【モバマスデレマス】「枕~ 森久保乃々の場合~」【R18】 (37)

今回は劇物指定なので、先にスレを建てて、ワンクッション置いてから投下します。


注意事項は以下の通りです。

・純粋な森久保乃々Pは読了をおススメしません。
・オリジナルキャラが大量に出ます。
・特にアイドルの肉親がオリジナルキャラです。
・森久保乃々には描写はありませんが、セックス描写があります。
・セックスシーンは当者比では大したことはありません。
・また、タイトル・テーマがこうなので、R18とさせていただきます。
・好き嫌いが大変に分かれる話です。
・ドロドロした架空の芸能界の話です。
・純粋な森久保乃々Pは読了をおススメしません。

以上、用量・用法を正しくまもってご覧読ください。

20:00に投下を開始いたします。



最後に、このSSのアイデア着想をくれた森久保乃々というキャラクターに、
最大限の感謝を申します。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430907857

なんかタイトルミスってる?

正しくは「枕 ~森久保乃々~」です

地雷の予感
でも期待

お約束だけど言っとこうか
タイトルで特定余裕でした

お先真っ暗じゃなければいいですね。ふふっ

森久保自身には描写はない?
やるの?やらないの?

以前別のスレで陵辱されてた乃々がトラウマです

>>3
正しく地雷と思いますので、
危険感知マックスでお願いします

>>4
フフフ、これも私だ…

>>5
楓さんどこかに帰りますよ

>>6
肉体的にはやらないですけど、
森久保Pには読了をおすすめしません。




それでは投下します。
今回37kBほどあるので、ごゆるりとお読みください。


「枕 ~森久保乃々~





「森久保ォ~~~~~~~ッ!!」

思わず首をすくめたくなるほどの怒声がフロアに響く。

聞き慣れた者は「ああ、またか…」と苦笑し、聞き慣れない者は「何事か?」と色めくほどの大音声だ。

「どこに行ったーーッ! 森久保ーーーーッ!!」

声の主は、50台半ばほどに見える、大きく腹が突き出た中年男性だ。

その肥満体をゆさゆさと揺らしながら、「森久保ーーー!」と叫び歩く姿は、
どこか滑稽でユーモラスであったが、当人は真面目であった。

「もう時間ねぇんだよ! いい加減、覚悟決めてくれ!!」

悲痛な表情で汗を散らしながら“森久保”を探し回る中年。

彼はここ346プロダクションに勤務するプロデューサーの1人で、名前を沖田浩郎と言う。

若い頃から芸能界に生きてきた男で、派手な実績は少ないが、経験に裏打ちされた判断力と長年の芸能界生活で培ったコネとで、
346プロダクション内では“おとっつぁん”的立ち位置に居るベテラン社員だ。

「出て来ーーーい! 森久保ぉ~~~~!!」

そんな彼が、大声で呼ぶ相手は…

「………………むーりぃーーー……」

空きフロアの未使用デスクの下、膝小僧を抱えたいじけポーズで半泣きになりながら縮こまっていた。

「私、アイドルなんてやりたくないのに……」

いじいじと身体を揺らしながら、件の少女がぼそりと呟く。

彼女の名前は森久保乃々。

346プロダクション所属の、まるでやる気の無いジュニアアイドルだ。

「だいたい、私にアイドルなんて無理なんですよ… それなにの…」

ネガティブオーラ全開で床にのの字を何個も描く。

彼女がアイドルをやっているのは本人の意向ではなく、とある第3者の意見に拠る所が大きい。

「森久保は静かに暮らしたいんです…」

ネガティブな発言ばかりしている彼女だが、ルックスはジュニアアイドルとして十分以上の素質を持っている。

本人のやる気さえあれば、トップアイドルになれる可能性が、確かにあると感じられた。

「……諦めてくれたかな?」

沖田の声が段々と遠ざかり、乃々がおっかなびっくり机の下から顔を出す。

とある理由から自分のプロデューサーとなってくれた沖田だが、乃々は当然のごとく彼が苦手だ。

しかし、苦手なだけで嫌っているわけではないので、彼を心底困らせることは避けたい。

「…ごめんなさい、沖田さん…… 森久保はアイドルを辞めて静かに暮らします……」

完全に沖田の声が聞こえなくなったのを確認して、乃々が、のそのそ、とデスクから這い出る。

「ふぅ… これでようやく…」
「乃々、何をしてるの?」

安堵のため息の後に見上げた視線のその先に、

「乃々、仕事の時間よ」

森久保乃々によく似た顔の、スーツをぴっちりと着こなした女性が立っていた。

「あ… お母さん…」
「全くこの娘は… 沖田さんを困らせちゃ駄目じゃない」

スマホで沖田に『見つかりました。連れて行きます』とLINEした女性は、乃々の手を掴むと強引に立ち上がらせた。

「行くわよ、乃々」
「でも… お母さん… 私…」
「なに?」
「うぅ…」

女性の柔らかいが容赦の無い視線に晒され、乃々は黙って俯いてしまう。

(でも… お母さん……)

女性は乃々の実の母親で、名前を森久保咲乃という。

乃々を芸能界へと無理やりデビューさせた張本人であり、今のところ、乃々の唯一の肉親である女性だ。

そのスタイルは今の乃々からは想像できないグラマラスなもので、ルックスも端正であった。

それもそのはずで、彼女は16年ほど前まで芸能活動していた元・アイドルなのだ。

「すみません沖田さん、よろしくお願いします」

自分と、そして片手で乃々の頭を下げた咲乃が、表情を変えずに言った。

ようやく乃々に会えた沖田は、ハンカチで汗を拭き拭き言った。

「森久保、隠れんぼはもう止めてくれ。おじさん、森久保を探すだけで疲れちゃうよ」
「ご、ごめんなさい」

あくまで口調は柔らかく沖田が乃々を叱る。

そうして、彼は頭を上げた咲乃に向き直ると、言い辛そうに口を開いた。

「咲乃… やっぱり少し考え直した方が…」
「時間、大丈夫ですか?」

何かを言いかけた沖田を遮る様に、咲乃がぴしゃりと言い放つ。

「ん… そりゃそうだが…」
「それでは、乃々をよろしくお願いします。乃々、頑張ってね。お母さんは挨拶するところがあるから」

再度頭を下げると、咲乃は踵を返して、ハイヒールを、カツカツ、と鳴らしながら去って行った。

残された乃々が不安そうに沖田を見上げた。

「浩郎おじさん… 私、やっぱりやらなきゃ駄目…?」

今にも泣きそうな乃々の頭を撫ぜながら、苦い声で沖田が言う。

「乃々、会社ではちゃんとプロデューサーと呼びなさい。おじさんも『森久保』と呼ぶんだから」

沖田は、乃々の事も、そして母親である咲乃の事もよく知っている。

なぜなら、“森久保咲乃”のプロデュースをしたのも彼なのだ。

「森久保だって、お母さんが喜ぶ顔が見たいだろう? それに、森久保はトップアイドルになれる素質を持っている。
 それはおじさんが保障するよ、なんてったって、アイツの娘なんだから」

咲乃の話をするとき、沖田は決まって誇らしく、しかし、後悔に満ちた表情を浮かべる。

「…アイツだって、トップアイドルになれたのに……」

無意識に呟かれるであろうその言葉を、乃々はこれまでに何回も聴いた。

だから、それに続く言葉も、そして、それに対する自分の返事も、容易に想像することができた。

「森久保は、咲乃さんの夢なんだよ」
「……はい、わかりました。私、頑張ります」

心にも無い決意を、いつものように繰り返し、乃々は心の中で大きなため息を吐いた……

某テレビ局では、ジュニアアイドルたちの番組収録が行われていた。

「え~、わたし達だけでやるの~?」
「みんな頑張ろうよ~」
「そ、そうですよー…」

のんびりした出演者の台詞とは裏腹に、緊張感に包まれたスタジオ。

ティーン向けテレビの撮影に臨んだ乃々は、それなりに顔見知りのジュニアアイドルと共に収録を行っていた。

(ええと、確かここで乃々がうっかりミスを…)

あらかじめ頭に叩き込んでいる進行表を必死に頭に浮かべ、慎重にタイミングを見計らう。

「あ、そういえば前にもこんなことがあったねー」
「そうそう、あの時も大変で~」

(えっ、アドリブ!?)

いよいよ出番と力を込めていた乃々だが、共演者が天然なのか計算なのか、台本にない絡みを始める。

(あ、合わせないと…!)

「の、乃々はあの時も失敗して…」
「今日は大丈夫だよ、乃々ちゃん!」
「そうだよ!」

乃々の一言に、待ってましたと言わんばかりに共演者が合いの手を入れる。

(あ… みんな、私に気を使ってくれて…)

いかにもな“前振り”に、ガチガチに緊張していた乃々の表情が緩む。

どうもこのアドリブは、緊張しがちな乃々のために、共演者が気を使って行ったものらしかい。

(良かった…)

少し気が緩んだ乃々は、タイムキーパーとカメラの位置、そしてついでに、とある人物を探すためにスタジオをさりげなく見回した。

(時間は… 大丈夫… カメラは… 2カメ… あとは…)

乃々を狙うカメラのすぐ隣に、お目当ての人物は立っていた。

(…良かった、お母さん、笑ってる……)

そこに立っていたのは咲乃で、乃々がちゃんとアドリブに対応したことに安心したのか、柔らかい笑みを浮かべていた。

(よーし… 頑張るぞー…… あ……!)

気合を入れなおした乃々だったが、切ろうとした視界の最後に、“余計なモノ”が見えてしまった。

(ディレクターさん…)

それは、この番組のディレクターで、彼は咲乃のすぐ隣に立っていた。

そして、乃々の瞳は、決定的に“見なくて良いもの”まで見てしまった。

(……! ディレクターさん… お母さんのお尻触ってる……!)

いやらしい表情を浮かべた中年ディレクターが、さりげなくだが確実に、母の臀部に手を当てているのが見えた。

そして、母はそれを嫌がる素振りも見せずに、にこやかな笑顔のままでいた。

いや、純粋な笑顔ではなかった。

母の目は、まったく笑っていなかった。

「……々ちゃん!」
「……えっ、あッ!」

気付いたときには、カメラは止まってしまっていた。

「…ちょっと、今のシーンリテイクしよっかー」

現場を仕切るフロアスタッフがカメラをチェックしてそう言うと、いっせいに出演者からブーイングが上がった。

「え~~~! 今のでいいじゃん!」
「もう、時間押してるのに…」

口々に文句を言う共演者の間で、乃々は恐怖と後悔とで身を固めた。

(やっちゃった……)

母と番組ディレクターに意識を取られ、共演者の目配せもスタッフのキューも見逃してしまった。

結果は最悪のリテイクで、乃々はアドリブまでしてくれた共演者の気遣いを無駄にしてしまったのだ。

「……これだから、親コネは…」

ボソリ、とどこからか漏れた陰口が乃々の胸に突き刺さった。

「ご、ごめんなさい!」

共演者とスタッフに大げさに頭を下げ、そして、恐る恐る母を見る。

しかし、母の姿はさっきまでの場所には無かった。

「はいはい、気を取り直してもう一度いくよー」

場を和ませるためか、努めたのんびりとした声でフロアスタッフが仕切る。

今度のテイクには、アドリブは無かった。




「今日はすみませんでした……」

帰りの車の中、乃々は何度も謝罪を繰り返した。

沖田は終始しかめっ面だったが、何度か慰めるように乃々の頭を、ぽん、と撫ぜると、ため息混じりに言った。

「まぁ、ミスは誰にでもある。森久保が頑張ったことは、おじさんも知っている」
「…ごめんなさい」

あの後、収録は最悪な雰囲気を引き摺ったまま終わり、共演者たちは乃々を完璧に無視して去って行った。

乃々は母にも謝ろうとスタジオ中を捜し歩いたが、咲乃の姿は見えず、痺れを切らした沖田が強引に乃々を連れて帰ったのだ。

「最近は日が落ちるのが早いな。夜に出歩いたりするなよ?」
「乃々はそんな不良じゃないです…」

暗い雰囲気を破ろうと沖田が話題を変え、乃々もホッとした気持ちでそれに応えた。

「でも… お母さんは遅くまで帰ってこないことが多いです…」
「そりゃ… アイツも色々と忙しいだろうからなぁ…」

乃々はアイドルとして、歳の割りに給料を貰ってはいるが、当然、それだけで森久保家の家計を賄えるわけでなく、
咲乃が乃々のマネジメントの合間にホステスのバイトをしている。

しかし、乃々が覚えているかぎり、今日の母は仕事が休みのはずだった。

「早くお母さんにも謝らないと…」
「咲乃だって何回もミスして成長したんだ。そんなに怒られることはないさ」
「そうですか…」

気休めではあるが、乃々を心配した沖田の言葉に、乃々はほんの少し笑顔になることができた。

だが…

「あ、メール…… あ…」

携帯の画面を見た乃々の表情が、一気に曇った。

「…どうした?」
「……………」

心配そうに声をかけた沖田に、乃々は無言で携帯の画面を見せた。

そこには、今来たばかりのメール文が表示されていた。

『乃々へ。このメールを沖田のおじさんに見せてください。
 沖田さん、乃々をしばらく、できれば明日まで預かってください。よろしくお願いします』

その文を読んだ沖田は絶句し、無言の緊迫感が車内に満ちた。

乃々の自宅マンションは目と鼻の先だった。

「……今、家には誰が居るんでしょうか?」
「乃々、そういうことは考えるな……」

ひっく、ひっく… と堪えきれなくなった乃々が嗚咽を漏らす。

「今は… ぐす… 森久保は… 帰っちゃだめなんですね…」
「乃々……」

やむを得ず車を路肩に停めると、沖田は力強く乃々を抱きしめた。

「咲乃も…… お母さんも、乃々のために頑張ってるんだよ…」
「そうなんでしょうか…」
「そうさ!」

無理やり明るく答えると、沖田は「夕ご飯まだだろ? 寿司でも食うか?」と、わざと冗談めかして言った。

中年おやじの無理がある愛嬌に、乃々はなんとか気を取り直すと、「手羽先が良いです…」と力なく言った。

同時刻。

暗い室内は、淫靡な雰囲気に満たされていた。

「困るよー、咲乃ちゃん。結果を出してくれないと、いつまでもねじ込めないよ?」
「すみません、乃々にはキツク言っておきますから」
「頼むよ? ボクだって期待してるんだから」
「はい……」

いつもは母娘で食事を取るダイニングテーブルに、件のディレクターがニヤニヤ顔で座っていた。
                        ・ ・
そして、その目の前には、白いエプロンだけを着けた森久保咲乃が、何かを堪える表情で立っていた。

「しかし、初めて入れてもらったけど、この家モノが少ないねぇ。生活苦しいの?」
「いえ… ディレクターさんに良くしてもらってますから…」
「だよねぇ」

下卑な笑いを浮かべ、ディレクターが手中の何かを操作した。

すると、部屋の中に、ヴーン、と羽虫が飛ぶような音が響き、咲乃の表情が一気に曇った。

「ぁう…… くぅ…」
「落とすなよ、しっかり締めてろ」
「はい……」

音の正体は、咲乃の秘裂に挿入された、極太のワイヤレス・バイブレーターだ。

この下品な道具を突っ込まれたのは、まさに咲乃が乃々にメールを送っている最中だった。

(どこまでこの男は下品なの…!)

心の中に燃え上がる怒りと羞恥を、強靭な意志力で完璧に押さえ込む。

咲乃は乃々の仕事を取る為に、積極的に自分の肉体を使っていた。

この番組ディレクターとの仲も長く、これまで、散々その熟れた肉体を玩具にされてきた。

「もう、咲乃もおまんこもガバマンだからさぁ、締める訓練しとかないとねぇ」
「そう、ですね…… ありがとうございます…」

心にもない謝辞を送り、にっこりと微笑む。

今すぐ包丁を取り出してこの男を刺してしまいたい。

しかし、そんな事をすれば、これまでの努力も積み上げた小さな成功も、全てゼロになってしまう。

だから今は、怒りを堪えて、玩具であることに全力で集中するしかなかった。

「この前のプレゼント、着けてるんでしょ? 見せてよ」
「はい… ご覧下さい…」

咲乃がエプロンを中央に寄せ、ややたれ気味の巨乳を露出させる。
その頂点の、黒ずんだ両乳首に、銀色に光る下品なピアスリングが輝いていた。

「ひひっ、よく似合ってるじゃないか」
「ありがとうございます…」

ピアスを空けられた時の絶望が蘇り、萎えた心が身体を折ろうとする。

しかし、咲乃は条件反射的にお礼を良い、ディレクターによく見えるようにと、両手で巨乳を持ち上げた。
「最初はそのおっぱいで遊ぼっか? 今日は一晩良いんでしょ?」
「ッ…… は、はい…」

苦渋の思いで咲乃が答える。

今日はどんなに夜遅くとも、落ち込んでいるであろう乃々を抱きしめて、慰めてあげたかった。

周囲の目を気にして、表面上は冷淡な態度を取ることが多い咲乃だが、その心中では、当たり前のように母親として乃々を大事に思う気持ちは人一倍に強い。

だからこそ、乃々のために変態に抱かれることも許容できるのだ。

「よーし、ちょっと痛いかもだけど、楽しもうね」

(楽しんでるのは貴方だけよ、この変態…!)

心で罵倒し、口では「楽しみです」と笑顔で答えた。

もう、その二律背反には、慣れっこだった。

「ふんふんふーん♪」

下手糞な鼻歌を出しながら、ディレクターが懐から釣りで使うテグスを取り出す。

「…そ、それを?」
「うん、ピアスに結ぶから」

何でも無いように言って、ディレクターが2つのピアスにそれぞれ銀色に光るテグスを結びつけた。

「動くなよ」

短く命令をした後、ディレクターは遠慮なくテグスを手前に引っ張った。

「あぐッ!!」

当然、テグスが結ばれたピアスが、ピアスを嵌めた乳首が前方に引っ張られ、バランスを崩した咲乃は、よろけるように足を一歩前に踏み出してしまった。

「おいおい、動くなって言っただろうが?」
「す、すみません…」

謝罪し、足を元の位置に戻す。

「なんで前屈みになってんの? ほら、ちゃんと背筋を伸ばして!」
「はい… はいぃ……」

震える身体をなんとか動かして背筋を伸ばす。
すると、当然のように巨乳が、ぎりぎり、とテグスに引っ張られ、乳首を引き千切られるような痛みが咲乃を襲った。

「うぅ… 痛い…」
「あれ、痛いの?」

思わず零れた本音を、耳ざとく拾ったディレクターがニヤニヤ笑いのまま聞き返す。

「いえ… 痛くないです」
「だよねー」

声とともに、さらにテグスが引っ張られた。

「いぎぃッ!!」

声を出すまいと歯を食いしばった口から、どうしても押さえきれない悲鳴が鳴った。

(乳首が… 千切れる…!)

気絶しそうなほどの激痛を、しかし、咲乃は耐えた。

(乃々… 乃々……!)

愛娘の顔を頭に思い浮かべ、咲乃は拷問に等しい責めに耐えた…



「…ふーん、まだ根性は残ってるんだ」

ディレクターがようやくテグスを緩める頃には、咲乃の乳首は伸びきってしまい、僅かに出血すらしていた。

「はぁはぁはぁはぁ……」

荒く息を吐く咲乃の額から、幾筋もの汗が伝い落ちる。

「…良くわかってるみたいだな。俺の指示一つで、お前たち母娘が消し飛ぶってことを」
「……はい」

ディレクターの言葉は、誇張があるにせよ真実である。

346プロダクションは業界大手で、いざとなったら沖田も乃々を守ってくれるだろう。

しかし、元・アイドル森久保咲乃が、こうやって番組ディレクターに抱かれているという事実は、消えることがない。

この関係を面白おかしく週刊誌にリークされれば、その時点で“アイドル・森久保乃々”は終わりである。

「よーし、それじゃ、今日はもう一つプレゼントをやるよ。股、開け」

見慣れた、そして新たなピアスリングとピアッサーをディレクターが取り出すのを見て、
咲乃の心を、もう何度目かわからない絶望が支配した。

「ココにも印をつけてやる、嬉しいだろ?」
「そ、それは…… うぅ………… はい……」

ディレクターが乱暴に触ったそこは、バイブレーターの刺激で生理的に勃起した咲乃の淫核だった。

(乃々… お母さん、頑張るから… 貴方を… トップアイドルに……!)

ピアッサーが柔肉を貫く直前まで、咲乃は「乃々… 乃々…」と呪文のように乃々の名前を唱え、そして…

「あああああああーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」

魂消るような絶叫が、部屋中に響いた……



妻が乃々の就寝を告げると、沖田は心から安堵してビールのプルタブを空けた。

「どうしてこうなったかなぁ……」

誰に聞かせるでもなく、沖田はビールの臭気と共に後悔に満ちた愚痴を吐き出した。

16年前、当時アイドルとしてそこそこ売れていた森久保咲乃は、ありふれた男性関係のスキャンダルで、あっさりと芸能界から去った。

咲乃は40代の男性俳優と関係を持ったが、間の悪いことにその俳優は既婚者で、
2人の関係をスクープした週刊誌は、『略奪愛』『不倫』と、事実を10倍に誇張して報じた。

結果、咲乃は芸能界を去ることとなったが、沖田はその後も何かと咲乃のことを気にして、援助を行った。

しかし、アイドルとしての道を絶たれた咲乃の生活は荒れ、とうとう、父親のわからない子供を孕む事態にまでなってしまった。


(しかし… 乃々ちゃんの存在は、咲乃にとって福音だった…)

さんざん、「堕ろす」「堕ろさない」の議論の末に産み落とされた乃々を見た咲乃は、
まるでそれまでの荒んだ生活が嘘のように真面目に生きるようになった。

乃々の存在が、咲乃の人間性を取り戻したのだ。


そして、乃々が13歳になると、満を持してように咲乃は乃々をアイドルデビューさせるために沖田の下を訪れた。

最初は渋った沖田だったが、咲乃の熱意と、確かにティンと感じた乃々のアイドルとしての素質に負け、
乃々のプロデュースを受け持ったのだ。

しかし、そこから先は全く上手くいかなかった。

肝心の乃々に、アイドルとしてのやる気が全く無かったのだ。

乃々も全く努力をしなかったわけではない。

母を喜ばせるために、親しい友達とも会わずに、レッスンと仕事に臨んだ。

しかし、根底から『アイドルとして成功する』という意識が欠けている乃々は、
レッスンでは駄目出しを連発し、仕事でもミスを繰り返した。

次第に、乃々はアイドル活動そのものを目に見えて嫌がるようになってきた。

そんな乃々には、ロクな仕事が入ってこなくなった。


(咲乃が“枕”をするようになったのは、それからだったか…)

仕事が入らないことに業を煮やした咲乃は、沖田に黙って枕営業を始めてしまった。

結果として、乃々はテレビ番組のレギュラー枠を獲得することに成功したが、
その代償に、咲乃には消えない汚点が再び刻まれることになってしまった。

(裏で手を伸ばして、咲乃の“枕”の事実を揉み消すことはできる… できるが…)

しかし、それをすると、乃々の仕事がなくなってしまうことも事実だし、
乃々に悪いイメージが付く可能性もある。

(頼むよ、乃々… お母さんを救えるのは、お前しか居ないんだ…)

現状として沖田が描くことのできる青写真は、
乃々が一念発起して仕事で成功を収め、その後に自分が円満に咲乃の枕を終了させることだ。

「はぁ… 俺が咲乃がカラダを使う前に止めてりゃなぁ…」

ポツリと呟いた誰にも届かないはずのその一言は、しかし、

「え……?」

トイレに起きた森久保乃々の耳に、飛び込んでしまった……

「浩郎おじさん… やっぱり、お母さん… そういうことしてるんですか…?」
「あ… いや、それは…」

内心ひどく狼狽しながら、沖田は無理やり笑顔を作って誤魔化そうとした。

「の、乃々ちゃん、何か聞き間違えをしたのかな? おじさん、酔ってるから」
「浩郎おじさん、お酒に強いです…! 私、聞き間違えたりしないです…!」

必死な乃々の声に、沖田の顔がゆがむ。

「……誤魔化さなくていいです。私、知ってましたから……」
「……何を?」
「共演者の皆が陰で『アイツの母親はインバイだ』って言ってるのをです…」

ストン、と乃々が床に座り込み、スンスン、と鼻を鳴らし始める。

「最初、森久保、インバイが何のことかわかりませんでした……
 だから、辞書で調べました… そして、納得しました…」

乃々の脳裏に、やけに親しく母の体を触るディレクターの顔が思い浮かぶ。

「お母さん、森久保の仕事を取るために、ディレクターさんとエッチしてるんです…
 森久保、もう14歳だから知ってます… そういうこと、職業にしてる人たちが、インバイって呼ばれてることも、知ってます…」

沖田は何とか声を絞り出そうとしたが、出てくるのはうなり声だけだ。

そうして、最悪の空気の中、森久保乃々はとうとう絶望の声を上げた。

「お母さん… 不潔です…… そんなまでして仕事をくれても、森久保は、全然嬉しくありません…!」
「……ッ!」

少女の、娘の、純粋な心から出たその言葉は、しかし、沖田にとっては逆鱗に触れる言葉だった。

「そんな事を言うな……!」
「お、おじさん…?」
「お母さんが、どんな思いでお前に仕事を取ってきてると思ってるんだ!?」
「そんなの…」
「お前のためなんだぞ!?」

とうとう歯止めが利かず、沖田の声が荒くなる。

「咲乃は、お前をトップアイドルにするために、文字通り身を削って…!」
「でも!」

キッ、と顔を上げて乃々が言った。

「そんなこと… もりくぼは頼んでません! うわーーーーーんッッ!!」
「それは…ッ! それは……」

とうとう大音声で泣き始めた乃々に、一気に毒気を抜かれた沖田が猛省する。

(一番辛いのはこの娘なのに… 何をやってるんだ、俺は…)

両手で顔を押さえていると、泣き声を聞きつけた妻が「どうしたの?」と起きて来た。

「すまん… 乃々をなだめて、寝かしつけてくれ…」
「…わかったわ。さ、乃々ちゃん、おばちゃんと寝よう、ね…?」

気心の知れた妻は、何も聞かずに乃々を寝室へ連れて行ってくれた。

再び1人になった沖田は、とある一つの決心を胸に固め、残ったビールを一気に煽った。

すっかりさめて温くなったビールは、とんでもなく苦く、不味かった……

翌日、学校が休みの乃々をプロダクションのレッスン室に送った沖田は、咲乃を346プロダクションの応接室に呼び出した。

朝イチで連絡を取ろうした沖田だったが、咲乃とは中々連絡が取れず、結局、咲乃が応接室に来たのは、昼を大きく過ぎてからだった。

「…咲乃、今日は重要な話があるが… お前、大丈夫か?」

開口一番そう切り出した沖田だったが、面前の咲乃は眼に見えて憔悴しきっていた。

「無茶されたんだな… アイツめ… もう絶対にウチのアイドルは回してやらんぞ…」
「やめてよ… ようやく乃々の出演を維持できたんだから……」
「それだ。俺が話をつける。お前はもう何もするな!」
「……何言ってるの?」

憔悴した表情の中で、そこだギラギラと光る双眸が沖田を貫く。

「馬鹿な事言わないで…! そんなことをしたら、これまでの努力が無駄になるじゃない!」
「これまでの努力より、これからの努力を考えろ! 俺とお前と乃々と、3人できちんと話をしようじゃないか。
 そうしなければ、お前も、乃々も、幸せになんかなれっこないぞ!」
「幸せ… 幸せなんて…!」

ギリ、と咲乃の歯が噛み締められ、呪いのような言葉が漏れる。

「…貴方にスカウトされてアイドルになった時から、人並みの幸せなんか、とうに諦めたわよ…!」
「馬鹿な!」
「私の幸せは乃々をトップアイドルにすることよ… そのためには、どんな苦労だって耐えて見せるわ…」
「違う、なんでそうなる……」

額に手をやり、悩みを振り払うように頭を振る。

「咲乃、お前をスカウトしたのは俺で、アイドルにしたのは俺で、そして、普通の人生を送らせなかったのも俺だ。
 それについては、俺は一生をかけてでもお前に償いをするつもりだ。
 だが、乃々は違う。森久保乃々は森久保咲乃じゃない。あの娘には、あの娘の人生を歩ませてやるべきだ!」
「勝手なこと言わないでよ…!」

最初から乱れていた髪を、さらに千々に乱して咲乃が叫んだ。

「乃々は私の娘よ! 私が叶えられなった夢を、あの娘は叶えてくれるの!」
「目を覚ませ! それはお前のエゴだ!」
「エゴで良いじゃない! 貴方だって、私に貴方のエゴを押し付けたじゃない!」
「俺はそうやって失敗した! よく思い出せ… 乃々を始めて抱いた時、どんな風に思った? 
 自分の分身に思えたか? そうじゃないだろう? 愛おしいと感じただろう?」
「それは…」
「それが母親の情愛だ。今なら引き返せる、母親として、乃々に接するんだ。
 アイドルの道を諦めろと言っているわけなじゃない。
 ただ、アイドルとしての成功は、お前たち母娘の幸せじゃないことに、気付いてくれ…」

長い沈黙が場を支配した。

咲乃は俯いたまま顔を上げない。

何か葛藤のようなものと闘っているように、見えた。

「……………咲乃」
「あのぅ…」

再び口を開きかけた沖田の声を、第3者の声が遠慮がちに遮った。

「……あぁ、千川さん、すまん、うるさかったな」
「いえ、それは良いんですが… その… 森久保さんにお客さまがいらっしゃってます…」
「……誰ですか?」

僅かに顔を上げて咲乃が言うと、千川と呼ばれた事務員は躊躇いがちに「…○○テレビのディレクターさんです」と答えた。

2人はほんの数瞬視線を交わすと、それぞれに異なる思いで千川に頷き返した。

意を得た千川が踵を返すと、すぐ傍で待機していたのだろう、件のディレクターが姿をあらわした。

「なに、何かトラブル?」

飄々とした態度でそう言うと、ディレクターは薦められる前に、ドカッ、とソファに身を沈めた。

「ちょうど良かった、アンタに話がある」

決意が滲む声で沖田がそう切り出したが、ディレクターは「いやいやいや」と軽く手を振って言った。

「沖田さーん、ちょっと席を外してくれない?」
「嫌だね。アンタに話があると言った」
「うーん、困っちゃうなぁ。ねぇ、咲乃さん?」
「………沖田さん、出て行って」
「…咲乃」
「…いいから、お願い」

なおも沖田は言い募ろうとしたが、再び咲乃が「お願い…」と呟き、沖田の身体を手で押した。

「……5分だけだ。すぐに戻る」
「はいはい、さよーならー」

その瞬間、沖田の足が歳と体型に似合わず軽やかに持ち上がり、
ディレクターの面前のソファデスクに猛烈な勢いで振り下ろされた。

バキィッッ!! と身が竦む破壊音と共に、ソファデスクが真っ二つに割られた。

「え……?」
「おい… あんまり俺を舐めるよ? テメェが新人の頃、新宿でカマ掘られた話、バラして欲しいのか?」
「どこで、それを…?」
「舐めるな、と言った」

それだけ言うと、沖田は「5分だ」と宣告し、威圧感を残したまま部屋から出て行った。

「クソ… あのロートル…!」
「お話は何ですか?」

激昂しかかるディレクターの気勢を削ぐように、咲乃が言った。

「…ああ、そうだった。まぁ、番組の話なんだけどさぁ、とりあえず、コレにサインして」

そう言うと、ディレクターは1枚のA4用紙を取り出し、破壊されてないソファデスクに置いた。

「…なんですか、これ?」
「読めばわかるよ」

そう促され、咲乃は用紙の文面を読み進めていった。

そして、読み終えた咲乃は、失望と困惑を顔に浮かべていた。

「ど、どういうことですか、これは!?」
「あれ? 喜ぶと思ったのになぁ… 秘密厳守の“誓約書”」

そのA4用紙は簡略書式の誓約書であり、その内容は、

『両者の特殊な関係を、互いに口外せず、また、以降は一切の接触を持たない』

という内容で、つまり、これまでの枕営業を世間的に『無かったこと』にする、というものだった。

沖田が読めば、喜んでサインさせるであろうその誓約書は、しかし、作った相手とタイミングから、咲乃にとっては不吉なものでしかなかった。

「……これにサインすれば、貴方とのつながりがなくなる…?」
「そういうことだね」
「…乃々は?」
「もちろん、ボクが気にかける必要も無くなるよね」
「ッッッッ!!」

瞬間、咲乃は頭から血の気が、サーッ、と引くのを感じた。

昨日の屈辱も恥辱も苦痛も、一切合財が無駄となり、泡と消えてしまうのだ。

そして、なにより、次回の番組に、乃々の姿は無くなるのだ。

「どうして… どうしてなんです…? 昨日は… 約束してくれたじゃないですか…?」
「そうなんだけどねぇ… 前から森久保さんとだけ“仲良く”してることに、他の共演者の奥様たちから突き上げ厳しくってねぇ」
「それは、でも…」
「で、今日になってさ、その奥様方と“合意”が取れて、これからいっそう“仲良く”することになったから、いい機会だと思ってね」

目の前が、真っ暗になった。

つまり、自分は…

「要するに、お前はもう飽きたからさ、別の美人人妻に乗り換えるってこと。わかった?」

絶望が、咲乃の心を暗黒に染め上げた。

「ちっ、盗聴器ぐらいつけときゃ良かった… なんで無闇に壁が厚いんだ…」

それは当然盗み聞きを防ぐためなのだが、沖田は自分で設定した5分間をハラハラと過ごしていた。

「………3分にしときゃ良かったか」
「………何をしてるんですか、おじさん?」

応接室の前で挙動不審に動き回る沖田に、聞き慣れた声が掛けられた。

「…ッ、ああ、乃々… 森久保か…… レッスン終わったのか?」
「はい… 終わりましたけど…?」

おどおどと答える乃々に、沖田は大きく頷くと、大きな手で乃々の頭を撫ぜて言った。

「今日、お母さんと3人で重要な話をしよう。おじさんに任せてくれ」
「……どんな話をするんですか?」
「お母さんが傷つかずに、そして、森久保も苦しまずにすむ方法を、3人で話し合うんだ」
「そんなこと… できるんですか?」
「ああ、おじさんに任せておけ」

太鼓腹をポンと叩くと、それが面白かったのかぎこちなく乃々が笑った。

「おじさん、ぽんぽこタヌキさんみたいです…」
「お、叩いてみるかい?」
「い、良いんですか…? 実は森久保、前からおじさんの太鼓腹には目をつけていたんです…」
「それはそれでちょっとショックだな…」

和やかな雰囲気で、乃々が沖田の太鼓腹に手を伸ばした時だった。

『お願いしますッ!』

防音の応接室から聞こえるほどの大きな咲乃の声と、ガタッ! と何かが倒れる音が聞こえた。

「ッッッ!! 開けるぞ!」
「は、はい…!」

即座に判断を下すと、沖田はドアノブを捻って応接室のドアを開けた。


そのきっかり1分前。

「あれだけの事を私にして、全部無かったことにするつもりなの…!?」
「人聞きの悪い事言わないでよ。全部、win-winの関係だったでしょ?
 だいたい、アレだけボクがプッシュしたのに、キミのコ、全部のチャンスをフイにするんだもん」
「それは… そうかもしれませんけど…!」

咲乃が、痛みを堪えるように下腹部を撫ぜる。

昨晩、無理やりピアス穴を空けられた淫核は、まだズキズキとした鈍痛を咲乃に与えている。

また、極太のバイブレーターを無理やり挿入された膣も、ヒリヒリするような痛みを残している。

しかし、その痛みより、女のプライドを潰されたことが、何より咲乃にはショックで、
だから、彼女は、自分の過ちに今回も気付かなかった。

気付くことが、出来なかった。

「……もっと、もっと過激なプレイも我慢します…… だから、関係を白紙に戻すことだけは…」
「えー、けっこうやり付くしちゃったしなぁ… 浣腸もしたし、野外露出もしたし、ボディピアスもしたし…」

ディレクターが下品な言葉に合わせて指を折る。

「まぁ、キミとボクだけじゃプレイの幅も拡がらないよね、だから、キミとは別に他の人たちと…」
「だったら……」

地獄の底から絞り出るような声が、咲乃の口から漏れた。

「私“だけ”じゃなければ良いんですね?」
「え…? いやいや、どうだろうなぁ…」

気の無い返事をするディレクターだが、内心では喝采を上げていた。

彼の考えは、咲乃の関係を維持しながら、他の共演者の母親をも食い物にしようとするものだった。

そうして、親同士を競争させて、自分のハーレムを築こうという、下衆なものだった。

(よしよし、これで出演をちらつかせて、他のオンナとの関係を承知させれば、後は…)

しかし、その浅はかな考えは、当然のように破綻した。

「だったら、乃々も… 乃々も一緒に…!」
「……え?」

何かに取り付かれたような、鬼のような形相で、咲乃は割れたソファデスクを蹴飛ばす勢いでディレクターに縋り付いた。

「お願いしますッ!」

その瞬間、ドアが沖田の手によって開かれ、咲乃は、言ってはならない言葉を、聞かせてはならない人物に、言った。

「乃々も一緒に“枕”をさせます! 一緒に抱かれます! だから、これまで通り…ッ!」

全てが、凍りついた。

「……お母さん?」

凍結した空間に亀裂を入れるように、乃々がポツリと呟いた。

「枕って、何…? 抱かれるって、何…? もりくぼ、馬鹿だからよくわかりません…」

本能では理解しつつも、理性がそれを全力で否定する。

しかし、母の口からは撤回の言葉を聞けることはなく、
まるで、乃々の予想を肯定するような「乃々… ごめんなさい…」という、掠れた声だけが漏れた。

「ごめんなさい… ごめんなさい… ごめんなさい… ごめんなさい…! ごめんなさい…!! ごめんなさいッ!!」

気が触れたように謝罪の言葉を口にする咲乃を見て、過程はどうあれ結果を理解した沖田は、
完全に怒り心頭に発し、ディレクターの胸倉を掴んで、力任せに吊り上げた。

「テメェ! 生きて美城から出られると思うなよッ!」
「なッ… やめて… 暴力反対……!」

あっさりと怯えるディレクターを乱暴に投げ捨てると、何事かと駆けつけてきた後輩プロデューサーを見て怒鳴る。

「おい武内ッ! そのクズを第6レッスン室にぶち込んどけ!!」
「第6…ッ!! ……わかりました、さあこちらへ」

大柄で目つきの悪い後輩プロデューサーから慇懃無礼に促され、ディレクターは反論も反抗も出来ないまま、室外に連れ去られた。

「おい… 咲乃… お前は何も言ってない、乃々も何も聞いてない! それでいいだろう!」
「ごめんなさい… ごめんなさい… ごめんなさい… ごめんなさい…」
「咲乃ッ!」

パーンッ! と沖田が咲乃の頬を平手で叩き、ようやく咲乃は大人しくなった。

しかし、

「の、乃々…」
「お母さん…」

心配そうに母を眺める娘の顔を見ると、ぼろぼろ、と大粒の涙を流し、そして、乃々のカラダに触れて、言った。

「ごめんね… 貴女を愛していたのに… ずっと愛していたのに……」

そう言い残すと、ドンッ、と乃々を沖田に突き飛ばすと、脱兎のごとく咲乃は応接室から走り去った。

「咲乃ッ! ええい、クソ…」
「え… お母さん… お母さん…?」

沖田が巨躯を揺らして咲乃を追い、1人残された乃々は、呆然として座り込んだ…




結局、森久保咲乃は失踪した。

346プロダクションから去った彼女は、森久保の家にも戻らず、いずこかに姿を消してしまった。

沖田は興信所を雇い、彼女の行方を捜したが、その結果を誰にも口にすることはなかった。

あのディレクターは、346とテレビ局とのトップ会談の末、地方局の定点カメラマンとして飛ばされることになった。

そして、乃々は……




――半年後

「おい、森久保ぉ~~~~!!」
「…はい、準備できてます」

もはや恒例となった沖田の声に、小さく、だが、はっきりとした声で森久保乃々が答えた。

「リハみたいな失敗、するんじゃないぞ」
「はい、たくさん、練習しましたから…」

乃々は、まだ346プロでアイドルを続けていた。

あの番組は降ろされたが、その後の地道なレッスンとオーディションが実り、今は3つの準レギュラーを持つアイドルに成長していた。

あの時の共演者とはあの後正式に謝罪し仲直りし、今ではアイドル友達として仲良く遊ぶ仲になっている。

「………体は辛くないか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか…」

現場への車の中で、沖田が心配そうに尋ねる。

母親が失踪して、天涯孤独となってしまった乃々は、今は沖田の家に引き取られて暮らしている。

「…今日の夕ご飯は手羽先だそうだぞ」
「本当ですか…!? 森久保、頑張ります…!」

小さく、グッ、と気合を入れる乃々を、複雑な表情で沖田が見る。

「頑張ったら……」
「ん……?」

気合を入れた表情のまま、乃々が確認するように呟いた。

「頑張って、テレビで活躍したら… どこかでお母さん、森久保の事を見ていてくれますよね…?」
「ああ、もちろんだ。どこかで、見ていてくれるさ…」

スッ、と一瞬だけ視線を宙に逸らし、沖田がしっかりと頷いた。

「なら… 森久保は頑張ります…… いつか、お母さんと会える日に向かって… 頑張ります…!」

静かな決意を秘めたその言葉を聞いて、沖田は、そっと乃々の手に、自分のソレを重ね合わせた………











































































「あそこの仲居さん、アイドルの森久保乃々に似てない?」


                                        fin

はい終わり。

だいぶ長い間暖めていたネタですが、無事にアウトプットできて一安心です。

オリジナルでやれよって意見もあるでしょうが、
森久保乃々というキャラじゃないと、この話は出来なかったと思います。

ではでは。

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