男「風が吹けば」火傷女「桶屋が儲かる」 (138)

男「そういえばさ、なんで風が吹くと桶屋が儲かるって言うんだろうね」

火傷女「確か風ってのは流行病のことで、死人のお陰で棺桶が馬鹿みたいに売れるから桶屋が儲かる……って話はよく聞くけど」

男「うわっ、マジか。あれって諺じゃなくてブラックジョークの類だったのか、知らなかった」

火傷女「いや、本当にそういう意味なのかどうかは知らないし。真に受けられても困るんだけど」

男「そっか……でもまあいいや、一応これで五年来の謎にも区切りがついた訳だし」

火傷女「そんなことで五年も悩んでたワケ?」

男「いやぁ、なんて言うか……調べるのがめんどくさくて」

火傷女「呆れた」

男「ははは……っと、もう家に着いたか。じゃーね女、また明日」バイバーイ

火傷女「……」スタスタ



火傷女「………………」スタスタ



火傷女「……ただいま」ガチャ

火傷女「……」バタン ドサッ



火傷女「……死にたい」ボソッ

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火傷女(中学の頃、家が火事で全焼した)

火傷女(隣の家の子供がライターで遊んでて、それが原因で出火したらしい。冬だったしあっという間に大きな火事になって、私の家にまで燃え移った)

火傷女(深夜で寝てたし、火の回りが早かったせいで、私も両親も逃げることは出来なかった。結果として両親は死に、私は病院で目が覚めた)

火傷女(……最初に鏡を見た時の気持ちは、忘れたいけど、忘れられない)

火傷女(でも、本当に酷いのはその後だった)

火傷女(親戚の連中はみんな私を腫れ物扱い。唯一親身に励ましてくれた叔母夫婦も、両親の生命保険を根こそぎ毟り取ってからは掌を返して冷たくなった)

火傷女(結局はボロいアパートに押し込められて、学費も奨学金を使って騙し騙し生活するハメになって……)


火傷女(どうして私はあの時―――両親と一緒に、死ぬことができなかったんだろう?)

-翌朝・教室-



火傷女「……」ボー


男「おはよー」

友「おっ、おはよーさん。相変わらず時間ギリギリだな、お前」

男「ははは、どうしても朝は起きられなくってさ。あっ、女もおはよー」

火傷女「……」ジロッ

男「oh…」

友「あらら、まーたフラレちまったな」HAHAHA

男「うっせ、ほっとけ、傷に触るんじゃない」HAHAHA

火傷女(こいつは……)ハァ


キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン

-授業中-


先生「これは~であるからして~」

火傷女(ねむ……)ウトウト

男「……」チラッ

先生「こうなるわけである……って、おい、火傷女!」

火傷女「ッ! はい!」

先生「教科書に今説明した方程式の応用問題が載ってる。解いてみろ」

火傷女「え、えーっと……」

生徒達「」クスクス

火傷女(問題ってどこの……あーもう、こんな時ばっかり注目するなよッ)

男「……103ページの問5」ボソッ

火傷女「へっ、あー……答えは15です」

先生「よろしい、正解だ。後できちんと男に礼を言っておくように」

男「あらら、バレてら」テヘペロ

生徒達「」HAHAHAHAHA

火傷女「……」ムスッ

火傷女「さっきはありがと。それじゃ」ツーン

男「いやいやいや、ちょっと待って! もうちょっと会話しようよ!?」

火傷女「何?なんか話すことあるの?」ジロッ

男「話すことがなくても、とりあえずコミュニケーションは取っとくべきでしょ。俺人間、お前も人間。喋ることに特化した生き物。アンダスタン?」

火傷女(うざいな……)イラッ

火傷女「……じゃあ聞くけど、なんでさっきは問題だけ教えたわけ? 直接答えを教えてくれても良かったでしょ」

男「あ、それはごめん。単純に問題が難しくて答えが分からなかったんだ」

火傷女「……呆れた」

男「ははは、だからごめんて。でも凄いよな、女は。あんな難しい問題をすぐに解いちゃってさ」

火傷女「別に。あれぐらい出来て当然でしょ」

男「oh…」

火傷女(親戚達に疎まれ蔑まれ続けて、身近な親族に裏切られて。分かったことが一つだけある)

火傷女(本当に他人の痛みが理解できる人間なんて、誰もいないんだ)

火傷女(……そんな当たり前のことにこんな風になるまで気付けなかった自分が、本当に恨めしい)

火傷女(学校の奴らだってそう。勝手に哀れんで近付いて来る癖に、影で悲劇のヒロイン気取りとか言って笑ってる。どいつもこいつも、そんなのばっかりだ)

火傷女(だからきっと、あいつだって同じだ)

火傷女(高校二年に進級してから絡んでくるようになった……あいつも)

男「女!今週の日曜ヒマ?暇なら映画でも見に行かない?」

火傷女「は、なにそれ。なんかの罰ゲーム?」

男「それは俺と映画見に行くのは罰ゲームと同義ってことか!?流石にそれはショックだ……」ショボーン

火傷女「いや、そういう意味じゃ……」ハッ

火傷女(なにフォロー入れようとしてるのよ、私。……こんなヤツ、放っとけばいいんだ)

男「くっ!でも俺は諦めないぞ!今度こそは頷かせてやるからな覚えてろよコンチクショー!」ダダダッ

火傷女「……」

火傷女(無視しても無駄、殴っても無駄、皮肉も嫌味も通じない……本当になんなんだ、あいつは)

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン


火傷女「……」

男「女、一緒に帰ろうぜ!」

火傷女「……」スタスタ

男「あっ、待って!まだ俺帰る用意できてない!ちょっと!おーい、待ってくれぇ!」

火傷女(追って来たぞあの馬鹿)

男「ふぅ、行ったかと思ったよ」ヤレヤレ

火傷女(結局今日も追いつかれたか……まあ、ムキになって走って逃げるのもアホらしいし、もういいや)

男「あっ、そうそう。この前の風が吹けば桶屋が儲かるってヤツ」

男「あれって実は全く関係ない物事を無理やり繋げてできたこじつけの理論とか、そういうのを表してるんだってさ。つまり特に深い意味はないみたいだ」

火傷女「ふーん」

男「それに元々は桶じゃなくて箱で、三味線がどうとかで……」

火傷女「あっそ」

男「……俺の話聞いてる?」

火傷女「全然」

男「(´・ω・`)」ショボーン

男「ま、いいけどさ」

男「女が興味ない話なんかしてもしょうがないもんな、ごめんね」ニコッ

火傷女「……ッ」ズキッ


火傷女(とぼけたフリして、本当は自分が疎まれてるって分かってるだろうに。なのになんでそんな風に笑ってられるんだよ……ッ)イライラ


男「それにしてもさ、やっぱり今日の数学の時、女がさらさらっと問題を解いたのは凄かったなぁ」

火傷女「……凄くなんか、ない。第一あの時、突然に当てられて混乱してる私をクラスの奴ら笑ってたでしょ。無様って言うんだよ、ああいうのは」

男「ちゃんと解けたんだから、いいじゃん別に。無様なのはむしろ自力で解けなかった俺の方なワケだし」

男「でも先生に当てられたのは女が寝そうだったのが原因でしょ。それを今になってぐちぐち言うのは、まあ、確かに無様かもね」

火傷女「うっさい」

男「ははは、じゃーね女!また明日!」バイバーイ

火傷女「……」スタスタ

-火傷女の自宅-


火傷女「……」ガチャッ

仏壇「」

火傷女「……ただいま」バタン

火傷女「はぁ」ドサッ

火傷女(どうしてこんなに、イライラするんだろ)

火傷女(なんか頭の隅にあいつの顔が貼りついて……意味わかんない)チラッ

写真「」

火傷女(父さんと母さんと私の、三人で撮った写真……能天気に幸せそうな顔して、馬鹿みたい。お前、その次の年にこうなるんだぞ)


火傷女「………………」


火傷女「ほんと、バカみたいだ」ポロポロ

男「おはよー女!今日の数学の宿題教えてくださいお願いします!なんでもしますから!!」

火傷女(なんでもって……まあ、二度と話しかけてくるなとか言っても意味ないんだろうけど)

火傷女「……はい」スッ

男「いや、直接ノート渡されても困るっていうか……できれば優しく口頭で教えて頂けないかなぁ……なんて」チラッチラッ

火傷女「」ツーン

男「……有り難く拝見させて頂きます」フカブカ

男(女の字、綺麗だな。内容も分かり易いし、道理で勉強ができるわけだ)

男(あっ、隅に猫のラクガキがある……しかもかわいい。なんか意外だな)ニヤニヤ

男(……もっと今のあいつのこと、知りたいな。二人で出掛けたりとかしたい)

男(結構アタックしてるけど……どうやったらデートにまでこぎつけられるんだろう)

男(……やばい、気持ち悪いな俺。なんかストーカーみたいじゃん)

男(変なこと考えてないで早く宿題写さないと……って、あ)


キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン


火傷女「授業始まるからノート返して」

男「待って!もう少し!先っちょだけ、先っちょだけでいいから!」アセアセ

火傷女「なに言ってんの」

男「」orz

友「」orz

男「結局間に合わなかった……」

友「ああ、それにまさか廊下に立たされることになろうとは……」

男「情けないなぁ」

友「情けないってよりは、なんていうか……間抜けな感じ?」

男「ははは、そうだな!」

男・友「HAHAHAHAHA!」

先生「うるさい」ガラッ

男・友「ごめんなさい」ショボーン

男「……」

友「……」

友「なあ……お前、好きな子誰だよ」

男「唐突だなおい。言わなきゃダメか?」

友「いや、ノリでなんとなく聞いただけだから言わなくてもいい。それに大体見当もついてるしな」

男「あ、やっぱり?」

友「むしろあれで気付かない方がおかしいって」

男「……ああ、そーだよな。気付かない方がおかしいよな。なのに伝わらない。なぜだ」

友「壊れるほど愛しても、ってヤツだな」

男「三分の一も伝わらないんだなコレが」

友「純情な感情は空回りぃ~♪」

男「I love youさえ言えないでいる~♪」

男・友「マイハァァァァァァァァットッッッ!!」

先生「うるさい」ガラッ

男・友「ごめんなさい」ショボーン

-昼休み-


男(ありゃ、弁当がない……家に忘れたみたいだ)

男(まあ財布は持ってきてるからいいか。友でも誘って学食に行こう)

男(……そういえば、女って昼休みはどこにいるんだろう。授業が終わるとすぐに教室から出て行くし。便所飯……は性格的にないだろうしなぁ)

男(まあ、気にしてもしょうがないか。たぶん一緒に食べようなんて言っても、きっとこっぴどく断られる)

男「友、学食行こうぜ」

友「おう、いいぞ。にしても珍しいな、お前が学食誘うなんて」

男「俺にだって……弁当を忘れることぐらい、ある」

友「そーかそーか。そんな可哀想な男クンには、俺のオススメを教えてしんぜよう」

男「マジか!こっちに来てからはほとんど行ったことないから、何があるのかすらよく分かんなかったんだよな。感謝するぞい」

友「ははは、いいってことよ」

-校舎裏-


火傷女「……」モグモグ

火傷女(安上がりだからサンドイッチにしてるけど……流石にもう飽きてきた)

火傷女(具を変えるにしても、もう一通りやったし。そもそも私パン派じゃなくて米派だし)

火傷女(でもお米って高いんだよなぁ……)ハァ

火傷女(バイトしたい、けど……保証人になってくれるような大人の知り合いはいないし、そもそもこんな顔の女を雇ってくれるところなんて……)

火傷女「……世知辛い」モグモグ

火傷女「…………味付けミスった。これ辛い」ハァ…

-放課後-


火傷女「」Zzz…

男(腕組んで机に突っ伏してる……)

男「おーい、女ー。授業終わったぞー」ユサユサ

火傷女「」Zzz…

男「ダメだこりゃ」

友「諦めろ。一旦寝ると絶対起きないからな、そいつ」

男「ん、そうなのか?」

友「ああ、一年の頃からそうだよ。今年転校してきたお前は知らないかもだけど」

男「……ふーん」チラッ

火傷女「」Zzz…

男(なんとかして寝顔見れないかな)チラッチラッ

友「……お前、よからぬことを考えてただろ?」ニヤリ

男「まさか。居眠りってのはさ、誰にも邪魔されず自由でなんというか、救われてなきゃダメなんだ。独りで静かで豊かで……」

友「なるほど、そういうのもあるのか」

友「まあそれはそうと、さ。今日お前ヒマか?」

男「おう、特に用事はないぞい」

友「そっか、じゃあカラオケとか行かね?他にもクラスの仲良いヤツが何人か一緒に来るんだけどさ」

男「んー……」チラッ

火傷女「」Zzz…

男「分かった、行くよ」

友「おっ、そうこなくっちゃ!じゃ、早速行こうぜ!」タタタッ

男「おう!……っておい待て、走んな!追いつけない!」タタタッ


火傷女「………………」

友「というワケで、我々はこれからカラオケ店へ向かいまーす!」

男「いえーい!」

級友A「ウェーイ!」

級友B「WRYYYYYY!」

級友C「イヤッッホォォォオオォオウ!」

級友B「それにしても今日は男も一緒か、珍しいな。平日は火傷女と帰るのを何よりも優先してそうなもんだが」

男「ん、そうか?」

級友A「そうだよ。ってかほとんどべったりじゃねーかwww」

級友C「軽くストーカーじみてましたなwwwあれはwwwww」

男「マジか……いや、ストーカー呼ばわりは酷くね?」

一同「HAHAHAHAHA!!」


???「うるせぇな……ん、あいつは……」ニヤリ

友「それでさー」

男「ははは、マジか。……おっと、すみません」ドンッ

DQN「よぉ、久し振りだな男」ニヤニヤ

男「……ッ」ビクッ

DQN「随分元気そうじゃねぇか。新しい学校ではよろしくやってんのか?あ?」

男「……」


友(なんだ、こいつ。男の知り合いか?)イラッ

DQN「まあいいや。それよりまた金貸してくんねぇ?今金欠で困ってんだよ」

男「……」

DQN「……おい、いい加減黙ってないでなんとか言えやチビ。それともまた殴られてぇのか?あ?」

友「ちょっと待てよ、お前」

男「あっ……友」

DQN「あぁ?お友達クンは引っ込んでろよ。今コイツと話してんだからよ」

友「友達が目の前で脅迫されてて黙ってられる訳ねぇだろ」

級友B「つーか白昼堂々カツアゲとか、アンタ馬鹿じゃねーの?なに?警察呼んで欲しいの?」

級友A「しかも金欠だから恵んで貰おうなんてアホ過ぎだろ」

級友C「金が欲しいなら働けバーカwwwwwwwwwwwww」

DQN「チッ、うるせぇな。ちょっとこっち来い!」ガシッ

男「放せカス」パシッ

DQN「……あ゙あ゙ぁ?」

男(落ち着け俺……)スーハー

DQN「テメェなに舐めた口聞いてんだ!ぶっ殺すぞ!」

男「……さっき級友Bが言ったこと、もう忘れたのか?恐喝は立派な犯罪だ。証人もいる。これ以上駄々をこねるんなら相応の対処を取らせて貰うぞ」

DQN「あぁ?何言ってんだ、証人たってコイツらだけだろうが。そんなの証拠になるかよ!」

男「……最近の携帯は便利だよな。写真の撮影、音楽の再生、それに録音機能までついてる」

DQN「ッ!」ビクッ

男「前の学校の時、お前らが俺に何したのかって証拠だって家に残ってるし、お前が今なにをやっているかだって……俺は知ってる」

DQN「……」

男「……俺が何が言いたいのか、ここまで言えば流石に分かるよな?」

DQN「……う、うっせーよ!知るかよそんなこと!あーあ、白けちまった、つまんね」


DQN「ブツブツ」スタスタ


友「行ったか」

男「」フラッ

友「ちょっ!?どうした男!?」ガシッ

男「ははは、ごめん。ちょっと気が抜けた」フラフラ

友「お前……本当に大丈夫か?今日は帰ったほうがいいんじゃないか?」

男「大丈夫だって。ちゃんと元気だぞ俺」

友「でもなぁ……って、うお!?」ズシン

級友A「友、心配なのは分かるけどさ、ここは察してやれ」

級友C「そうそう。今日は皆で歌って騒いで、嫌なことは全部忘れるのが最善だろjk」

級友B「もし大丈夫じゃなくてもここはむしろ無理させてやるんだよ。そうした方が男も俺らも後腐れなくすむ」

友「そういうもんなのか?」

男「いや、よく分かんないけど……とりあえず今は叫びたい気分だね」

友「そっか……じゃあ行くか、カラオケ!」

一同「イヤッッホォォォオオォオウ!!」



男「壊れるほど愛しても、三分の一も伝わらない!純情な感情は空回り、I live youさえ言えないでいる」

一同「マイハァァァァァァァァァァァットッッッ!!」

-帰宅中-


男「あ゙ー、喉枯れた。それにすっかり遅くなった」

男(今日は楽しかったな。多少嫌なことはあったけど、それでも……うん、楽しかった)

男(あの時のDQNの顔、今思い出しても笑えてくる。ほとんどハッタリだったのに真に受けてさ、アイツってほんと馬鹿だな)ニヤニヤ


男「…………」スタスタ


男「……女、今頃どうしてるかな」ボソ

男(今日は一緒に帰れなかったからな。なーんか不完全燃焼っていうか、それが心残りなんだよなぁ)

男「よし。明日は絶対朝一に話しかけよう。うん、そうしよう」

男「ただいまー」ガチャッ

母「おかえりなさい、今日は随分遅かったわね。なんかダミ声だけど大丈夫?」

男「ははは、友達とカラオケ行ってたからね。楽しかったよ」

母「そうなの?なら、いいんだけど……」ドンヨリ

男「……もう大丈夫だからさ、心配しないで。母さん。それより夕飯のメニュー教えてよ」

母「……そうね、分かったわ。今日はカツカレーよ、早く着替えてらっしゃい」

男「やったぜ」

-夕方頃-


女「風が吹けば桶屋が儲かるってさ、どういう意味なんだろうね」

男「うん?そりゃあれだよ。あることが原因で、色んなものが巡り巡って意外なところに影響したりすることのたとえさ」

女「ふーん、物知りだね。じゃあ儲かるのは桶屋じゃなくてもいいわけ?」

男「たぶんそうなんじゃないかな。元々は桶じゃなくて箱だって説もあるらしいし」

女「へぇ……」


女(誰もいない教室で、意味のない雑談に花を咲かせる)

女(なんでもないことだけど、それでも私にとっては何にも変え難い時間なんだ)

女(女の私より背が低くて、でもいざという時は結構頼り甲斐があって、何でも知ってる男)

女(……彼とこのままずっと一緒にいたいと、そう思う)

男「ねぇ、女」

女「ん、なぁに?」

男「なんで泣いてるの?」

女「えっ?」


女「…………」ポロポロ


女「……なんでだろ、わかんない。わかんないよぉ」ポロポロ

女「なんでお父さんとお母さんは死んだの?なんでみんな私から遠ざかるの?なんで、なんで……」



火傷女「―――……なんで私は、まだ生きてるの?」

火傷女「……ッ!」ガバッ

火傷女「……夢、か」ハァ

火傷女「なんであんな夢見ちゃうかなぁ、もう」

火傷女「そもそもどうしてあいつが夢にまで出てきたのかが一番意味わかんない。しかも、ずっと一緒にいたい、とか……」


火傷女「…………」


火傷女「どうせ夢なんだ、もう考えるのはやめよう」

火傷女「……朝食、どうしようかな」ハァ…

男「おはよー女!」

火傷女「」ギロッ

男「oh……いつもより眼光が鋭い……」

友「ははは、またフラレたな」

男「うっせ」

級友C「男www顔真っ赤wwwwww」

男「うっせ!なってないし!」


男達「」ギャーギャー


火傷女(あいつ……よく飽きもせず毎朝毎朝、私に挨拶なんかして)

火傷女(その癖、他の女子には自分から挨拶したりしないし。……なんでかは、わかんないけど)

火傷女(でもどうせロクな理由なんかないんだ。もしくは、ほんとに理由なんかないんだろうけど)

火傷女(……なんであいつのことばっか考えてるんだろ)

-昼休み-


友「昼飯だ!」

男「弁当だ!」

級友A「一緒に食おーぜ!」

級友B「待て、ちょっと購買で惣菜買ってくる!」

級友C「教室で待ってるの面倒だし皆で外出て食おうぜwwwww」

一同「異議なーし!」


火傷女「……」ガタッ

火傷女(今日もサンドイッチか……もう少し後先考えない性格になれれば、多少は食生活がまともになるのかな)ウーム

火傷女(でも美味しいもの食べたって、それで何かが変わるわけじゃないし。それに、一人で食べたって……)チラッ


男「HAHAHAHA」スタスタ


火傷女「……」スタスタ

火傷女(何やってるんだろ、私)スタスタ

>となりの家の子供がライターで遊んでて

もちろん、そのバカガキとバカ親はちゃんと制裁くらったんですよね?(^^)

>>39
直接的な出火原因になった子供は焼死、親の方も家が全焼したので結構な被害が出たのではないかと思われます。たぶん。

-校舎裏-


友「相変わらずお前の弁当すげぇな」ワイワイ

男「ははは、そうだろ。やらんぞ?」ヤイヤイ


火傷女(よりによってここで食べるのか……木の裏に隠れてるからばれてはいないみたいだけど)コソコソ

火傷女(でもなんで私、こんなストーカーみたいなこと……いや、違う違う。いつも食べてる場所にたまたまあいつらが来ただけだ、他意はない。変に意識せず自然体でいよう)モグモグ


級友B「……なあ、男。蒸し返すべきじゃないんだろうけどさ、昨日のアレはなんだったんだ?」

友「おいコラ!」

級友C「Bww空気嫁wwwww」

男「ん?いや、気にしなくていいよ。こっちだってまともに説明する気はないし」シレッ

級友A「ないんかい」ビシッ

男「ははは……まあ、おもしろい話でもないからな。俺とアイツの関係だって、まあ、お前らが考えてる通りだと思うし」

友「……お前さ、嫌なこととかあったらちゃんと言えよ?相談に乗ってやるからさ」

級友B「んで、また騒ぎたくなったらいつでも言えよ?」

級友A「そーそー。それに絡んでくるようなアホがいるんなら、俺らがぶっ飛ばしてやるからな!」

級友C「うむ。リアルでショタな高校生は貴重ですしなwwwww」

男「……うん、ありがと。でもCは死ね」

級友C「ファッ!?」

今日はここまでにします
お疲れ様でした

男(とはいえ相談、かぁ……悩みがない訳じゃないけどさ)ウーン

級友A「おっ、早速悩みがありそうな顔してるな」

級友B「へぇ、気になるな。……いや、昨日の奴絡みってこともあるか……?」

級友C「いや、この空気でそれはないでしょうB。男の悩みとは、もしかしなくても恋の病の類でござろう?」ドヤァ

友「あー、なるほど。でもそれ、俺らがアバイスできるようなことあるのか?」

級友C「確かにwww拙者童貞なんで色恋とかパスwwwwwうぇwww」

級友A「嘘つけ彼女持ちが」

級友C「wwwwwwwwww」

級友B「死ね」

友「お前らな……」ハァ

友「まあともかく、実際のところはどうなんだ?どんな悩みでも、とりあえず人に話しとけばスッキリするもんだが……言いたくないことを無理に言う必要はないぞ?」

男「……」

男「いや、折角だから、相談させてもらおうかな」

男「俺、幼馴染がいるんだよね」

男「幼稚園の頃から一緒でさ、いつも二人で遊んでたんだ。勝気な性格のヤツでさ、いつも引っ張りまわされてた」

男「日が暮れるまでずっと遊んで、泥だらけになって。親同士も結構仲が良かったからさ、帰ってからも夕飯とか風呂とかで顔を合わせて、また遊んで。その繰り返し」

男「……今もお前らのおかげで楽しいけど、あの頃も本当に楽しかったんだ」

男「そんな日々がずっと続いてた。ケンカとかもほとんどなくてさ。小学生だったときの記憶なんて、俺、あいつの笑顔しか覚えてない」

男「でも中学に上がろうかって時に、突然引っ越さなきゃならなくなったんだ」

男「理由は父親の仕事の都合ってヤツ。詳しくは知らない。教えてもらえなかったから」

男「俺が両親から聞かされたのは、新しい学校のことと、あいつにお別れを言って来いって、ただそれだけだった」

男「当然引越しなんて嫌だって言ったよ。俺が駄々をこねてどうにかなることじゃないって、本当は分かってたけどさ。でも、言わずにはいられなかった」

男「まあ、結局は両親になだめられちゃって、あいつに引越しのことを伝えに行った」

男「そしたらさ、案の定あいつも『嫌だ!』って駄々こね始めて、その上暴れ出したんだ」

男「すげー泣き叫んでさ、『離れたくない』って言いながら俺にベアハッグをかけつつ無理やり押し倒して、小さな頭を擦り付けてきたりして」

男「つられて俺も泣いちゃって……そっからどうなったのかは、正直覚えてない」

男「でも最終的にはあいつも納得したみたいでさ。最後の思い出作りってことで、その日から引っ越しまでの間、これまで以上にバカみたいに遊びまわったんだ」

男「それで、引っ越して、向こうの中学に入って……まあ、色々あったからまた引っ越して、こっちに来たわけなんだ」


男「……俺は、もう一度あいつに会いたい」


男「でも、あいつの居場所が遠すぎて、死にたいくらい辛くなるんだ」

男「会いたくても今は会いにいけない。だからきっといつか、迎えに行こうと思ってる。けどさ、それがいつになるか分からないのが余計に辛いんだ」

男「だから話してみた。少しは楽になるかなって、そう思ってね」

男「……まあ、本当は誰にも言うつもりはなかったんだけどね。恥ずかしいし」テレッ

男「……」

友「……」

級友A「……」

級友B「……」

級友C「……」

友「……ごめん。相談に乗るとか言っといてなんだけどさ、俺、お前になんて言ってやればいいのか分からない」

級友A「ああ。……でも、そうか。昨日お前が1/3の純情な感情をやたら気合入れて歌ってたのってそういうことだったのか。なるほど」

男「おいやめろ、ロマンチストを見るような目で俺を見るのやめろ」

級友C「とんだロマンチストだな!」ドン

男「すぐネタに走るCは嫌いだ……」ドスッ

級友C「ぐふっ!?食事中に腹パンはキツいって……ッ」プルプル

級友B「……」

級友B「あのさ、今の話で一つ気になることができたんだけど」

級友B「お前ってさ、火傷女のことはどう思ってるわけ?今の話を聞いた後じゃ、普段のお前の態度がなんか腑に落ちないんだけど」

男「……」

友「……あっ」

級友A「そういやそうだな。てっきり俺、お前が火傷女に気があるもんだと思ってたんだが」

級友C「……二股ですかな?」

男「…………」

男「……強いて言うなら」

級友B「言うなら?」

男「LoveとLikeじゃ意味が違う、ってことかな。どっちがどっちなのかは、あえて明言しないけどね」

級友B「ふーん……」

級友C「なんだ、やっぱりロマンチストじゃないか!」

男「」ズドムッ

級友C「うぶっ!?無言の腹パン!?」ゲホゲホ

級友A「彼は……ロマンチストではない」

男「リアリストだ」キリッ

友「俺はポテトだ!」

級友B「なんで突然お芋宣言してんだ。せめてネタは統一しろよ」

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン


友「うおっ、もう昼休み終わった」

級友B「教室に戻るか」

級友A「うわー、午後の授業だりー」

級友C「ちょっと待ってまだ食い終わってない!」ガツガツ

男「あっ、俺も弁当片付けないとやばい!」ガサガサ

男「……」チラッ

男「」スタスタ スッ


木「」


男(誰もいない……気のせいか)

級友C「? どうしたんだ男?」

男「いや、なんでもないよ。それより早く教室に戻ろう」

級友C「お前が腹パンしまくるから遅れてるんですがそれは」

男「正直スマンかった」

-授業中-


男「」ボケー

男(なんか、思ったよりスッキリしたな)シミジミ

男(人に話せば楽になるって、本当だったんだ。友たちに話せてよかった)

男(でも楽に感じるってことは、それだけ溜まってたってことだよな……)

男(ストレスとか欲求不満は適度に解消してるつもりだったけど、全然ダメだな、俺。その内どうにかなっちゃいそうだ)ハァ…

男(しかし、その元凶といえば……)チラッ


火傷女の席「」


男「……どこにいったんだよ、あいつ」ボソッ

今日はここまでにします
お疲れ様でした

火傷女(……なんで私、自分の家にいるんだろ)

火傷女(……なんで私、布団に包まってるんだろ)

火傷女(授業サボって、勝手に早退までして……意味わかんない)


男『……俺は、もう一度あいつに会いたい』

男『でも、あいつの居場所が遠すぎて、死にたいくらい辛くなるんだ』


火傷女(……)

火傷女(あいつが誰が好きかとか、そんなの、どうでもいいのに……)


男『女!今週の日曜ヒマ?暇なら映画でも見に行かない?』

男『女が興味ない話なんかしてもしょうがないもんな、ごめんね』ニコッ


火傷女(なんで、なんで……)



男『ははは、じゃーね女!また明日!』バイバーイ



火傷女「なんで涙が止まんないだよ……ッ」ポロポロ

-翌朝・教室-


男「おっはよー、女!」

火傷女「」Zzz…

男「おっはよー、女!」

火傷女「」Zzz…

男「……おやすみなさい」ショボーン


男「ただいま……」トボトボ

友「散々な結果だったな」

男「まあ、今までも無視されること自体は結構あったし、別に気にしてないよ。気にしては、いないんだけど……」チラッ


火傷女「……」


男(……なんか、今日の女からは妙に違和感を感じるんだよなぁ)

男(昨日早退したのとなんか関係があるのかな?)


キーンコーンアーンコーン
キーンコーンカーンコーン


火傷女「」ムクッ


男(……授業は普通に受けるのか)

男(結局一言も口を利いてくれないまま放課後になってしまった……)

火傷女「」ガタッ

男「ちょっ、待てって!」アセアセ

火傷女「」スタスタ

男「なんなんだよ、待てよもうッ!」タタタッ


友「……」ジー


友「……なんかさ」

級友C「ん?」

友「あいつ、すげー青春してるよな」

級友C「確かに。後は男の真意が火傷女に伝わればいいのでござるが……」

友「? あいつの真意?」

級友C「おっとwww口が滑ったwwwなんでもないwwwww」

友「……なんか引っ掛かるけど、まあいいか」

男(引っ越してきてから、最初の方は無視されるのなんて当たり前だった)

男(時間が経った今だって、機嫌が悪い時は無視されることも多いし、気にするようなことじゃないかもしれない)

男(……でも、どうしても気になる)

男(虫の報せってヤツ、なのかな。このまま放っておいたら、絶対よくないことが起こるような、そんな気がする)

男(……もしくは、あいつと一日話せなかっただけで参っちまうくらい、俺がダメになってるか、だな)

男(ともあれ、なんで昨日早退したのか、その理由くらいは聞き出したい)

男(……まるっきりストーカーだな、俺)

男「それでさ、今日もCのヤツがさー」

火傷女「……」スタスタ

火傷女(まだついてくる……もう男の家は通り過ぎたのに……)

火傷女(あんたは幼馴染とやらのことが好きなんでしょ。私なんかに構ってないで、追いかけるならそっち追いかけなよ)

火傷女(……あんたと一緒にいたって、私には傷しかつかないんだ)


火傷女(たぶん私は、こいつのことが好きなんだって、そう思うから)


火傷女(でもだからこそ、一緒にはいたくない)

火傷女(私が私の本心に気付いたんだ。知らないフリしてこのままの関係を続けるなんて、絶対にできない。きっと、いつか今以上に死にたくなる)

火傷女(こいつの笑顔は眩しくて、綺麗過ぎて、わたしだけのものにしたくなるから)

火傷女(わたし以外の誰かとこいつがしあわせになるなんて、ぜったいイヤだ、みとめたくない……ッ)ギリッ

火傷女(……私のこんな汚いところなんて、絶対に男には見せられない)

火傷女(考えろ……どうすれば私は、こいつのことを諦められる?こいつに嫌われてしまうには、どうすればいい?)

火傷女(私はきっと、こいつが無邪気に笑っていられるなら……それだけで、当分はまだ耐えられるから。意地を張って、生きて、いられるから)

-火傷女の自宅の前-


火傷女「……」スタスタ

男(ここが、今の女が住んでる家なのか。随分年季が入ってるなぁ)ポケー

火傷女「」ピタッ クルッ

男「?」

火傷女「あのさ、あんたいつまでついて来るわけ?もしかして部屋の中まで入って来る気?」

男「いや、そういうわけじゃないけど……」

火傷女「じゃあ何しにここまで来たわけ?ってかいつも思ってたんだけどさ、なんであんた私に付き纏うの?」

火傷女「いっつも能天気に笑って近付いてきて、へらへらして、はっきり言って鬱陶しいんだけど」

男「……ッ」ビクッ

火傷女「私が他人とコミュニケーションとりたがるような人間に見える?見えないでしょ?こんな火傷だらけの顔、コンプレックスでしかないんだし」

火傷女「はっきり言ってさ、理由もなく絡まれたってうざいだけなんだよ。そういうのわかんない?」

男「………………」

男(やばい……息し辛い。心臓の音もうるさいくらいだ)

男(頭が、すごくグラグラする……自分がどう思われてるかなんて、なんとなく分かってはいたけど、実際に言われるとキツいな……)

男(でも、俺はもう以前の俺じゃないんだ。だから今は、ぐっと堪えて、気をしっかり持たないと……)

男「……ごめん。気付かなかった。今度からは気をつける」

火傷女「……」ハァ…

火傷女「ねぇ、今度からって、なに?」

男「……えっ?」

火傷女「ああもう、何で一々言わなきゃわかんないわけ?今度なんてないんだよ。もう二度と話しかけんなって言ってんの。あんたの顔なんて二度と見たくないし、声だって聞きたくない」

男「ッ!なんでそこまで言われなきゃならないんだよ!俺は、お前が……ッ!」

火傷女「私が何?可哀想だとでも言いたいわけ!?そういう安い同情が一番ムカつくんだよッ!!」

火傷女「第一あんたが口に出して言わなきゃわからないようなバカなのがいけないんでしょ!?私だって言いたくて言ってるんじゃない!」

火傷女「無視しても無駄、殴ったって無駄、嫌味も皮肉も通じない!遠まわしに言ってダメなら直接『嫌だ』って言う以外にどうしろってのよ!!」

男「……」

火傷女「ほら、言い返せないでしょ。言い返せないってことは、自分でも多少は思うところがあるって証明だ」

火傷女「……それにあんた、仲の良い幼馴染がいるんだって?」

男「なんで知ってる」ギロッ

火傷女「ッ……昨日あんた達が話してるのを偶然聞いただけ。それよりも私が言いたいのは、あんたがとんでもないバカだってこと」

火傷女「そんなに大切な幼馴染がいるくせに、どうして私にちょっかい出すわけ?私なんかに構ってる暇があるなら、さっさとその幼馴染に会いに行けばいいじゃん」

火傷女「なのにもったいぶって『今は会いに行けない』?カッコつけちゃってさ、バッカじゃないの?本当にそいつのことが好きならさっさと会いに行けばいいじゃん」

火傷女「なのにへらへら笑ってばっかりで……なにが『死にたいくらい辛くなる』よ。言葉に行動が全然伴ってないんだよ、あんたは」

火傷女「その程度の気持ちで『死にたいくらい』とか二度と言わないで。どうせあんたなんて、死にたいほどの苦しみなんて分からないで―――」

男「―――けんな」

火傷女「……えっ?」

男「ふざけんなッッッ!!」

男「他のヤツに言われるならいい、まだ我慢できる。でもよりによってお前がそれを言うのかよ!?ふざけんなよ!」

男「ああ、確かに俺は意気地なしだよ。五年振りに再開した幼馴染にだって、未だに自分の気持ちどころか正体すら言い出せないヘタレだよ」

男「でもそれをお前にとやかく言われる筋合いはないッ!」

男「……ずっと忘れられなくて、記憶だけを支えに生きてきて、ようやくここに戻ってきたのに……俺のこと綺麗さっぱり忘れやがって……ッ!」ポロポロ

男「だから俺、いつか迎えに……いつか、昔みたいに仲良くなってから、思い出させてやろうと……」ポロポロ

火傷女「……ッ!」ズキン



?『しょうがないだろ!俺だって本当は離れたくないよ!!」



火傷女(―――――あ。いま、の……)

男「……でも、もう限界だ」ボソッ

男「もうお前のことなんか知らないからな……ッ!!」ダッ



?『もう女のことなんか知らないからなッ!!』



火傷女「あ……」

火傷女(掴もうとしても届かない。小さな背中が、もっと小さくなってく)

火傷女(いつだったっけ、前にも同じ風景を見た。きっと気のせいじゃない。たぶん人生で一番楽しかった頃の記憶)

火傷女(ああ、でも、なんで―――――)


火傷女「―――――よりによって、今思い出すんだよ……ッ!」ポロポロ

火傷女「もう、遅いじゃんか……」ポロポロ

ちょっと展開が急すぎた


ともあれ今日はここまでにします
お疲れ様でした

火傷女(私には、幼馴染がいた)

火傷女(私と背が同じくらいの、そのくせやたらとお兄さんぶってた男の子だった。向かいの家に住んでた一人っ子で、いつも一緒に過ごしてたんだ)

火傷女(遊ぶ時はもちろん、食事やお風呂、寝るのだって……)

火傷女(でもそいつは、突然私の前からいなくなった)

火傷女(理由自体はありふれたものだ。両親の仕事の都合で、県外にまで引っ越すのだと、そう言ってた)

火傷女(私はそれがたまらなく嫌だった。お互いに一人っ子だったし、あいつのこと、私は兄妹みたいに思ってたから……本当は、それだけじゃなかったけど)

女『嫌だ!絶対に離れたくない!』

男『……ッ!しょうがないだろ!俺だって本当は離れたくないよ!』

女『じゃあここに残ってよ!なんで勝手に行っちゃうんだよ!?』

女『それともなに!?離れたくないってのは建前で、本当は私のこと嫌いで逃げようとしてるんだろ!』

男『ッ!そんなわけないだろ!ふざけんなよ!』

男『引っ越したって二度と会えなくなるわけじゃないんだから、その時にまた遊べばいいって言ってるのが分かんないのか!?』

女『そんなのわかるわけないだろッ!』

男『……もういい!もう女のことなんか知らないからなッ!!』

火傷女(いつも通りお兄さんぶって私を諭そうとしてたけど、結局自分も泣き出しちゃって……私の前から本当に逃げようとしてた)

火傷女(だからその時は夢中であいつのこと止めて、勢い余って無理やり押し倒して、頭擦り付けて……そこから先のことは覚えてない。ただ、二人してバカみたいに泣いた)

火傷女(でも大泣きして逆にスッキリしたみたいで、次の日からは引っ越しの日が来るまでずっと、いつも以上に騒いだ)

火傷女(そしてあいつが私の前からいなくなってから、私は何もする気が起きなくなった。まさに胸に穴が開いたような、そんな感じだった)

火傷女(そんな時だ……あの火事が起こったのは)

火傷女(両親が死んで、住む場所もなくなって、私見るに耐えない姿になって。なのに、こんなに辛いのに、あいつはどこにもいなくて……)

火傷女(親戚連中も私を疎んで、蔑んで……今の私に自分の居場所なんてないのかと、そう思った)

火傷女(そこに現れたのが叔母夫婦だった)

火傷女(私を白い目で見てた親戚共の中で、唯一叔母だけが親身に接してくれた)

火傷女(当然私は喜んだよ。親戚だけじゃない、同じ学校の友達ですら私を腫れ物扱いしてたから)

火傷女(でも優しかったのは最初だけ。アイツらはお父さんとお母さんの生命保険を掠め取るやいなや、掌を返して私を冷遇した)

火傷女(そして私が中学校に上がると同時にアパートに押し込めて、独りで生きていくことを強要したんだ)

火傷女(……火事が起こってから、私はあいつが帰って来るのをずっと待ってた)

火傷女(でも、叔母夫婦が私を裏切ったんだと知ったとき……私は、無意識にあいつのことを記憶から消し去った)

火傷女(誰も信じることができない。誰もが一皮向けば叔母のようにクズな本性を隠し持っているんだと、当時は信じ込んでいたから。……そしてたぶん、今もそれは変わってない)

火傷女(でもだからこそ、思い出の中のあいつだけは綺麗なままでいて欲しかったから……だからあいつの存在そのものを、記憶の奥底に封じ込めた)

火傷女(綺麗なものを捨てることで、この世の全てが汚いものなんだと信じ込めるようにした)

火傷女(だからこそ私は、今まで生きてこれたんだ)

火傷女(汚いものと関わる必要はない、私は孤独のままでいい……そうやって、今の自分を正当化してた)

火傷女(でも、それももう限界)

火傷女(私はあいつを思い出した。あいつの笑顔も、泣き顔も。私の中の綺麗な思い出を、全部)

火傷女(だっていうのに。なんで私は、あいつを追いかけなかったんだろう―――?)

火傷女(五年前のあの時みたいに、逃げていく背中を押し倒してしまえばよかったんだ。それならまだ間に合った)

火傷女(なのに私は、今もこんなところでバカみたいに突っ立ってる)

火傷女(どうして……なんて、考える必要もないか)

火傷女(あいつは昔と変わってない。でも私はもう、あの頃の私じゃないんだ。きっとあの頃みたいに仲直りはできない)

火傷女(……そうだ、むしろこれでいいんだ。あいつは私から放れて、もっと普通の女の子と恋をして幸せになればいい)

火傷女(私なんかのことを好きだって言ってくれてたけど、やっぱり、あいつは今の私にはでき過ぎた人だから。もっと釣り合う人と一緒になってくれれば、それでいい)

火傷女(この思い出さえあれば、私はきっと、まだ大丈夫だから……―――――)





火傷女「―――――……そんなわけ、ない」ポロポロ

火傷女「もう、一人なんて嫌だ。折角また会えたのに、あいつが誰かと幸せになるなんて、絶対がまんできない!もう、二度と……離れ離れになんかなりたくないッ!!」ダッ


男『でも、あいつの居場所が遠すぎて、死にたいくらい辛くなるんだ』

男『会いたくても今は会いにいけない。だからきっといつか、迎えに行こうと思ってる。けどさ、それがいつになるか分からないのが余計に辛いんだ』


火傷女(どうすれば私は会いに行ける?どうすれば私に会いに来てくれる?)

火傷女(私はここにいるのに。こんなに近くにいるのに、全然手が届かない)

火傷女(もう、独りはいやだ。嫌だ嫌だ嫌だ!あいつに会いたい!男、男男男ぉッ!)

火傷女(……あんなこと言ったあとで、図々しいのは分かってる。けど……それでも、もう一度会わなきゃいけない。もう一度会いたい!)

火傷女(話しなんか出来なくてもいい。許してもらえなくても構わない。ただ、最期に、一度だけでいいから)

火傷女「貴方の笑顔を、私に見せて」ポロポロ

今日はここまでにします
お疲れ様でした

-男の自宅・玄関-


火傷女「はぁ、はあ……」ゼエゼエ

火傷女「……っ」ゴクリ


ピンポーン


母「はい、どちら様ですか?」ガチャッ

火傷女「あっ、ええと、その……」アセアセ

母「……貴方、もしかして女ちゃん?」

火傷女「ッ!はい!」

母「そっか……大きくなったわね」ギュゥッ

火傷女「あっ……」

火傷女(男のお母さん……こんな顔になっちゃったのに、すぐに私だって……)

火傷女(すごくあったかい……)ギュゥッ

母「そうだ、折角女ちゃんが来てくれたんだから、あの子も呼ばないと」

火傷女「! それはその、待ってください!」

火傷女「あいつには、私が自分で会いに行きますから……!]

母「? ……!」ピコーン

母「ふふ、そっか……もうそんな年頃なんだものね」ニヤニヤ

火傷女「……?と、とにかく、お邪魔してもいいですか?」

母「ええ。あの子の部屋は二階の奥だから、今後も遠慮せずに突撃してあげてね」ニヤニヤ

火傷女「はいっ!ありがとうございます!」タタタッ


母「……」


母「ふふふ、女ちゃんがいつでも家に入れるよう、新しい鍵を用意しなくちゃ」

母「それに……もうすぐ孫の顔も見られそうで楽しみだわ」ワクワク

男「……」ペラッ

男「……ダメだ、何もやる気がしない。まあ、あんなことの後じゃ当然か」ハァ…

男「やっぱりあそこでキレたのは不味かったよな……あー、明日からどんな顔して女と会えばいいんだ……」

男「ああいや、そういえば明日は土曜だから学校は休みか。なら多少は心の整理もつくかな。最低でも、また知らん顔で挨拶するくらいならできる……はず」

男(……なんて。こんな独り言ばっか言ってる時点で、かなり危ないよな、俺)ハァ…

男(やっぱり何かして気を紛らわせよう。じゃないと、ストレスで胃が捻じ切れそうだ)

男(でも、何をすれば気が紛れる?読書はダメだった。勉強はやらなきゃいけないけど、絶対すぐに飽きるし……)ウーン

男「……」

男「……そうだ、抜こう。そうしよう」

火傷女「ここが男の部屋……だよね?」

火傷女(つい勢いでここまで来たけど……どうしよう。こういう時って、なんて声をかければいいの?いや、何よりまず先にさっきのこと謝らないと……)

火傷女(でもどうやって入ればいいんだろ。ルールとかマナーとか……ノックって何回するのが正解なんだっけ?)

火傷女(そもそも異性の部屋に上がるなんて初めてだし……)

火傷女(男の部屋には入ったことあるけど、それも五年前の、小学生の頃の話だ。あの時みたいに気軽に入っていいもんじゃない……と思う)

火傷女(でもそれだと、どうすればいいのか……)ウーン


火傷女「……」


火傷女「やめよう。こんな風にグチグチ悩んでたって、いいことなんか一つもない」

火傷女「男のお母さんも言ってたし、ここはあえて何も考えずに突撃しよう。そうじゃないと、また後悔することになる」

火傷女「」スーハー

火傷女「よしっ!」

火傷女「し、失礼します……?」ガチャッ


男「はぁ、はぁ……」シコシコ


火傷女「」


男「はぁ……うっ、ふぅ」ドピュッ

男「なんか随分早く出たな、今日は。……っと、とりあえずさっさと拭かないと」ガサガサ

男「……うん?」クルッ


火傷女「(゚Д゚ )」

男「( ゚Д゚)」

今日はここまでにします
お疲れ様でした

男「もうダメだ、おしまいだぁ……」ズーン

火傷女「いやほら、高校生なら仕方ないことなんだし、気にするな……とは言わないけど、ともかくまあ、あれだ。元気だせ」アセアセ

男「お前に言われたくねーよ。っていうかなんなのお前、なんで家にいるの。あとチラチラこっち見んな、それ以上視線を下げるな、俺の傍に近寄るな」ブツブツ

火傷女「……ごめん。こういう時、どんな顔をすればいいのかわかんない」

男「むしろ笑ってくれれば楽なんだけどね。……はあ、もういいよ。それで?何しに来たの?」ジロッ

火傷女「うっ……その、さっきのことを謝りに……」チラッ

男「ふーん、続けて」

火傷女「……昨日、男が話してた幼馴染の話を盗み聞きして、それから頭がなんか真っ白になって、急に今の自分がどうしようもなく嫌になった」

火傷女「いつも男だけが元気良く話しかけてくれたりするから、なんだか裏切られたような気がしたんだ」

火傷女「でも、そんなのは私の被害妄想だ。だからもっと自分のことが嫌いになった」

火傷女「この上直接あんたに拒絶されたらって思うと、死にたいくらい胸が苦しくなって……だから、私の方からあんたを裏切ることにしたんだ。その方が、私が負うダメージは少ないから」

火傷女「だからあんなこと言っちゃったんだ。……本当に、ごめん」ペコリ

男「……」

男「……いいよ、頭上げて。でも、まだ許した訳じゃないからね?」

火傷女「うん……でも、ならどうすれば許してくれる?」

男「それは……」


男「……」チラッ

火傷女「……」ジーッ


男(真剣な、泣きそうな顔。しかも上目遣いでこっち見ちゃって……ずるいなぁ、女は)

男(でも『まだ許した訳じゃない』、ねぇ……本当にずるいのは俺の方か。嫌になっちゃうなぁ、ほんと)ハァ…


男「まずはとりあえず、少し俺の話を聞いて貰おうかな」

男「女だって、なんで昨日俺が女と火傷女を別々の人間として話してたのか気になるだろ?」

火傷女「……」コクリ

男「五年前に俺が向こうへ引っ越してからさ、そっちはそっちで色々嫌なことがあったんだと思う」

男「でもね、それは俺もなんだよ、女。あっちに引っ越してから、ずっと嫌なことばっかりだったんだ」

男「引っ越し先の中学にそのまま進学した訳だけどさ、そのクラスが最悪でね。なんか常に鬱屈としてて、妙にギスギスしてる感じだったんだ。今にも爆発しそうな、そんな雰囲気でさ」

男「実際、一日限りのいじめみたいなのが不定期に散発してたりしたからねぇ」

男「なんでなのかは知らない。余所者だったしね。でももしかしたら、そういった空気ができた原因の一端は、余所から来た俺にあったのかもしれないかな。……だからなんだって話なんだけど、ねぇ?」

男「ともあれみんな、極限まで不満が募った状態だったんだ。きっとこのまま放っておけばどうなるか分からないような、漠然とした恐怖みたいなものを全員が感じてたんだと思う」

男「あの閉塞感は、なんていうか……誰もが互いに監視し合っているような、そんな感じだった」

男「……当時の俺はさ、そんなクラスが大ッ嫌いだったんだ。でも変えようとはしなかった。卒業すればそれで終わるだろうと思って、耐えることを選んだんだ」



男「でも、それが間違いだった」

男「……あのクラスに一人だけ、とても頭のいいヤツがいたんだ」

男「そいつは散発するいじめの対象を一人に纏めて、クラス中の不満を押し付けることを思いついたのさ。そうすれば溜まった鬱憤の出口は一つに絞られるからね」

男「それでまあ、結果としてそれは大成功だったんだろうね。今までにない一体感みたいなものがあったし、男女関係なくいじめに協力的で積極的だった。正真正銘、クラスが一つになった瞬間さ」

男「もちろん、たった一人を除いて、だけどね」

男「……ちなみにさ、誰がそのいじめの対象に選ばれたのか、分かる?」

男「んん?黙ってちゃ分かんないよ。聞かれたならちゃんと答えて欲しいなぁ……まあいいけどね。答え辛いこと聞いて悪かったよ」

男「言わなくても分かってるだろうけどさ、いじめの対象になったのって俺なんだよね」

男「理由は知らない。いや、理由なんてないんだろうね。くじとかそういうので選ばれたんだったらまだ納得できるんだけど……やっぱり理由はないんだと思う」

男「ともあれ、それからはずっと地獄みたいな日々だったよ。学校側も見てみぬ振りを徹底してたからね。それに俺って妙にプライドとか高かったじゃん?だから誰にも相談なんかできなかったんだ」

男「いじめの内容は徹底して暴力だけだった。だからさ、俺も結構体に傷痕とか残ってるんだよね。脇腹とか。見え辛いけど、額にもあるんだぁ」

男「見てみる?ははは、遠慮しなくてもいいよ。昔は一緒にお風呂とか入った仲じゃん。さっきだって俺のナニをガン見してたんだしさぁ?」ケラケラ

男「……っと、話が少し逸れたかな?ごめんね」

男「とにかく、そんな状況が二年ほど続いたんだー。そしたらなんか、いじめの主犯格だった例の頭のいいヤツがね、引っ越したんだよ。いきなり」

男「理由は父親の仕事の都合がどうとかだったかなぁ。まあ、そんなことはいいんだよ。どうでもね」

男「俺はアイツがいなくなって、俺だけに集中してたいじめがようやく終わると、そう思ったんだ。でも違った」

男「まあ当たり前っちゃ当たり前だよね。今更標的を変えたって、何かが変わるわけじゃないんだから。俺の甘い考えは見事に打ち砕かれたよ」

男「でもそれだけじゃない。いじめの内容を上手く暴力だけに留めてた制御塔がいなくなったからかな、今度は恐喝までされるようになったんだ。まあ、結果として殴られること自体は減ったけどね」

男「でも中学生が持ってるお金なんてたかが知れてるだろ?それに連中は致命的に頭が悪かったからさ。すぐに味を占めたみたいで、アホみたいな桁の金を要求されるようになったんだ」

男「もちろん俺にそんなもの用意できる訳がない。でも金を用意しないと何をされるか分かったもんじゃない。……めちゃくちゃな状況に板挟みになっちゃってね。つい出来心でさ、やっちゃったんだよね、ひったくり」

男「結構大きめの建物でさ、鞄を引っつかんで逃げたんだよ。そしたら警備員が来るわ来るわ」

男「結局追い詰められてね、二階の窓から外へダイブしたんだ。当然俺は死ななかったさ。足は折ったけどね」

男「でも流石に窓から飛んだのは異常だって思われたみたいでさ。警備員さんが真面目に事情を聞いてくれたんだよね。そしたらいじめの末にひったくりを強要されての自殺未遂って、結構好意的に受け取ってくれたんだ」

男「そっからは今までの三年間が嘘みたいにとんとん拍子で話が進んだ。建物の支配人が警察と学校に通報してさ、マスコミにも取り沙汰されて結構大きなニュースになったりしたんだ」

男「当然、いじめに関わってたヤツは全員処分を受けたよ。中には退学食らったヤツもいたかなぁ。ともかく骨がくっつく頃には全部終わって、俺自身もあとは転校するだけって状態だったんだ」

男「……入院してる間、甲斐甲斐しく世話してくれた母さんや父さんには、感謝しても仕切れない」

男「二度目の引っ越し先はこの街だった。父さんと母さんが、俺に気を利かせてくれたんだ」

男「だってこの街には、幼稚園の頃からずっと一緒だった幼馴染がいたんだからね。俺自身も相当喜んだよ。ようやくお前に会えるんだって、そう思ったから」

男「……あっちにいる間、俺はずっとお前のことを考えてた。どんなに辛い状況でも、お前の笑顔を思い出せばそれだけで頑張れたから。俺が生きる事を諦めずにすんだのは、お前にもう一度会いたかったからだ」

男「だから今の高校の二年に転入した。その上、更にお前と同じクラスになれたって知った時は、本当に嬉しかったんだぜ?」





男「でもお前は、俺のことなんか覚えちゃいなかった」





男「……もちろん、今ならお前の近況もある程度知ってるし、再開した時だって、顔の火傷を見た訳だから大体の事情はなんとなく察したよ」

男「でも納得はできなかった。女ならきっと笑顔で俺のことを迎えてくれると信じ切ってたからね」

男「なのに当の女本人は俺のことを忘れてるときたもんだ。俺はずっとお前のことを考えてたってのに、ねぇ?正直、裏切られたような気分だったよ」

男「……だけどこれはこれで好都合かなって、そう思ったんだ」

男「女は変わったんだ、だから俺も変わろう。今までの俺は死んだことにして、別人として生きよう……ってね」

男「当時の俺はいじめのせいで随分卑屈な性格になっちゃってたからさ。これを機会に変わることにしたんだ。まあ、ほとんどヤケクソだったんだけど」

男「でもその自棄っぷりが功を奏したのかな。出来るだけハイテンションに振舞ってたんだけど、そしたらなんかいつの間にか友達ができてた」

男「それで心にも余裕が出て、女にも自然体で話しかけられるようになったんだ。だから俺は、目標を作ることにした」

男「女のことは一旦思い出の中に仕舞い込んで、現実と切り離した上でお前ともう一度仲良くなろうって。もちろん俺も、今までの俺じゃない、全く別人の新しい俺としてね」

男「そして月日が経って十分仲良くなったら、『俺は実はお前の幼馴染でーす!』ってネタ晴らしして驚かしてやるつもりだったんだ」

男「『会いたくても今は会いにいけない』ってのはそういうことさ。意趣返しにすらなってない、俺のつまらない拘りだよ」

男「……あとのことは知っての通りだ。理解できた?」

火傷女「……」ポロポロ

男「そうそう、俺の成績が悪いのも前の学校でいじめられてたのが原因なんだよね。まともに授業受けられなくってさ、その分遅れてるんだぁ」ヘラヘラ


火傷女『別に。あれぐらい出来て当然でしょ』


男「俺と話すのは罰ゲームと同じようなもんだーとかって、女子達にからかわれたりさぁ」ヘラヘラ


火傷女『は、なにそれ。なんかの罰ゲーム?』


男「それに―――」

火傷女「―――もう、やめて……っ!」ポロポロ

今日はここまでにします
お疲れ様でした

火傷女「私が貴方のこと覚えてなくて、傷付けて、本当にごめんなさい」ポロポロ

火傷女「私、なんでもするから。貴方の気が済むまで、許してくれるまで、なんでもするから。だから……ッ」ポロポロ

火傷女「お願いだから、そんな顔しないで。そんな風に笑わないで」ポロポロ

火傷女「私は、貴方の昔みたいな笑顔が見られれば、それで……十分だから……」ポロポロ

火傷女「自分勝手なこと言ってるのは分かってる。でも、お願い、だから……っ!」ポロポロ


火傷女「―――――それ以上、壊れないで……ッ!」ポロポロ


男「……」

男「いま、何でもするって言ったよね?」ガバッ

火傷女「……えっ?」ドサッ

火傷女(私、ベッドに押し倒された……の?)

男「ねぇ、女」

火傷女「! な、なに……?」

男「さっきなんでもするって言ってたけどさ、そんなに許して欲しいの?」

火傷女「……」コクリ

男「ふぅん」ニコリ

男「じゃあさ、俺が女に一体ナニをして欲しいのか、当ててみてよ」

火傷女「えっ?そ、それは……!」カァァ…///

火傷女(今私にして欲しいことって……その、アレ、よね……?)

火傷女(押し倒されてるし、男はさっき一人でしてたし……欲求不満なのは間違いない。たぶん)

火傷女(……でも、私みたいな火傷だらけの女と?)

火傷女(私がそういう対象として見られるなんて……ありえない、よね)ドンヨリ

火傷女(それなら、たぶん……)





火傷女「……売春?」

男「お前なに言ってんの?」

男「状況が分かってないの?なんでそこで売春が出てくるの?バカなの?」

火傷女「いや、だって……私みたいな見た目の女としたいヤツなんて、いるわけないし……」

火傷女「だからその……ただの性処理人形として夜中に路地裏とか公衆トイレなんかで営業させて、ある程度お金が溜まったら捨てる……とか、そういうアレじゃ……」アタフタ

男「いやダメでしょ。女の子が性処理人形とか言っちゃダメでしょ」

男「路地裏とか公衆トイレってなに?っていうかなんでそんなに生々しい内容の話がPONと出てくるの。もしかして捨てられたい願望とかあったりするワケ?ダメだよそういうの」ジトー

火傷女「なっ!捨てられたいとか、そんなことあるわけ……」

火傷女「……」

男「おい黙るな」

なんか迷走が酷いので今日はここまでにします
お疲れ様でした

男「……」

火傷女「……」

男「はあ……悪かったよ。ちょっと冗談が過ぎた」スッ

火傷女「あ……」

男「…………」

男「それに、今までの事だって気にしてない。少なくとも、さっきので多少は気が晴れたからね。やっぱり、人に話すとスッキリするもんだ。溜め込むのはよくないね」

男「こんなことなら、変な意地張らずにさっさと正体を明かしておけばよかったよ。女もそう思うだろ?」ニコッ

火傷女「…………」

どの程度の火傷なのか気になるな。顔の片側半分ケロイドだらけとか?

幽白の躯?くらいでも個人的にはストライク

>>121
特に決まってません
火傷の程度や男との伸長差などについては妄想力で補完してください

火傷女「……うん。そうかもね」

火傷女「もっと早くに男だって気付けてたらって、今ならそう思えるよ」

男「ははは、でしょ?」


火傷女「…………」

男「…………」


男「……ねぇ、女。覚えてる、かな?」

火傷女「! なに?子供の頃の話ならもうちゃんと思い出せるけど」アセアセ

男「いや、最近の話だよ。ほら、この前『日曜に映画見に行かない?』って誘ったの覚えてる?」

火傷女「う、うん」コクリ

男「あの時は断られたけど……今ならどうかな?一緒に見に行かない?」

火傷女「……いいの?」オズオズ

男「うん、いいよ。女と一緒に出かけたいんだ」

火傷女「……わかった。楽しみにしてるね、映画」

男「おう、任せとけって」ニコリ

―――――
―――

火傷女「……」スタスタ

火傷女(結局、私達はあの後すぐに解散した)

火傷女(私が男を忘れていたことも、私が男に言ったことも、うやむやなままで)

火傷女(……きっと私は、まだ許されてないと思う)

火傷女(男は気にしてないって言ってたけど、たぶんそれは私に気を遣って言ったんだ。本心ではまだ怒ってるに違いない)

火傷女(だからこそ、彼の望むことは出来る限りしてあげたい。それこそなんでもだ。……もちろんそれで男が私を許してくれるかどうかは、分からないけど)


火傷女(……なんて)


火傷女「流石に、都合よく考えすぎだよね」ハァ…

火傷女「……明後日、どんな服着て行けばいいのかな」

男(なんていうか、逸り過ぎたよな……色々と)

男(そもそもなんであのタイミングで押し倒したりしたんだよ、アホか俺は)

男(そういうことするにしても、もっと雰囲気とかあるだろ常識的に考えて。少なくとも、攻めるみたいにべらべら喋ったあとにするようなことじゃない)

男(でも、なんていうか……)

男「……女の泣き顔、すごくかわいかったな」ボソッ

男「って、なに考えてるんだ俺は」ブンブン

男「泣き顔に惹かれるとか、どんなサディストだよ。俺にそんな特殊性癖はない。絶対にない」


火傷女『―――――それ以上、壊れないで……ッ!』ポロポロ


男「…………」

男「……俺、あの時どんな顔してたんだろ」

男「言い始めたら、全然止まらなくなっちゃって……バカみたいだ。言ったって、仕方ないことなのに、あいつの前でぐちぐち吐き出すなんてさ」

男「なんで上手くいかないかなぁ……」

男「かっこわるいな、俺」

――――――
――――
――

-二日後・火傷女の自宅-


火傷女(……遂にこの日が来た)

火傷女(一日時間が空いたから、後先考えずに服とか買っちゃたんだけど……やばい、なんかすごく恥ずかしい)

火傷女(あんなことがあった後で、昨日はずっと変なテンションだったからなぁ……ちょっと自分の行動が信じられない)

火傷女(どうしよう、今からでも無難に制服とかに着替えた方が……)


ピンポーン


火傷女(来た……!)ビクゥッ

火傷女「ドチラサマデスカ……?」ガチャッ

男「俺だよぅ。おっはよー、女!」ニコッ

火傷女(良かった……いつもの男だ)ホッ

火傷女(でも、まだなんか無理してるっぽい。当然だよね、あんなことがあった後なんだから)

火傷女(どうにかして許して貰って、また、昔みたいに……)

火傷女(……なんて。都合良すぎだよね)ハァ…

男「」ジー

火傷女「っ! な、なに……?」ビクッ

男「……女。その服、とっても似合ってるよ」ニコリ

火傷女「えっ!?あぁ、えっと……///」カァァ

男「」ニコニコ

火傷女「……あ、ありがと///」ゴニョゴニョ

男「はは、じゃあ行こっか?」

火傷女「///」コクリ

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