男「最近の爺さんは電車で席を譲ると逆に癇癪を起こすものらしい」女「それは本当か」 (13)

ここは高校の中にある男性寮、その男2の部屋である。
部屋にいるのは男と友と女の3人であった。
昔からの馴染みの3人は同じ高校に入ってからというものの夜はこうして男2の元へ集まり、どうでもいいことを談義し、暇を潰す。

男の話を聞き、友は言った。

友「そりゃまたなんで」

男「なんでも、自分はまだ若い、余計な世話をしてくれるな。と思っているそうだ」

男2「確かに俺も老人扱いされては堪らんな。しかしそれでは今後老人を見つけた時はどうすればいいのだろう」

この友の問いにはその場にいる誰もが悩んだ。
一部の老人がそうであっても他のお年寄りが席を譲られると怒るとは限らない。
老人に席を譲るのは若者として当然のこと。
いつかまた自分が席を譲る立場となり自分はどうすればいいのだろう。結局その答えは出ないまま夜は更けていった。

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とある休日、3人は電車へ駆け込んだ。今日は久々に映画を見るため出かけるのだ。

男「ふう、危なかった!全員乗れているな?」

友「おうとも。さっそく席に座ろう…おお、丁度あそこが3席分空いているじゃないか」

2人は友の抜け目なさに感心しながら尻を落ち着かせた。ここから映画館のあるデパートまでは普通で7駅通らなければならないので座れるのは大いに助かることだ。

運転手「次は~光坂~光坂~」

これから見る映画について語り合っていると次の駅に着いた。この駅で乗る客はとても多く、あっという間に座れる座席は無くなってしまった。

女「なかなかラッキーだったね」

混み具合を見て女が言った。

男「ああそうだな。あと10駅はこれだ、仮に立っていようものならデパートに着く頃には足が棒になっているだろう」

友「まったくだな。………おい男…」

友は無口になった。男がこちらの方を向いたと確認するやいなやそのまま顎で前をさした。
3人の前には老婦人が立っていた。

友は2人の方を見た。2人もまたお互いを見合わせている。
一言も話さないながらも3人は他の2人が今何を考えているのか分かっていた。前に話し合った席を譲る云々を思い出しているのである。

女は小声で2人に言った。

女「ね、どうする?」

男「まずいな…いや非常にまずい。まさかこんなにも早くこの問題にまた衝突するとは思わなかった」

友「譲るか譲らないか。もし譲るならさっさと開けないと譲りにくくなるぞ」

男「しかし譲ってもし説教されたらと思うと…もしそうなれば今日の気分は台無しだ。とても映画を見る気分にはなれない」

女「だけどあの人もう膝が笑っているよ」

男は思った。何故そんな人が満員電車に乗り込もうとするのだ、タクシーを使えばいいものをそんな調子で来られたら誰もが譲りたくなるじゃないかと。
しかし今はそんなことを考えている暇はない。一番の問題はこの瞬間にあるのだ。

そして追い詰められた男はある策を考えた。

男「良い考えが思い浮かんだぞ!」

あまりに良い考えだったせいかこの声だけは目の前の老婦人にも聞こえた。しかし老婦人は特に興味を持っていない。
しかしそれとは逆に友と女は関心をもって聞いた。

友「なんだ言ってくれよ男、その良い考えってのをさ」

男「ああ、その良い考えってのはな…」

女「考えってのは…?」

2人が見守る中、男は急に立ち上がり、元気よく言った。

男「おっとなんだか催してきたなぁ!立ち上がるのはもったいないがちょいとトイレに行ってくるかぁ!」

周囲は爆笑だった。殺伐とした空気の中でこんなことをいう奴が現れたら誰だって笑う。男は顔を真っ赤にしながらトイレのある別の車両へ乗り移った。
老婦人はこれ幸いと男のいた席へ座った。

女・友「「…………」」

笑いの渦の中心にいた2人は開いた口が塞がらなかった。まさかこんな方法があったとは。


ガタンガタンと音を鳴らして進む電車。
そのトイレの中に佇む男。
彼は使うことはないであろうトイレットペーパーを見つめながら思った。
確かに穏便に済ませられるがこの方法、かなり恥ずかしいな。





駅の数が矛盾してた…

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