女「お前なんか大っ嫌いだ」男「うん」 (29)
女「お前の何を考えているかわからないような笑顔が大っ嫌いだ」
男「君のことを考えていたんだよ」
女「そんなセリフを恥ずかしがらずに言えるところも嫌いだ」
男「本心だからしょうがないよ」
女「うるさい」
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女「お前の八方美人なところが大っ嫌いだ」
男「自分ではそんなつもりないんだけれど・・・」
女「お前は知らないだろうけど、お前を慕っている女子はたくさんいたぞ」
男「今更そんなことを言われても」
女「ざまあみろ」
男「まあ君以外に気が移ることはないだろうけど」
女「ぐぬぬ」
女「お前の誰に対しても下手に出る態度が大っ嫌いだ」
男「僕としては対等な関係を築いているつもりだったんだけどなあ」
女「対等な関係の人間に対して敬語は使わねえよ」
男「癖なんだ」
女「なら、治せ」
男「善処するよ」
女「お前の怒らないところが大っ嫌いだ」
男「別にいいじゃないか」
女「ダメだ、少しは怒らないとダメなんだ」
男「なんで?」
女「私たちは何に対しても怒らないといけない年頃なんだよ、世間や、親や、友達に」
男「難しいなあ」
女「慣れてしまえば簡単だよ」
女「お前の偶にする物憂げな表情が大っ嫌いだ」
男「そんな顔してたかな」
女「ちょっと前までは頻繁にしていたぞ」
男「何か考えていたわけじゃないのにな」
女「逆に何も考えていないから素の顔が出たんじゃないか?」
男「そうかも」
女「お前のしつこさが嫌いだ」
男「大っ嫌いじゃなくて?」
女「そのしつこさに救われたこともあるからな」
男「それならいいじゃないか」
女「数回の救いでカバーしきれないほどしつこいんだよ」
男「そうかなあ」
女「お前の神出鬼没さが大っ嫌いだ」
男「たとえば?」
女「一人でジュースを買いに行ったら隣にお前がいた」
男「うん」
女「一人で帰ろうとしたら校門前にお前がいた」
男「ああ」
女「ほかにも本屋とか、コンビニとか、行く先々でお前に会う」
男「きっと運命か何かだよ」
女「そうやって茶化すところも嫌いだ」
女「お前の一途なところが大っ嫌いだ」
男「いいことじゃないか」
女「惚れられた方は束縛されてるように感じて嫌だ」
男「そんなつもりはなかったんだ、ごめんよ」
女「謝られても困るんだがな・・・」
女「お前の賢い頭が大っ嫌いだ」
男「これもいいことじゃないか」
女「私がバカにされてる気がする」
男「横暴だなあ」
女「女の子ですから」
女「お前の妙な趣味が大っ嫌いだ」
男「写真のことかい?妙とはひどいなあ」
女「私しか撮らないんだ、十分変だろ」
男「何を撮っても僕のかってだろう」
女「そうだけど恥ずかしい」
男「もう撮れないからいいじゃないか」
女「そういうことじゃあないだろう」
女「お前の嘘をつくところが嫌いだ」
男「してないよ」
女「この間クッキーあげたろ」
男「うん」
女「お前は美味しいと言っていたがそんなわけない、砂糖の代わりに塩が入ったクッキーが美味しいわけないだろう」
男「・・・」
女「傷つけないつもりだったのかは知らないが嘘はやめてくれよ」
男「ごめん」
女「お前の話す言葉全部が大っ嫌いだ」
男「ひどいなあ」
女「その妙に間延びしたようなしゃべり方も、何かにつけて好きだというところも、変に達観したようなセリフも全部嫌いだ」
男「ありがとう」
女「そうやって突然わけがわからないことを言うところも嫌いだ」
男「これでいいんだよ」
女「何がだよ」
女「お前の顔も大っ嫌いだ」
男「そこまで嫌われていたのか、まいったな」
女「そのやさしげな瞳も、少し細い口元も、長い睫も、何もかも嫌いだ」
男「僕は君の顔も言葉も全部大好きだよ」
女「なら」
男「ん?」
女「なんでそんなに悲しい顔なんだ?」
男「なんでだろうね」
女「お前なんか大っ嫌いだ」
男「随分とアバウトだね」
女「うるさい」
男「・・・そろそろ時間かな」
女「・・・」
男「それじゃあね」
女「お前のそうやってあっさり帰ろうとするところが大っ嫌いだ」
男「じゃあどんな別れ方が希望なんだい」
女「抱きしめろ、口づけしろ、きつくきつく、手を握れ」
男「僕のことは大っ嫌いじゃなかったの?」
女「ああ、大っ嫌いだ、けれどそれ以上に大好きなんだ」
男「その言葉に僕はどう返せばいい?」
女「何も言わなくていいから、行動で示せ」
男「わかったよ」
女「さよなら、大嫌いな人」
男「さよなら、大好きな人」
おわり
ここから蛇足
汽車が去っていく音と、冬の冷たい空気が、ツンと耳を刺激した。
彼が去って、驚くほど広くなった駅のホームに、私はしばらく立ち尽くしていた。
「さよなら、大好きな人」
彼は確かにそういって去って行った。
誰よりもわがままで、一人ぼっちの私を、彼は大好きと言ってくれた、それだけで、十分だった。
けれど、私はそれに何も答えることができなかった。
私を好きと言ってくれた人に、私は何かできたんだろうか。それを考えるだけで、胸が苦しくなった。
どうか、私のことなどすぐに忘れて、もっと素敵な人が彼の前に現れて、幸せな人生を送れますように。
彼女がいたホームは、瞬く間に白い闇の中に消えていった。
静かな汽車の中では、乗客全員が別れのあとのような表情をしていた。
「さよなら、大嫌いな人」
彼女の最後の言葉が、心を掴んだまま離れなかった。
最後に、彼女は笑ってくれた、好きと言って去っていく、こんなろくでもない男に対して、彼女は笑ってくれた。
けれど、僕が最低なことに変わりはない。
好き勝手に好きと言って彼女を困らせて、好き合うようになった瞬間離れていく、ひどい奴だ。
願わくば、僕のことなど忘れて、素敵なパートナーに巡り合えますように。
蛇足おわり
本当におわり
短いねごめんね
ID:MleHgl7fO
蛇足ない方が良かったな
正直蛇足はつけようか迷ったんだけど
いろいろわかりづらい感じがしてつけたんだ
つけたせいでよけい混乱したみたいだけど
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