【百合】女「やよいに会える木曜日」 (65)

注意

・百合
・微エロ
・地の文を含む

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オリジナル?

やよいの笑顔を見ると不思議な気持ちになる。

その日も彼女は笑ってくれた。かび臭い放送室の空気が、そこから浄化されていくようだった。


やよい「この前のテストどうだった?」

女「やめよーよそんな話……全然だめだった」

やよい「ははは、私も」

女「とかいって、ホントは頭いいんでしょ?」


中学二年生の夏。何の記念日でもない木曜日。


やよい「私なんかより、女ちゃんのほうが絶対頭いいって」


とやよいが冗談っぽく笑う。


女「……」


やよいの笑顔を見るたびに、正体不明の感情が主張してくる。

一体何なのだろう。

>>2
はいそうです

やよいと出会ったのはほとんど偶然に近い形だった。

ある日、自分が放送委員会だったことを思い出した。


女「あ、私放送当番あるわ」

友「はあ?」


友が疑いの目をむける。


友「へたくそな嘘ついて、トイレ掃除サボる気?」

女「いやいや、嘘じゃないし」

友「あんた、一回も放送当番なんて行ったことないじゃん」

女「今までサボってただけ。つーか忘れてた」


友が呆れる。


友「じゃあなんであんたが当番やってないのに放送なってんの」

女「さあ?もう一人の男子が真面目にやってんじゃない?」


友がさらに呆れた表情になった。

どんだけ呆れられるんだ。私は。

友「その当番が、よりにもよって今なの?」

女「そうだねー、木曜日の掃除の時間。今日って木曜日だよね?」

友「ちょっとまって、ていうことは今日、私一人でトイレ掃除やるってこと?」

女「そうだねー、がんばってー」

友「ちょ」


友がまだ何か言いたそうに口をパクパクさせているが無視してトイレを出た。

放送室には必要最低限の人しかやってこない。

掃除のおサボりにはまさに最適な場所といえる。

木曜日の私にそんな特権があったとは。


女「さーぼりー、さぼり、さぼさぼりー」


即興で作詞作曲したサボりの歌を口ずさみながら、放送室へ向かった。

>>6 おうふ やよいで検索したら出てきたので勘違いされるとは思いましたが案の定でした

くつを脱いで放送室の扉を開けると、女の子が一人、立っていた。

面食らった。

立っていたのは知らない人だったし、なによりこれではせっかくのサボり計画が実行できない。

それになんでこんな見ず知らずの人が私の放送当番の日時にここにいるのかも疑問だった。


やよい「こんにちは」

女「はあ、こんにちは」


相手の方はそこまで驚いていないようだった。

私よりも背が低く、幼い印象をうける、かわいい子だった。ちょっと嫉妬した。


やよい「放送当番の人?」

女「あ、うん、一応」

やよい「やっぱり」

女「なんでここに?」

やよい「だれもいないみたいだったから。代理的な」


しまった!と思った。

私が不真面目なツケがこんな他人に回ってきていたとは。なんだかいたたまれない気持ちになってきた。


やよい「まあ勝手にやってるだけなんだけどね」


と女の子が付け加えた。

放送委員といっても大したことはしない。ただ決まった時間に、CDを流すだけ。

このCDはいわばチャイムのようなもので、掃除、下校とそれぞれ流す曲が決まっている。

大げさな機械をいじるのでなんだかすごく見えるが、やってることはただの音量調節である。


やよい「入っていいよ」

女「あ、うん」


正式な放送当番は私のはずなのに、なぜか招待されてしまった。


やよい「本当の当番さんが来たから私はおさらばするところなんだけどねー」

やよい「掃除するのめんどいや」


なんだか私と同じ人種のにおいがする。


女「あー、わかる。ここにいると掃除サボれていいよね」


掃除の時間の放送当番は放送室の清掃も任されているのだが、まじめにやる人はごくまれだ。

そもそも最初から掃除なんていきとどいてないし。放送室はいつだって埃っぽい。

かくして私はやよいと出会った。

やよいとは毎週木曜日の放送室でしか会うことがない。

お互い掃除サボりのついでに雑談、といった感じだった。

話を聞くと二組だそうだ。私は六組。そりゃ面識がなかったのも当然である。


やよい「なんかここって落ち着くんだよね」

女「こんなところが?」

やよい「うん、なんか静かだし」

女「でもカーペットがダニだらけってよくいわれてるじゃん」

やよい「もー、そーいうこといわないでよ」


やよいがカーペットにつけていた足をあげて、椅子の上で体操座りした。

コンパクトにまとまったやよいの姿は幼い外見とあわさって、お人形さんみたいだった。

そんなやよいを見て、またあの感情にとらわれる。

どきりとするような、こそばゆいような、そんな感覚。

姿勢のせいでやよいが余計幼く見えたからだろうか。

感情の正体はつかめない。


女「ほんとに……なんなんだろ」

やよい「なにが?」

女「ううんなんでも」


その日の夜、夢を見た。

いつものやよいとの木曜日を、そのまんま繰り返すような、不思議な夢だった。

すいません、かなり短いですがいったん終わります。
また明日更新します。


期待
全員女子!の人かな?

>>13
おお、前作を知ってくれる人が来てくれるとは 嬉しいです

さて更新

最近の私はどうも調子が悪い。

トイレ掃除をしながら友に問う。


女「ねえ、今日って何曜日だっけ」

友「火曜日、あんたそれさっきも聞いた」

女「あれ、そうだっけ」


指摘されて気がつく。

そういえば今何曜日なのかをよく気にするようになった。

部屋のカレンダーを見たり、黒板の隅を見たり。

なんでだろう。


友「今週中になんかあんの?」

女「ううん、別に」


そう、別に何もないはずなのだが、私が曜日を気にしてるのは事実だ。

そしてその理由は、一つだけ心当たりがある。

やよいだ。

やよいに会える木曜日、私はそれを意識している。

そんなに深い仲ではないのに。ただのサボり仲間。木曜日以外には会わない。

それなのに、なぜ。







やよい「よっ」

女「おお、きたか」

やよい「流石女様。一足早くサボりライフをエンジョイしてらっしゃる」


やよいがてきとうな冗談をいう。

なんども確認した。今日は確かに木曜日。そしてやよいが放送室にやってきたのがなによりも証拠だ。

しかしどんなに時が経っても、あの感情が消えることはない。最近の悩みの種だ。


女「なんか最近変なんだよね、私」

やよい「というと?」

女「んー……なんていえばいいかな、すごくもやもや」

やよい「もやもや?」

女「いや、ぐるぐる?」

やよい「ぐるぐる」


やよいが私の言った擬態語をそのまま復唱する。

あまり興味なさそうに脚をパタパタさせていた。


やよい「まあ、よくわかんないけど。掃除しようよ」

女「へぇ?掃除?」

やよい「うん」

女「どういう風の吹き回しっすか」


急に柄にもないことを言うのでびっくりする。

やよい「ほら。掃除して周りがきれいになると、すっきりするでしょ?」

女「ああ、なるほどね」


でもそんなこと急に言われたってなあ。


女「どうやんの?」

やよい「んー……掃除機あるからかければいいんじゃない?ほら、ぶーんて」


放送室はカーペットで雑巾がけができない代わりに、掃除機を使うのだ。

しかし使ったところでこのかび臭い放送室が劇的に綺麗になったりするのだろうか。

いや、なりそうもない。


女「パス」

やよい「えー……なんでぇ」

女「だってどう考えても無意味っしょ」

やよい「じゃあいいもん、一人でやるし」


やよいが少しふてくされたように立ち上がる。

掃除機をつかみ、プラグをコンセントにつなぐ。

使用する。


やよい「ほんとはダニを何とかしたかっただけなんだけどね」

女「あー……」


まだ引きずってたのか、それ。

気がつくと、やよいを見ていた。

当の本人はダニ退治に夢中で気がついてないみたいだけど。

いつも喋るだけなので、静止画のように動かない。

そんな彼女が、部屋中をこてこて歩き回って掃除をする姿は新鮮に見えた。


女「かわいいなあ……」

やよい「ん?なんかいった?」

女「え、あ、ん、いや、なんでも」


思ってたことが無意識に口から滑り落ちてしまった。

掃除機のうるさい音に感謝した。

今の発言を聞かれてしまったら、きっと微妙な空気になっていたに違いない。

んん?かわいい?なんだかわいいって。

私はやよいをかわいいと思っているのだろうか。

友達のお世辞に使うことはあっても、無意識に口から出るような言葉じゃないはずだ。

それに今の『かわいい』は、犬や猫を見た時の『かわいい』ではない気がした。

もっと、別の何かだ。

女「うーん……」


自分で自分が何を考えているのかわからない。

額に指を押し当てて唸ってみる。

確かめる方法があった。


女「ちょっと」

やよい「なに?」


やよいが掃除を中断してこちらを見る。


女「触っていいかな」

やよい「なにを?」

女「やよいの、体とか」

やよい「か、からだ」


……何を言ってるんだ私は。

これじゃまるで変態じゃないかと言い終わってから気づく。

やよいも不審そうだ。

やよい「んー……、ま、腕くらいなら」


いいのか。訂正する前にやよいが承諾してしまった。

やよいが腕をまくる。

色白な肌はきめ細かく、見てるだけでうっとりするようだった……

いや、いやいや!おかしいだろ。なんで同性の腕見てうっとりするんだよ。

え、もしかして本当に変態なのか?私。


やよい「どしたの」

女「あ、うん、ごめ」


といいつつ、やよいの腕を撫でてみる。どうだ。

……別になんともない。よかった。正常だ。私。

いや、それが当たり前なんだけどね。正常ってなんだ。


やよい「どう?」

女「どうって言われても……」


提案したのは自分なのに、無責任な発言をしてしまう。

もう慣れたのか、やよいの不審の表情が消えていたので、今度は軽く握ってみる。

単純に触れる面積が増える。あえてその状態にすることでさらに正常な私を証明するつもりだった。

すると。

なぜか自然に手に力が入る。

じわじわと、やよいのか弱い腕を握りしめるような形になる。


やよい「ちょ、痛い」


やよいが苦悶の表情を浮かべる。

私の手は止まらない。


やよい「いたいって」


やよいがさらに苦しそうになる。


その表情に、


その声に、


私は、


なぜか、


昂ぶりのようなものを感じた。


やよい「いてててて」

女「ごごご、ごめ」


流石に離した。

やよい「もー、女ちゃんったら意地が悪いよ」

女「……」

やよい「女ちゃん?」

女「あああ、うん」


やよいは私がいたずらでやったと思っているようだが、それどころじゃない。

何だ。今のは。


女「えと、ごめん、ちょっと、先戻るね」

やよい「あ、そう?それじゃまた」


放送室から逃げるように出て行った。

頭の中が混乱する。

私はひょっとして、変態どころではないのではないか。


女「なんで、なんでなんで」


意味もなくつぶやく。

まだ手には、やよいの腕を握りしめた感触が残っていた。

そしてやよいの苦しそうな顔も、頭から離れない。

どうしたんだ。私は。


その日の夜、夢を見た。

嫌がるやよいを、無理やり押さえつけて。

服の上から、いろんな場所を、触る夢だった。

今回はここまでまた明日

更新

いまだに思考の整理がおいついていない。

もう先週の出来事だというのに。

そんなことも知らず、友はあれやこれやと言ってくる。


友「ちょっと!集中してやってるの?」

女「やってるよ」

友「毎週木曜日の分、しっかり働いてもらうから」


友は教室のルーム長で、その名に恥じないくらい、真面目だ。

冗談を言い合える程度には気さくなやつなのだが、こういう時に口うるさいのは少々こたえる。

友は私が木曜日にトイレ掃除に参加しないことをあまり快く思っていないようだ。


女「今日は月曜日かあ……」

友「またはじまった」


ほんとになんだったんだろう、あれ。

全く持って、正体不明としか言いようがない出来事だった。

いくら考えてもその結論は出ない。

胸の中のもやもやぐるぐるは日が経つにつれ大きくなっている気がする。

そのせいで今日もまた友に


友「ぼーっとしてる!」


と言われる始末である。

そしてめぐりくる木曜日。


女「よっす」

やよい「おお、きたきた」


いつもより少し遅めの合流となった。

迷ったからだ。

何かのきっかけでぐるぐるのお化けが暴れだして手が付けられなくなる可能性を危惧した。

でも、再びやよいにあえば気持ちの整理がつくかもと思ってやってきた。

今のところ、なんともない。


やよい「最近いっぱい本読んでるんだー」

女「何読んでるの?」

やよい「例えばね、午後の恐竜って本。知ってる?」

女「あー、知ってる知ってる、それ、私も読んだ」


なんだ。大丈夫そうだ。

心配していたよりも事は通常どおりに動いているように思えた。

まあそりゃそうだ。だって私は変態ではないわけだし。ははは。

その日はその本関連の話題で適当に雑談する、いつもどおりの木曜日だった。

一週間という時間は、どれくらいの長さなのだろうか。

長いという人もいれば、短いという人だっているだろう。

そこはまあ、見解の違いだ。

私は別に長いとも短いとも思わない。

そこまで時間を意識して行動しない。

でも、やよいと出会ってから、少し時の流れが遅くなったようだ。

木曜日は私にとって人生の区切れ目だ。

曜日の順番が金土日月火水木になってるようだった。

木曜日に少しばかりの休息の時間があり、それが終われば、次の木曜日まで生きる。

そのループが繰り返されていくうちに、自然と、季節が変わる。

秋。あの騒動がもう過去の記憶となって、いろんなものにうずまる。

私はいまだにぐるぐるくんを飼っているが、もうだいぶおとなしくなった。

某日。


やよい「ふあ、ねみぃよ旦那」

女「ねみぃか、そうか」

やよい「昨日の夜、夜ふかししすぎた」

女「また本か」

やよい「そうそう、流石の名推理」


いつもどおり、木曜日。私とやよいの木曜日だった。


女「トイレ」

やよい「あ、そう」


席を立つ。重い扉を開ける。トイレに向かう。

もし私がこの時トイレに行かなかったら、と考えるのは、もう少し、先の話だ。

用をすませたので戻る。

すると。


女「およ?」


……寝てる。

寝ているように見える。

やよいが。

何にもよりかかることなく、椅子に座って、猫背になるような体制で寝ていた。

今にもごつんと前に倒れそうな感じがして心配するような。


女「……」


ははあん、寝ているように見せかけて、急に起きて私をびっくりさせる魂胆だな。

なかなか面倒なことをしてくれる。

構わずに別の椅子に座る。様子を見る。

しばらくたった。

そろそろしびれをきらして種明かししてもしてもいいころあいだ。

そんな私を尻目にやよいは全く動かない。

私もそろそろ飽きてきた。ここはわざとひっかかることにしよう。

なかなか執念深い子なのな。やよい。


女「……」


やよいの目の前に移動する。

そしてお互いの顔が同じ高さになるように膝立つ。

やよいにとって驚かすにはベストポジションのはずだ。

さあ。さあ。


やよい「……」

女「……本当に寝てるのか?」


さっきからまさかとは思ってたけど。

ほえー、そうか、寝てたか。本当に、寝てたのか。

なんだか一人相撲をとっていたみたいでバツが悪い。


やよい「……」

女「……」


やよいの寝息が私の顔をくすぐったその時。

私がやよいとかなり接近していることに気付いた。

私は、やよいの顔を、じっと見る。

見ずにはいられなかった。


女「……」


色白な肌。

さらさらの髪。

長い睫毛。

幼い顔立ち。

見ていると吸い込まれていきそうだった。


やよい「……」


鳴いている。

あの感情が。

押さえつけていた何かが。

叫んでいる。


女「……」


理性と衝動の間に立たされた私。

無防備で、やすらかなやよいの目の前に立たされた私は。

一体。

何をしていたか。

自分でも何をしていたのかわからなかった。

正直夢なんじゃないかとまで思った。

でも脳を支配する、いろんなものが混ざり合ったどろどろの感情が、ここは現実だと語る。

やよいと、木曜日、毎週、会って、話して。

やよいと私は友達だ。

そう思っていた、

私の、

していたことは、










自慰行為だった。

やよいの目の鼻の先で。

やよいがいつ起きてもおかしくない状況で。

私がやよいに向けてきた、あの感情のことなど、微塵も知らない。

そんな彼女の前。

そう思えば思うほど。


女「ん……う……んっ」


すごく、

興奮した。

いつもの木曜日の放送室。

私とやよいが出会った放送室で。

ずっと私を悩ませ続けた、あの感情の正体を知ることになる。


女「私は……私は……」


私は。


女「やよ、ん、やよいを……」


やよいを。


女「んっ、ああっ!ああ……あ……」


汚したかったのだ。

毎週木曜日、扉を開ければ、やよいが待っていてくれた。

無邪気に、あのかわいらしい笑顔を見せていてくれた。

なにも知らない、純粋で、一切の穢れも、汚れもない。

まっさらで、かわいくて、つなぎとめておかないと消えてしまいそうな、

そんな彼女を。

自分の手で、

自分の色で、

染め上げて。

見てみたかった。

汚れたやよいを。

私が汚した、やよいを。


女「……」


そういう欲望が、

私の中にあったのだ。

その日の夜、夢を見た。

やよいの怯える表情を尻目に、裸になって。

やよいの顔に、裸のまま、跨る夢だった。

やよいはとても、息苦しそうに、もがいていた。

今日はここまでまた明日

更新

もうあの放送室には行けない。

行けるわけがない。

自分が何をしたのかわかっているのか。

やよいの目の前で、

自慰行為だなんて。

あの出来事を思い出した、土曜日の私は。


女「う、う、う、」


泣いた。

もう泣くことしかできなかった。

失ってしまったのだ。

私とやよいの木曜日を。

人生の区切れ目を。


女「なんで私……あんなこと」


それからずっと泣いていた。

お母さんに心配されてしまった。

次の木曜日。私は放送室に行かなかった。

次の木曜も行かなかった。

そしてまた、次も。

自分の人生の終わりが来たようだった。

洪水のような自己嫌悪に苛まれ、

認めたくない事実が私を飲み込む。

辛い。

やよいに会いたい。

でももう、叶わない。

私はこんな人間なのだから。

ある日の教室。

私は机に突っ伏していた。

また思い出して泣きそうだった。

教室で泣くわけにはいかないし、もうだいぶ時間は経ったのだけれど。


友「ねえ」


話しかけてきたのは友だった。


女「なに」

友「今度また遊ばない?」

女「ああ、うん……」

友「……」

女「……」

友「あんた、なんか時々そうやって元気ないよね」


友の言う、「時々」は、やよいの事を思い出している時だろう。

ついに指摘されてしまった。

友「相談にのるべ」

女「……」


友は口うるさいかわりに、こういう時に心強い。

少し、話してみようという気になった。


女「その……」

友「うん」

女「時々、自分はダメなやつなんじゃないかって、思うことが、あって」

女「純粋に、友達でいてくれた人に、私は、ひどいことして」

友「……」

女「でも、こんな私の事を知らなくて、あの人は、今も待っていてくれてる気がして」

女「なんというか、私、もう……」

友「……」


途中で本気で泣きそうになって、中断する。

友はなんと言うだろう。


友「あのさ」

女「うん」

友「認めちゃえばいいんじゃないかな」

女「認める……」


認める。


友「じぶんがダメだって、思うんだったら、もうそれでいいやって認めちゃえよ」

友「そうすれば、すごく楽になると思うよ」

女「楽に……」

友「友達にひどいことしちゃったんなら、それも認めてさ」

友「いつまでも嫌だ、嫌だっていって何も行動しないなんて、それこそ逃げてるだけなんじゃない?」

女「……」

考えてみる。

確かに私は、あの出来事を、誰のせいにしたらいいかわからなくて。

ずっと解決せずに、ぐるぐるぐるぐる、行き場のない哀しみに途方に暮れて。

でも、それをすべて、受け入れて、認めるとしたら。

今、私のすべきことは。


女「私、謝りに行く」

木曜日。

放送室の前。

いままで何の障害でもなかった扉が、そびえたつ大きな壁に見えた。

心臓が大きく胸を打つ。扉を開けたら、そこにやよいが、


やよい「あっ」


いた。

やよい「久しぶり」

女「うん……」


微妙な空気が流れる。


やよい「今までなにかあったの?」

女「ううん、いや、特には……」

やよい「そう、ならよかった」

女「……」


やよいは笑顔だった。

本当は、潔く罪を認めて、やよいに謝罪するつもりだった。

でも、そんな相変わらずの笑顔を見ていると、

なんだか絶望的な感情を覚えた。

やよいの笑顔はまっさらだ。私を責めたてるような表情など、少しもない。

それが逆に責められているように見えた。

比べられているように思えたのだ。

私の事を友達だと思ってくれているやよいと

私。


女「……」

やよい「……女ちゃん?」


友の言葉で捨てきったはずの自己嫌悪が復活し、これまで以上に私の首を絞めた。

やっぱり、

だめだ。


女「ごめん、わたし、戻る」


何かに引っ張られるように逃げ出す私の背中を


やよい「まって」


やよいが呼び止める。

やよい「私、いままで女ちゃんが来てくれなくて、悲しかった」

やよい「放送室ってこんなに静かだったんだなって思った」

やよい「だけど、私、いつか女ちゃんが戻ってきてくれるって、信じてたの」

やよい「だから、今、来てくれて、すごく嬉しい」


私なんかを?やよいは待っていてくれたのだろうか。


やよい「だから、作ったんだ。いつかまた女ちゃんが戻ってきてくれた日のために」

やよい「つまり今日のために」


そういって、やよいが取り出したのは、

手編みのマフラーだった。

やよい「ほら、これからどんどん寒くなっていくでしょ?」

やよい「これを、女ちゃんに使ってほしくて。作りました」

やよい「ちょっと、下手かもしれないけど……私なりに頑張ったんだ」

やよい「だから」

やよい「これからも友達でいてください」

と言って、やよいはマフラーを手渡した。

女「やよい……」


やよいが、私の来ない放送室で一生懸命につくったと思われるそのマフラーは。

不格好ながらも、とても暖かそうだった。


涙が、出た。

その涙は、あの土曜日に流した涙では、なかった。

自己嫌悪が、ありがとうに、変わっていく涙だった。

やよいは

私の性の対象なんかじゃない。

やよいは人間だ。

つなぎとめておかなくても消えていったりしない。

やよいは、十四年間、いろんな経験と、知識を積んで、ここにいる。

はっきりとそこに存在していて、

確かに私を思ってくれていた。


女「う、ぐす、やよい……」

やよい「女ちゃん」


私の心情を察したのか、やよいが私を抱きしめてくれた。

やよいの匂いが私を包む。

そこにはいつかの感情は消え、

残っていたのは、好き、という感情だけだった。


その日の夜、夢を見た。

やよいと私が、キスする夢だった。

明日の更新で終了です

最後

私はやよいの事を知らない。

なにを信じ、なにが好きで、どういう感情をもって生きていたのか、

なにも、知らない。

だけどそれでもよかった。

やよいことを知ることができる時間はまだたっぷりある。

それは木曜日だけの話じゃない。

月曜日も、火曜日も、水も、金も。

もちろん木も。

冬の訪れを肌で感じる帰り道。

マフラーを巻いて。

こんな会話をする。


女「今度、私の家に遊びに来てよ」

やよい「うん、もちろん」

女「じゃあいつにする?」

やよい「うーん、いつでもいいよ、私は基本的に暇だから」

女「じゃあ……木曜日?」

やよい「ははは、来週の?遠いよ」

女「だよねぇ」

そうして土曜日に、一緒に遊ぶ約束を交わす。

やよいの背景はもう放送室じゃない。

いろんな場所で、彼女を見ることができる。

土曜日が待ち遠しかった。

はやく木曜日以外の彼女を見てみたい。

だって私は。


女「やよいの事が好きなんだから」

その日の夜、夢を見た。

いろんな楽しい時間を過ごした、あの木曜日の放送室から。

やよいと一緒に手をつないで、飛び出していく夢だった。




おわり

以上で終了になります。
読んでくれた人ありがとうございました

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