千早「私にできること」(13)
「はい、もしもし。どうしました、プロデューサー?……えっ、春香が!?」
――ああ。春香には千早には内緒に、と言われていたがな。そういう訳にはいかないと思って。
「当たり前です!私、すぐに日本に帰ります。チケットの手配を……!」
――落ち着け、千早。きっとそういうと思った。だがそれはなしだ。
「そんな!春香が大変なときに、レコーディングなんてできません!」
――信じてくれ。千早が春香を想うように、俺たちも春香を想ってる。みんな春香の為に動いてる。
「……わかりました。プロデューサーを、みんなを信じます。春香のこと、よろしくお願いします。」
Tttttt…… Tttttt…… Tttttt……
「春香、出てくれないわね。」
当然かしら、私も同じだったものね。
あのときの春香も、同じ気持ちだったのかしら。
それでも、何度も扉を叩いてくれて。
いいえ、春香だけではないわ。
みんな、私の為に動いてくれて。
みんななら、きっと春香を任せても大丈夫。
そう信じられる。
もし私が、今海外にいなければ。
プロデューサーが止めなければ。
私は、あなたと同じことをしたでしょうね。
なのに、私には何もできない……!
ここで、祈ることしか!
思えば、あの時もそうだったわね。
優がいなくなったときも。
家族が壊れていくときも。
私は、黙って見ていることしかできなかった……!
今度も、私は親友の為に何もできないなんて……!
「約束、か」
私の為に、生まれてきた歌。
みんなの想いと、願いの詰まった、とても大切な歌。
歩こう
果てない道
歌おう
天を越えて
想いが届くように
「天を越えて、想いが届くように……!」
歌おう!
私には、歌しかないのだから!
「プロデューサー、お願いがあります!春香の為の歌を、歌わせてください!」
――なっ!?だが、それは……。
「わがままなのは分かっています。でも、春香の為に何もできないなんて、耐えられないんです!」
――……わかった。なんとかしよう。
「ありがとうございます!」
春香、今の私にできるのは、これだけ。
今も昔も、そしてこれからも、歌うことしかできない。
だからせめて、その歌をあなたの為に。
ただ一人のために歌う。
子供の頃は簡単だったのに、今はとても怖い。
お願い、優。
私に力を……!
一人じゃないよ 何もできないけど
辛い時こそ 誰かと支えあって
頑張って欲しい 乗り越えて欲しい
届いて欲しい この気持ち
あなたに贈る歌
困ったときには かわりばんこに
励まし助け合いたい
だから今歌うよ
私にできること
Tttttt……Tttttt……
「もしもし、千早ちゃん?ごめんね、心配掛けて。」
「ううん、もう大丈夫。みんながいてくれるから。」
「それに、千早ちゃんの歌があったから。」
「届いたよ、千早ちゃんの気持ち。」
「うん、……うん。」
「千早ちゃん、帰ってきたら、そっちのお話、たくさん聞かせてね。」
「うん、じゃあ、またね。」
以上
モチーフにした歌
「私にできること」
歌:KOKIA
発信音が全部Tになっちゃってるな
「Trrrrr」って打ったつもりだったんだけどな
こんな時間にやるもんじゃないね
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