提督「そろそろ大掃除の時期だね」 (19)


初雪「」モグモグ

提督「ね?」

初雪「……」ゴクン

初雪「まだ、良いよ……」

提督「そうか」



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提督「初雪ちゃん。ちょっと笑ってみて」ニカッ

初雪「ええ……やだぁ……」

提督「大掃除、せにゃならんね?」ジロ

初雪「……」

初雪「食事中は、私語……厳禁だし」

初雪「ご飯が美味しくなくなっちゃう、し……」

提督「……」

提督「あっ」

初雪「……何?」

提督「初雪ちゃん、君の飲み物だいぶ微温くなってそうだなぁ!」

提督「俺のお冷まだ口付けてないから、氷分けてやるよ」カラン

初雪「え、ちょ。微温くなんてなってないし。ちょっと待」

ガラ カラカラ チャポンッ トポンッ

初雪「」

提督「遠慮するなって」ニタァ……

初雪「遠慮なんてしてないから……! 余計だし……!」

提督「ほらほら、遠慮せずに飲みなさい。氷解けたら味が薄くなっちゃうぞ?」

提督「あ、もしかして……初雪ちゃんは野菜ジュースが飲めないのかなぁ?」ニタニタ

提督「君の大好きなホットミルクに取り替えてきてあげよっか?」ニチャァ……


初雪「」ムッカァァァ……

初雪「飲めるし! 全然……好きだし! 余裕だから、見てて……!」フンスッ

初雪「」カラン……カプッ コクコクコク

初雪「……っ!」ピッキィーン

提督「どうしたのかな?」

初雪「……な、なんでもないし。ちゃんと飲んだし」

提督「飲んでる途中で、顔をしかめたよねぇ……? 痛そうに……」

初雪「……」

提督「もしかして」



提督「 歯 が 染 み る の か な ? 」



初雪「……」


初雪「……ネチネチうざい」イライラ

提督「ネチネチと音が鳴るのは、君の口の中じゃないかな~?」

初雪「ただの、知覚過敏だし……音が鳴るのは乾燥してるからだし……」

提督「口の中を見せt」

初雪「もう……分かったよ……!」イライラ

初雪「行くよ。歯医者……来週」

提督「ダウトッ!!」

提督「来週じゃなくて明日! 可能ならば今日行きなさい!」

提督「『来週行くから……』と、何十回聞いたことか」

初雪「だ、だって……もう歯医者閉まってると思うし……」

提督「閉まってるわけないだろ! 今俺らが食ってるの朝食だからな!」

初雪「でも……」

提督「でもじゃない! 今から予約してやるからな」ピッポッパップッポッパップップ...トゥルルルルルン

初雪「ま、待って! これからちゃんと歯磨くから……!」

提督「手遅れだ! 歯石や虫歯を歯ブラシで取り除けるものかよ!」トゥルルル...ガチャ

提督「あ、もしもし。シラツユ歯科さんですか?」

提督「今日の午前か午後に、診療の予約をとりたいんですけどー」

提督「……あ、そうですか。なるほど。はい。はい……」

提督「では、来週の予定を確認してから再度伺います」

提督「……はい。失礼致しましたー」

提督「……」ガチャン

提督「予約一杯で、来週しか空いてないって」

初雪「フフンッ!」フンスッ

提督「こんな事で勝ち誇るんじゃあないよ!」


提督「そもそも初雪ちゃんよ」

提督「冷たいモノが食べられないというのはツラくないかね」

初雪「……あったかい料理の方が好きだし」

提督「間宮アイス」ボソッ

初雪「……」

提督「不思議に思っていたんだ」

提督「以前なら間宮アイスを食べればキラッキラになっていた君が」

提督「どうしてか、数日前からキラッキラにならなくなった……」

提督「間宮も心配していたぞ。『何か不手際でもあったのかしら……』ってな」

初雪「うっ……」

提督「試しに、伊良湖の最中アイスを差し出してみたこともあった」

提督「すると、なんと君は外側のモナカだけを食べて」

提督「中身のアイスを、北上に食べてもらっていたではないか……!」

提督「彼女は『えー。食べ残しを人に渡すって……うぜぇ……』と文句を垂れつつ」

提督「『しょうがない。勿体無いから食べてやんよ』と言って食べてくれたから良いものの……」

提督「もし食べてくれなかったらどうするつもりだったんだ」

提督「間宮のように、伊良湖も『口に合わなかったのかしら……』と心配するかもしれないぞ」

初雪「その時は……」

初雪「その隣に居た、大井さんに……」

提督「そういう発想が問題なんだよォッ!」バァンッ


初雪「だ、大丈夫だし……大井さん、何故か私には結構優しい、し……」

提督「そこじゃなーい! 根本的に治療すれば、そんなことする必要ないだろって事だ!」

提督「ていうか、虫歯があるんだから食べ残しを食べて貰ったら不味いだろ!」

提督「彼女らに伝染ったらどうすんだ!」

提督「まぁ、皆は歯をちゃんと磨いているから、そういう心配は薄いけどな」

提督「君と違って、な」ジロ

初雪「う、うひー……歯磨き粉って侘び寂びよねぇ……」

提督「北上のモノマネで誤魔化すなァッ!」

初雪「チッ……歯磨きの習慣が付かない環境が悪いのよ……」

提督「大井のモノマネでも駄目ッ!!」


――翌週


初雪「」ガタガタガタガタガタガタ

提督「初雪ちゃァン。院内ではお静かに」

初雪「最後に……最期に……美味しいカレーを食べたい……」

提督「食べればいいじゃない。その痛ましい歯で」

初雪「でも、あと数分で終わり……初雪に、金曜日は永遠に来なくなるんだ……」

提督「あー、はいはい。始まるんですよ。快適で黄金になりうる食生活が」

初雪「北上さん……大井さん……あと忘れられがちだけど木曾さん……」

初雪「貴女達は駆逐艦の憧れでした……さようなら」ポロポロ......

提督「木曾が忘れられがちなもんかよ……うちの艦隊じゃ上から4番目の練度なのに」

提督「……初雪ちゃァン」

初雪「その呼び方ムカつくし……やめて」イラッ

提督「北上って、『駆逐艦うざい』って言ってるじゃん?」

初雪「……言ってるけど。それが何」

提督「それなのに、よく面倒見てくれるじゃん?」

提督「そういう面があるからこそ、彼女を慕う駆逐艦が多いわけで」

提督「君も、彼女とは比較的良好な関係を保てているわけだ」

初雪「……まぁ、うん」

提督「でもさ」

提督「もしも、『うざい』じゃなくて『くさい』や『汚い』だったらどうだろうか」

初雪「……!?」


提督「『うざい』だなんて曖昧な表現の言葉は、使う人によれば口癖レベルの可愛いもんだが」

提督「『くさい』だとか『汚い』だとか、具体性が色濃く根拠がある言葉の場合は」

提督「一人が言えば、周囲の人間も同じように考えている可能性が非常に高い……」

提督「それに物理的な問題だから、人格の相性とは関係なく問題が生じやすくなる」

提督「しかし、初雪を艦娘として働く……つまり、一人の社会人として認めているが故に」

提督「横並びの人間なら、思いはすれども口には出せないかもしれない」

初雪「ぅ、ぅぅ……」

提督「今の話を踏まえた上で過去を振り返り、その時に会った相手の心の声を想像してみろ……」

初雪「……」

―――
――

※以下、初雪の妄想

夕立(初雪ちゃん、口臭い。引きこもり過ぎて口の中にカビが生えてるっぽい)

時雨(梅雨は嫌いじゃないけど、口の中までジメジメした人は嫌いだなぁ……)

睦月(にゃにゃ~!? 口の中で黄色い糸が引いてるにゃしぃ! 睦月ドン引き~!!)

木曾(虫歯か……歯の痛みで、戦闘に必要な集中力を欠いたらどうするんだ。ナシだな)

大井(……前歯に歯垢がビッシリね。何かの拍子で北上さんに虫歯が伝染ったら承知しないわ)

北上(駆逐艦、くさい……いや、駆逐艦じゃないな……)

北上(初雪、くさい)

※以上、初雪の妄想

――
―――

初雪「ぁ、ぁゎゎゎ……」ガクガクガク

提督「そんな可能性に怯え続ける人生など、楽しいものか……!」


初雪「ど、どうすれば……」

提督「分かっている筈だ」

初雪「……治療受ける」

提督「それから?」

初雪「毎日、歯を磨く……」

提督「おー、よしよし。偉いぞォ~! 初雪ちゃァン」

初雪(呼び方、ムカつく……)

提督「それに、安心しなさい」

提督「最近は技術が進んでてな、麻酔注射を挿す時も全然痛くない」

初雪「嘘だぁ……」

提督「本当さ。表面麻酔と言ってな、麻酔注射を行う為の麻酔があるんだ」

初雪「……じゃあ、安心」


シラツユ歯科医「初雪さーん! 1番の診療台へどうぞー!」


初雪「は、はい!」

初雪「……頑張る。うん」フンスッ

提督「おう、その意気だ! 頑張れよ!」


――40分後


初雪「嘘つき……!」

初雪「表面麻酔なんて使ってくれなかった……!」

提督「だって、あれ保険対象外だもん」

初雪「……!?」

提督「自分で申し込まなきゃ、滅多に使ってくれないぞ」

初雪「」



――更に30分後


初雪「」ズキズキ

初雪「麻酔切れた……」ズキズキ

初雪「痛み止めも効かないし……」ズキズキ

初雪「もうやだぁ……」ズキズキ

初雪「痛い……帰りたい……」ズキズキ

提督「まぁでも良かったじゃないか。一回の受診で終わったんだから」

提督「普通なら1ヶ月ぐらいかかるもんだ」

初雪(逆に言えば普通じゃないってことじゃん……)

初雪(あそこ、診療台の番号が全部1番だったし……)

初雪(明らかに普通じゃなかった……)


――1ヶ月後


提督(あれから、初雪は)

提督(俄然、意気込んで歯を磨いていた)

提督(何度か歯磨きをサボりかける事もあったが)

提督(親しい艦娘の激励や協力を得ながらも)

提督(なんとか歯磨きの習慣を身につけることができたようだ)

提督(アイスも食べられるようになったみたいだし)

提督(何より、表情が柔らかくなった。歯を見せることに自信が生まれたのだろう)

提督(身体と心の健康面は勿論のこと、艦娘としての士気も安定することだろう)

提督(そういったモノが積み重なって、個人的な自信にも繋がることがあるし)

提督(ああいうデリケートな部分のケアも必要だよなぁ)

提督(初雪とは、比較的親しい間柄だからあそこまで踏み込めたのであって)

提督(信頼関係の具合を見誤れば、セクハラになりかねないから気をつけよう)

提督(それはそうと、今考えるべきは自分のことだが……)



シラツユ歯科医「こんにちは! 今日はどういったご用件でしょうか」

提督「あ、はい。今日はちょっと……」

提督「ヤニ取りの方を、ね……」



提督(……面と向かって)

提督(『提督さん、歯が黄ばんでるっぽい……?』なんて指摘されたら)

提督(流石に、凹むよなぁ……)

提督(俺、タバコやめられるかなぁ……)

提督(……頑張ろう。うん)





END


前作

提督「電さん……トイレ、いいッスか……」

響「におい」

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