しずか「えっ」
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宮森「このひょうたん屋のドーナツにかけまして」
鈴木「我らが上ノ山高校アニメーション同好会は」
絵麻「自主作品制作に努力することを」
美沙「誓いま」
みどり「す!」
しずか「待って」
宮森「いやあまさか本当に高校時代の目標が叶うとはね」
絵麻「この5人で一緒にアニメの仕事」
美沙「実現するとは思わなかったですねっ」
鈴木「ほんと声優になれてよかったよ~」
みどり「私も早くちゃんとした脚本家になりたいっす」
しずか「ちょっと!」
鈴木「え? 誰?」
しずか「いやそれこっちのセリフだよ。何で当然のように私のポジションに収まってるの?」
鈴木「何を言ってるの、この人」
美沙「さあ……」
みどり「誰かの知り合いっすか?」
宮森「あ、私知ってるよ」
しずか「おいちゃん!」
宮森「よく行く居酒屋の店員さんじゃん」
しずか「えっ!?」
絵麻「ああそういえば」
みどり「たしかにそうっすね」
鈴木「言われてみればそうだね」
しずか「あんた来たことないでしょ!」
しずか「ねえ、なんでみんな私のこと忘れてるの」
宮森「別に忘れてないですよ」
絵麻「居酒屋のお姉さん」
みどり「今日はシフト入ってないんすか?」
しずか「何? あてつけ? 嫌味なの? 私が声優の仕事ないから!?」
宮森「え、声優だったんですか」
美沙「声優なのになんで居酒屋に?」
鈴木「声優だけじゃ食べていけない人も多いからバイトしてる人も多いんだよ」
美沙「へえ~」
みどり「でも京子先輩は主演やってますからバイトしなくても大丈夫っすよね」
京子「まあね」
しずか「おあああ!」
しずか「ていうかその人も声優なの!?」
宮森「そうですよ、三女主演の」
しずか「ありあ役の人!?」
美沙「まさに大抜擢ですよね~」
みどり「ほんとっすよー、ほぼ新人だったのにいきんり主役なんて」
絵麻「カリスマ性みたいなものがあるんだよ」
鈴木「そうかなあ」
しずか「ろくな経歴もないのに監督や音響監督に惚れ込まれて
他の有名声優を押しのけて主役を獲得なんていう
私が何度も思い描いていた夢を実現させた人が目の前にいるなんて!」
宮森「どうしたんですか両目抑えて」
しずか「眩しい! 直視できない!」
みどり「これからどんどん仕事増えてくんじゃないっすか?」
美沙「三女ヒットしたら一気に売れっ子ですよ」
鈴木「だとしたらみんなと会える時間も少なくなっちゃうから困るな~」
しずか「代わったげようか?」
みどり「何言ってんすか~、忙しい方がいいに決まってるっすよ」
絵麻「そうそう、必要とされてるってことだもんね」
鈴木「でもそれもちょっとプレッシャーだなー、私でいいのかなって」
美沙「いいに決まってますよお」
宮森「京子の声も演技も評価されたからありあ役になれたんだよ」
鈴木「う~んでもやっぱり不安だな~怖いっていうか~」
しずか「代われ代われ!」
みどり「ちょっとうるさいっす!」
宮森「そんなに弱気にならないで! 私たちがついてるから!」
鈴木「おいちゃん……みんな……」
美沙「そうですよ、私達5人でこれからも一緒にアニメ作ってくんですから!」
絵麻「私ももっと絵がうまくなるように頑張るから、京子ちゃんもね」
みどり「私も立派な脚本家になってすっごい物語を書いてみせるっす!」
宮森「よーし、5人でもっともっと上を目指して、いつかは神仏混交七福神!」
「おーっ!」
しずか「ああっ、距離が! みんなとの距離が遠い!!」
しずかは状況を理解できなかった――
突如として現れた鈴木京子
なぜか自分がいたはずのポジションに収まっており
彼女は皆の高校時代の記憶にまで入り込んでいた
代わりにしずかに関する記憶が失われている――
普通に考えればありえない事態である
しかししずかにはもはや何がありえるのか、そうでないのか
冷静に判断する能力が機能していなかった――
度重なるオーディションの不合格
同じ事務所の後輩が自分より売れていく
バイト先で正社員にならないかと誘われる
これらはしずかの精神を少しずつしかし確実に蝕んでいき
しずかは自分でも気付かないうちに疲弊しきっていた――
衰えきった思考能力はこの現状に対して
「なんとしても鈴木京子を排除する」というあまりに乱暴で極端な決定を下した
鈴木京子を排除して自分の居場所を取り戻す――
そう彼女の心の拠り所は宮森たちアニメ同好会の仲間の輪にしかなかったのだ
そしてこれは自分の声優生活にとってもプラスになる
しずかはそう考えた、否、思い込んでいた
自分より実力のある人間が排除されれば自分のランクがひとつ上がる
上に行くために必要なことは努力でも才能でもましてやコネでもない
成功者を引きずり下ろすことなのだ――
しずかは心の中でそう呟き、梅ブーのきぐるみを身にまとう――
しずか「ここが三女の収録があるスタジオ……」
しずか「オーディションで落とされガヤ収録でやらかした悪魔のスタジオ」
しずか「いや、今日こそこのトラウマを乗り越えるんだ」
しずか「ウメブーのきぐるみを着てればなんかの収録だと思われて怪しまれないし」
しずか「顔が見えないから私が誰だかバレることもない」
しずか「私がウメブーに入っていることを知っている人もいない」
しずか「部屋を間違えたふりして三女の収録現場に突入してそのまま勢いに任せて……」
しずか「よしやれる、私ならやれる」
しずか「これが私の声優活動の新たな一歩なんだ!」
しずか「いくぞっ」
宮森「あれ、ずかちゃんだよね」
しずか「お、おいちゃん!? なんでここに!」
宮森「いや三女の収録だから」
しずか「えっ!?」
しずかはアニメのまともなアフレコ経験が絶無だったので
収録現場に制作進行のスタッフが来ることを知らなかった――
宮森「今日はウメブーの収録?」
しずか「う、うん、そうなんだよ」
宮森「その中華包丁は?」
しずか「これは……ウメブーの料理シーンの収録のあれ」
宮森「へえー、やっぱり梅料理?」
しずか「ま、まあね……ってあれ」
宮森「どうかした?」
しずか「おいちゃん、私のこと思い出してる……?」
宮森「え、思い出してる……って?」
しずか「だってこないだ私のこと忘れて代わりに鈴木京子とかいう声優が」
宮森「鈴木京子……京子……ずかちゃん……?」
しずか「お、おいちゃん?」
宮森「あ……きょ、京子…・ずかちゃん……京子……」ガクガクガク
しずか「おいちゃん!?」
渡辺「どうした宮森、発作か!」
葛城「ええ、宮森さん発作!?」
木下「とりあえず横にして落ち着かせて……」
渡辺「そこのウメブーちょっとどいて」
しずか「えっはい」
稲浪「ソファー使って、ソファー」
宮森「あ……あああ……」ガクガク
渡辺「おーい誰か、ドーナツ持ってないか、ドーナツ!」
鈴木「はい、私持ってきてます」
葛城「助かるよぉ鈴木さん」
鈴木「はいどうぞ、宮森さん……いや、おいちゃん」
宮森「ああ、ドーナツ……ドーナツ!!」ガツガツ
渡辺「ふう、これで一安心だ」
葛城「いやあよかったよちょうどドーナツがあって」
鈴木「私ドーナツ好きなんです」
しずか「えっなにこれ」
宮森「はあ……」
渡辺「落ち着いたか宮森」
宮森「すみません、私ったらまた発作を」
渡辺「気にすんな、もう慣れた」
宮森「すみません」
稲浪「よし、ムサニのエースも復活したところで収録始めるか」
鈴木「はい!」
しずか「あ、あのー……おいちゃん?」
宮森「あっウメブーだ!」
しずか「えっ」
宮森「私ファンなんです! 握手してください!」
しずか「いつも応援してくれてありがとうブー! ……じゃなくて!」
鈴木「ニヤッ」
しずか「!!」
鈴木の笑みを見た時しずかは直感した
すべては鈴木の陰謀であったのだと――
しずか(作戦は失敗した)
しずか(三女の収録だって聞いてしまった以上、間違って入っちゃいました~はもう通用しない)
しずか(鈴木京子にも正体を見破られてしまってるし)
しずか(きっと鈴木京子のあのドーナツに秘密があるんだ)
しずか(おいちゃんの記憶を書き換える謎の作用……)
しずか(あれで鈴木京子は私たちアニメ同好会の中に……)
しずか(…………)
しずか(でもこのほうがみんなにとってはいいのかもしれない)
しずか(私だけが夢を叶えられないままみんなに気を使わせているよりは……)
しずか(声優枠には鈴木京子)
しずか(そして私はアニメ声優の夢を諦めウメブーの中で生きていく)
しずか(地方を回ってイベントで踊りを披露し子供たちと遊び)
しずか(やがてテレビに取り上げられるようになりバラエティにひっぱりだこ)
しずか(グッズもたくさん発売されて第二のふなっしーに)
しずか(あれ? 結構いい人生だ……)
しずか(いや、ダメだ)
しずか(私はやっぱりアニメ声優になりたい)
しずか(そしてみんなと一緒にアニメを……)
鈴木「ウメブーさん……いや、坂木しずかさん」
しずか「はっ、鈴木京子……」
鈴木「頭、外してたらダメじゃないですか。子供の夢を壊しますよ」
しずか「こんなところに子供いませんよ」
鈴木「いますよ、今日の三女の収録に小学生の子が来てました。
私たちより芸歴の長いベテラン子役声優です」
しずか「へえ……そんな年でもうプロ声優として活躍してるんですか」
鈴木「驚きですよね。私たちが憧れ必死に努力して掴もうとしたものを
子供のうちにあっさり手に入れてるんですから」
しずか「ほんとに……」
鈴木「ドーナツいかがですか?」
しずか「いただきます」モグモグ
鈴木「私たちのような凡人には望むものは掴めない」
しずか「あなたは掴んでるじゃないですか。主演声優の座を」
鈴木「これから続けられるかどうかは解らない。何の保障もない仕事です。
実力や才能があっても、自分よりしたの人が売れていく。そういうものじゃないですか」
しずか「私には実力も才能もないから、わからないな」
鈴木「卑屈になることはないでしょう。あなたは持っているじゃないですか」
しずか「何を」
鈴木「素敵な友達と、素晴らしい思い出と、光り輝く目標を」
しずか「…………」
鈴木「気づいたんです、私。本当に欲しかったのは声優や主演という肩書じゃなくて……」
しずか「…………」
鈴木「収録現場で宮森さんが話してるのをチラッと聞いて、羨ましくなったんです」
しずか「……それで、おいちゃんのドーナツ好きを利用して」
鈴木「そうです、まず宮森さんから、いやおいちゃんからドーナツ漬けにしました」
しずか「卑劣」
鈴木「中華包丁を持ちながら入っても説得力ないです」
鈴木「宮森さんたちはもう私のドーナツなしでは生きられない体になった」
しずか「そのドーナツには記憶を書き換える作用が」
鈴木「そんな大したものじゃありません、催眠みたいなものです。だからドーナツが切れると催眠も解ける」
しずか「じゃあおいちゃんたちを隔離すれば」
鈴木「いいえ、もう無意味です、私は研究に研究を重ねて完全に記憶を書き換えるドーナツの製造に成功しました」
しずか「完全に記憶を書き換えるドーナツ!?」
鈴木「今あなたが食べたそれですね」
しずか「ゲッ」
鈴木「これで計画は完了です、あなたは私たちの前からいなくなり代わりに私が宮森さんたちと生きる」
しずか「ほ、包丁包丁」
鈴木「これですか。もういりませんよね」
しずか「身体の自由が」
鈴木「安心してください、あなたの夢は私が叶えます」
しずか「お、おいちゃん――――」
鈴木「さよなら声優志望さん」
絵麻「このウメブーって、最近良くテレビ出てるよね」
宮森「確かによく見るよねー」
美沙「うちの会社にもウメブーのCGモデルの仕事来てますよ」
みどり「グッズとかもいっぱい出てますよね」
絵麻「バラエティ番組一本のギャラ、ウン百万なんだって」
みどり「ヒエー、すごいっすねえ」
美沙「まさに第二のふなっしーですね」
宮森「ブーム終わるまでに一生分稼げるんだろうな~」
鈴木「声優なんかじゃなくて着ぐるみのアクターになればよかったかも」
みどり「何いってんすかあ先輩~」
美沙「あははは……」
しずか『ぼくウメブー! 梅干しがだーいすきな豚なんだブー!』
お わ り
おしまいです
これで解決ですね
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