長門「残る桜も、散る桜」 (15)
長門「……」
長門「……」
大和「綺麗な桜ね」
長門「っ!?や、大和?」
大和「……うふふ。こんにちは、長門さん」
長門「お前……なんで……」
大和「……桜を、眺めていたの?」
長門「……」
長門「……ああ」
大和「……」
長門「とても、綺麗だな」
長門「……華がこんなに美しいものとは知らなかった」
大和「……」
長門「ここでよく、皆で花見をした」
大和「……ええ」
長門「ふふ。陸奥なんか珍しく酔って、駆逐艦の子たちに絡んでいたものだ」
大和「……ええ」
長門「……楽しかったな……」
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大和「……」
長門「……そういえば」
長門「……出撃前の晩。お前と盃を交わしたのも、この桜の木の下だった」
大和「……ええ」
大和「うふふ、私お酒が苦手だから、少量でも酔っていたわね」
長門「そう、だったな」
大和「あの時も、こんな風に桜の花びらが舞っていた」
長門「……ああ」
大和「……」
長門「……」
長門「お前は、成功しようのない作戦に無理やり……!」
大和「いいえ。そのようなことはございません」
長門「しかし……!」
大和「……長門さん。あの時お話したでしょう?」
大和「例えどのような結果になろうとも、私は最後まで贖う」
大和「贖って贖って、それでも朽ちるのであれば、この桜の如く、最後まで華麗に誇り高く散っていきますと」
長門「……」
長門「……ああ」
大和「……」
長門「……だが、私もとうとう最後の時を迎えたようだ」
大和「……」
長門「明日、私は新型兵器の試験台となる」
大和「……」
長門「……結局」
長門「残る桜も、散る桜だったということだ」
大和「……長門さん」
長門「……覚悟はできている」
長門「だが、私は……!」
長門「なんのために生まれ……なんのために去るのだ……!」
大和「……」
大和「人の、意思のためです」
長門「え……」
大和「私達は死す。これは人間でも艦娘でも同じ。運命なのです」
大和「しかし、私達の意思は死にません」
長門「……」
大和「例え、どんな形でも」
長門「……」
大和「……長門さん。最後に言わせて頂きます」
大和「残る桜も、散る桜も、散る桜です」
大和「でも」
大和「散った後でも、大樹は、再び花を咲かせるんですよ」
長門「……大和……」
大和「うふふ」
酒匂「……長門さん?」
長門「っ!」
酒匂「……誰と、お話をされていたんですか?」
長門「あ……いや……」
長門「今……そこに……!」
酒匂「……?? 誰もいませんが……」
長門「……」
酒匂「……そろそろ、出航の時間だそうです」
長門「……そうか」
酒匂「……」
酒匂「なんか……幽霊とでも会っていたようなお顔ですね」
長門「……」
長門「幽霊じゃないさ」
長門「……誇り高き、彼女の意思だ」
酒匂「……」
長門「さ、では行こう」
長門「プリンツはどこだ?」
酒匂「……凄く怯えて……今、部屋に」
長門「……分かった。私が行こう」
酒匂「……」
酒匂「長門さん」
長門「ん?」
酒匂「……私も、怖い、です」
長門「……ああ」
長門「……私もだ」
◇
~海上~
プリンツ「……」ブルブルブル
長門「……」
プリンツ「……うう……」
長門「プリンツ、大丈夫か……?」
プリンツ「怖い……です……!」
長門「……」
長門「しかし、私が側にいてやれるのもこれまでだ」
長門「君は爆撃から西方に位置する箇所にいなければならない」
プリンツ「……」ブルブルブル
長門「……」
酒匂「……プリンツ、ほら、行かなきゃ……」
プリンツ「……うう……」
プリンツ「帰りたい……!」
プリンツ「ドイツに帰りたいよお……!」
長門「……」
酒匂「……」
長門「……大丈夫だ。プリンツ」
プリンツ「え……」
長門「……私はいつも、お前の心の側にいる」
長門「約束したからな。ビスマルクと」
プリンツ「……御姉様と……?」
長門「……ああ」
長門「だから、行きなさい。お前の側には私もビスマルクもついている」
プリンツ「……」
プリンツ「……はい……」
長門「……」
プリンツ「えへへ……ふ、震えが少し、止まりました」
プリンツ「長門さん、ダンケ!」
長門「……ああ」
プリンツはそう言い残し、自己の持ち場へと移動した
酒匂「……」
長門「……酒匂」
酒匂「……」
長門「大丈夫……か?」
酒匂「……ええ。大丈夫、です」
酒匂「ふふ、私にも……」
酒匂「私の心にも、側にいてください。長門さん」
長門「ああ。もちろんだ」
酒匂「……えへへ……でもこんなこと言ったら、陸奥さんに怒られるかな……」
長門「……」
酒匂「じゃあね!長門さん!」
酒匂も目に涙を浮かべ、自分の持ち場へと移動する。
長門「……」
私はふと空を見上げた。
本日は晴天、雲一点ない青空だ。
散るには惜しい。
長門「……」
長門「お前も……」
長門「こんな気持ちだったのか……?」
長門「大和……」
私が空を見つめ、過去を思い出していた時
【それ】は、投下された。
長門「はっ!?」
一瞬光が目を包んだかと思えば、とてつもない爆風が私を包んだ。
大爆発。
体に感じる熱と目の前の赤い炎でその状況が分かった。
他の数多くの標的艦も犠牲になったのだろう。
鉄の塊が体の節々に刺しこんでくる。
長門「ぐああ……!」
体中に痛みが走る。
普通の人間であれば爆風で全ての皮膚が火傷しているのだろう。
とてつもない衝撃だ。
しかし、その思いを感じている時ではない。
今爆発が起きたのは!
酒匂の____!!
◇
長門「……はっ……はっ……はっ……!」
酒匂「……」
長門「酒匂!!」
酒匂「……」
既に酒匂の体は大半が炎に包まれており、
その炎はいくら水をかけようが消え去ることはない。
彼女の全身は徐々に海に呑まれようとしていた。
長門「酒匂!!酒匂!!返事をしろ!!」
酒匂「……な……が……」
長門「っ!大丈夫か!」
長門「待ってろ……このままじゃ標的艦にすらならん!お前には帰港願いを……!」
酒匂「……もう……むり……よ……」
長門「酒匂!喋るんじゃない!!」
長門「大丈夫だ……!このくらいの傷……すぐにお前なら……!」
酒匂「……いい……の……」
酒匂「なが……さん……」
酒匂「これで……私……」
酒匂「みんなの……ところに……」
長門「酒匂!!酒匂ああーーーーっ!!!」
酒匂「……さよ……な……」
長門「酒匂ああああーーーーーっ!!!!」
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