大井「あの人へのバレンタイン」 (57)
【2月12日 提督執務室】
大井「提督。補給物資の搬入終わりました。確認とサインをお願いします」
提督「はい。えーっと……チョコが大分多いですね」
大井「明後日にはバレンタインですもの。艦娘同士でも人気なんですよ」
提督「品目はこれとこれ、数は……うん、大丈夫だと思います」サラサラ
大井「ありがとうございます。提督の方はどうですか?」
提督「装備の開発計画案は書き終りました、今は演習の予定を組んでいる所です」
大井「拝見しますね。うん、うん……」ペラ
大井「―――ちょっと、これ書式違いませんか?」
提督「え?」
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大井「これだと建造の方になってしまいます。装備開発はこっち!」
提督「……あ、本当だ!?」
大井「似てるけど消費資材の桁が違ってきちゃうでしょ、ちゃんと確認してください」
提督「すみません、すぐ直します」
大井「謝るくらいならさっさと直して下さい。ここで待ってますから」
提督「お手数おかけします」ガリガリ
大井「ほらそこ、雑になってる! 急いでる時こそ丁寧に!」
大井「―――」ペラ
提督「………」
大井「まあいいかな。確かに受け取りました」
提督「はぁ……すみません、待たせてしまって」ホ
大井「ではこれを提出したら今日はそのまま失礼します」ピッ
大井「明日は申請通りお休み頂きますね。その間の秘書官代理は重雷装巡洋艦北上にお願いしておきました」
提督「本日もお疲れ様でした、大井さん」
大井「……提督。一応言っておきますけれど。北上さんに変なことしたら……撃ちますよ?」ニコ
提督「しませんって」
大井「あ、もちろん北上さんの手を煩わせるようなことしても撃ちますから」
提督「………努力します」
大井「そこははっきり言い切りなさいよ!もう」ハァ
―――――――――
【2月13日 艦娘宿舎共用調理室】
大井「さて、と。今年もバレンタイン用のチョコを作らなきゃ」
大井「まずはやっぱり北上さんよね!!何にしようかな……」
大井(去年色々作って詰め合わせたのよね。今年は落ち着いて一種類にしようかしら)
大井(北上さん最近間宮でケーキ食べることが多いから……今年はチョコケーキにしましょう)
大井(んー………あ、これなんかいいかも?)ペラ
大井「北上さん……喜んでくれるかなあ?」
大井「えっと。材料はチョコとバターと、お砂糖と―――」
大井「……結構かかっちゃった。でも折角の一大イベントだもの!」
大井「まずは型紙を作って、と」
大井「この型紙ハートにしたら―――いや切り分けることになっちゃうしダメね」カサカサ
大井「~♪」カシャカシャ
\チーン/
大井「ん、いい香り♪ ちょっとだけ……」
大井「……いえダメよ!我慢我慢、北上さんが食べるものだもの」
大井(作る前に何か食べておけばよかったなあ)ペタペタ
大井「そーっと、そーっと……」トロ
大井「冷やす時間は……1時間でいいのかしら」パタム
大井「―――できたっ!!」
大井「ん、見た目も風味もバッチリ。我ながら結構上出来じゃない!」
大井「この日のために金剛さんから紅茶も貰ったし、淹れ方もちゃんと練習したし」
大井「きっと北上さんも喜んでくれるはず。大丈夫よね」
大井(さて、次は球磨姉さん達の分も作らなきゃ)
大井(材料は大目にあるけど、ケーキを皆に作るにはちょっと足りないわね)
大井(大きいのを一つ作って分けてもいいけど、折角だからちゃんと個別に作りたいし)
大井(なによりこれは北上さんために作った特製だもの! 同じ物を渡すのは失礼だわ!)
大井「うーん……どれがいいかなあ」ペラ
大井(球磨姉さんは甘すぎるのは怒るのよね。お砂糖は控えめにした方がいいかな)
大井(ビターチョコ使った生チョコだったら喜んでくれるかも?)
大井(多摩姉さんは……形が丸ければいいよね、きっと)
大井(トリュフにしちゃえ。転がしても汚れないように表面のコーティングはしっかりしなきゃ)
大井(木曾は私が言うのもなんだけど、もうちょっと可愛げがあってもいいのよねえ)
大井(この際だから可愛く作っちゃえ。ハートの型は、っと。リボンはふりふりで~♪)
大井「ふー、これで全部ね」パタム
大井「結構な数になったけど私もやればできるじゃない!」
大井「球磨姉さんも多摩姉さんも木曾も喜んでくれるかな。チョコが嫌いなわけじゃないし……大丈夫よね」
大井(それにしても……材料余っちゃった)
大井(念のために多めに買っておいたけど、もっと少なめにしておけばよかったかなぁ)
大井(どうしよう、誰か送れそうな人っているかしら。金剛さんへのお礼はこれとは別に用意しちゃったし)
大井(義理でも渡しておくべき人は―――)
大井「……………提督?」
大井「うーん……一応上官だし、義理くらい渡してしておくべきかしら」
大井(けど提督にはお世話になってるというか、お世話してるというか)
大井(着任した時から私に頼りっぱなしだし、未だにミスも多いし頼りないし)
大井(変な所でまだポカするし戦況把握も分析もまだまだだし、肝心な所でヘタレなのよねえ)
大井(というか経歴だけで言ったら私の方が先輩なのよね、仕方ないけど)
大井(上からはしょっちゅういびられてるしその癖態度もはっきりさせないし)
大井(そんなんだから秘書官への負担が増えんのよ。虚栄でもいいからちょっとくらい提督らしい威厳出しなさいよ!ったく)イライラ
大井「………」
大井「―――ん」カシャカシャ
大井(でもまぁ、こういうのもたまにはいいかな)トロリ
大井「これでよし、と」
大井(簡単に作っちゃったけど余った材料だしこんなものよね)
大井「………う」グー
大井(気付けばもうこんな時間か。今日お休みにしておいてよかった)
大井「……提督のだし、一つくらいならいいよね」ヒョイ
大井「―――ん、おいし♪ これなら北上さんのも姉さん達のもバッチリよね」
大井「……時間もかかっちゃったしもう一個だけ」ヒョイ
大井「はー美味し。……もう一個」パク
大井「あと一個くらいなら」ヒョイ
―――――――――
―――――――――
【鎮守府内購買所】
明石「いらっしゃ―――あれ、大井さん?」
大井「お久しぶりです、明石さん」
明石「今朝方会ったばかりですけれど……何が入り用ですか?」
大井「えーっと、チョコを追加で」
明石「え!?さっきも結構買っていましたよね?」
大井「ちょっと足りなくなってしまって」
明石「そうなんですか……種類は同じとして、数はどれくらいにしますか?」
大井「うぅ、予想外の出費……流石にちょっと痛いわね」
大井「何もかも提督のせいね、ったく」
大井「あ、そうだ。折角だから提督には特製チョコを作って差し上げましょう!」
大井「仮にも提督なんだし、私以外にもあげそうな艦娘はいるでしょうし……」
大井「ここは秘書官であるこの重雷装巡洋艦大井が、提督に誰よりも刺激的なバレンタインをお届けしなきゃ!」
大井「提督、イレギュラーは常に存在するのよ……ふふ」
大井「さあ早速帰って開発よ!」ダッ
大井「そうねえ、例えば間違えてお砂糖の代わりに塩をいれちゃったりして」ドバ
大井「直火に掛ければすぐ溶けるわよね!多少の焦げはアクセントよ、アクセント」
大井「ラム酒の代わりにお酢なんて入れて見たりして♪ ……う、凄い臭い」
大井「まあ私たちが大破した時に比べればマシよ、マシ」モクモク
大井「なーんか水っぽいわねー……まあ片栗粉でも入れておけば何とかなるでしょ」ドロリ
大井「後はそうねー……風味づけにカレー粉でも入れておこうかしら」
大井「隠し味は島風ちゃん愛飲の重油とー、空母の皆さん御用達のボーキとー♪」
大井「アクセントに開発資材とかー、改修資材とかー」
大井「資材使ってるんだし建造剤も使えるわよね。えいっ!!」ボゥッ!!!
大井「」
?「」クネクネ
大井「………これ、チョコ?」
?「」クネクネ
大井「何か変な物が出来上がっちゃった……」
?「」ブクブク
大井「しかも動いてる」
?「」ミョーン
大井(どうしよう)
大井「一応提督のために作ったものだけど……渡すべきかしら」
?「」ウニウニ
大井「流石にこれは……でも出来上がっちゃったし」
?「」ノッペリ
大井「………えーい!!」
大井「自分が作ったものとはいえ、得体の知れない危険物を提督に渡すわけには行かないわ!」
大井「せめて自分で毒見して危険性が無い事を確認しなきゃ」
大井(提督に渡すのはその後よ、その後!)
大井(お魚の踊り食いってこんな感じなのかな)
?「?」
大井「見た目は……最低限整えたから悪くはないわね」ダラダラ
?「!」ピン!
大井「臭いは……もう混ざり過ぎて何が何やら」バクバク
?「♪」ウニウニ
大井(食べられて嬉しいのかしらコイツ)
?「♪」ピョンコ
大井「―――っ」
大井「えいっ!!」ジョリッ
大井「っ……… …… …」
大井「・・」
大井「」
提督「―――大井さんが大破した!?」
明石『大井さんは現在入渠中、約23時間で修復完了の予定です』
提督「大型艦並の時間……どれだけの被害だったんですか、発見当時の大井さんの様子は!?」
明石『いえ、外部損傷はほぼ皆無です』
提督「へ?」
明石『ただ大井さん自身のコンディションが最悪なのでその回復に時間がかかります』
提督「でも何で……今日は出撃も遠征も、演習の予定もなかった筈なのに」
明石『それは正直こちらの方が聞きたい位で』
提督「……とりあえずお話を伺いたいので、高速修復剤を使ってあげて下さい」
明石『それと征露丸をお願いできますか、とのことです』
提督「??」
―――――――――
大井「………」ゲッソリ
球磨「それで提督には何と説明したクマ?」
大井「『一人闇鍋してたらお腹壊した』で通したわ……」
球磨「おふざけにしてもやり過ぎクマ。人様に贈る物、ましてや上官に対してそんなもの作るなんて」
球磨「第一食べ物で遊ぶなんて以ての外。お姉ちゃんたちも提督も凄く心配してたクマよ?」
大井「はい。二度と致しません」
球磨「よろしい。それでそのチョコっぽいのはどうしたクマ?」
大井「責任を持って処理しました。空母並に入渠が延びたけどね」
球磨「身体の内側まで直せるとは、艦娘だからこその芸当クマね~」
大井「酷い目にあったわ……未遂とは言えあれを人に贈ろうとしていた自分が恐ろしい」
大井「やっぱり贈るならちゃんとその人が喜びそうなものを作らなきゃダメね」
大井「流石にこれ以上の出費は避けたいし、次はちゃんと作りましょう」
大井「提督が喜びそうなもの。喜びそうなもの―――と」ペラ
大井「うーん」ペラ
大井「………」
大井「そういえば提督って……甘いお菓子好きだったかしら?」
[鎮守府内共用食堂】
大井「―――」ジー
多摩「そんな怖い顔してどうしたにゃ」
大井「敵情視察よ」
多摩「敵って……提督がかにゃ?」
大井「ええ。戦に勝利するには情報と戦術。そして高い火力が必要なの」
多摩「提督は深海棲艦じゃないにゃ」
大井「例えよ例え」
多摩(よく分からないけど、提督の好みでも調べてるのかにゃ?)
提督(大井さん、さっきの気にしてるのかなあ)
多摩(けどこれじゃ提督の方が気の毒にゃ)
多摩「気になることがあるなら提督に直接聞けばいいにゃ」
大井「―――」
多摩「今日はドタバタしてるみたいにゃけど、大井が変に構えなきゃ済む話だと思うにゃ」
大井「……でも」
多摩「大井は変な所で意地張るからにゃあ。心配事が多過ぎるにゃ」
多摩「でもそういう時こそ丸くなってシンプルに行動すべきにゃ」
多摩『心配しなくても提督は提督なりにちゃーんと多摩達の事考えてくれてるにゃ』
多摩『後はこっちがちゃんと向き合うかどうかだと思うにゃよ』
大井(お人よしだからね、あの人)カシャカシャ
大井(それが良い所でも駄目な所あるんだけど)
―――――――――
【2月14日 鎮守府内宿舎】
大井「北上さん、ハッピーバレンタイン!」
北上「おぉっケーキじゃん!なんかすごいよこれ、おしゃれにずっしり来るよー」
大井「北上さんに一番に渡したくて頑張って作っちゃった」
北上「いいねいいねっ。ありがと、大井っち!」
大井「それでね、もしよかったらこの後一緒に―――」
北上「あー。ごめん、今から遠征でお昼過ぎまで出なきゃいけないんだ」
大井「あら……残念」
北上「けどその後は空いてるからさ、一緒に食べるならその時にしよーよ」
大井「はい♪」
大井「……北上さん、喜んでくれてよかったぁ」ヒラヒラ
大井(予定聞いておけばよかったけど、午後から開いてるならいいかな)
球磨「おおっありがとクマ! 出来た妹を持ってお姉ちゃん嬉しいクマ~」
球磨「そんな出来た妹にお姉ちゃんからもハッピーバレンタインクマ!」
木曾「え、これ俺にか?今日はそういう日なのか……」
木曾「ありがとな、俺も何か用意しとくよ」
多摩「こ、これはっ!ああ、そういうことだったのかにゃ」ニヤ
多摩「ありがとにゃ。大井もファイトにゃ、お姉ちゃん応援してるからにゃ」
大井「みんなにはこれで全部。後は―――提督だけね」ゴソ
大井(今度のはちゃんと食べられる筈だし、甘いのが苦手でも大丈夫だと思う)
大井(この後執務室へ行って、今日の段取りを確認する前に渡せばいいよね)
大井「……提督、喜んでくれるかな」
<ウ――― ウ―――
大井「……!」
木曾「姉貴、敵襲だ!戦艦頭に前に陣取ってやがる!」
大井「さっき出撃した遠征組は?」
木曾「出たのを見計らってきやがった、頭数が足りねえ!」
大井「分かったわ。一度執務室へ」
木曾「姉貴もそのまま出撃だ、急いで艤装の準備を!」
大井「え、待っ―――」
提督『偵察機から入電、敵深海棲艦の艦隊がこちらに向かって来ています』
提督『本日演習予定だった艦娘は第一艦隊へ、重雷装巡洋艦大井を旗艦としてこれを迎撃してください!』
大井「―――」
提督『……大井さん?』
大井「い、いえ!」
提督『その……もし、昨日の入渠の影響があるなら』
大井「問題ありません。それより……作戦指揮、しっかりしてくださいね」
提督『大井さんも、皆さんもお気をつけて』
大井「ではみなさん、準備宜しいですか?第一艦隊出撃よ!」
―――――――――
―――――――――
大井「はー……」
大井(今朝の出撃のお蔭でドタバタしちゃうし、北上さんとのお茶は伸びちゃったし)
大井(おまけに提督用のチョコはどこか行っちゃうし……踏んだり蹴ったりね)
大井「大淀さんの所へは届いてなかった。誰かが拾っちゃったのかな」
大井(まあ元々提督へは余った材料で作ったものだし、これはこれで予定通りなのよね)
大井(早くお仕事片付けて北上さんとお茶にしちゃいましょう)
<コンコン
大井「提督、先の戦闘の報告書を御持ちしました」
提督「ありがとうございます、入ってください」
<ガチャ
大井「失礼しま―――あぁぁぁあぁ!!?」
提督「え、え?」
大井「提督……それ、なんですか」
提督「工廠から届いた対空装備のー……」
大井「そうじゃなくて!そっちの机に載ってる包みの方です!」
提督「あ、こっち。さっき廊下に落ちてるのを拾ったんです」
大井「そ……そうなんですか」
大井(―――何で提督が持ってるのよぉ!)
提督「大井さん、これに心当たりあるんですか?」
大井「い、いえっ!? 存じ上げませんけれど」
提督「そうですか、じゃあ誰のだろう」
大井(私のです!!)
提督「うーん……プレゼントの包みみたいですし、今日のために誰かが作ったチョコなのかな」
提督「とりあえずいつも通り大淀さんに一度預けますね」
大井「そうですね―――……!?」
大井(ちょっと待って、大淀さんに一度預けたら提督に渡すとき変なことになっちゃうじゃない!)
大井(渡す相手から受け取ったチョコをまた渡すって変よ、変!)
提督「書類作成する前に大淀さんに預けちゃいますね」
大井「ちょっと待って!」
提督「は、はいっ!?」ポチ
大井「あの、それ私の私物なんです。朝のドタバタで落としてしまって」
提督「ああ、大井さんのだったんですか」
大井「いきなり見つかったものだからちょっと混乱してしまって……見つけて下さってありがとうございます」
大井(いくらなんでも拾われた物をそのままは格好悪いもんね)
大井(ちょっと手間はかかるけど梱包し直して……それから渡しましょう)
提督「チョコ喜んでもらえるといいですね」
大井「て・い・と・く? あんまり無神経なこと言うと撃ちますよ?」ニコォ
提督「う……失礼しました」
大井「まあいいですけど。これは北上さんの為に作った特製なんです」
提督「え」
大井「え?」
提督「北上さんにはもう渡してある筈じゃ?」
大井「」
―――――――――
【早朝 提督執務室】
北上『そうそう提督。さっきさ、大井っちからチョコもらったんだー』
北上『しかもアタシが最近お気にの奴作ってくれたんだよ。こういうのってなんか嬉しいよね』
北上『でさ、話聞いてみたら球磨ねえや木曾も貰ってたみたいなんだよ。提督も貰った?』
北上『そんなわけで午後からは大井っち借りるね。アタシは遠征頑張るよー!』
―――――――――
提督「出撃前に凄く嬉しそうに話してくれたので」
大井(北上さん!!!!)
大井「……」ズーン
提督「あの。もし早めに渡した方がいいのなら、今の内に行ってきてあげてください」
大井「……報告もまだなのに私用を優先するわけには行かないでしょ」
提督「今は報告書まとめるだけですし、ある程度時間は取れますよ?」
大井「先日も間違えてた人に言われたくないです」
提督「あはは……ちょっと痛い所です」
大井「大丈夫です。すぐに片付けますから」
大井「どうぞ」
提督「え」
大井「どうぞ」
提督「えっと……?」
大井「もう、相変わらず鈍いわね!このチョコ提督に差し上げるって言ってるんです!」
提督「え!僕に……?」
大井「……ご迷惑でなければ、ですけど」
提督「いえっ!その、ありがとうございます」
大井「一応言っておきますけれど。義理ですからね、義・理!!」
提督「今貰ってもよろしいですか?」
大井「……まだ勤務時間中ですよ?」ジト
提督「う……これはその、不可抗力と言いますか」
大井「なーんて、冗談ですよ。朝からあんなじゃ少しお疲れでしょう」
大井「それはもう提督の物なんですから、好きになさってください」
提督「やった!それじゃお言葉に甘えまして」
提督「わ、美味しそ」ゴソゴソ
大井「―――」ジー
提督「ではいただきます。―――んぐ」パク
大井「ど、どうですか」
提督「―――うん!美味しいです」ニパ
大井「提督は甘いお菓子は好きなんですか?」
提督「大好きです。ここに着任してからはあんまりですけれど」
大井「提督も間宮にいらっしゃればいいのに」
提督「なかなか行く機会が無くて……今度行ってみます」
大井「……よかった」
提督「ありがとうございました、大井さん」
大井「では休憩はここまでですね。先の戦闘の戦果報告を行います」
提督「よろしくお願いします。それが終わったら大井さんも休んで下さい」
大井「……お願いしていた時間にはまだ早いですよ?」
提督「朝からドタバタしてて疲れてるのは大井さんだって同じだと思いますし」
提督「僕はここで座っているだけでしたから、お聞きした後は僕が進めておきますよ」
大井「………はぁ」
大井「あのね、提督は私たち艦娘だけが前線に立っていると思ってるんですか?」
提督「え……」
大井「確かに直接の戦闘は私達の役目よ。けど戦場でただ魚雷を撃ってるだけじゃ戦闘には勝てない」
大井「作戦の立案や考察、私達艦娘への指揮、平時における環境の整備や戦力の増強等々―――」
大井「そういった部分は私達艦娘では出来ない事です」
大井「逆の立場になったとして、提督は私達を『座っていただけ』なんて言うんですか?」
提督「それは……言えないと思います、多分」
大井「役割が違うだけでやっていることは等しく戦いなんです。それを肝に銘じて下さい」
大井「そんな心構えだから状況判断が鈍ったり指示が遅れたりするのよ」キッ
提督「返す言葉もないです」
大井「……まあ、でも。提督が私達の事を気遣ってくれているのはわかっています」
大井「北上さんも球磨型のみんなも。明石さんや大淀さん、他の艦娘の皆さんも」
提督「そうでしょうか……」
大井「それに私だって、一応提督には少しは感謝してるんですからね」
大井「艤装も制服も新しくしてもらえましたし、こうして素敵な酸素魚雷も支給して貰えましたし」
大井「ま、上官に対して昔みたいな事するなんて思ってませんでしたけど」
提督「はは……、僕もいきなりここに来るとは思ってませんでした」
大井「だから提督。あなたが提督なら、自分と艦娘の目線の高さは違えないでください」
大井「階級差で変な壁を作られては作戦に支障が出ますから。必要以上に迫られても困ってしまいますけれど」
提督「……難しそうです」
大井「その塩梅が経験の差よ。提督は変に考えすぎだしまだまだこれからね」フフ
提督「変な気を遣わせてすみません。時間まで手伝って頂けますか」
大井「わかりました。ではまず今朝の状況からですが―――」
<ジリリリリ
大淀『提督、お話し中失礼いたします』
提督「っと。―――はい、どうか致しましたか?」
大淀『その……提督が拾った小包の件なのですけれど』
提督「ああ、そのことですか。持ち主が見つかったのでもう大丈夫ですよ」
大淀『はい、存じ上げています』
提督「………?」
大井「ちょっと待って大淀さん。どうして提督が拾っていることを知ってるの?」
大淀『その……大変申し上げにくい事なのですが。平時は内線を切っておいた方がよろしいかと』
提督「えっ」
大淀『提督と大井さんの会話、筒抜けです。……鎮守府中に』
大井「」
球磨「聞いたクマ―――!!!」バターン!!!
大井「!?」
多摩「昨日の今日で心配してたけど、杞憂だったみたいにゃ」
大井「な、な、な……」
球磨「今日のを聞いてお姉ちゃんも安心クマ!やっぱり大井はしっかり者クマ!」
多摩「まだわかりにくいけどここまではっきり言えるなら十分にゃ」
木曾「歯の浮くような甘いもんかと思ってたけど……こうしてお互いの仲を確かめ合えるなら、悪くない日かもな」
北上「提督にもチョコ用意してたんだねー」
大井「きっ、北上さ!?」
北上「大井っち、いっつも提督の事気にしてるもんね。二人が仲良いとあたしも嬉しいよ」
大井「」パクパク
提督「あー……その、大井さん。ごめんなさい」
大井「て・い・と・く?」ニコォ
提督「は、はい!?」
大井「……撃っても、いいですよね?」ジャキン
―――――――――
【2月21日 提督執務室】
提督「大井さん」
大井「何ですか?」
提督「工廠まで連絡したいので内線を繋いでいただけますか」
大井「火急の用件でない限り使う必要はありません。書類通達で十分ですから一筆認めて下さい」ニコ
提督「わざわざ文章に興すほどの内容じゃ」
大井「敵深海棲艦に傍受される恐れがありますので」ニコ
提督「……内線は漸く直りましたけど、何で大井さんの机に操作盤があるんでしょう」
大井「提督が書くのに時間がかかるのが問題なんです。機械に頼ってないでさっさとまともに書けるようになって下さい」
提督「あのー、大井さん」
大井「今度は何ですか?」
提督「今日お仕事が早く終わったら間宮行きませんか?」
大井「あら、甘味にお誘いいただけるなんて。これも提督の余裕の現れかしら」
提督「そうじゃないですけど。今後についてちょっと考えていることがあるので、相談に乗って頂きたいんです」
大井「重要なお話をわざわざ耳の多い間宮でするんですか?」
提督「先日のお詫びをさせて頂きたいとも思っています」
大井「詫びる相手に直接言ってどうするんですか……」
提督「その、如何でしょう?」
大井「………。提督の奢りなら付き合いますよ」
大井「さ、そうと決まったらさっさと済ませてしまいましょう」
提督「間宮が閉まってしまいますからね。楽しみだなあ」
大井「余計な事考えないで今はお仕事に集中する!」
大井「貴方が私達の提督なんだから。しっかりしてくださいね?」
おわる
以上でお終いです。ここまでありがとうございました。
普段は雷巡としてバリバリ活躍する大井っちですが、練習艦だった過去があるみたいなので
提督を鍛える立場になったら厳しくも親身になって鍛えてくれるはず。
情に厚くて可愛い大井っちがもっと増えればいいなと思います。
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