友「実は俺、女なんだよね」(22)

友「驚いたか?」

男「別に」

友「三年間も友達やってて」

友「最近はほぼお前の家に入り浸りで」

友「同棲状態な生活をしてた俺が」

友「実は生物学的には女だと分かっても全然驚かない?」

男「ああ」

友「実は俺が女だって知ってた?」

男「いや」

友「実は内心俺が女で喜んでる?」

男「別に」

友「実は俺にまったく興味がない?」

男「いや」

友「だけど特には驚かない?」

男「うん」

友「さすがだな」

友「さすが男だな」

友「度量が大きい」

友「もしくは頭がおかしい」

友「本当、お前には退屈させられないよ」

男「どうも」

友「じゃあ俺が普段から男の服装で、男みたいな話し方をしてるかも気にならないか?」

男「気にはならないな」

友「まったく? これっぽっちも?」

男「ああ」

友「俺の事を性同一性障害だと思ってる?」

男「いや」

友「男装が好きな変わりものだと思ってる?」

男「さあ」

友「特に深く考えた事もない?」

男「うん」

友「お前のスルー力の高さには驚きを禁じ得ないな」

友「いや、一度お前が驚く所が見てみたいものだな」

男「そうか?」

友「ああ。こうなったらお前を意地でも驚かせてやりたくて仕方がなくなったよ」

男「おう」

友「実は俺な、お前と初めて会う前からお前の事は知ってたんだ」

男「へえ」

友「直接話す一年以上前からずっとストーカー紛いの事をしてお前を観察してた」

男「ほう」

友「盗聴も盗撮もしたし、お前の家に不法侵入したのも一度や二度じゃない」

男「そうか」

友「驚いたか?」

男「特には」

友「俺がなんでそんな事をしてたか気にならないか?」

男「別に」

友「本当に? 通報した方がいいとは思わないか? お前の財産でも狙ってるかもしれないぞ」

男「そうなのか?」

友「いや、違うが」

男「だろうな」

友「どうも手応えがないな」

友「お前を驚かせるには何を話せばいいんだろうな」

友「実は俺、お前の事が好きなんだ」

男「俺も好きだぞ」

友「俺は異性として好きなんだ」

男「俺は普通に好きだな」

友「普通に?」

男「普通に」

友「普通にか」

友「悪い、今のは嘘だ」

男「そうか」

友「残念か?」

男「なんでだ?」

友「相思相愛の方が嬉しいだろう?」

男「何も変わらないだろ」

友「ああ、お前はそういう奴か」

男「今無性に蟹が食べたくなってきた」

友「唐突だな」

男「北海道まで車で何時間くらいだ?」

友「なんで北海道に行かなきゃならないんだ?」

男「はあ? 蟹の本場といえば北海道だろ? お前は北海道の蟹も食べずに蟹を食べた気になってるのか?」

友「お前はあるのか、北海道の蟹を食べた事が?」

男「ないから食べに行くんだろ」

友「なるほど」

友「美味かったな、北海道の蟹」

男「ああ」

友「お前もう蟹の話に飽きてるだろ」

男「うん」

友「こういう小旅行ってのは、帰りが怠いんだよな」

友「しかし満腹になるまで蟹だけを食べる経験も、これから先する事はないだろうな」

友「満腹といえば、実は俺、子宮がないんだよね」

友「いくら食べても子宮分は空いてるわけだから、満腹って表現もおかしいよな」

友「で、どうだ? 唐突に衝撃の告白をされるって状況は? 少しは驚いたか?」

男「何が?」

友「ヒューッ! さすがだな」

友「そろそろネタ切れ感も溢れて来たな」

男「そうか」

友「うーん。じゃあ最後につまらない話だけど」

友「実は俺、小学校に通った事ないんだよな」

友「十歳になるまで自宅に監禁されててさ」

友「毎日父親から虐待されて犯されて過ごして」

友「初潮が来る前に腹開かれて子宮摘出されてさ」

友「あ、うちの父親医者だったんだよ」

男「医者は嫌いだ」

友「どうしてだ?」

男「消毒液臭いだろ。嫌いなんだよ、あの匂い」

友「なるほど」

男「ところで」

友「ん?」

男「十歳になってからは小学校に通わなかったのか?」

友「社会復帰のケアに時間が掛かってな」

男「なるほど」

友「なあ、俺とお前の喋り方って似てると思わないか?」

男「そうか?」

友「俺はどうも自分自身の人格が希薄でな、一緒にいる人間の人格がうつるんだよ」

男「へえ」

友「無意識・意識的に他人を真似る癖がある、ってのが正確な言い方になるんだろうな」

男「そうか」

友「いい加減少しは驚いてやろうとは思わないか?」

男「どこに驚けばいいんだ?」

友「本当に、どうでもいい事には無関心で無頓着な奴だな」

男「まあ」

男「これから先、俺とお前でどんな面白い事するか以外は正直どうでもいいよ」

男「お前が隣にいないと、何してもあんまり楽しくないしな」

友「……」

友「なるほど」

友「ところでさ」

友「実は今日話した事、全部嘘なんだ」

男「……」

男「それは、困る」

友「ほう」

男「俺はもう蟹は食べたくない」

友「ん?」

男「『満腹になるまで蟹だけを食べる経験も、これから先する事はないだろうな』」

男「お前、そう言ったろ」

友「……」

友「くくっ……たまには俺の予定にお前を無理やり付き合わせるってのも、悪くねえさ」

友「しかしまあ」

友「今日の所は、我が家に帰ろうぜ」

友「速度制限無視して、アクセル踏み込んで、ぶっ飛ばしてさ」

男「ああ」

友「……」

友「……じゃ、俺は寝るから」

友「着いたら起こしてくれよな」

男「おやすみ」

友「……ああ、おやすみ」

おーわり

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