男「俺、座敷童子だから」(24)
兄「何言ってんだ、お前」
男「だから家にいるのが仕事なんだよ!!」
兄「高校卒業して働きもせずに家でダラダラするのが仕事かよ」
男「俺、座敷童子だからな」
兄「ただの自宅警備員じゃねーか」
兄「どうでもいいけどさっさと働く場所探せよ」
男「働いてるし」
兄「収入ないくせに」
男「親父の財布から毎月5万」
兄「ふざけんな」
男「でも、あれだよ?座敷童子に冷たくすると、家が不幸になっちゃうよ」
兄「お前が働いてない時点でうちの両親は不幸だよ」
男「だから働いてるって言ってるじゃん」
兄「座敷童子は職業じゃねぇ」
男「でも、俺がいることでこの家は守られてるから」
兄「何に守られてるんだよ」
男「不幸?」
兄「何で疑問形だ」
男「でも、座敷童子にも困った事が起きてます」
兄「俺や両親はお前の存在に困ってる」
男「童貞なんです」
兄「しらんよ」
男「兄は彼女いるんだよな」
兄「そりゃ、いるよ」
男「貸してくれないか?」
兄「ぶん殴られたいのか?」
男「俺と兄、兄弟じゃないか。穴兄弟にもなっておこうよ」
兄「だからなんで俺の彼女でお前を穴兄弟にしなきゃならんのだ」
兄「百歩譲ってデリヘルでも頼めよ」
男「ゲームの買い過ぎでお金が無い」
兄「じゃあ、彼女を作れよ」
男「俺が外に出たらこの家が不幸になる」
兄「自分の彼女で童貞捨てさせてくれって、弟に頼まれてる俺の方がよっぽど不幸だ」
男「でも、俺は巨乳の方が好きなんだ」
兄「俺の彼女が貧乳で何が悪い?」
男「だから、兄には今の彼女と別れてもらって、新しい巨乳の彼女と付き合ってもらいたい。そして童貞を捨てさせてくれるとうれしい」
兄「よし、とりあえず泣くまでぶん殴ろうか」
男「やめてください。俺を殴るとこの家が不幸になるから」
兄「お前が弟の時点で俺は不幸でしかないけどな」
ガチャッ
女「あ、兄くんこっちに戻ってきてたんだ」
兄「ああ、隣の家の女ちゃんか」
男「……」
女「男君、仕事の調子はどう?」
兄「?」
男「ま、まあまあだよ」
兄「…?」
女「そっか。男君も頑張ってるんだね、私も見習わないと」
兄「そういや、女ちゃんは高校卒業して、どこで働いてたんだっけ?」
女「中堅電機で働いてます。もう7年目で、ようやく営業グループの主任だから、お世辞にも出世してるとは言えなくて…たはは」
兄「7年か」ジロッ
男「……」プイッ
兄「でも、頑張ってるよな。女性で営業の主任なんて俺は凄いと思うよ」
女「兄さんにはかないませんよ。大学卒業して、8年で大手商社の課長ですもん」
女「凄いエリートじゃないですか、正直、憧れちゃいますよ」
女「それに男くんは大型コンピューター会社の係長だから、やっぱり私が一番出世できてないし」
兄「は?」
男「……」
女「今日は久しぶりに兄さんに会えてよかったです。久しぶりに仕事のやる気が出た気がします」
兄「あ、ああ」
女「それじゃあ、また来るね、男くん」
男「…ああ」
兄「大型コンピューター会社の係長?」
男「……」
兄「それ、俺の友じゃね?」
男「……」
兄「…見栄張るのはいいけど、さすがにそれはばれるだろう」
男「だ、だって、女のやつ凄い目ぇキラキラさせてたし」
兄「せめて日雇いで働いてます程度の見栄くらいじゃないと、すぐにばれるぞ」
男「それは見栄になってない」
兄「自宅警備員にとったら充分な見栄だろ」
男「いや、俺、座敷童子だから」
兄「それにしてもお前は何でそんな見栄張るんだよ」
男「いや、上手くいけば女とヤれるかなぁって…」
兄「まあ、確かに女ちゃんは幼馴染みで可愛いっていうか、美人になったし、胸もそこそこ大きいし、優しくて、料理も上手いけど…」
兄「あれだけ綺麗になったら、すでに彼氏が出来ててもおかしくないだろ?」
男「つきあってる奴はいないって、少し前に聞いた」
兄「それでも、お前の見栄がばれてないとしてさ、向こうから何のアプローチも無い時点で、お前には望み薄なんじゃねぇか?」
男「いや、まだ女が照れてるだけだし」
兄「…どんだけ自分に自信があるんだよ」
男「だから女との初エッチに失敗しないように兄の彼女を俺に貸してくれ」
兄「とりあえずお前が謝るまで蹴り続けてやろうか?」
男「ごめんなさい。俺を蹴るとこの家が不幸になるから、やめてください」
兄「結局、お前はどうしたいんだよ」
男「家にいながら童貞を捨てたい」
兄「じゃあ、オナホかダッチワイフでいいじゃねぇか」
男「初体験は三次元の生身がいいです」
兄「じゃあ、デリヘル呼べよ。今回に限り、金は出してやるから」
男「素人がいいです」
兄「じゃあ、彼女作れよ」
男「無茶言うなよ、兄」
兄「無茶を言った覚えはない」
男「俺が家を出たら、この家崩壊するぞ」
兄「お前のせいで家族の関係は崩壊気味だがな」
男「もう、初体験の相手は母でいいかな」
兄「なに、さらっと怖いこと言ってるんだ、お前は」
男「母って処女じゃないけど素人だよな?」
兄「違ったら、俺が泣くわ」
男「そうだね。俺も母が処女だったら、感動で泣くかも」
兄「なんでそうなる」
男「母、年くってるっけど巨乳だし」
兄「……」
男「母に筆おろし頼むかぁ~」
兄「それはマジでやめてくれ」
男「え?兄も母を狙ってんのか?」
兄「お前はおかしい」
男「なんで俺には姉や妹がいないんだろ」
兄「ツッコまないからな」
男「いや、突っ込むだろ。姉や妹がいたら」
兄「突っ込まないし、ツッコまない」
男「?」
兄「とりあえず真面目に働け。そうすればうちの会社の奴らの合コンに参加させてやるから」
男「それは無理」
兄「働きたくないからか?」
男「俺、座敷童子だから合コンのための外出は出来ない」
兄「お前、本当に最悪だよな」
男「だから、合コンをこの家で開くべき」
兄「両親が泣くぞ」
男「両親にも参加してもらえばいい」
兄「その時点でこの家が幸福になるビジョンが俺には見えない」
男「でも、俺が幸せになれるから、この家も幸福になる」
兄「よし、理解した。なんにせよお前の頭はおかしい」
男「兄。そういえば父と母は?」
兄「父は引越し作業中。母は新居に行ってる」
男「は?」
兄「お前の面倒を見切れないって、父も母も俺に泣きついてきたから、俺が引越しを勧めた」
男「じゃあ、この家はどうなるの?」
兄「お前にあげるらしい。お前が座敷童子だとか言い張ってこの家を出ないから、父も母も諦めたみたいだ」
男「父がいなかったら、俺は誰の財布から5万貰えばいいの?」
兄「働け」
男「母がいなかったら、どうやって童貞捨てればいいの」
兄「彼女作れ。もしくは風俗で捨てろ」
男「でも、俺がこの家にいなかったらこの家は不幸になるよ」
兄「家族が不幸になるより全然いい」
兄「ちなみに父と母の新居はお前には内緒な」
男「本気か?」
兄「冗談は嫌いだ」
男「俺、この家で餓死するぞ」
兄「日払いの日雇いで働けば餓死もしないぞ」
男「だから、俺がこの家を出たら不幸になるんだって」
兄「お前だけが不幸になるなら別に問題ない」
男「それでも俺の兄かよ!!俺の人生が心配じゃないのかよ!!」
兄「心配は通り越して、後悔してるから安心しろ」
兄「俺も父も母も」
男「くそっ!!何でそんな意地悪するんだよ!!俺が何したって言うんだよ!!」
兄「何もしてないからだろ」
男「だから俺は座敷童子なんだって!!」
兄「座敷童子は飯も食べないし、ネットもしないし、ゲームもしない」
男「俺は特別な座敷童子だから!!」
兄「とりあえずテーブルの上に5万円ある」
男「な、なんだ、よかった…」
兄「それがお前の最後の生活費だ」
男「全然よくねー!!」
兄「とりあえず今月のガス、電気、水道は支払い済みだ。あとはお前の通帳から自動引き落としされる」
男「俺の通帳にいくら入ってるんだ?」
兄「俺が知るわけないだろ。コンビにでも行ってカードの残高確認して来いよ」
男「兄、行ってきてくれ」
兄「なんで、俺が?」
男「俺、座敷童子だから外に出られない」
兄「…カード貸せよ」イラッ
男「あ、うん」
兄「全く。あの馬鹿は…」
兄「カードの残高は、っと…」
兄「1757円って…少な!!」
兄「引き落としがネットの買物とゲームの課金だけかよ」
兄「とりあえず3万くらいは突っ込んどいてやるか。死なれても困るし」
兄「ただいま」
男「おかえり」
兄「ほら、カード」
男「えっと、残高が31547円か」
男「これだけあればあのゲームの衣装が結構買えるな」
兄「おい」
男「なに?」
兄「来月からのガス、電気、水道代だ。その金は」
男「でも、お金は自動で振り込まれるんじゃないの?」
兄「どこからだよ」
男「俺、座敷童子だから」
兄「座敷童子に収入はないだろ」
男「は~。座敷童子が楽に生きていけないなんて、世知辛い世の中だよね」
兄「座敷童子が金をむやみやたらに使う世の中の方がおかしいと思うぞ」
男「そろそろ座敷童子やめよっかな」
兄「それは朗報だな。父や母も喜ぶぞ」
男「これからはちゃんとした自宅警備員になるよ」
兄「前言撤回だ」
男「とりあえずコンビニで漫画と昼飯を買う事からはじめるよ」
兄「働く事からはじめろよ」
男「それは無理だよ」
兄「何でだよ」
男「俺、自宅警備員だから」
end
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