提督「車の免許が欲しい」 (36)


※提督の台詞と語りが多いです。
(私が一番好きな艦娘は大井です)



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響「司令官、何を藪から棒に……」

提督「乗れるようになったら便利そうじゃないか?」

響「この地域には電車が沢山通っているんだから、それで事足りるじゃないか」

提督「それはそうなんだが……」

提督「今年で俺もアラサーだし、車の一つでも動かせないと恰好付かないかもなーと」

響「……誰かに言われたのかい」

提督「……そういうわけではないんだが――」


――先日のこと


金剛「Hey!! テイトクゥー! グッモーニンッ!!」ドアバァーンッ!!

提督「おう。おはよう、金剛。一応ノックぐらいしておこうか」

金剛「それは後々善処するとして!」

金剛「テイトクゥー! ドライヴに連れてってクダサーイ!!」

提督「……え?」

金剛「a drive ネー」

提督「ドライブ? 水上の?」

金剛「NO!! 海なんて仕事だけでお腹いっぱいデース!!」

金剛「a drivemotoring!! 車で地上を走りに走りまくるのデース!!」

提督「ごめん。俺、免許持ってないんだ」

金剛「HAHAHA!!」

金剛「『艦を連れて行くためには牽引免許が必要だろう』って事デスネー!?」

金剛「テイトクってば、ジョークがお上手ネー!!」

提督「ち、違う。牽引免許どころか、普通免許自体を持っていないんだ」

金剛「……」

金剛「Oh......really......? マジ、デスカー……」

提督「え、ええ……そんなにガッカリする事か?」

金剛「ウー……ガッカリっていうか、ちょっぴり残念デース……」ドヨォォォン

提督「しかし、どうして俺が自動車免許を持ってると思ったんだ」

金剛「……以前まで、歯が黄色くなるまでタバコを吸ってたような人を相手に」

金剛「『車を運転できない男』というイメージは浮かびませんデシタ……」

提督「」ズキッ

金剛「ワタシの固定観念というものデシタネー……」

金剛「以前、出張先の鎮守府でフレンドリーになった艦娘から」

金剛「『最近うちの提督がやっと普通免許を取ったんだよ? 遅いよねー!』」

金剛「という話を、演習で再会した時に聞いて……思い込みが強まっちゃいマシタ……」

提督(出張? 以前、金剛が向かった所といえば……あそこだけだな)

提督(え、あの人が免許取れたのかよ……あんな仕事の要領がめちゃくちゃ悪い人が……)

金剛「Sorry......勝手な事ばかりを言ってすみませんデシタ……」

金剛「うちの提督はうちの提督、デスヨネ!」

提督「」グサッ

金剛「それでは、失礼致しマシタ……」イソイソ

提督「……ぇ、あ、ちょっと待」

< ギィィィ…パタン

提督「」


――現在


提督「――というわけだ」

響「……なるほど」

響「それは焦りそうだね」

提督「そうだろう」

響「うん」

響「電車で十分だね」

提督「……今の流れで、その返しか」

響「しかし、他の人に唆されて乗るというのは……それだけでも危なっかしいというか」

響「それに、金剛さんとのデートが目的って……」

響「いかにも『カッコイイ運転を見せようとするタイプ』のような気がしてしまって……」

提督「ち、違う! 断じてそのような目的ではないぞ!」

提督「勿論、免許を取得できたら彼女の要望にも応えるつもりだが」

提督「他所の艦娘との会話に出てきても恥ずかしくない提督でありたいじゃあないか!」

響「あ、うん。そう……」

提督「……興味なさそうだね」

響「だって、そこまで必要性を感じn……」

響(……待てよ)

響(以前、私は出張先で)

響(頻尿を患っていた司令官殿が愛用する『シミを隠すための迷彩柄パンツ』から学んだ筈じゃないか……)

響(司令官のニーズを把握し、それをマークする事で)

響(本人のプライドを守る事も、秘書艦の役目なのだと……)

響(うちの司令官の場合、それが『自分が免許未取得である事への劣等感』なんだ!)


響「よし。早速、自動車学校へ申し込みに行こうか」

提督「お、おぉ!? どうした? 急に乗り気になって……」

響「秘書艦だからね。当然だよ」フフンッ

提督「そ、そうなのか……? では、お言葉に甘えて」

提督「その前に、財布にはいくら入ってたかな」

提督「……あ、3万しかない」

提督「銀行で40万ぐらい下ろして来なきゃ……」

響「それには及ばないさ」

響「この地域には、元艦娘が営む格安料金の自動車教習所が設置されているからね」

提督「……え? なにそれ。初耳なんだけど」

響「かなり昔の事、自主解体して転職先を考えた何人かの艦娘達がね」

響「『自分達のような、転職を有利にするために免許が必要となる艦娘は少なくないだろう』」

響「『しかし、そのための費用は決して安くない。むしろ高額。車を一つ買うなら尚更だ』」

響「『そうでなくても、元艦娘というだけで世間の風当たりは強い。早々に心細くなる者もいるだろう』」

響「『そこで、かつて自分達が世話になった《艦娘》という仲間、そして職業への感謝を表そう!』」

響「『同じような境遇の者達が集い、客と職員とで支え合い』」

響「『世間に対し、艦娘の社会的な常識性、安全性を証明しようではないか!』」

響「と決起して、支え合いの理念に基づき設立された物なんだよ」

提督「お、おう。説明ありがとう……」

提督「……でも、マジで初耳なんだけど」

提督「ていうか、解体後の生活援助って大本営から受けられるものじゃなかったのか……」

響「大本営なんていう何から何まで機械尽くしの施設に、そんな深く期待をしちゃいけないのさ」

提督(俺達の居る界隈、色々と管理が雑過ぎないか……)

提督(まぁ、だからこうやってスケジュールに自由をきかせられるんだけど……)

提督「しかし、話を聞く限りでは艦娘しか受け入れられないんじゃないのか」

響「まぁ職業への恩返しも兼ねているわけだし、大丈夫だと思うよ。多分」

提督「うーん、若干不安だが……まぁ、行ってみるか」

提督「あ、そうそう」

提督「金剛には内緒だぞ。Surpriseは大切ネーってやつよ」

響「……了解」

響(やっぱり、それが目的なんじゃないか……?)


――教習所


提督「さて、とうとう来てしまったぞ」

提督「ほー……外観からして、立派なもんじゃないの」

提督「隣には食堂まであるし。教習スケジュールが12時を跨ぐ日は、ここで昼食を済ませれば良いわけだ」

提督「片道10分。最寄りの駅から電車一本で着くし」

提督「仕事が終わった後に通えるから手頃だな」

提督「本当に、どうして今日まで知らなかったんだろうな……」

提督「さて、入ろう」スタスタスタ......ガチャッ

提督「こんにちはー……」ソロー……

提督(あー、やっぱり元艦娘が多いんだな。男は俺だけか……気まずい)

提督(なんだか、彼女らの視線が痛いなぁ……)

提督(間違えて女性専用車両に乗り込んでしまった時のような気分だ)

受付「……! こんにちは」

受付「大変恐れ入りますが、ご職業の方をお伺いしても宜しいでしょうか?」

提督「あ、はい。佐伯湾泊地にて、提督を務めておりm」


< エ、テイトクナノ.....?
< ヤダヤダヤダァ......!!
< デンタンカエシテェ......
< コウヒョウテキナンテ、モウモッテナイヨォ!?
< モウ、カイホウシテクダチィ......

ザワザワ......


提督「」

受付「し、失敬。ど、どうぞあちらの部屋へ! ご案内させて頂きます!」アセアセ


――応接室


受付「どうぞ、そちらへお掛けになってください」

提督「あ、はい……」ドサッ

提督「……」キリキリ

提督「あの……私、やはり帰った方が……」

受付「い、いえ! 私共としては、むしろ歓迎するのですが」

受付「艦娘だった頃に、提督とのトラブルが原因で退職された方が多いので」

受付「あのように、提督に対して過敏な反応を示す教習生が多いのです……」

提督(う、うちは……大丈夫だよなぁ……)ハラハラ

受付「今度からは、『提督用玄関』から入って頂ければと思います」

提督「え、提督用玄関?」

受付「はい。入口の手前に、そういった案内の看板を立て掛けさせて頂いているのですが……」

提督「そ、そうだったんですか……」

提督(やられた。これは『前方不注意』、『信号無視』というやつだな)

提督(車に乗る前から交通違反をしてしまったぞ)

受付「それでは、入学を希望されるようでしたら、記入して頂く書類が数点ございますので――」



提督(そうして、俺は今後も流通量が拡大されるだろうと云われている)

提督(所謂『オートマチック車』の免許取得を目指し、この教習所へ足繁く通い始めた)

提督(入学式を終え、適性試験、講座、小難しい文章に塗れた筆記試験)

提督(……そして、乗車教習)

提督(仮運転免許を取得するまでの期間内だけでも)

提督(頭皮の内側に冷水が流れこむような感覚を4回ぐらい味わった)

提督(仮運転免許証を授かった後の路上教習を合わせれば)

提督(数回どころか、何十回と味わった事だろう)

―――
――



教官A「左に寄り過ぎです。それじゃあ路側帯に歩行者が居たら避けられませんよ」

提督「はい! これぐらいでどうでしょう……」

教官A「上々ね。それを感覚的に覚えましょう」

教官A「次は左折。用意はいい?」

提督「はい」コチッ グルグルグル グイー

教官A「まずミラー確認! それからウインカー! ミラーで確認できない部分を目視!」

教官A「目だけじゃなくて顔も動かす! 巻き込みを防いで!!」

提督「はっ、はいィ!」

教官A「それから脱輪に気をつけて。内輪差があります!」

提督「は、はい……」

教官A「発着所で停車してください。補助ブレーキは……いりませんよね?」

提督「勿論っ」グッ ヒュウウウウゥゥゥン……ガッコン

提督(うっ。かなり揺れたな)

教官A「予め『あそこで止まるためには』という計画を立てておきましょう。それでは一旦降りてください」

提督「はぃ……」ゴッゴッ、カチカチカチ……ガショッ、ガパァ

教官A「駐車可能地帯だからと言って、慢心しては駄目……」

教官A「必ず後方を確認しましょう。右側の席なら車……左側の席なら二輪や歩行者……」

教官A「いきなり開いたドアは障害物になり得ます」

提督「……はい」

教官A「場内教習を終えて路上なんかに出たら、一層気を引き締める必要があります」

教官A「左、右、前、後……平面からの障害だけでなく、上や下からの事故因子も存在します……」

教官A「下に隠れている児童や、住宅や歩道橋など真上からの落下物……真上? 直上?」

教官A「って、頭の中で何かが……」

提督「」


――
―――


提督(まさか30キロ、40キロがあそこまで速いとは思いもしなかった……)

提督(そして、何より頭が非常に疲れた。集中力の疲労が著しい)

提督(正直、初っ端から自信を失いかけた)

―――
――


教官J「薄暮時です」

教官J「前照灯、照射……!」

教官J「更に暗くなるのは、まだこれからです……!」

提督「そ、そうでした!」

カチカチカチッ!!

提督(ああっ! 回しすぎてハイビームになって……)

提督(しまった! 手元に気を取られて前方不注意……!)

提督(赤信号だ! ブレーキが間に合わない! 急ブレーキになってしまう!)

グッ……ヒュイイイイィィィィン………ピタッ。ガッコン

提督(と、止まった)

教官J「油断しましたね? 補助ブレーキ作用済みです……!」

教官J「今のが試験だったら即刻中止……失格でしたよ」

提督「……」

提督「すみません……」


――
―――


提督(『すみません』と言う度に、情けない気持ちになる)

提督(『俺は車を運転しちゃいけない人間だ』)

提督(『俺には無理だ』と、何回思ったことやら)

提督(しかし……)

―――
――


教官S「やったァ! 待ちに待った夜間教習だァーッ!!」

教官S「いいよねぇ夜間教習! 好きだなぁ!! バリバリ指摘ができるからさぁ」ニコニコ

提督(もうやだ……夜間乗車怖い……憂鬱になる……)

教官S「ほら! アクセルを踏んで踏んで! ここは60キロだよ!」

教官S「夜間だからって50キロなんかで走ってたら迷惑だよ!」

提督「は、はい!」

教官S「今横断歩道があった! ああいう所の手前では加速厳禁!」

教官S「人が居ることを想定してブレーキに足を乗せておくんだよ!」

提督「はいィ!」

教官S「……さて、今の制限速度は何キロでしょうか!」

提督「えっ、あー……もしかして50キロ……?」

教官S「そう、50キロ! さっき標識あったよ! ほら、速度落として!」

提督「は、はいィ!」

教官S「速度落とす時はバックミラーを見て後方確認! 急に落としたら後ろから衝突されるよ!!」

提督「す、すみません!!」

教官S「次は、そこの交差点を真っ直ぐ……って、そっちは左折用の車線だよ!」

教官S「ほら! ハンドル貸して貸して!」

提督「えっ!? あっ! そっか……!」

教官S「まったくもう! 路面標示を見る!! 左側なら真っ直ぐ行けるだなんて思い込まない!!」

教官S「航巡は重巡みたいなものだから潜水艦には吸われないだろうと思い込んで」

教官S「そのまま何も考えずに瑞雲を積んじゃうようなものだよ!」

教官S「ただでさえ、夜間は視界が暗くて認識できる範囲が狭まるし」

教官S「時間的にも体力が消耗してて、集中力や思考力を欠きやすいからね」

教官S「君みたいな仕事上がりなんかは特に気をつけること!」

提督「す、すみませんっ……」


教官S「――そろそろ時間だね。教習所に戻ろう」

提督「はい……」

教官S「まぁ色々指摘したけどさ」

教官S「こうやって路上に出る事を認められたんだから……」

教官S「そう、夜戦と同じ! 昼の部を生き残れる者でなければ、参加できないんだ!」

教官S「基本的な素質はあるって事だよ。夜の道を制す者は、昼の道も制す! 逆も然り!」

教官S「だからさ、次回からはもっと自信を持って――」


――
―――

提督(『一緒に頑張ろう』)

提督(その言葉は、無理だ無理だというネガティブな思考を)

提督(真っ向から的確に、鋭く、優しく崩してくれて)

提督(度々弱気になる自分を、常に支えてくれていたと思う)

提督(『たかが自動車教習で大袈裟だろう』と一蹴されるかもしれないが……)

提督(鎮守府では、ほぼ一方的に指示を出すばかりだった自分が)

提督(こうして、艦娘であった彼女達による厳しい指導を受けられるという事実は)

提督(かつての関係性を踏まえると、胸に熱さを覚える程に感慨深いもので)

提督(そういった意識が影響したからこそ、教習中に受ける叱咤激励に)

提督(一層強いパンチを感じられたのではないかと、身勝手ながら思う)


――数日が経過して


提督「見てくれよ響ちゃァン!!」

提督「記念品の初心者マークと免許証だぞー!!」

響「おお……若葉だ」

提督「HAHAHA!! 響ちゃァンてば、冗談が上手いネー!!」

響「え?」

提督「響ちゃァンは、若葉ちゃァンと雰囲気が似てるものネー!」

響「……ああ、うん。そう」

響(なんだか物凄く浮かれているな……)

響(こんな状態で車に乗ったら危ないと思う……)

響「まぁ、何がともあれ免許取得おめでとう」

響「良かったじゃないか、本免試験一発合格で」

提督「Yes!! 無駄にクドくてややこしい捻くれた文章だけは読み慣れてますからネー!」

提督「主に、自分が作った拙い文書の訂正処理で……だけどネー! HAHAHA!!」

響(それは自虐と捉えてよろしいのだろうか)

提督「いやぁ、やっぱり『無理だ無理だ』言ってるうちは無理じゃないんだネー!」

提督「支え合える人が居るなら前進あるのみデース!!」

提督「というわけで……」

提督「早速、金剛ちゃァンをドライブに誘っちゃうぞ!」

響「いってらっしゃい」

提督「響ちゃァンも一緒にどう? 走りに走りまくらない? ん?」

響「絶対イヤだ」キッパリ

提督「……そう」

―――
――



提督「金剛ッ! この間言ってたドライブの件なんだけどな!」

金剛「Oh! テイトクゥー! って、もしかして……車の免許取るんデスカー!?」

提督「おうよ!……ああいや、取るっていうk」

金剛「免許を取るなら Manual Transmission !!」

金剛「MT車がカッコイイと思いマース!!」

提督「」

金剛「1速! 2速!! 忙しない挙動が、凄くプロフェッショナルな感じデスネー!」

金剛「シフトレバーのデザインもナイス! 黒一色で高級感があって渋いネー!」

金剛「アレを操作してる男性の姿は、とってもクールだと思うんデース!」

提督「」

金剛「だーかーらー……テイトクゥー///」

提督「」



――
―――



響「……」

響「限定解除、行く?」

提督「……」





提督「無理デース」





END


前作

提督「電さん……トイレ、いいッスか……」

響「におい」(艦これ)

提督「そろそろ大掃除の時期だね」


しまった。やっちまいました。

「回しすぎてハイビーム」って、おかしいですね……

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