大井「…作戦が悪いのよ」 (39)
大井「…馬鹿じゃないの」
大井「…馬鹿じゃないの」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427726299/)
と同じ世界線、後の時系列になります
独自設定・解釈があります
キャラ崩壊の恐れ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430919010
酉間違えた
てす
おk
○一五八 カスガダマ沖
扶桑「明るい内に潜水艦が片付いて良かったわ」
利根「うむ。あれがおっては、満足に動けもせんからな」
筑摩「ええ、姉さん。これで心置きなく、夜戦に臨めます。が…」チラッ
大井「…」コク
大井「相手の残存戦力が少し気掛かりです。戦艦を中破、潜水艦並びに補給艦撃沈。ここまでは良いのですが」
敷波「こっちは綾波が大破。おまけにあっちの水雷戦力は健在、でしょ。わかってるっての。でも、あっちが軽空母抱えてる分、夜はこっちのが有利でしょ」
利根「我々の心理としては、そうなるのじゃがな。まあ、思い悩んでも仕方ない。なるようになる!」
扶桑「…○二○○。さあ、行くわよ。綾波、照明弾を」
綾波「はい!」ガシャッ
ドン パラパラ…
扶桑「利根、筑摩、大井、敷波の順に、私の後へ! 綾波は待機。…危なくなったら、すぐに逃げてね」
綾波「ごめんなさい、よろしくお願いしますね」
…
扶桑「伊勢、日向には…負けたくないの!」ドン ズドン
大井(初弾が戦艦に当たった! 後は…)
利根「まだまだぁ、筑摩の奴には負けんぞ!」ドン
ホ級「」ダァン
利根「む? 筑摩め、抜け駆けして空母を狙いに行ったな? 大井! 止めは任せたぞ!」
大井「はいはい」ザーッ
大井「九十三式酸素魚雷…」ガチャン
ホ級「…」タタタタタタッ
大井(機銃? 悪足掻きを)「やっちゃって」
ガキン
大井「えっ?」
大井(差し出した左腕に走る、衝撃。耐え切れず真上に振り上げたその腕が)
バァァァン
大井(爆ぜた)
扶桑「! 大井さん!?」
敷波「大井!」
大井(僚艦の叫びとは裏腹に、極めて冷静に、私は原因を考えた。恐らく、相手の機銃の弾丸が、腕部の魚雷発射管に入り、発射寸前の酸素魚雷を叩いたのだ)
大井「チッ …これだから雷巡は」
大井「…?」
「」キラキラ…
大井「っ!! いけない、あれは……」
大井「左腕は分かるけど……どうして私、右の手まで失くしてるのかしら?」
利根「…済まぬ」ペコリ
大井「いえ、責めてるのではなくて…単純に、左腕を吹き飛ばされてからの記憶が無くて」
利根「吾輩の索敵が甘かったのじゃ…」
…
敷波「大井!」
利根「構うな! 吾輩が行く!」ザザザッ
大井「…! ……」
利根「しっかりせい、対空射撃なぞしてる場合ではないぞ!」
利根「撒くぞ、掴まるのじゃ」ガシッ
大井「…」ギュ
利根「退け、退けぇ! 魚雷を見舞ってやるぞ!」ドン ドン
ホ級「…」ピタッ
利根「今の内じゃ」ザーッ…
大井「…さん………て…く……」
綾波「…!」
利根「綾波ー! そっちに敵はおるかー?!」
綾波「こちらは大丈夫…です」
綾波「そんなことより、大井さん、いったい何が」
大井「……きた、み、さ………」
利根「詳しい話は後じゃ。追手は筑摩に任せておるから、我々はぐっ!?」ズン
ハ級「…」ゴーッ
利根「かはっ、魚雷…だと? 吾輩としたことが」ヨロッ ザッ
利根「後悔させてくれる…」ジャキッ
大井「…」バッ
利根「大井?! 何をする」
大井「…く……」ザーッ ザッ ザッ…
綾波「だ、駄目です!」
大井「てい、とく……」スッ
ハ級「…」アァァァァ
ハ級「」ガブ
利根「右手が喰われ…っ!?」
大井「…」カチッ
ダァァァァン
…
大井「…ハァ」
利根「め、面と向かって呆れられると、流石に堪えるな」
大井「いえ、あまりに自分が不甲斐なくて…」
大井「そんなことより、戦闘はあの後どうなりましたか?」
利根「あの駆逐は、お主に腹の中を撃たれて沈んだ。お陰で綾波も無事じゃ。戦艦は早々に沈めたし、首尾は上々。じゃが…」
大井「例の、軽巡ですか」
利根「あれが思いの外粘ってな。止めを刺す前に撤退命令が出た」
大井「そう…」ホッ
利根「お主の考えておることは分かる」フフン
利根「二隻大破、航行困難。この状況で不必要な仇討ちなどさせたとあらばお主、真っ先に提督を折檻しに行くじゃろ。此度は、あれもよく堪えたものじゃ」
大井「分かってるなら、利根さんも普段から言ってあげてくださいよ」
利根「吾輩が言っても聞くまいよ。『誰かさん』に似て堪え性の無い男じゃからの。じゃが」ポン
利根「お主の背の君じゃ。応えようと思うのならばその身、早く治すことじゃな。さてと」スック
利根「吾輩は戻る。今こうしておる間も、戦場は動いておるゆえに」
ガチャ バタン
大井「…」
大井(魚雷の誘爆で左腕と魚雷発射管を失い、駆逐に右手を単装砲ごと喰いちぎられて)
大井(戦場に身を置いている以上、四肢を失う事自体は珍しくない。何より、失くしたところで艦娘でいる限り、幾らでも付け直せる。でも)
大井「どうして、こんなに心細いのかしら…」
一一四○ 医務室
ドタドタドタ
大井「?」
ガチャ
「大井っち!」
大井「えっ? ……ええっ?!」
「うわっ、これは派手にやられたねえ」スタスタ
大井「えっ,きっ、きたっ、」ジタバタ
大井「北上さん!!」
北上「落ち着きなって。起こしてあげるから。…よいしょっと」グイ
大井「あ、ありがとうございます……でも、どうしてここに…」
北上「作戦から帰ろうとしたら、羅針盤が壊れちゃっててさ。彷徨ってたら、この泊地が見えたって訳。そんなことより、体は大丈夫? 手がどっちも無いって、すんごい不便でしょ」
大井「腕以外はそれ程でもないです。それに、いつも働いてる分、楽ができて丁度いいくらいですよ」フフッ
北上「…」ジッ
大井「北上さん?」
北上「」ギュ
大井「!」ドキッ
北上「良かった、元気そうで」
大井「…ええ」
北上「…」
ポタ ポタ
大井(肩に…)
大井「っ…私、大丈夫、ですから」
北上「…うん」
北上「」スッ
大井「あっ…」
北上「…ふう 何か、ごめんね? これじゃあ、大井っちに逆に心配かけちゃうや」
大井「いえ…嬉しいです。心配してくれて…それに、こういう形でも、また会えて良かった」
北上「今度ばっかりは、忌まわしの羅針盤に感謝だね。でも、誘爆にはホンットに気をつけてよね。寧ろ、腕で済んで良かったくらいだよ」
大井「ええ、気をつけますね」
北上「うん、よろしい。…あ、そうだ」ガサゴソ
大井「?」
北上「…はい、佐世保のお土産」コト
大井「わあ、カステラ! ありがとうございます…」
大井「…? 偶然来たにしては、随分と準備が良いような…?」
北上「細かいこと気にしちゃ駄目だよ~。ほら、切って食べさしたげるから」ガサガサ
大井「!! いただきますっ!」ゴロニャーン
北上「わっ、落ち着きなよ大井っち~。っと、包丁は…食堂だよね。折角だし、一緒に食べに行こうか」
一二〇〇 食堂前
北上「大井っち、大丈夫? 歩きにくくない?」
大井「北上さんが支えてくれてるから、大丈夫です。 それより、今日のお昼は唐翌揚げ定食だそうですよ」
北上「おおう、空きっ腹に堪える響きだねぇ……ん?」
タッタッタッ
不知火「北上。探しましたよ」
北上「お、不知火じゃん。入渠は終わったんだ?」
不知火「艤装の修復も、燃料・弾薬の補給も済んでおります。羅針盤の修理も完了しましたし、既に僚艦は出港可能の態勢です」
北上「あ、そう? じゃあさ、ついでにお昼も頂いてこうよ。もうお腹ペコペコで」
不知火「何言ってるんですか。入渠ドッグに高速修復剤、果ては帰りの弾と油まで頂いているんです。これ以上甘えるわけにはいきません」グイ
不知火「さあ、帰りますよ」
大井「ちょっと、そこの駆逐艦!」ズイ
不知火「何でしょうか、不知火に落ち度でも?」ジロ
大井「大有りよ! 少しは空気ってもんを読まないわけ?!」
不知火「読みましたよ? 読んだ上で、こっちの時間で正午まで待ちました。これ以上滞在が長引くと、佐世保にもこちらにもご迷惑かと」
北上「後一時間」
不知火「駄目です」キッパリ
大井「チッ、何なのよ。…この石頭」ボソッ
不知火「お言葉ですが。こちらとしても、いつまでも貴女の『性癖』に付き合うわけにはいきませんので」
大井「それどういう意味よ?!」
北上「不知火! …言って良いことと悪いことがあるよ」
大井「ねえ、そう思われても仕方ないことくらい、分かるわよ。どう思うと、あんたの勝手。でも」
大井「見てちょうだい。私、提督と」スッ
不知火「えっ」
北上「えっ」
大井「えっ? …あっ」ドキッ
北上「大井っち、それ……」
不知火「…帰りましょう」グイグイ
北上「ちょ、ちょっと待ってってば。…また会おうね、大井っち!」
大井「…ええ、また」
「…さん。大井さん!」
大井「っ、何よ!?」キッ
綾波「ひっ」ビク
大井「あっ、綾波さん…ごめんなさい。えっと…修理は済んだのかしら?」
綾波「はい。おかげさまで、艤装の他に大きな怪我はせずに済んだので。それよりも、これからお昼ですよね? ぜひ、お手伝いさせてください」
大井「…」
綾波「大井さん?」
大井「…ごめんなさい。やっぱり私、部屋に戻るわ」クルリ
綾波「えっ、でも…」
大井「お願い。…しばらく、独りにして。ね?」
スタスタ
綾波「大井さん…」ポツン
一八〇三 医務室
大井「…」ジッ
コンコン
大井「…はい」
ガチャ
提督「よ」
大井「提督…」
提督「悪いな。夕べの報告やら今後の話し合いやらで、見舞いにも来れなかった。…ベッドの縁、借りるぞ」ギシ
提督「ふう。…まあ、何だ。災難だったな」
大井「…」
提督「あまり気を落とすなよ。そういうこともあるだろ」
大井「…」
提督「そうだ、朝から北上達が来てたな。高速修復剤やるから、さっさと入渠済ましてゆっくり観光でもしてきたらどうだと言ったんだが、奴さんたち、支度終わったら飯も食わずに帰っちまったよ。全く本土勤めってのはどうして…」
大井「…ごめんなさい」
提督「あんなに慌ただしく…ん? 何か言ったか」
大井「ごめんなさい。私の不注意のせいで、皆さんに迷惑をかけてしまって」
提督「…ほう」
大井「あの誘爆も、防げるものでした。角度をもっと下ろしていれば…」
提督「珍しく、殊勝なことを言うんだな」
大井「っ、そんな」
提督「だが、その前に言うことがあるんじゃないか?」
大井「…! でも」
提督「もう『頼って』は、くれないのか?」
大井「…」
大井「…スウ」
大井「…作戦が」
大井「作戦が、悪いのよ…」ポロポロ
提督「…」
ギュ
提督「悪かった。また、怖い思いをさせちまった」
大井「グスッ…怖くなんてない…命だって…ッ、惜しく、ない……でも」
大井「指輪…提督から貰ったのに……手と一緒に、失くしちゃった…」
提督「そうか」
大井「折角、貰ったのに…信じてるって、言ってくれたのに……」
提督「起こっちまったことは、仕方ないさ。俺はお前を信じてる。それは、今でも変わらない。この先も」
提督「っても、納得しちゃくれないか。お前、寂しがりだもんな」フッ
提督「俺は雷巡じゃないし、お前の苦労を理解してやることはできない。だが、お前のイライラの捌け口くらいにはなれるし、それこそ北上の代わりに」
大井「…」ゴッ
提督「痛」
提督「…頭突きかませるくらいには、落ち着いたようだな」スッ
大井「…だって」
提督「よし、立て。飯食いに行くぞ。お前、昼も食ってないんだろ」
二〇〇○ 執務室
大井「どうしたの、ここまで連れてきて」
提督「本当はもう少し引っ張るつもりだったんだが、納品やら何やらの都合があってな」
大井「?」
提督「…指輪、失くしたって言ってたな」スタスタ
大井「…ええ」
提督「きっとお前は、覚えていないだろう。『あの時の』お前が」ガラッ
大井「…」
提督「何をしたか…どんな思いだったか」コト
大井「! それは」
提督「帰投した時…お前は既に意識を失ってた…」
…
タッタッタッ
扶桑「艦隊、帰投しました!」
提督「よく戻った。まず被害状況を手短に頼む」
扶桑「大井、綾波大破、利根中破、その他の被害は軽微です」
提督「3人の入渠を優先しろ。空いた一つは、時間のかからない順に使ってくれ。どの道、当面出撃はない。ゆっくり休んでくれ」
扶桑「あの…」
提督「何だ、言ってみろ」
扶桑「よろしければ提督も、『お休み』なさっては…?」
提督「! …そうか、気が利くな。ではお言葉に甘えるとしようか」フッ
提督「…大井はどこだッ!?」
扶桑「まだ出撃ゲートかと…艤装の解除に手間取っておりましたので」
ダッダッダッ
軍医「あっ、提督殿!」ザッ
提督「敬礼する手があったら…治療に使えっ…!」ハァハァ
提督「大井はっ!?」
軍医「ストレッチャーに」
大井「」
提督「あ、ああ…何てこった……」
軍医「整備班の方で燃料流出を止め、艤装を外すことは出来ました。しかし、今度は呼吸が…気管挿管を試みているのですが、口を固く閉じているのです」
提督「…大井? 聞こえるか」
大井「」
提督「大井、起きろ。息をしろ。無理ならせめて、口を開けてくれ。なあ」トントン
大井「」
軍医「まずい…呼吸停止から既に…」
提督「分かるだろ? 入渠で傷は治せても、息が詰まっちまったもんは治せねえんだよ…このままじゃお前、死んじまうぞ? なあ、おい……起きろよ!」
軍医「やむを得ません、切開を…」
提督「ふざけるな! いつもいつも人のやることにケチ付けやがるクセに…何、本当に死にかけてんだよ! 黙ってんじゃねえよ! 目ェ覚まして、文句の一つでも言ってみろよ!!」
大井「…」ビクッ
軍医「!」
提督「! こじ開けるぞ」ガシッ グッグッ
軍医「も、もう大丈夫です。後は私が」
提督「…待て」
軍医「?」
提督「これは…」
…
提督「中から、こいつが出てきた」パカ
指輪「」
大井「嘘…私……」
提督「何が起きていたのか…それは誰にも分からん。だが、終わり良ければ何とやらと言う。実際、お前は絶体絶命の状況でこの指輪を守りぬいた。それで十分じゃないか」
大井「提督…」
提督「…ただ、残念なことにだな」ヒョイ
大井「これ、曲がってる…?」ジッ
提督「よほど必死に噛み締めていたんだろうな。ひしゃげてしまって、もう指に嵌めることはできないだろう。つまり、装備品としてはもう使いものにならないって訳だ」
大井「そんな…」
提督「こんな時、どうなるのか…色々訊いて回ったが、どうやらリペアパーツ扱いになるらしい。頼めば新しい指輪をくれるんだとよ」
提督「…欲しいか?」
大井「…嫌」キッパリ
提督「ハハッ、だよなあ。強い絆を結ぶための指輪が、砲や電探と同じ扱いじゃあな。俺も嫌だね」
提督「それだけ聞ければ十分だ。替えの指輪は無し。こいつは破損した装備品ってことで廃棄するところだが、持っておいても問題ないだろ」
提督「後は、どう身に付けるかだが」チラッ
大井「手を付け直したら、小指くらいには嵌るかしら…?」
提督「あ、良いこと考えた。確か、引出しのこの辺に…」ガサゴソ
提督「あったあった」ジャラ
大井「なあに、それ」
提督「ガキの頃、露店で買ったんだよ。安物のチェーンさ。こいつに指輪を通して…ちょっとこっち来い」
大井「ん」スタスタ
提督「頭出して…これで…よし、と」カチ
提督「ネックレス。これなら、腕吹っ飛んでも失くさないだろ」
大井「また腕吹っ飛ばす気なの」ジロ
提督「いや…もうたくさんだ」ギュ
大井「もう、嫌よ…あんな思いするの」
提督「ああ。二度と、させないさ。一緒に生きて、戦いを終わらせよう。そしたら、その後は」
大井「その後は?」
提督「…また、指輪を買おうか。今度は、カッコカリじゃないやつを」
大井「提督…」
大井「…っっ、もう!」カァァァ
提督「ははは、そんなに嬉しいか。俺も嬉しいぞ」サワッ
大井「っ!? な、何してけつかっ!?」ジタバタ
提督「わっ、止めっ」グラッ
ドンガラガッシャーン
提督「痛てて…そんなに怒るなっての」
大井「最っ低…あの流れでお尻触るなんて、どんな神経してるのよ?」
提督「シリアス過ぎるのは苦手なんだよ…おい、さっさと降りろ。重」
大井「」ゴッ
提督「い゛っ!? 分かった悪かったよ…」
コンコン
提督「えっ」
ガチャ
綾波「司令官? 大井さん知りませ…」
提督「」シタ
大井「」ウエ
綾波「」ドサ
綾波「し…失礼しましたっ!」ダッ
提督「い、行っちまった」ムクッ
大井「ちょっと、助けてちょうだい。床に突く手が無くて」
提督「ん、ああ。よい…しょっと」スクッ グイッ
提督「ふう。…明日、綾波に何て説明しよう」
大井「別に、良いんじゃない。あの娘なら分かってくれるわよ」
提督「これが敷波とかだったら、どうなってたことやら…ん? 綾波のやつ、何か落としてったな」ヒョイ
大井「これ、北上さんから貰ったカステラ…届けに来てくれたのね」
提督「土産なんて持ってきてたのか、気付かなかった。しかしこれ、殆ど一人分だな。どれ、他の連中に見つかる前に、ここで切って食っちまうか」
大井「あげないわよ?」ムッ
提督「何だよケチだな。俺は上官だぞ? 一口くらいくれたって良いだろ」
大井「いーやーでーすー! これは北上さんが、わ・た・し・の、ために持ってきてくれたの!」
提督「むむ…」
提督「あ、良いこと考えた」ピコーン
大井「」ゾワッ
提督「俺も味わえて、お前も全部食える。つまり、俺が先に咀嚼し味わった上で、それをお前が」
大井「」ゲシッゲシッ
提督「痛、痛いって、無言で蹴るな」
大井「あんたはどうして、そんなことばっかりなのよ?! 北上さんからの贈り物が私にとってどんなに大切なものか、分かるでしょ? それにカレーの時といい、一々食べ物をダシにしないと、キスの一つも出来ないわけ?!」
提督「!!」
提督「…済まなかった」
大井「本当に、そう思ってる?」ジトー
提督「ああ。お前の気持ちも考えず、勝手なことを言った」
大井「…」
提督「そうだよな。キスに理由や、増して言い訳なんて必要ない」
大井「そっち!?」ガビーン
提督「甲斐性なしにも程があった」
大井「ちょっ、それは言葉の綾で…」
大井「…もういい」ハァ
提督「お、おい」
大井「提督って…相変わらずね。いつだって目の前のことばっかり」
提督「っ、それは」
大井「気づいてるの私だけかと思ってたら、利根さんも『堪え性がない』って言ってたし。よく今まで、死人が出ずに済んだわ」
大井「もう寝るわ。おやすみなさい」クルッ
提督「カステラはどうする」
大井「食堂の冷蔵庫に入れておいて。つまみ食いしたら、[ピーーー]から」
スタスタ
提督「…」
提督「目の前のことばっかり、か」
提督「どいつもこいつも、考えることは一緒なんだな…」
…
『大井!』
『構うな! 吾輩が…』
提督「!? 旗艦、何が起こった? 報告しろ!」
『雷巡大井が軽巡ホ級と交戦中、被弾しました』
提督「それだけじゃないだろ! この騒ぎは何だ?」
『それが…被弾箇所が悪く、魚雷に誘爆を…視認した限り、魚雷発射管と共に左手が爆散』
提督「何だって?!」
『利根が救助に向かい、曳航して現在、交戦海域から離脱し、綾波と合流しております』
提督「撃沈は免れたんだな? それなら」
『…! 駄目!』
提督「!」
提督「今度は何だ?!」
『離脱組に駆逐艦の追撃です! あっ…撃沈したようです…が……大井、今度は右手が』
提督「クソッ!!」ダンッ
提督「よくもここまで…全艦に通達、死力を尽くし敵艦隊を殲滅! 特に例の軽巡だ。奴を絶対に、地獄の底にブチ込め!!」
『…ザッ……離脱隊、綾波より…ザザッ提督に』
提督「…綾波? どうした」
『報告します…ザッ航巡利根ザッ……先ほどの追撃で魚雷をザッ…中破…』
提督「! 利根まで…」
『何よりザッ…照明弾が着水、視界ザッ…ほぼ皆無です』
提督「…探照灯がある」
『意見具申します! 撤退してください!!』
提督「愚かな司令で済まん。だが、分かってくれ…もう、後には退けないんだ!」
『分かってます! …ザザッ……長い付き合いですから、司令官のお考えは……ザッいつも、目の前にあるものを…先のことよりもザッ…』
提督「っ…分かってるじゃないか。だったら」
『…ザッ考えてください! 見てくださザッ… 今ザッ……司令官の目の前にあるものは、何ですか!?』
提督「…それは」
『航巡筑摩より。軽空ヌ級を撃沈…残存勢力からの反撃を確認せず…撤退したものと』
提督「逃すな! 追いかけて…」
提督「!! ……目の前に、あるものは」
憎き深海棲艦か? だが奴らは夜の闇に消えた。もう見えない。
じゃあ今、目の前には。
航行困難なまでに艤装を破壊された綾波がいる。魚雷を受けた利根がいる。そして生身を損傷し今にも沈みそうな大井が…
提督「…それでも、俺に従う艦娘達が……」
提督「…旗艦」
『…はい、提督』
提督「悪い。さっきのはナシだ。大破した艦を中心に輪形陣を組め。追撃、特に潜水艦に注意しながら…直ちに、母港へ帰投しろ」
『提督…了解しました』
提督「無事を祈る」
ブチ
提督「…」
提督「…済まない、綾波。済まない、大井……済まない、皆」
提督「どれだけ言われても、どれだけ人を傷つけようと……俺は…生き方は、変えられないようだ…」
○九○○ 執務室
提督「」グデー
扶桑「手が止まってますよ」サラサラ
提督「いーじゃねーかよー、どーせ急ぎの書類でもねーんだし」ダラー
扶桑「でも、できることは早めにやっておかないと。ここが気合の入れどころですよ」サラサラ
提督「俺はなー、明日できる仕事は明日やる主義で」
扶桑「…そんなに、昨夜のことがショックだったんですか」サラ…
提督「!?」ビクッ
提督「ど、どうしてそれを」
扶桑「ふふっ、カマかけただけですよ」
提督「おまっ…」
コンコン ガチャ
扶桑「あら、噂をすれば」
大井「失礼します」
扶桑「いらっしゃい。腕、治ったのね」
大井「ええ、今朝方に付け直してもらいました。もう大分、感覚も戻ってきた頃です」グッパグッパ
扶桑「それは良かったわ。ところで、そのお皿は?」
大井「艦隊の皆さんにご迷惑をお掛けしたので、お詫びに…本当は、北上さんが私にくれたんですけど、切ってお裾分けします」
扶桑「あら、ありがとう」スッ
大井「ごめんなさい、元が小さいのを切り分けたので、すごく薄くなっちゃったんですけど…」
扶桑「そんなことはないわ。頂きます」パク モグモグ
扶桑「…おいしい」ホッコリ
大井「良かった…それから」クル
提督「」ドキッ
大井「何、怖い顔してるんですか。ちゃんと提督の分もありますよ」
提督「ほ、他の連中には配り終わったのか。2つ残っているようだが」シドロモドロ
大井「私もまだ食べてないんです。ほら、あーんして」ズイ
提督「あーん」パク
扶桑「まあ」メソラシ
提督「」モグモグ
大井「美味しいですか?」
提督「ん」コクリ
大井「じゃあ…いただきます」
ちゅ
提督「!!??!??!!?」
ちゅー…
提督「ん゛ーっ?! ん゛ーっ…」
扶桑「…?」チラ
大井「」提督「」
扶桑「」
提督「…ぶはっ、ど、どういうつもりだ?! 今は執務中で」
大井「」ハム モグモグ
大井「ふぁい」ガシッ
提督「大体お前、普段から公私を分けろって、お前がんぐっ」ブチュ
大井「ん…」
扶桑「…はっ、いけない。私ったら、朝から幻覚を」チラ
大井「んっ…」提督「」ジタバタ
扶桑「」バタン キュー
提督「…っは、おま、き、昨日はあんな事言ってたくせに…」
大井「私、提督を見習うことにしました」
提督「みなっ、…何だって?」
大井「皆、いつ死ぬか分からない。それなのに…いえ、だからこそ、欲は尽きない。だったらいっそ提督みたいに、今手の届くものに一生懸命でいようと思ったんです」
提督「…それがこのカステラと、どう関係があるんだ?」
大井「だって…盗られちゃうじゃないですか」
提督「盗られる? 何が」
大井「提督ですよ」
提督「???」
大井「危機感を持ってください。私今、指輪してないんですよ?」
提督「あ、ああ、そうだったな」
大井「傍から見れば、提督は他の娘とケッコンしているように見えるんです。まして、私はここに来て一番日が浅い…でも、分かります。皆、提督のことが大好きなんですよ?」
提督「そ、そうなのか?」テレッ
大井「そこ、ニヤけない。…とにかく、私としても積極的にアピールしていかないと。折角指輪まで頂いたのに、慢心してると他の娘に提督が盗られちゃいます」
提督「…お前の言いたいことは分かった。俺個人としては、そりゃあもう大歓迎だが…執務中に関しては、節度は持ってくれよな?」
大井「ええ、今日くらいのことは流石にもうしません。だって、その」チラッ
扶桑「ソラハアンナニアオイノニ…」グルグルメ
提督「医務室に運んでやらないと。だが…良いのか? このカステラ、北上から貰った大切なものなんだろ? こんなことに使ったりして」
大井「北上さんは私にとってかけがえの無い、大切な人です。きっと私のことを一番理解してくれるのはあの人でしょう。それは変わりません。でも、今は私の見えない所、手の届かない所にいます。今、私の目の前にいるのは…」クイ
提督「…ああ」スクッ
大井「何よりも」ソッ
ちゅ
大井「…提督も、愛してますから」ニコッ
おしまい
E4が突破できなくてつい
ほのぼのいちゃらぶを期待されていた方には申し訳ありません。
小耳に挟んだところでは、酸素魚雷は機銃では誘爆しないらしいですね。無知でした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
そろそろ嫁の川内でも何か書きたいです
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