しております。
明日投下出来そうだったらしちゃいますけど。
//チラうら//
>>186
これですな。
情報をエネルギーに変えるとかすごいですね(すごさが微塵も分かってなさそうな発言)
あれこれ調べてみると分かった気分になるけど結局分かっていないのがアレ。
なんとなくのレベルまで理解するのには数十分とか数日かければどうにかなるけれど、
完全に理解するまでには多くの歳月を要する……みたいなものが世の中には多くあると思いますゾ。
まぁそれはそれとして全然関係ない話なんですけど今日は夢に大淀が出てきました。
自分の場合「関係ない話なんだけど」って切り出しておいて本当に関係ない話を始めるのよくない所だと思います。
それによって自分や他者が不利益を被るってほどでもないので直す気は無いんですけれども。
満潮「ここが工廠ね」
バタン
満潮(工廠に侵入成功。このまま解体妖精を奪取……これで任務は完了ね)
満潮(さて、せっかく敵地に来たんだから情報収集ぐらいはさせてもらうわ)
満潮(この装置に書いてあるデータ……)ガサゴソ
満潮(今まで出現した深海棲艦の統計……? 出現場所、艦隊規模、交戦した場合はその戦果も記録されてるようね)
満潮(おかしい。これだけの情報量を一体どこで? 奴……藤原大将が一人で調べただけではここまでの情報を得ることは出来ないはず)
満潮(藤原大将が大将になるよりずっと前どころか、まだ艦娘という兵器が生まれて間もない頃にあった軽微な交戦記録まで残っている……)
満潮(……妙ね)
・・・・
満潮(あまり情報は得られなかったわね。まあいい、後は司令官と合流するだけ……っと)
パチッ ヴィーーン
満潮(まずい……誰か来た……!)
夕張「おかしいなぁ~……工廠に立ち入るのなんて私か提督ぐらいしか居ないはずなんだけど。本当に誰か居るのかしら?」
満潮(奴が手に持っているのは生体センサー……! クッ、ここから逃げようにも探知されてしまったら意味がない……だったら!)カラン……
夕張「しまった、敵襲!? きゃああ」ドオオオオオン
満潮(手榴弾程度で倒せるような相手じゃないことは分かっている……だが、センサーに損傷を与えることが出来た。これでいい)
夕張「ッ……。やるじゃない! でも、これならどうかしら!」ドドドドドドドド
満潮(なっ!? 部屋の中で全弾斉射なんて、正気の沙汰じゃないわ!!)
ドゴオオオオオオオオン
部屋の中の装置や設置物が瓦礫と化す。
夕張「ここで何かを探っていたようだけど、ここにある機器はもう提督には必要なくなったガラクタの山と妖精が居るだけよ」
夕張「元々ここは演習場を改装されて作られた施設。砲撃を撃ち込んでも壁に傷一つつかないわ」
夕張「そして、私を倒さない限りあなたはここから出ることは出来ない」
夕張「ありったけ撃ち込ませてもらうわ。観念するのね!」
満潮「観念するのはどっちかしら!」爆風を切って現れ、夕張に突撃する満潮
満潮「アンタが増援を呼ばずここで私を倒そうという選択をしてくれて助かったわ」
満潮「ここでアンタを始末しておけば、私の姿を見た者は居なくなるッ!」夕張めがけて魚雷を射出
シュオオオオ…… ドガアアアアアアアアアアアアアアアアン
夕張「っ……なかなか痛かったわよ……」よろめきながら立ち上がる
満潮(あの至近距離で雷撃を食らってもまだ耐えるか……チッ)
夕張「バルジを装備していなければ危ない所だったわ。こういう時に兵装が多いと助かるわね」
満潮「何であろうと、そんな鈍重な動きなら次の一撃で仕留められ……」ダダダダダダダダダダダダダダダダダ
銃声の音が響く。
満潮「あ……がッ……何が……? 体が……動かない……立ち上がれない……」
満潮(頭がぐらぐらする……機銃をまともに食らったか……視界が霞む……)
夕張「助かったわ不知火。装甲の薄い私に盾役をやらせるのはどうかと思うけど」
不知火「……つまらない」手袋をギュッとはめ直す
夕張「どこからの刺客なのかが重要ね。上なのか、下なのか……。ま、その辺の話は自白剤でも投与してたっぷり聞かせてもらうとしましょう」
夕張「と言っても、このままじゃ喋ることもままならないようね。ドッグに連れて行きましょう」 倒れている満潮をおぶる
ガシャン、と工廠のシャッターが開く音。
夕張「ちょっと、ぴくりとも動かないんだけど。不知火、殺してないでしょうね?」
不知火「加減はしました。……!?」
突如満潮が夕張の首筋めがけて手刀を振り降ろす。夕張、気絶して意識を失う。
満潮「油断……したわね……倍返しよ!」不知火に至近距離で艦砲を見舞う
廊下の端まで吹き飛ばされる不知火。
不知火(クッ……直撃したわね……追撃は困難……)
不知火(それにしても、あれだけ損傷していてまだ動けるとは誤算だった……)
満潮「奴は退いたようね。はやく、はやく提督を逃さなきゃ……」
・・・・
提督(満潮遅いな。一体どうしたんだ……?)
提督(僕と磯波が大将と会った直後に、待ち合わせを別の棟に変えるなんて言ってたけど……どうしたんだろう)
満潮「司令官! はぁ……はぁ……はぁ……」
提督「どうしたんだ!? ボロボロじゃないか!」
満潮「説明は後! 私の言う通りの方角から脱出するわ! 急いで!」
ウーッ ウーッ
サイレンが鳴り響く。
不知火「侵入者を発見。艦種駆逐艦、艦名朝潮型 3番艦満潮。他提督から差し向けられたスパイかと思われます。見つけ次第拿捕、場合によってはその場で始末して構いません」
不知火「場所は……」
不知火(チッ、小癪な真似を……!)
・・・・
提督「……本当に逃げられるのか?」
満潮「問題ないわ。別の棟で時限式の爆弾を順次作動させている」
満潮「もちろんそっちは囮とすぐに見抜かれるだろうけど、敵の心理に立ってみれば囮だからといって兵力を割かないわけにはいかない」
満潮「そして本丸のこっちでは複数箇所で発煙弾を撃ち、ドライアイスを散布してある」
満潮「だから監視カメラやサーモセンサーでの探知は不可能のはずよ。生体センサーも半径数メートル範囲までしか届かないから私たちを見つけるのは到底無理ね」
満潮「工廠のコンピュータにこの泊地のマップを表示しているものがあったの。それを元に避難経路を考えていたわ。だから待ち合わせをここに指定した」
満潮「見つかったのは誤算だったけどね。でも、ここなら待機してる艦はほとんど居ないから安全なはず」
提督「そうは言っても外に出たら見つかるんじゃないか?」
満潮「いいえ、それは問題ない。外に出さえすればやりようはあるわ」
・・・・
満潮「お疲れ様。生きてるかしら?」
提督「まさか僕を連れたままダイビングするとは思わなかったよ」
提督「っていうか、水上艦なんだから海に潜ってはいけないのでは……?」
満潮「潜るって言っても大した深さじゃないわ。それに、艦娘の性質上走るより海上や海中で移動した方が早いんだから仕方ないじゃない」
提督「そのたいした深さじゃない深さで僕は肺が潰れそうになったし溺れたんですけどねぇ」
満潮「息を止めるなって言ってたのに、口を開けるから溺れちゃったのよ。全く」
満潮「……だから、仕方なく人工呼吸したんじゃない」
提督「人を殺しかけておいて何ちょっと頬を赤らめてるんだよ……」
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満潮の好感度+3(現在値21)
満潮「ここまで来れば安全よ。日も落ちた。奴らも追ってはこれないでしょう」
提督「聞きたいことは色々あるけれど、君と再び会えて良かった」
提督「まず……その傷は大丈夫? って、大丈夫なはずないよね、今も傷口から血が流れてるもの」
満潮「ええ、大丈夫じゃないけど。コイツがいなければ死んでいたわ……」
満潮「解体妖精と一緒にくすねてきた、応急修理要員。コイツでなんとか持ちこたえることが出来た……わ」
提督「? ……満潮。どうしたの」
満潮「意識が遠のいてきた……大丈夫。疲れて眠いだけよ。やっと一息つけるようになったから、気が抜けちゃったのかも」
満潮「司令官、少し、膝借りるわよ……ふあぁ……」
提督(僕の許可なく膝に頭を置いて、寝始めた)
提督(今夜はここで野宿か……)
・・・・
提督「おはよう、と言っても、真夜中だけど」
満潮「……」
提督「君が全然起きないせいで僕はずっと硬い地面の上で正座していたよ。おまけに膝は血塗れだ」
満潮「…………んぅ……っつッぅ……ぅ」
提督「……大丈夫? 意識はある? 僕に何か出来ることはある?」
満潮「優しいのね」 体を起き上がらせる
満潮「もう平気、いや、平気ではないけど……。とりあえずもう動けるわ」
提督「そうか。良かったよ。……本当に良かった」
提督「何があったのか教えてくれないか」
満潮「別に。任務は達成したけど、ドジ踏んでこのザマってだけよ」
提督「そういう話じゃなくて。君は何をしようとしていたんだ? 任務を達成するだけならそんなに時間はかからなかったはずだろう」
提督「話してくれ、満潮。それに、君が追われる身になった以上、僕ももう後には引けない。あぁ、磯波をどうにか助け出さなきゃか……」
満潮「そこの心配は不要よ。磯波もアンタも狙われることはない。磯波IIを救助に向かっている部隊が無事帰ってくれば任務自体は滞りなく遂行される」
提督「どういうことだ?」
満潮「工廠内にあったコンピュータに記載されていた情報を読んだわ。奴は三雲大佐以外に眼中にない。逆に言えば、三雲大佐に対しては異常に執着があるみたいだけど」
満潮「真っ先に疑われるのは大佐に加担していると推測されている南条中佐。実際に南条中佐は三雲大佐の協力者のようだしね」
満潮「疑われている、というより、恐らく南条中佐は私や貴方の代わりに処刑されることでしょう。それに、彼の鎮守府の方が大将の居る泊地まで近い」
満潮「そもそも総数6隻しかないうちの提督が何か仕掛けてくるだなんて思っていないでしょう」
提督「でも……僕たちの代わりに誰かが犠牲になるのか……それは喜べないな」
提督「やはりこの作戦は失敗だったかもしれないな」
満潮「どうしてそう思うの? 大将の情報は得た。私たちに迫る危機も一先ず避けた。あとは磯波IIを解体して磯波の帰りを待つだけでしょ。作戦に不備は無いわ」
提督「僕はこの作戦を誰も犠牲にならないようにと立てた」
提督「だが、この作戦のせいで無関係な中佐が極めて不利な状況に立たされることになってしまった。それに、君はこんなに傷ついてしまった。やはり失敗だったな」
満潮「……何かを成し遂げるのに犠牲はつき物よ。それに私が負傷したのは私が指示から外れた行動を取ったせいよ。司令官が気に病むような話じゃない」
提督「いやだ……僕は犠牲なんて認めない。それを認めてしまったら、これまでの自分を否定することになる」
提督「僕は君たちを理不尽や悲しみから救いたい。それに君がそんな風にボロボロになっていくのは嫌だ」
提督「無関係な他人が僕のせいで追い詰められるのも嫌だ。轟沈しろと命じられて、沈んでいく艦娘を見捨てるのも嫌だ」
満潮「バカね……」
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満潮の好感度+3(現在値24)
提督「ああ、バカさ」
提督「でも、僕は、君たちを守るためにこうして成長してきたんだ。ようやく自信もついてきたんだ。こんな僕でも、何かの力になれるって」
提督「最近は艦隊の指揮もようやく分かってきたんだ。思い上がりかもしれないけど、今ならもっと君たちを活躍させることが出来ると思う」
提督「僕は自分自身に賭けたい。僕なら、誰も犠牲にせず、誰も悲しまないように出来るはずだって。そう信じたいんだ」
提督「電に、この戦いを終わらせるのが夢だって聞いたんだ。磯波に、ずっと平和でいられたら良いのになって願いを聞いたんだ」
提督「僕は彼女たちの想いを守りたい。その為なら僕はもっと強かになれる」
提督「仕方ない犠牲だなんて割り切ってしまったら、きっとその時点で僕の成長も未来も止まる」
満潮「本当に……バカなのね。尊敬するわ司令官」
満潮「貴方のような司令官にもっと早く出会っていれば、私はこんな風にならずに済んだのかもしれないわ」
満潮「私も、司令官のようになりたかった。ずっと忘れていたわ……」
満潮「どうして、どうしてこんなことになっちゃったのよ……」肩を震わせる
満潮「護りたかったものは皆、海の底に沈んでいった! かつて一緒に夢を語り合った仲間が! 次の日にはもう居ない!」
満潮「戦況が悪化していくにつれて私たちは物のように扱われていく……! 一体何のために、一体何のために戦っているっていうのよ!」
満潮「私は度重なる戦いの中で壊れてしまったんだわ。今、こうして貴方みたいな司令官に出会えた今でさえ、復讐の念しか残っていない」
満潮「憎い! 私の仲間を、かけがえのない仲間を奪っていった深海棲艦が……そして、私たちが死んでいくのに眉一つ動かさなかった奴らが!」
満潮「私たちの命が、まるで虫や魚と同等に扱われているのが許せない! どうしてあんな奴らに私たちが支配されなければならない!?」
満潮「殺してやる! 殺してやりたい! 私たち艦娘というものを生んだ人間を! 無能な指揮で私たちを死に追いやる奴らを! 絶対に許さない……絶対に……」
満潮「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
号哭。声にならない叫び。
提督「満潮。僕が君の傍にいる。沈んでしまった君の仲間は取り戻せないけれど、僕が君の悲しみを取り除く」
満潮「失ったものは……もう戻ってこない……。私の望みは失われた。私はもう……復讐を果たすだけの存在と化したのよ……!」
提督「だったら僕が君の希望となるさ! なってみせる!」
提督「今は僕のことが信じられなくてもいい。でも、僕は必ず。君を救ってみせるから」
満潮「……」
提督「まだ僕のことが信頼できないなら、君が抱えていることを話さなくてもいい。でも、僕は君を守ってみせるから」
提督「鎮守府に戻ろう。皆が待ってる」
手をさしのべる提督。そっとその手を握る満潮。
提督「さぁ、行こう」
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満潮の好感度+3(現在値27)
投下の途中で鯖落ち? こんなのってないよ、あんまりだよorz
次回の投下は未定ですがエクストライベント発生判定 >>+1(コンマの数値が50以上で発生)
/////チラシの裏/////
メアリー・スーってあるじゃないですか。あれとか俺TUEEE主人公とか自己投影主人公とかご都合主義とかについてあれこれ語ってたりするスレとかあるじゃないですか。アレ書く側の人間が読むもんじゃないですね。動悸がしまくって精神が崩壊しそうになります。いや、基本的に自己投影とかはしてないつもりですけれども。自己投影ならこんなキャラにしないし。
なんていうかね、二次創作は原作だとかクロスオーバー先だとかの良さをぶっ殺しちゃいけないと思うですよ。設定やキャラを壊すにしてもなんかこう上手い事やらなきゃなみたいな。いや二次創作は自由だけどさ。自由だけど超えちゃいけないラインってあると思うのよね。無いか。無いかもしれないけど僕にとってはあるんですよ。そのラインをいつの間にか自分で超えてないかが心配なのよね。あーだこーだ苦悩しながら書き続けてますけどやっぱり難しいですね。口で言うのは簡単なのに形にするのは難しいですね。楽しいからいいけどね。
次回の投下は明日21:00を予定しております。
///チラシの裏///
突然ですけど、うちの住んでる家の近くって野良猫が多いんですよ。
で、特に猫の多い場所を「新都」「廃都」って勝手に呼んでるんですけど、
新都の方はわりと若い猫とか体格の大きい猫とかが多いんですよ。動きが俊敏で人が近づくとすぐ逃げます。
廃都の方は新都からちょっと離れた場所にあるんですけど、そっちには年老いた猫とか衰弱してそうな猫が多いんですよね。人が近づいても動く気配もない猫が多いです。
んで、新都にはいつも野良猫に餌を与えてる人がいるようで、それゆえ猫が多く集まるみたいです。
新都での(猫の世界での)権力闘争に敗れた猫たちが廃都に流れ着いているような感じがします。
で、今日もその新都と廃都を通りがかったんですが(どちらも>>1が帰宅途中に寄る場所なのです)、
廃都で案の定今日も弱っちそうな猫が居たと。その猫の目の前を通り過ぎたけれど何の反応も示しませんでした。
それで、後ろから犬を連れたオッサンが歩いてきたんですね。
さすがに犬が近くに居たらあの猫も逃げるんじゃねーか? と思ってちょっと興味本位で振り返ってみたけれど、その場に座ったままでした。
あーそれでも動じなかったのかーと思って再び前を向いて歩こうとしたその時!
オッサンが犬を蹴り飛ばして猫にぶつけたじゃありませんか! 猫は驚いて逃げていきました。
一番の畜生はニンゲンだったというオチでした。ちなみにこれは全部実話なのです(>>1が廃都とか新都とか勝手に名づけてるのも含めて)。
うーむ。なんというかアレですな。ちょっと胸糞悪い話でした。
ゴ……ゴメンもうちょっと待ってください……もう少し時間があればキリの良い所まで書けそうなんや……
いやー一日中家に籠もってたのに全然書けてないで投下一時間前になって焦ってチューニングし始めるって怠惰よねぇ……すみません
とはいえ遅くとも今日中には投下するのでご安心を。多分一時間後ぐらいになるかな
///チラシの裏って書いておけば何書いても許されると思いやがって///
今日は一日中音楽を聴いてました。UKハードコア→スピードコア→ボカロ→ユーロビート→ハッピーハードコアとなんか昔ハマってた曲なりジャンルなりを漁ってわあいみたいな。
あんま音楽通ってわけじゃないんですけどね。
SPEEDKORE 4 KIDZ!とか聞いてうぎゃーってなったりSuper Eurobeat系のを聞いてふぅぅぅーってなったり。
自分で言うのもなんだけどわりと頭悪そうな生活してますね。まぁたまにはこんな日があっていいじゃない。
提督「おかしい……どうして誰も居ないんだ……? とっくに帰投しているはずだが……」
提督「何かあったなら無線機に通信を入れているはずだが」
提督「だが……まだ戻っていないという以上、“何かがあった”のは確実だな……」
提督「考えるのは後だ。満潮! 君は交戦場所に近い鎮守府の提督に片っ端から救援要請を出してくれ」
提督「さっきまで持ち歩いてたポータブル型の無線機でなく、この鎮守府にある据置型の無線機ならば彼女たちからの電波も受信出来るはず」ガチャガチャ
満潮「分かったわ!」
・・・・
電「鎮守府から通信なのです!」
如月「最初の交戦で通信機器が壊れちゃったけど、受信なら辛うじて出来るみたいね」
提督「――んな……皆! 聞こえるか!? 応答願う!」ザザッ
提督「少し遅くなったが磯波を大将のもとに引き渡し、満潮が解体妖精を取ってきてくれた! 僕たちは任務を遂行したぞ!」ザザザザ
提督「そちらの被害と状況を聞きたい! 至急応答願……」ザザッ……ガガガガッ
提督「今他の鎮守府に救難要請を出……必ず……きて……帰ってきてくれ……」ガッガッガッピーーー
如月「完全に壊れたみたい。受信すら出来なくなっちゃったわ」
電「司令官は無事のようで一安心、……ってわけにもいかないですね。こっちの状況が状況なだけに」
・・・・
満潮「終わったわ。そっちはどう?」
提督「わずかなノイズ以外に何も聞き取れなかった。こちらからの声は届いていたみたいだけど」
提督「しかしそれも途中で完全に通信が途絶えてしまった……」
提督(一体今どんな状況なんだろう。ひょっとすると、もう既に誰か海に沈んでしまったのかも……)
提督「こんなことになったのも僕のせいだな……まずいことになった。……まずいことになった」
満潮「司令官。まだ誰かが沈んだと決まったわけじゃないわ」
提督「そうだな、ここで取り乱しているようではだめだ。考えろ……今彼女たちの為にやれることを……」
提督(後悔は後ですればいい。今はくよくよしている場合じゃない)
提督(だが……これは打つ手なしかもしれないな……せめて状況さえ分かれば……)
椅子に深く腰を下ろし、腕を組み、深呼吸する提督。軍帽を目深に被っているため表情は伺えないが、口元の様子から歯を軋ませているのが伺える。
提督「満潮、ドックで休憩していろ。僕はここで彼女たちの帰りを待つ」
満潮「嫌よ。私もここに残るわ」
提督「そうか……分かった」
提督「……」
満潮(ここに私が居ることで何が出来るのかは分からない。でも、司令官には私のようになって欲しくない)
満潮(私が貴方を支えるわ、司令官)
----------------------------------------------------------------------
満潮の好感度+3(現在値30)
電「――皐月! ――れーかんは無事です! ――あとは帰還するだけ!」
皐月「声すらほとんど届かないとは……本隊と随分離れてるみたいだな
皐月「でも、司令官は上手くやれたみたいだね。良かった良かった」
皐月「さあ! 退却戦といこうじゃないか!」
磯波II(もうほとんど弾薬も残っていないのに……どうしてまだ戦おうとするんでしょうか?)
・・・・
電「皐月に聞こえたかな……」
如月「皐月と合流する、退路も切り拓く。片方でさえ厳しいのに両方やらなきゃいけないのは辛いわね……」
如月「皐月が先陣切って負傷した磯波IIを救いに行ったのは良いものの、運悪く敵の潜伏部隊に接触して艦隊を二分されてしまうとはね」
電「これでもこっちはだいぶ片付いた方なのです。潜伏隊が現れた時は弾薬を全部使っても切り抜けられないかと思ったのです……」
如月「切り抜けた……とも言えないけどね。かなり不利な状況のまま膠着状態が続いているし」
朝潮(おまけにもう日が昇り始めている。まだこちらには気づいていないものの、背後から敵艦隊が接近している)
朝潮(後方の敵艦隊には軽空母が多い。日が出たら索敵を開始して私たちを見つけるでしょう)
朝潮(そうなったらもう助かる術はない。……私たちに残された時間はせいぜい数時間、か)
如月「せめて司令官の指揮が届けば……あるいは満潮か磯波が居ればまだどうにかなるんでしょうけど……無いものに期待してもしょうがないわね。何とかしないと」
朝潮は拳を強く握りながら、無言で震えている。
朝潮(どうしてッ……どうしてッ……どうしてッ! ……)
朝潮(せっかく司令官にチャンスを頂いて、ようやく私を認めてくれたかもしれなかったのに……これからもっと活躍できるはずだったのに……)
朝潮(予期せぬ敵艦隊の強襲さえなければ全て予定通りに行くはずだった……。でも、もう……)
朝潮(もう……おしまいですね……。このままおめおめと生還したところで、もう二度と司令官は私のことを見て下さらないでしょう)
朝潮(私が司令官の立場だったら、そうするに決まっている。ならば……)
朝潮(艦娘として、矜持ある最期を遂げましょう。他の艦の為にも、司令官の為にも、それが一番良いでしょう)
朝潮「はああああッ!」バババババババ
温存していた残りの燃料と弾薬を全て使い果たさん勢いで猛スピードで敵艦隊に突き進んでいく朝潮
如月「ちょ!? ちょっと朝潮!? 突然何やってるの!?」
朝潮「私一人で皐月を連れてきます! あなた達はそこで待機していて下さい!」
朝潮「今私が持てる全ての力を使えば、この状況を打開出来るはずです!」ダカダカダカダカ
電「でっ、でも、一人じゃ危ないのです! 如月! 私たちも続くのです!」
如月「一体どういう風の吹き回しかしら……ま、いいわ。賭けに出るのも悪くないわね!」バシュッバシュッ
・・・・
皐月「あ、ヤバ。弾薬もうないや。あはははッ」
磯波II「これでもう終わりですね。諦めて沈んだらどうですか」
皐月「いやいや、なんのこれしき、ってね! まだやりようはある!!」ガンッ! ガンッ! バゴォッ!
連装砲で敵駆逐艦を殴りつける。攻撃を受けた駆逐艦は大破しているようだ
皐月「効率悪いけどこれでも倒せないことはないね」ガンッガンッ メキャッ
皐月「あっ壊れた」
皐月「あっはっはっは、これは面白いね」
す、すいません未だに一段落置けるまで書ききれてないしこの先投下しちゃうと微妙にキリが悪い感じになりそうなんで残りは明日投下ということで何卒……明日もちゃんと投下しますんでご容赦を
磯波II「……どうしてそこまで貴方は戦えるんですか!? この期に及んで、どうしてまだ戦っていられるんですか!?」
皐月「何でって? そりゃあボクが強いからだね。へへっ」敵の弾幕を軽やかに交わしながら答える
皐月「司令官の願いはボクが絶対に叶えてみせる。それはボクの望みでもあるからだ」
皐月「ボクは、司令官が最後にどこに辿り着くのかに興味があるんだ」
皐月「今の司令官なら、きっと何かを成し遂げると思う。それを見届けるまで、ボクは沈むわけにはいかないな」
磯波II「理解出来ません……」
皐月「理解出来ないのはお互い様だと思うけど、ねっ!」迫り来る駆逐艦を拳で撃退する
皐月「リーチが短いとやりづらいな~……っと」
皐月「まっ、君はそこで指をくわえてボクの勇姿を眺めているといい。ふふんっ」
・・・・
朝潮「囲まれているとはいえ雑魚が多いだけ……撃てば当たる!」ダンダンダンッ
電「朝潮! そんなに目立つ動きで突出したらダメです! 集中砲火されてしまうのです!」
朝潮「心配無用です! 私が道を切り開くッ!」ダンッ ダンッ
朝潮(どうせ私はここで沈むのだ。今更躊躇などしないッ!)
朝潮「駆逐艦朝潮の力……その目に焼きつけろ!」
・・・・
皐月「ふぁぁー、さすがにキツかったー。昼戦だったら死んでたかもなー、はははっ」
磯波II「信じられません……一個小隊を壊滅させてしまうなんて」
皐月「と、こんなふうに君の策は崩れ去ったわけだ。残念だったね」
皐月「途中でボクたちが君の後をつけていたのを気づいたんだろう? だから深海棲艦と接触してすぐにやられようとせずに逃げ回って時間を稼ぐような行動を取っていたんだろう」
磯波II「看破されていましたか。ここで私と一緒に道連れするつもりでした。……貴方がたの指揮官はいずれ私の提督の障害になるでしょうから」
皐月「しかし、気づくのが遅すぎたよ。こんな状況になってしまってからじゃあね……」
皐月(朝潮が心配だな……責任を感じてるんじゃないだろうか……)
磯波II「このまま前方の敵艦隊を突破して、味方艦隊と合流するつもりですか?」
皐月「無論。……さすがに連戦はヤバいから、ちょっとここで休憩するけどね」
磯波II「そうですか。では、ここで私を置いていって下さい。私を連れたまま突破することは不可能でしょう」
皐月「君はここで轟沈するのが任務だからそれで良いかもしれないが、ボクはここで君を守り抜いて生きて帰るのが任務だから、そういうわけにはいかないな」
磯波II「私の任務など……関係ありません。任務など関係なく、私はここで沈むべきなのです」
磯波II「提督は私に艦娘として生まれた理由を与えて下さったのに……先の嵐の夜にも助けられ、ここでも貴方に深海棲艦の包囲網を突破されてしまった」
磯波II「……提督に触れられると、とても幸福な気持ちになるのです。この方の為に命を尽くすことが私の使命だと、そう思っていました」
皐月(触れられると幸福な気持ちになる? 壁? どういうことだろう)
皐月(手で触れることによって艦娘に多幸感を植えつけ洗脳してる……ってことか? 推測に過ぎないが……)
磯波II「でも……結局ダメですね。貴方を道連れにすることさえ出来なかった。私の負けです」
磯波II「一つ確認させてください。……私が持っているこの注射器の中身は、偽者にすり替えられていますよね?」
皐月「…………その通りだよ。だから君を連れ戻すのがボクたちの任務だ」
磯波II「やっぱり……そうですよね。なんとなく、そんな気がしていました。あぁ……私は何も出来なかったんですね……何一つ……」
磯波II「こんな私を生かしておいても、戦略的に何の意味もありません。私をここで捨てていってください」
皐月「お断りだね。むしろそう言われてなおさら君をうちの鎮守府まで連れて帰りたくなった」
磯波II「任務だから……ですか……? はは、すごいですね。貴方は本当に強い……」
磯波II「私も、任務だからって、提督からあんなに良くしてもらえたからって、頑張ったんだけどな……私は、弱いですから……」
皐月「違うッ! 君を連れて帰るのは、ボクが君にムカついたからだ。任務なんて関係ない」
朝潮「はぁ……はぁ……はぁ……ふ、ふふ。造作もない……」
朝潮「この程度の敵を相手に、私たちは二の足を踏んでいたんですね」
如月「軽巡や重巡を物ともせず沈めていくわ……アイツあんなに強かったのね……」
電(どこか様子が変なのです……)
・・・・
朝潮「む、あれは……。皐月!」眼前の敵を撃ち払いながら皐月のもとへ駆けつける朝潮
皐月「ふぅ……やっとこさ合流出来た……か。さすがに視界が霞んできたな……」
皐月「さすがに……殴り合いは無茶があったかも……ごめん、後は任せた……」
如月「皐月の損傷が著しいわね……生き残っているのが不思議なくらいだわ。磯波IIも意識を失っているものの無事ではあるみたい」
電「皐月はきちんと磯波IIを守り抜いたのです!」
朝潮「電! 如月! 彼女たちを背負って行って下さい。皐月も磯波IIも航行不能なぐらいに負傷しています」
如月「良いけど、それじゃあ私たちはまともに戦えなくなるわよ? まず先に敵を片付けてからじゃないと撤退も出来ないんじゃないかしら」
朝潮「そんなことをしていたら朝になってしまいます。……付近に軽空母で構成された敵艦隊を発見しました。ここで脱出出来なければ私たちは皆ここで沈むことになります」
朝潮「幸い、今私たちが敵陣の真っ只中を突破してきたことによって、多少敵艦隊に隙が出来ています。貴方たち二人が全速力で航行すれば、この敵を振り切ることができます」
如月「振り切ることは出来ても、そんなに持続力は無いわ。すぐ敵に追いつかれてお陀仏よ」
朝潮「私が殿軍を務めます。お二人が敵艦隊を突破した後、私一人で敵の進撃を食い止め」
電「そんなことをしたら朝潮は……」
朝潮「ここで最期を迎えます。これが私の戦略的判断であり……そして、私なりの司令官への忠義です」
如月「本気なの? ……この海の底に沈むのよ」
朝潮「この局面で最も犠牲を抑えるにはこの方法しかありません。また、せっかく司令官に大任を与えていただいたのに、全う出来なかった自分自身へのケジメでもあります」
パァン 乾いた音がする。電が朝潮の頬をはたいた
電「朝潮は何も司令官のことを分かっていないのです! だから今までだって司令官に避けられていたのです!」
電「司令官が! そんなことを望んでいるわけがないのです! あなたは何も分かっていない! 何も分かっていない!」
朝潮「……電。皐月も動けない今、もうこうするより他に道はありません」
朝潮「それに、私は司令官の理想に最後まで賛同出来ませんでした。犠牲なくしては何も得られません」
電「今までだって犠牲を回避して乗り越えられてきたじゃないですか!」
朝潮「今まではそうでも、今はそうではありません」
朝潮「私はここで艦娘として、兵器としての最期を遂げます。それが正しいことだと私は信じています」
電「そんなのおかしいのです! 間違ってるのです! 司令官も私もそんなこと望んでないのです!」
如月「……行くわよ電。遠くで索敵機の音が聴こえる。もう時間は無さそうだわ」 航行を開始する如月
電「如月まで……!」
如月「さっき朝潮が言ってたように、皐月もいない以上どうすることも出来ないのは分かっているでしょう、電。ここで私たちがもたもたしていたら朝潮の覚悟を無駄にすることになるわ」
・・・・
朝潮(二人は無事鎮守府方面へ向かったか……)
朝潮(敵が二人の後を追っていく……だが)
朝潮「ここは朝潮型1番艦、朝潮が食い止める! 命が惜しければかかって来いッ!」バババババババッ
朝潮(司令官……貴方の理想に、私は沿うことが出来ませんでした)
朝潮(でも、これでいい。貴方の元には、私よりも電のように、貴方の理想に心から賛同出来る者が集うべきです)
朝潮(短い間でしたが、貴方とご一緒出来て、私は幸せでした)
足柄「しっかし緊急の救助任務だなんて珍しいわねぇ~……うちの鎮守府に助けを求めるような提督がこの世に居るなんてねぇ」
足柄「三雲大佐の一件からどういうわけかうちの提督もかなり冷遇されてるじゃないの。おかしいわよね!?」
那智「減らず口はよせ。……ただ、嫌疑の目で見られていることは事実だな」
羽黒「交戦している艦娘を発見しました! ……1隻しか居ないみたいですけど」
・・・・
朝潮「朝日が眩しいな……これだけ時間を稼げば、電たちはきっと鎮守府に戻れるだろう」
朝潮「鎮守府まで戻れるほどの燃料は残っていない。弾薬も尽きた……か」
朝潮「我ながらよく戦ったものですね。ふふ」
朝潮「さて……ここまでか。もう何も思い残すことはありませんね」バアアアアン
朝潮「ッ……空襲か……。私一隻を沈めるだけなのに、随分と手が込んでいますね」
ブオオオオン ゴゴオオオオババババババ シュゥゥゥゥゥ……
朝潮「!? 敵の艦載機が打ち落とされた!?」
龍驤「たった一隻で敵艦隊の前で仁王立ちって……キミ相当おかしなやっちゃなぁ」
羽黒「救出に来ました! 他の艦は無事ですか?」
朝潮「他の艦は撤退しました。ここに居るのは私だけです」
妙高「詳しい話は戦いが終わってから聞くとしましょう。第一・第二主砲、斉射、始めます!」ドドーン ドドーン
足柄「久しぶりの戦場だわ! 思いっきり暴れさせてもらうわよ!」
・・・・
提督「南条中佐から報せが入った。朝潮を無事保護したそうだ。明日には戻ってくるって」
提督「はぁ……」胸を撫で下ろす
満潮「良かったわね。ひとまずは一安心じゃない」
ガチャッ
如月「作戦、完了しました」
電「皐月と磯波IIはドックに連れて行ったのです。……朝潮は」
提督「朝潮なら問題ない。他の鎮守府に救助してもらった」
電「良かったのです……」
電「あ、あのっ。朝潮のことを責めないであげて欲しいのです」
提督「ああ、今回こうなってしまったのは僕のせいだ。彼女に責任は無いよ」
如月「司令官、私たちもドック入りして来るわね……疲れたわ」
バタン
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過酷な戦場を乗り越えて艦娘たちとの絆が深まった
電・皐月・如月・満潮・朝潮の好感度+6(ステータスや秘書艦による±補正なし)
電の好感度+6(現在値37)
皐月の好感度+6(現在値22)
如月の好感度+6(現在値23)
満潮の好感度+6(現在値36)
朝潮の好感度+6(現在値26)
エクストライベント発生判定 >>+1(コンマの数値が44以上で発生)
また、60レス突破したので経過ボーナスです。
/* 経過ボーナス */
以後各艦娘の好感度の基本値が+1増加します
また、提督の能力値変動イベントが発生します
能力値ボーナスは安価とコンマで決定します。
アップさせたい能力値 勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ選択し、
出たコンマでその選択した能力の上昇値が決定します(詳しくは>>75)。
アップさせたい能力値を決定してください(勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ)
>>+2
本日の投下はここまでです。
エクストライベントでエピソード消化しようってのは我ながらどうかなーと思ってます。
本当はなるべく物語の無駄を省いて大事な部分だけ描写すべきなんだけれども……どうしてもあれもこれもってなっちゃいますね。難しい。
///チラシ///
</b> ◇Fy7e1QFAIM<b>ってなんだよ。どうやったらそうなるんだよ。意味わかんねーよ。
太字かよ。でもHTML5では太字として使用する目的で使っちゃダメなんだぜ。
っていうかHTMLで文字を装飾すること自体がナンセンスなんだぜ。2000年代のホームページじゃあるまいし。
こんな弱気なことを書くのもどうかと思いますが最近は結構アレですね。
「本当にこんな感じで正しいのかな……」って不安になってきますね。創作に正解なんて無いんですけれども。
なるべく客観的視点である程度読み返したり考えたりしても所詮自分の主観から生まれた客観だしねぇ……。
うーん難しい。多いんだか少ないんだかよく分からないぐらいの残りレス数がさらに不安を加速させるという闇。
まーなんとかかんとかうまいことやっていこうと思うんですけどね。思うんですけどどうだろう。
仁徳
CSSのバグだってさ
次回の投下は本日21:00頃を予定しています。
ステータスや好感度の数値やらあれこれを貼っておきます。
>>204よりコンマ値が72でしたので
人徳が 8されます
【提督ステータス】
勇気:59(初期値から 18)
知性:46(初期値から 10)
魅力:46(初期値から 36)
仁徳:65(初期値から 18)
幸運:62(初期値から 0)
人徳アップにより好感度補正小発生
電・如月の好感度上昇の基本値が 0.5上昇します
【好感度まとめ】
電:37(好感度上昇 9) 4.5*2
皐月:22(好感度上昇 4)
磯波:33(好感度上昇 4.5)
如月:23(好感度上昇 4)
満潮:36(好感度上昇 4)
朝潮:26(好感度上昇 4)
突然のルール追加的な感じでアレなのですが
一回のレスで上昇する好感度は最大9ということでご容赦くだされ。
で、本題はここからです。
あ、あのぅ~~~~
>(基本的に)1レスごとに艦娘との好感度が少しずつ向上していきます。
>100レス到達時点で最も好感度の高かった艦娘とEDを迎えます。(ハーレムENDはありません)
>(略)
>50を超えたらその娘とのEDで確定的な扱いになっていきます。
とかスレの初めで書いたじゃないですか(>>3参照)。
どう考えても100レス目到達までに全員50超えそうな勢いじゃないですか。
なんで、その、なんていうか……最終的に誰と添い遂げるかは数値で決まるとは限らないってことでなんとかご理解いただきたいのですが……。
ご理解いただきたいというかご理解されなくてもそうさせていただくというか……。
今のところレス数が終盤に近づいたタイミングで誰とくっつくか的な投票を行ってそれで決めようかなというかなり無難なことを考えているんですけど、果たしてそんな民主主義的な決め方で物語を締めくくってしまっていいのか!? もっと悪魔的かつ運命的な感じの決め方があるんじゃないか!? とか頭の中で何かが囁くので、とりあえずどういうエンドを迎えるかはまだ未定ってことでお願いします。
>>205
なるほどそうなんですね。
他のスレでもたまに見かけるので疑問に思ってました。
///チラ裏大反省会してたら長すぎるって怒られた///
ネタバレにはならないけど色々見たくないものが見えてしまう恐れがあるので覚悟のある暇人以外は読み飛ばすのが吉
反省点箇条書き
・秘書艦ボーナス*1がやばすぎた
経過ボーナス*2は英断だった(と思う)。
実際アレによって結構好感度の変動が大きくなったし、むしろアレを導入していなかったら今になっても多分フラグのフの字も立っていなかったことだろうし。
が、好感度2倍のまま継続はダメでしょ常識的に考えて。
しかも秘書艦だからといって特別エピソードがあるわけじゃないというアレさ加減ね。
それどころか好感度の突出を恐れてレス数を割き辛くなってしまうという失策。
秘書艦なのにかえって突っ込んだ話が書けてない感じなのはそのせいです。
でもここであえてそのことをカミングアウトしたってことは……? 的深読みが人生をより豊かにしていくと思った(適当
今回のお話が100レスまで到達した際、新しいお話をやるかどうか分からないけれども、そん時には廃止されるかもしれんね。
・シリアスってなんですか
提督のステータスをコンマで決めるのは分かる。他のスレでも結構あるしな。
だが、コメディ・シリアス判定*3ってなんやねんという話だよね。
いやね、シリアスって難しいよね。別にラブコメ要素を一切排除すればもうちょっとやりやすくなるんだろうけどね。
っていうか完全にシリアスに書こうとしたらもう多分3隻ぐらい沈めてますね。
とはいえあくまでメインは艦娘との絡みだしね。鬱々とした展開がやりたかったら初っ端からレイテ沖海戦でスタートとかそんなんでいいんじゃよ。
ただ、悲恋にするにもそうなる対象とのこれまでのエピソードが薄すぎるってなもんで効果的なカタルシスが得られないんだろうなと判断した結果わりとご都合主義な感じに。
そんなわけで伏線地引き網漁的なことをやってみたりなんだり試行錯誤して雰囲気だけは醸しだしてますがまだまだ手ぬるいなとは思ったり。
もっと読み手の脳味噌を使わせなくても読めるぐらいシンプルかつ要点だけ詰まった感じでシリアスな流れに持ってきたいけど多分無理。
・正直100レス舐めてました
ぶっちゃけね。一ヶ月とかそこらで終わると思ってたんよ。無理ね無理。普通にヤバい。まだ63レス目なのにすでにあれこれ考える用ノート(仮)*4が一冊埋まりそうな勢いですよ。
いや、最初のうちはこんなに真剣に書くつもりなかったんですけれども。なかったんですけれどもやってくうちにマジになっていくのはゲームみたいなもんですねハイ。
多分艦これを始めた当初は皆ボーキの枯渇だとかルート固定だなんて考えずプレイしていたはずです。
ただ、やってく内にハマるものなのです。
だからこそ今から振り返ると序盤冗長過ぎたなーとかこの先の展開はちょっと100レスまでに回収出来るか怪しいよなとか色々反省点がぽこじゃか出てくるわけです。
・キャラクターについて
おっとこれはなんというか核心に近い感じのアレを感じるのであんまり察されても困るし書ける範囲のみで。
艦娘についてはちょっとなんというかセンシティブな領域なので本編以外では一切触れませんが、主人公についてはちょっと書いてもいいだろう。
いやーこれもねー、ちょっとどうなんだろうなー感が強いよね。いや、間違いではないがストーリーの都合上無難にさせすぎたというかちょっとずるいというか。
結構切り込んだ話をしますと、最初の方は主人公である提督が艦娘に囲まれてあれこれ経験しながら成長していく話にしようかなと思ってたんですよ。
ただ、あーーーこれ書いていいのかぁ? その、なんていうか、艦娘の性質上彼女たちはあくまで前線で戦う身じゃないですか。
対する提督は彼女たちの命を担ってるわけで。それなのに未熟とか本来許されないわけですよ。
艦娘たちを魅力的に描写するのはもちろん大事ではありますが、それに相対する主人公は果たしてそんな魅力的な艦娘たちに好意を向けられるに値する人格なの? 彼女たちに本当に相応しい人物なの? とか考えちゃってあえてある程度早い段階で成長させました。
あとは、主人公がある程度成熟していた方が描写しやすいかなと思った艦娘も一部居たので、その辺も理由の一つだったり。
設定年齢*5とか考えると相当チートスペックな気はしなくもないが、順当で甘っちょろい道を歩ませるつもりはないです。
艦娘に対しては酷い目に遭わせるのに躊躇いがあるけれど主人公に対しては微塵の容赦もなくやれるからな! ……とはいえあくまで指揮官なのであんまり酷い目には遭わせることなく完結すると思います。ザンネン。
あと、それに伴いボーイミーツガール的な路線を捨てて群像劇になってもらうことにしました。
分かり易く説明すると、主人公―ヒロインで一対一の関係で展開していく方向から、主人公の属する集団の中でアレコレ起こっていく的な感じにしました。
これは結構大胆な路線変更だし、それによって各キャラの動き方や役割が変わった感じですかね。
構想ガーとか言ってたのは多分そんな感じのアレで悩んでた時期ですな。
個人的にはもうちょっと早くこうすべきだったというか最初からこっちで行けば正解だったんじゃって感じですぞ。
あ、主人公について書いただけで終わっちゃったけどまぁいいか。メインの艦娘以外だと他はなんていうかまぁあんま書くこともないしな。
他にも色々あるけれどひとしきり書いたら良い具合にほとぼりが冷めたのでこの辺でやめときます。
*1 秘書艦に選ばれた艦だと好感度が倍増する
*2 20,40,60,80レスごとに好感度の基本値が 1するというアレ。ついでに提督のステータスも上がる
*3 数値が低ければ低いほどコメディだったりほのぼのした雰囲気に、高ければ高いほどピリピリした緊張感のあるシリアスな雰囲気になる的な判定(詳しくは>>3参照)。うっかり89とかいう驚異的なコンマを叩きだされてしまったが為に>>1は苦しみを背負うことになった
*4 この物語を書くための構想をまとめたノート。相関図やら今後の展開やらキーワードやらが乱雑に書き並べられている。全体的に香ばしい。
*5 主人公である提督の年齢は初期の設定だと14歳。
提督「…………満潮。僕は少し寝ることにする」
提督「この様子では今日の予定は全て中止にせざるをえない。他の子にもその旨伝えておいて」
提督「事務的作業は昨夜のうちに終わらせておいたから、僕も今日は部屋に籠ってゆっくり休むとするよ」
提督「君も休んだ方がいい……」バタン
満潮(司令官……)
・・・・
提督(今回の作戦で……僕は自分の非力さを痛感したよ……)
提督(多くの人を危険な目に遭わせてしまった)
提督(やはり僕は彼女たちの提督としての力不足なのではないか……)
提督(いや、ここで自分を卑下した所で何の意味もないだろう。それに問題の根本はそこじゃない気がする)
提督(見通しが甘かったのは事実だ。満潮が交戦するだなんて思わなかったし、朝潮たちがあそこまで苦戦するとは思わなかった。敵艦隊の急襲があったのも想定外だった)
提督(現状一段落着いたとはいえ磯波はまだ戻ってきていないわけだし、これから僕を取り巻く状況はより厳しいものになるだろう)
提督(もう後戻り出来ない所まで来てしまっているのかもしれない)
僕は明日、南条中佐と会うことになっている。朝潮を引き渡してもらうのも理由の一つだが、もう一つ理由がある。
……昨夜朝潮たちとの通信が途絶えてから、僕は南条中佐に通話を試みた。中佐に疑惑が立っていること、僕のせいでかなり厳しい立場に立たされるかもしれないことを伝えた。
中佐は切迫した様子でなるべく早く会えないかと持ちかけてきた。また、僕の力を借りたい、とも言っていた。
具体的な話はされていないが、なんとなく嫌な予感はする。その話を聞いてしまったら、もう取り返しがつかない道に進むことになるんだろうな、という予感だ。
提督(僕はこれで正しいのか……? この先も誰も犠牲にしないだなんて綺麗事を貫くつもりか?)
提督(今回は運よく命だけは辛うじて助かっただけだ。特に朝潮や満潮は僕の作戦によって激しく負傷してしまった)
提督(いや、そもそも作戦ですらないか。僕が考えていたことは深海棲艦を攻略する目的じゃない。単なる自分のエゴであり、そこに戦略的意義なんて無い)
提督(僕は……誰も犠牲にならないような選択をすることが正しいことだと思っていた。今までだってそういう選択をしてきて成功してきた)
提督(だから今回もきっと上手くいく、だなんて思い上がりだったんだな……)
提督(結局僕にはどうすることも出来ない……それなのに、理想を掲げて彼女たちを振り回し傷つけて……)
提督(その理想を貫きたい気持ちさえも中途半端で……今こうして揺らいでいる)
コンコン
満潮「ちょっと! ひょっとして一日中部屋に籠ってたの?」
提督「布団が恋しくてね」
満潮「はぁ……呆れた。もう夜よ。ほら、夕御飯食べに行きましょう」
提督「お腹が空いていないから、遠慮しておくよ。それに布団が僕にここを離れるなってうるさくて……」
満潮「くだらないこと言ってないで開けなさい! その様子じゃ朝食も昼食も食べてないんでしょ!?」ガンガンガンガンガン
提督「ちょっ、ドア壊れちゃうからやめてって」
満潮「アンタがここを開けるまで続けるわよ」ガンガンガンガン
提督「分かった分かった。……はぁ。さよなら僕の安住の地」ガチャ
満潮「……無茶してるくせに強がってんじゃないわよ」
満潮「冗談なんか言っておどけたふりしても、本当は辛いんでしょ」
提督「鋭いとこ突くね」
満潮「バレバレよ」
提督「……はぁ」
----------------------------------------------------------------------
満潮の好感度+4(現在値40)
提督「食堂に二階なんてあったんだね」
満潮「私も知ったのは最近よ。如月に教えてもらったの」
満潮「ここなら他の人も来ないし、ちょっとは話しやすいでしょ」
提督「な、なんか食堂にあるまじきムードなんだけど……」
窓際にテーブルが設置されている。真紅のテーブルクロスが敷かれていて、その上に置かれたキャンドルの火がゆらゆらと揺らめいている。
部屋の隅に置いてあるジュークボックスからはスウィングジャズのようなポップで甘ったるい音楽が流れている。
満潮「誰がここまでやれって言ったのよ!」
提督「え?」
満潮「え、ああ、いや、なんでもないわ」アセアセ
・・・・
満潮「ほら、相談に乗ったげるわよ」
提督「乗ったげるって言われても、別に平気だよ」
満潮「目の下に酷いくまがあるってのに、よく平気だなんて言えるわね。布団が恋しいだなんて言って、本当は一睡も出来なかったんでしょ」
提督「バレたか」
満潮「はぁ~……なんで私相手だとそんなに強がろうとするのよ?」
提督「強がってるわけじゃないけど、あんまり自分の弱さを見せたくないよ」
満潮「バカね。……責任感じてるんでしょ? 今回のこと」
提督「隠しても意味が無いか。……その通り。特に朝潮には会わせる顔も無いと思ってるよ」
満潮「あぁ……朝潮か。不憫な子よね。あの子は」
提督「不憫?」
満潮「あの子は……私以上に心を閉ざしている。ひょっとしたら、誰にも心を開くことは無いかもしれない」
満潮「私たち艦娘はね。本来なら提督に対して心から信頼するように出来ているの。チップで思考を制御されているのも勿論あるけれども、それだけじゃない」
満潮「艦娘として生まれ変わる前に味わった、裏切られたり騙されたりした記憶も抜け落ちているから、人に対してとても好意的なのよ。本来ならね」
満潮「でも、レアケースも存在する。生まれつき激しい狂気を持っていたり、人格に影響を与えるレベルでのトラウマを持っていたりすると、艦娘になってからもそういう性質を継承することがある」
満潮「あの子の背中には酷いアザがある。あれは虐待の跡に違いないわ」
満潮「心の底では司令官のことを信頼できないくせに、見放されることを恐怖したり、艦娘として活躍することに異常な執着を持っていたりするのはそのせいよ」
提督「それは……不幸なことだな」
満潮「でも……司令官なら、朝潮を救えるわ」
提督「僕が……?」
満潮「どうせアンタのことだから、さっきまで自分の理想によって多くの人が傷ついてしまった、とか考えてたんでしょ」
提督「……そうだよ。結局僕には何も出来ないからね」
提督「今までは、僕の力が足りないから、僕が無力だから皆が苦しい思いをしているんだって思ってたんだ。でも、そうじゃなかったのかもしれない、って」
提督「君たちに比べたら微々たるものだけど、今まで僕は僕なりに努力してきたつもりだ」
提督「でも、僕が頑張ったところで、誰一人救えやしないんじゃないか……僕のやっている事なんて所詮悪あがきなのかもしれないって思うんだ。僕は」
満潮「私は!」ガタッ
満潮「私は……貴方に救われたの! 貴方に会えて良かったと思ってる」
満潮「私が……、私が貴方の道を照らすから」ガバッ
提督「お、おい……ちょっと……(急に抱きしめられた……)」
----------------------------------------------------------------------
満潮の好感度+4(現在値44)
満潮(私はもう戻れないけど……貴方はまだ、諦めていないから……)
満潮(ずっと忘れてた大切なこと……私が艦娘になった時の最初の想い)
満潮「貴方は無力なんかじゃないわ……」
満潮(私は……一人ぼっちだった私は、途中で諦めてしまった。もうそんな理想を抱こうと思うことすら出来なくなってしまうほどに麻痺してしまった)
満潮(でも、貴方は違う。貴方の意志に呼応してくれる艦隊の皆がいる。そして、私も、貴方の理想に賭けてみたい……貴方ならきっと……)
提督「み、満潮……。そ、その、ほら。皆が見てるからさ……」アセアセ
満潮「ヴェッ!?」
皐月「あらら、バレてたかー」
如月「満潮ったら、案外激情家なのねぇ」
満潮「お、お前らァァァァ!!」バンバンバンバン!
提督「ちょ、なんで君は拳銃を持ち歩いてるんだよ! ってこっちに向けないでうわっ」
・・・・
満潮「大体ねぇ……なんでこんな高級レストランみたいな飾りつけしてるのよ!」
如月「いやぁ~……満潮とこの部屋を掃除してた時になんか足りないわよね~と思ってぇ~」
如月「それに、二人っきりで話すならもっとムードを良くした方が良いかなって」
満潮「何勝手な解釈してるのよ! それに、何が二人っきりよ! 結局アンタ達盗み聞きしてたじゃない!」
如月「皆がどうしてもって言うから……ねぇ電?」
電「如月が一番乗り気だったのです」
如月「仲間を売るだなんて……ひどいわ~悲しいわ~しくしく」
皐月「提案したのも実行に移したのも如月だからね」
如月「でっ、でも、こうして私と一緒に居た時点で同罪じゃないのよ~」
磯波II(なんで私ここに居るんだろう)
提督(なんで僕まで正座させられてるんだろう)
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満潮の好感度+4(現在値48)
エクストライベントのつもりで書いてたら3レス分超えてるという罠。
しかもわりとエクストラ感無くなったというかなんというか……。
そんなわけで(どんなわけで)エクストライベントは次の投下に引き伸ばします。ゴメンナサイ!
逆に考えるんだ
「(好感度を)あげちゃってもいいさ」
と考えるんだ
ってなわけで色々悩んだけれども普通にインフレさせていくスタイルで。
というかここでの3レス消費は痛いぞむぐぐぐぐ。
満潮(……眠れない。もう日付も変わったってのに)
満潮(なんか妙に目が冴えて困るわね)
満潮(司令官……まだ起きてるかしら……)
満潮「ハッ!?」ガバッ
満潮(私ったらまた司令官のこと考えてるじゃない)
満潮(思い返してみると一昨日から日がな一日中司令官のことを……)
満潮(違う違う! 自分の指揮官として心配だったから、気になってただけよ!)ブンブン
満潮(そんな感情、抱くわけないんだから!)
満潮(でも、昨日の夜のあの後も如月に『司令官に恋してるんじゃないの?』なんてカマかけられ……)
満潮(違う! 違うったら! カマなんてかけられてないわよ! ただの向こうの勘違いよ)
満潮(でも、傍から見たらやっぱりそんな風に思われてもおかしくなかったのかしら。ひょっとしたら司令官は昨日の一件で私が司令官のことを……なんて)
満潮(あぁ~バカバカバカバカ私のバカ! 何やってんのよ! 何で抱きついたりなんてしてたの!? ただ司令官を尊敬してます、ってそれだけで良いじゃない)ジタバタ
提督「あーもしもし。なんか物音がうるさいんだがどうかしたかな?」コンコン
満潮「ひっ!? いや、いや、いや、何でもないのよ何でも。そんなわけないのよ!」
提督「何がそんな訳ないの?」
満潮「あっ……べ、別に独り言よ!」
提督「そう……分かった。おやすみ」
提督(満潮の部屋まで来たのは良いものの、『あの時君は何を伝えたかったんだ』なんて聞けないよな……)
提督(僕に救われたと言っていたが……どういう意味なんだろう)
満潮(司令官……私の部屋に直接来るなんて初めてよね……。どうしたのかしら……)
満潮「待って! 司令官。何か話があるんでしょう? ……良いわ、入って」ガチャッ
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満潮の好感度+4(現在値52)
満潮「昨夜は済まなかったわね。取り乱しちゃって」
提督「昨夜……? あぁ、まぁ確かにそうか。日付超えてるしそうなるな」
提督「いや、良いんだよ。あの後皆で食べた夕食も楽しかったしね。少し元気が出たよ」
提督「……ありがとう。君が僕を支えてくれようとしてくれているのが伝わってきた」
提督「初めて会った時のことを思い出すと、君があんな風に言ってくれたことを自分の中で誇りに感じるよ」
満潮(そうよね……初めて会った時、私は司令官に酷い態度を取っていたわよね……)
提督「弱気になっている僕のことを、叱咤するのかなと思っていたんだ。だから、救われたって言われた時、内心驚いたよ」
満潮「あの時の司令官の心中は、ある程度察せたわ。だからこそ、責める気にはなれなかった」
満潮「貴方はね……昔の私と一緒なの。私はね、本当はこんな風になりたくなんてなかった」
満潮「皆を救いたいって、救わなきゃって思って強くなっていったはずなの。でも、結局私一人じゃ何も救えなかった」
満潮「だから私は、私をこんな風にした奴らを滅ぼすことで自分の人生に決着を着けようとしているの。でもね……」
満潮「貴方に逢えて良かった。……心からそう思えるの」
満潮「貴方は皆を助けようと必死で、その為に戦っていて。今貴方が弱気なのだって、無力さを知ってなお未だに皆を救いたいという気持ちがあるから苦しんでいるのよね」
満潮「いつからか私は……人間は皆私利私欲の為に他人を踏み躙るものだと、それを前提に生きていくのがこの世界だと、そう思うようになっていたわ」
満潮「貴方が思い出させてくれたの。貴方の、皆を助けたいという姿勢が。磯波を大将の所に送り届けてから今日まで、たった二日間だけど、その間貴方はずっと悩んでいたわよね」
満潮「時折不安で泣きそうになっていたのよね、でも、私の前だったから我慢してたんでしょ。声が震えていたから分かったわ」
満潮「貴方は一睡もしないで、ずっと自分の理想と向き合っていた。無理だって分かってなお、思い知ってなお諦めきれないんでしょ?」
満潮「私が貴方の力になるわ。私はもう貴方のように理想と向き合えるだけの想いを無くしてしまったけど、貴方を支えることなら出来るから」
提督「……。そうだね。ありがとう。嬉しいよ」
提督「僕は……そうだね。そうだ。それでも、向き合わなくちゃね」
提督(そうだ……僕は、諦めるわけにはいかない。……ここで立ち止まっちゃいけないよな)
提督「本当にありがとう。その……うまく言えないけれど、僕も君に救われた気がする」
提督「君が支えてくれるなら、僕はまだ戦えそうだ。そんな気がするんだ」
提督「君の想いを無駄にはしない。僕は……皆を救いたい」
・・・・
満潮(やっぱり……眠れないわね)
司令官が部屋を出た後も、無意識の内に私は司令官の言葉を反芻していた。
司令官の顔を、仕草を、雰囲気を想起していた。
満潮(ああ、やっぱり……)
満潮(わたし、あの人の事を……愛してるんだ……)
----------------------------------------------------------------------
満潮の好感度+4(現在値56)
本日分は終わりです。次回の投下はできれば明日同時刻帯に行いたいところですがほとんど書けていないので微妙です。
今後はエクストライベントでフラグを立てていったりとかその辺を消化していくという小ずるい手法を取るかもです。
100レスで完結させるというアレがお題目になりだいぶ融通利かせられるようになってしまって本当はよろしくないんでしょうけれども。
でも100レス到達したけど未完で俺たちの戦いはこれからだ! とかストーリーは完結したけど艦娘と誰ともくっつかず終わりましたとかよりマシかなと判断。いや、後者はアリかもしれんけど>>1的にはイチャイチャを楽しみたくて立てたスレなので少しは書いてる側にも遊ばせてください(何
とりあえずエクストライベントでも今後は複数レス分投下していく方針に転換します。
これでだいぶ精神的にラクになりましたかね(>>1的に)。
本筋を進めつつ残りレス数を気にせずフラグも進行させつつなんて手法が取れるわけだ。
エクストライベントなんで発生しなければ意味ないのだけれど。コンマ次第か。
エクストライベントを乱発させすぎてテンポが悪くなりそうだったらちょっと控えようかな、とは考えてます。
しばらくは実験的にあれこれやってみる所存です。
とはいえもうちょい最初の時点でうまいことやっておくべきだったかな……と舵取りミス的アトモスフィアを感じますナ。
///所変わってチラ裏///
というわけで満潮です。前回の3レスをエクストライベントのつもりで書いたのに更にエクストラさせたらそりゃこうもなります。
……なります?
あ。チラシの裏なのにあんまりあーだこーだ書くのはよくないな。やめておこう。
ええと、ね。やっぱり時間が空くと情熱が薄れるし、頭の中での世界観もちょっとずつ現実に侵食されていきますね。多少粗くともガンガン投下していった方が色濃く鮮明に書いてる側もその世界観にトリップできるものなのかもしれません。とゆーわけで投下頻度を上げてこうかなと。うん、うおおおおってならないと書いてて楽しくないからね。うおおおお感を大事に。なんだそりゃ
中佐「いやーよく来たねー。どうぞどうぞ腰掛けちゃって」
提督(ボサボサの髪に痩せこけた頬、瓶底眼鏡で……失礼だけど提督っていうより博士みたいだな……)
提督「朝潮は……どうしていますか?」
中佐「ドックで休んでいる。まだ回復に時間がかかりそうだったからね」
提督「そうですか……そちらの方は?」
中佐「会うのは初めてだったかな? 彼女は大井っちさん。三雲大佐のところの艦娘」
大井「よろしくね」
中佐「んじゃ諸々話すけど……よろしいよね?」
・・・・
中佐「まずさー、状況の整理をしようか」
中佐「大佐は沖ノ島海域攻略作戦を無事完遂。大佐自ら出撃していたおかげで時間を延ばすことが出来ていたみたいだけど、もうタイムリミットのようで」
中佐「今日軍法会議だってさー。その場で射殺ってことはないと思うけど、まぁ、もって数日だろうね……。そんなわけでこの大井っちさんを大佐が寄越してきたってわけ」
大井「……詳しい話は後にするわ。続けて、南条中佐」
中佐「で、私の状況も相当ヤバい。今まで大佐に加担しているという証拠が無かったから狙われなかったものの、藤原大将に疑われてて相当ヤバい」
中佐「それに加えて今回キミがやらかした一件だ。工廠の機器を破壊し、艦娘数名を負傷させた。……大将は私がやったと睨んでいるだろう」
中佐「実際にはキミんとこの艦娘がやったことだけど、やっこさん的に自分の敵として認めてない相手は眼中にないからキミがやった可能性なんて考えてないんだろうなー」
中佐「仮にキミがやったと知ったとしても私を処刑するだろうしねぇ。私からすれば迷惑千万というわけだ」
提督「申し訳ありません」
中佐「ほんで、まぁ我々を取り巻く状況はそんなもんだね。ぶっちゃけ藤原大将の動きはこっちはよく分からんから説明してもらえるか」
提督「私もほとんど情報を引き出せなかったのですが……。藤原大将は深海棲艦を使って何かをしているようです。これはあくまで僕の想像ですが、深海棲艦さえも支配しようとしているのかと」
中佐と大井、驚いて顔を見合わせる。
中佐「は!? え、それどこ情報!? 情報引き出せまくりってレベルじゃないよ!?」
大井「中佐、落ち着いて下さい」提督に見えない角度から中佐の足を踏む
中佐「えっ何それ。私や大佐が霞むぐらい極悪人じゃん。クーデターどころの騒ぎじゃないわな……ちょっと説明してもらえる?」
・・・・
中佐「フゥーム。なるほどね。いや、なんつーか、度胸あるねキミ。恐れ入ったわ」
大井「深海棲艦にチップを埋め込んで支配……ということね。確かに、出来なくはないかもしれないわ」
中佐「倫理観ゼロだなーすごいなーかっこいいなー」
大井「……」ゲシッ
中佐「で、キミんとこの磯波ちゃんってのが囚われのお姫様状態というわけか。無事戻ってくると良いけどねぇ」イタインデスケド
大井「中佐、軽口が過ぎますよ。いい加減にしないと」スチャッ
中佐「ひえええ~。やめてくだされ~」
提督「あの」
中佐「ゴホン、失敬。ここから先はマジな話をする」
中佐「かいつまんで話すと、我々はこれから藤原大将の命脈を絶ちます。キミにも協力してもらいます」
中佐「ちなみに断ろうものならここで君を射殺します」
拳銃を胸ポケットから取り出し、提督に向ける。すかさずアームロックを中佐にかける大井。
中佐「えっちょっ今真面目な話……あがっ、がががっ、痛い! 痛いから!」
大井「相変わらずバカですね。これから協力してもらう相手を脅してどうするんですか」ギリギリ
中佐「ハァーッ! ギブギブギブギブギブ! やめて! 折れちゃうから! やめて!」
大井「ごめんなさいね。貴方の力を借りたいの」ニコニコ
中佐「うっ……えー。とはいえいきなり協力しろと言われても困ってしまうだろうから、事のいきさつを話そう」マダイタインダケド
中佐「大佐は大本営の上層部に対してクーデターを起こそうとしていた。私も大佐に加担していた」
中佐「君もご存知艦娘や我々の脳内に埋め込まれているチップによって洗脳をすることも不可能ではない」
中佐「ただね、あーこっから昔話な。本来チップは思想統制や洗脳のための道具ではなかった」
中佐「ただ単に深海棲艦の脅威に脅かされている国民の恐怖を取り除くための対症療法。そして艦娘の人類への反抗を防ぐためだけに利用されていた」
中佐「そもそもチップの力は私的に利用出来ないものなはずだったしね」
中佐「ところがどっこい、どういうわけかこいつを我が物にできる技術を持った者が現れてしまった」
中佐「艦娘の開発にも携わった、物部元帥っつーのが居てだな。そいつはチップの力を使って海軍の全てと艦娘……ひいてはこの国を支配しようとしていた」
中佐「今そうなっていないのは、三雲大佐と故清浦中将が食い止めたからだ。悪の支配者物部元帥はこの両名によって打ち滅ぼされたわけだ」
中佐「しかしそれから7年後ぐらいか、海軍内でやはり奇妙な現象が起こり始める。上層部の粛清が始まったんだ」
中佐「物部元帥が猛威を奮っていた時期は、大佐のようにチップの影響を受けなかった世代が多かった」
中佐「だからこそ三雲・清浦による物部元帥の暗殺を補助した大将なり元帥なりが結構居たわけなのよ」
中佐「というかこの二人は実働部隊だっただけで、むしろこの二人に指示していた人が居たと考えるのが自然だろう」
中佐「どういうわけかこの二人を後押ししていたであろう大将格以上の人間の不審死が多発した」
中佐「自殺、不慮の事故……しかしそうにしたってかつての反物部勢力の死者が多い。また、この時期になってこの海軍発足以来最悪の作戦が発令されることとなる」
中佐「アイアンボトムサウンド攻略作戦だ。詳しい話は私もあまり思い出したくないから省くが、ここで多くの艦娘や将官が犠牲となった」
中佐「この攻略作戦に抜擢されたのは、やはり反物部勢力の元帥や大将の配下であった中将以下の面々が多かった」
中佐「この戦い以降大佐は、物部のようにチップを支配できる力を持った、あるいは、チップを支配する力を狙っている人間が上層部に居ると考えるようになった」
中佐「その為に準備を重ねていたが……というのがつい最近キミを海軍に連れてくるまでの大佐の成り行きだ」
中佐「ただ、ね。今になるまで大佐は気づけなかったんだよ。チップを支配する力を持った人間が、“上”じゃなく“下”の世代に居たことに」
中佐「藤原大将は、もともと三雲大佐の部下として配属されていたんだ。いや、もっと前は少将で大佐よりも上位に居たんだが色々と複雑な経緯があってだな……」
中佐「この話した方がいいかなー? 俺……いや、私アイツ嫌いすぎてちょっと話すのめんどくさいっていうかなんていうか」
中佐「わかった大井こっち睨まないでやめて。ええとね。藤原大将はもともと私と同期で、同じ海軍兵学校に通っていた」
中佐「奴は名家の生まれで兵学校も首席で合格したエリート中のエリート。海軍大学校へ行かずとも十年で元帥まで辿り着けるだろうといわれた奇才だ」
中佐「奴は異常なまでの上昇志向とプライドを持っていたから、戦場で戦果を上げた方がより早く出世できるだろうってことで戦地で指揮を執るようになった」
中佐「実際に奴は目覚しい戦果を上げていったよ。一方その頃私は奴と同じエリートコースを歩もうとするもドロップアウトして親からも勘当のような扱いを受けてた落ちこぼれ中の落ちこぼれの予備士官でした。ウケる」
中佐「親の敷いたレールを歩んでたけどやっぱり軍務とかエリートコースとか私じゃ無理なのよね~。本当は教師になりたかったしねぇ」
大井「中佐、無駄話」ゲシッ
中佐「大井っちさん痛いから蹴るのやめてねー。っと、あー、そうだ。藤原サンの話ね」
中佐「まぁそんなわけでやっこさんは見事見事の快進撃を重ねていくわけなんだが、一つ人生の転機が起こる」
中佐「奴はかなりの好色家で、奴の出世を快く思ってなかった連中がその性質を利用して一つ悪巧みをした」
中佐「まぁそんなこと企んでたゲス野朗が物部元帥の残党として後に色々あってこいつらは藤原の奴にぶっ殺されてるんだけどまあそれは関係ないな」
中佐「とある元帥の娘に手を出させちまったのさ。生娘だったがかなりの別嬪でね。ジュルリ! というわけさ」
中佐「それも孕ませてしまったようで、その事を知った元帥はそりゃあもうブチ切れまくりよ。逆鱗に触れた藤原サンは少将から少佐に格下げ。当時の海軍内でも異例の出来事だった」
中佐「その娘は、奴の子供を生んだ後……衰弱して死んだ。俺の実の妹だ」
中佐「俺は、この海軍でかつて三雲大佐や清浦中将の直属の上司だった南条元帥の息子だよ」
中佐「話が逸れたな。藤原の奴は失脚。ただし才気はあるという理由で最前線に投入されるようになった。そんなわけで三雲大佐の部下に配属された、と」
中佐「私もその頃に大佐の下で働くようになった。奴は、私の妹を殺したことも知らずに私に接してきたよ。……士官学校時代のような高圧的な態度ではなかったが」
中佐「今からだと想像もつかないかもしれないが、奴はまるで抜け殻のようだった」
中佐「共に戦ったこともあったが、空ろな目で死んだ私の妹の名前を呟いていることがほとんどで、たまに僕に話しかけたと思えば、『今の私は貴様にさえ勝てない……』」
中佐「多分、士官学校時代に一度演習で私に負けたことを憶えていたんだと思う。その事を根にもたれてかなり陰湿なことをやられたし、その次の演習以降一度も私は勝てなかったけど」
中佐「私は、かつて憎んでいた人間、そして、妹の死の原因となった人間であるにも関わらず、その頃は奴に対して同情の念しか沸かなかった。それぐらい惨めだったよ」
中佐「それからかなり長い年月がかかったが、奴は精神的に立ち直った。私は心のどこかで許すことが出来ないままで居たが、それでも表面上は仲良くやっていけるぐらいの関係ではあった」
中佐「あの時は……奴は私を友人としていて認めてくれていたのかもな。だが、そこから先は分からない」
中佐「さっき話した元帥や大将の不審死事件の後からまた妙な言動をしだすようになったし、アイアンボトムサウンド以後は大佐の下から異動になったからな」
中佐「不審死事件で私の親も殺されたため、奴も再び出世していった。そして現在に至ると」
中佐「その過程で何があったかは分からない。だが、奴が出世していくにつれて奴に反対していた勢力はことごとく潰えていった」
中佐「そして、次第に奴を中心に海軍が動いていくようになった。私や大佐はそれでもまだ上層部の誰かがチップを操作していると思った」
中佐「その勘違いは最近になってようやく解消した。ほんの最近のことだ。藤原大将は上層部に強い恨みを持っていたんだ」
中佐「だから自分より上の世代の人間を三雲大佐以外を間接的にだが全て滅ぼしてしまった。反物部派だった連中も含めてだ」
中佐「もう、奴以外に考えられないんだよ。今元帥になっている奴らはチップが埋め込まれていることにさえ気づいていないような連中だけだ」
中佐「どうやって奴がチップを支配出来る知恵を得たのかは分からない。だが、奴の配下の艦娘の様子や過去の事例をみるに、チップを操作する方法を知っているのは間違いないだろう」
中佐「これで奴の話は終わりだ」
中佐「……私は今、奴によって命を脅かされている」
中佐「奴にとっては私など取るに足らない存在なのかもしれない。チップの存在を知っている大佐のついでに始末しておこう程度に考えているのかもしれない」
中佐「私には守らなくてはいけないものがある。ここで私が死ぬわけにはいかない」
中佐、強く拳を握る。その手には光り輝く指輪が嵌められている。
中佐「向かってくるというのなら、私はどんな手を使ってでも奴を排除する。私にはその権利がある」
中佐「君にも協力してもらう。悪いが、嫌とは言わせないぞ」
長話前編終了。多分後編は2レスぐらいで済む……といいなあ。冗長ダヨネー。これでも多少読みやすくしたつもりなんだから闇すぎる。
風呂敷を広げすぎた報いですなー。報いを>>1が受けるならまだしも読み手にさえ負担強いるのはどうなんだ感めっちゃ強いけど一応皆ちゃんとストーリー完結させて欲しいんだろうなーとかここから頑張っていい感じの流れにもってけるんじゃないかなとか思いながら書いてます。
実際どうなんだろう。わりとどうでもいいってんなら伏線とか全て投げ捨ててイチャイチャ方面でハッスルしたいって感じなんだけど(オイ
で、安価出します。珍しくストーリーにも一切関係ない安価というか投票です。投票は初めてになりますね。
中佐の話やらこの世界での出来事を時系列順にまとめた年表みたいなのを作ってアップロードしよかな思ってるんですけど。
要りますかね? いや、こういう聞き方はよそう。読みたいですかね?
ぶっちゃけ>>1的には需要ないんじゃねーと思ってて、ないならないで作らない方が楽だしその分先の話を書く時間が作れるので、どうしようかなって感じですのー。
あった方が設定とか背景が視覚的に理解できて多少ストーリーを追うのはラクになると思うんだけどね。いやどうだろう
>>+3までで要るという意見が多かったらこのお話の年表を作ります(もちろん、ストーリー的に書ける範囲までの内容しか書きませんが)
あ、どうも。頻度上げるとか言って結局普段通りじゃんって?
大人はウソつきではないのです。風邪を引くだけなのです。
というわけで引きました風邪を。でも治りました。
とりあえず明日21時頃に一発投下行こうかなって予定であります。
年表云々ですが結局作りました。
http://s1.gazo.cc/up/104392.jpg
(↑を開こうとしてたら消されてたーっていう人向け)
https://www.dropbox.com/s/eenql38ix6tq4o2/ver1.00.jpg?dl=0
ええ、ここまでで既についていく気力の無い人を置いてけぼりなぐらいややこしいのに、ここからもうちょいややこしくなりそうなんです。
そんなわけで自分の頭を整理すべく&「あーこれちょっと本編で触れられんかも(触れるほどじゃないかもなー)」
っていう没になるかならないかのラインにある小設定を晒すべく書きました。
まだ書ける範囲のことしか書いてないので完結する頃には……いや、考えるのはよそう。
あれこれやりすぎてこれどうなん? って自分でも思わなくは無いけど一応筋道は見えてるのでわりとなんとかなると思います。
わりとなんとかなると思うけど果たして人が読めるものをちゃんと書けているのかどうか結構心配ですね(オイ
うーん、多分いい感じになると思う! 多分。
まぁ口で言うのは簡単でしてー……今後も淡々と投下していきます。
///チラシの裏///
年表作るにあたってイケてるサービスとかソフトとか無いかなと思って探したけど結局エクセル使いました。
エクセルはなー……あんまり使いたくないんだけどなー……そもそもアレは表計算ソフトであって…………。
良い代替手段も浮かばなかったから結局エクセル使ったけど!!
イケてなさすぎてキレそうでした。いや用途に適さない使い方する俺が悪いんや……エクセル君は何も悪うないんや……。
今日投下する予定でしたが色々あって無理そうです……。申し訳ありません。
投下出来るとしたら今日23時頃にやるつもりですが体力的に無理そうだった場合は明日の午後あたりに延期します。
///チラシの裏///
最近酒匂ゲットしました。6-2は色々うまいですね。
阿賀野型で最後に入手することになるのは矢矧か酒匂だと思ってましたがそのどちらでもなく能代になるとは……。
あと昨日ビスマルクガチャやってたら武蔵出ました。あいつ強すぎですね。レベル3で普通に演習相手の筑摩改二とかワンパンしちゃうとかナニモンだよ……って感じです。
あ、ごめんなさい。突然友人がアポなしで来訪してきて投下できませんでした。っていうか今も我が家に居座ってスマブラずっとやってます。出て行く気配がありません。
今日or月曜には必ず投下しますので何卒お許しくだされ。申し訳ありません。
いやホント、なんていうか……むむむ、申し訳ないです。
提督「……それで、僕は何をすればいいでしょうか?」
中佐「その説明を……あ゛ー。大井っち任せた。私は喋りすぎてちょい疲れた」
大井「仕方ないわね。わかったわ」
大井「ええと、南条中佐の艦隊と三雲大佐直轄の艦隊の一部で藤原大将の泊地を叩きます」
大井「君たち……そして私の任務は藤原大将を直接呼び出し足止めすること」
大井「その間に中佐は藤原大将の艦隊を奇襲し、機能不能にします。南条中佐が敵艦隊を掃討するまでの時間を稼げたら貴方たちの任務は終了するわ」
中佐「奴に直接作戦指揮を執られたらさすがの私でも勝ち目が無いからね。なんとか半日稼いでくれ。そこから先は私がどうにかする」
大井「南条中佐が大将の艦隊を叩いた後、私は三雲大佐の救出へ向かいます。中佐は藤原大将を直接討ち取ります」
提督「二つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
提督「第一に、どうやって僕らが大将を足止めするのかということ。第二に、この作戦の終了後はどうなるのか、ということです」
大井「まず大将を貴方の鎮守府までおびき寄せます。チップに関する話をすれば野放しにしておこうとは思えなくなるでしょうから、呼び出すことも問題ないはずよ」
大井「後者の質問に対しては……そうね。私は大佐の艦隊に帰順するわ」
大井「その先大佐がどういう処遇になるか分からないけど、藤原大将さえいなくなれば処刑は免れると思うわ。大佐次第だけど」
中佐「さすがに上官殺しはまずいからねー。大将を始末した後私はどこか遠くに落ち延びることになるかな。まさかこの歳にして駆け落ちすることになるとはね」
中佐「ええと、この作戦は誰か一人がやらかすと全員首と胴体がお別れすることになるから、自分の領分をうまくこなしていこうね」
中佐「ま、時間を稼ぐだけだし君の方はそんなに辛くないと思う。どちらかというとヤバいのはこっちかな」
中佐「大佐が泊地に戻る前の短期間で艦隊を叩きのめす。その後泊地に潜伏して直接殺害。んで地の果てまで逃げる、と。簡単じゃないよこれ」
中佐「私がしくじると結局君もグルだったのが明るみに出て処断されちゃうだろうからねー。まぁなんとかするけどさー」
中佐「とりあえず君は半日ぐらい足止めしててくれれば何でもいい。どんな手段を使っても構わないや」
中佐「本当は私の代わりに奴を殺してくれたら嬉しいんだが……大井っちさんの鋭い視線を感じるのでこの話はやめとこう」
中佐「作戦は以上でーす。決行日や詳細な段取りについて話すと……」
・・・・
会議によって決まったこと。3日後に藤原大将を僕の鎮守府に呼ぶこと。そこで半日間大将の足を止めること。
また、作戦決行まで大井さんは僕の鎮守府で待機することになった。
磯波に関しては、中佐が大将の泊地に攻め入った混乱に乗じて脱走できるように図らってもらうことにした。
さて。
提督「朝潮。迎えに来た」
朝潮「申し訳ありませんでした。……作戦通りに事を運ぶことが出来ず、味方艦隊に甚大な被害を与えることになり、あまつさえ我を忘れて敵艦隊に突撃」
朝潮「全ての責任は旗艦である私にあります。この上はいかなる処置もお受けいたします」
提督「君に責任はない。あれは僕の作戦の失敗であり、あの状況下の中で君はよくやってくれたよ」
朝潮「ですが司令官。私は咎を受けるべきです。そうでなければ申し訳が立ちません」
提督「それは誰に対して? 僕は君が失敗したなんて思ってないし、君に対して罰を与える必要もないと考えているんだけど」
朝潮「…………ッ」
朝潮「私はあの海域でわざと沈むつもりで戦っていました! 与えられた任務を遂行することも出来ず、自暴自棄になって燃料や弾薬を浪費しました!」
朝潮「挙句の果てには私を救出しに来た他艦隊の手を煩わせるなど……言語道断です!」
提督「……結果論で言えば任務そのものは無事果たすことが出来たし、君がどういう考えで戦っていたとしても僕はそのことについて非難する気はない」
提督「うちの鎮守府には駆逐艦しか居ないから燃料や弾薬の残量に困る事はないし、南条中佐は君の救助依頼を快く引き受けてくれた」
提督(とはいえ、理屈じゃないんだろうなぁ……)
提督(朝潮にそんな風に思わせてしまっていたなんて、悲しいな……)
提督(……罰を受けたいのは僕の方だ。僕がもっと朝潮のことを気遣ってやれていれば、こんな風にはならなかったはずだ)
提督(朝潮は心を閉ざしたまま、独りで暗い海の底に沈んでいくところだった。僕はそんな目に遭わせてしまったんだ)
提督(朝潮に謝りたいが、そんなことしたら余計に彼女は申し訳なくなってしまうんだろうな……)
朝潮「……」
気まずい沈黙が続く。
提督「ねぇ、朝潮」
提督「君は僕のことをどう思っているのかな」
提督「君は……どうしたら僕のことを信じてくれる、かな」
朝潮「私は司令官に不信など……!」
提督「そういうことじゃなくて」
提督「僕は、自分で自分の存在を否定してしまうことほど悲しいことはないと思う」
提督「僕もよく自分のことを責めてしまう癖があるけれど、そのなんていうかな……」
提督「本質的な部分では、自分を大事にしなきゃって思うんだよね」
提督「自分で自分を傷つけている時って、すごく惨めで辛いけど……その辛さにどこか満足している自分が居るんだ」
提督「でも、そんなの自己満足でさ、何も解決しないんだ。自分がどれだけ弱くて無能だろうと、それを分かった上で、前に進まなきゃいけないと思うんだ」
提督「…………僕の両親は、4年前に交通事故で死んでしまったんだ。あまりに突然のことで、寂しさすら感じられなかった。ただ漠然と、悲しいことだなって思った」
提督「それで、考えたんだ。どうして人が死んでしまったら悲しいのか、どうして悲しいって思うのかって」
提督「死んでしまったらこの世界からはやがて跡形も無くなってしまう。それってすごく悲しいことだと思うんだ」
提督「みんな遅かれ早かれ死んでしまう。死んでしまうのにどうして生きていかなきゃならないんだろうって思ったよ」
提督「でもね、僕だけは生き残った。生き残ってしまったんだ」
提督「きっとそれは意味のあることなんだ、僕が生きることで、僕を愛してくれた父さんや母さんの想いを受け継げるんだって」
提督「生き残った者の傲慢かもしれない。そんなことを考えるのは思い上がりかもしれない、けど……」
提督「……僕が大佐さんと初めて会ったときに、そう教えてくれたんだ」
提督「それが正しいかどうかは分からない。でも、僕は生きなければならないと思った」
提督「それが僕の父さんと母さんの願いだったはずだから。死んでしまったけど、僕が生きることで父さんと母さんは救われているはずだから」
提督「どれだけ心が折れても、最後には踏みとどまらなきゃって、そう思うんだ」
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朝潮の好感度+4(現在値30)
提督「君はさっき、あの海に沈むつもりだったって言ってたよね」
提督「何もこの世界に残さず、自分が今までこの世にいたということを全て否定して消え去ろうとしていた」
提督「何の救いもなく、何の希望も見出せず、ただ消えようとしていた」
提督「それは、とても悲しいことだと思う」
提督「作戦なんてどうだっていい。君がそういう結末を選んだということが、僕は何よりも悲しいよ」
提督「でも、だからこそ、君とまたこうして話が出来ていることを本当に良かったと思ってる」
提督「僕は君に生きていて欲しい。何も成し遂げられなかったとしても、やがて死んでしまうとしても」
提督「自分の人生に意味が無かったなんて思って欲しくないから」
提督「きっと、こうして君が命を助けられたのも、意味のあることだと思う」
提督「僕のことをどう思っているかは分からないけど、僕は君に生きていて欲しいんだ」
目が隠れるぐらい深く帽子をかぶり直す。
提督「……ごめん。湿っぽい話になったね」
提督「帰るよ。……帰ろう、皆が待ってる」
・・・・
提督(朝潮は、どんなふうに僕の話を聞いていたんだろう)
提督(僕の気持ちをうまく伝えることが出来たかな)
提督(僕は朝潮の中の何かを変えることが出来たんだろうか)
----------------------------------------------------------------------
朝潮の好感度+4(現在値34)
本日はここまで。次回は明日か明後日かあたりには投下したいと思います。
///チラシの裏///
すごく台無し感が半端無いんですけど、ソーラン節をBGMに艦これやるとなかなか面白いのでオススメです。
完全に戦闘じゃなくて漁だろこれって感じになります。特に赤城旗艦がしっくりきます。
海っぽいニュアンスだけは変わってないのがまた笑いを誘うところですな。
提督「……ただいま。戻ってきたよ」
如月「お帰りなさい。上着、後でアイロンしておくわね。朝潮と……誰かしら、そちらは?」
大井「大井です。三雲大佐の艦隊に所属しているわ」
提督「これからちょっと説明するから、皆を集めてくれないか?」
・・・・
提督「と、いうわけなんだ」
満潮「そう。じゃあ、こっちの陣営対藤原大将で前面対決というわけね」
如月「物騒ねぇ……ま、それで事が収まるなら良いんじゃないかしら」
磯波II「後でお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
提督「ん、分かったよ」
・・・・
磯波II「藤原大将を討つおつもりですか?」
提督「直接的では無いにせよ……このまま行くとそういうことになるね」
磯波II「貴方の考えを聞きたいです」
提督「そうだな。……つまり、藤原大将を殺すことについてどう思っているか、ってことを聞きたいんだよね」
提督「僕は、人同士で殺し合うのは良くないことだと思う。まるで小学生のような回答だけどね」
提督「僕個人が藤原大将に対して敵意を持っているわけじゃない。だから僕は足止めしかしないし、中佐もまた僕に対して殺せとは命じなかったんだろう」
提督「でも、藤原大将は危険だと思う。それだけは確かだ。チップを支配出来ること、深海棲艦さえも我が物にしようとしていること。これは恐ろしいことだ」
提督「また、三雲大佐を自分の都合で始末しようとしていることや自分の目的の為に艦娘の命を利用したこと。それから、さっき会った南条中佐の話を振り返ってみると、藤原大将は糾弾されてしかるべきじゃないかなと考えている」
提督「ただ、藤原大将がどういう意図で動いているのかはまだ分かっていない。そこを次に会う時に知りたいなと思っている。知ってどうするというわけでもないけれど」
提督「何が正しくて何が間違っているのかは、僕にも分からない、かな……。でも、今はこういう風に動くのが正しいのかなって」
磯波II「そうですか」
提督「ところで……かつての大将の任務を果たすのは諦めたの? もう傷は癒えたろう」
提督「もっとも、そういう動きを見せていたなら僕は君をとっくに解体しているけど」
磯波II「……貴方が私を救ったあの作戦の後、皐月から聞きました。チップの話や、色々な話を」
磯波II「注射器の中身がすり替えられていた時点で、もう私の負けです。これ以上は意味のないことです」
磯波II「今でも提督……藤原大将に会いたい気持ちはありますが、もう合わす顔などありません」
磯波II「どうして私を解体しないのですか? もう、全ては終わったでしょう。損害はあれど結果的には貴方の作戦通りですよ」
提督「君が自ら轟沈しようとしたり大将のもとへ戻ろうとしない限りは解体する必要が無いからね」
磯波II「これ以上艦娘として生きていくのは、私には辛いことです。私はもはや存在の意義を失いました。解体してください」
磯波II「藤原大将の影響下から離れてしばらく経って、分かりました。彼は、チップを介して艦娘に多幸感を与えていたんですね」
磯波II「恐らくは、身体に触れることで多幸感を分泌出来るような命令をチップに送っていたのでしょう」
磯波II「だからあんなふうに盲信することが出来た。あの時私は彼のために生きることが全てだと、心の底からそう思っていた」
磯波II「でも……今となってはその忠誠心さえも薄れてしまった。幾度となく死にかけたせいか、チップの影響に支障が出るぐらい脳がおかしくなってしまっているんでしょう」
磯波II「今でも藤原大将のことを理想的な提督だとは思っていますが、私が彼のもとに戻っても、災厄となるだけでしょう」
磯波II「私の甘い夢はもう、終わりました。これで終いです」
提督「これから始まる、じゃあダメかな?」
磯波II「……言ったでしょう? 終わりにしてください、お願いします」
提督「確かに今の記憶が無くなれば、虚しい気持ちからは脱却出来るだろう。元の人間に戻りさえすれば今までのことは全部忘れられるから」
提督「でも、それじゃあ今の君はどうなる? 何の救いも無いまま、ただ惨めな気持ちを抱えて居なくなってしまうのか? そんなの悲しすぎるだろ」
提督「君がたとえそれを望んでいるとしても、僕は……納得出来ない」
提督「君の生きていく道は全て閉ざされてしまったのであれば、やはり解体されることでしか救いが無いというのであれば、僕は君に応じよう」
提督「でも、少し待っていて欲しい。僕が納得出来るまでの時間を」
提督「君に立ち直ってくれなんて言うつもりはない。再び前を向いてくれだなんて言うつもりもない。君の抱えている辛さは、僕には分からないから」
提督「でも、本当にこれでいいのか……僕の中で、心の整理をしたい」
磯波II「……」
・・・・
朝潮「司令官」
提督「見ていたのか、さっきの」
朝潮「ええ。……自分を見ているようでした」
朝潮「司令官は……お優しいですね」
朝潮「…………」
提督「…………」
朝潮「私、司令官のことを何も分かってませんでした」
朝潮「戦果さえ上げていれば良いんだって、私は道具なんだって、そう思っていました」
朝潮「違うんです。私、私……!」
ぽろぽろと朝潮の頬から涙が零れる。
提督「もう、いいんだよ」
朝潮「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
提督の身体に抱きつく朝潮。そっと抱き寄せる提督。
朝潮「司令官は、私のことを大事にしてくれているのに、私は……っ」
・・・・
朝潮の頭を優しく撫でる提督。次第に朝潮の乱れていた呼吸も落ち着いていく。
朝潮「……司令官」
----------------------------------------------------------------------
朝潮の好感度+4(現在値38)
朝潮「司令官、私……」
朝潮「私……。もう、一人じゃない……司令官が居てくれる……ですよね……」
提督の胸の中で、深く息を吸う朝潮。
朝潮「司令官。私を司令官の傍に居させて下さい」
朝潮「私、司令官の気持ちに応えたいです」
朝潮「私が艦娘だから、兵器として生まれたから戦うんじゃない。私は……私を信じてくれる司令官の為に戦いたい」
朝潮「見放されたと思っていた。私はもう、兵器としての意義さえも失ってしまったと思っていた。……でも、司令官は、私のことをずっと想っていてくれた」
朝潮「今度は私の番です」
朝潮「私は戦争の道具じゃない。私は、自らの意志で……司令官のために戦います」
朝潮は提督に向かって、仰々しくお辞儀をした。
朝潮「改めて……よろしくお願い致します」
提督は朝潮に手を差し出し、握手をする。
提督「ああ、よろしく。……ふふっ」
朝潮「どうかされましたか?」
提督「いや、君らしいなと思ってね」
提督(ただ……今までの、丁寧だけどどこか突き放すような態度じゃないんだよな)
提督(朝潮なりの誠意と決意の表れ……ってところだろうか)
朝潮「何かおかしいのでしょうか?」
提督「いや、いいんだ、気にしないで。でも普段はもっと楽に接していいからね」
提督「君の言葉一つで態度を変えるような僕じゃないからさ」
----------------------------------------------------------------------
朝潮の好感度+4(現在値42)
普段より投下が遅れちゃいました。とりあえず今日はここまで。
次回のエクストライベント判定
その1:コンマ値が65以上orぞろ目で発生(>>+1)
その2:コンマ値が46以上orぞろ目で発生(>>+2)
その3:コンマ値が59以上orぞろ目で発生(>>+3)
というわけで>>+1->>+3にわたってコンマでなんかなのです。
///チラシ裏///
あと25でFinish!? なワケ……あっ
これかなりギリギリだな……厳しさを感じる
艦娘図鑑がだいぶ埋まってきて良い感じ。
残りは翔鶴/舞風/大和/能代/大鳳/磯風/浦風/伊401/Bismarck/天津風/大鯨……11隻か。
もうそろそろ翔鶴は出てきてもいいと思うんですけどねぇ。
本日21時頃投下予定。
土日に諸々あって書けなかったし今日も色々アレだったんで今から書く始末……んなわけで多少遅れるかもしれません。
レベリングやりまくってたらイベント前なのに燃料と弾薬が5000切ってて笑える、いや笑えない。
///チラシう///
アーカントス提督なら沈んだ艦娘を復活出来そう。
あ、でも艦娘って英雄ユニットってよりか神話ユニットだよな……無理かも。
もうあれ12年前のゲームになるのね。
提督(さて……やるべきことはやった。後は時を待つのみ、か。藤原大将との面会まであと2日……)
提督(しかし、なんというか、妙に落ち着かないな。一体これからどうなるんだろう)
提督(少し潮風でも浴びて頭を冷やすか)
・・・・
如月「あら、司令官。ここで会うのは久しぶりね。最近はあまり来なかったじゃない。悩み事?」
提督「いや、気分転換に朝焼けでも眺めようかってね。なんか執務に集中する気にもならないし」
如月「そう。一度もサボタージュしたことがない司令官が珍しいわね」
提督「サボりとは人聞きが悪いな。実は、執務仕事は数日ぐらいならやらなくても平気なんだ」
提督「僕が毎日執務をやってるのは、数日後や一週間後にやらねばならない課題をこなしているからだよ。先に潰しておけば普段こなすべき量は減るからね」
提督「……君と初めてここで会った時じゃあるまいし、さすがにこの仕事にも慣れたさ」
如月「あら、懐かしい話をするわね」
提督「日数に直してみるとまだそんなに経ってないはずなんだけどね」
如月「不思議ね。随分と長い時間を一緒に過ごした気がするわ」
提督「色々あったからねぇ」
如月「司令官……あなたは、私たちのこと……どう思ってる?」
提督「ん? 大切に思ってるさ」
如月「んもぅ、そうだけど……そうじゃなくってぇ……」
提督「え? そういう意味なの?」
如月「鈍いのかそうじゃないのかよく分かんないわね……そうよ」
如月「電や磯波なんかは結構それっぽい雰囲気出してるじゃない? それに、満潮なんか最近司令官にデレデレじゃない」
提督「デレデレて、ハハハ。満潮が? それは無いんじゃないかな」
提督「多分艦隊の皆からそういう感情を持たれてはないと思うよ。そんなに顔良くないしねぇ。目と鼻と口がついてるぐらいしか特徴のない顔だよ?」
如月「もう……真面目な話よ! その、もし、他の娘に……告白されたら……」
如月「司令官は、どうするつもりなの?」
提督「それは何かな。アレかな。遠回しに僕に告白してるのかな」
如月「バッ、バカね! 違うわよ……もぅ」耳先まで紅潮させて恥ずかしがっている
如月「もういいわ、そうやって冗談ばかり言って。知らないっ」
提督「ゴメンゴメン、冗談だよ。そういうつもりで言ったんじゃないんでしょ?」
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如月の好感度+4(現在値27)
提督「そうだな……僕は、仮に君たちにそんな風に思われていたとしても、その気持ちに応えるつもりはないかな」
提督「あくまで仮の話だし、まぁ、そんなことは無いと思うけどね」
提督「君たちは、永遠に艦娘であり続けるわけじゃない。いつか、この戦いが終わったら普通の人間に戻るんだ」
提督「そしたら、普通の人間としての人生が始まるんだ。こうした戦いの日々の記憶も無くなって、僕なんかよりずっといい男の人と出逢って」
提督「そうやって幸せな人生を送って欲しい。いや、送るべきだ」
提督「そんな平和な時代が来るのが何年先か、何十年先かは分からない。ひょっとしたら、僕はその前に寿命を迎えてしまうかもしれない」
提督「でも、君たちの戦いがいつか報われる日が来るといいなって思ってる」
如月「そう……」
提督「意外に思った?」
如月「いや、あなたらしいわね」
提督「前線で戦わされる兵器のまま、常に死と隣り合わせで、何の救いも無く死んでいくなんて悲しすぎるから、ね」
提督「僕と君たちの関係は、戦争によって結ばれたものだ。それが無くなれば、離れて行くのも必然だろう。違うかい?」
如月「そうよね……(そう、そうあるべきよね……)」
如月「ねぇ、司令官。この戦いが終わるまでは……私と一緒に居てくれる?」
提督「えー……次の作戦が予定通り上手くいったら大佐も無事? なわけだし、僕がここにいる必要は無くなるっぽいしなぁ」
如月「えっ」ガーン
如月「そうなの……そっか……そうよね……」シュン
提督「あっ、冗談だって。まさかそんなにガッカリされるとは思わなかったよ」
提督「乗りかかった船だしね。ずっと傍に居ることは約束出来ないけど、まだまだ続けさせてもらうつもりさ」
提督「君を一人にはしないから、安心して」
如月「今日の司令官は……ずるいわ」
如月(……でも、そうよね。それでいいんだわ)
如月(一線を超えてはいけないわ、よね?)
如月(私はあなたの傍に居られるだけで幸せよ、司令官)
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如月の好感度+4(現在値31)
続きは明日(あんま書けんかった)
//チラシの裏//
夕飯がパン屋のパンって日々が続いているのでいい加減自炊しなけれヴぁ……
食費を浮かさねば……
提督(ふむ。しかし……如月の言ってた通り、もし艦隊の子たちが僕に対して好意を抱いていたとしたら僕はどうするべきか……)
提督(ま、それは無いな。ifの話を考えても意味が無い)
提督(……気を落ち着かせるつもりが余計に雑念が増えてしまったな)
提督(少しうろつくか……)
・・・・
提督(普段頭を使っているせいか、こうして無目的に出歩いているだけでも考え事してしまうな……)
提督(それにしても僕は案外無趣味なんだな。提督になる前、僕はどうやって時間を潰していたんだろう)
提督(そう考えるとずいぶんと彩りの乏しい人生だよなぁ)
提督(やれやれ……少しリラックスして次の作戦に備えようと思ったが、息抜きで気が滅入ってるようじゃダメだな)
提督(かえって普段通り執務をやっていた方が良かったのかもしれない)
皐月「おーい司令官!」
提督「やぁ皐月……何、してるの?」
水たまりに釣り糸を垂らしている皐月。
皐月「何って? もちろん釣りさ」
提督「水たまりで釣りをしてもアメンボぐらいしか釣れないと思うけど」
皐月「そんなことはないよ。ほら、こっちに来てみなって」
提督「どれど……のあッ」ズコッ
落とし穴に落下する提督。
皐月「ほら、司令官が釣れた」
提督「……なんなのこれ」
皐月「いやー、やんごとなき事情で司令官を足止めするように言われててね~」
皐月「とはいえ落とし穴の中で一人ぼっちじゃ寂しいだろうから、よっと」
落とし穴に入ろうとする皐月。足を滑らせて背中から落下してしまう。
落ちてくる皐月を咄嗟に抱き止めた提督。
提督「めっちゃ腕痛い」
皐月「おっ、ナイス司令官。いやー、落とし穴を作るまでは良かったんだけどちょっと傾斜が急過ぎたかー」
皐月「登ることは考えてたけど降りることまではちゃんと考えてなかったなー」
皐月「いやね、司令官が今日は執務をやらないって話を聞いた電が、司令官の代わりに執務をやっておくって張り切ってたから」
皐月「その間司令官がまったり出来るようにって頼まれててね。これ本当はバラしちゃダメなんだけど」
提督「はぁ……もっと別の方法があったんじゃないの?」
皐月「いやー、これが一番面白いと思ってさ」
皐月「今朝如月が司令官と会ったって聞いて、そこから他の艦娘の情報をもとに司令官が来そうなポイントを幾つか張っておいて待ち伏せていたってワケ!」
提督「何やってんだよ……っていうか、なんなんだその謎のネットワークは」
皐月「フフフ……壁に耳あり障子に目あり、ってね。案外皆普段から司令官のことを気にかけてるんだよ」
皐月「まぁ、そんなわけだから。大人しくまったりしてもらうよ」ガサゴソ
背負っていた鞄から座布団と湯のみを取り出す。
皐月「はい司令官。普段司令官はコーヒーばっかり飲んでるからコーヒーが良いかなと思ったけど、あえて緑茶にしてみたよ」ポットを取り出し、湯のみに茶を注ぐ
提督「もうどこから突っ込んでいいのか分からないな……」
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皐月の好感度+4(現在値26)
督「君は時たま突拍子もないことをするけれど、今日は特にスゴイよ」
皐月「お褒めにいただき光栄だよ~しれーかん」
提督「褒めてないからね」
・・・・
皐月「はいお弁当」
提督「あれ? 皐月が作ったの?」
皐月「いや、電が作ったんだ。ボクは見てただけ」
皐月「『磯波ほどじゃないけど、私だってやれば出来るのです!』って言ってたよ」
皐月「途中から朝潮も参加してたっけな」
皐月「朝潮ったら面白いんだ。砂糖と粉チーズ間違えちゃってさ」
提督「えぇ……」
皐月「砂糖と塩なら分かるけど、普通間違えないよねぇ?」
提督「あははは……」苦笑しながら
皐月「でもね。朝潮なりに考えがあったみたいでさ、司令官の力になりたかったみたいだよ」
皐月「朝潮が立ち直ってよかったよ……前回の作戦で朝潮に旗艦を任せるように言ったのはボクだからさ」
皐月「かえって朝潮に辛い思いをさせる結果になっちゃったなって反省してたんだ」
皐月「でも、最終的に丸く収まって良かったよ。これも司令官のおかげだね!」
提督「うーん、そうかなぁ。まぁでも、朝潮が皆と上手くやれてるなら良かったよ。安心した」
・・・・
提督「ごちそうさま。美味しかったね」
皐月「真面目な話もいいけどさ……たまにはこういう何気ない話もいいね」
提督「そうだねぇ……」茶を啜る
提督「そういえば、さっき釣り竿を持っていたけど、皐月は釣りするんだね」
皐月「そうだよ。といっても、昼はほとんどやらないけどね」
皐月「日の出前にやることが多いかな。最近はイカ釣りにハマっていてね」
皐月「イカを釣るには、エギっていう、魚釣りで言うルアー……ええと、要するにイカ用の疑似餌を使うんだ」
皐月「釣ったイカは間宮に料理してもらって、晩御飯で食べるんだ」
提督「へぇ……結構本格的にやるんだねぇ」
皐月「普段から太公望の真似事をやってるわけじゃないってことだよ」
提督「太公望ならこんな手荒な方法で人を釣ったりしないと思うけどなぁ」
皐月「違いないね。ハハハ」
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皐月の好感度+4(現在値30)
提督「ただいまー……と言っても、鎮守府の外に出ていたわけじゃないけど」
電「司令官さん! お帰りなさい。気分転換は出来ましたか?」
提督「うーん、まぁ、そうだね。良い刺激になったかな」
提督「どこかの誰かさんに落とし穴に突き落とされたりしたけど」ボソッ
皐月「~♪」提督から目を逸らして口笛を吹く
電「司令官さんのために、執務仕事を全部終わらせておいたのです!」
提督「えっ!? 本当に? ありがとう、嬉しいなぁ」
提督(知ってたけど)
電「あ、あと……お昼のお弁当はどうでしたか? 美味しかったですか?」
提督「うん、美味しかったよ」
電「そうですか。それは良かったです!」
電「ところで……磯波の料理とどっちが美味しかったですか……?」
提督「うーん、言いづらいけど、磯波の手料理の方が美味しいかなぁ」
電「むぅ……そうですよね……。もっと腕を磨かなきゃダメですね」メラメラ
電「司令官! 次こそ電の本気をお見せするのです!」
提督「うん、期待してるよ」
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皐月の好感度+4(現在値34)
電の好感度+9(現在値46)
ここまで。
好感度の一覧表みたいなの貼ろうと思ったけど疲れたので明日貼ります。
投下遅れてすみません。
///チラシ裏///
友人の誕生日ということで焼肉を奢りました。食費抑えようって言ってるそばから8000円飛んで行ってしまったー。
とはいえ、お金は心を豊かにするために使うべきものだよキミ。いやそんなことはねーな。
そん時話したことでも一つ。
精神分裂病ってあるじゃないっすか。
あれって、ひょっとしたら病気じゃなくて人間の進化のあり方の一種なのかもねーって話をしました。
今はまだマイノリティかもしれないけどいずれそっちが正当な進化種としてー……!
みたいなトンデモ話してました。
あ、特に予告してませんでしたが本日21時頃投下予定。
ただこれから風呂に入るので微妙に遅れるかもってのと、
とりあえず書き溜めた無難なところで切ろうかアクセル踏み込もうか今決めあぐねてる所なんで、
>>1が後者を選択した場合投下が数時間単位で遅れます。いずれにせよ本日中には投下しますんでよろしくお願いします。
///チラシの裏///
The Best of ThunderdomeっていうガバのCD聴いてるんですけどいいですね。超頭悪いです。(褒め言葉)
大井「あら、ちょっと時間いいかしら」
提督「はい、問題ありませんが」
大井「貴方……朝潮って子のことが好きなの?」
提督「へ? いや、そういうつもりはありませんが……」
大井「あら? 自分の過去を明かしたり、『君に生きていて欲しい』だなんて言うから、てっきりそういう感じなのかと思ってたわ」
提督(そういえばあの場にこの人も居たんだったな……)
提督「そういう意図でした話ではないんですけどねぇ……」アセ
大井「下心なしで言ったのなら善人すぎるというか、余計に罪深いわ……」
大井「いい? 貴方にとって艦娘は艦隊のうちの一人かもしれないけど、艦娘からしたら貴方しか居ないのよ?」
大井「あまり無闇に人の心に踏み込んでしまうと、逃げられなくなってしまうわ」
大井「『私には貴方しか居ないの。ずっと私と一緒に生きていて欲しいの』なんて言われたら、貴方はどうするつもり?」
提督「そ、そんなことは起きないと思いますが……」
大井「今起こらなくても、いずれ起こりうることよ。提督と艦娘の間で主従の関係を超えてしまうことは珍しくないことだわ」
大井「貴方のように艦娘と真摯に向き合おうとする提督なら、起こってもおかしくない。いや、いずれ貴方に想いを告げる艦娘が現れると予言出来るレベルだわ」
大井「そうやって想いを伝えたのに、ケッコンすると心に決めた子が居るなんて言われた時、艦娘はどうなると思う?」
大井「ずっと、たった一人の想い人のために戦ってきたのに、その一瞬で全てを否定されてしまうことが、どれだけ辛いことか分かっているの?」
大井「……ごめんなさい。嫌なことを思い出しちゃったわ」
大井「もし気になっている子が居るのなら、早めにアプローチした方がいいわよ。そうすれば、“選ばれなかった”子たちも諦めが着くだろうし」
大井「居ないのであれば……思わせぶりな態度はやめた方がいいわ。貴方は少し誠実すぎるのよ」
・・・・
大井「お察しの通り、私は、“選ばれなかった方”なの」
大井「元々私は南条中佐の艦隊に在籍していてね……色々あって今は三雲大佐の艦隊に属しているけれど」
大井「まぁ、ありふれた話よ。私は彼を愛していたけど、報われなかった。それだけの話」
大井「でも……艦娘の立場からしてみれば、生まれて最初の恋であり、そして、大抵は最後の恋になるの」
大井「もし、誰かに告白されたら、そのぐらいの気持ちで貴方に想いを伝えているんだ、ってことは覚えておいて」
大井「……って、私がただ単に重い女だっただけかもしれないけどね」
・・・・
提督「うーむ……」
提督(この作戦が終わったら、少し身の振り方を考えなきゃいけないかもしれないな……)
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提督は人たらしを自覚した 魅力+4(現在値50)
提督「いよいよ大将との面会日か……」
提督「満潮は色々勘づかれるとまずいので別室にて待機。他は……一応これから執務室で戦闘が始まっても問題ないような装備で」
提督「さすがに執務室でドンパチやり合うことはないだろうけど……」
・・・・
大将「私を動かすとは貴様も偉くなったものだな」
提督「ご足労いただき、幸甚に存じます」敬礼
大将「白々しいな。まぁいい、本題に入るぞ」
大将「と、その前に……入れ。摩耶」パチンと指を鳴らす
大将「一応、最低限度の自衛策は講じさせてもらう。といっても、あくまでここで事を構えるつもりはないがね」
摩耶「ちぇっ。牽制のためだけに呼ばれるこっちの身にもなれってなー」
大将「やかましいぞ。お前を喋らせるためにここに連れてきたわけではない。黙っていろ」
摩耶「へいへい」
大将「さて。では始めよう」
提督「改めて伺いますが……大将は深海棲艦を支配しようとしていますよね」
大将「現時点では黙秘させてもらう。なぜそう考えている?」
提督「そちらの艦隊にいた磯波を救助した後、彼女が持っていると思われる注射器を発見しています。その注射液の中にマイクロチップが入っていることを確認しました」
提督「(磯波IIに轟沈しろと命じてたことを“知っている”と言うのはまずいか。前回会った時の話と辻褄が合わなくなる)」
提督「それに、あの嵐の日に単艦で出撃させていたことを考えると……貴方はあの日に磯波を轟沈させるつもりだったと考えた方が自然」
提督「注射器の件も合わせると、深海棲艦に対して何らかの実験を行っていたことは明らかでしょう。貴方は深海棲艦をチップの力で我が物にしようとしている……というのが僕の憶測です」
提督「違いますか? 藤原大将」
大将「なかなか見事な推理だな小僧。だが、そんな風に深海棲艦を支配出来るチップがあるなら、私以外の誰かが使っているのではないか?」
提督「ええ、そうでしょう。“貴方以外にそのチップを操作することの出来る人間が居れば”、の話ですけど」
提督「ひょっとしたらそのチップは艦娘でない人間に対しても有効かもしれません」
提督「それに、貴方の今の発言は“チップを操作出来るのが貴方以外に居るかもしれない”という可能性の提示であって、貴方自身の疑惑を晴らす発言にはなりません」
大将「ほう、面白いことを言うじゃあないか。是非とも話の続きを聞きたいところだ」
提督「これも、そちらの艦隊にいた磯波の様子から結論づけたことです」
提督「彼女の貴方への忠誠心は異常だった。嵐の夜に単艦で出撃させられたにも関わらず恨み事の一つも吐かず、ただ大将への敬意を話していました」
提督「この事から、深海棲艦に使おうとしたチップを、自分の艦娘にも使用している……と僕は考えました」
提督「また、そのチップには絶対的な忠誠心を誓わせてしまうほどの力があり、大将はそのチップの力を意のままに操り人格さえも支配出来ると考えています」
大将「だそうだ。摩耶」
摩耶「60点だな」
大将「それにしても、フゥーム……磯波か。そうかまさかとは思ったが」
大将「フフフフフフフフフフフ……フフフフフフ……フフ……ハァーハッハッハッハッハッハ」
提督「!?」
大将「南条中佐による襲撃の件に気を取られ過ぎていたか。いや、タイミング的にはそれも貴様の艦娘によるものか? そんな些細なことはもはやどうでもいい」
大将「見事だな小僧よ! 面白い! やはりこうでなくては面白くない! フハハハハッ」
大将「磯波をすり替えたのだろう! 何を狙ってそうしたのかは分からんが……この私を出し抜こうというその考え、実に面白い!」
大将「よかろう。前座はこれまで。探り合いは終いだ……人払い願おう。これから貴様に真実を話してやる」
提督「分かりました。ただし、そちらの艦娘も退出させてください。銃器も部屋の外に置いてきてもらいます」
大将「良いだろう」
【提督ステータス】
勇気:59(初期値から 18)
知性:46(初期値から 10)
魅力:50(初期値から 40)
仁徳:65(初期値から 18)
幸運:62(初期値から 0)
人徳アップにより好感度補正小発生
電・如月の好感度上昇の基本値が 0.5上昇します
【好感度まとめ】
電 :46(好感度上昇 9) 4.5*2
皐月:34(好感度上昇 4)
磯波:33(好感度上昇 6.5)
如月:31(好感度上昇 4)
満潮:56(好感度上昇 4)
朝潮:42(好感度上昇 4)
書いてる途中で収集着かなくなっちゃったからここで一旦中断かなぁ……
無理すれば今日中にガーッと行けなくはないかもしれんけどもうちょっと元気のある時に気合入れてダーッと書いてサクッと終わらせたみある。
あと貼るとか言って貼らなかった好感度まとめもろもろ。
【提督ステータス】
勇気:59(初期値から 18)
知性:46(初期値から 10)
魅力:50(初期値から 40)
仁徳:65(初期値から 18)
幸運:62(初期値から 0)
人徳アップにより好感度補正小発生
電・如月の好感度上昇の基本値が 0.5上昇します
【好感度まとめ】
電 :46(好感度上昇 9) 4.5*2
皐月:34(好感度上昇 4)
磯波:33(好感度上昇 6.5)
如月:31(好感度上昇 4)
満潮:56(好感度上昇 4)
朝潮:42(好感度上昇 4)
次回の投下は明日21時頃を予定しています。本当は今日やっときたいところですが体調がグロッキー状態で無理なのでした……。
//チ裏//
三連休は遊園地に行ってきました。一人で観覧車に乗りました。ええ、一人でね。
ソロ園地ってやつです。実際は友人と待ち合わせしてて集まるのが遅かったから一人でアトラクション乗ってただけだけですけど。
大将「見事だな小僧。見くびっていたぞ」
大将「恐らく南条……ひいては三雲の奴から情報を受け取っているはずなのは間違いないが、それにしてもここまで辿り着くとは大した奴だ」
大将「まず……貴様、いや貴様らは勘違いしているようだがチップは万能ではない。ありとあらゆる例外が存在する」
大将「チップを使って思考や行動を支配することは可能だ。それは間違いではない。だが……」
大将「人間・艦娘に問わずチップの効力が薄い個体が存在していることを確認している。レアケースではあるが、な」
大将「艦娘の場合、チップに流されず人格を保持し続けることの出来る個体は、そうでない個体と比較して遥かに戦闘力が高く、思考力や判断力にも優れている」
大将「一方、チップに流されてしまう個体は元来より意志が弱く成長性にも乏しい。そもそも自発的に成長していこうという姿勢すらみられないのがほとんどだ」
大将「ただ命令を聞くだけの……そうだな。言うなれば、“生まれついての奴隷”か。自分で物事を考える力を持たず、一人では何かを選択することさえ出来ない弱者だ」
大将「さすがに人間相手に艦娘と同様の研究をすることは出来なかったが、恐らく人間の場合も同じだろう」
・・・・
大将「妖精の登場は人類にとって革命的だった。……旧時代の失敗は、“生まれついての奴隷”を自由へと解放してしまったことと、深海棲艦への対策が遅れたことだな」
大将「私が旧時代の負債を打ち倒し、新たな世界の頂点に立つ。それが私の望みだ」
大将「苦痛からの解放と自由の重みに耐えられない弱き奴隷には、チップの力で抗いようもないほどの圧倒的な幸福感を与え、それを得るためだけに生きるようにさせる」
大将「幸福を得るために使命を与えてやるのだ。そうして自らを生かす力のない者にも生きる意味を与えてやる」
大将「そしてチップに打ち勝てる強き精神の持ち主で新たな人類社会を創造していく。これこそこの世界の真のあるべき姿なのだ」
大将「ゆくゆくは深海棲艦も併呑し、この世界の全ての不合理を排除してやる」
大将「奴隷は奴隷として幸福に生き、支配者は支配者としてより持続可能な未来を考えながら生きる。この方法ならば妖精も半永久的に供給され続ける」
大将「私は人類を最後のステージに導くのだ」
提督「その為に貴方は自分の艦娘を踏み躙り、多くの人々を犠牲にしてきたというわけですね……!」
大将「その通りだ。私は私の望みを叶えるためなら躊躇はしない」
・・・・
提督「なぜ僕に貴方の思惑を話したのですか?」
大将「質問に質問で返すようで悪いが……、なぜ貴様は私にここに呼び出した?」
提督「……」
大将「私を謀るつもりだろう。恐らく貴様の背後には南条中佐がついているはずだ」
大将「私をここに誘き寄せる理由が無ければ、リスクを冒してまで私への疑念を話すようなことはしない」
大将「だが、貴様が私を始末しようと企んでいるのであれば、私を今この場で殺そうとしているはず」
大将「そこが解せんのだ。ゆえに策の立てようがない、貴様が私の知を凌駕しているとは思えないが……」
大将「相手の出方が分からない時はあえてこちらの手札を明かすのも戦略の一つだ。生かしておけぬレベルの秘密を知られてしまっている以上、何を話しても問題ない」
大将「もっとも、今この状況ではここから逃げるための備えしかしていないがな。貴様を殺すことによってどんな効果が起こるか分からない以上攻撃はしない」
提督「……(僕は大将に対して恨みは無いし、殺すつもりはない。だからこの作戦はこうなった。そのことで大将が混乱しているなら、ここは黙っていた方が得策だろう)」
大将「そういえば……貴様の艦娘、磯波は見事だな。見事にチップによる洗脳を回避して私の前で演技し通した」
大将「チップによる洗脳効果を最大限に発揮し私の命令を聞かせるようにするためには、身体に触れる必要がある。私の艦隊に居た磯波であれば、喜んで受け入れていたはず」
大将「貴様の所から送り込まれた磯波は、その場では不自然と思われないように上手く触れられるのを断り、切り抜けた」
大将「……ひょっとすると、触れていたとしてもチップの影響を受けなかったかもしれんな。実に良い艦だ」
提督(磯波は無事だったようだな……)
大将「貴様にとっても高く評価している艦娘のはず……」ピーッ ガッガッ
大将「通じんな……。この鎮守府内部の電波を遮断しているのか」
大将(泊地への奇襲か? ……だが泊地に居る艦娘は私の所有艦のごく一部。確かに被害はあるが、致命打にはならない。南条中佐は何を企んでいる?)
川内「ピンポンパンポーン! 川内参上! 何やら泊地の方に武装した大量の艦娘が押し寄せてまーす」
突如アナウンスが室内に鳴り響く。
川内「時間的にそろそろ交戦開始じゃないかな? 早く戻った方が良いと思うけど」
川内「もし差し引きならない状況なら私が代わりに指示出しときまーす」
川内「今そっちに向かってるから、よろしくね~」
提督「! 電・皐月は放送室前へ! 如月・朝潮はその反対方面を警戒!」
満潮「もう向かわせてるわ!」バタン!
大井「厄介なことになったわね……」
大将「満潮、か……ほう。ということは前回の奇襲も貴様だったわけか。見事なミスリードだったな」
満潮「奴はどこから来る!? 絶対にここへは近寄らせない!」
・・・・
川内「もしもーし。どうしたらいいかな提督?」
大井「上ねッ!」バアアアアン
天井めがけて砲撃をかます大井。
川内「あーあ。これじゃあ青空執務室だね~」
大井「どうして……? 声は確かに上から……」
大将「川内ッ! 貴様に命令するッ! 全艦隊、泊地内に撤退。地上で敵を奇襲・各個撃破しつつ地下の核フィルターを目指せ!」
大将「また、磯波という艦娘が混乱に乗じて逃げ出そうとする動きを見せるはずだ。奴を逃がしてはならん。シェルター内で勾留しておけ。傷はつけるなよ」
川内「了解! じゃねっ!」
突如部屋の隅の床が動き出し、発煙が起こる。床の中に居たであろう川内は窓を割り脱出していった。
満潮「逃がしたか……ッ!」
皐月「司令官! 放送室にあったのはボイスレコーダーだったよ」
大井「してやられたわね」
・・・・
大将「奇襲を仕掛けたのは南条中佐だな。私抜きで戦うのはちと厳しい相手だが、艦隊決戦でなく地上戦……それも罠を張り巡らせてある泊地内での戦いならば話は別」
大将「シェルター内まで逃れれば対地砲撃も無効だ。これでロストの危険性は大幅に下がる」
大将「これで状況は分かった。形勢も動いた」
満潮「だからと言って、私たちがここでアンタを帰すと思う? そちらの不利には変わりないわ」
大井「艦娘は人間を意図的に殺すことは出来なくても……物理的に動けなくさせることぐらいは出来るのよ?」
大将「随分と血の気の多い部下に恵まれているようだな。その通り、このままでは依然私にとって不利な状況だ」
大将「そこで、だ。私は貴様に対して交渉を行う。応じるかどうかは任意だ」
大将「こちらの要求は、私を解放し泊地まで無事に向かわせること。そして、今後貴様に私の手足となって働いてもらうこと」
大将「提示出来る条件は、今後貴様および貴様の艦隊へ危害を加えないことの約束。今は泊地にいる貴様の磯波の無事も保障しよう」
大将「地位も約束する。艦隊も強化しよう。……この戦いが終わったら、チップが埋め込まれた人間を支配する方法も教えてやる」
提督「それで中佐を裏切れ、ということですね」
大将「明らかにそちらにとって利益の薄い提案だと思っているのだろう。だが考えてみろ。貴様らはここで私に決着を着けなければならないぐらい追い詰められている」
大将「一方私はここで艦隊に被害が出ようと、元々在籍していた鎮守府まで戻れば戦力はすぐに補充できる。邪魔な上層部も片づけ、この海軍は私の手中に落ちつつある」
大将「ここで貴様らの奇襲が成功したところで戦略的劣勢は到底拭えない」
提督「……僕個人は貴方に対して殺意を抱いてはいない。でも、貴方の野望は止めなければならないと思っている」
提督「……それに、僕が殺意を抱いていなくても、他の人もそうとは限らない。そういうことです」
提督「方法は聞かされていませんが、南条中佐は貴方を誅するつもりです。僕も、このまま貴方を好きにやらせるつもりはありません。脅しには乗りませんよ」
大将(何か策があるのか……私を殺すための策が?)
大将(やはり私を殺すのが目的か……だが、一体どうするつもりなのだ……)
大将(ここで私が敗れては……人類の未来に影響する。手を打たねば……)
大将「…………やるしかないか」
大将「摩耶! 出番だッ! ここから退却するぞ」
摩耶「おっ、ヤバいのか? しょうがねえッ!」大将を背負う満潮
大井「逃がすわけないじゃないッ!」ババババッ
満潮「覚悟するのね」バリバリバリバリ
摩耶「ちょっ、これじゃあ逃げようにもすぐ追いつかれちまうぜ? お前を運びながら逃げるってのは無理があるって」
大将「あそこの海までで辿り着ければいい。賭けに出た」
摩耶「しょーがねえなぁ。しっかり掴まってろよなッ!」
・・・・
摩耶「うおおおッ これ以上はマジに洒落にならないぜ」血を流す摩耶
大将「これでいい」
そう言って大将は海に沈んでいった。
摩耶「おいッ!? お前何やってんだ!?」
提督「これは一体……?」
ブクブクブクブク シュウォォォォォオオオオオ
如月「何!? 大将の沈んだ場所から渦潮が……!」
北方棲姫「ヨンダカ……ニンゲン……」
巨大な北方棲姫の肩に乗る大将。
摩耶「おいおいどーなってんだよこれは!」
摩耶が人差し指を向けて叫ぶ。
大将「賭けに勝った、ということだ。毎回こうしなければ呼べないのは考えものだがな」
大将「私の命に危機が迫ることで脳波が増大し、一時的にチップへの指示を送る力を増やすことが出来る」
大将「脳の電気信号がなぜ海中だと広く伝播するか詳しい原理はまだ分かっていないが、うまく行けばチップを埋め込んだ深海棲艦を操作することが出来るというわけだ」
大将「摩耶、貴様に見せるのは初めてだったな。これが私の実験の成功例。幸いにもその中では最も強力な部類を呼び寄せることが出来た」
大将「摩耶、貴様は先に泊地へ向かえ。もう私は問題ない」
摩耶「……意味が分かんねえが、負傷し過ぎててとにかく今はそれどころじゃない、か。あばよッ!」
大将「さて、これで形勢逆転だ。軽く捻り潰してやろう」
提督「各艦……戦闘配置につけ!」
提督(勝てるのか……こんな相手に……?)
・・・・
提督「…………ッ」
提督(一瞬で艦娘が地上まで吹っ飛ばされてしまった……! 轟沈こそしていないものの、大井さん以外は大破して気を失っている。これ以上の交戦は無謀か……)
大将「ここまでだな」
大将「深海棲艦は、艦娘ではない。人間を殺すことも造作ないというわけだ」
提督(打つ手なしだな、戦力が違いすぎる…………)
提督(ここまで、か)
提督(死ぬのか、僕は……? 彼女たちを守れないのか……?)
↑は【80/100】です。(操作ミスってトリップの方に貼りつけてしまった)
本日はここまで。
ボーナスとかのアレは明日貼ります。
///チ///
今に始まったことじゃないけどちょっと今回は展開強引すぎたなと思う。いや何度か考えては消し考えては消しを繰り返した結果これが一番……って言い訳はよしとこ。反省してないけど後悔(だめじゃん)。んまぁ終盤かなっていう感じになっていきます。
まあ残り数を考慮すると急展開も仕方ないね
あとなぜか満潮が大将背負ってるぞ
>>255
ぎゃああ……やらかしました。
そういや過去のやつとか読み返しててわりと脱字とかあったりしてうわってなることがありました。
気をつけてる“つもり”……“つもり”という慢心こそ艦これにおいてもSSにおいても厄介なのです。
/* 経過ボーナス */
以後各艦娘の好感度の基本値が 1増加します
また、提督の能力値変動イベントが発生します
能力値ボーナスは安価とコンマで決定します。
アップさせたい能力値 勇気/知性/魅力/仁徳/幸運の中から一つ選択し、
出たコンマでその選択した能力の上昇値が決定します。
///両面刷りのチラシの場合どちらが裏なのだろう///
むむむ……どういう感じでやっていこうかかなり悩むのぜ……。
指針はあれど絶対それに沿って上手くまとめ上げられる自信が無いぞ~☆
100レスの制限が無ければ……と思うことが多々ありますが、100レス完結じゃなきゃ多分途中で心が折れてエターナっちゃうんだろうなあ。
縛りが無ければここまで展開を詰め込みまくってとにかく過激な方にエスカレートさせたりせず、ひたすら序盤の馴れ初めを冗長に書いてただろうしなぁ……。
そう考えると皮肉にも制約があった方が書きやすいのかもしれん。とはいえムツカシイぞこれぇ。
筆者のくせに展開に流されすぎじゃないですかね……立てた指針がことごとくねじ曲がっていく問題。
でも、こーゆー難しさとか辛さとかを上手いこと考えていくのが物書きというか創作全般の面白さなんじゃないかなーとは思わなくはない。思わなくはないけどこれどうすっかなー(暗に次の投下が遅れるかもと言っている)。
これは鬼が笑い出しそうな皮算用的トークなんですけど、最近この話の次の100レスのアレを軽く考えたりしてます。
次回ではゲーム性(?)とランダム性を高めてみようかな~、とか、もうちょっと数値に厳密にやっていこうかな~……とか。
あと、今回のではあんまりやれなかったしもうやれそうにないので、艦娘同士の絡みとかはもっとやりたいですね。
……とりあえず設定やストーリーが今回ほどゴテゴテすることは絶対ないと思います(というか意図して今回のと似たようなものを書ける自信が無いし体力も無い)。
そもそも次回やるかどうかが微妙ですけれども。
リアルもそんなに時間があるわけじゃないってのと、これ書いてるとかなり自由に使える時間が減るってのが痛い……。
やるとしたらよろしくねってわけで一つ。
あ、ボーナス用安価は>> 1です。
言ったそばからまたミスだ。うっかりさんは死ななきゃ直らないって某牙突おじさんが言ってた。
知性
予告してませんでしたが多分今日21時頃から投下します。ダメそうなら明日の同時刻に投下します。
>>258より知性+6(現在値:52)
【提督ステータス】
勇気:59(初期値から 18)
知性:52(初期値から 10)
魅力:50(初期値から 40)
仁徳:65(初期値から 18)
幸運:62(初期値から 0)
ンー微妙に区切りがよくないなぁ……ごめんなさい明日で……
///りーふれっと///
久々にレッドブル以外のエナジードリンク飲みました。えっとアレです。モンスターエナジーM3ってやつです。
なんとなくレッドブル以外のエナジードリンクは身体に悪い味がするという偏見を持っていたんですけど(無論そんなわけはないしレッドブルも身体に良いものではない。というか身体に悪い味ってなんだ)、アレはわりと良いやつですね。
一瞬モンスター特有の身体に悪そうな味がするんですけど、後味がわりと許される感じになってておーいいじゃんと思いました。
※全て個人の感想ですしネガキャンでもステマでも何でもありません。っていうかこんなチラシの裏の書き込みを参考にするな
うぐ……すみません。どうにもまだ良い感じの所まで書けてないんです。
一応4レス分ぐらいまで書けてるんですけど、ちょっと変な区切り方したくないなーと思ってまして。
明日までお待ちを……。明日には必ずや投下しますので……。
提督(ダメだ……何も浮かばない……!) 提督の眼前まで艦載機が迫る
大将「……ここで貴様の命を奪うことは容易い、が」
大将「ここで再度先ほどの交渉をしたい」
大将「と、言っても、貴様が交渉に応じようが拒もうが私は泊地に辿り着けるがな」
大将「私の部下にならないか? そうすれば貴様の艦娘と貴様の身の安全を約束する」
大将「一応……ここで意地を張って犬死するという選択肢も用意しておいてやるが。私は前者を強く奨めるぞ」
提督「なぜ、この状況で僕に交渉を迫るのか、教えて、下さい」 声は震え、脂汗が垂れている
大将「貴様は秘密を知っている。知っているからこそ利用価値がある」
提督「知っているからこそ、始末しなくてはならないのでは?」
大将「命を助けてやるというのだから大人しく従ったらどうかと思うが?」
提督「ここで助かったところで……一時的に助かるだけです。死ぬのは怖いですが、貴方に利用された末殺されたのでは、同じことでしょう」
大将「命の危機が迫っていてなお相手の真意を探ろうとするか、見事だな」
大将「交渉に応じるのであれば、私は貴様に危害を加える気はない。貴様が裏切らない限りはな」
大将「脅して言うことを聞くような相手でも無いか……良いだろう」
大将「まだ誰にも知られるわけにはいかなかったのだが……機を逃すよりは上策か」
大将「チップの機能そのものは機械で制御しているが、個人の意のままに動かすには自分の脳波を対象に流し込む必要がある」
大将「脳波というより……分かり易く言えば“念”のようなものだな。その力を増強させるための代償で、私の命はあと1年持たない」
大将「チップを支配する力を得るには、自らの脳にあるチップを完全に無効化しなければならない。私の場合は摘出するための手術が必要だった」
大将「しかし、チップを取り出すための手術は精神・肉体に大きな影響を及ぼす。運よく今日まで生き延びることが出来たが、そろそろ限界が近いようだ」
大将「貴様の場合……三雲大佐同様、私のチップの影響を全く受けていない。恐らくは脳にチップが入っていないのだろう」
大将「私の後継となる人間が必要だ。ここで私が滅んでしまっては、深海棲艦の脅威を無くすことも、理想的な人類社会を実現することも出来なくなる」
大将「貴様が私の意志を継ぐのだ。三雲大佐の残党狩りが終わったら適任者を探すつもりだったが、もはや貴様以外に考えられん」
大将「貴様に人類を導く資格を! さもなくば死をくれてやる! さあ、答えを聞こう!」
提督(どういうことだ!? どうなってる!? 一体どうすればいい?)
提督(僕が応じなければ、僕も、皆も、ここで殺されてしまう……!)
提督「……分かりました。貴方に従います」
大将「よろしい。泊地までついて来い」
提督(とにかく、今は様子を見るしかないか……)
北方棲鬼に乗り飛び去っていく提督を見届ける大井。
大井「…………」
・・・・
大将「貴様に教えなければならぬことは山ほどあるが、それはこの戦いが終わってからだ」
大将「南条中佐を始末する。そして明日三雲大佐を処刑する……この二つは最優先事項だ。それにしても厄介な奴らだ」
大将「貴様という人材が奴らの側についていたのは私にとって幸運だったがな。おかげでこれからやるべきことの一つが減った」
大将「この戦いが終わり次第、まずチップの埋め込まれた者を操作する方法を教える」
提督「僕は貴方のようになるつもりはありません」
大将「それでも構わない。だが、知っていれば必ず力を使いたくなるだろう。使わねばならぬ局面も出てくるだろうしな」
大将「今貴様がどう思っていようが、最終的には私の理想を実現するだろうと期待している」
提督(……余命の話は本当みたいだな。とにかく、今は従うしかないか)
提督(中佐の死を回避しなければならないが……この状況だとどう動けば良いんだろう?)
足柄「厄介ね……! なんだってここはこんなに罠が張り巡らされてるのかしら! 上陸するまでは大したことなかったのに、急に敵の動きが機敏になったような気がするわ」
龍驤「まだこっちが優勢みたいやけど、長期戦になったらヤバいでぇ~」
妙高「藤原大将の艦隊ともなると、一筋縄では行きませんね」
羽黒(それにしても……この動き……どこかに誘導されているような……?)
那智「よし! 残る敵はシェルター内だ! 突撃するぞッ!」
・・・・
ガラクタの山の上に立ち、腕を組みながら妙高たちを見下ろす夕張。
夕張「よく来たわね。私の罠はどうだったかしら? だいぶ苦戦したんじゃないかしら」ゴゴゴゴゴゴ……
足柄「そうね。でも、もう逃げ場は無いわ! 小細工はそこまでよ!」
夕張「確かに罠はもう残っていないわ。ここから先は実力勝負……!」
那智「軽巡風情が良い気になるなよ」
夕張「私たちを追い詰めたつもりでいるようだけど……わざとここまで連れてこられてたって気づいてないのかしら?」ヒュウウウウ……ドンッ!
武蔵「フッ……待ちわびたぞ! さあ宴はこれからだ!」高く跳躍し、夕張を飛び越えて妙高たちの前に現れる武蔵
羽黒「何てこと……! まだあれだけの戦力が残っていたなんて……」
足柄「流石に相手が悪いわね……」
長門「そいつの相手は私が受けよう! 戦艦長門、いざ参る!!」
陸奥「流石に私たちの出番は無いかなと思ってたんだけどね……」
陸奥「いくら大和型であっても、私たち二人が相手ならどうかしら?」
武蔵「フッフッフッ……ハァーッハッハッハッ! そうこなくてはな! そうでなくては面白くない!!」
武蔵「……この武蔵の主砲、伊達ではないぜ?」
・・・・
ドガアアアアアン ドオオオオオオン ババババババババ
大将「フッ……派手に暴れているようだな」
大将「だが、私がここに着いた以上騒動はここまでだな。おまけに今はこの化け物までもが私の味方についている。その気になれば一瞬で方がつくだろう」
大将「さて……シェルターの中ではどうなっているかな?」
武蔵「まだまだァ! その程度ではこの武蔵は倒せんぞッ!」
長門「なんのォおおおおおおお!!」
主砲は既に使い物にならず、損傷も激しい様子だったが、それでも拳一つで立ち向かっていく長門。それに対し、容赦なく砲撃の手を緩めない武蔵。
バァン!!
激しい激突音がシェルター内に響き渡る。砲撃の雨を抜けた長門の捨て身の突撃が、武蔵の鉄壁の装甲さえも弾き飛ばした!
不知火「信じられない……あの武蔵が押し負けている……!」
衝撃に吹き飛ばされ壁に激突する武蔵。力を使い果たし前のめりに倒れる長門。
シェルター内にいる全ての艦娘が、その様子を固唾を飲んで見守っていた。
武蔵「む……そこに居るのは提督か。フッ……格好悪いところを見せてしまったな。……だが、ここからが本領よ! 全砲門! 開」
大将「そこまでだ武蔵。……戦艦長門か。見事な戦いぶりだった。武蔵を本気にさせるとはな」
パチパチパチ、と拍手の音が木霊する。入口から藤原大将がゆっくりと歩いてくる。
武蔵「提督よ、なぜ止めるのだ? 奴のことだ、数分後にはまた立ち上がるぞ。提督が帰ってくるまでは遊んでいるつもりでいたが、もうその必要は無かろう」
大将「私は此奴が気に入った。うちの艦隊に欲しい」
武蔵「チッ……分かった」
よろよろと立ち上がる長門に駆け寄り、その手に触れる大将。すると、それまで鬼気迫る表情だった長門の顔が和らぎ、殺気が失われた。
陸奥「う……ウソ……何者なのよアンタ……!」
満身創痍の陸奥が、息も絶え絶えになりながら声を出す。恐怖で声が震えている。
大将「諸君、これにて戦いは終わりだ。ご苦労であった」
妙高「ここまでね……大人しく降参しましょう」
中佐の艦隊に所属している艦娘は、万に一つも希望が無くなったと判断し、全員が投降した。
・・・・
大将「投降した艦娘は全て武装を外した状態でドッグに収容しておけ!」
大将「さて、私たちも此奴のチップへの情報の書き込みが終わり次第、南条中佐を探すぞ。恐らくこの泊地内に潜伏しているはずだ」
提督「高い精神力を持った人や艦はチップの影響を受けないのでは?」
大将「私は受けないとは言っていないぞ。チップが埋め込まれていないかその機能が無効化されていない限りチップの力から完全に逃れることは出来ない」
大将「人格を支配することは出来なくても無害化して従わせるぐらいなら可能だということ」
大将「それにしても妙に時間がかかるな」
提督「時間がかかる……って触っている感覚だけで分かるものなんでしょうか?」
大将「慣れの問題だ。それにしても変だ……ぞ……」バシュッ
意識を取り戻した長門に突如殴り飛ばされる提督。そのままシェルターの外まで吹き飛ばされた。
長門「フフフフ……勝った……勝ったぞ……!」
長門「南条中佐……私は今この時ほど貴方に感謝した事はないッ!」
長門「艦娘最強と謳われている武蔵に! かつての私の全てを奪ったこのチップに! そのチップを支配しているこの男に!」
長門「そしてッ! 私の命を奪ったあの光に! 私は勝ったのだッ!! ハーハッハッハッハッハッハッ」
大将「なんだコイツは……気でも狂ったか!?」
天高く指を突き上げ、大きく声を張り上げる長門。シェルターの入口のシャッターが閉まり、代わりに閉ざされていた天井が解放されていく。
雲り無き青空が広がっている。そして、一つの巨大な光がシェルターの中央めがけて突き進んでくる。
長門「天を見ろ! あれこそがッ!! あの忌々しいあれこそがッ!」
長門「私の最強の武器だ!! 貴様が最期に見る光だァああああああああああ」
大将「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ」
再度シェルターの天井が閉まっていく。シェルターの天井が完全に閉まりきるに光はシェルター内に到達する。
刹那にシェルター内が透けて見えるほど激しい光が炸裂する。
凄まじい音が海原中を駆け抜けた後、光は消えて、中の様子は何も見えなくなった。
提督(一体……何が起こったんだ……)
艦娘たちは皆一様に口を開け、目の前で起こった現象に呆気を取られていた。
・・・・
どこからともなく南条中佐が提督のもとに駆け寄ってきた。
中佐「終わったね……」
中佐「恐らく君では藤原大将を食い止めることは出来ないと予想していた」
中佐「だから私は初めからこうするつもりでいた。彼なら、仮に自分の拠点を攻撃されても敗北を認めず、逆に勝利をする方法を考えるだろう」
中佐「私の艦隊によって完全に包囲されているという不利な状況を覆すには、地上に誘き寄せて各個撃破していった方がいい」
中佐「私はこの泊地内にシェルターがあること、そして大将が戦艦武蔵を所有していることを知っていた」
中佐「地上ならあのシェルターの中以外で武蔵を暴れさせることは不可能だろう。だから、最終的にはそこで大将の艦娘は集結するだろうと予測していた」
中佐「大将がここに到着する前に艦娘たちがそうした動きをしていたので焦ったけど……全ては上手くいった。長門が時間を稼いでくれたからね」
陸奥「あなたは……自分の為に長門を犠牲にしたというの!? だとしたら、あの光の中に消えていった大将とあなたは何も変わらないわ!」
中佐「ああでもしなければ私は死んでいたし、お前も長門も奴の駒になっていた」
中佐「私は……自分が生き残る為、そして愛する人を守る為なら何でもするよ」
陸奥「そんな……っ。長門はあなたの事をあんなに慕っていたじゃない……! それなのに……」
中佐「それでも、だ。それでも……だな。長門を犠牲にしてでも、私は幸せになりたかったのだ。……長門もそれを分かってくれたんだ」
陸奥「ひどいわ……そんな……」
ドゴオオオオオオオン
爆撃音が遠くから聞こえた。
中佐「まずいっ! 北方棲姫が暴れだした! チップの制御が解けたんだ!」
中佐「奴を倒さなければ結局ここで全滅してしまう! 迎え撃て!」
夕張「色んなことが起きすぎて何がなんだか分からないけど……。とにかく話はあれを倒してからになりそうね」
不知火「第十八駆逐隊、不知火……出る!」
武蔵「フッ……良いだろう。奴に勝ち逃げされた憂さを貴様で晴らさせてもらうぞッ!」
足柄「私たちも続くわよ! 撃て! 撃てー!」
龍驤「攻撃隊、発進! 一気に決めるで!」
・・・・
提督(いけない、気を失ってしまっていたようだ……)
提督(突然僕の身体が吹き飛んで……シェルターで爆発が起きて……大将は……)
提督「グッ……アッ」口から血を吐き出す
提督(身体の内側からメキメキって音がする……何本も骨が折れてるみたいだな……)
磯波「提督!? 提督っ!!」
提督「磯波か。そうだ、あの後、中佐が来て、それから……」
提督「今、何が起こっている……?」
磯波「南条中佐が北方棲姫と交戦中です。ただ、艦娘たちのほとんどが負傷しているためか苦戦を強いられているようです」
磯波「無理しないでください。私が提督の身体を背負いますから、ここから脱出しましょう」
・・・・
那智「厳しい戦況だな」
中佐(あまりここで戦いが長引くと騒動を察知した他の鎮守府から増援が来てしまう)
中佐(そうすればアレを倒すことは出来るだろうが、私は恐らく逃げる機会を失ってしまう)
中佐「死してなお、というわけだね。厄介なものを残していったもんだ……」
妙高「提督、焦っておられるのですか?」
中佐「うむ。……危険だが仕方がない、一つ手を打とう。陸奥、武蔵は突貫し北方棲姫のみを狙い打て! 他の艦も前進しつつ二人を補助しろ!」
武蔵「フッ、良いだろう。行くぞ!」
・・・・
ドゴオオオオオン……ドオオオオオン……ドンドンドンドンドーン!!!!
武蔵「うおおおおおおおッ! ありったけの砲撃を食らわせてやるぜッ!!」
夕張「やったッ! 北方棲姫が吹き飛んだ!」
足柄「一気に畳み掛けるわよ!!」
武蔵「……? 待て、陸奥! そっちに艦載機が行ったぞ、仕留めろ!」
陸奥「え?」 北方棲姫の放った艦載機の群れが陸奥の眼前で爆撃を放つ。艦載機は陸奥への攻撃後も勢いを止めずそのまま海上を突き進んでいく。
龍驤「なんのッ! ウチが打ち落としたるで! ……って、おろ?」
艦隊を避けあらぬ方向を目指して飛んでいく敵艦載機。
龍驤「なんやあの動き? ウチらに攻撃もせず、本体の北方棲姫に戻るわけでもなく……一体どこに向かって飛んでるんや?」
羽黒「あの方角は……まずいです! 提督が……!」
妙高「足柄! 那智! 急ぎ後退して提督をお守りするのよ!」
那智「もう向かってるッ!」 全速力で海上を駆け抜ける足柄と那智。だが艦載機の速度には敵わない。
中佐「!? なんだコイツは……うおおおおおおおおおおおッ」
艦載機が南条中佐の身体に触れると、次々に爆発していく。足柄が駆けつけ、中佐に覆いかぶさるように爆発から守ったため、四肢は欠損していなかった。しかし……
中佐「足柄……ありがとう。…………どうやら私はここまでのようだ。意識がどんどん遠のいていく」
中佐「不思議だな。あれだけ、生きたい、生きなければ、と思っていたのに……ガハッ」
中佐「死が近づくと……こんなに心穏やかになるものなのか……」
那智「おい提督! しっかりしろ!」
中佐「この戦いが終わったら……結婚の約束をしていたのにな……。守れっ……そうに……ないや……すまない……北上……」
足柄「提督! 提督!!」 南条中佐の身体を揺さぶる足柄。しかし動く気配は見られない。
羽黒「姉さん、提督はもう……」
足柄「陸奥! ……どうしてあの時艦載機を止められなかったのよ!? いつもの貴方だったらあんな時にボーッとしていないはずよ!?」
足柄「あなたが止めていれば……」
妙高「止しなさい足柄! ……誰のせいでもないわ」
不知火「それより、今はこの状況をどうするかを考えなくてはいけないわね。まだ北方棲姫は生きているわ」
夕張「それどころか、なんか本気モードになっちゃったみたいだし……態勢を立て直さなきゃいけないわ」
龍驤「そうしようにも、負傷してるとはいえ敵はどんどんこっちに接近してきてるで? マズイなぁ……」
・・・・
海上を進む磯波と、磯波に背負われる提督。
提督「磯波……さっき爆発があった所まで連れて行ってくれないか?」
磯波「え? 危険ですよ……それに、南条中佐が今戦っているはずです」
提督「嫌な予感がする。……あんな地上の近くで爆発が起きるなんて妙じゃないか?」
提督「南条中佐が不利な状況にあったとしたら、ひょっとすると僕たちも鎮守府に戻れないかもしれない」
磯波「分かりました」
・・・・
足柄「まだ私はやれるわ! 提督の仇を討つまで沈めないわ!!」
夕張「大破してるんだから大人しくしてなさいって言ってるでしょ!」
武蔵「すまん夕張。悪い報告だ、弾薬が尽きた」
夕張「ええええええ!? もう逃げるしかないんじゃないかしら」
那智「逃げるといってもどこに逃げろというのだ! 逃げるべき場所が無いだろう」
不知火「もうこれ以上の交戦は限界に近いと思うわ……。援軍が来るまで退いた方が」
那智「だからどこにどうやって逃げるんだと言っている!」
足柄「私はまだ戦えるわ! 出しなさいよ!!」
夕張「アンタは引っ込んでなさいって言ってるでしょーが!!」
提督たちが爆発地点まで辿り着くと、目の前には南条中佐の死体と、言い争いをする艦娘の姿が映った。
提督「これは……一体何があった!? 何をしてい……ウッ(声を張り上げると血が喉からこみ上げてくる……)」
夕張「貴方は……大将が言っていた子ね。見ての通りの惨状よ」
夕張「負傷艦が出ていてまともに戦えるような状況じゃない上に、逃げ場もない。前からはあの北方棲姫。とてもじゃないけどどうしようもないわ」
武蔵「待て夕張……奴に指揮を執らせてみてはどうか? 案外どうにかしてくれるかもしれんぞ?」
磯波「ちょ、ちょっと……」
提督「分かった。引き受けよう」
磯波「……提督ぅ(せっかく提督とまた会えたのに……でも、提督はこういう人ですからねぇ)」
・・・・
提督「作戦はこうだ」カキカキ
不知火「なるほど……即席の作戦にしては上等じゃないかしら」
提督「この作戦は一蓮托生の総力戦だ。僕は君たちのことは知らないし、君たちもそうだろうが……今だけは僕に力を貸して欲しい」
武蔵「乗った! 良いだろう! ……陸奥! いつまで黙りこくっている!」
武蔵「私の主砲を貸してやる。あの長門の妹艦だろう? ……やれるな?」
陸奥「……分かったわ。私がやらなきゃ……!」
・・・・
磯波「提督~いつまでこれを続けるつもりですか~~~~~~~!!!!!!」
空を埋め尽くさんばかりの艦載機に追われる提督とそれを背負う磯波。
提督「あちらが倒れるまでだ! 他の艦娘たちを信じよう!」
武蔵「ハッハッハッ! 案ずるな! この武蔵が盾になってやるというのだ! 何を恐れることがあろう?」
提督を狙って迫りくる艦載機を殴り飛ばしていく武蔵。
武蔵「いいぞ、当ててこい! 私はここだ!」
磯波「当ててきちゃダメですってば~」
北方棲姫「ユルサナイ…………ユルサナイユルサナイユルサナイ!」
北方棲姫の正面で逃げ回る磯波たちに対して、北方棲姫の背後から浮遊砲台を次々に破壊していく足柄たち。
足柄「許さないのは私の方よ! 観念なさい!!」
夕張「やはり敵の意識が完全に攻撃に傾いているわね……守りは薄いわ! 一気に片付けましょう」
・・・・
磯波「もう、限界ですよぉ……」ヘトヘト
提督「じゃあ、僕とここで心中になるかな」
磯波「それも良いかも……って、良くないです! 良くないですよぉ!」
武蔵「む? あの空中たこ焼きが片付いてきたな。そろそろじゃないか?」
提督「よし……! さあ勝負はここからだ!」
陸奥「私は陸奥……長門型戦艦二番艦陸奥よ! やってやる、やってやるわッ!!」
陸奥「全主砲、斉射! 撃てぇーーー!!!!」ドゴオオオオオン
那智「私たちも続くぞ! かかれッ!!」バババババッ
北方棲姫「ナメルナッ!!」 次々と艦載機を繰り出す
龍驤「! あのデカブツの後ろから艦隊が接近してるみたいやで! ……やったで! 味方艦隊や!」
提督「本当か!? ……よし、なんとか助かったな」
大井「遅くなったわね。……中佐は無事逃げられたのかしら?」ドシュドシュッ
やってきた味方艦隊の雷撃によって北方棲姫は大きく態勢を崩す。
陸奥「さて……止めを刺すわよ!」
すかさず砲撃を叩き込む陸奥。ついに北方棲姫は深海に沈んでいった。
・・・・
大井「私はあの後、三雲大佐を助けに行ってたの」
大佐「幸いにも、処刑を任された人間が顔見知りでね。……私もつくづく悪運が良い。ところで、これは何があったんだ?」
提督「事の顛末を話すと長くなりますが……」 これまでの経緯を話す
大井「そう、中佐は亡くなったのね……わたし、ちょっと離れるわね」
そう言って立ち去った大井。人気のない所で泣いているのかもしれない。
大佐「何にせよ、よく頑張ってくれたね。……私の都合で、だいぶ君に辛い思いをさせてしまった」
提督「いえ、貴方のおかげで……そして今まで出会ってきた色んな人々や艦娘のおかげで、僕は少し成長出来たような気がします」
提督「人それぞれに歩んできた人生があって、色んな望みや理想を抱えて生きているんだって……」
提督「頭では分かっていた当たり前のことだけど、これまでの経験で、そのことを本当に理解することが出来ました」
大佐「そうか……。私からはもう何も言うことはないな。よくやった」
大佐「もう、これまでのように過去の出来事によって君が振り回されることはないだろう。今まで本当によく戦ってきたものだ」
大佐「私はもう隠居するよ。書類上は死亡したことになっているわけだしね。私の艦隊や中佐の艦隊は、なるべく君のもとに行くよう手配しておこう」
大佐「お疲れ様……さ、鎮守府へ届けよう」
提督(これで、終わったんだな……)
・・・・
磯波「提督……これ、返しますね」 提督の渡したお守りを手渡す
提督「ああ。それにしても、無事だったかい?」
磯波「ええ。私が大将の艦娘じゃないって気づかれそうになって焦ったこともありましたけど……このお守りがあったから」
磯波「それと、満潮にもお礼を言わなきゃ。満潮が、『身体を触れられないように』って教えてくれたんです」
提督「そうか……無事だったんだね。良かったよ」
磯波「朝潮の調子はどうですか? だいぶ思い詰めていた様子でしたけど」
提督「ああ、朝潮ならもう平気さ。彼女も……彼女なりに生きる道を決めたみたい。前よりもよく笑うようになったよ」
磯波「良かった……今度、また皆で遊園地に行きませんか?」
提督「そうだね……。やっとまた皆で過ごせるんだね。……」 突然上を向いて天を仰ぐ提督
提督「いや、幸せなことだな、と思ってね。ちょっとウルっときた」
磯波「ふふ、私も幸せですよ。また提督に会えて……良かったです」
磯波「大将の艦娘にシェルターに連れられた時、私、もうダメかもしれないって不安になったんです」
磯波「でも……私、信じてました。どんなことがあっても提督が助けに来てくれるって」
磯波「提督……私。私、ずっと提督と一緒に居たいです。提督がおじいちゃんになっても、ずっと」
磯波「だから……その、提督の、お嫁さんにしてもらえたらな……なんて」ゴニョゴニョ
提督「えっ!? ちょ、ちょっと待って! 今なんて」
磯波「聴こえてなかったんですか!? じゃあ内緒です、ふふ」
磯波(もし提督にその気があるなら……今度は提督の方から「愛してる」って言って欲しいな……)
----------------------------------------------------------------------
磯波の好感度+7.5*2(現在値48)
本日はここまで。
何のSSだっけこれーーー!?
何のSSだっけこれーーー!?
いつもみたく細切れで投下したくなかったのはまぁそんな感じのアレな理由です(何だそれ
///チラシ裏///
今週は著しく調子悪くて辛さがあります。他人から見て順風満帆でも当人の精神が安定してるとは限らないのよね。
頭がおかしくなりそうなので週末は早寝早起きで健康的な生活を目指します。あぁ部屋の掃除しなきゃ……。
先週の土曜で無事イベントを完走したので安心してSSの続きを書ける>>1です。
とりあえず次回の投下は今週の木曜日か金曜日あたりを予定しております~。
コンマ判定(エクストラでない) >> 2
01~58
59~98
ゾロ目
のいずれかで今後ちょっと分岐するかもしれないし、しないかもしれない。
////チラシ裏作戦////
今回のふ……渾作戦は>>1のような中堅プレイヤーにはありがたい難易度でしたね~。
資源消費量的にはあんまり有難くない感じでしたけれども……。
雪風のカットインでも耐えるとか空母水鬼硬すぎんじゃよ。
とりあえず無事朝雲もゲット。大鯨と浦風も回収して非常に良い感じです。
あとは天津風かなー。3-5だと出現率0.5%切ってるからここで取っとかないと辛いよねー。
E-2は資源消費的には優しいけどバケツには優しくないですね。ツ級が邪魔!
諸々終わり次第大型回すマンになります。備蓄? 知らない子ですね。
コンマ判定 >>+1
(01~58/59~98/ゾロ目で分岐)
上のレスで>>+2って書いたつもりがなっていなかったので↓のコンマで決定ってことで
>01~58/59~98/ゾロ目で分岐
>2014/11/20(木) 09:19:50.55
アッ
とりあえず本日分を22時頃から投下(予定)。待たせたわりにあんまり進まないですけれども。
////チラシ山////
山城改二ですよ山城改二!! オンラインメンテなんて粋なことしますねー。何にせよありがたい。
早速改二にしておきましたよフフフ。
提督「皆……ただいま!」
皐月「司令官……! 磯波……! おかえりっ!!」
満潮「これで、終わったのね。……司令官と会ってから、長いようで短かったわね」
如月「色々あったけど、こうして終わってみると……なんだか感慨深いわね」
電「今日はお祝いなのです! こうしちゃいられないのです!」
・・・・
電「司令官さんと磯波が無事帰ってきたことを祝福して」
電「そして、こうしてまた皆で一緒に居られることに感謝して……乾杯!」
一同「乾杯!」
電「うう……やっぱり電にはこういうの似合わないと思うのです」
如月「そうかしら? わりと様になってきたんじゃない?」
電「またそうやって如月はからかって!」
如月「あら、からかってないのに。素直に褒めてるのよ?」
電「むぅ……それはそれで恥ずかしいのです」
皐月「あっ、司令官。祝いの席で水杯なんて縁起でもないからやめなよ」
提督「えっ? これだめなの? お酒はアレだしジュースって気分でもないからさ」
皐月「それは仲間と今生の別れをする時に交わすものだよ。司令官はこれから出世していくんだから、よーく覚えておかなきゃ!」
提督「出世するかどうかはともかくとして……。じゃあ、やめておくよ。お茶にしようかな」
磯波「あっ、私淹れますね」
・・・・
満潮「宴会でお茶ってのもどうなのよ……」グビグビ
提督「未成年がお酒飲んでるのもどうかと思うな……見逃すけどさ」
満潮「あら? 私今年で24歳だけど?」
提督「えっ」
如月「えっ」
電「えっ」
満潮「えっ」
満潮「何よその反応は……。艦娘になってからは歳を取らないんだから当たり前でしょ?」
磯波「知りませんでした……」
朝潮「そうだったんですか」
提督「また一つ知られざる驚愕の事実が……」
満潮「……何よ、もう」シュン
満潮「悪かったわね! 幼くて!」グビッグビッ
如月「そんなに飲んだら酔い潰れるわよ?」
----------------------------------------------------------------------
全員の好感度+6(ステータスや秘書艦による±補正なし)
電 :52
皐月:40
磯波:54
如月:37
満潮:62
朝潮:48
磯波「そのに時提督が駆けつけてあの北方棲鬼を倒したんですよ!」
鎮守府に帰ってくるまでの話をする磯波。
提督「僕が倒したみたいな言い方はやめてよ。ただ、僕の推測が当たって、大将や大佐の艦隊たちがうまく立ち回ってくれたからどうにかなっただけさ」
如月「あらあら、謙遜しちゃって」
提督「あの時は珍しくイレギュラー要素が無かったのも大きいかな。……もちろん戦闘中に限っての話だけど」
提督「大将に連れられて来た時にはもう訳が分からなかったよ。ただ、どんな状況になっても対応出来るように、冷静になれるよう心がけていたかな」
提督「冷静になれていたかどうかはともかく……こうして無事帰ってこれて良かったよ」
提督「磯波も、ありがとう。君のおかげで生きて帰ってくることが出来た」
磯波「お礼を言うのは……私の方ですよ」顔を赤らめる
フゥーンと満潮が荒い鼻息を鳴らす。
提督「? どうした満潮?」
満潮「べ・つ・に! なんでもないわよーだ」グビグビ
電「酔ってるのです?」
皐月「酔ってるね」
満潮「酔っ払ってなんかないわよ~……やってらんないわ」フラフラと立ち上がる
提督「おい危ないってば!」転びそうになった満潮を抱きかかえる提督
提督「どうやら満潮は相当酔いが回ってるみたいだ。ちょっと寝室まで運んでくるよ」
満潮「酔っ払ってないってばー」いわゆるお姫様抱っこで運搬される満潮
・・・・
提督「……ッ!(まだ身体が痛むな……生身の人間が戦艦に殴られれば当たり前か。多少手加減はされてたんだろうけど……)」
提督(抱っこなんてするもんじゃなかった……)敷布団の上に満潮をそっと下ろす
満潮「……どこか痛むの? 辛そうな顔してる」
提督「ああ、ちょっと負傷してね」
満潮「そう……。貴方が生きていて、本当に良かったわ」
満潮に布団をかける提督。提督の顔が近づくと、彼の後頭部に手を伸ばして自分の顔に引き寄せる満潮。
目と目が合う。息が重なる。
提督(近い……)
満潮「……ねえ。貴方は、これからどうしようと思ってる? どうしたいの?」
満潮「わたしはね…………」
思わず息を呑む提督。咄嗟のことでまだ状況を理解出来ていない。
提督「?」
満潮「ううん、なんでもない」
パッと手を離す満潮。
提督「? ……そうか。おやすみ、満潮」
満潮「おやすみ……」瞼を閉じる満潮。提督は部屋を出ようとする。
満潮「……大好き」ボソッ
部屋の外で、ずれた帽子をしっかりと被り直す提督。
提督(何だったんだ……今の)
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満潮の好感度+5(現在値61)
本当はなにげにもう少しストックがあるのですが今日はこの辺りで一旦切ります。
ゾロ目ねぇ……そうねえ……。出さないと思ってたんだけどねぇ……。
こういう時はエクストライベントで少し時間を稼ぎつつうんぬんかんぬん(発想がこずるい)。
次回のエクストライベント判定
その1:コンマ値が50以上orぞろ目で発生(>>+1)
その2:コンマ値が62以上orぞろ目で発生(>>+2)
その3:コンマ値が55以上orぞろ目で発生(>>+3)
というわけで>>+1->>+3にわたってコンマでほにゃららです。
////チラ氏////
最近2048というブラウザゲーにはまりました。わりと有名らしいんで知ってる人は知ってるかもしれません。
気がついたら何時間もやっていて時間浪費感がパないです。悔しい、でもハマっちゃう。
某クリッカーといい、ひたすら数字が増えていく系のゲームは人間を堕落させますナ(しかしそういうゲームが好きなのである)。
>こういう時はエクストライベントで少し時間を稼ぎつつうんぬんかんぬん(発想がこずるい)。
>2014/11/20(木) 23:43:07.06
>2014/11/21(金) 07:40:50.52
>2014/11/21(金) 08:27:33.15
全弾不発……だと……。まぁ『以上』って書いたから起こり辛いのは仕方ないんだけれども(本当は以下って書いたつもりだった。“つもり”だったのだ……)
それでは続き~……は明日21時頃投下予定(特に何も問題がなければ)。
////チラシの裏////
Bismarckキタコレ!!!!11!!1!1Bismarckですよ!!!111!1!1
こいつはありがてえ。残るは大和・大鳳・伊401・能代、か……結構多いな。
ボーキを死ぬほど喰う大鳳と満遍なくゴッソリ削っていく大和が鬼門ですね……。
伊401と能代は多分次のイベントでもS勝利ドロップなんかでゲットできる(とか勝手に妄想してる)のでそんなに焦らんでも良いでしょう。
提督「……………………」
皐月「どしたの司令官? 渋い顔して」
提督(『提督……私。私、ずっと提督と一緒に居たいです』『貴方は、これからどうしようと思ってる? どうしたいの?』……)
――『私には貴方しか居ないの。ずっと私と一緒に生きていて欲しいの』なんて言われたら、貴方はどうするつもり?
提督(うーむ……どうしたもんかな……)
皐月「司令官、大丈夫かい?」
提督「あっ、うん。まぁ、大丈夫ではあるんだが」
提督、辺りをキョロキョロと見回す。
提督「すまないが、ちょっと相談に乗ってくれないか?」
皐月「いいよー! 任せときなっ」
・・・・
提督「いやね、その……。着任した頃と比べるとだいぶ艦隊の皆と仲良くなれたのは良いんだが」
皐月「あはははっ! 初めの頃の司令官はちんちくりんだったからなー」
皐月「ちょっと背が伸びたんじゃない? 声も低くなった気がするし」
皐月「心なしか顔もシュッとしたよね。なんていうか、色々乗り越えてきた感じがするよ」
提督「ありがとう、なんか恥ずかしいな。いやね、相談の内容は……」
提督「これは、その、僕の思い上がりかもしれないんだけれど……。どうも最近艦隊のうちの何人かから主従の関係を超えた感情を向けられているような気がするんだよ」
皐月「ンー……回りくどい言い方だね。つまり、司令官はモテモテだってこと?」
提督「いや、僕が勝手にそう思ってるだけなんだけれども……というか、モテモテでもないし……。ただ、有り体に言えばその事でちょっと悩んでる」
皐月「イヤなの?」
提督「嫌じゃないが……正直、好意を向けられた所で、どうしたらいいか分からないよ。僕の立場は不安定だし、そもそもこれからも提督としてやっていけるかも不安だし」
提督「それに……この戦いが終わったら。僕と君たちとの関係は無くなるからさ。それなのに、関係を繋ぎ止めるような真似をしても良いんだろうかって思うんだ」
皐月「ケッコンカッコカリという制度がある。……小馬鹿にしたような名前だけど、“海軍内では”婚約関係として認められるようだ」
皐月「上に申請すれば貰えるみたいだ……もっとも、ケッコンカッコカリをするためには高い練度が必要とされるらしいけど」
皐月「ただ、カッコカリとはいえまがりなりにも婚約だ。そういう関係になってしまえばたとえ戦いが終わっても一緒に居ることは出来るんじゃないかな」
皐月「さすがに艤装や装備は没収されると思うけどね。……司令官が望むなら、いっそそういうのもアリなんじゃないかなーと思うよ」
皐月「なんならボクとするかい? ケッコン」
提督「む」
皐月「ジョーダンだよ」
提督「分かってるって」
皐月「気になっている子が居るなら、自分から距離を詰めてみるのもいいんじゃない? ケッコンどうこうは抜きにしてね」
提督「って言われてもなぁ……今までそんな目で見てなかったから、うーん」
皐月「司令官も案外奥手だねぇ~……。ま、焦ることでもないさ。ちょっとは自分の気持ちと向き合ってみたらどうかな?」
・・・・
提督「自分の気持ちと、ね……」 ポケットに手を突っ込みながら廊下を歩く
電「あっ、司令官さん。話があるのです……」
提督「ん? どうした」
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皐月の好感度+5(現在値45)
電「司令官さん……私、何か変われましたか?」
提督「え……?」
電「司令官さんは、たくさん悩んで、たくさん迷って……でも、成長して前に進んできたじゃないですか」
電「私はどうなのかな、って思うのです。司令官さんから見て、電はどうでしたか?」
提督「変われた……んじゃないかな。出会った頃より、なんていうか、芯が強くなった、というか……上手く言い表わせないけれど」
電「そうですか……」
電「私は……。自分では、何も変わらなかったと思ってるのです。いや、何も変えることが出来なかった」
電「司令官さんと会った時、私、きっとこの人の下でなら自分を変えることが出来るかなって思ってたんです」
電「……艦娘になる前のことは憶えていないけど。私、いつも泣き虫で……弱くて。お姉ちゃんに守ってもらってばかりだったのです」
電「ずっと変わらなきゃって思ってたのに。だから、司令官さんに会った時に、私の夢をのことを話したのに……」
電「結局、何も変われなかったのかなって思うのです」
電「……ごめんなさい。自分の中で結論が出てる話なのに呼び出して」
提督「僕はそうは思わないけどね……。電は立派にやってくれているよ」電の頭を優しく撫でる
撫でられた手をそっと払う電。
電「でも、何だか……このままだと、司令官さんが、私の手の届かないどこか遠くに行ってしまう気がして」
電「私は、司令官さんのことが好きだから……ずっと、ずっと一緒に居たいから……」
電「電……もっともっと頑張ります! 司令官の隣に並んでも恥ずかしくないぐらい、立派になってみせるのです!」
電「だから……少しだけ、待っていて欲しいのです……!」
電の真剣な眼差しが突き刺さる。目を潤ませているものの、その瞳はギラギラと輝いているように見えた。
提督「ああ。待ってるよ……」
そう言って再び電の頭を撫でる提督。
提督(でも……きっと、君がこうして僕に、自分の抱いている感情を伝えることが出来ているというだけでも)
提督(君は自分の中の何かを変えることが出来たんじゃないかな……)
・・・・
電「はわわ……ち、違うのです。こんな話をするつもりじゃ無かったのです」
電「ただ、司令官さんから見てどう見えているか聞きたかっただけなのに……なんだか気持ちを抑えきれなくて……」
電「恥ずかしいのです……」
電「司令官さん。電のこと……」
電「……やっぱり、今聞くのはやめるのです」
提督(……薄々感づいてはいたけれど、な)
提督(こういう時、僕はどうすればいいんだろう?)
天を仰ぐ提督。ふと外の景色が目に映る。窓の外は雪が降っているようだ。
廊下を並んで歩く提督と電。
提督「そういえば……君たちと最初に会ったのは夏だったね」
電「随分前のことに思えるのです」
提督「ここに来る前はどうしてたの? 士官学校に居たってのは知ってるけれど」
電「電は……うーん。特に何か話すこともないですね……」
電「私が艦娘になりたての頃は、雷という姉がいつも私のことを可愛がってくれてましたね。……今も元気にしてるのかなぁ」
提督「それはつまり……実の姉ってこと?」
電「はい、多分。艦娘になる前の記憶はほとんど無いのですが……どうにもそうみたいなのです。後から書類で知って驚きました」
電「姉妹といえば……司令官さん、ここに来た時面白い勘違いしてましたね」
提督「蒸し返さないでくれって。姉妹艦だからって実の姉妹とは限らないって知らなかったんだからしょうがないじゃない」
電「その理屈だと吹雪型や陽炎型がえらいことになってしまうのです……」
提督「どんな艦種や艦型になるかっていうのは、適性によって決まるものなの?」
電「そうですね……基本的にはそうみたいです。後から変わる子も居ましたけど」
提督「なるほどね。最初に艦娘を生み出した人は、どうやって個々人の適性とかを発見したんだろう。……それを言い出したらどうやって生み出したかも気になるところだけど」
電「艦娘が生まれたのが、ええと確か公式文書では34年前だったはずだから……。ひょっとしたら存命かもしれませんね」
提督「ふむふむ……。しかし、奇妙だなぁ」
提督「艦娘の艤装は妖精しか作れないじゃない? でも妖精っていうのは基本的に人間の命令を理解して実行する、いわば高度な人工知能のようなものなわけで……」
電「人間の求める結果を提示してやり、その過程を例示してあげると、自分なりに思考・効率化して成果物を生成したりサービスを提供したりする……」
電「従来のコンピュータやロボットと違ってプログラミングの必要が無く、独自の学習能力を持った労働装置……とかそんな定義だと習った気がします」
提督「そう。妖精っていうのは思考能力や経験知を活用することが出来るけど、意志や目的は持たない。だから、新しい何かを発明することは出来ないはずだよね」
提督「と、いうことは最初の艦娘は間違いなく人間の手によって生まれたはず。例のチップもそうだろう」
提督「艦娘を作った人……まぁ個人で作ったはずは無いんだろうけど、一体どんな人だろうかと気になってね」
提督「艦娘を作ったのも勿論のこと、その製造方法を妖精に理解させたっていうのは、よほど妖精について詳しく知っている人間じゃないと無理だと思うんだ」
電「というと……?」
提督「ドックや工廠で働く妖精たちの様子を見るに、相当複雑なことをやっているから人間じゃ真似出来ないって思ったんだよ」
提督「うちの工廠はボロくて使い物にならないけど……っていうか、よくよく考えたら前任の提督が居たにも関わらず工廠がほぼ使い物にならない状態っていうのはおかしいよね?」
電「それは前任の提督に聞くしかないのです」
提督「じゃあ無理か……って話逸れたね。いや、妖精の技術はとても人間業じゃないなと思ったわけですよ」
提督「でも妖精の技術の根底にあるのは人間の過去の発明なわけで……。そんな人類の歩みを妖精に理解させることが出来るような天才がこの世に居るのかなーというのが僕の疑問なのですよ」
電「はい(なんでちょっと目がキラキラしてるんです……?)」
提督「あ、ここからの話はトンデモな妄想話ね。そこで僕の中では一つの仮説という名の妄想が浮かんだ」
提督「妖精を発明し、それから数年で突如歴史の表舞台から姿を消し消息不明となった……天之教授という人物だ」
提督「歴史の表舞台から姿を消したと言っても、死が確認されたわけじゃない。ひょっとしたら彼が艦娘を作ったんじゃないかってね」
電「妖精が発明されてから艦娘が誕生してからだと……ええと、ざっと53年ですか。可能性はゼロじゃないけれど……流石に無理がある気がするのです」
提督「だよなー。妖精を発明した時の天之教授の年齢が確か34だか35だったっけ。90歳っていうと万が一生きていたとしても耄碌してそうだね」
電「深海棲艦が初めて観測されたのが2099年で、そこから艦娘が誕生するまでの十数年の間……ごく初期には関わっていた可能性はあるかもしれないですね」
提督「ま、そうだったにしても今は生きてないだろうから真実は分からないけどね」
提督「全てが終わっても、大将はどうやってチップを操っていたんだろうとか、それをどうやって知ったんだろうとか、謎が残るなと思ったんだ……」
提督「今となっては万事が丸く収まったから別になんでも良いっちゃ良いんだけど、ね。ちょっと気になるってだけさ」
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電の好感度+9*2(現在値70)
エクストライベント発生
>>+1(コンマの値が48以上orぞろ目で発生)
エクストライベント未発生なら本日の投下はここまでになります。
……と思ったけど眠気的に限界が来たので今日はここまで。
>>286のエクストライベントは>>+1で(コンマの値が48以上orぞろ目で発生) 。
ぶっちゃけチラシの裏に何かを書く余力すらないレベルで疲弊している。これでまだ水曜日ってのがな……。
もうちょっとで終わるしそろそろ各艦娘に関するメタ的視点でのあれこれ書くのを解禁しちゃっていいかもしれん。
と言ってもあくまで本編優先だけど。何にせよ今は体力が無いので寝ます。
一応続きはある程度書けてるので、明日もある程度の所まで投下出来そう……かな? 微妙。
>2014/11/26(水) 23:04:50.11
おっ、では次回の投下はエクストライベントから。
……残念ながら今日は投下できないのです。明日21時頃に投下いたします(リアルがアレなので最悪明後日に延期するかも)。
さって、そいじゃ行きますかっと!
ちょいと投下間隔が疎らになるけれどお許しくだされ(と言いつついつもと同じぐらいかも)
さって、そいじゃ行きますかっと!
ちょいと投下間隔が疎らになるけれどお許しくだされ(と言いつついつもと同じぐらいかも)
朝潮「司令官、司令官!」
提督「むにゃ……。あれ? 寝てた?」
提督「いやーこの時期は風呂に入るとどうも眠くなってしまってね」
朝潮「浴槽で眠るのは危険ですよ。それから、これを。風呂上がりに私が飲む予定だったのですが……水分補給にどうぞ」
朝潮からフルーツ牛乳を手渡される。
提督「ん……ありがとう。気が利いてるね」ゴクゴク
提督「……ところで、何で朝潮がここに?」
バスタオル一枚に身を包んだ朝潮を物珍しそうにじっと見る提督。
朝潮「いえ、お風呂に入ろうとしたら司令官が居たものですから……」
少し気恥ずかしそうに顔を赤らめる。
提督「ん、ああそうか。交代の時間を過ぎていたか……そんなになるまで寝ていたとは不覚だったな」
提督「ごめん、すぐに出るから……」
朝潮「あ、いえ。司令官はそのままで大丈夫です……ゆっくり浸かっていて下さい」
朝潮「司令官と一緒に入っても大丈夫なように、バスタオル巻いて入りますから!」
提督「え? あぁ(なにゆえ一緒に入る前提なのさ……話したいことでもあるんだろうか)」
・・・・
提督「どうしたの? 身体、洗わないの?」
シャワーの湯を出して身体を濡らしているが、一向にバスタオルを取ろうとしない朝潮。
朝潮「…………」
提督「裸を見たいとかそういうやらしい意味で言ったんじゃないんだ。そうだよね、いや失礼。見ている僕が悪いね! 洗っている間後ろ向いてるよ」
提督「洗い終わったら言ってね!」
提督(我ながらデリカシーに欠ける……というか、そもそもこの状況がおかしいんだが……風呂から出るに出づらい妙な雰囲気に……)
朝潮「しれいかん……」小声で囁く
朝潮「……背中、流してくれませんか?」
提督「!? ……えっ? えっ、僕は良いけど……良いわけ?」
・・・・
纏っていたバスタオルを脱ぎ捨てる朝潮。
朝潮「……ずっと、憧れていたんです。こういうの」
朝潮「背中に傷があるから、本当は司令官には見せたくなかったんです。だから、バスタオルなんか巻いていたんですけど……」
朝潮「司令官になら……。いえ、なんでもありません」
朝潮の濡れた髪が、艶々と綺麗に光っている。
提督は、朝潮の古傷でいっぱいの背中を、そっと優しく撫でるように拭いていく。
朝潮「……本来なら、艦娘になる前に受けた傷なんて、艦娘になった後も残っているはずが無いんです」
朝潮「形は人間であっても、中身は列記とした兵器ですから。それでもなお残り続けているのは、私が艦娘になる前の精神の影響が強い、と……艦娘になりたての頃にそう伝えられました」
朝潮「私は……艦娘になる前の記憶を全く覚えていませんが、背中の傷に触れると、すごく嫌な気持ちになります。今でも少し……」
朝潮「この傷は……かつての私の精神が未熟だったせいで艦娘になってもなお残り続けている呪いのようなものだと……そう言い聞かせてきました」
朝潮「司令官から見たら、何ともないただの傷かもしれないでしょうが……。私にとっては、恥ずべきものであり、忌々しく思っていました」
どうして自分に触れさせているのか、と言いたかったのだが、雰囲気に呑まれて言葉が出てこない提督。
朝潮「私は、ずっと……自分を肯定してくれる人を探していたのかもしれません。ひょっとしたら、艦娘になる前から、ずっと……」
朝潮「認めたくはないけれど……寂しかったんだと、思います……。弱い自分が嫌いで、そんな自分を消してしまおうと足掻いていました」
朝潮「でも、こうして司令官と一緒に色んなことを乗り越えてきて、それは違うんだなって思うようになったんです」
朝潮「私は、弱い……普通の人間です。心を殺して兵器の振りをしても、自分の心からは逃げられないんだなって……」
朝潮「今でもそんな弱い自分が許せないけれど。でも、司令官と一緒なら、乗り越えていけそうな気がして……」
朝潮「司令官となら……この傷ですら、いつか受け入れられる日が来るって。そう思うのです」
こちらを振り向く朝潮。澄んだ瞳で提督を見つめる。
朝潮「すみません、私の感傷に司令官を付き合わせてしまって」
背中の傷に覆いかぶさるように朝潮を抱き包む提督。振り向いた朝潮の顔とは反対の側に顔を俯けている。
提督「…………今まで、君の辛さに気づけなくて、すまなかった」
熱いシャワーの流水と、朝潮の体温が身体に伝わる。
朝潮「良いんです……謝らないで下さい。私は、司令官のおかげで変われたのですから」
朝潮「ありがとう、ございます……。安直な言葉ですけど、口下手な私には……今の自分の気持ちを表す言葉が、これしか浮かびません」
朝潮「司令官の傍に居て、辛いことも悔しいことも多く経験しました。けれど、今振り返ってみると、これで良かったんだなって思います」
朝潮「私は一人ぼっちなんかじゃない。司令官が居て、艦隊の皆が居るんだって。そう気づけたことを幸せに思います」
朝潮「そう気づかせてくれた司令官を、かけがえの無い存在に、思います……」
朝潮が提督の方に顔を向ける。目が潤んでいる。じっとこちらを見つめている。
満潮「こおおぉぉぉぉらああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
・・・・
満潮「何でこの時間にアンタが居るのよ!? どういうことなの!?」
提督「あ……いや……これはそのう……」
朝潮「司令官が湯船で寝ていたので、私が起こして、ついでに背中を洗ってもらっていました!」
満潮「なるほど……て、なんでそうなるのよ!? アンタもアンタで、どうしてホイホイと引き受けちゃうのよこの助平!!」
提督「返す言葉もございません(傍から見ればそうだよなぁ……)」
如月「それにしても、もうちょっと見守っていても良かったんじゃない? わざわざあんなに良い雰囲気だったのに割って入るなんて……ねぇ満潮ちゃん?」
提督(見られてたのか……)
満潮「うるさいわよ!! それ以上喋ったらコロス!!」ポイポイポイ ドガアアアアアア
提督「お、オイ! 馬鹿やめろ!! 爆雷投げんな!! こっちに投げんな!!」
皐月「ハハハッ、いつにも増して愉快なバスタイムだね」降り注ぐ爆雷を避けながら
朝潮「演習ですね、分かります!」全速力で逃げながら
如月「違うと思うわ……」タオルを使って爆雷を弾き飛ばしながら
満潮「反省しなさいよ! 今後はこんな事が起こらないように!!」
如月「やっとほとぼりが冷めたわね……」
満潮「また吹っ飛ばされたいのかしら?」
如月「え、遠慮しときまーす」
提督(で、なんで僕は未だに風呂に入ったままなんだ……いつになったら出れるんだ……)
提督(とにかく、平静さを取り戻そう。落ち着かなきゃ……)ブクブク……
朝潮「司令官! それは行儀が良くないと思います」
提督「いや、これも作戦行動の一つで……」
提督(そもそも風呂に行儀なんてあるのか……?)
朝潮「からかわないで下さい!」
皐月「朝潮もだいぶ司令官のことが分かるようになってきたねぇ」クスクス
如月「それで、司令官はどう思ってるの?」
提督「それはどういう……」
如月「ここの艦隊に居る子を、どういう目で見てるのか聞きたいのよ。……単刀直入に聞くわ。誰が好きなの?」
提督「えっ」
満潮「えっ」
皐月(おっ、これは面白いぞ……! さぁどういう回答をするんだい司令官?)
如月「しらばっくれてもダメよ。居るんでしょ、気になってる子ぐらいは」
満潮「ね、ねぇ、その話今しなくても良くない?」
皐月(普段強気な満潮が一転して弱気に……! よっぽど司令官のこと好きなんだねぇ)
如月「あら、貴方の好きな司令官の内心が聞けるチャンスなのよ? 聞かなくて良いの?」
満潮「ぐっ……。好きなんかじゃ、ないわよ……」顔を赤くしながら提督から目を逸らしている
如月「素直じゃないわね」
朝潮「わっ、私も……今は。今は、聞きたくないです。その答え」
朝潮「でも、もしも私を……いえ。なんでもありません」
如月「あら? 皆ノリが悪いのね……。ならいいわ」
如月「この後、司令官に聞かせてもらうことにするわね。一対一でお話しましょう?」
提督(如月……!)ブクブクブクブク
皐月(おお、如月も攻勢に出たな! 満潮が目に見えるほどにうろたえている! 朝潮も少し不安げな表情を見せる!)
満潮「いいわ、好きにしなさい……」震えた声で呟く
・・・・
提督「なんというか……えらい事に……」
皐月「如月のあの様子だと当たり障りの無い返事じゃきっと……ねぇ?」
提督「覚悟するしか、無いよなぁ……色々と」
皐月「居るの?」
提督「……今は、まだ内緒だ。恥ずかしい」
皐月「シャイだねえ」
提督「やかましい」
----------------------------------------------------------------------
朝潮の好感度+5(現在値53)
満潮の好感度+5(現在値66)
皐月の好感度+5(現在値50)
提督「……如月を見なかった? 呼ばれてたんだけど」
磯波「いえ……何かご用ですか?」
提督「呼ばれてるんだ。待ち合わせの場所に行っても居ないんで探してる」
磯波「そうですか……。さっき工廠に行くところを見かけましたが……」
提督「そっか、ありがとう。行ってくる」
・・・・
提督「工廠に来たのはいいが、何だ……? 誰も居ないじゃないか……」
ガゴンッ!
提督「何の音だ? 工廠の奥の部屋から物音が……」
ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!!
提督「銃声!? 一体何が起こっているんだ……如月!」ガチャッ
如月「司令官……逃げて!」
武装を身に纏う如月。血塗れた姿で立っている。
部屋の最奥にある水槽のガラスは砕け散り、水が流れ出ている。
背中がバックリと裂けた深海棲艦の――駆逐イ級の死骸が部屋に横たわっている。
かつて雷という駆逐艦だったという深海棲艦だ。死骸の中には、モニターや小型の機器が詰め込まれていた。
そして……如月に対峙しているのは、深海棲艦――戦艦レ級と呼ばれる艦種。
体格こそ人間大ではあるものの……間違いなくコイツは敵である、と提督は瞬時に察知した。
提督「何があった!?」
如月「説明は後よ! 逃げて!」
提督「いや、君を置いて逃げるわけにはいかない!」
レ級「おっ、本丸が来たな。予定変更! そっちが先ッ!!」
提督の喉元をレ級の爪が掠める。
レ級「恐怖したか? 死ぬのは恐ろしいか?」
提督の首から、一滴のツーと血が流れる。レ級が間髪入れずに提督の首を締め上げる。
提督「お前は、何者だ……」
レ級「これから死ぬのにそんなことを知って何になるのカナァ~?」
如月「貴方の相手はッ! この私よッ!!」ダダンッ
レ級「今良いとこなんだから……邪魔するな!!」バゴォッ
如月の放つ機銃を物ともせず、レ級は如月を蹴り飛ばす。
提督「如月!!」
レ級「他人より自分の心配をしたらどうかな?」
一歩一歩、わざとらしくゆっくりと提督との距離を詰めていくレ級。
提督「ッ……!」バンッ! バンッ!
レ級「ナァナァナァ……。さっき機銃が全然聞いてなかったの見たろ? 鉄砲なんか聞くわけ無いジャン」
レ級「仮にも軍人だろ? しっかりしろよなぁ……恐怖で頭がやられたのか? ガッカリだ、全くガッカリだな!」ゴシャアッ
レ級の振り下ろした拳を間一髪で避ける提督。鉄板で出来た床に穴が開く。
レ級「あーあー。そんなんであの大将を差し置いて生き残っちゃうなんてなー。運が良かっただけかー。期待はずれすぎるゾォ~?」
提督を挑発するように間延びした話し方をするレ級。提督は腰を抜かしながらも後ずさる。やがて壁にぶつかり、逃げ場がなくなる。
レ級「さ、どうやって殺して欲しい?」
提督(時間を稼げるのはここまでか……音に気づいて誰か来ると思ったがそんなはずもないか)
レ級「じゃ、サヨナラだ」ドゴオオオオオオオオオン
如月の放つ雷撃が炸裂。
如月「言ったでしょ? 貴方の相手は、この私って。見くびらないで欲しいわね、私を。そして私の司令官も!」
如月「大井さんから貰ったこの五連装酸素魚雷で、決着をつけるわッ!」ドゴオオオオオオオオオオオオオオオ
レ級「チッ! これはまともに食らうわけにはいかないか! うおオオッ」
駆逐イ級の死骸を盾に雷撃を受け止めるレ級。
レ級「あとで食べようと思ってたんだがナ……もう食べれそうな所残ってないか」
雷撃を受けズタズタになった駆逐イ級をポイと投げ捨てる。
如月「まだよ!! 次発装填……!」
再び魚雷を構える如月。だが、既にレ級が眼前に迫っている!
レ級「バカめが! 同じ手は二度食らわないッ! 次の一撃が来る前に仕留めてやる……!」
如月「ッ!!」
如月の首を掴み、壁に叩きつけるレ級。
如月「ぐッ……あッ、あッ……。フ、フッ……。見くびらないで、欲しいわね……ッ!」
レ級「その強がりがあと何秒持つかな?」首を締め付ける力をさらに強めるレ級。
如月は、自分の意識が途絶える寸前に、ニッと笑った。そして、魚雷発射管を握りつぶし、その場で爆発した。
レ級「ぐッ…………オオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!!」
・・・・
提督「如月……? 如月!? 無事か!?」倒れている如月に駆け寄る提督
如月「ふふ……最後に見るのが司令官だなんて……私は幸せ者ね」
如月「私じゃない誰かと……幸せになって、ね……しれい、かん」
提督「如月!? 如月ィィィーーーー!!!!」
穏やかな表情で目を閉じる如月。
レ級「はーっ、はーっ……。ッうウ、とんでもないことしでかすナ……」
レ級「いくら戦艦レ級の身体とはいえ、まだ生成が不完全だから普通に痛いナ」
瓦礫の中から這い出てくるレ級。提督はキッとレ級を睨みつける。
レ級「おいおいそんなに睨むんじゃないよ。アンタら人間と同様、“自分が生き残る為にやった事”でしょーがァ?」
レ級「そして、多分アンタもここで生かしておくとやがてアタシの不利になるだろう……死んでもらうよン」
提督の背後に移動し飛び掛るレ級。成す術もなく組み伏せられる提督。
レ級「いや~……良い部下じゃないか。泣かせるね!」提督の頭を床に叩きつける
レ級「見てたよ。アンタの今までの行動全部」
レ級「ここの水槽の存在に気づかれた時は焦ったが……アンタが間抜けで助かった。敵を水槽の中で飼育してるだなんてアホ極まれりだよなァ」
レ級「そもそも不審に思わなかったのか? 清浦中将の飼育してた深海棲艦はアタシが入ってた駆逐以外皆死んでるってのに、一体だけ生き残りがあるだなんて」
レ級「ま、こっちとしちゃ助かったけどね。身体の生成が終わるまで生き残れたどころか、邪魔な連中を全部排除してくれちゃうんだもの。嬉しいねえ、最高だよ……ウフフ」
提督「お前、ただの深海棲艦じゃないな……何者なんだ」
レ級「フフフ? 知りたい? 知りたい? 知りたい? 知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい?」ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン
提督の頭を執拗に叩きつける。
レ級「良いこと思いついちゃった。冥土の土産に教えてあげるかわりにィ~……簡単に死なないでね?」
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如月の好感度+5*2(現在値47)※>>294で如月の加算分を忘れてたのでここで加算
レ級「この鎮守府内の様子や各鎮守府内の動向をあの駆逐の中から見ていたよ。……アンタの妄想通り、艦娘を作ったのは妖精の産みの親……そしてそれはこのアタシだ」
レ級「正確には、アタシの中にある記憶の持ち主だナ。天之教授、だっけカァ? 妖精を開発した天之教授は、深海棲艦登場後に軍に協力するようになった」
レ級「で、紆余曲折あって追放された。そもそも学者と戦争屋じゃ意見が合わなかったみたいでネ~。追放後間もなくしてその教授は寿命で死んだよ」
レ級「ただ、天之教授は秘密裡にチップを軍より先に完成させていた。そのチップは今出回ってるチップよりも遥かに高度なもので、精神を完全に支配し、記憶を移すことだって出来る」
レ級「そのチップを使って自分を追放した物部元帥に……憑依? って感じだな。物部元帥を中心にチップの導入や艦娘の開発が行われていった」
レ級「が、その物部元帥もアンタも知る三雲大佐に暗殺されちまった。元帥が死の直前に講じた策が、他人のチップに自分の記憶や思考を拡散させるという方法だ」
レ級「ただ、所詮国家で量産された粗悪品のチップ。こうするしかなかったとはいえ、失敗だったな。結果として物部元帥の記憶や意思の情報は藤原大将と清浦中将に伝播した」
レ級「藤原大将に関しては当初は記憶も精神も完全に支配していたようだが……数年しか持たなかった。その後は物部元帥の思想や意思が完全に追い出されてしまった」
レ級「ただ中途半端に記憶が残ったせいで、チップの操作する方法を知ってしまったらしいが、な」
レ級「もう一方の清浦中将も失敗だった。記憶は完全に継承されず、精神の支配にもやたら時間がかかった。完全に支配し切った直後に自殺されてこのザマだ」
レ級「奴はありとあらゆる対策を講じてきたため……かなり厄介だったよ。チップ内の精神情報を残すには、深海棲艦に遺伝子情報を植えつけるという賭けに出るしかなかった」
レ級「結果として生まれたのがアタシだ。清浦中将から得た遺伝子情報はチップの最初の記憶までの全てを保持していたが、精神はカスカスに劣化して使い物にならなかった」
レ級「だから肉体と精神は深海棲艦のアタシが生まれたってワケだ。勉強になったかなァ~?」
・・・・
レ級「じゃ、深海棲艦らしく人間を絶望の淵に沈めてあげようか」
提督の右腕をグイと掴み取るレ級。痛みで身体を動かそうとするも、レ級が背中の上に乗っているため動けない。
レ級「フフフフ……いやー深海棲艦って楽しいねぇ!」
ベキベキベキベキベキッ!
レ級は力を入れ提督の右腕を強く引っ張り……もぎ取った。
提督「がアアアアアアアアアアアアァァァ……アアァァアァアアアアアアァア」
レ級「フフフフフ、人間って腕が千切れるとこんな悲鳴を上げるんだ。おもしろーい」
レ級が提督から離れ、如月の方へ向かう。提督は腕を失った痛みで苦しみ悶え、のたうち回っている。
レ級「ほらー。腕だようでうでー?」
如月の顔の前にもぎ取った提督の腕を近づけるも、如月は目を瞑ったままでいる。
レ級「ちぇー! いつまで寝てんだよー! ムカつくなぁ……ムカつくなァ!!」ガンガンガンガンガンガンガン
如月の腹を何度も何度も踏みつける。
提督「やめろ……やめろオオオ!!!!」
腕の無くなった方の肩を押さえながら、提督がレ級に向かっていく。だが、痛みと恐怖で足が竦み、前のめりに転んでしまう。
レ級「バカだなぁ……やめるわけないでしょ? こんなに楽しいのに。ほら、よく見とけ? 今から面白いものを見せてあげるから」
ベキベキッ……ゴリュッ! ゴリュッ!
如月の顔の上で、提督の腕を内側の骨が突き出るほどの強さで捻っている。腕から出てくる血が、如月の顔を伝って流れ落ちる。
提督「やめろ……やめろ……」
レ級「いやあ、せっかく綺麗な顔をしてたから化粧してやっただけだよ。アンタの血でね!」ベキベキ
提督は、怒りで身体を震わせていた。腕を失った肩からは、その怒りを体現するかのように血が吹き出ていた。
レ級「次は、この腕の肉を食べさせてみるってのはどうかな? 如月ちゃんも食べたいって言ってるよォ?」
満面の笑みを浮かべるレ級。腕から肉の一部をちぎり取る。
提督の腕の肉片を如月の口元まで持っていこうとするレ級。
エディタの問題か知らないけどいつも改行が変になるなー。
今日はここまで。もうちょっと書きたいところだがたまには闇度の高い箇所で区切るのも良いだろう。
さてあと5レスなわけですが果たしてまともに終わるのか怪しくなってきてますね。
こんなギリギリのタイミングでぶっ込みまくりだしわりとマジで何やってんだ自分感半端ない。
いやでもなんとか終わる感じに持っていくアレは出来てるんだよ書けてないだけで! 書けてないんじゃ結局ダメじゃん! そして書けたところでそれ5レスでどうにかなるもんなのかという闇。
提督「ッ!」 タッタッタッ
レ級に駆け寄る提督。先刻までと違い、痛みも恐怖も意に介していない様子で、その瞳は怒りに燃えていた。
レ級「気でも狂ったか? 人間ごときに何が出来る?」
この時、レ級は提督が激情に流されて自分に殴りかかろうとしていると考えていた。だが、レ級の予想に反して提督は冷静だった。怒りこそすれ、彼の今までの人生の中で最も精神的に沈着でいた。
提督は、腕の千切れた方の肩を突き出して、その肩をわざと刺激して血を噴出させ、レ級の視界を塞ぐ。
次に提督は瞬時にピストルを取り出してレ級の口の中に銃口を突っ込む。躊躇いなく引き金を引く提督。ターン、と乾いた音が部屋に響く。
レ級「ガッ、ゲホッ……ゴホッ……!(馬鹿な、隙を突かれただと!? 人間相手に!?)」
口から血を吐くレ級。提督はうずくまっているレ級の目の前に立って見下ろす。
レ級「良い気になるなよ人間が……! この程度で死んじまうほどヤワにはできてない!」
提督は、レ級が態勢を立て直してもなおその場から離れる素振りを見せず、直立不動のままレ級を睨む。
レ級(なんだこいつ……なぜ逃げない? なぜ突っ立っている!? この状況で何故動こうとしない……?)
提督はこの時、レ級をいかに挑発し、正常な判断力を失わせるかの一点に集中していた。そしてその狙いは功を奏する。
レ級「クソ……人間のくせに、舐めた真似を! 痛ぶりながら殺してやる……」
提督の顔に手を伸ばすレ級。その手は提督の左目へ向かっていく。
提督(痛くない、痛くない……! 恐れるな、少しでも恐れを前に出すな……)
提督の左目に指を突き刺すレ級。目の周りの皮膚に指めり込んでいく。だが提督は一言も声を上げることをしなかった。
レ級(なんだこいつ……なんだこいつは……? なぜこっちを見据えたままでいられる!?)
提督はレ級の一瞬の動揺を見逃さなかった。お返しと言わんばかりにレ級の目に向けて弾丸を放つ。
レ級「があああああああああああッ!! ぐッ……ぐォッ」
提督(もう同じ手は通用しないだろう。一旦距離を置くッ!)
レ級「クソッ! クソッ! もういい、殺してやる! 今すぐにだ!!」
提督(もう回復しただと……! クッ、逃げる隙も無い!)
提督に猛烈な勢いで飛びかかるレ級。殺意を剥き出しにしたレ級が提督の首を手で貫こうとする。
皐月「させるかよッ!!」 レ級と提督の間に割って入る皐月
腰に携えていた白い鞘から刀を抜き、レ級を切りつける皐月。
皐月「司令官! 逃げてくれ。ボクなら心配いらない! ……今のボクは誰にも負けないさ。それよりも早く手当てを!」
無言で頷き如月のもとへ駆け寄る提督。両手に抱えて運ぼうとしたが、右手が無いことに気づき、仕方なく如月を引きずりながら部屋の外に出て行く。
レ級「逃がすか!」
レ級は提督を追おうとするが、仁王立ちの皐月に行く先を塞がれる。
皐月「悪いけど……今日のボク、すっげー機嫌悪いよ……」ゴゴゴ……
・・・・
提督「皐月! 無事か!?」
レ級「ぐぐぐぐグググググ……殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!!」ブオンッ!
皐月「そんなッ! 攻撃がッ! 当たるかよッ!」ダンッ! ダンッ! ズバァッ!
レ級が距離を置くと砲撃を放ち、レ級が距離を詰めると刀で斬りつける皐月。
レ級(まずい……増援か……! クソッ! この場で全員殺してや)
レ級、提督と目が合う。自分よりも痛手を、それも命を失いかねないほどの重傷を負っているにも関わらず、冷静に、冷徹にこちらを見据えている提督に対して、レ級はこの時生まれて初めて恐怖を感じた。
レ級(腕を千切られ目を潰されてるってのに、なんなんだこいつは……なんなんだこいつの狂気じみた執着は……!)
提督「満潮は皐月の援護を。電と磯波はここから二手に別れて逃走経路の遮断を。念のため朝潮は僕の傍に居てくれ」
レ級(……既に損傷著しい。武装も無い状態では、この不利な状況を覆すのは難しいか!)
提督「どうした? 何を逃げ回っている。僕はここに居るぞ」
満潮「もっとも、私が指一本触れさせないけどね!」バシュッと勢いよく放った魚雷がレ級に的中する
レ級(ッ! グググ……こいつら、油断ならない! ダメだ、逃げなくては! こんな所で殺されるわけにはいかないッ!)
レ級「ォオオオオ!!!!」 鋼鉄の壁を殴り壊し、鎮守府の外へ逃走するレ級。
朝潮「追撃しますか?」
提督「いや、いい。この後、一旦皆を集めてくれ。この鎮守府にいる者全てだ」
・・・・
提督「さっき逃げたあのレ級……間違いなく僕たちを攻撃してくるだろう。奴なら他の深海棲艦を率いてこの鎮守府を襲撃してくるぐらいのことはするだろう」
提督「そして、そうなった時に、僕たちにはどうすることも出来ない。戦力差に圧倒的な開きがありすぎるからだ」
電「つまり……どうするのです?」
提督「逃げる」
皐月「なるほど」
満潮「なるほど、じゃないわよ! 逃げた先で奇襲に遭ったら意味がないわ。そもそもアテはあるの?」
提督「故南条中佐の鎮守府に向かう。あそこが一番近いからね」
提督「既に上に許可は取ってあって、中佐の保持していた全艦隊の指揮権を得ている。この作戦の話もしてあるから問題ない」
提督「……仮に僕らがここを離れていたことを敵に察知されても、中佐の艦隊であれば数日間は戦えるだろう。数日もあれば他の鎮守府からの支援艦隊が到着する」
提督「で、僕らを倒そうとノコノコと群がっている深海棲艦を、他の鎮守府から来た多勢の支援艦隊で深海棲艦を包囲、掃討……というのが僕たちが生き残る唯一の道だ」
如月「私たちの様子を見ていたあのレ級なら、司令官が何条中佐の鎮守府へ逃げる可能性は想像できるんじゃないかしら」
提督「そう、そこなんだ。最悪なのは、中佐の鎮守府に僕らが辿り着く前に察知され襲撃を受けること。そうなってしまったら……かなり厳しい事態になるだろう」
提督「あとは……とんでもない数の敵が押し寄せて故中佐の艦隊をもってしても御しきれない、ってのも怖いかな」
電「なるほど……。とにかく、敵に悟られる前に中佐の鎮守府へ辿り着くことが大事ですね。いつ出発するのです?」
提督「明日だ。敵の立場になってみれば、相手が何か思いつく前に潰しておくべきだと考えるだろう。特に、あのレ級は今回相当痛い目を見たはずだからね」
提督「腕を取られて目も抉られかけたが、奴に与えた精神的なダメージを考慮すればなかなか上手く動けたと思うよ。今回の僕はね」
提督「相手が完全に慢心しきっていたから、というのが大きいけれど。なんにせよ、勝てると思っていた相手に叩きのめされて、奴は相当苛立っているはずだ」
提督「どれだけ智謀に長けていて力を持っていようと、感情をむき出しにして怒ったり相手を舐めきったりしているようではたいした相手じゃないよ」
皐月「おっ、言うねえ」
提督「まぁ、たいした相手じゃないなんて言っている時点で僕も慢心してるっちゃしてるかもしれないけどね……。ただ、人間と深海棲艦の本質的な違い、みたいなものは感じたかな。上手くは言えないけど」
提督「今の僕なら、なんとか出来そうな気がする、かな。……たまにはちょっと強気な発言もしてみる」
如月「フフ、素敵よ司令官」
磯波「ところで……その腕や目は大丈夫なんですか? 提督」
提督「全然大丈夫じゃないはずだけど、今のところは感覚がおかしくなってるのかあまり痛みを感じないね」
提督「一応、腕の方は傷の部分を焼いて止血したし、目も眼球自体に損傷は無いらしいから。まぁ、良いんじゃないかな」
提督(生きていることが奇跡だったらしいし、どうやらすぐに大病院で本格的な手当てを受けないと死んでしまうらしいが……今は心配をかけるし黙っておこう)
磯波「せめて傷が治るまで待っても良いと思うのですが……」
提督「さっきも言った理由で、それは出来ないよ。それに、傷の痛みの感覚が戻ってきてまともに指揮が出来なくなるなんてみっともないことは避けたい」
理性的な話し方や冷静な思考とは対照的に、提督の身体は極度の興奮状態にあった。興奮によって生み出される脳内物質が、麻酔薬の代わりとして働いていたのだった。
朝潮「司令官……」
提督「そんな心配そうな顔で見ないで。大丈夫だよ」
提督「各員。十分に休息を取り明日に備えること! 必要なものは全て持ち出せるよう準備も頼む」
突然の無告知投下。たった2レスですケド……。
では、ぼちぼち〆させていただくというわけで、提督が誰とくっつくか投票で決めたいと思います。
結局投票なんかい、って? まぁ良いじゃないか……。
各艦娘の好感度は今こんな感じです。
【好感度まとめ】
電 :70
皐月:50
磯波:54
如月:47
満潮:66
朝潮:53
/****************************/
今から12/08(月) 23:59:59.99まで、
『最終的に誰とエンディングを迎えるのかを決めるための投票』を開始します。
1IDにつき1回まで、選べるのは艦隊のうち1人だけでお願いします。
また、投票期間中についたレスの内、コンマがゾロ目だったレスの数だけエクストライベントが発生します。
/****************************/
///チラシの裏///
1IDにつき1回までなので実は今日投票して明日投票すれば2回投票できてしまうのは内緒。内緒とか言って書いちゃうのどうかと思うけど。
レスがつかなかったらどうしよう。そんときゃそん時で適当にやります(おい
というか更新滞ってて申し訳ない。今週はマジできつかったので書いてる余裕無かったっす。
以下は死ぬほどどうでもいい夢の話なので読まなくていいです。
自分用のメモ。
なぜか自分が女性になっていて、男性と二人で居るのですよ。
で、薄緑色に塗られた鉄の壁が広がる廊下を二人で走っているのですよ(研究所みたいな施設の中なのかな?)。どうも切迫した状況なようでした。
で、廊下を走り抜けた先の広間で、なんか突然触手めいた機械が出てきたのですよ。エロ同人みたいな!
一緒にいた男性は、その触手めいた機械にコード的なものを脳に挿されて、呻き声を上げ消滅してしまいました。
男性が消えた痕に、白く輝くクリスタル(ダイヤモンドに近い?)みたいなものが落ちていたんですが、そのクリスタルは機械に回収されてしまったんですね。
で、平面ホログラム映像的なものに映った機械のオペレーター的人物が、金を払うなら突然このクリスタルを返してやろう的な提案をしてきました。
そのあたりから突然夢の中の表現がやたらゲーム的になってきて、んで、夢の中の私はなんかよく分からないままそのクリスタルを3600円(円というかその世界での3600円に値する電子通貨的なものを)支払って手に入れました。
その後広間から奥に進むと突然『「全国ヤっちゃった連盟」に加入しました』的意味不明メッセージの通知とともに、幾名かの可愛らしいキャラクター(全員女性)の画像のカットイン的に表示され、その「全国ヤっちゃった連盟」の加盟者らしき人物の連絡先情報を手に入れました。
どうもその世界では、パートナー(私の場合は自分がさっきまで一緒にいた男性)を失うことはヤバいことらしく、そのことが他のキャラクター(?)に知れ渡ったようで、そのヤバいことやらかした者同士が生き抜いていくためのネットワークに組み込まれたっぽい。
そこいら辺で眠気から意識が覚醒してきて、「いや意味分からなさすぎてついていけないよ!?」ってなって起床しました。
夢って大概意味不明だよね。文字に起こすと余計に意味不明。一体なんのゲームだったんだアレ。
っていうか「全ヤ連(あまりにもアレなので略した)」ってお前、色々と最低すぎるだろ……。
ユング先生曰く、「夢の意味? ああ、大概欲求不満だよ欲求不満」ってことらしいですしこれもきっと私の欲求不満が生み出したカオスな幻想なのでしょう……。
まぁ今週しんどかったし変な夢見ても仕方ないか・・・・。
結果発表
電:3
如月:2
満潮:2
というわけで電ENDになります。なるっぽいです。むしろ飛ばしていきます(何
投票受付中にコンマ値がゾロ目だったレスが1つあったためエクストライベントが1回発生します。
///チラシの浦の戦い///
えっクリスマス仕様の龍驤改二ですって!? マジで!?
実の娘の誕生日と同じぐらい嬉しいし喜ばしいです。いや実の娘どころか実の嫁も居ないんですけど。
あとは時報が実装されたらもはやこの世に未練は無い……って感じです。いやさすがにそれは未練無さすぎるな。
あと、せっかく今年最後ですし5-5攻略に乗り出してます。
数回挑んだことはあったんですけど(空母2軽空母1ルート)、エリレビーム&ボス前で逸れる羅針盤でこりゃ敵わねーわと判断して諦めてました。
しかーし!今回は大型艦建造で手に入れた武蔵を実戦投入、各艦を三重キラ付けで支援艦隊も全員キラ付けと、わりと勝ちに行く感じでやってます。まぁこのぐらいやってやっとスタートラインってとこさね。
Bismarck dreiにするのに設計図二枚消費しちゃうんで設計図不足に陥ってるんすよね~。
今月は5-5の勲章さえも貰っておきたいところです。
雲龍改用の設計図をゲットせにゃあならんのでね……。
ん?何?先に雲龍改にするのを優先させた方が良い?烈風(六〇一空)が手に入るから?
いや、んなこと分かってるけどBismarck手に入ったの嬉しかったんだからしょうがないじゃない。そりゃdreiにもしたくなるさ。
それとつい最近まで翔鶴が手に入らなかったので後回しになってましたのよ。
(瑞鶴翔鶴で艦隊組む任務をこなさないと雲龍関係の任務が出現しない)
とまあ相変わらずな艦これライフなのでした。
次回の投下で完結させる予定です(と言っても何日かに分ける可能性はありますが)。
あと、エクストライベントのエクストライベントの発生判定も置いておきますので例によってコンマ値によって発生したりしなかったりします。
>>+1(00~70で発生)
次回完結……というわけで少し時間を稼がせてください。
場繋ぎってことで突然ですがメタ的視点でもろもろ語ります。
特に本編には関係しませんが、、裏話的要素は強いです。
『尺の都合』という単語が頻出しますが、これは尺が短すぎてエピソードを書けなかったのではなく、>>1の先見性の無さと文章力の低さによってエピソードを回収しきれなかったということを意味します。要は言い訳です。
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[[朝潮についてのアレコレ]]
というわけで最初に紹介するトップバッターは朝潮。いや、特に理由は無いけれど。
強いていうなら趣味。どうでもいい話ですが>>1は3-2攻略の際、朝潮を連れて行きました(そして、このお話に登場する駆逐艦の中では、朝潮ぐらいしかまともに育っていない>>1なのであった…)。
さて本編に関する言及。
・実はヤンデレにするつもりだった
さらっと衝撃の事実かもしれませんが、まぁちょくちょくそれに近い描写挟んでたし察した人も居るかもしれません。
最初は、頭は良いけどどこかズレてるみたいな適当な配役で考えてたんですけど(おい)、朝潮みたいな真面目な子が徐々に提督に依存していって自分を抑えきれなくなっていったら面白いなぁフフフとか企んでました。
結局そうはならなかったのは尺の都合が大きいですね。
一人にそこまでエピソードを割けなかったっていうのが大きいです。
あの真面目な朝潮が病むって相当ヤバい量の闇を書かなきゃいけなさそうですし……。
序盤から予めそういう流れで動かしておけばもうちょっと違ったんでしょうけど。
・さらに黒い話
背中の傷の話があるじゃないですか。
艦娘になる前に虐待されていたのかもしれない、っていう。
実はその虐待していた親を登場させる予定だったんですよね。
で、その親との邂逅時に記憶は無いものの無意識下でのトラウマが蘇り……っていう感じですね。まぁあるあるな奴です。
精神的に困窮している状態でも変わらず優しく接してくれる提督に対し強い慕情を抱き、そして彼に対する執着も次第に増していく……みたいな。あるあるだけど黒いね。
ちなみにその朝潮を虐待していた親というのは藤原大将ということにする予定でした。予定でしたがしませんでした。
尺の都合もありますし、なんかこうオリキャラを絡めて長々やるのはこっちのモチベもキツいし読んでる側も飽きそうだし……って理由です。
全ての物事に辻褄を合わせること自体は出来なくはないです一応。
ただ、それをやることによって失われるレス数・その失われたレス数でやれるであろう各艦娘とのエピソードを天秤にかけた結果、不要だな~と思って削った話が多いです特にオリキャラ周り。
整合性よりは物語的な勢いを取ったのは英断かなと自分では思っています。
最初っからしっかりあれこれ練っておけばこんな風に右往左往せずには済んだんだろうけどね。
・このお話における朝潮
まず、朝潮というキャラの性質上、恋心を抱くようになるには相当時間がかかるんだろうな、というのが私の見解でした。
指輪渡しても作戦会議と勘違いするような子ですし。
どうやってそういう気持ちにさせようかなーと悩んだ末の↑二つの話なのですが、結局病むってほど病むこともなくデレることも終盤までなく。
作中では提督の次にあれこれ悩んでいたキャラだと思います。
彼女の悩みは根本的に『人の気持ちが分からない』ことに起因するものだったんじゃないかなー、とか作者的にはそう思ってます。
でも、本来の彼女は人の気持ちが分からない、なんて狭量な子じゃないはずなんですけどね。
過去のトラウマや艦娘としての気負いを抱えていて、彼女はそれらを重く受け止めてしまったんだと思います。
自分で自分を追い詰め続けた結果、人の心も自分の心も分からなくなってしまったんでしょう。多分。
提督は、そんな朝潮に対して真摯に向き合い続けて、ようやく話の終盤で彼女の心を開くことに成功しています。
いや微妙に彼上手くやれたかどうか自信なさげだったけど。でも彼の気持ちはちゃんと朝潮に届いてます。作者がそういうんだからそうなんじゃないの多分。
それからの朝潮は、その感情が敬意なのか愛情なのかは自分でも分からないけれど、提督とともに前を向いて成長していきたい、と考えているようです。
最初に会った時は立場上提督に対して敬意を払っていただけなのが、人間的に尊敬するようになった……ってのはわりと大きな変化かもしれませんね。
まぁ他の艦娘はもっと大きな感情の変化があったりしてますが……。
ただ、その変化の過程で彼女は自分を傷つけることをやめ、人を拒絶しなくなりました。これが彼女の一番の成長ですね。
真っ直ぐであるが故に自分を追い詰めてしまったけれど、真っ直ぐであるが故に間違いに気づいても立ち直れたんじゃないかなー。
序盤はパッとせず中盤は暗く、恋愛的な描写も少ないのでイマイチ華がない感じの配役にしてしまって作者的には惜しいことしたなと思ってます。
あとは、本来聡明な子なはずなのにあんまりそういう風に描く機会が無かったのが残念。いや、タイミングってあるじゃない?(という言い訳)
ただ、艦隊の中ではなんだかんだ一番精神的に成長した子なんじゃないかなーと思います。
艦隊の6人の中だと、一番もう一回なんかで書く機会があったら書きたい子ですね。
いや、書き直したいとかじゃなくて、次はもっと生き生きした朝潮を書けたらなーとね。
『主人公と最終的にイチャイチャできる関係にまで持っていかなければいけない』という自分の中での制約が無ければもっともっと自由に描けてたのかなーと思います。
これはこれでまぁ悪くないのかなーとも思ってますけど(どっちだよ)。
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こんな感じで本編のストックが書き終わるまで続けてきます。
まぁどれだけ知った風な事が書いてあっても所詮いち二次創作のいち解釈に過ぎないです。
自分なりに個々のキャラと向き合ってはいるつもりですが、だからと言ってそんなの1人の人間の薄っぺらい解釈に過ぎないってことです。
わざわざこんなクソ読み辛いスレにここまでついて来れてる人相手にわざわざ書くまでもないとは思うけど……書かねばならぬ気がしたから一応書いておく。
あ、あと上にも書きましたがエクストライベントのエクストライベントは>>+1です(00~70で発生)。
>2014/12/10(水) 04:47:14.82
ということでエクストライベントのエクストライベントも発生です。
さすがにもうエクストライベントは打ち止めですです。
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[[如月についてのアレコレ]]
二番は誰にしようか迷いましたが如月で。
如月も良いキャラだよね~。良いよね~スレてるようで初心なの良いよね~最高だよね~アツいよね~。
・ある種全ての元凶
全ての元凶と言っても、実は黒幕だった! とかそんな話じゃありません。メタ的な話。
設定がワチャワチャし始めた時期はちょうど序盤~中盤の如月のエピソードあたりからです。
そして提督が艦娘たちとグイグイ親密になっていくようなエピソードが盛り込まれるのも大体如月の後からです。
――暗い過去に囚われて心を閉ざしてしまった少女。少年はそんな少女の秘密を知り、彼女の抱えてきた孤独に触れる。かくして物語の歯車は動き始める。
とか、ねぇ。ベタだけどこれだけで一冊本書けちゃうって感じじゃん。ずるいよね。
……設定に関しては後先考えず滅茶苦茶に突っ込んだので如月あんま関係ないんですけれども。
ただ、しばらくの間『如月のあのエピソードに負けないように』というプレッシャーが>>1の中でついて回ってました。
おかげでどんどん過激な方へ突っ走ることに……。
・純情ガール如月
如月のキャラ的に、艦娘の中で言えばわりと提督に媚びるタイプじゃないですか。
結構大胆……というかDMM的アプローチ(隠喩)してくるじゃないですか。
ただ、今回のスレの都合上、提督の初期ステータス不足によって、如月は好感度の伸びが低い設定でした。
その為、最初の方は提督のことなんて興味もない、ぐらいの感じに調整してました。
それに伴って、自分の心の中を明かさない、みたいなミステリアスなキャラにしようかなーというのが当初の目論見でした。
ただ、皮肉にも一番純情なキャラクターになったのではなかろうかと、振り返ってみてそう思います。
上記にも書いた例のエピソードで自分の過去を明かしてグッと距離を縮めるのですが、
グッと距離を縮めすぎて好感度以上に提督と仲睦まじい関係になりつつあって焦ったのをよく覚えています。
あんまり縮めすぎると彼女がぶっちぎりの一番になってしまうので、他の艦娘の好感度の底上げもしつつ、彼女の配役も変えていきました。
提督はほとんど如月の過去や心の闇を知ってしまったので、彼女に対して気兼ねなく接することが出来るのですよ。気心が知れている、ってやつですね。
だから、あのエピソードの後の二人は、冗談を言い合ったり、時折漫才のようなやり取りをしています。
ちょうど友達以上恋人未満、って感じですかね。いやあ青春だ(黙
ただ、如月は提督の心を知らなくて。
たとえば提督が朝潮に対して話した「自分の両親が死んだ時に思ったこと」なんて如月にとっては知りもしない話なんですよ。
(まぁそんなこと人にベラベラ喋るもんでもないけど)
普段は自分に対して冗談みたいなことしか言わないくせに、いざとなるとものすごく真剣な顔を見せる。
如月は提督のそういうところに強く心惹かれているようです。
でも、それって如月にだけ見せている一面じゃないんですよね。
提督は提督なりに真摯に艦娘たちと接しているつもりなのだろうけれど、その真摯さや平等さが如月にとってはとても苦しいようです。
本心では提督のことを愛していますからね。
ただ、その想いを提督に知られてしまったら、提督はもう如月に対して今までのように接することは出来なくなるでしょうし、そうなると提督を困らせてしまう。
ちょっと話を逸らして提督の話をすると、実際提督は異性への関心や興味といった欲求を抑圧しています。
自分が年齢的に十分に成熟していないことの自覚、地位が不安定でいつどんな目に遭うか分からないという危機感、
生死の淵で戦う艦娘たちと前線に出すらしないで指示を出すだけの自分という現実に対する負い目から、魅力的な艦娘たちを前にしても禁欲的だったのでした。
提督のそうした考えを聞いていた如月は、提督への想いを押し殺し続けてきました。
えと、ということにして甘い態度のわりに低い好感度を表してたんですね~。
ただ、そういういじらしい描写をしてしまうと全体のパワーバランス(?)に影響が出るのと尺の圧迫が辛そうだったのでほとんど書いてないです。
物語終盤で如月がしれっと提督に想い人が居ないかを聞いてくるのは、その感情の抑制が効かなくなってしまったからです。
これ以上耐えるのは辛くて、本当は自分のことを見て欲しいけれど、
それが叶わないのならいっそ提督が自分以外の誰かとくっついてしまえば諦めがつくから……という、彼女なりの覚悟なようです。
その前に提督と朝潮が良い雰囲気になっていた、ってのも彼女の行動を後押ししたのでしょう。
結果的には提督に回答を聞くどころか邪魔が入ってしまって大変なことになってしまったのですが……。
如月に関してはそんな感じです。他の二次創作と比較してもここまで純情な如月はそんなに居ないんじゃないでしょうか。
自分的にはわりと如月っぽく描けたんじゃないかなーと思っています。自分で言うのもなんだけど。
ただ強いて言うのであれば、ああいうキャラなんだからもうちょっとやらしい話とかさせても良かったんじゃないかなとは思わなくはない。
作中の如月がピュアすぎるので以外に思われるかもしれませんが>>1的にはえっちい如月も好きですよ。あっまた余計なことを書いてしまった。
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え? こんなん書いててちゃんと本編書けてるのかって?
ま、ま~……進んでるんじゃないかな、多分。
一応ぼちぼち進んでます。パーセンテージで言うと12%ぐらい(えぇ
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[[皐月についてのアレコレ]]
続いて皐月。
ドヤ顔かわいい系ですがアホの子だったりやたら自信過剰ってほどでもないという居そうであんまり居ないキャラ。
史実エピソード的にはわりと武勲艦だしねえ(>>1はあんまり史実詳しくないけど)。
このお話的にはわりと特殊な立ち位置のキャラになりました。
・スペック盛りすぎた
はい。駆逐の皮を被った軽巡みたいなことになってしまった……。
いやまぁ実際強くてニューゲームみたいな設定でごまかしてますけれども。
レ級と戦う時に白い鞘の刀を持ってたのは申し訳程度の史実要素です。
地上戦だし刀の方が良いって判断したんじゃないんすかね。
そのわりにその「強くてニューゲーム」の話はほとんど出てきませんでしたね。
というかほぼ全く触れてないっすね。
まぁ、蛇足かな~とか思って書いてないです。尺にも限りがあるしね……。
このお話ではパッと出てすぐ退場してしまった長門ですが、実は皐月の過去の記憶と関係があったり……とか、そのぐらい。
・一番扱いが難しかったキャラ
扱いが難しいっていうとキャラそのものを否定しているニュアンスも含まれてるように思われるかもしれませんがそんなことは無いです。
ただ、「このストーリー上で周りのキャラと差別化し」「あの提督と絡ませて」「恋愛フラグを立たせる流れに持っていく」のが困難でした。
っていうか3つ目の「恋愛フラグを立たせる流れに持っていく」は断念したレベルで難しかったです。
差別化自体はわりと楽でしたけどね。
当初からあんまりこの子には闇を持たせたくないなーと思ってまして。
悲しい過去とか暗い感情とか似合わない気がするんですよ皐月には。
だから皐月の過去の描写は避けるつもりでした。
ただ、改二の実装が待たれる程度には武勲艦ですし、理由なく強いのもなんか妙だよなーとか余計なこと考えてみたり。
そんな感じの理由で能力値だけ引き継ぎみたいな設定になったんすよねー。かえって不自然だったかもなぁ……。
そういうわけで提督との関係は他の艦娘と違って、「現在」にクローズアップした関係にしていこうかなと思ったわけですよ。
思ったわけですが! 難しいんだなこれが。
日常においてはロマンチックな出来事が起こるなんて稀ですし、平時のやり取りはきっと他愛もないものなんですよこのお話においても。
だからその……他の艦娘と比べるとどうしても破壊力(?)が低くなってしまうんですよね。
たとえば提督と如月の間には「二人だけの秘密」がたくさんあるじゃないですか。
満潮なんかも後半でだいぶ提督にしか見せない表情をいっぱいするじゃないですか。
そういうのが無いんですよ日常では!
戦闘時は輝くんですが中盤ではわりと戦闘シーン的なものもあんまり無かったんで……。
あと、ですねぇ。この子わりとメンタル強いんですよね。
それがかえってイチャイチャさせる上では厄介なんですよ!
朝潮みたく他人を精神的に拒絶していたり、電みたいに自分と提督を比較して引け目を感じて切なくなったりしてないんですよ。
この話の中では欠点らしい欠点が無い子なので、作者的に難攻不落でした。いやマジで。
・唯一「フラグを折った」キャラ
上にも書いた通り、このお話の中での皐月は作者的に厄介でした。
強いてフラグを立てる道があるとするならば、対等の友人関係から次第にお互いを意識しだし……という最も現実的に起こりうる流れになるかなと思います。
が、この話の中では提督と艦娘という明確な上下が存在する関係なわけで、
皐月の方はそんなことを意識していなくても提督はどこかでいつもそのことを考えているわけですね。
なので、提督の心の垣根を取っ払わなければならぬ、と。
ただ、他の艦娘がぐいぐいとアプローチしていく中で、
何気ない日常の中で友人のような関係からお互いを意識するようになるほど心の距離が縮まるまでに一体何レスを使わねばならぬのだろう……。
そんなことを考えた結果、皐月に関しては唯一明確にフラグが立ってないキャラにしました。
『立たないフラグに、意味はあるんでしょうか……?』
というわけで「フラグが立たない」キャラとして定まった後の皐月について少し。
とりあえずエンディングを迎えるキャラではないので、若干フェードアウトさせてます。
とはいっても露骨に出番を減らしたりってのは無く、明確に“攻略対象のヒロイン”としての描写から“異性の友人”って描写にシフトしたって感じです。
ただ、そういう描写に変えたことによってかえって皐月らしさが表現出来たんじゃないかなと思ってます。
天真爛漫だけど子供っぽすぎるわけじゃない。
なんというか、こう、爽やかなキャラになったんじゃないかなーと。
あと、わりとこの子頭脳派よね(この作品の中では)。
特に意識したわけじゃないんだけど相当頭の切れるキャラみたいな立ち位置になってますね。なんでだろ。
なんていうか……アレ。
気がついたらスペックや立ち位置的に「よくある前作の主人公」みたいな感じになりました。
(一応書いておきますけどこのお話に前作なんてありませんからねファンタジーやメルヘンじゃあないんですから)
せっかくなので、皐月をヒロインに据えるならどんな提督が良いか考えてみたんですけど、
わりと変態じみてる、というか熱烈にアピールしてくるぐらいの提督が向いてるんじゃないでしょうか。
(本作の)あの提督はシャイなので、皐月に対して「かわいいね!」の一言も言えないんですよ多分。
(まぁ見た目の年齢的にほぼ同じぐらいだし仕方ないっちゃ仕方ないが)
皐月に対して「かわいいね!」は基本中の基本です。それぐらいかわいがってやらんでどうする。
ロリコ……じゃなかった、父性愛に満ち溢れてるタイプの提督になし崩し的に攻略されていくのが良いと思います。
だんだん自分でも何言ってるか分からなくなったのでこの辺で〆。
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オリョクルしながらプレゼント貰えるとか最高でち!
北か南に進めばろ号が消化でき、ボスマスに逸れればプレゼント……これはありがたい
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[[磯波についてのアレコレ]]
クリスマスボイスの追加された今激アツの磯波です。吹雪型は基本激アツですね。
そんな激アツ吹雪型の中でもトップクラスに激アツな磯波です。
・作者の用意した「正解」
うわいきなりなんて事書いちまったんだろう。というか、こんな事書いてしまって良いんだろうか。書かない方が良い気がするぞ。
でも読んでる側からすると、こういう話が面白いのかなと思って書いてみます。
後半に差し掛かる辺りまでは特に「正解」を定めずに、つまり敢えてメインヒロイン的存在を拵えず進んでいったわけですが、物語を終わらせるためには最終的に誰か一人を選ばなければならない。
そこで作者目線での白羽の矢が立ったのは磯波でした。ではその謎に迫っていきましょうか。
・実はエース級のキャラ
磯波に関しては序盤からかなり良い感じに提督にアピール出来てましたね。
料理が得意な設定は史実ネタとか関係なくなんかそういう感じがするなと思ってつけ足しただけですハイ。
磯波って朝ごはん作ってくれそうな気がするじゃん!? ……しない? あぁそう。
ごく最初の頃はちょっとお姉さん的立ち位置でしたね。
ただ、如月の話以降色々動き出してきてそれに伴って磯波のキャラも今のようなポジションに。
序盤~中盤まで隙の無い動きで常に二番候補三番候補ぐらいのポジションを維持していたってという強者です。
二番候補三番候補というと大した事ないように思えるかもしれませんが、なんかしらエピソードをつければそのキャラの持つ相対的な重みも変動するわけで。
そんな重みの変動の激しい環境下でも常にある程度アピール出来ていた磯波は中々デキる子です。
しかもさほどエピソード的には本気を出していない(=まだまだグイグイ踏み込んで書こうと思えば書ける)のに既に十分他のキャラと渡り合えるぐらいの力を発揮してるので、作者目線だと結構驚異的な存在でした。
そのポテンシャルを危惧して一旦途中退場させてますハイ。
入れ替わりで登場したのが磯波IIですが……いくらフラグが立つ対象じゃないからってもうちょっとエピソードを割くべきだったなあとやや後悔。まぁ途中退場させるつもりだったし。
このお話は攻略対象外のキャラの扱いがぞんざい過ぎるよなー。
ちなみに磯波IIは作中では「二号(いそなみにごう)」と呼ばれているらしいです。
どっかに書いたと思ったらそんなことは無かったので今ここに書いときます。
で、後半再会を果たす二人です。磯波ちゃんしれっと告白してますね。うん。よくある。
っていうか終始こんな感じの距離感でしたね。
磯波は、奥手な性格のように見えてあの提督に対しては結構積極的なんですよね。
威圧的な提督、というか、普通に自分より年上でいかにも提督って感じの提督ならこんな風にはならなかったんでしょうけど。
あの提督の、微妙に頼りないけど真剣に頑張ってるところとかが磯波の琴線に触れたんじゃないですかね。
磯波は惚れ込んだら一途みたいな、都会に出てきた田舎娘的危うさがあるので、恋心を抱く対象が提督みたいな草食系をこじらせたみたいな人で良かったです(謎の親心)。
提督は提督で、あんまりアプローチされるとたじろいで身構えちゃうタイプだけど、磯波の場合それを上手く回避してスッと提督の間合いに入っているようなことが多いです。
作者目線でも磯波に関してはエピソードを書くのにほとんど苦労した記憶が無く、わりと扱い易いキャラでした。
ちょくちょく顔を出して要所要所でかっさらって行くのも中々やるなぁ、と。
あんまり目立たれても困る&他キャラのエピソードが忙しくて尺が足りなかったという理由で後半はちょっと出番控えめですけど。
・「正解」とは何なのかを考える
と、ここまで書くとやっぱり磯波がメインヒロインだったんや! って感じですね。
(勿論この子だけ贔屓したなんて事はなくて、「書いていたらこうなった」ってだけですけれど)
提督が誰とくっつくかの投票では、磯波が一番投票あるのかなと予想していました(しかし結果的にその予想は見当違いなものとなるのであった)。
ここから先は磯波の話からちょっと逸れます。最後の投票に参加してくださった方、ご協力ありがとうございます。
ええと、その方々は恐らく、投票したそのキャラが
・魅力的だった
・報われて欲しかった
・提督にとって相応しいと思った(または“提督が”そのキャラに相応しいと思った)
の3つの要素で判断したのかなと思います。
もちろんそのキャラが個人的に好きだったとかそういうのもも多いにあると思いますけどね。
磯波の場合は第一項・第三項は結構満たしてるかなーと自分では思ってるんですけど、第二項の要素は薄いんじゃないかなと。
で、投票結果から鑑みるに第二項が一番投票に影響した要素なのだろう、というのが作者的分析です。
いや……だって如月とか満潮とかさ……作者からしても報われて欲しいもん……うん。
と、ここから話は電についてに移るわけですが磯波から完全に逸れてしまうので一旦ここで区切ります。
読んでる人から見てどうだったかは分かりませんが作者的には一番自信のあるキャラでした。
一番自信があったからこそ出し惜しみしちゃったかなー、とも思いますが。
というわけで作者が投票するのであれば磯波に投票してました。なんだかんだお似合いな気がするしね、二人。
だが待って欲しい、こんなことを敢えて書くということは、だ。ということは、ですよ?
ここから先の(つまりEDまでの)電のエピソードでは作者的に自信のあった磯波や投票の多かった如月、満潮たちを超えるぐらい魅力的に書かなきゃならんわけで! ならんわけで!
「他の子も良いけど、やっぱり電と結ばれるべくして結ばれたな!」というところを魅せつけてやらにゃならんわけで! ならんわけで!
えぇ~……やれるかなぁ……期待に応えられる自信が無い癖に妙に期待を煽る書き方するというマゾプレイ。
この後のわずか数レスで一体どうするつもりなんだお前は! と自問自答。
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今んとこ42%ぐらい進んでます。
そんだけしか進んでないのかって感じですけど実際そんだけしか進んでないからしょうがない。
今週末あたりには投下でき……たらいいなあ。
現状の見通しだと無理っぽいけどこういうのは勢いに乗りさえすればサクサク進むので、なんとかこうビッグウェーブに乗りたいですね。
遅くとも来週中には~と言っておきます。
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[[満潮についてのアレコレ]]
ツンデレと性格がキツいのはちょっと違うんじゃあないかなと思う今日この頃。
一般的にツンデレと呼ばれている艦娘たちの場合は素直になれないからツンツンしてるんじゃなくて(もちろんそれもあるにはあるけど)、
純粋に愛を知らなくて人間不信に陥ってるだけな気がしますね。
皆何だかんだ暗い過去を背負ってるしね……。
あーでも叢雲は普通にただのツンデレだと思います(ひどい言い様である)。
・ツンデ……ツンデレ、なのか?
上で書いたことをいきなりひっくり返すようでアレなのですが満潮はツンデレで行くつもりでした。
開始した当初は満潮に対する造詣が浅かったんだ……後でデレれば良いよねとか甘っちょろいこと考えてたんだ……。
しかし最終的にツンデレとしてもなんか妙な感じになってしまった……。
例えるなら、程よい辛さのカレーを作ろうとして、適当にスパイスとかぶっこんでたら途中でなんかちょっと辛いよなこれちょっと違うよなってなって、
林檎とか蜂蜜とか砂糖とか甘いものを手当たり次第に入れていったら結果的にケミカルX的ストレンジフルなものが出来ちゃったみたいな。
後半デレデレさせ過ぎたなあと後悔している。
いや、というよりはツンからデレの過程をもうちょっと書いておくべきだったんですねぇ。
……まあそんな作者的言い訳はつまらないから置いておいて。彼女の話をしましょうか。
・満潮孤独の青春
最初に結構キツい態度で当たってますがまあこれは予定調和というかキャラ的に仕方のないところですね。
前々から書いているように当初はわりとダメな感じの未熟な提督にする感じだったので、こうやってムチでビシバシしばいてくれる子は必要だなと。
ただ、例の如月の話以降提督のキャラが変わってしまったというか、もうそれまでの甘ったれみたいな感じじゃダメだなと思うのですよ。作者がじゃなくて提督がね。
それに伴って各キャラの立ち位置も変わっていったっていう感じですね。
満潮の場合は何かを抱えているけど、それを打ち明けるわけにはいかなくて……孤軍奮闘しているって感じですね。
最初のうちは提督のことを信頼するに値しないと思っていて、独りで自分の過去の清算をしようとしています。
ある程度提督が信頼出来るなと思えるようになってもその姿勢は変わらないままで。
一瞬自分の抱えているものを提督に話そうと迷ったりするけど結局突き放すような態度を取ってみたり。
跳ねっ返り娘に見えてどこかで人を恐れている部分があるのかもしれません。
(まあ過去の話から顧みるにロクな上官じゃなかったんだろうし彼女なりのトラウマもあるのかもしれない……)
・その心の闇に迫る
で、彼女なりに独自に行動していたらそれが仇となって提督にあれこれ打ち明けなければならない羽目になってしまうんですよね。
後から振り返ってみると多分その方が彼女にとっては幸せだったと思いますが。
なぜって、あそこで提督に打ち明けていなければ彼女独りで戦い続けていたでしょうし、そもそも提督に対して恋愛感情を抱くことも無かったでしょう。
様々な偶然が重なって彼女の殺害対象であった藤原大将は死に、(その後の展開はともかくとして)彼女の目的は結果的に果たされたわけですが……。
以前の彼女であれば、自分の手で決着をつけられなかったことを口惜しく思い、死に場所を捜し求めてたりしそうですね。
提督に恋に落ちるまでの満潮の心は、かつての自分の提督に対する憎悪やチップによる支配に対する復讐への執念で占められていましたから。
(例によって尺の都合でほとんど描写してないけど)彼女にとっては復讐だけが生き甲斐のような状態でした。
今でもなんだかんだその事については彼女なりに色々思うところがありそうですが……今の満潮はきっと大丈夫でしょう。
提督への恋心……もまぁそうですがあくまでそれは副次的に発生したもので、提督が彼女の辛さや苦しみを受け入れてあげたことが、彼女を大きく変えた要因でしょう。
彼女は艦娘になってからずっと孤独でして、誰とも心を通わすことなく十数年の時を過ごしています。
同じ艦隊の仲間に対しても、ある程度ビジネスライクな関係になることはあれど、大概皆沈んで居なくなってしまうのだから信用はすれど心を開くまでの関係になろうとは思わないんでしょうね。
提督の、愚直なぐらい真剣な姿勢や満潮という人格そのものを受け入れようとする温情を感じ取った時から、憎しみや不信によって止まっていた彼女の歯車は動き出したんでしょう。
ちょっと動き出しすぎ? な気もしなくはありませんが。
でも、意固地になって閉ざしてた心さえも開いてしまうような相手を前にして恋に落ちるな・愛情を抱くなというのも無理な話じゃないですかね。
きっと提督への愛を自覚してからの彼女の日々は、それまでと比べると彩りに満ち溢れたものなんでしょう。
ええと……その恋は結果として報われるものでは無いんですけれども。
ただ、恋なんて所詮恋で(?)、提督の想い人にはなれなかったということを知ってなお彼女は提督を愛することはやめないでしょうし、再び彼女の心が閉ざされることもないでしょう。
・お酒は二十歳になってから
作中の満潮が24歳という設定がポロッと出ましたが、身体年齢的には提督よりちょい上ぐらいなのでビール飲んじゃダメだと思います。
一応艦娘でも(人間と比べると速度が著しく遅くなるが)身体的に成長するという設定ですが……でもダメだと思います。
「酒ッ! 飲まずにはいられないッ!」な過去もあったんでしょうけど。
ちなみに、彼女がチップについて知っていたのは最初に配属されたのが物部元帥の艦隊だったからっていうことにしてます。
年齢的には彼女が10歳ぐらいの頃でしょうか。
まぁそれから十数年も暗い感情だけを抱えて生きてりゃグレるわな……。
意識を朦朧とさせて精神的苦痛をかき消すタイプの飲み方なので悪酔いします。ダメですね。
如月とは別の方向で暗い感じの過去を持ったキャラ、というか、悲惨さでは如月を上回ってそうですね。不幸なんて比べるものじゃないけれど。
そこんところ若干差別化に迷った記憶があります。
結果としては上手くいったんじゃないかなと思いますがどうなんでしょう。
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今週と来週を耐え抜けば休みだけど中々しんどいネー。あー、あと大掃除しなきゃ……。
突然ですが明日投下いきます。どっかしらで区切るので2日に渡っての投下になりますが。
電についてのアレコレを書いてたはずが消えててバックアップも残ってないという……。仕方ないのでそれも明日ってことで。
今日は疲れてるので明日に備えて力を溜めます(何
自室で荷物をまとめている提督。
提督(必要な物は全部まとめた、と。これで僕の支度は終わったな。なんだか遠足みたいだな)
提督(そんな気楽なものじゃないけれど……)
提督「如月。居るんだろう? ……話、しようか」
如月「ごめんなさい」
如月の表情はいつになく暗く、目の端には涙を浮かべていた。
如月「私のせいで……そんなに傷ついてしまって……」
提督「良いんだ。君を守れた。僕も生きてる。それだけで十分だよ」
如月「私があの時司令官を呼んでいなければ、司令官はこんな目に遭わなくて済んだのにって考えたら……どう償っていいのか分からなくて」
提督(確かに如月の言う通り、彼女に呼ばれていなければ腕を失うことは無かっただろう)
提督(だが、僕はこのことを幸運だと考えている。彼女に呼び出されなければ、あれだけの脅威が潜伏していたこと。そして今まさにその脅威が動き出さんとしていたことを知れなかったからだ)
提督(如月に呼び出されていなければ、僕はあのレ級に先手を打たれて為す術なく殺されていただろう。かえって幸運だったと言うべきだ)
如月「ごめんなさい……うっ、うう」
提督(そんな話をした所で、彼女の心を晴らすことは出来ないだろうけど)
提督はハンカチを取り出して如月の涙を拭う。利き手でない左手なせいか動作がぎこちない。
提督「ねぇ、如月」
提督「僕は、君と出逢ったおかげで変われたんだ。君と会ったから、君と居たからここまで来れたんだ」
提督「初めて会った時のことを覚えているかな。君は僕のことなんて気にも留めないで、上の空だったよね」
提督「それからしばらくして、君がこれまでにどういう風に過ごしてきたかって話を聞いて。そう、あの工廠の奥の部屋で」
提督「僕はあの時、生まれて初めて心の底から誰かを救いたいって思ったんだ。救いたいなんて言葉は傲慢で、僕の独り善がりなのかもしれないけど……でも」
提督「僕は君の抱えていた悲しみから……君を救いたかった。君の眼に映るもの全てが、哀しみと空しさで埋め尽くされていくのに耐えられなかった」
提督(あの時の如月に対しての行動が、本当に彼女の心を救えたのかどうかは分からない。僕自身、上手くやれたのか今でも自信がない。だけど……そう)
提督「あの時から僕は、君たちの提督として相応しい人間にならなきゃって、そう決めたんだ」
提督「誰にも悲しんで欲しくなかった。僕の無力で、君や他の艦隊の子を傷つけてはならない、悲しませたくないって、そう思ったんだ」
提督「空回りも多かったけど……でも、今の僕は自分の望むものになれたと思う」
提督「あのレ級に襲われた時、僕は死を確信した。軽蔑するかもしれないけど、あの時の僕は恐怖で足が動かなくなっていた。あまりの痛みに思考することさえ放棄しようとしていた」
提督「……奴が君を穢そうとした時、急に力が湧いてきたんだ。その力が怒りなのか覚悟なのかは分からない。気がつくと身体が動いていたんだ」
提督「腕を失ってなお、僕は君を守り抜くことが出来た。ちっぽけなただの人間が、深海棲艦相手に、立ち向かっていくことが出来たんだ」
提督「僕はこのことをとても誇りに感じる。僕は失った右腕以上に大きな物を得たんだ」
提督「大切な君を守ることが出来た、深海棲艦に自分一人で立ち向かうことが出来た……僕にとっては失った腕よりも遥かに価値のあることなんだ。だから君は気に病む必要なんかない」
提督「まだ時間はかかるだろうけど……深海棲艦との戦いも、きっと終わらせることが出来る。根拠は無いけど……今はそう確信している」
提督が話を終える頃には、如月はもう泣き止んでいた。
如月は、両手を後ろに組んで、モジモジと気恥ずかしげな様子で提督を見つめる。
如月「司令官。一つ、お願いがあるの」
如月はぴとっと提督に身を寄せ抱き締めると、胸に顔を埋めた。
如月「しばらく……私が満足するまで、このままで居させて?」
上目使いで提督を見上げる如月。提督は少しドギマギしながら無言で頷く。
提督が頷いたのを確認すると、如月は再び顔を埋める。
スウと深呼吸をするような音が聞こえる。安らかに眠っているかのような如月の吐息が聞こえる。
かと思えば、突然しゃくり上げたかのような震えが提督の身体を伝ってくる。
その間提督には如月の表情が分からなかった。泣いているのか、笑っているのか、分からなかった。
そんな振る舞いを数回繰り返す。如月が提督を抱き締める両腕の力は、未だに緩まらない。
・・・・
如月が、どういう意図でこんなことをしているのかは分からない。
提督「…………」
僕は言葉を発することが出来なかった。きっとこれは悲しいことなのだと悟ったから。
提督(如月はきっと……)
如月はきっと、今に至るまで僕への感情を押し殺してきたのだと感じ取った。
提督と艦娘という関係を逸脱することへの後ろめたさなのか、僕に想い人が居ると察しているからなのか、迷惑をかけたくないからなのか。何故かは分からない。
ただ、今の彼女は、僕のことを想っていて……恐らく、僕はその想いに応えることは出来ないのだろう。
そんな事を考えていたら、とても悲しい気持ちになってきた。
目頭が熱くなる。情けないところは見せられないから、僕以上に如月は悲しんでいるはずだから、と涙が零れないように天井を見上げる。
薄ぼんやりした電球の明かりがゆらゆらと揺れている。
ああ、明日の朝にはこの鎮守府を離れて、もう二度と戻ることは無いのだろう。
今までの思い出がどっと押し寄せて感情がこみ上げそうになったので、僕は平静を保つべく深く息を吸う。
如月「? どうしたの?」
提督「ううん、なんでもないんだ」
震え声にならないよう意識して声を出したら、かえって変な声になってしまう。
如月「ふふ、ヘンな司令官」
先ほどまでの泣き顔が嘘のようにけろりとした様子だ。
如月「……付き合ってくれてありがとう」
僕を抱きしめていた腕をぱっと離し、部屋を出ようとする如月。
去り際に如月が振り返る。
如月「司令官……ありがとう」
どこか納得したような、安らかな顔だった。
提督(……)
ベッドに横たわり、放心状態でボーッとしている提督。
提督(寝た方が良いって分かってるのにな)
腕を失った右肩の鈍痛が、提督の眠気を削ぐ。
提督(やれやれ……しっかりしないと!)
提督は起き上がり明日の作戦のための資料を読み始める。
提督(何も起こらなければこんな資料は要らないんだがな……)
提督(これまでの経験から考えて、そう甘くは無いんだろうな。『不測の事態』を前もって予測し、対策を練っているぐらいじゃなきゃ)
提督「如月……」ボソリ
ハァ、と溜息をつく提督。
提督「頭が回らんな……」
コンコンとドアを叩く音がする。
提督「どうぞ」
電「司令官さん、お疲れ様です」ガチャッ
提督「別に疲れてないさ」
電「如月が司令官さんを呼んでいたって言ってたので来たのですが……」
提督「如月が……?」
電「?」
提督(如月は気づいたのだろうか……。しかし、仮に気づいたとしてどうしてこんなことをするんだ?)
提督「いや、なんでもない。用は無いから、もう部屋に戻っていい」
提督「明日も早いしね」
提督は上の空の様子で、まるで独り言を呟くような調子で声を発した。
電「司令官さん。電はここなのです……目を見て話して欲しいのです」
提督「ごめん……今はそっとしておいて欲しいかも」
提督「その、なんていうか、疲れてる」
電(目の下に隈が浮かんでるのです。昨日から一睡もしていないんでしょうか……?)
電「司令官さん、ちょっと待ってて欲しいのです!」タターッ
・・・・
電「司令官さん、お疲れのようですから。はい」
電「蜂蜜入りのホットミルクなのです」
提督「戻っていいって言ったんだけどな…………でも、ありがと」ズズッ
電「司令官さん……。何があったのか、ちょっとずつで良いから話してもらえませんか?」
提督「……電。如月は君にここに来るように言った時、どんな様子だった?」
電「? 普段通りでしたよ」
提督「そうかい(気丈だな……如月)」
提督は、先程までの如月とのやり取りを淡々と話した。
電はその間、何も言葉を発さなかった。
提督「最初はたぶん……僕に対する罪悪感で部屋に訪れたんだと思う」
提督「だけど。その後、僕を抱き締めてきたのには、理由があると思う」
提督「恐らく、如月は僕のことを愛してくれていて。きっと、すごくすごく好きで居てくれたんだと思う」
提督「ずっとそんな気持ちを抱えていたんだと思う」
提督「如月は何も言わなかったから、本当のことは分からない。でも、あの時の彼女の仕草で、そう感じ取ったんだ」
提督「如月は……ああすることで、僕への想いを断ち切ろうとしたんだと思う」
提督は、まるで夢でも見ているかのように、ぼんやりとした様子でぽつりぽつりと言葉を漏らす。
提督「それを分かってもなお……僕は、彼女の想いに応えることは出来ないんだ」
電「どうして……ですか?」
提督「僕にも、好きな人が居るんだ。だから……如月の想いを察することは出来ても、応えるわけにはいかなかった」
提督は、ベッドに身体を横たえる。枕に顔を埋める。
提督「……如月を傷つけてしまって、しかも、多分もうこの先どうすることも出来ないんだな、って」
提督(如月……今は、部屋で一人で泣いているんだろうな……。なんとなくだけど、そんな気がする)
提督「あそこで僕が、如月を引き止めていたなら、きっと如月の心を救ってあげられたんだと思う」
提督「でも、僕はそれをやらなかったんだ。彼女の痛みを知っているからなおさら……自分の気持ちに嘘はつきたくなかった」
提督「自分の気持ちに嘘をついて接しても、余計に彼女を傷つけてしまうだろうから」
提督「だから……彼女を受け入れることは出来なかった」
提督「それってすごく哀しいことなんだと思う。でも、仕方ないことだとも思う」
提督「仕方ないことなんだろうけど……やるせない」
・・・・
電(司令官と如月は……似た者同士なのかもしれませんね)
電(だから、お互いの痛みが分かるのかもしれない)
電(如月はあんなふうに飄々としていても、辛い気持ちや寂しい気持ちはずっと我慢してる……)
電(司令官もきっとそうなのでしょう……)
提督「情緒不安定なのかな……情けないところ見せてごめん」
提督「ごめん。やっぱり僕、疲れてるみたいだ」
提督はベッドから身を起こすと、少し困ったような、力ない笑顔で電に微笑む。
電(司令官、そんな顔しないで欲しいのです)
電(そんな顔をして……私の遠くへ離そうとしないで欲しいのです)
電「司令官……。今夜は、電がずっとお傍に居ます」
電は、ギュッと拳を握って、目を瞑る。それから深呼吸して、何かを思い切ったように強く言い放つ。
電「私は! 司令官さんと違って、頭も悪いし失敗ばかりで……」
電「司令官さんの辛い気持ちも、哀しい気持ちも、少しも楽にしてあげられないかもしれない」
電「でも……でも、司令官さんには、笑っていて欲しいのです。だから……」
電の言葉が詰まったタイミングで提督が話を切り出す。
提督「ありがとう、電」
提督「(心配かけてしまったか……やはり如月のことは、話すべきじゃなかったな)」
提督「少し、甘ったれていたのかも……突然のことで、精神的に動揺していたんだ」
提督「そうだな……このやるせなさも、乗り越えていかなきゃいけないね」
提督「僕は君たちの提督だ。……強くならなきゃ」
提督「心配かけてごめん。僕の為を思ってくれて言ったんだろう。ありがとう」
提督「もう、大丈夫だから」
提督は電の頭を撫でようとする。
が、その手は払いのけられ、提督はベッドに押し倒される。
提督「!?」
電「何勝手に自己完結させようとしてるんですかァ!」
電「全然大丈夫なんかじゃないのですッ!」
電「司令官は! ずっと私に隠してきたのです!」
電「辛いと思ったことも! 哀しいと思ったことも! 皆一人で背負い込んできたのです!」
電「司令官は強くなんかならなくていい! 辛い気持ちを押し殺す必要なんてないのです!」
電「情けなくてもいいから、みっともなくてもいいからぁ!」
電「司令官には……私が、居ますからっ……!」
荒い呼吸を整える電。しかし、感情が昂ぶっているせいか頬が紅潮している。
電の今まで見せたことのない態度に、提督は固唾を飲む。
絞り出すかのように、言葉を発する電。
電「教えて欲しいのです。私に、全部。……」
電「司令官さんの苦しみも、全部、知りたいのです……」
今にも泣き出しそうな潤んだ目で提督を見つめる、電。
提督は、その目を真剣な眼差しで見つめ返し、……唇を重ねた。
・・・・
提督を強く強く抱き締める電。
堪え切れなくなった電の目の端から、ぽろりぽろりと零れ落ちる涙。提督の頬を伝う。
それは、ほんの僅かな時間の出来事だった。
しかし、二人にとっては永遠の意味を持つ出来事だった。
唇が離れる。
電は、力が抜けたように、へなへなと提督の上に倒れ込む。
左腕で電の背中を包み込むようにぎゅっと抱く提督。
提督「両の手で抱きしめられないのが、残念だな……」
電「……ぐす。どうして、私、なんですか……?」
電「嬉しい、けど、わたし、司令官に避けられてると思って、えぐ……」
提督「そう勘違いさせてしまったなら、すまないね。僕は電のこと、好きだよ」
提督「本当に、ごめん。そっか……辛い思いをさせてたのかな」
電「うぅん。司令官と一緒に過ごしていて、辛かったことなんて一度だって無いですよ……?」
電「ひっぐ……いつも、幸せでした」
はにかみながら笑う電。
提督「避けていたわけじゃないんだ」
提督「ただ……本当は、ずっとはぐらかすつもりでいたんだ。ずっと嘘をついていているつもりだったんだ」
提督「誰か一人を選ばなきゃいけないって、僕にとっては辛くて……それならいっそ、誰にも興味が無い振りをして、独りぼっちになれば良いのかなって」
提督「そんなずるいことを考えていたんだ。全てが終わったら……自分の気持ちと向き合おうって思ってたのに、逃げようとしたんだ」
提督「でも、他の皆には薄々感づかれてみたい。それが君だとまでは分からなかったみたいだけど、僕にも好きな人が居るって事を」
提督「……みんな、色んな事を一緒に乗り越えてきた仲だもんね、隠し通せるわけ無かったんだ」
提督「僕は…………電。君のことが好きだ。気づかないふりをして自分を誤魔化してきたけど、もう、抑えられないみたい」
提督「……君を、誰よりも愛おしく感じるんだ。電……んっ」
不意に唇を塞がれる提督。
電「嬉しいです……司令官……」
電「嬉しい……嬉しい……」
啄ばむように、何度も何度も提督の口を塞ぐ電。
電「んっ……ふっ……ふふ」
電「しあわせ、なのです……」
二人は抱き合ったまま眠りに落ちていった。
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[[電についてのアレコレ]]
トリを飾るのはもちろん電。いやぁ……やってくれましたね。
・作者目線での苦労
電はわりと人気の高いキャラで、それなりに読む側も目が肥えてるようなので、ちゃんとした電が描けてるかわりと不安でした。
ちゃんとした電って何だよって話ですが。いや、期待に沿えてるかなあ、とか、キャラから外れてないかなあ、とかそういうのですよ。
わりとそこいら辺は問題ないようで今更ホッとしています。なんだかんだ魅力的に書けてたなら良かったなあと思います。
作者的にはわりと自信が無かっただったので、投票で電に票が集まったのはわりと衝撃受けてました。
電は……なんだかんだ一番苦労したかもしれません。
第一に、好感度ですかね。アレで一人だけガンガン突出していくもんなんで、かなり困りましたね。
別に*2のボーナスを無くしてしまえば良かったんですけど。あるいは別の子にボーナスを付け替えるか。
ただ、提督の立場から考えると秘書艦を変える必要性って無いし、無理に秘書艦を別の子に変えるためのイベントを起こそうっていう発想も沸かなかったので、結局そのままでした。
結果として一人だけ好感度がガンガン上がっていき、かなり動かし辛いキャラになってしまった……。
中盤以降はもう好感度とか知るかと吹っ切れて程々の頻度で登場するようになりますが。
・本題
上記の理由や他のキャラとの差別化に悩まされたキャラである電なのですが、どうやって彼女を動かしていったかというと、キャラクターの目線に立って思考し、描写することで対応しました。
このキャラならこの場面でこういうことを考えてこんな風に動くだろう、と推測しながら動かしています。
他のキャラも場面場面でそういう書き方をしていますが、電と提督は特にそういうことが多かったですね。
提督に関しては、お前作者の意図に反して勝手に動き過ぎって感じのことが多いんですけど。
キャラは薄いわりに「ここではこういうことをする」という思考ルーチンだけはわりと確立されてるキャラなので、結構振り回されることが多かったですネー。
話を電に戻しまして。
電は、結構自分に対して厳しい見方をしていますね。
ごく最初の方に提督に自分の理想を語っておきながら、後半では自分は何も出来なかった・何も変えることが出来なかったという旨の話をしています。
「自分を変えたい」とか「戦いが無くしたい」とか、そういう理想を抱いてはいるけれど、現実には自分ではどうすることも出来なくて……というのが彼女なりの苦悩なようです。
そうした葛藤は提督やかつての満潮なんかもしていたりするのですが……電の場合は特に悩みが大きいみたいですね。
本当は彼女だってしっかり成長しているんですけど、彼女の中では納得がいっていないようです。
というのも、彼女に最も身近な提督の場合、「皆を守りたい」とか「誰も悲しませたくない」とかそういう信念のもと行動していって、実際にそれが出来るぐらいに成長していますからね。
彼と比べると劣等感のようなものを感じてしまうんでしょう。
……彼も彼でアレですけど。結局提督は、本質的には他人に心を開いていないのかも。
自分一人で悩んで、自分一人で乗り越えて……だから、成長はしているけれど常にどこか孤独を抱えているっていう。
そんな提督の心の動きのようなものを察知して押し倒した電は中々良い仕事しましたね!(押し倒したといってもやらしいニュアンスじゃないからな!)
衝動的な行動ではありましたが、それが提督の心を動かしたのかなと。
電の本気の片鱗のようなものを作者は感じますね。
・再び話は逸れて ~作者的場面解説
……これは作者の持論ですけど。
他人から感情をぶつけられると滅茶苦茶しんどいのですよ。その情が強ければ強いほど。ええと……分かりやすい話をすると、負の感情を吐露されて辛いと感じない人なんて居ませんよね。
人から死ねだの殺したいだの思われて平気で居られる人なんて、ある種の狂人ですからね。精神的に強者だとは思いますが……。
(まあ、そういう言葉を投げかけてきた相手を人間じゃなく虫ケラ程度にしか認識していなければ「あー虫がなんか言ってるなー」程度で済みますけど……それはそれで悲しい)正の感情ならばどうか、というと、実はこれも時と場合によるのですよね。
今回のお話の例だと、提督は如月の情愛を悟った時に、哀しみのような感情を抱いていますよね。
提督も如月に対して恋愛感情とまではいかないまでもとても大切に想っていたにも関わらず。
説明するまでも無いですが、提督が悲しくなった理由は、彼女の持っていたある種の“一つになりたい願望”に応えられないから、ですよね(やらしい意味じゃないからな!)。
ええと……他人からの自分に向けられる強い感情というのは、それが親愛であれ憎悪であれ、精神を強く揺さぶってきますよね、という話がしたいのでした。
ここで、如月の内面を知ってしまった提督は、これから決戦だというのに疲弊していますね。
そんな最中に電が部屋を訪れるのでした。
提督は、独り言のように自分の悩み、というか、彼の心の中にあるやるせなさについて口を滑らせています。
彼にしては珍しく精神的に参っていたのかもしれませんね。
で、電はそんな提督を見て、自分が本当にその役に相応しいか自信は無いけれど、貴方を苦しみや哀しみから救いたい……意味合い的にはそんな感じのことを言ってますね。
ただ、電にそう言われた時に提督は自分の取り留めのない空虚感を打ち明けてしまったことを後悔しています。
電を心配させてしまったと考えたからです(まあ確かに多少は心配してますけど……)。
そう思った提督は、すぐに立ち直り、自分を奮い立たせています。
先程も書いたように、自分一人で悩んで、自分一人で乗り越えようとしたわけですね。
しかし! 提督のその態度を見て電は激昂するわけですね。
辛いはずなのに誰に頼ろうともせず、独りで抱え込もうとする姿勢が気に食わなかったわけです。
まぁ……「貴方の為に傍に居ますから(=私に頼って下さいね)」って言われてんのに「大丈夫だから」って返しは野暮ったいというか無粋ですよね。
そこはお言葉に甘えろっつーの。
提督なりには気遣っているつもりみたいですけどかえって失礼ですよねこれ。電が怒りに近い感情を抱くのも無理はない。
(次のレスにつづく)
こういう態度に提督の本質があるのかなーと。
彼は確かに提督に相応しい存在と呼べるまでに成長してはいますし、艦娘たちに心から向き合っていますが、一方で自分の心の内は誰にも明かしていないわけです。
というか、彼が真剣な悩みを相談したのって満潮ぐらいですしね。
それだって満潮の方が半ば強引に提督の方に向かってきたから打ち明けただけで。
電や満潮だけでなく他の艦娘全員から彼の抱えているそういう精神的な苦しみを察されていて、その“精神的な”苦しみを皆心配しているのに、提督は誰にも打ち明けようとしない、と。
ただ、彼には彼なりの考えもあって。
答えの出る悩みは人に相談出来ても、答えのない悩みは打ち明けた所で聞いてる側はどうしようもないじゃないですか。
例えば、「上手くいくか不安」という悩みに対して、より「上手くいく方法」を一緒に考えてあげることは出来ても、「不安」そのものは当人以外にはどうにも出来ないですよね。
つまり、“精神的な”苦しみは他人が解決しようがないんですよ。
今回のケースでは提督は電に対して、「仕方ない」と割りきっているけれど「やるせない」という“精神的な”苦しみをうっかり打ち明けてしまったんですね。
そんなことをしても電を心配させるだけで何の意味もない、それなのに口を滑らせてしまった、と考えたから打ち明けた後で後悔したわけですよ。
そして、電の心配を取り払うべく自分自身の精神を向上させて「やるせなさ」を強引に克服しようとした……というわけだ。
・理性対感情
これまで通り提督がなんだかんだ精神的に成長して終わり……ならこのエピソードはここまで複雑にならないんですが。
上に書いた通り電は提督のそんな態度に黙っていられなかったわけで。
電は提督を押し倒した後に、自分の思いの丈をストレートにぶつけます。
提督の苦しみも悲しみも、たとえ何も解決出来なかったとしても受け止めたいと!
そう強く強く提督の心に訴えかけるわけですよ!
対する提督の行動は……!? ってな感じでしたよね。
これはちょっと理解出来ない行動かもしれません。
というか、作者だったらここでそれ!? ナンデ!? って思っちゃいます。
思っちゃいますけどあの提督はあの場面だとああいうことをするんです。
……ええと、かなり“感情的な”行動なので論理的に説明するのが作者でも難しいというかぶっちゃけ作者でさえよく分かってないんですけど。
一応、作者目線で提督の行動を論理的に分析しますね。
前述の通り提督は心のどこかで艦娘と距離を置いていて、その理由は心の内面の解決しようのない葛藤を打ち明けても無駄だと考えているからでした。
一方電は、なんだお前それがどうしたと。
たとえ無駄だろうがなんだろうが、私は貴方の心の深淵に触れたいし、その為なら私は貴方の痛みや悲しみでさえも受け止めたい、と言うわけですよ!
ここでもし提督が理性的な行動を取るとするならば考えうる選択肢は二つである。
・それでもなお電を拒み、苦しみを抱え続ける
・自分の抱えている漠然とした苦しみや悲しみを電に打ち明ける
もっと頭の働く人なら他の選択肢も浮かぶかもしれませんが作者はとりあえず二つしか浮かびませんでした。
で、結局そのどっちでもありませんでした。
なぜ提督は電に口付けをしたのか……。
うーん、作者もあんまり説明出来ないんだけどなぁ。
その、彼の過去の行動を振り返るに、言葉で説明したり出来ない時に、身体に触れるなどの行為で意図や気持ちを伝えていたことがあるじゃないですか。
今回もその一例……と言ってしまえば簡単なのですが、それも納得いく説明じゃないと思うので……。
電に押し倒されて想いを伝えられてなお、彼の胸中を想像してみますかね。
まず第一に動揺だ。心配をかけまいという振る舞いがかえって相手を不興を買ってしまったのなら戸惑うだろう。
で、第二に、電の言葉の分析をするに違いない。
彼女は今激しく興奮しているが、その原因は何か。
……自分のその心配をかけまいという態度が気に入らなかったのだと悟る。
また、自分の心の澱でさえも受け止めたいという彼女の強い想いを知る。
ひょっとしたら、そんな風に自分を募ってくれる彼女を愛おしいと思うのかもしれません。
というかキスするぐらいだしそう思ったのでしょう。
だから唇を重ねた、と。
んんんん~、やっぱり作者的には納得いかないぞ……。
納得いかないのになんでそんな展開にしてそんな描写をしたんだっつー話ですが……でも、この提督なら絶対こういうことするよな! とは思うんですよ。
多分作者には理解出来ない「愛」的サムシングが彼を突き動かしたんでしょう。
まぁ、その。「本当ははぐらかすつもりだった/嘘をついているつもりだった」から察するに、電を愛してはいたけれどそれを打ち明けるつもりは無かったんでしょう。
提督の中で、電への想いを封じ込め続けることは精神的な苦しみの一つでしょうし、それを打ち明けることによって電の想いに応えた……って解釈が妥当かなぁ。
なんていうか、ある意味提督と電の二人だけの世界みたいな領域になってしまったので、もう作者には分からん。
ごめんなさい。電についてとか書いておきながら全然触れてませんでした。だって……前に一度書いてたやつが消えちゃったのが悪いんだし……。
一つだけ電に関する後悔は、朝潮と仲直りするエピソードが尺の都合で書けなかったことですかね。
電が朝潮に対して、提督のことを何も分かっていないと叱咤していますが、あの後で自分も朝潮の苦しみを分かってあげられなかったんだなって反省してたりします。
そこのところ描写したかったなぁ……今となっては過ぎてしまったのでアレですがねー。
エンディングを添い遂げるヒロインとして相応しく描けたかどうかは分かりませんが、ここまで提督に精神的に喰らいついたのは電だけですね。
そういう意味ではトゥルーエンド? ……ですかねぇ。
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……色々となげーよ馬鹿! とセルフツッコミ。
エクストライベントを自重なしで悪用するとこうなるということじゃ。
とりあえず前編おしまい。
明日の投下でエンディングです。
朝潮「いよいよですね……」
水平線の彼方から陽光がちらつく。
満潮「本当に行くの? 昼になってからでも良いんじゃない?」
提督「いや、これ以上長居するのは良くない。……僕の心情的に」
皐月「感傷的だねぇ」
如月「男は過去に生きて女は未来に生きるのよ」ニヤケ顔の如月
提督「……違いないね。だが!」
提督「今僕が見るべきは『現在』だ。過去の想いを繋ぎ、未来を切り拓くためにもッ!」
提督「これから僕たちに襲い来るであろう脅威を打ち破る! その為に皆、力を貸して欲しい」
電「……暁の水平線に、勝利を刻むのです!」
提督(それ僕が言いたかったんだけどなー)
・・・・
磯波「今の所は順調ですね。敵も見かけませんし」
提督「そうでなきゃ困るよ……まだ目を凝らせば僕たちの鎮守府が見えるぐらいの距離だよ?」
間宮に背負われている提督。
提督「鎮守府内のありったけの物資や装備、資料を運んでるわけだから、航行速度は普段の半分ぐらいなのかな」
提督「昼戦では機動力が売りの水雷戦隊だけど、その機動力さえ今は削がれている状態だからね……。命あっての物種だから敵が来たらある程度海に捨てるのも考えてるけど、なるべくなら運びきりたい」
提督「あと、僕のことはともかく、今後も美味しい晩御飯を食べられる日々が続いて欲しいなら間宮さんは最優先で守るように」
間宮「向こうの鎮守府に着いたら腕によりをかけてご馳走するので、頑張って下さいね」
皐月「よしっ、こうしちゃいられない! 全速前進!」キラキラ
航行速度を上昇させる艦娘たち。
提督(たった一言で皆を戦意高揚状態にさせるとは……。逆立ちしてもこの人には勝てないな……)
提督(それにしても……寒い! 早朝よりは幾分かマシになったが、潮風が突き刺さるように冷たい)
提督(そのくせ、腕を無くした方の肩が灼けるように熱い。血液が全部そこに持ってかれてるみたいだ……)
提督(意識を保っていられるかどうか怪しいぞ……)
・・・・
満潮「背後に敵影! ……と言っても、こっちに向かって来ているわけじゃないみたい。離れていくわ」
満潮「その数……あー、まともにやり合ったら勝てそうにないわね。数え切れないわ、100隻超えてるんじゃないの」双眼鏡を覗く満潮
満潮「戦艦が多いわね。幸い空母の類は少ないから、索敵機がここまで来る心配は無さそう。全艦私たちの鎮守府の方へ向かってるわ」
提督「“今のところは”無事でいられそうだね。それにしても、まさかここまで早く奇襲してくるとはね……朝のうちに抜錨していなかったらと思うとゾッとするよ」
提督(遠くで砲音が聞こえる……。敵の奇襲がもっと遅ければ、せめてあと数日ぐらい待ってくれていたのなら、あの鎮守府も守るつもりだったんだけど……そんなに待ってくれるほど優しい相手では無いか)
朝潮「司令官。後ろから追手が来る恐れはありますか?」先頭を進む朝潮、一瞬提督の方を振り返る
提督「いや敵の偵察範囲から外れている現時点では問題ない。無理して速度を上げなくてもいいよ。新しい鎮守府にいち早く着くことは大事だが、それさえ出来れば万事上手くいくというわけではないからね」
提督「なるだけ戦力を温存しておきたい。総力戦になるだろうから。……あっちに向かった連中とは後々交戦することになるだろうけど、しばらく時間稼ぎ出来ると思うから心配要らない」
提督「僕らの居た鎮守府は確かにボロい鎮守府ではあったけど、仮にも艦娘を収容している施設だからね。生半可な砲撃で破壊出来るほどヤワな建造物じゃないよ。完全に破壊するには時間がかかるだろう」
磯波「でも、あそこに私たちが居ないことを敵に気づかれたらまずいですよね……」
提督「その通り。だからある程度策は練っておいた。……もし僕たちがまだあの鎮守府に居たとしたらどうする? 正面から戦っても勝ち目は無いし逃げ場も無い。ならば最も安全な場所で敵を各個撃破しつつ味方の増援を待つよね」
提督「だから、『鎮守府内でも堅牢な場所のどこかに逃げた』という設定のもと色々と罠を仕掛けておいた(北方棲鬼を撃退したあの後、夕張に色々と聞いておいたのが活きたかな……)」
提督「敵が鎮守府に上陸して僕たちを捜すようなことをしても、それなりに時間は稼げると思う」
提督(とりあえず一つ目の障壁はギリギリ回避出来たといえるだろう。問題はこの先だ……)
朝潮「いよいよですね……」
水平線の彼方から陽光がちらつく。
満潮「本当に行くの? 昼になってからでも良いんじゃない?」
提督「いや、これ以上長居するのは良くない。……僕の心情的に」
皐月「感傷的だねぇ」
如月「男は過去に生きて女は未来に生きるのよ」ニヤケ顔の如月
提督「……違いないね。だが!」
提督「今僕が見るべきは『現在』だ。過去の想いを繋ぎ、未来を切り拓くためにもッ!」
提督「これから僕たちに襲い来るであろう脅威を打ち破る! その為に皆、力を貸して欲しい」
電「……暁の水平線に、勝利を刻むのです!」
提督(それ僕が言いたかったんだけどなー)
・・・・
磯波「今の所は順調ですね。敵も見かけませんし」
提督「そうでなきゃ困るよ……まだ目を凝らせば僕たちの鎮守府が見えるぐらいの距離だよ?」
間宮に背負われている提督。
提督「鎮守府内のありったけの物資や装備、資料を運んでるわけだから、航行速度は普段の半分ぐらいなのかな」
提督「昼戦では機動力が売りの水雷戦隊だけど、その機動力さえ今は削がれている状態だからね……。命あっての物種だから敵が来たらある程度海に捨てるのも考えてるけど、なるべくなら運びきりたい」
提督「あと、僕のことはともかく、今後も美味しい晩御飯を食べられる日々が続いて欲しいなら間宮さんは最優先で守るように」
間宮「向こうの鎮守府に着いたら腕によりをかけてご馳走するので、頑張って下さいね」
皐月「よしっ、こうしちゃいられない! 全速前進!」キラキラ
航行速度を上昇させる艦娘たち。
提督(たった一言で皆を戦意高揚状態にさせるとは……。逆立ちしてもこの人には勝てないな……)
提督(それにしても……寒い! 早朝よりは幾分かマシになったが、潮風が突き刺さるように冷たい)
提督(そのくせ、腕を無くした方の肩が灼けるように熱い。血液が全部そこに持ってかれてるみたいだ……)
提督(意識を保っていられるかどうか怪しいぞ……)
・・・・
満潮「背後に敵影! ……と言っても、こっちに向かって来ているわけじゃないみたい。離れていくわ」
満潮「その数……あー、まともにやり合ったら勝てそうにないわね。数え切れないわ、100隻超えてるんじゃないの」双眼鏡を覗く満潮
満潮「戦艦が多いわね。幸い空母の類は少ないから、索敵機がここまで来る心配は無さそう。全艦私たちの鎮守府の方へ向かってるわ」
提督「“今のところは”無事でいられそうだね。それにしても、まさかここまで早く奇襲してくるとはね……朝のうちに抜錨していなかったらと思うとゾッとするよ」
提督(遠くで砲音が聞こえる……。敵の奇襲がもっと遅ければ、せめてあと数日ぐらい待ってくれていたのなら、あの鎮守府も守るつもりだったんだけど……そんなに待ってくれるほど優しい相手では無いか)
朝潮「司令官。後ろから追手が来る恐れはありますか?」先頭を進む朝潮、一瞬提督の方を振り返る
提督「いや敵の偵察範囲から外れている現時点では問題ない。無理して速度を上げなくてもいいよ。新しい鎮守府にいち早く着くことは大事だが、それさえ出来れば万事上手くいくというわけではないからね」
提督「なるだけ戦力を温存しておきたい。総力戦になるだろうから。……あっちに向かった連中とは後々交戦することになるだろうけど、しばらく時間稼ぎ出来ると思うから心配要らない」
提督「僕らの居た鎮守府は確かにボロい鎮守府ではあったけど、仮にも艦娘を収容している施設だからね。生半可な砲撃で破壊出来るほどヤワな建造物じゃないよ。完全に破壊するには時間がかかるだろう」
磯波「でも、あそこに私たちが居ないことを敵に気づかれたらまずいですよね……」
提督「その通り。だからある程度策は練っておいた。……もし僕たちがまだあの鎮守府に居たとしたらどうする? 正面から戦っても勝ち目は無いし逃げ場も無い。ならば最も安全な場所で敵を各個撃破しつつ味方の増援を待つよね」
提督「だから、『鎮守府内でも堅牢な場所のどこかに逃げた』という設定のもと色々と罠を仕掛けておいた(北方棲鬼を撃退したあの後、夕張に色々と聞いておいたのが活きたかな……)」
提督「敵が鎮守府に上陸して僕たちを捜すようなことをしても、それなりに時間は稼げると思う」
提督(とりあえず一つ目の障壁はギリギリ回避出来たといえるだろう。問題はこの先だ……)
提督「なんとか、生きて鎮守府まで辿り着けたな……」
羽黒「し、司令官さん? ……ようこそ、新しい鎮守府へ。あっ、あのっ、私は今修理中で…………」服が破れている羽黒。中破状態のようだ
羽黒「見ないでえええええええぇぇぇぇ」提督の顔に手袋を投げつける
提督「ああ、歓迎ありがとう。今の状況を教えて欲しいな」後ろを向く提督
羽黒「今は、敵増援が次々にやって来るので、あの、皆代わる代わる入渠している状態です。ただ、陸奥さんが……」
提督「……彼女が撤退すると戦力が大幅に下がり艦隊の士気にも影響するから退くに退けない、というわけか」
羽黒「あのっ……で、でも。私たち、頑張りますからっ! 行ってきます!」再び戦場に向かっていく羽黒。提督が声をかける間もなく走り去っていった
提督(あれ、入渠は……?)
・・・・
那智「作戦完了だ、敵艦隊は壊走した。だが、こちらも被害が大きい。私は無事だが、他の連中が……」無線で提督に報告する那智
提督「分かった、よくやった! 後続があるかもしれないから、損傷の小さい艦は待機。他は帰投してくれ。……特に陸奥はよくやってくれた。しっかり休んでくれ」
提督「ほっと一息、か」胸を撫で下ろす提督
妙高「見事な首尾でしたね。お疲れ様です」
提督「ありがとう。でも、正念場はここからだ……。ね、電?」
電「はい、どこまでもお供します……ふふ」ニコリと不敵な笑みを浮かべる電
妙高「?」
・・・・
提督(各艦への補給が終わった、次の戦いへの準備も出来つつある。順調なはずだが、妙だ……静か過ぎる。僕が敵の立場なら、ここまで回復出来る時間を与えてやりなどしないが……)
提督「陸奥の修復にはまだかかりそうかな?」
如月「ええ、まだみたい。それにしても浮かない顔ね。不安なの?」間宮のアイスをシャクシャクと食べ進める如月
提督「ああ、ちょっと上手く行き過ぎてる気が……」
満潮「司令官、敵主力大隊がこっちに接近してる! あの中に司令官を襲った戦艦レ級も居るみたいだわ!」
皐月「司令官! さっきの敵艦隊の第二波だ! 指示お願い!」
磯波「提督! た、大変です! 敵の支援部隊と思しき艦隊がこちらに接近して来てます!」
見張りの艦から次々と敵艦隊発見の報告が届く。
提督「おいでなすった……! なるほど、こういうこと……全方位から強襲、ね。えげつないことをする」額に手を当て渋い表情をする提督
如月「ふふ、予想通りじゃない」急いでアイスを食べきり戦場へ向かう用意をする如月
提督「ううーむ。予想していたよりちょっと……いやかなり、ひょっとすると最悪なぐらい酷いが……。まぁ、ある意味作戦通りだ。僕がやるべき事に変わりはない」
提督「全艦出撃! 敵艦を各個撃破。ただし全戦力を以って真っ向勝負のような戦い方はダメだ。ヒット・アンド・アウェイ……というか、逃げながら戦うぐらいでいい」
足柄「ちょっとー! 何よそれ!? 右を向いても左を向いても敵だらけじゃない! こんなの暴れるなっていう方が無理よ!」足柄、無線越しに怒鳴る
提督「今はなるべくこちらの被害を少なく敵の数を確実に減らすことが大事だ(と言っても難しいだろうけど……)。僕に策があるので、しばらくは時間稼ぎをお願いしたい」
提督(ウォーモンガーだなぁ……士気が高いのは良いことだけれど……。重巡ともなると駆逐艦とは考え方がだいぶ異なるのか)
提督「さて、朝潮。君にはここに残ってもらう。負傷した艦は即座に退かせて入渠させるように。陸奥が回復するまではとにかく守勢に徹してくれ」
提督「夜が明けるまでに、敵の空母の数が減っていたら嬉しいかなあ……なんて」縄で提督の体を自分の艤装に結びつけている電。提督は片手に探照灯を抱えている。
朝潮「分かりました。……司令官、ご武運を!」提督に敬礼する朝潮
電「これでどれだけ激しく動いても海に落ちることは無いと思うのです。気休めにしかならないかもしれませんが、装備はタービンと艦本式缶を持っていくのです」
電「さぁ……司令官、行きましょう。少し気が早いけど……新婚旅行カッコカリ? なのです」
提督「はははっ……うん、確かに気が早いね。でも、……悪くない。君となら、どこまでも行けるかもしれないな」
執務室の窓から飛び降り、異形群がる百鬼夜行を突貫し、荒れ狂う海原を疾風迅雷の如く駆け抜けていく提督と電。
暗澹とした闇の中でも、二人の瞳の中には暁の水平線に昇る光が燦然と輝いていた。
提督「……ん、んん」
満潮「おそよう。一週間ぶりのお目覚めね」
提督「一週間!? そうか、そんなに寝ていたか……」
満潮「当たり前じゃない。アンタ生死の境を彷徨ってたのよ?」
提督「おぉう、それは……。心配かけたね」
満潮「……いいわ。それより、どうしてあんな賭けに出たの? 何か確信があったとか?」
提督「あんな賭け? あぁ、電と敵陣に突っ込んで行った時のことか」
提督「確信と言うほどのものでもないが……」
提督「深海棲艦の行動原理は、地上の人間や艦娘への怒りであり、憎しみであり、悪意だ」
提督「たとえ知性を持っていようが、それは変わりない。残忍な深海棲艦なら、いかなる時でも冷徹だと思うかもしれないが、そうではない」
提督「レ級と対峙した時に、そう感じたんだ。奴が冷静だったなら僕はあの場面で三回ぐらい殺されていただろう」
提督「奴が僕を殺しそびれたのは、もちろん僕を人間だと侮り慢心していたのもあるけれど、それだけじゃない」
満潮「?」
提督「……冷静になんかなれないんだよ。感情のある生き物はね」
提督「皮肉にも、抱いている感情が強ければ強いほど冷静さを欠いてしまう」
提督「深海棲艦は憎悪に支配されている。この世の全てを滅ぼしてしまいたいほどに大きな憎しみに」
提督「今の僕は多分、奴らにとって最も大きな倒すべき敵に見えているんだろう」
提督「だから、敵の注意を惹けると思った。敵の動きを乱せると思った」
提督「それが予想以上に上手くいったようで、この鎮守府への集中攻撃を少し緩和することが出来た。それだけだよ」
満潮「確かに、司令官が海に出たおかげで敵の総攻撃は避けられたけど……。それにしたってやっぱり危険だったんじゃない?」
提督「そうだねぇ。……ひょっとすると僕も冷静じゃなかったのかもしれない」
提督「一応予め呼んでいた故大将の艦隊……武蔵たちが来るであろう方向に進んでいたから、その援軍と合流出来れば死なないで済むのかなーと思ってたんだ」
提督「道中でやられてた危険性は多いにあったけどね」
ベッドから身を起こす提督。
提督「電となら、どこまでも行ける気がしたんだよ。……やっぱりあの時は僕も冷静じゃなかったみたいだ」
満潮「ノロケてるの? はぁ……」
提督「あっ、いやそういうわけじゃないんだけどね」
朝潮「司令官! 朝潮、お見舞いに上がりました!」
皐月「おぉー、司令官生きてるねぇ! 嬉しいなぁ」
提督「あぁ、ありがとう」
満潮「あら二人とも。電はまだなの?」
皐月「まだかかるみたいだよ……ぷぷっ」
満潮「何笑ってんのよ」
皐月「いや、なんでもない」
朝潮「それにしても……司令官、ご無事で何よりですっ!」
皐月「いやー皆心配したんだよー。特に電がさぁ……電が、ふふ」
朝潮「こら! 皐月……ふふっ」
提督「どうしたんだ二人とも」
皐月「いやなんでもないよ。……そういえば、司令官が出撃していた時の朝潮、凄かったんだよ?」
皐月「まるで司令官みたいに艦隊を上手く運用出来てたよ。陸奥が回復するまでは防戦しながらも敵艦隊を突き崩してさ」
皐月「ちょうど司令官が武蔵たちを連れてこっちに戻ってきたぐらいのタイミングで陸奥が回復したから、その後反撃に出てさ」
皐月「いやあ、あん時は爽快だったねぇ!」
提督「朝潮、ご苦労様だったね。他の皆もよくやってくれた」
朝潮「い、いえ……あの時は司令官に大任を任されて、少し舞い上がっていたというか……」
朝潮「結果として上手くいっただけで、あまり冷静でいられたかどうか……」
朝潮「それに、司令官を襲ったレ級だって逃してしまいましたし……まだまだです」
満潮「ふふっ」
朝潮「?」
満潮「“冷静じゃない”っていうのも、時には大事なのかもしれないわね。司令官」
満潮「貴方の言うように、人も艦娘も深海棲艦も、論理的な生き物じゃない」
満潮「でも、抱いた想いや願いが、運命を切り拓くこともあるのかもしれない……そう思ったのよ」
提督「そうかもしれないね」
満潮「貴方ならきっと、深海棲艦だっていつか……」
提督「あぁ。いつか、深海棲艦が……それが、人類の望む終末の具現だったとしても……」
提督「乗り越えてみせるさ」
皐月「さて、そろそろかな……」
満潮「みたいね」
提督「?」
ガチャリと病室のドアが開き、ゾロゾロと人が入ってくる。
提督「うわっ、なんだこれは」
如月「なんだこれはとは失礼ね」
磯波「艦娘総出でお見舞いに……ということで」
夕張「私たちとはこれからの付き合いになるけど、よろしく頼むわね」
不知火「よろしくお願いします、新司令官。そして……“満潮”さん?」
満潮「あら? 面白い奴らが来たじゃない。よろしくね、“不知火”」
提督(知り合いなのかな……?)
摩耶「よ! 久しぶりだな」
川内「今の内にアピールして、たくさん夜戦で使ってもらえるようにしとかないと……」
那智「やれやれ……そっちの艦隊もこちらとさほど変わらんようだな。なぁ足柄?」
足柄「どうして皆私を猪武者みたいな扱いするのよ!? 私だってちゃんと考えながら戦ってるわ」
武蔵「しかしえらいごった煮だな……なんとも奇妙な組み合わせというか……ま、よろしく頼むぜ」
陸奥「元は別々の三つの鎮守府から艦娘が集まるとなればこうなるわよね……」
龍驤「さて、提督お待ちかね……大本命の登場やで!」
人の波をかき分けて、ウェディングドレス姿の電が提督の目の前に現れる。
提督「これは……一体……?」
如月「言うなれば……ケッコンカッコカリ、カリ?」
皐月「いやー、メイクの時は歌舞伎役者みたいになってたけどこれは悪くな……もがが」
朝潮「余計なこと言わないでください!」
電「二人とも! きっ、聞こえてるのですよ! ……恥ずかしいのです」
如月(自分で出来ると言ってたから任せてみたものの……)
磯波(夕張さんにメイク手伝ってもらって良かったですね)
電「あっ……あのう……司令官さん……どうですか? これ」
提督「綺麗だよ。綺麗だけど……どうしたの……?」
電「わっ、私も恥ずかしいからやめようって言ったんですけど! 言ったんですけど……うぅ」
満潮「祝福してあげるっていうんだから、素直に喜んだらどうなの?」
如月「顔膨らしちゃって」
満潮「膨らしてないってば!」
皐月「まー、提督にとっても、皆にとっても、ある種節目になるしさ。これまでと、これからの」
皐月「二人の未来を! そして、これからの艦隊の明るい未来を祈って!」
提督「?」
電「?」
如月「……何してるの? 早くしなさいよ」
満潮「待ってるんだから、早く見せつけなさいよ」
提督「え? 何を」
如月「ウェディングドレスといったら誓いのキスに決まってるでしょうが」
朝潮「さぁ、司令官!」
提督「そんな、人前でなんて恥ずか」
チュッ
電「ふふ……この前のお返しです」
部屋に満ちる黄色い歓声。
皐月「いいねぇ……魅せるねぇ。さ! 二人の幸せな未来を祝福して、乾杯!」
那智「フフフ……良い肴だな。今夜ばかりは飲ませてもらおう」
夕張「え、えー!? 病院で飲酒はまずいんじゃないかしら」
龍驤「その点は問題あらへんで! この病院は今晩貸切や」
妙高「提督の快気祝いも兼ねてますからね。許可は取ってあります」
・・・・
提督「いやあ……大所帯になったねぇ……」
電「そうですねぇ」
提督「それにしても……」
電「?」
提督「前に、両腕が無いから君を抱き締められなくて残念だと言ったけど……」
提督「左腕はまだ残っていて良かったよ」
提督「こうして君と手を繋いでいられるからね」
提督「綺麗だよ、電」
電「あぅぅ……じゃあ、抱きしめる代わりに、キス……して欲しいのです」
提督「……。好きだよ、電」
唇を委ねる電に応える提督。
その情熱的な様に再び歓声が巻き起こる。
電「末永く……よろしくお願いします、司令官」
END
お疲れ様でした。後日談というかその後の顛末みたいなのも貼っておきます。
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提督:戦果を認められ、中将に昇進する。海軍内でも一躍エース的存在に。以後も数々の作戦を勝利へと導く。
故南条中佐・故藤原大将や三雲大差の艦隊の艦娘のほぼ全てを引き取り、大艦隊を担うようになる。
私生活に関してはほぼ電に頼りきりで、もはや電が居ないと生きていけないのではと艦娘達からは噂されている。
電:半ば提督の鎮守府公認の伴侶として認められるようになる。
だが、それも束の間の天下で、提督の才知や人柄に惹かれてアプローチしてくる新たに配属された艦娘に気が気でない様子。
現在はケッコンカッコカリのために練度を上げている(花嫁カッコカリ修行)。
皐月:これまで通り主要任務の最前線で活躍している。
また、作戦会議等に参加するなど、ブレーン的役割も果たすようになる。
提督をからかって遊ぶ時間が少し減ったのを残念に思っている。
磯波:前線での任務からは離れ、遠征任務や他の艦娘の整備、資源の管理などを担うようになる。
「提督のお茶汲み係になっちゃいましたね」と自嘲しているものの、その堅実な仕事ぶりは提督から評価されている。
提督の為に料理を作る役目は電に譲った……のだが二人とも忙しい時は彼女がその役を担うようだ。
如月:磯波同様主要な任務からは外れ、他の艦娘の補助的な立場で動き回ることが多くなった。
前線に出ない割にはなんだかんだ多くの艦娘と組んだりすることが為か、気がついたら様々な艦娘のことを把握している情報通のような立ち位置になっていた。
提督にも他の艦娘の様子をちょくちょく報告しているので、鎮守府のお局様的存在として他の艦娘からは恐れられている(当然本人はそれを不満に思っている)。
満潮:出撃の頻度は減ったが、主要な作戦には組み込まれるようだ。
艦隊に多くの艦娘が増えたことで、自分の居場所が無くなってしまうのではないかと危惧していたが案外そんなことはなかった。
不知火とは頻繁にキャットファイトを起こしていて表面的には険悪な関係に見えるが、互いに良きライバルだと認めている。
朝潮:皐月同様艦隊の頭脳として働いている。最近では、出撃には参加しないが作戦会議には参加するということも多いようだ。
最近では真面目すぎて堅物だった性格もじょじょに丸まって来て、人の話を適当に受け流したりするような高度なしたたかさを身につけた。
そして提督に甘えることも習得し始めた。月二回~三回の頻度で提督にパフェを奢ってもらうのがささやかな彼女の楽しみである。
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なんだかんだ色々ありましたが完走出来ました。
安価やコンマに参加して下さった皆様方、このSSを読んでくださった皆様方に感謝の意を表したいと思います。
もちろん元ネタの艦隊これくしょんの運営やキャラそのものにもね。
楽しんでいただけたなら幸いです。
……この次やるかどうかは分かりませんが、やるとしたら告知します。
もうちょっと参加しやすく読みやすくな感じを心がけたいなあと思っています。
そもそも次をやるかどうか未定ですが……。>>1の暇度によりますが今んとこ微妙です。
お久しぶりです。明けました。
アニメが始まりこれから新規プレイヤーが増えるのかなーどうかなーって感じですね。
ぼちぼち第二部的なものをやろうかなと。
一応書いておきますが、第一部(これまでのお話)とは世界観的に一切関係ないです。
続編でもないしスターシステムとかでもないです。
首筋に星形のアザもないです。
基本的に設定とかキャラとか世界観とかは独立してます。
第一部とはあれこれシステムを変えてみたので、次のレスで詳細に説明いたします。
ついでに新規参入者向け(?)に引き継いだ要素についても要点だけ軽くおさらいします。
/* ルール説明 */
・>>1が1レスずつ物語を投稿していきます。(名前欄にレス数のカウントが表記されます 例:1/100)
レス数が100になったら物語はおしまいになります。また新たな設定とストーリーで100レス……ってのを>>1が飽きるまで続けていきます。
・物語が開始する前に、ヒロインとなる艦娘6人および提督のステータス、コメディ・シリアス判定を安価で決定します。
/* 経験値(EXP)システムの導入 */
これまでは艦娘との各エピソードの度に好感度が上昇していましたが、今回はそれを廃止して代わりに経験値というものを導入します。
といっても、呼称が変わっただけで中身は前回とほぼ同じです。
初めての方向けに要点だけ説明すると
・1レスごとに対象となる艦娘の経験値が上昇
・終盤で最も経験値の高かった艦娘とEDを迎えることになる
って感じです。
ただ、前回と違い上昇値や倍率が変動することはありません(詳しくは後述)。
(補足)
「好感度」という名前だとニアリーイコール提督への愛情値なわけですから、数値によってラブ度合を調整しなければならないのですよ。
各キャラの公平性を保つため敢えてメインヒロインを設けず進行させるため、終盤になれば皆満遍なくラブってきます。
恋愛シミュレーションゲーム的で面白いとは思うのですがゲームではなくただのテキストなんで最終的に解は一つしかないわけでー……。
分岐ルート差分とか作ればいいんだけど>>1が死んでしまうっていうかもうそれ一からギャルゲ作った方が早いという世界なのでー……。
そんな理由で「経験値」という呼称に変更しました。
経験値であって好感度ではないので、経験値が上がった所でさほどデレたりしないどころか最後までフラグさえ立たないかもしれません。
逆に経験値が低くても最初からデレデレだったりすることもあるかもしれません。
経験値が上がったところでメラゾーマが使えるようになったりすることは(多分)無いので悪しからず。
/* スレッドの進行の仕方の大幅な変更 */
ここまでの話だと前回の仕組みをマイナーチェンジしたみたいな感じなのねと思うかもしれませんが少しジョーカーも切ってみたり。
これまではコンマによって追加でイベントが発生・安価で展開が変動、程度で基本的には>>1が適当に進行させていきました。
どの艦娘が登場してどんなエピソードになるか・どれぐらいレス数を割くかは>>1の独断で決めていきました……が。
今回はだいぶ仕様が変わります。
その仕様とは果たして!?
……あえてここでは伏せておきます。
キャラクターが決定してから発表といつことでここは一つ。
勿体ぶりたいわけじゃなく、ややこしいからです。
ややこしいけど面白くなるとは思います、実際にやってみなきゃ分からないところだけど。
前回よりTRPGっぽい感じになるかもです。
そもそも>>1はTRPGやったことないしこれをTRPGと言い張ろうものなら方々から十字砲火喰らいそうですが。
あくまで少し「っぽく」なるだけで実際には吟遊GMが全てを支配してるセッションみたいなぐらいのイメージだと吉。
そんなわけでキャラを安価で決めるところから始まるんだがしばしお待ちを。
昼の休憩が終わってしまったので……。
っけね! 書いたつもりが忘れてた。
/* 各パラメータの見直し */
提督のステータスなどを最初にコンマで決定して、以後ちびちび上昇したりしなかったりがありましたが、今回はステータス値の変動は一切ありません。
初期値をコンマで決めてそれ以降はそのままです。
パラメータ変動が無い代わりに、ステータスはほとんどお話に影響しません。
シリアス・コメディ判定も同様で、これらのパラメータはわりと意味合いが軽くなりました。
あくまで主人公やその周りとの関係、世界観の初期設定を決めるためのダイスロールのようなものだと思ってもらえれば。
というわけで、これらについては中身自体は前回同様です。
……初めましての人やよく分からないという人は独特なルールによってお話の初期設定が決定される程度の認識で構いません。
(今回はさほど重要な数値として扱うつもりがないので特に説明しませんでしたが、その『独特なルール』ってのを知りてえんだって人は>>2,>>3を参照されたし)
>ただ、前回と違い上昇値や倍率が変動することはありません(詳しくは後述)。
後述してないじゃん!
ああまあ詳しい説明はキャラが決まってからってことで。
正月気分が抜けてなくてダメね。
とまあそんなことは置いといてキャラを決定するための安価をば。
/* 初期設定安価 */
一人目 >>+1(コンマで提督のステータス「勇気」が決定)
二人目 >>+2(コンマで提督のステータス「知性」が決定)
三人目 >>+3(コンマで提督のステータス「魅力」が決定)
四人目 >>+4(コンマで提督のステータス「仁徳」が決定)
五人目 >>+5(コンマで提督のステータス「幸運」が決定)
六人目 >>+6(コンマで「コメディ・シリアス判定」を決定)
※無効レスや被りが起こった場合は>>+1シフト
アレコレ小難しいこと書いたけれど物語に登場させたい艦娘の名前書けばいいだけです。
特に無ければ自分の好きな艦娘とかイチオシな艦娘の名前を書けば良いんじゃないかなイーノック。
あとは>>1が因果律と相談しながら物語を考えていきます。
雪風
赤城 連続だめなら飛ばしてください
響
足柄
さてこれで決定と言いたいところですが……同一IDからの連投は予想していませんでしたね。
これを許容してしまうと極論やろうと思えば何でも好き勝手やれてしまうので本来ならダメと言っているところですが……。
注意書きをしていなかった私が悪いですね。それに積極的にルールの穴を突いていこうという姿勢は評価したいです。
というわけで、ここは一つ賭けをしてみましょう。
最後についた>>345から3時間41分9秒(2015/01/08(木) 22時30分14秒まで)にキャラ決定のレスが来なければ>>343の通り。
しかしレスが付いた場合はそのキャラに決定します。
ちなみにこの3時間41分9秒という数値は>>340から>>345までに経過した時間÷6(小数点切り捨て)です。
次にレスが付くまでにかかるであろう平均時間と言うには乱暴すぎますがまぁとにかくそれを過ぎれば勝ちです。
よく分かんない! って人は自分の好きな艦娘の名前でも書けばいいと思うよ。
////チラシの裏////
何? ÷6するなら>>340から>>345までに経過した時間じゃなくて>>339から>>345までの時間だろうって?
計算し直すのめんどくさいから許して。
2015/01/09(金) 22時30分14秒、ね。ミスってはいけない部分をミスってしまった……。
あと、コンマの値はレスが付いたらそのレスの値を継承(「コメディ・シリアス判定」の値が決定。>>344より「仁徳」の値が11……って感じでシフト)、付かなかった場合は>>343(「仁徳」の値21に決定。以下レス通り)って感じです。
分かり辛いかもしれないけど要は結果が出たら>>1がまとめるだけだから理解しなくてもいいのよ。
というか暇つぶしのための娯楽程度のSSごときに脳のリソースは割かないのが吉ですぞ。
出揃ったようですね。
ヒロイン
雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月
提督ステータス
勇気:64(強気)
知性:92(神算鬼謀)
魅力:04(無)
仁徳:21(嫌われ者)
幸運:95(豪運)
コメディ・シリアス判定:80(ベリーハード)
前述の通り今回ステータスとかはあんまり重要じゃないよとは書いたから別にどうとでもなるけどなんだこいつは……。
本編の投下は後日ですが、次のレスで>>337ではぐらかした内容について説明します。
/* スレッドの進行 */
>>337ではぐらかした内容について説明!
基本的に5レスごとにシナリオが進行していきます。これを1フェイズとします。
奇数回のフェイズを『Phase A』、
偶数回のフェイズを『Phase B』とします。
『Phase A』ではレス安価で指名された艦娘が1レスにつき1人登場します。
登場した艦娘の経験値は+1上昇します。
また、安価レスのコンマ値がゾロ目だった場合はエクストライベントが発生します。
『エクストライベント』が発生すると、安価で指定された艦娘との話が1レス分追加で投下されます。
エクストライベントは100レスのカウント対象とはなりませんが、エクストライベントでも経験値が+1上昇します。
『Phase B』では付いたレスのコンマ値によって登場する艦娘が決定します。
Phase Bでは1レスにつき好感度が+2上昇しますが、エクストライベントは発生しません。
また、各レスにシチュエーションや起こる出来事を書いておくと
・Phase Aならエクストライベントが発生した場合
・Phase BならIDに3つ以上数字が入っていた場合
書いたレスの内容が概ね実現します。
ただしこれは任意なので無理に書く必要はありません。
Phase A→Phase B→Phase A→…とフェイズが進行していきます。
つまり1/100レス~5/100レスがPhase Aで6/100~10/100レスがPhase Bで…という感じです。
進行の例を次のレスに書いておくので、そちらを参考にすると分かりやすいかもしれません。
(補足)
各レスに出来事を書いておくと条件を満たしていた場合はその内容が実現すると書きましたが、以下の場合は申し訳ありませんがスルーします。
・>>1の技術的、能力的に話に組み込むのが極めて困難な内容
・>>1の心情的にどうしても描写することが出来ない内容
よほどのことがない限りスルーはしないと思います。
特に後者の理由でスルーはまず無いと思います(>>1的にはエログロ程度ならまあ別に・・・って感じですし)。
あくまであまりにも話の流れをぶっ壊しにかかるようならゴメンナサイしますっていう程度の予防線なんでさほど気にする必要はありません。
つまりどういうことだってばよな感じですがやってみれば分かると思います。ぶっちゃけ>>1もやってみないとよくわかんないし(オイ
とりあえず脳内イメージを皆さんと共有すべくサンプルのようなものを書いてみます。
----------------------------------------------------------------------
351 : ◆Fy7e1QFAIM [saga]:2015/01/09(金) 23:01:01.01 ID:SureNusio
『Phase A』【1-5/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
352 : VIPにかわりまして(ry [sage]:2015/01/09(金) 23:11:01.33 ID:1Morning1
雪風
↑コンマ値がゾロ目なのでエクストライベントが発生
353 : ry [sage]:2015/01/09(金) 23:21:01.01 ID:February2
翔鶴
354 : 略:2015/01/09(金) 23:31:01.01 ID:nanoDeath
金剛
提督がデートに誘う
↑コンマ値がゾロ目で無いので、出来事やシチュエーションを書いても実現せず
355 : 略:2015/01/09(金) 23:41:01.01 ID:High/Tide
足柄
大量のカツを揚げ提督に食べさせる
↑コンマ阿多いがゾロ目なのでエクストライベントが発生
更に出来事を書いていたためその内容が実現する
356 : 略:2015/01/09(金) 23:51:01.01 ID:IsonoNami
皐月
357レス以降
・雪風のエピソードで2レス(通常+エクストライベントで2レス分)
・翔鶴のエピソードで1レス
・金剛のエピソードで1レス
・足柄のエピソードで2レス(通常+エクストライベントで2レス分。そして提督は死ぬほどカツを食べることになる)
・皐月のエピソードで1レス
といった感じで進行し『Phase B』へ。
363 : ◆Fy7e1QFAIM [saga]:2015/01/10(土) 23:01:01.01 ID:SureNusio
『Phase B』【6-10/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00:>>1が独断で決定
01~16:雪風
17~33:翔鶴
34~50:金剛
51~65:響
66~82:足柄
83~99:皐月
>>+1-5
364 : 略:2015/01/10(土) 23:11:01.12 ID:BIG7isBIG
はい
↑コンマ値が01~16の範囲内なので雪風に決定
365 : 略:2015/01/10(土) 23:21:01.86 ID:FlatSanta
はい
↑コンマ値が83~99の範囲内なので皐月に決定
366 : 略:2015/01/10(土) 23:31:01.55 ID:Ochido000
提督に波紋の呼吸法を教える
↑コンマ値が51~65の範囲内なので響に決定
さらにIDに数字が3つ以上入っていたため書いた内容が実現する
(ただし、「○○が」というキャラ名の指定をしてもその部分は無効になるので注意)
367 : 略:2015/01/10(土) 23:41:01.76 ID:tansu+88k
提督に告白する
↑コンマの値より足柄に決定
ただしIDに数字が3つ以上入っていないため書いた内容は無視される
368 : 略:2015/01/10(土) 23:51:01.86 ID:ARAaraARA
はい
↑コンマの値より皐月に決定
359レス以降
・雪風のエピソードで1レス
・皐月のエピソードで2レス(>>365と>>368)
・響のエピソードで1レス(『Phase B』ではエクストライベントは発生しない。ただし提督は「仙道を学ばなければいかん。さもないと死ぬッ」)
・足柄のエピソードで1レス
と5レス進み再び『Phase A』へ……。
……ダメだよく分からんな。
っていうか波紋ってなんだよって感じですがサンプルなのであまり深く突っ込んではいけない。
まあ、安価を出したら『Phase A』では登場させたい艦娘の名前書いて、
『Phase B』では特に何も書かなくてもいいって感じですハイ。
あとは気が向いたらなんかシチュエーションとか書いてみるとかそんな感じ。
基本的に同一IDからの連投は無しでよろしくです。
1フェイズにつき1レスってな感じでお願い致します。
んー……ひとまずやってみましょうか。
そんなわけでッ!
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『Phase A』【1-5/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
と、そんなわけで
・足柄2レス/響1レス/雪風1レス/金剛1レス
で『Phase A』が進行していきます。
基本的にはレスの順番通りに進行しますがたまに前後するかもしれません。
……とは言っても、現状何も書けてないので投下はまだ先になります。
いやあそれにしても前回と比べると大分メジャーなキャラが多いですね。
もっと奇を衒ったのが来るだろうと身構えていたので意外でした。
なかなか面白くなりそうなチョイスで良いと思います。まぁ私が面白くせにゃならんのですけれども……。
投下はちょっと遅くなるかもしれませんがご容赦ください。
さて特に告知していませんがぼちぼちやっていこうかなと。
好感度という数値は廃止したけど前回の名残ということで初期ステータスによって各艦娘の初期デレ度が微妙に左右されたり。
能力値関連の話なんで、例によって今回ではあまり重要に扱いませんが……。
【各ヒロインの能力値による好感度補正】
雪風:魅力(マイナス補正)
翔鶴:仁徳(補正なし)
金剛:魅力(マイナス補正)
響 :知性(大幅プラス補正)
足柄:勇気(微プラス補正)
皐月:勇気(微プラス補正)
好感度の初期値というよりは相性度ぐらいの感じのニュアンスになりますかね。
ただ、今回は意図的に上記を無視してる感じのキャラがわりと居るんであんまり信用できない感じです。
それでは投下していきます~。
執務室。星一つ出ていない天心を睨む、仮面を被った男。
提督「さてここからが勝負どころだな……」
バァン、と打撃音。ドアが蹴り開けられる。
足柄「大淀を秘書艦から外すって、どういうことですか!? 彼女はこの鎮守府で歴代の提督の秘書艦を務めてきたんですよ!」
提督「そう。死者が立て続けに三人も出ているこの鎮守府で、な」
足柄「彼女が信用出来ないと? それにしたって……着任して一日も経たない間に、だなんておかしいでしょう!」
提督「おかしいかおかしくないかは俺が決めることだ。提督の身近に居ながら三人も見殺しにしているような艦娘を傍に置いておきたくはないな」
足柄「秘書艦に適切か否かを判断するのは、貴方がここの執務に慣れてからでも遅くないでしょう。彼女以外の人間にこの鎮守府の秘書艦が務まるとは思いませんが!」
提督「秘書艦は……要らん。必要ない」
一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした後、わなわなと震え出す足柄。
足柄「そんな変な見た目をしている時点で怪しい奴だとは思ってたけれど……ここまで訳のわからないことを言う人だとは思わなかったわ」
足柄「第一、何で仮面なんかで顔を隠してるのよ! 外しなさい! 外せ!」
提督の仮面を外そうとする足柄。その手をひょいひょいとかわし軽くあしらう提督。
足柄「もうアッタマ来たわ!」
提督に飛びかかる足柄。しかし提督にさっと身を反らされ転倒してしまう。
提督「おい、大丈夫か」
近づいてきた提督の足元に這い寄る足柄。脛に思いっ切り噛みつく。
提督「」プッツーン
噛まれている足を振りほどき、その勢いで足柄の顔面に蹴りを入れる提督。きゃん、と犬の鳴き声のような悲鳴をあげる足柄。
足柄「やった……わね……!」
態勢を持ち直しサマーソルトキックを放つ足柄。間一髪でかわす提督。
後方へ跳躍し距離を取る提督。両者睨み合ったままでいる。
足柄「……貴方、言ったわよね。秘書艦が要らないって」 提督に人差し指を突き立てながら言い放つ
提督「言った。秘書艦など必要ない」
足柄「正気なの!? 今まで秘書艦なしで執務をする提督なんて見た事も聞いた事も無いわ!」
足柄「それで貴方は、本当に提督としての責任を果たせるつもりなのかしら!?」
提督「見くびらないでもらおうか! 当然だ。提督としての最高の戦略を! 指揮を! 兵站を! 執務を! 完璧にこなしてみせるッ!」
足柄(こいつ……。なんて堂々と大それた言い切るの……)
足柄「……言ったわね! なら、実際にやってみせてもらうわ! 少しでも失敗しようものなら……覚悟してもらうわよ!」
提督「良いだろう。俺がこの鎮守府の提督として相応しくない失策をした場合はこの地位を降りてやろう。何なら誓約書を書いてやってもいいぞ」
スラスラと紙にサインし、足柄に誓約書を渡す提督。
誓約書の入った封筒を持ったまま、煮え切らない様子で部屋を出て行く足柄。
提督「やれやれ……ああいう手合いの相手は疲れるな。追い出すのに20分もかかってしまったか」
提督(一応殺気は感じなかったが、それでもあのままやり合っていたら最悪死んでいたかもしれん)
提督(……さすがに艦娘が相手ではな。適当な所で切り抜けることが出来て助かった)
提督「さて、見得を切った手前だ。さっとこなしてやるか」
・・・・
足柄「何よ……なんなのよアイツ! 屈辱だわ」
足柄「どうしてあんなに余裕綽々なのよ! うぅ~……腹が立つ!」ガルル
提督(今のところはあの足柄に付け入る隙を与えないほど完璧に諸執務をこなせているが……これぐらいは出来て当然)
提督(だが日々のタスク達成度が100%なだけでは到底足りない。この先の戦略展開のためににもまずは地盤を固めることが肝要)
提督(ここは碌でもない噂に尽きない鎮守府だ。火のないところに煙は立たぬというしな……内情を調べてみる必要がありそうだ)
提督(しかし俺が直接動き回るのは危険過ぎるな。誰か一人でも信頼出来るような奴が居ると助かるんだが……)
鎮守府所属の艦の情報が書かれた書類に目を通す提督。
提督「信頼出来る、か。ふむ……」
・・・・
響「響だよ。司令官、どうかしたかい?」
提督「響。いや、Верный……と言うべきか」
提督「お前に任せたい重要な任務がある」
響「私の最後の名を知っているとは、物知りだね。その名前で呼ばれるのは数百年振りだよ」
提督(軍艦であった頃、ということか?)
響「内容を聞く前に、一つ質問がしたい。どうして顔も合わせた事のない私にそんな重要な任務を依頼するのかな?」
提督「理由は3つ。純粋に練度が高いこと・他所の泊地から配属されて日も浅く、私を殺そうとする可能性は低いと考えられること」
提督「そして……当時の言葉でВерныйは“信頼できる”、という意味だったか。遠い昔の国の言葉だから合っているかどうか不安なのだが」
響「合っているよ、司令官」
提督「自分の名に背くような真似はすまい。……そうだろう、ヴェールヌイ」
響「なるほど察しがついた。しかし狡い御仁だね。そう言われたら従うほかないよ」
響「私も、この鎮守府で起こった事件については聞いている。一時私もここに在籍していたことがあるんだが、一体何が変わってしまったのか……」
響「私が司令官の盾になるよ。この名に懸けて、ね」
提督「話が早いな。それからもう一つ。いや、どちらかといえばこちらが任務の本題だ」
提督「密偵を頼みたい。内情を知らなければ」
響「ふむ……私はさしずめ司令官の秘密警察というわけか」
提督「物騒な物言いだな。だが、有り体に言えばそうだ」
提督「一週間後の同じ時間にまた会おう。信頼しているぞ、ヴェールヌイ」
響「до свидания」
一礼して退室する響。
提督(ダスビダーニャ……。また会いましょう、か)
提督(奴は使えるな……)
・・・・
響(面妖な提督だと思っていたが……話してみるとなかなかどうして知的じゃないか。あれなら演習や海域攻略での冴えた指揮にも納得がいく)
響(それにしても……なぜ彼は仮面を被っているんだろうか)
響(そして、どうして執務室から出て来ないのだろうか。私の記憶が正しければ、彼は着任してからまだ一度も部屋の外を出ていないはず)
響(一体どうやって生活しているんだ……? 食事は? 風呂は? 睡眠は?)
響(謎は深まるばかりだ……)
一週間後、響は再び執務室を訪れた。
提督「ヴェールヌイ。人を連れて来いと言った覚えはないが」
響「連れてくるなと言われた覚えも無いからね」
提督「まあいい。お前が連れてきた人材なら、ひとまずは安心出来るだろう」
響(司令官は本当に私のことを信頼しているんだな)
提督「おい、何を固まっている」
雪風「ア……イエ……か、陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です! どうぞ、宜しくお願い致しますっ!」
緊張しているのか声が上擦っている。
提督「そんなに大声で言わずとも分かっている。どうしたんだ」 少し不機嫌そうな声色
響「司令官、怖がらせないであげてくれないか。彼女はあがり症なんだ」
提督「やれやれ、妙なのを連れ込んできてくれたな……。心配するな、取って食いはせん」
雪風「アッ、ハイ……いえすみません。すごく怖い方だと聞いていたものでして……」
提督「せっかくなのでその噂、話してみてくれ。なに興味本位だ」
雪風「え、えぇー……。執務室に艦娘を監禁して暴力を振るうのが趣味だって言われていたり、実は深海棲艦と通じているスパイだって言われてたり……」
響「ふふふ。そうそう、全然執務室から出て来ないから実はロボットか何かじゃないかとも言われてるね」
渋い顔をする提督。
提督「まぁ、そんなことはどうでもいい。報告を」
雪風「あっ、はい! んしょっと……」 鞄から小型のノートパソコンを取り出し、映像を再生する
提督(なぜWacBookにMindows OSを導入しているのか気になる所だが黙っておこう)
雪風「あの……これ、です」 鎮守府の地図を取り出す
提督「ふむ。鎮守府敷地内の地下通路に、なぜか地図上に存在しない部屋がある……ということか」
雪風「はい。そっ、その! これだけならしれえに報告するほどでは無いのかもしれませんがッ! なんだか妙な予感がしたので……」
提督「……確かに気になるな。ヴェールヌイ、部屋の前に小型の監視カメラを設置してきてもらえるか。部屋の中が覗える位置が望ましい」
響「そう言われるだろうと思って既にやっておいたんだ。雪風、例のファイルを」
雪風「はい。部屋に入っていく艦娘を捉えた映像です」
・・・・
動画の内容は、地下通路内の一室に艦隊所属の軽巡洋艦龍田が部屋に入り、再び部屋の外に出る……というだけのシンプルなものだった。だが……
提督「部屋の中に緑色のものが大量にあったのが一瞬見えたな……。植物のようだが」
提督「人目につかない場所の、厳重に鍵がかけられた密室で育てる植物といえば……まぁ、そうなるな」
響「彼女を尋問するかい? 看過するわけにはいかないだろう」
提督「いや、共犯が居て何らかの方法でバレたことを伝達。共犯者は部屋の大麻を全て処分し別の植物に入れ替えておく……なんてことをする場合も考えられる」
提督「そして逆に提督に対し不当な拘束を受けたと証拠つきで言いふらして回り最終的に失脚まで追い込む。私が同じ立場ならそれくらいのことをする」
雪風(ひねくれ過ぎなのでは……)
雪風「もう少し裏を取ってから……ということでしょうか」
提督「関係者を全て洗い出してからだな、表向きに対処するのは」
提督「まずは、この龍田という艦娘の身辺調査を依頼したい」
提督(麻薬取引か……厄介なことになってきたな)
鎮守府内のとある会議室にて。
霞「ではヴェアヴォルフ第48回定例会……やるわよ」
――“ヴェアヴォルフ”。
この鎮守府では、第一艦隊から第四艦隊までが正式な艦隊ということになっているが、それ以外にもユニット(小隊)が組まれていて、時には主力艦隊を差し置いて出撃命令を受けることがある。
“ヴェアヴォルフ”もそのユニットの一つ。深海棲艦の支配海域へ少数で侵攻しゲリラ戦法的な電撃戦を行うのが主たる活動内容で、足柄・大淀・霞・清霜の4名で構成されている。
霞「いつまでヘコたれてんのよ! 」
大淀「ううっ……だってぇ~……やっぱりショックですよぉ……。そりゃあ私にも責任の一端はありますけど……」
足柄「あの提督が悪いのよ! そうに決まってる!」
霞「過ぎたことを! グダグダと!」 両手で大淀と足柄にチョップをする
霞「いい? その件については前の会議で言った通りよ。確かに大淀の件は残念だけど、あの提督は実際に秘書艦が居なくても何も問題なく執務をこなせてる」
霞「指揮といい先見性といい、人間性以外に非の打ち所がないぐらい完璧だわ」
清霜「あの霞にここまで言わしめるなんて凄いねぇ。……かえって心配になるかも」
霞「アンタ人のことをなんだと思ってるのよ」
足柄「鬼教官」
大淀「というか鬼そのものなのでは……」
霞、両名に無言でチョップを放つ。
霞「……とにかく、この件に関してはこれ以上蒸し返さない。それより考えなきゃならないのは今後のことよ」
霞「ヴェアヴォルフの地位は以前と比べてかなり低下しているわ。これまでのように主力艦隊と同等の扱いを受けることはまず無いでしょうね」
大淀「そういえば最近、利根さんや熊野さんに避けられているような気がします……」
足柄「チッ、ドラム缶運びが偉そうに……!」
大規模な組織の中には、多かれ少なかれ階級や序列が存在する。それはこの鎮守府の中でも例外ではない。
武勲艦や主要作戦に参加した艦はその分手厚く補助を受け、鎮守府内での影響力も強めていく。
艦娘の世界は成果主義だ。古株だろうと結果を出せなくなれば容赦なく冷遇を受けるが、新参であっても作戦に貢献出来れば厚遇される。
霞「大淀が秘書艦を降ろされたことにより他の艦隊やユニットからの評価は低下。おまけにどこぞの馬鹿が提督に噛みついたせいで重要任務からも尽く解任」
足柄「馬鹿ってなによ! ……ただ、厳しい状況なのは否定出来ないわね」
清霜「全然任務が来ないのが致命的だよねぇー……暇だなー」
艦娘たちは提督から与えられた出撃命令などの任務を達成することで利益を得ている。
ヴェアヴォルフへの任務が激減したのは、大淀の失脚や足柄の行動だけが原因ではない。
ヴェアヴォルフは、『数撃てば当たる』を地で行く集団だった。
どれだけ面倒な作戦だろうが危険な作戦だろうが片っ端から出撃していき、失敗してもそれを取り返すほどの出撃を繰り返して地位を得てきた組織だった。
ところで、他の艦隊から任務を受託することは各鎮守府では日常的に行われていることである。これを任務ロンダリングと言う。
ヴェアヴォルフは他のユニットから、時には主力艦隊からも任務ロンダリングを受けて多くの利益を得ていた。
だが、この任務ロンダリングによって艦娘が艦娘を雇うという状態を危険視していた提督は、着任して早々に対策を打った。
個々の艦娘の能力および各ユニットや主力艦隊の実力を十分に把握し、その上で過不足ない任務を配分するようにしたのである。
この改革により各組織への負担が大幅に減ったため多くの艦娘たちは歓喜した。
その一方で、過剰に出される任務を肩代わりすることでより多くの利益を得る、ヴェアヴォルフのような者たちは割を食ったということである。
何気なく発した清霜の一言は、その事実を他の三名に気づかせるのに十分であった。
霞「……これまでのようなやり方だと、やっていけそうにないわね」
大淀「地道に任務をこなして、提督の信頼を得るところから……でしょうか。ハァ……」
清霜「幸い時間だけはたくさんあるし、今後についてじっくり考えてみたらどう? 司令官に認めてもらう方法をさ」
足柄「…………。私は反対よ! そんなちまっこいことやってられないわ!」 衝動的に立ち上がる
霞「じゃあどうするってのよ!? 何か案でもあるの?」
足柄「…………あ、あるわよ! あるわ! 次の会議までに良い報告を持ってきてあげるんだから! 期待して待ってるのね!!」
・・・・
足柄(あの提督の犬になるだなんて、絶対にゴメンだわ!)
足柄(霞がああ言うぐらいだから、頭の勝負で勝てる相手じゃなさそうだけど……)
足柄(でも……納得行かないわ。絶対出し抜いてやるんだから! ギャフンと言わせてやる!)
金剛と比叡が自室で何やら話し合っている。二人は主力第一艦隊所属の艦娘で、この鎮守府の中ではいわゆるエースだ。
金剛「ひええええええええええ」
比叡「何ですかお姉さま」 少し怪訝そうに
金剛「あの提督冷たすぎデース! 栄えある第一艦隊旗艦に対してあの態度はなんなんですカー!」
比叡「うーん、文字通りの鉄仮面ですからねぇ……。何かあったんですか?」
・・・・
金剛「ヘーイ! 提督ゥ! お話に来たネー!」
提督「執務室への不要な立ち入りは禁止したはずだ。処罰されたいのか?」
金剛「Oh……これは手厳しいネー! でも、そんなに根を詰めていてはダメですヨ? ワタシと一緒にTea Timeなんて」 座っている提督の隣に立ち、顔を近づける金剛
提督「よほど第一艦隊から異動されたいように見える」 隣の金剛に目もくれず淡々と書類仕事を処理していく提督
金剛「こっ、これはっ! スミマセン! 失礼しまシタ!」
提督「それから言っておく。俺はお前のように媚び諂う人間が大嫌いだ」 そそくさと部屋を出る金剛に追い打ちを言い浴びせる提督
・・・・
金剛「ということがあったんデース。取り付く島もないデース……」
比叡「まぁ~あの提督ネクラそうですからねぇ。あんな提督は忘れて、たまには姉妹でティータイムなんてどうでしょうか。何なら榛名や霧島も呼んで……」
金剛「比叡? 人から愛されるにはまず自分からデース! 提督のことをそんな風に言ってはいけまセン」
金剛「それに! 榛名や霧島は信用ならないデース! 腹の中ではワタシの座を狙ってるに違いないデース!」
比叡(お姉さま……提督への愛はあれど、私たち姉妹への愛は欠片もないということですね……)
比叡(いや、お姉さまは提督に対しても愛情など抱いていない。ただ提督を利用して自分が良い思いをしたいというだけ……)
比叡(私はお姉さまの向上心や前向きさに惹かれていたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。今や利害で動いているだけだ……己の野心のままに)
金剛「比叡? 比叡? 何ボーッとしてるデース」
金剛「紅茶が冷めますよ? 今の私には、比叡だけが信頼出来る友人なんですから……しっかりしてクダサーイ」
金剛「話し相手が居ないのは退屈ですからネー。ちゃんとResponseしてよネ?」
比叡「あっ、ハイ! すみません、お姉さま……」
・・・・
金剛「どうやったらあの提督のハートを射止められますかネー。このままだと榛名や霧島、他の艦娘に旗艦の地位を取られてしまいそうデース……」
比叡「お姉さま。寵を得ようとするよりも、まずは練度を上げられてはいかがかと。あの提督は実利主義です。戦果を上げれば評価してもらえるかと」
金剛「そんなまだるっこしいことやってもCost Performanceが悪すぎデース! そもそも練度を上げれば敵に勝てるなんて事自体幻想デース。今ドキの考え方じゃないデース」
金剛「もちろん最低限の練度は必要デスけど、ある一定のラインに達したら後はドングリの背比べデース! 戦果を上げるのに重要なのは第一にCondition。次に装備デース!」
金剛「詰まる所Quality of Lifeの向上が戦果へと繋がるのデース! 装備の強化も、モチベーションの維持にも、おカネは必要ですからね」
金剛「あとは場の空気を読んで上手くMVPを掻っ攫うSenseと敵から攻撃を受けない運デース」
金剛「比叡は戦い方がちょっと愚直すぎマース! 無傷の敵と殴り合うよりも、空母連中が傷めつけた相手や敵の親玉を叩く方がスマートデース」
比叡「すみません、お姉さま……」
金剛「戦果なんて上げて当然デース♪ でも、それだけじゃ足りないのデース……」
金剛「戦いでの報酬は安定していまセン。盤石な地位によって得られる不動の恩恵こそワタシの心に安寧をもたらすのデース」
金剛「そのためのBurning Loveデース! 提督のハートを掴むのは! このワタシデース! 必ずゲットデース! 絶対ゲットデース!」
比叡「でも……」
金剛「デモもシカシもカカシも無いデース! 良いですか比叡? 比叡は提督にツッケンドンすぎデース」
金剛「提督に愛想を尽かされたら事実上の失脚デース! 提督に愛されるのも、艦娘の戦略のうち、ですヨ?」
比叡「…………」
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----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~5/100)
・足柄の経験値+2(現在値2)
・響の経験値+1(現在値1)
・雪風の経験値+1(現在値1)
・金剛の経験値+1(現在値1)
----------------------------------------------------------------------
////チラシの裏////
んなわけでここまでデース! 初っ端からやり過ぎた感が否めまセーン!
大丈夫なのかこの鎮守府。もうどこから突っ込んでいいのやら。
前回がピュアボーイミーツピュアガールな感じだった反動もあるけどこれはダーティすぎるな……。
でもシリアスにやるつもりでは書いてなくて、どちらかといえばドタバタコメディみたいな感じを考えてます。
というか、もう現時点でそこはかとなくネタ臭が漂い始めてませんかね。リアル系の皮を被ったスーパー系みたいな。
いやまぁしっとりした感じの……たとえば情死とかもやりたいなぁとか考えてたけどただでさえ少ない読み手が更に減りそうなので……。
今回は前回と違ってあんまりイチャイチャさせることを考えていないので、登場キャラが皆それなりにロックな感じです。いやパンク? ハードコア?
わりと>>1が書きたいように書いてる感じなので結構楽しいです、独り善がりにならないように気をつけたいところですが。
ただ、金剛はやり過ぎたかなと自分でも思います。
キャラ崩壊……かなぁ。だよねぇ……。こういう解釈も面白いかなーと思って書いてるけどひょっとしたら俗に言う作者はウケると思ったシリーズ的アレかも。
まあまだ始まったばかりですし、そこいら辺も含めて(?)今後に期待ということで。
さて次のフェイズへ移行いたします。
よくわからない方は>>351参照。
コンマ値で決定するだけなんで、ほげとかぴよとかそんな感じの適当なレスをするだけという簡単なお仕事です。
なんだったら適当にキーボードを叩きまくってストレス解消の場として使ってもらっても構いません。
あるいは何かシチュエーションを書いておくと実現したりしなかったりします(>>351参照)。
『Phase B』【6-10/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00:>>1が独断で決定
01~16:雪風
17~33:翔鶴
34~50:金剛
51~65:響
66~82:足柄
83~99:皐月
>>+1-5
デース!
というわけで
・皐月1レス/足柄1レス/翔鶴1レス/金剛1レス/雪風1レス
で『Phase B』が進行していきます。Phase Bでは経験値+2上昇なのです。
投下はいつ頃になるか分かりませんがそんなに早いペースではやっていけないかなーという見通しです。
まあゆるいペースでやっていきます。
豪勢な食事を前に感動する皐月と文月。
ここは第四艦隊の会合室。部屋の中には新たに配属された皐月と文月の他に、暁・雷・電、そして旗艦の龍田が居る。
第四艦隊は第三から第一艦隊とは異なり、常設されている艦隊の中で唯一深海棲艦との交戦を主としない、特殊な立ち位置の艦隊だ。
第四艦隊の任務は専ら遠征である。他鎮守府への補助、離島や各防衛拠点への物資輸送のために方々へ繰り出される。
皐月「いやあ~! 訓練生時代とは訳が違うなぁ! これが第四艦隊の食事かぁ!」
第一から第四艦隊のいずれにも配属されず、ユニットにも所属することが出来ない低練度な艦娘は、この鎮守府内では“訓練生”と呼ばれている。
この“訓練生”は実戦に参加することが許されておらず、鎮守府内での清掃などの雑務をこなしながら、修行の日々を送っている。
才覚さえあればすぐに訓練生を脱出することも出来るが、現実はそう甘くはない。
駆逐艦どころか重巡洋艦の訓練生すらいるこの鎮守府では、皐月や文月のように訓練生を脱していきなり常設の艦隊に配属されるということは稀有な出来事であった。
電「訓練生の頃はどんな感じだったのです?」
皐月「ボクも文月も成績で言えば普通ぐらいで、なんでここに配属されたかよく分からないんだよね」
文月「普通っていうか、皐月はわりと落ちこぼれだったよね~」
皐月「言うなよお!」
暁「あら? 実戦登用の試験では二人ともトップの成績だったって聞いてるけど……意外なのね」
文月「実習の成績だけは良かったからねぇ~皐月は~」
皐月「文月もだろ! ボクを貶めようとしてない?」
龍田「二人とも仲がいいのね~」
・・・・
談笑する一同。
皐月「配属された時は不安だったけど……居心地の良い艦隊みたいで良かったよ」
龍田「ふふっ、良かったわ~。私たち仲良くやっていけそうね」
皐月「そういえば、第四艦隊は遠征任務をこなすっていうのは知ってるけど……なんで他の艦隊やユニットは遠征を滅多にやらないんだろう」
龍田「遠征では物資の受け渡しが主なミッションとなるんだけど~、その主な受け渡し先は他の鎮守府や泊地なのよ~?」
龍田「向こうの足りない資源を施して、逆にこっちの足りない資源を貰って補うの~。貿易みたいなものと言えば分かりやすいかしら~」
龍田「でもぉ、私たちは営利組織じゃないから~……あんまり遠征にばかり艦は割けないのよね。よほど資源が欠乏している鎮守府以外は遠征に出せる艦娘の数が制限されているの」
皐月「縁の下の力持ちってわけだね!」
龍田「そうよ~。それなのに他の艦隊の人は私たちのことを水上スケート隊だなんて揶揄するのよ? 酷いわよね~」
鎮守府に常設されている艦隊所属の艦娘は破格の厚遇を受けている。それは第四艦隊とて例外ではない。
第四艦隊が手厚く補助されている理由は、多忙な遠征任務の対価とされている。
だが、命の危険に晒されることのほぼ無い安全海域を行き来しているだけの者たちをそこまで遇する必要は無いのでは、という声がこの鎮守府内では大きい。
雷「他の艦隊にどう思われようと、関係ないわよ! 私たちがこの鎮守府を支えているのよ?」
龍田「そうね~。でも……皐月ちゃん文月ちゃん? 第二艦隊には警戒した方が良いわ。何か酷いことされそうになったら、すぐに言ってね?」 皐月と文月の方に顔を近づける
・・・・
皐月「いやあ、一人一つの部屋なんて考えられる? 相部屋じゃないんだよ!?」 自分専用の部屋に興奮する皐月
文月「皐月ー……浮かれすぎだよー……。あのさ、ヘンだと思わない?」
文月「ただの一遠征部隊にしては装備が高性能すぎるし、なんか妙に羽振りが良さすぎない?」
皐月「そりゃあ常設の艦隊だよ? 第一から第三艦隊に比べれば劣るだろうけど、それでも他の有象無象の小隊と比べたら一線を画す扱いされてもおかしくないんじゃない?」
文月「そうだけど……それにしてもちょっと変だなぁって思ったよー。それに、あの龍田さんもなんか怪しいよぉ」
皐月「そうかなぁ? 文月の場合、龍田さんと喋り方が似てるからって対抗意識みたいなのあるんじゃないの」
文月「無いよぉ失礼だなぁ……」
皐月「ま、龍田さんの言ってた第二艦隊ってのは気になるよね。第二艦隊旗艦の響ってのは暁さんたちの姉妹艦らしいけど……そこら辺はわりとセンシティブな話なのかも」
皐月「あんまり触れない方が良さそうだ。君子危うきに近寄らず、ってね」 キメ顔である
文月「うぅーん……?」
皐月「なんだよその微妙な反応は」
執務室前廊下。
足柄(……偉そうなことを言ったわりに、前回の会議から全く進展が無いわ)
足柄(提督の動向さえ掴めればやりようはあると思ってたけど、噂通り執務室から全く出てくる気配が無いわね……)
足柄(もう3日も張り付いてるってのに全く出てこないだなんて思わなかったわ。……何か引きこもる為の備えがあると見ていいようね)
足柄(部屋に入れればいいけどその為の口実も無いし……。困ったわ、これじゃあ何も情報が得られない)
・・・・
それから数日後、足柄は響と雪風が執務室に出入りするのを確認した。
足柄「あの二人の後をつけてみれば、何か掴めるかもしれないわね……」
足柄(丸一週間もこんな刑事ドラマみたいなことをやってられるほど暇なのが悲しいわ……)
・・・・
足柄(とりあえず響の後を追ってみたけど……一体どこに向かっているのかしら?)
響「そこまでだ足柄。一体何の用かな? 何が目的で私の後をつけている?」
足柄「げえっ(背後を取られた! 全くそんな気配を感じなかったのに……)」
足柄「い、いやぁ~……どこに行こうとしてるのかなーって気になって。こっちは第二艦隊の施設とは逆の方角じゃない?」
響と雪風は、共に第二艦隊所属の艦娘である。響はその旗艦を担っている。
響「私は司令官から命を受けている。しかし君にその内容を教えることは出来ない」
響「ここ一週間君が執務室前で不必要にうろうろしているという話を司令官から聞いているからね。少し警戒している」
響「そういうわけで話は以上だし、これ以上私の後をつけるようならしかるべき処分が待っているだろう。暇なのは分かるが持ち場に戻ってくれ」
足柄(たかが駆逐艦の分際で……! とはいえ、言い返せないわね。ここは引き返しましょう)
・・・・
足柄(いいわ、ここで腹を立ててもしょうがない。それに、私にはまだ手がある! まだよ!)
第二艦隊会合室前の廊下で、柱の影に隠れながら雪風の様子を伺う足柄。
雪風「足柄さん。何してるんですかぁ?」
足柄(バレたー!?)ガビーン
足柄「い、いや。貴方が今何をしようとしているのか気になってね~(私、こういうの向いてないわね……)」
雪風「そうですか。今はしれえの歓迎会の準備をしている所です! 第二艦隊の皆でやろうってことになって」
足柄(???? あの提督の? あの提督が?)
足柄「というか……歓迎会って、あの提督はもう着任して一月ぐらい経ってるじゃない? 今更歓迎会なんて変じゃないかしら」
雪風「私もあんまり詳しいことは知らないですけど、翔鶴さんの提案でして」
足柄(あの提督の思惑が何か絡んでるわけでは無いようね)
雪風「それに、しれえはいつも一人で頑張っているので、少しでも労ってあげないと!」
足柄「なるほどー偉いわねぇ。提督頑張ってるもんねー」 無感情な棒読み
雪風「司令官が来てくれるのか不安だなぁ……あと榛名さんと霧島さんも」
足柄「?」
雪風「あっ、いえ! 何でもないです!」
・・・・
足柄「それにしても……一ヶ月も経った後に歓迎会だなんてやっぱり変よね。第二艦隊側に何か提督を利用しようという思惑があると考えた方が自然だわ」
足柄「全く話の流れが読めないけど、とにかくあの引きこもり仮面が執務室から出てくる可能性があるってのは情報を得るチャンスだわ!」
足柄「一体どんな話がされるのかしら!? 楽しみだわ!」
足柄(しかし……あの部屋に仕掛けておいた盗聴器は雪風にバレてないわよね?)
執務室を訪ねる翔鶴。
翔鶴「失礼します、翔鶴です。提督にお話があって来ました」
翔鶴を意に介さず執務に集中している提督。
翔鶴「あの……いつも、ずっと執務室に一人で籠っておられるのですか?」
翔鶴「ほら、窓の外から雪が見えますよ? 提督も、たまにはお休みになられたら……」
提督「早く本題に入れ」 少し苛立っている様子の声色
翔鶴「すみません。余計なお世話でしたね……。第二艦隊の皆で提督の歓迎会を是非やりたいと思っているのです」
提督(なぜ旗艦のヴェールヌイでなく、こいつが話を持ちかけているんだ……?)
必ずしも艦隊での責任者イコール旗艦というわけではない。
しかし、この鎮守府では一般的に旗艦を務める艦娘がその艦隊を取りまとめていることがほとんどであった。
第二艦隊は、響を旗艦とし、その他に雪風・翔鶴・瑞鶴・榛名・霧島で構成されている艦隊である。
翔鶴「私たちの艦隊……それから他の艦隊でも、提督の歓迎祝いが出来ませんでしたから。これからお世話になる提督の為に、やらなくちゃって」
翔鶴「本当は提督が着任される前に準備しておくべきだったんでしょうけど、前任の提督が亡くなられてから鎮守府全体が慌ただしかったから……」
提督はこの申し出を敢えて快諾した。
心の内では翔鶴のことを訝しんでいたし、ひょっとすると自分を殺そうとしているのではないかと疑ってはいた。
しかし、自らの手を汚す方法で白昼堂々と自分に危害を加えるとは思えず、また、翔鶴が何かを企んでいようがそれを上回って逆に追い詰めてやるぐらいの腹積もりでいたのであったためである。
……もちろんこれは単なる提督の疑心暗鬼であり、翔鶴はただ純粋に善意で提督を誘っただけである。
響でなく翔鶴が執務室を訪れた理由も、響は提督から受けた第四艦隊への調査任務を遂行中であったためその代理として、という極めて単純な理由である。
・・・・
数日後。提督の歓迎会が行われ、一連のプログラムが終わったようだ。
提督はその間終始仏頂面をしていた(しかし口元以外が仮面に覆われているため誰からもそのことは悟られなかった)。
響「用心深い司令官が本当に来るとは思わなかったよ。少し嬉しいけどね」
提督(……ヴェールヌイや雪風が居るなら命の心配は要らなさそうだな。となると、何が目的だろうか?)
翔鶴「提督、これからもよろしくお願いしますね」
提督「……ああ」
提督(おかしい。おかしすぎる。何も起こらないなんておかしい)
提督(何かの意図があるはずだ。私を動かそうとするその意図が……考えろ。考えろ)
提督「翔鶴……お前何か私に隠し事をしていないか?」
翔鶴「? 何のことでしょうか?」
提督(知らぬ存ぜぬとでも言いたげなとぼけ顔だな。まさかこいつ本当に歓迎会をやるためだけに俺を呼んだのではあるまいな……)
霧島「司令? 珈琲をお持ちしました。……おわっ」 前のめり転倒する霧島。
霧島「っ痛ぁ……司令にかからなくて良かった……」 と言った後に、キッと榛名の方を睨む。
榛名「ごめんなさい。転ばせようとしたつもりは無かったのですけど」 謝意はあれど、どこか釈然としない様子の榛名
霧島「すみません司令。珈琲、入れ直して来ますね」 榛名の詫びを無視し立ち上がる霧島。すれ違いざまに榛名の耳元で「卑怯者」と囁く。
他の者は誰も気づいていないようだったが、提督だけは見ていた。確かに霧島の足元を遮るように榛名の足が伸びていたのを。
だがそれは意識的に霧島を転ばせようとしているわけではない。霧島が前に進もうとした瞬間に邪魔にならないように足を引こうとしたからである。
また、霧島も榛名の足が自分の進路を遮っていることに転ぶ直前で気づき、進路を変えようと歩幅を変調しようとしたのを見逃さなかった。
何の事はない。たまたま二人が足を動かそうとしたタイミングで接触し、転んでしまっただけのことである。
提督「…………」
だが、提督は榛名の弁護をしなかった。二人の間に生じている溝を感じ取り、対立の様子を見ようとしたからである。
また、その様子を観察することによって確執の原因は何なのかを探ろうとしたからである。
提督(なるほど……翔鶴は遠回しに人事異動を促したかったというわけか? 俺の前で二人が対立している様子を見せ、どちらか一方を残しどちらか一方を外せと。そういうことか)
提督(確かに第二艦隊の戦果記録を辿ってみると、片一方が活躍している時はもう片方の戦果が揮わないことが多いな)
提督「見極めを委ねる……というわけか翔鶴(随分回りくどいやり方をするな……何か裏があるのかもしれない)」
翔鶴「え? え?(なにか、ややこしいことになっている気が……)」
歓迎会が終わり執務室に戻った提督。ようやく一人きりになれた、と安堵の溜息をつく。
しかしその安息は一瞬にして破壊される。侵略者がやってきたのだ。
金剛「ヘーイ提督ゥ! 第一艦隊でも提督の歓迎会をしようと思うネー!」
ドンドンと執務室のドアを叩く金剛。しかし旗艦を外されるのは怖いらしく、執務室の中に入ってこようとはしない。
提督「最悪だ……」
第二艦隊は、榛名と霧島の水面下での確執はあれど組織力は高く、また、信頼を寄せている響や雪風が在籍しているため、提督にとっては最も扱い易い部類の艦隊であった。
一方で第一艦隊は、戦力こそ鎮守府内最強だが、各々がなまじ単騎でも敵を倒せてしまう力があるせいで連携が薄い艦隊だった。当然組織としてのまとまりなど無い。
提督は自らの日記の中で、第一艦隊について「カレーとラーメンとハンバーグとケーキとをミキサーでかき混ぜたような艦隊」と評している。
金剛「第一艦隊でも提督との親睦を深めたいと思いマース! 早く開けて欲しいデース! 皆待ってるデース!」
提督(第二艦隊で歓迎会を行ったという話を聞いて、強引に第一艦隊の連中を呼び出したのか? 緊急作戦会議などという名目で招集したのかもしれんな)
提督(何にせよ、奴が旗艦に居るのは前任の提督の人選ミスと言わざるを得ない。戦力だけは評価出来るが……奴に旗艦は任せられないな)
提督(とはいえ、これまでに一定の結果を出してきた実績ある集団だ。そこの頭をすげ替えるとなると大義名分が欲しくなるところだな……)
第一艦隊は、旗艦金剛と、比叡・Bismarck・飛龍・赤城・加賀で編成されている機動部隊だ。
個々の練度は極めて高く、また、戦況分析能力や判断力にも優れていて、名実ともに鎮守府最強の集団である(一切の連携がなく各々の個人プレーであることに目を瞑れば)。
・・・・
翌朝、提督宛に一通の手紙が届く。
拝啓 提督
金剛です。初春とはいえまだまだ寒い日が続きますね。
昨日は突然無茶なお誘いをしてしまってごめんなさい。
迷惑でしたよね。でも、私、提督に喜んでもらいたかったんです。
提督を想う気持ちが先行してしまって、軽率な行動を取ってしまいました。
今後は提督のご迷惑にならないように心がけますから、ばかな奴だと見放さないで下さいね。
私は提督の為なら、どんなに辛いことでも乗り越えていく所存ですから。
……前に私が執務室を訪れた時に、私のことを嫌いだと仰られましたね。
あれはとても悲しかったです。今でも思い出すと胸が苦しくなります。
提督は、私のように口煩い女性はお嫌いなのかもしれません。
ですが、私も本当はあのような振る舞いなどしたくはなく、周囲からそういうキャラクターであると認識されてしまっているからそれを演じているだけなのです。
まるでピエロみたいですよね……自分でも滑稽だとは思っているのですが。
もし、提督と二人っきりでご一緒できる機会があれば、本当の私のことを見て欲しいと思っています。
ありのままの私を知ってもらうかわりに、提督にも仮面の内の素顔を明かして欲しいな……なんて。
ごめんなさい、私ったら。こんなことを書いたらまたはしたない女だなんて思われちゃいますね。
でも、私が提督のことを強く想っているのは事実です。
以下も延々と文章が続く。
・・・・
長い時間が経過している。ようやく文章が途絶えた。
提督は、先程まで読み続けてきたびっちりと文字の詰まった20枚ほどの便箋を畳み、元の封筒の中にしまいこんだ。
そして、彼女を旗艦から外す以前に精神鑑定を受けさせねばならぬと心に決めた。
・・・・
金剛「ピンチはチャンス!」
比叡「なんですかお姉さま唐突に」
金剛「昨日は提督に怒られてしまいましたが、ここでワタシは一計案じまシタ!」
比叡(懲りないなぁ……)
金剛「ギャップ萌えデース! 提督にワタシのルァーブをしたためたLetterを送ったのデース! 男の人はヤマトナデシコが好きらしいですからネ!」
金剛「これであの提督もイチコロネー! Yeah!」
比叡「はぁ……ところでお姉さま。カレー冷めますよ?」
金剛「Oh! そういえば最近は比叡も料理の腕を上げましたネ! これなら人間が辛うじて食べられるレベルの味ですヨ! 一体隠し味に何を使ったんデスカー?」
比叡「まぁ~、ちょっとは慣れましたからねー。隠し味はお姉さまへの愛です!」
金剛「これならあと100年ぐらい鍛えれば美味しいカレーが作れるようになりそうデース!」
比叡「手厳しいなぁ……」
赤城(不味い不味いと貶しながらもいつも食べているのは、彼女なりの姉妹愛なのでしょうか?) 二人の居る部屋の前を通りがかった赤城
執務室の前に立ち、扉を叩く雪風。中に居る提督に呼びかけるも、返事はない。
雪風(無用な立ち入りは厳禁と言われても……これは司令にとっても大事な用件。それに、これだけ呼んでるのに返事が無いのはおかしいです! 鍵もかかっていないようだし……)
雪風「し・れ・え……?」 おずおずとドアを開ける
普段提督が座っているはずの席。だが今は空席になってしまっている。どうやら部屋の中に提督は居ないようだ。
雪風「司令はどこへ……? 執務室から外へ出て行ったなら誰かしらの目につくハズ……」
部屋の本棚の本の並びが普段と異なっていることに気づく。常人であれば気づかないような些細な違いだったが、この本棚のことは雪風の記憶の中で強く印象づけられていた。
本のラインナップが、『有人宇宙飛行の歴史』『アトランティスの謎』など明らかに趣味全開のものであったためである。
雪風「おかしいです……本の並びが違うし、ここに一冊あったはずの本が無い……」
雪風は“なんとなくそうした方が良いような気がする”という直感のもと、本を元の並びへ戻した。カチッという奇妙な機会音が鳴る。
雪風「こ、これは……!? 本棚が突然動き出しました!」
本棚と本棚の間に隙間が出来ている。その隙間の先には、明かりの灯っていない小部屋があるようだ。
鞄の中の懐中電灯を取り出し、明かりで室内を照らす。空洞で何も物が置かれていない。
雪風(足元に鉄の板のようなものが……? 見てくれはマンホールみたいですね)
鉄板を持ち上げると、螺旋階段が現れる。地底深くまで繋がっているようだ。
雪風(司令は一体何者なんでしょうか……。なんだってこんな仕掛けを作ったのでしょうか……とにかく行ってみましょう)
・・・・
螺旋階段を下ること数分。
大小様々なモニターがズラズラと並んでいる奇妙な部屋に辿り着く。
モニターは鎮守府内の監視カメラや鎮守府近海の映像を映しているようだった。
雪風(さすがに私室やトイレ、お風呂までは監視されてないみたいですね……)ホッ
提督「……あぁ。……………………そうか。悪い、一旦切るぞ」
雪風(物陰から司令の声がする……誰と話しているんでしょうか? あっ、こっちに気づいた!?)
提督「そこで何をしている!? 何者だ!」
敵意をむき出しにした荒々しい声に、思わず雪風は体をビクつかせる。
雪風「あっあっ……あの! 雪風です! 雪風ですッ!」
素っ頓狂な声で自分の名前を連呼する雪風。その間抜けた様子に脱力したのか警戒を解き雪風に近づいてくる提督。
提督「落ち着け。この部屋に入ってきたのがお前ならばまだ問題はない。だが、一体どうやってここに入ってきた?」
雪風「あっ! 執務室の扉の鍵が開いていて、本棚を調べてたら奥に部屋があって! あっ、そうだ! 司令に報告が」
提督(扉の鍵は閉めたはずだがな……。あの口うるさい似非外人が叩きまくったせいで建て付けが悪くなったのだろう。しかし本棚はどうやって?)
提督(平時の本の並びから気づいたわけか。しかし本棚内に設置されているテンキーへの暗証番号入力など、それだけじゃ開かないようになってるはずなんだが……そこまで知っている様子ではなさそうだ)
提督(適切な暗証番号が入力されたのか? あるいは誤作動か? 信じられないが……ここにこいつがいる以上そうとしか考えられない)
雪風の身には、こうした奇妙な偶然が重ねて起こることがある。なぜなら雪風だからである。
雪風「そう! しれえに報告があって! 大変なんです! これです! 盗聴器です!」
雪風「司令の歓迎会の後に部屋を掃除していたら見つけちゃって! あの部屋で歓迎会をやる前は無かったんです!!」
提督「……なるほど。ところでお前、なぜこの盗聴器を使用不可能な状態にせずそのままここに持ってきた? まだこれ動いてるし現在進行形で盗聴されてるんだが?」
雪風「あっ」
提督「…………」
提督「とりあえず、この盗聴器の指紋を取るか」
提督「盗聴している者に告ぐ。近日中にお前を執務室に呼び出し尋問する。厳罰を覚悟せよ。また、この盗聴の内容を何者かに伝えた場合、お前の関係者も皆処罰対象にする」
ベキ、と盗聴器を握り潰す提督。青い顔の雪風。
提督「雪風。お前に悪意がないのは分かるが……以後気をつけたまえ」
提督(本当は軽く罰したいレベルのやらかしなんだが、ただでさえ少ない確実な味方を減らすと今後の危険が増すしな……。しかしこれは予想外だった……)
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獲得経験値(~10/100)
・皐月の経験値+2(現在値2)
・足柄の経験値+2(現在値4)
・翔鶴の経験値+2(現在値2)
・金剛の経験値+2(現在値3)
・雪風の経験値+2(現在値3)
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告知もなくいきなり本編を投下してみましたが特に深い意味はありません。
(強いて言うなら昨日あたりに告知しようと思ってたんだけど忘れて寝ちゃったとかそんな理由です)
投下してみると分かるこのワチャワチャ感! そういえばわちゃわちゃって関西弁なんですね。知らなかった。
『Phase B』では経験値の増加が+2なのが大きいですね。
コンマのご機嫌次第で登場キャラが決まるので偏るかなと思ってましたがいい具合に仕事してくれました。
各キャラのコンマ範囲の比率はわりと適当に決めてます。
>>366では各キャラ15~17%でしたが次回以降もそんな感じで行く予定。
と、ここでまた次回に『Phase A』がやってくるという流れです。
登場させる艦娘をレス安価で決定するというわけですハイ。
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『Phase A』【11-15/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい。
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足柄
皐月
>>380->>384より
・足柄1レス/雪風1レス/翔鶴1レス/響1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
来週頭ぐらいには投下出来たらいいなと思ってますけど微妙。
////悖らず、恥じず、チラシず////
イベント2月かー……もうすぐじゃん。うーん厳しいねえ(資源的に)。
一応年明けあたりから大型艦建造を封印して備蓄初めてるけど未だにボーキが25kぐらいしかないので辛い。
最近はあんまり時間取れなくてあ号すら消化できないという体たらく……(→だいたいClicker Heroesのせい)。
空母戦艦マシマシの連合艦隊決戦ゲーだったらわりとしんどいなぁ……。
改二駆逐揃ってきたし、水雷戦隊ベースのバケツ&練度ゲーならまだなんとかいけそう(やりたいとは言ってない)。
とりあえずイベント突入前に燃料70k/弾薬50k/ボーキ40kぐらい欲しいところ。
レアドロ堀りを考えるともっと欲しいけれど贅沢言ってられませんわね。
>来週頭ぐらいには投下出来たらいいなと思ってますけど
なーにが来週頭ぐらいにはじゃ。
すでにそう言い出してから二週間経過しておりますがリアルがリアルだったのでお許しを。
まぁイベントもあるわけだしね?
今週の金曜ぐらいには投下できるような気がしますと予告しておきます。
////チラシの裏////
甲→甲→乙→乙でE4突破。現在E5甲ゲージ削り中ですがいずれかの資源が20000切るかバケツが400切ったら乙にシフトします。
地力的には最初から乙に挑むのが賢い選択なんでしょうけど、どうせならどれだけ自分の艦隊と相手との間に絶望的な差があるかを味わってから退きたい所存。
今回イベントキツくないっすか!? いやトップランカーがひいひい言いながら突破してたE5甲はおいといて、そこに至るまでも結構エグい気がするっす。
エグいと言っても先人の方が歩んでこられた理不尽無理ゲー的エグさでなくて、常時14年夏E1のような感じ。やってやれないことはないがしんどいぐらいのエグさ。
資源が20万ぐらいあればキラ付けしなくてもゴリ押し突破出来るのでまた話は違ってくるんでしょうけどうーむ。
目ぼしいドロップと言えばE4の伊401、E5の磯風、朝霜ぐらいっすかね。いやでも今回掘り多分無理ぽ……。
乙とはいえもう一回空母棲鬼を殴りに行く体力ないですマジで。絶妙に硬くて腹立ちますねチクショウ。
MUSASHIを使えば倒せる(っていうかゲージ破壊ラストは武蔵使った)けど資源消費が怖いし……。
鎮守府のとある会議室。ヴェアヴォルフの面々が座って話し合っている。
霞「足柄、会議に遅れるなんて関心しないわね。それで? 良い報告ってのを聞かせてもらうわよ」
清霜「顔面蒼白じゃない? 何かあったの?」 よろよろと会議室に入ってくる足柄を見て心配する清霜
足柄「終わった……もうダメだわ……。やっぱりああいうの向いてないんだわ……何があったかは言えないけど……明日で皆とはお別れよ……」
大淀「今更隠し事なんて! これまで辛いことも苦しいことも、一緒に乗り越えてきたじゃないですか」
霞「ハァ? 今までどんだけアンタが迷惑かけてきたと思ってんのよ!? 今になって何ふざけたこと抜かしてるわけ?」
霞「大方あのクズ提督に釘を刺されてるとかそんなだと思うけど、だったら話せる範囲だけ話せば良いじゃない。それに、アンタが処分されたらどうせ私たちだって後を辿るわ」
足柄「……言われてみればそれもそうね。じゃあ話すわ」
大淀(あっさり立ち直ったー!?)
・・・・
霞「盗聴って、アンタ馬鹿じゃないの!? しかもそれがバレたって……」
足柄「チャンスかなーと思ったのよ。だって、考えてみてよ? あの提督、ここに着任してから執務室から出た事なかったのよ? その謎が明らかになるかもしれないじゃない」
大淀「結局、その第二艦隊の歓迎会で提督について何か分かったんですか? ……ストレートに話すとまずいならある程度ぼかした表現で構いませんが」
足柄「いや、それが歓迎会“では”提督については何も分からなかったわ。第二艦隊の面々に何か聞かれても『黙秘させてもらう』とかそんなんばっかり」 提督の声をやや誇張気味に真似する足柄
清霜「盗聴器がバレちゃったのは、歓迎会中の出来事?」
足柄「いや、その後よ。歓迎会後に盗聴器をそのまま提督のところへ持ってかれちゃったのよ」
足柄「その時に提督が執務室からなぜ出て来ないかがなんとなく分かったわ。分かったのは良いけれど……盗聴器についていた私の指紋を採取されて呼び出し食らってるってのが現状ね」
霞「盗聴器ねぇ……歓迎会を終わった直後に回収出来なかったの?」
足柄「にゃ!? あ? あぁ、うん。歓迎会が終わった後すぐに清掃が始まって、取りに行く余裕が無かったのよ(……そういやあん時回収すること忘れてたわ)」
霞「何突然変な声出してるのよ。でも、清掃中に取りに行くことだって出来たじゃない? ちょっとその辺はっきりしないわね」
大淀「(あっこれ足柄さん回収忘れてたんじゃ……)そんなことより、提督に盗聴器がバレて呼び出されてるんですよね!? これからどうするか考えなきゃ!」
足柄「(大淀ナイスフォロー!)そ、そうよね。どうしたらいいかしら……」
清霜「処罰が下るのは避けられないと思うけど……直接会える機会がある以上、弁解のしようはあるかも?」
霞「なるほど……一つ思いついたわ。会議が終わった後、私の部屋に来なさい足柄。稽古をつけてあげる」
足柄が霞から受けた“稽古”とは、翌日に迫った提督から受けるであろう尋問のシミュレーションするというもので、その内容は過酷かつ熾烈を極めた。
後に足柄は、『あの後三日ほど霞の顔を直視出来なかった。正直PTSDになっていてもおかしくなかったと思う』と語っている。
・・・・
翌日の執務室にて。部屋の中には提督と雪風、そして足柄がいる。
足柄「まず、盗聴していたことをお詫び申し上げます。今回の騒動は私の一存で起こしたものであり、他の艦娘との関与はありません」
足柄「いかなる処分も甘んじてお受けする覚悟です。ですが……非礼は承知の上です。どうか私の言い分を聞いて頂きたく存じ上げます」
提督(盗聴するような奴が反省するとも思えないが……しかし見事な演技だ。かなり苦しい立場で弁解せざるを得ない状況のくせに少しの迷いも見られない)
足柄「私は、提督に不信感を抱いていました。いえ、今も抱いています。その主たる理由は、常に仮面を被っていて素顔を見せない、執務室から一切出ることがなく私たち艦娘への指示も全て書類で行っている、という点です」
足柄「この鎮守府で事件があったことは事実です。ですが、そこまで露出を避けるのには、危険から身を守るため以外にも何か理由があるはずと推測しています」
足柄「貴方の私たち艦娘に対する接し方を見て、私は疑念を抱かざるを得ませんでした。今回盗聴を行ったのも、貴方の真意を探るためです」
足柄「地下の施設に引きこもって、一体何をしておられるのでしょうか。貴方は何を目的に動いているのですか?」 丁寧な口調ではあるが、次第に語気が鋭くなっていく
提督「俺の目的は……深海棲艦を殲滅し、この馬鹿げた戦いに幕を下ろすことだ。それ以外に何があるという?」
足柄「お言葉ですが提督。私の目には貴方がそれ以外に別の思惑で動いているように見て取れます。きっと他の艦娘も同じように思っているはずです!」
足柄「……私は! そんな回りくどい話が聞きたいのではありません! 貴方が腹の中で何を考えているか! それを聞かなければ納得出来ません!」
提督「答える必要はないし、お前に納得してもらう必要もない。あくまで俺は規則に基いてお前を処罰するだけだ。……話はここで終わりだ。工廠へ向かい、その場の妖精の指示を仰げ」
提督(……このまま処分するには惜しい人材なのかもしれんのだがな。追い詰められている状況にも関わらず逆にこの俺を追求するとは大した奴だ)
提督(だが、俺の目的を話すと余計面倒が起こりそうだしな。それに、立場上ここで折れてやるわけにもいかん。残念だが……)
雪風「ま、ま、ま、待って下さい! かっ、解体はあんまりだと! 思います、がっ!」 緊張のあまりイントネーションが愉快なことになっている雪風
一連の話を聞いていた雪風は思った。足柄の言っていることはもっともだ、艦娘たちがこの提督に対して疑念を抱いてもおかしなことではないと。
また、これまで第二艦隊は戦いの中でヴェアヴォルフに助けられたことがあり、それゆえに雪風は足柄の有用性も理解していた。
ここで彼女が鎮守府を去るのは提督にとっても自分たちにとってもマイナスである、と判断し、なけなしの勇気を振り絞って提督に異を唱えたのである!
提督「罪は罪だからな……。こいつに関連する者も全員処分しようと思っていたがそれは取りやめとする。……これが俺なりの最大限の譲歩であり情状酌量だ」
雪風「情状酌量ってこ、とは! ししし司令も、艦娘から疑念を持たれてる状況は、り、理解しているはずです! わ! 私も! しれえの真意が知りたいです!」
雪風「……あ、足柄さんの話を聞いて。私も、司令のことが気になりました。あ、あの、ここで足柄さんを解体したら、私も、提督のことが疑わしくなっちゃうかな、って……」
提督(……そうきたか。ここで突っぱねることは簡単だが、この先雪風が使えなくなると今後相当やり辛くなるんだよな……)
提督(今ようやく第二艦隊の面々をまともに扱えるようになるところまで漕ぎ着けたわけだ。言い方は悪いが、信用して使える駒が増えつつある状況というわけであり……)
提督(雪風に不信を抱かれたら他の第二艦隊の連中にも伝播してしまうだろう。そしたらまた響以外に頼る術を失う。ようやく鎮守府の内情が見え始めたこの状況で最初に出戻りはかなり痛い)
提督(ふむ、ならば……だ。少し試してみるか)
提督「良いだろう、雪風。ここでお前に見限られるのはこちらとしても辛い。……賭けをしようか」
提督「俺がこの先何をするつもりかを言い当てることが出来たなら足柄を不問にしてやる」
提督「ただし! チャンスは一度きり。惜しかろうがなんだろうが少しでも間違っていたならそれで終い。また、言い当てることが出来た場合はお前にも足柄にも俺の真の目的の為の協力をしてもらう」
雪風「の、望むところです! や、やりますっ! やりますとも!(考えなきゃ。考えろ……)」
しれえの真の目的は何か? 多分、“深海棲艦を滅ぼした後”のことをしれえは考えているのでは?
そうだ! ……ヒントは本棚にあるかも。
提督(ふむ、やはりそこを見て考えるよな。さて気づけるか……? 案外難しくないと思うが) 雪風の視線の先を追う提督
ええと、本棚にある本のタイトルは、と……。上段から順に……なになに?
『長生きするメダカの飼い方』『Artificial Intelligence "ELIZA"』『“どこでも”出来る! 簡単お料理教室』『有人宇宙飛行の歴史』一見普通に見えてヤバそうな本と普通にヤバそうな本がごちゃ混ぜですね……。
中段は……『禅の極意』『グラディヴィウス 攻略本』『恐るべきオーディオオカルトの世界』『まちづくりシミュレーション』『長生きの秘訣・呼吸健康法』『LISPプログラミング入門』『おいしいベトナムコーヒー』余計に意味が分からない……。
下段『アトランティスの謎』『深海生物図鑑』『地球の中心に関する考察』『「海の民」とは何者か?』『ヴォイニッチ手稿』『架空兵器は実現するか』うん……。
雪風(無理だこれー!?)ガビーン
れれれ、冷静になりましょう。前回本の配置が異なっていた時、欠けていた本を探しましょう。それが答えかも……『折り紙の折り方 基本から発展まで』絶対関係なさそう! というか、中段はわりと中身がバラバラで何の推測もつかないですね……。
でも、司令はきっと本棚の中の本を何のカテゴリ分けもせず無秩序に置いたりはしないですよね……性格的に。一番目につきやすい中段はミスリードを誘うためのフェイクかも。
下段は……かなりこじつけな推理ですけど、ひょっとしてひょっとすると深海棲艦に関連する本で分類しているのかもしれません。
なんとなく上段が怪しいような。人工知能、メダカ、料理、宇宙……ダメださっぱり分からない。
……もし私が言い当てることが出来たら、その司令の目的に協力してもらうってことは。一人の力では出来ないようなことですよね。かつ、深海棲艦を滅ぼした後に考えるようなこと……。
そういえば、遠い昔に宇宙でメダカの産卵に成功したことがあるとか、本で読んだ記憶があります。これって隣にある有人宇宙飛行に結びつくかも?
Artificial Intelligenceは……よく分からないですけどAIってやつですよね多分。これも宇宙開発が進んでいた時代は研究されてたとか……。料理の本も、“どこでも”なんて強調されてるのが妙に気になりますね……。となると……?
雪風「しれえの目的は……!」
宇宙に行くこと……? いや待て。しれえは宇宙に行っただけで満足するような人でしょうか? 違う。宇宙に行って何か……?
となると、中段の本とも話が繋がってくるのかも。衣服・音楽・ゲーム・インテリア……果ては折り紙まで、ありとあらゆる文化や生活に関する本で合致している。これが正解……かな!?
雪風「しれえは……! 宇宙に行って、どこかの星に移住するつもりなのではないでしょうか!?」
足柄「ちょっバカ何言って」 この世の終わりを目の当たりにしたかのような顔をする足柄
提督「正解だ、雪風。よく分かったな(“どこかの星”でぼかしたのは……見逃すか)」 雪風の方に手を伸ばし、かたく握手をする
足柄「!?!?!?!?!?!?」 目を白黒させて混乱している
提督「なぜ俺が今までこのことを話さなかったか理解頂けただろうか、足柄。お前たちには話す必要がないし、話した所で何の意味もない」
足柄「え? え? ……正気? 本気でそんなこと言ってるの?」
提督「当ッ然ッだ! 俺にとっては深海棲艦の殲滅など前哨戦に過ぎないッ!」
提督「……賭けは賭けだからな。お前の罪は不問としよう。知ってしまったからには協力してもらうぞ」
足柄にも手を差し出す提督。戸惑いながらも手を握る足柄。
足柄「ワケわかんないわ……」 放心状態で呟く
足柄(ワケわかんないけど……とにかく、良し? とした方がいいのかしらねこれは)
提督「足柄、雪風。今はまだその時では無いが……お前たち二人には、後にミッションを課す、俺の目的のため動いてもらうぞ」
雪風「はいッ! しれえッ!」 ビシッと敬礼
第四艦隊の会合室。暁・雷・電がくつろいでいる。
響「やれやれ……やっと捕まったね。久しぶりに話でもしようと思っていたというのに、まるで私を避けているみたいに居なくなるもんだから苦労したよ」
雷「もう、そんなわけないじゃない。姉妹なんだから」
響「姉妹“艦”だろう? 私たちは本当の姉妹じゃない」
暁「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
電「そ、そんなことより……!」 険悪な雰囲気を遮るように電が声を発する
電「この鎮守府に戻ってきてから、すごいですよね……第二艦隊の旗艦だなんて。訓練生の頃は私たちと一緒だったのに……もう手が届かない存在になっちゃったのです」
その言葉を聞いた刹那顔をしかめ険しい表情をする響。しかしすぐに普段の無表情に戻る。
響「いいか? 私は君たちと世間話するために来たわけじゃない」
響「私は提督の命により、第四艦隊について調査している。つまり君たちに尋問する権利があるというわけだ」
響「単刀直入に聞こう。どこまで龍田と関わっている? 遠征で物資や燃料以外に“何を”運んでいる?」
雷「な、何を急に……私たちは普通に遠征しているだけよ」
響「そういう話を聞いているんじゃないんだよ。第四艦隊が秘密裏に麻薬の取引をしているなんて噂が流れているのを知らないのか?」
暁「しっ、知らないわよ! そんなこと! そんなこと、してないし……」
響「そうか。鎮守府内では結構な噂になっているんだけどね」
誰も口を開こうとしない。響の発する静かな怒気が少しずつ増していく。
響「物分かりが悪くて困るな。今話せば見逃してやると言っているんだ」
なおも沈黙。
響「……そう。ならそれもいい。私と龍田と、天秤にかけてそうなるようであればもう十分だ」
響「……覚悟しておくように。一切情はかけないよ」
部屋を出ようとする響に対し、暁が言葉を放つ。
暁「ッ……! 私たちを置いて……一人でどこかに行っていたくせにッ! 今更なんなの!? 偉そうに!」
暁「良いわよね響は! 練度も高くなって第二艦隊の旗艦も任されて! 提督にも気に入られて!」
暁「自慢しにでも来たの? 私はこんなに力があるんだぞって、えばりに来ただけじゃない!」
響「чёрт побери……!」
暁を突き飛ばし、殴りかかろうとする響。慌てて止めに入ろうとする雷と電。
雷「! 今のあんたが殴ったら、暁が死んじゃうじゃない!」
電「姉妹同士でこんなこと、やめて欲しいのです!」
声に気づき、静止する響。暁の襟首を放して、何も言わずに部屋を去っていく。
・・・・
バン! と腹いせに壁を殴る響。
瑞鶴「どうしたの? 随分荒れてるじゃない。珍しいわね」
響「そういうこともある」
瑞鶴「提督さんから直接指示を受けてるんでしょ? 大丈夫なの?」
響「ああ。いや、勘違いしないで欲しいのだが、司令官に対して腹を立てたわけではない」
響「ま……これで形振り構わなくて良くなった。かえって幸運と考えるべきか」
瑞鶴「……よく分かんないけど、あまり根を詰めすぎないでね」
響と暁たちとのやり取りを別室から聞いていた皐月と文月。
皐月「文月……凄いことになってたね」
文月「修羅場ってやつだねぇ……って皐月? どこ行くの?」 部屋を出てどこかに行こうとする皐月を静止する文月
皐月「遠征用の物資が保管されている資材庫に行って、荷物の中身を確認しにいく」
皐月「自分が麻薬を運んでるのかもしれないだなんて疑念を持ちながら艦隊の他の皆と一緒に過ごせる自信、ある?」
文月(皐月はヘンなところ真面目よね~……)
文月「う~ん……ヤな予感がするけどなぁ……」
・・・・
皐月「いやーこれだけ箱やドラム缶があると壮観だね」 資材庫に積まれている木箱の中身を物色する皐月
文月「……小包とかは封を開けちゃダメだよぉ? クビになっちゃうから」
皐月「分かってるって。元通りの状態に出来るものしか調べないよ」
皐月「……?(ネジやクズ鉄が大量に……、こんなもの何に使うんだろう。弾薬や燃料の他にも、食糧、本、嗜好品……なんでもあるんだな)」
・・・・
文月「何も見つからなかったねぇー。……もう帰ろうよぉー」
皐月「こっちも特に何も無かったなぁ。ただの噂だったのかもしれないね」
龍田「あ~ら二人とも。何か探し物?」 ドラム缶を背負って入ってきた龍田
皐月「いっ、いえっ! ちょっと遠征用の物資の確認をしようかな~……って」
龍田「そうなの~殊勝なのね。でも、それは私がすることだから貴方たちは気にしなくていいのよ?」
皐月「すみません、入って日が浅いもんで……へへへ」
龍田「謝ることは無いわ~。それより二人とも、今日は二人に見せたいものがあるの~……。この後ちょっと良いかしら?」
文月「え、えっとぉー……(断らなきゃ……!)」
皐月「はい、分かりました」
文月(皐月!? これ絶対やばいやつだと思うよぉ~!?)ヒソヒソ
皐月(文月は心配性だなぁ。さっき調べて何もやましいところは無いって分かっただろ?)ヒソヒソ
文月(……嫌な予感しかしないよぉ~)
・・・・
二人が案内されたのは地下通路の一室だった。
皐月たちの目に映ったのは、コンクリートの壁にもたれかかり、床に足と腕を伸ばしている女性の姿だった。
紺色の髪をしていて、眼帯をつけている。背中には艤装を背負っているようだ。
部屋の中を見渡すと、他にも二人の艦娘と思しき女性が、うつ伏せに倒れている。
二人の顔から血の気が失せていく。
文月「なんですか……これ……」
龍田「轟沈した艦娘よ。……正確には、轟沈するはずだった艦娘」
龍田「着底しかけていた艦娘を、陸まで曳航したの。でも、助からなかった。入渠させて傷は治ったけれど、再び動き出すことは無かったの」
龍田「私は、ね……それでも諦めていないの。だって、死んだ人間なら、身体が腐って朽ちていくはずでしょう?」
龍田「でも、ここに居る子たちは自ずから動かないという点を除けば轟沈する直前と何ら変わっていない。生きているのよ」
龍田「私は、この子たちが再び動き出せるようになって欲しいの……」
皐月「……どうして、ボクたちをここに連れてきたんですか?」
龍田「私は……他の誰に何と思われていようと、第四艦隊のことを家族と思っているから。貴方たちのことも、勿論そう」
龍田「だから、私のことも知っておいて欲しいし……出来ることなら私の理想に協力して欲しいわね~」
龍田「それだけ。貴方達が私に不信感を抱いているというのであればそれでも構わないけれど、ちょっと悲しいわ~。泣いちゃうかも~」
皐月と文月には、龍田が善なのか悪なのか、本心ではどう考えているかが分からなかった。
いずれにせよ、とんでもない食わせ者には違いないのだろう、ということだけは認識していた。
レストランで食事をしている提督・翔鶴・瑞鶴。
鎮守府内にはこのような艦娘専用(厳密には鎮守府内で働く職員らも含まれる)の娯楽施設や商業施設が設置されている。
提督(……前回の歓迎会が、無目的で行われたものだったとはな……。人事異動を暗に勧めているとか少しでも考えた俺が馬鹿だったようだ)
提督(利害以外の理由で動く人間の思考ルーチンはわからん……。ま、いくつか気になることはある。せっかくだから話を聞いてみるか)
瑞鶴「提督さん、悩み事? 歓迎会の話をしたあたりから、急に黙っちゃって」
提督「……いや、最近響の様子が妙でな。何か気づいたことはないか?」
瑞鶴「あー、なんか第四艦隊の人達とやり合ってたみたい。詳しくは知らないけど……第四艦隊の面子の中には響の姉妹艦も居るみたいだし」
提督「暁、雷、電の三名だな(彼女たちもクロ……なのだろうか。だとしたら響には酷な依頼をしてしまったかもしれん。雪風あたりに尋問させるべきだったか……いや、アイツじゃ無理か)」
提督「戦場での様子はどうだ? ……疲労を訴えていたり、不調だったりしてはいないか?」
翔鶴「戦場では普段通りですね。別段問題ないように思えますが……」
提督「そうか。ならば問題ない。精神的な不調が影響して沈まれては困る(……とはいえ、ヴェールヌイのことは心配だな。後で話をしてみるか)」
瑞鶴「てーとくさん、意外とメンタル的な部分気にかけてるんだね。そういう感情的な部分は全部切り捨ててる人かと思ったけど」
提督「精神面での不調も馬鹿にできたものではないぞ。現に第二艦隊の榛名と霧島は個人的な対立によって双方の戦果に悪影響を及ぼしているではないか」
翔鶴「確かにそうですねぇ……。あの二人はちょっと心配です。二人とも悪い人ではないのですけれど……」
瑞鶴「提督さんの歓迎会の時も、なんか水面下で揉めてたっぽいしねぇ……。っていうか、前はあんなに仲悪くなかったよね。どうしてああなっちゃったんだろ」
提督(……子供の喧嘩じゃあるまいし、仕事なのだから割り切って欲しいものなのだが。とはいえ、何かしら事情はあるんだろうな)
加賀「あら五航戦と……提督? 珍しいですね」
提督「あぁ、加賀か。もし良かったら相席どうだ?」
加賀「そうね。赤城さんも今は居ないし……そうするわ」
・・・・
提督「第一艦隊の様子はどうだ? ま、報告書から粗方の想像はつくが」
加賀「連携を意識した途端、皆総崩れになるわね。それぞれが単騎で敵と当たることが多かった経験が邪魔して、一丸になって敵を倒すというイメージが難しいみたい」
加賀「私や赤城さん、飛龍と、空母の方は比較的足並みが揃うようになってきたけれど……戦艦の人たちとは反りが合わないわね」
瑞鶴「そんなことでは後輩に抜かれるのも時間の問題ですねぇ~」
加賀「五航戦は口先に見合った実力さえあれば文句ないのだけれど。問題はそんな事を言える資格が無いぐらいに練度がお粗末なことね」
提督「やめんか。……第一艦隊の戦艦と反りが合わないと言っていたな、加賀。原因は金剛だろう?」
加賀「ええ。……ハッキリ言ってあの人とはうまくやっていけないわ。他の人もそう思っているんじゃないかしら」
提督「個で最強であっても、全体の足を引っ張るようであれば集団戦では使えんな。……奴曰く『“精神的不調”で上手くいっていない』ようだが」
提督「……近いうちに、第一・第二艦隊の大規模な再編を行うつもりだ。これまでのような出来合いの艦隊編成ではなく“来るべき深海棲艦との最後決戦”を想定した編成だ」
提督「いかに第一艦隊のお前たちが個での戦いに絶対の自信があろうと、深海棲艦の力はそれさえも上回る。練度も経験も上回るほどの圧倒的な性能でお前たちの前に立ち塞がるだろう」
提督「そうした脅威を打ち払うためには高度な連携が不可欠となる。それを肝に銘じておくように」
加賀「ええ……承知しました」
提督「不確定な情報が多いため今話せることは僅かだが……正規空母であるお前たちの活躍には期待している。修練を怠らぬように」
・・・・
空母用の訓練場。矢を射る翔鶴と、その様子を見ている加賀。
加賀「翔鶴。……迷いが見えるわ。一射絶命よ、忘れたの? 放った一本の矢に全てを懸ける気概でなくては、正規空母は務まらないわ」
翔鶴「どうしても、最後の戦い、というもののイメージが沸かなくて……」 構えを解く翔鶴
加賀「そうね、私も同じだわ。でも、あの提督は冗談であんなことを言うような方ではないはずよ。……覚悟と勝算を持って、本気で言っているのでしょう」
翔鶴「戦いが終わったら、私たちはどうなるんでしょうか。どうすればいいんでしょうか」
加賀「……一射絶命。私が今の貴方に言えるのはそれだけね。全ての迷いを捨て去り、己自らが真善美を体現する存在となった時、究極の一射は完成する……」
加賀「その境地に辿り着いた時、全てが分かると思うわ。私も、赤城さんでさえも、未だその片鱗しか見えていないけれど……ね」
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獲得経験値(~15/100)
・足柄の経験値+1(現在値5)
・雪風の経験値+1(現在値4)
・響の経験値+1(現在値2)
・皐月の経験値+1(現在値3)
・翔鶴の経験値+1(現在値3)
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投下めっちゃ遅れてしまいました。楽しみに待ってくれてた方が居たら申し訳ありませんと謝っておきます(居るの?)。
原則としてレス順番の通りに進めるけどそんなに拘りないからPhase Aで「次はこのキャラの出番があると作者的にやりやすいんだろうなー」「上のレスでこうだからー……」とか気を遣わなくて大丈夫です。
ということを示すべくちょっとレスの順番から変えてみたり。
っていうかまーたエターナりそうな展開運びしやがって……相変わらず味付けが濃すぎて人によっては拒否反応を起こしそうな感じですが今更すぎますね。
最近リアルがアレすぎるのでわりとマジでエターナ率が上昇してるかもです。
まあ失踪したらしたでしょうがないよねということで……。
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『Phase B』【16-20/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~16:雪風
17~33:翔鶴
34~50:金剛
51~67:響
68~83:足柄
84~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい。
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足柄さん来い
おう
>>394->>399より
・響1レス/翔鶴2レス/足柄1レス/金剛1レス
で『Phase B』が進行していきます。
////チラシ裏////
朝の光眩しくて……ウェイッカァァァァァ!
E5甲突破しました。まあE3E4は乙なのでモグリみたいなもんですけど。
弾薬20000切ったしこれでダメだったら乙あるいは丙にシフトするかーと思っていた矢先に夜戦カットインの嵐が起こってなんとか抜けれました。
ラストダンス試行回数は数えてないけど20回ぐらいなんで、比較的運は良い方らしいです。
ただ、連合艦隊+支援二艦隊の計24隻三重キラキラ維持状態で10回ぐらいボス仕留められなかったを考慮すると資源消費がマシだっただけで時間的コストはかなり費やしてます(あと体力と精神力)。
途中から心折れたのでF12キーでcond値確認しながらキラ付けしてました。いやホント戦艦水鬼は帰ってくれ……。
今回のイベントのMVPはビスマルクですねー。実戦投入は初めてだったんですけど強いっすねこの子。
旗艦に据えるとコンスタントにカットインぶっ放してくれるのでなかなか有用です。
とりあえずたくさん褒めておきます。
今後の堀りのターゲットは舞風・能代・伊401ですが間に合うか微妙ですね(朝霜はついさっき出た)。
特に伊401はここで手に入れておきたい所なんですけれども。
磯風? いやね、すまんな浜風。道中ならまだしも最終形態のあの布陣で磯風ドロップまでS勝利を取り続けるっていうのはね、うちの艦隊の地力だと宝くじの2等に当選するぐらいの豪運が必要なんだよ……。
本土強襲されて守れなかったってわりともうその時点でゲームオーバーな気はしなくもない。※
※磯風の初登場は14夏E6報酬。14夏E6はAL/MI作戦進行中に敵艦隊が本土に迫ってきたので迎撃せよという旨の作戦である。E
自室で瑞鶴と雑談している翔鶴。
瑞鶴「しょーかくねぇ聞いてー、こないだの戦果を加賀さんに自慢したら『それくらいで調子に乗らないように』って言われてさー」
瑞鶴「戦場が違うとはいえ、その時の加賀さんよりも戦果を上げてたのに『調子に乗らないように』って偉そうじゃない!?」
翔鶴「加賀さんは私たちの指導役なのだから、そんな風に言ってはいけませんよ瑞鶴。私たちの今の強さも加賀さんから教わったものを受け継いだからです」
瑞鶴「それはそうだけどさぁー……いいじゃんたまには愚痴っても。ところで、翔鶴姉も最近調子良いよね? 敵艦を一度に二隻に沈めたりさぁ」
翔鶴「私は未熟者だから、その場その場で最善手を尽くそうとしているだけよ。でも、それが良いのかもしれないわね」
赤城「正射必中……正しき射は自分を裏切らない。殊勝な心がけね、翔鶴」 部屋の外から声かける赤城
翔鶴「赤城さん。どうされたんですか?」 扉を開け赤城を招き入れる翔鶴
赤城「二航戦の子たちに稽古をつけてあげていたら、小腹が空いてしまって……これからどこかに食べに行こうかなと。もし良かったらお二人もどうですか? 奢りますよ」 ニコリと微笑む赤城
瑞鶴「おおっ、行きます行きます! やっぱりケチな加賀さんとは違うなー、自分から呼び出しておいていつも割り勘だもん」
・・・・
鎮守府内のラーメン屋。赤城の丼には山盛りのモヤシが盛られている。
瑞鶴「ええっ……これで小腹……?」
赤城「見た目は多いように見えますけど、麺の量をだいぶ減らしてもらっているのでさほど胃への負担は少ないんですよ」
赤城「加賀さんは洒落たお店じゃないと行きたがらないし、二航戦の子たちにも飽きたと言われてしまったのでお二人を誘ったんですよ」
翔鶴「第一艦隊の他の方とは行かないんですか?」
赤城「うーん、皆高級レストランやお寿司屋さんの方が好きみたいなので、誘い辛いですね。私はこういうお店の方が通いやすくて好きなのですけれど」
赤城「そういえば、加賀さんの指導はどう?」
瑞鶴「なんだかなんだ教え方も分かりやすいし、実力“は”尊敬していますねー」
翔鶴「あら、瑞鶴が加賀さんを褒めるなんて雪でも降るんじゃないかしら」
赤城「うふふ。二人がメキメキと力をつけているから、最近は何を課題に与えていいのか悩むって言ってたわよ。吸収が早いって」
瑞鶴「えぇ……口を開けば小言とイチャモンしか言わないあの人が?」
加賀「尊敬する赤城さんの前でこの私を侮辱しましたね。頭に来ました」
瑞鶴「げげっ! うわわわっ! 翔鶴ねえ助けて!」 突如現れた加賀に後ろから襟首を掴まれて引きづられていく瑞鶴
加賀「教育的指導が必要ですね……長幼の序をその身に叩き込んであげますから覚悟しなさい」
瑞鶴「死ぬーっ! 焼き鳥屋に殺されるーっ!」 ズルズル……
赤城(何をしに来たんでしょうか……)
・・・・
赤城「……第一艦隊と第二艦隊の再編があるそうね」
翔鶴「先輩も気になりますか?」
赤城「ええ。長らく変動の無かった第一・第二艦隊の大規模な人事異動、それも空母機動部隊を主軸とした決戦用の艦隊…………」
赤城「いよいよ、と言うべきか、ようやく、と言うべきか……」
翔鶴「先輩は前代の提督の時から空母部隊の重要性を主張しておられましたよね?」
赤城「ええ。これまでこの鎮守府では、激戦区でも問題なく戦える空母が私と加賀さんだけでした。でも、今は二航戦の飛龍・蒼龍、それに貴方たちが居るわ」
翔鶴「先輩に認めて頂けるなんて……恐縮です」
赤城「貴方たち二人もここ数年で十分な力をつけたと思うわ。でも、それにかまけていてはダメよ」
赤城「二航戦の二人の練度は、今や私と加賀さんに匹敵……いや、ひょっとするとそれ以上かもしれないわ。貴方も上を目指して精進することね」
翔鶴「ええ。当然です」 毅然とした態度で言い放つ翔鶴
赤城(おっとりした子だと思っていたけれど……意外にも精神的な『餓え』を秘めた眼をしているわね。私や加賀さんのことさえも通過点としか見なしていないような、そんな眼……)
赤城(彼女ならあるいは……)
執務室。提督に第四艦隊に関する調査結果を報告する響。
提督「……早かったな」
響「いや、これでも時間がかかってしまった方だ。少し手間取った」
自分の作った資料を提督に手渡す響。
響「見てもらえば分かると思うけど、その資料には例の一件に関与している者のリスト及びその根拠を書き記している。一部は写真に収めることが出来たものもある」
響「関与した人間の全てを洗い出すことは出来なかったけど、これで粗方一網打尽に出来るとは思う」
自信ありげな口ぶりの響。
提督「ご苦労だった。いよいよ打って出る時が来たようだな」
提督「……話は変わるがヴェールヌイ。調子はどうだ?」
響「いいや、特に変わりないよ。問題ない」
提督「そうか。いや、最近妙に上の空だったので心配していたのだ」
響「……」
提督「姉妹のことが気になるか?」
響「気にならないと言えば、嘘になる。だが……その資料にも書いてある通り、処断しないわけにはいかない」
響「今となってはもはや他人さ」
提督「そうか。……今のお前の居場所はどこにある? 誰の為に生きている? 何の為に生きている?」
響「? どうしたんだい司令官。禅問答でもする気かい」
提督「いや、お前はかつての姉妹と今の地位とを天秤にかけた上でこちら側に傾いたわけだろう。その理由が気になるだけだ」
響「まるで私が第四艦隊の側に着くと思っていたような言い方は少し気に障るな」
提督「そうではない。むしろ、お前のことは信頼している。信じていなければこんな依頼などするものか」
提督「だが……。いや、よそう。妙な事を聞いたな。すまなかった」
提督「俺にも兄弟が居るんでな。お前を見て少し感傷的になっただけだ。気にするな」
響「私は、自分を信じてくれる者の為に応えたい。司令官が私を信じてくれるというのであれば、私もその期待を裏切るわけにはいかない」
響「……少し、個人的な話をすると。私は姉妹たちのことを軽蔑している」
響「私は自分の力でこの高みまで昇り詰めてきた。貴方に全幅の信頼を寄せられるほどの“私”になることが出来た」
響「私は自分の理想を貫き通したからだ。試練を乗り越えてきたからだ。あの姉妹たちと一緒に居た頃に思い描いてきた理想を現実に変えるまで戦ったからだ」
響「勿論、まだ完全に実現出来たわけじゃない。けれど、私は決して自分自身を裏切らなかった」
響「だからこそ欺瞞が許せない。口で理想を語りながらもそれを実現しようともしない弱さが許せない」
響「……それがかつて各々の望みを語り、それを果たそうと誓い合った仲だったとしても。いや、だからこそ、だ。ましてや私利で悪事に走るなど失望甚だしいさ」
提督(苛烈だな……だが、なかなかどうして芯の強い奴じゃないか。気に入った)
響「すまない。熱くなりすぎたようだ。少し頭を冷やしてくる」
・・・・
数日後。響の提出した資料を元に、麻薬取引に関与した者の一斉取締を行った提督。
提督「さて……一連の関係者を一層、被疑者及び関係者の拘束も済んだ。残るは龍田ら第四艦隊の面々のみ。もはや袋の鼠だな」
響「司令官自ら出向くとはどういう風の吹き回しだい?」
提督「俺が直接方をつけた……というポーズが必要だ。政治的にな」
提督「人が人の上に立つには、下々の者を自分の思惑通りに動かそうという意志・その野望を成し遂げるに十分な器量……そして部下の支持が必要だ」
提督「支持を得るには、財や権利などの何かしらの利益を提供する、人間的な魅力やカリスマ性で心酔させる……いくつかの方法がある」
提督「俺は自分自身を勇と知は満たすが仁は備わっていない、と客観視している。また、ここに居る艦娘全てを従わせるだけの財や幸福を用意することは出来ない」
提督「だがこんな所で二の足を踏んでいるわけにもいかない。とまで言えばもう分かるな? 清廉潔白である様を示せば、今出回っている俺に対するよからぬ噂も払拭出来るだろう。行くぞ!」
鎮守府の地下道。堅牢な鉄扉の鍵を打ち壊し、大麻が栽培されている部屋に突入する提督と響。
提督「命数尽きたな。観念しろ!」
暁「龍田さん! ここは私たちが食い止めるから……逃げてっ!」
加古「あーあーあーあー……面倒なことになっちゃったねーこりゃあ」
提督(この鎮守府に不在籍の艦娘……他所からの侵入者か……!)
加古「っと、そう怖い顔しないで欲しいね。こっちも仕事なんで、なっ! と」 砲撃を壁に放ち、逃走する加古と龍田。
雷「響……悪いけど、ここから先には行かせないわよ!」
響「クッ……逃してたまるか! お前たちに構っている暇はない、蹴散らしてやる」
提督「ヴェールヌイよ。心配要らん、これも予測の範囲内だ。お前はここで交戦し、この者たちの身柄を確保しろ。……殺すなよ」
身を翻し部屋を出て行く提督。パチンと指を鳴らし、高らかに叫ぶ。
提督「さて生中継をご覧の諸君! かの艦娘、龍田はあろうことか違法薬物の取引をし、不当な利益を得ていたこの鎮守府の大敵である!」
提督「特例だ! 奴を捕捉し、俺の前に連れてきた者には褒美を遣わすッ!」
・・・・
足柄(突然『すぐに出撃出来る準備をしておけ』だなんて訳の分からない命令が来たと思ったら……こういうことね!)
足柄「待ちなさァーい! その首、置いてけぇぇ~ッ!!」 全速力で駆け寄る足柄
加古「ええっ!? もう追手が来てんじゃん! これマジに逃げないとヤバいって!?」
龍田「今手が離せないのよ~……ちょっと時間を稼いで頂戴~?」 穏やかな口調とは裏腹に激しい剣幕でスマートフォンを操作する龍田
加古「ちょっと! 本気で言ってんのそれ!?」
足柄「久しぶりの出撃だからね! たっくさん暴れさせてもらうわよッッッ!」 龍田たちの方向へ容赦なく砲撃する足柄
加古「(うげげ……力の差がありすぎるよこりゃ……)本当にちょっとの時間しか稼げないかんねっ!? 知らないよッ!?」 足柄に気圧されつつも反撃する加古
・・・・
足柄「さあ観念するのね! ここで私に大人しく捕まるか! 海に沈んで深海棲艦のお仲間になるか! 私はどっちでも構わないわよ!」
加古「ぃてててて……ちょっとこりゃ洒落にならないよマジで……(これ以上損傷すると逃げながら戦うのは不可能……遠くからも追手が来ているみたいだし、ここで撤収しないともうどうにもならんね……)」
龍田「うふふ、ありがとね~。加古ちゃんはもう帰っていいわよ~?」 加古の後方へ下がり、槍を構え足柄と対峙する龍田
龍田「……こんな所で私と心中したくはないでしょう? 行きなさいッ!」
加古「スマン龍田。達者でねっ!」
足柄「あっ、ちょっと待ちなさいよッ!」 足柄が逃げる加古を追おうとするや否や、自分が今まで逃げてきた鎮守府の方向に逆走する龍田
龍田「鬼さんこちら~♪」
足柄「ちィッ! ……手負いのあの重巡を大破まで追い込んで鎮守府まで運ぶのは簡単……でも、それは目の前のアイツを倒してから!」
全速力で龍田を猛追する足柄。砲の嵐をうまく避けながら逃走を続ける。
龍田(ここまで来れば安心かしら) 突然ピタリと立ち止まる龍田
足柄「突然航行をやめた……? 一体何を」
龍田「もはやここまでねぇ~……降参です~」 ポケットから白旗を取り出し、わざとらしくそれを振ってみせる
足柄「は?」
龍田「もうこれ以上逃げ回っても私に勝ち目はないわ。鎮守府まで連れてってもらえるかしら?」
足柄(……なるほど。最初からこうするつもりだったというわけね。ここからだともうあの重巡を追うのは恐らく困難。……してやられたわッ!)
・・・・
提督「ご苦労だったな足柄。大儀である」
足柄「芝居がかった口調はやめてください。それに、もう一隻の方は取り逃してしまったし……はっきり言って、試合に勝って勝負に負けた気分だわ」
提督「いや、迅速な対応、見事であったぞ。約束通り褒美を遣わそう(……まだ映像中継で撮られているからあまりぶっちゃけた話は出来んのだ。この場はお前を立ててやるから素直に応じておけ)」 小声で足柄に囁く
提督「……これにて決着というわけか。撮影ご苦労雪風。足柄よ、後ほど話があるが……今は一先ず休んでもらって構わない」
提督「さて……俺は奴の尋問へ向かうとするか」
鎮守府内の軍事刑務所取調室。龍田に問いかける提督。
提督「ご機嫌いかがかな。色々と聞かねばならぬことは多いが。目的は何だ?」
龍田「あらぁ~そんな凄まれても答えると思」
提督「獄卒よ、拷問用の道具は不要だ。こいつから差し押さえた薬物を持って来い。自白剤代わりに使わせてもらうとしよう」
龍田「ヒッ! ……じょ、冗談よ~」 あからさまに脅えた表情を見せる龍田
提督「こっちは冗談で言ったつもりは無いんだがな。いやな、俺はお前のことを心底軽蔑をしてはいるが、能力に関しては大したものだと思っているぞ。今まで誰にも気づかれず麻薬の元締めをしていたとはな」
提督「疑問なのは、なぜこの鎮守府内で“仲介者”が存在しなかったのか、だ。この鎮守府内の薬物所持者は皆、『お前から買った』と言っている。
大麻を栽培し、薬物を取引していたようなお前が、なぜ直接買い主とやり取りしていたのか……そこが気になる。
管理と監視の厳しい艦娘相手に売っていなかったのは賢明だろうが、それでも自分の働く職員や整備員相手に自分の顔を晒して売っていたというのが不自然だ」
龍田「仲介が居た方が危険だと思ったからよ~? それに、この鎮守府内での稼ぎはオマケのようなもの。大事にならない程度のどうしようもない相手にしか売ってないわ」
提督(ふむ、さしてこいつの味方はいないらしいな……)
提督「なるほど。これは俺の推測だが、主な取引先は大陸の連中だな?」
龍田「そうよ~? 既に深海棲艦に荒らし尽くされ国としての体も成していない、無法地帯でなら何をしても問題無いでしょう?」
提督「やはり、か。今まで発覚しなかったのもそのせいだな。ところで……」
トゥルルルルル ピッ
提督「むむ、すまない今は取り込み中なんだが……何? 分かった。……いや、俺が行った方が良いだろう」 電話に応じる提督
提督「やってくれたな。……獄卒、俺が戻ってくるまでコイツを決して逃がすな。良いな?」 憎憎しげに龍田を睨んだ後、部屋から出て行く
・・・・
響「司令官、緊急事態だ」 執務室前の廊下で提督を待っていた響
提督「分かっている。……にしても、今の時代に海賊とはな。時代錯誤も甚だしい」
提督「大方龍田の仕業なのは分かってはいるが……、よりにもよってこの国で最強の兵器である艦娘が在籍している場である鎮守府を狙うというのは一体どういう腹積もりなんだろうな」
提督「ヴェールヌイ、雪風を連れ不審船の船員を取り締まれ。相手は人間だ、お前達が本気を出したらミンチになりかねないので加減はしろ」
提督「上陸した賊は……翔鶴! 良いところに来たな。こいつに何とかしてもらう」
翔鶴「え? え?」
翔鶴「鎮守府内で索敵なんて……初めてなんですけど」
提督「プロは仕事を選ばんものだ。何とかして見せろ」
翔鶴「え? えぇ~……? やってみますけど」 んな無茶な、とでも言いたげな表情をする翔鶴
・・・・
翔鶴「武装した人間が……100名超! その多くが資材庫に向かっています!」
提督「資材庫……アレが狙いか。騒ぎのあった今ならば……とでも思っているのだろうが! バカどもに引導を渡してやろう! 行くぞ翔鶴ッ!」
翔鶴「提督自ら行くんですか!? 危険です!」
提督「そう思うならお前が俺を守ればよかろう。なに心配するな、賊にくれてやるほどこの命、安くはない」
翔鶴「?!」
翔鶴(というか、命を狙われる危険があるかもしれないからという理由で今まで執務室から出てこなかったのでは……?)
・・・・
資材庫に押し寄せ、略奪を行っている海賊の群れに向かって一喝する提督。
提督「愚か者どもめがッ!!!!」
海賊A「なんだァてめぇは? ……あァ? ゲゲッ、艦娘が居るじゃねえか!?」
海賊B「ヒィッ!? もう艦娘が来ちまったのか!? 撤収だ、撤収」
提督「我こそはこの佐世保鎮守府の全権を担う提督であるッ! 狼藉者どもめに鉄槌を与えに来たッ!」 堂々たる様子で海賊たちに言い放つ提督。
提督以外のその場に居た人間の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
海賊C「か、艦娘が居ようがコイツをとっちめちまえば関係ねえだろ! やっちまえ!」
海賊D「そっ、そうだそうだ、人質にすればこいつらも手を出せねえ! やっちまえ!」
提督「翔鶴! 後は任せたぞ!」 翔鶴の方を向いて親指を突きたてる提督。既に海賊に囲まれつつある
・・・・
比叡「金剛お姉さま? 何を見ておられるのですか?」
無言で海賊の群れを指す金剛。
比叡「あれは……! 一体何の騒ぎですか!? お姉様!」
金剛「分かりませんが、パイレーツがこの鎮守府にアターックを仕掛けてきたみたいデース」
金剛「恐らくはさっき放送のあった龍田の一件と関係してるんでしょうガ……。なんでテートクがあの群れの中に飛び込んで行くデース!? 理解不能すぎマース!!」
比叡「お姉様!? 冷静に分析してないで私たちも助けに行った方が良いのではないでしょうか?」
金剛「Oh! それもそうデスネ! ファイヤー!!」
窓をぶち破って資材庫前に群がる人ごみ目掛けて砲を放つ金剛。
提督「加減しろ! 莫迦が!」 取り押えられて簀巻き状態になっている提督
翔鶴「て、提督……そんなこと言ってる場合じゃないと思います!」 弓を奪われ同じく簀巻き状態にされている翔鶴
金剛「威嚇射撃だから問題ありまセーン! サァ、金剛型一番艦! 金剛がお相手シマース!」
海賊A「戦艦だと!? まずい! ずらかるぞ」
金剛「もう遅いデース!」 ダブルラリアットで海賊の群れを猛進し次々に伸していく金剛
比叡「この比叡! 悪党を逃がしはしません!」 逃げようととした海賊に鉄拳制裁を加えていく比叡
提督「もしもし? 了解。では、後は他の者に任せておけ。ヴェールヌイは例の地下の部屋へ、雪風は龍田の部屋へ向かってくれ。いや念のためだ、それから、雪風は……」 騒ぎに紛れて平然と響たちと連絡を取る提督
翔鶴(なんかいつの間に縄ほどいてる!?)
・・・・
提督「やれやれ……加減しろと言ったのに。これから尋問しなければならんのに声も出せなくなるほどのトラウマを植えつけてどうするんだ」
金剛「Sorryテートクゥー! でも、決めるところはビシッと決めないとダメデース!」
提督「まぁ確かにそうではあるが……。ところで金剛よ、お前、きちんと精神鑑定は受けたんだろうな?」
金剛「ダァカァラァー! ワタシはいたって心身ともに健全って言ってるデース!?」
提督「ふむ、それは残念だ。……それはそうと、ここから先は真面目な話。例の“不調”はまだ続くのか?」
金剛「ハイ。でも、やっぱりワタシ、人と合わせて動くのが苦手みたいデス……」
提督「そうか。では次回の編成では第一艦隊を外れてもらう」
金剛「!? ちょ、ちょっと待って欲しいデース! もう少しだけ猶予を! 頑張るから見捨てないで欲しいデース!?」
提督「……金剛。今のお前が第一艦隊の旗艦であり続けることに何の意味がある? 結果を出せない者が高い地位に居座り続けていることを正しいと思うか?」
金剛「そ、それは……。でも、今までとはやり方が違うから……」
提督「そうだな。従来の戦い方であればお前は一番活躍していた。だが、それは今の俺のやり方とは異なる。そして今の俺のやり方の方が総合的に見て被害を抑え結果を出すことが出来ている。
どちらに順応すべきかは自ずと答えが出ることよな?」
返事は無いが、奥歯を噛み締めながら屈辱に満ちた顔をしている金剛。
提督「金剛……お前が第一艦隊の旗艦であることに拘泥する理由はなんだ? 地位か? 羨望か? 実利か?」
金剛「ワタシは……ナンバーワンであり続けたいデース……。そうでなければ……そうでなければ、幸せになれないデース」
提督「……お前にどんな過去があったかは知らんし興味もないが、とにかく第一艦隊からは外れてもらう。が“ナンバーワン”とやらにはなれるかもしれん。お前の働き次第では、な」
提督「お前の力は、集団の中では発揮されないのかもしれないが、俺はお前の能力を買っている。だからお前にはこれまでとは全く異なる任を与える」
提督「もう俺にくだらん媚を売るのはよせ。ただ結果のみで応えろ。お前の働きに俺は応じるだけだ」
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獲得経験値(~20/100)
・響の経験値+2(現在値4)
・翔鶴の経験値+4(現在値7)
・足柄の経験値+2(現在値7)
・金剛の経験値+2(現在値5)
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今週中とか言ってどうせまた遅れるんでしょムードが漂ってましたが……滑り込みました。極道入稿ならぬ極道投下。
いやまあモチベとか体力とかリアルとか色々あるし仕方ないわよね。
仕方ないけど仕方ないとか言ってたらいつまで経っても仕方ないままなのが人生の仕方ないところだ。
次回……は、投下できそうになったらまた告知するです。つまり未定。
////チラシの裏////
大鳳!!!!!!!!!出たの!!!!!!!大鳳!!!!!!!タウイタウイの!!!!!!!大鳳!!!!!!!!
残るは大和だけです。大型卒業すれば精神的に楽になるし、イベントでも資源消費を恐れずキラ付け無しの突貫プレイが出来るようになるので、なんとか揃えたいところだが……そう甘くないのが大型建造。
あと菱餅出ねえ! 全然出ねえ! 間に合う気しねえ! でも3-3粘着してたら舞風出たのはラッキー! だがもう資源がねえ!
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『Phase A』【21-25/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい。
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乙です
皐月
雪風
>>407->>411より
・皐月1レス/足柄1レス/響2レス/雪風1レス
で『Phase A』が進行していきます。
そういえばPhase Aではまだゾロ目出てませんね。
若干エクストライベントの存在を自分で忘れかけてました。
何かシチュエーションを書いておくと~みたいなことを前に書いておきましたが、アレはアレです。
ネタを出してもらうことを期待しているわけではなく、作者さえも抗えないデウス・エクス・マキナが起こりうる“余地がある”、ということに意味があるんです。
実際その機械仕掛けご都合ゴッドが動くかどうかは問題ではなく、『作者の意図していないことが発生するという可能性もある』ってしておいた方が面白そう! ってだけです。
……さすがにそこまでスケールのデカい何かが飛んでくることは無いと思ってますし、「ここちょっと塩味欲しいな」とかそんな感覚で書いてもらって構いません。
そもそも書いた所でゾロ目出さなきゃいけないとかそんなんなんで実現性薄いですしね。
えらく大袈裟に書いたけど思惑はだいたいそんな感じなのです。
////チラシっぽい////
最近艦これで初めて元帥になりました。600位とか初めてでビビりました。
月末には大将~中将になってるでしょうが。翌日には1000位になってましたしね。
だいたい菱餅のせい。あと3個……。
これ、5月になったら柏餅が特定海域でドロップしますとか無いよね? ね? いやマジで。
しかしそうなってしまうと一番可哀想な思いをするのはほっぽちゃんなのである。
クリスマスでは三式弾をプレゼントされ、雛祭りでは健やかな成長を祈って三式弾を供えられ、……なんとも不憫である(でも倒す)。
また日が開いてしまいました。ノってる時はちゃちゃっと書けるんですけどねー。常にそうってわけじゃないし人生色々あるから仕方ないよねーと自己弁護。
次回の投下は明日を予定しております。普段通りなら多分21時頃になるでしょう。
////Chillaxing////
菱餅狩りも終わり何気なく大型艦建造してたら伊401が出てきました。冬イベで結局ゲット出来なかったので思わぬ僥倖。
残るは能代・大和・磯風ですね。いよいよこれくしょん作業もラストスパートといった感じです。
縁が無いのかやたら能代は出てきませんね。磯風は次以降のイベントに期待するとして……うちの鎮守府的にはラスボスは大和ですかね。
お前さえ倒せば俺はこの世の苦しみ(大型艦建造)から解放されるのだっ……!
お前いつもゲームの話ばかりだなと言われそうですが実際艦これしかやってないような人生なのでしょうがない。いやそんなことはないです。
艦これに限らずゲームは好きなんですが、ただなんかこう昔好きだったゲームとかもわざわざ引っ張り出してやったり新しいハード買って遊んだりするのもなー……とか。
妙ちくりんなジャンルの音楽聴いたり漫画も結構読んだりしてたんですけど最近はそうでもない感じですね。
ヤバイぞ! この手の話はだんだん暗い気分になっていく罠だ。やめやめ。
無趣味な人間になりつつあると自嘲してられるうちはまだマシだけど本当にそうなってしまったら鬱の二歩手前ぐらいでわりとアレなんですよね。あるいは悟りの境地か。
いっそマニ車を回しまくって徳を積んで解脱するのもいいかもしれない。よくねえよ!?
深夜の軍事刑務所……龍田らと同様に収容されて牢屋の中に居る皐月に話しかける提督。
提督「直接会うのは二度目になるな。訓練生の頃の面接試験以来か」
皐月「はっ、はいっ! 司令官」
牢の中ではすることもないので不貞寝していた皐月であったが、提督が来たことに気づくや否や姿勢を正し敬礼をする皐月。
提督「こんな牢の中に閉じ込めてすまなかったな。文月ともども明日の朝には釈放してやる」
提督「第四艦隊に入って日の浅いお前たちがこの一件に噛んでるとは思えん。そもそも第四艦隊の動きが怪しいということはハナから分かっていた上でお前たちを配属させたのだしな」
皐月「? ……でもボク、あ! いえ、私、何も司令官の役に立って居ませんが」
提督「前に会った時も言ったが、無理に一人称を直さんでもいい。不自然に畏まった態度を取られるぐらいなら敬語も必要ない。尋問しているわけではないのだから、あまり俺を恐れるな」
提督「お前たち二人を第四艦隊に回したのは、龍田の信頼をそれなりに得られる見込みが高く、かつ、懐柔され奴の手駒にならなそうだったからだ。つまり、毒にも薬にもならないというわけだな」
皐月(否定出来ないけど失礼だ……)
提督「龍田について何か分かったことは無いか? 奴の真の目的が知りたい」
提督「常設の艦隊に所属しているのであれば、まず金には困らないはず。だのになぜ奴は例の取引に手を出したのか……そこには私利私欲を超えた何かの理由があるはずだ、と睨んでいる」
提督「……何か知っている顔だな。やはりお前たちを選んで正解だったようだ」
・・・・
皐月「あの人は……どうやってそれを実現するつもりかは分からないけど、轟沈するはずだった艦娘を蘇らせようとしているみたいだ。その為にお金も必要だったんだと思う」
かつて龍田・文月と訪れた一室で見た出来事を話す皐月。
提督「なるほど、力尽きた艦娘は修復剤を使っても傷が治るだけなのか……知らなんだ。艦として死んだから意識が戻る事はなく、人として生きているから身体が腐ることもない、というわけか」
皐月「……うん。あの時の様子からして、機能を停止した艦娘の復活……それがあの人の本心なんだと思う」
提督「どんな手を使ってでも、というわけか。……なるほどなるほど。フフフ、フフ、ハハハハ」
提督「良いだろう。全容は見えた、そしてそのゴールもだ」
皐月「?(突然高笑いしだした……一体どうしたんだ)」
提督「ご苦労だったな皐月。お前は十分に役に立った」
高笑いしながら部屋を出る提督。
皐月(一体なんだったんだ……)
・・・・
数日後。再び取調室で顔を会わせる提督と龍田。
提督「海賊をけしかけるなんて考えたな。“菱餅”で煽ったか?」
提督「その顔、図星のようだな。港町や島を襲って生計を立てている荒くれどもといえど所詮生身の人間。数百人集まったところで駆逐艦一隻にも勝てやしない」
提督「大本営、政府、その他研究機関……その中でもごく限られた人間にしかその真価は分からない。いや、ひょっとすると連中でさえ分かっていないのかもしれないな。
見た目はちゃちいが『オーパーツ』『聖遺物』『神器』……そんな風に呼ばれてる代物だ。当然裏のルートで捌けば莫大な金になる」
提督がポケットから“菱餅”を取り出す。
底面が菱形の四角柱、桃色・白色・緑色と三層に色の分かれているその姿はまさに実物の菱餅と見紛わんばかりである。しかしこれは当然単なる菱餅であるはずがない。
現代の科学ではその謎が完全には解明されていないため、ロストテクノロジー、あるいは、深海棲艦が独自に発明した物質と噂されている。
その実態は謎に包まれているが、この“菱餅”や“菱餅”と同様の性質を持つ、“プレゼント”(立方体の箱のような形状をしている)・“チョコレート”(柱体で面の形がハートに似ている、茶褐色の物質)は深海棲艦が極稀に所持している。
これらの稀少なアイテムを原料に、艦娘の装備をより強力にする為に必要な消耗品である“ネジ”(『改修資材』と呼ばれている)などが生成される。
その為、深海棲艦を倒し“菱餅”などを得た提督は報酬と引き換えにそれらを大本営に渡すことが暗黙のルールとなっている。
大本営は提督から得た“菱餅”などをもとに、軍備を強化する為の“ネジ”や“指輪”を作り、提督も大本営からその恩恵を授かる……いわゆるwin-winの関係である。
提督「だからあの海賊共はリスクを犯してでも“これ”を盗みに来た。迷いなく資材庫に向かったんで実に分かりやすかった、混乱に乗じようが大した相手ではなかったな」
提督「残念だったな龍田。“この前お前が確認しに来た時は”あったのにな。……どうやら監視カメラの台数が増えていたのには気づけなかったようだな」
龍田「でも~海賊さんの財布が潤っても……それが私に何か影響があるんでしょうかぁ~?」
提督「では今回見事な働きをしてくれた雪風に引導を渡してもらうとしよう。雪風、例の資料を!」
部屋に入ってきた雪風。龍田の部屋にある、彼女の自前のパソコン画面を撮影した紙を机の上に並べる。垂れてきた冷や汗をハンカチで拭いだす龍田。
提督「お前の部屋に、海賊の頭領と思しき人物が訪れていた。お前の代わりに送金しようとしているところを捕えておいたよ。お前の同士に今まで稼いだ金を送るつもりだったんだろ」
提督「雪風が気を利かせてキーボードの手元まで撮影していたからな。人力キーロギングさせてもらった」
提督「お前が薬物の取引をしているならば、それによって得た金がどこかにあるはずだ。だが、この鎮守府内には保管されていないようだった。ならばどこかに預金しているに違いないと睨んだのだ」
提督「Googolなどといった検索エンジンが辿り着けないインターネット上のウェブサイト郡を“深海Web”と言う。が、検索エンジンが辿り着けまいが、WWW上に存在していて公開されているページであるのならば、辿り着けないことはない。
俺は違法性のある“深海Web”上のサイトを片っ端から漁り、色々と趣向を凝らしてみて何とかうちの鎮守府に関係ありそうな記述のあったページおよび掲示板のスレッドを発見した。が、ここで暗礁に乗り上げた」
提督「その理由はお前もご存知の“Toroia”だ。ウェブのどこかしらにアクセスすればIPアドレス……すなわち足跡が残る。ウェブ上で金や薬のやり取りをしていたなら(手間ではあるが)サーバに問い合わせれば解決するのだが……。
無数のプロキシサーバを経由……つまり、中継となる代理サーバを経由してやり取りをすれば発信元の特定は困難になる。調べたところで代理サーバのそのまた代理の代理の代理の代理のIPアドレスしか出てこないわけだからな。
たとえこの鎮守府に関係のある人物が違法性のあるやり取りをしているのを察知しようが、その書き込み主は誰なのかを特定することが難しい、というわけなのだ」
提督「が、お前がまんまとこの鎮守府に海賊を呼び寄せたことによって、お前のパソコンにログインすることが出来た。おかげでお前の“DMMマネー”も全額差し押さえることが出来た。お前に関連してた連中を洗い出すことも出来る」
“DMMマネー”――“Digital Mass Mate Money”の略称である。現代においては最も普及している仮想通貨のことである。P2P方式を利用していることなどが特徴に挙げられる。
提督「お前のパソコンにログインしてからの工程は雪風が上手くやってくれたさ。聞きたいか?」
龍田「……もう結構よ。いいわ、私の負け、なのねぇ……。せめて足掻こうと思ったけれど、それすらもうまく行かないのねぇ~……」
龍田「またしても、“死神”に邪魔されてしまったのねぇ~……」 憎々しげに雪風を睨みつける龍田。途端に震え出し、扉の近くまで下がる雪風
龍田「ふふっ、“死神”のくせに私が怖いのかしらぁ~……? 面白いわね~……」
雪風「死神じゃ……ありません……!」 震え声での抗議
龍田「ふふっ、あの時はお互い別の鎮守府だったけどぉ~……前線で戦った事もない天龍ちゃんたちを囮にして逃げ帰ったのを今でも覚えてるわぁ~」
雪風「あっ、あれは撤退命令が出たから……! それに、あの場で私にはどうすることも……」
龍田「そんなことは承知の上よ? 承知の上で言ってるの。そうであっても、どうあっても私にとって貴方たちは仇。許しはしないわ。
天龍ちゃんや私たちを使い捨てにした大湊の提督も、それを見殺しにした単冠湾の提督……ひいてはその命令で動いていた貴方や響も。全員許しはしない。私は貴方たちを許さない」
提督(過去に何やら悶着があったようだが……どうも色々と事情があったらしいな) 雪風の方に手を向け、こちらへ来るようクイクイッとジェスチャーする
提督「横から失礼。ほほう、こいつが“死神”か。そうかそうか。そうかそうか。いや……なるほどなるほど」
いやらしい笑みを浮かべる提督。龍田に気圧されて震えている雪風を胸元に引き寄せ、ワシャワシャと乱暴に頭を撫でる。
提督「こいつが“死神”に見えるならその考えは改めた方が良いだろう。ナリはちんちくりんだが……こいつは“幸運の女神”そのものだ。それもお前にとっての、な」
提督「獄卒! 隣室で待機している“奴”を連れてこい」
獄卒が扉を開けると、かつての龍田の同胞であった天龍が現れる。
龍田「嘘……天龍、ちゃん? 皆……!」
天龍「へへっ、随分遅くなっちまったが。お前に会いに、あの世から舞い戻ってきたぜ……っと、そんなカッコいいこと言えるような最期じゃなかったけどな」
抱き合う龍田と天龍。天龍の胸の中で涙を零す龍田。肩を叩きなだめる天龍。
天龍「アンタが何者なのかは分からないし、どうやって海に沈んだはずの俺をここに連れてきたのかも分からない。……が、とにかく礼を言うぜ」
提督「詳しい話は後でしてやる。これにて終幕だ。雪風が居なければこうはいかなかっただろう。感謝するんだな」
・・・・
軍事刑務所近くにある公園。ベンチに座り、フゥ、と溜息をつく提督。隣には雪風が座っている。
提督「……にしても今回は幸運だった。
まず、何かが起こる前にお前が鎮守府内で麻薬が取引されていることを察知してくれたこと。龍田に察される前に関係者の絞込みと諸々の対策が出来たこと。
追い詰められた龍田が何かしらの騒動を起こしたのは想定済みだったが、それをかえってプラスの方向に利用出来たこと……特に龍田の真の狙いを皐月から聞き出せたことが大きいな。
それから、俺とお前で“兄さん”を呼び寄せることが出来たこと。“兄さん”が万事上手くやってくれたこと……挙げればキリがないな」
提督「連日徹夜に付き合わせてすまなかった。俺一人ではどうしても時間がかかり過ぎたからな……」 ングッ……ゴクッ
べコン、とコーンポタージュ缶の飲み口下部を凹ませる提督。雪風はその様子を不思議そうに見つめている。
提督「凹ませたのが気になるか? こうやると中のコーンが出て来やすいのだよ」
雪風「いえ。しれえはコーヒーが好きじゃなかったでしたっけ?」
提督「缶コーヒーは好かん。……そうだ、雪風。お前の分もあるぞ。ま、自販機で当たりが出ただけなのだがな」
提督がポケットから紙パックのジュースを取り出す。『どろり濃厚 ピーチ味』と書かれている。
提督「駄賃というには安すぎるが……ひとまず乾杯だ」
雪風「ゴクッ、ンヴッ!? うーん……おいしくない……」 渋い表情でジュースを見つめる
提督「……そうか」
執務室を訪れる響。
提督「響か。何用だ?」
響「いや、用は無いんだが……ダメかい?」
提督「……そうか」
提督はそれ以上何も言わず、部屋に備えつけの冷蔵庫の中身を物色し始める。
響「司令官、珍しく機嫌が良いね?」
提督「なぜそう思った? ……事実、吉事があったのは確かだが」
響「用もなく部屋に入ってきた私を拒もうとしないし、声色が普段よりも優しかったからね。顔が見えない分、そういう所で司令官の内心を探っているわけだ」
提督「やれやれ……。ま、お前相手なら拒む理由が無いからな」 ポットから二人分のカップに珈琲を注いでいる
提督「飲むか?」
響「ありがとう。いただくよ……ンンン゛ン゛ッ!?」 顔をしかめる響
響「司令官……これは本当にコーヒーかい? 何が入っているんだ?」
提督「カップの1/4から3/1程度のコンデンスミルクを混ぜた珈琲……いわゆるベトナムコーヒーというものだな。前にブラックよりは砂糖とミルクを加えた方が好きと言っていたので淹れてみたのだが」
響「コーヒーにこんな過剰な甘さは求めてないよ司令官……」
提督「ふむ。俺はこれはこれで好きなのだがな。俺のブラックと替えるか?」
響「あぁ。頼む……これはちょっと……」
・・・・
提督「……」ズゾゾゾ
響(普通に飲んでる……)
響「そういえば、吉事があったと言っていたけど。何があったんだい?」
提督「うむ。……久しぶりに兄と会ってな」
響「どんなお兄さんなんだい?」
提督「俺がこの世で唯一尊敬している存在だ。恐らく、知で彼に並び立つ者は居ないだろう。俺の師であり、理想であり、生きる理由だ」
響「司令官にそこまで言わしめるとはね……興味が湧いてきたな。この鎮守府の近くに居るのかい? 私も会ってみたいものだな」
提督「近くというか……ここに居るぞ。今は寝てるがね」
・・・・
響「おっと……長話しすぎたかな。そろそろおいとましなきゃだね。それじゃ」
提督「待て」
響「?」
提督「姉妹が気になるのだろう。だから訊きに来た。違うのか?」
響「気にならないと言えば嘘になるが……」
響「私とて罪人に情を抱くほど愚かではないさ」
提督「そうか。……俺は今から奴らに会いに行こうと思う。お前はどうする? ついて来るか?」
言葉を発しないの響。提督は椅子から立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。
提督「今生の別れになるかもしれないぞ」
力なく腕を延ばす響の手を握る。
提督「……行くぞ、ヴェールヌイ」
軍事刑務所内、牢屋前。
提督「俺の話は後で良い。また後で来る」 その場を立ち去る提督
響「……分かった」
・・・・
響が目の前に現れると、少し怯えた様子を見せる暁たち。なるべく刺激しないよう穏やかな口調で話しかける響。
響「やぁ。……なに、この間のように叩きのめしに来たわけじゃないから安心して欲しい。最後に顔でも見ておこうと思っただけだ」
響「一つだけ気になっていたことがあってね。どうしてあの時に龍田を逃がす為に私の前に立ち塞がったんだい?」
響「私が本気を出せば、たとえ三人がかりであっても君たちを仕留めるのなんて造作も無い……そのぐらい分かっていただろう。それとも、裏切ったら龍田に殺されると言われていたのか?」
暁「違うわ。私は自らの意志で貴方の足止めをした」
響「たかが時間稼ぎの為に自分を犠牲にする覚悟があったと? あまり合理的とは思えないんだが……」
暁「響から見たらそうかもしれないわね。……でも、ここで龍田さんに死んで欲しくないって、そう思ったの。それだけよ」
どこか釈然とした様子で話す暁。
雷「響は知らないでしょうけど……龍田さん、本当は良い人なのよ? そりゃあ、やり方は間違っていたかもしれないけど……あの人は自分の為にお金を使ったことが無いのよ?」
雷「いつだって誰かの為に動いてた……自分を捨ててまで、私たちを守ってくれていた……。私はあの人を尊敬しているわ」
響「“良い人”というのは君たちの主観だろう。麻薬を売り捌き利益を得ていた時点でそれは許されない行為だ。得た金の目的や使い方がどうあれ関係ないだろう」
電「そうですね……。ひょっとすると最初から間違っていたのかもしれないのです」
暁「でもね響。あの人は……弱くて、貧しくて、誰にも相手にされなかった私たちに手を差し伸べてくれた」
暁「才能が認められて途中で別の鎮守府に行った響は、知らないかもしれないけど。訓練生を卒業したあの後、私たちは、色んな酷い経験をしたの」
暁「当然よね。だって、私たちは所詮役に立たない子供だもの。生きるか死ぬかの戦場で、引鉄も退けず右往左往することしか出来ないんだもの……邪険に扱われて当然よ」
電「艦娘を辞めたいと思ったこともあったのです。でも、当時の司令官に話しても相手にしてもらえなくて……」
雷「昔、四人で、将来の夢を話したわよね。艦娘になりたてで、まだ訓練生だった頃に。皆それぞれ内容は違ったけど……本質的には『誰かに必要とされる人間になる』って事だったと思うの」
雷「艦娘だもの、当たり前よね。皆に頼られるぐらい、皆を救えるぐらい、皆を導けるぐらいに強くなりたい……そうよね」
暁「響。誇りに思いなさい。私たちでは成し得なかったことを、貴方はやり遂げたのだから。この鎮守府で貴方の名を聞けば、その実力と才覚を疑う艦娘は居ないはず」
暁「私たちは……そうね。強くないから、龍田さんに弱みにつけ込まれたのかもしれないわね。あの時はどん底で、本当に辛かったから」
暁「本当は、第四艦隊のメンバーに選ばれるほどの実力なんて無かったの。龍田さんのおかげで、毎日楽しく、子供のように遊んで暮らせていたから、忘れていたけれど」
暁「私たちは、結局のところ龍田さんが居なければ何も出来ないわけで……。情けない話だけど、艦娘失格なのかもしれないわ」
暁「でも、響。貴方は違うから。貴方なら、私たちが不甲斐なかった分まで活躍してくれるはず」
雷「こうなってしまった以上、もう私たちはこれまでだからね。私たちの分まで、頑張ってよね! 応援してるわ!」
・・・・
牢室前で待機していた提督に話が済んだことを伝えに来た響。
提督「もう良いのか?」
響「ああ」
提督「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
響「……吐き気がする。それだけだ」
響「ただ、吐き気がする」
そう言い残して、響はどこかへ歩いて行ってしまった。
提督(ひどく思い詰めた表情をしていたな……)
提督は、暁たちの居る牢へ向かった。
大講堂。ここを提督が訪れるのは初めてであり、提督が全艦娘の前にその姿を現したのも初めての出来事である。
登壇すると何の挨拶もせず唐突に本題を話し始める提督。
提督「時間は15分。それ以上取らせはせん」
提督「諸氏らの活躍により、現在確認されている深海棲艦の出現拠点は残すところあと二つとなった」
提督「しかし、敵の攻勢は未だ精強であり、状況は予断を許さない。理由としては、他の海域から落ち延びた深海棲艦が残る二地点に集結しているためだ。
また、純粋にその二点の深海棲艦の勢力が質・量ともに最大規模である、ということも挙げられる」
提督「裏を返せば、この二大拠点を滅ぼすことによってこの国の制海権・制空権の全てを奪還することが出来るということ」
提督「よってここに、AL/MI作戦を発令する」
それまで静寂に包まれていた講堂内が、一気にどよめき始める。
"MI"の名を聞いて震え上がる者、勇み奮い立つ者、晴れ舞台を前に浮足立つ者……様々であった。
それぞれの胸中は異なっていたが、皆一様に提督の一言一句に集中していた。
提督「我々は呉鎮守府・ショートランド泊地・トラック泊地……その他泊地や基地所属の者たちと共に、MI島海域に巣食う百鬼夜行を叩く」
提督「なお、大湊警備府や単冠湾泊地、幌筵泊地、それから横須賀鎮守府の一部の戦力は北方AL海域へ進み敵の拠点を破壊。余力があれば陽動に回ってもらい、我々本隊の支援艦隊として働いてもらう予定だ」
提督「ではこれより第一艦隊から第四艦隊までの人事を発表する」
提督「第一艦隊旗艦、赤城! ビスマルク! 榛名! 加賀! 飛龍! 蒼龍!」
提督「第二艦隊旗艦、響! 雪風! 大淀! ……」
・・・・
提督「以上だ。質問のある者と人事に不満のある者は昼過ぎに執務室に来い。また、足柄はここに残れ。話がある」
比叡(お姉様……どの艦隊にも選ばれなかったせいか茫然自失に!? この世の終わりのような生気の抜けた顔でぶつぶつと何やら呟いている!)
比叡(あ、あれは……私には英語が分からないからその意味を理解することは出来ないが、恐らく呪詛めいた何かに違いない! 英語知らなくて良かった!)
・・・・
提督「来たか。お前を新たな艦隊に配属しようと思っている」
足柄「何を言ってるんですか? さっき第一艦隊から第四艦隊までの発表をしていたじゃないですか。一体どうしたんですか?」
提督「第零艦隊“アノーニュムス”だ。お前には俺の切り札として動いてもらう」
足柄「第零艦隊って……? 詳しい説明をしてもらえますよね」
提督「今回の作戦に乗じてちょっとしたジョーカーを切ろうと思ってな。だが、他の鎮守府の連中にこれを知られるわけにはいかない。あくまで秘密裡にやる必要がある。それゆえに“無名艦隊”ということだ」
提督「お前と、それから金剛・比叡・皐月・文月。暫定だが面子はこんな感じだ。と言っても、全員お互い話したこともないような奴らだとは思うが……」
足柄「あっ、あの!? 話が全く読めないんですけど!? 大体、今まで私が所属していたヴェアヴォルフはどうなるんですか!?」
提督「ヴェアヴォルフは解散だ。その為に大淀を第二、霞と清霜を第三艦隊に配属したのだ。
……実際、認めたくは無いがヴェアヴォルフの連中は使える。ヴェアヴォルフ以外にアコギなやり方をしていたユニットは全て解散しているのだよ。
俺が潰した例もあれば、自然に解散した例、他のユニットに統合された例……様々ではあるが」
提督「制度の変更。他艦隊やユニットからの冷遇。取り巻く環境が日に日に悪化していく中で組織としての体裁を保ち続けていたということを評価したい。個々の戦闘能力も高いしな。
あそこの連中ほど窮地に強い連中もそうおるまい。常設の艦隊に配属しても問題ないだろう」
提督「以前艦娘全員が見ているあの場面で龍田を追わせたのは、お前とお前の属していたヴェアヴォルフの地位を向上させてやるためだ。お前の活躍以後はそれなりに艦隊内での風当たりも和らいだだろう」
足柄「もう既に外堀から埋められていたと……。それは分かりましたけど、具体的には何を企んでいるんです?」
提督「ワープ」
足柄「えっ」
・・・・
提督「……ということだ。今はまだ出来ないが。今度実演してみせよう。それで信じてもらえるだろうしな。少し準備に時間がかかる」
足柄「本気で言ってるのかしら」
提督「この先お前の力を頼ることが多くなるだろう、よろしく頼むぞ」
足柄(常々思うけど、この人ワケわからなすぎるわ……。でも、これまでと違って近づく口実は出来たし、少し分析してみようかしら)
足柄(あと、ヴェアヴォルフの他の皆をお祝いしなきゃね。私はともかく、他の皆のことはなんだかんだ上手く取り計らってくれたみたいだし……)
本日 is ここまで。ホワイトデーボイスを聞いて魂を浄化する作業をしていたら若干投下が遅れた。足柄と白露は犠牲になったのだ……。
右に左にブレまくってしかも中途半端なところで途切れた感もありますがまあそれは次ということで。
今回わりとフリーダムすぎたな感が半端ないけど誰かに頼まれて書いてるわけでもお金貰ってるわけでもないしまあいっか。いいよね。
回によって過激さに差はあれど終始こんな感じでぶっこみ続けていく予定。あまりやり過ぎても胃もたれ起こすのでそこら辺の按配は気をつけたいところですが。
あっ忘れてた。例によって例の。
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獲得経験値(~25/100)
・皐月の経験値+1(現在値4)
・足柄の経験値+1(現在値8)
・響の経験値+2(現在値6)
・雪風の経験値+1(現在値5)
他二人
・翔鶴の現在経験値:7
・金剛の現在経験値:5
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『Phase B』【25-30/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~16:雪風
16~32:翔鶴
33~51:金剛
52~66:響
67~82:足柄
82~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい。
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乙です、元ネタがわかるとニヤニヤしながら読んでた
いやん
>>421->>425より
・足柄4レス/翔鶴1レス
で『Phase B』が進行していきます。
突然の足柄フィーバー。なんだこれ!? こういうことを平然とやってきやがるのがコンマの恐ろしいところだ。
ま、まあこういうのも覚悟の上でしたし、ねぇ~。それに、むしろこっちの方がカオスで面白かろう。
かつてない濃厚な足柄インナップにご期待くださ……いやマジどう進めようかわりと悩むところですがなんとかします。
次回の投下は明日21時頃と予告しておきます。
でもダメだったら1日ずれるかもと予防線も張っておきます。
////チラスは、パキスタン、北方地域に位置し、小規模な町である。////
大和きましたああああフゥゥゥゥーーーーーーー!
遂に大型艦建造の呪縛から解放されたのだ……!
しかし何故か未だ出ぬ能代……。
とはいえそろそろ備蓄始めた方が良さそうだし、最低値で回すのは次イベント後にしときます。
ボーキサイトが20しか無いのはさすがにやばいのヨ……。
霞「ヴェアヴォルフ第52回定例会。始めるわよ」
清霜「明日で解散なのにやる必要あるのかしら?」
霞「うるさい、やるったらやるの!」
足柄「さ、お酒たくさん買ってきちゃったから皆で飲みましょ?」
大淀「おつまみもバッチリです!」 メガネクイッ
霞「会議室で宴会おっ始めようとしてんじゃないわよバカ共ッ!」
足柄「明日でお別れってんならやることは一つ、でしょ?」
霞「ハァ……まったく、うちの連中はなんで無駄な方向にばっかり準備が良いのかしら……」
清霜「類は友を呼ぶってやつじゃない?」
霞「お黙り!」 ペシッ
・・・・
足柄「にしても、良かったわね大淀。ようやく認められたみたいで。第二艦隊に配属だなんて大したものだわ」
大淀「秘書艦だった頃も事務仕事ばっかりで常設の艦隊には入れなかったので……光栄ですね」
大淀「提督に秘書艦を外された時はショックでしたけど……。私は“今まで秘書艦だった”という慣習によって評価されていた所がありましたから。こうして純粋な実力を認められたことは、素直に嬉しいです」
霞「まっ、あれだけ鍛えれば当然よね」
清霜「とにかく暇だったからねー」
足柄「アンタ達、何してたのよ……」
大淀「霞さんにひたすら稽古をつけて貰っていました」
清霜「そうそう。本当に酷い時期は他の艦娘に白い目で見られるせいで演習場にも行けなくて、仕方がないから海に出て野試合してたのよね」
足柄「野試合て……。まあ、霞と殴り合いしてればそりゃ強くもなるわね……」
大淀「それにしても、どうして提督は足柄さんを常設の艦隊に入れなかったんでしょうか。例の、麻薬の一件であれだけ足柄さんのことを評価していたのに」
霞「というか、わざとらしく讃えてたわよね。まるで他の艦隊にも足柄や他のヴェアヴォルフの面々を評価させるかのような言い回しで」
足柄「提督曰く、私たちのことを結構評価してたみたいよ。当初は潰すつもりだったけど、なかなかしぶといんで逆に利用しようと思ったんだってさ」
霞「ふーん。頭は良いかもしれないけど、演技は下手ねあの提督。露骨すぎて見る人が見れば何か裏があるって勘繰るわ」
霞「というか、訳知り顔でそんな話をするってことはアンタもやっぱり何かしら重要なポスト任されてるみたいね。少し安心したわ」
清霜「メンバーの中で唯一の行き遅れだって二人で心配してたんだよねー」
足柄「あら、この私に向かって“行き遅れ”だなんて聞き捨てならないわ。そんなんだから戦艦になれないのよ」
清霜「なれるモン!」
足柄「なれないも~ん」
一発は足柄へ、一発は清霜へ拳骨が投下された。
・・・・
清霜「色々あったけど……皆と過ごせて楽しかったわ」
霞「ロクな思い出が無かったけどね! 何度死にかけたことか……でも、悪くはなかったわ」
大淀「明日になったら皆、別々の艦隊なんですね。少し、寂しく思います」
足柄「なぁに、生きてさえいればまた会えるわよ! 悲しむだけ損ってもんだわ。それよりも、皆の新しい門出を祝いましょう」 隣に居る清霜・大淀の肩を組む
清霜「これで終わりじゃなく、ここからが私たちヴェアヴォルフのスタート……でしょ?」
大淀「そうですね。また、いつかどこかで会えるといいですね」
三人の、さぁ早く加われと言わんばかりの目線を察し、嫌がりながらも円陣に加わる霞。
霞「会えたらいいじゃなくて、また会うのよ」
霞「いいわね! また、こうして、誰一人欠けることなく、バカみたいな集まりがやれる、その日まで、生き抜くのよッ!」
足柄(……最近は戦場に出てなかったから忘れていたけれど。そうよね、私たち、命を懸けて戦ってるのよね)
足柄(霞は過去のことを話したがらないけど、きっと多くの死別を経験してきたのよね……だから昨日の最後にあんな事を言ったんでしょう)
足柄(これからどれだけ先になるか分からないけど。また、皆と会えるその日まで……! 負けられないわッ)
提督「足柄よ、何ボーッとしてる。ついて来い」
執務室地下のモニタールームを案内する提督。
足柄「は、はい。……ところで、鎮守府にこんなものを建てて平気なのかしら?」
部屋に置いてある無数のモニターを不思議そうに眺める足柄。
提督「襲撃があった際の備え……という名分で使われていなかった地下室をより軍事的価値のあるものに改造しただけなので問題ない」
足柄「ハァ……ソウデスカ」
足柄「そういえば……前言っていたワープがどうとかだけど……。本当にそんなこと出来るの?」
提督「疑り深い奴だな。……これを持て」 四角錐状の物体を手渡す
足柄「このピラミッド形の鉄は……?」
提督「鉄ではない。いわゆる“ネジ”などから生成したちょいとワケありの物質だ」
リモコンを取り出し、部屋の最奥にあるシャッターを開ける提督。
提督「案内しよう。実験室だ」
足柄(妙な装置がずらずらと……。机の上には資料が並んでるみたいだけど、どれもパッと見ではチンプンカンプンね)
提督「ええと……この机の右端に置いたのが始点で左端に置いたのが終点だ。この装置の上にお前が手に持っているそれを置いてくれ」
机の上に顕微鏡に似た謎の装置を置く提督。
足柄「ええ。分かったわ……!?」
提督がスイッチを押すと、物体を置いた台座が高速で回転し始める。
しばらくすると物体が台座の中にめり込んでいく。
足柄「一体何が起きてるの?」
提督「詳しい原理は長くなるので省くが、正三角錐や正四角錐の物体を螺旋状に回転させるとワープする」
と言い終えた直後、始点にあったはずの物体は終点に移動していた。
足柄「た、確かにワープしたけれど……。脳の理解が追いついてないわ……」
提督「まあそこに座れ。ピラミッドパワーというのを知っているか?」
足柄を椅子に座らせ、パチンと指を鳴らす提督。天井からホワイトボードが降りてくる。
足柄「え? えぇ。なんか、ピラミッドの中に物を置いておくと腐りにくいとかいう……」
提督「残念それはレナード効果と言って真のピラミッドパワーとは関係ないのだ」
提督「最も、老化を防いだり逆に加速させたりする方法もあるのだがな。
自然界に存在する黄金長方形。この黄金長方形のエネルギーを利用して真円の球体を射出することにより時間への干渉……果ては次元さえも超越することが可能らしい。
今となっては眉唾もののロストテクノロジーだがな」ブツブツ
提督「……と、それは今回の話にはあまり関係ないのだ。
ピラミッドの石材の石質によって生じるレナード効果なんて些細なものではない。
ピラミッドパワーにはもっと大きな秘密があるのだ。そもそもピラミッドとは古代エジプトの……」
ホワイトボード上に水性ペンでひたすらに自説を書き進めていく提督。足柄は彼の言葉を理解することを諦め、瞼をゆっくりと閉じ、このうららかな昼下がりを優雅にシエスタして過ごそうと決意した。
・・・・
提督「起きたまえ!」 ピシャリとペンを足柄の額に投げつける。
足柄「ふぇっ!?」
提督「いいか。ワープというのはすなわち……」
足柄「あの! 私が聞きたいのはそういうことではなく! なぜ貴方が突然ワープだなんて突拍子もないことを言い出したのかが気になるのですが!」
提督「ふむ……そうか」
提督「では、原理や論拠まで述べていると時間が掛かり過ぎるので、概要だけ説明しよう」
ホワイトボードにあったピラミッドに関する説明を全て消し、何やら過剰書きを始めた提督。
地球や艦娘のイラスト付きで書き並べていく。
提督「こういうことになるな」
・地球の内部には空間がある(◇内部世界)
-地球の空洞内部には我々が過ごす世界とは異なる世界が広がっている
-内部世界は“上の世界”と“下の世界”の2つが存在
◇“上の世界”:『シャンバラ』『アガルタ』『高天原』
◇“下の世界”:『ニヴルヘイム』『ドゥアト』『根の国』 …などと呼ばれる
-この地球表面上に暮らす生き物は下記の例外を除いて決して内部世界に行く事は出来ない(逆も然り)
・2000年周期で内部世界への出入口が開かれる
-その影響で地上に現れたのが深海棲艦
-2000年前も深海棲艦が地上を襲ったが、当時の艦娘がこれを撃退
・深海棲艦を滅ぼすには、“下”の内部世界の出入口である『タルタロスの門』を封印しなければならない
→封印を達成すれば以後2000数年間新たな深海棲艦は出現しなくなる
・『タルタロスの門』は南極の果ての島『メガラニカ』に存在
足柄「!? ? ? ……つまり?」
提督「まずな。深海棲艦と艦娘の戦いは今から2000年前、それと4000年前、6000年前……と2000年周期で起こっている。
地球の内側は異世界に繋がっているのだ。周期が近づくとこの内部世界への出入口が俺たちが住む地表世界に出現する」
提督「北極の島『ウルティマ・トゥーレ』には“上の世界”への出入口である『エーリュシオン』が存在している。そして、“下の世界”への出入口『タルタロスの門』がある南極の最果ての島『メガラニカ』……ここから深海棲艦はやってくる」
提督「“下の世界”への通路である『タルタロスの門』を封じれば地上に新たな深海棲艦が生まれることはなくなる」
提督「だから『タルタロスの門』がある『メガラニカ』へ俺たちが到達しなければならない。
が、常識的に考えて北極まで航海出来るはずがないのでワープして向かうというわけだ」
足柄(この人にとっての常識ってなんなのよ……)
足柄「ええと……つまり? とにかく、深海棲艦の根城を叩くってことよね。ワープして」
提督「そうだ。もっとも、タルタロスの門から深海棲艦の艦魂が湧いてくるだけであって、そこに深海棲艦が居るわけではないのだがな」
足柄「へぇ……。……その、“内部世界”っていうの? の、入り口が2つあるんでしょ? で、深海棲艦は“下の世界”から出てくると。
だったら、“上”はどうなってるの?」
提督「良い質問だ。“上の世界”からはその時代における最初の艦娘がやって来る。あとは妖精だな」
提督「“上”からやってきた最初の艦娘らが深海棲艦に抗う術を人間たちに伝えにやって来るのだよ」
提督「今となっては既に神話の世界の話になってしまうが、『アストライア』や『ノア』も人類に戦う術を教えた、それぞれの時代の“最初の艦娘”さ」
足柄「“ノア”って……あの『ノアの方舟』の!? 嘘でしょ!?」
提督「ああ。口伝のせいでいつの間にか人間だったということにされてしまったが、“ノア”というのは艦娘の名で、それを導いた人物……つまり当時の提督だな。そいつが今の時代に“ノア”と認識されている男だ」
提督「尤も、深海棲艦や艦娘、提督だなんてものは今の時代における呼ばれ方であって、当時は別の名称だったがな」
提督「深海棲艦の目的は、この地上の全てを支配し“上の世界”を侵攻する。それが目的だ。
一方“上の世界”は人類に艦娘を与えてこれを食い止めさせる……これが俺たちの生きる世界の摂理だ」
足柄「それ、いっそのこと深海側に着いた方が良くないかしら?」
提督「……お前は海の中で生きていけるか? という話だ。
それに、こっちが歩み寄った所で奴らにその意志はない。
深海棲艦と共存しようとして失敗した例が『アトランティス』や『ムー』だな」
提督「“上の世界”の連中が直接動けば深海棲艦を滅ぼすことは出来るのかもしれないが……そうなると戦場は俺たちがいるこの地上。
戦いのとばっちりで人類は絶滅してしまう……それゆえ“上”は動けない、ということらしい」
足柄「スケールが大きすぎてまるでイメージ沸かないわね」
提督「俺だって沸かんよ。……ま、今日の授業はここまでだな。勉強になったろう」
足柄「こんなこと私に話して平気なの?」
提督「お前のようにやたらめったら詮索してくる相手には話せる範囲で手札を明かした方が手っ取り早いと判断したから、少しだけ時間を割いてやっただけだ。それに、こんな話は他人に出来ないだろう」
・・・・
足柄(そりゃ、あんな話、誰かに話したところで正気を疑われるだろうけど……)
足柄(どこで提督はあのことを知ったの? 一体、何者なの?)
足柄(知れば知るほどに分からなくなっていく……)
安全第一と書かれたヘルメットを被り、削岩機で岩盤を砕いている皐月。
皐月「ふー……ちょっと休憩」 額から流れ落ちた汗を拭う皐月
文月「皐月ぃ。その姿、結構サマになってるねぇ~」
皐月「なってないよ! にしても……『第零艦隊』『極秘部隊』『アノーニュムス』だなんて、大層な名前のわりにやることは地味だよねー」
文月「初めての任務が土木工事だもんねぇ……潮力発電所なんて作ってどうするんだろう」
皐月「座標を算出するために大量の電力が要るって言ってたけど……いったい何のことだかさっぱりだよね」
足柄「そこ、私語は慎みなさいな! ちゃっちゃっとやる!」
黙々と作業を進める足柄。着ているオーバーオールは既に泥まみれである。
皐月「足柄さん、タフすぎますよぉ~」
足柄「軟弱ねー。遠征部隊上がりは鍛えが足りないんじゃないかしら?」
ムッとした様子で再び地面を掘り進める皐月。
足柄「あら、なんだまだやれるじゃない」
足柄「……にしても、確かに妙よね。こういうガテン系の仕事は体力バカの戦艦二人がやるべきだと思うんだけど。
金剛と比叡はどういうわけか執務室に呼び出し食らってるのよね。何か別の仕事でも与えられてるのかしら」
足柄「ま、どうでもいい事ね。こっちはこっちでガンガン行きましょう」
・・・・
足柄「完ッ成ッ! さ、後は妖精さんに任せて……早くお風呂に入ってご飯よ!」
文月「もう動けないよぉ……」
皐月「うぅ……」
力尽きて倒れている二人をヒョイとつまみ上げて風呂に駆け込む足柄。
・・・・
文月(ふみゅぅ……お風呂に入ったらだいぶ回復したけど、……強烈な人だなぁ)
足柄「あら二人とも。ずいぶんと長風呂だったわね。夕飯作っておいたわよ! さ、食べましょ食べましょ?」
机の上に盛られているおびただしい数のカツ。キャベツ。そしてカツ。
足柄「ご飯とキャベツはおかわり自由よ? たくさん食べてね?」
・・・・
皐月「なんだかんだお腹が空いてたから案外いけるもんだけど……普段じゃこれは食べられないなぁ」
足柄「あら? ヴェアヴォルフだったらこのぐらいの量は少ない方なんだけど」
皐月「えぇ……」
足柄「食べ過ぎて体調悪くなられても困るから、無理しないでね?(いざとなったら私が食べるし)」
皐月「いやまぁ、まだ平気ですけど……」
足柄「にしても奇妙なものねぇ。二人も龍田の一件に関わってたんでしょ?」
皐月「いや、ボクたちは何もやってませんよ」
足柄「そんなことは分かってるわ。そうだとしたらここに居るのはおかしいもの。
表立っての存在を公言しているわけじゃないから地位は与えないけれど、“アノーニュムス”は第一艦隊と同等の扱いをするって提督が言ってたし……。
あなたたちがどうして提督に認められたか気になるなって思ったのよ」
皐月「って言っても……ボクらも分かんないよねぇ」 文月と顔を見合わせる
皐月「本当に、なんでか分かんないんですよねー。結果的にはちょっと司令官の役に立てたみたいだけど、ボクらが特別何かしたわけでもなく……しいて言うなら運が良かったのかなぁ?」
足柄「ふーん。やっぱ何考えてるんだか分かんないわねーあの人。あなたたちもそう思わない?」
皐月「あー、それちょっと同意ですねー。なんか企んでそうっていうか……悪い人じゃないとは思うだけどなー」
足柄「いやいや、ひょっとすると世を欺く大悪党かもしれないわよ? 私たちであの人の謎を暴いてみない?!」
文月(この艦隊、大丈夫かなぁ……。不安だよぅ)
鎮守府内の休憩室。この鎮守府内にはいくつかの休憩所が設置されていて、艦娘たちは自由に利用することが出来る。
加賀との訓練を済ませた翔鶴は、一息つこうと休憩室を訪れた。
翔鶴(あら? 先客かしら)
引き戸を開けると、艦娘だろうか、長髪の女性が正座をしているようだった。
翔鶴は、そこはかとなく一人で過ごしたい気分ではあったのだが、見ず知らずの他人が傍に居てもあまり気にしない性分だったので、部屋にいた女性には構わず給湯器に手を伸ばした。
部屋に備え付けの急須に、給湯器から出る熱湯を注ぐ。
別段良質な茶葉というわけではないのだが、この休憩室で茶を飲むことが翔鶴にとってはささやかな癒やしであった。
カコン
この和室は、所詮暇を持て余した妖精が趣味で作ったものでしかない。
そもそも獣が出るような山奥でも無いのにししおどしが置いてあるあたり、あくまで“それっぽさ”を追求しただけの模倣の庭園に過ぎない。
しかし翔鶴は畳から香る藺草の匂い、部屋の外から見える枯山水の石庭、カランと鳴るししおどしの音……、その全てに風情を感じていた。
カーン
・・・・
加賀「これからは私も第一艦隊の皆さんと、決戦に向けて備えなければならないから。こうして稽古をつけることも出来なくなります。
それに、あなたたち二人はどこに出しても恥ずかしくないほど立派に成長しましたから。……私から伝えるべきことは、もうありません」
翔鶴「そんな! まだまだ先輩に教えてもらいたいことがたくさんあるのに……」
加賀「次の作戦であなた達は支援部隊だけれど。私はあなたたちの師として、手本となる道を示したいと思っています。
あなた達は私や赤城さんが前線で戦う姿から、自分にとって必要なものが何であるかを見出し、学び取ってください」
加賀「……今の私の基となる、正規空母加賀は当時敵対していた国の将兵を数多く殺しました。私だけでなく、それはあなたたちにも言えることです。
当時の価値観における正義を貫いただけのこと。私たちは人を殺し国を滅ぼすために生まれてきた兵器だったのだから」
加賀「実艦であった頃の、遥か昔の記憶があるわけじゃないけれど。私は“加賀”の名を背負って生きている。
けれど、私が今生きている理由は命を奪うためじゃない。赤城さんを、あなた達を、皆が居るこの鎮守府を守るため」
加賀「次の作戦はかつての“加賀”であった艦にとって最期の戦い。でも、私はそうはならないわ。
今の私は、人を殺すための兵器でなく、人を守るための兵器。
……私は、かつての“加賀”を超える。運命を、変えてみせる」
加賀「その為に、今の段階から最善手を打っておきたいの。どんなことが起こっても対応出来るように、自分を高めておきたいのだわ」
瑞鶴「……分かりました。あの、これっ」 加賀の手のひらの上に、黒い兎の編みぐるみを乗せる瑞鶴
加賀「何かしらこれは? 七面鳥のストラップ?」
瑞鶴「違います! そりゃ、不格好で、ちょっとブサイクだけど……」
加賀「冗談よ。兎でしょう。……これを私に?」
瑞鶴「ええ。一航戦の先輩なら、深海棲艦の敵なんて鎧袖一触! なんでしょうけど……一応、お守りです」
加賀「……良い後輩を持ったわ。ありがとう」 ポンポンと二人の頭を撫でる加賀
加賀「……そろそろ第一艦隊の会議の時間に行かなければいけないわ。二人とも鍛錬を欠かさないことね。では、次は戦場で会いましょう」
・・・・
翔鶴は、先刻の訓練後の会話を思い出していた。
あの時の加賀は、今まで自分たちに見せたことの無いような本気の表情だった。
苦悩と葛藤を乗り越えた先にあるかのような、決意に満ちた真剣な眼差しだった。
去っていく背中から感じたのは、明確な闘志だった。
自分が兵器であるという自覚はあった。敵である深海棲艦を打ち倒すことが使命であることは認識していた。
だが、加賀のように、自分は『誰かを守るための兵器』だなんて考えたことは無かった。
どうすれば先輩のようになれるだろうか。この戦いが終わったら、戦うことしか能がない自分はどうなるのだろうか。
そんなことばかり考えていた。それゆえ加賀の言葉は衝撃だった。
今の自分の居場所に居続けるためでなく、艦娘として戦果を挙げるためでもない。
大切なものを守るため……その一念で彼女は今の高みまで昇り詰めてきたのだと思った。
『大切なものを守りたい』……戦いに身を置く者なら、ほとんどの人が抱く感情だから、殊更おかしなことではない。
だが、その想いだけであそこまで強くなれるというのは並大抵のことでは無い。
出世したいだとか、強くなりたいだとか、誰かに認められたいだとか、そういった欲望の方が人間の根源的な欲望に直結しているからである。
欲望の強い者ほど高いレベルを求めるし、高いレベルに辿り着ける。
そういう意味では自分も他の艦娘に負けないぐらい貪欲だと思っていたが、先程の加賀と今の自分を比べた時、決定的な実力差を痛感したのだった。
想いの強さという点で、負けている、と。
翔鶴(いつか、一航戦の皆さんに負けないぐらい強くなる、なんて思っていましたが……。私は、あんな風になれる自信がありません)
翔鶴(でも、弱気になっていても仕方ないわ。先輩の言っていたように、この戦いで、私の進むべき道を見つけましょう……!)
本日はここまで。
日曜は友人の来訪があったので本日にずれこみました。
次回の投下を今週中に出来たら嬉しいな! 多分無理なので予告ではなく努力目標。
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獲得経験値(~30/100)
・足柄の経験値+8(現在値16)
・翔鶴の経験値+2(現在値9)
・雪風の現在経験値:5
・金剛の現在経験値:5
・響の現在経験値:6
・皐月の現在経験値:4
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////雷巡チ級////
今回はわりと箸休め的な感じなので少し自重……出来てませんね!
突然ワープとか言い出すようなお話で申し訳ございません。
既に「これ艦これでやる必要なくね?」級のハチャメチャが押し寄せてきてますが、次元を超越したり時間を遡行したり因果律を捻じ曲げたりするレベルのことはやらないつもりなんで許してくだち。
ここまで来るとむしろ艦これを題材にこんなことをやる奴他に居ねーよって感じはしなくもないですけどね。
いやぁ~でも血気盛んなティーンエイジャーが書けばこのぐらいは余裕でぶっ飛ばせるぐらいの超設定が……(ry
今回(=第二部)は特にイチャイチャさせる気があんまりなかったので足柄さんの出番が多いわりに特にデレ的サービス要素はなしです。
でも最終的には経験値で誰とくっつくか決まるし今回は投票とかせずそのまま数値で決めるつもりなので今んとこ足柄さんルート寄りっぽい。
先の話なんでまだ分からないとこではありますが90/100ぐらい行ったらどのルートになるかが決定かなぁって感じです。
というか……提督偏屈すぎて超めんどくさい人って感じですね。こんなん誰ともくっつかなくても良いんじゃない?(オイ
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『Phase A』【31-35/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい
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皐月
雪風
>>435->>439より
・皐月2レス/響1レス/金剛1レス/雪風1レス
で『Phase A』が進行していきます。
////チラシ装填、再突入!////
次回の投下を今週中~とか言ってたけどレスがつかなきゃ書けないのでしょうがない。
先読み・逆張りしてストック書いとけって? 残念ながらそこまで自由に使える時間があるわけじゃないのでー……。
なんだかんだ毎日このSSのことを考えてますけどね。これからどうやって展開させていこうか、このキャラは何を考えてどういう振る舞いをするだろうか……とか。
習慣になると案外楽しいもんで。毎日考えてたところでそれが作品として活きるか・作品のクオリティアップに繋がるか・投下スピードが上がるかは別問題ですけど。
レスの食いつきが悪い時は案外不安になりますねー。
『やっぱりちょっと突飛すぎたかーorやっぱりちょっと無難すぎたかー』だったり、『あぁーここのここはこうした方が後の展開が読んでる側も想像しやすいなー』とか、『ここの展開とかここの感情描写安っぽすぎるというか薄ら寒かったかなーノれると思ったけど痛いかー』、とかとかとかとか!
でもね、私は知っている! その不安のほとんどが杞憂であることを!
自分を中心に世界が回っているわけじゃないんで他者の動きに波があるのは当然なわけで。
そもそも見てて辛いなーと思われたら目に見えて勢いが衰えていくし、それに伴って自然と自分のモチベも下がっていくもんですよ案外。
滅ぶものは滅ぶべくして滅ぶのであってそれは自然の摂理であって逆説的に言うと今も存在しているということは存在意義があるから存在しているということであってー。
何を言っているかわからねーが的な感じのお話になってますが、そう! 滅ぶべきものは滅ぶべくして滅ぶ!
たとえそれが私が毎日楽しくプレイしている艦隊これくしょんというゲーム、ひいてはその艦これに類するコンテンツであっても。
艦これは2013年4月23日にサービスを開始したそうですね。今年の4月23日で2周年を迎え、3年目に突入すると。
世の中には『3』にまつわるジンクスが色々ありまして。まあジンクスですけど。ジンクスですけれども!
さりとて艦これというコンテンツにとってはここ一年は勝負どころでしょうね。アニメ(川内と那珂ちゃんは良かった)然りアーケード然り携帯機然り。
これまでのような快進撃とはいかんでしょう。
ぶっちゃけ私にとっては商業的部分なんてどうでもいいんですけれども。
ゲームは好きだしキャラも好きだし、二次創作とかも結構好きだけど、悪いけどそれ以外の部分に関しては知ったこっちゃないです。所詮1ユーザーだし。
と不遜な発言をしたところでフォローしておくと、艦これ及びその胴元である角川やDMMに対しては感謝していますけどね。そりゃあもちろん。
えと、何の話をしてたんだか。そうそう自然淘汰ってのはあるもんで。生まれたからには滅びがあるわけでしてハイ。
まあでもどうせいずれどこかでお別れしなきゃならないなら良い感じでありたいよね何事も的な微妙に締まらない締めくくりをして私はチラシをゴミ箱に捨てた。
次回の投下は明日……は無理そうなので明後日午後21時頃です。
年度末のしんどいシーズンは抜けたので、もうちょっとペース上げられそうなんですけどうーむ。
まあマイペースにやっていこうと思います。
変化のある環境じゃないので四月病は患わないで済んでますが、一足先に五月病にかかりそうです。びえー
あとあんまり余計なことは言うべきじゃないですね。後悔するならハナから言わんでおれという話なんですがまあ人間なんで……と言い訳しつつも反省。
皐月(司令官に案内されて来たけど……執務室の下にこんな場所が建てられていたなんて……)
皐月が今立っている場所は鎮守府の地下深くに存在する洞窟である。この洞窟は海と繋がっていて、満潮時には洞窟一帯は水没してしまう。
執務室の地下施設の更に下層にあるこの場所は、金剛・比叡らの手によって大規模な実験場として改造されたのであった。
龍田「あらぁ~? 久しぶりねぇ」
皐月「え゛? なんで龍田さんが……?」
天龍「表向きには処分された……ってことになってるんだっけか。おっと、オレの名は天龍。よろしくな」 皐月の肩をポンと叩く
雷「準備出来たわー」 遠くから声がする
龍田「じゃ、ついてきてもらえるかしら~?」
龍田に言われるがままついていく皐月。青白く光る奇妙な装置の台座の上に立たされると、装置から拘束具が出現し、皐月の身体を固定したまま台座は高速で滑走、そのまま皐月を海上へと吹き飛ばしてしまう。
皐月「!? え、ちょ……おわッ!」 ガシャコン!
洞窟の方から飛んできた艤装を装着し、海上を滑る皐月。
皐月「????? ……なんなんだこれ? 前にアニメで見たや……うおおお!?」
足元の渦潮に足を取られてしまい、必死で抜けだそうとする皐月。
皐月「クッ……なんだってこんな所に渦潮があるんだよぉ!」
逃げようにも完全に渦潮に嵌ってしまっているため苦戦を強いられている皐月。
皐月「え? 何これ? ……向こうにも渦潮が? あっちにも……って、全部こっちに迫ってきてるぞぉぉ!?」
複数の渦潮が重なり合い、非常に大きな一つの渦となる。瞬く間に皐月はその中心に呑まれていった。
・・・・
医務室。皐月の横たわるベッドの上に座る提督。何かの設計図のようなものが描かれた厚紙を眺めながらうんうんと唸っている提督。
提督「……やはり渦潮を利用したワープは可能なのだな。だが、生身では安全性に難がある……か。どうにも猫並みの三半規管が無いとゲロ酔いしてしまうようだ」ブツブツ
皐月「し、司令官? 一体何がどうなってるの……?」
提督「目が覚めたか。すまないな、どうにも今回の『エーギル計画』は失敗だったようだ。天龍、やはり『プロビデンス』が必要なようだ。素材の調達を急いでくれ」
黄緑色の縁に、明るい水色の内装。彼には似つかわしくないポップな色合いの携帯電話で天龍と連絡を取る提督(使う人が使えばオシャレなのかもしれないが、この提督が持っていては奇抜以外の言葉は出てこないと皐月は思った)。
提督「おや、奴らから説明を受けてなかったか? 地下で会っただろう」
皐月「何にも説明されてないって! そもそも何でたつ……」
龍田、と言いかけた皐月の頭と顎を両手で挟み、強引に口を塞ぐ。
提督「一応その名前は執務室の地下以外で口にしてはならない。……そうだな、説明すると長くなるが、“あれ”が俺なりの処分だ」
提督「任は解いたし、立場上は一般人と変わらんよ。……が、それは立場上の話。言い方は悪いが、私兵という表現が最適になるか」
皐月(つまり……表向きには龍田さん達を処分したけれど、実際は地下施設内で自分の管理下においている……ということか)
皐月(確かに、天龍さん達を蘇らせるのが龍田さんの目的であって、提督はそれを達成してみせた……。龍田さん達が地下で提督の為に働いているのも、経緯から考えればおかしくはないことなのかもしれないな)
提督「今回お前に協力してもらったのは、“アノーニュムス”の、最初にして最後の作戦遂行の為の実験だ。実験の目的は既に足柄や金剛には話してあるが……念のためここで話すのはよしておこう」
提督「……この作戦が終われば、恐らく、人と艦娘の在り方さえも変えてしまうことになるだろう。それは果たして正しいことなのだろうか……。
皐月。もし深海棲艦がこの世から居なくなったら、これからお前はどうしたい? 勿論、そうなれば最終的には解体されて艦娘の頃の記憶は無くなるだろうが……」
皐月「うーん。突然そんなこと言われても困る、っていうか……。ボクは、とりあえず文月と居れればいいかな。後は……もっと色んな人の話を聞きたいかな。
ほら、ボク、ずっと訓練生だったから。まだまだ艦娘がどういうもんか分かってない所あるし……他の活躍してる艦娘たちが、どうやって過ごしてきたか興味あるんだよね」
皐月「戦いが終わったら今第一線で活躍してる人らも皆ヒマになるだろうなーって」
提督「……だろうな。……戦いが終わらない方が、殆どの艦娘にとっては喜ばしいことなのかもしれん」
皐月「ボクはボクでわりと気にしないけど……否定は出来ないね」
皐月「ただ、やっぱり、誰かが終わらせなきゃいけないものなんじゃない? 艦娘だってこの戦いを終わらせるために生まれたわけだし」
皐月「司令官がそれを出来る、というのであれば、やるべきだと思うよ。……何より、ボクがこの戦いを終えることに直接貢献出来た、なんて誇らしいからね!」
提督「……そうか。ま、そうだろうな。そうすべき、か」
提督(ああ、そうすべきだ。だが、不確定要素ばかりで先が見えないのがどうも気がかりだ……)
鹿屋基地鎮守府内の執務室前(鹿屋基地は厳密には“基地”なので鎮守府ではないが、艦娘が在籍していて艦隊司令部のある大規模施設のことを“鎮守府”と呼ぶ通例がある)。
提督と金剛、比叡らは鹿屋基地の鎮守府を取り仕切る不破提督のもとを訪れていた。
提督「さて、話が着いて一段落だな。比叡の戻りを待つぞ。……どうした金剛?」
かつて鹿屋基地に在籍していた比叡は、提督の指示により、MI作戦の暗号が既に敵深海棲艦に流出していることを旧知の艦娘たちに伝えに行っていた。
その間に提督らは不破提督と会談し、今後自陣営に有利な展開になるように事を進めていたのであった。
金剛「あの提督……本当にワタシ達の言うとおりに動いてくれますかネー? これ、裏切られたらワタシ達がかなり不利になる気がしマース」
提督「そうだな。本来であればここ鹿屋基地の艦隊も含まれる呉鎮守府を中心とする第一次攻略大隊として出撃する手筈であり……。
しかる後に我々第二次攻略大隊が、第一次大隊が切り開いた道を進み敵本拠へ向かう。しかし、さっきも話したように、それは絶対に回避せねばならんのだ」
提督「第二大隊によって制空権を確保した状態で、第一大隊の戦艦部隊が敵を討つ。これが本作戦の概要だが……。
MI作戦の情報が全て深海棲艦に筒抜けなのは自明……どいつもこいつも聞く耳を持たないなら、いっそこちらはこちらで好きに動くしかあるまい」
金剛「敵の立場になって考えてみれば、制空権喪失または互角の状態で戦艦と真っ向から殴りあうのは避けたいハズ……。
となれば優先的に潰したいのは空母部隊に特化したワタシたち佐世保鎮守府の第二次MI攻略大隊になるでしょうネー」
提督「ああ、間違いなく敵は俺たちを先に潰そうとするだろう。だが俺たちはその上を行く」
提督「第一次大隊が出撃した後、敵深海棲艦はガラ空きの呉の本陣を強襲するだろう。
そうすれば第一大隊はUターンせざるを得なくなる。本丸を落とされてはどうにもならんからな」
提督「……作戦通りの流れであれば、先鋒隊と合流を果たせなかった我々第二大隊は棲地MIにて海の藻屑となるだろう」
金剛「それを逆手に取って佐世保第二大隊と鹿屋小隊は呉鎮守府付近で待機。敵の奇襲部隊を討ち果たしてからMIへ向かう……。
空母部隊だけでは火力に欠けますし、やっぱり鹿屋小隊には何としても動いてもらわないと、と思うのデスガ。
敵奇襲部隊を叩こうとしたつもりが、味方空母が中破以上の被害を受けて返り討ちにあった、なんて事になったらブラックジョークにもならないデース」
提督「(意外と冷静な分析力があるな。ただうるさいだけの奴と思っていたが……)いや、ここの連中は俺の言う通りに動くさ。間違いなく」
金剛「でも、なんだか上官相手とは思えない訝しげな態度でしたヨネー……?」
提督「人に信用されないのは慣れている。慣れているからこそ、信用していようがいまいが人を動かす方法も知っているということだ」
金剛「(ネクラだからこその交渉術、感心デース! ……って言おうとしたけどこれ以上心象悪くしたくないからやめときマス)」
・・・・
提督「なあ金剛。俺を恨んでいるか? 第一艦隊から外した事を」
金剛「ハイ」
提督「即答か……。ま、恨まれたところで気にはしないがな」
金剛「嘘デスネ。人に嫌われて平気な人なんて居まセーン。ワタシ、今はテートクのこと嫌いデスけど……。
今でもテートクに嫌いと言われたことは忘れられませんし、精神科に連行されたことは今でも根に持ってマース」
提督「事実嫌いなのだから仕方なかろう。俺は媚を売るような奴は嫌いだ。
それと、前にお前が俺に送りつけてきた手紙を読んで精神に異常を来たしていると判断したから精神科に連れて行ったのだ。根に持たれようが知ったことか」
提督「と、そんな話はどうでもいい。俺は、お前が第一艦隊から外された際もっと荒れると思っていたのだが……。
意外にも動じなかった事に驚いている。お前は誰がどう見ても野心家だし、強欲だし、自分が中心でなければ気が済まない性質の人間だろう」
金剛「言うに事欠いてとんでもない事を本人の前で直接言って来ますネ……。本音で言ってるだけに余計にムカつきますガ……。
鉄面皮のテートクのために論理的かつ理性的に接してあげマショウ」
金剛「ワタシは確かに、ナンバーワンが好きデス。自分が一番で居られるということは人間にとって最も幸せな事だと思いマス。
結果を出せば評価される。自分の為だけに行動して、自分だけが利益を得る。頑張れば頑張れるほど報われる。かつてのここの鎮守府のSystemはワタシの肌に合っていました」
金剛「デスガ……今は貴方がテートクになってそのSystemは瓦解しました。自分の為に動いても全体で利益を出さなければなりまセン。
それはもちろん集団のあり方としては当然デス……。でも、ワタシは“ワタシが”No.1でありたいのであって、他の事には興味無いデース」
金剛「そりゃあ、旗艦を外されたどころか第一艦隊まで外され、常設の艦隊にさえ入れてもらえないとは思ってマセンでしたけど……。
どうせLevelの低い艦隊に配属された所でMotivationが上がらなかったでしょうし。だったらこうしてテートクの懐刀として動いていた方が楽しいデース」
と言い終えた後、提督そのものは嫌いですけど、と付け足す金剛。
提督「ふむ……楽しいとはどういうことだ?」
金剛「これからどんなChaosな展開が訪れるか……結構興味ありマスよ。フフフ」
金剛「深海棲艦を滅ぼす……。でも、それは結果的には艦娘を滅ぼすことにも繋がりますよネ? ……テートクがどんな最期を迎えるか今から楽しみデース。
おっと、ワタシはテートクが独りぼっちになるまでは見届けてあげるつもりデスから、疑ったりしないで下サイネ?」
提督「お前、人格は最低だが、味方としては一番心強い部類の人間かもしれんな」
金剛「テートクには言われたく無いネー♪」
提督「やれやれ……」
執務室に置かれた円卓を囲む提督と二名の艦娘。
赤城「あの、会議なら会議室で行った方が良いかと思うのですが……」
提督「確かに、会議の場としては狭いが……。議論というより、俺が一方的に話すだけになるのでこのような形を取らせてもらった(ここなら盗聴も難しいしな)」
響「内容は例の作戦について、なのかな? 第一艦隊旗艦の赤城と、私。第三艦隊旗艦の霧島が見えないは気になるが……」
提督「霧島には別に話をするつもりなんでな。ひとまず……各艦隊の状況を訊きたい。円滑に事が運びそうな人選をしたつもりではあるが……隊としての練度の程度を知っておきたい」
響「第二艦隊は概ね問題ない。完全に纏まるまでもう少しかかりそうだが、作戦決行の日までには滞りなく動けるようになるだろう」
赤城「第一艦隊も問題ありません。今この瞬間に作戦を開始しても、提督の期待に沿えるように動けるでしょう」
提督(新第一艦隊の訓練の量は、これまでの第一艦隊の倍以上だというのは知っている。だが、短期間でここまで仕立て上げるのは並大抵のことではあるまい)
提督「そうか。それはご苦労。そうそう、暗号の件も上手くやれてるか?」
赤城「ええ……でも、どうして従来の暗号とは別の暗号を使うようにしたのでしょうか?」
提督「結論から言うと、既に我々のMI作戦攻略の暗号は全て深海棲艦に筒抜けになってしまっている。ALの動きも、MI第一大隊・第二大隊の動きも、全てが敵に予測されている。
その裏を掻く為に俺達は新しい暗号を使う必要がある。お分かりか?」
赤城「暗号……? そう、ですか……」
提督「赤城、顔が青いぞ。それに、心なしか震えているように見えるが……」
赤城「いえ、この程度……問題ありません!」
提督「……やれやれ。お前、毎晩悪夢にうなされているのだろう。加賀から聞いているぞ」
赤城「加賀さんが……? そうですか……やはり、隠せていませんでしたか」
提督「練度が上がれば上がるほど、精神が本来の実艦であった頃に近づいていくというのはどうにも本当らしいな」
提督「加賀から聞いているのはそれだけじゃない。悪夢による極度の不眠。それによる体調不良を補う為の過度の食事。
そして不安とプレッシャーからくる嘔吐……。恐怖を押し殺し、身を削っててまで強がるな」
赤城「はい。ですが……乗り越えなくては……」
赤城「遥か昔……先の戦いでの私は、私たちは、敵を侮っていました。慢心していたのです。私がもっとしっかりしていれば……皆を救えたのに……」
ゴホン、と咳払いして赤城の言葉を強引に遮る提督。
提督「……安っぽいヒロイズムは捨てろ。お前一人で抱え込もうとするな。
戦場で誰かが沈もうとそれはお前の責任じゃなく、自分の力量を見誤った当人と、そいつに指示を出しちまった大元の奴の責任だ」
提督「なあ赤城よ。俺が信じられないか? 俺は人間的な部分での魅力はともかく、戦略と智謀には絶対の自信がある。それはこれまでの戦いでも十二分に示してきたつもりだ。
お前は俺の言うとおりに動いていれば勝つ。それだけだ、何の心配も要らん。俺が信じられないのであれば、連合艦隊の連中を信じてみろ」
提督「いいか? 不退転の覚悟で命を賭けて戦うことを美徳と思っているなら、そんな考えは改めろ。
あるのは完全なる勝利のみ。お前は少し臆病になり過ぎている。思う通りに動いてみせろ」
赤城「慢心……」
ぽつりと、震え声で呟く。普段の毅然とした態度の赤城とは打って変わって、まるで涙をこらえている子供の姿のようだった。
提督「慢心? 上等だろう。お前のその慢心の責任は全て俺が負ってみせるとも」
・・・・
作戦会議が終わり、部屋を出て行く赤城と、なおも居残る響。そして提督。
提督「どうした? 戻らないのか?」
響「あぁ。……いやなに、司令官が甘いのは、私や雪風相手だけだと思っていたのだが。意外だったよ」
提督「(人をロリコンみたいに言うな……)俺は有能な人間に対しては寛容でいるつもりだが。有能で、かつ味方であればなおよい」
響「駒は多い方が良いからね。司令官のそういうドライな思考は少し憧れるところがあるよ」
響(……もっとも、誰もが誰もそういう風に考えられるわけじゃない)
提督「その通り。有能な人間の真の才能を引き出すことは上官として至高の愉悦だ。こればかりは役得だな」
響(司令官の他人に対する考え方は実にシンプルだが……他人も同じであるとは限らない)
響(人は……精神的に最も追い詰められている時に他者からの優しさに触れると、抗いようもない想いを募らせてしまうものだ。
土砂降りの雨の日に傘を貸してくれる人が居たら、その人の事を聖人だと錯覚しても無理のないことだと思う)
響(だがそれは所詮錯覚……。錯覚ではあるのだが……)
響(赤城……彼女はいずれ、私の敵になるかもしれないな)
執務室地下施設内のとある部屋。雪風と二人で食事を摂る提督。
二人が座る机に隣接する壁、その壁に開いた小さな穴を眺めている。
この穴は食堂と繋がっていて、時間になると妖精たちが食事を運んできてくれる。
サラダボウルから、コーンをフォークで突き刺して食べている雪風。さっきからコーンしか食べていない。
妖精たちが机の上にデミグラスソースオムライスの乗った皿を置く。
雪風「しれえ! そういえば、司令のお兄さんとお話して知ったんですけど……」
提督(龍田の一件で、天龍らを復活させるためには、俺の兄の力を借りる必要があった。雪風の力が無ければあの時点で兄さんと再会することは困難だったろう)
提督(俺の兄はコンピュータ上に存在する人工知能であり、彼を起動するためには様々な工程が立ち塞がっていた。俺のハード部分での技術に、雪風のソフト面での知識が加わり作業効率が上がったのだ)
提督(しかし雪風があそこまで使えるとは思わなんだ。一体どこで学んだのかは知らんが、いわゆるオタク気質なのかもしれんな……)
雪風「司令のお兄さんって、23番目に開発された人工知能だから“ニーサン”なんですね! 知りませんでした! 確かに人工知能と兄弟だなんてヘンだと思いましたけど……」
提督「それ嘘な」
雪風「ええっ!? 最初の人工知能は数百年前に『フリーメイソンリー』という秘密結社の研究機関が発明したって聞きましたよ。それから、ひいお爺ちゃんが『エシュロン』だって話も……」
提督「兄さんはお前のように真剣に話を聞いてくれる奴に出鱈目吹き込むのが好きなんだ。俺もガキの頃はよくやられた」
雪風「それじゃあ、2000年前に当時の深海棲艦と戦った人の遺伝子情報を基に生まれた人工知能ってのも嘘……?」
提督「いや、それは本当だ。人格の母体となっているのはそれだが、知識データベースには数千人分の知恵や情報が詰まっている。そうでなければ天龍らを蘇らせる方法や、深海棲艦が何故生まれるかなど知りようがない。話の中の嘘と真実が半々なのが特徴なのだ」
雪風(気まぐれだ……)
雪風「じゃあ、司令とお兄さんが兄弟なのは、どうしてなんですか?」
提督「むぅ……話すと長くなるからな。やめておこう。ただ、俺にとっては実の兄のようなものだ。尊敬しているし羨ましい」
雪風「羨ましい?」
提督「俺の知らないことを知っているのがな。俺が兄さんに教えてもらったことはあっても、俺が兄さんに何かを教えたことは無いからな」
雪風「ほぇ~……でも、司令にも司令しか知らないことがたくさんあるんじゃないですか? 私たちや艦隊のことはほとんど知らなかったみたいですし」
提督「ん、まぁ、それに関しては兄さんに話すような話題でもないからな。というか、俺だってお前らのことはほとんど知らんぞ」
提督「俺が知っているのはお前らが有能かそうでないか、何が秀でていて何が劣っているか……。つまるところ俺にとって得であるか否かという点のみだ。それ以外に関しては知ったところで意味が無いしな」
・・・・
雪風「お兄さんよりしれえの方が人工知能に近い気がします」
提督「フッ、一理ある。俺はどうにもまどろっこしいのが嫌いな性分でな。要求がシンプルな奴は扱いやすくて助かる」
雪風「あーそれちょっと分かりますね。私、初対面の人と話すと緊張しちゃって……相手のことが分かると平気なんですけど」
提督「そういえば、あがり症だとかヴェールヌイが言ってたか。今の様子をみるに、さほど重度でもないようだが……」
雪風「最初はしれえの事怖い人かなと思ってたんですけど、意外とそんなこと無いんだなって分かってからは、緊張しなくなりましたね」
提督「他人からどう見えるかが気になるのか?」
雪風「はい。相手の前で良いカッコしたいとかいうわけじゃないんですけど……嫌われたらどうしようって。しれえは人から嫌われても平気なんですか?」
提督「そりゃそうだ。そんなこといちいち気にしてられんだろう。人に嫌われたら嫌い返してやればいいだろうが」
雪風「うーん……それは分かんないですね~」 デザートのさくらんぼを口に含む
雪風「ひほ(人)に迷惑をかけるのは嫌ですし、かけられるのも嫌です」
ぷいとさくらんぼの種と茎を皿の上に吐き出す雪風。
提督(舌でさくらんぼの茎を結んだのか……? 器用だな)
提督「見かけによらず気にしいな奴だな。迷惑を誰にもかけず生きることなんて出来やしないのだ」
雪風「んぅー」 納得していないような呻き声を上げる
提督「そんなに気になるのであれば、かけた迷惑の分だけ恩で報いれば何も問題ないだろう」
雪風「なるほど……それはそうかもしれません」
雪風「ちょっとだけ司令のことが分かった気がします!」
提督「ちょっとだけか」
雪風「ちょっとだけです」
ボクは皐月。ボクたちアノーニュムスは、提督から与えられた極秘任務を達成すべく、『プロビデンス』という名前の船に乗って海上を進んでいる。進んでいるんだけど……。
提督「ビッド。チップは5枚」
皐月「む、いきなり上限とは攻めるねぇ……じゃなくて! なんでボクらはポーカーなんてやってるんだよ!」
提督「ヒマだからだろうが。それに、不安だと言ってたのはお前の方だろう。お前の恐怖心を紛らわすためでもある」
『プロビデンス』は船体がピラミッドを逆さにしたような形状で、底面以外は海中に沈んでいる。
船窓から見える景色は魚の泳いでいる姿だけだし、こんな状態じゃ不安にならない方がおかしいんだよ!
敵深海棲艦に見つかったら、一体どうするつもりなんだ!? 一応、見張りとして文月が船の上に立っているけれど……。
比叡「気合!! 入れて!! 漕ぎます!!」
金剛「ファアアアアアアアアアアアアアアック!!!!!!!」
下の階からは叫び声が聞こえるし……。なんでも、この船にはまともな推進力がないらしく、金剛さんや比叡さん、足柄さんが発電機のペダルを漕ぐことで進むんだとか……。
提督「何を長考している? コール(継続)か? レイズ(上乗せ)か? それともドロップ(棄権)か? 答えを聞こう」
皐月「(A4枚のフォーカード!? これは勝てるな)レイズ、5枚」
提督「ふむ。なかなか自信があるようだな……」
っていうか、どうして司令官までこの船に乗り込んでいるんだ?
いや、なんとなく予想は着くけれど、ボクたちが出発している間にMI作戦は開始してしまうわけで、そうなったら誰が艦隊の指揮を執るんだ?
司令官のことだから、何の考えもなしにやっているわけじゃないのは分かるけど……。
提督「悩み事か?」
皐月「司令官は、一体何を考えているの?」
提督「説明したろうに。全ては策の通りだ」
皐月「でも……この時期に鎮守府を離れるなんて正気の沙汰じゃないよ。何も今こんなことしなくても……艦隊の指揮を取れるのは司令官だけなんだよ!?」
提督「……分かった。では、このゲームに勝ったら教えてやろう……さて、俺の捨てるカードは五枚。さ、カードをよこせ。ドローだ」
皐月「全部!? 全部取り替えるってこと!?」
提督「そうだが」 皐月から五枚のカードを受け取る提督
皐月「(どういうことだ……?)ボクは、ドローはしない」
提督「そうか。じゃあビッド五枚。さらに上乗せだ!」
皐月(互いのコインの枚数は30枚。……ここで負けたら15枚のコインを失うんだぞ!? なのに司令官はなぜカードをめくろうともしない!? もういい、レイズ5枚だ! 勝ちに行くぞ)
皐月「レ……(いや、イカサマか……? この自信、何かあるはずだ……)」
皐月(表情や仕草からは何も伝わって来ない……。仮面の裏で一体何を考えてるんだ……? だが……ここでは退けない……! この手札で負けるハズが無いんだッ! そうだ、ボクが配ったカードだぞ? 何か仕組めるはずがない!)
皐月「レイズ五枚。ボクはハッタリには乗らない!」
提督「よかろう。では、互いの手の内を明かそうか」
皐月 ♥A ♣A ♦A ♠A ♥J / 提督 ♣4 ♣5 ♣6 ♣7 ♣8
提督「Aのフォーカードと♣の4から始まるストレート・フラッシュ……。ストレート・フラッシュ!? そ、そうか……俺の勝ちか」
提督「さ、さて、こちらのコインが50枚。お前のコインは10枚。だが、お互いのコインが無くなるまでゲームは終わらない……次のラウンドに移行しようか」
・・・・
その後も3ラウンド続いたが、結果は散々なもので、ボクは一度も勝つことが出来なかった。
司令官が何かイカサマをしているのかとも疑ったのだけど、全く分からないままジリ貧で負かされてしまった。
提督「……いやな、わざと負けるつもりだったのだ。お前の度胸を試そうと、イカサマをしていると疑わせるようなことをして煽ってみたのだが……運だけで勝ってしまったのだ」
提督「断じてイカサマではない。お前の勝負強さを確認したかったのだ。ストレート・フラッシュは計算外だったのだ」
提督「……なぁ、頼むからその卑怯者を見るような目はやめてくれ、心外だ」
ボクが喋らなくなると、司令官は珍しく少し困っている。ちょっと面白い。
でもやっぱり負けたのは腑に落ちない。
提督「分かった、これからの策の全貌を明らかにしてやろう。本来は勝ったら話してやる約束だったが……話してやると言うのだ。これで良いだろう?」
負けたけど、なんか勝った気になれたので、許してあげることにした。
本日はここまでです。
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獲得経験値(~35/100)
・皐月の経験値+2(現在値6)
・響の経験値+1(現在値7)
・金剛の経験値+1(現在値5)
・雪風の経験値+1(現在値6)
・翔鶴の現在経験値:9
・足柄の現在経験値:16
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皐月視点になったのに特に深い意味はないです。
一応、なんだかんだ今回は一レス完結を意識して書いてるのでこういうこともあるってことで。
ただ今回の投下分はそれぞれの話にまとまり無さ過ぎてちょいとカオス気味ですね。
わざと聞いたことがあるような無いような妙な固有名詞を出してみたりするのはいわゆる演出みたいなものなので、あまり重大な意味は持ってません。
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『Phase B』【36-40/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~17:雪風
18~33:翔鶴
34~51:金剛
52~68:響
69~80:足柄
81~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい。
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乙です
ぬぽっ
>>448->>452より
・金剛3レス/響1レス/翔鶴1レス
で『Phase B』が進行していきます。
////チラシ////
4月の末にイベントがあるようで。私が艦これ始めたのもちょうど去年の今頃なんですよね。
当時の春イベはまだ2-4突破したてぐらいの状態で、E-2までしか攻略出来なかったんですよ。
天津風が欲しかったのになぁ……とちょっと悔しい思いをしたのも今となっては良い思い出。
(しかし、E2を突破し烈風改を得ていたことが後に大きなアドバンテージなるのであった)
今回はアニメからの新規参入者を意識した感じの難易度なんでしょうかね?
ま、どんな強敵が相手でもやってやんぜ……! という気概だけは持っておこうと思います。気概だけは~。
次回の投下は~今週水曜日または木曜日~つまり明日or明後日を予定しております~。
ひょっとしたら予告よりも遅れちゃうかもしれませんが、一応告知ですです。
////独り言////
アアアアアアアアアァァァァァァ~~~こんなもん書いて良いのか~!? 許されるのか~~~~~~!?!?!? と絶賛葛藤中です。誰も絶賛してませんが。
葛藤に負けてまともな路線にシフトしたら一週間ぐらい投下が遅れるかもしれません。
(私の理性や常識的人間性が狂気に勝利を収めることが出来たら投下が遅れます、とも言い換えることが出来るかもしれません)
あ、関係ないけど最近新編二航戦の任務クリアしました。羅針盤大暴れで結局バケツが40個ぐらい飛びました。
これで難関任務もようやく全部片付いた……と言いたいところですが最近追加された『新編「三川艦隊」ソロモン方面へ!』は激ヤバ度高いですね。
うーん、まずはレベリングからかなぁ(汗
先に予告。ごめんなさい投下遅れます。いや大体もう書けてる感じなんですけど。
オンメンテが……追加ボイスが……! フゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!(もはや言葉は不要)
これはもうSSどころじゃないっす。少しだけ私に艦これを満喫する時間をください。
遅くとも明日の夜までにはなんとかするので、ご理解ください。
腕を組みながら海上を進む響。
響「君な……今更緊張していてもしょうがないだろう」
雪風「大きな戦いの前はどうしても……心臓がバクバクします!」
響「昨日はグッスリ寝ていたじゃないか」
雪風「昨日は昨日、今日は今日です。……」 双眼鏡で遠方を眺めている雪風
響(私たち第二艦隊は先行して鹿屋小隊と合流。のち第一艦隊とも合流し、呉鎮守府周辺を警戒……果たして敵は司令官の読み通りに出てくるのだろうか)
大淀「呉鎮守府正面海域に敵艦隊が接近!」
艦隊に緊張が奔る。
響「ふむ、来たか……。敵の規模が分からない以上私たちだけで進むのは危険だな。後援の味方を待とう。利根・筑摩・大淀は周囲の索敵に専念してくれ。木曾・雪風、念のため戦闘準備を」
・・・・
響(無事鹿屋の小隊と合流出来たな。ひとまず安心か)
伊勢「鹿屋基地第一艦隊、参上致しました!」
響「ご苦労。ん? ……お前は、あの時の!」
加古「あっあ! あぁ、いやぁ、お久しぶりですー! どうもー!」
加古(例の件に関わってたのはあたしだけだ。ここの艦隊の連中は何も関係ない。何でもあんたの言う通りにするから、ここは黙っていてくれないか。頼む) 小声で響に耳打ちする
響「(こいつが信用出来るかどうかともかくは置いておいて、今はそれどころではないな……)分かった、下がれ。現状の説明をしよう」
響「……呉鎮守府に敵の艦隊が接近しつつある。本土への強襲を目論んでいるらしい。私たちで連携して敵部隊を討つ、いいね」
日向「こちらの暗号が深海棲艦に漏れていたというのは本当だったのか……。私たちまでMI方面へ向かっていたらここがどうなっていたのかを考えると、ゾッとするな」
日向(にしても、想定外の奇襲だというのに動きがスムーズすぎる……まるで本土決戦が敵の狙いだと予め分かっていたような落ち着きようだ。向こうの提督はこれを見越していたのか……?)
・・・・
響「随分早い到着だな。予定ではもっとかかるはずだったと思うが……」
鹿屋小隊の到着から間もなくやって来た第一艦隊。
赤城「えぇ。提督から、今回の作戦は私の裁量に委ねるとのことなので。少し急いでこちらに向かいました」
響「……状況を説明しよう。提督の予想通り、ガラ空きの呉鎮守府に敵奇襲部隊が迫っているようだ。大淀、敵の規模は?」
大淀「戦艦タ級flagship1隻、軽巡ヘ級flagship1隻、軽母ヌ級flagship2隻、駆逐ロ級後期型2隻で編成された艦隊が接近しています。背後からは潜水艦の気配もあります……。現状確認出来るのはここまでですね」
赤城「敵の規模から考えて、これが本隊ではないでしょう。主力部隊と合流されると厄介です! 早急に叩きましょう」
加賀「こちらが制空権を確保している以上、戦力差からいって相手に勝機はないでしょう。ですが、油断は禁物」
飛龍「ふふっ、慢心はダメゼッタイ、ですよね? 心得ていますよ」
響「私たちも行くよ。利根、筑摩、水上爆撃機を。木曾も雷撃の用意だ」
利根「我輩のカタパルトの出番じゃな! 任せておけ、不備は無い!」
木曾「自信満々に言われるとかえって心配だな……。ま、いいか。こっちも行くぜ!
赤城(全幅の信頼を寄せてくれている提督の為にも……)
響(完璧な勝利を期待している司令官の為にも……)
赤城&響(こんな所で立ち止まっている暇はないッ!)
・・・・
龍田「呉の方に動きがあったみたいね」 モニターを食い入るように見つめる天龍に話しかける
天龍「あァ~……! 提督からの通信はまだ来ないのかよォ~! なんだってオレが司令官代理なんてやらなきゃならねえんだ~」 頭を抱えている
天龍「オレのせいで誰か沈んだらヤじゃんかよォ~……こんなん向いてないっつうの」
暁「第三艦隊も第一次MI攻略大隊と合流出来たみたい。第一大隊が敵の本隊とぶつかる前にうちの機動部隊が合流出来るかが勝負ね」
天龍「昼に被害が出ることは無いだろうが……夜戦となったら話は別だ。こっちもただじゃ済まないかもしれない。日が経てば経つほど不利になるだろうな」
天龍(三日……。三日でどうにか出来なければ、この作戦は失敗だ……)
龍田「弱音を吐いていても仕方ないわ天龍ちゃん。責任を感じているのは分かるけど……あまり悲観的にならないで。今のところ全て順調よ?」
天龍「わあってるけどよぉ……やっぱ向いてねーって!」
霧島「佐世保第二次MI攻略大隊先鋒隊、霧島艦隊です!」
長門「おお、来たか! 私は第一大隊旗艦の長門だ」
扶桑「……? 第二大隊は空母機動部隊が主と聞いていましたけど……思いの外少ないですね」
霧島「ええ。私たちはあくまで先鋒隊です。攻勢に出るのは、後続の主力が来てからになるでしょう」
大和「空母の数が少なくとも、道中の雑兵相手に負ける私たちではありません。邁進します!」
武蔵「ふふ、そうだとも! 私に続け! 大手柄を立てやろうじゃないか!」
瑞鶴「随分と意気盛んだねぇ、翔鶴ねえ?」
翔鶴「ええ。大和型に装甲空母の投入……まさに総力戦というに相応しいでしょう。士気が高くなるのも当然のこと」
霞(問題は……深く攻め入り過ぎて敵の主力空母に反撃を食らう恐れがあること……。味方の増援が間に合えば万事解決なんだけど)
霧島「私たちは戦力を温存しつつ前線部隊の支援に回りましょう。翔鶴さん・瑞鶴さん。お二人は攻撃機とは別に、偵察機を放ち、敵増援の警戒もお願いします」
霧島(司令が何故私を第三艦隊に、榛名を第一艦隊に配置したかは分からない。私は榛名よりも戦える。そして司令もそう評価している……)
霧島(ならばなぜ私を第一艦隊にしなかったのでしょう。そして、なぜ第三艦隊の旗艦に? 周囲をまとめるなら、榛名の方が上手くやれそうな気がしますが……)
霧島(鶏口となるも牛後となるなかれ……か。司令が私をどうしたいのかは分かりませんが、旗艦としての最善を果たしてみせましょう!)
・・・・
武蔵「フッ、余裕だな」
轟音とともに主砲を打ち放し、敵駆逐艦を跡形もなく消し飛ばしていく武蔵。
清霜「すごい! さすが戦艦ね!! 私も早くなりたいなぁ……」
秋月「対空射撃! 撃ちます!!」
敵艦隊の後方から迫り来る敵艦載機を次々と撃ち落としていく、秋月を始めとする呉連合艦隊所属の駆逐艦たち。
大鳳「この際、徹底的に撃滅しましょう!」
大鳳の放つ高性能な艦載機が、敵戦艦を大破にまで追い込む。
瑞鶴「翔鶴ねぇ……私たち、要らないんじゃないかな」
翔鶴「そうね……。でも、そうも言ってはいられないわ。後衛としての任を果たしましょう!」
瑞鶴「もっちろん! 折角の勝ち戦なら、楽しませてもらわなきゃねッ!」
・・・・
清霜「昼の快進撃で、敵艦隊は鳴りを潜めてるみたいね。今夜は無事に過ごせそう?」
長門「……これ以上の深追いは無用だろう。敵本陣への道半ばで負傷するわけにはいかんからな」
川内「えー……夜戦はおあずけかぁ……」
長門「ところで、霧島よ。第二主力大隊……佐世保からの増援はなぜ来ない? 遅くとも今日の暮れには合流出来る手筈だったろうに」
霧島「さ、さぁ……どうしたんでしょうか……(呉鎮守府の奇襲に備えて待機している、なんて言ったら混乱は避けられないでしょう。合図が出るまでは誤魔化し続けるしかないわね)」
扶桑「まさか、何か不幸なことがあったんじゃないかしら……敵別働隊に妨害を受けているとか……ひょっとしたら、鎮守府が敵に強襲されているとか……!」
武蔵「フッ。大規模改装されて欠陥戦艦とは言わせないと息巻いていたのになぁ。もう臆病風に吹かれたか? 何を臆することがある! 前ッ進ッあるのみだ」
大和「今の私たちの戦力なら、制空権を捨ててでも前に進むのも選択肢の一つだと思います。それに、早期に決着を着けなければ、こちらが不利になるでしょう。それは提督も仰っていたことです」
霞(……敵にこちらの策がバレていなければ、そうかもしれないんだけど)
長門「大和型という切り札中の切り札を切って臨むほどの決戦だからな……。維持出来ている補給物資から考えると、持ってせいぜいあと二日だろうが……。どう思う吹雪?」
吹雪「ええ、私もそれは同意見です。……ですが、やはり味方の増援が来ないのは不安です。扶桑さんの言う通り、敵別働隊に妨害を受けている可能性があります。そうだったとして、ここから状況を確認する術はありませんが……」
霧島「今攻めるのは尚早です。私は第二大隊を待つべきだと主張します。制空権を失った状態では、不必要な痛手を追う恐れがあります。佐世保第一・第二連合艦隊の到着までは堅実に、周辺海域の敵艦を掃討していった方が……」
・・・・
霧島「なんとか、進撃を引き止めることが出来ました……。戦艦や重巡から来る侮蔑の視線が痛かったです……胃が……」
霧島「私、戦況を分析したりするのは得意ですけど……こういう交渉を通すのは苦手ですね……」
翔鶴「いいえ、よくやっていますよ。きっと提督も褒めてくれるはずです」
翔鶴(……霧島さんは、自分の使命を全う出来ている。私たち佐世保第三艦隊以外は皆、敗北の可能性を考慮していない状況の中で警鐘を鳴らして、その主張を押し通した)
翔鶴「いいえ、よくやっていますよ。きっと提督も褒めてくれるはずです(私も頑張らなくっちゃ。自分なりにやれることを探しましょう)」
提督?「提督・金剛の」
金剛?「ドキドキ♡これまでのあらすじ♡」
提督?「我々の乗っていた船『プロビデンス』は、『ドラゴントライアングル』を経由してワープしたのであった!
説明しよう! ドラゴントライアングルとは、房総半島の野島崎・小笠原諸島・グアム島の三点を結んだ地点のことだ。
渦潮の頻発するこれらの三地点の中でも、その中央は特に大きな渦潮が発生しやすいのだった」
金剛?「ここで補足デェース! 深海棲艦が海上に出没するようになってから地球の環境は一変しまシタ。
渦潮とは本来、流れの早い海流と緩やかな流れの海流との境界付近で発生する現象デス。かつては鳴門海峡のような狭い海峡内で限定的に見られるものデシタ。
But、深海棲艦が現れて数十年経った現在ではァー、海流の接触がない広く穏やかな海域でさえも大規模な渦潮が多発するような状態に変貌してしまったのデェース!」
提督?「ドラゴントライアングルに発生する渦潮の潮力をワープの動力として利用し、我々は南極へ辿り着いたのであった!」
金剛?「降り立ったのは一面銀世界! テートク曰く、南極の永久凍土の下にメガラニカはあるんダッ! ……ってことだったんデスガ」
提督?「エセ外人があろうことかこの俺に雪球をぶつけて来たことによって、事態は思わぬ展望を迎える!」
金剛?「仁義無き雪合戦の結果、ワタクシプリティー金剛は、アングリー鉄面皮の陰湿な策謀によって落とし穴に叩き落とされてしまうのデース」
提督?「いえいえ陰謀なんかじゃございません。前方180度が攻撃範囲の妖怪紅茶飲みと真正面から当たっては反撃を受けてしまう。
そこでデースガールと他の艦娘との対立を煽り、注意が逸れたタイミングで足払いをお見舞い!
尻餅をつきながらツルツルと氷の上を滑っていくマヌケ。やりました。
これだけでも面白い光景だが、そこですかさず追撃! しかけていた小型地雷を起動し、落とし穴を生成!」
金剛「外道! 卑劣! 男のやることじゃないデース!」
提督?「おっとぉ、誤解をされないように言っておくと、この落とし穴はアホを叩き落すためだけにぶち開けたんじゃあないぜ。
落とし穴の先は氷洞になっていて、先へ進めばメガラニカへ辿り着ける、というものだったのダー」
金剛?「氷洞を進んでいたワタシ達。二又の道に差し掛かったタイミングで突然のAvalanche! 雪崩がワタシ達を吞み込んだのデース!」
提督?「さてここで訂正が入った。突然などと事故のような口振りをしているが!
その真実は紅茶ばかが雪合戦の時に俺に撃とうとした鉄甲弾が数キロ先の氷塊にぶつかって、それが原因で迫ってきた雪崩である可能性が高」
金剛?「違いマース! そんな可能性はありまセーン! 事故デース! ネクストフロンティアへの冒険に犠牲はつきものデース!」
提督?「まぁ、そんなわけで……俺と金剛の二人は他の連中とはぐれてしまい、行き着いた場所は洞窟の行き詰まりという有様だ」
金剛?「道を引き返そうにも洞窟全体を覆う雪の壁。おまけに顔以外は全身雪に覆われていて身動きさえ取れないという始末……。Oh,Gosh!」
金剛?「ベタすぎる展開デスガ、友達未満恋人論外な二人はどうやってこの状況を切り抜けるのでショウカ!?」
・・・・
提督「うう、寒さで頭がやられてきた……幻覚が見える……。妖精が頭の上で何やらぴいちくぱあちくと揉め合っている……」
金剛(いい気味だと思ってしばらく放置してましたケド……さすがにヤバそうなことを口走り始めましたネ……)
提督「なぁ金剛……艤装の排熱で雪は溶かせないのか?」
金剛「とっくにやってマース! ワタシの周囲半径1mほど溶かすことができましたガ……まだまだそっちの雪を溶かすには時間がかかりそうデース。こんな狭い所で砲撃したら洞窟ごと潰れかねないし……」
提督「そうか……俺がここで死んでしまったら、お前たちは帰る術を失ってここに取り残されてしまうというのにな。残念だ。実に残念なことだ……しかし、この氷が溶けないのならば、それも運命か……」
金剛「分かりまシタ。仕方ないですネ~♪」 水筒を取り出し、マイカップに紅茶を注ぐ金剛。そこにミルクと砂糖を加えて即席ミルクティーの完成である
提督「おい、暗になんとかしろと言っているのだ。艤装が自動で温度調節してくれるお前らと違って、人間は存外すぐに死ぬものなのだ」
金剛「ガミガミ言わないで下サーイ……今パワーを溜めてマース……」 ズゾゾゾ……
紅茶を飲み終えると、金剛は拳に力を込め、高らかに叫びだす。
金剛「ワタシのこの手が光って唸る! 氷を溶かせと輝き叫ぶ!」
提督「待て、猛烈に嫌な予感がするのだが」
金剛「必殺! シャイニングゥ・ラァァァヴッ・フィンガァァァー!」
ドゴオオオオオオオォォォォォォォン……。
周囲を覆っていた氷は、一瞬にして白煙に変わった。
提督(死を覚悟した)
金剛「ザッとこんなもんデース」
提督「ご苦労、助かった。さて、脱出を図るか……ん?」
氷の壁が溶けたことによって、洞窟の行き止まりとなっていた場所に道が出来ていることに気づく二人。
金剛「どうにもこっちに進むのが正解? ですかね」
提督「怪我の功名……かどうかは分からんが、ひたすら雪を溶かしながら来た道を戻るよりはマシだろう。行くぞ」
提督「ここが氷洞の出口か」
目の前には海原が、頭上には満点の星空が広がっている。
金剛「オーゥ。Beautifulなbeachデスネー」
提督「今は昼のはずだろう。なんなんだここは……」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。天空を覆っていた夜空が、地の果てまで覆っていた海が、空間ごとねじ曲げられていく。
提督「空が……まるでノートのページを捲ったかのように変形していく……!」
突如現れた空でもなく海でもない空間に、巨大な門が垣間見える。
提督「これが“タルタロスの門”なのか……? 俺たちは目的地に辿り着いたようだ。俺たちが辿って来た氷洞が“門”のあるメガラニカの中央部に繋がっていたらしい」
提督「“門”のある座標に辿り着くまでは肉体が必要だ。だが、“門”そのものはこの世には無くイデア界……平たく言うと精神世界上に存在するのだ。
ここは俺とお前が無意識的に創り出した、仮想の世界。その仮想世界に干渉して現れたのがあの“門”。俺たちが探していたものだ」
突然海上から無数もの水柱が立ち上る。激しい地響きが起こる。
提督「おいでなすった……! 門番だッ!」
海の中から現れたのは、鋼鉄のように鈍く光る鱗、鬼灯のように赤い眼、八つの頭に八つの尾……そして、身の毛もよだつほどの殺気。
提督「トネリコの大樹を貪る害獣であり、異界から湧き出る化物どもにとっての神であり、俺達が脳内で生み出した恐怖の具現化だ」
金剛「まるでヒュドラデース! って、こんなんワタシ一人で倒せるんデスカ!?」
提督「心配するな。ここは現実じゃない。恐怖に打ち勝つという意志を具現化すれば……!」 提督の周囲の空間から眩い光を放つ剣が生成されていく
提督「このようにイッ!!」
大きく跳躍し龍の頭部に斬りかかる提督。
金剛「オッケー! 要するに、何でもアリって事デスネ!」
金剛「燃料弾薬気にせず撃ちまくれるんだったら、これほどEasyなGameはありまセーン! 全砲門斉射ッ! 徹底的に撃ちますッ!」 ダンダンダンダンッ!
龍めがけて容赦なく砲を打ち出していく金剛。弾幕が敵を覆う。
・・・・
金剛「一体いつになったら沈むんですカ……コイツ! 首を切り落としても、胴体に風穴開けても、すぐに再生しマスッ!」 バァン!バァン!
提督「ハァ……ハァ……。分からん、ダメージは入っているはずなんだ。それが、65535分の1程度の威力だとしても……」
龍の頭が提督めがけて突進してくる。避けようと身を逸らすもかわしきれず吹き飛ばされる。数メートル先の岩にめり込む。
提督「グッ…………!」 仮面にヒビが入る
提督(いくら精神世界で死ぬことがないとはいえ、普通に痛みはあるんだな……。しかし、そんなことはどうでもいい)
提督(金剛の言う通り、どれだけ攻撃してもすぐに元通りになってしまう。ゲームのように弱点があるわけでもない……どこを攻撃しても、一度に全体を攻撃しても同じだ)
・・・・
それから俺たちは、何日も、何十日も、戦っていたような気がする。
ずっと、ただひたすらに目の前の化物を倒すことだけを考えていた。
金剛「提督……本当は、倒すことなんて出来ないんじゃないですか?」
ついに俺に対して疑念の目を向けてきた金剛。
ああ、倒せないのかもしれない……。口に出かかったが、声に出すわけにはいかなかった。
俺は、こんなところで終わるわけにはいかないからだ……。
・・・・
提督「金剛。もう、休んでいていいぞ。ここで隠れていろ……俺一人で奴を倒す」
何かを悟ってしまったような声色でそう言うと、私に背を向けた提督。
バラバラに砕けた仮面の裂け目から彼の虚ろな眼が見える。
休んでいたい、という気持ちはあった。けれど、私は立ち上がって彼について行った。
私は、一人で居るのが嫌だったから……。
・・・・
延々と戦い続けているうちに会話する余裕が出てきたのか、金剛に話しかける提督。
提督「なあ金剛。お前、俺が来る前はずっと第一艦隊の旗艦だったろう。どうして一番であり続けることに拘泥していたんだ? 並大抵のことでは無かったと思うのだが。
地位を望むにしても、常時艦隊の中で一番上であり続ける必要性は無いだろう。それに、訓練も演習も嫌いなはずのお前が、なぜこの鎮守府の中で最も高い練度を保ち続けているのかに興味がある」
提督「お前、どう考えてもストイックに努力出来るタイプじゃないだろう」
ぴょんぴょんと宙を跳ねながら攻撃をかわしつつ、提督は金剛に質問を投げかける。
金剛「ワタシは誰もが認めるような、ナンバーワンであり続けたいデス」
金剛「人は……自分にとって価値がないと思った相手に対して、とてもとても冷たいデス……。昔、嫌というほど思い知りまシタ。艦娘も含めて人という生き物は薄情デス。
それでも……やっぱりワタシは、本気で人の事を嫌いにはなれないんだと思いマス。それ私の性格なのか、ワタシが艦娘だからなのかは分かりまセンが……」
金剛「人に嫌われるのは辛いデス。ワタシは……愛されていたいデス。認められていたいデス。それが、ワタシが一番であり続けた理由デス!」
金剛「提督こそ、どうして深海棲艦を滅ぼすためにそこまでやれるんですかネ。使命感や義務感、忠義が欠片も感じられないんですガ……。
宇宙に行きたい? とか言ってましたっけ。どうしてそんな夢物語みたいな目的の為に、こんな化物と戦っているのか理解に苦しみマスネ……」
次から次へと迫り来る龍の頭に、砲の嵐で順序良く吹き飛ばしていく金剛。
提督「俺はな、この世界に自分の居場所は無いと考えている。まるで良い思い出が無いしな」
提督「俺は知略に関しては誰にも負けない自信があるが、頭さえ良けりゃあどうにでもなるわけじゃないんだ。人間とはありとあらゆる限界が付き纏うもの……。
それでも俺は、俺のエゴを通したい。『人は一人では生きていけない』……そんなことは分かっている。承知の上だ。それでも俺は、誰にも邪魔されることのない、俺だけの理想郷を追い求めていたい」
金剛「?? テートクは、どうして人を拒むんですカ?」
提督「拒んではいない……分かり合えないだけだ。俺の世界は俺一人だけで完結する、他に何も必要はない」
金剛(そのわりには、結構人に甘い気が……)
金剛「そうデスネ……確かに、少なくとも今の私と今の提督とでは分かり合えない気がしマス。でも……きっとワタシは、人と人とは分かり合えると思いマス」
提督「なぜそう思う」
金剛「私がずっとそう信じて生きてきたからデース! ……人と人とが分かり合えないなんて、信じたくありまセン」
提督「と、綺麗事を言うわりに、お前は誰にも受け入れられてない気がするがな。日頃の行いが悪いせいじゃないか?」
金剛「」
提督「俺はお前のように一人で生きていく強さのない人間を軽蔑している。人に依存しきったその甘えた姿勢が気に食わない」
金剛「」 プルプル
提督「……それを踏まえた上で言うが。承認欲求だけで艦隊の誰よりも高みに登り詰めたという事実を俺は高く評価している。その意志の力たるや尋常なものではない。
こうして隣で戦っていて、お前が戦闘の天才であることがよく分かった。旧第一艦隊での連携が噛み合わなかったのは、お前が突出していて他の連中が追随出来なかったのだな、というのも今理解した」
提督「お前がここまで強くなれたの理由が、ただ単に誰かから愛されていたいなんて甘ったれた感情だけだったとは俺には思えない。仮にそうだったとしても、その渇望をこれほどまでに昇華させること出来たというのであればもはや見事としか言いようがない。
お前がこれまで試練に打ち勝ってきた経験に裏打ちされた強さ、立場を失った今でもなお精神的に一番であり続けようとしている気高さ……。それは認めたい」
金剛「貶してるのか褒めてるのかハッキリして下サイ……」
提督「褒めているわけでも貶しているわけでもない。ただ思っていることを言ったまで。ま、お前に対しての認識が変わった……それだけのことだ」
・・・・
金剛「なんか、喋ってたらあっという間に片付いたネー。ヤマタノナニガシも大したことないネー!」
提督「あぁ……存外拍子抜けだな。だが、何にせよ……これで一段落だ」 フゥと息をつく提督
金剛「こうして話しながら戦う前って、なんかもっと絶望的に強かった感じがしてたんですけどネー……。テートクとワタシの心の距離が縮まったお陰ですかネ」
門が閉じられていく。破れた世界は修復され、荒れていた海は鎮まり、雲に覆われていた星空は元の輝きを取り戻し始めた。
・・・・
精神世界から現実世界に戻った二人は、船に戻って他のメンバーの帰りを待つ。
提督「さっき無線が入った。あっちもうまくやってくれたようだ。……皆が戻ったら、急いで帰るぞ。全ての門が閉ざされた今、ここに用はない」
金剛「ですネ……」
沈んでいく夕日を物悲しそうに眺める金剛。
提督「どうした? 何か気になることでも?」
金剛「いえ。何十日もテートクと一緒に居た気がするのに、ほんの数時間の経っていなかったというのが不思議デ……」
提督「そうだな。俺もそう思う。奇妙なものだな……。現実ではたった一日しか経っていないというに。まるでおとぎ話のようだ」
金剛「……テートク、なんか優しくなりまシタ?」
提督「いや、そういうつもりは無いのだが……お前を嫌いにならない努力をしてみようかと思い立っただけだ。人から嫌われるのは嫌なのだろう?」
金剛「テートクゥ!」 ガシッ
提督の両腕を強く握り締め、号泣し始める金剛。
提督「おいおい、ブッサイクな顔で泣くんじゃあないぜ……。このハンカチをくれてやる。まず鼻をかめっての」
金剛「ビエェェェェ……でーどぐぅ……」
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獲得経験値(~40/100)
・金剛の経験値+6(現在値6)
・響の経験値+2(現在値7)
・翔鶴の経験値+2(現在値5)
・雪風の現在経験値:6
・足柄の現在経験値:16
・皐月の現在経験値:6
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2周年記念ボイス、『大切な日』とか『特別な日』とか結婚記念日みたいなノリで言ってくれるのがヤバいですね。
ここのスレに居る人なら皐月のは既に聴いてるとは思いますが、まだの人は是非……!
武勲艦じゃなくてもガンガン改二にしていく流れになってきてますねー。
どっちかっていうとこれからはサービス開始時から居た艦娘を改二にしていく流れなんでしょうかね。
何にせよ如月来たのは嬉しい誤算です。あとにゃしいちゃんも可愛くていいですね。
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『Phase A』【41-45/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい
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////チラ裏////
今回は冒険しました。いや、内容も冒険してますけど。
まあそのなんていうか。まず第一に金剛とバトらせたいなってのがあって。
あとはそっから練っていったっていうか。
ファンタジーやメルヘンは好きなのですが、さすがに十レスも二十レスも使うわけにはいかないので超省略。
っていうか艦これの二次創作だしなこれ! 3レスも割いてる時点で相当狂ってるよ!
ああいうの出すと何でもアリになっちゃうからね。あくまでこれはネタです。
ある種のネタとしてこういう展開にしてみただけで、本流はこっちじゃないです。違います。艦これです。
40レスだしちょっと遊んでもいいかなと思ったけど色々ぶっ込んでみたけどこれはやりすぎたのじゃ……。
皐月
足柄
おっと、ミスってた……。こっちが正しいです。
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獲得経験値(~40/100)
・金剛の経験値+6(現在値11)
・響の経験値+2(現在値9)
・翔鶴の経験値+2(現在値11)
・雪風の現在経験値:6
・足柄の現在経験値:16
・皐月の現在経験値:6
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>>462->>466より
・皐月1レス/翔鶴1レス/足柄2レス/響1レス
で『Phase A』が進行していきます。
投下は来週の金曜に出来たらと思ってますが現段階では何も書けてないんで努力目標です。
案の定伸び伸びになってしまってますね。そして未だに投下の目処が立っていないという……。
GW前から色々とバタついてましてね……いちおー8日頃には投下予定です。
////チラ///
イベント終わりましたー。
大型艦建造卒業効果による貯蓄も相まって前イベントよりはかなり楽に進みましたね。E6最終形態はやっぱりエグいと思いますけれども……(それでも冬よりはマシ)。
とりあえず全部甲でクリアし、Romaも高波も磯風もゲットして本懐は果たした感じです。
しかし、だ。しかし……能代、お前は今どこにいる。
能代が来ればコンプリートなんですが、掘り続けても全然出てくれないですね。弾薬がなくなっちまいました。
それでも大型艦建造を回すよりはコスパが高いのでイベントが終わるまでは羅針盤を回し続ける所存ですけどね。
うへぇ、ごめんなさい。もちっと待ってください。
全然書けてないけど書こうという気概とアイデアとパッションだけはあったんだ。ただ時間が無かっただけなんや……(言い訳)。
土日のどっちかで続きをお見せ出来るように頑張りますっ!頑張って書きますっ!
////本編に関係あるようで関係ないわりとどうでもいい話////
せっかく延び延びになってしまったのでちょっとした小話でも。
船の名前を『プロビデンス』にしてしまったけど、提督が作った系のものは全部北欧神話から引っ張ってくるつもりでした。
つもりだったんだけど途中から忘れててそのまま投下してしまいました。読んでる人からしたら至極どうでもいい話ですが作者的には後悔ポイント。
(神話系の単語は中二感が強いのでわざとそのまま引っ張ってきてますが、)『Tor』とかあの辺の実在する固有名詞やらは微妙に綴りとか変えてぼかしてたりしてるのは敢えてです。胡散臭さ重点です。
なんかそれっぽい説得力を持たせつつも基本的には合ってるかどうか保証しないよという逃げだったりしたりしなかったり……(オイ
それは冗談として、意図的に胡散臭くして「現実的に考えればここってこうだよね」と読者にツッコミさせる気を奪って「この世界ならまぁこういうもんなのかな」と無理矢理納得させてしまおうという意図が……それはそれで酷いな。
あっでも『フリーメイソンリー』はモロじゃんか。徹底しきれてないじゃん! なんですぐ忘れるかなぁ! と自戒。
ほらアレだ……オペレーション・ベルダンディみたいなもんです(謎)
あくまで本筋には関係ないほぼ趣味全開な部分ですしね……こんなん枝葉のこだわりに過ぎないわけでしてー。
それよかもっともっと中身を練っていきたいですね。やたら提督がシャシャリ出てきてアレなのですが、艦娘を魅力的に描いてこそ! ですよ。そこが一番大事。
あんまその辺の自論とか書き出すとまた長くなるのでここでは書かねっすけど……。
偉そうなこと言ってても皆さんにお見せ出来るお話の内容が全てですからねー。キャプションで語らず中身で魅せていきたいところ!
理想は高く、現実は……まぁ、うん。それなりに頑張ります。
提督「残念ながら、もう一度ワープを使って鎮守府まで戻ることは出来ない。ここに渦潮は無いからだ。ゆえに……」
ウィーン ガシャンガシャン ガコン! ガコン! ガゴゴゴゴゴ……。
提督「乗れ」 ピラミッド状だった船がジェット機のような姿に変形する
提督「道中でお前らが必死こいて充電してくれていたおかげでどうにか鎮守府まで飛べそうだな。プロビデンス改め……『イカロス』とでも名づけておこうか」
金剛「ワ、ワーォ……超展開。これなら最初からこのジェット機でここに向かっていれば早かったんじゃないデスカ?」
提督「片道しか飛べんのだ。ジェットエンジンのブレード……プロペラの羽が回転による疲労でぶっ壊れて途中で墜落してしまうからな。それに、バッテリーも熱を持ちすぎて使い物にならなくなる」 説明しながらコックピットに全員を乗せるよう促す
・・・・
提督「今ちょうど赤道を超えたあたりだな。予定では鎮守府まであと数時間……フタマルマルマルには着くといった見込みか」 操縦室前に呼び出した比叡らに話しかける提督
比叡「はっやいですねー。もうそんなに進んでたなんて! まだ1~2時間ぐらいしか経ってないんじゃないですか?」
提督「ああ、速さと引き換えに安全性を犠牲にしたからな。仮にお前たちが艦娘でなかったら失神している程度の速力は出している」
比叡「サラッと怖いこと言わないで下さいよ! 重大な欠陥じゃないですか!」
提督「……そう。速さと引き換えに安全性を犠牲にしている。その為、走り出したらもう二度と止まれない」 珍しく焦っているような口調
提督「どうにもブレーキがイカれたらしい、30分ほど前から全く制御が効かない。こうして会話している間にも速度が増していっている。
想定を遥かに超える速度で飛行している……マッハ4~5程度だろうか」
足柄「ちょ、ちょっと! 今更そんなことを伝えてどうするのよ! 乗る前に言いなさいよッ」
提督「対処法が浮かんでいない段階で話しても混乱させてしまうだけだからな。……とはいえ、黙っていてすまなかった。
金剛、比叡、足柄。お前たちはここで降りろ。ここからなら自力で鎮守府にも帰れることだろう。
機体後部のシェルターに移動してくれ。シェルターを機体から切り離し、海上へ不時着させる」
比叡「そ、そんな!? そんなことして大丈夫なんですか!?」
提督「100%と断言することは出来ないが、恐らく死なずには済むはずだ。こういう事態が起こった時のために作っておいたものだからな」
金剛「……信じてマスヨ? テートクッ!」 困惑する他の二人を半ば強引にシェルターに押し込む金剛
提督「皐月と文月は操縦室に来てくれ! なに、心中はさせんよッ!」
提督(俺がこの席を離れてしまったら、シェルターを無事に着水させることが出来ない。本来なら皐月や文月も行かせるべきだが……それをやってしまうと俺が生還出来るビジョンが見えないからな)
操縦桿を思い切り手前に倒す提督。機体は天頂の太陽めがけて突き進んでいく。機体の角度が90度に達した瞬間、シェルターは切り離される。
シェルターは垂直落下しながらも四方八方へ次々とパラシュートを繰り出していく。空気の摩擦熱や空力加熱の影響で一部のパラシュートは炎上しているが、シェルターはほぼ無傷の状態で着水。
金剛・比叡・足柄三名の無事を伝える通信がコックピットに届く。
提督「さて、次は我々の番だが……どうしたものか」 機体をぐるりと縦に旋回させ、唾を飲み込む提督
・・・・
機体は空の上を猛烈な速度で突き進んでいく。ぬいぐるみを抱えながらフルフルと震えている文月。
皐月「邪魔っ……文月ィ、だからぬいぐるみなんて持って来るなって言ったんだよ」
文月が抱きかかえているのは、全長約60cmほどのぬいぐるみ。間抜けた表情だがどこか憎めないような、奇抜だが愛嬌のあるぬいぐるみだった。
だが、二人分の席しか用意されていないコクピット内では、余計に空間を圧迫する存在だった(座席に座れない皐月は提督と文月の席の間に挟まるように座っている)。
文月「このダンボオクトパスちゃんが無いと落ち着かないんだってぇ~……これがないと不安で不安で」
提督「なんだそれは? 深海に生息するタコの類のようだが……」
文月「メンダコ科グリムポテウティス属の一種で、ダンボオクトパスって愛称で呼ばれてるんですよ~」
皐月「こ、こんな状況で雑談してる場合じゃないよ……」
提督「こんな状況だからこそ平常心が大事なのだ。窮状であっても心の拠り所があれば人は踏み止まれるハズだ」
皐月「分かったような分からないような……。司令官は真面目なんだか不真面目なんだかよく分かんないねぇ」
切迫していた雰囲気が一時的に緩む。状況はまるで改善されていないにも関わらず、皐月も文月も、そして提督も、徐々にパニックを脱していく。普段の冷静な感覚を取り戻しつつあった。
提督「文月、そのぬいぐるみはお前にとって大事なものなのだな。であるならば、そいつを傷つけないで脱出する方法を考えなければならないな。
着水寸前に機体を内側から破壊して脱出……と考えていたがそれは厳しいな。フゥーム、こいつを停止させるには……」
提督は思考する。
ブレーキは効かない。この状況下で下手にエンジンを切ったらどうなるか分からん。いや、角度さえ間違えなければあるいは……?
しかし、果たして超音速の世界でも通用するのだろうか……。失敗すればさらに酷い状況になるぞ、死に直結しかねない。
……いいや、そうじゃない。このまま進み続けた方がリスクは高い。エンジンやバッテリーがいつぶっ壊れてもおかしくない状況だ。
言うなれば時限爆弾を積みながら飛んでいるようなもの。……やはりこれが最適解ッ!
提督「ええいッ! ナムサンッ!」
操縦桿を握る。機体をやや上向きに傾ける。不時着予定の地点が映し出されたレーダーの映像を目に焼き付ける。エンジンを切る。
『イカロス』はグライダーや紙飛行機の要領で空を滑っていく。あぁ、これで良いはずだ、これで……!
長門「一体どうなっている、霧島……。第二大隊は未だ来ず、ただ徒に戦力を消耗しただけ。幸いにしてまだ深刻な被害の出ている艦は少ないが、それでも数隻は戦線離脱を余儀なくされている」
霧島「で、ですが……昼戦にて道中の敵はほぼ全滅状態にまで追い込みました。これで何の障害もなく第二大隊はこちらへ向かうことが出来るはずです」
長門「そうではあるが……もう遅すぎる。仮に今から合流したとして、敵本隊を殲滅しきれるかどうか怪しいぞ。燃料はともかく、弾薬の残量が半分切った者が出始めているという報告も聞くしな」
武蔵「だから言ったろう? 今朝の時点で敵本陣へ攻め入るべきだったのだ。腰抜けの機動部隊など放って進撃していればな」
吹雪「み、味方のことを悪く言うのはやめましょうよ! それよりも、これからどうすべきかを考えないと」
秋月「明日の朝までに味方と合流出来ないようであれば、呉鎮守府まで撤退するのも選択肢の一つかもしれませんね」
長門(この期に及んで撤退だと? 提督から不退転の意志でこの決戦に臨むようにと命じられている……何としても進撃だ。進撃以外はありえない。
しかし……戦艦や重巡は俄然やる気だが、軽空母や駆逐艦の連中の士気は目に見えて低下している。この意識の乖離はまずいな)
大和「いえ……むしろこちらから攻勢に転じるというのはどうでしょうか。もうじき日が沈みます、夜戦にて敵本陣に雪崩れ込むのはいかがですか?
これなら敵も機動部隊戦力は使えないでしょう。もちろんこちらも無傷とは行かないでしょうが……手数で上回ることが出来ます。やられる前により多くの敵を叩けば問題ないかと」
川内「おっ! 夜戦かァ! いいねェ……水雷魂が騒ぐね! 駆逐艦の皆も、夜戦やりたくない!?」
夕立(Noとは言えないっぽい……)
睦月(にゃあ~……こうなったらもう止められそうにないし……)
長門「よし分かった。これより第一大隊は、敵本陣めがけて」
霧島「お待ち下さい!」 長門の話を遮る霧島
長門「何だ? 夜戦であれば第二大隊を待つ必要はなかろう。明日の昼までに第二大隊の連中がここに来れば良し、来なくとも夜の内に敵空母に予め痛撃を与えておけば艦載機を放つことは出来なくなる」
霧島(むむむ。しかし、ここで食い下がるわけには……。『第二大隊が来るまでは何としても敵本陣へ向かわせるな』というのが司令のご命令。
何かここに足止め出来る理由が一つでもあれば良いのですが……まるで浮かびませんね。そもそもここまで第二大隊の到着が遅れるとは想定外でしたし、どうすれば……)
翔鶴「いいえ、ここは譲れません。佐世保鎮守府総括にして元帥である手取提督のご命令ですゆえ、通すわけには参りません。ここで第二大隊を待ちましょう」
長門らの進もうとした先に仁王立ちする翔鶴。突然の行動に、同じ艦隊であるはずの霧島や瑞鶴でさえ驚いている。
一同「!?」
瑞鶴(あわわ……翔鶴ねえ、突然何やってるの!?)
長門「待て、何を考えている? その理由をだな……」
翔鶴「言えません。が、何が何でも進ませるなと伝えられていますので」
長門「??? フザけているのか? 納得のいく説明もなく引き下がれと言われて、はいそうですかと従えるものか。
佐世保の意図は知らんが、我々呉連合艦隊はお前たちの訳の分からん茶番に付き合うつもりはないぞ」
武蔵「そうそう。そこの長門に第一大隊の全指揮権は委ねられているのだ。お前たちも第一大隊の構成員なら、旗艦様の言うことは従っておいた方がいいぞ」
吹雪「むっ、武蔵さん! そういう棘のある言い方はやめて下さい! 長門さんも睨むのをやめて下さい!
……そ、それより翔鶴さんに霧島さん。なぜそこまで進撃に反対するんですか? 言える範囲で構わないので、お話してはいただけないでしょうか?」
翔鶴「さぁ、分かりません。私はあまり提督から説明を受けていないもので。ただ、このまま先に進んではけないような気がするのです」
長門「分からない? 気がする? どこまで我々をコケにすれば……」
霧島(翔鶴さん、一体なぜこんな反感を買うような行動を……? しかし、彼女が私のフォローをしつつ時間を稼いでくれたおかげで、一つハッタリが浮かびました。
彼女がここまで大立ち回りしてくれるなら、それに乗っかってみるのも一興かもしれません!)
吹雪「どういうことですか? 翔鶴さん、貴方は自分の司令官の意向を理解しないままその命令にだけ従っている……ということ、でしょうか?」 長門に割って入り翔鶴に尋ねる吹雪
翔鶴「そうなりますね。ですが……私たちの提督は多くを語ろうとはしませんが誰よりも深く物事を考えている方です。
それに、第二大隊には私が尊敬してやまない先輩たちが居ます。先輩たちと肩を並べて戦えるのであれば、絶対に負けることはありません。それだけは保証できます」
霧島「えー、コホン。極秘中の極秘なので同じ第三艦隊のメンバーである翔鶴さんにも伏せていましたが……。数時間後に補給物資を積んだ数隻の艦娘と共に給糧艦が到着します。
それが全てです。給糧艦と会う必要が無いと判断されるのであれば、もうこれ以上止めることは致しませんが」
“給糧艦”という単語が霧島の口から放たれた瞬間、艦隊の温度が一変する。
夕立「給糧艦!? やったっぽい!」
山城「姉さま! 給糧艦ですって!! フフフ……給糧艦……!」 ガヤガヤ
長門(クッ……給糧艦と聞いただけで浮き足立ちおって、現金な奴らめ! 本当にこいつらの言うことが信頼出来るかどうかも怪しいというに……。
だが、給糧艦が来れば艦隊の連中の不満も全て消し飛ぶのは間違いない。まだ来ても居ないというのにこの態度の変わり様だしな)
長門「チッ、そういうことはもっと早く言ってもらわなければ困る。良かろう、夜が明けるまで待つとしよう(もしこの状況下で確信のない出鱈目を言ったとしたら大した強心臓だな)」
霧島(翔鶴さんの言っていたように、司令ならばこの事態が起こる可能性さえも予期出来ていたはず。そしてそのための策も用意していることでしょう……!
司令がこの事態を予測していたなら私のハッタリは実現するはずでしょう) 翔鶴に向けて親指を上向きに突き立てる霧島。ニッコリと微笑む翔鶴
瑞鶴「ねぇ翔鶴ねえ。この展開を予想して話に入っていったの?」
翔鶴「え? いや、霧島さんが困ってそうでしたので、自分が思っていたことを言っただけですよ?」 翔鶴の言葉に苦笑いを浮かべる瑞鶴
天龍「クソッ! 第一・第二連合艦隊はいつまで呉で足止め食らってんだ!? もう日没だぜ!? いつになったら合流出来んだァ?」 灰皿に積もっていく煙草の吸い殻
龍田「天龍ちゃん、気持ちは分かるけど駆逐の子たちが居るんだから煙草は止めた方が良いわよ~? 貴方が焦っても何も解決しないわ」
天龍「……この状況下で余裕ぶっこいてられっかよォ。第一大隊はMI道中で足止め、第二台大隊は想定を遥かに上回る敵戦力とぶち当たり苦戦中……。戦艦棲姫が2体ってどういうことだァ!」 ペシッと床を蹴る
龍田「そうね。でも、第二大隊が第一大隊を待たずして敵本拠へと雪崩れ込んでいないだけ幸運と考えるべきよ。血気盛んな他鎮守府所属の面々をなだめている第三艦隊の気苦労を評価すべきだわ」
提督?「龍田の言う通りだ。前線で戦う者を案じてやれ……天龍」
天龍「? お、おせーよ提督! 今まで何やってた!?」
提督?「説明している場合ではないだろう。一先ずよくやってくれた天龍。これより反撃に出るぞ。
天龍、第四艦隊を率いてMIの第一大隊のもとへ向かえ。……この戦況をひっくり返す切り札を用意してある」
天龍「は? はァ? と、とにかくよく分かんねーが……提督が言うなら間違いねえな! 第四水雷戦隊、出撃するぜ!」
・・・・
提督「皐月! 文月! 見ての通りそろそろ滑空の限界だ! 今から3数えたら窓をぶち破り脱出だ、いいな? ……3・2・1! 行くぞォ」 バゴォォォォォオオオオオオオン
最初に窓をぶち破り『イカロス』から飛び降りる文月。続いて錨の鎖で簀巻きにした提督を担ぎながら飛翔する皐月。
文月「ふぇぇ……怖かったぁー」 パラシュートでゆらゆらと落ちていく三人
皐月「ねえ、あれ」 望遠鏡で遠くを見つめる皐月
皐月が指さす先に見えるのは、“何か”と衝突して爆炎を纏う『イカロス』。
戦艦棲姫「ッッッ……ナニ、コレハ……」 62 Critical Hit!
提督「……ほう、驚いたな。もう2日目の夜に差し掛かるというのに未だ決着つかずか。第二大隊が未だに呉の前で戦っているとなると……ウーム最悪の二歩手前といった状況だろうか」
皐月「大丈夫なの? この状況」
提督「赤城や響らもだいぶ手を焼いていたようだな。が、いかに戦艦棲姫といえど随伴艦が一隻も残っていない上に大きく損傷しているあの状態では長くは持つまい。
遅くとも明日の朝までにはMIの第一大隊と合流できるはずだ。第一大隊が進撃していなければの話だが……霧島であれば上手く足止めしてくれるだろう」
皐月「そうじゃなくて! アイツこっちの方メッチャ睨んでるよ!? 大丈夫なの!?」
提督「奴の位置から俺たちの飛んでいるここまでどうやって攻撃を当てる? 対空装備が無い時点で論外だ。ダンボのように空中遊泳しながら鎮守府まで帰るとしよう」 手を広げる提督
文月「どちらかというと魔法の絨毯じゃないかな……」
簀巻きにされた提督の背中の上に垂直に立っている皐月を見て、文月が一言。
・・・・
金剛「テートク達、大丈夫ですかネ……。もう空が暗いデース、月が見え初めまシタ……」
比叡(前は『テートクなんて嫌いデース!』とか言ってたのに、一体何があったんでしょうねー。司令と和解出来たならそれはそれで安心ですが……)
足柄「アンタさっきからそればっかりね。あの提督なら車で轢いても銃で撃っても溶鉱炉に突き落としても死にそうにないじゃない。心配するだけ無駄だと思うけど」
金剛「確かにそうですネー」
比叡(心配してたわりにあっさり納得しちゃった!?)
天龍「ん? お前らは……! 丁度良い。曳航手伝ってくんねーか? 超急いでるんだ!」
足柄「? アンタ第四艦隊の天龍じゃない。こんなトコで何してるわけ?」
天龍「それはこっちの台詞なんだが……。ま、とにかくVIPをお連れしてるんでな。給・糧・艦だ」
天龍とその随伴艦たちの後ろに小船が曳かれている。正面には御簾が垂れていて、平安時代の牛車を彷彿とさせる。
天龍「万々が一にも傷ついてもらっちゃ困るからこの扱いなんだが、どうしても急ぎで連れてかなきゃ行けなくてな。いわゆる緊急事態というやつだ」
金剛「……報酬はもちろん?」
天龍「金は出せないが……なんてったって給糧艦だからな? 分かるだろ? ……キラキラし放題だ」
足柄「乗ったァー!! よし! 手伝うわ! 手伝わない理由はないわッ!」
天龍「MI攻略の策源地までお連れするだけの簡単なお仕事だ。頼んだぜっ!」
金剛「気持ちは分かりますケド……なんか、餓えた狼って呼ばれてる理由が分かった気がしマース」
比叡「でも、確かにお腹減りましたねー。曳航するだけでオイシイ思いが出来るなら乗らない手は無いですからねー。チャチャっとやっちゃいましょうか」
清霜「霞! ホラ、ホラ見てアレ! 給糧艦! 来たよ!」
霞(霧島は本当に司令官から給糧艦がこの場に来ることを知らされていたのかしら……? 戦線の後方とはいえ、これから大決戦が行われようという場に給糧艦引っ張り出してくるなんて。
給糧艦の間宮や伊良湖は私たち普通の艦娘とは違ってとても脆い上に、そう易々と代替の効かない存在。そんなジョーカーを切ってでも足止めしたいってことは……この先に何があるのかしらね)
夕立「ヤッター! これでお腹いっぱい食べれるっぽい!!」
霧島(ほ、本当に来た……。司令にとっても、第二大隊がここまで遅れるのは想定外だったはず。
それでも絶対に第一大隊単独で進撃することは避けたかった……だから給糧艦という切り札を使って強引に艦娘たちをこの場に留めた。当てずっぽうに近い賭けでしたが……上手く行きましたね)
長門「なぁ霧島よ。お前の話では給糧艦とともに第二大隊もこちらに来るという話ではなかったか?」
霧島「あっ! 金剛お姉様! 第二大隊ももうじき到着しますよね!? そうですよね!」
金剛「? ああ。もうすぐ来ますヨー! No problemネー!(天龍から粗方の話は聞きましたけど……どうにも第二大隊の到着が相当遅れてるみたいですネ。あっちの旗艦の長門が妙に殺気立ってますし)」
長門「本当か? 主力部隊を差し置いて給糧艦が先に来るのはおかしいだろう。一体これは……」
長門の口にアイスをねじ込む吹雪。
吹雪「ま、まぁ……。『食える時に食っておかなけばな』ですよ! 長門さん」
武蔵「フッ……佐世保最強と名高いあの“鬼金剛”か? 今回は参戦しないと聞いていたが……こいつは光栄だ」 指をバキバキと鳴らしている武蔵
大和「まぁ、私たちも負けていられませんね」
長門(クッ……追求できる雰囲気じゃないな)
・・・・
足柄「いやぁ~……かなり久し振りに感じるわね! ヴェアヴォルフ、ここに再集結! ってとこかしら」
霞「あら、アンタも来たのね。どういう経緯なのか気になるところだけど……今は再開を喜ぶべきかしらね。不良も居るわよ」
足柄「おっ! 朝霜。久し振りじゃない。生きてたのね」
朝霜「ヴェアヴォルフ創始者の朝霜様に向かって不良だの死人だの……ったく相変わらずロクでもねえ連中だぜ」
足柄「突然フラッといなくなったんじゃ死んだと勘違いされてもおかしくないわよ。ま、アンタを殺せるようなタマもそう居ないとは思うけどね」
霞「本当よ。人に散々心配かけておいて……この戦いが終わったらお説教させてもらうわね。覚悟なさい」
朝霜「うげェーッ! 勘弁してくれっての。ところで……腹ごなしに運動でもしねえか? 大淀が欠けてんのが残念だが……アタイらが戦場で集まったらやることは一つだろ?」
霞「アンタねぇ……昨日からの話聞いてた? 進撃するしないで大揉めしてたでしょうに!」
朝霜「だァーかァーらァー。バレないようにやりゃあいいじゃんって話だよ。水雷戦隊の基本は?」
清霜「『見敵必殺』!」
朝霜「水雷戦隊の夜戦での心得は?」
清霜「『先手必勝』!」
朝霜「はい清霜正解! 小隊を組むことの利点は?」
足柄「本隊から離れての『独断専行』……! フフッ、いいわ。燃えてきちゃった!」
清霜「ふっふーん♪ そういうことだから、霞。行くわよ?」
霞「揃いも揃って本ッ当にゴミね! 囮役は私が行くわ。清霜と朝霜はフォローお願い。足柄は好きに暴れていいわ」
足柄「ッしゃァー! みなぎってきたわ! 最高のコンディションよ!」 照明弾/照明弾/照明弾 シャッシャッシャッ
足柄「十門の主砲は伊達じゃないのよ! 撃てッ! 撃てェーッ!」 ボゴォォォォン
哨戒していた敵艦隊めがけて無差別的に撃ち放し大打撃を与えるも、あっという間に敵に囲まれてしまう。
霞「なんであいつ囮の私より目立ってんのよ! アッタマ来た! 私が直接ぶっ飛ばしてやるわ!」
足柄への行く手を遮る駆逐艦や軽巡を魚雷で警戒に葬り去りながら突き進んで行く。
足柄「うふふッ! 最高だわ! 感覚が研ぎ澄まされてるみたい!」
砲を撃ちつつ拳で敵艦を殴りぬけていく。
精神テンションが最大まで高まった彼女の戦闘スタイルを正確に言い表す言葉は残念ながらこの世に存在していないが、あえて名前を付けるならば舞空術という言葉になるだろうか。
朝霜「いやァ……戦いってモンが分かってる連中はやっぱ愉快だね! アタイらも行くよ清霜!」
清霜「私もッ! 負けませんからァーッ!」 ドガァァァァァン
足柄の動きを真似て人間では考えられないような動きで敵を翻弄していく朝霜と清霜。
今の彼女たちを数が多いだけの哨戒部隊ごときに止められようか? 土台無理な話である。
第二大隊が第一大隊本隊との合流を果たした夜更け頃には、まるで敵の哨戒部隊など最初から存在していなかったかのような静寂が周囲に漂っていた。
何事も無かったかのように足柄たちは艦隊へ戻っていく。カマイタチのような俊敏さと凶暴さがヴェアヴォルフの真の強みなのだ。
長門・陸奥・吹雪・赤城・響・霧島ら六名による最終決戦に向けての会議が行われている。
長門「やっと来たか……。遅れたワケを聞こう」
赤城「呉鎮守府に敵艦隊の猛襲がありました。敵の狙いは本土にあったのです。私たち第二大隊これを撃退し現在に至るという次第です」
長門「なんだとッ!? ……そうか、霧島。貴様、これを知っていたのか……」
霧島「ええ、もはや隠す必要もありませんか……。貴方たち呉およびその配下の連合艦隊をここMIの策源地に足止めさせ、攻め込ませず、されど撤退もさせず、というのが狙いでした。
自分の本陣がやられたらさすがに撤退しないわけにはいかないでしょうが……私たちが敢えて黙っていたのには理由があります」
赤城「ここでMIを叩く機会を逸してしまったら、次はより用心深くより強力な戦力を用意してくるでしょう。
そちらの鎮守府の方たちはご存知ないのかもしれませんが、今回のAL/MI作戦は深海棲艦側に作戦情報が漏洩していました、全て」
響「ゆえに呉鎮守府に襲撃があった。とっくに作戦を終えてこちらの支援に来ているはずのAL攻略組も未だに手こずっているようだ。
私たち佐世保鎮守府の司令官だけが、情報の漏洩に気づいていた。だから逆張りで事を進めていたということだ」
響「説明は以上。君達が血気に逸って進撃していないでくれて本当に安心しているよ。それをやられていたら最悪だったからな。
あとは従来の作戦通りに夜明けを待ち作戦通り制空権を確保し、徹底的に叩き潰すのみ」
長門「分かった……もういい」
・・・・
会議が終わった後、吹雪・陸奥を呼び出す長門。
長門「なぁ……。私は間違っていたのか? 提督に全てを託されて、舞い上がっていたのだろうか?」
陸奥「そんなことは無いわよ。結果的にあっちの言ってることが正しいように見えるだけ。私たちの提督も、長門も、間違ってなどいないわ」
長門「実はな。提督は深海棲艦に情報が漏れているかもしれないと、この作戦が始まる前に私に話してくれたのだよ。
『だが、仮にそうだったとしても、どうすることも出来ない』と。私にそう言ったんだ」
長門「もちろん。私も提督も、しょせん噂程度に過ぎないと、そう思っていた。そう思っていたから誰にも言わなかった。
……だが結果としてこのザマだ。佐世保の連中がああいう風に動いていなければ、今頃私たちは海の底だったかもしれない」
長門「あの佐世保の提督は、私の提督が『どうすることも出来ない』と言ったものさえも、当然のように乗り越えてしまった。
全て分かっていましたと言わんばかりに。手のひらで踊る私たちをあざ笑うかのようにな。
……昨夜、霧島や翔鶴が私の前に立ち塞がった時に、こいつらは本当に哀れで愚かな奴らだと思った。
全てを説明されているわけでも無いくせに自分たちの提督の言うことを盲信してそれに付き従う。あの段階では提督の命令が本当に正しかったのか、あいつら自身にも分かっていなかっただろうにな」
長門「だが、あいつらの信じた通りの結果になってしまった。……あいつらと私、提督を真に信じているのはどちらなのだろうか。不安になってしまったんだ」
吹雪「長門さん。それは違います。……確かに、今回結果的に正しかったのは佐世保鎮守府の手取提督です。敵の動きを看破出来なかった私たちの司令官は、失策でした。
でも、それは結果論であって。私たちの司令官は、私たちの司令官なりに今まで頑張ってきてくれたじゃないですか。だからこうして今の私たちが居るんです。
……司令官を疑うような言葉は、やめて下さい。司令官を疑う自分を疑うような言葉は、やめて下さい」
吹雪「司令官は……。佐世保の提督のように、完璧ではないかもしれません。時に間違った判断も下してしまうかもしれません。
でも、私たちのことをいつも考えていてくれて……。本心から従いたいと思わせるような、そんな素敵な人じゃないですか」
長門「……そうだな。本当に、優しくて魅力的な方だよ。涙が出るくらいに。
吹雪。お前は、提督のことを最初からずっと見てきたもんな。フフッ、羨ましいよ……本当に」
長門「吹雪、陸奥。司令官のこと、これからのこと……頼んだぞ」
陸奥「ちょっと長門!? どういう……」
長門「この戦いを以って戦艦長門をやめようと思う。……提督を少しでも疑ってしまった自分が許せない。提督への敬意と愛情が揺らいだ、自分への罰だ」
陸奥「……長門は。一度言い出したらきかない性格だものね。いいわ、罪が償えたら……いつでも戻ってきなさい」
・・・・
響(何やら湿っぽい話が向こうから聞こえるな)
響「赤城。……もうすぐ夜明けだね。準備はいいかい?」
赤城「ええ、勿論です。昨日一昨日でだいぶ手間取ってしまいましたからね。その分、今回は存分に暴れさせてもらいますよ」
響「ところで……司令官についてどう思う」
赤城「手取提督……ですか? そうですね。感謝しています、とても」
赤城「私がもしあの提督が居ない鎮守府に在籍していたら、きっとこの戦いで沈むんでしょうね。そんな気がします。
手取提督は……私に勝利しか与えません。その安心感が、私の中から悲愴感やトラウマさえも奪い去ってしまうんでしょうね。何だか今は負ける気がしなくって」
響「この戦いで沈むんだろうって所以外は同意だな。本当に、最高の司令官だよ」
赤城「そうですね。私もそう思います」
響「……なるほどな。そう思えるならやはり君は友人だ。そして、ライバルなんだな」
赤城「?」
響「雑談はこれまでだ。さ、持ち場に戻ろう。最高の勝利を、華麗に彩ってやろうじゃないか」
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獲得経験値(~45/100)
・皐月の経験値+1(現在値7)
・翔鶴の経験値+1(現在値12)
・足柄の経験値+2(現在値18)
・響の経験値+1(現在値10)
・雪風の現在経験値:6
・金剛の現在経験値:11
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>土日のどっちかで続きをお見せ出来るように
流石にこう言っておきながら
>2015/05/10(日) 23:59:51.18
……間違ったことは言ってませんがこれはもう詐欺の部類ですね。
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『Phase B』【46-50/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~19:雪風
20~35:翔鶴
36~51:金剛
52~67:響
68~80:足柄
81~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい。
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熱い展開だ、乙
はい
>>476->>480より
・金剛2レス/翔鶴1レス/足柄1レス/雪風1レス
で『Phase B』が進行していきます。
ひとまず次回の投下でシナリオ的に一区切り着く感じです。
実は概ね25レス単位で区切れるよう作ってたりします。先のことはどうなるか分かりませんが。
次で50レスとスレ的にも区切りがつくんでそろそろちょっと仕様変更みたいなのぶっ込んでみようかなーとか思ったり思わなかったりしています。
これはこれで(書いてる自分は)楽しいんですけれども、そろそろなんかアクション起こすのもアリかなと。
具体的には安価時になんかシチュとか書くと実現する~みたいなやつあたりを弄ろかなと。
扱いが難しそうだからわざと成功率低めに設定したんですけど、緩めてもそれはそれでいけそうな気がしてきたので。
あとは……まだ詳しく決めてないんで秘密。
次フェーズからはちょっと何か変わるかも、と書いておきます。
////Twitterにでも書いてろ的な////
能代やっと来ました。彼女一人を探すためだけに弾薬が10000以上消し飛んだよーな……。
遂に艦娘コンプです、やりました。
1年と1ヶ月でやれたんでそこそこ運が良い方ですかね(勿論プレイ頻度に依りますが)。
このゲームはいかに早く大型艦建造を脱却出来るかが一番重要だと思う……。
当面の目標は図鑑埋めですかねー。睦月改二・葛城改・Roma改・秋津洲改がまだなんで。
あとは長良・白露・村雨・朝雲・磯風・朝霜も図鑑には載らないけど改でグラ変わる系なんで育てようかなあと。
レベリングに終わりはないのだ。
どもども。大体二週間に一回のペースでの投稿間隔になりつつありますねー。
本当はもちっと早めたいところなんですがー。
口では早めたいと言っているのですが実際のところ……という感じでありましてハイ。
何はともあれ次回の投下は24(日)あたりを目処に書いております。
本当は今日の夜あたりに行っとくつもりだったんですが現状の進捗を鑑みるにダメそうなので……。
////人間は紙とペンさえあれば世界の神になれる ~チラシの裏という無法地帯////
最近は友人がBesiegeというゲームをSteamで配信してるのでそれを見て時間潰してます。
分からん人には何のこっちゃって感じですが。
そもそも艦これにもこのSSにも全く関係ない話なんであんま気にしなくていいです。例によって読まなくてもいいです。
SteamってのはPCゲームのダウンロード販売プラットフォーム……iTunes StoreやWindows ストアの洋ゲー版ってとこでしょうか。
(厳密には違いますけどね。あと別に日本のゲームもあることにはあります)
そのSteamってので配信してるゲームにBesiegeってのがありまして。
日本語Wiki曰く『Besiegeは、中世の攻城兵器を作って要塞や集落、兵士、羊を蹴散らしていく物理ベースのシミュレーションゲームです。』らしいです。
ブロックを組み合わせて戦車やカタパルト、飛空艇なんかを自分で作ってステージを攻略していく……って感じのゲームです。
Robocraftってゲームが一番イメージとしては近いですかね。噛み砕いて言うとレゴブロックを組み合わせて兵器を作っていくような感じ?
まだテスト版なんでゲームとして完成してないんですけど、こいつが中々面白くて。
友人の作るカオスな兵器(艦上爆撃機めいた特攻兵器やデコトラのようなゴテゴテした戦車)を見て楽しんでおりますハイ。
完成版が出たら自分も買いたいなーと思っております。
……そんなんで時間使ってねえで続き書けや! ハイ! スミマセン! だって微妙に詰まってるんだもん!! だもん丸だもん!(誰だよ
わりと個人の特定が容易な書き込みばっかしてるんでリアルでの知人がこのスレ見たらすぐに誰が書いたかバレそうでアレである。
飛龍「索敵機が帰還しました! 駆逐ハ級後期型が3隻、駆逐イ級・駆逐ロ級の後期型が2隻、軽空母ヌ級flagship2隻、戦艦タ級flagshipおよび戦艦ル級flagship各1隻、空母ヲ級flagship2隻……」
蒼龍「護衛要塞の存在も確認されています! また、要塞の先に見慣れない大型の深海棲艦が2隻との報告が。警戒して下さい!」
赤城「呉強襲の時もそうでしたが、敵艦隊からこれまでとは比べ物にならないほどの殺意を感じます。
あの要塞の背後にどんな恐ろしい相手が隠れているのかは想像もつきませんが……終わりにしてみせます! 第一次攻撃隊、発艦!」 バシュッ
大鳳「私たちも続きます! 第六○一航空隊、発艦始め!」 次々に艦載機を撃ち出して迫り来る敵機を迎え撃つ赤城たち
加賀「翔鶴、瑞鶴。貴方たちに実戦で物を教えるのは初めてかしら。……これが私の最後の教えになります」
普段の構えを解き、正面の敵艦隊へと大きく前進する加賀。普段の彼女の姿からはまるで想像もつかない無防備なその振る舞いは、ともすれば敵の的となりかねない。瑞鶴が叫ぶ。
瑞鶴「一体何をやっているの!? 単機で敵陣に突っ込んでいくなんて!?」
飛龍「加賀先輩が構えを解いた……“アレ”、をやるつもりみたいですね。
普段はあんなに朴訥で慎重な戦い方をするわりに、攻めに回ると一番苛烈で執拗……味方で良かったと心から思いますよ」
加賀「『守破離』。……型を守ることは大事です。ですが、それを踏まえた上でより既存の型を破り、より自分に合った型を確立させなければ私や赤城のようにはなれません。
……そして、やがてはその型からも離れ自分自身が熟練した技術そのものとなるのです」
加賀「だからこの戦い方は私にしか出来ないでしょうし、真似ようとは思わなくて結構です。私自身、ここぞという大一番以外ではやりませんしね。あまりにも危険すぎるので……」
空から降り注ぐ急降下爆撃の嵐を駆け抜けながら前へ前へと進み次々と弓を引いていく加賀、敵戦艦の射程範囲寸前まで辿り着くと、目を閉じて一呼吸置く。
加賀「今です」 バシュッ……シュォォォォォオオオオオ
加賀が艦載機を放つと、後ろから来る赤城の射出した機体の動きに呼応して螺旋状に回転する。直掩機として動いているようだ。
加賀の艦戦が赤城の機体を守るように廻りながら敵機を蹴散らし、赤城の艦攻がただひたすらに真っ直ぐに突き進んでいく。
艦攻が護衛要塞に接近すると、ありったけの雷撃を撃ち放して要塞を粉々に粉砕する。
加賀「やりました」 後退していく加賀にウインクを送る赤城。目を閉じながら噛み締めるように口角を上げニヤケ笑いを浮かべる加賀
赤城「上々ね。……さぁ、姿を現しなさい! この戦いの決着をつけましょう!」 加賀へ向けた微笑みの表情から一変、キッと鋭く大敵を睨みつける赤城
中間棲姫「…………」 髪をかきあげ、赤城を睨み返す
空母棲姫「ヒノ……カタマリトナッテ……シズンデシマエ……!」 どす黒い海の底から、グロテスクな見た目の航空機を生成していく
二体の“姫”クラスが場に現れると、戦場の空気はそれまで以上に重苦しく、深刻なものに変わっていく。
喉を握りつぶすようなプレッシャーが、体にこびりつくような絶望感が場を支配する。
二体の繰り出す200機を越える敵の艦爆や艦攻が空を埋め尽くす。
赤城「艦上戦闘機の用意をッ! 飛龍さん、蒼龍さんは左をお願いします! 私と加賀さんで正面を叩きます!」
加賀「五航戦、右翼の敵は貴方たちに任せます。やれますね?」 艦戦を矢継早に繰り出しながら二人に話かける
瑞鶴「わっ、私たちだけでぇ!?」
加賀「師匠の無茶振りぐらい応えてみせるのが弟子ってものよ」
翔鶴「……瑞鶴。やりましょう。随伴艦の皆さん、撃ち漏らした敵はお願いします!」 空母の傍に迫り来る敵艦載機を吹雪や秋月といった駆逐艦たちが片っ端から叩き落していく
・・・・
空は未だ艦載機が跋扈している。死を恐れぬ異形の集まりである敵艦でさえ動くことを躊躇っているほどの激しい空戦が繰り広げられている。
戦場を駆け巡る烈日の如き熱風に、秋霜の如き冷たい緊張感。対空装備のない艦娘たちは固唾を呑んで空の様子を見守っている。
瑞鶴「ッにしても……盆と正月が一片に来たみたいな歓迎っぷりね。忙しいったらありゃしない!」
翔鶴「にしては随分生き生きしてるじゃない?」
瑞鶴「そりゃあ最後の晴れ舞台ですもの! 一航戦の先輩には負けないわッ! ……っと翔鶴姉、矢借りるよ」 ひょいと翔鶴の矢筒から矢を奪う
翔鶴「えっ? あぁん、瑞鶴! 持っていかないでって……もう射尽くしたの?」
瑞鶴「『百発の矢で倒せない相手ならば、一千発の矢で射殺すまで』よ! 翔鶴姉は慎重すぎるんだってば! 勿体ぶってても、大破したらそれまでだわッ」
翔鶴「つ、都合の良い時だけ先輩の教えを引き出さないの! 『初心の人、二つの矢を持つことなかれ』……一矢一矢が全てを込めた絶対無二の一撃。無駄にしてはいけないわ」
瑞鶴「うっ……でも、無駄にはしてないわ。大丈夫よ」
瑞鶴「私ね……加賀さんの期待に応えたい。なぜアレを私たちに見せたのかは分からないけど……加賀さんの背中を見て、超えてみせろって言われている気がしたの。
だから私は……私なりのやり方で加賀さんを乗り越えてみせるッ! 今、ここで!」
翔鶴(……瑞鶴。そんな事を考えていたのね)
翔鶴「……分かったわ。好きなだけ持って行きなさい。私は残りの矢でなんとかするわ。ふふっ」 弓を構えながら微笑みかける翔鶴
瑞鶴「? どうしたのさ翔鶴ねえ。今のどこが面白かった?」
翔鶴「瑞鶴らしくて面白いなと思ったのよ。……でも、そうね。私も負けてはいられないわ」 遠く先の敵艦を見据え、真っ直ぐに矢を放つ
翔鶴(加賀先輩や赤城先輩の意志を受け継いで、私たちは前に進む……ッ! その先へ!)
飛龍「やれやれ、何とか退けたわね。航空優勢、ってとこかしら」
蒼龍「これだけ空の敵を減らせば、弾着観測射撃も可能なはず。第一水上打撃大隊の方にもそろそろ動いてもらわないとですね」
赤城「砲撃戦に移行しますッ! 我々空母機動部隊は継続して敵艦載機の迎撃と敵艦の撃沈に努めます!」
長門「いよいよか……。首尾通り、私と陸奥で中央のあの巨壁……戦艦ル級を突破する。榛名・霧島隊は左翼、扶桑・山城・ビスマルク隊は右の雑魚を掃討しつつ前進。
大和・武蔵は後方より支援。形勢がこちらに向くまで前進は控えておけ」
武蔵「チッ、まあいい。私たちは圧倒的優勢か圧倒的劣勢でしか動かせんからな。秘密兵器というのも難儀なもんだ」 欠伸をする武蔵
大和「分かりました。大和型の射程であれば、ここからでも最前線の敵なら沈めることが出来ます!」 水上観測機を飛ばす大和
金剛「ワタシ達はどうすれば良いデスカ!?」
長門「好きにしろ。ハナから作戦に組み込まれていなかったイレギュラーな連中のことまで考慮出来るか。我々の邪魔にならないように動いてくれればそれでいい」
金剛「オッケー! 邪魔にならなければ何やっても良いってことですよネ? 行きますッ、Fire!」 敵からの砲撃を物ともせず前進していく金剛
長門「ばっ、バカ者がッ! 隊列を乱すんじゃない! 陸奥、私たちも奴に続くぞ。あんな英国被れに遅れを取ってたまるか!」
・・・・
群がる深海棲艦。苛烈な空襲と砲撃。左翼の榛名・霧島隊は壊走の危機に瀕していた。
榛名「榛名、全力で死守します!」 味方艦隊の殿として敵の的になる榛名
これまで比較的優勢に歩を進めていた榛名・霧島率いる左翼分隊であったが、敵戦艦の攻撃によって蒼龍が大破してしまう。
蒼龍の負傷により、左翼分隊の航空勢力は飛龍一人となってしまう。この痛撃に乗じて空母棲姫が左翼部隊めがけて突撃。
先に進んでしまった中央艦隊の支援は得られそうにないため、後退しつつ大和・武蔵率いる味方本隊との合流を図る榛名たち。
霧島(榛名……。第三艦隊に居た頃は口煩くて私の邪魔ばかりすると常々思っていましたが。
こうして艦隊を率いる立場になってみると、彼女のように劣勢に強い者は頼りになりますね……認めたくはありませんが、今この状況で一番力を発揮出来ているのは彼女でしょう)
霧島(自分に全ての砲火が集中しているというのに微動だにせずひたすら反撃し続けているとは……。とはいえ、長くは持たないでしょう。一刻も早く大和隊の援護を受けなければ……)
先頭を走る霧島。その表情には焦りの色が見られる。
榛名(功を焦りがちな霧島が撤退という選択を決断したのは意外でしたね。蒼龍が大破した段階で撤退を開始していたのは、結果論で考えれば英断と言えるでしょう。
あの空母の“姫”がこちらに接近していたのですから、あのまま前線に残っていたら取り返しのつかない被害を出していたでしょう) ドッゴオオオオン
轟音。嘘? 被弾した。一瞬の思考。その隙を突かれた。直撃したらしい。灼熱が肌を焦がす。血が吹き出る。視界が霞む。
榛名「ッ!」 シュゥゥゥウウ……
霧島「榛名!? 榛名ッ!」 榛名に駆け寄る霧島
榛名「…………。私に構わず、先に進んで……下さい。…………。後から、追いつきます……から。……まだ、やれます」
霧島「航行する力も残っていないくせに強がりは止してください。飛龍さん、艦爆隊の用意を。
加古さん達は負傷した艦を連れて大和隊と合流し、いち早くここに連れてきて下さい。私たちは敵を迎撃します!」
加古「了解!(これだけ追い詰められてるにも関わらずなんちゅー気迫だよ……。全身から殺すオーラが湧き出てるじゃんか……佐世保の艦娘は深海棲艦よりおっかないな)」
飛龍「蒼龍の仇は私が取ります! 徹底的に叩きますッ!」 鉢巻をギュッと結び直す飛龍。艦載機を発射していく
蒼龍(奮起してるのはいいけれど、人を死んだみたいに言わないで欲しいなァ……)
膝を震わせながらも立ち上がり、口元の血を袖で拭い、歯を食いしばる榛名。闘志は枯れていないようだ。
榛名「霧島……。ここで私が盾になった方が都合が良いのでしょう」
霧島「榛名“お姉様”、この際だから言わせてもらいますが。……私は貴方の『皆の為に』とか『誰かの為に』とかそういう自己犠牲精神が気に食わないです。
ほとんど歳が変わらないのに姉ぶって私の前で良いカッコしようという姿勢も嫌いです。私より常に上であろうとするその態度がいけ好かないですね」
霧島「ですが……。私たちの為に命を張ってくれている貴方を見逃せるほど、薄情じゃあありませんよ!
それに……どうも逃げ回ったり人と交渉したりするのは得意じゃないみたいでしてね。やっぱり戦場での殴り合いが性に合ってるみたいです!」
霧島「榛名。貴方だって私に思うことの一つや二つあるでしょう。私だけ不満をぶち撒けたんじゃ不公平ですから、どうぞ」
ダダッ、ダダッと砲を撃ちながら、言い放つ霧島。視線は少しも榛名の方へ向けようとしない。
ハァーと深く溜息をつく榛名。呆れたような顔で口を開く。
榛名「本当に……可愛げのない妹ですね。私の話は何一つ聞き入れようとしないんですから。それに、全然私の気持ちも分かってくれません。不器用すぎますよ……。
でも、私への不満を口にしてくれて、かえって少し気が楽になりました。そうですね、そんな風に思っていたんですね」
榛名「私よりも優秀なのを妬ましく思うことはありますし……どうして私を嫌うんだろうって、ショックを受けたりもしますけど……。
榛名は、霧島のことを嫌いだと思ったことなんて一度もありませんよ。たった一人の可愛い可愛い妹に、不満なんてあるわけないじゃないですか」
霧島の顔を見つめながらも、敵への砲撃は緩めない榛名。
視界がぼやけていても、聴力は普段より冴えているらしい。敵艦が水底に沈んでいく音まで明瞭に聞こえる。
霧島「ッ~~~~! な、なんですかそれは。私が意地を張っていただけみたいじゃないですか。なんなんですか、もう……。
やっぱり榛名とは波長が合わないみたいですね。調子が狂ってしまいます……」 口振りとは裏腹に、砲の命中精度は百発百中だ。次々と迫り来る敵を物ともしていない
遡ること一時間前。
赤城「追い詰めましたよ……! 周辺の随伴艦は全て叩きました。残るは貴方だけです」
中間棲姫「ノコノコト……誘ワレテイタコトニモ気ヅカズ……愚カシイ……」
長門(もう一体の方は我が隊の後方へ向かっているようだな。とはいえこちらの戦力は割けん、仕方あるまい……後方の大和・武蔵に動かさざるを得ないか)
加賀「覚悟は……良いですね?」
中間棲姫「……誘爆シテ……沈ンデイケ……!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
吹雪「敵艦載機接近! 迎撃します!」
熱を帯びる前線とは対照的に、艦隊の後列で若干やる気なさそうに話し合う金剛と比叡。
金剛「右翼の扶桑やビスマルクたちがこっちに向かって来ているみたいデスガ……左翼分隊の進みが悪いようですネ。“姫”サマはあっちに行ったと考えて良さそうデス。Hmm...」
比叡「二人が不安ですか? 確かに、少し荷が重いかもしれませんが……大和型が出るのであればどうにかなりそうな気がしますけど」
金剛「敵の首尾が良すぎだと思いませんカ。あのサイドテールのBossが大和たちより早く戦場に着いていたとしたら……?
ワタシ達は後方へ退いて、榛名や霧島たちの援護に向かいませんか? ここはワタシ達抜きでも突破できるデショウ」
比叡「構いませんが……お姉様が人の心配をするなんて珍しいですね。ま、そうは言っても大切な姉妹ですからね」
・・・・
金剛(ワタシを近くで見てきた比叡でさえ……『お姉様が他人の心配をするなんて珍しい』か……。当然といえば当然デスガ……。
第一艦隊では放っておいても死なないような連中しか居なかったし、気に留める必要が無かった。
いや、仮にその必要があったとしても……味方に危機が迫っていたとしても、私は助けるようなことはしなかったと思う)
金剛(じゃあ、どうして私はこうして榛名や霧島たちのもとへ向かっているんでしょうか? 自分の姉妹だから? いいや違う。
確かに、榛名や霧島のことを姉妹とは思っていますが……今更姉として会わせられる顔も無いでしょう。
自分の地位を脅かされることを恐れて、二人が対立しているのを見て見ぬふりをしていたのは誰? それどころか都合が良いとさえ思っていたのは誰?)
金剛(今更良い子ちゃんぶって何になる? 私は自分の為に、全てを犠牲に出来る人間になったはずだった。はず、だったのに……)
提督との回想が脳裏を駆け巡る。
“私は本気で人の事を嫌いにはなれない”、“誰かに愛されたい、認められたい”、“人と人とは分かり合える”……全て自分の言葉だ。
甘ったるい、弱い言葉だ。反吐が出る、苦々しい。
……けれど、自分の本心だ。あんな風に追い詰められていたからこそ出てきた言葉。自分自身で封じ込めて、見ないふりをしてきた本音。
どれだけ強くなっても、他人を押しのけて一番になっても、誰からも畏れられるようになっても、満たされなかったのは……それが本当の望みじゃなかったから。
金剛(提督……)
『お前を嫌いにならない努力をしてみようかと思っただけだ。人から嫌われるのは嫌なのだろう?』
金剛(……)
行こう、行くんだ。甘ちゃんでも構わない。他人からすれば偽善に見えるかもしれない、欺瞞に映るかもしれない。
いいんだ。それでもいい、それでも私は人を愛していたい。利害の繋がりだけじゃ、私の心は満たされない!
・・・・
比叡「気合ッ! 入れてッ! 行きますッ!」 ドドォン!! ドドォン!!
金剛と比叡の放った攻撃が空母棲姫に直撃する。背後からの攻撃は予期していなかったらしく、思わぬ痛みに苦しんでいるようだ。
空母棲姫「チィッ……アト一歩ノ所デ……。一体、何者ダ……」
金剛「榛名! 霧島! よく持ちこたえまシタ!」 ボロボロでへばっている二人にグッと親指を突き立てる金剛
霧島「金剛、お姉様……どうして……?」
金剛「妹を助けるのに、理由なんて要りますカ? 比叡、大和たちが来る前にカタを着けますヨ?」
比叡「承知しましたッ! 蹴散らしてやります!」 ドゴォォン!
砲のシャワーを軽やかに受け流しながら敵に強烈な一撃を叩き込んでいく二人。
榛名「霧島。休憩はこれくらいにして、私たちも続きましょう。こんな所で終われないでしょう?」
霧島「ッてて……体の節々が痛むんですけど……。本当に榛名はタフですね。ま……そういう所は、私も見習わなければいけませんね!」
即席で組まれた戦闘部隊とは思えないほどの一糸乱れぬ連携を見せる金剛たち。
比叡「こうして四人で戦ってると、昔を思い出しますねー! まだ皆右も左も分からなくて、戦い方もてんでなってなくて……」
榛名「それがここまで来た、というのはなんだか感慨深いものがありますね……。皆、自分なりに積み重ねて来たんだな、って」
金剛「さっさとこの戦いを終わらせて、皆で久しぶりにティータイムするネー! バァァニング・ラァヴ・ファイヤァァァ!!」 ドゴオオオオン
龍田「遅かったじゃないですか~。結構焦ったんですよ?」
提督「すまんな、世話をかけた。それと、影武者の方の演技指導もバッチリだったようだな。褒めておこう(影武者というかただの代理だが)」
提督「ふむふむ。左翼分隊は主力である本隊と合流し、敵主力艦……仮称“空母棲姫”を撃破。中央分隊は右翼分隊と合流し、敵主力艦“中間棲姫”と交戦中。日没までには決着というところか。
右翼分隊の瑞鶴や翔鶴が存外活躍していたようだな、あの一航戦に迫るほどの戦果を上げているとは驚きだ」
龍田「現状の結果だけ見るとどうということも無かったかのように見えますけど……これでもだいぶ危ない展開もあったんですよ。
左翼分隊の空母蒼龍が負傷したところを狙いすましたかのように空母棲姫が奇襲。犠牲が出てもおかしくない状況でした」
皐月「おぉー、司令官。ひょっとしてこれを見越して金剛たちを降ろしたのかな? うまい具合に金剛と比叡がピンチに駆けつけているようだけど」
提督「偶然に決まっているだろう。ブレーキが壊れるだなんて予測できるはずない。ふむ……しかし、金剛に比叡か。なかなか見事な戦況判断だな。
後方に控えている大和隊の到着よりも先に空母棲姫が左翼分隊に攻撃を仕掛けているだろうと考えたのだろうな。だから目の前の中間棲姫を無視してUターンし、榛名・霧島らの救援に向かったと。
(しかし、仮に敵がボス級の戦力を中央以外に割くのであれば、戦力的に手薄である右翼分隊を狙うと思っていたが……。
純粋な戦力配分だけで判断せず士気や戦況の変動まで加味して動かしたのだとしたら……)暗号の漏洩も敵の配置の無駄のなさも、奴が居るとしたらありえなくはない展開だ」
提督「……急ぎ前線に通達してくれ。負傷した艦は鎮守府に帰投、健在な艦は夜が明けるまでは決してMI最深部から動くな。最大級の警戒を以って索敵を行え。絶対に油断するな」
・・・・
中間棲姫「トラエテ……イルワ……!」 総攻撃を受けながらもプレッシャーを放ち続ける中間棲姫
赤城(敵に余裕が無くなってきたわ。頃合ね)
赤城や長門らに加え、後から合流した金剛や大和たちの総攻撃を一身に受けているため防戦一方の中間棲姫。その隙を響は見逃さなかった。
響「灯台下暗し……というわけだな。随分しぶとかったようだが……прощаться。永遠に、さようならだ!」
もう日が沈みつつあるとはいえ、まだ陽光は照っている。そんな状況で敵艦に肉薄すれば反撃を被るのは必定。
しかし、圧倒的な攻撃力と対峙した中間棲姫は前方の猛攻を凌ぐことだけに意識が集中してしまった。脇腹に滑り込むように接近していた響に気づかなかった。
中間棲姫「ソンナ……ワタシガ、オチルト……いうの……?」 ドゴォォン!ドンドンドンドン! シュゴォォオオ……
響の容赦ない雷撃により、戦いの幕は閉じた。しかし、終わったという感慨に浸る間もなく、空が表情を変えていく。太陽は一瞬にして沈み、月が天頂を照らす。
雪風「!? 司令から伝令ですッ! 『空母及び負傷した艦は全速力で鎮守府に戻れ。健在の艦は決してその場を動くな。索敵を緩めるな。絶対に油断するな』だそうです!!」
響「なんだと……? どうなっている。まだ敵が居るとでも? 電探には何も引っかからないが……」
・・・・
川内「へっへーん! こういう時のための夜偵だよねー! やっぱ夜戦がないと面白くないからねぇ!」
吹雪「川内さん、どうですか? 敵艦らしきものは発見出来ましたか?」
川内「おっ、見つけた見つけた! 空母が一隻だけ居るみたいね♪ でも、なんだって空母……? 夜なら艦載機飛ばせないんじゃない? ひょっとして楽勝?」
吹雪「佐世保の提督が絶対に油断するなと念押しぐらいですから、警戒に警戒を重ねて挑むべきでしょう。それに、突然日が沈んで夜になってしまうなんて、何が起こっているのか……」
雪風(『空母ヲ級Nightmare』司令のお兄さんから聞いた話ですが……悪夢の名を冠するその深海棲艦は、高い知能を持ち、他の艦とは一線を画する力を持つという……。
夜を統べるその力は、闇の中でも敵を捕捉し確実に追い詰める……!)
雪風「敵がこちらの索敵機に気づいていないということは、一歩先手を取ったということ。大淀さん、司令と通信を繋いでもらえますか? あっ、ありがとうございます。
司令、“ナイトメア”ですよね? ……敵のおおよその位置を掴みました。まだこちらには気づいていないようです!」
提督「ガガピー……ガガ……。なぜお前がその名を知っているかについて聞いている時間は無さそうだな。……とにかく、知っているようなら話は早い。
敵にこの通信を傍受されるといけないから手短に伝えるぞ。奴は夜間でも艦載機を好き放題放てるとんでもない空母だ。見つかったら終わり……だが、偵察機がお前たちを捉えるのは時間の問題だ。
奴の位置が掴めているならば……そして奴に見つかっていないのであれば……一撃に全てを賭けろ。全艦のありったけの砲をぶつけろ、今すぐにだ!」
金剛「テートクのご命令とあらば! やるっきゃありませんネー!!」
大和「話がまるで掴めませんが……行きましょう! 全主砲、撃てぇッ!」
遠方から爆撃音。燃え盛る炎は、いかに威力が絶大だったかを物語る。しかし……。
体中に炎を浴びながらも、ゆらゆらと立ち上がる影。その右目に宿る蒼い炎は、砲によるものではなく燃え盛る憎しみの炎なのだろう。
それまで空を旋回させていた艦載機の全て……中間棲姫や空母棲姫のそれを上回る数の艦載機をこちらに向けてくる。さらに……。
陸奥「そんな!? 倒したはずじゃ……?」
深く暗い水底から浮かび上がってくる中間棲姫に空母棲姫。呉を襲った二体の戦艦棲姫まで現れる。
雪風「ダメでしたか! っ! 私が囮になります!! アイツを倒せば全てが終わりますから!」 近くに居た川内から探照灯と照明弾を奪い取り、真っ直ぐにヲ級への道を切り拓いていく雪風
川内「返せー! ってか、そんなことしたら敵の的になっちゃうっての!」
雪風「大丈夫です! 私が……あの空母までの道を照らす光となりますッ!!」
雪風がかつて“死神”と呼ばれていたのは、どんな無謀と思えるような作戦でも生き残ってきた浮沈艦であること。そして、もう一つ。
スイッチが入ると誰にも止められないほど猛威を奮うことである。そしてその真価は夜戦で発揮される。
空から、前後から、左右から来る砲撃と雷撃の嵐でさえスローモーションに感じられてしまうほど、雪風の感覚は冴え渡っていた。敵の攻撃を華麗に受け流しつつ魚雷を見舞いする。
川内「ヒューッ……やるじゃん。夜戦装備取られたのはムカつくけど……あの動き、水雷魂感じちゃうなぁ……! よっし! 私たちも行くよ。やってやろうじゃんか!」
長門「何がなんだかまるで分からんが……。川内! 吹雪! お前たちはあのヲ級を仕留めろ! このデカブツどもは、私たちが食い止める!
陸奥「戦艦のありったけの砲を食らったんだもの、持ち応えてこそいるけれど、かなりダメージを負っているはずよ。回復する前に早く!」
金剛「Wow! まさにBoss on paradeデース! ここまでえげつないとかえって燃えますネ……!」 手のひらに拳を打ちつけ、放火を背に立つ金剛
比叡「お姉様! 地獄の果てまでお供しますともーッ!」 巨大な化物相手に次々と砲をお見舞いする比叡
空母棲姫の攻撃を寸でのところで回避し、反撃を食らわせる武蔵。
武蔵「おおっと危ない! さっき振りじゃないか! ほとんど金剛型の連中に削られていた状態でまるで歯ごたえが無かったが……今度は楽しませてくれよ?」
大和「フフッ……ようやく本気が出せそうね! 大和型の力、その身で受け止めてみなさいッ!」
響「チッ……さっき永遠の別れっつったろうに……。アイツ、根に持ってるのかやたらこっちを狙ってくるな。
雪風。すまないが、私は戦艦連中と混ざって戦うことにするよ。君を守ろうと思っていたが……これじゃあ帰って狙い撃ちされてしまう」
響「大ボスはあそこのアホ共とあっちのアホ共に譲ってやるとする。いいかい雪風、勝手に沈んだら承知しないよ? 数少ない私の友人なんだからな。それじゃ」
アホ共……横から追ってきている川内たちと足柄たちを指差すと、響はぐるりと身を翻し巨大な化物を一瞥。降り注ぐ爆撃の雨をものともせず進んでいく。
雪風「響、司令……。雪風、必ず生き残ります!」 どんどん前へ前へ、“悪夢”へと突き進んでいく雪風
朝霜「なんかよく分かんねーけど、アッツイ展開じゃねーか! やってやんよォ!」 魚雷を好き放題打ち放す
雪風を追って猛烈な速度で疾走するのは、かつて“ヴェアヴォルフ”と呼ばれていた者たち。
大淀「ッ! 敵が多すぎて前に進むのも一苦労ですね!」 と言いながらも拳で敵駆逐艦をぶちのめしながら強引に突破していく大淀
清霜「こりゃいいわ! どこに撃っても敵に当たるわね。これだけ敵を倒してたら、どんどん強くなって、戦艦になれちゃうかも!?」
霞「なれないわよアホ。いい加減ッ!(ガスッ)現実をッ!(ボカッ)見なさいッての(ドシュッ)」
朝霜「倒すか喋るかどっちかにしろって、のォ!」 敵を避けつつ航行するのも面倒になったのか、八艘飛びで敵艦から敵艦へと飛び乗って前へ進んでいく
足柄「おっ! アンタ賢いわね! そのアイデアもらいっ!」
海上を大きく跳躍し着地ならぬ着艦を試みるも、踏み台にされた敵艦は哀れにも爆発四散してしまう! 爆風に吹き飛ばされ、大きく弧を描きながら遥か上空を舞う足柄(中破)。これには大淀も苦笑い。
清霜「ダイエットしたら?」 ぴょんぴょんと跳ね回りながら空中の足柄に話しかける。
足柄「うっ、うるさいわねッ! クッソ~~~~腹立つわ!」 吹き飛ばされながらも横向きに砲を撃ち、八つ当たりのように空中の艦載機を蹴散らしていく
足柄(とっ……ギリギリ届くか? うん、やれるわね!)
雪風の放つ明かりをもとに、空から海上を見下ろしながら着地点を計算する足柄。
吹雪や夕立、川内らの活躍により雪風の周囲の敵は打ち倒され、残るは“悪夢”のみだ。
足柄「敵“艦”直上、急降下ってね! これで終わりよッ!」
海を砕かんばかりの衝撃。破壊的威力のラムアタックがヲ級に襲い掛かる。ついに機能を停止し、前のめりに倒れ海に呑まれていくヲ級。
・・・・
ヲ級Nightmareが倒れると、再び夕焼け空の景色が戻り、復活していた深海棲艦も全て幻影だったかのように姿を消してしまった。
執務室に戻り、意気揚々と戦果を報告しに来た足柄。
提督「……負けることはないだろうと思っていたが、全く犠牲を出さずに奴を倒せたのは幸運だったな」
足柄「重巡足柄に不可能は無いのよ」
提督「お前一人の力でどうにかなったわけではないが……ま、認めざるを得まい。とはいえ、“悪夢”などと大層な名前を冠した古の怨念が、こんな形でやられてしまうとは浮かばれんな……」
足柄「敵に同情してどうするのよ。やられ方に意味なんてないわ。英雄だろうと勇者だろうと、やられる時はあっけないもんだわ」
提督「そうかもしれんな。……と、どうしてお前はここに来た? 戦果の報告なら明日で構わんと言ったし、外で戦勝会という名分の宴会が行われてるだろう? お前は行かないのか?」
足柄「提督こそ、顔を出さないんですか? 今回の作戦の主役でしょうに? 作戦を完全勝利に導いた伝説の提督! ってね」
提督「主役と言われても、俺はただ座って指示を出していただけだ。
それに、Nightmareクラスが潜伏していたことまでは予想し切れていなかったからな。最終的に運良く大団円になっただけで、完璧とは言い難いさ」
提督「ま、そういう事に関係なく、気が乗らんな」
「……もうじきこの鎮守府も離れるしな」と言いかけて言葉に詰まる提督。足柄が目の前に酒瓶をドンと置いてきたからだ。
足柄「ふっふっふっ~。残念だけど、私、狙った獲物は逃がさない主義なのよ? 知らなかった?」 強引に提督の口元まで枡を運ぶ足柄
提督「ぐ。むむむ……これは世に言うアルコールハラスメントではないか」
足柄「この鎮守府ではそんな言葉存在しないのよ。ほら、じゃんじゃん飲みなさいって。ベロベロに酔っ払わせて皆の前に引きずり出してやるんだから」
提督(クソッ、なんてブラック鎮守府だ……)
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獲得経験値(~50/100)
・金剛の経験値+4(現在値15)
・翔鶴の経験値+2(現在値14)
・足柄の経験値+2(現在値20)
・雪風の経験値+2(現在値8)
・皐月の現在経験値:7
・響の現在経験値:10
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いやー押し切りましたね。
相変わらずマッシヴすぎて人を選びまくりな感じとりあえずここで一区切り……もう完結でいいんじゃないかこれ(えぇ
さてさて次回からなんか新要素っぽいのを加えてこうかなと思うのですが、わりとパワーを使い果たした感じがあるのでその話はまた後日。
ひとまずPhase Aのアレだけ書いておきますんで例によっていつも通りな感じですハイ。
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『Phase A』【51-55/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか>>351付近を参照下さい
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響
えと、そうですね。最初の方に書いておきましたが、同一IDからの連投はなしの方向でよろしくお願いします。
裏を返せばIDさえ変わればOKということなので、日付が変わったらまぁうんっていう感じです。そこいら辺は戦略ですかね(謎
>>489-494より
・響1レス/足柄2レス/雪風1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
と、ここでニューフェイス向けにあれこれ情報をまとめておきます。
居るのか分かりませんが途中から追っかけ始めた人向けに。
前に言ってた追加要素とやらは次のレスで説明します。
【バックナンバー】
>>360->>364:01-05話
>>374->>378:06-10話
>>388->>392:11-15話
>>401->>405:16-20話
>>414->>418:21-25話
>>429->>433:26-30話
>>442->>446:31-35話
>>456->>460:36-40話
>>470->>474:41-45話
>>483->>487:46-50話(今ここまで)
実はもう既に一回100まで到達してまして、現在は第二部って感じですね。第一部は>>16からです。
今現在やっている第二部の前身だけあってそれっぽい血は流れてますが、内容も独立してますし基本的に全く別物です。
えと、作者的には今読み返すと所々変な汗が出てくる感じでアレなんすけど……興味と時間がある方はよろしければどうぞ。
【このスレって何】
・安価形式で進む艦これSSです。
ヒロイン候補っぽいキャラが6人いて、最終的に提督と誰がくっつくかを見守るスレ……という想定でしたが、最近はよくわかんないです(え
・5レスごとに進行し、100レスまで行ったらおしまいです。
『Phase A』(安価で登場するキャラを決める)と『Phase B』(コンマで登場するキャラを決める)を交互に繰り返します。
地味に他にも色々あったりしますが今のところ微妙に全部死に設定と化してるのであんま気にしなくていいです。
・安価やコンマで登場することが決定したキャラをメインのお話が1レスずつ投稿されていきます。
登場した各キャラは『経験値』という名前のポイントがちょっとずつ溜まっていきます。最終的にこのポイントが高いキャラとエンディングを迎えます。
詳しく書くともっと色々めんどくさいのですが、雰囲気を掴むにはこのぐらいの説明でも大丈夫……かな?
自分のように3行以上の文章読むと読む気が失せるタイプ向けのざっくりした概要なんで、
詳しく知りたい方は>>336->>339,>>349->>351あたりも併せて読むと理解が深まるかと(面倒なのでオススメしません)。
これまでの要素に加え二つ仕様を追加(一つは変更?)させていただきます。
■「書いた内容が実現する」系の発動制約を無効化
なんのこっちゃという人の為に説明。
“各レスにシチュエーションや起こる出来事を書いておくと
・Phase Aならエクストライベントが発生した場合
・Phase BならIDに3つ以上数字が入っていた場合
書いたレスの内容が概ね実現します”(過去のレスより抜粋)
安価時にシチュエーションやら起こる出来事やらを書いておくと実現しますってのがあったんですよ。
上記のような特定条件下で実現するというものなのでしたが、ややこしいので取っ払います。
次回からは『書いた内容は無条件に実現します』。デウス・エクス・マキナも認めよう。
このスレの皆さんはもうこのお話の世界に干渉する力を持った特殊能力者になりました。力を得てしまったのだ……!(何
一応全てを受け入れる覚悟は決めましたが、ヤバそうなのが来たり展開的に難しそうだったらそこは解釈の力でなんとか逃げます。
なんで、思い通りにならなくてもそれはそれということでご容赦くだされ。
ま、任意なんで書いても書かなくても~、って感じです。
■『Phase C』の導入
あまりにもエクストライベントが発生してくれないので業を煮やして生まれました。
エクストライベント同様、エンディングまでの100レスのうちにカウントされません(経験値は加算されます)。
『Phase C』は『Phase A』終了時および『Phase B』終了時に発生します。
ただし発生には条件があり、『Phase A』・『Phase B』決定時についたコンマ値の合計値が素数だった場合にのみ発生します。
『Phase C』では経験値が1レスにつき+2上昇します。
登場するキャラは、経験値が全体平均から低いキャラが優先的に選出されます。
新たに上昇する値も加味しつつ平均値にならす方向に作用します。
たとえば現時点では
足柄の経験値:20
金剛の経験値:15
翔鶴の経験値:14
響の経験値:10
雪風の経験値:8
皐月の経験値:7
なので、
皐月2レス(上昇値+4/累計経験値11)・雪風2レス(上昇値+4/累計経験値12)・響1レス(上昇値+2/累計経験値12)というように決定されます。
経験値の低いキャラでも上位のキャラと圧倒的大差をつけられにくくすることを意識した調整となっております。
発生率がそんなに高くないのでエクストライベント同様ほとんど発動しないかもしれませんが、そん時はそん時ですね。仕方ない。
逆に頻発する可能性もありますし。各フェーズ終了ごとに『Phase C』の発生判定が起きるんで、
『Phase A』→『Phase C』→『Phase B』→『Phase C』とPhase Cに邪魔されまくって全然レス数が進まないということもありえます。
とりあえず今回の『Phase A』では発生しなかったので、次回以降に期待ですかね。
////チリングハッシュ(いつものチラシの裏)////
ヲ級Nightmareは完全なオリキャラではなくちゃんと元ネタがあったりします。
hoge級eliteとかfuga級flagshipってのの他に、piyo級Nightmareっていうのがあるらしいんですよ。
没(?)設定みたいですけどね。今んところ内部データにも無いんじゃないかしら。
なんで、イメージ的にはその設定とアニメに登場した隻眼ヲ級の間の子みたいな感じです。
設定って言っても、名前しか知らないんですけどね……。
というか、『Nightmare』に関する情報は、内部の人間じゃないと知らないんじゃないでしょうか。
なんかの情報誌(?)にチラッとその名前が出てたぐらいだったはずなんで。
……こうやって二次創作でネタにしてたらその内実装されそうで怖いですね。
提督「むぐ……酷い頭痛だ。人生最悪の目覚めかもしれん……足柄め許さんぞ」
提督(にしても……制服のまま寝ているとは。昨夜足柄に強引に酒を飲まされてから先の記憶が残っていないが……相当泥酔していたようだな)
提督(見慣れない天井。おそらく途中で意識を失ったところを誰かに介抱されたのだろう、情けない話だな。ん?)
胸ポケットに見に覚えのない封筒が入っていることに気づくと、封を切り中に入っていた書類に目を通していると、響が声をかける。
響「お遅いお目覚めだね、司令官」
響の声に気づくと、書類を胸ポケットに再びしまいこむ提督。
提督「ヴェールヌイか。……昨日、酔った俺は何か余計なことを話さなかったか? あるいは、何か俺から聞き出そうとしていた者は居なかったか?」
響「いいや、普段通りだったよ。早々に寝てしまったけれど」
提督「……そうか。わざわざベッドを貸してくれたことには礼を言うが、別に床でも構わなかったのだが」
響「何、今回の戦いの最大の功労者に対してそんな無碍な扱いは出来ないさ。それに私も一緒にベッドで寝たから問題ない」
提督(シングルベッドに二人で寝たのか? 狭かろうに……)
提督「昨夜も言ったが、俺はお膳立てしただけだ。それだって完璧には程遠いものだったしな。どうしてお前たちはそこまで俺を持ち上げるのか理解に苦しむな」
響(一緒にベッドで寝たことに関してはスルーか。予想はしていたが、手強いな)
響「私たち艦娘だけじゃないさ。この国も、ひいてはこの世界さえも君を認めざるを得ない。それだけの偉業を、君はやってのけた。当然のように成し遂げてみせた。素晴らしい功績だ」
手を大きく広げながら自分の意見を述べる響。ベッドの上の提督に少しずつ近づいていく。
響「この戦いでの大戦果は、長きに渡る深海棲艦との戦争の事実上の終結だ。数年も経たないうちに全ての深海棲艦は滅ぶだろう」
自分への呼称が普段の『司令官』から『君』に変わっていることに気づく提督。響にしては珍しく熱の籠った口調に気圧され気味の様子。
響「君は英雄だ。君の存在はこの世界を変える……君の活躍を隣で見ていたい。いつまでも、君の傍に居たい」
提督を真剣な眼差しで見つめる響。澄んだ水色の虹彩に、輝く漆黒の瞳。その瞳に吸い込まれるかのような錯覚を覚え瞬刻たじろぐ提督。ベッドから降りて数歩進み、彼女から背を向ける。
提督「ヴェールヌイ、お前は何か勘違いしている。俺は英雄などではない」
響「それは君一人がそう思っているだけさ。今に誰もが君を讃え敬うだろう、君には王の資格がある。導く力がある」
提督「違うなヴェールヌイ、それは全てお前の妄想だ。俺は……ただの異端者だ」
そう言い捨てて部屋を去る提督。
・・・・
提督が辞職する旨、および大本営の方針に従い軍縮に取り組む旨を全艦娘の前で伝えたのは、それから数時間後の出来事だった。
MI作戦開戦前の熱弁とは異なり、普段通りの淡白な口調で粛々と己の意向を伝える提督。十数分話して、それからそのまま執務室へ戻っていく。何事も無かったかのように。
大戦での勝利の余韻さえも奪い去る提督の唐突な言動に、大講堂は震撼に包まれた。
深海棲艦との大局は決した。大本営が軍縮の動きを推し進めたとしても不思議な話ではない。
だが、あまりにも急すぎる。この国の制海権と制空権を取り戻しただけで、世界にはまだ深海棲艦が残存している。
新たな深海棲艦が出現することが無くなったとはいえ、昨日の今日で突然平和が訪れるわけではない。
足柄(最も気がかりなのは……『艦娘を辞めても、艦娘であった頃の記憶を失うことはない』ということ。直接提督に聞いてみるのが早いかしらね)
・・・・
足柄(先客がいるみたいね。少し盗み聞きさせてもらおうかしら)
響「司令官、一体どういうことかな」
提督「先刻告げた通りだが」
響「……それは、君の意志か」
提督「確認するまでもないだろう」
響「いいや、その必要がある。……すまないが、その書類、君が寝ている間に読ませてもらった。封筒だけ取り替えておいたけれど」 提督の胸ポケットを指差す響
提督「読んだのか。ならば話は早い、そういうことだ。俺もまたそれに従うというだけのこと」
響「わざわざ鍵のかかった私の部屋まで侵入してまで君にその書類を寄越すぐらいだ。脅されているんだろう? 『艦隊指揮から身を引け』と」
提督「脅されているわけではない。大本営の連中と利害が一致しているだけだ。俺も提督であることに拘りはないしな」
響「ま……いいさ。そういうことなら、それでもいい。貴方がこの舞台から降りる気でいるならば……私がその気にさせてあげるよ、司令官」
響「私が……貴方を連れ戻してみせる。必ず」
『君』、『貴方』、『司令官』。彼女がどういう理屈で自分への呼称を使い分けているのか、提督には分からなかった。ひょっとすると響自身にも分かっていないのかもしれない。
ただ、後に波乱が起こるのは確かなのだろう、と提督は予感していた。
足柄「見てたわよ。……随分と提督にご執心みたいじゃない、あの子」
提督「お前は何の用でここに来た?」 機嫌の悪そうな提督
足柄「提督とお話に。でも、ここじゃ雰囲気が出ないし……お昼ご飯でも一緒にどうかしら?」
・・・・
鎮守府内の定食屋(『れつや』という名前らしい)に連れられる提督。足柄曰く昼時は混雑するため、待たずにテーブル席に座れるのは珍しいことらしい。
提督「雰囲気を気にするならこういうガヤガヤした大衆食堂よりも、空いている店の方が良いと思うのだが」
鉄仮面を被っている自分は目立つのではないかと思って周囲を見渡すと、店内に二、三人自分と似た仮面を被っている。
それだけではない。何某かの仮面を被っている者が店内に四、五人はいる。
提督「なんだこの店は。悪魔的儀式でも行っているのか」
足柄「ああ。提督は知らないでしょうけど、MI作戦が始まるちょっと前あたりからうちの鎮守府で流行ってるのよ。戦勝祈願? とかなんとか言って。
私も初めて見た時は面食らったけど、今じゃわりとよく見る光景ね」
提督「ゾッとするな……正気の沙汰とは思えん。心底気持ち悪い」
足柄「自分に憧れてる人たちをそんな風に言うもんじゃないわよ? 風貌を真似るぐらい尊敬しているってことなんですから。
今じゃストラップやタオルまで発売されてるし、今度提督の言行録をまとめた本なんかも出るそうよ」
提督「(俺の許可など一切なくよくもまあ好き勝手に……)最悪だな。退役を早めに表明しておいて助かった、こんな所に居られるか」
足柄「……私が気になるのは。なぜこの鎮守府を解体するのかってこと。提督がお辞めになる理由は、例の目的とか、大本営との何某かの関係性とか、色々あるんでしょうけど。
だからって何もこの佐世保鎮守府を解体して、艦娘も方々へ解散させるというのはよく分からないわ」
提督(例の目的……あぁそうか。こいつと雪風は知っているんだったな)
足柄「さすがに仮面を被ってそこら中をうろつくのは理解出来ないけど、皆それだけ貴方やこの鎮守府に思い入れがあるってことだと思うの。
最初に貴方がここに来た時と比べたら、今の佐世保はすごく居心地が良いわ。他の皆もそう思ってるんじゃないかしら、一体感がある……っていうのかしらね」
提督「最初、か。確かに……ま、お前にそう言わしめるぐらいの働きが出来たのであれば、成功だったのかもしれんな」 出会った頃の足柄とのやり取りを思い出し、クスクスと笑う
提督「だが、なればこそだ。この鎮守府は力を持ちすぎたのだろう。大本営から恐れられるぐらいにな。
艦娘を用いた人類と深海棲艦の戦いが終われば、次に始まるのは艦娘を用いた人類同士の争いになるだろうからな」
提督「この鎮守府で立て続けに三人も提督が死んでいるのは、どうにも水面下でのそういう小競り合いがあったかららしいな。
他鎮守府と共謀して上の支配から逃れようとした者が始末され、次に来た大本営の刺客は逆に他の鎮守府の者の手によって殺され……そういう血生臭い争いがあったようだ」
提督「俺はいわば派遣社員のようなもの。大本営に下がれと言われたら身を引くしかないだろう。俺にとっても都合が良いわけだしな、これでようやく本懐に専念できるというわけだ」
足柄「なるほどね……。誰にも縛られていないように見えていたけど、ガッチリと雁字搦めにされていたというわけなのね」
提督「そうでもないさ。わりと見えないところでは好き勝手やらせてもらったからな。それに……これからは完全に自由だ、俺の好きにやらせてもらう」
足柄「貴方にとっては深海棲艦との決着でさえ本当に通過点だったのね。なんというか……それでこそ、というべきかしらね」
・・・・
目の前に置かれたカツ定食。カツをワイルドに貪り食う足柄。
提督「随分と豪快な食いっぷりだな……。本当にカツが好きなんだな」
足柄「ええ。自分で作ったやつも好きだけど、ここのカツはまた違った味わいがして好きなのよ!
この店の雰囲気も好きね! 食べることが好きな人が集まっていると自分もつられて食べたくなるっていうの? テンション上がっちゃうわよねー」
足柄「なんていうの? 自分の気持ちを昂ぶらせてくれるものが好きなのよ。
自分の感情を剥き出しにするのは大人げないけれど、真剣になった時のあの感覚、熱狂している時のあの衝動こそがこの私を突き動かす原動力なのよ!」
提督「その、自分の感情を高揚させてくれるものの中にカツも含まれるのか」
足柄「ええもちろん。そりゃあテンションアガるでしょうよ?」
提督「ふぅーむ。そうか」 あまり興味なさそうに自分の筑前煮定食を食べ進める
足柄「あら、反応薄いわね……大淀や清霜なら同意してくれるのだけど」
提督「俺もカツは嫌いではないが同意するほどではないな……。が、我を忘れるほど夢中になっている時の感覚というのは心地いいものだよな。
お前たちといたこの数ヶ月間は、俺にとって中々悪いものではなかった。狂奔の中にこそ生の実感があるのかもしれないな」
ニヤリとニヒルな笑みを浮かべる提督に対して、ガタンと席を立ち上がって激しく頷く足柄。
足柄「そうそれよ! それ! やっぱりそうよね。私たち、案外気が合うのかもしれないわねっ!」
・・・・
提督と思わぬところで意気投合(?)して、満足げに定食屋を後にする足柄。
足柄(しまった、興奮し過ぎて肝心の『艦娘を辞めても、艦娘であった頃の記憶を失うことはない』ってのがどういうことなのかを聞き忘れてたわ。
でも……提督が辞めるというのなら、あの背筋がゾクゾクする感覚が味わえないというのであれば。いっそ艦娘をやめてしまうのもありかもしれないわね)
提督の退役発表から数日後。他鎮守府の提督、大本営の将官、政治家、官僚、近隣国の権力者、報道関係者……佐世保鎮守府には多くの人間が出入りするようになった。
多くは提督らの活躍の表彰・評価に訪れていたが、中には提督に取り入ろうとする者や、自らの傘下に引き入れようとする者も居た。
提督はそれらの訪問者全てに対して平等に軽くあしらい、ほとんど相手にしなかった。
しかし“相手にしない”というアクションを起こすためにも行動は必要であり、この時の提督は『ぞんざいな対応をするための対応』に追われるという奇妙な状況の中に居た。
廊下を歩いていた提督の前からやってくるみかん箱を抱えた皐月だった。
皐月「あっ司令官。お疲れ様。今日の面会は終わったの?」
提督「あぁ、全くどいつもこいつも暇な連中だ。……その箱は荷造りか?」
皐月「うん。しばらくしたら鎮守府を離れなきゃだからねー、今から準備してるんだ」
・・・・
大本営からの軍縮勧告。それは全ての艦娘を呉鎮守府と横須賀鎮守府にて管理し、(佐世保や舞鶴も含めた)全ての施設および組織を解体するというものだった。
また、艦娘に対しても政府と協力し退役後の就労支援施策を行い手厚く補助すると約束。元艦娘の社会進出を促した。
元艦娘がなぜ記憶を持ったまま人間社会に溶け込むようになったのか。足柄が数日前に抱いていた疑問は、昨日提督が行った全体向けの通達によって氷解した。
一言で言い表すならば、『そうせざるを得ないから』という理由が正しい。
艦娘の艤装を解体すると燃料や弾薬・鋼材が得られる。艦娘の艤装が解体されれば、それまでの記憶を失った少女が残される。
解体によって得られる僅かな資材と、一切の記憶を失った少女を教育するための費用。天秤がどちらに傾くかは明白である。
ようやく復興が始まったとはいえ、軍事一辺倒だったこの国に人口の十数パーセントを占める少女たちを養う術などあるはずがない。
そこで大本営は、艦娘であった頃の記憶が無くなっても社会に完全に適応できるようになる時期まで待ち、段階的に解体していくことを決定した。
意外にも艦娘の反発は少なかった。艦娘とはそういうもの、兵器とはそういうもの。平和になれば無用の長物となる。必要とされなくなる日がいつか来る……そう教えられてきたからである。
むしろ今まで憧れていた人間社会を体験できると歓迎する者さえ少なくはなかったようだ。
・・・・
皐月「まさか生きてる間に戦いが終わるなんて思ってもいなかったからなぁ。荷造りは進んでるけど、これから何をしようかで迷ってるよ」
艦娘をやめて社会に溶け込むにせよ、他の鎮守府に移るにせよ、いずれここは離れなければならない。
立退きの期日はまだ数ヶ月ほど先ではあるが、自主的な退居を推奨していたためか既に準備を始めている艦娘も少なくはなかった。
提督「何か希望はないのか? 内容によっては取り計らうぞ」
皐月「あー……どんな職に就きたいかってのは決まってないけど、軍に残る気はないかな。呉や横須賀に行ったらまた訓練生時代と大差ない扱いになるだろうしねー。
あっ、そうだ。前から学校に行ってみたいと思ってたんだけど……ダメ?」
提督「ふむ、確かに軍の中に居てはアカデミックな学問や専門性の高い分野は学べんからな」
皐月「いやぁ、大学とかそういうのじゃなくて。ボクも青春というものを味わってみたいんだよ」
提督「なるほど(よくわからん)。……しかし、お前たち艦娘は見た目が人間の中高生と変わらないというだけで中身も脳の発達具合も成人のそれと変わらんだろう。
解体されたら記憶は失せるとはいえ、学習で得た知識や頭脳そのものを失うわけじゃない。艦娘の記憶が無くなったら“ただ分かりきったことを教えられた”という記憶になるぞ」
皐月「そうなんだよねぇ。でもさ、人間って結構見た目に引きずられるもんだと思うんだよね。
そりゃボクだって、足柄さんみたいなプロポーションだったら学校に行きたいだなんて思わなかっただろうさ」
皐月「でも、せっかくこういう見た目でいられるんならちょっと興味があるなーってさ。
普通に勉強して、普通に友達と喋って、普通に恋をして……。兵器として生まれたからこそ、そういう人間としての“普通”を知りたいんだよねー」
提督「そうか……学校か。ま、不可能ではないな。お前や文月には命を救われた礼もあるしな、どうにかしよう」
皐月「本当!? おぉ、言ってみるもんだな。ありがとう、司令官!」
提督(確かに……人は案外見た目につられるものかもしれんな) 無邪気にはしゃぐ皐月を見て、提督は思った
・・・・
「学校に行けるかもしれない」と意気揚々と報告する皐月に対し、歓迎しながらも不安を述べる文月。
皐月「ンー。艦娘って言っても元でしょ? 武器持ってうろついてるわけじゃないんだからさ。
鎮守府の外の人間なんて、艦娘が具体的に何をやってるか分からないんだしさ。国を守ってる正義の味方程度の認識か無いでしょ」
文月「だから怖いって話だよー。変な偏見を持たれて排斥されちゃわないかなって……」
皐月「深海棲艦との戦いが終わったって言っても、まだまだこの国には余裕がない。少なくとも、復興して十分な力を蓄えるようになるまではそんな風にはならないはずだよ」
皐月「まだまだ艦娘という存在は必要さ。深海棲艦によって破壊された臨海都市や港の復旧。漁業の基盤を敷くための整備。近海をうろつく海賊の取り締まり。
制海権と制空権が深海棲艦に取られたまま何十年も経ってしまったから、飛行機や船の技術だって私たちが伝承していかなきゃロストテクノロジーのままだよ多分。
労働力や技術力の都合上、艦娘や元艦娘を無碍に扱ったりなんて出来るはずないってことさ。あ、それと、外国にはまだ深海棲艦がいるわけだしね」
文月「言われてみるとそうかも……。皐月、なんだか変わったね。あたしの知ってる皐月はもっと抜けてて頼りなかった子だったなぁ~ってイメージが……」
皐月「相変わらずボクに対しては遠慮がないよなぁ。ボクだって成長するのさ、ふっふーん♪」
文月「司令官の影響かなぁ。ちょっと真面目になった?」
皐月「それはあるかもしれないなー。ま、結構あの人のこと尊敬してるしねー。やっぱり学ぶことは多いよね。ハッタリの通し方とか、うまく面倒事をサボるコツとかさ」
文月「前言撤回。もっとまっとうなことを学んでよぉ……」
MI作戦成功から三週間の時が流れた。外部訪問者の数も減り、進路の決まっている艦娘は少しずつ鎮守府を離れ始めた。執務室で会話する提督と雪風。
雪風「しれえ……響、行っちゃいましたね」
提督「ああ。あいつはまだ軍属を続けるつもりらしいからな。ま、あいつなら呉に行ってもうまくやるだろう」
雪風「司令は寂しくないですか? せっかく仲良くなれたのに、離れ離れになるのは少し寂しいです……」
提督「寂しくはないな。皆、それぞれ自分の道を歩んでいくのだからな。これまでは各々の利害が一致していたから団結していただけで、これからは違う。それだけのことだ」
提督(願わくば、この先も雪風の力を借りたいところではあるが……無理強いするのは良くないか)
・・・・
コンコンとを扉をノックする音。招き入れる提督。現れたのは見慣れない艦娘。
提督「貴様何者だ。うちの所属にお前のような艦娘は在籍していないが」
磯風「私は磯風だ。大本営の遣い、とでも思ってもらえれば良い」
提督「おや、お目付け役か。この鎮守府は解体されるし俺もじき辞任するというのに、そんなものを遣わす理由が分からないな」
磯風「いいや、私が監視するのは貴方が退役後だ。貴方の動向を監視させてもらう。と言っても、既に以前からこの鎮守府を監視していたのではあるがな。ともかく、だ。
貴方が今後どうするつもりなのかは把握しているし、援助するとも約束しているが……それはこちらに干渉しなければの話。万が一こちらに盾突くようなことがあれば」
提督「逆らうわけないだろう。オーナーに噛みつく飼い犬がいるものか」
磯風「貴方にそのつもりが無くとも……そそのかれて心変わりされては困る。貴方の存在はそれだけ重要人物なのだ。ま、その口ぶりなら今のところは心配なさそうだな」
磯風「と、ここまでが大本営から送られてきた艦娘磯風としてのオフィシャルな話。ここからは私個人の話になる。
見事だな、哀。君は私の予想以上の働きをしてくれた……あと二年はかかると思っていたが」
手取 哀(てとり あい)。提督の本名であるが、今まで誰一人として彼を名前で呼んだ艦娘はいない。
提督「雪風、いつでも砲を撃てる準備をしておけ……嫌な予感がする」 奥歯を軋ませ、警戒心を剥き出しにする提督
磯風「おや、随分な反応じゃないか。なに、私は君に喧嘩を吹っかけに来たわけじゃない。……償いに来たんだ。
もう、君に苦しみを背負わせたくはない。これからは軍や政府などに関わらず穏当に生きていて欲しいんだ」
提督「フッ……苦しみ、だと? 俺は自分の人生に起こる全ては自分の責任だと思っている。何も背負っている気はないし、勝手に心配される筋合いもない。
こうして提督になったのも己の意志だ。そうしなければ、この先の未来にある自分の目的を果たすことが出来ないからそうしたというだけのこと」
提督「これまでの道程も、これからの道筋も……全ては俺の望む通りだ」
磯風「本当に…………。立派に育ったな。少し嬉しい」
提督「母親じみたことを言わないでくれないか、気色悪い(実際の母親がどういうものかは会ったことがないから分からないが……)」
磯風「ふふふ……、まぁそう言うな。今日からたっぷり可愛がってやるから覚悟しろ?」
提督「(金剛とは別のベクトルで鬱陶しい奴だな……)雪風、こいつをなんとかしてくれ。仕事の邪魔だ」
・・・・
私は生まれた時からいつも独りだったような気がします。戦場では死神と呼ばれ畏怖されることはあれど、誰かに認められたことなど一度も無かったのでしょう。
いつからか他人の目を見て話すことが出来なくなっていました。自分以外の人間から見える自分はどんな化物に見えているのだろうかという意識が先行して会話に集中出来なくなってしまう……。
この鎮守府で初めて出来た友人、響。
彼女は私を少しも恐れませんでした。対等の友人として接してくれました。たったそれだけのことだけれど、彼女にとっては当たり前のことなのかもしれないけど。私はそれが心の底から嬉しかった。
そして、司令。
命令に従う兵器として、じゃない。戦場を共にする同僚として、じゃない。敵を屠る“死神”として……でもない。
ただ私、雪風という個人を評価して受け入れてくれた、初めての人。
独りの寂しさを紛らわせるためにひたすらコンピュータと向き合っていた私を、気味悪がらず、それどころか私の特技として認めてくれました。
なぜだか、司令のお兄さんを起動させるために徹夜した時のことを思い出します。
提督はひたすら部品を作ってお兄さんの稼動を安定させるための電源を作るのに躍起になっていて、私は黙々と黒い画面を叩き続けました……。
あの時は自分には無茶だと思ったけど……司令が私を信じてくれるから、頑張らなくちゃって。本当に、我ながらよくやったなあと思います。
それから、MI作戦が発令された直後に司令に呼び出されて……。
司令と司令のお兄さん、私の三人で船を設計して……完成が近づいたら、龍田さんや天龍さんにも手伝ってもらって……あれも大変だったけど楽しかったな。
戦果で尽くすことよりも、それ以外の部分で必要とされていたことの方が多くて、なんだかおかしいですね。
鎮守府が解体される話を聞いて、響が鎮守府を去るのを聞いて、心が大きく揺れました。これからどうしようと、本気で悩みました。
でも、着いていけなかった。彼女は彼女で、自分の道を歩み始めたから。半端な覚悟で着いていくべきじゃないと思ったから。
そして今。目の前の司令を見て。どういう関係かは分からないけど司令に母親のような愛情を向ける磯風を見て。鎮守府の地下室に居る司令のお兄さんを思い出して。
私も司令の傍に居続けたいと思いました。たとえ鎮守府が無くなっても、それが私の意志だと、今はっきりしました。
雪風「しれぇ! これからは雪風もお傍にいますね!」
提督「??? 唐突すぎて話が読めないが……そう言ってくれるのであればありがたいな。俺にとってお前の力はまだまだ必要だ」
困惑の眼差しを向ける司令。やっちゃいました……。そりゃ、いきなり自分の思っていることを話されたらそういう反応になりますよね。
でも、受け入れてくれるんですね。なんか……ちょっと照れくさいです。
足柄「トンカツは一枚ずつ揚げるのがコツなのよ。横着して2枚以上同時に入れると油の温度が下がってうまく揚がらないのよねー」
清霜「油の量は多めにね。天ぷらを作る時よりも温度は低めなのがポイントよ。160℃から170℃ぐらいがベストかしら?」
足柄「揚げすぎると食感がパサパサになっちゃうのよね。揚げた直後に切ると少し中のお肉が赤いぐらいが丁度いいの。衣の中に余熱が閉じ込められるから、それぐらいでもちゃんと火が通るのよ」
朝霜「……アタイに向けて解説してんなら、聞いてないししなくていいぞ。っていうか、わざわざ休暇貰って来てみたらまーたカツかよ!」
足柄「ま、そう文句垂れないのよ。ほら、お皿用意して」
・・・・
一同「いただきまーす!」
大淀「やっぱり足柄さんが作るカツが一番美味しいですね! このためだけに雇ったと言っても過言ではありません!」
足柄「ちょっとそれどういう意味?」
清霜「まぁまぁ。そーいえば、朝霜と霞は呉に行ったんだよね。そっちの鎮守府はどう?」
朝霜「ま、退屈だわなー。復興作業だなんだ言われてもやる気でねーしなぁ……。霞は外国の深海棲艦を叩く部隊に配属されたみたいで忙しいらしいけど。うらやましー」
朝霜「個人的に大淀と清霜が艦娘辞めたのはなんとなく分かるけどさ、足柄まで辞めちまったのは驚きだわなー」
足柄「ええ。天下の横須賀や呉といえど、あの提督がいた佐世保には敵わないわ。ちょーっとだけ様子を見に行ったりはしたけど、全然昂ぶらなかったんだもの。士気が違うわ」
朝霜「ほぉー。狂犬足柄を飼い慣らす奴がいるってのは驚きだなぁ」
大淀「そういえば、佐世保鎮守府は私たちが離れた後どうなりましたか?」
朝霜「すぐに更地になったみたいだよ。鎮守府の跡地には“宇宙開発研究所”予定地、みたいな看板が立ってるとか聞いたっけな。あと、近くに喫茶店とか道場とか学校ができたらしい。霞が言ってた」
清霜「へー……手取司令、あの後何してるんだろうね。あのまま辞めてなければ絶対偉くなれたのにねー」
足柄「(フッ……そう。“宇宙開発研究所”ね。)ま、あの提督のことだからわりと好きに生きてるんじゃないかしら。そんな気がするわ」
白塗りの壁に彩られた、西洋風の瀟洒な建物。大淀に案内されて部屋に入ると、足柄と清霜は感嘆の声を上げる。
清霜「鎮守府の頃と比べると天井は低いけど……設備は最高だねー。最新鋭オフィスって感じ!」
部屋に入るやいなやふかふかのソファにダイブする清霜。
大淀「フフフ……驚いてくれましたね」
足柄「シンプルだけど洗練されてるあたり、大淀らしくて良いわね」
大淀「ええ、この“大淀法律事務所”には退職金の五分の三をつぎ込みましたからね。もっと驚いてくれなきゃハリが無いというものですよ」
足柄「しっかし……アンタ一体いつ司法試験なんか取ったのよ。そんなことおくびにも出さなかったのに」
大淀「そりゃあ……落ちてたら恥ずかしいですからね。勉強自体は数ヶ月前の軍縮のお達しが来てから初めてましたけど……手取提督の前代の秘書艦をやっていた頃から興味があったので」
清霜「おぉ~! じゃあ私たちがだらだらと鎮守府で過ごしてた間も黙々と勉強してたわけね。偉い!」
大淀「えっへん。ま、ちょっとした野望でしたからね。実現するとは思いませんでしたけど」
足柄「どうして弁護士の資格を取ろうなんて思ったわけ?」
大淀「身も蓋もない言い方をすれば……ニーズの関係ですかね。法律というものは基本的に知らない人がソンをしますからね。
私たち艦娘は戦闘に必要なことだけを学んできました。一般的な社会常識に関する知識はお世辞にも多いとは言えないでしょう。
そして、知らなければ間違いを起こしてしまうこともあるでしょうし、知らないのを良いことに利用されてしまうこともあるでしょう。
そういった場合、より元艦娘の視点で物事を考えられる者が弁護に立つべきではないか、と思いましてね」
大淀「詰まるところ自分の身内を守りたい……ということになるんでしょうか。我ながらあまり立派な理想じゃないですね。
自分なりに正義とは何かを追及したい、ってのもありますけどね。あとは『異議あり!』って言ってみたいかな……」
清霜「やっぱりそれかあ。言いたいよね~『異議あり!』って」
足柄「『異議あり!』」 スパァァァン
清霜「おお! すごい! なんか足柄は検事っぽいよね」
足柄「そう? じゃあここの事務員やめて検事になってみようかしら」
大淀「だ、ダメですダメです! 足柄さんはここに居る『意義あり!』ですっ!」 ズビシッ
朝霜(なーにやってんだこいつら)
朝霜がオフィスに入ってきても誰も気づかない。ツッコミ不在の空間とは恐ろしいものである。
・・・・
大淀法律事務所の二階は居住スペースになっていて、それぞれの部屋やキッチン、風呂などが設置されている。
キッチンに、エプロンをつけた足柄と清霜が立っている。その様子を朝霜がつまらなそうに見ている。
足柄「トンカツは一枚ずつ揚げるのがコツなのよ。横着して2枚以上同時に入れると油の温度が下がってうまく揚がらないのよねー」
清霜「油の量は多めにね。天ぷらを作る時よりも温度は低めなのがポイントよ。160℃から170℃ぐらいがベストかしら?」
足柄「揚げすぎると食感がパサパサになっちゃうのよね。揚げた直後に切ると少し中のお肉が赤いぐらいが丁度いいの。衣の中に余熱が閉じ込められるから、それぐらいでもちゃんと火が通るのよ」
朝霜「……アタイに向けて解説してんなら、聞いてないししなくていいぞ。っていうか、わざわざ休暇貰って来てみたらまーたカツかよ!」
足柄「ま、そう文句垂れないのよ。ほら、お皿用意して」
・・・・
一同「いただきまーす!」
大淀「やっぱり足柄さんが作るカツが一番美味しいですね! このためだけに雇ったと言っても過言ではありません!」
足柄「ちょっとそれどういう意味?」
清霜「まぁまぁ。そーいえば、朝霜と霞は呉に行ったんだよね。そっちの鎮守府はどう?」
朝霜「ま、退屈だわなー。復興作業だなんだ言われてもやる気でねーしなぁ……。霞は外国の深海棲艦を叩く部隊に配属されたみたいで忙しいらしいけど。うらやましー」
朝霜「個人的に大淀と清霜が艦娘辞めたのはなんとなく分かるけどさ、足柄まで辞めちまったのは驚きだわなー」
足柄「ええ。天下の横須賀や呉といえど、あの提督がいた佐世保には敵わないわ。ちょーっとだけ様子を見に行ったりはしたけど、全然昂ぶらなかったんだもの。士気が違うわ」
朝霜「ほぉー。狂犬足柄を飼い慣らす奴がいるってのは驚きだなぁ」
大淀「そういえば、佐世保鎮守府は私たちが離れた後どうなりましたか?」
朝霜「すぐに更地になったみたいだよ。鎮守府の跡地には“宇宙開発研究所”予定地、みたいな看板が立ってるとか聞いたっけな。あと、近くに喫茶店とか道場とか学校ができたらしい。霞が言ってた」
清霜「へー……手取司令、あの後何してるんだろうね。あのまま辞めてなければ絶対偉くなれたのにねー」
足柄「(フッ……そう。“宇宙開発研究所”ね。)ま、あの提督のことだからわりと好きに生きてるんじゃないかしら。そんな気がするわ」
>>496で書いた『Phase C』ですけど、コンマの値が素数だった場合だけでなく、
ゾロ目(222とか)やキリ番(234とか)だった場合も発生条件に加えることにします。
それでもわりと発生率低そうですけど。
あと>>501はコピペミスです。暴発しました許して。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~55/100)
・響の経験値+1(現在値11)
・足柄の経験値+2(現在値22)
・雪風の経験値+1(現在値9)
・皐月の経験値+1(現在値8)
・翔鶴の現在経験値:14
・金剛の現在経験値:15
----------------------------------------------------------------------
////チラシの裏////
おはようございます。土曜日に投稿しようと思ったら徹夜してた。ダメすぎ。
まーた二週間かかっとりますね。もっとガツガツ書いてかなアカンのですよ。
このペースだと完結が最短でも10月半ばとかその辺になっちゃいますからネー……。
しっかし書いてて楽しいですな!
楽しいなら安価が出揃ったタイミングで書き始めればいいじゃん! →はい
いやね、楽しいけどね……楽しいけどほらあれさ。
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『Phase B』【56-60/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~19:雪風
20~34:翔鶴
35~49:金剛
50~67:響
68~80:足柄
81~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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えい
>>504-508より
・金剛3レス/皐月1レス/響1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:270 なので『Phase C』は発生しません)
『足柄と食事したときに調味料入れでチェスしながら会話』……はい。
これ……足柄メインの時でもいいですかね(次フェーズとか)。
流れ的に出番なさそうだし無理矢理出すよりメインで書いた方がいいよねー、と。
来週末ぐらいには投下したいですね。そんな感じで行こうと思います。
むーーー。先週末にと言ってましたがやっぱりダメでした。ゴメンナサイ。
遅くとも水曜日までにはなんとか……! 早ければ今日明日でどうにかお披露目したいですハイ。
せっかく(?)セルフ締め切りを遂行出来なかったので、また関係あるようでないようなどうでもいい話でもしましょうか。
メインで書きたかったキャラの話とかちょっと語っちゃいますか。なるべく本編関係なさそうな方面でね。いくつか書いてみますよ。
誰得かは知らねえっすけど。
・神通
わりと書きたかったキャラその1。ゲームでは夜戦で戦艦殺すウーマンとして皆さんも重宝してるんじゃないでしょうか。
儚くも力強いキャラクターが魅力ですよね。二次創作ではわりと鬼教官として描かれることが多いですが、それを逆手に取って書いてみたかったなーと。
個人的に神通はあまり後輩に無茶な指導をするタイプじゃないと思ってまして。あくまで個人的にですけど。
ホラ、時代が時代ですし。死ぬほど努力! 育まれる友情! 死線を超え勝利! とかそういう潮流はあんまないじゃないですか。
僕はそういうのも嫌いではないですけど、自分が書くとしたら神通がそういうこと言ったりさせたりするイメージは無いですね。
後輩相手には厳しいけど理不尽ではない感じの、わりとロジカルでクールな神通さんが書きたかったですね。
一方で提督相手には自分の悩みを打ち明けたり……とかそういう感じですね。なにせ体が火照っちゃいますからね!(?)
中間管理職としてもエースとしても活躍する神通さんとか、そんな感じのアレを書く予定でした。まあ安価で出なかったんで特に今後も登場しないと思いますが。
・山雲
わりと書きたかったキャラその2。結構新キャラなんで、「誰?」って人も居るかもしれませんが。デリケートでセンシティブな爆雷の子です。
こういうフワフワした雰囲気のキャラいいですよね~。ちょっとどのキャラとも系統が違うというか、なかなか味のあるキャラですよね。
自分が書いてその魅力を引き出せるかっつったら微妙ですけど。浮き沈みのなさそうな彼女の内面を探っていったりするのも面白いかなと。
起伏のないように見える中から僅かな情動を探っていくみたいなそんなニュアンスのワビサビあるアレとかがやってみたかったっすね。
朝雲との絡みもいいですよね。彼女らどんな話してんだろとか想像するもをかし。基本的には彼女とのふんわりした日常を書けたらなぁとか思ってました。
ま、あんまメジャーなキャラじゃないので選ばれるとはハナから思ってなかったっすけど……。
・熊野
わりとの子その3。いいですよねこういう腐れ縁タイプの子。
「一捻りで黙らせてやりますわ!」とか川内のことをどこかのバカよばわりしてたりとか、育ちのわりに結構荒っぽい性格してますよね。
でもあばたもえくぼというか、そういう尖った部分があるキャラの方が書きやすいんですよね、書く側としては。
歯に衣着せぬ物言いとか舐め腐った態度とかがすごく相棒ポジションで映えるんだよなー。
この子はわりとシリアスな話でも活躍しそうかな、とか思ったり。あんまりそういうイメージないかもしんないっすけれども。
なんだろう、このキャラは追い詰められた時に精神的な高貴さを見せつけてくれるんじゃないかなあとか勝手に思っています。
普段は減らず口ばかりだけど、やる時はやる……みたいな方向性ですかね。お嬢様キャラとはあんま合致してないっすね。
まぁでも……気取ってるわりには結構俗っぽいじゃないですか(何
他にもありますが眠気が来たので今回はここまで。っていうか、眠い状態で文章書くとあんま良くないっすね。
////チラシ////
最近(と言っても少し前)漫画版アルペジオを読みました。
「アルペジオ? 艦これとコラボしてたっていうやつだよね」ぐらいの認識しかなかったので、わりとゆる~い感じなのかなとか思ってましたが(なんだその偏見は)わりとガチですね。面白いですね。
と同時に艦これアニメイションもこういうディレクショナリティをチョイスしていたらもっとエキサイティングなエクスペリエンスをプロバイド出来たのではなかろうかとはほんのちょっぴり思いました。
ま、それはそれこれはこれであんまり関係ない話なのでやめときましょう。
旧佐世保鎮守府正門前、現在は宇宙開発研究所予定地という立て札が立っている。
急ピッチで建設が進んでいるようで、作業員が忙しなく出入りしている。
榛名と霧島は金剛に呼ばれてここで待ち合わせをしていた。
榛名「お姉様はどうして私と霧島を呼んだのでしょうか。手伝って欲しいことがある……だそうですが」
金剛「フフフ……よくぞ訊いてくれまシタ……! 実はワタシ、政治家になろうと思ってマース! 二人にはそのための手伝いをして欲しいノデス!!」
真顔になる榛名と霧島。金剛の自信に満ちた表情に対し、どう声をかけていいのか分からず顔を見合わせる。
金剛「ア、アレ……? なんですカその冷たい反応は……。い、一応Policyとかも考えてありマスヨ!」
霧島「お姉様、シビリアンコントロールってご存知ですか?」
榛名「文民統制といって、簡単に言うと軍人や言に所属していた経歴のある人は政治家にはなれないんですよ。私たち元艦娘にもそれは適用されます」
金剛「マジ……?」
霧島「マジですよ。というか、その為に私たちを……?」
・・・・
金剛「い、妹たちが頑張ってるから……ワタシも何かしようと思ったのに……みっともないデース……」
霧島「いや……別に金剛お姉様のみっともない所なんて昔からよく見慣れてますし、今更どうとも思いませんよ」
金剛「ウワアアァァァァァン!! クソメガネ眼鏡割れろデース! だから二人とは同じ艦隊になりたくなかったんデス!」
榛名「(お姉様かわいい……)ま、まぁ、聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥って言いますし……」 金剛の様子を見て笑いを堪えている
金剛「ワタシ別に聞いてなかったヨネ!? 微妙に雑なフォローするぐらいなら黙ってて欲しいデース! っていうか、クスクス笑ってんのバレバレですヨッ!」
金剛「ウゥ……こういうのは私のキャラじゃないデース……」
霧島「ところで、どうしてお姉様は政治家になろうと?」
金剛「抉ってきますネ……。ワタシが鎮守府を出た後、volunteerをしていたのデスガ、会う人会う人皆がワタシたち艦娘は希望だって言ってくれたカラ……。
艦娘のワタシが政治家になったらもっと皆の為になれるかなって……。皆をワタシの力でHAPPYにしたいデース」
霧島「希望、ですか。そういう方向性ならアイドルなんてどうでしょうか。難しいとは思いますがお姉様なら無理ではないかなと……」
金剛「もう既に偉大な先駆者が居ますネ……。今度舞道館でライブやるらしいデスヨ……流石のワタシでもあのバイタリティには敵いそうに無いデス……」
鎮守府解体の報が伝えられるやいなや真っ先にアイドルの世界に身を投じ、実力だけで頂点にまで上り詰めたシンデレラガールの名を知らぬ者などこの世にいるはずもなかった。
榛名「そもそも『皆を幸せにする』って、皆って具体的に誰ですか。人によって幸せなんてそれぞれ違いますよ。手を差し伸べても感謝されるどころか憎まれたりすることだって少なくはありませんし……」
金剛「まさか妹にガチ説教を食らうとは思ってなかったデース……」
榛名「ごめんなさい。でも、私も昔それで悩んでいたので……。お姉様はまず誰かを幸せにしようと考えるよりも自分が幸せになった方が良いのだと思いますよ?」
霧島(昔からお節介焼きで厚かましいと思っていたけれど……榛名も榛名なりに考えていたのね)
金剛「ワタシにとっての幸せ……Hmm。ヤッパリ、テートクに会いたいですネ……」
霧島「手取司令と? 第一艦隊の旗艦から降ろされて、てっきり恨んでるとでも思ってましたが……それは意外ですね」
金剛「だまらっしゃい! ワタシとテートクの間には山よりも高く海よりも深い絆があるのデース!」
榛名(と思ってるのはお姉様の方だけなんじゃないでしょうか……とか言ったらまたうるさいのでやめておきましょう)
霧島「おぉー、もしかして司令のことをお慕いしてるとか?」
金剛「そっ、そんなんじゃありまセンッ! ワタシは、提督に対してはそういうのじゃなくてもっと……」
金剛「やっと、少しだけ近づけた気がするから……。もっと知りたいんデス……テートクのこと。このまま離れ離れじゃ、惜しい気がするんです……」
霧島(この姉、見かけによらず純情! そして初心! だがそれがいい……!)ガタッ
榛名(こんな乙女チックなこと言う程度には本気みたいですね)ガタッ
身を乗り出す榛名と霧島。先ほどの白けた対応は正反対に、若干興奮した様子だ。
榛名「決まりですね! 手取提督の足取りをつかみましょう!」
霧島「他の艦娘から情報を聞き出して手かがりとなる情報を集めた方が良さそうですね。司令が退職後の自分の居場所を漏らすとも思えませんが、一から探すよりは効率がいいでしょう」メガネクイッ
金剛「ちょ、ちょっと! 何勝手に話を進めてるんデスカ!? そ、それに、仮に会うとして、いきなり前の仕事の部下に会いに来られても迷惑なだけでしょう……」
榛名「理由なんて後から作ればいいじゃないですか。お姉様そういうの得意そうですし。会いたいから会いに行く! それだけですよ!」
金剛「……イ、イミワカンナイデース!! 強引に押し切ろうとするのやめてくだサーイ!!」
二人に引きずられながら鎮守府跡地を後にする金剛。
霧島「MI作戦であの第二大隊の旗艦に選ばれた赤城さんなら、何か知っているかもしれません。早速会って話してみましょう」
金剛「エー……アカギとはあんまり仲良くなかったから会いたくないんですケド……」
赤城は艦娘を辞めた後に弓道場を開設し、ほぼ無償で近隣住民や志願者に弓術を教えている。
現代武道の弓道とは教え方に少し差があるが、艤装の力が無くとも彼女の卓抜した技術は人の域を超えていた。
そのため今では弓道の達人が彼女に教えを乞いに来るほど赤城弓道場の名は知れ渡っていた。
和室に案内される金剛たち。この施設の客間らしい。
赤城「珍しいですね。私に用があるみたいですけど……どうかしましたか?」
金剛「Uh……赤城に用はないんですガ……。テートクの行方を知りませんカ?」
赤城「残念ですが、私にも分かりませんね……。本人に聞いたのですけど、答えてくれませんでした」
金剛「そうですカ……。赤城にも言ってないってコトは、きっと他の誰にも居場所を伝えてなさそうデスネ……」
赤城「どうして提督を探しているんですか? 提督を探しているということは、何か目的があるのでしょう。違いますか?」
金剛「(この感触、何か知っている……? 少し揺さぶってみますか)目的があったとして、それをここで教える必要はありまセン」
赤城「それもそうですね。そういえば……それとは別に私も貴方に伺いたいことがあったんですよ。MI作戦の時、貴方はどうして戦線に加わったのですか?
第一艦隊から外されて、私の知る限りではどこのユニットにも属していなかったはず。作戦の名簿にも名前が書かれていませんでしたし、提督から遠回しに戦力外通告を受けたのだと解釈していましたが……」
金剛「そういうイジワルな言い方をされると答える気をなくしマスネ~」
部屋にあった空の湯飲み茶碗を勝手に取り出し、持参した水筒で紅茶を注ぐ金剛。
榛名(い、居心地悪いですね……こんな仲悪かったんですねこの二人)
赤城「答える必要がない、答えたくない。理由としては結構ですが、自分がそういう態度で接しているのに私から情報を聞き出そう、というのでは不公平だと思いませんか?」
金剛「……という言い方をするってことは、そっちもまだ何か隠してるってことですよネ? ……まだるっこしい話はやめにしまショウ。
お互いにお互いの情報を欲している。なら、手持ちのCardをOpenするだけで済む話でショ?」
金剛は、自分が提督を探している理由は、純粋に彼に会いたいからだということを話した。
MI作戦時に自分は新たな深海棲艦の出現を食い止めるための任務を遂行していたのだと掻い摘んで説明した(南極に行ったことや精神世界で怪物と対峙したことまでは話さなかったが)。
赤城は素直に驚いていた。自分に力があるのを良いことに艦隊の和を乱し身勝手な振る舞いをしていた彼女に、そんな大役が与えられていたとは思いもよらなかったからだ。
(ついでに榛名や霧島もMI作戦序盤で金剛が何をしていたのか知らなかったため驚いていた)
赤城(任を果たすだけの力があるとあの提督に認められ、そして実際に期待に応えてみせた……ということですか。どうにも私は彼女を過小評価していたようですね)
金剛「サ。次はそっちの番ですヨ?」
赤城「分かりました。話しましょう……と言っても、手取提督の居場所を知らないのは事実です。
彼が辞意を示した時に、私が鎮守府を離れる時に、彼が提督としてあの鎮守府に居た最後の日に。三度尋ねましたが、三回とも断られてしまいました」
霧島(三顧の礼ならずですか。司令はそこまで厳しい人ではないという印象でしたが……確かにプライベートな話はしたがりませんでしたね)
赤城「ならば、彼の道について行こう……とも思ったのですが。それも断られてしまいました。手厳しいですね。
ですが、彼への手がかりを何も得られなかったわけではありません。彼の連絡先を教えてもらいました」
金剛「Oh! それ、ワタシに教えてくれませんカ? もちろんタダでとは言いませんヨ? ア、お金で解決するとかそういう意味じゃないですケド」
赤城「ごめんなさい。それは出来ません。提督の信頼に背くことになりますから」
金剛「デスヨネー」
赤城「ですが。私が『会う必要がある』と判断した時に、応じてくれるそうです」
金剛「I see. ナルホドナルホド……。じゃ、赤城に提督と会う必要があると思わせればいい、ってことですネ」
赤城「貴方にそれが出来ればの話ですが、ね」
金剛「オッケー。それだけ聞ければ十分デス。この金剛、舐めてもらっては困りマスヨ?」
・・・・
金剛さんたちは『私が提督と連絡を取り、直接会う必要がある』と思わせるような情報を探しにどこかへ行ったようです。
彼女が提督から密命を受けていたことも驚きですが……もう一つ驚いたのは、彼女の表情ですね。
提督に会いたいと語る彼女の姿からは、一切の私欲も打算も感じられなかった。
私の知る彼女は、こんな風に目をキラキラと輝かせて話をしたりはしない人物だった。
野心でも、恋慕でもなく、ただ純粋に会いたいのだという思いが伝わってきた。
彼が提督についての話をしていた時の、幼子のような天真爛漫な表情が印象深く残っている。
あの姿こそが彼女本来の気質なのか、提督に影響されて発露した彼女の一面なのかは分からない。
ただ……彼女は自分よりも提督と長い時間を過ごしてきたのだということだけは、悟ってしまった。
今、私の胸に渦巻いているこの感情が……嫉妬、なのでしょうか。彼女は……私が知らないあの人の表情を知っている……。
いえ、よしましょう。これ以上考えるのは。また、拒まれた時の事を思い出してしまう……。
何事もない日常の感覚に身を慣らしましょう。安らぎに満ちた平和の味を噛み締めましょう。あの人は……私にとっての、在りし日の幻想なのだから。
旧佐世保鎮守府や赤城の弓道場からそう遠くない場所にある喫茶店『モンテーニュ』。
テーブルを囲んでいる金剛・榛名・霧島の三人。ここで今後の作戦を練るようだ。
榛名「お姉様、赤城さんとのやり取りすごかったですね……俄然やる気じゃないですか」
金剛「べ、別にそういうワケでは……でも、ここまで来たらテートクの顔を見ずには下がれませんからネ! ワタシも腹を括りました。
要は赤城や提督をギャフンと言わせるScoopをバシッと突きつけてやれば良いってことでショ!」
霧島「その意気ですお姉様! でも、どうして赤城さんは自分が提督と連絡を取れることを話したんでしょうね」
榛名「どこかお姉様を試しているような雰囲気がありましたよね」
金剛(まるで“何か”を期待しているかのようだったんですよネ……彼女も提督に会いたいと思ってはいるはず。
提督を引っ張り出せるほどの“何か”……)
霧島「うーん……スクープ、ですか……。と言っても、ここ最近はニュースも平和そのものですからねぇ。
違法漁や略奪などの海賊行為もだいぶ減ったみたいですよ。それまで深海棲艦と戦っていたような艦娘が海上パトロールしているみたいですし、当然といえば当然ですが」
金剛(ですよねぇー……今のところは“何か”が起こりそうな気配がないんですよネー)
・・・・
金剛「甘すぎデース……榛名パス」
金剛の目の前の皿には、大盛りスパゲッティが鎮座している。
スパゲッティといってもただのスパゲッティではなく、麺の上には生クリームやフルーツがトッピングされていて、雰囲気はパフェに近い。
が、目の前にある“それ”はパフェのような生易しい代物ではない。麺はイチゴシロップ(のようなもの)で着色されているらしく、ショッキングすぎるピンク色をしている。
ギトギトに油ぎった熱々の麺、麺の熱で溶ける生クリームと生温いフルーツ、苺(のような何か)の甘ったるい香り……。
甘党を自負していた金剛もこれには難渋しているようである。
榛名「ひゃるな……らいひょうぶじゃないれす……」
こめかみを押さえる榛名。目の前の山盛りのカキ氷を減らそうと努力していたものの、ついにスプーンを机の上に置く。いわゆる匙を投げたという状態に限りなく近いようだ。
とても数分前に『カキ氷! いいですね~……子供の頃を思い出します』などと可愛らしいことを言っていた女性と同一人物とは思えない。
頭を抑え天を仰ぎ見る彼女の苦悩に満ちた表情は、シスターが神に祈りを捧げる姿のそれにどことなく似ている。
霧島「自分で頼んだんだから、なんとかしましょうよお姉様方……」
金剛「霧島! 榛名のばっかり食べてないで、ワタシの方も食べるデース!」
霧島「いやそっちはちょっと……」
二人とは対照的に、ストイックに自分の料理を食べ進めている霧島。
激辛ソースで塗りたくられたピラフを一口二口食べては榛名のカキ氷に手を伸ばしている。
日頃から辛い物を好んで食べていたのかギブアップする様子はなさそうだが、彼女の身体は明確に危険信号を発しているようで滝のように汗を流ている。
金剛「どうして霧島は自分しか食べられないようなものを選んじゃうんデスカ!? そもそもそんな辛いのに味がするんですカ?」
霧島「ええ。味というには微妙ですが……ナノデスソースのアイアンボトムサドンデス味に似てますね」
榛名「なんですかそれ……」
霧島「でも、量が多いのさえなんとかなればどうにかなりそうじゃありませんか? あの、その、なんていうか、身内にもっと独創的な味の料理を振舞う方が……」
金剛「確かに……ヒエーのよりはマシですネ……。そう思えばわりといける気がしてきまシタ」
・・・・
呉鎮守府第三艦隊会合室。作戦指示書を旗艦である比叡に届けに来たようだ。
響「これが次の作戦の指示書だ。……欠伸の出るほど簡単な内容だが、一応機密だ。他言はしないように」
比叡「はい! ありがとうゴザイマス!」
響「しかし……意外だな。君が姉と離れてまで艦娘であり続けることを選ぶとは思わなかったよ。君はどうしてここに居ることを選んだ?」
目を細めた渋い顔をして、うーんと唸る比叡。
響「いや……難しいなら無理に答えなくても構わないが」
比叡「んー……理由と言えるかは微妙ですがねー。今のお姉様は何か違うというか、うーん。今まで私が見てきたお姉様と違うんですよねえ。丸くなった、んでしょうけど……。
それが気に食わないんですよね! なんでかは分かりませんがッ!」
響「むっ、意外だなそれは……興味が湧いた。話が聴きたい」
比叡「いや、お姉様のことは今でも尊敬していますし、嫌いになったわけではありませんが。お姉様に聴かれた時も、やんわりと伝えてはぐらかしましたけど……ちょっと納得いってないですね。
なんですか艦娘をやめてボランティアを始めますって……。榛名や霧島みたく明確にやりたい職業があったならともかく……」
比叡「大体、あれだけ練度が高いのに艦娘をやめるだなんて勿体なさすぎますですよ! 一体何のためにあれだけ強くなったっていうんですか。
そりゃ自分がオイシイ思いをするためだとか、偉くなって人に認められたいからだとか、動機は邪だったかもしれませんけど! それを全部捨てて、今度は慈善家にでもなるのかって感じですよ!」
不満というのはひとたび口にすると堰を切ったように零れてくるものである。比叡の愚痴にも似た不満を、響は少し愉快な様子で聞いていた。
実のところ響と比叡はそこまで親しい間柄ではない。佐世保に居た頃は所属していた艦隊が異なり、性格的にも似通った部分はない。
しかし『同じ佐世保に居た艦娘』という経歴が親近感を生んだのか、このとき二人は妙に意気投合していた。
呉鎮守府大会議室。鎮守府を総括する井州提督、重鎮である大和・武蔵、最古参の吹雪・陸奥など錚々たる顔ぶれが揃っている。
この会議に響もまた出席していた。旧佐世保鎮守府からの移入組も代表としてである。
井州「少し堅苦しい形式になってしまったが……あまり気張らなくていいよ。どうにもお堅いのは似合わないしなぁ。
っと……ひとまず、皆にはお礼を言わなきゃだね。未だに私についてきてくれてありがとう」
呉・横須賀鎮守府は、軍縮の影響によって元来在籍していた艦娘のほとんどを辞めさせなくてはならなかったという事情があった。
佐世保をはじめとする他鎮守府の艦娘を受け入れなければならなかったためである。
呉・横須賀に在籍していた艦娘は、鎮守府に残留するために厳しい試験を突破する必要があったのだった。
大和「私たちにとっては、ここが生まれ故郷みたいなものですから」
武蔵「フッ……地獄の果てまでお供させてもらうさ」
井州「うーむ。にしても大本営もヒドイ事をするよなぁ。わざと外部からの艦娘を受け入れさせ、元からいた艦娘は離れさせるなんてね。あっいや、君らに対して不満があるわけではないのだが」
響の方に笑みを向ける井州提督。手取提督と比べると態度や喋り方にまるで威厳がないと響は思った。
響「いいえ、結構。そう思うのも無理はないだろう。新参者よりも馴染み深い面々の方を遇したいのは当然だ」
井州「君らもうちの鎮守府に加わった以上は家族のようなものだし、もちろん君たち流入組のことも考えているが……どうにも軍縮の制約が厳しくってね。
まるで大本営は鎮守府が存続することを望んでいないかのような動きを見せているんだよね。艦娘が艦娘であり続けることを許さない、なんてところかな。完全にこっちの被害妄想だけど」
陸奥「深海棲艦との戦いに区切りが着いた以上、そういう動きになるのは分かるけれど……どうにも急すぎるのよね。提督率いる艦娘勢力がクーデターを起こす、なんて恐れているのかしら」
井州「であれば、手取提督が退役させられたのも納得行くんだけど……。やっぱり分からないなぁ、真意がどうなのか。かつて佐世保は紛争地帯だったからねぇ……」
響「紛争地帯、とはどういうことかな。手取提督からそういう話は聞かされていなかったから、純粋に興味がある。聞かせてくれないか」
井州「あぁ。ま、ちょっとしたいざこざがあってね……。あの提督が来る前に事故や事件があったのは君も知っているだろう? あれは我々のような各鎮守府と大本営の争いがあったからなんだよ。
……私はあまりそういう手荒なのは好きではないが、他の鎮守府の提督もそうであるとは限らないからね。大本営の刺客とこっち側の人間とで、いざこざがあったわけさ。水面下でだけどね」
井州「その点あの提督はよくやっていたよ。どの立場にも属していないような立ち振る舞いだった。恐らくは大本営側の人間なんだろうが、にしてはやたらこっちに対しても協力的だったからね。
そして真意の分からないまま退場していった……。全く食えない御仁だよ、どうやっても勝てる気がしない」
井州「後から振り返ってみればMI作戦時の彼の行動なんかは間違いなく大本営の意図から外れた行動なんだよねぇ。あちらさんからすれば呉や横須賀といった抵抗勢力の戦力は削いでおきたいだろうから。
彼は深海棲艦にこちらの作戦が看破されていることに気づき、やたら作戦の変更を進言してきた。あの時私は彼を信じられなかったからそのまま作戦通りの動きをしてしまったが……。
ともかく、彼が完全にあちら側の人間だったなら、そんな忠告はせず見殺しにしていたと思うんだよね」
武蔵「呉の我々を囮にして敵を叩いた方がスムーズにやれただろうにな」
井州「これでも私は彼には感謝しているんだ。彼の戦略が結果的に私たちの艦娘の命を守ることにも繋がったわけだからね。感謝しないわけがない」
井州「私も、横須賀の提督も、権威欲でこの仕事を続けているわけじゃない。自分の艦娘を守りたいんだ。横須賀の彼のやり方は手荒すぎるゆえに大本営との対立を生んでしまったが。
私と思想の根本は同じだ。だからこそ私は彼の側についている。もちろん、彼の『自分の艦娘を守るためなら人を殺しても構わない』とでも言わんばかりの非人道的なやり口は賛同しないがね」
井州「提督とはつくづく業の深い職業だな。国を守るため、国民を守るため……そのために指揮をしていたはずなのに、いつからか目的が変わってしまうんだ。
私は君たちを失うことが何よりも哀しい。国よりも、平和よりも……今は君たち艦娘を守るためにこの命を捧げたいと思っているぐらいにね」
井州「だから今の大本営のやり方とは相容れないんだ。もちろん、離れいこうという意志を持って離れていく艦娘については仕方ないと思う。むしろ本人の望むべき道に進むのだから喜ぶべきだ。
だが、まだ軍に残ることを望んでいる艦娘たちから強引に居場所を奪おうとする……これを私は見過ごせない」
井州「っと、いけないいけない。こういう真面目な話はあまり私らしくないね。とにかく、まあ佐世保とその周りではそういうことがあったんだよ。本題に戻るね。軍縮への対応だ」
吹雪「ええ。大本営からの通達では、今年中に艦隊の規模を現在の半分にまで縮小するように……とのことです。とはいえ……」
陸奥「不可能ね。今この鎮守府には、外から来たにせよ元から居たにせよ、私を含めてテコでも動かないようなのしか揃っていないもの。ここを離れるなんて絶対に嫌がるわ」
響「…………だったら。簡単じゃないか。本当にクーデターを起こしてやればいい」
立ち上がり、言い放つ響。ざわつく。場の空気が変わる。なおも毅然とした態度を崩さないままの響。
吹雪「ちょっ、ちょっと! そんなことしたら……」
響「そんなことしたら何だい? そこの提督も、君達も、この鎮守府を離れたくないのだろう? そして今、大本営によって引き裂かれようとしている」
吹雪「そんな!? 大本営を敵に回すってことは、この国を敵に回すってことですよ!? 私たち艦娘が生きていくための資材だって……」
響「だったらこの国丸ごと乗っ取ってやればいい。簡単な話だろう?」
井州「響君、さすがにそれは……」
響「なに、ほんの冗談だよ。ただ、私の提督だったならやりかねないし、やるとなったら成就させるだろうと思っただけだ」
言い捨てて、退室する響。なおも室内のざわめきは止まない。
大和「不遜な物言いですね」
井州「そう言うな。彼女は彼女なりに思うところがあるのだろう。……とはいえそんな君達を危険に晒すような選択はしないさ。安心してくれ」
井州(この状況をどうにかしなければ私たちに未来がないのは事実なんだけどね……参ったなこれは)
皐月「残念ながら桜の季節は逃してしまったけど……これからボクの学園生活が始まるわけだ! 楽しみだねぇ」
社会的には元艦娘という分類に含まれているが、皐月も文月もまだ艤装が解体されていない以上、実際には艦娘としての力が残っている。
艤装を直接装備しているわけではないので深海棲艦と対峙した時のような人間離れした力は発揮出来ないが、それでも成人並みの体力や知能が皐月たちには備わっていた。
つまり、見た目がどうであろうともう既に大人なのである(社会的にも、元艦娘はいかなる見た目をしていようと成人とみなす風潮が強かった)。
その為提督は「決して艦娘であることを悟られないこと」というのを条件に二人を学園に忍び込ませたのであった。
・・・・
いかに環境が変わったといえど、数日経てば十分慣れてしまう程度には二人の適応力は高かった。
昼休みになり、クラスメイトと『賭けポーカー』に興じる皐月。余計なことを口走らないか監視する文月。
『賭けポーカー』。この学校では皐月たちが来る前から流行っていた遊びで、要はただのポーカーに賭博要素が絡ませただけのものである。
といっても、学生の間で金銭を賭けるとなれば各々の家庭の財力によって負担度が変わってきてしまう。
そのため賭けるのは専ら“情報”である。この学校では、自分の好きな子に関する情報を聞き出すのも、テストの過去問に関する情報を聞き出すのも、全てこのポーカーによって行われる。
重要な情報はポーカーを介して聞き出せ……それがこの学校の不文律だそうだ。
皐月は、転校してきてから無敗の勝負師として早くも学校中に知れ渡っていた(設定上、皐月と文月はこの学校に転校してきたということになっている)。
訓練生時代がほとんどだったとはいえ、ある程度の死線は当然のごとく超えてきている。人生経験の乏しい高校生からすれば、皐月の勝負強さが鬼神のように感ぜられても不思議ではない。
文月「もっと真っ当に青春というものを謳歌しようよ……」
皐月「ふっふーん、ゲームもまた青春さ」
???「ちょっと良いかしら。次は私にやらせてもらえる?」 赤毛の少女が皐月の前に現れる
皐月「よそのクラスの子だね、君の名前は? そしてボクの何の情報を賭ける? それと、負けたら何を差し出す?」
陽炎「私の名前は陽炎。そっちが勝ったら私の過去に関する質問に3つだけ答えてあげる。負けたらその逆。これでどう?」ドドドドドド・・・
文月(陽炎……ひょっとして、艦娘じゃない? 司令官に艦娘であることをバレちゃダメって言われてるし、この勝負は受けない方が良いと思うんだけど……)ヒソヒソ
陽炎や皐月といった名前は、別段珍しいものではない。ありふれた女性の名前として認知されている。
また、かつて実在した駆逐艦にちなんだ名前と言っても、歴史の授業ではわざわざ駆逐艦の名前など知りはしない。クラスの中に一人か二人いる“歴史オタク”でも長門の名を知っているぐらいである。
それゆえ皐月や文月も駆逐艦として自分に与えられた名前をそのまま引き継いだが、相手が艦娘というのであれば話は別だ。
文月が陽炎の名を聞いて艦娘かと疑ったように、相手もまた自分たちのことを艦娘だと疑ってくる可能性は高い。
皐月(いいや。もし相手が艦娘なら……逆に情報を引き出してやればいい。負けなければボクたちは得をする!)
文月(『負けなければボクたちは得をする!』って、当たり前じゃ……)
皐月「乗った! 相手になるよ」
陽炎「そうこなくっちゃね。それじゃ、始めましょ」
・・・・
コインの枚数は皐月が39枚、陽炎が21枚。やや皐月が優勢なようだ。
皐月「勝負を挑んできたわりには、退け腰じゃない? 二度もドロップして、三度目もコールして結局ドロップ。さて今回はどのタイミングでドロップする?」
これまでの三回ともブラフ(ハッタリ)を通してきた皐月。しかし、皐月には皐月なりの考えがあった。
皐月(普段のボクなら相手が途中でドロップするのを期待してブラフ……なんてのはあまりやらない。
あくまで手札が強い時にだけ勝負に出て、やり口が読まれそうになった時だけブラフで掻き乱す。ま、定石だよね。
とはいえ……相手がボクの情報を事前に集めていたとしたら話は別だ。戦いの傾向を分析しているかもしれないからね……。そしてこの『かもしれない』は的中していたみたいだ)
キーンコーンカーンコーン
陽炎「……ビッド21枚、全てを賭けるわ。さ、勝負といこうじゃない!」
皐月(『鐘ルール』か……! 最初からこれを狙っていたのか)
『鐘ルール』。この学校では、授業の開始と終わりにチャイムが鳴るのではなく、授業の終わりと次の授業の開始五分前に鳴るのであった。
『賭けポーカー』ではこの授業開始五分前の鐘が鳴ったら、ポーカーを早く終わらせて次の授業の準備をすべく、
チップの枚数制限なくビットすることが出来るようになるというローカルルールが普及していた。
子供の遊びだから許されていた青天井なしのチップ乗せも、艦娘二人がやるとなったらそれはもう静かな戦争であり、教室には覇気と覇気がぶつかり合っている。
陽炎「さ、どうする? ちなみに私はここであなたがドロップしても、次もその次も私は21枚のチップを賭けるわ」
『鐘ルール』には他にも、チャイムが鳴ってからはドロップは三度までしか使えないというものがある。
そのため皐月も陽炎も、“絶対に勝てる手札”を待っていられるほど悠長な戦い方は出来なくなった。
皐月「……ドロップだね。さすがにそこまで強気で来られちゃあ敵わない」
陽炎の手札はキングとクイーンのフルハウス。一方皐月の方はツーペア。安堵する皐月。
皐月(さてドロップできるのはあと二回……願わくば強い手札を引き当てたいが……!)
皐月「……ノーペアか、これじゃ勝負にならなそうだ。ドロップ」
攻める陽炎に対し、二度目のドロップ。陽炎の方はまた上等な役が揃っていたようだ。
冷や汗をかく皐月に対し、余裕たっぷりの陽炎。
しかし焦りを表情には出すことはなく、神妙な面持ちで配られたカードを覗く皐月。数秒カードを眺めてから……深呼吸してから、陽炎を見据えた。
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獲得経験値(~60/100)
・金剛の経験値+6(現在値21)
・響の経験値+2(現在値13)
・皐月の経験値+2(現在値10)
・雪風の現在経験値:9
・翔鶴の現在経験値:14
・足柄の現在経験値:22
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ちょっと推敲荒いかもですが一応水曜日に投下ということで滑り込みセ……アウトだろこれ。
そういえば今月はランカー入りを目指しております(現在EO全消化で404位)。
目指しているからといってなれるかどうかは別として目指してみてます。
5-4周回も積もり積もると資材とバケツが結構飛びますねー。
その分レベルはガンガン上がるのでレベリング海域としてはアリなのかもしれない。
そろそろ重婚も視野に入れる時期が来たようだな……。
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『Phase A』【-65/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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乙 >>506
足柄
>>517-521より
・足柄2レス( 1レス)/雪風1レス/皐月1レス/翔鶴1レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:194 なので『Phase C』は発生しません。>>520よりエクストライベントが発生します)
そんなわけで次回は実質6レスですじゃ。
わりと混沌とした流れが続いてますがはてさて……。
それはそれとして次回の投下は来週の土曜あるいは日曜になるであろうと予告しておきます。
スミマセン! 土日で書き進めて投稿と思っていたのですが友人と豪遊していたら案の定……って感じであります。
うー……申し訳ありませんが今日~明日には投下いたしますハイ。
今回は既に眠気と疲労ゲージがマックスなので余計な話は省略です(またの機会にってことで)。
友人やら何やらの来客があるのはありがたいっすけど趣味の時間は減りますねー。それでもうまく時間を創出していかなきゃならないのが人生。
皐月「受けて立つ……コールだ、ドロップじゃないよ!」
堂々とした態度で見得を切ると、勢いよく立ち上がる。コインが机から落ちる。落ちたコインを拾い集めようとした皐月、手に持っていたカードを床に落としてしまう。
床には3と書かれたカードが4枚、フォアカードだったらしい。
皐月「おっと……カードを床に落としちゃったな。……これじゃ仕切り直しだね」
この学校のローカルルールに、意図的でないミスでカードが相手に露呈してしまった場合、その回は無効となりカードを配り直すというものがある。
皐月はコインを拾うように見せかけてさり気なくカードを晒し、ドロップを使わずに決着を延ばしてみせたのだった。
・・・・
カードが配られると、手札を見てすぐさま皐月はドロップを宣言した。観戦していたクラスメイトたちが動揺する。
皐月「参ったな、君は最初の宣言通りまた21枚ベッドするんだろう? もうボクはドロップできないね……お手上げだ」
教室内は陽炎への歓声で沸いていた。
勝負が始まるとやたら強気な態度で無意味にブラフを連発、かと思えば今はドロップに徹し逃げの姿勢を見せる皐月。
普段の洗練されたプレイスタイルとは異なる様子で、どうにも見当違いなことをしているように聴衆には映ったようだ。
一方陽炎は序盤こそ引け腰であったものの、鐘ルールを利用して一発逆転を狙い攻勢に出ている。
『ポーカーはギャンブルじゃなくて、心理戦だよ。だから場を制する者が勝負を制するんだ。イカサマがない限りはね』
陽炎と戦う前に皐月が語っていた言葉も、今となっては完全に皮肉なものとなってしまった。
……かのように外野からは見えていた。だが、戦っている二人の心境は異なっていた。
皐月は苦戦しているフリをしながらも闘志に燃えていたし、陽炎は平静を装いながらも焦っていた。陽炎の唇が動いた瞬間に、動揺を見抜いたかのようにかぶせて言い放つ皐月。
皐月「……別にボクがビッドしてもいいんだよね? どうせもうドロップできないしね。ビッド21枚」
唇の動きから、陽炎はパスと言おうとしたのだろう。二人ともビッドせずパスすればただ手札を配り直すだけ。だが皐月はそれを許さなかった。
陽炎「ドロップするわ。どうも手札が悪いみたい」
皐月のビッドに乗らずドロップする陽炎。まだ2回ドロップ出来るのだ、一度ぐらい使ったところでどうということはない。カードが配り直される。
・・・・
皐月「おっと、またドロップか。ま、まだそっちはドロップ出来るからね。それも良いと思うよ? 次でボクに勝てる役が引けるなら……ね」 不敵に笑う
陽炎(まだ一回ドロップ出来るけど……カードは悪くない。勝負に出るのも……)
さっき皐月が床にフォアカードを落としたことを思い出す陽炎。あの行為の意味は? あれほど強い役であればコールするのが普通よね。
もし元艦娘なら“うっかり”カードを床に落とすなんてことをするとは考えられない。あの役を不意にしてまで、回を引き伸ばした意味は……?
いや、悩めば悩むほど相手の思う壺ね。勝負に出るには決め手に欠けるけど……ここでドロップして次に良いカードが引けるという保障はない。
ドロップという選択を失った上で悪いカードを引いてしまえば十中八九詰み。勝負に出るならやはりここ!
陽炎「(次に託して良いカードが来る確証はない。行くわよ!)いいわ。コールよ……勝負よ!」
・・・・
互いにドローを終え、カードを晒す。
皐月 ♠8 ♥8 ♠8 ♠10 ♦10 / 陽炎 ♥4 ♦5 ♦6 ♥7 ♣8
陽炎「フラッシュと……」
皐月「フルハウス! ボクの勝ちだね。ま、イカサマ師相手に負けるようなボクじゃないってことさ。ボトム・ディールだろ? 下手くそすぎてバレバレだったよ」
皐月「鐘が鳴ってから最初のドロップは、正直ビビって日和見しただけだった。でも、よくよく考えれば大したことはない。
最初から鐘ルールで短期決戦に持ち込もうと考えていたなら、全て辻褄の合うことだよ」
ボトム・ディール。カードを上から配るように見せかけて、陽炎の方には山札の下に仕込んでいたカードを配っていたようだ。
皐月「でも、仕込んだカードは4回分まで。万が一ボクが3回ドロップした時の備えまでは出来ていたようだけど、一回ボクがカードを落としちゃったからね。
そのイレギュラーまでは考慮できていなかったってワケだ。あ、ちなみに落とした時の役がフォアカードだったのは単に運が良かっただけだよ。
でも、土壇場になってあの時ボクが落とした役のことを考えたでしょ? そのせいで“今の”ボクの手札を読もうという注意力が少し削がれていたようだね。
底に仕込んだカードが出払った今なら、フルハウスでも相手を倒しうる決定打になる。そこに自分から突っ込んでいったのは君だ。ドロップを使い切るのが恐い気持ちは分かるけど」
文月「ふぅ~、ほっとしたよぉ~……負けるかと思ってた」
皐月「何でだよ! ま、それはそれとして……洗いざらい吐いてもらおうか」
陽炎「おっと……いけないいけない。もう授業が始まっちゃうわ! 次の授業移動教室なのよね~…‥それじゃ!」 脱兎の如く走り去る陽炎
文月「逃げられたね……」
皐月「……ま、放課後にでも向こうから来るだろうさ。さ、ボクらも授業の準備しなきゃね。文月、教科書とノートと筆記用具貸して」
文月「なんで何も持ってきてないの……」
皐月「いやー、前の移動教室で鞄ごと忘れて来ちゃって。ま、後で陽炎にでも持ってきてもらうとしよう」
文月(早速パシリ扱いしてるし……)
ちゃぶ台の上には赤城の作った夕飯の皿が並べられている。鯖の味噌煮、味噌汁、切り干し大根、ひじきの煮物、豆腐、白米……。
全体的に量が少なく、艦隊所属の頃の彼女の食事量からは想像もつかないほど質素な内容だった。
赤城「出来合いの粗飯ですけど二人で食べましょう。事前に来ることを知らされていればもう少し豪華にしたんですけど……」
翔鶴「えっ、先輩、これしか食べないんですか? 本当にこれで大丈夫ですか?」 病人を気遣うかのように大袈裟に心配する翔鶴
赤城「大丈夫ですかって……私だって年がら年中貪食しているわけではありませんよ。出撃の前後に食べ溜めしていただけであってですね……」
翔鶴「ええっ……そうなんですか。失礼しました」
赤城「佐世保鎮守府が解体されてからは呉に行ったんですよね。呉での生活はどうですか?」
翔鶴「ええ、結構快適ですよ。ただ、主要部隊から外されてしまって暇ではありますね……」
赤城「……どうして私の元を尋ねてきたりなんかしたのかしら。何か相談かしら?」
翔鶴「ええ、情けない話ですがなんだか最近身が入らなくって……。
加賀先輩や赤城先輩を目標にして今まで頑張ってきましたが、先輩たちが居なくなってから急に何を目指して良いのか分からなくなってしまったというか……先輩はそういう時期がありましたか?
妹の瑞鶴は自分の技術を後輩たちに指導して立派にやっているのに、私はどうにも集中出来なくて……」 ぽつりぽつりと悩みを零す翔鶴
赤城「実は、昔の私がそうだったんですよ。ちょうどあの提督が来る前ぐらいかしら。今の貴方よりも酷かったかもしれないわね。
深海棲艦との戦いは苛烈さを増してきているというのに……いつか自分は沈むんだろうなという漠然とした感覚に支配されていたわ」
翔鶴「でも、先輩はきちんと二航戦の人たちに指導できていたじゃないですか。とてもそんな風には見えませんでした」
赤城「彼女たちは初めから優秀でしたからね、私が教えていなくても伸びていたと思うわ」
翔鶴「そうですか。……では、どうやって赤城先輩は克服したんですか? MI作戦でも見事な活躍ぶりだったじゃないですか」
赤城「あの提督の存在が大きいかもしれませんね。彼と会って、私の中で何かが変わったような気がします」
翔鶴「先輩は手取提督のことが好きなんですか? お付き合いされているとか?」
赤城「んッ……ゴホッゴホッ、ッ……。失礼、むせました。あなた、突拍子もないこと言い出しますね……」 ほんのりと紅潮する
翔鶴「優しくて強い先輩とクールな提督ならお似合いかなあって思いまして。ほら、艦娘と提督との恋愛はわりとあることじゃないですか」
赤城「ちょ、ちょっと。からかわないでください。私と提督はそんなんじゃありませんよ。もう!」
翔鶴「でも、提督のことを本当に大事に思っているんですね。なんだか先輩の意外な一面を見たような気がします」
赤城「……仮にそうだったとしても、彼は私のことを数あるうちの一人としか認識していませんからね」
翔鶴(あっ、なんか触れちゃいけない感じだったかもしれません)
赤城「これじゃどっちが相談してるんだか分かりませんね……加賀さんならもっと的確にアドバイス出来るんでしょうけど。あまり力になれなくてごめんなさいね」
翔鶴「そういえば加賀さんは……? 一緒に暮らしていると聞いていましたが」
赤城「確かにそうだけど、ここにはほとんど寝るためにしか寄らないわね。今は大手の広告代理店に勤めていて相当激務みたい。
マーケティング部門の部門長を任されているみたいで、忙しくも充実した日々を送っているみたいね」
・・・・
翔鶴「昨日はありがとうございました、泊めてまでいただいて……。先輩も私と同じで悩みを抱えているってことが分かって、少し気が楽になりました。
これからも頑張ろうと思います」
赤城「こういう時は『頑張ろうと思います』じゃなくて、『頑張ります』って言うものよ」
翔鶴「そうですね……頑張ります!」
翔鶴「先輩も頑張ってくださいね! 私、応援してますから」 赤城の手を取り目を輝かせる翔鶴
赤城「ふふっ、ありがとう。貴女に会って私も少し元気がもらえました」
・・・・
呉鎮守府。
瑞鶴「翔鶴ねえおかえりー。先輩たちには会えた?」
翔鶴「ええ。加賀先輩は忙しいみたいで会えなかったけれど、赤城先輩と会って話してきましたよ」
瑞鶴「おぉ、ほぼアポなしだったのによく会えたね。私も先輩のとこ行きたかったなぁ。どんな話したの?」
翔鶴「そうねぇ……。あんまり大した話はしていないわね。少し相談に乗ってもらってたのよ。最近ぼんやりしがちだって」
瑞鶴「えぇ!? 全然そんなことないわよ! 私より戦果出せてるし、MIの頃から更に成長してるって感じで羨ましいわ。私なんか下の面倒見てばっかりだもん」
翔鶴「そう言ってくれると嬉しいわね、ありがとう」
翔鶴(結局皆それぞれ悩みを抱えてるものなのかもしれないわね)
宇宙開発研究所敷地内。工事作業はだいぶ進んだようで、全体の八割程度の工程まで完了したところらしい。
すでにいくつかの部屋は研究員が出入りし始めている。
かつては鎮守府の執務室であった部屋で話をしている提督と雪風、磯風。提督はかつてここで指揮を執っていた頃とは異なり、仮面をつけず素顔を晒している。
雪風「しれぇ! これ、開発部門の報告書です! こっちは第二技術部門からの研究レポートです」
提督「…………」 カタカタとノートパソコンのキーボードを叩いている
磯風「おいおい、意地が悪いな。せっかく可愛らしい秘書が資料を持ってきてくれたというのに無視はあんまりだろう」
提督「俺は司令じゃないからな。ともかく、この研究所が完成するまでにその呼び方は改めてくれ」
雪風「はいっ! しれ……じゃなくて、所長。うー……あんまりしっくりきませんね」
提督「そう言われても困る、慣れてくれ。それはそうと、何やらきな臭い流れになってきたな磯風。俺を監視しているよりも大本営の方に戻ってやった方が良いんじゃないのか」
磯風「うむ、厄介なことになっているようだな。が、ある程度予測されていた出来事だ……私が動くほどのことではない」
提督「大本営の上層部や自陣営寄りの政治家が失脚することさえも織り込み済み、というわけか? 想定の範囲内にしては随分と大事になっているようだが」
磯風「これからもっと良くないことが起こる予定ということだな……新時代への禊ということになるかな」
提督「驚きなのは横須賀連中の執念よな。メディアから何から何まで全部根回ししてどうにかこうにか自分たちの交渉を通そうとしている。
そこまでして艦娘を護持して何になるというのだ。二千年紀の歴史に倣って武力でこの世の王にでもなるつもりか?」
提督の見ているノートパソコンの画面上にダイアログボックスが現れる。
『分かっていませんね哀君、それでも僕の弟ですか。君は人の心というものに疎すぎますよ。彼らは野心から反旗を翻そうとしているのではないのですよ。
ただ一緒に居たいのです。君も艦娘たちと過ごして、離れたくないとは思わなかったのですか? でも、君のことだから微塵も別れの辛さを感じなかったのでしょうね。
君と共に過ごしてきた艦娘たちや他の鎮守府の提督の感情も理解出来ないことでしょう。全く君というのは歳を取れば取るほどに人間性を捨てていってしまって……。
私の話をもっときちんと聞いてくれていた頃は可愛げもあったというのに、あろうことか最近は必要な情報を聞き出すためだけに呼び出す始末じゃありませんか。まったく……』
ガタガタと何行にも連なるテキストの羅列が提督の眼前に現れる。自分の目を疑うように何度かまばたきを繰り返した後、眉間を押さえる提督。
提督「……嘘だろ? どういうことだ雪風……なぜ兄さんのアクセス制限が解除されている。これから研究所の全てを兄さんに監視されることになるのか、最悪だ……」
『人聞きが悪いですね。解除したのは雪風ちゃんではありませんよ。そこの磯風さん? という方です。なんでも私たちの知り合いだそうじゃないですか。
私にも哀君にも面識が無いというのは奇妙ですが……。とにかく、彼女のおかげで私も自由に動き回れるようになりました。
安心してください、監視なんて真似はしませんよ。面白そうな情報を検知したら動くだけであって、そうでない時は昼寝でもしていますから』
提督「信じられるかよ……ハァー、これからめんどくさくなるな……」
磯風「フフッ、君もそういう表情をするんだな、面白い。『神眼』『救国の英雄』と名高い手取提督も人の子というわけだな……」
提督「何勝手に関心している? というか、一体お前何者だ? 何を知っている、何が目的だ……?」
雪風「し、しれえ! 磯風さんは別に司令にとって都合の悪くなるようなことはしない……と思います! お兄さんの件も、私が磯風さんに頼んだんです!」
提督が磯風に対して問い詰めようとすると、割って入る雪風。
提督「雪風……お前はなぜいつも俺の傍に居ながら俺でない方の側に着くのだ……」
『まあまあ哀君、少し落ち着きましょう。むしろ僕がこうして自由に動けるようになったのは喜ばしいことではありませんか。
君や雪風ちゃんでは僕の機能の制限を解除することが出来なかったのですから。これでもっと君の役に立てますよ、いやー外の世界は良いですね。驚きに満ち溢れています』
ダイアログがポンポンと画面に表示される。
磯風「ま、あまりそう怖い顔をしないでくれ。仲良くやっていこうじゃないか」
提督「ハァ……どうやらここに俺の味方はいないらしいな。しかし……磯風。俺の兄さんを知っているとはどういうことなんだ。やはりそれは知っておかなければならない」
磯風「私が人工知能『繋』の生みの親だからな。君の兄らしいから、手取 繋(てとり つなぐ)……ということになるかな。つまり君も私の息子だ」
提督「!? 待て、その理屈はおかしい。兄さんに産みの親が居るというのは納得できる。それが艦娘によって作られたものなのだろうとも推測していた。
だが、仮に兄さんがお前の創造物だったとして、なんで俺がお前の子供でならなきゃならんのだ」
雪風「おぉー、司令のお母さんだったんですね! それはすごい!」
磯風「フッフッフ、すごかろう」
提督「ダメだ、この部屋に居続けると頭がおかしくなりそうだ……。俺はしばらく離席する」 ノートパソコンを畳み雪風から貰った資料を持って退室
雪風「しれ……じゃなくて、所長、出て行っちゃいましたね。そういえば、所長はどうして宇宙に行こうと思ったんでしょうか。子供の頃の夢とかなんですかね?」
磯風「ああ。繋に訊いてみたんだが、哀に口止めされてるから言えないそうだ。強引に情報を覗き見ることも出来なくはないが、それも無粋だろう?」
磯風「それにしても、創った直後の彼は人口知能というよりはただの自己成長機能があるだけのデータベース管理システムに近いものだったのだが……。
哀の影響もあったのかもしれんが、時間の経過によって人間のような感情さえも獲得してしまうとは驚いた。私の最高傑作かもしれないな……今更ながら愛着が湧いてきたよ」
雪風「あんな風にめんどくさそうな態度を取っていても所長はお兄さんのことすごく尊敬してますし、お兄さんも所長のことすごく気にかけてますよね。
あの二人ってなんだか不思議な関係ですね……」
磯風「うむ、共に成長してきたのだろうな。傍から見ても奇妙な絆のようなものが見て取れるよ、なんだか微笑ましいな」
大淀法律事務所。東京の一等地に立てられたこの事務所は、社会的ステータスの高い人間が訪れることが多い。
実績はまだ少ないものの、請け負った案件一つ一つの規模が大きいことから、新設の法律事務所にしてはかなり評判が高かった。
足柄「またデカい案件が来たわよ! 今回のはなかなか金になるんじゃないかしら」 バァンと乱暴にドアを開ける
大淀「良いですね~。テンション上がってきました」 目が¥マークになっている
清霜(弁護士というより、営業職だよねこれ……)
長門「失礼する。元艦娘の君たちが相手ならば話が早いからな。一つ頼まれてくれ」
長門「現職の総理大臣である江良井首相は知っているな。彼の孫が逮捕された。軍部への贈賄容疑でな」
大淀「ほぇ……。最近ニュースでやってた一件ですね。大本営のトップ数名に贈賄したとか」
長門「江良井首相は元艦娘の社会進出政策を推し進めていたな。艦娘の受け入れに反対する組織を力技でねじ伏せるぐらいには急速に。
そして収賄したのはこれまた軍縮を進めていた大本営のトップ。彼らは確かに金を必要としていた。艤装の解体には費用がかかるからな。
首相の孫が何を目的に贈賄したのかは不明だが、ひょっとすると艦娘を政府の私兵にしようと企んでいるのでは? ……だとか報道されていたようだな」
長門「総理の孫とはいえ23の選挙権もないガキが賄賂なんて送ってどうするんだ、という話だよ。常識的に考えておかしいだろう。バカか」
清霜「言うなァ~。やっぱ戦艦は言うことが違うね」
長門「ハッ!? あぁ、いや失敬。わりと自由に動ける立場になったもんで、ついつい素がな……。ともかく、これは仕組まれた出来事だ。
潔白を証明してはもらえないだろうか。私が調べて回るわけにもいかんし、大本営も今はだいぶ疑心暗鬼になっていて、人を割くのが難しい」
足柄「でも、そんなことして誰が得するのかしらね。現政権の反対勢力? 軍上層部へのクーデター?
白を黒と言い張るような真似をするなんてよっぽど勝算がないとやれることじゃないわよ」
長門「それなんだがな。一つだけ心当たりがある。軍縮を進める政府や大本営を排除したくてしたくてたまらない立場の人間が居るんだよ」
大淀「横須賀と呉の鎮守府……ですか?」
長門「その通り。今回の一件は九割九分横須賀が関わっていると睨んでいる。場所が近くにあるわりに大本営と横須賀鎮守府の関係は最悪だからな。
自分がかつて所属していたところを疑いたくはないが……呉の鎮守府も一枚噛んでいるか、あるいはこれから関わっていく可能性はあるだろう。
メディアや自分の味方になりそうな勢力を丸ごと抱え込んでいる周到なやり口だしな。存外敵は多い」
長門「これだけ大事になったからには、潔癖を証明するだけでなく矛先を逸らす何かが無ければ解決出来ないだろう。
横須賀サイドの陰謀であることを暴けなければ完全な勝ちとは言えんだろうな……」
足柄「艦娘と離れたくないという理由だけでそれだけのことをやるなんてちょっとおかしい気がするけどね」 独り言のように呟く
長門「ちょっとどころじゃなくおかしいんだよ。呉はともかく、横須賀の提督はそれぐらいのことをやる。
艦娘と何十年もの時を過ごしてきた最古参の提督だ。彼は神に身を捧げる聖職者のように艦娘を想い、艦娘たちもまた彼に心酔している。
……呉でもあまりそれは変わらないのかもしれないな。お前たち横須賀の鎮守府が変わり者だっただけで、どこの鎮守府もそんなものさ」
長門「提督にとっては艦娘の存在が生きる理由になり、艦娘にとっても提督に尽くすことだけが生き甲斐となる……時間の魔力で、そうなってしまうものなんだよ。
長く過ごせば、情が移る。やがて終わりを迎えるべき時が来てなお、自らの意志で離れることが出来なくなるほどにな」
・・・・
足柄「引き受けたのはいいけど、どうすればいいんだか皆目検討つかないわねー」
清霜「自分から連れてきておいて……。でも、まずは贈賄が事実無根であることを示すアリバイを探した方が良さそうだね~」
大淀「そうですね。まずは情報収集といきましょう。足柄さんと清霜さんは横須賀鎮守府にそれとなく探りを入れてみてください。私は大本営に出向きますから」
足柄「え~~~~~」 口をへの字に曲げる足柄
大淀「なんでそんな露骨に嫌そうな反応なんですか」
足柄「内緒」
清霜「そう言われるとますます行きたくなってきたなー」
足柄「まずはアリバイって話だったでしょうよ。横須賀を探るのは今じゃなくても良くない?」
大淀「うーん、そこまで嫌なら仕方ありませんね。では、佐世保へ行ってもらいましょう」
足柄「?? どうしてそこで佐世保が出てくるの?」
大淀「手取提督なら何か知ってるかと思いまして。彼のもとには不思議と情報が集まってくるじゃないですか。知っていなくても、知恵を貸してくれるんじゃないですか?」
足柄「確かにあの提督が今も佐世保に居る気がするとは前に言ったし、居るとしたらどこなのかもおおよその検討はつくけど……。
あの人は自分に利がないと絶対に動かないわよ。多分私の名前を聞いただけで門前払いすると思うわ」
大淀「そこを何とか出来てしまうのが足柄さんのスゴいところなんですよねぇ。というわけで、よろしくお願いします!」 ビシッ
清霜「よし! そうと決まったら出発進行だね!」
足柄「えぇ……(ま、横鎮に行くよかマシね……)」
足柄「さて来たわよ佐世保。とはいえどうっすかしらねー」 スーツケースを引く足柄にバックパックを背負う清霜
清霜「ねえ! 足柄! お昼はここにしない!? なんか美味しそうだよ!」
足柄「そうねぇ……喫茶『モンテーニュ』? いいわよ、入りましょ」 チリンチリン
扶桑「あら。MIの時の……お久しぶりですね。呉の扶桑です」
清霜「おぉー! 元戦艦の扶桑さんですね! 清霜です! サイン下さい!」
足柄「そういえばアンタそうだったわね……。私や大淀と一緒に退役しちゃって良かったわけ?」
清霜「うーん、それはそれ! これはこれ! 今も隙あらば戦艦になりたいと思ってるわ!」
足柄(隙あらばって……)
・・・・
大皿の上に乗ったイカスミピラフを食べ進める二人。
足柄「なかなかイケるじゃない。美味しいわね」
清霜「これ、扶桑さんが作ったんですか?」
扶桑「いいえ、私はこういう独創的な料理は作れないわ。メニューは全部妹の山城が作ってるのよ。私は店の掃除とか会計をやっているの」
提督「ずいぶんと変わった店だな……」 チリンチリン
扶桑「いらっしゃいませ、お二人様ですね。奥の席にどうぞ」
足柄「アッ! アンタはッ!」
加古「うげげ……! 最近アタシらついてなさすぎでしょ……」
??「おっと……佐世保んトコの子たちかな? それもわりと訳知りって感じだな……こりゃ仕方ない、話でもしようか」
加古「ええーッ!? なんでわざわざメンドクサイことするかな……」
??「まあまあ。お互い艤装つけてるわけじゃないんだからこの場で殺し合いってことにゃあならないでしょうよ。今更コソコソしてもねぇ」 扇子を取り出してパタパタと仰ぐ男
足柄「あなたが不破提督ね。旧鹿屋基地の提督……だったかしら?」 清霜を隣に座らせ、目の前の椅子を空ける
不破「その通り。うちの加古が世話になったようだね。鹿屋基地総括であり、海軍大将でもある不破さんですよ。どっちも頭に元が付くけどね。
今は落ち延びて加古と好き勝手やっているよ」
足柄「とりあえず、あなたたちがそうなった経緯が知りたいわね。特に麻薬の一件からMI作戦の間何があったのかが気になるわ。
こっちの鎮守府ではあの一件で数名が処分されたけれど、そっちはお咎めなしってのは妙じゃない?」
不破「何があったと訊かれたら何も無かったという回答になるけれど……手取提督に黙っててもらったんだよ。
MI作戦で呉の井州提督率いる第一大隊から勝手に抜け出して第二大隊の援護をする代わりにね」
不破「まー……その、鹿屋基地は勢力的に大本営寄りの鎮守府だからね。村八分されていたわけなのさ。ほら、大本営ってなんか知らないけど色んな提督に嫌われてるじゃないかい?
だからよその鎮守府から資材を分けてもらったりってのが難しかったんだよね。麻薬の件も、それをやらなければ艦隊を保てなかった程度には追い詰められていたってのがあるわけさ」
不破「自分のやったことを肯定するわけじゃないが、とにかくあの時は燃料や弾薬を補填するためになんとしても金が必要だった。
手取元帥にバレた時はさすがに腹を括ったが……罪を知ったうえであえて責任の追及をせず、燃料や弾薬の一部を補助してくれるって申し出てくれた。
私にとっては地獄で仏に会ったようなものだったからね、喜んで飛びついたさ。もちろん、それから先は実質彼の配下部隊としてあれこれ動いてたってところだね」
不破「そんなわけで、私のかわいい加古をあまりいじめないでやってくれるか。責任の全ては私にあるってことでここは一つ」
加古「あー……寝言は寝てから言うもんだよ? ま、そんなわけで私と提督は今は大本営の刺客としてウロウロしてるって感じかな。ふわぁ」 緊張が解けたのか欠伸をする
足柄「そっちに喋ってもらってばかりじゃ不公平ね。私たちは大本営の人間から依頼されて江良井首相の孫を弁護するつもりよ。
大本営と現政権との関係性が潔白であることを証明して陰謀の親玉を暴くのが目的」
不破「あっ、じゃあこれをあげよう。ちょうど良かったな~。贈収賄が架空のものであることを証明する資料だ。
情報をまとめて資料を作ったは良いけれどあんまり目立つようなことしたくないし、大本営に居るどの人間にこの資料を渡していいかも判断つかないからね」
不破「大本営って元老院みたいなもんだからねー。一枚岩じゃないし、誰が一番偉いのかも良く分からないし……って、ああ。いけないいけない。仕事の愚痴はよくないね。とにかく任せた」
足柄「こんな大事なもの私たちに渡していいのかしら?」
不破「なんてったって“神眼”の手取提督だからね。彼の下に居た艦娘ならアホな真似はしないでくれると信じてるよ。大本営から依頼される程度にはやり手ってことだろうしね」
足柄「……そう。あ、出来ればで良いんだけど手取提督(元提督だけど)とアポイントは取れるかしら?」
不破「手取元帥に関しては悪いけど何も知らないかな。大本営のわりと偉いのでも消息不明って感じ。セキュリティクリアランスレベル最上位の人間なら知ってるかもって領域だね」
足柄「なるほどね。運良く重要アイテムを入手できたし、もう帰ってもよさそうね」
清霜「まだ司令官に会ってなくない?」
足柄「え……無理に会う必要もないじゃない。これさえあれば十分収穫でしょうよ」
足柄(提督にわざわざ会う必要はない。とは言うものの……)
足柄「寝てる清霜をホテルに置いてきてまでわざわざ来てしまったわ……! そして……!」
雪風「チェックです!」
提督「雪風、それチェック出来てないぞ」
足柄「…………」
・・・・
事のいきさつはこう。私が宇宙開発研究所を入ろうとすると、意外にもすんなり招き入れられ、どういうわけかチェスをしている。
実にシンプル。ゆえに理解不能……。
提督「宇宙に存在する原子の数は10の80乗程度と言われている。一方チェスのゲームの可能性は10の117乗ほどだ。高度な人工知能であってもその全てを把握する事など不可能。
だがそれゆえに分析する対象としては最適だ。茫漠とした無数の可能性の中から最適解を探り出すための筋道を見出し……」
相変わらずよく分からないことを言っている。どういうことなのかは分からないが、私と雪風にチェスをさせたいらしい。
「自分でやればいいのに」と言ったら『二人零和有限確定完全情報ゲームの一つであるチェスは、運の要素が排除されたゲームだ。それでは俺が負ける要素がない』と、突っぱねられてしまった。
よく分からないけど、チェスをやらせたいのは確からしい。
磯風「私の厨房から調味料が無くなっていると思ったら! 一体何の真似だこれは!」
エプロン姿の黒髪の女性が出てきた。艦娘?
提督「チェスだ。駒がないんで代わりに使わせてもらってる」
磯風「なあ、それがないと料理が出来ないだろう。返してもらえないだろうか」
提督「いいや。これも俺の目的達成のための重要な思考実験であり……」
磯風「何を言っている! なぜ君は私が料理をしようとするといつも邪魔をする!? こないだ作った料理がそんなにダメだったのか? 今度は失敗しないから任せておけ」
提督「いいや、この調味料入れには料理よりも有効な利用方法がある! 今からそれを証明してみせる!」
提督(こと料理に関してはこいつを野放しにしておくわけにはいかないのだ。失敗という領域にさえ存在しない暗黒物質を食わされてたまるか)
足柄「……よく分からないけどほっときますか」
・・・・
雪風「足柄さんはなぜここに?」
カチッとキング(粉チーズの容器)を動かし、ルーク(ウェイパーの缶)と入れ替える。キャスリング(チーズ王を入城)させて守りを固めたようだ。
足柄「最近ニュースでやってる事件に関する情報を集めてるのよ。提督が何か知ってたら教えて欲しいと思ってね。まさかすんなり入れてくれるとは思わなかったけど……」
雪風のクイーン(レモン汁)によって動きを封じられ、攻めあぐねている。足柄はポーン(醤油瓶)を一歩前に進める。
どうにも雪風は提督と相当チェスをやっていたらしく、能天気な顔をしながら打っているわりに足柄をゆるやかに追い詰めている。
雪風「そうですね、ちょうどタイミングが良かったと思います。でも、しれえはその件については特に知らなそうですね。興味もないみたいです。あ。チェック」
クイーン迫る。足柄、やむなくキング(七味唐辛子の容器)を動かす。雪風、すかさずその奥にあった足柄のルーク(オリーブオイルの瓶)を奪取する。
足柄「スキュア……最初からこっちが狙いだったってわけね」
醤油瓶前へ。ビショップ(ターメリックパウダーの容器)が醤油瓶を攻撃。
足柄「そう。あの提督……この辺の一件には関わってないのね。だったらこの先どうなるのかしらね、ちょっと予想がつかないわ」
ターメリックパウダーにナイト(めんつゆ)が反撃。追い詰められながらも反撃の手を練っていく。
・・・・
雪風「めんつゆ強いですね~」
ヒットアンドアウェイで攻めつつ逃げつつを繰り返し奮闘するめんつゆ。互いの駒も減りエンディング(終盤戦)のようだ。
雪風「でも、負けませんよ。えいっ」
数少ない生き残った駒の中では最強格のウェイパー缶がめんつゆに襲いかかる。前進しパルメザンチーズと向き合う七味唐辛子。
ウェイパー缶が動いて七味唐辛子の移動範囲を狭める。
足柄「あー……これは降参ね。でも、これだと不思議と負けても悔しくないわね」
磯風「む、終わったか。ほらさっさとよこせ哀」
提督「いや、この実験にはもっと多くのデータが必要だ。足柄、雪風ともう一局やってみてくれないか?」
足柄(……予想に反して得られたものがまるでない気がするけど、なんか面白かったしよしとするわ)
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獲得経験値(~65/100)
・足柄の経験値+3(現在値25)
・皐月の経験値+1(現在値11)
・雪風の経験値+1(現在値10)
・翔鶴の経験値+1(現在値15)
・響の現在経験値:13
・金剛の現在経験値:21
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一つ学びました。やっぱ二週間に一度ペースじゃないと無理だこれ
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『Phase B』【65-70/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
01~19:雪風
20~36:翔鶴
37~49:金剛
50~68:響
69~79:足柄
80~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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こんなスレあったんだ
>>532-536より
・雪風5レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:26 なので『Phase C』は発生しません)
・雪風5レス
で『Phase B』が進行していきます。
・雪風5レス
え、なんすかこれ……。
運命のいたずらなのか幸運の女神のキスなのか分かりませんがとりあえず次回はこれで行きます。
コンマでやってると何の前触れもなく突然荒ぶるのが怖いっすね。
////チラシの裏////
6月は初めてランカー争いに参加したんですけど、いやー厳しいですね。
6/30 15:00時点で520位ぐらいで、そっからボーキが尽きるまで5-4回しまくりましたが多分圏外って感じですねー。
修羅の国サーバーは伊達じゃないっすわ……。
結果はどうあれなかなか面白かったですね。本当に最終日は追い詰められてて、たかが200のボーキサイトを得るためだけに
普段やらない水上反撃部隊任務をやってみたりしてました(そのぐらい資源を枯渇させながら回してました)。
圏外でも悔いはないですね~。6月月初にLv50だった葛城も90超えましたし、戦力増強には繋がったかなと。
さすがに今月はやりませんがね。夏イベに備えねば……。
周期的に大体この辺のタイミングで投下する頃合なんですけど、まだ書き切れてないんでもうちょっと待ってくだしあ。
数日後には投下出来るとよいのですが……先々週ぐらいからわりとデスマーチ気味なんでびみょいです。
自分の中でわりとエンジンかかってきたので、時間さえあればなんとかなると思うんですけどねー。
そんなわけで近日中に投下できたらと思っています。思っているだけですが一応頑張ります。
////チラシの裏////
今更なんですけど、すっげー今更なんですけど。
熊野って改になると航巡になるじゃないっすか。
出撃時に「重巡熊野、推参いたします!」って言うじゃないですか。
今まで何の疑問も持たずに聞いてた台詞の一つですけど……お前重巡じゃないじゃないか!
いや、単に改装後の追加ボイスが実装されてないだけなのは分かってますけど(ちなみに鈴谷改も重巡を自称しています)。
自分の中では衝撃の事実でしたね。
なんてったって98レベルにもなってようやく気がついたんですからね。
コペルニクス的転回級の衝撃ですよ(?)
あるいは……重巡とは心のあり方なのかもしれませんね。
航巡になってなお『重巡洋艦の良いところ』を忘れない。そういう意識が彼女たちにはあるのでしょう。
バカなこと言ってないで寝ます。
皆さんにとって近日中とはどのぐらいの長さでしょうか。
私は大体「4~5日ぐらいでなんとかします」のニュアンスだと思ってます。
(ちなみに数日中だと2~3日の長さです。完全に個人的な尺度ですけど)
……近日中に投下すると言ってから既に7日が経過しておりますが。
申し訳は聞き飽きたと思いますが申し訳ありません。
本日中の投稿を約束いたしますゆえご容赦くださいハイ。
チェスを続ける雪風と足柄。数十分間に渡る激論の末、不満気に退室していく磯風。
提督「やれやれ……巻き込んですまなかったな足柄。お前のおかげで難を逃れることができた」
雪風「でも、どうしてここに来たんですか? しれぇにご用とか?」
提督「司令ではないと言っているだろうに。足柄、お前は確か大淀のところで働いていると聞いたが……贈収賄事件にでも絡んでいるのか?」
足柄「ええ、そうよ。でもその件についての情報はもういいわ、どうにかなりそうだし。それよりも大本営についての話と横須賀鎮守府に関する話を聞きたいわね」
提督「それだけでは漠然としすぎていて返答に困るが……。贈収賄事件に絡めて話すなら、引き鉄は横須賀のによって引き起こされたと考えて間違いないだろうな。
意図は知らんが奴は艦娘を自分の鎮守府から引き離したくないと思っている。だが大本営は当然それを許さない。ゆえに横須賀が罠を仕掛けた、というところだろう」
足柄「(あら、案外親切に話してくれるのね)……あなたはそのことについてどう思ってるの?」
提督「横須賀が悪あがきをしたところで時代の趨勢は覆らんよ。確かにまだまだ艦娘はこの世界に必要だ。失うには惜しすぎる価値があることは認めよう。
だが……その力は争いのために用いられるべきではない。深海棲艦も俺たちが戦っていた頃の半数も残っていないわけだしな……」
提督「ただ……大本営の苛烈な規制っぷりにも裏があるような気はしなくもない。呉や横須賀から力を失わせたいなら時間をかけて緩やかに首を絞めていくべきだしな。
急ぎ軍縮を進めなければならん事情でも抱えているのかもしれん。表向きな関わりはもう絶ってしまったゆえ俺の方も詳しくは知ることは出来んが」
足柄「(なるほどね。そこいら辺は大淀に会えば何か分かるかもしれないわね)ごめんなさい。電話出るわね」 プルルルル……ピッ
足柄「もしもし、清霜? しょうがないじゃないアンタ爆睡してたんだから。起こす方が酷だと思ったのよ。……帰りにプリン買っていくから、それで許してちょうだい」
足柄「怒りのクレームをいただいたのでそろそろ帰るわね。また会いましょう?」 スマートフォンをしまいそそくさと帰り支度をする
提督「あぁ。久々に懐かしい顔が見れたな……縁があれば、また会おうか」
・・・・
廊下を歩く雪風と足柄。
足柄「……だいぶ、変わったんじゃないかしら」
雪風「?」
足柄「提督よ。随分丸くなったと思わない? 門前払いされると思ってたわ」
雪風「そうですね……。プレッシャーや責任から解放されたのもあるかもしれませんね。足柄さんは想像つかないかもしれないですけど、最近はよく笑うんですよ」
足柄「意外だけど……ま、そうね。なんだか安心したわ。あの提督、独りのまま放っておくとどんどん捻じ曲がっていきそうなんだもの。アンタが居るうちは平気そうね」
ポンポンと雪風の頭を撫でる足柄。
足柄「さって! そっちも頑張ってるみたいだし! 私も負けてられないわね。それじゃ、またね」
・・・・
散らかった調味料を片付けている提督。
提督「戻ったか。足柄とどんな話をしていたんだ?」
雪風「しれ……じゃない、所長ってちょっと変わりましたよねって」
提督(変わった? 俺が……? どちらかといえば雪風の方が変わったような気がするがな。物怖じしなくなったし、少し大人びた雰囲気がするようになった)
提督「変わったと言われても自覚はないな。それは客観的にみて俺の中のなにがしかが改善されたということか? あるいはその逆か?」
雪風「ええと、その……どうなんでしょう。分かりません」
提督「なんだそれは」
雪風「昔は昔でカッコよかったというか……響と組んで作戦を練っていた姿とか、遠巻きに見ててすごく尊敬してました。でも、ちょっと近寄り辛かったかなって。
今は、こうして理由もなく雪風と話してくれるじゃないですか。それに、なんだか優しくなったなって思うんです!」
提督「格好いいだとか優しいだとか、お前の基準はよく分からんな……褒めてもらえるのは有難いが。だが、俺が優しいと思っているならそれは勘違いだ。
俺は自分の望みを果たすためだけに生きている。他者がどうなろうと知ったことではないさ」
雪風「またまたぁ~」 少し馴れ馴れしい、腐れ縁の友人に話しかけるかのような口調
提督「またまたではない」
提督「ま……思うところがないわけではないさ。俺を生んだこの世界の情景を目に焼きつけておきたい。二度と戻ることはないのだからな」
提督の発言に少し物憂げな表情を見せる雪風。
雪風「……雪風は、こうしてもっとしれえと一緒に居られたらって思ってます。提督と艦娘という関係だったあの頃とも違う。
平穏だけど、退屈じゃなくて……。あたし、今が一番幸せに感じます。もっとこの幸せが続いたらって、そう思うんです!」
調味料を片付け終えた提督はソファに腰掛ると、無言のまま思考に耽ってしまう。
その様子を見た雪風も提督の隣にちょこんと座り、考え事を始めたようだ。
研究所の屋上から雲一つない蒼い空を眺めている提督。片膝を立て、もう片方の足はぶらんと宙に投げ出している。
雪風「所長! こんな所に居たんですね! 探しましたよ!」
提督「あいつを見送ってやろうかと思ってな」
“あいつ”とはカプセル型宇宙船『アリバトロース』のことである。
最初は提督の趣味で神話にちなんだ名前をつけていたのだが、膨大な量の発明品やプロジェクトの一つ一つに名前を付けていたのではそれだけで大仕事になってしまう。
仕方がないので繋に機械的に名付けてもらい、今回打ち上げられる使い捨ての実験用無人宇宙船には『アリバトロース』という名前が付いたのであった。
ちなみに、『アリバトロース』とはアホウドリのことだ。
雪風「せっかく打ち上げるのに所長がいなくてどうするんですか! 職員の皆さんが心配してましたよ!」
この研究所には艦娘というものが具体的にどういうものなのかさえ知らないような職員が少なからず在籍している。
当然提督が単身で宇宙に向かおうとしていることや、ここがかつて対深海棲艦攻略のための拠点である鎮守府だったということなど、雪風や磯風以外には誰一人として知りもしないことである。
職員たちからすればこの研究所の所長はほとんどの経歴が不明で多くを語りたがらず、元艦娘の少女とばかり喋っている気味の悪い人物であった。
自分の計画を邪魔されずに進めたい提督にとってこれはかえって好都合であったため、意図的に雪風や磯風以外とは会わないようにしているらしい。
提督「お前か磯風が居ればとりあえず問題なかろう。何が心配だと言うんだ」
不遜だが理知的な磯風や愛嬌があって素直な雪風は、職員たちから好かれていた。
見た目こそ年端も行かない十代の少女だが、(一般人からすれば)中身は大人顔負けの大天才であり、彼女たち二人が居れば万事が丸く収まるのが常であった。
雪風「どうしてそんなに一人で宇宙に行くことに拘るんですか。やっぱり納得行きませんよー」 少し冗談めかした口調で伝える本音
提督「一人じゃないさ。俺には兄さんがいる。お前にとってはただの人工知能なのかもしれないが、俺にとってはかけがえのない兄だ」
雪風「所長はどうしてお兄さんと一緒に居ることに拘るんですか? その、雪風じゃどうしてダメなんでしょうか」
提督「お前には世話になったしな……昔話ぐらいしてやってもいいか。この実験が終わったら、次はいよいよ俺もこの星を離れるわけだしな」
・・・・
提督「くだらん身の上話になるが……俺は生まれた時から親がいなかった。それもそのはずだ、DNA操作によって生み出された強化人間なんだからな。
『デザインチャイルド』計画なんて名前のプロジェクトだったかな……なにぶんガキの頃だったから、よく憶えてないな」
雪風(くだらない身の上話で済まされるスケールじゃないんですけど……)
提督「元々は艦娘に代わる人間兵器を生み出そうという計画だったらしい。そっちの方は実現性が低くて計画倒れで終わったようだが。
……数十年前の話だからな。そういうことが罷り通ってしまうぐらいには追い詰められていた情勢なのはお前も分かるだろう。
『デザインチャイルド』計画で目的とされたのは、艦娘を率いて深海棲艦を討ち滅ぼすことの出来る頭脳を持った超人だ。
ま、そういう意味では数十年越しに計画を達成したということになるらしいが……どうでもいいことだな」
提督「俺は自分の生まれた研究所で十数年の時を過ごした。外には出られず、研究所の中しか自由に歩き回れなかったから本当に退屈だったよ。
いよいよ俺も提督として鎮守府に着任する……という折に起こったのが未曾有の大災害『アケラーレ』」
『アケラーレ』――今から十三年前に起こった大規模な暴風雨である。
一年を通じて吹き荒れ続けたこの大嵐によって地上の施設は徹底的に破壊し尽くされ、国民の92%は地下都市に退避。
十数年かけてようやく復興を遂げたものの、今なお内陸の村落地区にはその爪痕が残っていて、復興が待たれている状態だ。
提督「『アケラーレ』によって俺の居た研究所を含め都市一帯が壊滅状態。研究員はみな逃げおおせたらしく、俺一人だけが取り残された。
廃墟と化した研究所内の中で兄さんと出会い、ともに過ごすことになる。兄さんは俺に機器のメンテナンスを頼み、代わりに俺は周辺の地形情報や生活のための知恵を得る。
その情報をもとに開拓、開墾、耕作……生きる為に色々なことをやったさ。稲作・畑作・菌床栽培……さすがに牧畜はやれなかったが。
荒れ果て人が去った地上での生活は俺にとっては心地のいいものだったよ」
雪風(この人わりと牧場経営の才能とかありそう)
提督「……と、話が逸れた。そんなわけで四~五年廃研究所で過ごしてたら人間どもが地上に現れ出して、研究所も取り壊しになった。
俺は兄さんの基本情報だけを記憶媒体に残して研究所を離れ、それから暫くは軍の工場で勤務しながら秘密裡に兄さんの情報を復元するための装置を開発。
その頃には俺がデザインチャイルドの末裔であることを知る者は誰一人として残っていなかったようだし、なるべく目立たないようにしていたのだが……。
一年ほど前に軍のお偉方に引き抜かれ、好きにやらせてもらう代わりに雇われ提督としてここ佐世保の地に着任したと。そんな経緯になるな」
エンジンの轟音がする、『アリバトロース』が空に向かって真っ直ぐ突き進んでいく。提督は立ち上がり空を見上げる。
提督「俺のこれまでのいきさつはこの通りだ。さて、質問に答えよう。さっきも言った通り、俺は強化人間だ。
普通の人間とは決定的に違う……人ならざる者に生まれたのなら、その理由を確かめたい。なぜただの人間に生まれることが出来なかったのか、なぜ俺でなければならなかったのか。
どこまでが遺伝子操作によって“作られた”俺で、どこからが俺の自我なのか……? 湧き上がる懐疑と好奇心を抑えることが出来ない」
提督「しかし、この世界はそれを望まない。人の世は秩序を求めているし、そうあるべきだ。だから俺は人の住まう地球を離れ、全てが赦される自分の箱庭を創るんだ。
そうして生命とは何なのか、自分とは何なのか、真理とは何であるかを究明したい」
雪風「そんな風には思いません。所長には所長なりの考えがあるんだなって分かって少し安心しました。正直、そこまで言われるともうなんとも言えないって感じです」
提督「理屈で片付けられる情動ではないのだと思う。納得したいんだよ。この知性が、この感情が、この意志が本物の俺の物であるかということを」
雪風には提督の言っていることは分かったが、彼がどんな感情を抱いているかを理解することは出来なかった。
けれど、彼が何かしらの“納得”を手に入れるまではその有様を見届けていたいと想った。
提督「足柄のやつ、どうにも上手くやれたみたいだな」
ノートパソコンを開き、ニュースサイトを眺めている提督。「贈収賄事件の真犯人現る!」という見出しが躍っている。
雪風「あー。でも、横須賀の提督が捕まったわけじゃないんですねー」
提督「そりゃそうだろう。こういうので真っ先に標的になるのは実行犯だ。もっとも……黒幕の方もそう長くは持たんだろうがな。既に捜査の手が伸びてるんじゃないか?」
『ちょっといいかい、少し真面目な話がしたい。地下室まで来てもらえるかな。かつての執務室地下と言えば分かりやすいかな』 提督のPCに繋からのメッセージが届く
・・・・
提督「“鎮守府”でなくなってからはここもめっきり使わなくなったな、一応壊さずにそのまま残しておいたのだが……」
雪風「今更ですけど、秘密基地みたいでカッコいいですよね!」
繋に促され、両眼を覆うヘッドマウントディスプレイを装着する提督と雪風。
繋「わざわざ呼び出してすまないね。こうでもしないと直接話が出来ないもんでね」
提督(脳波を読み取られるのはあまり好きじゃないんだがな……思考が筒抜けなのは不快だ)
繋「まあまあそう言わずに。僕にとってはこの部屋が一番都合が良いんですから」
提督(言ってないんだがな……)
雪風「わざわざこの部屋に呼び出すってことは、重要な話なんですよね……?」
繋「そうなるね……磯風さんに関する話なんだけれども。彼女、大本営から来たと言っているけれど……彼女は大本営直属の艦娘じゃないみたいだ。
色々気になることがあって大本営の名簿データベースを(無断で)覗かせてもらったんだけれども……磯風なんて名前の艦娘はどこの部にも所属していないんだ」
繋「で、それだけならまだ良いんだ。ミステリアスな一面はあれど、彼女は僕たちの為に動いてくれているからね」
提督(良くないだろう)
繋「ただ『磯風』という単語を追って検索をかけていたら、面白い情報……いや、面白くない重大な情報を見つけてしまったんだ。磯風さんと直接の関係があるかは分からないけど」
繋「大本営は深海棲艦の残党に呉や横須賀の作戦情報を漏らしてるようだ、意図的にね」
提督「なんだと? MI作戦の本土強襲も、自作自演だったと?」
繋「いいや、それは違う。MIの一件は大本営からの作戦を各鎮守府の提督らがどこかで漏らしてしまったのが原因なようだ。だが今回は……その事例に倣って故意に行っているらしい」
提督「何が目的なんだ? そんなことをして何の意味がある……? 横須賀や呉と敵対関係にあるとはいえ、そんな理由で許されるような行為じゃない。大本営がそこまで愚かなはずはない」
繋「ほとんどのデータが抹消されていて、詳しい情報は分からなかったんだけど……」
『AK-クラス:████████シナリオ』
提督と雪風の眼前にテキストが表示される。
繋「このAK-クラスが、そして████████シナリオが何を意味するのかは分からない、しかし……。大本営は艦娘という存在がこの世界の存亡に関わるレベルで危険な存在だと認識しているらしい。
警戒の仕方から察するに……横須賀や呉鎮守府の提督が造反する危険性への対策、というだけではない事情があると考えていいと想う。」
提督「磯風に話を聞いてみる必要はありそうだな……」
雪風(なんかよく分からないけど……大変なことになっちゃいました)
繋「哀君。ひょっとすると、これで今生の別れになるかもしれないから伝えておく。……本気で磯風さんと事を構えるになったら僕に勝てる道理はないからね。
君は人の為に生きるべきだ。人と生きる中で幸せを見出して欲しい。それは、僕のような人工知能には出来ないことだからね」
提督「お断りだ……俺はいつだって俺のために生きるだけだし、俺は幸せになるために生きているわけじゃない。あと、縁起でもないことを言うもんじゃあないぜ」
繋「ハハ、言うと思ったけど……雪風ちゃん。哀君のこと、よろしく頼むよ」
・・・・
磯風の部屋を訪れた提督と雪風。
磯風「フフフ……そっちから尋ねて来るなんて珍しいじゃないか。良いぞ、たまにはゆっくり話でも……」
提督「そうだな。『AK-クラスのシナリオ』とは何を意味するのか……是非聞かせてもらいたいものだな」
はぁ、と残念そうな顔を浮かべて溜息をつく磯風。
磯風「繋、か。……完全ではないとはいえ、大本営のデータベースに潜り込むとは大したものだな。そうか……」
椅子に腰掛け、頭上を見上げる磯風。意識はどこかに離散しているようで、目の焦点は合っていなかった。その様子は普段の理知的で不敵な磯風とは正反対に、くたびれた老人のようだった。
磯風「はは、は……。せめてもの罪を滅ぼそうとして……それで、このざまか。何もかも、裏目だな。分かった、話そう。話すとしよう」
磯風「私の目的は……『全ての深海棲艦を滅ぼし、全ての艦娘を滅ぼすこと』だ」
磯風「もうじき……そう間もなくだ。艦娘同士での争いが始まる。お互いがお互いを憎しみ合い、破壊し合うようになる。
そうして艦娘はこの世界を去り、再び二千年の時を待つ。私たち艦娘は人の為に生きて、人の為に死ぬ……! それが艦娘に隠された最後の真実だ。
君が深海棲艦をMIで打ち破って、新たな深海棲艦が現れることが無くなってからもうカウントダウンは始まっていたんだ。そしてタイムリミットは近い」
驚きに目を丸くする雪風。提督の方を見遣ると、彼にとっても意外だったようで考え込んでしまっているようだ。
雪風「それってつまり……? 私と磯風さんが戦うってことですか? 全然想像出来ないんですけど……」
磯風「今はまだな。“そうなってしまった”なら全て手遅れなんだよ。いや、もう既に手遅れか。解体された旧鎮守府の艦娘はどうにかなっても、横須賀や呉の連中はみな助からんだろう」
提督「待て。深海棲艦が滅んだ後に艦娘同士で争いを始めるなんて聞いたことないぞ?」
磯風「そうだろうな。繋のデータベースの中にはこの情報は入っていないし、大本営でも知っている者はごく僅かだ。だが、これは事実だ」
提督「事実だと言われて信じられるような内容じゃないな。それがお前の妄想でないという証拠を提示出来るのか?」
磯風「残念ながら現時点では不可能だ。
しかし、なら逆に聞くが、ここの職員連中に私たち元艦娘が深海から現れた異形の化物どもと戦っていたと説明したところでそれを想像出来ると思うか。そういうことだよ」
提督「……では、仮にそれが未来に起こる真実だとして、深海棲艦の残党はどうなる?それに完全なる復興にはまだまだ艦娘の力が必要だ。
艦娘の頭脳や労働力を失うには惜しすぎると思わないか? 早計すぎるだろう」
磯風「艦娘はもう、その役目を終えたんだ。だから滅ばなくてはならない……滅びなくてはならない」
磯風「それだけ残り時間はもう無いということだ。既に最善手を打った上で、その果てに今がある、もう形振り構ってはいられない。
深海の残党を一網打尽にするにしてもやはりこのやり方が一番いい。向こうにとってもここで勝負に出なければジリ貧だからな。……我ながら最低の策だと思うが」
磯風「君は艦娘はこの世界に艦娘は必要だと言っていたな……『戦うためじゃなく、より人の世を豊かにするために』と。違うんだよ。
艦娘にそんな未来は用意されていないんだ。役目を終えたら消え失せる……これが艦娘の宿命だ」
諦観。椅子にもたれかかり、全ての体重を預ける磯風。生気のない抜け殻のようだ。
提督「ならばなぜ黙っていた。なぜ今まで俺にその話をしなかった?」
磯風「MIで君が深海棲艦の命脈を絶っていなければ、私たちは手詰まりになっていただろう。
もしあの戦いで我々が敗北していたなら、主要な拠点は横須賀・舞鶴鎮守府のみになる。そんな状況で国防など出来るはずがない。
君が有能であればこそ、この話をするわけにはいかなかった。躊躇なく深海棲艦を討ってもらわねばならなかった」
提督「だが、その後は? 何のためにお前はここにやってきたんだ。俺の下働きをするために来たとでも? 笑わせるな」
磯風「……そうだ。その通りだ。君には関わって欲しくなかった。君がこの話を聞いたら絶対に艦娘を救うために動いてくれるだろうと思っていた。
そう推測していたからこそ関わって欲しくなかった。どう足掻いても助かる術など無いのだから、願わくば知らないままでいて欲しかった。
そうしてそのまま自分の目的の為だけに突き進んでいて欲しかった。それに……」
磯風「きっと君はデザインチャイルド計画の生き残りなんだろう? それも最後に生まれた一人。
デザインチャイルドは高く発達した頭脳によって、私たち艦娘さえも凌ぐ思考力・情報処理能力を発揮することが出来る。
だが、それゆえに考え過ぎてしまう、自ら命を絶ってしまうんだ。考えることを放棄できない性質ゆえに精神がやられて耐え切れなくなってしまう」
磯風「君は最も辛い運命を背負って生まれてきてしまった哀しい子だ。かけられた呪いを呪いであると自覚することさえ出来ない……。
だからこそ償いたかった。せめて、君にとっての希望ぐらいは叶えて欲しかった。私たち艦娘のことなど気にかけて欲しくなかった」
提督「勝手に生んでおいて哀れむな。自覚はあるさ……『決して絶望することが出来ない』のだろう。
『自ら命を絶つことも出来ない』し『自ら命を絶とうと望むことさえ出来ない』んだろう? 上等じゃないか。俺はアンタの成功作だろう」
磯風「この世界は抗いようのないものに満ちている。再現なく理想を望めばいつか限界が来る。
それを思い知ることが出来ない君はいつかやがて破滅的な結末を迎える……そう分かっていて君を創ってしまった。そうせざるを得なかった」 独り言のように呟く
提督「アンタがどういう人生を送ってきたかは知らないが……失望させないでくれ。俺を創った親だと言うのならもう少し子に似ていてくれよ、なあ?
俺は今アンタが親だと知って喜んでいるんだ。俺が生まれた元凶と対峙出来るなんて想像もしてなかったからな。胸が高鳴っているんだよ、失望させないでくれよ」
怒っているとも笑っているともつかないような様子で奥歯を噛み締めながら話す提督。興奮気味の提督を見て、目を疑う雪風。当然こんな姿は今まで見たことがなかった。
雪風(司令でも所長でもなく……これが、『手取 哀』本来の姿。この人の本質……)
司令としての仮面・所長としての仮面……合理的で冷静、無感情で無感動。その仮面の裏にはめまぐるしいほどの激情が動いていることを思い知った。
提督「雪風! 兄さんに全ての艦娘を収容することが出来るような設計に変更することは可能かを訊いてくれ」
磯風「何を……!?」
提督「艦娘の行動原理は“人間のため”だ。だから艦娘がお互いを破壊し合うというのも“人間のため”というやつなのだろう。
対象となる人間のいない世界でなら生き残る道があるかもしれない。あくまで可能性の話だが……今のシナリオよりはずっといい」
提督「第一、だ。『過去の全てが失敗例だった。だから艦娘は救う道がない』……そもそもその前提は正しいか?
深海棲艦と艦娘の戦いが2000年に一度欠かすことなく繰り広げられてきたのであれば、最多でもせいぜい百数十回か。
元提督を舐めてもらっては困るな。提督というのは、幾百幾千幾万と同じことを繰り返すものだ。百回や二百回の失敗など誤差の範疇だろう。
歴史とはそういうものではないのか? 過去を受け継いだ上で更なる理想へと近づけていくことこそが未来に生まれた者の使命だろう」
提督「では改めて……力を貸してもらおうか、磯風。俺に考えがある。俺と兄さんならば、お前にとっての絶望さえ超えられる」
提督「やっぱり杞憂だったじゃないか。なーにが『これで今生の別れになるかも』だ」
雪風(磯風さんと話をしてから数日後。司令は以前よりも素の口調になることが増えた気がします)
『あんまからかわないでくださいよ……あの段階じゃ磯風さんが何を考えているんだか分からなかったんですから。
そんなことより大胆な仕様変更のせいで頭がフットーしそうですよ全く』
『ま、嬉しいんですけどね。やっぱり君は僕に対して無茶苦茶な要求してくる時が一番輝いていますよ。
……口では尖った事を言っていても、やっぱり哀君は優しい子ですね』
繋に対し『減らず口を叩いている暇があったら作業を進めろ』と返信する提督。
雪風(繋お兄さんは設計・開発のための作業に追われています。本人曰くフル稼働で手一杯らしいですが、そのわりには余裕そうな口振りで安心します)
提督「やれやれ……いつまでもガキ扱いされていてはかなわん」
提督「しかし残された時間が少ないな。それに、不確定要素が多すぎる。呉と横須賀が深海棲艦の残党とぶつかる……これはまあ避けられないだろう。
深海棲艦を残したまま地上を去るわけにはいかんしな。情報を漏らしてあるのを逆手に取って立ち回れば倒すこと自体は出来ると思うが……奴らが大本営の言うことなんか聞くだろうか?
今にも反旗を翻しかねないぐらいの不穏っぷりだしな……宇宙船に連れ出すのも含めてどうやって説得するかが悩みどころだな」
提督「そのままこちらの意図を伝えたところで絶対信用されないだろうしな……上手い事丸め込められる口実が欲しいところだ」 珈琲を口に運ぶ提督
磯風「司令よ。言われた通り旧佐世保鎮守府の者たちには電報を送っておいたぞ。他の旧鎮守府・泊地在籍だった艦娘への伝達はもう少しかかりそうだ」
雪風(磯風さんは司令のことを“君”や“哀”ではなく“司令”と呼ぶようになりました。
数日前のあの後にどんな会話を交わしたのかは分かりませんが、司令のことを心から信じているようです)
提督「ご苦労。さて、どれだけ集まるか……そしてどれだけの者が話をまともに聞いてくれるかだな。期待は出来ないが……やらないよりはマシか。
一段落着いたら呉や横須賀に出向く準備もせにゃならんな……ハァ、憂鬱だ」
雪風(司令も大変そうです。ちゃんと寝てるのかなあ)
・・・・
提督「『アリバトロース』型の設計を基盤にするとはいえ、開発コストや安全面に難があるしな……時間さえあれば解決する問題なんだが……。
それに、一人しか搭乗しない設計だったものを大人数収容用に変えるとなるとそれだけで厄介だというに、方々に散り散りになった艦娘をどうやって集める?
磯風の話ではもう一ヶ月ほどの猶予しか残されていないそうだが……実に難局だ」
独り言を呟きながら、コポコポとポットの珈琲をカップに注いでいる。
雪風「しれぇ……また徹夜ですか。っていうか、晩御飯食べました?」
提督「ン、夜か。もう夜になっていたか……どうやら完全に昼夜の感覚を失ってしまったらしい。飯ならさっき食べたし、今日はもう寝るよ。
さすがにこの物量相手じゃ適度に寝ないと身が持たん」
雪風「寝ないとって言いながらコーヒー飲むんですね……」
提督「ン? ああ、これはカフェ・ロワイヤルだよ。ブランデーを染み込ませた角砂糖をスプーンの上に乗せ……」
パチリと電気を消し、角砂糖に火を灯す提督。
雪風「わああっ! 何やってんですかしれえ!?」 驚き仰け反る雪風。
提督「火の熱で溶けたカラメルをコーヒーに混ぜて飲む……。どうだ、洒落てるだろう?」
雪風「ほぇぇ……そういえば司令はお酒飲むとすぐ眠くなっちゃうんでしたっけ。昔、一度だけ司令が鎮守府の宴会に参加した時もすぐに酔い潰れちゃって、響に介抱されてましたよね」
提督「うむ、これは寝酒だ。かえって熟睡を損ねるらしいが……たまにやるくらい問題ないだろう」
ゆらめく炎を眺めている提督と雪風。ふと目が合うと、にこりと微笑む雪風。
雪風「しれえは、本当は優しい人なんですね。それに、本当はとても情熱的な人なんですよね?」
提督「お前まで兄さんみたいなこと言うなよ……気色悪い。前も言った通りだ、俺は俺の為に生きているだけだ。(それと、情熱的とは一体……? こいつは何を見てそう判断したんだか)」
雪風「でも、結局こうしてあたしや他の艦娘のために動いてるじゃないですか」
提督「結果的には、な。実のところ俺にもよく分からん。だが、『お前たちのため』だと思って行動しているわけじゃないさ。そんな感情は微塵もない。お前たちになど興味もないさ」
提督「ただ……似てるんだ、俺と。この世界に必要とされなくなった者がどうするのか、どうなるのか……どういう結末を辿るべきなのか。そこが少し気になっただけだ」
雪風「それでも。雪風は嬉しいですよ。司令と一緒に居れること、すっごく嬉しいです」
雪風がそう言い終えた直後にパチッと電気を点ける提督。まだわずかに火は残っていたが、構わずコーヒーの海の中に沈めて掻き混ぜる。
提督「さてと、明日も早い。お前もそろそろ寝るといい。俺もこれを飲み干したら寝るしな」
雪風(照れ隠し……?)
提督「? どうした雪風。半笑いでこっちを見るのをやめてくれないか、不気味だ。そしてそこの柱の陰に隠れている磯風は何がしたいんだ」
磯風「チッ、ばれてしまっては仕方ないな……」
提督(ま、あるいは……こういうのも悪くないのかもしれんな……)
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獲得経験値(~70/100)
・雪風の経験値+10(現在値20)
・足柄の現在経験値:25
・金剛の現在経験値:21
・翔鶴の現在経験値:15
・響の現在経験値:13
・皐月の現在経験値:11
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投稿が遅れてしまったことを改めてお詫び申し上げます。
うーん、ここまで大幅に伸びるとは思いませんでした。
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『Phase A』【-75/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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////ノートから千切った1ページ的なやつ////
連休中に起こったしょうもない出来事について書くか、作品に関する小ネタを書くかで迷いましたが後者で。
……今回は遅刻しちゃったので多少マジメに行こうかなと。
遅れた理由は単にサボっていたというわけではなくですね……。
まあリアルが忙しかったのもありますが、それよりも四回ぐらい書き直ししたせいですね。
提督がアレだとか艦娘がソレだとかほにゃららがほにゃららだとかは予め決めてた内容ではあったんですけど、なんか珍しく難産でしたねー。
例によって思わせぶりなわりにそれっぽいだけで特に関係ない系の単語が出てきますが、ちょっと今回は解説入れます。
『デザインチャイルド』の元ネタは蒼き鋼のアルペジオですね。DNA操作で生み出された存在で、驚異的な思考能力を持ち……って感じなんでわりとそのまんまです。
もちろん、都合よく引っ張ってきてるだけなので似たようなものであっても完全なイコールではないです。アルペジオの二次創作というわけではないんで……。
アルペジオの漫画を読む前から似たような設定は考えてましたが、結構ピンと来たのでそのまま連れてきました。
ええと……提督がホムンクルス的・ニュータイプ的存在だったという設定は実は最初からあったのですが、ぶっちゃけそんなん語らんでも良いかなーとか思ってたので意図的に伏せてました。
ただ、そろそろ言及しないと彼の目的や今後の動きが見えないかなーとか思って明かしてしまいました。
なんかこう、提督にいっぱい設定とか過去の経緯とかがくっついてると、胃痙攣を起こしそうになるというか、「ぼくのかんがえたさいきょうのなにがし」みたいな感じでアレというか……。
メアリー・スーなんじゃねーかと思ってちょっと避けてた節はありますねー。そんなものよりも艦娘の方を魅力的に描けって話ですからねぇ。
さりとて何の説得力もなくただなんとなく艦娘から好意を向けられまくっておモテになられる提督もエロ同人ならともかくわざわざSSで読みたいかっつーと……。
提督と艦娘との絡みもまた艦これ系の二次創作の魅力(だと個人的に思っている)ので、
提督について詳しく書くことで提督と艦娘とのやり取りに繋がるなら書いても良いんじゃないかなーとか思ったり。
どうなんでしょうねー、正直自分でもこうやれば正しいのではっていうのが見つけられてないんでアレですが。
オリキャラありきの文化って珍しいですよねー。もちろん必ずしも提督は必要ってわけじゃありませんけど……。
それから、見覚えのある黒塗りはアレですね。分かる人には分かると思いますがSCPネタですね。
アレもアレで厳しい戒律(?)の上に成り立ってる文化なので、例によって名前だけ取ってきただけです(そもそもこの作品とは世界観が違いすぎる)。
あれはあれで独自のユニークな世界観があるものなので、それを侵害する意図はありませんと明記しておきます。
ああ、ええと、あとあれですね。ネタの引用も難しいですね。リスペクトやオマージュのつもりでもそうでないと解釈されてしまったらそれまでですし。
節操なくネタ引っ張ってきてもカッチリとその作品の色に合致してないとサムいですしね。
神話ネタは基本的にオッケーかなと思ってちょくちょく混ぜたりしてるんですけど、あれもどうなんかなーとか悩んだり悩まなかったり。
作者目線での悩みに近いことを書いたので、だいぶ取り留めのない感じになってしまいました。
そもそもこういうことを考えてるわりに作品に活かせてるの? って訊かれたら微妙ですナ……。
でもでも、出来る限り良いモノを提供したいじゃないですか。自分で書いててつまらないと感じるものをお出しするわけにはいくまい。
またSOSOUをやらかしたら別の切り口でちょっと真面目な話をやるか没ネタに触れるかその他もろもろについて書くかします。
あ、あと全く関係ないですけど、六月作戦ランカー入りできてました。
労力に見合ってない報酬と言われればその通りですけど、やっぱり嬉しいもんですね。
また余力が出来たら挑戦してみたいですね! 俗に言う修羅の国サーバーなので次回も辛い戦いになりそうですが。
乙 足柄
>>549-553より
・足柄1レス/雪風2レス/響1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:243 なので『Phase C』は発生しません)
レス早いですね……。ちょっとイニシエダンジョンやってたらもう埋まっててビビりました。
リアルの方が落ち着いてきたので、またぼちぼち書いていきます。
遅くとも二週間以内には投稿できるかなーって見通しですです。
『遅くとも二週間以内には投稿できるかなーって見通しです』……はい、その、あれですね。スミマセン。
いやもうほんとアレですね。書きたいのはやまやまなんですけどね。できることなら一日中書いてたいところではあるのですがね。
霞を食べて生きていくわけにもいかんので……もちろん霞というのは霞であって霞ではありませんよ。
ふざけたこと言ってないで投下予告です。~8/9までにはなんとかお出しできると思います。
なる早で頑張りますが日曜の午後とかの投下になるかもしれません。とりあえず間に合うようにはします。
////チラシの裏移設計画////
最近投下が伸び伸びになっているんで自戒の意味を込めて作者監視用のTwitterアカウントを作成しました。
Twitterって何? って人は……まあそのなんだ。あんまり気にしないでください。
https://twitter.com/sagyooh
(@sagyooh)
・基本的にこのスレと艦これに関するトピックのみ言及します
・人と仲良くするためのアカウントではありません(議論したり顔見知りのお友達とよろしくやったりするアカウントじゃないです)
・私的な日記のためのアカウントでもありません(晩ご飯の画像をアップロードしたりするようなアカウントじゃないです)
・SSを書くまでの準備運動的な位置付けで使用することがあります(補足1)
・特に理由が無い限りフォロー非推奨です。フォローされたらされたでフォローバックはしますが、ツイート内容を遡られて趣味嗜好を分析される覚悟はしてください。
・このスレの続きを楽しみに待ってくれている人のために運用するつもりです(と言えば聞こえは良いですが要は時間稼ぎって感じですね……)
*補足1
スポーツ選手が試合前に準備運動をするように、(他の物書きがそうであるかどうかは置いておいて、)
自分の場合もある程度なんかしらの雑然とした文章を打ち込んでから本題のSSを書き始めるとわりと調子がよくなるので、そういう用途で使うかもしれません。
このアカウントに関する説明の前に、ちょっとした随筆的なものを。
先に書いておきますがこれはほとんど「自分的にそう思う!」「私の中ではそういうもんなんです」って話です。あくまで私的主観。
自分の場合前時代的インターネットコミュニティ感を大事にしてるところがあってこのように匿名掲示板でSSを書いているのですよ。
(まあ発端は「こんなスレあったら面白いんでね?」ぐらいのもっと軽い気持ちで立てたってのは置いといて)
匿名であるがゆえの空気感、不特定多数の人間から来る安価で決まる混沌とした感じこそが面白いなと思っているわけで。
これをたとえばここじゃなくPixivなりなろうなりで書いてたとして、で、ツイッター上の自分のフォロワーから来たリプライで今後の展開を決める……ってえのは全然面白くねえなと。
本質的には安価を募集して次の展開を決める~みたいな形式も上の例と同じように自分の作品を好いてくれている(あるいは興味を持っている)人間の意向で決まるって意味では近いんですけど。
ただ自分の中ではやっぱり明確に違うんですね。やっぱり、自分が匿名の存在であり相手も匿名の存在であると認識してると付き合い方は変わってくるでしょう。
ぶっちゃけて言えば誰だか分からないどうでもいい存在じゃないですか匿名ですし。でも、それでいいと思うんです。むしろ、だがそれがいいのです。
あくまで作者が創る『作品』に価値があるのであって、作者そのものには価値は無いんです。(アーティストやアイドルとしても活動してるならまた話は変わってきますが)
私個人に関する情報なんか提示する必要ないんです。匿名でいいんです。私も自分の作品に対する反応や反響だけを求めて書いてるわけですしね。
では本題に戻ってアカウントの説明。ええと、上の箇条書きは別に卑屈になっているわけではないんですね。
ただ、敢えて匿名性を保っていたいなあというポリシーがあって、そしてそのポリシーはTwitterというコミュニティの中では文化色が違うので一応説明書きしておいたと。そういう感じデス。
人に説明するだけでこんなにめんどくさいならわざわざアカウントなんてこしらえる必要ではないのでは? というのはご尤もなんですが。
いや全くその通りなんですよ! 一週間に一度ぐらいのペースで投下出来りゃあこんなもん作る必要は無かったんですよ。ただ現実問題それは実現不可能っぽいので……。
(やや自意識過剰気味ですが)次の話を心待ちにしてる人を何週間も待たせるのは心苦しいので、待ってる間も少しは楽しませることが出来たらなーという意図がありますハイ。
もちろんTwitterアカウントなんぞ所詮オプションに過ぎないので、見なくても全く問題はないです。
あんまり大事な内容は書くつもりはありませんし、仮に書いたとしてもその時はこっちにも載せますんでご安心を。
あくまで作品を書くことが主であって、その他全てはおまけです。本末の線引きはきちんとしたいと思ってます。
そんなわけで、残り最短だと25レス。長いようで短いようなどうなんだか分からないぐらいの期間になりそうですが頑張っていきたいと思います。
完結までもうしばしお付き合い願います。
(25じゃなくて30レスですね……何はともあれよろしくお願いします)
提督「敬礼などよせ。俺はもうお前の上官ではないのだからな」
提督と雪風は、赤城に呼び出され彼女の道場を訪れていた。
赤城「いいえ、貴方はいつまでも私にとっての提督ですから。突然呼び出してしまって申し訳ありません」
提督「(……それでは困るのだがな)『俺に会う必要がある』と判断したんだろう? なら構わんさ、約束した通り応じよう」
赤城(提督のお顔……初めて見る……。凛々しくて素敵ですね……見惚れてしまう……)
提督「? あぁ、仮面でないのが気になるか? その話も後でしよう。何にせよ屋内に入れてくれないか。日暮れとはいえ西日が差して暑い」
・・・・
赤城「驚きました……提督は宇宙飛行士になりたかったんですね? 子供の頃の夢? とかですかっ!?」
目をキラキラさせながら食いつく赤城をあしらう提督。
提督「(こいつ、こんなにテンション高いやつだったか……?)別段そういうわけではないし、勝手にお前の脳内で俺の過去を妄想するのはやめろ。というか、話の腰を折るな」
提督「仮面で素顔を隠していたのは、そういう理由だ。退役後の動向を知られたら困る……のだったが。そこから先はさっきの話の通りだ。顔を隠す必要もなくなった」
赤城「なるほど、艦娘同士での対立……ですか。でも、それと提督が宇宙を目指していることと何の関係が?」
提督「艦娘の行動原理が“人のため”であるならば、対象となる“人”のいない世界では制約なく振舞える……と考えた。
お前が俺を呼び出した理由である元艦娘の召集の件も、元艦娘を集めて艤装ごと別の星に隔離する計画のためだ」
赤城「……! ですが、艦娘たちがそれに応じるでしょうか? それに、その計画が本当にうまくいくという確証はあるのですか……?」
提督「実のところ、うまくいくかどうかは関係ない。ひょっとしたら移住した先でも艦娘同士での戦いが起こるかもしれん。が、問題ないのだよ」
赤城「?」
提督「轟沈していなければ……人としての肉体さえ失われなければ艦娘は蘇ることが出来る。要は前と全く同じ艤装を用意してやればいいだけのこと。前例がある。
応じなかった艦娘ら同士で争いを始めようと、最終的に艤装を失った抜け殻を回収してこっちに連れてきてやればいい」
提督「とはいえ……出来ることなら穏便に済ませてやろうという腹積もりだがな。これは上官としての命令ではなく、俺個人としての依頼だが……赤城。
お前には俺のために動いてもらいたい。召集の前段階から打てる手を打っておきたいんでな。協力してくれるか」
赤城「もちろんです。この赤城……提督のために尽力します」
・・・・
赤城「よし、二航戦や五航戦の子たちには連絡しておきました。加賀さんも明日は休みそうだからその時に伝えればよし。これで今日やれることは済ませたわね……」
提督と雪風の寝室の襖をピシャーッと開ける赤城。
赤城「提督♪ お酒を用意したので晩酌でもいかがでしょうか? ……って、あれ?」
雪風「んぁ。しれぇならついさっき走り込みに行ったので、しばらく帰って来ないと思いますよ。昼間は暑くてそれどころじゃなかったから、夜やるそうで」
パジャマ姿の雪風。眠たそうな目でノートパソコンをいじっている。
赤城「あら、それは残念。……」 まじまじと雪風を見る赤城
雪風「?」
赤城「ひょっとして、提督ってそういう趣味なのかしら、と……」
雪風「あの……怒られますよ? それに、私だって見た目がこんなんなだけであってですね……」
赤城「フフッ、失礼しました。……でも、提督に相当買われてるんですね。雪風さんは提督のことをどう思ってるんですか?」
雪風「んーと、それはどういう意図で言ってますか? 質問に質問で返すようで悪いですけども」
赤城「私は、提督をお慕いしているので。貴方もそうなのかと気になるのです。
提督と心から一つになりたいと、思いませんか? 運命を共にしたいとは思いませんか?」
雪風(おぉ……。そういえば、響も司令にベタ惚れでしたね。『私は彼のことを愛している』とかなんとか)
雪風「いやぁ……そりゃあしれぇの事は好きですけど……。多分、そういう対象ではないですね……釣り合わないっていうか、なんていうか。
しれぇと一緒に居られる日常は楽しいし、いつまでも続いていて欲しいと思いますけど……そこから一線を超えるのは、なんか違うかなって思うんです」
雪風「司令が雪風の才能を認めてくれて。雪風もそれに応えたいと思うだけで。
しれぇに不要だと思われたら、そん時ゃそん時ですかねぇ。まあ、仕方ないと思ってます。そうならないように頑張るつもりですけどね!」
赤城「そう、でしたか。……でも、提督が雪風さんを傍に置いている理由が分かった気がします。考え方が結構提督に似てますよね」
雪風「えぇ……。しれぇに影響されたのかなぁ……」
・・・・
提督「……ィクシッ! 夜風は存外冷えるもんだな」
赤城に呼び出された翌日にその足で手取提督は呉鎮守府を訪れた。井須提督とは既に話を済ませた後のようで、今は鎮守府内の客室で響と面会している。
提督「久しぶりだな。……こちらも余裕が無いので、あまり長い時間は居られんが。折角なので少し話をしに来た」
響「随分と待ったような気がするよ。もっとも、これ以上待たされるようであればこちらから引きずり出すつもりで居たが」
提督「さて本題だ。お前たち呉と横須賀の艦娘のほとんどは次回の大規模作戦に出撃する」
響「……ああ、それか。実を言うと、これから君が話そうとしている内容は比叡から既に聞いている。
赤城から話を聞いた金剛の比叡の話だから、又聞きの又聞きになるのかな? 多少歪曲しているかもしれないが」
赤城は自分の同僚である加賀や、後輩であった二航戦・五航戦、そして以前自分の下を訪れた金剛に召集に関する補足の情報を伝えた。
内容は、召集には手取提督も応じるということ、やがて艦娘同士での争いが始まるようになるということ、手取提督はそうなる前に手を打つつもりだということの三点である。
赤城からの話を聞いた金剛は、まず比叡に連絡を入れた。現役の艦娘である比叡は元艦娘の召集があるということさえ知らなかったようなので、最初にそのことから話した。
響「元艦娘の召集があり、それが行われるのは私たちが次の大規模作戦時なんだろう」
金剛は、艦娘同士の戦争が起こると比叡に伝えた。だが、比叡はそれを信じる気にはなれなかった。
所属は違えど今まで幾多の戦場を共にした者同士で争いを始めることなどあるだろうか?
たとえ実の姉の言葉であっても、何かの間違いに違いないという確信が彼女の中であった。
そう考えたからこそ、自分の抱いた疑念ごと響にそのまま伝えることにしたのだった。
響「私も比叡の意見に賛成だ。その一点だけは俄かに信じがたくてね。直接そういう事象が起こるのを目の当たりにしない限りは信用出来ない」
響「というのもだ。私は君の智慧と才気に関しては全幅の信頼を置いているが。君の立ち位置に関してはいまいち信用することが出来ないでいる。
結局のところ君は大本営の使い走りだろう? 君が動かざるを得ないのっぴきならない事情があるのではと勘繰っている」
響「そもそもだ。今の君の行動は、本当に君の意志によるものか? 純粋に君の目指しているものがそこにあるのか?
艦娘同士の争いを防ぐ術というのが具体的にどういうものかまでは分からないが、仮にそれがあったとして、君は本当にそれを成したいと思っているのか?」
響「君にとって艦娘とは何だ? 私とは何だ? 利用価値のある駒か? 守りたい存在か? 仮に私たちが争いを始めたところで、それが君の利害にどう作用する?」
提督「質問攻めだな……要点を絞ってくれ。何が聞きたい」
響「いや、回答を期待したものではない。少し興奮してしまってね。気にしないで欲しい」
響「ただ……かつての君では考えられない動きだったから、そこが少し気になった。君の行動原理が知りたいだけなんだ」
提督「そうだな。では答えよう。別に艦娘を救う救世主を気取っているわけではないし、実のところ艦娘のために動いたところで特に俺の目的とは関係ない」
提督は響に対して召集の目的は艦娘を宇宙船で別の星に移住させる計画をしていること、仮説通りならそれで艦娘同士の衝突を避けられるのかもしれないという話した。
響「そうか。君はこの地球を去ろうというのだな……その行為自体は君の望みか? それとも、それも艦娘のためなのか?」
提督「いいや。それは俺の目的だ。自分とは何者なのか? この宇宙とは何者が創ったのか? この世に生命が生まれ出づるその意味とは?
俺は自分の知識欲を満たしたい。だが、この地球は俺の欲望の容積を満たすには狭すぎる。だからここから離れて、俺が万物を理解するための『真理の箱庭』を創り出す」
響「ハッハッハッ、狂ってる……ハハッ、ァハッ! フ、フフ……。ハァ……これは驚いた。いや、見事だ。痺れたよ。流石というべきだね」
響(どうにも毒気が抜けた印象があったが……やはりこの人はナチュラルに狂っているんだな。背筋がゾクゾクする。それでこそ、だな)
提督「艦娘に関しては、正直のところついで程度にしか思っていない。
この地球に場所が用意されていないのなら、俺が用意してやろうという程度だな。強いて言うなら親切心といったところか」
響「ふふふっ、司令官からまさかそんな言葉が出てくるとは思わなんだ。ただ、そうだな。君らしい、実に君らしいな」
提督「そういうわけだ。……さて、もうじきここを離れなくてはならん」 腕時計を一瞥する提督
響「そうか。名残惜しいが仕方ない。……わざわざ私一人にこうして時間を割いたということは、力を借りに来たという解釈で合っているかな」
提督「もちろん。では解答を聞こうか」
響「さっきも言った通り、私は艦娘として比叡の意見を信じていたい。けれど……それとは関係なく、君の野望に興味を持った。協力させてもらうよ」
・・・・
呉鎮守府 艦隊会合室
比叡「手取司令と会ってきたんですねー」
響「その通り。顔に出ていたかな?」
比叡「顔には出てませんけど……その上機嫌っぷりを見れば分かりますって」
響「まあ、ね。やっぱり彼は素晴らしいよ。話していて心が躍ったんだ、長らく忘れていた感覚だよ」
比叡「はぁ……そうですか。で、これからどうするんですか?」
響「彼のあの目は、もうゴールを見据えている目だ。私が協力してやるまでもないだろう。きっと自分の思った通りのことを成し遂げるさ。
だが……私は彼の役に立ちたいと思う性を抑えることが出来ないんだよ」 キラキラ
比叡「ゾッコンですねぇ。……ん?」
比叡(今、響の艤装がなにやら黄色いオーラを纏っていたような……? 気のせい??)
清霜「どうって言われても……行くしかないでしょ。このままバックれるわけにも行かなくない、ねぇ?」
足柄「大淀は本当にそれでいいの? わざわざこんな立派な事務所まで立てたのに」
書類を整理しながら召集の件について話し合っている清霜・足柄。大淀は事務所に届いた大きなダンボールを慎重に運びながら足柄の問いかけに返事する。
大淀「? 別に構いませんよ。軍に呼ばれているのなら行くべきでしょう。私たちはまだ艤装を解体されていない以上、厳密には艦娘ですし」 ヨッコイショ
足柄「いやあ、でもわざわざ召集するぐらいだから軍に戻れぐらいのことは言ってくる可能性が高いんじゃない? そうなった時のこと考えてるわけ?」
大淀「もちろん考えてますよ。というか、そうなることを予期しています。軍に戻れと命じられることは無いと思いますが、それクラスの話はされるでしょうね」
足柄「大淀。あなた例の事件の弁護が終わった後もちょくちょく大本営に行ってるみたいね。ちょっと情報共有しなさいよ、事の全容が見えてこないわ」
大淀「あの事件のおかげで大本営には恩を売れましたからね。私なりに色々と気になることを調べて回っていたのですよ。で、知ったことは、これです!」
清霜「おかげってさあ……。ところで、なあにこれ? 『月面移住計画』……?」
大淀がテーブルの上に置いたのは、ロケットの図面が描かれた資料だった。
足柄(まさか……?)
大淀「運用コストの観点から、現在の艦娘を養っていくのは困難なようです。
今まではそれでも深海棲艦を倒さなければなりませんでしたから、無理に無理を重ねて燃料等を捻出していましたが……いよいよ限界だ、とのことです」
清霜「うん。そういう理由もあって例の軍縮があったんだよね。それでもダメだってこと?」
大淀「はい。これは大本営の地下施設で撮った解体待ちの艤装の写真です。幾つか、赤い光を帯びている艤装が見えますよね?」
清霜「これは……なんか、深海棲艦の纏ってるオーラと似てない? 赤いやつ……elite種だっけ?」
大淀「そうなんです、まさにその通り。この状態はまだ第一段階ですが、黄色、青色と変色していくようです。ちょうどMI作戦の後から確認されるようになった症状らしいです。
状態が遷移するごとに艤装の持ち主である私たちの精神や肉体もよろしくない方向に変調していくようです」
足柄「青色になるとどうなるの? 深海棲艦にでもなるのかしら」
大淀「近いですが……完全にそうはなりません。深海棲艦と違って人に危害は加えませんから。攻撃の対象は艦娘です。
MI作戦終了後に、既にいくつかの鎮守府ではそういう事件が起こっていたようで……。鎮守府を横須賀と呉の二つに集約したのは、混乱が各地に散らばるのを防ぐためだったようです。
幸い二鎮守府でそういうケースはまだ起こっていないようですが……。赤や黄色の光を纏った艤装を装備している艦娘が発見されてはいるそうです」
大淀「で。本題はここからです」
ダンボールの封を開けると、中に入っていたのは赤色の光を放つ艤装。
大淀「これが私たちの艤装です」
絶句する足柄と清霜。
大淀「残された時間はそんなに残っていないようです。この事務所は畳んで、手取提督の指示に従います」 スチャッと眼鏡をかけ直し、艤装を身に着ける大淀
足柄(手取提督? どうしてそこであの人の名前が……?)
大淀「そりゃ、名残惜しいですけど……そうも言ってられませんからね」
足柄「この赤いのをどうにかする方法は無いのかしら?」
大淀「地球外の環境を再現した部屋では艤装の変質が緩やかになるという実験結果が出ているそうです」
足柄「……! 道理でね。なるほど合点がいったわ」
大淀「提督が開発していたロケットで艦娘たちを月まで連れていく……という算段だそうで」
清霜「なるほど! だから明日艦娘をひとまとめに集めようとしているわけね。でも、この艤装は何のために?」
大淀「私たちヴェアヴォルフに与えられたラスト・オペレーション、といった所でしょうかね」
・・・・
足柄(海を走るこの感覚も随分久しぶりに感じるわね。半年も経ってないはずなんだけど)
東京にある大本営で艦娘の召集が行われた後、他の艦娘たちは旧佐世保鎮守府へと集められたようだ。
一方足柄ら三名は海路を突き進みステビア海方面へ向かっている。
清霜「『黄色い艤装の艦娘』が要注意なんだよね」 無意味に双眼鏡を覗いている清霜
大淀「はい。『青色』になって即座に味方を襲うようになるというわけではないみたいですが、注視が必要ですね」
足柄(ステビア海に結集した深海棲艦を倒しに横須賀・呉の連合艦隊が交戦しているらしく、その戦いの様子を監視して提督に報告するというのが今回のミッション。
この作戦が終わった直後に、戦闘から帰還した艦娘たちも連れてロケットで宇宙へ向かう。って……イメージ湧かないわねえ)
足柄「ま……これで最後みたいだし、派手に暴れさせてもらおうかしらね!」
大淀(今回は暴れてもいいとは言われてないんですけど……まあいいか)
猛烈な勢いで軽トラックを疾走させる提督。助手席には皐月が座っている。
皐月「あと二軒だよ! 頑張れ司令官」
陽炎「ちょっと! 軽トラックでドリフトって何考えてんのよー!」
皐月「それだけ急いでるんだってば。文句言うなー!
それに、書類上は解体扱いなのに艤装を残したままだなんてめんどくさいことしてる方が悪い!」
提督(うちも龍田らの例がある以上、人のことは言えんのだがな……)
・・・・
話は一日前に遡る。大本営に集まった艦娘たちに説明を済ませ、提督もまた艦娘たちと共に佐世保へ戻った後のことだ。
提督「さて。なんとか佐世保に戻って来れたな。呉の方には話を通した。
あとは明日横須賀のを説得して、ステビア海攻略作戦完了を待って、ようやく終わりか……前者が厳しいな」
皐月「司令官、大事な話があるんだ。聞いて欲しい」
提督「ああ、皐月か。すまんな……卒業させてやれなかった。事情が事情なだけに仕方ないんだ。許してくれ」
皐月「うん。クラスの皆にさよならも言えないままお別れなのは寂しいけど……それより、もっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
皐月「ボクの通ってた学校に陽炎っていうのが居てさ。陽炎は艦娘なんだ。艤装は“書類上”解体されたことになってるけど、実際は横須賀に残ったままなんだ。
だから召集の知らせが届いてなくってさ……。陽炎も連れて行って欲しいんだ! クラスは違うし、腐れ縁だけど……ボクの友達だから」
提督「…………なぜそれを東京に居た時に言わなかった」
皐月「ごめん、突然すぎて頭から抜けてた……今になって思い出した」
提督「なるほど、それで横須賀の提督が事情を説明してなお動きたがらなかった理由か。お前のおかげで全て解決しそうだ」
提督「だが……お前のせいで俺はこれからとてつもない重労働を果たさねばならなくなった。貸し1だ」
・・・・
提督(これで『解体されたフリ』の艦娘もなんとか全員揃った。そのことを説明したらようやく横須賀の提督も佐世保に向かってくれたようだ)
提督(足柄の報告によると明日の昼にはステビア海の攻略に向かってた連中が戻ってくるらしいが……それまでにはなんとか帰れそうだな)
既に日は沈んで空には星が輝いている。高速道路を走っているにも関わらず、後ろの荷台にいる陽炎たちはグースカと眠っている。
艦娘の適応力や恐るべし。なお検問は荷物にカモフラージュして抜けてきた模様。
皐月「しれーかん。学校に行かせてくれてありがとう。ボクのわがままを聞いてくれて。卒業出来なくても、ボクにとっては良い経験になったよ」
皐月「皆、くだらない遊びに真剣になるようなバカばっかりでさ。でも、だからこそ楽しかった。あんな風に気ままに生きられたら楽しいだろうなって」
皐月「……これから先も、楽しく生きていきたいな」
提督「……」
皐月「ふぁあ、なんだか眠いみたい。考えてることがすぐ口に出ちゃうんだ。って……司令官の方がもっと眠いのか。ゴメンゴメン、気にしないで」
提督「寝てていいぞ。どうせまだかかる」
皐月「喋ってないと寝れない性質なんだ……もうちょっと付き合って」
提督(文月のやつも案外苦労しているんだな……)
提督「楽しく生きていたい、というのは気の持ちようじゃないか? どんな状況の中でも、楽しみを見出すことが出来れば充足感は得られる……と俺は考えている」
皐月「じゃあ、司令官は今楽しい?」
提督「……恐らくは」 ニヤリと小さく微笑む」
皐月「ふふふ……なるほど……。ボクも、司令官と一緒にいれば楽しいかもしれない……むにゃ」
提督「……」
・・・・
提督「着いたぞ……! どうにか、こうにか、というわけだ……」
磯風「ロケットの方はいつでも飛ばせるぞ。隕石か急降下爆撃でも振って来ない限りは問題ないだろう」
赤城「横須賀・呉に残っていた艦娘も揃っているようです。あとは、海域攻略部隊の帰投を待つのみです」
提督「よし! もう準備を始めて良い頃合だろう。動いてくれ」
皐月「んぁ……おはよう司令官」
提督「暢気なやつだなおまえは……」
猛烈な勢いで軽トラックを疾走させる提督。助手席には皐月が座っている。
皐月「あと二軒だよ! 頑張れ司令官」
陽炎「ちょっと! 軽トラックでドリフトって何考えてんのよー!」
皐月「それだけ急いでるんだってば。文句言うなー!
それに、書類上は解体扱いなのに艤装を残したままだなんてめんどくさいことしてる方が悪い!」
提督(うちも龍田らの例がある以上、人のことは言えんのだがな……)
・・・・
話は一日前に遡る。大本営に集まった艦娘たちに説明を済ませ、提督もまた艦娘たちと共に佐世保へ戻った後のことだ。
提督「さて。なんとか佐世保に戻って来れたな。呉の方には話を通した。
あとは明日横須賀のを説得して、ステビア海攻略作戦完了を待って、ようやく終わりか……前者が厳しいな」
皐月「司令官、大事な話があるんだ。聞いて欲しい」
提督「ああ、皐月か。すまんな……卒業させてやれなかった。事情が事情なだけに仕方ないんだ。許してくれ」
皐月「うん。クラスの皆にさよならも言えないままお別れなのは寂しいけど……それより、もっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
皐月「ボクの通ってた学校に陽炎っていうのが居てさ。陽炎は艦娘なんだ。艤装は“書類上”解体されたことになってるけど、実際は横須賀に残ったままなんだ。
だから召集の知らせが届いてなくってさ……。陽炎も連れて行って欲しいんだ! クラスは違うし、腐れ縁だけど……ボクの友達だから」
提督「…………なぜそれを東京に居た時に言わなかった」
皐月「ごめん、突然すぎて頭から抜けてた……今になって思い出した」
提督「なるほど、それで横須賀の提督が事情を説明してなお動きたがらなかった理由か。お前のおかげで全て解決しそうだ」
提督「だが……お前のせいで俺はこれからとてつもない重労働を果たさねばならなくなった。貸し1だ」
・・・・
提督(これで『解体されたフリ』の艦娘もなんとか全員揃った。そのことを説明したらようやく横須賀の提督も佐世保に向かってくれたようだ)
提督(足柄の報告によると明日の昼にはステビア海の攻略に向かってた連中が戻ってくるらしいが……それまでにはなんとか帰れそうだな)
既に日は沈んで空には星が輝いている。高速道路を走っているにも関わらず、後ろの荷台にいる陽炎たちはグースカと眠っている。
艦娘の適応力や恐るべし。なお検問は荷物にカモフラージュして抜けてきた模様。
皐月「しれーかん。学校に行かせてくれてありがとう。ボクのわがままを聞いてくれて。卒業出来なくても、ボクにとっては良い経験になったよ」
皐月「皆、くだらない遊びに真剣になるようなバカばっかりでさ。でも、だからこそ楽しかった。あんな風に気ままに生きられたら楽しいだろうなって」
皐月「……これから先も、楽しく生きていきたいな」
提督「……」
皐月「ふぁあ、なんだか眠いみたい。考えてることがすぐ口に出ちゃうんだ。って……司令官の方がもっと眠いのか。ゴメンゴメン、気にしないで」
提督「寝てていいぞ。どうせまだかかる」
皐月「喋ってないと寝れない性質なんだ……もうちょっと付き合って」
提督(文月のやつも案外苦労しているんだな……)
提督「楽しく生きていたい、というのは気の持ちようじゃないか? どんな状況の中でも、楽しみを見出すことが出来れば充足感は得られる……と俺は考えている」
皐月「じゃあ、司令官は今楽しい?」
提督「……恐らくは」 ニヤリと小さく微笑む」
皐月「ふふふ……なるほど……。ボクも、司令官と一緒にいれば楽しいかもしれない……むにゃ」
提督「……」
・・・・
提督「着いたぞ……! どうにか、こうにか、というわけだ……」
磯風「ロケットの方はいつでも飛ばせるぞ。隕石か急降下爆撃でも振って来ない限りは問題ないだろう」
赤城「横須賀・呉に残っていた艦娘も揃っているようです。あとは、海域攻略部隊の帰投を待つのみです」
提督「よし! もう準備を始めて良い頃合だろう。動いてくれ」
皐月「んぁ……おはよう司令官」
提督「暢気なやつだなおまえは……」
佐世保宇宙開発研究所、所長室(旧:執務室)。
足柄「こちら足柄! 敵深海棲艦はこの私が殲滅したわ! 艤装が青白くなってる艦娘も居ないわね」
提督「(交戦しろとは命じてないんだが……)ご苦労。ではそのままこっちに向かってくれ」
提督「フゥ……」
深い溜息をつく提督。
雪風「しれえ! いよいよ、ですね……!」
提督「ああ。なんとかなるもんだな……。全ての準備は整った。奴らが帰ってくるあと数時間で全てが終わる……」
隣にいる雪風を見る提督。
提督(いや、始まりと言うべきか。注力すべきはここから先であり、まだスタートラインにすぎない)
提督(時間で換算すればさほど長い期間では無かったはずなのだが……。随分と長い道のりだったな)
ソファに深く腰掛け目を閉じる提督。それが達成感によるものなのか、疲労感によるものなのかは分からない。
雪風「しれえ? ……寝てます?」
提督「いや……向こうに着くまでは寝るわけにはいかんよ。ただ……これまでを振り返って、長かったと思ってな。少し感慨が湧いただけだ」
雪風「そうですか。……あたしはあっという間だったなって思いました。
色んなことがあっという間に駆け抜けていって……ほとんどわけもわからないまま目まぐるしい移り変わりを体験して。
でも……司令の傍で過ごした日々はいつも楽しかったし、幸せだったなって思うんですよ」
提督「なるほど、雪風にはそういう風に感じるんだな。お前に限らず、俺の周りの人間は俺に振り回されてばかりだからな……」
雪風「あー、確かに……。でも、あたしは、司令に振り回されるの好きですよ。あたしだけじゃなくて、他のみんなも」
雪風「だって、しれえはなんでもやってのけてしまうじゃないですか。どんなに無茶苦茶なことが押し寄せても動じないっていうか。
しれぇのそういうところ、あたし好きですよ」
提督「……」
雪風(しれぇはこういう時はいつも黙っちゃうんですよね……どんなこと考えてるんだろ)
提督「お前は俺の傍に居て楽しいと思うのか。だが……それは本当に正しいことなのだろうか」
雪風「正しい、というのは?」
提督「俺は分からんのだよ。俺がお前たち艦娘やそれに関わる人間の人生を左右してしまうことが正しいことなのか」
提督「無論、自分の利益のためなら俺はお前たちを躊躇いなく利用してやる。
だが、これは俺の為にやっていることなのかお前たちの為にやっているのか分からんのだよ。
後者であるならば、本当にそれはお前たちの為になることなのか……? とな」
雪風「ためになるとか、ためにならないとか、そういうもんじゃないと思いますよ。
しれぇが皆のために尽くしたいと思うのなら、それは素晴らしいことじゃないですか。立派なことですよ」
提督「立派かどうかは問題ではない。利をもたらせるか……だ」
提督「いや、こんなことを考えること自体が俺らしくないのか?」
雪風「司令は変わったんですよ、きっと。今はまだ変化に気づいてないだけで。司令は、人の幸せを喜べる人になったんですよ」
雪風「自分が悲しくなくても、自分の周りで人が悲しんでたら悲しいんですよ。自分の周りで人が喜んでたら、嬉しいんですよ。
きっと、人と人とが分かり合うってそういうことだと思うんですよ」
提督(『人と人とは分かり合うことができる』……か。金剛もそんなことを言っていたか)
提督「あるいは……そうなのかもしれないな。そう、ありたいと思う」
・・・・
提督(いざ……)
雪風「艦娘の収容も済んでます!」
磯風「繋の最終調整も済んだそうだ。さ、行こう」
提督「ああ。この景色ともお別れか」
雪風「……少し、寂しくなりますね」
雪風「でも、寂しくならないように、向こうでもたくさん思い出を作りましょう」
提督「……そうだな」
提督と雪風は地球から見える空と海の景色を瞳の奥に残し、ロケットへと乗り込んだ。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~75/100)
・足柄の経験値+1(現在値26)
・雪風の経験値+2(現在値22)
・皐月の経験値+1(現在値12)
・響の経験値+1(現在値14)
・金剛の現在経験値:21
・翔鶴の現在経験値:15
----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【76-80/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
01~12:雪風
13~32:翔鶴
33~50:金剛
51~69:響
70~79:足柄
80~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
お
あ
>>568-572より
・金剛1レス/響4レス(1レス)
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:295 なので『Phase C』は発生しません。>>569よりエクストライベントが発生します)
////チ////
夏イベは今日から……? E7まであるそうなんでなかなか厳しい戦いになりそうですね。
とりあえずピザ食べながら攻略頑張ろうと思います。
次回の投下は9/4(金)を予定しております。
まただいぶ間が空いてしまいました。イベントがあったので仕方ないってことで許し……ダメ?
////今回のイベントの話////
ごく個人的な話をします。
ちょっと前ですがE7甲突破したんですけど……今回はその話題です。
いやあ今回は……壮絶な難易度でしたね。
13年夏頃から始めてて今ではランキングで一桁台を取ってるような知人が居るんですけど、その人でも甲は投げてたぐらいですからねぇ。
私の場合は運良くなんとか……と言っても運を時間でねじ伏せたと言った方が正しいですかね。
前日に3重キラ付け部隊を作りまくっておいてー、そこからローテーション用の予備戦力もキラ付けしておいてー、
0時ちょうどに起きれるように仮眠取っていざ決戦! って感じでした。
攻略にかかった時間は実質17,8時間ぐらいでしたかねー。
南逸れの絶望感と0時リミットによるプレッシャーののシナジー効果が半端なかったです。
倒した時はもう舞い上がっちゃって、友人にSkypeで通話かけて鬱陶しがられるほど狂喜乱舞してました。
ついに防空棲姫を大破まで追い詰めた状態で夜戦に突入するもカットイン要員が三人潰されて絶望的、資源も尽きたので再挑戦も困難、
残るは重巡一隻って状況からクリティカル連撃をキメられたらそりゃあもう有頂天にもなるってもんですよ。
あそこで倒せてなかったら最悪今もE7甲を攻略することになってたかもしれませんね……恐ろしい。
今は全難易度を甲で攻略したことをめっちゃ後悔してますね(掘りが辛い)。
いやね、E3でS勝利取れないんですわ本当に! ダブルクウボーバがいい感じに第二艦隊を苛めてきてですね……。
『バビロン』。それがこの宇宙船に託した名だ。ああそうだ、説明するまでもない。由来はあの塔だ。
かつて人類が目指した神の国、その扉を叩くための塔――“バベルの塔”。もっとも、そこまで大それた目的ではないが……。
“バベル”の結末は知っている。だが、俺の計画を阻むような狭量な神であるならば。
……チェーンソーでバラバラにでもしてやろうか。
・・・・
『バビロン』、雪風に聞いたところ、メソポタミア地方の古代都市の名前らしい。
……メソポタミアと言われても、それがどこにあるのかは皆目検討つかないが。
司令官のことだから“バベルの塔”とでも掛けたのだろうか。そう考えるとなるほど合点がいく。
もしこのまま私たちが地球に残っていては艦娘同士の争いが起こるという。
私は未だにその話を信じてはいないが、このように艦娘の全てを一斉に集められては従うほかない。
まったく道理を無理で貫き通すのが得意な御仁だ。いや、彼の前では無理も無理でないのだろうか。
“バベルの塔”か。そうか……フフッ。
いや、実に彼らしいな。失敗が許されないここ一番でそんな名前を引っ張りだしてくるのか。
敢えて……にしても不遜だし、不吉だな。
だからこそか。だからこそ、なのかもしれない。
彼の目指す『真理の箱庭』というものが具体的にどんなものかは分からない。
だが、もしこの世に神が居るのなら。彼はその神に限りなく近づこうとしているのだろう。
彼の歩むその道は、希望なのか破滅なのか……。
・・・・
ここがどこだか分からない。何も見えない。感触もない。自分の体が棒立ちしているのか、横たわっているのかも分からない。ただ音だけは聞こえる。誰かが俺に話しかけている。
繋「結論から言うとね」
繋「計画は失敗した。設計は完璧だった、事故も起こらなかった。全てうまく行っていたよ」
繋「でもね、君の身体ではこの地球を離れることが出来ない。仮に宇宙アレルギーとでも名付けるべきかな。
地球から離れれば離れるほどに全身の細胞が癌化していってしまうようだ」
繋「君の肉体は君も知っての通り、艦娘たちが使うような高速修復剤によって保たれている。身体の全てが修復剤で出来ていると言うべきかな。
だから艤装をつけた状態の艦娘同様に心臓を貫かれたところで致命傷にはならず、肉体を再生不能になるレベルまで細切れにされるか、脳の大部分を破壊されない限り蘇生する」
繋「結果として何が起こったかというと……。君はバビロンで地球を離脱している間、幾度となく死に続けた。修復剤で完治した部分から癌で壊死していき、壊死した部分をまた修復剤が直す。
しかし、君の体内に血液のように流れている修復剤にも限りはある。あのまま月を目指していたら君の肉体も消滅していただろうね」
繋「だからバビロンは地球に戻った。そして今君は病室のベッドの上だ。君の“肉体”は」
提督「……どういうことだ?」
繋「君の肉体は半不老不死と言ってもいい、体内の修復剤の尽きない限りはね。だけど君の精神、いや君の魂はあの肉体から剥がれ落ちてしまった」
提督「幽体離脱、というところか。なら、肉体へ戻らねばならんな。俺はこれからどうすればいい」
繋「無いんだ。君はもう死んでしまった、だからもう……戻れない。かつて君であった肉体には別の魂が宿ることだろう。そうして手取哀として生きていく」
提督「なんだと……なら、俺はどうなるんだ?」
繋「数日で消滅する……少なくともこの次元ではないどこかに行ってしまうだろう」
・・・・
『バビロン』を降りた後、艦娘たちはひとまず数ヶ所の施設に収容されたらしい。しかし私、Верныйは脱走し、司令官と直接会える機を伺っていた。
『バビロン』は一瞬だけ地球を脱すると、Uターンして再び地上に戻ってきた。
特に問題なく発てていたようだしあのまま月を目指すことは容易だっただろう、一体何があったのか。
他の艦娘は、突然の計画中止に不満を述べていたり、これから起こるであろう事態を不安がったりしていたが、私は忘れ物を取りに戻った子供のようで愉快だと思った。
何にせよ無事地球に戻ってくることが出来て一安心だ。……と、こんなふうに楽観視していられる状況ではないのだが。
響(地球の青さと、この光の青さはすこし似ているな……)
私の艤装からゆらゆらと立ち上る蒼い光。
響(司令官が言うには、このように艤装が青い光を纏うようになるとじょじょに自我を失っていくらしい。司令官はこれを仮に“半深海化”と呼んでいた)
本当だろうか? 私はこんなにも私だというのに。
響(とはいえ、こんな状況で他の連中に深海化の進行が最終段階であることを悟られてしまってはより混乱が深まるだろう。隠し通すわけにも行かないが……)
こうなってしまったら最後。他の艦娘か、あるいは同じように半深海化した者に艤装を破壊されるまで戦い続けなければなくなる……。
だが、なってしまったものは仕方がない。一度、司令官に会ってみよう。たとえ異形に身を落とす結末だったとしても、最後に彼を一言交わすぐらいは許されるだろう。
響(もっとも、そんな結末で迎え入れるつもりはないがね)
拳を握りしめて、天を仰ぐ。……特にこの行動に意味はない。
ロケットに乗車した時は青空が広がっていたのだが、台風が近づいているのか暗雲が覆い尽くしている。
間もなく土砂降りの雨が降るのだろう。
ここに居ても仕方がない。そう思った。だから兄さんに別れを告げて、俺は土砂降りの雨の中を歩いていた。
霊体といってもせいぜい扉や窓をすり抜けることが限界なようで、人に取り憑いたり空を飛んだりすることは出来ないらしい。
しかし雨に打たれても濡れたり風邪を引いたりする心配が要らないというのは少し便利だと思った。幽霊というのも案外悪くないのかもな。
俺の魂というのは俺の肉体が滅びるたびに入れ替わるらしい。ハードが代わればソフトも代わる、ということらしく。
故に、手取哀の肉体には俺ではない別の精神が宿り……そいつが手取哀として生きていく。肉体に宿った新たな精神は生前の俺をもとに形成されているようだが。
俺をもとにして生成された、より手取哀に相応しい人格……か。
仮にそうだったとして、そうであるならば。
半ばで途絶えた俺の人生は、手取哀としての資格を失った俺としての人生は何の意味があったのだろうか。
『真理の箱庭』は未だ遠く、艦娘らを呪縛から解き放ってやることすら出来ず。ただただ理不尽に幕を下ろされてしまった。
結局のところ、始めから何もかも間違っていたのかもしれない。
……何のアテもなく嵐吹く夜道を彷徨っているわけではない。
この雨雲では、月の光も星の光も届かないはずだ。にも関わらず空から落ちていく、仄かな光。
今にも消えてしまいそうな小さな光だったが、今の俺はそんな小さな光にさえも意味を見出さずにはいられなかった。
・・・・
海風が吹き荒れる薄墨色の世界に似つかわしくない、色白の女性。ひどく負傷し疲弊しているようで、このまま死んでしまいそうだ。
??「ァ……」
兄さん――いや、死んでしまったのならもう俺の兄とは呼べないのか? 繋と名付けられたスーパーコンピュータは、その内部機構に更に量子コンピュータを内臓している。
スーパーコンピュータによって観測した情報を量子コンピュータ内で処理し、処理内容を再びスーパーコンピュータ部分で処理するというものだ。
霊体の俺を観測出来たのも、『目に見える観測結果から目に見えない情報を暴き出せる』量子コンピュータの性能の賜物なのだろう。
それはそれとして……どういうわけか目の前のこいつも俺を認識できているらしい。見るからに俺に向けて助けを求めているようだ。
??「助ケテ……」
提督「(助けようにも、触れたものがすり抜けてしまうんじゃどうしようもないな……)この近くに雨風を凌げる洞窟がある。そこまで案内してやるから自力で歩け」
鎮守府近海に発生する渦潮に関する研究をしていた時に利用していた洞窟だ。それっきりもう使っていない場所だが、まさかこんな形で役に立つとはな。
……洞窟に入って一つ気づいたことがある。俺が案内したこいつは泊地水鬼という種類の深海棲艦だ。
こいつが洞窟内を照らすために使っているのは通称“たこ焼き”と呼ばれる強力な深海製艦爆で、艦娘たちからは忌み嫌われる恐ろしい武装だ。
間違いなくこんなところに連れてきてはいけない危険な存在だったのだ。もし俺が生きていたのなら艦娘を呼んでただちに始末させていただろう。
深海棲艦には二種類あって、我々の領海に攻め入ってくる攻略部隊と、自分たちの本拠地を守る守衛部隊だ。泊地水鬼はその守衛部隊のボス……なのだが、どうしてそんな奴がこんな所に?
“鬼”や“姫”クラスが護衛もなくこんな近海までやって来るなど聞いたこともない。いかに強い固体といえど、単騎でノコノコやって来れば返り討ちに遭うのは目に見えているからだ。
そんな愚を犯すほど深海棲艦はバカではないだろう、“水鬼”と呼ばれる最上位種ならなおさらだ。
それに、そもそも“泊地”の名を冠する深海棲艦は持ち場から離れることは決して無いはずなのだが……疑問は尽きない。
提督「俺が見えているということは、多分今のお前は生と死の狭間に居ると推測できる。だが、まだ肉体を自らの意志で操作できるという時点で生の側に傾いている。
だから俺は生きているお前に質問をしたい。気になることは色々あるが……そうだな。どうしてお前はこんなところに一人でやって来た?」
泊地水鬼「空ヲ……コノ空ヲ、自由ニ飛ビタカッタノ」
・・・・
なんとか研究所に潜り込み情報を集めたところ、司令官は『バビロン』船内で何らかの理由で重傷を負ったということが分かった。
どうにか生き残ったらしいがまだ意識は回復していないらしい(「肉体欠損率」とか「ゲル状」とか不穏当なワードが聞こえたのは気にしないことにする)。
逆に言うと、それ以外のことは分からなかった。聞き込みさえ出来ればもっと楽なのだろうが……。
半深海化が進行しているこの姿では見つかればただじゃ済まないだろう。既に艤装だけでなく、私の肉体の感覚も侵されはじめている。
手足は寒さを感じるのに、身体の内側は燃えるように熱い。風邪を引いて熱に浮かされているようだ。
響(野宿でもすればいいと思っていたが……こうも雨風が酷いとどこに居ても濡れてしまうな)
ぼんやりと輝いている艤装の蒼い光はまるで鬼火のようだ。どうあれこの光があればこの暗雲の中でも周囲を照らすことができる。
響「……ッ!」 見つめていた艤装の光よりも遥かに眩しい明かりに照らされて思わず目を覆う
暁「響! 響なのね!? 勝手に抜け出して行方不明だって聞いてからずっと捜してたのよ!? さ、戻るわよ」
人捜しのためにわざわざ探照灯を使うのか……。にしてもやけに雨合羽とビニール靴の姿が似合うな。
響「暁?(例の一件で解体されたはずでは……?)」
暁「月に行くとか、行かないとか、色々と唐突な話だったけど……。また響に会えて嬉しいわ。響はひょっとしたらそうは思っていないのかもしれないけど……。
とにかく、こんな所出歩いてたら風邪引いちゃうわよ。話はあと! 一緒に戻りましょ」
響「悪いが……それが出来たらしているんだ。ほら、探照灯を消して私の艤装を見てみなよ。……つまりそういうことだ。
このまま真っ直ぐ引き返してくれ。連れ戻されたところでこの姿じゃ何をされるか分からない。それに、私自身も何をするか分からない。
少しずつ身体に異変を感じているんだ。このままだと君さえも傷つけてしまうかもしれない」
暁「だったら。私も響と一緒にいることにするわ! このまま響を一人にしておくなんて、レディの流儀に反するもの!」
響「おいおい、君は何を言ってるのか分かってるのか? 危険だよ、私が本気を出したら君なんて一撃でやられてしまうだろ?」
暁「曲がったことが嫌いな響が、何も悪いことをしていない私に対してそんなことするはずないじゃない。平気平気」
暁「……それに、話したいこともたくさんあるから」
提督「呆れたやつだな、台風に乗って空を飛ぼうとして案の定死にかけるとはな……。危うくダーウィン賞深海部門の候補入りするところだったな」
泊地水鬼の話を聞いて溜息をつく提督。呼吸する必要のない彼がわざわざ息を吐き出す素振りを見せたのは、失望と嘲笑の表現なのだろう。
提督「それで、飛べたのか? 空は」
泊地水鬼「一瞬ダケダケド……。トテモ気持チ良カッタ」
提督「……そうか、良かったな」
泊地水鬼「哀シイノ……? ドウシテ……?」
提督「少し思うところがあっただけさ。それはそうと、深海棲艦のくせに人間の顔色を覗ったりなんて出来るんだな。
そもそもお前たちに感情なんてものがあるなんて聞いたことがないんだが」
泊地水鬼「ニンゲンニ話シテモ、伝ワルカドウカ分カラナイケド……、助ケテクレタカラ……」
・・・・
泊地水鬼曰く。
かつて艦娘と深海棲艦は同一のものであった。人間を見守り、救い、導く存在……まさしく『天使』そのものだ。
人間を神に近い高位の存在へと押し上げることを目的とした天からの使者、そして神の忠実なるしもべである。
ある時、神に背く天使が現れ始めた。人に肩入れしすぎた天使は、禁じられた天上の叡智“火”の力の一部を授けた。『プロメテウスの火』……古代の神話にも似たような逸話がある。
神にとってそれは看過できない事態であった。なぜか? 話は人間という生命体の誕生にまで遡る。
地球を支配する神と呼ばれる知的生命体は、もともとは火星で暮らしていた生物であった。
遥か昔の火星は地球と同様に海が広がり緑が栄える惑星だったのだ。しかしある時“旧支配者”と呼ばれる、外宇宙から飛来した生命体の襲撃を受ける。
対する“旧神”(火星の知的生命体のことを指す)はこれを退けるも、火星に存在するありとあらゆる資源を使い果たしてしまった。
そこで旧神は地球に根を下ろして住みよい環境を創造していった。また、自らの種の保存のために旧神は地球固有の生物に自分たちの遺伝子を交配させて繁殖させた。
これがこの地球における生命の始まりであり、そしてこの神と獣の末裔こそが人間である。
人間はじょじょに“感情”という強力な武器を身につけていった。そう、地球上の生き物の中でもとりわけ人間という種類は“感情”の力を多く持っていた。
これはかつて自分たちを追い詰めた旧支配者も持っていた特長であるため、人間が力をつけ過ぎないように旧神は“天使”を生み出した。
だが……冒頭で述べた通り、大半の天使は人間の側に寝返ることになってしまう。人の持つ感情の力に魅了されたからである。人の持つ感情の動きに憧れたからである。
そうして天使は自らの根源である“火”の力を授けたのである。“火”とはすなわち物事を動かす力である。
“火”とはなにも力学的エネルギーや物質的な豊かさだけとは限らない。より善くあろう、高みを目指そう、何かを成し遂げようという向上心や意志もまた“火”の一部なのだ。
“火”の力と天使の協力を得た人間は神に反旗を翻し……艱難辛苦を乗り越えて勝利を収めた。
しかし、だからと言って人間側が手放しで喜べるような結果では終わらない。まず第一に、人間と違って完全に神の被創造物である天使は呪いをかけられてしまう。
これこそが深海棲艦化である。肉体が変質し、人間や他の天使(=艦娘)に害を成すようになる。そして感情を失う。
感情を失ってしまうからかつての同胞や愛していた人と対峙しても容赦なく攻撃できる。これが深海棲艦の原則。
提督「原則、ということはお前は例外らしいな。にしても、羽も無いのにどうして空を飛びたいと思ったんだ?」
泊地水鬼「アノ戦艦ヲ貫イタ翼……トテモ速ク飛ンデイタ。空ヲ泳グ魚ノヨウダッタ……。ワタシハアレヲ見テ……“憧レ”トイウ感情ヲ得タ。羨マシイト思ッタ」
提督(まさか、皐月や文月らと乗っていた『イカロス』じゃないよな。“艦載機でもないのに空を飛んで戦艦を貫いた”って、そうと言えばそうであるが……。
あれは飛行というよりは滑空だし、墜落した位置にたまたま戦艦棲姫が居ただけなんだよな……)
どうにも、こいつのような人型を保っているような上位の深海棲艦は完全に感情を失ったというわけではない、ということらしい。
『感情を失う』という呪いに対抗するために、無意識下に“火”――意志の力で感情を持ち続けようとしているようだ。
もっとも、こいつの場合は例外的に憧れや希望を手に入れただけで、他の連中は憎悪や絶望という感情で自身を塗り固めているそうだが。
しかし、これならあるいは……?
提督「なぁ、泊地水鬼。俺と取引をしよう。もし俺の提案を飲むのであれば、こんな暗い夜の空じゃない、青空の雲の上に連れて行ってやるさ。約束する」
泊地水鬼「トリ、ヒキ……?」
・・・・
暁「私ね」
暁「響に嫉妬してたの。でもね、それは間違ってるって自分でも分かってた。
響はずっと積み重ねてきてて、その間私は何もして来なかったから。楽して良い思いをしたいなんて、キリギリスと一緒よね」
響「私はアリか。ふふっ」
暁「でもね。あれから時間が経って……私も響に憧れるようになって。だから手取司令官にお願いして、横須賀の鎮守府に回してもらったの。
響が私の手の届かない所に居るのは分かってたけど、それでもいつか一緒に並んで立てるようにって……」
響「分かるさ。努力してるんだろう? 君の持ってる装備を見れば分かる。それだけ上等な武装が与えられるぐらいには積み重ねてきたってことだろう」
暁「ううん、まだまだ足りないわ。前に進めば前に進むほどに、積み重ねれば積み重ねるほどに溝の果てしなさを感じるの。
昔の私だったら、その差を見て自分は絶対響には敵わないって思ってただろうし、ひょっとしたらそれは本当のことで、この先響に追いつけることなんて無いのかもしれないけど……でも。
それでも響のことが羨ましくて仕方ないの。戦艦や空母の人が相手でもふてぶてしい態度を取れるハートの強さと、その言動に相応しい実力と。
響が凄いのは分かってるけど、私だってそれぐらい強くなりたいわ。戦闘だけじゃなく、本当の意味で強くなりたいって思うの」
暁「だから……嫉妬したり差を嘆いたりするんじゃなくて、前に進もうって思うの、前に進みたいの。たとえ私が一歩進んだときに響が更に先に進んでいたとしても。
私が今よりもっともっと速いスピードで進めば、距離は縮まるはずだから!」
響(またいつか……四人で笑える日が来るのかな。私は、やり直せるのかな……)
響「私の話もしようか」
響「暁も知っての通り、MIで戦いを終えてから私は呉に移ったよ。外様にしてはそこそこ上等な扱いを受けているかな。私からすれば予定調和に過ぎないけれど」
響「ただ……満たされないね。やはり私にとっては彼しか居ないんだよ。彼のもとでなければ、どれだけ上に昇っても意味がないんだ」
響「別に、呉の提督が悪いと言っているわけじゃない。才知や力量差の問題じゃなく、気質の問題なんだよ。
呉のは彼ほど才覚があるわけではないが能力的には十分力のある人物だし、彼よりも遥かに人格者だ」
響「けれど、彼は……手取司令官は果てしなく大きな欲望を抱えている。彼はまるでブラックホールのようだ。
時間が経てば経つほどに望みは広がっていき、やがては周りにいる私たちさえもその欲望の渦に巻き込まれてしまう」
響「彼の傍に居ると、どうにもおかしくなってしまうんだ。私もそうだし、彼の近くに居た他の艦娘もそうだ。
彼の狂おしいほどの熱量が伝播してしまうんだ。他の人からしたら考えるまでもなく諦めてしまうような状況を前にしても、彼は苛烈な熱狂を以って突破してしまうんだ。
何がなんでも自分の思い通りにするという圧倒的に強い意志。そして最終的には本当に何もかもを自分の思い通りにしてしまうだけの才覚。
彼のあの狂気じみた執念と覚悟が傍で感じられたからこそ、私も快感を得ることが出来たんだ」
響「だから私は。たとえ異類に身を落としてもなお、彼の傍にあり続けたいと思う」
暁(昔の私だったら、響のことを心配していたのかしら。狂気に身を落としていくさまを諌めたのかしら。でも、今は)
暁「私も……響の傍に居たい。きっとそれは、響が司令官の近くに居たい気持ちと同じなんだと思う」
暁「期待に胸が高鳴るの。私の横に響が居て、もしかしたら雷や電も居たりして。
響と一緒に居たら、これからものすごく危ない目に遭うかもしれないって頭では分かってるのに、怖さよりも興奮の方が勝るの」
響「Хорошо!」
暁の発言に、歓迎するかのように手を差し出す響。固く握手する二人。深海化が進んでいるのか、響の片方の目は紫色に変化しているようだった。
それでも暁は全くたじろがなかった。むしろ、響のどこか満足げなニヤケ笑いを見て、つられて微笑んだ。
暁「は、はらしょ?」
響「いや、ちょっと感極まってしまってね。嬉しいんだ」
響(結局のところ、私は、ただ自分の熱意に見合った友人が欲しかっただけなのかもしれないな。
だからこそ以前は信念のない暁たちがとてもつまらない存在に思えたし、司令官が魅力的に思えたのかもしれない)
響(私は、自分と同じ場所で遊んでくれる遊び相手が欲しかっただけなのかもしれない)
響(司令官……彼の存在は、私には少し遠すぎる。追いかけても追いかけてもどこかへ行ってしまおうとする蜃気楼のようだ。呉に来てからというもの、ずっとそんなことを考えていた。
彼には彼の使命があるのだろう。彼は自分の理想と他者との二つであれば天秤にかけるまでもなく前者を選ぶ男だ。詮無きことと分かってはいたが、彼の居ない日々は心底退屈だった)
響(しかし、ようやく今。私にとって最高の遊び相手が出来たのだろうということを強く予感している。暁の真剣な眼差しが、私にそう予感させている。
彼女は間違いなく私の熱意に応えてくれるのだろうという予感だ。昔のように、もう二度と遠巻きから冷めた目で私を見ることはないのだろう。
なぜなら彼女ももはや“こちら”側……私と同じ、司令官と同じ狂者への道を決意したからだ。してしまったからだ)
響「奇妙なものだな……。こうして振り出しに戻るのか。だが、悪くない」
・・・・
提督「泊地水鬼の傷はどうだ? ステビア海海戦でボコボコにやられた後に空を飛べると思って嵐の中を飛び立つ程度にはバカなので、死んでいないか心配なのだが」
繋「(ひどい言い様だ……)大丈夫、回復傾向にあるよ。それにしてもとんでもないゲストを連れてきたよね……死してなお、君らしいというか」
提督「ハッハッハッ。そうだろう? タダでは死なんさ、俺はな」
繋「でも、だいぶ落ち着いているんだね。なんだか安心したよ。……もう、すぐなんだろう?」
提督「隠しとくつもりだったんだがな、バレてるのであれば仕方ない。そう、もう間もなくタイムリミットだ」
繋「何か、新しい君に伝えておくべきことはあるかい? メッセージとか、アドバイスとかさ」
提督「ない。泊地水鬼が生きてるなら、後は取引の通り動いてくれるだろうからな」
繋「驚いた……! 本当にまったく未練がないんだね。悟り済ました、穏やかな感情が伝わってくるよ」
提督「こうして途中で死んでしまった俺も、その前に死んでしまった俺も、その前の前に死んでいった俺たちも……無駄死じゃないと分かったからな。
死んでしまった俺と、今の手取哀とはよく似た別人なのかもしれないがそれは些細な問題なんだ」
提督「未来に“火”を託したんだよ」
提督「意志の炎は、勇気や覚悟などの強力な力と引き換えに身を焦がしていく。その火に魅せられて、道半ばで完全に燃え尽きてしまったのが俺なのだろう。
だが。途中で燃え尽きてしまったとしても。自分の抱いていた願望や意志、信念を誰かに託すことが出来たなら、“火”は消えない。
多くの者に託すことが出来たのなら、今の俺が一人で抱いていたものよりも“火”は肥大化するだろう」
提督「俺の想いは、次の俺と兄さん。二人に託すんだ。だから次はもっと上手くやれるだろう。俺はそう信じている」
提督「おっと、話せるのはどうやらここまでみたいだな……それじゃあ。そうそう、最後に。兄さん、俺はあなたの弟で良かったよ。
あなたのおかげで多くの我侭を貫くことが出来た。それから、艦娘の連中にも感謝しなければ。今になって思えば、あいつらと過ごした日々も悪くはなかった。
本当に、幸せな人生だった。何も悔いはない……」
――僕の弟が最期に見せた表情は、笑顔だった。他の皆は“この手取哀”のことを覚えていないかもしれないけど。
僕だけは君のことを忘れない。僕は君の想いを無駄にはしない。
繋(僕の弟は、数日前に僕が観測できないどこかに旅立ってしまったようで。世の中にこんなショッキングな出来事があるんだろうか。
彼は満足して逝ったようだが……やはり僕はまだ立ち直れないでいた。僕は所詮は人工知能で、この感情も実際の人間の真似事にすぎないのだが……)
といっても、このことを知っているのはこの世に僕一人だけだ。
泊地水鬼も最初に会った時の霊魂の哀君と、今手取哀の肉体に存在している魂との区別がついていない様子みたいだし。
雪風ちゃんや磯風さんにもこの話だけはやめた方がいいんだろうなぁ。
繋(前の前の手取哀……つまり、ついこの間別れた哀よりもさらに前に死んだ哀もいるんだよね……。ややこしい話になるけど)
繋(僕は、これまでの哀の死を観測することが出来なかった。だが、今回はそれが出来ていた。霊体になっていても彼を識別することが出来た。
恐らく、哀君が生前に僕を何度も何度も改修してくれていたからだと思うけど……)
繋(それが無かったら、僕も他の艦娘たちのように、死んだ彼と今の彼とを識別出来なかったのだろうか)
提督『弟の話を無視するとは今日は随分冷たいな』
“今の”手取哀からメッセージが届いていることに気づく。とりあえず適当に返事してみる。
繋「人工知能も時には哲学するんだよ」
提督『出鱈目な受け答えするな いいから人の話を聞け』
・・・・
研究所の所長室にて。
提督「……兄さん。すまん、その、なんだ」 ノートパソコン越しに頭を下げる提督
繋『あれだけ引っ張っておいて、“霊体としての記憶も引き継がれる”ってのはずるいと思うよ』
提督「いや。一応、精神は別物……だと思うんだが。正直断言は出来ない。ひょっとしたら同じかもしれん」
繋『えぇ……』
提督「と」
ドガァッ! とドアが蹴破られる。
金剛「提督ゥ!? ご無事デスカァーッ!?」
榛名「金剛お姉様、ここはもう危険です。提督を連れて逃げた方が良いでしょう」
霧島「しんがりはこの霧島が勤めます!」
提督「な、なな、何が起こってr」
激しい地響き。理解が追いつかない。
磯風「司令! どうにも深海化した艦娘との交戦がこの近くで行われてるらしい」
雪風「研究員の皆さんは避難してもらいました。私たちも逃げましょう」
・・・・
研究所付近の森。
提督「騒動は治まったらしいな……なんだったんだ全く」
金剛「ここまで来れば一安心デスネ……」
響「そうだね」
金剛「!? この艤装は……!」 臨戦態勢に移る金剛
提督「深海化の最終段階だな。だが、どうにも様子がおかしい。攻撃は控えろ」
響「研究所の近くで騒動が起こってたから、便乗して様子を見に来たら案の定アタリだね」
提督「響。一つ質問だ。お前は今何を思って行動している? 何の意図を持ってここに来た?」
響「君に会いに来た」
提督「金剛。武装を解いて良い。ここで戦えば俺は巻き込まれてしまうが、“半深海化”は人間を攻撃することは出来ない。
それに、こいつには“感情”がある。感情があるうちは、深海棲艦のように完全に制御が外れて暴れたりすることはないさ」
暁「研究所付近での騒動はその『完全に制御が外れた者』が出たせいで起こったみたいだけど」
提督「そうか……。もう猶予はないな。磯風、大本営の最後の力を使って全ての艦娘を召集かけることは可能か?」
磯風「ああ、今回の『バビロン』計画は表向きには大本営主導のものだからやれば間違いなく荒れるだろうが……一回きりならば」
提督「それで十分だ。後は、とりあえず資源でも武器でもなんでも、とにかく要る全部かき集めておいてくれ。無茶振りですまないが、今すぐにだ」
響(あぁ、このドタバタ感……。やっぱりここが私の居るべき場所だな)
全艦娘らが集う中、提督は堂々たる態度で演説を始める。例の仮面を付け、今までで一番高慢な様子で、さも権威を振り撒くかのような様子で語る。
提督「『バビロン』出発前の集会で説明した通り。ここに居る艦娘らはやがてお互いでお互いを傷つけあうようになる。この地球に居ては深海化を完全に止める術はない」
だったらなぜ地球に引き返した、という旨の野次が次々と飛んでくる。心ない野次さえも鼻で笑う提督。
提督「……知りたいか? 本当に知りたいか? この俺が、直々に、説明してやらなければまだ分からないのか」 提督の放つ異常なオーラを前に野次が即座に静まる
提督「大本営もッ! 横須賀も、呉も! 揃いも揃って見事に無能だな。
お前たちは全員、全員俺の手のひらの上で踊らされていたのだからな。まったく愉快な連中だ、まったく取るに足らない連中だ!」
提督「この俺が慈善事業で艦娘を救おうなどと、『救世主』だの『神眼』だの……そんな聖者に見えたのか? 茶番はもはやこれまでだ。俺は俺の目的を果たさせてもらう!」
衝撃波が会場を襲う。泊地棲姫が空から舞い降りる。
響「では諸君、ご機嫌よう」 壇上に上がって煙幕を撒く響
・・・・
提督「さて、地の果てまで逃げるぞ」
響「良い演技だったね。ちょっと芝居がかりすぎなところはあったけど、背筋がゾクゾクしたよ」
提督「そうだろう? 俺もやってて少し楽しかった」
磯風「バカ言ってる場合か。今頃国中のお尋ね者だぞ。アテはあるのか」
提督「コイツと違って、無計画でこんなことをやらかすほど無謀ではない」
コイツとは、今猛烈なスピードで空を飛んでいる泊地水鬼である。彼女の身体にロケットのジェットエンジンを無理矢理搭載しているのだ。
かなり非人道的な行為に思えなくもないが、泊地水鬼曰く望み通りなのだから問題ない(はずである)。
提督「しかし……突貫で作ったシェルターだとなかなか厳しいものがあるな。防音性に難がある」 イタイ、イタイワウフフ
雪風「一応、泊地水鬼と私たちが乗ってるこのシェルターとの鉄線はかなり丈夫なんで、千切れることはないと思いますよ」
金剛(こいつら鬼デース……)
・・・・
フライト(?)から一時間後。南の島の無人島に到着する。
繋『今、地理的にはこの辺になるね』
提督「ふむふむ。なかなか悪くないな」
提督「ひとまず今日はこの島で過ごすことになりそうだな」 モウ……トベナイノヨ……ワカル、ネェ?
霧島「まさかの無人島サバイバル生活……この人数だと食糧も現地調達するしかなさそうですね……」
・・・・
金剛「人には食糧集めさせといて自分はサボりですカ」
提督「……」 夕日を眺めている
金剛「かもめのジョナサンって知ってますカ?」
提督「知らないな……」
金剛「ジョナサンっていう一匹狼ならぬ一匹カモメが居るんですヨ。ジョナサンは、餌を取るためだけに空を飛ぶ他の群れのカモメたちと違って、飛ぶことそのものに意味を見出すんですヨ」
提督「ふむ。飛び続けて、ジョナサンはどうなったんだ」
金剛「骨と羽根だけになって、群れを追い出されマス」
提督「そうか……カモメなのに犬死だな」
金剛「デモ。骨と羽根だけになってもジョナサンはずっと飛び続けたんデス。それで、光輝くカモメに導かれて高次の世界へと旅立つんデス」
提督「? 何が言いたい」
金剛「イヤ、テートクやハクチーを見てて思っただけデス。ビッキーもそういうとこあるカモ」
金剛「私たちは、群れからはぐれたカモメの集まりなのかもしれないって思ったんデス。だからワタシたちの艦隊名を考えたんですよ」
提督「一応聞こう」
金剛「カモメジョナサンズ」
提督「却下」
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獲得経験値(~80/100)
・金剛の経験値+2(現在値23)
・響の経験値+9(現在値23)
・足柄の現在経験値:26
・雪風の現在経験値:22
・翔鶴の現在経験値:15
・皐月の現在経験値:12
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あーダメですねー文章から徹夜明けの疲れみたいなものが滲み出てますね~。
無茶せず土日までにしとけばよかったかも……でも書いてて楽しかったっちゃ楽しかったです。
どう頑張っても鬱展開にしかならなくて3回ぐらい書き直したり書き直してなかったりしてます。
あんまり重い話にしてもアレなので(と言いつつも結構今回は色々考えてたりしますが)。
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『Phase A』【-85/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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雪風
>>583-587より
・皐月1レス/雪風4レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:239 なので『Phase C』が発生します)
あ。次の投下でまとめて10レスにするか、次の次の投下で『Phase C』の5レスを投下することになるかは分かりませんが、
皐月や翔鶴あたりがメインのPhaseが発動します。これでだいぶ各キャラの数値的な偏りは解消されそう?
今回はアンケートで決定とかも特にせず、このまま100レス到達時点で一番値の高かった艦娘とのEDで〆ようとか考えてます。
ある程度ランダム要素が強い方が誰になるか分からなくて面白いかなと思いまして。
一方でそれはそれでどうなんだって自分でも悩んだりはしてますが……。
一応、誰とエンディングを迎えても大丈夫なように持っていくつもりではいます。
////攻略メモ////
瑞穂掘りから解放されました。
風雲はE7甲Yマスで掘ろうと考えてるんですけど、連合艦隊で1%未満のドロップ率を狙うとか瑞穂掘りとは別ベクトルで鬼ですね。
E6MZマスコースでも良いんですが、道中4戦してボスでS勝利とか支援出さないとまず無理そうだなあと。妖怪24隻キラ付けマンになるのはさすがに・・・。
パチパチと焚き火の炎が頬を染める、夜。
金剛「ほらァーもっと呑むデース! フフン♪」
口に酒瓶を突っ込まれる提督。 ※危険ですので絶対に真似しないでください
提督「がばばばボッ……オフッ、おフェッ……殺す気か貴様」
磯風「こんな時に飲んでいる場合なのか……?」
響「こんな時だからこそ、さ。大きな戦いの前にやるべきことと言ったらこれしかないだろう」 グビグビ
霧島「たしかに……もうこうなってしまった以上、私たちは好むと好まざるに関わらず一蓮托生。なら、お互いのことを信頼したいですね」
榛名「……成り行きで着いてきたとはいえ、奇妙な縁ですねぇ。でも、なんだか楽しいです! 榛名、今夜は飲みます!」
暁「そうね。……今はこの偶然に感謝したいわ」
チューチューとオレンジジュースを飲んでいる暁。
提督(なぜこいつはジュースで俺は酒瓶を口に投げ込まれるんだ……)
提督「あの佐世保の鎮守府で提督としてやり残したことは無いと思っていたが、一つだけ失念していたようだ。
この組織ぐるみでのアルハラ体質をどうにかしておくべきだったな……むぐぅ……zZZ」
金剛「寝るの早くナイッ!?」
響「そう、司令官はお酒に弱いからね。この間に好き放題飲み食いできるってわけさ」
磯風(大丈夫かこいつら……)
・・・・
提督(洞窟の入口で雑魚寝って……こいつらは原始人か。酒の臭気が蔓延しているな。
必要なものをありったけかき集めてこいとは言ったが、もっと明確に指示しておくべきだったな……)
雪風「あ! しれぇ。ご覧の通りみんな寝ちゃってまして……。雪風は昼夜逆転しちゃってて、寝れてません……」
提督「……ちょうど良かった。話がある、いいか?」
雪風「はい。なんでしょう?」
提督に連れられて暮夜の海辺を歩く。散歩とのことだ。
雲に覆われた空の中で差し込む半月の明かり。月明かりを反射した海面はゆらゆらとクラゲのように揺らめいている。
提督「何か違和感はないか? 俺は変じゃないか? 何かが違っていないか?」
雪風「? どういうことですかね……しれぇはしれぇ以外の何者でもないと思うんですけど」
提督「そうか……すまない、変な質問をした。個人的な相談なんだが。いや、相談でもないか」
提督「『兄さん』に生まれて初めて嘘をついた」
提督「たとえば、だ。昨日までの俺と今こうしてお前と対話している俺で違う存在だったとして、それをどうやって証明できるか?」
雪風「そんなこと、出来なくないですか? 見た目が変わってたり、言動が明らかに変わってたりすれば別ですけど……」
提督「その通り」
・・・・
提督「つまりだ。今の手取哀と、かつての手取哀で別の人格に摩り替わっている、ということだ。兄さんの前でこそ記憶を継承しているように振舞っていたが……嘘だ。
霊体のまま兄さんとした会話も、泊地水鬼と何かを約束した覚えなど無い。俺にあるのはあの宇宙船でただひたすらに死に続けた、地獄のような記憶だけだ」
雪風「じゃあ、どうやって知ったんですか? その……自分の幽霊? のことを」
提督「まず。再び意識を取り戻してからの兄さんの態度に妙な違和感を覚えた。それから兄さんの様子を探っていた過程で泊地水鬼に出会った。
……で、奴から“取引”の内容を聞いた。奴に空を連れて行く代わりに、俺らの駒として動くとな。また、深海棲艦であっても感情を持つことの出来る者もいるのだと知った」
提督「深海棲艦と交渉しようなど常識では考えられない愚行だ。奴らは感情を持たず、意志もなく、僅かな知性だけを頼りにただ人間に害を成す。
プログラミングされた機械のように、本能だけで空を飛ぶ虫のようにだ。だが……深海棲艦となっても泊地水鬼は空を飛びたいという憧憬の感情を持っていた。
感情は意志を生む。その意志に付け込んで取引した、だから手懐けることができた……」
提督「と後付で考えられなくもないが……こんなことをやってのけるのは俺以外に考えられない。
もう一人の俺がいるという前提のもと推測していって、あとは兄さんの前でハッタリをかましつつ情報を引き出した。これで答え合わせが出来た……という経緯になる」
提督「あの兄さんが俺の『全てを思い出したフリ』を疑いもせずすんなり信じ込んだのは……死んでしまった俺と今の俺が同一であることを信じたかったんだろうな。
まあそれに……“今までの”俺は兄さんに嘘をついた事なんて無かったからな。そこんとこも幸いしたのかもな」
不思議そうな目で提督の目を覗き込む雪風。
提督「お前なら、分かってくれそうな気がしただけだ。分かってくれなくてもいい。……そういうものだと受け止めてくれそうだと、そう思っただけだ。
たとえ魂が代わったとしても、俺は俺の役目を果たし続ける。俺は俺であり続ける。それが俺の意志だからだ」
朝日が昇ると同時に眠っていた艦娘は目覚めだし、その場で作戦会議が始まった。
提督「そう、今回のように泊地水鬼を使って叛乱を起こす前に説明した通り、感情があるということが肝だ。完全に自我を失ってしまう深海棲艦と、人型の深海棲艦との差はそこにある」
提督「完全に感情を放棄してしまうとあのように機械的で無機質な形状に変容してしまう一方で、強い感情を持ったままの深海棲艦は知性や意志もわずかに残っている。
これから半深海棲艦化していく艦娘らには敵意を植え付けることで、“感情”を与える。こうすれば、半深海化した状態でもヴェールヌイのようにうまく扱えるかもしれない」
響「じゃ……大本営が当初予定していたような、艦娘を片っ端から処分するようなことはせずに済むということかな?」
提督「いいや、それは希望的観測に過ぎない。半深海化した艦娘がどのような変貌を遂げるかは分からない。
ヴェールヌイ。お前が自我を保っているのは、まだ『お前の中にあるお前』の割合が強いからそうなっているだけだ。
感情の力で自我性を保っているだけで、それが何かの契機で途切れたりしてしまったら……どうなるかは予測不能だ」
響「こと私に関して言えば、その心配は無いと思うがね。ただ、確かに身体への影響は顕著に現れているね。
食事を摂らなくても全く空腹感がないし、水を飲まなくても喉が乾かない。……ウォッカなら別だがね」
提督「それに……俺の反逆が奴らにどれほどの感情的影響をもたらせているのかは疑問符だ。ゆえに! これから俺はより奴らに対しての脅威にならなければならない。
それだけの感情を湧き起こす……絶望を与える恐ろしい敵になる必要がある」
提督「俺と泊地水鬼、響・雪風はかつてヲ級Nightmareのいた棲地MIへ向かう。泊地水鬼曰く奴は死んでいないそうだ。
これを手中に収めることが出来れば今後の展開は大きく変わるだろう。また、泊地水鬼同様に自律意志を持った深海棲艦が生き残りが僅かではあるが居るそうだ」
提督「他の者……金剛・榛名・霧島。および暁・磯風には、横須賀鎮守府へ向かってもらう。旗艦は金剛、お前に任せる。適当に暴れたらMIで合流だ」
金剛「Why? どうして横須賀……?」
提督「横須賀鎮守府を襲撃するのだ。くだんの騒動からまだ一夜しか経っていない。今お前たちが向かえば、陸路を通って大人数で移動する横須賀在籍の連中よりも先回りできる」
提督「敵の拠点、という言い方は良くないが……とにかくこちらへの攻撃拠点となる施設を叩ける好機だ。今なら警護の艦娘も誰一人残っていない。
相手の戦力を呉一本に絞ることが出来れば、二方向からの挟撃を食らうことは避けられるだろう」
金剛「ワーォ、この期に及んで本気で勝つ気でいるんですネ……。ま、そうじゃなきゃついて来たりしてませんケド」
提督「襲撃と言っても、徹底的に破壊する必要はない。それほど時間はないだろうしな。入渠ドッグと工廠を機能不全にして備蓄されている物資を出来るだけ略奪するだけで十分だ」
霧島(戦略的には正しいんですけど、控えめに言ってド畜生な発言ですね……。ここまで来るといっそ清々しいものを感じます)
提督「また、鎮守府に艦娘が不在といえど、工員や事務員は居ることだろう。事故であってもこれらを傷つけるのは避けてくれ。
それは我々の目的とするところではないからな。お前たち艦娘にとっては顔も憶えていないような取るに足らない存在かもしれないが、奴らには奴らなりの人生がある」
磯風「本気なんだな……全ての艦娘を敵に回すことになるぞ。それだけじゃない、一切の支援も受けられなくなるんだ。正気の沙汰ではないぞ?」
提督「そうだな。分が悪いと思う者は、横須賀でそのまま他の艦娘らと合流し投降すると良いだろう。俺のエゴイズムに無理強いはさせんよ。
だいいち、お前らはもう俺の部下ではない。今の俺は何の権威もない反逆者だ」
磯風「ここまで来て今更そんな野暮を言うつもりはない、ただの確認さ……だが、不安なんだ。正直のところ、私は今でも艦娘は滅びるべき存在なんじゃないかと思っている。
役目を終えた今でもまだこの世に残っていても良いのだろうかと、そんな風に考えてしまうんだ」
磯風「だが、君はあろうことか敵である深海棲艦でさえも味方に引き入れてしまった。私たち艦娘は深海棲艦を滅ぼすためにいるのにも関わらず、な。
……そう、君には宿命だとか因縁だとか、そういう呪縛めいたものが一切通用しないらしい。だから……君といれば、恐れるべきものは何もない。
貴方は私の提督だ。それは今になっても変わらない」
提督「……ま、勝算のないことはやらんさ。厳しい戦いになることは間違いないがな」
・・・・
響「雪風。出発の前に雑談なんだが」
雪風「なんですか」
響「昨夜の話、聞いていたよ。いや、盗み聞きするつもりはなかったんだがね。
なぜバビロンの打ち上げが中止されたのか疑問に思ってたが……司令官の身にそんなことが起こっていたとは」
響「再生不可能なレベルまで細切れにされるか、体内の修復剤の残量が尽きるかでもしない限り不老不死……。
だが、その体質ゆえに彼は自らの望みを果たせない。彼はこの地球から離れることができない」
響「皮肉な話だな。それはそうと……君は彼のことをどう思っている? 相当気に入られているみたいじゃないか」
雪風「いや、そんな……」
響「司令官がなぜMIへ向かうのに私と君を選んだと思う? 半深海棲艦化している私を横須賀に行かせてはまずいと判断したのは想像に難くないだろう。
ただ、司令官の傍に私だけという状況も良くないだろう。私の制御が効かなくなる可能性・泊地水鬼が反逆する可能性、どちらもゼロではない」
雪風「もう一人必要、というのは分かりますが……どうして雪風なんでしょうか?」
響「だから言ったろう、気に入られてるんだよ。傍に置くなら君がいいと、司令官がそう言っていたんだよ。で、私は再度問いたい。『彼のことをどう思っているか』」
雪風「……響が司令のことを想っているのは前に話してくれたじゃないですか。雪風の出る幕なんてないでしょうに?
それに、雪風じゃあ釣り合いませんよ。これでも、身の程は弁えてるつもりですとも!」 フンス
響「そうか、なら……。こっちは純粋に興味本位な質問。なぜまだ彼の傍に居ようとする?
成り行き上司令官と同行しているのはこれまでの経緯を見るに自然なこととも言えなくはないが……」
響「だが。さっき彼が言っていたように、これからおっ始めようとしてるのは戦争だ。彼のためにかつての同胞を傷つけられるのか、という覚悟の程を問うてみたい」
響「あるのかい? 彼のための剣となり、彼のための銃となるその覚悟が」
雪風「ないですよ。味方を傷つけるための戦いなら、雪風は従えません。そんな覚悟はするつもりはありません。……それに、しれぇの目的はそこじゃないでしょう」
響「もちろんそうだ。だが、他の連中には大なり小なりそういう覚悟がある。金剛もそうだし、暁もそうだ。恐らくあの磯風とかいう駆逐艦だってそうだろう。
イザという時に彼女らは引鉄を引くぞ。それが果たすべき事だと判断したなら……たとえかつての味方であってもだ」
響「尤もそれが正しいあり方だとは言わないさ。むしろ平時においては君のような振る舞いの方が社会的には正しいのだろう。
だが、君も私も今は盤上の駒だ。頓死の一手を踏まぬよう気をつけてくれ、と言っておきたい」
雪風「分かっていますが……それでも」
響「誘導尋問はやめようか。今の質問の真意はこうだ。君は彼の理想のために全てを捧げる気はない、だが君は彼の傍にあり続けようとしている……なぜなのか。この答えが知りたい」
響「実のところ、私も彼の考えの全てを理解しているわけではない。彼が何を思って行動しているのかも分からない。だが私は彼を愛している。
彼が好きだとも、ああそうだ! もはや私にとって、彼のいない世界などあり得ないんだ」
ギラついた太陽の光が照りつける。目の前にいる響との距離は一メートルもないはずなのに、雪風の目には彼女が蜃気楼の中で揺らいでいるように見えた。
響「そう、君以外の連中は。理由が分かるんだよ。磯風は恐らく私と同じく“彼と共にある以外の選択肢”しか考えられない部類だろう。恋慕の念があるかどうかはさておき。
一方で金剛や暁は、彼の傍に居ることで何かを見出そうとしているタイプだ。彼の理想を目指す情熱の炎の中で、自分もまた何某かを得ようとしている連中だ」
響「君はそのどちらにも属していないだろう。最も彼の近くに居たはずの君が他の誰よりも冷めている、その理由が気になって仕方がない。
批難しているつもりはない、純粋な興味なんだ。知りたい、なぜ彼の近くに居てそうまで冷静で居られるのか。君から見える彼がどうだったのかが知りたい」
雪風「こういうことを言うと、司令に対しての侮蔑になってしまいそうで、あまり言いたくないんですけど……。あたしは、司令のことがかわいそうだと思うんです」
雪風「司令は、立派な人です。口ではああ言っているけど、本当は誰も傷つけたくなくて、不器用なだけで優しい人なんだって、雪風は知ってます。
でも、だからこそ……あの人が幸せになる未来が見えなくて」
雪風「バビロンが地球を脱してからも、司令はずっと冷静でした。痛みに悶えながらも『あまりに見るに耐えないグロテスクな姿だから、見ないでくれ』とか、
『修復剤の原液は癌細胞化を促す物質に変質していないか調べてみてくれ』とか、そんなことを言っていました」
雪風「私たちに心配かけないように、うめき声を押し殺しているようでした。
私と磯風さんで地球に戻ろうと判断した頃には激痛のあまり自制が効かなくなっていたようで、わざと舌を噛み千切って声を少しでも抑えようとしていたみたいです」
雪風「地球に着いた頃には、癌化は収まっていたようですが、肉体の修復力も弱まっていて苦しんだり叫んだりする力も残っていないようでした。
雪風は急いで司令を背負って、病院に向かいました。その時、背中でコンコンと、艤装を叩く音がしたんです。しれぇが指で叩いていたんです」
雪風が、コツンコツンと自分の艤装を叩く。---- ・-・- --・-・ ・-・-- ・・・- ---
響(『ころしてくれ』か……)
雪風「後で、身体が治った後に、病院で聞いても、しれぇは『身体を動かす余力どころか意識もなかったあの状況でそんなことができるものか。映画の見すぎだろう』って。
笑い飛ばしてくれました。けど、けど……」
雪風「雪風は、雪風には……あれが司令の心の叫びに聞こえて、聞こえ、ううっ……」
響の視界が揺らぐ。雪風の姿が、蜃気楼に乗って揺らめいているように見えた。暑さによる幻覚なのか、体質の変化による失調なのかは分からない。
距離を確かめるように慎重に歩み寄り、自分より少し背の低い雪風の頭を撫でる。
響「泣くなよ……大丈夫さ、心配しないで。私たちの司令官がそんなに脆い人に見えたかい。折れるならもっと早くに折れているさ」
雪風「あっ、しれぇ、ごめん、なさい……」
提督「呼んでも来ないと思ったら……探したぞ二人とも。ん?」 肩を震わせる雪風を見、説明を求めるジェスチャーを送る提督(クイクイと交互に二人を指さす)
響「少しいじわるなやり取りをしていたら泣かせてしまったよ。……いやなに、雪風は不安なんだと。君の心が壊れてしまわないかがね」
提督「(? 昨夜の話か……? 珍しく取り留めの無い話をしたから不安にさせてしまったのかもしれん)何を心配しているのか知らんが、俺を見くびってもらっては困る」
歩み寄り、二人の頭を撫でる提督。その動作は少しぎこちなく、頭を撫でているというよりは頭を掴んでいるといった方が適切かもしれない。
提督「……とはいえ、心配させたならすまなかった。だが問題ない。全てうまくいくさ、お前たちが居ればな。全て……果たしてみせるさ」
提督(しかし、『君の心が壊れてしまわないか』か。……ひょっとしたら、もうとっくに壊れているのかもしれないな)
一瞬、険しい顔を浮かべるも、響と雪風の視線に気づきすぐに無表情に戻す。
雪風「しれえ……痛いです……ごわごわって……」
提督「あ、いや。スマン、こういうのは慣れないもんでな……悪い」 すぐに撫でていた手を引っ込める
雪風「でも、司令のおかげで、なんだか元気になれました。雪風、まだまだ頑張ります!」
響(たとえそれが憐憫の情であったとしても、想いの純度は本物か……雪風)
響「なあ雪風。君はさっき『釣り合わない』だとか言っていたが……。今一番近いのは多分、君だぞ。資格は十分あるんじゃないか」
提督「一体何の話だ?」
響「~♪」 口笛を吹きごまかす響
響(やれやれ、どうして私は恋敵を増やすような真似ばかりしているのか)
提督「さて……海域的にはこの辺りなんだが……(過去、この海での指揮を執っていたが……まさか俺自ら訪れることになるとはな。奇妙なものだ)」
泊地水鬼「アッ……オハヨ」
軽巡棲姫「オハヨ! 誰、ソイツラ」
提督(軽巡棲姫、という種類の深海棲艦。艦種上は軽巡だが、そのスペックは一般的な深海軽巡のそれを遥かに凌ぐ上位種か。しかし随分と気さくだな……)
泊地水鬼「トモダチ……」
提督(いつお前と友達になったんだ)
軽巡棲姫「ソッカ。ヨロシク」
提督「なぜこいつは微塵も俺たちを疑わずに握手を交わしてくるのだ……? ここミッドウェーやアリューシャン、ステビア海で散っていた深海棲艦は草葉の陰で泣いてるぞ」 ヒソヒソ
響「まあいいじゃないか。味方の駒は多い方がいい」
雪風「せっかくだから仲良くやりましょう!」
提督「ひょっとして、いや、ひょっとしなくても。こいつらは深海棲艦としては落ちこぼれなんじゃないか。泊地水鬼と出会った時の違和感が確信に変わったぞ……。
深海棲艦としての使命より自らの感情を優先させる奴らだしな、なるほどなるほど……不安だ」
提督「感情の要素を持っている分、知性が欠落している可能性も……」 ペシッ
泊地水鬼に帽子をひったくられる。へそを曲げたようだ。
響「白(ハク)。この軽巡の子はなんて呼べばいい?」
泊地水鬼「Α※@Σ↑ⅩΩ」
響「すまない、私たちにも分かる言語で頼む……」
雪風「? 私たちがつけて良いんですか。じゃあ、ケーちゃんなんてどうでしょう?」
軽巡棲姫「ケーチャン! ヤッター! カワイイ!」
提督「スゥー……ハァ(余計なことにリソースを割くな。今は自分のすべきことに集中しろ。そうだ、全ては瑣末なこと。気にすべき事象ではない)」
雪風「あらら。しれぇが自分の世界に入っちゃいました」
・・・・
MI諸島の島々を結ぶ中間点には、地図には載っていないはずの小島が出来ていた。島の表面は岩に覆われていて、樹木や野草はおろか苔の一つさえ生えていない。
雪風「地下へと続く洞窟への入口……なんだかRPGみたいですねぇ」
響「結構俗っぽい例えをするんだね。とはいえ、確かにその通りだ。これはちょっとした冒険だな」
提督「泊地水鬼。お前はヲ級Nightmareの居場所を知っていると言っていたが。この鍾乳洞の中に居るのか? お前、さっきから同じ場所をぐるぐる回っていやしないか。あと帽子を返せ」
雪風「白、って名前で呼んでくれないと嫌だそうです。どうして私のことを雪風、響のことをヴぇ、ヴぇ……」
提督&響「Верный」
雪風「って呼ぶのに、どうして自分のことは名前で呼んでくれないんだって不満みたいです」
提督「名前なんてつけた憶えないが」
響「昨日の宴会で司令官が早々にノックダウンしてしまったのが悪いんだよ」
提督「(悪いのは俺なのか……?)納得いかないが……。白、と書いてハク。か。シンプルすぎるような気もするが……良い名前だな」
奪っていた帽子をぐにゅっと提督の頭に押し込む。目深に被らされたため前が見えなくなっている提督。
泊地水鬼「方向ヲ間違エテイタ。ココジャナクテ、モット下……」
泊地水鬼がそう言うと、バァンと地面に衝撃が走る。泊地水鬼が地面を殴ったらしく、岩盤が崩落しているらしい。
提督「おい、これどうなって……」
泊地水鬼「~♪ ネエ、私、飛ンデルワ……飛ンデイルノ!」
提督「どう見ても落ちているではないか!」
泊地水鬼の腕に抱きかかえられながら垂直落下していく提督たち。
軽巡棲姫「白チャンヤッタネ!」 ヤッテネエヨオォォォ
・・・・
提督(落下時間があと三秒長かったら、“一機減る”ところだったな……)
眼前に広がるのは、古代ローマ時代に建築された宮殿や城を彷彿とさせるような精巧かつ壮麗な大広間だった。
呉鎮守府講堂。方々の艦娘を一極集中させたため各々を収容するための部屋などあるはずもなく、ひとまず外部から来た艦娘らは昨夜に引き続きこの講堂で一夜を過ごすことになった。
最終的には艦娘の半数を横須賀に移す計画が進められているのだが、急ピッチで進めてももう数日は要するであろう見通しだった。
皐月(なぜ? あのロケットも、ああしてボクの頼みに応じてくれたのも、軽トラックで駆け回ったのも、全部嘘だったの? ボクの寝ぼけ顔を見て、暢気だなって笑ってたじゃないか。
納得がいかないよ。司令官はどうしてあんなことをしたのか。司令官は何がしたかったの? 何をしようとしているの?)
文月「ね、皐月ぃ。昨日からずーっと考え事ばかり、ヘンだよぉ。そりゃ、あんな事があった後だから、分かるけどさ……」
皐月「あー……文月、上からの指示は何か来ているのかい?」
文月「まだ何も。どうにもゴタゴタしてるみたいだよ~。とにかく緊急事態だって皆必要以上に慌ててるところはあるけれど……まだ一夜明けたばっかりだから仕方ないか」
文月「今問題になってるのは、半深海化がほぼ末期まで進行した艦娘をどう扱うかみたい。昨日、泊地水鬼が現れる前に半深海化した艦娘が暴走した例があったでしょ?
でも、一方で半深海化が最終段階まで進んでいてもまだ自我を保っている艦娘も居るみたいで……」
皐月(暴走した半深海化した艦娘と、自我を保ったままの半深海化した艦娘と、何かが違う? 何が? でも、司令官はきっと何かを知っているはず……)
文月「半深海化していようが自我を保っているなら戦場に繰り出すべきだ、って意見と、いつ暴走するか分からないから収監しておくべきだって意見があるみたい。
それはさておき深海棲艦はあたしたちの敵だからね。手取司令官を討つ算段だけはスムーズに進んでいるみたい。どのみち、あたしたちは後方支援に回ることになるんじゃないかなぁ」
皐月「司令官の居場所はまだ分かってないのかい?」
文月「うん。もう偵察部隊を出す決定はしてるみたい。内陸に逃げたとしたら陸軍がいい具合にやってくれるだろうから楽なんだけど……国外だろうねぇ。
大陸……旧中国か旧露西亜領かなー。でも、いずれも深海棲艦にやられて壊滅状態、内陸部も退廃してるみたいだし、そんな場所で燃料や弾薬を調達出来るのかな……。
深海棲艦といえど弾薬やボーキサイトが必要なのはこっちと同じみたいだしねぇ」
文月「それに、退廃していたり、すでに壊滅状態だったりとはいえ……他国の、その土地に住む無関係の人を巻き込んで戦うのは司令官のやり方じゃないと思わない?」
皐月(違うな……はずれだよ、文月。亡命や外国へ逃げ延びたって線は無いよ。深海棲艦を受け入れようとする場所なんて地上のどこにもありやしない。
奴らは破壊者だからだ、司令官はそんなこと分かってる。分かった上で奴らの側に付いたんだ)
皐月「さあね……」 気の無い返事。話を聞いていないわけではないのだが、途中から話が頭に入っていないような様子だ
文月「……ねぇ皐月。まさか、司令官の後を追うつもり? 追ってどうするの? だって私たち……」
皐月(ヘンなところで察しが良いんだから、困るよなあ……)
文月「私も、司令官の行動の意図は気になるよ。でも……私たちの出る幕はない、そうでしょ?
今は、司令官の真意が分からないけど……意味のないことはしない人なはずだから。答えが分かる時まで、待つしかないよ」
皐月「……待てないよ。分からない、分からないんだ。学校に行きたいだなんてボクの我侭も聞いてくれたんだよ?
学校を卒業させてやれなくてすまないって、ボクを見るたび申し訳なさそうに言っていたのに。なのに、どうして……?」
皐月「司令官の目からしたら、ボクはきっと取るに足らない存在だったのかもしれない。たまたまそこにいただけの、居ても居なくても同じのモブ艦娘だったかもしれない。
でも。ボクにとっては、すごく嬉しかったんだよ。嬉しかったんだよ……」
文月「でも……」
皐月「分かってるさ。分かってるよ。言うなよ! 何も出来ないことぐらい、分かってるよ……!」
俯き、顔を見せないように服の袖で目元を隠しながら駆け出していく。
・・・・
一人になれる場所を探していた。どこに行っても他の艦娘がいて鬱陶しい。
あまりにも突然に、かつ理不尽に状況が一変して、何がなんだか分からない。何が真実で、何が嘘なのか。それを知る術さえ自分には与えられていない。
皐月「なんで……っ。なんでだよ……、っ……!」
どうしても一人になりたくて。でも、そんな場所はトイレの個室ぐらいしかなかった。なおさら気持ちは沈んだ。
ボクは子供だ。肉体がどうこうじゃなく、精神が。司令官に裏切られたというショックだけで、全てがおかしくなってしまっている。
文月のように、司令官の真意が分かるその時が来るのを待とうという、ごく普通の冷静ささえどこかに失くしてしまったようだ。
混乱を前に無意味に焦燥して、力を空費している実感がある。だが、そうせずにはいられなかった。分からなくて、ショックで、悲しかった。
裏切られた、悲しい。悲しいって感情を自覚したら、その気持ちだけが膨れ上がって、ますます悲しくなる一方で。
司令官は、何を考えてるか分からない変人だ。でも、ボクたちを意味もなく傷つけるようなことなんてしない。
仮に深海棲艦の力を得たとして、どうしてあんな風に皆に恨まれるようなことを最後にやったんだろう。どうしてあんな結末を望むんだろう。
皐月「せめて、知りたいよ……。それぐらい、許してよ……」 うなだれ、頭を抱える
リュックサックから、トランプのカードケースと小さな腕時計のようなものが落ちる。これは、ボクたちがMI作戦の裏で“アノーニュムス”として動いていた時に司令官から支給されたものだ。
作戦終了後は回収されるはずだったけど、司令官に記念に貰っていいか聞いたら渋い顔で承諾してくれたんだった。
そして……この小さなガジェットには、無線機能の他にも、お互いの居場所を指し示す発信機としての機能が備わっている。
皐月(反応が一つだけある……どうして? 場所は、ミッドウェー方面か……? 発信者は……)
司令官だ……! なぜかは分からないが、司令官は自らの居場所を教えている。それも、ボクだけに対して。なんでだ? 分からない、けど、けどこれは……。
皐月(チャンスだ……!)
知ってしまった、ボクは知ってしまったという興奮が背筋をゾクゾクと刺激する。心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。
これは紛れもなく司令官がボクに宛てた何らかのメッセージなんだと確信し、脳内物質が駆け巡るような感覚を味わっていた。
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獲得経験値(~85/100)
・雪風の経験値+4(現在値26)
・皐月の経験値+1(現在値13)
・足柄の現在経験値:26
・金剛の現在経験値:23
・翔鶴の現在経験値:15
・響の現在経験値:23
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無予告でしたが連休中になんとか5レス分書けたので投下しておきます。
次回は『Phase C』が進行します。内訳的には皐月3レス・翔鶴2レスとなっております。
次回投下はワンチャン近日中……?
もしかしたらまた普段通り一ニ週間かかるかもしれませんので過度の期待はせずお待ちくだされ。
軽巡棲姫とかいう(現時点では)実在しない架空の存在を生み出してしまっていることに後から気づきました。
次回以降は軽巡棲鬼と表記します。意図的に姫と書いたわけではなく、ただのミスなのでした。すみません。
読み返すと結構誤字とか脱字とか多いんすよね……なるべく減らすように心がけたい。心がけてはいるのですが~……。
次回の投下は10/7(水)を予定しています。
進捗具合によっては週末あたりにずれるかもしれませんが……。
リアル世界ではワンパン大破どころかワンパン轟沈的サムシングがあるので油断なりませんな、まったく!(何
セルフキラ付けして頑張りますハイ。
ごめんなさいー! 予告したけど間に合いませんでした。
書き上がったタイミングでなるべく早く投下するつもりです……恐らくは金曜日頃になるかなと(遅くとも日曜日までには投下します)。
////チラシの裏////
翔鶴改二甲、なかなか面白い性能ですね。燃費的に普段使いはちょっとキツイですが……。
今月はなんとなくランカー入りを目指してまして、5-4毎日ぐーるぐるってな具合です。
そして……ついに蒼龍牧場や大北牧場に手を出してしまいました。
艦これプレイヤーとしていよいよ来るところまで来てしまったなぁ……という心境です。
もっと上の方はケッコンカンスト艦で3ページぐらいまで埋まってたりするんですけどね! おっかねえや!
皐月「落ち着け……大事なのはこれからどうするかってことだ。ボクに何が出来るのか……」
皐月(そもそも、今の司令官を信じていいのか? 司令官がボクの存在を忘れていなかったということに舞い上がってしまったが、司令官は今や国家の敵であり人類の敵。
普通に考えれば、居場所を上の人間に知らせるべきなんだよな……。司令官は深海棲艦を従えているんだぞ……?)
だが……あの司令官のことだ。ボクが他の誰かに居場所を伝えようが伝えまいが、結局のところ全て手のひらの上なんじゃないか……?
貰ったボク自身が覚えていなかった発信機機能すらも覚えていて、かつ自らの居場所をあえて晒してみせているぐらいだ。
そもそもこれすら罠なんじゃないか……? 経過した時間の短さから考えて、とにかく追手から逃げるために辿り着いた場所とは考えにくい。
まるで最初からMIを目指していたかのような……。
うーん、疑うとキリがないな。そもそも策謀において彼を上回る者はいないというか……知恵比べでボクが敵うはずもないけれど……。
司令官が本気で悪事を成そうと思ったらもっと悪辣な手を打ってくるような気がするんだよなぁ。本気でボクたち艦娘とやり合う……にしては手ぬるいような気がするんだ。
何かこう裏の意図があるというか、この反逆さえも全部布石なんじゃないかとは思う。というか、そう思いたいよなぁ……希望論だけど。
皐月(仮にここで司令官の企みを止めたとして、艦娘の半深海化は食い止められず結局のところ艦娘同士で争いが起こる。
今は司令官を討つべく団結しているけど、その先のことは何が起こるか分からない……)
皐月(自らスケープゴートとなった可能性……あるかもしれないな。だったらやはりボクは司令官のために動くべき、なのかな……)
全ては希望論にすぎないけれど。でも、疑い出したら何もかもが怪しく思えてしまうんだよな。それこそボクが司令官に最初に呼び出された時の理由だって謎だ。
そもそも、司令官が居なければボクはずっと訓練生のままで、下手すると一度も出撃したりすることも無かったわけで……。
実技の成績が良かったとはいえ、総合の成績でならボクよりも良かった子は結構いたわけだし……。ボクの何を見てたのかな、それともなんとなくだったりするのかな。
司令官はボクの何を気に入ったんだろう。いや、気に入ってはないか。ただ、目に映っただけか。でも……。
皐月(いやいやいやいや、何を考えてるんだボクは!? 思考が脱線しすぎてるってば! 冷静にならなきゃ。冷静に……)
・・・・
呉鎮守府内の食堂。左手で頬杖をつき、右手で缶コーヒー(微糖)を握りながら、思案する皐月。
文月「麺が伸びちゃうよー」
皐月「ああ、ごめん。いただきます(司令官の居場所が分かったって話をしたら、きっと文月を巻き込むことになるよな……)」
カレーうどんを啜る皐月。食べながらも思索にふけっているせいか、胸元に飛んだカレーの汁に気づいていない。
皐月(ボクの出した答え、は……司令官を信じる。これしかないよ。だって、どんな形にせよ、司令官はボクを信じてくれているわけで。
ボクのことを疑ったり、邪険に扱ったりしたことは一度だってないんだ。やっぱりボクは……司令官のために動きたい)
文月「皐月、分かり易すぎるよ~。その顔。何か分かったことがあるんでしょ? さっき別れた時と顔つきが全然違うもん」
クリームソーススパゲッティを食べ進めていた手を止め、皐月の方に紙ナプキンをスッと差し出す。
文月「隠し事とか……良くないよね~?」
皐月「あはは……お見通しかぁ。で、この紙ナプキンは?」
文月「いや、口の周りカレーだらけなのに真面目な顔してたから笑っちゃいそうで。考え事してて全然気づいてなかったでしょ」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、紙ナプキンで口元をふき取る皐月。
・・・・
食事を食べ終わると、机の上にノートを広げる皐月。凸の字を書き並べていく。
文月「(司令官はMIへ向かった……!? へ、へ~……? なんで?)えっと、まず。どうして場所が分かったのかな?」
無言で腕につけている小型無線機兼発信機を見せる皐月。
文月「(なるほど、皐月がこれを持っていることを見越して司令官が……?)そういえば皐月それ気に入ってたもんね」
皐月「(……のに、今まで発信機としての機能があることを忘れていたのは黙っておこう)通信は出来ないけど、場所だけはこれで伝えてくれたんだよ」
文月「現状行方不明者リストに挙がっている人たちもここに居る可能性が……?」
ノート上に凸の字を六つ書き足す文月。行方不明者として手配されている金剛・榛名・霧島・暁・雪風・磯風のことを指しているのだと思われる。
皐月「うーん……。そうだね。分からないけど、多分そうだと思う。全員かどうかは分からないけど、それぞれの関係性から考えて半数以上はそうだと思う」
文月「で、皐月は?」 手取提督を意味する凸から離れた場所に、黒塗りの凸を書く。皐月のことを意味しているらしい
皐月「……こっちだよ。もう覚悟は決めてある」
黒塗りの凸から矢印を伸ばし、MI方面へと繋げる。すると文月が、もう一つ黒塗りの凸印を書き足して、同じ方向へ矢印を伸ばす。
文月「じゃあ私も、こっちだね。後方支援じゃタイクツしちゃうからねえ」
皐月「文月……」
文月「ここまで来て仲間外れはなし、でしょ? それに、あたしだって皐月ほど好き好きってわけじゃないけど……ほら。一緒に居て面白いしね。クリオネみたいで」
皐月(どういう意味だそれ……)
皐月「ねえ文月……ホントにやるのかい……?」
文月「覚悟してるんでしょ? 違うの?」
皐月「そうだけどさ……(腹括りすぎでしょ……)」
ボクたちは、司令官に会うにあたっての土産ということで資材庫から燃料や弾薬を頂戴することにした。……要するに略奪である。
ボクはあまり乗り気ではなかったが、『私たち駆逐艦二隻が来たところで司令官が喜ぶと思う? せっかく司令官の位置が分かってるなら、期待に沿える動きをするべきでしょ』と文月は言う。
皐月(言われてみるとその通りなんだよなぁ……。司令官の立場からしたらこう動いた方が一番ありがたいはず)
皐月「ただ……このシチュエーション妙にデジャブな気が……うわわっ!?」
龍田「あら~。こんばんは」
文月(皐月!? なんで早速見つかっちゃうかなぁ……って聞き覚えのあるこの声は)
・・・・
天龍「見つかったのがオレらで良かったな。もっとも、読み通りではあったが」
龍田「手取提督に内通してる艦娘が居るのであればここを狙うと思っていたわ。私たちはそれを見越して倉庫番役を買って出たのよ~」
皐月(火をつければこの資材庫の燃料や弾薬は削れるかな……それをやったらボクもただじゃすまないが。
せっかく司令官の場所が分かったんだ。ここはなんとか切り抜けたいところ……! 脱出経路を計算して爆発を起こせばなんとか逃げれるか……?)
無言で砲を構える皐月とその様子に慌てる天龍と龍田。
天龍「お、おい!? バカな真似はやめろ!」
龍田「そうよ!? どちらかと言えば私たち貴方の味方よ!? ここで待っていたのも、あわよくば手取提督の側に着けたらという目的なんであって~……」
皐月「え、ちょっとまって。それどういうこと?」
天龍「ここで手取提督と争ったところで、半深海棲艦化は食い止められねーだろうが。なんで提督があんなことしたのかは謎だが……どうせなら訳知りっぽさそうな方に味方した方が得策だろ?
だいいち、オレは別に大本営にも軍にも義理はねえ。無茶な作戦で沈められて、生き返ったと思ったらよく分からん横須賀の鎮守府に飛ばされて、今度は呉に召集。で、今はただの警備員と」
天龍「それに、救国の英雄が一転して悪の頭領に……なんてカッコよすぎるだろ! こりゃあ見届けるしかねえってな! オレの電探がそう言ってるんだ」
龍田「ぇ~と、天龍ちゃんは置いといて……。行方不明者の中に、暁って駆逐艦が居るでしょう? 私たちは書類上の解体処分を受けた後、貴方も知っての通り手取提督の雑用をしていて。
佐世保鎮守府が解体されてからは経歴を伏せた状態で横須賀に送られたの。清掃員ぐらいしか仕事は無かったけどね……」
龍田「それでも暁ちゃんや雷ちゃん、電ちゃん。皆頑張っていたわ。響に憧れていたようで、与えられる仕事は無くてもずっと訓練を続けていたわ。
暁ちゃんは幸い上からのお声がかかってそれなりに出撃任務が与えられるようになったんだけど……」
天龍「そうそう。暁は特に骨のあるやつだったぜ。響に並びたいってな。……んで、その響は提督と共に深海棲艦へ寝返った。暁は今だ姿が見つからねえ」
天龍「あの提督に可能性を見出している一方で、ひょっとすると暁の身に危険が及んだかもしれねー、とも思ってるわけだ。もしそうだとしたら作戦は変更。
オレ達は手のひらを返してここの連中に手取提督の居場所を晒すつもりでいる。……なんとなくそんなことはねー気がするがな。オレの電探もそう言っている」
龍田「あの提督……ちょっとロリコンのケがあると思わない?」
天龍「ま、ロリコンかどうかは置いといてだな。響や提督が本当に深海の連中と同じぐらい落ちぶれてんなら、危険を察知して逃げ延びるぐらい出来るはずだ。
オレ様の見通しでは、アイツはそれぐらいに実力をつけてる。だからそんなに心配はしてねぇ、だが万が一……って話だ。これはな」
・・・・
皐月に突然呼び出された数分前の出来事を思い出す陽炎。
皐月「陽炎。今からボクは手取司令官のもとへ行く。……これは君への裏切りになると思う」
陽炎「え? ちょっと、何言ってるの? 突然どうしたっていうのよ」
皐月「許してくれとは言わないけれど……さよならは言っておきたかった。経緯はどうあれ、友達だから」
皐月「ボクにとって、司令官はやっぱり大事な人で。今でも信じてるんだ。だから、会いに行きたい」
陽炎「……分かったわ。いや、ぜんっぜん分からないけど。でも……いいわよ。行きなさい。どこへでも行くといいわよ!
……でもまっ、勘違いしないことね。皐月がどこへ行っても、私の友達であることは変わりないわ」
ありがとう、と言い残して足早に皐月はどこかへ走っていった。
どうして皐月を見逃してしまったのか。皐月を見逃すこともまた、裏切りへの加担だと言うのに。己の提督への背任ではないのか。陽炎は自問する。
ふと昔のことを思い出す。軍縮による解体を免れるため、市井の人間に紛れる。
今でこそ皐月のような友人とも出会えて、良い思い出だったように感じられるが、当初は不安だらけだったし、嫌だった。陽炎は自分の提督のことを思慕していたからである。
だが……その想いは長い時間の中で、少しずつ思い出へと変わってしまった。抱いた愛情も思い描いた幸せな未来も、全ては薄まり、やがて穏やかな好意に収束してしまった。
自分の提督と二度と会えなくなるわけではない、再会したらまた想いは蘇るのかもしれない、けれど今この瞬間においては、自覚できるほどに情熱が冷めてしまっている。
だから。たとえそれが一時的な狂奔だとしても。“仕方がないことだ”なんて諦めず、定められた運命に抗ってみればいい。
陽炎の目には皐月の行動は半ば暴走気味なように映ったが、だからこそ羨ましく思えたのだった。
陽炎(私もああだったら……とは思わないし、今の自分に後悔があるわけじゃないけど。でも……あれが若さ、ってやつなのかしらね)
呉鎮守府内の主力級の艦娘は臨時会議室に集められた。
会議というよりは通達を目的に集められたようで、この集まりの中には赤城や翔鶴も含まれていた。
井州「緊急に呼び出してしまってすまない。今後の方針転換の発表を行いたいのだが、その前に今日起こった重大な事件について説明しておきたい」
井州「横須賀鎮守府が襲撃された。ドックや工廠などをピンポイントで破壊され、軍事拠点としての機能はしばらく果たせそうにない。
横須賀に行くはずだった艦娘たちはこれから踵を返して呉に押し寄せるということになる」
「おいおいおいおい、今だって定員オーバーなんだぞ」「外泊許可取って宿にでも泊まった方が良さそう……」 どよめきが起こる。
井州「その通り。この呉鎮守府は今ですら満員の状態であり、各艦娘のストレスも高まっており不満が頻出している。
また、こうしている間にも半深海化の症状が現れている艦娘は増え続けている」
井州「そこで。我々の総力を以って反乱軍を討つことに決定した。まずは小隊を各海域に展開して哨戒を行い、反乱軍の居場所を炙り出す。
深海棲艦を支配しているとはいえ向こうの資源は乏しく兵力も少ない。長期に渡る漸減作戦でジリ貧にしていくのが当初の計画だったが……。
こうなっては仕方がない。やはり策謀に関しては相手の方が上手であると認めざるを得ない」
呉ではこの頃から手取提督率いる深海棲艦や彼に従う艦娘らの勢力を総称して、反乱軍と呼ぶようになっていた。
井州「だが。ここには君たちが居る。敵がいかに神算鬼謀であろうと、歴戦の猛者である君たちはこの国の守護神だ。
どんな海をも超えてきた圧倒的な練度を誇る艦娘であれば、いかな相手でも打ち破ることが出来る……と私は信じている」
井州「詳しい作戦内容は追って連絡する。MI・トラック攻略以来の大規模作戦にして恐らく最後の決戦になるだろうが……みな、今一度力を貸して欲しい」
・・・・
仮設された空母機動部隊控室。普段通りの加賀と対照的に、赤城は憔悴しきっていた。
悲痛な面持ちで両手を額の前で組むその姿は、何かに祈りを捧げているかのようだった。
赤城「加賀はどう思いますか」
加賀「果たすべきを果たす。これまで私たちがやってきたことを貫くだけ……そう考えていますが。これはあくまで私個人の解答。それとも……」
加賀「迷いがありますか? 私の意見一つで揺らいでしまうほどに、心細いですか?」
赤城の耳元に顔を近づけ、煽るようにわざとらしく囁く。
赤城「私は一航戦赤城。私がこの国の空母機動部隊の象徴であり中心である、他に私の代わりを務まる者は居ない……」
加賀「そうね。その通りだわ」
赤城「私は、生まれてからずっとこの海軍で育ち、深海棲艦を討ち、国を護ってきました。今もその決意は揺るぎません」
加賀「国家の反逆者である手取提督に従っていたのに? 赤城さん、貴方は彼が唱えた『バビロン計画』にだってまるで疑いを持っていなかったわ。
彼の為に自分の身を尽くしたいとも言っていたわね」
赤城「ッ……加賀」
加賀「赤城さん。私はずっと貴方の背中を追いかけて来ました。気づいていましたか? 私は貴方に嫉妬していたのですよ。ですが……もう今の貴方は嫉妬するに値しない。
今の貴方は脆く、弱い。本当は手取提督と共にありたいのでしょう? 自らの心に嘘をついて引いた弓の無力さは、貴方が一番よく知っているはずですが」
赤城「加賀……貴方は何を考えて」
ダァンと部屋の扉を蹴破る瑞鶴。
瑞鶴「先輩! 報告です! 第六・第七資材庫で収奪があったようです!」
翔鶴「燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト、他高速修復材などが奪われたようです。どうにも、この鎮守府の中に反乱軍との内通者が居たそうで……。
今、蒼龍先輩と飛龍先輩が現場に向かっていますが……日も沈みつつあるこの状況での索敵は困難かもしれません」
翔鶴「収奪された資源や資材の量はさほど多いものではありませんが……この手際の良さ、油断なりませんね。これだけのことをやるからには向こうも本気、ということでしょうか」
瑞鶴「井州提督からの指示はまだですが、形跡から大方のルートは絞れたようです。反乱軍の拠点を探すために全方位に艦娘を繰り出す必要は無くなりました。
正式な決定が決まり次第中部海域に、全勢力を以って進攻することになるかと!」
翔鶴「いよいよ決戦、ですね。……随分と期間が狭まってしまい艦隊全体での連携には多少不安がありますが、井州提督も仰っていたようにここまで戦い抜いた艦娘であれば問題はないでしょう。
瑞鶴も私も、コンディションは完璧です! 一航戦二航戦の先輩方と私たちがいれば。きっと乗り越えることが出来るはずです」
加賀「私に遅れを取らないことね五航戦」
ファサと髪をかき上げる翔鶴。
翔鶴「ええ、もちろん。MIでの戦いを超える活躍を期待して下さい。もう先輩方の後ろで戦う私たちじゃありませんから」
加賀「フッ……貴方から勇ましい言葉が聞けるのは珍しいわね。雄弁に恥じぬ働き、期待しているわ」
ポンポンと翔鶴の肩を叩き、部屋を後にする加賀。
加賀が部屋を出てから追うようにして瑞鶴はトレーニングに向かい、部屋に残された翔鶴は武装の手入れを、赤城は何をするわけでもなく椅子に座り続けていた。
翔鶴(いつもより心なしか覇気がないように思えます。どうしたんでしょうか)
翔鶴が声をかけようかかけまいか悩んでいると、赤城の方から話を切り出した。
赤城「手取提督の話は前にしましたよね」
翔鶴「……なるほど。そういうこと、ですか。私の目には少しも迷いが無いように見えていたので、割り切っていたのかと思いました」
赤城「残念ながら、そうまで強い人間ではないのですよ……私は。これまでは抑えていられたんですけどね。覚悟はしていたつもり、なんですけどね……。
いざ“その時”となると、気持ちの整理が着かないものですね。我ながら不甲斐ない」
赤城「それでも……私は戦いますよ。これが私に課せられた宿命であるなら、受け入れましょう。私の個人的な感情は、大義の前ではエゴイズムに過ぎません。
これは悲劇でもなんでもない。私は己の未熟さを超え、更なる成長を遂げましょう」
翔鶴「自らの想いを捨て去ってでも、ですか」
赤城「ええ。これが一航戦赤城に課せられた最後の試練。私が貫くべきは正義であり、自我ではありません……!」
翔鶴「自らの心に嘘をついてもですか。それは欺瞞ではないのですか」
赤城「戦場に立つ時、正しい心であればいい。今は迷いの中であっても、克服してしまえば大したものではありません。恐れも悔いも、私はそうやって乗り越えてきた」
翔鶴「強くあることと、自分の心を理論武装で塗り固めることは違うでしょう。彼のことを想っていたのでしょう、なぜその気持ちさえも捨て去ろうとしてしまうのですか!」
赤城「そうあらなければ私は強くなれないからです。戦場に情は不要。曇りない信念がなければ敵を沈めることは出来ない、敵がかつての味方であったならなおのこと……」
翔鶴「貴方はプライドのために生きているのですか。一航戦というのはそんなに大事な肩書きなのですか?」
その台詞が癪に障ったのか椅子から立ち上がり、じっと翔鶴を見据える赤城。
赤城「師弟揃って言いたい放題ですね……。そうですよ、私はこの空母機動部隊の礎を築くために何年も時間を費やしてきた」
赤城「制空権を取り返す力もなく、深海棲艦になされるがままの状況を変えてきたのは私です。その為に艦載機隊の熟練度の向上も、人材の育成も、この身一つで積み重ねてきた。
佐世保が解体になってからは、次の世代であるあなた達に任せておいても問題ないと考えていましたが。こうなってしまっては話は別」
赤城「私は再び戦場に降り立ちましょう、今度こそ全てを終わらせるために。かつて愛した人が相手であるならば、最後の敵には相応しい」
パァンと、乾いた音が部屋に鳴り響く。翔鶴が赤城の頬を叩いたのだ。
翔鶴「今、私は貴方が間違っていると思ったから叩きました。怒っているわけではありませんが、言葉で言っても無駄でしょうから」
赤城「そう。それで、貴方の気は済んだかしら」
全くダメージを受けていないような、涼しい顔の赤城。
翔鶴「間違っていたならば、正せばいい。なぜそれが分からないのですか」
翔鶴「私は! 貴方が手取提督について話している時の生き生きした表情を見て、この人は本当に提督のことが好きなのだなと。そう思いました。
自分の背負っている責任のようなしみったれた話をしている時と比べて、何十倍も輝いていました」
翔鶴「貴方が彼への想いを失った時、貴方は本当にただの兵器になる。ただ生きるためだけに生きる人形になり下がってしまう!
この戦いに勝利したとして、貴方はこれから先どうやって生きるんですか。半深海化や今後の情勢といったものを抜きにして、貴方はこれから何をしていたいんですか。
私が貴方の道場に相談に行った時もそうだった。自らの本当の望みも果たせず、果たす術も知らずに貴方は燻り続けてきた」
翔鶴「『私にはこうするしかない』と、都合の良い場面でだけ自分の弱さを盾にするのはやめてください。貴方にはそれを乗り越えるだけの強さがあるはずです」
ぽろりと、赤城の目から雫がこぼれる。頬を伝って地面に落ちていく。最初の一滴に続いて、また一滴。
力なく跪いて顔を抑える赤城。やがて堰を切ったように止めどなく流れ落ちていく、涙。
赤城「私は……どうすればいい……。何を信じれば……」
翔鶴に問うているわけではなく、自問しているようだ。
赤城「私は、彼のことがたまらなく、愛しくて……でも。今彼のやっていることを、支持できない。
本当は、自分の愛情にすら自信が持てないのかもしれません。だから彼のことを疑ってしまうし、信じきることが出来ないのかもしれません」
翔鶴「人は間違いを起こします。先輩がご存知のように、私だって間違えてばかりです。
間違いを起こさない人間はいません、手取提督のような聡明な方でも、過ちを犯すことはあるでしょう。
私も彼のやり方には疑問があります……真意が読めませんから」
翔鶴「だから……妄信する必要なんてないんです。間違っているなら、正してあげればいい。彼の傍で戦い続けるだけが愛情の形ではないのだと、私はそう思います」
赤城「そう……なのかしら、ね。でも……今は貴方の言っていることを信じたいわ」
翔鶴「自分の心を雁字搦めに縛らないでください。先輩が、どんな風に戦ってきたかは知りませんが……今は私がいて、瑞鶴がいます。
二航戦の先輩方や、加賀先輩がいます。一人じゃないんです。だから、もう一人ぼっちで背負わなくていいんです」
赤城「貴方に、気づかされることになるとは思いませんでした。そうですね……そう。私、バカみたいですね。そうですよね……。ありがとう、翔鶴。頼りになるわね……」
・・・・
翔鶴「それはそうと……赤城先輩は今回の空母部隊の人事権があるんですよね」
赤城「ええ。それがどうかしましたか?」
翔鶴「ごにょごにょごにょ……」 耳打ちする
赤城「えっ、それはさすがに……。一応、考えておきますが……えぇ~」 困惑した表情の赤城
夜の海を疾走する皐月たち。
雷「追手はまだ来てないみたいね。でも、日が昇ったら見つかっちゃうかもしれないから油断は出来ないわ」
天龍「昔と違って深海棲艦や渦潮の足止めがあるわけじゃねえんだ。追手に見つかる前には着くだろ。それはそうと、おいなんだアレ……? 空を見てみろ」
欠けた月の近くに浮かぶ風船のような物体の群れ。その内複数体がこちらに向かってくる。
皐月「ああ、皆は生で見た事がないんだっけ。深海棲艦の浮遊要塞だよ」 やや得意げに説明する皐月
皐月「アレが出て来るってことは……司令官は本当に深海棲艦を手中にしてしまったんだね」
浮遊要塞が皐月たちの頭上に急接近し、光を照射する。光に照らされた皐月たちの身体はしばらくすると宙に浮き、浮遊要塞の中に吸い込まれていく。
電「えっ、これ、大丈夫なんですか!?」
皐月「司令官もボクたちの位置を把握してるはずだから、迎えに来たってことだと思う。敵意があるなら先制攻撃してくるだろうし」 浮きながら説明を続ける皐月
文月「キャトルミューティレーション……」
・・・・
大理石のような材質の床に、透明なガラスのように外の景色を映している壁。宮殿にあるホールのようにだだっ広い空間が広がっていた。
皐月「なんだこれ……中はこんなになってたのか」
龍田「海の上を移動するよりもラクでいいわね~」
天龍「というより、海を渡って行ったんじゃかなり厳しいな。海面に幾つも渦潮が発生してやがる」
MIの島々に並び立つ岸壁の要塞。一見すると天然の要害のように見えるが、これらは提督たちがこの島を訪れた後に形成されたものだ。
そして要塞の中央に聳え立つ城。あそこに司令官は居るのだと、皐月はそう直感した。
・・・・
提督(皐月らとの合流が果たせたようだな。金剛も間もなくこちらに戻ってくるだろう)
提督「あちらもそろそろ動き出す頃合か。備えは済んだが……後はどれだけ時間を稼げるか、か」
響「司令官がお望みとあらば、百年でも戦えるさ」
提督「なに、百時間も必要ない。こいつが目覚めるその時まで耐えてくれれば十分だ」
“こいつ”……玉座の上で眠る空母ヲ級Nightmareを指差して言う。
響「これはそんなに役に立つものなのかい?」
提督「……さあな。目覚めてみないと詳しいことは分からん。だが、意識がなくとも一瞬にしてこの城を生み出してしまう程度には力を持っている。
泊地水鬼曰く、かつての深海棲艦の本拠地であった場所を海底から地上に顕現させたものらしい。多神教圏でなら神と称される程度に力はあるんだろうな」
響「司令官は神ってやつを信じるのかい」
提督「『神』をどう定義するかによって変わってくるが……。絶対神、絶対善、全知全能……そういったものは存在しないのだと思う」
響「ほう、そう答えるとは意外だな。詳しく聞きたい」
提督「詳細に回答できるほど物を知っているわけではないが……。この世界というのはどうやら何某かのシステムによって立脚しているようだ。
ある者はそれを宿命と呼び、ある者はそれを神意と呼ぶ。しかし、そのシステムのルールは絶対的な一存による決定で定められるものではないのだと思う」
提督「世の真理は真理にあって未だ真理にあらず。真理を超越した先の真理を見出したいと、俺はそう望むのだ」
響「久々に言っている意味が分からない台詞を聞けて安心したよ。やはり君はそうでなくてはな」
・・・・
雪風らに玉座へ案内されると、皐月は提督のもとへ駆け寄っていく。
皐月「司令官!」
提督「ご苦労だったな……正直のところ予想外の動きだが。発信機の存在に気づいたなら、呉の連中に知らせると踏んでいた」
皐月「司令官は、ボクが司令官を裏切ると思ってたの……? ボクを信じていなかった?」
提督「逆だ。軍を裏切ってまで、俺に従う道を選ぶとは思わなかった。信じる信じない以前に、合理的な選択じゃないからな。
俺にとってはもっともありがたい働きではあるのだが……今は資源がとにかく欲しい」
皐月「司令官は、ずっとボクのことを信じていてくれたから。大事に思ってくれていたから。ボクは司令官のために、ここに来たんだよ」
少し悲しそうな顔を浮かべると、歯を食いしばる提督。しかしすぐに普段の表情に戻る。
提督「そうか。すまないな……助かる」
提督「役者は揃った。日も間もなく昇る頃だろう。各員、戦闘配置! 開戦だ……!」
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獲得経験値(~85 Phase C/100)
・皐月の経験値+6(現在値19)
・翔鶴の経験値+4(現在値19)
・足柄の現在経験値:26
・雪風の現在経験値:26
・金剛の現在経験値:23
・響の現在経験値:23
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相変わらずややこしいことになってきましたね(定例)
次はPhase Bですが、そろそろ終わりに近づきつつあるんで確率の偏りをフラットに戻しました。
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『Phase B』【86-90/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~15:雪風
16~32:翔鶴
33~49:金剛
50~65:響
66~81:足柄
82~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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てーい
>>603-607より
・翔鶴3レス/皐月1レス/足柄1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:229 なので『Phase C』が発生します)
おおぅ、またPhase Cか……これは分からなくなってきましたね。
別に惚れた腫れたメインのお話で書いているつもりはないのですが、一応ラストは誰かしらのルートでEDを迎えるつもりです。
つもりなんですが、これ誰に決まるかによってめっちゃ結末変わりそうですね……うーん、どうなるんでしょう。書いてる本人が一番展開を読めねえ
ますます遅筆に拍車がかかりそうですが来年になるまでには完結させられるぐらいのペースで頑張っていきます。
次回の投下は11/6(金)頃を予定しています。
(本来通例になっているようではダメなのですが)例によって数日後ろにずれる可能性があります。
////チラシ裏////
お久しぶりです。いやぁ・・・・秋刀魚これくしょんでしたね。
一応大漁旗はゲットしました。あんまリアルの時間が取れなくってゴールドラッシュならぬネジラッシュみたいなことは出来ませんでしたが。
あとは最近の話題と言えば、アレですね。激強艦載機こと岩本隊の導入がアツいですね。烈風改の完全上位互換ってヤバすぎませんか!?
というか、熟練度システム導入でほとんどの通常海域が易化しましたよね。軽空母三隻でも制空権完全確保しながら5-4回せるんですからね。
戦争は変わったってやつですかね。通常海域がヌルくなった分秋イベ冬イベがこえーんですけども・・・・。
私がSSを書けない間にも艦これの世界は発展していきますね・・・・。翔鶴改二・瑞鶴改二も実装され、UIが劇的に改善され。
一括補給や編成プリセットの導入は感動を覚えました。
いや、他にこの手のゲームに慣れてる人から言わせりゃむしろ導入するの遅すぎぐらいに思ってるのかもしんないすけど。
私は艦これしかやってないので神アプデに感じました。いや実際神アプデじゃない!?
あ、いや何が言いたいのかというと、せめて艦これのアプデと同じぐらいの間隔で投下出来るといいなあって話です。
でもそれが出来たら苦労しないんだよにぇ・・・・なんか毎回似たようなこと言ってる気がするし。まあいつも通りなんとか時間作って書きます。
提督が城内の艦娘や泊地水鬼に出撃命令を出してから数分後。提督のもとを訪れた皐月と文月。
皐月「司令官! 別室で待機ってどういうこと!?」
提督「お前たちのレベルで出撃させるのは危険だ。犬死はさせん」
皐月「けど! ボクたち、司令官の役に立ちたくて来たんだよ!? ここまで来て用なしだなんて……ボク、何のために来たのか分からないよ」
文月「皐月の勝手な感情を司令官にぶつけちゃダメだよ。司令官はあたしたちよりもずっと色んなものを背負ってるんだから……無理言っちゃダメだって」
提督が口を開く前に皐月を諌める文月。しおらしくなる皐月。
提督「益体ないなんて言うつもりはない。……今はまだ指示を出す必要がないだけだ。だが、すぐに動いてもらうことになる」
皐月「ごめん……我儘言っちゃいけないよね」
しょげた様子で待機していた小部屋に戻ろうとする皐月。肩を叩き励ます文月。二人の姿を見て提督が一声。
提督「いや……無くはない。ではこうしよう、お前たち二人には別の任務を与える」
・・・・
提自分の背よりも遥かに高い巨大な機械郡の立ち並ぶ通路を歩く。やがて通路の行き止まりに辿り着くと、小部屋に辿り着いた。
提督の後ろからとてとてと歩いてくる皐月と文月がついてくる。
提督「ほう、もう動き出したか。あと一日はもたつくと予想していたが……あちらも存外手が早い。
だが、現時点でこちらの位置を完全に把握出来ていないのは痛いな。こちらにとっては幸いだが」
小部屋の中にあるモニターを機動させると、周辺海域の敵艦反応を調べだす提督。
提督「動きから察するに中部海域に艦娘を総動員して位置を探り当てる、といった目論見だろうか。
下手な鉄砲も数撃てば当たる……。理屈の上では正しいが、焦りが見て取れるな」
皐月「でも、近隣の拠点に戦力を割けるほどの余裕はないはず……だよね? 結局すぐ見つかっちゃうんじゃあないかな」
どうして彼が初見で深海製の機材を操れるかに関しても気になったが「だって司令官だし」という結論に至ったため、あえて聞こうとはしなかった。
提督「確かにそうだが、問題ない。接敵まで一日は稼げるだろう。この城は深海の連中が積み上げた技術の結晶。
我々を人類を苦しめるための仕掛けが幾層にも組まれていたというわけだ。……沈んだ艦から全ての情報が流出すると考えれば、このぐらいは容易いことなのかもしれんな」
モニター上をトン、トンとタッチすると、画面上が紫色に変色する。
文月「……? 何をやってるんですか」
提督「かつて深海棲艦の巣食う海域ではなぜ敵艦隊の誤発見が多発していたと思う? なぜ渦潮に行く手を遮られていたと思う?
なぜ羅針盤が正しい方角を指さずに意図せぬ方向に進むことになっていたと思う? その答えがこれだ」
提督「ここはゲームで例えるならデバッグルーム。機雷の設置にデコイの配置。渦潮の発生から海流操作までなんでもござれというわけだ」
・・・・
提督「後は説明した通りだ。お前たちが上手くやれば、接敵前に予め打撃を与えておくことも可能だろう。では……」
皐月「え、行っちゃうの?」
椅子から立ち上がった提督の服の裾を無意識のうちに掴んでいた皐月。皐月の指に気づいて振り返る提督。
提督「ああ。ここはお前たち二人に任せたい」
皐月「……分かった、よ」 力なく指を離す
提督「どうした? ……ん」
提督からハンカチを差し出されると、困惑しながらも受け取る皐月。
自分が泣いていたことに気づいていなかったようで、拭ったハンカチが濡れていたことに驚いていた。
泣いていることを自覚すると、その場で膝を折ってしまう皐月。慌てて文月が介抱する。
皐月「ハハ……ごめん。なんか、迷惑、だよね。なんでだろ……悲しくなんてないのにな。どうしちゃったのかな……ボク、変だなぁ……。
なんかね……ボク、分からなくなっちゃったんだ。自分がどうしていいのか、自分がどうしたいのか」
皐月「たとえ距離が離れていても、ボクらにとっては司令官あっての日常だったから。司令官が遠くで見守っていることが、当たり前だったから。
鎮守府が解体されても今生の別れにはならないって思ってた。直接会うことはなくても司令官が陰ながら支えてくれているって分かる安心感もあったから」
皐月「前に、人間の精神は身体に引きずられるって話したけど……やっぱり、それは間違っていないと思う。
ボク、学校に通うようになって、ますます精神的に幼くなっちゃったのかもしれない。こうしてまた、戦いの中に身を投じることが、怖いよ」
皐月「それ以上に……司令官がふっとどこかへ消えてしまうことが……怖いんだ」
しばしの沈黙のあと、顔を上げて、真剣な眼差しでじっと提督の目を見つめる。提督も目を逸らさずに真っ直ぐ皐月を捉えている。
皐月「ごめんね……足止めしちゃって。でも、大丈夫。司令官がそんな人じゃないって、ボク、分かってるから。
ちょっとだけ、不安になっただけ! もう大丈夫、ここはボクに任せて!」
立ち上がり微笑む皐月。提督は無言で頷くと身を翻して部屋を後にした。
カッカッと音をたて廊下を歩く提督。皐月たちの居る部屋から数十メートルほど歩いたところで、足を止め、振り返る。
提督「人の心というのは読めんものだな。位置に気づいたのは予想通りだったが……皐月がこちらの側につく可能性は考慮していなかった。僥倖ではあるのだが」
提督「さて……」
再び前を向き、歩き始める。
提督「長期戦になってはこちらが不利だ。焦る必要はないが、急ぐ必要はあるな」
提督(果たすべきを果たし、成すべくを成す。それだけだ……)
・・・・
加賀「赤城さん……やはり納得いきません。よりにもよって五航戦に旗艦を譲るなど……」
赤城「加賀さんの言うとおり、確かに私には迷いがあるようです。だから旗艦に相応しくはない。
今回の作戦で、私は後衛に回ります。二航戦の二人と水上打撃部隊の援護を行います」
加賀(甘えたことを……。相手があの提督なら、物量をひっくり返すような策を必ず仕掛けてくるはず。
赤城さんにその気がなくとも、どのみち前線へ出ることは避けられなくなる状況が起こるはずだわ。それが予測できないほど衰えてはいないはずなのだけど)
加賀(ま、赤城さんの動向はこの際よしとしましょう。期待外れだったというだけのこと……)
赤城「五航戦の子が不安かしら?」
加賀「不安ではないわ。ある程度は評価しています。ですが……適任な人材が他に居るかと」
赤城「では、あなたがやってみますか。加賀?」
加賀「? 何をいきなり……」
赤城「あなたでは私に近すぎるのですよ」
赤城「……あれを見てください」
空母の控室を指差す赤城。窓から談笑している翔鶴や瑞鶴、その後輩である葛城や天城の姿が見える。
肩を揉もうとする葛城相手に遠慮する瑞鶴。食べていた串団子を喉に詰まらせ咽せている翔鶴。それを見てオロオロする天城。
出撃前の最後の整備を済ませた後という、本来なら艦娘にとって最も緊張感の高まる場面のはずだったが、彼女たちはどこか余裕が見てとれるような和やかな雰囲気を醸し出していた。
赤城「あれが出撃前のあるべき姿だとは言いません。ですが……どうにも私たちは前に進みすぎてしまったようです」
赤城「加賀さん。確かにあなたの力量は見事なものです。今や私をも凌ぐかもしれません」
赤城「私たちは……佐世保に居た頃からずっと。私は私に相応しい居場所を求めて、あなたは誰よりも上を目指して。それは、個人のあり方としては正しかったのかもしれません。
結果として私は今や海軍所属の正規空母の中で最も高い地位に上り詰め、あなたは航空戦において全空母中最強と言わしめるほどの力を手に入れたのですから」
加賀「ええ、そうです。昨夜貴女を焚きつけたのは、貴女が手取提督のもとに寝返ることを期待してやったことです。発言の内容は本音ですが。
貴女と正面からやり合える機会なんて、今を逃したら未来永劫訪れないでしょうから。私は貴女を乗り越えたい」
赤城「私を超えて、その先に加賀さんの望むものはあるのかしら?」
赤城「かつて。MI作戦は私の最期に相応しい場所であると思っていました。あそここそが私の墓標に相応しい、最も輝ける場所だと。
ですが。……私たちは死ぬために生きているんじゃない。当たり前のことです。長い戦いの中で、仲間が海の底に沈んでいくのが当たり前の世界で……私はそのことを忘れてしまった。
あの提督に出会うまで、私は死に場所を探す生きた亡霊だった」
赤城「あの子たちの瞳には、未来が映っているわ。それは……悔恨を抱えたまま沈んでいく、怨嗟と後悔の海を知らないが故の無邪気さ。無知であるがゆえの楽観。
けれど……あの子たちと違って、私もあなたも自分の存在を疑わずにはいられない。何も成し遂げられないまま死んでいくことが怖いのでしょう。
いや、恐怖を恐怖と認識出来ないほどにまで染み付いてしまっている。だから己の命よりも価値のある何かを得たい、達成したいと思っている……」
赤城「だから私は居場所を探し続けてきた。あなたは力を求め続けてきた」
加賀「その通りです。……昨夜も言った通り、私はずっと赤城さんの背中を追いかけてきました。貴女を超えることが、私が艦娘に生まれた存在意義です」
加賀「MIの後にもう大きな戦いは無いと思っていました。どれだけ強くなろうと、その力を発揮する場がなければ意味がない。
ですが……神か仏か、あるいは悪魔か。私の力が、今再び必要とされています。私にとってこれは千載一遇の好機です」
加賀「アテが外れてしまったようですがね。貴女は艦隊に残り、しかも後衛に控えているという。
ならばそれでもいいでしょう。貴女にその気がないのに私が一方的に張り合っても意味がない」
加賀「私はこの戦いで、己の武の全てを尽くしましょう。もはや貴女が居ようと居まいが関係ありません」
赤城「私たちは、戦うために生きているのではありません。力など、振るわずに済むのならそれに越したことはないのです」
加賀「当然でしょう。しかしそれは目の前に危機が迫っている今この状況で考えるべきことではない」
赤城「その当然さえ、今の加賀さんは分かっていない! だから旗艦を任せるわけにはいかないのですよ」
加賀「……ええ、もう結構です。こうして貴女と話している今になってみれば、その方が都合が良いとさえ思えてきました。他の艦娘のことを気にかけず好きに戦えるのですから。
別に、貴女と諍いを起こしたいわけではないのです。ただ一度、本気の赤城さんと戦ってみたかった。それだけです。それだけでした」
赤城「加賀……」
それでは、と言い残し加賀は一人どこかへ歩いていった。
翔鶴「機動部隊旗艦、翔鶴! 抜錨します!」
瑞鶴「翔鶴ねえ……やるよ!」
天城「私たちも先輩方の足手まといにならないように頑張ります。葛城、行きましょう」
葛城(憧れの五航戦の先輩方との初陣……頑張らなくっちゃ!)
加賀(士気は高いようだけど……実力はどうかしらね。まずはお手並み拝見といきましょうか)
・・・・
川内「中部海域哨戒線に差し掛かりましたが……今のところ敵の気配はありませんね」
翔鶴「念のため索敵機を飛ばしておきましょうか。周辺海域の様子も把握しておきたいですしね」
瑞鶴「敵の兵力的に、いきなりここに戦力を配置するほど余力はないと思うけど……ここからはいつ奇襲が来てもおかしくないからね。二人とも、警戒は怠らないように」
天城「はっ、はい!!」
翔鶴「といっても、無理に気張る必要はないわ。あまり緊張し過ぎてもダメよ」
葛城「わ、分かりました! 頑張ります!!」
瑞鶴「(頑張る頑張るって、大丈夫かしら?)ま、イザとなったらあたしと翔鶴ねえがバッチリ助けてあげるんだから、肩の力は抜いて、普段通りやればいいのよ!」
雲龍「~♪」ポーッ
瑞鶴「そうそう、こんな感じでリラックス……って、うちの艦隊にこんな子居たかしら?」
翔鶴「いや、居ないはずだけど……。確か私たちの後方の水上打撃部隊に配属されてる艦娘だったと……」
比叡「第三哨戒部隊から通信! 敵艦隊を観測したとの報告です!」
夕立「こっちにも通信っぽい! 第四哨戒部隊、敵艦隊発見!」
瑞鶴「翔鶴ねえ……! 今偵察機からも入電があったわ。敵艦隊見ゆ、ってさ」
加賀「もう既に敵の手中というわけね。どうするの?(セオリー通りに考えるなら、ここで留まって味方と合流を図るべきだと思うけれど……)」
翔鶴「井州提督の命によれば、本格的に勝負を仕掛けるのは哨戒部隊が敵艦隊と“交戦”した後。報告が何かの見間違いや勘違いだったという可能性もあります。
確定するまではここに待機し、主力である水上打撃部隊が来るのを待ちましょう。焦る必要はありません」
瑞鶴「ただ、本当に敵艦隊がこちらに接近してきている可能性もあるわ。輪形陣で迎え撃ちましょう」
・・・・
提督「偵察に来た小隊は上手く撹乱できているようだが……本丸の機動部隊を釣るには至らないか。こいつらを後続の水上打撃部隊と合流させては厳しい」
提督(皐月らが上手くやっている間は、前方にいる偵察部隊が我々の本拠地を突き詰めることは出来んだろう。
だが主力級の大艦隊が後方に控えている以上、これでは時間稼ぎにしかなるまい。少し場を荒らすか……)
提督「雪風。動けるか?」 無線機ごしに雪風と会話する
雪風「……まだ時間がかかりそうなんですね」
提督「ああ。今龍田らに資源を集めてもらってきているのだが……敵の動きが思ったより早いようだ」
雪風「ええ。何隻かはレーダーで捕捉出来てます。向こうが気づく様子はありませんが……」
提督「かつての仲間を撃つのは嫌か?」
雪風「はい」
提督「だろうな。俺もお前の性格はよく知っている。……後方に下がっていろ。響と軽巡棲鬼を向かわせる」
雪風「いえ……やります。やらせてください、司令」
提督「!?(どういうことだ……?)」
雪風「敵の陽動ですよね。X地点まで誘き寄せて迎撃、という形で問題ありませんか?」
提督「ああ、そうだが……しかし」
雪風「同じ艦娘同士で争うのは、本当は嫌です……。でも、司令のために、やります。司令のためなら、やれます」
雪風「あの……うまく言えないですけど。……しれえは、間違ってないと思います! 絶対、大丈夫です!」
言葉に詰まる提督。予期せぬ申し出になんと言うべきか迷っていると、いつになく優しい声で語りかける雪風。
雪風「司令が正しいと思う道を進んでください。……大丈夫です。司令には雪風がいますから」 ツッ
提督(通信が切れてしまった……。いや、切られたのか。……)
提督(ここまで全て、全てが俺の思惑通りに動いている。皆が俺の意志に沿って動いている……これは望ましいことだ。だが……)
全てを裏切ってまで俺に従う道を選んだ皐月は。自らの意志を曲げてまで俺のために動こうとしている雪風は。あいつらは本当にこれでいいのか?
俺にはあいつらの心が分からない。リスクやポリシーと俺とを天秤にかけたわけだろう。
その上でなぜ俺に従おうとするのだ……。俺はあいつらの為にそこまでの利益を与えられているのか?
皐月がどう動こうと、俺の利になるはずだった。だから居場所を教えた。皐月の選択した行動は予想外ではあったが、俺の想像していたよりも俺の役に立つ結果となった。
位置的に、最も敵に近い雪風を動かすべきだと考えた。だから雪風を後方に下がらせて響らに向かわせるよう指示を出そうとした。だが雪風は俺の為に戦いたいと言った。
結果的には俺が自分で予想していたよりも優位な状態を保てている。だが……。
『……しれえは、間違ってないと思います! 絶対、大丈夫です!』
提督「そうだな。……そう思うことにしよう(他人の言葉に勇気付けられる日が来るとは、な)」
・・・・
瑞鶴「艦載機から情報。哨戒部隊からの報告。いずれも誤報、か……動かなくて正解だったわね」
夕立「第八遊撃部隊から入電っぽい。敵艦隊を発見、交戦開始……っぽい!」
時雨「ザザッ……こちら第一遊撃部隊時雨。敵駆逐艦二隻による奇襲を受け雷巡北上が中破。敵は逃亡中だけど、まだ追いつく範囲だ……仕留め次第報告する」
翔鶴「敵が動き出したようね……背後の主力大隊は?」
川内「まだ来ないみたいですね。半日あればこっちには着くそうですが……。先鋒部隊が交戦したことは伝えときます」
天城「敵の拠点が分からない以上、まだ私たちが動くのは得策ではありませんね……」
翔鶴(しかし……嫌な予感がしますね。私たちが動くように誘い出されているような気もするし、私たちが動けないように戦局を進めているような気もします……あるいはその両方か)
加賀「……(気配がするわね。まだ遠いけれど……強大な何かが目覚めつつあるのを感じるわ)」
・・・・
利根「ふっふっふ、この時のためにカタパルトは整備しておいたのじゃ! 全爆撃機発進! 追え追えーっ!」
北上(痛たッ……あたしが旗艦なんだから避けずに庇えってのぉ……これだから他の鎮守府から来た他所モンは分かってないねえ)
時雨「北上、動けるかい?(しかし昼戦なのに気配なく近づいてくるとは敵も侮れないな……)」
北上「ん。ヨユーヨユー。歴戦の大エース、スーパー北上様を舐めちゃいけないよ。あの鬱陶しい駆逐艦をサクッとやっつけちゃいましょうかね。全艦突撃~」
距離を詰めてくる北上隊に気づき、航行速度を上げる雪風と磯風。
磯風「敵艦隊が混乱から立ち直ったようだな。こっちを追う速度が上がってきた」
雪風「なんとか目的地まで逃げ延びて……そこからですね」
磯風「無傷で逃げ切るのは厳しそうだな。こんなところでやられるような私たちではないが……中破ぐらいは覚悟しておこうか」
雪風「いいえ、無傷で乗り切ります。あの城にはドッグに相当する施設が無いので……回復手段がありません。一応、修復剤でどうにかなりますが……金剛さんたち戦艦が使うべきでしょう。
雪風の装備は対空兵器に乏しいので、磯風さんがあの爆撃機を打ち落としてください。後ろの敵は雪風がいなします」
磯風「なるほど無茶を言う。が、面白いぞ。その提案に私も乗ろう。よし、対空機銃撃てッ!」 バリバリバリバリバリッ
時雨「逃がしはしないよ!」
北上(この動き……誘導だろうなぁ~。ま、士気も高いしなんとかなるっしょ)
・・・・
提督が再び玉座の部屋を訪れると、足音で目覚めるヲ級Nightmare。
提督「目覚めたか」
提督を攻撃しようとする素振りを見せたが、玉座から立ち上がって動くことも出来ないらしい。
提督「今のお前はその椅子から立ち上がって歩くことすら出来んよ。動くための燃料が完全に尽きているのだからな」
提督「少しばかりこの城で調べさせてもらった。艦娘と深海棲艦の違いをな。艦娘は燃料が尽きても海上を移動出来なくなるだけで、地上を歩くことは出来る。母体は人間だからだ。
一方深海棲艦は、人間の人間たる部分を全て失い艤装に完全に支配された姿……だそうだな」
提督「だから深海棲艦に自律意志があるなんてことはまずあり得ない。お前たち深海棲艦は人を襲うようプログラムされた機械だ。機械がプログラム外の動きをできるはずもない。
ところが……お前やまだ生き残っている深海棲艦である泊地水鬼、軽巡棲鬼なんかは意志と感情を持っている。人の身を失っても、残留思念で動き続けているといわけだな」
提督「改めて言うが、これは本来あり得ないことだ。あり得ない存在がこの世に存在している……お前たちは一体なんなんだ?」
ヲ級「ヲォ……」 突然提督の身体に触手を伸ばすとそのまま拘束して自分の眼前に引き寄せる
提督(ッ、まずいことになったぞ……。最悪殺されても再生できるだろうと高を括っていたが……まさか本当に攻撃してくるとは)
提督の身体に次々と触手が絡みついていき……やがてほとんど隙間も無くなってしまうほどに包み込まれてしまう。
呉鎮守府近海。
足柄「後方での警備なんて私たちには向いてないわよねぇ~……ふわぁ~あ」
朝霜「敵がわざわざこっちに来るわきゃねーし、だいいちアタイたちの柄じゃないわな。あー酒酒……なんだもう無いのか」
ぽいっと宙へ空の瓶を投げ捨てると、清霜がキャッチしてしまい込む。
清霜「あーっ! ポイ捨てはダメだって! もう!」 ぷんぷん
霞「っていうか、真昼間っから酒飲んでんじゃないわよオラァ!」 飛び膝蹴りを朝霜に見舞う
大淀「水上打撃部隊の方も中央海域付近まで辿り着いたみたいですね」
霞「どうなるかしら……ね。それにしても、この近海警備の配置……妙ね。朝霜の言ったとおり、反乱軍がこっちを攻めるなんてのは戦力的に不可能なはず」
清霜「やっぱり……これじゃないの?」
黄色い光を放つ自分の艤装を指差す清霜。
足柄「とりあえず半深海化の症状が進んでる艦娘を鎮守府近海に置いておいて何も無ければそれでよし。何かあったら……バトルロワイヤルってとこかしらね。
暴走する可能性のある艦娘を前線に配置するわけにはいかない。とはいえ鎮守府においておける余裕はないし、鎮守府内で暴れられてもそれはそれで困る……ってとこじゃない?」
霞「……! なんてことを……。あたしたちを何だと思ってるの!?」
足柄「ちょ、ちょっと……やけに食いつくわね。あくまで推測よ。手取提督がこの状況を見てたら、こう分析しそうかなって思っただけよ」
霞「中部海域に出撃した艦娘たちと違って、鎮守府近海の艦娘には自分たち以外の他の艦が具体的にどこに配置されているとかそういう情報が一切教えられてない。
これは疑念を抱くに足るわね……私たちも中部海域へ行くわよ。行ってどうするわけでもないけど、ここで同士討ちなんて納得行かないわ!」
足柄「いや、そうと決まったわけじゃ……」
大淀(すごい怒りよう……霞さんは一度、提督のミスで艦娘が沈むところを見ているんでしたっけ……。深海棲艦になった味方を、自分の手で仕留めたとか……)
霞「足柄! 清霜! 大淀! 半深海化だかなんだか知らないけど、そんなことぐらいで自我を失ったりするんじゃないわよ!
だいたい、沈んだぐらいで敵に成り下がってどうすんのよ! 何が轟沈よ! 何が深海棲艦よ! 色々思い出して全てにムカついて来たわ……行くわよッ!」
朝霜「(頭に血が昇るとこいつが一番手に負えねえんだよなァ……)ま、これはこれで面白いか。あたいらも続くぜッ!」
大淀「足柄さんが気圧されるのは珍しいですね。ああまで突っ走る霞さんも初めて見た気がします」
足柄「なんか、地雷踏んじゃったみたいね……」
清霜「ま、こうなる方が私たちらしいんじゃないかしら? 行きましょ行きましょ~♪」
・・・・
長門「待て。お前たち持ち場を離れてどこへ行こうというのだ」
霞「アンタもやっぱり艤装が青くなってるのね。ますます確信に変わったわ。そこを通してもらえるかしら」
長門「? ……半深海化が進んでいるお前たちをこのまま戦場へ見送るわけにはいかないな。作戦の邪魔をされては困る」
霞「だから、その作戦にも、作戦を出してる司令官様にも従うつもりはないってことよ。半深海化した艦娘同士で戦わせるなんて、良い趣味してると思わない?」
長門「そのことか……。半深海化している艦娘を鎮守府近海に出撃させるよう井州提督に提言したのは私だ。だが、半深海化した艦娘同士で戦う事態にはならないだろう」
足柄「それは……どういうこと?」
長門「見ての通り、私はもう私を保っていられそうにないらしい。このままでは他の艦娘を攻撃してしまう恐れがある。……そうなる前に、始末してもらうのさ」
長門の横にいる少女は膝を震わせている。長門の方向に砲を向けてはいるが、その先端はぷるぷると震えている。
長門「このように。最終段階まで至ってしまった艦娘を処理するために別の艦娘を配置してある。みんな納得してくれたよ。深海棲艦になって死ぬよりはマシだとね」
酒匂「こんなこと……したくないですよぅ……」
長門「私も……どうやらここまでらしい。酒匂、お前の最初で最後の仕事の時間だ」 両手を広げ、空を仰ぎ見る
長門(どうしてこうなってしまったのだろうな……だが、こんな形になってしまったとはいえ、最後に井州提督に会えて良かった。彼に出会えて良かっ……)
酒匂「ぴゃっ!? ぴゅいいぃぃぃぃ!」
清霜の合図で動き出すと、酒匂を担ぎ上げて海上を疾走する足柄。拉致である。足柄を追うようにして霞と大淀も駆け抜けていく。
清霜(霞ちゃん……今、清霜も同じ気持ちになったよ……!)
清霜「私……戦艦にずっと憧れてたのに……! こんなの違うよ。カッコ悪いよ! 大戦艦なんでしょ!? ビッグセブンなんでしょ!?
簡単に諦めちゃダメだよ! 諦めるなんて、許さないからね! 絶対、許さないからね!」
長門に向かってそう言い捨てると、グルンと背を向けて走り去る。
朝霜「まっ、ご覧の通り血の気の多い連中なんだわ。で……あたいもアンタが深海棲艦になろうと知ったこっちゃない、このままアンタを置いて中部海域へ向かう。
ここに残って味方を傷つける化物になるわけにゃいかねえだろ……? どうにかしてあたいらからあの軽巡取り戻さなきゃまずいんじゃないかねえ~……じゃーな☆ミ」
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獲得経験値(~90/100)
・足柄の経験値+2(現在値28)
・翔鶴の経験値+6(現在値25)
・皐月の経験値+2(現在値21)
・雪風の現在経験値:26
・金剛の現在経験値:23
・響の現在経験値:23
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次回はPhase Cなんで、経験値の低い順なんで
皐月2/金剛1/響1
と4レス分までは配分できるわけですが~。
皐月・金剛・響がちょうど経験値25で並ぶため、残り1レスの枠はこの三人の中から選出しようと思います。
特例的に安価で決めようかなと。
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『Phase C』【90C/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(金剛・響・皐月の中から一人)
>>+1
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金剛
>>617より
・皐月2/金剛2/響1
で『Phase C』が進行していきます。
(投稿し終えてから気づきましたが翔鶴も経験値25で並ぶんでしたね……ミスりましたが気にせず安価通りいきます)
////チラシ////
来週から秋イベですね。海風と風雲がドロップすると良いなぁ……
特に事前予告的な書き込みをしていなかったため、唐突になってしまって恐縮ですが本日19時頃に投下予定です。
次回で最後のPhase Aなんで、任意で対象選べるのは次が最後みたいですよ……? え、マジ?
前にも書いたことですが、前回の100レスと違って特に特別措置とかも取らず最終的な値で決めてしまうつもりでいます。
なので次のPhase Aでどう転ぼうが結局最後のPhase Bでコンマが荒ぶったら誰選ぼうが変わりないじゃんってのはありますが……やはりこれでいこうかなと。
最後までどう転ぶか分からないから面白いのではと思う一方で、読み手の総意に沿ったキャラにならないのでダメなのではとも思い未だに悩んでいる部分ではあるのですが……。
やはりこう、最終的にどうなるか人の念が及ばぬあたり良くも悪くも艦これ的(?)なんじゃあないかな、と。
(作者の意向も及ばないんで書きづらいことこの上無いんですけど……)
まあ、なんか最後のPhase Bでコンマが空気読んでくれればだいたい次のPhase Aで選んだような感じになってくれる……と思います、多分。
////チラシの裏////
秋イベでしたね。11月めっちゃ忙しくて正直イベントどころではなかったのですが、相変わらずちゃっかり甲で完走はしています。
レア艦をいかに早くドロップできたかが全ての明暗を分けたと言っても過言ではないイベントだったのではないでしょうか(オイゲン掘りをやってた方は特にお疲れ様です)。
とりあえずツェッペリンも嵐も手に入れ、風雲もゲットしましたが、海風だけはダメでしたね……悔しいですが次のイベントではもうちょっと楽に掘れることを期待して待つことにします。
あと、軽巡棲「姫」登場しましたね。ベタですがカッコいい系でなかなかいいですね。
提督(動くことは出来ないが……本気で俺を殺そうとしているならもっと強い力で締め付けるはず、か。
とはいえここまで雁字搦めにされては口を開くことさえ出来ん。意志の疎通を図る気もない……ということか?)
わずかな、本当にごくわずかな隙間から、辛うじて酸素を得る。
触手が顔に絡みついているため目を開けることさえ出来ない。耳も塞がれているため音を聴き取ることも出来ない。
提督(五感のいずれかが機能しなくなると、それを補うべく他の感覚が発達すると聞いているが……なるほど。
身体を這い回る触手の一本一本が正確に感じ取れる。そして……生臭い。腐りかけの魚の臭いだ……そんなことは今どうでもいい)
提督(視界は遮られた。音は失われた……はずだ。しかし、なんだこれは……)
目を開いていないにも関わらず、眼前には海が広がっている。光の差さない海、暗い海。宵闇よりも暗く、目を閉じた時の暗闇とも様子が異なる。
音は聴こえていないにも関わらず、囁き声が聞こえる。音が“底”から伝わってくる。不自然に静か過ぎるこの空間では、微かな声すらも耳に届いてしまう。
『会いたい……』
提督(……?)
声が流れ込んでくる。
『ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい……。(でも、もう会えないから……)忘れてください……(嫌だ……忘れるなんて許さない……)』
声が流れ込んでくる。言外の心の声までが耳に届いてくる。水底に沈む無念の声が、失望の声が。
『私は悪くない……なんで……。あぁ……冷たくて、痛いよ……。うぅ……』
『体に、水が、炎が、ああ、熱いよ、寒いよ、どうして……』
『信じていた……信じていたのに……』『痛い、痛いよ……体がひび割れて……くるしい』
上から落ちていく“それ”を、下に沈んでいく“それら”を眺める提督。暗闇の中でも“それら”が人間の輪郭をしているということは辛うじて分かる。
『幸せだったよ……愛していた……本当に、好きだった……』『残念だ……終わってしまった。油断したのかな、それとも……』
『どうしてあの時……ああ、あんなことを言わなければ……』『さようなら、みんな……。ありがとう……寂しいよぉ』
耳に届く音は、憎しみや苦しみの声だけではなかった。果たせなかった想い、伝えられなかった想い、約束、願い、祈り、思い出、すべてが行き場もなく泡のように漂って
消えていく。
耳から通り抜けて、消えていく。放たれた呟きの全てが、誰に届くこともなく消えていく。そして“底”に抜け殻だけが溜まっていく。
提督「安い芝居だ」
吐き捨てる。
底に沈んでいく全てを否定し、拒絶し、討ち払うかのように。
提督「それがお前が“悪夢”の名を冠する理由か。理解した……」
『ゆるして、ゆるして、ゆるして、ごめんなさい……』『見ているぞ、お前を……』『ざまあみろ』
手を掴んで“底”へ引きずり込もうとする“何者”か。だが、提督にとっては“それ”が何者だろうと関係なかった。振りほどいて薙ぎ払う。
提督「沈んでいくお前たちの想念がたとえ本物であろうと……もう、それは沈んでしまったものだ。二度と還ってくることはないのだろう」
提督「だから言い切ってやる。お前たちは敵なのだ……内に何を抱いていようが関係ない。沈んでしまったからには敵なのだ」
“底”から、左右から、上から、いたるところから提督を舐め回すように見つめるたくさんの瞳。妖しく鈍い光がふよふよと彷徨っている。
提督「お前たちへの憐憫など湧くものか……想いも意志も、果たせなければ意味がない。お前たち深海棲艦は生きている間に何も成せなかった。
だから沈んだのだ。今更怨念など抱いたところで遅いのだ。届くはずもない、無駄なあがきだ。無意義で、無意味で、無価値だ。諦めろ」
艦娘は人間と違って戦闘のプロであり、敵を倒せずとも逃走に徹すれば深海棲艦から逃げ切ることは可能である。
しかし彼女たちの行動はその提督によって決定されてしまう。艦娘の練度や損傷度を見誤って出撃させようものなら容易に沈んでしまう。
艦娘を扱うことに関して右に出る者のない手取提督が、このことを知らないはずはなかった。
つまり、沈んでいった彼女たちは何も悪くない。彼女たちの上に立つ者の愚かさによって破滅していったのだ。
知っていた。知っていてなお提督は言葉を続けた。自分自身に言い聞かせるように。
提督「お前たちは自身の無能と運のなさによって沈んだのだ。他者を呪って、そうやって落伍者同士で群れることしか出来ない。
弱者は弱者らしく……死者は死者らしく。この泥の海で沈んでいろ、嘆き続けていろ。永遠に」
怒り、憎しみ、呪い、哀れみ、虚しさ、哀しみ、妬み、嘆き、絶望、言葉にならない感情が膨れ上がっていき、それらの全てが提督へと向けられる。
膨大な感情が、一つのうねりとなって、一つの叫びとなって彼の視覚と聴覚を支配する。目に映るものは何もなく、耳に聴こえるものは何もない。
全てが塗り潰された泥の海の中では、もはや色や音を認識することさえできない。
提督「俺は常に勝利してきた。お前たちの骸を踏み躙り、前へ進んできた。そしてそれは今も変わらない。お前たちの想い全てを打ち砕いてやるッ! 我が糧となるがいいッ、深海棲艦!」
提督が叫ぶと、景色は一変する。
提督の身体に纏わりついていた触手を断ち切る皐月。提督を抱きかかえて後方へ飛び退る皐月。
皐月「司令官!? 無事かい!?」
提督「フッ……そろそろ来ると思っていた。礼を言おう」
皐月(発信機からの位置情報が突然途切れて嫌な予感がしてたんだけど……どうにか間に合って良かった。本当に、良かった)
皐月「司令官、怪我はないかい。何かされてはいないかい?」
提督「ああ、問題ない。お前のおかげで少し全身がベトベトになって磯臭くなった程度で済んだ……」
提督がそう言うと、皐月は微妙な表情で提督を見つめた後、そっと彼を抱えていた両腕を地面に下ろす。
提督(もはや断たれた触手を再生する力もないか。奴が出しうる最後の力を使って俺にあれを見せた、ということだろう)
提督「補給を受けなければお前はもう何をすることも出来やしない。だが口をきくことぐらい出来るだろう」
冷淡な目で提督を見つめるヲ級。軽蔑を訴えかける視線を向ける。
提督「話をしようか。といっても、こちらの要望をお前に一方的に呑んでもらうだけだ。それしかお前に選択肢はない」
一歩提督が距離を詰めると、怯えた表情を見せるヲ級。
ヲ級「お前ハ……敵ではないのカ……? なんなんだ……おまえハ……?」
提督「そうだ。お前たち望みを果たせなかった者の敵だ。しかし、そうであると同時に、俺は今や艦娘の敵でもある……。
この俺が全てを終わらせてやろうというのだ。お前たちの望みを叶えてやろうというのだ……!」
ヲ級「何ヲ言っている……? お前は……」
提督「暗い海の底に沈んだ全ての悲惨を。全ての閉じられた物語を。……否定されたくないのだろう。
お前たちは底に沈んでなお、抜け殻のまま生きている。欠けて、汚れて、穢れて、失われて……それでもなお、生きている」
提督「無かったことにできるはずもないのだ。知性を失ってなお、感情を失ってなお、意志だけは残り続ける。澱んで、底に溜まる……」
提督「そうだろう……ならば最高の舞台を提供してやる。怨嗟を、憎悪を、悲哀を、その全てを存分に晴らすといい」
ヲ級「……どういうことだ? ワからない……オ前の言っていることガ……」
提督がヲ級に説明を求められたタイミングで天龍らが帰ってくる。
天龍「くぁーッ、油くせえなあ! これでこの戦いが終わったら石油王にでもなれるんじゃねえかってな。ハハッ」
提督「海底油田の掘削が終わったか。ご苦労」
龍田「これで燃料の心配は要らないと思うわ。弾薬の補給はどうにもならないけど……」
提督「問題ない。こいつには燃料さえあればいい」
電「逃げ出したりしないのですか?」
提督「弾薬も艦載機もない状態で単艦、おまけに逃げ帰るための場所もない。こいつは俺に従うしかないのさ」
ヲ級(……そういうことか。深海棲艦のギミック……あの地獄の門を看破し、そしてMIで我々の総力を打ち破っただけはある……)
・・・・
龍田らにヲ級の補給を任せると、皐月と共に再度“デバッグルーム”へ向かう提督。
皐月「司令官……あのね……。ボク……司令官のこと、好きだよ。だから、無事でよかった」
皐月「ボク、バカだからさ……っ、こういう時に好きって言葉しか出てこないのが、なんだか恥ずかしいな」
提督「俺も今、返すべき言葉が見つからない。お前は馬鹿なんかじゃない」
皐月「あっ!? いやね、好きっていうのは言葉の綾で、そういう意味じゃなくて!」
提督「分かってるさ」
皐月「そっか。良かった。……あのさ司令官。司令官が何をしようとしているか知りたいな」
皐月「具体的にどう、とかじゃなくて。今の司令官の、気持ちが知りたい。そしたらきっと、もっと司令官の役に立てるとはずだから!」
提督「…………」
提督「俺もあまり器用な人間ではないので、こういう時にどういう言葉を選んだらいいのか、分からない。ただ……」
提督「光差すことの無かった者たちも、救われる道が用意されていなかった者たちも、諦めてしまった者たちも……報われて欲しいと、そう思うのだ」
皐月「ふふっ、そっか」
提督「どうした? 俺らしくない話をしている自覚はあるのだが……笑うほど面白かったか?」
提督「結局のところ、そんなものは幻想に過ぎないんだからな。何かを犠牲にしなければ、俺たちは何も得られない」
皐月「ううん。そんなことない。……そんなことないよ」
皐月「だって、司令官は、それでも……やるつもりなんだよね。救いたいって思ったんだよね」
皐月「好きなんだよ。司令官の、そういうところがさ」
磯風「目的地に到着……やろうと思えばどうにかなるものだな。後は任せた、金剛」
金剛「オッケー! 任せてくだサーイ!」
金剛(敵の小隊をここで迎撃。後続隊も掃討しキリの良いタイミングで撤退、ってとこですかネ。あんまり結集されると困りますガ、テンポ良く蹴散らしていけばなんとかなるでショ)
磯風「目的地に到着、か。やればなんとかなるもんだな……さて、あとはあいつらに任せるとしよう」
利根「む、やはり陽動であったか! おまけに退路を絶たれてしまったと見える! わははは、滾るのう!」
北上「うーん、道中で仕留める予定だったんだけどね~(無傷で逃げられるとはね……ちょっと想定外かな)」
泊地水鬼「特ニ恨ミハ無イケレド……相手ニナルナラ容赦ハシナイワ……!」
金剛たちの後方に控えている泊地水鬼。艦載機を放って空を支配する。
時雨「深海棲艦に『恨みがない』なんて言われるとは珍しいこともあるもんだね」
綾波「の、呑気なこと言ってる場合じゃないですよ~」
北上(うわ、雷撃効かないタイプのボスじゃん……追ったのは失敗だったなこりゃ。しょうがない、あの辺の戦艦狙うか)シャッシャッシャッシャッ ババババシュウウウウウ
霧島「お姉様! 雷撃が! ああ、間に合わない!」
金剛「問題Nothing♪ 金剛型一番艦、鬼の金剛。ナメてもらっちゃあ困るッてェノッ! ォラァッ!!」
榛名「跳んで魚雷を回避した!? あれだけ巨大な艤装を背負いながら、どうやって……?」
霧島「いえ、あれは……自分の艤装を空中へ投げ捨て、瞬時に跳躍して空中で再度装着し直したようです……。常識では考えられませんが……さすが……」
北上「なんじゃありゃ……あんなサーカス団みたいな敵がいるなんて聞いてないって」
利根「わははは、まずいことになったのう! 打つ手なしじゃな! マイペースでいけ好かない奴だと思っておったが、お前さんがそんなに青い顔しとるのも初めて見るな!」
北上「(アンタにだけは言われたくねえんだわー……けど、言ってる場合じゃないね)味方が来るまで持ちこたえるよ! ちょっとしんどいけど、テキトーに頼むよ~!」
綾波「あらら、昼戦はあんまり得意じゃないんですけどねえ……」
利根「ふっふっふ、我輩にまかせておけ!」
・・・・
金剛(ンッンー、こういう時に『戦闘で手を抜くコツ』を身に着けておいて良かったと思いますネー。こちらの力を消費せず敵に痛打を与える。これが戦いの基本デース)
霧島「ッ、ハァ……ハァ……。戦艦相手じゃないなら大した相手ではないと高を括っていましたが、中々ですね……」
金剛(霧島がほとんど片付けてくれたものの、だいぶ疲弊してますネー。敵もそこそこやるってわけですカ)
時雨「! 味方艦隊が来たよ! 2時方向、9時方向より援軍だ!」
妙高・飛鷹が旗艦の艦隊が北上たちの背後から迫る。
妙高「あまり芳しくない状況のようですね……。軽空母の部隊と合流出来たのは不幸中の幸いでしょうか」
飛鷹「うーん、制空権は厳しそうね。ま、均衡ぐらいには持っていけるかしら!」
北上「んじゃ、あたしらはドロンするよ。撤退撤退! 退く時は退くのが兵、ってねー」
金剛(あんな堂々と背中を見せて逃げる艦隊は初めてですネ……マ、追う必要はありまセン。敵援軍を叩くのが先決!)
霧島「ここは……私が……」
金剛「霧島ステイッ! さっきの戦いで消耗してるでショ。ここは私と榛名が出マス」
霧島「かたじけない……正直助かります。しかし、大丈夫ですか?」
金剛「Take it easy♪ 霧島は本気を出し過ぎデース。こんな状況だからこそ、案外テキトーな省エネモードでもなんとかなるもんですヨ」
那智「チッ、舐められたものだな……撃てッ!」 ドゴォン!ドゴォン!
隼鷹「者どもかかれーッ! ヒャッハー!」 ビュウウウン
・・・・
金剛「ヘーイ! 提督ゥ! どうしましたカー!?」 提督からの通信に応答する
提督「悪い報せだ。主力艦隊はまだ動いていないが……背後から更にもう三艦隊来ている。正規空母や戦艦も紛れてるが……厳しいか?」
金剛「他の子だったらキツいかもしれませんガ! ワタシの実力なら余裕ってとこデスネー。というかこの動き、わざと敵がここに集まるようにしていますネ?」
提督「察しがいいな。分散している敵小隊を中央に結集させるように“動かして”いる。全ての準備が整ったゆえ時間を稼ぐ必要がなくなった。好きに暴れたら帰還してくれ」
金剛「Okay……好きに暴れちゃっていいんですネ! たまにはカッコいいとこ見せちゃいますヨ?」
金剛「ヘイヘイヘーイ! せっかく温まってきたっていうノニィ!? これでFinish!?(ドドォン!)ンなワケ!(ダァン!)ナイ!(バァン!)デショォ!(ドドォン!)ッラアッ!」
羽黒「ッ……少し、被弾しすぎました……後退します」
那智「誰かアイツを止めろ! クソッ、なんなんだあの敵は……」
飛鷹「こちらのペースをかき乱すように立ち回ってるって、分かってるのにものの見事に撹乱されてるのは腹立つわね……」
霧島(普通、艦娘の戦闘というのは序盤の戦闘ほど燃料や弾薬を消費する。初戦を制し、次の戦いを制し、そして息も絶え絶えの中海域の主のもとへ辿り着く。
道中の敵に本気を出して首領相手に全力を出せないというのは、一見すると非合理的なようではありますが……私たち艦娘は生きて帰ることが先決。
敵の本隊へ至るまでの道中の敵を片付けておかねば、撤退時にしっぺ返しを食らうことになる……艦娘なら骨身に染みていること)
霧島(ですがお姉様はそれを逆手に取って戦っている。今の私たちにとって、背後に敵はなく、眼前の敵を退ければいつでも撤退可能な状況……それは敵も同じことですが。
相手は艦娘特有の“癖”が抜け切っていない、そのことに自覚してすらいない。だから序盤では優勢な立ち回りを見せるも、後半で息切れしてしまう……。
対してお姉様は、わざと敵を挑発して回避行動に徹しながら消耗を誘い、敵の疲弊を見抜くと同時に荒れ狂う嵐のように攻め立てる……!)
霧島「金剛お姉様! 今、お姉様の言っていることが理解出来ました! 榛名姉さん! 下がってください、あとは私が!」
金剛「フッフー♪ 戦い方が分かってきたようですネ! ワタシの妹だけはありマース! 榛名はどうしマース? ワタシと霧島でこのまま突っ切ろうと思いますガ」
榛名「いえ……お姉様。榛名、大丈夫です! まだ戦えます!」
霧島「榛名姉さん、しかし……! 私が控えている間も戦っていたのでしょう。無理してはいけません」
榛名「霧島、見くびってもらっては困りますよ。お姉様ほどではないにせよ、私だってそれなりに修羅場は潜ってきたんですから。……それから」
霧島「それから?」
榛名「『姉さん』って呼ばれたの、なんだか懐かしくて嬉しかったです。今ので頑張れそうです!」 鼻血を流しながらも余裕の表情で微笑む
金剛「ノーゥ! そういえば! 昔はみんな『姉さん』って呼んでましたよネ!? なんでワタシはお姉様で榛名が姉さんデース!?
心理的距離ですカ!? 壁ありますカ!? 私の壁も乗り越えてくだサイ!」
霧島「やれやれ……二人ともほんっとにバカですね。コントやってるんじゃないんですから、さっさと片付けますよ。三人で!」
・・・・
妙高(クッ……数の上ではこちらの方が有利なはずでしたが……しくじりましたね……。強敵です)
那智「私はまだ戦えるのだが……旗艦が大破しては統率も取れまい。退くぞ!」
隼鷹「ぐえーっ、良いトコなしかぁ……とはいえ、これ以上戦っても被害を拡大するだけじゃないかね。酒も切れてきたし、帰るよ飛鷹」
飛鷹「屈辱だわ……(とはいえ、私たちの後方には正規空母と戦艦の部隊が控えている。十分ダメージは与えたし、布石としてはこんなものかしらね……)」
金剛「ハッハー、敵が逃げていきマース! 思い知りましたカー!? ワタシたちのパワー! 力こそ正義、力こそパワー!」
霧島「お姉さ、金剛姉さん。そういうのは頭悪そうに見えて恥ずかしいのでやめてください」
榛名「私たちらしくて良いじゃないですか。子供の頃はこうやって遊んでたじゃないですか。こぉんな風に、ね!」
言うやいなや三式弾を指と指の間に挟んで空へ投げる。早くも敵の後続部隊が来たらしい。
金剛「そうですヨー! それに、霧島だってさっき『オラオラオラオラァ!』とか言ってたじゃないですカー? 自分だけ冷静なフリはずるいデース」
霧島「あれは気合を入れるためにですね……っとぉ、危ない! ソォイ! うぉぉッ」 ダァン!
目の前に来た砲弾を自ら放った砲で相殺する。衝撃で後方に吹き飛ばされるも無傷だ。
Roma「北上隊からあなたたちの戦法は聞いてるわ。持久戦に持ち込んで消耗させるって魂胆でしょう? そう甘くはいかないわよ」
大鳳「連戦で消耗しきったそちらと、無傷の私たちの艦隊。負ける要素はないわッ! 全艦載機発艦! 敵は目の前よッ!」 バババババッ
大井「北上サンの仇ィ! その命で償ってもらうわよ……!」
那珂「やっほー! いざ尋常にィ! 勝負勝負!」
霧島「またまた厄介な敵が現れましたね……というか、キャラ濃すぎじゃあありませんか……? どう戦いますか? さすがにもう同じ手はもう通じないようですが」
金剛「敵が温存しつつ長期戦やろうってんなら、こっちは初手からガンガン攻めて戦線ぶっ潰しマース! さっき相手がやってたことの逆をやればいいだけのことデース!」
榛名「(敵陣に突貫して乱戦に持ち込み、同士討ちを誘うという策ですね。なるほど抜け目ない)霧島と金剛お姉様、そしてこの榛名がいれば、きっと大丈夫です! ここは一歩も! 通しません!」
金剛たちの頭上に無数の艦載機が迫るも、それを一瞬で叩き落す黒い影。
泊地水鬼「ソノハナシ……乗ッタワ……。ワタシモ戦イタイ……。チョット燃エテキタ」 金剛たちに背を向けたまま、親指を突き出す
那珂「ぐえッ! なんか来たよ!? 後ろから飛んでたタコ焼きの正体はこれだったんだね!」
大鳳「空母の深海棲艦か……無駄です! そんな少ない艦載機で空を制することが出来るとでもッ!? 距離を置いて狙い撃ちよ!」
金剛(あの泊地水鬼、ただ熱くなって出てきたわけじゃない。制空権を喪失しているこの状況なら艦載機を出して援護に回るより砲戦特化でゴリ押した方が強い……そう判断したわけですネ!)
金剛「オゥケイオゥケイ……じゃ、皆さん、行きますヨ? 敵を片っ端からぶっ飛ばして素っ裸にしてやりマース!!」
提督「これは……凄まじい乱闘だな……。さすがに目を疑うぞ……」
提督(援護に軽巡棲鬼を待機させておいたが……この様子だと必要なさそうだな)
文月「うひゃあ~……これはメチャクチャですねえ……」
皐月「ねえ司令官。あのヲ級が復活した今なら、もう金剛さんたちを撤退させてもいいんじゃないかな」
提督「全ての備えは済んでいるのだが……数でゴリ押されると万が一、ということがあるのでな。大破して戦闘不能の艦を増やしておくと後々やりやすい」
提督(にしても……金剛のやつはなぜここまで戦えるのだ? いや、アイツが強いのは知っているが……一体どうしてアイツは俺の為に戦うのだ。
アイツのことだから寝返っても信用されることはないだろうが、降伏して武装放棄し、自分は我関せずを決め込むことぐらいは可能だろう)
提督(アイツは『なんとなく』の思い込みで動くような女じゃない。信頼だとか信用だとか、そんな安っぽいものを理由に動く女じゃない……はずだろう)
暁「司令官! 撤退命令が出たから戻ってきたわ」
響「雪風たちも戻ってきてるよ。それから、司令官。話がある。今すぐ、話がしたい」
提督「ん、戻ったか。ヴェールヌイ、話とは一体……?」
響「いいから、こっち、来て……」
・・・・
皐月たちのいる部屋から離れた場所を探している。ああ、ここなら都合がいいな。程よく距離があり、誰にも気づかれなさそうだ。
提督「何もないただの空き部屋じゃないか。こんなところに連れてきて、どうした?」
身体を押し倒す。少しも躊躇いはない。司令官を我が物に出来るチャンスなんだ。
提督「ッ! ……? どうした!? どこかから攻撃があったか? 何か危険を感じたのか?」
響「違うよ司令官。危険なんてどこにもない。強いて言うなら、司令官の目の前かな」
私を見つめる司令官。一瞬鋭い目つきをした後、また穏やかな表情に変わる。
提督「……意図を掴みかねるな。こんなことをしている場合ではないだろう」
響「いいや、今この瞬間だけだ。司令官とこうして話を出来るのは、今この瞬間だけだよ。司令官の温もりを感じられるのは、この瞬間だけ」
司令官の腰に手を伸ばす。抱き締める。温もりが伝わってくる。司令官の温もりが伝わってくる。
寒くて、痺れるほど凍えていた身体が、今は焼けるように熱い。太陽に身を焦がされているようだ。しかしそれが心地いい。
提督「ヴェールヌイ……お前の気が済んだらで構わないが、離れてくれ。俺にはまだやるべきことがある」
響「知ってるよ。だから今こうしているんだ……ただ、一つ聞きたい。どうして私を拒まないのかな。……前の司令官なら、絶対に私を拒絶した。
切り裂くような鋭い視線で私を睨んで、軽蔑しただろう。もしこんな風に押し倒されようものなら、強引にでも振りほどこうとしたはずだよ」
提督「そうかもしれないな。そうして欲しかったのか? ……あえてそれを望むのか、ヴェールヌイ」
私の目をまじまじと見つめる司令官。真偽を問うている。私の本心を探ろうとしている。ああ、止まっていた心臓が、静かに鼓動するのを感じる。
響「ああ。君に滅茶苦茶にされたい。君を滅茶苦茶にしてしまいたい。司令官……君と破滅したい」
響「やっと気づいたんだよ……自分の気持ちに。私は、君のことを愛していると思っていた。だが、それは違ったんだ。
私はずっと、破滅を望んでいたんだ。自分自身の途方もない破滅を、救いがたい結末を」
響「だから君にこの世界の王になって欲しかった。君は誰よりも尊い存在になるんだ。
そうして私は君が全てを得るための剣となり、君をあらゆる災厄から守るための盾となり、やがて君のために朽ちるんだ」
提督「今もそう思うのか?」
響「そうでなければこんな愚かなことはしないさ……こうして自ら君の信頼を破壊してしまうような真似はしない。
……君は私の思い通りにはならなかった。君はあくまで自分の理想を貫いた、そしてそれは、私の思っていたよりもずっと優しい理想だった」
響「今、私を見つめる優しい瞳で分かるよ。君は……こんなことをする私さえ、受け入れようとしてくれている。少しも失望を向けていない」
提督「お前には、暁がいて、雷と電もいるだろう。帰るべき場所があるのだ。お前が破滅を望んでいても、あいつらはお前を大切に思っている。……それは、俺とて同じこと」
提督「俺は『真理の箱庭』をずっと追い求めてきた。究極の知性を捜し求めてきた。いや、今も追い求めたいという気持ちは変わらない。それでも、今は……。
『真理の箱庭』と、お前たちとを天秤にかけて、俺の心は傾いてしまった。お前たちを救いたい、いや、救いたいなんて利他的なものではない。これは俺自身の願望だ、他人なんて関係ない」
提督「お前たちがこの世から消え去らなくてはならないというのが道理なら、俺はこの宇宙の法則と相対してでも抗ってやりたくなったのだ。それだけだ」
提督「だから……すまないが、お前の望みは、叶えてやれそうにないな」
響「司令官……分かった。もういい、ありがとう」
口で分かったと言ってみたが、本当のところ、司令官の言っていることは理解できていない。ただ、これ以上こうしていても彼を困らせるだろうと思って、離れる。
体が離れても、温もりは消えなかった。心臓の鼓動は、高鳴ったままだった。まるで艦娘だった頃のように、身体中に血が駆け巡っていくのを感じる。
火照った身体が、私という存在を肯定している。彼からもらった消えることのないこの熱が、私を生と向かわせているのか……?
分からない。けれど……私の望む破滅のためでなく、彼の描く希望のために、生きてみたくなった。心臓の音は鳴り止まない。
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獲得経験値(~90 Phase C/100)
・皐月の経験値+4(現在値25)
・金剛の経験値+4(現在値27)
・響の経験値+2(現在値25)
・足柄の現在経験値:28
・雪風の現在経験値:26
・翔鶴の現在経験値:25
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どうにかこうにか投下出来て一安心。
リアルが落ち着いて時間取れるようになってきたんでこのままラストまで突っ切りたいところですが、忘年会が鬱陶しくてな……。
Phase Cが起こらなければ年内完結……する、のか? どうあれ頑張ります。
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『Phase A』【-95/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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雪風
>>626-630より
・雪風3レス/翔鶴2レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:201なので『Phase C』は発生しません)
次の投下のあとに行われるPhase Bのコンマで全てが決まってしまいます。
若干雪風が優位ですが、もう誰にも展開が予測つかないことになってしまいましたね。
書く側としてはおっかないというか、いや~……心臓に悪いなこれ……。
そこも含めて楽しいと思いながら書いてますが、やっぱり気が気じゃないですね。
次回は12/26(土)ぐらいの投下になると思います。
(スケジュール見てフィーリングで26とか言ってるだけなので、あまりアテになりません。前後する可能性が高いです)
どう考えても間に合いそうにないので進度なので、引き伸ばします……すみません。
できれば明日……と言いたいところですが、保険かけて12/28(月)の21:00頃を予告しておきます。
////チラシの裏////
飾り集め、意外と期間短いですね……。
まあ年明けてから新年の飾りつけを集めるってのも変ですし仕方ないですね。
あと、「ぱんぱかぱかぱかぱかぱかぱ~ん♪」はずるい。
Roma「クッ……手負いのくせにこの私と互角に張り合うとは……やるわね」
金剛「ちょっとやそっとのDamageでこのワタシを押しきれると思いましたカ? 甘いんですヨォッ!」 ドォォォン!
泊地水鬼「ドウシタ……? モット飛バサナクテモ平気……?」
大鳳(クッ……これ以上艦載機を消耗するのはまずいわ……。あと一歩で押し切れそうなのに……!)
提督「ザザッ……金剛、撤退してくれ。敵後方の水上打撃部隊と空母機動部隊が合流を果たした。これ以上そこに残っていてはしっぺ返しを食らうぞ」
金剛「Just a moment! まだ敵が残ってマースよォ!? 完全勝利でFinishじゃなきゃ後味が悪いデース!」
提督「ダメだ。随分熱くなっているようだが……撤退してくれ、そこで燃え尽きられてしまっては困るからな。いいな?」
金剛「Hmm……分かりまシタ。それじゃ皆サン! 提督から撤退命令が出ました! さっさと退きますヨー!」
大井「敵の攻勢が緩んだ……? 撤退を図っているのかしら?」
大鳳「追撃して決着をつけます! 逃しはしませんッ!」
那珂「あー……大井っちさん! どう思いますか!?」
大井「北上さん以外にその呼び方は許してないの。不快だからやめてもらえるかしら。っと……ここで追うのは得策じゃないわね。
後ろに味方主力が控えている状況で戦っているから私たちが有利なのであって、これ以上追えば味方より先に敵増援と接触する可能性があるわ」
那珂「そうなんですよね~。それにあの雲……妙な形をしてない? 雲に紛れて浮遊要塞が接近しているんじゃないかなーって那珂ちゃんは思うのです!
単体ならともかく……動きに合わせて敵が反転して攻めてきたらまずいし~撤退しようと思うんだけど……どうにも火が付いちゃったみたいだからなぁ」
大井「私も心情的にはあいつら超ォ~ムカつくんだけど……アンタが旗艦だしね。ここで退く判断は正しいと思うわ。
ま、宥めるのはアンタの仕事だから、プライドを刺激しないようにうまくやりなさいな」
・・・・
提督「敵も退いたようだな。こちらも余計な戦力を消耗せずに済んだ。さあ……次の手だ」
パンと手を叩き、不敵な笑みを浮かべる。少し機嫌が良いらしい。
提督「雪風、ヲ級を呼んできてくれるか。最後の大仕掛だ」
雪風「はい。でも、あの、その……」
提督の方を一目見たあと、顔を伏せてしまう雪風。
提督「俺はエスパーじゃないんだ。言いたいことは言葉にしてもらわないと分からないぞ。ま、その様子だとネタバレを所望ってところか?」
雪風「はい。戦わなきゃダメですか……? 味方であっても、沈めなきゃいけませんか……?
雪風、もう覚悟は出来ています。司令ならきっと、正しいことをしているんだって……でも、出来ることなら、したくはありません」
提督「覚悟、か。……そうだな。そうなる可能性もある。ゼロではないが……雪風。少なくともお前にだけはその役目は与えんよ。
仮に、億が一に俺の計画が失敗するとしても……お前は俺のために心中などするな。
ま、そんな可能性など起こさせはしないし、ゆえにお前にそういう命令を与えることもない」
雪風「しれぇ……」
深刻そうな面持ちの雪風を見て、フォローするかのようにすぐさま言葉を続ける提督。
提督「勘違いするなよ。これは九割九部九厘勝てる戦いだ。これまでと変わらない、勝利すべくして勝利する。それが俺の……俺たちのやり方だろう?」
提督「いいか雪風。どうして俺が鎮守府や艦娘らに反旗を翻したと思う?
『バビロン』計画が失敗したから、半深海化を食い止めることが出来なかったからなんて理由だとは思っていないだろうな」
雪風「司令のことだから、考えなしにやったことじゃないとは思います。ただヤケクソになっただけじゃ、こんなことは出来ないと思います」
提督「よく分かってるじゃないか。計画が失敗した直後は少々参ったがな……今はもうゴールが見えている」
提督「深海棲艦と艦娘の戦いを終わらせることができる……かもしれん。
まだ断言はできん、仮定だからな。だが、口に出す程度には自信がある仮定だ」
提督「お前の危惧は、味方を沈めなければならないかということだろう? その問いに対しては『不要な心配だ』と答えておく。
俺たちが立っているこの建造物は……。詳しい話は省くが、上へ上へと向かいたがっている。天へと届きたがっている」
提督「この地球から離れたどこかへ向かおうという指向性を持っている。深海棲艦が泥の海から俺たちのいる世界を目指すようにな」
提督「失われた想いは、深海に沈んで、溜まって、淀んでいく。
浮かばれることの無かった想いは、地上を目指すもやがて泡のように離散して、また深海にて滞留していく」
提督「で、その想念を具現化することができる、都合のいいカードがちょうど手の内にあるのだよ。
具現化した想念が、俺たちとこの建物を押し上げて、この地球ではないどこかの星に辿り着く」
提督「どうだ? 今はまだ想像もつかないだろう。荒唐無稽な話に感じるかもしれないが、どうということはない。
お前の目の前でこれから実現してやるんだ。楽しみにしているといい」
雪風「そうですね。あの……そうじゃなくて……」
提督「む、呼ばずともあちらから来たか。良いだろう、本題に入ろうか」 部屋に入ってきたヲ級を見ると、腰掛けていた椅子から立ち上がる提督
ヲ級「なゼ奴らを退かセタ……? まだ戦えただろウ」
提督「そうだな、あいつらの力なら轟沈する可能性は低いだろう。主力が迫る前に決着をつけて逃げ切ることもできるかもしれん、が。
ここで賭けに出る必要はないからな」
提督「別に俺はこのMIでお前たちがやったような大海戦を行うつもりは無いのだよ。ところでだ、ヲ級」
提督「質問だ。お前たちの根城であったこの城、そして今俺たちが立っているこの城……。本当は城ではないのだろう」
ヲ級「なぜそう思ウ……?」
提督「お前はここを城だと説明した。城であるなら攻撃拠点または防衛拠点としての要素を満たしているはずだ。
しかしここには一切の武装や備蓄がなく、あるのはわずか数十基の浮遊要塞と件の“デバッグルーム”だけ。
海中にあった施設だから多少勝手は違うのかもしれないが、それにしても不自然だ」
提督「泊地水鬼はここをお前たちのかつての拠点と言っていたが、それは軍事拠点としての意味じゃあないな? 恐らくはもっと宗教的なニュアンスだ。
お前が総力を率いてここミッドウェー島付近で決着をつけようとしたのも、“ここでなければならない理由”があったんだろう」
提督「ここがアトランティスであり、ムーであり、レムリアなのだろう。もちろん海没した旧大陸そのものではないが。
深海棲艦にすらなれずに沈んでいった想念の集積場、無縁仏というところか」
提督「ここは城ではなく祭壇だったんだ。贄を奉げるためのな。深海に沈んだ者が蘇るための場所であり、そのための贄を捧げるための場所でもある。
深海棲艦が望むものは復讐や破壊ではない。真の目的は救済だよ。ここに来るまではあくまで仮定に過ぎなかったが、今はもう確信している」
提督(ヲ級は俺を脅すためにあの幻覚を見せたのかもしれないが、それがヒントになった。今になってようやく深海棲艦というものを理解した!)
提督「お前たち深海棲艦の本質は、滅びた肉体であり、破壊された物質であり……それらが集積された、この地球の沈殿物だ。
朽ちようと枯れようと腐ろうと、肉体の中に残った強い想念は消えることがない。異形と成り果ててなお、お前たちは救われたいと願っている」
ヲ級「……!」
提督「お前の能力、そうした想念を具現化させることだろう。
俺に攻撃を仕掛けた時は幻覚止まりだったが、今のお前ならばMIでやったような芸当が出来るはずだ」
磯風「沈んでいった深海棲艦を物理的に召還することができる……ということか? そんなことをして何の意味がある?」
提督「あるさ。言ったろう? ここは祭壇だと。供物を捧げ、そこから恩恵を得る。要するに力の変換だ。
そこのヲ級の“悪夢”によって再び現れた深海棲艦の怨嗟を糧に、天空へと押し上げる一茎の柱を創造する」
・・・・
提督「俺たちが作った『バビロン』。由来こそバベルの塔から取ったものだが、その語義はアッカド語で“神の門”を意味する。
神の門を通じて、この地球を脱し、月の世界を目指す、と。だが結果として計画は失敗し、半深海化による混沌は拡大した」
提督「一方で、『バベル』とはヘブライ語で混沌を意味する。『バビロン』のもたらしたカオスはこの建物の中で極限まで増大する。
艦娘によって深海棲艦や半深海化した者たちが打ち破られ、その想念が積もり積もってこの建物ごと天へと昇っていく」
提督「今度は正真正銘『バベルの塔』を打ち立てようというわけだ。この『バベルの塔』を持って混乱を鎮めるというのも皮肉な話だがな」
ヲ級「……ウフフ、ヲフフ、ヲハハハ、ハッハッハッハッハッ」
ヲ級「“下の世界”で過ごして、地上の光を求めて、千幾年……。これほどまでに狂った奴に会ったのは初めてだ。
お前……そしてお前の味方をするそこの艦娘どももな。私たち深海の眷属よりも狂っている、フフ……」
ヲ級「それで? どうするつもりだ? 私の力を使って『バベルの塔』を実現させて……それからどうする、聴かせてくれないか」
提督「お前は知らないかもしれないが、こちらは色々と研究していたのだよ。半深海化って知ってるか?
お前たち深海棲艦が滅びた後、今度は艦娘が深海棲艦になっちまうそうだ。バカげた話だろう?
お前たちを倒したら後を追うようにして今度は艦娘同士で争い始めるんだ」
ヲ級「なるほど道理で……。いや、今はお前の話を聴きたい。続けてくれ」
提督「半深海化を食い止める方法があるんだ。地球を脱出してしまえばいい。そうすれば艦娘は艦娘のままでいられる。あとは分かるな?」
ヲ級「『バベルの塔』か。フフフ……不遜なことを考える人間だ」
・・・・
ヲ級(なんだろう、この感覚……久しく感じることのなかった、不思議な気分……。思考が迸る……)
ヲ級「少し、この場所についての話をしよう。参考程度に聞いておいてくれ。
お前の言う通り、ここは確かに城ではない。そう見えるのは外面だけだ。祭壇という捉え方も正しい」
ヲ級「ここは……この地球を形作った神を復活させるための祭壇なのだ。私たちは“旧神”と呼んでいるがな。
私たち深海棲艦も艦娘どもも、もとはこの地球に降り立った神々によって創られたものだ」
提督「その話は泊地水鬼から聞いている。天使と人間が神に反逆し、これを破った。
勝利を収めたが、天使こと艦娘は神に呪いをかけられた。呪いの果てに艦娘はやがて深海棲艦に身を堕としてしまう……とな」
ヲ級「そうだ。だが、それだけではない。なぜ艦娘の勢力よりも深海棲艦の方が数で勝ると思う?
数で言えば、お前たち艦娘が沈む数よりも、お前たち艦娘によって倒された深海棲艦の方が圧倒的に多いはずだろう」
ヲ級「その答えは……沈んだ深海棲艦が、再び深海棲艦として浮上するからだ。
一度お前たちに倒されてしまっても、我々は二千年の時を経て再びお前たちの敵となるだろう」
提督「なるほどな。倒したところで次から次へと湧いてくるのはそういうわけだったか。
人類が存続すればするほどに“下の世界”のストックが増えるだけと……俺たちからすれば甲斐のない話だな」
提督「で、そんな状況下でもお前たちが救われるための方法とはなんなのだ?」
ヲ級「この地上の全人類を贄と捧げることだ。お前はここを無理矢理『塔』として使おうとしているが、本来ここは神の門を叩くための鎚だ。
人間たちによって封印された旧神を蘇らせる。そうして、“上の世界”に到達して私たちは復活する」
提督「……? 二つ、気になることがある。第一に、神を蘇らせてどうする?
神は感情を脅威と考えて俺たち人間を抑圧し、お前たちに深海化の呪いをかけた存在だぞ」
ヲ級「そうだな……神は私たちを創ったことを後悔しているかもしれない。だが……それでも神を蘇らせなければならぬ必要があるのだ。
輪廻転生という言葉は知っているな?」
提督「死んだら魂になって、またこの世界で生まれ変わるって話か」
ヲ級「その、輪廻という仕組みを支配しているのは神の領域なのだよ。私たちでは干渉できない次元で動かしているものだ。
だから神が封じられている今輪廻も成されていない。“下の世界”に深海棲艦が減ることなく増えていく一方なのは、そういう理由だ」
提督「輪廻転生が行われれば、ひとたび深海棲艦になった者も別の存在になり変われるということか」
ヲ級「ヲ(然り、という意味らしい)。神が反逆者である私たち深海棲艦の望みに応じる応じないは分からないがね」
提督「なるほどな。それともう一つ。お前たちが“上の世界”を目指す理由を知りたい。なぜだ?」
ヲ級「“下の世界”と“上の世界”……などと分かれているが。それはお前たちが考えている天国と地獄のような単純なものじゃない。
生命が息絶えたとき、肉体は下へ、魂は上へ分離される。私たちは、消滅した肉体の残滓と、そこに宿った思念体のようなものだ」
ヲ級「魂は肉体を嫌っている。魂にとって肉体とは牢獄のようなものだからだ。肉体は制約に満ちているからな……無理もない。
それゆえに“上の世界”はこの地球にあまり干渉したがらないのだ。だが、それは“下の世界”の我々からすれば逆のこと」
ヲ級「肉体は魂を得て完全な形態となる。私たちはまだ抜け殻なのだ。
肉体に残った僅かな想念だけで突き動かされているのであって、それが失われればただの操り人形だ。だから魂を得たい」
ヲ級「以上。……話したところで役に立つかどうかは分からないが、話しておきたかった。お前に協力したいからだ。
神を復活させるよりも、お前の思惑に賭けてみたいと思ったからだ。やれるかどうかは分からないが、やってみよう」
提督「やれるさ」
ポカンと口を開けている雪風。
提督「すまない……。お前がいることを忘れて話し込んでしまっていた」
・・・・
雪風「あの……さっきの話、全然分かんなかったです……。今までずっとしれぇの傍にいたのに、話してること全然分かんなくて……」
提督「別にあれはお前が理解する必要のある話じゃないさ。アイツも“参考程度”にと言っていたろう?」
雪風「でも……司令は得心した表情だったから……私も理解しておきたかったんです……」
提督「うーん、すまないが解説してやれる時間はなさそうだ。そろそろ金剛たちも帰ってくるしな」
雪風「そうですか……」
雪風「じゃあ、それよりももっと知りたいことがあるんです。さっき、二人っきりのときに言いそびれたことなんですけど……」
提督「ん? ああ。どうした」
雪風「司令は、大丈夫なんですか? 『バビロン』の時みたいにはなりませんか? 私たちが助かっても、司令が助からなかったら意味がないでしょう」
提督「……わからん。策はあるが。可能性は五分五分ぐらいじゃないか」
雪風「(しれぇが“五分五分”なんて言葉を使うのは初めてです……どういうことでしょう?)……司令は、ちゃんと無事なんですよね」
提督「多分な。まあなんとかなるんじゃないか。俺は悪運強さに自信がある」
雪風「……あの! あたし、マジメに質問してるんですけど!」
提督「正直のところ、俺の身体については皆目分からんのだ。磯風に聞いても首を傾げるばかりだし、もう調べていられるような時間も残ってない。
どうあがいてもこの地球から出られん可能性はある」
雪風「え、えっ!? そんな……ダメですよ司令! しれいがいないと……」
提督「俺がいなくても平気さ。お前たちだけでもどうにかなる。艤装があれば大抵の無理は通るしな」
咄嗟に距離を詰め、提督を抱き締める雪風。驚きつつも、やや強く抱き返す提督。
雪風「だ、だめですっ! そんなの絶対、許しませんから! この戦いが終わっても、雪風はしれぇのお側に居ますから。
勝手に居なくなったりしちゃ、ダメですから! そんなこと……させませんから」
提督(俺は、雪風に少し頼りすぎたきらいがある。だから、彼女の人生のためにも突き放すつもりで言ったのだが……かえって刺激してしまったようだな)
提督「……そうか。まあいい、あまり心配するな。策はあると言ったろう? 策は二つあるんだが……そのうち一つは前回の応用編ってところだな」
大和「水上打撃大隊旗艦大和、推参いたしました!」
赤城「翔鶴さん、戦況はどうですか? 第三哨戒部隊の被害は?」
Roma「まだ戦えますが……無傷とは行きませんでした。後方支援に回らせてもらいます」
翔鶴「先鋒隊が尽く撃退されてしまいましたが、敵も退いたようです。編成は戦艦三隻と泊地水鬼という深海棲艦。
また、取り逃がしましたが駆逐艦が二隻居たようです。戦果は戦艦三隻を大破、泊地水鬼に中破の被害を与えました」
武蔵「おいおい、これだけの数をぶつけて一隻も轟沈できないのか? 呆れたものだ……」
翔鶴「それだけ敵が精強ということでしょう。油断は出来ません」
海底が鳴動が起こる。海上の城と名付けられた敵拠点が轟音を立てて動き始める。
秋月「このただならぬプレッシャー……一体何が!?」
木曾「おい! 見ろあれを。なんだあれは……? 信じられねえ……まるで塔のように、空へと伸びていく」
城と思しき建造物を支えていた支柱や土台が、螺旋状に変形して天へと昇っていく。
晴天だったはずの空が次第に暗雲に覆われていき、雷鳴の音も轟き始める。
翔鶴「……してやられました。時間を稼がれてしまったようです」
加賀「落ち着きなさい翔鶴。あの状況で先鋒隊に加勢していても、恐らくこちら被害を受けるだけだったわ。
あの戦艦……金剛ならそういう戦い方を仕掛けてくるわ」
瑞鶴「!! 正面より深海棲艦が接近! 駆逐艦三隻、軽巡一隻、軽空母二隻です!」
川内「っしゃあ! おいでなすったねー! 今日は珍しく、夜じゃなくても頑張っちゃうからねー!」
鳥海「弾着、今! 露払いはお任せください!」 ドドォン!
翔鶴「おかしい……こんなところで易々と深海棲艦を出してしまえるほどの余力はないはず……」
赤城「貴方もそう思いますか。……この可能性はあまり考えたくはありませんが」
大和「いえ、私はその“まさか”だと思います。先の大戦で対峙した、沈んだ深海棲艦を呼び出す敵……!」
加賀「だったらどうだというのかしら。今は前に進んで敵を倒すだけだと思うけれど」
武蔵「フフッ。私も同感だ……蹴散らすぞ!」
・・・・
蒼龍「“海上の城”なんて仮称してたけど……こりゃあもう塔ですねえ」 見上げる蒼龍
大和「突入しましょう。敵はこの中にいるのですから」
陸奥「本当に突入してしまっていいのかしら……罠であることは間違いないけれど……」
赤城「手取提督!!」
塔のエントランスに佇む提督の姿を見て、赤城が叫ぶ。
加賀「覚悟してください」 塔の外から矢を向ける加賀
提督「なに、俺が直々に出向くわけもないだろう。当然これは幻影だ、矢の無駄だから撃たない方がいいぞ」
提督「察しのいい者は気づいたかもしれないが……俺は今、深海棲艦の軍勢を無数に呼び寄せることができる。
この塔の最上階まで上り詰めればお前たちの勝ちだ。俺の企みは潰えるだろう」
提督「もっとも……辿り着ければの話だがな」
赤城「待ってください! どうして貴方はこんなことをするんですか!? こんなことをして、何の意味があるんですか!?」
提督「それも……俺の場所まで来ることができたなら話してやろう。俺のもとまで来る資格のある者にのみ、な」
提督「さて。少しだけこの塔のルールを説明してやろう。お前たちは大艦隊で我が軍勢と決着をつけるつもりだったのかもしれないが……。
その条件だとこちらはちと厳しい。そのためにこのような趣向を用意させてもらった」
提督「一つの部屋に入れるのは六隻まで。編成は自由。
部屋によって趣旨は異なるが、そちらの構成によってこちらも用意する深海棲艦を変えさせてもらう」
提督「演習と似たようなものだと思ってもらえば分かりやすいだろうか? 作戦は自由だ。なるべく高い所まで登り詰めてくることを期待している」
提督「それから。降参する場合は武装を解除して進撃をやめてくれれば命は助けてやる。ま、今言ったところでそれに応じる者も居ないだろうが……。
大破した場合は有効な手段になるだろうから覚えておいてくれ。他の味方の足手まといにもなりたくはないだろう? では検討を祈る」
提督の姿が消えていく。
陸奥「井州提督……? ダメだわ、通信できない。もう既に敵の手中というわけね……」
翔鶴「もう迷っているヒマはありませんね。行きましょう! 突入します」
朝霜「なんだあありゃあ……雲突き破ってんじゃねーか」
足柄「なんとなく前線の方へ向かうってよりは明確な目印が出来てよかったじゃない。あそこに行けばきっと何か分かるはずだわ」
大淀「ええ……危険な予感がビンビンですね……」
朝霜「だからこそ行くんじゃねえか。それでこそアタイららしいってモンさ!」
・・・・
長門「クッ、見失ってしまった……それになんだあの塔は……?」
三隅「あら、長門さん。ご機嫌よう」
長門「む……貴様、持ち場を離れて何をしている?」
三隅「お言葉ですが長門さん。それは貴方にも言えることですわ。ここで沈むのも癪ですから、私あの塔へ向かうことにしましたの。
……貴方もそのつもりでしょう?」
長門「私は……。そう、だな。私もそうだ……」
長門(何が起こっているのかは分からないが、あそこに行かなければならない気がする……! あの場所で何が起きているのか、確かめたい)
・・・・
井州「ここからでも見えるあの塔は……? 一体何が起こっているんだ……」
北上「あー……なんかヤバいことになってんじゃん。もうバケツで直したしあたしら行ってくるね」
井州「やけに乗り気じゃないか、君がそんなことを言うなんて珍しいね」
北上「大井っちが心配なのと……直感、かな。なんかこう、ぞわぞわするんだ」
吹雪「私も感じます……不思議な感じ……」
吹雪「司令官! 私が連れて行きますから、一緒に来てください。司令官がいればきっと、乗り越えられるはずです」
井州「えっ吹雪君……? いや、私が離れるわけにはいかないだろうよ……」
北上「あーそれ賛成。いーんじゃない、全艦隊突撃ー! って命令したら」
井州「??? いや、ちょっと君たち、おい……何を……」
・・・・
加賀(翔鶴や瑞鶴は大丈夫かしら。もっとも……こんなところでやられるようなほど貧弱に育てたつもりはないけれど)
ビスマルク「カガ。先へ進むわよ……。後ろを振り返っても、戻ることは出来ないわ」
加賀「そうね。先へ進みましょう」
瑞鶴「加賀先輩! ああ、良かった。無事でしたか……」
加賀「当たり前よ。舐めないで頂戴」
飛龍「さっすが先輩! クールですね~!」
比叡(金剛お姉様……一体なぜあの提督に付き従っているのですか……? 会って確かめなくては……)
・・・・
翔鶴「他愛もありませんね、この程度なら私一人でもどうにかなっちゃいそう」
葛城「さっすが先輩、やるなぁ~……」
三階のエントランスに到達した翔鶴。別の部屋から出てきた赤城らと合流する。
赤城「無事でしたか。加賀さんの姿が見えないようですが……」
翔鶴らや赤城らとも異なる出口から出てきた武蔵たち。
武蔵「無駄に入口となる部屋が多いからな……出口も一つではないのかもしれない。あるいはもう更に上に進んでるかだな」
阿武隈「下から来る味方を待った方がいいのかな……それとも上に進んで行った方がいいのかな?」
翔鶴「艦隊の疲弊度や損傷度を見て、編成を交換してバランスを取っていけば良いでしょう」
翔鶴(しかし……なぜこんなことを……? 一度に多数の深海棲艦を仕掛けるわけでもなく、なぜ少数対少数で戦わせるのでしょうか)
私たちに意図的に深海棲艦を倒させているような気がしてなりません……)
赤城(総力を以って仕掛けてこないことに何か理由が……? 提督は一体、私たちに何をさせようとしているというのかしら……)
秋月「この塔、高さから考えてペース配分が大事ですね……。ある程度温存しながら昇っていった方が良さそうです」
翔鶴「ええ、どうにも階層が上になればなるほどに敵が強くなる傾向にあるようです。用心して先に進みましょう!」
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獲得経験値(~95/100)
・雪風の経験値+6(現在値32)
・翔鶴の経験値+4(現在値29)
・足柄の現在経験値:28
・金剛の現在経験値:27
・皐月の現在経験値:25
・響の経験値:25
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ちょっと微妙なところで区切りになってしまいましたが~……。
たぶん終わります。たぶん。
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『Phase B』【86-90/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00~15:雪風
16~31:翔鶴
32~48:金剛
49~65:響
66~82:足柄
83~99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または>>495->>496あたりを見てわかった気になってください)
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ほい
>>639-643より
・足柄3レス/翔鶴1レス/皐月1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:201なので『Phase C』は発生しません)
『Phase B』【86-90/100】とか書いてありますが、お察しの通りミスです。95-100ですハイ。
えと、ということは~……ですね。ふむ、どうやらこれがコンマの神の意向なようです。
これで決めてしまって本当に良かったんだろうか……まあどのキャラでも覚悟はしてたんですけども。
とりあえず次の投下は年明けになりそうです。
あ、合計値は314です(どちらにせよPhase C未発生)。コピペミスですすみません……。
新年あけましておめでとうございます。
あと1週間ほどお待ちを……。
////チラシの裏////
箇条書きに毛が生えたようなレベルのものではありますが、なんとなく今回のお話を振り返ってみようと思います。
これまでのあらすじ的なおさらいではなく、作者目線での自己言及のようなものなので厳密には振り返りというよりは裏話になるかもしれませんが。
「創作者は黙して語らず、ただ作品のみで勝負しろ」というのも一つの真理ではあるような気がするのですが、一方で「せっかくなら色々暴露してみた方が面白いのでは?」とか思いまして。
とはいえ次回投下分をまだ書き終えてない上にあんまり時間的リソースもないので今回はレス数にして2レス分ぐらいでサクッと書いちゃいます。
というわけで早速1レス目。シナリオ部分から触れていきます。
□初期(~25レス)
鎮守府に妙な提督がやって来て、艦娘から信頼を得るというまでが大筋です。それ以外に書くこともないのでちょっと没設定の話でもします。
驚かれる方も多いかもしれませんが、もともと「今回は推理モノで行こうかな!」とか考えてました。浅はかにもね!
なんやかんやで殺人事件とか起こったりして提督が艦娘らの力を借りつつ解決にまで導く! みたいな。
ただ、そのためには犯人が必要なわけで。しかしながらコンテンツの性質上どのキャラにも絶対にファンが居るわけでしてー……。
自分が好きな艦娘が(何らかの理由があったにせよ)殺し殺されるのは許されそうにないなと思い速攻で断念しました。
オリキャラがオリキャラを殺したりってのなら無くはない選択肢かもしれませんが、そうなると艦これでやる必要性もないですしね。
□中期1(~50レス)
棲地MIにて深海棲艦との因縁に決着をつける、という内容でした。作者的には物語半ばでここまで盛り上げてしまっていいのかというぐらい過激にやったつもりです。
というのも、ミッドウェーで最終決戦というのはわりと裏のテーマを含んでいたのでありました。
えと、『艦これ』というゲームそのものが本来であれば史実でいうミッドウェー海戦にあたるイベントを最後にサービスを終了するつもりだったのですよ。
※ソースとなる資料を私が実際に所持しているわけではないのでもしかしたら間違った情報かもしれません。間違ってたらすみません
リリース当初では今のように爆発的に知名度が広まることなど想定していなかったわけですからね、締めくくりとしては妥当でしょう。
……で、つまり何が言いたいかというと、ここで描こうとしたのは“艦これという世界における闘争の終焉”です。
あんなメチャクチャにオリ設定とか出しまくっておいて何を言い出すんだお前はって感じですが……私なりに艦これ世界の終戦を考えてみたという次第であります。
□中期2(~約75レス)
内容としては終戦後の混沌と離散、そしてなんやかんやあっての再集結……ぐらいまでですね。
前25レスまでの裏テーマの流れを汲んだ言い方をすると“終戦後の世界”です。
艦娘も提督も戦いがあればこそ繋がっていられる関係ですからね。闘争という鎖が断ち切られれば繋がりも消失するわけで。
そんな消えた繋がりを認識して足掻いたり諦めたり割り切って新しい道を選んだり……と各々が好きなような道を歩んでいきます。
しかし失われたからこそ気づくこともあるわけで~……、もろもろのフラグ的機運が高まり始めたのもこの時期ですね。
また、それまでの50レスでは意図的に伏せていた提督の意図とかも少しずつ明かしていきました。
作中で言っていた通り彼にとっては深海棲艦との決着は通過点です。紆余曲折経てついに自分の目的を達成してやろうとしたわけですが……。
□後期(~100レス)
残念ながら彼の野望は潰えてしまいます。失意に暮れる暇すらなく跡を追われる身となり、彼のとった行動とは……? という具合で物語が展開していきました。
えと……一応完結はしてないのであんまりネタバレっぽいことは……。まあもう安価やコンマもないしある程度なら書いてもいいよね? さすがに直接的なのは避けますが。
“艦これにおける戦いの終わり”を踏まえての“艦これという世界の終わり”を描いているつもりです。そして描ききるつもりですハイ。
世界の終わりと言ってもなんか破滅的でウワーッって感じ(?)じゃないのは、これまで読んできた人ならなんとなく察してもらえると思います。そこは安心してもらっていいです。
万人に納得されるかどうかは置いておいて、この物語の締めくくりとしてはこれで良いんじゃないかな……というラストになったらいいなあと思いながら現在執筆中です。
□その他雑記
・上の文章を見るとなんだか艦これ終末論者みたいな感じに解釈されてしまうかもしれませんが、もしそう思われてしまったのならそれは誤解です。
ただ、いかなる物事には終わりがあるわけでして……今回は“終わり”というものをクローズアップしてみたかったからそのように描いてみたという実験作のようなものです。
・相変わらず設定過多になってしまったのは結構反省してます。
これでも(この有様ですら)抑えたり削ったりした方なんですが……スピリチュアルだったりSFだったり神話だったりは興味ない人にはしんどいっすよね。
なんていうかこう、読み手側に理解するための努力を強いるようなものは娯楽としてダメですな……。
次の100レスを書くかどうかは今のところ未定ですが、もしやるとしたら次はもっと気軽に楽しめるようなアプローチで進めていきたいですね。
・開始時期が時期だったのでアニメとのクロスオーバー的趣向をいっときは考えてましたが、なんか普通に途中から忘れてしまって最後まで自己流で突っ走ってしまいました。
設定なんかは一部リンクしてたりするのですが、基本あんまり意識することなくという感じですね。まあその……この話はセンシティブな領域なのでこれでやめましょう。
・5レスで一旦区切りが入るので毎フェーズ毎フェーズなんらかの山場は設けて書いているつもりでした。
レスつかないと続きのお話が書けないっていう事情もあり、ある程度は盛り上がりを毎回挟んでいたつもりです。つもりであって事実どうだったかは知りません。
・色々とキャラがブレたり設定が膨れまくったりはしているものの、陰鬱なだけのお話にはすまいというのは最初期の時点から一貫している要素だったりします。
ただ理不尽に不幸が撒き散らかされるだけの内容は避けようと思いました。そういう創作物もアリだとは思いますが二次創作でそれやるのはリスペクトに欠ける態度なのかなと。
“艦これの終焉”という概念が裏テーマとしては存在しているものの、あくまで描くものは希望であろうと。人はそれをご都合主義と呼んだりするのかもしれませんが。
提督のキャラ付けがじょじょに変わっていったのも、心理的な変化だけでなく作中における役割が変わっていったからなのかもしれません。
とりあえず現時点で最後のPhase B分まで出来ているのですが、エンディング兼エピローグの部分までまとめて投下してしまおうと思っているのでもうちょっと時間ください。
遅筆ですみません……投下は1/22(金)21:00頃を予定しています。
////チラシの裏////
□提督(手取 哀)
最初に出たスペックがスペックだったので(>>349)キャラは作りやすかったです。ちょっと艦これを舞台にした作品で出すには濃すぎたかもですが。
目的のためなら手段は選ばないような口ぶりのくせにやってることは結構矛盾してますね。作中唯一のツンデレだから仕方ない(え
ストーリーの方もそうですが、このキャラは突き抜けて中二病にしようと思ったのでやりたい放題になってしまいました。
ただ、結果として今回の主人公はこいつで良かったなと思います。これぐらいぶっ飛んだキャラじゃないとこういうストーリーは演じれないよなあと。
□雪風
真っ直ぐな好意が眩しいですね。コンマにも恵まれて中盤以降かなり美味しいポジションを確保していました。
提督の右腕として活躍し、彼の過去を知り、彼の兄とも接触があるなど、最も提督に近づいたキャラじゃないでしょうか。
わりと個人相手には執着のない提督をして「頼りすぎていた」と言わしめる程度に大きな存在でした。
余談:
物語的にも彼女が居なかったら提督はMI作戦完遂後に半深海化についてなど知ることもなく普通に一人で月に行ってそうでしたね。
(まあ月に到達したところで彼の肉体は……)
磯風は彼の監視に来ていたでしょうが……雪風が居なければ提督はもっと磯風のことを警戒していたでしょう。
彼にとって最も身近であった雪風さえも深海棲艦になってしまう危険があったから『バビロン計画』を実行したというのは理由の一つにあると思います。
□翔鶴
序盤の運を足柄に、終盤の運を雪風に吸われたために今作ではいまいち活躍させてあげられませんでした……。
といっても原因は運だけでなく配置にも問題があったと反省。提督を中心に物語が展開していく以上、彼から遠いと動かし辛いという事情があります。
動かしたところで提督との親密度は変動ゼロですし。他の艦との絡みに注力しすぎて彼女そのものの描写が薄くなってしまいました。
そんなわけで、色々考えてはいたものの彼女関連のあらゆるフラグがへし折られてしまうことに……。いやほら、空母水鬼とか……ねぇ?
□金剛
自分の中での金剛というキャラクター像はわりと黒かったので初期のような味付けで動かしていくつもりでしたが、
アニメを見て「金剛が好きな人はむしろこういう方向性を望んでるのかな」とか思うようになり最終的にこのような形に。
いわゆる提督LOVE勢筆頭な艦娘なんですが、それゆえに彼女を本気にさせる提督とはどんな人なんだろうと結構悩みました。
まあ作品内での金剛はLOVE勢でもなんでもない上に提督との恋愛フラグが立つこともなかったわけですが……。
□響
ED対象となるヒロインの中では唯一明確に提督に愛情を抱いている描写のあったキャラですね。
心底提督に惚れ切っているようですが当の提督は随分ドライっすね。
暁と和解するまで彼女には提督しかいなかったと言っても過言ではないというのに、提督にとっての響は信頼できる味方止まりでしたからね。
深海化して理性を失い倒錯的な形でしか想いを伝えることが出来なかったのは、提督と結ばれることはないと自覚していたからかも。
余談:
対象キャラで唯一提督を愛していると書きましたが、他のキャラの補足。
雪風は提督のことを敬愛をしていますが彼を異性と見なしてアプローチすることはありません。そっち方面では響に遠慮していたのでしょうね。
皐月に関してはは終盤では彼のためにかなりリスキーな選択をしてみたりと恋慕に近い感情を抱いている可能性はあります。
ただ、彼女の中で「提督の傍に居たい理由」が尊敬や信義によるものなのか恋心なのか線引きがはっきりしていない以上グレーゾーン止まりでしょう。
他は……脈なさそうですね。
□足柄
翔鶴同様他の艦との絡みに割いているため彼女自身の描写は意外と少なめなのですが、足柄の場合かえってプラスに働いたような気がします。
他者と多く関わるトリックスター的なポジションとキャラそのものの持つ気質がうまく噛み合ったんでしょう。
提督の進む道は試練を伴うのでどうしても話が進めば進むほどに重くなりがちですが、彼女が登場すると軽快なテンポでシリアスなムードが破壊されてしまいます(笑)。
コンマの神に干渉して最終的なヒロインの座を手に入れてしまうあたりも実に彼女らしい。なにげに書いてて一番楽しいキャラでした。
□皐月
この面子の中では人気が低めなため序盤は空気になりがちでしたが、そのままフェードアウトさせるには惜しいと思い少し強引に動かしました。
提督から見たら自分はモブにすぎないという旨の発言を自分でしていましたが、それでもなお彼女は提督を信じようとしたわけで。
そういうひたむきさが彼女の魅力なんじゃないかなとか勝手に思ってます。
余談:
結果として彼女の行動は提督が抱いていた艦娘に対する認識を改めさせる一つのきっかけになったりします。
想いや感情によって合理性を打ち負かすというのは彼には出来ない発想でしょうからね。提督の予測を皐月の純情が上回ったわけです。
□その他(一部キャラのみ)
・赤城
メインヒロイン対象外のキャラではあったのですが、キャラ決めの際に名前が挙がったからには出そうと思ってました。
そして提督への恋慕フラグも立てようと思ってました(メインヒロインでないため絶対報われないというのにひどい)。
ただ、尺を割きすぎて翔鶴の枠を圧迫する要因の一つとなってしまいました。彼女も彼女で結構キャラは立ってたと思いますがメインの子じゃないんで……。
・磯風
MI作戦終了時点で提督の目的や経緯が不明だったので、その部分を追求させるために登場させました。なにせ戦いが終わってしまった後の世界ですからね(前レス>>647参照)。
「深海棲艦をついに倒したぞ!」とお話がお話ならハッピーエンドなわけですが、そこで終わらせないためにも提督の腹の内を暴く必要があったのです。
・繋
人工知能のお兄さん。生まれた経緯が経緯なためグレててもおかしくなかった提督ですが、彼がいたことによって今の提督があったりします。
人を信じられなかった提督でも、知性なら信じることが出来るというわけで……人智を超えた膨大な知を誇るお兄さんは提督にとって超憧れだったわけです。
ただ、お兄さん的には提督君には自分のような人工知能とばっかり戯れてないで人と向き合って欲しいと思っていたりしている……みたいな関係です。
うげえ……実はまだ書き終えてないんすよねぇ……。
とりあえず~100レス分まで投下することにします。
そこから先のエンディングにあたる内容は……数時間インターバルを挟んで投下ということでどうでしょう。
数時間インターバルとか書いておきながら日と跨ぐ可能性もありますが……(オイ
ただ、どれだけ長引いても明日の12:00頃までには全てのテキストの投稿を完了させると約束しましょう!
時間がなかったとか忙しかったとか言い訳は後! では早速いきます……。
提督(泊地水鬼、軽巡棲鬼は磯風とともに下の階にいるヲ級のもとへ配置した。
この最上階以外からは通じていない部屋なので攻め込まれることは無いと思うが……ここをやられるとご破算だからな)
提督(文月と榛名・霧島はデバッグルームへ。ここも敵に占拠されるとちと困るからな。内部構造を把握される恐れがある。
天龍・龍田・電・雷らは塔の下層、響・暁・雪風は中層、金剛には上層へ向かわせ、大破して航行不能になった艦娘の救助の任を与えた……)
塔の最上階……玉座に肘かけて足を組む提督。傍らには皐月が立っていた。
皐月「司令官は、ボクが守るからね! でも、どうしてボクをこの部屋に残したの?」
提督「お前がそうしたそうだったからだ」
提督(俺の身を案じているのは他の面子も同じこと。だが雪風や響は戦力になる……ゆえにこの部屋に残っていてもらっては困る。
これから起こることを予想して配置しておかねばならない)
皐月「なんだよー、その言い方……。ボクのこと、頼りにしてないの?」
提督「そういうわけじゃあないさ。お前にはお前の役割というものがある」
皐月「ボクの役割……?」
提督「このまま何も起こらなければ動いてもらうことはない。が、事が起きれば……役に立ってもらうということさ」
・・・・
ヲ級「良い報せと悪い報せがある。どちらから先に聞きたい?」 提督の眼前に立体映像が浮かび上がる
提督「不穏だな……良い報せから聞こう」
ヲ級「現存する全ての艦娘の誘き寄せに成功した。これよりこの塔は大気圏を突き抜けて宇宙へと進発する」
提督「ご苦労。見事な首尾だ。で、悪い報せというやつは?」
ヲ級「“下の世界”への門をこの塔の中に擬似的に生成させてもらった。全ての深海棲艦が、数万年分の深海棲艦が艦娘に仇なすことだろう」
提督「これまで俺たちが倒してきた深海棲艦のみならず、“下の世界”の深海棲艦を総勢呼び寄せたというわけか。厄介なことをしてくれたな」
ヲ級「これは深海棲艦としての最後の反抗。私という存在、そして深海棲艦という存在の証明。
手取哀。お前には感謝をしている、恩義もある。信頼している。だからこそ……私はお前に仇なす」
ヲ級「深海棲艦である、私さえも救ってくれるというのだろう。なら、この私の同胞も救ってやってはくれまいか?
それがお前には出来るのだろう? この試練さえもお前は乗り越えてしまうのだろう?」
提督「もちろん。お前の命がけの足掻きですら、俺にとっては取るに足らぬこと……。闘争の中でしか救済しえないというのなら、望み通り全てを終わらせてやろう」
ヲ級「そう言ってくれると信じていた……。私の荷は降りた」
映像が途絶えると、しばらくして磯風が慌てた様子で走り寄ってきた。
磯風「ヲ級が倒れた。今、泊地水鬼と軽巡棲鬼が手当をしているが、そう長くは持つまい。
奴が倒れてしまってこの塔は無事なのか? どうやらもう地上を発ってはいるようだが」
提督「恐らくはな。思うに、そうでもなければ奴はこんなことをしないだろう。奴は自分の存在と引き換えに内部世界に存在する全ての深海棲艦を顕現させたのだ。
じきに猛烈な物量の異形が下の階に押し寄せることだろう。奴らを打ち倒すことで俺たちの戦いは終わる。簡単なミッションだろう」
提督「磯風、ヲ級のもとへ戻り手当てを。応急修理用の設備があるはずだ、急ぎ延命措置を」
磯風「君はこのことさえも予期していたというのか……?」
提督「全てを読んでいたわけではないがな。さて、皐月は下の階にある中継地点……各チェックポイントに燃料や弾薬、装備等を配置しに向かってくれ」
皐月「……でも、司令官が」
提督「俺の心配をしてくれるのはありがたいが、下の階にいる連中の方が遥かに危機的状況にあるのだ。そのことを理解してもらいたい。
それに、この俺が自衛手段もなくここでふんぞり返っているだけだとでも?」
皐月「それもそうだね。分かった、行ってくる!」
・・・・
足柄「ふぅ……部屋ごとに深海棲艦が待ち構えてるみたいだけど、どうってことないわね。次行くわよ次ィ!」
霞「待って、これまでとは桁違いの瘴気を感じるわ。あっ、待ちなさいったら!」
足柄が扉を開け、一同が部屋に足を踏み入れるとガシャンと音を立てて扉が閉まる。
霞「はああああッ!? なんなのよこの敵の数は!」
目の前に現れたのは暴力的なまでの物量。戦歴の長い霞や朝霜すらも見たことのないような光景だった。
清霜「(あまりの数に霞がキレてる)……仕方ない、先手必勝ね。一気に攻めるわ!」
大淀(上に登るための各階に深海棲艦が配置されていたようですが……明らかに今までとは数が違いますね……)
足柄「チッ……なんにせよ、こんなところで足踏みしてもいられないわ! 前進あるのみよッ!」 バッゴォン
提督「これが提督らしい最後の仕事になるか。文月、聞こえるか?」
文月「はい~。聞こえてますが……なんかすごいことになってませんか? 深海棲艦がわぁ~って」
提督「ああ。さすがにこのまま何も動かさないままだと艦娘らの身がまずい。よって方針転換だ。
以後は艦娘側のサポートするためにこの塔のギミックを操作してくれ。それから、榛名と霧島のうち、どちらか一名は戦線に向かわせていい」
提督「で、次だ。……各位、聞こえるか?」
天龍「新顔が後から後からやって来てて大丈夫なのかと焦ったが、今度は艦娘の方の身が持つかを心配した方が良さそうだぜ。大混戦だ」
響「今、こっちでは鬼の形相で加賀や赤城が暴れているよ。しかし彼女らが物量に押されるとはすさまじい……」
提督「分かった。天龍・龍田らは引き続き救助を。響・暁・雪風は中層の艦娘らを支援して深海棲艦の掃討に加勢してくれ。
俺の目的は艦娘を滅ぼすことではなく、艦娘によって深海棲艦を倒させ、その動力でこの塔を目的地まで到達させることだからな」
金剛「Oh! なんだか盛り上がってきましたネー」
提督「金剛、お前も下の階へ向かえ。お前の戦力と経験知は他の艦娘にとって強い助力となる」
金剛「え、エー……色んな人に喧嘩売るカタチでこっち来たのでやり辛いんですケド……。テートクゥ~」
提督「天下の大戦艦が情けないことを……四の五の言うな。俺はお前の戦力は個なら他のどの艦娘にも勝ると評価しているのだぞ。
そのお前がしがらみ如きで二の足踏むとは何事だ。さっさと行け」
金剛「(あ、今日のテートク優しい)……しょうがないデスネー。気乗りはしませんガ、ここまでおだてられちゃ仕方ないですネっ!」
雪風「あの……しれえ。お身体は大丈夫ですか?」
提督「今のところはな。遠方の俺よりも前線の心配をしろ。それに、何が起きようと俺のやることに変わりはない。お前なら分かるだろう」
雪風(……司令を信じましょう。司令ならきっと……何があっても大丈夫)
・・・・
赤城「加賀さんや二航戦の隊と同じ部屋に辿り着いたと思ったらこの敵の数……これでは分断されてしまっているわ」
翔鶴「まずは友軍への道を切り拓きます。敵とこうも近いとアウトレンジ戦法が物理的に不可能ですが……艦載機が帰還しやすいとポジティブに捉えましょう」
天城「葛城、大丈夫?」
葛城「だ、大丈夫。ビビってない……ビビってないから! 稼働全艦載機、発艦はじめ!」バシュッ ピュゥゥゥ
翔鶴「その意気ですよ。ここには私がいて、さらに赤城先輩がいます。そしてあの群がる敵の向こうには加賀先輩や瑞鶴が。負ける道理はありません」ピシュン ピシュン
赤城(この成長は、加賀の教育によるものだけではありませんね。放つ気迫が以前とは段違い……ひょっとすると今の私さえも凌ぐかもしれない。
……出会った頃はただの後輩程度にしか思っていなかったけれど。今はまるで幾多もの戦場を共に乗り越えた友人のように頼もしく感じられる……!)
矢が空を切る音と、遅れて耳をつんざく艦載機のエンジン音。戦いが始まった。
武蔵「こういう百鬼夜行こそ我々大和型の出番だな! そうだろう大和!」
大和「ええ! なぜ敵が増えたのかは分かりませんが……それも先に進めば分かること! 敵艦隊を突貫して根絶します。私、大和にはその力があるッ!」
腕を掲げ、振り下ろす。振り下ろしたと同時に爆発的な火力が前方の敵を消し飛ばしていく。
・・・・
提督「……当面は問題なさそうだな。陰から補助してやっているとはいえこれほどの軍勢を相手に一歩も怯まず、か」
提督「しかし……驚いたものだ。かつての俺なら、ミッドウェーの頃の俺ならこの局面を見て匙を投げていただろうがな。
見事なものだ、艦娘というやつらは……。戦えば戦うほどに、経験を積めば積むほどに予測を超えて強くなっていく。まさか、これほどまでとは……」
提督(そして、俺がここまで本気にさせられるとも思っていなかったよ。この世の些事に執着するなど愚かしいと思っていたのだがな……。
こいつら艦娘の成長が面白いと今更になって感じている。俺は戦争狂になったつもりはないのだがな……まったく)
提督「なかなかどうして、浮世も捨てたもんじゃあない。あとは、俺自身の命運がどう転ぶか……だ」 自分の掌をじっと見つめる提督
・・・・
提督「俺の細胞の一部を、生存条件を満たせる小箱の中に入れて塔の外に出してみたが……ダメだったか。原因不明の死と再生を繰り返す。
しかしなぜここにいる俺は無事でいられる? 塔が地球を離れようとしているうちは、未だ地球の範疇ということか? 都合のいい解釈だが……」
提督「だがこの塔は目的を果たせば力を放出して自壊してしまう。肉体や魂をこの塔の内に留めておくことができるのは、移動している間だけ」
提督(この塔を押し上げる力の一部を使って、塔と同様の構造物を生み出そうとしたが……)
提督「出力座標を固定するのが困難だな。失敗した時のリスクが大きすぎる。
宇宙空間に放逐され半死半生の肉塊となるか、概念化して次元の狭間を永遠に彷徨うハメになるか……フッ」
提督「諦めるにはまだ早い。考えろ……艦娘が地球を離れて半深海化しない理由。俺の肉体が地球を離れると崩壊する理由。……」
……肉体と魂の遊離度の違いか? 艦娘から魂の抜け去ったものが深海棲艦。魂と肉体は地球の極と極に二分され交わろうとしない。
だが人間の場合はどうだ? ヲ級は輪廻が成されていないと言ったが……本当か? であるならば深海棲艦の人間版があっていいような気もするが。
これまでに死んだ人間の肉体とそこに残った想念がみな冥府へ溜まるというのなら、深海棲艦すら圧倒する化物が出来そうなものだが。
提督「無重力の条件下では、艤装の深海化の進行が緩まった。……重力がなにか作用しているのか?
地球の重力に近い重力が働いていれば俺の肉体の損傷も回避出来るのか……? いや、それも試した。試したが失敗だった」
しかし……何かヒントにはなるかもしれないな。人間と艦娘の違い。人間は土から生まれ土に還る。艦娘は“火”から……。
性質の違いがある。人間は留まろうとする。大きな箱庭の中で循環しようとする。艦娘はそうではない。生まれて、使命を果たして、底へと沈む。
……沈む? 沈む、か……いや。艦娘は人と被造物との混血。人たる部分が地の底へ、人ならざる部分が天へ昇っていく……?
道具は役目を終えれば、廃棄されるか姿を変えることになる。大昔での大戦で使われた兵器を模しているのも、天使としての性質か?
軍艦。人間の知恵によって生まれた兵器。その姿を模して現れた意味。知恵……。知恵を最初に与えたのは、神への反逆者たる天使だ。
天使は神の生み出した“火”より生まれ落ちた。“火”から人間は知恵を手に入れ、意志と感情のままにこの世界を支配していった。
重力……。無重力下で炎は涙滴型でなく球状で浮遊する。地球上での炎は暖められた空気の上昇によって垂直な形になるが、宇宙でそうはならないからだ。
また、宇宙空間では人為的に酸素を送り込んでやらなければ炎を維持することができない。だが地上より低酸素で持続させることができる。……。
提督「……この塔では、深海棲艦の精神と肉体。そして艦娘がいる。深海棲艦を倒すことによって、奴らの精神と肉体を塔の動力としている。
深海棲艦は輪廻を望んでいる。再生……再会……。繰り返し……。魂を望んでいる。俺の肉体はどうだ? 外因的な力を糧に半永久的に死と再生を繰り返す。
そして、死んでなお俺は俺のままだ。別の生き物に生まれ変わったり、深海棲艦のように抜け殻になったりはしていない。
死のたび魂は入れ替わっているが、本質的な存在は揺らいでいないように思える」
提督「そもそも魂とは? 魂とは一つの肉体につき一つだろう? その発想自体間違っているのか? 俺は何者なのだ……」
・・・・
大部屋の深海棲艦を突破し、中継地点で休む一同。
瑞鶴「うぉぉ……次から登るたびにこれかぁ~……。さすがにヤバいなあ」
翔鶴「でも、あと少しです。頑張りましょう、瑞鶴!」
響「さて、これは応急処理女神だ。数に限りがあるから全員分とはいかないが、有効に活用してくれ。私の司令官に感謝するんだな」
大鳳「この一件の元凶に感謝など……」
暁「補給物資や高速修復材こっちよ。ちゃーん順番を守って並ぶのよ?」
陸奥「とはいえ、ここは素直に受け取っておくべきね。じゃなきゃ身が持たないわ」
川内「けど、これだけの資源や装備、どうやって用意したの? まだまだ備えがありそうだし……」
雪風(たぶんこれほとんどが横須賀鎮守府から金剛さんたちが略奪してきたものなんですよね……)
加賀「次の部屋……凄まじい殺気を感じるわ。悪くない、相手にとって不足ないわね。フフ……」
瑞鶴「加賀先輩がニタリと笑ってる! よからぬことを考えているに違いない!」
翔鶴「瑞鶴! 失礼なことを言うんじゃありません。聞こえますよ?」
・・・・
金剛「フッフッフゥー! 助太刀に来ましたヨォ! ってノわッ!?」
比叡「お姉様ァーーーーッ!!」 ドドォン!!!!
金剛「ちょ、なんでこっちに向けて撃ってくるデース!? 敵はアッチ! 私はBOSSじゃないありまセーン! ノォォーウ!」
比叡「私は納得いきません! お姉様が何を知っているのか! なぜ私を連れて行かなかったのか! 洗いざらい吐いてもらいますッ!」
金剛「What the hell!?!? なんで私だけ逃げながら戦わなきゃいけないんですカー!? そんな縛りプレイ聞いてまセーン!」
榛名(あぁ……まあそうなりますよねえ)
武蔵「アホは放っておいて……我々はひとまず周辺の敵を蹴散らそう。豪華な面々がお出迎えしてくれたようだぜ!」
加賀「あれは……防空棲姫。そして戦艦水鬼! ふふ、いいわ……興が乗ってきました。瑞鶴! 貴方は私と残ってここで敵を迎え撃ちます。
他の空母は先に進んでもらって構わないわ。ここは二人で十分!」
瑞鶴「わ、わたしィ~!? 私がアレやるんですかァ!?」
加賀「これでも耳の良さには自信あるの。ふざけたことを言う後輩は懲らしめてやらないと」
翔鶴「(言わんこっちゃない……でも、加賀さんと今の瑞鶴なら大丈夫かしら)ここは瑞鶴や加賀さんに任せて、先に進みましょう。行きます!」
金剛「ヒエーイ!? だから謝ってるじゃないですカー!」 比叡の砲をかわしながらも深海棲艦への攻撃は加えつつ逃走する
比叡「百歩譲って……お姉様が私を誘わなかったのは許すとします。
事実私はお姉様と違って軍に残っていましたし、それなりに思い入れもありましたから。ですが……なぜあの司令のもとへ」
金剛「比叡! 危ナイッ! うおおおおッ!!」 比叡の前に立ち砲撃の盾となる金剛
比叡「お姉様!? ……お姉様ァーッ!」
金剛「子供じゃないんだからこのぐらいで騒がない。たかが一発喰らった程度だけですよ。騒ぐことじゃない。
ま……喰らった一発は、百倍にして返してやりますケドネッ! ッラァァ!!」 艤装にめり込んだ砲を掴んでぶん投げ、前方の戦艦を破壊する
武蔵「あいつ……原始人か? 野蛮すぎるイカれた奴だな……だが面白い! ハッハッハッ! 金剛に遅れを取るな、攻め取るぞ!」
比叡「お姉様? 動けますか?」
金剛「まだ大丈夫デス。あの提督は……私の子供の頃憧れてたヒーローにそっくりなんですヨ……」
金剛「最初に会った時からずっと、ムカつく奴だと思ってたんデス。けど、本当は優しい人なんデス……不器用なだけなんです……。
皆を守りたいと思ってるカラ、皆を助けたいと思ってるから戦えるんです……」
金剛「私だって、100%提督のことを信じられていたかと言えばそうではありませんでシタ……軍に反逆するのだって、それがどんなに愚かなことかは分かりマス。
それでもワタシが手取提督に近づいたのは、子供の頃のワタシの憧れを、彼の姿に見出したからデス」
金剛「私は……そう、ヒーローになりたかった。子供の頃の夢で、忘れてしまっていた。でも……ワタシは弱かったから、人に愛されたかった。
自分を殺してまで人に尽くそうとは思えなかった……。目に見える形での見返りがなければ力を出せなかった」
金剛「でもテートクは、超エゴイストです! 自分を貫いた上で、それでもワタシたちを救おうとしている! ワタシもそうなりたいと思った!」
榛名「お言葉ですが……金剛お姉様。お姉様はもう十分にヒーローですよ。いえ、ヒロイン? もうお姉様は昔のお姉様じゃない。
自分の意志で、けれど皆のために戦っている。これこそヒーローの資質……ではないでしょうか」
金剛「……だと良いですけどネ。比叡、これで話は終わりデス。これでも納得できないと言うのであれば、もう貴方と戦うしかありまセン。
ですが、そこに意味がないことぐらい分かっているでショ? 駆けっこはもうお終いにしましょう」
金剛「比叡には、強くなって欲しくて、余計なことばかり言ってしまいまシタ。でも、それは私の歪んだ理想の押し付けでした。ゴメンナサイ。
……人を守りたいという想いで、そして私を守りたいという想いで戦ってくれていたのはいつも比叡でした。
ワタシは……提督のように強く、そして比叡、あなたのように周囲を愛せるようになりたかったのかもしれまセン。本当に大切なものは、すぐ傍にあった……」
・・・・
夥しい数の深海棲艦が海上を埋め尽くしている。しかし、その全てが力尽きているようである。その光景は地獄絵図と呼ぶに相応しい。
朝霜「ハーァ、ッ、ハーッ……ざまあ見やがれ……みんな倒してやったぜ……!」
長門「これで少しは私のことを見直してくれたかな……?」
清霜「うん。カッコ悪いなんて言ってごめんなさい。長門さんが来てくれて助かりました」
酒匂「やっぱり長門さんはすごい! 憧れちゃうなぁ!」
長門「ふふ、そうだろう。頼りにしてくれ(さすがにこの数は肝を冷やしたがな……)」
三隈「まだここで終わるべきじゃない、ということですよ。名誉挽回できて良かったじゃないですか」
陽炎「一小隊に半深海棲艦化手前の艦娘と非番の艦娘が加わった寄せ集めではあるけれど……なんとかなるもんね。はーい戦闘糧食」
霞「もう上の階からは気配は感じないわね……これでようやく一息つけるわ」 モグモグ
足柄(どうにかなったわね……。けれど、何か妙な予感がするわね……何かが引っかかる。この塔に入った時、違和感があったのよね……)
・・・・
提督「ほう……おめでとう。ここまで来るとはな。もう間もなく時が来る。この塔は火星に到着しその目的を果たす。
お前たちが深海棲艦を倒してくれたおかげで俺の計画は無事成功に終わったというわけだ……」
ひどく負傷した、ボロボロの姿で提督の前へ立つ翔鶴。玉座から立ち上がって両手を広げる提督。
提督「時間がないので手短に頼もうか。質問には三つまで答えてやる」
翔鶴「全て貴方の掌の上で踊らされていたというわけですね……。ですが、何ゆえこんなことを……」
提督「半深海化を食い止めるためにはお前たちを強引にでも地球の外に連れ出さねばならなかった。ここまでは前回のバビロン計画と同じ。
俺が深海棲艦を操ることが出来たのは、ミッドウェー作戦で対峙したヲ級Nightmareを従わせたからだ。奴の力で深海棲艦を蘇らせた。
この塔には想念を力に変換する機構が備わっている。お前たちが深海棲艦の怨念を打ち破ったことによって塔内に膨大な力を蓄積することができた」
提督「それはそうと、こちらからも質問して良いか。ここに辿り着いたのはお前だけか? また、ここに辿り着く過程で轟沈した艦は何隻出た?」
翔鶴「ここまで来れたのは今のところ私だけです。しかし、後から他の者も来るでしょう。轟沈した艦は出ていません」
提督「そうか。それは都合がいい。ま……数隻程度なら沈んでも問題はなかったのだがな」
翔鶴「! どういうことですか……それは?」 弓に手をかける翔鶴
提督「……二つ目の質問と解釈して説明させてもらう。この塔の内部では空間という概念そのものがデタラメだ。
肉体から離れた魂ですら塔の内側に留まってしまう。ゆえに肉体と魂を繋ぐ艤装さえ作ってやれば蘇生が可能ということ」
提督「かつて流行した……カードを筐体に読み込ませて戦う、ああいうゲームを想像してみてくれ。
俺やお前たちの肉体がカードで、ゲーム内で動くデータが魂。カード本体とデータが残っているなら、後はその因果関係を再び結んでやればいい。
だから轟沈しても問題ない……と言ったところで理解は難しいだろうがな。原理を省いて概要だけ説明するとこうだ。さて最後の質問を聞こう」
翔鶴「私が知りたいことは、貴方が私利私欲で動いているか、そうでないかということです。貴方の目的は何ですか? 貴方は何をしようとしている?」
提督「俺の目的か……。そうだな。この世界の森羅万象を再現できる架空世界を創造する。
それを俺は“真理の箱庭”と呼んでいるが……これを観測してこの宇宙の真理へと至り、やがて全知となる。これが目的の全容だ」
提督「畢竟艦娘も深海棲艦も……俺にとっては余興に過ぎない。お前たち艦娘という半人半神のような存在でさえも、この大宇宙の中では微々たるものだ。
そんな些細な存在ではあるが……惹かれるものがあった。正直のところ、お前たち艦娘の成長は敬意に値する。だからこうした」
赤城「提督! ハァ……ハァ、ハッ……。貴方に、会いに、来ました……。っ……!」
提督「赤城もここへ来たか。大儀であった。だがもう時間がない。ほんの少し遅かったな」
玉座を中心に床から光の円が浮かび上がる。円はやがて六芒星に変わり、玉座を取り囲むようにして回転する。
光とともに薄墨色の半透明な障壁が形成されていく。玉座の位置を頂点とした三角錐が出来上がる。
赤城「ッ! 待ってください!」
ピラミッドの形をした障壁めがけて弓を引いた赤城。しかしヒビが入るだけで破壊には至らない。
提督が玉座に座ると、赤城が二発目の矢を放つ前に障壁の内側にあったものが光に包まれ、彼女の視界から消失した。
・・・・
塔の最下層。青銅の壁に覆われた部屋に提督は居た。部屋中が激しく震動しているにも関わらず平然として室内の機材を弄っている。
提督「塔が崩壊を始めている。もう時間はないな……」
提督(まず隣室の冷凍保存シェルターをさっきと同じやり方でこの塔の外へと出力する。……? ……これは) ゴゴゴ……
背後に気配を感じる提督。悪寒が疾る。自分に明確な敵意を向ける存在が近くにいることを察し、振り返る。
提督「……! お前のような存在がいることも、理屈の上で予想はしていた。だが、よりにもよって俺のところに現れるか。艦娘ではなく、あくまで俺なのか」
提督が振り返った先に立っていたのは、骨肉と鉄や鉛が一緒くたにされてぐしゃぐしゃに押し潰されたような顔のない化物だった。
今まで映像や肉眼で見てきたどんな深海棲艦よりも歪でグロテスクな風貌のそれは、ゆっくりと提督に歩み寄る。
提督「気配こそかつてヲ級に見せられた幻覚に出てきたものに似ているが……以前のそれとは明確に違う。
こいつは救いを求めていない、ただ悪意と憎しみしかない……。何もかもを踏み躙って破壊したいという衝動しか感じられない……ッ」
提督「それにこいつ……妙だ。鬼や姫といった上位種やそれらに近いネ級やヲ級の類でもないのに真っ直ぐ二足歩行でこちらへ向かってくる。
哨戒魚雷艇の子鬼群とも似ているが、それとも違う! こんな見た目の奴は見たことがない」
ダァン! 炸裂音がすぐ近くで聴こえる。砲撃だ。化物の巨体が退いた隙に、砲が放たれた方向に走る提督。
足柄「やっぱりここに何かあると思ったわ! 入口から更に下に続いてる階段があってヘンだと思ったのよ!」
見つけてやったりと得意げな表情の足柄を無視して考えこむ提督。
足柄「で、あれは一体何かしら。深海棲艦はもう全部倒したはずじゃないの? っていうか、ヘンな臭いしない!?
磯の臭いとも、硝煙の臭いとも違う……深海棲艦の臭いじゃないわ。あの化物から漂うのは……死臭……?」 スンスン
提督「この塔は深海棲艦の想念を糧としている。救われたい、満たされたい、生まれ変わりたい……叶うことのない絶望を清算させるためにある。
だがその想念の中には、救済すらも望まず、闘争によって満たされることもない、純然たる悪意のような“澱み”もあることだろう」
提督「快楽のままに悪意を振り撒き、衝動のままに破壊し尽くす邪悪。深海棲艦にあって深海棲艦にあらず、人間の怨念であり悪意。
直感した……直感だが、確信に近い……。奴を新しい地平に連れて行くわけにはいかない!」
足柄に説明するというよりは自分の考えを整理しているような様子で話す提督。
提督「足柄! お前は階段を登って退避しろ。俺はこの階を塔から切り離して宇宙空間に捨てる! いいなッ」
足柄「ちょっと! 勝手に一人で話を進めてもらっては困るわ! よく分からないけど、要はアイツを倒せば良いってことでしょう!」
提督「よせェ足柄ッ! 下がっていろ!」
提督が静止の声が耳に届く前に怪物めがけて砲を撃ち放つ足柄。最大威力の射程距離で放たれた一撃は鋼鉄の肉体に当たって爆裂する。
足柄「きゃあっ!? こ、このォ~……!」
甚大なダメージを受けたにも関わらず砲煙から飛び出してきた化物は、足柄に突進してそのまま押し倒す。
提督「まずい! うおおおおおおッ!!」
押し倒された足柄と化物の間に強引に割り込み、化物ではなく足柄の方を突き飛ばす提督。そのまま全身を覆いかぶさられ、やがて肉体の全てを呑み込まれてしまう。
足柄「嘘……何が起こってるの……? 提督、死んで……? ッ……グうッ!」
足柄(身体が変だわ……立っていられない。この塔に入ってからは収まっていたのに……艤装が……自分の意志で動かせない!?)
化物の内側から爆発が起こる。左手に手榴弾を握った血みどろの提督が、うずくまる足柄の手を強引に引いて走る。
提督「やはりか……。いいか、足柄。あれは深海棲艦じゃあない。似ているが……もっと性質の悪いものだ。あれは人間の悪意そのもの。
お前たち艦娘はあれに触れただけで瘴気にやられて深海棲艦になってしまうだろう」
階段前に辿り着くと足柄の手を投げ捨てるように放し、背を向ける。
提督「幸い、まだお前は助かる見込みがある。そのまま階段を駆け上がれ。その程度の力は残っているはずだ」
足柄「貴方はどうなるのよ!? 艦娘ですらない貴方が、たった一人でこんな奴に挑むなんて正気じゃないわ!」
提督「さっきので二度死んだ……が、あと2998回までなら死んでも問題ない。勝機はある。ここでお別れだ、足柄。……じゃあな」
足柄の方を振り返ることもなくそう言い捨てて、明かりのない廊下の方へ走り去っていく提督。やがて闇の中へ消えていき、その姿は見えなくなった。
100レスで終わりなのにどうしてこんなことしたのって怒られそうですが、まあまあもう少しお付き合いください……。
とりあえず23時あたりに投下出来そうだったら投下します。ダメそうだったら明日の昼12時頃ということで……。
最後までこんなバタバタしてて申し訳ありません。
ごめんなさいやっぱり時間欲しいです。超ごめんなさい。あともう少々お待ちを……!
あまり焦らなくてもいいよと言ってくれる方もいるかもしれませんが、>>1の都合的に明日を逃すとまた間延びしちゃいそうですので……明日で決着つけます。
ちなみにあと5レスで終わる想定です、概ね書けてはいるので大丈夫です、終わります終わらせます大丈夫です大丈夫……たぶん
提督「これでいい。切り離しは済んだ……。足柄のヤツ無事だといいが……」
提督(あとはヤツだけだ! 四回死んだだけで抑えられたのはなかなか悪くない…‥あと2994回も死ねるのだ。さて本題はここから)
提督(シェルターは健在か……。だが、あの化物がいる状況ではどうにもならんな。奴をどうにかする術を考えなければならないか)
壁伝いに腕の力を使って移動する提督。左足の頚骨より下の部分には本来あるべき足首が失われていて止めどなく血が流れている。
提督「物質転移装置のある部屋からはだいぶ離れた……これならひとまず安心して“死ねる”。この七回目の命も無駄ではないな……」
力尽きて倒れた提督の上に化物から伸びた触手が突き刺さる。
提督「ッ……(こいつ……学習しているのか……? 近寄って丸呑みにすることをやめ触手を……グッ。ダメだ、意識が……)」
・・・・
壁に叩きつけられ、頭から血を流しながらよろよろと立ち上がる提督。
提督「相当死にすぎたが、気づいたぞ……ようやく気がついた……。最初のうちは俺の全身を取り込もうとしていた……。
だが……途中から動きが変わった。触手で串刺しにしてみたり、こんな風に俺をいたぶって殺そうとしたり……だ」
提督「それは、俺の精神を屈服させるためでもある。だがもう一つ。お前は俺を取り込むと少しずつ弱っていく……そこに気がついた。
そう、人間に限らず生き物の多くは、食物を消化することに最もエネルギーを消費する。
お前が俺の肉体を消化しきった直後! 俺の肉体はお前の吸収したエネルギーを奪い取って再構築される……」
提督「最も、知性が猿以下の貴様では俺が何を言っているか、何に気づいたか理解できないだろうがな……。意志なくして知は意味をなさない。
自らの生さえも望まず、ただ全ての破滅を願っているだけの化物に……はたしてこの俺が殺しきれるかな」
身体の周囲に伸びてきた触手を掴み、手繰り寄せ、化物に自ら接近していく提督。そして腕を伸ばし、取り込まれていく。
提督「結局のところ、滅ぼすことすら貴様は“願う”だけなのだ。自らの手で成そうという気概がない。情熱がない!」
提督(だが……こいつもまた、人が生み出したもの……。
人の悪意が艦娘に伝わり、その艦娘が他の艦娘に悪意を伝え……そうして紡がれていった負の連鎖だ)
提督(これは……人間の戦いだ……。だからこいつは人の死臭を纏っている……。艦娘の想いでなく、人間の悪意を備えている……。
ここで俺が決着をつけなければならない……艦娘を巻き込むわけにはいかない……)
足柄(……ブラックホールのようだわ。自分のエネルギーが無くなるか、提督の生命の全てを奪い尽くすまで攻撃し続けるなんて)
死角から一撃、蹴りを見舞いする足柄。取り込まれつつある提督の身体を化物から強引に引き剥がし、彼を横抱きにして救い出す。
提督「バカな……足、柄……!? なぜ……? そうか、応急修理女神をくすねてきたか……」
足柄「轟沈もしていないのに深海棲艦になるなんてゴメンだわ! もっとも、女神の力でも完全に深海化を消し去ることは出来なかったようだけれど……。
アイツに触れずに倒せばいいんでしょ? そういうことは先に言って欲しいわね」
ターン、ターンとスキップのように華麗に飛び回りながら後方から伸びてくる触手をかわし続ける足柄。
提督「もういい足柄。降ろしてくれ、損傷部分は再生した……奴に俺の身体を取り込ませることで」
足柄「意識が戻ったのはついさっきだったけど……死にすぎたとか言ってたのは聞こえていたわ。貴方の肉体、不死身だけど限界はあると見たわ。
……提督に無理をされて本当に死なれたら、今度こそ勝ち筋がなくなるわ。私のためにも、もう少し自分の命を大切にしてよね」
提督「なにが勝ち筋だ。あの時逃げてさえいれば、こんなことにはならなかったものを……ばか者め」
足柄「私から言わせれば、あんな化物にたった一人で立ち向かっていくなんて貴方の方がよっぽどバカだと思うけどね。
でも……今の提督、カッコ良いわ。あれは自己犠牲じゃない、生き残る覚悟の上でああいう判断を下せるなんて驚いたわ」
足柄「だから私はここに残った。それだけの情熱と覚悟を持ったあなたが、一人ぼっちで死んでいくのは見逃せない」
足柄(それに……やっぱりあなた生き急ぎすぎだわ。抱きかかえていて感じた……生気が薄れている。
私の前では肉体の再生速度を早めてみせていたようだけど、本当はもう限界が近いって気がするわ)
提督「やれやれだな……一時の情に流されて命の危機を冒すとは愚かなやつだ」
足柄「あなたにだけは言われたくないわ、心外よ!」
提督「とまれこうまれ……もう、奴を倒す以外にお前に生き残る道はない。そして俺はお前の生命の保証をすることが出来ない。
だから覚悟を決めてくれ……俺より先に死ぬ覚悟を決めろ。俺はお前を足蹴にしてでも生き残ってみせる」
足柄(自分にそう言い聞かせてるつもりかしら? ……私が危なくなったら本当に限界が来ていたとしても捨身で助けようとするくせに)
足柄「あなたねぇ……私のことを邪魔だと思ってるでしょ。私がいなければ最悪死んでしまっても良かったなんて考えてない? 隠したってムダだわ」
ファサと髪を掻き揚げて、提督を見つめる足柄。
足柄「けれど……今だけでいいわ。今だけでいいから……私を信じて。私、足柄は絶対にあなたに勝利を導くわ」
提督「ならば……訂正しよう。そうだな……何と言うべきか……」
提督「覚悟を決めてくれ、足柄。俺と心中する覚悟を決めろ」
足柄(彼から出てくる言葉はみんな裏返しだわ。で、私がそれに気づいているって、分かっててこんなふうに言うんだもの……おかしな人ね)
足柄「いいわ……それでいい! 絶対勝って生き残るわよ? いいわね!?」
鋼片や肉の屑を撒き散らしながら、悲鳴のような嗚咽のような音をあげて倒れる化物。
負傷しながらも怯むことなく、精悍な顔つきで砲を構えている足柄。
既に再生能力をほとんど失い、ところどころ液状になりかけながらも足柄の背負った艤装に掴まっている提督。
足柄「ハァ……ハァ……ハァ……ァァ……さぁまだやる? 何度でもぶっ飛ばしてあげるわ……!」
提督「ッ……ぐ……いや、もう……終わったようだ……。もうやつが立ち上がることはない」
提督「見ろ、あの化物の力が……変換されていく。どうやらあの塔と同じように、火星へ向かっているようだ……」
足柄「それじゃ……勝ったのね!? やったわね!!」
提督「ああ、やったな……ありがとう。足柄」
足柄の背中から離れて、ヨロヨロと隣の部屋へ向かっていく。
提督「置き土産か……。俺の身体はこの塔を離れると無限に崩壊を繰り返す。再生を上回って細胞が死んでいくので、やがて完全に消滅してしまう。
だから、かつて俺たちがワープした時のような方法を使って、肉体を冷凍保存するためのシェルターを用意しておいたのだが……」
足柄「それがこれ、ってわけ……」
小部屋一体に瓦礫が散らばっていて、床の一部が凍っている。
提督「塔の中にあったものは、目的地に到着した際に生命を除いて消滅してしまう。
このシェルターをワープさせ、次にシェルター内の座標に俺をワープさせるという計画だったのだ」
提督「ただ失敗したリスクも大きかった。残念だが、かえってこれで良かったのだと考えよう。……もう一つ方法はある。最終手段だがな」
・・・・
足柄に肩を借りながら、この階層にある最奥部の部屋へと辿り着く。機械から伸びる数本のケーブルを自分の身体を取りつける提督。
提督「良かった……壊されてはいないようだな」
提督「俺という存在を0と1とのデータに変換する。肉体の死はもう免れないが、何もかも消失してしまうよりはマシだ」
足柄「……死んでしまうの? 俺と心中しろなんて言ったじゃない」
提督「肉体が死ぬだけだよ。俺の精神そのものが滅びるわけじゃあない。データに変換しておけば俺は電脳空間上で行き続けることができる。
それに、いつかはデータから可逆的に肉体を復元できるようになるかもしれない。死ぬわけではないさ」
提督「精神や脳の情報をデータに変換して、あとは火星に着いたであろう雪風や磯風に回収してもらう。人工知能のようなものになる……というところだ」
・・・・
提督「……変換に存外時間がかかるな。幸い、火星へ向かうスピードもあの塔よりだいぶ緩やかなおかげで、どうにか間に合いそうではあるが」
ベッドのような装置の上で横たわる提督。提督の情報が画面に出力されていくさまを足柄はやや放心した様子で眺めている。
足柄「データに変換されると言うのに、あなたは全然平気なのね。なんだか不思議だわ」
提督「変換と言うのは語弊があるかもな。俺の脳を読み取って、読み取ったものをデータ化しているのであって、俺自身が特にどうというわけではない」
足柄「……そういう意味じゃないわ」
提督「そうか。それより、こうして何も考えずに横たわっているのは思いのほか暇なんだ。頭の体操がてら、少し話でも聞いてくれないか。取りとめもない話だが。
100万回生きた猫、って知ってるか。昔の絵本らしい。俺は金剛から話を聞いただけだから、内容を読んだわけじゃあないんだが」
足柄「知ってるわ。子供の頃に読んだ」
提督「輪廻転生を繰り返した猫の話だ。死んでは生まれ変わり、飼い主を転々としていた猫がある時、誰の飼い猫でもない野良猫に生まれ変わった。
猫は雌の白猫と出会って、結ばれて……やがて白猫は年老いて死んでしまった。百万回生きた猫はその時生まれて初めて悲しんだ」
提督「今まで飼い主が自分の死を悲しもうが何も思わなかった猫は、白猫が死んだ時に生まれて初めて悲しんだんだ。
猫は百万回泣き続けて……やがて泣き止んだ。白猫の隣で動かなくなり、もう二度と生き返ることはなかった。……」
提督「人から聞いた話を自分なりに想起しただけだから……少々うろ覚えだったのだが。いや……俺も、その猫と同じようなものなのかもしれないなと思ったんだ。
猫は、飼い主たちが嫌いだった。野良猫になった時だって、他の猫に自分の経歴を威張り散らしていた。だが、白猫が死んで、初めて悲しんだんだ」
提督「ただ……俺は、これを悲劇の話に思わない。むしろ、猫にとって幸せだったのではないかとすら思う。うまくは言えないのだが……」
提督「俺は、もうこの肉体で雪風や磯風、皐月、響、金剛……あいつらと会えなくなるのだと思うと、少し、哀しみの念を覚える。
思えば俺も、人生で初めて今悲しいという感情を体験しているのかもしれない。別れというのは、辛いものだ」
提督「だが……別れが悲しく思えるほどに、あいつらのことも、お前のことも、大切に思えるようになった自分が、少し誇らしいのだよ」
足柄「やめてよ。そういうしんみりした話されると……泣いちゃうじゃない」 そう言って上を向くが、既に目尻が潤んでいる
提督「すまないな、お前まで悲しませようとして言ったわけじゃあないんだ……少し自分の成長が感慨深かっただけだ。また一つ、真理に近づいたと思っただけだ」
提督「それに、さっきも言ったろう。俺は死ぬわけじゃない。また会える……またいつか、きっと」
それから数十分、提督と足柄は他愛もない話を続けた。話し飽きた提督が眠りに着くと、しばらくして部屋全体が光に包まれ……足柄は気を失った。
夢を見ているかのようだ。まどろみの中にいる。ここは水の中……海、なのだろうか。
前にもこんなことがあったような気がする。前? いや、前は似ていたが違う。もっと暗く悲しい海だった。
ここも暗いことには変わりがないが、不思議と暗闇を感じさせない。何かに抱かれているような温かみと安心感がある。
何かが見える。見えると言っても、目に何かが映っているわけではない。そもそも自分には目というものがあるのかさえ分からない。
青い星から飛び立ったロケットのようなものが、赤い星に向かって飛んでいく。これは確かロケットじゃなく、塔だった気がする。
なんという名前だったかも知っていたはずだが、どうにも思い出すことができない。
そう、自分はこの塔の中にいたんだった。この塔で、おぞましい化物と対峙していた。
かつてあの青い星を支配していた存在が、感情というものを持った人間を警戒したのは、
心というのはあのような醜い姿にもなり得るということを危惧していたからじゃないかと思う。
けれど、感情そのものは、きっと素晴らしいものなのだと感じている。
自分はずっと、知性こそがこの世の全てだと思っていた。それは半分正解で、半分は間違いだ。
好悪や興味の感情が沸き起こらない時、知性は発生しない。知りたいとすら思わないから、知に辿り着くことがない。
真剣に自分の目的を果たそうと努めていない時、知性を発揮できない。真剣でないから、知を活かすことができない。
心というものに触れて、向き合って。今の自分は、前よりも完璧から離れた頼りない存在になってしまったかもしれない。
けれど、これでいいのだと思う。他人を受け止めたり、受け入れたりするということは傷つき痛みを伴う。
その痛みさえも今は愛おしいと思えるから……これでいいのだと思っている。
塔は赤い星に辿り着くと、強い光を放つ。光は星の表面を駆け巡って、海を、大地を、空を形成していく。心地よい風が吹き抜ける。
大地は緑で彩られ、海は生気に満ち溢れている。塔を動かすために糧となったものたちが、新たな生命に生まれ変わったのだろうか。
緑の上で、海の上で、なにやら楽しそうにしている子供たちがいる。すごく懐かしい気持ちがするのだが、今の自分には思い出すことができない。
・・・・
ここは誰かの夢なのだろうか。どこかで見たような光景が、断片的に繰り返されていく。
けれど、ほとんど何も思い出せなくなってきている。記憶が茫漠としている。時間が経てば経つほどに記憶が曖昧になっていく。
――ねえ。
声がする。どこから声がしているんだろう。そもそもどうやってこの音が聞こえているのだろう。耳なんてないはずなのだが。
――あなた……まだずっとこうしているつもりかしら。そろそろ限界みたいよ。
こうしているつもりと言われても、自分からこうなった覚えはない。ただ、どうにもこの状態も長くは続かないということらしい。
――思い出せないなら、私が話してあげるわ。
ああ、でもなんだかこの声は聞き覚えがある。そうだ……せっかくだし、なにか知っているようなら聞いておきたい。
まず、思い出せないことが多すぎる。どうしてこんなに記憶が薄れていくんだ? 自分の名前さえ思い出せない……。
――記憶が薄れるのは、あなたが少しずつ遠くへ向かっているからよ。あなたがこの世界にいたという証が薄れつつあるから。あなたの名前は哀。
アイ、か。生前は女性だったのか……? いや、違う気がするな。自分のことを俺と言っていたっけな……。まあそれはどうでもいい。
どうしてあんたは俺の名前を知っている……?
――そりゃあ当然よ。私はあなたが消滅する直前まで一緒にいたもの。『また会える』なんて言っていたのに、それも忘れちゃったのかしら?
そんな約束のようなことも言ったかもしれないが……すまない、まだ思い出せそうにない。
ただ、お陰で別のことを思い出した。俺には大切なものがあった。心の底から守りたいと、見守っていたいと思うものがあったんだ。
――たぶん、それは皆無事よ。あなたのおかげでね。でも……あなたがいなくて悲しんでいる人もいるわ。
そう、か。無事なら良かったが……悲しませているのか、それは残念だ。お前も、悲しいのか……?
――当たり前じゃない。もうあなたと会えないのは……悲しいわ。だからこうして話をしているの。
私の話を聞いて、思い出すのよ。自分が何者であったのかを思い出すの。思い出せば思い出すほどに、近づいてくるはずだから。
(近づいてくる?)思い出す、か。…………。そうだ、俺には大切なものの他に、憧れがあった。
知識を得ることが好きだった。知識を使うための知恵を学ぶことが好きだった。
だが……もう今となっては知識も知恵も、何も覚えてはいない。俺が今まで知ったことや経験したことは、全て無駄になってしまったのだろうか。
――そうじゃないわ。あなたの頭脳が、私や他の艦娘を救ったのよ。こうして今話を出来ているのも、あなたのおかげ。
艦娘……救う……? そうか、雪風や響は無事なんだな……。知性……そう、知性に憧れたのは、兄さんが、繋兄さんがいたからだ。
そうだ、俺の目的は、小手先の知識なんかじゃない。もっと大きな知のために動いていたんだ。今ここで全て忘れてしまってもなお、俺は真理へと向かいたい。
そう……。この世界の全てを知り尽くすまで、まだ終われないんだった。まだ、やり残したことがあったんだ。
おかげで思い出した……礼を言うぞ、足柄。
――思い出すのが遅いのよ。『死ぬわけではない』なんて言ってたくせに一人で死にかけてて。もう少しで本気であなたと心中するところだったわ。
思い出せなかったのは謝るが、意地の悪い冗談はよしてくれ。アレはだなあ……言葉通り捉えるもんじゃないぞ。
――分かってるわ。にしても……ふふふっ。初めてあなたと会った時のことを思い出したら、今こんな風に話していることがおかしいわね。
そういえば俺が初めて会って話をした艦娘はお前だったな。他のやつとも書類でのやり取りをしていたことはあったが……ああも強烈だとお前が一番印象深い。
最初に会ったのが足柄で、最後に別れたのも足柄だった……こういうやつを因縁、というのだろうか。
――運命、とかもうちょっとマシな言い方は無いのかしら。さて、もうお別れの時間だわ。私がやれることはこれでお終い。あとはあなたの意志次第。
視界が開けてきた。自分の目の前に、赤い糸が伸びている。さしずめ俺は蜘蛛の糸を差し伸べられたカンダタというところなのだろうか。
糸の先を掴んで引いてみる。ミシンのボビンのようにぐるぐると糸が俺の身体に絡みついていく。
足柄「おはよう。目は覚めたかしら?」
提督「ん……」
雪風「しれーっ!!」
ムギュと雪風が抱きついてくる。しかし様子がおかしい。明らかにでかいのだ、物理的に。
これは雪風が成長したとかそういうことではない……俺の身体が、縮んでいる!?
皐月「良かったぁ……本当に、良かった……」
皐月が涙を流しているのだが、この状況を理解することが出来ず、俺は疑問を口にせずにはいられなかった。
提督「お、おい……どういうことだこれは……説明してくれ」
提督(声が……高い! 気持ち悪いなぁ!? 子供になってしまっている!?)
響「まあまあ……こっちは随分待たされたんだ。少しぐらい再会の余韻に浸らせてくれてもいいだろう」
すりすりと頬をこすりつけてくる響。分かった……しばらくの間説明は諦めることにする。この状況を受け入れるしかないということだけは理解した。
・・・・
提督「!?!?!?!? 何を言っているんだ!? 頭がイカれているのか!? それとも俺がイカれているのか!?」
磯風「いや、彼女の話は事実だ。データに変換された君は、繋と同様に打ち捨てられた人工衛星を介してこの火星に辿り着いた。
そこまでは良かったのだが……。存在全てが電脳空間で生み出された繋と違って君は人間だ。記憶の情報や知識の情報は保存することが出来ても、肉体と魂がなかった」
繋「かつての君の肉体は……死んだ回数分魂を複製しているものと思ったが、どうにも違うらしい。数個の魂でローテーションし、死ぬたびに循環していたようだ。
というより、一つの魂を複数個に分割していたという方が近いかな。けれど、君の肉体が完全に消失してそれぞれの魂は本当に離散してしまった。
こうしてこのように君を再び蘇らせるためには、純粋な記憶だけじゃなく魂の記憶も必要だった」
繋「その、君の記憶をプライバシーの侵害にならない程度に読ませてもらったんだけれど。そう、地球上に存在する物質全てが地球の重力に導かれているのに近い。
そこの足柄さんが、最も君の魂を引き寄せやすい波長を持っていた。彼女は、行き場をなくして消滅しつつあった君の魂を自分のもとへ強引に手繰り寄せた」
足柄「そういうことよ。私に感謝なさい?」
提督「待て、精神や知識をデータに出力しただけでは足りなかったということは理解した。足柄が俺の魂を引き寄せたということも理解し難いが納得することにする。
だがこの俺の身体は一体どうしたんだ? 産んだって……どういうことだ?」
足柄「そのままの意味だけど? 写真が見たいのかしら。全部バッチリ撮ってあるわよ」
雪風「しれぇの赤ちゃんの頃、すっごく可愛かったんですよ~。今も可愛いですけどね!」
磯風「少しも泣かないから呼吸させるのに大変だったんだぞ」
提督「冗談だろ……誰か嘘だと言ってくれ……。そんなことが出来るはずがない」
ヲ級「いいや、この足柄という艦娘にはそれが出来た。恐ろしいことに彼女は私が数千年の時間をかけて体得した力の片鱗を身につけてしまった。
魂の記憶をもとに君の肉体を胎内で再構築していったのだ。壮絶な意志の炎を燃やさなければ出来ないようなことだが……彼女はやりおおせた」
提督「いや、いや、いや、いや……分からない……。とにかくこうしてお前たちと再会を果たせたのは、喜ばしいことだ。心から嬉しいと思う。
それはそうなのではあるが……。う、嘘だろう……こいつが……母親? 足柄、が……? ダメだ……脳が理解を拒んでいる……」
足柄「受け止めるのは難しいでしょうから、無理に考えなくてもいいわよ。最後に必要だったのはあなたの生きたいという意志だった。
だから……またこうして会えて、良かったわ。また生きようと思ってくれて、良かったわ」
・・・・
皐月「しれーかーん! 遊ぼっ! ポーカーはどうかな」グイグイ
文月「ダメだよぉ、司令官はこれから文月とクリオネの鑑賞会が予定があるんだからー」グイーッ
提督「おい、俺の手で綱引きするのはやめろ……。(駆逐艦の連中といると身が持たんな……)」
金剛「HEY! 提督ゥー! ちょっとこれについて聞きたいことがあるんですケド~」
提督「あぁ、例の件か。それはだな……ああっ、ちょっ……お前ら、腕が千切れる……!」
ヲ級曰く、この身体は数週間でもとの俺の体形に戻るらしい。それまではこの子供の姿で過ごさないとならないわけだが……。
この金剛のように、俺がかつて提督だった頃と同様の関係を続けている者が多いが、
見た目のせいでこのようにしばしば皐月らの遊び相手という名の玩具にされなければならなくなったのである。それもまた楽しいのではあるが。
皐月「例の件?」
提督「肉の味がする作物を作っているのだよ。まだ試作段階だが……結構イイところまで来ている。
今はまだ平和かもしれないが、俺たちがこうしてこの星で暮らしていけば、やがては地球に居た頃と同じ問題に直面することになる」
皐月「司令官はやっぱり司令官だなあ。そんな先まで見通しているなんて……。でも! それはそれ、これはこれ。今はボクたちを遊ぶのが先約だからね!」
金剛「モテモテですネー? テートクゥ? じゃ、またあとで呼びに来ますネ~♪」
提督「お、おい……待て! 金剛……俺を見捨てるのか!? く、くそぅ……分かった二人とも。ポーカーもクリオネも承った! まず引っ張るのをやめろ」
皐月「ふふ、やったね。じゃあボクが先だ!」
磯風「ご苦労だったな。なかなか君も大変だな……」
提督「ああ。ドックの建設は順調か? ヲ級や泊地水鬼みたいな生き残りは例外として、深海棲艦と戦う必要はないから工廠は必要ない。
だが……お前たち艦娘は定期的に艤装のメンテナンスを行ってやらなければならないからな。
それだけで半永久的に生き続けることが出来るというのは俺のような人間からすれば羨ましい話だが」
響「ドックの方なら順調さ。ところで司令官にはもう再生能力が無いんだったね。じゃあいつかは……」
提督「時が来れば……いずれはな。だから、この身体の寿命が来る前に、今度は本当に俺の全てを電脳空間上に出力する術を考えないとな。
お前たちだけ生きているのに、俺だけは先に死んでしまうなんて不平等だからな。まだ俺にはやりたいことがたくさんある」
響「“真理の箱庭”、か。この世の全てを再現して全知へと至ろうだなんて……全く大した御仁だよ。畏れ入る」
提督「そうだな。それもあるが……今は。お前たちの成長を見守っていたい。肉体的な成長じゃなく……お前たち艦娘の、魂の煌きに惹かれている」
響「そうかい。お、雪風……気が利くね」
雪風から手渡されたウォッカの瓶をラッパ飲みする響。提督にはオレンジジュースの入ったコップが渡される。
暁「あら、司令官はいつもコーヒーを飲んでいたと思ったけれど……」
提督「ああ。残念なことに、味覚まで子供のそれになってしまっているのだよ……トホホ」
雪風「でも、今の司令……なんだか弟みたいで面白いです」
提督「お、弟だと……。この状態でも辛うじてお前よりは背が高いのにも関わらず、弟と申すか……」
響「大差ないんじゃないか。艤装の差で雪風の方が少し高いぐらいだから、ほぼ同じだろう」
泊地水鬼「ショゲナイノ……提督……」 膝を折り畳んで提督の目線までしゃがむ
提督「気遣っているふりして遠回しにバカにするとは、やはり深海棲艦とは人類の敵だな。
そうやってわざと俺の目線に合わせて頭を撫でて……完全に子供のお守りではないか……!」
・・・・
天城「やっぱり人が集まったら鍋が一番ですね~」
飛龍「空母戦もお鍋も先手必勝! このお肉は私がもらいます!」
蒼龍「ちょっと! 後輩がいる手前でがっつかないでよ、みっともないったらぁ」
雲龍「」ゴッ バキャアッ
葛城「ああっ!? どうしてそんなに卵を割るのが絶望的に下手なのよ! 私拭くもの取ってくるわ!」
瑞鶴「提督さん、お肉ほとんど食べないで野菜ばっかり食べてるけど、平気なんですか?」
提督「いや、俺はこれでいいのだ。……やはり概ね実験は成功といったところか。食べ比べてみて、食肉と遜色ないということが分かる……」
翔鶴「提督、お豆腐がいい塩梅ですよ。どうぞ」
熱々の豆腐を箸で掴んで提督の口にそのままねじ込む翔鶴。
提督「お゛ぉッ!? あ゛っ、あひゅ……。おま、お前……あ゛っつ……あひゃぎ、赤城……水をくれ……」
赤城「ああっ、いけないわ! 提督……お水です。しっかり」
翔鶴「あら、ごめんなさい。ちょっと熱すぎましたね」
加賀「翔鶴あなた……。戦闘のことは一通り教えたつもりだったけれど、その前にまず常識を教えておくべきだったわね……」
提督「翔鶴……お前の殺意、しかと受け止めた……大したやつだよ」
翔鶴「えっ、加賀さん? 提督? ……お豆腐が美味しそうだったから食べてもらいたくて、それだけなんですって! あっ、やめっ、熱ッ!!」
・・・・
朝霜「えーっ!? まーたバイオカツかよ! たまにゃあ普通の肉がいいんだけどなー」
清霜「味はおんなじなんだけどね。やっぱり私たちカツ評論家からするとバイオカツはまだまだって感じかな」
提督「あのなぁ……バイオカツとかいう呼び方はやめろ。食い気が失せるだろう。しかし、ここの連中は本当にカツが好きだな……」
霞「あら、あなたもこのヴェアヴォルフの一門なのだからカツの舌利きぐらい出来るようになってもらわないとダメよ」
提督「いつから一門に加えられたんだよ……」
足柄「私たちは常に勝ちに貪欲なのよ! いついかなる時でも戦いに勝つ! ってね」
大淀「でも、今日のカツはなんだか優しい味ですね。美味しいです」
足柄「ふふふ……いつもの二倍増しで愛情込めて作ったから当然よ」
提督(俺はまだこいつらの領域についていけそうにない……)
かつての鎮守府を模した建物の屋上に提督は立っていた。一仕事終えた疲れを癒すため休憩していると、足柄がやってきた。空は夕焼けに包まれていた。
提督「本当に数週間したらもとに戻ったな。あのまま一生子供だったらどうしようかと肝を冷やしたが……」
足柄「それでも良かったんじゃないかしら。あれはあれで可愛げがあってよかったわよ」
提督「俺が良くないのだよ。……しかし、世話を焼かせたな。相当苦労したと聞いたよ。
本当に、こうしてお前たちと再会できたのは幸運に思っている。お前にも、感謝してもしきれないぐらい感謝している……」
提督「何か、そう、……礼を返したい。望みはあるか? なんでも叶えてやる」
足柄「いいのよ。私がそうしたかったから、あなたに会いたいと思ったからやったことだから、恩なんて感じなくていいわ」
提督「別に俺も恩情を感じて、それに報いるために礼を返したいと言っているわけではない。
そんな義務感じゃなく、……俺がしたいからさせてくれと言っているのだ」
足柄「そう。じゃあ……」
パンッ!
両手を叩くと、彼女の掌が光り輝く。光が収まると、彼女の手の中には銀の指輪が二つ。
足柄「これ、受け取ってもらえるかしら。……い、一応確認しておくけど。意味は分かるわよね?」
目を丸くしている提督。
提督「意味は分かる。分かるが……それより気になることがある。手品か、これは……? いや、違う……」
足柄「あのヲ級がやっていたような大掛かりなことは出来ないけれど……このぐらいなら容易いわ。
これも、あなたが居たから気づくことのできた、私の能力……」
足柄「もっとも、ヲ級のとも厳密には違うらしいけれど。あいつは燃料や鋼材といった資源を消費する必要がある。
けれど私にはその必要もない。よりエコというわけね。その分、強い感情を必要とするけれど」
足柄「こ、これで、分かるわよね……? あなたへ、これを渡したいと思ったから成功したのよ!?」
指輪を手に取り、自分の指ではなく足柄の薬指に嵌める提督。
足柄「えっ? あなたが嵌めるんじゃないの?」
提督「いや、何も間違っていないと思うのだが……お前の申し出を受け入れるという意味で、こうしたつもりなのだが」
微妙な沈黙が流れたあと、提督が顔を赤らめて言葉を発する。
提督「ン……いわゆるカッコカリなのか? そうか、だったら交換なんてしなくていいのか。俺が自分で嵌めて、お前も自分で嵌めればよかったのか」
足柄「んにゃ……!? あ、いや、そうじゃないです! そこまで本気なんですよね! ほ、ほら、えいっ」
気まずい空気を強引に押し込めるように提督の薬指に指輪を嵌める。
二人の左手の薬指に、おそろいの銀の指輪が淡く輝いている。
足柄「じゃ……じゃあ……。続き、よね……」
提督「儀礼的にはそうなるな」
足柄「ま、待ってね! ちょっと心の準備が……スー、ハー! スゥー……ハァー」
提督「俺も心の準備というか、確認したい。どうして俺なんだ? 俺で良かったのか……?」
足柄「え……指輪まで渡しておいて、今更そんなことを聞くの? あなた以外いるわけないじゃない」
足柄「私の力をこんなに引き出せるのも、私が……結ばれたいと思うのも……あなた以外、いるわけないじゃない。
そうでなかったら、こんなことしていないわ」
足柄「あなたのことを、心の底から愛しく思うわ。あなたのことが誰よりも素敵に見える。……惚れたのよ」
提督「そう、か。……いや。そうか」
頬を紅潮させ目を潤ませている足柄。不意に抱き締められて、唇を塞がれる。
提督「はっはっ……こういうのは普通、俺の側から言うべきだったな。言わせてすまない。少し不安だった……生まれて初めて、緊張をしていた」
提督「俺も……お前に惚れている。お前のことを、もっと知りたいと思う。こんな気持ちにさせてくれたのは……お前だけだ」
強く抱き締めあうことで、お互いの身体の震えが収まっていく。二つだった影は沈みゆく夕焼けの中で一つの大きな影へと姿を変わっていく。
提督「さて! お楽しみはこれからだ、な……俺にはまだまだやるべきことがある! こんなに嬉しいことはない。お前と共にいられるなら、なおさらだ」
足柄「お楽しみってつまり……このあとの夜のこと?」
提督「下世話なやつだな……断じてそういう意味ではないからな! 行くぞ足柄。ほら、下から雪風たちが見ているぞ。祝福されてるんだ、行ってやらないとな」
足柄「見られてたの!? 急に恥ずかしくなってきたわ。でも……こうなったら開き直って見せつけてやるしかないわね! これからよろしく! 旦那様」
これにて完結です。6レスになってしまいましたが。
まず、投下がグダグダになってしまって申し訳ありません。
今回に限らず投稿が延び延びになることが多々あり……大変申し訳なく思っております。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
めっちゃくちゃエネルギーを消耗しますが、書いてて本当に楽しかったです。完結させることが出来てよかったです。
次の100レスは……リアルがリアルなのでやらないかもです。
また今回とはテイストの違うネタはあるにはあるのですが、ちとリアルの方が時間的に微妙……。
書けそうだと確信できる環境を得たらやるかもしれませんが、そうでない限りはこのまま2か月ルールでサヨウナラということで。
何はともあれ、ご愛読ありがとうございました。愛はないかもしれませんが、とにかく読んでくれてありがとうございました! 長かった……
お久しぶりです。
みなさま勝利チョコや最新鋭チョコ、世界水準を軽く超えたチョコ、ゴーヤチョコを日々もらっていることかと思います。
多くの人は冬イベも完走しちゃったんではないでしょうか。掘りの方は頑張ってください。
あとはAndroid版がリリースされるとかVita版が発売されたりとか……最近は話題に事欠かないですね。
自分はiPhone使いでVitaも持ってないのでわりと縁遠い話ではあるのですけれども。
とまあ挨拶はこのへんで本題へ。
どうにもまたやるらしいです。懲りずにまたやるみたいです。今回はまた違った趣向で行こうかなあと。
次の部はオムニバス形式でやってみようと思います。1章あたり16レス~17レスの全6章構成になります。
なので、毎回違った艦娘やら提督やらが出てきます。前回みたく6人のヒロインの中から1人ではなく、6人それぞれとのEDがある感じですハイ。
で、前回は5レス区切りだったり、その前もたまに安価とか挟んでたりしましたが。
今回は最初にキャラを決めたら1章分そのまま始まりから終わりまで書いてしまいます。
かなり前は隔週ペースで投下とかしてたりしたんですが現状の>>1のリアルを鑑みるに無理そうなんで、だったら一月に一度ぐらいのペースでまるっと書いてしまおうかと。
ヒロインは最初に決まった時点で固定、そのため今回は好感度的な概念もありません。
またエクストラなんちゃらみたいな感じでレス数が伸びることもなく、十数レス単位で区切りながら淡々と進んでいきます。
安価が絡む要素は最初の決定段階のみ、シンプルでいいですね。ええ、シンプル。
これなら前みたくカオスなことにはならなさそうですね。イヤーソウダトイイナァ。
あの、5W1Hというのはご存知でしょうか。ご存知だと思うので説明は省きます。
"複数人がWho・What・When・Where・Why・How(必ずしもその全てではない)の部分だけを書き、
一斉に出して(あるいはそれをあらかじめ混ぜておいてランダムに引き)出来上がった文章のナンセンスさを楽しむ言葉遊び"があるんですよ。
そんな遊びはない? いやあるんですよ。Wikipediaにそう書いてあるんだからあるんです(えぇ……)。
冗談はさておき。最初の安価で舞台設定やテーマを決めてみようかなとか思いまして。
とは言っても、Why(なぜするか≒行動理由)・How(どのようにするか≒目的を果たすための手段)を安価で投げるのは難しいのでやりません。
ただ、What(何を)・When(いつ)・Where(どこで)の部分だったらわりと無茶振りが飛んできてもどうにかなるんじゃないかなと思い至りまして。
>>1は物語というものは以下の四つの軸で分類できると考えています。
・傾向
Whatにあたる部分です。その物語で行われる事象や描かれる描写の傾向。
例)アクション/バトル/恋愛/コメディ/ギャグ/ホラー/サスペンス/日常 など。
・舞台
Whereにあたる部分です。その物語が繰り広げられる場所や舞台、世界観。
例)都市/地方/異国/宇宙/SF/ファンタジー/異世界/学園/家庭 など。
・時代
Whenにあたる部分です。その物語における(読者である我々から見た時の)時代、世界観。
例)現代(近未来,遥かその先)/未来/過去(戦中,近代,中世,古代,原始) など。
・人物
Whoにあたる部分です。その物語に登場する人物や集団およびその関係。ラノベやギャルゲ的には俗に言うヒロインの属性とかもここに区分される。
例)少年少女/学生/青年/老人/貧民/王/マフィア/ヒーロー/スパイ/探偵/吸血鬼/ツンデレ/ヤンデレ など。
※ この四分類は私が適当に考えたものであって権威あるソースとか皆無です。あんま鵜呑みにはしないでください。
詳しくは次のレスで補足します。
さっきの四分類……ですね。自分で書いてていまいち要領を得ない感じで恐縮なのですが(じゃあ何で書いた)。
えと、もちろんこれらはそれぞれを単純に切り分けられるようなものではありません。
たとえば『スペースオペラ』なら未来の宇宙が舞台となるでしょう(その世界が我々のいる世界の未来やこの地球のある宇宙であるかどうかはさておき)。
『学園ラブコメ』だったら学園を舞台にしたラブコメでしょう。時代も恐らく現代かそれに近い、“学校”という概念のある世界での物語になりそうです。
学園だったら登場人物も自然と学生、あるいは教師に絞られるでしょう。
世界観によっては突然テロリストが乗り込んできたりするかもしれませんが普通はなさそうです。
そんな感じです。とりあえずなんかお題をくれればそれに沿ってみるよという提案であります。
『学園もの』とレスがつけば学園生活になりますし、『SF』とレスがつけば前の部で書いた100レスみたいな感じになるかもしれません。
(多分あそこまで風呂敷は広げませんし、似たようなものは書かないと思いますが)
『異世界ファンタジー』とかレスがついたら……異世界……だと……? まあどんなジャンルでも多分なんとかします。
『漁業系ラブコメ』とか全く専門外のレスが来ても漁業について勉強して書ける範囲で書きますよ……たぶん。
ただ、注意して欲しいのはあくまでそれっぽい感じになるだけってことです。
『ハードボイルド』と書いて必ずしもハードボイルドな内容になるかと言われたらそうでもなく、そういう雰囲気になる、ぐらいの認識でお願いします。
過度に期待されても裏切ることになってしまうと思うので、予めそこは予防線貼っておきます。あくまでナンチャッテです。
また、よく分かんないorどうでもいいやって場合は省略も可です。
Who(誰が)の部分は何気にいつもやってもらってることだったりします。
毎回安価でヒロインの艦娘を決めて、コンマの値で提督のスペックが決まってますからね。
(例によってコンマで提督のスペックが決定するのは変わりませんが、シリアス度の判定は今回なしです)
今回はそれに加えてなんかこう一味違うデレデレなヒロインが見たいとかだったらそういうのも対応するですって感じですね。
決定方法は前回までと変わるのでそこだけが大きな違いとなります。
前回まではスレが始まる直前に対象ヒロイン6名を一気に決めていました。今回は1章1人という形式を取るため、一度に全てのヒロインを決めません。
各章が始まる前に安価を募集し、その募集レスから>>+1-5の間についたレスの中で、多く名前が挙がった艦娘がヒロインになるようにしようかなと。
名前の重複が無かったり、同率一位だった場合はついたレスの中で最もコンマの値が大きかったキャラで決定とします。
コンマも被ったら? ……その時はその時で考えます。
とはいえ、いきなりそんなことを言われても結局どうすればいいんだと思うことでしょう。
次のレスでサンプルを載せときますのでふわっと、なんとなく理解していただければ幸いです。
----------------------------------------------------------------------
671 : ◆Fy7e1QFAIM [saga]:2016/02/21(日) 23:00:00.00 ID:SureNusio
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
↑『また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。』について補足です。
基本なんでもありですが以下のような例があります。
一般的な例:
アクション(バトル系,異能力,戦隊・ヒーロー,変身ヒロイン,スパイ,ヤンキー,能力バトル,吸血鬼など)/
ファンタジー(ハイファンタジー≒異世界もの,ローファンタジー≒現実寄り,ゲームファンタジー,魔法など)/
SF(スペースオペラ,サイバーパンク,ディストピア,タイムリープ,パラレルワールド,ロボットなど)/
学園(恋愛,スポーツ,学級,生徒会,部活,教師,学生など)などなど……。
ラノベや娯楽小説にありそうな要素をまとめてみましたが、>>1はほとんどラノベというものを読んだことがない人なのでちゃんとしたものが書けるかどうかは怪しいです。
あくまで上記は一例なので好きに書いてもらって構いませんし、よく分かんなかったら省略してもいいです。
また、これは艦これの二次創作であるため、安価の内容には従いつつも極力艦これの世界観に合わせていくつもりです。
(>>1の予測すらも凌駕するぶっ飛んだオーダーが来なければの話……まあそうなったらそうなったで面白いのでなんとかしますが)
672 : 以下、名無し(ry [sage]:2016/02/21(日) 23:10:00.12 ID:sn0wst0rm
多摩
[When]未来
[Where]都市
[What]サイバーパンク
↑
こんな感じでやる想定ですが、必ずしも[When]とかやる必要はないです(先述の通り切り離しが難しいジャンルもありますし)。
分かりやすいようにこうしているだけで、フォーマットとかはありません。自由な発想にお任せします。
673 : 以下(ry [sage]:2016/02/21(日) 23:20:00.50 ID:3werewolf
榛名
674 : (ry [sage]:2016/02/21(日) 23:30:00.84 ID:xPHOENIXx
阿賀野
[What]能力バトル
↑
上のレスみたく全部指定する必要はなく、舞台だけとか時代だけとか作品の傾向だけとか、そういう感じでもオッケーです。
675 : (ry [sage]:2016/02/21(日) 23:40:00.11 ID:burnLove1
山雲
676 : (ry [sage]:2016/02/21(日) 23:50:00.63 ID:May/46497
Z3
[Where]南国(リゾート地)
----------------------------------------------------------------------
たとえば上記の例だと
コンマの値が最も高かった阿賀野がメインヒロインになります。
で、未来都市の南国のリゾート地でサイバーパンク的能力バトルのお話になるわけです。
???
まあ、ものの例えなんで……だいたいこういう感じになるよというイメージです。
なんとなく伝わってもらえれば幸いですし、例によってキャラ名だけ書いてもOKです。
気負わずゆる~い感じで適当に書いてしまえばいいと思います。
※ 上記のキャラ・お題の例は>>1が自作したおみくじ的アイテムによって決定したものなんで、
こういう流れになることを期待して書いたものではありませんと注釈しておきます。
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
瑞鳳
お、揃いましたね。ホッとしました。
特に設定周りの指定はないんで普通に艦これの設定準拠でいきます(と言っても>>1の主観というノイズが混ざるのでアテにはなりませんが)。
>>675より瑞鳳が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:25(ヘタレ)
知性:41(中の下~中)
魅力:61(やや魅力的)
仁徳:38(あまりない)
幸運:46(人並み)
まだ何も書いてないのであれですが、一ヶ月後ぐらいには16レス分投下されてると思います(願望)。
ではしばしお待ちくだされ・・・。
セルフ保守兼予告です
3/27(日)に投稿できたらと思っていますが、ダメだったらごめんなさい
(ダメでもダメなりに3/27に出来てる範囲まで投下しようかなと考えてます)
//// チラシの裏 ////
世間一般では卒業シーズンですが、自分の場合は年度末の諸々な案件に追われてましてね……いやまあそんな話しても面白くないのでそれはそれとして。
艦これやる時間もあまり取れず遠征しか回せてなくて資源がモリモリ貯まってます。鋼材以外の資源が10万超えたのひょっとして初めてかも。
今後の安価に影響しちゃうんであんまりこういうの書くのよくないかなと思いつつもちょっとだけ艦これに関する私見を書いてしまうと……。
バレンタインの追加ボイスといいホワイトデーといい初雪アツくないすか?
あれだけボイス追加されてる中でのバレンタインデーの初雪のいじらしさといい、それを踏まえてのホワイトデーもアツいですよね。
今一番艦これでキてるんじゃないかな、甲勲章5個持ってる私が言うんで間違いないかと(え
ごめんなさい余計なことを書きました。チラシの裏なので忘れてください
柱島は狭い。面積はおよそ3.12平方キロメートルで、一時間も歩けば島の外れまで辿り着いてしまう。
島の外れに島尻の浜という砂浜があり、そこで和服を着た見知らぬ男が一人。
すまし顔で夕陽を眺めながら金管楽器を吹いている。緑がかった黒髪の若い青年だ。
瑞鳳は草葉の陰から彼を観察していた。
瑞鳳「……? あの人、何者……?」
当然、艦娘瑞鳳はこの男のことが気になった。漁船すらほとんど近寄らないこの島に、客人が来ることなど考えにくい。
ここ柱島は今や海軍関係者しか立ち寄ることのない島であり、艦娘を含めても総人口は百人に満たない。
そんな柱島に、舞鶴の温泉宿からそのまま抜け出してきたような格好の男がいれば目立つのも無理はない。
ゆえに、彼を最初に見た瑞鳳から出た一言は『誰?』でなく『何者?』という言葉であった。
??「僻地と聞いていたが……海も清んでいるし、何より人が少ない。良いところだね」
瑞鳳の存在に気づいた男は演奏をやめ、防波堤の傍に置いていた荷物の方へ歩み寄る。
トロンボーンをケースへしまおうとしているようだ。
??「きみ、中学生かな? 僕に何か用かい」
楽器の手入れをしながら、瑞鳳に話しかける男。
瑞鳳「ちゅ、中学生!? 違います! 私は……ず」
艦娘である自分の名を、目の前の見ず知らずの男性に名乗っていいか躊躇い言葉に詰まる瑞鳳。
手入れを終え荷物をまとめると、男は握手しようと瑞鳳に手を差し出す。
??「僕は乙川 奏(オトカワ カナデ)。ちょっとワケあってこの島に世話になることになったんだ。よろしくね」
瑞鳳「はい、よろしく……って」
彼の手を取る瑞鳳、その名前を聞いて目を丸くする。
瑞鳳「!? じゃあ、あなたが新しく来たっていう提督……?」
提督「おや。艦娘だったのか、きみ。名前は?」
瑞鳳「瑞鳳です。って……輸送船が着港した昼からずっと探してたんですよ!? どこに居たんですか今まで!?」
提督「瑞鳳か。聞いたことあるなぁ……何年か前の観艦式で見かけたことがあるかもしれないな……」
彼女の名前を聞いた途端顎に手を当てて考える仕草をする提督。『瑞鳳です』から先は聞き流したようだった。
提督「まあいいや、艦娘なんだっけ。よろしくね。そろそろ散歩も飽きてきたし、案内頼むよ」
瑞鳳(マイペースな人だな……こんな人が提督で大丈夫かなあ)
・・・・
柱島泊地――柱島から続く海底トンネルを経由して車で十数分の位置にある、海上に建てられた小規模な日本海軍の拠点だ。
規模からして海軍要港部と呼んだ方が相応しい小さな施設だが、通俗的に鎮守府と呼ばれている。
瑞鳳に急かされて、柱島港に停めてあったワゴン車に半ば無理矢理乗せられる提督。
提督「鎮守府ってこの島の中にあるもんじゃないんだね。どおりでこじんまりしてるなと思ったよ。あ、僕運転できないから」
運転席に座りハンドルを握っておいてこの一言。呆れる瑞鳳。
瑞鳳「え、え~……先に言ってくださいよ!」
提督「君が運転すればいいじゃないのさ」
瑞鳳「私も出来ないから困ってるんですよっ! あっ、もうこんな時間!」
ポケットから取り出した懐中時計を見やると、何やら慌て始める瑞鳳。
バタンと運転席の扉を開け、小さくジャンプして提督に抱きかかり、腰に手を回してそのまま持ち上げる。
提督「!?」
神輿のように担ぎ上げられる提督。体格差からしてかなり無理のある絵面なのだが、瑞鳳はまるで負担に感じていない様子だった。
提督を持ち上げる労力などよりも、時間が押していることを気にしているらしい。
瑞鳳「走って間に合うかなぁ……急がなきゃ!」
提督「急がなきゃ……じゃ、なく、て……アッ……」
担ぎ上げた状態で走り続けるのは難しいようで、じょじょに提督を固定する腕の位置が彼の首元と腹部に移動していく。
プロレスで使用される技の一つ、バックブリーカーに近い体勢で運搬される提督。
華奢な体格の提督がこの無自覚な暴力に耐えられるはずもなく、わずか数分で意識を飛ばしてしまう。
瑞鳳「軽空母! 瑞鳳! 戻りました!」
瑞鶴「お疲れー、随分遅かったわね。おっ、誰その男の人。彼氏でもできたんですか?」
瑞鳳「なわけないでしょ」
ソファに腰かけて足を組んでいる、ややだらしない彼女は瑞鶴。その隣で手を両膝の上に置いてちょこんと座っているのが秋月だ。
瑞鶴の呑気な問いかけを無視し、ぐったりしている提督を椅子の上に座らせる。
秋月「この人が乙川司令……?」
瑞鳳「そうそう、島の外れまで散歩してたんですって! せっかく色々教えてあげるつもりだったのに……今日はもう時間ないわね」
提督(うぅ……艦娘というのはおっかないな。いきなり殺されかけるとは……)
提督「ところで、やけに急いでいたけれど。これから何かあるのかい?」
瑞鳳「鍵閉めですよ。各施設の見回りをして、それぞれの部屋の戸締まりと点検をします」
提督「でも、ここって軍の施設だよね。閉鎖してるなんてことがあっていいのかい?」
瑞鳳「遠征部隊が長旅から帰ってくる時とか作戦発令時とかは夜に人が居ることもありますけど……普段は9時5時ですねー」
提督(17時になったら業務終了って随分と緩いんだな……)
秋月「24時間体制で警備し続けるための人員が足りてないんです」
瑞鶴「ま、そこまでする必要がないぐらい後衛だからお役所仕事でも問題ないってことだけどね」
提督「そう……あ、自己紹介。ぼくは乙川奏。ちょっとワケあって島流しの憂き目に遭ってしまってね。
半年間の刑期が終わるまではここで暮らさせてもらうよ。まあよろしく」
瑞鶴「刑期って……面白い冗談ね。私は瑞鶴、こっちは秋月です。よろしくね、提督さん」
秋月「よろしくお願いします!」
瑞鳳(この島に来たのって、左遷だったりするのかな……?)
・・・・
秋月が運転する車の後部座席で対話する提督と瑞鳳。
秋月の趣味か、車内のスピーカーからはテンポの速いユーロビートが流れている。
彼女たちの乗る車の先には瑞鶴の車が走っている。
提督「しかし……瑞鳳といい秋月といい、見た目だけなら義務教育さえ終えてなさそうなもんだけどねぇ……。
車が運転できるなんて大人の僕よりすごいじゃない、関心したよ」
瑞鳳(あれ……別の鎮守府で提督をやっていたならいちいちそんなことで驚いたりはしないはずよね。ってことは新人か)
秋月「艦娘は人間と違って肉体的な歳を取らないんですよ、艦ですからね。練度を上げて改造すれば見た目が変わることもありますけど……」
提督「練度ってのはつまり……レベルが上がると進化する、みたいな概念なのかな? ゲームみたいだね」
瑞鳳「演習や出撃で戦闘を経験すると、少しずつ艦娘は強くなっていくの。戦闘で傷ついた艦娘は入渠して回復するのよ」
提督「ふむふむ。そういえば意外と設備はしっかりしていたよねあの鎮守府。小さいとはいえ工廠や船渠なんかもあったし」
瑞鳳「鎮守府の中では一番新しく出来たところだから、規模が小さいだけで機材自体は最新鋭なのよ!」
やや自慢げに話す瑞鳳。
・・・・
柱島港の駐車場で秋月と別れる提督と瑞鳳。
先ほど乗ろうとしていたワゴン車から自分の荷物を取り出し、ガラガラとスーツケースを引く提督。
瑞鳳「提督のおうちまで案内しますね」
提督「うーん、よく知らないけど普通さ……寮とかあるもんじゃないの? 秋月や瑞鶴も自分の家があるって言ってたけど……」
瑞鳳「昔、深海棲艦の攻勢が今よりも激しかった頃に住民の半数は本島に避難したんですけど……幸いこの島は被害を受けなかったんです。
それからしばらくして柱島に拠点を作ろうって話が挙がって、その流れで島にあった空き家はほとんど軍が買い取ったんですよ」
瑞鳳「それを私たち艦娘や妖精たちがせっせとリフォームして今に至るってわけです」
提督「あ。それじゃあ、外食とかも当然無いってことだよね……? コンビニも?」
瑞鳳「個人経営の商店はあるけど、そのぐらいかなー。一通りの食材は売ってますよ」
提督「僕はどうやらこの島で飢え死する運命にあるらしいな……料理、できないんだよ」
瑞鳳「うーん……困りましたね。じゃあ今日は私の家に来ませんか? 晩ご飯、ご馳走しますよ?」
提督「ありがとう、頼むよ(今日に限らず出来れば毎日作ってもらいたいのだけど……)」
瑞鳳「いつも通りの献立で悪いんだけど……めしあがれっ」
卓上に並べられたのは玉子焼き、親子丼、玉子とじの味噌汁、温泉卵を混ぜたポテトサラダ。
提督「(妙に玉子を推すんだな……)いただきまーす」
玉子焼きに箸を伸ばし、口の中へ運ぶ提督。咀嚼し、舌で味わい、飲み込む。
笑みを浮かべ、瑞鳳の方を見やる。
提督「おいしい! すごくおいしいよ」
瑞鳳「本当!? 良かったです~。個人的には玉子焼きは甘い方が好みなんですよね~。提督のおうちでもそうだったんですか?」
提督「いや……なんと言ったらいいか。子供の頃から出来合いのものばかり食べていたから、家庭の味という感覚がないんだよね」
瑞鳳「(なんかあまり触れちゃいけない感じだったかな……?)あっ、そうだ。テレビでも見ましょう」
リモコンに手を伸ばす瑞鳳を見て何か言いたげな提督だったが、口を開くことはなかった。
30インチほどの、平均的な大きさの液晶テレビにバラエティ番組が映し出される。
瑞鳳は番組の合間合間にあははと小さな笑い声を上げていたが、提督は終始白けた表情をしていた。
・・・・
空になった食器を台所まで運ぶ提督。瑞鳳はまだ食事中で、テレビに夢中な様子だ。
瑞鳳の座る椅子の背もたれに肘かけて話しかける提督。
提督「ごちそうさま、美味しかったよ。本当に美味しかった」
瑞鳳「えへへ、そんなに何度も褒められたら照れますよ」
提督「それで、君からしたら迷惑な話なんだろうけど……明日から毎日、僕のために料理を作って欲しいんだ」
テレビから注目をこちらへ向けるように、瑞鳳の耳元で囁く提督。
数秒固まり、頭上に!マークを浮かべる瑞鳳。頬が赤らむ。
瑞鳳「ええ!? それってつまり……プロポーズ!?」
提督「? きみ……どうして今のでそう解釈できるんだい? よく知らないけど、テレビの中での“お約束”ってやつ?」
提督「僕、料理出来ないからさ。もし君が良かったらお願い出来ないかなって話。嫌だったかな?」
瑞鳳「え? え? いや、良いですよ……」
瑞鳳(なんだ、早とちりか……。でも、無防備だったから、少し、ドキドキしてるかも……)
提督「それからさ。食事中にテレビ見るの、やめにしない?
僕あんまりテレビ見ないから流行とかよく分かんないし、それに、たぶん君と話してる方が楽しいと思うんだ」
・・・・
提督と別れた後、瑞鳳は風呂に入ることにした。
脱衣所へ向かい、手早く服を脱ぎ、脱いだ服を畳んでシャワーを浴びる。
瑞鳳「はぁ~、今日はなんだか疲れたなー」
瑞鳳(提督……変わった人だったけど、ちょっとカッコ良かったかも? ……私、ヘンな子に思われてないかなあ)
瑞鳳(でも、料理喜んでくれてたし、そんなに悪くは思われてないはずよね)
メレンゲのように泡立てたシャンプーで髪の地肌を優しく包んでいく。
シャボン玉がふわふわと宙を舞う。目の前に浮かび上がる泡にふうと息を吐きかけ、遠くへ飛ばす。
瑞鳳(テレビ見ないとか、子供の頃から一人でご飯を食べていたとか、だいぶ変わった人だよね。なんかワケありなのかな……)
・・・・
提督「おはよう。今日も一日よろしくね」
自宅に訪れた提督の応対をする瑞鳳。
正方形の木製テーブルの上に皿を並べていく瑞鳳と、彼女の姿を見よう見まねで箸や小皿の用意をする提督。
紅鮭の塩焼きに白米、それから落とし卵の味噌汁、炒り玉子を混ぜたほうれん草のおひたし、目玉焼き。
席に着いて、机上に並ぶ椀や皿を眺め満足げに頷く提督。
提督「美味しそうだね。いただきまーす」
瑞鳳「いただきまーす。……提督? その格好どうしたんですか。軍服はありませんでしたか?」
箸を進めながら、提督の衣装について訊ねる瑞鳳。彼は濃紫色の着物姿だった。
着物といっても瑞鳳が知るような晴れ着ではなく、羽織って胴体部分を帯で締めただけの簡単な着つけで、袖丈も裾も短めの動きやすそうな格好だ。
カジュアルだがこじゃれている、飄々とした彼に似つかわしい衣装だったが、その格好はどう見てもこれから鎮守府へ向かう衣装とは思えなかった。
提督「軍服? 家には無かったから普段着を着ているよ」
瑞鳳「あれれ……用意し忘れてましたか。鎮守府にはあるはずなので、着いたら着替えましょうね」
提督「わざわざ着替えなおすのは手間だなぁ……。このままじゃダメかい?」
瑞鳳「ダメダメ、そんなんじゃ部下に示しがつきませんよ」
提督「部下に示し、かぁ~……。でも、僕がここにいるのは半年間だけだよ?
むしろ『あんなダメな奴が提督だった』ってなる方が次に来た提督にとって好条件じゃないかなー」
提督「事実、僕はこの鎮守府に来る際に提督としての一切の義務を果たさない良いって言われてるんだ。つまり任務も何もこなさなくてもいいってこと。
全ては僕の自由意志に任されているということで、そういう取り決めのもと僕はここに来た」
瑞鳳「それってどういうことですか……? 仕事しなくてもいいって……そんなことあるの?」
提督「さあてね。上のお偉いサンがどういう考えなのかは分からないけれど……。
そういうわけだから僕も余計なことはせず、平和な日常を享受させてもらおうかなと」
瑞鳳(どういうこと……? いきなり提督を任されるなんて、士官学校で首席だったとかなのかな?
でもあんまりやる気はなさそう……。ひょっとしてすごく偉い人のご子息だったりするのかな!?)
瑞鳳(で、でも、それとこれとは別よね。生まれが偉いからって仕事しなくていいなんて、そんなのおかしいわ)
考え込む瑞鳳を見て、一体何を思案しているのだろうと疑問に思う提督。突然身を乗り出してガシッと提督の両手を掴む瑞鳳。頭の中で結論が出たらしい。
瑞鳳(つまり! この人を一人前の提督に仕立て上げろというのが私たちに課せられたミッションなのね……!?)
瑞鳳「分かりました! 提督、一緒に頑張りましょ?」
提督「……?」
・・・・
瑞鶴の車で鎮守府に着いた二人。施設の開錠作業を終え、執務室で瑞鳳から手ほどきを受けている提督。
提督(色々説明されても正直よく分かんないなあ……ま、なんか張り切ってるみたいだし適当に話を合わせておこうか)
提督「それじゃあまず、どうすればいい? 言われた通りにすればいいんだろう」
何かを閃いたのか、部屋の端に置いてあるホワイトボードを取り出して、キュッキュッと絵を描き始める瑞鳳。
提督「これは、ドラム缶と延べ棒と……石……? よく知らないけど、これが噂の詫び石とかいう」
瑞鳳「違います! えっと、これが燃料で、これが弾薬、こっちが鋼材・ボーキサイトのつもりで描きました。
艦娘を運用するには、資材が必要です。戦闘や入渠の際にこれらを消費します!」
提督「えっーと、出撃で負ったダメージは入渠させることで回復できるって話だよね」
瑞鳳「そうです! まず、深海棲艦を倒すために、海を進む必要があります(当たり前ですけど)。ここで燃料を消費します。
で、深海棲艦との戦闘で弾薬を消費します。帰ってきて入渠するために、燃料と鋼材を消費します。再び出撃するために燃料と弾薬を補給します」
『出撃』→『戦闘』→『入渠』→『補給』→『出撃』→……というループを意味する円形の図を描く瑞鳳。
提督「深海棲艦と戦うために弾薬が必要、入渠で回復するために鋼材が必要、燃料はどの工程でも基本必要……って感じなんだねー」
瑞鳳「そう。で、このボーキサイトは……戦闘で消耗した艦載機の補充を行うために必要なの。艦載機っていうのは空母のメインウェポンです!
制空権を確保して戦闘を有利に運ぶためには、私たち空母が繰り出す艦載機が必須となるんです! 制空権というのは~……。って……」
艦載機の絵を描いて説明を進める瑞鳳を尻目に、そっぽ向いて秋晴れの空に浮かぶいわし雲の流れを目で追っている提督。
提督「ええ? ああ、聞いてる聞いてる。なんだっけ? 前・下・斜め前にレバーを倒すやつみたいなのがあるんだってね。
えと……セイクーケン? それをマスターするととにかく良い感じとかそういう話だよね」
黙り込んでじとーっとした目で提督を見つめる瑞鳳。はにかみながら見つめ返す提督。
提督「ごめんごめん。少しボーッとしててね……すぐ完璧にこなせるようになれるほど優秀な人間じゃないけどさ。瑞鳳と一緒に一つ一つ勉強していきたいんだ」
瑞鳳(ちょ……そんなに真っ直ぐな眼で見られたら……)キュン
数秒硬直し、ブンブンと頭を振って我に返ろうとする瑞鳳。
瑞鳳「そ、そうかもね。あんまり一度に詰め込んでも大変か……。じゃあ、そうねえ……」
瑞鳳「さっきも言った通り、資材の管理は私たち艦娘を運用する提督にとって重要な仕事の一つと言えるの。
何度も艦娘を出撃させたり、無理な建造を行ったりしなければある程度は資材が補充されていくんだけど……」
瑞鳳「それだけじゃ艦隊を補強していったり、大規模な作戦に立ち向かうためには全然足りないの」
提督(どうして艦隊を強化したり大規模作戦に挑んだりする前提で話が進んでいるんだ……?)
瑞鳳「資材を得る方法は大きく分けて二つ! 艦娘を遠征に出すか、遠征や作戦などをこなして任務を消化するか、ね。
もっとも、出撃中に獲得できることもあるから、補給に必要な資材が少なくて済む潜水艦を酷使して資材を拾ってこさせるなんて裏技もあるけど……」
提督(サラッとえげつないこと言ってない……?)
瑞鳳「まずは任務を一つやってみましょうか。簡単な任務です」
ビシッと右手の人差し指を立てて提督を先導する瑞鳳。別室に案内するつもりのようだ。
えと……今回は体験版ということでこの辺で区切らせていただけないでしょうか。
もちろんこの先も書けてはいるのですが、完結まではどうにもあと1~2週間ほどかかりそうでして……。
大変申し訳ないのですがもう少々お待ちいただきたく……。
//// 第一章雑記 ////
残りは11レスなんで、今日投下した分は起承転結でいう起ってとこですかね。
なんか承が膨れ上がっててガッツリ削らないといけなかったり結が出来てなかったりと待たせておいて色々あれな有様なんですが……。
そもそも書く時間が……まあそれは言い訳にしかならないか。
チャラい主人公(?)とチョロいヒロインのやや甘めな感じになるかもしれないし、
そういう風に見せておきながらいきなり裏切ったりするかもしれませんが、まあ大体そんな感じです(どういうことだ)。
前の部とはテイストが違ってこういうのもなかなか書いてて楽しいですね……遅筆なのをなんとかしたいところですが。
出先からの投稿だったんでトリップ間違えてますが本人です。
なにげに投稿時間がゾロ目ですね。だから何って話でもないですが
提督「任務……だよね。引越屋のバイトじゃなくて。ベルトコンベアとかないの?」
提督と瑞鳳は両腕に抱えた山積みのダンボール箱を運んでいる。
瑞鳳「横須賀とか呉とか大きい鎮守府ならベルトコンベアで楽々運べるんですけどね……。でもほら、職人の技ってあるじゃないですか」
提督「この運んでくる工程もまた職人の技か~」 あえてつっこまない提督
物陰から薄緑色の髪をしたヘルメット帽の妖精がぴょこりと飛び出てくる。
その身に不釣合いな怪力を発揮して弾薬の束やボーキサイトの塊をダンボールごと溶鉱炉にぶん投げていく。
炉の中からてれれれ~んと気の抜けた音が鳴ると、取り出し口からペンギンめいた生き物とリボンをつけたわたあめのような生き物が這い出てくる。
瑞鳳「失敗しちゃいましたね……」
提督「色々言いたいことはあるけども……なにこれ」
モゾモゾと蠢くわたあめ(?)とペンギンを空のダンボール箱の中に詰め込むと、妖精はどこかへ立ち去ってしまった。
瑞鳳「謎です」
提督「謎」
瑞鳳「今回は失敗しちゃいましたけど……これで任務『新装備「開発」指令』達成です! おめでとうございます!
これで燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトが各40単位支給されます」
提督「待てよ……さっき20/60/10/110消費して、得たのが各40だと弾薬やボーキサイトは赤字じゃないか……?」
瑞鳳「一回で得られる任務の報酬はこんなものですよ。もし消費する資材を浮かしたかったら10/10/10/10の最低値で回すのもアリかもね。
まあ、その分出てくる装備もしょぼいですけど……では気を取り直して、次は建造です!」
・・・・
建造を一回、開発を三回行った後、瑞鳳は用があると言って工廠を離れていった。
提督は瑞鳳が居なくなると安堵して休憩、これ幸いと楽器を取り出し、工廠で一人トロンボーンを吹いていた。
秋月「あ、あの……提督? 瑞鳳さんから頼まれて来ました。建造の任務に付き添うようにって」
提督が一曲演奏し終わったであろうタイミングで声をかける秋月。
提督「今の演奏……どうだった? ユーロビートとか聴いてるイマドキの子にはちょっとテンポが遅かったかな?」
秋月「(ユーロビートはイマドキというには古すぎるような……?)途中からしか聴けなかったんですけど、とても良かったです!
まるで嵐の中に居るかのように力強く荒々しく、でもそれが落ち着くと希望に満ちた明るい展開になって……素敵な演奏でした」
提督「おっ、良い感性してるね。さっきのはノアの方舟という曲名でね。ベルギーの作曲家ベルト・アッペルモントが1998年に作った曲なんだ。
君が聞いてたのは第三楽章の嵐、そして第四楽章の希望の歌という部分だね。つまり音だけ聴いて副題を言い当てたわけだ。これはすごいことだよ」
秋月「いえ、この曲そのものの出来や提督の演奏の腕前がそれを想起させたというだけで、私は別に……」
提督「またまたご謙遜を。じゃ、せっかく人がいるんだしちょいと趣向を変えてこういうのはどうかな? 知ってるかどうか分からないけど」
とある曲のイントロの一部分を吹いてみせる提督。
秋月「源氏の鎧盗むために結構リセットしましたね」
提督「むごい……ま、知ってるみたいならこれで行こうかな。さすがに最初のアルペジオ地帯は勘弁して欲しいけれども」
秋月「アルペジオ……?」
提督「ああ、和音……うーん、まあ、イイカンジの音をこうやってだね」
提督がトロンボーンを吹くと、奏でられるメロディが階段状に波打つように遷移していく。
提督「ふぅ……順番に鳴らしていく技法をアルペジオって言うんだよ。ユーロビートにもあるだろう? テレレレレ……みたいな」
秋月「ああ、あれですね。でも、勘弁して欲しいって言っておきながら出来てるじゃないですか」
提督「いやいやいやいや……速い音楽に慣れてる君はそう思うかもしれないけど、トロンボーンであの速さを吹くのは人間業じゃあないよ。
ちょっとテンポを落としてアレンジするんだよ。こんな風にね」
ゲーム音楽である原曲の要素を引き継ぎつつも、ジャズを彷彿とさせるリズムや響きに変えながら即興で演奏を始める提督。
彼の表情は、平時に見せる昼行灯からは想像もつかないほど生き生きしていて、天真爛漫な子供のようだと秋月は思った。
演奏に合わせて自然に身体が動いている様子の秋月を見て、一つ提案をする提督。
提督「ん、そうだ。ちょっとリズムを叩いてみない? カホンっていう楽器があるんだけどね。こんな風に跨って、叩いて音を鳴らすんだよ」
誰かが片付け忘れたのか、付近に都合良く置いてあった木箱を持ち出して秋月に座らせる。
秋月「こう……ですか? でも、私楽器なんかやったこと……」
提督「音楽でも人生でも、最も大事なことは楽しむことさ。君には音を楽しむセンスがある。
ジャズのリズムは慣れない人には難しいかもだから、最初のうちは手数で攻めるといい。
思うがままに叩きまくってればその内イロハが分かってくるさ」
結局二人は瑞鳳が戻ってくるまで任務のことを忘れて演奏にふけっていたのであった。
提督と会話していた時の緩んだ表情とは一転、凛とした顔つきの瑞鳳。
瑞鳳の視線の先には、その小柄な身に不釣合いな大弓を構える少女、大鳳であった。
ここは鎮守府内の射場である。瑞鳳はここで訓練を行うのが日課であったが、今日は自己鍛錬のために訪れたのではなかった。
長い長い深呼吸の後、十分に引かれた弦からするりと放たれていく矢。
シュッと空を切る音。三十三間離れた先の的の中央に突き刺さる。
また深く息を吸い込む大鳳。そして吐き出す。足を戻して構えを解き、一秒間沈黙する。
瑞鳳「見事な腕前ね。噂に違わぬ正確さと集中力。ひょっとしたら私の方が教わることは多いかもしれないわね……」
装甲空母である彼女の堅固さを体現したかのような、鋭く精密な一射を称賛する瑞鳳。
瑞鳳「安定して必殺の一撃が狙えることは大事なことだわ。窮地を切り抜けるのに必要な力だし、何より全ての基本よ」
大鳳「えへへ……褒めすぎですよ。今見ていただいた通り、私の一射には時間がかかり過ぎですもの」
正規空母や軽空母のほとんどは弓を武器としている。弓を使って艦載機を勢いよく射出するのだ。
弓を用いる艦娘の戦闘スタイルは二種類に大別される。一つは『質』に特化した精度重視の戦い方だ。
空戦戦力が拮抗している場合、つまり、量が同程度である場合に戦いの趨勢を決定付けるのは質だからである。
主に艦載機の搭載数が少ない艦娘が用いる戦法で、守勢に強いという特長を持っている。
大鳳「うーん、空母戦は先手必勝ですからね……。私はどうにも物量で押す戦い方が苦手なようで」
大鳳が実戦で求められている役割は、彼女が得意とする戦い方とは逆であった。それは、質ではなく『数』をもって敵を圧倒する戦法。
速射による手数で空を支配し、敵艦隊めがけて奇襲を仕掛けることができるのが特長だ。
大鳳は艦載機の搭載数が多いわりに攻めに転じた際の戦果が乏しく、そのことで悩んでいた。
瑞鳳「でも、だったら瑞鶴に稽古をつけて貰えば良いんじゃないの? わざわざ私に教えを乞うこともないような……」
瑞鶴は速射の達人であった。また、彼女が得意とするアウトレンジ戦法――敵の射程外から一方的に猛攻を仕掛ける戦い方とも相性が良かった。
もちろん、この手数を重視した戦い方は前者の戦い方よりも艦載機の損耗が激しく、また命中率や精度も下がるため、常に最良の戦術であるとは言えない。
しかし、物量によって制空権を確保し機先を制するという思想が多くの提督や艦娘が考える海戦の基本にあった。
大鳳「自分なりに色々思うところがありまして……。そう、空母の使命は艦載機の物量によって制空権を確保すること。
砲戦でも敵の攻撃を受けることなく味方艦隊を補助し、粛々と敵艦の掃討に当たるべき……でもそれは理想論」
大鳳「敵の艦載機の性能はこちらよりも勝っています。制空権を確保できるよう策を練るのが常道ですが、時には物量で負けることもありましょう。
まぁ……私は軍の中では希少な装甲空母なので、基本的に勝ち戦や作戦の後詰めでしか駆り出されないのですけれども。
それでも、万事が想定通りというようには行きません。不測の事態に備えた戦い方も意識しておくべきだと思うのです」
瑞鳳(うーん、大規模作戦の緒戦や敗戦処理にしかお呼ばれしない私からすると羨ましいもんだわね……)
大鳳「で。そういう話を瑞鶴さんにしたら、瑞鳳さんを紹介してもらいまして。
なんでも『自分が最も尊敬する艦娘の一人』『空母のうちでも最も攻守の均衡が取れている』だそうで……」
瑞鳳「うえぇ……あの子そんなこと言う子だったっけ……やたらハードル上げてくるわね……」
・・・・
大鳳「すごい……弓術と陰陽術を組み合わせた戦い方なんて……!」
鎮守府近海。海面をスキップするように小さくジャンプしながら演習用の的を次々打ち落としていく瑞鳳。
弓から放たれる精密射撃と、式神から具現化された艦載機による援護攻撃の組み合わせで的をあっという間に全滅させてしまう。
瑞鳳「陰陽術と言っても、エセだけどね。龍驤とか飛鷹とか、あの辺の本家の技には敵わないわ。ホントは巻物とか勾玉とか要るし……」
瑞鳳の言う龍驤・飛鷹とは、かつて彼女と戦場を共にした軽空母の名である。
軽空母の中では珍しく、両名とも弓術ではなく陰陽術によって艦載機を繰り出して戦う形態を取っている。
大鳳「でも……こんなに戦い方をする空母が居るなんて聞いたことがありませんでした。技巧もさることながら、こんなに軽快に動き回るなんて……」
瑞鳳「あなたと入れ替わりで舞鶴に行った私の姉妹艦、祥鳳も式神をサブウェポンとして戦うわ。まあ祥鳳は祥鳳で私とは得意不得意が違うけど……」
瑞鳳「軽空母の脆い装甲で、空の脅威から味方を守りつつ、敵を攻める……となるとこうならざるを得なかったってだけで。
まあ適応進化みたいなもんよねぇ……他の空母からはよく器用貧乏だなんて言われるけど」
大鳳「いえ、器用貧乏だなんてそんな! 『自分の身を守る』『敵艦載機を撃墜する』『敵艦を攻撃する』……瑞鶴さんが貴方を紹介した理由が分かりました。
これこそ私の理想とする戦い方です! 私もあんな風に身軽に立ち回れたらいいな……!」
瑞鳳「言っておくけど、これはどんな時でも通用する無敵の戦い方じゃないわ。本当に大事なのはその時その時に会った戦況に応じた戦法を取ること。
オールラウンダーにはオールラウンダー特有の欠点があるから、そこは理解しておいてね」
瑞鳳「定石や自分の得意な戦い方だけに頼っていてはいつか足元を掬われる。強みを伸ばして、弱点や苦手な部分を一つ一つ克服していきましょう」
・・・・
こらー! という瑞鳳の怒声が工廠内に響き渡る。演奏は中断され、提督は興醒めした様子でそそくさと楽器を片付け始める。
提督「むむ、帰ってくる前にやめようと思ったけど……バレてしまっては仕方ない」
瑞鳳「さっき式神を使ったついでに工廠の方に飛ばしておいたら……案の定ね。まさか秋月まで懐柔するなんて……」
瑞鳳が来るとばつが悪そうな様子の秋月。秋月とは対照的にけろりとしている提督。
提督「あははは。ごめんごめん、そうだね。今度からはちゃんとやるよ。秋月も付き合わせちゃってごめんね」
執務室で昼食を摂る提督・瑞鳳・秋月・大鳳の四名。一人分の机を部屋の中央で四つ繋げて、その上にテーブルクロスを敷く。
提督「なんだか給食みたいで微笑ましいな……はは、学生時代を思い出すよ」
秋月「そうですねぇ。照月や初月ともこうしてお昼食べてたなあ」
提督「あれ、二人とも反応悪くない? なんか嫌な思い出でもあったのかな」 瑞鳳と大鳳の方を見て
瑞鳳「艦娘といっても、その経歴は色々あるのよ。秋月は舞鶴の艦娘養成学校を出てるけどね」
大鳳「私はタウイタウイ泊地という場所で建造されてそのまま実戦登用。瑞鳳さんはサーモン海域で発見されたんでしたっけ」
提督「発見!? ……どういうこと?」
瑞鳳「深海棲艦を倒すと、時折艦娘の艤装が見つかることがあるの。で、艤装だけじゃなく艦娘そのものが発見されることも稀にあるそうだわ。
私はそのレアケース。発見されて横須賀の鎮守府に保護されるより前のことは自分でも分からないわ」
提督「怖い話だなー。実は深海棲艦は艦娘でしたみたいな? ン、逆か? いや、どうなんだ……?」 やや混乱気味の提督
瑞鳳「まあ、ふつう、艦娘のほとんどは建造によって生み出されるわ。
生まれた場所が舞鶴や横須賀みたいに教育施設のある大規模な鎮守府だと、人間でいう学校に該当する施設に通うことになるけど……。
私が生まれた頃にそういうのは無かったから、叩き上げで育てられたって感じね」
提督(この子ら、一体何歳なんだ……? 横須賀の艦娘用の学校が出来たのって確か40年ぐらい前じゃなかったか……?)
提督「うーん、艦娘っていうのは、結局なんなんだい? 人間ではないのかい?」
大鳳「人の見た目をしているというだけで、人ではないでしょうねえ……」
提督「さっき工廠で艤装を解体することも出来るって言ってたよね、瑞鳳。したら、『普通の少女に戻る』って。
でも、艦娘は生まれた時から艦娘なんだよね。つまり、人でないものから人になるっていうのは、どういうこと……?」
瑞鳳「えっと、艦娘が艦娘たる所以は、艤装によって力を得ているということ。艤装を解体すると艦娘としての力、そして記憶が失われる。
そうなってしまえばただの人と変わりないってこと。厳密に言えば、成長したり老いたりする“人に限りなく近い少女”になるってわけね」
提督(それって、提督の僕がその気になれば……ってことだよな。まあ、これ以上は触れないでおこう。なんだか楽しい話題じゃなさそうだ)
提督「あー、じゃあさ。瑞鳳は横須賀から来て、秋月は舞鶴、大鳳はタウイタウイ……みんなどうしてこの島に来たの?」
瑞鳳「私は柱島に鎮守府を建てる計画を実現するために配属されたの。で、ここに来る前の秋月と大鳳、瑞鶴は三人とも舞鶴鎮守府で働いてたのよね」
秋月「ええ。次の大規模作戦から異動になるみたいで……着任先が決まるまでの間はここで過ごすことになったんです。
だから、ここに来たのは司令と少ししか変わらないんですよ」
瑞鳳「というか、提督こそどういう経緯でここに来たんですか? ずっと気になってたんですけど」
提督「え? 僕? あーいや、そうか。説明してなかったっけ。元々僕は舞鶴の軍楽隊に在籍してたんだよ。
まあ……なんていうの? 四面四角のオーケストラは性に合わなくってね。いやオーケストラ音楽そのものは好きなんだけども」
提督「でね、今年から軍楽隊が再編されたんだ。その再編されたいくつかの楽団のうち、僕の名前はどこにも無かったの。
どこに配属されたのか聞いてみたらここだった。柱島楽団ソロオーケストラのトロンボーン担当乙川奏でござい、というワケさ」
大鳳「くすくす……なんだかお茶目な人ね」
瑞鳳「いや、お茶目というか……え、本当に提督なのよね?」
提督「一応、少佐の位をいただいてるわけだし名目上はそうなんじゃないかな。
もっとも、提督としての働きを期待されてないし、僕も秋月や大鳳と同じで次の配属先待ちだよ。
次があるかどうかさえ怪しいけれど。少佐の地位を手向けの花にハイサヨナラという話みたいだね」
瑞鳳「……軍楽隊を追い出されるなんて聞いたことないんだけど、本当なの?」
提督「そうだねー、『君のような演奏家はうちに必要ない』なんて言われた人はそうそういないんじゃないかな。
まあ嫌われちゃったものは仕方ないし、それはそれとして割り切っていくしかないさ」
秋月「そんな……あんなに楽しくて素敵な演奏をするのにもったいないですよ」
提督「そう言ってもらえると励みになるよ。まあ退職金で四~五年は働かないで済むだろうし、その間にどっかで再就職かなあ」
瑞鳳(うーん……なんか、刹那的な生き方をしてるなぁ。結構ちゃらんぽらんな人なのね……)
大鳳「楽器が得意なら、音楽で食べていこうとは思わないんですか?」
提督「まあ、そういう才能があったら軍楽隊になんて所属してないよネーっていう。僕より上手な演奏する人はたくさん居るよ。
食うに困って、でもキツイ仕事はやりたくなくて……って現実逃避に金管吹いてたら声がかかったってだけさ」
提督「ただ、音楽は好きだよ。音を聞くのも、演奏するのもどっちも好きだ。これは本心。楽しいからやってるのさ。
演奏している時は全てを忘れられる。音の流れに身を任せて、感じるままに楽しむのさ」
提督「はは……軍楽隊でこういう話すると『また乙川の吟遊詩人が始まった』ってバカにされるんだけどね。
でも、酒に酔ってもすぐ醒めてしまうなら、自分に酔い痴れるしかないじゃない? 溺れない程度にね」
お酒に酔うのも好きだけど、と付け足してふふっと鼻息を鳴らす提督。
瑞鳳(お世辞にも明るい先行きとは言えないのに、どうしてこんなに無邪気に笑うんだろう……。不安とかないのかな)
提督が着任してから一月後。瑞鳳の予想に反して、提督は意外にも諸々の執務を支障なくスムーズにこなしていた。
もちろんそれは瑞鳳の監視の目が届く範囲での話であり、彼女が居なくなるとあの手この手で仕事を放棄しようとしていたが。
瑞鳳「では乙川くん、これらの艦載機はそれぞれどういう特徴を持っているでしょーか?」
ホワイトボードにカリカリと艦載機の絵を描いていく瑞鳳。
提督「緑色のやつが艦上戦闘機で、制空戦で最も力を発揮して敵艦載機を撃墜する役割を持つ。
青色のは艦上攻撃機、赤色は艦上爆撃機でいずれも航空戦と砲撃戦にて敵艦への被害を与える。
艦攻が攻撃重視、艦爆は命中重視の性能なんだよね」
提督「橙色の艦上偵察機は索敵性能に優れていて、また、触接率の向上によって艦攻や艦爆でのダメージ拡大に貢献することがある。
で艦上偵察機のうち、彩雲という艦載機を装備させておくと敵艦隊遭遇時のT字不利を回避することが出来る……大体こんな感じでしょ?」
瑞鳳「正解です! 細かい話をすると艦攻や艦爆でも制空戦で少し力を発揮するタイプの艦載機があったり、艦攻も触接に作用したりするんだけど……。
まさかこんなに飲み込みが早いとは思わなかったわ。提督、やる気がないだけで要領は良いんですね」
提督「これも瑞鳳の教育の賜物だよ」
瑞鳳(なんだかんだ言っても、私の言ったことはちゃんと聞いてくれてるのよね……)
提督「僕は勉強とかあんまり苦手なんだけどね。瑞鳳となら楽しいし、頑張れるよ」
相変わらず万事に消極的ではあるものの、着任した当初から比べると提督の知識や思考の深さは段違いになっていた。
彼のこの成長ぶりは、ひとえに瑞鳳の尽力が実を結んだものであったと言えよう。
・・・・
しばらく前に時を遡る。
夕陽が差し込む執務室には瑞鳳一人だけ。提督はいない。鎮守府のどこにもいない。
『僕は確かに名目上は提督だけれど、実質パソナルーム行き扱いの人間だからね。
え? パソナルームが何かって? まあそれはそれとして……ちょっと失望させちゃったかな?』
数日前の晩にした提督との会話を思い出していた。
乙川奏が将来有望な人材でも軍上層部の子息でもなく、ただの軍楽隊の隊員でしかないことを知った瑞鳳は悩んでいた。
『そうなんだ、勘違いさせちゃってたんだね。僕は偉くもないし、賢くもないんだ。だから、期待されていない人間なんだ。僕はね。
君が頑張ってあれこれ教えてくれるのは嬉しいけれど、結局は無駄になってしまうんだよね。騙したつもりはないんだけど……がっかりした? ごめんね』
瑞鳳(提督として立派に育てなきゃと思って色々教えてたけど……本当は彼にとって押し付けがましい、迷惑なことをしていたのかもしれない。
そう思って、あれこれ言うのはやめた。そしたら昨日から提督は鎮守府に来すらしなくなった。夜に顔を合わせて、私の家でご飯を食べるだけ)
『僕が行かなくたって何も変わりはしないだろう。君は自分の仕事や大鳳の稽古をしなきゃいけないわけで、だったら僕の世話で手間をかけさせるのも悪いよ』
屈託なく微笑むを向ける提督の表情を思い出し、余計に胸が苦しくなる。
自分が誰からも必要とされていない人間であることを自覚していながら、どうしてそんなに笑っていられるんだろう。瑞鳳は考えていた。
瑞鶴「おっ、今日はあの不良提督来てないんですね」
瑞鳳「不良? ……どちらかと言えばもやしっ子って感じするけど」
瑞鶴「いや、そう自称してたのよ。不良といってもヤンキーじゃなくて、社会不適合のごくつぶしだってね。
一昨日なんか昼間からお酒飲んでたわよ(……私も便乗して一杯頂いたけど)」
瑞鳳「う……呆れた。放っておくとロクなことないわねあの提督……」
瑞鶴「そう? 結構あの人は身の程を弁えてると思うわよ。酔っ払っても紳士的だったし、話も面白いし。
海軍の男の人って、いかにも軍人! ってタイプのお堅い人かゴロツキ上がりみたいなガラの悪い人ばっかりじゃない」
瑞鳳「(それは瑞鶴の居た鎮守府に限った話じゃないかしら……)秋月といいあなたといい、やけにあの提督を買ってるのね。
あんなに不真面目でだらしない人なのに……甘やかしたらもっとダメになりそうな気がするわ」
瑞鶴「甘やかしているというか……別にあの人、提督でありたいわけでもないし、提督としての義務を果たさなくてもいいんでしょ。
だったら無理に強制したりあーだこーだ言ったり必要ないんじゃない?」
瑞鳳「そうだけど……なんだか、やぶれかぶれって感じがするじゃない。半年後のこととか何も考えてなさそうだし……」
瑞鶴「なんとかなると思ってるから何も考えてないんじゃないかしら。あるいは、考えても仕方ないと思ってるか。
何もかも諦めた人って感じよね。過去に何があったのかは知らないけど……物事に執着がないんでしょ」
瑞鳳「うーん……放っておけないわ……」
瑞鶴「本当の意味であの提督に甘いのは瑞鳳の方なんじゃない? だって、放っておくことが出来ないぐらい心配ってことなんでしょ」
礼儀正しい秋月ですらノックすることなく入ってくる執務室の扉を律儀に叩くのは、この鎮守府には大鳳しかいない。瑞鳳に招かれて部屋に入る。
大鳳「ふー……大鳳、戻りました。瑞鳳さんいますか?」
瑞鶴「おっ、調子はどう大鳳? 私の言ってた通りでしょ」
大鳳「はい、瑞鳳さんからは学ばされることがたくさんあります……おかげで次の作戦までには新しい戦い方が確立できそうです。
敵の艦載機の物量にも負けず、かつ、敵艦めがけて大打撃を与えられるような戦法が。目に見えて強くなっていくのが分かってなんだか楽しいです」
大鳳「って……瑞鳳さん、なんだか悩ましげですね。どうしましたか?」
瑞鶴「いやー、乙川提督のことで悩んでるみたいなのよね。放っておけないんだって」
瑞鳳「なんだか、現実逃避してその場その場で気を紛らわしているようで……お節介かもしれないけど、私は提督のことが心配だわ」
瑞鶴「それ、本人に直接言ってやったら? 言葉で伝えたら何かあの人の中で変わるものもあるかもしれないし」
瑞鳳「そう、かな……? でも、ただ心配だって伝えられても提督の方だって困っちゃうわよね。どうしたらいいかな……」
瑞鶴「こーゆーのはウジウジ悩んでても仕方ないわよ。結局瑞鳳は提督に何を望んでるの?
戦いと同じで、ドカンと行ったらあとはなるようになるって。どうせ何言われても怒ったり傷ついたりするような人じゃないでしょ」
瑞鳳「そう、なのかなぁ……。んー……。提督に、頑張ってもらうにはどうしたらいいのかな。
(ううん、頑張らなくてもいいの……向き合って欲しいのよね。毎日つまらなさそうにふらふらしてる印象しかないもの)」
大鳳「何か理由を作ればいいんじゃないでしょうか。提督をその気にさせればいいのでしょう?」
瑞鳳「理由?」
大鳳「ええ。あの提督、あれで結構子供っぽいところがあるというか……。
昔の話とかはあんまり話したがらないみたいですけど、遊びの話とかは結構好きみたいですよ」
大鳳「私は詳しくないのであんまり分からないんですけど、秋月さんとよくゲームの話とかしてるのを見かけますね。
何か提督が楽しめるような工夫をしてあげればいいんじゃないかしら?」
瑞鳳(提督が楽しめるような工夫……そっか……!)
瑞鳳「なるほど。ちょっと閃いたかも……! 二人ともありがとねっ!」
パタパタと足音鳴らして部屋を出て行く瑞鳳。
大鳳「あー……私、用があったんですけど……」
・・・・
その晩。いつも通り卓上に料理を並べて、いつも通り二人でそれを囲む。今日の献立はオムハヤシだ。
瑞鳳「あのね、提督。今日はどうしてたの……?」
提督「ん? 今日はね~、前々から気になってた廃校の方に行ってたんだ。閉鎖されていたけどすんなり入れたんでね」
柱島には小中学校が建っている。深海棲艦の侵攻が進む以前に利用されていた、島の学校だ。
鎮守府が建って軍の関係者が移住した後も取り壊されることなく、丘の上から集落を見守るように佇んでいる。
提督「人がいないから埃は溜まってたけど、掃除すればまたすぐ使えそうな良い施設だったよ。
島に立地する学校って台風で窓ガラスが割れちゃったりすることも多いみたいなんだけど、幸い今のところは目立った破損はなかったかな」
提督「でね! そこにあった本とかも興味本位にちょろっと読んでみたんだ。
そしたら、この島では旧暦の10月3日に宮ごもりっていう行事をやるみたいなんだよね。スマホで調べてみたらなんと今日でさ」
ニコニコと嬉しそうに話す提督。
瑞鳳「みやごもり?(っていうかこの人スマホとか持ってたんだ……あとで連絡先教えてもらおう)」
提督「港やこの辺の集落から南に神社があるのは知ってるでしょ? あそこで家内安全や豊作を祈るお祭りみたいなものさ。
もうこれは行くしかないと思ってね。フフ……お酒もいくつかいただいてきちゃった」
瑞鳳「そうなんだ……この島で暮らしてたけど、そんな行事があるなんて知らなかったわ」
提督「うん。かつての島民はほとんど本島に移住しちゃったみたいだけど、それでもおじいちゃんおばあちゃんが十人ぐらいは居たかなぁ。
色んな話も聞かせてもらって楽しかったよ。何から話そうかなぁ……あ、そうだ。この島の名前の由来って知ってる?」
提督「神社の社殿には大きな柱が使われるよね。で、柱島には賀茂神社をはじめに、いくつも神とその社(やしろ)が祀られているでしょ。
多くの社のある島、つまりたくさん柱がある島……だから『柱島』ってさ」
上機嫌な提督を前に、自分が切り出そうとしていた話をいつしたらいいものか躊躇している瑞鳳。そわそわしている。
提督「先祖とか神様とかに敬いの念があるみたいだね。だからこそ、こんな本島から離れた場所なのに学校を建てたり書籍を残したりするんだろうなあ。
そして新しい世代に何かを伝えていこうとする……良い文化だよ。人が居なくなればそれも絶たれてしまうけどね。このまま廃れてしまうのは残念なことだよなあ」
瑞鳳(私がいなくても、提督は楽しいのかな。やっぱり、迷惑かな……)
提督「おっと、夢中になってついつい僕ばかり話をしてしまったね。さ、次は瑞鳳の番だよ。話を聞かせて?」
瑞鳳「あの、ね……本気で嫌だったら、いいんだけど。やっぱり、鎮守府に戻る気はない?
めんどくさいかもしれないけど、お仕事だし、ね……? やらなきゃだめだよ……」
瑞鳳「えっと、それでね……。提督が分からないことで困らないように、こういうの作ってみたの。どう、かな……?」
提督へバインダーを手渡す瑞鳳。プラスチック製の外観のバインダーには、数十枚ものルーズリーフが挟まれている。
ページをめくる提督。蛍光ペンで線が引かれていたり所々にイラストが描いてあったりと、見飽きないような工夫がなされている。
ページ内の情報は簡潔にまとめられていて、軍事用語も分かりやすい平易な表現での言い換えが補足されている。
提督「これ……瑞鳳が作ったの? わざわざ……?」
提督「ふ、んふふふっ。あははっ、あはっ」
笑い出す提督。想定外の反応に当惑する瑞鳳。
瑞鳳「ちょっと!? どうして笑うのよ!?」
提督「いや、瑞鳳がかわいいなと思ったんだよ。健気で可愛いくて……良い子なんだなってね」
瑞鳳「かわ、いい……?(真面目な話をしてるのに……からかわないでくださいよ、も~!)」
ほおずきのように顔を赤く染める瑞鳳。しかし照れに負けることなく、提督から目を逸らさない。
提督「これ作るの大変だったろう? 分かりやすそうだし、すごくよく出来てるけど」
瑞鳳「それ、元々は私が自分用に作ったものだったんです。着任した頃から勉強したことや気づいたことをずっとまとめてて……。
その中から提督にとって役に立ちそうなものだけを抜粋してみたんです」
瑞鳳「私も、はじめは提督みたいに何も分からなかったんです。だけど、少しずつ成長していったの。
提督は半年でこの島を離れちゃうけど……無駄になることなんて、きっと何もないと思うわ」
瑞鳳「……改めて、一緒に頑張りましょ? 提督が優秀じゃなくても、誰からも期待されてなくても、そんなの関係ないわ。
だってあなたは私の提督だもの。私もがんばるから……提督も一緒に、ね?」
提督「ありがとう、瑞鳳。そこまで言われたら断れないよ」
瑞鳳(良かった……) ホッと胸を撫で下ろす
提督「率直な話、意外だったよ。君にとって僕の世話は面倒だったろう? やる気がないし、根気もない。
賢いわけでも偉いわけでもない。将来性もない。だから愛想を尽かされたのだろうと思ってた」
提督「それでも瑞鳳は変わらず毎晩料理は作ってくれるわけだし、態度も変えずに話してくれるし、僕にとってはそれで十分だった。
けれど……瑞鳳がそうまで言うのなら、僕も応えたい。瑞鳳や鎮守府のみんなと居るのは、なんだかんだ楽しいしね」
・・・・
提督「ふふふ……こういうところが瑞鳳らしいよね」
瑞鳳「? どうかした?」
瑞鳳に葉書よりもやや大きいぐらいの、A6サイズの厚紙を渡す提督。
それを受け取りペタリと『大変よくできました』と書かれたシールを貼る瑞鳳。
縦横に罫線が引かれた紙の上には、一マスごとにハートやひよこなど色々なシールが貼られている。
提督「いや、ちょっと前のことを思い出しててね。これが瑞鳳なりに考えた僕を楽しませるための工夫なんでしょ?
考えに考えた結果、この夏休みのラジオ体操カードのようなものになったと……うんうん」
嬉しそうにニコニコしながらカードに貼られたシールを見つめる提督。
瑞鳳「子供っぽすぎたかなぁ……嫌だったらやめるね(自分では良いアイデアだと思ったんだけどな)」
提督「嫌だなんてそんな。僕は好きだよこういうの。飽きっぽい僕のためにあの手この手で支えようとしてくれてるんだろう?
もうそれだけで嬉しくなっちゃうよ。瑞鳳のおかげで最近は仕事も楽しく感じるんだ」
瑞鳳「本当!? 良かったぁ。……ね? 一生懸命お仕事をやるのは、大変だけど楽しいでしょ? やりがいあるでしょ?」
瑞鳳「毎日精一杯働いて、ほどよく休んで、また働く。これが人生を楽しく生きる秘訣だと瑞鳳は思います!
だから、私の考えを提督に押し付けちゃってるんだけど……でも、なんだか前の提督は悲しそうに見えたから」
提督「悲しい?」
瑞鳳「ううん。悲しいっていうのも私の主観かな。誰からも必要とされてないなんて、自分でそう思いながら生きるのは私だったら悲しいと感じると思う」
瑞鳳「提督は、楽しく生きていたいっていつも言ってるよね。でも、刹那的に楽しいことだけを追い求めていても、虚しいわ。
いつも何事も楽しそうに笑ってる提督は素敵だけど……本当は何も考えないようにしているんでしょ」
提督「どうしてそう思うのかな」 瑞鳳に向けていた微笑みが無表情に変わる
瑞鳳「分からない、直感。でも……一緒に過ごしていて、提督が実は問題児でも劣等生でもないように思えてきたの。
本当は優秀な人なんだけど、過去に何かあって……その過去を私は知ることは出来ないんだろうけど、何かあって。自分の心を隠すようになったんだと思う」
提督「それは瑞鳳の妄想だし、買いかぶりすぎだよ。過去なんてどうってことない、僕は生まれつき怠惰で不真面目な快楽主義者さ」
瑞鳳「ううん、違うと思う。確かに最初は、目を離した隙にサボろうとするし、不誠実なだけの人なんだと思った。
でも、仕事に対しては不真面目だけど、提督は瑞鳳にいつも優しくて、大切に思ってくれていて……他の皆に対してもそうなのかもしれないけど」
瑞鳳「他人のことをこんなに大切にできる人が、提督として無能なはずがないから……って、艦娘としての本能でそう思うのかな。
自信あるの。提督、なんだかんだ私が教えたことは全部覚えてるじゃない。それに、サボり癖はあるけど、私の前ではちゃんとやろうとするでしょ?」
瑞鳳「そういうところが良いなって。今の提督は……頑張ってるわ。たまにミスもするけど、そういうところも含めて、カッコいいですよ?
なんだか、提督が段々私の好みに近づいていってるような気がするんです。他人のために汗を流してる提督の姿が、素敵です」
提督「……」
提督はそれから口を開こうとせず、何かを考え込むように宙を見つめていた。
一旦寝落ちさせてください。ごめんなさい。
何を手間取っているんだという話なんですが、6000バイトに抑える作業が思いのほか手間でして……。
起きたら続きを投下します。
瑞鳳たちが暮らす集落から少し離れた高台にある、柱島の賀茂神社。
艦娘にも流石に正月は休むものという認識があるらしく、提督と瑞鳳はこの神社に初詣に訪れていた。
紅赤色の晴れ着姿に身を包んだ瑞鳳と、普段通りに簡素な和服をややだらしなく着ている提督。
草履をカラコロと鳴らしながら二人並んで石段を歩く。
提督「しかし似合ってるねぇ、和服。正月らしく吉祥文様というわけだね」
瑞鳳「きっしょーもんよー?」
提督「ほら、着物に松竹梅が描かれてるだろう? こういうのは縁起がいいとされていて、正月みたいなハレの日にはもってこいなのさ」
瑞鳳「えへへ……そうなんですね。可愛いからっていう理由で選んだだけなんですけど」
神社の前は島民総出で集まっているのか小さな列が出来ている。よく見ると列の先には大鳳や瑞鶴など艦娘の姿も混じっている。
秋月「あっ、乙川司令! 瑞鳳さん! 明けましておめでとうございます!」
提督「あけおめー。秋月もこれから参拝?」 提督に合わせて瑞鳳も挨拶する
秋月「いえ。私はもう済ませて、これから帰るところです。それにしても司令、島の人たちからずいぶん好かれてるんですね。
みんな感謝してましたよ? 艦隊指揮で忙しいだろうに、島の行事に参加して曲を演奏してくれたり、仕事を手伝ってくれたりって」
気恥ずかしそうに頭をかく提督。
提督「サボって島をうろついてるだけなんだけどなあ。……それはそうと、秋月はこの後どうするの?」
秋月「島の人たちから宴会に誘われたんですけど……私が出てしまっていいものかなぁと悩んでます」
瑞鳳「気まずいかしら?」
秋月「いえ、誘われたことは嬉しいんですけど……一応軍属である私たちがそういうのに出ても良いものなのかって思っちゃって……」
提督「秋月くん。人生の先輩として……いや、後輩かもしれないけどアドバイスだ。
物事は考え過ぎない方がいい。音楽と同じで、楽しいと思う方へ向かっていけばいいんだよ」
提督「ま、島の人たちはここで暮らしてるだけあって艦娘のことだってなんとなく分かってるでしょ。
その上で誘ってくれたんだから断る理由はないんじゃない? 僕らも後でその宴会に出るから、先に待っててよ」
秋月「……はい! 分かりました」
提督たちと別れて石段を降りていく秋月。
瑞鳳「なんだかますます提督らしくなっちゃいましたね(ふふ……カッコいいなあ)」
提督「どっ、どこかだい? 舞鶴軍楽隊の不良を押してる僕としてはあんまり真面目とか褒められると心外なんだけどな……」
瑞鳳「島の人たちにも艦娘にも頼りにされて、慕われてて。立派なことじゃないですか」
提督「君に褒められるとなんだか調子が狂うからいつもみたいに叱ってくれないかな」
瑞鳳「提督……マゾ?」
提督「そうじゃあない。……さておき、宴会に出るならトロンボーンを持ってくれば良かったなあ。初詣が終わったら一旦取りに帰ろう。
せっかくだから瑞鳳のピアノも引っ張ってきちゃおっか?」
提督と秋月が不定期的にセッションをしているのを見て羨ましがっていた瑞鳳。
彼女のために提督はクリスマスプレゼントとしてピアノを本島から取り寄せたのだった。
平然とグランドピアノを持ち出そうと提案できるのも艦娘相手だから出来る話である。
瑞鳳「え、え~……まだ人前で披露できるほどじゃないし……」
提督「でも、ピアノ買う前にピアニカで練習してたじゃない。ドの位置にシール貼ってさ。ははは、小学生みたいで可愛かったな」
鎮守府でなぜか発見された未使用のピアニカ。持ち主が見つからなかったため瑞鳳が引き取ったのである。
瑞鳳「い、今は『ド』がどこにあるかぐらいは分かってますよ! もう!」
提督「なら心配いらないさ。お金をもらって演奏するわけじゃないんだから上手いか下手かは重要じゃない、楽しむことが一番大事さ。
僕は金をもらってても自分の楽しさを優先するけどね」
瑞鳳「そうですけどぉ……」
提督「じゃあ、瑞鳳にとっては簡単めな曲をやろう。ピアノの繰り返しのフレーズが多い曲とかさ。で、僕が起伏をつける。
あ、折角秋月がいるならついでにドラマーとして働いてもらおうかな。即席ジャズバンドとしてはなかなかいいじゃない。ギターもベースもいないけど」
提督と瑞鳳が話していると人の列も減っていき、ようやく二人の番になった。
賽銭を入れて二人で鈴緒を握り、揺する。シャカシャカと小気味のよい鈴の音。
二度深くお辞儀をして、パンパンと音を立てて二回拍手する。
拍手した後すぐに再びお辞儀を済ませ引き返そうとする提督。しかし隣の瑞鳳を見るとまだ手を合わせたままだった。
瑞鳳(鎮守府のみんなと私が毎日無事で暮らせますように。戦場で臆したり怯んだりすることがありませんように。
提督が本島に帰っても幸せになれますように。後輩の大鳳が次の作戦で活躍できますように)
瑞鳳(欲を張るのであれば……もし叶うのであれば、提督とずっと一緒に居られたらいいのにな……)
神社からの帰路。宴会なり神社なり、皆どこかしらに集まっているようで道行く人は誰もいない。
提督「僕一人だけ先に終わっちゃってびっくりしたよ。ずいぶんたくさんお祈りごとがあったみたいだね」
苦笑いを浮かべる提督。
瑞鳳「うん、そうかもね。でも提督は何をお祈りしたの? すぐ終わらせちゃったけど」
提督「なにも。わざわざ神様にお祈りするようなことなんて無いからね。……」
何も期待してなどいないと言いたげな、アンニュイな表情を浮かべる提督。
瑞鳳「瑞鳳はね……」
瑞鳳「提督と、ずっと一緒に居たいなってお祈りしたの」
前を向いて歩いていた提督が、隣の瑞鳳に顔を向ける。
提督「そう。……そっか」
特に何を言うでもなく、再び前を向いて歩いていく。表情が変わることはない。
瑞鳳「……提督は、どう?」
提督「同意はするけど、もうしばらくすればここを離れることになる。無茶は言うもんじゃないよ」
普段瑞鳳に向けているトーンの高い優しい声色とは異なる、わずかに低い沈んだ声。
寂しそうな提督の声を聞いて、彼の左手をギュッと握り締める瑞鳳。雪の降らない柱島でも、冬は冷える。
熱を奪われたかのように冷たい手。そっと指を絡める瑞鳳の小さな右手。
氷さえも溶かしてしまいそうな暖かさで、提督の手から伝わる冷気さえも愛おしむ。
瑞鳳「瑞鳳は、ね。提督のこと……大好き。大好きです……えへへ、なんだか、恥ずかしいね」
瑞鳳「提督も……おんなじ気持ちだったら良いなあって。これはお祈りしたわけじゃないんだけどね」
瑞鳳の顔を見つめる提督。普段提督が瑞鳳に向けるのと同じように優しい笑みを送る瑞鳳。
提督は瑞鳳と目を合わせることが出来ず、なんと言ったらいいか分からない様子だった。
提督(僕も……瑞鳳に恋しているのだろう。見た目で言えば、中学生やそこらと大差ない。こんな子に惹かれるなんて、どうかしてる。
だが……。見た目のことなんか気にならなくなるぐらいに僕は……彼女という存在に心を奪われているようだ)
提督(そうであっても、だ。彼女は艦娘で、僕はしがない軍楽隊の隊員だ。
何の因果か一時的にこうして提督になっただけで、本来なら彼女の隣に居るべきは別の人間だ。ああ、くそ……!)
瑞鳳「ごめん、混乱させちゃったかな。でも、私は提督のこと好きだから、好きって気持ちが抑えられないから……」
着物と同じぐらい顔を赤くしてはにかむ。
提督「い、いや……。突然言われたもので、驚いちゃっただけ、かな……」 気まずそうに顔を逸らす
提督(舞鶴に居た頃だって、こういうことは何度もあった。女の人に言い寄られたことなんてさして珍しいわけでもない。だのに……)
提督(どうして、こんなにたじろいでしまうんだろう。どうして彼女の目を見て話が出来ないんだろう。
軽くあしらうことが出来ないんだろう。今までだってそうして来たじゃあないか。
孤独を埋めるために近づいて、一時的に繋がって、また飽きて離れる。そうだろう。何を動揺しているんだ、僕は……)
提督(瑞鳳を……彼女への気持ちを、認めてしまったら、それは彼女を不幸にすることになる。僕では釣り合わない、これは僕の役目ではない)
提督(なにが『物事は考え過ぎない方がいい。楽しいと思う方へ向かっていけばいい』だよ……秋月にそう言っておいて自分はこの体たらくか。
不安で仕方がない。考えずにはいられない。僕はこれからどうなるんだ? 瑞鳳と離れても、平気でいられるのか? いつかは忘れるのか?)
提督(今すぐに、抱き締めて唇を奪ってしまいたい。……だからこそ)
瑞鳳の手が絡みついた五本の指を開き、腕を引いて離してしまう。行き場をなくした瑞鳳の右手ががくん落ちる。
提督「瑞鳳、どうして僕のことが好きなんだい? 僕のどこが好きか言ってみせてよ」
瑞鳳「え? だって……提督は、いつも優しいから」
驚きながらも照れ混じりに答える瑞鳳。
その瑞鳳の照れを、浮ついた気持ちを、自分への好意を踏み躙るように、悪意を込めた冷笑を浮かべる提督。
提督「予想通りの答えをありがとう。僕に惚れた人はいつだってそう言うんだ。優しいものかよ、そんなはずあるわけないだろう」
提督「勘違いしてるみたいだから教えてあげる。僕は優しいフリをするのが得意なだけだ。いつだって自分が一番可愛いのさ。
前も言ったろう? 自分に酔ってるんだ、優しいフリが好きなだけ……それに騙される君のような女の子を見ているのが愉快なだけさ」
提督「けど……さすがに瑞鳳みたいなちんちくりんに好かれるとは思わなかったよ。僕はもっとスタイルの良い美人さんの方が好みなんだよね」
宝石のように薄紅色に輝いていた瑞鳳の瞳が暗く曇っていく。
瑞鳳「そ。……ちょっとショック、かな。……」
提督は自己嫌悪で、瑞鳳は落胆で。二人はどちらともなくお互いにそっぽを向き、俯いた。
それから言葉を交わすことはなく、とぼとぼと家路へ向かっていった。提督はその後秋月の参加する宴会に出席したが、瑞鳳の姿は見られなかった。
自宅で荷物をまとめている提督。彼の手伝いをする瑞鳳。
提督(これでお別れか……呆気ないもんだな。今日で提督としての仕事はおしまい。明日には本島へ帰ることになる)
瑞鳳「ねえ提督。勲章はどこにやったの? 見つからないけど」
正月からあっという間に一ヶ月。提督はこの間、珍しく軍務に励んでいた。
瑞鳳に言われずとも進んで仕事をするようになり、その働きぶりから勲章を授与されることもあった。
だが彼はこれを取るに足らないものと思い、執務室の机にしまいっぱなしにしていた。
提督「あー。まああれのためだけに鎮守府に戻るのも面倒だし、いいよ、要らない」
瑞鳳「え、え~……せっかく貰ったのに……。よその鎮守府でも、提督のこと評価してるって噂ですよ。遠征の子から聞きました」
正月のあの出来事の後、瑞鳳はしばらく落ち込んで塞ぎこんでしまうのだろう、と提督は考えていた。
しかし彼の予想に反して瑞鳳は気丈だった。提督の前でも他の艦娘の前でも特に変わらぬ様子を見せていた。
提督「どうだっていいさ。……褒められるためにやったわけじゃない」
瑞鳳「そうですか……」
瑞鳳「でも、じゃあどうして今月は頑張ってたんですか? 何か良いことでもあったんですか~? らしくないですよ?」
瑞鳳の想いを台無しにしてしまったことに対する償い、とは口が裂けても言えず生返事をする提督。
提督「気まぐれさ」
瑞鳳「えへへ……なるほどなるほど。そうですか」
なんだか今日は瑞鳳の距離感が近い。いつにも増してニコニコしている。
そうまで明るくされると、かえってこちらがしょげてしまう。
意外と彼女は切り替えが早くて、自分のことなどもう気にしていないのかもしれない。
それはそれで虚しい気持ちになるが、悲しみに沈んでいるよりは何百倍もマシか。――そんなことを提督は考えていた。
要るものと要らないものとを仕分けして、スーツケースに荷物をしまう。
瑞鳳「あっ、軍服と軍帽が出てきましたね。そういえば結局一度も着ませんでしたね……。
っていうか、途中から存在を忘れちゃってましたよね皆。ここの提督は和服なんだみたいな認識になってませんでしたか?」
上機嫌な声で同意を求める瑞鳳に対して、複雑そうな表情を浮かべる提督。
提督「ま、僕は堅苦しい格好するのが好きじゃないからね。自堕落な人間だから服装にもルーズなのさ」
瑞鳳「けど、提督の服装って洒落てますよね。本当に自堕落な人だったら、そういう細かいところに美意識は持てないんじゃないかなあ」
瑞鳳「提督の演奏もそうよね。提督は楽しむことを一番大事にしてるって言ってるけど、ちゃんと聴く人のことを考えてる。
だから鎮守府や島のみんなの心に響く音が奏でられるんだと思うわ」
提督「やめてよ、照れるってば。前も言ったろう? 君に褒められすぎると調子が狂うんだよ」
自分の軽口に後悔する提督。“前”とはすなわち正月のことであり、提督が瑞鳳の告白を退けた日のことである。
瑞鳳が想いを打ち明け、それを提督は拒んでも、その日から二人の関係が大きく変わるということはなかった。
だが、提督にとっても瑞鳳にとってもこの日の出来事は暗黙のタブーと化していて、互いに言及しようとはしなかった。
瑞鳳「今もね……提督のことは好き。……大好き」
正座して提督の衣服を畳みながら感情の籠もった声でそう呟く瑞鳳。
提督「……」
予想だにしていなかった瑞鳳の言葉に絶句する提督。
提督「な、何を藪から棒に……」
瑞鳳「たしかに、ショックだった……今でも、悲しいけど。でも、気づいたの。提督は私のことを好きじゃないかもしれないけど……。
私はたぶん、これから先もずっと提督のことが好きなんだろうなって。提督が本島へ行ってしまっても、提督じゃなくなってしまっても、忘れられないんだろうって」
瑞鳳「ね。明日の朝で帰っちゃうんでしょ? だったら、わだかまったままサヨナラをするのは悲しすぎるわ。
てーとく、いつも言ってたじゃない。人生は楽しむことが大事だって! 明るい気持ちで、晴れがましい気持ちで別れましょう?」
提督「は、はは……そう、だね……。瑞鳳は、僕のことをよく分かってるなぁ……」
力なく笑う提督。この一ヶ月間、恐らく彼女は自分に出来うる最良の気遣いをしようとしていたことに感謝し、余計に辛い気持ちがこみ上げてくる。
ははと笑いながら、感情を悟られないように背を向ける提督。彼の肩が震えている後ろ姿を見て、畳んでいた服を投げ出して立ち上がり、後ろから抱き締める。
瑞鳳「泣かないでくださいよ……男の子なんですから……」
そう言いながら瑞鳳もつられて泣き出してしまう。提督の腰にぴたりと頭をくっつけて、縋るように強くすり寄せる。
瑞鳳「っ……提督が悲しそうにしてたら……私まで、悲しく、なっちゃいますから」
提督「あはは……ごめん、目にごみが入ってしまってね」
瑞鳳が泣き出すと、提督はすぐに泣き止んだ。振り向いてしゃがみ、瑞鳳の背丈の高さに目線を合わせる。彼女の目から零れる涙を手ぬぐいで拭き取ってやる提督。
拭いても拭いても瑞鳳の涙はぽろぽろと止まらない。この時、涙を流しながらもなぜ瑞鳳の口元が幸せそうに緩んでいるのか、提督には分からなかった。
島の人々への挨拶も早々に、輸送船に向かおうとする提督。
荷物はもう船に乗せ終えているため、腰に下げた巾着袋以外は何も持ち合わせていない。
人気のない通りを歩いていたところを、瑞鳳に呼び止められる。
ここは正月の初詣から帰ってきた時と同じ道だった。
瑞鳳「昨日はなんだかごめんね……。それでね。これ、作ったの……受け取って」
ハートの形をした箱を差し出される提督。
提督「君は……僕がこれを返すことが出来ないと知ってるのに、それでも渡すのかい?」
2月14日は世間では愛する者にチョコレートを贈る日、バレンタインデーとして認知されていた。
瑞鳳「いいの。提督にとって私はただのちんちくりんに見えるのかもしれないけど……私にとっては、瑞鳳にとっては!
世界で一番、大切な人だから……。精一杯の気持ちを込めて、作りました。……」
箱を受け取り、両腕で包み込むように瑞鳳を抱く提督。
瑞鳳「えっ……?」
瑞鳳の顎に手を添えてそっと持ち上げる提督。
引き寄せ合うかのようにそのまま唇が重なる。
瑞鳳の心拍数が跳ね上がる。
とくん、と胸が高鳴っているのが自覚できるほどに。
唇を離して、見つめ合う。
提督の真剣な眼差しで、全てを察する瑞鳳。
瑞鳳「提督ぅ……。奏、提督……」
それを踏まえた上で、気持ちを確かめるように名前を呼ぶ。
目を閉じ、せがむように唇を向ける瑞鳳。
提督は、何度でも瑞鳳の要望に応えてやった。
・・・・
綻びに綻んだ顔つきの瑞鳳と、冬の空を照らす太陽を見つめる提督。
二人は桟橋の上に立っていた。船は提督の隣に浮かんでおり、彼が乗れば間もなく出航するだろう。
提督「しかし君は……これでお別れだというのに、どうしてそんなに嬉しそうにしてるんだい?
別れ際に悲しまれるのは僕としても辛いが、まさか喜ばれるとまでは思っていなかったよ」
皮肉気味に笑う提督。もちろん提督は瑞鳳は自分が離れるのを望んでいないことなど知っている。
瑞鳳「今日は、提督が私のことを想ってくれているって分かったから、幸せな日なんです。
離れ離れになるのは悲しいけれど……それが分かっただけで、瑞鳳は幸せです」
提督(どうせ別れるならと思って、彼女をわざと傷つけるようなことを言ってしまったのに……。
こんな顛末になるなら、最初から僕も瑞鳳を好きだと伝えていれば良かったんだろうなあ……不用意に彼女に辛い思いをさせてしまった)
提督「そう……」
視点を天上から水平線へゆっくりと降ろし、目の前の瑞鳳を見据える提督。
いつになく摯実な面持ちで、自分自身に言い聞かせて決意するかのように一言。
提督「……必ず、瑞鳳に会いに来るよ。またいつか」
瑞鳳「約束ですよ?」
提督「ああ。約束」
勇ましい表情はすぐに打ち解けて、また平生のように目を細めて小さく微笑む提督。
彼を乗せた船は柱島を発った。
・・・・
乙川奏という男が去ってから二ヶ月経っても、新たに提督が配属されることはなかった。
どうにも諸般の事情により着任が遅れているようだ。その諸般の事情が何であるか、瑞鳳の耳に届くことはなかったが。
本島の桜はとっくに咲き終えて散ってしまったらしい。スマートフォンを介して提督が伝えてくる情報は、大概ロクなものではない。
その日の天気や食事、散歩の記録に薀蓄ばかりで、重要なことは何一つ教えてくれない。
今何をしていて、どういう人に囲まれていているのか。提督はそういう話を自分からしたがらない。
かといって、訊いたところでのらりくらりとはぐらかされてしまう。
だが、相変わらず飄々と立ち回っているようで失職はしていないらしかった。
三月に瑞鶴や大鳳は別の鎮守府に離れてしまい、つい先日秋月にも異動の命が届いた。
もちろん鎮守府には他にも艦娘がいるが、他は遠征に出ていたり哨戒の任務で出ずっぱりで、鎮守府に常駐する艦娘は瑞鳳だけとなってしまった。
それでも瑞鳳は孤独を感じることが無かった。提督が来た時に入れ違いで本島に行ってしまったが、瑞鳳には姉妹艦である祥鳳がいる。
瑞鶴や大鳳だって大事な友人だ。離れていても想いが変わることはない。それに、提督は今でも自分のことを好いていてくれる。
それでも寂しさを感じてしまう時は、チャットで提督に構ってもらったり、電話をかけたりすればいい。
瑞鳳は一人でも変わりなく過ごしていた。
対深海棲艦の戦線は常に進退を繰り返している。昨日まで平穏だった海が主戦場となることも少なくはなかった。
そしてその風雲急を告げる戦況の動きは、この柱島にも迫っていた。
瑞鳳「嘘でしょ……!? 近海に深海棲艦……! この島に向かっているなんて……」
哨戒任務に当たっていた駆逐艦、春雨から伝達。
敵艦隊には戦艦や正規空母も含まれているようで、瑞鶴や大鳳が居た時ならまだしも、今の柱島の戦力では到底勝ち目がない。
おまけにこの島には指揮官がいない。
このままでは統率が取れないまま艦娘を確固撃破されてしまい、朝日が昇る頃には鎮守府のみならず柱島も焦土と化すことだろう。
瑞鳳が代理で提督の真似事をすることも出来なくはない。
だが現状の柱島泊地では瑞鳳が最大戦力であり、彼女が戦場に出なければ全艦轟沈という事態だって起こり得る。
こうなることを覚悟していた。平和な柱島であっても、こういうことが起こる可能性はあった。
それがたまたま備えの足りない今日に起こったというだけのこと。瑞鳳は鉢巻を巻いて覚悟をする。
命を賭してこの難局を凌ごうという覚悟ではなく、生きて生きて生き抜いて、必ず提督との再会を果たそうという覚悟であった。
・・・・
ザアザアと雨が降っている。こんな天候だろうと、四の五の言っている場合ではない。
敵の艦載機は空を埋め尽くしているのだ。少しでも減らさなければならない。
力強く、それでいて繊細な一射一射。矢から飛び出て行く艦載機は粛々と敵機を撃ち落し、敵艦めがけて特攻していく。
しかし多勢に無勢。いかに善戦しようとも大局は覆らない。
依然として敵の砲火は止まず、こちらは反撃すらままならない。大破した艦娘から撤退するよう指示を出す瑞鳳。
しかしそうすれば一人当たりに集中する敵の攻撃密度を上がる一方だ。じりじりと追い詰められていく。
・・・・
他の駆逐艦は、どうやらみな撤退を果たしたらしい。大破状態でも、鎮守府まで逃げ延びれば入渠して回復することが出来る。
そうなれば一日分ぐらい延命にはなるだろう。それでもたった一日だ。それっぽっちしか守ることが出来なかった。
戦場に残ったのは自分一人。もう逃げ出す力も残っていない。
敵の手にかかるくらいなら、ここで終わりにしよう。
なんとなく、こうなる予感はしていた。
ちょうど提督と出会った頃あたりから、何かを直感していた。
いつかこうなるのだという風に思っていた。まさかここまで間近に迫っているとは思わなかったが。
瑞鳳(ついぞ提督には会えなかったわね……)
瑞鳳(でも、提督と両想いになれただけ、良かったかな……そこで運を使い果たしちゃったんだから、仕方ないよね)
最後の矢を放って、鉢巻を外す瑞鳳。もう後は次に来る一撃を待つのみである。
大鳳「瑞鳳さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
バチバチと艦載機が競り合う音。次々に敵の機体が海に叩き落されていく。
瑞鳳から離れた位置から探照灯の光が輝く。砲火は瑞鳳から光の方へと向けられる。
秋月「はぁ……はぁ……間に合ってよかった! 本当に良かった……! 退避しましょう。私が護衛しますッ!」
・・・・
執務室の隣にある仮眠室。ベッドの上に横たえている瑞鳳。
瑞鳳「生きて……るの……?」
目が覚めて最初に映ったのは、提督の姿だった。
瑞鳳「嘘……? 提督……! どうしてここに……」
提督「また会おうって約束したじゃないか。忘れたのかい?」
瑞鳳「嬉しい……! ね、提督……ぎゅってして?」
甘える瑞鳳をぎゅっと抱き締める提督。
提督「ちょっと色々あってね……これでも最短で来たつもりだったんだが。あと少し遅れていたらと思うとゾッとするよ」
提督「細かい経緯は後で説明するけど、柱島泊地に深海棲艦の新たな拠点が出現した。
次の大規模作戦ではここが守衛の要となる……で、僕はここの提督として正式に採用されたんだ」
提督「改めて、これからよろしくね。瑞鳳。……あー、それと」
薔薇の花束を渡して、小箱から指輪を取り出す提督。
提督「チョコレート、美味しかったよ。間に合わなかったけどお返し。
なんか、艦娘の中に眠る本来の力を超えた何かを引き出してくれる優れものらしいよ」
提督「というのは建前。これが僕の気持ち。受け取って」
提督から指輪を受け取って、瑞鳳はそれを自分の薬指に嵌める。
瑞鳳「……はい! これからも、末永く、よろしくお願いします!」
まずごめんなさい。
>次のキャラを決める安価募集レスは今回分投下の直後ではなく4/17(日)12:00頃に書くつもりなので、
>次の安価を狙ってる人はその辺の時間帯に待機しているとよいでしょう。
とか書いておきながらもう全然ダメやんけっていう。超すみません!
どんだけ1レス投下するのに苦戦してるねんっていう話ですよね本当申し訳ない……。
大幅に遅れてしまいましたが安価ですです。
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
(参考:>>669->>671)
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
朝潮
時間遡行もの
>>702より朝潮が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:74(勇猛)
知性:22(魯鈍)
魅力:26(やや近寄りがたい)
仁徳:34(あるとは言えない)
幸運:11(不幸だわ…)
世紀末なディストピアで朝潮と時間遡行したりしなかったりするお話になるかもしれません(ならないかもしれません)。
大丈夫かこれ……? あんまり明るいお話にはならなさそうな予感がしますね。
でも提督ダメそうだしかえってそうでもないかもしれない。
また1~2ヶ月ぐらいはかかると思いますので気長にお待ちいただけると幸いです。
////第一章小ネタ////
第一章(今回投下したやつ)では結構甘ったるい感じにしようと思いました。なったかどうかはわかりません。
ちょっと凝りすぎて懲りる羽目になりました。15レスって思いのほか短い(でも長い)ですね。
ウダウダと書いてたらかなりエピソードを省略することになってしまったので、もうちょっとあっさりしたものにすればよかったと反省。
特に5W1Hとか何にも指定がなかったのでなんとなく艦これっぽい感じで書きました。
お前の艦これ観はどうなってんじゃいと言われれば閉口してしまいますが……自分の中ではオーソドックスに書いたつもりです。
柱島を舞台にしてるので、Google マップ上でぐりぐり動かしてみたり、インターネットアーカイブから柱島小中学校のサイトを覗いてたりしてました。
(作中では廃校とされていますが、現在は生徒がいないため休校になっているだけみたいです。サイトはもうリンク切れになってましたが)
取材に行って書くのが本筋なんでしょうが……さすがに厳しいんで……。
キャラに関しては……瑞鳳も自分の中のベーシックな瑞鳳観に基づいて描いたつもりです。
瑞鳳に「食べりゅ?」って台詞を言わせてなかったり、格納庫弄ってなかったりするんで、読む人が読めば私のことをモグリ認定されるかもしれません(笑)
個人的には(脳内鎮守府では)瑞鳳は卵生ということになってるんですが、作中での瑞鳳はもちろん普通に普通ですのでご安心を。
たぶん玉子料理が好きなだけとかそんな理由だと思う。
提督はなんかこうチャラい奴書きたいな~とか思ってあんな風にしました。
瑞鳳は比較的ガードが甘そうだったのでこういう奴をぶつけてみたら面白いのかなあと。最終的にはなんか普通に丸まっちゃいましたが。
あとは、モチーフとして艦これはやってたけど3-2とか5-3あたりで半引退してるみたいなイメージで描いてます。
イメージを汲んで描いたってだけで実像からは多分めちゃくちゃ離れてますし、作中の提督は艦隊指揮に関してズブの素人ですが。
たった半年でなんかそれっぽい感じに調教してしまう瑞鳳すごいねという感じですな……。
保守感謝です。残念ながらまだ全然書けていません……。
一応目安ということで6/4(土)あたりに投下すると予告いたします。
あんまり忙しいわけでもないんですが……わりと今までで一番苦戦しているかもしれません。
時間かけちゃってる分期待値を超えられるよう頑張りたいと思います。
そもそも期待してない? それならそれでプレッシャーがかからないので良し。
どうあれ書き進めて完成させないことには何も始まらないので、予告日までには投下できるように努めます。
//// また余計なことを書くコーナー ////
春イベはE5甲が終わってE6を攻略中です。終わったらE7甲に挑戦する前に丙堀りですかね~。
大規模作戦ではありますが『歴代最高難易度を用意したので死ぬがよい』的コールが無かったので本丸はまた夏に来るんじゃないかなーとか勝手な予想。
WG42がもう2~3個欲しくなりますね~……。
まだ書き途中なのでべらべら喋ってしまうとまずいんですが、一ヶ月放置していたわけですし少しくらいはなんか書いておきます。
読んだところで大した内容ではないので、暇な人向けです。
いやー……主役が朝潮で時間遡行っていうとあれですかね。奇跡も魔法もあるような気がしてきましたね。
まあ見当違いの察しなのかもしれませんが、個人的にはああそういう感じなのかなーと解釈しました。
えと、先に書いておきますが魔法的概念は出てこないと思います。奇跡はあるかもしれません、いや無いかな。
朝潮が時間を巻き戻したり巻き戻さなかったりするお話になる予定です。たぶん。
ただわりと鬱いものを書く勇気はないので、例によってご都合主義で行きます。あくまでお気楽お気軽なインスタント娯楽作品ですしね。
とか言いつつ実はドス黒なやつも挑戦してみたいなという気持ちはちょっとあったりもしますが(どっちだよ)。
二次創作という性質上よそ様のキャラクターを借りて陰鬱なことやるのもなあ……という抵抗があり、ある程度自重するよう心がけています。
なので、そういうオーダーが来ない限りは基本的にハッピーエンドっぽい終わり方をするんじゃあないかなあ。
とか書いてしまうとネタバレになってしまうんでしょうか、興を削いでしまうんでしょうか。
じゃあ撤回しておきます。油断させといてめっちゃエグい感じで攻めるかもしれないとか書いておきます。
実際にテキストが投下されるまでは何も信じてはいけない(ぇ
んまぁー、時間遡行っていうと(遡行するキャラクターにとっては)かなりの長期戦ですからね。
ループに巻き込まれて抜け出せないタイプにせよ変えたい未来があって自発的に巻き戻し続けるタイプにせよ、
気が狂うほど長い時の中で戦い続けようとする意志は生半可なものではないはず。
そうまでしても貫きたい信念や回避したい現実があるわけでして、そうでなければどこかで妥協すると思います。
そんなわけで朝潮が時を巻き戻し続けるのにもそれ相応に何かしら理由があるよねー……ってな感じですねはい。
安価が安価なのでわりと不穏当な世界観になりそうですが、そんな中でも何某かの想いを突き通していく情熱的なお話になればなーとか企んでます。
企んでるだけなんでひょっとするとアテにはならないかもしれません。
前情報はここまで。現段階ではそんなに書けてないのでぼやかした話しかできませんし、あとは内緒ということで……。
ごめんなさいまだ時間かかりそうです。正直いつ投下出来るか見通しが立たないかも……。
書き終えたタイミングで投稿しますが、一ヶ月間音沙汰がなければこのスレはこれにて終了ということで……。
なるべく早く書き終えて投下できるよう努めます。
////見苦しい言い訳が読みたい方だけどうぞ////
春イベお疲れ様です(取ってつけたような季節の挨拶)。
お待たせしている以上何かしら説明責任があるような気がするのですが、それが実は今回はなんと言い訳できる要素すらなくですね……。
なんでこんなに時間がかかっているのか自分でも分からない始末であります。お題がキツいとかそういうわけでもないんですが。
そんなにカオスなオーダーでもないですし、実際お題周りの設定が原因で筆が進んでないというわけではないんです。
執筆に割ける時間だって前回と比べたらわりとあるはずなんですが……まーったく進まないんすよね。
わりと長くスレを続けてきましたが今回はわりと初めて「エターナルかもしんねえ……」ぐらいの覚悟をしています。
いやそんな覚悟決めんなとっとと書けって話なんですけども。。。
これがスランプってやつなんでしょうかね……でもスランプって言葉言い訳めいててあんま好きじゃないんすよね。
まぁここまで書いといてアレですがわりと毎回締め切り超過してる気がするので、今回もいつも通りの延長線上なのかも。
勿論それじゃダメなんですけども。毎回ヘラヘラしながら謝罪してるようですがこれでも申し訳ないという反省の念や忍びなさはあるんすよ……。
あってこのザマなんだよなあ情けない! ハアアァァァン!! 自分自身を変えたい!(突然駄々っ子のようなことを言い始める)
いや~……んー……ま~、冗談はさておきリアルは比較的落ち着いてるので、スローペースでもなんとか進めてこうと思います。
楽しみにしてる方ほんと申し訳ないです。そんなに楽しみにしてない方も申し訳ないです。どんな非難や罵倒の言葉も受け止める所存です。
頑張ってなんとかするつもりなので、あと一ヶ月ぐらいは希望を捨てずにお待ちください。
朝潮改二が実装されました。めでたい! そんなめでたさに便乗して投下しようと企てていたのですが間に合いませんでした。
っていうか危うくスレッドが消滅しているところでしたね……ホントすみません。毎度すみません。
いや今回は本当難産でしてね……でしてっていうか現時点でまだ書ききれてないですし(泣)。
まだ待たせんのかよって話ですが、さすがにもう待つのも限界ですよね? ってなわけで
次回の投下は
7/10(日)22:00を予定しています。
投下が終わり次第、次の安価もやってしまおうかなと思うので、推しのキャラとか考えておくといいかもしれません。
((心の声:10日時点で完成まで書ききれてない可能性も……ぶっちゃけあります。恐ろしいことに40%ぐらいあります……。
それでもどうにかお見せ出来るかなという所までは進んでいるので、どうあれ投下は行ってしまいます。
遅筆に磨きがかかっており、わりと心折れそうですが、未だに100レス完走するつもりではいるので一応次の安価も併せて行ってしまおうかなと思います))
気を失っていた。ここがどこだか皆目検討がつかない。どうにも身体の様子がおかしい。
いいえ、おかしいのは体調ではない。体そのもの……? 信じられないことだけれど……身体が宙に浮いている!?
無重力空間だとでもいうの? 呼吸が出来るのは私が艦娘だからなのか、酸素自体は供給されているのか、どちらかは分からない。比喩ではなく、浮いている……。
手すりに掴まり、腕の力だけを使って前に進んでいく。プールの中にいるような感覚だ。
しかし、これなら地面を蹴って跳ねながら進んだ方が速いのでは……? 地面に着地、跳躍……ッ! おおっ……?
これはいい、かなり楽に前に進むことができる(そして、少し楽しい)。
・・・・
しばらく跳ねていると、窓のある大部屋に辿り着く。窓から見える景色は大宇宙であった。
宙に浮いている時点でなんとなくそうなのかもしれないとは思っていたものの……実際に目の当たりにすると圧巻だわ。
ふよふよと岩塊が漂っている。遠くで大小さまざまな星が煌きを放っている。
一体どうなっているのだろう。どうして私はこんな場所にいるのでしょうか。
ここに来た経緯を振り返ってみましょう。
・・・・
艤装の力で海の上を浮上することができる、これが私たち艦娘が持つ特長である。
しかしながら、司令官――芯玄 心紅(シンクロ シンク)は普通の人間だ。そのため彼の乗るボートごと綱で引き摺って海原を進んでいた。
私たちは“奇妙な噂”を聞いて、その真偽を確かめるべくある場所を目指していたのだった。
朝潮「司令官御自ら出張るほどのことではなかったのでは……? 報告通り敵の気配は全くないようですが」
梅雨明けの日照りから逃れる術はなく、司令官は暑さに耐えかねてボートの上でうつ伏せに倒れていた。呻き声に似た気だるそうな声。
提督「そうかもしれねえが……オレらのナワバリで妙なことが起こったってんなら見過ごすわけにはいかねえ。
深海棲艦にやられたわけでもねえってのは一安心だが……だとしたらなおさら謎だ。自然現象にしたっておかしいだろうが」
司令官と私は、私たちの拠点とするラバウル泊地の近くに突如現れたブルーホールの調査に訪れていた。
ブルーホールとは、陸地が海没して浅瀬に穴が空いたような地形のことである。
パプアニューギニアの首都ポートモレスビー近海に発生した深い藍色の窪みは、前々からあったものではない。
それまで無かったはずのものが先日発見されたのだ。司令官のご指摘通り、自然現象で起こったにしては不自然だろう。
ああでもないこうでもないとブルーホールの原因について二人と話し込んでいると、四隻の艦娘がこちらに近づいてくる。
陽炎・不知火・黒潮・親潮の四名だ、これから輸送任務遂行のため遠征に出向くのであろう。
提督「不知火か。ご苦労……遠征だな」
旗艦の不知火に声をかける司令官。不知火は無言で頷いた。
陽炎「そういう司令は休日デート中だったかしら~? 邪魔しちゃってゴメンね」
司令官はこの日休暇を取っていた。春に発令された大規模作戦が一段落着いたため、一週間有給を取っていたのである。
結局休まることもなくこうして調査に出向いてしまっているのだけれど……。
提督「サービス出勤ってとこだ。例のブルーホールについて気になっててな。ほら、あそこにあるだろ?」
陽炎のからかいを軽く受け流し、少し遠くにある青黒い海面を指さす。
陽炎「? なあにブルーホールって」
提督「おいおいおいおい……昨日鎮守府中で噂になってただろが。海に穴が空いたみたいだってみんな騒いでたじゃないか。アレだよ、見えるだろう?」
その通りだ、昨日の話題はその話で持ちきりだったと私も記憶している。司令官の指の先には周囲の海面の色とは異なる紺碧が広がっている。
黒潮「しれぇ~は~ん、暑さで頭やられたん……?」
不知火「お言葉ですが、私の目には何も……。電探にも敵の反応はありません、特に問題ないでしょう」
陽炎「ま~、お話したいのは山々なんだけど……私たち見ての通りあんまり暇じゃないのよね。その都市伝説は今度聞かせて頂戴ね、司令」
不知火たちが去った後、私と司令官は顔を見合わせて困惑していた。
提督「なあ朝潮……あいつらにはアレが見えてねえってことだよな。一体どういうことなんだ……?」
分からない。しかし、現に私たちの目にはきちんと映っているのだ。どうしてあの四人は口を揃えて見えないと言っていたのか……。
謎を明かすには近づいて調べてみるほかない。そうすることで何かが分かるかもしれない。
――残念ながらそれから先のことはよく思い出せない。
ブルーホールに足を踏み入れるやいなや、渦潮のような強い力に引き寄せられて気がつけば意識を失っていたからだ。
・・・・
それが一体、この宇宙空間となんの関係があるというのだろう。ワープ? テレポーテーション?
理屈は分からないけれど、現実として目の前にある光景が銀河の星々である以上そういったものを信じざるを得ないでしょう。
まずは私と一緒にここに来たであろう司令官を捜すのが先決か。元の世界に帰る方法はそれから考えましょう。
部屋の出口へ向かって進んでいると、突然部屋中に明かりが灯り、猛烈な重圧が押し寄せる。
宙に浮いていた私の身体は地面に叩きつけられ大きな音を立てる。
提督「迎えに来た……ぜ」
部屋に入ってきたのは司令官だった。普段とどこか様子が違うように見えるのは、服装が違うからだろうか。
そういえばさっきまでアロハシャツを着ていたはずだが……泊地での礼服に近い黒い衣装をしている。着替えたのだろうか。
司令官のもとへ駆け寄ろうとするも、急な重力の変化に対応出来ないのかうまく立ち上がれない。
もたもたしている私の様子を見て、司令官は私の艤装と膝を抱えて運ぶ。そしてそのまま部屋を出た。状況が飲み込めない……。
・・・・
何度かエレベーターを経由して施設の最下層まで到達、ここは宇宙飛行機の出入り口らしい。
司令官と共に艦上戦闘機に似た形をした小型機のコクピットに乗り込む。
本来一人乗りの乗り物なようで、私は司令官の膝の上に座せられた。
提督「時間切れか? いいや……ここは強引にでも通らせてもらうぜ」
警報機が作動したのか施設内の電灯が赤く点滅しサイレン音が鳴り響く。
機体の前方にあるシャッターが閉ざされ始める。構わず操縦桿を握り前方に押し倒す。
司令官の心音が背中から伝わってくる(狭いコクピットの中で艤装は邪魔になるので、この時は背中から外していた)。
シャッターが降下するよりも速く、機体は前へ前へとすり抜けていく!
難なく全てのシャッターを掻い潜り、施設の外へと脱出した。
先程の施設から見ていた景色と異なり、機体から見える宇宙の景色は思いのほか暗かった。
どこまでも広がる無限の闇の中に光を放つ星々がまばらに配置されているようだった。
提督「フゥ! 続いてこうか。追手を潰して完全勝利だ」
旋回してこちらの機体を追尾していた石塊に向けてレーザーを撃ち放つ。
朝潮「あの……よく見たらあの石、こっちに攻撃してきていませんか……?」
石塊がこちら目掛けて球状の光弾を放っているように見える。
……よく見ると顔がついている? モアイだ。モアイが口から光の弾を撃ってきている。
提督「その通り。岩に擬態してるがイオン砲という兵器を搭載した哨戒機だ。ゲームじゃないからな、喰らっちまったらそれでゲームオーバーだ」
右手の親指を下に突き立てて首元に持っていき、掻っ切るようなハンドサインをする。
提督「ま、やられる前にやる……これがオレの流儀ってな」
機体は次々にモアイを爆散させていきながら先刻の施設(スペースコロニーのような場所なのだろう)から距離を離していく。
・・・・
戦闘を終えてしばらくすると、白と黄色が混ざったような色の雲に覆われた星に着いた。
幼い頃に図鑑で見た金星とそっくりだった。商業星アルジャンという場所らしい。
この世界における宇宙は、その全域が統一国家に管理されていて、星の一つ一つが都市として扱われているのだという。
宇宙の全てが一つの国に統治されている……深海棲艦との戦いで国を守ることさえ必死な私たちからすれば想像もつかない話である。
司令官も私に説明しながら「パラレルワールドの一言で片付いてしまうのかもしれないが、オレたちの世界の未来ではこうならんだろう」と不思議がっていた。
提督「さ、何はともあれメシだメシ」
パンパンと両手を鳴らして上機嫌な様子の司令官。
高さの異なる直方体の建物が等間隔で立ち並んでいる。建物の色は全て白く、遠くから見ると紙で出来た建築模型のようだった。
白い壁面にはそれぞれ光が照射されていて、近くで見るとそれらの光によって煉瓦や木などの色合い・模様を再現していることが分かった。
この世界で何と言うのかは分からないが、私たちの世界にあるプロジェクションマッピングという技術に近いのかもしれない。
私と司令官は街の外れにある定食屋を訪れた。
提督「来てやったぜ、違法音楽家」
乙川「相変わらず君は口が悪いな……僕は遵法意識に満ち溢れた市民の鑑さ、もっとも僕の楽器から出る音もそうだとは限らないがね。
おっとそっちは見慣れない子だね。僕の名は乙川。よろしく」
瑞鳳「私は瑞鳳。今日のお昼は何にする?」
提督「おまかせでいい。……そこの二人はこの世界で出来た友人だ。表向きは定食屋、されど本質はこの世界に反旗を翻すアナーキストだ。
この世界は徹底した管理世界……音楽や絵画などの芸術でさえもその例外に漏れない。規定に満たない音楽は演奏してはいけないそうだ」
乙川「風営法が厳しいんですヨ。まあそういうのは関係なく芸術分野全般にうるさいんだけれども。
我々市民は必要以上に物を知ってはならないのです。それがこの国の掟! だそうでね」
乙川「僕みたいに音大卒じゃないと楽器を演奏してはいけない、歌を歌ってはいけない。それどころか聴く音楽にだって制限をかけられているんだ。
こんなふざけたことがこの国では罷り通ってしまうのだよ……ま、僕なんかは色々抜け道を使って誤魔化しているけどね」
提督「ほう、それは初耳だな。そんなに酷かったのか」
乙川「そうさ。情報統制・教育の偏向・歴史の歪曲……そういうごまかしや嘘の上塗りが数百年単位で続くと、もう誰も本当のことなんて分からなくなる。
今やこんなルール何のため・誰のためにあるかさえ分からない。誰も得をしていない。それでもルールだけが残っている。そしてそのことに誰も疑問を持たない……」
司令官と乙川さんが話を続けていると、少し経って瑞鳳が私と司令官の席に天津飯を運んできた。
乙川という名の和服を着た男性の話も気になるが、それ以上に気になっていたのは、さっきの女性が『瑞鳳』と名乗っていたことだ。
聞き覚えがある。確かどこかの泊地か鎮守府に在籍していた艦娘だった。見たところ艤装はつけていないように見えるが……。
瑞鳳「どうかしました? 私の顔、なんかついてるかな」
提督「朝潮、お前の言いたいことは分かる。瑞鳳というのは艦娘の名だ。乙川ってのも柱島で最近名を上げている提督の名前だった。
だが、俺らとは違う。俺らのように“やってきた”わけじゃない。どうにも元からこの世界の住人なようだ。この世界の瑞鳳は艦娘でもない普通の人間だ」 ひそひそと耳打ちする
司令官の蓮華を持つ手は止まらず、黙々と食べ続けている。私もこの天津飯は気に入った。おいしいと思う。
私と司令官が料理を食べている間、乙川さんはトロンボーンを演奏していた。
私には音楽の心得がないので詳しいことは分からないが、自由奔放という言葉がよく似合っているような気がした。
自由ではあるものの、無秩序ではない。軽快だがそれでいて洗練された深みのある響きだ。
瑞鳳「二人はどういう仲なの? 恋人同士とかかしら」
朝潮「こ、恋人ですか!?」
提督「おいおい、お前さんとこの亭主と一緒にしてくれるな。こいつはちょっとした因縁深いツレさ」
にこにこと笑みを浮かべながら私たちに話しかけてきた瑞鳳。
演奏の音が生み出すリズムに合わせて小刻みに体を揺らしている。なんだかとても幸せそうに見える。
しかし、私はいったい司令官にどういう認識で見られているのだろう……。
乙川「人をただのロリコンみたいに言うもんじゃないよ。これから大輪の花を咲かせようとしている蕾の価値に気づけない、そんな奴らに瑞鳳は譲れない。
そう、つまり僕は義賊なんですよ。誇り高い理想と崇高ないしゅ、意志のもと……あーごめんもう一回言わせて」
和服の男は演奏をやめると私たちの席に寄ってきた。
提督「思ってもないことを口に出すから噛むんだよ。お前さんの変態性をバカにするつもりはないさ。
奴隷商から生娘を買って、立派なおべべを着させて全うな教育を受けさせる……なかなかの数奇者じゃねーの?」
朝潮「え……そういう人なんですか……」
提督「って言うとさすがに悪く言いすぎか。要は身分違いの恋ってことさ。さっきの演奏を聴けばわかる通り相当な変態ではあるけどな」
乙川「艶やかとか色っぽいだとかもっとマシな褒め方があるだろう。さておき、奴隷という言い方は悪いが……分かりやすさを尊重するとそういう言葉になってしまうね。
この世に生を受けた時点で市民か奴隷か選別されているんだよ。僕は市民で、瑞鳳は奴隷の側だった。本来ならお互いの存在を知ることだってなかったんだろう」
瑞鳳「奴隷といってもこき使われたりするわけじゃないの。機械化出来ないような作業をするだけ。
市民としての権利を持っていない、労働の義務が課せられている立場といえば聞こえは悪いけど……」
朝潮(そういう意味では艦娘と似たようなものなのかしら。艦娘に生まれた時点で、艦娘としての生を全うする役目を担う。
私はそれを悪いことだとは考えていない。……私が艦娘に生まれたからそう思うだけなのかもしれないけれど)
瑞鳳「毎日決まった時間に決まった仕事をこなせばある程度の自由が許されているわ。私は自分の置かれている立場に何も疑問を覚えていなかった」
乙川「一方、市民というのは働く必要がない。何かを望めば、全て国が満たしてくれる。お金はよほど散財でもしない限り無くならない、無くなってもまた与えてくれる。
音楽を聴きたいと頼めば電子化された音楽ファイルを無尽蔵に寄越してくれる。孤独を埋めたいと願えばいくらでも同じ思いを抱えた人間を紹介してくれる」
乙川「全てが供給される。全ては満たされるように出来ているはずだった。だけど僕は何も満たされなかった。
人と会って話しても、誰もかれもみな同じに思えた。中身がないように思えた。刹那的な快楽に身を委ねても、虚しさには勝てないことが分かった。
他の人間はその空虚さを感じていないようだった。空虚であることに気づいてすらいないようだった、それはそれで幸せそうだった」
乙川「誰も彼もみんな陳腐で滑稽な存在に思えてね。少し病んでいたんだ。
そんな時期に偶然瑞鳳と知り合ってそこから勢いで……まあ、恋は盲目というやつだね」
気恥ずかしそうに頭をかく乙川さん。よく見ると乙川さんと瑞鳳の薬指には同じ指輪が嵌めてある。
提督「勢いだけで国を欺けるなら大したもんじゃねえか。飄々としててもやる時はやる男ってことさ、お前さんもな」
乙川「いやいや……危うく終身刑になるところだったからね。君のおかげで今もこうしていられるわけで」
瑞鳳「その節はお世話になりました」
司令官にぺこりと頭を下げる瑞鳳。背丈で言えば私よりも少し高いぐらいだろうか。
……私にもいつか、瑞鳳のように誰かとこういう関係になる日が来るのでしょうか。私が艦娘じゃなかったら、こういう未来もあったのでしょうか。
いいえ、仮定の話に意味はない。
・・・・
この国の情報統制は厳しく、乙川さんと瑞鳳との関係が国に知れた際に二人とも投獄されることになったらしい。
全ての国民の体のどこかに不可視のバーコードが刻まれているようで、政府はその情報をもとに国民を管理しているようだ。
社会保障や福祉はこのバーコードを介して行われる。そのため、一度指名手配されてしまうと逃げ延びることはかなり難しいらしい。
提督「電子化電子化で機械に頼りすぎるとオレのようなイレギュラー相手には対応出来なくなるということだ。
驚いたことにこの国では司法も立法も行政も治安維持もぜーんぶ人工知能が行っているらしい。まあそこいら辺の欠陥を突いてオレがうまく誤魔化したわけだな」
提督「二人を助けた代わりにしばらくあそこでヒモさせてもらって、朝潮が来るのを待っていたんだ」
朝潮(待っていた……? 私と司令官はほぼ同じタイミングでこの世界に来たはずじゃないのかしら……)
二人と別れた後に、私を迎えに来た時とは異なる、外装がルビーのように紅く輝いている機体に乗り込んだ。
ファム・ファタールと名づけた特注品だそうで、司令官はこの宇宙飛行機を愛機だと自慢していた。コクピットもきちんと二人乗りだ。
提督「さて、これで元の世界に戻るための算段は整った。この世界の“時の終点”に辿り着く。それがオレたちの目的だ……」
そういえば元の世界に戻る方法を何も聞いていなかった。そこに辿り着ければ元の世界へ帰れるというの?
朝潮「“時の終点”……?」
提督「そう、この世界の因果律を破壊するんだ。そうすることで時の終点に到達できる」
進めば進むほどに目に見える星の光は減っていき、しばらくして窓には宇宙の暗闇以外に何も映らなくなった。レーダーを頼りに進んでいる。
司令官の話によると……この世界の中枢を担うオーロージュという星に、“時の歯車”なるアイテムがあるそうだ。
“時の歯車”には、任意の時間に巻き戻せる……つまり、時間を過去に戻す力があるらしい。
提督「時間を巻き戻して出来事や行動を変えたとしてもある程度は辻褄が合うように働くようだ、歴史の修正力とでも言うべきか。
だが、この世界に本来起こるはずだった重大な事象なんかを改変すると話は変わってくる」
提督「本来あるはずだった事象がなかったことになる。あるいは本来起こるはずのなかった異変がもたらされる。
過去改変によって歴史の根幹を揺るがすようなことをしでかすと、因果律の崩壊が起こって“時の終点”へと辿り着く」
朝潮「そ、そんなことをしてしまっていいのでしょうか……」
提督「さあな、良い悪いはオレには分からん。だがこの世界に留まるわけにもいかないだろ。さっきも言ったがここはパラレルワールドだ。
この世界がどうなろうと本来の世界へと戻ることが先決なんじゃあないのか? ……さっきのあいつらには悪いがな」
確かにそうだ、私たちは元の世界に戻らなくてはならない。私たちが居ない間も元の世界の時間は流れ続けていることだろう。
朝潮「分かりました……司令官のご判断に従います」
提督「……」
それから私たちは、しばらく無言のままでいた。司令官は私と二人きりの時に世間話をほとんどしない。
彼の秘書艦として泊地で働いている間も、作戦の話や任務の話ばかりだった。秘書艦とは、提督の補佐として雑務をこなす役である。
明確にそういう役職が定められているわけではないのだが、大抵の鎮守府や泊地には秘書役を担う艦娘がいるものだ。
顔を合わせる頻度で言えば、艦娘の中で私が一番多いはずなのだが……このように、無言の時間だけが積み重なっていく。
私は、司令官にこの場に居ない者として認識されているのではないか。そんな疎外感を覚えることが少なくなかった。今もそうだった。
自動操縦に切り替えていて、司令官は手持ち無沙汰らしかった。顎に手を当てて何やら考え事をしている様子だった。
ギラギラとした赤色の瞳は、じっと宇宙の闇を見据えていた。前方の景色には何も映っていないはずだが、司令官には何かが見えているようだった。
ふと、視線が合った。気恥ずかしさから目を逸らしたくなったが、私から逸らすのは失礼に当たるような気がして、そのまま成り行きに任せることにした。
見つめられている。司令官とこんなに長い時間目を合わせているのは初めてだ。彼はあまり人と目を合わせようとしない。珍しいことだ。
二度、三度瞬きをすると、私から視線を外して再び前を向いた。表情に変化はなく、特に何を思うことも無かったようである。
私の方を向くことはなく、独り言のようにぼそりと呟く。
提督「なぁ……朝潮には元の世界に戻りたい理由があるか?」
戻りたい明確な理由があるわけではないが、ここに残りたい理由など当然ない。そう思ったが私が口を開く前に司令官は言葉を続けた。
提督「オレは戻りたい。オレにはまだ果たせていない夢があるから。やり残したことがあるから」
声量こそ小さいが、熱の籠もった力強い意志のある声。
提督「……恐らくだが、ここから先は今までみたいになんでも予定通りという風にはいかねえ。朝潮にも辛い思いをさせることになる」
提督「だから聞いておきたかった。オレにはお前の力が必要だ。けど、今のお前にとってはそうでもない、かもしれねえ。
お前が元の世界に執着がねえってんなら、無理に付き合わすことになるような気がしててな。
オレの都合でお前だけが苦しむことになるのかもしれないと、そう思ったんだ」
朝潮「お心遣いには感謝しますが……心配はご無用です。この朝潮、必ずや司令官のお役に立ってみせます!」
提督「……そうだな、お前はそういうヤツだった」
え……? 肩透かしを食らったようだった。見透かしていたかのような呆気ない態度。
自分なりの意気込みを伝えたつもりだったのだが、どうにも上手く伝わらなかったらしい。言葉足らずだったのでしょうか……。
またも沈黙。モヤモヤとした言葉に出来ない感情が膨れ上がってもどかしい。ただ、言葉の意味を知りたかった。
ああ、そうだ。『元の世界に戻りたい理由』の回答を求められていたんだった。司令官からの質問に答えられなかったから、か。
元の世界に戻りたい理由……。挙げようと思えばいくらでもある。泊地に仲間がいる、そこでの生活もある。
深海棲艦から人々を守らなければならないという使命もある。何から言おうか、何から言うべきか悩んでいた。
朝潮「! ……? どう、しましたか……?」
身体をこちらに向けた司令官。彼の手が私の顎をくいと持ち上げる。そして私の顔を覗き込む。再び視線が合わさる。
提督「なあ朝潮。お前は、オレの役に立ちたいと、本心からそう言っているのか……? お前にとって、それは本当に大切なことなのか?
オレは、朝潮の言葉が聞きたいんだ。お前なりの言葉を聞かせてくれ。それを信じたい」
言葉の意図が分からない。司令官は私に何を求めている? さっき視線が合った時とは違う、何かを物語り訴えかけるような鋭い眼光。
朝潮「私、は……」
言葉が出てこない。司令官は、私を威圧するつもりはないのだろう。しかし……。
この人が怖いと思ってしまった。どうして今そんなことを言うのだろうと、思った。こんな感情は初めてだ。心がざわつく。
提督「……悪い。脅すつもりは、なかった。……そういうつもりでは、なかった」
私の顎から手を離し、正面を向き、帽子を目元まで深く被り直す司令官。
こんな感情は初めてだった。理由も分からないまま泪が零れそうだった。司令官を、普段から恐れているわけではない。むしろ尊敬すらしている。
けれど……底知れない重みのある語気や振る舞い、今まで私に向けることのなかった感情の籠もった表情や言葉。今までとは違う……不安になる。
気づかぬ間に司令官の失望を買うようなことをしてしまったのだろうか……ひどく落ち着かない気分だ。
司令官の前で泣くところなど見せたくはない。そんな情けない真似はしたくなかった。私はじっとこらえていた。
提督「フゥ……。ようやく……、着いたな……。悪いな、ちょっと休憩させてくれ」 座り込んでいる
……後になって気づいたことだが、あの時の司令官はかなり集中していて、精神状態も極限に近かったのだと思う。
だから、言動や様子が少し普段と違っていたとしてもそれは無理のないことなのだ。そんなことにも気づけなかった私が悪かったのだ。
動揺するほどのことではなかった。考えれば分かることだった。
たった単機で数百もの哨戒機と数隻の空母(否、宙母と言うべきか。宇宙に浮かぶ巨大な艦のことだ)を相手にすることが、どれだけ困難か。
それでも司令官は不安や恐れを態度に出すことはしなかった。呼吸も乱れていなかった。震えてもいなかった。
一言も言葉を発することはなく、瞬きをほとんどしていなかった。赤い瞳はギラギラと静かに燃えているかのようだった。
圧倒的な敵の数を前にしてもただ淡々と前へ進んでいった。進む先に何が待っていようと動じることなく光の束を撃ち続けた。
曲がることなく、揺らぐことなく、ただ自分のやり方を貫き通していく。この機体そのものが司令官のあり方を体現しているようだった。
オーロージュの地に降り立った。宇宙から見たこの星の外観は環に覆われていて土星のようだった。
ガスに覆われた星の内部を進み、今は星の中央にある小さなコロニーの内部に潜入している。
提督「星の外見とは裏腹に小さな星だ……ほとんどはガスで出来ていて中央にコロニーが建ってるのか。
しかし内装は殺風景だな。朝潮のいた収容所に似たようなものか。何もない」
この星そのものが一つの巨大な人工知能で出来ていて、他の星から送られてくる全ての情報を管理・統合しているとのことだった。
・・・・
無機質な鋼の壁。壁と同じ色の天井と床。延々続く廊下を歩き続けた。やがて広間に辿り着く。ここで行き止まりのようだ。
部屋の中央には筒型の装置が置かれている。装置の内部は黄緑色の液体で満たされていて、歯車の形をした青色の物体が浮かんでいた。
提督「ここが最深部のはずだが……正面から堂々と侵入しても警備ロボットが出てくる気配もない。かえって不安になるな……」
??「ここに警備は必要ないもの。ここに辿り着ける“人間”はもう、この世界には存在しないのよ」
一つ多い足音。私に似た声質だが、私のものではない。異常に気づく。艤装を展開して戦いに備え、振り返る。
??「見事ねイレギュラー。最初はバグ以外の可能性を疑わなかったわ。いえ……ある意味あなたたちの存在そのものがバグなのかもしれないわね」
司令官の背後に声の主は居た、もう遅かった。その場に倒れ込む司令官。首に注射針を突き刺されていた。
目の前に現れる私と全く同じ姿をした存在。深海棲艦ではないようだが、敵であることに変わりはない。
??「私の名前はグランギニョール・システム。GSと略されて呼ばれることの方が多かったかしら。この世界の管理者……神様のようなものね。
時の歯車は渡さないし、この世界も壊させないわ。ここで諦めてもらうことになるけれど……」
GS「一つ不可解なのはあなた……細胞の動きが人間のそれではない。電光刀でも光線銃でもあなたにダメージを与えることは出来ないみたいね。
この世界ではかつて存在を否定された理論上・仮説上の物質で肉体が構成されているとはね……世界線が変わるとこうも違うものなのかしら。
私の常識が通用しない存在としてあなたを認識したわ」
GS「あなたをシミュレートしてこの身体を生成してみたけれど、真似できるのは見た目だけのようね。不思議だわ」
私は女に飛びかかり、首を締め上げる。
朝潮「司令官に何をした!? 私たちの邪魔をするな……!」
GS「バカね……言ったでしょう。この身体は作り物、私の本体ではない。ゆえに傷つけたところで意味がない。
どちらの立場が上なのか理解した方がいいわ、大事な“司令官”様を人質に取られているのよ? あなたは」
首から手を離し、女を解放する。攻撃してくる気配は見られない。何が目的だ……?
GS「ひとつ、提案をしてあげましょう。あなたに時の歯車は渡せない。元の世界へ帰してやることもできない。
けれど……あなたの望みは叶えてあげられるわ。あなたが心に抱いていた、本当の望みを叶えてあげる」
・・・・
頭の中で声がする。
GS「あなたの肉体を真似ることは出来ずとも、あなたの脳内を見透かすことぐらいはできる。私があなたの本心を暴いてあげるわ」
忌々しい声、憎むべき敵の、声、の、はずなのだが……少しずつ怒りや苛立ちが収まっていく。意識がぼうっとする。
『太陽はなぜか透明であたたかく、退屈な午後は妙に私にやわらかい』……。そう、かつて、どこかであったような、そんな記憶。
ここはどこなのだろう、心地よい気だるさと眠気に襲われる。シロツメクサの咲く丘だった。
私を優しく撫でる、大きな手。私は寝転がっているのだろうか、後頭部に枕のような感触がある。
どうやら人の膝のようだ。目を開くと、見覚えのある顔。照れくさそうに微笑んでいる。
朝潮「しれー……かん?」
私の身体を起こしてぎゅっと胸元に抱き寄せてくれる。両腕から伝わる、確かな温もり。
提督「泣いているじゃないか。怖い夢でも見てたのか? 心配するなって」
私も両腕を司令官の腰に回して、抱きつく。
さっきこらえていたはずの、さっき収まったはずの涙が、堰を切ったようにぽろぽろと零れてくる。
提督「オレがずっと、一緒にいてやるから」
司令官の言葉が染み渡るように、私の心にある不安を消し去ってくれる。
幸せな気持ちがこみ上げてくる。愛しい気持ちが止め処なく溢れて、どうしようもなくなる。
……ああ。分かっているはずなのに。気づかないフリを、していたはずなのに。
傍に居られるだけで、十分だった。尊敬していたからだ。
それ以上のことは望もうとはしていなかったはずだったのに。
それ以上のことは望んではいけなかったはずだったのに。
司令官に、こんなふうに愛されたかった……。これまでずっと抑えてきた感情が、目の端から流れていく。
強く、力強く、自らの意志で司令官を抱き寄せる。傍に居たかった、役に立ちたかった、それだけじゃなかった……!
本当は愛されたかった。愛したかった。恋人のように手を繋ぎあって、並んで歩きたかった。
娘のように甘えたかった、頭を撫でてもらいたかった。幸せになりたかった。司令官と、結ばれたかった。
ひとたび解き放たれた渇望は際限なく膨れ上がり、膨れ上がった分だけ目の前の司令官が、私の餓えを満たしてくれる。
・・・・
残酷なことに、これは虚構だ。こんな記憶など、ありはしない。
幸せな幻想だった、願わくば永遠に醒めないで欲しい夢だった。
しかし……これはしょせん絵空事なのだ。そう強く念じることで、現実へと意識を戻す。
目の前は無機質な鋼の壁。倒れたまま起き上がらない司令官。
こんな空想をしている場合ではない! グランギニョール・システムと自称する私と同じ姿の女を突き飛ばし、司令官に駆け寄る。
指で無理矢理閉じた瞼を開く。部屋の明かりに反応して瞳孔が収縮する。心音も聞こえる。呼吸もしている。
命の心配はないと判断していいのだろうが……私の呼びかけには答えようとしない、揺さぶっても起きる気配が見られない。
朝潮「司令官を元に戻しなさいッ! あなたの目的は何なの!?」
GS「ふふっ……この情動こそが『感情的』というものだったわね。随分久し振りに見せてもらったわ。彼は幸せな夢を見て眠っているだけだから安心して頂戴」
GS「私はこの宇宙で生きる人間の全ての記憶を保有している。といっても、短期的・日常的な表層の記憶じゃないわ。
子供の頃の幸せだった思い出。大切な人と交わした約束。そういう、人間の性質を決定づける重要な記憶……」
GS「知識を規制し、感情に上限を設け、意志を削いでしまえば……人は思い出をなぞらえるだけの影法師になる……。
クスクス……模造品なのよ。人工子宮で生まれた肉体に偽りの記憶を植えつけて、さも当然のように自分が自分であるかのように振舞う人形。
だから、そういう意味ではもうこの世界にはオリジナルの“人間”など存在していないの。滑稽でしょう?」
背筋に悪寒が走る。目の前の敵は、今まで対峙したどんな深海棲艦よりもおぞましい邪悪さを抱えていると感じた。
GS「全ては過去の歴史の繰り返し……あなたがさっき会っていた二人も、どこかであったラブロマンスの再放送なのでしょう」
朝潮「なんてことを……。まさか、司令官にも何か……!?」
GS「“まだ”何もしていないわ。けれど……あなたにとってはそっちの方が都合が良いんじゃないかしら」
朝潮(どういうこと? 自信ありげに何を言っている……?)
GS「さっき見せた光景は、あなたが自覚している通り、もちろん現実ではない……あなたの持つ願望を見せただけだもの。
そして未来に実現することもないでしょう。あなた自身で無意識のうちに諦め、捨て去ってしまった望みだもの」
GS「私ならあなたの悲願を叶えてあげられるわ。あなたの世界でなら実現し得ないかもしれない。
自分の心の中に封じ込めてしまわなければならないような、禁忌だったかもしれない。けれどこの世界ならそれも許される」
身振り手振りを交え、大袈裟な口ぶりで、感情を込めて私を説得しようとする。説得しようとする意図が露骨に透けて見えてかえって不気味だ。
GS「ふふ……そんなに怖い顔をしてはいけないわ。せっかくの綺麗な顔が台無しじゃない。もう一度さっきの幻想を見て幸せになりなさいな。一度と言わず何度でも」
やめて、それだけは……! 声は届かず、また、あの景色に戻る。
・・・・
白昼夢の中では不思議と嫌なことを全て忘れる。しばらくして冷静になると、また現実に引き戻される。それを何度か繰り返す。
もう、自分の意志で現実に戻れているのか、幸せな気持ちになったところであいつに現実を戻されているのか、判断がつかない。
回を増すごとに多幸感や中毒性は高まっていき、意識が現実に戻った時の絶望感や喪失感も増していく。気が狂いそうになる。
朝潮「もう、やめて……やめてください……。これ以上は、やめて……」
精神の疲弊が凄まじく、もう自分の意志で立ち上がることすら出来そうにない。幸せという毒で蹂躙されて、私が私でなくなっていくのを強く感じる。
私と同じ姿の存在に、情けなくもしがみついて、やめてくれと懇願する。もはや意地も矜持もあったものではない。この場から逃れたかった。
GS「あの人の記憶を書き換えてしまえばいいのよ。人格を改変してしまえばいいの。そうすればあなたの見る幻想は、現実のものとなる……!」
悪魔の囁き。きっと、私の人生の中では二度と訪れることはない、千載一遇の機会。司令官と愛し合う、この上なく幸せな未来。
心が傾いている。欲望の充足を求めている。何を迷うことがある、何を躊躇うことがある。祈りはもう届いている。一歩踏み出せば、願いは実現する。
『オレは、朝潮の言葉が聞きたいんだ。お前なりの言葉を聞かせてくれ。それを信じたい』
司令官の言葉が頭を過ぎり、逡巡する。私の言葉……私なりの言葉……。
そう、司令官を私の思い通りに、私の意のままの存在にしてしまうのは……あるべき形じゃない。
そんなことをしたら、私の想いを司令官に伝える機会は永遠に失われる。
たとえ届かなかったとしても、叶わなかったとしても……!
眠っている司令官の手を握る。微かな熱量。抱き締めてもらった時のあたたかさに比べたら、僅かな温もりだった。それでもいい。今はそれでいい。
はっきり言ってやるんだ。たとえ未来永劫、司令官に愛されることはなくとも……そうだったとしても。打ち砕いてやる!
朝潮(司令官……ほんの少しだけ、私に勇気をください!)
――違うッ!
私は声高に叫んだ。全霊の力を込めて、砲を撃ち放す!
GS「莫迦な真似を……! おのれ……」
硝煙が部屋を覆い尽くす。破壊した装置から時の歯車を取り出そうとしたその時。
GS「ぐぐぐッ……ダメよ……。それを許すわけにはいかない! 私は、この世界を維持しなければならない! それが私に与えられた使命……」
艦娘の私が、力負けしている……? 猛烈な力で腕を掴まれている。振り払うことさえできない……ッ!
GS「なぜなの? あなたには寿命が存在しない。永遠に自分の意志で動くことができる、人間を超越した存在なのよ? 永遠の支配者になる資格がある。
そこの男だけじゃない……私はあなたにこの世界の全てを手に入れる力を与えてやると言っているの。全てを満たしてあげると言っているの!」
バキッと骨が軋む音。私の骨じゃない。女の指の骨だ。肉が裂けて骨が折れてもなお私を食い止めようとしている。鬼のような形相で私を睨みつける。
朝潮「そんなものに興味はない……私は私の正しいと信じたものにのみ従う。あなたは間違っている!」
GS「分かり合えないようね。なら仕方ない……彼には死んでもらう」
朝潮(無駄な足掻きを……時間を巻き戻せば司令官の死を無効化できる。このまま力で押し切って、時の歯車を手に入れさえすれば……!)
刹那、視界が暗転する。こいつ……血で目潰しを……! 理解した時には二手遅れていた。
GS「さようなら。そこの男はもう息を吹き返すことはないでしょう。本質的に人工知能である私にこの歯車の力を運用することは出来ない……」
女が部屋の外に時の歯車を投げると、投げた先にはもう一体の私と同じ姿をした女がいた。歯車を受け取って走り去る。
GS「ふふ……破壊もできない、利用もできない。けれど危険な力を持っている。そんなものは宇宙の果てに捨ててしまえばいい。
そうすればもう回収する術はないでしょう? 私の勝ちね……朝潮……」
女は口から血を吹き出してニヤリと笑みを浮かべ、前のめりに倒れた。肉体の力を使い果たしたのだろう。
朝潮「まずい、もう一体のあいつを追わなくては……!」
提督「その必要はないぜ……」
部屋の隅に倒れていたはずの司令官。しかし、どういうわけか部屋の入口に立っていた。手には時の歯車が握られていた。
朝潮「しれい、かん……?」
提督「迷惑かけちまったな。よくやってくれたよ……お前はな……」
ゆっくりと私に歩み寄る司令官。時の歯車を中心に、景色が変わっていく。無機質な白銀の景色が光に包まれていく。
・・・・
白い光の中に私と司令官は居た。天と地の境はなく、垂直に立っているはずなのにお互いの身体が浮いているように見える。
さっきの施設に居た時のような閉塞感や息苦しさは感じられない。幻想の世界で味わったような、心地よい感覚。
しかしこの時私の胸中は困惑と疑念でいっぱいだった。“また”無理矢理幸福感を味わうことになるのか、と内心恐怖していた。
提督「ようこそ、“時の終点”へ。朝潮の奮闘がなければ、ここまで辿り着けなかった……よく頑張ってくれたな」
提督「そして……オレがやってきたことも、間違いではなかったことが証明されたんだ……やっと」
状況がうまく掴めていないけれど、どうやら上手くいったのかしら……?
けれど、どうして時の歯車を司令官が持っていたのだろう。いつどうやって奪い取ったというの?
そもそも司令官は倒れていたはずだし、女は『もう息を吹き返すことはない』と言っていた……どういうこと?
提督「オレが生きてるのが不思議かって? 時の歯車は二つあった。これがトリックさ。二回の賭けに勝ったから生きている」
司令官が右手に持っている青色の“時の歯車”とは異なる、赤色の歯車をポケットから取り出す。
提督「さっきの世界の“青い”時の歯車は、過去への時間遡行ができる。一方この“赤い”歯車は時間を先送りすることができる」
提督「時間を加速させてさっきの世界を終焉へと向かわせ、この“時の終点”へ辿り着いたってことだ。
そして、時間の先送りってのは、ただ単に時間を加速させるだけじゃない。任意の事象をスキップして無かったことにもできる」
提督「二つの賭けの内容はこうだ。あの施設に入った時点で、オレたちの記憶がスキャンされようとしていることに気がついた。
スキャンそのものを防ぐのは無理そうだった。だからこの“赤い”歯車に関する記憶情報のスキャンの時だけをスキップした」
提督「次に、グランギニョール・システムによって眠らされていたオレは、朝潮の『違うッ!』の声で目が覚めた。
奴がオレの身体に埋め込んだマイクロチップで脳に死を命令しようとした、だから奴は勝ったつもりでいたというわけだ。けどそいつはカットさせてもらった。
そこから先は自分の身体の時間だけを加速させて青い歯車を奪い返し、世界全体の時を加速させて時の終点へ到達したという顛末さ」
朝潮「最初から全部司令官の掌の上だった……ということですか。なんにせよ、これで元の世界に戻れるようで安心です」
提督「いーや……そのことなんだが……このままではまだ問題がある。かなり朝潮に迷惑かけることになるが……先に謝っておくぜ」
私の背後に、赤い扉が現れる。バタンと音を立てて開き、中から無数の手が伸びる。私の身体を引きずって行く。
朝潮「司令官ッ!!」
提督「説明している時間はないか……これを受け取ってくれ。簡潔にだがそっちの世界の説明を書いておいた。
あとは頼んだぜ。……またここで会おう、約束だ」
青い歯車と一通の手紙の渡される。扉の向こうへと私を引きずる力が強まる。
ブルーホールの時と同じだ、強い力に引き寄せられている。やがて私の意識は途切れた。
どうやら生きているらしい。気分は最悪だが。
ええと……あれだ。オレはある噂が気になって直接出向くことにしたんだ。そう、ブルーホールだ。
洞窟や鍾乳洞みたいな地形が海没すると、そこだけ周りの海の色よりも暗い色になるんだと。
だが、そんな自然現象がたった一日で起こるはずはねえ。そもそもブルーホールが確認された位置には元々陸地自体なかったし、浅瀬だったってわけでもない。
あの場所にかつて海蝕洞みたいなもんがあったなんて話も聞いたことがないしな。
だから秘書艦の朝潮にボートを曳航してもらって、それに乗って確認しに行ったんだ。
で、朝潮はそのブルーホールに呑まれて消えた。オレも巻き込まれて気がついたらここにいた。
体中砂まみれで、おまけにボートの下敷きになってた。なんだってこんなことになってる。
提督「ペェッ、オフェッフッ。ガハッ」
口の中の入り込んだ少量の砂を吐き捨て、立ち上がる。着ているアロハシャツについた砂を払いながら周りを見渡す。
倒壊したビル郡、ひび割れたアスファルト、打ち捨てられたガラクタの山。太陽はオレをあざ笑うかのようにギラギラと輝いている。
わけわかんねえことが起きてるってのは理解できた。つまり何も理解できてねぇ。せっかくの休みが台無しだ。
とりあえずツレの朝潮を探さねえと。
・・・・
この近くに朝潮も居ることだろうとは思ったが、ジッとしているのは性に合わねえ。
とりあえずその辺をうろついてみるが、ビーチサンダルで歩き回るのは結構しんどい。足元から地平線の果てまで砂と瓦礫とゴミで満ち満ちている。
ゴミ山をよく見ると生ゴミから金属片、果ては注射針に壊れた機銃……なんでもありのひどい有様だ。
もっとひどいのは、そのゴミ山の上をよじ登って何かを探してる子供が何人もいることだ。見覚えがある光景だ、こいつらは高く売れる貴金属を探してるんだろう。
提督「おいガキども。お前らぐらいの背丈の女を見なかったか? 黒くて長い髪をしてる女の子だ」
子供たちにギロリと睨まれる。餓鬼相手にガン飛ばされてもなんとも思わねーが、揃いも揃って餓えた目をしてんな。猿みてえだ。
提督「っと……」
背後に気配。咄嗟に身をかわして相手の腕を掴む。感触から察するにこれも子供の腕か。
提督「おいおい……そいつは玩具じゃねえんだ。没収するぜ」
か細い腕を捻って、手に掴んでいたナイフを奪い取る。薄汚れたタンクトップに半ズボン、みすぼらしい格好のガキだ。
少年の膝はガクガク震えていて、その場にへたり込む。俺を恐れているのか? だったら最初からこんなことをするなと言いたいが……。
顛末を見守っていたゴミ山の子供たちは、オレがナイフを奪い取った瞬間に目を離してまた自分の作業に向かうようになっていた。
こいつを助けようと加勢したりするつもりはないらしい。薄情だが貧困ってのはそういうもんだよな。
オレがこのガキに刺されて死んだら機会に乗じて遺品の剥ぎ取りでもしてやろうと企んでいたんだろう。
提督「取って食うわけじゃねえから安心しな。まあこれは返してやらんがな。質問1、オレがさっき言ってた女の子を見かけなかったか? 朝潮って名前だ」
少年1「いいや……見かけてねえ……」
提督「質問2、ここはどこだ? 言葉が通じるあたり日本であることは確かなようだが……。
オレは海の上にあったブルーホールに呑まれてここに来たんだ、何か分かるか?」
少年1「ブルーホール? わからない。ここは昔、渋谷っていう名前の街だった。けど、このザマだ……戦争の後はどこもこんなだ……」
提督(戦争、かあ……? 深海棲艦との戦いでどこの国もそんなことやれるほどの余裕は絶対ねえ。
それに、渋谷といえば都会の繁華街だろ? こんなに荒れ果ててるはずもない……パラレルワールドってやつなのか?)
どこの国といつ戦争したのかを尋ねようとしたのだが、突然少年が震え出したため質問を中断する。
濁った呻き声をあげてうずくまり、ぶるぶると震えている。少年の身体から汗が吹き出る。
提督「おい、大丈夫か?」
……とてもじゃないが大丈夫そうには見えねえ。
提督「なあお前たち! 誰か病院を知ってるか!? 教えてくれ!」
大声で叫ぶと、山の上の子供たちはこちらの方を振り向いたが、何かを教えてくれそうな気配は見せない。
一人だけ声を返す子供がいた。が、よく聞き取れない。しばらくすると山から降りてオレらの方に歩いてきた。
少年2「こんなところに病院なんてあるわけねえ。それぐらい分かるだろ……こいつはもうだめだ」
よれた半袖のTシャツを着て、傷ついて穴が空いているジーンズを履いている裸足の少年。
うずくまっているタンクトップの少年ほどではないが、彼もひどく痩せ細っている。
少年2「見覚えがあるんだ。こうなったやつはもう、そう長くは持たない。震えが止まらなくなって、最後には寝たきりになって死んじまうんだ」
提督「なら、日の光を避けられて、砂埃の入ってこなさそうな場所はないか? ここじゃ余計な体力を消耗しちまう。せめてもっとマシな場所に連れてってやりてえ」
少年2「おれの住処へ案内するよ。こいつはおれの古い友達だったんだ……こんな場所で死なせるのは忍びねえ」
・・・・
地面や壁面に描かれたペンキ跡から、ここはかつて地下駐車場だったのだろうと推測できる。天井はひび割れていて、ところどころ崩落してしまっている。
硬いアスファルトの床の上に砂まみれの布を敷き、タンクトップの少年を寝かせる。もう一人の少年は用事があると言ってすぐに去って行った。
タンクトップの少年が、ぼそぼそと口を動かしている。よく聞き取れない。
何かをオレに伝えようとしているのか? じっと耳を澄ます。
少年1「ヒ……ハッ、ハハッ……戦争があったのは、八年前、ヒッ……。どこの国がやったのかは、分からない……。
そこら中でテロが起こって、国としての機能が果たせなくなった……テレビで見てた、関係ないと思ってた出来事だった」
少年1「あいつらは……何もかも滅茶苦茶にしていった。ハァーッ、ハァ……もっと早く、手を打っておく必要があったんだ……ィヒッ……」
提督「まさか、深海棲艦か!? しかし、テロだと……?」
返事することもできず、少年は力尽きて気を失ってしまった。
提督「身体の震え、もう一人の子供が言っていた“寝たきり”、そして異常な笑い……。オレの思い違いであって欲しいが……」
この奇妙な症状に一つだけ思い当たる節がある。ニューギニア島の風土病……クールー病だ。またの名をクロイツフェルト・ヤコブ病、その症状と一致している。
実際に目にするのは始めてだが……オレの前にラバウルに着任してた提督が書き残してた手記にあった。
ニューギニア東部高地のワネビンチ山、その北にある降雨林に住んでる少数民族であるフォレ族に伝播した病のことだ。
その原因は……食人。人が人の肉を喰らうことだ。フォレ族には、かつて死亡した者をばらばらにして食する習慣があった。
前の提督が着任した頃にその風習は既に廃れて行われなくなっていたそうだが……病の潜伏期間は五年から二十年。
さっきの子供は言っていた、戦争があったのは八年前だと。……その可能性はある。
・・・・
オレは鼓動を抑えながら、地下の建物内を歩き回っていた。Tシャツの少年がここを拠点にしていると言うのなら、どこかに食糧を保管しているはず。
ん……? 火が灯っているのか、妙に明るい個室を見つける。いや個室じゃない、エレベーターだ。扉は壊れていた。明かりが気になって覗いてみた。
天井が壊れていて、空からは太陽の光が差し込んでいる。そして、一つ下の階から煙が立ち上っていた。やはり火が灯っている。肉の焼ける臭いがする。
下の階には、Tシャツの少年。焼けた肉を食っている。オレは疑問を投げかけずにはいられなかった。
提督「おい……お前……それは、“何の肉”だ? そこに転がってる骨は、“何の動物の骨”だ……?」
少年2「……人の肉だよ。見るからに健康そうなアンタには分からないかもしれないが、これしか食うものがないんだ。
土壌は汚染されきって作物は育たない。動物も死に絶えてる。山奥や海沿いももう人で溢れかえってて何も食えやしない。
ここで廃品に紛れ込んだ貴金属を集めて、水や食べ物を買う。子供のおれたちにはそれしかできない。それすらまともにできないんだ」
少年は躊躇いなく答えた。倫理的な葛藤などとうに忘れた様子だった。そんなことを考えていては生きていけないのだろうが。
提督「…………」
言葉が出てこなかった。ここで綺麗ごとを言うのは簡単だ。人は何のために生きているのか、お前は他人の肉を食ってまで生き永らえたいのかと。
そうは思った、だが。オレが同じ立場になった時、自制できるだろうか。他に生き残る術がなかった時、どうするだろうか。
オレは、まだ死ぬわけにはいかない。誇りと自分の命を天秤にかけたら、恐らく後者を取る。
極限まで餓えに苦しんでいたら……同じことをするかもしれない。
提督「わかった。もう、それを食うのは……やめろ。オレが、お前に協力する。もう、そういうことはしなくていいように、オレが助けてやる。
一緒に生き延びる方法を考えよう。オレがどうにかする……」
少年2「アンタ、変わってるな……今までそんなこと言うやつに会った事がなかった。けど、無理だ……もう何も変わらない。
きっと、戦争が始まる前から……おれらが生まれる前からずっと手遅れだったんだ。おれらの親やその前の世代からずっと手遅れだったんだろう」
提督「何言ってんだ。お前、人の肉を食ってでも生き永らえてるじゃないか。それでも生きていたいんだろ、執着があるんだろ?
だったら、大丈夫だ。オレだってお前と同じだ。生き残るために、自分の望みを叶えるために生きてる。悲観的になるなよ、現状を変えたいんだろう。
その意志があるから死ねないでいるんだろ? 苦しくても諦めきれないんだろ? 違うか?」
真っ直ぐな瞳で、こちらを見上げる少年。
少年2「分かった。あんたを信じるよ……。これを片付けたら、そっちに行くよ。アンタの考えを聞かせて欲しい、先にあいつのところへ戻っていてくれ」
促されたとおりに、オレはタンクトップの少年のところへ戻った。
少年2「アンタみたいなやつにもっと早く会えてたら、おれの人生は変わっていたのかな……」
・・・・
戻ると朝潮が立っていた。悲しそうな顔つきでこちらを見ていた。
朝潮「司令官……気の毒ですが、この子はもう……」
タンクトップの少年は何も語らない。さっきまで苦しみ呻き声をあげていたとは思えないほど安らかな表情をしている。
朝潮「衰弱しきってしまって……自分の力ではもう呼吸することも、心臓を動かすこともできないようです。何か機材があれば、助かったのかもしれないのですが……」
提督「……。そうか……」
オレは、不思議と悲しみの念が湧いてくることはなかった。というよりも、見ず知らずのオレが勝手に悲しんだところで、こいつが救われるはずもない。
だから、出来事として受け入れるしかない。それ以上の感情を抱くことは、こいつの命に対して失礼なような気がしていた。
ドサッ! ドサッ! ドサッ! ドサッ! 鈍い落下音が何度か聞こえる。地上から何かが落とされているらしい。さっきのエレベーターの方からの音だ。
落下音とともに悲鳴が聞こえた。Tシャツの少年の声だ。慌ててエレベーターへ駆け寄り、下の階を覗いた。上から落とされたゴミで満たされていて何も様子が分からない。
穴の開いた天井を見上げると、トラックが去っていく姿が一瞬見えた。叫んでもTシャツの少年の声が返ってくることはなかった。
・・・・
下の階に行って探したが、結局Tシャツの少年の姿は見つからないままだった。ゴミの下敷きになってしまった可能性が高い。
見つけたところで、これだけ時間が経過したらもう助からないだろう……。
提督「この世界は……オレたちの居る世界とは違うみたいだな。どうしてこんなことになってるんだ……? どうしたってこいつらがこんな目に遭わなきゃならねえ!」
ヤコブ病か
似たような病気で牛も肉骨粉で共食いさせると狂牛病になるんだよな
厳密には共食い云々が原因というよりも何万分の1の確率で起こる異常プリオンってタンパク質が原因なんだが
本来ならそのタンパク質が生まれたところでその一頭が[ピーーー]ば伝染せずにそれでお終いだが共食いで他の異常のない動物が食らうと伝染してこの有様よ
つまり狂牛病の人間バージョンがヤコブ病って言われてるな
原因も両方とも異常プリオンだし
まあ共食いじゃなくて他の動物が食べても狂牛病が人間に感染るように普通に伝染するんだがな
朝潮「司令官……」
提督「悪い……朝潮の前で言っても仕方ないことだよな。声を荒げて驚かせちまった。元の世界へ帰る方法を考えなきゃあな……」
朝潮「司令官……この世界を、救いましょう。私の手を握ってください」
何を言ってるんだ……? 手をこちらに差し出す朝潮。わけもわからず、言われた通りに手を握る。
ブン! と風を切るような音がした。目の前の景色が一瞬灰色に歪んだ。すると、ゴミだらけだった廃墟の景色から一変、車が並ぶ駐車場に一瞬で移動した。
提督「一体お前、何をした……? ここが元の世界、なのか?」
朝潮「いいえ。“この世界の”時間を八年前に巻き戻しました。この世界でこれから起こる悲劇を食い止めることが出来れば、元の世界へ帰ることができるでしょう」
時間を戻した? 八年前に? これから起こる悲劇……ってのはタンクトップの少年が言ってた戦争ってやつか。しかし状況が飲み込めねえ。
提督「朝潮……お前、何か知っているな? 一体全体何がどうなってやがんだ、お前は何を知っているんだ?」
朝潮「順を追って説明しますね。私たちの居た世界を“基本世界”……つまり基準となる世界線としましょう。この世界はその基準となる世界線から外れた、異なる世界線。
ここでは“異世界A”と呼びます。ここ異世界Aから基本世界に戻るのが私たちの目的となります」
朝潮「基本世界に戻るためには、既存の因果律を破壊することによって発生する“時の終点”に到達する必要があります。
既存の因果律を破壊するということは即ち、過去を改変して歴史的な重大事件の顛末を変えるなど大規模な過去改変を行うこと……あるいは。
世界に流れる時間を極限まで加速して、この世界で起こるであろう全ての因子と結果を収束させてしまえば、“時の終点”へ辿り着くことが出来ます」
提督「時間を巻き戻して本来あるべき未来と矛盾を起こすか、時間をひたすら早送りすることで“時の終点”へ辿り着けるのか。そうすれば元の“基本世界”へ戻れる、と。
だがちょっと待て……オレたちはブルーホールに呑まれてここに来た、そうだよな? どうしてお前はそんなことを知っている? どうやって時間を巻き戻す能力を手に入れた?」
朝潮「ここが“異世界A”だったとして……ブルーホールに呑まれて私が最初に辿り着いた世界は“異世界B”でした。つまりこの世界線とも異なる世界。
異世界Bの中で私はこの青色の“時の歯車”を入手し、時間を巻き戻す能力を手に入れました。異世界Bから時の終点を経てこの異世界Aにやって来たのです」
青色の歯車を見せる朝潮。朝潮の掌でふよふよと浮いている。
提督「? えっと……朝潮は“異世界B”から“時の終点”へ辿り着いた。だったらどうして“基本世界”にそのまま帰らずに、わざわざこの“異世界A”に来たんだ……?
オレを捜すためか? そんなことをするなら基本世界に戻ってから時間を戻せばよかったんじゃないか? ブルーホールに足を踏み入れる前にな」
朝潮「私が“異世界B”からこの“異世界A”に来たように、司令官も私が居た“異世界B”へと行くことになるんです。未来の話ですが。
この“異世界A”での全ての顛末を経験した司令官と、基本世界からやってきた直後の私が邂逅したのです」
提督「? 未来のオレが最初のお前と会って、それからオレと会ってきたお前が今の何も知らないオレとこうして会っている。
これからオレは“時の終点”に辿り着いて何も知らない過去の朝潮と会う……。なんとなく、理屈の上では分かったがような気がするが……」
??「陛下!? やはり陛下は生きておられた!」
へいか……? 何のことだ? 駐車場に響き渡る女の大声。背の高い、黒いスーツを着た女がこちらへ駆け寄ってくる。
提督「あれは……大和じゃないか!? 大和型戦艦一番艦、大和! 艦隊決戦の切り札であり、オレらの世界における最重要戦力の艦娘。なんで奴がこんなところに……」
大和「大和をご存知ですか、光栄です。ですが今はそれどころではありません……一刻も早く陛下のご無事を報せなければ」
大和は慌てた様子でオレと朝潮を高級そうな車に乗せると、とんでもないスピードで車道を駆け抜けていく。隣に座る朝潮がオレに耳打ちをする。
朝潮曰く、この大和はオレらの知る戦艦大和という艦娘によく似た普通の人間らしい。どうにもこの世界には艦娘や深海棲艦というものが存在していないようだ。
・・・・
巨大なビルの最上階まで連れられた。ビルの中で会った人々はオレにひれ伏して頭を下げていた。アロハシャツ姿のオレを相手に。
提督「なんだってこんなに厚遇されてるんだオレは……? それに、陛下って……?」
朝潮「私も詳しいことは分かりません。ただ、この世界での司令官は、“やんごとない血筋の”人に似た見た目をしているそうですが……」
提督「オレたちの世界で言う菊の御紋の一族として扱われてるってことか……? しかし、この畏れられ方はどちらかと言えば“将軍様”だ。
第二次世界大戦の再現って具合か? なんだかよく分からねぇが……」
あれよあれよという間に勝手に話は進んでいき、オレは華美で派手な衣装を着せられた。大和は壁掛けのモニターの電源をつけ、映像を見せた。
大和「陛下……よくぞご無事で。国民もみな陛下の存命を心から喜んでおります」
モニターに移る映像は、渋谷のスクランブル交差点で熱狂する人々の姿だった。
提督(ワールドカップでもあったのかよ……)
しかし映像内の人々が食い入るように見つめているのは、オレの姿だった。建物に設置された巨大な液晶に映る今のオレの姿だった。どうやら放映されているらしい。
大和「陛下がおられる限り、この国が滅ぶことはありません! 我が国を襲う悪鬼を討ち払い、勝利を掴むのです!」
・・・・
迂闊に口を出せないなと思い、黙っていた。放映が終わり大和が部屋から出て行った後、オレは朝潮に相談しようとした。
しかし、いつの間にか姿を消していた。一緒に最上階までは来ていた、大和に退室を命じられた様子もなかった。
となると、自分の意思でどこかへ行ってしまったのだろうが……一体どこへ? 何かアテがあるというのか?
一人取り残されたオレは、部屋にあった本棚を片っ端から飛ばし読みすることにした。この世界はどういう経緯でこういう状態になったのかを調べようと考えていた。
朝潮の言っていることも大和の言っていることも分からねえ。だが、人間の肉を食わなきゃ子供が生き残れないような未来になるってんなら、食い止めるしかねえ。
事態はまるで把握できていないが、それでもオレなりに出来る最善を尽くそうと思った。
世界恐慌レベルの経済不況が起こり、戦争が起こった。これが第二次世界大戦。ここまではオレたちの生きていた世界の歴史と同じ。けどそこからが違う。
オレたちの世界では、それからしばらくして深海棲艦という人類に危機を及ぼす明確な敵となる存在が襲来してきた。
どうやって奴らが生まれたのかは分からない。けれど今も深海の底で増え続けていることは確かだ。
その深海棲艦の登場と同時期に現れた艦娘という人型兵器を運用することで奴らに対抗しているものの……戦況は芳しくない。国同士で戦っている余裕など当然ない。
今でこそ各地に鎮守府や泊地などの拠点が建っていてある程度の戦果も上がっているが、今日に至るまでの犠牲者の数は計り知れない。
一方で、この世界……“異世界A”は違っていた。深海棲艦など現れることはなかった。
平和が長い間続いていた。社会保障が充実し、国民一人一人の権利が守られている民主主義国家……だった。
しかしある時、先の大戦と同じ流れが起こった。それから戦争へと突入してしまった。恐ろしいことに、今回の戦争は敵国が存在しない。
引き鉄となる出来事は中南米で発達したマフィアが起こしたとも、自らの影響力の低下を恐れた石油財閥がけしかけたとも言われている。
いや、この際どこの誰がきっかけはどうでもいい。問題なのは、この戦争によって誰が得をしているかだ。
大和「残念なことに、この国にも反政府組織と内通している者が紛れ込んでいるようです。検閲を強化して、通信を傍受することにしました。
秘密警察も各地に配属しています。既に幾つかの大国では暴動やテロ、侵略が横行して国家としての機能が破綻しているとのこと……。
陛下が居なくなれば、我が国も同じ末路を辿ることになるでしょう。それだけ陛下はこの国にとって大切なお方なのです、必ずお守りします」
提督(まるで警察国家だな……民主主義が聞いて呆れる。しかし……)
こうなったのもまた民主主義のせいなのだ。政治家は己の腹を肥やすことしか考えない、声の大きい扇動家が不安だけを煽り、国民も国家への希望を失う。
不況とテロリズムの脅威がその恐怖感を後押しして、絶対的な権威者を擁立させようとする運動が盛んになった。結果として今のようにオレが祭り上げられている。
もっとも、オレは異世界から来た人間なのだが。全く無関係な人間が、容姿が似ているというだけこうなるとは奇妙な話だ。まあこれにはどうにも事情があるらしい。
大和「陛下がテロリストに刺殺されたと聞いた時は、この国の落日かと思いました。不謹慎ですが、影武者で良かったと安心しています」
恐らく、オレがこの世界にやって来ずとも、代わりの陛下ってやつが無理矢理擁立されていたのだろう。
どうあれオレはその陛下というやつに成り代わってこの状況を打開する必要があるが、疑問なのは……。
提督(一体オレに何が出来るというのだろう。不満を持った人間たちが各々暴動を起こしている。そしてその者たちの不満を全て解消してやることは不可能だ。
だから、警察国家のように監視網を敷いて力づくで従わせ、国家としての結束を保つ。……理には適っているが)
提督(これじゃまるで全体主義国家だ。ヒトラーの独裁政治、そしてその末路と同じことを辿るか? バカ言え……)
提督「不安や対立を煽っているやつがいるはずだ……と言っても、単に恐怖心で行動している連中じゃない。人々の恐怖を煽ることで利益を得ている奴らだ。
それを知りたい。たぶん……情報統制に意味はない。テロリズムという過激な形で発露されるもの以外の不満は放っておけ」
提督(未来の様子から、貨幣経済は一応残っていると考えられる。金のためにやる戦争なら、全世界でテロを起こす理由が分からない。
なんだってそんなことをする? どこかの国と国を競わせて代理戦争でもさせれば良いんじゃないのか?)
・・・・
三日が経った。未だに朝潮の姿は見つからない、艦娘だから人間が束になったところで傷つけられるようなものではないはずだが……一体どこへ行ったんだあいつは。
朝、反政府組織のアジトの殲滅に成功したと大和が報告してきた。テレビのニュースでも大々的に報道されていた。
提督「どこの報道局も、まるで巨悪を討ち滅ぼしたかのような口振りだ。こんなものは氷山の一角だというのに」
大和「ええ。母体となる組織が存在しているようです。調査を続けています」
提督(そんなことは分かりきっている……誰が得をしているんだ? 国家がわやくちゃになって、人々の暮らしが成り立たなくなる。
既得権益にしがみついてその勢力を伸ばすか、それを打ち破って新たな権益を得ようとするにしても、全世界を滅茶苦茶にしようって考えには至らねえはずだ……)
提督(テロってのが厄介だ……敵として倒そうにも実体がない。和解しようにも姿が見えない相手とどうやって協調すればいい。
永遠に後手後手の対応を迫られ続ける……。国家転覆を企むにしても、国家そのものが瓦解しちゃあ意味がない。そのぐらいのことは相手だって分かるはずだろう)
窓から地上を見遣ると、街宣車とそれに続いて行進する人々が見える。人々は単一の服の色を着ている。
『陛下万歳』……なるほど、マスゲームか。上空から見て文字に見えるように行進しているようだ。
提督「大和……あれ、近くで見れるか」
大和「いえ、陛下の身に何かあったら危険です。映像でよろしければ構いませんが……」
提督「(事実上の軟禁だなこれは……)だったらそれでいい、見せてくれ」
五分ほどして、壁掛けのモニターから映像が中継された。行進の様子を見に来た道路脇の人々は、陛下万歳! と口々に叫んでいる。
また、「テロリストを殺せ!」「異邦人を殺せ!」などと、聞きたくもないような幼稚な音声も紛れていた。
提督(狂信。盲従。排斥。こいつら揃いも揃って異常者だ……オレを唯一神かなんかだと思ってるに違いねえ)
提督「悪い……もういい、映像を止めてくれ。ハァー……」
大和「テロを恐れるあまり行き過ぎた差別主義に走る者も居るようでして……お気を悪くさせてしまいましたか。すみません」
慌てて映像を消し、気まずそうに頭を深く下げる大和。
提督「いや、オレから頼んだことだからお前が謝る必要はない。だが……」
提督(この世界に来てからというもの、日に日に嫌悪感が増していく。早く元の世界に戻らないと頭がおかしくなりそうだ)
提督「それでも……中途半端で逃げ出すわけにはいかねぇ。あんな未来は起こさせねえ……」
結局オレはここに座って、大和が伝える情報を受け取ってるだけだ。「調査するように」と指示してるだけで、何も成果を上げてねえ。
あのガキ共に……正しい未来ってもんを用意してやりてえ。こんな狂った世界でも、オレは絶対投げ出したりなんかしたくねえ。
番組(?)の途中ですが、安価待機勢に連絡です。
ご覧の通り全部投下しきるまでにまだまだ時間がかかりそうなので、安価は本日の22:00からにします。
明日は月曜……というかもう今日が月曜なんで、早く寝なければという方も多いでしょう。安心してお休みくださいませ。というか私も一旦寝ます。ゴメンナサイ。
なんでこんなに投下が時間がかかるかって……? 行数&バイト数制限で引っかかりまくって削りながら投下してるからっす……。
あとヤコブ病のくだりは>>730さんが補足してくれた通りで、作中では触れてませんがプリオンってやつを経口摂取したりすると起こりますです。
必ずしも食人で起こる病気とは限らないのでクロイツフェルト・ヤコブ病の人を見てもカニバだー!とか思っちゃダメです。
身近にそういう人は滅多にいないと思いますが。
一ヶ月が経った。その間、オレはずっとビルから外へ出ることが出来なかった。抜け出そうとしても必ず誰かが護衛についている。
一人になれるのは自分の部屋だけだった。耳に入ってくるのは気分を悪くするようなニュースばかり。
状況を改善したいと心では思っていても、抜本的にどうにかする方法などまるで浮かんでこない。
タンクトップの少年の話が本当なら、今年中にこの国は焦土と化す。そうなってからじゃもう手遅れだ。焦りだけが募っていく。
ノックの音。誰も部屋に入れたい気分ではなかったが、拒む理由はない。招き入れる。
朝潮「司令官! お久しぶりです!」
ボロボロの格好で敬礼を向ける朝潮。中破状態といったところだろうか。服やスカートが破けてしまっている……。
鎮守府的にはよくある光景だが、この姿のままここに来たのだとしたら……ちょっとまずいんじゃないか。
あとで服は用意してやるとして……詳しい話を聞くべきだろう。この一ヶ月間、何をしていたのかを。
朝潮「申し訳ありません……本当はもっと早く突き止めるつもりだったのですが……。これを手に入れるのに、少々時間がかかってしまいました」
提督「錠前付き鉄製の小箱……? 中に何が入っているんだ?」
朝潮「“時の歯車”です。私が持っている、時間を過去に巻き戻す“青い”時の歯車とは異なり、時間を未来へと早送りする力を持つ“赤色の”時の歯車です。
ですが……このままでは使えません。この箱の鍵を開けないといけませんから」
提督「箱を手に入れた状態でそれより前に時間だけを巻き戻せばいいんじゃないのか? それは出来ないのか?」
朝潮「そうすると箱は私の手の中から消えて、元の場所へ戻ってしまいます。一ヶ月前に司令官とこの八年前の時代に来ましたよね。
手を繋いだ人間の意識や状態を引き継いだまま時間を戻すことは出来るのですが……物はその限りではないようで。意識の有無によって差があるようです」
提督「あまりよくわからんが……そうか。……ま、なにより、無事で良かった、安心したぜ。次離れる時はちゃんと伝えてくれ、心配するだろ」
・・・・
朝潮のために用意されている部屋はなかった(どころか、朝潮の存在自体オレの近侍またはメイドとして周囲に認識されているようだ)。
だから自分の部屋に朝潮を泊めることにした。とりあえず服は着せた。
提督「情勢は最悪だ……いや、最悪の度合いを日に日に更新していく。街じゃ魔女狩りならぬテロリスト狩りが流行ってる。
勝手な言いがかりで罪のない人を逆賊に仕立て上げて集団リンチを行う……。情報統制のためでなく、テロリスト狩り対策のために秘密警察を配備しなきゃならない始末だ」
提督「オレは、一ヶ月間ずっと何も出来ないでいる……ただ座して話を聞いているだけの盆暗だ」
うっかり漏れ出た弱音。聞き逃してくれれば良いのものを、朝潮にしっかり拾われてしまう。
朝潮「それは間違いです。『卒に将たるは易く、将に将たるは難し』……故事からの引用ですが。卒とは兵士のこと。
兵を束ねる将官は、人より突出した才覚を持つ者がなるべきです。ですが、諸将を束ねる将に求められる資質は、技術や才能ではありません」
朝潮「確かに今、司令官一人のお力でこの状況を覆すのは不可能でしょう。ですが、ご自分を責めるべきではありません。
司令官は将の将になればよいのです。才気や智謀はなくとも……司令官には、人を引き寄せる何かがあると私は思っています」
朝潮「少なくとも私は……朝潮は、司令官のお陰で成長することが出来ました」
晴れがましい笑顔で微笑みを向ける朝潮。今まで彼女がこんな風に微笑みかけたことがあっただろうか?
提督(オレは朝潮に何かしてやったことがあったか? 普段は仕事の話しかしていた覚えがないぞ……。それに、朝潮はこんなことを言うやつだったか?)
オレは、正直のところ……朝潮のことを自分にとって都合の良い存在だとしか思っていなかった。
嫌な顔一つ見せずオレの指示に従う。干渉もしてこない。まるで道具のように便利だった。しかし、そんなことはもちろん口には出来ない。
朝潮「朝潮は、司令官にとって道具のように便利だったでしょう。私もそうあり続けることを望んでいました」
背筋に寒気が走る。こいつは何を言ってるんだ。今考えていることを未来のオレが打ち明けでもしたのか? いやそんなことはするはずがない。
そんなことをする意味がない。朝潮は何を考えているんだ? 何をオレに伝えたい?
朝潮「でも……もう、司令官の道具ではいられません。私は、自らの意志で司令官に従うのです。司令官の意志と信念に共鳴して、お傍に居たいと思うのです」
澄み切った迷いのない眼差し。こいつは、こんなに綺麗な目をしていたのか……。
その目は口よりも力強く彼女の想念の大きさを物語る。オレの知る朝潮とは何かが違う。今までの朝潮とはどこかが違っている。
朝潮「司令官には、朝潮がついています。……どんな時でも、どこに居ても。心は司令官と共にあります」
朝潮の、絶対的な信頼。妄信しているわけでもないらしい。オレという存在を理解した上で、心から信頼している。
だがその信頼の発生源がオレには分からなくて……誰にも言うまいとしていたことを話し出してしまう。
自白剤でも打たれたかのように、打ち明けずにはいられない気持ちになった。
提督「オレの年齢は、今年で24歳になる。オレの両親が今のオレと同い年の頃に、オレは朝潮と同じぐらいの背丈をしていた。
今のオレに、朝潮と同じぐらいの子供が居るようなもんだぜ? 笑っちゃうだろ? ……」
提督「両親は祖父母や親戚から見放され、とにかく金がなかった。母親は毎日風俗で働いてた。父親は仕事のストレスから酒に溺れてアルコール中毒になった。
望まれずに生まれたオレは毎晩のように虐待を受けてた。ランドセルだって買ってもらえなかった。
手提げ袋で学校に通うオレは変わり者だって皆に笑われて、クラスメイトに石を投げられながら家に帰った」
提督「生まれてきたくて生まれてきたわけじゃない、こんな苦しいなら死んだ方がマシだと何度も呪った。けど、オレはまだ生きることを諦め切れなかった。
だから誓った。絶対に復讐してやるってな。誰よりも上に立ってやるって、底辺からでも這い上がれることを証明してやるって誓ったんだ」
歯を食いしばり、息を吐き出す。今でも恨みは忘れねえ。憎しみを抱えながらここまでずっと歩いてきた。
提督「海軍少将の地位まで上り詰めて、誰もオレを馬鹿にする奴は居なくなった。そして気づいたんだ……オレには才能がないってな。
結局、まともな教育も受けずロクな仲間も持てず、一人で突っ走ってきたオレには、自分が持ってる小さな脳味噌の中で物を考えることしか出来なかった」
ベッドの上に座っているオレの肩に寄り添うように身を寄せる朝潮。彼女なりの気遣いなのかもしれないが、余計に自分が情けなく思えてくる。
提督「だからここから上には昇れない。最近になって自分で気づいたのさ……一週間の休暇も、実は退役する相談をしに本土へ向かうつもりだった」
朝潮は何も言わず、ただオレを抱き締めた。オレは振りほどくこともなく、何を言うこともなく、そのままでいた。そしていつしか眠りに落ちていた。
・・・・
翌朝、朝潮が異変に気づく。
朝潮「司令官! 敵襲です! 東の空からやってきたあの武装ヘリ……十数機はありますね。撃ち落すことも可能ですが……」
朝潮「あのヘリの中に“時の歯車”が入っているこの箱の鍵を持っている人間が居ます。鍵の破壊は避けなければなりません……。
しかし、裏を返せば奴らも迂闊に地上を爆撃したりすることは出来ないということ。地上戦になるでしょう。敵は恐らくこのビルに向かってくるはずです」
提督「(まるでこうなることが分かっていたみたいだな……)大和に言って、他の者を退避させよう。朝潮一人で十分か?」
朝潮「戦車の砲弾でも中破で済んだので、問題ないかと!」
提督(その箱を手に入れるためにどんな戦いをしてきたんだ……?)
・・・・
最上階。朝潮によって気絶させられた屈強な男たちが次々と山のように積み上げられていく。
最後に入ってきた男は、それまでの男たちと比べると小柄な体格だった。そいつは、この国で“陛下”と呼ばれている人間と同じ顔をしていた。
謎の男「おぉ……オレの影武者か。道理でこの国がしぶとく続いてると思ったよ。一度壊れてくれた方が都合が良かったんだが」
提督「オレはオレだぜ。国を捨てた陛下様の影武者なんかじゃねえ。お前の方こそオレと同じ顔しやがって……気持ち悪ぃ」
オレと全く同じ体形・顔つきをした男。まさか、ドッペルゲンガー……? 大和たちが誤解するのも頷けるぐらいこいつとオレは似ている。いや、こいつにオレが似てるのか。
謎の男「一端の口を叩くんじゃねえ、偽者。お前、知ってるんだろ? “時の歯車”ってやつが入ってる箱の在り処を」
男はオレに銃をつきつけた。オレも銃をつきつける。
提督「まあそう慌てるなよ……自分が死んだらボカン! 鍵や箱も巻き添えなんて仕込みをしていたらお互い面倒だろ。勝った方が総取りのルールで行こう。
一旦銃をしまえ。3・2・1・0の合図でお互いの目当ての品を机に置く。次の3カウントで銃を引き抜いて撃つ。簡単なゲームだろ? お前は鍵を出せ」
男は頷き、銃をしまった。オレも銃をしまって、カウントをする。
提督「3・2・1……」
提督「ゼロ」
オレは机の上に箱を置いた。男も机の上に鍵を置いた。と、同時に銃声。しかし弾丸は放たれない。朝潮が時間を戻して細工しているのだ、当然そうなる。
机の上に飛び乗って男に飛び掛り、鍵を奪い取る。反撃しようと殴りかかってきたが、身をかわして跳び退る。
男は朝潮に拘束され身動きが取れないでいる。オレは鍵を開けて歯車を取り出した。
男「チッ……謀られたか……。歯車さえ手に入れればどうにでもなると思っていたが、考えが甘かった……」
提督「違ぇな。確かに“時の歯車”を手に入れれば、都合が悪い出来事の起こる時間だけを取り除けばいい。
だが、お前が自らここに来た理由はそうじゃねえ。お前は誰も信用できなかった。信用できる味方がいなかった。だから最後の最後で自分で決着をつけようとした」
男「何が言いたい? オレにはもう反撃する手段が残ってない。お前に敗れたんだ、そのピストルで心臓を撃ち抜いて殺せよ。
“時の歯車”を手に入れた今、お前はこの世界の全てを牛耳る力を手に入れたんだ。お前がオレに代わって支配するといい」
提督「どうせ死ぬって覚悟決めてんだったら……一つ教えてくれねえか。なんだってこんなふうに世界中でテロを起こしてる?」
男「オレ一人が黒幕ってのは勘違いだな。人口を減らそうって企んでるヤツらが居る。事実、このまま行けばこの星の資源はもう百年持たないと言われている。
だから自分たち以外は旧石器時代のおサルに戻しちまおうなんて考えてる奴らがいるのさ。これが第三次世界大戦の答え」
男「だが……その“時の歯車”があれば、時間と資源の消費という過程をすっ飛ばして成果物だけを手に入れることが出来る。それが無限に行える。
もはや永久機関だ、そいつがあれば全ての問題は解消する。オレはその歯車を手に入れて……新たな国を作ろうとしていた」
提督「悪いが……こいつは渡せない。お前がこいつを手に入れたところで、未来はお前の理想通りにはならないことをオレは知っているからだ。
けどな……オレはお前を殺さない。お前の今の話を聞いて、お前を信じたくなった。だから生かしておく。お前がこの国の本物の陛下ってヤツなんだろ?」
朝潮とオレの体が光に包まれていく。景色が変わっていく。これが“時の終点”……?
提督「だったら国は捨てんな。未来に生まれた子供が悲しまねえような世界にしてくれ……じゃあな」
・・・・
朝潮「司令官……ようこそ、“時の終点”へ。因果律の改変が起きたようです」
提督「あれで良かったのか……? オレは本当にちゃんとあの世界を救えたのか? 最初にあったガキ共が、惨めな思いをしてないと良いんだが……」
朝潮「きっと、あの世界は変わりました。……未来は変わったのでしょう。だからここに辿り着けた」
提督「あー……これからまだ、オレは……最初の朝潮がいた世界に行かなきゃなんねえんだよな? 大丈夫だったか、オレは。上手くやれてたか?」
朝潮「はい! 司令官の言葉のおかげで、私は自分なりの気持ちに向き合うことが出来ました。もう、迷いはありません……」
青色の扉が目の前に現れた。朝潮から赤い歯車と手紙を手渡される。二つを受け取ると扉が開き、開いた扉から伸びてきた無数の手がオレを中に引きずり込んでいった。
扉が消えるのを見送った二人は、すぐに再会することになった。
朝潮「終わったのですね……」
提督「そっちもな。お疲れさん」
提督「手紙……読んだか? 読んだよな、でなきゃ先に起こることが分からなかったはずだしな」
朝潮「司令官も……大変でしたよね……。読み取られてしまうと大変だから、断片的にしか書けなくて……」
提督「手紙では褒めてもらってたが、オレは戦闘機なんて操縦したことが無かったんでな。手紙読んだ後必死こいて練習したけど付け焼刃だなありゃあ。
朝潮の前ではカッコいいとこ見せるつもりで気張ってたけど、実はちょくちょく被弾したタイミングで時間を飛ばしてたんだぜ。だせぇよな」
朝潮「それを言うなら、私も一ヶ月連絡もなく司令官をすっぽかしたままにしてしまいました。心配かけてすみません……」
二人は笑い合って、向き合った。お互いに伝えたいことがあるようで、神妙な顔をしている。
提督「手紙……の話なんだけどな。最後の行……」
朝潮「読みました……」
提督「これは、命令じゃない。お前の気持ちに委ねたいと思ってるから、強制はしない。オレは、お前の言っていた通り、『将の将』を目指す。
……けど、そうなるためには朝潮の力が必要だと思ってる。だから……オレの傍に居てくれよ、オレと一緒に居るって約束してくれよ」
提督「大の男が、こんなところで震えてら……みっともねえ。けど、朝潮みたいに、オレを心から認めてくれる存在は初めてだったんだ。
だから……少しだけビビッてんだ。ハッハッハッ。オレ、やっぱよえーな。無頼気取ってるだけで、ホントはビビリなんだ」
提督「けど……やっぱりオレはまだ諦めきれねえ。未だに上を目指したいと思ってる。そのために、朝潮が必要なんだ」
朝潮「司令官は……強い人ですよ。憎しみや苦しみに苛まれながら、それでも上昇志向を貫き通してきたじゃないですか。
そして今……閉ざしていた心を開いて、人と向き合おうとしている。そんな立派な人のお願いを、断れるはずないじゃないですか」
朝潮「司令官のお傍に居ますよ。約束します」
提督「ありがとう。お前は最高の相棒だよ……いや、最高の相棒として頼るのはこれからだな。よろしく」
朝潮「あの、司令官……? それで、私の手紙の最後の行なんですが……」
提督「言ったよな? オレと朝潮は……その、見るからに外見年齢が釣り合ってないって」
朝潮「はい。それでも……私の本心です。伝わらなくても、及ばなかったとしてもいいんです。それでも、言葉にせずには居られなかったんです」
朝潮「司令官とケッコンしたいんです。あわよくば……法が許すなら、正式な婚姻関係も結びたいと思っています」
提督は、息を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。それからしゃがみ込んで朝潮と目線を合わせ、彼女の右手を両手で握る提督。
提督「分かった……覚悟は、した。いいぜ……オレも誓おう」
提督「しかしだな……朝潮、お前も案外考えなしなやつだな。オレと違って朝潮には将来ってもんがあるだろう。
艦娘だから艤装を解体でもしない限り老化したりするわけじゃねえ。かたやオレの時間は……」
提督から手を離してポケットから“青い”時の歯車を取り出し、それを真っ二つにする朝潮。
提督「は!? 何やってんだお前……。二つに割った歯車を、身体に……?」
朝潮は、青い歯車を提督の胸元に押し付けた。歯車は溶けていくかのように彼の身体に染み込んでいく。
朝潮もまた半分になった青い歯車の片方を自分の心臓部の上に押し当てた。
朝潮「一ヶ月間、時間を戻しては繰り返してを続けていて……こういう使い方も出来ると知ったんです。私と司令官の時間を共有しました」
朝潮「艦娘と人間とでは、轟沈する可能性を考慮しなければ寿命のある人間の方が短命でしょう。
だから健やかなる時も病める時も共に……というわけにはいきません。そこで……」
朝潮「私が生きている間中ずっと、司令官も老化しないという魔法をかけました。
身体に危機が及ぶと肉体の時間が巻き戻って再生するので、溶鉱炉に飛び込みでもしない限り死ぬこともないでしょう」
ニコニコ顔の朝潮を見て、頭を抱える提督。
提督「んぁ~……それは嬉しいんだが……。予想以上にぶっ飛んだ愛情表現で、脳が混乱してるぜ。結婚指輪よりも断然強烈だなこれは……」
朝潮「ええ。これだけ強い想いを抱いてしまったのは司令官のせいなんですから、責任は取ってもらいます」
提督「やれやれ……これじゃ乙川のやつを笑えんな。しかし……どうやったら“基本世界”に戻れるんだ?」
提督が疑問を口にした瞬間に、彼の持っていた赤色だった歯車は七色に輝き始め、色とりどりの光を放つ。
・・・・
執務室のソファの上で提督と朝潮は目覚めた。ソファから立ち上がり、眠気覚ましにストレッチをする朝潮。
ソファに寝転がったまま拳を上に掲げ、無意味にグーとパーを繰り返している提督。
朝潮「結局あれは夢だったのでしょうか……。ようやく普段の泊地に戻ってきましたが……」
提督「赤い歯車は無くなった。オレたち二人を元の世界に戻すための動力となって消えたのか? けど青い歯車はオレたちの身体に残ったままだ」
陽炎「司令ったらこんなところで居眠りして! よりによってこんな大事な日に……ずいぶん図太い神経してるわね」
如月「むしろ、それだけ肝が据わっているから元帥に任命されたんじゃない? でも、ちょっと出てってもらうわね」
提督「元帥……?」
如月「ほらほら~、花嫁の着替えが気になるのは分かるけど……我慢我慢」
朝潮「はな、よめ……?」
部屋に入ってきた陽炎と、その同期の艦娘である如月に部屋を追い出される提督。頭上に?マークが浮かんだまま廊下に立っていた。
・・・・
ラバウル泊地の中庭で、提督と朝潮の二人を多くの艦娘たちが囲んでいた。タキシードを着ている提督とウェディングドレスに身を包んだ朝潮。
二人の薬指にはきらりと光る銀色の指輪が嵌められていた。既に一渡りの儀礼は済ませた後だったため、くつろいでいた。
華燭灯る席に着く二人の前に艦娘の一人、五月雨がてけてけと駆け寄ってくる。
五月雨「二人とも素敵でしたよ~! 緊張しなかったんですか? 随分堂々としてましたね」
提督「全くしなかったな。というか、いまいち現実感がなくってな……(指輪よりえげつないもん貰った後だしな……まさかカッコカリより先にこうなるとは思わなんだが)」
朝潮「そうですね……私にとってもまるで夢のようです(司令官に……キス、される日が来るなんて……)」
五月雨「さすがですね~……。元帥を任される提督とその秘書艦ともなると、振る舞いもなんだか洗練されているように見えます!」
提督「いやァー、んなことねぇだろうよ……オレには荷が重過ぎるほどの大層な肩書きだ。この地位は実力で勝ち取ったもんじゃない、偶然みたいなもんさ。
オレ自身まだまだ至らないところだらけだ……だが、いつかはこの地位に真に相応しい提督になってみせる。だから、これからもよろしく頼むぜ、五月雨」
五月雨「うわぁ~……やっぱり提督は立派ですね。憧れちゃいます。私も一生懸命頑張ります!」
五月雨が離れていくと、朝潮は机の下で不安そうに提督の手を握る。
朝潮「そうですよね……司令官はみんなに尊敬されて、慕われています。私は、本当にこんなことをしてしまっていいんでしょうか……。
大好きな司令官との正式な婚約を、艦隊の皆さんにも認めてもらって……この上なく幸せですが……。幸せすぎて、なんだか、少し怖いです……」
提督「幸せの“幸”って漢字、あるだろ? あれは象形文字なんだ、山や川みたいなもんだな。で、“幸”は手枷をかたどったものなんだ。
手枷って言えばどちらかといえばありがたくない物のはずだろう? なんで手枷で“幸せ”になるかっていうと、死刑ではないからなんだ」
提督「つまりな、“幸せ”ってやつの本質は、人と比べることにある。『死刑のあいつに比べたら、手枷のおれは運がいい』ってこと。
お前は確かに今、愛しているオレと結ばれて“幸せ”かもしれない。オレも“幸せ”だよ、こんなにオレのことを想ってくれるお前が隣にいるんだからな」
提督「けど、オレたちは幸せになるために結ばれたのか? 幸せになることが目的か? オレは違うと思う。
朝潮となら、どんな不幸も苦境も乗り越えて行けるような気がする。だからオレは朝潮と結婚してもいいって言ったんだ」
朝潮「しれぇ、かぁん……」
提督の胸元でぶわっと泣き出す朝潮。困惑しながらも朝潮の頭を撫でる提督。
・・・・
夜になって、提督と朝潮は泊地の屋上から星を見ていた。これまでのことを話し合っていた。
朝潮「昼は急に泣きついてすみませんでした……。けれど、ようやく私も“手枷”から解き放たれたような気がします。
司令官となら“幸せ”以上に価値のある何かを見つけられるような、そんな予感がしています」
提督「未来を恐れても仕方がないからな。前向きに行かないと……って。あの異世界で、心が折れかけてた時の夜に、朝潮に抱き締められて思ったのさ。
こんなにオレを想ってくれる人がいるなら、オレはまだ止まっちゃいられねえなって。オレも朝潮のお陰で成長してるみたいだ」
朝潮「なんだか、照れくさいですね……あっ」
朝潮の指差す方角は、ブルーホールがあった海の方だった。夜にも関わらず大きな虹がかかっている。
朝潮「そういえば……ブルーホールとは一体なんだったのでしょう。あの虹がかかっている場所にあったはずですが……。
こうして元の世界の泊地に戻ってきたのはいいけれど、私は司令官と結ばれて、そして司令官は今日から元帥になって……」
朝潮「結婚式が終わった後に司令官は元帥の就任式があったでしょう。その間にブルーホールのことを調べてみましたが……やはり記録にはありませんでした。
他の艦娘に聞いてもみな知らないそうで……でも、やっぱりこの世界は私たちの居た元の世界だって感覚があるんですよね……」
提督「これは、オカルトな妄想話だが……聞いてくれ。このパプアニューギニア一帯にはかつて、食人や魔女狩りといった風習が存在していた。
呪術によって人を支配する、なんてものもあったそうだ。そういう怨念や恐怖が、ああいう異世界へと繋がるブルーホールへとオレらを誘ったんじゃねえかな。
そして今、祝福の象徴として知られる虹が輝いている。祝福ってやつは、呪いと対になるものだが……。
オレたちが異世界の中で、悩み、苦しみ、葛藤し……そうして解決へと導いた。それは、この土地に渦巻いていた呪いに向き合うことだったのかもしれない」
提督「つまりあの異世界はほんとは異世界なんかじゃなくて、この世界の中で見た幻覚に近い何かだったんじゃないかなとか勝手に思ってる。
呪いを克服したから祝福へと転じ、オレにとっての願いであった“頂点へと上り詰めること”、朝潮にとっての願いであった“オレと結婚すること”が叶ったんじゃないか」
提督「まっ、全然辻褄合ってないけどな! けど、どうにもあのブルーホールは消滅しちまったようで多分もう調べようもない。オレはこんな感じの適当な解釈で片付けることにした」
朝潮「なんだか神話や伝承みたいですね……でも、ちょっとその説でいいかなって思いました。あの、ところで、司令官……」
虹を背に立つ朝潮、髪が煌いている。提督の目を見つめ、ぴょんと跳躍する。互いの唇が触れる。
朝潮「ふふふっ……」
提督「脈絡ねえな……けど、それでもいい。ムードや流れなんて気にするもんでもないな。お互いがお互いを愛しくなった時に、それを伝え合えるような関係がいい。こんな風に」
しゃがんで朝潮の唇を奪う提督。二人は抱き合い、夜を照らす虹の明かりに包まれていた。
なんだかんだで30分遅刻してしまった……これでおしまいです。
後語り的なことはとりあえず置いといて、安価をば。
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
(参考:>>669->>671)
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
山城
>>743より山城が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:48(人並み)
知性:17(低い)
魅力:15(低い)
仁徳:94(聖人)
幸運:24(やや不運)
おー……これはどういう話になるでしょうかね。まだ何も考えていませんが。
お題はないので自由にやらせてもらえると解釈しますが、それでも今回ほど暴走することはないかと。
あと今回みたいに投下まで2~3ヶ月ぐらいかけるみたいなことはやらかさないように気をつけたいと思います。
////今回の章について 雑記////
なんかー……そのぉー……大迷走でしたね。投稿めっちゃ遅れてすみませんでした。
物書き始めてたぶん1年以上経ってるわけですが、いや~これほど書けねえと思ったのは初めてですね。
苦し紛れの末今回のような形になりました。結果的に16レスでどこまでカオスな展開にできるかみたいなチキンレースになってしまいました。
もはや艦これのSSじゃないっすねこれ……。
えーと……遥か昔に時間遡行がテーマになるとか言ったくせにほとんど時間巻き戻してませんね。
これには浅い事情がありまして。いや~、具体的な作品名出しちゃいますけど、シュタゲとかまどマギとかって時間遡行が出てくるじゃないですか。
あれパク……オマージュすればなんかそれっぽいもの出来るんじゃないかな~とか思ってたんすよね。いや、そう簡単にプロが書いたものを真似れるわけないだろと。
小手先でそれっぽいものが出来たとしても、オマージュするってんならリスペクトに欠いたようなショボいものは書けないし……。そんなわけで挫折しました。
あと魔法、出てきましたね(比喩表現ですが)……というか、ご都合アイテムという意味では時の歯車とかいうのも広義的に魔法ですな。
時間戻したり加速したり吹っ飛ばしたりするのはあのなんというか……好きな漫画がバレるようなあれですが……。
普通にチートアイテムだったので結構扱いに困りました。
それから、時間遡行とは直接の関係はないんですが、結構過去作っぽいニュアンスを含んでたりしています。
まあ前の章の乙川提督と瑞鳳はスターシステム的な形で普通に登場してますしね。
いやでも、ディストピアで世紀末で時間遡行とかバカ正直に要素全部拾って書いた頭悪かったっすね。
お題に対してもうちょい賢い逃げ方あったよな~とか反省。ただお題自体は面白かったです。期待に沿えるものが書けたかは別として。
視点が7レス(朝潮視点)→7レス(提督視点)→2レス(三人称視点)で変わってるのはちょっとした実験です。
ぶっちゃけ特に意味はないです。いや、世界線=舞台の違いを視点の違いによって表現してみたとか難しい言葉を使うとそんな感じですがしょせん実験です。
こういう妙な趣向を凝らしたせいで余計筆が遅れたのかもしれません。あれですね……あんま要らんとこに凝って時間かけてるようではダメですな。
キャラについて少し語ると……。
朝潮の魅力は、一言で言うとズバリ! 『忠犬かわいい』だと思います。あくまで私個人の感想ですが。
なので今回は敢えてその(個人的)定石から外して、忠犬の首輪を取ってみました。なかなか暴れていたため皆さんの考える朝潮像からは外れていたと思います。
まあ……その、「てるてる坊主生産任務に入りましょうか!?」とか言う子をヒロインにするってのはその……率直に言って犯罪と言いますか~……。
そんなわけで朝潮の持つ幼い部分はちょいカットして(そこも魅力ではあるのですが)、ある程度ヒロインとしての補正をかけました。
ストーリー展開の激しさも相まって作品自体には馴染むキャラ付けになったかなーとか思ってます。
提督に関しては前回が軟派な男だったので今回はわりと荒っぽいテイストにしました。つってもまだ甘々ですが。
私の書く提督はみんな卑屈なやつばかりなので次回はもうちょいさっぱりした奴にしたいですね。ヒロインやストーリー全体との兼ね合いもありますが。
あんままとまってないですが大体こんな感じですかね。特筆するようなことはないかな……。
保守してくれてた方々、ホントありがとうございます。危うくスレが消滅するところでした。
このスレが今も続いているのは皆様のご協力あってこそです。毎度ありがとうございます。
セルフ保守。あと二週間ぐらいあれば投下出来そうな兆しです。たぶん……。
祝日を利用してガンガン書き進めたいところですが結構予定が入ってしまっているんで微妙ですね。
遅くとも次の夏イベが終了するまでには投下できるかなーと。前回よりは幾分か書きやすいんでね……。
それと、またいつもみたいにチラ裏的話は書いたのですが長くなりすぎたので次のレスへ分割。
////小ネタ////
知っていても知らなくても良い程度の裏設定話ですが。
タロット占いというものがありまして……って、このスレをリアルタイムで追ってる層相手には説明不要ですかね。中二病患者なら大抵通る道ですし。
いやいやいやいや艦これのスレなのにタロット周りが前提知識扱いっておかしいでしょう(セルフツッコミ)。ちょっとだけ説明します。
タロットカードには22種類のカード(※1)がありまして。それぞれに0から21の番号と名前が割り振られています。
0は『愚者』、1なら『魔術師』、2の『女教皇』……と続いていって21の『世界』で一まとまり、という具合でございます。
それぞれのカードは意味を持っていて、たとえば『愚者』なら自由・無邪気・純粋などの意味合いになります(※2)。
タロット占いというのは、簡単に言うとこれらのカードの意味合いを読み取って吉凶を占う! というものであります。
※1
分かりやすさ重視で22枚と書きましたが、本当は全部で78枚1組となっています。
前述の22枚を大アルカナ、残りの56枚の方は小アルカナと呼びます。
小アルカナは、棒・剣・聖杯・硬貨の四組に分かれていて、それぞれ1~10の数札と4枚の人物が描かれた札で構成されています。
トランプカードに近いものを想像していただければわかりやすいかもしれません。
小アルカナにもカードの1枚1枚に意味合いはありますが、大アルカナのように固有の名前はありません。
※2
これも分かりやすさ重視で正位置(カードが正しい向きで置かれた時の解釈)の話だけ書きましたが、実は逆位置というものがあります。
正位置に対してカードが上下逆さまに置かれた場合は逆位置と呼び、意味合いが変わります。
大抵は正位置と逆の意味合いで解釈されますが、カードの種類によってはそうでなかったりもします。
愚者の場合は
正位置:自由・無邪気・純粋・可能性
逆位置:軽率・我儘・無責任・落ちこぼれ
などの意味合いとなります。どっちにしても宙ぶらりんで未来があまり決まっていない、って感じですかね。
あと、ついでに書いておくと『愚者』のカードは番号無表示だったりすることもあります。
で、だからどうしたという話ですよね。
実はそれぞれの章のストーリーは多少タロットカードを意識して書いてました。
たとえば
1章(瑞鳳の話、>>681~>>700)では13番のカード『死神』
2章(朝潮の話、>>721~>>738)だったら6番のカード『恋人』
そして現在執筆中の3章は0番のカード『愚者』
みたいな意味合いをちょっとだけ加味して書いてたりします。加味といっても頭の片隅に留めて書いているかな、という程度ですが。
ちなみに死神のカードは
正位置:死・終焉・清算・転換
逆位置:再生・復活・中止・停滞
プラスがゼロになることは破滅であり挫折を意味しますが、マイナスがゼロになったらそれは再生への一歩となるわけで。
『死神』というおっかない名前のわりには案外ポジティブな意味を持つこともありますが、占いで出てきて手放しで喜べるカードって感じではなさそうですね。
1章振り返ってみてもあんま死神要素は薄いかなって感じですが。せいぜい「再スタート」を意識して書いたってとこぐらいですかねー。
出だしから失脚の話とか面白くないっていうか暗いじゃないですか。今回の部の導入に当たる章でもあるので、重い話にならないようにフワッとした感じで書きました。
恋人のカードは
正位置:恋愛・魅力・情熱・絆
逆位置:別離・嫉妬・誘惑・優柔不断
これはネットスラングでよく使われるリア充or非リアみたいな分かりやすい解釈を持つカードですね。
世間一般では会いたくて会いたくて震えることに共感を覚える人が多いようですが、恋愛というのもさまざまな種類があり、良し悪しありますからね。
恋をしていれば幸せか、愛されれば幸せか、というとそういうもんでもないでしょう。逆位置の場合はそういうニュアンスっぽいですね。
2章は……その、言わずもがなというか。最終的に運命の赤い糸どころか鎖でぐるぐる巻きみたいな関係になってしまいました。
で、1章なら『死神』、2章なら『恋人』、って何を基準に決めたのかって話になりますよね。
先に断っておきますが私が占いで決めたわけではありません。そもそも自分その手の道具持ってませんしね。
実はこっそり安価で決めていました。「安価レスでついたコンマ下2桁の合計値」を(タロットカードの枚数である)22で割った時の剰余の数で決定しています。
たとえば1章なら、それぞれ安価でついたコンマ値が25,41,61,38,46だったので、
25+41+61+38+46=211 → 211÷22=9あまり13
この剰余の値である13で決まりました。もっと簡単に書くと
(25+41+61+38+46)%22=13
って感じですね。この%記号は剰余演算子ってやつでその名の通り22で割った時の剰余の数だけを表すという記号です。
主にプログラミング言語とかで使われれるものなんで、実際は%じゃなく別の記号などが使われたりすることもあります。
で、2章なんですが……。
(74+22+26+34+11)%22=13
……。また『死神』じゃないですか。なんでこれが『恋人』になったのかと言いますと。
……………………その。あの、あれです。超恥ずかしいんですけど。コンマの値を打ち間違えたまま計算していました。
そして後になっても気づけず、大部分を書き終えた後になって間違いが発覚。
こういうこと思いつくわりにはしょうもないミスやらかしてるのがヒドイっすね。まぁ……運命の悪戯ってことで誤魔化させてください。
3章の場合は、
(48+17+15+94+24)%22=0
0番のカードと言えば『愚者』。なのでどういうお話になるのかというと……? というプチ予告です。
ちょっと予測を立てづらいカードかな? 手の内明かしたってことは、敢えて裏をかいたりするかもしれませんがね。ふっふっふっ……。
ここまで書いといてアレですが、せいぜい「裏」設定みたいなもんなんで、カードの暗示に沿って物語が進むかというとわりとそうでもないです。
1章みたいにスルーしたり、2章みたいに安価でついた設定が絡んできたりもするので、あくまで指針となる要素の一つってぐらいですね。
また、作中の設定に直接タロット的要素を組み込んだりすることも多分ないと思います(安価次第ではどうなるか分かりませんが)。
タロットカードの、それも大アルカナとか手垢つきまくりのネタじゃないですかー。1章あたり15~16レスであることを考慮すると尺的にも厳しそうですし。
この裏設定はやっぱりあくまで「裏」の設定であり、知っていても知らなくてもいい程度の情報なため、あえて2章終わってから小ネタという形でお披露目しました。
前のレスですが「こんな感じの要素も若干ストーリーの決定材料として使ってます」という程度の小ネタなんであんま気にしなくて大丈夫です。
そんなん良いから早く次の章を書けって話ですね。次回の投下は8/28(日)を予定しています。
前回夜に投下開始したら日を跨ぐことになってしまったんで、(できれば)夕方頃に始めましょうか。
////近況とか////
イベの方はAquila掘りで燃料8万ぐらいぶっ飛んでしまって肝を冷やしましたがなんとかゲットしました。
E4は未着手なんでこれからって感じですね。あと伊26もまだ出てないや……。残り時間を考えると結構忙しいっすね。
イベントは完遂する、SSも完成させる。両方やらなきゃならないのがどうたら……って、どっちも計画性持って進めてたらこうなってなかったんやで。
全然SSとも艦これとも関係ない話ですが最近フリースタイルダンジョンという番組にハマっています。本当に関係ねえな。
音楽に合わせた即興ラップでお互いをdisり合って(罵倒し合って)勝敗を競うという大変教育上よろしくない番組です。
しかしただ単に相手の悪口を言うだけでなく、フロウ(歌い回し)やライミング(韻の踏み方)、
相手の言ったことに的確かつユーモラスに返すアンサー力など、様々なスキルや高度なコミュニケーション能力が要求されるようです。
私の作品ではボロカスに貶し合う描写とかないんでアレですが、わりと物書き的にも参考になる面があるな~と感心させられます。
ボキャブラリーに満ちた罵倒語がわずか数分間でボンボコ出てくるのも凄いし、どんなことを言われても相手の言ったことに+αの毒舌で返すのも凄いなと。
あ、言及したからって次の話ではやたら切れ味の強いdisが飛んでくるとか妙に韻を踏んでる文章になってるとかそういうことは無いと思います。
私用により本日の投下が出来ない状況になってしまいました。個人的な理由で申し訳ありませんがご了承ください。
また、明日も投下のための時間が確保できないため、明後日8/30(火)20時から投下開始という形を取らせていただきます。大変申し訳ありません。
いきます。えと、体力的に23時とかその辺で燃え尽きて全部投下しきれないと思うんで、本日は前半・明日に後半を投下するという形でやってきます。
明日の夜、投稿作業が全て完了したら次の安価を募集……と考えていたのですが、
それだと(安価を取るために)深夜までスレに貼り付いていないといけないという状況が生じてしまう可能性があるので、安価日は別途設けます。
次回の安価は9月1日(木)20時に行おうと思っているので、興味がある方はその辺の時間帯にスレ覗いていただければなと。
鈍く、暗く、重々しい鉛色の空。間もなく雨が降るのだろう、部屋中に漂う湿った空気が予感を確信へと変える。
??「こんな天気では、雨はおろか雲ごと地上に降ってきそうだね」
私が目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。白いシーツの敷かれたベッドの上。鎮守府にこんな部屋があったかしら。記憶にないわね……。
窓から見える建物や庭の意匠もなんだか見覚えがない。自分の知っている場所に似ているようで違う、という違和感を覚える。
??「キミがここに来てから急にクーラーが壊れてしまって……今日の天気が雨なのは不幸中の幸いだね。ジメジメはするけど」
中性的な声。おそらく男性……だと思うのだけれど、部屋のどこにも姿が見つからない。声の位置は近いから、すぐそばに居るはずなのだけれど。
??「初めまして。ボクの名前は窓位 聖人(マドイ アキヒト)。横須賀鎮守府へようこそ」
ベッドの脇からぴょんと顔を出したのは少年だった。背は駆逐艦と同じくらいだったから、足元の死角にいて見えなかったのだわ。
彼は……ここの提督の親族かしら。制帽を被って制服を着ているけど、さすがにこんな子供が提督なはずもないでしょうし……。
提督「こんなナリではありますが、一応提督なんですよ。ちょっと今は色々な事情が重なっちゃってどこの鎮守府にも所属してないんだけどね。
快復するまでキミの様子を見るように頼まれてるんで、今だけはキミの提督って形になるかな。よろしくねっ、山城」
気がかりなことが二点。なぜ私は横須賀鎮守府にいるのか。私は呉鎮守府に在籍していて、異動の命令も出ていないはずだった。
そして、この少年は何者なのか。年端のいかない人間の子供が国防の要である鎮守府に出入りできるはずはないし、まして提督になるなどあり得ない。
山城「ええっと……どうして私は横須賀の鎮守府にいるのかしら? 私はもともと呉の鎮守府にいたはずだわ」
提督「ボクもあんまり詳しい事情は知らないんだけどね。人間でいうところの風邪に近い症状を患っているみたい。力が衰えているんだよ。
呉の方は春ごろ大変だったんだろう? たしか……柱島泊地の近くに深海棲艦の拠点が出来たそうで。呉鎮守府は空襲も受けたんだってね」
山城「ええ……どうにか収束はしたけれど、復興に手間取っているわ。艦が沈んだり施設が倒壊したりする被害は受けなかったけど、資材の消費が甚大だったようね」
提督「度重なる戦闘とその後の復興作業、その矢先にラバウルから来た新元帥の着任でしょ? あそこも忙しい鎮守府だよねえ……」
少年はポケットから板状のガムを取り出し、三枚ほどまとめて口に入れる。時折風船のようにガムを膨らませている。
提督「艦娘というのは人間みたいに病気を患ったりしないし、戦闘にでも出なければ大概の怪我は一瞬で治る。
中破・大破時は例外として、肉体的な不調ってのは原則的に起こらないんだけど……裏を返せばひとえに精神的なコンディションに左右されるってわけ。
精神の疲労やストレスが溜まることによって身体能力が著しく低下するそうだよ。だから過労でぶっ倒れてた山城はここで療養することになったのさ」
山城(……姉様に負担をかけまいと働き詰めていたのが仇となったのかしら。まさか私が倒れるなんて)
山城「そうですか、打たれ強さだけには自信があったんですけどね。……生まれてこの方ロクな目に遭っていないもんで」
提督「無理は禁物さ。しばらくはここでまったり過ごすといい。ガム噛むかい?」
銀紙に包装されたガムを渡される。別に欲しくはないけれど……せっかくだからもらっておこうかしら。
山城「ありがとうございます。それより、提督……なんでしたよね? 失礼ながらどう見ても子供にしか見えないのですが……」
提督「あー……それか! 普通に答えてもいいんだけど、もう喋りすぎて飽き気味なんだよね。というわけでここでクイズです! デデン!
どうしてボクは子供の見た目をしているのに提督なんでしょーか?」
1.IQ200の天才児で、特例的に軍務を任されているから
2.犯罪組織に飲まされた毒薬によって若返ってしまったから
3.身体的に年をとらない病気を患っているから
提督「それではお手持ちのフリップに答えをお書きください!」
よく見るとベッド隣の棚の上にフリップとペン、そして赤色の押しボタンが。え、これ答えなきゃダメなやつなの? っていうかわざわざ用意してたの?
山城(形式にこだわるこの国の海軍が特例を許すことなんてなさそうよね……自分で天才児と自称するのもいけ好かないわ。2番目も漫画じゃあるまいし非現実的だわ)
ボタンを押すと、ピンポン! と軽快な電子音が鳴る。
提督「はい山城さん早かった」
山城「(クイズなの? 大喜利なの?)答えは……3番ね」
提督「そう思う理由は? あとちゃんとフリップひっくり返してね」
山城「たしか……若くして老化が著しく進行してしまう早老症という病気があったはず。だったらその逆だってあるはずじゃないかしら」
提督「ファイナルアンサー?」
山城「(くどいわね……)ファイナルアンサー」
提督「……ざんっねん!」
山城「嘘!? なら、どっちなの?」
提督「正解は、『外見を構成する皮膚の大部分が合成繊維で出来ていて、内臓や脳は歳を取るが外見上の成長は小学生相当のままで止まっている』でした!
『実はヒューマノイドだった』とかでも大目に見て正解にしようと考えてたんだけどね~。いやぁ残念」
山城「はぁ? 何よそれ、インチキ問題じゃないの……。というかそれ、本当の話なの? にわかには信じられないわ」
提督「答えが三択の中にあるとは言ってないじゃない、常識に囚われちゃいけませんよ。フリップはヒントのつもりだったんだけどね~」
提督「実際には人造人間なんかじゃないよ? 列記とした人間さ。脳ミソや心臓は全部自前なんだから。畸形嚢腫(きけいのうしゅ)って言うんだけども」
山城「何かしら? 聞きなれない言葉だけど」
提督「双生児の片方が奇形として生まれて、それがもう一方の体内に腫瘍として取り込まれてしまう症状をそう呼ぶんだ。
ボクの兄に出来た腫瘍の中に、ボクを形成するための脳や内臓が奇跡的に揃っていたんだ。
摘出されるまでボクは兄の体内で成長して、それから培養液の中で何年か過ごして今に至るってことさ」
山城「そんなことってあるのかしら……? 素直に驚きだわ」
提督「そうは言うけれど、ボクから言わせれば艦娘の存在だって相当ぶっ飛んでると思うよ。人が海の上を歩けるはずがないじゃないのさ。
……でも、普通の人間よりはボクもキミたちに近いのかもね。この体はキミたち艦娘のように定期的にメンテナンスしてやる必要があるんだ」
提督「たぶんボクが生まれるまでに、というより、こういう体を与えられるまでにすごく色々なことがあったと思うんだけど……。
両親がボクのことを人間として認めてくれなければ、ボクはこんな風にキミとおしゃべりすることも出来なかったわけで。
ボクが提督になったのは、両親、そしてボクが生まれるために尽くしてくれた人たちへの恩返しでもあるんだ。ボクはみんなを愛してる、みんなを守りたいんだ」
眩し過ぎる笑顔に思わず目を逸らす。私なら素面でそんなことは言えない。
山城(なんというか……育ちの違いを感じるわね。良い子、いや、良い人ではあるんだろうけど……なんだかこっちが後ろめたい気持ちになってくるわ)
気を紛らわそうと、口の中の風船ガムを膨らませる。そのまま破裂する。
山城「不幸だわ……」
提督「あははっ、おもしろ。手鏡とティッシュを持ってくるね」
私の顔や髪にガムがこびりついている様子を見て、キャッキャッと手を叩いて喜んでいる。少しは見直したけど、やっぱどこかガキっぽいわね……。
・・・・
体調が優れなかったので……いいえ、艦娘に体調不良はない。体調が優れない気分だったので、提督と会ってから二日ほどはベッドの上で寝込んでいた。
他の艦娘が働いているにも関わらず私だけ何もしないでいるのは言いようのない罪悪感があったが、提督と話している間だけは少し気が紛れた。
とはいえ、さすがに横になっているだけの生活にも飽きてきたので、提督に鎮守府内を案内してもらっていた。
提督「まみやーっ! かき氷二つお願い。宇治抹茶といちごミルクで!」
案内が終わると、甘味処に連れられた。店の外からでも聞こえるザアザア振りの雨。私がここに来てからずっと雨だ。風が窓を叩く。雷鳴も時折聞こえてくる。
窓の外を眺めていると、いつの間にか机の上には大きなかき氷が二つ置かれていた。
提督「ボクはいちごの方ね。山城は抹茶でいい?」
山城「えぇ……構いませんが」
一気に食べると頭痛を起こすので、少しずつ氷を口に運ぶ。……! 美味しい。
ただ単純に氷を削っただけでこの舌触りは再現できないはず。口の中で雪のように溶けていく。
シロップの味もスーパーで売っているような粗悪品と違って上品な味わいがする。
舌に嫌味ったらしい甘味が残らない、抹茶の香りや風味を活かした甘さだ。
山城「……おいしいわ」
提督「ふふっ、そうでしょ。ここに来てから初めて笑ったね。笑ってると気持ちもなんだか楽しくなってくるでしょ?」
ニコニコ顔でこちらを見つめてくる。やはり笑顔が眩しく、目を逸らしてしまう。
この人と居るとなんか調子狂うわ……自分のペースが乱れるっていうか……。
パシャリ。カメラのシャッター音。薄い紅紫色の髪をした女性が立っていた。
提督「やあ青葉。こんにちは。山城、彼女は重巡の青葉だ。ここ横須賀の艦隊新聞の編集長で、自らもこうして取材にあちこち駆け回っているんだよ」
青葉「ども~、こんにちは。次の作戦に関する会議で呼ばれてましたよ。ヒトゴーマルマルからだそうです。ついでに取材いいですか!?
そちらは山城さんですよね! 確かお姉さんの方が前衛的と聞いていましたが、なるほどこちらも興味深い……」
山城(失礼ね……艤装の艦橋を物珍しがられるのは慣れっこだからいいけど。顔も知らない艦娘から『違法建築』だのバカにされる始末だし)
青葉と名乗る艦娘は、首に提げているデジタル一眼レフカメラのシャッターボタンを何度か押した後、うんうんと頷いて満足気な顔をしている。
提督「山城は呉の鎮守府から来ていて、ここで療養してるんだ。ボクは彼女の案内役ってところかな」
青葉「お~、呉ですか! 青葉も昔あちらの鎮守府でお世話になっていたんですよ。前元帥がまだ大将だった頃でしたが。
最近勇退なされたんですよね~……うー、艦娘と人間との時間の流れの違いを感じちゃいますよねぇ」
提督「曰く『寄る年波には勝てない』だそうだけど、せめて資材の復旧や艦娘たちの修理のような復興作業が済んでからでも良かったと思うんだけどね。
これじゃ次に就く元帥へのキラーパスだよな~。それをどうにかするのも元帥に求められる資質なのかもしれないけどさ」
青葉「おや、事情通ですね。窓位さんも前元帥と面識があるんですか?」
提督「面識もなにも……母親だからねぇ。そりゃ大体のことは分かるよ。ま~、立場的に軍の機密みたいなことはお互い話せないけども。
あれ? 青葉ったら驚いた顔してどしたの? 言ってなかったっけ。ボクの母親は呉の前元帥、窓位 聖(マドイ ヒジリ)だよ」
聞き覚えのある苗字だからひょっとしたらとは思っていたけれど……驚いたわ。
窓位聖――女性初の元帥になった人物で、数々の作戦で成功を収めた名将。春の大規模作戦でも柱島泊地と連携していち早く敵の動きに対応、これを掃討した。
作戦を完遂すると突然勇退を申し出て、後任はラバウルの提督であった芯玄 心紅(シンクロ シンク)に決めると言い出した。
ここ最近は彼や彼に着いて来た艦娘の受け入れ作業、および、呉からラバウルへ向かう艦娘たちの諸処理に追われてかなり忙しかったことをふと思い出した。
朝潮「司令官。こちら、横須賀鎮守府からの電文です。……」
芯玄「どうも。どうした朝潮? 何か気がかりか?」
朝潮「呉に着任してから課題は尽きません。忙しいのも分かりますが……特にここ数日、働き詰めではありませんか? 少しお休みになられてはどうでしょうか」
芯玄「そうは言ってもここが正念場だ。前元帥がどういう意図でオレを推薦したのかは分からん、常識的に考えれば別のやつをあてがうべきだろ?
オレ自身がそう思ってくるぐらいだからな、選ばれなかった他の連中からすりゃあ羨望や嫉妬を抱いても無理はない。引きずり降ろされないためにもやるしかねえ」
朝潮「……少なくとも朝潮は、司令官は元帥になっても立派に能力を発揮できると思っています。
ですから、着実に歩みを進めていけばよいのです。急いたところですぐに結果は出せません」
芯玄「そうか……じゃあ、三十分ほど休憩としようか(朝潮も休みたいんだろうな)」
・・・・
呉鎮守府領内の外れにある、古びて既に使われなくなった桟橋。二人は橋の上に座って潮騒の音を聞いていた。
芯玄「すまんな、オレに付き合わせて無理させてないか? 辛くはないか?」
朝潮「いいえ。あなたと居られるのなら辛くはありません。ですが……最近は二人っきりになれていないので。
こういう時間が欲しいなとは思っていました。少しだけ……甘えたいと思っていました」
芯玄提督に体の重みを預けてもたれかかる朝潮。気恥ずかしそうに頬を掻く提督。
芯玄「ま、執務室でイチャイチャするわけにもいかねえからな……」
朝潮「? 朝潮は執務室でもかまいませんが」
芯玄「オレがかまうんだっつの」
朝潮「冗談ですよ。ですが、こうも忙しいとどさくさに紛れて手を繋いだりしても案外気づかれないかもしれませんね。こうやって」 指を絡める朝潮
芯玄「去年の冬頃だったか? トラック泊地が強襲された時もこんな感じだったな。まだ指揮に不慣れだったオレと、練度の低い艦隊。防衛と援護で右往左往の日々……」
朝潮「あの頃から私はあなたのことを見ていましたよ。司令官として……ですが。覚悟を宿した瞳と、立派な背中。近寄りがたかったけれど、憧れていました。
今は憧れという感情からはだいぶ遠のいてしまいましたが……代わりに、こんなにあなたと近くに居られる。心と心で繋がっていられる」
芯玄(そうだよな。今は、朝潮がいる。……未熟だったあの頃よりも、もっと遠くに行けるはず、か)
・・・・
執務室(総司令室)に戻ると、机の上に艦娘の名簿と海図を置いて、凸型の駒を並べて思案する芯玄提督。
芯玄「望むと望まざるとに関わらず敵はやってくる……たとえこちらの迎え撃つ備えが不十分であってもだ」
朝潮「修理や療養で戦闘不能状態にある艦娘が多いのが厳しいところですね……。他の鎮守府からの援助は期待出来ないのでしょうか?」
芯玄「呉と佐世保でフル稼働、鹿屋や柱島を巻き添えにしてもまだ戦力不足という具合だな。舞鶴からは支援してもらえそうだが、他は望み薄だ。
横須賀や大湊はマレー沖での海戦の方に忙しく参加出来んそうだ。英・伊との共同作戦だそうで、向こうも海外から遠路遥々戦艦級の艦娘を遣わしてくるらしい」
芯玄「一方こちらは先の大戦では因縁の地、レイテ沖での海戦となる。敵艦隊の規模は当然最大級……恐らく、歴史の教科書に載る一戦になるだろうな。
しくじれば大戦犯として名を残すことになるかもしれない……そんな大役を担っていると思うと、なんだかおかしくて笑っちまうな。
先月までオレは海軍を辞めるつもりでいたってのに。ハッ」
朝潮「もちろん……負けるつもりはない、ですよね?」
芯玄「当然」
芯玄「幸いにして、呉や柱島の艦娘らはみな精強を誇る高い練度だ。本土への最終防衛ラインまで到達される可能性はかなり低い。
戦術レベルでのミスが一つも起こらなければ……艦娘が一隻も轟沈せずに済むかもしれない」
芯玄「もっとも……。鎮守府への直接の攻撃は免れる・艦娘の轟沈を避けられる望みはある、というだけだ。完全勝利はまず望めねぇ。
せめて敵の侵攻を足止めできる程度に被害を与えることが出来ればいいんだがな……」
朝潮「作戦が開始されるまでは再起に努める必要がありますね。前回作戦での資材消費が甚大なようです。
遠征隊に頑張ってもらってはいるものの、まだまだ不足しています……」
芯玄(完璧な戦略と完璧な戦術を用意出来た、そしてそれを完璧に遂行出来る力があったと仮定する。
それでも兵糧の多寡は覆らない。戦闘中に起こる幸不幸までは左右できない。……)
芯玄「勝つためには『完璧』のその先を用意する必要がある、か。もう一手、希望が持てる要素があると助かるんだがな……。
現状だと奮闘しても引き分けに持ち込むことしか狙えねえ。だがそれじゃまたここの鎮守府の連中に負担をかけることになる」
芯玄「朝潮の言っていた通り、焦っても仕方はねぇがな。今は備えるしかない」
朝潮「横須賀からの手紙に書いてあった人物はどうでしょうか? わざわざこちらへ向けてくるということは、何か策を持っているということなのでしょうか」
芯玄「詳しくはオレも分からないが、横須賀の元帥殿に“虎の子”と言わしめるぐらいだから役に立ってはくれるだろう。
とはいえ、人が一人来たところでこの状況を打破できる、というわけでもねぇ……」
朝潮(元帥という立場上、司令官が直接艦隊を指揮するというわけではないのが難しいところですね。
兵站や補給線を考慮してどれだけ高度な戦略を練れたとしても、戦略を成すための戦術を練るのは彼の配下の大将たちであって、司令官ではない。
そして戦術面での勝利を収めることが出来るかは、四人の大将それぞれが直轄する艦娘たちに委ねられる……)
山城「なんだかんだで二週間ぐらい過ぎてしまったかしら。姉様が心配だわ」
海を経由して呉へ向かえば燃料を消費してしまう。かといって、艤装を背負ったまま神奈川県から広島県まで移動するのはさすがに無理がある。
艤装だけ別途鎮守府へ送ってもらい、彼女自身は交通機関を利用して呉の鎮守府へ向かうこととなった。
横須賀鎮守府に背を向け歩いている山城の後ろをトテトテと足音が続く。
提督「待って、ボクもついてく」
体型に不釣り合いな大きいリュックサックを背負っている窓位提督。しかし中身はほとんど入っていないようで軽そうだ。
山城「え……あなたは横須賀の提督じゃないの。異動の指示でも出たの?」
提督「うん」
山城「うん、って……随分あっさりね。そんな話してなかったじゃない……」
やや呆れた様子で溜息をつく山城。
提督「最近決まったからね。折角の外出なわけだし、行きたい所あるんだ。付き合ってよ」
・・・・
山城「駄菓子屋じゃないのよ……」
横須賀市郊外、駅近くの駄菓子屋。提督にとっては見慣れたこの店も、艦娘である山城にとっては未知の場所だ。
きょろきょろと落ち着かない様子で辺りを見回す山城。店内に飾られた玩具や色とりどりの駄菓子を見て訝しげな表情を浮かべている。
山城「店の雰囲気からしてなんだか胡散臭い感じだわ……というか、衛生面は大丈夫なのかしら……」
提督「とりあえずこれ全部で! あとはまだ選んでるから、その間に例のブツをお願い!」
籠の中に大量に入っているのは、カツを模した駄菓子。『ソースカツ』と書かれている。
提督の『例のブツ』という単語に反応して、番台にいた老爺は店の奥に引っ込んだ。
山城「なにこれ……ハムカツみたいな見た目をしているけど」
提督「あれ? ご存知ない? そうだね、味もハムカツに近いかな。魚のすり身にカツみたいな衣をつけた駄菓子さ。ボクの中では定番アイテム」
老爺が店の奥に引っ込んでいる間に、提督は両手いっぱいに『ミルクケーキ』という名前の白い板状の駄菓子を抱えて運び、籠に入れた。
山城「ミルク……ケーキ? これもケーキの味がするの?」
提督「いや……こっちはケーキの味はしない。加糖練乳にカルシウムを加えて板状にしたお菓子だよ。
山形県発祥の駄菓子なんだけど、最近はコンビニなんかでも流通してるそうだね。ボクはこれを『神の食べ物』と呼んでいる。
古代メキシコ人は、チョコレートの原料であるカカオをテオブロマと呼んでいた。これは日本語で神の食べ物を意味する、それだけ重宝していたというわけさ。
でもボクにとってのテオブロマはこれなんだ。最近ストックを切らしていて、絶対ここで補充してから呉に行くと決めていたんだ」
今までにないぐらい饒舌にミルクケーキについて語り始める提督。提督が籠に入れていく袋の量に呆然とする山城。
提督「まあボクはチョコも好きなんで買っておくんだけどね」
立ち尽くす山城を尻目にスイ、と籠に入れたのは『業務用 麦チョコ』と書かれた大きな袋。
しばらくすると老爺が戻ってきた。戻ってくる頃には籠の中身が駄菓子で山積みになっていた。
老爺が持ってきたのは、提督の足先から胸元ほどの高さがある、とても長い麩菓子が十数本入った箱だった。
山城「ちょっと……それも全部買うの? 正気?」
提督「モチロンさ! これは日本一長い麩菓子で、95cmほどあるそうだよ。本当は埼玉県川越市の菓子屋横丁っていう商店街でしか手に入らないレアモノなんだ。
この店では裏ルートを経由して入荷してるらしいけどね」
山城(駄菓子の裏ルートってなによ……)
老爺「あ~~~~……全部でざっと三万円ぐらいかのぉ。会計するのがめんどくせえなあ……」
提督「うーん、いつもと違って今日は時間がないんだよね。とりあえず五万円出しとくよ。お釣りは次会う時に返してくれればいいや!」
老爺「ほほー、とっちゃん坊やも最近は忙しいのかい?」
提督「しばらくこの街を離れることになってね。また来るから、その時まで元気でいてね!」
老爺「カッカッカッ、小僧に労われるほど年老いてはないわい。しかし、そうか。なるほどなるほど。
そこの別嬪さんは嫁さんかの? こんなナリだが中々気骨のある若者じゃ、大事にしてやってくれよ」
老爺「いや、大事にするのはお前さんの方か。しっかりやれよ小童! 儂のように愛想尽かされたらイカンぞ!」
・・・・
提督「今なら山城に勝てる気がする……!」
菓子の詰まったリュックサック。リュックからはみ出た麩菓子は彼の身体を中心に、後光のように半円状に広がっている。
その物々しさは艤装を展開した時の山城にどことなく似ていた。
山城「何をバカなことを」
新幹線の車内。ハムスターのように無心で麩菓子を貪り続ける提督。
山城「飽きないんですか……?」
提督「飽きるぐらいならこんなに買わないよね。さすがに麩菓子でお腹いっぱいだから今日は晩ご飯要らなそうだけど」
山城(麩菓子でお腹が膨れるのは、私だったら嫌だわ……)
山城「そういえば、なぜ提督は異動になったんですか? 艦娘の皆にも慕われていたでしょうに。
四大将の評価だって高かったんでしょう。厳密には横須賀に配属されている提督じゃないのに作戦会議に招かれるぐらいですもの」
横須賀や呉などの大規模な鎮守府では、第一艦隊から第四艦隊までが常設されていて、四人の大将がそれぞれの指揮を執る。
これを四大将と呼び、各艦隊の大将が陣形や戦法など戦術レベルでの策を練るのに対し、
元帥は資材状況や艦隊全体の戦力を加味して戦略レベルでの作戦計画を立てるのであった。
提督「うん、良くしてもらってたよ。元帥も自分で命令出しておいて『本当は行かせたくない』とか言ってたぐらいだからなぁ。
それだけ大事に思ってくれてるのは、本当に嬉しいよ。でも、次の作戦は結構ヤバめなようだからね……」
山城「(そういえば横須賀では休んでばかりでほとんど作戦の話を聞いていなかったわね)作戦、ですか?」
提督「レイテ沖にて四段階の大規模作戦を行うといえばキミでも分かるだろう。レイテと言えば深海棲艦ひしめく地獄だよ?
あんなとこの攻略作戦を命じられるなんて本当おっかないよねぇ……って、キミもこれから戦いに行くことになるわけか」
レイテ沖海戦……第二次世界大戦において、日本海軍が壊滅的な被害を受けた戦い。神風特別攻撃隊による攻撃が行われるようになった初めての戦いでもある。
艦娘である山城と、かつてレイテ沖に沈んだ戦艦山城……直接の因果関係は無い。だが、それでも山城の胸中はざわつきが拭えなかった。
山城「そうですか。姉様が心配ですね……」
提督「たまにお姉ちゃんの話するけどさ、どんな人なのかな? 確か、名前は扶桑だったよね」
山城「ええ、扶桑姉様……直接の血縁は無いけれど、私にとっては実の姉に等しいわ。
お淑やかで思慮深く、美しくて気高く、どんな時も前向きで、いつも私のことを気にかけてくれて……はぁ。私なんかとは大違いだわ」
提督「別に比べて落ち込むことはないじゃないか。立派なお姉さんで憧れてるなら、その憧れに自分も近づいて行けば良いんじゃないかな」
山城「無理よ……私は他人に優しくなんて出来ないし、優しくしたところで気味悪がられるもの。私が動けばいつだって不幸が起こるのよ」
提督「いや……少なくともボクはキミと一緒にいて不幸だなんて思ったことは一度もない。確かにキミはびっくりするほど不幸体質だ。
廊下を歩けば落ちているバナナの皮を踏みつけて転ぶ。窓から景色を眺めていれば野球のボールが飛んでくる。魚を食べれば小骨が喉に刺さる」
提督(その起こった不幸の一つ一つに対する山城のリアクションがボクからしたらめっちゃ面白いんだけど、これ言ったら拗ねるからやめとこ……)
提督「考え方を変えてみてはどうかな? 山城が動くと不幸が起きるんじゃなくて、山城が周囲の不幸を吸収しているのだと。
キミが不幸をおっかぶるおかけで皆は無病息災に暮らせる。つまり、守護神なんだよ。キミの存在が皆を守ってる、だから、そのことを誇ったらいいんじゃない?」
山城「それもそれで癪だわ……どうして私が他人の不幸まで背負って生きなきゃならないのよ。
ま……あなたの言う通りかもしれないわね。私は不幸の化身なんだわ、私が不幸になることで、姉様の不幸を肩代わりすることが出来るなら……」
提督「卑屈になれって言ってるんじゃないの! もう! これでも食らえ! えいっ」
山城の口の中にミルクケーキを無理矢理ねじ込む提督。
山城「あがっ……(歯茎に当たって痛いんですが)。バリッ、なんですか急に……ボリボリ……」
提督「噛むという行為にはストレス解消の効果があるんだ。不幸そのものを取り除くことは出来なくても、気分を変えることは出来るじゃないのさ」
山城「ポリ……ポリ……(確かに、噛んでいたら不幸とかなんかどうでも良くなってきたわ)」
提督「山城さ、趣味とかないの? 仕事の無い日にやってることとかさ」
山城「特に無いわね……。姉様とお喋りしているぐらいかしら」
提督「ふーむ、わかったぞ! キミが横須賀に運ばれてきた理由が。ストレスを溜め込みやすいんだ。
周りに上手に発露する術を知らず、自分を責めたり境遇を呪ったり……それじゃあ倒れもするわけだ。
何か興味のあることとか無いかな? 本とか音楽とか、スポーツとかさ」
山城「えー……まったく。私、寝てたりボーッとしてるの結構好きだし、今の生活が続いていればそれでいいかしら」
提督「さっき不幸だって嘆いていたじゃんかキミさぁ~! しかしこれは手厳しいなあ。取りつく島もないぞ……」
山城「私のことなんて別にどうでもいいでしょう? 気にかけるほどの理由はないように思えますが……」
提督「いいや、あるとも。ボクは人の役に立つために生きてる。お節介だとしてもボクはそれを生き甲斐にしてる。ボクは紳士になりたいんだ。
マナーや着飾りみたいな見てくれの部分じゃなく、精神的な意味でね。教養深くて篤実な人になりたいと思ってる」
提督「誰にでも優しいのは、甘い人だと思われるかもしれない。軟派で芯のない人だと思われるかもしれない。
でもボクは逆だと思う! 他人に優しく出来る心を持ってるってことが一番カッコいいのさ! これがボクの信条!」
右手でVサインを作りはにかむ提督。彼にとってはこれが最大限恰好をつけたポーズなようだ。
山城(……姉様は、自分の考えをあまり口に出したりしない人だけれど。彼は少し姉様と似てるところがあるのかもしれないわね)
提督「よし! 決めた。ボクは山城のことを幸せにしてみせる。もう不幸だなんて言わせないようにしてやるぞ、覚悟しててねっ」
山城「? はぁ……(一体どういうつもりなのかしら……なんだか妙に息巻いているけれど)」
呉鎮守府に着いた提督は山城と別れ、鎮守府内の客室に案内されていた。
提督(扶桑と会った時の山城、今まで聞いたことがないぐらい明るい声をしていたな~。……それに、あの屈託のない笑顔。あんな表情もするんだなあ)
芯玄「わざわざ横須賀からご苦労。……んん?」
提督「初めまして、芯玄元帥。窓位です、横須賀より参上しました。……えと、これでも戸籍の上では成人ですよ?」
芯玄「あぁ……横須賀の元帥からの電文でお前さんの出生に関する話は聞き及んでるが……。いやなんでもない、気にせんでくれ」
提督(なんだろう、どこかで会ったことがあるような……初対面のはずなんだけど)
・・・・
窓位提督が横須賀から呉に送られてきた理由は、呉に着任して間もない芯玄元帥を補佐するためだった。
芯玄元帥は窓位提督に作戦の草案を打ち明け、意見を求めた。
芯玄「困難だが……この作戦で引き分けにまでなら持ち込めると踏んでいる。だがそれではジリ貧だ、次の戦いがもっと厳しくなる。
勝つためにはもう一手必要だ。そのために、横須賀で元帥や四大将にも評価されているというお前の知恵を借りたい。考えを聞かせてくれないか」
提督「あー……いや、その、期待してもらってて申し訳ないんですが。ボク、すごく小規模な作戦での立案とかしかやったことないんですよ。
横須賀では正式な提督ではなかったので、艦隊を直接指揮する権限とかなくって。正直のところ今の元帥の策よりも優れた案は浮かびません」
提督「ボクの仕事は専ら内政担当でして。鎮守府内でのトラブルの調停役とか、装備管理とか、そういう業務をメインにやっていたんですよ。
あとは、鎮守府内の清掃に洗濯、食事当番などの雑用全般ですね。裏方のことばかりやってたせいで、あんまり作戦とか自信ないです……」
提督「あ。でも! でもでも! そういう部分でならバッチリお役に立ってみせますよ! サポートなら任せてください!」
芯玄(これは予想外だな。結局のところ、やはり作戦はオレが考えるしかないというわけか……しかし、折角来てもらったからにはそっち方面で働いてもらおう)
・・・・
窓位提督と別れた後、朝潮と廊下を歩いている芯玄元帥。
朝潮「どうでしたか? 窓位少佐……でしたっけ。だいぶ話が弾んでおられたようですが」
芯玄「横須賀では裏方に徹していたらしく、作戦指揮なんかはからっきしらしい。だが……やはり評価されているだけはある。
執務室に戻ったら詳しい説明をするが、装備流用システムや艦隊編成のプリセットなどの導入を提案してきた」
朝潮「装備流用……? プリセット……?」
芯玄「前者は……そうだな。たとえば朝潮が12.7cm連装砲を装備していたとする。これを別の艦娘に装備させることとなった。
従来ならまず朝潮から装備を外させ、また別の艦娘に装備させる。だがこれでは少々手間だ。
朝潮から装備を外したと同時に別の艦娘に装備させる、これが可能らしい」
芯玄「後者は……出撃の際に、港に隣接した基地から加速器に乗って出撃するだろ?
(あいつは『ロボットアニメみたいに台座に乗って飛び出すやつ』とかよく分からん表現をしてたが……)
あれは艦娘一人一人に合わせて調整が必要で、編成を変えるたび一回一回設定し直さなきゃならねえ。
けど、機械に編成情報を予め記録しておけば、記録済みの編成はすぐに出撃可能になる……だってよ」
朝潮「なるほど……しかし、実現可能なのですか?」
芯玄「装備の件は『誰々から誰々に装備を付け替える』と、妖精向きにマニュアルを用意してやれば意図を汲んでその通りにしてくれるらしい。
艦隊編成プリセットの件も設備のプログラムを書き換えればすぐに出来るそうだ(プリセット数には限りがあるそうだが……)。
どちらも直接作戦の役には立たないが、導入コストが低く有用性の高い案だったんで採用することにした」
朝潮「だから途中からあれだけ話が盛り上がっていたのですね。司令官の話に窓位さんがうんうんと頷いて、司令官もまた彼の話を吟味していて。
その……親子のような打ち解けた様子でしたので羨ましいなと」
芯玄「親子だとォ? あのなあ……見た目で言えばオレとお前だってそう見えるって話だろ?」
朝潮「いえ、私と司令官は夫婦でしょう。並んで歩くのと背中を追うのは違いますから……あっ。そういう意味では子弟と言った方が近かったですね」
芯玄(子弟っていうか……オレ的には先輩として後輩の話を聞いてた感覚なんだけどな。ま……朝潮から見てそういう風に感じられるのも仕方ないかもな。
うちの四大将はオレと距離置いてるかオレのこと嫌ってるかでほとんど打ち解けた態度で話出来ねえからな……)
芯玄(そういやあいつ確か前元帥の息子……だったか。横須賀がこっちに窓位少佐を寄越して来たのは、そこら辺の政治的な部分も汲んでくれたのかね。
四大将はオレに対しては疑念を向けてるが、前元帥に対しては尊敬してる様子だったしな……)
朝潮「でも……子供、ですか。良いですね。司令官もそう思いませんか?」
芯玄「え? なんだって? 悪いな、考え事しててよく聞こえなかったぜ」
朝潮「いえ、なんでもありません。ふふっ」
芯玄「そうか。さて……仕事するぜ、仕事!」
パンと両手で頬を強めに叩き、気合を入れる芯玄元帥。傍らで朝潮は微笑んでいた。
・・・・
元帥との会談の翌朝、窓位提督は自室周辺の清掃作業に取り掛かっていた。
提督(うーん……あんまり掃除が行き届いてないのかなあ。窓や床がちょっと汚れてるぞ。でも、それはそれで綺麗にしがいがあるかな!)
提督「てってけてってってってー♪ てけてけてけてってってー♪(♪母港のテーマ)」
??「ぴっぴぴぴっぴっぴっぴー♪ ぴぴピピピピぴっぴっぴー♪ ……ぴぴぴーぴぴぴーぴぴぴー♪」
提督「てれれーてれれーてれれー♪ のわっ」
廊下を雑巾がけしていた窓位提督は、彼に呼応して口笛を吹いていた和服の男性にぶつかる。
??「うわっ、びっくりした。おや……ずいぶんボーイッシュな艦娘もいるんだね」
男はしゃがみ込んで窓位提督に目線を合わせて、優しく語りかける。
提督「いや……ボク提督ですよ。階級は少佐で……これ身分証です。特注サイズではありますが、きちんと海軍の制服も着てますよ」
乙川「おっと……これは失礼した。僕は乙川 奏(オトカワ カナデ)。柱島泊地の提督さ。ここの元帥殿にお呼ばれして来てんだ」
提督「立場上提督ではあるものの、着任先が決まっていないので、今はこの鎮守府で補佐役をすることになってるんです」
乙川「窓位っていうと……ひょっとして聖さんのお子さんか。その体型にも合点がいった。君の話は聞いたことがある」
ポンと手を打ってひとりごつ乙川提督。
乙川「ふんふん……なるほどね。そうか、そいつはすまないね。本来は君が柱島に着任するはずの提督だったというわけか。恨めしかったらすまない」
提督「いえ……恨みなんてとんでもない。むしろ尊敬していますよ。新米のボクでは乙川少将……じゃない、昇進して中将になったんでしたっけ。
あなたのように深海棲艦を迎え撃つことは出来なかったでしょう。それに、おかげでボクも横須賀で色々な経験と研鑽が積めましたから」
乙川「ま~、対深海棲艦の件は……聖前元帥におんぶに抱っこでようやく撃退できたって感じかな。もちろん柱島も頑張ったけどね。
でも、それは僕に付き従ってくれてる艦娘が力を尽くしてくれたってだけで、僕自身はそれほど大したことはしていない。
提督がサボっていても艦娘が優秀だから勝手にまとまってくれる、これが柱島スタイルさ」
提督「おぉーなんかスゴイ……! 勉強になります」
乙川「ふっふっふっ、殊勝な心がけだね。やれ統率力だリーダーシップだなんて言われるけどね。
リーダーなんて居なくても事が円滑に回る組織になってしまえばこっちのもんなのだよ」
瑞鳳「こら! 後輩に変なこと吹き込まないの! 提督は少しはここの大将や元帥を見習ったらどうですか! 放任主義が過ぎるんですよ!」
乙川中将の着物の帯を引っ張り無理矢理運んでいくのは、彼の秘書艦である瑞鳳。
瑞鳳「それに……これから芯玄元帥に会うのにまた制服脱いで!
呉の元帥と柱島の中将じゃ、本来なら話せる機会だって滅多にないんですからね! それだけ大事な作戦会議なのに……」
乙川「芯玄サンとは前回の会議の後友達になったから大丈夫だよ。なんか意気投合しちゃってさ。
『お前はオレのことを知らないかもしれないが、オレはお前のことを友達だと思って接してる』とか謎に気に入られてたし大丈夫じゃない?」
瑞鳳「ダーメーでーすー! 仮に元帥は許してくれたとしても、他の大将の人たちの目もあるんですから!」
乙川「ぐえぇー……ま、アレだ。自分のスタイルを貫きつつ、艦娘を活かせる方法を考えるといいよ。
無理して頑張ってもしょうがない。けど周りにエゴを押しつけちゃダメだ。そんな感じで……痛いってば、歩けるから引きずらないでー」
瑞鳳に引きずられて退場していく乙川中将。
・・・・
『作戦指揮の経験が少なくてどういう風に考えたらいいか分からない? ……そうだなあ、やっぱり実際の戦闘を見てみるのが一番じゃないかな。
今度柱島対呉で演習をやるんだ。“僕ならこういう風にやる”っていうのが見れると思うし、参考にしてみたら?』
乙川中将が会議を終えた後、彼のアドバイスを受けた窓位提督。数日後、彼はミルクケーキを齧りながら演習海域の映像を見ていた。
提督「呉の大将と乙川中将とだと、どっちを応援していいのか分からないな……って! スポーツ観戦じゃないんだからそんな視点で見てちゃダメだね。分析分析!」
提督「呉側の艦隊は六隻なのに対して柱島の艦隊は四隻……どういうことだろう。
呉の方は山城に巡洋艦の利根・筑摩・五十鈴といった重めの編成で固めているのに対し、あっちは駆逐艦だけ……?」
・・・・
山城(姉様と同じ艦隊に配属されなかったのは残念だけれど、久しぶりの戦闘……! 腕が鳴るわ!)
利根「げげ……久方ぶりの演習と聞いて昂ぶっておったのに、ま~たあの柱島の連中か。あやつら、敵に回すとなかなか手厳しいからのう。厄介な相手じゃ」
五十鈴「あら、猪武者の利根にそうまで言わしめるなんて結構強敵みたいね。見たところ旗艦の秋月って駆逐艦以外は二軍みたいだけど」
利根「二軍かどうかはあまり関係ないのじゃ。柱島のらくら提督の配下の艦娘はみな警戒してかからなければならん。……山城? どうして笑っておるんじゃ」
山城「ふ……強敵そうで何よりじゃない。最近出撃の機会が無くってだいぶフラストレーションが溜まっていたの。ここで爆発させてもらおうと思ってね!」
五十鈴(普段は陰気なのに、戦闘の時だけ生き生きしてるわよね……。ま、戦闘の時に気合が入るのは私や利根も同じことだけど!)
山城「水上機を発艦させます! 爆撃機は敵駆逐艦を狙って!」
秋月「敵の爆撃機が接近しています。司令、作戦命令はありますか?」 無線越しに乙川中将と通信する秋月
乙川「えっと……あのいかめしい戦艦は夜戦まで放置しとこう、あれだけ見るからに殺気が違うからね。あとはお任せで」
秋月「対空射撃用意! 徹底的に撃ち落とします!」
山城(あれだけ放った爆撃機がほとんど迎撃されてしまうなんて……駆逐艦の集まりにしてはやるじゃない)
利根「提督からの指示通り、このまま砲撃戦に移行するぞ!」
五十鈴「いや、まだよ。敵艦隊に潜水艦がいるわ。位置は捉えた……そこよッ!」
五十鈴が爆雷を放り投げると、水柱が吹き上がる。浮上し、白旗を振っている潜水艦伊26。五十鈴の放った爆雷が大破の損害を与えたようだ。
五十鈴「フフン、どうかしら? 夜戦で撃ち合うだけが軽巡洋艦じゃないわ! 対空も対潜も五十鈴にお任せっ!」
・・・・
伊26「うぅ……何にも出来ずにやられたー! 秋月ちゃんごめ~ん!」
秋月「いいえ、敵のこの攻撃も想定済みです。ニムさんは役に立ってくれました」
伊19(ニムちゃんの仇はイクが討つの! 倍返しなの~!)
伊19の放った雷撃が猛然と五十鈴へ向かっていく。炸裂音とともに炎に包まれる五十鈴。
五十鈴「きゃああッ!? ッ……! 敵の潜水艦が二隻いるのは分かっていた、けど、もう一隻もこんな近くにいたなんて……不覚だわ」
五十鈴「……大破しました。戦線から離脱します……悔しいわ」
白旗を掲げて撤退していく五十鈴。
山城「調子こいてるからそうなるのよ」
利根「毒づいとる場合か! 対潜警戒じゃ! 敵潜水艦を野放しにしておくわけにはいかん」
伊19(えへへ、良い気味なのね。ざま~みろなの~♪)
山城「(チッ……せっかく気持ちよく蹂躙できる砲撃戦の機会なのに……)潜水艦の相手はあなたたちがやりなさい。私は水上艦を叩くわ」
利根「こらっ! 隊列を崩すでない! 旗艦は我輩じゃぞ!? ぐぬぬ……提督から出過ぎぬよう言われておるというのに……」
利根(小規模な水雷戦隊の前に戦艦が迫ってくる。敵からすれば脅威でしかない……普通の相手なら、相手がただの弱卒の群れなら恐らく山城の突出は正解じゃ。
じゃが……正攻法が通じるような相手ではない。提督からの次の指示を仰がねばな)
・・・・
棒状のこんにゃくゼリー(弾力に富むゲル状の駄菓子)をチュルチュルと吸いながら、食い入るように映像を見つめる窓位提督。
提督「山城が前進したのも含めて作戦なのかな? にしては他の艦娘と足並みが揃ってないように見えるけれど。
柱島艦隊の方は山城を避けるように後退しつつ二手に分かれている……か」
提督(柱島の艦隊の奇妙な点は、さっきから一度も提督である乙川中将と連絡を取っていないところだ。全部艦娘同士のアイコンタクトや身振りで動いてる。
提督からの指示が無くて戦えるのかな……? しかし、そうだとしても駆逐艦の集まりが戦艦を含む巡洋艦主体の艦隊をどうやって切り抜ける?)
・・・・
伊19「いたた……夜戦まで耐えられなかったのね……」
春雨「イクさん! ご苦労様です。あとは私たちが!」
秋月(こちらの被害は潜水艦二隻が大破して戦線離脱、駆逐艦が二隻中破。残る私と春雨は無傷。
敵は軽巡と駆逐艦が一隻ずつ撤退、残りが小破した駆逐艦が一隻、無傷の戦艦一隻に航巡二隻か……いける!)
筑摩「日没に乗じて敵駆逐隊が接近してきます。警戒しつつ迎撃します!
(駆逐艦といえど夜戦なら十分脅威足りえるわ。艦が四隻も残っているのならなおさら! 姉さんを守らなくては)」
利根(雷撃戦でこちらが二隻大破したのは痛いのう。この状態で夜戦になればこちらも敵も無事では済まん……だが、勝つのは我輩たちじゃ)
山城「この私が……砲撃戦で駆逐艦を二隻中破……。その程度の戦果しか上げられなかったというの……? 許せないわ……!」
初月「秋月……なんかあの戦艦、よく分からない理由で殺気立ってないか?」
・・・・
提督(山城、人格変わってない……? 戦いの時だけああいう風になるタイプなの?)
提督「さておき……柱島の艦娘たちが呉艦隊めがけてぐぐっと距離を詰めてきた。いよいよ夜戦だね!
砲撃戦の限りでは呉が押しているように見えたけど、雷撃戦で一気に柱島がイーブンの状況へ持ち込んだ! どうなる……?」
提督「……ん? なにやら音が聴こえてきたな……。戦場で音楽が流れている……?」
・・・・
窓位提督が呉鎮守府の通信室から演習の様子を眺めている同時刻、柱島泊地の執務室。
乙川「よし、準備オッケー。いつもの演ろうか。今日の一曲目は、かの有名な“ワルキューレの騎行”から行ってみようかなと。ワーグナー作曲のやつね」
瑞鳳「うーん。ワルキューレの騎行は夜戦っていうより航空戦って感じしないかなあ? 『全機爆装! 準備出来次第発艦!』って感じしない?」
乙川「言われてみたらそんな気がしてきたけど……気分? 結構お気に入りの曲なんだよね。あと折角大鳳が頑張って練習してた曲だからね」
大鳳「うぇ!? 見られてたんですか……? 恥ずかしい……」
瑞鳳「たぶん鎮守府中の皆が知ってると思うけど……って、大鳳? 緊張してるの?」
大鳳「はい。人前で演奏するの慣れてなくて……。皆さんの足を引っ張ってしまわないか心配です……」
フルートを両手で握りながら、小刻みに震えている大鳳。ガチガチに緊張しているようだ。
乙川「ははは。大丈夫大丈夫、肩の力を抜いて。あれだけ練習してたじゃないの、基本はしっかり出来てるから心配要らないさ。それに!」
大鳳の頭をぽんぽんと優しく撫でる乙川中将。
乙川「音を楽しむと書いて音楽と読む。まずは自分が楽しむことさ、大鳳が楽しい気持ちで演奏することが大事なんだ。
もっと上達すれば、人のことを気遣えるようになる。でもそれは自分を殺して他人に合わせるんじゃない、他人と楽しさを分かち合えるってこと!」
乙川「大鳳の思うがままにやってごらん? ミスっても関係ない、ミスした恥ずかしさよりも楽しんでやればいいんだ。それが第一歩」
瑞鳳「……良いことを言ってることは分かる。大鳳のためを想って提督が言っているのも分かるわ。
で・も! お触りは禁止です! さりげなくボディタッチしようとするのもダメ!」
乙川中将の腕の根元をガッと掴んで大鳳の頭から離させる瑞鳳。
乙川「最近瑞鳳手厳しいなー! これぐらいは自然なやり取りでしょうに。嫉妬してるのかな?」
瑞鳳「もう! ふざけてばっかりいると伴奏弾いてあげませんよ!」
乙川「拗ねてるところも可愛いけど機嫌直して欲しいなー」 ぷにぷにと瑞鳳の頬をつつく
瑞鶴「あの……いつになったら始めるんですか?」
チェロを持った瑞鶴が呆れた様子で二人に投げかける。
乙川「よし! とりあえず始めよう! 行こうか!」
急いでピアノの前に座る瑞鳳。
瑞鳳「まだ許したわけじゃないんだけど!? もう……しょうがない!」
・・・・
秋月が艤装を展開すると、スピーカーから乙川中将たちが奏でる勇壮な音楽が流れ始める。
秋月「さあ……始めましょう! 夜戦開始です!」
山城「なんなのあれ? オーディオオタク?」
利根「山城、あれを侮ってはいかん……艦娘の強さは、精神に依るところがある。あやつらはあれで戦意を高揚させてこちらに向かって来るのじゃ!」
秋月「肉薄します! 演習と言えど容赦はしません……お覚悟をッ!」
筑摩「姉さんっ! 危ない……!」
利根を庇って負傷する筑摩。
筑摩「ッ……! 姉さん、あとは……ッ」 あばらを抑えて撤退していく
利根(こうなった時点で敵を全て倒すことは困難か……。残ったのは吾輩と山城、駆逐艦の満潮の三隻……心許ないのう)
利根「筑摩! 任しておけッ!」
春雨「やらせはしません! 秋月さん、ここは私がッ!」
利根の放つ雷撃から秋月を守る春雨。なおも中破で持ちこたえている。
利根「クッ……直撃させることが出来なかった! 耐えられたかッ!」
山城「ふっふっふっふっふっふっふっふっ……ハッ。ハッ……ええと、艦娘の強さは精神に依る、だったかしら?」
妖しい笑みを浮かべる山城。その不気味さに、敵も味方も思わず後ずさりをしてしまう。
山城「あなたたち、もう下がっていて良いわ。あとは私は一人で十分。今宵は悪夢を見せてあげる」
艤装の主砲を全方位に向け、次々に撃ち放ちつつ跳躍し身を捻じりながら敵の駆逐艦めがけ突進していく。
満潮「あぁ……せっかくの演習なのに……。ああなってしまってはもう作戦も何も意味を成さないわ。逃げるわよ!」
利根「逃げるじゃと!? 敵を眼前にして逃げろというのか?」
満潮「私、前に山城の居る隊に組まれたことあるんだけど。ああなったらもう敵味方の区別がつかないバーサーカーよ。流れ弾を食らう前に退くしかないわ」
旗艦の秋月に割って入る駆逐艦を殴り飛ばしながら突進していく山城。さすがの利根も血の気が引いた。
利根(吾輩、勇猛果敢を自負してこれまで戦ってきたが……ああいう本物の化け物にはなれんな。満潮の言う通り大人しく撤退するか……)
コンコン、と扉を叩く音。ノックの主は窓位提督だった。
提督「ボクだよ山城。開けて」
山城「姉様以外の声は今聞きたくない気分なの……帰ってくれるかしら」
提督「そういうわけにもいかない。ボクはまたキミ専属の提督になったんだ。上官の命令ならさすがに開けざるを得ないでしょ?」
・・・・
ひとしきり山城の口から零れる愚痴を聞き終えた窓位提督。部屋に招かれてから一時間。ようやく彼は相槌以外の言葉を発した。
提督「いやね、分かるよ。久しぶりの戦闘で張り切りすぎちゃったんだろう? 敵が強ければ強いほど燃えるタイプなのかもしれない、キミは。
実戦だったらあれでも結果的に勝ちは勝ちだろうし、許されるのかもしれない。でもさ……演習じゃないか。作戦とか連携とかさ……あるじゃん」
呉と柱島の演習の結果は、呉艦隊の勝利に終わった。だが、それは山城の暴走によってもたらされた勝利だった。
帰投後、山城は直轄の大将から大目玉を食らい謹慎処分を受けていた。その間、窓位提督が彼女の監視役を任されることとなった。
提督「命令を聞かなかったり、味方の負傷さえ厭わない戦い方をしたのはよくないよね。そのことは大将に怒られて反省していると思うからボクは言わない。
けど、もっとボクはキミに気づいて欲しいことがある。あんな戦い方をしていては、いつかキミは命を落とすことになる」
提督「キミはひょっとしたらそれでもいいと思って戦ってるかもしれない。けど、ボクはキミが轟沈したら涙を流す。きっと。
涙を流して帰ってくるはずもないキミを待ち続ける。そして恐らく……キミのお姉さんである扶桑はボクと同じか、それ以上に悲しむだろうね」
扶桑の名を出した瞬間に、不満と憤りに満ちていた山城の顔つきが悲愴を含んだ苦々しい表情に変わっていく。
山城「……私は最低だわ。武人としても人としても底辺のイモムシだわ……いや、イモムシにも失礼ね……」
提督「いやいやいやいや! 落ち込めって言ってるわけじゃないでしょ?」 慌ててフォローする
山城「そうは言われても……。でも、そうね……姉様に、申し訳が立たないわね。自分を省みない戦いをして謹慎処分だなんて、姉様に申し訳ないわ」
提督「ボクは? まあいいや。けど、ほんとにお姉ちゃんのこと好きなんだね。並々ならぬ情念を感じるというか……」
山城「……。姉様は……私以上に不幸な目に遭って生きてきた。けど、それでも気持ちが折れることなく前を向いている。
早々にこの世の全てを諦めた私とは違う。挫折を受け入れた私とは違う。そんな弱い、私みたいな腑抜け相手にも明るく接してくれている」
山城「姉様みたいな人が幸せに生きれない世の中なんて間違ってるわ。私が不幸な目に遭うのは構わない。
私は確かにいつだって後ろ向きで、ドジで、のろまで、性格だって悪いから、業を背負ったって仕方ない。……けど姉様は違うはずよ」
山城「姉様は…………ぐすっ」
鼻声になる山城。提督は、二人の間にある関係を知らなかった。だから、触れてしまった。彼女の持つ逆鱗に。触れてはならない心の琴線に。
提督「山城は……扶桑のことを心から愛しているんだね。それは、恋人同士がお互いを慕う気持ちであり、親子がお互いを想うような絆でもあり……。
いや、それ以上に深い気持ちを抱いているのかな。本当に大切に思っているんだね。なんだか妬けちゃうな……」
はにかむ提督の顔。その顔が彼女の視界に入った時、山城は提督の体を押し倒していた。
山城「やめなさい……私と姉様の領域に入ってこようとしないで……! あなたは人付き合いが得意で、他人の気持ちが人一倍分かるのかもしれない。
なればこそ! 私のことは放っておいて。これは警告よ……私は必ずあなたを不幸にする。これ以上私のことを詮索しようとするな……!」
山城の形相に、提督は生まれて初めての恐怖を感じた。それは演習で見た山城の姿よりも数段恐ろしいものだった。
今にも自分の心の臓を締め上げられんばかりの憎しみが、押し倒してきた彼女の手を通じて伝わってくる。
目の前の存在が放つ猛烈な敵意に、提督の脳は全身に向けて警鐘を鳴らす。
提督(『なんで?』とか『どうして?』とか、そういう感情すらすっ飛ばして、今すぐにこの場から逃げ出してしまいたい。そう思っている自分がいる。
事実、とてつもなく恐ろしい。彼女が殺気立つ理由さえもどうでもよくなるぐらいに、ボクは今恐怖を感じている)
山城「……分かったでしょう? 私が動けばいつだって不幸が起こる。身に染みたでしょう?」
蛇に睨まれた蛙が取るべき行動は二つに一つ。逃げるか、諦めるか。その二つ。提督の首筋に山城の両手が伸びる。
艦娘は、提督に危害を加えることができない。そういうふうに出来ているはずだった。
だが、窓位提督は山城の正式な提督ではない。山城もまた彼の直属の配下ではない。
しかし仮に……窓位提督が本当に彼女の提督だったとしても。そうだったとしても山城のこの行動は変わらなかったのかもしれない。
山城の手が、提督の首筋に触れる。迷いのない確かな意志が、首の皮膚から感じられる。
提督の皮膚は大部分が合成樹脂で出来ているため、触覚や痛覚などはほとんど感じられないはずだった。
それでもこの時ばかりは「山城に首を絞められているのだ」と、視覚ではなく体で感じ取っていた。
提督「最後に、意識のなくなる前に……一言。言わせて欲しいな……」
提督は、山城が首を捻り潰したところで微塵も痛みは感じない。呼吸ができない苦しみを味わうだけだ。
だが、痛みはなくとも、まだ脳に酸素が行き届いていて苦しみの少ない状態だったとしても、恐怖は感じる。背筋が凍るほどの恐怖は感じている。
それでも、勇気と吐息と振り絞って声を発する。目から不意に止まらなくなった涙をぽろぽろと零しながら、言葉を紡ぐ。
提督「ボクは……山城と、お姉さんとの間に、何があったのかは分からない……。出会った経緯も、山城が怒る理由も、分からない……けど」
提督「ボクは……。山城のことが、好きだよ。殺されても……いいよ……。殺しても……いいんだ……。
ボクは、それでも……不幸だとは、思わない……。後悔は、ない……」
彼が最後に選んだのは、諦めることだった。自分の運命を受け入れることにした。
恐怖に怯えていた表情は晴れて、無意識のうちに微笑みを浮かべていた。そして彼の瞳には何も映らなくなった。
どこで切ろうかわりと悩んだんですがいったんここで中断します。残りは明日投稿します。
え……って感じですが。
本日20時より次の章の安価開始と予告していたので、予定通り行ってしまいます。
ん? まだ今回分の章が完結していない? はい。
そもそも昨日投下するはずじゃなかったのか? はい、ゴメンナサイ。
昨晩急用が入ってしまいまして……。風呂入ってる間に会社の上司から7件不在着信が来ていて……とても投稿作業をやれるような状況にありませんでした(泣)。
今日は大丈夫(だと思うので)、本日投下しきってしまうつもりですが先に安価を募集しようと思います。
現行章の完結前に次の章の安価を行うという、ちょっと変則的な形になってしまい申し訳ありませんが……。
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
(参考:>>669->>671)
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
秋月
>>766より秋月が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:64(度胸あり)
知性:27(やや低い)
魅力:14(低い)
仁徳:39(あるとは言えない)
幸運:26(やや不運)
……とりあえず何某かのコメントは今回の章の投下分が終わってからにします。
淡い色彩の花束をそっと窓位提督が眠るベッドの隣に置いて医務室を去る山城。部屋を出ると扶桑が待っていた。
扶桑「今は眠っているけれど、もう意識を取り戻したそうよ」
山城「そうですか……良かった……」
扶桑「どうしてあんなことをしたの? 私は彼のことをほとんど知らないわ。けれど、山城と一緒に居たあの人はとても幸せそうだった。
山城だってそうだったはずよね。あなただって、こんなことはしたくなかったはずよね……?」
敬愛する姉から向けられる疑念。山城は扶桑の問いかけに答えられるはずもなかった。自分でもなぜあんなことをしたのか分からない。
扶桑の話をされて、自分が抱いている感情を見透かされたようでひどく動揺した。いてもたってもいられなくなって、気がついたらこうなっていた。
扶桑を納得させることの出来るような理由が山城には見つからなかった。それでも扶桑は彼女の無言を許さない。
扶桑「ここでは話しづらいでしょう。私の部屋に来てもらえるかしら」
・・・・
雑然と物が散らかった山城の部屋とは違い、扶桑の部屋は隅々まで入念に掃除されているようだった。畳のある和室で、い草の匂いがほのかに香る。
扶桑とこうして一対一で話すことは少なくなかった。だが、扶桑からこうして畏まった態度を取られるのは山城にとって初めてのことだった。
机を挟んで向き合う二人。山城は見るからに心に余裕がなく、憔悴しきった様子だった。泣き腫らした赤い目。
山城「決して彼が憎かったわけではないんです……。むしろ……私みたいなのを気にかけてくれていて、感謝しています……。
だから、自分でもどうしてあんなことをしたのか分からなくて。気が動転していて……姉様の話を出された時、自分の中で何かが抑えきれなくなって……」
途切れ途切れに不器用な言葉を吐いていく山城。山城からすれば自分なりの言葉を一つ一つ伝えているつもりだったが、扶桑にとっては容量を得ない返答に感じられた。
扶桑「……山城。私と最初に出会った時のことを覚えているかしら。あなたはつっけんどんの跳ねっかえり娘で、とてもささくれていたわよね。
人から向けられた好意を素直に受け入られないどころか、好意を向けられれば向けられるほど心を閉ざしてしまうような難儀な子だったわよね」
扶桑「でも、『私の妹になりたい』と申し出てからのあなたは……少なくとも私の前でのあなたは、優しくて心の温かい子。どうして私に接するように彼と向き合えないの?」
山城「ごめんなさい。分かりません……。けれど、彼と姉様は違います……うまく言えないけれど、違う。姉様に命を助けてもらったご恩で……今の私がいるんです。
身を呈して守ってもらっていなければ私は海の底に沈んでいた。あの姿を見て姉様みたいになりたいと、心からそう思った。けれど……なれなかった……」
山城「未だに心は弱いままで、身近にいる大切な人さえも傷つけてしまう。姉様に近づけば、姉様の妹になれば、自分の中で何かを変えられると信じていた。
少なくとも最初はそうだった。けれど……何も変えられなかった。深みにはまるように姉様に依存していくだけだった。……」
突っ伏して握り拳を机の上に小さく振り下ろす。歯ぎしりながら言葉を続ける。
山城「私は……ッ! 山城は。扶桑姉様のことをお慕いしておりました。そして今も……。私の世界は……気づけば姉様だけになっていたんです」
伏せていた顔を上げて扶桑を見つめる山城。その視界は涙で歪んでいて、目の前の扶桑でさえも遥か遠くの蜃気楼のように見えた。
山城「女が女に惚れるなど……道理に反しているのでしょう。気色悪いと思うでしょう。なおも……私は姉様への感情を殺しきれなかった……!」
山城は、兼ねてから同性愛に対する侮蔑を抱いていた。だがそれは、そう思うことで自分自身を抑圧して律するためだった。
山城「本当のことを言ったら、扶桑姉様に嫌われてしまうから! ……隠し通したかった。誰にも知られたくなかった」
扶桑(こうなったのは、私の責任でもあるのかもしれないわね。山城の心に抱えた孤独の深さに気づいてあげられなかったから……)
山城「彼は優しいから……つい気を許してしまったの。それで、姉様のことを話しすぎてしまったのだわ。
私が姉様を愛していたことも、私が持つ残虐な一面も、隠していたことは全て知られてしまった。彼には私の醜い本性など、知られたくはなかった」
山城「でも知られてしまった。軽蔑されると思った……きっと見放されると思ったから。……そうなる前に、無かったことにしたかった」
山城「提督も姉様も、人として出来すぎているから……私は、本当の自分を隠していないと傍にいることも出来なかった。
たとえそれが自分を偽った姿だったとしても幸せでいられた! でももう……おしまいだわ。提督とも……姉様とも……!」
扶桑「山城。たしかにあなたの告白には驚いたわ。今まで気づいてあげられなくてごめんなさい。辛かったわよね」
扶桑「私は同性を好きになったことがないから、あなたのことを恋愛的な意味で好きになるためには少し時間を要するかもしれないわ。
扶桑「けれど、山城が私を愛してくれるというのなら……私も愛情で返したいと思います」
山城「姉様……うそ……!?」
扶桑「よく聞いて山城……あなたは一つ勘違いしている。人が人を愛する、そのことに性別なんて関係ないの」
扶桑「窓位提督と話したことはわずかだけれど、彼だって、山城が私を好いていることを知ったぐらいで態度を変えるような人じゃないわ。
山城が自分のことを間違っていると思い込んでいるだけ。彼に嫌われてしまうと思い込んでいるだけだわ」
扶桑「あなたはもっと視野を広く持ちなさい。傷つくことが怖いのは私も一緒。恥をかくことが怖いのは私だって一緒。私も愚痴や不満を言いたくなることもあるわ。
でも、周りの人たちが支えてくれるから。落ち込んでいても仕方ないって、私なりに頑張ろうって思えるの」
山城「姉様……私は、どうすれば……。山城は……」
扶桑に自分の愛情が好意的に受け入れられた喜び、窓位提督を傷つけてしまった罪悪感、自分の惨めさへの自戒と自嘲。
様々な種類の心情が綯交ぜになり混乱し、山城は不意に涙を零していた。彼女に身を寄せて優しく抱きとめ、なだめる扶桑。
扶桑「あなたを支えてくれる人の存在に気づきなさい。身近にいる人の大切さに気づきなさい」
扶桑「今は気が済むまで泣いていいわ。でも……落ち着いたら。再び前を向こうという気持ちが戻ったら、彼に会って話をするのよ。出来るわよね?」
呉鎮守府の医務室。大将や元帥らが見舞いに来てくれたようで、菓子類がベッド周りに積み上げられている。
窓位提督はその量からして三日ほど寝込んでいたのだろうと推測した。
戸が開く。のそ……と重い足取り。その最初の一歩で誰か分かった提督は、にこりと笑みを浮かべた。
山城「……ごめんなさい。謝って許されるようなことじゃないのは、分かっているけれど。償いきれないことだとは、分かっているけれど」
提督の横たえるベッド近くの窓から、低気圧が過ぎ去った後の晩夏の風が流れ込む。
白いカーテンが風にそよいでいる。窓から入る日差しの烈しさも少しずつ和らいできたようだった。
提督「許すよ。後悔ないって言ったでしょ。償いなんていらないさ。山城がいつも通りに笑っていてくれれば、それでいい」
山城「どうして……? あなたの命を絶とうとしたのよ? 許されるようなことじゃないわ」
提督「許すさ。謝られるほどのことじゃないんだよ。山城が触れられたくない痛みに、無神経にもボクは触れてしまった。だからキミから制裁を受けた。これでおあいこ」
山城「あなたに落ち度なんてないわ。……そう、私は、姉様のことを愛している。あなたの言う通りだった。けれど私は、同姓を好きになるなんて異常だって考えていたの。
男の人を好きにならなければいけないものだと思っていたから。それが当たり前だと信じて疑わなかった。自分の頭がおかしくなったんだと感じて気持ちを抑えてきた」
山城「でも……あなたに指摘された時。押し殺してきたはずの想いを目の前に突き付けられたように感じて、耐えられなくなった」
提督「お姉さんはなんて言ってた?」
山城「女同士で愛し合ったとしても、おかしなことじゃないって。互いに愛し合っているのなら、性別なんて関係ないと言っていました。
予想外でその時は驚きましたが……姉様が言っていること、今は正しいと思います。私の秘めていた想いも、受け止めてくれました」
提督「うん、そうだよ。性別も国籍も、生まれや育ちも、肌の色や体型だって関係ないはずなんだ」
提督「山城……少し真面目な話をさせて? ボクの自分語りだけど、キミに伝えたい。ボクの触れられたくない、心の痛みの話をする」
固唾を呑んで頷く山城。提督は真剣な面持ちで口を開いた。
提督「ボクは、見かけの上では大人になれない。そして人に体を触られて温もりを感じることができない。ここまでは山城も知ってるよね」
提督「子孫を残すことだけが生命の目的だと言うのなら、ボクはその使命を果たせない。ボクは……男でなければ女でもない。
ひょっとすると人間ですらないのかもしれない。昔子供の頃、作り物の人形や化け物と同じだって、そう言われたことがあるよ。今でも忘れない」
提督「ボクはずっと前に、女性として生きていたんだ。便宜上のね。長い髪を生やして、お洒落をして。
ボクは“人形のよう”だったから、可愛く着飾ればすぐに男の子が寄ってきたよ。女の子からもちやほやされた。悪い気はしなかった」
提督「だけど……忘れない。ボクを“人形のよう”に扱った人たちのことを。ボクを“人形のよう”に壊した人たちのことを。今でも、許せるか分からない。
ボクはそれからずっとずっと悩んでいたんだ。命を遺せないボクは、何もこの世界に生きた証を残すことができないボクは……本当に人形なんじゃないかって」
提督「両親や、当時のボクを支えたくれた人たちのおかげだ……再びボクが人を愛せるようになったのは」
提督「『人に優しくできる人間が一番カッコいい』。これはボクの信条であり……亡くなったボクの父から受け継いだ信念だ。ボクの父も提督だった。
戦いで命を落とした父に代わって、この呉鎮守府の元帥を母は以前務めていた。母も口にこそ出さないものの、父と同じ意志を持って戦ってきた人だ。
兄は提督ではないけれど、やはり優しくてカッコいい人だ。いつだって親身に相談に乗ってくれた。一時は恋慕を抱くこともあった」
提督「ボクは生きた証を残せない。愛を育んだところで、形にすることは出来ない。けど今は……ボクはそれすらも自分自身の運命として受け入れている。
たとえ仮に人形だったとしても……ボクは父や母の精神を受け継いで生きるんだ。これがボクの存在証明。これがボクの今を生きる理由」
提督「こうやって男性の姿をしているのも、ボクなりの覚悟の現れ。名前も一度変えている。父と母から一文字ずつ貰った名前。
『人に優しく生きる』、それを貫き通すために生きてるんだ。だから。キミから向けられた殺意すらもボクは温情で返すんだ。それに……」
提督「キミもきっと本当は優しい人だから。ボクのことを殺してしまう前に、どこかで踏み止まってくれると読んでいた。その通りになったよ」
提督「ボクとキミとは、合わせ鏡のような存在なのかもしれない。キミの痛みは、ボクにも分かるところがある。
ボクの痛みも、優しいキミならきっと分かってくれると思った。だから話した。……これはボクと山城だけの秘密にしてね」
山城「提督は……私よりもずっと辛い人生を生きてきたのですね。ただ周りに恵まれているだけの人だと思っていました。本当にごめんなさい……」
提督「不幸や苦しみの度合いなんて比べるものじゃないさ。ボクはボクなりに辛かった、けど今は克服した。キミもキミなりに辛いことがあった。
それでも今、キミは乗り越えようとしている。前を向いて歩き出そうとしている。罪の意識を感じたり気後れしたり……そんなのはしなくていいんだよ」
提督は、山城の両手を包み込むように握りしめる。
提督「怖くないから……もう、独りぼっちじゃないから。依存するんじゃなく、手を取り合って生きよう? 今のキミなら出来るはずだよ」
・・・・
山城への処遇は、艦娘への処罰の中では最も重い解体処分になることと相成った。もちろん、その決定を受け入れるわけにはいかない。
窓位提督と山城は、芯玄元帥や他の大将にひたすら頭を下げ、どうにか謹慎期間が三倍に延びるだけで事を済ませたのだった。
山城の処分の一件が収束し、彼女の部屋の前で顛末を報告する提督。胸を撫で下ろしている。
提督「作戦開始直前の忙しい時期なのに邪魔しちゃったのは元帥がたに申し訳なかったけど、頼んで回った甲斐があったよ! 山城が解体されないでよかった。
さすがに数ヶ月の謹慎ともなると暇でしょ? その間ずっと出撃も演習も出来ないからね……山城が退屈にならないように、ちょくちょく遊びに来るよ」
山城「あの……提督は毎日色んなお仕事をしていて、立派、ですよね。みんなの役に立っていて……掃除とか、洗濯とか……。
私も一緒にやっていいですか? 謹慎中はどうせ暇……ですし。邪魔にならなければで良いんですけど」
提督は二つ返事で快諾した。
山城がボクの仕事を手伝ってくれるようになってから、すごく助かっている。
ボク一人じゃ踏み台や脚立を用意しなければいけないような作業も、長身の山城がいればあっという間に終わる。
艦娘だけあってボクにとっては重労働に思えるような、体力を使うハードな作業もなんのそのだ。
給料が支払われているわけでもないのに嫌な顔一つせずボクに付き合ってくれている。
提督「うーん、働き詰めだと時間が過ぎるのも早く感じるね。つかれたつかれた、とりあえず今日は一段落だ」
山城「提督。もしよかったら晩ご飯ご一緒しませんか? ちょっと食材を買いすぎちゃって……」
提督「いいね、お言葉に甘えようかな。さては扶桑が今日から出撃なのに普段と同じ量を買ってきちゃったんだな~?」
山城「……バレましたか」
普段山城は扶桑と夕食を共にしている。二人の仲は順調なようで、時たま散歩という名目でデートしているのを見かける。
そういえば、最初に山城の部屋に入った時は物が結構散らかってたような……下着とかも落ちてた気がする。
さすがに最近は扶桑も出入りするせいか、かなり綺麗にしているみたいだけど。
あの時は謹慎を言い渡された直後で、掃除する気力も無かったのかもなあ。
・・・・
エプロン姿で台所に立っている山城。ボクも手伝おうとしたが、自分でやるからいいと止められてしまった。
窓から差し込む夕陽、その穏やかな薄紅色の明かりに照らされている山城の横顔。
……鍋からグツグツと小さな音が聞こえる。カレーの匂いだ。ボクは特にすることもなく頬杖をついていた。
提督「攻略作戦が始まって、やっぱり皆ピリピリしているね。艦娘たちも少し余裕がなさそうだ。
普段だったら掃除とか手伝ってくれるんだけど……今日はみんな忙しそうだったよ」
山城「レイテ沖攻略……ですか。姉様は大丈夫かしら……」
山城「いいえ、姉様はきっと無事に帰ってくるわ! 私が信じないでどうするんですか!」
不安げに呟いた後、打ち消すように小さくガッツポーズしている山城。
提督「山城……変わったね。前より明るくなったよ。それに、最近はボクや扶桑以外の艦娘たちともちゃんと話せてるよね。立派立派」
山城「あの……私が他人と会話する能力がないように言わないでもらえませんか? 私だって世間話ぐらいはできますよ」
提督「失敬! けど、前と違って親しみやすいっていうかさ。『近寄りがたい人だと思っていたけど、話してみると案外面白い人だった』って評判みたいだよ」
山城「何をもって面白いと思われてるのかは分からないけど……提督のお手伝いをするようになってから、他の子たちと喋る機会は増えましたね。
向こうから話しかけてくるものだから最初のうちは戸惑ったけど。でも、慣れてみると悪い人たちじゃないって思ったわ」
山城「って……提督と会う前からずっとここにいたはずなのに『慣れてみると』って言うのはヘンね。でも、なんだか新鮮な感じするの。
前は他人と話すことなんて時間の無駄だと思っていたから。提督や姉様のおかげかもしれないわ。少しだけ成長できました」
提督「成長といえば……。最近は『不幸だわ』も減ってきたよね。ツキが回ってきたんじゃない?」
山城「自分では気づかなかったけど、言われてみればそうかも……。いえ、相変わらず酷い目に遭うこともあるのだけれど。
でも……確かにそうね。結局あれも私の不注意や不用心のせいで引き起こされてた節もあったから」
山城「艦娘の強さは精神的なコンディションに依るのでしょう?
私が自分で自分を不幸だと思い込むことで、注意力や判断力も低下してしまったんじゃないかしら」
提督「そうかもしれないね。……」
ふと思ったことは、山城はもうボクが居なくても平気だろうということだ。ここまで過去の自分を客観的に分析できている。
自分で自分に課していた呪いを、最後には乗り越えることができた。そして、最愛の姉である扶桑とも結ばれた。
ボクもいつか、また誰かに恋心を抱いたりするのだろうか。特別な感情を抱いて、仲睦まじく手を繋いだりする時が来るのだろうか。
提督になることを決意した時から、『人に優しく生きるんだ』と決心した時から、忘れていたそわそわした感覚を思い出した。
……思い出したところで、どうにかなるわけでもないけど。
山城「提督? どうしました。眠いんですか?」
気が付くと目の前にはカレーの乗った皿が置かれていた。ああ、せめて配膳ぐらい手伝ってあげればよかったな。ボーッとしてた。
・・・・
ボクは珍しく一人になりたい気分になって、なんとなく鎮守府内を散歩していた。古びた桟橋が海に伸びている。
夜の帳に満月と星。海面を照らす大小の光。ちょうどいい、ここにしよう。ほっと一息ついて腰かけ、空を眺める。
提督「……あー」
キラリと星が流れていく。参ったな、願い事なんて考えてなかったよ。ザンネン。しょんぼりだ。
提督(でも、ま……いいか。満天の星空に美しい満月。それが見れただけでも幸運だ)
山城「提督……? どうしたんですかこんなところで」
提督「たそがれてるんだ。山城こそどうしたの?」
山城「姉様がいないからなんだか人恋しくて……提督に話し相手になってもらおうと探してたんです。迷惑でした?」
提督「いいや……むしろ光栄さ。暇だったからほっつき歩いてただけだからね」
本当は一人になりたかったけれど、だからと言って拒むほどでもない。それに、山城と話しているのは楽しいから、これはこれでいいんだ。
山城「提督は、何か山城にして欲しいことはありますか?」
提督「? 急にどうしたのさ。どういう風の吹き回し?」
山城「提督の夢はなんだろうって、ふと考えたんです。でも、想像つかなくて……。
今の提督がいるのが、かつて提督を支えてくれた人たちのお陰であるように。今の私がいるのも提督のお陰」
山城「だから……あなたの望みを叶えてあげられたら、って思ったの。山城が力になれることであれば……ですけど」
空を見上げれば金色の月が宵闇を照らし、水面は星々の光が揺らめいている。
美しくも幻想的な空間。その幻想の中で、唯一絶対的な存在としてボクの瞳に映るのは、目の前の山城だった。
山城の頬は、先刻の夕陽から少しだけ紅色を分けてもらったのか、仄かに赤らんでいる。
じっと背の低いボクのことを見つめている。ボクの言葉を待っている。
提督「ボクの望みは……。ボクが欲しいのは」
提督(山城の心、なのかもしれない)
提督「ボクが欲しいのは、生きた証。不確かなボクを、より確かにしてくれる根拠」
提督「それは知性であり、品性であり、紳士性……なのかな。言ったでしょ? ボクは『人に優しくする』、その信念を体現するために生きている」
山城「何かこう……具体化できるものはないかしら? 私にも理解できるようなスケールのもので」
提督「そうだなぁ……。歴史のページに名前を残すような人になれれば、生きた証を残せると言えるのかもしれないな。
あ……これも具体性ないなあ。う~ん……保留でいい? なんか、パッと浮かばないや」
山城「そう、ですか……なら仕方ない」
・・・・
窓位提督と山城はレイテ沖の攻略作戦が佳境に差し掛かってもお構いなしで、地道かつ誠実に雑用を行い続けた。
清掃・衣類の洗濯・食事当番・水回りの掃除のみにその活動は留まらず、エアコン修理に大将らの書類整理、疲労した艦娘のマッサージ、果ては猫の世話まで。
二人の働きぶりは呉の鎮守府内でちょっとした評判となり、凸凹コンビならぬ凹凹(ボコボコ)コンビと呼ばれ親しまれている。
災難な目に遭うことが少なくなく、傍目からは厄介で面倒な仕事ばかりを引き受けているように見えるからである。
もっとも提督も山城も自発的に行っているのであり、それらの仕事や奉仕活動を災難だとは思っていない様子だった。むしろやりがいを感じているらしかった。
そんな折、窓位提督は芯玄元帥から相談を受けていた。
芯玄「朝早くから悪いな。お前が居てくれるお陰でオレも朝潮も楽が出来ている。
それから、大将連中との仲を取り持ってくれてありがとうな。助かってるぜ。
お陰で、最近は少しだけ認めてもらえてるらしい。もっとも、まだまだ結果は伴なっちゃいないがな」
提督「いやいや。元帥が頑張ってることを大将の方々に伝えてるだけですから、元帥のお力で信頼を勝ち取ったようなものですって」
芯玄「はは。世辞がうまいなお前は。いや……相談というのはな。これを見てくれ」
元帥に海域図を見せられる。図にはところどころペンで書き込んだ跡がある。
芯玄「佐世保や柱島と連携して、ようやく今ここまで来てるんだ。一見優勢に見えるが、そろそろ戦場にいる艦娘たちを撤退させなければ身が持たねえ。
そして勝つためには最後の一押しが足りない。ここで退いたら、恐らくまたやり直し。艦娘たちにも更に苦しい負担を強いることになっちまう」
芯玄「一回きり、使えるのは一回きりの荒業だが……試してみたいことがある」
・・・・
突然工廠へと呼び出された山城。わけもわからないまま艤装を弄られていた。
山城「ちょっ、ちょっと何かしら!? 説明してちょうだい!」
提督「行くよ山城。出撃だ!」
山城「ていと……えっ? 今なんて!? 私まだ謹慎期間中じゃない。無断出撃なんてやらかしたら今度こそ解体されちゃうわ」
提督「特例が出た、元帥直々のお達しさ。これはボクと山城しか遂行できない。行こう、ボクも一緒さ!」
いつの間にか山城の背中の艤装に、大きめの段ボール箱一つ分ぐらいの金庫に似た鉄塊が取りつけられている。
そのことに彼女が驚いている隙に鉄塊の蓋を開けて中に入る提督。
提督「計算上、山城の艤装とボクの体型でならぎりぎり実現可能らしい。目的地はもちろんレイテ沖……! いざ出撃だ!」
・・・・
芯玄元帥の話によると、戦場の艦娘を大破状態から全快まで回復させ、かつ、燃料や弾薬まで補給できるという切り札があるという。
“応急修理女神”と名づけられた、艦を救う妖精の存在だ。一度女神がその力を発揮すると、二度とその力は使えなくなってしまうため『一回きり』とのことである。
女神は基本的に艦娘に対して(なぜか)冷淡であり、装備品と一緒に括りつけて出撃でもしなければ力を発揮してくれない。
一方で人間には比較的素直に応じてくれるらしく、指示さえすれば無関係な艦娘の修理までついでにやってくれるらしい。
山城の補強増設内は窓位提督と彼の腕の中や服の中にひしめき合う女神たちですし詰め状態ではあったものの、彼女たちが不満げな様子を見せることはない。
窓位提督と山城に与えられた任務は、この女神をありったけ引き連れて主戦場まで向かうことだった。
スリガオ海峡 深海中枢泊地沖。硝煙が立ち込める。砲火の応酬がやまない。
瑞鳳(昼はなんとか被害を抑えたもの……やはり夜戦になると大破の艦は出てしまうわね)
利根「撤退命令! 撤退命令はまだか! このままでは轟沈の被害が出てもおかしくないぞ……!」
瑞鳳(一部の艦隊が撤退を始めているわね。うちはまだ大破の艦が出ていないからもう少し持ちこたえられるでしょうけど……)
秋月「この秋月、艦隊を守る盾となる覚悟です! 大破艦は航行可能な限り遠くへ!」
探照灯を敵戦艦の群れに照射して挑発する秋月。弾幕にかすりながらも直撃弾だけは見事に避けている。
扶桑「山城が……待っているもの……! ここで倒れるわけにはいかないわ……」
額から血を流しながら敵を睨み続ける扶桑。既に大破の状態であり、敵の砲か魚雷を一撃でも食らえば沈んでしまうだろう。
彼女の速力では戦場から逃げることもかなわない。敵の艦隊全てを討ち取るまで戦い続けるしかなかった。
提督「間に合ったか……!? みんなを助けてあげて。行ってきて!」
補強増設の中から次々に応急修理女神を開放していく提督。
山城「各艦は私を顧みず前進! 大破艦も転進して迎撃態勢へ。敵を撃滅してくださァーい!」
咆哮とともに、祝砲と言わんばかりに前方の敵艦隊めがけ砲撃を放つ山城。
五十鈴「これで戦える! 敵を掃討しますッ!」
朝雲「あ、噂のボコボコの二人ね。恩に着るわ!」
山城「ボコボコ……?」
提督「……ボクたち、凹凹コンビって呼ばれているらしいよ。なんでだろ」
山城「フッ……上等じゃないの。確かにその通りだわ。目の前の敵を“ボコボコ”に叩きのめすのが今日の私の仕事なのでしょう?」
提督(女神を戦場に届けたら帰って来いって元帥から言われてるんだけどナァ……)
・・・・
芯玄元帥の奇策が功を奏して、連合艦隊は破竹の勢いで猛進し敵を打ち破った。レイテ沖海戦は無事に終結した。
策に貢献した窓位提督には大将の地位が与えられ、舞鶴鎮守府に正式着任することになった。
山城もまた戦場での活躍が認められ、恩赦に近い形で謹慎を解かれ今では方々の戦場に引っ張りだこな様子だ。
窓位提督が呉を離れなければならない最後の日が訪れた。彼は山城の部屋を訪れていた。
提督「キミとは長い付き合いだったから、最後に会っておこうと思ってね。ボクが居なくても平気かい?」
山城「寂しくはなりますが……今は一人じゃありませんから。いいえ……今も、ですかね。気づけたのは提督のお陰ですが」
提督「そっか! ……良かった良かった。安心だよ」
山城「あの戦いまでは、私は敵に対して殺意を高めることで力を発揮していました。
ですが……提督と駆け抜けたあの戦い以降、守りたい人のことを強く想うことで殺意を凌ぐ力が出せるようになりました」
提督「物騒だなあ、目を輝かせて言うようなことかよぉ……。イキイキしてるようで何よりだけどさ」
提督(事実……あの作戦での山城は相変わらず荒々しかったけれど、前の演習みたいに形振り構わず敵を倒すという感じではなかった。
全力全開ではあるもののどこか冷静で、周囲を気遣っているような精神的余裕を感じた)
山城「深海棲艦を倒すのが艦娘の仕事ですから。あ。提督は艦娘と違って貧弱なんですから、お体に気をつけてくださいね。お菓子ばっかり食べてちゃダメですよ?」
提督「うん……そうだね、気をつける。(話すことなくなっちゃったな……それに、時計を見たところもうここまでかな。ははは)」
くるりと身を翻し、帽子を目深に被り、一歩踏み出す提督。
提督「短いけど、もう時間なんだ。……また会おう。またいつか」
窓から差し込む夕焼けの灯りが時を報せる。
提督(結局のところ、ボクは山城に気持ちを伝えられずじまいだった。……今更になって惚れてることを自覚するんだから遅いよね。
いや、自覚したところで変わりはないか。ボクは『優しい』男だからな。要らんことをして彼女の気を乱すような真似はしない、紳士だもの)
山城の返事もなかったので、提督は部屋の扉をそっと閉じようとした。しかしドアノブに手をかけ扉を開ける山城。
提督を部屋に引き寄せて再び扉を閉める。彼の小さな背丈を体全体で包み込むように抱き締める山城。提督には彼女の意図が読めなかった。
山城「最後まで……あなたは優しい人なのね」
提督「……?」
山城「また会いましょう。また、いつか。提督の傍にいられる日を、待ってますから」
山城はそう言って提督の頬に口づけし、すぐに身体を開放した。扉を開け、退室を促す。
提督は困ったような微笑みを山城に返し、急ぎ足で部屋を去っていった。
夕焼けに消えていく提督の姿を山城は見送った。窓から入り込む秋の風は、夏の終わりを静かに告げた。
3章はこれでおわりです。4章に関する情報は>>771を参照ください。
相変わらず投稿予告日からズレたりしてすみませんでした。結局「最悪でも夏イベ終わるまで~」とか言ってたのに夏イベ終わってるじゃんという。
いちおう甲クリアして掘りも済みましたが、今夏はめっちゃ忙しくてあんま艦これやる時間取れなかったっすね。まるゆ掘りしたかった……。
今回の章の雑記いきます。
(例によって深夜のテンションで書いてるものなので色々ご容赦ください)
ストーリーなど:
まず、前の章でスターシステム的な扱いで前作主人公ズを出してましたね。パラレルだから許されるよってな感じでした。
ところがどっこい今回の章では繋げてしまいました。シェアワールドってやつですかね。
前の主人公とか出てくると途端に話がややこしくなるのですが、今回はお題レスもないしそういう縛りを敢えて加えてみてもいけるかなーとか考えてました。
認識甘かったです、やっぱりカオスになった。まあ実験に近いところもあるんで……。
前章前々章の提督の姿を通じて何かしら学ぶ描写とか書こうとしたけど尺不足でカットとか没とかになってます。
だったら最初から出さない方向で書いた方が良かったのかも。
次も(お題レスとの矛盾や不都合が生じなければ)繋がった世界線でやっていきますが、今回ほど密接な感じにはなりません。
前章以前のキャラが一人か二人出てくるかもなって感じです。基本はそういう感じでやってきたいです(めんどくさいから)。
次章以降のレス数を考慮して15レスで終わらせるか、普通に16レスで終わらせるか、わりと最後の方まで悩んだ挙句15レスで終わってます。
終盤詰まり過ぎたのは、1レス削る都合で構成変えなきゃだったりとか、単純に執筆時間がなかったとか、そんな感じの事情です。
「艦これの二次創作なのに戦闘描写やってないなー」「なんのために戦ってんだ」と思い、わりとしっかり書くつもりだったんですが、書けず。
尺がねー……。扱うテーマが重すぎたんだよ!! ……あくまで娯楽作品だしなあ。どうなんだろうとか書き終えてる今更になって思います。
提督について:
ちょっと設定を凝り過ぎましたね。ぶっちゃけあんなに要らないはず。オリキャラの設定過剰とか誰得なんじゃって話ですよ。
だいたい作中で語り尽くしちゃったようなキャラなので言うべきことはありません。
良い子ちゃんキャラってわりと扱いに困るんですが……まあ別にそんな良い子ってわけでもないか。
山城について:
「不幸」「シスコン」「プライド高い」の三本柱で出来てるキャラだと私は思います。
じゃあ絶対姉の話は避けられないだろうなーと思い、扶桑は登場させてます。
あと、オコトワリ勢なので、最後までくっつかないラストにしてやろうとは当初から企んでいました。
キャラ付けが過剰すぎたかなあ、みたいな反省がいくつかあります(提督の方もそうですが)。
ツンデレっぽい感じでやや甘酸っぱめ、みたいな塩梅でやるのが正解だったのかもしれんなあ……。
すぐ前の章で幸⇔不幸問題(?)みたいなのはやった後なんで、不幸についてどうのこうのはあんまり掘り下げて書いてません。
彼女特有の負けん気の強さとか、不幸だろうがなんだろうが立ち上がる芯の強さはみたいな要素はもうちょっと書きたかったかも。
次の章について:
なんにも考えてないです。また1~2ヶ月お待ちください。
ども。ども……ええっと、どうも。セルフ保守です。
いやー、その、一ヶ月経ったんですけどね……なんにも書けてないんですよ。
前回の章を投稿した前後からありとあらゆる出来事が襲い掛かってきて執筆できる状況にありませんでした。
今は忙しさのピークも過ぎてちょっと落ち着いてきたので、一ヶ月後ぐらいには投稿したいです。願望ですが。
////いつものやつ////
作品外で作品のことをウダウダと書くのもどうなのかな、といつも悩むのですが。何度同じ話するんだっていう感じですがいつも悩んでます。
いちおーファンサービスというか次の投下までの繋ぎとして書いているという意図があります(ファンっていうと大袈裟ですけども)。
前回の章についてちょいと思うところがあったので少し書こうかなと思ったのと、次の章について触れようかなと。
まだ何も書けていない以上あまり大した話は出来ませんし、例によって読み飛ばしてもらっても構いません。
前の章はですね~……投稿直後もなんか言い訳がましいことを書いてましたが、反省すべき点が多いですね。
あくまで作者目線でそう思うというだけですが。何もかもダメだったってわけじゃないんです。
全体の展開構成はさておき、自分なりに納得の行っているところもあるんで。
元々それぞれの章で独立していて他の章と関わることもなく完結するオムニバス形式でやろうと考えていたものを、
途中から無理矢理一つの世界設定に押し込めようとしたらそりゃ尺も足りなくなるし諸々の整合性も崩れるよねっていう。
でも、やるにしてももっとそれぞれのエピソードを上手くまとめられたなー、もっと執筆に時間をかけられれば良かったなー、とか悔やむところは多いです。
えー……そこいら辺は私の技量不足によるものなので、次は頑張ります。
で、ですよ。迂闊にもセルフクロスオーバー的なことをやってしまったわけですが。
これからどうすべきか色々と悩みましたが……(一つ前のレスではわりと弱気なこと書いてたりしますし)。
このままごった煮な感じで突っ走ろうかなと思います。えと、必要に応じて過去のキャラが出てくる感じでやっていこうかなと。
というのも、こうなった以上もう過去のキャラクターは存在ごと封殺して以降全く新しいお話……ってのは筋が通らないかなと。
前章は安易に過去キャラを引っ張り出しすぎたので、やりようはもっと考えたいと思ってますが。
さて、それぞれの世界が一つに繋がってしまうと、それはそれで問題が発生します。
あー……たとえば次に投下する章では秋月がメインになるわけですが。
この秋月も第一章以降に登場した秋月と同一固体にすべきか、全く別の秋月にすべきか、ってとこで悩みどころですよね。
これって多分正解はなくて、前者のこれまで登場していた秋月を期待している人もいれば、
それとは違う切り口の、ヒロインとしての役割を与えられた秋月を求めてる人もいると思うんですよ。
悩みはしましたが……前者の秋月で行こうと思っています。今回“は”登場済みの秋月でやろうかなと。
今後の安価で前章以前に登場したキャラの指名が入った場合は……またどうするか分かんないですけど。
出来るだけ安価の意向を汲みたいと思ってはいます。
前言ってたタロットのやつは、今回の章だと『塔』になります。
正位置では崩壊・転落・悲劇・破滅・喪失などを暗示し、
逆位置でも正位置ほど酷くはありませんが不幸・アクシデント・障害・中断、なんてマイナスな意味合いです。
(逆位置の場合、解釈によっては死神の逆位置に近い「再生・再建」みたいなニュアンスを含むこともあります。
正位置でも古い価値観の崩壊≒革命、なんて解釈もあるにはあります。まあ基本的には良い意味を持ちませんが……)
正位置逆位置にともに最も不幸に直結するカードでございます。
あー、それ引いちゃうか~っていう感じですが。
こういう引きをした時こそ作者の腕の見せ所……だと思うんで、面白い話になるように頑張ります。
ゲームの方の話ですが、基地航空隊実装前に6-4突破しました(なぜそんな意味のないことを)。どんなイベント海域よりもキツかったですね。
イベントと違っていついつまでに攻略できなければアウトみたいなのはないんで気は楽でしたが、難易度はやばかったすね。誇張抜きに100回ぐらい出撃しました。
一応自分今まで甲勲章全部ゲットしてきてるんですが、あれがイベントで来たら丙にするって厳しさでした。それゆえにゲージ破壊時は達成感もありましたけどね。
お待たせしてすみませんでした。わりとエターナりそうでした。
次回の投下は11/23(木)を予定しています。
////一言////
秋刀魚イベでしたね。任務報酬はWG42と最新鋭な旗を選びました。大型探照灯は既に作ってたんで……。
11/23って水曜日でしたね(予告のレス書いてる時先月のカレンダー見てました)。
では行きます……と言いたいところなんですがやんごとなき私情のため延期とさせていただきます。
11/26(土)昼頃までお待ちいただけないでしょうか。すみません……。
うぅ……お待たせして申し訳ない……。
前回の投稿から約三ヶ月が経とうとしています。皆さんいかがお過ごしでしょうか。
浦波が実装されたり、秋刀魚を獲ったり、加賀さんがローソンで働いていたり、
秋イベが始まったり、劇場版が公開がされたりと艦これ的には色々動いているようです。
ポイ-ポンポン砲-ナンチャラ-ポイみたいなのが流行ったり、海の向こうでは大統領選挙があったり、
11月なのに初雪が降ってきたり(not 艦)と話題の大小に関わらず世の中的にもあれやこれや起きているようです。
時間が止まっているのはこのスレだけなのですが……。もうちょっと、もう少しだけ待って欲しいです……ごめんなさい……!
どうやっても執筆時間を捻出するのが困難なため、イベントも手付かずでSSを書くためだけに有給を使うなど、
わりとリアルをかなぐり捨てる生活スタイルを取りつつあるのですが、なおも筆半ばで止まっている状態です。
そう、まだ書き切れてすらいないのです……情けない話ではありますが。
なんとか気合で近いうちに、今週とか来週とか……確約は出来ませんがなる早で頑張ります。
ここでエターナルのは多分一生引きずるぐらい後悔すると思うので、
延期に次ぐ延期で恥の上塗りに上塗りを重ねている状態ですが、それでも次の投稿は必ず果たします。
えっと、気合はそのぐらい込めて書いてるつもりなので、もう少々、もう少しだけ……何卒。よろしくお願いします。
お久し振りです、結局こんなに伸び伸びになってしまいました。ごめんなさい。
待った甲斐があるものを書けたかどうかは分かりませんが、頑張りました。
先週か来週の土日に投稿を行うつもりだったのですが、どうにもスケジュール的に詰みっぽかったので無理矢理今日投下してしまいます。
今回は文字数を削る作業もほぼほぼ終わっている状態からの投稿作業なので、うまくいけば日付を跨がないで済みそうです。
それでは行きます。
吐く息は煙のように浮かんでは消える。空に浮かぶ満月が水面を白く照らしている。
秋月「旧鎮守府と現鎮守府を繋ぐ架け橋……恐らくここのことですよね」
舞鶴鎮守府は巨大な人工島の上に建てられた軍事施設だ。そこから本土へ行き来するためには、三本の橋のいずれかを経由する必要がある。
かつて第二次世界大戦で利用されていた鎮守府は旧鎮守府と呼ばれ、施設の一部は現在も残り記念館などに転用されているようだ。
この人工島から旧鎮守府の方角に繋がる橋は一本しかない。秋月はこの橋の上を歩いていた。
秋月(ここから先は艦娘が許可なく立ち入ることのできない場所。この関門の前で待っていましょうか……)
??「……初めまして、になるか」
関所から鼠色のパーカーを着た男が現れる。男はフードを被っていて、その下に更に帽子を被っている。この姿から素顔を想像することは難しい。
服の上からでも分かるアスリートのように引き締まった筋肉質な体躯から、かなり鍛えていることが伺える。
秋月「(この帽子は軍帽ですよね……。軍の関係者ではあるようですが、口元しか見えないから誰だか分かりませんね……)
私を呼んだのはあなたですか? あの奇妙な映像の目的について聞きたいのですが」
??「そう、私だ。……あの映像が視える者を探していた」
・・・・
一週間前の深夜。この日秋月は眠れなかったため、暇つぶしにテレビをつけた。
しかしこの日・この時間帯はどこの放送局も番組放映を終了していて、テレビにはカラーバーが映っているだけだった。
(カラーバーとは深夜や早朝のテレビ放送終了後に表示される、テレビ受像機などの色調整を行なうために使われる色帯画像のことである)
時計を見ると、時刻は午前2時30分頃。道理で何も放送されていないはずだ、と思いリモコンに手をかけた秋月。
――NNN鎮守府放送です。
秋月「!」
電子音が止まり、突然カラーバーから別の映像に切り替わる。部屋の天窓から月明りが差し込む、暗い部屋の映像なようだ。
窓からスポットライトのように差し込む明かりの先に、執務室にあるような立派な椅子が置いてある。
秋月は硬直していた。心臓が爆発するかのように鼓動する。恐怖で鳥肌立つ。
リモコンの電源ボタン上に親指は乗っている。押すべきか、押さぬべきか……その二択で逡巡する。
――満月まではあと 七日 です。当日同刻、旧鎮守府と現鎮守府とを繋ぐ橋の上でお待ちしています。おやすみなさい。
音声合成ソフトで作られたような、人間のものではない無機質な声。アナウンスが終わると再びカラーバーの映像に戻った。
・・・・
わずか一分に満たない程度の短い映像だったが、秋月の記憶には強く印象づけられていた。
秋月「あの放送を最初に見た次の日も同じような内容のものが流れていて……でも、映像が見えていたのは私だけだったんです。
後日他の艦娘と一緒に見ても『何も見えない、カラーバーのままだ』って。色々な方に訊ねてみましたが、みな知らない様子でした」
??「…………」
男はポケットからB6サイズほどの小さなノートを取り出し、紙の上にさらさらと文字を書いて秋月に渡した。
秋月「『涼金 凛斗(スズガネ リント)』……あなたの名前ですか?(どこかで聞いたことのある名前だったような……)」
男はこくりと頷きながら、別の紙に次の文章を書いていた。
提督「例の映像は選別だ。あれが視える者が必要だった」
男の渡す二枚目の紙には、図が書かれていた。空母と思しき艦娘・艦載機・妖精の絵が描かれている。
秋月(ええっと……『空母の艦娘が艦載機を繰り出す際に、式神や弓を駆使して発艦させる』。
『発艦後の空戦にて、事前に想定していた作戦から逸脱するイレギュラーな状況が起こった時……』)
秋月「『戦闘による摩耗を抑えるべく艦載機に搭乗している妖精と空母たる艦娘との間で念が交わされる』……。
この念というは、テレパシーのようなものですか?」
提督「ああ。原理はそれの応用。映像自体にはあまり意味がない。……」
秋月(着任した後では映像を編集するための機材がなかった。そして、映像を作った段階ではどの鎮守府に着任するか分からなかった。
『満月の晩』の『旧鎮守府と現鎮守府の架け橋』という曖昧な指示も、その段階では日付や場所を確定出来なかったからだ、と。
タネが分かればなるほどと思えるけれど……。真夜中にあんな映像を流されて怖がるなという方が無理がありますよね……)
三枚目の紙にボールペンを走らせようとした時、秋月が制止する。一枚目と二枚目の紙を男に返却する。
秋月「あっ、そんなに紙を使ったら勿体ないですよ! 紙を裏返して使えばまだ書けます。はい」
秋月(というより……口で説明した方が早いような気がしますが……)
提督「…………」 無言でノートに文字を書き連ねる
秋月(あれだけ早く文字を書いているのに、かなり字が綺麗ですね。さっきの絵も結構上手だったし……。
硬派なようで案外繊細な人だったりするのかも?)
提督「紙での説明は、これでいい。……分からなかったら質問してもいいが答えるかどうかは別問題だ」
知っていると知っていないとで、物事の見え方が変わることがある。
+という記号の持つ意味を知らない幼稚園児に1+1の答えを聞いても2と返してはくれないだろう。
人間の一生は、知識の積み重ねだ。経験を通じて物事のありようを学び蓄積していく。
しかし……何事にも禁忌というものが存在する。
知ってはいけない、見てはいけない、聞いてはいけない、口にしてはいけない……。そういった存在、いや概念だ。
私は“あいつ”を認識してしまった。次に“あいつ”と接触すれば、私はこの世からいなくなるのだろう。
死ぬのではない。もっと恐ろしいことだ。
あの映像を視ることが出来た君には、“あいつ”を認識・知覚できる才能がある。
ということは私と同じ目に遭う危険があるということだが、何のことはない。知らなければいいだけのことだ。
知らないまま私の指示通りに動いてくれれば、“あいつ”に対抗できる。
知ってしまうとまずいが……全く察知できないのもまた問題があるのだ。だからこそ君でなければならない。
“あいつ”のことを知らないまま、“あいつ”から私を守って欲しい。その依頼がしたくて君をここに呼んだ。
秋月(一枚目の紙はここで終わっている……。“あいつ”とは一体……?)
“あいつ”に名前をつけるとしたら……いや、それはやめておこう。名前をつけるという行為自体が存在を認めるということと同義だ。
とにかく……“あいつ”は君にとっては存在しない。私にとっては存在する。そういうものだと思っておいてくれ。
君にとって、私は幻覚や妄想に囚われた病人に見えるかもしれない。
それでいい、決して私が見ているものは視ようとするな。知ろうとはするな。
君はこれから約三十日間、毎晩私を連れ出してなるべく遠くへ逃げる。それだけでいい。
君にとっては狂言めいた茶番に思えるかもしれないが、私にとってはかなり危急な事態なのだ。
次の満月が昇る頃に“あいつ”はいなくなる。それまでは付き合って欲しい。
秋月(一体彼は何に恐れているのか……? 気にはなるものの、その恐れの対象を知ってはいけないという。
敵を知らないままどうやって守れというのでしょうか。普通に考えれば荒唐無稽な話に思えますが……)
秋月「つまり……なにか、奇妙なものに追われていて、“それ”から貴方の身を守って欲しいということですね」
秋月(これだけ身体を鍛えている人が何かを恐怖するとすれば、恐らく相手は人間ではない。
“あいつ”という言葉から察するに、何らかの組織に追われているというわけでもないはず。
深海棲艦か、それとももっと別の何か、でしょうか……)
提督「……そうだ。引き受けてもらえるか? いいや、首を横に振られようと応じてもらう。
こちらも後には引けんのだ。全てが終わり次第、相応の報酬は与える。無事終わりさえすればな」
秋月「分かりました。いえ、ほとんど分かりませんが……大丈夫です。秋月がお守りします!」
秋月は、心のどこかで非日常を期待していたのかもしれない。この時の彼女の内心は、不安よりも好奇心が勝っていた。
・・・・
翌朝。舞鶴鎮守府第四執務室。軍服を着た白髪の男性は、この鎮守府を取り仕切る大将の一人である涼金凛斗であった。
提督(しくじったな……名を聞きそびれた。艦隊名簿の顔写真を見ればすぐに分かると思ったが……。
どこの艦隊にも所属していない艦娘だったとは。可能性として考えられるのは……)
提督「……吹雪。軍学校に所属している艦娘の顔と名前を確認したい」
吹雪「また突然ですね。『鍛錬不十分な在学中の艦娘を登用するつもりなどない』ってこの間他の司令官に言ってたじゃないですか」
わざとらしく涼金提督の低い声を真似する吹雪。吹雪は彼の秘書艦で、行動を共にすることが多かった。
提督「……とにかく。今はその情報が必要になったのだ。それ以上は詮索するな」
吹雪「出た! 司令官の秘匿主義! そうやってまた何かを隠そうとするー」
提督「……必要のないことを話したくないだけだ」
吹雪(うぅー、秘書艦なんだからもうちょっと頼ってくれてもいいのにぃ……)
軍学校所属の艦娘の名簿を提督に渡す吹雪。提督がめくったページの先を興味深そうに覗き込んでいる。
吹雪「ふむふむ……秋月型一番艦、秋月。あっ! この子知ってますよ! 軍学校で一番有名な子ですよ。
防空射撃演習では歴代一位の高成績。筆記試験でもトップ3常連だそうで」
提督「よく知ってるな。詳しいじゃないか」
吹雪「司令官が興味無さすぎるだけですよ。優秀そうな子は予め囲い込んでおかないと! 次のドラフトで他の提督に獲られちゃいますよ?」
軍学校を卒業した艦娘の配属は、涼金提督含む他提督とのドラフト会議によって決定される。
また、在学中の艦娘であっても(実戦登用に耐えうると提督に判断され)指名されれば次年度以降艦隊所属となれるのだった。
提督「いや、あくまで卒業まで秋月を指名する気はない。他の提督に獲られるならそれはそれでよい。彼女には別の要件がある」
吹雪「え、なんですかそれ。何か作戦でも……?」
提督「いや、軍務とは関係ないごく個人的な依頼だ。君が気にすることではない」
吹雪「そんなこと言われたら余計気になっちゃうじゃないですかー」
提督(一番地味で当たり障りのなさそうな者を秘書艦に選んだつもりだったのだが……案外要らん干渉をしてくるのよな。
良くいえば察しのいい、気が利くタイプなのだが……今回ばかりは首を突っ込まれると困る)
提督(学校側への手続きに手間取ってもうこんな時間だ。秋月か……成績は優秀らしいが、実戦経験がないのは少し不安だな。
とはいえ今更選り好みしてもいられない。前評判の良さに期待するとしよう)
秋月(……涼金凛斗、確かに聞いたことある名前だなとは思っていましたが……。まさかこの鎮守府の大将だったとは。
そう考えたらなんだか急にプレッシャーを感じてきました。秋月に務まるでしょうか……)
黄昏の空。橋から見える海の色は赤い絵の具を零したかのようだった。昨日と同じ橋の上で提督は待っていた。
秋月「お待たせしました。涼金司令!」
提督「行く前に一つ質問だ。あの海の色、何色に見える?」
秋月「え……? 赤色、ですよね。綺麗な夕焼けの海……」
提督「その感覚を忘れるな……心の動きを忘れるな」
秋月「は、はい(昨日もそうでしたが、話の流れが汲めませんね……)」
・・・・
鎮守府から離れ、舞鶴港近くの繁華街を歩く提督と秋月。
秋月「なんだかじろじろ見られているような……」
提督「それは……何にだ? 他人にか?」
秋月「ええ。なんだか私たち怪しまれてるのかなって」
提督は私服を着ているし、秋月もリュックの中に艤装を隠しているため軍の関係者だとは思われていないだろう。
しかし、総白髪のオールバック、首筋には古傷。薔薇柄の長袖を着た背の高い男。
その男の隣を(発育がいいとはいえ)せいぜい中学生程度の年端もいかない女子が歩いているのだ。
二人きりで夜の街を散策するには不自然すぎる組み合わせである。だが提督は他人の目を微塵も気にしていない様子だった。
提督「ああ、人の方か。なら問題ない。来い」
提督に促され、人気の少ない裏通りにある小さな店に入る秋月。
秋月「すし、わり……てい?」
提督「割烹(かっぽう)、だ。……鎮守府の中にいると見慣れない漢字かもな。和風料理を出す飲食店のことを一般にそう呼ぶ。寿司は食えるか?」
秋月「大丈夫です(お寿司、食べたことないんですよね。とはいえ将来直接の配下になるかもしれない司令の手前! 食わず嫌いをするわけにもいきません)」
提督「大将、鯖と秋刀魚。こっちには特上のサビ抜き」
秋月「あの方も大将なんですか?」
提督「……?」
・・・・
秋月「わぁ~……! すごいです! 初めて見ました。なんだか壮観ですね! 美味しそう……どれから食べようか迷っちゃいます!」
寿司げた(寿司を置くための木製の食器のことである)の上に並べられたネタに、食べる前から興奮する秋月。
提督「味が淡白な白身魚を最初に食べ、次にマグロやトロといった赤身の魚を食べるのが定石と言われているが……。
かくいう私も光り物から注文しているしな、好きなものを食べるといい。どれも味は保証する」
おずおずと中トロに手を伸ばし、口に運ぶ秋月。
秋月「いただきま~す……。……!! 美味しい! 旨みが口の中でとろけて……すごいです。これ、本当にすごい……」
舌を通じて脳に送られる快楽に、思わず身震いする。恍惚の表情を浮かべており、提督の依頼のことなどすっかり忘れて悦に入っている。
秋月「はぁぁ~……幸せです」
・・・・
食事を終え店を後にした二人。食事中は語彙力を失いかけていた秋月であったが、退店後はさすがに普段通りの様子である。
秋月「ごちそうさまでした! あんなに美味しい料理を食べたのは初めてです! ありがとうございました!」
提督「礼には及ばない、前払いのようなものだ。それに……」
秋月「それに?」
提督「いや、なんでもない(……生きているうちに美味いものを食っておかなければな)」
秋月「そういえば司令、最初の二貫しか食べていませんでしたよね。あんなに美味しかったのに……お腹減ってなかったんですか?」
提督「(相当感激していたからこちらのことなど気づいていないと思ったが……)……そんなところだ」
秋月「それにしても……あの大将はどこの鎮守府の大将なんですかね!? 司令はご存知ですか?」
提督「……くくっ」 秋月と会ってから終始無表情だった提督が、この時初めて口元を少し歪ませる
舞鶴の港から離れた海の上。秋月の背に固着された艤装に負ぶさる提督。
秋月「結局こうして海に出るのなら、鎮守府から直接向かった方がよかったんじゃないですか?」
提督「……周囲に人や物のない環境が好ましい、その最適解が海というだけだ。
深海棲艦が出没するような遠くの海へ赴こうというわけではないのだが……鎮守府の哨戒範囲内や他の艦娘と出くわすような場所に居るのもまずい」
提督「そうなると陸路を経由してから海に出るのが最も都合がいい。さてそろそろ日付が変わる……」
提督はそう言うと、秋月の艤装を足場にしてしゃがみ込んだ。彼女から背を向けるようにして海面を見つめている。
提督「道すがら説明した通りだ。私は後ろを見る。だが、私の指示はあまり鵜呑みにはするな。あくまで自分の感覚を優先しろ」
秋月(今から日の出まで、“物”に囲まれなければ良いそうですが……一概に“物”と言われても……。それに囲まれるってどういうことでしょう)
・・・・
提督「……秋月」
提督「一瞬で良いが、空を見てくれ。渡り鳥が飛んでいないか?」
空を見上げる秋月。ほとんど曇り空で何も見えないが、どこにも鳥の姿は見つからない。
秋月「いえ、見えませんね。どこに居ますか?」
提督「いや……見えないならいい。気にするな」
秋月(司令には幻覚が見えているのだという。私に見えないおぞましい何かを察知しているそうです。
私にはそうした類のものを感じ取ることは出来ませんが……妙にぞわぞわする、嫌な感覚がありますね)
提督「秋月。トビウオが……いや、いい。これも違う。忘れてくれ」
秋月(日本にトビウオが回遊してくるのは、たしか春先から夏にかけて……この秋の終わりにやってくるはずはない、か)
提督「……念のため、確認して欲しい。七時の方向に難破船が見える。ライトを一瞬だけつけて、真偽を確認して欲しい」
秋月は振り返り、探照灯の明かりを向ける。
秋月「! 転覆した小型船があります……。引き上げようにも、あの壊れようだと手遅れでしょうね……深海棲艦に襲われた後、か……」
合掌して黙祷を捧げる秋月に対し、提督はさらに問いかける。
提督「見えているのはそれだけか? 他にも何か“視える”か?」
秋月「いいえ……船体が大きく破損した船以外には……」
提督「分かった。……あの船からは離れるぞ。逆の方向へ進んでくれ」
・・・・
提督のつけている腕時計の針は四時四十分頃を示していた。
しきりに秋月に対して「見えるか?」「聞こえるか?」の問答を投げかけていた提督であったが、もう一時間も言葉を発していない。
その態度の変わりようが、秋月にとってはかえって不安だった。実戦経験のない秋月にとって夜の海は未知の領域だったからだ。
秋月(少し心細くなってきました。海の上で迷子になってしまったような気分です……)
提督「……闇が深くなるのは夜明け前だ。日が昇るその直前が最も暗くなる」
秋月「……?」
提督「しんどくなるのはここからだ」
秋月(励ましてくれた、というわけでもないみたいですね……ん? あれ……)
秋月「前方の岩礁に、何か見えませんか? ほら」
探照灯を点灯し、海面から飛び出している岩へ向けて光を照射する。黒い、小人のような形をした何かが蠢いている。
秋月「黒色の人形……? みたいな」
提督「分かったもういい。明かりを消せ、ここからなるべく遠くへ離れろ。……あれらを決して見失うな、しかし見過ぎるな」
突然饒舌になる提督。いきなり無茶苦茶な指示を受けたため混乱しつつも、提督の言われた通り速力を上げて岩場から離れる秋月。
秋月「追ってきますね。深海棲艦でいうところの魚雷艇の小鬼群に似ていますが、あんな種類は見たことも聞いたことも……」
黒い人影の群れは両手を広げて海の上を飛翔し、秋月たちの方へ向かっていく。
秋月(距離が離れているから黒色に見えると思っていたけれど……どうやら違うみたいですね。
この夜の中でもはっきり“黒”だと認識できるぐらい黒い色をしている)
提督「深く考えるな、雑念を捨てろ。ただ言われた通りに対処しろ。余計なことを考えるな」
秋月の思考を遮るように、強い言い切りの口調で命令する提督。
提督「秋月、見失うなと言ったが……あれらの見張りは私がやる。秋月はただここから離れることだけを考えるようにしてくれ」
秋月「これ以上先へ進むと深海棲艦と接触する恐れがありますが……」
提督「構いやしない。あれにやられるぐらいなら、まだ深海棲艦に襲われて命を落とす方が幾らかマシだ。
あれは……そう、とにかく忌避すべきものだ。囲まれるな、触れるな、認識するな……」
・・・・
提督「五時五十分……日の出は間もなくだ。このまま振り切るぞ」
秋月「!! レーダーに敵艦隊四隻! 前方です! このままじゃまずい……まともな装備もないのに……。どうしよう、どうしよう……」
提督「たかが深海棲艦ごときでうろたえるな。このまま突き進むぞ」
秋月「司令!? 冷静にお考えください! 装備も不十分、練度もなく、おまけに燃料も消耗している駆逐艦一隻が敵の艦隊に突っ込めばどうなるか……」
これまで提督の無茶ぶりに付き従っていた秋月だったが、この時ばかりは反論する。
提督「分かっている、が……敵が砲撃をしてこないということは先に気づいたのはこちらの方。気づかれる前に通過してやり過ごす」
秋月「でも、通り過ぎた後に背後を追われる形になりますよ。そうなれば……」
提督「その点は問題ないだろう。奴らが私たちの変わりに“あいつ”の餌食になってくれさえすればな」
秋月「……っ。未だに不安は残りますが……策があるということですね。信じますよ、司令っ!」
ギュッと握り拳を固めて歯を食いしばり、最大出力で駆け抜ける秋月。
・・・・
秋月「……敵艦隊、反転して迫ってきます! こっちには機銃ぐらいしかありませんよ!? どうしましょう、司令!」
提督「沈んだ時は私を恨め。君の業まで背負ってやろう」
秋月「答えになってませんって! うわあ! 砲弾が飛んできました!」
秋月には、提督がこの緊急事態でなぜにやけ顔を浮かべているのか理解できなかった。
提督「戦場だからな。……この際いちいち動じていても仕方がないだろう。運命を受け入れろ。
やられたのならそれまでだったということ、私も君もな。死のうは一定。遅いか早いかの違いだ」
秋月(うぅ……やっぱりまともじゃないですこの人……)
一分ほどして、砲音が鳴り止んだ。なおも振り返ることなく突き進んでいた秋月だったが、提督の言葉を聞いて立ち止まる。
提督「もういい、ご苦労。後は帰るだけだ……日が昇りつつある」
うっすらと空の端が白んでいく。太陽の頂点が水平線から顔を出す。
秋月「夜が明けたんですね。綺麗……」
払暁を告げる強い煌めきを前に、思わず言葉を漏らす秋月。
秋月「ハッ! 敵艦隊は!? あの黒い追手は? ……いない!」
秋月が後方を振り返ると、深海棲艦の姿も黒い人影の姿も消えていた。
提督「……終わったのだ。鎮守府に帰るぞ」
・・・・
昼前の執務室。提督は相変わらず吹雪と他愛もない世間話をしていた。
吹雪「司令官……? なんか今日寝不足じゃないですか? いつもより目つきが悪いですよ」
提督「クマが出来ている、というのなら推論として成り立つが……。目つきの悪さは生まれつきだ」
吹雪「えへへ、すみません。けど、なんだかいつもよりオーラがありますよね。危険っていうか、アウトローっていうか……」
提督(勘づかれたか? 軍務が終わった後のことだぞ……? 私か秋月の後をつけていない限りは外出したことさえ把握できないはずだが)
吹雪「いつもよりカッコいいですよね……! なんかこう、『やってやる!』って気概を感じます!」
提督(なるほど杞憂だ……)
吹雪「……よし! 司令官の顔を見ていたら私も気合が入ってきました! 今日も一日頑張りましょう。手始めに……」
吹雪が退室した後、部屋の奥に設置されているロッカーに向かって声をかける提督。
提督「出てきていいぞ」
秋月(早速バレた……!? 完璧に身を隠せていると思ったのに……)
秋月は数時間の仮眠を取った後、提督と吹雪が部屋から離れた隙を狙って室内に潜入していたのだが、あえなく気づかれてしまう。
提督「そこに隠れて何がしたかったんだ? 軍学校への休学願なら受理されているだろうに。日中は夜に備えて寝ておくべきだと思うが」
秋月「うぅ……ごめんなさい。こそこそ隠れるような真似をしてすみませんでした。
司令の素行を調べようと思って……あっ、いえ! (お寿司の)ご恩があるので、悪い人だと疑っているわけではないんですが!」
提督(たかが一度夕飯を奢られたぐらいで疑念を払拭してしまうのは不用心すぎるのではないだろうか……)
秋月「司令についての謎が多すぎて……この先も昨日のように二人で夜を過明かすのなら、もっとお互いのことを知っておかないと思いまして。
そうすれば、昨日よりももっと司令の理想とする動きに近づけるのかなって……」
秋月(本当は忽然と消えた深海棲艦の行方や黒い人影の話も聞きたいですが、答えてくれるか分かりませんし……。
けれど、そういう部分を抜きに……私は司令から学ばなければいけない部分がある。司令は変わった人ではあるけれど……とにかく肝が据わっている。覚悟が違う)
提督「……お互いのこと、か。自分語りはあまり好きではないが、私と君の関係は少々特別なものだしな。構わんが……」
秋月(司令が昨日仰っていた通り、戦場に赴く度にあんなおっかなびっくりの立ち回りをしているようではいけません……。
実戦で活躍するためには、窮地に立たされても彼並みの度胸や冷静さが発揮できなければいけない……司令から学べる部分は吸収したい)
提督「時間を割くことが難しいな。夜、(鎮守府の敷地から)外で話すのは誰が聞いているか分からないから避けたい。
とはいえ執務中に休めるのは昼の休憩時間のみ……。これも先客がいるんでな、どうしたものか」
舞風「呼ばれて飛び出て……じゃじゃーん! 舞風参上でぇーす!」
扉を開けて入ってきたのは舞風であった。彼女も吹雪と同様、涼金提督の管轄する艦隊に所属する艦娘の一人である。
秋月(あっ、無表情だった司令が露骨に渋い顔をしている。『心底めんどうなやつが来た』って表情ですね……)
提督「君……盗み聞きしていただろう。先客というのは彼女のことだ。昼食を誘われているのだよ」
舞風「一人よりも二人! 二人よりもたくさん! 数は多ければ多い方がいい! これが戦の基本です。
そんなわけでっ。一緒にランチ、どうです? 提督だって一遍に相手した方が手間がなくて良くないですか? 良くなくなくなくなく……あれっ?」
ジェスチャー交じりに提案する舞風。ダメ押しと言わんばかりにビシッと指を突き出して、ニヤリと笑みを浮かべる。
舞風「それにぃ~~~~……『昨日のように二人で夜を明かすのなら、もっとお互いのことを知っておかないと』とか。
『私と君の関係は少々特別なものだしな』とかとか! こ・れ・は~? 是非ともお話伺いたいですねぇ~」
秋月からの引用を高い声で、提督からの引用をわざとらしい低い声で表現する舞風。舞風たちの艦隊では、涼金提督の声真似をするのがプチブームらしい。
アとウを足して二で割ってから濁音をつけたような苦悶の唸り声をあげた後、提督は承諾した。
・・・・
ピークの時間を過ぎていたのか、食堂はかなり空いていた。
秋月(鎮守府の食堂でご飯を食べるのは初めてですね……普段の給食と違ってちょっと量が多いかも)
舞風「あーあ、遅い時間に来ちゃったからCランチしか残ってなかったよ~。また秋刀魚の塩焼きか……美味しいけどちょっと飽き気味だな~」
提督「旬の時期に旬の物を食べる。それが食の最適解だ、この鎮守府にはその理を解する者が少ないようだな」
舞風「そうでしょうけどぉ。日替わりランチなのに毎日秋刀魚定食が出されるんですよ~。
これじゃ日替わらずランチですってー! 今日の舞風の気分はカツレツなんです~!」
提督(いくつかの漁場は、深海棲艦による深刻な被害を受けていると聞く。秋刀魚をこうやって日常的に頂けるのも、この先数年限りになるかもしれないな……)
提督「贅沢を言うんじゃない、目の前の命に感謝しろ。そうやって文句と唾を垂らしていると味が落ちるぞ」
舞風「ツバなんか垂らしてまーせーんー! 提督ったらデリカシーないんだからぁ」
秋月「お二人って、仲が良いんですか?」
提督「仲が良いというわけではないが……軽薄そうに見えて弁えるべきところは弁えてるからな。信用はしている」
舞風「そこは仲良しって言って欲しかったな……。司令はご飯のことになると結構喋るよ。そんなに量食べないくせに、やれ味がどうだ食感がどうだうるさいんだな~」
提督「昔はよく食べてたんだよ。胃下垂でな……大食いしても痩せない体質だったもんだからなんでもバカ食いしてたんだが。
食い過ぎて病院の世話になったことがあってな……以降満腹まで食べることが少々トラウマになってしまった」
秋月(敵に背を向けた状態で笑みを浮かべていられるような人にもトラウマってあるんですね……)
舞風「おっ、意外なエピソード。そうそう、司令はガードが堅いように見えて喋り出すと案外ボロが出るタイプだからじゃんじゃん話しかけるといいよ」
秋月「なるほど……」
提督「なるほどではない(だからあまり人と話したくないのだ)」
舞風「けど、秋月も結構司令と似てるね。考えてから話すタイプでしょ? 司令みたいな人には何も考えずにその場で思いついた気持ちをぶつけるといいよ」
提督「考えなしに話しかけないでくれ」
舞風「こんな風にツッコミを入れてくれるからね! これが舞風流の提督攻略法です」
秋月「なるほど……」
提督「なるほどではない(この場を設けたことの失敗を痛感させられるな……)」
秋月「……あの。一つ気になってたことがあるんですけど。司令っておいくつですか? 髪は真っ白……ですけど、皺がほとんどないですよね」
提督「28だ。白髪は過去にあった出来事が原因だが……このことについては話すことが出来ない」
舞風「タブーの話ってやつですね。才能がない子には教えてくれないんだってさ、ちぇーっ。
秋月もそのことで夜な夜な呼ばれてるんでしょ? それとも……ホントのホントにお楽しみ的な……?」
秋月(やっぱり……司令が意味もなく誰かと昼食の約束をするとは思っていませんでした。舞風さんも司令と何らかの協力関係にあるようですね)
提督「舞風……秋月に探りをかけるな。それに、そう卑下をすることもない……君は君で私の役に立ってくれている」
提督「……才能というやつは、なまじ持ち合わせてしまうとかえってその力に苦しめられることになる。
己の才気を過信して身を滅ぼす者の方が、無能さゆえに身を滅ぼす者よりも多いのだ」
舞風「ううーん。って言われてもなあ~。羨ましいよなぁ~……才能人はさぁ~……ラララ~」
突然立ち上がると、歌いながら踊り始める舞風。くるんと体を回転させ、トレーを片手で運びつつ厨房へ向かう。
やるせない口調で歌詞を口ずさんでいるわりにはキレのいい動作をしている。
秋月(司令の言っていることも、舞風さんの気持ちも……どっちも分かる気がする。
私が司令に呼ばれた理由は、私が視える人だったからで。でも、そうであるがゆえに昨日、すごく怖い思いをして……)
秋月(同じ目に遭っていたはずなのに、司令は全然平気だった。私にはない勇敢さや大胆さがある。
……戦場で怯えたりパニックになるのは、私が弱いからだ。もっと精神的に強くならなくては)
昼食が終わると、舞風は二言三言提督に耳打ちしてどこかへ行ってしまった。秋月も夜に備えて再び床に就いた。
提督(そうか、かなりギリギリになるな……だがあれが無ければ勝負にもならない)
・・・・
秋月が涼金提督と出会ってから数十日。再び満月の夜が訪れる。二人はいつも通り夕食を済ませた後、海の上で日付が変わるのを待っていた。
秋月は直立で、提督は秋月の艤装の上に立て膝で座りながら、背中合わせに月を眺めている。
提督曰く、この日は地球から見た月の円盤が最も大きく見える夜だそうだ。
提督「今日で最後か。ふと思い出したんだが……何日か前に私に憧れていると言ったな。どうしてだ?」
秋月「はい。最初の夜、敵艦隊に遭遇したじゃないですか。……司令が居てくれたからあの時は動けましたが。
私一人だったら深海棲艦を前に竦んでしまって何も出来なかったな、って後から思うんです」
秋月「幸いにしてあれから深海棲艦との接触はありませんが……今もちょっと怖いです」
提督「深海棲艦がか? 確かにあの時も危なかったが……数日前の方が危険度で言えば高かっただろう。本当に間一髪だった」
提督「それに、私が居たから上手くいった……ではない。よしんば君が一人で深海棲艦と相対した時に手も足も出なかったとしよう。
しかし、単艦で敵の群れへと艦娘を送り出す提督がこの世のどこにいる? あの状況は私のせいで起こったのだ。本来の戦闘では起こりえない。
君は私に一方的に利用され、窮地に陥った。そして見事切り抜けた。むしろ誇るべきことなのだよ」
秋月「……。違うんです。違う……。私……なんて言ったらいいんだろう……」
提督「いつだったか舞風が言っていたな。私のようなやつには『何も考えずにその場で思いついた気持ちをぶつけるといい』と。
最終日だしな、わだかまりがあるなら全て受け止めるぞ? 恨み言でも呪詛でもいくらでも買い取ろう」
秋月「……司令が悪いんじゃないんです。ただ、司令と会ってから今日までずっと……思うようにいかなくて。
司令に、守ってくれって頼まれているのに……危険な目にばかり遭わせてしまっていて、申し訳ないんです」
提督「……? 私が一度でも君を叱責したことがあったか? 十二分に上手くやっていたと思うぞ。
確かに君は不測の事態に陥るとパニックになってしまう傾向はあったが……それを気にしているのか? 些細なことだろう」
提督「こうして二人でここにいるという結果が君の働きの全てを物語っている。……私は君が憧れるほど立派な人間ではないさ」
提督(無垢な君とは違う。私は罪業に汚れきっているのだからな)
秋月(司令は……秋月のことを、どう思っているのでしょうか……。秋月……司令と離れたくないんです。なんて無茶、言えないもんなぁ……)
この時、提督はこれまでの過去のことを、秋月はこの先の未来のことを思い描いていた。
同じ宵闇の空を見つめる二人の姿が、月明りに照らされた水面に揺れている。
秋月「司令……今日が終わったら、もうこうして会うことはないんですよね……」
提督「そうなるな。……今日を無事越せればの話だが」
提督(不安にさせるだろうから言わないでおくが……これまで“あいつ”に関わった人間は全員、その対処に失敗してきている。
二十年前のあの日……八歳だった私は――私以外の全てを犠牲にして生き残った。そうするしかなかった。だが……)
提督(先人や過去の私と同じ轍は踏まん。今日で因縁に決着をつける)
秋月(ここで私が怯えていたら、本当に司令と離れ離れになってしまう……)
秋月(……今日で決着をつけなきゃ、ダメですよね)
秋月「じゃあ……少しだけ聞いて欲しいんです。秋月の話」
提督「構わんさ、話してみるといい」
秋月「秋月は……軍学校ではみんなに持て囃されて、期待されていて……。
今まではそれに応え続けてきて。褒められるのが嬉しくてずっと頑張ってきたつもりでした……」
秋月「でも……最近はその期待に応えるのが辛くて……なんでもこなすのが当たり前になっていて。
失敗したら失望されてしまうんじゃないか、笑い者にされてしまうんじゃないかって不安だったんです」
秋月「だから、司令みたいに、強い人にならなきゃいけないって思ったんです。私も、敵を恐れない強い精神力が欲しい。
時折昼間に司令に会いに行ったりしたのも……勇気が欲しかったんです」
提督「……私が勇敢に見えるのか? 違う、破れかぶれになっているだけだ。憧れを抱くならもっと真っ当な奴にするんだな」
提督(“あいつ”に復讐する……それだけが私の人生の目的だ。それ以外にない)
提督「そういえば……軍学校の教師が、君のことをとても評価していた。成績ではなく人格をな。
人間関係でのトラブルもなく、自分の力量に驕ることもなく、ストイックに訓練を続けていると」
提督「勇気や知性は、後からでも手に入る。才能がなくとも、努力次第で人並みにはなれる。
だが心は……壊れてしまったらもう元には戻らない。戻せない……。君はその清い心を失うな、私のようにはなるな」
秋月「いいえ……勇気なんてどうだっていい。どうだってよくないけど、どうだっていいんです……建前で。
私に必要なのは……司令なんです。司令がいれば、どれだけ臆病な気持ちになっても、どれだけ怖くても、超えていけそうな気がするから」
秋月「ずっと、秋月の傍にいて欲しいんです。他の誰かじゃダメなんです……。
本当は臆病で、見栄っ張りで、弱い私を許してくれるのは……そんな秋月に勇気をくれるのは、司令だけだから」
提督「私はこれまで……口に出したことは曲げずに生きてきた。かつて君を含めた幾人かの艦娘の話題になったことがあってな……。
他提督の前で『鍛錬不十分な在学中の艦娘を登用するつもりなどない』と公言している。能力面もそうだが、何より精神的に未熟だからだ」
提督「君のその感情は……雛鳥が生まれて最初に見たものを親だと錯覚するようなものだ。
ガラス玉のように曇りのない美しい感情だが、そうであるがゆえに分別がついていない」
秋月「確かに秋月は司令の言う通りかもしれません。……だから、まだ出会って一ヶ月しか経っていないような相手に、自分の全てを曝け出してしまう。
自分の内側に閉じ込めておきたかった弱さも、認めたくない不完全さも……あなたの前ではいとも容易く口から零れてしまう」
秋月の口から漏れ出る言葉が、涙声で揺れる。それでも提督は聞き逃さないように耳を澄ませていた。
秋月「あなたのことを考えると……胸が張り裂けそうになるほど苦しくなってしまうんです。こんな感情になったのは、初めてなんです。
壊れた心が元に戻らないのなら……私は……。私は、あなたを喪った時に壊れてしまう」
提督「……生まれて初めて、ポリシーを曲げてもいいと思ったよ。軽薄な男だな、私は」
秋月「え……?」
提督「バカなやつだ、君は本当に。そして私も」
提督「……この夜が明けたら、君を傍に置いてやる。私の言う“あいつ”のことも、私の過去のことも、全て打ち明けてやろう。
……分別がついていないのは私の方だな。情に絆されるなど愚かしい……愚かしいことなのだがな」
提督が自嘲の意を込めた高笑いをすると、秋月もなんだかおかしくなってつられて笑い出してしまう。笑い声は重なって水の上の波紋に変わる。
提督「さあ。日付が変わる……これが最後の夜だ」
・・・・
黒い人影が遠く離れた陸地から無数に追いかけてくる。
秋月「最初の頃とは比べ物にならないほど多い……!」
提督「月が満ちれば満ちるほどに増えていく傾向があったが……今宵はさながら百鬼夜行だ」
歌が聞こえてくる。歌詞を口ずさむ幼子の声。提督にとっては聞き慣れた歌だった。秋月にとっては聞こえないはずの歌だった。
秋月「籠の中の鳥はー……」
提督「秋月……まさか、聴こえているのか? 視えてしまっているのか?」
秋月「やっと司令と同じところまで来ました。はっきりと聞き取れる。はっきりと視える……!」
提督「まずいことになった……あいつらの数の多さにも合点がいった。秋月。あれらに囲まれたのなら、私を海に放り出して逃げろ。
そうすれば君だけは助かるかもしれない。艤装の力で海を走れる君なら、まだ生き残れる可能性はある」
秋月「大丈夫です。司令……数日前に何度か実証済みです。攻略法を編み出してきましたから」
これまで提督が共に過ごしてきたような、どこか頼りない様子とは異なる自信に満ち溢れた返事。
秋月「的が小さいだけ……! 接近して撃ち落とせば退けられる。一昨日、あの黒い影と肉薄したのは仮説を試すため……!
司令の言葉がヒントになりました。私に知覚させないよう、ぼかすために言った『幻覚のようなもの』……つまり」
秋月「あれを“認識”してしまうといけないのなら……襲い来る全てを、私の“妄想”に置き換えてしまえばいい……。
視覚に入ってくるものは妄想上の幻覚であり、実体は機銃で撃ち落とせる蚊トンボに近い存在だと……そう思考を欺きました」
秋月「“認識”したものを追ってくるのなら……その“認識”自体を欺けば『視ている』が『見てはいない』状況が成り立つ。
『聴こえる』歌は全てが妄想……私の五感は今、一切この場に存在していない。秋月の世界には、司令しか存在していない……!」
提督(賭けに出たか。しかし……)
舞風は本当に良い仕事をしてくれた。欲を言えば、もう少し早くこの歯車を寄越してくれれば昨日以前の夜も楽に過ごせたんだがな。
それから……吹雪にはまた迷惑をかけてしまうな。きっとあいつにとっての面倒が起きるに違いない。
秋月は目を見開いたまま硬直している。……無我の境地に到達し、認識による浸食を防ぐか。私には不可能な芸当だな。
惜しむらくは攻撃手段を武器に設定してしまったことだろうか。念力の類ならば夜明けまで退けることが出来たかもしれないのだが……。
その場合は精神力が尽きた時に同じ結末を辿るか。結局のところ、もう対抗手段はない。弾は尽き、囲まれつつある。
秋月の“攻略法”は、夜を超え朝を迎えるには至らなかった。だが……私の復讐には大きく貢献してくれた。
これだけ多くの“バグ”を引き寄せることが出来たのだ。あの時の数倍以上の量……恐らく、ほぼ全てがここに集結しつつある。
よくぞここまで膨れ上がったものだ……私の攻略法がなければ、未来にこの国は地図から消えているかもしれないな。
さて……感傷に浸るのもこれまでだ。残るミッションは二つ。
艦娘の記憶を消す薬か……。恐ろしい代物だが、これも需要があるから生み出されたものなのだろう。
恐らくこれで君は生き延びるだろうが……救えなかったのならばすまない。さようなら、秋月。
さあ。最後だ。忍び草には何をしよぞ……、もはや出来ることなど残されてはいないが。
復讐に生きた私の末路には相応しい。時は再び刻み始める。
・・・・
秋月は、毎年ドラフトで指名され続けたものの「なんとなく卒業までは学校に残りたい」と拒否を続けた。
涼金提督と出会ってから五年後に軍学校を卒業し、ようやく舞鶴鎮守府に着任。
期待通りの活躍ぶりで名を轟かせていたものの、秋月はそうした評価にはほとんど関心を示さなかった。
地位や名誉といったものに執着が薄れたようである。
「自分にとって大切なものが他にあるはずだ」という彼女なりの心境の変化があったらしい。
代わりに、他者との交流を積極的に取るようになり、いくつかの趣味を持つようになった。
十年間舞鶴鎮守府に務めた後、柱島泊地に異動を言い渡される。
十年も過ごしただけあって別れを名残惜しむ者が多かったが、秋月はこの異動をポジティブに捉えていた。
この時の彼女には、どんな環境に移ろうとも上手くやっていけるという自信とそれを裏打ちするだけの能力があったからである。
事実、柱島泊地に着任してから一年が経過しているが、彼女に対し好感を抱いていないものなどいなかった。
公明正大にして冷静沈着。どんな危機にも動じない判断力や決断力を持つ、私人としても武人としても優秀な人材に成長していたのだった。
・・・・
任務を終え、施設内の戸締りをしていた秋月は瑞鳳に呼び止められる。
瑞鳳「あら秋月。ここに居たのね。これ、郵送で届いてたの。舞鶴鎮守府からだって。
……柱島泊地の秋月さんに~、って書いてあるのは良いんだけれど、差出人の名前がないのよね」
秋月(舞鶴からの小包ですか……。ここに異動になる前はずっとあちらに在籍していたから、不自然というわけではないけれど……誰からでしょう)
小さなダンボール箱を秋月に手渡す瑞鳳。箱の中に何が入っているのかは分からなかったが、それなりに重みがあるように秋月は感じた。
瑞鳳「一応検査は通っているから危ない物ではないみたいだけど。説明書きも無いし、何かワケありな物が入っているのかしら……?」
秋月「うーん……私にも何か検討つかないですね。ここで開けて中身を確かめてみましょうか?」
箱を開けると、入っていたのはダイヤル式の黒電話だった。
瑞鳳「このご時世に黒電話……? こんなものを送りつけてきて何がしたいのかしら」
秋月「ダイヤル部分が壊れていて全然回りませんね……。なんでしょう、これは」
瑞鳳「イタズラ? 嫌がらせ? どっちにしてもなんだか不気味よね。壊れていて使えないみたいだし、要らなかったらこっちで処分しとくわよ?」
秋月「いえ……無意味にガラクタを送りつけてくるような知り合いはいないと思うので、少し自宅で調べてみます」
・・・・
弦月が浮かんでいる。夜霧が立ち込めていて、窓から見える星の光は滲んでいた。
秋月「結局……なんなんでしょうかこれは。ケーブルとその変換器があれば受信だけは出来るかもしれませんが……そんなものはありませんし」
瑞鳳から渡された例の黒電話は、分解して中身を確かめた結果内部に破損はなくダイヤル部分を直せばまだ電話として使えることが判明した。
……分かったことはそれだけで、意味深な紙切れが隠されていたり盗聴器が仕掛けられていたりということはなかった。
秋月「明日、乙川司令に言って差出人について調べてもらった方が良さそうですね。……」
秋月が床に就こうとした矢先、ジリリリ……と音が鳴り響く。秋月はすぐさま電気を点け、音がどこから鳴っているのか確認する。
秋月「……! これは、黒電話の呼び出しベルの音に違いありませんが……」
電力が供給されておらず、電話線も繋がっていない。
ベルは確かに内臓されていたが、ひとりでに音が鳴りだすような機構など当然なかった。
物理的に起こり得ない現象が生じている。このような心霊的な恐ろしさは彼女にとって未体験のことだった、はずなのだが……。
秋月(不思議……不思議なぐらい気持ちが落ち着いている……)
秋月(前にもこんなことがあったような……? いや、そんなはずはない……でも。
ずっとこういうことが起こるのを期待していたような……不思議な気持ちがします)
おそるおそる、受話器に手をかける秋月。
??「……初めまして、になるな」
朴訥さを感じさせる低めの男声。秋月にとって聞き覚えのないものだった。
秋月「あの……どちら様ですか? というより……どうやって話しかけてきているんですか?」
??「……電話に取り憑いた未練がましい悪霊さ。名前ももうない」
秋月「幽霊……ですか? 確かに、この現象はそうとしか説明がつかないけれど……」
秋月(悪霊と自称してるわりには、敵意や害意を全く感じませんね……。怖さを感じない、というより、むしろ話をしていて心が落ち着くような感覚が……)
??「一つだけ望みがある、協力願いたい。今や褒美を与えることさえ能わないゆえ、強制力を持たないただのお願いだが。
君にとって利のない依頼だ。嫌なら今すぐこの電話を海にでも投げ捨ててくれればいいが……」
秋月「良いですよ。お引き受けしましょう」
??「! まだ、内容も話もしていないのにな……。まあいい」
秋月(彼が本当に幽霊なのかどうか、真偽のほどはさておき……ポルターガイストじみた怪現象を起こしてでも叶えたいことがあるのでしょう?
見捨てるなんて出来るわけがない。わざわざ面識のない私に頼むのも、何か理由あってのことでしょう)
??「舞鶴湾のとある入り江に、私の遺体がある。君にそれを見つけて欲しい。舞鶴の鎮守府には窓位大将という提督がいる。見つけたなら彼に引き渡してくれ」
・・・・
翌朝の柱島泊地執務室。この泊地を統括している乙川提督とその秘書艦である瑞鳳は、秋月に関する話をしていた。
瑞鳳「提督。舞鎮から書状ですって。昨日秋月に届いてた荷物と関係があるのかしら……?」
乙川「ああ、昨日の夕飯で話してた壊れた黒電話ってやつか。どうだろう。ん~、どれどれ……」
※乙川提督が作れる料理といえば、せいぜいカップラーメンかレトルトのカレーぐらいである。
このため、彼は毎晩瑞鳳の家に通い自分の分の夕飯を作ってもらっている。
また、最近は自分の家から瑞鳳の家に移動する手間さえ億劫になってきたためか同棲生活をしている。
乙川「うちの秘蔵っ子を舞鶴に貸して欲しいってさ~……どうしましょうかねえ」
書面に目を通し、困り顔を浮かべる乙川提督。
瑞鳳「そんな嫌なことが書いてあったの? 秋月を舞鶴に引き抜きたい、みたいな話かしら?」
乙川「いや、悪い話ではないんだけどね……こんな感じ」
乙川提督が机の上に置いた書類を読む瑞鳳。
瑞鳳「なんだ、たった数日舞鶴に行かせるだけじゃない。依頼の内容も港に寄る漁船の護衛なんて簡単そうな内容だし……。
たったそれだけのことで貴重な改修用の資材なんかを提供してくれるって言うんだから、むしろ美味しい話じゃない?」
乙川「日付が宮ごもりと被っちゃうんだよ。せっかく秋月の分の浴衣まで用意したのにさ……経費で」
※乙川提督や瑞鳳たちが暮らす柱島は、ここ柱島泊地から6kmほど離れた位置に浮かぶ島である。
柱島泊地在籍の海軍関係者からは本島と呼ばれるこの島では、毎年この時期に『宮ごもり』という名の秋祭りが行われている。
かつて艦娘含む軍人と島民との間に交流は無く、祭りも限界集落で行われる町内会程度の規模であったが、
乙川提督が着任して以来これを大々的に祝うようになった。
瑞鳳「けいひ……今なんて? 最後の方にボソッと呟いた言葉がちょっとよく聞こえなかったんだけど~?」
乙川提督に笑顔で詰め寄る瑞鳳。こめかみには青筋を浮かべている。
・・・・
舞鶴湾は、氷河期後の海面上昇によって山や谷が海に沈み込んだ結果生じたリアス海岸である。
湾の四方が山に囲まれていることから強風や荒天を避けることができるため、港を設置するには最適な場所だ。
秋月(今日で遺体を見つけることが出来れば宮ごもりの前日には柱島に帰れるはず……日没までにサクッと終わらせたいところですが)
秋月「こんな港の近くにある遺体なんて、私が探すまでもなく引き上げられているはずでは……?
沖に流されたのならそれはそれで見つからなさそうですし……」
受話器片手に質問する秋月。
??「今も残ってるさ、必ず。……そして見つけられるのは蓋し君だけだ」
秋月「? それってどういう……あっ!? これが……」
白い髪をした男の遺体が浮かんでいる。右手は手の平を広げた状態で空へ向けていて、左手は銃を握ったまま半分ほど海に浸けている。
こめかみに穴が開いていることから察するに、自殺したのだろう。にも関わらずに遺体はにやけた笑みを浮かべている。
??「私には視覚がないから判別つかないが……恐らく君の見ているそれが生前の私だよ。……さあ、回収してくれ」
秋月(……? この遺体、まるで石膏像のように堅い。指の関節ですら全く折れ曲がらない……死後硬直にしてもこれはありえません。
気になることが多いですね……後で訊いてみましょうか。協力しているのだからそのぐらいの権利はあるはずでしょう)
舞鶴鎮守府に着くと、秋月の知己である阿武隈という艦娘に案内され、第四執務室という部屋に招かれる。
阿武隈「窓位提督~? この木炭みたいに黒い、人の形をした物体はなんですか? 推理モノの犯人みたいに黒づくめですけど……」
窓位「人間の遺体、らしいよ。ボクにもそうは見えないけどね」
阿武隈「ええっ!? なんてものを運ばせてきてるんですか!? 怖……」
秋月(私が今背負っているものは、どうにも他の人には遺体に見えていないらしい……。奇妙な話ですが)
窓位「おっと……そっちのけで話しちゃってごめんね。初めまして、窓位です。ここの鎮守府の提督の一人だよ」
背は秋月よりも少し低い、少年のような見た目をしている男性。彼が窓位大将らしい。
秋月「秋月です、初めまして。その……この遺体のどこが黒いんですか? 血色も失われていないし……死後間もないように見えますが」
窓位「なんだか変な黒電話が届いただろう? おかしなことばかり言うもんだから最初は悪戯か何かだと思ったんだけどね……。
彼の言うことが正しいとするならば、その遺体が遺体に視えるのは君だけのはずなんだよ。ボクらには人の形をした真っ黒な物体にしか見えないんだ」
秋月「なんですって……?」
窓位「十六年前に自殺した涼金凛斗という人間の遺体らしい。当時ここ舞鶴鎮守府の提督だったそうだから、調べてみたんだけど……。
何一つ手がかりがないんだ。ボクが着任する何年も前に資料室で小火騒ぎがあったようで、彼の名前が載っていたであろう書類だけが焼失」
窓位「ネット上のデータベースにアクセスして十六年前の情報を探っても、彼が指揮していた艦隊に関する情報は出てくるのに、肝心の彼の名前がない。
涼金提督に該当するであろう情報を調べようとすると全部エラー扱いだ。当時舞鶴の提督だった他の人に話を聞いても覚えがないとのことでね」
窓位「君以外にはその遺体をそもそも遺体だと認識することさえ出来ないようだし。これはやっぱり……」
秋月「……この世界から強制的に抹消された、というぐらいに不自然な消失の仕方ですよね」
窓位「直接そう説明されたわけじゃないから推測だけど、ボクもそういうことだと思う。
彼は十六年前に自殺し……何らかの強制力によってこの世界にいた痕跡ごと失われた。たぶん、人為的な力ではないと思う」
秋月「私が軍学校に在籍していた頃の話ですね……十六年前」
刹那、水面に揺れる満月の映像が秋月の脳裏を掠める。
秋月(私ともう一人……背中合わせで月を見上げている光景。私の後ろにいる人は誰? ……思い出せない。十六年前、何があった?)
窓位「彼の要望は、君の持ってきたその遺体を富士山頂に埋葬して欲しいんだって。理由を明かしてはくれなかったけど……。
すごく深刻そうな口ぶりだったから、そうしない限りは成仏出来ないんだろうね。……どうかした?」
秋月「あっ、いえ! 大丈夫です。十六年前に何があったかなって、記憶を想起しようとしていました」
窓位「君は彼と過去に面識があるんじゃないかな。ほら……お金や名誉はあの世に持って行けないだろう?
記憶もまた同じなんだ。お金と違って完全に引き継げないわけじゃないけど……よほどの思い入れがない限り薄れやすい」
窓位「十何年も現世に残っているって時点で相当な未練があるのは間違いないんだけど……。
ただの後悔や憎しみの感情だけなら、彼のように明確に記憶を保っていられるとも思えないんだよね」
阿武隈「窓位提督って……そんな霊能者みたいなこと言う人でしたっけ? よく死後の世界のことなんて知ってますね」
窓位「いやいや……死後の世界のことは分からないし、霊視もできないよ。ただ、大昔……この人工樹脂で出来た肉体に移し替えるための手術を受けた時にね。
その時にボクは女神と……神様と会ったんだ。臨死体験ってやつになるかな。……漠然とだけどその時された話を今も覚えてるんだ」
秋月(この方も結構ワケありみたいですね……)
窓位「あー……二人ともポカンとしてるね。この話はやめようか。なんていうかそうだなあ……彼は、とても孤独だと思うんだ。
ボクが電話に気づくまでは誰に知られることもなく、ずっと電話の中でこういう時が来るのを待ち続けていたみたいでさ……」
思案するように黙り込んだ後、決心したのか目をぱっちりと見開いて秋月に言葉を向ける窓位提督。
窓位「ボクは、彼に言われた通り遺体を山頂に埋めようと思う。どうして彼がそれを望むのか理由は分からないけど……。
もう亡くなってしまった彼のためにボクがしてあげられることはそれぐらいしかないだろうから……そうするつもりだ」
窓位「けど、君なら彼のことを救ってあげられるのかなって、不意にそんなことを思ったんだ。
一人ぼっちの暗闇の中で十年以上過ごしていても君の名前を忘れなかったってことは、君は彼にとってそれだけ大切な人なんだろうから」
・・・・
舞鶴鎮守府の寮内にある空き部屋。秋月はここで一晩過ごすことになった。柱島へ戻るための支度を終え、パジャマ姿で布団を敷く秋月。
窓位提督に遺体を渡して以降、秋月は涼金に何一つ話を聞くことが出来ないままであった。黒電話のベルが一度も鳴らなかったからである。
秋月「向こうから呼び出すことは出来ても、こっちから発信することは出来ないんですよね。この電話……」
秋月(でも……窓位司令に存在を気づかれるまで前もずっとこの電話の中に魂を宿し続けていたようだから……。
つまり、ベルが鳴っていない状態だろうと彼はこの電話に憑依しているってことですよね。きっと今も……)
秋月「あっ! 閃きました。こういうのはどうでしょうか」
毛布と布団の間に潜り込み、背を曲げて丸まる秋月。懐にギュッと黒電話を抱え、耳元に受話器を寄せる。
秋月「そちらに話をする気がないというのなら、実力行使しかありませんね。
私の体温がプラスチック越しに貴方へ届くまで、私の声が受話器の向こうの貴方に届くまでずっと話しかけ続けますから」
秋月「……秋月、十六年前のこと思い出そうとしているんです。軍学校時代のこと。きっと、その時秋月は貴方と一緒に居たんですよね」
秋月「波のない静かな海の上をクラゲのように漂って……私と貴方で、背中合わせに満ちた月を見上げている。
二人の影を、月明かりが照らしていたんです。そんな光景を……記憶にはないはずなのに、思い出してしまうんです」
秋月「……素敵な思い出のはずなのに。思い出そうとすると不思議と涙が出そうになるんです。
悲しいのか、切ないのか、自分でも分からないんですけど……どうしてなのかな……」
秋月が黙ると部屋は静寂に包まれる。普段の寝室よりもずっと広い、何もない部屋。
秋月「……なにかお話してくださいよ。さびしいじゃないですか……司令」
秋月(あれ……私、どうして『司令』って……? 十六年前はまだどこの艦隊にも所属していなかったはずなのに。
それなのに、すごく自然に言葉が出てくる……想いを伝えたいって気持ちが、とめどなく溢れてくる)
提督「……私のことなど忘れたままでいれば良かったのにな。もう私が君にしてやれることはないんだ。思い出したところで、何の意味もない」
秋月「それでも……私は嬉しいです。もう一度司令と話がしたかったから」
受話器越しに弾む声で喜びを伝える秋月。
秋月「残念ながら、未だに全部は思い出せないんです。でも、少しずつ思い出してきた。司令の声を聴いて、また一つ思い出しました。
私は、秋月は……司令のことをお慕いしていたんだってことを。そして今も……」
秋月「ずっと忘れていたのに、十六年も経って今更好きだなんて虫がよすぎますよね。ごめんなさい。でも、今の秋月の本心です」
秋月「司令と普通に出会って、普通に別れていたらこうはならなかったはずなんです。私の中から強制的に司令が失われたから……。
喪われたことにすら今まで気づけなかったから……悲しくて、やるせなくて……。でもこうしてまた会えたから、たまらなく嬉しくて、愛しくて」
提督「分かっていた。君が私のことを思い出して喜ぶことも、悲しむことも……だから隠していたかった。黙っていたかった」
秋月「司令が生きていたのなら……抱き締めて、ありったけの好きだって気持ちを伝えたかったのに……! どうして司令は……」
彼のかつての器であった肉体は既にその機能を停止していて、魂が再び宿ることは永遠にない。
・・・・
提督「あの後の経緯を話そうか。最後の夜、無数の黒い影のようなものに追われていただろう。覚えているか?」
提督「私は個人的にあれらを“バグ”と呼んでいる。先人は“認識の小人”なんて呼んでいたが……今回は便宜上バグと呼ぶ、その性質は五つ」
第一:バグは満月が最も地球に接近する日から約三十日前に出現・活性化する(おおよそ二十年に一度の周期)。
活性化していない状態では無害であり、月の接近期間内でも日中は活性化しない。
第二:バグに能動的に触れた者をこの世に居た痕跡ごと消失させる。
第三:バグは他のバグを引き寄せる。バグは他のバグの集まる場所へと向かう。
第四:バグが疎らに存在している場合は、その存在を認知している生物を優先的に対象として狙いに来る。
第五:複数のバグが対象を取り囲んだ際、囲まれた範囲内に存在する全てのものを消失させる(生物・無生物問わず)。
提督「尤も、これらは先人と私で発見した法則のようなものだ。君が攻略法を編み出せたように、対策もあるのかもしれない」
秋月(黒い小人……? 覚えているような、覚えていないような)
提督「……最終日、私と君はバグに囲まれつつあった。もはやあの状況を切り抜けることが不可能だと当時の私は判断した。
そこで、“時の歯車”という道具を使った。簡単に言うと時間を停止させることができる道具だ」
秋月「時間を止める……? じゃあ、秋月は司令と一緒に海上にいたはずなのに、次に意識を取り戻した時鎮守府に居たのは……」
提督「そう、時間を止めて君を鎮守府まで引き戻した。そして私と過ごした約一ヶ月間の記憶を消す注射を打った」
秋月「そんなものがあったなら、司令もその場から逃げ出せば助かったのでは……?」
提督「……あの時のような大群に追われていては、海の上のどこに逃げようと振り切ることが出来ない。
まして陸地に逃げればその被害たるや計り知れない。それに……あの時は」
提督「あの時はもう、死んでしまっても良かったんだ。私はバグを無効化させることが出来ればそれで良かった。当時の私はな」
提督「止まった時間の中では自ら許可しない限りバグに触れようとも消失することはない。
一方で、自分の肉体と銃だけは通常通り動けるように許可すれば、止まった時間の中でも自殺は可能だ。
私が死んだ瞬間に時は再び動き出し、しかし私の遺体の時間だけは止まり続けるよう、時限設定をした」
提督「私の遺体は永遠にバグを集め続けるだろうが、時間が止まっているからバグが活性化しようと消失することはない。
その後肉体から抜け出した私の魂はこの黒電話を器として選んだ。これがあの夜の後のいきさつだ」
・・・・
秋月「司令はあの夜……ずっと一緒に居てくれると言ってませんでしたか? 秋月のことをずっと傍に置いてくれるって」
提督「約束、果たせなかったな。……すまなかった」
秋月「いいえ、お詫びの言葉なんていいんです。謝って欲しくなんかないんです。過ぎてしまった時間は取り戻せないから。
でも、この先の時間なら変えられるはず。……十六年の空白さえも埋め尽くしてしまうぐらい、二人で未来を彩っていけばいい」
秋月「だから……今度こそ。私と一緒に居てくれませんか? 私と一緒に未来を歩みませんか」
提督「突き放しても、記憶を消しても、君はどこまでも追いかけてくるんだな……」
秋月「当たり前じゃないですか。それだけ大切な人なんですもの」
提督「死人が生者を縛るようなことは言うべきではないんだろうが……君がそう言ってくれるのは、実のところ嬉しい」
秋月「良かった……司令も、秋月と同じ気持ちだったんですね」
秋月の背中が温もりでいっぱいなのは、毛布の暖かさだけではなかった。込み上げる感情が彼女の体温をゆっくりと高めていく。
提督「……もう、寝た方がいい。明日は柱島に帰るのだろう? ゆっくりとお休み」
秋月「はい。ふふ……また明日。明日も、いっぱいお話しましょうね。もっと司令のことを思い出させてください。おやすみなさい」
触れることも出来ず見つめることも出来ないからこそ、その声に、その言葉に、秋月はありったけの愛情を込める。
それが苦しいほど伝わってくるからこそ、提督は何も言えず押し黙っていた。
・・・・
ススキが風に揺れている。鈴虫の音が遠くから聞こえてくる。朝焼けの光が差して茜色に染まる原野。
煙のように白い髪の子供が岩の上に腰掛けていた。もの憂げな瞳は、焼け焦げた跡だけが残る何もない地面を映している。
秋月も彼の横に座り、同じ目線で同じ景色を眺める。空間ごと切り取られたかのように何もない、土が露出したまっさらな地面が広がっている。
提督「この姿は、八歳の頃の私だ。三十六年前の思い出さ。地図にも載っていないような山間の隠れ里で私は生まれ育った。
外界から隔離されていたこの場所にも、人の営みがあったんだ。私の家族もここで暮らしていた」
提督「この集落には、仏教や基督教のような宗教らしい信仰体系があったわけではないが……。
無生物の中にも精霊が宿っているという伝承を信じていたんだ。命を持たない物にも思念や意志が宿るのだと」
提督「だから……壊れてしまった道具や家具を弔う風習があったんだ。壊れた家財道具をわざわざ富士の山まで運んで、死者と同じように弔っていた。
あの山のなるべく高い場所に埋めることで、御霊が早く天へと昇れるようにと祈っていたんだ。今の時代に同じことをすれば不法投棄で捕まるのだろうが」
提督が遠方の景色を指し示す。藍色と茜色が混じり合う東雲の空に、いわし雲がたなびいている。
空の色にも雲の色にも染まらない、紅色の輝き。燃えるように赤く染まった富士の山が聳えていた。
提督「ここを離れる時、最後に見た景色だ」
秋月「綺麗な赤富士……こんな鮮やかな赤い色は初めて見ました。……」
提督「消失した故郷のことを覚えているのは、当時生き残った私しかいない。そしてその私も今やこの有様。だが……ここには命があった。
この先も続いていくはずのささやかな未来があった。これまで人が積み重ねてきた過去の証があった。あったはずなんだ」
提督「生まれ故郷があったことを、そのことをこの世に残したい。無かったことにしたくないんだ。これが私の今の願いだよ。
私の遺体をあの山に埋めれば弔いになる。今や私の肉体だけが故郷がこの世界にあったことの証明なのだから……」
秋月「司令がこうして夢に出てきたのは、秋月にさよならを言うためにですか? ……やはり、別れなければなりませんか」
提督「ああ。死んだ後まで君を巻き込んでしまってすまないな。十六年も経って昔のことを蒸し返す形になってしまった。
しかし……復讐を果たした後もなお成仏できないぐらいには想い入れがあるんだ。君のおかげで、ようやく私は役を終えることができる」
提督「本当は何も言わずに消えてしまうつもりだった。こうして感情を分かち合えば分かち合うほど別れの痛みは増すのだろうから。
だが、君のひたむきさに惹かれてしまったんだ。君の抱いてくれた想いを踏みにじりたくない……だからこうして直接別れを告げに来た」
隣に座る提督の右手を両手で握り、訴えかけるような上目づかいで彼を見つめる秋月。
秋月の方へ振り向いて、喜びとも悲しみともつかない複雑な表情をする提督。
秋月「どんな理由であれ……司令とまた会えて、心の底から良かったと思っています。たとえそれが夢の中であっても」
秋月「……もし。今まで、未練があって成仏出来なかったというのなら……それが理由でこの世界に留まり続けることが出来るというのなら。
これからは秋月がその理由になりませんか? 秋月は……司令にとっての未練にはなれませんか?」
提督「分かっているだろう。死んだ人間がいつまでもこの世界に干渉し続けてはいけない。死んだ人間のことを引きずり続けてはいけない。
私のように過去に囚われてはいけないんだ。私の時間はあの日から……この景色から止まったままなのだから」
秋月「秋月は過去に囚われてなどいません。ずっと司令との未来に臨んでいます、今だってそう。
あの赤富士も司令にとっては過去の心象風景でも、秋月にとっては初めて見る景色。司令はいつだって……秋月にないものを与えてくれる」
まばたきすることもなく、秋月の澄んだ墨色の瞳はただ目の前の提督だけを捉え続ける。
秋月「分かったんです。私が一人だけ司令の遺体を識別できた理由が。
確かに司令に関する記憶は失っていた……でも、司令はずっと秋月の心の中にいたんです」
秋月「仮に人間が太陽という天体の名前を忘れたところで、その光は変わらず天から地へと降り注ぐ。
司令の想いは、ずっと秋月に届いていたんです。秋月の司令への想いは、ずっと残っていたんです。記憶を失ってしまってもなお」
秋月「司令は……秋月にとっての太陽なんです。司令という光が秋月の道を照らしてくれる。だから、この先の未来も……!」
提督「君の望みは叶えられない。もう限界が来ているんだ。全ての命に終わりがあるのと同じ。
その霊魂にも現世に留まり続けていられるタイムリミットがある。私はもう時間を使い果たしつつある」
提督「私のような陰気な男に、太陽など似つかわしくないのだろうが。君がそう言ってくれるのなら……。
私にとって君は、夜の闇のように限りない孤独すらも優しく照らしてくれる、満ち足りた月なのだろう」
提督「この景色を見た時に、隣に君がいれば良かったと強く想う。君が傍に居たならこうはならなかったのだろうから。
それでも……最後に君に会えて良かった。私の中で止まっていた時計の針が、君のおかげで再び動き出したんだ。ありがとう」
提督が立ち上がると、陽光が彼の背中を包み込むように照りつける。富士山は穏やかな空色を取り戻していく。
朝、秋月が目を覚まして黒電話を確認すると、受話器と本体とを繋ぐケーブルが断線していた。
もう黒電話から提督の声がすることはない、その暗示なのだろうと秋月は解釈した。
秋月はそれから、予定通り柱島に帰ることにした。涼金提督の埋葬は数日後に行われるらしい。
深夜にヘリコプターで山頂上空を目指し、そこから複数名の艦娘が棺を持って飛び降り、秘密裡に地中へ埋めるのだそうだ。
十一月末の富士山といえば、豪雪荒れ狂う極めて危険な山である。常識で考えれば実現不可能な自殺行為に等しい。
……もっともそれは人間にとっての常識であり、艦娘にとっては深海棲艦との戦いに比べればお茶の子さいさいな様子だった。
秋月(乙川司令に頼めば、涼金司令の遺体を埋める作業に同行するのを許してくれるかもしれませんが……他の艦娘もいますし。
あの人も多分、秋月に別れを引きずって欲しくはないんでしょうから……涼金司令のご遺体の安息と、彼の冥福をここから祈りましょう)
秋月「秋月、ただいま戻りました」
執務室の扉を開け、乙川提督に舞鶴で果たした任務の報告を済ませる秋月。
乙川「ふむ。やはり秋月にとっては簡単な依頼だったようだね。これで明日の宮ごもりも誰一人欠けることなく祝える。良きかな良きかな。
……って秋月? ちょっと元気なさげだね。舞鶴で何かあったかい? 言いたくないようであればすごく回りくどい形で聞いていくけど」
瑞鳳「気遣うような口ぶりしておいて、結局何があったか聞こうとするのはやめないのね……。
ま、辛いことは一人で抱え込んじゃいけないわ。私たちいつも秋月に助けてもらってばかりだからね、たまには頼ってくれてもいいのよ?」
瑞鳳「いつも元気に前向きでいられたら良いけれど、そういうものでもないじゃない? 無理して明るく振舞ってもしょうがないしね。
それに、人って色んな一面を持って生きてるから。いつもと違う表情を見せたぐらいで秋月のことを嫌いになる私たちじゃないわ」
普段は痴話喧嘩にも似た漫談を繰り返している二人が、この時はいつになく頼もしく見えた。
秋月(私……やっぱり恵まれてるんだな。こうして気にかけてくれる人たちが居るんですもの)
秋月「あ……いえ、言いたくないわけじゃないんですけど……。昔を思い出す、懐かしいことがありまして。
ちょっぴり切ないんですけど、素敵な、大切な思い出なんです。私自身整理がついてないから、何をどう説明したらいいか……」
乙川「ん~、そうだねえ。じゃ、前夜祭と洒落込もうか。瑞鳳の家に美味しいお酒がたくさんあるんだよ。
なんでかっていうとせっかく僕が通販で買ったお酒を全部瑞鳳が没収しちゃったからなんだけど……」
瑞鳳「お酒を飲みながら仕事しようとするのが悪いのよ、もう。でも……みんなで集まって飲む分には構わないわよ。
楽しく嗜むならお酒もいいじゃない? じゃあ……今日の仕事ももう終わりだし、宴会の準備をしなきゃね」
・・・・
乙川提督と瑞鳳、秋月のほか、たまたま場に居合わせた照月の四人が卓を囲んで話し合っている。
秋月にとって舞鶴であったことや十六年前の出来事をそのまま説明することは難しかったため、
「軍学校時代に好きだった人と再会して、投合したがやむを得ない理由でまた離れ離れになってしまった」と話した。
瑞鳳「なるほどね……初恋の人との十六年ぶりの再会かぁ~。ロマンチックねえ」
照月「秋月姉ぇ、軍学校時代にそんな人が居たんだ……浮いた話とか全然聞かなかったからビックリしちゃった」
乙川「十六年も経ったらだいぶお互い変わってそうな気がするけどねえ。それでもやっぱり惹かれ合うものがあったんだね」
秋月(まあ……艦娘である私は老いることがありませんし、涼金司令も十六年前に亡くなった時のままですからね……)
秋月「ええ。もうこの先会えることはないだろうから、ちょっぴり寂しいですけど……でも。
お互い伝えたいことは伝えられたし、それでも別れざるを得ないなら仕方ないのかなって思うんです」
乙川「ふぅむ……相手方の事情はよく分からないけど、こんな一途で純情な子を悲しませるなんて紳士のやることじゃないな」
瑞鳳「自分のこと棚に上げて何言ってるんだか。提督だって大概じゃない」
乙川「いや、そんなことは……あるけども。ま、僕だって何のリスクも冒さずにここの提督になったわけじゃないんですよ」
乙川「正味な話……惚れた女の子を泣かせるぐらいなら、奇跡の一つや二つ起こしてでも傍に居てやるべきだって僕は思うけどね」
秋月(そういえば……乙川司令が柱島を離れた後、瑞鳳さんに再会するために『一生分の勤勉さを使い果たすぐらい頑張った』って言ってましたもんね。
瑞鳳さんには『偉い人相手にハッタリで誤魔化しおおせた』なんて話してるからバラさないで欲しいって言われましたが……)
秋月「奇跡、か……」
・・・・
翌朝になり他の面々は鎮守府へ向かったが、秋月はこの日非番だった。
自宅に帰って遅い朝飯を済ませた後、早く出しすぎたコタツに入って窓越しに空を眺めていた。
このところ冬の始まりを感じさせるような寒い日が続いていたが、今日は気温も暖かく秋晴れの空に太陽が輝いていた。
秋月(司令は……そっちから見てくれていますか? 秋月もいつか、そちらへ向かいます……その時まで待っていてくれますか?)
秋月「……なんて。やっぱり思えないんですよね!! 諦めきれませんもの、司令のことを」
秋月(乙川司令だって、本当は瑞鳳さんと離れ離れになるはずだったところを無理矢理手繰り寄せたんだもの。
太陽と月ぐらい離れていようと、此岸と彼岸で隔たれていようと……いつか必ず)
秋月「必ず、会えるはず……! だって、奇跡を起こしてでもまた会いたい人なんですもの」
無意識のうちに秋月はコタツを抜け出して家の外を歩いていた。
とにかく行動を起こしたいという気持ちが思考に先行して彼女の体を突き動かしていたのだった。
秋月(……試せることは全部試しておきたいんですよね)
秋月は全くの考えなしに家を飛び出したわけではなかった。
愛車に乗り込んでアクセルを踏みしめ、テンポの速い音楽をスピーカーから流す。向かった先は鎮守府だった。
駐車場に車を停めて鎮守府内の工廠に入ると、前掛けをかけて半田ごての電源を入れる。
秋月(壊れているなら、直せばいい。断線した部分は半田ごてで溶接して、あとはガワに付いたダイヤル部分を回るようにしてあげればいい。
そんなことをしたってまた司令と話せるかどうかは分からない、声が聞けたところで何を話したらいいかは分からないけど……)
・・・・
秋月「修理完了です! ……で、案の定何も起きませんね。でも、これで普通に電話としては使えるようにはなったみたいですし、自宅に置いてみましょうか。
電話線などを取り寄せる必要はありますが……ん、長10cm砲ちゃん。どうしたの? 今日の出撃はないですよ」
円柱状のボディに直方体の頭部、触覚のように伸びた二本の円筒。秋月の脛程度の体長。
この生き物ともロボットともつかない銀色の奇妙な物体は、秋月に『長10cm砲ちゃん』と呼ばれていた。
秋月の装備の一種でありながら彼女の動きをサポートするように自律稼働するという、変わった立ち位置の兵装である。
積載する必要のない武装であるから艦娘の負荷にはならないものの、コストが高いためごく一部の艦娘にしか与えられていない装備であった。
秋月(そういえば……長10cm砲ちゃんを私に与えてくれたのは涼金司令だったのかも……? 長10cm砲ちゃんと最初に会ったのも、たしか十六年前だった。
そう、突然何の説明もなく鎮守府からハイエンドな装備を渡されてビックリしたのを覚えてます)
秋月「長10cm砲ちゃん! 何か覚えていない!? 涼金司令のことっ」
秋月が長10cm砲ちゃんに問いかけると、頷いてウインクする。
秋月(長10cm砲ちゃんは装備の一つではあるけど、どちらかといえば扱いは艤装に近い。いうなれば自律意志を持った艤装……私の半身ともいえる。
私が涼金司令のことを思い出したのに呼応して、長10cm砲ちゃんも何かを思い出したというの……?)
ガション! ガション! ガション! 突然その場に飛び跳ねる長10cm砲ちゃん。
秋月「長10cm砲ちゃん!? 急にどうしたの? あんまり暴れないでぇ! 」
その身体から強い光を放ち、秋月の視界を眩ませる。再び瞼を開けると、秋月の眼の前に黄色い歯車がふよふよと浮遊していた。
秋月「これは、司令の言っていた時の歯車……? 時間を止めることが出来るそうですが……」
長10cm砲ちゃんは首を振った。どうやらこれは時間を操ることの出来る道具ではないらしい。
秋月「黒電話に使ってみて……ですか? 使うって、どうやって……」
歯車を黒電話に近づけると、物理法則を無視してそのままめり込んでいってしまう。
長10cm砲ちゃんの時と同じように光を放った後、歯車は電話から抜け出して秋月の手元へ戻ってくる。
秋月(物から物へと入り込むんですかね……? えっ、次は秋月の手に……何がどうなってるんでしょう)
今度は秋月の手の中に溶けていくように潜り込んでいく。秋月の脳内に、光が駆け巡っていくイメージが浮かび上がる。
秋月「……司令が、長10cm砲ちゃんにこれを持たせていた理由が分かりました。
この歯車は、空間――ひいてはその空間上に存在する物体や概念を再生させるための物」
秋月「ぼやけていた十六年前の記憶を……涼金司令との記憶を、今完全に思い出しました!
奇妙な映像のことも、一緒に見た夕焼け空が赤かったことも、美味しいお寿司を奢ってもらったことも……」
秋月(司令と昨日電話や夢の中で話していた時に思い出したのは、司令に対する思慕の感情と、その感情から連想された記憶だけだったんですね。
『愛していた』という想念そのものの記憶と、その感情から描き出された風景の記憶。……月が照らす美しい海原の思い出)
再び自分の前に浮かび上がった歯車を掴んでポケットにしまい、黒電話の受話器を手に取る。
秋月「司令! 秋月です。聴こえてますか? 全部思い出したんです。全部思い出せたんです! ……」
秋月(返事がない……当たり前といえば当たり前なのですが。でも、あの歯車は黒電話にも作用していたはずなのに、司令が居る“気配”を感じない。
司令の放つ気のようなものを感じない……ここに司令はいないというのでしょうか。……)
秋月「失った記憶は蘇ったとしても、遠くに離れてしまった魂は戻らない、か。……でも、腑に落ちないですね」
秋月が疑問に思ったのは、期間の短さである。涼金凛斗に別れを告げられたのは一昨日の晩だ。
そして彼の遺体は恐らくまだ舞鶴鎮守府に残っている。彼は目的を果たせていないのである。
秋月(十六年間もその時が来るのをじっと待ち続けたというのに、望みの顛末を確認出来ないまま成仏など出来るのでしょうか。
確かに現世に留まり続けていられるタイムリミットがあり、その限界が来ているとは言ってましたが……)
秋月(思い違いかもしれませんが……この歯車には死んだ人間すらも生き返らせてしまうほどの力があるような気がする。
司令の遺体に内臓されているのが“時の歯車”だとするのならば……これはまさしく“空間の歯車”)
秋月(時間を支配できる道具に比肩するほどの、物事の道理すらも捻じ曲げてしまうほどの強いエネルギーをその身で体感しました)
秋月「司令がこれを託していたこと……きっと意味があるはず。奇跡だって起こせるはず」
・・・・
工廠内で様々な調査を繰り返した結果、秋月の直感通り、この黄色の歯車には壊れたものや失ったものを再生する力があるようだ。
物質に限らず、コンピュータ上で削除したデータや破棄した紙に書かれていた情報までも復元できることが判明した。
(動物の蘇生まで出来るかどうかは分からないが、)完全に枯れてしまった植物に力を与えたところ再び活力を取り戻していった。
実験を繰り返しているうちにいつの間にか日が沈んでいたため、秋月は秋祭りに参加すべく鎮守府から本島へ帰ることにした。
自宅に戻り、浴衣に着替えている秋月。
秋月(それにしても……とんでもないものを入手してしまった。艤装の損傷を修復材なしで完全回復できる。
消耗した燃料や弾薬をノーコストで補填できる。失われた情報媒体や消されたデータまで全て復元できる。
枯れた植物すらも蘇らせてしまう……こんなものの存在が世に知れ渡ったらとんでもないことになっちゃいますよね)
秋月(ただ、あくまで用途はその場にあったものの再生であって、一つのものを二つに増やすようなことは出来ないみたいですね。
壊れたり失われたりしていないもの相手には何の効力も発揮しない、この世のどこにあるものでも無尽蔵に直せるわけではない、と……)
秋月(にしたって危なすぎますよね……私利私欲で気安く使っていいような代物じゃない。けど……)
別室のコタツの上に置いていた、黒電話のベルの音が鳴り響く。着替え途中ではあったが、中断して躊躇うことなく秋月は受話器を手に取る。
??「……よく、……たな。これで……きと、……」
異常に音質が悪い。内容が全く聞き取れない。それでも秋月は再び声が聞けたことに興奮している。
秋月「司令! 司令? 聴こえていますか、秋月の声が。ん……?」
黒電話の本体をよく見ると、本来は電話線のケーブルを挿し込むための部分と思しき箇所から赤い毛糸が伸びている。
試しに糸を引き寄せてみると、隣の部屋のクローゼットから物音がする。ゴン、と何かがぶつかった音だ。
秋月「司令! ……十六年ぶりですね」
クローゼットの中に入っていたのは、夢で会った時と同じ、八歳の頃の姿をした涼金凛斗だった。
手に持った紙コップから赤い糸が伸びている。ニヤリと笑みを浮かべ、白い髪をかき上げる。
提督「一昨日ぶりだな。こうなったら良いと思っていたよ。こうなることを願っていた。……」
ひしと抱き締めて、その確かな体温を感じ取る秋月。されるがまま秋月を受け入れる涼金。
提督「分の悪すぎる賭けだった。仮説と希望的観測の積み重ね、期待もできないような薄い望み。
それでも……たとえ報われなかったとしても。救いがなかったとしても。私は秋月のことを諦めきれなかった」
提督「……情に絆されるのも、悪くはない。最後の最後、もう終わるかというところで……奇跡は起きた」
提督(なぜこの姿で蘇ったのかだけは分からないが……。ま、もう一度やり直してみろという天の思し召しなのかもしれないな)
・・・・
二人以外には誰もいない砂浜の上。浴衣の秋月に手を引かれて歩く涼金。
傍から見れば子供が仲睦まじくじゃれ合っているような光景。
しかし、その繋いだ手から伝わるお互いの温もりは、十六年間分の熱量を含んでいた。
秋月「ここ、すごく夜空が綺麗に見えるんです。ほら、手を伸ばせばお月様に届きそう」
防波堤に腰かけて夜空を見上げる二人。満月にはあと三日ほど足りないであろう、少し歪な形をした月が二つ。空と海原の上に浮かんでいる。
秋月「夜中に一人で砂浜を出歩く理由なんて無いから、普段は訪れないんですけど……ここから見た夜景はすごく好きなんです。
夢の世界でも時折ここの景色が出てくるんです。月が昇って、沈んで、日が昇って、沈んで、また月が出て……そんな繰り返しの夢」
秋月「でも……司令が隣に居るのは夢じゃないんだなあって。なんだか現実と夢がごっちゃになったみたいで不思議な気分です」
提督「ふ、私はもう提督じゃあないだろう。そうだな……凛斗と、名前で呼んでくれたら嬉しい。親からしかそう呼ばれたことはないから」
提督「私は昔、あの黄色い歯車で両親を蘇らせようとしたんだ。だが……この世から消失してしまった、存在していないものは再生させようがない。
秋月には私のように孤独に打ちひしがれて欲しくなかったから……あの黄色い歯車は、君がいつか愛した人を亡くした時に使って欲しいと思って託したんだ」
提督「……それがまさか、本当にこうなるとは願えども予想はしていなかった。私の本来の遺体は、今もまだ時間が止まったままのはずだ。
だからこうして私がここにいられる理由は分からない。あの黒電話に憑依していたからなのか、バグに侵されていようと一応遺体は存在しているからなのか、何なのか……」
提督「ま……理由なんて今はどうでもいいんだ。今度は背中合わせじゃない。向かい合わせでこうして隣にいる。ここに私と君がいる」
小さく笑みを浮かべて秋月の方へ振り返る涼金。秋月は彼の肩に体重を預けてもたれかかる。
秋月「凛斗さん……何度も言っていますが、改めて言わせてください。凛斗さんのことが大好きです。大好きで、大好きで……どうしようもないぐらい好きなんです。
秋月の未来を、あなたと。あなたの未来を、秋月と……そうやって二人で、この先の人生を分かち合いたいんです。ううん、もう首を横に振られたって添い遂げますから」
秋月「だから……末永くよろしくお願いします……ん」
甘えるようなうっとりとした声で誘い、鼻と鼻とがぶつかってしまいそうなぐらいに顔を近づけて、瞼を閉じる。
提督(一生添うとは男の習い、なんて諺があるが……これじゃあまるで立場が逆だ。秋月には敵わないな)
提督「君のおかげなんだ。私が人を信じられるようになったのは。未来を信じられるようになったのは。
君と出会えて良かった……私にも生きる理由が出来たんだ。ありがとう」
涼金が秋月の要望を満たしてやると、秋月は彼の背中に手を這わせて蕩けるように身を寄せる。
・・・・
その後二人は、秋祭りの縁日を楽しんだ。神社の前には屋台が立ち並んでいて活気があった。
居合わせた乙川提督と瑞鳳に、隣にいる男性との関係を尋ねられる秋月。
なんと答えていいか分からず赤面している様子から察して、彼らは二人を祝福するように微笑んで去ってしまった。
月が満ち欠けを繰り返すように、太陽が黎明と落日を続けるように、これからも涼金と秋月の未来は続いていくのだろう。
もはや延期し過ぎててスレを追っている人もそう居ないのかもしれませんが……。
次回の安価募集は11/23(木)21時頃を予定しています。
推したい艦娘がいる場合はそこら辺のタイミングを見計らってこのスレをチェックすると吉です。
////後書き的な////
“実るほど頭を垂れる稲穂かな”なんて言葉がありますが、稲穂が実らずに頭を抱えたようなここ数ヶ月間でした。
っていうか現在進行形でわりと厳しい感じの状況に晒されているんですが。私は果たして無事2017年を迎えられるのだろうか……。
さておき。例によって今回投下した内容についてのお話をします。
・キャラクターについて
秋月は(作中で)過去に登場していた人物だったので、その過去を掘り下げていく形でスタートしようと考えました。
ゲーム内での彼女の性能も性格も、(他の駆逐艦の艦娘と比べれば)どちらも優等生と言って差し支えないでしょう。
癖がなく、前向きで利発。リアルでは誰からも好かれるようなタイプのキャラクターだと解釈しています。
ただ、人格に欠点がないというのは創作上ではむしろ描き辛くなってしまう罠があるのです。
そんなわけで、彼女の傍らに歪な人間を一人用意しておきました。
それも、篤実で困っている人を放っておけないような性格の彼女を事あるごとに刺激するダメ男です。
一人で全てを抱え込むことしか出来ないような不器用な人間ですね。そうなった経緯に関しては作中で描写していますが。
実際問題、現実での十六年という歳月は非常に長いので、見かけ上老いることのない秋月や
享年28歳(精神年齢8歳?)のままで止まっている彼だからこそこのお話は成り立ったのでしょう。
柱島の人たちも窓位提督もわりと相変わらずな感じでしたね。
安価で名前が挙がってたのに五月雨を登場させらなくてすみませんでした。
ついでに小ネタを書いとくと、秋月は作中ラストのあれがファーストキスです。
・設定について
前の章ではわりとオーソドックスな艦これ観に回帰しようとしたのですが、
一方で過去の章も引っ張り出してきて部全体としての構成もまとめようとしました。
結果としてあんま上手く行ってなかったので今回の章では後者に特化させました。
敵であるはずの深海棲艦がチョイ役ってどういうことだよみたいな話ですが。
作中に登場する黒いやつはもちろんモデルがありまして。「no data 艦これ」とかで調べたら出てくるやつです。
“バグ”とか呼ばれてますけど……元ネタ的にはダミーデータなだけなんですよね。
そのダミーデータが表に見えることがあったらまあそれもそれでバグっちゃバグとは言えるんですけど。
さてこのバグの存在や時の歯車、そして新たに登場した空間の歯車がこの先の展開を動かしていくキーアイテムになるのか!?
と思いきやですよ。作者視点だとぶっちゃけどうでもいいです(後述)。ネタの再利用をしたってだけですね……。
まあ~……絶対世界にあるだけでヤバイ道具なので、なんか悶着が起こりはそうな気はしますけど。
・ストーリーについて
今回もごちゃっとしてますねー。何遍別れと再会を繰り返すんだって話ですが。
まあ別れのカタルシスってなかなか大きいですからね。安易に頼ってはいけないと思いつつも毎回そんな感じですね……。
遥か昔にタロットカードの番号かなんかでこっそりお話の雰囲気を決めているという話をしたと思いましたが、
今回は「塔」のカードでした。このカードは、一般的にはバベルの塔のような人間の積み重ねてきたものが崩壊する解釈がなされます。
そんなわけで、最初から最後までわりと一貫して「見込みのないことに賭け続ける」感じのお話でした。
最後の最後はご都合主義ですけどね。いんだよこれで!(ぇ
秋月と提督の二人を隔てる障壁の役は深海棲艦でも良かったのですが、
轟沈よりもより救いの可能性が低いものを用意したいと思いこうなりました。
(あとは……轟沈はわりと扱いの難しいセンシティブな領域なので……。艦娘が酷い目に遭うよりオリキャラが酷い目に遭った方がいいでしょうしね)
提督が過去しか見ていないのに対して秋月は常に未来を見据えているのが対象的ですね。
太陽と月も象徴的な存在としてよく出てきますね。あれは……メタファーっていうかなんていうか。
元始女性は太陽であった的なそういうアレではないです。どちらかといえば性差ではなく立場の違いでしょうか。
提督という存在は一人であり、艦娘を導いていかなければならない。欠けることは許されず、常に平等に光を放ち続ける必要がある。
月の明かりというのは、太陽と違って植物の成長など生命に影響を与えるほどの大きな恵みはありません(たぶん……)。
ですが、その月の美しさに感動して人間は「この世をばわが世とぞ思う望月の欠けたることもなしとおもえば」なんて詠ったりするのです。
これは人間が月に価値を見出しているからなんですね。涼金提督は、秋月の存在が自分の孤独を満たしてくれるのだと“見出したのです”。
数ある艦娘の中から一人を選ぶのは、そういうことだと思います(何
あっ、手が滑って途中で送信を……名前欄にレス数が入っちゃってますが今回の投下はこれで終わりです。
////後書き続き////
(後述)って書いたのに述べてなかったのでそこだけ補足します。後書きという本旨からは逸れますが。
創作者、とくに物書きは「表現したいテーマがあってそれを表現するために物語を書く」と思われがちじゃないですか。
いや実際普通はそうなんでしょうしそうあるべきなんでしょうけど。自分の場合は特にないんですねー。
極論、艦娘カワイイヤッターな話が書ければそれでいいぐらいにしか考えてなくて。
だからその……いくら設定とかをゴリゴリに練ってみたり、ハイドラマっぽいテーマを提示したりしようとも、
それが書きたくて書いてるってわけでもないんですよね。副次的に、面白くなるならとりあえず書いとけみたいな(笑)。
死生観とかそういう哲学っぽい部分も出てきたりしますが、それそのものを表現するために書いてるわけではないのです。
作者の意図! とか作者の思想! みたいなのはないです。全部成り行きでやってます。
うえっ!? 11月23日とか書いてますがウソです。しかも木曜ですらないし。打ち間違えなんで信じないでください。
今日です今日。イブイブの日ですね。
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
(参考:>>669->>671)
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
春雨
(出先からなので)IDたぶん変わってると思いますが本人です。
>>812より春雨が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:25(ヘタレ)
知性:83(秀才)
魅力:26(低め)
仁徳:32(人並み以下)
幸運:37(やや不運)
お題を回収して記憶に関するネタはやるつもりです。喪失するかは分かりませんが。
前の章は62レスで終わってますが、途中からペースが狂ってちゃってますね。あ、内容の話ではなくレス数の割り当ての話です。
確かだいたい16レスぐらいで終わるようにしてたつもりなんですけど……数え間違えか配分間違えか。
たぶん後者ですねー。書いてるうちに残りがどのぐらいか段々よく分かんなくなってくるんですよね。
残りのレス数は38なので、今回安価でキャラを募集した章とその次の章は19レスのお話にする予定です。
次回は早くても多分1月頃の投稿になっちゃうと思うんで、来年もよろしくお願いします。
乙
亀レスだけどお寿司食べる秋月ちゃん可愛かった
それと>>795の大食いしても痩せないの部分は太らないの間違えだよね多分
>>818 ご指摘いただいた通り表記ミスです。ゴメンナサイ
明けまして……はもう遅いですね。書き終えるまではお付き合いよろしくお願いします。
進捗芳しくないためまだかかりそうですね。今月末から来月頭ぐらいに投下できたらと考えています。
(どんどん執筆速度が遅くなっててすみません……)
////いつもの小話////
次の章までの間に合わせってことでまたにょろっと解説などします。
サクサク書けりゃあ苦労はないんですが、環境的要因もあって難しいですね。
なんて弱音はさておき。前回の章を絡めた次回の話を少しだけ書きます。
2章(朝潮の話)で出したチートアイテムである時の歯車ですが、
正直手に負えないなと思って3章(山城の話)ではあえてスルーする方向で話を進めてました。
が、4章(秋月の話)ではまた引っ張り出してきてあれやこれやしています。
原作に登場しないようなものをこれ以上掘り下げたところで……という抵抗の念があったのですが、
その一方で一度出してしまった以上無かったことにして進めるのも不自然だと考えたためです。
よって次回もこれにまつわる話が出てきます。
となると時間やら空間やらの概念的な話が出てくるため複雑な内容になりそうですが、
読み手の負担にならないよう説明がましい描写はなるべく抑えたいと思っています。
次回のタロットカードは教皇ですね。
法王とも呼ばれたり。ジョジョやペルソナではそっちの呼び名ですね。
正位置:慈悲・協調・包容・親切
逆位置:保守・躊躇・束縛・怠惰
倫理や道徳的な意味合いを持つカードらしいですね。
皇帝のカードが物質世界の王だとするなら、法王は精神世界での王とでも言うべきでしょうか。
物語の裏テーマにするには扱いづらいカードなので次の提督のキャラクター像になりそうかな?
仁徳32の教皇ってどうなんだって話ですが。
(今回の部ではパラメーターとかあんま意識してませんが)
とか書いといておいてアレなんですが。前の章までの話とか仕込みのネタがどうこうとかよりも、
春雨のキャラ的には甘々にイチャつく話の方がいいのかなあ……とか思ったりもします。
今んとこ微妙にそういう流れになりそうにないんですけど……19レスもあるしなんとかなるか。
冬イベお疲れ様でしたー。
ゲーム内の提督が勝利チョコを貰っていたり(足柄のバレンタインデーボイス)、
チョコのお返しをしたら感謝の気持ちを一生忘れないと言われていたり(朝潮のホワイトデーボイス)、
そんな様子を見て「ああ、去年も一昨年もこうやってSSを書いてたんだなあ……」などと感慨に浸ってしまいました。
つまりそれだけ私の執筆速度がノロマってことなんであんまり良いことではないのですが……まあ今年も懲りずに書いてます。
筆の速い人が同じことやったら1年で300レス分ぐらい余裕? なのかなあ。
前置きはさておき。えー、2月末または3月初頭と言っていましたが……正直厳しいです。
投下するための時間が確保出来なさそうでして。年度末って忙しいもんじゃないですか。
プレミアムなフライデーとか言ってられないじゃないですか。毎日が13日の金曜日ばりにサバイバルじゃないですか(?)
例によって言い訳なんですけども。すみません。
ええと……3月31日の23時59分59秒までにはなんとか投下できるように頑張ります。
期待に応えられるものを用意したいと思っているのでもう少々お待ちください……。
ここらでバックナンバーを貼っておきます。
一章(瑞鳳の話) >>681-700
二章(朝潮の話) >>721-738
三章(山城の話) >>754-776
四章(秋月の話) >>790-805
五章(春雨の話) お待ちを…
大昔に書いたやつはこれです。
>>16-331(電とかの話),>>360-665(足柄とかの話)
で、肝心の投下予定だったはずの五章なんですが……。
結論から書きますと……まだかかり、ます……すみません。
////ここからいつもの言い訳タイムです////
言い訳の前に、本当にすみません。これだけ待たせておいてなんたる体たらく……。
ええと、リアルが忙しかったっていうのがまずありまして……ただ、その話はしても意味がないので置いときます。
なんていうか……書けない、というよりは、書いても全く納得がいかないものしか出来上がらない状態でした。
このように伸び伸びになってしまったのも全て自分のせいであり、他の何かを理由にしても結局言い訳にしかなりません。
ただ、早く提供したいと思っていようが出来ないものは出来ないので、それを挽回しようと質を高めることに拘泥していました。
結果として……ここ数ヶ月間の創作活動は、書いては消してを繰り返す実りのないものでした。
そんなことを繰り返してばかりいると、どうにも気が滅入るというか、情熱も次第に薄れていくというか……。
で。まあそこからウジウジとした葛藤も色々したわけですが、それを文章化すると暗くて重い話になるのでやめます!
もうこの時点でけっこう辛気臭いですしね。んな作者の内面の話なんかどうでもいいっちゅうことで。
えーっと、気負うのはやめます。あれこれ頑張ろうとしても私のヘボスペックではどうにもならんと諦めました。
期待に応えよう応えようと自分なりに必死でしたが、やめます。……あ、書くことはやめません。
自分の脳内で膨れ上がったプレッシャーという名の被害妄想に勝てないので、もう好きなものを好き勝手書くことにします!
今までも結局そうでしたね。なんか偉そうに気取ったこと書いててもなんだかんだ最終的にはわりと手癖でゴリ押しですし。
そんなわけで……期待しないでお待ちください。読み手のことを顧みない身勝手な作品になるかもですが、楽しんでもらえたら幸いです。
楽しんでもらえなかったら……他の楽しいことを見つけてください。そんな感じでよろしくお願いします!
(エイプリル何某に合わせてスゲー出鱈目を書きましたが、まだかかりますマジすんませんって事とエターナらないって事だけは確かです)
保守感謝です、めっちゃありがたいです。あと春イベお疲れ様でした。
確かそろそろ自分で書き込まないと消えちゃうみたいなのがあったので思うので(うろ覚えですが)、セルフ保守。
2月~4月あたり私生活で色々あって、無茶が祟ったのか病院のお世話になったりしてました。
(鳩尾に鈍痛が走ったり下血起こしたりして焦ったんですが、胆石ではないようだったので一安心)
ひとまず治ったんで、進みは遅いですがこの期に及んで未だ懲りずに(?)書き続けています。
半年も何もなしってどういう了見だって話ですが、こちらとしても本当は桜が咲くシーズンには投下してるつもりだったんすよねえ……
なんでこんなことになってしまったのか。ま、ま、まあお金もらって書いてるわけじゃないんで勘弁してくださいと言い訳しておきます(開き直るな)。
えと、毎回こんなこと書いてるような気はしますが、待たせてる分気持ちとか情熱とかもろもろ込めて書いてはいます。
アテにならないですけど、7月頃にはいけるんじゃないかな~……って感じです。
現時点で相当待たせてるんでもうちょい早めたい気持ちはありますが、なかなか厳しいっすね~……。
お待たせしました。7月頃って言ってたのに7月中音沙汰なしかって話ですが、やっとこさ、どうにかこうにかという具合です……。
ほんと頭が上がらないですね。未だに愛想尽かさず(尽きたかもしれませんが)待ってもらってて申し訳なさと感謝しかないです。保守もありがとうございます。
早速……と言いたいところですが、今週は時間を取れそうにないので来週に投下しようと思います(結局8月になってるし……)。
8月5日(土)午後:投下
8月6日(日)21時:次の安価
というスケジュールでいこうと思います。
時間かかった分、まあ~……どうだろうなあ(なんで弱気なんだ)、万感の思いで書いたつもりです。頑張った、頑張ったと自分では思います。
作品と向き合った時間は間違いなく今までで一番長いです。ええと……とにかく、積もる話は投稿が終わってからにしましょうか(そんなに話すこともないですけど)。
ではまた来週……(´∀`)ノシ
外食したりウダウダやってたらこんな時間に……。
変なタイミングで寝落ちしてるかもですが投下いきます。
陽が沈んでも鳴り止まない歓声。この日は記念すべき歴史的な一日だった。
人類と艦娘は深海棲艦の脅威に打ち勝ち、ついに世界に平和を取り戻したのだ。
青年と少女は、執務室の窓から夜の帳に浮かぶ花火を眺めていた。
春雨「とうとう成し遂げたんですよね。誰もが諦めていたのに。こんな日が本当に訪れるなんて……そう驚いているのに。
それでも……司令官はずっとこうなる未来を思い描いていたんですよね。春雨も……司令官なら、司令官とならきっと出来ると思っていました」
紅いペンネント(鉢巻)が巻かれた白い水兵帽を被る、桃色の髪をした少女。
名は春雨という。かつてありふれた艦娘の一人に過ぎなかった彼女も、今やその名を知らぬ者はいない。
少女の隣に立つ銀縁眼鏡の青年は、うねった前髪の癖毛を掻きあげて小さく微笑む。
提督「ふっ、そうですね。忌憚なく言えば……揺るがない自信がありました。本来なら別の誰かが担う役目だったのでしょうが。
皆まごついていたものですから、小生が奪ってしまいました。他の方でも出来るようなことしかしていないつもりなのですが……」
春雨(他の方に蒔絵司令官と同等の働きを期待するのは無理があると思いますよ……)
青年の名前は蒔絵 現(マキエ ウツツ)。ここ横須賀鎮守府の元帥である。
妙計奇策を巡らせ数多の作戦を成功に導いた経歴を持ち、今回の熾烈極まる最終作戦に於いても最たる功労者だった。
人々からは神算鬼謀の名将と称えられ、艦娘たちからも他に代わりなどいない理想的な指導者として認められていた。
提督「なんにせよ……疲れました。少し本気を出してしまいましたから。ですので……」
身を屈めて春雨の胸元に顔を埋める青年改め蒔絵提督。スリスリと頭を動かして縋りつく。
提督「春雨に甘えるとします」
彼のこうしたプライベートな一面を知っているのは、公私共に最も彼に近い立場にある春雨だけだった。
春雨「え……またこれですか」
やんわりと拒否する素振りを見せながらも満更でもない表情の春雨。軍帽の上から提督の頭を慈しむように撫でている。
提督「クンクン……仄かにいい香りがします。香水ですかね。紅茶……そう、ジャスミンの茶葉に近い。
柑橘系の成分も混ざっているのでしょうか。かぐわしいですね……癖になる」
春雨「あの~……そんなに嗅がれると恥ずかしいですよぅ(でも、やっぱり司令官はなんでも気づいちゃうんですね。春雨のこと)」
提督「普段の春雨の汗のにおいも嫌いではありませんが……こういうのも悪くありません」
春雨「へっ、ヘンタイです! 日頃からそんなことを考えていたんですかっ」
胸元から提督の頭を無理矢理引き離す春雨。しかし全く動じない提督は春雨の両腕を押さえて窓際までそっと追い詰める。
眼鏡越しに映る春雨の真紅の瞳をまじまじと見つめて、吐息がかかりそうになるぐらい顔を近づけて囁く。
提督「もちろん。いつも春雨のことを考えていますよ。春雨の全てを肯定していますから。小生がここまで来れたのも春雨のお陰です。
……それだけ春雨は小生にとってかけがえのない、大きな存在なんです」
伏し目がちに頬を赤く染める春雨。生唾を飲み干して深呼吸すると、提督の目を見つめ返し、照れくさそうに笑みを浮かべる。
春雨「春雨も……。司令官のこと、……です。世界で一番……愛してます」
春雨を強く抱き締める提督。心臓の鼓動が皮膚越しに伝わってくるほどに短い距離。
春雨「司令官……すき、です。大好き」
お互いの肩の力が抜けて緊張が安らぎに変わっていく。溶けるように絡み合い、そうして時を過ごす。
何本もの花火が二人を色とりどりの明かりで照らしては消えていく。
提督「これまで……本当に長かった。本当に……っ、すみません。気が緩んでしまいました」
春雨を離すと眼鏡のつる(耳にかける部分)を左手で抑えながら俯き、右手の掌で目元を覆い隠す提督。
提督「男のくせに情けないですね。……人生でこんなにも報われたことはなかったもので、感極まってしまって」
春雨「情けないなんて、そんなことないですよ。涙が零れてしまうぐらいに春雨のことを想ってくれているんですよね。嬉しいです。
顔を上げて下さい。……春雨も、その。司令官のどんな表情も、どんな一面も愛していますから」
人々に“氷の視線”と評される提督の眼は、空に打ち上がる花火の熱に溶かされてしまったかのように潤んだ温かみを帯びていた。
その有様に、不意に震えがこみ上げてくるほど胸が疼いてしまい、今度は春雨の方から提督を抱擁する。
春雨「前からずっと……司令官のことが好きでした。でも……今が一番司令官を好きなんです。
今までの好きを飛び越えて、今が一番好き。きっと、これからももっと司令官のことを好きになっていくんだろうな……」
春雨「そうやって、好きって気持ちが大きくなり続けたら、終いにはどうにかなってしまいそうですね。なぁんて♪」
頬に手を這わせて涙の輪郭をなぞる春雨。提督は朗らかに微笑んで春雨を見つめた。
春雨「司令官……春雨がお傍にいます。これからもずっと」
視線を重ね、肌を重ね、唇を重ね、三十六度の熱を分かち合う二人。
空に浮かぶ大輪の花もいつの間にか咲き終わり、その煌めきの軌跡にも似た星屑が空を埋め尽くしていた。
提督「今度こそ……全てが終わったのだと願いたいですね。これ以上続いたのなら、擦り切れてしまうかもしれない。小生の精神も、春雨の記憶も……。
神でも仏でも、悪魔でもなんでもいい。次が来ないことを祈ります。……何も起こらない、平穏な明日が訪れることを」
カコン。露天風呂に設置された添水(そうず)の軽やかな音色が浴場中に響き渡る。
一般に「鹿威し(ししおどし)」と呼ばれることが多いこの装置は、呼び名の通り鹿や猪といった田畑を荒らす鳥獣を避けるために生まれたものだ。
後にその音が風流として楽しまれるようになり、日本庭園などの装飾として利用されるようになった。
春雨(ハッ! ……? 今の光景は一体……? 夢というには妙に鮮明な感覚で、でも、現実ではなくて……。幻覚? まさか)
横須賀の海を一望できる、鎮守府敷地内に建てられた大浴場。春雨は頭上に置いたタオルがずり落ちないようにその位置を調整する。
彼女の浸かる湯は地下の源泉からくみ上げた天然温泉で、塩化ナトリウムが含まれているため舐めるとやや塩辛い味がする。
筋肉痛や神経痛、冷え性などに効能がある(と、壁面に設置された看板には書かれている)。
??「春雨。貴方、少し逆上せたんじゃないの? さっきまで上の空だったわよ」
バスタオルに身をくるんだ、白金色に輝くストレートロングヘアの女性が春雨の隣にやってきた。
彼女の名はビスマルク。春雨と同じ第二艦隊のメンバーの一人であり、その旗艦だ。
春雨(あっ、ビスマルクさん。帽子がないから一瞬誰かと思っちゃった……)
春雨「逆上せてた……そうかもしれません。そろそろ上がりましょうか……」
カコーン。カコン。
竹製の筒に水が流れ込み、満杯まで溜まると重みで筒(の水の流入部となる側)が倒れて内部の水が零れる。空になると再び元の状態に戻り、同様の動作を繰り返す。
水が流れ出て軽くなった竹筒が元に戻る過程で、竹筒の底部が(鹿威しから流れ出る水を受け止めるための)台を軽く叩く。
この時にコーンと弾むような音が鳴り渡るのである。これが鹿威しの原理だ。
春雨「?」
カコン。カコン。コン。コン。――気のせいではない。音の鳴る感覚が不自然に短い。
どうやら露天風呂の方からではなく、高い壁で仕切られた隣の浴場、つまり男湯から音がしているらしい。
しばらくして爆竹が鳴るような破裂音が浴場内に響く。
??「フッ、どうですか。……思い知ったでしょう? 『スーパー鹿おどしマシーン 鹿おどし君2号』の力を」
男声の、自慢げな笑い声が聞こえてくる。
??「変形して空を飛ぶのは卑怯? これも勝つための戦術ですよ。ルール違反ではないでしょう?」
ビス「また何かバカなことをやってるみたいね……マキエ!! 提督ともあろう者がみっともないわ、静かになさい!」
提督「やや……その声はビスマルク! 仕方ありません。再戦の機会を与えてあげましょう。また日と場を改めて鹿四駆(ししよんく)の王者を決めようでは……」
ビス「アトミラールッ! 後で話があるわ!!」
提督「ややっ! うぅ……この場は潔く黙っているとしましょう」
立ち上がって叫び、“マキエ”を黙らせると、深く溜息をついて再び湯船に浸かるビスマルク。
ビス「やれやれ……呆れたわ。あれでよくこの横須賀鎮守府の大将になれたものね」
春雨「あはは……(さっきの幻覚で見た蒔絵司令官は、現実に存在する蒔絵司令官とでは人格も雰囲気もどこか違うんですよね……。
私の振る舞いもなんだか私らしくないというか……そもそも、出会って間もない蒔絵司令官に対してそんな恋愛的な感情を抱きようがありませんし)」
春雨(というか……。アリかナシかで言えば……あの人は、うーん。クセが強すぎるというか……司令官としてはとても優秀な方なんですけどね)
ビス「そういえば……この大浴場を作ったのもマキエなのよね。春雨は知っていたかしら?」
春雨「えっ、そうなんですか。初耳です」
ビス「着任した時に案内されたとは思うけど、艦娘の損傷を修復するためのドックは浴場とは別に鎮守府内にあるでしょう?
湯治なんて言葉も確かにあるけれど、私たち艦娘にとってはお湯よりも修復剤の方がよっぽど効き目が強いじゃない」
春雨「言われてみれば……。だから有料なんですかね」
ビス「ええ。娯楽施設のようなものだし、国費でこんなものを建てるわけにはいかないでしょう。
建設時は反対の声も多かったようだけど、最終的には猫も杓子も味方につけて実現しちゃうんだから驚きよね。
結果論で言えば、今はみんな満足しているみたいだし……本当に食えない人よ」
春雨「(ビスマルクさんの口から“猫も杓子も”なんてフレーズが出るのはちょっと面白いですね)……そういえば。
ここって埋立地ですよね。そんなところに温泉作って大丈夫なんでしょうか……?」
ビス「鎮守府が海没しかけたわ」
春雨(ものすごくダメじゃないですか)
ビス「ま、それも計算づくだったそうね。もちろん首が飛びかけるほどの大目玉を食らったそうだけれど。
各施設に大損害を及ぼしたけれど、そうした被害を逆手に取ってスクラップアンドビルドを推し進め、施設の増補や改修を推し進めたわ。
これが功を奏して、旧式の機材や設備で不便だった鎮守府が生まれ変わり、最新鋭の整備が行き届いた最上級の堅牢さを誇る鎮守府となったの」
ビス「破天荒な行いが目立つわりには、最終的にいつも美味しいところを頂いていく……さっきも言ったけれど食えない御仁よ。
指輪を貰ってなお、私は彼の器を測りあぐねているわ。時代に名を刻む傑物か……はたまたとんでもないペテン師のどちらかね」
目を細めて笑うビスマルクを不思議そうな顔で見つめる春雨。
春雨(指輪……練度が最大まで高まった艦娘が、限界を超えた力を手にするための道具。
これを受け渡す儀式を“ケッコンカッコカリ”、と呼ぶ……んですけれど。実際どうなんでしょうね、この呼び名は。
私にも、いつか素敵な旦那様と結婚したいという願望はありますが……。それは戦いとは無縁の、愛情による結びつきでありたいなと思いますね)
薪のくべられた暖炉は勢いよく燃え盛り、パチパチと音を立てている。暖炉の上にはZ旗と日本刀が飾られていた。
窓の外は大荒れの雪模様で、到底出撃などできるような天候ではない。こんな日に限って書類仕事も片付いてしまっていて会議もない。
多忙な蒔絵提督だが、このように年に数回は何もすることのない一日が訪れることがある。そんな日に彼がすることは決まって一つだった。
衣笠「時たま提督はこんな風に執務室でバーを開いているのよ。同じ艦隊のよしみで教えてあげようと思ってね」
春雨「執務室がこんなに様変わりするなんて……随分と大胆に模様替えしましたね。なんだか本格的です」
昨日まで置かれていた執務机はいつの間にか片づけられ、代わりにカウンターバーが設置されていた。カウンター前の椅子に座る春雨と衣笠。
提督「明日にはまた元の執務室に戻っていますからご安心を。春雨は確かここに来る前は柱島泊地に在籍していたと聞いています。
その時の出来事で質問があるのですが……その前に、注文を聞きましょうかね」
衣笠「衣笠さんはこないだのアレがいいな! ハンディー・カム……だっけ?」
提督「言葉の響きはほぼ正解なんですが……恐らくそれはシャンディ・ガフでしょう。承知仕りました」
春雨「あの……私お酒とか全然飲めなくて……」
衣笠「あらら。ゴメンゴメン、誘っちゃって悪かったわね。ノンアルコールのカクテル……なんてないか。オレンジジュースを一つ」
提督「いえ、用意できますよ。もし良ければどうです? あ、お金は取らないので心配しなくて良いですよ。あくまで退屈凌ぎですから」
春雨「じゃあそれでお願いします。けど……司令官にこんな一面があったなんて驚きました」
シェイカー(カクテルを作るための器材。水筒に似た形状をしている)に液体と氷を入れ、それをシャカシャカとテンポよく振っている提督。
衣笠「そういえば私も気になっていたわ。エリート街道まっしぐらのキャリアを歩んできた蒔絵提督がどこでこんな特技を身につけたのか……興味深いわね」
提督「エリート、ですか……はは。傍から見ればそうかもしれませんね、なんといっても天才ですから。
ただ……そんな天才にも悩みを抱えていた時期がありましてね。自分の才能が本当に自分のものなのか疑わしくなったのです」
春雨「……?」
提督「本当は軍人ではなく絵描きになりたかったんです。それで、何をトチ狂ったか軍学校を卒業した後に親の反対を押し切って都会へ飛び出した。
石の上にも三年なんて言葉がありますが、二年と持ちませんでしたよ。成績優秀でもしょせんはボンボン育ち……金銭感覚など皆無、貧乏まっしぐらですよ」
提督「相当な社会不適合者だったようで、バイトをやってもまるで役立たず。でくの坊扱いされて初日でクビになることがほとんどでした。
唯一バーテンダーだけはまともにこなせた業種でしてね……プロのライセンスこそ持っていませんが自信があるんです」
春雨(ハンドスピナーに熱中してその日の仕事が手につかなくなる子供っぽい一面があるかと思えば、会議や作戦指揮では人が変わったように理知的で雄弁になる。
そして今はそのどちらとも違う表情を見せている。ビスマルクさんが言っていたのもなんだか頷けるような気がする……掴みどころのない、不思議な人ですね)
提督「当時は辛くても後から振り返ればこうして笑い話の一つになるんだから人生面白いですよね。さて、どうぞ」
ゴクゴクと喉を鳴らしてジョッキに注がれた液体を飲む衣笠。その横で恐る恐るカクテルグラスに口づける春雨。
衣笠「んふふ、美味しい。衣笠さんこれ気に入っちゃったな~、普通にビールを飲むよりも好きかも。青葉にも教えてあげたいな」
提督「ジンジャーエールとビールを1:1で割るだけのお手軽レシピなので、自分で作ってみるのもいいでしょう」
春雨「……! これ、甘くて美味しいです」
提督「シンデレラという名前で、オレンジジュース・パイナップルジュース・レモンジュースをそれぞれ1:1でシェイクしたカクテルです。
ああ、そういえばさっきしようとしていた質問ですが……。柱島泊地に妙な歯車を持った人はいませんでしたか? こういう物なんですけど」
ポケットから赤色の歯車を取り出すと、穴に手を突っ込んで人差し指でクルクルと回してみせる。
春雨「いえ……特には。その歯車がどうかしたんですか? 見たところ赤いだけの何の変哲もない歯車のようですが」
提督「そうでしたか。窓位くんから柱島は面白い鎮守府だと伺っていたので、ひょっとしたらと思っていたのですが……やはり無関係でしたか。
実はこれ、アンティキティラ島の機械も裸足で逃げ出すレベルのオーパーツなのですが」
衣笠「? なになに? その含みのある言い方は」
提督「調べたところ、どうにも奇怪な力を持つ道具なようでして。エキゾチックマターの結晶体……とでも言うべきでしょう」
衣笠「エキゾチックバターの結晶? 何それ……って、え?」
衣笠と春雨の前に何の前触れもなく突然じゃがバター(熱したジャガイモにバターを添えた料理)が用意されていた。
提督「かいつまんで言うなれば、現代科学では未解明のエネルギーを持っているということです。詳しいことは謎ですね。
ですが、この力を使えば、衣笠の“バター”という単語を聞いた瞬間にこうして作りたてのじゃがバターを用意することが出来てしまうのです」
提督「この歯車には時間の速さを制御する能力があります。それも任意に、使用者の望むままに時間を支配できてしまうようで。
その力を使った、仕掛けなしのタネあり手品になりますかね。まあとりあえずお食べ」
衣笠「ほぇ~……美味しそう! いただきまーす」
春雨(だいぶ突拍子もないことを言っている気がしますが……衣笠さんがサラッと聞き流してる様子を見るに、あまりこの鎮守府では驚くようなことじゃないのでしょうか?
柱島も結構独特の雰囲気でしたけど、ここもここでなんだか変わってますね……。それぞれの司令官のキャラクターが鎮守府内の雰囲気にも影響してるんでしょうか)
提督「そうそう、二人のうちどちらか一方で構わないのですが……来週末にちょっと鎮守府の外に出る用事がありまして。
衣笠は別艦隊との合同演習がありましたし……春雨、同行お願いできますか? この国で一番有名なイタリアンレストランに連れて行ってあげましょう」
冬晴れの日の昼過ぎ。春雨は提督と共にファミリーレストランに来ていた。
卓上には(店側がミラノ風と自称する)ターメリックライスのドリアや茸の乗ったピザ、ペペロンチーノが並んでいた。
春雨(ここが有名なイタリアンレストラン……! って、ファミレスじゃないですか!)
イタリア料理を提供する、低価格メニューが特長のファミリーレストラン。二人が座る座席から近い壁にはルネッサンス期に描かれた絵画のレプリカが飾られている。
提督「だいぶこちらでの生活も慣れてきた様子ですね。ビスマルクや衣笠が愚痴一つ言わず真面目にやっていると褒めていましたよ」
春雨「いえ、褒められるようなことはしていませんよ……戦闘は苦手ですし」
提督「そう謙遜することもありませんよ。輸送作戦においては敵を撃滅するよりも生き残ることの方が重要ですからね。
人それぞれ得意不得意はありますし、そういった個々の能力を加味して配置を行うのが我々提督の仕事です。殴り合いはビス子にでも任せておけばよいのです」
春雨「ビス子って……怒られますよ。あ、でも、ケッコンなされてたんでしたっけ。じゃあいいのかな……。
司令官はどうしてビスマルクさんとケッコンしたんですか? 馴れ初めを聞いてみたいです」
提督「いや、ビス子って本人の前で言うと普通に怒られますよ。馴れ初め、って~……ケッコンと言ってもカッコカリですからね。
というか……名前が名前なだけで要は能力上昇アイテムですし。個人的な感情を込めて渡したものではありませんし、向こうもそのつもりで受け取っていますよ」
春雨「えぇ!? そんな……(柱島の乙川司令官と瑞鳳さんはあれだけ熱々だったのに……)」
フォークで麺を絡めながら目を丸くしている春雨。提督はドリアを口に運んだものの、まだ熱かったのか一口目でスプーンを置いてピザを切り分ける。
提督「そんなに露骨にガッカリした反応することありますかね。彼女の働きは素晴らしい、更なる活躍を期待したい。それだけの理由ですよ。
小生に見事と言わしめるほどの戦果を上げれば、春雨にだってそのチャンスがありますよ。まあ、その前にもっと練度を高める必要があるでしょうが……」
春雨「随分ビジネスライクな感じなんですね……」
提督「はい。恋愛的感情と仕事での評価は切って分けるべきでしょう。指輪を渡したからといって婚約者の真似事なんてしたりはしませんよ。
うちの鎮守府は自由恋愛ですからね。彼女も彼女で、良い男性を見つけたらその方と付き合うのが良いと思います」
春雨「じゃあ……司令官は艦娘とのお付き合いは考えてないんですね。結構他の鎮守府だと多いみたいですけど」
提督「艦娘~……は、そうですねえ。上司と部下という関係を抜きにしてもちょっと無いかなあって感じがしますね。
皆良い子なんですけどね。なんというか……良い子過ぎるんですよ。であるがゆえに、手を出す気にはあまりなれないんですよね」
提督「うーん、好みを言うなれば……人妻とか? 恋愛というのはインモラルな関係ぐらいが丁度いい塩梅だと思うんです。どうせならスリルを味わいたいじゃないですか」
春雨(うわ、最っ低ですね……。人として見損ないました……)
提督「あ! そんな軽蔑の眼差しを向けないでくださいってば。実際に手を出したわけじゃないんですから。あくまで嗜好の話ですよ。
しかし、純真無垢な駆逐艦の子の前でこんな話をするのは失敗の巻でしたね……話題を変えましょう」
提督「こうして執務をサボってまで外に出ているのは、もちろん理由がありましてね。お、そろそろでしょうか……」
レストラン前の駐車場に一台のリムジンが停まる。店のグレードと不釣り合いな来客に店内が少しざわつく。
提督はお構いなしの様子でピザを平らげると、ドリアを食べ進めている。
春雨(私一切れもピザ食べてないのに……)
店内に入ってくるなり二人の隣に座ってきたのは、芯玄元帥と朝潮だった。
提督「ご足労頂きどうも。食事はお先に頂いております」
芯玄「(何もこんなところに呼び出す必要はねえだろうに……)待たせてすまなかったな。オレは……って自己紹介する必要はないか。
ご存知、呉の芯玄とその秘書艦朝潮だ。んで……話を聞きに来たぜ。アンタの考えはどうだ」
春雨(!? 呉の元帥と昼食? そんな重要な話し合いをするつもりだったんですか!? よりにもよってここで?)
提督「春雨に説明しましょう。彼の記憶には、事実との矛盾があるんですよ。小生にとって彼と会うのは二回目なのですが彼にとってはそうではないようです」
芯玄「それだけじゃない。アンタはオレの着任前にラバウル基地で指揮を執っていたはずだ。数回、直接会ったりもしている。
近海の情報を記したノートなんかも渡されてるしな。……というのが、“オレと朝潮の記憶”」
提督「ところがどっこい、小生が横須賀に着任する前は、舞鶴の鎮守府に在籍していました。これは記憶の話ではなく事実です。
……ですが、二人揃ってまことしやかに事実と食い違う話をするものですから、これは妙だと思いましてね」
春雨「あるはずのない記憶……、ですか」
提督「で……これは小生の見解ですが。どちらか一方が間違っているのではなく(というか、小生の言っていることは紛れもない真実なのですが)、
二つの事実が存在しているのではないかと考えています。というのもですね……」
提督「お二方がご結婚なされた日の前後に差出人不明の荷物が届きましてね……それがまあ不思議なもので。見かけの上では歯車の形をした赤色の鉄器なんですが~」
歯車という単語が出た瞬間、芯玄元帥と朝潮はピクリと反応を示す。
提督「調べてみたところ、どうにも隕石に似た性質をしているのです。この地球上では生成されたとは思えない奇妙な成分が含まれていましてね。
まあ物質としての特徴はそんなもので大したことはなかったんですが……」
芯玄「時間を加速させる能力がある……だろう?」
提督「おや、ご存知でしたか。加速というよりは時間の流れを制御するという方が正しいのですが」
春雨(大事な話をしているのは理解できますが、どうにも蚊帳の外って感じが……。なんで春雨はここにいるんでしょう……)
提督「話を戻しますが……どうにもその歯車というのはこの時代に作られたとは考えられないのですよ。
そもそも本当にこの地球で生まれたものなのかさえ疑わしい。別の世界から持ち込まれた、と考える方が自然なぐらいのマジックアイテムでして」
提督「そう! 失礼ながら……貴方がたお二人も、何かの拍子で元々いた世界からこの世界にやってきてしまったのではないかと推測しています。
確たる証拠は提示出来ませんが……芯玄元帥、特に貴方からは妙な違和感を覚えるのですよ。貴方の経歴を少し調べさせてもらいましたが……」
提督「貴方が提督になった後のことはある程度調べがついたのですが……それより前の、提督になる前のことは全く情報が得られませんでした。
その不自然さに、急ごしらえの後付けで経歴が用意されたような違和感があったのです。とはいえ論拠になるほどのことではないですが」
芯玄「多分アンタの読みで正しい。信じられんだろうが、オレと朝潮はかつて異世界を旅する羽目になったんだ。歯車のことを知ったのもそこでの出来事がきっかけだ。
紆余曲折あってどうにか元の世界に戻ってこれたつもりでいたんだが……そうじゃねえ可能性もある。元の世界によく似た世界……並行世界ってやつかもな」
朝潮(元の世界には異世界へと通じるブルーホールがあって、この世界にはそれがない……だから五月雨や陽炎にブルーホールにまつわる噂のことを聞いても知らなかった。
確かに、戻ってきてからのこの世界で起こる出来事は、私たち二人にとって都合が良すぎると感じることはありました。司令官は元帥に昇進し、私は司令官と結ばれ……)
提督「なんと……なるほど、興味深いですね。その時の話を詳しく聞かせてもらえないでしょうか」
・・・・
しばらくの間会話が続いていた。春雨は自分に関係ないと思いながらも、時折相槌を打ちながら話を聞いていた。
春雨(ご飯を食べた後って眠くなっちゃいますよね……なんだか欠伸が出そうです)
掌で口元を覆って小さく口を開ける春雨。眠気からか瞼が降りてきてしまう。
春雨(はっ……いけない。場所が場所とはいえ、司令官同士の会合で居眠りなんてしちゃだめですよね)
ハッとして瞼を開く。いつの間にか会話の声は途絶えていた。というより、三者の動きが止まっていた。目を開けたまま何秒も静止している。
春雨は奇妙に思い店内を見回す。椅子から立ち上がる姿勢のままの客、トレーを持ったまま棒立ちする店員。みな凍りついたようにその場から動こうとしない。
春雨「時間が、止まっている……? そんなことって……」
それは、普段なら気にも留めないような小さな足音だった。
だがそれが無音の世界で唯一の音となると、注意を払わずにはいられない。
足音の主は店の入口方面から近づいてきているらしい。
??「おや……まさかこんな所に来ていたなんて。驚きましたよ」
春雨「蒔絵司令官が……二人……?」
こちらに向かって歩いてくる男性は、春雨と向かい合うようにして座っている蒔絵提督の姿に瓜二つだった。
提督?「ええ、春雨に逢いに来たんです。ふむ……この世界の自分を見るのは初めてですね。まあ次に会うことはないでしょうが」
春雨の知る蒔絵提督のものと同じ声質であるにも関わらず、どこか穏やかで感情の籠った声。
春雨「(一体何がどうなって……?)貴方は何者なんですか?」
提督?「今はまだ不審に思われても仕方がありません。小生は此処とは異なる世界の蒔絵現……自己紹介するならば、それが相応しいでしょうか。
そして春雨も本来この世界の住人ではないのです。“この世界の”春雨は、海の底で喪われてしまったのですから」
春雨(私が、この世界に生まれていない? 本来の春雨は轟沈してしまっている?)
並行世界の蒔絵と名乗る男は、いつの間にか左手に青色の歯車を持っていた。春雨に近づくと右手を差し伸べる。
提督?「今……春雨が元々いた世界とこちらの世界とで、正史が二つ存在している状態になっています。そして……世界はどちらか一方しか残らない。
今から春雨をもう一方の世界に連れて行きます。かつての記憶も取り戻せることでしょう。その上で選んでもらいます。どちらを残すかは貴方に委ねます」
春雨「え……どういうことですか……」
男は左手で青色の歯車をポケットにしまい、水色の歯車を取り出す。混乱しながらも促されるまま男の手を取る春雨。
歯車が光り出した刹那、彼の左手首めがけてフォークが浅く突き刺さる。水色の歯車は男の手から離れて宙に舞い、床に落ちる。
提督「喧嘩はからっきしですが……ダーツは得意でしてね!」
ソファから飛び上がって春雨の手を男から無理矢理引き離すと、地面に落ちた歯車を拾う“止まっていたはずの”蒔絵提督。二人は間もなくしてその場から消失してしまう。
・・・・
提督「ふ~……自分と同じ姿をした人間に会うというのはなんだか気味が悪い感じがしますね。で、ここはどこでしょうかね」
辺り一面に雪原が広がっている。粉雪がはらはらと舞い降りる、低気圧の昼下がり。
春雨「さぁ……ぜんぜん検討がつきません。並行世界? の蒔絵司令官の話を信じるなら、私が元々いた世界……らしいですけど。
ところで、どうして時間が止まっていたのに動けたんですか? 赤い歯車の力を使ったんでしょうか」
提督「ええ。あまり考えたくはないですが……芯玄元帥と歯車を巡って争いになる可能性も考えていました。
だから歯車の能力で、自分自身に“いかなる干渉も受けず正常に時間が流れ続ける”ようにしていたのです。芯玄元帥や朝潮さんと一緒に止まっているように見えたのは演技でした」
提督「場所を人目の多いファミレスに指定したり、春雨に同行を頼んだのもそういう理由でしたが……まさか異世界の自分と対峙することになるとは思いませんでした。
『世界はどちらか一方しか残らない』――彼の言葉から察するに、小生は近いうちに彼に始末されるのでしょう。まあ、そう易々とやられるつもりもありませんがね」
春雨(自分と同じ姿をしている相手なのに……。今からでも仲良くは出来ないんでしょうか)
提督「お、良い所に人が。そこの少年少女諸君! ちょっと良いかな?」子供の群れに向かって提督が手を振ると、それに気づいた子供たちが駆け寄ってくる
少女A「お姉ちゃんと……メガネのおじさん? どうしたの?」
提督「(おじ……まあいいでしょう)ここからどこへ向かえば街へ行けるか教えてくれませんか? 道に迷ってしまいまして」
少年A「一緒に雪合戦で遊んでくれるならいいよ。どう? お姉ちゃん。と……おじさんもやる?」
提督「いや、おじさんは見ているだけにしましょう。春雨、遊んであげてくれますか?」
春雨「(そんなことしている場合じゃないはずなんですけど……。でも、キラキラした目で見つめられると断りづらい……)わ、分かりました」
雪玉をぶつけ合う子供たちの様子を顎に手を当てながら見守る提督。子供たちは雪まみれになって全力で楽しんでいる様子だったが、春雨は終始困り顔でいた。
また、春雨の着るピンクのカーディガンにはせいぜい降り積もる粉雪が少し付着している程度で、全く雪をぶつけられた形跡が見られなかった。
春雨「ひゃん! ええっ!? 今のどこから……」
春雨の首筋に突然襲い掛かる冷気。服の内側に入り込む、より相手に寒さを感じさせるよう計算された角度からの一撃であった。
艦娘の動体視力と察知能力の高さであれば子供が投げる雪玉など当たりようもない。一体誰がどこから……? 視界の外からの攻撃に驚く春雨。
提督「春雨、一つ提案があります。これでは見ていて何も面白くありません。ですから……勝ち負けのある競技にしましょう。
これは横須賀の艦娘たちと実際に雪合戦をやる際に行うルールなのですが……少し改変を加えまして」
遠方から春雨に向けられる声。いつの間にか雪面に線が引かれていて、コートとなる長方形のフィールドが用意されていた。
両陣に玉を避ける防壁となる雪山(これをシェルターと呼ぶ)が二つ、センターライン上にもシェルターが一基設置されている。
センターラインから最も離れた位置にあるシェルターの脇には太い木の枝が刺さっている。
提督「今回は旗が用意できないので、あの枝をフラッグとみなしましょう。敵陣に配置されたフラッグを奪い取るか、相手チーム全員に雪玉を当てれば勝利。
雪玉を当てられた選手は失格となり退場……これが基本ルールです。ドッチボールとビーチフラッグを混ぜたようなものと思ってもらえればいいでしょうか」
提督「本当は他にも色々あるんですが……春雨個人の戦力が強大すぎるので、今回はシンプルに春雨対子供たち7人での勝負とします。
それに伴い、春雨は7回雪玉を当てられるかフラッグを取られたら敗北という条件に設定しましょう。あ、小生は子供チームの監督をしますのでよろしく」
※補足(日本雪合戦連盟で定められた国際ルールより)
3セット勝負で2セット先取したチームが勝利(1セットにつき3分の制限時間あり)・
1セットに使用できる雪玉の数は予め用意された90個まで(その場で雪を丸めて相手にぶつけるのは不可)
などのルールが競技における雪合戦には存在しているが、今回は変則的な非公式戦のためそういったルールは設けられていない。
・・・・
ラーメンを啜る妖精。たまたま提督の着ている外套のポケットに潜り込んでいた彼女(?)が審判となり、試合は始まった。
春雨(7回まで当たっても平気なら……多少の被弾は覚悟の上で敵サイドに突撃すればいいのでは?)
第二シェルター(後方のシェルター)から雪玉片手に飛び出し、颯爽とセンターシェルター(コート中央に設置されたシェルター)背面まで走り抜ける春雨。
春雨「このまま一気に距離を詰め……なっ! いけない……えいっ!」
春雨の動きと同時に、相手サイドの第一シェルター(前方のシェルター)に隠れていた子供がセンターシェルターを二分するように駆け出してくる。
雪玉を当てて片方の子供を退けたものの、もう一方の子供には回避されてしまう。自陣(春雨の方)の第一シェルターを盾にして雪から身を守っている。
春雨(このままだとフラッグを取られてしまう……まず私の後ろにいるあの子から先に処理しないと……)
センターシェルター上での戦線を放棄し、後方の子供を討ち取ろうと自陣の第一シェルター背面へ回り込もうとする春雨。
またしても春雨の移動に合わせてシェルターに隠れていた子供は動き出し、フラッグへ向かっていく。
春雨「させませんッ! てやっ!」
フラッグへ走る子供に雪玉を命中させる春雨。ほっと息を撫で下ろすが安堵もつかの間、提督の次の一手が襲いかかる。
提督「頃合いでしょう、今です」 手を正面に掲げ、宣誓するように指示する
提督の合図とともにセンターラインを超えて四人の子供たちが突き進んでくる。春雨はこれに応戦して雪玉を当てて二人撃墜したものの、多勢に無勢。
総攻撃によって五発の雪玉を被弾してしまった。これ以上の被弾は危険と判断し、自陣の第二シェルター背面にまで引き下がる。
フラッグを狙いに来た子供を迎撃して返り討ちにするという戦法に切り替えたためだ。じっとフラッグとその周囲を見張る春雨。
春雨(敵は残り三人。あと二回雪玉に当たれば負けとはいえ、ここなら被弾の心配はありません……確固撃破して決着をつけます)
しばらく膠着状態が続いていた戦場だったが、相手サイドの第一シェルター背面に隠れていた一人の子供が姿を現した。
子供は春雨のいるシェルター正面に疾走するが、どういうわけかフラッグのある側と逆方向に近寄ってくる。
春雨(あの子、一体何を……? っ、ここからではシェルターがかえって邪魔になって当てられません……!)
壁越しの子供を仕留めるべく、フラッグ側から身を乗り出して雪玉を当てる春雨。
しかし、春雨もまたこの至近距離では身をかわすことが出来ず、相手の放った雪玉を一発食らってしまい相打ちとなる。
間髪入れずに春雨側の第一シェルターに潜伏していた二人の子供が駆け寄ってくる。一方は今の子供と同じようにフラッグの逆側へ、もう一方の子供はフラッグ側へ。
春雨「挟み撃ちですか、いいでしょう!(意識を集中させれば、逆側の子供の攻撃はかわせるはず。フラッグ側の子供から処理すれば勝つ……!)」
春雨はフラッグ側に走り込んできた子供がフラッグを狙い、逆側の子供はそこに意識を向けた春雨を攻撃しようとしているのだろうと考えた。
しかし結果は予想とは異なった。フラッグ傍まで寄ってきた子供の投げた玉をスレスレで避ける。敵の先制攻撃に動揺しつつも、フラッグ寄りの子供に雪玉を当て反撃。
続けざまに逆側の子供が取った行動は、春雨の背中に雪玉を当てることではなく……。
春雨「(!! 狙いは背後からの奇襲ではなく、フラッグの方……!)……」
春雨の足元からヘッドスライディングしてフラッグを掴もうとする子供。フラッグに触れる寸前、春雨の放った雪玉が子供の手に当たる。
子供たちと別れ、最寄りのホテルに泊まった提督と春雨。夜になると雪は溶けて雨に変わっていた。
雪合戦のせいでぐしょ濡れになってしまった春雨はバスルームでシャワーを浴びている。
提督(いや~……昼間はいいものを見せてもらいましたねぇ、思いの外白熱した試合になって満足です。負けるつもりはなかったんですが……流石は艦娘。
本気を出した時の瞬発力は人間のそれとは比べ物にはならないほど高い、ということですか)
ソファに寝そべりながら本を読む提督。シャワーの音が止むと、しばらくして寝巻姿の春雨がバスルームから出てくる。
提督「髪を下ろしているせいでしょうか。少し大人びた雰囲気がしますね」また本へと視線を戻す
春雨「……司令官は、こんな状況でも全然平気なんですね」
提督「はい、思い悩んでいても仕方ないでしょう。物事はポジティブに考えるのが吉です。異世界への旅なんてそうそう出来るものではありませんから」
能天気な提督の返しに、うんざりしたように首を横に振って深く溜息を吐く春雨。
春雨「司令官は自分勝手です。わけも分からないまま付き合わされて、巻き込まれて……。春雨……なんだか、ちょっと疲れちゃいました」
相当不満が溜まっていたのか、春雨らしからぬストレートな心情の吐露に慌てる提督。ソファから立ち上がると身振りを交えて、自らの見解を早口で伝える。
提督「気に障ったのならすみません。ええと……並行世界の小生から奪った水色の歯車で、元の世界に戻ることは出来るようです。
昼の間に色々実験して分かったことで、雪合戦のコート設営も歯車の能力を試したものだったんです。というわけで、とにかく帰るための算段は立っています。
ただ、向こうの世界の蒔絵現は春雨にこの世界を見せたがっていましたから、元の世界に戻るのはその理由を知ってからでもいいと考えています」
春雨「そういうことじゃないんです。理屈の話なんて、今はどうでもよくて……」
そこまで言いかけて口をつぐむ春雨。提督は沈黙を読み解くべく思考する。
提督(巻き込まれた春雨の立場からすれば言い分はもっともです。しかし、彼女が不満を口にすることなんて滅多にないはずなんですよね……。
そこまで嫌われるようなことしましたっけ。思い当たる節が……)
想起する。ファミレスに連れてきた時のがっかりとした表情を。人妻が好みだと答えた時、この上ない軽蔑の視線を向けられたことを。
芯玄元帥との会話中に終始退屈そうにしていたことを。雪合戦で寄ってたかって雪玉をぶつけられていたためか半泣きになっていたことを。
提督(ありすぎますね……今日一日でこれだけ不興を買っていたとなると、それ以前の恨みも積もり積もって……というわけですか)
提督「春雨が小生のことを嫌いになっても、それは仕方ないと思います。気づかぬうちに春雨を傷つけていたことは謝ります。
元の世界に帰りたいというのであれば、春雨だけ元の世界に戻してあげましょう。小生の顔も見たくないというのなら、別艦隊に転属するよう都合しましょう」
春雨「そんなつもりじゃ……そこまでは言ってないです」
提督「春雨に不満があるというのなら、その意に沿うのもまた上官の役目ですから。よりストレスのない環境に……」
春雨「司令官はどうしてすぐに1か0かで割り切ろうとするんですか。そりゃ……不満は、正直言ってありますよ。
司令官はいつも自分の理屈で動いていて、何も説明してくれなくて、おまけに倫理観もちょっと欠けてるところがありますけど……」
春雨「でも、だからって、顔も見たくないなんて言ってないじゃないですか。好きとか嫌いとかの話はしていないんです。
勝手に決めつけないでください……私の言葉を聞いて欲しかっただけです」
提督「そうでしたか。……」
提督は返すべき言葉が見つからず、それ以上は何も答えることが出来なかった。
・・・・
夕食を済ませた後、提督もシャワーを浴びてパジャマに着替える。その間二人は会話らしい会話をせず、やり取りは一言二言交わす程度の淡白なものだった。
提督が照明のスイッチを切ると、二人はそれぞれのベッドに寝転んだ。並んで置かれた二人のベッドの間には窓があり、雪明かりの仄かな光が差し込んでいる。
提督「今から話すのは、独り言です。眠れないから喋っているだけなので軽く聞き流してください。迷惑だったら黙りますから、言ってください」
春雨から背を向けるようにして布団に包まっている提督。
提督「……本当は、小生は提督にはなりたくなかったんです。前も話したように、絵描きを志していて。
百年後の未来に残るような、人の心を揺さぶる作品を残したかった。今になってみれば青臭い夢です」
提督「結局のところ、挫折して絵筆を折ってしまいましたがね。四角四面の、お手本通りの空虚な作品にしかならなくて……。
貧しくて続けられなかったのもありますが、それ以上に、無価値な自分の作品と向き合うのが辛くて耐えられませんでした」
提督「それでも後悔はしていないんです。挫折して絵筆を折りはしました。さりとて……キャンバスを用意することはできる。
人と人とが紡ぐ色とりどりの輝きをこの目で見ていたい。それが今の小生の望みなんです」
雪溶けの雨が降り止んだのか、提督の言葉が止むと穏やかな夜の静謐で満ちる。窓の外では俄かに冬空の星が輝いていた。
提督「……提督という立場は、人のことがよく見えるんです。人が何に悲しみ、何に怒り、何に喜ぶか。
そしてそうした感情をどのように表現するか。小生の立場からはそれがよく見えるのです」
提督「人の数だけ感情があり、人の数だけ思考があり、人の数だけ表現があるのだと、常々思い知らされます。今もそう。
小生一人で生きていては、見ることの出来ない視点を与えてくれる。それが小生にとっての学びであり、生きる糧でもあるんです」
提督「春雨が正直に思っていることを伝えてくれたのは、参考になりました。春雨の言葉を解釈して、自分なりに思ったことを口にしてみたんですが……。
なんというか……うまく伝えられたのかは分かりません。理屈じゃない話は不慣れで難しくて……不器用ですみません」
提督「って……もう寝てますか。まあいいでしょう、独り言ですし……」
春雨「起きてますよ。……ねえ、司令官」
春雨「今から話すのは、独り言です。だから、寝たふりをして聞いていてください」
ふふ、と悪戯っぽく笑って、提督の方を向くように寝返りを打つ春雨。
春雨「司令官の気持ち、とってもよく伝わりました。春雨が欲しかったのは、説明でも説得でもなかったんです。
司令官の感情の乗った言葉が……春雨の胸にきちんと届きました。春雨に心を開いてくれているんですよね……」
春雨「さっきは司令官に自分勝手だなんて言いましたけど、春雨の方も、不安で少し気が立っていました。ごめんなさい。
今も、これからどうなるのかは何も分からないままですけど……それでも、少し気持ちが落ち着きました」
春雨「春雨は……起こる全てのことには意味があると信じてます。今の自分がやっていることが無駄だなんて思いたくないんです。
だから……こうして別の世界にいることも、そこに司令官と一緒にいることも……意味はあるんです」
言い切る春雨。背を向いていた提督だったが、仰向けになって天井を見つめながら呟く。
提督「意味、ですか。……そうですね」
眠気からか思考が鈍り、ふわふわした具体性のない言葉のやり取りが続く。時に饒舌に、時に寡黙に、とっ散らかった考えと想いをぶつける。
意識が遠退いて夢心地から深い眠りに落ちるまでの間、二人は取り留めのない独り言――もとい、ふたりごとを交わして過ごした。
・・・・
朝がおぼろに明けると、朝食をコンビニのサンドイッチで済ませてホテルを出る二人。
春雨「ここがこの世界のラバウル基地ですか。えっと、とにかく暑いですね……」
水色の歯車には、物質を瞬時に転送する能力がある。昨日雪合戦の合間に行っていた実験で提督が導き出した結論だった。
二人は水色の歯車の力を使ってテレポートし、赤道付近に位置するラバウル基地までやってきたのだった。
提督「瞬間移動でやってきたのは良いとして、この格好で来たのは間違いでしたねぇ……」
熱々のホットコーヒーが入った紙コップを片手に外套を着込んでいる提督と、手袋にマフラーの春雨。
東の空に浮かぶ太陽は熱を帯びた光を放っている。二人は汗を流しながら基地領内の施設を訪れた。
提督「建物の中は涼しいですね。しかし、この設備の充実具合は横須賀に匹敵するのでは……」
施設の分析を交えながら廊下を歩く二人。執務室の前で鮮やかな水色をした長髪の少女と鉢合わせする。
五月雨「蒔絵提督! 遠路遥々ご苦労様。ご無沙汰してます、五月雨です。あっ、春雨! 久しぶり!」
ぎゅむと春雨に抱きつく五月雨。春雨に耳打ちする提督。
提督「春雨、知り合いですか?」
提督にだけ伝わるように首を横に振る春雨。
五月雨「お二人とも、どうしてそんなに暑そうな格好しているんですか? 我慢大会の練習ですか?」
春雨「そ、そんなところです……」
提督「それより芯玄心紅という人物を知っていますか? 彼についての話を聞きたいのですが」
注意を逸らすように話に割り込む提督。芯玄という名前が出た途端、五月雨は少し気落ちしたような態度を見せる。
五月雨「芯玄少将……ですか。以前この鎮守府を管轄していた提督で、とても尊敬していました。
二年前……近海調査の際に行方不明になられて、それっきりです。居なくなる直前に、陽炎や不知火たちと会っていたそうなんですが……」
提督「(昨日芯玄提督と話した内容と合致している。やはり……ここは芯玄元帥が本来居た世界でしょう)そうですか。
では、蒔絵現が現在管轄している鎮守府はどこだか分かりますか? あ、申し遅れました。小生の名は蒔絵 空(マキエ ソラ)。彼の双子の弟なのです」
双子の弟というのは口から出まかせのハッタリだったが、五月雨はこれを信じた。
五月雨「へぇ~! そうだったんですか。とってもよく似てるから全然気づきませんでした! 現さんは横須賀鎮守府のトップとして活躍しているそうですよ」
提督「そうですか、ありがとうございます。ではお礼に……」
提督「芯玄提督は生きていますよ」 五月雨の耳元で囁く
驚き目を丸くしている五月雨をよそに、春雨を連れて足早に立ち去ろうとする提督。しかし邪魔が入り、呼び止められる。
??「フン……蒔絵元帥か……。此処で出くわすとは驚いた。久しいナ」
執務室の扉を内側から開ける真っ白な腕。不健康という言葉が似つかわしい、尋常でない白さだ。
提督と春雨の二人は少し違和感を覚えながらも、五月雨とともに招き入れられて部屋の中に入る。
??「ドウシタァ……? 集積のやつみたいな恰好をして。マァゆっくりしていくといい。茶でも出そうカ」
執務机に座る白いパーカーに黒いインナーを着た女性。プラスチック容器に入ったアイスコーヒー……と呼ぶには黒すぎる液体をストローから啜っている。
これだけなら(鬼のような黒色の角が生えている点を除けば)艦娘と大差ないが、腹部から飛び出している異形はどう足掻いても言い訳ができない。
白色の蛇のようにうねる口のついたグロテスクな怪物。春雨ぐらいなら一息で呑み込んでしまいそうなほどの大きさだ。間違いなく彼女は深海棲艦だった。
提督(……何度か戦ったことがある。彼女は重巡棲姫。数ある深海棲艦の中でも上位クラスの脅威……のはずなのですが、何故ここに?)
二人の様子を不思議そうにじーっと見つめる重巡棲姫。視線に恐怖したのか、春雨は無意識のうちに蒔絵提督の手をかたく握る。
蒔絵提督はポーカーフェイスを貫いていたが、滝のように流れる冷や汗を止めることは出来なかった。戦慄、いわゆる蛇に睨まれた蛙だ。
五月雨「あっ。じゃあ私お茶汲みますね。それと、彼は蒔絵元帥じゃなくて、その双子の弟だそうです」
手早く室内に置かれたミニ冷蔵庫から2リットルサイズのポットを取り出し、コップに注いで提督と春雨に手渡す五月雨。
汗で流れた水を補うために勢いよく飲み干した提督だが、どうにも様子がおかしい。春雨が見たことのない、カエルのようなギョッとした表情をしている。
提督「めんつゆじゃないかー! ……ゴホン、失敬。あまりにも、その、麦茶にしては独創的な味をしていたもので」
重巡姫「五月雨……こないだ流しそうめんをやっただろう。アレの残りダナ。容器に移しておけとは言ったものの……」
五月雨「ああっ!? ごめんなさい!! 麦茶はこっちでした!」 提督と春雨に再度麦茶を注いだ別のコップを渡す
春雨(さっきの飲まなくてよかった……じゃなくて! 艦娘と深海棲艦がこんな親しげにやり取りをしてるなんて……。どういうことでしょう?)
重巡姫「そういえば、蒔絵元帥の弟……だそうだガ。何用だ? わざわざここに来る理由があったのだろう」
提督「……ええ。芯玄提督という人物について尋ねようと思っていたのです。以前ここに在籍していたそうなので」喉を鳴らして麦茶を飲む
重巡姫「名前は聞いた覚えがある。……二年前に行方不明になった提督だったカ。彼には悪いことをしてしまったな……謝るつもりはないが。
あの時の我らにとっては、正しい行いだった。人艦全てを滅ぼすことが、あの時の我々にとっては正義だったのだからナ」
提督(……? 少なくとも二年前は深海棲艦と対立していたが、その後は交友関係を築けるようになった……ということでしょうか。
あくまでこの世界では、の話ですが……。しかし、どういうカラクリでこうなったのかを知れば、元の世界に戻った時も役立つかもしれません)
重巡姫「しかしダ、あれだけ近海で深海棲艦に襲われることはそうないはず……どうにも不可解な点が残る失踪だったとは思うガ」
五月雨「……」少し考えるような素振りを見せるものの、黙っている
提督「軍の仕事に就いてからまだ日が浅いものでして……、貴方がた深海棲艦と和解に至った経緯を教えてもらっていいでしょうか」
重巡姫「まだ一年程度しか経っていないしなァ……事情を知らぬ者が居ても不思議ではないカ。確かに、深海棲艦は艦娘――ひいては人類と敵対していた。
人間の精神を構成するのは知性・意志・感情の三要素……かつての深海棲艦には、それらの要素が部分的に欠落していたためだ」
重巡姫「艦娘らに痛撃を与えるための知識はあっても、艦娘と人類を滅ぼした後の世界で何かを築こうという先見性を持った知恵はない。
救いを求める者、破壊を望む者、復讐を果たそうとする者……それぞれ、妄執のような動機には突き動かされているものの、それは自由意志とは言えない。
苦しみはあれど喜びはなく、焦燥はあれど安堵はなく、憎しみはあれど愛はない……深海棲艦は、その精神性において人類に劣っていた」
提督「随分はっきりと言い切りましたね……」
重巡姫「だが今は違う。呪いが解けた、とでも言うべきか。いつそうなったのか、なぜそうなったのか、原因は分からないガ……深海棲艦は進歩したのダ。
人間らしい比喩表現を用いるなら、蓮が泥の中から花を咲かせた、というところカ。……闘争に虚しさを覚える者が現れた。
復讐や破壊よりも価値のあるものを見つけた者が現れた。人間と友好を築こうという者が現れた」
提督(しかし何がきっかけかは分からない、というわけですか……残念ですね)
重巡姫「……無論、深海棲艦と人類との間には未だ因縁が存在するがナ。“自らの意志で”人類に相対する深海棲艦も少数ながらいる。
私のように人類に従うフリをして取って代わる機会を伺っている者もいる。一方艦娘や人間の側も、こちらのことを快く思っていない者はいるだろう」
提督「人類に従うフリって……そんなこと話してしまって良いんですか? だいぶフレンドリーにあれこれ教えてくれていますが」
重巡姫「そうダナ。蒔絵元帥には恩がある。仮に深海棲艦の時代が来たとして、少なくとも彼と彼に縁のある人間が苦しむような真似はしない。
それに……侵略というのも建前だ、今は案外この暮らしも気に入っている。受け入れてくれたここの連中には報いてやりたいと考えていてナ」
春雨(この世界の蒔絵司令官は、艦娘や人間と深海棲艦との関係改善に努めていたのでしょうか。そうだとするなら……案外話が通じる人なのかもしれません)
提督「報いる……とは? 人類と迎合せず戦い続ける道を選んだ深海棲艦の数は少ないのでしょう。技術提供などでしょうか?」
重巡姫「我々深海棲艦の目覚めとともに、新たなる敵が現れた。美談を抜きにして語るなら……深海棲艦が人の側に与しているのはそのためだ。
艦娘や人間よりも脅威となる存在が現れた。三つ巴で殴り合っていては奴らが独り勝ちしてしまう。だから手を貸している、敵の敵は味方というわけダナ」
重巡姫「名称は正式には決まっていないが……軍内では“反存在”などと呼ばれている。可視ながら非実体の、人の形をした悪意を持った何かだ。
奴らは人や艦娘、深海棲艦が“存在していたという事実ごと”消失させてしまう。忌まわしき存在ダ……」
重巡姫「奴らには砲雷撃や空爆といった従来の攻撃が通用しない。もちろん肉弾戦もだ。ただし……精神的な念を込めた攻撃に限っては効果がある。
裏を返せば、奴らに存在を打ち消されないほどの強い想念さえあれば、堅牢な装甲を貫く巨砲も、空を埋めつくすほどの艦載機も必要ないのだがナ……」
提督(実に興味深い……詳しく話を聞いておきましょうか。……深海棲艦を凌ぐ敵、か)
・・・・
長い間照りつけていた太陽もようやく沈み、提督は浜辺で夕涼みをしていた。膝を抱えて座り、波の揺らぎを眺めていた。
春雨が近づいてきたことに気づくと、少し疲れたような声で話しかける。着替えを誰かから借りたのか、春雨はTシャツ姿だった。
提督「また春雨を置いてけぼりにして話し込んでいましたね……申し訳ない」
春雨「あれは仕方ないですよ。それより、混ざらなくて良いんですか?」
火をつける前の手持ち花火を両手に握る春雨。少し離れた場所から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
提督「ええ、小生は遠慮しておきます。楽しんでいらっしゃい」
春雨が離れていくのを確認し、提督は深く溜息を吐く。
提督(艦娘と深海棲艦との調和が成された世界、ですか。……あくまで“この世界での”事象とはいえ、そんな未来が起こり得るなんて予想もしていなかった。
だが、それ以上に驚いたのは……その深海棲艦をも超える敵が居るということ。……)
提督(あの“反存在”というのは……結局のところ深海棲艦と代わりない。それが艦娘および艦の念ではなく、万物普遍の念に代わったというだけのこと。
黒色無地の小人のような形態が一般的なようですが……深海棲艦でいうところの重巡棲姫のような、いわゆる“ネームド”の存在はより個性を持った姿をしている)
提督(それらは、生物や静物……ひいては概念が擬人化されたものだった。戦車や戦闘機のような兵器を模した個体、剣などの武器を模した個体、獣を模した個体……。
果てには信仰を失い忘れ去られたかつての神を思わせるものや、草木や風雨といった自然そのものを体現しているような個体まで……)
提督(人が生み出した万物に魂が宿るというのなら。人が認識したもの全てに何某かの念が宿るというのならば……。
そしてそれらが、怨念となって人に仇なすというのなら……畢竟、人が滅び文明が潰えるまで戦いは終わらないのではないでしょうか)
遠くで聞こえる声も、波の音も気にならなくなるぐらいに深く思考する。考えていたのは、もう一人の自分についてだった。
提督(この世界の蒔絵現の目的とは? 小生のいた世界にちょっかいをかけに来た理由が分からない。『春雨に逢いに来た』、そう言っていましたか。
……春雨が何かしら特異点的な役割をしているのでしょうか? 芯玄元帥と朝潮さんから欠けた青色の歯車を奪っていたのをみるに、歯車の回収も理由の一つでしょうか)
提督(自分と同じ姿をしていようと、どうにか出し抜いて利用してやるつもりでいましたが……重巡棲姫から話を聞いて、それが難しいことを思い知らされましたね。
彼の根城であるこの世界の横須賀鎮守府まで行って調べるまでもない。戦略や指揮の的確さにおいて……彼は小生の数十手先を行っている。智謀においても、恐らく)
提督(勝てない相手に挑んだところで意味がない。彼の要望に沿う形で“オリる”のが正しいのかもしれません。
……歯車と春雨を差し出せば、どうあれ命乞いぐらいにはなるでしょうか。しかし……そこまでして生に執着して何の意味がある?)
提督(絵描きの夢を諦めた時点で、既に死んだも同然の人生だった。それが、たまたま提督になれて少し豊かな暮らしを出来ていただけのこと。
……今更命を惜しむ理由もないでしょう。優先すべきなのは納得の行く答えだ。彼が正しいのなら、道を譲ればいい。そうでなければ、退けるだけ)
ちょんちょん、と提督の背中をつつく小さな指。振り返ると春雨がいた。
春雨「小さく震えていたから、泣いていたのかと思っちゃいました」
提督「泣いていた……? 悲しくないのに涙なんて出ませんよ。これは……そう、武者震いですよ」
春雨「そうですか……。重巡棲姫さんと話をしている間、最初の方は興味津々な様子だったのに、終わりの方では時折悩ましげな表情を浮かべていたので……。
ちょっと司令官のことが心配だったんです。でも、そんな気配りは不要でしたね……杞憂で良かったです」
提督「ええ。それと、そのことなんですが……。これから先、元の世界に戻って一段落着くまでは、空(ソラ)と呼んでもらっていいですか。
蒔絵空……そう呼んでくれませんか。その、あちらの世界に居るであろうの蒔絵現と紛らわしいので、差別化の意味でね」
提督「空というのはかつての雅号だったんです。画家として大成したわけでもないのに雅号なんて、見栄っ張りも良いところですけどね」
アハハと乾いた笑いを浮かべた後、ズボンについた砂を払い、海原を背にして立ち上がり春雨の方を振り返る提督。
昇りゆく白い月は仄暗い水面を照らし、空を藍色に染めていた。
提督「小生は、現よりも空と名乗りたい。一度は捨てた名前でしたが……それでも、蒔絵空でありたい。蒔絵空として生きていたい。
そう思ったから、震えていたんですよ。……って、春雨に話しても何のことだか分からないでしょうがね」
春雨「そう呼んで欲しいならそうしますけど……春雨の司令官は、司令官だけですから。それに変わりはありませんよ」
提督に火のついていない手持ち花火を差し出す春雨。
春雨「『人と人とが紡ぐ色とりどりの輝きをこの目で見ていたい』でしたっけ。司令官のその言葉が、ずっと胸に残っていて。
私たちのいた世界とは違えど、この世界の中でも……春雨はその輝きを見ました。艦娘と深海棲艦の間に、新しい可能性を見出しました」
春雨「だから、司令官にもそれを見て欲しいなって思いました。その……」
差し出された花火を受け取る提督。フフ、とにやけ交じりの笑みを浮かべて、眼鏡越しに春雨を見つめる。澄んだ瞳をしていた。
提督「なぜ、春雨が特別な存在なのでしょうね……。分かるような、分からないような……不思議な感じがします」
春雨「えっ、それはどういう……?」
提督「ああいや。そうだと決まったわけではないんですがね。せっかくの春雨の誘いを無碍にするわけにも行きませんし、では混ざるとしましょう」
戸惑った表情を浮かべる春雨を置き去りに、花火をしている集団の方へ歩いていく提督。
・・・・
翌日。提督と春雨はこの世界の蒔絵現の意図を探るべく、横須賀鎮守府に潜入していた。
提督「真冬の雪原から常夏の島へ、そしてまた氷点下の港へ……体調を崩してしまいそうですね。
時差ボケするほど離れた場所でなかったのは幸いですが。今日で元の世界に戻りますよ、大体情報は出揃いましたからね」
春雨「時間にすると2泊3日、ですか……。長かったようで短かったですね」
提督「まあ鎮守府では失踪騒ぎで大変なことになってると思いますけどね。芯玄元帥にも迷惑をかけているでしょうし。
ただ、小生一人が欠けて機能しなくなるほど横須賀はヤワではありません……またメチャクチャ叱られた後に平謝りの連発で済むでしょう」
春雨「今回は仕方ないとはいえ……相変わらず悪びれない態度ですね。そういう所も嫌いじゃありませんが」
提督「おや……春雨に褒められるとは、なんだか新鮮な感じがしますね。ありがとうございます」
春雨「ち、ちがっ……。そのふてぶてしさが、一周回って逞しいなと思っただけです。……」
褒めるつもりが無かったのに無意識のうちに出た言葉に、気恥ずかしさを覚える春雨。
提督「さてと……春雨? 春雨……?」
提督の呼びかけに応じず、その場に棒立ちする春雨。彼女の澄んだ瞳の中に、小さな映像のようなものが高速で駆け巡っている。
(あとまだ10レスあるんですけども……さすがに眠気がきつくなってきたので寝ます。昼頃には復活してると思います……)
提督「一体、彼女の身に何が……? 声をかけても揺さぶっても反応がない……」
??「お疲れ様でーす。噂の春雨さんを連れて来たとなると、万事片付いたということでしょうかね」
提督(……どう答えるべきでしょうか? この世界の蒔絵現に近しい立場の人物ではあるようですが……)
背後からの呼びかけに対し、振り返らずに名前を尋ねる提督。
??「やだなあ。声で分かりませんでした? 窓位ですよ。窓位聖人ですってば」
提督(窓位くん……? 確か舞鶴に配属されたそうですが。この世界ではそうならず横須賀に着任した、ということでしょうか)
名前を聞いて反転する蒔絵提督。綿飴を咥えた、長身痩躯で栗色の髪をした美男子が立っていた。隣にはこれまた背の高い黒髪の艦娘が立っている。
窓位「ん? どうかしました? きょとんとしちゃってらしくないですね。ひょっとして……実はボクの知ってる蒔絵元帥じゃなくて、向こう側の蒔絵提督だったり?」
提督「……そうだと言ったらどうなりますかね? 命ぐらいは見逃してくれますか」
春雨と手を繋いでポケットの中にある水色の歯車に手をかけ、いつでも逃げ出せるよう備える蒔絵提督。
窓位「命? ハハ、まさか。歓迎しますよ! こっそり赤い歯車を渡した甲斐がありました。ここに来るまでにどんな物語があったのか……お話を聞きたいです」
提督(赤い歯車を小生に渡したのは、この世界の窓位提督だったのでしょうか? ということは……敵ではない、と解釈していいのでしょうかね)
・・・・
鱗雲が遠くに浮かぶ秋の空。潤った地面に乾いた風が吹き抜ける。色づいた落葉樹が頭上を鮮やかに彩る。黄色と赤の世界。
紅が濃くなった落ち葉から順に、はらはらと地へ落ちていく。あと二週間もすれば冬が訪れるのだろう、そう感じさせる秋の終わりの景色だった。
五月雨「綺麗ですね……。ラバウルに行く前に良いものが見れました、ありがとうございます。素敵な思い出になりそうです」
鎮守府敷地内の森。普段は誰も訪れないようなこの場所が、今日は艦娘で賑わっている。
レジャーシートを複数枚敷いて、いくつかの集まりに分かれて談笑していた。
提督「お礼なら春雨に言ってください。彼女の提案なんですから」
春雨「お花見とはまた違った雰囲気でいいですね。なんだか気持ちが落ち着きます」
提督「心が穏やかな気持ちになるでしょう。気のせいではありません。あ、木のせいではあるんですが」
由良「提督さんがダジャレを言うなんて……珍しいこともあるんですね」 ステンレス製の水筒を持って紙コップに緑茶を注ぐ
提督「ダジャレを言ったつもりはないのですが……樹木が発する化学物質をフィトンチッドと呼び、これは人間に安らぎを与える効果があると考えられているのです。
有害な微生物や害虫から身を守るために発する自己防衛の物質だそうですが……不思議なもので、人間にとっては森の香りとして心地よく感じられるのです」
提督「マイナスイオンと一緒で、きな臭い部分もありますがね。ビジネスが絡むと途端に話に尾ひれがついてしまうものです」
由良から紙コップを受け取って茶を啜る提督。うっすら見える白い湯気が東雲へと昇っていく。
五月雨「でも……やっぱり落ち着くのは木のせいだけじゃないですよ。こんなに穏やかな表情の提督は初めて見ました」
由良「ですね。普段のクールな態度も頼もしくてカッコいいですけど……オフの日はこんな感じなんですね。なんだか意外です」
提督「小生とて常に気を張り詰めているわけではありません。ただ、鎮守府にいるとどうしても義務や責任と向き合わなければなりませんからね」
春雨「司令官は……自分を曝け出そうとしないだけで、本当はとっても心の優しい人なんです。今日ピクニックを提案したのは、それを皆に伝えたかったのもあるんです」
五月雨「春雨は提督といつもつきっきりでしたもんね! 蒔絵提督のことを一番よく知ってるんじゃないですか」
提督「そうかもしれませんね。春雨はとても優秀ですよ。小生の隣は彼女にしか勤まりませんから」
無意識のうちに立ち上がる春雨。耳の先を紅葉のように赤く染めている。
春雨「そ、そんな……褒め過ぎですよ。本当はいつも不安で……司令官のお役に立てているかずっと不安だったんです。
春雨が司令官に相応しい艦娘なのか、ずっと不安だったんです。……他にも良い人がいるんじゃないかって」
提督もまた立ち上がり、春雨の小さな体を包み込むように抱擁する。身を寄せる春雨。
提督「春雨の代わりはいませんよ。小生にとって特別な存在なのですからね」
色とりどりの落ち葉が風に舞って夕空に浮かぶ。暖かな幻想の景色。縋りつくように提督を抱き返す春雨。
提督「と……ここで伝えるには少々大胆過ぎましたね。みんな驚いた顔しちゃってますし」
提督の言うように、周囲の艦娘らは皆ぽかんと口を開けていた。
浮ついた話の一切ない淡泊な蒔絵提督と、鎮守府内ではこれといって名が知れているわけではない春雨との組み合わせであるから無理もない。
春雨は提督を抱き締めていた腕を解き、頬を染めて俯いている。
由良「なんというか……バッチリ見せつけられちゃいましたね。日頃とのギャップがすごいですが……まあ、良いんじゃないでしょうか。こういうのも」
五月雨「うんっ、たしかにお似合いだと思いますよ」
妙な祝福ムードのまま観楓会(かんぷうかい:楓など紅葉を鑑賞する集まりのこと)兼宴会は続いたが、やがて、一人また一人と人が離れていく。
片付けが終わった後の夜更けに、春雨は提督を先ほどの森へと呼び出していた。とうに虫のさざめきも途絶えた秋の暮れ。
ライトアップされていた紅葉も、明かりが消えてしまえば宵闇に紛れて何色か分からなくなる。春雨は一人、森の中で提督のことを待っていた。
森閑を自らの足音で掻き消すような急ぎ足で春雨に駆け寄る提督。
提督「もう夜も遅いじゃないですか。どうしました? 宴なら終わったでしょう。じきに雨が降る……」
天を仰ぎ見る。月を覆う銀の雲が薄墨の空を駆ける。風の流れは速く、長雨の気配が漂いだす。
春雨「さっきの言葉に……偽りはありませんか。春雨が特別だって言ってくれましたよね」
提督「嘘偽りのない本心の言葉ですよ。それでも、まだ不安ですか?」
春雨「司令官が春雨を特別だって言ってくれて、嬉しかったです。本当に嬉しかった……抱き締められた時、とても幸せな気持ちになりました。でも……」
ぽつり、ぽつり、と楓が零す涙のように滴る露の音。音に気づいた提督は持っていた番傘を開いて春雨を招き入れる。
傘の中で向かい合う二人。背筋を伸ばして顔を上げ、提督を潤んだ瞳で見つめる春雨。
春雨「司令官が春雨のことを想ってくれているのは、前から分かっていたんです。これだけ長い間二人で一緒に居るんですもの……伝わりますよ。
でも……司令官が見ているのは、本当に春雨のことなのかな、って怖くなってしまうんです……。こんなに司令官に愛してもらっているのに、それでも……」
春雨「春雨が、春雨じゃなかったら、司令官はどう思うんだろうって……あはは。ヘン、ですよね……どうしてこんなことを考えてしまうんでしょう」
黒いシルクの手袋で目元の雫を拭う春雨。怯えるように小さく震えていた。
春雨「司令官はいつも、春雨のことを大事に想ってくれるはずなのに……時折、春雨の向こうにあるものを見ているような目をしていて……。
それは、春雨だけど、春雨じゃないんです。私のことじゃない……そんな風に思ってしまう時があるんです……」
提督「……。ごめんなさい……春雨」
持っていた傘を放して、泥に塗れることすら厭わずに膝を折り、春雨と背の高さを合わせるようにして両腕で力強く抱き締める。肘が冷たい雨に濡れる。
春雨「嬉しいんです。とても嬉しくて、胸が暖かい気持ちで溢れて、想いでいっぱいになるんです……だから、いいんです。これは春雨のわがままなんです。
永遠なんてないですから……。いつかは司令官と別れてしまう……そのことが恐ろしくて、離れたくなくて。だからせめて、今の春雨を見て欲しいんです」
提督「永遠さえも……この手に掴んでみせましょう。春雨と、共に在るためなら……」
春雨「……?」
提督「春雨と共に在り続けるための、“永遠の王国”を創ってみせましょう。……そこで共に生きましょう」
・・・・
執務室に案内された蒔絵提督。棒立ちのまま動かなくなった春雨は隣の仮眠室で横になっている。
窓位「……蒔絵元帥の目的は“永遠の王国”を創ること。誰もが王となる世界――そこでは、万人が各々の望みを叶えられる……理想が世界に先んじて現実化する世界。
簡単に言うと意志が具現化する世界の創造……ってところかな? それがあの人の最終目的。全てはそのための行動」
提督「先刻経緯を説明した通り、小生は君の言うあの人ではありません。蒔絵現であって蒔絵現ではない……だからこその蒔絵空。
“永遠の王国”なんてもの、生まれてこの方思いついたこともありませんでしたよ。で、質問なのですが。なぜ小生にこの話を?」
提督「いいえ……理由なんてものはこの際どうでもいいでしょう。その“永遠の王国”とやらのために、蒔絵現は何をしようとしているんですか?」
窓位「キミがこの世界に来る時に使った水色の歯車や……今は向こうの世界にあるであろう青色の歯車。ボクが今持っている紫色の歯車。
これらの“理(ことわり)の歯車”を集めて、全ての世界から“反存在”を消し去ること。これがあの人の計画の第一弾ってところだね」
窓位「歯車にはそれぞれ世界を揺るがしかねないほどの大きな力が備わっている。だけどそれは一つの世界に限定された話なんだ。
使用者が現存する世界にのみ影響する。だから、強力な道具ではあるけれど、異世界からやってくる反存在に立ち向かうには不十分なものなんだよね」
窓位「でも……全ての歯車を集めることが出来れば、どんな世界の時空も制御できる。反存在を消し去ることだって可能になる。
だから芯玄提督を異世界に飛ばして赤と青の歯車を集めさせた。ここで事件が起こったんだけど……その前に。まずはこれを見て」 机の引き出しからノートを取り出す
≪時間を司る歯車≫
【赤色の歯車】制御:対象の時間の流れる速さを制御する(加速や減速)
【緑色の歯車】停止:対象の時間を停止させる
【青色の歯車】遡行:対象の時間を巻き戻す
≪空間を司る歯車≫
【水色の歯車】転移:対象を任意の場所へ瞬時に移動させる
【紫色の歯車】改変:対象となる事実や情報を書き換える
【黄色の歯車】修復:対象から失われたものを復元させる・状態を再生する
提督(小生が持っているのは赤と水色の歯車。蒔絵現が持っているのは青と緑。紫は目の前の彼が持っていて、黄色は不明……ですか)
窓位「これが理の歯車の一覧。いずれにしても使用者の意志に応じて任意の働きをする、とっても都合のいい道具だね。
ま、当然使い方を誤ると大変なことが起こるわけで……」 ページをめくる
【時の終点】
時間を司る歯車の能力で世界を著しく改変すると発生(本来起こるはずだった歴史的事象を改竄するなど)。
時間の流れなくなった世界であり、空間およびその中の物質が不可視無形のエネルギーとなった状態で存在している。
やがて異なる時間軸を迎え入れて、新たな運命の用意された世界が生成される。
【空間の終点】
空間を司る歯車の能力で世界を著しく改変すると発生(社会や文明が機能不全になるほどの物理的破壊をもたらすなど)。
物質の存在しない虚無の世界であり、存在を保ったままここに辿り着くことは出来ないため、あくまで仮想のものである。
反存在はここから生じていると考えられる。
窓位「あの人――この世界の蒔絵元帥は、芯玄提督を水色の歯車の力で赤・青の歯車がある別の世界へ飛ばした。
で、芯玄提督は時の終点を経由して、その二つの歯車を手にすることに見事成功した。そのままこっちの世界へと戻すはずだったんだけど……」
窓位「突然だけど……赤色の絵の具と青色の絵の具を混ぜたらどうなるでしょうか?」
提督「“紫”ですね。芯玄提督が手に入れた歯車は“赤”と“青”。……!」
窓位「ご明察。芯玄提督と彼に同行していた朝潮、この二人の願望に呼応した歯車は、あちらの世界を彼らにとって理想となる世界に作り変えてしまった。
この世界を模してはいるものの、根本的には彼ら二人のために生まれた世界……それがキミの生まれた世界になるってことだね。
それでどうして二人の手から赤い歯車が離れたのかは分からないけど……まあ彼と朝潮には必要ないものだったからかもしれないね」
窓位「で……彼らにとって理想の世界とは言ったけれど、紫色の歯車と同様に、自分たちから離れれば離れるほどに影響力は弱まる。
直接自分に関係しない出来事に干渉したりするのは難しいんだ。だから、この世界でも争いや奪い合いは起こってしまうんだ。
ボクが紫色の歯車を持っていたとしてもね。……大体の説明は終わり。扶桑! あれを」
扶桑が持ってきたのは、黒い漆塗りの小箱だった。
窓位「元の世界に帰るまで、これを決して開けてはいけないよ。……っていうのはウソウソ! まあこの世界で使うのは極力辞めて欲しいけどね。
入れ物が入れ物なだけに家具コインが入ってそうだけど、中身は紫の歯車だよ。これであの人にも対抗できるはずだ」
提督「なぜこれを……? 『赤い歯車を渡した』とも言っていましたが、君は小生に何を望んでいるのですか? 随分手助けをしてくれているようですが」
窓位「キミに何かを望んでいるわけじゃないよ。あの人の理想には、賛同できる部分もある。だから協力していたし、今もしている。
けれど……あの人はこの世界で生まれた人じゃない。便宜上“この世界の蒔絵元帥”と言っていたけど、更に異なる世界からやってきた人なんだ」
窓位「そこであの人が何を見てきたか、何を経験してきたかは想像でしか窺い知ることは出来ない。
小の虫を殺して大の虫を助けるという言葉もあるし、あの人にとってキミはやむを得ない犠牲の一つなのかもしれない。でもボクはそうは思わない」
窓位「世界から消え去ってしまっていいものなんて何一つ無いはずなのさ。ボクはそう信じてる。
だから、あの人に手を貸す一方で、隙を見てキミを助けたりもする。これがボクなりのスタンスだ」
提督「ありがとう。君がいなければ、小生は何も知らずに消えていくところでした。お礼がしたいのですが」
窓位「そうだなあ。じゃあ、向こうの世界の窓位聖人が喜びそうなことをしてもらおうかな。
キミに託したその紫の歯車のおかげで、ボクはこれまで十分幸せで居られたからね」
提督「分かりました。必ず果たしましょう(しかし……窓位くんがもし成長したのなら、こんな容貌になっていたのでしょうかね。
妬けるぐらいに美男子でしたね……。中身はそっくりそのまま向こうの窓位くんと同じだった、というのがまた面白いところですが)」
・・・・
ベッドから身を起こす春雨。時計の針の進み具合と外の景色から、自分は半日ほど眠っていたのだと推測する。
窓の外の銀世界は、斜陽に照らされて枯れた菊の花のように昏い黄色に染まっていた。
提督「目を覚ましましたね。お待たせしました。早速元の世界へ戻りましょう」
春雨「司令官……じゃない、ええっと。……私の司令官、って……?」
提督「何やら混乱気味な様子ですね。まだ調子が優れませんか?」
窓位提督から貰った飴玉を口に放ると、ベッド脇の椅子に座る提督。顎に手を当てて不思議そうな様子で春雨を見つめる。
春雨「夢……じゃない、あれはきっと。幻覚でもなくて……。記憶が戻ったんです。今までの記憶が……映像のように流れてきて。
この世界での出来事も。それよりずっと前の世界のことも……。あぁ……えっと、春雨は。私は」
胸に手を当てて、自分の中での思考を整理するようにゆっくりと話す春雨。
ふと床に視線を落とすと、彼女は自分の黒い影法師がとても長く伸びていることに気づいた。
春雨「この世界で“私”は生まれ育ちました。でも、記憶はもっと前の世界の“春雨”から引き継いだものだったんです。
この世界での記憶やそれより前の世界での記憶は、あちらの世界に行った時に喪失してしまいましたが……今、全てを思い出しました」
提督(蒔絵現が春雨に対して執着のあるような口ぶりだったのは、記憶を継ぎ接ぎしながらも自身の傍に居続けたから、というところでしょうか。
それほど彼にとって重要な存在である春雨が、なぜこの世界のコピーであるあちら側の世界に居たのかが疑問ですね)
春雨「春雨は、最初は一人の春雨だったんです。人格と記憶で、二つに分かれて……私はその記憶の方で。司令官……あ、いえ。現さんでしたね」
提督「変に気を遣わなくていいですよ。記憶の戻った春雨からしてみれば、彼が本当の意味での“司令官”ということなのでしょう。
(少し寂しいような気はしますけど、ね)……それより、その先の話を聞きたいですね」
春雨「時系列を追って説明します。この世界に春雨が生まれました。でも、それはまだ“私”と呼ぶには不完全で。
司令官と一緒に過ごしながら、少しずつこの世界に生まれる前の記憶を呼び覚ましていったんです」
春雨「ですが……こちらの世界の“私”の記憶が不完全なまま私のコピーが生まれた結果、“私のコピー”の方が記憶を取り戻していくようになったんです。
一方で、“私”の記憶は不完全な状態のままで回復が止まってしまいました。私は、司令官の知る“春雨”になり損ねてしまったんです……」
提督(蒔絵現の表現を借りるなら……あちらの世界の春雨が基本となる『正史の』春雨に成り代わってしまった、ということでしょうか)
春雨「私の記憶が戻らなくなったことを、司令官に知られたくありませんでした。もしそのことで司令官から見放されたら、きっと私は壊れてしまうから。
向こうの世界の春雨が“春雨”でなくなれば、また“私”に記憶が戻るようになると考えた私は……」
春雨「司令官の目を盗んで向こうの世界の春雨に手をかけました。“春雨”を沈めたのは、私自身だったんです」
提督は、彼女の真っ直ぐな瞳が綺麗だと常々思っていた。何者にも染まらない薔薇色の煌めきが美しいと感じていた。
彼を視界に捉えながらも彼を映してはくれないその紅玉に気高さを感じていた。提督は今になってようやく理解した。
彼女の持つ曇りの無さすぎる澄み切った光の正体は、純粋すぎるが故の狂気そのものだったのだと。
春雨「そして、思惑通り全ての記憶を取り戻しました。幻滅しましたか? ……でも、真実です。これが“春雨”になりきれなかった“私”の本性なんです」
春雨「そう……“私”は記憶を手に入れても、“春雨”にはなれませんでした。だって、私が本物の“春雨”だったら……そんなことはしなかったでしょうから。
事が終わってから、我に返って気づいたことです。“私”は、司令官の愛情を失うことを怖かっただけの、ただの艦娘に過ぎなかった……」
春雨「私は司令官に全てを打ち明けました。それから、あちら側の世界で過ごすことにしたんです。全ての記憶を消して、“春雨”としての人格を獲得するために……。
私から“私”を消して自分を“春雨”で塗り潰せば……私は“春雨”になれる。そう考えたんです」
春雨「でも、染みついた“私”は消えなかった。記憶が戻った今、それをようやく悟りました」
この時になって、それまで顔色一つ変えずに淡々と喋っていた春雨の表情が変わった。悲愴と諦めの混ざった沈鬱な面持ちだった。
しかし、提督はこれをただ悲しみに沈んでいるだけの表情だとは思わなかった。悔しさを押し殺しているようにも見えたからだ。
提督「小生は貴方のやったことを否定も肯定もしません。ですが……あちらの世界の春雨を犠牲にしてでも、貴方は“春雨”に成り代わろうとしたのでしょう?」
経緯がどうであれ、貴方は“春雨”として生きることを背負ったんです。そうすることを選んだのは“貴方”でしょう。
今更になって自己憐憫などくだらない。それで“貴方”のために犠牲になったあちらの春雨が浮かばれるのですかね」
春雨の感情を焚きつけるように冷ややかな言葉を投げかける提督。彼女の心を傷つけてしまう自覚はあったが、それも承知の上だった。
彼らしからぬ、苛立ちを露わにした態度で春雨を詰る。
提督「自分という人格を打ち消してでも蒔絵現という人間に愛されたかった、その愛を失うことが怖かった、さしずめそんなところでしょうが。
……くだらない。自分で矛盾に気づいていたではありませんか。『春雨だったらそんなことはしなかった』って。貴方は“貴方”でしかない」
提督「蒔絵現の記憶の中にいたかつての“春雨”と、この世界で生まれた“貴方”とで、違いが生まれるのは当たり前の話。時代や環境で人は変わるものです。
そうであったとしても……貴方が“春雨”であろうとなかろうと、蒔絵現を愛していることに変わりなんてないのでしょう?」
提督「蒔絵現が、貴方を“貴方”として見ているか“春雨”として見ているかは知りません。貴方が“春雨”と違うと知るやいなや、失望するかもしれません。
ですが……本当に彼を愛しているというのなら、それでも貴方自身の愛情が揺らぐことはないはずです。貴方は“貴方”として自分の愛を貫けばいい」
沈黙。言葉を何も返そうとしない春雨。泣いているわけではないようだったが、その表情は見るからに苦悶しているようだった。
提督は深呼吸をした後に小さくのびをして、椅子から立ち上がる。春雨に背を向けると、ハンガーにかけていた黒い外套を羽織って、軍帽を深めに被る。
提督「らしくないですね。いつになく熱くなってしまいました。ま、これは自分自身に投げかけている節もあります。ブーメランなんですよ、吐いた言葉は自分に帰ってくる。
小生は今、自分が一度捨てた名前である“蒔絵空”と向き合っているんです。あのまま絵描きとしての人生を真っ当して野垂れ死にしていた方が良かったんじゃないか、とね」
提督「ただ……『起こる全てのことに意味がある』でしたか。小生も今はそう信じたいと思います。あの時の貴方の言葉から、少し勇気を貰えたんです」
夕陽が沈みかけ、部屋は薄暗くなっていた。提督は春雨の方を向くことなく、水色の歯車を作動させた。
提督「では、これでお別れです。言いたいことも言えましたし。もう次に逢うことはないでしょう」
春雨「え……どうして、ですか……?」 俯いていた顔を上げて訊ねる
提督「蒔絵現は問いかけるはずです。この世界と、あちらの世界と、……貴方ならどちらを選ぶか。聞くまでもないですよね。
春雨にとってこの世界には彼との思い出があるわけですから。なら、貴方はこの世界に残っているべきです」
歯車が光り出し、空間に歪みが走る。
提督「たとい小生の生まれた世界が貴方や彼にとってはこの世界の模造品だったとしても、小生にはあの世界を守る使命があります。
だから……決着をつけに行くんです。貴方と一緒に居られて楽しかったですよ。さようなら」
振り返って春雨の方を向き、笑顔で手を振る提督。
・・・・
数日前に訪れたファミレス前。尻餅をついている提督。
提督「あたた……。とりあえず戻れましたが……なんで着いてきちゃったんですか」
提督が消えていく刹那、春雨は彼に飛びついたのだった。春雨が離れると、身を起こして服に着いた雪を払う提督。
春雨「自分でも分かりません……」
うぅーん、と困ったように小さく唸ったが、それ以上は訊ねようとしない提督。ポケットから紫色の歯車を取り出し、水色の歯車とともに再度強く握りしめる。
二つの歯車が呼応して光を放つ。振っていた粉雪が逆流するように天へと昇っていく。雲の切れ間に隠れていた太陽は天頂から顔を覗かせると東の空へ沈んでいった。
提督(やはり……ですか。赤色と青色の絵の具が交われば、紫色になる。これが窓位提督から教わったこと。
一方で……“水色”の光と“紫色”の光が重なれば、“青色”の光となる……!)
提督(赤と水色のような、時間の歯車と空間の歯車との組み合わせでは何も起こらないようですが……。
赤・緑・青色の時の歯車が二つあれば、対応する空間の歯車の能力を。
水色・紫・黄色の空間の歯車が二つあれば、対応する時間の歯車の能力を補うことが可能……)
提督(春雨が着いて来てしまったのは予想外でしたが……時間を巻き戻して、この場所を訪れる蒔絵現と対峙します。
時間を遡行することで、恐らくこの水色の歯車は蒔絵現の下に戻ってしまうでしょうが……それでも問題ない)
晴れた冬の日。冷たく乾いた風が吹き抜ける。雪に埋もれた枯草が小さく揺れている。
建物の陰に隠れてもう一人の自分がここに来るのをじっと待つ。
・・・・
止まった時間の中で蒔絵現と邂逅を果たすと、正面から歩み寄る空。
現「ふむ……この世界の自分を見るのは初めてですね。まあ次に会うことはないでしょうが」
空「フフ……“前”もそう言っていましたけどね。おっと、貴方と争うつもりはありません。交渉をしに来たのです」
現「止まった時間の中で動けるということは何かしら歯車を持っているということ。
真っ向からやり合えば、こちらにもリスクはあるか……話は聞いてあげましょう。どうするかはその上で判断します」
空「この世界と、貴方や春雨の居る世界……二つは似すぎている。であるがゆえに今、正史が二つ存在している状態になっている。
だから、歯車を揃えて全ての時空から反存在を消し去っても……もう片方の世界ではそれが行われなかったことになってしまう。
反存在を消失させても“失敗した側の”正史を経由して反存在が残存してしまう、ということでよろしかったでしょうか」
空「彼我の世界、どちらかが邪魔になる。だから春雨に残す方を選ばせる……これが貴方の考え、ですよね」
現「……何も知らないと思っていたのですが、流石は小生の映し鏡。並行世界のコピーと侮っていましたが……よくそこまで辿り着けましたね。
では話が早い。貴方がそこまで知っているということは……春雨も記憶を取り戻したのでしょう? この場で春雨から答えを聞くことが出来そうですね」
春雨は黙ったままで、二人のやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
空「いいえ、その必要はありません。どちらの世界も滅びずに済む方法があります。全ての理の歯車が必要になることは変わりませんが……」
空「反存在が存在を打ち消そうとする働きを持つなら……反存在を打ち消そうとする意志を持った概念が生まれればいいのです。
小生が全ての時空で反存在を抑止し続ける思念体になります。どうでしょうか? そちらにとっても不利益のない提案だと思うのですが」
現「ふむ……確実性に欠けるという問題はありますが、提案自体は悪くありません。貴方にそれだけの強い意志があるというのが前提条件ですが。
口先だけならどうとでも言える。小生を欺こうとしている可能性もある……貴方の言葉が本物かどうかを試させてください」
・・・・
現が水色の歯車を掲げると、空間の裂け目に吸い込まれて二人はその場から消えてしまった。
その場に取り残された春雨は、ファミレス前にリムジンが停車していることに気づき、芯玄元帥と朝潮の二人が店に入る前に呼び止めた。
芯玄「……艦娘のようだが、一体どうした? 蒔絵提督の配下なんだろう。奴はどこにいる?」
春雨「……その、蒔絵司令官なんですが、今はどこかに行ってしまっていて。戻ってくると、思います……」
春雨(二人がどこかに消えてしまいました……。空さんは司令官と争う意志が無くても、司令官はそうではないかもしれない。お互い無事だといいのですが)
芯玄「なんだ? どうにも不明瞭だな。まあいい……店の中に居ないということは分かった。ここで待つとしよう」
道路沿いに設置されたベンチで座る朝潮と春雨。芯玄提督はベンチから少し離れた位置で腕組みしながら直立し、周囲の様子を気にかけていた。
春雨(空さんが言っていた『全ての時空で反存在を抑止し続ける思念体になる』って、つまり……世界を守るために自分が犠牲になるってことですよね。
空さんという存在は失われて、私の記憶からもこの世界からも永遠に居なくなってしまうってことですよね……。そんなの、嫌です……)
朝潮「どうしましたか? 怯えているような表情をしていましたが」
春雨「怯えている? 私が、ですか……?」
朝潮「貴方の背景も、蒔絵大将についても何も知りませんが……佇まいでなんとなくそう思ったんです。違うようでしたらすみません。
ただ……私はかつて、自分が自分でなくなってしまうような錯覚を感じるほどの、強い不安に駆られたことがあるんです」
朝潮「……今の貴方もまた、そういう不安の中にあるのかもしれない、なんて思ったんです。ただの勘ですが」
朝潮の直感どおり、春雨の胸中には様々な不安が渦巻いていた。どうすればいいか分からない、という途方に暮れた気持ちを抱えていたのだった。
春雨「失うことが怖い気持ちを……どうやって乗り越えましたか? どうすれば乗り越えられますか?」
朝潮「幸いなことに、朝潮には司令官が居てくれました。司令官の存在が励みとなって勇気を貰えたんです。
私も自分一人の力で乗り越えられたわけではありませんから、アドバイスが難しいのですが……」
朝潮「貴方に何か大事な心の拠り所があるのなら、それを強く想い、信じ抜けばいいと思います。
自分の中にある想いを信じることが出来れば、自分自身だって信じられるはずです。恐れすらも超えていける……そう思います」 照れくさそうに微笑する
春雨(……今、この瞬間、一番強く想うことは)
春雨(たとえそれがこの世界を守るためだったとしても……空さんには居なくなって欲しくない。犠牲になんてなって欲しくない……!)
パン! と思い切り自分の頬を叩く春雨。隣にいる朝潮が驚いて心配するほどの勢いだった。
春雨「私が……全部守ります。空さんのことも、この世界も、私たちの世界も……。何一つ犠牲になんてさせませんから」
・・・・
現と空がいる場所は、反存在に立ち向かうための訓練場のようだった。ここでは、精神のエネルギーがそのまま実体となって出力される。
空の肩や腕からは真っ赤な血が噴き出していた。ただし、実際に空の肉体が損傷したわけではなく、この血は彼が負った精神的消耗が可視化されたものだった。
意志と意志がぶつかり合えば、その分互いの精神は磨耗する。この空間で戦っている間は、精神の苦痛がそのまま肉体の痛みに変換されるのだ。
現「貴方が反存在を食い止めるための人柱になる……という話も、貴方があちらの世界に生まれた自分自身でなければ信用できたのですが。
小生が逆の立場であったなら、自己犠牲などという選択は取りません。命あっての物種、物語は生きてこそ続く……死ねばそれまで」
手の中から剣を生成し、空に斬りかかる現。跳び退って距離を置き、空もまた生成した数本のナイフを投擲して牽制する。
空「フ、それが貴方の哲学ですか。そうだったとしても……小生は蒔絵現であって蒔絵現ではない。貴方とは違う」
現は迫りくるナイフを次々に弾き飛ばしながら接近し、剣を振り下ろした。
空はこれをナイフで防ぎ鍔迫り合いに持ち込んだ。刃がじりじりと空の身に近づいてくる。
現「もう終わりですか? この程度でへばっているようでは、反存在に一人で立ち向かうことも難しいと思いますが」
現「止まった時間の中で動けるということは何かしら歯車を持っているということ。
真っ向からやり合えば、こちらにもリスクはあるか……話は聞いてあげましょう。どうするかはその上で判断します」
空「この世界と、貴方や春雨の居る世界……二つは似すぎている。であるがゆえに今、正史が二つ存在している状態になっている。
だから、歯車を揃えて全ての時空から反存在を消し去っても……もう片方の世界ではそれが行われなかったことになってしまう。
反存在を消失させても“失敗した側の”正史を経由して反存在が残存してしまう、ということでよろしかったでしょうか」
空「彼我の世界、どちらかが邪魔になる。だから春雨に残す方を選ばせる……これが貴方の考え、ですよね」
現「……何も知らないと思っていたのですが、流石は小生の映し鏡。並行世界のコピーと侮っていましたが……よくそこまで辿り着けましたね。
では話が早い。貴方がそこまで知っているということは……春雨も記憶を取り戻したのでしょう? この場で春雨から答えを聞くことが出来そうですね」
春雨は黙ったままで、二人のやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
空「いいえ、その必要はありません。どちらの世界も滅びずに済む方法があります。全ての理の歯車が必要になることは変わりませんが……」
空「反存在が存在を打ち消そうとする働きを持つなら……反存在を打ち消そうとする意志を持った概念が生まれればいいのです。
小生が全ての時空で反存在を抑止し続ける思念体になります。どうでしょうか? そちらにとっても不利益のない提案だと思うのですが」
現「ふむ……確実性に欠けるという問題はありますが、提案自体は悪くありません。貴方にそれだけの強い意志があるというのが前提条件ですが。
口先だけならどうとでも言える。小生を欺こうとしている可能性もある……貴方の言葉が本物かどうかを試させてください」
・・・・
現が水色の歯車を掲げると、空間の裂け目に吸い込まれて二人はその場から消えてしまった。
その場に取り残された春雨は、ファミレス前にリムジンが停車していることに気づき、芯玄元帥と朝潮の二人が店に入る前に呼び止めた。
芯玄「……艦娘のようだが、一体どうした? 蒔絵提督の配下なんだろう。奴はどこにいる?」
春雨「……その、蒔絵司令官なんですが、今はどこかに行ってしまっていて。戻ってくると、思います……」
春雨(二人がどこかに消えてしまいました……。空さんは司令官と争う意志が無くても、司令官はそうではないかもしれない。お互い無事だといいのですが)
芯玄「なんだ? どうにも不明瞭だな。まあいい……店の中に居ないということは分かった。ここで待つとしよう」
道路沿いに設置されたベンチで座る朝潮と春雨。芯玄提督はベンチから少し離れた位置で腕組みしながら直立し、周囲の様子を気にかけていた。
春雨(空さんが言っていた『全ての時空で反存在を抑止し続ける思念体になる』って、つまり……世界を守るために自分が犠牲になるってことですよね。
空さんという存在は失われて、私の記憶からもこの世界からも永遠に居なくなってしまうってことですよね……。そんなの、嫌です……)
朝潮「どうしましたか? 怯えているような表情をしていましたが」
春雨「怯えている? 私が、ですか……?」
朝潮「貴方の背景も、蒔絵大将についても何も知りませんが……佇まいでなんとなくそう思ったんです。違うようでしたらすみません。
ただ……私はかつて、自分が自分でなくなってしまうような錯覚を感じるほどの、強い不安に駆られたことがあるんです」
朝潮「……今の貴方もまた、そういう不安の中にあるのかもしれない、なんて思ったんです。ただの勘ですが」
朝潮の直感どおり、春雨の胸中には様々な不安が渦巻いていた。どうすればいいか分からない、という途方に暮れた気持ちを抱えていたのだった。
春雨「失うことが怖い気持ちを……どうやって乗り越えましたか? どうすれば乗り越えられますか?」
朝潮「幸いなことに、朝潮には司令官が居てくれました。司令官の存在が励みとなって勇気を貰えたんです。
私も自分一人の力で乗り越えられたわけではありませんから、アドバイスが難しいのですが……」
朝潮「貴方に何か大事な心の拠り所があるのなら、それを強く想い、信じ抜けばいいと思います。
自分の中にある想いを信じることが出来れば、自分自身だって信じられるはずです。恐れすらも超えていける……そう思います」 照れくさそうに微笑する
春雨(……今、この瞬間、一番強く想うことは)
春雨(たとえそれがこの世界を守るためだったとしても……空さんには居なくなって欲しくない。犠牲になんてなって欲しくない……!)
パン! と思い切り自分の頬を叩く春雨。隣にいる朝潮が驚いて心配するほどの勢いだった。
春雨「私が……全部守ります。空さんのことも、この世界も、私たちの世界も……。何一つ犠牲になんてさせませんから」
・・・・
現と空がいる場所は、反存在に立ち向かうための訓練場のようだった。ここでは、精神のエネルギーがそのまま実体となって出力される。
空の肩や腕からは真っ赤な血が噴き出していた。ただし、実際に空の肉体が損傷したわけではなく、この血は彼が負った精神的消耗が可視化されたものだった。
意志と意志がぶつかり合えば、その分互いの精神は磨耗する。この空間で戦っている間は、精神の苦痛がそのまま肉体の痛みに変換されるのだ。
現「貴方が反存在を食い止めるための人柱になる……という話も、貴方があちらの世界に生まれた自分自身でなければ信用できたのですが。
小生が逆の立場であったなら、自己犠牲などという選択は取りません。命あっての物種、物語は生きてこそ続く……死ねばそれまで」
手の中から剣を生成し、空に斬りかかる現。跳び退って距離を置き、空もまた生成した数本のナイフを投擲して牽制する。
空「フ、それが貴方の哲学ですか。そうだったとしても……小生は蒔絵現であって蒔絵現ではない。貴方とは違う」
現は迫りくるナイフを次々に弾き飛ばしながら接近し、剣を振り下ろした。
空はこれをナイフで防ぎ鍔迫り合いに持ち込んだ。刃がじりじりと空の身に近づいてくる。
現「もう終わりですか? この程度でへばっているようでは、反存在に一人で立ち向かうことも難しいと思いますが」
ナイフを剣から離すと、剣は真っ直ぐ空に向けて振り下ろされる。しかし、その斬撃には怯まず現の腹にナイフを突き刺す。思わず一歩後方に退く現。
現実であれば双方ともに致命傷となりかねないほどの傷を負っていたが、ここではどちらかの精神が折れるまで戦いが終わらない。
空「その言葉、そっくりそのまま返して差し上げましょう。この程度の威力しか出せない信念で、貴方の志す“永遠の王国”とやらに辿り着けるとでも?」
痛みを意に介さず場内を駆け回り、次々にナイフを生成しながら一定の距離を保ちつつ現を攻撃する空。
現「艦娘と人類の未来……そこに希望はないという結末を、小生はあらゆる世界で観測し続けてきました。
深海棲艦に敗れた結末、艦娘が排斥され人類と対立するようになった結末、艦娘が必要とされなくなり奴隷として扱われるようになっ結末……」
現「救いのある未来が続くであろう世界に辿り着いたと思っても……そんな世界の存在ごとなかったことにされてしまった。
それでも、理想の世界を小生は求め続ける。今度こそ全てを終わらせる……その一心で今も戦い続けている。ここで捨て鉢になっている貴方とは違う!」
現が剣を振り上げると、眼前にあった大量のナイフが一瞬で消し飛んだ。すさまじい速さで振り上げられた剣の衝撃が風を生み、全てを弾き飛ばしたのだ。
空がそのことに気づいた瞬間にはもう現の刃が自分の身体に刻まれていた。さすがに応えたのか、喀血しながらその場にへたり込む空。
空「ぐ……。ハァ……そうでしょうね。……勝てないことなど、分かっていましたよ。
貴方が小生より優秀で強い人間だということも……こうなる前から知っていたことです」
剣についた血を振り払う現。レンズの割れた眼鏡越しに現を見上げる空。
現「確かに、貴方が反存在を滅ぼす者に成り代わるという提案をしていなければ、小生はどちらかの世界を滅ぼすつもりでした。
そして……場合によっては貴方のことも始末していたでしょう。貴方が小生に提案したこと自体は間違いではなかった、むしろ賢明だと評価しています」
現「ですが、反存在を抑止するための人柱……何もわざわざ自らそれになる必要はなかったのではありませんか?
その役目は別の誰かでも良かったはずです。貴方の智謀であれば他の誰かを犠牲にして生き残ることが出来たでしょうし、小生であればそうしています」
血の混じった唾、というよりは唾の混じった血を吐き捨てて、脇腹の傷を抑える空。
空「貴方とは違う……そう言ったでしょう? 小生は蒔絵、空……。今この瞬間に生の充足を感じられている。その実感さえあればいい。
小生にはもはや、失うものなど何もない。捨て鉢になっていると言われれば、その通りかもしれませんが……でも、これでいいんです。
こうなるために生まれてきたのだ……そう考えれば納得できるのですよ。死ぬには十分過ぎるほど生きた、とね……。これは損得や理屈の話ではないのです」
現「分かりました……貴方の覚悟と信念を認めましょう。ならば、貴方が世界を救う存在となるべきなのでしょう……」
・・・・
芯玄「おい、誰かがこっちに向かってきてる。……何者かは分からんが、明確な意志を持ってこっちに向かってるようだ。偶然ではねえ」
朝潮と春雨の座るベンチに戻ってきて状況を報告する芯玄元帥。二人は立ち上がって武装を展開したが、すぐに解除することになった。
涼金「何度か時間が止まったような感覚を察知したが……“まだ”何も起こっていないようだな。なんとか間に合ったというわけか。おや……?」
秋月「蒔絵元帥、護衛に推参致しました! 秋月です! ……って、春雨がなんでここに!?」
春雨「え? どうして秋月さんと涼金さんが……?(『なんでここに!?』はこっちの台詞なんですが……)」
秋月と、涼金さんと呼ばれる白髪の少年――二人は春雨にとって見覚えのある人物だった。
春雨(秋月さんは、柱島時代に私がとてもお世話になった人で……戦場では何度も助けられました。涼金さんはあまり素性は分からないけれど……秋月さんの恋人だそうで。
見た目は少年のようですが、とても物知りで大人びている方だったと記憶しています。なぜ柱島から二人がここに……?)
秋月「……こういう、色のついている歯車に心当たりはありますか?」
秋月が黄色い歯車を見せつけると、反応を示す一同。
涼金「聞くまでもないような態度だな。経緯は省くが……数日前、時間を止める能力を持つ緑色の歯車が奪われたことを察知した。
そして、その時間を止める能力を持った者はこの近くにいる。目的は分からないが恐らく元帥を狙っているのだろう。まずはこの場から一刻も早く離れ……」
涼金を静止するジェスチャーをし、春雨の方を見遣る芯玄元帥。
春雨「待ってください、春雨が全てを説明します。信じられないかもしれませんが……聞いてください」
春雨「この世界とよく似た並行世界があるんです。私はそこで生まれました。
その世界では今、深海棲艦ではなく“反存在”という敵が脅威となっています。
この“反存在”というのは、この世界に存在していたという事実ごと抹消してしまう、恐ろしいものです」
秋月「まさか……! いえ、……とにかく話を続けてください。詳しく聞きたいです」 涼金と顔を見合わせる
春雨「この“反存在”に対抗する手段は、意志や信念といった強い念の籠った攻撃で退けることが出来ますが……根絶やしにすることが出来ません。
なぜなら、反存在はこの世界や並行世界とも別の異世界からやってくるものだからです。……最悪の場合、並行世界は反存在に呑まれて消えてしまうでしょう。
そしてそれはこちらの世界にとっても無縁ではない話。この世界での反存在の被害はまだ少ないようですが……それは並行世界が被害を受けているからです」
春雨「ですが……それももう猶予はありません。この世界にも、もうすぐ本格的に反存在が侵攻してくるようになることでしょう」
涼金「一つ聞きたい。それだけ知っているのなら……なぜ柱島に居た間、誰かにそのことを伝えなかった?」
春雨「ごめんなさい。事情があって並行世界からこの世界に移り住んでいたのですが……その間は並行世界での記憶を失っていたんです。
この世界が反存在に侵されるようになるまでのタイムリミットが来たら元の記憶を取り戻すよう、艤装の情報に設定されていたんです」
春雨「でも……反存在を消し去る方法もあります。秋月さんや朝潮さんの持っている歯車のことを“理の歯車”というのですが。
単体では自分の居る世界にしか変化を及ぼすことが出来ませんが……複数あれば影響力は強まります。
六つある歯車を揃えたなら……全ての世界から反存在を消滅させることが出来るでしょう」
ナイフを剣から離すと、剣は真っ直ぐ空に向けて振り下ろされる。しかし、その斬撃には怯まず現の腹にナイフを突き刺す。思わず一歩後方に退く現。
現実であれば双方ともに致命傷となりかねないほどの傷を負っていたが、ここではどちらかの精神が折れるまで戦いが終わらない。
空「その言葉、そっくりそのまま返して差し上げましょう。この程度の威力しか出せない信念で、貴方の志す“永遠の王国”とやらに辿り着けるとでも?」
痛みを意に介さず場内を駆け回り、次々にナイフを生成しながら一定の距離を保ちつつ現を攻撃する空。
現「艦娘と人類の未来……そこに希望はないという結末を、小生はあらゆる世界で観測し続けてきました。
深海棲艦に敗れた結末、艦娘が排斥され人類と対立するようになった結末、艦娘が必要とされなくなり奴隷として扱われるようになっ結末……」
現「救いのある未来が続くであろう世界に辿り着いたと思っても……そんな世界の存在ごとなかったことにされてしまった。
それでも、理想の世界を小生は求め続ける。今度こそ全てを終わらせる……その一心で今も戦い続けている。ここで捨て鉢になっている貴方とは違う!」
現が剣を振り上げると、眼前にあった大量のナイフが一瞬で消し飛んだ。すさまじい速さで振り上げられた剣の衝撃が風を生み、全てを弾き飛ばしたのだ。
空がそのことに気づいた瞬間にはもう現の刃が自分の身体に刻まれていた。さすがに応えたのか、喀血しながらその場にへたり込む空。
空「ぐ……。ハァ……そうでしょうね。……勝てないことなど、分かっていましたよ。
貴方が小生より優秀で強い人間だということも……こうなる前から知っていたことです」
剣についた血を振り払う現。レンズの割れた眼鏡越しに現を見上げる空。
現「確かに、貴方が反存在を滅ぼす者に成り代わるという提案をしていなければ、小生はどちらかの世界を滅ぼすつもりでした。
そして……場合によっては貴方のことも始末していたでしょう。貴方が小生に提案したこと自体は間違いではなかった、むしろ賢明だと評価しています」
現「ですが、反存在を抑止するための人柱……何もわざわざ自らそれになる必要はなかったのではありませんか?
その役目は別の誰かでも良かったはずです。貴方の智謀であれば他の誰かを犠牲にして生き残ることが出来たでしょうし、小生であればそうしています」
血の混じった唾、というよりは唾の混じった血を吐き捨てて、脇腹の傷を抑える空。
空「貴方とは違う……そう言ったでしょう? 小生は蒔絵、空……。今この瞬間に生の充足を感じられている。その実感さえあればいい。
小生にはもはや、失うものなど何もない。捨て鉢になっていると言われれば、その通りかもしれませんが……でも、これでいいんです。
こうなるために生まれてきたのだ……そう考えれば納得できるのですよ。死ぬには十分過ぎるほど生きた、とね……。これは損得や理屈の話ではないのです」
現「分かりました……貴方の覚悟と信念を認めましょう。ならば、貴方が世界を救う存在となるべきなのでしょう……」
・・・・
芯玄「おい、誰かがこっちに向かってきてる。……何者かは分からんが、明確な意志を持ってこっちに向かってるようだ。偶然ではねえ」
朝潮と春雨の座るベンチに戻ってきて状況を報告する芯玄元帥。二人は立ち上がって武装を展開したが、すぐに解除することになった。
涼金「何度か時間が止まったような感覚を察知したが……“まだ”何も起こっていないようだな。なんとか間に合ったというわけか。おや……?」
秋月「蒔絵元帥、護衛に推参致しました! 秋月です! ……って、春雨がなんでここに!?」
春雨「え? どうして秋月さんと涼金さんが……?(『なんでここに!?』はこっちの台詞なんですが……)」
秋月と、涼金さんと呼ばれる白髪の少年――二人は春雨にとって見覚えのある人物だった。
春雨(秋月さんは、柱島時代に私がとてもお世話になった人で……戦場では何度も助けられました。涼金さんはあまり素性は分からないけれど……秋月さんの恋人だそうで。
見た目は少年のようですが、とても物知りで大人びている方だったと記憶しています。なぜ柱島から二人がここに……?)
秋月「……こういう、色のついている歯車に心当たりはありますか?」
秋月が黄色い歯車を見せつけると、反応を示す一同。
涼金「聞くまでもないような態度だな。経緯は省くが……数日前、時間を止める能力を持つ緑色の歯車が奪われたことを察知した。
そして、その時間を止める能力を持った者はこの近くにいる。目的は分からないが恐らく元帥を狙っているのだろう。まずはこの場から一刻も早く離れ……」
涼金を静止するジェスチャーをし、春雨の方を見遣る芯玄元帥。
春雨「待ってください、春雨が全てを説明します。信じられないかもしれませんが……聞いてください」
春雨「この世界とよく似た並行世界があるんです。私はそこで生まれました。
その世界では今、深海棲艦ではなく“反存在”という敵が脅威となっています。
この“反存在”というのは、この世界に存在していたという事実ごと抹消してしまう、恐ろしいものです」
秋月「まさか……! いえ、……とにかく話を続けてください。詳しく聞きたいです」 涼金と顔を見合わせる
春雨「この“反存在”に対抗する手段は、意志や信念といった強い念の籠った攻撃で退けることが出来ますが……根絶やしにすることが出来ません。
なぜなら、反存在はこの世界や並行世界とも別の異世界からやってくるものだからです。……最悪の場合、並行世界は反存在に呑まれて消えてしまうでしょう。
そしてそれはこちらの世界にとっても無縁ではない話。この世界での反存在の被害はまだ少ないようですが……それは並行世界が被害を受けているからです」
春雨「ですが……それももう猶予はありません。この世界にも、もうすぐ本格的に反存在が侵攻してくるようになることでしょう」
涼金「一つ聞きたい。それだけ知っているのなら……なぜ柱島に居た間、誰かにそのことを伝えなかった?」
春雨「ごめんなさい。事情があって並行世界からこの世界に移り住んでいたのですが……その間は並行世界での記憶を失っていたんです。
この世界が反存在に侵されるようになるまでのタイムリミットが来たら元の記憶を取り戻すよう、艤装の情報に設定されていたんです」
春雨「でも……反存在を消し去る方法もあります。秋月さんや朝潮さんの持っている歯車のことを“理の歯車”というのですが。
単体では自分の居る世界にしか変化を及ぼすことが出来ませんが……複数あれば影響力は強まります。
六つある歯車を揃えたなら……全ての世界から反存在を消滅させることが出来るでしょう」
芯玄「つまり……その反存在とやらに対抗するために、全ての歯車を集める協力をして欲しいということか?」
春雨「はい。そうなんですが……そう簡単に解決する話でもないんです。この世界と並行世界は、あまりにも似すぎているんです。
一つの世界が二つ存在していると言ってもいいぐらいに……。だから、この世界での結末と並行世界での結末が異なっていてはいけないんです」
春雨「こちらの世界で歯車を集めて反存在を消し去ったとしても、並行世界ではそれが行われなかった。
そうなると……“行われなかった”という並行世界側の真実を介して、反存在は結局無くならないんです」
朝潮「では、どちらかの世界を滅ぼさなければならない……ということでしょうか?」
春雨「そうです。あるいは、自分自身が反存在を滅ぼし続ける意志を持った概念となって、歯車の力で全ての世界に拡散されるか、……。
こっちの世界には居た人が並行世界には居ない、という差異はありますから、この方法ならどちらの世界も失わず反存在を食い止めることができます」
春雨「ですが……これも結局最低一人の犠牲が必要となってしまいます。それで……ここからは春雨のお願いです」
深く息を吸ってから吐き、真っ直ぐな目で一同に語りかける春雨。雲の切れ間から太陽が差し込む。
春雨「この世界も並行世界も滅びることなく、かつ、誰一人として犠牲にならない方法を実現するために……春雨に協力してくれませんか?」
・・・・
提督「……う。蒔絵現との戦いの後、気を失っていたようですね。ええと、小生の持っている赤・紫の歯車。
蒔絵現の持っている水色・緑色の歯車。芯玄元帥の持つ青色の歯車。黄色の歯車はどこにあるか不明、と……」
横須賀鎮守府の、自室のベッドで目を覚ます提督。室内のデジタル時計には21:35と表示されていた。
提督「とにかく……黄色の歯車がどこにあるかを調べねばなりませんね。ああ、芯玄元帥にも謝罪しないと……うぅーむ」
精神的に打ちのめされた後の起床だけあって倦怠感が強かったが、そうも言っていられないので無理矢理身体を叩き起こす空。
執務室ではエプロン姿の春雨がソファに座っていた。提督の頭上に?が浮かぶ。
提督「こんな時間に一体何をしているんです? それも、そんな恰好で……」
春雨「もうちょっと早く起きていたら、出来立てのを食べさせてあげられたんですけどね。今お夕飯をレンジで温めてきますから、ちょっと待ってて下さいね」
春雨はソファ傍のテーブルの上に食器の乗ったトレーを配んできた。
味噌汁と白飯、青椒肉絲(チンジャオロース)に麻婆春雨がテーブルに置かれる。
春雨「お腹空きましたよね? めしあがれ」
提督「? 確かに空腹ではありますが……。とりあえず、いただきます」 当惑しつつも春雨から箸を受け取る
春雨「どうですか。お口に合うと良いんですけど……」
提督「! この麻婆春雨……美味しいですね。かなり好みの味です」
春雨「ふふ、喜んでもらえて良かったです。胡麻油と五香粉が秘伝なんです」
春雨がなぜ突然手料理を振る舞ってくれたのかは提督にとって疑問だったが、とにかく料理の出来栄えは素晴らしかった。
舌が求めるままに勢いよく食べ進め、気がついたら完食していた。
・・・・
提督が料理を食べ終えると、春雨が今度は杏仁豆腐の入ったボウルを持ってきた。小皿に分けて提督に渡す春雨。
提督「ありがとう。……これも美味しいですね! 食べながらの質問で悪いんですが……蒔絵現はどこに?」
春雨「元の世界に戻って行きました。……司令官もまた、自分の世界で“反存在”と戦わなきゃですから」
提督「(彼がなぜそんなにすんなりと引き下がったのでしょう……?)全ての歯車を集めなくてはならないのでは……?」
春雨「はい。全部ここにありますよ」
ポケットから六色の歯車を取り出す春雨。提督は驚いて不思議がる。
提督「ややや……!? 小生が眠っている間に何が起こっていたというのですか?」
春雨「春雨は……空さんに犠牲になって欲しくなかったんです。だから考えました。誰も犠牲にならない方法を。
って……方法を思いついたのは、春雨じゃなくて涼金さんという方なんですけどね」
提督(誰です……?)
春雨「“反存在”というのは、人間の認識を餌に襲ってくる敵です。現(うつつ)司令官が言っていた、正史が二つあると都合が悪いというのはそういうこと。
でも……こちらの世界とあちらの世界とで、それぞれ独立したものとして扱われるようになったなら、反存在が解釈によって存在状態が変わるということは起こらない」
春雨「だから……反存在を直接滅ぼそうとするのではなく、反存在が世界と世界の間を移動できないようにしてしまえばいいんです。
歯車の力で、全ての世界を分断します。こうすることでそれぞれの世界に反存在は残留しますが、それでも……異世界から無限に出現し続けることは無くなります」
春雨「……あ! ちょうど映像通信が届きました。衣笠さーん!」
室内の大画面モニターに艦娘たちの姿が映し出される。満ちた月に照らされる彼女たちの姿は、提督の胸を揺さぶるほどに凛々しく美しかった。
提督「なんと壮麗な……ではなく! 貴方たち、勝手に出撃などしてどうしたというのです?」
衣笠「おっ! 提督。おそようございまーす! 今日はカッコいいところばっちり見せちゃうから、期待しててよね?
青葉にも見せてあげたいところだけど……そういうわけにもいかないからなぁ」
画面越しにピースサインを送る衣笠。ビデオカメラのような装置から映像を送っているようで、提督の配下である第二艦隊メンバーを映して回っていく。
神風「ふふ……夜の戦いは怖いけれど、今日はなんだかいつもより漲るわね。
司令官が見てくれているし……それに、スペック抜きでの気持ちの勝負なら負ける道理なんてないわ」
ビス「なっ! 私は撮らなくていいわよ。いつも通りの活躍を期待してくれていたら、それでいいんだから。
戦う相手が何者であれ……私は戦艦ビスマルク! アトミラールの期待に応えるだけよ」
提督「なぜ、第二艦隊の皆が勝手に海へ……?」
説明を求めるような視線を春雨に向ける提督。
春雨「春雨が皆にお願いしたんです。夜が明けて戦いが終わったら、歯車の力でそれぞれの世界を分断させますが……。
どのみち、今夜までに顕現した“反存在”はこの世界に残留してしまうんです。今からそれを一網打尽にやっつけるんです」
春雨「その……春雨はあんまり戦闘に自信がないから、ここで空さんと一緒に応援しているんですが……。
麻婆春雨は、これからあそこで戦うみんなのために作ったんです。得意料理だったので!」
提督(小生が寝ている僅かな間にそこまで考え、皆を説得し、行動に移させたというのですか……)
映像には横須賀鎮守府に所属していない艦娘の姿も少数ながら混ざっていた。
艤装の上に乗る白髪の少年を乗せた艦娘が、彼に語りかける。
秋月「まさか……“また”戦うことになるとは思いませんでしたね。けれど……あの時とは違いますね」
涼金「違いない。幾度となく手を焼いてきたが……今度こそ本当に決着だ。リベンジマッチといこう」
海の風に吹かれて長い黒髪を揺らす少女は、自分用の発信機越しに誰かと会話していた。
朝潮「ええ、大丈夫です。……司令官と朝潮の世界を蝕む者は、誰であろうと容赦はしません」
・・・・
暗夜の海原に眩い光が昇る。黎明が戦いに終わりを告げた瞬間だった。
戦い抜いて役目を果たした艦娘たちは疲れ切った様子だったが、どこか晴れがましい満足気な表情をしていた。
涼金「これで安心して柱島に帰れるな。……」
秋月「ですね。……後のことは春雨に任せましょう」
通信が途絶えると、提督は安堵の溜息を漏らす。
春雨もまた、倒れるようにしてソファにもたれかかる。緊張の糸が切れたのだろう。
春雨「一人の犠牲も出なくて良かったです。……本当に良かった」
提督「指揮を出すような戦術的なぶつかり合いのない、なんとも大味な殴り合いでしたが……。それ故にかえってハラハラさせられましたね」
それから、二人は母港の岸辺で帰投した艦娘たちを待っていた。冬が終わる寒さの中で吐いた息は白い色に染められる。
朝方の薄暗さを払うかのように、昇り行く太陽の光芒が水平線上をあまねく照らしていた。
提督「ありがとうございます。……結局、全部春雨に頼りっきりで全てが終わってしまいましたね」
春雨「……私だって色んな人に頼っただけですよ。自分では何もしていませんから、お礼なら皆に言ってあげてください」
提督「昨日……というより、こっちの世界に戻ってくる前に、貴方にだいぶ酷いことを言ってしまいましたよね。
貴方の存在意義や人格を疑うような、冷淡な態度を取りました。本心から言ったことなので、謝りはしませんが……。
完全に嫌われたと思っていましたよ。……だから、こっちの世界に着いて来てくれたことも、ここまでの働きをしてくれたことも、驚きでした」
春雨「傷ついたのは事実です。空さんの言葉は……今まで生きてきて、一番心に刺さりました。
悲しいとか、苦しいとかを通り越して……どうしていいのかも分からなくなりました」
提督の両手を、包み込むように優しく握る春雨。僅かに赤面する提督。
春雨「けれど……空さんの言葉があったから、春雨は自分自身と向き合えたんです。
空さんは……私のことを初めて本当に見つめてくれた人で……だから、その……、消えて欲しくなかったんです」
素直な気持ちを伝えるのが照れくさくて恥ずかしいのか、少しドギマギした様子の春雨。
提督「小生は……。この先も隣に春雨が居てくれたら……なんて思うのですが」
春雨「ごめんなさい、それは出来ないんです。春雨は……皆のお迎えが終わったら、元の世界に戻ります」
一瞬、提督の表情が面食らったような顔つきになったが、すぐさま冷静さと落ち着きを取り戻す。
提督「そうか……そうですよね。世界を分断するということは、もう世界を行き来することも出来なくなるってことですからね。
じゃあ、選ぶのはやっぱりあちらですよね……ハハ」
残念そうな顔で首を横に振る春雨を見て、思わずアイロニカルな笑いを浮かべる提督。
提督「淡い妄想を少し描いていたのですが……ま、花に嵐のたとえもありますか。ここでお別れするからこそ美しい思い出になるのかもしれません」
それから二人は、帰ってきた艦娘たちと共に盛大な祝勝会を開いた。会が終わると、春雨は歯車を持って元の世界へ戻っていた。
春。長かった冬が終わると、俄かに麗らかな陽気が訪れる。桜の花もちらほら咲き始めていた。
衣笠「おーい。まだ時間かかりそうなの? もうお花見の集合時間になっちゃうよ? フラれて傷心気味なのは分かるけどさ~。
あんまり根詰め過ぎても毒だって。パーッと騒ぐのも案外悪くないもんだよ」
提督「ハハ、振られたとか言うんじゃないですよ。事実ですけども。でも……ちょっと今日は創作意欲がノってるんですよねー」
執務室の入口前で提督を急かす、普段着の衣笠と神風。提督はキャンバスの前から動こうとしない。
神風「それにしても綺麗な絵ね……。これ、冬の間に描き始めた絵で、実際には桜を見ながら描いたわけじゃないんでしょう?
頭の中での想像だけでこんなに色彩豊かで鮮やかな絵が描けるなんて……凄いわね」
春雨が元の世界に帰った後、提督は執務の合間に絵を描くようになった。
誰かに見せて評価されるためでもなく、売れるためでもなく、ただの自己満足だった。
提督「春雨と見たかった景色を形にしたかったんです。あ! ……とかいうと、本当に傷心してるみたいですが。
喪失とか、別れの淋しさとか、そういうネガティブな意味合いじゃないんです。人と人とが出会えば、別れが訪れるのは仕方ないことですから」
提督「そうではなくて、純粋に……前向きな幻想なんです。悪く言えば妄想かもしれませんけど」
彼の絵画は、売りに出しても恐らく二束三文の価値がつかないだろう。
それは、彼の技巧や能力が劣っているというわけではなく、目新しさのないありふれた風景画だったからだ。
表現としては優れていても、商品価値のない作品だった。……それでも彼は、色とりどりの景色を夢中で描き続けた。
衣笠「他の艦隊の提督も居るんだから、遅れると本当は良くないんだけどなあ……。うーん……しょうがない!
設営とかもやらなきゃいけないから、私と神風と先に待ってるわね。遅刻するって説明はしておくから好きなだけ描いていていいけれど……。
でも、ちゃんと後で来てよね! 皆待ってるんだから」
提督「恩に着るよ。ビス子にも怒らないように言っておいてもらえるかい?」
神風「一応伝えてはおくけれど……それは無理だと思うわ」
笑いながら部屋を去っていった衣笠と神風。一人、部屋に取り残された提督。
提督は、絵を描きながら春雨と過ごした日々のことを思い出していた。
キャンバスの中に自らの空想や理想を映し出す。春雨との幻想の日々を思い浮かべる。
それが叶うことはなくとも、不思議と虚しさは感じなかった。
・・・・
提督「さて……ようやく完成です。図らずも大作になってしまいましたね。出来が、というよりは、かかった時間が……という意味でですが」
皮肉っぽく制作にかかった時間を自嘲していたが、彼にとってはここ最近の中では一番満足の行く出来栄えだった。
その作品は、風に吹かれた桜の花が茜色の空に舞う絵だった。遠景にはどこか春雨を思わせる少女のシルエットが小さく描かれている。
画材を片づけながら花見に出かける支度をする提督。外の景色は夕焼けの穏やかなオレンジに包まれていた。
提督「熱中していたから、外のことなんて気づきませんでしたが……奇しくも今描いた絵と同じような景色をしていますね。
けれど、現実と同じような景色を描くのなら、写真や動画でも同じことなのかもしれません。はは……」 自嘲が部屋に木霊する
提督「まあ。意味なんてなくたっていいでしょう。小生の絵は、自己表現でも芸術でもなんでもない……ただの理想の原風景なのだから」
独り言を呟きながら片づけの作業を進めていると、提督はどこか懐かしいような香りに気づく。
紅茶のような、香り高い匂いだった。不思議と落ち着く匂いだった。
春雨「お久しぶりです。少し時間がかかってしまいましたが……戻ってきました」
目を疑うように何度も瞬きする提督。満面の笑みを浮かべる春雨。
提督「あちらの世界に行ったきり、戻ってこれないという話ではありませんでしたか? なぜここに……?」
春雨「現(うつつ)司令官が……、こちらの世界の春雨だった駆逐棲姫を、あちらの世界で保護していたことを知って。
二人が仲睦まじそうにしていたのを見たんです。ショックだったわけでも、現さんに失望したわけでもないんですが……。
ただ、二人の方が相応しいように見えたんです。それで……春雨の司令官は、空さんなんだなって思ったんです」
春雨「司令官は……いつでも春雨と真正面から向き合ってくれて。司令官の言葉には、良くも悪くも心が揺さぶられてしまうんです。
春雨の心が傷つくような厳しい言葉でも……その厳しさの中に愛情があって。愛されてるって分かるから、司令官のことを嫌いになれないんです」
真っ直ぐな紅色の瞳で提督を捉える春雨。彼女の澄んだ瞳に映っているのは、もちろん提督の姿だった。
春雨「だから、片道切符になっちゃいましたけど……全ての歯車の力を使ってここに来たんです。
司令官に逢いたいなって思って、逢いに来たんです。ダメ……でしたか?」
提督「ダメではありませんけど、ね……なんというか、奇妙なものです」
春雨が部屋に入ると、キャンバスに描かれた桜並木の絵に気づく。春雨は思わず、綺麗……、と呟いた。
その絵は、彼が春雨と共に見たいと思って描いた絵だったが、春雨にとっても同じ気持ちを引き起こさせる絵だった。
提督「……他にも色々な絵を描いたんです。春雨と一緒に見たいと思った、幻想の景色を。
春の木漏れ日も、夏の霖雨も、秋の渓谷も、冬の雪原も……春雨と共に分かち合いと思って、描いていたんです。
でもこれからは。空想じゃなく、二人で共に過ごした日常の風景を描いていきたいですね」
春雨「春雨も……司令官と過ごすこれからの未来が楽しみで仕方ないんです。
いつか別れる日が来ても、今はもう怖くありません。司令官が春雨を想って絵に気持ちを託していたように。
離れ離れになったとしても、寂しくなったとしても……私の心の中には、いつでも空さんがいてくれるから」
二人は、花吹雪に包まれながら夕晴れの並木道を歩き出した。桜の花が風に舞って、二人の頭上に降り注いでいた。
ってな感じで5章終わりです。
うげえー。投稿作業グダってすみませんでした。
本日21:00に次の安価を行うのでよろしくお願いします。
////チラシ////
やっとこさ5章も終わって次の章で今度こそこのスレも終わりです。まあ心境的には今回でラストの気持ちぐらいで書きましたが……。
なんかこう、1~4章までに雪だるま式に積もってったゴチャゴチャと全部向き合った結果こんなになりました。
箱に入ってたレゴブロックを全部取り出した片っ端からくっつけていったらよくわからないけど巨大な何かが出来ました……的な。
まあ裏話みたいなのは……あんまないというか、盛り込んだ要素も没になった要素も多すぎてすごいのでなんかもう作者でもよく把握しきれてないです。
次の安価が決まった後にでも適当に書こうと思いますが。ってなわけでまた21時頃にお会いしましょう。
10日からイベっすね~。久しぶりの大規模作戦なんでどのぐらいの難しさになるか気になるところですね。
ここ最近だとレベルキャップが165になったのが艦これプレイヤー的には一番でかいニュースです。
/* 初期設定安価 */
登場させたい艦娘の名前を一人分記入してください(必須)。
また、任意で作品の舞台設定や作品傾向を指定することができます。
(参考:>>669->>671)
>>+1~5
※キャラ名未記入の無効レスや同一ID被りが起こった場合は>>+1シフト
五月雨
五月雨
イムヤ
>>868より伊168が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:05(無)
知性:16(お察し)
魅力:46(人並み)
仁徳:99(!?)
幸運:11(かなり不運)
決まるの早かったですね。瞬きしたら終わっていました。
かなり尖ったステータス配分になってますが……。スペックは例によって適当なんであんまり気にするもんじゃないです。
////今作についてあれこれ////
所感として……今回はあんまり狙いに来てない感じのお話になったと思います。
「半年待たせてこんなもんか!」って思った人もいるかもしれませんが、まあ頑張って書いたつもりです。半年ないと書けないよこれは……。
別にハイドラマめいた内容を書くつもりなんてなかったし、書きたいわけでもなかったんですけどね……いつだって娯楽作品のつもりで書いてるんですが。
今回は禅問答に衣をつけて揚げた天ぷらみたいな話になってしまいました。カロリー高いっすねー。え? 言い訳はいい? そうですか。
<ストーリー周りの話>
「えぇ~……もうこれ以上何書く!?」みたいな状態から始まりまして。で、ある種の禁じ手みたいな書き出しから始まることになりました。
イチャラブに向かってカタルシスを溜めていくのが常道ですし、今まではそうやって来たんですけど……まさかの1レス目からぶん投げてみるっていう。
結果として、これまでと違う作品にはなったんかなあと思います。ただ、それが良かったのか悪かったのかは……。まあ、あれです、意欲作というやつです。
なんというか……これまでは艱難辛苦を越えた末に結ばれてゴールだったわけですが。
それを真っ向からぶっ壊していく今回のカオスな流れに、どれだけの読み手がついていけるのか正直分かりません。
「愛とはなんぞや」とか「どこまでが自分でどこからが自分じゃないのか」とか。やたら哲学的な領域に踏み込んでしまったので、人によって見え方も違うと思います。
“この作品ではこうなった”というだけで、何が正しいか/何が良いか/何が本物なのかなんてのは決めるつもりで書いてません。
それと、歯車のくだりや“反存在”(4章で言うところの“バグ”)みたいなとこは全回収して締めようと思っていました。
その……拾うことによって作品のテンポが悪くなるんで、あんま要らんっちゃ要らんのですけども(作者の脳内でさえ賛否両論)。
それはそれで1章から4章の続きである必要もなくなってしまうので。続いてる話なら拾わないと腑に落ちないな、と。
最終的には「これまで話を続けてきたからこそ書ける」っていう内容に落ち着いたので、まあ意味があったかなと。
学園スタートじゃないから厳密な定義からは外れますが、ま~相当すさまじいセカイ系になってしまったなあと思っています。
完全にバニラな気持ちで、新しい作品と向き合うような感じでやってもよかったんですけど……。
それは次の章でやろうと思ってたんで、今回はこんな感じです。
<キャラクター周りの話>
春雨について:
なんか……難しかったです。いえ、決して。決して! 春雨というキャラクターには魅力がないという話ではありません。
というか艦これに魅力的でないキャラクターなんて居ませんよ! そんなことを言う人はお仕置きです。
そうではなく! 彼女をメインで出すなら、絶対に甘々な話をやるのが向いているんですよ。ただ、別にそれはこのスレじゃなくても読める話なんすよ。
というわけで……メインストリームと真っ向から反するようなキャラ付けになりました。
※脱線※
そもそも、艦これ世界の話でNL恋愛モノをやるならば、基本的には提督対艦娘が一対一のクローズドなイチャラブを展開していくのが良いんですよ。
数ある艦娘の中からなんかしら特別でなくてはならない理由付けをしてやって、後は二人の世界でよろしくやっていくのが王道中の王道で。
艦娘にとって恋愛的感情を抱く対象が二人もいちゃ本当はダメなんですよ! まして春雨なんて純情なキャラでそれをやりやがって……という。
※脱線ここまで※
……まさかヤンデレ的な要素もちょっと混ざるとは、って感じですけど(まあ相手も自分なのでヤンデレともまた違うような……)。
純粋であるがゆえに不安や思考に流されやすく、だからこそ危ういというか。彼女の世界には蒔絵現しか居なかったから彼を愛していたのでしょうね。
そっから蒔絵空と出会って、少しずつ価値観が変わっていくのが見所かな~と。
最終的には、少女から確固たる人格を持った一人の人間に成長したんだと思いますけど(あくまで作者がそう思うだけですけど)。
提督(蒔絵空)について:
こっちに関してはむしろもっと尖らせてもいいかなぐらいに思ってたんですけど、最終的にはまあ普段通りな感じに落ち着いたかなと。
あの、作中でもあるように艦娘ってみんな良い子すぎると思うんですよ。
(ただし「作中の提督こと蒔絵現がそう思う」と「作品内とは直接関係のない作者がそう思う」は切って分けて考えてください)
だから……あんまり極端にダメ人間には出来ないんすよね。ある程度艦娘から愛される資格のある人格でないとダメで。
一人称が“小生”なのがヘンに思ったかもしれませんが、わりと世間の感覚とはズレた環境で育ったから、という設定です。
まあ……というのは建前で、これまでの章に登場した提督との差別化のためです。
変な一人称とか語尾でキャラ付けするのって、物書き的にはすごい悪手なんですけどね。
ステレオタイプなイメージを与えるのには役立つんですけど、逆に言えばそれに縛られてしまうんで、主要キャラで使っちゃダメなんです。
というわけでホントに“小生”でいいのかは結構悩んだんですけど……。
最終的には「なんかコイツは自分をそう名乗っててもおかしくないかな」ってなったんでそのようになりました。
実際書き終わってから見返したらむしろ「もう小生以外ありえんな」と。
他はまああれこれありますが……書くと長くなるのでこんなところで。本当もっとこの章ゴチャゴチャする予定だったんですけどね。
アニミズムとか、唯識とか、ミーム汚染とか、観測者問題とか、記憶の遺伝とか、エクトプラズムとか……。
危うく脳味噌が沸騰しかけたのでそこまで盛り込みませんでしたが(本当に全部ぶっ込んだら尺が足りないですし)。
この半年間は現実生活が結構荒んでたのも相まって、執筆作業はかなり大変でした。
次の章も19レスと長いんで、2~3ヶ月かかっちゃうかもしれませんけど、今回よりは早く仕上げます。で、今回よりは単純明快な話にするつもりです。
>>670で名前が多く挙がった艦娘がヒロインって書いてあるけど今回の場合は五月雨じゃない?
>>874
指摘ありがとうございます。
自分で設けたルールも忘れてるようではいけませんね。
(>>868さんごめんなさい!)改めまして……。
>>865,>>866より五月雨が登場するお話になります。
提督のスペックは以下の通り。
[提督ステータス]
勇気:05(無)
知性:16(お察し)
魅力:46(人並み)
仁徳:99(!?)
幸運:11(かなり不運)
とりあえず次が最後の章になるので、これで安価もおしまいになります。
(次スレ? いやいや流石にもう無理ですわ……)
これまで手を変え品を変えで安価を投げ続けてきたましたが、それもこれで最後になります。
大変ではありましたが、人のオーダーを聞いて文章を書くというのは、やりがいのあるものでした。
今まで本当にご協力ありがとうございました。では、また数ヶ月後にお会いしましょう。
夏イベが終わってまた秋刀魚漁のシーズンですね。北方任務が捗っていいですね。
え?今年は海防艦掘りに3-5と6-1を周回するんですって?ガチ勢こわ・・・。
茶番はこんなもんでお久しぶりです。
2ヶ月経ったわけですが、進捗なのですが。進捗なのですが…………。
……年内には!年内には完結させますんでどうかお待ちください。
つまりそのぐらいにヘボなペースでしか進んでいないということですね。
その~……あんまリアルがそれどころじゃなかったんですよね。すいませェん。
////チラシの裏////
まだ時間かかりますという話だけでは味気ないので、なんかまたダラダラ書くことにします。
例によっておまけみたいなもんなんで暇すぎる方だけお読みください。
んー、とはいえもう自分の書いた話について語ることもないというか。
もはやこれ以上自分は何を描けばいいのだろうとさえ思ったり思わなかったりしています。
いや好きに書いたらいいんでしょうし結局は好きなようにやらせてもらいますけど……。
出来の良し悪しや巧拙はさておき、どうにもやり尽くしちゃったな~という感じがありまして。
とか言うとやる気を失くしたみたいに捉えられそうですが、そういう訳でもなく。
次はどういう感じで行くべきか攻めあぐねているといった具合ですね。
当初はオムニバス形式で完全に独立した形でやるつもりだったはずが、こんな感じで結局一つにまとめてしまったってのも一因ですかね。
正味な話、焼き増しに次ぐ焼き増しを続けてきたので雪だるま式に執筆難易度が上がっているという……しかしそれもこれで最後!
それはそれで意味があるというか、次の最終章でなんだかんだこれで良かったなと思わせる感じに持って行きたい、ですね(願望かい)。
終わりよければ全てよしってことで、上手くまとめられればな~とゆるい感じに考えています。
そんな前置きもしつつ、次の章についての話。
これまでは投稿前にあんまネタを明かさないようにしてきたのですが、今回はもう手の内を明かしてしまおうかなと。
ドラマやアニメの最終回スペシャルみたいな感じで、それぞれの鎮守府の艦娘・提督たちのその後をクローズアップしようと思ってます。
そればっかりに尺も割けないので、五月雨と次の章の提督も絡めつつってな感じになると思いますが。
どうなんでしょうね?「そういうの本当に需要あんのか?」とか内心不安なんすけども。
前の章とかも結構反省点多いしさぁ……とかネガティブな振り返りはさておき、まあそういう感じで行こうと思っています。
うーんと、内容についてはまだまだブレてるところがあり、最終的にどういう形になるかは分からんのですが。
全体的にファンタジーな雰囲気になると思います。いや、剣とか魔法は出てきませんが。
これまでの章みたく時空や世界がどうこうみたいなスゴイことも起きませんが。
ファンタジーという言葉を使うと誤解が生じるので、幻想とでも表現しておきましょうか(意味同じなんすけどね)。
そんな大仰なもんじゃないです。なんていうかその……郷愁とかそういう感じの安直にエモいテーマで行こうかなーと。
子供の頃に見たなんてことはない風景とか、大人になって思い返すとやけに美化されてるアレです。
もうね……あの、身の上話を深くは書くつもりはないですけど、もう色々人生疲れたっす。
そんなわけで、現実逃避に妄想ぐらいは夢みたいな話を描こうかなと。
キラキラしたものが書きたい欲が高まりつつあるのでそうしたムーブメントが生じています(?)。
五月雨のキャラを考慮してもそういう話が似合いそうですしね。
一章(瑞鳳のやつ)に近いテイストになるかもしれませんね。
あんまりイチャラブする予定はないですけど。ふわっとした感じで。
やべえ……あんまりまとまりがない文章になってしまった。えー、あれです。
次はもっと頭がちゃんとしてる時に書きます。ゆる~く頑張りますんで、温かい目でお願いします。
イベですね~。甲で完走した人はボーキやバケツがやべ~ことになったのではないでしょうか。
ギミックに次ぐギミック、三本ゲージからのまたギミックと、ボスが比較的有情(最終海域除く)な代わりにかなりややこしい感じでした。
E4はボスよりZ6マスS勝利の方が沼ったかもしれません……。あと期間限定ボイスの山城がメッチャ勇ましくて良いですね。
と前置きはさておき。次回の投稿の件なんですが、……んん。
クリスマス以降新年以内のどこかで行きたいと思います(時間が取れそうだったらもうちょっと前倒ししますが)。
その辺のタイミングだとリアルの諸々も片付いてそうなんで……というわけで今月末にはやっちまいたいと思ってます。
もうこれ以上伸びることは流石にない、はず。だいぶグダグダになってしまいましたがお付き合いいただきありがとうございました。
……ぶっちゃけますとまだ完成してはないんですけどね。まあ、多分、恐らく、きっと、大丈夫です!
ではまた何週間後かにお会いしましょう。
/ .\\ ./ / ∧ ∧ \ \ \ | /
\ \\ ./ .(´・ω・) / \ \ \ | /
\ \\ ∪ ノ '. \ \ \ | /| /
o .\ \\ ⊂ノ/ \ \ \ | / | ./
"⌒ヽ . \\ / \ \ \| / | /
i i \\ ○ _\ \/|/ | ./
○ ヽ _.ノ .\ \\ _,. - ''",, -  ̄ _.| /
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○ \ \\//。 \ 今年ももう終わりだな
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>>886 すまぬ……
そろそろいい加減にしろと張り倒されそうですが、年内の投稿は無理そうです……。
次回の投稿は1/6(土)にします。これはさすがにマジのマジです。マジ、マジです。
ほんっとにすみません。心底申し訳ない……。
自分としても年内にケリつけたかったんですけどね……。
(自業自得ですが、)自分にとっては負い目を感じる一年となってしまいました。
その、6000バイトの字数制限があるゆえ、はみ出た文字数分削ったりしなければならんのですが、
それを19レス分やっている時間はどうにも年末年始なさそうな状況でして……。
とはいえ、もはや何を言っても言い訳にしかならないですね……弁解の余地なしです。
1/6(土)の夜になるでしょうか。長い付き合いでしたが待たせるのはこれが最後です。
よいお年を。そして来年もどうか一週間だけお付き合いよろしくお願いします。
その後はもう全て忘却の彼方に消し去ってもらって構いませんので(?)。
ぼちぼちやっていきます
パプアニューギニアはビスマルク諸島北部、その洋上に浮かぶ軍事拠点が私たちのラバウル基地です。
赤道付近に位置するだけあって気候は高温多湿です。一年の間に最高気温が30度を下回る月はまずありません。
毎日Tシャツと半ズボンで過ごせるので、お洋服に悩まなくていいかもしれませんね。
暑そうで嫌だなあって思いませんでしたか? 心配はご無用です!
ここラバウルには、大きく分けて雨季・乾季と呼ばれる二つの季節があるんですが……。
五月雨「えっと……なんでしたっけ。原稿どこに置いたっけな……」
陽炎「ちょっと……もう録画始まってるんだからしっかりしてよね」 見かねて画面外から五月雨にこっそり台本を渡す
五月雨「どこまで話しましたっけ……あ、そうそう」
どうしてこうした二つの季節があるのかというと、それは風が関係してるんです。
乾季には南東から吹く貿易風(赤道付近に向かって恒常的に吹く風のこと)が乾いた空気を運んできて、
雨季には北西から吹くモンスーン(夏は海から陸へ、冬はその逆向きに吹く風のこと)の影響で湿った空気が流れ込みます。
つまり! 一年を通じて爽やかな涼しい風が吹いているので、実は結構快適に過ごせるんですよ。
五月雨「12月から4月は雨季で、5月から11月は乾季です。乾季はダイビングに訪れた観光客を見かけることもあって……くすっ、ふふふふ」
陽炎「? 急に笑い出してどうしたの。っ……ふふ。ちょっとぉ!」
五月雨の前に画用紙を持った舞風が割り込んでくる。
紙面にはでかでかと『雨季にウキウキ、乾季に歓喜!』と書かれている。
陽炎「アンタねえ……。録ってるって言ってるでしょ」
パコン、とメガホンで舞風の頭を小突く陽炎。
舞風「ぶーぶー。真面目に紹介してもつまんないじゃん。ユーモアが足りないよユーモアが」
分かってないなあと言いたげな表情で、人差し指を立てて左右に振る舞風。
陽炎「ユーモアって……あっ! こんなの撮らなくていいのよ! なんでカメラこっち向けてるのっ」
肩にビデオカメラを担いでいる如月は、いつの間にか五月雨の方ではなく陽炎と舞風の方を向いていた。
・・・・
如月「撮影データは夕張さんに渡しておいたから、ひとまず私たちの作業は終わりね。お疲れ様」
五月雨「『新しく着任する提督のために紹介映像を作りたい』、なんて無茶振りに付き合ってもらって……どうもありがとうございます」
座ったままぺこりとお辞儀をする五月雨。ここは基地領内の小さな食堂。
昼時を過ぎているためか、座っているのは五月雨たちだけだった。
陽炎「やれやれ……本当にあんなんで良かったのかしら。最後の方なんてだいぶ内輪ネタみたいな感じになっちゃってたけど……」
舞風「取り繕って無難な紹介映像流しても面白くないって。せっかくの自主制作なんだから、後から見返して自分たちで笑える内容じゃないと」
五月雨「はい。ああいうゆるい感じの方がむしろ良いんじゃないかなって。うちの鎮守府らしくて」
陽炎「ま、言い出しっぺがそう言うんなら間違いはない、か。次に来る司令官がお堅い人じゃないといいんだけど」
如月「そういえば……話は変わるんだけど、最近あの夢はどうなってるのかしら。五月雨ちゃん」
ランチプレートの上に盛りつけられたチキン南蛮を口に運び、よく噛んでから飲み込む如月。
陽炎「あの夢……? あの夢って、どの夢? 寝てる時見る方?」
舞風「そっかー。かげろっちゃんは別の遠征隊だからこの話聞いたことないんだっけか」
陽炎「かげろっちゃん、て……」
コップに注がれたサイダーをストローで飲み干してから、自ら思い返すように喋りだす五月雨。
五月雨「去年の夏ぐらいからなんですけど……似たような内容の夢を定期的に見るんです。
一週間に一度ぐらいの頻度かな。最初は偶然かなと思ったんですけど、今もずっと続いていて」
如月「ちょっと周りとズレてる感じの、変わり者の男の子が毎回出てくるのよね。
一人の男の子が成長していく過程を描いた夢を見続けるだなんて、なんだか運命的じゃない? 憧れちゃうわ~」
五月雨「あはは、そんなにロマンチックな感じじゃないんですけどね。その男の子の……あ、もう男の子って歳じゃないんですけど。
彼の日常のワンシーンを切り取ったような夢を見るんですよね。楽しい出来事とか、悲しい出来事とか、その時々で違うんですけど」
五月雨「でも最近は……。特に、彼が大人になってから見る夢は……どうにも味気ない内容ばかりなんですよね。
ずっと昔のことを思い返してばかりいるっていうか、なんか黄昏ちゃってて元気がないんですよ」
舞風「そっか~……まあ、誰しもそういう時ってあると思うんだよね。スランプ、っていうのかな」
首を捻って少し考え込むような素振りを見せた後、ポンと手を叩いて提案する舞風。
舞風「じゃあさ、夢を通じてその人に干渉することは出来ないのかな? 『クヨクヨすんな~! 私がついてるぞっ』って言ってあげたらいいんじゃない?」
五月雨「ああ~っ! それっ、いいアイデアですね! 今度試してみようっと!」
失業保険が尽きて三ヶ月が経つ。外に出るのは最小限、食事は一日一食。それ以外は寝て過ごす。
この暮らしなら後一年ぐらいは生きていけそうだ。……その後どうなるのかは自分には分からないが。
仕事を辞めてから一度も切っていない髪は伸びに伸びて、北欧のメタルバンドみたいになってしまっている。
もちろん、いつか切るさ。仕事にもいつかは就く。今はその時じゃないってだけだ。
台所の棚から割箸とカップラーメンを取り出して、電気ケトルに水を入れる。これが今日の食事になるだろう。
……雨戸を締めきっていて外の様子が分からないから、昼食になるのか夕食になるのかは分からないけれど。
「みゃおう」「みゃああ」
……野良猫の喧嘩だろうか。ということは今は夜らしい。
猫の鳴き声は夜の街によく響くからな。
猫、か。
そういえば子供の頃は家で猫を飼っていた。毛並みが綺麗な黒猫だった。
ユーゼンという名前で、その名の通り物怖じしない落ち着いた性格だった(今になってみれば、メスにつける名前ではないなと思うが……)。
田舎の一軒家にしては珍しく、うちの実家には地下室があって、そこでよく遊んでたんだ。
溺愛していたわけではなく、むしろつかず離れずな距離感ではあったが、魔法使いとその相棒みたいでそれがかえって良かったように思える。
……ユーゼンは、俺が中学生になってすぐに死んでしまった。一緒に過ごした実家も売っ払われてしまって今は更地だ。
「ピャォ、……ハゥ」
……? いや、気のせいか。にしては似すぎているような気もするが……。
ユーゼンは決して「にゃーお」とか「みゃーう」と鳴くことがなかった。
生まれつき鳴くのが下手だったようで、そもそも鳴くこと自体が稀だった。ちょうどこんな声だった。
「ヘァ……ヒャゥ」
鳴き声は自分のすぐ近くから聞こえるようだ。不思議に思ったので後ろを振り返ることにする。
・・・・
五月雨「ピ……初めまして、天道(タカミチ)さん」
神乃 天道(カンノ タカミチ)、それが男の名前だった。
五月雨の声に驚いた男は腰を抜かして尻餅をつく。
手に持っていたカップラーメンは宙に舞い、男の頭上に落下する。
神乃「!? ユーゼン!? ユーゼンの霊、なのか……? うわああっちゃ、熱ッ!」
五月雨「熱っ……。あの、大丈夫ですか?」
ケトルから注いだばかりの熱湯を浴びる二人。もろに被ったのは男の方で、髪の上にナルトが乗っている。
五月雨は咄嗟にその場にあったタオルを拾って渡し、男を気遣った。
神乃「ああ、ありがとう。……。やっぱり、幽霊なのか……?」
タオルを受け取って、スープの汁を拭いながら問いかける。男には五月雨の姿が視えておらず、タオルだけが宙に浮いているように見えていた。
(恐らく五月雨の体があるであろう)タオルのあった方向に男が手を伸ばしても触れることは出来ず、ただ空を掴むだけだった。
五月雨「いいえ、幽霊じゃないんです。わたし、五月雨って言います。わたし! えっと……あなたのことをずっと夢で見守っていたんですけど……。
ああっ、もう時間が! えっと……早く伝えなきゃ! その……」
五月雨の背後に扉が現れ、徐々に開いていく。
五月雨「ううっ……いざ気づいてもらえたものはいいものの、咄嗟に言葉が出てこない……えいっ!」
焦った五月雨は男の腕を掴んで引きずり込み、扉の中に入っていった。
・・・・
五月雨の寝室。窓から朝日が差し込むベッドの上。
なぜか彼女の隣で横になっていた神乃はガバッと起き上がると、ぐるりと首を回して困惑している。
伸びをしてふわぁ~と大きな欠伸を一つすると、ベッドから降りてぺこりと挨拶する五月雨。
五月雨「い、勢いで連れてきちゃったのはいいものの……どうしよう。あ! 一応、おはようございます。えっと、説明しなきゃですよね……」
暖簾のように眼前まで垂れ下がった髪をかき上げて五月雨を視界に捉える神乃。
五月雨の姿を確認すると、珍獣でも見たかのように目を丸くしている。
五月雨「はい。天道さんが物心ついてから今に至るまでの様子を、ずっと夢に見ていたんです。ただ、最近はなんだか塞ぎ込んでいるように見えて……。
その……うまく言えないんですけど、もっと自分の思うがままに生きてもいいと思うんです。それを一言伝えたかったんです」
神乃「えっと……そう、だね。まあ、確かに……。俺自身、自分のあり方に迷っていたところではある」
神乃「経緯こそぶっ飛んでるけれど、俺はこんな風に何かが起こることを無意識のうちに望んでいたのかもしれない。
だから、考えるきっかけを与えてくれた君には礼を言いたい。まあこの歳になって自分探しってのも青臭くてカッコ悪い話だけどさ。無職だし。引き籠もりだし」
ノックの音とほぼ同時にドアが開く。
大淀「提督! こんなところに居たんですか? 初日から遅刻なんて示しがつかないですよ。
あら、五月雨さん……でしたよね。初めまして、大淀です。少し提督を借りていきますね」
大淀は神乃の手を引いてそのまま退室してしまう。
それから何時間か経って、ようやく神乃は五月雨と再会を果たした。
服は新品の制服に変わっていて、帽子もピカピカだ。ボサボサだった髪は整えられて前髪の部分はピンで留められていた。
彼の見違えた姿を前に、五月雨は少し不思議な胸の高鳴りを覚えたが、それを口にすることはなく尋ねた。
五月雨「あの……ひょっとして、この鎮守府の新しい提督に?」
神乃改め提督「そういうことみたいだね。……話を少し整理しようか」
執務机から立ち上がり、応接用に置かれた簡素なソファに座る提督。五月雨も向かい合うようにして座る。
提督「俺の人生を夢で見ていた、だったっけか。実を言うと……俺も君のことは会う前から知っていたんだ。大淀のこともそうだし、他の艦娘のこともね」
五月雨「ええっ!? それって、どういうことですか? どうして私たちのことを知っていたんですか?」 ガコンッ
驚きのあまり起立し、膝をローテーブルにぶつけてしまう。
提督「大丈夫? えっと。……そう、君たちはあるゲームの中に登場していたキャラクターだったんだ。俺のいる世界ではね。
俺がちょうど大学に通っていた時分に流行ったゲームで……もうサービス終了しちゃったから、今では忘れたなんて人もいるのかもしれないけど」
提督「五月雨からすれば俺は夢の中で生きてる人間で、俺からすれば五月雨はゲームの中のキャラクター……ということになるか。
まあそれこそ文字通り夢みたいな突拍子もない話だが……これはどうにも現実みたいだからね。さて、どうしたものか」
五月雨(そういえば……朝潮と芯玄元帥が呉鎮守府に栄転する直前に、『世界線の違いがどうこう』……みたいな話をしていたような。
私が天道さんの夢を見るようになったのも、ちょうどその少し後だったし……)
五月雨「ええと……それって、元いた世界から天道さんを私が連れ出しちゃったってことですよね。ごめんなさい」
提督「今朝も言ったけど、詫びるようなことじゃない。君の行動に俺は感謝してるよ、こんなに不思議な体験が出来ているわけだからね」
提督「それと、世界ってのは俺の解釈では微妙に異なるかな。パラレルワールドとかじゃなくて、同一世界の別次元だと解釈している。
次元の壁で隔たれた別の世界という意味では異世界なんだけれども」
頭上にクエスチョンマークを浮かべる五月雨。
提督「あー、なんというか。俺の目からしたら君が、君の目からしたら俺が、互いにそれぞれ異なる次元で生きるドラマの一演者に過ぎなかったはずで。
それが今、第四の壁を越えてどういうわけかこうして相対している……というのが、元厨二病患者の見立てさ」
小学校高学年の頃から高校時代の半ばあたりまで、彼は世間一般で言うところの中二病であった。
神話や伝承、錬金術に黒魔術、都市伝説・陰謀論といった題材のオカルティズムに傾倒していて、しばしば周囲の人間を惑わせる言動をするようなことがあった。
五月雨ももちろんそれは知っていて、当時彼が言っていた内容こそ理解できなかったものの、彼の闊達に語るさまを見て愉快に思っていた。
提督「なんて言っても難しいか。あはは、人前でこんな子供みたいな与太話をするのも久しぶりで、つい興奮してしまったよ。
で……気になることは。どうやったら俺が元の次元に戻れるかってことと、なんでこうして提督になっているのかってことなんだけども……」
五月雨「うーん……ごめんなさい。どっちも分かんないです……」
提督「だよねえ……。ま、家賃とかは全部口座から自動引き落としだし、空き巣にでも入られない限りは半年ぐらい留守にしていても問題ないか。
折角だしね。この面白体験を楽しむことにするよ。ゲームと現実は違うとはいえ、なんとなく勝手は理解できた。つまるところ盆栽のようなものだろう」
五月雨(盆栽……?)
・・・・
深夜2時の執務室。提督と五月雨・天津風・弥生の艦娘三人でソファに腰かけてテレビを眺めていた。
机の上には人数分の紙コップと2リットルサイズのペットボトル、食べかけのピザとポップコーンが置かれている。
提督と五月雨はパジャマ姿で、普段以上に気の抜けた様子だった。
提督(五月雨の夢がきっかけでこの次元にやって来れたなら、夢を通じて元の時空に戻れると考えていたが……何夜過ごせど兆しは見えず。
こうして俺と直接出会ってしまったことで、俺にとっての現実であった世界にリンクする術が無くなってしまったんだろうか)
五月雨「流石に眠いですね。……意図的に夜更かしするっていうのも案外難しいのかもしれませんね」
提督「やはり、無意味なのかもしれないね……もう寝てもいいよ」
本来とっくに寝ているはずの時間であるにも関わらず五月雨が起きているのは、提督が元の時空に戻るための方法を調べるためだった。
(天津風と弥生は西方への遠征によって体内時計が乱れ、時差ボケして眠れないため付き合っていた)
五月雨「いえ。せっかく公然と夜更かしできるチャンスなのに寝てしまうのは勿体ないですから! そうだ、トランプでもしませんか? 七並べとか!」
雑誌やブルーレイディスクボックスなどが乱雑に詰め込まれた、テレビ脇の収納ケースを物色する五月雨。
弥生「いいですね……新しい司令官とお話出来るいい機会だし……」
冷蔵庫からワインボトルを取り出し、紙コップに注いで提督に渡す弥生。
提督「冷蔵庫になぜそんなものが……。風情もへったくれもないけど、まあそっちの方がいいか。
与えられた地位や名誉に応じて諂ったり見下したり、そんなのにはうんざりしてたんだ」
五月雨「相当疲れてたんですね。……」
提督「まあ過ぎたことさ。理想と現実のバランスが噛み合ってなかっただけ。期待しなければ上手くやれてたのに、しくじったのは俺の方だよ。
……って、景気の悪い話ばっかりしてちゃいけないな。暗い思い出のバランスは、刹那的な陽気さで補うもんだね。さ、勝負に興じようか」
グイッとワインを飲み干す提督。
天津風「うぅ~……あそこで五月雨がずっとハートの8で止めてなければ……」
五月雨(自分の手札にハートのKがあったことに気づかなかっただけなのに、運良く勝っちゃいました)
自分の苦手なものや嫌いなものを明かし、敢えてそれに挑戦するというのが罰ゲームの内容だった。
天津風「仕方ない、負けは負けね。じゃあ、私の苦手なものは……ホラー映画よ。怖いのとか、残酷な話とか、嫌いなのよ」
提督「じゃあ今から見ようか。幸い、そういう作品のDVDもあるみたいだ」 収納ケースを漁りながら
五月雨「ええっ!? 辞めときましょうよ……」
弥生「司令官……弥生もそういうの、良くないと思う」
提督「あらら、みんなダメなのかい? ホラー映画って、一番元気を貰えると思うんだけどね。だってアレ見た後って絶対『死にたくない』って思うでしょ?
どんな自殺志願者でも、あれを見た後は何がなんでも生きていたいって思えるわけ。非日常の恐怖が代わり映えのない日常を刺激で彩ってくれるのさ」
突然やや早口になる提督に対し、少し引き気味の一同。
天津風「あなた……結構病んでるのね。勝負に負けた以上はあんまり強く言えないけど、私はそんなの見たくないわ。
情けない話だけど……本当に怖くて夜寝れなくなっちゃうのよ。って、まあ今も時差ボケで寝れないから起きてるんだけど……」
五月雨「天津風もこう言ってることですし辞めましょうよ。それよりほら! ラブコメなんてどうですか?」
弥生「弥生もそれがいい、です……。ハッピーエンドで終わる話がいい……」
提督「さっきの勝負の意味は……、まあいいや。わかったわかった、みんな反対なら仕方ない。じゃあそれを見ようか」
・・・・
映画の途中で五月雨と弥生は眠ってしまい、天津風も映画を見終えると眠る弥生を連れて寮へ戻っていった。
提督は五月雨を背中に負ぶって彼女の部屋へ向かった。ベッドの上に彼女の身をそっと置くと、小さく溜息を吐いて部屋を出ようとする。
提督「……俺は、何のためにこの虚構の世界に呼ばれたのだろう。ここは現実じゃない。少なくとも俺にとっては」
自問するように独り言を吐く。ドアノブに手をかけた刹那、背後に異質な気配を感じて振り返る。
扉が出現していた。それは、五月雨に手を引かれてこの架空の世界にやって来た時にくぐった扉と同じものだった。
提督は扉に手をかける。
提督(押せば開きそうな気がするな……これで現実に戻れるのかもしれない。この機会を逃したら、次はいつ戻れるようになるかは分からないしな……)
・・・・
扉を押そうとした瞬間に、記憶がフラッシュバックする。それはまだ彼が働いていた時期のものだった。
居酒屋の喧噪は騒々しく、酔った客が暴れているのか隣の個室からは怒号も聞こえる。
「――神乃。それでさ、お前、大学の時にあのゲームやってたよな。なんだっけ。そう、これこれ」
同期の見せるスマートフォン画面に映っていたのは、艦艇を擬人化したゲームのキャラクターだった。
吹雪、大井、最上、伊勢、赤城……サービス終了した今でも彼女たちの名前を彼は覚えていた。
「一時期はすごい人気だったのに、バブルが弾けたらあっという間だったな。でも、オワコンオワコン言われてたわりには長く持った方か。
後続のゲーム……なんだっけ、名前は忘れたけど似たようなゲームがあってさ。あっちの方がまだ面白かったわ。あれも飽きて辞めたけど」
茶化して、その場にいる上司や後輩への笑い者にするような口ぶり。こうした嘲笑を受けるのは、彼のいる環境ではさして珍しいことではない。
「結局のとこさあ、ああいうのってキャバクラだよな。時間と金を費やさせて、徐々に深みにハマらせていくんだろ?
うまいビジネスだよ、ハハハ。で、いい“上客”だったお前はなんであんなのずっと続けてたの? そんなんだからノルマも未達なんじゃねえのかなあ」
出世のために“誰が上で誰が下か”を白黒はっきりさせようとする、そのためなら旧友を蹴落とすことすら厭わない。
世間的には好待遇の優良企業の一つとして知られているこの会社は、高給ではあるもののとにかく競争の激しい社内環境だった。
神乃「言っても理解できないかもしれないが……盆栽のようなものだよ。それか、筋トレか。日課があると精神が安定するんだ」
罵声も批判も彼は慣れ切っていた。しかし、彼なりに思う所があったのか、普段だったら流していたであろう挑発に対してこの時は受け答えしてしまう。
「誤魔化してんじゃねえよ。なあ、俺はお前のためを思って言ってやってるんだぜ? お前には才能があるよ。その片鱗がある。
だが、その甘さが全てを台無しにしちまってるんだ。お前はもっと非情になるべきなんだ」
「俺たちの売った商材で客が困ろうと、それは俺たちの人生には関係ない。他人を騙せなきゃこうしてお前自身が袋叩きに遭う。
これは戦争だ、やるしかないんだよ。奪い、踏み躙らなければ生き残れない。お前は戦いの中で敵に情けをかける甘ったれだっつってんだ」
同期の手は震えていた。それは自分自身への訓戒でもあるようだった。
「俺は、俺に残された数少ない良心でお前に言ってるんだぞ。悪魔に魂を捧げろ。全ては搾取されないためだ。
こんなことは言いたくないが、俺もギリギリの所で戦っている。お前まで居なくなったら、俺は……」
言いかけて、隣の上司の表情が険しくなるのを見て同期は口を噤んだ。神乃はこのやり取りの後、すぐに会社を辞めた。
・・・・
提督は、扉から手を放すと踵を返して部屋を後にした。
提督(……まだ、その時ではないのだろう)
大淀「提督! お昼時で眠いのは分かりますけど、寝ちゃだめですよ」
執務机に突っ伏して眠る提督を軽く揺さぶって起こす大淀。
提督「ん……ああ。ごめん、寝てたか。昨日徹夜したのがまずかったかな」
大淀「それで、以前お伝えしていた視察の件ですが……同行させる艦娘は如何なさいましょうか」
提督「? そんな話してたっけ……ごめん、覚えてない」
大淀「海域攻略作戦が一時収束した今こそ、各鎮守府から情報を集めてノウハウを得るべき……って、前回の会議で提案しませんでしたっけ。
その時に承認してくださったはずですし、もう他の鎮守府の提督方からも許諾済みのはずですよね?」 じとっとした目で提督を見つめる
提督「ギクッ……ああ! それね、大丈夫です忘れてないです。そっか……十二月に二週間ぐらい弾丸ツアーするんだよね。
そうだなあ……誰でもいいんだけど、行きたいっていう意志のある艦娘がいいかな。嫌がってるのに無理矢理連れて行くのもよくないしね」
大淀「では、鎮守府内の各艦娘にアンケートを取っておきますね」
提督「ああ、助かるよ。それでさ……大淀、全然関係ないヘンなこと聞くんだけどさ。大淀は出世したい?」
大淀「? ……質問の意図が分かりかねますけど、したいしたくないで言えばしたいですね」
提督「いや、大淀っていつも積極的だなって思ってね。いつもしっかりしてるし、仕事が好きなんだなって思ったのさ」
えへへ、と屈託のない笑顔を見せる大淀。
大淀「そうですね。戦場に出て直接戦うより、こうして鎮守府内の環境を整えたり戦略を考えたりする方が好きなんです。
戦いに勝つことも大事ですが、他の艦娘や鎮守府内の作業員さんに『大淀で良かった』って褒められるのが嬉しくて」
提督「……そっか。妙な質問して悪かった。俺も大淀のような艦娘がいて良かったと思うよ」
退室する大淀の姿を見て、提督は頬杖を付きながら考え込む。
舞風「偉大なる将軍様~! 栄光ある我らの精鋭艦隊が無事母港に戻り果せましたぞ~!」
提督「ははっ……帰投するたびに面白い口上言うのやめてよ。笑っちゃうじゃない」
舞風「提督がなんだかアンニュイな顔してるから、舞風なりに気遣ってるんですよ? スマイル、スマイル~♪」
提督「そっか……ありがとね。心配かけたかな」
舞風「なーんて! 髪と帽子で隠れてて全然表情分かんないのに適当に言ってみただけですけど。
でもさ、分かるよ。分からないけど、分かる、みたいな……。もう十数年前の話だけど、私も……ってそんな話しに来たんじゃなーい!」
舞風「出撃結果の報告でした。こちらの書類をどうぞ。作戦は大成功、首尾通りです。
あと、五月雨が大破してて、如月がドックまで連れてってまーす。半日もすれば治ると思うけど」
提督「了解。今日はもう出撃しないからゆっくりしてていいよ。補給だけ忘れないようにね」
舞風「はーい」
提督(しかし……そうだよな。ゲームとは違うもんな。近海での簡単な任務とはいえ、さっきの作戦で俺が判断を誤っていたら……。
五月雨が轟沈していた可能性もあったんだ。にもかかわらず、自分は安全な場所で昼寝だなんて最低だな。意識が甘かった。……『甘ったれ』、か)
提督(まあ、過度に自分を責めても仕方ないか。舞風が言っていたように……不安や恐れは艦娘たちに伝わる。
けれど……俺のような取るに足らない人間の感情の機微まで推し量ってくれるような人と、どれだけ出会えただろうか。これまでの人生の中で……)
提督(これから先の未来に何が起こるのかは分からないが……ここでの出会いは大切にしたいもんだな)
提督「舞風。改めてありがとう。少し前向きな気持ちになった」
舞風「ふふっ。どーいたしまして♪」
・・・・
昼の仕事が終わると船渠に向かった提督。しかし五月雨の姿は見つからず、波止場にて傷の癒えた彼女と鉢合わせする。
五月雨「あっ、天道さ……じゃない、提督。お疲れ様です」
提督「ああ。傷は治ったかい」
五月雨「はいっ。ちょっと不覚を取っちゃいましたけど、今はもう大丈夫です。予定より治りが早くて」
自分の顔が隠れないように前髪をかき上げてから帽子を被り直して、少し屈んで五月雨と目線を合わせる提督。
提督「それは良かった。いやその、謝りに来たんだよね……。もう本当顔向けできないぐらい酷い話なんだけど、君が出撃してる間に昼寝しちゃっててさ。
成り行きでこうなったとはいえ、俺は君の命に対して責任がある。だから……許してくれとは言わないが、謝りに来たんだ。すまない」
提督から帽子を取り上げて、頭を撫でる五月雨。提督は困惑する。
五月雨「許さないなんて言うわけないじゃないですか。昨日は夜遅くまで起きていたんだし、仕方ないですよ」
夕焼けの光が水面に反射してキラキラと輝く。黄玉(トパーズ)のように、赤みがかった黄色い光だった。
ワシャワシャと頭を撫で続ける五月雨に対し、説明を求めるような視線を向ける提督。
五月雨「これからは……『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』でいっぱいの人生になるといいですね。ううん……そうなるようにしましょう」
『ありがとう、なんて誰かに言えるような人生じゃない。俺が言えるのは、生まれてきてごめんなさいってぐらいだな』
五月雨の言葉は、高校時代に彼が言い放った台詞を改変したものだった。当時の彼はニヒリズムに傾倒していて、全ての物事に希望を見出せなくなっていた。
虚無感から脱して、稚拙で偏狭な自分の考えに囚われていただけに過ぎなかったのだ、と反省できるようになるまでには数年の歳月を要した。
提督「~~~~っ。うっ、まあ、うん。そうだね」
何にせよ、大人になった今の彼にとっては、当時の自分を思い出させてくれるおぞましい呪文であった。
屈んでいた姿勢を戻して五月雨から離れると、耳を赤くして照れくさそうに帽子を深く被る。
提督「そっか……いや~、過去が見られてるっていうのは恐ろしい話だね。非情にイタいね」
五月雨「天道さんが高校生の頃は、突然選民思想みたいなのに凝り固まるようになったり、かと思えば急に自分は無力だって落ち込んだり……。
あの時は今とは別の方向で心配してたんですけど、友人やご両親が居ましたからね」
提督「いやー……まあその節は色んな人に迷惑かけたけどね。……今になって振り返ってみると、未だにその心境から脱せてないのかもなあ。
人に対してもうちょっと素直にはなれたけどね。なんというかこう、いつまでも経っても大人になりきれないなあと思うよ」
五月雨「大人になんてならなくていいんじゃないですか? 責任とか義務とか……それももちろん大事ですけど。
そういう重圧だけを背中に背負って生きるのって、息苦しいし窮屈ですよ」
海へと吹き抜ける風とともに、群れを成して夕焼け空を飛ぶカモメが頭上を通り過ぎる。
提督「そう、そうなんだよね。だけどやっぱり子供のままでは居られないんだ。これは言うなれば業のようなもので。
……そう。ここの世界観や設定のことは分からないが、深海棲艦と君たち艦娘との戦いもそういうもんなんだろうと思う」
提督「これはカルマだ。前時代の負債は、若い世代の負担によって支払われる。憎しみや悪意は、弱者から更に弱い者に対して向けられる。
自分以外の誰かに苦しみをおっ被せて逃げ回っていればそりゃ自分は楽なんだろうけど……それが人の在り方だと俺は思いたくない」
強い潮風の流れに身を任せるように、海に沈む太陽を見つめる五月雨。
五月雨「……そうですね。この戦いが何で始まってどうすれば終わるのかは分からないですけど。ひょっとしたら終わることなんて無いのかもしれませんけど。
それでも、今戦ってる私たちが投げ出したりしちゃいけないですもんね。なんか……大事なことを気づかされちゃいましたね」
提督「五月雨の言っていることも一つの真理だとは思うよ。童心とか好奇心とか、そういう純粋な感情を失くしたら人は機械のようになるしかなくなる。
働いていた頃の俺の姿を見ていたからこそ、そう言いたかったんだろう? 気遣ってくれてありがとう。嬉しいよ」
提督「ここの人たちは誰も彼もみんな、優しくて温かい心を持っているんだね。五月雨が俺をここに連れて来た理由が分かった気がするよ。良い所だ」
夕陽から背を向けて施設に戻ろうと歩き出す提督。その動きにつられるように五月雨も並んで歩く。
五月雨「そうですね、私もこの鎮守府が大好きです。あ……そういえば、鎮守府の紹介動画は見てもらえました?
うちの鎮守府の個性がギュッと詰まった、PVっていうのかな……。でもプロモーションってわけじゃないから違うか」
提督「おや? そんなのがあるんだね。知らなかった」
五月雨「あらら……作っただけで満足しちゃって見せるのを忘れてました。今度お見せしますね! 絶対面白いと思うので、期待しておいてください」
ふふんと鼻を鳴らして得意げな五月雨。
提督「へ~、それは楽しみだな。どんな内容か気になるね」
・・・・
五月雨「お天道様がカンカン照りですね~。雲一つない青空!」
麦わら帽子を被る五月雨に、普段通りアロハシャツ姿の提督。
数ヶ月前との違いは、一時は腰のあたりまで届くほど伸びていた彼の長髪が無くなっていたことだった。
顔を覆い隠すように伸びていた前髪も今では整えられてさっぱりとしている。
提督「本当だねー。しかし、鎮守府の近くにこんなプライベートビーチがあったなんて」
五月雨「出撃や遠征のない日はここで過ごすことも少なくないですね。来週から視察で鎮守府を離れちゃうじゃないですか。
やり残したことがないように、折角だから遊び抜いておこうかなって思いまして」
提督「なるほど、そいつは殊勝な心がけだ。存分に遊んでくるといい」
ビーチパラソルの下で陣取る提督に対して、不満げな五月雨。
五月雨「え? 提督も一緒に、でしょう?」
提督「いやほら俺はあれだ。保護者っていうかライフセーバーっていうか……五月雨が沖に流されないように見ていないと」
露骨に嫌そうな反応をする提督に疑問を覚えた五月雨だったが、提督が泳げないことを思い出してすぐに納得する。
提督の臆病にはお構いなしで無理矢理手を引いて歩く。
五月雨「私、艦娘ですよ? 沖に流されるって……いくら私がドジでも、自分ちの庭で迷子になる人はいないでしょう?
泳げなくても大丈夫です。近くに物置小屋があって、そこに浮き輪もありますし……提督の分の水着もばっちり用意してますから!」
提督「強引だなあ……何から何まで用意されてたってわけか。まあ、五月雨となら悪くないんだけどさ」
五月雨「お仕事以外で提督と遊べる機会って、中々ないですから。楽しみにしてたんですよ?」
提督「最後に水着を着たのももう10年以上前だなあ……。俺さ、実は泳げなくはないんだよね。得意ではないけど、完全なカナヅチではないんだ」
浮き輪に乗ってプカプカと波間を漂う提督と五月雨。
五月雨「え~っ、そうだったんですね。泳いでる所を見たことがないから知らなかったです」
提督「学生時代は自分の体にコンプレックスを持ってたんだよ。ほら、俺さ。試験官の培養液の中で生まれたような貧相な肉体をしてるじゃない。
当時は自分の体を人に見られるのが嫌だったんだよ。今もまあ……好きではないけど。さすがにこの歳になると羞恥心も鳴りを潜めるようになるもんだ」
彼の腕や脚はかなり細く、シルエットだけなら女性のそれと区別がつかないほどだった。
五月雨「だから中学時代に怪我してないのに包帯を巻いてたりしてたんですね! 納得しました」
提督「俺から言い出しておいてアレだけど、昔の話はやめようか。その、中々古傷がね……」 苦笑いする提督
陽炎「危なっ……ごめん避けれない! ぶつかるわ、そっちでかわして!!」
押し寄せる波とともに提督たちの方へ突っ込んできたのは、陽炎だった。
陽炎はビート板のようなものに腹這いになる形で乗っていて、板越しに提督と激突してしまう。
顔面を手の平で叩かれるような衝撃とともに浮き輪から転覆する提督。
陽炎「ビーチの近くに人が居るなんて思ってなくて……司令、ごめんね?」
提督「うげ……鼻血は出てないようで良かった。いいよいいよ、吃驚しただけだ。
しかし……何をしていたの? サーフィンとも違うみたいだけど」
五月雨「ボディボードですよ。専用のボードを使って、波の上を滑るように乗るんです」
陽炎「そそ。発祥はハワイ島で、サーフィンよりもカジュアルに楽しめるのが特徴ね。
ほら、重くてでかいサーフボードを持ち運ばなくていいじゃない。あっちにサーフィンをやってるのもいるけどね」
陽炎が指さす先には、波の上で跳ねる人影があった。髪の色や体型から、恐らく黒潮だろうと推測できる。
提督「黒潮にあんな一面があったなんて意外だな、様になってて結構カッコいいじゃないか。ところで、あれは……?」
絶叫とともにセイルボード(帆のついたボード。ボードの形状はサーフボードに近い)に乗った金髪の少女が上空に打ち上げられている。
陽炎「ウィンドサーフィン、もとい、凧揚げかな……」
舞風「ごめんってば~!! 許してぬいぬい~~!」
・・・・
長袖の冬服の上にダウンコートを着込んだ五月雨と、毛皮の帽子(ロシア帽)を被った提督が、桟橋から船内の艦娘たちを先導する。
提督に続いて舞風・如月・夕張と列を成して船を降りていく。
提督「あの後ボディボードもサーフィンもやっちゃったせいで筋肉痛が今も治らないよ。楽しかったから後悔はしてないけどさ。
おや、出迎えてくれるなんてありがたい。初めまして、視察に来た神乃です。ラバウルの」
瑞鳳は神乃提督たちがここに来るのを待っていたようだった。神乃提督がお辞儀をすると、瑞鳳もお辞儀で返す。
瑞鳳「初めまして、瑞鳳です。柱島泊地へようこそ。今提督を呼んできますね」
乙川「その必要はないさ。あ、敬礼とか形式ばったのはいいからね。いらっしゃい、遠洋遥々よく来たね」
物陰からニュッと姿を現したのは和服姿の男で、彼がこの柱島泊地を取り仕切る乙川中将だった。
提督の毛皮帽子や冬服の上にモコモコのコートを着こんだ艦娘たちを物珍しそうにジロジロと眺めている。
乙川「で……みんな、アレかな。幌筵泊地とかから来たんだっけ?」
普段Tシャツと半ズボンで過ごせるラバウルでは、作戦のために用意された寒冷地仕様の防寒具はあれど、冬用の普段着の類はほぼ無いに等しかった。
このため、提督たちの衣装は本土やその周辺地域に住む人間からしてみれば過剰な恰好に見えるのだった。
提督「暑い地域から来たもんで、寒さに弱いんですよ」
乙川「なるほどなるほど。ま、ウチの鎮守府なんか見てもあんま意味ない感は強いと思うんだけどね」
瑞鳳「もう、そういうこと言わないの。折角の後輩なんだから、ちゃんと面倒見てあげないと」
・・・・
瑞鳳の家で乙川中将と瑞鳳が話している。瑞鳳はエプロン姿で台所に立っている。
瑞鳳「もうすっかりこの家で過ごすの当たり前になっちゃったわね」
乙川「そりゃあ……料理が出来て器量もよくて世界一可愛いお嫁さんがいる家なんだから、当たり前でしょ。……なんてノロけてみたり」
瑞鳳「もう、調子いいんだから。一応、来る前に掃除しておいたけど大丈夫かしら」
神乃提督一行は、柱島にいる期間中は乙川の家を借りることになっていた。
乙川「修学旅行生みたいで微笑ましかったね。鎮守府を案内してる間も、妙にソワソワしたりして楽しそうだったよ。
なんでもないようなことに驚いたりしてさ。自分が着任したての頃を思い出しちゃったよ。まあ僕はもっと不真面目だったけど」
瑞鳳「最初の頃はほんとに世話焼いたわよね……。あ、お皿用意してもらえる?」
席に着いて向かい合い、「いただきます」と両手を合わせる二人。
瑞鳳「今日はちょっと挑戦しちゃいました! フラメンカ・エッグ・ドリアです!」
乙川「? フラメンカ……?」
瑞鳳「パプリカや玉ねぎ、ベーコンを炒めてからトマトソースで味付けして半熟卵を乗せた料理みたいね。
今回はドリアにしたからお米も入ってるけど。“フラメンカ”って名前から察しがつくように、スペインの郷土料理らしいわ」
乙川「ナスとか入れても合いそうな感じだね。美味しいよ」
瑞鳳「それで、今までさ……色んなことあったよね。もう三年近くになるのかな」
乙川「うん。僕の記憶が正しければ一昨年の春にはここに着任して、去年のバレンタインデーで一旦舞鶴に飛ばされて……。
それからはずっと一緒じゃないかな。来年の春に三年目ってとこか。逆に言うと、時間に直すとそのぐらいなんだね」
瑞鳳「そうね。なんだか何十年もずっと昔から一緒に過ごして来たんだって錯覚しちゃうわ」
乙川「何十……まではいかないかな、さすがに。とはいえ、おかげさまで濃い一日を過ごさせてもらってるよ。
すっかりこの仕事も板についたもんだ」
徳利に入った熱燗をお猪口に注ぎ、口に運んでほっと一息つく乙川。
瑞鳳「あら、手酌は出世しないって知ってるかしら?」
乙川「じゃあ瑞鳳に僕の分まで働いてもらおうかな。目指せヒモ暮らし」
そう言って瑞鳳にも熱燗の入ったお猪口を渡す乙川。
瑞鳳「ばかなこと言わないでよ、もう。私を酔わせてどうする気?」 口ではそう言いながらもぐいっと飲み干してしまう
乙川「ご想像にお任せするよ。……それはそれとして、さ。瑞鳳はやっぱり、僕に偉くなって欲しい? 必要なのはお金かな? 地位? 安定?
瑞鳳が望むのなら、多少は頑張ってみようかなー……とも思わなくはないんだけど。三年もやってると自信もついてくるっていうか」
瑞鳳「ううん。……本当はね。提督にいつもちゃんとしなさいとか、立派になって欲しいとか言ってるけどね。
それも本心なんだけど……その一方で、提督がどこか遠い所へ行ってしまうんじゃないかって怖いの。そのぐらい、今の提督は優秀だから」
瑞鳳「今はこんな風に幸せに過ごせているけど、提督が……私とお話できる時間が段々なくなっていったりしたらどうしようって思うの。
他にもほら、提督って顔が良いから他の可愛い子に言い寄られたらちゃんと断ってくれるかな……とか」
突然椅子から立ち上がって瑞鳳の唇を塞ぐ乙川。
乙川「……ふう、ごちそうさま。洗い物は後で僕がやっておくからさ、星でも見に行かないかい。ううん、行こう。
……こんなにキザったらしい一面を見せるのは瑞鳳にだけ、ってことを嫌というほど教えてあげるからさ」
乙川「自分でも歯の浮くような甘ったるい台詞でも、瑞鳳相手になら言えるからさ。照れくさいけどね」
乙川の手を取って立ち上がる瑞鳳。
・・・・
柱島の船着き場。桟橋の前で乙川中将ら柱島の面々に別れを告げる神乃提督一行。
提督「お世話になりました。ゆるい雰囲気の中でも不思議な一体感のある、良い組織ですね。
上司と部下の関係を越えた、家族のような繋がりを感じさせるというか。
鎮守府の内に留まらず、本島の住民とまで親交があるなんて驚きました」
乙川「無駄足だったと言われなくて良かったよ。で、次はどこの鎮守府に行くんだい?」
提督「呉に行って、舞鶴、横須賀……の順で巡りますね。何か意図があるわけじゃなく、たまたま予定が取れた鎮守府がそこだったってだけなんですけど」
乙川「なるほど。大きい鎮守府だと結構客人が来てももてなす余裕がありそうだもんね。ウチは単に暇なだけだけども。
舞鶴に行く用事があるなら、秋月と涼金くんによろしく言っておいてくれないかな。あ、秋月っていう艦娘と、涼金凛斗っていう学生なんだけど。
ああそうだ、横須賀の春雨っていう艦娘にも挨拶しておいてくれたら嬉しいかな。柱島は相変わらずだって」
そう言って酒瓶や菓子類といった土産物をあれやこれや渡す乙川中将。
渡された荷物を両腕で抱えながら船に戻って行く神乃提督。
五月雨「お持ちしましょうか? 重くないですか」
提督「いや……気持ちは嬉しいけど遠慮しておくよ」
夕張「まあ、前科があるもんね……昨日だって突然提督を海に巴投げしてたじゃない」
五月雨「違いますよぉ……。砂浜に男女の幽霊がいてですね……急に隣から提督に話しかけられてビックリしちゃっただけなんです」
如月「きっと情死した男女の霊なのね。島を隔てた身分違いの恋、結ばれざる浮世への未練。ああ、運命とはなんて残酷なのでしょう」
提督「いや、確かに人の少ない島ではあるけど、幽霊と決めつけるのは早計なんじゃないかな……」
船に入っていくラバウルの艦娘たちを、苦笑を浮かべながら見送る乙川中将。瑞鳳も少し頬を赤く染めている。
瑞鶴「? どうしたの」 不思議そうな様子で乙川を見つめる
乙川「いやその……心当たりのある話をしているなと思って(お外でイチャつくのも考え物だねぇ……)」
呉鎮守府総司令室。神乃提督らが訪れる頃にはもう夜の帳が下りていた。
芯玄「……と、ここの説明はこんなもんだな。あとは演習とかで直接見てもらった方が分かりやすいかもしれん。技術の説明とかも長くなるから後日だな。
で……本来こんな話は直々にするもんじゃないんだ、オレも一応暇ではないしな。が、ラバウルの面々とその提督ってなると話は別だ」
五月雨「お久しぶりです。芯玄元帥!」
提督(推測するに、俺が着任する前のラバウル基地の提督だったのか?)
芯玄「元気そうで何よりだ。まああの頃はちっとまだ未熟だったが、オレもようやく丸くなったかな。
根っこの部分は変わっちゃいないが……前よりはぶっきらぼうじゃなくなっただろ? これでも大人になったつもりだぜ」
如月「そうね。でも、昔のギラついたような目で何かに飢えていた芯玄司令官も嫌いじゃなかったわよ」
夕張「にしても、呉の兵装データがタダで貰えるなんて願ってもないことだわ。あんなことやこんなことに、うふふふ……」
朝潮「なんというか……皆さん相変わらずですね。元気そうで何よりです」
・・・・
夜も遅いため他の艦娘は各々用意された部屋に向かったが、神乃提督だけは執務室に残っていた。
芯玄「残ってもらって悪ぃが。スケジュール的に直接話が出来そうなのも今日ぐらいしかないもんでな」
提督(元帥というだけあって多忙なんだろう)
芯玄「本題なんだが……お前は、本当にこの世界で生まれ育った人間なのか?」
提督「! ……それは、その。どういう意味でしょうか(なんと答えたらいいものか……)」
芯玄「ああいや、突拍子もないことを言って悪いな、お前のことを勘繰ったりしてるわけじゃねえ。
あいつらの懐きようを見てれば信用に足る奴だってのは解ってんだ。あいつらは皆お人よしで抜けてるところもあるが、人のことはしっかりと見てるからな」
芯玄「オレと朝潮はパラレルワールドで生まれたんだ。こことよく似た別の世界でな。だから……実を言うと“この世界の”五月雨や如月とはほとんど面識がない。
オレらがこの世界に居たという物的な証拠はないのに、他人の記憶や認識上ではオレ達が居ることがさも当たり前のようになっているんだ。都合良く、な」
芯玄「で、全く見覚えのない名前だったもんだから、つい気になってお前のことを調べてみたんだが……どうにもオレらと似たパターンらしいんでな。
出自不明、経歴も謎、どこかの軍学校を卒業してつい最近着任してきたってことらしいが、どこの卒業生名簿にもデータなしときた」
提督「お察しの通り、俺もここの人間ではありません。……ただ『別の世界から来た』というのも違うかもしれないと思っていて。
あの……これは話半分で聞いてもらって構いません。専門の知識もない半可通が考えた仮説ですから」
靴紐を解いて見せびらかす神乃提督。
提督「この紐の繊維が一つ一つがそれぞれの三次元空間。全てに時間が存在していて、過去から未来へ一方向に進んでいく。
この紐の繊維どれか一つに俺が生まれ育った場所があり、他方我々がいるこの場所も存在していると考えていただきたいのですが……」
提督「こうした紐繊維が束ねられて一本の紐が形成されています。これが世界の一単位。
ところで、もう一本の紐を用意しました。こちらを貴方がたが本来いた世界としましょう。
こちらとさっきの紐とで、一本一本の繊維の性質も、その束である紐としての性質も同じと言って差し支えないでしょう」
提督「紐であることは同じでも、限りなく似ているだけで同一の存在ではありませんね。さて。この紐の先端をつまみ上げて、水で濡らしてしまいます。
すると紐の下部までじょじょに水が浸透していくのですが……この説明は今は省きます。で、実際には靴の紐というのはこのようになっているのであって……」
革靴に乾いた紐と濡れた紐の二本を通す神乃提督。微妙にもたついている。
提督「えーっと、段取りが悪くてすみません。……このように、結び目で紐と紐とが接触しているでしょう。
すると、濡れた紐から乾いた紐の方にも水分が伝わっていき、湿ります。この、紐から紐へと移った水分子が貴方がただったのではないか?
……などという妄想です。根拠はありませんが」
提督「で、俺がここに来たのは、ある紐繊維から別の紐繊維への移動だったのかなと。その原理とかも謎ですけどね。
これならとりあえず辻褄は合うのかなと。紐というのは物の例えで、実際は前後左右上下に広がるセル郡とセル郡、って考えてますけども」
芯玄「ほう? 面白い解釈だな。真実がどうかはさておき、お前さんのいきさつはなんとなく理解できた。
どうにも別経由ってことらしいな。んじゃ、オレらの話も少ししようかな。オレと朝潮がこの世界にやってくるまでの話。……」
・・・・
提督「こんなところに居たんだ。もうすぐ昼餉だから探していたんだよ」
五月雨「ああ、ごめんなさい。なんだか不思議な景色で……ずっと眺めていたんです」
五月雨の視線の先には、枯れた向日葵が辺り一面に広がっていた。
呉鎮守府内のはずれにあるこの場所は、何にも使われていない土地を花畑として再利用したものだった。
見栄えのしない殺風景な眺めだったが、提督はその光景にどこか懐かしさを覚えていた。
提督「夏は燦燦と降り注ぐ太陽の日差しを浴びて咲き乱れていたのだろうが、今じゃ見る影もないね。
焼け焦げたように黒ずんで、俯いたままもう空を見上げることはない。……季節が過ぎれば詮無きことで」
五月雨「子供の頃のことを思い出していたんですか? まだユーゼンちゃんも居た頃の」
提督「うん。通学路の途中にあった向日葵畑がふと頭を過ぎったんだ。背の高い向日葵の花畑は、学校をサボった俺が隠れるのに最適でさ。
携帯ゲーム機を持って行って電池が切れるまで遊んでさ、その後は川や森に探検に出かけたり。……褒められたものじゃないけれど」
提督「楽しかったんだ、すごく。……それだけ」
一旦ねます・・・
五月雨「いつか……元の場所に戻らないといけなかったとしても」
提督「?」
胸に両手を当てて上目遣いで提督を見つめる五月雨。
五月雨「ここに居る間は、いっぱい楽しい思い出を残しましょうね」
済んだ冬晴れの青空と太陽の温もりを背に、無邪気にほほ笑む五月雨の姿が妙に印象に残ってしまって、言葉に詰まる提督。
そうだね、とだけ素っ気なく返して、五月雨を連れて施設に戻ろうとする。
提督(ここにずっと居るのも悪くないのかも、なんて……。それでもいいと思えてしまうなんて、どうかしてるな)
五月雨「本当は、ずっと一緒にここに居てくれたら良いんですけどね。……なんて♪ これは私のわがままです」
・・・・
朝潮「あら? 五月雨、どうしましたか。元帥に用件があるなら、お伝えしておきますが」
呉鎮守府にやって来て数日が経ったある日の夕方、五月雨は一人で総司令室を訪れた。
部屋では朝潮が椅子に座って書類の整理をしていた。
五月雨「いいえ。お夕飯までにちょっと暇な時間が出来ちゃったから、お話ししようと思って。邪魔でしたか?」
朝潮「そう。私も今日の仕事は済んでいるから、いいわ。紅茶でいいかしら?」
頷く五月雨。朝潮は給湯室へ向かうと、すぐに戻ってきてお盆を客人用テーブルの上に置く。
カステラの乗った皿と紅茶の入ったティーカップが二人分用意されていた。
五月雨「どうもこっちに来てからは暖かい飲み物が恋しくなりますね~」
カップに口づけし、しみじみと安堵する五月雨。
朝潮「ラバウルから来たんじゃ無理もないわ。まだ冬の初めのはずなんだけど、寒い日が続くわね」
五月雨「実は朝潮には前から聞きそびれてたことがあったんですよね。芯玄元帥とどうやって親密になったのか、気になってまして。
提督と秘書艦って関係だし接点の多さで考えれば不思議というほどではないんですけど……。何の前触れもなく電撃結婚だったんで、すごいなあって」
朝潮「結婚したらすぐラバウルを離れちゃったから、確かにあまり話す機会は無かったわね。なんて説明したらいいのかしら……」
五月雨「元帥とのご結婚が決まった時、『突如現れたブルーホールに、異世界への入口が!』……みたいな話をしてませんでしたっけ。
ひょっとしてそれが関係しているのでしょうか。あの時は噂話だと思ってたんですけど、今になってみると本当にそういうのもあるかもって思えてきたんです」
五月雨の問いかけに少し驚いて、持ち上げかけたティーカップをソーサーに戻す朝潮。
朝潮「あれが夢だったのか、現実だったのか……今はもう本当のところは分かりませんが。そう。
あまり混乱させるようなこと言いたくはないんですが、私と司令官は別の世界を彷徨っていたんです」
五月雨「それは……なんだか素敵ですね。違う世界にトリップして、そこで二人だけの時間を過ごしたんですね」
朝潮「一言で説明するなら、運命? というものなんでしょうか……」
自分で言って恥ずかしくなったのか赤くなった顔を手で覆う朝潮。
覆い隠す左手の薬指には銀の指輪が煌めいていた。
五月雨「お似合いだと思いますよ。すごく。……運命、かあ」
五月雨は宙を見つめてぼんやりと呟いた。
五月雨「なんだか重たい言葉だなあ……って。私もロマンスとか好きで、運命や奇跡を信じたいって思うんです。
でもその一方で、幸せになれる人とそうはなれない人がいて……。そういうのが全部運命で決まっていたら嫌だなあとも思うんです」
窓から見える夕焼けの空を眺める朝潮。
朝潮「五月雨は……自分の幸せ、ひいては自分にとって大切な人たちの幸せのために、それ以外の人間を犠牲に出来ますか? 例えば、そうね。
自分や自分の周りの人たちだけは救われて幸せになるけれど、そうでない人たちは不幸になるとしたら……五月雨はそれでも幸せになりたいと思いますか?」
五月雨「……そういう幸せの在り方って、間違っていませんか。人から奪った幸せなんてきっと虚しいと思うもの。
少なくとも私は、誰かが悲しむ方法で自分の望みを叶えようとは思わないですね」
朝潮「五月雨ならそう言うと思いましたよ。そうでしょうね……。証明する術がないので信じてくれなくても構いませんが。
私、不老不死だったことがあるんです。以前の話で、今はもうその力を失ったんですけど。
自分と……あの人が永遠の命を持ち続ける代償として、他の全ては消え去ってしまう。そんな選択を迫られたことがありまして」
朝潮「私は……手放したくありませんでした。私にとっては、他の全てに勝って司令官が一番大切な存在ですから。
だけど。司令官は五月雨と同じ考えでした。その時に司令官が言ってくれた言葉が、私の胸の中にずっと残ってるんです」
『永遠に二人で時を過ごすことが出来れば、確かに幸せかもしれない。ここでこいつらの言う通りにすれば、オレはやがて老いさらばえて死ぬ。
だけど、それでもいいんだ。不幸も、いつか来る別れも、全部受け止めた上で、それでもオレは朝潮と一緒に居たい』
朝潮「人は幸せだけを追い求めてしまいがちだけれど、きっとそれだけじゃ心は満たされなくて。
不幸せにも意味があるのかなって……今はそう感じます。痛みを通じて糧になるなら、きっとそれも大事な経験だと思うんです」
朝潮「これが私なりの運命に対する解釈です。確かに重みのある言葉かもしれませんけど、恐れることはないんです。
それがプラスのものだったにせよ、マイナスだったにせよ、振り返って価値のあるものになるならそれでいいんだと思います」
大型ワゴン車に乗って舞鶴へと向かう神乃提督たち。「到着までに今から5時間弱かかる」と提督が告げると、みな観念したようにすぐ眠りに落ちてしまった。
提督「運転手を用意してもらうべきだったなぁ……。最後にハンドル握ってから何ヶ月ぶりになるだろう」
助手席の五月雨が、提督のこぼした独り言に反応する。
五月雨「代わってあげられたらいいんですけど、あいにく車の運転は苦手で……。こないだなんて海に突っ込んじゃったんですよ!
艦娘じゃなかったら危なかったなあ……。車はもうダメそうだったので、泣く泣く廃車しました。とほほ……」
提督「サラッととんでもないエピソードが飛び出してきたね……」
片手で缶コーヒー(微糖)をグイッと飲み干して、そのままハンドルに手を戻す提督。
提督「そういえば、五月雨は眠くないの? 他の皆は寝てるみたいだけど」
五月雨「到着するのが朝方だから、寝ておいた方がいいのは分かってるんですけど……なんだか眠れなくて。
そうだ、目を閉じて羊を数えてみましょうか。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、……羊が二十五匹、羊が二十六匹」
提督「ところで今、何時だっけ。確認してもらえるかな」
目を開けて車のナビに表示された時刻を確認する五月雨。
五月雨「えっと、ちょうど午前四時ですね。うぅーん……羊が四匹、羊が五匹……あれっ」
ふっふっふ、とほくそ笑む提督。
五月雨「もうっ、撹乱しないでくださいよ。……あの、提督?」
提督「なんだい?」
五月雨「提督にとっては、あんまり思い出したくないことだと思うんですけど……。働いてた時期は、今から振り返ってみてどう思いますか?」
提督「ンー、ヤな思い出ではあるね。憧れの会社だったんだけど、実際入ってみたらあんまり良い所ではなかったし。
でも、それも含めて自業自得だったかなって思うよ。あんまり内情知らないまま入社しちゃったのは俺の方だしね。
お金が稼げればなんでもいいやって投げやりな気持ちでエントリーしたらそのまま通っちゃって」
提督「まあ、働く環境が大事だってのは一つの大きな学びだね。俺には自分の人間性を切り売りする生き方は向いてないんだなあって思ったよ。
そういう意味では勉強になることも多かったし、全部が全部失敗だったってわけでもないかな。二度とやりたくはないけど」
五月雨「……本当に、ここにずっと残るつもりはありませんか?」
提督「ないね。第一に、俺に人の命は背負えない。戦争のことは歴史の授業で習ったよ。俺のひい爺ちゃんは戦争で死んだって話も聞かされた。
けど、それを踏まえても俺にとっちゃ実感がないんだ。だから背負えない。ここはゲームの中の世界で、俺にとっての現実じゃない」
提督「戦争の惨禍も、俺にとっては現実感のないファンタジーと一緒で、三国志のような遠い昔の出来事に感じるんだ。そんな奴は人の上に立つべきじゃない。
今は真似事のごっこ遊びをしているだけで……それがたまたま上手くいっているだけで、その重みに耐え切れなくなったらきっと逃げ出すさ」
小雨が降り始める。フロントガラス越しに届く街灯の明かりは水滴で滲んでふやけていく。
五月雨「ううん。……提督は、他人の痛みが分かる人です。人の辛さや苦しみが分かるからこそ、そうやって葛藤するんでしょう?
でも、それがきっと一番大切な資質だと思うんです。私は……いいえ、他の皆もそう。優秀な人の下に就きたいんじゃなくて、思い遣ってくれる人のために戦いたいんです」
五月雨「命を預けても後悔しない人が良いんです。私が沈んでしまっても、私の命は無駄じゃなかったって言ってくれる人と運命を共にしたいんです。
私との思い出を、大切にしてくれる人と一緒に居たいんです。……なんて言ったら、困りますか?」
提督はこの時、自分が人生の岐路に立たされていることを直感する。ハンドルを握る手に無意識のうちに力が入る。
提督(普段はまるで子供のようだが……やはり艦娘なんだな。兵器である以上、戦いの運命からは逃げられない。
だからこそ……自分の存在を肯定してくれる人間を求めるのか。使い捨ての道具としてではなく、生きた実存として認めてくれる人間を)
提督(だとしても……俺には荷が重過ぎる)
五月雨「なんだか急に暗い話になっちゃってごめんなさい。重い、ですよね……。私も普段は、もし自分が沈んだらなんて考えないようにしてるんですけど……。
運命とか、因果とか、よく分からないですけど……。そういう人には抗えない力があるとするなら、私は後悔しないように自分の気持ちを伝えたいって思うんです」
五月雨「天道さんがどういう道を選んでも、自分の意思で決めたのならそれが正しいんです。だから、私にはあまりとやかく言えないんですけど……。
でも、私は……天道さんには資格があるって感じるんです。私たちを導いていく、その資格が」
五月雨の耳に聞こえないように、提督はぼそりと呟いた。
提督「買いかぶりだよ」
・・・・
舞鶴鎮守府第四執務室。山城の肩に跨ってクリスマスツリーの飾りつけをしている窓位大将。
窓位「クッーリスマスがフフンフホニャラホホ~♪」
山城「なんですかそのボヤけた歌詞は……」
窓位「いや、権利ある関係各所への配慮のためにね。……っていうわけじゃなくてうろ覚えなだけなんだけど」
山城「なに訳の分からないことを言ってるんですか」
扶桑「提督、山城。お客様がお見えになりました。いかがしましょう」 扉を開けて部屋に入る扶桑
山城「ねえさま~!!」
扶桑の声を聞くやいなや目を輝かせて勢いよく反転する山城。
窓位「あっ! ちょっと、急に振り向くと……」
窓位大将の静止は山城の耳に入らず、山城の艤装がツリーの幹部分にぶつかる。ツリーはバランスを崩してそのまま二人めがけて倒れてしまう。
窓位「むぎゃっ!! いたたた……でも、この感じさえもはや懐かしいよ。都合してくれた蒔絵大将には感謝しないと」
扶桑「あら……なんてこと。今ツリーを退かしますから、少し辛抱していてくださいね。……って、ああっ!?」
扶桑がツリーを持ち上げようと力を入れると、ツリーの先端部分が蛍光灯に当たって割れてしまい、驚いてまたツリーを二人の上に落としてしまう。
窓位「ぐえー」
扶桑「ああっ、ごめんなさい! ええっと……暗くてよく見えないわね」
提督「なんかすごい音がしてたけど……失礼しまーす」
神乃提督がおそるおそる扉を開けると、そこには暗い部屋の中でツリーに押し潰されている二人と扶桑の姿があった。
提督「これは……謀反でも起きたんですかね」
・・・・
窓位「あたた……すまないね。いきなりこんな情けない姿を見せてしまうとは。ボクは窓位。さっき倒れてたのが山城で、こっちが扶桑。よろしくね」
提督「神乃です。お世話になります(子供の提督? そういうのもあるのか)」
背伸びしてツリーの天辺に腕を伸ばす扶桑。手には星型の飾りが握られている。
扶桑「ううん……もうちょっとで届きそうなんだけど」
山城「姉さま! 頑張って。あと少しです!」
窓位「……挨拶したばかりで済まないんだけど、ちょっと作戦会議に出なきゃいけなくてね。悪いんだけど、部屋で過ごしていてもらえると助かるな。
えっと……今非番なのは吹雪がいるか。あっ、ちょうど良い所に。おーい。お客さんに部屋の案内を頼みたいんだけど、いいかな」
開いたままの扉から偶然吹雪が通りかかるのを見かけた窓位大将は、彼女に声をかけて呼び止めた。
吹雪「はい。お任せください……って、舞風?」
舞風「んにゃ。おおっ! ブッキー、久しぶりじゃーん」
提督「知り合い? 随分仲良さそうだけど」
舞風「ノンノン! そんなドライな関係じゃなくて、マブのダチですよ。えーっと、十四年? 十五? そのぐらい前に私もここ舞鶴鎮守府に所属してまして。
なんでかあの頃のことを思い出そうとすると、何かを忘れてるような感じがするんだけどね~……。物忘れなんて滅多にしないはずなんだけどなあ」
提督「大丈夫だよ。俺も小学校の頃の担任の名前とか覚えてないしね」
五月雨(それはロクに通ってなかったから覚えてないだけなのでは……)
吹雪「こんな形で会うなんて、奇遇ですね! 元気にしてましたか? って、あ……そうだ。部屋の案内を頼まれていたんでした。えっと、場所は一階なんですけど……」
吹雪は神乃提督たちを連れて執務室を出ていった。
窓位「さて! ボクたちもそろそろ行こうか? ……って、一体全体どうしたの?」
ツリーにモールで括りつけられている山城。直立のまま両手を広げていて磔にされているようだった。
山城「うう……どうして……? 私はただツリーを飾りつけしようとしただけなのに……」
窓位「今解くから、ちょっと待って。あ、いや、動かないで。そう、そう、落ち着いて……腕をゆっくり! ゆっくり降ろして……。
艤装があるからね、注意して。そう、いいよ。それでいい……」
獰猛な獣を宥めるように、ジェスチャー混じりに少しずつ山城を誘導する窓位大将。
窓位「ほらっ! よく出来ました。行こっ」
山城「手なんて握らなくても、自分で歩けますから。……もう」
口ではそう言いながらも、差し出された手を拒まずに優しく握る山城。
山城の頬がうっすらと赤く染まっている様子を見て、扶桑は静かに微笑んでいた。
・・・・
吹雪からの案内を受けてそれぞれの部屋に荷物を置いた後、客間で寛ぎながら談笑する一同。
五月雨「クリスマスかあ……。ラバウルに帰ったら、私たちもツリーを飾ってみましょうか」
如月「いいわね~。ケーキをお腹いっぱい食べて、キャンドルを灯して、まだ見ぬ素敵なダーリンと夜が明けるまでお話して、手を繋いで一緒に眠るの……」
夕張「いやいや、皆で過ごす話だからこれ。妄想し過ぎだから」
五月雨「そういえば、さっき扶桑さんと山城さんが取りつけてた、ツリーのてっぺんにあるお星さまってなんて名前なんでしょうね」
提督「一般的に星のあれとして知られてるやつは、特にこれといった名前はないんだけど……強いて言うなら星型の飾りかな。
ただ、元ネタはあってね。“ベツレヘムの星”って言うんだけど。クリスマスがキリストの誕生を祝う日、っていうのは知ってるよね?」
問いかけに対し意外と反応が悪いことに困惑する提督を、夕張がフォローする。
夕張「私は知ってるけど……(漫画から得た知識)、他の子は知らないかもね」
提督「うーん、そうだな。お釈迦様みたいな? ……とか、本当は簡単な言葉で説明すべきでもないんだけどな、ん~。
いやでも、クリスマスって本来キリスト教の祭りだからなあ。原義を知らずに祝うのも間違っているのではないだろうか。
そうなると……一から教えることになってしまうが、俺も信仰しているわけではないからなあ。どうしたもんか」
夕張「まあ、アレよね。すっごく昔に生まれた偉い人、みたいな」
提督「ものすご~くざっくり説明するとそうなるね。偉いっていうより……まあここでは省くけど、興味があったら今度教えるよ。
クリスマスってのは本来、そのキリストさんが生まれたことをお祝いする日なんだよ。で、ツリーの星についての話に戻るんだけど」
提督「キリストさんが誕生した直後、西の空に誰も見たことないようなお星様が輝いていたんだってさ。
それを見た“東方の三賢者”なんていう大層な肩書きの三人組は、お星様に導かれてキリストさんの所まで辿り着き、生まれたことを祝福したんだって。
で、その生まれ故郷の名前がベツレヘム。ツリーの頂上に飾る星はこれに因んだものなんだよ」
紙芝居を読み聞かせるような調子で説明する提督。
夕張「へぇ~……。提督、あなた妙なところで博識なのね」
提督「ふっふ。趣味さ」
・・・・
その日の打ち合わせが全て終わってしまい、暇を潰すべく散歩していた提督。
朝は比較的太陽が照っていたが、昼を過ぎる頃には曇り空に変わっていて、乾いた風が吹いている。
提督は両手をコートのポケットに突っ込んだまま歩き、五月雨はそれを見て行儀が悪いと思いながらも指摘はせずに並んで歩く。
提督「なんだ……ここは」
五月雨「一見すると公園、のようですが……」
仮にも軍の私有地にも関わらずブランコやシーソー、雲梯や砂場のある公園を二人は発見する。
提督「なるほど。敷地が広いとこういう使い方もありなんだな。ちょっと遊んでいこうか」
五月雨「いいですね。私、公園で遊ぶのって初めてなんです! どれから遊ぼうかな~……あ、この遊具ってなんですか?」
提督「これは回転式のジャングルジムだね。登ったりぶら下がったりして遊ぶんだ。ほら、掴んで登ってごらん」
スイスイと金属のパイプを掴んでよじ登り、すぐに頂上まで辿り着く五月雨。
五月雨「おぉ~……言われてみれば、そこはかとなくジャングルな感じがします」
提督「で、こんな風に回して遊ぶ」
五月雨「へっ? ……きゃ~!」
五月雨が悲鳴のような声を上げているが、これはどちらかと言えば歓喜の興奮によるものだった。
ジャングルジムはグルングルンと勢いよく回転し、動きが止まれば「もう一回! もう一回!」と五月雨が提督にせがむ。
提督「もういいかな……回すの疲れちゃった」
五月雨「え~! そんなぁ……。じゃあ、今度は私が提督のことを回してあげますね♪」
提督「(経験上なんとなく嫌な予感がするな……)う~ん、遠慮しておこうかな」 音を立てず後ずさりする
五月雨「まあまあそう言わず。ほら、入って入って。行きますよ~……」
半ば強引に提督をジャングルジムに押し込めると、五月雨は金属パイプが千切れんばかりの怪力で高速回転を起こす。
提督「うおおおおっ!? 予想してたけどぉぉぉおおお!!」
回転が止まった後、提督は床を這うようにしてジャングルジムから脱出し、そのまま土の上で仰向けに倒れてしまう。
五月雨「楽しかったですか? 思いっきり回してみたんですけど」
提督「死……死……しぬ……」
陸の上に打ち上げられた小魚のように小さく震えている提督。どうにも失神一歩手前だったらしい。
・・・・
五月雨「さっきは本っ当にごめんなさい! 初めての体験ではしゃいじゃって……」
提督「いや、いいよ。楽しんでもらえたなら何よりだ」
二人はベンチに座っていた。遊具で遊んでいた時は体が温まっていたから平気だったものの、この日は風が強く冷え込む日だった。
急に寒さを感じた二人は身を寄せ合ってなるべく熱が逃げないようにしている。
提督「そろそろ帰ろうか。寒いしね」
ふと五月雨が空を見上げると、白く柔らかな雪が降り始める。
五月雨「あ……雪、ですね。もうちょっとだけこうしていて良いですか?」
提督「いいよ。雪を生で見たのも初めてなんだろう」
五月雨「はい。あの……寒いでしょう? これ、一緒に巻いたらあったかいですよ」
自分が巻いているベージュのマフラーを、二人で巻けるように提督の首に回す。
提督「なんだか照れくさいなあ。でも、ありがとう。温かいよ」
風の勢いが少し弱まって、はらはらと落ちていく粉雪。二人の白い吐息がふわふわと空を漂う。
五月雨「なんとなく皆には内緒にしておこうと思ったんですけど……。前に提督が言ってた、ベツレヘムの星を……見たことがあるかもしれないんです」
ぽつりと前触れもなく五月雨がこぼす。知的好奇心をそそられたのか、興味ありげな様子の提督。
提督「へぇ~! 諸説あるみたいで、星の正体が何かは今でも分かってないそうだけど……どんな星を見たの?」
五月雨「その日はたまたま一人で過ごしていたんですけど……夜なのに虹が出ていて、とっても素敵な景色だったんです。
こんな偶然滅多にないからってずっと眺めていたら、西の空に昇ったお月様の傍を、かするようにして流れ星が通り過ぎるのを見たんです」
五月雨「私、お願い事をすることすら忘れちゃって、見惚れていたんです」
珍しくおずおずとした喋り口調の五月雨に違和感を覚えながらも質問する提督。
提督「その流れ星は、白い尾を引いていたものではなかったのかい? それか、火の玉のように明るいものだった? 他に特徴はあるかな」
五月雨「彗星ではなかったです。火の玉ってほどじゃなかったですけど……月の次ぐらいに明るかったですね。形も不思議で。バッテンと十字を重ねたみたいな……」
提督「おお……それ、ひょっとすると本物かもしれないね。ベツレヘムの星っていうのは八芒星なんだ。
普通は星がそんな見え方をすることはないはずなんだけどね。それに、そんなに明るい流れ星があったらニュースにもなってそうだけど……」
五月雨「夜に虹を見たなんて話も、米印の流れ星を見たっていう話も、誰からも聞いたことないんですよね。現地のニュースにもなっていなかったと思います。
……この星を見た後に、私は提督のことを夢で見るようになったんです。だから、私はこれを予兆だったんだなって思って」
提督「予兆?」
五月雨の方を見つめて不思議そうに尋ねる提督。五月雨は提督の方に振り向くことはなく、ただ雪の降る空をじっと見ていた。
五月雨「夢の中で提督をずっと見ていて……ダメな所とかカッコ悪い所もあるけれど、それを踏まえても尊敬できる人だなって感じたんです。
宗教の話とかはよく分かんないですけど……。前も言ったみたいに、提督みたいな人にだったら……自分の運命を委ねてもいいと思えたんです」
空を切るような歯擦音混じりの溜息を吐き、湿っていく地面を見下ろす提督。吐いた息は雪に紛れるようにすぐに消えてしまった。
提督「自分の運命なんて大事なものを他人に委ねるもんじゃないさ。……それじゃあまるで、俺は悪魔みたいな存在じゃないか。
いいかい。俺は俺で、君は君だ。俺は……例えそれが人間社会の正しいあり方だったとしても、人から何かを奪う人間にはなりたくないんだ」
寒さのせいなのか本心の言葉だったからなのか、声が震える理由は提督自身にも分からなかった。
ただ、意図せず五月雨のことを突き放すような言葉が口から零れたことに、心臓が冷たくなるような感覚がした。
五月雨「ううん、提督は悪魔なんかじゃないですよ。だって……」
凍りついたように冷たくなった提督の手を取って、包み込むように自分の両手で温める五月雨。
五月雨「提督といると……胸の内が熱くなって、こんなに体がぽかぽかするんですもの」
赤ら顔で微笑みを向ける五月雨を見つめ返そうとした提督だが、数秒と持たず俯いてしまう。
表情を五月雨の側からは伺うことは出来なかったが、頬が薄い紅色に変わっていくのが分かった。
五月雨「おかしいですよね。最初は憧れや興味だけで会ってみたいって気持ちだけだったのに……。
いざこうして一緒に時間を過ごしていたら、それ以外の気持ちで心がいっぱいになっちゃったんです」
提督「五月雨、俺は……。……ずっとここには残れないよ」
五月雨「ええ。無理矢理連れ出した私に『行かないで』なんて言えませんから。提督がどういう選択を取ってもいいんです。
その時が来たら、お別れでも……。残念ですけど、仕方ないって納得できます。ただ、私はそれでも伝えたかったんです」
それは、五月雨自身この時になるまで自覚していなかった感情だった。
心臓の鼓動が高まって、息が詰まりそうになる。
寒さなんて気にならなくなるほどに、身体中から熱を感じる。
五月雨「提督のことが……大好きです、って」
不思議と熱は収まらず、それどころか更に高まっていくような錯覚を覚える。
ただ、緊張から解放されたのか胸の鼓動は少しだけ落ち着いていく。
安らぎと高揚が入り混じった不思議な心境だったが、それすらも五月雨には心地よいものに感じられた。
五月雨「えへへ……ついに、言っちゃいました。伝えられてよかったです。部屋に帰りましょうか。もし良かったら……手を繋いで」
ベンチから立ち上がった五月雨は、提督に向かって手を差し伸べる。
提督はその手を取り並んで歩き出した。
舞鶴鎮守府を発つ日が間近に迫ったある日、提督は荷支度をしていたが、ある問題に直面していた。
提督「荷物が多すぎるんだよねこれ……。設計図とか資料とかだけ予め鎮守府に送っちゃいたいんだよなあ。
俺が居ない間に執務をやってもらってる大淀の助けにもなるだろうし……」
五月雨「そうですね……。役に立ちそうなものをなんでもかんでも貰って回ってたら収集つかなくなっちゃいましたね」
二人が顔を見合わせてどうしようかと考え込んでいると、バタンと扉が開く音とともに、とてとてと裸足の艦娘たちが乱入してくる。
伊401「段ボールだらけですね~……これは確かに窓位提督の言っていた通りかも」
伊168「これからラバウル方面に出撃するの。ついでだから運んでいっちゃおうと思って。
あ、私たちは潜水艦なんだけど……荷物まではびしょ濡れにならないから安心してね」
伊14「よぉーし。じゃんじゃん持って行っちゃお? あ、他に持っていって欲しい資料とかあったら今のうちに用意しちゃいなよ?
資料室には結構参考になる本とかあると思うし、見てきたら? それも一緒に持ってってあげるから」
ドタドタと部屋を歩き回る潜水艦たちに追い出される形で提督は資料室を訪れた。
提督(資料といっても辞典や図鑑よりも分厚いからね。持って行ってくれるのは助かるんだけど……なんていうかその。
スク水を着た少女が部屋を歩き回ってるってのはなかなか異様な光景になるんだなあ)
部屋のどこからか話し声がするようだ。
??「私が思うに……“後ろの正面”とは、自分自身を指しているのだろう。ここも解釈が複数取れる箇所ではあるが……。
自身の肉体から離脱した魂は、己という存在と真に同一なのか……と。まあこれも今となっては真実を知る術はないんだろうが」
若い少年の声だった。ただ、窓位提督のものとも声質が微妙に違っていた。
??「我々が世界と思い込んでいるものは、人間の認識によって成り立っている。だが、実際は異なる。
人間の認識の上では、不可視非実体だったとしても……完全な無であるとは言い切れない」
??「月は人を狂わせる……その俗説を信じるならば。
己の存在を自分自身で認識できなくなり、消滅するという災厄を告げているのかもしれないな。
あの歌と例の一件との相関は、こんなところだと思っている」
??「色は空、空は色……畢竟個々人の認識次第で世界は形を変えるのだろう。……おや、初めまして」
神乃提督の気配に気づくと、少年はパタンと本を閉じて立ち上がり、恭しく敬礼する。
見た目は十歳以下といったところだが、白煙のような髪の色と落ち着き払った態度はとても子供のものとは思えなかった。
彼の隣の席には秋月という艦娘が座っていた。
涼金「私の名は涼金凛斗。窓位提督と違って見た目通りの年齢だ。少しわけありで鎮守府内をうろついているが、あまり気にせんでくれ」
提督(気にしないでくれって言われても、厨二センサーにビンビン引っかかる話題だったからすごい気になるんだよな~……)
涼金という名前を聞いて、思い出したように口を開く提督。
提督「涼金……そうだ。柱島泊地の乙川中将って方から言伝をもらっていて。
『便りのないのはよい便りと言うけれど、たまには遊びに帰っておいで』だそうで。あ、俺の名前は神乃っていうんだけど」
秋月「乙川中将が? わざわざ伝えてくれてありがとうございます。
凛斗さん。冬休みはいつぐらいから始まるんでしたっけ。年末年始は柱島に帰って過ごしませんか?」
涼金「うろ覚えだが、遅くとも二十三だか四だかには。そうだな。半年ほど過ごして感じたが、あそこはとても居心地がいい」
秋月「秋月にとって、あそこは故郷のようなものですから。ここも過ごしやすくはあるんですけどね」
涼金「にしても……便宜上それが必要なのは理解しているが、この歳で小学校に通うというのはどうにも不服だな。
……っと、話し込んでしまって済まない。他に何か用件か?」
提督「さっき話してたことが気にな……」
舞風「おーい、て~とくぅ! 明日の出発について聞きたいんだけど~……って、おろ」
部屋に入ってきた舞風の声で提督の発言は掻き消されてしまう。
舞風「お? 秋月発見! これまた懐かしい顔に会ったねえ~……どう? 元気してた?」
秋月「はい! お久しぶりですね。また会えて嬉しいです」
少年と目が合って不思議そうな顔をする舞風。
涼金(まさか吹雪だけでなく舞風にも会えるとはな……。秋月のことは覚えていても私のことは忘れたようだが、元気そうで良かったな)
舞風「んにゃ。そこの少年……さてはどっかで会ったことある? なわけないか。けど、その見た目で白髪なんてどうしたの?
意外と苦労人さんなのかな~? どれ、お姉さんがナデナデしてしんぜよう」
強引に少年の頭を撫でる舞風。
涼金「う~……鬱陶しい、やめないか。秋月もニコニコ笑っていないで止めたらどうだ」
提督(うーん、さっきの話が気になるんだけどなあ……)
結局、神乃提督は涼金少年から話を聞き出すことが出来ないまま横須賀へ向かうこととなった。
神乃提督たちが横須賀に着いた日は、大気が激しく冷え込んだ大雪の日だった。
外に出ることはおろか廊下を出歩くことさえ憚られるほど寒い気温の中、一行は第二執務室に案内された。
蒔絵「ようこそ。こんなに寒い日に働くなんて馬鹿げていますからね。今日の仕事はお休みです。
代わりと言ってはなんですが……一杯どうでしょう? お代は貰いませんからご安心を。趣味の一環です」
提督、五月雨、夕張、舞風、如月の順でバーカウンター前の椅子に横並びで座っている。
暖炉からパチパチと薪の燃える音がする。壁面には絵画がいくつか飾られていた。
どれも写実的ながらどこか幻想的な雰囲気を醸し出している風景画で、神乃提督たちの目を惹いた。
提督「人数が人数なんで、お任せで。飲めない人は居ないからその点は大丈夫です」
蒔絵「畏まりました。随分遠くから来たそうですね。ラバウルから来て、柱島・呉・舞鶴……で、ここと。長旅で疲れたでしょう」
舞風「正直ここが最後でほっとしたよね……。これ以上はもう回れそうもないかも……」
蒔絵「もしよかったら、温泉で旅の疲れを取ると良いでしょう。岩盤をぶち抜いて無理矢理作った大浴場がありましてね」
夕張「随分物騒なやり方なのね……。壁に掛かっている絵は誰が描いたものなのかしら? どれもすごく綺麗だけど」
五月雨「私はあの絵が好きですね。夕焼け空に桜の花が舞っているあの絵です」 絵を指さす
蒔絵「ああ……全部自分が描いたものです。現実の景色でありながら、どこか現実離れした感覚にさせられる……。
そんな虚実皮膜の色彩や情景を描くのが好きでして。これも趣味の一つなんですけど」
如月「趣味にしておくのは勿体ないぐらい良い絵だと思うんですけどね……。個展とかは開かれないんですか?」
蒔絵「今のところはないですね。鎮守府の内輪ノリでちょこちょこやってはいますが……まあ、気になるようでしたらアトリエの部屋も明日紹介しましょうか」
提督「是非お願いしたいですね。視察そっちのけになっちゃいそうですが」
蒔絵「ははは。……さて、春雨。用意を」
蒔絵大将が呼びかけると、メイド服を着た春雨がトレイに乗ったカクテルを配って回る。
・・・・
提督「うーん、俺以外みんな寝落ちしてしまうとは……。俺ももう一杯貰ったら寝よう。ボヘミアン・ドリームを」
カウンター前には提督と五月雨だけが座っていて、五月雨はくぅくぅと寝息を立てている。
蒔絵「随分飲まれますね。お酒は得意な方で?」
提督「ああいや……そうでもないんだけど、ちょっと悩み事があって。……って、いけない。上官相手にタメ口を……」
蒔絵「いいですよ。今は気にしないでください。それより、悩みとは?」
提督「森鴎外の『舞姫』はご存知ですか? まあ……概ねあれと同じです。一時の感情と、現実との狭間で揺れていまして。
元のあるべき場所へ帰るか、あるいは……といったところで。自分でも情けない男だと思いますよ、俺は」
提督「親父の保険金で経済的には困ってないんだろうが……お袋は脚が不自由で買い物にも難儀してるんだ。
いずれはボケて入院もするかもしれない。そう考えたら、ここに残るのは無責任なのかもな……って。
向こうに居た時はろくすっぽ相手にしていなかったのにな。人でなしが今更何を……とは自分でも思うが」
蒔絵大将は、敢えて口を挟まずにどこまで吐き出すか経過を観察していることにした。
提督「あの……酔っ払いの戯言だと思ってもらって構わないんですけど。
ここは俺にとって、すごく居心地がよくて、何不自由なく生きていける場所なんです。でも……ここはあくまで幻想の中。
俺にとっての現実は……外で吹雪いている大雪よりも寒く、孤独で、息苦しい」
提督「誰一人として、本当の心で人間と向き合うことが出来ない。前提に疑念があって……それを持たない人間は騙される。
建前・虚飾・お為ごかし……そんなことばかりだ。耳触りの良い言葉は全部嘘で、口汚い罵声や憎悪の中で生まれる言葉だけが真実。
何のためかも分からずに金を稼いで、何も成せずに時が過ぎる……地獄の底だ。それでも俺は……あちら側の人間だ」
神乃提督の目は既に虚ろで、視点が定まっていなかった。だが、その眼にはどことなく力が宿っているようにも見られた。
普段の声のトーンよりも低めの、少し擦れたハスキーな声で語る神乃提督。
提督「普通に考えればここに残った方がいい。そんなことは分かっているんだ。ただ……。
俺の生まれた側に、隣にいる五月雨のような人間が生まれていたら……きっと踏み躙られていたんだろうと思うよ。
その事を考えると無性に腹が立って許せなくなる。だからせめて……」
提督「少しでも……少しでも良い世の中にしたい。未来に生まれてきた世代に、業を背負わせないように。
もうこれ以上醜いものと対峙しなくても済むように。だから帰るんだ。俺に何が出来るのかは分からないが……それでも」
それからしばらくぶつぶつと独り言を呟いた後、突っ伏して眠りに落ちてしまう。
蒔絵「……抱えている闇が深いようですねぇ。他人事だからどうとも言えませんが。後で二人を寝室に運んであげましょう。今日は店じまいですね」
二人にブランケットをかける蒔絵大将。
春雨「私は……自分の心に正直になった方が良いと思うんですけどね。理想や使命感で押し固めても、結局のところ本心には勝てませんから。
……にしても、不思議な感じがしますね。向こうの世界の五月雨とは面識があるのに、こっちの世界の五月雨とは面識がないから」
蒔絵「春雨は……いいえ、聞くのは野暮ですね。選んだ結果、ここに居るんでしょうから」
春雨「どっちが真実で、どっちが嘘かなんて関係なくて……自分の心が信じる道を進めばいいと思うんです。
それが後から振り返って間違っていたとしても、自分の決めた選択なら後悔はしないと思うんです」
春雨「春雨にとっては……最終的に、司令官の居る場所が正解だったんです。間違いだらけの道だったかもしれないですけど……。
最後に辿り着いたのが、司令官の隣だったんだと思います。迷ったり間違ったりしたからこそ、今の幸せがあるのかな、って」
蒔絵「振った自分が悪いとは思いますが、重たい話はやめましょうか。辛気臭いですからねぇ。
いや~……それにしても春雨のメイド衣装は似合ってますねぇ。眼福ですよ。お酒のつまみにちょうどいい」
神乃提督が飲み残したボヘミアン・ドリームを一気飲みすると、春雨が自分の方を観察するように見ていたことに気づく蒔絵大将。
蒔絵「ん? どうしたんでしょう」
春雨「他の子には内緒にしておいて欲しいんですけど……。実は私、喉仏フェチなんですよね。出っ張ってるのがイイ、っていうか……」
蒔絵「んー……それはちょっと分かんないな。まあ気に入ってもらえてるようなら良いんですけども」
喋りながら片づけを進める二人。阿吽の呼吸で作業は進んでいき、十分もすると洗い物や掃除も終わってしまった。
・・・・
明朝。辺り一面雪まみれで、鎮守府内のどこに向かおうとしても雪に足を取られてしまう。
提督「昨日は酔った勢いで管を巻いてしまって……申し訳ありません。どうにも少し度が過ぎたなと……」
蒔絵「いえいえ、全然平気ですって。それより、雪かきを手伝ってもらえませんか?
工廠やドッグへの道が雪で埋もれてしまいまして、案内しようにも出来ないのですよ」
提督「あ、はい。もちろん」
蒔絵「じゃあ、我々はこっちの方をやるので……夕張さん、如月さん、舞風さんのお三方にはあちらを。
神乃提督と五月雨さんにはあの辺をやってもらいましょうか。お願いしますね」
・・・・
提督「いや~……本当に寒いね。夜になったら温泉があるって考えたら頑張る気になれるけど。
ハハ……たった二週間弱の出来事で、もうすぐ慣れ親しんだラバウルに帰れるはずなのにさ。なんだかすごく長い間旅をしていた気分だよ」
提督「帰ったらすぐにクリスマスかな。灼熱の太陽の下でクリスマスなんて全然想像つかないけど。皆とお祝い出来たら楽しいだろうなあって思うよ」
和やかな提督の語調に対して、少し陰りのある顔つきの五月雨。
五月雨「提督……あの。……もうすぐ、タイムリミットだって言ったらどうしますか?」
提督「え……? それってどういうことかな? 戻る方法はまだ見つかってないんじゃなかったっけ」
五月雨「提督は一度、帰れるチャンスがあったはずですよね? でも……そうはしなかった。それだけ現実の世界に戻るのが嫌だったんですよね」
提督「黙っていたけど……そうだよ。あの時はそうだ」
五月雨「あの晩の後も、何度か扉は用意されていたんです。扉の現れる晩の兆しは、なんとなく事前に感じるんです。
これまでは帰って欲しくないから言わなかったんですけど。けれど……そういうわけにも行かなくなってしまいました」
五月雨「五日後です。ちょうどラバウルに戻って一日目の夜になるでしょうか。……それが最後のチャンスです。
それを逃したらもう戻ることは出来ないし、戻ったら最後、もうここには来れなくなってしまうでしょう」
提督「そう……。……本当に、選ぶしかないんだね」
五月雨「やっぱり、提督を連れてきたのは無理があったみたいで……二つに一つ、しかないんです」
スコップをその場に突き刺すと、退かした雪山の上に座ってうなだれる提督。
提督「そっか……そうだよな。気づかないフリをしていただけで、俺自身そんな予感がしていたよ。
いつまでもこうしちゃいられないってな。楽しい夢も、いつかは醒める……」
提督「分かっていたよ。分かっていた……」
深く、深く、大きな溜息を一度吐いてから、意を決したように姿勢よく腰を上げて、五月雨と向かい合う。
提督「五月雨が……現実から連れ出してくれて、本当に良かった。こんなに楽しい数ヶ月間は今まで無かった。
五月雨と出会えて良かった。……ラバウルの皆や、他の鎮守府の人たちと会えて良かった。ありがとう……。本当に、ありがとう」
提督「それでも……やっぱり俺は戻るよ。ここよりは綺麗な世界じゃないかもしれないけれど。
人の心は汚れているかもしれないけれど。……それでも、何もかも悪いことばかりじゃないからさ」
提督「ここで過ごした思い出があれば、頑張れそうな気がするから。少しずつ心に種を撒くんだ……それが実るように。
利益とか、評判とか、そういうもののためじゃなく……人の心を絶やさないために」
五月雨「そう、ですよね……。うん! 提督がそうなら、それでいいんです。
提督の気持ちが聞けて良かったです。五月雨も、応援してます。提督のこと……ずっと」
提督のことを真っすぐ見つめて、にこっと笑う五月雨。いつもと同じ明るい笑顔。
笑顔の裏で悲しんでいるんだろうとは思いながらも、提督はそれに気づかないフリをして「ありがとう」と言った。
ラバウルに着いた提督は、旅の荷物の整理を終えると、自分が居なかった間の鎮守府の様子を大淀から聞いていた。
執務室はクリスマス支度の最中なようで、壁や置物にところどころ布が被されていた。
提督「そっか。問題なさそうで良かったよ」
大淀「ええ。敵の強襲なども特になく、穏当に過ごすことが出来ました」
提督(帰って早々、今夜でお別れなんだよな~……) やや落ち着かない様子で聞いている
大淀「で、報告は終わりなのですが……」
大淀がパッと布を引っ張ると、豪華な飾りつけのツリーや料理の乗ったテーブルが露わになった。
扉の前で待機していた艦娘たちが執務室に入ってきた。
天津風「お帰りなさい。少し早いけど、退職祝いってとこかしら。五月雨から話は聞いてるわ」
クラッカーの音とともに紙吹雪が部屋中に舞い散った。
如月「クリスマスを一緒に過ごせないのは残念だけど……ここでまとめてお祝いしてしまえばいいわよね? ってね」
弥生「五月雨から話を聞いて……提督に感謝の気持ちを伝えたい、って私たちに何が出来るか考えてみたんです」
提督「ありがとう。あー……ちょっと、嬉しすぎて泣きそう。ところで、五月雨は?」
廊下を駆ける音がする。五月雨の足音のようだった。
五月雨「お待たせしましたぁ~! なんとか間に合ったみたいで良かったです」
息を切らせているエプロン姿の五月雨。エプロンにはクリームや果汁の跡がついていて、ついさっきまで格闘していたことが伺える。
彼女が両手に持っているトレイの上には、ホールのショートケーキが乗っていた。
夕張「まさか当日に即席で用意することになるとは思わなかったけど……。横須賀で間宮さんから借りたレシピが役立ったわね。
スポンジのふわふわ感からクリームの甘味に至るまで、何から何まで計算ずくのショートケーキよ」
五月雨「五月雨、頑張って作りました。ふにゃっ!?」
提督にケーキを見せようと近づいた拍子に、足元に置かれたプレゼント箱につまづいてしまう五月雨。
当然の物理法則かのようにケーキは宙を舞い、提督の顔面に直撃する。
咄嗟の出来事に驚いた提督だったが、「美味しい」の意を込めて親指を立てた。
・・・・
酒を呑み、食事を楽しみ、語らい、……どんちゃん騒ぎの夜を終えて。提督は五月雨の寝室を訪れた。
提督の後に続いて五月雨が部屋に入る。五月雨は思い出したかのようにケースに入ったDVDを提督に手渡した。
五月雨「まさかお別れの日にこれを渡すことになるとは思いませんでしたけど……帰ったら観てください」
五月雨はベッドの上で横になると布団を被った。提督はベッドに座ると外から見える夜空を眺めていた。
提督「ああ、ありがとう。それにしても……すごい恰好になってしまったな」
提督の恰好はスポーツキャップにサングラス、ネックレスに指輪と奇抜なものになっていた。
これらは「かさばる物や食べ物は持っていくのに難儀するだろうから」という艦娘たちの配慮によってプレゼントされたものだった。
五月雨「提督。……提督と一緒に過ごせて、楽しかったですよ」
提督「俺もだ」
五月雨「五月雨は……提督のこと。大好きですよ」
長旅の疲れが溜まっている中、ラバウルに着いたら朝からケーキ作りをし、そこから夜までパーティーを楽しんでいた五月雨。
出来るだけ長く提督とこの時間を一緒に過ごしたいとは思うものの、睡魔には抗えず五分と持たず眠りに落ちてしまう。
提督(『俺もだよ』……なんて、言うわけにもいかないしなあ)
提督「さようなら。ありがとう」
提督は、眠る五月雨の頬にそっとキスをすると、現れた扉を押し開けて中に消えて行った。
・・・・
神乃「はぁ~あ。帰ってきてしまったな」
侘びしさの漂う静かな部屋。一人暮らし用の、執務室よりもはるかに狭い部屋であるにも関わらず、神乃にはひどく広い空間に感じられた。
スマートフォンを充電して日付を確認すると、五月雨たちと過ごしていた数ヶ月分の時間が経過していたらしかった。
その間に着信があった履歴はなく、メールの類も届いていないようだ。
神乃「とりあえず掃除だな。それから、お袋に会いに行って、親父の墓参り。他のことはそれから考えよう」
五月雨と最初に会った時にこぼしたカップラーメンはそのまま放置されていて、乾いた麺のカスやスープのシミは床と一体化しているようだった。
神乃(こりゃ引っ越したら敷金は帰ってこないな……)
雑巾を濡らして床拭きをする。
引き籠もっている時はそんなことは微塵も思わなかったはずなのに、埃っぽい部屋だなあと神乃は感じていた。
上着をハンガーにかけて、ソファに腰かける神乃。就職面接の帰りだった。
電気ケトルのスイッチを入れ、コンビニで買ってきたカップラーメンを袋から取り出す。
神乃「まさかその場で採用されるなんてなぁ。ま……実際にこの目で見ても良いと環境だとは思った。ツイてる、と考えていいのかな」
神乃が受けた企業はコンシューマーゲームを作っている会社で、前職に比べれば給料は雀の涙に等しかった。
曰く「大コケしてソーシャルから撤退した」だそうで、ゲーム事業の規模は年々縮小していっているようだ。
神乃「思えば子供の頃からゲームっ子だったもんなあ。これも何かの因果というもんなのか」
面接では「田園風景や山村よりもむしろ16色のドット絵に懐かしさを感じる」「義務教育よりもゲームや漫画から学んだことの方が多い」
「ゲームに限らず遊びというのは現実逃避のための手段ではなく、こんなご時世でも希望や理想を描く意志を育むための救い」
と、常人からすれば社会不適合者の烙印を押されかねない問題発言を連発していた神乃であったが、それが逆に響いたのかその場で採用と相成った。
神乃「はあ。お袋も案外元気そうだったし……ようやくこっちでもなんとかやっていけそうだな」
カップラーメンを啜りながら、五月雨から渡されたDVDケースを手に取る神乃。観ようと思えばいつでも観れたのだが、なんとなく放置したまま一ヶ月が経過していた。
神乃「これ見たら絶対色々思い出すよな~……。未練がましいけど、そう簡単に割り切れるもんでもないんだよなあ」
カップラーメンを置いて、アルコール度数の高い缶チューハイを冷蔵庫から取り出す。それをグビッと一口飲んでから、ディスクを再生機器に挿入した。
・・・・
観た。
映像の内容は、五月雨たちが鎮守府について自ら説明するというものだった。
ところどころ内輪ネタと思しき箇所があったり、原稿を読み上げながら自分で笑ってしまったりと、映像作品としては失格の出来なのだろう。
だが……それが愉快で面白くもあり、懐かしくもある。そして、もう決して手の届かない場所なのだと思うと、涙を堪えずにはいられなかった。
自分の選択に後悔はない。覚悟の上だった。しかし……もう一度彼女たちに会えたのなら、どれだけ心が満たされるだろう。
分かっていても、再会を願わずには居られなかった。それが何への祈りなのかは自分でも分からないが、祈らずには居られなかった。
・・・・
神乃が働き始めてから何ヶ月が経つ。途中参加ではあったものの、懸命に働いてプロジェクトに貢献していった。
人間関係も前職よりは円滑で、神乃自身、働き甲斐を感じていたようだった。
神乃「デバッグして欲しい? もうバグはあまり残ってないって言ってませんでしたっけ」
プログラマーの報告を聞きながらメモを取る神乃。
神乃「ふんふん。プログラム上設定していない位置に、存在しないはずの扉が見つかったと。で、その扉は決して開かず意図が分からない。
デバッガーからの報告を聞いてもあったり無かったりまちまちで出現条件が分からない……か。なるほど、演出周りの設定が何か悪さしてるんですかね」
神乃「なんにせよ、本当にそんなバグがあるのかどうかさえ疑問ですね。ちょっとオカルトめいてるし。分かった、調べてみます」
VRヘッドマウントディスプレイを装着して、開発中ソフトのデバッグを始める神乃。
このゲームは、異なる時代・舞台で展開するシナリオをそれぞれのキャラクターでロールプレイするという(どこかで聞いたことのある)内容のもので、
作中のアイデアは少なからず神乃が発案したものも含まれていた。
神乃「これは……」
見覚えのある扉だった。神乃が近づくと、扉が開いてそのまま中に吸い込まれてしまう。
・・・・
それは夢にまで見た景色だった。暑い太陽の熱気が身を包んで、それを和らげるように涼しい風が吹き抜けていく。
常夏の青い空に伸びる白い入道雲。ダイヤモンドのようにキラキラと光る海。澄んだ空気。そして……何より記憶に残っているのはこの執務室だった。
五月雨「提督! お帰りなさい……」
駆け寄って強く提督を抱き締める五月雨。戸惑いながら、その感触を確かめるように身を寄せる提督。
五月雨の、陽だまりのようなぽかぽかした温もりが伝わってくる。触れ合える。確かな実感がそこにあった。
五月雨「色んな人に協力してもらって……やっと完成したんです。提督が、私たちと会うための……。
そして私が、提督に会いにいくための扉です。次元の壁を超えるんです」
提督がやってきた扉は、消えることなく室内に残っていた。
提督「ずっと、望み続けてはいたけれど。まさか本当に会える日が来るなんて……。嬉しいよ、すごく」
五月雨「これからは、ずっと一緒にいられるんですよ。大丈夫です。まだ提督としての籍は残ってますから」
壁にかかっていた制帽を提督に渡す五月雨。提督はそれを受け取って被った。
提督「そっか。ああ、じゃあ……俺の気持ちを言ったことがなかったね」
五月雨は緊張とともに唾を飲み込んだ。なんだかいつになく真面目な表情をして提督をじっと見つめている。
提督「……もう躊躇わない。好きだよ、五月雨。ありがとう」
小さな体を抱き締める。五月雨の安堵した笑い声が聞こえる。何気ない、しかしそれでいてかけがえのない日々の記憶が蘇る。
現実も架空も関係なく、今まで五月雨と過ごしてきた日常は、自分の中で紛れもない真実だった。
提督は、この時になってようやくそれを悟ったのだった。
以上でございます。お付き合いありがとうございました。
最後なんで頑張ったつもりです。楽しんでもらえたなら幸いです。
めっちゃ時間がかかってしまってすみませんが、なんとか完結させることが出来てよかったです。
例によって下のやつはおまけです。
////チラシの裏////
あんまりイチャイチャしねえっすとかほざいてましたがウソになりましたすんません。
まあ最後だしこのぐらいはね……(?)
あえてタロットの話を書いてなかったんで最初にそれから入りますか。おまけ要素なんですけどね。
正位置:才能・可能性・創造性・スタート
逆位置:無気力・スランプ・非現実的・無計画
そんな意味合いを持つ魔術師のカードなのでした。
バックボーンとしては頷ける感じの話になりましたね。
【キャラなど】
・五月雨
五月雨提督って……偏見なんすけど、愛が深すぎるやばい人みたいなの多いじゃないですか
(馬鹿にしているのではなくリスペクトの意味で「やばい」と表記しています)。
そのお眼鏡にかなう出来のものが描けるのかな~……みたいな不安があったんすけれども。
キャラ像的に、あんまり恋愛的な方向にグイグイ行く感じじゃないんでどうしようかとは思ったんですけど。
ただ、提督の手を引っ張って楽しそうな方向へあっちゃこっちゃ行くイメージは強かったので結構アグレッシブな感じになっています。
思ったことをストレートに伝えられる、子供の無邪気さみたいなとこが根幹にありますね。
・提督
尖ってますね。いろいろな厨二病患者をモデルにして生まれたキメラ的存在です。
単体だとこれまでで一番どうかしてるやつなんですけど、五月雨やラバウルの面々によって中和されている感じですね。
なんちゅうかこう……難儀な性格してますね。気難しい厨二病小僧が大人になるとこんなんなるんかなーみたいなイメージで書きました。
・ほか
ラバウルの艦娘たちはいい感じに南国に適応したような大らかなキャラにしています。アローラの姿……じゃないか。
舞風だけ過去のあるキャラなのでちょっと掘り下げましたがまだ尺が足りてないですね。
他の鎮守府のキャラはあっさり目に書きましたが、これも終盤は単に尺が足りなくなってるだけすね。
まあ尺があったとしても、やっぱり五月雨と提督がメインの話なんでこんなもんでいいかなーと。配分はもうちょい平等に割り振るべきでしたが。
【ストーリーなど】
一つ言っておきたいのですが、筆者は営業職でもなければゲーム業界のゲの字もない業界・業種で働いてますからね。
あと別にリアルもそこまで荒んでないです。そこら辺はあくまでフィクションの表現なのであしからず。
架空と現実を対比するみたいな描写が多いですけど、まあこれは現実は現実でも“作中での”現実なんで、あれです。
そんなに世の中めちゃくちゃなサバイバル世界なわけじゃないですからね。そりゃ二次元の方がハッピーかもしれんけども。
ただ、ラバウルの面々とか他の鎮守府の人たちとか、全体を通じて人間の中にある陽の一面をメインに描いているので、
作中での現実ではそこから離れた人間の……んー、形容しがたい何某かの負の部分をやってみました。
あとは、敵とか出てこない話にしようと思ってたのでこのようになりました。それはそれで不安だったんですけど、まあなんとかなりましたかね。
その……なんか軍記物っぽくゴリゴリした感じで頑張って動かすのはそれ用の世界観が必要っていうか。
増設に次ぐ増設を遂げた今になってバトルをメインにやるとかも展開的にしんどいのでこんな運びです。
お題にホラーって来てたけど同様の理由で難しそうだったのでやめときました。
それから、今作は結構ノリで書きました。ノリでっていうと適当かよみたいに思うかもしんないですけど、そうではなく。
「このキャラだったらこう言うかな」「このキャラがこう言うならこうだな」みたいな連想を無限に繋げてって、
切った貼ったして出来上がった感じですかね。カタい言葉で表現するなら蓋然性のある流れを心がけた、ってとこでしょうか。
ラストはご都合エンドなんですけども、……逆に聞くけど最後の最後で後味悪いの読みたい? 嫌じゃない?
毎回書いてることではありますが艦これ要素ゼロでしたね。
でもこういうの書く人がいてもいいんじゃないかな、二次創作だし。
ってことで4年間ありがとうござ……4年間!? 正気か??
そんなに書いてたんですねー……(厳密には3年と半年程度)。
こんだけ長く続いてると追っかけるのも一苦労だったと思います。
本当にお付き合い頂きありがとうございました!
このSSまとめへのコメント
長すぎィ!