男「死ぬこと」(13)
男「あなたには、おじいちゃん、おばあちゃんがいますか?」
男「いない、と言う人も珍しくはないでしょう」
男「お父さん、お母さんはいますか?」
男「大半の人は、いる、と答えるでしょう」
男「お兄さん、お姉さん、弟、妹はいますか?」
男「一人っ子の方も多いでしょうね」
男「息子、娘はいますか?」
男「いる方は大切にしてください、大切に」
男「嫁、旦那はいますか?」
男「…」
男「最初は、おじいちゃん、おばあちゃんが死にます」
男「きっとあなたは悲しみ、父や母はもっと悲しみます」
男「しかしあなたは大きくなり、悲しみは薄れます」
男「2番目に、父、母が死にます」
男「きっと、世界で一番悲しむのは、あなたでしょう」
男「次に悲しむのは、誰でしょうね」
男「そして3番目に、あなたが死にます」
男「悲しんでくれる人が、きっといるでしょう」
男「そして、その悲しみが薄れることもあるでしょう」
男「4番目には、あなたが世界に残した命すらも、消えます」
男「子供の死です」
男「あなたはもう、立ち会うことも、悲しむこともできない」
男「当たり前だと思いますか?」
男「自然の摂理だと、自分だけじゃないと、そう言い聞かせながら」
男「大切な人が死ぬのを、見て、感じて」
男「なぜ、どうしてと言えないまま」
男「あなた自身も死んでいく」
男「おかしいと思いませんか?」
男「なぜ、死ぬことが当たり前だと、平気で言えるのでしょう」
男「こんなにも苦しいことが」
男「…」
男「自分が年老いた時を、想像してみてください」
男「70、80歳ぐらいですかね」
男「きっとあなたが死んでも、”悲しまれるだけ"」
男「変わるのは、あなたの周りだけ」
男「きっと隣の国の元気な少年は、あなたの死のことなど微塵も気にしない」
男「きっと地球の裏側の物静かな少女は、あなたのことなどどうでもいい」
男「そうして回るのが、世界」
男「あなたは、死にたいですか?」
男「あなたは、死にたくないですか?」
男「もしも私の話を聞いてから意見が変わった人がいるなら」
男「その時は…」
妻「男、男ぉ!!死なないで!!男ぉぉ!!」
娘「お父さん!なんで!!なんで死んじゃうのぉ!!」
男「…」
男「…」
男「きっと、天国は無い」
男「それを信じる人がいるのは」
男「死にたくないからなのでしょう」
男「…。」
おちまい
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