財前時子「7人が行く・トマル聖ヤ」 (193)

あらすじ
小さな恐怖が、時を止める。


7人が行くシリーズ、第7話。
設定はドラマ内のものです。

それでは投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1424947286

7人が行く・シリーズリスト

第1話
松山久美子「7人が行く・吸血令嬢」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403002283

第2話
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406552681/)

第3話
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407499766/)

第4話
大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」
大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410009024/)

第5話
太田優「7人が行く・公園の花の満開の下」
太田優「7人が行く・公園の花の満開の下」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418202792/)

第6話
仙崎恵磨「7人が行く・偶像怪奇夜話」
仙崎恵磨「7人が行く・偶像怪奇夜話」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421753841/)

メインキャスト

財前時子

イヴ・サンタクロース

クラリス

柳瀬美由紀

望月聖



少女の優しい歌声が心に響く理由は、その感情を共有しているからだ。

ラ、ララ……

小さな公園に雪が静かに積もっていた。

ラララ……

世界が静けさに包まれたような、聖夜に。

ラ、ラ、ラ、ラ……

少女の歌が響く。

ラ、ララ……あ……

あなたは……わたしの歌、聞いてくれますか?

序 了



12月23日(月)

相護公園付近

相護公園
時子の自宅アパート最寄りの公園。相護公園前というバス停がある。

財前時子「冷えるわね……」

財前時子
S大学の4年生。SWOW代表。大学まではバスで通学。

時子「雪が降るのもあながち冗談じゃないのかしら……」

時子「寒いのにがんばってるわね、あの子」

若林智香「あっ、こんにちは!」ペコリ

若林智香
近所に住む女子高生。チアリーディングの自主練習中。

時子「……こんにちは」

智香「よしっ、もう一回、いち、に、さん……」

時子「……バス、来たわね」



SWOW部室

SWOW
セブン・ワンダーズ・オブ・ワールドの略で、7人が作った名目上旅行サークル。

時子「ただいま」

仙崎恵磨「時子ちゃん、おっす!」

仙崎恵磨
SWOWメンバー。卒業後は経理の仕事の傍ら、芸能活動をする予定。冬になってから身に着け始めたニット帽姿がカワイイ、とのこと。

時子「あら、それは誰が作ったのかしら。亜里沙か、それとも久美子?」

恵磨「ううん、これは優ちゃんが作ってるやつ」

時子「優が?」

太田優「あー!珍しいとかむしろ危ないとか思ってるでしょ!」

太田優
SWOWメンバー。卒業後はペットショップ勤務。ひとまず資格所得を目指す。

時子「思ってるわ」

恵磨「正直だね」

時子「恵磨が立ってたら止めてたわ」

恵磨「ひどいっ!」

時子「冗談よ。優、これもらっていいかしら?」

優「どうしてぇ?」

時子「どうしてって。お腹が空いてるからよ。朝ごはんも食べてないのよ」

恵磨「いいんじゃない?」

優「ま、いっか☆どーぞ♪」

恵磨「はい、これスプーン」

時子「あら、気が利くわね」

優「コートかけといてあげるねぇ♪」

時子「ええ。いただくわ、優」

優「どうぞー☆」

時子「見かけは問題がなさそうね……」

恵磨「……ふふ」

優「……うふふ」

時子「……ん?」

恵磨「どーしたの?」ニヤニヤ

優「どーしたのかなぁ?」

時子「食べれるわ。変なものは入ってないけど」

優「けど?」

時子「味がないわ。あと、随分と硬い」

恵磨「だって。上手くできてるんじゃない?」

優「成功だねぇー♪」

時子「これ……成功してるのかしら」

恵磨「うん。だって」

優「アッキーのご飯だもん」

アッキー「わん!」

アッキー
太田優の愛犬。優によっておなじみのカットがなされている。

時子「ハァ?」

優「アッキー、ご飯だよー♪」

アッキー「わふっ」

優「おいしー?」

恵磨「やっぱりさ、いつもドッグフードだとストレスになるんだって」

優「なにー、美味しい?もー、アッキーてばぁ♪」

恵磨「だから、練習してるんだって」

時子「事情はわかったわ。私に味見させたわけね」

優「うふふ♪」

恵磨「だって、食べたいって言ってたじゃん」

時子「確かに言い出したのは私よね」

恵磨「ね?」

時子「そうね、反応が早すぎるわ、恵磨」

恵磨「それほどでも!」

時子「……それで」

恵磨「なに?」

時子「貴方達はお昼を食べたのかしら」

優「まだだよー。でも、お昼の材料は冷蔵庫にあるよー」

時子「何があるのかしら」

恵磨「鶏肉があるね。あと、冷凍うどん」

時子「それでいいわ。誰か……」

優「あたし?」

恵磨「アタシ?」

時子「私……?」

優「そうだねぇ、時子ちゃんかな!」

恵磨「うん、時子ちゃんだね!」

時子「……わかったわよ」

優「味は醤油がいいなぁー」

恵磨「鶏肉は大きめで!」

優「油揚げもー」

恵磨「煮込みじゃない方がいいかな」

優「うんうん☆」

時子「注文が多いわよ」

恵磨「聞いてくれるっしょ?」

優「おねがぁーい♪」

時子「……聞くわよ。待ってなさい」

優「時子ちゃん、やさしー☆」



SWOW部室

優「グリーンランド?」

恵磨「うん、はぁとさんはグリーンランドでロケ中」

時子「何もこんな時期に行かなくても」

恵磨「クリスマス関係のイベントってこの時期しかないしさ」

優「サンタを探しに行ってるの?」

恵磨「なんか、そうらしいよ」

時子「芸能人も大変ねぇ」

恵磨「そう?はぁとさん、ウキウキで旅立って行ったけど」

優「そうなの?」

恵磨「うん。メルヘンなものとか好きみたい」

時子「本人が魔法使いなのに」

優「ねぇ、思いついたんだけど」

時子「なによ」

優「本物のサンタクロースっているのかな?」

恵磨「グリーンランドにはいるらしいよ」

時子「そうじゃないわ。もっと本物のサンタクロースでしょう」

優「うん。いるのかな?」

恵磨「アタシはどっちでもいいや。もう子供でもないし」

優「時子ちゃんは?」

時子「そうね、いたらいいんじゃない」

優「もー、いたら素敵とか思わないのー?」

時子「昔からそういうのには縁がないのよ」

恵磨「そうなん?プレゼントとかもらわなかったの?」

時子「何かのパーティーに連れていかれて、大量に貰ったわよ」

優「……嬉しくなかった?」

時子「本音を言うと、そうよ。貴方達がくれたプレゼントの方がよっぽど嬉しかったわ」

恵磨「そうなんだ」

時子「だから、サンタは本物にも偽物にも縁がないわ」

優「明日は?」

時子「父親からは連絡が来たわ。断ったわよ」

恵磨「じゃあ、時子ちゃん、明日の予定は?」

時子「何もないわ。そっちはどうなのかしら」

恵磨「アタシ、仕事なんだよね」

時子「そう。優はどうなの」

優「聖來ちゃんとかとパーティーするんだ♪時子ちゃんも来る?」

時子「遠慮しておくわ」

優「遠慮しなくていいのにぃー」

時子「他の人は?」

優「亜里沙ちゃんは慰問だって。病院とか」

時子「そう。久美子も明日はいないわよね?」

恵磨「ついにお母さんの頼みを断れなかった、とか言ってたね」

優「ピアノの発表会なんだよねぇ」

時子「むしろ、何で出てなかったのかしら」

恵磨「さぁ?」

時子「後で聞きましょう」

優「そうだねぇ」

時子「亜季と惠は?」

優「今日は部室に来るって言ってたよ」

恵磨「それじゃ、ちょっと待ってようか」

時子「ええ」



SWOW部室

大和亜季「明日でありますか?」

大和亜季
SWOWメンバー。卒業後はS大学院進学、専攻は制御工学。

優「うん」

亜季「私は裕美殿と教会のお手伝いであります」

伊集院惠「クリスマスだものね」

伊集院惠
SWOWメンバー。卒業後はS大学院進学、専攻は燃焼工学。

亜季「人手不足でありまして」

時子「ミサくらいならそんなに人はいらないじゃない」

亜季「シスタークラリスが夜は不在でありまして」

惠「……なんで?」

亜季「どうにも外せない用事があるとかで」

時子「教会が彼女に一番の用事じゃないということかしら」

亜季「それはわかりませんが、その聞くのも憚れるであります」

恵磨「まあ、あんまり詮索しない方がいいかな」

亜季「そうするであります」

優「ねぇ、クラリスさんはサンタはいるって言ってた?」

亜季「サンタでありますか?」

時子「ええ。本当に本物のサンタクロースはいるのかしら?」

亜季「うーむ。聞いたことはありませんな」

優「後で聞いといてねぇ」

亜季「わかったであります」

時子「惠はどうなの?」

惠「昼は研究室ね」

優「夜は?」

惠「研究室の忘年会」

恵磨「わざわざクリスマスにやるの?」

時子「しかも、3連休後の火曜日に?」

惠「ええ。なんでかしらね」

亜季「……」

時子「皆予定があるのね」

惠「そうね」

優「プレゼント交換は時間がある時にしようねぇ」

時子「明日はゆっくり休むことにするわ。雪も降りそうだもの」

恵磨「あれ、そんな予定出てるの?」

惠「出てるわね。今晩も降るかもしれないわ」

亜季「そうなのでありますか?」

優「ホントーだ、天気予報も出てるねぇ」

恵磨「おっと、もうこんな時間だ」

時子「何か予定でも?」

恵磨「打合せ。いってきまーすっ!」

惠「いってらっしゃい」

優「がんばってねぇー☆」

時子「楽しそうね」

亜季「そうでありますな」

惠「テレビとかライブとか出るのかしらね」

優「恵磨ちゃんのライブは楽しそう♪」

時子「ええ。楽しみに待ってるとしましょう」



SWOW部室

時子「暗くなってきたわね」

亜季「今日は遅くならないうちに帰るであります」

惠「それがいいわね」

時子「優もアッキーを連れて帰ったし、どうしましょうか」

亜季「何か案でもあるでありますか?」

時子「ないわよ」

惠「でしょうね」

亜季「たまには楊さんの所に行ってみるでありますか」

時子「フム」

惠「いいんじゃない?」

時子「そうね。行ってみましょうか」

亜季「ええ。もう少しだけ待ってください」

惠「さっきから何してるの?」

亜季「片づけを」

時子「片づけ?」

亜季「もう時間がないでありますからな。少しずつ整理してるであります」

時子「……そう」

惠「ここにあったの、どうしてるの?」

亜季「家だけでは保管が出来ないでありますから」

時子「売ってるの?」

亜季「一部はであります」

時子「他はどうしてるのよ」

亜季「倉庫を借りることにしたであります」

惠「大丈夫なの?」

亜季「ええ。出渕教会の倉庫でありますから」

時子「いいの、使っても」

亜季「クラリス殿は良いと言っておりました」

惠「なら、いいんじゃないかしら」

時子「深く考えてムダね」

惠「ええ」

亜季「なので、もう少しお待ちを」

時子「わかったわ」



楊さんの中華料理店

亜季「明日はお休みでありますか?」

楊菲菲「そうだヨー」

楊菲菲
やおふぇいふぇい。楊さんの娘。

惠「クリスマスイブだから?」

フェイフェイ「ウン。毎年お店はヒマだから、お出かけするネ」

時子「そう」

フェイフェイ「それじゃ、ごゆっくりだヨー」

惠「ありがとう」

亜季「世間はクリスマスムード一色でありますな」

惠「何をするわけでも、ないけど」

時子「なんとなく不思議な感じがするわね」

惠「……え?」

亜季「どうしたでありますか?」

惠「あの、時子ちゃん」

時子「なによ」

惠「困ったら、連絡して。あと、疲れたら休んで」

時子「どういう意味かしら」

惠「別にそのままよ……その新メニュー、美味しい?」

時子「美味しいわよ」

惠「辛くないの?」

亜季「唐辛子が浮いているであります」

時子「普通よ。地元と同じ感じ」

亜季「次は私も台湾ラーメンにするであります」

時子「一度くらい食べても損はないわ」

惠「時子ちゃん、お正月は名古屋に帰るの?」

時子「どうしようかしらね」

亜季「おじい様は懇意にしてくれている、と前に聞きましたが」

時子「そうね……両親よりは話が通じるわ」

惠「……」

時子「そっちこそ、どうなのよ」

惠「私は今も実家だから。亜季ちゃんは?」

亜季「次の土曜日に帰省するであります」

時子「そう。お土産、よろしくね」

亜季「任せてください」

惠「どんな珍しいものが来るか楽しみにしてるわ」

亜季「明太子で済ませられないのは割と大変なのでありますよ?」

時子「無理しろなんて、言ってないわよ」

惠「期待してるだけ」

亜季「まいるでありますなぁ」

時子「話は変わるけど……」

惠「なに?」

時子「……やめておくわ。皆が揃った時にでも」

亜季「もったいぶるようなことでありますか?」

時子「その通り、よ」

惠「それじゃ、楽しみに待ってるわ」

時子「ええ。冷めないうちに食べるわよ」



相護公園付近

ブロロロ……

時子「今日は静かね」

時子「人影もまばら……何かしら」

時子「何かが走って行った、怪しい」

時子「……やめておきましょう」

時子「と言っても、私のアパートの方角なのよね」

時子「何もなければ、いいのだけど」

パラパラ……

時子「雪が舞い始めたわね……」



財前時子のアパート・ゴミ捨て場

時子「……悪い予感は当たるものなわけね」

イヴ・サンタクロース「うぅ……寒いですぅ~。ブリッツェン、どうしてこんなことに……」

ブリッツェン「ブモ……」

イヴ・サンタクロース
ダンボールとトナカイで寒さを凌いでいる、金髪白人の少女。ただいま全裸のようだ。

ブリッツェン
イヴが連れているトナカイ。とてもモフモフとした毛並みをしている。温かい。

時子「……ダンボールに身を包んだ白人がいるわ」

イヴ「あ……」

時子「チッ、気づかれたわ」

イヴ「あのぉ~」

時子「大体言いたいことはわかるわよ。だから、質問させなさい」

イヴ「?」

時子「貴方、なにしてるのよ」

イヴ「あはは……えっとぉ、まずはプレゼントが、衣装剥ぎ取り妖怪、鍵付きがなくてぇ……」

時子「ハァ?」

イヴ「予想外でぇ、へっくち!」

時子「……私が悪かったわ。来なさい」

イヴ「はい?」

時子「部屋に来なさい、って言ってるのよ。寒いから早くなさい」



財前時子の部屋

イヴ「あったかいですぅ~」

ブリッツェン「ブモッ!」

時子「服は大丈夫だったかしら」

イヴ「はい~」

時子「少し大きいわね」

イヴ「着る分には問題がありませんよ?」

時子「私は自分のものを常に着せておくほど優しくはないわ」

ブリッツェン「ぶも?」

時子「アンタは緊張感ないわねぇ」

イヴ「ブリッツェンはいつも通りですよぉ?」

時子「そういうことにしておくわ。ほら」

イヴ「ほら?」

時子「コーヒーよ。飲みなさい」

イヴ「いいんですかぁ?いただきますぅ」

時子「安物だから味は期待しないで」

イヴ「むむっ!」

時子「なによ」

イヴ「うへー。にがいですぅ」

時子「……砂糖とミルクも持ってくるわ。そこにでも座って待ってなさい」

10

財前時子の部屋

時子「サンタクロース?」

イヴ「はい~」

時子「プレゼントを配りにグリーンランドから日本へ?」

イヴ「私はサンタクロースですからぁ~」

時子「せっかく持って来た衣装とプレゼントを盗まれた?」

イヴ「鍵付きを忘れちゃってぇ……」

時子「日本にまだ追剥ぎなんているのね」

イヴ「追剥ぎじゃありませんよ?」

時子「なら、なんなのよ」

イヴ「衣装剥ぎ取り妖怪ですぅ」

時子「……」

イヴ「あの、疑ってます?」

時子「どこを信じろっていうのよ」

イヴ「ええ、信じられませんかぁ?」

時子「当たり前よ。見かけだけはグリーンランド出身ぽいわね」

イヴ「サンタですよ?」

時子「……そうらしいわね」

イヴ「うう……配ろうと思ったプレゼントを取られちゃって悲しいですぅ……」

時子「……本当にそれだけのために来日したのかしら」

イヴ「はいっ!」

時子「誰か、配るあてでもあったの?」

イヴ「はい。一人は絶対に、あとは一人でも多く」

時子「その人は誰かしら、連絡するわよ」

イヴ「あの、親戚の子供にプレゼントを配りに来たわけじゃないですよぉ?」

時子「なら、誰よ」

イヴ「ヒミツです♪」

時子「……」

イヴ「それでぇ、あのぉ……」

時子「何かしら」

イヴ「おサイフも取られちゃってぇ、それに……」

時子「パスポートは?」

イヴ「パスポート……はいっ、パスポートもですぅ~」

時子「本当に絶望的な状況だったのねぇ」

イヴ「お願いが……」

時子「一杯あるようね。まずは……」

イヴ「?」

時子「お腹は空いてるかしら」

11

財前時子の部屋

イヴ「美味しいですぅ~」モグモグ

時子「それは良かったわ」

イヴ「お料理上手ですねぇ~」

時子「普通よ」

イヴ「はぁー……豚汁は体があったまりますぅ」

時子「箸も普通に使ってる……日本語も流暢、何者かしらね」

イヴ「何か言いましたかぁ?」

時子「何も言ってないわ。ところで、大使館は?」

イヴ「借りたパソコンでメールを送っておきましたぁ。対応してくれると思いますぅ」

時子「そう」

イヴ「ふふ~」パクパク

時子「お気楽ね。どうしてかしら」

イヴ「だってぇ、時子さんが親切に助けてくれましたからぁ」

時子「私のことは置いておくにしても、気楽に見えるわ」

イヴ「そうですか?」

時子「ええ。まぁ、ストレスを感じてないならいいわ」

イヴ「あの~」

時子「おかわりならあるわよ」

イヴ「いいえ。聞いていいですか?」

時子「何をよ」

イヴ「プレゼント、欲しいものはありますか?」

時子「貴方ねぇ、自分の置かれた状況を考えなさいよ」

イヴ「あはは……それじゃ質問を変えます」

時子「変える?」

イヴ「一番嬉しかったクリスマスプレゼントはなにですかぁ?」

時子「……」

イヴ「ずっと昔でもいいですよ?」

時子「ないわ。いや……あるかしら」

イヴ「それは?」

時子「本当にしょうもない箱いっぱいの駄菓子とオモチャよ。箱とオモチャはまだそこにあるわ」

イヴ「……ふふ」

時子「何か可笑しいかしら」

イヴ「いいえ……あってました」

時子「何があってたのよ」

イヴ「ちゃんとお礼をします、今は何もできないですけど」

時子「ハァ?」

イヴ「ごちそうさまでした~」

12

財前時子の部屋

イヴ「すーすー……」

ブリッツェン「zzz……」

時子「……幸せそうな寝顔ね」

イヴ「zzz……」

時子「本当にサンタクロースなのかしら」

時子「答えは本当ですぅ、でしょうね」

時子「……」

時子「まぁ、いいわ。サンタとトナカイしかいないクリスマスも悪くないでしょう」

時子「雪はやんだのね、残念だわ」

時子「……」

13

12月24日

財前時子の部屋

イヴ「おはようございますぅ~」

時子「おはよう」

テレビ『今日はクリスマスイブですね。冷え込みが厳しく、ところによっては降雪が予想されます』

時子「また、雪が降りそうね」

イヴ「日本は雪が少ないですねぇ」

時子「場所によるわ。グリーンランドの方が寒いでしょうけど」

イヴ「そうですねぇ、とっても寒いところです」

時子「日本に知り合いは?」

イヴ「いないですぅ」

時子「嘘ね」

イヴ「嘘ですぅ」

時子「フン。どなたか知り合いがいるのね」

イヴ「はい~。25日には会う約束をしてるんですぅ」

時子「その方には連絡は?」

イヴ「電話番号もメールもわからなくてぇ。今日はお出かけで不在ですぅ」

時子「明日には会えるということね」

イヴ「はい~。だから、今日はここに居てもいいですかぁ?」

時子「別にいいわよ。私に今日の予定はないわ。ただね」

イヴ「お手伝いしますっ!何でも!」

時子「別に働けなんて思ってないわよ。朝食を買いに、近くのコンビニまで行くだけよ」

14

財前時子の自宅付近

時子「あら」

的場梨沙「ありす、今日はケーキが出るのよね。あら、時子じゃない」

橘ありす「呼び捨ては失礼ですよ、梨沙さん。おはようございます、財前さん」

的場梨沙
時子のアパート近くに住む少女。時子とはここに引っ越してからの知り合い。

橘ありす
同じく時子のアパート近くに住む少女。梨沙と一緒に登校している。

時子「おはよう。梨沙は、さんを付けなさい」

梨沙「わかったわよ……時子さん、おはよう」

時子「やれば出来るじゃない」

ありす「あのそちらの方は……」

イヴ「?」

梨沙「時子のコートを着てるじゃないの。だれなの?」

ありす「グットモーニング」

イヴ「おはようございますぅ」

ありす「……」

梨沙「日本語話せるのね。アタシは的場梨沙よ、ヨロシク」

イヴ「よろしくお願いしますぅ。イヴ・サンタクロースです」

ありす「サンタクロースですか、珍しい苗字ですね」

時子「本当にサンタらしいわよ」

梨沙「そうなの?でも、アタシにはパパがいるからいいわ。邪魔しないでよ」

ありす「本当ですか?」

イヴ「はい~。今はプレゼントが用意できませんので、また後で」

ありす「はぁ……」

梨沙「いけない!ありす、遅れちゃうわ!」

ありす「ええ。失礼します、財前さん、えっと」

梨沙「ばいばーい、サンタさん」

イヴ「ばいば~い、お勉強がんばってくださいねぇ」

時子「さ、行きましょうか」

イヴ「何を食べようかなぁ。おでん、はんぺん……」

時子「貴方、本当にグリーンランド出身なの?」

15

コンビニ前

時子「ブリッツェンはこれでいいの?」

イヴ「はい。日本のドッグフードは美味しいですよねぇ」

時子「食べたの……?」

古賀小春「はわわ、遅れちゃいますー、きゃあ!」

古賀小春
のんびりとした性格の女の子。ペットはイグアナ。

小春「転んじゃった……」

愛野渚「大丈夫?怪我はない?」

愛野渚
近所の高校生。朝練のためジャージ姿。

小春「大丈夫です~」

渚「良かった。ほら」

小春「ありがとうございますー」

渚「急ぎすぎないでね。それじゃ!」

小春「はーい」

時子「……」

イヴ「優しい人ですねぇ~」

時子「自然と声をかけて、手を差し出したわね」

イヴ「私、知ってます」

時子「何をかしら」

イヴ「ああいう人をイケメンって言うんですよね?」

時子「女子高生には使わないわよ」

イヴ「そうなんですかぁ?」

時子「ええ。さっさと部屋に戻るわよ」

イヴ「ブリッツェンが待ってますぅ」

16

財前時子の部屋

ブリッツェン「ぶもぶもっ!」

イヴ「美味しいですかぁ~?」

ブリッツェン「ぶもっ!」

テレビ『今日こそ行きたいイルミネーション特集!』

時子「こんな日に人混みに紛れたら風邪をひくだけでしょうに」

イヴ「日本はイルミネーションが綺麗で楽しいですねぇ~」

時子「……」

イヴ「恋人達のクリスマスなんて、ロマンティックですぅ」

時子「……」

イヴ「どこが綺麗なんでしょう、神戸?」

時子「神戸には行ったことがあるのかしら」

イヴ「前にですぅ」

時子「へぇ……」

イヴ「朝ごはん、ごちそうさまでしたぁ」

時子「いいわよ、それくらい。お金はあるわ」

イヴ「お金はある?」

時子「腐っていくお金よ。使った方がマシだわ」

イヴ「……」

時子「なによ」

イヴ「日本にはこういう言い伝えがあるんですよね」

時子「言い伝え?」

イヴ「宵越しの銭は持たねぇ、って。ここは江戸ですもんねぇ~」

時子「……あってる、のかしら」

17

財前時子の部屋

テレビ『今話題の映画……』

イヴ「宇宙でふたりぼっち……」

ブリッツェン「モッ……」

時子「テレビ、飽きないかしら」

イヴ「楽しいですよぉ?」

時子「なら、いいわ。出かけましょう」

イヴ「どこにですかぁ?」

時子「昨日、言ったでしょう。私は自分の服を他人に着せておくほど、優しくないの」

イヴ「お洋服屋さんですか?」

時子「そういうこと」

18

アパレルショップ・彩月

彩月
時子のアパート近くにある小さな衣服店。隣のカフェと併設されている。

衛藤美紗希「いらっしゃいませぇー!」

衛藤美紗希
彩月の店員。今日は稼ぎ時のため、女子会は明日の予定。

イヴ「おしゃれなお店です~」

美紗希「こんにちは、財前さん。今日はプレゼント選びですか?」

時子「違うわ」

美紗希「自分へのゴホウビ?」

時子「もっと切実」

美紗希「もっと、あったかい服が欲しいんですね?」

時子「もっともいらないわね」

美紗希「どういうことでしょう?」

時子「この子に服、選んであげて」

美紗希「はぁーい。こんにちは、どちらの方ですかぁ?」

イヴ「グリーンランドですぅ」

美紗希「グリーンランド、あの北の方の?」

時子「デンマーク領、国民は5万人くらい、世界最大の島、らしいわ」

美紗希「良く知ってますねぇー」

時子「優と惠が言ってるのを聞いただけよ。それで、お願いしていいかしら」

美紗希「お任せですか、何をお求めですか?」

時子「全部。上下とコートも」

美紗希「はい?」

時子「予算は気にしないで」

美紗希「わかりましたっ、全力でコーディネートしますぉ!」

イヴ「お願いしますぅ~」

時子「それじゃ、大人しくしてるのよ、イヴ」

イヴ「はい~」

時子「飾ってあるピンクのニットがいいんじゃないかしら」

美紗希「お目が高いですぅ♪何着かありますけど、いかがです?」

時子「私はいらないわよ。隣のカフェで待ってるから、よろしく」

19

カフェ・スリーフィールズ

スリーフィールズ
彩月の隣に併設されたカフェ。紅茶とカレーが美味しいと評判。

槙原志保「ホットコーヒーお待たせしました」

槙原志保
カフェの店員さん。本日はクリスマスを意識した真っ赤な衣装。

時子「ありがとう」

志保「はい♪今日は寒いですねぇ。ミルクと砂糖はお使いになりますか?」

時子「いらないわ。寒い割に、忙しそうだけど」

志保「クリスマスイブですから」

時子「そう」

志保「もうすぐお昼時ですから、もっと忙しくなりますよ」

時子「その前には出るわ」

志保「気にしなくて、いいですよ。ゆっくりしていってくださいね」

時子「わかったわ」

志保「何かあったら言ってくださいね!」

時子「ええ」

相原雪乃「あら?」

相原雪乃
カフェの店員。可愛らしいクリスマス衣装に身を包んでいる。

時子「……」ゴク

雪乃「志保さん」

志保「はーい。雪乃さん、どうしました?」

雪乃「クリスマスツリーのことなのですが……」

志保「何かありました?」

雪乃「お星様がついていないようなのです」

志保「あれ?本当ですね」

雪乃「忘れてしまいました……どういたしましょう」

志保「今日の閉店後に直しましょうか。どこに置いたかなぁ」

雪乃「私が探しておきますわ」

志保「お願いします」

時子「……星ねぇ」

志保「あ、そういえば」

時子「何よ」

志保「コーヒー、おかわり無料ですから言ってくださいね♪」

20

カフェ・スリーフィールズ

時子「コーヒー、お替りを」

海老原菜帆「かしこまりました~」

海老原菜帆
カフェの店員。もこもこしたトナカイ風衣装を身につけている。

イヴ「お待たせしましたぁ~」

美紗希「いかがです?」

時子「いいんじゃないかしら。シンプルで」

美紗希「素材が綺麗ですからねぇ♪上下とインナーとコートとマフラーをもですよぉ」

時子「いいわ。お幾らかしら」

美紗希「全部お買い上げですねぇ、これです」

時子「支払いはこれで」

美紗希「カードですね。支払方法は?」

時子「12ヶ月。リボで」

美紗希「えぇ?」

時子「冗談よ。一回でいいわ」

美紗希「ほっ、それじゃお借りしますねぇ」

時子「よろしく」

菜帆「コーヒー、お持ちしました~」

時子「ありがとう。イヴも何か飲むかしら?」

イヴ「おぉ……」

菜帆「なにかついてますかぁ?」

イヴ「モコモコですっ、ブリッツェンみたいですぅ」

菜帆「ありがとうございます~。抱き付いてもいいですよ」

イヴ「本当ですかぁ?では、遠慮なく」モフン

時子「本当に遠慮なく抱き付いたわねぇ」

イヴ「あったかい……幸せですぅ」

菜帆「よしよし」

時子「見られてるから、それぐらいにしなさい」

イヴ「ありがとうございますぅ。私は紅茶が飲みたいなぁ」

時子「いいわよ。紅茶をひとつ」

菜帆「かしこまりました~。お待ちくださいね~」

イヴ「さっき店員さんから聞いたんですけどぉ、紅茶が美味しいらしいんですぅ」

時子「知ってるわ。コーヒーも美味しいわよ」

イヴ「楽しみですねぇ」

美紗希「お待たせしましたぁ。サイン、いただけますかぁ?」

時子「ペンを」

美紗希「どうぞ」

時子「これでいいわね。助かったわ」

美紗希「それで、ご提案ですけどー」

時子「提案?」

美紗希「下着があってないみたいです」

イヴ「大丈夫ですよ?」

時子「……わかったわ」

美紗希「こちら控えですねぇ。それと、これをあげます」

時子「紅茶無料券よ。イヴ、もらっておきなさい」

イヴ「ありがとうございますぅ~」

美紗希「またのご利用お待ちしてますねぇ♪」

21

ランジェリーショップ・ジョセフィーヌ

ジョセフィーヌ
説明無用のランジェリーショップ。オーダーメイドも扱うお高めの小さなお店。

松本沙理奈「ふふ♪ほら……そんなに緊張しないで」

松本沙理奈
ジョセフィーヌの店員。とてもとてもセクシー。

イヴ「は、はいぃ」

沙理奈「ウブなんだから、こういうところはじめて?」

時子「……単に採寸してるだけよね」

イヴ「ひゃいん!」

沙理奈「肌白くて、キレイ」サスサス

イヴ「くすぐったいですぅ」

沙理奈「ふふっ、ごめんね」

時子「クリスマスは忙しいの?」

沙理奈「カップルが来るわよー」

イヴ「ランジェリーショップに?」

沙理奈「ええ、なんでかわかる?」

イヴ「下着……?」

沙理奈「うふっ、それはねぇ……」

時子「変なこと吹き込まないでちょうだい」

沙理奈「カレシさんがアタシに見惚れちゃってケンカになるんだから、アタシって悪い店員♪」

時子「その子はずいぶんと間が抜けているようだから」

イヴ「私のことですか?」

時子「貴方以外に誰がいるのよ」

沙理奈「はいっ、採寸完了。リクエストは?」

イヴ「リクエスト?」

時子「何でも言いわよ」

沙理奈「それじゃ、フィーリングで決めちゃおっか。こっち来て」

時子「……ん?」

沙理奈「窓なんか、見ちゃって……あら、また?」

イヴ「わぁ、可愛いのがいっぱいありますぅ~」

時子「誰か、いたわね?」

沙理奈「たまーに、誰かが覗いてるのよ」

時子「へぇ」

沙理奈「別に覗いててもいいけどね♪」

時子「そこは犯罪じゃないの?」

沙理奈「ちょっとしたイタズラよ、大学生みたいだし許してあげる♪」

時子「そう」

沙理奈「そもそも、ブラインドガラスだから外から見えないけどね。残念でしょ?」

時子「残念ね」

イヴ「どれがいいんでしょ~?」

時子「何も分からないから、選んであげて」

沙理奈「はぁい、ばっちり決めてあ・げ・る♪」

22

某定食屋

イヴ「ここには良く来るんですかぁ?」

時子「何を食べるか、思いつかなくなったらここに来るわ」

イヴ「ゆず鍋、美味しいですぅ」

時子「ええ……美味しいわね」

イヴ「どうしました?」

時子「別に……人連れてくるのは初めてだから」

イヴ「そうなんですかぁ?」

時子「家の近くなだけだもの」

イヴ「お友達を連れてこなんですかぁ?」

時子「普段は大学の近くで会うもの。ここは狭いし」

イヴ「それじゃ、私が特別ってことですねっ」

時子「特別というか、特殊ね」

イヴ「照れますぅ~」

時子「別に褒めてないわよ」

イヴ「ふふふ~」

時子「……聞いてないわね」

イヴ「あっ、特製デザートですぅ!」

時子「それは……」

イヴ「1日5名様まで、どんなデザートなんでしょう?」

時子「もうないと思うわ」

イヴ「えぇ~」

時子「人気メニューなのよ。美味しいわ」

イヴ「食べてみたいですぅ」

時子「開店直後に来るしかないわね。機会があったら、来てみなさい」

イヴ「はいっ。連れてきてくださいね~」

時子「勝手に行けばいいじゃない」

イヴ「今度はごちそうします!」

時子「……期待せずに待ってるわ」

23

近くのスーパー

時子「え、誕生日なの?」

イヴ「はいっ」

時子「クリスマスイブが誕生日で、イヴ・サンタクロース?」

イヴ「ええ」

時子「嘘ならもっと上手につきなさいよ」

イヴ「本当なんですぅ~」

時子「なら、少し夕飯を変えようかしら」

イヴ「変える?」

時子「煮豚にでもしようと思ったけど、少しはお祝いしましょうか」

イヴ「いいんですかぁ?」

時子「いいわよ、別に」

イヴ「そんな豪勢にしなくていいですよ」

時子「全部こちら持ちでリクエストなんて出来るわけないでしょ」

イヴ「そうでした……」

時子「シャンメリーでも買っていきましょうか」

イヴ「シャンメリー?」

時子「あなた、まだ未成年というか、年齢確認できないじゃない」

イヴ「えっと、シャンメリーってなんですかぁ?」

時子「シャンパンのようなソフトドリンクよ」

イヴ「子供でも飲める?」

時子「ええ。日本にしかないらしいわね」

イヴ「あっ、これですかぁ?」

時子「もっと良いものを買いましょう……あら、豚が安いわ。煮豚は変えないでおきましょう」

イヴ「もっと良いもの?」

時子「酒屋があるのよ。娘さんが店番をしてるはずだわ」

イヴ「女の子が店番してるんですかぁ、可愛いですねぇ」

時子「……可愛い、いや可愛いほうかしら」

イヴ「?」

時子「ところで、味噌汁の具は何がいいかしら」

イヴ「油揚げがいいですぅ」

時子「なんで、即答できるのよ」

24

柊酒店

柊酒店
柊さんが家族経営している酒屋さん。独自の販売ルートと確かな目利きを持つ。

イヴ「娘さん……」

時子「嘘はついてないわよ。それに、今日は平日よ」

イヴ「朝、登校していきましたねぇ……」

柊志乃「何を話してるのかしら……?」

柊志乃
柊酒店の娘さん。幼少期から評判の美人だが、今のところ独身。

時子「何でもないわ」

志乃「クリスマスだから、ワインなんていかがかしら。これも美味しいわ」

イヴ「店番中に飲むのは怒られないんですかぁ?」

志乃「クリスマスイブだもの」

時子「いつも飲んでるでしょうに」

志乃「お客様のため、日夜調べてるのよ」

イヴ「本当に日夜なんですねぇ……」

志乃「今日は何か、お探しかしら?」

時子「シャンメリーを」

志乃「シャンメリー、いいのがあるわ」

イヴ「あるんですかぁ?」

時子「品揃えはいいわよ」

志乃「これなんていかがかしら」

時子「綺麗ね」

志乃「アルコールが抑えられてることを除けば、上質なシャンパンそのものよ」

イヴ「へぇ……」

志乃「小さなメーカーが限定注文で受け入れてるもの。特別なノウハウの結晶よ」

時子「凄いわね。いつも思うけど、どうやって見つけるのよ」

志乃「優しい人が教えてくれるわ」

時子「……」

イヴ「でもぉ、これ大切なものじゃありませんか?」

志乃「いいえ。私のは、あそこに」

イヴ「ワインですねぇ」

時子「売り物に見えるけど」

志乃「父が売らないわ。今日、あけるのよ」

イヴ「家族でクリスマスを祝うんですかぁ?」

志乃「ええ……楽しみよ。それに明日は私の誕生日なの」

イヴ「わー、おめでとうございますぅ!」

志乃「ありがとう。誕生日はいつでも嬉しいものよ」

時子「……」

志乃「このシャンメリー、いかがかしら?」

時子「いただくわ」

志乃「それと、このワイン試飲していかないかしら?」

時子「それは遠慮しておくわ」

志乃「ラッピングは必要かしら?」

時子「いらないわ。イヴ、受け取って」

イヴ「はい。重いですねぇ」

志乃「毎度あり。また、ご贔屓に」

25

相護公園

イヴ「ケーキもシャンメリーも楽しみですぅ♪」

時子「そうね」

イヴ「でも、チーズケーキも食べたかったなぁ」

時子「贅沢しすぎると人間が歪むわよ」

イヴ「あら、あの子は何をしてるんでしょう?」

時子「あの子、今日もいるのね」

智香「こんにちはっ!」

イヴ「こんにちは~。何をしてるんですかぁ?」

智香「チアリーディングの練習ですっ!」

難波笑美「智香ちゃん、買ってきたでー。休憩しよか」

難波笑美
智香の友人。公園に来ていた屋台でタコヤキを買ったところ。

智香「はーい」

笑美「ほい、タオル」

智香「ありがとー、笑美ちゃんっ!」

笑美「お安いごようや。で、この人たちはどちら様なん?」

時子「ただの通りすがりよ」

イヴ「美味しそうなニオイがしますぅ~」

笑美「なんや、わかっとるやないか!一個どないや?」

イヴ「いいんですかぁ?いただきますぅ」

時子「……まぁ、いいわ」

笑美「ベンチまでいこか。智香ちゃん、飲み物もいるやろ?」

時子「イヴも座りなさい。別に急ぐ理由なんてないわ」

26

相護公園

笑美「よっしゃっ!」

イヴ「ホクホクですぅ~」

笑美「タコが二個入ってたわ!今日はついとるで」

智香「財前さんも一ついりますか?」

時子「私はいいわ」

智香「あれ?」

笑美「どうしたん?」

智香「こっちもタコが二つ入ってました」

笑美「なんや、おっちゃんサービスしてくれたんかいな」

時子「意味ありげに微笑んでるわよ」

笑美「おっちゃん、おおきに!」

イヴ「優しい人ですねぇ」

智香「あっ、芽衣子さん!」

時子「……あら」

イヴ「こんにちは~」

並木芽衣子「こんにちは、智香ちゃん」

並木芽衣子
旅人。パラソルと古ぼけたトランクを持参。

智香「今日は終わりですか?」

芽衣子「ちょっと寒くなってきたから。それに、雪が降るんだよ、これから」

笑美「そうなん?」

芽衣子「たぶん」

時子「どこかでお会いしたかしら?」

芽衣子「優ちゃんのお友達でしょ?根高公園で会いました」

時子「ああ、思い出したわ。並木さんね」

芽衣子「はい。今日は帰りますけど、今後もご贔屓にー」

時子「会えればね」

芽衣子「会えますよ、いつかどこかで」

時子「そうね」

芽衣子「それじゃ、ばいばい、智香ちゃん、笑美ちゃん」

笑美「ほな、また」

智香「ばいばーい」

芽衣子「さようなら」

時子「ええ、また会えるといいわね」

イヴ「雪、降るみたいですねぇ~」

時子「そのようね」

笑美「智香ちゃん、寒くなるし今日は帰ろか」

智香「うん、そうする」

時子「私達も帰るわよ」

イヴ「はい~」

27

財前時子の部屋

イヴ「メールが帰ってきてましたぁ」

時子「そう。それで?」

イヴ「明日に来てくれれば対応してくれるそうですぅ」

時子「本当に入国してきたのね。空飛ぶソリにでも乗ってきたのかと」

イヴ「えっ、なんでわかるんですか?」

時子「嘘よね」

イヴ「冗談ですぅ」

時子「フン……おや」

イヴ「どうしましたぁ?」

時子「雪が降ってきたわ」

イヴ「……え?」

時子「なに、そんなに驚いた顔してるのよ」

イヴ「そんなに驚いてますかぁ?」

時子「昨日も降ってたじゃない。そんなに驚くことかしら」

イヴ「本当だ……」

時子「冷えるといけないからカーテン閉めるわよ」

ブリッツェン「ぶも」

イヴ「ブリッツェンは大人しくしてましたかぁ~?」

時子「夕ご飯にするわよ。手、洗ってきなさい」

28

財前時子の部屋

時子「美味しいわね、これ」

イヴ「お酒屋さん、凄いです~」

時子「本当にね」

イヴ「あの人、酒屋の跡取りさんなんですかぁ?」

時子「そうみたいよ」

イヴ「素敵ですねぇ、綺麗な人でしたし」

時子「好きなことしかしないで生きていれば、若いはずだわ」

イヴ「時子さんは好きなこと、してないんですか?」

時子「わからない、けど」

イヴ「けど?」

時子「今は楽しいわ」

イヴ「良かったですねぇ♪それじゃあ、そんな時子さんに」

時子「なにかしら」

イヴ「12月25日は、とーってもいい日になりますよ♪」

時子「……それは、あなたが何かをしてくれるから?」

イヴ「ふふ、秘密です」

時子「そう。楽しみにしてるわ」

イヴ「はぁーい。ねぇねぇ、ケーキも食べましょう?」

時子「ええ。自分で準備なさい」

イヴ「ええ~」

時子「文句言わないの」

イヴ「はぁ~い」

29

財前時子の部屋

四条貴音『私は……本当は月の人間なのです』

四条貴音
765プロのアイドル。月出身であることを隠している恋人役でドラマに出演中。

時子「よくこんな企画通したわねぇ」

イヴ「とってもドキドキしますぅ……主人公はどうするんでしょう」

時子「ラブストーリーよね?」

イヴ「はいっ。ルナドンを倒したら、きっと恋人は月に帰ってしまうんです」

時子「で?」

イヴ「ルナドンは地球には来れないから、放置すれば恋人はそのままなんですぅ」

時子「へぇ……」

イヴ「ほら、見てください!倒すと誓いましたっ!」

時子「楽しそうでいいわね……」

貴音『あなた様……』

イヴ「でも、ルナドンは強敵ですぅ~」

ブリッツェン「ぶもも!」

時子「まぁ、いいかしら。暇つぶしにはなるでしょう」

イヴ「いまだっ、変身!」

時子「……」

30

財前時子の部屋

時子「私は寝るわよ」

イヴ「おやすみなさい~」

時子「寝るときにテレビと電気を消しておいて」

イヴ「はい~」

時子「明日、朝早い方がいいかしら」

イヴ「いいえ」

時子「それじゃ、ゆっくりしましょう」

イヴ「明日はお休みの日ですからぁ」

時子「そうね。お休み」

31

幕間

柳清良「今日はありがとうね」

持田亜里沙「いえいえ、こちらこそ楽しかったです」

柳清良
S大学付属病院の看護師。SWOWとは浅くない付き合い。

持田亜里沙
SWOW副代表。卒業後は故郷N県の小学校勤務。

亜里沙「天気も良くてよかったですね」

清良「ええ。病院ってイベントごと少ないから、特に、ね」

亜里沙「クリスマスくらい楽しくても、いいですよね」

清良「ええ。喜んでくれたかしら?」

亜里沙「おそらく。子供は皆来てくれたんですよね?」

清良「それが、実は一人……」

アップテンション、アップテンション……

亜里沙「ごめんなさい、電話でますね」

清良「どうぞ」

亜里沙「どうしたの、優ちゃん……え?」

清良「……?」

亜里沙「わかった。すぐに行くから」

清良「何か、悪いことでも?」

亜里沙「よくわからないけど……行ってきます」

清良「お気をつけて」

亜里沙「はい、失礼します」

幕間 了

32

12月24日

早朝

時子「雪は積もったのかしら……あら」

時子「積もってないのね」

テレビ『今日はクリスマスイブですね。冷え込みが厳しく、ところによっては降雪が予想されます』

時子「昨日も同じ天気予報だったじゃない。アテにならないわね」

時子「イヴはまだ起きてこないようだし……朝ごはんでも」

時子「あら……冷蔵庫、空じゃない」

時子「あのトナカイが食べたのかしらね。所詮は獣ね」

時子「まあ、いいわ。散歩がてらに行ってきましょう」

33

財前時子の自宅付近

梨沙「ありす、今日はケーキが出るのよね。あら、時子じゃない」

ありす「呼び捨ては失礼ですよ、梨沙さん。おはようございます、財前さん」

時子「おはよう、昨日も会ったわね」

梨沙「昨日?どこかで会ったかしら?」

時子「どこかって……同じような時間に会ったじゃない。外人連れてたわよ」

梨沙「ここでぇ?」

ありす「昨日はお休みですよ」

時子「ハァ?」

梨沙「何か勘違いしてるんじゃない?」

ありす「そうだと思います」

時子「……そうね。勘違いだったかもしれないわ」

梨沙「変な時子。そろそろ、遅れちゃうから行くわよ、ありす」

ありす「はい。失礼します、財前さん」

時子「ええ……頑張るのよ」

34

コンビニ前

時子「おかしいわね……何か」

小春「はわわ、遅れちゃいますー、きゃあ!」

時子「あの子……」

小春「転んじゃった……」

時子「……次は」

渚「大丈夫?怪我はない?」

時子「……ビンゴ」

時子「チッ、面倒なことが起きたわね……」

35

財前時子の部屋

時子「イヴ!」

イヴ「おかえりなさぁ~い」

時子「今から言う二つのこと、聞きなさい」

イヴ「そんなに慌ててどうかしたんですかぁ?」

時子「話は後。一つ目、食事はこれ」

イヴ「あれ、コンビニまで行ったんですかぁ?」

時子「二つ目、部屋から出ないこと」

イヴ「……?」

時子「勝手に出かけるんじゃないわよ、いいわね?」

イヴ「……わかりましたぁ。ブリッツェンとお留守番してます」

時子「お願い。私は出かけてくるわ」

イヴ「何があったんですか……?」

時子「分からないから探しに行くのよ」

イヴ「それはそうですけどぉ」

時子「テレビでも眺めてればわかるわ」

イヴ「テレビ……?」

時子「大人しくしてるのよ、いいわね」

36

相護公園

時子「……えっ?」

芽衣子「こんにちは!」

時子「えっと、並木さんね」

芽衣子「お久しぶりです。優ちゃん、元気にしてますか?」

時子「元気にしてるわよ……」

芽衣子「あの、どうかしましたか?」

時子「私、どっちから来たかしら」

芽衣子「どっち?西側から来ましたよ」

時子「そう。わかったわ」

芽衣子「見ていきませんか?」

時子「やめておくわ」

芽衣子「急ぎすぎるのは損ですよ?」

時子「なんでよ」

芽衣子「クリスマスくらいゆっくりしてもいいじゃないですか」

時子「あいにく、そうも言ってられないわ。一つ聞いていいかしら」

芽衣子「どうぞ」

時子「今日は何日かしら」

芽衣子「えっと……24日です」

時子「ありがとう」

芽衣子「機会がありましたら、お会いしましょう」

時子「すぐに会える気がするわ」

37

相護公園付近

時子「電話はつながらないわね……」

時子「最後に……惠にもかかるわけないわよね」

プルルルル……

惠『はい、伊集院です』

時子「つながったわ」

惠『え……時子ちゃん?』

時子「つながってよかったわ。変なことになってるのよ」

惠『……』

時子「惠?」

惠『ごめん、解決できない』

時子「なに言ってるのよ」

惠『こうやって話してるのも偶然。信じないで』

時子「……」

惠『見る気があるなら気づけるから』

時子「言ってる意味がわからないわ」

惠『ばいばーい。お茶と和菓子でも準備しておいて』

時子「惠!……切れたわ」

時子「かけなおせないわね……なんだったのかしら」

時子「……戻りましょう」

38

財前時子の部屋

時子「ただいま」

イヴ「お帰りなさい~」

時子「外には出てないわね……というか」

イヴ「何ですかぁ?」

時子「その服、どうしたの?」

イヴ「昨日、買いましたよね?」

時子「ええ。でも、それだとおかしい」

イヴ「そうみたいですねぇ」

時子「何が起こっているか、少しは理解したかしら」

イヴ「はい。今日は24日みたいですねぇ」

時子「貴方は異変に気付いているのね」

イヴ「時子さんもですよね?」

時子「ええ。貴方の服が残っていることから考えても」

イヴ「私達の周りだけ、24日に戻ったということでしょうかぁ?」

時子「わからないわ」

イヴ「外……どうなってましたか?」

時子「説明するわ。その前に」

イヴ「その前に、飲み物でも用意しましょうか」

時子「気が利くわね。コーヒーにしてちょうだい」

イヴ「わかりましたぁ~」

39

財前時子の部屋

テレビ『今話題の映画……』

イヴ「巻き戻される世界……」

時子「理屈は知らないけど、確かに今日は24日のようね」

イヴ「今日もクリスマスイブ」

時子「そのようね」

イヴ「このテレビも昨日見たものと同じですぅ~」

時子「フム……」

イヴ「外で何かありましたか?」

時子「そうね。まずは、人ね」

イヴ「人?」

時子「私達のように、昨日を覚えている人間は見つからなかったわ」

イヴ「私達が変な世界に紛れ込んだのでしょうか?」

時子「何とも言えないわね……というか、貴方も受け入れるのが早いわね」

イヴ「サンタクロースですから」

時子「……あっそう」

イヴ「他には何か?」

時子「外に出れなかったわ」

イヴ「玄関から外には出ていけてましたよ?」

時子「言い方が悪かったわ。特定の範囲の外よ」

イヴ「範囲、ですかぁ?」

時子「ええ。どういう理屈かはわからないけど、この周辺から出られない」

イヴ「どういうこと……です?」

時子「西へと歩いてみたわ。どこに出たと思う?」

イヴ「?」

時子「相護公園よ。東から歩いてきたとか言われたわ」

イヴ「ふーむ。閉じ込められた?」

時子「そう考えるのが妥当でしょうね」

イヴ「どうやって?」

時子「そんなの知らないわよ。貴方、時を巻き戻す方法でも知ってるの?」

イヴ「知りません~」

時子「でしょう」

イヴ「どれくらいの範囲なんですかぁ?」

時子「ここから東西南北どこも1キロかそこら」

イヴ「それじゃあ、昨日の服屋さんも酒屋さんも定食屋さんも行けますねぇ♪」

時子「……確かにそうね」

イヴ「その……えっと」

時子「何か気になることでも?」

イヴ「近くに小学校ってあるんですかぁ?」

時子「ないわ」

イヴ「昨日の子達にも会いましたかぁ?」

時子「ええ……つまり、どういうことかしら」

イヴ「あの子たちはどこに行ったんでしょう?」

時子「……答えがあるんでしょう。言いなさい」

イヴ「ただの装置かも」

時子「装置……」

イヴ「いるけど、本物ではないとか」

時子「フムン。テレビみたいなものね」

イヴ「自分で言っておいてなんですけどぉ……自信がないですぅ」

時子「当たり前よ、簡単に信じられるわけないわ」

イヴ「外と連絡とれるんですか?」

時子「取れなかったわ」

イヴ「それじゃあ、外は普通の日常なのでしょうか」

時子「さぁね」

イヴ「それじゃ……どうしましょうか」

時子「どうする、か」

イヴ「私は明日に行かないといけないんですぅ」

時子「どうして……?」

イヴ「どうしてもですっ!」

時子「そんなに声を荒げなくてもいいわ」

イヴ「困りましたねぇ」

時子「貴方、いつでも困ってるわね」

イヴ「そうですか?」

時子「いつも困り眉じゃない」

イヴ「それはもとからですぅ」

時子「わかってるわよ」

イヴ「でも、どうしましょう?」

時子「どうしようもこうしようもないわ」

イヴ「どうしようもこうしようもない?」

時子「調べること、それだけよ」

イヴ「そうですねぇ」

時子「少しは面白くなってきたじゃない」

イヴ「……」

40

夕方

柊酒店

時子「こんにちは」

志乃「いらっしゃい」

イヴ「あのぉ……」

志乃「何かしら」

イヴ「美味しいシャンメリーはありますか?」

志乃「あるわよ。これなんか、とっても美味しいわ」

時子「へぇ、それはどこから?」

志乃「小さな企業が作ってるの。私にはアルコールが足らないけれど」

時子「そう」

志乃「試飲はできないけど、いかがかしら」

時子「やめておくわ」

志乃「そう、残念」

イヴ「おじゃましましたぁ~」

志乃「また、ご贔屓に」

41

相護公園

笑美「智香ちゃん、買ってきたでー。休憩しよか」

智香「はーい」

イヴ「このやり取りも同じですねぇ~」

時子「ええ。私達は既に挨拶をして、別のベンチに座っているけれど」

イヴ「昨日と同じように行ってみましたけどぉ……」

時子「同じ服を勧められる」

イヴ「はい。店員さんとは同じ話をしました」

時子「店員は相変わらずクリスマスの星を探しているし」

イヴ「限定のデザートは食べれませんでしたぁ」

時子「同じシャンメリーを出してくるし」

イヴ「タコヤキにタコが二つ」

時子「サービスで入れてくれた」

イヴ「私達も追加で買えばいれてくれたんですねぇ」

時子「そうみたいね。こうやって買ってみてわかったけれど」

イヴ「同じようで違う」

時子「私達には行動の余地があるものね」

イヴ「露店商のお姉さん、帰るところですね」

時子「私達には声をかけないで、二人の所へ行ったわね」

イヴ「私達がいなくても、大丈夫」

時子「……なんなのかしらね」

イヴ「わかりません……」

時子「雪が降りそうね……知っているけれど」

イヴ「はい」

時子「戻りましょう」

イヴ「明日が来ないとは決まってませんもんねぇ」

時子「ええ……祈りましょう」

42

幕間

雪が降る空を眺めていました。

少しでも近くで見えるようにジャングルジムの上で。

自然と湧き出てきた歌を。

私は口ずさんでいました。

幕間 了

43

12月24日

財前時子の部屋

時子「おはよう」

イヴ「おはようございますぅ~」

ブリッツェン「ぶもっ!」

時子「今日は……」

テレビ『今日はクリスマスイブですね。冷え込みが厳しく、ところによっては降雪が予想されます』

イヴ「クリスマスイブみたいです」

時子「そう簡単に解決はしなかったわね」

イヴ「はい」

時子「……ねぇ、イヴ」

イヴ「なんでしょう?」

時子「どうして、私達だけは動けるのかしら?」

イヴ「なんで、でしょう?」

時子「わかるわけないわね。でも」

イヴ「でも?」

時子「前にも見たように、私達が同じ行動を取る必要はないようね」

イヴ「はい~。というか、完全に同じ行動をするのは無理ですぅ」

時子「そうよね。そして、この世界はそれを許容できるみたいだし」

イヴ「ということは……」

時子「私達が本来見えなかったものも見える」

イヴ「別の時間に行けば、ですね」

時子「ええ」

イヴ「何かわかるかもしれないですねぇ」

時子「この周辺を止めてるからには、意味があるはずよ」

イヴ「私もそう思います」

時子「だから、それを見つけるしかない」

イヴ「12月24日のここで何かがあった?」

時子「戻らなくてはいけない理由があったのかもしれないわ」

イヴ「困ってる人がいるんでしょうか?」

時子「それはわからないわ。でも、原因くらいはあるはず」

イヴ「原因は、なんでしょう?」

時子「考えても無駄でしょう。見つけるのがはやいわ」

イヴ「どうしてですかぁ?」

時子「時間だけはあるようだから」

44

アパレルショップ・彩月

美紗希「ふんふふふーん♪」

イヴ「この服、なんで消えなかったんでしょう」

時子「さぁね」

美紗希「おはよございますぅ♪開店はまだですよぉ?」

時子「大丈夫よ、用はないわ」

美紗希「そうですかぁ?あら?」

イヴ「?」

美紗希「その服、似てるというか同じですねぇ。どこで買ったんですかぁ?」

イヴ「えっと、あはは」

時子「偶然同じもののようね」

美紗希「着てみていかがですかぁ?」

イヴ「着心地いいですよ」

美紗希「シルエットも綺麗ですしねぇ♪安心してオススメしますぅ」

時子「ええ、それがいいわ」

美紗希「はぁい。良かったら来てくださいねぇ♪」

イヴ「はい。ありがとうございます」

美紗希「それでは、失礼しますぅ」

時子「意外なことがわかるわね」

イヴ「今日、準備したものだったんですねぇ」

時子「ええ」

イヴ「でも……見張ってて良かったですね」

時子「いつも通りにお店に来たんでしょうね。私達が行けないところから出てきたわ」

イヴ「あの人、本物じゃないんですねぇ……」

時子「24日にこの周辺に出入りがある人間は偽物と考えて良さそうね」

イヴ「私達は遠くにお出かけしませんでしたからぁ」

時子「……偽物だとわかってはいるけど」

イヴ「反応も生きてる人」

時子「必要以上に意識する必要はないわね」

イヴ「はい。どこかで生活している人の一面なんですから」

時子「そうね」

イヴ「少し冷えちゃいましたねぇ」

時子「隣のカフェはもう営業を始めているようだから、何か飲んでから行きましょう」

イヴ「そういえば……お金はどうなってるんですかぁ?」

時子「財布はもと通りになってるわね」

イヴ「なら、気にしなくていいのかなぁ?」

時子「少なくとも現金は信じられるでしょう」

イヴ「カードは怖いですもんねぇ」

時子「この状況じゃどうなるかわからないわ。だから、確実なものを信じるのよ」

45

カフェ・スリーフィールズ

菜帆「おはようございます~。お好きな所へどうぞ」

時子「おはよう。コーヒーを」

イヴ「私はココアを」

菜帆「かしこまりました。お待ちくださいね~」

時子「一つ、聞いていいかしら」

菜帆「モーニングセットはトーストとサラダですよ~」

時子「違うわ。あなた、今日は何時に来たの?」

菜帆「えっと、7時くらいですね~」

時子「その時間、電車は混んでるのかしら?」

菜帆「いいえ~。バスも電車も空いていて快適ですね」

時子「そう。ありがとう」

菜帆「どういたしまして~」

イヴ「……あの人も外からですか」

時子「そのようね」

イヴ「あのぉ……」

時子「何か、言いたいことでも?」

イヴ「その、偽物の人達は、夕方どうしたのでしょう?」

時子「帰ったんでしょう」

イヴ「帰った?」

時子「焦ることないわ。飲み物が来るまでその話は待ち……ん?」

イヴ「どうしました?」

時子「クリスマスツリーの星、ないわね」

イヴ「ないですねぇ~」

時子「どこかしら?」

イヴ「あっ、あそこですぅ~」

菜帆「よいしょ~」

時子「お尻のポケットに入ってるわね」

イヴ「前は入ってなかったような気がしますぅ~」

時子「拾って忘れてたようね……」

46

カフェ・スリーフィールズ

イヴ「私達に会ったかですかぁ?」

時子「ええ」ズズ

イヴ「会ってませんねぇ」

時子「なら、この変な状況でも私達は一人だけよ」

イヴ「うーん、それでどうなるんですかぁ?」

時子「他の人もその可能性が高いでしょう」

イヴ「他の人も一人、ですか?」

時子「ええ。その方が楽でしょう」

イヴ「むぅー……」ズズ

時子「ドッペルゲンガーを知ってるわね?」

イヴ「はい」

時子「死にたくなるほど、強制的に自分と向き合いたくないの。人間はね」

イヴ「そうですねぇ……」

時子「そもそも、この世界ってホンモノかしらね」

イヴ「夢……だと?」

時子「このコーヒーも、なんとなく感じてる夢かもしれない」

イヴ「私はそうとは思いません」

時子「なら、本当なんでしょう」

イヴ「この周りだけが24日に巻き戻されてる?」

時子「さぁね。外がどうなってるか、箱庭の中じゃわからないでしょう」

イヴ「……ええ」

時子「イヴ、さっき言ってたわね」

イヴ「えっと、何の話ですぅ?」

時子「帰った話よ」

イヴ「そうでした、夜はどうしたのでしょう?」

時子「単純に出れたんじゃないかしら」

イヴ「ここから、ですかぁ?」

時子「ええ。入れないけど、出れた」

イヴ「えっとぉ、入れないけど出れると何があるんですか?」

時子「単純に人が減るわ」

イヴ「あっ、ホントですねぇ~」

時子「ここがいつ巻き戻ったか知らないけど、その時に人が少なくなればいい」

イヴ「一緒に重なるのを防ぐんですね」

時子「そういうこと。まぁ、問題として」

イヴ「なんで、こんなことになったんでしょうねぇ?」

時子「そんなことは知らないわよ」

イヴ「本当に、ですか」

時子「当たり前でしょう。時間を巻き戻して、偽物を生み出す存在に心当たりなんてないわ。あなたこそ、知らないの?」

イヴ「知りませんねぇ~」

時子「サンタクロースは時を止められないのかしら」

イヴ「そんなの無理ですぅ~」

時子「聞いてみただけよ……もっと問題があるでしょう」

イヴ「何ですか?」

時子「私達と同じように、閉じ込められた存在がいるんじゃないかしら」

イヴ「条件は……」

時子「この周辺から昨日動いていない人でしょうね」

47

待ち人の十字路

イヴ「閉じ込められた人、いるんでしょうかぁ?」

時子「居てもおかしくないわ」

イヴ「その人達……どんな気持ちでしょうか」

時子「不安かもしれないわね」

神谷奈緒「もしもし、えー、遅れんのかよ。それで、加蓮、どれくらい遅れるんだ?」

神谷奈緒
『 』17歳。

イヴ「見つけてあげないとですねぇ」

時子「私達だけの可能性もあるわ」

奈緒「わかった、ちゃんと待ってるからさ。早く来いよ」ピッ

時子「……」

イヴ「どうかしましたか?」

時子「あの子、学校はサボリなのかしら」

イヴ「カバンを持ってるのに?」

時子「家から制服で出てサボるらしいわ。私は知らないけれど」

イヴ「へぇ~」

時子「……どこかで会ったことがあるかしら?」

イヴ「お知り合いですかぁ?」

時子「いえ、気のせいね。行きましょう」

48

小さな稲荷

時子「あら」

柳瀬美由紀「こんにちは~」

クラリス「美由紀さん、どなたでしょうか」

クラリス
『シスター』。クリスマスイブは出渕教会から外出中。

柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。視界が塞がれているクラリスのお手伝いをしている。

美由紀「えっとね、ほら、大学生のお友達だよ」

クラリス「ああ、財前時子様ですか」

時子「そうよ、シスタークラリス」

クラリス「この前はお世話になりました」

時子「別に。しなければいけないことをしただけよ」

クラリス「ありがとうございます」

イヴ「あのぉ~、この人達はどなたですかぁ?」

クラリス「……美しい声音をしております。異国の方でしょうか」

時子「彼女はシスタークラリス、貴方は……」

美由紀「柳瀬美由紀ですっ!」

時子「彼女はグリーンランドから来たと自称してる、イヴ・サンタクロースよ」

イヴ「イヴ・サンタクロースですぅ。よろしくお願いします~」

クラリス「こちらこそ」

時子「本物サンタクロースらしいのだけど、知ってるかしら?」

クラリス「いいえ」

イヴ「本当にサンタクロースですよぉ!」

美由紀「……」

クラリス「だけど、嘘をついているようには思えません。少なくとも彼女は本物であるという自覚はあります」

時子「そういうことにしておくわ。ところで、こんな所で何をしているのかしら」

クラリス「休憩を」

美由紀「そうだよー」

クラリス「私から質問をしてもよろしいでしょうか」

時子「なにかしら?」

クラリス「今日は24日でしょうか」

時子「ええ」

クラリス「では、何回目でしょうか」

49

小さな稲荷

時子「へぇ……」

クラリス「お答えくださいませ」

時子「3回目よ。あなた達もかしら?」

クラリス「はい。そうですね、美由紀さん?」

美由紀「うん。3回目のクリスマスイブだよ」

イヴ「ということはぁ、やっと仲間が見つかったんですかぁ!」

時子「ええ。だけど、手放しでは喜べない」

イヴ「どうして、ですかぁ?」

時子「どうして、ここにいるのかしら」

クラリス「所用がありまして」

時子「少なくとも出ることも入ることも不可能になるまで、ここにいる必要があるわ」

美由紀「だって、ここの近くにお泊りしたもんね」

時子「なぜ?」

美由紀「クリスマスイブだから?」

クラリス「ええ」

時子「自分の教会を放り出してまで、何をしてたのかしら」

クラリス「一つだけ訂正を」

時子「なによ」

クラリス「私にとって教会が一番のお仕事だとお思いですか?」

時子「フン……そんなことだろうと思ってたわよ」

美由紀「……」

クラリス「なら、わかりますでしょうか」

時子「わかってたわね」

イヴ「……え?」

クラリス「はい。私はこちらを優先いたしました」

時子「原因はわかるのかしら」

クラリス「いいえ。私が知っているのは現象だけです」

時子「……なら、どうすればいいのかしら」

クラリス「わかりません」

時子「わからないってねぇ、貴方……」

クラリス「見えないものは私にはどうしようもありません」

時子「意味がわからないのだけど」

美由紀「言った通りだよ」

クラリス「正直な話をいたしますと、困っております」

美由紀「おうちに帰れないんだもん」

時子「自分で来ておいて」

クラリス「私達が閉じ込められたのは私達の意思ではありません」

時子「なんとでも言えるわよ。だけど、こうなった以上は協力してもらうわ」

クラリス「ええ。こちらの情報もお伝えします」

時子「助かるわ。何か、気づいたことは?」

クラリス「特には……申し訳ございません」

イヴ「本当になんなのですかねぇ~」

時子「わからないから調べてるのよ」

クラリス「私達もわかりません」

美由紀「だって、おかしいよ?」

クラリス「そうですね、美由紀さん。この世のものが、起こせる現象とは思えません」

時子「何が言いたいのかしら」

クラリス「十二分にお気をつけて。敵はおそらくこの世界の理屈で動いていません」

イヴ「……」

クラリス「あなたのこれからに『光』あらんことを」

50

某定食屋

時子「協力的じゃないわね、あのシスター」

イヴ「そうですかぁ?」

時子「何か隠してる気がするのだけど、気のせいかしら」

イヴ「気のせいですよぉ。はぁ~、美味しい湯豆腐ですぅ。ここは何を食べても美味しいんですねぇ~」

時子「お気楽でいいわね……本当に」

イヴ「そうだっ!」

時子「何か、思いついたのかしら」

イヴ「開店直後に入ったから、限定デザートが食べられるじゃないですかぁ~。おばちゃーん、すみません~」

時子「そうね。確かに」

イヴ「なんで、繰り返すのでしょうか」

時子「唐突に何よ」

イヴ「別に明日になれば面白いことだって幾らでもありますよねぇ?」

時子「そうね」

イヴ「あのデザートだって、別に今日じゃなくても食べられます」

時子「だから……なにかしら」

イヴ「なぜ、24日を繰り返すんでしょう?」

時子「きっと、進みたくないからよ」

イヴ「進みたくない?」

時子「新しいものは怖いかもしれない」

イヴ「そうですか」

時子「怖い人には怖いものよ。もしくは、楽しいクリスマスをずっと過ごしていたい」

イヴ「次のクリスマスはもっと楽しくしますよぉ~」

時子「そう言ってくれるサンタクロースがいなかったのよ。彼女には」

イヴ「残念ですねぇ」

時子「……」

イヴ「どうしました?」

時子「なんでもないわ。外と連絡が取れるといいのだけれど」

イヴ「もう、外に世界なんてないのかもしれませんよぉ」

時子「……冗談がきついわ」

イヴ「ここに留まっているのが幸せかもしれませんよ」

時子「……」

イヴ「どうですか?」

時子「いいえ。お断りするわ」

イヴ「うふふ」

時子「何よ、笑っちゃって」

イヴ「どうして、嫌なんですかぁ?」

時子「この世界は気持ちが悪いだけよ」

イヴ「そうですねぇ、がんばりましょうねぇ~」

時子「言われなくてもわかってるわ」

イヴ「安心しましたぁ~」

時子「安心?」

イヴ「ずっとこのままでいいかな、なんて言われたら私が困りますぅ」

時子「不安になるようなことをわざわざ質問しないで欲しいわ」

51

ケーキ屋・エクスピアンシオン

時子「今回も相変わらずクリスマスムードね」

イヴ「前は諦めた、あのケーキを食べましょう♪」

時子「チーズケーキね」

イヴ「あの子達もケーキを買うんでしょうかぁ?」

村松さくら「美味しそう~」

土屋亜子「そうやなぁ。でも、お高いんやろ?」

村松さくら
『   』。ピンクの可愛い小物が好き『  』高校1年生。

土屋亜子
食べることが好き『  』。二人とは仲良し『  』。

さくら「ねぇ、ママー買ってよぉ」

亜子「おかん、お願いや」

大石泉「誰がお母さんなのよ」

大石泉
『  』。『  』。『  』。

さくら「イズミンですぅ」

亜子「泉やろ?」

泉「わかった、いい子にしてたらね」

さくら「さくらはイチゴのケーキがいいですぅ」

亜子「何がええかなぁ~」

泉「本当に……私が買うの?」

亜子「冗談やって!」

さくら「一緒に選んで、わけあいっこするですぅ♪」

泉「うん。行こうか、さくら、亜子」

イヴ「仲良しでいいですねぇ~」

時子「……」

イヴ「どうしました?」

時子「あの子達、名前なんて呼んでたかしら」

イヴ「さくら、泉、亜子ちゃん、でしょうか」

時子「……いえ、そんな、ね」

イヴ「……ねぇ、時子さん」

時子「……」

イヴ「私達もケーキを買いましょう♪ほら、はやくぅ」

時子「ええ……わかったわ」

52

柊酒店

イヴ「ねぇ~、お酒屋さん、よらないんですかぁ?」

時子「急ぐわよ」

イヴ「そんなに急いでどうしたんですかぁ?」

時子「おかしくないかしら」

イヴ「何がですかぁ?」

志乃「いらっしゃい」

時子「悪いけど、今は急いでるわ」

志乃「そう……ワインでも試飲していかないかしら」

時子「あれ……」

イヴ「あれぇ?」

志乃「そう。なら、また会いましょう」

時子「待ちなさい」

志乃「なにかごようかしら」

時子「あなたの誕生日は今日じゃないわよ」

志乃「そうね……その通り」

時子「それは、明日まで取っておきなさい」

志乃「その明日はいつ来るのかしら?」

イヴ「あなたも、ですね」

志乃「でも、いいのよ」

時子「いい?」

志乃「このワイン、また戻ってくるのよね」

時子「そうね」

志乃「父が用意してくれた大切なものよ。少しだけ、楽しんでもいいわよね」

イヴ「そうですねぇ。でもぉ……」

志乃「別に誕生日で喜ぶ年でもなかったわ」

イヴ「嘘です。大切なワインを開けた理由もゴマカシです」

志乃「……」

イヴ「必ず、25日を取り戻しますからぁ。そんなこと、思わないでくださいね」

志乃「……ありがとう」

イヴ「私も急ぎますからぁ」

時子「ええ」

志乃「でも、一つだけお願いをしていいかしら」

時子「何かしら」

志乃「……ワインは戻ってきて欲しいわ」

イヴ「わかりましたぁ~」

時子「今日で解決するとは思ってないわ。行くわよ、イヴ」

イヴ「はい~」

53

相護公園

イヴ「その話、本当ですかぁ?」

時子「本当だとこっちが信じられないわよ」

芽衣子「こんにちは!」

時子「……久しぶりね」

芽衣子「お久しぶりです。優ちゃん、元気にしてますか?」

時子「元気にしてるわよ」

芽衣子「そちらの方はどなたですか?」

イヴ「イヴ・サンタクロースですぅ」

芽衣子「並木芽衣子です、よろしくね!」

時子「聞いていいかしら」

芽衣子「なんでもどうぞー」

時子「あなたは死んだ人を見てない?」

芽衣子「はい?」

時子「文字通りの意味よ」

芽衣子「よくわかりませんけど、ないです。私は霊感もない普通の人間なので」

イヴ「公園に見慣れないお客さんとかいませんでしたかぁ?」

芽衣子「いないです」

時子「ふむ……」

芽衣子「それより、何か買っていきませんか?」

時子「また後で」

イヴ「はい~」

時子「気づいたことがあったら言って」

芽衣子「はい。じゃあ、また会いましょうね」

54

財前時子の部屋

イヴ「大慌てで何を探してきたんですかぁ?」

時子「これよね……」

イヴ「ファイルですかぁ?」

時子「部室から持ってきてたのよ。あそこも3月には引き渡さないといけないから」

イヴ「そのファイル、なんですかぁ?」

時子「見ればわかるわよ。これを」

イヴ「写真付きの紙が一杯ですねぇ。履歴書ですかぁ?」

時子「履歴書じゃないわ。目的は一枚だけ。この子よ」

イヴ「あら?」

時子「見覚えあるわね?」

イヴ「交差点でケータイで話してた女の子ですねぇ」

時子「その紙の意味もわかるわね?」

イヴ「亡くなってるんですね……」

時子「そうよ。それと、これも」

イヴ「新聞の記事の切り抜きですねぇ……村松さくら、土屋亜子……」

時子「大石泉についても、メモがあるわ」

イヴ「自殺……」

時子「わかるわね」

イヴ「ケーキ屋の子達……」

時子「あの子達は何なの?」

イヴ「……」

時子「幽霊なの?」

イヴ「……」

時子「それとも、どっかの誰かが作り出した幻?」

イヴ「わかりません……」

時子「どちらにしても趣味が悪いわ」

イヴ「あの子達、たぶん……」

時子「たぶん、なによ」

イヴ「最初の24日にはいませんでしたよね?」

時子「おそらく」

イヴ「……」

時子「考え込んでるわね」

イヴ「ごめんなさい、少しだけ考えさせてください。ファイル、見てもいいですかぁ?」

時子「いいわよ」

イヴ「ありがとうございますぅ」

時子「どうせ、時間はあるわ」

イヴ「……」

時子「何か気づいたら聞かせなさい。私も調べてみるわ」

55

財前時子の部屋

イヴ「う~ん……」

時子「さっきからずっと唸ってるけど、何か気づいたかしら?」

イヴ「ぜんぜんですぅ。どうしたらいいのかさっぱり……」

時子「私も同じよ」

イヴ「そういえば、インターネットはつながりましたかぁ?」

時子「ええ。24日のインターネットにはつながるわ」

イヴ「凄いですねぇ」

時子「生きてる人間を再現できるほどだもの、インターネットなんて大した情報量じゃないんでしょう」

イヴ「ますます恐ろしいですぅ~」

時子「とはいえ、わかることなんてほぼないわね」

イヴ「あの子達についてですかぁ?」

時子「ええ。どちらも警察が公にしたがらなかったから」

イヴ「なんでです?」

時子「犯人が狐と吸血鬼じゃ、日本の警察は言えないわよ」

イヴ「……」

時子「ただ、これだけは言えるわね」

イヴ「それは?」

時子「この周辺には縁もゆかりもなさそうね」

イヴ「それなら」

時子「ここが閉じられた後に追加された、何かよ」

イヴ「なら、なんで、ですか?」

時子「なんで?」

イヴ「なんでもないですぅ……」

時子「前進してないことだけは確かね」

イヴ「はい」

56

財前時子の部屋

イヴ「……うーん」

時子「あら、まだ悩んでるのね」

イヴ「うーん……」

時子「こんな時間になってるわ。夕食を買いに行くけれど、ついてくるかしら?」

イヴ「ブリッツェンとお留守番してますぅ~」

時子「そう。雪も降ってきたし、それがいいわ」

イヴ「いってらっしゃーい。お夕飯はお任せしますぅ~」

時子「ええ。行ってくるわ」

57

財前時子の部屋

イヴ「ブリッツェン……」

ブリッツェン「ぶも……」

イヴ「インターネット見れるんですよねぇ……」

ブリッツェン「……」

イヴ「今日の東京は、晴れなんですぅ……」

ブリッツェン「……」

イヴ「雪、降ってますねぇ……」

ブリッツェン「ブモッ!」

イヴ「ありがと、ブリッツェン。私、がんばりますぅ」

58

相護公園付近

時子「イヴは何が好きなのかしらねぇ……聞いて来ればよかったわ」

ラ、ララララ……

神崎蘭子「待つが良い、時の子よ」

神崎蘭子
黒い衣装と黒い傘を身に着けた少女。『  』。

時子「言われてみれば時の子だけれど、どなたよ」

蘭子「震える思い、凍る唇、寒き胸の依代柱」

ラ、ラ、ララララ……

時子「ハァ?」

蘭子「旋律は揺らぐ。汝、自分の居場所に迷っている」

時子「何が言いたいのかしら」

蘭子「今宵も凍える夜となろう。故に、煉獄の炎に抱かれて眠りたまえ」

時子「寒いから、温かくしろって?」

蘭子「闇に飲まれよ」

時子「やみにのま……ハァ?」

ラン、ラン、ラ、ラララ……

時子「行ってしまったわ。何だったのかしら……」

時子「それに、この歌は……」

時子「ジャングルジムの上、女の子がいるわね」

時子「……行ってみましょうか」

59

相護公園

望月聖「ラ、ララ……あ……」

望月聖
公園で歌う少女。赤い瞳、金髪、白い肌と幻想めいた出で立ち。

時子「お邪魔したかしら」

聖「あなたは……わたしの歌、聞いてくれますか?」

時子「ええ、あなたが風邪を引く前に止めるわ。それくらいなら」

聖「ありがとう……少しだけ聞いてください」

時子「ええ」

60

相護公園

聖「すみません……」

時子「なんで謝るのかしら」

聖「えっと……」

時子「いい歌だったわ。凄いのね」

聖「……好きだから」

時子「そう」

聖「……」

時子「こういう時は、ありがとうがいいわ」

聖「聞いてくれて、ありがとう……ございました」

時子「それでいいわ。あなた、名前は?」

聖「聖、望月聖」

時子「いい名前ね。私は財前時子よ」

聖「財前さん……」

時子「覚えておくわ。今度はステージに招待なさい」

聖「……うん。がんばる」

時子「あら、自信家なのね」

聖「そう……かな」

時子「自信はいいことよ。胸を張って、先に進みなさい」

聖「……」

時子「どうしたの?」

聖「良かった……」

時子「良かった?」

聖「クリスマス、いい日になりそう……」

時子「そう」

聖「へくちっ」

時子「冷えたわね。帰りなさい」

聖「はい……」

時子「また会いましょう、望月聖」

聖「うん……財前さん」

61

財前時子の部屋

イヴ「おかえりなさい~」

時子「ただいま」

イヴ「お腹がすきましたぁ~。遅かったですねぇ」

時子「少し悩んでいただけよ」

イヴ「……」

時子「食事にしましょう。明日もやらないといけないわ」

イヴ「はい~」

62

幕間

亜季「久美子殿、お疲れであります」

松山久美子「お疲れ様、進展は?」

松山久美子
SWOWメンバー。卒業後は某国内最大手メーカー勤務。

亜季「特には」

優「本当になんにもないよ」

久美子「うーん、どうしようかしら」

優「慌ててきてくれたのに、ごめんね?」

久美子「慌ててないから大丈夫」

亜季「どうしましょうか」

惠「……」

亜季「惠、何か案はありますか?」

惠「……」

優「惠ちゃん?」

惠「ごめん、聞いてなかったわ」

久美子「さっきから心ここにあらずだけど、どうしたの?」

惠「なんか違和感があるのよ。なんだか、足らないような……」

亜季「何がでありますか?」

惠「それがわからないから、困ってるの」

優「うーん……」

久美子「まずは情報収集かしら」

亜季「亜里沙殿もそう申しておりました」

久美子「亜里沙ちゃんはどこに?」

惠「S大学付属病院。部室には一回だけ来て、戻ったわ」

久美子「なんで?」

優「戻れない人、受け入れてるらしいよ」

久美子「もう深夜だものね……」

亜季「ことは何も進んでおりません」

久美子「なら、こっちから動きましょう」

優「うん」

幕間 了

63

12月24日

コンビニ前

小春「はわわ、遅れちゃいますー、きゃあ!」

時子「大丈夫かしら」

小春「ありがとうございますー。転んじゃうところでした」

時子「いいのよ。急いでても足元には気をつけなさい」

小春「はーい」

時子「ええ。行ってらっしゃい」

渚「お姉さん、やるじゃん」

時子「たまたまよ」

渚「転ぶのがわかってたみたい」

時子「その通りよ。だから、助けた」

渚「え?」

時子「冗談よ。部活の練習中かしら?」

渚「おっといけない。それじゃ!」

時子「がんばりなさい」

イヴ「ねぇ、時子さん」

時子「なにかしら」

イヴ「人助けをしたら、次に進めるんですか?」

時子「そうとは思わない」

イヴ「なんで、ですか?」

時子「私はある時間にある場所にしか居れないのよ」

イヴ「はい」

時子「全てを解決できると思う?この時に転んだ女の子はもう一人くらいはいると思うわ」

イヴ「ゲームみたいにはいかない、と?」

時子「ええ」

イヴ「なら、どうすればいいと思います?」

時子「時を止める意思を見つけること」

イヴ「見つかりますか?」

時子「わからない。だから」

イヴ「だから?」

時子「試しに人助けでもしてみるのよ」

イヴ「突然現れた人も気になりますもんねぇ」

時子「ええ」

64

カフェ・スリーフィールズ

志保「星?」

イヴ「クリスマスツリーの星ですぅ」

志保「あ、本当にないですね。どこに行ったんでしょう?」

時子「そこの貴方」

菜帆「私ですか~?」

時子「どこに星があるか知ってるかしら?」

菜帆「お空です」

時子「クリスマスツリーの星よ」

菜帆「クリスマスツリーの星……あっ、思い出しましたぁ」

志保「どこにあったんですか?」

菜帆「落ちてたから、拾って裏に置いたんです~。取ってきますね~」

志保「お願いしまーす」

イヴ「……」

時子「……」

イヴ「何か変わりましたか?」

時子「変わってないわね」

イヴ「特別なアイテムとか、手に入りませんかねぇ~」

時子「割引券は貰えるじゃない」

イヴ「そうですけどぉ」

時子「焦っても無駄よ。次に行きましょう」

イヴ「ランジェリーショップの覗きですか?」

時子「そうよ、行くわよ」

65

小さな稲荷

時子「シスタークラリスはいないわね」

イヴ「あの人達はホンモノってことですねぇ~」

時子「ランジェリーショップは拍子抜けだったわね」

イヴ「店員さん目当てだったんですねぇ」

時子「あれで、解決だったのかしら」

イヴ「あとは自分次第ですぅ」

時子「……思ったのだけど」

イヴ「何ですかぁ?」

時子「解決したところで、本人に関係ないわよね」

イヴ「あ……そうですねぇ」

時子「やっぱり所詮は舞台装置」

イヴ「関係するのは……動いてる人達でしょうか」

時子「そうでしょうね」

イヴ「そうなると……どなたでしょうか」

時子「候補はあまりいないわね」

イヴ「シスターと美由紀ちゃんと」

時子「柊酒店の娘さん」

イヴ「あとは……」

時子「新たに現れた人達だけね」

イヴ「……」

時子「神谷奈緒と大石泉達の他にも誰かいるかもしれないわ」

イヴ「探します?」

時子「ええ。そうしましょう」

66

待ち人の十字路

奈緒「寒いな……早く来ないかな、加蓮」

イヴ「さっきから時計とケータイを見てますね」

時子「本当に待ってるだけね」

イヴ「話かけてみますか?」

時子「今はやめておきましょう」

イヴ「はい」

時子「なんで、ここに呼び戻されたのかしら」

イヴ「呼び戻したんでしょうか?」

時子「どういうことかしら」

イヴ「自分で帰ってきたとか」

時子「死んだ人間が簡単に帰れるほど、優しくないわよ」

イヴ「……ええ」

時子「だから、生きているだけで勝ちよ」

イヴ「そうですねぇ」

時子「それでも生きていいと、私は思うわ」

イヴ「えっとぉ、何の話ですか?」

時子「……忘れて。次に行くわよ」

67

逢魔が辻

イヴ「……」

時子「……」

イヴ「えっとぉ、明らかにおかしいですねぇ」

時子「ええ……間違いなさそうね」

イヴ「同じ人が5人もいるんですけどぉ……」

時子「人間じゃないわ」

日下部若葉「あ、こんにちは~」

日下部若葉
S大学の学生。『  』。

若葉「こんにちは~」

若葉「誰ですか~?」

若葉「SWOWの代表さんですー」

若葉「バラ園ではお世話になりました~」

若葉「今度は裁縫部に来てくださいね~」

イヴ「うう……どうなってるんですか」ボソッ

時子「話は後にするわ……接して」ボソッ

若葉「今日は大学に行くんですか~?」

若葉「私はこれからです」

若葉「寒い日が続きますね」

若葉「地元は空っ風が強くて、大変です~」

若葉「都内は乾燥してなくて過ごしやすいですね~」

時子「え、ええ。がんばりなさい」

若葉「はーい」

若葉「行ってきます~」

若葉「お腹がすきました」

若葉「さようなら~」

若葉「それでは、失礼します~」

イヴ「……」

時子「……」

イヴ「何者ですか?」

時子「5人、同一した存在よ。一人は春に残りは初夏に倒されたわ」

イヴ「人間じゃない、なら何でしょうか」

時子「血を吸う怪物とか言ってたわね。実際に血を奪っていた」

イヴ「怖いですねぇ。正体は何だったんですかぁ?」

時子「わからない。本質は血を吸うことではなくて、同じ存在がいることだったようね」

イヴ「あの子、今は怪物なんですか?」

時子「それも怪しいわね」

イヴ「なんでですぅ?」

時子「同時に現れないのよ。それが人間とは違うことは、彼女はわかっていたと思う」

イヴ「でも、今は一緒にいますね」

時子「ええ。本当はそうしたかったのかも」

イヴ「一緒にいたかった?」

時子「……もう、誰も咎める人はいないわ。ここは本物の世界じゃないもの」

イヴ「そうですねぇ……」

時子「この様子だと他にもいそうね。もう少し探してみましょう」

68

ケーキ屋・エクスピアンシオン

泉「……」

亜子「泉?」

さくら「イズミン、どうしたんですかぁ?」

泉「ううん、微笑ましいなって見てただけ」

亜子「それ、ウチらが子供ってこと?」

さくら「イズミン、酷いですぅ」

亜子「そうや、子供なのはさくらだけや!」

さくら「亜子ちゃんまでぇ!」

泉「ふふ。さ、行きましょう」

イヴ「会話が少し違いますねぇ」

時子「そのようね」

イヴ「自由に動けるんでしょうかぁ?」

時子「そうかもしれないわね。特に」

イヴ「特に?」

時子「あの、大石泉って子は怪しいわね」

イヴ「え、どうしてそんなことがわかるんですかぁ?」

時子「なんとなくよ」

イヴ「なんとなく、ですか」

時子「なんとなく言いたいことが言えないのを隠してるように見えるわ」

イヴ「へ~、凄いです」

時子「それが何かはわからないけれど」

イヴ「話を聞いてみます?」

時子「次にしましょう。まずは、探索を」

69

相護公園

夕方

イヴ「今日も二人が練習してて、露天商のお姉さんがいて、タコヤキ屋台が出てて……あれ?」

時子「ギャラリーが一人増えたわね」

智香「こんにちはっ!」

イヴ「こんにちは~」

時子「……こちらの方はどなたかしら」

智香「紹介しますね、洋子さんです」

斉藤洋子「はじめまして、斉藤洋子です!」

斉藤洋子
ジャージ姿のお姉さん。『  』。『  』。

時子「斉藤洋子さん……」

洋子「あの、どこかでお会いしましたっけ?」

時子「いいえ、初めて会ったはずよ」

洋子「そうですよね。お近くに住んでるんですか?」

時子「ええ。そこのバス停から通学してるわ」

洋子「そうなんですか!私もここはランニングコース……で?」

イヴ「で?」

洋子「うん、ランニングコースです。また会ったら挨拶してくださいね!」

時子「え、ええ」

洋子「そろそろ、彼が起きる時間だから帰るね。またね、智香ちゃん」

智香「はいっ!お元気で!」

洋子「うん、ばいばーい!」タッタッタ

イヴ「気持ちの良い人ですねぇ~」

時子「……あんな人だったのね」ボソッ

イヴ「前からお知り合いなんですかぁ?」

智香「いいえ。初めて会ったんですけど、すぐに仲良くなりました」

笑美「智香ちゃん、買ってきたでー。休憩しよか……あれ、ランニング中のお姉さんは?」

時子「帰ったわよ」

笑美「あちゃー、余分に買ってしもた。そこのお姉さん、食べる?」

イヴ「いいんですかぁ?いただきます~」

時子「いただこうかしら。良いことがあるようだし」

智香「良いこと?」

時子「食べてみればわかるわ。ベンチに行きましょう」

70

相護公園

芽衣子「さっきの人ですか?」

時子「ええ。斉藤洋子さんというらしいのだけど、知ってるかしら?」

芽衣子「すみません、知りません」

時子「まぁ、いいわ。ダメもとで聞いてみただけよ」

芽衣子「ふーん……」

時子「あなたもタコヤキいるかしら」

芽衣子「いえ、遠慮するねー。また、会いましょう」

時子「ええ。また」

71

柊酒店

時子「こんばんは」

志乃「いらっしゃい。今回は遅いのね」

イヴ「ワイン、飲んでませんかぁ?」

志乃「ええ。あそこを見て」

時子「元通りね」

志乃「そう……楽しみだわ」

イヴ「明日が待ち遠しいですか?」

志乃「本当に。あのワインの味は知ってるけれど……とても」

時子「……そうね」

イヴ「お聞きしていいですかぁ?」

志乃「ええ……料理と会うお酒でも飲み物でも」

イヴ「この毎日が繰り返せばいいのに、と思ったことはありますか?」

志乃「ないわ。ましてや、今日がなんて」

イヴ「ありがとうございますぅ」

時子「貴方は違うようね」

志乃「何がかしら……?」

時子「こっちの話よ」

イヴ「早く解決を目指しますぅ。だから、待っててくださいねぇ」

志乃「ええ……のんびりと待ってるわ」

72

某レストラン

イヴ「クリスマスメニュー、美味しいですねぇ」

時子「ええ」

イヴ「ブリッツェンにも美味しいもの買ってあげないとぉ~」

時子「拗ねたら大変だものね」

イヴ「ブリッツェンは優しいから大丈夫ですよぉ」

時子「あのトナカイとはいつからいるの?」

イヴ「いつからでしょうか、気づいたら一緒にいたような気がしますぅ」

時子「そう。仕事……サンタクロースが仕事としたらいつもいるのね」

イヴ「はい~。いつも一緒ですぅ♪」

時子「……いいわね」

イヴ「ブリッツェン、お貸ししましょうか?」

時子「そういうわけじゃないわよ」

イヴ「なら、どういう意味ですか?」

時子「今年で大学を卒業するのよ」

イヴ「そうなんですかぁ?おめでとうございますぅ~」

時子「……」

イヴ「卒業後は何になるんですかぁ?」

時子「しがない事務職よ」

イヴ「この世にしがない仕事なんてありませんよ」

時子「そうね、私もそう思うわ」

イヴ「楽しみですか?」

時子「今は、寂しいわ」

イヴ「寂しいんですか?」

時子「嘘ついても仕方ないでしょう」

イヴ「あのぉ……時子さん」

時子「そろそろ、時間ね」

イヴ「時間?」

時子「相護公園に戻るわよ」

73

相護公園

イヴ「雪が降ってますねぇ~。幻想的ですぅ」

時子「いたわね」

蘭子「時の子、氷の国の使者」

イヴ「氷の国の使者ってカッコいいですねぇ」

時子「たぶん、イヴのことよ」

聖「あ……」

時子「お邪魔だったかしら」

聖「あなたは……わたしの歌、聞いてくれますか?」

イヴ「あなたが歌ってたんですかぁ~。綺麗な歌声ですぅ」

聖「ありがとう」

時子「続けて」

聖「……」

蘭子「凍る聖夜に響く実に甘美な響きよ。我は休息の地にて翼を休めん」

時子「待ちなさい」

蘭子「時の子よ、質問は無粋なるぞ」

時子「あなた、自分がどういう状況に置かれているか、わかってるかしら」

蘭子「我は知っておる」

イヴ「知ってる……?」

時子「なら、答えなさい」

蘭子「雄弁が金なることはない。汝は、汝に問うが良い。真実はカルマに記されておろう」

イヴ「……」

蘭子「闇に飲まれよ」

時子「ま、待ちなさい!」

イヴ「行ってしまいましたねぇ~」

時子「ええ……」

聖「あの……」

イヴ「ごめんなさい。お歌を聞かせてくれますか?」

聖「はいっ……何かリクエストはありますか?」

イヴ「いろんな歌が歌えるんですかぁ?」

聖「……はい」

イヴ「凄いですぅ~。それじゃあ、クリスマスにあう讃美歌がいいですぅ~」

時子「歌えるの?」

聖「うん……ちょっと前にも歌ったの。シスターが…・・・教えてくれた」

イヴ「へぇ~」

聖「聞いてください……」

74

財前時子の部屋

イヴ「昨日の夜にあんないいことがあったなら教えて欲しかったですぅ~」

時子「だから、教えたじゃない」

イヴ「明日誕生日見たいです。楽しみでしょうね~」

時子「でも」

イヴ「このままでは明日は来ません」

時子「ええ」

イヴ「急がないと……」

時子「でも、今日は休みましょう」

イヴ「……」

時子「何か、案でも?」

イヴ「……ないです」

時子「そう。お休み、イヴ」

イヴ「おやすみなさい……」

時子「明日、確認しましょう。起こっていることが全てか」

75

深夜

時子「ん……」

時子「……微妙な時間ね」

時子「イヴは……寝てるわね」

時子「繰り返しの変換点も気になるところだし、様子でも見てこようかしら」

時子「まぁ、いいわよね」

ガチャ

時子「……」

時子「変わりはないようだけど……」

時子「……このドア、開いてるわ」

時子「24日の朝にいなくて、24日の夜にはいた人間って……どうなるのかしら」

時子「開けてみようかしら。ええ、そうしましょう」

時子……ダメ……

時子「イヴ?そうじゃないようね」

そこは……気づいてから……

時子「誰なのかしら。姿を見せなさい」

ニャー……

時子「ネコ……?」

時子「……辞めておこうかしら」

ブリッツェン「ぶもー」

時子「あら、ブリッツェン。起こしてしまったようね」

ブリッツェン「ブモッ?」

時子「戻るわよ。ゆっくり休みましょう」

76

幕間

初日に、近くに座っていたという理由で声をかけてきた。

その一人と、妙に大人びた同級生を引き込んだ。

部室が欲しいという理由だけで部室を手に入れた。

妙なグッズが勝手に置かれてると思ったら、犯人が部員になった。

間違えて入ってきたのに居ついた。

とりあえず、旅行サークルにでもしておこうと決めた。

以前のサークルに馴染めなかった、とかいう理由で部員が増えた。

お世話役が必要だよ、とかいう理由で連れてこられて、更にもう一人。

正式にサークル許可を出すときに代表になった。

何か成し遂げるための集まりでもなかったし。

中国旅行ではお腹を壊した。

なんとなく安心できる場所だった。

わけわからないクリスマスプレゼントも貰うし。

ようやく、家から出られて。

用意したクラッカーが大きすぎて、紙ふぶきまみれにもなった。

手に入れた、心安らぐ場所も。

3月には終わり。

幕間 了

77

12月24日

財前時子の部屋

イヴ「おはようございますぅ~」

時子「……おはよう」

イヴ「寝付けませんでしたか?」

時子「そういうわけじゃないわ。良く寝すぎて、夢まで見たわ」

イヴ「どんな夢でした?」

時子「少し前の思い出よ」

イヴ「楽しかったですか?」

時子「ええ」

イヴ「大切にしてくださいね」

時子「行きましょう。核心には近づいていると思うわ」

イヴ「はい」

78

夕方

相護公園

時子「緑茶でいいのね」

イヴ「はい~。ありがとうございますぅ」

時子「味覚も日本人よりなのねぇ」

イヴ「そんなことないですよ?」

時子「説得力がないわ」

イヴ「ええ~、普通ですよぉ」

時子「普通じゃないわよ」

美由紀「見つけた!」

クラリス「いらっしゃいましたか」

美由紀「お姉さんたち、こんにちは!」

イヴ「こんにちは~」

時子「何か、わかったかしら?」

クラリス「申し訳ありません。私と美由紀さんは調べごとは苦手でして」

時子「そんなところでしょうね」

クラリス「お分かりのこと、お教えいただけますか」

時子「いいわよ。さて、何から話そうかしら」

79

相護公園

クラリス「なるほど、3つに分けられるのですね」

時子「ええ」

美由紀「そこのお姉さん達は?」

イヴ「チアリーディングの練習をしている女子高生とタコヤキを待ってる女子高生は、舞台装置ですぅ」

美由紀「露店のお姉さんも?」

時子「ええ。そして、ジャージ姿の女性がいるわね」

クラリス「斉藤洋子さん……と言いましたか」

時子「ええ。わかるわね」

美由紀「裕美ちゃんに……」

クラリス「ええ……彼女たちは」

時子「追加された幽霊達」

イヴ「どうやって、どうして、ここにいるのかはわかりません」

時子「だけど、何らかの意味はあるはず」

イヴ「具体的には……」

時子「神谷奈緒、大石泉、村松さくら、土屋亜子、日下部若葉、神崎蘭子。それと、斉藤洋子」

クラリス「ふむ。そして、最後は」

時子「私達」

イヴ「24日、この場所に取り残された人達」

クラリス「はい」

時子「シスタークラリス、柳瀬美由紀、イヴ・サンタクロース、柊志乃」

クラリス「それと」

時子「私よ」

美由紀「犯人はわかったの?」

クラリス「……どうなのですか、イヴさん?」

イヴ「わかってないと思います」

時子「煮え切らない言い方ね。わかってないわ」

クラリス「そのようですね」

時子「前に言ってたわね。敵はこの世のものではないと」

クラリス「その通りです。根高公園での話は聞いていますね?」

時子「根高公園もタコの話も聞いたわよ」

クラリス「作り出せる存在がいます。ですが」

イヴ「……」

クラリス「この日が続くように、25日が訪れぬように、と祈ったのは、その存在ではありません」

時子「あくまで、人間が願ったことなわけね」

クラリス「はい」

時子「なら、それは誰なのかしら」

イヴ「わかりませんか……?」

時子「死者からしたら、仮初でも生きていられるこの世界がいいでしょうね」

クラリス「一つ、考えていたことがあります」

時子「何かしら」

クラリス「24日が続くこと、と25日が訪れないことは同じことでしょうか」

時子「現象としては同じに見えるけど」

クラリス「でも、思いは違います」

時子「フムン。なら、私は前者だと思うわ」

クラリス「そうですか」

時子「それが、どうかしたのかしら」

クラリス「いえ、お聞きしただけです」

美由紀「ねぇ、クラリスさん」

クラリス「なんでしょうか」

美由紀「お腹空いちゃった」

クラリス「そうですね。私もお腹が空きました」

美由紀「今日は何を食べる?」

クラリス「歩きながら考えましょう。失礼いたします」

美由紀「さようなら~」

クラリス「イヴさん」

イヴ「なんでしょうか、シスター」

クラリス「お願いしますね」

イヴ「はい……」

時子「何かあったらすぐに連絡を」

クラリス「かしこまりました」

80

財前時子の部屋

貴音『私は……本当は月の人間なのです』

イヴ「一回見ましたけど、おもしろいですねぇ~」

時子「そうかしら……」

イヴ「本当に月から来たみたいに雰囲気ありますぅ」

時子「ルナドンがそろそろ来るわね」

イヴ「時子さん、なにしてるんですかぁ?」

時子「情報の整理を」

イヴ「はい。ずっと眺めてれば見つかるかもしれませんねぇ」

時子「何が?」

イヴ「真実」

時子「こんな所に真実なんてあるのかしら」

イヴ「あります、たぶん」

時子「そうね。あると思って信じてみるわ」

イヴ「はい。だから、気づいてくださいねぇ」

時子「気づく……?」

イヴ「ルナドンですぅ!」

時子「さっき私が言ったじゃない……」

81

財前時子の部屋

イヴ「ちょっとお散歩に行ってきますぅ」

時子「あら、珍しいわね」

イヴ「いいですかぁ?」

時子「別に断る理由もないわよ。気をつけなさい」

イヴ「はい~。ブリッツェン、行きましょう」

ブリッツェン「ぶもっ!」

時子「温かくしていきなさい」

イヴ「はい~。マフラー、マフラーっと♪いってきますぅ~」

時子「行ってらっしゃい」

時子「……」

時子「ん……?」

時子「あの子、赤いマフラーなんて持ってたかしら」

82

イヴ「ここまで運んでくれてありがとう、ブリッツェン」

ブリッツェン「もっ」

イヴ「街明かりが綺麗ですねぇ~」

ブリッツェン「ぶも」

イヴ「空の範囲も地上と同じくらいですねぇ」

ブリッツェン「……」

イヴ「おそらく、地下も」

ブリッツェン「……」

イヴ「ある地点を中心とした球体なんですねぇ~」

ブリッツェン「ブモッ」

イヴ「……プレゼント、渡せるでしょうか」

83

財前時子の部屋

時子「……」

時子「そう……そういうことね」

時子「だから……気づけ・・・・・・」

84

幕間

亜季「シスタークラリスは中にいるでありますか?」

関裕美「うん。連絡が取れないし、予定でもそうなってる」

関裕美
吸血鬼。オデコがチャーミング。

亜季「困ったでありますなぁ」

裕美「でも、きっと中で対策をしてると思うんだ」

亜季「そうでありますな」

恵磨「待って」

裕美「なに?」

恵磨「タイミング良すぎない?」

裕美「え?」

恵磨「どうして、そんなに都合よく中にいるのさ」

裕美「……」

亜季「裕美殿、何か知ってるでありますか?」

裕美「ううん、知らない……そうだよね、クリスマスイブのミサまで任せて行くなんて……」

亜季「考え過ぎであります……よね?」

恵磨「どうにかして、中と連絡取れないかな」

裕美「楓さん達が試してみてるけど、難しいって」

亜季「壊れないでありますか?」

恵磨「小梅ちゃんが難しい、って言ってたから無理だと思う」

裕美「あのね……」

亜季「なにでありますか?」

裕美「シスタークラリスなら、あの壁壊せると思う」

恵磨「どうやって?」

裕美「……って、美由紀ちゃんが言ってた」

亜季「訳がわからないであります」

恵磨「時子ちゃんとも連絡が取れないし……」

裕美「なんで、あんなものが出来たんだろう……?」

亜季「目的はなんでありましょう」

恵磨「閉じこもるか、あるいは閉じ込めるかどっちかじゃん」

裕美「閉じ込めて、どうするの?」

恵磨「観察するとか?」

亜季「恐ろしい話でありますな」

裕美「見てないから、わからないよね」

亜季「ええ。調べられることは調べましょう」

恵磨「出てこれた時間と入った時間の確認からかな」

亜季「聞き込みでありますな。裕美殿も協力をお願いするであります」

裕美「うん、わかった」

幕間 了

85

12月24日

財前時子の部屋

時子「おはよう」

イヴ「おはようございますぅ~。コーヒー、飲みますかぁ?」

時子「いただくわ」

イヴ「はい~」

時子「ねぇ、イヴ」

イヴ「なんですか~」

時子「……」

イヴ「どうしました?」

時子「なんでもないわ」

イヴ「そうですかぁ?」

時子「友人に会えないのも寂しいものね」

イヴ「そうですねぇ。コーヒー、どうぞ」

時子「ありがとう。そろそろ、終わりにしようかしら」

イヴ「はい。終わりにしましょうね」

時子「……そうね」

イヴ「なにか、気づきましたか?」

時子「ええ……」

イヴ「コーヒーだけ飲んでからにしましょう、ね?」

86

財前時子の部屋

時子「状況を確認させて」

イヴ「はい。今のことですかぁ?」

時子「違うわ。その前よ」

イヴ「23日の夜ですかぁ?」

時子「貴方、何者なの?」

イヴ「サンタクロースですぅ」

時子「何のために、ここに来たの?」

イヴ「プレゼントを渡すため」

時子「どうして、ここにいるのかしら」

イヴ「時子さんに助けていただいたからですぅ」

時子「……」

イヴ「どうしました?」

時子「貴方、サンタクロースの服はあるじゃない」

イヴ「ばれちゃいました?」

時子「……貴方、犯人がわかってるわね」

イヴ「なんのことですかぁ?」

時子「最初から、そうよね……」

イヴ「大丈夫ですよ」

時子「何が……?」

イヴ「私はサンタクロースですから」

時子「……」

イヴ「言ってください」

87

財前時子の部屋

時子「まずは場所」

イヴ「はい」

時子「私達が24日に訪れた場所は全て含まれてる」

イヴ「はい」

時子「最初に歩いた時には気づいていた。ここが中心だった……」

イヴ「ええ」

時子「ずっと繰り返す24日」

イヴ「繰り返す、24日です」

時子「……言えないわ」

イヴ「言えないですね」

時子「そんな小さな恐怖を、言えるわけないじゃない」

イヴ「ええ」

時子「……うう」

イヴ「どうぞ」

時子「私は言ったわ。この空間は誰かの意思だって」

イヴ「はい」

時子「聞かせて、イヴ」

イヴ「どうぞ」

時子「私なの……ね」

88

財前時子の部屋

イヴ「はい。時子さんが、この時を繰り返す意思を持っています」

時子「……そう」

イヴ「怖かったんですね」

時子「ええ……もう終わりだと思うと」

イヴ「はい」

時子「私は、この時が続けばいいのにと思っていたわ」

イヴ「はい。だから、この空間はそれに答えました」

時子「そう……追加された人も」

イヴ「あなたが関心を持つ人でしょうね」

時子「バカみたい……」

イヴ「時子さん」

時子「離れるのが怖くて、止まれと願ってしまうなんて子供みたいじゃない」

イヴ「……」

時子「私にはあそこしかないのに、みんなどこかを見つけてる」

イヴ「違いますよ」

時子「何が違うのよ!」

イヴ「そんなことで離れちゃうんですか」

時子「違うわ……」

イヴ「それに、おかしいです」

時子「何が……よ」

イヴ「なら、どうして。その人達はここにいないんですか?」

時子「へ……?」

イヴ「この時間を作り出したのは時子さんの意思です。でも、その人達はいません」

時子「当たり前じゃない。私は、皆の未来を止めるようなことはしないわ」

イヴ「そうですよね。時子さんの気持ちはそうです」

時子「そう……アハハ……」

イヴ「元気でましたか?」

時子「フ、ハッハッハ!」

イヴ「元気出たみたいですねぇ~」

時子「そうよ!そうでないと意味がないじゃない!」

イヴ「はい。本質的に意味がない空間ですよね」

時子「私の願いは叶ってない」

イヴ「ええ。だから、わかってたんです」

時子「所詮はトリガー。道具にすぎないのね」

イヴ「はい。姿を隠しきれない、依代」

時子「イヴ」

イヴ「なんでしょう」

時子「このアホな茶番を止めるわよ」

イヴ「はい。そうしたら」

時子「そうしたら?」

イヴ「プレゼント、あげますねぇ」

89

財前時子の部屋

イヴ「とは言ったものの、どうするんですかぁ?」

時子「私が異変を起こす予兆があったなら、貴方はわかるんじゃないのかしら」

イヴ「それが、犯人はわからないんですぅ」

時子「つまり?」

イヴ「この中にはいません」

時子「フムン。犯人は外側ね」

イヴ「というかぁ、時子さん」

時子「なにかしら?」

イヴ「この状況は多分、時子さんの方が詳しいと思いますぅ~」

時子「そうねぇ」

イヴ「自分でも知りすぎだと思いませんでしたか?」

時子「思い返せばそうね」

イヴ「どう思います?」

時子「おそらく、大切なのは私じゃない」

イヴ「私でもありません」

時子「シスターでもないでしょうね」

イヴ「柊さんでもないと思いますぅ」

時子「犯人が外側にいるなら」

イヴ「いるなら?」

時子「内側に意味があるのかしら」

イヴ「うーん、どうなんでしょう」

時子「なんとか外側に連絡を……あ」

イヴ「どうしましたぁ?」

時子「追加されたのは私が判別できるような人達なのよね」

イヴ「そうみたいですけどぉ、それが?」

時子「この時間、私に影響を受けるのよね」

イヴ「はい。使えます?」

時子「それで、放置してたのね。私が自分で気づかないと状況も利用できない」

イヴ「うふふ」

時子「まぁ、いいわ。もう隠し事をする必要ないから、情報は言いなさい」

イヴ「はい~」

時子「見たいと思えば見える、ね」

イヴ「それで、どうするんですかぁ?」

時子「イヴ、和菓子はどこがいいかしら?」

イヴ「和菓子屋さんないんですよねぇ。カフェにあったようなぁ気がしますぅ」

時子「フム。行きましょうか」

イヴ「どこにですぅ?」

時子「会ったことのない知人に会いに行くのよ。顔も知らないけど」

イヴ「わかるんですかぁ?」

時子「凄い肌が白いらしいから、わかると思うわ」

90

小さな稲荷

イヴ「本当に肌の白い人ですねぇ~」

時子「こんにちは。本当に会えたわね、塩見周子さん」

塩見周子「やっほー、時子ちゃん」

塩見周子
狐憑きに殺害された被害者。現在、惠の守護霊。

時子「はじめましてじゃないわね。なんだか、ずっと近くにいた気がするわ」

周子「ばれてなかった?めぐみん、凄い心配してたのに」

時子「ありがとう」

周子「ここに来てくれたお礼?」

時子「惠を、守ってくれているのね」

周子「ぜんぜん。めぐみんをダシにして、もう少しこの世を楽しんでるだけ」

時子「素直じゃないわね」

周子「時子ちゃんほどじゃない」

時子「フン。ところで、そちらはどなたかしら」

佐城雪美「時子……無事だった……?」

佐城雪美
京都の事件の被害者。惠に憑いていて、N高校の事件に関わらせた。

イヴ「どなたですか?」

周子「雪美ちゃん。知ってる?」

時子「名前だけは」

雪美「もう……大丈夫……」

周子「ありがと、雪美ちゃん」

雪美「うん……ばいばい……」

イヴ「帰っちゃうんですかぁ?」

時子「むしろ、帰れるのかしら」

雪美「私……ニセモノ」

時子「ニセモノ?」

雪美「本当の私……もう、どこにもいない……」

イヴ「幽霊としてもいないってことですかぁ?」

雪美「うん……」

周子「ばいばい、雪美ちゃん」

雪美「ばいばい……ペロ……行こう」

ニャー……

イヴ「行ってしまいました……」

時子「塩見周子、貴方はどっちなのかしら」

周子「質問に答える前に」

時子「何かしら」

周子「場所を変えよー。稲荷はアタシには最悪だからさ」

91

カフェ・スリーフィールズ

周子「はー。おいしー」

菜帆「お待たせしました~。和セットのデザートです」

周子「ありがとー」

菜帆「ごゆっくり~」

イヴ「あのぉ、味は感じるんですかぁ?」

周子「うん。ホンモノの肉体だと思うから、凄いよ。どうなってるんだろうねー」

時子「いつもはどうなのかしら」

周子「めぐみんが食べてると、おすそ分けが来るよ」

時子「あなた、ソーダアイスとか和菓子とか好きかしら」

周子「そーだけど、どうしたの?」

時子「惠に食べさせてるわね」

周子「そうだねー」

時子「わがままな守護霊ねぇ」

イヴ「守護霊?」

時子「説明してなかったわね」

周子「アタシ、死んでるんだよね」

イヴ「それはわかります」

周子「わかるんだ」

イヴ「サンタクロースなので」

周子「でさー。色々あって、和服の子に呼び戻されて、めぐみんを守って欲しいって頼まれて、今に至る」

時子「惠は、私のサークルのメンバーよ」

イヴ「守護霊なら、離れられないんじゃないんですかぁ?」

周子「そうなんだよねー」

時子「だから、おかしい」

周子「電話つながったもんねー」

時子「出たのは、貴方ね」

周子「そういうこと」

時子「その時点で、ここにはいたのね」

周子「そうなんじゃない?」

イヴ「あのー、なんでおかしいんですかぁ?」

周子「いれるはずないんだよね」

時子「惠の傍にいるのよね?」

周子「うん。確実にいると思う」

イヴ「なら、あなたは何なんですか?」

周子「雪美ちゃんみたいにニセモノ……というにはちょっと違うか」

時子「分身かしら」

周子「そうそう、それそれ」

イヴ「えっと……」

周子「なんかよくわかんないけどさー、ここにアタシがいるわけ」

時子「私が会いたいと思っているから、いれるようね」

周子「でも、アタシは外にいる」

イヴ「それじゃあ、もしかして」

時子「貴方、惠とコンタクト出来るわね?」

周子「うん。電話も最初はめぐみん本人だったよ。聞き取れないからアタシに変わったけど」

時子「聞き取れない……?」

周子「あ、言ってなかったっけ?」

時子「大切なことは何も話してないわよ」

周子「あ、そうだねー。ま、焦らなくても全然いいんだけどさー」

イヴ「焦らなくていい?」

周子「外側、ほとんど時間進んでないから」

92

カフェ・スリーフィールズ

時子「進んでない……?」

周子「やっと12時過ぎたくらい」

時子「いつの?」

周子「24日」

イヴ「ということは」

時子「内側の方が時間の進みが速い」

イヴ「でも、同じ日が繰り返されてる」

周子「ふむふむ。中の状況はそんな感じだって、めぐみん」

時子「惠には伝えられてるの?」

周子「たぶん。外の方が遅いから反応に時間がかかるよ」

イヴ「外側から、この周辺はどう見えてるんですかぁ?」

周子「壁」

時子「壁?」

周子「縞々模様が入ったドームが出来てて、そこに入れない感じ」

時子「内側からはそれは見えないわ」

周子「不思議だよねー。あ、めぐみんが反応した」

時子「伝わってるのね」

周子「良かった。無事なのね、って」

時子「……」

イヴ「心配してくれてるんですね」

周子「頑張って調べてくれてるよ。何にも進展ないけど」

時子「そう……」

イヴ「外側で何か見つかってますかぁ?」

周子「何にも」

時子「フム……」

イヴ「何を考えてるんですかぁ?」

時子「もう私は24日はいらないわ」

イヴ「はい」

時子「でも、この世界はこのまま」

周子「そうだねー」

時子「なら、私以外の誰かの意思も残ってるわ」

イヴ「でも、どなたでしょう」

時子「少しずつ潰していきましょう」

周子「何を?」

時子「人よ。貴方と同じように呼ばれた人物が複数いるわ」

周子「幽霊?」

時子「質問があるわ」

周子「なにー?」

時子「佐城雪美はどうして、自分がニセモノだと気づいてたの?」

周子「幽霊としてここに留まろうと、思ってなかったから」

イヴ「つまり、もういないんですか」

周子「雪美ちゃんはどこにもいないよ」

時子「その記憶があったということよね」

周子「うん。アタシも死ぬ直前の記憶はあるから、そうじゃない?」

イヴ「……さらっと言いますねぇ」

時子「なら、彼女達にもあるということね」

イヴ「そうなりますねぇ」

時子「私の意思で連れてこられたなら、落とし前くらいつけるわ」

93

待ち人の十字路

時子「貴方」

奈緒「なんだよ」

時子「神谷奈緒ね」

奈緒「ん……なんで、名前知ってるんだ?」

時子「偶々ね。誰を待っているのかしら」

奈緒「加蓮だよ」

時子「フルネームは」

奈緒「なんで、そんなこと……」

時子「答えなさい」

奈緒「北条加蓮」

周子「北条加蓮さんは……ちょっと待って」

イヴ「どうして待ってるんですかぁ?」

奈緒「遊びに行く約束をしてたんだよ。だから」

時子「その予定は今日だったの?」

奈緒「そうだって。変な人達だな」

時子「今日は何日かわかるかしら」

奈緒「12月24日クリスマスイブは間違えないだろ」

時子「本当に?」

奈緒「本当」

時子「塩見周子、惠から返答は?」

周子「病院にいるから、清良ちゃんに聞いてみるってさ」

奈緒「惠、って誰だ?」

時子「知らなくていいわ」

奈緒「もういい、行っても……」

時子「神谷奈緒」

奈緒「なんだよ」

時子「あなたは、生きてないわ」

奈緒「……」

時子「6月に亡くなったわ。貴方は」

イヴ「……」

奈緒「そっか……やっぱり、か」

時子「気づいてたのかしら」

奈緒「なんとなく、おかしいなってさ……ここで待ってれば来るのかな、加蓮も」

周子「返答来たよ」

時子「聞かせなさい」

周子「加蓮ちゃん、夏に退院したって。今は元気らしいよ。通院はしてるけど、元気だってさ」

奈緒「本当なのか?」

周子「うん。本当」

奈緒「それじゃ、加蓮は来ないのか?」

時子「ここには来ないわ。いつまで待ってても」

奈緒「そっか……」

イヴ「悲しいですか?」

奈緒「悲しい……?」

時子「亡くなってしまったのは事実だもの」

奈緒「あっはっは、悲しいわけないだろ!」

周子「へー」

奈緒「良かったぁ、加蓮、元気にやってるんだ」

時子「……」

奈緒「あー、もう……なんで退院まで待ってやらなかったんだろ」

時子「神谷奈緒……」

奈緒「良かった。それだけがさ、心残りでさ」

周子「あるよね、心残りはさー」

奈緒「良かったぁ。それならさ、次があるだろ」

時子「ええ……」

奈緒「運良ければ、元気なアイツに会えるだろ?」

イヴ「はい。次に行きますか?」

奈緒「うん。教えてくれて、ありがと」

周子「ううん、偶々」

奈緒「それじゃ、行くよ」

時子「さよなら。お元気で」

イヴ「また会いましょうねぇ~」

時子「……」

イヴ「無事に辿り着けるでしょうか」

周子「大丈夫。そこは優しいから」

時子「一つ質問していいかしら」

周子「なにー?」

時子「当然のように言ってるけど、生まれ変われるの?」

イヴ「知りたいですかぁ?」

時子「辞めておくわ。自分で会うまでは信じないことにするわ」

周子「気づいてないんだ」ボソッ

時子「何か、言ったかしら」

周子「なんでもなーい。次は?」

イヴ「ケーキ屋さんですぅ」

94

ケーキ屋・エクスピアンシオン

周子「あの子達……?」

時子「そうよ。もしかしたら、貴方の方が詳しいかもしれないわね」

周子「そうだねー」

イヴ「どうしますかぁ?」

周子「二人は舞台装置なだけだと思う」

時子「なら、一人だけなのね」

イヴ「どなたですか?」

周子「大石泉ちゃん、だと思う」

時子「フム。イヴ」

イヴ「はい~」

時子「村松さくらと土屋亜子を止めておいて」

イヴ「かしこまりましたぁ~。イートインでお茶でも飲んでますぅ~」

周子「アタシ達は……」

時子「大石泉に話を聞きましょう」

95

ケーキ屋・エクスピアンシオン前

泉「……わかってる」

時子「……」

周子「……」

泉「知ってる。おかしいって気づいてる。でも」

時子「でも……?」

泉「でもじゃない……なんで」

周子「……」

泉「ずっと続くと思ってた。今年のクリスマスだって二人と過ごせると思ってた」

時子「……」

泉「でも、私が、こ……して」

周子「違う」

泉「違う?どうして、私が私が、私が……」

周子「違うよ。あなたは犯人じゃない」

泉「取り繕わないでよ!」

周子「だって、アタシは被害者なんだよ。言わば先輩」

泉「え……?」

時子「嘘じゃないわよ」

周子「犯人、捕まったよ」

時子「ええ。貴方の死後、被害者を増やし続けてから捕まったわ」

泉「……それじゃ」

周子「ねぇ、質問するよ」

泉「……」

周子「狐に憑かれたくらいで、親友を殺せるの?」

泉「……」

時子「私はしないわ」

周子「ね?」

泉「本当……?」

時子「ええ」

泉「なら……」

時子「危険なものに近づいたのはいただけないわ」

周子「忠告したのにねー」

泉「あ……あなたは」

時子「でも、あなたが死んでなお自分を責めるその罪はないわ」

周子「そういうこと」

時子「だから、もういいのよ」

周子「一緒にケーキでも食べてから、二人も連れて行って」

時子「貴方が連れてきたのよ」

泉「いいの……?」

時子「別に。自分が赦せないならそれでもいいわ」

周子「大丈夫、って意味だから」

泉「わかった……」

時子「一緒にお茶を飲んでる、イヴを呼んできてちょうだい」

泉「うん……ありがとう」

周子「じゃあねー」

96

逢魔が辻

周子「ここで良いの?」

イヴ「はい。そろそろ来るはずですねぇ」

時子「来たわ」

周子「げっ」

時子「げっ?」

周子「かなりヤバイやつじゃん。めぐみんが危険だから遠ざけたのに」

時子「あれも貴方の入れ知恵だったのね……」

イヴ「こんにちは~」

若葉「こんにちは~」

若葉「お元気ですか?」

若葉「お久しぶりです~」

若葉「また、裁縫部に来てくださいね」

若葉「良いお天気ですね~」

周子「ん……あれ?」

時子「どうしたのかしら」

周子「全然危険を感じないねー。もしかして、普通の人間?」

イヴ「どうもそうみたいですぅ」

時子「一杯いるけどね」

若葉「?」

若葉「あの、どうしました?」

若葉「お腹が空きました」

若葉「寒い日が続きますね~」

若葉「風邪には気をつけてくださいね~」

イヴ「どうします?」

周子「まず聞いてみよっか。あなた達は何者なのー?」

若葉「私は私」

若葉「達?」

若葉「達ってどういう意味ですか?」

若葉「私は私なのに」

若葉「ねー」

イヴ「……?」

周子「一人なんだ、やっぱり」

時子「こっちから見てると個体のようだけど、違うのようね」

周子「でも、吸血鬼になってからは違うんだよねー」

時子「個体で優劣差が出来たから保てなくなったのね」

若葉「吸血鬼?」

若葉「個体差?」

イヴ「あの、やりたいことはありますか?」

若葉「大学でお勉強したいです!」

若葉「お裁縫が上手くなりたいです~」

若葉「楽しいキャンパスライフがしたいです!」

若葉「綺麗な服が着たいです~」

若葉「……人の世界で楽しく暮らしたいです」

時子「偽りのない本音のようね」

周子「でも、出来なかったんだよね」

イヴ「なんでですかぁ?」

時子「所詮、血を吸う怪物だったからよ」

若葉「……」

周子「話せるのはあなたかな?」

若葉「そんなにいけないことですか?」

時子「何が?」

若葉「私が人の世界にいることがいけないんですか」

時子「そうじゃないわ」

若葉「そうじゃ、ない?」

時子「いてもいいのよ。貴方は好かれていたわ」

若葉「……」

時子「だから、どんな逃げ道もあったのに」

イヴ「……」

時子「どうして、耐えられなかったのかしら」

若葉「……」

時子「行きなさい。いいわね?」

若葉「わかりました……行こう、私」

若葉「うん」

若葉「ばいばーい」

若葉「また、お会いしましょうね~」

若葉「さようなら~」

周子「何か間違えたのかな、やっぱり」

イヴ「難しいところですねぇ~」

時子「少なくともうまく行ってたのに、自分で捨てたのよ」

周子「そうは言ってもねー。なにごとも全てうまくいくわけないじゃん?」

時子「だからこそ、踏み越えちゃだめなのよ」

イヴ「どなたかいてくれれば良かったですねぇ」

時子「……そうね。次に行きましょうか」

97

相護公園

時子「いない……?」

周子「斉藤洋子さん、だっけ」

イヴ「いないですねぇ」

智香「誰かお探しですか?」

時子「斉藤洋子さん……は知らないわね」

智香「斉藤さん?」

時子「ランニングしている女性を見なかったかしら」

イヴ「ジャージを着てましたぁ」

智香「見てないですねー」

周子「……気づいた?」

イヴ「かもしれませんねぇ~」

笑美「智香ちゃん、買って……なんや、揃って深刻そうな顔して」

時子「なんでもないわ。お邪魔したわね」

周子「……」

イヴ「どうしましたぁ?」

周子「アタシ達もタコヤキ食べて行こうよ、タコヤキ」

時子「今は……あら」

周子「シスターがいるみたいだしさ」

98

相護公園

クラリス「はじめまして」

美由紀「こんにちは~」

周子「……」

クラリス「どうかなさいましたか?」

周子「なんでもなーい」

クラリス「芳乃さんが言っていたお方ですね」

周子「知ってるんだ」

クラリス「はい。何かわかりましたか?」

時子「ええ、随分とわかったわ」

クラリス「そうなのですか、イヴさん?」

イヴ「はい」

時子「そういうことね」

周子「どーゆうこと?」

時子「知り合いなのね、貴方達」

クラリス「はい」

美由紀「うん」

イヴ「はい」

時子「……言い訳もなにもしないのね」

クラリス「ええ。第一の原因は特定できたようですね」

時子「そうね。でも、この空間は消えてない」

クラリス「はい。貴方は日々が永遠に続くことを祈ったようですが」

時子「別の誰かがいるのね」

クラリス「そう踏んでいます」

イヴ「誰でしょうかぁ?」

周子「まずは、その斉藤洋子さんかなぁ」

時子「見てないかしら」

美由紀「来てないよー」

イヴ「他の人達と違いますぅ」

クラリス「吸血鬼ですから」

美由紀「勝ててもおかしくないよ」

周子「そうみたいだねー」

クラリス「ですが、本質ではありません」

時子「なぜかしら」

クラリス「因果が逆です。それに」

時子「思い出したわ。彼女、時を止める理由はもうないのね」

クラリス「ええ。この世界で会えているかもしれませんが」

時子「幻に浸ってられる人じゃないわね」

クラリス「なら、どなたでしょうか」

時子「シスタークラリス」

クラリス「はい。どうかいたしましたでしょうか」

時子「なぜ、問いかけるのかしら」

クラリス「答えは貴方の内側にあるからです」

時子「フン……そうね。もうわかってるわよ」

イヴ「そうなんですかぁ?」

周子「勘?」

時子「共犯のよしみもあるけど、違うわ。確証もあるわよ」

芽衣子「あの、何を話してるんですか?」

クラリス「……」

時子「驚かせないで。どうしたのかしら?」

芽衣子「さっき、智香ちゃんから聞きました。どなたかお探しですか?」

時子「斉藤洋子さん、っていうジャージでランニングしている女性よ。知ってるかしら?」

イヴ「昼間に来たりしましたか?」

芽衣子「うーん、ごめんなさい。わからないです」

時子「そう。わざわざ聞きに来てくれてありがとう」

芽衣子「いえいえ。またどこかで会いに行きますねー。財前時子さん」

時子「ええ」

芽衣子「雪が降るから早めに帰ってねー。それでは、さようなら」

周子「ん……なんだろ」

クラリス「どうかしましたか」

周子「あの人のキャリーケース、ヤバイものが入ってる気がするんだけど」

時子「それは、勘なの?」

美由紀「守護霊は危険を感じ取りやすいんだって、芳乃ちゃんが言ってた」

周子「そういえば根高公園で会った時も妙なもの、勧めてたなー。どっから拾ってくるんだろ?」

クラリス「ふむ……」

イヴ「止めますか」

クラリス「やめておきましょう」

時子「何の話をしていたかしら」

周子「時子ちゃんが確証を持ってる犯人の話」

クラリス「ええ。どなたでしょうか」

時子「待っていれば会えるわ」

イヴ「待つ……?」

時子「雪が降る頃には、ここに来るわ」

クラリス「……」

時子「その前に確認を。イヴ、着いてきなさい」

イヴ「はい~」

時子「それと、塩見周子」

周子「なにー?」

時子「お願いがあるわ」

99

トマル聖ヤ

相護公園付近

イヴ「雪が降ってきましたねぇ」

時子「この雪も本当は降らない雪なのよね」

イヴ「はい。気づきました?」

時子「見ようと思えば見えるものね」

イヴ「あの子もですか?」

時子「あの子はずっと見えてるわ」

蘭子「久しいな、時の子よ」

時子「お久しぶり」

蘭子「時間は止まる。絶対不可侵という欺瞞」

時子「イヴ……あそこを」

イヴ「時計が止まりました……」

蘭子「聞こえし歌が我を連れ戻した」

時子「続けて」

蘭子「願いはなんぞ。音は響きて歯車を止めん。止まる聖夜に何を願う」

イヴ「続けばいいのに、と止まればいいのには違いますもんね」

蘭子「左様。天界より見える世界はいかようであろうぞ」

時子「外からこの世界を見たら、どう見えるか」

蘭子「それは夢幻」

イヴ「外から見るのが目的……」

蘭子「汝、かつては依代」

時子「少し前まではね」

蘭子「居場所を見つけたか」

時子「ええ。でも、これからよ」

イヴ「はい」

蘭子「よかろう」

時子「貴方は、何か思い残したことはないのかしら」

蘭子「答えられぬ」

イヴ「どうしてですかぁ?」

蘭子「那由他ゆえ」

時子「我儘な少女だったのねぇ」

蘭子「我は去らん。聖夜の狂言回し、一興であった」

時子「闇に飲まれよ」

蘭子「ふふっ……闇に飲まれよ!」

時子「……」

イヴ「ずっと教えてくれてたんですねぇ~」

時子「ええ。面白いわね……彼女」

イヴ「願いはたくさんあるから、こんな場所では叶えられないかぁ」

時子「行きましょうか。早く、送り出してあげましょう」

イヴ「はい~」

100

トマル聖ヤ

相護公園

周子「おかえりー。わかった?」

時子「間に合ったようね。そっちは」

周子「めぐみん達に確認できた。ばっちし」

時子「止まりたいと思ってた?」

周子「死ぬくらいなら時を止めたいでしょ?」

時子「そうね」

周子「病状は意識不明。どこに意識があるんだろうねー」

時子「ここにあるんでしょう」

美由紀「時子さんは何を調べてきたの?」

クラリス「お聞かせください」

イヴ「しっかりと確認してきましたぁ~」

時子「ええ」

イヴ「私が調べてきたのは、もう一つのパターンですぅ」

時子「24日にいなくて、閉じ込められる前に帰ってきた人々は24日に帰れない」

クラリス「その人々はどうしていたのですか?」

イヴ「単純ですぅ」

時子「止められてた。私のアパートの隣人で確認済み」

クラリス「ふむ」

周子「内側にいるなら影響力あるってこと?」

時子「そういうこと」

イヴ「でも、絶対に居てはいけない人がいますぅ」

周子「アタシみたいに突然ここに呼ばれたわけでもなく」

クラリス「閉じ込められる前に帰ってきたわけでもない」

美由紀「この日にいたニセモノじゃない人?」

イヴ「そうですぅ。ただ、この世界に分身を送って眺めている少女」

時子「閉じ込められた時間帯にはその人達もいない」

周子「そんな時間に入れちゃいけないんだ」

時子「ええ。入れないはずの時間に現れて、出れない時間に出ていく」

イヴ「来ましたねぇ~」

時子「こんばんは、望月聖」

101

トマル聖ヤ

聖「なに……?」

時子「わかるわよね」

聖「なにを……なにを聞いてるの……?」

時子「ここに来るのは何回目?」

聖「はじめて……」

時子「讃美歌は歌えるかしら」

聖「……」

時子「考えてる時点で、わかるわよ。それに」

聖「……」

時子「私も共犯だから」

聖「なら……わかる」

時子「貴方は外の世界では寝てるわ」

聖「先が……ないの……怖い」

時子「ええ。失ってしまうのは怖いわ」

聖「……」

時子「だから、この早い時間を作って眺めていた」

聖「そうしたら……歌えるって」

時子「ずっとずっと、ね。肉体は死ぬことはないわ」

聖「それを……願ったらいけないの……?」

時子「ええ」

聖「なん……で?」

時子「負けるんじゃないわよ」

聖「……」

時子「こんな箱庭で歌ってても楽しくないでしょうに」

聖「……」

時子「貴方の願いは歌を、聞いてほしい、だったわ。私にそう言ったでしょう」

聖「うん……」

時子「だから、逃げるんじゃないわよ。私との約束を守りなさい」

聖「……あっ」

美由紀「危ない!」

周子「めぐみん!」

時子「な、なによ、これ」

美由紀「クラリスさん、こっち!」

クラリス「はい」

イヴ「音叉みたいな形をした怪物ですねぇ」

時子「呑気に言ってんじゃないわよ!」

周子「めぐみんから連絡!」

時子「なによ!逃げるわよ!」

周子「あっちで聖ちゃんにくっついてる怪物が暴れてるって」

時子「チッ!」

聖「あ……あぁあ……」

時子「聖!」

イヴ「あの子は、ニセモノですぅ」

時子「でも」

周子「んー?」

時子「上なんか見上げて、何が……ハァ?」

スドーン!

イヴ「斉藤洋子さんですぅ」

周子「ひぇー、凄いなぁ。亜季ちゃん、良く勝てたね」

時子「貴方……」

洋子「こいつ、どうしたらいい?」

時子「適当に遠ざけて」

洋子「よいっしょ、っと!」

時子「公園の端まで飛んでいったわ……」

洋子「さて、私は何をすればいい?」

時子「貴方、自分の状況をわかってるかしら」

洋子「もちろん。だから、一つお願いしていいかな」

イヴ「何ですかぁ?」

洋子「この空間、消えても私に少しの時間は残る?」

時子「わからないけど……願ってみるわ」

洋子「ありがと。あれは止めておくから」

時子「ええ……退散するわよ」

102

時子「シスタークラリス!」

イヴ「ご無事ですか?」

クラリス「はい」

周子「え……本当に?」

クラリス「外の様子は?」

周子「内側にかなりの数の敵がいるみたい」

時子「本体は外ね」

美由紀「クラリスさん」

クラリス「どうしましたか、美由紀さん」

美由紀「楓さん達、がんばってるみたい。空の色が変わったの」

時子「縞模様のドームが見えたわね」

イヴ「はい。あれが原因」

周子「でも、変なの浮いてるよ。音符みたいな形したのが」

時子「望月聖を使っているのだから、音楽に関連したものなんでしょうね」

クラリス「本当に見えますか?」

時子「何が……?」

ウィン!

周子「なんか来たよ」

時子「チッ、戦える人はいないってのに」

イヴ「来なさい、ブリッツェン!」

ズガーン!

美由紀「雷……?」

周子「凄い音がしたねー」

クラリス「稲妻の名を持つだけあります」

時子「吹っ飛んだわ」

ブリッツェン「ブモッ」

イヴ「良い子ですぅ~」

ブリッツェン「ブモモ!」

時子「間抜けな顔してた割に凄いのね……」

クラリス「美由紀さん」

美由紀「見えるよ、クラリスさん」

クラリス「皆様、美由紀さんにしたがって下がっていてください」

イヴ「はい~」

時子「何をするつもりかしら」

クラリス「あの壁を壊します」

103

美由紀「もっと、こっち!」

イヴ「だいぶ離れましたよぉ~」

周子「何があるの?」

時子「おかしなもの近づいてきてるわよ」

美由紀「大丈夫。クラリスさーん!」

クラリス「……」コクリ

時子「何が始まるのかしら」

美由紀「クラリスさんはね、神様に愛されてるんだ」

時子「……」

美由紀「だから、不浄な世界なんて見せないの」

イヴ「不浄……?」

美由紀「クラリスさんが見るのは、光ある世界だけなの」

時子「眼帯、外したわね」

美由紀「だからね、クラリスさんをこう呼ぶの」

イヴ「……アバドン」

クラリス「美由紀さん、誰も視界に入ってませんね?」

美由紀「うん」

時子「聖職者に似つかわしくない名前ね、それは」

美由紀「クラリスさんが見るよ。クラリスさーん、頭の上だけだよ!」

クラリス「わかっております……」パチリ

時子「何も起こらないじゃ……」

バキン!

周子「ドームにヒビが入ったねー、あれ?」

イヴ「夜空が見えました~」

時子「視認したもの、すべて消失……バカじゃないの?」

クラリス「おしまいですね。美由紀さん」

美由紀「はーい」

時子「何もなかったかのように眼帯つけたわね……」

周子「よし、つながった。アタシは先にめぐみんの所に帰るねー。ばーい」

時子「ありがとう、助かっ……もういない」

イヴ「敵がたくさんいますねぇ~」

時子「イヴはどうするのかしら」

キーン!

時子「ソニックブーム……?」

イヴ「本格的に動き始めましたねぇ」

時子「少なくとも音速……」

クラリス「音がしますね」

美由紀「クラリスさん、安全な所に隠れてよう?」

クラリス「はい。それでは、失礼します」

イブ「お気をつけて~」

時子「どうするの、敵は」

イヴ「楽勝です」

時子「楽勝、っていつの間に着替えたの?」

イヴ「サンタなら赤い服はいつでも着れて当然ですぅ。ブリッツェン~」

ブリッツェン「ブモモ!」

イヴ「ダッシャー、ダンサー、キューピット、ルドルフ!」

時子「増えた」

イヴ「プランサー、ヴィクセン、コメット、ドンダー!」

時子「ソリまで出てきたわ……」

イヴ「行ってきますぅ~」

時子「行けるのかしら、相手は速いわよ」

イヴ「音速を越えられなくて、サンタクロースは務まりませんっ!」

時子「そうなの……?」

イヴ「少し待ってくださいねぇ」

時子「何を?」

イヴ「プレゼントですぅ。行きますよ~、みんなー!」

時子「本当に速いわね……もう一匹落としたわ」

ゴドン!

時子「しまった、一人になるんじゃなかったわ」

時子「望月聖と関係があるのかしらねぇ……もう、なさそうね」

104

時子「さて、この場をどうやって……」

恵磨「おぉ、りゃあぁぁぁぁ!」

裕美「ナイスパンチ!」

恵磨「ありがと!時子ちゃん、無事だった!?」

時子「恵磨……」

恵磨「ほらっ!ぼーっとしてるヒマはないよ!」

時子「ええ……無事よ」

裕美「とりあえず、逃げて!あの泥人形は私が……」

恵磨「待って。誰か……いる」

裕美「この感じ……って」

恵磨「怪物倒してくれてるから、敵ではない……」

時子「紅い目……」

裕美「洋子さん……?」

洋子「……」

恵磨「うそっ、復活したの?」

時子「違うわ。幽霊みたいなものかしら」

裕美「話せる……?」

時子「時間があまりないわ」

裕美「うん、行ってくる」

恵磨「大丈夫なの?」

時子「大丈夫よ……私が言うんだから大丈夫よ」

恵磨「?」

洋子「裕美ちゃん」

裕美「洋子さん?」

洋子「元気に……してる?」

裕美「うん……元気だよ」

洋子「寂しくない?」

裕美「寂しくないよ」

洋子「そう……良かった」

裕美「洋子さん、あのね」

洋子「ごめんね」

裕美「謝らないで」

洋子「……そうだよね」

裕美「気づいてあげられなかった」

洋子「……ありがと」

裕美「私は大丈夫だから」

洋子「うん。元気でね」

裕美「さよなら、洋子さん」

時子「……」

恵磨「もっと話せることがあったんじゃないの?」

裕美「いいの。だって、勝手に行っちゃうし」

時子「そうね」

裕美「言えてよかった。大丈夫って」

時子「関裕美、ここはお願い。敵は貴方には叶わないわ」

裕美「任せて」

時子「よろしい。恵磨、望月聖のところに案内して」

恵磨「S大学付属病院に?」

時子「そうよ」

105

S大学付属病院

亜里沙「時子ちゃん!」

時子「亜里沙」

亜里沙「もー、心配したんですからね!」

時子「……ありがとう。亜里沙」

亜里沙「今日は正直ねー。よしよし」

時子「無理して頭を撫でなくていいわ」

恵磨「望月聖ちゃんは?」

亜里沙「病棟。行く?」

時子「行くわ」

亜里沙「とっても行きにくいんだけど、それでも行く?」

時子「愚問よ。着いてきなさい」

106

S大学付属病院・小児科病棟

時子「惠」

惠「時子ちゃん、大丈夫だった?」

時子「知ってるでしょうに」

惠「ええ」

時子「望月聖は?」

惠「この先」

時子「で、行けないのね」

亜里沙「はい。あの子が離れてくれないの」

恵磨「あれ、なんなん?」

惠「良くわからないわ。服装はどことなくエキゾチックだけど」

時子「どことなく望月聖に似てるわね」

恵磨「あ、時子ちゃん」

時子「行かないといけないでしょう。おそらく、この子が本体よ」

亜里沙「うん」

惠「安全だそうよ。今のところは」

時子「でしょう。少しだけ話してくるわ。待ってなさい」

亜里沙「素通り……病室に入っていっちゃった」

恵磨「アタシ達は入れないみたいだね」

惠「ええ……待ってましょう」

107

S大学付属病院・小児科病棟

恵磨「消えた……」

惠「外の様子を聞いてみるわ。亜季ちゃんでいいかしら」

亜里沙「時子ちゃん、戻ってきた」

時子「終わったようね」

惠「亜季ちゃん、外の様子はどう?」

恵磨「静かになったね」

亜里沙「解決した?」

時子「おそらく」

亜里沙「何を話したの?」

時子「共感、愚痴、自己紹介、それと」

惠「全部、いなくなった?本当?」

恵磨「それと?」

時子「約束をしなおしたわ。指切りげんまんとか久しぶりね」

亜里沙「約束?」

時子「秘密にしておくわ」

惠「時子ちゃん?無事よ、あ……報告してなかったわ」

時子「皆、無事かしら」

惠「無事よ」

恵磨「ふー、お腹減った」

亜里沙「そうですねー。時子ちゃん、ご飯に行こう?」

時子「ええ……久しぶりだわ」

恵磨「久しぶり、そっか」

惠「改めてお帰りなさい、時子ちゃん」

時子「ただいま」

108

S大学付属病院前

清良「……」

イヴ「……」

時子「なんで、あの二人は睨み合ってるのかしら」

イヴ「あ、時子さーん!」

恵磨「あれがサンタクロース?」

亜里沙「トナカイ9頭引きのソリなんて初めて」

惠「赤鼻のトナカイなんて本当にいるのね……」

時子「柳清良、大丈夫。知り合いよ」

清良「ああ……そうなの」

時子「妙に納得しないでちょうだい」

イヴ「これ、子供達に配って欲しいんですぅ~」

時子「変なものじゃない、本物だから貰ってあげて」

清良「一応チェックするけど、いいかしら?」

イヴ「はい~。お願いしますねぇ」

清良「ありがたくいただきます、サンタさん」

イヴ「どういたしましてぇ~」

時子「それだけかしら」

イヴ「いいえ」

時子「何かようでも?」

イヴ「時子さん、クリスマスプレゼントは何が欲しいですかぁ?」

時子「欲しいものは自分で手に入れるわ」

イヴ「ふふ、さすが時子さんですねぇ~」

時子「ええ。決して、手放したりしないわ」

イヴ「そう言うと思ったので、ちゃんと準備をしてましたぁ」

時子「イヴ、ひとつ質問していい?」

イヴ「はい、どうぞー?」

時子「プレゼントを渡したい相手って誰だったのかしら」

イヴ「時子ちゃんですけど?」

時子「さらりと言うわねぇ」

イヴ「それじゃ、私から皆さんに質問です」

時子「何かしら」

イヴ「サンタクロースは信じていますか?」

惠「たった今、目の前にいるから信じたわ」

亜里沙「私はサンタ役のほうかな」

恵磨「はぁとさん、グリーンランドまで探しに行ったのに」

イヴ「時子ちゃんはどうですか?」

時子「前にも言ったでしょう。それを考える時なんてなかったわ」

イヴ「だから、否定することもありませんでしたね?」

恵磨「え、そうなの時子ちゃん?」

イヴ「このつまらない作り物のパーティーの外で、本物がいると願ってたんですよ」

惠「……ふふ」

亜里沙「……かわいい」

時子「な、なに言ってるのよ、イヴ!」

イヴ「うふふ~。それじゃ、素直な子供にプレゼントですぅ」

恵磨「サンタブーツだ」

惠「定番ね」

時子「色々と気になるけど……ありがとう、イヴ」

イヴ「こちらこそ。そういえばぁ、言ってませんでしたぁ。メリークリスマス!」

時子「メリークリスマス」

亜季「時子殿を発見したであります!ほら、急ぐであります!」

久美子「待って、亜季ちゃん!」

優「速いよー」

イヴ「お友達が来ましたよぉ。元気でいてくださいねぇ」

時子「ええ……元気でね、イヴ」

イヴ「さようなら~。さ、皆行きますよぉ~」

パッカラパッカラ

恵磨「普通に公道走って行ったね」

亜里沙「のんびりしてますね」

時子「さっきまで衝撃波ぶちたてながら、飛んでたのに」

恵磨「そういえば、見た。あれだったんだ……」

惠「ところで」

亜里沙「プレゼント、なんだったんですか?」

時子「何かしら……ふ」

亜季「時子殿、ご無事でありましたか?」

久美子「大丈夫だった!?」

優「心配したんだからぁー」

時子「ふ、ふふ」

亜季「どうしたでありますか?」

恵磨「そんなにいいもの入ってた?」

時子「ええ……わけのわからない、お菓子とオモチャがこれでもかと突っ込んであるわ……」

エンディングテーマ

Time Zone

歌 財前時子

109

後日

出渕教会・地下1階

クラリス「敵を確認しました」

美由紀「たぶん」

裕美「……」

松永涼「今回の事件はこれで終わり。問題はそこか」

白坂小梅「うん……やっと、見つけた」

松永涼
死神。曰く、望月聖の死期は検討がつかないくらい先とのこと。

白坂小梅
ネクロマンサー。疲労困憊だったが、ようやく復活した。

高垣楓「異世界の敵を招き入れている、敵」

高垣楓
捕食者。今回現れた泥人形は食べられたものではなかったらしい。

依田芳乃「どこにいたのでしてー?」

依田芳乃
退魔師。今回は出番なくお留守番。戦闘能力はほぼない。

クラリス「あの空間がどういうものか知っていて入り込んだと思います」

涼「まさか、中にいたのかよ」

クラリス「はい。舞台装置の振りをしていたのでしょう」

美由紀「……」

楓「どうして、気づいたのですか」

クラリス「違和感はありました。その先に何が起こるかを知っていましたから」

裕美「だけど、そんなんじゃない」

クラリス「目の前に現れましたから」

涼「はぁ?」

クラリス「聞いてきました。どうでしたか、あの空間は楽しかったですか、と」

小梅「わざわざ……姿を現したの?」

芳乃「思考が意味不明なのでしてー」

楓「それで、誰なのですか」

クラリス「敵は、トラベラー」

小梅「トラベラー……?」

涼「大きな事件があると現れる、史上最強の野次馬、トラベラーか」

楓「ふむ……時空間を移動する力があるならそれも可能ということでしょうか」

芳乃「知った後でも行けるのでしてー」

クラリス「はい。名前は、並木芽衣子」

裕美「名乗ったんだよ、私達の前で」

クラリス「はい」

涼「で、どうすんだ?」

クラリス「倒します」

涼「簡潔でいい」

クラリス「この美しい世界を私達は渡したりしません。光あれ」

110

SWOW部室

時子「……」

芽衣子「このコーヒー、おいしーい。勝手にいただいてます」

時子「見れば、わかるわよ」

芽衣子「今日は誰もいないんですね」

時子「もともと、メンバーを束縛したりしてないわよ」

芽衣子「来たい時に来たいだけ。良い間柄」

時子「そう……貴方が」

芽衣子「はい。私が黒幕なんです、びっくりしました?」ニコニコ

時子「フン。私の名前、いつどこで覚えたのよ」

芽衣子「あらー、失敗してました?うまくいったと思ったのにー」

時子「外から入り込んだのね」

芽衣子「違いますよ」

時子「違う?」

芽衣子「私は昨日、エルサルバドルの民宿からあそこに飛んだんですよ」

時子「時間も戻れるのね」

芽衣子「はい!私はトラベラーですから!」ニコニコ

時子「……」

芽衣子「あれ?どうしました?」

時子「……今日は何をしに来たのかしら」

芽衣子「お話を聞きにきたんです!」

時子「話……正体を明かしてまですることかしら」

芽衣子「はい、もちろん」

時子「何を聞きたいのかしら」

芽衣子「楽しかったですか?」

時子「ハァ?」

芽衣子「楽しかったって聞いてるんですよ?」

時子「言葉の意味はわかるわ。貴方の意図がわからない」

芽衣子「あの非日常、楽しくありませんでした?」

時子「何が起こったか、すべて見てて、よくそんなことが言えるわね」

芽衣子「え?見てなかったら楽しくないじゃないですか」

時子「貴方……面白いからやってるの?」

芽衣子「そうですよ?」

時子「……困ったわね」

芽衣子「それで、どうでした?」ニコニコ

時子「そうね。認めるわ」

芽衣子「でしょー?別の人間が出会っても面白いことが起こるんだから、面白くないわけないでしょ?」

時子「別の人間……」

芽衣子「例えば、宗教戦争とか。テロとか。人種差別とか。出会ったことによる化学反応なんだよ」

時子「……」

芽衣子「文化の混じり合いとか。異世界ならもっと楽しいことが起こるんですよ?」

時子「でも、それはダメよ。人の世界を壊してまで、見るものじゃないわ。映画でも見てなさい」

芽衣子「血を吸う怪物は?」

時子「なに?」

芽衣子「狐は?吸血鬼は?堕天使さんは?人魚姫は?」

時子「全て、貴方の仕業」

芽衣子「私は何もしてませんよ?ゲートを開けてあげて、この世界の話をしてあげただけです。それで、来てくれたんですよ、嬉しい!」

時子「……」

芽衣子「あっ、吸血鬼さんは違いました。1600年代に飛んで、この町に勝手に連れてきちゃったんでした。あの人、本当に400年寝てたと思い込んだんですよー、凄いよねっ?」

時子「冗談きついわ」

芽衣子「そんな顔しないでください。調査、楽しかったでしょう?」

時子「……」

芽衣子「退屈な1年、きっと楽しくなりました」

時子「わかったわ」

芽衣子「何がですか?」

時子「間抜けだったわ。こんな茶番に付き合ってはいられない」

芽衣子「強情だね。認めちゃえばいいのに」

時子「認めないわ。私の場所をこれ以上、荒らさないでちょうだい」

芽衣子「残念でした」

時子「残念?」

芽衣子「私は連れてくるだけ。なーんにもしてないよ?」

時子「いいえ。貴方が原因よ」

芽衣子「あははっ。なら、どうする?」

時子「止めるわ」

芽衣子「シスターと同じこと言いますねー。いきなり消し飛ばされそうになったのには肝を冷やしました」

時子「存在は把握したわ。認識した以上、どうしようもなる?」

芽衣子「ふふ、楽しみにしてます」

ブーン……

時子「それが、ゲート」

芽衣子「うん。私の、願いをかなえてくれた奇跡」

時子「どうして、旅だけに使えなかったの?」

芽衣子「簡単です」

時子「簡単?」

芽衣子「所詮、どこに行っても人間が作ったものだけ。そんな世界はつまらないに決まってるじゃないですか!」

時子「いいえ、違うわ」

芽衣子「聞こえなーい!それじゃ、ばいばーい」

時子「消えた……」

芽衣子「あっ、言い忘れました!」

時子「後ろから出てこないでちょうだい」

芽衣子「私は人を殺しません」

時子「……?」

芽衣子「私は同じ時に同じ場所に現れません」

時子「ルールかしら」

芽衣子「楽しむためのルールです。私は一人しかいません」

時子「それは、そうでしょう」

芽衣子「それは人間のルールですよ~。それと、最後に」

時子「なにかしら?」

芽衣子「私はお相手します。うふふ、ワクワクするなぁ!鬼ごっこ楽しみ!」

時子「なるほど、見てるだけじゃつまらないから出てきたのね」

芽衣子「はいっ!それじゃ、まったねー!」

時子「……消えた」

時子「ポストカード……?」

ポストカード『いつでもいいけど、温かい時期がいいなっ!』

時子「これは……難儀ね」

時子「だけど、止めるわ。バカにするんじゃないわよ、並木芽衣子」

続く
制作 ブーブーエス

次回

最終話
並木芽衣子「7人が行く・この旅の終わりに」(終)

オマケ

CuP「クリスマスにですね、まゆが紅いマフラーをくれて……」

CoP「CuPはこのまま話させておいて、クリスマスは何してました?」

PaP「もちろん、仕事だ」

CoP「アイドル事務所としては当然ですね」

CuP「やはり、まゆはこの世に降り立った天使……」

CoP「てか、時子様が良くこんな役を了解しましたね」

PaP「時子ちゃんだって、アイドルだからさ。軟な女くらい演じきれるでしょ、で押し通した」

CoP「強引ですね」

PaP「ま、いいでしょ。時子ちゃん、僕から担当プロデューサー変わるし」

CoP「そうなんですか?」

PaP「僕にとって時子ちゃんは時子ちゃんだから変えないとね。時子ちゃんに女子高生役を頼めるかな、あいつ?」

CuP「まゆ、愛しいまゆ……」

CoP「どんな要求ですか、それ……」

おしまい

あとがき

ようやく、21歳組もボイス付が来ましたよ!
誰と組ませてもなんとかなる大和亜季、これからにご期待です。

ループものやってもいいよね。7人が行く、だし。
時子様じゃなくて時子ちゃんの話だから、許してね。

ひじりんが怪物になると考えたら、ドーレムだろう。で、こんな感じに。

あと、お店とかの名前はついてたら由来があります。
相護公園は気づけたら凄いと思う。奏陽泰校、根高、ゾースムI4H2とかは気づいた人はいるんだろうか。

7人が行くも次回で最終話です。
タイトル変更は予定から変更しまして、

並木芽衣子「7人が行く・この旅の終わりに」(終)

です。
時期的に3月に書き終わるといいけど、どうなることやら。

それでは。

何で志乃さん本物だったんだろ?

>>176
あ、柊酒店は自宅兼なの書き損ねた。
志乃さん、柊酒店が自宅で、ずっと店番してたので巻き込まれただけです。

補足ついでに聖の近くについていた聖によく似た女の子が誰なのか教えてもらえると・・・

>>185
それで正解です。聖に取り付いてた聖によく似た女の子、です。芽衣子が連れてきた何者かです。
特にアイドルとかではありません。

>エキゾチック
勝手にナターリアかと思ってた。ww

自分は周子がぼそっと言ってた生まれ変わりの話の時の「気付いてないんだ」
ってのが分んなかったです。

>>188
それは自分で見つけてください。妙なセリフを言ったキャラクターがいます。

ただ、たまに志乃さんみたく普通に書き忘れてるのもあるんで確認してくださいな

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