井口「りんこはんの家で鍋パするよ!」 (22)


宮森「ど、どうしたんですか井口さんいきなり」

井口「ということでみゃーもり、今夜空いてるよね?」

宮森「いや、えっ?今夜!?一応何も無いですけど……小笠原さんのお宅!?」

井口「はい確定~♪」

宮森「えっ、ちょっ……そんなぁ勝手に……急すぎますよ!」

井口「だ~いじょうぶ、絵麻っちも来るからさっ」

宮森「そういう問題じゃ……」

井口「ということでよろしく~詳細は後でメールしとくから」フリフリ

宮森「はぁ……」


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武蔵野アニメーション 屋上

宮森「(いきなり小笠原さん家で鍋パって)」

宮森「(井口さん唐突すぎるよぉー……)」ハァ

宮森「(でも会社の人とのコミュニケーションは大事だよね……!)」グッ

宮森「(前バッティングセンターに一緒に行ったっきりだから少し緊張するかも……)」

~♪

宮森「(あ、メール……井口さんから―)」

井口『今夜の鍋パ おところ:小笠原綸子宅 開始:19時 持ち物:一人一品(鍋に入れられるもの) りんこはん家分からないと思うから18時になったら一緒に行こう!仕事?そんなの知らねえ!』

宮森「一人……一品」

宮森「(なにが良いんだろう……普通のお肉とかだったら芸が無いし)」

宮森「(奇抜すぎるのも……どうかな)」

宮森「(鍋パってそういえばやったことないかも……)」

宮森「う~ん……」

絵麻「おいちゃん?」

宮森「へっ!?あっ、絵麻!」

絵麻「どうしたの?なにかあった……?すごくぼうっとしてた」

宮森「いやあ別に大したことじゃないんだけど、今夜小笠原さん家で鍋パやるって言われたから……絵麻も行くんだよね?」

絵麻「うん、井口さんに誘われたから」

宮森「私小笠原さんと特別仲が良いわけじゃないからどーにも不安で」

絵麻「そうなの……?頻繁にLINEでやりとりしてると思ってた」

宮森「LINEはするけど事務的な内容が多いかな」

絵麻「そっか……」


宮森「そういえば、一人一品、決めた?」

絵麻「うん、一応」

宮森「なになに?何持ってくの?!」

絵麻「えっとね、岩塩」

宮森「がん……えん……?」

宮森「がんえん……って?」

絵麻「塩が固まったやつ」

宮森「塩……?」

絵麻「おかしい……かな」

宮森「いやおかしいっていうか……岩塩?」

絵麻「井口さんに『面白いものもってきて』って言われたから……」

宮森「確かに面白いけど……そういうことじゃないような……」

絵麻「そ、そういうおいちゃんは?」

宮森「私はまだ決めてないけど、ウチにたくさんある野菜でも持っていこうかな。家で料理しないで腐らせちゃってもアレだし!」

絵麻「そっか……普通だね」ボソッ

宮森「え?」

絵麻「ううん、なんでもない」

宮森「?」

絵麻「おいちゃん、小笠原さんの家行くの初めてだよね?」

宮森「うん!突然だから緊張するよー」

宮森「絵麻は行ったことあるの?」

絵麻「ううん、私も初めて。前々から井口さんに誘われてたけど」

宮森「そっか……でも今夜空いててよかったよ!」

絵麻「そうだね。私も一段落ついてよかった」

絵麻「じゃあ私そろそろ戻るね」

宮森「うん!じゃあ、また夜に」

絵麻「」コクッ


宮森「(絵麻に習ってドーナツ―)」

宮森「(……さすがにナシだよね)」

宮森「(でも……岩塩……)」







夕方

宮森「(あとは監督の絵コンテ待ちか……)」スッ

宮森「(もう6時……井口さんのとこ行かなきゃ)」

宮森「矢野さん、お先に失礼します!」チャッ

矢野「おつかれー。今日は早いね」

太郎「おーみやもりぃ、デートかぁ?」ガタッ

宮森「違います!」

太郎「悲しいねぇ。この高翌梨太郎が今日ぐらい奢ってやってもいいのよぉ」

宮森「もう間に合ってますから!」

矢野「奢ると称して会社抜け出したいだけだろ?」

太郎「バレたか」

宮森「それじゃお先です!高翌梨さんはちゃんと仕事してくださいね!」

太郎「はいはい達者でなー」

矢野「バイバイ」フリフリ



宮森「井口さーん」

井口「おっ、みゃーもり!じゃ行こっか」

宮森「はい!あれ、絵麻は……」

井口「絵麻っちならりんこはんと先行ったよ?」

井口「なんかでっかい袋持ってたけど、アレなんだろ?」

宮森「(ほんとに岩塩なんだ……)」

宮森「あは……はは」

井口「みゃーもりは何持ってきた?……って今聞いてもしゃーないか」

井口「あっち着いてからのお楽しみだもんね」

宮森「面白いものじゃないですけど大丈夫でしたか?」

井口「んー?いいよいいよ!食べられるものなら」

宮森「」ホッ





井口「りんこはん家はね、会社からそこそこ近いんだよ~」テクテク

宮森「へぇー、結構行かれたりするんですか?」テクテク

井口「まぁね~。ナニするわけでもないけど!」

宮森「そうなんですか……」

宮森「(小笠原さん家って……やっぱりゴスロリ一色なんだろうか……)」ゴクッ

井口「あっ、いまヘンな事考えたねー?」

宮森「いや、そんなことないです!」

井口「ホントにぃ~?小笠原さん家って絶対奇抜だよなって思ったんじゃない?」

宮森「うっ」

井口「まあまあ、それは行ってからのお楽しみだって」

井口「とまあそうこうしてるうちにつきましたとさ」

宮森「ここが……」

宮森「(高級マンション……)」

井口「ここね、セキュリティ厳しいから中から開けてもらわないとマンションに入れないんだー」ポチッ

宮森「なんだかすごいとこに住んでるんですね……」ピンポーン

『はい』

井口「井口と宮森、到着いたしましたッ」

『……どうぞ』ブイーン

宮森「開いた……」

井口「お姫様の住処は過保護だから困っちゃうよねー」

『聞こえてますよ』

井口「あうち」

宮森「」クスッ




井口「303!303!」

宮森「部屋番号を叫ばなくても……」

井口「着いた!コンコン井口でーす」

ガチャ

小笠原「いらっしゃいませ、どうぞ」

宮森「こんばんは!今日はお邪魔させていただきます!」

小笠原「宮森さんいらっしゃいませ。お気になさらず、ごゆるりと」

宮森「ありがとうございます!」ヌギッ

井口「おっ邪魔しまーす」ダッ

小笠原「お荷物は適当なところに置いてくださって構いません。リビングはこちらになります」テクテク

宮森「すごくお高そうなところに住んでるんですね!玄関も広いし!」キョロキョロ

小笠原「高いのは住まいだけですよ。生活は至って質素ですから……」

宮森「あっ、意外にもお部屋はシックな感じなんですね!」

小笠原「着ることが趣味ですので、インテリアには凝ってません」

絵麻「あ、お疲れ様です」ファサ

井口「おー絵麻っちおつかr……ってええええ!?」

宮森「絵麻!?……それ……」

絵麻「うん……小笠原さんに借りたの///」

小笠原「ふふ……とてもよく似合っていますよ」

絵麻「///」

宮森「確かに似合ってる……」

井口「絵麻っち、戻ってくるんだそっちの闇は深い」

小笠原「井口さんには常々おすすめしているのですが」

小笠原「一度も着てくれたことがありません。ですから―」チラッ

宮森「へっ?!」

小笠原「宮森さん、分かっていますね?」ニヤリ

宮森「え、えええーー?!」

宮森「いやいや私は似合わないと思いますし!」

小笠原「その綺麗な髪の毛とこちらの洋服、似合うと思いますが」

宮森「いやでも私、小笠原さんみたいにスタイル良くないですし!遠慮しときます……!」アセアセ

小笠原「そうですか?残念です」

井口「また一人ゴスロリに……」

絵麻「着てみよ?」

宮森「」フルフル



井口「あっ、小笠原さん!こたつ出したんですね!?」

小笠原「ええ、寒くなってきましたので」

宮森「こたつもでかい……」ゴクッ

井口「恐るべしゴスロリ……ってみゃーもりが言ってまーす」ヌクヌク

宮森「ええ!?言ってませんよ!なんでそうなるんですか!」

絵麻「おいちゃん……」ヌクヌク

小笠原「……」ニコッ

宮森「あわわ……」

宮森「(なんとか話題を―)」

宮森「あっ、いや、でも小笠原さんの部屋着……普段とはまた違ったゴシック感がありますね!」アセアセ

小笠原「これですか?ゆったりとして着心地がいいのですよ」

絵麻「小笠原さんのクローゼット、凄いんだよ……いろんな洋服がいっぱい」

井口「そうそう、見るからには着ないとだよ?ゴスロリ!」

宮森「見てみたいけど、着るのは……って井口さんまでー!」

井口「だってみゃーもりのゴスロリ見たいじゃーん」

宮森「なんでそんなゴスロリ推しなんですか!私は別にゴスロリは―」

小笠原「」シュン

宮森「あーいや違うんですよー!ほら、あの、えーっと……」アセアセ

絵麻「おいちゃんと一緒に着てみたいな……///」

宮森「絵麻!?」

小笠原「ふふ、それでは今度宮森さんに似合いそうな洋服を探しておきますね」

宮森「あはは……」

絵麻「やったねおいちゃん!」

宮森「(なんで嬉しそうなの……)」




宮森「そういえば一人一品ってことだったんですけど、みなさん何持ってきました?」

小笠原「そんなことも言っていましたね」

井口「そう!私が企画ですもん!後輩陣には面白いもの、と伝えた!」

小笠原「なるほど……私は特に面白いものではございませんが……」ガサガサ

小笠原「……こちらを用意しました」ドンッ

小笠原「最高級松坂牛になります」

絵麻「すご……」ゴクリ

宮森「これが質素な生活……?!」

井口「みゃーもり、ゴスロリは常識を遥かに超えていくんだよ」

宮森「なるほど勉強になります」

小笠原「今日は宮森さんと安原さんが初めて来てくださるということで普段よりも奮発しただけですよ」

小笠原「井口さんは何を持ってきてくださったんですか?」

井口「ふふふ任せてください」ガサガサ

井口「じゃーん!!うどん!!ちょっぴり高いやつ!」

絵麻「うどん!!」

井口「おっ、絵麻っちうどんが好きかね」

絵麻「大好きです!」

小笠原「シメに最高ですね」

宮森「ちゃんと煮込み用のダシを用意してあるあたりがさすが井口さん!」

井口「ふふ、任せたまえよ!みゃーもりは?なに持ってきたん?」

宮森「わたしは」ガサガサ

宮森「地元から送られてきた野菜をまんべんなく……」ドサッ

宮森「すみませんこんなもので……」

小笠原「いえいえ、ちょうど野菜を用意してなかったのですごく助かります」

井口「みゃーもり、鍋がなんたるかを知ってるねぇ~」

井口「で、絵麻っちは?」

絵麻「あ、私は」ガサガサ

絵麻「ちょっと大きいんですけど、」

宮森「……」

絵麻「岩塩です」ドスン

井口「」

宮森「(あぁ……)」

小笠原「」クスッ

絵麻「あ、まずかったです……か?」

井口「(まずいもなにも)」

宮森「(岩塩って……)」

井口「(岩……塩……)」

小笠原「そんなことないですよ。鍋のベースにも使えますし見たところとても良質な岩塩ですね」

小笠原「少し大きいので全部は使いきれないと思いますが……ちょうど私塩を切らしていまして、もしよろしかったら余った分頂戴しても?」

絵麻「はい、もちろんです!」

小笠原「ありがとうございます」ニコッ

絵麻「///」

宮森「(さすが小笠原さんですね)」ヒソヒソ

井口「(総作監の貫禄ってやつだよ……それにしても絵麻っち岩塩って……)」ヒソヒソ

宮森「(ちょっと抜けてるところがありますから……)」

井口「(ちょっと……?)」

絵麻「?」

小笠原「それではさっそく鍋の準備をしますね、みなさんはこちらでおくつろぎください」

宮森「あっ、わたしお手伝いします!」

小笠原「宮森さんありがとうございます。それではお言葉に甘えて、キッチンの方をお手伝い願えますか」

宮森「勿論です!」

絵麻「わたしもなにか……」

井口「絵麻っちは私の被写体!」

絵麻「え!?」

井口「こういう時ぐらいしか撮れないから!ゴスロリ描く時のための素材!」

絵麻「え、ええー///」

小笠原「そちらにある洋服は自由に使ってくださって構わないですよ」

井口「ありがとうございます!さ、絵麻っちを着せ替えして遊ぶぞー!」

絵麻「恥ずかしいです……///」

小笠原「宮森さん、こちらです」スッ

宮森「はい!」スタスタ





小笠原「宮森さんが持ってきてくださった野菜、切りますね」

宮森「はい!あ、じゃあ私出汁のほうを―」

宮森「あれ、塩……ある……」

小笠原「シー」

宮森「小笠原さん……」

小笠原「時々お茶目な失敗をしてしまうことも含めて彼女の魅力ですから」

宮森「優しいんですね……」

小笠原「さあ、どうでしょうか」

小笠原「でもまさか岩塩とは思いませんでした」

宮森「ですよね!(笑)」





井口「絵麻っち~、いいねー!」

絵麻「あの……そんなに見られるとさすがに……///」

井口「絵麻っち、意外と、いや結構ゴスロリ好きでしょ?」

絵麻「え、いや……嫌いでは……ないです///」

井口「それを世間では『好き』と言うのだよ!」

絵麻「!!」

絵麻「私に……そんな趣味が……」

井口「ふふふ」




小笠原「鍋の準備が出来ました」

井口「おっ、きたきた!」

宮森「絵麻の岩塩、ちゃんと入ってるからね!」

絵麻「うん!」

井口「さあ後はカセットコンロに火をつけるだけ……」

小笠原「ですね」

宮森「はい!」

絵麻「」コクッ

井口「ではでは私が―」

一同「」コクッ

井口「点火ッ!」カチッ

一同「……」

鍋「……」

井口「まあ何が起きるわけでもないんだけどね」

小笠原「食べごろになるまで待ちましょう」

宮森「……こたつあったかい」ヌクヌク

絵麻「うん……」ヌクヌク

小笠原「……」ヌクヌク

井口「……」

井口「小笠原さんって」

小笠原「はい」

井口「彼氏とか居ないんですか?」

宮森&絵麻「!?」

宮森「(井口さん……大胆……!)」

小笠原「そうですね……」

小笠原「生まれてこの方、居たことがありません」

絵麻「」ホッ

井口「うっそだー!!絶対嘘!」

小笠原「本当ですよ」

井口「こんなに綺麗なのに居ないわけが」

宮森「確かに小笠原さん綺麗なのに……」

絵麻「」ウンウン


小笠原「いえ、私は―」

井口「あっ、もしかして」

小笠原「?」

井口「女の子の方が好き、とか!?」

絵麻「」キマッ

小笠原「特にそういう趣味は持ち合わせていません」

絵麻「え……」

宮森「(なんで絵麻がっかりしてるの……)」

小笠原「私は今はこんな身なりをしていますが、昔はとても地味だったと自分でも思います」

小笠原「好んで男性と話すわけでもなかったので、そのまま何も起きず、婚期を逃しました」

井口「またまたー!まだまだ適齢じゃないですかー!」

宮森「そうですよ!まだ全然若いじゃないですか!」

小笠原「お世辞でも嬉しいですよ」

井口「ちなみに今おいくつで?」

小笠原「さあ……30を超えてから数えるのをやめてしまいましたから」

井口「さすがゴスロリ!」

宮森「小笠原さんらしいですね!」

絵麻「小笠原さんにもきっと……いい人が見つかると思います!」

小笠原「そうでしょうか……ムサニで見つかるといいんですが……」

宮森「それはちょっと」

井口「無理」

絵麻「ですね……」

小笠原「」

小笠原「そ、そんな井口さんには恋人とかは……?」

井口「ギャハハいないいない(笑)いるわけないじゃないですか仕事一筋!」

小笠原「とても魅力的だと思いますが……」

宮森「うんうん!」

絵麻「いつも元気だし……そういう女性を好きな男性、多いと思います」

井口「そ、そうかなー///」

小笠原「ムサニだったらどの方が好みなんでしょうか?」

井口「えーっ?ムサニ?///えー、誰だろ」

宮森「平岡さんとかですか?」

井口「平岡君は顔は良いけどねー」

絵麻「ちょっと不真面目なトコは賛否両論ですね」

小笠原「渡辺さんとかはどうでしょう」

井口「渡辺さんはちょっと……いいかも///」

絵麻「なんか、リアルですね……///」

宮森「井口さんってあーいう顔が好みなんですね!」

井口「ちょっとハンサム……だよね!///」

小笠原「」メモメモ

井口「小笠原さんっ?!」


絵麻「おいちゃんは?」

宮森「えっ私!?」

絵麻「いつも高翌梨さんと話してるよね」

小笠原「よく見かけますね」

宮森「いやいやないですよー!ガサツだしなに考えてるか分かんないし、責任感とかないし」

井口「そう?真面目だと思うけどなー」

宮森「高翌梨さんに限ってそれはないですよー!」

井口「なんか高翌梨君ってさ、真面目に働いてる自分をいつも茶化してるっていうか」

絵麻「あー」

井口「きっと真面目な自分を見られたくないんだよ」

小笠原「少し照れくさいのかも、しれませんね」

宮森「いつも失敗してますけどね……」

宮森「絵麻はどうなのー?」

小笠原「安原さんの恋路も聞いてみたいですね」

絵麻「ええ///」

井口「ほら絵麻っち、言っちゃいなよ!」

絵麻「私は……遠藤さんとか素敵だなって思ったことなら……///」

宮森「ええええええ////遠藤さん!?」

井口「うっわーエグいとこいくねー」

小笠原「遠藤さんは既婚ですね」

絵麻「あ、いやそんなんじゃなくて……好きとかじゃなくて……」

絵麻「えくそだす描いてた時にちょっと……褒められて……///」

井口「さっきも言ったよ絵麻っち」

絵麻「え」

井口「それを人は『好き』と呼ぶ」

宮森「禁断の恋ってことだよね!?」

絵麻「ち、違います!」アセアセ

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