【艦これ】陸奥「盲目の提督」 (118)
※艦隊これくしょんのSSです。
※荒らし、批判、レス上の喧嘩は控えてください。
※口調崩壊、性格崩壊は恐らくしている。
※過去作の鎮守府とは別の話。
※誤字脱字、駄文、妙な改行あり。
特に、スマホから見ている方は少し読みにくいかもしれません。
以上の事を踏まえて、それでも大丈夫と言う人は↓へどうぞ。
お手柔らかに見ていただければ幸いです。
□1つ前の話:【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」
【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421932829/)
※その他の>>1の過去作が知りたい方は、言って下されば書きます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428068999
北の方面にある、第拾伍鎮守府。
その鎮守府の中に、"作業室"とだけ書かれた札が掛けられている部屋がある。部屋の中は決して明るいとは言えず、設計等に使う作業台や学校の机、
様々な工具が雑多に置かれている。
その部屋にある机の1つで、ある1人の艦娘が座って作業をしている。その艦娘が手にしている道具から、パチパチと音が小刻みに鳴っている。
艦娘の名は陸奥。かつて軍艦だった頃は日本中にその名を轟かせた、ビッグセブンと呼ばれる艦娘である。
陸奥「ふぅ…終わった」
陸奥は、今朝朝食を食べた後からずっとこの作業をしていた。今は昼前。ずっと、この作業室である作業をしていたのだ。
手にしていた道具を机に置き、もう片方の手で書類を持ち席を立つ。椅子を仕舞った後に、使っていた道具をポケットに入れて部屋を出ようと、
ドアノブに手をかける。
陸奥「ふ…っ…!」
陸奥が息を吸って力いっぱいドアノブを捻ると、ドアがギィィィと若干錆びついたような音を立てて開く。
息を吸いながらドアを開けたのは、ドアの立てつけが悪いせいで滑らかに開かないからである。やっとの思いでドアを全て開けきると、
冷たい空気が直に当たる。
陸奥「もう春になったって言うのに、それでも少し寒いわね…」
人気のない長い廊下を見渡して少し身震いをし、大胆に露出されている自分のお腹をさする。
陸奥「さてと、早く執務室に行かなくっちゃ」
陸奥はそう呟くと、執務室へと小走りに向かって行った。
陸奥は、執務室の前にたどり着くと、小走りだったせいで少し荒くなっていた息を整えるために深呼吸をする。
陸奥「ふぅ、よし」
そう呟くと、ドアをノックする。ノックをしてから数秒と経たず、中から返事がした。
??「どうぞ」
聞こえたのは男の声だった。その声に呼応し、陸奥はドアを開けて部屋に足を踏み入れる。
陸奥「失礼するわ」
ドアの正面には提督の執務用の机と椅子が置いてある。その執務用の椅子に、20代後半と思しき男性が座っていた。
彼が、この鎮守府の提督。艦娘達を指揮する立場にあり、この鎮守府の最高責任者である。
ここで当然の事だが、提督は自分の鎮守府にいる艦娘の名前・能力を知っておく事がベストだとされている。
だが。
提督「誰?」
提督の発した言葉は、それだけだった。
陸奥はこの鎮守府では最古参の戦艦であり、つい最近配属されたせいで提督が覚えていないというわけではない。
陸奥「私よ、陸奥。そろそろ声で覚えてほしいわね」
陸奥がそう説明すると、提督は頷く。
提督「ああ、陸奥か。すまんな。何人も声が似ている奴がいるから、誰だかわかりにくかったよ」
陸奥「まあ、私が名前を言わなかったのも原因かもね。ごめんなさい」
提督「気にするなって。で、どうしたんだ?」
陸奥「書類、点字に直してきたわよ」
陸奥はそう言いながら、執務机に書類を置く。
提督「おお、いつも悪いな…。膨大な文字数の書類を点字に直すのは大変だろ?」
陸奥「流石に一ヶ月以上もしていれば、慣れちゃったわ」
提督「何だか本当に、手間をかけさせちゃって悪いな…」
提督はそう言いながら、机の上に手を這わせる。だが、すぐ目の前にあるはずの書類に触れる事が出来ない。見かねた陸奥が、提督の手を取って、
机の上に置いた書類に手を乗せさせる。
提督「ああ、ここだったか。ごめん」
陸奥「大丈夫よ、これくらい」
さっきまで陸奥は、作業室で提督宛の書類を全て点字に直していたのだ。
そして、提督が点字が必要なのと机の上の書類にすぐ触れないのは、提督の眼は光を閉じてしまっていて何も見えないからだ。
この提督は、盲目なのだ。光を見る事ができない。
ここは、そんな男が提督の鎮守府。
今日はここまで。
また明日、投下していきます。
それではまた明日。
乙
些細なことだが、力を入れるには「息を吸うとき」よりも「息を吐くとき」の方が良いと思うよ。
こんばんは。
多くの期待コメント、ありがとうございます。皆様のご期待に応えられるよう、頑張ります。
>>10
忠告ありがとうございます。
投下していきます。
提督は、陸奥から手渡された点字に直されている書類を、手で点字をなぞって読み取る。
提督「ああ…。またこの書類か」
陸奥「確か、上層部からの海域解放命令、だったわよね?」
海軍の上層部は、出撃回数があまりにも少ない鎮守府や、一定期間新海域が解放できていない鎮守府に忠告文を提出する事がよくある。この鎮守府も、
もう2か月ほど新しい海域を解放していない。今解放できているのは、南西諸島海域の東部オリョール海域までだ。
提督「俺の眼が見えていない事は上も知っているはずなんだがな…」
陸奥「それでも、こうやって書類にして出さないと、自分たちの鬱憤が溜まっていくんじゃないのかしら?」
海軍も、提督が盲目だと言う事は把握しているはずだった。しかし今は深海棲艦との戦争中でどんな小さな戦力でも惜しいという状況である。しかも、
提督は『やめる気はまだない』と言った。そしてそれを聞いた上層部は『盲目になっても死んでいないし辞職するわけでもないならそのまま提督をやれ』、
と言い、提督を辞めさせなかった。
提督「この書類、ちゃんと返さないとまたごちゃごちゃ言われるだろうなぁ…」
陸奥「どうするの?」
提督「そろそろ、新しい海域に進出して解放するか…」
陸奥「でも、次の海域は攻略が厳しいって噂の海域よ?」
提督「それなんだよな…。まあ、考えておくか」
陸奥「私が出る事になるかもしれないわね…」
提督「ああ。陸奥はウチの鎮守府のエースだからな」
提督がそう言った直後、ゴーン、ゴーン、と鐘が鳴った。正午になった事を知らせる鐘である。
提督「お、昼か」
陸奥「じゃあ私、昼食を持ってくるわね」
提督「ああ、頼むよ」
陸奥は提督の返事を聞くと、執務室を出て小走りに食堂へと向かって行った。
食堂の前に着くと、扉を開けて中に入る。中には、40人ほどの艦娘達がいた。この鎮守府に所属している艦娘は、現在出撃している艦娘を含めて、
50人程度である。そしてその内の50名弱の艦娘達はトレーを持って配膳を待っている。
厨房で料理をよそっていた間宮は、陸奥に気づくと、ぺこりとお辞儀をした。
間宮「あら、陸奥さん」
陸奥「提督の分の食事、すぐに用意できるかしら?」
間宮「すみません、もうちょっと待っていただけますか?」
陸奥「分かったわ」
陸奥が答えると、間宮は器に料理をよそる。そして全員分の料理をよそると、今度は別のお椀に料理をよそり、色が少し違うトレーに料理を載せる。
間宮「陸奥さん、用意できましたよ」
陸奥「ありがとう。私の分の料理もあるわよね?」
間宮「もちろんです」
陸奥は、間宮から色が少し違うトレーを受け取ってそばにあるワゴンに載せ、もう一つの自分用のトレーもワゴンに載せる。そして、ガラガラと、
ワゴンを押して執務室へと戻って行く。
再び執務室の前に着くと、ドアをノックする。
提督「はい?」
陸奥「陸奥よ。昼食を持ってきたわ」
提督「ああ、入ってくれ」
さっきのように、名乗らないなんてヘマはせずに、ドアを開いてワゴンを押して入る。執務机の傍にワゴンを止めると、提督用に色分けされたトレーを、
提督の前に置く。陸奥の食事は、傍の提督が見える位置にある小さな机に置く。その後、陸奥は提督の傍に立ち、料理の説明をする。
陸奥「クロックポジションよ。8時の方向にご飯があるわ。4時の方向にお味噌汁、中心には野菜炒めがあるわ。箸は味噌汁のお椀の上に載っているから」
盲目の人には、料理の置かれている場所を説明する場合には
提督「ありがとうな」
提督はお礼を言うと、お椀の上に置かれている箸をゆっくりと手にとり、味噌汁のお椀を慎重に持って一口すする。そして陸奥は、別の机に座って、
提督を視界の端に捉えておきながら食事を摂り始める。
陸奥は食事を15分ほどで食べ終えたが、提督はその倍の30分かけて食事を食べ終えた。
提督「ごちそうさま」
提督がそう言うと、陸奥は提督のトレーを片付けて、再び食堂へと持って行こうとする。そこで、提督は陸奥を呼び止める。
提督「あ、そうだ。出撃艦隊が戻ってくるのって、何時ごろだっけ?」
提督がそう聞くと、陸奥は少し考えて答える。
陸奥「多分、2時過ぎぐらいかしら?」
提督「今は何時だ?」
陸奥「今は、1時過ぎね」
提督「わかった」
提督がそう言って手を振るのを見て、陸奥は執務室を出た。
陸奥は食器を食堂へ戻した後にすぐ執務室へ戻り、まだ読んでいない書類を提督に説明する。
そして、2時過ぎになると、執務室のドアがノックされた。
提督「どうぞ」
提督が答えると、執務室のドアが開かれる。
筑摩「失礼いたします、提督。筑摩です」
筑摩は名乗りながらドアを開ける。
提督「筑摩か。お前が来たって事は、艦隊は帰投したのか?」
筑摩「はい。旗艦・筑摩及び川内・祥鳳・綾波・叢雲・由良は、南西諸島海域・東部オリョール海より帰投しました。負傷者は、叢雲が中破、由良が小破、
損傷無しです」
筑摩を除く艦娘達は肩を回したり服に着いたほこりを払っている。叢雲は露出されている身体を腕を使って隠している。提督には見えないのだが、
気持ち的なものだろう。
この鎮守府でのエースは陸奥だ。このオリョール海に出撃していた艦隊は、現在のこの鎮守府でも最強クラスである。
提督「ご苦労様。じゃあ、各自補給と入渠を済ませて十分に体を休めてくれ」
筑摩「分かりました。それと、道中にて新しい子を発見しましたので、連れて参りました」
提督「よし、じゃあ通してくれ」
筑摩「あ、今は食堂に待機させていますので。補給を済ませた後に連れてくるのでもいいですか?」
提督「ああ、構わないよ」
筑摩「すみませんね」
提督「報告書は明日の正午までで」
筑摩「はい。分かりました」
筑摩はそう言うと、艦隊の皆を連れて執務室を出た。
今日はここまでにします。
言い忘れてしまいましたが、>>1は社会人で投下が不規則になってしまう場合がありますので、ご了承ください。
それではまた明日。
艦娘を、同じサーバーの提督同士で資材と引き換えに交換できるってシステムがあればいいと思うんだ。
誰もが一度は思うことだろうけどそれやるとくっそつまんなくなるだろうな
それよりも
「あの装備どこだ?誰が持ってるんだwwwwww」ってなった時に 図鑑で検索かけると
「あっ私が持ってるよ!」って教えてくれる機能が欲しい
友軍艦隊の項目はどうなってんだww
筑摩が補給のために執務室を出てから1時間ほど経っただろうか。そこでもう一度ドアがノックされる。
筑摩「筑摩です。新しい仲間を連れて参りました」
提督「ああ、通してくれ」
提督の返事が聞こえた後、ドアが開かれる。そして入ってきたのは―。
鳳翔「航空母艦・鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願いします」
黒く長いポニーテールと和服が特徴の女性。左肩には飛行甲板、右手には弓を持っている。
提督「ああ、航空母艦って事は空母の方かな?俺はこの鎮守府の提督だ。よろしく」
鳳翔「こちらこそ」
提督「ああ、それと俺、今失明しているから何も見えないんだ」
鳳翔「えっ」
提督が軽く言うと、鳳翔は戸惑いの声を上げる。
鳳翔「えっと、それは、どうして、ですか?」
鳳翔が理由を聞くと、陸奥が唇を悔しそうに噛む。提督はそんな仕草には当然気づかずに、続ける。
提督「いや、ちょっと前にヘマをやらかしちゃってね…」
鳳翔「そうですか…。私にできる事があれば、何でもおっしゃってくださいね?」
提督「お気遣いどうも。じゃあ陸奥、鳳翔に色々この鎮守府の事を教えてやってくれ」
提督に話を振られて、陸奥は少し焦って答える。
陸奥「えっ、でも提督は良いの?私がいなくっちゃ、何かと不便じゃない?」
提督「大丈夫だ。俺は…」
提督はそう言って、机の引き出しのあたりに手を出して、手探りで2段目の引き出しを引いて中の本を取り出す。それは、点字が施されている本だった。
提督「これを読んでるから」
陸奥「まったく、少しは提督らしい仕事を―」
陸奥はその先の言葉を言いかけて、自分の失言に気づいた。提督は今、点字に直された書類しか読む事が出来ない。建造も、開発もできない。しかも、
盲目の人ができる事なんて限られてくる。今この提督にできる事は、ほとんどなかった。
提督「…しょうがないだろう」
提督は、当然のように落ち込んだ。
陸奥「…ごめんなさい。考えなしに言っちゃって」
提督「いや、いいんだ。元々、失明したのも俺の不注意が原因なんだから」
提督の言葉を聞くと、陸奥はまた少し俯く。そして、しばしの間執務室に重い空気が溜まる。
少しした後、陸奥は顔を上げて提督の方を見る。
陸奥「じゃあ提督。鳳翔さんを案内してくるわ」
提督「ああ。頼む」
陸奥「じゃあ、鳳翔さん。行きましょ」
鳳翔「あ、はい」
陸奥は半ば強引に鳳翔の腕を引いて執務室を、逃げるように出た。自分の作ってしまった気まずい空気から逃れるように。
鎮守府を一通り鳳翔に案内した陸奥は、最後に食堂にやってきた。食堂には、数人の艦娘が談話しており、間宮は1人で座っていた。
陸奥「間宮さん、お茶用意できる?」
間宮「あら、陸奥さん。もう案内は終わったの?」
鳳翔「ええ。分かりやすかったです」
陸奥「で、最後に一休みしようとしてたのよ」
そう言いながら陸奥と鳳翔は椅子に座る。そして間宮がお茶を3つ持ってきて2人の前に置き、陸奥の横に座る。
鳳翔「あの、陸奥さん。少しお聞きしたいことがあるのですけど…」
陸奥「何かしら?」
鳳翔「何故、あの提督は盲目になってしまったのですか?」
陸奥「………」
鳳翔の素朴な疑問に、陸奥は俯いて黙り込んでしまう。隣の間宮も、気まずそうに視線を逸らす。
鳳翔「基本的に盲目の人が提督になれる事なんてありません。となると、提督が盲目になってしまったのは、この鎮守府に着任した後でしょう?
私は、これから提督を支える身となるはずです。ですから、少しでもあの提督の事を知っておきたいのです」
鳳翔の言葉を聞くと、陸奥はつぶやく。
陸奥「……そうね。それは艦娘としては当然の疑問よね」
鳳翔「?」
陸奥が何かを話そうとすると、隣の間宮が声をかける。
間宮「陸奥さん、いいの?」
陸奥「ええ。いずれ、知る事になるだろうから…」
間宮と陸奥のやり取りを見て鳳翔は疑問に感じたが、陸奥はすぐに鳳翔に向き直る。間宮は、若干俯き気味に陸奥の話を聞く姿勢を取る。
そして、陸奥が言葉をポツリと口に出す。
陸奥「提督が盲目になったのはね…」
陸奥はそこで一度言葉を切り、鳳翔の顔色を疑う。鳳翔は、真剣な表情だ。
それを見て、陸奥は次の言葉を告げる。
>>26
>提督「ああ、航空母艦って事は空母の方かな?
うん…………うん?
陸奥「私のせいでもあるのよ」
その言葉で、食堂の空気は一斉に凍り付いた。
さっきまで談笑をしていた艦娘達も、言葉を切って陸奥の方を見る。
鳳翔「…え?」
鳳翔は、陸奥の言った事が理解できない、と言った感じだ。
鳳翔「それは…どういう…」
陸奥「…そうね。理由は聞きたくなるわよね」
鳳翔「早く、話してください」
陸奥が意味ありげな言い方をするのに少しイラついた鳳翔は、少し強めの口調で続きを促す。
陸奥「…分かったわ」
今や、この食堂にいる10人足らずの艦娘達が陸奥の話に耳を傾けている。だが、鳳翔以外は提督が盲目になった理由を知っている。つまり、
鳳翔以外の艦娘は、盲目の理由を再認識するために聞くのだ。
そんな中で、陸奥は話を始める。
陸奥「あれは、2ヶ月ぐらい前の事よ…」
今日はここまでにします。少な目ですみません。
ここで1つ訂正があります。
>>16
盲目の人には、料理の置かれている場所を説明する場合には
→盲目の人には、料理の置かれている場所を説明する場合に、料理の位置を時計の数字に置き換えて説明をする事が多い。
途中投下でした。すみません。
>>29
>>1は航空母艦=空母と言うイメージが強いので、間違っていたらすみません。よろしければどう違うのか教えていただけると嬉しいです。
それではまた明日。
今現在>>1が欲しい艦娘ランキング。(そしておそらく物欲センサーのせいで着任しないだろう)
1位:明石、2位:翔鶴、3位:長門、4位:島風、5位:浜風
こんばんは。
ゆっくりと投下していきます。
陸奥がこの鎮守府に着任したのは今より3ヶ月ほど前の事だった。その時、まだ盲目ではなかった提督は大喜びだった。
提督「やったぞ!ついに戦艦がやってきた!無理して資材を多めに投下した甲斐があったよ!」
最初陸奥はそのテンションにはついていけず、なされるがままに提督の秘書艦として仕事を手伝ったり、重要な作戦では主力として出撃した。
しかし陸奥は、秘書艦として提督と共に過ごす事が楽しくて仕方が無かった。その楽しさのおかげで、出撃でもその実力を如何なく発揮できていた。
その根幹には、提督と喜びを分かち合いたいという気持ちがあった。
陸奥「南西諸島防衛線、解放したわよ。したがって、鎮守府海域全エリアの攻略に成功したわ」
提督「おお、すごいなぁ!やっぱお前はウチのエースだよ!」
提督が喜びながら陸奥に抱き付いた時は、陸奥も提督をやさしく抱きしめた。
陸奥「まったく…本当に無邪気な人ね…」
夕立「ヒューヒュー!提督と陸奥さんってば、アツアツっぽいー!」
祥鳳「微笑ましい光景ですね」
そして、そんな光景を他の艦娘に見られて茶々を入れられる事もしばしばだった。
そして、今より2か月前、陸奥が提督に言った。
陸奥「ねぇ提督。ウチの艦隊には正規空母を入れないの?」
この艦隊にはまだ正規空母はおらず、空母の中で一番強いのは祥鳳だった。
提督「そうだな…。陸奥を建造してさらに南西諸島防衛線を攻略するのに資材を随分使っちゃったから、資材が足りないんだよな…特にボーキサイト…」
陸奥「まったく…ボーキサイトは空母を建造するのに重要な資材なのよ?」
陸奥の言葉を聞きながら提督は、海図を机に広げて地図上に色々書かれているメモ書きを確認する。
提督「今攻略しようとしているバシー島沖には、ボーキサイトが拾える場所がいくつかあるから、そこに出撃させてボーキサイトを稼ごう」
陸奥「なるほどね…。上手くいけば、資材が溜まるのと同時にバシー島沖を解放できる、ってわけね」
提督「その通りだ」
提督は答えると、早速艦隊を編成する。旗艦はもちろん、エースの陸奥だった。その他は、祥鳳、綾波、不知火、古鷹、川内。
この鎮守府には、姉妹艦が全員揃っている艦娘はまだいなかった。人数は約40人ほど。この鎮守府も、まだ開かれてから1ヶ月も経っていないのだ。
提督「よし、陸奥。ここにリストされている艦娘をここに連れてきてくれないか?」
陸奥「お任せあれ」
そして、それから数時間後に艦隊が正式に編成され、バシー島沖へと出撃していった。
艦隊が鎮守府を出発する時、提督は手を大きく振っていた。そして、艦隊の皆はそれに手を小さく振って答えた。
出撃してからさらに数時間後。雨の降るバシー島沖で、6人の艦娘は海の上を鎮守府に向かって走っていた。その全員の艤装や服は破損していたり、
敗れていたりした。その中で綾波だけは、段ボールぐらいのサイズの箱を持っている。その箱そのものがボーキサイトだった。
陸奥「綾波、ボーキサイトは無事!?」
綾波「はい、まだ大丈夫です!」
陸奥(なんとかボーキの回収には成功したけど、まさか羅針盤が狂っていたなんて…)
今、彼女達は逃げていた。陸奥達はボーキサイトを見つけた後、羅針盤に従って海域を進んでいると、2体の空母ヲ級と遭遇してしまった。その他も、
エリート級の敵艦隊が揃い踏みだった。
陸奥はその艦隊を直感で海域のボスだと判断。そして、陸奥達は海域を解放するために敵艦隊を殲滅しようと奮戦した。
しかし、敵の力は強すぎた。陸奥達は駆逐ハ級を1体仕留め、もう1体のハ級を大破させただけだが、陸奥達の艦隊は全員が中破以上という有様である。
圧倒的に不利だと判断した陸奥は艦隊を引き連れて鎮守府へと帰還する事に決めた。
そこで、問題が起こったのだ。
陸奥「しつこい…ッ!」
陸奥は後ろを振り返り、しんがりの川内の後ろに広がる光景を見て舌打ちをする。
空母ヲ級1隻と重巡リ級、そして軽巡ト級が追いかけていたのだ。そして追いかけながらこちらの向かって砲撃してくる。
陸奥(もう弾薬は残りわずか…他の皆も私と同じような感じかも…。特に祥鳳は損害がひどい…。あれじゃ艦載機を飛ばせないわね…)
陸奥はそこで、ある作戦を考える。
陸奥「皆!ちょっと作戦を考え付いたわ!」
川内「作戦って何さー!」
しんがりの川内が陸奥に向かって大声で聞く。
陸奥「説明は後!とりあえず皆は進み続けて!」
陸奥の言葉に、5人は頷く。5人が頷いたのを見て、陸奥はぐるりとUターンをする。そして、敵艦隊に向かって突進する。
不知火「陸奥さんっ、何を!?」
陸奥「私の方が装甲は厚いわ!アイツらに私の自慢の砲撃をお見舞いして怯ませてやるのよ!」
綾波「危険です!戻ってください!」
陸奥「今はこれが一番いい作戦なの!」
陸奥が鬼気迫る表情と声で叫ぶと、綾波や不知火は黙ってしまった。それを見て陸奥はにこりと笑い、改めて敵を見据える。
陸奥(今の私の残りの弾薬では、1人倒すのが限界…。どいつにする…)
空母ヲ級か。重巡リ級か。軽巡ト級か。
陸奥「選り取り見取りね…」
そう呟くと、その中で一人に照準を定める。
そして、
陸奥「撃て!」
轟音が響いた。
天候が小雨になっていた時、6人は無事に鎮守府に帰投した。港では提督が傘もささずに待っていた。
提督「皆、大丈夫か!?」
提督が聞くと、陸奥が苦笑しながら呟く。
陸奥「これが、大丈夫に見えるかしら…?」
陸奥の艤装はボロボロで、中の機関部もむき出しになっていた。時折バチバチと火花も出ている。
あの時陸奥は、重巡リ級に向けて砲撃した。雨の中ではヲ級は艦載機を発艦できなかったのでほぼ無力。軽巡ト級も威力はそれほどない。ならば、
それなりの火力と装甲を持つリ級を狙ったのだ。
リ級を砲撃して沈めた後、その爆発でト級とヲ級は怯み、それを見計らって陸奥は引き返して全速力で他の5人と合流しようとした。そこで、
甘く見ていた軽巡ト級が陸奥に向けて1発撃ち、それで艤装が破壊されたのだ。
不知火「陸奥さん、艤装が凄い事に…」
陸奥「工廠妖精さんには手間をかけさせちゃうかな…」
提督「とにかく、皆無事でよかったよ。じゃあ、皆損傷がひどいから艤装を交渉において、順番に入渠をしてくれ。報告書は明後日まででいい。それと、
明々後日まで皆は休みにする。各自ゆっくり休んでくれ」
祥鳳「お気遣い、ありがとうございます」
祥鳳がぺこりと一礼し、工廠へ向かう。他の艦娘も、少しよろけながらも祥鳳の後をついていった。そこで、陸奥が提督に言う。
陸奥「あの、提督…。海域の事なんだけど…ごめんなさい、解放できなかったわ」
提督「そんな事はどうでもいいさ。皆が無事ならそれでいいんだ。さ、早くお前も行きなさい」
陸奥「…うん」
陸奥は少し悲しそうな顔で、祥鳳たちの後を追った。
提督は皆を見送った数十分後、工廠を訪れていた。
提督「こりゃひどいな…」
提督は、床に置かれている破損した6つの艤装を見て呟く。そして、被害報告書に損傷具合を記入していく。
この被害報告書は大抵艤装の持ち主の艦娘が記入するものだが、ここでは提督自らが書いている。その理由を、提督は以下のように話していた。
提督『出撃もできない自分には、壊された艤装を見て艦娘達が受けた痛みを知る事ぐらいしかできない。だから、俺が書く』
提督は、被害報告書を書きながら頭の中で考える。
提督(バシー島沖には意外と強力な艦隊がいたな…。今回は引いてしまったが、次はそうはいかないぞ…。演習とか他の海域への出撃を何度もやって、
皆の錬度を十分にあげてからもう一度リベンジしてやる…)
提督は頭の中で今後の編成と出撃及び演習の予定を考えていた。
この時提督は、周囲への注意が散漫になっていた。
提督「陸奥には特に痛い思いをさせちゃったな…。何か、お詫びでもしなくっちゃ…」
そう言ったのは、陸奥の艤装を眺めていた時。機関部がむき出しになるくらいの損傷だ。その痛みはさぞ辛かっただろう。
提督(陸奥はウチの艦隊のエースだけど…しばらく休ませてあげないとな…。それなら、ナンバー2の摩耶を旗艦にして…)
今度は提督は、陸奥を除いた艦隊の編成を考え始める。
だから、陸奥の艤装から燃料が漏れている事に気づかなかった。
そして、バチッ、バチッ、と大きな音を立てている事にも気づくのが遅れた。
提督「ん?」
提督がその音に気づいた時には、もう遅かった。
ドドドドドドォォォォォォン!!!と。
陸奥の艤装が、爆発した。そして、他の艦娘の艤装も誘爆し、さらに大きな爆発を起こした。
今日はここまでにします。
また明日、投下していきます。
それでは。
陸奥の爆発ネタ、今回はシリアスで使わせていただきました。
こんばんは。
ゆっくりと投下していきます。
その爆発の音と衝撃は、数十m離れた入渠ドックにも響いた。
陸奥「何…?今の音…」
陸奥は、入渠ドックの中の第1号ドックで入渠(風呂に入っている感じ)しながら外の方を見て呟く。その音と衝撃には、隣の第2号ドックの祥鳳も、
第3号ドックの綾波、第4号ドックの古鷹も気づいたようだ。
祥鳳「何かが…爆発したような音ですね…」
陸奥「爆発…っ」
陸奥は、爆発と言う単語を聞いて身震いする。艦娘の陸奥の記憶には、軍艦だった頃の記憶もともにある。陸奥が沈んだ原因は謎の爆発だったので、
爆発と言う単語には敏感だった。
陸奥「嫌な予感がするわ…」
陸奥はそう呟きドックから出ようとするが、足がふらつく。それを見た祥鳳が、身を乗り出して倒れかけた陸奥を支える。
陸奥「くっ…」
祥鳳「ダメですよ!まだ完全に傷が癒えていないんですから!」
残りの陸奥の入渠時間は大体6時間。祥鳳は3時間だ。2人とも入渠を始めてからまだ10分も経ってない。その程度では、損傷の10%も治っていない。
さらにこの入渠ドックには、艦娘の傷を癒すと同時に疲労度を回復する効果もある。陸奥も祥鳳も先の戦闘で大分疲れていたので、気を抜いてしまうと、
気絶しそうだった。
祥鳳「無事だと言う事を信じて、今は傷を癒すのに専念しましょう。それにもし、何かあれば提督が何とかしてくれるはずですから」
陸奥「…そうね」
陸奥は、あの無邪気な心をわずかに持つ提督の顔を思い出して、またドックに入り直す。
そして陸奥は、あと6時間どう暇をつぶそうかと考える事にした。
入渠ドックを出て、何が起こったのかを聞いた陸奥は、入渠で回復した疲労がまた溜まっていくような感覚を得た。
陸奥「…何、ですって…?」
陸奥に聞かれて、摩耶は意気消沈と言った感じでもう一度言う。
摩耶「…工廠で、爆発が起こったんだ。それに提督が巻き込まれて、病院に運び込まれた。今、提督は手術の真っ最中だよ」
陸奥は、摩耶の言った事が最初信じられなかった。しかし、摩耶の様子から察するに嘘ではない。
祥鳳「…もしかして、私達の破損した艤装が原因かしら…」
不知火「あり得ますね…。特に、陸奥さんのなんて機関部がむき出しになるくらいだったから…」
古鷹「きっと、燃料が漏れていたのかも…」
祥鳳たちの言葉を聞いて、陸奥は膝の力が抜けて地面に膝をついてしまいそうになる。
陸奥「……………」
しかし、陸奥は気づいた。自分が落ち込む前に、まずは提督の容態を確かめる事が重要だと。
そう思い至った陸奥は、皆の制止の言葉も聞かず、外向きの服装に着替えて急いで病院へと向かった。
そして、陸奥の後を追って祥鳳と不知火も病院へと向かった。
病院に着いた時には、既に日は落ちていた。
受付で、提督の事を尋ねると、手術は終了して今は病室で寝ているとの事だった。
教えられた部屋へと陸奥、祥鳳、不知火は向かう。その部屋は1人部屋だったが、面会謝絶と札が掛けられている。
陸奥「くっ…」
祥鳳「そりゃそうでしょう…手術した当日なんですから…」
不知火「日を改めてまた来ましょう」
陸奥「…そうね」
陸奥は悔しそうに呟いて引き返そうとしたが、そこに医師が通りかかって3人に話しかける。
医師「もしかして、貴女達はこの病室の提督さんに用があったのですか?」
陸奥「え、ええ…」
陸奥が答えるのを聞き、医師はふむ、と頷き、続ける。
医師「ちょっと、提督さんの事で話したい事があるんですけど、お時間をいただいてもいいですかね?」
陸奥達は、医師のその言葉を聞いて2つ返事で話を聞く事にした。
その医師の部屋に通された3人は、用意された椅子に座る。その正面に医師は座り、カルテを見ながら話す。
医師「提督さんの怪我の程度は、数か所の打撲とそれによる出血、火傷…」
医師によると、提督が火傷したのは顔を除いた体の前面の部分だと言う。どうやら、爆発の寸前で腕を顔の前で交差させて顔が火傷するのを防いだらしい。
しかし、爆風を正面からもろに受けたせいで体の前面は大きく火傷した。
さらに打撲と出血は、爆風で吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた際に負ったもののようだ。
そこまで聞くと、陸奥達3人は安堵の息を吐く。
陸奥「よかった…」
祥鳳「ええ。この程度の傷でしたら、すぐに復帰できるでしょうね…」
不知火「はい。また元気な司令に戻るでしょう」
だが、明るくなり始めたところで医師が水を差す。
医師「…あの、よろしいでしょうか?」
陸奥「あ、すみません」
医師「さっき言った傷の他に、提督さんはさらに大きなけがを負ってしまって…」
医師の言葉に、再び3人の息が止まりそうになる。
そして、医師はまた口を開く。
医師「提督さんは―」
医師からの言葉を聞いた後、陸奥達は帰路に就いた。
陸奥達は鎮守府に帰ると、鎮守府の全員を集めて医師からの言葉をそのまま告げる。
その言葉を聞いた時、最初は全員が呆けたような顔をした。その言葉は、それほどまでに衝撃的なものだった。そしてその事実を認識すると、
皆は大粒の涙を流し、声を上げて泣いた。
面会謝絶が解除されるのは2日後。そうしたら、提督と長い付き合いだった陸奥が一番最初にお見舞いに行く事になった。
面会謝絶が解除された日。
陸奥は片手にフルーツの入ったバスケットを持って、昼前に提督の部屋を訪れた。ドアをノックし、「どうぞ」と言う声を聞いてドアを開く。
陸奥が横開きのドアを開くと、病室には窓際に大きなベッドが1つ置かれている。その上で、提督はよっこいせと言いながら上体を起こす。
陸奥「陸奥よ。お見舞いに来たわよ」
提督が起きた様子を見て陸奥がそう言うと、提督は言葉を発する。
提督「陸奥?どこにいるんだ?」
提督は辺りをキョロキョロしながら話す。その言葉を聞き、陸奥はこの前医師が言っていた事を思い出す。
医師『提督さんは、爆発の衝撃で角膜が傷ついてしまいました…』
陸奥『それって…どういう…』
陸奥達には、医師の言葉がどういう意味なのかが分からなかった。いくら艦娘と言えども、そのような医学的な用語はあまりわからない。
医師『つまりですね…』
医師はそこで一度言葉を切って、次の言葉を続ける。
医師『提督さんは失明してしまったと言う事なんです』
流石に、その言葉が指す意味は3人にも理解できた。
陸奥『………………』
祥鳳『………………』
不知火『………………』
しばしの沈黙の後、陸奥は医師に訊ねる。
陸奥『…直す事って、できますか…?』
その陸奥の声は、震えていた。
医師『新しい角膜が用意できれば、直せる確率はありますけど…。何せ今の時代はドナーが不足していまして、角膜の代わりなんて…』
医師の言葉に心が折れそうになるが、それでもまだ希望を失いたくなかった。陸奥はさらに言葉を続ける。
陸奥『それなら、私のを…』
医師『それは無理です』
医師はすっぱりと断った。
陸奥『何で…?』
医師『貴女達は艦娘でしょう?艦娘は普通の人間とは体の構造が若干異なります。そして、研究はあまり進められていません。もし、艦娘の角膜を移植して、
提督さんの身に何か起これば、それこそ取り返しのつかない事になるかもしれないんです…』
陸奥達は、ただただ絶望を感じる事しかできなかった。
陸奥は、ベッドのそばにある椅子でリンゴの皮を剥きながら提督と話をする。提督がいない間、皆は出撃や演習をせずに提督の身を案じていたと。皆は、
提督が早く復帰する事を願っていると。
提督「そうか…。皆には、迷惑をかけちゃってるな…」
陸奥「まったくよ…。早く、元気になって鎮守府に帰って来てよ…」
陸奥はリンゴの皮を剥き終え、今度は食べやすい大きさに切り分ける。その陸奥の眼は、かすかに潤んでいた。
陸奥「はい、リンゴ剥けたわよ」
陸奥はリンゴを皿にのせて、提督の左手に皿を、右手にフォークを握らせる。
提督「すまんな。まったく、目が見えないとなんにもできん…」
提督の残念そうな言葉を聞いて、陸奥は胸がちくりと痛んだ。そして、ずっと気になっていた事を聞いてみる。
陸奥「ねぇ、提督」
提督「ん?」
陸奥「…爆発が起こった時、何があったの?」
提督「え、あの時?えーと…」
提督はうーんと唸り、そして思い出したように話し始める。
提督「ああ、そうだ。被害報告書を書くために工廠で皆の艤装を確認していたんだ。そこで陸奥の艤装を確認していたら、突然機関部から火花が散って、
漏れ出していた燃料に引火して爆発した、って感じだった」
陸奥は、提督の言葉を聞いて唇を噛む。
陸奥「…そっか。ゴメン提督、ちょっと席を外すわね」
提督「ああ」
陸奥は少し逃げるような感じで病室の外に出る。もっとも、提督は何も見えないのだから逃げているような感じだとは思わなかっただろうが。
陸奥は病室のドアを閉めると、床に座り込む。
陸奥「………ぅ」
陸奥の口から、声にならない声が出てきた。
やはり、爆発は自分の艤装、しいては自分のせいだった。そして、自分の艤装が起こした爆発のせいで、提督は大きく傷ついてしまった。
陸奥「………ぅぁ」
もし、深海棲艦達との戦いで、陸奥が大きな損傷を負ったりしなければ、艤装も傷つかず爆発を起こさなかったかもしれない。
もし、執務室で提督に『正規空母を建造すれば?』とけし掛けなければ、バシー島沖へ出撃せず、戦いで負傷する事は無かったかもしれない。
もし、自分がこの艦隊のエースでなければ、前線には出る事は無く、負傷して艤装が爆発するなんて事にならなかったかもしれない。
もし、自分が艦娘として生まれてこなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。
陸奥「うあああ…」
もし、と後で言う事は何度でもできる。あの時ああなっていれば、なんて事は後でいくらでも言える。ifの話は好きなだけ言える。
だが、それでも揺るがない事がある。
それは、自分を信頼していた提督が傷つき光を失った原因の根幹にあるのは、その信頼していた陸奥自身と陸奥の艤装という事だ。
陸奥「うああああああああ……ああああああああ……!!」
陸奥は顔を両手で覆って泣きじゃくった。
病室が防音で助かった。こんな幼く泣いている声を聞かれたら、提督に心配させてしまうだろうから。
今日はここまでにします。
また明日、投下していきます。
それでは。
陸奥は>>1の艦隊では最強戦力として存分に活躍しています。着任から半年、長門が未だに来なくてごめんなさい。
こんばんは。
投下していきます。
そして現在、陸奥の話で食堂は静まり返っていた。
陸奥「………そう言う事よ」
全員「……………」
だが、全員の目は、陸奥を責めるような感情を含むものではなかった。陸奥はそれに気づかず、話を続ける。
陸奥「そしてその後、海軍の上層部の人達が来た。『失明した提督なんて、役に立たない。提督業を辞めてもらう』って開口一番に言ってきたのよ。
でも、提督は『私は提督を続けます』って力強く言ったの。それからしばらく、提督と上層部の人との間で言葉の応酬が続いた。そして結局、
上層部の方が折れて、『分かった、提督を続けてもいい。だが、条件を付ける』って」
鳳翔「条件…?」
陸奥「その条件は、『開発・建造・出撃の回数制限』。私達の鎮守府は結局、開発・建造は週に1回ずつだけ。出撃は週2回。提督はその条件を飲んだわ。
まあ、そんな条件が付いたせいで、戦果は他の同時期に始動した鎮守府よりも遥かに低い」
一部の艦娘は、その事実を今はじめて知った。提督から直接言われたことなどなかったからだ。
陸奥「それなのに、上からは出撃命令書類が送られてくる。おかしいものよね」
全員「……………」
陸奥「…そして、提督が失明してからずっと私が秘書艦になったわ。それは、私が提督を傷つけた事に対する懺悔かもしれないし、
せめてもの償いなのかもしれない」
全員「……………」
陸奥「私は、提督に謝らなくっちゃいけないといつも思っている。けど、怖くてできない。もし、誤って罪を認めた後、提督が私をどうするのかが怖い。
そんな理由で、私は今まで謝る事が出来なかったのよ…」
鳳翔「あの…」
陸奥の話を聞き終えて、鳳翔が控えめに言葉を出す。
陸奥「?」
鳳翔「新参者でふてぶてしいと思いますけど、提督は貴女の事を恨んではいないと思います…」
陸奥「…何で?」
陸奥は聞き返して、少し顔を上げて他の艦娘の顔を窺う。皆、鳳翔とは同じ意見のようだ。
鳳翔「なぜ、と聞かれても上手く説明はできないのですが…。私が先ほど執務室で提督とお会いした時、この方はとても優しい、と印象を抱きました。
そのような提督が、貴女の事を今まで恨んでいたとすれば、貴女を今まで秘書艦としてそばには置いていないだろう、と思います」
陸奥「………」
陸奥は鳳翔に言われて考える。
確かに提督が陸奥の事を恨んでいるとすれば、今まで秘書艦としてそばに居させることは無かっただろう。解体させるなりなんなりするはずだった。
けど、なぜかそれをしようとしない。
つまり、陸奥は恨まれてはいるわけではないというわけだ。
だが、それだけで安心できるほど陸奥は甘い性格をしてはいない。
陸奥(でも…私は…)
陸奥がそう考え始めた時。
ビーッ!!ビーッ!!と、警報がスピーカーから聞こえた。
その警報の音に、全員が意識を集中する。警報が鳴り終わると、続けてスピーカーから声が聞こえてくる。
提督『沖ノ島海域にて、タンカー数隻が中枢部付近で深海棲艦の奇襲を受けた。この鎮守府にも、深海棲艦の撃滅を要請する通達があった。
これから読み上げる艦娘は、出撃の準備を直ちにしてほしい』
どうやら、代理秘書艦の龍驤のアシストを借りて、通信を受けたようだ。
陸奥は舌打ちをする。この鎮守府がやすやすと出撃できるような状態ではないというのに。
陸奥(でも…タンカーが奇襲を受けた場所に一番近い鎮守府がここって言うせいなのかもしれないけど…)
陸奥の気持ちは露知らず、提督は出撃する艦娘の名前を告げる。
提督『旗艦・陸奥。祥鳳、夕立、川内、綾波、古鷹。以上の者は直ちに出撃』
そして、ブツリと放送は切れた。
陸奥(私が、旗艦…?前にあんな取り返しのつかない失敗をしたって言うのに…)
だが、陸奥は今朝受け取った書類を思い出す。
海域解放命令。
そして、タンカーが奇襲を受けたのは沖ノ島海域の中枢部。
陸奥(ここで、中枢部を撃滅させれば、海域を解放できて上層部からのノルマをクリアする事ができる!そして、提督の負担も減らす事ができる…!)
陸奥はそう思い至ると、勢いよく立ち上がり、艤装倉庫へと早足に走って行く。
艤装を装備した後、陸奥達6人の艦隊は海の上を沖ノ島海域へと向かっていた。
陸奥「まったく…沖ノ島海域なんてまだ一度も出撃した事が無いのに…」
陸奥が愚痴ると、後ろにいた綾波が声をかける。
綾波「ですけど、海軍の上層部はそんな事考慮してはいませんし…」
陸奥「それは分かってるけど…」
陸奥はそう言いながら、手の中にある羅針盤を見つめる。
陸奥(お願い…狂わないで…)
陸奥はそう願いながら、随伴艦を引き連れて海域を進んで行く。
幸いにも、陸奥達の羅針盤は狂う事なく、海域中枢部へ最善のルートを通って向かう事が出来た。中枢部への戦闘は少なく、損傷の度合いも少ない。
これなら中枢部を撃滅できる。誰もがそう思っていた。
しかし、中枢部の艦隊と戦闘を始めて、その予想は瓦解する。
陸奥「くっ…強すぎる…」
戦艦ル級が4隻もいたのだ。おまけに、その内3隻はエリート級。陸奥の砲撃で1隻は大破にまで追いやる事が出来たが、こちらは圧倒的な火力不足だ。
すでに、夕立も綾波も川内も、中破や大破に追い込まれている。
祥鳳「しつこい…ですねっ…!」
祥鳳も敵の攻撃を避けつつ艦載機を飛ばしているが、駆逐ニ級が邪魔をしている。あれでは、祥鳳も損傷を受けるのも時間の問題だろう。
古鷹は祥鳳の護衛をしているが、既に小破状態。動きにブレが生じてしまっている。
綾波「ダメです…とても敵いません…」
夕立「って言うか、タンカーを曳航していった別の鎮守府の艦娘も参戦すればイイっぽい!」
夕立がぶーたれる。しかしそこの鎮守府の艦隊は、羅針盤が狂ってしまい海域の外に出てしまったらしい。
川内「陸奥、撤退をした方が…」
陸奥「でも、ここでこの主力艦隊を倒せば、提督の負担が減るかもしれない!だから、こいつらだけは絶対に倒す!」
陸奥の言葉は、他の艦娘達の心を動かしかけたが、皆自分のザマを見て再び力を落とす。
陸奥「…なら、せめて私だけでも…っ!」
そう言いながら、陸奥は前方の戦艦レ級に主砲を構える。
だが。
古鷹「陸奥さん!左方!」
古鷹が叫び、陸奥がその方向を向く。
別の戦艦ル級がこちらに照準を合わせていたのだ。
陸奥(まずっ…!)
陸奥がそう気づいた時はもう遅かった。
ドォン!!と言う音。そしてその数瞬後、ル級の攻撃が陸奥に直撃した。
次に陸奥が気づいたのは、鎮守府の医務室のベッドの上だった。
陸奥「……私は…?」
戦艦ル級に照準を合わされて、砲撃された。そこまでしか覚えていない。それから、どうやって鎮守府に戻ってきたのかが思い出せない。綾波か夕立か、
それとも他の誰かがここまで自分を曳航してきたのだろう。
だが、とても重大な損傷を受けた事だけは分かる。あの戦艦ル級の攻撃をまともに、それこそ一撃で気絶するような威力の攻撃を喰らったのだ。しかも、
今陸奥は自分の体の至る所に包帯やガーゼが施されている事が皮膚の感触で分かる。
陸奥(私が、あそこで気絶したって事は、恐らく作戦は失敗…。沖ノ島海域も解放できなかったのでしょうね…。提督に謝らなくっちゃ…。それと、
私のせいで失明させてしまった事も…)
ベッドの上で戦果を結論付けて今後の事を決めると、起き上がろうとする。
だが、左腕がなぜか重くて起き上がれなかった。
陸奥「?」
陸奥がその重みを感じる方に目を向けると、そこには何かが乗っていた。
提督である。
陸奥「…………」
陸奥は、涙腺が少し緩みかけた。提督は自分が目覚めるまでずっと起きていたのだろう。だが、提督が先に眠ってしまったようだ。
さらに目を凝らしてよく見ると、提督の顔には少し傷がついており、服も若干汚れていた。
陸奥(まさか、執務室から1人で来てくれたの…?私なんかのために…)
陸奥は、ふらついたり、転んだり、壁にぶつかったりしながら医務室に向かっていた提督の様子を思い浮かべる。自分のためにそこまやった提督の、
そのイメージが湧くと陸奥はまた泣きそうになってしまった。
さらに陸奥は、ベッドの横の棚の上に紙が置いてある事に気づく。
その紙には、よれよれでバランスも崩れた字でこう書かれていた。
『すまなかった』
提督が、どういう理由を込めてこんな言葉を書いたのかは分からない。
だが、陸奥の心にこの言葉は深く突き刺さった。
陸奥「何よ…」
陸奥は声を絞り出す。
陸奥「謝りたいのはこっちなのに…」
その声は、涙声になっていた。
陸奥「私がかつてあなたにしてしまった事は、許されるような事じゃないのに…」
陸奥のせいで提督は光を失った。それなのに、提督は陸奥を責める事も恨む事もせず、なお陸奥の身を案じていた。その事が、陸奥の心を大きく揺らした。
陸奥「何であなたが謝るのよぉ…っ!」
陸奥は今度こそ、涙を流して泣いてしまった。
提督を起こさないように、声を噛み締めて。静かに泣いた。
今日はここまでにします。
駆け足で書いてしまったので、話の構成・内容が若干ブレてしまったと思います。すみません。
それではまた明日。
陸奥の改造後の追加ボイスがエロ過ぎる。
こんばんは。
今日で多分陸奥編はラストになります。
では投下します。
パンツ脱いだ
提督の手紙を見て泣いた後、陸奥はどうやらまた眠ってしまったらしい。さっき起きたのは夜中だが、再び起きて窓の外を見てみると、昼過ぎあたりだ。
そして、ベッドに寝ていた提督もいない。祥鳳か古鷹が連れて行ったのだろう。
陸奥「………やっぱり…」
陸奥はベッドの上で呟く。あの提督の残したメッセージを見て、陸奥は決心がついた。
陸奥「……謝らなきゃ、ね」
ベッドの横にあるタイマーを見てみる。損傷を受けた艦娘が医務室で傷を修復すると、入渠ドックに入渠するのと同じ扱いになるらしい。疲れも痛みも、
すっかり取れていた。タイマーも、『残り入渠時間00:00:00』と完全に傷が癒えている事を示していた。
陸奥「さてと…」
陸奥はベッドから起き上がり、手術衣から置いてあったいつもの服に着替えると、執務室へ向かって行った。
執務室の前に着いていつものように自分の名を名乗りノックをすると、提督が『どうぞ』と言って入ってくるように促す。
ガチャ、とドアを開けると、執務椅子に座っていた提督が顔を上げる。
提督「傷は治ったのか?」
陸奥「ええ。ぐっすり眠ったから、もう大丈夫よ」
提督「そうか…よかった」
提督が安堵したかのように息を吐く。その仕草を見て、陸奥は意を決する。
陸奥「提督…」
提督「ん?何だ?」
陸奥「その、ごめんなさい」
陸奥の言葉に、提督は少し首をかしげる。
提督「何が、ごめんなさいなんだ?」
陸奥「その、沖ノ島海域の任務を、遂行できなくて…」
陸奥が謝りたかったのはもっと別の事だったが、沖ノ島海域での敗北を思い出し、ついその話をしてしまう。
提督「ああ、その事か。別に気にしてないよ。俺達の戦力に対して敵が強すぎたんだ。お前達は何も悪くない」
陸奥は、提督は言外に『お前達は弱かった』と言っているように感じたが、間違ってはいないので否定ができない。それに、それは疑い過ぎだろう、
と考えた。
提督は、それで陸奥からの話が終わったと思ったのか、別の話を切りだす。
提督「さて、復帰早々済まないんだが、また書類を点字に直してきてくれないか?他の皆はあまりうまくできなくてね…。陸奥が一番いいんだ…」
提督の言葉に、陸奥の心がまた揺れるが、それに釣られずにこちらの話を切りだす。
陸奥「提督…」
提督「ん?まだ話があるのか?」
陸奥は、てをもじもじさせて、気を落ち着かせようとする。そして、言う。
陸奥「あなたの視力を奪ってしまって…ごめんなさい」
提督が一瞬息を飲んだような感じがした。
そして、陸奥は見えていないだろうと思ったが、それでもぺこりと頭を下げる。
提督「…………」
陸奥「私の艤装が爆発したせいで、つまりは私のせいで、あなたの眼は光を失ってしまった。それは、とても許されない事よね…。これまであなたの傍で、
あなたの世話をしてきたのは、償いでもあるし、懺悔でもあるかもしれない。だから、ここで言うわ。本当に、ごめんなさい!」
陸奥の言葉は、最後の方では少し涙声になってしまっていた。
陸奥の言葉を聞き終えた提督は、『そうか…』と呟く。
提督「陸奥……」
提督が呼び、陸奥は顔を上げる。
自分はどうなるのか。解体されるのか。それとも体をいいように扱われてしまうのか。だが、陸奥はどんな罰でも受け入れるつもりだった。
どんな罪が言い渡されるのか。陸奥は覚悟した。
だが、提督が放った言葉はある意味予想外の物だった。
提督「それは違うんじゃないのか?」
提督の言葉が、理解できない。
陸奥「…え」
提督「確かに、俺は陸奥の艤装の爆発の衝撃で、視力を失っちまった。だけど、それが陸奥のせいだっていうのは、少し違う気がするんだよ」
陸奥「………」
提督「それに、俺は今まで一度も陸奥のせいだなんて思っていないよ」
陸奥「………」
提督「かつて爆発が原因で沈んだ軍艦だったお前は、今でも"爆発"に敏感なんだろう。だけど、今回の事だけは、お前のせいじゃない。俺はお前の事を、
責めるつもりなんて一切ないよ」
提督は鼻を掻き、何が言いたいのかを頭の中で整えているようだ。
提督「つまり、だ」
陸奥は、その言葉の続きを待つ。
提督「陸奥が自分を責める事も、俺がお前を責める事も無いってわけだよ」
陸奥は、その言葉を聞いてまた泣きそうになってしまう。だけど、今度は涙をこらえる。
陸奥「あなたって人は…もう…」
提督「何だ、もしかして今までそんな事を悩んでいたのか」
陸奥「そんな事って!私はあなたの事を傷つけた罪の意識でいっぱいだったって言うのに…。そんなあっさり…」
提督「陸奥って案外気が弱いんだな…。可愛らしい一面だよ」
陸奥「かわ…っ!?」
提督「さ、早く仕事をしよう」
提督がキィと椅子を引くと、そこで陸奥は思いつく。
陸奥「…ねぇ、提督」
提督「今度は何だ?」
陸奥は提督の近くへと歩み寄る。そして、提督の正面に立ち、しゃがんで提督の顔の高さと自分の顔の高さが同じになるようにする。
提督「陸奥?」
陸奥「ちょっと、動かないで…」
提督「え?」
提督の疑問の言葉を無視して、
陸奥「提督、ありがとう♪」
陸奥は提督の両頬に優しく両手を添えて―
陸奥「ん……」
優しく提督と唇を合わせた。
だが、少しの間唇を重ねた後の事。
提督「あれ…?」
提督が声を上げる。顔を離して、陸奥は尋ねる。
陸奥「どうしたの?」
提督「見える…」
陸奥「…………………え?」
陸奥には、提督の言っている事が何を意味するのか最初は理解できたが、すぐにありえないと思考を入れ替える。
陸奥「…提督、窓の外の空の様子はどうなってるかしら?」
陸奥がおっかなびっくり聞いてみる。
提督「…曇り」
確かに、窓の外の空は曇りだった。
次に陸奥は、本棚から適当な本を一冊取り、提督の顔の前に突き出す。
陸奥「この本のタイトルは!?」
提督「えーっと、"海軍における基礎戦術"、だろ?」
確かに、陸奥が今手に持っている本のタイトルは提督が言った通りの物だった。
陸奥「じゃあ!」
スカートをペラリとめくり、これが最後と言わんばかりに質問を繰り出す。
陸奥「今私が穿いているパンツの色は!?」
陸奥が顔を真っ赤にしながら聞く。だが提督はにべもなく答える。
提督「黒」
陸奥「正解よ!」
陸奥は喜びと羞恥心が混じったような顔で提督の頭の頂点に拳骨を振りかざす。
提督「痛い!?なぜ殴る!」
陸奥「そりゃ下着を見られたら恥ずかしいでしょうが!」
提督「…お前から見せてきたはずなんだが…」
陸奥が落ち着きを取り戻すと、改めて聞く。
陸奥「本当に、目が見えるの?」
提督「ああ…。けど、なんでだろうな…分からない…」
陸奥「でも…よかった…」
陸奥がそれだけ言うと、提督も笑みをこぼす。
提督「ああ…。本当によかった…。でも、何だか眩しいな…なんでだろ…」
陸奥「そりゃ、何か月も光を見ていなかったらそうなるでしょう…」
その後提督と陸奥は、提督が前に運び込まれた病院へ行き、その時の担当医に目が治った事を話した。
医師「そんな…何で…?」
提督「いや、自分でも理解できていないです…正直…」
医師「でも、一応検査を受けてみないとね…」
と言うわけで、提督はすぐに精密検査を受ける事になったが、結果は同じだったようだ。
医師「どこにも、異常がない…?」
提督「何で…?」
陸奥「分からない…」
医師「何かあったのかしら…?」
陸奥「それは…その…」
提督「…………」
提督と陸奥が顔を赤らめて俯いてしまったので、医師は何も分からなかった。
その後、陸奥から話を聞いた医師は、こう結論付ける。
医師「艦娘特有の何らかの力が働いて、傷を治癒する事が出来た…のかしら…。調査してみない限りは、何とも言えないけど…」
病院から帰る時、陸奥は切実に思っていた事がある。
陸奥(お医者さんが女性でホントによかった!提督とキスしたら目が治ったなんて話、男のお医者さんに言ったら恥ずかしくて死んじゃうところだった!)
鎮守府に戻った後、艦娘達を全員集めて、提督の眼が治ったことを伝えると、艦娘達は沸き上がった。
艦娘『やったああああああああああああああああああああ!!!』
そして皆からもみくちゃにされて、提督は苦笑交じりに話す。
提督「今まで色々迷惑をかけて済まなかったな!これからは、皆のために色々頑張っちゃうから!」
するとまた、艦娘達は歓声を上げる。
その夜は、無礼講でパーティが開かれた。間宮さんと、実は料理の腕が超一流だった鳳翔が協力し、腕によりをかけて料理をふるまった。そのパーティは、
この鎮守府が創立して以来の賑やかなものとなった。
パーティが終わった後、提督と陸奥は執務室にいた。
提督「いやぁ、久々に皆の顔が見れたよ…」
陸奥「まあ、実質2カ月も皆と会っていなかったのと同じような感じだしね…」
そこで、提督はハッとしたように思い出す。そして、額から嫌な感じの汗が出てくる。
提督「…思い出したけど、目が治ったことを上層部に伝えないと建造とか出撃とかが進められないんだった…」
陸奥「そうよ。今まで忘れてたの?」
提督「…明日からはまた忙しくなるのか…」
陸奥「…私も手伝うから。頑張ろ?」
提督「ああ…」
陸奥が励ますと、提督はまた笑みを浮かべる。
提督「でも、本当にあんなに騒いだのは久々で、楽しかったよ」
陸奥「そうね…、私もよ。前までは少し暗い感じがあったから…」
提督「俺の存在は、そこまで重要なものだったのか…」
陸奥「そうよ。あなたは本当は、私にとって、そして私達にとって、太陽みたいな、明るく優しい人だから…」
提督は、陸奥が顔を赤らめながら言うその言葉を聞いて、ぐっと息を飲む。そして、考えていた事を告げる。
提督「あのさ…陸奥」
陸奥「何?」
提督「俺、実はお前の事が―」
陸奥「…………」
提督「ずっと好きだったんだ!」
その提督の言葉を聞いた時、陸奥は目に涙を浮かべながら優しく微笑んだ。
そして、それから数か月後。
建造ドックから、1人の艦娘が出てくる。
長門「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」
その自信に満ちた声を聞き、提督は安堵の息を吐く。
提督「やっと…やっと来たか…」
提督がその場に崩れ落ちそうになる。それを、後ろにいた陸奥が支える。
陸奥「あらあら、気が抜けちゃったのね…」
提督「だって、だって…戦艦レシピ回してもう何十回も出てこなかったから…」
今この鎮守府は、総人数が90人に伸びようとしていた。
提督の盲目が治って以来、この鎮守府は建造を集中的に行い、姉妹艦をそろえる事に躍起になっていた。戦艦や正規空母も、十分に揃っている。陸奥も、
やっと姉と会えた事に、心の中では飛び跳ねるくらい喜んでいた。
陸奥に支えられる提督を見て、長門が不敵な笑みを浮かべる。
長門「何だ、随分軟弱な提督だな。私がその根性を叩き直してやろうか。ついでに、私に惚れさせてやるのもいいかもしれんな」
長門がフフンと笑いながらそう冗談交じりに、そして強気に言うと、陸奥が否定する。
陸奥「…それは無理よ。長門姉」
長門「何?」
陸奥「だって…」
陸奥はそう言いながら地べたに座りかけている提督をグイッ、と引っ張り立たせる。
提督「お、おい…」
そして、提督の右腕に腕を絡めて、勝ち誇ったようにこう言った。
陸奥「だって私達、もう夫婦カッコカリなんだから♪」
陸奥が満面の笑みを浮かべ、長門に見せた陸奥の左手の薬指には、銀色にキラリと輝くケッコン指輪が嵌められていた。
―END―
と言うわけで、陸奥編は完結です。多くの応援ありがとうございました。
まさかの開始から終了まで一週間足らずと言う短いものでしたが、いかがでしたでしょうか?
感想をいただけると嬉しいです。
夜戦シーンをご所望だった方、本当にすみません。orz
>>90
期待させてしまい本当にすみません。
さて、次の作品は前作の"【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」"の続編になります。
新スレを立てるのは明日の予定ですので、ご了承ください。
新スレを立てた報告はこのスレでも行いますので。
それではまた明日お会いしましょう。
こんばんは。
新スレができましたので報告します。↓
【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」2
【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428670137/)
応援よろしくお願いします。
キスしたら盲目が治るなんて、現実じゃあり得ないと思うかもしれませんが、大目に見てください。
このSSまとめへのコメント
今までの作品を見た。続きを期待しているぞ。