P「理想のプロデューサー」 千早「3・・・ですか?」 (30)


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P「理想のプロデューサー」 美希「あふぅ・・・2なの」

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※注意点

続き物の第三話となりますいずれオリキャラが出るので注意キャラの呼称などおかしいところがあれば指摘お願いします視点が時折変わったり、回想に入るので注意

作者の趣味が出る


前回スレ変える必要あるのかという質問を受けました。

変える理由として三つ

・誰に視点を当てているかをわかりやすくする

・一人分書き終えたら投稿するため(時間がかかる)

・作者がそうしたいから

というわけで毎回スレは変更します


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425307381

Lesson3

タンタンタン

軽快なステップがそこかしこで聞こえる。

ここはダンスレッスン場で、アイドルたちがダンスレッスンを受けているので当たり前だ。

しかし、私のステップは未だ拙い。

私より年下の小学生や中学生の子ですらそこそこ踊れているというのに・・・。

今までさぼってきたツケが回ってきたのだとは重々承知している。

しかし、やはり実がはいらないのも事実。

そもそも私は歌手になりたかったのだ。ダンスなど不必要。

元々その考えはあったのだが、曲をもらえると聞き、ダンスも少し頑張ろうかと思った。

でも、やはり私には合わないらしい。

プロデューサーに言って、ダンスを歌でカバーするから曲をもらおう。

どんなクオリティーのもので、誰がつくったのかもわからないけど、それが私の歌手への一歩になるはず。

千早「プロデューサー」

P「何だ?」

千早「少しお話ししたいことがあるんですけど」

P「・・・わかった、荷物まとめて応接室で待ってろ」

千早「はい」

--

律子「それじゃあ私は亜美と真美送ってきますね。お疲れ様でした」

P「ん。お疲れ」

小鳥「お疲れ様です」

亜美「兄ちゃん、ピヨちゃんバイバ→イ」

真美「まったね→」

P「またな」

小鳥「ばいばい」

一気に三人――うち二人は相当うるさいの――がいなくなったため、事務所内は静かになった。

小鳥「みんな帰っちゃいましたね」

P「如月だけはまだ残ってますよ」

小鳥「あら、いつも早々に帰っちゃうのに」

P「少し相談があると言われましてね」

小鳥「じゃあ早く行ってあげないと」

P「・・・まあ僕が送るので安全面は気にならないですが、やっぱり待たすのはよくないですよね。ちょっと行ってきます」

小鳥「はい、頑張ってください」

--

P「待たせたな」

千早「いえ、音楽を聞いていたので大丈夫です」

iPodを外し、カバンにしまう。

大丈夫。

プロデューサーも納得してくれるはず。

P「で、相談ってのはダンスはやりたくないですって話か?」

千早「・・・よくわかりましたね、正解です」

P「最初の数日はやる気を出していたものの昨日今日とめっきりやる気が減ってたからな」

千早「さすが、私のことをよく見ていらっしゃる。なら、いいですよね?」

P「・・・何がいいんだ?」

千早「私に曲をください」

P「あのな・・・」

千早「ダンスの分は歌でカバーします。あなたならわかるでしょう? 私ならそれぐらいできるって。私には・・・歌しかないんです」

P「・・・お前の意向を汲んで、お前に渡す用の曲にダンスは殆どない。でも今やってるのは違う。765全員の曲だ。みんなが踊ってるのにお前一人が歌だけなんて浮くだろ?」

千早「じゃあ私だけやらなければいいのでは?」

P「それはだめだ。765プロの方針は皆仲良く全員で、だ。お前も所属してる身なら従え」

千早「・・・私は別にみんなと仲良くなんてありませんから」

P「お前がただ拒否してるだけだろ?」

千早「っ!」

P「他の奴らはお前に歩み寄ろうとしてる」

確かに、思い返せばみんなは私に話しかけてくれる。

それを私は一蹴している、そんな自覚はある。

春香、そう春香だけは突っぱねる私を無視し、話しかけ続けてくる。

でもそれだけだろうか?

私は彼女ほどきれいな――純粋な人間を見たことが無い。

P「人と関わるのが怖いか?」

千早「・・・」

P「お前の過去は聞いている。確かに大事な人を失う痛みを避けるには大事な人をつくらないという手段もあるにはあるが・・・」

千早「違います。知った風な口をきかないでください」

自然と目つきが鋭くなるのがわかる。

口調も尖っている。

この人に私の何がわかるのだろう?

私の気も知らないで・・・なんて気持ちは彼の目を見た瞬間消えうせた。

P「ある程度は・・・わかってるつもりだ」

既視感のある瞳。それは冷たく、深く、すべてを飲み込むような瞳。

それを見て私は理解した。

この人は私と同じだ。

私と同じ、大切な人を失っている。

それでも・・・私とは違う。

P「それは乗り越えなければならない痛みだ。確かに苦しいし、辛いことだ。でもな、前は向かなきゃいけないんだ。アイドルならなお一層、な」

プロデューサーの目が不自然に気持ち悪く、また、言葉が重々しく響いたため、私は視線を机の端に逃がす。

私は何も言えない。

だってこの人は私と違って前に進んでいるように見えたから。

P「アイドルって言うのは希望や喜びを与えなくちゃいけない」

P「お前がアイドルとして、歌手としてでも本格的に高みを目指すなら、それは乗り越えなくちゃいけないことだ」

プロデューサーの言っていることはわかる。

自分が前に進んでいないことなど自分が一番分かっている。

それでも・・・

千早「努力は・・・しています」

何年苦しんだだろうか。何回前進を試みただろうか。

それでも、その度に私の脳裏を〝あの日〟が掠める。

自分の犯した罪が私を黒く染める。

あのとき、あのとき、あのとき、たら、れば、たら、れば・・・

P「おい、大丈夫か?」

握りしめた拳から血が滴る。

そう言えば最近爪切っていなかったっけ。

P「血出てるぞ・・・。これ、貼っとけ」

千早「・・・ありがとうございます」

絆創膏を受け取る。

こんなにやさしくしてくれるのはプロデューサーがまだ私の本性を知らないから。

本当の私を知ればプロデューサーだって・・・。

P「・・・お前が話したくないのなら強制はしない。・・・でもな、これだけは覚えておいてくれ」

P「俺はいつだってお前の味方だから」

千早「・・・嘘です」

P「嘘じゃない」

千早「嘘ですよ!」

P「・・・何をそんなに怯えている?」

体が震える。ギュッと肩を抱きしめてみてもそれは止まらない。

   『人殺し』

           『弟を見殺しにしたんだって』ヒソヒソ

      『千早ちゃん、絶交だから』

               『何で優を助けなかったの! お姉ちゃんでしょ!』

周りの目なんて・・・とっくに克服したと思ってるのに、やっぱり・・・

千早「・・・嫌われたくない」ボソリ

P「え?」

千早「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

P「落ち着け!」

プロデューサーの一喝で我に返る。

それでも震えが止まらなくて

この心配そうな顔もいつかは私を蔑視するような目に変わると思うと・・・

P「大丈夫だから」

プロデューサーが私の顔を覗き込んでくる。

P「例えお前が、人殺しでも、俺はお前のプロデューサーだから」

ああ、この人は・・・春香と同じ目をしている。

この人なら信じてもいいかもしれない。

私を助けてくれるかもしれない。

そんな期待で胸が膨らんだ瞬間、私は久しぶりに涙を流した。

~~

千早「お見苦しいところをお見せしてどうもすいません・・・」

P「なに、プロデューサーというものはアイドルに迷惑かけられるものだからな。どんどん甘えてきていいぞ」

千早「・・・ありがとうございます」

上辺だけじゃない、本心から私を思ってくれている。

〝あの日〟から人の顔を伺い続けてきた私にはわかる。

P「そろそろ夜も遅いし帰るか。音無さんも帰ったみたいだし。送ってくから先に車乗ってろ。俺は戸締りしてくから」

千早「あ、はい」

--

さっきので如月は納得できたのだろうか?

俺がどれだけ言おうと結局は彼女の気持ち次第、俺はそれをいい方に持っていこうと足掻くのが精々といったところ。

しかし、如月の弟が死んでから両親の不仲が加速したらしいから、恐らく彼女の両親はそれで手一杯で、彼女には何の声もかけてあげられていないかもしれない。

俺が初めての介入者なら・・・いや、無意味な仮定は止めよう。

P「俺はただアイドルのために最善を尽くす」

それが・・・理想だから。

バタン

P「待たせて悪かったな。片づけに手間取って少し遅れた」ブルン

P「・・・如月?」

千早 スースー

P「・・・寝顔を晒せるほどの安心を得られたなら十分以上だな。まあ、完璧ではないが」

P「・・・行くか」

--

 『ふと気がつくと、私はひとりきり
 何を求めているのかもわからず ただ 夢中でもがき続けている
 どこまでも広がるこの暗闇は いつしか晴れる時はくるのだろうか?
 誰か私を・・・救い出してくれるの?

 誰か私を・・・助けて!』

P「如月!」

千早 ビクッ

P「やっと起きたか」

千早「プロ、デューサー? ここは?」

P「お前の家の前だ。車で寝てたろ」

そうだった。ついうとうととしてて・・・。

P「もういい時間だ。さっさと飯食って寝ろ」

千早「・・・プロデューサー」

P「なんだ?」

千早「家に、寄っていきませんか?」

--

迷うものはあった。

年頃の女の子の、しかも一人暮らしの家に二十歳を超えた男の俺があがるのだから。

しかし、今日のことで何か話したいことがあるのだろう。

幸い如月はまだデビューしていない。

アイドルとして本格的に売り出し始めたらこんなことはもうできないだろうし、まだ俺も話足りないと思っていたところだ。

千早「お茶です。コーヒーは飲まないので・・・」

P「別にいいよ。それで・・・話があるんだろう?」

千早「・・・はい」

P「話したいだけ話せ。俺はちゃんと聞いてるから」

机と湯気の立ち上る湯呑を挟んで、如月は俺の体面に座った。

--

話す内容は全く決まっていなかった。

それもそうだ。先ほどまで寝ていたのだから。

しかし、私はあの夢からプロデューサーは引き上げてくれたのだ。

暗く寂しい森をただただ歩く孤独な夢から。

だから心から信じよう。

この人は私の・・・プロデューサーだから。

そう思えた私の口はよく動いた。

親元を離れたいがために、実家から遠い一流校に入学したこと。

高木社長に呼び止められ、765プロに入社したこと。

・・・私が人と関わらなくなったことを。

人と話すことに不慣れな私だ。

恐らく拙い表現や、意味不明なことを口走っていたに違いない。

それでもプロデューサーは時折頷きながら、最後まで黙って聞いてくれた。

私が一通り話し終わると、プロデューサーは一言、

「そうか」

と呟き、冷えたお茶に口をつけた。

ただそれだけ。

同情や非難、肯定も否定もない。

でもそれが今の私には心地よかった。

この一時の静寂が。

P「一つ聞きたいことがある」

千早「何でしょうか?」

P「お前は自分が人殺しだと思われて人が離れていくのを嫌って他人との関係を断ったんだよな?」

千早「・・・はい」

P「なぜ、天海はよかったんだ?」

千早「・・・春香なら、そういう部分も含めて、私を受け入れてくれそうだったからです」

何の根拠もない、ただの願望に近い直感。

それでも私は少しの時間を共にしただけで天海春香という人間に惹かれたのだ。

P「・・・それは少しわかる気がするな」

千早「私も質問があります」

P「何だ?」

千早「どうしてプロデューサーは私が人殺しと蔑まれてきたことを知っていたんですか?」

P「・・・お前の母親から聞いた」

千早「・・・なるほど」

つまり私の母親は私がそうなっていることを知っていて放置したのだ。

やはり私は、愛されていなかった。いや、それでいい。

だって彼女にとって私は・・・。

P「・・・やっぱりお前の母親だよ」

千早「・・・何がですか?」

P「お前はいい印象を持ってないかもしれない。でもちゃんとお前のことをしっかり思ってるよ」

千早「愛されてる・・・わけないじゃないですか」

千早「あの人は私を放っておいたんです。かつての級友と同じです」

千早「私がずっと疎ましかったんですよ。だから私の一人暮らしにも反対しませんでした」

千早「母はきっと私より優の方が・・・」

P「親はな・・・お前が思ってるほど完璧じゃない」

P「子供の死と離婚話が一気に来たら、そりゃ錯乱もするだろ」

千早「・・・」

P「でも今は・・・」

千早「・・・いいんですよ。私はアイドルを足がかりに歌手として大成して、母とは縁を切りますから」

P「は? お前何言ってんだ」

千早「それが最善なんですよ。母にとっても、私にとっても」

--

何なんだこの気持ち悪さは。

どこか話が通じてないようなこの感覚。

P「・・・煙草吸うか」

窓を開け、煙草の煙を吐き出す。

車を走らせながら如月との会話を思い起こすとどうも不自然な箇所がある。

P「何か見落としてる?」

慎重にいかないと。

デリケートな部分故に下手すれば彼女は壊れてしまうだろう。

それは十二分に理解している。

だが如月ばかりに時間をかけている訳にはいかない。

P「・・・九人プロデュースか」

他にも爆弾抱えている奴はいる・・・。

最初はやれると思ってたが・・・

P「思ったよか厳しいな、くそ」

だが、今はとりあえず如月だ。

早急にケリをつける。

--

千早「それで・・・話って何ですか?」

昨日の今日だ。

話す内容はおおよその見当はついている。

P「昨日の話の続きだよ」

千早「・・・一応昨日で話の決着はついたと思ったんですが」

P「・・・どうも話に食い違いがある気がしてならなくてな」

千早「・・・」

P「お前、弟を自分が殺したと思ってるだろ」

千早「・・・」

P「そう思えばお前の変な言葉も理解できる」

千早「・・・私が・・・しっかり見ていれば優は」

P「お前が直接手を下した訳じゃないだろ」

千早「私が投げたボールを追って優は道路に飛び出したんです。私が・・・原因なんですよ」

P「・・・真実はお前の中にしかなく、俺がどうこう言うものじゃない」

千早「・・・?」

P「だがな、いくら苦しくともお前は前に進まなければならない」

千早「っ!」

P「お前は希望を与える存在なんだ。前にも言ったが何度でもいう。お前は前に進まなければならない」

千早「変わろうとしています」

P「俺にはそう見えない」

千早「あなたにはわかりませんよ!」

P「わかりたくねーよ・・・諦める奴の気持ちなんか」

P「・・・諦めんなよ!」

・・・私は、諦めてたんだ。

この生活に慣れたから、私は努力を怠っていたんだ。

春香「千早ちゃん、大丈夫!?」バタン

騒々しくドアを開けて入室してきたのは春香。

ダンスレッスンを抜けだしたようで、汗で髪が張り付いている。

春香「千早ちゃんの叫び声が聞こえて」

ダンスレッスンは一つ上の階で行っている。

少し叫べば聞こえてしまうだろう。

春香「プロデューサーさん、千早ちゃんに何したんですか」

P「・・・ただ話をしてただけだ。お前は関係ない」

春香「私は千早ちゃんの友達です。親友が苦しんでいるのに関係なくはないですよ」

P「・・・じゃあ一旦二人だけで話してろよ。俺は出てるから」ガチャリ

バタン

千早「春香、私は大丈夫だから。プロデューサーを追わないと」

春香「嘘。そんな風に見えない」

春香「・・・苦しいなら全部私に言って」

千早「春香・・・」

春香「力になるから」

・・・前に進まなければならない、それはわかる。わかってはいる。

でも・・・何をすればいいの?

わからない。何もわからない。

だけど、何か、行動は起こさないと。

私は・・・前に進まなければならない。

プロデューサーの言葉を思い返す。

諦めるのは楽だけど、今の生活でいいわけない。

怖がるな。春香は・・・違う!

千早「・・・私はね。過去に弟を殺してるの」

春香「・・・」

千早「二人で公園で遊んでいたら、私が投げたボールを追って弟は道路に飛び出したわ」

千早「そしていきなり現れたトラックに引かれたの」

千早「ねえ春香。私は最低な人間なの・・・私に関わるのは止めた方がいいわ」

春香「・・・んーん。千早ちゃんは最低なんかじゃないよ」

千早「・・・気休めは」

春香「気休めなんかじゃない。だって千早ちゃんは今の話してるとき、すごく悲しそうな眼をしてた」

春香「千早ちゃんは故意にしたわけじゃないでしょ?」

千早「それは・・・わからない。自分より親に愛されてた弟に少なからず憎悪はあったかもしれない」

春香「それもないよ。だって千早ちゃん、後悔してるでしょ」

千早「え?」

春香「後悔して、自分をそんなに責めてる人間が最低なわけないよ」

千早「わ、私は一人、殺してるのよ!?」

春香「怖がらないで」ギュッ

春香「私は千早ちゃんの味方だよ」

やっぱり、春香は受け入れてくれた。

それは何となくわかってはいたけど、でも。

本当に口にするまでは怖かった。

かつての級友のように離れていくのではないか。

でも春香はまだ私の味方だと言ってくれた。

千早「・・・ありがとう」

春香「どういたしまして」

春香「ねえ千早ちゃん」

千早「なに?」

春香「人は失敗する生き物だから、間違うことは当たり前。でもね、そこからどうつなげていくかが大事だって私は思う」

春香「それに、そのことにとらわれるのは仕方のないことかもしれないけど、それで千早ちゃんの人生を楽しまないのは違うと思うな」

春香「それとも・・・私じゃダメかな」

千早「・・・何が?」

春香「私が千早ちゃんの友達でいちゃダメかな?」

千早「そんなこと・・・ないわ。春香は私の・・・友達だわ」

春香「・・・ありがとう」

千早「・・・お礼を言うのはこっちだわ。春香と話したらだいぶ楽になった」

春香「どういたしまして! それじゃあレッスンに行こう!」

千早「私はプロデューサーのところに行くわ」

春香「・・・何かあったら私に言ってね。でも、本当に大丈夫?」

千早「うん。だって今は・・・春香がいるから」

--

P「ミスったな・・・」

揺らめく煙を見ながら考える。

さっきの失言はよろしくない。

最悪昨日上げた好感度がだめになるどころかマイナスに振り切る。

・・・つい本音が。

P「つうか、前に進めって・・・俺が言える立場かよ」

秋月に任せるか? ・・・単なる逃げじゃねえか。

俺は・・・理想のプロデューサーになるんだろ?

P「如月のトラウマくらい克服させなきゃ・・・」

ガタン

ドアが開く。

すぐに煙草の火を消し、後ろを振り返る。

千早「屋上にいましたか」

P「そこで少し待て。煙がなくなるまでな。副流煙は体にも悪いし、喉にもよくないだろ」

千早「・・・煙草吸われるんですね」

P「そんなにだがな・・・もういいぞ」

千早「話があります」

P「・・・ああ。さっきの話の続きか?」

千早「はい。私・・・前に進んでみようかと思います」

P「え?」

千早「前に進むっていうのがどんなものなのかはわかりませんが、今はさっきまでの私とは違うってはっきりわかります」

・・・俺のいない間に何が。

千早「今の私には・・・心から信頼できる人がいますから」

P「・・・天海か」

千早「はい」

一片の迷いもなく言い切った。

ああ、こいつは前に進んだんだ。

天海も如月も、俺の成しえなかったことをいとも簡単にできたんだ。

俺って・・・無力だな。

千早「プロデューサーの、おかげです」

P「・・・どこが。天海のおかげだろ」

千早「プロデューサーが初めに向き合ってくれたから、私は春香に自分の過去を打ち明けることができました」

千早「プロデューサーがいなかったら私は・・・まだ過去のことに蓋をしていたと思います」

千早「プロデューサーが諦めるなって言ってくれたから、私は前を向こうとあがけました」

千早「だから・・・叱ってくれてありがとうございました」

P「・・・そうか。なんにせよお前が変われたと感じられるならいい」

P「お前が前に進む意思があるなら、残った俺の仕事はお前の進む道を示すだけだ」

P「レッスン行くぞ」

千早「はい」

・・・俺は今回完璧に振る舞えたとは思わない。

だが、如月にとって良かったと感じてもらえるなら・・・。

いや、ベターじゃだめだ。

ベストじゃないと。

千早「・・・プロデューサー煙草臭いですよ」

P「俺のカバンにファブリーズあるから大丈夫だ」

千早「そうですか。それとダンスの件なんですが・・・」

P「ああ、それはだな・・・」

バタン

~~

如月が前に進むと言ってから数日がたった。

相変わらず人付き合いは苦手そうだが、関わろうと努力は見受けられる。

相手の提案から何人かとは名前で呼び合う様子もある。

それだけでも目覚ましい変化なのだが、天海といるときはさらに凄まじい変化が起きた。

何と如月が笑顔を見せたのだ。

俺は入社してまだ日が浅いからかと思いきや、天海も驚いているところをみると、どうやら初めてのことみたいだ。

P「まああとはダンスレッスンのことか」

ガチャリ

律子「ただいま戻りました」

亜美「まみ~」

真美「あみ~」

ダキッ

伊織「あ~疲れた。早くオレンジジュースが飲みたいわ」

やよい「お疲れ様、伊織ちゃん」

P「そういや竜宮は今日テレビの収録だったか」

律子「はいそうです。プロデューサーはまだ皆をデビューさせないんですか?」

P「ん~、もうちょっと」

律子「プロデューサーの裁量とはいえ、うちは未だ火の車ですからね」

P「なるべく早くな、わかってるよ」

あずさ「まあまあ律子さん。その分私たちががんばりましょう」

律子「そうですね」

P「はいはいお前ら。竜宮に負けてられねえぞ。レッスンレッスン」

美希「ええ~。また~」

P「今日テストしてやってもいいぞ」

美希「プロデューサーミキのときだけ厳しすぎるって思うな」

P「お前がたるんでるだけだろ」

美希「む~」

やよい「亜美、ジュース飲む?」

亜美「飲む飲む→!」ダッ

真美「・・・」

P「どうした? 浮かない表情だな」

真美「うええっ!? なんでもないYO→。早くレッスンいこ!」ダッ

P「・・・」

千早「プロデューサー」

P「おお。ダンス、大分よくなってきたな」

千早「はい、おかげさまで」

P「お前が参考にしてた星井や菊地の動きはお前に合わないからな。そりゃやりにくいし、やる気も怒らねえよな。如月は丁寧に踊ることが大切だ」

千早「わかってます」

ダンスの調子も良好。

感情が表面化してきたことにより、歌に感情を乗せられるようにもなてきたし、元から技術に関しては申し分ない。

世に出すのが楽しみだ。

小鳥「レッスンがんばってきてくださいね」

P「はい」

小鳥「千早ちゃんも」

千早「はい」

P「じゃあ行くか」

千早「今日もよろしくお願いします」

バタン

今回はここで終わりです

千早編は書くのが難しく書き直しまくったのでどこかおかしいところがあるかもしれません

次回は

黒井「理想のプロデューサー」 高木「4だよキミィ」

というタイトルになります

呼んでいただきありがとうございました

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