~ 鶴姫家 戦車倉庫 ~
しずか 「嗚呼… まさに、夢のような日々であった。」
鈴 「奉納試合で大洗のアヒルさんチームと戦って。自動車部の皆さんにもご挨拶できて。」
鈴 「その後はエキシビジョンマッチの観戦と、選抜戦もあったりで。いやぁ… もう、最高!」
はるか 「アヒルチームの動きはすごかったねー。常識外れというか、変態的というか…。」
はるか 「私は観戦していただけだけど、実際に戦った身としてはどうよ?」
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鈴 「ロボットアニメなんかでよく、『敵パイロットのプレッシャーを感じる』ってやつあるじゃない?」
はるか 「うん。」
鈴 「あれ、マジにあるわ。」
はるか 「うわぁ…。」
しずか 「思い出すだに背筋も凍る。」
しずか 「こちらのやることなすこと、全て読まれるというのは相当な恐怖だぞ。」
鈴 「あの時ほど、テケ車が二人乗りでよかったと思ったことは無いよ。」
鈴 「もし一人だったら、怖くてその場で動けなくなっていたかもしれない。」
はるか 「そんなレベルでッ!?」
鈴 「踏んでいただいてありがとうございます!…って気分だったよ。」
はるか 「あんた、ほんとブレないわね…。」
鈴 「その後、アヒルさんチームに『次は勝つ』なんて啖呵切ったけど、いいのかなぁ。」
しずか 「何がだ?」
鈴 「引き分けといっても、実際はこっちの演出に乗ってくれたような形だし。」
鈴 「あんな強い人たちに向かってちょっと失礼じゃなかったかな、って。」
しずか 「何を言うか。誰が相手だろうと戦場で槍を向けた以上、対等だ。」
しずか 「むしろ、そうした覚悟も無く戦場に臨むことこそ無礼であろう。ライバル視して何が悪い。」
鈴 「そういうもんかなぁ…。」
しずか 「そもそも弱者が強者に挑むことを無礼というならば、大洗などその最たるものであろうが。」
はるか 「そりゃそーだ。」
はるか 「実際、それでアヒルチームの皆さんが不快感を表したわけでもなし。」
はるか 「むしろ『よっしゃ、かかってこい』みたいな感じだったよね。」
しずか 「うむ、なんとも気持ちのいい御仁らよ。」
しずか 「あれだけの力を持ちながら驕らず、気取らず。タンカスロンを外道とも呼ばず。」
しずか 「まさに礼を貴ぶ戦車道の体現者と称すべきか。」
鈴 「この界隈、変に攻撃的な人って多いからねー。」
鈴 「強豪校の名前に寄りかかって、弱小校や軽戦車を露骨に見下している人とか。」
しずか 「虎の威を借る狐ばかりで形骸化した戦車道の世界で」
しずか 「新星のごとく現れた大洗の優勝も、今にして思えば必然であったのやもしれぬ。」
鈴 「私たちが戦ってきた相手は大抵が『たった一輌、踏みつぶしてやる』って態度が見え見えだったからね。」
しずか 「なればこそ、つけ入る隙もあった。」
しずか 「アヒルさんチームのように、油断なき強者ほど恐ろしい者は無い。」
しずか 「再び戦場であいまみえんとの約定を果たすためにも、我ら一層の精進をせねばな。」
鈴 「そういえば姫、商店街で何か気にしていたよね。」
鈴 「駐車場に案内してくれた子が、あの西住みほさんじゃなかったかって…。」
しずか 「雑誌などでよく見た、西住みほ殿によく似ていたように思えたのだが」
しずか 「よくよく考えればあの軍神殿が、あんなのほほんとした雰囲気のはずは無いな。」
しずか 「大洗にいれば、ひょっとすれば会えるやも… と、いった気持ちが心の片隅にあったのであろう。」
しずか 「我ながら、どこか浮かれていたな。いや恥ずかしや。」
はるか 「雑誌といえば、ここに月間戦車道の特別号があって」
はるか 「大洗女子特集ページに、西住みほさんの写真がでかでかと載っているんだけどさー。」
はるか 「そんな、おっかない軍神って感じに見えないよ?むしろごく普通の女の子っていうか。」
はるか 「町ですれ違っても気づかないって。」
しずか 「認識が甘いぞエンドー。写真から伝わる雰囲気など、たかが知れたものだ。」
しずか 「西住殿の功績を考えてもみよ。これが常人に成せる業か?」
鈴 「戦車道の無い学校で、寄せ集めの戦車と素人集団を率いて、圧倒的に不利な状況で優勝する。」
しずか 「おまけに、負ければ廃校という重圧つきだ。」
鈴 「…うん、意味わかんない。」
はるか 「軍神の名は伊達じゃないなぁ…。」
しずか 「特に、素人どもを数か月で最高練度のつわものに仕立て上げたというのが驚愕的だ。」
しずか 「身の毛もよだつ恐ろしい調練を強いたのであろう。」
しずか 「さぞかし隊員たちから蛇蝎のごとく恨まれているのだろう… と、思いきや。それが全くの逆だ。」
しずか 「むしろ、誰もが絶対の忠義と信頼を寄せている。」
鈴 「地獄のようなシゴキをやって、それでいて好かれるってどういうことだろうね。」
しずか 「どうだ、エンドー。軍神殿の恐ろしさが少しは想像できたか?」
しずか 「カメラに向かっていかに愛らしい笑顔を振り撒こうとも、その実態はまさしく天魔。」
しずか 「その身にまとう雰囲気は春の日差しなどではない、煉獄の業火ぞ!」
はるか 「実績を考えればそうなんだろうけど。」
はるか 「やっぱ姫の話と、この写真とのイメージが合致しないんだよなぁ…。」
しずか 「エンドーも、外から観戦していたとはいえアヒルさんチームの恐ろしさは理解したであろう?」
はるか 「ありゃヤベーわって、素直に思ったよ。」
しずか 「大洗の他のチームも、機動性があそこまでではないにしろ」
しずか 「各々が強みとなる武器を持っているに相違あるまい。」
鈴 「待ち伏せと隠密のカバさんとか、技術特化のレオポンチームとか。」
鈴 「単騎特攻とかく乱のカメさん、成長性Sのウサギさんとか…。」
しずか 「そうだ。そして、その一騎当千のつわものどもの頂点に立つお人が西住みほ殿だ。」
鈴 「実際に会ったら今度こそ私、チビるかもしれないッ!」
はるか 「やかましい。」
しずか 「例えば、黒森峰のマウスと対峙した時などは」
しずか 「こんな会話がなされていたのではなかろうか ──…。」
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優花里 「西住殿!前方より超大型戦車… マウスですッ!!」
みほ 「うろたえるな優花里。いかに強力な砲を積んでいようと、当たらなければ意味はない。」
みほ 「あんなウスノロ、無敵の称号とは程遠いわ。」
優花里 「市街戦を仕掛ける以上、放置はできませぬ。いかにして奴を討ちとりましょうか?」
みほ 「決まっている。そこは戦術と、腕だ。」
みほ 「聞こえるか、カメチーム。ネズミの下に潜り込んで動きを封じろ。」
杏 「委細承知!」
みほ 「アヒルチーム、上に乗って砲塔を固定せよ。」
典子 「根性!」
麻子 「ヒャッハーッ!敵さん、ケツの穴まで丸見えだぜ!」
華 「弾は一発で充分…。」
みほ 「こうなってしまえば無様なものだな。華、奴に手向けをくれてやれ。」
華 「必ずレクイエムを聴かせてやる…。」
ドンッ ポシュッ
『黒森峰女学院、マウス走行不能!』
麻子 「ハッハー!汚ねぇ花火だ!!」
華 「最初に掴んだチャンスを逃さないのが、プロの鉄則だ…。」
優花里 「西住殿、やりましたねッ!」
みほ 「超重戦車など、所詮は男のロマンの搾りかすよ。」
みほ 「我と、我が隊員にかかれば当然の結果だ。」
みほ 「沙織、全車両に通達せよ。」
沙織 「オッケー、隊長。『害獣は駆除した』とか、そんなんでいいかしら?」
みほ 「フッ… いいぞ、最高だ。」
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O
o
。
しずか 「…と、こんな感じで。」
はるか 「あー… ちょっと待った。ツッコミどころが満載なんだけどさ。」
はるか 「あくまで、姫の想像なんだよね?キャラ付けおかしくない?」
しずか 「そんなにおかしいか?大洗の精鋭中の精鋭、あんこうチームの面々といえば…」
鈴 「軍神、西住みほ。」
鈴 「軍神の片腕にして名参謀、秋山優花里。」
鈴 「魔性の女、武部沙織。」
鈴 「特A級スナイパー、五十鈴華。」
鈴 「クレイジータクシー、冷泉麻子。」
しずか 「…うむ、私の想像とはいえ、実像からさほど遠ざかってはいないな。」
はるか 「いやいやいや、絶対おかしいって!」
はるか 「特に冷泉さんの、クレイジータクシーって何?初めて聞いたよそんな称号!?」
しずか 「私が今、適当につけたからな。」
はるか 「何で世紀末のモヒカンみたいなしゃべりかたになってんのぉ!?」
しずか 「エンドーとて大洗の試合は何度も見たであろう?4号の情熱的な走りも。」
しずか 「あんな動きのできる者が、まともであろうはずがない。」
しずか 「むしろ、あれが常人の成せる業と思う方がどうかしている。」
はるか 「そうは言うけどさぁ… 見てよこのページの写真。」
はるか 「冷泉さんって、こんなふうに眠そうな顔している人でしょう?ヒャッハーは無いわ。」
しずか 「甘いな、エンドー。これは眠そうな目ではない、半眼だ!」
はるか 「はんがん?」
しずか 「いかにも。武術の達人の目付のことぞ。」
しずか 「遠くの景色をぼんやりと眺めるようにして視野を広げ、相手のいかなる動きも見逃さぬ」
しずか 「そうした視線のありかただ。」
はるか 「なにも、写真を撮るときまでそんなことしなくてもいいじゃない…。」
しずか 「一枚の写真から常在戦場の気構えが伝わってくるな。」
しずか 「ふ、ふ… 大洗のあんこうチームこそ、まさに恐るべし。」
はるか 「えぇ…(困惑)。」
はるか 「ま、なんにせよ大洗が活躍してくれたおかげでタンカスロンも賑わって」
はるか 「グッズの売れ行きも好調、万々歳。西住大明神ってもんよ。」
鈴 「ちょっと待った。大洗の活躍でタンカスロンが賑わうの?戦車道じゃなくて?」
はるか 「戦車道ってさ、とにかく手間も金もかかるのよ。」
はるか 「戦車を何輌も集めなけりゃならないし、人も集めなきゃならない。」
はるか 「個人の思い付きでできるこっちゃないわな。」
はるか 「だから大洗の試合を見て、戦車に興味を持ったひとはまず」
はるか 「一輌からでも参加できるし、戦車もお手頃なタンカスロンに参入するって寸法よ。」
はるか 「そもそも、あんたらだって大洗に憧れた挙句にタンカスロンを始めたわけでしょうが。」
鈴 「あはは… それもそうだねー。」
しずか 「むぅ… 賑わうのは結構だが、タンカスロンが戦車道の代用品や劣化版のように扱われることは」
しずか 「いささか、不本意ではあるな。」
はるか 「そこを世間様にどう認識させるかは、あんたらの活躍にかかってんのよ。」
はるか 「試合で大活躍して、タンカスロンはこんなにすごいんだーッ!って、示すことができれば」
はるか 「誰も劣化版だなんて思わなくなるわ。」
鈴 「実際、奉納試合が評価されて強豪校が次々と参戦っていう流れだったしね。」
しずか 「そうか… いや、確かにそうだな。礼を言うぞ鈴、エンドー。」
しずか 「荒野に裸足で踏み出すことこそ、もののふの本懐ぞ!」
はるか 「相変わらず意味わかんねぇ…。」
鈴 「これから頑張ってタンカスロンを盛り上げていこうって意味だよ。」
はるか 「そうなの? …そうなのかなぁ?」
鈴 「で、気分も盛り上がってきたところでさ。今度のお休みに大洗に行かない?」
しずか 「ほぅ、何故に?」
鈴 「奉納試合やエキシビジョンマッチの資料をどっさり持って行って」
鈴 「ここでこんな戦いがあってー、なんて話しながら街を歩くの。どう?」
しずか 「応、いい考えだ。是非とも行こう。」
はるか 「あーもう、すっかり戦車バカに染まっちゃってまぁ…。」
しずか 「なんだエンドー、おぬしは行かないのか?」
はるか 「行くよ、もちろん行きますとも。」
はるか 「姫をほったらかしにしておいたら、どこで喧嘩を売ってくるかわかったもんじゃないからね。」
しずか 「人を狂犬みたいに言うな。」
はるか 「戦車に乗らないぶん、犬のほうがまだマシよ。」
鈴 「頑張ってね、マネージャー。頼りにしてるよ。」
はるか 「まったく… ま、頼られて悪い気はしないわ。うん、これからもよろしく。」
鈴 「それでさ、今度は自動車部のレオポンさんチームと戦いたいなーって思うんだけど。」
しずか 「私はカバさんに興味があるぞ。」
はるか 「やかましい!そんなほいほいと大物マッチングができるかッ!」
はるか 「あんたら、どんだけ大洗女子が好きなのよッ!?」
しずか・鈴 「ものすごく。」
はるか 「そーっスね。知ってた。」
はるか 「…はぁ、なんだかんだで、私も染まってきているのかなぁ。大洗行きも楽しみだし。」
~ 大洗 ウスヤ肉店前 ~
みほ 「あ、どうも。こんにちはー。」
しずか 「… … …? あぁ、その節はどうも。」
しずか 「… … …ん?んん?」
しずか 「やっぱり人違いだよなぁ…。」
【おしまい】
以上になります
鶴姫しずかと遠藤はるかの名前表記が紛らわしい
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口調トレースしきれなかった部分はありますね。
こればかりは本当に難しいです。
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