花陽「花陽は大丈夫だよ」穂乃果「……嘘ばっかり」 (203)

ラブライブSS

※ちょいどろ

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気づけば恋をしていた。

この心を自覚するのに時間はかからなかった。

一番近い人。

いつでも私を支えてくれた人。


でもこの恋が実ることはない。

だって、その人の瞳は私の方を見てはいないから。

凛「かーよちん! おはよう!」ダキッ

花陽「ピャァ!? り、凛ちゃん、おはよう」

凛「えっへへーおどかし作戦大成功にゃ!」

花陽「も~朝から心臓が飛び出そうになったよぉ……」


真姫「……朝から騒がしいわね、おはよ二人とも」

凛「真姫ちゃんローテンションだねー」

花陽「いや、凛ちゃんがハイテンションなだけだと思う……」

凛「そんなことより学校早く行こっ!」

真姫「はいはい……」

そんなこんなで、花陽の一日は始まります。

元気いっぱいの凛ちゃんと、不器用だけど優しい真姫ちゃん。


内気な私がμ’sで活動することが出来たのはこの二人のおかげです。

本当に最高の友達で……

いつもいつも感謝しているんです。


だから……どうして。




どうしてこんな気持ちに気づいちゃったんだろうなぁって……

凛「かよちん立ち止まってどうしたの?」

真姫「ん、花陽大丈夫?」


花陽「えぇっ!? だ、大丈夫だよ!」モジモジ

凛「あーっ! かよちん嘘ついてる!」

真姫「そうなの? 花陽?」

花陽「え、あ、いや……」

凛「も~嘘つくときの癖治ってないんだもん!」

花陽「じ、実は……朝ごはん食べてなくて……」キュルルル


真姫「ほら、チョコくらいじゃダメかもしれないけどあげるわ」

花陽「真姫ちゃん……」パァァァ

凛「もー人騒がせだなぁかよちんは~」

花陽「ご、ごめんね?」

小さい時から一緒にいる凛ちゃん。

いつも私が困っている時に助けてくれます。

逆に私が助けたことなんて数えるほどしかないです。

恩返しをしたいって思うけど、花陽にそんな力はありません。

凛「かよちん、真姫ちゃんいっくにゃー!」

そう言って引っ張っていってくれます。


手の温もりに胸が高鳴ります。

そんな鼓動が……

誰にも聞かれたくない音が、私の中を満たしていくんです。

真姫「花陽も大変ね」

花陽「ううん、そんなことないよ」

真姫「そっか……いいわね貴女たち」

花陽「え?」

真姫「なんでもないわ、行くわよ花陽!」ダッ

花陽「ま、待ってよぉ!」

凛「横一列でそのままゴールインするよ!」


仲良く手をつなぎ、走って登校する私達でした。

今日はここまでです。お疲れ様でした。今回もゆったり行きます。

真姫誕の作品が脱稿したので、来週から更新していきます。

待たせてしまって申し訳ございません。

席に着くと、ゆったり時間が流れていきます。

花陽はぼーっと黒板を見つめて、板書をします。

凛ちゃんは英語の授業の時はすやすやです。

真姫ちゃんはつまらなさそうにシャーペンをくるくる回してます。

カラン

あ、落とした。

こっそりと拾ってまたくるくる。

花陽は回せないから羨ましいなぁ。

お昼休みは三人でもぐもぐと。

花陽はおにぎりっ! やっぱりお米は大事だからね!

真姫「またおにぎり?」

花陽「うんっ! おにぎりは……私の活力の源だから!」

真姫「そ、そう……」

凛「凛はこっちのかよちんも好きだにゃー」


好きって言葉にちょっと胸が躍っちゃって。

いつもより、早くご飯が食べ終わりましたっ!


凛ちゃんに他意はなーんにもないのにね。

真姫「ちょっとお花を摘みに行ってくるわ」

凛「行ってらっしゃーい」

最近の凛ちゃんは……真姫ちゃんのことを嬉しそうに話します。

凛「ねぇねぇ、かよちん! 凛もピアノ弾きたいなー!」

花陽「えぇっ? い、いいんじゃないかな」

凛「作詞もやってみたいにゃ!」

花陽「海未ちゃんに教えてもらったらどうかな?」

凛「もっと凛も力になりたくって!」

花陽「そうだね」


頭がくらっとします。二人きりになったら真姫ちゃんのことばっかり……

ねぇ、今……凛ちゃんの前に居るのは花陽なんだよ?

あぁ、心がどんどん沈んでいく。


凛ちゃんはただ、μ’sのことを考えているだけなのに。

凛「かよちん、大丈夫?」

花陽「大丈夫だよ?」モジモジ

これはちょっとずるいかも……

凛「……はぁ、かよちんまた嘘ついてる」

花陽「あっ……」

凛「ほーら! 保健室行くよ! かよちん!」ギュッ

強く手を握られ、そのまま保健室に。


花陽はきっとずるい子です。

凛ちゃんの手の温もりを感じたくて……ね。

保健室では凛ちゃんが甲斐甲斐しくお世話をしてくれます。

ご飯を早く食べ過ぎたせいでお腹を壊してしまいました。

……っていうことにしてるんだけど。

凛「かよちんは食べ過ぎなんだよー?」

花陽「あはは、ごめんね凛ちゃん」

むぅっとふくれた凛ちゃんが可愛いです。


凛「ねぇ、かよちん……最近…………変わった?」

花陽「……どこらへんが?」

凛「凛、言葉に出来ないけどなんか変わったような気がしちゃって……」

花陽「大丈夫だよ、凛ちゃん……花陽は何も変わってないよ?」

凛「そうかなぁ」

凛ちゃんがじーっと私の顔を見ています。

曇りのない綺麗な瞳に吸い込まれちゃいそうです。

私の瞳は今、濁っているかもしれません。

凛「かよちん、悩み事……ある?」

花陽「ううん、ないよ」

ちらりと凛ちゃんの視線が花陽の指元に集中します。

凛「じゃあ、体調は? 不安なこととか!」

花陽「心配ありがとう、凛ちゃん。でも大丈夫だからっ」

ひとしきりじっと見た後、ほっと凛ちゃんがため息を付きます。


凛「もうっ、かよちんゆっくり休んでね! お腹壊したまま授業は出たらダメだよ!」

花陽「あはは、ごめんね凛ちゃん」

ガラッ

凛ちゃんは出て行っちゃいました。

……あはは、ごめんね。

本当はすっごく苦しいよ。

すぐに言いたいよ。この気持ちを伝えたいよ。

もう私はぐちゃぐちゃだよ。

助けて、凛ちゃん。

でも、この想いを言葉にして出しちゃったら。

もう、戻れない。


だから、いいの。

心に蓋をしちゃって。

恋してるだけでいいの。

弱虫な私は、これだけできっと幸せなの。


……気づいて欲しかったな。私の小さな嘘。

凛ちゃんの好意ということで、今日の授業はおやすみです。

μ’sの練習、今日はありません。

ことりちゃんの留学は穂乃果ちゃんが阻止しました。


……引き留めてくれる人が居るっていいなぁ。


ラブライブ! っていう大きな目標が無くなっちゃった私達は今後どうすればいいのかな。

にこちゃん達は進路どうするんだろう。

そんなことを考えていたら、暗い気持ちも少しずつ薄れていきました。


あまり、泣き顔は見られたくないので、真姫ちゃんと凛ちゃんには携帯で先に帰ってていいよと伝えます。


……はぁ、適当な時間になったら帰ろう……

気まぐれに、ふらふらと学校を徘徊してみると、穂乃果ちゃんが教室から外を眺めていました。

花陽「ほっ……」

息を呑みました。

見たことのない憂いを帯びた表情が夕日に照らされていました。

穂乃果「花陽ちゃん?」

どきりとします。立ち尽くしていた私に気づいてくれたようです。

穂乃果「……おいで?」

花陽「はい……」

促されるままに教室に入りました。


うわぁ、二年生の教室に入っちゃった。

花陽「穂乃果ちゃんはどうしたの?」

穂乃果「うーんと、絵里ちゃんと希ちゃんから生徒会長やらないかって」

花陽「ええええええぇぇっっ!?」

穂乃果「あはは、驚き過ぎだよっ?」

花陽「あ、ご、ごめんなさい」

いつも通りの穂乃果ちゃんは、屈託のない笑顔を向けてくれました。

花陽「それで、引き受けたの?」

穂乃果「……うん。正直穂乃果だけじゃ難しいかもしれないけど」

花陽「やっぱり穂乃果ちゃんはすごいなぁ……」

穂乃果「ううん、海未ちゃんとことりちゃんが隣には居るから」



隣……か……花陽の隣には……

前に二人がいる。私よりもっともっと前に。

後ろから追いかけて……追いかけて……届かなくて。

花陽「そ……そうだよね、穂乃果ちゃんには助けてくれる人がいっぱいいるもんね!」

穂乃果「……花陽ちゃん、大丈夫?」

凛ちゃんにも何度も聞かれた言葉。

大丈夫って言ってる。

何度も何度も言い聞かせてる。だから私は大丈夫なんだって。

花陽「花陽は大丈夫だよ」

大丈夫。指はもじもじさせてないし、皆この癖は知ってる。

だから、穂乃果ちゃんだって、信じてくれる。

視線は私の指を見つめてる。

ほら、これで……私の嘘はバレない。

穂乃果「……嘘ばっかり」

今まで聞いたこと無い、穂乃果ちゃんの声だった。

気づけば夕日が沈んでいる。

穂乃果「嘘は、ダメだよ。花陽ちゃん」

花陽「えっ、そっ、私っ……」

深い深い瞳の中の闇。

恐らく、私以上に濁ってる。

全部が見透かされてるみたいに。

太陽みたいな穂乃果ちゃんじゃない。

穂乃果「今の花陽ちゃんは……嘘しかついてない」

それなのに、とっても甘い声が脳内に響く。

穂乃果「……穂乃果に全部話してもいいんだよ?」

花陽「……私は……凛ちゃんのことが――――――」

私の弱い弱い心は、甘美な誘惑にあっさり流されてしまいました。

今日はここまでです。お疲れ様でした。

真姫ちゃん誕生日おめでとう!

穂乃果「そっか、頑張ったね花陽ちゃん」ナデナデ

花陽「あ、あのごめんね、穂乃果ちゃん……」

穂乃果「何が?」

花陽「その……私の愚痴に付き合ってくれて……」

私の頭を撫でてくれる手が気持ちいい。


穂乃果「……ううん、話してくれて嬉しかったよ」

微笑みかけてくれる穂乃果ちゃん。

花陽「今日はありがとう……」


穂乃果「……またいつでもおいで、花陽ちゃん」

なのにどうして……



こんなに不安なんだろう。

不安の正体はわからない。

でも、花陽の心は軽くなりました。


理解ってくれる人がいるだけでこんなに違うんだなって。


花陽「そう……だよね」


また違う気持ちが黒く黒く塗りつぶす。

あれだけ一緒に居たのに、凛ちゃんは……


凛ちゃんは気づいてないんだもんね。

花陽はだめだだなぁ。

せっかく穂乃果ちゃんから元気をもらったのに、


ちょっと考えちゃったらこうだもん。


そうだよね、隠してるもんね。


花陽「もう、私って馬鹿だなぁ」

あははっ……

あははははっ♪


花陽「……っぐ……ひぐっ……うああぁぁっ…………」


……どうやって家に着いたかわかりません。

気づけば家に居ました。

ぼーっとしてます。

明日になれば何かが変わるわけじゃないです。

ただ、ぼーっと……

……凛ちゃんと話したいな。

携帯を手にとっては捨て、手にとっては捨ての繰り返し。


都合よく電話がかかってくるはずもなく、時間は過ぎ去っていきました。

結局一睡も出来ませんでした。

嘘です。気づいたら寝てました。

凛ちゃんのことを想うと、胸がきゅっとして……

どうしようもなくなって……

セットで真姫ちゃんが出てきます。

元気な凛ちゃんと、それに引っ張られながらも軽口を叩く真姫ちゃん。

落ち込んでる凛ちゃんに、叱咤できる真姫ちゃん。


正直、お似合いです。真姫ちゃんと一緒にいる凛ちゃんは、花陽の知らない表情をいっぱいしてくれます。

だから、側にいて、花陽は楽しいです。

花陽「今日も頑張らないと」

……何を頑張るんだろう。

凛「かよちん?」

花陽「え……どうしたの?」

凛「今、話し聞いてた?」


通学路でいつものように、登校していたはず。


花陽「あ、ごめん……」

真姫「ちょっと、花陽体調悪いんじゃない?」

優しく声をかけてくれる真姫ちゃん。

凛「まだお腹が痛いの?」

心配そうにしてくれる凛ちゃん。


花陽「ごめんね、ちょっと寝坊しちゃって……」

重ねていく小さい嘘。


凛「最近こういうの多いよかよちんー」

真姫「アイドル特集とかで夜更かしは禁物よ」

花陽「あはは、ごめんね」

笑って誤魔化すんだ。いつもいつも。今日だって。

お昼休み、体調がやっぱり悪いって言って保健室に。

少し休めば大丈夫だからって言い訳して抜けだして。


複雑な感情だけがぐるぐると廻って。


凛「かよちんいる?」

一番会いたくて会いたくない彼女が来てしまった。


花陽「うん、いるよ」


凛「大丈夫……?」

花陽「……うん」


気遣いなんて要らないのに。でも、求めちゃってる。凛ちゃんを。

凛「かよちんは頑張り過ぎなんだよ」

花陽「あはは、頑張ってないよ、私なんて」

ぷくっと頬をふくらませて言ってくれます。

凛「凛は、かよちんが心配だよ。最近いっつもだもん」

花陽「ごめんね、心配ばっかりかけちゃって」

凛「だーかーらー凛のことより自分のこと!」


凛ちゃんが欲しいって言ったらくれるのかな。

好きだよって伝えたら、叶えてくれるのかな。

…………無理だよね。

凛「そうそう、真姫ちゃんも心配してたんだよ?」

凛「花陽ったら……全く無理ばかりするんだから!」

凛「見たいな感じにゃ」

花陽「あはは、似てるね」

凛「凛ものまね得意だからね♪」

……私のことものまねしてくれたことあったっけ。

…………ううん、凛ちゃんに……悪気はないよ。

凛「あのさ、かよちん」

凛「女の子同士って変だと思う?」

花陽「……急にどうしたの?」

胸が、どくりと跳ねました。

凛「最近、凛おかしくなっちゃったのかなって」

花陽「……」

少し顔を赤らめている凛ちゃん。

凛「その人を思うと、なんだかテンションが上っちゃって……」

その話を私にしてくれるってことは。

凛「二人きりだと妙に意識しちゃうから、ちょっと……ね」

私じゃないんだなって。

花陽「……真姫ちゃん?」

凛「うん……こんなこと相談できるのはかよちんしかないなくって……」アハハ

とても幸せそうな凛ちゃんでした。

目も眩むようなとびきりの笑顔。

今。私は笑ってるのかな。

女の子同士なんて変だよ。

そう言えば、凛ちゃんは諦めてくれるかもしれない。

真姫ちゃんはノーマルだよって。

でも、花陽なら……私なら受け入れることが出来るよって。

……そうしちゃえばいいんじゃないかな。

花陽「ま……真姫ちゃんは……」

花陽「……女の子同士なんて……」

なんて…………

花陽「女の子同士だからって気にしないと思うよ!」

凛「……そうだといいなぁ」

花陽「大丈夫だって! 凛ちゃん……可愛いから!」

凛「ありがと、かよちん! 元気いっぱいいっくにゃー!」

花陽「うんっ、頑張ってね」

凛「かよちんも、ゆっくり休んでね。凛、また放課後に来るから!」


行っちゃった…………。

胸が痛い。

もう、支えてくれる人は居ない。

隣じゃない。

自分で立ち直らなきゃ。

もう、応援するって決めたんだ。

決めたんだ……。


迷惑かけないように、心配をかけないように。

決して見透かされる事のないように。

融けないように、解けないように。

厳重に氷のように冷たく、鍵をかけていく。

溢れる想いに、蓋をしよう。


ちょっとの痛みは仕方ないね……。

嘘なんて気づいてくれなかったんだよ?

人は皆自分が大切なんだよ?

どうして我慢しちゃったの?

凛ちゃんのことが欲しくなかったの?

独り占めしたかったんじゃないの?

ずっと隣にいて欲しかったんじゃないの?

ほら、隣を見て?

誰も居ないんだよ?

花陽「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」

胸が引き裂かれそうに痛い。

花陽「私はただ、側にいて欲しかっただけなのに……」

ずっとずっと好きだった。

花陽「……臆病者」

心のなかで何かが崩壊していくような音がした。

放課後、凛ちゃんに会う前に先に帰りますと書き置きだけして、保健室から逃げた。

今日は、凛ちゃんにもう会えない。

泣いちゃいそうだから。

もう、限界です。

明日からさらに地獄なのに。

ふらふらと、屋上に。


夕日がとっても綺麗です。

μ’sはもう6人。3年生は進路調査で、目標が宙ぶらりんの私達は静養期間です。

講堂を満員にした時は夢の様な時間でした。

私が、高望みしなければ幸せだったんです。


練習風景が浮かんできます。

頑張れば頑張った分だけ結果がついてきて、出場まであと一歩でした。

……でも、出られなかった。

私が凛ちゃんを欲しいと思わなければ、夢がずっと続いたかもしれません。

もう、醒めてしまいました。

熱かったものは反転しちゃうと急速に冷めちゃうんです。

だってそうしないと、壊れちゃうから。


欲して、焦がれて、待ち続けて、それでも手に入らなかったら?

なんて残酷なんでしょう。


……だから逃げちゃうんです。現実逃避をするために。

柵の内側から、外側に。

穂乃果「花陽ちゃん?」

花陽「えっ……?」

乗り越えようと柵に手をかけていたのに、止められてしまいました。

花陽「なんで、ここに……?」

穂乃果「……穂乃果はいつもここにいるんだよ?」フフ

やっぱり穂乃果ちゃんらしくない雰囲気。

穂乃果「花陽ちゃんは今、何をしようとしてたの?」ニコニコ

怖い。穂乃果ちゃんが近づいてくる。

怒られる? 叱られる? ううん。もっとわからない怖さがある。

肩を掴まれて、耳元でそっと囁かれる。

穂乃果「……凛ちゃんかな?」

花陽「――――っ!」

何も言えない。聞きたくない。

穂乃果「当たりだったんだね……」

花陽「私、もうだめだよ、穂乃果ちゃん」グス

花陽「昨日あれだけ相談してもらったのに、だめだった」

穂乃果「……ねぇ、花陽ちゃん」ギュッ

花陽「ほ、穂乃果ちゃん……?」

不意に抱き寄せられた。ふわふわで温かい。

思ってた以上に私は優しさに飢えていて。

穂乃果「もう、大丈夫じゃなくていいんだよ」

隣に人が居てくれることに安心を覚えていて。

穂乃果「穂乃果はいつでもここにいるから」

私の決心なんて弱いなって自覚して。


花陽「穂乃果ちゃん……私……わたしっ…………」グスグス

穂乃果ちゃんの温もりに溺れていきました。



全てを吐き出した後、眠くなっちゃって眠ることにしました。

穂乃果ちゃんの膝で。どんな私でも受け止めてくれます。

うとうとするなかで、呟きが聞こえました。

穂乃果「花陽ちゃん。悲しいことや寂しいことは楽しいことで塗りつぶしちゃえばいいんだよ」

答えようとしたんだけど、眠くて、眠くて、口が動きませんでした。

穂乃果「……一つだけ上書きしてあげる」


穂乃果「……かよちん」


慈愛に満ちた一言が頭のなかで反芻されました。

そっか、凛ちゃんだけの呼び名じゃ無くなっちゃったね。

そんなことを考えながら、意識は闇に落ちました。

今日はここまでです。お疲れ様でした。今後もゆったりです。申し訳ない。

花陽「……んっ」

穂乃果「起きた?」

花陽「あぁああっ、ごめんなさい穂乃果ちゃん……」

穂乃果「かよちゃんの可愛い寝顔が見れたからよかったよ」ニコニコ

花陽「あはは、恥ずかしいよぉ……」

穂乃果「もう遅いから、帰ろっか」

花陽「うん……」

隣には穂乃果ちゃんが居てくれます。

……あれ、でもなにか違和感が……

花陽「ことりちゃんと海未ちゃんは……?」

いつも一緒の二人が、最近一緒に居ません。

穂乃果「……今日は副会長の引き継ぎだから、希ちゃん達と一緒かな」

嘘を付いているようには見えません。

花陽「じゃあ……」

穂乃果「ほらっ、そんなことより早く出ないと校門しまっちゃうよ、かよちゃん!」

花陽「あっ……うんっ……!」

呼び方が変わっていました。『はなよ』ではなく『かよちゃん』に。

穂乃果「えへへ、かよちゃんの手すっごい温かいよ!」ギュッ

私の心もぽかぽかしています。

二人の時はこうやって、安心できるんです。

手が解かれて、また独りに。

穂乃果「またね、かよちゃん」

花陽「うんっ、また明日ね、穂乃果ちゃん」

穂乃果ちゃんの姿が見えなくなるまで手を振りました。

夜ご飯を食べて、また自分の部屋に。


凛ちゃんからメールが来てました。

内容は、私への心配と……真姫ちゃんへの行動の結果でした。

返信は……しませんでした。

鏡に映った顔は酷い泣き顔でした。

少しでも、気分を上げるために髪の毛をいじって……いじって……


花陽「お断りします!」

指で髪を巻いてみます。

花陽「何それ、イミワカンナイ」

真姫ちゃんの真似っ子です。

この姿なら凛ちゃんも振り向いてくれるのかなって思って、我に返って……

花陽「何やってるんだろ……私……」

本当に意味がわからないよ……

……穂乃果ちゃんと一緒の時は楽しかった。

救われてる気がしたから。

でも、その楽しいことも……

寂しいことや悲しいことで塗りつぶされていくんです。


思い出は変わらないってよく言うじゃないですか。

そんなことなくって……

思い出ってどんどん輝いちゃうんです、美化されちゃうんです。


そんな凛ちゃんとの輝かしい思い出を思い返す度に、どんどん心が汚れていきました。

決めたはずのことが全然守れません。

結局未練ばっかり。

悲しいよ、寂しいよ。

凛ちゃん……


かよちんって元気な声でいつも通り呼んでよ……


目を閉じると、穂乃果ちゃんの顔が一瞬浮かびました。

感情のコントロールが上手く出来ません。

あれ……おかしいなぁ。いつもは上手く出来るのに。


押し込めて眠っちゃえば、大抵いつもは大丈夫なのに。


押し込むことも、眠ることも出来ない……


積もりに積もった負の負債は、容赦なく責めてきます。

でも、もう耐えられないんです。

物が可哀想なので、物にも当たれません。


……あぁ、当たる人が居ました。

身近に、とっても身近に。

思い切り枕に顔を埋めます。

何度も何度も、ぶつけるように。

手の甲を叩いてみたら痺れました。

内側から沸き上がる何かに、心が掻き毟られて、心臓を抑えます。

全身にやりようのない痒みが走って、引っ掻き回したくなります。


それが定期的に短い間隔で身体中を駆け巡って。

わけがわからなくなって……

疲れきって寝てしまいました。

すいません、今日はねます。お疲れ様でした。続きは起きて時間有り次第更新します。

喉がカラカラする。

日差しが眩しい。

身体が重い。

花陽「もう……朝……?」

ぐっと力を込めて立ち上がろうとする。

花陽「あ……れ……?」グラッ

上手く立ち上がれない。

なんとか気力を奮い起こして、水を飲む。

身体中が熱い。

花陽「……休もう」

学校は休むことにした。ズル休み……なのかな。

また布団に。

頭の中に靄がかかったみたいに、何も考えれない。

身体が危険な信号を発信しているようだった。


それは嬉しい事です。だって学校に行かなくていいんだもん。

お母さんにも伝えてます。軽い風邪のようです。


数日は休める。そうすればきっと……きっと。


いい夢が見たいなぁ。夢くらいは……

――――――

花陽「凛ちゃん……」

きれいな景色。

凛「ほぉら、かよちん行くよ行くよー!」

花陽「ちょっと待ってよぉ!」

凛「かよちん、置いてっちゃうよ!」

真姫「ほら、花陽早く来なさい?」

あぁ、手をつないでる真姫ちゃんと凛ちゃん。

どんどん前に……

行かなきゃ……足が……重い…………

――――――

花陽「凛ちゃん……!」

『どうしたの? かよちん?』

優しい声が私に届きました。

花陽「ねぇ、凛ちゃん私、寂しいよ」

『変なかよちん。凛はここにいるよ?』

温かい手で撫でてくれます。

花陽「もう、離したくない。ずっと側にいて……」

『……うん、かよちんが望むならいいよ』

花陽「じゃあぎゅってして」

『今日のかよちんは甘えんぼだねっ』ギュッ

花陽「もう、離れないで……」

花陽「私だけを……見てっ……!」

『……ごめんね、こんなに悩んでたんだね、かよちん』

『……そうだ、そのまま寝てて、タオル取り替えてあげるから』

夢か現か、もうそんなことどうでもよくて。

凛ちゃんが近くにいてくれればいいんです。

だって、私は幸せなんだから。

こんな夢がずっとずっと続けばいいのに。

…………

『かよちん?』

『寝ちゃったかな。心配だったから来てみたけど……』

『……守ってあげるからね』

『絶対にμ’sは解散させない。一緒に居ようね』

『……屋上で待ってるよ。かよち ん』

一旦中断で。余裕があれば夜に続きを。お疲れ様でした。

とても寂しく温かい夢。

目が覚めると、やっぱり何も変わっていません。

夢の中でしか甘えることの出来ない臆病者です。

……あれをいい夢っていうのは悲しいかも。


でも、いっぱいいっぱい甘えました。

私の本心。

だって大好きなんだからしょうがない。

もう、きっと、穢れちゃった大好きだけど。


…………明日はちゃんと登校しよう。

花陽「えへへ、昨日はごめんね」

凛「もー! 凛心配したんだからね?」

真姫「まったくもー、無理はダメって言ったばかりじゃない」

花陽「あはは、無理してないよ! って言っても説得力ないよね……」ショボン

凛「でも、治ってくれてよかったにゃー!」

うん、変わらない日常だ。私が何も想わなければ変わらないんだ。

真姫「ほら、行くわよ」

ただひとつ。

凛「さぁ、行くよ、かよちん!」

変わったことがあるとすれば。

花陽「…………うんっ」

凛ちゃんが真ん中でした。

些細な事です。

本当に些細な事で……

普段なら絶対に意識しない。

ただ、真ん中はいつも私で、二人に引っ張られていました。

その凛ちゃんが真ん中ということは。

真姫ちゃんの手を私に触れさせたくなかったから……?


いや違うよ。凛ちゃんはそんなこと考えていないはず。

これは私の勝手な被害妄想だ。

なのに、どうして、

こんな風に考えちゃうんだろう。

最低だよ。

どうして、こんな考えばっかりになっちゃうの。


凛ちゃんにとっては私は邪魔なの?

凛ちゃんは真姫ちゃんが居ればいいの?


違うよ、凛ちゃんは優しいから……


誰にだって優しいの?

私以外にもこんな感じなの?


違う……違うよ…………


くすくす、気づいているはずなのにね。

自分はもう特別なんかじゃないって。


………………ちが……わないよね。


ほら、逃げちゃおう。

向き合ったら壊れちゃうよ。

凛「お弁当忘れたの?」

真姫「ん、体調悪いの? 花陽」


花陽「…………あ、今日は約束があってね」ニコニコ

花陽「頑張ってね、凛ちゃん」コソッ

凛「に゛ゃっ!?」

真姫「もう、二人してどうしたのよ」


花陽「ううん、なんでも。それじゃあまたあとでね」タッ


……誤魔化せたのかな。


…………アイドル目指してるんだからこれくらい……出来ないと。


花陽「夢では、屋上で待ってるんだったよね、凛ちゃん」

私のどんよりとした心とは裏腹に空は蒼天だった。

親友を見ても、友だちを見ても、もう罪悪感しか湧かなかった。

嘘を嘘で塗り固めて、また嘘をついて。

夢の中だけで心情を吐露して、心壊して、直して。

それが成長って言うならもう要らない。


だったらどうすればいいの。

真姫ちゃんを貶める?

凛ちゃんから同情を買う?

できるわけないよ。

花陽は二人が幸せならいいんです。

遠くで見てるだけでいいんです。

そうやって何度も思ってるのに、消えないよ……

穂乃果「また……泣いてるんだね、かよちゃん」

花陽「……穂乃果ちゃん……」

冥い瞳。こういう時の穂乃果ちゃんは決まって近いです。

穂乃果「昨日も泣いてた。ねぇ、どうすればかよちゃんは悲しまない?」

とびきりの笑顔なのに、笑っていません。

花陽「わからないよ……」

正直、どうすればいいかわからないから悩んでるんだよ。

穂乃果「か~よちんっ♪」

花陽「や、やめて!」ビクッ

凛ちゃんとちょっと似た仕草をされただけで、嬉しくなる私に……ドキリとしました。

違う。こんなことされたくらいで、凛ちゃんへの想いが揺らぐはずがない。

花陽「なんで……なんで穂乃果ちゃんは、花陽にこんなに優しいの!?」


ただ、がむしゃらに否定したくて、つい叫んじゃいました。

穂乃果「μ’sのメンバーだからだよ」

さっきまでの優しい声とはぜんぜん違う無機質な声。

花陽「……それだけ……なの?」

それだけで……それだけで…………?

穂乃果「うん。穂乃果はね、ラブライブ! で来年優勝しないといけないんだ」

本当に冷たい声。かつての……絵里ちゃんみたい。

穂乃果「だから、μ’sのメンバーの花陽ちゃんはとっても大切なの」ニコッ

歪な笑み。無理してるような……そんな笑み。

穂乃果「……穂乃果は三人分の夢を潰しちゃったんだ」

自嘲するようなしゃべりで。

穂乃果「だから優勝して返すしか無いんだよ。それでも許されるとは思ってないけど」

花陽「で、でも、三人は恨んでなんか……」

あの三人なら恨まない。……でもそう言い切れるのだろうか。にこちゃんにとっては夢だった。

穂乃果「…………ね、花陽ちゃん。穂乃果、馬鹿だからこれくらいしか思い浮かばなくてね」ギュッ

花陽「……あ…………う………………」

耳元でまた囁かれる。吐息が熱い。くらくらする。

穂乃果「離れてほしくないから、穂乃果は何でもしてあげるよ…………」

義務感と私に対する優しさと、それから来る行動だって事に気がついた。

だから、執拗までに見ていてくれたんだね。ありがとう。

花陽「穂乃果ちゃん、ありがとう。嬉しいな」ギュッ


穂乃果「花陽ちゃん……」



背筋がぞくりとする。こんな優しい先輩を。友達を。仲間を――――――









――――――今、支配しようとしているだなんて。

お疲れ様でした。今日はここまでです。次は原稿終わり次第(5/17)までに投稿します。

脱稿完了しました。明日から更新していきます。

試し読みですが、お暇でしたらどうぞ。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5288263

花陽「ねぇ、穂乃果ちゃん」

あぁ、きっと最低だ。

穂乃果「どうしたの?」

花陽「私は絶対μ’sはやめないよ?」

穂乃果「ありがとう……!」

明るい表情になった穂乃果ちゃん。



花陽「その代わり……さ」

罪悪感に漬け込んだ最低の取引だ。



花陽「私に穂乃果ちゃんの時間をちょうだい?」

穂乃果「うん……?」

あはは、なんだか分かってない感じ。

花陽「……あ、ごめんね。穂乃果ちゃんはずっと私のことを考えてって意味」

穂乃果「……わかった」

花陽「私と居るときだけでいいからさ……」

もう、こんな思い捨てたいから。

花陽「いっぱい優しくして……苦しいことを忘れさせて」

穂乃果「わかったよ、花陽ちゃん」

汚れちゃった好きなんて、要らないから。

穂乃果ちゃんを使って、塗りつぶしてもらうんだ。

……一生懸命穂乃果ちゃんは尽くしてくれる。

だから利用させてもらう。

穂乃果「泣かないで、花陽ちゃん」

花陽「……え?」

涙が溢れる。おかしいな……泣いてるはずなんて……ないのに……


穂乃果「穂乃果が全部受け止めてあげるから」ギュッ

優しい穂乃果ちゃん。

花陽「……もっと」

穂乃果「わかった……」ギュゥゥゥ

壊れるくらい抱きしめて欲しい。壊しちゃってって思うほどに。

数十分温めてもらって。大分緊張もほぐれて……

ぐーとお腹が鳴りました。

花陽「……穂乃果ちゃん?」

穂乃果「あはは、安心したらお腹すいちゃって……」

花陽「実は……私も……」

穂乃果「あははっ! じゃあご飯食べに行こうっ!」

花陽「はいっ! 白米の美味しいお店で!」

穂乃果「レッツゴー!」


重かった心は穂乃果ちゃんのおかげで軽くなって。

いつも通りの日常を何とか迎えれそうです。

花陽「ふふ、今日は楽しかったなぁ」

久々の笑顔。なんだか、お肌もツヤツヤです。

穂乃果ちゃんの元気を分けてもらった気分です。

明日は穂乃果ちゃんと何をしよう。

明後日は穂乃果ちゃんと何をしよう。


今日の穂乃果ちゃんは優しかった。明日はどうなのかな。

生徒会長は忙しくないのかな。皆のことをどんな風に考えているのかな。


……電話しよう。

花陽『穂乃果ちゃん起きてる?』

穂乃果『うん、どうしたの花陽ちゃん?』

花陽『……声が聞きたかったから』

穂乃果『そっか、明日一緒にお昼ごはん食べようね♪』

花陽『えっ、嬉しいなぁ! いっぱいおにぎり作ってくるからね!』

穂乃果『うんっ、穂乃果も楽しみだっ』

花陽『……ありがと、おやすみ』

穂乃果『おやすみ、花陽ちゃん』



……明日がとっても楽しみです。

花陽「ううん……後、五分……」

身体をゆっくりと起こすと、いつもより遅い起床に。

あわてて、着替えて、急いでダッシュ。

凛ちゃんと真姫ちゃんに迷惑かけちゃう!


勢い良く玄関の戸を開けると――――


穂乃果「おはよう、花陽ちゃん」


――――極上の笑顔で迎えてくれました。

花陽「あ……あれ? 穂乃果ちゃん?」

穂乃果「どうしたの? さ、早く学校に行こっ?」

困惑する私をよそにぐいぐい引っ張っていく穂乃果ちゃん。

だ……だれかたすけてー!

穂乃果「あ、そうだ……」

ピタリと止まる穂乃果ちゃん。

穂乃果「せっかくだから、恋人つなぎ……しよ?」

上目遣いで見つめられて……顔が真っ赤になるのが分かって……

花陽「う、うん」

指を絡めて、前に進み始めました。

すっごいドキドキする……

花陽「そ、そう言えば……」

穂乃果「あ、凛ちゃんと真姫ちゃんには言っておいたからねっ」

聞こうとしたことを先に言われました。

穂乃果「……そんなことより、今日は一緒にご飯食べるんだからね?」

花陽「う、うんっ……あっ」

急いでたからご飯がぁ……うぅ……

穂乃果「花陽ちゃん?」

花陽「約束破っちゃってごめん……お弁当忘れちゃった……」

うあぁぁぁああ、花陽痛恨のミスですぅ……

穂乃果「大丈夫だよ、今日は穂乃果が作ってきたからっ♪」

穂乃果ちゃんが笑顔になると私もつられて笑ってしまいます。

本当に、太陽みたいな人です。

心の中がお花畑状態で、学校に。

もうぷわぷわしてます。

穂乃果「じゃあ花陽ちゃんっまた後でねっ♪」

ウィンクして、穂乃果ちゃんは去って行きました。


指に体温がまだ残っていて……それを確かめながらゆっくりと扉を開きます。

花陽「おはよう、二人とも」

真姫「ん、おはよう花陽。穂乃果と何かあったの?」

花陽「え?」

凛「かよちん、おはよう! 穂乃果ちゃんとどうしたの?」

花陽「えぇっ? なんにもないよぉ?」

大丈夫。一緒に登校しただけです。

真姫「ふーん」

凛「そうなんだー」

二人とも腑に落ちない表情でした。

花陽「あ、それで今日のお昼は穂乃果ちゃんと二人で食べるから……」

真姫「別に三人で食べるって取決めもないでしょ」

真姫ちゃんがちょっと冷たい……

凛「かよちんがそうなら仕方ないにゃ」

……凛ちゃんにとってはチャンスだもんね。

ズキリと心が痛いけど、頑張って凛ちゃん。

――――――お昼休み――――――

花陽「…………」ソー

真姫「何こそこそしてるのよ、お弁当は?」

花陽「あ、私……穂乃果ちゃんにもらうんだ……」

真姫「……そう」

凛「行ってらっしゃい~」フリフリ

花陽「う、うんっ」


そっけなさを感じつつも、屋上に。

いつも待ってくれる始まりの場所に。

穂乃果「花陽ちゃんっ! 待ってたよ!」

にこにことお日様のように照らしてくれる。


いつでも大丈夫だって思えるよ。これだけ支えてくれるなら。

うん、よし、決めたっ。



私が…………私が取るべき選択は――――

お疲れ様でした。今日はここまでです。

花陽「日曜日にデート……しませんか?」

穂乃果「うんっ、いいよっ♪」

嫌な素振りを一切見せないで了承してくれます。

私って、優しくされたらすぐにころころ変わっちゃうのかな。

なんて、ちょっとした自虐です。

穂乃果ちゃんの笑顔を見たら嫌な気持ちが吹っ飛んじゃって……

でも、嫌な気持ちでずっと居なくちゃいけないわけじゃないから……

穂乃果「花陽ちゃん、だめだよ?」

不意に抱きしめられて……

穂乃果「今は、穂乃果のことだけ考えてないと……ね」

あぁ、やっぱり軽いかもしれないです。

囁かれて今、ドキッとしちゃったから……

穂乃果「さてさて、暗そうなのはお腹が減ってるからだよ!」

穂乃果ちゃんのお弁当……

おにぎり・おにぎり・おにぎり……?

またおにぎりのさらにおにぎり。

穂乃果「穂乃果特製のおにぎりだよ!」

うん、見ればわかるんだよ穂乃果ちゃん。

穂乃果「いやっ、違うよ? 寝坊してギリギリになったとかそういうわけじゃないんだよ!?」

花陽「忘れてきた花陽が言えることじゃありませんので……」ズーン

穂乃果「ささっ、食べて食べて!」

花陽「いただきます!」パクッ

………………

花陽「美味しい……!」

穂乃果「でっしょー!?」フフン

いや、うん、でも美味しい。

なんか穂乃果ちゃんって感じがする。

満足気な穂乃果ちゃんを見て、さらに美味しくなってる。

ぽかぽか陽気な雰囲気と相まって、

私の心の陰鬱とした黒いものも、蒸発しちゃったみたい。

おにぎりも完食したところで……

花陽「幸せだなぁ」

なんて呟きが漏れました。

穂乃果「……そうだね」

一瞬、穂乃果ちゃんが遠くなったように思えた。

物理的には近いのに、遠い。

穂乃果「大丈夫だよ、強く握らなくても、穂乃果は逃げないから」

無意識のうちに手を握っていたようです。

穂乃果「ふっふっふ……デザートもあるんだよ!」

花陽「えぇっ、太っちゃうかも……」

穂乃果「これを見てそう言えるかな……?」

黒光りする楕円形の物体。

あんこの安らぐ甘い匂い。

穂むら特製の……おはぎ……!

お米……もち米……

じゅるり……


花陽「ごちそうさまでした……」フワァ

穂乃果「お粗末さまでした!」


あぁああぁっ……絶対太っちゃう……

でも、美味しいから幸せかも……

ぼーっとしてたら色々な考えが浮かんでくる。

でも、今は穂乃果ちゃんだけを感じてる。



……穂乃果ちゃんからいっぱい幸せをもらっちゃった。

日曜日に告白して、全部終わりにしよう。

ありがとうとごめんなさいを伝えよう。

だから今は。


今だけは幸福な気分に浸らせて欲しい。

本当に、自分勝手だね、私は……

穂乃果「花陽ちゃん、もう授業始まっちゃうよ」

そっか、もう終わりかぁ。残念だなぁ。

花陽「うん、わかった……放課後に」

穂乃果「……また、教室で待ってるよ」

花陽「うんっ!」


……そんなこんなで教室に戻ってきたんですが…………

凛「か、かよちん、遅かったね」

真姫「……おかえり」

なんか微妙にぎくしゃくしてるような……雰囲気?

真姫ちゃんが素っ気ないのは朝からだとして……

凛ちゃんがとっても挙動不審のような……

花陽「……何かあったの? 凛ちゃん」ヒソヒソ

凛「……真姫ちゃんをデートに誘っちゃったにゃ」ヒソヒソ

おめでとう……でいいのかな。

うん、いいよね。

花陽「それでそれで?」ヒソ

凛「……おっけーされたから今から緊張してて……」ヒソヒソ


二人は一緒の道を歩み始めるのかな。

……私もちょっとずつ頑張らないと。

真姫「……凛、なんでも花陽に話すのはやめなさい」

凛「……ごめん」

花陽「あぁっ、私が勝手に聞いちゃっただけで凛ちゃんはっ……!」

真姫「……日曜だけど花陽も来る? 予定が合えばの話なんだけど」

あからさまに凛ちゃんがしょぼんとしてる。

聞くのは早すぎたかなって。でも凛ちゃんも緊張してるみたいだったからつい……


花陽「あ……ごめん。日曜日は約束があって……」

真姫「………………そう。なら仕方ないわね」

これで、凛ちゃんの面目はなんとか……

凛「うぅ……」グスッ

保ててないです……

――――――2年生教室――――――

穂乃果「今日も花陽ちゃんと用事があるから……」

海未「……またですか。何か悩みがあるんですか?」

穂乃果「……ううん、特に無いよ」

ことり「……そう、わかった海未ちゃん。今日は帰ろう?」

海未「ですがっ!」

穂乃果「……でも、もうそろそろ……きっと終わるんだ。花陽ちゃんは強い子だから」

ことり「……」

穂乃果「……ごめんね。言えないんだ」

海未「……わかりました。ですが何かあったら頼ってくださいね」

ことり「ことりも待ってるからね……!」

穂乃果「ありがとう」

穂乃果がことりちゃんの留学を止めた時、海未ちゃんが居てくれた。

海未ちゃんの存在もあって、穂乃果は駆け出すことができたんだ。

……今、花陽ちゃんを支えてくれる人はいないんだ。

好きだった凛ちゃんは親友のことが大好きで。

その親友の真姫ちゃんに相談することだって出来ないんだ。


憎めばいいのか、怒ればいいのか、悲しめばいいのかだってわからないはずなんだよ。

それを誰に向ければいいのかだってわかんない。

穂乃果は今もそうだから。


だから、花陽ちゃんを支えれるのは……今は穂乃果しか居ない。

日曜日……言い出す前に花陽ちゃんは真剣な表情だった。

きっと何かを言い出すはず。

……どうなっちゃうのかな。

凛「かよちん、今日も?」

花陽「あっ、うんっ、ちょっとね!」

真姫「……穂乃果と?」


花陽「……うん。お昼のお礼もしなくちゃ」

真姫「……凛、帰るわよ」グイッ

凛「あっ……う、うんっ!」

真姫ちゃんに強引に引っ張られて帰っていく凛ちゃん。

……真姫ちゃんは相変わらずご機嫌斜めです。

穂乃果ちゃんのところに行かなきゃ。

海未「穂乃果……隠し事が分かりやすすぎます……」

ことり「……見守るしかないんだね……」

海未「ん、あれは……」



凛「真姫ちゃん、機嫌悪い?」

真姫「別に」

凛「……凛、悪いことした……?」

真姫「ううん」


海未「真姫と凛……ですね」

ことり「花陽ちゃんがいないね」

海未「二人とも!」

凛「海未ちゃんとことりちゃん、やっほー!」

ことり「えへへ、珍しいね二人だけなんて」

真姫「そういうそっちも、穂乃果がいないのね」

海未「えぇ、事情がありそうで」


真姫「……それって花陽絡み?」

凛「……真姫ちゃん?」

海未「よくわかりましたね……」

ことり「私達、四人いるけどどうしよっか?」


凛「あーうんー」チラッ

真姫「……今日は遊ぶ気分じゃないから帰るわ」

凛「あ、待ってよ真姫ちゃん!」


ことり「……あっ」

海未「……私達も帰りましょうことり」

ことり「うん……」

――――――

花陽「穂乃果ちゃん、待った?」

穂乃果「ううん、待ってないよ~」

花陽「私ずっと楽しみにしてたんだ……」

穂乃果「うふふ、花陽ちゃん、おいで」ナデナデ

花陽「はふぅ……癒されます……」

穂乃果「……花陽ちゃんってぷにぷにしてるね……」モミッ

花陽「ひゃあぁっ!? も、揉まないでよぉ!」

穂乃果「適度な弾力感と言うか……」ツンツン

花陽「や~め~て~よぉ~!」

穂乃果「ごめんごめんっ」テヘヘ

触れる手と手がもどかしい。

もっと欲しい。

もっともっと触って欲しい。

いっぱい欲しい。

知らない間に求めてる。

気づかないふりをして求めてる。

私だけの太陽であってほしい。


……でも、貴女は私だけのものじゃないから。

それだけはどんなに親しみを深めても拭えないものだから。

穂乃果「……楽しい時間が過ぎ去るのって早いね」

花陽「そうだね……」

すっかり夕日が落ちきっている。

カラスたちは寂しげに泣いている。

穂乃果「さて一緒に帰ろう、花陽ちゃん」

花陽「うん……」

指を絡めて、帰路につく。

今日は無言だったけど。

それすらも愛おしい。

花陽「じゃあね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「うんっ、また明日♪」

本当に、楽しい時間がすぎるのは早い。

穂乃果ちゃんと一緒だった日々が楽しくて仕方ない。

……でもね。もうこの関係も終わっちゃう。

穂乃果ちゃんは変わらず優しいから、いいのかな。

日曜日が終わっても、時々遊びに行こうだなんて考えちゃう私は悪い子でしょうか。


凛ちゃんもデートに誘えたようだし、進展はしてるんだね。

……月曜日、屋上に行っても一人かも。

なってみないとわからないから、今日は寝ちゃおう。

――――――日曜日――――――

待ち合わせの十五分前。

穂乃果ちゃんを待たせる訳にはいかないもんね。

公園のベンチに腰掛けてゆっくり待機。

ドキドキする。

何度も話して、何度も会っているはずなのに。

でも、嫌なドキドキじゃないのだけは確か。

ほら、走って太陽が近づいてきました。

穂乃果「花陽ちゃん早いよー! ごめんねっ」

花陽「ううん、時間ピッタリだよ穂乃果ちゃん」ニコッ

穂乃果「ふぅ、よかったー! それでどこに行こう?」

花陽「じゃあまずは……!」

定番のアイドルショップに!

第一回ラブライブ!もあってか、A-RISEの人気は爆発していた。

穂乃果「やっぱりA-RISEは凄いね」

花陽「うん……」

ショップ内での会話は彼女たちで持ち切りになっている。

穂乃果「……花陽ちゃん、次はどこに行こうか?」

花陽「欲しいマスコット人形が……」

穂乃果「ゲームセンターだね!」


花陽「…………!?」クルッ


何かの視線を感じたような気がしたけど、気のせいかな。

ひょっとしたらμ’sのリーダー高坂穂乃果が居るってバレたのかな。

穂乃果ちゃんは存在感あるからなぁ……

でも、あたりを見回しても誰もいないから、私の杞憂かな。

穂乃果「うぐぐ……取れない……」

花陽「ほ、穂乃果ちゃん! もういいよ!」

穂乃果「穂乃果簿プライドがぁ……」

UFOキャッチャー連戦連敗。もう2000円も吸い込まれています。

真剣にやってくれるのは嬉しいけど破産させたいわけじゃないから引き剥がして……


穂乃果「むぅ、もう少しで取れそうだったのにぃ」

なんて、拗ねてる穂乃果ちゃんを見るのはとても楽しいです。

一生懸命っていうのが……私のためにしてくれてるのが誇らしい。


花陽「穂乃果ちゃん、もっといろいろな場所に行こう!」

穂乃果「今日は楽しむよ! 花陽ちゃん!」ダッ

ぎゅっと掴まれ、二人で駈け出した。

その後は水族館に行ってみたり、遊園地に行ってみたり。

甘いもの巡りをしたり、食べさせ合いをしたり。

今日一日を切り取るなら、とってもキラキラしたものになる。


花陽「……穂乃果ちゃん、学校に行こう?」

穂乃果「……うん」


一緒に坂道を歩く。階段を登る。

今行く場所は、μ’sとして私が始まった場所。



そこで終わりを告げる。もう、決めていたことだから。

屋上。ここで私は変わった。

二人の友人に後押しをされて、踏み出すことが出来た。


今は居ないけど、もう、大丈夫だよ。

私はちょっとだけ強くなれたから。


花陽「穂乃果ちゃん」

穂乃果「……どうしたの?」

花陽「今更謝っても許されないけど、ごめんね」

穂乃果「ううん、花陽ちゃんの気持ちは穂乃果が一番分かってるから」

花陽「……うん、ありがとう」

穂乃果「どういたしまして」

花陽「短い間だったけど、私穂乃果ちゃんに救われたんだ」

花陽「あのままだったらどうにかなっちゃってたかもしれない」

穂乃果「……」

花陽「もう、私だけ見なくてもいいから……日常に戻ろう?」

穂乃果「花陽ちゃんは……それでいいの?」

花陽「うん、こんな縛りがなくても、穂乃果ちゃんは…………優しいから」

穂乃果「そっか……」

慈しんだ視線が私に触れる。

今の言い方は少しズルかったかもしれない。

でも、これからもっとずるいことをしちゃうんだ。

苦しいことが消えるくらい、上書きをしてもらった。

悲しいことが無くなるくらい、塗りつぶしてもらった。

辛いことを忘れさせてくれるくらい、幸福をたくさんもらった。


花陽()

今の言い方は少しズルかったかもしれない。

でも、これからもっとずるいことをしちゃうんだ。

苦しいことが消えるくらい、上書きをしてもらった。

悲しいことが無くなるくらい、塗りつぶしてもらった。

辛いことを忘れさせてくれるくらい、幸福をたくさんもらった。


花陽「最後に一つだけ、お願いがあるんだ」

穂乃果「うん、いいよ」

夕日が目に入って眩しそうにしている穂乃果ちゃん。


花陽「……キスしてもらってもいい?」

穂乃果「…………」


私から穂乃果ちゃんに向けての最後の命令であって懇願。

きっと最後の決別のキス。

……むしのいい話かもしれないけど。

目を閉じる。

別に拒否されても、私は後悔しない。

だって、あまりあるものをもらっちゃったから。


そんなことを思っても……

あぁ、私はずるい子です。

優しいから断れるわけがないってことを知ってるから。

ね、穂乃果ちゃん。


唇の感触を感じました。

そして、ゆっくりと離れていきます。

穂乃果「……」

花陽「ありがとう、穂乃果ちゃん」

キスしてくれた、頬を触ります。

確かに温もりが残っています。

……私は…………満足です。

終わってしまう悲しさと、優しくしてくれた嬉しさでぐちゃぐちゃに。

でも、もう大丈夫。大丈夫だから……

穂乃果「だ、大丈夫? 花陽ちゃん……」

花陽「……花陽は……グスッ……大丈夫だからっ……グスグス」

振り絞って、大丈夫だってところを見せなくちゃいけないのに……

涙が……止まらなくてっ……

穂乃果「……もう、嘘ばっかりなんだから……」


静かにまた、抱きしめてくれました。

穂乃果ちゃんの腕の中は、温かかったです。

――――――日曜日 朝――――――

凛「今日は真姫ちゃんとデートだにゃ……」

かよちんに応えるためにも頑張らないと!

昨日も一昨日も真姫ちゃんは機嫌が悪かったけど……


凛「今日で笑顔になってもらうんだ♪」

えへへ、凛頑張っちゃうよー!

凛「ラーメン巡りも楽しみだー!」

凛「あ、でも真姫ちゃんってラーメン食べてくれるかな……」

いや、そういえば一緒にご飯を食べたことはあんまりないかも……

いっつもかよちんが近くにいたし……

あれ、真姫ちゃんと二人っきりって案外……初めて?


うぅ、意識すればするほどドキドキするよ。

真姫ちゃんも……凛のことを意識してるのかな……

ううん、それは考え過ぎだよねっ。

そんなネガティブなこととポジティブなことを考えながら真姫ちゃんの家に。

……豪邸だなぁ。

凛の家とは比べ物にならないくらい大きい。

呼び鈴を鳴らすと、しばらくして真姫ちゃんが出てきた。

真姫「おはよ、凛」

凛「……」

可愛い。素直に出てくる言葉がそれだった。

スカートがとっても似合ってて……いいなって。

だって、凛には似合わないもんね……

真姫「凛?」

凛「あ、おはよ! 真姫ちゃんは行きたい所ってある?」

真姫「……そうね」

真姫ちゃんの口からアイドルショップなんて言葉が出てきたのにびっくりしちゃった。

真姫「へぇ、面白い曲ばかりね」

凛「真姫ちゃんはどうしてここに?」

真姫「決まってるじゃない。μ’sの曲のイメージを創ってるのよ」

騒々しく鳴っている曲は今流行のスクールアイドルソングらしい。

真姫ちゃんはあっさり曲を作っちゃうからそんなこと考えてもいなかったけど。

凛「真姫ちゃんって苦労人?」

真姫「……さぁね。リサーチに来ただけよ」

ってことは凛とはデートでもなんでもなくって……視察なのかな……

真姫「……凛、隠れなさい」ガッ

凛「いたっ……えっ……?」

アイドルショップに入ってきたかよちんと穂乃果ちゃん。

……それより、真姫ちゃんに頭を抑えられて……密着状態で……

いい匂い……にゃ。

凛「ね、ねぇ真姫ちゃん」

真姫「…………」

真姫ちゃんは何も答えない。

頭を上げてみると、視線の先にはかよちんと穂乃果ちゃん。

真姫ちゃんはなんか難しい顔をしてた。

……ひょっとしたら。

…………凛にとっては最悪かもしれない。

穂乃果ちゃんが外に出て行って、かよちんはそれを追おうとしてる。

夢中で見つめている真姫ちゃん……あ、かよちんに気づかれる!?

凛「真姫ちゃん!」

ぐいっと力任せに引っ張って、かよちんの視界から外した。

グッズの影からこっそり覗いてみると、かよちんはやっぱりこっちを見てた。

気付かれなかった……一安心だよ。

真姫「ちょっと、凛」

凛「……あっ」

思い切り引っ張ったせいで、抱き寄せてる感じに……

うぅ、成り行きとはいえ……その……なんだか……恥ずかしい。

真姫「とにかく、ありがと」

そう言ってはくれるんだけど、もう意識は別に向かってるみたいで。

真姫「凛」

次の言葉は聞きたくない。

せっかくのデートなのに……でも……

真姫「追うわよ」

凛「うん」

小さく頷いて真姫ちゃんの後ろに続くことになっちゃった。

結局、デートっていう気分も味わうこともできないで……

真姫ちゃんに振り回されるだけの一日になっちゃった。

……悲しいな。

振り回されるのは嫌いじゃないんだけど。

凛を見てくれないのが寂しい。

かよちんと穂乃果ちゃんしか見てない。

……凛はここにいるのに。

手を握ってるのは凛なのに……

かよちんたちが向かって行ったのは、学校だった。

凛「ねぇ、真姫ちゃん。もういいんじゃない?」

淡い希望を抱いて止めてみる。

真姫「……どうして?」

どうして? って凛が聞きたいよ。どうしてあんなに固執してるの?

真姫「……そっか、凛は私と遊べると思ってたんだもんね」

凛「……うん」

真姫「……嫌なら、帰ってもいいわ」

真姫「……埋め合わせはちゃんとするから」

ちょっとだけ悔いが見えた。

それだけで満足しちゃう凛は……変なのかな。

凛「……ううん、埋め合わせはちゃんとしてね?」

真姫「……ごめん」

何に対してのごめんかわからないけど、凛は……

それでもいいかなって。

真姫ちゃんがこんなに必死なのを見るのは……初めてかもしれないから。


理由は凛絡みじゃなくても……ね。

屋上に夕日で照らされている二人。

扉からこっそり覗いてる凛たち。

何を言ってるかわからないけど、いい雰囲気なのはわかる。

どんどんと、かよちんと穂乃果ちゃんが近づいて……

凛「あっ……」

つい、声が漏れた。

二つの影が重なった。

真姫「…………」

真姫ちゃんは無言で走ってどこかに行ってしまった。

凛は……どうしてあげればいいんだろう。

でも……追いかけなきゃ……!

遅れたせいで真姫ちゃんが見えない。

凛「どこに……真姫ちゃん……」

真姫ちゃんの行きそうな場所……

教室だ! 一年生の教室に……誰もいない。


二年生の教室? 三年生の……?

μ’sの部室……!

凛「いない……」

あっ……焦ってた。一番大事な場所があった。

音楽室……!

凛「真姫ちゃん!」

扉を開けると真姫ちゃんは居た。

真姫「……あぁ、来たのね」

虚ろな目で凛を見る真姫ちゃん。

凛を見てるのかだって怪しい。

真姫「先、帰っていいから」

冷たい言葉がザクザクと刺さっていく。

凛「……真姫ちゃん……」

真姫「凛、来ないで」

近づけない。拒絶されてるみたいだ。

真姫「……私ね、ずっと前に音楽はやめようとしてたの」

真姫「ふふ、自分で言うのもアレだけど、私って才能はあったのよきっと」

自虐のように、自分を馬鹿にするように、真姫ちゃんは話してくれる。

真姫「私は、助けられた。穂乃果にずっと助けられてきたの」

真姫「あはは、笑っちゃうじゃない? 必要とされて嬉しかっただなんて」

言葉に熱が帯びていく。どんどんと嘲笑が増していく。

凛「……真姫ちゃんっ……!」

真姫「そうよ、私は穂乃果が好きよ! ……でも、もう叶うことなんて無いわ」

吐き捨てるように……真姫ちゃんは言ったんだ。


そして凛には、死刑宣告だった。

凛の想いは、終わっちゃったんだなって。

真姫「……つまらない話をしてごめん」

真姫「ね、しばらくここにいるから……帰って」

凛「……ごめん、真姫ちゃんを放って置けない」

もう、だめだ。凛の方が頭がおかしくなっちゃいそうだ。

真姫「同情なんて要らないから……」

凛「同情なんかじゃないよ」

真姫「だったら……」

凛「凛は……真姫ちゃんの気持ちがわかるから」

それが真姫ちゃんの琴線に触れちゃったみたい。

真姫「……わかるわけないでしょ!」

凛「ううん、凛にはわかる」

気づかないうちに、真姫ちゃんに近づいている。

真姫「来ないで……!」

ドンッと押されて、尻餅をついた。

真姫「……っ」

真姫ちゃんはそんなつもりはなかったって顔をしてる。

最後のチャンスかもしれない。

凛「凛ね、真姫ちゃんのこと……好きなんだ」

真姫「…………え?」

凛「だから、真姫ちゃんの気持ち、わかるんだ」

凛の声、震えてる。自分でもわかるくらい震えてるよ……

返答だってもうわかってる。最初から負けてるんだ。

真姫「ごめんなさい」

即答だった。

本当に聞きたくなかった言葉だ。

最初から負けてるどころか、勝負にすらなっていないもんね。

仕方ないよね。でも、凛は……諦めきれないんだ。

凛「……でも、真姫ちゃんの気持ちはどうするの?」

真姫「……別に、どうでもいいでしょ」

迷ってる。どうすればいいのか、真姫ちゃんは迷ってる。

凛「……凛で……妥協してもいいんじゃない?」

真姫「……本気で言ってるの?」

軽蔑された目。でも、もう引き返さない。絶対真姫ちゃんが欲しい。

凛「……穂乃果ちゃんはかよちんとキスまでしちゃってるんだよ?」

凛「いつもの日常、真姫ちゃんは……過ごせるの?」

過ごせるわけがない。凛だって、どぎまぎしちゃってたから。

真姫「……それはっ」

凛「凛は、真姫ちゃんの望むことをなんでもしてあげる」

真姫「……」

凛「……穂乃果ちゃんが振り向いてくれるまででいいから」

凛「そしたら、残念だけど、凛は諦めるよ。応援もする」

真姫「…………」

まだ、だめみたい。凛じゃだめみたい。

でもね、もう、凛はだめなんだ。

凛じゃないなら好きになってくれるよね。

凛「……真姫ちゃん」

ヘアゴムを外して、また結ぶ。髪の長さが足りないから、なんだか出来損ないだけど、それでもいい。

真姫「……やめなさい……」

凛「……もう、いいんだよ真姫ちゃん」

凛は真姫ちゃんさえ、満足してくれるならいい。

笑顔を一番近くで見たいから。

心で共有しなくても、身体で共有すればいい。

凛を見てなくても、凛だけが知っていればいい。

真姫ちゃんにとっては凛じゃなくて、穂乃果ちゃんの幻影でも……

真姫ちゃんが満足してくれればいい。

凛はそれを見るだけで満足だから。

それでも……それでも最初のキスだけは……

真姫「……穂乃果ぁ……」

凛「……真姫っ……ちゃん…っ……」

せめて、凛としてしたかったなぁ……

あ、もう叶わない願いだね……


それでも欲しかったから……仕方ないかな。



真姫「ごめん……凛……」

接吻という行為が終わってから謝られた。

……凛は別にいいのに。

凛「……凛はいつでもいいからね」

真姫ちゃんがとってもつらそうだったからと付け加えて。

今日はそれだけ告げて、ふらふらと帰宅する。

本心で言えば、嬉しかった。

頼ってくれたから。

本心で言えば、悲しかった。

凛じゃなかったから。


もっと繋がりが欲しかった。

もっともっと、シたい。

身体だけでも、真姫ちゃんが求めてくれるならそれでもいい。

凛「……あはは」

もっと、真姫ちゃんが欲しいなら……そうだね。こうすればいいんだね。

――――――

花陽「凛ちゃん……」

凛ちゃんに電話で呼び出された。

今日は真姫ちゃんとのデートだったけど、どうだったのかな。

私は区切りをつけられたから、良かったけど……

公園に凛ちゃんは佇んでいた。

花陽「凛ちゃん、どうしたの?」

凛「あぁ、来てくれたんだねかよちん」

凛ちゃんの雰囲気がいつもと違って……怖い。

凛「今日、穂乃果ちゃんと何かあった?」


そんな聞き方をするなんて、凛ちゃんらしくない。

花陽「な、なにもないよ?」

決別はしたけど……それを言う必要も……

凛「凛ね、今日真姫ちゃんとキスしちゃった」

……おめでとう。

今なら素直に言えるよ。

花陽「良かったね、凛ちゃん」

でも、凛ちゃんは嬉しそうな顔をしてなくて……

凛「……かよちん、穂乃果ちゃんと付き合ってる?」

……付き合ってもらってたって方が正しいのかな。

そもそも、そんな関係じゃなかった。

花陽「ううん。付き合ってないよ」

凛「ふーん……そっか、かよちんは好きじゃない人とキスしちゃうの?」

……そういうわけじゃないけど……けど……

花陽「そ、そんなことないよ!」

凛ちゃんは指元に視線を向けて、すぐに私の方を見てきます。

……凛ちゃんは知らない。


凛「……かよちん、嘘上手くなったんだね」

私に笑いかけてくる。

凛ちゃんは……知らないはずだった。


凛「……そんなに嘘が上手いなら……穂乃果ちゃんと付き合っちゃえば?」

花陽「………………え?」

一言告げられ、凛ちゃんは去って行きました。

そんなことより……そんなことよりっ……!

……あはは、バレてたんだ……どうしよう……

今日はここまでです。お疲れ様でした。

どこから嘘がバレてたんだろう。

いつから嘘を見抜いていたんだろう。

……考えても仕方ないけど、堂々巡り。

穂乃果ちゃんと決別した手前、すぐに相談というのも気が引ける。

……自分でなんとかしなくちゃいけない。


……何を? どうやって……?


明日、凛ちゃんに顔を合わせるのが怖い。


嫌な不安がぐるぐるするなか、夜が明けた。

私と穂乃果ちゃんの関係はアレっきりでおしまい。

そして、親友の凛ちゃんのお手伝い……というか、

二人が幸せになってくれれば、なんて漠然と考えていた。

……ずるっ子な私への罰なのかな……


いつもの日常が戻ってくれればいいけど、

凛ちゃんの言葉が忘れられない。

悩んでいても仕方ない。

待ち合わせ……というかいつもの合流地点に行くと、真姫ちゃんが居た。

真姫「……おはよう」

花陽「お、おはよう」

ぎこちない。真姫ちゃんも難しい表情をしている。

真姫「行きましょ」

花陽「え……凛ちゃんはっ?」


真姫「凛は先に行ってるそうよ」

花陽「あ……うん、行こっか……」


凛ちゃんがいないと真姫ちゃんと手を繋ぐこともない。

少しだけいつもよりも空間が広く感じました。

真姫「ねぇ、花陽」

花陽「……どうしたの、真姫ちゃん」


真姫「……やっぱりなんでもないわ、ごめん」

花陽「ううん、謝らなくても……」


気まずい。この会話とも言えない喋り。

お互いに無言のまま、学校に辿り着いた。

凛「あ、遅いよー真姫ちゃん! かよちん! おはよっ!」

真姫「凛……おはよ」

花陽「おはよ、凛ちゃん」

……昨日までの刺々しい雰囲気も、怖いイメージもない。

いつもの笑顔が眩しい凛ちゃんだ。


ただ、真姫ちゃんが浮かない顔をしていて、私はどぎまぎしてるってだけで……

昨日の夜は……気のせいだったのかな……

勇気を出して聞いてみよう……

花陽「り、凛ちゃんは朝早くどうしたの?」

凛「ことりちゃんと海未ちゃんに可愛くなる秘訣を♪」

にししと笑う凛ちゃん。

それとは逆に若干渋い顔になる真姫ちゃん。


……私が思っているより大変なことかもしれない。

でも、それは私が首を突っ込んでいいことなの……?

普通が怖いなんてわからなかった。

授業中も全然集中できなかった。

……私の気持ちが揺らいでいるから、疑心暗鬼になってるからかもしれない。

……もしかしたら。


怒鳴られたり、軽蔑されたりすることを望んでいたのかな。

また、一人だけ蚊帳の外みたいで、穂乃果ちゃんに頼ろうと……

ううん。今度はそれでこっそり傷ついて満たされようとしてた……?

自分の気持ちがよくわからない。


でも、何事もないならそれでいいよね。

昼休み、今日は穂乃果ちゃんと一緒に食べる用事もない。

だから三人で久しぶりに食べようとしたんだけど――――

凛「かよちん、今日も穂乃果ちゃんと屋上? 行ってらっしゃいにゃ♪」

……何も知らない、これが日常でしょ? と言わんばかりに、私に笑顔を向けてくる。

凛ちゃんの中では、穂乃果ちゃんと私は付き合っているということなのだろうか。

それとも……真姫ちゃんと一緒に……?


予定はないけど、応援するのは決めているから構わない。

花陽「う、うん、それじゃあ……」


二人の顔を見ないように、屋上に向かう。


――――――――――――


凛「今日も、二人はお熱いんだね」

真姫「凛……」

凛「凛は……いいよ?」

花陽「……うあぁぁ」グー

お弁当忘れちゃった……どうしよう、今戻っても気まずいし……

二年生の教室をちらっと覗いたら、穂乃果ちゃん達は仲睦まじく食べてたし……


うぅ、このままだと花陽は空腹で倒れそうです……

背に腹は変えられません。

何事もなかったように、教室に戻って改めて屋上に行こうっと……

教室を覗くと、二人は居なさそうです。

お弁当をかばんから取り出し、また屋上に……

行こうとしたのですが、凛ちゃんの言動も相まって、探すことにしました。


何か、何か不安で仕方なくて。

屋上に居ないということは。


……真姫ちゃんが行きそうな場所は音楽室しかありません。

二人の仲の良い時間を邪魔する気はないので、確認だけ。


そう、確認だけ……

花陽「…………」

何も言わないでその場から離れた。

想い人がキスをしていたのは多少なりともショックだった。

穂乃果ちゃんのおかげで吹っ切れたと言っても、恋心は完全に消せない。


その事実だけが突き付けられた。


そしてもう一つ。

真姫ちゃんは私と同じことをしていた。


……私は穂乃果ちゃんにさせていた。

あぁ、そっか。

朝、ことりちゃんと海未ちゃんに会っていたのは……そういうことだったんだ。

……その好きは間違っている。

もう、経験したから分かるんだ。

だから、凛ちゃんを説得しないと。

……もう全部話して、虚しいことを伝えよう。


私の……花陽の好きな……好きだった人に。


真っ当な恋をして欲しいから。

――――――夜――――――

凛ちゃんを待つ夜の公園。

昨日も、ここで凛ちゃんと話した。

凛「かよちん、どうしたの?」

見た目も話し方も全部凛ちゃんだ。

……当たり前のはずなんだけど。


花陽「ねぇ、凛ちゃん。今日真姫ちゃんと音楽室に居た?」

凛「うん、いたよ? かよちん覗いてたの?」

花陽「うん。私、お弁当を忘れちゃって、戻ったら二人が居なかったから」

凛「……それでどうしたの?」

花陽「凛ちゃん、もうあんなことやめよう?」

凛「…………」

凛ちゃんは、きょとんとしている。

私が何を言いたいかわかっていないように。

花陽「……穂乃果ちゃんの真似なんてやめよう……?」

凛「……なんだ、見てたんだかよちん」

寂しそうに笑った凛ちゃん。

花陽「間違ってるよ……」

凛「凛が?」

花陽「そうだよ! 誰かが誰かの真似をして……それで付き合うなんておかしいよ!」

凛「…………」

花陽「ずっとずっと自分を犠牲にして、相手に尽くして……」

花陽「残るものは悲しいことだらけだよ!」

花陽「だから……ね、凛ちゃんやめよう? 凛ちゃんとして真姫ちゃんに見てもらって……」

花陽「それで認められていこう?」

凛「かよちん……まるで自分が体験したみたいな言い方だね」

花陽「そうだよ……私は……凛ちゃんのことが好きだったんだから!」

言っちゃった……。

もう、全部話した。

穂乃果ちゃんに凛ちゃんを一時的に演じてもらったこと。

ごっこ遊びのように付き合ってもらって、決別でキスをしたこと。

花陽のわがままで、迷惑をかけて謝ったことも。

これで、凛ちゃんの目が醒めてくれるなら良いって思って。


でも、凛ちゃんは――――

凛「かよちん、それって悪いこと?」


――――なんて訪ねてきた。

凛「あのね、かよちん。凛ね、真姫ちゃんの事好きなの」

花陽「そ、それは前も聞いたから……」

凛「真姫ちゃんが喜んでくれることをしたらだめなの?」

花陽「で、でも……」

伝えたら、凛が間違ってたよ……なんてことを考えてた。

凛「……かよちん、勘違いしてるかもだけど真姫ちゃんは凛に一度も穂乃果ちゃんになれなんて言ってないよ?」

花陽「……え?」

凛「……凛が好きでやってるだけ。真姫ちゃんの最高の笑顔を見たいから」

凛「凛がだめだったから、真姫ちゃんが望むように演じてるだけ」

凛「凛は強制されてやってるわけじゃないんだよ?」

花陽「………………そんなのって」

予想外の反撃だった。

凛「凛って愛されたらだめ? 好きって言われたらだめなの?」

まくしたてられて、その言葉に返せるものがない。

だ、だめだ……ここで負けたら凛ちゃんはずっと……ずっと……!

花陽「……その真姫ちゃんの愛は凛ちゃんじゃないよ……!」

ちょっと厳しいけど、気づいてくれれば……!

花陽「凛ちゃんを通して穂乃果ちゃんを見て、その穂乃果ちゃんに向けての言葉だよ!」

もう嫌われてもいいです。だから……だから。

凛「……それでもいいんだよ」

髪を結び直す凛ちゃん。昨日まで支えてもらったあの人の結び方。

凛「えへへ、似てる? かよちん」

……確かに似てる。髪の長さは足りないけど、それを補うように結ばれてて、穂乃果ちゃんっぽく見える。

凛「ことりちゃんと海未ちゃんに教えてもらったんだ」

誇らしげに胸を張る。

凛「……これで、喜んでくれるんだ。真姫ちゃん、溜めこんじゃうタイプだから」

花陽「…………」

凛「それに、今の話を聞いたけどさ……」

凛「正直、真姫ちゃんが穂乃果ちゃんに惹かれて、凛が捨てられちゃうのもいいなって思ってたの」

凛「もちろん、穂乃果ちゃんが本当に真姫ちゃんを好きになって、両想いだったらね」

凛「かよちんが凛を心配してくれてるのはわかったよ」

花陽「凛ちゃん……」

凛「でも、その気持には応えられないよ。そして真姫ちゃんは穂乃果ちゃんには渡さない」


改めて、フラれて……でも仕方ない。覚悟はとっくに出来てた。

でも、私の思った方向と全然違う方向に向かってる。


凛「凛の大好きは穂乃果ちゃんの好きには負けない」


凛「……かよちんはどっちの味方? そもそも……敵なの?」

凛ちゃんの瞳が妖しく光る。私を値踏みしているような目つきだった。

味方じゃないなんてことはない。

でも、止めたいとは思う。

止める方法は、簡単だ……このことを…………

凛「……穂乃果ちゃんに言えば解決しちゃうかもね。そしたらかよちんは敵だね」

私の心を見透かしたように、凛ちゃんは呟いた。

凛「でも、かよちん。穂乃果ちゃんのことは考えなかったの?」

花陽「…………」

凛「凛のことをそう思うなら、穂乃果ちゃんだってそうなんじゃないの?」

穂乃果ちゃんが……悲しかったり、辛かったり……

真姫ちゃんの重みも背負わせようとしているの……私は……。

凛「優しいかよちん……凛の好きな、かよちんならわかるよね?」

……声が出ない。

凛「……悩んでるけど、簡単だよ? かよちん」

花陽「…………」

凛「だって、かよちんと穂乃果ちゃんは付き合ってるんでしょう?」

違う、さっき違うって……言ったのに。

凛「……だったらその関係を続けちゃえばいいんだよ」

花陽「……それはさっきも……」

凛「でも、凛の話も聞いてたでしょ? これは間違ってないんだよ?」

凛「それに、幸せだったんじゃないの? 穂乃果ちゃんと居た時……」

あの時間を幸福じゃないと言ったら嘘になる。

本当に私だけを想ってくれた穂乃果ちゃん。

凛「顔、紅いよかよちん」

花陽「あっ…………」

結局のところ、決別したと言っても、望んでることだった。

辛い状況になったら穂乃果ちゃんが助けてくれると思ってるんだ。

そんな、ずるいことばかりを続けてきたからバチが当たったんだ。


……ずるいことなのかな。

こう思ってる事自体が、罪悪感に浸りたいだけなのかもしれない。

凛ちゃんに言われて初めて気づいた。

何度も言い聞かせて。

何度も諦めて。

それでも……



それでも、私は……見つめるだけじゃ満足できない。

凛「……凛はかよちんのこと信じてるから」

花陽「…………」

これが正しいことかどうかなんてわからない。

凛「じゃあね、かよちん」

満足そうに微笑んで凛ちゃんは帰っていく。

私の好きはどこで間違ったんだろう。

凛ちゃんみたいな純粋な好きは消えちゃった。

私がもし、その心を持っていれば……


今も凛ちゃんが好きだったのかな。

――――――――――――

こうすれば、誰も傷つかない。

……皆幸せなんだ。

盲目的に信じてるよ。

これも嘘だ。

私はただ、自分が幸せになりたいだけなんだ。

もう、辛いことは嫌だ。だから甘えちゃえ。

だって、許してくれるんだもの。

いっぱいいっぱい甘えさせてくれるんだもん。


始まりの場所に穂乃果ちゃんを呼んだ。

もうそろそろ、来るのかな。


好きに汚いも綺麗も無い。

私はそう思いました。


穂乃果「あ、花陽ちゃん、穂乃果を呼び出してどうしたの?」


断れないことも、拒否されないことも知ってます。

絆された穂乃果ちゃんにそう言った権利はないんです。


花陽「穂乃果ちゃん、私と付き合ってください」

それでも、この言葉には目を丸くしてました。

穂乃果「は、花陽ちゃん……?」


花陽「拒否は……出来ないですよね?」

穂乃果「……うん」

花陽「えへへ、これからもたくさん甘えさせてくださいね」


抱きしめた穂乃果ちゃんはとっても暖かったです♪


FIN

お疲れ様でした。ここまで見てくださって有難うございます。

あまりドロドロしなくて申し訳ないです。次は、さらっと何か書きたいと思います。

重ねて見ていただき有り難うございました。それでは次の作品で。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月02日 (火) 23:32:16   ID: f7rtg2u-

おっふ、いいちょいどろやったです

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